第498回 「好きな事を仕事にする」とは

「好きな事を仕事にする」は「好き勝手振る舞う事を許容される一生を手にした!」ではありません!
こんな当たり前の事が分かってない人がまだまだいるようです!

 以前、某プロデューサーとそんな話題になりました。要するに「自分は好きな事——画を描く事を仕事にできた選ばれし者だから、好きな時に仕事して、ノらなかったら帰るでいいじゃないか!」と巨匠作家スタイルから入るアニメーターがいて困る、だそう。確かに、俺の知ってるアニメーターにもそーゆー人が何人かいますし、自分自身もフリーになったばかりの頃、そー言ってた時期がありました。申し訳ありません。ただ自分の場合は、最初の会社テレコムでの社員生活が長かったので、辞めた際は一度「自堕落なフリー生活」を送ってみたかったってだけなので、すぐに飽きてしまいました。で、今は後輩・新人に

自己管理能力を高めよ!!

と促してます。つまり「ギャラ・制作費が安い!」と訴える前に「自分はノルマをこなせているか?」を疑い、「遊ぶ時間がない」と怒る前に「自分は1日8時間、真剣に机に向かって描いたか?」を省みよ! と。会社は「こなせない人、こなす気のない人」に仕事を頼みません(昔みたいに「上げるまで休ません!」なんて会社は、今ほとんどありませんよ)。

自己をストイックに律する事ができない人の言う事に
耳を傾けてくれませんって、社会は!

 で、現在超ストイックに『てーきゅう』Blu-ray BOXのジャケットイラスト描いてます!!

第497回 もうすぐ500回

新年あけましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いします!!

 年末年始はなんとなく名古屋に帰り、早々に東京に戻って引っ越しの準備と『てーきゅう』Blu-rayBOXのジャケットイラストを描くのに大忙し。そうそう、『てーきゅう』がBOXになるんですよ! なんかいよいよって感じで、昨日も渡部優衣さん、石原夏織さんとアフレコ。役者さんたちも皆「凄い! 欲しい!!」と言ってはくださるものの、「買う!」とは言っていただけず(苦笑)。でもまあ、いつもどおりダラダラ書き始めたら、なんと

この連載があと3回で500回を迎える事を思い出しました!!

呆れますよね、500回。そろそろ10年です。たまにお茶濁しイラストのみの回はありましたが(スミマセン!)、いちおう一度も落とした週はないはずです。これは最初にアニメ様より「仕事が忙しくて落としそうになったら、言い訳イラスト1枚でも出してよ。でないと何度も落とす癖がつくよ」と言ってくれたお陰だと思ってます。

何も人に自慢できる事のない板垣のアニメ人生の中で500回! 10年! は少しだけ自分を褒めてやりたいと思いました!


 そもそも俺の性格柄、「作品づくり以外で世間に言葉を発信する場」はここだけで十分なのですよ。たった今、板垣がどこで何食っただの何観て感動しただのをリアルタイムで知りたがってる人が世の中にいるわけないし、自分も他人のそんな類いの話を知りたいと思った事ありませんから。「昼間はサボらずに働きなさい!」と親から教育されたため、俺の姉も妹も基本メールの返信すら休み時間か仕事が終わってからです。このコラムも仕事の合間に書いている筆休め的なものです。だから今までどおり、内容のあるモノは期待しないでお付き合いくだされば幸いです。

105 『傷物語〈III 冷血篇〉』に拍手

 公開日の最初の回で『傷物語〈III 冷血篇〉』を鑑賞した。『傷物語』3部作の完結編である。超力作だった。どこまでも過激であり、力いっぱいにアバンギャルド。アニメーションとしても魅力があり、登場人物に対して真摯でもある。お色気シーンも力一杯。ギャグも忘れてはいない。過剰な作品だ。カルトという言葉が相応しいのではないか。
 監督は尾石達也。『さよなら絶望先生』や『化物語』の頃にもっと彼の個性が色濃く出た作品が観たいと願った。まさにそれが『傷物語』3部作であり、その頂点が『傷物語〈III 冷血篇〉』なのだ。この作品で僕の願いが叶った。制作会社のシャフトとしても到達点のひとつとなった作品であるはずだ。

 尾石達也という不世出のクリエイターが、その才能と意欲の全てを叩きつけたフィルムだ。かつての彼は、あふれる情熱を持て余している印象があった。ひょっとしたら、今までのどの作品も不完全燃焼で終わっていたのかもしれない。しかし、『傷物語』3部作はそうではないはずだ。彼にとって初めての「やり切った作品」になったのではないか。さらに言うと、やり切っただけでなく、彼にとって情熱や稚気を維持したまま成熟した作品になっている印象だ。それもまた素晴らしい。

 『傷物語』の制作発表が2010年であったから、僕達は(「僕」ではなく、ここは「僕達」と書こう)足かけ8年、この作品の完成を待っていたわけだ。その間、ずっと制作を続けていたのかどうかは分からないが、長い時間がかかっているのは間違いない。であるにも関わらず、『傷物語』3部作には「煮詰まり感」がない。場面によっては作り手の初々しさすら感じた。僕が一番の驚きを感じたのはその点だ。

 尾石監督とシャフトに拍手だ。そして、尾石監督の次回作を1日も早く観たい。次は8年も待たせないでほしい。

(2017/01/11)

第97回 燃える作曲家の挑戦 〜勇者エクスカイザー〜

 腹巻猫です。本年もよろしくお願いいたします。昨年末の話になりますが、12月28日に東京ムービーレコードから発売された「珍豪ムチャ兵衛 音楽集」の構成・解説を担当しました。1971年に放送されたTVアニメ『珍豪ムチャ兵衛』の初のサウンドトラック・アルバムです。音楽は『ど根性ガエル』の広瀬健次郎。マイナー作品ですが、生きのいい音楽は一聴の価値あり。一般CDショップでの販売はなく、Amazon限定のDODというシステムで販売しています。東京ムービーレコードとしても初めての試みで、これがうまくいけば、今後マイナー作品のリリースにも道が拓けるかもしれません。

珍豪ムチャ兵衛 音楽集
http://www.amazon.co.jp/dp/B01MU28IXT/


 この原稿がUPされる1月10日には、関東地方などでTVアニメ『鬼平』の第1回が放送されている(Amazonプライム・ビデオでも配信)。中村吉右衛門主演のTVドラマでも親しまれた池波正太郎の時代小説「鬼平犯科帳」をアニメ化した意欲作だ。音楽は田中公平と川村竜が担当している。
 今回は、その田中公平が1990年に手がけた『勇者エクスカイザー』の話。

 『勇者エクスカイザー』は1990年2月から1991年1月までテレビ朝日系で放送されたサンライズ制作のTVアニメ。1997年放送の『勇者王ガオガイガー』まで続く「勇者シリーズ」の第1作である。
 宇宙の宝物を狙って星々を荒らし、地球にやってきた宇宙海賊ガイスターと、それを追ってきた宇宙警察カイザーズとの戦いを描くSFロボットアニメ。カイザーズは肉体を持たないエネルギー生命体で、地球では車や列車などの乗り物と融合して活動している。主人公の少年・星川コウタの家の自動車と融合したのがカイザーズのリーダー・エクスカイザーである。
 サンライズが制作してきたリアルロボット路線の作品群とは方向を変えた、明るく楽しい娯楽作品だ。人知を超えたエネルギー生命体のエクスカイザーが、少年コウタと出逢い、共闘し、しだいに深い友情で結ばれていく描写が感動的。SFファンなら「20億の針」や「ウルトラマン」「ヒドゥン」など、さまざまな作品のタイトルが頭に浮かぶ設定と展開である。少年とロボットとの友情という要素は、その後の「勇者シリーズ」にも受け継がれた。
 監督は、本作のあとに続いて『太陽の勇者ファイバード』『伝説の勇者ダ・ガーン』を監督する谷田部勝義。シリーズ構成は円谷プロ作品への参加も多い平野靖士、音楽は田中公平が担当した。
 田中公平は1954年生まれ。大阪府出身。医師の家に生まれ、少年時代にクラシック音楽に魅せられて音楽家を志した。東京藝術大学卒業後、ビクター音楽産業に入社して宣伝部に勤務するも、3年で退職。バークリー音楽院に2年間留学し、帰国後、作・編曲家として活動を開始した。
 アニメ音楽の最初の仕事は1982年放送のTVアニメ『わが青春のアルカディア 無限軌道SSX』の挿入歌「星の涙」(作曲・菊池俊輔/歌・山野さと子)の編曲。1985年にTVアニメ『コンポラキッド』の劇中音楽(BGM)を担当し、これが本格的なアニメ音楽デビュー作となった。その後、『エスパー魔美』(1987)、『トップをねらえ!』(1988)、『チンプイ』(1989)、『魔動王グランゾート』(1989)などの音楽を手がけ、1990年に担当したのが『勇者エクスカイザー』である。
 本作は田中公平が手がけた初の本格的なロボットアニメである。というと『トップをねらえ!』と『魔動王グランゾート』があるではないかと言われそうだが、『トップをねらえ!』はパロディ要素が多く、『魔動王グランゾート』はロボットアニメというより、SFファンタジーに近い。ロボット対ロボットの戦いをストーリーの主軸にし、メカニックの発進・変形・合体という3要素を毎回の見せ場にした王道のロボットアニメ作品は、本作が初なのだ。本作のあと、田中公平は『絶対無敵ライジンオー』(1991)、『機動武闘伝Gガンダム』(1994)、『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』(1996)、『勇者王ガオガイガー』(1997)、『OVERMAN キングゲイナー』(2002)など、ロボットアニメ作品を次々と手がけることになる。
 「変化球ではない真っすぐなロボットもの」の依頼に田中公平は意欲を燃やし、巨大ロボットの重量感を表現するために「『ゴジラ』のような風格のある曲を書こう」と考えた。その言葉どおり、『勇者エクスカイザー』の音楽は重厚で骨太、それでいてロマンティックな香りと品格もあわせ持つ名曲ぞろいである。

 本作の音楽集は放映当時「ミュージック・フロム・エクスカイザー」と同「Vol.2」のタイトルで2枚のCDアルバムがキングレコードから発売されている。しかし、曲と曲とをクロスフィードしてつないでいたり、同じ曲が2度収録されていたりして、ファンには不満の残る内容だった。
 2004年に本作の音楽をすべて収録するというコンセプトで2枚組CD「勇者エクスカイザー 総音楽集」がキングレコードからリリースされた。構成と解説は筆者が担当させていただいた。収録曲数は主題歌のTVサイズ・フルサイズ計4曲を含めて143曲。短いブリッジ曲やトラックダウン違いによる別バージョンまですべて収録した。当初は主題歌のカラオケを収録するプランがあったが、CDの収録時間いっぱいとなって見送った。
 収録内容は、キングレコードのサイトに今も残る商品案内ページを参照いただきたい。
http://king-cr.jp/special/exkizer/

