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佐藤順一の昔から今まで(9)『ポケットの中の戦争』と『悪魔くん』

小黒 で、その頃の東映以外の仕事に『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』(OVA・1989年)があるわけですね。2話と5話の絵コンテを担当されていますね。

佐藤 『0080』は高梨さんが紹介してくれたもので、それから高山(文彦)さんと打ち合わせをしたようなところですかね。

小黒 なるほど。脚本はそのまま絵コンテに移し替えられるぐらいのものだったんでしょうか。

佐藤 『0080』は少しいじってるんですよね。変えた内容を細かくは覚えていないんですが、5話のラストシーンに関しては、後で会った人に「5話のコンテを見たけれど、佐藤さんのコンテのほうが納得いった」と言われた記憶があるので、多分気になるポイントがあったんでしょうね。シナリオは高山さんだったかな。

小黒 シナリオは山賀(博之)さんです。

佐藤 そうか、山賀さんか。『0080』って市街戦やゲリラ戦をやったりして『Zガンダム』よりも現実味が強いじゃないですか。そういったネタを扱っているのに、ドラマの描写が戦争ものとしてはありがちなパーツで埋め尽くされている感じが気になっていたんです。描かれる悲劇も、子供と心を通わせた青年が最後に戦いの中で散っていくことも含めて、ステレオタイプなものに思えた。そして、恋をしそうになる女性パイロットの扱いも、「ううーん」みたいな。そんなにリアルじゃないロボットアクション作品だったらいいんだけど、リアルな戦争を描いていますよ的なスタンスのドラマだったので、気になったんだと思います。

小黒 でも、絵コンテとしては、そこは抗うわけにいかないですよね。

佐藤 そうですね。ただ、それで5話のラストをちょっと変えたと思うんですよ。最終的にシナリオに沿ったかたちに戻されていると思うんだけど、引っかかったところは引っかかったなりに処理をして渡した記憶が。

小黒 脚本をアレンジした絵コンテを提出したけど、その後の過程で元の流れに戻っているということですね。

佐藤 そうですね、戻ってますね。

小黒 2話でアルが車を走って追いかけるという場面があって、その中にマンガっぽい感じの長回しのカットがあるんです。あれは佐藤さんが膨らました部分ではないんですか。

佐藤 いやあ、覚えてないなあ。もともと僕の地がマンガっぽい演出スタイルだからやったのかもしれないけど、『0080』はマンガっぽくするよりも、体感できる芝居を入れていったほうがいいのかなと思っていたんです。実際にその描写が残っているかどうかは分からないけど、バーニィが座る前に、足で砂をザッザッって払ってから座るとか、そういうことを僕はコンテでいっぱいやっています。それで、原画で参加していた稲野(義信)さんから「面倒くさいんだよなー」って苦笑いされました。

小黒 バーニィと会話していたアルが立ち去る時に、わざわざカバンを拾うワンアクション入れて立ち去る。で、また戻って来て話をするとかですね。

佐藤 面倒くさいことをやってるんですよ(笑)。『0080』はリアリティ志向でそういうのがほしいのかなと思って入れたんですけどね(笑)。

小黒 この頃のペンネームの仕事の中で意外とボリュームがあるのが『ちびまる子ちゃん』(TV・1990年)ですね。

佐藤 『ちびまる子ちゃん』は、『悪魔くん』(TV・1989年)で一緒にやってくれたライフワークという制作会社があって、そこからコンテを発注されたという流れで参加しましたね。これもコンテのみのお手伝いですね。

小黒 ペンネームが天上はじめですね。どうして天上はじめなんですか。

佐藤 これはなんでですかねえ。覚えてないですね。付けるのが面倒くさかったからラーメンの天下一品ラーメン辺りから取ることにして、天下じゃそのままだから天上にしようかとか、そのぐらいラフな発想ですね、きっと。

小黒 肩の力を抜いて楽にできるお仕事だったんでしょうか。

佐藤 そうですね。そんなにしんどくはなかったです。でも、芝山(努)さんの作る世界観や仕事には敬意を持っていたので、機会があったらやってみたいなあという気持ちはありましたね。『ちびまる子ちゃん』は世界観の作り方や、平面的なレイアウト等も含めて、指針がはっきりしていました。そういう作品をやるのにも興味ありましたからね。

