アニメ様の『タイトル未定』
158 アニメ様日記 2018年6月3日(日)~

2018年6月3日(日)
確認することがあって、Amazonのプライムビデオで『ボールルームへようこそ』最終回を観たら「次のエピソード」として「Shall we ダンス?」を勧められた。昼からトークイベント「第146回アニメスタイルイベント 僕たちのアニメ雑誌」を開催。ゲストは高橋望さん、渡邊隆史さん、松下俊也さん。前売りの数字がのびなくて、どうなることかとハラハラしたけれど、当日券のお客さんもいてガラガラにはならなかった。トークは色々な話題が出て、楽しかった。お客さんは初めて聞く話も多かったのではないかと思う。僕も1998年のリニューアルで判型を変えた理由は知らなかった。渡邊さんや松下さんに、昔の自分がアニメージュに貢献したという話をしてもらい、それはお世辞でも嬉しかった。ところで、アニメージュ史は誰かに書いてもらいたいと思っている。イベントのトークをお聞きになった方は分かると思うけど、僕は関係者なので、客観的な歴史は書けないはずなのだ。

2018年6月4日(月)
デスクワークの日々。数時間で事務所に戻れるところで、長期の夏休みをとることを決意する(数日後にそれは無理だと気づく)。

2018年6月5日(火)
デスクワークの日々。WOWOWで録画した新海誠監督特集を流しつつ、作業をする。特番にはじまり、『雲のむこう、約束の場所』『秒速5センチメートル』『星を追う子ども』を観た。『星を追う子ども』は公開時よりも楽しめた。フランス帰りの吉松さんと、知音食堂でマンガの打ち合わせ。

2018年6月6日(水)
デスクワークの日々。この数か月でいちばん頑張らなくてはいけない原稿が書けた。昨日に続き、『言の葉の庭』『君の名は。』を観た。やはり『言の葉の庭』はメジャー感があるなあ。『君の名は。』には爆発的なパワーがある。好き嫌いで言ったら『言の葉の庭』が好きだ。

2018年6月7日(木)
デスクワークの日々。この日だけではないけど、「アニメスタイル013」と夏に出す書籍3冊の作業が同時進行。今、一番忙しいのは「アニメスタイル013」。

2018年6月8日(金)
おそらく今年の上半期で一番忙しい日。作業をしながら『xxxHOLiC』を1から6話をDVDで再生。面白い。本放映時よりもずっと面白い。パソコンを辞められない主婦の話は当時も印象的だった。

2018年6月9日(土)
『犬ヶ島』の吹き替え版をユナイテッド・シネマ豊洲で観る。字幕やスクリーンサイズの問題があり、吹き替えで観たほうがいいらしいと聞いていて、しかし、吹き替え版の公開が終わってしまいそうだったので、慌てて観にいったのだ。『犬ヶ島』はかなりよかった。とにかく映像が魅力的。作り込みが凄まじい。語り口は一般的な意味での娯楽作のものとは違うかもしれないけれど、それもよかった。キャラクターでいうと、チーフとナツメグがよかった。
 この数日でレンタルDVDで邦画も観た。「勝手にふるえてろ」は、ある方が公開時にSNSで誉めていた映画。これは映画館で観ればよかった。10年前か15年前に観ていたらハマったかも。「DESTINY 鎌倉ものがたり」は映画館で何度も予告を観た作品。画ぢからがあるので、もっと大きなモニターで観ればよかった。

第147回アニメスタイルイベント
井上俊之の作画を語ろう

 2018年7月1日(日)に開催するトークイベントは「第147回アニメスタイルイベント 井上俊之の作画を語ろう」。カリスマの名前で親しまれているスーパーアニメーター、井上俊之の仕事にスポットをあてたトークイベントだ。勿論、メインのゲストは井上俊之。他の出演者は決まり次第発表する。
 会場は阿佐ヶ谷ロフトA。会場では「アニメスタイル013」の先行発売も予定している。「アニメスタイル013」の巻頭特集は『さよならの朝に約束の花をかざろう』だ。同作品についての井上俊之のインタビューも掲載されている。
 今までのイベントと同様に、トークの一部を「アニメスタイルチャンネル」で配信する。前売り券は2018年6月16日(土)から発売開始。詳しくは以下のリンクの阿佐ヶ谷ロフトAのページを見てもらいたい。

■関連リンク
アニメスタイルチャンネル
http://ch.nicovideo.jp/animestyle

阿佐ヶ谷ロフトA
http://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/91609

第147回アニメスタイルイベント
井上俊之の作画を語ろう開催日

開催日

2018年7月1日(日)
開場12時00分 開演13時00分 

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

井上俊之、小黒祐一郎(司会)

チケット

前売1500円 当日1800円(共に飲食別・要1オーダー)

■アニメスタイルのトークイベントについて

 会場となる阿佐ヶ谷ロフトAはトークライブができる居酒屋。入場料(今回は前売1500円、当日1800円)とは別に飲食(最低でもドリンク1杯)をお願いしている。ソフトドリンクもあるので、未成年の方でも大丈夫。 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものだ。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていないし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれない。その点は、あらかじめお断りしておく。

第565回 ありがとう!!

今週から来週にかけて、仕事が徐々に片付きつつあります!

 まず、『ユリシーズ〜ジャンヌ・ダルクと錬金の騎士』のキービジュアルのラフと背景原図が上がり。じき発表になると思います。ちなみに『ユリシーズ』は現在第11話のコンテ中。先週、先々週とレイアウト・ラフ原チェックほか打ち合わせ類も重なり、コンテがやや難航したのですが、今週・来週でテストまで駆け抜けたい(汗)! コンテ撮でのカッティング(編集)も10話まで終了。ま、アフレコを落とすことはないでしょう。放映開始3ヶ月前に、コンテ&カッティングが全話終わっているというのは、かなり順調かと。
 で、何より今週の目玉は

『Wake Up, Girls! 新章』のパッケージリテイク、全話終了!!

本放送時、実現できなかったカットの復活と、修正が行き届かなかった作画の直し、その他、動画・仕上げ・撮影も合わせて2〜11話までは各話150〜200カット前後リテイクが入ってます。『WUG! 新章』は1話あたりの総カット数が240カット前後なので、かなりの修正量になるでしょう。ちなみに1話と最終話は50〜100カットくらいでしょうか? 最終話のRun Girls, Run!「カケル×カケル」はモーションキャプチャーから作り直しました! いい出来です、CGスタッフの皆様、本当にありがとうございました! あ、あと「コンテから描き足した云々」はありません。去年上がったコンテに忠実な仕上がりを目指しました。「なぜ去年の本放送時にはコンテどおりにできなかったのか?」をここで語るつもりはありません。何を言おうと言い訳にしかならないし、力不足はすべて自分のせいですから。今言えることは、

スタッフ一同、今現在持てるすべての力を注いで修正しました!
『Wake Up, Girls! 新章』リテイク版、是非観てください!!

と。そして、

第133回 旅する者の想い 〜マルコ・ポーロの冒険〜

 腹巻猫です。6月6日に発売されたTVアニメ『ヒナまつり』の音楽集「花も嵐も踏み越えて」の構成を担当しています。音楽は『みなみけ』(2007)、『ココロコネクト』(2012)などを手がけた三澤康広さん。音楽集は2枚発売予定で、これは1枚目。2枚にわたってブックレットに三澤さんのインタビューが掲載されます。ぜひお聴きください&お読みください。

ヒナまつり音楽集〜花も嵐も踏み越えて〜
http://www.amazon.co.jp/dp/B07CHGDC6V/


 『マルコ・ポーロの冒険』について書いておきたい。1979年4月から1980年4月までNHKで放送された『アニメーション紀行 マルコ・ポーロの冒険』のことである。
 『東方見聞録』で知られる13世紀ベネチアの商人マルコ・ポーロ。その25年間にわたる旅の物語をアニメと実写ドキュメンタリーを組み合わせて映像化したTVアニメ作品だ。と書くと教育番組みたいだが、堅苦しい作品ではない。マルコが父・ニコロと叔父・マテオとともにベネチアを旅立つのは17歳のとき。多感なマルコが経験する出逢いと別れが、ときにドラマティックに、ときに詩情豊かに描かれ、ロマンあふれる冒険物語になっていた。
 アニメーション制作はマッドハウス。杉野昭夫がキャラクターデザインを手がけ、コンテや作画に川尻善昭、もりまさき(真崎守)、村野守美らが参加。アニメパートの見応えは抜群だった。コントラストを強調したスタイリッシュな表現や独特の色調で描かれた背景(美術は石津節子)も印象に残っている。
 実写パートはNHKが現地で取材した映像をもとに構成。当時は目にする機会が少なかった中東や中国奥地の映像に惹きつけられた。NHKは1980年4月からマルコの旅とほぼ同じ道をたどるドキュメンタリー番組「シルクロード」を放送する。こちらの音楽を担当して一躍注目されたのが、のちに劇場アニメ『1000年女王』(1982)の音楽を手がける喜多郎だった(これは余談)。
 声優陣の充実も印象深い。主人公のマルコは富山敬。『宇宙戦艦ヤマト』の古代進役で人気絶頂の頃で、「マルコのキャラクターが古代進に似ている」とも話題になった。マルコとともに旅する父・ニコロは俳優として、また洋画を中心に声優としても活躍した久松保夫(「宇宙大作戦(=スター・トレック)」のミスター・スポックの声)。同じくマルコとともに旅する叔父・マテオは豪快なおじさんならこの人、名バイプレーヤーの富田耕生(またまた余談だが『Cutie Honey Universe』で45年ぶりに早見団兵衞を演じて違和感がないのがすごい)。ナレーターはアクの強い役をこなす俳優として活躍する一方、刑事コロンボの声で人気を博した小池朝雄(アニメファンには『長靴をはいた猫』(1969)の魔王役でおなじみ)。マルコたちが旅の途上で出逢うゲストキャラクターにも当代一流の名優がキャスティングされている。映像で眼福、声でも耳福という楽しみな番組だった。
 当時のアニメ誌も『マルコ・ポーロの冒険』をたびたびカラーページで取り上げていた。アニメファンにも人気の作品だった。が、残念なことに、本作の思い出を共有するのは当時リアルタイムに放送を観た世代に限られている。NHKには本作のビデオ原盤が残っておらず、再放送もパッケージ化もされていないのだ。
 しかし、本作の雰囲気を追体験できるものが残っている。それが音楽だ。

 本作の音楽はシンガーソングライターの小椋佳が担当している。
 小椋佳は1971年にデビュー。1970〜80年代に台頭した歌謡曲の新しい潮流「ニューミュージック」を代表するシンガーソングライターのひとりである。文学的とも呼べる繊細な言葉づかいの歌詞と独特の抒情をたたえたメロディで数々の名曲を紡いだ。布施明に提供した「シクラメンのかほり」は日本レコード大賞の大賞を受賞。TVドラマ「俺たちの旅」(1975)の主題歌・挿入歌として中村雅俊が歌った「俺たちの旅」「ただお前がいい」も70年代TV世代には忘れられない名曲だ。80年代には美空ひばり「愛燦燦」、梅沢富美男「夢芝居」などのヒット曲を手がけた。味わいのある歌声も魅力で、筆者は1972年のTVドラマ「大いなる旅路」の主題歌が大好き(オープニングは作詞・小椋佳、作曲・渡辺岳夫の名曲)。
 そんな小椋佳がアニメ音楽を手がけるのは、当時、ちょっとした事件だった。ニューミュージックなんか聴かない特撮・アニメ好き少年だった筆者も「俺たちの旅」などで小椋佳の名や作風は知っていたから、「あの小椋佳がアニメの音楽を!?」と思ったのを覚えている。1978年頃から急激に進んだアニメ音楽の変化を象徴する出来事である。
 当時のアニメ誌に掲載されたNHKの担当ディレクターのコメントによれば、本作の音楽担当はアニメ音楽も劇伴も未経験のニューミュージック系の人で、マルコの成長を描ける人、というポイントで人選したのだそうだ。小椋佳と吉田拓郎の名が挙がり、過去にNHK作品で縁のあった小椋に決まった。発注にあたっては特に注文はせず、「小椋佳のマルコを」とお願いしたという。
 オファーを受けた小椋佳は「マルコ・ポーロをテーマに自由に曲を書いていい」という注文に、逆に苦労した。「東方見聞録」をくり返し読み、シルクロードに関する文献を70冊も読んだが1曲も書けず、1978年夏にシルクロードを回る10日間の取材旅行に旅立つ。
 小椋は時が止まったようなシルクロードの情景に圧倒される。そして、旅の経験をもとに1978年12月までに10数曲の歌を書き上げた。その多くは、少年マルコが旅を通して感じたはずの驚きや感動をそのまま歌にしたものだった。それが本作の主題歌となった「いつの日か旅する者よ」をはじめとする楽曲である。最終的に小椋佳が作った歌は25曲にもなったが、番組に採用されたのはそのうちの12曲だった。
 小椋佳の歌は番組のオープニング、エンディングだけでなく、本編にもたびたび挿入された。とりわけ、実写パートに流れたのが記憶に残っている。大陸の雄大なスケールと悠久の時を感じさせる映像をバックに小椋佳の歌が流れる。「紀行」のタイトルにふさわしい、心に残る演出だった。今でも、『マルコ・ポーロの冒険』は小椋佳の歌とともに思い出される作品である。
 なお、本作の音楽担当には作・編曲家の小野崎孝輔もクレジットされている。小野崎は小椋佳が書いた歌の編曲を担当したほか、アニメに必要な映画音楽的なスコアを提供する役割を担った。小野崎孝輔は本作以前にTVアニメ『おらぁグズラだど』(1967)や『ピンク・レディー物語 栄光の天使たち』(1978)の音楽を担当して、アニメ音楽は経験済みだった。小野崎の創り出した詩情豊かなサウンドも本作の雰囲気を決定づける重要な要素である。
 本作の音楽商品としては、主題歌・副主題歌を収録したシングル盤2枚と小椋佳が書いた歌を集めたアルバム「マルコ・ポーロの冒険」がキティレコードから発売されている。アルバムは番組名と同じタイトルがつけられているものの、あくまで小椋佳の作品として発表された点がそれまでのアニメ音楽とは異なっていた。残念ながら劇中音楽は商品化されていない。
 ただ、BGMを聴くことができる商品はあった。本編音声を収録したドラマ編アルバムが2枚発売されていたのだ。こちらの発売元はキティレコードではなく日本コロムビア。内容はいくつかのエピソードを選んで構成したダイジェストで、メインライターを務めた金子満の構成によるもの。主題歌はオリジナルではなく、川津恒一が歌うカバーが収録されている。本編の視聴がかなわない現在、ドラマ編アルバムは『マルコ・ポーロの冒険』がどのような作品であったかを伝える貴重な資料である。名だたる声優陣が出演した作品だけに、音だけを聴いても楽しめる。カラー図番をふんだんに使ったインナーも見応えがある。CD化されていないのが惜しまれるアルバムである。
 小椋佳のアルバム「マルコ・ポーロの冒険」を紹介しよう。収録曲は以下のとおり。

  1. 大空から見れば
  2. 蒼き狼
  3. また旅仕度
  4. 誰でもいいから
  5. 望郷
  6. キシェラック ヤイラック
  7. マティオ・ニコロ そしてマルコ・ポーロ
  8. ひとすくいの水
  9. 大地は
  10. 黄金のパイザ
  11. いつの日か旅する者よ