 本アルバムでは2枚組の1枚目と2枚目を異なるコンセプトでまとめた。
 1枚目は1話完結エピソードのオーソドックスなフォーマットを再現したサウンドトラック。第2話以降定番となったアバンタイトル曲から始まり、コウタの日常、ガイスターの暗躍、コウタとカイザーズの捜査、ガイスターロボ出現、カイザーズの戦い、平和の訪れ、という流れで、「毎回観ていた番組の雰囲気」を音楽で描いてみた。最後は次回予告音楽で締めくくった。
 2枚目は「ピアノとオーケストラの組曲〈勇者〉」と題して、第35話「勇者に贈る音楽会」に登場するオーケストラ曲「交響曲〈勇者〉」が実在したら……とイメージをふくらませて構成してみた。カイザーズの発進・変形・合体・必殺技等の重要曲はこちらに収録されている。
 となると、1枚目はカッコいい曲が少なく物足りないのではないかと思われそうだが、そんなことはないのだ。
 1枚目には、コウタのテーマを始めとするキャラクターテーマや日常曲などを主に収録している。『勇者エクスカイザー』という作品の明るく楽しい雰囲気を支えていた楽曲たちだ。聴くと「ああ、エクスカイザーってこんな番組だったよな」と思い出がよみがえってくる。
 筆者が気に入っているのはコウタのテーマを収録した「コウタは今日も元気いっぱい」のブロックと、ストリングスとピアノの響きがうっとりすくるくらい美しい「ときにはロマンティックに」のブロック。豪快なアクション曲とはひと味違う、田中公平のロマンティストの一面、すぐれたメロディメーカーとしての一面がよく表れた楽曲群である。
 1枚目にはロボットアニメに不可欠なサスペンス曲やアクション曲も収録している。注目は、「カイザーズ捜査開始」「カイザー・アクション」「蒼空の追撃」「Go with me! エクスカイザー」等のブロックに収録した、アクション曲の「リズムのみ」バージョンだ。
 「リズムのみ」バージョンとは、ドラム、ピアノ、エレキベース、エレキギター、パーカッション等のリズムセクションのみをミックスしたバージョンのこと。本来はこの上に弦楽器や管楽器などのメロディ楽器(上物=うわものと呼ばれる)が加わって楽曲として完成する。リズムのみバージョンは音楽演出の必要上作られるもので、楽曲としては完成形ではない。だから、こうしたバージョンをサントラに収録するのは本意でないという作曲家も多い。
 しかし、本作では、このリズムのみバージョンがなかなかカッコよく聴きごたえがあるのだ。メロディ楽器がないぶん、リズムの躍動感やコード進行の心地よさが際立つ。ロックバンドのインスト曲を聴くようなグルーブ感がある。田中公平の編曲の巧みさとスタジオミュージシャンの技量が堪能できる楽曲群である。2枚目に収録された同じ曲の完成形と聞き比べてみるのも面白い。
 2枚目の「ピアノとオーケストラの組曲〈勇者〉」には、本作の音楽のハイライトとなるメカニック描写曲、アクション曲をこれでもかとばかりに詰め込んだ。燃える音楽を続けて聴きたいという構成者の願望も入っている。オーケストラは管弦楽だけで40人を超える大編成。リズムセクションはこれに含まれず、別録音された。今ではなかなか実現できないスケールである。
 「第1章 プロローグ」は第1話冒頭で流れた全編の導入部となる楽曲。大作SF劇場作品の冒頭のような壮大なムードで組曲が開幕する。
 「第2章 疾風!マックス・チーム」はカイザーズのマックス・チーム=ドリルマックス、ダッシュマックス、スカイマックスの3体のロボのテーマ。本作ではカイザーズのメンバーそれぞれにテーマが作られている。田中公平は各キャラクターの特徴をとらえ、曲想を変えて書き分けた。「第4章 颯爽!レイカー・ブラザーズ」も同様である。正義のロボットの凛々しくカッコいいイメージが音楽によってさらに広がり、わくわくする。番組を観ていた子どもたちも同じ気持ちだったに違いない。
 聴きどころは、エクスカイザーの登場と自動車から人型ロボットへの変形シーンを描く「第7章 勇躍!エクスカイザー」、そして、カイザーズの合体テーマを集めた「第11章 交響曲〈勇者〉」。本作の音楽の白眉と呼べる楽曲群である。特にエクスカイザーの変形・合体テーマであるM-10、M-11は「これがアニメのBGMか!?」と思うような超重量級の曲で、本格的な交響曲作品の一部であってもおかしくない。レコーディングの際、田中公平は真っ黒に見えるくらい音符を書き込んだ譜面を見たミュージシャンから「読めないよ、こんなの。夜遅くにこんな大変な曲できるか」と文句を言われたそうである。
 本作は2クール目に向けて追加録音が行われている。そのとき録音された新合体ロボと新必殺技のテーマを収めたのが「第15章 宇宙の戦士!ドラゴンカイザー」と「第18章 勝利の神剣!グレートエクスカイザー」。第1回録音の曲を超えるスケールと迫力をという要求にみごと応えた、渾身の楽曲だ。
 田中公平はロボットアニメで大切なのは「バンクシーンの曲」だと語っている。バンクシーンとはロボットの発進・変形・合体シーンのこと。ここで歴史に残る曲を書かなければロボットアニメ音楽としては失敗だ。『勇者エクスカイザー』はその点でも田中公平ロボットアニメ音楽の最初の完成形であり、後世に残る作品である。
 ディスク2のラストには最終回の終盤に流れた曲を収めたブロック「第19章 さよなら勇者たち」「第20章 エピローグ〜本当の宝物」を配置した。
 「さよなら勇者たち」はコウタと勇者たちの別れの場面に流れたオープニング主題歌のピアノソロ・アレンジ。コウタと勇者たちの会話がよみがえり切なくなる。主題歌「Gather Way」は田中公平の作曲ではないが、本作のパワフルで前向きなイメージを具現化した名曲である。
 「エピローグ〜本当の宝物」の1曲目M-47は、別れのあとの寂しい気持ちをまぎらそうとするコウタとそんなコウタを気遣うママの場面の曲。バイオリンの繊細な響きが胸に沁みるエレガントな曲だ。ここでも田中公平の優美なメロディを聴くことができる。次のB-23は最終回ラストシーンの曲。メニューでは「感動のエンド」と題されている。明るく希望に満ちた曲調が本作のラストにはぴったりだ。そして最後の曲は最終回エンディング用に書かれたB-24B。エンディング主題歌「これからのあなたへ」のモチーフを取り入れた感動的な楽曲である。ストリングスに絡むサックスの音色がちょっと大人になったコウタを表現しているようで、物語を最後まで観てきたファンの心にぐっとくる。

 『勇者エクスカイザー』は、田中公平が本当に腰を入れて書いた最初のロボットものである。第1回録音では約90曲をオーケストレーションも含めてわずか18日で一気に書き上げたという。当時の田中公平はアニメ音楽を手がけるようになってまだ5年目。書けるよろこびと書きたい曲が胸にあふれていた。そんな情熱とパワーが詰め込まれた熱い作品である。
 その『勇者エクスカイザー』のメインターゲットが子どもたちだったことも重要だ。本作が伝える勇気と友情のメッセージは、すばらしい音楽とともに子どもたちの心に真っすぐに届き、今も心の中の宝物になっているに違いない。
 本作のあと、田中公平は先述のロボットアニメ作品や『サクラ大戦』(1996〜)、『ONE PIECE』(1999〜)といったヒット作を手がけ、その作風や言動から「燃える作曲家」と呼ばれるようになる。今でも「燃える作曲家」であることに変わりはないが、その燃え方は少しずつ変化している。2008年からはオリジナル曲を作曲し、自ら歌う活動を始めた。作風はより研ぎ澄まされ、深みを増している。田中公平の燃える作曲家魂は、過去の自分を超え、世界に向けたアニメ音楽を創出する挑戦に向けられているのだ。
 そんな田中公平が作り出す『鬼平』の世界。どんな音楽を聴かせてくれるか、新年から目が(耳が)離せない。

鬼平 公式サイト
http://onihei-anime.com

勇者エクスカイザー 総音楽集

Amazon

第126回アニメスタイルイベント
平松禎史 アニメの話・画の話

 『彼氏彼女の事情』『新世紀エヴァンゲリオン』『ユーリ!!! on ICE』等、多くの作品を手がけ、常に一線で活躍してきたアニメーター&キャラクターデザイナーの平松禎史。初の作品集「平松禎史 アニメーション画集」 の刊行を記念して、彼のトークイベントを開催する。

 アニメや画に関するこだわりについて、たっぷりとうかがえるはずだ。出演は平松禎史とアニメスタイル編集長の小黒祐一郎。追加のゲストについては改めてお伝えする。

 開催は2017年1月15日(日)。会場はお馴染みの阿佐ヶ谷ロフトA。前売りチケットは2016年12月28日(水)から発売となる。詳しくは阿佐ヶ谷ロフトAのサイトで確認していただきたい。また、今回のイベントもトークのメイン部分を「アニメスタイルチャンネル」で配信する予定だ。

■関連リンク
『ユーリ!!! on ICE』『彼氏彼女の事情』の平松禎史 初の作品集がコミックマーケット91で先行発売‼
http://animestyle.jp/news/2016/12/19/10849/

阿佐ヶ谷ロフトA
http://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/56159

アニメスタイルチャンネル
http://ch.nicovideo.jp/animestyle

第126回アニメスタイルイベント
平松禎史 アニメの話・画の話

開催日

2017年1月15日(日)
開場18時 開演19時 終演22時予定

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

平松禎史、小黒祐一郎(司会)

チケット

前売1500円 当日1800円(共に飲食別・要1オーダー)

■アニメスタイルのトークイベントについて

 会場となる阿佐ヶ谷ロフトAはトークライブができる居酒屋。入場料(今回は前売1500円、当日1800円)とは別に飲食(最低でもドリンク1杯)をお願いしている。ソフトドリンクもあるので、未成年の方でも大丈夫。 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものだ。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていないし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれない。その点は、あらかじめお断りしておく。

第496回 今年も終わり

『てーきゅう』『ベルセルク』そして『WUG新章』PV
今年もいろいろ仕事させてもらいました!

 2016年もおおむね幸福だった板垣です。毎年、年の瀬になると「自分は1年でどんな進化を遂げたのか?」と思い返すんですが、今年はミルパンセがデジタル作画化し、自分自身も液タブに向かってコンテ・ラフ原・原画をチェックするようになってるって事は、かなりの前進かと! で、年が明けたら作画机を片付けます。まあ欲しい人にあげるか、作画会社に引き取ってもらうか、どちらかで。なにせ作画机は無駄に奥行きがあって場所を無駄に取ります。ウチのスタジオはいわゆる「年配者の特権」は認めないようにしてます。それは自分自身も例外ではありません。皆にPC用のデスクに乗り換えてもらったのに年長というだけで1人場所を占拠するのはダメ、よって作画机を手放すわけ。でも俺、

作画机って大好きなんですよ!

