COLUMN

第197回 すこやかな未来を祈って 〜ヒーリングっど・プリキュア〜

 腹巻猫です。『ヒーリングっど・プリキュア』(「・」はハートマークが正式表記)のオリジナル・サウンドトラック第2弾が12月23日に発売されます。今回も構成・解説・インタビューを担当しました。番組鑑賞のおともに、年末年始のBGMに、ぜひお聴きください。

ヒーリングっど・プリキュア オリジナル・サウンドトラック2 プリキュア・サウンド・オアシス!!
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 今回はサントラ第2弾発売を前に、『ヒーリングっど・プリキュア』のオリジナル・サウンドトラック第1弾を紹介して、本作の音楽をふりかえってみたい。
 TVアニメ『ヒーリングっど・プリキュア』は2020年2月から放送されているプリキュアシリーズ第17作目となる作品。
 地球をお手当てするヒーリングアニマルのパートナーに選ばれた少女たちが、プリキュアとなって、地球をむしばもうとするビョーゲンズに立ち向かう物語だ。
 音楽を担当したのは、プリキュアシリーズ初登板となる寺田志保。前作『スター☆トゥインクルプリキュア』では、林ゆうきと橘麻美が共同で音楽を手がけているが、女性作曲家が単独でプリキュアの音楽を担当するのは本作が初めてである。
 寺田志保は宮崎県出身。クラシック好きだった母親の影響で幼少時から音楽に親しみ、3歳よりピアノを習い始めた。小学生時代からエレクトーンに夢中になり、国立音楽大学在学中の1997年、ヤマハエレクトーンコンクール世界大会にて1位受賞。2007年に実写劇場作品「0からの風」の音楽を担当して映画音楽デビューを果たした。中学生時代に「ターミネーター2」のサウンドトラック・アルバムを聴いて以来、ハリウッド映画音楽のファンになったという。現在は、作・編曲家、キーボーディストとして、劇場作品、テレビ番組、ゲームなど幅広い分野で活躍している。
 映像音楽の代表作に、NHK BSプレミアムで放送中の科学番組「コズミックフロント☆NEXT」(2015〜)、特撮ドラマ「牙狼〈GARO〉」シリーズ(2006〜)、アニメ『イナズマイレブンGO』(2011)、『絶対防衛レヴィアタン』(2013)などがある。

 『ヒーリングっど・プリキュア』の音楽は生楽器中心のスタイル。打ち込みやエレキ楽器も使われているが、管楽器や弦楽器の温かい音色が耳に残る。ハリウッド映画音楽に通じる王道のサウンドが本作にはぴったりである。
 『ヒーリングっど・プリキュア』の世界は、地球上のさまざまなものに「エレメントさん」と呼ばれる精霊が宿っているという設定。プリキュアのモチーフも、花(キュアグレース)、水(キュアフォンテーヌ)、光(キュアスパークル)、風(キュアアース)と、古代ギリシャ人が考えた四大エレメント(地水火風)に対応している。大自然に根ざしたパワーが地球を癒やす力になっているのだ。
 だから音楽も、人の手や息が生み出す生命力を感じさせるサウンドがよく似合う。
 本作のサウンドトラック・アルバムは2020年5月に「ヒーリングっど・プリキュア オリジナル・サウンドトラック1 プリキュア・サウンド・ガーデン!!」のタイトルで発売された。選曲と構成は筆者が担当した。
 収録内容は以下のとおり。