 全曲の作詞・作曲・歌は小椋佳。編曲は小野崎孝輔と星勝が担当している。編曲にあたっては、ありきたりのオリエンタルな音作りではなく、なるべく現地の民族楽器などを使って本物のシルクロードの音楽に近づけるよう試みたという。
 ジャケットは砂漠を旅するラクダと旅人を遠景で描いたイラスト(写真を加工したものかも)。砂漠と空の広大さを強調したデザインで、アルバムタイトルは左上に目立たなく配されているだけだ。かろうじて、帯にある番組タイトルロゴと「NHK『マルコ・ポーロの冒険』主題歌・挿入歌作品集」の表記がアニメとのつながりを示している。
 11曲のうち、「キシェラック ヤイラック」「大地は」「黄金のパイザ」の3曲を除く8曲が主題歌または挿入歌として番組内で使用された(「ロマンアルバム・デラックス38 マルコ・ポーロの冒険」徳間書店、1980年による情報)。
 また、後期に流れたエンディング主題歌「それが夢ならば」は発表時期が遅かったのでこのアルバムには収録されていない(のちに小椋佳のシングル・コレクション・アルバムに収録された)。
 1曲目の「大空から見れば」はエンディングにたびたび使用された歌。本編でも流れている。ケーナがメロディを奏でるイントロが印象的。大地の上では小さな存在にすぎない人間たちが、汗を流し、新しい道を切り拓いていく姿を愛情と敬意を込めて歌った歌である。タイトルどおり「大空から」見た視点が本作のスケール感を伝えて、「アニメーション紀行」の名にふさわしい歌になっている。この曲は「いつの日か旅する者よ」と並ぶ主題歌候補のひとつだった。
 2曲目「蒼き狼」はモンゴル帝国の初代皇帝チンギス・カンをテーマにした歌。アップテンポのロック調の曲である。マルコが旅に出たときチンギス・カンはすでに没しており、これは伝説の英雄を歌ったイメージソングといった趣。リリカルな曲ばかりでなく、こういう曲も混じっていることが本アルバムの味わいを多彩にしている。
 3曲目「また旅仕度」もエンディングや本編でたびたび流れた印象深い曲だ。たどりついた地で旅装を解き、この地でくつろごうと思ったのも束の間、また旅へのあこがれが湧き上がる。淡々とした曲調で旅人の気持ちを歌ったじんわりと心に沁みる歌だ。当時、高校生だった筆者は、この曲を聴くとなんともいえない、いてもたってもいられないような気分になったことを思い出す。
 4曲目の「誰でもいいから」もエンディングなどで使用された曲。小椋佳がアフガニスタンを旅したとき、路上で自動車のタイヤがパンクし、どうしようもない疲労感と心細さに襲われた経験をもとに生まれた曲だった。中村雅俊が歌った「ただお前がいい」にも通じる、青春歌謡としても聴ける1曲。
 6曲目「キシェラック ヤイラック」はちょっと変わった歌だ。羊を追う羊飼いの姿を歌うほのぼのしたパートと、星光る幻想的な夜の情景を歌う叙情的なパートが交互に現れる。本編では流れなかったが、シルクロードのエキゾティズムを伝える、本アルバムの中でも秀逸な曲のひとつだと思う。
 マルコたちのキャラクターを歌う7曲目「マティオ・ニコロ そしてマルコ・ポーロ」はややユーモラスな雰囲気の軽快な曲。バリトンサックスを使った陽気なアレンジが効果を上げている。かけあいのようなコーラスも楽しい。まだ「テレビまんが主題歌」と呼ばれていた時代のアニメソングに寄せた印象もあり、「小椋佳ってこんな曲も書くんだ」と思った1曲である。
 10曲目「黄金のパイザ」は本作ならではの題材を取り上げた歌。黄金のパイザとは、シルクロードを旅する者の立場を保証するフビライ・ハーンの通行証のことだ。パイザのことを歌っているだけなのに、大元帝国のスケールと旅の緊張感が伝わってくる。これも本編では流れなかったが、印象に残る曲のひとつ。
 11曲目の「いつの日か旅する者よ」が本作のオープニング主題歌である。主題歌をアルバムの最後に配するのは、従来のアニメ音楽アルバムにはない発想だった。アーティストのアルバムならではの構成である(この発想は『伝説巨神イデオン』のサントラ1枚目に受け継がれている)。
 主題歌には、この曲と「大空から見れば」の2曲が候補として検討された。迷っている小椋佳とスタッフに、哲学的深さを持つ「いつの日か……」の方がオープニングにふさわしいと提言したのは小野崎孝輔だった。「大空から見れば」はエンディングに回されることになった。
 「いつの日か旅する者よ」は何度聴いても聴き飽きない、複雑な魅力を持った曲である。歌われているのは、旅への強い想い。旅人の見るイリュージョンを歌い込んだ詩はファンタジー小説の一節のようにも読める。「魔法使い」や「まぼろし」といった、ほかの歌にはないフレーズが登場するのが特徴だ。
 歌は3番まであり、オープニングには3番の歌詞が使われている。タイトルの「いつの日か旅する者」とは、いつか自分や先人が歩いた道をたどるであろう未来の旅人のこと。これから大人になっていく少年や若者たちに向けた言葉とも受け取れる。旅がそうであるように、人生もまた、誰かが歩いた道を歩き、新しい道に自ら踏み出していくものだ。そんな哲学的な感慨が歌詞からただよってくる。まさにオープニングにふさわしい、味わいの尽きない歌である。

 『マルコ・ポーロの冒険』の物語は、新しい土地とそこで出逢う人々に心を動かされ、成長していくマルコの視点から描かれる。これはマルコの青春の旅を描いた作品なのだ。そして、青春こそ、小椋佳がくり返し取り上げてきたテーマだった。小椋佳の歌はマルコの青春に寄り添う歌になった。だからこそ、若いアニメファンの心にも響き、作品の印象とともに、時を経ても長く愛聴される歌になったのだろう。アルバム「マルコ・ポーロの冒険」を自身の青春の思い出と重ねて聴くファンは筆者だけではないと思う。
 本アルバムは現在もCDが流通していて、手軽に入手して聴くことができる。本編の鑑賞はかなわないが、せめて歌だけでも聴いて、本作の雰囲気と、作品に込められた想いに触れてもらいたい。

マルコ・ポーロの冒険
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小椋佳 コンプリート・シングル・コレクション1977〜1988
Amazon

アニメ様の『タイトル未定』
157 アニメ様日記 2018年5月27日(日)~

2018年5月27日(日)
早朝に、オールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 103 岩浪音響監督ワンナイト・センシャラウンド! 一夜限定東亜重音!! エクストリームブースト!!!」開催中の新文芸坐に戻る。『ガールズ&パンツァー 劇場版』の終盤を上映しているところだった。トークが20分押しで、休憩時間の調整もあり、予定よりも30分遅れで終了。その後は事務所でデスクワーク。午後に居酒屋でキーボードを叩いていたら、有線で「ETERNAL WIND~ほほえみは光る風の中~」が流れてきた。

2018年5月28日(月)
デスクワークの日々。WOWOWでの放映を録画した『劇場版 銀魂 完結篇 万事屋よ永遠なれ』を流しつつ作業。これを観るのは劇場公開以来。時間泥棒(映画泥棒)のネタは、オンエアだとちょっと弱くなっているけど、意味が分からないわけではない。夕方から、事務所を卒業するスタッフの送別会。お疲れ様でした。ありがとう。

2018年5月29日(火)
デスクワークの日々。『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』を流しつつ作業。頭から観るのはかなり久しぶりで、楽しかった。『逆襲のシャア』のシャアも、若い頃はこんなにスマートだったんだなあ、と思ってしまって、自分で驚く。いや、逆だ。これからの2ヶ月くらい、今までの予定よりも自分の作業が増えそうだ。

2018年5月30日(水)
デスクワークの日々。『THE IDEON A CONTACT 接触 篇』『THE IDEON BE INVOKED 発動 篇』を流しつつ作業。これはながら観には向かなかった。その後に観た『わが青春のアルカディア』は面白かった。劇場公開時よりも楽しめた。多分、今までは誰に感情移入すればいいのか分からなかったのだろう。今回はトチローに感情移入して観た。そうしたら、人間関係やドラマの印象が随分と変わった。先週の金曜から体調が今ひとつなので、堺三保さん、早川優さんと、池袋西口の知音食堂という中華料理店で辛い料理を食べる。おかげで体調がよくなった。Amazonに「アニメスタイル013」の表紙がアップされる。

2018年5月31日(木)
デスクワークの日々。『風の谷のナウシカ』と『天空の城ラピュタ』を流しつつ作業。これもながら観には向かなかった。夕方は『機動戦士ガンダムF91』を再生。うわあ、尖っているなあ。ある意味、『逆シャア』より尖っている。そして、公開当時も思ったけれど、アニメーションとしてかなり大変なことをやろうとしている。そして、必ずしもやり切れていない。ちなみに過去の作品ばかり観ているのは、最新の作品は観るといろいろと考えてしまって、作業が捗らないからだ。

2018年6月1日(金)
デスクワークの日々。午前中は『からかい上手の高木さん』のサントラを聴きながら、午後はDVDで『人狼 JIN-ROH』を流しながら作業を進める。マスタリングのせいなのか、解像度のためなのか、DVDの『人狼 JIN-ROH』は今の目で観ると、映像が甘い感じなんだけど、今日はこの感じも悪くないと思った。
ネットで矢島晶子さんが『クレヨンしんちゃん』の野原しんのすけ役を降板することを知る。理由は「しんのすけの声を保ち続けることが難しくなり、キャラクターの声を作る作業に意識が集中して、役としての自然な表現がしづらくなった。」というものだ。長いことお疲れ様でした。

2018年6月2日(土)
デスクワークの日々。『ひそねとまそたん』最新3話を観る。『多田くんは恋をしない』最新3話も観る。あるアニメの本編カット(宣伝素材として抜き出したもの)を見て、カットとコマの選びの素晴らしさに感心する。まさしくプロの仕事。 「うおっ、このカットでこのコマを選ぶか」という感じ。

アニメ様の『タイトル未定』
156 アニメ様日記 2018年5月20日(日)~

2018年5月20日(日)
デスクワークの日々。Huluの【劇場公開記念】安室透特集を観ながら、作業をする。「命を賭けた恋愛中継」については大筋は覚えていたけど、最初と最後に安室が出ているのは忘れていた。

2018年5月21日(月)
デスクワークの日々。引き続き【劇場公開記念】安室透特集を観ながら、作業をする。本放映時にも思ったけれど「漆黒の特急」シリーズは作監修正がいいなあ。線がいい。

2018年5月22日(火)
デスクワークの日々。引き続き【劇場公開記念】安室透特集を観ながら、作業をする。まるで『名探偵コナン』ばかりを観ているようだけど、他のものも観ていますよ。仕事で使っているApple Magic Trackpadを新しいものにかえた。最近は1年ももたない。急いである作業をやることになり、先週『僕のヒーローアカデミア』を一気観しておいてよかった、と思った。

2018年5月23日(水)
デスクワークの日々。Huluの【劇場公開記念】安室透特集を全話観た。ほとんどの話が記憶にあった。実は安室関係で、見逃した話があるのではないかと思って、気になっていたのだ。まだHuluで配信していない話もあるのだけど、少なくとも『名探偵コナン 純黒の悪夢』公開以前のエピソードは確認できた。本放映時にも「緋色」シリーズで安室と沖矢が(本当は沖矢ではないのだが)顔を合わせたあたりで「あれ、大事な話を見逃しているのかな」と思って、知人に確認したのを思い出した。

2018年5月24日(木)
デスクワークの日々。『ひなまつり』を1話からまとめて観る。面白い。原作がどんな感じなのか気になる。

2018年5月25日(金)
珍しく体調がよくない。急に『風の大陸』を観る必要が生じ、検索してみるとDVD化はされていないらしい。さて、どうしようかと思ったら、dアニメストアで配信されていた。よかった。夕方から「高畑勲さんを偲ぶ会」に。アニドウらしい温かみのある催しだった。だけど、イベント中にまた体調が悪くなって、途中で退出させていただいた。

2018年5月26日(土)
午前中はデスクワーク。それから、オールナイトの予習で『BLAME!』『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』を観る。「アニメディア」の最新号が届く。表紙と巻頭特集が『名探偵コナン ゼロの執行人』のこの号は、店頭でもネットショップでも完売しており、買い逃していたのだ。僕のところに届いたのは刷り増し分のはず。まだ、パラパラとめくっただけだが『ゼロの執行人』のプロデューサー座談会が面白そうだ。
 夜は「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 103 岩浪音響監督ワンナイト・センシャラウンド! 一夜限定東亜重音!! エクストリームブースト!!!」を開催。イベントのトークでも話題にしたのだが、実は昨年10月28日のオールナイトも『BLAME!』を上映するつもりで企画したのだった。今回のオールナイトで、それが実現した。ゲストの岩浪美和さん、『BLAME!』監督の瀬下寛之さん、副監督の吉平“Tady”直弘さん。このお三方は『BLAME!』公開時に何度も舞台挨拶をされていたそうで、今回のトークもスムーズに進行。僕はほとんど何もしないですんだ。ただ、ノリのよいトークを途中で止めることができず、20分オーバーしてしまった。

新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 104
東映長編の名作

 2018年6月30日(土)に開催するオールナイトは「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 104 東映長編の名作」だ。東映動画(現・東映アニメーション)の初期長編アニメーションから、名作中の名作をお届けする。いずれもアニメファンなら観ておきたい作品だ。
 『わんぱく王子の大蛇退治』(1963)はアニメーター各人のアイデアを集めたバラエティに富む映像構成、伊福部昭の重厚な音楽と、見どころ多い作品。大塚康生と月岡貞夫が腕を振るったクライマックスは語りぐさになっている。
 『太陽の王子 ホルスの大冒険』(1968)は高畑勲、大塚康生、宮崎駿らの若きの仕事であり、鮮烈な表現が素晴らしい。アニメーション表現史におけるエポックとなった作品だ。『長靴をはいた猫』(1969)と『どうぶつ宝島』(1971) は明朗まんが映画。森やすじ、宮崎駿といったアニメーター達の仕事も楽しんでいただきたい。
 今回の作品は全て35ミリフィルムによる上映となる。なお、『わんぱく王子の大蛇退治』のフィルムは国立映画アーカイブの提供によるものだ。

 上映前のトークは映像研究家で、高畑勲・宮崎駿作品研究所代表の叶精二。上映作品について解説をしていただく。聞き手はアニメスタイル編集長の小黒祐一郎が務める。前売り券は6月2日(土)から新文芸坐窓口とチケットぴあで発売となる。

新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 104
東映長編の名作

開催日

2018年6月30日(土)

会場

新文芸坐

料金

一般2600円、前売・友の会2400円

トーク出演

叶精二、小黒祐一郎(司会・アニメスタイル編集長)

上映タイトル

『わんぱく王子の大蛇退治』(1963/86分)
『太陽の王子 ホルスの大冒険』(1968/82分)
『長靴をはいた猫』(1969/80分)
『どうぶつ宝島』(1971/89分)

備考

※オールナイト上映につき18歳未満の方は入場不可
※トークショーの撮影・録音は禁止

●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

第563回 OVA大好き!

 ちょっと前になりますが、金月龍之介さん(『ユリシーズ〜ジャンヌ・ダルクと錬金の騎士』のシリーズ構成・脚本)より、

「OVA(オリジナルビデオアニメ)80′S〜テープがヘッドに絡まる前に〜」
という本をいただきました! この場を借りてお礼申し上げます、ありがとうございました!

 80年代後半から90年代初頭、自分はレンタルビデオ屋に足しげく通ってOVAを借りまくりで、おそらくTVアニメよりよく観てたと思います。OVAにハマった要因は、もちろんその時期の出崎統監督作品のメインがOVAだったからで、『エースをねらえ!2』『エースをねらえ! ファイナルステージ』『1ポンドの幸福』『華星夜曲』『B.B』『修羅之介斬魔劍』『創竜伝』、もう夢中で観ました。『BLACK JACK』は正確にはOVAバブル期からは外れてて、もう東京に出てきてからコツコツお金をためてソフトを買って観てたもので、「夢中で」ってのとちょっと違うかも。
 で、話をOVAバブルの頃に戻しましょう。特に「出崎作品以外は観ない」と決めていたわけではなく、あらゆるジャンルを観ました。『妖獣都市』『魔界都市〈新宿〉』などのハードボイルドな川尻善昭監督作品、杉井ギサブロー監督による『タッチ』っぽい『のぞみウィッチィズ』とか、もちろん『機動警察パトレイバー』やその他『イクサー1』などの美少女(?)ものも。あ、あと出崎哲監督&マジックバス制作の『哭きの竜』『力王』『マッドブル34』なども楽しく観ました。『To-y』『迷宮物件』『江口寿史のなんとかなるでショ!』、挙げたらキリがないし、順番バラバラ。レンタル屋にブラ〜っと入って、気軽に手に取って借りて、自宅で菓子食いながら観る幸せ。ただ当たりハズレも大きく、酷いヤツはホントに酷い! でもその時代は当然セルでアナログ撮影だし、一説によると最ピーク時は年間200本以上出てたって話を聞いたことがあります。だからこそ有象無象入り乱れる中、アニメのピンキリが5〜6年にギュッと凝縮されたOVA作品を色々と観て、そして考えさせられたんです。「なぜこんなダメな作品が世に出たのか? これとジブリ映画の差はなんだろう?」と。数年後アニメ業界に入って、周りの先輩方に「なぜ?」と訊いてみました。理由は様々で、白黒ハッキリはしないのが常。今思うとそれは当たり前で、予算・スケジュール・人手、条件はまちまち、すべてがグチャグチャ。学生時代の、宮崎さんがどーした、高畑さんはああ言ったことだの、「俺はやっぱ押井さんみたいになるのかな〜」「俺がコンテ切ると自然と庵野さんアングルに」とかのプロごっことは訳が違うんです! 今書き出しただけでも恥ずかしい作家気取りの議論の数々なぞ、本当に役に立たない問答無用の世界、

作ってから文句を言え!

これが業界に入った時に感じたことでした。ちなみに俺自身は、宮崎・高畑・押井だ〜な議論には参加しましたが、自分をその巨匠方と重ねるようなみっともないマネは決してしませんでした。当時からその辺は分をわきまえてましたから。
 板垣が他者様作品を公で批評だ論評だしないのも、そこらが理由です。別に「言い返されたら怖い」とか「委員会に怒られるから」ではなく、はたまた謙遜などでもさらさらなく、ただただ、

自分にはまだその資格がない!

からに他なりません。本当に世の中の人が喜ぶ作品を作り上げられたなら、ほっといても周りから「○○について板垣さんはどう思います?」と感想を求められるでしょう。そうなってないってことは、当たり前の話「誰も板垣の感想・批評など知りたくない」わけですから、無理矢理ブログやTwitterでクダ巻いてもしょうがないと。それよりも作るのが先! じゃ、仕事に戻ります!