 我々世代までのアニメーターにとって、作画机は半分自宅みたいなもの。机の中に(下に)うずくまって寝泊まりしたり、TV観たり、DVD(昔はビデオ)再生したり、飯食ったりと、生活の大半を共にした相棒(?)かもしれません。それだけにアニメーターが俺様な人ほど「大きくてキレイな机が用意されてあたりまえだろ!」と権威の象徴にしてましたね、実際。そのコンディション(俺様の扱い?)が悪いとスタジオに入らなくなるアニメーターも少なくなく、多くの制作さんが泣かされたものです。ちなみに自分は、そんな俺様クリエイターとは一緒に仕事はしません! ま、そんな俺様も、デジタル作画になると減っていくのでしょう。なぜなら机にPC、手元にスマホで仕事中の音楽・BGVそして資料類すべてが賄えるのですから。事実、今の若いアニメーターたちの机に置かれる私物が、我々の頃よりはるかに少なくなりました。いつでも瞬時に引っ越し可能。羨ましい! しかし、そんな身軽な時代とは真逆な「物に囲まれる快楽」にもいいところはあるんですよ若い人! 例えば好きなマンガ・本・DVDが山ほど置ける作画机は、趣味が一目瞭然。そして、机に残されたラクガキを見れば、その人の画力までハッキリ確認ができます! これがPCだとどうでしょう? 筆休めの娯楽のみならず資料類ですらPC&スマホ。ラクガキはできても他人には覗きづらいデスクトップの中。お互いの事を知るのに、いちいちスマホを擦らなきゃならないのです。これについてはただ、

「時代だ」「便利だ」ではなく、本当に必要な事は何か?

を真剣に考えて使うべきだと思うんです。自らデジタルのツールを使ってみて「これは俺が使って大丈夫!」と。「たとえすべてデジタル化したとしても俺の好きなアニメは作れる!」そんなこんな考えた結果、この度「俺たちの青春」と呼んでも過言ではない作画机に別れを告げようと思った次第です。

さようなら、作画机!
お疲れさま、作画机!!

第96回 シンプルで力強い 〜白い牙 ホワイトファング物語〜

 腹巻猫です。12月29日コミックマーケットの1日目に参加します。東地区ノ‐29a「劇伴倶楽部」です。既刊『伝説巨神イデオン』音楽研究本、『海のトリトン』音楽研究本などのほか、委託で「平山亨 寄稿対談集」、『科学忍者隊ガッチャマン』流用音楽研究本を頒布の予定。お時間ありましたら、お立ち寄りください!


 今年の劇場作品は豊作だった。「シン・ゴジラ」『君の名は。』の衝撃冷めやらぬまま迎えた秋に『この世界の片隅に』に出逢い、深く感銘を受けた。
 『君の名は。』と『この世界の片隅に』は音楽の作り方も独特だ。『君の名は。』はロックバンド・RADWIMPSが、『この世界の片隅に』はシンガーソングライターのコトリンゴが音楽を担当している。どちらも、映像音楽(いわゆる劇伴)を専門とする作曲家ではなく、ポップスの世界をメインに活躍するアーティストだ。
 映像音楽は、注文に応じてさまざまなスタイルの曲を決まった長さできっちり作り上げる職人的な作業を要求される分野だ。この2作の音楽は、そうした作り方とも一線を画している。
 アーティストが手がける音楽には、そのアーティストの個性・作家性が強く出る。映像音楽では個性や作家性はじゃまになることも多いが、うまくはまれば、観る者の胸に深く届くメッセージとなる。今年ヒットした2作は、アニメ音楽のあり方についても考えさせられる作品になった。
 ポップス界で活躍するアーティストがアニメ音楽を——主題歌ではなく劇中音楽(BGM)を——手がけた例があるだろうか。ある。『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』の音楽を担当したREMEDIOSは、もともと麗美の名でデビューした歌手で、シンガーソングライターとして活躍後、ドラマや劇場作品のサウンドトラックを手がけるようになった。『ARIA』シリーズのChoro Clubも3人組で活躍するバンドだ。
 実は1970年代からシンガーソングライターやバンドが手がけたアニメ音楽はあった。山本正之の『タイムボカン』シリーズ(1975〜)や、SHOGUNの『大恐竜時代』(1979)、マライアが参加した『鉄人28号[新]』(1980)などだ。けれど、山本正之はまだデビュー間もない時期の音楽担当だし、SHOGUNもマライアもスタジオミュージシャンによって結成されたバンドでプロの演奏ユニットという印象が強い。ポップス界で活躍するアーティストが手がけたアニメ音楽というと——小室等の『白い牙 ホワイトファング物語』がさきがけと呼べるのではないか。

 小室等は日本のフォークシンガーの草分けの1人。1968年から音楽ユニット・六文銭を率いて活躍。TV時代劇「木枯し紋次郎」の主題歌「だれかが風の中で」(歌・上條恒彦)の作曲者といえば、「ああ、あの曲の」とピンとくる人もいるだろう。六文銭解散後はソロで活躍を続け、自らのアルバム制作、ライブ活動のほか、アーティストへの楽曲提供も数多く行っている。また、井上陽水、吉田拓郎、泉谷しげるとともに1975年に立ち上げたフォーライフ・レコード社の初代社長も務めた。現在もフォークシンガー、作詞・作曲家として幅広く活動を続ける音楽家だ。
 いっぽうで、小室等は映画やTVドラマの音楽も多く手がけている。TBS「ポーラテレビ小説」の1本「吉井川」(1972)、渡辺淳一の原作を田宮二郎主演でドラマ化した「白い影」(1973)、山田太一作、田宮二郎主演の「高原へいらっしゃい」(1976)(2000年代にリメイクされた)、同じく山田太一作の「想い出づくり」(1981)、「早春スケッチブック」(1983)、市川森一作、西田敏行主演の「淋しいのはお前だけじゃない」(1982)などなど。1970〜80年代の名作TVドラマの音楽をけっこう担当しているのだ。あまり知られていない、小室等のもうひとつの顔である。
 TVアニメ『白い牙 ホワイトファング物語』も、小室等のそうしたキャリアの延長線上にある作品だ。
 『白い牙 ホワイトファング物語』は1982年5月5日にTBS系で放送されたTVアニメ・スペシャル。ジャック・ロンドンの動物小説「白い牙」のアニメ化作品である。アニメーション制作は日本サンライズ(現・サンライズ)。監督・絵コンテを吉川惣司、キャラクターデザインを安彦良和、作画監督を二宮常雄が務めた。
 物語はインディアンの少年・ミトサァと狼の子ホワイトファングとの友情を中心に展開する。原作とは物語の細部や人物設定の一部が異なっているが、75分の尺に整理されたことで、かえって感情移入しやすい感動的な作品に仕上がった。安彦良和のキャラクターを生かした丁寧な作画も印象深い。昨年(2015年)サンライズフェスティバルで上映され、CSのアニメ専門チャンネルAT—Xでも放映されたので、そちらでご覧になった方もいるだろう。現在DVD/Blu-rayは発売されていないが、バンダイチャンネル等の動画配信で視聴することができる。
 小室等は本作の主題歌「白い牙」と劇中音楽のすべてを担当。シンプルで力強く、記憶に残る音楽だ。
 放送当時、キングレコードより「白い牙 ホワイトファング物語」と題した2枚組のLPアルバムが発売された。本編のドラマ75分をLPレコードの3面を使って完全収録。残った1面にオリジナルBGMが収録されている。
 収録曲は次のとおり。

  1. 野生の呼び声
  2. 光の壁をぬけて
  3. 人間とのくらし
  4. 闘い
  5. 長い冬
  6. ふたたび春が…

 主題歌「白い牙」はドラマの中に組み込まれる形で収録されている。
 オープニングとエンディングに同じ主題歌が流れる。それぞれ1コーラスで歌詞が異なる。シングル盤は発売されていないので、本アルバムが唯一の音源である。2コーラスを続けて歌った、いわゆるレコードサイズの音源は収録されていない。もともと作られていないのかもしれない。
 作詞は谷川俊太郎。野生の中で生きていた子狼が、ふれあいとぬくもりに出逢い、新たな生きる力とよろこびを得ていく。そんな物語が詩に刻みこまれている。
 作曲と歌は小室等。アコースティックギターの爪弾きをイントロに、序盤は語りかけるように歌われる。中盤からドラムのリズムが強調され、歌声も力強く変化していく。かたくなだった心が解放されていくよろこびと、自由への痛いほどのあこがれが、詩と曲と歌から伝わってくる。本作のテーマが凝縮されたすばらしい主題歌だ。「木枯し紋次郎」のクールな主人公の心の中に潜む孤独とあこがれを歌った「誰かが風の中で」とも共通する雰囲気が漂っている。
 小室等は自身で作詞もするが、谷川俊太郎とコラボした作品も多い。70年代後半から谷川俊太郎の詩を題材にしたアルバムを続けて発表しているし、1976年に発表した「高原へいらっしゃい」の主題歌「お早うの朝」もそうだ。
 本作では音響監督・田代敦巳のリクエストでメインテーマを歌で作ることになった。小室等は迷わず谷川俊太郎に作詞を依頼。詩が先でも曲が先でもなく、詩と曲を同時進行で作るというユニークな作り方で挑んだ。小室等の仕事場に谷川俊太郎がやってきて、互いに詩と曲を出しあいながら作り上げていったという。小室等はライナーノーツの中で、昔から原作を読んでいた谷川俊太郎が紡ぐ詩はすばらしかった、それにひきかえ、自分のメロディは……と自信なさそうに語っているが、詩に寄り添いつつも独自の情感とメッセージを練り込んだ曲もみごとなものだ。
 劇中音楽の中心となるのも、この主題歌のメロディである。本作のメインテーマとして、劇中に同じメロディが繰り返し登場する。ほとんど1テーマで1本の作品を作り上げているといってもいいくらいだ。
 ことさら音楽に注意していなくても、本編を観ていると同じ曲が繰り返し流れていることに気づく。ドラム、エレキギター、エレキベース、ピアノ、ヴァイオリン、ハーモニカ、アコースティックギター。それだけの編成で録音された「白い牙」のアレンジ曲である。
 だが、同じ曲のようでいて、注意深く聴くと、実はどれもアレンジや演奏が異なる。イメージアルバム的に10曲ぐらいを作り、選曲で画に当てはめているのかと思ったら、そうではなく、きちんと映像に合わせて編曲、演奏しているのだ。
 アルバムでは、劇中で使用された音楽をほぼ使用順に収録している。6曲目の「ふたたび春が…」を除いて、1トラックに数曲のBGMをまとめる構成である。劇中に使用された曲は約30曲。アルバムにはそのうち20曲が収録された。
 トラック1「野生の呼び声」は3曲で構成。1曲目はエレキギターのアドリブと緊迫感のあるドラムプレイが印象的な主題歌アレンジ。これは本編冒頭に流れた曲ではなく、ホワイトファングの母狼(実は犬)と父狼がオオヤマネコと闘う場面に流れた曲。「野生の叫び」というタイトルがぴったりの曲調である。2曲目はミトサァの日常に流れる楽しい曲、3曲目はミトサァと父グレービーヴァとの語らいの場面から流れ始める穏やかな主題歌アレンジだ。
 トラック2「光の壁をぬけて」は、ホワイトファングが住処の洞窟を離れ、ミトサァと出会うまでのシークエンスに流れる4曲で構成。2曲目と4曲目は主題歌アレンジ。3曲目に登場するのは本作のサブテーマとも言うべき、ホワイトファングとミトサァとのふれあいを描写する旋律である。
 トラック3「人間とのくらし」はタイトルどおり、ミトサァとホワイトファングの日常場面に流れた3曲が集められている。1曲目はサブテーマの明るい変奏。2曲目は主題歌のスローアレンジになり、少年と子狼の友情がしっとりと歌われる。
 トラック4「闘い」は、ミトサァの哀しみとホワイトファングの苦難の日々を描写する3曲で構成。1曲目はミトサァとホワイトファングとの別れの曲。中盤からエレキギターとハーモニカが奏でる泣きのメロディが胸を打つ。2曲目はグレービーヴァがミトサァに「お前は1人で生きていける」と言い残して死んでいく場面のロックバラード風のレクイエム。3曲目はホワイトファングを探し続けるミトサァの場面と興行師スミスによって闘犬として鍛えられていくホワイトファングの場面に続けて流れた主題歌アレンジ。哀しみの中から立ち上がる不屈の精神を描写する曲調が心に残る。
 トラック5「長い冬」は6曲で構成。闘犬となったホワイトファングのうわさを聞いたミトサァが、ひとり執念でホワイトファングを探し当て、再会するまでに流れた曲が集められている。ホワイトファングがミトサァを思い出す場面に流れる4曲目の主題歌アレンジが感動的だ。
 そしてトラック6「ふたたび春が…」は本編のラスト、大団円の場面に流れる3分を超える主題歌アレンジの曲。トラック1の1曲目と同じ旋律、同じ編成ながら、曲の印象は対照的だ。野生の厳しさと壮烈さを表現する1曲目に対し、終曲は明るく希望に満ちている。

