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佐藤順一の昔から今まで(6)シリーズディレクターとレイアウトシステム

小黒 『メイプルタウン』の放送が始まった時点で、佐藤さんは25歳ですね。参加していた演出の方は、岡(佳広)さん、貝澤さん以外の方は歳上じゃないですか。

佐藤 岡さんも歳上です。確か『海のトリトン』で制作やってますからね。

小黒 じゃあ、貝澤さん以外は、作監も含めて皆さんが歳上ですか。

佐藤 作監はそうでもないです。安藤さんは同期なので、年上とは言ってもそんなには離れていないし、記憶が曖昧ですが、オニオン(ムッシュ・オニオン・プロダクション)班の伊藤奈緒美さんは歳下かもしれないです(編注:佐藤順一さんと同じ年生まれで、1学年下)。

小黒 若すぎるシリーズディレクターということでやりづらいところもあったのではないですか。

佐藤 画作りの現場で、年齢が理由でストレスが生じた記憶は、そんなにないですよね。ベテランの人達に「もっとこういう画作りしようよ」と、無理に要求すると軋轢も出るでしょうし、上手くいかずにストレスになるんでしょうけど。東映の場合、「その話を担当した演出が、その話の責任を持つ」というところがあるので、他の人の仕事につべこべ言うことはないんですよね。各話で面白いものを作ったら、ベテランの人も褒めてくれるし、評価もしてくれるので。自分がいいものを作ることで引っ張っていく、といったやり方なんです。脚本家の方も、ホン読みの時にピントが大きくズレたり、失礼な発言をしなければ、別に敵視されたりすることもないので、仕事を上手く進めていくことに関して、ストレスはないですよね。それまでとの比較で言っても『メイプル』ではストレスがなかった。『メモル』の頃は、音響現場のミキサーさんや効果さんがベテランさんで、意外と言うことを聞いてくれないことがあって(笑)。

小黒 『メモル』が始まった頃の佐藤さん、23歳ですからねえ。

佐藤 「もっとこうしたい」と思っても、「そんな音ないから」と言われて折れなきゃいけないことがよくありました。でも『メイプルタウン』の頃は「音楽の付け方が、ちょっと変じゃない?」と言われても「これは考えがあってやってるんで、いいんです」と言えるくらいには、対等の立場になっていたと思います。

小黒 奥様になられる恭野さん(編注:現在は佐藤恭野。当時は渡辺恭野)が選曲をやられるのもこの頃から?

佐藤 『メモル』の時点からやってますね。師匠の宮下(滋)さんの下でやってるんですよ。

小黒 なるほど。

佐藤 最初の音楽発注、作曲家さんとの打ち合わせ、音楽録りの段階から一緒に入ったのは、『メイプルタウン』が初めてですね。

小黒 ということは、佐藤さんも音楽発注にも関わっているわけですね。

佐藤 関わってます。それまで、音楽についての打ち合わせって、選曲家の宮下さんが書いてきた音楽メニューをそのまま使ってやることが多かったんですけど、それは『メイプルタウン』では避けたかった。「音楽メニューは監督が書くべきだ」と思ってたので、まず自分でメニューを書いて、選曲家の渡辺恭野さんと一緒に作っていったはずです。

小黒 音楽に関するビジョンはしっかりあったんですね。

佐藤 そうです、そうです。「こういう作品ならこういう曲が必要だな」ということも大体読めるようになっていたので、たとえ音楽メニューの定番のものでも、今回使わないようなものは発注しないようにしました。

小黒 キャスティングには関わっているんですか。

佐藤 はい。それも勉強になりました。東映の場合はマネージメントを青二プロダクションがやっていました。やりとりも生のやつを見せられましたので(笑)。「ああ、そういうことがあんのかあ」と思って見てました。