  1. 輝くいのち
  2. ヒーリングっど・プリキュア Touch!!(TVサイズ)(歌:北川理恵)
  3. サブタイトル
  4. こんにちは!すこやか市
  5. 風薫る街
  6. 生きてるって感じ
  7. ヒーリングガーデン
  8. 癒やしのアニマルたち
  9. パートナーをさがして
  10. 逃げろや逃げろ
  11. ビョーゲンズのたくらみ
  12. 地球をむしばむ影
  13. メガビョーゲン出現!
  14. 心の肉球にキュンときたら
  15. スタート!プリキュア・オペレーション!
  16. 地球をお手当てします!
  17. プリキュア・ヒーリングフラワー!
  18. エレメントさんのちから
  19. お大事に
  20. ヒーリングキャッチ
  21. 夕暮れのもの思い
  22. どうすればいいのかな
  23. とんでもない思いつき
  24. チグハグなふたり
  25. ヒミツの匂い
  26. がんばれヒーリングアニマル
  27. 奇想天外大作戦
  28. 怪しすぎる影
  29. 不気味な気配
  30. 危機せまるとき
  31. 大暴れメガビョーゲン
  32. 闘いの嵐の中へ
  33. 必死の激闘
  34. 大切なものを守りたい
  35. たたかう地球のお医者さん
  36. プリキュア・ヒーリングオアシス!
  37. キミと一緒なら
  38. 生きるってすばらしい
  39. ミラクルっと・Link Ring!(TVサイズ)(歌:Machico)
  40. また見てね!