 本作の音楽設計はシンプルだが巧妙だ。主題歌を冒頭と終幕に置き、本編中に主題歌アレンジを散りばめることで作品全体の世界観と雰囲気を統一している。なおかつ、同じ主題が少しずつ形を変えて変奏されていくことで、ミトサァとホワイトファングの心の変化と成長をも表現しているようだ。同じ旋律の曲でも、劇中で流れるたびに違った印象に聴こえる。ひとつの主題(テーマ)を中心に構築された映画音楽の醍醐味である。
 年はめぐり、季節は繰り返す。少年と狼の心が出逢い、別れ、ふたたび呼び合ってめぐり合う。そんな物語を、音楽も伝えている。
 演奏はドラム・鈴木茂行、エレキベース・伊藤次郎、エレキギター・洪栄龍、ピアノ・渡辺裕美子、ハーモニカ・八木伸郎、ヴァイオリン・武川雅寛、アコースティックギター・笛吹利明、小室等。現在もスタジオやコンサートで活躍する名前が並ぶ。本作では、当時の作品には珍しく、エンディングのスタッフロールにもミュージシャンの名前がクレジットされている。それだけ、ミュージシャンの力が大きいという証だろう。シンプルな編成とアレンジで作り出された音楽は、シンプルだからこそ力強く、心に深く刺さる。
 近年、映像音楽は精緻に作り込まれていく傾向が進んだが、いっぽうで、手作りの匂いのするライブ感のある音楽を聴く機会も増えてきた。観客・視聴者が、たとえ荒削りでも、作り手の情感の宿った音楽を求めるようになってきた証ではないだろうか。今年のヒット作2本の映画音楽もそうした流れの延長線上にある気がするのだ。
 残念ながら、本作の音楽は主題歌を含め、一度もCD化されていない。本編とともにパッケージ化を願いたい作品である。
 なお、小室等が手がけたTV番組の音楽は1983年に「小室等 TV-MUSIC SELECTION IN MEMORY OF 40 YEARS」のタイトルでアルバムにまとめられ、フォーライフレコードから発売された。近年ボーナストラックつきでCD化されたので、興味のある方はぜひ入手してお聴きいただきたい(「白い牙」も入れてほしかったところだ)。

小室等 TVミュージック・セレクション イン・メモリー・オブ・40イヤーズ

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104 12月にトークイベントをふたつ開催しました

 「平松禎史 アニメーション画集」 と「アニメスタイル010」の編集作業が同時進行で、大忙しの日々でした。まだその忙しい日々が一段落したわけではありませんが、しばらくお休みしていた「アニメ様の『タイトル未定』」を再開します。 

 12月4日(日)にトークイベント「第124回アニメスタイルイベント 帰ってきたデータ原口のアニメ講義 『クレジットから見る 東映アニメーション60年』」を開催しました。アニメスタイルイベントの原口さんのアニメ講義は、6月12日(日)開催の第116回イベント以来の半年ぶり。遅刻が多い原口さんが、今回は開演前には会場に到着しましたよ。
 内容はタイトル通り『白蛇伝』から近代までの東映アニメーションの歴史をクレジット表記から探っていくというもの。最初の『白蛇伝』のパートが長くて、近代までたどり着くのかどうかが心配でしたが、なんとかイベント中にゴールイン。内容は極めて濃く、充実したトークとなりました。来場者数は前回よりも増えて、まずまずの入り(ご来場してくださった皆さま、ありがとうございます)。これなら原口さんのアニメ講義を定期的に開催できるかもしれません。次回の開催は来年夏でしょうか。

 12月11日(日)には「第125回アニメスタイルイベント ここまで調べた『この世界の片隅に』 その調査・考証の全て!?」を開催。こちらはアニメスタイルイベント「1300日の記録 特別編 ここまで調べた『この世界の片隅に』」の続編企画でした。「1300日の記録~」の開催が2013年12月の第77回から、2015年3月の第96回までの全6回で、今回は1年9ヶ月ぶりでした。
 作品が大好評公開中という事もあり、チケットは前売り開始してすぐに完売。出演は片渕須直監督、キャラクターデザイン・作画監督の松原秀典さんに加えて、方言指導・出演の栩野幸知さん、新谷真弓さんが飛び入りで参加。さらにすずさんの家のミニチュアも展示されるという盛り沢山なイベントとなりました。 
 可能ならまた『この世界の片隅に』でイベントをやりたいですね。今回は「調査・考証」だけでなく、それを含めた幅広い内容のトークとなりましが、次回は「調査・考証」を突き詰めたものになるとよいかなと思います。

 ちなみに、今年開催したアニメスタイルイベントは

第108回 色彩設計新春飲み会 【色彩設計おぼえがきスペシャル】
第109回 アニメの撮影とは?~撮影を知ってもっとアニメを楽しもう
第110回 原口正宏アニメ講義vol.10 TVアニメ50年史を語る 永井豪アニメの時代と業界の再編成
第111回 石浜真史 公開インタビュー
第112回 アニメ様とサムシング吉松の酔っ払いトークPART5 ある作画マニアの肖像
第113回 原口正宏アニメ講義vol.11 TVアニメ50年史を語る 『アルプスの少女ハイジ』がアニメ史に残したもの
第114回 2時間で語るアニメ様の30年
第115回 ANIMATOR TALK 久保田誓×夏目真悟
第116回 原口正宏アニメ講義 最終回 『宇宙戦艦ヤマト』とアニメブーム
第117回 アニメマニア講座 アニメファンなら読んでおきたい本はこれだ!
第118回 中村亮介と仲間たち 蟹ナイト3
第119回 音楽演出の仕事
第120回 アニメ兄貴のこれを観ろ! 雨宮哲のこんなアニメを観てきた編
第121回 西尾鉄也、アニメ人生を語る!
第122回 田中将賀 ANIMATOR TALK
第123回 アニメ様とサムシング吉松の酔っ払いトークPART6 てんちょさんと『フリクリ』を語ろう
第124回 帰ってきたデータ原口のアニメ講義 「クレジットから見る 東映アニメーション60年」
第125回 ここまで調べた『この世界の片隅に』 その調査・考証の全て!?

 の18回。沢山やりましたねえ。2016年も1月からイベントをやりますよ。その内容は近々に発表します。よろしくお願いします。

(2016/12/19)

第495回 新WUG!とコンテIN

『Wake Up,Girls! 新章』が発表されました!

 春でしたかね? 今年の。エイベックスさんから正式にオファーを受けたのは。公式でもコメントしたとおり、前シーズンでは第10話「登竜門」のコンテのみ、その後「2」扱いになる劇場版後編「Beyond the bottom」のプロダクションアドバイザーで関わったのみ。前編「青春の影」の方もウチ(ミルパンセ)の新人の作打ちに立ち会ったり、作画の面倒をみたりしましたが、それは「スタジオの先輩としては当たり前」レベルの事なのでノンクレジット。こんな自分にシリーズの監督がまわってくるなんて今年いちばんの不思議な話でした。まあでも前シリーズは、コンテ1本とはいえシナリオは全話読んで真剣に楽しく挑んだし、「2」も部分的にコンテ打ちにも立ち会ったわけで、思い入れはあります。

来た仕事は真摯に楽しくお引き受けします!!

が信条。スタッフ共々頑張るしかありません! 現在はシナリオが半分終わり、後半のプロット中。年末年始にかけてコンテINします。ちなみにこれも俺の信条ですが、監督をお受けする際コンテのスケジュールはできるだけ他の仕事と重ねない配慮をします。つまり「今やってるシリーズのコンテが○月頃終わるので、その時期にコンテINでよろしければ〜」と。今回の場合は、「『ベルセルク』次篇(2017年)のコンテが終わったら〜」。ちなみに『ベルセルク』は一部ラフが残ってますが、カット割りはすべて終わり、アフレコも年内で終わり。『てーきゅう』第8期は最終話まで終わってます、もちろん。追記すると「できるだけ重ねない云々」の「できるだけ」は例外もたまにあるんですが、それは

・シリーズ化や続編などで、監督の都合でスケジュールが左右できない場合
・前シリーズの放映スケジュールが委員会の都合でズラされた場合

です。前者は『てーきゅう』とかです。後者は監督やってると本当によくあります。そのような理由でコンテのスケジュールが重なってしまった時は地獄を見るわけです。ま、『てーきゅう』やオープニング、エンディングなどのショートムービーは、日曜日まるまる潰して1本上げるのが最近の通例。でも、アニメファンの皆様にはご理解いただきたいのです。

アニメの監督って、シリーズとシリーズの間を
1〜2年空けてては食っていけない!

