アニメスタイルイベントに片渕須直監督の「ここまで調べた」シリーズが帰ってきます。アニメスタイルは2013年から2018年までに「ここまで調べた『この世界の片隅に』」のタイトルで9回のトークイベントを開催し、『この世界の片隅に』のために片渕須直監督をはじめスタッフ達が調べた、舞台や時代風俗の調査結果を披露していただきました。
現在、片渕監督は『この世界の片隅に』『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』に続く、新作劇場アニメーションを準備中です。新作のタイトルや内容は発表になっていませんが、平安時代に関するものであるようです。
新作の制作にあたって片渕監督はその時代のことなどを調査研究しています。今回のイベントではなにを調査しているのか、どこまで研究が進んでいるのかなどをお話していいただく予定です。「枕草子」に目を通してから来場されるとよいかもしれません。
開催日時は2021年1月9日(土)の昼。会場は新宿のLOFT/PLUS ONEです。前売りチケットについて詳しくは以下にリンクしたLOFT/PLUS ONEのサイトでご確認ください。なお、今回のイベントは配信の予定はありません。
また、会場では「この世界の片隅に 絵コンテ[最長版]」上巻、下巻を片渕監督のサイン入りで販売する予定です。
LOFT/PLUS ONEを含むLOFTの会場は厚生労働省が定めた、新型コロナウイルス感染症に関するガイドラインを遵守し、さらにガイドラインよりも厳しいLOFT独自の基準を設けて、万全を期してイベントを開催しています。
来場されるお客様にはマスクの着用、手指の消毒をお願いしています。消毒液は会場に用意してあります。また、体調の優れないお客様は来場をお控えください。
同じく新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止の観点から、今回のイベントは通常の半分ほどの人数で定員となります。また、飲食物についてはお客様がカウンターで注文し、その場で代金を支払うキャッシュオン形式となります。
■関連リンク
LOFT/PLUS ONE
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/plusone/166545
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第172回アニメスタイルイベント | |
開催日 |
2021年1月9日(土) |
会場 |
LOFT/PLUS ONE | 出演 |
片渕須直、小黒祐一郎(司会) |
チケット |
前売1500円 当日1800円 |
■アニメスタイルのトークイベントについて
アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものだ。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていないし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれない。その点は、あらかじめお断りしておく。
第689回 来年は蜘蛛年!
うわっ! もう今年——2020年が終わる!?
ま、でもコ○ナとかで世の中いろいろ変わってしまったことがあったけど、なんとか仕事をやらせていただけて本当に感謝しかない1年間でした。で、
来年1月放映開始で2クール(6月いっぱいまで)の新作『蜘蛛ですが、なにか?』!
PVに続き、某アニメとのコラボ特番にて10分程度のダイジェスト版が流れたようで、視聴可能な方は是非観てみてください。海外合作時代のテレコム・アニメーションフィルム出身の板垣は、同年代のアニメーターの中では比較的、犬・猫・馬などの4本脚の動物は描いてきた方だと思います。『もののけ姫』でも山犬や猪の走りの動画をやったし。ところが今回の蜘蛛は脚8本! 倍! これはもう作画とCGの分担で巧くやるしかない! そうして仕上がった蜘蛛の動きはかなりいい感じで、脚音のSE(効果音)も気に入ってます。どんな音になっているかは1話でご確認どうぞ。
でも今回改めて、
俺、やっぱりアニメ作るの大好きなんだ!
と思いました。「CGと作画のハイブリッドで」との企画だったので、結構動かすコンテを切った(描いた)のですが、かなり凝ったカメラワーク(今作はいつにも増して変なカメラアングルをたくさんやってます!)もCGスタッフの方々が実にカッコよくこなしてくださって、ラッシュ(フィルムの上がり)を観るのが日々の楽しみになってます。CGも作画も関係なく、問答無用に動く画を作るのが面白い! 予算(制作費)に合わせてコンテで止めメインのカット割りにせざるをえない作品もあるのですが、止めでも数秒(場合によって数十秒)ごとにカットが移り替わってゆく、ということは一編のフィルムとしては動いているのです! そーゆーフィルムとしての動きも含めたアニメ作りが好きなんです。そこを踏まえた上でも(?)今回の『蜘蛛』は動いてます。自分の考えるカッコよさが良く出てると思うので、是非是非2021年、観てください、って……
アニメ様の『タイトル未定』
283 アニメ様日記 2020年10月25日(日)
2020年10月25日(日)
早朝散歩の途中で、24時間営業の山下書店で雑誌を数冊買い込む。「an・an」の『鬼滅の刃』特集は充実した内容。「ViVi」の『魔女見習いをさがして』は意表を突いた馬越嘉彦さんの描き下ろしがあった(クレジットはないけれど、馬越さんの画だろうと思う)。関弘美プロデューサーのインタビューは、LINEのスクショが並んでいるというものなんだけど、なんとなく見た目がお洒落。
池袋HUMAXシネマズの8時30分からの回で『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』を鑑賞。天気がよかったのでワイフと散歩に。椎名町の古本屋をのぞいたり、神社に寄ったり。事務所へ戻ってデスクワーク。
就寝前に「異世界おじさん」を最新5巻まで読む。「どうにかなる日々 新装版 みどり」「どうにかなる日々 新装版 ピンク」に目を通す。
2020年10月26日(月)
「なつぞらのアニメーション資料集[劇中アニメ・小道具編]」 の校了作業が進む。それから、次の次に作る書籍のプランを練りなおす。Amazonから「高畠聡アニメーション精密背景原図集」が届く。あの作品のこのカットの原図はこの方の仕事だったのか。それが分かっただけでも嬉しい。
2020年10月27日(火)
起きてスマホを見たら、知り合いのご夫婦に子どもが産まれたという報せが。朝からいい気分になる。ワイフとの早朝散歩は、歩いている時間は今までと変わらないのだが、日が短くなった分だけ、出会う猫の数が減ってきた。「なつぞらのアニメーション資料集[劇中アニメ・小道具編]」 の編集作業が終了。イベントの準備。次の書籍、次の次の書籍の準備。「水は海に向かって流れる」の1巻をKindleで読む。DVDソフトで『天保異聞 妖奇士』の再見を開始。
突然だけど、『鬼滅の刃 無限列車編』について。この作品の内容以外で感心するのは関連商品の多さ、雑誌記事の多さ、版権イラストの多さだ。商品化窓口、広報窓口、イラストの描き手の頑張りが尋常ではない。
2020年10月28日(水)
11月から2月前半までの仕事のスケジュールを組む。今までなら余裕のあるスケジュールなんだけど、コロナ以降、仕事のスピード感が落ちているからなあ。昼はワイフと、としまみどりの防災公園(IKE・SUNPARK)に。ハイボールを飲みつつ、公園に遊びに来ていた幼稚園の子ども達を眺める。食事をした後、また事務所に。これから作る書籍の収支について試算をする。夕方からある方と食事をしつつ打ち合わせ。
2020年10月29日(木)
国立新美術館で開催中の「MANGA都市TOKYO」に。「1/1000巨大東京都市模型」を中心にした展示の構成が上手い。展示内容については「有能な編集者が腕を振るった書籍」のようだと思った。夕方は打ち合わせで西武新宿線方面のアニメプロダクションに。『ノラガミ』の再視聴を開始。
2020年10月30日(金)
デスクワークの後、新文芸坐で「アニエスによるヴァルダ」(2019・仏/119分/DCP)と「ラ・ポワント・クールト」(1954・仏/80分/DCP)を観る。アニエス・ヴァルダ監督についてはほとんど知識がないのだけれど、予告で興味を惹かれて足を運ぶ気になった。観ている途中で気づいたけど、「ラ・ポワント・クールト」は『GHOST IN THE SHELL』終盤の印象的なカットの元ネタではないかとネットで指摘されていた映画だ。その後、花俟さんとアニメスタイルオールナイトの打ち合わせ。軽く食事をしてから、事務所に戻ってデスクワークの続き。
『ノラガミ』を最終回まで観て、『ノラガミ ARAGOTO』の再視聴を開始。『ノラガミ』と『ノラガミ ARAGOTO』と原作の記憶がゴッチャになっていることに気づく。
2020年10月31日(土)
デスクワークをはさんで、昼にワイフとIKEBUKURO LIVING LOOPに。大人の学園祭のような催しだ。チケットを買ってビールの飲み比べをしたり、凝った作りの綿菓子を食べたり。綿菓子を食べたのは40年ぶりくらいかもしれない。その後、ワイフは自宅に、自分は新文芸坐に。13時からの回で「ダゲール街の人々」(1975・仏/79分/DCP)を観る。「アニエスによるヴァルダ」「ラ・ポワント・クールト」と同じく、「珠玉の映画たち 追悼 アニエス・ヴァルダ」のプログラムだ。ある街の人々を撮っていくだけのドキュメンタリーで、どうやって終わらせるのかと思って観ていたら、最後は鮮やかに決めた。「ラ・ポワント・クールト」もラストがよかった。その後、またデスクワーク。今作っている書籍のために、ある作品のムック、イラスト集、Blu-ray BOXの特典冊子に目を通す。
第197回 すこやかな未来を祈って 〜ヒーリングっど・プリキュア〜
腹巻猫です。『ヒーリングっど・プリキュア』(「・」はハートマークが正式表記)のオリジナル・サウンドトラック第2弾が12月23日に発売されます。今回も構成・解説・インタビューを担当しました。番組鑑賞のおともに、年末年始のBGMに、ぜひお聴きください。
ヒーリングっど・プリキュア オリジナル・サウンドトラック2 プリキュア・サウンド・オアシス!!
https://www.amazon.co.jp/dp/B08KYXFFWH/
今回はサントラ第2弾発売を前に、『ヒーリングっど・プリキュア』のオリジナル・サウンドトラック第1弾を紹介して、本作の音楽をふりかえってみたい。
TVアニメ『ヒーリングっど・プリキュア』は2020年2月から放送されているプリキュアシリーズ第17作目となる作品。
地球をお手当てするヒーリングアニマルのパートナーに選ばれた少女たちが、プリキュアとなって、地球をむしばもうとするビョーゲンズに立ち向かう物語だ。
音楽を担当したのは、プリキュアシリーズ初登板となる寺田志保。前作『スター☆トゥインクルプリキュア』では、林ゆうきと橘麻美が共同で音楽を手がけているが、女性作曲家が単独でプリキュアの音楽を担当するのは本作が初めてである。
寺田志保は宮崎県出身。クラシック好きだった母親の影響で幼少時から音楽に親しみ、3歳よりピアノを習い始めた。小学生時代からエレクトーンに夢中になり、国立音楽大学在学中の1997年、ヤマハエレクトーンコンクール世界大会にて1位受賞。2007年に実写劇場作品「0からの風」の音楽を担当して映画音楽デビューを果たした。中学生時代に「ターミネーター2」のサウンドトラック・アルバムを聴いて以来、ハリウッド映画音楽のファンになったという。現在は、作・編曲家、キーボーディストとして、劇場作品、テレビ番組、ゲームなど幅広い分野で活躍している。
映像音楽の代表作に、NHK BSプレミアムで放送中の科学番組「コズミックフロント☆NEXT」(2015〜)、特撮ドラマ「牙狼〈GARO〉」シリーズ(2006〜)、アニメ『イナズマイレブンGO』(2011)、『絶対防衛レヴィアタン』(2013)などがある。
『ヒーリングっど・プリキュア』の音楽は生楽器中心のスタイル。打ち込みやエレキ楽器も使われているが、管楽器や弦楽器の温かい音色が耳に残る。ハリウッド映画音楽に通じる王道のサウンドが本作にはぴったりである。
『ヒーリングっど・プリキュア』の世界は、地球上のさまざまなものに「エレメントさん」と呼ばれる精霊が宿っているという設定。プリキュアのモチーフも、花(キュアグレース)、水(キュアフォンテーヌ)、光(キュアスパークル)、風(キュアアース)と、古代ギリシャ人が考えた四大エレメント(地水火風)に対応している。大自然に根ざしたパワーが地球を癒やす力になっているのだ。
だから音楽も、人の手や息が生み出す生命力を感じさせるサウンドがよく似合う。
本作のサウンドトラック・アルバムは2020年5月に「ヒーリングっど・プリキュア オリジナル・サウンドトラック1 プリキュア・サウンド・ガーデン!!」のタイトルで発売された。選曲と構成は筆者が担当した。
収録内容は以下のとおり。
- 輝くいのち
- ヒーリングっど・プリキュア Touch!!(TVサイズ)(歌:北川理恵)
- サブタイトル
- こんにちは!すこやか市
- 風薫る街
- 生きてるって感じ
- ヒーリングガーデン
- 癒やしのアニマルたち
- パートナーをさがして
- 逃げろや逃げろ
- ビョーゲンズのたくらみ
- 地球をむしばむ影
- メガビョーゲン出現!
- 心の肉球にキュンときたら
- スタート!プリキュア・オペレーション!
- 地球をお手当てします!
- プリキュア・ヒーリングフラワー!
- エレメントさんのちから
- お大事に
- ヒーリングキャッチ
- 夕暮れのもの思い
- どうすればいいのかな
- とんでもない思いつき
- チグハグなふたり
- ヒミツの匂い
- がんばれヒーリングアニマル
- 奇想天外大作戦
- 怪しすぎる影
- 不気味な気配
- 危機せまるとき
- 大暴れメガビョーゲン
- 闘いの嵐の中へ
- 必死の激闘
- 大切なものを守りたい
- たたかう地球のお医者さん
- プリキュア・ヒーリングオアシス!
- キミと一緒なら
- 生きるってすばらしい
- ミラクルっと・Link Ring!(TVサイズ)(歌:Machico)
- また見てね!