 TVサイズ主題歌2曲とBGM38曲を収録。最後の「また見てね!」はオープニング主題歌のカラオケを編集した次回予告音楽なので、正確には収録BGMは37曲である。
 選曲・構成は第8話までに使われた曲を中心にまとめた。本編では、主人公の少女たち=花寺のどか、沢泉ちゆ、平光ひなたの3人と「地球のお医者さん見習い」のヒーリングアニマル=ラビリン、ペギタン、ニャトランとのほほえましくも強い絆を感じさせる関係が印象的で、その温かい雰囲気をアルバムに反映しようと考えた。
 1曲目の「輝くいのち」は本作のメインテーマ。作品を貫くテーマである「癒やし」とのどかたちの日常をイメージした曲である。寺田志保によれば、1度書いた曲がリテイクとなり、書き直した曲も自分で納得できず、何度も書き直して、ようやくできあがったのがこの曲だそうだ。ハープのグリッサンドと弦のやさしいメロディの導入から、リズムが加わり、メインテーマのモチーフが弦楽器を主体に奏でられる。エレキギターによる躍動的な中間部をはさんで、フルートがメインテーマを反復し、弦と女声コーラス、エレキギターなどが合奏するクライマックスへ。クラシカルなテイストとロック的なテイストが合体した、心躍る楽曲になっている。このメインテーマのメロディは、さまざまに編曲されて、劇中に使用されている。
 オープニング主題歌とサブタイトル曲を挟み、トラック4「こんにちは!すこやか市」からトラック10「逃げろや逃げろ」までは、第1話〜第3話で使用された曲を中心に本作のやさしく温かい雰囲気を再現してみた。
 アコースティック楽器の音色がやさしい「こんにちは!すこやか市」と「風薫る街」は、物語の舞台となる地方都市「すこやか市」のようすを描写する曲。物語への導入の曲として選んだ。
 続くトラック6「生きてるって感じ」はメインテーマのポップな4ビートアレンジ。オルガンとサックスのかけ合いが楽しく、オールディーズっぽい香りもただよう。アバンタイトルでのどかたちが自己紹介する場面のBGMとしてもよく使われていた。本作を代表する楽曲のひとつ。
 トラック7「ヒーリングガーデン」とトラック8「癒やしのアニマルたち」は、ヒーリングガーデンとヒーリングアニマルの描写に使用された曲。「ヒーリングガーデン」はシンセサウンドが神秘性を感じさせるファンタジックな曲。「癒やしのアニマルたち」は弦と木管楽器を主体にしたぬくもりのあるサウンドで作られている。ここは作品の世界観を紹介するイメージで選曲した。
 トラック9「パートナーをさがして」とトラック10「逃げろや逃げろ」は第1話でラビリンたちがパートナーをさがす場面に流れたユーモラスな曲。どちらも音数の少ないシンプルな曲だが、実に楽しい。
 本作の音楽の特徴のひとつに、こうしたオトボケ曲の充実がある。ユーモラスだが品よく、音楽的に単調にならない工夫がこらされている。本編の雰囲気を支える重要な楽曲である。寺田志保本人もこうした曲がお気に入りなのだそうだ。
 アルバム後半にもヒーリングアニマルがらみのシーンでよく使われるユーモラスな曲を集めてみた。トラック23「とんでもない思いつき」からトラック27「奇想天外大作戦」までの5曲である。本アルバムのひそかな聴きどころと思っている。
 ちなみに、「パートナーをさがして」「逃げろや逃げろ」「ヒミツの匂い」の3曲は、番組最後のミニコーナー(「ほんものはどっち?」「パートナーをさがせ!」「エレメントさんどーこだ!」)のBGMにも使用されている。
 トラック12「地球をむしばむ影」からトラック17「プリキュア・ヒーリングフラワー!」は、ビョーゲンズ襲来〜プリキュア登場!〜バトル〜勝利をイメージした構成。
 メガビョーゲン出現を描写する「メガビョーゲン出現!」は序盤〜中盤〜後半と曲調が変わるドラマティックな曲。シリアスなタッチでビョーゲンズの脅威を表現し、危機感を盛り上げる。
 「心の肉球にキュンときたら」は、第1話でラビリンと出会ったのどかがプリキュアになる決意を固める場面に流れた曲。しだいに気持ちが高まり、熱くなっていくさまを伝える展開が最高だ。
 そして、ようやく出ました。プリキュア変身の曲「スタート!プリキュア・オペレーション!」。
 毎年話題になるプリキュア変身BGM。本作では、オーケストラにリズム楽器を加えたポップクラシックの編成で、華やかさと躍動感をあわせもった曲に仕上げられている。わくわく感あふれるイントロから弦合奏と女声コーラスによるファンタスティックなメロディへ。律動感のある曲調に転じるとエレキギターが加わり、プリキュアの強い意志と凛とした姿を表現する。中間部には、弦とピアノと女声コーラスによるやさしい曲調のパートが挿入される。この部分は本編では滅多に流れないので、ぜひサントラでフルサイズを聴いてほしい。ふたたび躍動感のある曲調に戻り、プリキュアの名乗りのバックに流れるサビのメロディが登場してコーダへ。たっぷり2分あまりの聴きごたえのある曲だ。なお、例年プリキュアの変身BGMは1人変身用のショートバージョンが別に作られるのだが、本作では長いバージョンのみが録音され、シーンに合わせて編集して使用されている。