第132回 メガロポリスの妖怪 〜ゲゲゲの鬼太郎[第3期]〜

 腹巻猫です。6月10日(日)サントラDJイベントSoundtrack Pub【Mission#35】を開催します。特集は、80年代アニメサントラ群雄割拠時代〜キャニオン編(前編)と追悼〜井上堯之・木下忠司・東海林修。詳細は下記URLからどうぞ。

http://www.soundtrackpub.com/event/2018/06/20180610.html


 放映中のTVアニメ『ゲゲゲの鬼太郎[第6期]』が好評だ。音楽は高梨康治と刃 -yaiba-が担当している。『ゲゲゲの鬼太郎』の音楽は、本連載でも第1・2期のいずみたく版、第4期の和田薫版を紹介してきた。今回は第3期の川崎真弘の音楽を紹介したい。「どれだけ鬼太郎好きなんだ?」と言われそうだが、昭和40年代の「少年マガジン」連載時から愛読していた筆者にとって、妖怪は怪獣と並ぶ少年時代の心の友なのだから仕方ない。
 『ゲゲゲの鬼太郎[第3期]』は、1985年10月から1988年2月まで全108話が放送された。歴代アニメ版鬼太郎の中でも視聴率トップを誇る人気作である。過去2作のアニメ版と比べると、絵柄はポップになり、ユメコちゃんという人間の少女がレギュラー入りして鬼太郎と人間の距離が近づいた。人間に味方するヒーロー的な鬼太郎像や鬼太郎ファミリーも本作から定着している。80年代という時代を反映した現代的な鬼太郎だった。
 その現代感覚は音楽にも表れている。いずみたくのおなじみのメロディを吉幾三が歌った主題歌は、マイケル・ジャクソン「スリラー」風のリズムとシンセの響きが印象的なポップス調アレンジ。レーザー光のような光が飛びかうオープニング映像も80年代的だ。劇中音楽は竜童組のキーボーディストとして活躍した川崎真弘が手がけた。

 川崎真弘は1949年、福岡県出身。小さい頃からの愛称はラッキー。成長し、プロのミュージシャンになってからも仲間からそう呼ばれた。少年時代は映画音楽やアメリカン・ポップスなどを聴きまくる。小学生の頃からクラシックギターを弾いていたが、ビートルズに出会い、中学生時代はエレキギターを手にバンド活動に明け暮れた。ピアノは習ったことがなく、本人によれば「バイエルも弾いたことがない」。子供の頃から学校の音楽室に忍び込んでピアノで遊んでいるうちに弾けるようになったのだという。
 70年代は、イエロー、カルメン・マキ&OZ、金子マリ&バックスバニー等のグループや数々のセッションで、ハモンドオルガンを得意とするキーボード奏者として活動。小室等バンドでは、多くの劇場作品やドラマの音楽録音に参加し、刺激を受けた。1984年、宇崎竜童の呼びかけで竜童組の結成に参加。6年間にわたって、日本各地や海外を公演で回った。
 1990年に竜童組が活動停止してからは作曲家としての活動に重点を移し、数々のドラマ・映画音楽を手がける。1995年公開の松竹作品「RAMPO」と2000年公開の角川作品「金融腐蝕列島 呪縛」で日本アカデミー賞優秀音楽賞を受賞。代表作はほかに「ドン松五郎の生活」(1986/朝川朋之と共作)、「子連れ狼 その小さき手に」(1993)、「KAMIKAZE TAXI」(1995)、朝の連続テレビ小説「まんてん」(2002)、ドキュメンタリー「グレートジャーニー」(1995〜2002)など。アニメでは『天上編 宇宙皇子』(1990)、『おちゃめなふたご クレア学院物語』(1991)、『ご近所物語』(1995)、『ひみつのアッコちゃん[第3作]』(1998)、『あした元気にな〜れ! 半分のさつまいも』(2005)などの音楽を手がけている。富野由悠季原作によるラジオドラマ「ガイア・ギア」(1992)の音楽も担当した。
 『ゲゲゲの鬼太郎[第3期]』は川崎真弘がまだ竜童組で活動中に手がけた作品。クレジットでは「川崎真弘(from 竜童組)」と表記されている。もともと竜童組は劇場『カムイの剣』(1985)の音楽を宇崎竜童と林英哲が担当した際に集まったミュージシャンが母体となって結成されたバンド。その林英哲が本作の音楽に和太鼓奏者として参加している。
 川崎真弘版鬼太郎音楽の大きな特徴は、シンセサイザーが大きくフィーチャーされていることだ。すでに『うる星やつら』(1981-1986)や『1000年女王』(1982)、『GALACTIC PATROL レンズマン』(1984)などでシンセ色の濃いアニメサントラは登場していた。しかし、シンセ=SFというイメージが強く、本作の妖怪ものとシンセを組み合わせる感覚は斬新だ。とはいえ、古来、映画音楽では妖怪などの怪異表現にテルミンやクラビオリン、ミュージカルソーといった特殊楽器を用いて、この世のものならぬ存在を描いてきた歴史がある。それがシンセサイザーという新しい楽器に代わったと考えれば、シンセと妖怪の結びつきも意外なものではない。実際、1979年に森下登喜彦が妖怪をシンセサイザーで表現したアルバム「水木しげる 妖怪幻想」を発表している。が、本作の場合はむしろ、妖怪が現れる80年代の日本を表現するのにシンセサウンドが不可欠だった、と考えた方がよいだろう。

 本作のサウンドトラック・アルバムは徳間ジャパンのアニメージュレーベルから発売された。1985年5月に「ゲゲゲの鬼太郎 音楽編 VOL.1」が、1986年7月に「ゲゲゲの鬼太郎 音楽編 VOL.2」がリリースされ、2枚のアルバムでTVシリーズの音楽はほぼ網羅されている。ほかに劇場版2作の音楽を集めた「ゲゲゲの鬼太郎 映画音楽編 VOL.3」が1986年8月に、出演声優たちが歌うキャラクターソング・アルバム「燃えろ!鬼太郎」が1986年3月に発売されている。
 1枚目の音楽集から紹介しよう。収録曲は以下のとおり。

  1. ゲゲゲの鬼太郎(歌:吉幾三)
  2. メガロポリス
  3. 闇のとばりの影
  4. 鬼太郎のテーマ
  5. 仲間たち—父親とユメコ—
  6. 妖怪出現〜鬼太郎笛
  7. 冥府をゆるがす戦い
  8. ムーンライト・ドリーム
  9. ゲゲゲの鬼太郎(インストゥルメンタル)
  10. 妖怪の里
  11. ねずみ男のテーマ
  12. ロンリー・ナイト
  13. 魔界からの敵
  14. 決勝〜勝利
  15. おばけがイクゾ〜(歌:吉幾三)

 1曲目と15曲目がオープニング&エンディング主題歌。レコード盤では8曲目までがA面、9曲目からB面になる。
 A面、B面とも鬼太郎対妖怪の戦いをクライマックスに置いた構成。特撮ヒーローもののサントラのようなツボを心得た構成がうれしい。解説は特撮作品のサントラ構成・解説を多く手がける浅井和康が担当している。「メガロポリス」「ムーンライト・ドリーム」など横文字の曲名が現れるのが80年代鬼太郎らしいところである。
 特筆すべきはアルバムジャケットである。水木しげるによるジャケットイラストは、鬼太郎と妖怪たちが不気味な雲がたなびく墓場の上を飛んでいる、おどろおどろしさとユーモアが入り混じったインパクト抜群の絵柄。CDの小さいジャケットではそのインパクトは伝わりにくいが、LPレコードの30センチ角サイズで見るとアニメ版とは大きく印象の異なる迫力満点の絵に圧倒される。このジャケットのためだけでもLPレコードを手に入れたくなる。
 BGM1曲目は「メガロポリス」。8ビートを刻むギターのリズムにシンセのメロディが乗るテクノポップ風の曲から始まる。第1話冒頭の高層ビルが立ち並ぶ大都会の情景とも呼応する、80年代鬼太郎を象徴するサウンドである。2曲目はエレキギターがもの憂いメロディを奏でる4ビートのブルージーな曲。大都会の退廃的な面が表現される。エレキギター演奏は『鉄人28号』(1980)のレコーディングにも参加している土方隆行。
 次の「闇のとばりの影」は都会の闇に潜む影を描くトラック。1曲目は笛の音と効果音風のシンセサウンドが絡み合って怪異を描写する。シンセサイザーを駆使した妖気表現が新しい。フルート演奏は川崎真弘作品の常連・西沢幸彦。2曲目は不気味なシンセのリズムにシンセブラスの緊迫したフレーズが絡むサスペンス曲。妖怪あらわる!という雰囲気が盛り上がる。
 トラック4「鬼太郎のテーマ」でいよいよ鬼太郎登場である。ドラムとエレキギター、和太鼓が共演するロックのリズムが超絶カッコいい。和太鼓はすでに紹介したとおり、林英哲。ドラムスは渡嘉敷祐一。この曲は主題歌のメロディを使わない鬼太郎のテーマで、哀愁を帯びたヒロイックな旋律は「鬼太郎にはカッコよすぎるんでは?」と思ってしまうほど。川崎真弘は『ひみつのアッコちゃん』でも「アッコちゃんにはカッコよすぎ!?」の曲を書いている。竜童組の血のなせるわざだろうか。前半はシンセが、後半は笛の音が川崎真弘版鬼太郎のテーマを演奏する。現代的な電子楽器と日本古来の伝統楽器との融合が新しい鬼太郎にぴったりだ。
 トラック5「仲間たち—父親とユメコ—」は鬼太郎の父・目玉おやじのほのぼのしたテーマとリリカルなユメコのテーマのメドレー。わらべ歌風の目玉おやじのテーマは鬼太郎の土俗的世界を象徴するものだ。中盤からの美しい展開が目玉おやじには不似合いなくらいぐっとくる。2曲目のユメコのテーマは透明感のあるシンセの音色が奏でる3拍子の愛らしい曲。メリーゴーランドの音楽のようなドリーミィな雰囲気がユメコのイメージに合っている。
 何かが近づいてくるような不気味な描写から始まる「妖怪出現〜鬼太郎笛」は、妖怪出現と危機の到来を表現するトラック。1曲目、2曲目と重苦しい雰囲気が続いて緊張感が高まる。最後に鬼太郎の笛が響き、仲間たちに危機を伝える。
 トラック7「冥府をゆるがす戦い」は出陣のテーマから始まる。ボレロのリズムにシンセのメロディが重なり、鬼太郎たちの決意を表現する。2曲目は三味線風のギターのカッティングが印象的な戦いのテーマ。シンセやエレキ楽器をメインにしながら、随所に和の雰囲気を忍ばせているのが川崎真弘版鬼太郎音楽の特徴である。
 レコードのA面を締めくくるのは、戦いのあとの平和を描くトラック8「ムーンライト・ドリーム」。1曲目はエレピをバックにシンセがやすらぎの旋律を奏でる都会ムード満点の曲。夜景の見えるレストランのBGMなどにぴったりの曲調で、これも80年代鬼太郎らしい曲のひとつ。2曲目はトラック4に登場した川崎真弘版鬼太郎のテーマのアレンジ。人知れずゲゲゲの森に帰っていく鬼太郎のイメージだ。
 レコードB面の頭には、いずみたくが作曲した主題歌のアレンジ曲が収録されている。シンセのメロディにジャジーなピアノが絡む1曲目。主題歌のメロディをピアノがしっとりと奏でる2曲目。おなじみの主題歌がおしゃれな曲に生まれ変わっていて驚嘆する。川崎真弘のアレンジセンスが生かされたトラックである。
 トラック10「妖怪の里」では、短い怪異描写に続いて、わらべ歌風の妖怪のテーマが登場する。和太鼓をバックに奏でられるノスタルジックなメロディは、トラック5の目玉おやじのテーマと共通する雰囲気。郷愁をかき立てられる曲調だが、ファンタジックなシンセの音色がこの世ならぬ妖怪の里を描き出している。サウンドデザインにも注目したい曲である。
 トラック11は「ねずみ男のテーマ」。第3期のねずみ男は富山敬の軽妙な演技が印象的だった。この曲では、ギターとバイオリンによる妖しいメロディが、ねずみ男の悪だくみを表現する。アニメのコミカルなイメージよりも大人びた雰囲気になっているのがポイントで、曲だけ聴くと美形悪役のテーマのようだ。ストリングスアレンジはハープ奏者で作曲家の朝川朋之。彼も竜童組に参加していたひとりである。
 トラック12「ロンリー・ナイト」は、ピアノとアコースティックギターが奏でる哀しみの曲。川崎真弘版鬼太郎のテーマのアレンジ曲である。中間部からバイオリンが加わり、哀感を盛り上げる。妖怪や人間たちの孤独を表すテーマだ。アコースティックギターは川崎真弘作品の常連のひとり佐久間純平(順平)。
 トラック13「魔界からの敵」は怪異ムードを盛り上げる妖怪出現のテーマである。「妖怪の里」に登場したわらべ歌風の妖怪のテーマがシンセサイザーによって怪しく変奏される。
 続くトラック14「決勝〜勝利」では、ファンファーレが戦いの始まりを告げ、鬼太郎と妖怪の戦いをダイナミックに描き出す。エレキギター、エレピ、シンセなどによる激闘の曲を経て、ヴァイオリンとエレキギターが美しいメロディを奏でる平和音楽へ。BGMパートのラストを飾るのは、都会的な哀愁と希望を感じさせる曲だ。これも「鬼太郎にはおしゃれすぎ」と言いたくなるような曲。

 川崎真弘版鬼太郎音楽をひとことで言うと「カッコいい」。第1・2期のいずみたくの音楽とははっきりと違う方向性を示すサウンドだ。そのサウンドは、土俗的な妖怪譚に現代的な色づけをする重要な役割を果たしている。第4期や第6期が原点回帰的な色合いを出しているのとは対照的である。歴代アニメ版鬼太郎の中でも第3期がひときわ個性的な輝きを放っているのは、音楽の印象によるところも大きいのだ。
 鬼太郎のイメージを一新する音楽を提供した川崎真弘は、2006年5月4日に56歳の若さで逝去した。まだまだこれからという若さでの死は残念でならない。

ゲゲゲの鬼太郎 音楽編 VOL.1
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ゲゲゲの鬼太郎 音楽編 VOL.2
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ゲゲゲの鬼太郎 映画音楽編 VOL.3
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燃えろ!鬼太郎
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アニメ様の『タイトル未定』
155 アニメ様日記 2018年5月13日(日)~

2018年5月13日(日)
ネット配信で『ゲゲゲの鬼太郎[第6期]』を、改めて1話から5話まで観る。その後、オンエアで7話「幽霊電車」を観る。かなり出来がいい。ブラック企業や学生のいじめなどを採り入れており、今風になっているし、ちゃんと怖い。ビジュアルにも力がある。昼から吉松さんと『宇宙よりも遠い場所』と縁のある居酒屋で打ち合わせ。「アニメスタイル013」のこととか、『宇宙よりも遠い場所』のこととか。

2018年5月14日(月)
11時から阿佐ヶ谷方面で打ち合わせ。13時から事務所で打ち合わせ3本立て。17時半から新文芸坐で打ち合わせ。朝から『メガロボクス』を1話から観る。放映が始まった時から思っているのだが、設定がまるで違うのに、かなり『あしたのジョー』っぽい。それが面白い。午後は昨日の「仮面ライダービルド」「快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー」『ちびまる子ちゃん』『サザエさん』の録画を再生しながら作業をする。月曜の午後に、ニチアサや日曜の顔ともいえる番組を観るのはなんだか新鮮だった。僕の場合は、ライダーと戦隊は平日昼間に観たほうが印象がいいかもしれない。

2018年5月15日(火)
午前中に「高畑勲 お別れの会」に。前にコラムに書いたけれど、僕は『火垂るの墓』の制作時に鈴木敏夫さんに「制作進行をやらないか」と言われたことがある。僕は高畑勲さんには取材をする機会もなかったが、もしも、あの時に制作進行をやっていたら、色々とお話をうかがうこともあったのだろうな。そう思った。

2018年5月16日(水)
ひたすら、「アニメスタイル013」の素材の整理、ページ構成、スケジュールの確認。それから、『僕のヒーローアカデミア』の1期を観る。

2018年5月17日(木)
今度は『僕のヒーローアカデミア』2期の前半を観る。23話「轟焦凍:オリジン」は本放映時にも観たけれど、1話から順に観ていって、この話を視聴したほうが感動するな。試写会で『ニンジャバットマン』を鑑賞。アメリカではネット配信がメインの作品だそうだが、ネット配信がメインのものとしては100点満点の仕上がりだと思う。イケイケな内容については、中島かずきさんのカラーが濃いのだろう。3DCGのキャラクターの造型、動かし方もよかった。作画マニア的にコメントしたいところもあるのだが、公開までは触れてはいけないらしいので、それについてはまた改めて。今までショートアニメを中心に活躍してきた神風動画が、2018年に『ポプテピピック』と『ニンジャバットマン』を世に送り出した。どちらもパンチが効いた作品だった。今後の作品にも期待したい。

2018年5月18日(金)
『僕のヒーローアカデミア』2期後半を観る。それ以外はとにかく仕事。観に行きたかった映画に行きそびれる。年に20回くらい思うのだけど、もう少し仕事が早ければ、もっと映画館で映画が観られるんだけどなあ。印刷会社から、これから作る原画集の束見本が届く。今回は紙を変えて3バージョン。束見本ができあがると「夏が近い」と思う。
映画に行けなかったとか書いているくせに、「だがしかし」の原作最終巻がKindleで配信された途端に読んでしまう。僕の予想とは随分違った最終回だった。最終回では、誰かと誰かの別れが描かれるだろうと思っていたのだ。モラトリアムの終わりが描かれるのだろうと思っていた。そうではなかったけれど、ファンの気持ちにそった最終回になっているのだろうと思う。ちなみにハジメちゃんが好きでした。

2018年5月19日(土)
ネット配信で『ゲゲゲの鬼太郎[第6期]』の6話「厄運のすねこすり」を観る。これは力作。「ザ・東映」という感じ。観てから気がついたけど、この話数は放映された時にSNSで話題になっていた。自分の意志と関係なく、人間の気力を奪い取っていまう妖怪すねこすりのシロと、彼を可愛がっている老婆マサエ、そして、マサエの息子である翔の物語。悲劇的な内容であるのだけれど、むしろ、互いを思いやる気持ちを描いているのがいい。脚本も演出もいい。作画もいい。話の構成については、余分な段取りを端折って、観せたいところをたっぷり描いているところがいい。ラストシーンで、鬼太郎が無言で山を観るカットもいい。脚本は井上亜樹子、演出は古賀豪、作画監督は小泉昇。なお、テロップでクレジットされた原画マンは小泉昇と泉恭子の二人のみ。

第562回 絵コンテマラソン!