TVサイズ主題歌2曲とBGM38曲を収録。最後の「また見てね!」はオープニング主題歌のカラオケを編集した次回予告音楽なので、正確には収録BGMは37曲である。
選曲・構成は第8話までに使われた曲を中心にまとめた。本編では、主人公の少女たち=花寺のどか、沢泉ちゆ、平光ひなたの3人と「地球のお医者さん見習い」のヒーリングアニマル=ラビリン、ペギタン、ニャトランとのほほえましくも強い絆を感じさせる関係が印象的で、その温かい雰囲気をアルバムに反映しようと考えた。
1曲目の「輝くいのち」は本作のメインテーマ。作品を貫くテーマである「癒やし」とのどかたちの日常をイメージした曲である。寺田志保によれば、1度書いた曲がリテイクとなり、書き直した曲も自分で納得できず、何度も書き直して、ようやくできあがったのがこの曲だそうだ。ハープのグリッサンドと弦のやさしいメロディの導入から、リズムが加わり、メインテーマのモチーフが弦楽器を主体に奏でられる。エレキギターによる躍動的な中間部をはさんで、フルートがメインテーマを反復し、弦と女声コーラス、エレキギターなどが合奏するクライマックスへ。クラシカルなテイストとロック的なテイストが合体した、心躍る楽曲になっている。このメインテーマのメロディは、さまざまに編曲されて、劇中に使用されている。
オープニング主題歌とサブタイトル曲を挟み、トラック4「こんにちは!すこやか市」からトラック10「逃げろや逃げろ」までは、第1話〜第3話で使用された曲を中心に本作のやさしく温かい雰囲気を再現してみた。
アコースティック楽器の音色がやさしい「こんにちは!すこやか市」と「風薫る街」は、物語の舞台となる地方都市「すこやか市」のようすを描写する曲。物語への導入の曲として選んだ。
続くトラック6「生きてるって感じ」はメインテーマのポップな4ビートアレンジ。オルガンとサックスのかけ合いが楽しく、オールディーズっぽい香りもただよう。アバンタイトルでのどかたちが自己紹介する場面のBGMとしてもよく使われていた。本作を代表する楽曲のひとつ。
トラック7「ヒーリングガーデン」とトラック8「癒やしのアニマルたち」は、ヒーリングガーデンとヒーリングアニマルの描写に使用された曲。「ヒーリングガーデン」はシンセサウンドが神秘性を感じさせるファンタジックな曲。「癒やしのアニマルたち」は弦と木管楽器を主体にしたぬくもりのあるサウンドで作られている。ここは作品の世界観を紹介するイメージで選曲した。
トラック9「パートナーをさがして」とトラック10「逃げろや逃げろ」は第1話でラビリンたちがパートナーをさがす場面に流れたユーモラスな曲。どちらも音数の少ないシンプルな曲だが、実に楽しい。
本作の音楽の特徴のひとつに、こうしたオトボケ曲の充実がある。ユーモラスだが品よく、音楽的に単調にならない工夫がこらされている。本編の雰囲気を支える重要な楽曲である。寺田志保本人もこうした曲がお気に入りなのだそうだ。
アルバム後半にもヒーリングアニマルがらみのシーンでよく使われるユーモラスな曲を集めてみた。トラック23「とんでもない思いつき」からトラック27「奇想天外大作戦」までの5曲である。本アルバムのひそかな聴きどころと思っている。
ちなみに、「パートナーをさがして」「逃げろや逃げろ」「ヒミツの匂い」の3曲は、番組最後のミニコーナー(「ほんものはどっち?」「パートナーをさがせ!」「エレメントさんどーこだ!」)のBGMにも使用されている。
トラック12「地球をむしばむ影」からトラック17「プリキュア・ヒーリングフラワー!」は、ビョーゲンズ襲来〜プリキュア登場!〜バトル〜勝利をイメージした構成。
メガビョーゲン出現を描写する「メガビョーゲン出現!」は序盤〜中盤〜後半と曲調が変わるドラマティックな曲。シリアスなタッチでビョーゲンズの脅威を表現し、危機感を盛り上げる。
「心の肉球にキュンときたら」は、第1話でラビリンと出会ったのどかがプリキュアになる決意を固める場面に流れた曲。しだいに気持ちが高まり、熱くなっていくさまを伝える展開が最高だ。
そして、ようやく出ました。プリキュア変身の曲「スタート!プリキュア・オペレーション!」。
毎年話題になるプリキュア変身BGM。本作では、オーケストラにリズム楽器を加えたポップクラシックの編成で、華やかさと躍動感をあわせもった曲に仕上げられている。わくわく感あふれるイントロから弦合奏と女声コーラスによるファンタスティックなメロディへ。律動感のある曲調に転じるとエレキギターが加わり、プリキュアの強い意志と凛とした姿を表現する。中間部には、弦とピアノと女声コーラスによるやさしい曲調のパートが挿入される。この部分は本編では滅多に流れないので、ぜひサントラでフルサイズを聴いてほしい。ふたたび躍動感のある曲調に戻り、プリキュアの名乗りのバックに流れるサビのメロディが登場してコーダへ。たっぷり2分あまりの聴きごたえのある曲だ。なお、例年プリキュアの変身BGMは1人変身用のショートバージョンが別に作られるのだが、本作では長いバージョンのみが録音され、シーンに合わせて編集して使用されている。
トラック16「地球をお手当てします!」はプリキュアのメインの活躍曲のひとつ。シンセのキャッチーなイントロに続いて、エレキギターが熱気みなぎるプレイを展開する。ドリーム・シアターやELP(エマーソン・レイク・アンド・パーマー)などのプログレッシブ・ロックにも傾倒したという寺田志保の一面が発揮された曲である。
続く「プリキュア・ヒーリングフラワー!」は、キュアグレース、キュアフォンテーヌ、キュアスパークルの単独浄化技の曲。本作の音楽制作で最初に作ったのがこの曲だったそうだ。メインテーマ同様に、この曲も何度かの書き直しを経て完成した。キラキラしたシンセの導入から、弦楽器が刻むリフ、エレキギターからトランペットへと引き継がれるメロディ、クライマックスの弦合奏、と1分ほどの演奏時間の中で目まぐるしく曲が展開する。これも、サントラでじっくり聴いてもらいたい曲だ。
トラック18「エレメントさんのちから」とトラック19「お大事に」で、闘いが終わったあとのエピローグを再現してみた。木管や弦楽器のぬくもりのある音色が、本作のテーマである「癒やし」を表現している。
アイキャッチを挟んで、アルバム後半は繊細な心情曲や楽しい日常曲を配し、ビョーゲンズとプリキュアの激闘へと続く構成。
トラック31からの3曲、「大暴れメガビョーゲン」「闘いの嵐の中へ」「必死の激闘」は激しいバトルを盛り上げる曲。寺田志保は「牙狼〈GARO〉」シリーズなどのアクション系作品の音楽も多く手がけており、こうした激しい曲もカッコよく、さまになっている。
この3曲の中では、筆者は「闘いの嵐の中へ」が気に入っている。エレキギターのリフを導入に弦のスリリングでスピード感たっぷりのフレーズが展開する。闘いの緊張感とアクションの勢いが伝わってくる、まさに「嵐の中へ」というイメージの曲だ。「プリキュアには激しすぎるのでは?」と思ってしまうが、これだけ激しい曲のほうが映像にぴたりとはまるのである。
トラック34「大切なものを守りたい」は、トラック14の「心の肉球にキュンときたら」とならぶ胸アツ曲。劣勢に陥っても使命感を胸に立ち上がるプリキュアの姿が目に浮かぶ。悲壮感ただよう中に心情の美しさまでも描いた名曲である。本編では、第3話でペギタンと一緒に闘う決意をしたちゆが「大切なものを守りたいの」とペギタンに語りかける場面が初出。曲名もそこから採っている。
続いてのトラック35「たたかう地球のお医者さん」はプリキュアのメインの活躍曲。高らかに鳴り響くファンファーレから始まり、トランペット、エレキギターがメインテーマのメロディを変奏していく。中間部に弦の速いパッセージと女声コーラスによる間奏が挿入される。この構成がすごくいい。華麗に舞うプリキュアの姿が想像されてぞくぞくするところだ。メインテーマのメロディに戻ってコーダへ。この曲も本編でフルサイズ流れることは稀なので、サントラで堪能していただきたい。
次の「プリキュア・ヒーリングオアシス!」は激闘のクライマックスを飾るプリキュア3人の合体技の曲。1分程度の中にオーケストラの音を詰め込んだ密度の高い曲である。
BGMパートのラストは、トラック37「キミと一緒なら」とトラック38「生きるってすばらしい」の2曲で物語の余韻を味わってもらう流れにした。
「キミと一緒なら」はメインテーマの変奏による友情のテーマ。弦合奏の音色がやさしく、胸にしみる。本編ではのどかたちの友情やヒーリングアニマルとの絆を表現する曲としてよく使われている。第16話で、のどか、ちゆ、ひなたの3人が永遠の大樹の下で友情を誓う場面に流れたのが感動的だった。この曲からリズムセクションを抜いた弦合奏のみのバージョンも劇中でよく使用されている(そのバージョンは『映画プリキュア ミラクルリープ みんなとの不思議な1日』のサントラに収録)。
「生きるってすばらしい」は本編のラストや日常シーンによく使われている曲。晴れ晴れとしたよろこびを表現する明るく元気な曲だ。寺田志保はインタビューに答えて、日常や心情を表現する曲に本作のテーマである「癒やし」を盛り込んだと語っている。本アルバムも、聴き終わったあとで「癒やし」を感じてもらえるように、少しでも気持ちが元気になってもらえるようにと祈りを込めて構成した。音楽の力を感じ取ってもらえたら幸いである。
さて、12月23日発売の「オリジナル・サウンドトラック2」は、追加録音曲を中心に、番組後半の展開をイメージして選曲・構成した。新たに加わったプリキュア=キュアアース関連の楽曲も、もちろん収録している。
本作のために作られた楽曲は追加録音分も含めると80曲以上。サントラ2枚では収録しきれないボリュームだが、『映画プリキュアミラクルリープ みんなとの不思議な1日』のサントラ収録曲を合わせると、全Mナンバーの楽曲がそろうように工夫した。ぜひ、3枚とも手に入れて聴いてもらいたい。
ただ、「オリジナル・サウンドトラック2」の後半には、まだ本編で流れていない楽曲も収録されている。本編を無心に楽しみたい方は、前半だけ聴いて、後半は最終回を迎えたあとにとっておくのがよいかもしれない。
今年も残りあとわずか。新型コロナウイルスの猛威という予想外の出来事により、筆者にとっても苦闘の1年になった。健康で元気な日常が戻ってくるように、すこやかな未来を祈って。よいお年を。
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映画プリキュアミラクルリープ みんなとの不思議な1日 オリジナル・サウンドトラック
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第316回 うろおぼえで正直スマン!
佐藤順一の昔から今まで(8)横にならない大学生時代と『魔女の宅急便』
小黒 「佐藤順一の昔から今まで」2度目の取材です。よろしくお願いします。
佐藤 よろしくお願いします。
小黒 少し話を戻します。東映動画は東映株式会社と深い関係があり、 そのために体育会系的なところがあったのではないかと思うんですが、そこの空気には馴染めたんですか。
佐藤 確かに最初は慣れなかったですね。体育会系というよりも、映画屋なんですね。入ってからそれが分かるまで、そんなに時間は掛からなかった。当時は「演出は丁稚奉公から始めるのである」「背中を見て学べ」みたいなことが普通にあった世界だったね。上下関係も含めて、上司で面倒くさい人もいたから、「それは僕の仕事じゃないと思います」とか言って反抗したりしましたけど。
小黒 佐藤さんが入る前に新人を採用しない時期があったので、演出家の先輩はベテランばかりだったわけですよね。
佐藤 そうですね。久々に若手が入ってきたみたいな状況でしたね。
小黒 「東映の演出家はドシッと構えてなくてはいかん」といった空気もあったのでは?
佐藤 TVの各話演出であっても「1話1話が俺の作品だ」という監督気分でやってるんだなっていうのは、最初の頃から感じていましたよね。でも、そもそも東映に入って仕事を始めた頃は、東映が特殊なもんだとは思っていないから(笑)。外に出てから「東映ってそういうとこだったのか」と感じたことのほうが多かったかもしれない。
小黒 (各話演出ではなく)TVアニメ1話分の監督だっていうのは、昔からの東映動画の思想ですよね。
佐藤 そうです。1話毎に「なんとか組」って名前を付けたがる感じですよ。
小黒 ああ、勝間田組とか。
佐藤 そうそう。でもそれは、勝間田(具治)さんよりも次の世代の人達に多かったかも。
小黒 なるほど。『セーラームーン』の頃に、佐藤さんが「俺達が若かった頃は、会社で寝る時も腕を組んで、胸を張って寝たもんだ」と言っていたので、そういう心意気でやっていたのかと思っていました。
佐藤 どうだろうね。そもそも仕事を始める前の学生時代も、自分の部屋では座って寝てましたからね。
小黒 え、腕を組んで?
佐藤 横にならずに寝て。腕も組んでたでしょうし。
小黒 どうしてですか。
佐藤 横になって寝るのが面倒くさいんです。広い部屋でもないので、座ったら座ったまま寝落ちして、起きたらまた作業を始められるのが、自分の性分に合っていたので。だから、東映に入っても椅子で寝たりすることがまったく苦じゃなくて。「それじゃ疲れが取れないだろ」って言われますけども、疲れが取れるということの意味が分からないような感じですね。
小黒 アニメ界に入る前からそうなんですね。学生時代は、ずっとアニメを作ったりマンガを描いていたわけじゃないですよね?
佐藤 そうだけど、例えばクロッキー帳にイメージ画を描いてみたり、企画の原案のような画を描いてみたり、パラパラマンガを描いてみたりということはやっていました。自分のいつも使ってる机は、普通のデスクじゃなかったんです。両側に箱を置いて、その上に7ミリぐらいの厚さのすりガラスを載せて、ガラスの下に蛍光灯を置いて、それを机として使っていたんです。いつでも透写台として使えるようにはなってましたからね。
小黒 「人間というのは基本的に横にならないものだ」と。
佐藤 そういうものだと思って生きていましたね(笑)。
小黒 それはいつぐらいまでなんですか。
佐藤 結婚するまでは、そんな感じです。結婚した時に、ようやく横になって寝る習慣がつきました。
小黒 佐藤さんは眠りの時間が短いですよね?