小黒 『ちびまる子ちゃん』の1期は構図が本当に平面的で、道を歩いてるキャラクターが、寝そべってるように見えるぐらいでしたよね。そういったスタイルについては口頭で説明を受けたんでしょうか。

佐藤 「こういうふうにしてほしい」という演出メモみたいなものがありましたから、言葉だけじゃなかったと思います。

小黒 なるほど。『きんぎょ注意報!』(TV・1991年)は『ちびまる子ちゃん』の後なんですけど、漫符の使い方について『ちびまる子』からの影響はないですか。

佐藤 『ちびまる子』からの影響っていうのは特にないですね。そもそも『ちびまる子』は放映自体をそんなに観てるわけではないので。

小黒 『ちびまる子』も顔に縦線が入ったりするじゃないですか。

佐藤 顔に縦線とか、びっくり星が出るという表現は、『ビックリマン』の担当回でもちょいちょいやってると思うんです。だから、そういうマンガ的な表現を入れていくことに、割と抵抗がない。積極的にやっていたというよりも抵抗がないという感じだと思います。マンガ表現って意外と初号で受けるんですよね。なので頻繁に使っていた気はします。

小黒 東映のお仕事の話に戻ります。『悪魔くん』で久々にシリーズディレクターですね。これはどういった取り組みだったんでしょうか。

佐藤 『メモル』とかで可愛がってくれた旗野さんがプロデューサーをやるということで、呼ばれました。でも、旗野さんは体調を崩されてしまって、放送前に横山(和夫)さんと交代してお休みされることになったんですが、僕はそのまま『悪魔くん』を引き受けてやりました、という感じですね。

小黒 作品としては、立ち上げから関わっているわけですか。

佐藤 そうなんですけれども、旗野さんは『悪魔くん』を「和風ホラーみたいなテイストで展開していきたい」と話していて、そのつもりで準備していたんですけど、横山さんに交代した時点で「これは少年ヒーローものにする」って、方針が変わったんですよ。準備の時間があまりなかったこともあったので、自分の意見はあまり出さずに、横山さんが何をやるか聞いて、それについていこうと。だから、自分のスタンスとしは2~3歩下がっているんですよ。方向性が結構変わったので、その中で現場を上手くまわすための取り組み方になるんですよね。

小黒 少年アクションものと言いつつ好戦的じゃなくて、レギュラーキャラが紳士的で穏やかですよね。このテイストはどなたの持ち味なんでしょうか。

佐藤 それはもともとの水木(しげる)さんの「悪魔くん」が持っていたものじゃないかなあ。

小黒  この取材の前に「コミックボンボン」版の「悪魔くん」を読んだんですが、アニメのほうがちょっと上品というか、柔らかい感じになっていると思います。

佐藤 横山さんは「ヒーローものなんだけど、やっぱり友情だよ友情!」と言っていたし、友情推しはあったかもしれない。

小黒 なるほど。

佐藤 それが優しいテイストになったのは、もしかしたら鈴木欽一郎さんの画の個性による部分もあるかもしれないです。「殺伐とした世界観にしないようにしよう」とか、「目指すものは友情と暖かさとほのぼのである」みたいな方向性が出されたわけではないので。

小黒 なるほど。作っている内に自然とああなっていった?

佐藤 そうですね。悪魔くんの家族の、ちょっと抜けた感じとかね。

小黒 ああいう部分は佐藤さんは好きそうですよね。

佐藤 あの辺の間抜け感は確かに(笑)。でも、その中でも明比(正行)さんがやった回とか、山内(重保)さんの回って、結構シビアな戦いのシーンがありませんでしたっけ?