という事実を。だからやり続けるしかないのです。

第494回 アニメに挫けるな!

 若手の育成に携わっていると、様々な愚痴や悩みを聞くハメになります。例えばA君。

趣味で絵を描いてた時は楽しかったんですけど、
今は苦しくてしょうがないんです!

 これと同じ悩みを訴える若手はホントに多いです。大概、自分はこう答えます。

 つまり、我々の仕事はむしろ社会でストレスにまみれた人たちにひと時の娯楽を提供する事です。で、下手な絵は観る人に不快とストレスを与えます。観る人にストレスを与えちゃいけないでしょ? そのために我々はストレスを感じて苦労してデッサンやパースを勉強しなきゃならないのです。それがプロの始まりでしょう! と。
 ズバリ、単刀直入に訴えてきたB君。

仕事が面白くないんです!!

 これはアニメ業界に限った事ではないと思うけど、会社が面白い仕事を用意しなきゃならない決まりなんてないんです! あえて言うなら

仕事は自分で面白くするんです!!

 少なくとも面白くする努力をしてから「つまらない!」と言うべきでしょう!? さらに言うと世の中には、自分の好きでもない仕事をしている人は大勢います。そんな中、貴方だけは他の人と違って「面白くて楽しくて大好きな仕事」を手に入れる事ができる才人なのですか? と。その根拠は何!?

第95回 世界を奏でる交響楽 〜ASTRO BOY 鉄腕アトム〜

 腹巻猫です。11月30日に「劇場版 エースをねらえ! 総音楽集」が発売されました。主題歌とBGMを2枚のCDに集大成。『新・エースをねらえ!』スコア流用曲もフォローし、初公開となる主題歌のオリジナル・カラオケも収録しています。ブックレットには、劇場公開時に出崎統監督がプログラムに寄せたコメントの再録と作曲家・馬飼野康二の最新インタビューを掲載。7月に発売されたBlu-rayとともにお楽しみください!

劇場版 エースをねらえ! 総音楽集
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劇場版 エースをねらえ! [Blu-ray]
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 前回、1980年のカラー版『鉄腕アトム』の際に樋口康雄が音楽を担当する予定があったと書いた。
 それから23年。2003年に『ASTRO BOY 鉄腕アトム』のタイトルで新しいTVアニメ版『鉄腕アトム』が制作された。音楽を担当したのは、現代音楽作曲家として知られる吉松隆である。
 手塚治虫の原作ではアトムの誕生日は2003年4月7日と設定されている。『ASTRO BOY 鉄腕アトム』はアトム誕生の年を記念したアニメ作品だった。『鉄腕アトム』の原作マンガがスタートしたのは1952年。それから半世紀。初アニメ化の1963年からも40年が過ぎた。遠い夢のような未来だと思っていた21世紀が実際にやってきたのだ。21世紀になっても『鉄腕アトム』のアニメを放送しているなんて、手塚治虫は想像していただろうか。
 『ASTRO BOY 鉄腕アトム』は2003年4月から2004年3月まで、フジテレビ系で全50話が放送されたTVアニメ作品である。監督は映画監督の小中和哉。TVアニメの監督はこれが初だが、もともと実写のSF・ファンタジー作品や「ウルトラマン」シリーズなどを手がけている監督なので違和感はない。アニメーション制作は手塚プロダクション。アニメーションディレクターは望月敬一郎が担当した。
 アトムの声は、第1作の『鉄腕アトム』以来、長年アトムの声を担当してきた清水マリから津村まことに交代している。清水の都合ではなく、世代交代を意識してのこと(当時の清水マリの複雑な心情は、昨年清水が上梓した著書「鉄腕アトムと共に生きて—声優が語るアニメの世界」に書かれている)。新世紀のアトム誕生を印象づける出来事だった。

 音楽を担当した吉松隆は1953年生まれ。東京都出身。『鉄腕アトム』の原作マンガを読んで育ち、TVアニメの第1回放送もしっかり記憶しているというアトム世代である。中学生で交響曲の作曲家を志し、独学で勉強を始めた。高校卒業後、慶應義塾大学工学部に進むも、作曲に没頭する日々。この頃、一時期、作曲家・松村禎三に師事する。また、70年代プログレッシブ・ロックにも心酔した。音楽に入れ込むあまり大学は休学、とうとう中退してしまう。以後は、アルバイトで生活費を稼ぎ、ロックやジャズのグループに参加したりしながら、独学で作曲を続けた。1978年、岩崎ちひろ美術館で開催された原田力男プライベート・コンサートで、作品「忘れっぽい天使I」が初演され、作曲家デビューを果たす。
 以後、徐々に作品が認められるようになり、1984年、初めての個展を開催。同年、作曲家・西村朗と「世紀末音楽研究所」を設立した。交響曲をはじめとする純音楽作品を数多く発表するいっぽう、エマーソン・レイク&パーマーの代表作「タルカス」をオーケストラ作品に編曲して録音するなど、クラシック音楽とロックを横断するような活動も行っている。
 現代音楽界では異端とも呼ばれる抒情的な作風、音楽や音楽業界に対する反骨的な発言など、とんがった精神を持つロック・ミュージシャンのような現代音楽作曲家だ。冨田勲や樋口康雄を天才と呼ぶなら、吉松隆は「鬼才」の呼び名がぴったりくる。
 あくまで純音楽の作曲家で、映像音楽は『ASTRO BOY 鉄腕アトム』のほか、NHK大河ドラマ「平清盛」(2012)、劇場作品「ヴィヨンの妻 桜桃とタンポポ」(2009)など数本しかない。本作は吉松隆ワークスの中で異色にも見える。
 が、『鉄腕アトム』もまぎれもなく吉松隆の音楽である。「映像音楽だから」みたいな遠慮や手加減はない。むしろ、『鉄腕アトム』という題材に嬉々として取り組んだ雰囲気が伝わってくる。なにせ吉松は、影響を受けた人物の1人に手塚治虫を挙げ、本作の話がある前から「鉄腕アトム」に想を得た「アトム・ハーツ・クラブ組曲」なる作品を発表したり、鉄腕アトムの誕生日をカウントダウンする時計を買って手元に置いたりしていたそうなのだ。
 本作の音楽監督は、オーケストラ・アルバムや映画音楽のプロデュースを手がけている音楽プロデューサーの磯田健一郎。本作では、吉松隆の得意とする音楽を生かすために、管弦楽編成による収録を決めた。オーケストラは日本フィルハーモニー交響楽団。指揮・渡邊一正。近年は海外のオーケストラで録音するアニメ音楽も増えたが、実は国内のオーケストラで録音するほうがお金がかかるので、これはとてもぜいたくなことなのである。 さらに本作の音楽は、キャラクターごとにライトモチーフを設定するワーグナーの楽劇のような手法が採られることになった。さらに吉松隆は、楽器の音色による性格づけも行いたいと希望。それを実現するためにソリストを担う奏者が用意された。加えて、オーケストラとは別メンバーによって小編成の別バージョンも録音するという、手の込んだ音楽録音が行われている。
 本作のサウンドトラック・アルバムは2枚発売されている。1枚目は2003年3月発売の「ASTRO BOY 鉄腕アトム ORIGINAL SOUNDTRACK SCORE」。2枚目は2004年1月発売の「ASTRO BOY 鉄腕アトム MUSIC FROM METRO CITY ORIGINAL SOUNDTRACK PART2」。いずれもソニー・ミュージックからリリースされた。1枚目は管弦楽編成の楽曲、2枚目は小編成の楽曲を中心とした構成である。
 サウンドトラック1枚目の収録曲は以下のとおり。

  1. アストロボーイ
  2. アトムのワルツ
  3. 科学省長官:お茶の水博士
  4. 天馬博士の野望
  5. 大都会の影
  6. ポリス出動
  7. 悲しき英雄
  8. ウランのワルツ
  9. 宇宙艇発進
  10. 断片化した回路
  11. スキップらんらん
  12. 異次元へ
  13. 悲壮
  14. 地上最大のロボット
  15. バトル・フィールド
  16. 異郷へ
  17. コラール
  18. ウランのワルツ(小編成版)
  19. 異郷へ (小編成版)
  20. アトムのワルツ(小編成版)

