第727回 動画という仕事

 前回の続きっぽく、もう少し「職人」の話。最近また『ルパン三世』シリーズの新作があるらしく、ふとまた思い出した『ルパン三世 くたばれ!ノストラダムス』(1995年)という映画。何度も話題にしている自分の初動画作品の一つで、同時期に動画やってた作品としては『耳をすませば』と『On Your Mark』などがあります。
 まず、我々アニメ業界人にとっての「動画」と現代人にとってのそれとは多少の隔たりがあると思われるので曖昧さ回避(?)を。昨今ではYouTubeなどに上がってる作品やスマホ・デジカメで撮れる映像、というか映像全般が「動画」と呼ばるご時世になったようです。ところが、我々アニメーターにとって「動画」とは

原画をトレスしてそのトレスした画と画の間に描く中間の画一枚一枚、もしくはその画を描く人の役職名!

のことなんです。だから、実写のユーチューバーさんらが「~について動画を一本上げます」とか「以前~の動画で……」などの台詞が発せられるのを耳にする度、少々違和感が付き纏うアニメーターは自分だけではないはず(ですよね?)。
 ま、話を戻します。何しろ『ルパン三世 くたばれ~』の動画で思い出すのは、この連載の初期でも何回か話題にした

ラスト、ルパンらが脱出した後、地上1000メートルの超高層ビルが横倒しになる大俯瞰(1時間30分25秒あたり?)の動画!

です。これはコンテが友永和秀師匠、原画は後に細田守監督作品の作監もやられている青山浩行先輩(因みに青山さんの師匠も友永さん)。
 友永師匠曰く、「『長靴をはいた猫』(1969年・東映動画制作)のラストシーン、倒れる塔で「朝日よ~!!」がやりたかった!」だそうです。一緒に飲んだ時そう言ってました。
 このシーン一連の青山さん原画パートは板垣の方で何カットか動画にさせて頂き大変勉強になりました。青山さんの原画は本当に巧くて動画にするだけで色々学べて、特に『くたばれ~』では青山さん拘りのエフェクト作画を数々割らせて(中割させて)もらい、その時の影響は今でも自分の原画に色濃く残っていると思います。
 で、『くたばれ~』の高層ビル横倒しの青山さん作画カットは、

原画4枚で、動画時Aセル…ビルの土台(止めハーモニー処理)、Bセル…倒れるビル、Cセル…爆炎、Dセル…鉄骨&ガラス破片~に分けて、Aセル止め以外のB・C・Dセルはそれぞれの原画の間に10枚・9枚・9枚の中割りで計97枚の大判動画!

の構成でした。なにぶん20数年前の記憶なので以前話題にしたときと多少誤差があるかも知れませんが、改めて計算したのでこちらの方が正しい数字かと。
 カメラを捻る(回転する)ため、全動画A3用紙一杯の大判。当時はセル仕上げなのでトレスマシンに差し込む際ガタらないように動画用紙全てにタップ補強(もう1枚タップ穴の開いた紙をボンドで貼る)をし、その作業だけで半日費やした上で、まわりの先輩方からは「君がこれやるの?」「頑張れ~」などの声が上がる中、ようやく夕方から動画作業に挑んだのでした。
結果から言うとCG繁栄の現代から見ると“別にどうってことないカット”でしょう。でも、当時でも既にCG(コンピューター・グラフィックス)という技術はあったので「何でこれCGでやらないんだろう? 予算の問題?」などの思いも駆け巡る中、

「よし!どうせやるならブレたりガタッたりせず、CGと見紛うばかりの動画を仕上げて見せる!」

と意気込んで取り組んだのでした。Dセルの破片は大して時間は掛からないのは分かっていたのですが、大変だったのは煙(Cセル)とビル(Bセル)。特にビルの横倒しは、9割方直定規を使っての立体図形割り(?)とでも言いましょうか。ひたすら各移動曲線に目盛りを均等に打ち、点と点を直線で繋ぎまくる——単純に言うと、動画一枚一枚がまるで“製図”状態!

はっきり言って、毎日16~18時間程(当時はもちろん働き方改革などなしで)机に向かって一日2~3枚が限度。煙・破片まで含めすべて終わらせるのに2週間近く掛かったと記憶しています。お陰様で自分の上げた大判動画はガタりもブヨりもせず、周りの先輩方からも好評頂いたようで正直自分も鼻高々でした。
 もちろん、こんな話題を繰り広げてもどなたも喜ばないのも分かってるし、ufotable近藤光社長(テレコムでの同期)ともこの映画の欠点については何度も語ったし、歴代ルパンの中でも決して上位には食い込まないほぼ無名な作品なのも承知してます。でも、東京現像所で完成試写を観た時の充実感は未だに忘れられない、自分にとっては愛すべき駄作(失礼!)なんです。アニメーターの方なら誰でも、参加した役職に限らず、そんな作品ってあるのではないでしょうか?
 そして、何故今頃こんな話を持ち出したかと言うと、冒頭で言った「動画」と言う職人仕事についての疑義を呈するのに丁度良い例だと思ったからです。
 今、我々の会社——ミルパンセでは、動画の在り方について考えています。自動中割だ中割マシンだと動画をコンピューターによる自動化という発想は当たり前だし、社内でも自動中割ツールを要所要所使ったりしています。もちろん、俺自身はそれらの模索はとても良いことだと思っています。自分たちが味わった苦労を、「お前ら若者も味わえ!」とばかりに後世に残そうとする意味不明な筋肉頭脳的発想を板垣は持っていませんから。
ただ、「どんな人間が描いた原画でも必ず割ってみせる自動中割ツール(マシン)」にはまだ時間が掛かりそうなのと、そうこうしている間に「どんな芝居もアクションもCGで作った方が早いし、費用的にも手描きより安く上がる」って時代の方が先にやって来そうだし。
 ……てとこで考えるのです。
 つまり、“機械でやらせる手段を考えている”時点で会社(スタジオ)は、というかアニメ業界は、少なからず我々がやってきた「動画」という作業には、

“アニメーター育成”という大義名分のもと、本当は“大概の人がやりたがらない仕事”を、ただ単に後輩に押し付けただけ! という一面がある!

と感じていたということでしょう。全てがとは言いません。走りや歩きのメカニズムや、前述のエフェクト類など、先輩の原画をトレス&中割りすることによって学べることは数多くありますから。ただ、動画経験者なら分かって頂けると思うのですが、

世にある動画の6~7割は線と線の間に線を引くだけの“誰がどう描いても結果は同じ動画”で、且つ“誰もやりたくないけど機械化がまだ追いついていないために誰かがやらなきゃ終わらない仕事”!

なんです。自分が割った超高層ビルの動画などは正にそれ! 当時は新人だったから「原画になるための勉強~」的モチベーションで低賃金でも乗り切りましたが、前回説明したような状況である多様な趣味を持ち、時間の切り売り的に“仕事として”付き合ってくれている現代の若者に対して、「俺が若かった頃は~」とか精神論を説教するより前に、正直に

これは、近い将来コンピューターで中割り出来るカットのはずなんですけど、今は手で割るしかないので、本当に申し訳ないけど貴方の手で何とかして下さい!報酬は○○万で如何でしょう?

と、会社(スタジオ)やプロデューサー、あと監督も、ちゃんと頭を下げて動画職人に交渉するべきだし、受ける側もその方が割り切って作業に没頭出来るんです。これ、アニメに限った問題ではなく、

これからの時代、才能や芸能に払うのと同じかそれ以上の報酬を“本当は誰もやりたがらない仕事・職種”に対しても払われるべき!

ですよね? 少なくとも一動画スタッフとはいえ、どんなカットでも割れる高度な技術と忍耐の持ち主には原画マンどころか監督以上の報酬を払って良いと思います——その人がいなければ作品が成立しないのであれば。逆に今時、素材作りの実作業になんのお手伝いすらできないノー技術の監督などいなくても、各セクションの職人がしっかりしていれば、ともかく作品は出来上がって納品できるのですから。ましてや学歴だけで職人を顎で使える立場になれると勘違いした監督とかは糞の役にも立たない時代が、デジタル化によりようやく来たのだと思います。仕事できるできないが数字化できるわけですから。あ、もちろん、我が国にとって学歴は尊いものですよ(高学歴の友人らのこと、俺は本当に尊敬していますから)! ただ!“そ・れ・だ・け・で”一生安泰だと思う妄想がおかしいと言うだけ。
 そろそろ道具として定着したデジタル・ツールで動画の数枚でも割ってみたらどうでしょう、監督さんも? できればプロデューサーさんも。そうすれば監督が通した(描いた)コンテに記される矢印一つで動画マンがどれだけ意味のない苦労をさせられるのか分かります。また、気づくでしょう、その現場の苦労を知らず(知ろうともせず)闇雲に描かれたコンテの内容から制作予算を割り出せないプロデューサーがアニメ事業に携わることの危険性に! そして

我々アニメーターも、現状のアニメ業界全体の人手不足という足元を見て自分だけギャラをでたらめにボッタくるのではなく、ちゃんと「この内容は一日8時間取り組んだら何日掛かる~故にいくらでならお受けできます」と真っ当な計算でもって交渉することを願うし、それに対応する制作さんらもしっかり上(上司?)と相談して現代に見合った価格設定もしくは契約を、ちゃんと互いが将来を見据えた上で合意して結ぶことを切に願います! わがまま個人に言い値を払う姿勢を業界全体で見直し、会社単位の計算された交渉をしないと、割りと早いうちにアニメ業界の“成果に結びつかない無駄遣い”がクライアント側もばれると思います! もしかすると既にバレているから最近、メーカー自身が次々とアニメ制作に手を出し始めたのかも!

……と、「お前、何様?」て声が聞こえてきそうなとこで、今回はここまで。

 あ!因みに、板垣自身はビル横倒しのカットに対して骨折って損しただとか怨んでいるとかはありません。もちろん当時低賃金だったことにも。むしろ機械作業に変わる前に動画マンとしての苦労を満喫できた貴重な経験だと思い、その幸運を喜んでいます。だからこそこうしてネタにするわけで。それと今回のような話題をすると「じゃあ、お前は○○監督や△△監督とかのやり方を全否定するのか!?」と仰る方々が現れるのですが、

────てことです、はい。

アニメ様の『タイトル未定』
323 アニメ様日記 2021年8月1日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2021年8月1日(日)
早朝に新文芸坐に。オールナイトの終幕を見届ける。事務所でイベントの予習をした後、新宿まで歩く。日陰を選んで歩いたけれど、やっぱり暑い。12時から「第178回アニメスタイルイベント  『映画大好きポンポさん』を語ろう!2」を開催。前回のイベントで触れることができなかったテーマに触れることができた。触れたかったのは以下のような内容だ。

(1)劇中でジーンが映画のために友人や生活を捨てたのと、劇中劇「MEISTER」でダルベールが音楽のために家族などを捨てたのがシンクロしている。ダルベールのアリアが、ジーンにとっての「MEISTER」。

(2)つまり、平尾隆之監督が作品を作るために、人生をある程度犠牲にしているのが(1)とシンクロ。乱暴にまとめると、平尾監督=ジーン=ダルベールという関係。

(3)劇中劇の「ダルベールの音楽活動」、劇中の「ジーンの映画作り」、現実における「平尾監督の作品作り」がメタ構造である。

(4)そして「何かを得るために、何かを捨てること」はクリエイターだけがやっていることではない。誰もが何らかのかたちでやっていることだ。だから、この映画のメタ構造は観客にとっても他人事ではないはず。

さらに付け加えると、映像を編集する(切る)ということで、人生の決断を描いているのだ。と考えることもできる。平尾監督に聞きたかったのは(2)の部分。つまり、平尾監督がそのメタ構造を意識していたのか、ということだ。
イベント終了後、新文芸坐で「嘘」(1963/99分)を観る。7月31日(土)の「足にさわった女」と同じく、プログラム「増村演出の神髄に迫る めくるめく増村保造の世界 PART2」の1本。3本構成のオムニバスで、増村保造演出の1本目はかなりパンチが効いている。ではあるけれど、不条理劇的な3本目(衣笠貞之助監督の作品)のインパクトが凄くて、そちらが印象に残った。現存する「嘘」のフィルムにはオープニングと1話目のサブタイトルが欠けているため、先にDVDでオープニングとサブタイトルを見せて、そこからフィルムに切り換えるという今の新文芸坐だから可能な、ウルトラテクニックによる上映だった。