 トラック16「地球をお手当てします!」はプリキュアのメインの活躍曲のひとつ。シンセのキャッチーなイントロに続いて、エレキギターが熱気みなぎるプレイを展開する。ドリーム・シアターやELP(エマーソン・レイク・アンド・パーマー)などのプログレッシブ・ロックにも傾倒したという寺田志保の一面が発揮された曲である。
 続く「プリキュア・ヒーリングフラワー!」は、キュアグレース、キュアフォンテーヌ、キュアスパークルの単独浄化技の曲。本作の音楽制作で最初に作ったのがこの曲だったそうだ。メインテーマ同様に、この曲も何度かの書き直しを経て完成した。キラキラしたシンセの導入から、弦楽器が刻むリフ、エレキギターからトランペットへと引き継がれるメロディ、クライマックスの弦合奏、と1分ほどの演奏時間の中で目まぐるしく曲が展開する。これも、サントラでじっくり聴いてもらいたい曲だ。
 トラック18「エレメントさんのちから」とトラック19「お大事に」で、闘いが終わったあとのエピローグを再現してみた。木管や弦楽器のぬくもりのある音色が、本作のテーマである「癒やし」を表現している。
 アイキャッチを挟んで、アルバム後半は繊細な心情曲や楽しい日常曲を配し、ビョーゲンズとプリキュアの激闘へと続く構成。
 トラック31からの3曲、「大暴れメガビョーゲン」「闘いの嵐の中へ」「必死の激闘」は激しいバトルを盛り上げる曲。寺田志保は「牙狼〈GARO〉」シリーズなどのアクション系作品の音楽も多く手がけており、こうした激しい曲もカッコよく、さまになっている。
 この3曲の中では、筆者は「闘いの嵐の中へ」が気に入っている。エレキギターのリフを導入に弦のスリリングでスピード感たっぷりのフレーズが展開する。闘いの緊張感とアクションの勢いが伝わってくる、まさに「嵐の中へ」というイメージの曲だ。「プリキュアには激しすぎるのでは?」と思ってしまうが、これだけ激しい曲のほうが映像にぴたりとはまるのである。
 トラック34「大切なものを守りたい」は、トラック14の「心の肉球にキュンときたら」とならぶ胸アツ曲。劣勢に陥っても使命感を胸に立ち上がるプリキュアの姿が目に浮かぶ。悲壮感ただよう中に心情の美しさまでも描いた名曲である。本編では、第3話でペギタンと一緒に闘う決意をしたちゆが「大切なものを守りたいの」とペギタンに語りかける場面が初出。曲名もそこから採っている。
 続いてのトラック35「たたかう地球のお医者さん」はプリキュアのメインの活躍曲。高らかに鳴り響くファンファーレから始まり、トランペット、エレキギターがメインテーマのメロディを変奏していく。中間部に弦の速いパッセージと女声コーラスによる間奏が挿入される。この構成がすごくいい。華麗に舞うプリキュアの姿が想像されてぞくぞくするところだ。メインテーマのメロディに戻ってコーダへ。この曲も本編でフルサイズ流れることは稀なので、サントラで堪能していただきたい。
 次の「プリキュア・ヒーリングオアシス!」は激闘のクライマックスを飾るプリキュア3人の合体技の曲。1分程度の中にオーケストラの音を詰め込んだ密度の高い曲である。
 BGMパートのラストは、トラック37「キミと一緒なら」とトラック38「生きるってすばらしい」の2曲で物語の余韻を味わってもらう流れにした。
 「キミと一緒なら」はメインテーマの変奏による友情のテーマ。弦合奏の音色がやさしく、胸にしみる。本編ではのどかたちの友情やヒーリングアニマルとの絆を表現する曲としてよく使われている。第16話で、のどか、ちゆ、ひなたの3人が永遠の大樹の下で友情を誓う場面に流れたのが感動的だった。この曲からリズムセクションを抜いた弦合奏のみのバージョンも劇中でよく使用されている(そのバージョンは『映画プリキュア ミラクルリープ みんなとの不思議な1日』のサントラに収録)。
 「生きるってすばらしい」は本編のラストや日常シーンによく使われている曲。晴れ晴れとしたよろこびを表現する明るく元気な曲だ。寺田志保はインタビューに答えて、日常や心情を表現する曲に本作のテーマである「癒やし」を盛り込んだと語っている。本アルバムも、聴き終わったあとで「癒やし」を感じてもらえるように、少しでも気持ちが元気になってもらえるようにと祈りを込めて構成した。音楽の力を感じ取ってもらえたら幸いである。

 さて、12月23日発売の「オリジナル・サウンドトラック2」は、追加録音曲を中心に、番組後半の展開をイメージして選曲・構成した。新たに加わったプリキュア=キュアアース関連の楽曲も、もちろん収録している。
 本作のために作られた楽曲は追加録音分も含めると80曲以上。サントラ2枚では収録しきれないボリュームだが、『映画プリキュアミラクルリープ みんなとの不思議な1日』のサントラ収録曲を合わせると、全Mナンバーの楽曲がそろうように工夫した。ぜひ、3枚とも手に入れて聴いてもらいたい。
 ただ、「オリジナル・サウンドトラック2」の後半には、まだ本編で流れていない楽曲も収録されている。本編を無心に楽しみたい方は、前半だけ聴いて、後半は最終回を迎えたあとにとっておくのがよいかもしれない。
 今年も残りあとわずか。新型コロナウイルスの猛威という予想外の出来事により、筆者にとっても苦闘の1年になった。健康で元気な日常が戻ってくるように、すこやかな未来を祈って。よいお年を。

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