 今回は他所様の会社での仕事なので、久々に紙のコンテ用紙に鉛筆で描いてます。スピードはデジタル(Storyboard Pro)と大差ありません。ま、週1本ペース、1話1話物語を追っていく作業は楽しい限り。そして各話のレイアウト監督チェックも始まり、多少ペースが乱れつつありますが、なんとか駆け抜けないと! 何せ、6月中に自社(ミルパンセ)のシリーズのコンテ第1話を上げなきゃならないのです(7月1日に作画IN、2019年春新番予定)。
 でも、このコンテ地獄な時に限って、サイドメニューのお絵描き仕事が飛び込んでくるのが常。先々週は「アニメディア」、先週は「アニメージュ」のそれぞれの読者プレゼント用サイン色紙2〜3枚ずつ。で、今週は『WUG! 新章』BDジャケットラフ(あとは未夕と夏夜)。さらに後輩がこぼした某バ○ボンの原画も、責任上やらなきゃならなくなってしまい……死なない程度に頑張ります(汗)! 以上毎度お馴染みお茶濁し的状況報告終わり。

154 アニメ様日記 2018年5月6日(日)~

2018年5月6日(日)
マチアソビ最終日。ブースを見て歩き、ロープウェイで眉山に登ったり。昼に食事をしながらの打ち合わせがあった。なんと、4月15日(日)に京都でやった打ち合わせの続きである。京都の続きが徳島だったのだ。夕方、食事をするためにホテルを出ようとしたら、エレベーターの前で知り合いの方達に出会い、入った居酒屋では隣の席に座っていたのが、仕事でお世話になったことのある方だった。マチアソビでは業界の方によく会うと聞いていたけど、本当だなあ。
 僕はマチアソビは初めてだった。エネルギーに満ちたイベントだ。それから、徳島がいいところで食べ物が美味しいのもよくわかった。

2018年5月7日(月)
徳島から東京に戻る。空港でも業界の方達と出逢った。そのうちの1人は10数年ぶりだった。徳島の空港の売店で、東京で買い損なっていた「少年サンデー」の最新号を見つける。綴じ込みで『名探偵コナン ゼロの執行人』のミニブック「ゼロの書」が着いている号だ。喜んで購入する。
 取材の予習で『ノーゲーム・ノーライフ』を観る。シリーズ前半を徳島のホテルで、後半を東京で観た。

2018年5月8日(火)
取材の予習でひたすらアニメを観る。『プリンス・オブ・ストライド オルタナティブ』、『青い文学シリーズ』の「蜘蛛の糸」と「地獄変」、『ノーゲーム・ノーライフ ゼロ』。それからショートアニメ。『ノーゲーム・ノーライフ ゼロ』はよくできている。力作だ。

2018年5月9日(水)
昼までに『SUPERNATURAL: THE ANIMATION』のいしづかあつこ監督回を全話観る。念のために説明しておくと、『SUPERNATURAL: THE ANIMATION』は、シリーズ中に宮繁之監督回といしづか監督回があるのだ。イベントで吉松さんも言っていたけど、いしづか監督回には傑作が何本もある。その後、『宇宙よりも遠い場所』1話、2話を改めて観る。後の展開を知っていると、めぐっちゃんのひとことひとことがグッとくる。
 午後から「この人に話を聞きたい」の、いしづかあつこさんの取材。たっぶり予習したかいがあった。僕がいしづかさんに取材したのは、多分、14年ぶり。

2018年5月10日(木)
「Animage」の2018年6月号(vol.480)が届く。「この人に話を聞きたい」第百九十八回は佐藤卓哉さん。「設定資料FILE」vol.234は『ルパン三世 PART5』。今回の「この人」は自分にとって達成感のある記事となった。自分が関連していない記事で言うと、巻頭に高畑勲さんの追悼特集がある。まだきちんと目を通してはいないが、しっかりした作りの記事のようだ。リスト制作委員会が執筆を担当しているらしい。
 池袋HUMAXシネマズで『さよならの朝に約束の花をかざろう』を観る。試写会を含めると、スクリーンでの鑑賞は3回目だった。今まででいちばん楽しむことができた。そして、アニメーションとして、凄まじい仕上がりであることを再確認した。お話についても、ちょっと気づいたことがあった。最初にマキアが「跳ぶことができない少女」であり、レイリアは「跳べる少女」であることが提示される。普通なら、跳べなかったマキアが跳べる話になりそうだけど、マキアが跳べないなりの人生を歩んでいく。そういうところも面白いと思った。

2018年5月11日(金)
ゴールデンウィーク前からやっていたテキスト作業の大詰め。事務所スタッフに目を通してもらって、チェックに出す。

2018年5月12日(土)
「パシフィック・リム:アップライジング」をようやく観る。先に「レディ・プレイヤー1」を観たせいで、白いロボット像が出てきたところで「まさか、これに乗り換えるのか」と思ってしまった。「パシフィック・リム」の第1作公開時には「ロボットアニメの基準が変わった。今後はこれを目標にしなくてはいけないのか」と思ったのだが、今回はそういった危機感はなかった。と書くとビジュアルの出来が悪かったようだが、決してそんなことはなく、映像だけで入場料を払ってもOKなくらいの質とボリュームだった。

第561回 高畑監督の話の続き

 板垣がいちばん好きな高畑勳監督作品は何を隠そう

劇場版『じゃりン子チエ』!

です。これはもう名古屋(実家)にいた頃、妹と一緒にビデオで何十回観たことか! 何回観ても、笑えて泣けるのはなぜだろう? と真剣に考えました。学生時代(東京デザイナー学院)の先生、小田部羊一さんと以下のような会話をしたことを憶えています。

板垣「先生、自分『じゃりン子チエ』大好きなんですけど、どちらかというとリアリズムの高畑監督にしてはチエの顔がデーン! と大きくなったり、アントニオのキ○タマ描写とか、現場でどんな感じでやられてたんですか?」
小田部先生「いやあ、パクさん(高畑監督)は大喜びで『原作どおりやるんだ!』ってやってたよ〜! パクさんは原作好きだったから」

質問がファン丸出しの青臭いとこはご容赦いただきたいのですが、先生の返答にはちょっと嬉しく思ったものです。先生とその話をした時(1993年)の高畑監督のキャリアから逆算すると、81年の『チエ』は、どこにでもいるアニメ監督がたまたま貰ったマンガ原作モノとしてやった、いわゆる「仕事」と言われてもなんの不思議もない作品だから。でも、そんな流し仕事を高畑監督がするはずがなかったのです。卒業後、その『チエ』を制作したテレコム・アニメーションフィルムに入社した1994年3月15日、俺が目にしたのは高畑監督の『平成狸合戦ぽんぽこ』の狐の嫁入りシーンで苦しんでいる動画の先輩方の姿でした。妖怪大作戦のシーンをテレコムが原画・動画・仕上げをやってたんですね、たしか。その時も「えっ、こんなの手描き動画でやらせるの鬼だな、高畑監督!」と思ったものです。当時の先輩いわく「1日2枚しか上がらない(汗)」と。その横をニコニコ通り過ぎる大塚康生御大。大塚さんの高畑監督に対する信頼は絶大(に見えました。後の『となりの山田くん』[1999年]の時も同様でしたが)で、「高畑は絶対面白いのを作る!」と仰ってました。そんな大塚さん、『平成狸合戦ぽんぽこ』というタイトルを最後まで『平成ぽんぽこ狸』と呼んでました(笑)。で、大塚さんにも『チエ』の話を訊きました。

板垣「高畑さんて、ほんとに芝居の一挙手一投足にこだわりますよね」
大塚さん「そーだね〜。『チエ』の時にもチエが布団を押し入れにしまうトコを何度も『こうなるはずだ』って説明してリテイク出すんだけど、結局最後は僕が直すことになってね〜」

こんな感じの話、あちこちのインタビュー記事などでいくらでも紹介されてると思うので、これくらいにしておこうと思いますが、最後に2002年、すでにテレコムは辞めて演出の仕事を始めた頃に小田部先生とお食事した際の会話。

板垣「(自分の描いた絵コンテを見せて)先生見てください! コンテ描いたんですよ、僕!」
小田部先生「あれっ!? 板垣君って演出やりたいの?」
板垣「え、言ってませんでした? 最初から自分は演出志望ですよ」
小田部先生「(板垣のコンテ『グラップラー刃牙』をパラパラめくりつつ)凄い! 頑張ってるね!」
板垣「先生は演出ってやってみようと思わなかったんですか?」
小田部先生「いやあ、僕はない。演出っていうのはパクさんみたいな人がやるもんだと思ってたから」

この先生の一言「演出はパクさん」が全てを物語ってると思います。異口同音に大塚さんからも「演出ってのは高畑のこと」と聞いていたし、やっぱり周りが認めてるからこそ高畑”監督”なんですよね。改めて

高畑勳監督のご冥福をお祈りします

第131回 バンドやろうぜ! 〜NANA〜

 腹巻猫です。前回の更新から間もなく、木下忠司さん、東海林修さん、井上堯之さんの訃報を続けて聞きました。いずれも日本の映画音楽やドラマ音楽、ポップス界に偉大な仕事を残した作・編曲家。残念です。心より哀悼の意を表します。


 今回は矢沢あい原作のTVアニメ『NANA』を取り上げたい。音楽が重要な役割を担う作品で、主題歌のみならず挿入歌や劇中音楽にも力が入れられた。
 原作は、矢沢あいが1999年から少女漫画誌『Cookie』(集英社)に連載した同名作品。 高校卒業後、地方から彼氏を追って上京した小松奈々とロックバンドでの成功をめざして上京した大崎ナナ。新幹線の中で偶然出逢った同い年の2人は、都内のマンションの一室をシェアして同居を始める。普通の家庭に生まれ育った奈々は天真爛漫だけれど恋には情熱的。複雑な境遇に育ったナナはクールで男っぽい性格。対照的な2人を中心に若者たちの恋や夢や友情を描く青春ストーリーだ。
 TVアニメは2006年4月から2007年3月まで全47話が放送された。アニメーション制作はマッドハウス。監督は『カードキャプターさくら』(1998)、『ギャラクシーエンジェル』(2001)、『ちはやふる』(2011)などを手がける浅香守生が務めている。
 主人公のナナはロックバンドのボーカリスト。ナナが歌うシーンが見せ場のひとつになっている。2005年公開の実写劇場版では歌手としても活躍する中島美嘉がナナを演じ、主題歌を歌ったことで話題になった。アニメ版は朴璐美がナナ役、歌を土屋アンナが吹き替える『マクロス7』方式。ナナたちのライバルのバンドのボーカル・芹澤レイラ(声・平野綾)の歌はOLIVIAが吹き替えた。ナナとレイラの歌がオープニングとエンディングにも流れて印象を強めている。
 いわゆるアニメ歌手でないメジャーアーティストが主題歌を歌うとタイアップと呼ばれることが多いが、本作の場合はちょっと違う。タイトルバックでもCDでも、土屋アンナは「ANNA inspi’ NANA(BLACK STONES)」、OLIVIAは「OLIVIA inspi’ REIRA(TRAPNEST)」と表記されているのだ。劇中のバンドが現実世界に飛び出してきたようで、ファンにはうれしい趣向だ。
 いっぽう、劇中音楽は長谷川智樹が担当した。

 長谷川智樹は1958年、大阪府出身。音楽好きの家庭に育ち、小さいころからバイオリンを習い、家にあるピアノを弾いたりしていた。ビートルズの劇場アニメ『イエローサブマリン』に出会ったのが14歳のとき。ビートルズの歌よりもジョージ・マーティンが手がけたロックサウンドの劇中音楽に衝撃を受けた。「こんな音楽を作る作曲家になりたい!」と決意する。中学生時代から自分で歌うための曲を書くようになった。ロックに熱中し、バンド漬けの生活を送る。
 作曲もアレンジも独学。大阪でのバンド生活を経て、80年代に上京し、本格的に音楽家として活動を始めた。シンセサイザーの打ち込みの技術を生かしてCM音楽の作曲を手がけるようになり、約3年間で数百本を制作する。アレンジャー、サウンドプロデューサーとしてスピッツ、ユニコーン、ピチカートファイブ、小柳ゆきら数々のアーティストの作品に参加し、TV番組や舞台の音楽にも活躍の場を広げていった。
 『イエローサブマリン』に衝撃を受けたときから映像音楽に関心があった。1990年に発表したゲーム音楽のオーケストラアレンジ作品「交響詩 グラディオスIII」が注目され、1991年発売のOVA『超人ロック 新世界戦隊』の音楽担当に抜擢される。このときは脚本ができあがる前にイメージアルバムのように音楽を作り、それを映像にはめていく作り方だったそうだ。1992年公開の深作欣二監督の劇場作品『いつかギラギラする日』ではカーチェイスシーンの音楽をまかされた(メインの音楽担当は菱田吉美)。
 本格的な映像音楽の初仕事は1991年放送のTVアニメ『魔法のプリンセス ミンキーモモ[第2作]』だ。岡崎律子が作曲した主題歌のアレンジを担当することになり、打ち合わせに行くと、劇中音楽の作家がまだ決まっていないという。「ぜひやりたい」と手を上げた。『ミンキーモモ』の音楽は好評をもって迎えられ、長谷川にとっても、さまざまな音楽を要求されるアニメ音楽なら自分の音楽の引き出しが生かせるという手ごたえがあった。
 以来、『元気爆発ガンバルガー』(1992)、『みかん絵日記』(1992)、『熱血最強ゴウザウラー』(1993)、『愛天使伝説ウェディングピーチ』(1994)、『それゆけ!宇宙戦艦ヤマモト・ヨーコ[OVA第1作]』(1996)、『ごくせん』(2004)などのアニメ作品で活躍。『DearS』(2004)、『魔人探偵脳噛ネウロ』(2005)、『さよなら絶望先生』(2007〜2009)など、ちょっとクセのあるユニークな作品を手がけているのが印象的だ。現在は2018年4月から放送中の『ニル・アドミラリの天秤』の音楽を担当中。
 バンドに打ち込む若者たちを描く『NANA』の音楽は、バンド少年だった長谷川智樹にまさにぴったりの仕事だ。
 自身も大阪から上京し、バンドのデモテープを持っていろいろなところを回った経験があったので、バンドで成功を目指す若者の物語には共感するものがあったという(筆者がインタビューさせていただいたときにうかがった話)。
 『NANA』は等身大の青春群像を描く作品。対象年齢もやや高めだ。音楽もドラマ的なアプローチが求められた。長谷川智樹の作品の中でも珍しくファンタスティックな要素のない作品である。かといって、リアルなドラマ音楽に寄せるのではなく、ロックサウンドをメインに、ハモンドオルガンやヴィブラフォン、女声スキャットなどをフィーチャーしたヨーロピアンサウンドを取り入れて、おしゃれな雰囲気を加えている。シリアスな曲ばかりでなく、ユーモラスな音楽も登場するカラフルなサウンドトラックである。

 サウンドトラック・アルバムはバップから2枚発売された。1枚目は「NANA 707 soundtracks」のタイトルで2006年7月7日に、2枚目は「NANA 7 to 8 soundtracks」のタイトルで2006年12月21日に発売された。いずれも初回盤はDVDトールケースサイズのピクチャーブック仕様。オリジナルポストカードつき。プラスチックケースは使わず、ハードカバーの本にCDがつくスタイルになっている。ピクチャーブックにはアニメの本編カットをカラーでたっぷり掲載。コアなサントラファンがよろこぶ作品解説や音楽解説の類は一切ないという思いきった内容だ。アニメファン、サントラファン向けというより、原作を含めた『NANA』のファン向けのアイテムになっている。
 1枚目は1分から2分ほどの長さの曲を集めたオーソドックスなサウンドトラック。2枚目は3分から5分ほどの長い曲を集めた音楽アルバム。トラック数は1枚目が44トラック、2枚目が10トラックと大きく違う。
 実はこの2枚、コンセプトが異なるのだ。1枚目は普通のサントラだが、2枚目はサントラとして作られた曲をもとにアレンジをふくらませ、7人編成のバンドでセッション形式で録音したアルバム。長谷川智樹自身もギターとピアノを弾いている。この2枚目が面白く、聴きごたえがあるので紹介しよう。なお、2枚目の曲もちゃんと本編で使用されている。

  1. Good Morning
  2. Art School
  3. fan fan fan
  4. Friend
  5. Sad Song
  6. Seventh Heaven
  7. Lotus Heaven
  8. Trip Trap Drop
  9. Guitar & Cigarettes
  10. Memories