2021年8月2日(月)
12月にコミケが開催されることが発表される。嬉しいけれど、中止になる可能性はあるわけで、そのことも考慮して、刊行スケジュールを立てなくてはいけない。

2021年8月3日(火)
TOHOシネマズ池袋の午前中の回で『映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』 を観る。これは秀作だ。過剰なくらいに物語を作り込んでおり、その作り込みが面白さに直結している。笑えるだけでなく、感動できるポイントもあり。人物描写にもいいところがある。大筋としては推理物で『クレヨンしんちゃん』のリアリティレベルだからこそ成立するミスディレクションがあり、それも素晴らしい。

2021年8月4日(水)
『Fate / Grand Order -終局特異点 冠位時間神殿ソロモン-』を観る。さすがはPREMIUM THEATER。音がよかった。ある人に『ワンダーエッグ・プライオリティ』や『Sonny Boy』の画作りについて、色々と教えてもらう。Amazonのアニメージュのページを見たら、どの記事が電子版に載っていないかが表記されるようになっていた。

2021年8月5日(木)
早朝散歩は続けている。この日は池袋(豊島区)から王子(北区)まで行って、さらに隅田川、荒川の辺り(足立区)まで歩く。夏休み感のある散歩だった。

2021年8月6日(金)
池袋HUMAXシネマズで『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ワールド ヒーローズ ミッション』を鑑賞。中村豊さんの担当以外もアクション作画が山盛り。16時半からBONESで打ち合わせ。

2021年8月7日(土)
押井守監督は今年の8月8日で70歳になる。それに合わせて、8月7日から8日にかけて、押井作品のオールナイトをやる予定だった。しかし、諸般の事情でこの日に開催することはできなかった。残念だ。せっかくなので、エア押井守映画祭として、1人で「立喰師列伝」を配信を観た。昼の散歩では『イノセンス』のサントラを聴いた。
14時から、NHK文化センターの配信「アニメプロデューサー丸山正雄が語る アニメ制作の歴史」を視聴。90分で現在の話まで到達するのかでハラハラしたけれど、奇跡のようにまとまった。16時半から新文芸坐で花俟さんと今後のオールナイトについて打ち合わせ。
『響け!ユーフォニアム』を1話から視聴。もしも、久美子達の前に滝先生が現れなくても、それはそれで楽しい物語になったのではないかと思ったり。楽しさと、ちょっとリアルな人間関係(葉月の他人との距離の取り方について久美子が馴染めないとか。あすかが面白お姉さんのようで、他人に心を開いてないとか)の両立も面白い。

第181回アニメスタイルイベント
ここまで調べた片渕監督次回作6【清少納言の歩んだ道を思い浮かべてみましょう編】

 片渕須直監督は『この世界の片隅に』『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』に続く、新作劇場アニメーションを準備中です。まだ、作品のタイトルや内容は発表になっていませんが、平安時代に関する作品であるのは間違いないようです。
 新作の制作にあたって、片渕監督は平安時代の生活などを調査研究しています。その調査研究の結果を少しずつ語っていただくのが、トークイベントシリーズ「ここまで調べた片渕須直監督次回作」です。これまでのイベントでも、あっと驚くような新しい解釈が語られてきました。
 2021年11月7日(日)に開催する第6弾のサブタイトルは【清少納言の歩んだ道を思い浮かべてみましょう編】。清少納言の人生を辿る内容になるようです。出演は片渕須直さん、前野秀俊さん。聞き手はアニメスタイルの小黒編集長が務めます。

 今回のイベントは会場にお客さんを入れての開催となる予定です。

 チケットは〈会場での観覧+配信視聴〉と〈配信視聴〉の2種類を販売します。配信は先行してロフトグループによるツイキャス配信を行い、その後にアニメスタイルチャンネルで配信します。アニメスタイルチャンネルではトーク本編とは別に「ここまで調べた片渕須直監督次回作・ミニトーク」も配信する予定です。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。

 チケットについては10月23日(土)から発売となります。詳しくはLOFT/PLUS ONEのページをご覧になってください。

■関連リンク
LOFT/PLUS ONE
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/plusone/194768

アニメスタイルチャンネル
https://ch.nicovideo.jp/animestyle

第181回アニメスタイルイベント
ここまで調べた片渕監督次回作6【清少納言の歩んだ道を思い浮かべてみましょう編】

開催日

2021年11月7日(日)
開演12時 終演15時予定

会場

LOFT/PLUS ONE

出演

片渕須直、前野秀俊、小黒祐一郎

チケット

会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,500円、当日 1,800円(税込・飲食代別)
ツイキャス配信チケット/1,300円

■アニメスタイルのトークイベントについて
  アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。

第726回 職人魂と参加する理由

アニメーターだからといって、監督(演出)自身が何でも描いてちゃだめだよ!

 世が平成の頃、先輩の監督から頂いた非常に有難“かった”助言であり説法です。あと、新人に混じって「原画に参加したりはやめるべき~云々」とかも。色々先輩や同業種の方らのアドバイスは感謝して聞き入れるつもりはあるのですが、未だにそう仰る方々が存在するとしたら、それはアニメ業界の現状が見えていないと思うし、業界に限らず常日頃今の二十歳前後の若者とお喋りをする機会が非常に乏しい方々なのだと思います。
 自分は毎年何人も新人の面接をさせてもらえてて、且つその新入社員らの技術指導もしています。そんな事を10年続けているだけでも、10年前と今とで若い人たちの感性の変化が分かるもので、単純に言うとどんどん「優しく」なってきている気がします。その優しさというのは、その人の為を思って厳しく叱咤する昭和的優しさではなく、あくまでその人の“個”を尊重する優しさになってきている、と。例えば同期で一緒に入社した仲間で、その内一人が早期退職を決意したとしても、「もう少し頑張ろうよ!」などと説得を試みたり一緒に連鎖退社するような同期は周りにいません。むしろ「人それぞれですから」と送り出した上、彼らは仕事を続けつつ、退社した人ともLINEやらで連絡は取り続ける「優しさ」ですよね。
 子供時代を昭和で教育された我々からすると「脱落しそうな人を止めてあげるお節介こそが本当の優しさ!」と思いがちですが、早い話——

今は昔と違い、仕事以外に楽しみや生き甲斐がたくさんある!

んです。その中で「どうせ毎日8時間働かなきゃならないなら、なんとなく好きなアニメで~」という消去法的で打算的な考え方で業界の門を叩くのが当たり前。そして、それが「自分に向いていない」と判断した人を誰が非難できるのでしょうか?
 ある日の面談で新人とそれらの優しさについての話を聞いたところ、やはり小・中学生の頃の学校教育が「人それぞれの“個”を否定しないのが優しさ」だったのだそうです。
 つまり、二言目には「根性が足りん」だ「やる気がない」だと

一流の職人になりたかったらあらゆる叱咤や説教に耐え、黙って俺に付いてこい!

──的な昭和根性論指導は令和のアニメ業界では通用しないんです。だから、自分としては演出・コンテ・作画と率先してお手本を見せなきゃならないと思ってます。
 決して、現代の若者に臍曲げて辞めていかれないようにと、ご機嫌を伺って媚びへつらっているのではありません。時には必要だと思うのです——昭和の頃より様々に多様化したそれぞれの“個”に合った楽しみが数多くあり、「早く帰ってオンライン・ゲームで遊びたいなぁ~」と思ってる若手の目の前で、

ゲームも面白いかもしれないけど、俺が惚れ込んで20数年続けてるアニメもこんなに遊べるし、こんなに面白いんだよ!
と戯れて見せることが! それが出来るのがやはり職人だと思うし、特に何処かのインタビューで押井守監督が仰っていたとおり「アニメーターは自分より巧い奴の言うことしか聞かない」訳で、はっきり言って
誰かに何かを指導する上で、「論破」なんて今時全く意味がない!!

んですよ。演出指示も同様。ネットで調べりゃなんでも出てくるご時世、博識や学を武器に職人を説得して使いこなそうなんてのも、今時虫が良過ぎます。これ、アニメーターでない演出家・監督は覚悟しておいた方が良いと思います。あ、別に制作上がりの演出さんを否定しているのではありません。ただ、これから大変だろうな~と思っているだけです。
 でも23~4年前の友永和秀師匠は板垣の眼前で大盤振る舞いで、かりかりかりかりと原画を描く手本を見せて下さってましたけど、ただ、それ真似てるだけでした。

アニメ様の『タイトル未定』
322 アニメ様日記 2021年7月25日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2021年7月25日(日)
あるアニメーター、ある関係者とこれから作る書籍についての打ち合わせ。編集作業に入るのは早くて2022年。もっと先になるかも。

2021年7月26日(月)
グランドシネマサンシャインで『サイダーのように言葉が湧き上がる』を観る。ようやく鑑賞することができた。新型コロナのために1年以上も公開が延期になった作品だ。ビジュアルの新しさを考えても、制作に関わった方達は早く公開したかったろうなあ。
この日の起床時の体重は68.8キロ。68キロ台がこの数ヶ月の目標だったので、とりあえず目標は達成。余力があったら、さらに800グラム落とそう。

2021年7月27日(火)
TOHOシネマズ池袋で『とびだせ!ならせ! PUI PUI モルカー(3D)』を観る。デスクワークとZoom打ち合わせの後、吉祥寺に移動して、リベストギャラリー 創の「『夢幻紳士』40周年 高橋葉介 原画展 ~『にぎやかな悪夢』(河出書房新社)出版記念~」に。この日が最終日だった。40数年前、僕は「マンガ少年」に載った異形の短編を読んで、高橋葉介さんのファンになった。僕が着いた時、高橋葉介さんが在廊しており、関係者と談笑していた。生きて動いている彼を目の前にできただけでも嬉しかった。画集にサインを入れてもらう時に「『マンガ少年』の頃からファンです」と告げたところ、「それは随分と古いですね」と言って苦笑された。画集と一緒にTシャツ、マグカップも購入した。
早朝散歩で「EVANGELION INFINITY」のディスク1と2を聴く。全3枚組みのCDだけど、2枚でお腹いっぱいだ。
WOWOWの『あしたのジョー』73話から76話を観る。終盤の杉野昭夫作監回はかなりいい画がある。

2021年7月28日(水)
行きつけの病院で二度目の新型コロナワクチンの接種。今回もあっさり終了。月曜にワクチン接種をしたワイフは熱が下がらず、アイスを買ってマンションに持って行く。
「機動戦艦ナデシコ画集」の編集作業は続く。アニメディアに掲載されたイラストが、初出時にどんなかたちであったかを確認する必要が生じ、記事に目を通す。20世紀のアニメディアをほとんど揃えておいてよかった(事務所にはアニメージュやNewtypeも揃っている)。「機動戦艦ナデシコ PREMIUM BOX」のインタビュー本「NADESICO STAFF BOOK PILOT」にも目を通す。僕も取材を受けていて、今では覚えていない裏話を語っていた。「NADESICO STAFF BOOK PILOT」について、当時は1冊の本としては薄口かなと思ったけれど、読み返したらそんなことはなかった。
散歩時にサブスクで配信が始まった〈ウルトラサウンド殿堂シリーズ〉の「ウルトラマン」と「帰ってきたウルトラマン」を聴く。どちらもCDを持っているけど、サブスクシリーズで全部が聴けるのは嬉しい。

2021年7月29日(木)
ワクチン接種の翌日。倦怠感があったので、午後はマンションに戻って昼寝。熱は出なかった。
最近、就寝前にKindleで「ゴールデンカムイ」を読んでいる。この日は12巻まで読んだ。12巻は姉畑支遁のアレと、ラッコを食べた後のアレが衝撃的。

2021年7月30日(金)
散歩以外はデスクワーク。早朝散歩では雨に降られた。
中古で購入した「機動戦艦ナデシコ1000%コレクション」が事務所に届いた。これは僕が構成・編集で参加したCD-ROMだ。それが狙いでウェブブラウザで開く形式にしたのだけど、20年以上経った現在でも、パソコンでも大半のコンテンツを読むことができる。内容は企画書、アフレコ台本、予告台本、メイン設定、各話設定、色見本、各話のスチル、各話あらすじ、各話解説、スタッフリスト、用語辞典、声優辞典、アニメ誌のインタビュー再録等々。今のウチの環境では再生できないけど、ノンクレジットOPやEDのムービーも収録。大変に充実している。素材を集めてくれたのはプロデューサーの佐藤徹さんのはず。確かイベントでも話したと思うけど、このCD-ROMを企画した段階では『機動戦艦ナデシコ』の「NEWTYPE 100% COLLECTION」は出そうもなかった。「だったら、100%以上のものを」ということで、タイトルを「1000%コレクション」にしたのだった。その後「100% COLLECTION」が出るのが決まって、ちょっと焦った。