佐藤 歳とともに寝る時間は短くなっていて、今は3時間から4時間ぐらい。年齢的なこともあると思いますけど、4時間以上継続して寝ることはあんまなくて、横になって寝てても必ず目が覚めるよね。
小黒 なるほど。面白いので深堀りしますが、若い頃は座ったまま8時間とか寝たんですか。
佐藤 寝ました寝ました。
小黒 体力があったんですね(笑)。
佐藤 まあそういうことですね。若いので何やっても無理が効きますからね(笑)。考えごととか、ものを読んだりすると寝落ちしちゃうんだけど。単純に画を描いてる作業をしてると意外と眠くならないというか。30時間ぐらい寝ないでいられたりしますね。
小黒 タフですね!
佐藤 もう今はできないですけど(笑)。
小黒 その頃の無理が今になって来ているんじゃないですか。
佐藤 まあ、それはあるかもしれないですけどね(笑)。それはしょうがないね。
小黒 でも、60歳まで現役で来られたんだから、プラマイでいったらプラスですよ。
佐藤 確かに50歳過ぎたら引退の道を行くのかなと思っていたから、それよりは長くやれてますよ。
小黒 で、前回『ビックリマン』まで話がきました。この前後に『魔女の宅急便』(劇場・1989年)があると思うんですが、これは話して大丈夫でしょうか。
佐藤 これに関しては、スタジオジブリの都合もあるだろうから分かんないですね。聞いてみてもらって、OKだったらいいですけど。
小黒 じゃあ、載せていいかどうか(鈴木)敏夫さんに聞いてみますよ(編注:鈴木敏夫プロデューサーに快諾していただきました)。これはいつぐらいでしたっけ?
佐藤 正確には覚えてないですね。
小黒 『魔女の宅急便』が公開されたのが1989年なので、佐藤さんに声が掛かったのはおそらく87年ぐらいじゃないかと。
佐藤 そうかもしれない。『メイプルタウン物語』は、もうやってたかもしれないなあ。
小黒 『パームタウン編』の頃じゃないですか。
佐藤 かもしれないですね。やるかやらないかについての話し合いをする期間が結構長かったんですよ。僕と鈴木さんとだけの話じゃなくて、交渉の窓口を徳間書店と東映に持っていって、上ですったもんだやった後に、さらにもう1回制作とやり取りするようなことを繰り返していたんです。
小黒 ここで読者に説明すると、当時、注目の若手演出家だった佐藤さんに、スタジオジブリで『魔女の宅急便』の監督をやらないかというオファーがあったんです。実はその人選には僕も関わっています。
佐藤 結局、ジブリでは監督をしなかったんだけどね。それが難しいのには別の事情もあったんです。当時、東映と自分達の待遇について交渉していたんですよ。組合にも入って、研修生という身分から、ちゃんと保証の付いた契約に切り替えてほしいと、我々研修生サイドと東映の総務との交渉が始まっていた頃なんですね。僕が研修生サイドの交渉の窓口になっていたので「ジブリで仕事をするので東映は辞めます」とは言いづらい状況でした。それで宮崎さんには「宮崎さんも組合をやってた方だから、その辺の事情は分かりますよね?」という気分で話してたんです。鈴木さんからは「東映を辞めないで出向というかたちにするから大丈夫だよ」と言ってもらい、交渉してもらったんですが、最終段階でやっぱり「東映動画としては人を貸し出すようなことはしない」ということになったんです。僕は東映を辞める訳にいかない状況だったので降りることになりました。
小黒 降板するまでの間にも、宮崎さんとの打ち合わせはあったんですよね。
佐藤 交渉を進めている間に「この原作をどうアレンジする?」とか「ライターは誰にしようかね?」等、ざっくりとした打ち合わせはありました。ただ、ライターさんが決まる前に外れたと思います。
小黒 そうだったんですね。
佐藤 僕も映画をどういうかたちにするか、まとめてるんですよ。確か、おソノさんの出産シーンをクライマックスに持っていったはずです。主人公が魔法が使えなくなっているところで、おソノさんが出産する。新しい命を生むということは、どうしてそんなことができるのか分からないような凄いことだ。それも一つの魔法ですよ、ということをクライマックスで見せて、それを主人公のラストに繋げていく構成で考えていました。
小黒 なるほど。
佐藤 「僕だったらこうする」という話はしてましたが、内容を詰める前の段階で終わっています。鈴木さんは脚本家の候補を挙げていましたが、オーダーまではしてないんじゃないかな。
小黒 その時は、実写映画と2本立てという話だったんですか。その後、片渕(須直)さんが監督候補になった時には、実写映画と2本立てだったらしいんですよ。
佐藤 いや、それは全然知らない。あったとしても聞いてない。プロジェクト自体がまだまだ組み立て中だったと思いますよね。「宅急便」がヤマト運輸の商標なので、何か関わってもらわないとできないなあ、みたいなことを言ってる段階ですよ。宮崎さんと話をしたのは組合のこととか、「じゃあ、君はどういう身の振り方をするのか」といった話でしたね。
小黒 作品の内容以外のことを話したんですね。
佐藤 そうでした。「この作品で何を描くの?」とか、「自分のモチベーションはなんだ?」みたいなことを話す機会はあったけど。
小黒 その時、宮崎さんは別の新作を作ってたんですか。
佐藤 僕の記憶だと、鈴木さんから「宮崎さんは自分で監督はやらないで後進の育成にあたると言ってる」と聞いているんです。「だから、宮さんが今後演出するということはないんだ。この先のジブリを支えていく若者や、アニメを支えていく若者にバトンを渡すための作品なんだよ」という説明を受けて、それは大変なことだと思って、臨んだ記憶があります。
小黒 なるほど。
佐藤 全然違ってましたけど。
小黒 宮崎さんはその後もずっと監督をやってますものね。『魔女の宅急便』も結局はご自身で監督をされたし。
佐藤 そうですね。自分がやってても、最終的には宮崎さんが監督になっていたかもしれないですしね。
小黒 『魔法使いTai!』で、主人公の沙絵がほうきにまたがるとお尻が痛くなるという描写がありましたよね。あれって『魔女の宅急便』の準備段階で考えたことだったのではないですか。
佐藤 ああ、そうだったかもしれないですね。その時に思いついたのかどうかは覚えてないけど。魔法使いがほうきに乗ったら、当然痛いだろうなあと思っていたはずです。
小黒 やっぱりそうですか。
佐藤 (笑)。それが特別なことだとは思ってないですからね。『魔法使いTai!』ではそこをクローズアップして、ちょっとエロチックにやりましたけれども。
小黒 それから『魔女の宅急便』に参加せず、本格劇場長編をやらなかったことが、『ユンカース・カム・ヒア』(劇場・1995年)に繋がったんじゃないですか。
佐藤 繋がりますね。まず、東映の状況が変わりました。『魔女宅』の頃の制作部長は「東映内で育てた人間を外に貸すようなかたちで活躍させることは映画屋としてやるべきではない」という考えを持っていたんです。その後『ユンカース』の頃には、タバックから来た千蔵(豊)さんが制作部長になられて、千蔵さんは「いや、どんどん外に行って武者修行してくるべきである。そして帰ってきた東映でさらに大きな仕事をしてくれればよい」と考えていたんですよ。だから『ユンカース』は東映在籍のままでやれたんです。ギャラも東映に1回払われて、東映から僕がもらうかたちになっていたんですね。
小黒 なるほど。
新文芸坐×アニメスタイル セレクションVol. 128
湯浅政明のセカイ
2020年最後のオールナイトは「新文芸坐×アニメスタイル セレクションVol. 128 湯浅政明のセカイ」。湯浅政明さんが監督を務めた劇場アニメーション『マインド・ゲーム』『夜は短し歩けよ乙女』『夜明け告げるルーのうた』を上映します。いずれもアニメーションならではの楽しさに満ちた作品です。トークコーナーのゲストは湯浅さん。聞き手はアニメスタイルの小黒編集長が務めます。
なお、新型コロナウイルス感染予防対策で、観客はマスクの着用が必要。入場時に検温・手指の消毒を行います。全席指定席で、前売り券の発売は12月19日(土)から。前売り券の発売方法については、新文芸坐のサイトをご覧になってください。
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新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 128 |
開催日 |
2020年12月26日(土) |
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開場 |
開場:22時10分/開演:22時30分 終了:翌朝5時00分(予定) |
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会場 |
新文芸坐 |
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料金 |
一般3000円、友の会2800円 |
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トーク出演 |
湯浅政明(監督)、小黒祐一郎(アニメスタイル編集長) |
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上映タイトル |
『夜明け告げるルーのうた』(2017/112分/DCP) |
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備考 |
※オールナイト上映につき18歳未満の方は入場不可 |
●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/
アニメ様の『タイトル未定』
282 アニメ様日記 2020年10月18日(日)
2020年10月18日(日)
午前5時半に新文芸坐に。オールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol.126 没後10年 鬼才・今 敏の世界『妄想代理人』」の終幕を見届ける。午前中はワイフと谷根千を散歩。ワイフは前から行きたかったケーキ屋で、念願の栗のケーキを購入する。午後は事務所に入ってデスクワーク。
Kindle Unlimitedで高橋葉介さんの「師匠と弟子」下巻を読む。上巻の途中で既読であることに気づいたが、最後まで読んだ。何度も言ってるけど、高橋葉介作品を原作にして大人向きアニメを作るのはアリだと思う。
2020年10月19日(月)
「なつぞらのアニメーション資料集[劇中アニメ・小道具編]」 の編集作業が一山越える。10月16日の日記で「月曜が嵐のような一日になるかも」と書いたけれど、嵐はこなかった。つまり、関連各所のチェックで大きな直しはなく、レイアウトやテキストの修正がほぼなかったのだ。よかった。
『さすがの猿飛』15話「ネグラ忍法帖!?」で、猿飛八宝斎が「「なんたるちあの、サンタルチア!」と言って怒るカットがある。動かし方も動きの密度も素晴らしいものであり、そして、遊び心もたっぷりで、非常にインパクトのあるカットだった。僕にとっては、作画的な見どころの多い『さすがの猿飛』のベストカットだ。ずっと木上益治さんの原画だと思っていたのだが、確認する機会がなかった。Twitterでそのカットを話題にしたところ、当時、あにまる屋に所属していた奈須川充さんが、リプライで木上さんの原画だと教えてくださった。ありがたい。裏がとれる日がきてよかった。
2020年10月20日(火)
グランドシネマサンシャインで劇場版『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』を鑑賞。とにかく完成してよかった。Zoom打ち合わせとデスクワークをはさんで、午後は有楽町マルイの「白身魚イラスト展」に。その後、神田まで歩く。
「なつぞらのアニメーション資料集[劇中アニメ・小道具編]」を印刷会社に入稿した。念のために書いておくと、入稿作業をしたのは僕ではなくて、アニメスタイル編集部のスタッフである。
2020年10月21日(水)
EJアニメシアター新宿の10時20分からの回で『海辺のエトランゼ』を観る。丁寧に作られた作品だ。男性同士の恋愛を描いた作品で、性的な部分にも触れているのだが、不思議と照れくさくはなかった。
ドラマ「映像研には手を出すな!」を全話視聴。全話といっても6話しかない。役者はかなりよくて、キャラクターの再現度は高い。作劇のタッチはちょっと原作と違う(特に1話)。途中から金森さやかが普通の女の子っぼくなった気もするけど、それもOK。アニメ版の前に作られていたら「すごい、原作そっくりだ」と言われていたはずだ。
2020年10月22日(木)
放送中の深夜アニメを次々に視聴する。午前中はZoom打ち合わせとデスクワーク。午後は吉松さんと高田馬場の洋食屋で昼吞み。
2020年10月23日(金)
池袋HUMAXシネマズで『どうにかなる日々』を観る。初日初回での鑑賞だった。ミニシアター系の小品という感じで、こういうアニメ作品がもっとあってもいいと思う。好みでいうと、もう1エピソードほしかった。「なつぞらのアニメーション資料集[劇中アニメ・小道具編]」の校正紙が出る。なんだかんだで忙しかった日。
2020年10月24日(土)
散歩以外はデスクワーク。「異世界おじさん」を3巻の途中まで読む。
第688回 アニメ作りの根本
オープニング、エンディングの納品を済ませると一気に緊張感が高まります! と同時にいちばんワクワクする時期でもあります!
もうすでに何話分か上がってるものに、OP・EDアニメを差して正式に納品。これで晴れて放送の形態に。今回のOP・EDもコンテは俺。演出も(OPは助監と共同、EDはピンで)。だいたい本編の間を縫って作るのがOP・EDの常。そこだけにスタッフの労力を集中させるわけにはいかないため、総動員でかかる期間は、フィニッシュの2〜3日のみ。そのラストの日(納品日)に筆をとってこの原稿を書いてます。つまり、
でも、毎作品毎作品どれだけクタクタになったとて、たぶんまた作ってると思う板垣です。少なくとも次の仕事も年明けから動き出しますから。どこかで休みたいと思ってもなかなか休めません。新人の面倒みたりとか物理的事情もあるとしても、本音はやっぱりアニメ作りが何よりも面白いからです。いつぞや『ユーリ!!! on ICE』の山本沙代監督と雑談していた際、彼女に「なんでアニメなの?」と訊くと「だって絵(画)が動くってだけで楽しいじゃないですか〜!」と返ってきました。その時の「絵(画)が動くってだけで楽しい」は、純正のアニメーターでもかくや、って感じの純粋な言葉として、未だに忘れられないのですが、自分もその感触が未だにあって、何歳になっても、紙と鉛筆からPCへと道具が変わろうとも、アニメーター仕事は辞められずにいます。
で、今回は「蜘蛛」!