 本作の前期主題歌はZONEが歌う「true blue」。サントラには主題歌は収録されていないが、主題歌のメロディには吉松隆によるアトムのモティーフが組み込まれている。
 トラック1「アストロボーイ」を聴けば明らかだ。冒頭から金管が奏でる弾んだメロディは、「true blue」のサビのメロディそのまま。サックスのソロが同じ主題の変奏を奏でる。ふたたび金管がメロディを反復し、今度は弦楽器が変奏を奏でる。そんなふうにひとつの曲の中で主題が反復され、展開していく。管弦楽の小品のような構成を持った、本作の音楽を象徴する曲である。
 アトムを表現する楽器としてサックスが選ばれているのが面白い。トラック2の「アトムのワルツ」ではソプラノサックスが踊るようにメロディを奏で、木管がアトムと会話をするかのように呼びかけ、返事をする。
 本作で描かれている21世紀は、誰も実際には見たことのない、もうひとつの夢の未来。懐かしく温かい未来とアトムの人間っぽさがサックスとオーケストラのアンサンブルで表現されている。
 御茶ノ水博士を表現するのはファゴット(バスーン)である。トラック3「科学省長官:お茶の水博士」は管弦楽による行進曲風の前奏から始まる。広壮な科学省のビルの中をお茶の水博士が大股で歩いてくる姿が浮かぶ。続いて、ファゴットがユーモラスな主題を奏で、博士の親しみやすい風貌と人柄を描いていく。サントラ2の「小編成版」では低音のサックスが同じメロディを担当している。いずれの版でも低音の木管の音がお茶の水博士のイメージにぴったりだ。
 実はこの曲、お茶の水博士の場面にはあまり使われず、ストーリーテラーロボット・フランケンのテーマとして使われることになった。
 アトムの産みの親でありながらアトムに敵対していく天馬博士には、オルガンが割り当てられている。トラック4「天馬博士の野望」ではオルガンの序奏を受けて、木管と弦楽器が劇的で悲壮な主題を奏で始める。そのバックではずっとオルガンが鳴り続いている。バロック的な曲想を持った重厚な曲だ。アニメ音楽ではオルガンは悪のテーマを演奏する楽器としてたびたび採用されているので、この性格付けはぴったりだろう。サントラ2の小編成版ではシンセサイザーによるパイプオルガンの音色で奏でられ、デモーニッシュな雰囲気と悲劇性が強調されている。
 そして、アトムの妹ウランを表現するのはピッコロ。トラック8「ウランのワルツ」はチェレスタと木管の伴奏をバックにピッコロの澄んだ音色がウランの愛らしさを描写する。クラリネットとフルートが変奏を奏で、ピッコロとのかけあいでいたずらっぽく展開。弦も加わって大騒ぎのような雰囲気になったところで、チェレスタとフルート、ピッコロが主題を反復して終わる。2分足らずの中にドラマを詰め込んだ、短いながらも充実した曲である。
 情景・状況描写系の曲は、金管楽器の音色を生かしたビッグバンド風の色彩で書かれている。金管の温かい音色は本作のレトロフューチャー的な世界観を表現するのにうまく合っている。
 悲しみを表現するトラック7「悲しき英雄」とトラック13「悲壮」は抒情的ではあるが感傷的ではない。主題が繰り返される中で曲の表情が複雑に変化していく。吉松隆の作風が表れた楽曲だ。
 聴きどころのひとつはトラック9の「宇宙艇発進」。不安と期待がないまぜになったような管弦楽による序奏に続いて、細かいリズムをバックに弦楽器と金管がアトムの主題の変奏を奏でる。宇宙艇がカタパルトを進んでいくようすがイメージされる。全合奏で盛り上がったところでアトムの主題が登場。宇宙艇の発進を描写する。テンポダウンして弦楽器がゆるやかにメロディを奏で始めると、飛び立った宇宙艇が宇宙空間を悠々と進む姿が眼に浮かんでくる。ふたたび全合奏の盛り上がりとなり、新世界への旅立ちを暗示して曲は終わる。独立した音楽作品として聴けるドラマティックな構成の曲である。
 トラック14の「地上最大のロボット」も聴きごたえがある。淡々と刻まれるリズムをバックに低音の弦楽器と金管が巨大なものが動くさまを描写する。不安なフレーズが反復される中、マリンバのアルペジオが危機の到来を暗示。弦楽器のうねりがサスペンスを強調し、全楽器がしだいにクレッシェンドして終わる。
 次のトラック15「バトルフィールド」は前曲を受けて展開する烈しい戦闘の曲。金管群と打楽器がロボット同士のぶつかりあいを表現。管弦楽にエレキベースのリズムが加わり、シンフォニック・ロックのような盛り上がりを聴かせる。プログレッシブ・ロックに傾倒した吉松隆らしい楽曲だ。
 トラック17「コラール」はアルバムの中でもひときわ美しく心に残る。弦合奏をバックにチェレスタとグロッケンシュピールがやさしい旋律を奏でる。1曲前の「異郷へ」にも同じメロディが使われていて、どこか寂しい気持ちと郷愁を呼び起こす。弦楽器が寄り添うように同じメロディを奏で始め、サックスが加わると、メロディはアトムの主題に発展する。このメロディはアトムの主題が変形したものだったのだ。金管、木管の数が増えて音が厚くなり、徐々にクレッシェンドしていく。夜明けのような荘厳さと希望を感じさせる全合奏で終結する。
 「コラール」とは讃美歌の意味。祈りをともなった歌だ。この曲にはアトムに幸せな未来あれかしと願う祈りが込められている。そんな気がする。
 サウンドトラック・アルバムというより、ロックのコンセプト・アルバムのような世界観を持ったアルバムである。曲の流れが物語を語るのではなく、個々の曲がピースとなって、全体でひとつの世界を描いている。『鉄腕アトム』という壮大な交響楽の世界があり、そこから、アトム、お茶の水博士、ウラン、サスペンス、戦い、悲しみなど、いろいろな要素をふっとつかんでこちらの世界に持ってきたらこんな音楽になりました。そんな風に作られたような音楽である。
 アトムの世界を奏でる交響楽。これもまぎれもなく吉松隆の「作品」なのだ。

ASTRO BOY 鉄腕アトム ORIGINAL SOUNDTRACK SCORE

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ASTRO BOY 鉄腕アトム FROM METRO CITY ORIGINAL SOUNDTRACK PART2

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第493回 先輩として教えられる事

所詮、先輩が後輩に教えられる知識(情報?)には、
ほとんど価値がない!

 ミルパンセで新人の指導をしていて、つくづく感じる事です、コレ。例えば想像してください。「歩く」「走る」「投げる」のモーション(動き)なんて、俺が教えなくても最近のアニメ教本を見たり、スマホでもこすれば大概情報が出てくるでしょう? 基が人間の動きである以上、誰が教えても同じハズ。若い人たちはそれを本能的に知ってて、目の前で俺の喋ってる内容が意味分かんなくてもPCやスマホから回答が返ってくるんです。特にスマホなどは何処にも持っていけるドラ○もん、もうスマえもんですから。困った時はなんでも助けてくれるもんです。我々以上の世代にとっては寂しい話かもしれませんが、その事を覚悟して教え続けるしかないんです!! じゃ、その教える話・情報に価値皆無の現代において、我々先輩側が何を教えられるのか?
 それは

仕事を楽しむ姿勢そのもの!!

なのではないでしょうか? 思えば学生時代にお世話になった小田部羊一先生や、テレコムで指導してくださった大塚康生様、友永和秀師匠らから教わった事も、突き詰めるとそーゆー事かと。小田部先生も大塚さんも「歩き」や「走り」を教えてくださいました。でもモーションの説明自体はそのへんの本のものと大差ありません。ただ、

何十年もアニメをやってきた大先輩が語る
「仕事の面白さ」に感銘を受けた!

んです。お二方とも俺の描いた原画もどきを「あっ、面白い、面白い!」と喜んでくださって「ここをもう少し、こうひねった方がもっと気持ちよく動くよ」とアドバイスしてくださる際、

ね、アニメって面白いでしょ!?

って感じで言葉に出さず優しく微笑んでくださるんです。友永師匠も描いた画に対して厳しくはありましたが、基本「アニメという仕事」自体に楽しく取り組まれる方で、板垣はその背中を見て育ったんです。自分も自分を育ててくださった先輩方のように、後輩にアニメの楽しさを教えられるようになりたいと思ってます!! 以上。

新文芸坐×アニメスタイル セレクションVol. 89
年忘れ!クレヨンしんちゃんまつり


 2016年最後のオールナイトは、お馴染みの『映画 クレヨンしんちゃん』の特集だ。タイトルは「新文芸坐×アニメスタイル セレクションVol. 89 年忘れ!クレヨンしんちゃんまつり」で、開催は12月17日(土)。

 上映作品は『映画 クレヨンしんちゃん』の第4作『ヘンダーランドの大冒険』、同じく第23作『オラの引越し物語 ~サボテン大襲撃~』、第24作『爆睡!ユメミーワールド大突撃』。初期の傑作と、近年の作品2本を揃えたプログラムだ。

 トークのゲストは『オラの引越し物語 ~サボテン大襲撃~』の橋本昌和監督を予定。年末の一晩を『クレヨンしんちゃん』で楽しんでいただきたい。前売り券は11月30日(水)からチケットぴあ、新文芸坐で発売開始となる。

新文芸坐×アニメスタイル セレクションVol. 89
年忘れ!クレヨンしんちゃんまつり

開催日

2016年12月17日(土)
開場:22時15分/開演:22時30分 終了:翌朝5時05分(予定)

会場

新文芸坐

料金

一般2600円、前売・友の会2400円

トーク出演

橋本昌和、小黒祐一郎(司会)

上映タイトル

『映画クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険』(1996/35mm)監督:本郷みつる
『映画クレヨンしんちゃん オラの引越し物語 ~サボテン大襲撃~』(2015/DCP)監督:橋本昌和
『映画クレヨンしんちゃん 爆睡!ユメミーワールド大突撃』(2016/DCP)監督:高橋渉

備考

※オールナイト上映につき18歳未満の方は入場不可
※トークショーの撮影・録音は禁止

●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

103 『この世界の片隅に』絵コンテについて

 『この世界の片隅に』を多くの方が劇場でご覧になっているようです。公開後も評判は上々。本当によかったです。このまま大ヒット作となる事を祈っています。

 今回はアニメスタイルが編集をお手伝いした「この世界の片隅に 劇場アニメ絵コンテ集」について、少し書いておきます。
 お気づきの方もいると思いますが、この絵コンテ本のサイズはちょっと変わっています。A5サイズの本と比べてもらうと分かりやすいですが、通常のA5よりも縦が少し短くて、横が少しだけ長い。絵コンテを読みやすいかたちでページに収めるために、色々と調整してたどりついたサイズです。これはデザインをお願いした井上則人さんのアイデアです。

 カバーの下の書籍本体の表紙デザインも、なかなかかっこいいですよ。絵コンテ本らしい、そして、『この世界の片隅に』らしい、真面目なテイスト。しかも、重厚さもあります。これについては、僕からオーダーは出してはおらず、井上さんのアイデアです。絵コンテ本をお買い求めいただきカバーを外していない方は、一度カバーを外して見てください。

 僕自身の感想としては、各ページの印刷が綺麗に出てよかった。印刷が綺麗に出るなんて当たり前じゃないかと思われるかもしれませんが、そもそも絵コンテというものは(アニメの原画もそうですが)印刷して本にするために描かれているわけではないのです。綺麗なかたちで本にするために、工夫や試行錯誤が必要な場合もあるわけです。

 以下は、まだこの絵コンテ本を購入していない方にお伝えする情報です。絵コンテ本の巻末には「片渕須直監督による絵コンテ解説」と「片渕須直監督インタビュー」を収録。メイキングに興味がある方にとって、読み応えのあるものになっているはずです。この部分の取材とテキストは僕が担当しています。

 『この世界の片隅に』の絵コンテは演出意図がしっかりと記されているだけでなく、描かれている画も大変に魅力的です。この画を誰が描いたのか、どのように絵コンテが作成されたのかについては「片渕須直監督インタビュー」で触れています。それから、制作現場で使われていた絵コンテは第2稿で、絵コンテ集に収録されているのは第2.5稿。第2稿と第2.5稿の違いについても、インタビューをお読みくださいませ。

 現在、Amazonでは在庫切れになっているようですが、大きな書店ではまだ購入できるようですよ。

(2016年11月28日)

102 株式会社カラー10周年記念展

 昨日「株式会社カラー10周年記念展」に行ってきました。もうね、ウハウハですよ。展示のメインは『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』の原画類。セレクトがとてもよく、見応え満点。

 他には「シン・ゴジラ」『日本アニメ(ーター)見本市』「巨神兵東京に現わる」の関連の資料。さらには「ウルトラ」シリーズのミニチュア、『宇宙戦艦ヤマト』『機動戦士ガンダム』の原画の展示もあり。どうして、「ウルトラ」シリーズや『宇宙戦艦ヤマト』の展示を? と思う方もいるかもしれませんが、カラーが中心となって、アニメと特撮の資料をアーカイブとして残すためのNPOを立ち上げようとしているのだそうですよ。

 新作短編アニメ「よい子のれきしえほん おおきなカブ(株)」の上映もあり。これは安野モヨコさんがこの展示会のために描き下ろした「監督不行届」の番外編を映像化したもので、主人公は庵野秀明さん。モヨコさんの眼差しが温かく、観ていてほっこりする作品でした。これは展示会で観るからこそ、楽しめるものだと思うので、是非とも会場で観てください。
 
 入場料は500円で、来場者全員特典として「株式会社カラー10周年記念冊子」付き。この小冊子もなかなかのボリュームです。なんだか宣伝みたいになってしまったけれど、株式会社カラーのファン、作画マニアなら行って損はないでしょう。残念な点は11月23日(水)から11月30日(水)までと開催期間が短い事くらいです。

 今回の展示の素晴らしい点は、写真撮影がOKだという事(原画等に接近しての撮影はNGだそうです)。僕も沢山写真を撮ってきました。以下がその写真です。




 最近はアニメ関連の展示会も少なくないですが、「株式会社カラー10周年記念展」はよいものをきちんと整理して、観やすく展示しているのもよかったです。

(2016年11月25日)

[関連リンク]
株式会社カラー10周年記念展
http://www.khara.co.jp/khara_10th/

第492回 デジタルで描いてみる

前回のイラストに続きデジタルで描いてみるとします!