2021年7月31日(土)
仕事の合間に、新文芸坐で「足にさわった女」(1960/85分/35mm)を観る。プログラム「増村演出の神髄に迫る めくるめく増村保造の世界 PART2」の1本。面白かった。自分は同じ映画の市川崑監督版も観ているはずで、そちらも観直したくなった。事務所に戻って、オールナイトの予習で『アリーテ姫』をDVDで視聴。夜はオールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 131 『この世界の片隅に』五度目の夏」を開催。トークは『アリーテ姫』『マイマイ新子と千年の魔法』『この世界の片隅に』を、キャラクターデザインを軸に振り返るというものになった。このテーマを思いついたのは、オールナイトの直前だった。トーク終了後、楽屋で少し話をしてから解散。

第217回 忘れられた名作 〜シリウスの伝説〜

 腹巻猫です。9月30日にすぎやまこういち先生が亡くなりました。60〜70年代には歌謡曲のヒットメーカーとして名を馳せ、70年代後半から80年代にかけてはアニメ『科学忍者隊ガッチャマン[劇場版]』『サイボーグ009』『伝説巨神イデオン』や映画「ゴジラVSビオランテ」などの映像音楽で活躍。後年はゲーム「ドラゴンクエスト」シリーズの音楽で多くのファンを魅了しました。本当に残念です。心より哀悼の意を表します。


 すぎやまこういちのアニメ音楽の代表作といえば、上記の『科学忍者隊ガッチャマン』『サイボーグ009』『伝説巨神イデオン』がまず挙がる。それに異論はないが、筆者はもうひとつ大好きな作品がある。劇場アニメ『シリウスの伝説』である。
 今回は、すぎやまこういちを偲んで、この作品を聴いてみたい。
 『シリウスの伝説』は1981年7月に公開されたサンリオ製作の劇場アニメ。サンリオの辻信太郎が「『ファンタジア』を超えるアニメ映画を」と意欲を燃やし、3年の歳月をかけ、8万枚以上の動画を使って完成させた力作である。
 遠い昔に仲たがいし、憎みあっている水の一族と火の一族。ふたつの一族は一切の交流を絶ち、それぞれの領域を守っていた。
 ある日、禁を侵して火の領域に入り込んだ水の一族の少年シリウスは、火の一族の王女マルタと出会い、恋に落ちる。それは許されない恋だった。ふたりは火の一族と水の一族が反目するようになった真相を知り、水と火が仲良く暮らせる星をめざそうとする。
 ギリシャ神話風のストーリーを美麗な映像で描いたメルヘン。フルアニメーションで描かれるキャラクターや自然現象、絵本のように美しい背景美術など、見ごたえのある作品だ。シリウスとマルタを演じるのは古谷徹と小山茉美。共演に榊原郁恵、宇野重吉、内海賢二、武藤礼子、鈴木ヒロミツら。出演者も豪華だった。
 筆者は公開当時劇場で観た。が、正直なところ、ピンとこなかった。当時は『宇宙戦艦ヤマト』『銀河鉄道999』『機動戦士ガンダム』などのSFメカアニメ全盛期。メルヘン路線の本作は方向性が違いすぎて、自分の趣味に合わなかったのかもしれない。
 しかし、すぎやまこういちの音楽は気に入った。衝撃を受けたと言ってもよいくらいだった。
 劇中に流れるのは、サーカスが歌う主題歌「時をゆるやかに」「愛のカンタータ」とNHK交響楽団が演奏する音楽。流麗な旋律と豊かな音に包まれる体験は圧倒的で、観終わる頃には頭の中を音楽がぐるぐると回っていた。さっそくレコードを買い、くり返し聴いた。

 すぎやまこういちのフィルモグラフィの中で、本作はTVアニメ『伝説巨神イデオン』(1980)とその劇場版『THE IDEON』(1982)のあいだに位置する作品。『イデオン』的な響きも聴けるし、のちの「ドラゴンクエスト」を予感させる部分もある。
 音楽は映像に合わせたフィルムスコアリングで作られている。が、映像が完成する前から音楽制作は始まっていた。すぎやまこういちは1980年の暮れに、それまでにできあがっていたフィルムを見せてもらい、作曲に取りかかったと証言している。
 「こんなに美しい画面に、負けることのない音楽が果たして私に書けるのだろうかと、不安になりながらも、意識は“よおし、がんばりがいがあるぞ”と闘志を燃やしたのです。」(LPレコード「シリウスの伝説 オリジナル・サウンドトラック」ライナーノーツより)
 そして、何度も旋律を作り、書き直し、3ヶ月目にやっと納得のいくメロディができた。
 中心になるのは2つの主題歌「時をゆるやかに」と「愛のカンタータ」のメロディ。こんなにも美しく格調高いアニメソングがあっただろうか。この2曲のモチーフは劇中音楽に編曲されて、くり返し使われる。
 もうひとつ、切ない別れの場面に流れる「哀しみのテーマ」とも呼ぶべき主題があり、これもいくつかの変奏曲が劇中に流れている。
 音楽録音は1981年4月に行われた。スタジオはメディアスタジオとCBS・ソニー六本木スタジオ。公開は7月だから、音楽制作に余裕があったことがうかがわれる。
 演奏はNHK交響楽団。すぎやまこういちとは、劇場版『科学忍者隊ガッチャマン』の音楽でもコラボした実績があった。
 すぎやまはこう語っている。
 「『シリウス』は世界をマーケットとし、さらに、10年、20年後もなお生きつづけるスケールの大きな作品にしたいということでしたので、音楽もなまはんかなものではバランスがとれない。そこで、はやりすたりのないクラシックサウンドをベースに、絵の美しさに合わせて、ひたすら美しい旋律を作り、オーケストラの持つ豊かな色彩を引き出すようにこころがけました」(『月刊アニメージュ』1981年7月号)
 すぎやまこういちの原点はクラシック音楽。専門的な音楽教育は受けていないが、譜面を読みながら音楽を聴き、独学で理論を学び、感性を磨いた。そんなすぎやまのクラシック志向が存分に発揮された作品が『シリウスの伝説』だ。アニメ音楽・映画音楽と呼ぶより、「交響詩」「音楽叙事詩」と呼びたくなる。
 本作のサウンドトラック・アルバムはワーナー・パイオニアからLPレコードで発売された。
 収録曲は以下のとおり。

【A面】

  1. プロローグ〜愛のカンタータ
  2. 美しい夜明け
  3. 海のギャングエレキ
  4. 王子シリウスの行進
  5. 竜神の聖域
  6. リリカの岬にて

【B面】

  1. シリウスのいない海
  2. マルタの運命
  3. マブゼの酒盛〜天国と地獄より〜
  4. 哀しみよ永遠(とわ)に
  5. 星への出発(たびだち)
  6. 時よゆるやかに

 全曲収録ではない。A面では物語の序盤(全体の3分の1くらい)の音楽が使用順に収録され、B面では物語の中盤からラストまでの音楽が一部順序を変えて抜粋収録されている。重要なシーンの楽曲は押さえられており、作品全体をふり返りながら音楽アルバムとしても鑑賞できる、理想的な構成だ。
 1曲目「プロローグ〜愛のカンタータ」は、メインタイトルからオープニング・クレジットのバックに流れる曲。サーカスが歌う主題歌「愛のカンタータ」が聴ける。史劇映画音楽のような重厚なタイトル曲からリリカルな「愛のカンタータ」につながる展開は導入にふさわしく、「どんな物語が始まるのだろう」とわくわくさせる。
 オープニングが終わり、海の中の夜明けの場面に流れる曲が「美しい夜明け」。サメの子チークがシリウスを起こして、一緒に海中を泳ぐ場面にかけて流れる。映像に合わせたユーモラスな表現が聴ける、映画音楽らしい曲。
 次の「海のギャングエレキ」はチークや魚たちがおそれる恐ろしい電気クラゲのテーマ。この曲には、(電気クラゲだけに)エレキギターがフィーチャーされている。ちょっと『伝説巨神イデオン』の戦闘音楽を思わせる。アルバムの中では異色の曲。
 「王子シリウスの行進」は、16歳になり、成人式を迎えることになったシリウスが魚たちを引き連れて海中を進む場面の曲。シリウスのりりしさを表現するマーチである。のちの「ドラゴンクエスト」シリーズの音楽を思わせる、クラシカルなヨーロッパ風の曲。
 シリウスが水の一族の王の証を受け取る場面に流れる厳かな「竜神の聖域」をはさみ、序盤の大きな見せ場の曲「リリカの岬にて」がA面のラストに登場。7分を超える大曲である。
 火の一族の領域に入っていったシリウスが、マルタとはじめて対面する。ふたりは惹かれあい、たちまち恋に落ちる。その場面に流れるドラマティックかつロマンティックな音楽だ。導入部は、とまどい震えるふたりの心を表現する音楽。やがて、ふたりの心が触れ合うと、サーカスが歌う「時よゆるやかに」へと展開する。シングルレコード・バージョンとは異なる、劇中音楽と一体になった歌と演奏である。音楽と映像の相乗効果で心に残る名場面になった。
 アルバムB面の1曲目は「シリウスのいない海」。「愛のカンタータ」の甘美なアレンジから始まる。ピアノやトランペットによるロマンティックな演奏にうっとりするところだ。
 曲は、マルタとシリウスがひそかに逢瀬を重ねる場面に流れる。後半は不安な曲調に転じ、サスペンスを演出する。シリウスがマルタと会っているあいだに、海では電気クラゲが魚たちを襲い、大騒ぎになっていたのだ。だから曲名は「シリウスのいない海」。
 「マルタの運命」は「時よゆるやかに」のアレンジ曲。曲はふたつの部分に分かれている。最初の部分は、マルタがシリウスに別れを告げる場面に流れる哀愁を帯びた変奏曲。続いて、サーカスがスキャットで「時よゆるやかに」のメロディを歌う幻想的な変奏になる。こちらは物語の終盤でマルタが少女から大人の女性に変身を遂げ、女王となって目覚めるシーンに使われている。別々のシーンのために書かれた曲が1トラックにまとめられているが、うまい編集だ。
 「マブゼの酒盛〜天国と地獄より〜」は、B面の中でも、ほっと息がつけるトラック。ウツボのマブセが酒盛りをする場面からチークの愉快な活躍場面にかけて流れている。おなじみ、オッフェンバックの「天国と地獄」のモチーフのアレンジ曲だが、よくあるドタバタ風のアレンジでなく、テンポを落としたユーモラスで可愛いアレンジになっている。すぎやまこういちのセンスと編曲の技が光る曲だ。
 「哀しみよ永遠(とわ)に」は本作の「哀しみのテーマ」である。ソロバイオリンが奏でる旋律が切なく胸を打つ。使用場面は前曲「マブセの酒盛り」の場面より前で、マルタを慕う火の精ピアレが自分を犠牲にしてマルタを助けようとする場面に流れていた。同じモチーフが物語の終盤でシリウスがチークの死を悲しむ場面の曲にも登場する。
 そして、「星への出発(たびだち)」は物語のラストを飾る曲である。水と火が仲良く生きられる星へ行こうとしたシリウスとマルタ。しかし、その夢はかなわなかった。哀しみと希望に彩られたラストシーンに流れるのは、「時よゆるやかに」のストリングスを中心としたアレンジ。哀感に満ちた前半から、後半は厳かで重厚な曲調となり、コーダは壮大なフィナーレを聴かせる。交響曲の1楽章であってもおかしくない、聴きごたえのある終曲だ。
 アルバムのラストはエンディング・クレジットに流れる主題歌「時よゆるやかに」。レコード・バージョンのフルサイズで、物語の余韻にたっぷりとひたることができる。