小黒 「そういうこと」というのは、キャスティングが決まっていく流れのことですか。

佐藤 ええ。青二のイチ推しな人が『メイプルタウン』の主役に決まらないんですよ。プロデューサーの山口(康男)さんが「それではない」と、別の会社の人を主役にするんですけど、会議の場で青二の偉い人が「この子の良さが分からないんですか?」って食い下がったりとかね(笑)。「でも、この役とこの役は青二でやるよ」というような、生っぽいやりとりを見て、それもまた「勉強になるなあ」と。

小黒 なるほど。

佐藤 実際には一番勉強になったのは、そんな大人の事情的なやりとりじゃなくってですね、印象に残っていることがあるんですよ。岡本麻弥さんが主役になるんですけど、山口さんは、岡本さんの評価ポイントとして「野性味を感じる」と言ってたんです。「パティというキャラクターをこう考えたから、このキャスティングにする」と決めるまでのプロセスが明快なんですよね。僕はパティの声は女の子が好きそうな可愛くて綺麗な声がいいかなって思ってたんだけど、そういう角度の決め方もあるのかと思ったし、勉強になりました。

小黒 グレテル役の屋良(有作)さんはどなたが推したんですか。

佐藤 グレテルはオーディションをやってるんじゃなかったかな。ちょっと覚えてないです。

小黒 屋良さんの代表作のひとつですよね。

佐藤 そうですよね。屋良さん、当時だとまだそんなにアニメの本数は多くないですよね。僕も『メモル』のトリローネさんで初めて知ったくらいですから。

小黒 この頃でも、中堅くらいの年齢だと思いますが、アニメでメインを張る感じではなかったですよね。

佐藤 元々、別の仕事をやっておられて、役者のほうに転向されたっていう話を聞いた覚えがあります。今はベテランとして現場を仕切ったりもされる感じですけど、当時はそこまででもなかった気がします。

小黒 『メイプルタウン』の1話が、佐藤さんの代表作のひとつだと思います。パティのキャラクターを掘り下げてますよね。

佐藤 はいはい。

小黒 一喜一憂したり、悩んで独り言を言ったり。

佐藤 そこで、さっきの『赤毛のアン』の話に繋がるんですね。

小黒 そうです。1話のパティはめちゃめちゃ『赤毛のアン』だなと思って。

佐藤 それはね、あると思います。『赤毛のアン』をそんなに熱心に観ていたわけじゃないんだけど、アンの言動が意識の中にあって、ああいった「女の子のちょっと面白い感じ」を入れたいと思った記憶があります。

小黒 1話はちょっと「世界名作劇場」っぽい感じがありますよね。

佐藤 そうかもしれない。『メイプルタウン』は「大草原の小さな家」をベースにしていたんですよ。それとは関係なく、確実に『赤毛のアン』を意識した芝居付けをしてますね。

小黒 パティ以外で、佐藤さんが推したキャラや、膨らませたキャラはいますか。

佐藤 『メイプルタウン』だとどうだろう? やっぱりパティを一番広げたとは思いますけどね。あとはキツネで長女のダイアナが、やりやすくて好きだった気がします。それにダイアナのお母さんもちょっと面白いキャラではありますよね。

小黒 いつも釣りしてるカワウソがいて、シリーズ通してアクセント的に使ってましたよね。あれは脚本に入ってるんですか。

佐藤 入ってたと思います。そもそもは、ウサギ等の動物を人形のお家に並べて遊ぶということが出発点なので、各キャラクターに関しては、スポンサーからオーダーがあったと思うんですね。

小黒 シリーズディレクターとして、メーカーさんとのやりとりにも参加して、それを作品に反映させるようなお仕事をされていたわけですね。

佐藤 ええ、バンダイにも行きました。パティのデザインを持って玩具の会議に行った時に重役の方が「この目では目線が分からないから、白目を入れたほうがいいのではないか」という案を出してきて(笑)。「やべえ! このままにしといたら、白目が入っちゃう」と思って「目線はハイライトの位置等でも出せます。常に入れちゃうと可愛くなくなるからこれは黒目だけでよいと思います」と力説した記憶がありますね。