といっても文章に関しては、紙と鉛筆の時同様、手描きのものを送りつけて、アニメスタイルのスタッフ様によりテキスト化していただくという、デジタル化したのかなんなのかよく分からない状態になってます。つまり、絵を描くのと同じに「文字を書くのも好き」なんでしょう、自分。だからコンテのト書きも時間的余裕がある限り手書きにしたいのです。もちろん

手書きである事自体がコンテの目的ではないので、そこに拘って作画の時間を食い潰すのは最低ですが!

 まあ、なんにしても俺自身もいろいろ「デジタル化」が始まっております。まずは社内の新人からと思って、今年始めから進めてきた「社内完全デジタル作画化」計画。デジタル化、つまりPCとタブレットで原画から演出・作画修正まで、ずべて紙と鉛筆を使わない! これ、我々より上の世代が10数名いるだけで、かなり困難な大改革なんですよね。なぜって年配な方ほど、デジタルへの移行を否む率が高く、若手がいくらデジタルで作画しても、その年配の方の演出・作監が紙作業を押しとおしてるうちは、いちいち紙にプリントアウトする必要があり、「そんな手間が増えるくらいなら、最初から紙で原画描けよ!」と。実際、一部紙が混じるならデジタル化はかえって不経済なんです。よって大手の会社ほど難しいのがデジタル作画化で、ウチ(ミルパンセ)みたいな、板垣以外は全員20代(10代も1人いますが)の会社はこれ幸いと人数がすくないうちに早いとこデジタル化を!! で、最初は動画の人にPCを揃えて研修に通わせました。続いて原画、作監にも覚えてもらい、最後は俺の番。自分はもともと小学生の頃からコンピュータって大好きなので楽しくやってます。

第94回 神様に祝福された音楽 〜火の鳥2772 愛のコスモゾーン〜

 腹巻猫です。11月12日、「冨田勲追悼特別講演 ドクター・コッペリウス」に足を運びました。トミタサウンドに包まれる至福の時。同時に冨田先生がもういないという寂しさも……。いや、冨田先生は「イーハトーヴ交響曲」と「ドクター・コッペリウス」で描かれた夢幻の世界にいるに違いありません。
 このコンサートに間に合わせるためにスタッフが心血を注いだCD-BOX「冨田勲 手塚治虫作品 音楽選集」が会場で販売されていました。『ジャングル大帝』『リボンの騎士』『どろろ』『千夜一夜物語』などの音楽を5枚のCDに収録。初商品化曲満載のBOXです。100ページに及ぶ解説書も圧巻。全アニメ音楽ファンにお奨めしたい。

冨田勲 手塚治虫作品 音楽選集
http://www.amazon.co.jp/dp/B01LZ090JZ/


 手塚治虫アニメ作品の音楽を手がけた作曲家の中で、とりわけ印象深いのが冨田勲、宇野誠一郎、樋口康雄の3人である。3人とも「天才」と呼んで差し支えのないすばらしい才能の持ち主だが、中でも少年時代から「天才」と呼ばれたのが樋口康雄だ。
 今回は樋口康雄が手がけた劇場アニメ『火の鳥2772 愛のコスモゾーン』の話。

 樋口康雄は1952年生まれ、東京都出身。音楽好きでバイオリンを趣味にしていた父親の影響を受け、幼少時から音楽に親しんだ。小学校時代にピアノ曲、鼓笛アンサンブル曲を作曲。中学校時代はビートルズに傾倒し、バンドを結成する。高校時代には慶応大、立教大のジャズ研に参加し、ピアニスト、コーラス・アレンジャーとして活動していた。高校在学中にボーカル・インストゥルメンタル・グループ〈シングアウト〉のメンバーとしてNHK「ステージ101」に出演、「ピコ」の愛称で人気を集める。これがプロの音楽家としてのスタートになった。
 高校卒業後は上智大学に進学し、在学中から作曲・編曲・演奏家として活躍して注目される。1972年に作曲・編曲・ボーカル・キーボード演奏を1人で手がけたアルバム「abc/ピコ・ファースト」を発表してソロデビューを果たした。
 その後、TVドラマ、劇場作品等の映像音楽やCM音楽、舞台音楽、アーティストへの楽曲提供・プロデュース等で幅広く活躍。純音楽作品やポップスのオリジナル作品も発表するなど、ジャンルを超えた活動を続ける音楽家である。
 樋口康雄の映像音楽作品では、NHK少年ドラマシリーズ「つぶやき岩の秘密」(1973)が鮮烈だ。筆者にとってもこのドラマが樋口康雄初体験。石川セリが歌う主題歌「遠い海の記憶」は一度耳にしたら忘れられないTV音楽史に残る傑作である。沖雅也が主演したNHK時代劇「ふりむくな鶴吉」(1974)の音楽も時代劇音楽のイメージを軽やかに裏切るクールでとんがった作品だった。ほかにTVドラマ「となりのとなり」(1974)、「七人の刑事」(1978)、「さらばかぐわしき日々」(1981)、劇場作品「哀愁のサーキット」(1972)、「赤い鳥逃げた」(1973)などの作品がある。
 アニメでは『火の鳥2772 愛のコスモゾーン』(1980)のほか、24時間テレビのアニメスペシャル『ブレーメン4 地獄の中の天使たち』(1981)、『小公女セーラ』(1985)、『機動新世紀ガンダムX』(1996)、『リーンの翼』(2005)等の音楽を担当。1980年のカラー版『鉄腕アトム』の際には音楽を担当する話があったが実現せず、そのときに用意した主題歌がのちにアルバム「ミュージック フォー・アトム エイジ」に収録されている。
 また、『ママは小学4年生』(1992)の主題歌で益田宏美が歌った「愛を+ワン」も樋口康雄の音楽性が堪能できるすばらしい楽曲だ。樋口はこの歌をアメリカから日本に向かう飛行機の中で作曲し、帰国してからすぐにオーケストレーションをして録音したのだそうだ。樋口康雄の天才を証明するようなエピソードである。
 樋口康雄は、映画音楽では「エデンの東」で知られるレナード・ローゼンマンに、管弦楽はゴードン・ヤコブに影響を受けたそうである。しかしそれは影響を受けたというだけで、樋口康雄が作り出す音楽は誰にも似ていない。華麗で色彩感豊か、音は厚いのに印象は軽やか、自由奔放に動き回る旋律、美しい建築のようなオーケストレーション、上品でポップな感覚。神様に祝福された音楽があるとしたら、こういう音楽ではないのかと思うのだ。

 さて、『火の鳥2772 愛のコスモゾーン』は1980年3月に公開された劇場アニメ。未来の宇宙と地球を舞台に、宇宙生命体2772=火の鳥を捕えようとする人間たちの愛と苦悩と争いを描くSFファンタジーである。「火の鳥」といえば手塚治虫のライフワークだが、本作はマンガ原作ではなく、オリジナル・ストーリー。原案・構成・総監督・脚本を手塚治虫が担当(原画にも参加)。フルアニメーションやロトスコープ、スリット・スキャン等を取り入れて映像にもこだわり抜いた手塚治虫入魂の作品だ。妙に艶めかしいメタモルフォーゼや人間とロボットの恋など手塚治虫作品にはおなじみの要素が本作にも刻印されている。
 1979年、樋口康雄がニューヨーク・フィルハーモニア管弦楽団の委嘱を受けて作曲した新作が東京とニューヨークで演奏された。その公演を聴きに来ていた手塚治虫が樋口のバイオリン協奏曲「KOMA」を気に入ったことから、本作の音楽を樋口康雄が担当することになったという。
 『火の鳥2772 愛のコスモゾーン』の音楽はポップスのリズムセクションを入れない純粋な管弦楽編成。演奏は「オーケストラ2772」名義。指揮は樋口康雄自身が務めた。バイオリン・ソロを当時高校2年生だった千住真理子が担当している。録音は、今はなくなってしまった一口坂スタジオで行われた。
 サウンドトラック・アルバムは公開に合わせた1980年3月、「火の鳥2772 オリジナル・サウンドトラック」のタイトルで日本コロムビアから発売された。劇中音楽を14トラックにまとめて収録した組曲風のアルバムである。2004年に〈ANIMEX1200シリーズ〉の1枚としてCD化された。
 収録曲は以下のとおり。

  1. PROLOGUE〜BIRTH プロローグ〜ゴドー
  2. TRIALS 試練
  3. SHE 憧れ
  4. ADULTHOOD ぼくは大人になった
  5. LOVE AND SUFFERING 愛と苦悩の時
  6. THE EVILS OF THE WORLD 地上悪
  7. IN SEARCH OF SALVATION 旅立ち
  8. THE MERRY BUNCH 愉快な仲間たち
  9. THE ENCOUNTER 出逢い
  10. THE POWER OF LOVE 愛の戦い
  11. RETURN TO THE EARTH 帰還
  12. DESTRUCTION 地球の最期
  13. DEATH 死
  14. REBIRTH 復活