 以上が、「シリウスの伝説 オリジナル・サウンドトラック」の全曲。美しいメロディと壮大なシンフォニック・サウンドが聴ける名盤だと思う。
 すぎやまこういちは、自身の作品を東京都交響楽団の演奏で録音したアルバム「君だけに愛を 東京都交響楽団×すぎやまこういちヒット曲集」(2008年発売)の中で、「コスモスに君と」とともに「時をゆるやかに」を取り上げている。アニメソングから選曲されたのはこの2曲だけ。すぎやまこういちにとっても、重要な作品のひとつなのだろう。
 しかし、本作はいわば、「忘れられた名作」である。
 サウンドトラック・アルバムは一度もCD化されていないし、主題歌「時をゆるやかに」と「愛のカンタータ」は、サーカスのベスト盤(2枚組CD)「GOLDEN☆BEST/サーカス 歌の贈り物」に収録されているだけ。いずれも配信はされていない。
 クラシカルな曲のためか、DJイベントなどで流れることもほとんどない。多くの人に聴いてもらいたいのに、その機会がないのだ。あまりにもったいない。
 本編はAmazon Prime Videoなどで観られるので、ぜひ、映像とともに音楽を堪能していただきたい。
 ところで、この原稿を書くためにAmazonの商品をチェックしたら、筆者は「GOLDEN☆BEST/サーカス 歌の贈り物」と「君だけに愛を 東京都交響楽団×すぎやまこういちヒット曲集」をそれぞれ2回買っていた(とAmazonが教えてくれた)。買ったことを忘れて注文したのだと思うが、それだけ、本作の音楽がお気に入りなのである。
 ワーナー・パイオニアさん、ぜひ、サントラ盤のCD復刻、または配信をお願いします。

GOLDEN☆BEST/サーカス 歌の贈り物
Amazon

君だけに愛を 東京都交響楽団×すぎやまこういちヒット曲集
Amazon

佐藤順一の昔から今まで(33) 劇場版『ケロロ軍曹』と『ふしぎ星の☆ふたご姫』

小黒 『ケロロ』は劇場版も沢山作られてますけど、佐藤さんの役職は常に総監督です。実際にはどういう関わりだったんでしょうか。

佐藤 映画に関しては、シナリオ打ち合わせから参加して、コンテチェックもやっていますね。

小黒 なるほど。

佐藤 どういうネタにするかは、吉崎さんからアイデアが出てきていて、それを「どう映画にする?」っていうところからスタートします。それで、シナリオの打ち合わせを進めていくという感じですかねえ。

小黒 ご自身的に苦労された映画とか、印象的だった映画はありますか。

佐藤 現場的な事は何も関わってないので、画作りに関しては、苦労も何もしてないんです(笑)。ただ、探り探りではありました。『ケロロ』を映画にするっていうのが、「何を求められてるのか」っていうところからなんですけど。吉崎さんのほうから出てくるネタを、どうアレンジしてターゲットを広くしていくかという事かなあ。最初の映画に出てくるキルルっていうキャラクターは、吉崎さんの中では、設定含めて物凄くしっかりと柱が立ってるんですよね。キルルってこういう存在であって、この映画だけじゃなくて、色々膨らませたいという事をお話されたんだけど、全部を拾う事はできない。「この映画の中だけでそれを扱うなら、どういうかたちで着地させればいいんだろう?」と考えましたね。でも、映画を作る時はそれぞれ各作品の監督のカラーの事も考えて、どうやってきちんとかたちにするか、みたいな事のほうが大きかったかな。僕は半分プロデューサーみたいな感じですよね(笑)。

小黒 各映画の監督はシナリオ打ちに参加するんですか。

佐藤 します、します。監督にも演出的なプランを出してもらうし、それに対して修正の意見を出したりとか、別なアイデアを出したりして。監督がやろうと思ってるところになるべく近づけていくように、周りを整理していくっていうのかな。「じゃあ、こんな音楽はどうだろう?」という提案もしていましたね。

小黒 1本目の監督が近藤(信宏)さんで、2本目以降の監督は山口(晋)さんですね。

佐藤 そう。山口さんは凄く合ってるなって思っていました。山口さんのコンテを見ると、「ガンダム好きというところも含めて、色んな意味で『ケロロ』に合ってるんだなあ」というか……。

小黒 あのシャープな絵柄も。

佐藤 そうなんですよね。そういうところも『ケロロ』に凄く合ってると思いましたよね。

小黒 ちょっと画がマニアックなんですね。山口さん本人が、多分巧い絵描きなんだと思うんですが、カッコいいフォルムの取り方をするというか。

佐藤 そうですね。山口さんの描いたラフ原、めっちゃ動いてますからね。見ると「巧いっ!」って思いますよ。

小黒 今年の映画『ドラえもん』の監督ですよ(編注:『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』は公開が2022年に延期となった)。

佐藤 あっ、そうなんですねえ。いや、優秀な方でした。『ケロロ軍曹』の劇場版に関しては用意されたネタが大きかったり、多かったりするのを尺の中に収める事が、一番難しかったかもしれないですね。

小黒 『ケロロ』は、また機会があったら作りたいですか。

佐藤 そうですね。面白かったので、なんか機会があれば。

小黒 好きだったキャラクターはいますか。

佐藤 えっ、『ケロロ』の中で?(笑)。ケロロですね。ケロロが楽しかったですね。

小黒 『ケロロ軍曹』と並行して手掛けていたのが『ふしぎ星の☆ふたご姫』(TV・2005年)ですね(編注:『ケロロ軍曹』の放映2年目に『ふしぎ星の☆ふたご姫』の放映がスタートする)。

佐藤 はい。

小黒 『ふたご姫』は雑味のない、非常にまっすぐな作品ですね。

佐藤 そうですね。玩具ベースの企画自体が、なかなかなかった。東映以外ではあまり成立しない中で珍しくそういう話が来たので、手の中でやってる感がありますよね。

小黒 バースデイが原作でクレジットされてますけど、原作に当たるものが既にあったんですか。

佐藤 あります、あります。基本的にはバースデイのスタッフが作り上げているものなんです。星の設定や、ほとんどのキャラクターの設定がありました。

小黒 なるほど。

佐藤 お話だけがない状態。なくもないんですけど、1年走るだけのお話は用意されてなくて、キャラクターと設定がどっさりあった感じなんですよね。

小黒 キャラクターの設定は、そのままアニメに置き換えられるようなものだったんですか。

佐藤 割とそのまんまアニメに翻案してますね。元々、バースデイさんがバンダイに女児向け玩具を展開させる作品について、何年もプレゼンしてるんですよね。それでようやくゴーが出てやる事になって、制作の話がハルフィルムに来た感じだったので、元々は玩具ベースからスタートしてるんです。

小黒 じゃあ、東映で作っていた時のように普通に子供向けに作ったと。

佐藤 そうですね。

小黒 見どころといえば、ダンスだったと思いますけど、ダンスはどなたのアイデアですか。

佐藤 イヤイヤダンスとかは、僕ですね。子供に真似してほしいと思って入れました。

小黒 ダンスはシリーズ中に増えていきますが、シナリオ打ちの時に入れたんですか。

佐藤 シナリオの時に色々なダンスを入れてもらってましたね。新しいダンスをやる時は、どんな動きにするかは演出さんに任せて、セリフもキャストの2人に任せて、といった感じでやってますね。

小黒 キャストの2人に任せるのは、言い方とかですか。

佐藤 そう。「節回しとかは2人で相談して」と言ってやってもらう感じ。

小黒 「ハルフィルムにしては」と言うと凄く失礼なんですけど、めちゃめちゃ作画が安定してますよ。

佐藤 そうですね。優秀な人がいた時期なんでしょうねえ。この時は西位(輝実)さんとかが普通に作画で入ってますからね。ただ、キャラクターデザイナーが数井(浩子)さんなんですけど、制作体制の不備で、相当に苦労掛けてます(苦笑)。

小黒 クレジットだと、キャラクターデザインは数井さんと小林明美さんの連名ですね。

佐藤 はい。メインは数井さんなんです。ハルフィルムが玩具もののアニメをやった事がなくて、全然対応ができていなくてご苦労を掛けたんですよ。

小黒 対応というのは、どういうものですか。

佐藤 例えば、バンダイから商品化に向けて「キャラクターの画を描いてくれ」という版権のオーダーが来るんです。ハルフィルムも版権管理のスタッフを1人入れたんですけど、経験値が足らなくて上手く回らなかったんですよ。結局、数井さんの負担が大きくなってしまって。凄いご迷惑を掛けたし、制作上も色々不備があって、キャラクターの数も多い中で、大変ご苦労をお掛けしました。

小黒 これは2年間のシリーズになりましたけど、延長だったんですか。

佐藤 これはそうですね。元々は、1年走る予定だったんですけど。

小黒 好評だった?

佐藤 そこは難しいところですよね。何をもってよしとするかなんだけれど。これは記事にしづらいかもしれないけど、例えば『ケロロ軍曹』も視聴率的にはよかったんですよ。だけど、玩具展開はあまりできなかった。元々、玩具を売るのがメインの企画だったので、その意味ではすぐに終わってもおかしくなかったんだけど、ビデオパッケージはかなり売れていたんです。視聴率もいいし、パッケージは売れているし、原作元の角川書店も続けたいという事で、ずっと続いていたんです。どうして番組が続くかという事については、一言では言えないんですよね。

小黒 なるほど。

佐藤 『ふたご姫』も「玩具が凄く売れたか」というと、期待されたほどではなかったはずです。視聴率は取れてるので、続けてみようかという事だったのかな。「続けたい」という意志がどこかにはあって、それが働いてるんでしょうけど、具体的にそれがなんだったのかは、現場の我々には分かんない事ですね。

小黒 『ふたご姫』では、キャスティング的な冒険はしてない?

佐藤 オーディションを凄くやってますね。ほとんどのキャラクターはオーディションの結果で決めているはずですね。誰が聴いても知ってる人以外は、その中から振り分けてキャスティングしてる感じです。

小黒 先ほどの話と重複しますが、『ふたご姫』は佐藤さんとしては、自分の守備範囲のものとして作る事ができた感じでしょうか。

佐藤 そうかもしれない。それから、軸の企画だったバースデイから「こういう物語にしたい」というオーダーが来て、それを落とし込む作業も多かった印象ですね。当時は『プリキュア』が動いてる事もあって、「戦うお姫様にしたい」という意志がバースデイ側にあったんです。「どう戦わせるか?」っていう事をずっとホン読みの時に言っていて、2年目の時にも「もっと戦いをシリアスにやったほうが、いいのではないか?」「敵をちゃんと設定して戦いを軸にしたい」という意見が出ていました。それで悪役の王子みたいなキャラクター(トーマ)を出したんですけど、何か効果があったかっていうと実感はなくて、でも、結局「もっとハードな戦いにしなくては」という話が出て。こちらも「戦いじゃないんじゃないですか?」「もうちょっと可愛い敵を出したほうが」と言って、敵を王子から白鳥(由里)さんの演じるビビンっていう魔法使いの女の子に変えてもらったりもしましたね。原作側からこうしたいという意向が出てくる作品だったから、「それをどう料理するの?」っていうところが、なかなか難しかったんです。


●佐藤順一の昔から今まで(34) に続く


●イントロダクション&目次

新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol.132
押井守映画祭2021

 2年振りに押井守監督作品のオールナイト上映を開催する。上映タイトルは『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』『機動警察パトレイバー2 the Movie』『イノセンス』。
 それぞれ『うる星やつら』『機動警察パトレイバー』『攻殻機動隊』の劇場版第2作であり、押井監督が手がけた中でも特に高く評価されている作品だ。なお、『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』はアニメスタイルと新文芸坐のオールナイトとしては初めての上映となる。

 トークのゲストは押井守監督、アニメーターの西尾鉄也さん。聞き手はアニメスタイル編集長の小黒が務める。

 チケットは10月23日(土)から発売開始。前売り券の発売方法については、新文芸坐のサイトで確認していただきたい。なお、新型コロナウイルス感染予防対策で、観客はマスクの着用が必要。入場時に検温・手指の消毒を行う。

新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol.132
押井守映画祭2021

開催日

2021年10月30日(土)

開場

開場:22時10分/開演:22時30分 終了:翌朝5時45分(予定)

会場

新文芸坐

料金

指定席3500円

トーク出演

押井守、西尾鉄也、小黒祐一郎(アニメスタイル編集長)

上映タイトル

うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー(1984/98分/35mm)
機動警察パトレイバー 2 the Movie(1993/113分)
イノセンス(2004/99分/35mm)

備考

※オールナイト上映につき18歳未満の方は入場不可
※トークショーの撮影・録音は禁止

●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

第725回 コミカライズと俺

新番組『プラオレ!』のコミカライズ(マンガ版)を
ウチ(ミルパンセ)が担当してます!