 本アルバムに限らず、サントラ盤の構成と曲タイトルは長谷川智樹が自身で考えているという(これもインタビューでうかがった話)。
 主題歌や挿入歌は入ってない。音楽だけで勝負! という意気込みを感じるアルバムだ。
 トラック1の「Good Morning」は曲名通り朝のイメージの曲。サントラ1枚目の1曲目が「一日の始まり」という曲なので、それと呼応する形にもなっている。バイオリンとピアノとアコースティックギターによる短いイントロからスタート。ギターのリズムに導かれてバイオリンが明るくさわやかな旋律を軽快に歌い出す。中間部からアコーディオン、バイオリン、ピアノが順にアドリブを披露。再びバイオリンのテーマに戻ってコーダへ。のびのびとした演奏に心地よい開放感が残る。バイオリンは中西俊博。ファーストデビューアルバム「不思議な国のバイオリン弾き」が10万枚を超すヒットとなり、国内外のアーティストと共演する国際的なバイオリニストだ。
 トラック2「Art School」はオルガンとアコースティックギターをメインにしたボサノバの曲。曲名は奈々の彼氏・章司が通う美術学校のイメージだろうか。サントラ1枚目の「穏やかな朝」という曲をアレンジしている。アドリブをまじえたオルガンの演奏がおしゃれで、フレンチジャズかフランス映画音楽のような雰囲気が漂う。オルガンとピアノは佐藤代介。「太陽にほえろ!」の大野克夫のオルガンに魅了されてこの道に進んだというハモンドオルガン奏者で、2007年から2011年まで大野克夫バンドのメンバーとして『名探偵コナン』のサウンドトラックに参加していた。
 トラック3「fan fan fan」はイントロこそ優雅に始まるが、すぐにアップテンポのユーモラスな曲調になる。バイオリンとアコースティックギターとアコーディオンのアンサンブル。サントラ1枚目の「ハチ公」「進めハチ!」「おくれるよー!」といったコミカルな曲のモチーフと雰囲気を受け継いでいる。バイオリンと掛け合いを演じるアコーディオンのアドリブが聴きもの。アコーディオンはパリのジャズ専門学校“C.I.M.Ecole de Jazz”でジャズアコーディオンを学んだ佐藤芳明。佐藤は『ハウルの動く城』『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語』などのサントラにも参加している。
 にぎやかな曲のあとのトラック4「Friend」は、アコースティックギター2本が奏でる穏やかな曲。サントラ1枚目に収録された「恋するハチ」「逢いたいよ」「思い出」などに共通するモチーフをアレンジした曲だ。曲の後半はクラビオーラがメロディを奏し始める。クラビオーラは鍵盤ハーモニカのような楽器だが、音を出す部分がパンフルートのようになっていて、ほのぼのとした素朴な音がする。夕焼け空が目に浮かぶような、心が温かくなる曲である。クラビオーラの演奏も佐藤芳明。
 トラック5「Sad Song」はバイオリン、ピアノ、アコーディオンが奏でる悲しみの歌。サントラ1枚目でピアノをメインに演奏されていた悲哀曲「一人部屋の中で」「切なくて」のメロディがベースになっている。ここではバイオリンが主旋律を受け持つアレンジ。エモーショナルだがセンチメンタルにならず、ほのかに情熱を感じさせる曲に生まれ変わっている。
 次のトラック6「Seventh Heaven」で雰囲気は一転、エレキギターとハモンドオルガンが活躍するアップテンポのロックになる。ディープ・パープル「ハイウェイ・スター」を彷彿させる疾走感たっぷりのサウンドが爽快だ。タイトルの「Seventh Heaven」とは第七天、天使の住むところとされる天国の最高階層のことだが、ここではもちろん「NANA」とかけてあるのだろう。エレキギターは長谷川智樹。この曲を聴くだけで、長谷川のギターとロックへの傾倒が半端ないものであることがわかる。
 トラック7「Lotus Heaven」はミディアムテンポのブルージーなロック。エレキギターが繰り返すフレーズはサントラ1枚目の「ハチ公」「進めハチ!」などに登場するハチ(奈々)のモチーフだ。ギター、ドラムス、ベース、オルガン、パーカッションなどが絡み合い、本アルバムの中でも一番の熱いセッションが展開する。ベースは菅野よう子のレコーディングの常連でもある渡辺等。ドラムスはロックバンドORIGINAL LOVEで活躍したのち、松任谷由実、KinKi Kids、吉田拓郎ら数々のアーティストのライブやレコーディングに参加した宮田繁男。宮田は惜しくも2014年に55歳の若さで逝去している。
 トラック8「Trip Trap Drop」では深いエコー(リバーブ)のかかったサウンドが夢の中をさまようような雰囲気をかもし出す。ベースになっているのはサントラ1枚目の「ナナの過去」という曲。原曲よりも暗く、重いサウンドにアレンジされて、ナナが胸の奥に秘めた情念を映し出す。ディストーション気味のエレキギターが奏でる物憂いメロディとともに、心のざわめきを伝えるようにインサートされるパーカッションの音が印象的だ。パーカッションは菅原裕紀。20歳で高中正義バンドに参加したのち、数々のスタジオレコーディングやステージサポートで活躍。川井憲次の『GHOST IN THE SHELL』『INNOCENCE』などのレコーディングにも参加しているパーカッショニストだ。
 トラック9は淡々としたピアノソロから始まる「Guitar & Cigarettes」。ドラムス、ベース、オルガンなどが加わり、ミディアムテンポのバラードになる。ピアノが繰り返すフレーズはやるせなく、持って行き場のない悲しみや苛立ちが伝わってくる。『NANA』の物語の中でも、心がぎゅっとつかまれるような切ないシーンが思い出される曲だ。
 トラック10の「Memories」はアコースティックギターをバックにしたクラビオーラのやさしい旋律が胸に沁みる曲。サントラ1枚目の「一番大切なもの」をアレンジした曲である。平和な情景が目に浮かぶ曲調だが、曲名は「思い出」。登場人物が胸に抱いた思い出をイメージした曲とも受け取れるが、『NANA』の物語全体が過去を振り返る形で語られていることを考えると、『NANA』の物語を過ぎ去った日々として回想する愛惜を込めた曲なのかもしれない。ノスタルジックな曲調の中にしみじみとした心情がにじむ曲だ。
 アルバムの前半は比較的ポップなタッチ。後半になるとロック色が強くなって雰囲気が変わるのが面白い。アナログレコードだったら5曲目までがA面で6曲目以降がB面になるところ。アナログ盤で聴いてみたくなる味わいのある構成である。

 もともと『NANA』の音楽はサントラ1枚目「707」もクオリティが高かった。ただ、1曲1曲が短く、「もっと長く聴いていたいな」と思う曲が多かった。2枚目の「7 to 8」はその思いに応えてくれたアルバムだ。
 長谷川智樹によれば、「7 to 8」は「2枚目は遊んでみよう」というコンセプトで作ったのだそうだ。譜面は簡単なものしか作らず、セッションしながらミュージシャンたちと現場で作り上げていった。「その遊んでる感じが、すごく『NANA』の世界に合っていた」と語ってくれたのが印象に残っている。ロック少年、バンド少年だった長谷川智樹が自身の原体験をベースに、『NANA』の世界で遊んでみた1枚。これは、『NANA』という作品を外から表現したサントラではなく、『NANA』の世界に飛び込んだミュージシャンたちが思いきり音楽を楽しんだセッションの記録なのである。

NANA 707 soundtracks
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NANA 7 to 8 soundtracks
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153 アニメ様日記 2018年4月29日(日)~

2018年4月29日(日)
早朝に新文芸坐に戻ると、オールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 102 湯浅政明の『カイバ』」の終盤で、客席の後ろで上映を観る。映像に関しても、内容に関しても、この作品はオールナイトに向いていると思った。
 オールナイトの後は、イベントのために『新ルパン』を視聴。視聴しながら、ペーパーのテキストを書く。朝倉隆さんの作監で、絵柄が『旧ルパン』『カリ城』寄りになるのは担当話数の全てではなく、特定話数のみのようだ。具体的に言うと、142話「グランドレース 消えた大本命」と152話「次元と帽子と拳銃と」が『旧ルパン』『カリ城』寄りだ。

2018年4月30日(月)
引き続き『新ルパン』を観ながら、ペーパーのテキストを書く。『新ルパン』の全話解説を書くのはこれで三度目。前の解説で、あるエピソードについて「オチの決まり方が見事」と書いたのだが、改めて観ると、画的にはかっこいいんだけど、オチがよくわからなかった。今回は「オチが見事」とは書かなかった。ペーパーのテキストでは、トークの内容にあわせて流行歌ネタやCMネタをなるべく拾うようにした。

2018年5月1日(火)
誕生日を迎えて54歳になった。毎年、思うのだけど、この一年も仕事を続けることができて本当によかった。これからの一年もよろしくお願いします。ペーパーのテキストを仕上げた後は、取材の予習で『さくら荘のペットな彼女』の前半を観る。夕方は、ちょっと誕生日らしい食事を。

2018年5月2日(水)
『さくら荘のペットな彼女』の後半を観る。後半は作り手のキャラクターに対する愛着が色濃く、それが作品の魅力に繋がっている印象だ。

2018年5月3日(木)
ユナイテッド・シネマとしまえんで「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」を観る。IMAX3D、字幕での鑑賞だった。評判がよかったので期待を上げすぎていだけど、凄い映画であるのは間違いない。キャプテン・アメリカのいつものコスチュームと、ハルクの変身と、アイアンマンの新装備と、アベンジャーズ勢揃いじゃないのは、次回作にとってあるんだろうなあ。

2018年5月4日(金)
昼から、トークイベント「第145回アニメスタイルイベントアニメ様のアニメ語りvol.2」を開催。第一部の『新ルパン』についてのトークで、大きなテーマとして挙げたのが以下の項目。

1 全155話の人気シリーズ(本数でカウントすると、全アニメ『ルパン三世』の半分くらいが『新ルパン』)
2 『新ルパン』はパラエティ番組である
3 偉大な前作『旧ルパン』との複雑な関係
4 内容的にもアニメーションとしても、バラエティに富んだ作品(2の「バラエティ番組」とは別の意味)。おそらくアニメ史において空前絶後
5 『新ルパン』の傑作5本と『旧ルパン』の傑作5本を並べたら決して負けていない
6 監督がいない作品であった
7 テレコム・アニメーションフィルムの存在
8 青木悠三と浦沢義雄と「ブロードウェイシリーズ」
9 ビジュアリスト・石原泰三(三家本泰美)の存在
10 高畑順三郎の名前を覚えてほしい

 トークの途中で「前番組『元祖天才バカボン』との関係」についても話したほうがいいと気づいて、追加した。駆け足で、なおかつ予定時間を超過したけれど、話したいことは大体話せたはず。いつものお客さんだけでなく、『新ルパン』ファンの方も来てくれて、さらに「もっと『新ルパン』の話を聞きたかった」と言ってくれた人もいたようだ。ありがたい。イベント準備の過程で、いかに自分が『新ルパン』が好きなのかも再確認できた。

2018年5月5日(土)
徳島へ。マチアソビ二日目に参加。丸山正雄さんのトークを見る。楽しいイベントだった。

新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol.103
岩浪音響監督ワンナイト・センシャラウンド! 一夜限定東亜重音!! エクストリームブースト!!!

 2018年5月26日(土)に開催するはオールナイトは「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol.103 岩浪音響監督ワンナイト・センシャラウンド! 一夜限定東亜重音!! エクストリームブースト!!!」。昨年10月の企画に続き、様々な作品を手がけ、ファンを魅了し続けている岩浪美和音響監督の特集だ。

 上映作品は『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』『BLAME!』『ガールズ&パンツァー 劇場版』の3本。前回同様に、岩浪音響監督に新文芸坐の上映設備にあわせた音響のセッティングをしていただく予定だ。トークコーナーのゲストは、岩浪美和音響監督、『BLAME!』の瀬下寛之監督、吉平“Tady”直弘副監督を予定。前売り券は5月12日(土)から新文芸坐窓口とチケットぴあで発売となる。

新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol.103
岩浪音響監督ワンナイト・センシャラウンド! 一夜限定東亜重音!! エクストリームブースト!!!

開催日

2018年5月26日(土)

会場

新文芸坐

料金

一般2600円、前売・友の会2400円

トーク出演

岩浪美和、瀬下寛之、吉平“Tady”直弘、小黒祐一郎(司会・アニメスタイル編集長)

上映タイトル

『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』(2017/119分/DCP)
『BLAME!』(2017/105分/DCP)
『ガールズ&パンツァー 劇場版』(2015/120分/DCP)

備考

※オールナイト上映につき18歳未満の方は入場不可
※トークショーの撮影・録音は禁止

●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

第560回 時間がない!

 本日は、いきなり時間がないので、まず告知。GW中にマチ☆アソビで発表された、現在鋭意制作中の新作、

『ユリシーズ〜ジャンヌ・ダルクと錬金の騎士』今秋放映予定!!

原作は春日みかげ先生の手になるラノベと呼ぶにはあまりに濃すぎる小説。ジャンヌ・ダルクを始め登場人物の多くは実在した人なので、なんだか半分世界史の勉強をしているような気分。そしてもう半分は美少女とおっぱいでコンテ切ってます。今回も『ベルセルク』『Wake Up, Girls! 新章』同様、ほぼ全話コンテやってて、

現在第9話のコンテ中!

『WUG! 新章』のパッケージリテイクとまるまる同時進行の中で、毎週コンテはなかなか大変です(汗)。なにせ毎日20〜30カットの原画チェックとT.P(動画・仕上げ)チェックをこなしつつの週一コンテは日々ギリギリ。少々遅れつつも6月中旬には最終話まで駆け抜ける予定! 順番が前後しましたが、『ユリシーズ』の脚本は金月龍之介さん。自分とは『ヴァンキッシュド・クイーンズ』(OVA・全4巻)でご一緒しました。金月さんの脚本は、構成がしっかりしていてコンテが切りやすいので、非情に助かってます! あと音楽の岩崎琢さんとは、板垣の初監督『BLACK CAT』、『ベン・トー』に続き、今回も「やっていただけないと困る!」と電話でオファーして実現しました!

第146回アニメスタイルイベント
僕たちのアニメ雑誌

 2018年6月3日(日)に開催するトークイベントは「第146回アニメスタイルイベント 僕たちのアニメ雑誌」。ゲストは日本テレビのプロデューサーで、かつてアニメージュ編集部で編集者を務めていた高橋望。自身のアニメ雑誌体験や、アニメ雑誌への想いを語っていただく予定だ。創刊40周年を迎える「月刊アニメージュ」についての話題が中心となるはずだ。他のゲストも決まり次第告知する。アニメージュとニュータイプで編集長を務めた渡邊隆史、元アニメージュ編集長の松下俊也にも出演していただけることになった。

 会場は阿佐ヶ谷ロフトA。今までのイベントと同様に、トークの一部を「アニメスタイルチャンネル」で配信する。前売り券は2018年5月12日(土)から発売開始。詳しくは以下のリンクの阿佐ヶ谷ロフトAのページを見てもらいたい。また、会場ではアニメスタイルの関連書籍を販売する。

■関連リンク
アニメスタイルチャンネル
http://ch.nicovideo.jp/animestyle

阿佐ヶ谷ロフトA
http://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/88952

第146回アニメスタイルイベント
僕たちのアニメ雑誌

開催日

2018年6月3日(日)
開場12時00分 開演13時00分 

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

高橋望、渡邊隆史、松下俊也、小黒祐一郎(司会)

チケット

前売1500円 当日1800円(共に飲食別・要1オーダー)

■アニメスタイルのトークイベントについて

 会場となる阿佐ヶ谷ロフトAはトークライブができる居酒屋。入場料(今回は前売1500円、当日1800円)とは別に飲食(最低でもドリンク1杯)をお願いしている。ソフトドリンクもあるので、未成年の方でも大丈夫。 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものだ。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていないし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれない。その点は、あらかじめお断りしておく。

152 アニメ様日記 2018年4月22日(日)~

2018年4月22日(日)
トークイベント「辻田邦夫 生誕55周年記念 色彩設計スペシャル再び」に司会で参加。内容については辻田さんにお任せで、基本的に自分の仕事はスケジュールの管理。終了時間が大幅に超過しないように気をつけた。イベント中にある方に「作品企画をやりませんか」と振られたのは嬉しいけれど、実際にできるのだろうか。

2018年4月23日(月)
イベントにそなえて、先週末から『新ルパン』を視聴をしている。DVDBOXの解説書で全話解説を書いた時に何度か観ているので、1話から順に観るのは最低でも5回目のはず。DVDBOXの解説で全話を観たときよりもずっと楽しい。本放映時に「ちょっとなあ」と思ったところも、今では魅力だと思える。単に子供っぽいと思った話も、キッチュな感じを狙った話ではないかと思えたり。

2018年4月24日(火)
描きおろしイラストのラフを描く。iPad Proのおかげで、イラスト発注のラフを描くのが楽になった。『新ルパン』の視聴が続く。

2018年4月25日(水)
『新ルパン』の視聴が続く。オールナイトで使うために『カイバ』のサントラを探したら、DVDの1巻に同梱されていたのね。一度、サントラを聴いてみたかったので、AmazonでDVDを購入。『新ルパン』のサントラ(オンエア時にレコードとして発売されたもの)って、発売中のCDはリマスター版で、しかも、ボーナストラックがついているのね。知らなかった。こちらもイベントの休憩時間に流すためにサントラの「2」を購入。

2018年4月26日(木)
『新ルパン』の視聴が続く。こうやって書いていると、他の仕事をしていないみたいだけど、やっていますよ。現行作品の録画の消化は遅れています。

2018年4月27日(金)
『新ルパン』の視聴が続く。それはそれとして、打ち合わせ4本立て。1本目はネットでの活躍を目にしていたライターさん。2本目は定例の書籍打ち合わせ。3本目は西武新宿線方面でアニメーターさんと打ち合わせ。4本目は地方在住の編集さんとの打ち合わせ。4本目の打ち合わせで、世間話から政岡憲三さんの話題となり、編集さんが見たことがないというので『くもとちゅうりっぷ』の動画を見てもらい、さらに「政岡憲三『人魚姫の冠』絵コンテ集」に目を通してもらう。編集さんは「『人魚姫の冠』絵コンテ集」に感銘を受けていた模様。

2018年4月28日(土)
『新ルパン』の視聴が続く。午後はオールナイトの予習で『カイバ』を1話から観る。久しぶりの視聴なので、新鮮だった。ネットで、羽原さんがジーベックの代表取締役社長となることを知る。驚いた。夜はオールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 102 湯浅政明の『カイバ』」開催。放映がWOWOWで、当時は決してメジャーではなかった『カイバ』が、10年後のオールナイトで満員になったのが嬉しい。

151 アニメ様日記 2018年4月15日(日)~

2018年4月15日(日)
「ここまで調べた『この世界の片隅に』京都上洛編」で聞き手を務めるため、日帰りで京都に。ファンの方が企画したイベントだが、イベントスタッフの方達がしっかりと仕切っていた。「ここまで調べた『この世界の片隅に』」もこれが最後。片渕さんは、今までのイベント触れていなかったある話題にも触れて、それと関連してロケハン動画の公開もあった。普段の阿佐ヶ谷ロフトAのイベントが休憩込みで3時間。こちらは休憩を入れないで3時間半(トークが3時間半で休憩が30分)なので、普段のスピード感でやると、ちょっと時間があまる。終盤はちょっとのんびりとした進行となった。自分で企画したイベントではないので、聞き手をやるだけで交通費を出してもらい、出演料をもらっていいのかと思ったのだけれど、一応、責任は果たせたかなと思う。
 イベントの楽屋にある方がいらして、これから出す書籍についての打ち合わせ。小黒がこのイベントに出ると知って、京都までいらしたらしい。ええっ、マジですか。普段はお互い東京にいるんだから、東京で打ち合わせしたほうがよかったんじゃないですか。世の中、不思議がいっぱいだ。