テレコム時代から擬人化した動物キャラはいろいろと動かしてきましたが、蜘蛛は初めて。脚は8本!
第315回 『杉並マンガ・アニメ祭』にてアニメ様とトークいたします
第687回 ちょっとアニメ現場の話
お願いがあります! アニメで飯を食ってる各セクションのスタッフの方々、もう少し我々「手描きのアニメーター」に協力的になっていただけないでしょうか?
もちろん、アニメーター以外のアニメ制作業務に携わるスタッフさんの中にも「俺たちだって1話あたりのギャラは全然安い!」と仰る方がいるのも充分承知しております。ただ! 「1話あたりが安くても、その実労働時間は?」とお尋ねしたいのです。例えば1話あたりが5〜10万円の業種だったとしても、その実労働時間が1〜2日(8〜16時間)なら週2〜3本掛け持ちで結構な稼ぎになるでしょう? ところが手描きのアニメーターは1カット4〜5千円の原画を1〜2日かけて描くんです。動画の月給に至っては、とある業種の「1話分または日給」ですから! まあ、最近でこそウチも含めアニメーター(原画・動画とも)固定給にする会社は増えてきてますが、それでも全体の制作費はなかなか上がらないのが現実。
ああ、そういえばだいぶ前、ホン読み(脚本打ち合わせ)の時、
「いや、このシーンをこっちのキャラの方のやり取りにすれば、CGじゃなく作画になるので安く上がりません(笑)?」
と言ったライター(脚本家)さんがいました。(笑)はあくまで板垣主観のイメージで。けど、少なくとも俺からはそのライターさんの悪気なく言った「作画になると安く上がる」が「所詮CGアニメーターより安い下っ端映像クリエイターである君ら作画アニメーターに、僕の一筆で仕事振ってやろう(嘲笑)」に聞こえたんです。被害妄想でしょうが、その作品の監督として参加してはいたものの、アニメーターでもある自分からすると、そのライターさんの一言は極めてデリカシーを欠いたものとして、俺の耳に届いたのです。すみません。そもそも、
CGも作画も同じ映像を作る仕事なのに「作画でやると安くなる」って何!?
つまり何が言いたいかというと、別に実労働時間の割に高給取りのスタッフに対して、そのギャラを作画に分け与えてくれ! などと言うつもりは毛頭ありません。そんなことしたって制作費自体は上がりませんから。冒頭で言った「協力的に」とは、それぞれの役職の範囲内での気遣いをお願いします、てことです。例えば脚本の先生が1週落すことはテヘペロで済ましがちですが、その1週間はダイレクトに作画のスケジュールを奪っているということを忘れないでほしい! とか、音響の現場でフィルムに色が着いていなくてやり辛いのは分かるのですが、現場のアニメーターは血眼で直している最中だったりもするわけで、なんとか演出のメモ書きで乗り切ってもらえないでしょうか? とか、本当に助け合いみたいなもので充分なのです。もちろんアニメは作画だけではありません。脚本・コンテ・演出・CG・美術・仕上げ・撮影・音楽・音響・制作……そして当然キャストの皆さん。どれが欠けても成り立ちません。しかし、その中でも手描きアニメーターは、ツールはデジタルに変わっても、全く生産量に結びつかなかったセクションで、これからも働き方改革とかでますます不利になっていくと思うのです。だから冒頭の一言、よろしくお願いします!
アニメ様の『タイトル未定』
281 アニメ様日記 2020年10月11日(日)
2020年10月11日(日)
無観客配信のトークイベント「アニメスタイルTALK 叶精二のアニメーション講義 初級編」を開催。聞きどころたっぷりのトークとなった。トークの本筋の話題ではないけれど、大塚康生さんと小田部羊一さんと『虹色ほたる』の話が特によかった。イベント終了後、阿佐ヶ谷から高田馬場に向かって歩いていると、ドラゴンクエストウォークをやりながら歩いていた佐藤竜雄さんとバッタリ。こちらもドラゴンクエストウォークをやりながら歩いていた。
2020年10月12日(月)
グランドシネマサンシャインで『BURN THE WITCH』を観る。この作品は先に配信で観ていて、劇場公開版はどうなっているのかが気になって映画館に足を運んだ。劇場公開版と配信版の大きな違いは、配信版は3話構成で各話にエンディングがついてるということ。2話と3話の繋ぎの部分も劇場公開版と配信版で違うと思う。Blu-rayコレクターズエディション(初回限定生産)では、本編として3話構成バージョンが入り、特典ディスクに「劇場上映版本編映像」が入っている模様。
「WEBアニメスタイル」で、佐藤順一さんのロングインタビュー「佐藤順一の昔から今まで」の更新がスタートした。
2020年10月13日(火)
早朝からU-NEXTのレンタルで『Fate/stay night [Heaven's Feel]』1作目と2作目を観直す。そして、TOHOシネマズ池袋で『Fate/stay night [Heaven's Feel] III. spring song』を轟音上映で観る。前にこの映画を観ようとした時は、ワイフの具合がよくなくてとりやめた。この日もワイフと行くつもりだったけれど、またもや頭痛で映画館には行けそうもない。劇場版『鬼滅の刃』公開前に観たかったので、一人で鑑賞した。今回も内容が詰まっているし、アクションも超山盛り。展開についてはちょっと意外なところがあった。
2020年10月14日(水)
早朝散歩以外は「この人に話を聞きたい」の原稿。ひたすら原稿。
2020年10月15日(木)
「この人に話を聞きたい」の本文を午前11時くらいに仕上げる。その後、リードや注などを書いて、写真を選ぶ。今回の原稿は普段の1.3倍くらいのスピードで進めた。社内で校正をしてもらっている間に「アニメ様の『タイトル未定』」のテキストをまとめる。14日と15日はデスクワークの合間に散歩をはさまなかったので、腰がやばい。まだ腰痛にはなっていないが、腰痛になりそうだ。
宮崎駿監督、鈴木敏夫プロデューサー達がジブリ美術館の新メニューを試食する動画がYouTubeの「三鷹の森ジブリ美術館」チャンネルにアップされた。シンプルな内容だけど、楽しめた。もっと宮崎さん達の動画をアップしてほしい。
2020年10月16日(金)
公開初日のこの日、グランドシネマサンシャインの午前8時の回で『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』を観る。平日ということもあって、観客は成人女性が多かった印象。作品としてのパワーは『Fate/stay night [Heaven's Feel]』と同様。そして『Fate/stay night [Heaven's Feel]』と違って、必ずしもマニアックな層に向けた作品ではない。であるが、マニアックな層に向けた作品と同様に尖った部分があるのがいい。出版社サイドも、メーカーサイドも、制作サイドも同じ方向を向いて、やるべきことをやりきった作品だと思った。
「なつぞらのアニメーション資料集[劇中アニメ・小道具編]」 の編集作業は間もなく終了。この日は嵐のような一日になるかもしれないと思っていたが、そうはならなかった。嵐のような一日になるのは月曜か。
就寝前にKindleでマンガを数冊読む。楽しみにしていた散歩マンガ「ぐるぐるてくてく」が完結してしまった。今までも身近な場所や行ったことのある場所が舞台になっていたが、最終巻でも最近の散歩コースが登場した。
2020年10月17日(土)
昼に打ち合わせを兼ねた食事の席で『鬼滅の刃』の話をして、事務所に戻って、他の方とSNSで『鬼滅の刃』の話をする(さらにオールナイトのトークの後に、楽屋で新文芸坐の花俟さんと『鬼滅の刃』の話をした)。この日のオールナイトは「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 126 没後10年 鬼才・今 敏の世界『妄想代理人』」。トークのゲストは井上俊之さんと安藤雅司さんで、トークは倍の時間があっても大丈夫だった。
第196回 夢かうつつか 〜夢喰いメリー〜
腹巻猫です。観客を入れてのサントラ系コンサートが徐々に戻ってきました。12月4日にはNHKホールで「シンフォニック特撮ヒーローズ」の公開収録が行われ、12月30日にBSプレミアムで放送される予定です。12月10日には『カレイドスター』『泣きたい私は猫をかぶる』などの音楽を手がける窪田ミナさんの初のソロピアノ・コンサートが東京オペラシティ・リサイタルホールで開催。
https://www.confetti-web.com/detail.php?tid=58788
来年2月には『銀河鉄道999』の初のシネマコンサートが東京と大阪で開催されます。
http://www.promax.co.jp/galaxyexpress999/
やはり、生で聴くコンサートはいい。細心の注意を払いつつ、楽しみたいです。
劇場アニメ『魔女見習いをさがして』が11月から公開中だ。「『おジャ魔女どれみ』20周年記念作品」とうたわれたこの作品は、『おジャ魔女どれみ』のストレートな続編ではない。が、音楽的に面白いしかけがしてある。『おジャ魔女どれみ』シリーズのBGMを劇場用にアレンジ・新録音して劇中音楽として使用しているのだ。音楽を担当したのはもちろん、奥慶一。『おジャ魔女どれみ』TVシリーズ全4作の音楽をすべて手がけた作曲家である。
本コラムでも『おジャ魔女どれみ』の音楽を取り上げたことがある。今回は、同じ奥慶一が手がけた『夢喰いメリー』の音楽を紹介しよう。
『夢喰いメリー』は牛木義隆の同名マンガを原作に2011年1月から4月まで放映されたTVアニメ。監督は山内重保、アニメーション制作はJ.C.STAFFが担当した。ちなみに原作マンガは、TVアニメ放映以降も10年にわたって「まんがタイムきららフォワード」誌上で連載が続き、2020年11月発売の2021年1月号で完結した。
他人の夢の良し悪しを見ることができる高校生・藤原夢路は、ある日、「幻界(ゆめ)」から「現界(うつつ)」に迷い込んだ夢魔の少女・メリーと出会う。メリーは幻界への帰り道がわからなくなり、何年も現界をさまよっていた。夢路はメリーが幻界へ戻る手助けをしようとするが、そのために現界に現れる夢魔たちとの戦いに巻き込まれていく。
奥慶一は、ブラスロック・バンド「スペクトラム」のキーボーディストとしてデビューした。そのためポップス系の作曲家と思われがちだし、それも間違いとは言えないが、音楽的原点はクラシックにある。
少年時代からピアノや和声学を習い、作曲家を志して東京藝術大学音楽学部作曲科に進学。大学では現代音楽を学び、大学院に進んだ。そのいっぽう、アルバイトで弾いていたピアノの腕を見込まれて在学中からステージミュージシャンとして活動。郷ひろみのバックバンドを経て参加したのがスペクトラムだった。大学の卒業作品は、電子音楽の概念を取り入れた実験的な管弦楽曲だったそうだ。
『夢喰いメリー』の音楽には奥慶一の原点であるクラシックの要素が濃厚に取り入れられている。それまで手がけた『ママレード・ボーイ』や『おジャ魔女どれみ』シリーズの音楽とは大きく異なる印象だ。
「メインテーマ」がすごい。夢の世界に入っていくような幻想的な導入部に続き、バイオリンが玄妙なソロを奏で始める。管弦楽の合奏が加わり、バイオリン協奏曲のような構成でテーマの変奏が展開される。6分に及ぶ大曲である。
このバイオリン・ソロを弾いているのが大谷康子。東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団コンサートマスター、東京交響楽団コンサートマスターなどを歴任した日本を代表するバイオリニストの1人だ。けっこうすごいことなのだが、大谷康子の名はアルバムの帯にも書かれていないし、特に宣伝されているようすもない。実は奥慶一と大谷康子は東京藝術大学の同窓で、それが縁で奥慶一がメインテーマの演奏をお願いしたのだそうだ。
音楽の中心となるのは、夢の世界や夢魔をテーマにした曲である。とらえどころのない「夢」をいかに音楽にするか。シンセサイザーを使えばいくらでも幻想的な音を作り出すことができるが、奥慶一は安易な音作りはしなかった。生楽器と電子楽器を組み合わせ、ときに民族楽器や合唱などを取り入れて、ジャンルを横断した21世紀の現代音楽を作り上げている。
オーケストラには金管楽器が含まれず、木管とストリングスを中心にした編成。また、いわゆるポップスのリズムセクションであるドラムセットやエレキベースは使用していない。金管の音やビートを刻むサウンドは必要に応じてシンセサイザーで補うスタイルだ。クラシカルでありながら、ときにはテクノポップ的でもある、ユニークなサウンドの音楽になった。
本作のサウンドトラック・アルバムは2011年3月にポニーキャニオンから発売された。現在は音楽配信サイトでデジタル音源も購入することができる。収録曲は以下のとおり。
- メインテーマ
- いざ!夢魔よ!!