 社内でマンガ家(~志望も含む)を採用し始めたのはやや偶然気味で、かれこれ3年程(?)前。自分的には『ユリシーズ ジャンヌ・ダルクと錬金の騎士』(2018年/制作AXsiZ)を作ってる時に、ミルパンセの新人募集に元マンガ家の方がポートフォリオを送ってきたことに端を発します。で、その方がアニメーター育成~『ユリシーズ~』や『COP CRAFT』の本番動画や第二原画をやり始めた頃、なんとなくご本人あてに再びマンガの依頼がきて「是非やりたい」とのことだったので、会社に所属したまま、アシスタントも会社で募集して正式にマンガを描いてもらおうという話になったのです。それが現在WEBコミックガンマ(竹書房)で連載中の「人狼ゲーム ロスト・エデン」になっており、ミルパンセは協力というかたちで関わってます。
 で、『プラオレ!』コミカライズ版~「プラオレ! プレシーズン幣舞橋」になります。前述の「人狼ゲーム~」はノータッチですが、こっちは自分、たまにお手伝いしてます。今回は新人のマンガ家志望を集めてチームで描くことにしたので、“ちょっと困った箇所”などラフ参考を描いたり、スタッフ編成の相談にのったりと、板垣もアニメ仕事の合間にほんのちょっこっとだけ参加しているのです。
 でも逆に、アニメ『蜘蛛ですが、なにか?』では「プラオレ!」のマンガ連載が動き出す前だったので、アニメのサブキャラや小物などの設定周りや、アニメ誌やグッズの版権イラストをマンガ部に手伝ってもらったりと持ちつ持たれつ。実際マンガの仕事も隙間なくあるわけでもないので、各々社員として固定給を払うには、マンガ担当の人にもアニメの設定やコンテの清書などを教えて“マンガ・アニメ問わず画に関わるならなんでもやってもらう”ことで固定給を捻出するというわけです。

アニメ様の『タイトル未定』
321 アニメ様日記 2021年7月18日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2021年7月18日(日)
散歩とデスクワークと吉松さんとSkype呑み。「【高畑勲展】富野由悠季氏 特別講演会オンライン配信」を観た。Kindleで「進撃の巨人」28巻から最終34巻までを一気読みした。「進撃の巨人」の終盤は面白いかどうかというよりも「終わってよかった」という感じ。思えば、序盤から随分と遠くに来た。作者の方に「お疲れ様でした」と言いたい。

2021年7月19日(月)
夕方にBONESで川元さんと打ち合わせ。用事はすぐに済んだので、世間話など。川元さんを含めてBONESの方達に、僕が痩せたことについて美味しい反応をいただいた。
少年ジャンプ+で藤本タツキさんの「ルックバック」を読む。おお、これは凄い。作者の「こんな話をこんなふうに描きたい」という想いがはっきりしていて、それを力一杯に描いたという感じ。才能と若さと勢いが合致した幸福な作品だと思った。
『カノジョも彼女』の1話を観る。1話の演出が波多正美さん。えっ、マジ? 同姓同名でなくて? いや、去年や一昨年もテレビで演出されていたみたいだけど、1話の演出を? Wikipediaで確認したら、波多さんは今年で79歳だ。凄すぎる。
話は変わるけれど、これから進めようとしていた「アニメスタイル016」が早くも頓挫しそうだ。

2021年7月20日(火)
仕事の合間に、TOHOシネマズ池袋の午前9時からの回で『100日間生きたワニ』を観る。
数か月前にアポ取りをし、スケジュール調整をし、取材の準備を進めていたインタビューがNGになった。まあ、たまにはこんなこともある。

2021年7月21日(水)
社内打ち合わせで「機動戦艦ナデシコ画集」と関連して、トレスマシンを使ったセルと、ゼロックスを使ったセルの違いについて説明をする。まさか、仕事でこんなことを話す日がくるとは。
グランドシネマサンシャインで『竜とそばかすの姫』【IMAXレーザーGT】を観る。

2021年7月22日(木)
U-NEXTで「花束みたいな恋をした」を観る。押井さんの登場場面や扱われ方は、ネットの情報から想像した通り。「法人科学映画館」のサイトで安彦良和さんがメインスタッフとして手がけた『火事と子馬』が配信されていた。ある書籍で確認したところ、安彦さんの役職は絵コンテ、原画とある。キャラクターデザインはやっているはずだし、おそらく作監もやっているのではないか。あるいは作監でなく、1人原画だろうか。
やらなくてはいけないことが山盛りだけど、半ば現実逃避っぽく「佐藤順一の昔から今まで」の原稿まとめを進める。ああ、楽しい。インタビュー中のあるエピソードがいい話ではあるんだけど、WEBにアップする記事としては活かしづらい内容なので、オミットする。活字媒体だったら、活かすことができたかも。

2021年7月23日(金)
U-NEXTで「花束みたいな恋をした」を最後まで観る。よく出来た映画だった。「自分と趣味がぴったりあう恋人」という点がこそばゆいし、主人公達が別れるのは見えていたけど、別れた後の展開がよかった。配信で『虐殺器官』を観る。『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』を観た後だと「ああ、なるほど」と思うところがいくつも。
Microsoft 365 Personalを購入した。代替ソフトではなく、Wordを使うのは10数年ぶりかな。

2021年7月24日(土)
ワイフと早朝散歩で明治神宮を歩く。夏ということで、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』の再見を開始。いやあ、よくできている。センス、いいなあ。昼の散歩でも『あの花』のサントラを聴く。

佐藤順一の昔から今まで(32) 『ケロロ軍曹』の話題であります!・3

小黒 さらに、本筋ではない話をうかがいます。何に驚くかというと、この「佐藤順一の昔から今まで」の第1回で「西尾大介さんが『ガンダム』の話をするのについていけなかった」と言ってた佐藤さんがですね。

佐藤 うん。

小黒 ガンダムパロディを始めた事ですよ!

佐藤 そうですね(笑)。だから、『ケロロ』をやってるうちに、『ガンダム』は相当詳しくなりましたよ。

小黒 1話を観返すと、フラウ・ボゥが爆発に巻き込まれるところをちゃんとコピーしてるんですよね(笑)。

佐藤 そうなんですよ。凄く頑張ってやってるんです(笑)。

小黒 職業人として、「やらねば!」と(笑)。

佐藤 そう。出てくるのはガンプラだけれども、パロディ元の『ガンダム』で拾えるとこは拾っといたほうがよいのではないか、というふうに思って。色々と観てみたところ、「あっ、ハロを抱えて爆風に煽られてる。じゃあ、ハロっぽい物を持たせとくといいかな?」と、意味なくスイカを持ってる(笑)。

小黒 他にも佐藤さんのコンテ回で、キシリアのセリフを言わせるために、キシリア役の小山茉美さんを呼んでいますよね(第9話「夏美 恋の行く手に来るクルル であります/日向秋 ダイナマイトな女 であります」)。あれは、あのセリフだけのために呼んだんですか。

佐藤 そうです。某魔法少女のパロディもやってもらっていて。

小黒 劇中の誰が言ってるのかよく分からないセリフ(編注:クルルのアイテム「ジンセイガニドアレバジュウ」の効果音)ですね。キシリアネタで呼んだけど、折角だから、小山さんが演じた魔法少女もお願いしたのかと思いました。

佐藤 両方お願いするつもりで、パロディを入れていると思います。「断られるかもしれないな」と思いつつでしたね。実際にお願いしても、スケジュールや様々な事情でオリジナルの役者さんに断られた事もあったんです。その時は別のキャストでやっていますね。一応、オファーをして、やってもらえる時はやってもらってるけど、駄目な時は別の人で、というぐらいのスタンスなんで(笑)。

小黒 サブロー先輩が石田彰さんなのは、あのキャラクターのパロディがあるのを見越してのキャスティングなんですね?

佐藤 あれはそうですね。サブロー先輩のキャラクターとしても石田さんであれば間違いないだろうし、後々パロディも成立させられると。草尾(毅)さんに関しても「左手は添えるだけ」が後々にあるので(笑)。

小黒 それで言うと、ケロロ小隊の中田(譲治)さん、子安(武人)さん、草尾さんというのは、相当凄いキャスティングですよね。

佐藤 そうですね。しっかりとキャラを作ってくれる人という事で、音響監督の鶴岡(陽太)さんと相談して、「これで間違いないよね」っていう感じでお願いしてるはずですね。渡辺久美子さんは、僕のほうから提案してます。最初はスケジュールが合わなかったんだけども、「いやいや、渡辺さんしかないんで」と言って、ちょっと無理を言って入ってもらった。

小黒 渡辺久美子さんって、これ以前にこういうキャラクター系の役があったんですか。

佐藤 僕が渡辺久美子さんを最初に認識したのって、『ヘリタコぷーちゃん』なんですよ。

小黒 そうか、そうか! あれが渡辺さんか。

佐藤 『ヘリタコぷーちゃん』を観ていて、「あれ? なんか面白いな」と思っていましたね。タバックの廊下で見掛けた時も「なんか面白そうな人だな」と感じていたので、「ケロロどうかな?」と思ってオファーしたんですけど、ちょうど当時やってる別のアニメーションがまだ続いていて、「スケジュールがバッティングしているのでできません」と1回断られているんですよね。

小黒 なるほど。

佐藤 それで、他のキャスティングも考えたんだけど、やっぱり渡辺さんがベストに思えて「もう1回、渡辺さんに頼んでほしいんだけど」とお願いして、それで「スケジュールを調整すればできそうかな」という事になって、やってもらったんですよね。

小黒 小桜エツ子さんも、佐藤さんの推しですか。

佐藤 そうです。「タママは小桜さんで間違いなさそうだな」っていう感じでお願いして。ナレーターの藤原(啓治)さんは、『カレイドスター』の時にカロスをやってくれてるんですけど、藤原さんがアフレコのテストの時に面白アドリブをやってたんですよ。本編では絶対使われない、テストだけの面白ネタが楽しかった(笑)。「そういう拾い方ができる人だな」と思って、「ナレーションは藤原さんに」と、僕のほうからお願いしたんですよね。

小黒 さらに聞きますけど、能登(麻美子)さんはどなたのキャスティングなんですか。

佐藤 当時、フッと思い浮かぶキャストの候補の中から、能登さんを選んだのだと思います。鶴岡さんも「能登さんかな」と言っていた気がします。「モアちゃんは誰にしよう?」ってあんまり悩んだ記憶がないので。

小黒 この頃の能登さんは若手で、レギュラーが増え始めた頃ですね。

佐藤 その前に『ゲートキーパーズ』で主人公の少年時代の役をやってもらっているんですよ。それから、記憶が正しいか分かんないんだけれども、「こういう癒し系みたいな、ふんわりキャラクターなら、今は能登だよ」みたいな事を鶴岡さんが言っていた気がしますね。

小黒 なるほど。

佐藤 それで「多分、間違いないだろう」と思って、お願いしてる気がする。原作にモアちゃんの元になった女子高生の不良が出てくるんだけど、その役がどのぐらいできるのかという事だけが分かんなかったけど、それについては「できなかったら、できないなりにも面白いかな?」みたいなところもありました。夏美はオーディションしたかもしれないけど、こうしてみると『ケロロ』のキャストは、主役以外はほぼほぼ決め打ちですよねえ。


●佐藤順一の昔から今まで(33)劇場版『ケロロ軍曹』と『ふしぎ星の☆ふたご姫』 に続く


●イントロダクション&目次

【25周年&画集刊行記念】劇場版『機動戦艦ナデシコ』上映会!!

 東京・池袋の新文芸坐で、レイトショー「【25周年&画集刊行記念】劇場版『機動戦艦ナデシコ』上映会!!」を開催します。上映作品は劇場作品『機動戦艦ナデシコ The prince of darkness』。トークコーナーのゲストは佐藤竜雄監督です。開催日は2021年10月23日(土)。
 会場では「機動戦艦ナデシコ画集」を特典小冊子「劇場版 機動戦艦ナデシコ 原画集」付きで先行発売いたします。

●『機動戦艦ナデシコ』イラストの集大成! TV放映25周年記念「機動戦艦ナデシコ画集」を刊行!!
http://animestyle.jp/news/2021/10/01/20600/

 『機動戦艦ナデシコ The prince of darkness』は、TVシリーズ『機動戦艦ナデシコ』の続編です。TVシリーズのキャラクターの活躍もありつつ、新キャラクターも登場し、新たな物語が展開します。精緻な作画と映像の作り込みが素晴らしく、その映像は当時のアニメーションにおける最高レベルのものです。是非とも劇場でご覧になってください。

 前売りチケットは10月16日(土)10時からオンラインと新文芸坐窓口にて販売します。詳しくは新文芸坐のサイトをご覧になってください。

【25周年&画集刊行記念】劇場版『機動戦艦ナデシコ』上映会!!