2018年4月16日(月)
仕事の合間にササユリカフェ。「プリンセスチュチュ展・15年目の復活祭(イースター)~Ostern im 15. Jahr~」の最終日を少しだけのぞく。貴重な資料が山盛り。伊藤さんの画をたっぷり見ることができた。特に初期デザインがよかった。

2018年4月17日(火)
事務所近くのコンビニが「あんさんぶるスターズ!」のラッピング店舗になっていた。同店舗でのキャンペーンとしてもかってないほど大がかりで、店の外も内部も「あんさんぶるスターズ!」だらけ。しかも、店に入るとキャラクターの声がランダムに鳴って挨拶してくれるという徹底ぶり。
 午後に3月いっぱいで退社したスタッフが、荷物の整理で事務所に。入社時に貸した2000年の「アニメスタイル」第1号と第2号を記念に差し上げた。

2018年4月18日(水)
取材の予習で『ハナヤマタ』を全話観る。『宇宙よりも遠い場所』を観た後だと、いろんな事がわかるような気がする。辻田邦夫さんとイベントの打ち合わせ。盛り沢山で、予定した時間に収まるかどうかが心配。

2018年4月19日(木)
午前2時20分に事務所へ入ってデスクワーク。池袋から徒歩で新宿に行って、新宿ピカデリーの8時40分からの回で『文豪ストレイドッグス DEAD APPLE』を観る。徒歩で池袋に戻る。打ち合わせをはさんで、夕方までテキスト作業。早めの晩飯。またデスクワーク。早めに帰宅。

2018年4月20日(金)
午前3時20分に事務所へ入ってデスクワーク。池袋から徒歩で新宿に行って、バルト9の8時40分からの回で「レディ・プレイヤー1」を観る。盛り沢山で熱量が凄いうえに、バランスもいい。特に印象的だったのが登場人物のひとりであるジェームズ・ハリデーの自己愛と自己肯定の強さ。僕にとって、その意味で猛烈なオタク映画だ。しかも、それが嫌味でもなければキモくもない。ガンダムが出ることは知っていたけど、出撃時のあのセリフには笑った。
 12時からフリーの編集さんと打ち合わせ。16時半から単行本打ち合わせ。19時から新宿で主にイベントの打ち合わせ。12時からの打ち合わせでは本題から外れて『リズと青い鳥』を、19時からの打ち合わせでもやっぱり本題から外れて『さよならの朝に約束の花をかざろう』を熱く語ったような気がする。

2018年4月21日(土)
渋谷HUMAXシネマの13時10分からの回で『リズと青い鳥』を観る。完成披露上映会に続いて二度目の鑑賞だった。改めて感想を書くと、映像だけでなく、ドラマもいい。いや、ドラマと映像を分けて語るのはこの作品に関しては適切でない。映像が心情を物語り、ドラマが映像に溶け込んでいる。演出、画作りにおいて、現在のアニメーションの最先端のひとつであるのは間違いない。

第130回 ジャングルへようこそ 〜ジャングルはいつもハレのちグゥ〜

 腹巻猫です。5月4日(金)開催のまんだらけ主催「資料性博覧会11」に委託参加します。「THE MUSIC OF YAMATO 1974 〜宇宙戦艦ヤマト(1974)の音楽世界〜[第2版]」を30部だけ置かせてもらいます。委託本コーナーでどうぞ。

「資料性博覧会11」公式サイト
https://mandarake.co.jp/information/event/siryosei_expo/


 ゴールデンウィークど真ん中の更新となった今回。せっかくなのでバカンス的な作品を紹介しよう。常夏のジャングルでユニークなキャラクターたちが駆けめぐる『ジャングルはいつもハレのちグゥ』でどうでしょう。

 『ジャングルはいつもハレのちグゥ』は2001年4月から同年9月まで全26話が放送されたTVアニメ作品。金田一蓮十郎の同名マンガを原作に、のちに『おおきく振りかぶって』(2007)、『侵略!イカ娘』(2010)、『ガールズ&パンツァー』(2012)などを手がける水島努監督が映像化。アニメーション制作はシンエイ動画が担当した。
 舞台はどことも知れぬジャングル。マイペースな母親ウェダと暮らす少年ハレの家に、色白で小柄な少女グゥがやってくる。初対面のときは可愛い表情を見せていたグゥだが、一夜明けると無愛想で別人のような顔に。シニカルで毒のある言動でハレをたじろがせる。人間を丸呑みにしたり、体内に異世界を持っていたりと、人知を超えた能力があるらしい。グゥの登場をきっかけにジャングルでは次々と奇妙な騒動が巻き起こる。
 正体不明のグゥのキャラクターが強烈だ。舞台となるジャングルも奇妙な生きものが跋扈する不思議な世界(B・W・オールディス「地球の長い午後」か筒井康隆「メタモルフォセス群島」みたいだ)。いっぽうでハレが住む村ではTVや冷蔵庫などの電気製品がふつうに使える。突っ込んではいけないのだろうが、文明生活がどうやって維持されているかは謎だ。シュールでSFっぽい世界観がクセになるギャグアニメである。TVアニメ終了後、OVAシリーズが2作、作られた。
 ギャグアニメの音楽というと、音楽もコミカルタッチにするか、逆にシリアスに寄せてギャップの面白さを押し出すか、ふたつの方向性がある。
 本作は前者。コミカルというよりも、なんとも不思議で奇妙な音楽が全編を彩っている。そこにスパイスのようにシリアスな音楽が加わり、『ハレのちグゥ』の独特の空気感が創り出されている。
 音楽は多田彰文が担当した。

 多田彰文は兵庫県出身。音楽の道に進んだきっかけは小学生の頃から通ったピアノ教室だった。中学時代にギターを始める。中学ではブラスバンド部にも所属してトロンボーンを演奏。この頃から譜面作りを始めた。高校時代はブラスバンドでサックスを担当。そのかたわら、バンドでギターを弾いてフォークソングを作ったりしていた。
 高校卒業後上京し、アルバイトをしながらプロの音楽家への道を模索した。音楽事務所に送ったデモテープがスタッフの目に止まり、プロとしての第一歩を踏み出す。同じ事務所にいた辛島美登里のコンサートのバックミュージシャンとして4年ほど全国ツアーに同行。それが一段落したあと、好きな英語を究めたいという思いから日本大学文理学部英文学専攻科に入学するも、音楽の仕事が忙しくなって中退してしまった。以降は、さまざまな歌手・アーティストのツアーサポートや編曲、サウンドプロデュースなどで活躍。アニメーション・ドラマ・劇場作品・ゲーム等の音楽も手がけるようになった。
 アニメ音楽の代表作にTVアニメ『FF:U 〜ファイナルファンタジー:アンリミテッド〜』(2001/浜口史郎と共作)、『キャプテン翼』(2001/岩崎文紀と共作)、『ヤミと帽子と本の旅人』(2003)、『サムライガン』(2004)、『スキップ・ビート!』(2008)、『クロスファイト ビーダマン』(2011)など。劇場版『ポケットモンスター』シリーズ、劇場版『クレヨンしんちゃん』シリーズの音楽にも参加している。歌ものではTVアニメ『ああっ女神さまっ』(2005〜2006)のエンディング主題歌「願い」「僕らのキセキ」、『ポルフィの長い旅』(2008)のオープニング主題歌「ポルフィの長い旅」、『魔法使いプリキュア』(2016)のエンディング主題歌「CURE UP↑RA?PA☆PA! 〜ほほえみになる魔法〜」などを作曲。特撮ファンにとっては、TVドラマ「ウルトラQ dark fantasy」(2004)の音楽も重要だ。
 手がける作品はSF・ファンタジーからスポーツ、ギャグ、日常ものまで幅広く、キーボード、ギター、ベース、木管・金管楽器、バイオリン、パーカッションなどの楽器演奏や指揮もできるというマルチプレーヤー。まさに音楽の仕事人という感じの音楽家である。
 『ジャングルはいつもハレのちグゥ』の監督・水島努は音楽を依頼するにあたって、不思議なジャングルの感じを出すために、あえてわかりづらい音楽を注文したという。うれしいとか悲しいとか、感情や情景が見えやすいものよりも、ジャングルの中でいつも鳴っているような音楽を作ってほしいと。
 どこかわからないけれど、確かにどこかにあるジャングル。そこで鳴っている音楽は、なんとも形容しがたい、ユニークな音楽になった。コミカルになりすぎず、じわじわと不思議でおかしい雰囲気をかもしだす。そのさじ加減が実にうまい。
 本作のサウンドトラック・アルバムは2001年7月に日本コロムビアから「音楽もいつもハレのちグゥ」のタイトルで発売された。収録曲は以下のとおり(曲名の後ろにBGMのMナンバーを補った)。

  1. LOVE・トロピカーナ(歌:Sister MAYO) ※「・」=ハートマーク
  2. 密林(ジャングル)(M-14/M-15/M-28A)
  3. ハレのテーマ(M-1/M-12)
  4. グゥのテーマ(M-2/M-3/M-16)
  5. 学校(M-13)
  6. ジャングルの仲間たち(M-4/M-5/M-5B/M-6/M-7/M-8)
  7. 胸毛(M-9)
  8. 散髪屋のババア(M-11)
  9. サスペンスいっぱい(M-17/M-20/M-21/M-23/M-26AB/M-27)
  10. うきうき、晴ればれ(M-30A/M-36)
  11. 南国の涼風(M-33)
  12. バースデイ(M-35)
  13. 再会(M-37)
  14. 逃げろ逃げるんだ!(M-38A/M-39A)
  15. 不思議なジャングル(M-10/M-42/M-51/M-31A)
  16. 「回想」「悲」(M-45/M-46)
  17. マリィの孤独(M-34)
  18. おやすみ(M-29A/M-43)
  19. ふしぎなジャングル(歌:ジャック・伝ヨール)
  20. ゲーム(M-47/M-48)
  21. 密林(ジャングル)の大人たち(M-49/M-49B/M-32/M-50)
  22. ハイクラス(M-52/M-53)
  23. サブタイトル(M-54/M-55)
  24. ソウルトレイン(M-56)
  25. のんびり晴ればれ(M-40AB/M-41AB/M-60A)
  26. おはし(歌:0930)

 1曲目はSister MAYOが歌うオープニング主題歌。平成アニメソングのヒットメーカー・小杉保夫の作曲。奇妙キテレツでテンションの高い世界観をみごとに表現した名曲だ。この路線はOVAでも踏襲され、歌詞とメロディを変えた主題歌「LOVE☆トロピカ〜ナ デラックス」「LOVE☆トロピカ〜ナ ファイナル」が作られた。
 サントラでは主題歌がTVサイズで収録されることが多いが、本アルバムはオープニング、エンディングともフルサイズ収録なのがうれしい。
 サウンドトラックのパートは1トラックに複数曲をまとめて収録するスタイル。構成・解説は浅野智哉が手がけている。曲順はストーリーの流れを追うよりも曲調重視。音楽的流れを優先したイメージアルバム的構成だ。
 トラック2「密林(ジャングル)」はタイトルどおりジャングルのテーマ。M-14はコミカルなリズムの上で不思議なメロディが踊る『ハレのちグゥ』らしい曲。やや牧歌的なM-15を挟んで、M-28Aはレス・バクスター的な曲想の雄大なエキゾティック・ミュージック。このトラックだけでも多田彰文の音楽性の幅広さが表れている。
 トラック3は本作の主人公ハレのテーマ。木琴のとぼけたリズムにクラリネットのメロディが重なるM-1は、ハレの明るさ、元気良さがユーモラスに描写された曲だ。M-12はウクレレがリズムを刻むのんびりした曲。常夏の雰囲気がよく出ている。
 トラック4は不思議少女グゥのテーマ。M-2はキラキラしたイントロから暖かいシンセのメロディに展開する、可憐な表情のグゥを表した曲。M-3は一転してパーカッション主体のちょっと不安な雰囲気の曲で無愛想な顔のグゥをイメージさせる。M-16はサーカス的な曲調でグゥの正体不明の不気味な面を表現。スクラッチノイズ風の音や生きものの声みたいな音もまじって、もう何がなんだかわからない。これがグゥなのだ。
 トラック5「学校」はハレたちの学校生活をイメージした明るく楽しい雰囲気の曲。ジャングルには立派な2階建ての学校も建っているのだ。
 トラック6「ジャングルの仲間たち」はジャングルに住む個性的なキャラクターや生きもののテーマを6曲まとめた、にぎやかなトラック。オルガンが活躍する60年代ロック風の曲やインドネシア音楽っぽい曲、笛の音が奏でる怪しく神秘的な曲などが次々登場して飽きない。最後のM-8は「アオ!」と男声スキャットが入るロック調の曲。こんな曲、『ハレのちグゥ』でなければ考えられない。
 長老をイメージしたトラック7「胸毛」、霊能力のある散髪屋のダマばあさんをイメージしたトラック8「散髪屋のババァ」など、ユニークなキャラクターのテーマはまだまだ続く。
 トラック9「サスペンスいっぱい」は映画音楽的な楽曲を集めたトラック。1曲目のM-17は第1話冒頭などウェダの過去がらみの場面でよく使われたピアノ曲だ。
 続くトラック10「うきうき、晴ればれ」にはトロピカルムードいっぱいの明るい曲が集められている。トラック11「南国の涼風」とともに、刺激的な曲が続いたあとにほっとひと息つける構成である。
 トラック13「再会」は本アルバムの中では珍しくシリアスでメロディアスな曲。第5話でハレが実の父親を初めて知る場面や第14話でハレがウェダから実家を出た理由を聞く場面、最終回でウェダが母親(ハレの祖母)と再会する場面などで流れた感動的な曲である。
 しっとりした雰囲気のあとは、追っかけのドタバタを描写するトラック14「逃げろ逃げるんだ!」、スペイン風、中国風、和風、クリスマス音楽風など、色とりどりの楽曲を集めたトラック15「不思議なジャングル」と、またにぎやかな曲が続く。
 次のトラック16「「回想」「悲」」は弦合奏によるクラシカルな情感曲M-45とビブラフォンとオカリナ、弦楽器による切ない曲M-46の2曲で構成。オルゴールが奏でるトラック17「マリィの孤独」とトラック18「おやすみ」が続いて本アルバム第2のひと息ポイントとなっている。本作は意外にシリアスなキャラクターの心情が描かれる場面もあり、そんなときにこうした曲が活躍していた。
 水島監督の歌詞をジャック・伝ヨールが作曲・編曲し、自ら歌ったトラック19「ふしぎなジャングル」は、本作のシュールな雰囲気を伝えるエキセントリックな歌。ジャングルの不思議な生き物「ポクテ」の名が連呼され、間奏では謎の声や動物の鳴き声があちこちから聴こえてくる。摩訶不思議なジャングルに迷い込んだ気分になる歌だ。これも『ハレのちグゥ』でなければ考えられない楽曲である。
 第1話などでハレが遊んでいたTVゲームの音楽(ジャングルにはTVゲームもあるのだ!)がトラック20「ゲーム」。ちょっとチープなゲームサウンドが再現されている。
 トラック21「密林(ジャングル)の大人たち」は艶めかしいサックスやピアノが奏でる音楽を集めたトラック。ほかのトラックに比べてぐっと大人っぽい曲調で雰囲気が変わる。これもまた多田彰文の音楽性の幅広さを伝えるトラックだ。ウッドベースがリズムを取るジャズタッチのM-50がいい。
 次のトラック22「ハイクラス」にはクラシカルで優雅な雰囲気の曲がまとめられている。
 トラック23「サブタイトル」はパーカションだけのアフリカンな曲M-54とスネアドラムだけのM-55の2曲で構成。実際は本作には決ったサブタイトル音楽はなく、本曲はハレたちがジャングルの中を進む場面やグゥの奇矯な行動の場面などに流れていた。
 トラック24「ソウルトレイン」はタイトルからイメージされるとおりのディスコチューン。第3話でアフロのかつらをかぶって踊るグゥの姿(天井にはミラーボール!)が思い出される。
 サウンドトラック・パートを締めくくるトラック25「のんびり晴ればれ」はとぼけた曲調の音楽を集めたトラック。ミュートトランペットとファゴットの音色が奏でるのんびりムードのM-40AB、オルガンとシンセのメロディが軽快なM-41A、怪しい木琴のリズムと愛らしい笛の音の組み合わせでジャングルの日常を描写するM-41B、ラストはトロピカルではじけた曲調の次回予告音楽M-60Aという構成。ハッピーエンド……とは言いきれないけれど、大騒ぎもひとまずおしまい。そんな雰囲気のトラックである。
 エンディング主題歌「おはし」は、2000年にデビューした女性2人の音楽ユニット「0930(オクサマ)」が歌うタイアップ曲。第20話の雪合戦の場面で挿入歌として使用されている。いい歌なのだが、あまり作品には合ってなかったのが惜しい。でも、筆者はこの曲で0930の名を覚えました。

 コミカルな作品は音楽作りもアルバム作りも難しい。楽曲はともすればやかましく品のない音楽になりがちだし、いろいろなタイプの曲が作られるのでアルバムもバラバラの曲を並べたような統一感のないものになりがちだ。
 けれども本作は、“不思議なジャングルで鳴っている音楽”というコンセプトで音楽を統一することで、ひとつの世界を完成させている。ユーモラスだけれど、オチがつくようなわかりやすいコメディではなく、背後に暗い闇がひそんでいるようなちょっとブラックでシュールな笑いが、サウンドから伝わってくる。水島監督が望んだ「わかりにくい音楽」の効果である。部屋で目を閉じて、この音楽に浸って欲しい。そこはもう、『ハレのちグゥ』のジャングルだ。

音楽もいつもハレのちグゥ
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【ARCHIVE】 「この人に話を聞きたい」
第24回 吉松孝博


●「この人に話を聞きたい」は「アニメージュ」(徳間書店)に連載されているインタビュー企画です。
このページで再録したのは、2000年10月号掲載の第二十四回のテキストです。




この10年間、『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』、劇場『スレイヤーズ』、『TRIGUN』、『十兵衛ちゃん』と、間断なく人気作のキャラクターデザインを担当し、その一方でゲーム誌やアニメ誌で痛快なマンガを発表し、カルト的な人気を得ている彼。「特殊アニメーター」という肩書きで、ヘンテコな原画を描いていたりもする。マジメなのかフマジメなのか、腕がいいのかセンスがいいのか、なんとも正体がつかめない人物である。今月は、そんな彼の素顔に迫ってみよう。




PROFILE

吉松孝博(Yoshimatsu Takahiro)

 1965年(昭和40年)8月27日生まれ。大阪府出身。血液型はB型かO型。高校卒業後、スタジオライブに入社し、アニメーターとしての活動を始める。代表作は『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』、劇場『スレイヤーズ』(キャラクターデザイン・作画監督)『TRIGUN』、『十兵衛ちゃん』(キャラクターデザイン・総作画監督)、『風まかせ月影蘭』(総作画監督)等。サムシング吉松のペンネームでマンガ家としても活躍しており、『セガのゲームは世界いちぃぃ!!』(ソフトバンクパブリッシング)「週刊ドリームキャストマガジン」連載はカルト的な人気を集めている。

取材日/2000年8月23日 | 取材場所/東京・スタジオ雄 | 取材・構成/小黒祐一郎





―― え~と、それじゃあ、よろしくお願いします。

吉松 よろしくお願いします。さっき、撮影で缶ビールを2本飲んで、今、飲んでるこれで3本目なんだよね。あはは(笑)。いいですねえ、こういうインタビューも。

―― お酒、飲みながらで大丈夫?