 曲順はほぼ劇中使用順だが、複数の曲を使用順にこだわらずに1曲にまとめたトラックもある。「樋口康雄オリジナル作品」としても聴ける、完成度の高いアルバムである。
 1曲目のプロローグの音楽から圧倒される。本編の冒頭、火の鳥が極彩色の幻想的な空間を舞う場面に流れる曲だ。劇中で何度も変奏される「火の鳥のモチーフ」が提示される。
 2分を過ぎて、千住真理子のバイオリンをフィーチャーしたバイオリン協奏曲風の音楽が登場。白地に黒い文字でスタッフ・キャストが映し出されるタイトルバックの音楽である。古風な曲調が本作に格調高い雰囲気を与えている。
 3分45秒あたりからは、主人公ゴドーの誕生から成長の過程を描く一連の場面の音楽。このシークエンスにはセリフと効果音はいっさい入らず、音楽と映像だけでゴドーの成長と女性型ロボット・オルガとの出逢いと交流が描かれる。ここで「オルガのモチーフ」が登場。映画音楽でありながら、まるでクラシック音楽のような構成になっていることに唸らされる。映像に合わせた音楽なのだが、説明的な印象はなく、音楽だけでもイメージが広がる。今、観直すと、むしろ映像が音楽に負けている印象すらある。
 2曲目の「試練」は成長したゴドーが宇宙ハンター訓練所で訓練を受ける場面の曲。厳しい訓練場面のモンタージュに付けられた音楽だが、曲調は軽やかで躍動的。ユーモラスな木管、きらびやかな金管、疾走感のあるストリングス。最初から最後まで飽きさせないみごとなオーケストラ作品になっている。
 3曲目「憧れ」はゴドーをしごく訓練所の教官をオルガが懲らしめる場面の曲。タイトルの「憧れ」は、オルガのゴドーへの想いを表しているのである。この時期の樋口康雄作品に特徴的な、飛び跳ねるような弦のピチカートが心地よい。
 4曲目の「ぼくは大人になった」は、ゴドーが上流階級の美しい娘・レナと出逢い恋心を抱く場面に流れるロマンティックな曲。序盤はゴドーがエアカーを飛ばす場面の躍動的な曲。中盤から花畑のシーンになり、ハープのアルペジオをバックに木管とストリングスの美しいメロディがゴドーの初々しい心情を表現する。樋口の紡ぐ音楽は下世話にならず、どこまでも上品で夢見るよう。音楽自体が恋のときめきに身を震わせているような心くすぐられる曲だ。
 アルバムの聴きどころのひとつが、火の鳥との遭遇を描く「出逢い」。火の鳥が登場する3つの場面の曲が1曲にまとめられている。バラバラの場面の曲を繋げた印象はなく、はじめから1曲として構想された曲のようにしか聴こえない。最初に登場するのは火の鳥が初めてゴドーの前に姿を現す場面に流れる神秘的な曲。続いて、オルガが火の鳥と戦う場面に流れるストラビンスキー的な音楽。火の鳥の恐ろしい怪物としての一面を表現する曲だ。最後にふたたび火の鳥の神秘的なイメージが提示されて終わる。「火の鳥のモチーフ」を中心にしたソナタ形式のような展開が美しい。
 次の「愛の戦い」も、人間と火の鳥が戦う場面の曲を集めた聴きごたえのあるトラック。5つの場面の曲が1曲にまとめられている。戦闘場面の音楽らしい激しさ、緊迫感を持ちながらも、いたずらに不安感や闘争心をあおる音楽ではない。むしろ、変化に富んだ展開と精緻なオーケストレーションに聴き入ってしまう。映像と遊離せず、映像のイメージを2倍にも3倍にも引き立てる音楽でありながら、単独の音楽作品としても聴ける完成度。樋口康雄が生み出す音楽の奇跡にただただ感嘆するしかない。
 筆者が以前、樋口康雄にインタビューした際に聴いた話では、本作の音楽はすべて絵コンテをもとに作曲し、映像はいっさい観ていないそうである。それがかえって、映像に制約されない豊かな音楽を生み出すことになったのかもしれない。完成した映像も力作だが、樋口康雄の音楽は、映画音楽とか純粋音楽とかいう枠を軽く超えている。音楽に身を浸すよろこびや音楽の官能性までをも体験させてくれるすばらしい作品だ。ワーグナーの楽劇やチャイコフスキーのバレエ音楽に匹敵するような普遍性を持った音楽作品である。
 「天才」樋口康雄の代表作として、アニメファン、映画音楽ファンのみならず、すべての音楽ファンに聴いていただきたい1枚だ。

 なお、本作の音楽商品としては、ほかに「プロローグ」と「愛の戦い」を収録したシングル盤と2枚組のドラマ編LPが発売されている。このドラマ編が意外に聴きものである。
 ドラマ編LPは映画の物語を90分ほどに編集した内容。現在のDVD版ではカットされているシーンの音声も収録されている。音声は本作のモノラル音声をそのまま収録したものではなく、音楽をステレオで新たにダビングしたもの。音楽の入るタイミングも少し異なっている。「音楽・レコード構成」として樋口康雄の名がクレジットされているので、音楽の聴きどころに主眼を置いて構成されたのだろう。音楽集(オリジナル・サウンドトラック)に未収録の曲もステレオで聴くことができる貴重なアルバムなのだ。
 いつの日か、未収録曲を含めた『火の鳥2772 愛のコスモゾーン』のサウンドトラック完全版が実現することを心から願いたい。

火の鳥2772 オリジナル・サウンドトラック

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101 今 敏監督作品のオールナイトで拍手が

 先週の土曜にオールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションVol. 88 アニメファンなら観ておきたい200本 今 敏のアニメーション」を開催しました。

 チケット完売の大入り満員でした。さらに嬉しかったのは、来場されたお客さんの大半が20代だった事。若い人が今監督の作品に興味を持ってくれているという事ですよ。また『千年女優』『東京ゴッドファーザーズ』『パプリカ』の3本を上映したのですが、上映が終わるたびに客席から拍手が起きたそうです(『パプリカ』終了後の拍手は、僕も会場で聞きました)。嬉しいですねえ。

 トークコーナーの出演はアニメーターの本田雄さん、アニメ研究家の氷川竜介さんで、例によって僕が司会を務めました。トークの中で『妄想代理人』と『パプリカ』と『夢みる機械』の企画の関連性や前後関係について話題になったのですが、そこで関係者席にいたプロデューサーの丸山正雄さんが登場。僕たちの間違いを訂正してくださいました。丸山さんは今回のトークは僕達に任せて、登壇はしないはずだったのです。これも嬉しいハプニングでした。

 トークでも次回のオールナイトの企画についてちょっと話が出ました。可能なら、来年も今監督のオールナイトを開催したいと思います。『妄想代理人』『パプリカ』『夢みる機械』の企画の関連性や前後関係については、もう少し詳しく知りたいので、次回のイベントまでに調べておきます。

 最後に写真を1枚お見せします。2枚の色紙は今回のオールナイトでロビーに飾られていたもの。いずれも生前の今監督に、オールナイトに来ていただいた時に描いてもらったものです。「新文芸坐×アニメスタイル」のタイトルでオールナイトを始めるより前のイベントですね。片方については僕自身が忘れていたのですが、どちらのオールナイトでも、僕はトークの聞き手を務めているようです。

(2016年11月21日)

100 「平松禎史アニメーション画集(仮)」編集作業が進行中

 「平松禎史アニメーション画集(仮)」の編集作業が進行中です。一昨日と昨日は平松さんに取材をしてきましたよ。
 
 「田中将賀アニメーション画集」や「西尾鉄也画集」を編集した時もそうだったのですが、今回の書籍でも参考資料として大量の書籍を古本で購入しています。
 主には掲載するイラストの情報を洗い出すためです。本人が描いた事を忘れているイラストもあるし、画像データそのものは残っているけれど、どの媒体で発表されたのか分からないケースもある。初出時にどういったかたちで掲載されたのかも知りたいし、背景や仕上げのスタッフが表記されているならそれもチェックしたい。そういった事を調べるために、過去のアニメ雑誌やムックを買い込むわけです。

 アニメ関連書籍ばかりではありません。「田中将賀アニメーション画集」の時は解説書で確認する事があってDVDソフトを買ったし、「西尾鉄也画集」では学習参考書や押井守監督関係の本を購入しました。

 今回の変わり種としては「ガイナックス連続殺人事件(エロ本)」があります。「ガイナックス連続殺人事件(エロ)」というタイトルの成人向けゲームがあり、それと関連して作られた冊子です。アニメスタイルの編集スタッフが、この本にも平松さんのイラストが載っているらしいという情報を持ってきたのですよ。それでネットオークションでゲット。確かに平松さんのイラストが載っていました。ついでに言うと、鶴巻和哉さんと鶴田謙二さんのイラストも掲載されています。

 これも平松さん自身が覚えていなかった仕事のひとつでした。本をお見せしたところ、「ああ、描いたね」とイラストを描いた事を思い出してくれました。

 そんなふうに過去の平松さんの仕事を探りながら本を作っているわけです。なお、そのイラストが画集に掲載できるかどうかはまだ分かりません。まだまだ編集作業は続きます。

[関連リンク]
「田中将賀アニメーション画集」[Amazon]
https://www.amazon.co.jp/dp/4902948176/style0b-22/ref=nosim

「西尾鉄也画集」[Amazon]
https://www.amazon.co.jp/dp/4902948184/style0b-22/ref=nosim

第491回 楽しい楽しい同窓会

ワシが若い頃はこうじゃった!

的な昔話が俺は嫌い、いや大嫌いです。といっても自分でもたまに言っちゃうんですが。アニメ業界でよく耳にする話、「昔は制作がしっかりしていた」とかを自分自身でも口にしそうになると、即座に塞ぐようにしてます。なぜって、今の制作は今の制作なりのよさがあるのに

「自分にとって都合がいい制作がいなくなった」などのボヤキを、もっともらしく理屈をつけて「俺は警鐘を鳴らしてやってる」つもりになったって、誰も聞く耳を持たないと思うから!! その前に「自分自身が10年前より成長したかどうか?」を省みる事の方が先でしょう!?

と。どんな場でもどんな時でも、自分側が反省する要素はあるはずですから、大概の事例において。なのに昔天下をとった(業界的にはソフト何万本売ったとか)クリエイター様ほど、最近の業界に不満を漏らしてる気がします。板垣はその点、天下をとった事は皆無なので、SNSなどでその警鐘(戦い?)を目にすると、「この方は何が理想なんだろう?」と考えてしますので。自分を持ち上げてくれる制作がいい制作なのでしょうか? 車で送迎してくれる制作が? 夜中2時過ぎたら牛丼買ってきてくれる制作がご希望? いったいそれはいつの昭和で、いつのバブルですか? 例えば制作現場をお借りして作品を作ってるアニメ監督が、自分でスタッフの育成に関わってもいないのに「この会社はいいスタッフがいない! スタッフを育てるのは制作の仕事だろ? 俺は監督だぞ!」ってずいぶん勝手な話だと思いませんか? 例えば「金(制作費)を持ってこれるプロデューサーがいない」? それは

まず「あなたの監督名で金が集められる」ようになってから言いません?

 ちなみに俺自身は、そんな資格があるわけないので、スタッフを育てられる会社を自分らで作るしかないと思ってるわけです。業界全体に向けて「番組落ちるのは誰のせい!」と誰かのせいにする前に、スタッフの育成を買ってでるべきではありませんか? 業界のためを思うなら!!
 と業界四方山にイヤ気がさしてたところ、

11月13日、中学校の同窓会に出席してきました!

 もう28年ぶりに会う同窓生らに興奮し、とても楽しいひとときでした。自分の富とか名誉のためではなく、彼らが素直に面白がってくれるアニメを作りたいと思いました。