開催日

2021年10月23日(土)

開場

開場:19時25分/開演:19時45分 終映:21時05分 トーク:21時15分~22時05分(予定)

会場

新文芸坐

料金

一般1600円、学生・友の会・シニア1400円

トーク出演

佐藤竜雄(監督)、小黒祐一郎(アニメスタイル編集長)

上映タイトル

『機動戦艦ナデシコ The prince of darkness』(1998/80分)

備考

※トークコーナーの撮影・録音は禁止

●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

アニメ様の『タイトル未定』
320 アニメ様日記 2021年7月11日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2021年7月11日(日)
この日の『ONE PIECE』は982話「カイドウの切り札 飛び六胞登場」。画作りが凝っていて、観ていて楽しかった。特にラストがよかった。演出は石谷恵さん、作画監督が涂泳策さん、斉藤圭太さん、北崎正浩さん。
昼は新宿の焼肉屋に。各テーブルに蛇口があって、そこから自分でサワーを注いで呑む形式の店だ。前の非常事態宣言中に見つけて、ワイフが入りたがっていたのだ。明日からまた非常事態宣言となるので、慌てて駆け込んだ。自分で注いで呑むのは面白かった。肉をこんなに食べたのは久しぶり。当然、あすけんの数字は大変なことになった。午後は事務所に戻って、簡単なテキスト作業など。
僕が知っている限り、紙媒体ではあまりスタッフのインタビューがなく、ネットではいくつも記事があった某劇場アニメ。これって10年後とかに取材記事を参照しようとしても、ほとんど消えてしまっているのではないかなあ。それでも取材記事がないよりはいいんだろうけど。

2021年7月12日(月)
仕事の合間に、新文芸坐で「3-4X10月」(1990/96分)を観る。プログラム「乾いた銃声/虚無の闇 北野武と黒沢清の暴力」の1本。作品としては成功しているとは思えないけれど、つまらないわけではない。キッチュな魅力がある。事務所に戻ってデスクワークの続き。30分で終わるかと思ったある記事の企画書に90分もかかってしまう。

2021年7月13日(火)
バルト9の午前8時からの回で『劇場編集版かくしごと ―ひめごとはなんですか―』を観る。バルト9で映画を観たのは久しぶりのはず。

2021年7月14日(水)
Zoom打ち合わせ中に、事務所が入っているビルのオーナーさんがやってきて、水道の事故があったことを知る。事故の対応はオーナーさんと事務所スタッフに任せて、自分は取材に。13時から羽原信義さんにインタビュー。羽原さんの取材はかなり久しぶりだった。SNSで世間話はしているんだけど、リアルで話をしたのも久しぶり。取材場所近くの遊歩道を歩いてから事務所に戻る。
『ゲキガンガー3』のイラストで、再録時に僕が「レイアウト」の役職でクレジットされたものがあるらしいと最近知った。発注ラフのことかなあと思っていたけど、確認したら、そのイラストは発注ラフを描いていないものだった。そもそも『ゲキガンガー3』で発注ラフは描いてないのではないかなあ。発注ラフを「レイアウト」と表記するのも違うと思うけれど。ちなみに『機動戦艦ナデシコ』ではかなり発注ラフを描いている。
確認することがあって「こんなこともあろうか」と段ボール箱には入れないで、倉庫のラックに並べてあった「別冊COMIC BOX」のスタジオジブリ関係の特集号をひっばり出す。それにしても濃いなあ。「これぞ、雑誌」って感じだ。

2021年7月15日(木)
新文芸坐で「あのこは貴族」(2020/124分/DCP)を観る。プログラム「映画監督・岨手由貴子の魅力 グッド・ストライプス | あのこは貴族」の1本。ロードショー時から、この映画の評判はSNSで目にしていて、自分は作品のターゲットから外れているだろうと思っていたのだけど、結構やられてしまった。若い頃に観たらかなり「痛さ」を感じたと思う。物語としてはあまり痛くないのだけれど、物語以外の表現の部分がグイグイきた。分かりづらい感想になったけれど、とてもよくできた映画だった。事務所に戻ってデスクワーク。書籍の企画書を書いた。

2021年7月16日(金)
ダイエットは続いている。起床時の体重が69.6キロ。遂に60キロ台に突入した。60キロ台になった記念に新しいTシャツをおろす。午前中の散歩時にApple Musicで富田勲のプレイリストを聴く。富田さんのアルバムは10代の頃に聴きたかったのだけれど、なかなか聴く機会がなかった。Apple Musicには富田さんのアルバムが何枚もあった。これは贅沢だなあ。
グランドシネマサンシャインで、ワイフと「ブラック・ウィドウ」【IMAレーザーGT字幕】を観る。ワイフはかなり楽しんだようで「今までのマーベル映画で一番好きかもしれない」とのこと。僕のほうはまあまあ、かな。

2021年7月17日(土)
トークイベントの前にワイフと、デイユースで予約を入れたホテルバリアンリゾート新宿本店に。非常事態宣言で店で呑めなくなったので、「部屋呑み」を売りにしているホテルで呑んでみることにしたのだ。ワイフがホテルでのんびりしている間に、自分はロフトプラスワンに。時間に余裕があったので、話題の「新宿の猫」を見に行く。途中で先に「新宿の猫」を見た片渕さん達とすれ違う。「新宿の猫」って「そこに本当の猫がいるみたい」ではなくて、「ブレードランナー」的な感じなのね。電脳的と言えばいいのかな。12時から無観客トークイベント「第177回アニメスタイルイベント ここまで調べた片渕須直監督次回作【覚えておいてほしい人の名 編】」を開催。直前になって前野秀俊さんが出演できないことが分かって慌てる。イベントの最後には、片渕さんがプロデューサーを務めている「由宇子の天秤」についての話題も。イベント終了後、少し歩いてからホテルに戻る。ワイフと呑んで食べる。注文してから酒や料理が届くまでにちょっと時間がかかるので、居酒屋と同じというわけにはいかないが、自宅で呑むよりもずっといい。

第724回 年内、あれこれ

本日朝からデジタル作画志望の方との面接一件済ませて、昼間は某作品のお手伝い(作画&リテイク)の原画修正。そして夕方、次のシリーズのホン読みと盛り沢山でした!

 ここんとこ面接が立て続きでそこそこ大変ですが、来年入社希望の新人に限らず、今からデジタル作業を覚えたいアニメーターの人達も、ウチで一緒にやりたいと言って下さる方々とは時間の許す限り面接をしたいと思います。現在、何処の会社(スタジオ)も人手不足でアニメーターの取り合いになっている模様ですが、自分らの会社はそこには参戦するつもりありません。俺は自分の体力が続く限り、コツコツとゼロからスタッフを育てていく方が、長い目で見て効率が良いと思っているのです。「育てても、すぐ辞めてくじゃん!」と、とある業界の友人に言われた事もありますが、「それでもいいじゃん、また新しい人入れて育てれば!」って。だって、スタッフが入る~辞めるの循環は本来作りたい作品の規模に応じて調整するもので、そこに合わせて新人育成をし続けるのが会社の役割だと思うのです。例えば、監督とかキャラデザとか所謂メインスタッフとして作品を作りたいと、アニメーターだっていつか思うはずで、その野望を抑えさせて「俺の下で原画を描き続けろ!」なんて傲慢な事自分は言えないし、権威のない俺は言う資格すらないと思うのです。そう、育ったスタッフはいつか辞めて行く宿命にあるので、育て続けるしかないのです。金に物言わせてスタッフを搔き集めて「アニメーターが多ければ多いほど良し! それこそがTHE・勝ち組アニメ会社!」などと短絡的な事自分は考えていませんので、悪しからず。
 で、次のシリーズに作画INするまでの繋ぎ——他社のお手伝い。もちろんこれも社内の若手と一緒に作画したり修正したり演出したり。前述の新人育成の一環であり、会社の維持費のためでもあります。因みに3~4本程? やる予定。また近いうちに何ヶ月も1シリーズを描き続けなきゃならない社内スタッフにとっても、自分にとっても大切な気分転換の数週間。これはこれで楽しい作業です。それら、お手伝い作品の放送は年明け以降になると思います。
 そして、年末年始あたりに作画INする予定のシリーズのホン読み。今回は自分は一歩引いた総監督と言う立ち位置で、監督・コンテ・演出を俯瞰しての全体チェックに徹し、各話のコンテ・演出
を何本かやりますが、いつもの全話コンテはやりません。コンテチェックも含めて監督を育成するつもりの取り組み方です。あ、シナリオ(脚本)も何本か担当します、たぶん。それで、そのシリーズのホン読みが終わるタイミングで更に次の純正自分監督作品の準備に入りたいと思います(ここら辺はあくまで予定)。
 後は、出来たらマンガ描きたい! とかも。

 んなわけで、時間が足りなかった事による「年内の予定の話でお茶濁しの巻」でした。え、前にもそれらしいのやったって? 忘れて下さい(汗)。

第216回 少年アニメ音楽の後継者 〜うしおととら〜

 腹巻猫です。NHKで放映中のドラマ「古見さんは、コミュ症です。」にハマってます。コミュニケーションに不器用な少年少女たちの姿に痛かゆいような気持ちになりながら、青春の悩みは昔も今も変わらないのだなーと、ほのぼの。10月からはテレビ東京ほかでアニメ版が放映されるそうで、こちらも楽しみです。


 ドラマ版「古見さんは、コミュ症です。」の音楽は瀬川英史。「勇者ヨシヒコと魔王の城」や「アオイホノオ」など、ちょっとクセの強いドラマの仕事が多い印象がある。しかし、アニメではもっぱらオーソドックスな少年向け作品を手がけているのだ。
 今回は瀬川英史の『うしおととら』の音楽を聴いてみよう。
 『うしおととら』は2015年7月から2016年6月まで、全39話が放送されたTVアニメ。藤田和日郎によるマンガを原作に、監督・西村聡、アニメーション制作・MAPPA&VOLNのスタッフでアニメ化された。
 原作は『週刊少年サンデー』に連載された人気作品。1992年から1993年にかけて全10話のOVAが発売されたが、そのときは物語は完結していなかった。TVアニメ版はあらためてストーリーを最初から最後まで描いた初の映像作品である。シリーズ構成に脚本を担当する井上敏樹とともに原作者自身が参加し、長大な原作を39話のボリュームに収めている。
 中学2年生の少年・蒼月潮(うしお)は、ある日、自宅の蔵の地下室で虎のようなバケモノと出会う。バケモノは体に刺さった「獣の槍」の力によって500年にわたって動きを封じられていたのだ。バケモノの妖気に誘われて集まってきた妖怪を退治するために、潮は獣の槍を引き抜いてバケモノを解放した。槍の力で自身も妖のような姿になり、バケモノと協力して妖怪を撃破する潮。獣の槍の伝承者となった潮は、「とら」と名付けたバケモノとともに、人間を襲う妖怪を次々と退治していく。やがて潮ととらは、人間と妖怪の運命を握る強大な敵との戦いに巻き込まれていくのだった。
 不思議な縁で結ばれた潮ととらのコンビ。度重なるピンチを勇気と友情と強い意志で乗り越え、仲間を増やしていく。正道の少年マンガ的展開に胸が熱くなる。