- ストーリーテラー
- イチマ
- メリーと夢魔たち
- メリーの苦悩
- 妖気と決意
- エルクレスの歌(歌:杉並児童合唱団)
- メランコリー
- ピュア・ラブ
- うたかた
- コミック・アッチェレランド
- 夢喰いメリー
- クリティカル・モーメント
- メリーと夢路
- 怪人デルガ
- エルクレスの恐怖(歌:杉並児童合唱団)
- ザ・バトル
- 凶夢
- 白昼夢(デイドリーム)
- メリー・デイズ
- 夢現(ゆめうつつ)
- エクストラ
- FB(フルヘルボーダー)グリッチョ賛歌(歌:風雅なおと、台詞:川田紳司)
オープニング主題歌、エンディング主題歌は収録されていない。すべて奥慶一の作・編曲作品でまとめられている。6分を超える「メインテーマ」をはじめ、5分を超える曲や4分を超える曲がある。音楽的にもボリューム的にも聴きごたえのあるコンセプト・アルバムという雰囲気だ。
トラック1がすでに紹介した「メインテーマ」。メリーと夢魔との戦いの場面に第1話から選曲されている。最終話(第13話)のクライマックス、夢魔ミストルティンとの決戦シーンにフルサイズ流れるのが圧巻。映像に引きこまれながらも、「なに? この音楽?」と曲が耳から離れなくなる。
トラック2「いざ!夢魔よ!!」もメリーと夢魔との戦いの場面に流れた曲だが、こちらはエレキギターがうなりまくる激しいロックの曲だ。「スペクトラム」での経験が生かされた感じで、この振り幅の広さが奥慶一サウンドの魅力のひとつ。同じような激しいロックサウンドがトラック18「ザ・バトル」でも聴ける。
シンセサイザーによる神秘的な「ストーリーテラー」を挟んで、トラック4「イチマ」は第3話に登場する夢魔イチマのテーマ曲。本作では夢魔それぞれに印象的なテーマ曲が与えられているようだ。
「イチマ」は琵琶をフィーチャーした曲。琵琶とフルートのアンサンブルで和の空気をただよわせ、後半はリズムが加わって和洋融合したフュージョンになる。面白い構成の曲だ。
夢魔のテーマとしては、ほかにトラック8「エルクレスの歌」、トラック16「怪人デルガ」、トラック17「エルクレスの恐怖」が収録されている。
「エルクレスの歌」と「エルクレスの恐怖」は夢魔をあやつる黒幕的存在エルクレスのテーマ。わらべ唄風の児童合唱がエルクレスの得体のしれない恐怖を伝える。「エルクレスの歌」はフルート、ストリングスなどのアコースティックなサウンドと素朴な歌声で幻想的な雰囲気をかもしだし、「エルクレスの恐怖」では生音にさまざまなエフェクトを加えて、しだいにひずんでいく合唱で恐怖感を盛り上げる。本編ではエルクレスの出番が少なく、これらの曲もあまり使われずに終わったのが残念だった。
「怪人デルガ」は第7話に登場する夢魔デルガのテーマ。シンセサイザーをベースにフルート、クラリネットなどの木管群とパーカッションが絡む。重厚なサスペンス表現からストラビンスキー的な荒々しい曲調に展開して夢魔のパワーを表現する。怪獣映画音楽的なダイナミックな曲だ。
トラック13「夢喰いメリー」は番組のPVにも使用された曲。不気味な予感をただよわせる導入部から、シンセサウンドとストリングスが夢の世界を妖しく描写する中間部へ。後半はピアノ、弦、木管などの生楽器とシンセサイザー、エレキギターが緊迫したセッションを繰り広げる。メリーのテーマというより、メリーと夢魔との対決を1曲の中に凝縮した印象である。
夢路とメリーたちの日常を描写する曲も用意されている。トラック10「ピュア・ラブ」はハープとフルートによる優雅なワルツ。夢路たちの学園生活の場面によく流れていた。
トラック11「うたかた」とトラック12「コミック・アッチェレランド」はいずれも木管楽器が活躍する明るい曲。
トラック15「メリーと夢路」は次回予告にも使用されたクラシカルなワルツの曲。ピアノのアルペジオをバックにフルートとクラリネットがやさしいメロディを奏で、ストリングスが加わって、さわやかな雰囲気が広がる。メリーと夢路が語らう場面などによく流れていた友情のテーマとも呼べる曲である。本編ではフルサイズ流れることはなかったが、アルバムではしみじみとした曲調をじっくり聴くことができる。
本編でとりわけ印象に残ったのは、くり返し使用されたピアノ主体の繊細な曲である。トラック6「メリーの苦悩」とトラック9「メランコリー」だ。
「メリーの苦悩」は心の迷いを映すようなピアノの独奏から始まり、後半はバイオリンとチェロが加わって、大きくうねるメロディで乱れる心境を表現する。「メランコリー」はタイトル通り、メランコリックなピアノ・ソロの曲。2曲とも揺れ動く心や葛藤を描写する曲として、毎回のように使用されていた。
夢と心は分かちがたく結びついている。夢を描くことは心理を描くことにほかならない。こうした繊細な曲の出番が多くなったのも、必然のなりゆきと言えるだろう。
なお、ピアノとキーボードの演奏は奥慶一自身が担当している。
さて、本アルバムは、メインテーマに始まり、夢魔のテーマやバトル曲、日常曲、心情曲などを散りばめた構成。ストーリーを再現するよりも、音楽的な流れを重視した印象だ。夢の世界の曲、現実世界の曲が交互に現れ、頭から聴いていくと、夢と現実のあいだを行き来しているような気分になる。
アルバムの終盤は、夢をテーマにした曲が続く。
トラック19「凶夢」はビブラフォン、チェレスタなどによる夢幻的な導入から始まり、アコーディオンとオルガンがメリーゴーランド的なワルツを奏でる曲。ノスタルジックな曲想は「凶夢」のタイトルから遠いが、しだいに音色が暗く沈み、オルガンが不協和音を奏で始める。楽しい夢から悪夢に転じるイメージの曲である。
次の「白昼夢(デイドリーム)」はクラリネット、フルート、オーボエ、ファゴットなどを主体にしたややユーモラスな曲。現実と夢が混然となった妖しくも奇妙な光景が頭に浮かぶ。
トラック21「メリー・デイズ」は一転して軽快な日常曲になる。アコースティックギター、キーボードなどによるさわやかなフュージョン風の曲で、夢路たちが幻界(ゆめ)から現界(うつつ)に帰還したイメージだ。
が、次のトラックのタイトルは「夢現(ゆめうつつ)」。浮遊感のあるシンセサウンドと鐘の音が夢の世界へいざない、後半から波の音が加わる。ここは夢の波打ち際なのか? 現実なのか? 夢をテーマにしたアルバムらしい、夢幻的な締めくくり方である。
ラストにはボーナストラック的に「FB(フルヘルボーダー)グリッチョ賛歌」が収録されている。これは劇中で夢路たちが熱心に観ている特撮ヒーロー番組『FBグリッチョ』の主題歌。奥慶一は東映スーパー戦隊シリーズの1本『電磁戦隊メガレンジャー』(1997)の主題歌と音楽を手がけているので、こういうパスティーシュ風の曲も本格的である。歌っているのは『電磁戦隊メガレンジャー』の主題歌を歌った風雅なおと。特撮ファンならニヤリとするところだ。
親しみやすい曲想で書かれた『おジャ魔女どれみ』シリーズの音楽と比べると、『夢喰いメリー』の音楽はひとひねりもふたひねりもしてある。「ん? なんだ?」とひっかかる曲が多い。しかし、それがカッコいいし、聴けば聴くほど味のある音楽になっている。奥慶一の、ほかの作品では聴けない現代音楽的なサウンドを聴くことができる貴重な作品だ。
最後に宣伝を。『魔女見習いをさがして』のサウンドトラック・アルバムが12月23日に発売される。筆者は解説と奥慶一インタビューを担当させていただいた。インタビューではオリジナルの『おジャ魔女どれみ』シリーズのことも含めてお話をうかがったので、古くからの『どれみ』ファンにも興味深い内容になったと思う。『夢喰いメリー』とあわせて、お聴きいただきたい。
TVアニメ「夢喰いメリー」オリジナルサウンドトラック
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映画『魔女見習いをさがして』ミュージック・コレクション
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第314回 アニメスタイルのイベント
アニメ様の『タイトル未定』
280 アニメ様日記 2020年10月4日(日)
2020年10月4日(日)
早朝に歩いて、仕事をして、昼に歩いて、仕事をして、また夕方に歩いた。夕方の散歩はワイフと一緒で、途中で「コ本や honkbooks」に立ち寄る。「コ本や honkbooks」は変わった古本屋で、看板が出ていない。同店のサイトには、17時以降と土日祝はビルの裏口に回って「コ本やDashボタン」を押し、店員にドアを開けてもらってビル内に入る、といった内容が記されている。マジかと思って、ビルの裏口に回って指示通りの段取りで入店した。品揃えもちょっとマニアックで楽しい古書店だった。ワイフもこの店を気に入ったようだ。
Amazon prime videoで『BURN THE WITCH』を観た。
2020年10月5日(月)
シネフィルWOWOWの『1000年女王』の録画を観る。映像が非常に鮮明。藩恵子さんのコメントもよかった。という話はおいておいて、雪野弥生が天文台で働きながら学校の先生をやっている(しかも、同時に1000年女王として地球を見守っている)という設定は、学生時代は「ふーん」と思っていたけど、今になると「なんたる超人」と思うよね。そりゃあ、寝坊もするよ。
ネットで新宿TSUTAYA 歌舞伎町DVDレンタル館の閉店を知る。歌舞伎町に移ってからはあまり利用していなかったがやっぱり寂しい。僕にとって「アニメのビデオレンタルと言えば新宿TSUTAYA」の時代が長かった。
2020年10月6日(火)
この日からセブンイレブンのSEVEN CAFEでグアテマラブレンドがスタート。SEVEN CAFEを愛用しているワイフは、早朝散歩の途中でわくわくしながら店内に。しかし、まだその店にはカップが届いていなかった。その後、別のセブンイレブンに行ったが、こちらはカップは届いていたけど、コーヒーのそのものが届いていなかった模様。
「なつぞらのアニメーション資料集[劇中アニメ・小道具編]」 は入稿の2週間前に、全部の画像とテキストが入った本文PDFが完成。この書籍の編集にはあまり関わっていない編集部スタッフに見てもらって意見を聞く。アニメスタイルの書籍としては非常に余裕のあるスケジュールだ。ではあるけれど、ここからドタバタする可能性もある。同書籍の束見本が届く。イメージしていたよりも分厚くて重たい。
昼過ぎには今日の作業が一段落して、午後には映画に行けるかと思ったがそんなことはなくて、夕方まで作業がギチギチ。10月の新番組をチェック。『ハイキュー!!』最新シリーズ1話がよかった。
2020年10月7日(水)
早朝散歩でSEVEN CAFEのグアテマラブレンドを飲むことができた。「なつぞらのアニメーション資料集[劇中アニメ・小道具編]」の編集作業は続く。社内チェックを反映させて、外部にチェック出しするためのPDFを作成。こう書くと僕がPDFを作ったみたいだけど、作ったのは編集部スタッフだ。
『銀魂』再放送1話を観る。すでに懐かしい。
2020年10月8日(木)
何故か嵐のような忙しさ。16時から某プロダクションで打ち合わせ。ある資料の現物を見たのだけど、またまた、資料を原寸で書籍に収録したい病気にかかる。この場合の原寸はB4だ。
馬越嘉彦さん描きおろし缶バッチの完成品が事務所に届く。
2020年10月9日(金)
仕事の合間に、新文芸坐で「ロスト・イン・トランスレーション」を観る。「『オン・ザ・ロック』公開記念 ソフィア・コッポラ監督2本立て ヴァージン・スーサイズ | ロスト・イン・トランスレーション」の1本。2003年のアメリカの作品だ。どんな映画か知らず、予告もチェックせずに観た。監督のセンスを楽しむ映画だと思った。物語を楽しむのではなく、感覚を楽しむ映画だ。
2020年10月10日(土)
昼まではデスクワーク。TOHOシネマズ池袋の13時55分の回で『思い、思われ、ふり、ふられ』を観る。前後して同タイトルの実写映画が公開されたが、僕が観たのはアニメ映画。かなりの力作。物語がみっちりと詰めこまれていて、なおかつ観やすい。監督は『舟を編む』の黒柳トシマサだ。黒柳監督の次回作にも期待したい。
夕方から吉松さんとSkype飲み。
第686回 『蜘蛛』PVの話
先週言い忘れました。
『蜘蛛ですが、なにか?』のPV、観てください!
最初の話数何本かのダイジェストになります。詳しい内容はまだ解説できませんが、前回触れた魔物とのバトルがメインの映像に、主人公「私」役・悠木碧さんのセリフがのって、あと主題歌もかかるスタンダードなPV。ちなみに現場ではそろそろオープニングの上がりが見えてきたところです。
悠木さんとは『ベン・トー』(2011年)白粉花役以来、9年ぶり。なんとなく縁がなかったのですが、自分の学生時代の同期・小野勝巳くんの監督してた『戦姫絶唱シンフォギア』シリーズに出てたなぁと気にしてはいて、今回久しぶりにお仕事をご一緒させていただくことになり嬉しい限り。『ベン・トー』の時にも思ったし言ったりもしたのですが、俺の悠木さんに対する印象は、とにかく「芸達者!」です。『ベン・トー』でも白粉の「変な娘」感を本当によく分かって演じてくださったのと同様、今回の『蜘蛛ですが、なにか?』も主人公「私」の超楽天的かつポジティブなメンタルをとても可愛く表現されてます。さらに9年ぶりの悠木さんは——おっと、これ以降は放映開始してからのお楽しみ! まぁ、なにしろやっぱり、
第313回 セガのゲームは世界いちぃぃぃぃっ!!