小黒 話は前後するんですけど、この時に佐藤さんが、東映内でアニメーション制作の新しいシステムを作ったんでしたね。まず、演出がレイアウトをチェックして、レイアウトを戻してから、原画マンが原画を描くというフォーマットを作った。

佐藤 はいはい。

小黒 制作のフローチャートを作って、『メイプルタウン』からそれを使い出したんですよね。

佐藤 そうです。

小黒 記事を読んでる人に説明すると、それまでは、原画マンがレイアウトと原画を同時に出していた。だから、レイアウトが演出意図と違った場合は全てを描き直すか、演出家が諦めるしかなかった。描き直すと作業に無駄も生じるし、そのやり方だと演出家が構図等に立ち入りづらかったわけですね。

佐藤 そうですねえ。それまでも自分の話数に関しては「レイアウトを先に見せてください」と言って、そうやっていたんですけど、シリーズ通してそのやり方にしようと思ったのは、この時かな。

小黒 ということは『メモル』や『ステップジュン』でも、佐藤さん自身は原画の前にレイアウトを見てたんですか。

佐藤 やってたと思いますね。だから『メイプル』で、特別凄いことをやろうと思ったわけではなくて、それまで自分の話数でやっていたことを、全話数でやると決めただけです。ただし、それをやったら、制作部から「原画とレイアウトを同時に上げるかたちに戻せ」と言われた。作業の遅れについて「レイアウトを出してOKがでてから原画を描いていて、一工程増えているので遅くなっている」と説明した作画班があったんでしょうね。
 それで制作部と話をして「枚数をかけないスタイルの作品にとって、レイアウトは重要なファクターで、これを直せないのは、演出の武器をひとつ奪われたに等しいことである」と言ったら「それは分かる」と。それで「もし、原画とレイアウトを一緒に出すなら、レイアウトがNGだった場合に原画も全部描き直しになっちゃうんですが」「それでもいいからまとめて上げるかたちでやってくれ」というやりとりがあって、その時は「分かりました」と言いました。その後で原画が上がってきて、直しを出していくと、当然レイアウトも原画もほぼ全カット全部描き直しになる。そうすると、作画班から「レイアウトを先に出させてください」と要望が出た。それで、レイアウトを先に出してチェックをするというやり方が定着した。そういった若干の戦いがありました。

小黒 日本のアニメのレイアウトの歴史だと、おそらくかなり早いです。

佐藤 ほう。

小黒 「世界名作劇場」では1970年代から宮崎駿さんをはじめとする、レイアウト専門の役職を立てて、その人達がレイアウトを描くというシステムをとっていました。それは演出家がレイアウトをチェックするのとはやり方が違いますが、レイアウトシステムの先駆けですよね。亜細亜堂もレイアウトシステムの導入は早かったと聞いています。

佐藤 ああ、なるほど。

小黒 今では当たり前になった、演出家が原画作業の前にレイアウトをチェックする工程が定着するのは、アニメ界全体だと、80年代後半か90年代のはずです。だから、1986年放映開始の『メイプルタウン』でやっている佐藤さんはかなり早いんです。

佐藤 早いんだねえ。まあ、作画を凄く力のある人がやってくれれば、意外とそれでいいっていうこともあるんですけどね(笑)。

小黒 画が巧ければ、レイアウトがよいことも多いということですね。

佐藤 うん。『パタリロ!』の時、スタジオバードも伊東誠さんの班も、原画とレイアウトが同時に上がってきてましたけど、レイアウトがマズいと思ったことはないですもんね(笑)。

小黒 レイアウト段階で演出、作監がそれぞれ見るという現代のアニメで当たり前になっているシステムはこの辺りから始まるわけですよ。

佐藤 ああ、そうだね。僕にとっては、戦いの果てに手に入れたシステムだったね。


●佐藤順一の昔から今まで (7)パイロットフィルムと『ビックリマン』 に続く


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