 音楽を担当した瀬川英史は岩手県盛岡市出身。1986年から作曲家として活動を開始し、2500本以上のCM音楽を手がけた。現在は劇場作品、TVドラマ、ドキュメンタリー等の音楽で活躍する作曲家だ。TVドラマ「勇者ヨシヒコ」シリーズ(2011〜2016)や「コドモ警察」(2012)、「アオイホノオ」(2014)、「極主夫道」(2020)、劇場作品「HK 変態仮面」(2013)、「ヲタクに恋は難しい」(2020)など、福田雄一監督作品を多く手がけているほか、TVドラマ「最高の離婚」(2013)、「推しの王子様」(2021)、劇場作品「ビリギャル」(2015)などの音楽を担当。近年ではNHK朝の連続テレビ小説「エール」(2020)が印象深い。
 実写作品に比べるとアニメの仕事は少なく、7本を手がけた「バトルスピリッツ」シリーズと『戦国乙女〜桃色パラドックス〜』、本作『うしおととら』があるくらい。
 『うしおととら』の音楽は、妖怪退治を題材にした正道の少年アニメらしい作り。妖怪を表現する怪しく不気味な曲とバトルシーンを盛り上げる激しく熱い曲が聴きどころだ。
 音楽全体は大きく4つのテーマを中心に構成されている。
 まず主人公である潮のテーマ。少年マンガらしいまっすぐで元気な少年のテーマが、コミカル系、ほのぼの系など、さまざまな曲調にアレンジされている。面白いのは、潮の登場場面だけでなく、潮の同級生の少女・麻子や真由子の場面などにも選曲されていること。本作の日常シーンを彩る曲という位置づけだ。
 次に、潮が獣の槍の力で変身した「槍の男」のテーマ。いわば本作のヒーローのテーマであり、メインテーマと呼んでもいい。悲壮感をともなう力強いメロディが設定され、さまざまなバトルシーンに対応した曲調にアレンジされている。
 そして、潮のバディとなるとらのテーマ。こちらは、サントラを聴く限りでは、サスペンス系とバトル系の2種類があるだけで、バリエーションはないようである。
 最後に、潮ととらが戦う妖怪のテーマ。共通のモチーフ(メロディ)はなく、琵琶や三味線などの邦楽器や人の声を取り入れた多彩なサウンド、曲調で作られている。瀬川英史は音色にこだわる作曲家で、ドラマ「アオイホノオ」では80年代の空気感を表現するために当時のビンテージもののシンセサイザーを使用、「エール」では戦前に使われていたカーボンマイクを録音に使って当時のサウンドを再現している。本作の個性的な妖怪音楽にも、そうしたこだわりと、キャッチーな曲作りが要求されるCM音楽の豊富な経験が活かされている気がする。
 この4種類のテーマをメインに、ドラマに必要なサスペンス曲、心情曲、状況描写曲などを加えて、『うしおととら』の音楽世界が構築された。少年冒険アニメの音楽といえば、「わかりやすく、元気になる曲」というイメージがあるが、本作では、その伝統が現代的なセンスとテクニックでアップデートされている。
 本作のサウンドトラック・アルバムは2015年10月に「TVアニメ『うしおととら』オリジナルサウンドトラックI」のタイトルで徳間ジャパンから発売された。タイトルに「I」と付いているが「II」は発売されていない。代わりに、2017年12月発売の「アニメ『うしおととら』ブルーレイ&CD完全BOX」に同梱される形で「サウンドトラック2」がリリースされた。
 「オリジナルサウンドトラックI」の収録曲は以下のとおり。

  1. オープニングテーマ 混ぜるな危険 〜TV Mix Version〜(歌:筋肉少女帯)
  2. 槍の男1
  3. 妖気
  4. うしおのテーマ1
  5. うしおのテーマ5
  6. 浮遊
  7. 妖艶
  8. うしおのテーマ7
  9. とらのテーマ
  10. うしおのテーマ2
  11. 敵2
  12. 恐怖
  13. 槍の男3
  14. うしおのテーマ6
  15. 不安
  16. 事件発生
  17. とらのテーマ2
  18. 敵3
  19. 怨み
  20. 敵7
  21. 槍の男5
  22. 不穏
  23. 心配
  24. 希望
  25. うしおのテーマ4
  26. 邪教
  27. 敵8
  28. 槍の男4
  29. 対峙
  30. 精査分析
  31. うしおのテーマ3
  32. 敵4
  33. うしおのテーマ9
  34. 敵1
  35. 槍の男2
  36. エンディングテーマ HERO(TV size)(歌:ソナーポケット)

 1曲目にオープニングテーマを、ラストにエンディングテーマを収録したオーソドックスな構成。BGMは34曲を収録している。
 本アルバムは、TVアニメの1クール目を意識した内容になっている。「うしおのテーマ」「槍の男」「とらのテーマ」「敵(妖怪)」と、4つの主要なテーマをたっぷり収録。その代わり、2クール目以降に登場するキャラクター関連の楽曲は収録されていない。おそらく、順調にいけば2枚目、3枚目とサントラを発売する予定があったのではないか。そこは残念なところである。
 曲名もちょっともったいない。「うしおのテーマ」をはじめ、音楽メニューの仮タイトルをそのまま使ったような曲名が並ぶ。曲名のあとに「1」「2」などの数字がついた表記も味気ない。マニアックなファンが買うサントラならそれもよいかもしれないが、こういう少年向けアニメのサントラは、物語をイメージさせる曲名がついていてほしいと思うのだ。余談だが、CDのジャケットではトラック4と5が「うしおとテーマ」と誤記されていて、それも残念な感じをいや増している。
 ただ、少しマニアックなファンにとっては、音楽がどのような意図で作られているかが曲名からうかがえて、とても興味深い。
 曲名に注文をつけてしまったが、楽曲は文句なしにすばらしい。
 「うしおのテーマ」は1から9まで8曲を収録(8が未収録)。「うしおのテーマ1」は軽快なリズムとさわやかなメロディによる躍動的な少年のテーマだ。「2」はラテン風のはじけた曲調で、潮がサッカーをする場面や海で遊ぶシーンなどに使用。「3」と「4」はピアノを中心にしたやさしい曲調のアレンジで、ほのぼのしたシーンに使われた。「3」は第24話のラストシーンに真由子のモノローグとともに流れたのが印象的。「5」「6」は木琴や弦のピチカートを使ったユーモラスなアレンジ。潮や麻子、真由子たちの会話シーン、潮ととらのけんかのシーンなどによく使われている。「7」は弦とビブラフォンなどによるコミカルなアレンジ。第10話で潮ととらが温泉につかっているシーンでの使用が面白かった。「9」はピアノの伴奏にギターのメロディが重なるしみじみしたアレンジ。第10話のラストシーン、白い髪の少女・小夜に見送られて旅立つ潮ととらの場面が思い浮かぶ。
 ひとつのメロディを多彩な表情に変化させる瀬川英史のアレンジの巧みさにも注目したい。
 「槍の男」は1から5まで5曲を収録。「槍の男1」が劇中でもよく使われたメインのアレンジである。冒頭の緊迫したリフの部分はアバンタイトルのナレーションバックにも使われた。
 基本はバトルシーンを想定した曲なので、「うしおのテーマ」ほどにはアレンジの幅は広くない。が、どの曲もキャッチーな導入部、テーマ部分のサウンドの組み立て、コーダの処理などに工夫がこらされており、聴きごたえがある。叩きつけるようなパーカッションと高速で上下する弦のフレーズが潮の闘志を表現する「1」、緊迫したサウンドに悲壮感がみなぎる「2」、ピアノと弦を主体にした哀感ただよう「3」、重い苦戦ムードの「4」、シンセサウンドを取り入れたスピード感のある「5」。それぞれに、ドラマを感じさせるアレンジになっている。
 なかでも鮮烈な印象があるのは「槍の男3」である。第7話で潮の父・紫暮(しぐれ)がとらと立ち会う場面、第9話でのかまいたちとの戦い、第17話と18話で麻子、真由子ら潮ゆかりの少女たちが「獣」に変貌してしまった潮を助けようとする場面など、痛みをともなうバトルの場面に選曲されて抜群の効果を上げていた。
 「とらのテーマ」は、「とらのテーマ」と「とらのテーマ2」の2曲のみ。「とらのテーマ」は第1話で潮がとらと初めて出会う場面に使用された不気味な曲。「とらのテーマ2」のほうがメインとなる曲で、とらが妖怪と戦うシーンに使われた。心を熱くするビートの上でブラスとストリングスが勇壮なメロディを奏でる。妖怪の曲というより、「槍の男」と並ぶヒーロー活躍曲という印象だ。潮や麻子や真由子がピンチに陥ったときに、とらがこの曲とともに登場するシーンは文句なしに燃える。
 そして、妖怪のテーマである「敵」は1から8まで6曲を収録(5、6が未収録)。「1」は尺八の音や低音の弦、パーカッションなどによるミステリアスな曲。潮が妖怪の伝承を聞く場面などに使われた。「2」はパーカッションのリズムと不気味にうなる金管、緊迫した弦のフレーズなどが危機感を盛り上げる「妖怪登場!」という雰囲気の曲。妖怪との戦いの場面にもよく使われた。「3」は琵琶、「4」はホーミー風の男声ボーカル、「8」は三味線と太鼓をフィーチャーした楽曲。いずれも、エキゾチックでユニークなサウンドの怪異表現曲である。「7」は緊張感ただよう導入部からブラスが重量感なフレーズを奏する中間部を経て、女声コーラスが妖しくも神秘的な雰囲気をかもしだす終盤へと曲調が変化するドラマチックな曲。第6話の海中から現れる巨大な「あやかし」、第8話の旅客機を襲う空の妖怪「衾(ふすま)」など、強力な妖怪が出現する場面に選曲されている。
 そのほかの曲では、恐怖描写に欠かせない「恐怖」、重苦しいサスペンス曲として使われ、強敵「白面の者」の脅威を表現する曲としても使用された「怨み」、悲しみややりきれなさを伝える曲としてしばしば選曲された「不安」などが印象に残る。女声スキャットをフィーチャーした「妖艶」は、タイトルから艶っぽい場面を連想してしまうが、実際には第10話に登場する少女の姿をした妖怪オマモリサマ(座敷童)のテーマとして使用されていた。
 ドラマを支える楽曲として忘れてはならないのが「心配」と「希望」である。
 深いリバーブがかかったピアノの音がリリカルなメロディを奏でる「心配」は、しみじみした情感や哀感を表現する曲。第8話のラストで父を亡くした少女・勇のわだかまりがとけるシーンや第9話でのかまいたちの十郎の最期、第11話で麻子が真由子に子どもの頃の潮の思い出を語る場面などに選曲されている。不安な「心配」ではなく、心の奥深くにある大切な想いを表現する曲として使われている印象だ。
 ピアノの切ない旋律から始まり、ストリングスや木管が奏でるやさしいメロディに展開していく「希望」は、数々の感動シーンを彩った曲。第3話で画に宿った妖怪が浄化されて消えていく場面、第6話での少年タツヤと潮たちとの別れのシーン、第13話の潮の旅立ち、第16話で人間の体内に入って妖怪と戦った潮ととらが生還する場面など、「ここぞ」と言う名場面に使われている。本アルバムの中でも、きわめつけの「泣ける曲」である。

 アルバム全体の流れは、本編の楽曲使用順にはこだわらず、妖怪退治のサスペンスを表現する曲と潮ととらのユーモラスな日常を描く曲をバランスよく配してアニメの雰囲気を再現する構成。曲名はともかく(しつこい)、第1クールで印象的な楽曲をほぼ収録した、ツボを押さえたアルバムだ。
 しかし、アニメ本編を観ていたファンなら、第2クール、第3クールで流れていた重要曲が収録されていないことに不満を覚えるに違いない。
 この「オリジナルサウンドトラック1」は、現在、音楽配信サイト等で圧縮音源とハイレゾ音源の2種がダウンロード販売されている。どうせなら「サウンドトラック2」も配信してくれよー、と思うのである。瀬川英史のアニメ音楽の代表作であり、少年アニメ音楽の意欲的な後継作品なのだから。

TVアニメ「うしおととら」オリジナルサウンドトラック1
Amazon

第180回アニメスタイルイベント
沓名健一の作画語り[ネットで観られる若手の注目アニメ]

 2021年10月10日(日)に開催するトークイベントは「第180回アニメスタイルイベント 沓名健一の作画語り[ネットで観られる若手の注目アニメ]」。アニメの作画について語るイベントです。

 メインゲストはアニメーター、演出として活躍し、さらに作画研究家でもある沓名健一さん。聞き手はアニメスタイル編集長の小黒祐一郎が務めます。今回のテーマは「ネットで公開されている若手アニメーターの作品」です。それぞれの作品に触れつつ、ネットアニメ、若手アニメーター(アマチュアを含む)の傾向などについて語ってもらいます。

 今回のイベントは会場にお客さんを入れ、尚かつ、配信も行う予定です。会場では実際に作品の映像を観ながらトークを進めますが、配信では作品の映像を観ていただくことはできません。沓名さんには、イベント中に彼のTwitterアカウント( @coosun )で、とりあげる映像のURLをツイートしてもらう予定です。配信で参加される方は、沓名さんのツイートを追いながらご覧になってください。