吉松 大丈夫ですよ。普段も素面じゃやってませんから。

―― 普段から、酒飲んで仕事してるの?

吉松 いや、そういうわけじゃなくて(笑)。それくらいの勢いで、やっておりますという事でね。

―― 俺は吉松さんとは10年近いつきあいになるんだけど、実は、昔の話って訊いた事ないんだよね。そのあたりからいきたいんだけど、良い?

吉松 ええ、お任せします。

―― まず先に確認するけど、あなたの仕事の基本はアニメなの?

吉松 そうですね。やっぱり、基本はアニメーターですよ。「特殊アニメーター」、「特殊マンガ家」といった肩書きもあるけど、それはアニメーターである自分に付随しているものだよね。

―― じゃあ、「特殊アニメーター」の話は後回しにしてだね。そもそも、どうしてこの仕事をやろうと思ったわけ?

吉松 やっぱり、中学の頃に『ヤマト』とか、『ガンダム』とかの洗礼を受けまして、中学の時は、美術部に所属してアニメーションを作ったんですよ。美術部の部員だけだと人が足りなかったんで、周りからヘッドハンティングして、巻き込んで、それで、8ミリのアニメを作りまして。そこで作品を作り上げるという悦楽にですね、どっぷりと浸かってしまったのが事の発端というか。

―― 高校でも部活でアニメを?

吉松 中学の時は、別の高校に行ったりしてバラバラになっちゃったんですよ。だけど、付き合いはずっと続いてたんで、高校の頃にも中学の時の仲間と自主制作サークルという感じでやっていたんです。今度はセルアニメーションに挑戦してですね。

―― ああ、中学の頃はペーパーアニメだったんだ。

吉松 そうそう。それが例のDAICONの頃なんですよ(注1)。アニメ誌でDAICONの記事を読んで、素人でもセルアニメが作れるという事を知ったんです。ちゃんとしたセルじゃなくて、大きなセルを買ってきて自分達で裁断すれば、安く作る事ができるという事を知って。「うちらも工業団地までセル買いに行かなきゃ」という話になって(笑)。問屋へ行ってセルを買って、みんなで裁断して。で、どのサイズで切り取るかという問題がそこで発生したんです。確か、DAICONのアニメは、B5版ぐらいにセルを切ってたんですよね。そのくらいにしておけばよかったんだけどねぇ。うちらはB4版ぐらいで切ってたんですよ(笑)。

―― (爆笑)。

吉松 あれはねえ、やめたほうがよかったなぁ(笑)。

―― (笑)。そんなに大きいと絵の具が大変じゃない。

吉松 そうそう。1500枚ぐらい描いたんだけど。塗るのが大変でねえ。後々考えると、そのセルのサイズって、通常の……。

―― TVアニメより大きいね。B4っていうと、劇場アニメサイズだね。

吉松 あれは誤算だったなぁ。当時、メカとかわいい女の子が出てくるのが自主制作でも王道だったんですけどね。メンバーの中にそれに異を唱える者がいたんですよ。それで宇宙飛行士が出てくるやつを作ったんですよ。

―― 宇宙飛行士?

吉松 宇宙空間に二つの米ソの宇宙船があって、片やアポロからアメリカの宇宙飛行士が出てきて、片やソユーズからソ連の宇宙飛行士が出てきて、大気圏に突入するんですね。酸素ボンベは1コしかなくて、それで、どっちが勝つかっていう(笑)。生きてた方が勝ちという。

―― ああ、なるほど。酸素ボンベを奪い合う。その奪い合う様子を作画で見せるわけだ。

吉松 そうそう。ドンドン真っ赤に燃えて、煙が出てですね(笑)。

―― それで、ちゃんと完成したの?

吉松 した、した。

―― 高校時代に作ったのは、その一本だけなの。

吉松 高校の文化祭の時に、生徒会でもなんか出品しようという事になったんですよ。当時、僕は生徒会に出入りしてて、出入りと言っても放課後に行って、うだうだと遊んでただけなんですけど。それで生徒会の作品を、その自主制作サークルに協力してもらって作りました。これは実写で『地蔵人間カタイダー』という(笑)。馬鹿馬鹿しいヒーローもののパロディです。

―― 吉松さんは、生徒会の役員だったの?

吉松 役員ではなかったんです。

―― 毎日遊びに行ってるだけの人だったの?

吉松 そうそう。生徒会にいる謎の男(笑)。

―― で、高校卒業後、専門学校に行くわけだよね。

吉松 行かない、行かない。

―― いきなりスタジオライブに行っちゃうの?

吉松 そうそう。マンガ家の眠田直さんが、自主制作サークル仲間のひとりの先輩だったんですね。それで高校の時に、眠田さんに地元で葦プロのアニメのイベントがあるんで手伝ってくれって言われて。上映会&トークショーだったんですけど、その幕の緞張を上げたり下げたりとかのスタッフをやっていたんですよ。そのイベントの時に芦田(豊雄)さんと、わたなべひろしさんに会って。そん時にまあ、将来。スタジオライブに行けたらいいなあ~と思ったわけです。将来と言っても、すぐその後なんだけどね。

―― 当時のライブは『アラレちゃん』をやってる頃?

吉松 『アラレちゃん』と『ミンキーモモ』ですねぇ。

―― すでに、ゴーゴーな時期だ。

吉松 ええ。「アニメージュ」でも特集なんかが組まれていてですね。スタジオライブは楽しい職場みたいだから、行けたらいいなあと思っていたわけです。

―― で、具体的にどうやってライブへ。

吉松 芦田さんに話したら「とりあえず画が見たい」という事だったので。ルーズリーフにしこたま落書きを描いてですね、見せに行ったんですよ。

―― 東京まで持っていって。

吉松 ところが場所が分かんなくてね(笑)。アポも取らずに行っちゃって。電話帳で調べて、まあ、なんだかんだでライブに行く事はできたんだけど。行ったら、たまたま芦田さんがいなかったんで。とりあえず、その落書きだけ置いて帰っちゃったんです。その後、芦田さんから連絡があって、「来たければ来てもいいですよ」みたいな話になって。

―― 高校卒業して、そのままライブに行って、それですぐに『超獣機神ダンクーガ』に参加する事になるの?(注2)

吉松 そうなりますね。4月にライブに入って、秋口には『ダンクーガ』をやっていたんじゃないかな。

―― あれって、ライブのみんなでキャラデザインをしようみたいな感じだったんでしょ?

吉松 そうそう。芦田さん以外の人にもキャラデザインをやるチャンスを、みたいな企画だったんだと思うんですけどね。

―― と言いつつも、動画マンがTVシリーズのキャラデザインに参加するなんて前代未聞だよね。

吉松 そうだよねえ。しかも、三将軍のデスガイヤーとシャピロ・キーツを。未だに「スパロボ」に出てるんで、嬉しいんですけどね。

―― ああ、そうだね。大活躍してるね。

吉松 あのですね、当時の吉松は、凄い生意気だったと思うんですよ。

―― まあ、自分で言うのもなんだけどね(苦笑)。

吉松 僕が入った頃のライブは『バイファム』をやっていたんですよ。で、その後の作品の『ガラット』のキャラ設定を芦田さんが作りはじめて。それを見せてもらった時に僕は「ああ、やっぱり、こっちの方向に来ましたか」みたいな(笑)、そういう非常に生意気な事をベラベラと喋ったんですよ。そんな事があったから、芦田さんとしては「吉松を困らせてやろう」という考えがあって、僕に『ダンクーガ』のキャラデザインの仕事で声をかけたのかもしれない(笑)。

―― なるほどなあ。アニメーターになってからの印象的な作品は何になるの。

吉松 何だろう? 初原画は『ダンクーガ』でしたけど。『ハイスクール! 奇面組』が印象深いかなあ。その作品でギャグ作画っていうのを思う存分できたかなぁ、という感じで。

―― と言うと。

吉松 僕は『ハイスクール! 奇面組』には途中参加だったんですよ。それで、自分が参加するまでの話数を観ると、ギャグ作画とかがですね、非常にイカンと(笑)。まあ、そんな風に思ったわけですね。あれって、集団ギャグだからドリフターズみたいなギャグをイメージしていたんだけど、なんか違和感があってねえ。で、たまたま一番最初にやった回が、割とコンテ段階で内容を決め込んだ感じじゃなかったんで、そこでちょっと色々とやらかせていただきまして。

―― 愉快な作画をしたわけ?

吉松 愉快な作画ですねえ。頭身が低くなった奇面組の5人が唯を取り囲んで、なぜかツイストを踊るという(笑)。

―― (笑)。

吉松 それも2枚で(笑)。

―― 動画2枚のパカパカした動きの繰り返しで(笑)。

吉松 そうそう、2枚の繰り返しを2パターン使うから、計4枚なんですけどね。豪君とか無表情なんで、結構イイ感じのギャグになって。

―― 他にも『奇面組』では愉快な事をしたわけ?

吉松 今思うと非常に情けない話ですけど、大爆発が起こって画面の奥から、ばくはつ五郎が飛んでくるとかですね(笑)。(注3)

―― (爆笑)。ばくはつ五郎がそのまんま飛んでくるの?

吉松 そう。うろ覚えで描いているから、似てないんだよね。

―― ああ、なるほどね。ばくはつ五郎みたいなキャラが。

吉松 そうそうそう。画面に向かってウインクして去っていく。

―― ああ、なんか若気の至りだねえ。

一同 (爆笑)。

吉松 ええ、ええ。そんな事をやってましたよ。

―― 『奇面組』の臨海学校の話もライブがやっていなかったっけ。

吉松 オイラは臨海学校のヤツだと、スイカを切ってるところをやってる。スイカを切るところは結構、無茶をしてて。あれこそ若気の至りだよね。コンテにない事をやらせて下さいって言ってね。スイカをバラす技のバリエーションを色々いれて。1カットなんだけどね、「1カットじゃね~だろ、それ!」というものになってしまって(笑)。

―― (笑)。

吉松 1カットの中で、さらにカット割りをしまくったんですよ。背景を何枚も作って。

―― つまり、「カット100」だったら、カットの100A、カットの100B、カットの100C って、必要な背景を増やしちゃったんだ。勝手に内容変えちゃって、秒数も増えまくり?

吉松 増えまくり。秒数はね、さすがに演出の人が抑えて、少し縮まったんだけど。縮まったなりに、むちゃくちゃでしたけど(笑)。零君が南斗水鳥拳を使ったりね。

―― ああ、覚えているよ。あれは吉松さんがやったところなんだ。

吉松 そうそう。南斗水鳥拳でスイカを斬っちゃうんだよ。結構、そういう事をやらしてもらっちゃいましたね。

―― なるほどなあ。初作監は何になるの。

吉松 一番最初にやったちゃんとした作監は、『グランゾート』の最終回。

―― 『ワタル』と『グランゾート』で、美少年を描くのはどうだったの?

吉松 ああ。う~ん、そうですね……まあ、その辺は何ですかね? 芦田の血ですかね(笑)。

―― ライブで育っただけあって、無理せず描けたわけだ。

吉松 割とそっち系のスキルはあったのかな。虎王とかラビとかは楽しんで描けましたけどね。

―― 吉松さんのは、割と濃いめの画だったよね。

吉松 僕のはね、ほっぺたの感じとか、鼻のところの影とかは、当時、ふくやまけいこさんと今井ひづるさんが歌にするぐらいの(笑)。(注4)

―― なに、それ?

吉松 今井ひづるさんが歌ってたんだね。「えぐれほっぺ~、鼻の上に影~♪」とかなんとか。

―― 吉松さんの画の事を?

吉松 そうそう。100メートル先からでも分かるという(笑)。

―― 俺、『ワタル2』の時に「アニメージュ」で吉松さんに描き下ろし描いてもらったんだよ。(注5)

吉松 『ワタル2』で? 後ろに黒龍がいるヤツ。

―― そうそう、あれは俺がラフ切ったんだよ。

吉松 ああ、そうだっけ?

―― うん。やたらと線に力のある画が上がってきて、「へー、上手い人がいるんだ」と思ったのを覚えている。その後に『サイバーフォーミュラ』が始まる時に「あの版権イラストの人だ」と思って、ちょっと期待したんだ。

吉松 ああ、そうなんだ。

―― で、吉松さんは『サイバーフォーミュラ』でキャラクターデザインに大抜擢される。

吉松 そうそう、大抜擢。

―― これは、いきなり天から降って湧いたような話だったの?

吉松 たまたま、という感じですね。『サイバーフォーミュラ』の話がライブに来た時に、芦田さんが「じゃ~、吉松やってみっか~」みたいな感じで。多分、別の人に振る予定もあったんだろうけど。

―― もっとキャリアのある人に?

吉松 うん。その時の作品の兼ね合いとかで、僕のところに話が来たと思うんだけど。

―― その当時、25歳、26歳?

吉松 そのくらいかな。

―― 自分の中で『サイバーフォーミュラ』は大きい?

吉松 大きいですねぇ。最初はやっぱり、僕という人間の実力が、あんまり信用されてなかったと思うんですよね。その辺をどうやって払拭していくかというのが課題だったんです。まあ、結果で見せるしかないんですけどね、そういうのは。

―― 信用されてなかったというのは、サンライズ側に?

吉松 サンライズにも、周囲の人達にも。

―― で、実作業をやってみてどうだったの。

吉松 制作状況が良くなかったのも大変でしたね。実作業は……う~ん、まあいつもそうなんだけど「できる範囲で、できる事をやる」という心がけでやりました。

―― なるほど。

吉松 その結果、充実感もあったし、楽しかった。何よりもファンに支持されたっていうのが、大きかったッスね。一生懸命にいいものを作っても、なんのリアクションも起きなくて埋もれてしまう場合もありますからね。

―― 当時は話題になる事が多かったよね。

吉松 「アニメージュ」的には、アニメグランプリも頂きましてですね。(注6)

―― 吉松さん自身も、雑誌でバシバシと描き下ろしを描いていたし、マンガも描いたしね。

吉松 そうそう。サムシング吉松の名前が世に出たのも、「サイバープレス」からですからね。

―― そうだよね。懐かしいなあ。ここで読者の方に説明すると、昔、「アニメージュ」で「サイバープレス」という連載記事があってですね。で、この連載のインタビュアーである小黒さんが「サイバープレス」の担当だったんです。

吉松 そうそう。

―― 「サイバープレス」での吉松さんはマンガを描いていたんだけど、それ以外の「サイバープレス」の記事に関しても、吉松さんの愉快なノリの影響が出ていたような気がする。

―― (笑)。自画自賛しちゃうけど、面白かったよね。

吉松 あれ、そのまま単行本にしたら良かったのに(笑)。

―― (笑)。『サイバー』の後の吉松さんの仕事は、『スレイヤーズ』『TRIGUN』『十兵衛ちゃん』『月影蘭』……と。あっ、こんなもんだっけ。

吉松 そう、作品数少ないんだよね。そういった意味では。

―― 『サイバー』と『スレイヤーズ』が長いんだ。

吉松 長いねぇ。『スレイヤーズ』も、まあ実作業的には4年くらいやっているから。

―― その前の『サイバーフォーミュラ』も足かけ4年ぐらいだね。

吉松 その後、『TRIGUN』以降はマッドハウスさんにお世話になってますね。マッドハウスに自分の机があるという状況は、この仕事を始めてからも、想像だにしなかったですね。

―― よもや、『幻魔大戦』を作った会社に行く事になるとは。

吉松 長生きはするもんですよね(笑)。

―― 『サイバーフォーミュラ』から『月影蘭』の間で、転機はある?

吉松 やっぱ大地(丙太郎)さんとの出逢いかなぁ?僕は、一緒に仕事をする監督や演出家には恵まれてきたし、面白い作品に関わってこれたと思うんですよ。その中でも、大地さんとの出逢いは大きいですね。

―― 『TRIGUN』では、ずっとライブで一緒に仕事をしてきた西村(聡)さんとのコンビだったよね。

吉松 西村とは、もう長い付き合いだからね。彼のやりたい事は非常によく分かるんです。彼が演出家として画に求めるものは非常に分かりやすいし、僕も表現しやすいんですよ。だから、彼とはあんまり組まない方がいいのかなという気も、最近はしてる(苦笑)。

―― あっ、なるほど。

吉松 お互いに頼っちゃうんだよね。

―― ベストパートナーすぎるから。

吉松 うん、具合が良すぎるかもしれない。今後も彼とは一緒に仕事をやっていきたいんだけど、『TRIGUN』の後には、西村には僕じゃない人と組んでほしいなぁというのがあったんですよ。今、彼は監督作品を動かしてますけど、面白い作品になるんじゃないですかねえ。

―― 吉松さんは、実は今までオリジナルのキャラクターデザインは、ほとんどやってないんじゃない?