佐藤順一の昔から今まで(7)パイロットフィルムと『ビックリマン』
小黒 戦いの果てにレイアウトシステムが出来上がって、『メイプルタウン』はストレスなく制作することができたわけですか。
佐藤 いや、シナリオを絵コンテで修正していくスタイルに関して、いきなり3話ですったもんだが起きまして。
小黒 といいますと。
佐藤 詳しくは言えませんが、シナリオからコンテで変更して、そのままオンエアまでいってしまったことでちょっとトラブルがあったんです。こちらとしては変更を脚本家にチェックしてもらって、問題があれば直せるように早めにコンテを上げてるのに、脚本家には届いていなかったという行き違いで、山口(康男)プロデューサーとの間でちょっとしたバトルになりました。
小黒 そんなことがあったんですね。
佐藤 「コンテを見せなかったのがよくなかったんですよ」という話をしたんだけど、山口さんに「次からはもっとシナリオに沿うようにしてもらうからね」と言われて、21話では、山口さんのコンテチェックが入るようになりました。山口さんの文字入り修正が戻ってきて、「ここはこうしたほうがいい。ここは演出的にどうだ? ギャグが笑えない」といったことが書いてあって、僕のほうで直した上でそれについての自分の考えをさらに書き加えて、それを山口さんに戻して(笑)。その両方のコメントが入ったコンテで打ち合わせをするつもりだったんだけど、山口さんから「コメントは全部消して」という指示が出て、コメントが消されたコンテで打ち合わせをしていた。まあ、そんなことがあって、続編の『パームタウン編(新メイプルタウン物語 -パームタウン編-)』(TV・1987年)でシリーズディレクターは設楽さんに交代。
小黒 その話は初めてうかがいました。絵コンテチェックはずっと続いたんですか。
佐藤 続いたけれど、何か大きな問題が生じることはなかったですね。
小黒 佐藤さん自身が、作品内容について不満が持ちながら作っていたという訳ではないんですね。
佐藤 それはなかった。そういう意味では、ディレクターとしてちゃんと戦えていた。
小黒 各話だと、佐藤さんが演出をした13話「愛を呼ぶ手紙」はライオンの村長さんのエピソードで、泣ける話でしたよね。
佐藤 そうですねえ。「大草原の小さな家」テイストでやろうというのがあったので、やっぱりドラマ軸は重要だというつもりでやってたんですよね。家族とか大人と子供の関わりでドラマの軸を作るということに関して、『メイプルタウン』は思ったことができた実感はあるんですね。シナリオのセリフのアレンジの仕方とかも含めて。
小黒 各話演出として参加した『パームタウン』はどうだったんですか。
佐藤 『パームタウン』の印象はあまり残ってないんですよねえ。自分の手元から離れていってしまったし、舞台も都会になってしまい、流れもよく掴めなかったりして、粛々と仕事をした気がします。
小黒 『パームタウン編』の頃、企画の仕事もやっているのではないですか。
佐藤 いつ頃だったか覚えてないんですけど、パイロットフィルムを沢山作ってるんですよねえ。世に出てないので具体的な話は言えませんけど。籏野さんの企画のパイロットをやることが割と多かったんですね。パイロットフィルムで『SEASIDE COMPANY』というのがあって、あの井上(俊之)さんがキャラクターデザインをやって、全カットの原画を描いています。ただ、総尺が1分半で短かったので、もうちょっと間があってもよかったかもしれない。
小黒 それは東映の資料室で観せてもらったことがあります。キャラクターが魚で、会社で働いているんですよね。井上さんの原画だけあって、作画もよかったです。島田満さんの小説「ぼくらのペレランディア!」は、アニメにするのを前提にしたものだったんじゃないですか。
佐藤 そうですね。僕も関わっていたけれど、どちらかというと、大久保(唯男)が動かそうとしていた企画です。小説にしたところまでいったけど、その後はなかなか進まなかったですね。
小黒 「ペレランディア」の小説が刊行されたのが86年だから、『メモル』や『ステップジュン』の頃に「ペレランディア」の話をしてたんでしょうか。
佐藤 もっと前かもしれない。まだ助手をやってた頃ですね。
小黒 佐藤さん自身としても「オリジナル作品を作りたい」という気持ちはあった?
佐藤 業界に入る時は「オリジナルのTVシリーズが、一生のうちに1本でもできたらいいな」ぐらいの気持ちだったんです。始めたらオリジナルものや、オリジナルに近いものばかりやることになったけど(笑)。
小黒 なるほど。
佐藤 今思い出したけど、大学の頃、スケッチブックにイメージスケッチを描いてたことがあるんです。ほとんどが冒険活劇と言われるようなものばっかりですね。
小黒 主人公は少年なんですか。
佐藤 少年だったり、少女や動物だったりと、色々ですね。どこかに『どうぶつ宝島』や『コナン』の匂いがすることが多かったな(笑)。
小黒 まんが映画的な感じですね。
佐藤 まんが映画的テイスト好きは、ずっと変わらない。今も好きですからね。
小黒 『パームタウン』と『ビックリマン』(TV・1987年)の3年間が各話演出家の時代ですね。『ビックリマン』の2本目の劇場版『ビックリマン 無縁ゾーンの秘宝』(劇場・1988年)で監督をされてますね。題材的にも派手な仕上がりにするのが難しそうな感じでしたが。
佐藤 そうですねえ。映画は当時から苦手だったので、その苦手感が出てますよねえ。
小黒 『ビックリマン』自体はどうだったんですか。
佐藤 最初は本当に分かんなかったんですよねえ。貝澤にとっての『ステップジュン』じゃないですけど、「どう面白くすればいいんだろう?」と思って(苦笑)。お話を追っかけてると、急に新しいキャラが出てきて事件を解決してたりするので(笑)。
小黒 (力強く)そうでしたね。
佐藤 「え!? これでいいの?」と思いましたね。「意味が分からないところがいいのだ」と、それを面白がれるところにいくまでに、結構掛かった気がしますね。
小黒 佐藤さんが演出をした回ではないですが、助っ人竹ちゃんの話が印象的です(15話「天魔界からの逆襲」)。
佐藤 助っ人竹ちゃんね。ヤマト王子が倒れているところを揺すったら、助っ人竹ちゃんからゴリッゴリッと竹筒を転がしたような音がするのが、凄いおかしかったな(笑)。
小黒 あの話の終盤で、かぐや姫みたいな天使(かぐや観音)が登場して、敵の悪魔をやっつけてしまうんですよね。その天使は聖フェニックスが連れてきたんだけど、登場するまでの伏線もなければ、何者なのかも分からない。それがさっき佐藤さんが仰った「意味が分からないところがいい」というところなんですよね。
佐藤 そうそう。そうなんですよ。
小黒 原作のシールを知っている子供なら、助っ人竹ちゃんとセットのキャラクターだと分かるんでしょうけどね。僕も新しいと思いました。
佐藤 「新しい物語の作り方なんだなあ」とは、思ったね。最初は「いいのかな?」と思ったけど(笑)。
小黒 佐藤さんが覚えているかどうか分からないんですけど、『もーれつア太郎』の頃に会う機会があって「佐藤さん、最近どうですか?」と聞いたら「いやあ、僕は鳴かず飛ばずだからねえ」と言ってたのが、凄く記憶に残ってて。
佐藤 えっ、そんなことを言っていた?(笑)
小黒 言っていました。ちゃん仕事をしているのに、本人の感覚としては、今は鳴かず飛ばずの時期なんだなあと思ったのを覚えています。
佐藤 『メイプルタウン』を降ろされたのが後を引いていたのかな(笑)。
小黒 逆に言うと『メモル』からの数年間に、脚光を浴びていたということですよね。
佐藤 そう。やっぱり『メモル』はスポットライトを当てられたなっていう印象があります。そうなったのは、プロデューサーの籏野さんが色々してくれたというのもあると思いますけど。『パームタウン』とか『ビックリマン』の辺りは、粛々と仕事をしてる感じはあります。
小黒 その後に『もーれつア太郎』『悪魔くん』で腕を振るうと。
佐藤 『悪魔くん』も最初は籏野さんがプロデューサーで入ってたんですけど、体調を崩されて途中で変わったんです。やっぱり、いつも籏野さんが手を引っ張ってくれるプロデューサーではあったんですね。
小黒 なるほど。80年代の話が大体終わったところですけど、取材の第1回目はこの辺りまでにしましょうか。
佐藤 はい。ありがとうございます。
小黒 次回は『ポケ戦(機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争)』『悪魔くん』『セーラームーン』『ユンカース』『魔法使いTai!』辺りまでですかね?
佐藤 ああ、頑張りましょう(笑)。
第171回アニメスタイルイベント
20周年記念飲み会 アニメ兄貴のこれを観ろSP!
12月も会場にお客さんを入れるかたちでのトークイベントを開催します。タイトルは「第171回アニメスタイルイベント 20周年記念飲み会 アニメ兄貴のこれを観ろSP!」。開催日時は2020年12月6日(日)の昼。会場は阿佐ヶ谷ロフトAです。
「アニメ兄貴のこれを観ろ」はこれから色々なアニメを観たいと考えている若いファンに、ずっとアニメを観てきた先輩達が、自分が好きな作品やお勧めの作品等を紹介するシリーズ企画です。今回の出演者はアニメーター、演出として活躍し、さらに作画研究家でもある沓名健一さん。アニメーター&マンガ家のサムシング吉松さん(吉松孝博さん)。そして、アニメスタイル編集長の小黒祐一郎。
イベントの第1部では沓名さんには「アニメファンなら教養として観ておきたい作画アニメ」を語ってもらい、小黒は「アニメファンなら教養として観ておきたいアニメ」と「アニメ様のお勧め1980年代アニメ」を語ります(吉松さんは第1部では、主に突っ込み役となるはず)。
イベント第2部はノンテーマのフリートークを予定してます。こちらは「飲み会」的なリラックスしたトークになるはずです。
今回のイベントはロフトグループによるTwitCastingと、アニメスタイルチャンネルで配信します。どちらの配信も内容はイベントの第1部のみとなります。TwitCastingの配信は当日から3日間。アニメスタイルチャンネルでの配信は12月7日(月)から2021年1月8日(金)までを予定しています。
チケットは11月28日(土)から販売開始。チケットを購入された方は会場でイベントに参加し、TwitCastingの配信も観ることができます。なお、TwitCastingの視聴のみのチケットの販売はありません。チケットについて詳しくは以下にリンクした阿佐ヶ谷ロフトAのサイトでご確認ください。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止の観点から、今回のイベントは通常の半分ほどの人数で定員となります。また、飲食物についてはお客様がカウンターで注文し、その場で代金を支払うキャッシュオン形式となります。
■関連リンク
アニメスタイルチャンネル
https://ch.niovideo.jp/animestyle
阿佐ヶ谷ロフトA
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/163313
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第171回アニメスタイルイベント | |
開催日 |
2020年12月6日(日) |
会場 |
阿佐ヶ谷ロフトA | 出演 |
沓名健一、サムシング吉松、小黒祐一郎 |
現場+配信 |
1500円 |
会場となる阿佐ヶ谷ロフトAはトークライブができる居酒屋。入場料(今回は配信チケット込みで1500円)とは別に飲食(最低でもドリンク1杯)をお願いしています。ソフトドリンクもあるので、未成年の方でも大丈夫です。 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。
第685回 蜘蛛ですが、なにか?
はい、ようやく発表になりました!
『蜘蛛ですが、なにか?』来年1月より放映開始!
で、鋭意制作中!