小黒 エピソードによってはありますね。

佐藤 ありますよね。

小黒 佐藤さんは『悪魔くん』ではシリーズディレクターと言いつつ、絵コンテと演出をやったのは第1話のみ、絵コンテが2回あるだけで、あとは劇場版の参加になるんですよね。

佐藤 そうですね、TVをやってる内に劇場のほうに行くことになってしまったので、結構ノータッチなんですよね。

小黒 脚本打ちはずっと出てるんですか。

佐藤 ほぼ全部出てるはずですが、後半はちょっと出てないかもしれないですね。

小黒 「コミックボンボン」版の「悪魔くん」って、終わりのほうで巫女さん風の衣装を着た少女が悪魔くんの彼女的なポジションとして出てきて、幽子が嫉妬するような展開になるんですよ。アニメがもっと続いたら、このキャラクターが出てきたんですかね?

佐藤 あったかもしれないですね。排除する理由がないですよね。

小黒 鳥乙女は、原作では途中からの登場ですが、アニメでは最初から出てきます。原作がアニメに合わせて変更したということですよね。十二使徒のキャラクターをどういったかたちにするかに関しては、佐藤さんも関わってるんですか。

佐藤 勿論、打ち合わせには参加してますね。鳥乙女を入れようと話をしてるところにも立ち会っています。ただ、その辺のネタ元を作っているのも横山さんですね。

小黒 横山さんなんですね。

佐藤 横山さんはそういった設定周りを自分で作るタイプのプロデューサーだったんです。それもあって、僕は様子見をしていた。

小黒 各話に関しても横山さんのテイストは出てるんですか。

佐藤 そうですね。ホン読みを仕切って方向性を決めていったのも、基本は横山さんなので。

小黒 『悪魔くん』の2本の劇場版についてはいかがですか。

佐藤 劇場版はつらかった記憶しかないので、あんま覚えてないんですよね(笑)。シナリオの初稿ぐらいが出来てた段階での参加なんじゃなかったかな? 『悪魔くん』との関わり自体が様子見だったのと、劇場作品があんまり得意ではないところに持ってこられたのもあって「これどうするんだ?」「どっちにいくんだろう?」と眺めていた記憶がありますかね(笑)。

小黒 1989年7月に劇場版1作目『悪魔くん』が公開で、翌1990年3月に『悪魔くん ようこそ悪魔ランドへ!!』が公開されます。しかも、その間にOVAの『気ままにアイドル』が入ってる。

佐藤 『気ままにアイドル』って、その間なんだ!?

小黒 『気ままにアイドル』が1990年2月に発売だから、『ようこそ悪魔ランドへ!!』のひと月前ですよ。凄いスピードで作品を発表していますね。

佐藤 マジか。じゃあ、そこが五十嵐(卓哉)との出会いだ。

小黒 五十嵐さんが『気ままにアイドル』に参加しているんですか。

佐藤 助手をやってたはずだし、『悪魔ランド』でも監督助手だったと思います。立て続けに助手をやってもらったのを覚えています。そうそう、『気ままにアイドル』は高梨さんからのオファーでしたね。

小黒 これは制作的な条件が厳しかったんじゃないですか。

佐藤 厳しかったですね。バンダイビジュアルが用意した予算は決して少ないものではなかったんですが、東映はその中から管理費を抜いた金額で制作するんです。それは会社としては当たり前のことなんですけど、そのためにあの人を使いたい、こういうことをやりたいということが一切できなかった。高梨さんも僕も、作品が動き出してからそういった現実を思い知ったんです。バンダイビジュアルとしてはこのぐらいの予算なら、このぐらいのクオリティでできると思っていたんだけど、そのクオリティに達することはできなかった。OVAとして単体で売ることが厳しい出来になってしまったんです。東映も今は考え方が変わって、OVA等を作る時の体制は当時と違うでしょうけどね。

小黒 『悪魔くん』に戻りますね。劇場第2作の『ようこそ悪魔ランド』は、原画のクレジットが新岡浩美さんだけなんですが、新岡さんの一人原画なんですか。

佐藤 そうですね。多少誰かが手伝ってたかもしれないけれど、ほとんど新岡さんじゃないかな。表情が新岡さんの画ですもんね。

小黒  新岡さんのパワーなら全部を描いているかもしれないですね。

佐藤 そう。パワーが凄いからね。全部を描いていたとしてもおかしくないと思います。


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