吉松 ハハハハハハハッ(パンと手を打つ)。そうなんですよ。

―― 今思ったけど、『ダンクーガ』ぐらい?

吉松 そうそう。そろそろ自分のオリジナルキャラで作品を作らなければいけない時期にさしかかってきてるのかなあと思っているところに、運良くそういう話がきまして。現在、その作品に関わっています。

―― タイトルは、もう公表できるの?

吉松 タイトルは『学園戦記ムリョウ』。今の段階で言える事は来年の4月放送開始予定で、マッドハウスが制作、監督が佐藤竜雄。それから、作監・キャラデザが吉松だっていう事くらいかな。

―― 今までは、他の人の原作やキャラクター原案のある作品に参加してきて、ストレスが溜まっていたとか。

吉松 うーん。ストレスって言うほどでもないですけどね。やっぱり、元があった方が、楽っちゃ楽ですしね。ただ、オリジナルでやりたいという気持ちも無かったわけじゃないんです。

―― 今までオリジナルキャラは、小出しにしてたわけだよね。『サイバー』のブリード加賀とかさ。次の作品のキャラクターも、シャピロのような、ブリード加賀のようなラインなの。

吉松 いや、それが実は……質素な(苦笑)。質素というと言葉が変だけど、あんまり濃い系のキャラという感じではないんだよね。それは佐藤さんのオーダーもあるんですけど。非常に普通な感じの少年少女の活躍するアニメになると思いますけど。

―― なるほど。

吉松 少年マンガらしさっていうか、みんなのイメージの中にあるような少年マンガらしさというものを狙っていますね。

―― 吉松さんには、さっき言った「特殊アニメーター」という顔もあるわけだよね。(注7)

吉松 はいはい。

―― ここでまた、読者に説明するとですね。『ゲキ・ガンガー』の劇画タッチ作画とかですね。『ジェネレイターガウル』のアイキャッチとかね。

吉松 それと『天なる』のアイキャッチとか。

―― 『デ・ジ・キャラット』のペーパーアニメ風作画とか。それと『新・天地無用!』とか。

吉松 ああ、『新・天地』のポリスメンね。まあ、なんつんでしょうねぇ、「一芸アニメ」というか。他の人が真面目にやってる中で、少し芸を見せるというかね(笑)。

―― あそこら辺の仕事は、サムシング吉松としてマンガを描いているのに近いんだようね。

吉松 そうそう。

―― 「特殊アニメーター」の仕事は息抜きに近い?

吉松 息抜きに近いですね。特に、ポリスメンの時なんかは、どれくらいイイ加減にやって画面を成立させられるか、という事にチャレンジしていましたから(苦笑)。でも、でき上がると、結構、ちゃんとしたものに見えちゃうんだよね。あれは口惜しかったです。ハハハハハッ。

―― 『ゲキ・ガンガー』やるまで、吉松さんがあんなに芸達者な人だとは思わなかった。勿論、『サイバー』みたいな格好いい画を描くのは知っていたけど。

吉松 芸という事では、そうだよね。キャラデザインや作監は全体で見る仕事だけど、原画で参加する場合は、そうじゃないからね。特に「特殊アニメーター」の場合は、どうやって目立つかというのを考えるよね。

―― 「特殊アニメーター」の仕事の場合は「特殊な仕事をしてくれ」って依頼されるわけ?

吉松 最近はそういう形の方が多いかもしれない。そういうオーダーでくる場合は、非常にやりやすいよね。要するに、周りとの違和感を求められているわけだから。「そういう事なら、オッケー!」って暗示ですね。

―― ちょっと意地悪な質問になっちゃうけど、アニメの『セガのゲームは世界いちぃぃ!!』は、現在、どういう状態なの?

吉松 ハハハハッ。あれはポシャった事はポシャったんですけど、僕としてはあきらめたつもりはまだないので、あのー、機会があれば。(注8)

―― そういう事なんだ。機会があるといいなあ。

吉松 あるといいなぁ。完全に芽が無くなってるわけではないので、まあ、運が良ければ、何かしらのかたちに。たとえ10分のものでも、アニメの作品として発表できるといいなぁと思っとるわけですよ。

―― それはさっき言った自主制作に始まり、『奇面組』を経由して「特殊アニメーター」に至る、愉快ラインの。

吉松 そうそう。愉快ラインの集大成というかね。キャス子をアニメにしようと考えてたりすると、やっぱり自主制作をやってて良かったなぁと思いますね。プロとしてモノを作るのとは、別の傾向の作品というか。そういうものをプロのスキルで作れたら面白いんじゃないかなと思いますね。最近、アメリカのアニメーションが好きなんですよ。『サウスパーク』とか『キング・オブ・ザ・ヒル』とか、ああいった作品の根っ子にあるものは、少人数で作品を作る自主制作イズムみたいなものじゃないかと思うんですよ。

―― プライベートっぽいけど、芸術作品じゃない。

吉松 そうそう。猥雑な、単なる受け狙いというか。最近、そういう純粋な面白さが、ちょっと薄れてきているような気がする。

―― それは自分に関して、業界に関して。

吉松 自分と業界の両方で。そういうのをやってもいいんじゃないかという気もしている。

―― 今まで、特殊アニメーターとして細々とやってきたものを。

吉松 全開にしても、良いのかも。ひょっとして作品として成立するんじゃないかなという気がしてるわけですよ。

―― 吉松さんは『サイバーフォーミュラ』とか、『十兵衛ちゃん』と、ちゃんとした商業的なモノをやりつつ、特殊な事をやってるのがバランスいいよね。

吉松 僕は、やっぱり自分は商業アニメーターだと思うんですよ。

―― マンガを描こうが何しようが。

吉松 うん。それでアニメーターとして、めちゃくちゃ素晴らしいレイアウトが切れるわけでもないし、かっこいいエフェクトができるわけでもない。自分のできる事をできる範囲でやるという生き方を、ずっとしてるんで(苦笑)。

―― 実は俺、吉松センセに憧れてるところがあるんだよね。吉松さんてさ、やっぱ気張んないよね。

吉松 気張らないですね。無理しないッス(笑)。

―― 昔、『サイバーフォーミュラ』で、雑誌用の描き下ろし頼んだ時に、何となく仕上がりがイマイチだった時があったんだよね。それで「どうしたの」って訊いたら、「いやあ、調子が出ない時には、何を描いてもダメですね。わっははははっ」って、豪快に笑われた。

吉松 ハハハハッ! ひでえ。それはひどいよ、君! はっははは。

―― その時は「コイツめ」と思ったんだけどね。後でよくよく考えてみると、こだわるときはものすごくこだわって、ダメな時は「ダメでした」って笑えるというのは、羨ましい事だなと思った。

吉松 (笑)。そんな事がありましたか。まあ、表面だけ繕ってもしょうがないからね。

一同 (大爆笑)。

―― 身も蓋も無いなあ。で、マンガの方はどうなの?

吉松 マンガは、まあ、頼まれればぼちぼち描くという感じで。

―― 吉松さんは、基本的に毎日スタジオで作画監督の仕事をしているわけじゃない。マンガはその仕事の合間をみてパパッとやっちゃうわけ?

吉松 そうですね。多分、原稿頼んでる人が、僕がマンガを描いているところを見たら、怒り出すと思いますよ。あまりにもサッサッと描いちゃうんで(笑)。ハッハハハハッ。僕のマンガっていうのは、本業に支障をきたさない程度の範囲内で描いているんで。

―― 下書きとかはするの?

吉松 下書きは一応あります。と言うと、みんな驚くんだけど(笑)。ただ、動画用紙に描いてますけどね。最初はちゃんとした紙に描いてたんだけど。タップがあると便利だしね。下書きの上に……。

―― ああ、乗せるとしたが透けて見えるからね。

吉松 そうそう。動画用紙は薄いからグチャグチャになりやすいんだけど、どんなにグチャグチャになっても、それを「味」と言い張る(笑)。「これは味ですから」と。

―― 去年から今年にかけては凄かったんじゃない。『セゲいち』のグッズが出たり、単行本が出たり、あなたの人生の仲でもかなり大きいイベントだったのでは?(注9)

吉松 やっぱ、楽しかったですね。

―― こんな事になるとは思わなかったでしょ。

吉松 ええ。単行本にする目論見なんて無かったですから。単行本になる時も「えっ、単行本になるんですか? うそー」って感じだった。グッズにしても、プロレスラーにしても、別にこっちから仕掛けてるわけではなくて、外部からきた企画ですからね。そういった意味では『セゲいち』は結構みんなに愛されていて、幸せなマンガですなぁ。

―― じゃあ、ここらでちょっと真面目な話に。吉松さんの、今後の目標は?

吉松 そこだぁ!(ビシッと膝を叩く) 実は目標が無いんですよ。

―― 無いの?(笑)35年間も生きてて、ずっと無いの?

吉松 いやいや、今年に限って無いの。

―― あっ、今まではあったんだ。

吉松 何かあったんだよね。でも、今は、これ以上望む事は無いんじゃないかって……。マンガもそこそこ受けたし。

―― 欲の無い人だなぁ(笑)。

吉松 僕は「知る人ぞ知る」っていうところに留まるのがいいんだよね(笑)。このくらいの位置でしょう。これ以上は頑張らない方がいいと思うんだよね。

―― 君のアニメーター人生は幸せなんだな、今のところ。

吉松 ハハハハッ。そうだねえ。ただ『セゲいち』のアニメ化の話が、このまま実現せずに埋もれてしまうと寂しいかな。一応、『セゲいち』の監督としてですね、フイルムを仕上げたいですね。それが目標かな。

―― なるほどね。監督願望はあんまり無いけど、1本くらいはやりたいわけね。

吉松 演出願望は無いけど、監督願望は無い事はないんだよね。

―― つまり、いろんな人と打ち合わせしたり、指示したりしながら、フイルムを作るような監督にはなりたくないのね。自分で、面白いフイルムを勝手に作る事はしたいわけだ。

吉松 そうそう。

―― あのさあ、ケーブルTVとかの音楽専門チャンネルでアイキャッチとしてやってる、妙なアニメがあるじゃない。

吉松 ああいうの作りたいよね。

―― あれを作ってる人達って、メチャメチャ幸せそうだよね。

吉松 そうだよね、ああいうのだよね。アニメーターの人でも、キャリアを積んで演出家になる場合があるじゃない。オイラは、そういう気持ちはあんまりないんだよね。そういう部分はマンガで発散しているし。フイルムを作るのは、プライベート的なものならできるだろうけど、シリーズや長いビデオ作品の監督はできそうもないし。色々ね、難しいですよ(笑)。

―― 話は全然前後しちゃうんだけど、吉松さんは『TRIGUN』と『十兵衛ちゃん』で全話のレイアウトチェックをしていたじゃない。『月影蘭』でもやったの?

吉松 一応全話見てます。ほとんど手をいれなかった回もあるけど。

―― 吉松さんは普段から自然体でさ、今、言ったみたいに「やれる事だけやってまーす」みたいなノリに見えるんだよね。だけど、実際に周囲の人に話を聞くと「吉松さんは凄いですよ」とか「『十兵衛ちゃん』のレイアウト、全部自分で見たんだよ」とかって話を聞く。

吉松 うーん。

―― 『TRIGUN』や『十兵衛ちゃん』では各話の作監はほとんどやらないので、その分、全話全カットのレイアウトを見たわけだよね。自分の作監担当回だけキッチリ修正入れてレベルを上げようとするんじゃなくて、シリーズ全体を良くするために、全話のレイアウトをチェックしたわけでしょう。

吉松 僕のスタンスとしては、そこまでがキャラクターデザインの仕事なんですよ。キャラクター設定を作った時点では、僕の中でキャラが完成してないんですよ。

―― ああ、なるほどね。

吉松 原画の人が描いてくれたキャラクターや表情をチェックして、こなしていくところまでがキャラクターデザインだというスタンスで、やってるんですね。

―― 各話に手を入れて、よりこなれたモノにしていきたい。

吉松 そうそう。だって、アニメってシリーズが進んでいくと、キャラクターが生き生きしてくるものじゃないですか。だから、そういう部分を自分でコントロールしたい。それが一番楽しんでるところでもあるんですよ。マッドハウスの仕事で、何がありがたいって、そういう事をやらせてくれるところですよね。

―― という話からも分かるように、吉松さんは、かなり制作現場寄りの人だよね

吉松 それはそうですね。

―― ファンの人は、自宅でドリキャス子のマンガ描いてて、時々現場に行ってると思ってるかもしれないけど(笑)。

吉松 今年、『ミルクチャン』と『月影』で、初めて2本掛け持ちっていうのをやってみたんですよ。大地さんって、たくさん掛け持ちをするじゃないですか。

―― どうだね。

吉松 そうれに触発されたわけでもないんだけど、そういう風に作品を同時に関わるやり方もあるかと思って。『月影』は総作監だけだったんで、自分的にはできるんじゃないかなと思って、『ミルクチャン』のキャラデザインだけを受けたんですよ。やってみたら、やっぱりキャラデザインだけやるのは僕には苦痛でしたね。

―― 自分で各話に手を入れないと。

吉松 うーん、なんか中途半端な作品の関わり方をしちゃったなぁという反省がありましてね。やっぱり、自分にとっては、各話のチェックまでするのがキャラクターデザインの仕事なんだなあと感じましたね。

―― 偉いなあ。根っからの作画の人なのね。

吉松 動画用紙の上の世界までやらないといけないというか。キャラ表だけだとやっぱり表現しきれない。その後の過程も、後追いでやりたいっていう感じなんですよね。



(注1)
81年に大阪で開催された第20回日本SF大会(愛称「DAICON Ⅲ」)のために制作されたOPアニメーションは、当時、アニメ雑誌等でも記事になり、アニメファンの間で話題となった。このフィルムの制作に関わっていたのが、当時はまだ学生だった庵野秀明さん、赤井考美さん、山賀博之さんといったメンバー。

(注2)
『超獣機神ダンクーガ』は、スタジオライブの数人が「いんどり小屋」というチームを組んでキャラクターデザインを担当した作品。吉松さんは動画を始めたばかりの新人アニメーターでありながら、いんどり小屋の1人としてキャラクターデザインに参加している。当時、弱冠19歳。

(注3)
『ばくはつ五郎』は70年に放映された学園アニメ。主人公の名前が五郎。

(注4)
ふくやまけいこさん、今井ひづるさんはマンガ家。『魔動王グランゾード』の大ファンであり、ライブのメンバーとも友達付き合いをしていた。

(注5)
91年2月号の巻頭特集。

(注6)
第14回アニメグランプリ(92年5月号発表)で、『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』は作品部門、男性キャラクター部門、アニメソング部門を獲得。

(注7)
「特殊アニメーター」とは『機動戦艦ナデシコ』の劇中アニメの『ゲキ・ガンガー3』の劇画タッチ作画や、『新・天地無用!』の劇中劇『ポリスメン』のヘナチョコ作画等、特殊なシーンで特殊な作画を担当する場合の彼の肩書き。『ゲキ・ガンガー3』では、東映動画系の劇画タッチと、虫プロ系の劇画タッチを描き分けるという技を見せた。『ジェネレイターガウル』と『天使になるもんっ!』では、1回ずつアイキャッチの作画を担当している。

(注8)
彼が描いている人気マンガ『セガのゲームは世界いちぃぃ!!』は、一度アニメ化が決定し、マスコミでも報じられたが、諸般の事情で企画自体が凍結されてしまった。彼自身が監督・脚本.キャラクターデザイン・作画監督を務める予定だた。

(注9)
『セガのゲームは世界いちぃぃ!!』(通称『セゲいち』)は、ソフトバンクパブリッシング「習慣ドリームキャストマガジン」連載中の人気マンガ。単行本の売れ行きも上々、グッズも発売され、主人公のドリキャス子をモデルにしたプロレスラーが登場する等、熱い盛り上がりをみせた。

第559回 高畑監督の話

 高畑監督が亡くなられて、何か書けることはないのか? と思っておりましたが、どこかの本に載っていたインタビューやTVのメイキングから引用して、監督について書くのもやっぱり失礼。なので自分が実際に高畑監督に遭遇した数少ない話から少々、書ける範囲で。恐らく1回目は『もののけ姫』の打ち上げパーティーで、我々テレコムのスタッフの後ろでお一人で料理を黙々と食べていらっしゃったところを、お願いして一緒に写真を撮らせていただきました! 一生の宝物! その後、帰りにトイレでも偶然お会いして「先ほどはお写真ありがとうございました!」ともう一度改めてお礼を言いました。
 2回目はたぶんまたテレコム時代、アニドウのイベント上映で大塚康生さんが前の方の席で観ていらっしゃったので、挨拶にいったらお隣に高畑監督が! 大塚さんが「ウチの若いの」と紹介してくださいました。若かった自分は歴史上の人物に値するお二人が並んでるだけで興奮したものです。
 3回目は、これは正に遭遇だったと思うのですが、高畑監督が書かれた「十二世紀のアニメーション―国宝絵巻物に見る映画的・アニメ的なるもの」という本のイベントにて、もちろん客席でファンとして! 会場はどこかのデパートだったかと。そのイベントで印象的だったのは質問コーナーで、かなり深読みしたインテリファンからの哲学的な質問に対して高畑監督が「いろいろ考えてくださるのは有り難いんですが、僕がこの本を作ったのは、単純にこれが面白いと思ったからで……、面白くないですか?」と一蹴したことです。

 あ、やばい。続きはまた次回!