お話を頂いたのは前作『コップクラフト』の制作中。たしか去年の7月か8月でしたか? 荻窪のファミレス。プロデューサーが原作をテーブルの上に積んで、俺がアイスティーを飲んでいた記憶があるので、たぶん夏。「クモが主人公なんですか? 自分にくる仕事ってアクションものばっかで、最近疲れてて」とか俺。すると、「いや、これもアクションなんですよ!」ってプロデューサーが仰り、

とも。でまあ、「『コップクラフト』の終わりが見えたらホン読み(脚本打ち)やりますか」とお引き受けしたわけです。他の監督さんらがどうされているのかは分かりませんが、自分の場合は「期待してる云々」の言葉に弱いので、基本スケジュールが許す限りお受けして、その後原作を読み込んで、仕事に入っていく中で面白くなっていく、の順。今回も自然と作り始めて、現在はドップリ浸っています! で、また短くてすみません! 次回以降、もっと掘り下げます。
アニメ様の『タイトル未定』
279 アニメ様日記 2020年9月27日(日)
2020年9月27日(日)
急に思い立って、ワイフと新文芸坐の「TAAF2020 コンペティション部門ノミネート作品上映」に。「短編アニメーション スロット1」を観る。本郷みつるさんがTwitterで勧めていたプログラムだ。短編12本を上映。フランスの『Iron Me』はアイロン台を恋人のように扱い、一緒に暮らす男の物語。着想が面白く、印象に残った。その後、昼飯をとってから事務所に。
2020年9月28日(月)
「なつぞらのアニメーション資料集[劇中アニメ・小道具編]」 編集作業が大詰め。と言っても、比較的ゆっくりと作業が進む。『妄想代理人』のオールナイトの準備も進める。
病院に行って、健康診断の結果を聞く。そして、体重を落とすことを決意する。デスクワークをはさんで「馬越嘉彦 仕事集」展示最終日のササユリカフェに。来場した馬越さんにご挨拶。そして、アニメスタイル感想ノートにイラストを描いてもらう。
2020年9月29日(火)
事務所近くの自販機に缶コーヒーのホットが入った。「なつぞらのアニメーション資料集[劇中アニメ・小道具編]」とその次に出す書籍の作業。Amazonから「フィギュア王№272」が届く。なんと表紙が『小さなバイキング ビッケ』だ。表紙のデザインもシンプルでよい。設定資料や関修一さんのインタビューも載っている。
2020年9月30日(水)
レイトショーの予習で『若おかみは小学生!』を視聴。トークの参考になるかどうか分からないけど、『茄子 アンダルシアの夏』と『MASTERキートン』で高坂希太郎さんが演出を担当したエピソードを観る。夜はレイトショー「新文芸坐×アニメスタイルSPECIAL 現代アニメの傑作 劇場版『若おかみは小学生!』」を開催。トークのゲストは高坂希太郎監督と豊田智紀プロデューサーのお二人だ。豊田さんに出てもらったおかげで、トークに広がりが出たと思う。会場では「劇場版 若おかみは小学生! 原画集」のサイン本を販売した。
2020年10月1日(木)
今年の1月から4月は自分でも感心するくらいよく働いた。5月から9月も働いてはいるんだけど、スピードが落ちている。個々のプロジェクトのスピードが落ちているのは、新型コロナのためでもあるのだけど、自分の仕事のやり方の問題でもある。10月10日くらいまでは今のペースでやるしかないんだけど、その後は仕事の進め方を変えなくては。
「なつぞらのアニメーション資料集[劇中アニメ・小道具編]」の編集作業は続いている。後から追加でお願いした素材も全て揃った。
富田耕生さんが亡くなったことを知る。アニメでは手塚治虫作品のヒゲオヤジ役、ロボットアニメの博士役等で知られる名優だ。僕個人は『鉄人28号(1980年版)』の大塚警部が特に印象に残っている。心よりご冥福をお祈り致します。
2020年10月2日(金)
購入したあるアニメムックを見て「ああ、編集費が少なかったんだろうなあ。時間もかけられなかったのだろうなあ」と思う。編集費が少ないのは、販売数を考えるとしかたないことなのだろう。きびしいなあ。
新文芸坐の花俟良王さんと話をして、今さんが新文芸坐に来たのはいつだったのかが話題になり、気になって、アニメスタイルと新文芸坐の今 敏さん関連の上映企画を確認してみた。以下のとおりだ。
…………
2005年6月4日 オールナイト「今、注目のアニメ作家たち」
2008年2月16日 オールナイト「新文芸坐アニメスペシャル(3) 今 敏」
2012年8月11日 特別上映「映画館で出逢う素晴らしきアニメーションの世界Vol.3 三回忌追悼 今 敏監督 全劇場作品」
2016年11月19日 オールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションVol. 88 アニメファンなら観ておきたい200本 今 敏のアニメーション」
2017年3月25日 オールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションVol. 91 今 敏監督の”感染する”サイコサスペンス『妄想代理人』」
2018年12月22日 オールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションVol. 110〈聖夜の奇跡〉今 敏のアニメーション」
…………
今さん自身にゲストとして来ていただいたのが2005年6月4日、2008年2月16日。この2回は「新文芸坐×アニメスタイル セレクション」のシリーズが始まる前ではあるけれど、僕も企画に関わっているはずだ。ちなみに2005年6月は今さんと湯浅政明さんがゲストだった。実はもう一人の監督にも声をかけていて、アニメ監督三人にスポットを当てる企画だった。その監督は都合が付かず、今さんと湯浅さんになったのだ。
夕方、上野で吉松さんと吞む。
2020年10月3日(土)
散歩以外はデスクワーク。新番組『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』1話を観る。手間をかけた丁寧な仕上がり。特にモンスターが大勢集まった場面の画が豪華だった。
第195回 アニマが宿る音楽 〜ソング・オブ・ザ・シー 海のうた〜
腹巻猫です。10月末から公開されている劇場アニメーション『ウルフウォーカー』を観ました。今年観た劇場作品の中でもとりわけ心に残る1本になりました。絵本がそのままアニメーションになったような映像は、美しく、力強く、まさにアニマ(魂)が宿っているかのよう。ドラマもシンプルでいて深く胸を打つ。そして、ブリュノ・クレとKiLAが手がけた音楽がすばらしい。サウンドトラック・アルバムがiTunesでダウンロード販売中です。
https://music.apple.com/us/album/wolfwalkers-original-motion-picture-soundtrack/1539748859
『ウルフウォーカー』はアイルランドのアニメーションスタジオ、カートゥーン・サルーン制作の劇場アニメーション。『ブレンダンとケルズの秘密』(2009)、『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』(2014)に続く「3部作の最終作」として製作された作品だ。この3作は、いずれもケルト伝説から着想を得たファンタジー。手描きアニメーションによる映像も見ごたえがあるが、3作すべてに参加しているブリュノ・クレとKiLAによる音楽も大きな魅力だ。
今回は『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』の音楽を取り上げよう。
『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』は、セルキーの伝説から着想された物語だ。セルキーとは、ふだんはあざらしの姿をしているが、「あざらしの皮」を脱ぐことで人間になることができる海の妖精である。岩波文庫『イギリス民話集』(河野一郎編訳)には「ウェイストネス島の男」と題されたセルキーの民話が収録されている。島の男が人間の姿になって泳いでいたセルキーの娘のあざらしの皮を隠してしまう。娘は男と結婚し、子どもをもうけるが、やがてあざらしの皮を取り戻し、海へ帰っていく。日本に伝わる「羽衣伝説」と同じ構造の話だ。『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』はこの伝説をもとにしている。
島の灯台の家で父のコナーと妹のシアーシャと3人で暮らす少年ベン。母親のブロナーはシアーシャが生まれた日に姿を消してしまった。そのことが心にひっかかり、ベンはシアーシャにやさしく接することができない。ある日、シアーシャは父親が隠していたセルキーのコートを見つけ、それを着て海に入っていく。母のブロナーは実はセルキーで、シアーシャはその血を受け継いでいたのだ。ショックを受けたコナーはセルキーのコートを海に沈め、ベンとシアーシャを海を隔てた町に住む祖母のもとへ送り出す。しかし、町には妖精を石に変えるフクロウの魔女・マカが待っていた。
音楽が重要な役割を果たす作品だ。セルキーの歌をはじめ、劇中ではボーカル曲(歌と歌詞のないボーカリーズ)がふんだんに使われている。
音楽を担当したのはフランスの作曲家ブリュノ・クレ(Bruno Coulais/ブリュノ・クーレと表記されることもある)。バイオリンとピアノを学び、現代音楽の作曲家をめざしていたが、やがて映像音楽に興味を持ち、映画音楽やテレビ音楽の仕事を始めた。1996年公開のドキュメンタリー「ミクロコスモス」でセザール賞の最優秀音楽賞を受賞。音楽を担当した劇場作品には、「キャラバン」(1999)、「WATARIDORI」(2001)、「ホワイト・プラネット」(2006)、「シーズンズ 2万年の地球旅行」(2016)など、ドキュメンタリーやセミ・ドキュメンタリー作品が多い。劇映画では「クリムゾン・リバー」(2000)、「ルーヴルの怪人」(2001)、「コーラス」(2004)、「小間使いの日記」(2015)などの作品がある。
中でも日本のアニメファンに知られているのは、カートゥーン・サルーン作品と『コララインとボタンの魔女』(2009)だろう。『ブレンダンとケルズの秘密』『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』はケルト風味たっぷりの音楽がすばらしかったし、『コララインとボタンの魔女』ではダニー・エルフマンを思わせるダークなファンタジー音楽にぞくぞくした。
ブリュノ・クレの音楽には、シンフォニック・サウンドを中心としたハリウッド王道スタイルの映画音楽とはひと味違う特色がある。
ひとつはボーカルの多用。「ミクロコスモス」ではミステリアスな女声ボーカルで驚異に満ちた昆虫の世界を描き、「キャラバン」では男声コーラスでネパール高原の旅を民族色豊かに彩る。「WATARIDORI」ではシンガーソングライターのニック・ケイブやロック・ボーカリストのロバート・ワイアットの歌声をフィーチャーして、渡り鳥の飛翔の高揚感や孤独感を伝えるなど、ボーカル(ボーカリーズ)曲が音楽演出の中核を担っているのだ。『コララインとボタンの魔女』にも歌やコーラスが入った曲がふんだんに使用されて、妖しくも魅惑的な世界を作り出している。
もうひとつは、楽器の個性的な音色を生かした印象的なメロディである。もともとフランスにはミシェル・ルグラン、フランシス・レイ、ジョルジュ・ドルリューらに代表される、魅力的な旋律とサウンドで映像を引き立てる映画音楽の伝統がある。ハリウッド映画の映像に寄り添った音楽とは対照的に、音楽が作品に生き生きとした香りや彩りを与える役割を果たしている。ブリュノ・クレの音楽も状況説明ではなく(そういう要素もあるが)、世界観や空気感をまるごと表現する独立性の高い音楽になっている。
加えて、民族楽器やパーカッション、ギター、ハープなどを使ったナチュラルなサウンド。それがドキュメンタリー映画ではとりわけ効果を発揮しているし、『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』のようなファンタジー作品でも、自然や妖精を表現する音楽に生かされている。
ブリュノ・クレと並んで音楽担当にクレジットされているKiLA(キーラ)は1987年に結成されたアイルランドのバンド。ケルト音楽をベースに、アフロ、カリブ、ジプシー、プログレ、ファンクなど、さまざまな音楽ジャンルを融合したサウンドを聴かせる民族音楽グループである。カートゥーン・サルーンのケルト伝説3部作を彩るケルティックなサウンドはKiLAによるところが大きい。
『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』の音楽の中心になるのは、主題歌「Song of the Sea」だ。この曲は劇中でシルキーが歌う歌として登場し、シアーシャが貝殻で吹くメロディとなって何度も反復される。シアーシャがこの曲を歌う場面が物語のクライマックスだ。
海の場面に流れる幻想的な曲や妖精が登場する場面のボーカリーズを使った曲も印象に残る。映像と音楽が共鳴しあって、一幕の映像詩を作り上げているようだ。
本作のサウンドトラック・アルバムは2014年9月にデジタル・アルバムとCDでリリースされた(CD版は現在入手困難)。2016年8月には日本公開に合わせた日本版アルバムがユニバーサルミュージックよりデジタル限定で発売されている。デジタル・アルバムはストリーム配信やダウンロード販売で聴くことが可能だ。
収録曲は以下のとおり。
- Song of the Sea
- The Mother’s Portrait
- The Sea Scene
- The Song
- The Key in the Sea
- The Derry Tune
- In the Streets
- Dance with the Fish
- The Seals
- Something Is Wrong
- Run
- Head Credits
- Get Away
- Help
- Sadness
- Molly
- I Hate You
- Who Are You
- The Storm
- Katy’s Tune
- In the Bus
- The Thread
- Amhran Na Farraige
- Song of the Sea(Lullaby)
- La chanson de la mer(berceuse)
- ソング・オブ・ザ・シー 海のうた
1曲目が主題歌。トラック23「Amhran Na Farraige」はそのアイルランド語版。トラック24「Song of the Sea(Lullaby)」はエンディング・クレジットに流れる子守唄で、次の「La chanson de la mer(berceuse)」はそのフランス語版だ。トラック26は、日本版アルバムのみに追加された主題歌の日本語版。吹替版でブロナーの声も担当した中納良恵(EGO-WRAPPIN’)が歌っている。
トラック2からトラック22が劇中音楽である。
曲順は独特だ。劇中使用順に並んでいるわけではない。収録曲を劇中使用順に並べると以下のようになる(カッコ内は使用場面)。
- Head Credits(オープニング・クレジット)
- The Seals(あざらしに呼ばれるように海に入るシアーシャ)
- Katy’s Tune(シアーシャの誕生日を祝うおばあちゃん)
- The Mother’s Portrait(シルキーのコートを手に入れ、海へ向かうシアーシャ)
- Dance with the Fish(海に入り、白いアザラシとなって泳ぐシアーシャ)
- The Key in the Sea(シルキーのコートを入れた衣装箱と鍵を海に投げ込むコナー)
- Sadness(島から町へ向かう船の上で悲しむベン)
- In the Streets(町でシアーシャを誘拐する妖精ディーナシー〜あとを追うベン)
- Molly(ディーナシーの歌の伴奏)
- Get Away(フクロウの襲撃を受け、石にされるディーナシー)
- In the Bus(シアーシャとバスに乗って逃げるベン)
- The Derry Tune(魔法の光に導かれて森に入っていくベンとシアーシャ)
- The Storm(後半)(森の中で道に迷うベンとシアーシャ)
- The Storm(前半)(元気がなくなったシアーシャを犬のクーの背に乗せて進むベン)
- Who Are You(地下で妖精シャナキーに出会うベン)
- Something Is Wrong(シアーシャの危機を知り、助けに行く決心をするベン)
- The Thread(シャナキーの魔法の力のでベンが見る過去の情景)
- I Hate You(魔女・マカの屋敷にたどりつくベン)
- Help(ベンを誘惑するマカ)
- Run(ベンとシアーシャを乗せて島へ走るクー)
- The Sea Scene(海に沈んだ衣装箱からシルキーのコートを取り戻すベン)
- The Song(シルキーのコートを着て歌い始めるシアーシャ)
- Katy’s Tune(エピローグ)
- Song of the Sea(エンディング・クレジット1)
- Song of the Sea (Lullaby)(エンディング・クレジット2)
ストーリーに沿って聴きたい方は、プレイリストを作って並べ替えてみるのもよいだろう。
以下、劇中使用順に紹介しよう。
トラック12「Head Credits」は主題歌のメロディを含んだオープニング曲。幼いベンと母親の想い出の情景とともに流れ始め、スクリーンにはタイトルとメインスタッフのクレジットが映し出されていく。作品全体の序曲となる音楽である。
トラック2「The Mother’s Portrait」は、シアーシャが魔法の光に導かれてシルキーのコートを手に入れ、それをまとって海へ向かう場面に流れる。ピアノとストリングスをメインに奏でられる夢幻的な曲だ。神秘的なイメージと母親の想いが重ねられている。
トラック8「Dance with the Fish」は序盤の見どころ、アザラシに変身したシアーシャが魚やアザラシと一緒に海の中を泳ぐ場面の曲。ピアノ、ギター、ストリングスなどのアンサンブルが美しく幻想的な海の情景を彩り、忘れがたいシーンになった。
町でベンが出会った妖精ディーナシーがシアーシャのために歌う場面で軽快なバンド音楽風のトラック16「Molly」が流れる。これは、ギタリストのSlim Pezinが作曲し、KiLAとPezinが演奏した曲。スタジオで即興演奏しながら作ったような雰囲気だ。
こうしたバンド音楽的な曲は、ほかにトラック6「The Derry Tune」とトラック20「Katy’s Tune」がある。この2曲は本作のために書かれた曲ではなく、KiLAが2010年に発表したアルバム「Soisin」に収録されている既成曲である。
トラック13「Get Away」は、ディーナシーがフクロウの襲撃からシアーシャを守ろうとする場面から、ディーナシーがフクロウの魔法で石にされてしまう場面まで流れるサスペンス曲。フィドルやパーカッションやケルトの笛が使われ、クラシック的なサスペンス音楽とは一線を画するサウンドになっている。
トラック19「The Storm」も同じくケルティックなサウンドによる暗くさびしい雰囲気の曲。ケルトの笛の音から始まり、ストリングスとパーカッションなどによる不安な曲想に展開する。ベンの胸中に心細さが広がり、空の向こうからは黒い雲が近づいてくる。
ベンはシアーシャとはぐれてしまい、地下で出会った妖精シャナキーからシアーシャの危機を知らされる。その場面に流れるトラック10「Something Is Wrong」は、パーカッション、ピアノ、ボイス、ストリングスなどが絡み合う、幻想的で哀愁ただよう曲だ。ケルト音楽とオーケストラ音楽が融合した本作らしい曲のひとつ。
トラック22「The Thread」は、シアーシャを助けに向かったベンが地下のトンネルで過去の情景を見るシーンに流れる曲。母親の正体と彼女が家族のもとを去ったいきさつを知ったことで、ベンの心にあったわだかまりが消えていく。ドラマのターニングポイントとなる重要な場面である。女声ボーカルとストリングスを主体に奏でられる音楽が母親の愛情と切ない心情を描き出している。主題歌と並んで心に残る曲と言えるだろう。
トラック3「The Sea Scene」とトラック4「The Song」は、アルバムでは頭のほうに収録されているが、劇中で流れるのは物語の大詰めである。
「The Sea Scene」は、コナーがベンとシアーシャをボートに乗せる場面から、ベンが嵐の海に飛び込み、セルキーのコートを取り戻す場面にかけて流れる曲。前半はリズム主体のエスニックな曲調。後半からベンが海に潜るシーンになり、ギターやパーカッションによる浮遊感のあるサウンドが加わる。同じ海中シーンの曲「Dance with the Fish」と聴き比べると、サウンドは共通性がありながらも、雰囲気は大きく異なっている。
そして、「The Song」はシアーシャが歌うシルキーの歌。劇中でシアーシャが口ずさむ歌に伴奏が加わり、さらにブロナーの歌声が加わって、スケールの大きな「海のうた」になっていく。演奏時間5分を超える、本編中でもいちばんの聴きどころの曲である。
物語は短いエピローグで締めくくられ、エンディング・クレジットには主題歌と子守唄が続けて流れる。最後まで歌に彩られた、本作らしいエンディングだ。子守唄はここでしか流れないのだが、ブロナーがシアーシャのために歌っているのだと想像すると胸に迫るものがある。
『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』は独特の個性を放つ作品である。アニメーションや音楽が持つ根源的なパワーがみなぎっていて、心が揺さぶられる。『ブレンダンとケルズの秘密』や『ウルフウォーカー』も同様だ。旧作は動画配信サービスなどで観ることができるので、チャンスがあればぜひ観てもらいたい。そして、映像と音楽に宿る力に触れていただきたい。
ソング・オブ・ザ・シー 海のうた オリジナル・サウンドトラック
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佐藤順一の昔から今まで(6)シリーズディレクターとレイアウトシステム
小黒 『メイプルタウン』の放送が始まった時点で、佐藤さんは25歳ですね。参加していた演出の方は、岡(佳広)さん、貝澤さん以外の方は歳上じゃないですか。
佐藤 岡さんも歳上です。確か『海のトリトン』で制作やってますからね。
小黒 じゃあ、貝澤さん以外は、作監も含めて皆さんが歳上ですか。
佐藤 作監はそうでもないです。安藤さんは同期なので、年上とは言ってもそんなには離れていないし、記憶が曖昧ですが、オニオン(ムッシュ・オニオン・プロダクション)班の伊藤奈緒美さんは歳下かもしれないです(編注:佐藤順一さんと同じ年生まれで、1学年下)。
小黒 若すぎるシリーズディレクターということでやりづらいところもあったのではないですか。
佐藤 画作りの現場で、年齢が理由でストレスが生じた記憶は、そんなにないですよね。ベテランの人達に「もっとこういう画作りしようよ」と、無理に要求すると軋轢も出るでしょうし、上手くいかずにストレスになるんでしょうけど。東映の場合、「その話を担当した演出が、その話の責任を持つ」というところがあるので、他の人の仕事につべこべ言うことはないんですよね。各話で面白いものを作ったら、ベテランの人も褒めてくれるし、評価もしてくれるので。自分がいいものを作ることで引っ張っていく、といったやり方なんです。脚本家の方も、ホン読みの時にピントが大きくズレたり、失礼な発言をしなければ、別に敵視されたりすることもないので、仕事を上手く進めていくことに関して、ストレスはないですよね。それまでとの比較で言っても『メイプル』ではストレスがなかった。『メモル』の頃は、音響現場のミキサーさんや効果さんがベテランさんで、意外と言うことを聞いてくれないことがあって(笑)。
小黒 『メモル』が始まった頃の佐藤さん、23歳ですからねえ。
佐藤 「もっとこうしたい」と思っても、「そんな音ないから」と言われて折れなきゃいけないことがよくありました。でも『メイプルタウン』の頃は「音楽の付け方が、ちょっと変じゃない?」と言われても「これは考えがあってやってるんで、いいんです」と言えるくらいには、対等の立場になっていたと思います。
小黒 奥様になられる恭野さん(編注:現在は佐藤恭野。当時は渡辺恭野)が選曲をやられるのもこの頃から?
佐藤 『メモル』の時点からやってますね。師匠の宮下(滋)さんの下でやってるんですよ。
小黒 なるほど。
佐藤 最初の音楽発注、作曲家さんとの打ち合わせ、音楽録りの段階から一緒に入ったのは、『メイプルタウン』が初めてですね。
小黒 ということは、佐藤さんも音楽発注にも関わっているわけですね。
佐藤 関わってます。それまで、音楽についての打ち合わせって、選曲家の宮下さんが書いてきた音楽メニューをそのまま使ってやることが多かったんですけど、それは『メイプルタウン』では避けたかった。「音楽メニューは監督が書くべきだ」と思ってたので、まず自分でメニューを書いて、選曲家の渡辺恭野さんと一緒に作っていったはずです。
小黒 音楽に関するビジョンはしっかりあったんですね。
佐藤 そうです、そうです。「こういう作品ならこういう曲が必要だな」ということも大体読めるようになっていたので、たとえ音楽メニューの定番のものでも、今回使わないようなものは発注しないようにしました。
小黒 キャスティングには関わっているんですか。
佐藤 はい。それも勉強になりました。東映の場合はマネージメントを青二プロダクションがやっていました。やりとりも生のやつを見せられましたので(笑)。「ああ、そういうことがあんのかあ」と思って見てました。
小黒 「そういうこと」というのは、キャスティングが決まっていく流れのことですか。
佐藤 ええ。青二のイチ推しな人が『メイプルタウン』の主役に決まらないんですよ。プロデューサーの山口(康男)さんが「それではない」と、別の会社の人を主役にするんですけど、会議の場で青二の偉い人が「この子の良さが分からないんですか?」って食い下がったりとかね(笑)。「でも、この役とこの役は青二でやるよ」というような、生っぽいやりとりを見て、それもまた「勉強になるなあ」と。
小黒 なるほど。
佐藤 実際には一番勉強になったのは、そんな大人の事情的なやりとりじゃなくってですね、印象に残っていることがあるんですよ。岡本麻弥さんが主役になるんですけど、山口さんは、岡本さんの評価ポイントとして「野性味を感じる」と言ってたんです。「パティというキャラクターをこう考えたから、このキャスティングにする」と決めるまでのプロセスが明快なんですよね。僕はパティの声は女の子が好きそうな可愛くて綺麗な声がいいかなって思ってたんだけど、そういう角度の決め方もあるのかと思ったし、勉強になりました。
小黒 グレテル役の屋良(有作)さんはどなたが推したんですか。
佐藤 グレテルはオーディションをやってるんじゃなかったかな。ちょっと覚えてないです。
小黒 屋良さんの代表作のひとつですよね。
佐藤 そうですよね。屋良さん、当時だとまだそんなにアニメの本数は多くないですよね。僕も『メモル』のトリローネさんで初めて知ったくらいですから。
小黒 この頃でも、中堅くらいの年齢だと思いますが、アニメでメインを張る感じではなかったですよね。
佐藤 元々、別の仕事をやっておられて、役者のほうに転向されたっていう話を聞いた覚えがあります。今はベテランとして現場を仕切ったりもされる感じですけど、当時はそこまででもなかった気がします。
小黒 『メイプルタウン』の1話が、佐藤さんの代表作のひとつだと思います。パティのキャラクターを掘り下げてますよね。
佐藤 はいはい。
小黒 一喜一憂したり、悩んで独り言を言ったり。
佐藤 そこで、さっきの『赤毛のアン』の話に繋がるんですね。
小黒 そうです。1話のパティはめちゃめちゃ『赤毛のアン』だなと思って。
佐藤 それはね、あると思います。『赤毛のアン』をそんなに熱心に観ていたわけじゃないんだけど、アンの言動が意識の中にあって、ああいった「女の子のちょっと面白い感じ」を入れたいと思った記憶があります。
小黒 1話はちょっと「世界名作劇場」っぽい感じがありますよね。
佐藤 そうかもしれない。『メイプルタウン』は「大草原の小さな家」をベースにしていたんですよ。それとは関係なく、確実に『赤毛のアン』を意識した芝居付けをしてますね。
小黒 パティ以外で、佐藤さんが推したキャラや、膨らませたキャラはいますか。
佐藤 『メイプルタウン』だとどうだろう? やっぱりパティを一番広げたとは思いますけどね。あとはキツネで長女のダイアナが、やりやすくて好きだった気がします。それにダイアナのお母さんもちょっと面白いキャラではありますよね。
小黒 いつも釣りしてるカワウソがいて、シリーズ通してアクセント的に使ってましたよね。あれは脚本に入ってるんですか。
佐藤 入ってたと思います。そもそもは、ウサギ等の動物を人形のお家に並べて遊ぶということが出発点なので、各キャラクターに関しては、スポンサーからオーダーがあったと思うんですね。
小黒 シリーズディレクターとして、メーカーさんとのやりとりにも参加して、それを作品に反映させるようなお仕事をされていたわけですね。
佐藤 ええ、バンダイにも行きました。パティのデザインを持って玩具の会議に行った時に重役の方が「この目では目線が分からないから、白目を入れたほうがいいのではないか」という案を出してきて(笑)。「やべえ! このままにしといたら、白目が入っちゃう」と思って「目線はハイライトの位置等でも出せます。常に入れちゃうと可愛くなくなるからこれは黒目だけでよいと思います」と力説した記憶がありますね。
小黒 話は前後するんですけど、この時に佐藤さんが、東映内でアニメーション制作の新しいシステムを作ったんでしたね。まず、演出がレイアウトをチェックして、レイアウトを戻してから、原画マンが原画を描くというフォーマットを作った。
佐藤 はいはい。
小黒 制作のフローチャートを作って、『メイプルタウン』からそれを使い出したんですよね。
佐藤 そうです。
小黒 記事を読んでる人に説明すると、それまでは、原画マンがレイアウトと原画を同時に出していた。だから、レイアウトが演出意図と違った場合は全てを描き直すか、演出家が諦めるしかなかった。描き直すと作業に無駄も生じるし、そのやり方だと演出家が構図等に立ち入りづらかったわけですね。
佐藤 そうですねえ。それまでも自分の話数に関しては「レイアウトを先に見せてください」と言って、そうやっていたんですけど、シリーズ通してそのやり方にしようと思ったのは、この時かな。
小黒 ということは『メモル』や『ステップジュン』でも、佐藤さん自身は原画の前にレイアウトを見てたんですか。
佐藤 やってたと思いますね。だから『メイプル』で、特別凄いことをやろうと思ったわけではなくて、それまで自分の話数でやっていたことを、全話数でやると決めただけです。ただし、それをやったら、制作部から「原画とレイアウトを同時に上げるかたちに戻せ」と言われた。作業の遅れについて「レイアウトを出してOKがでてから原画を描いていて、一工程増えているので遅くなっている」と説明した作画班があったんでしょうね。
それで制作部と話をして「枚数をかけないスタイルの作品にとって、レイアウトは重要なファクターで、これを直せないのは、演出の武器をひとつ奪われたに等しいことである」と言ったら「それは分かる」と。それで「もし、原画とレイアウトを一緒に出すなら、レイアウトがNGだった場合に原画も全部描き直しになっちゃうんですが」「それでもいいからまとめて上げるかたちでやってくれ」というやりとりがあって、その時は「分かりました」と言いました。その後で原画が上がってきて、直しを出していくと、当然レイアウトも原画もほぼ全カット全部描き直しになる。そうすると、作画班から「レイアウトを先に出させてください」と要望が出た。それで、レイアウトを先に出してチェックをするというやり方が定着した。そういった若干の戦いがありました。
小黒 日本のアニメのレイアウトの歴史だと、おそらくかなり早いです。
佐藤 ほう。
小黒 「世界名作劇場」では1970年代から宮崎駿さんをはじめとする、レイアウト専門の役職を立てて、その人達がレイアウトを描くというシステムをとっていました。それは演出家がレイアウトをチェックするのとはやり方が違いますが、レイアウトシステムの先駆けですよね。亜細亜堂もレイアウトシステムの導入は早かったと聞いています。
佐藤 ああ、なるほど。
小黒 今では当たり前になった、演出家が原画作業の前にレイアウトをチェックする工程が定着するのは、アニメ界全体だと、80年代後半か90年代のはずです。だから、1986年放映開始の『メイプルタウン』でやっている佐藤さんはかなり早いんです。
佐藤 早いんだねえ。まあ、作画を凄く力のある人がやってくれれば、意外とそれでいいっていうこともあるんですけどね(笑)。
小黒 画が巧ければ、レイアウトがよいことも多いということですね。
佐藤 うん。『パタリロ!』の時、スタジオバードも伊東誠さんの班も、原画とレイアウトが同時に上がってきてましたけど、レイアウトがマズいと思ったことはないですもんね(笑)。
小黒 レイアウト段階で演出、作監がそれぞれ見るという現代のアニメで当たり前になっているシステムはこの辺りから始まるわけですよ。
佐藤 ああ、そうだね。僕にとっては、戦いの果てに手に入れたシステムだったね。