 会場は新宿のLOFT/PLUS ONE。チケットは〈会場での観覧+配信視聴〉と〈配信視聴〉の2種類を販売しますが、諸般の事情で、配信のみのイベントとなる可能性もあります。その場合は〈会場での観覧+配信視聴〉のチケットは払い戻しいたします。チケットは9月29日(水)18時から発売となります。
 詳しくは以下にリンクしたLOFT/PLUS ONEのイベントページをご覧になってください。

 配信は先行してロフトグループによるツイキャス配信を行い、その後にアニメスタイルチャンネルで配信します。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。

 また、アニメスタイルチャンネルでは過去の沓名さんが出演したトークをアーカイブ配信しています。以下のリンクをご覧になってください。

■関連リンク
LOFT/PLUS ONEのイベントページ
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/plusone/192086

アニメスタイルチャンネル
https://ch.nicovideo.jp/animestyle

■過去の「沓名健一さんトーク動画」配信
アニメスタイルTALK 001「沓名健一が語る 僕のアニメ人生」
https://www.nicovideo.jp/watch/so36943615

アニメスタイルTALK 002 沓名健一と語るアニメ作画の20年
https://ch.nicovideo.jp/animestyle

アニメスタイルTALK 005 続・沓名健一と語るアニメ作画の20年
https://www.nicovideo.jp/watch/so37292652

アニメスタイルTALK 007 沓名健一の作画語り
https://www.nicovideo.jp/watch/so37569483

第180回アニメスタイルイベント
沓名健一の作画語り[ネットで観られる若手の注目アニメ]

開催日

2021年10月10日(日)
開場11時半 開演12時 終演15時予定

会場

LOFT/PLUS ONE

出演

沓名健一、小黒祐一郎

チケット

会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,500円、当日 1,800円(税込・飲食代別)
ツイキャス配信チケット/1,300円

■アニメスタイルのトークイベントについて
 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。

佐藤順一の昔から今まで(31) 『ケロロ軍曹』の話題であります!・2

小黒 『ケロロ』って、メディアミックスが多かったじゃないですか。

佐藤 最初っからありましたっけ?

小黒 徐々に増えていったんですかね。挿入歌の数も多くて、CDも沢山出ていましたね。

佐藤 確かに挿入歌は凄く多いですね。

小黒 歌に関して言うと、弾けた歌が多いと思ったんですが、これはフライングドッグさんが頑張ったっていう事でしょうか。

佐藤 そうでしょうね。「歌を多めにほしい」と言ったかもしんないですけど、福田(正夫)さんが、色々とアイデアを思いつくらしくてね。

小黒 フライングドッグの福田正夫さんですね?

佐藤 そうです。「どすこい軍曹」みたいに、よく分からないんだけど、福田さんが思いついちゃった事、やりたい事を、こちらが暖かく受け止めるみたいな感じです(笑)。

小黒 佐藤さんが福田さんと一緒に仕事をしたのは『ケロロ』が最初なんですか。

佐藤 『ARIA』って、その後?

小黒 『ARIA』が後ですね。

佐藤 じゃあ、『ケロロ』が最初かな。

小黒 『ケロロ』も最初の1年のクレジットでは、佐々木史朗さんの名前が上で、2番目が福田さんなんです。実際に動いてるのは、福田さんなんですね?

佐藤 そうです。鈴木さえ子さんにオファーしたのは、福田さんですから。そもそも、福田さんが鈴木さえ子さんのファンだったっていう事があったんですよね。

小黒 なるほど。

佐藤 「アフロ軍曹」のダンス☆マンも福田さんのアイデアだったかな。

小黒 「アフロ軍曹」が「なんでアフロだったのか?」という事は福田さんに聞かないと分からない?

佐藤 そうですね。ただ、本編の中でドカーンと爆発すると髪の毛が急にアフロになる事は、本編の中でもちょいちょいあったので、そこで思いついたんじゃないですか。「ケロロとアフロは似てるな」みたいな(笑)。

小黒 「ケロッ!とマーチ」の歌詞はかなり個性的ですが、作詞さんの方にお任せだったんですか。

佐藤 こちらからもアイデアは出していますね。「主題歌どうします?」という話の時に、ちょっとマーチっぽいものがいいんだけど、歌詞に関しては「あるある集みたいなものでは、どうだろう?」とアイデアを出して……。

小黒 それは佐藤さんが?

佐藤 そうですね。「内容はなくてもいいので、あるあるみたいなのどうだろう?」っていう話をして。「参考になんかありますか?」と言われたので、「机に足の小指を当てる」とか「おかずは材料から作るより、惣菜買ったほうが安く上がるよね?」って、いくつかアイデアを出したのをまとめてもらっています(笑)。

小黒 まさか、この事について訊ける日がくるとは思わなかったという質問になります。「社員旅行はケロン」って意味が、全く分からないんですが。

佐藤 そこは作詞のもり(ちよこ)さんに聞いていただかないと(笑)。分かんなくても分かんないままでいいかな、と思って。

小黒 (笑)。(編注:「社員旅行でどこかの星にいけるかと思ったら、生まれ育ったケロン星だった」という意味だという説があるそうだ)

佐藤 「それじゃーソルジャー……」とかも、もりさんのアイデアです。

小黒 ああ、素晴らしいですね。

佐藤 そうです、そうです。途中で訳が分からないような事になってるのは、それはそれでありかな、と思って。

小黒 いやいや、名曲ですよ。

佐藤 そうですね(笑)。

小黒 『ケロロ』は、歌のおかげでずいぶんと弾んだ印象のアニメになってますよ。

佐藤 よかったです。確かに、主題歌が思った以上に作品の顔になってくれたなという感じはありますね。

小黒 さらに些末な事を聞くんですけれども、アイキャッチが『ど根性ガエル』のパロディだったのは、誰がやってるんですか。

佐藤 「わたくし」ですね(笑)。

小黒 あっ、そうなんですね(笑)。何故『ど根性ガエル』なんですか。

佐藤 『ケロロ』の原作はパロディ色強めで、みんなそこを楽しんでる感があったじゃないですか。色んなパロディが入ってる事が作品の特色として捉えられていたんだけど、「パロディだから面白い」にしちゃうと、子供が分かんないじゃないですか。だから、「パロディだと分かんないと面白くない」はNGだけど、「知らなくても面白い」はありだなというくくりでトライしていますよね。

小黒 なるほど。

佐藤 『ど根性ガエル』に関してもそうで、「分かる人が分かればいいかな」ぐらいの感じにしてますね。

小黒 カエル繋がりですね(笑)。

佐藤 そうなんです。分かる人が観たら、「ああ、『ど根性ガエル』ですね」って思うけど、ほとんどの子供達は初見でしょ?

小黒 子供達はそうですね。

佐藤 あの感じは、インパクトありますからね。

小黒 看板ひっくり返すのとか。

佐藤 看板ひっくり返してサブタイトルが書いてあるっていうのは、トピック感あると思いますね(笑)。

小黒 ああ、なるほど。

佐藤 『ど根性ガエル』を当時観ていた自分的にも、記憶に残ってるからね。


●佐藤順一の昔から今まで(32)『ケロロ軍曹』の話題であります!・3 に続く


●イントロダクション&目次

アニメ様の『タイトル未定』
319 アニメ様日記 2021年7月4日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2021年7月4日(日)
早朝散歩の後、都議会議員選挙の投票に。僕が行った投票所は一番乗りと二番目の人が投票箱の中を見ることになっているようで、僕は二番目だったので、投票前に箱の中を確認した。
カセットハードディスクの録画を整理していたら、鈴木敏夫さんと岩井俊二さんの対談があった。番組タイトルは「日本映画専門チャンネル×岩井俊二映画祭 present 映画は世界に警鐘を鳴らし続ける 特別番組 鈴木敏夫×岩井俊二」。2012年に日本映画専門チャンネルの岩井俊二特集内で放送された番組で、録画はその再放送であるらしい。驚いたのはアニメージュで「風が吹くとき」を特集した号の話題だ。特集を企画したきっかけ、社内と読者の反応についての話。自分がアニメージュで仕事をしていた時期の話だけど、まるで知らなかった。敏夫さんが大袈裟に語っている可能性はあるけれど。

2021年7月5日(月)
ワイフと椎名町まで歩いて、餃子の満州で昼飯。僕もワイフも餃子の満州が好きなんだけど、酒が呑めない間は行く気にならなかったのだ(念のため書いておくと、外食で酒が提供できた時期のことである)。
「この人に話を聞きたい」の原稿に集中できるかと思ったけれど、それ以外のやらなくてはいけない作業が次々と生じる。

2021年7月6日(火)
久しぶりに『機動戦艦ナデシコ』1話を視聴。今さら言うまでもないけど、脚本も演出も尖っている。2話以降が楽しみになる超盛り沢山な内容。当時もそう思ったはずだけど、ダイゴウジ・ガイは1980年代に割といたタイプのオタクなんだろうなあ。1話のルリは後の彼女とキャラが違うけれど、それは味わいのうち。ユリカは今観ると「普通の女の子」だな。突飛な言動はあるけれど、それも含めて普通の女の子。1話のエステバリスのアクション作画はかなりいい。当時は、『ゲキガンガー3』との対比を考えると、リアルロボットとして扱われるエステバリスの描写がスーパーロボット的でいいのか? と思ったけれど、むしろ、スーパーロボット的でいいのだと思えた。
『機動戦艦ナデシコ』2話。1話に負けず、超盛り込み。大筋はマジメで表現はコメディで、1990年代らしいノリもあり。ダイゴウジ・ガイ大活躍の回でもある。3話の予告がこれまた面白くて、期待が高まる。2話劇中の『ゲキガンガー3』はロクロウ兄さんの話。異星人シックースの地球名がロクロウなのは、『大空魔竜ガイキング』でフジヤマ・ミドリのピジョン星人としての名前がグリーンであったことに由来する。ちなみに、この日記で『ゲキガンガー3』のタイトルに「・」を入れないのはわざとであります。
『機動戦艦ナデシコ』関係で佐藤徹さんにインタビューをする。お元気そうでよかった。

2021年7月7日(水)
『機動戦艦ナデシコ』再視聴は5話から10話まで。5話で炸裂する首藤ワールド。この話でルリのキャラクターが固まるかと思ったら、そんなことはなくて徐々に完成していく感じ。作品全体のノリとしては、イネスが出てきてからが本調子。アカツキ・ナガレは記憶にあるよりもコメディ寄り。というか、アカツキが面白お兄ちゃんとして描かれる回が連続する。これは当時も思ったことだけど、イネスの「ワープという言葉もちょっと⋯⋯」というセリフはややメタな感じ。
11時に行きつけの病院に行って、新型コロナウイルス・ワクチン接種を受ける。ほとんど待たずにサクっと終わる。次に出す書籍の構成1弾のPDFが上がる。次の次の書籍の素材関係が動く。引き続き「この人に話を聞きたい」原稿を進める。
引き続き、1人で散歩する時はネックスピーカーでサントラを聴いている。この日の早朝散歩では『こどものおもちゃ』『ナースエンジェルりりかSOS』のサントラを聴いた。サントラではないけれど、最近、聴いたCDだと「小んなうた亞んなうた 小林亜星 楽曲全集 コマーシャルソング編」がよかった。

2021年7月8日(木)
「この人に話を聞きたい」の原稿を進める。原稿まとめの参考に『恋は雨上がりのように』原作最終巻に目を通して、改めてアニメ最終回を観て、実写映画版を観る。『メジャーセカンド』もチェック。『彼女がフラグをおられたら』を観ていたら、何故か『僕は友達が少ない』を観たくなった。
以下は『恋は雨上がりのように』について。確かに原作とアニメでは、ラストが違っている。原作だと、店長にとっての小説と、あきらにとっての陸上は「待たせているもの」であって、アニメだと「果たさなくてはいられない自分との約束」なのね。言葉遊びっぽくなるけど、アニメは約束だから、それを果たしたら戻ってくるかもしれない。さらにアニメだと、店長とあきらが「自分との約束」を果たした後のことを語りあっていて、改めて恋を続けるかもしれない余地を残している。しかも、本編ラストカットで小説を書き終えたのかもしれないと匂わせている。

2021年7月9日(金)
「この人に話を聞きたい」原稿の大詰め。最後の最後でインタビュアーの口調を整えた。

2021年7月10日(土)
最近、テレビをつけるといつも、CSで『おそ松さん』をやっている。どうして? と思っていたけれど、確認したら帯番組なのね。こっちが毎日同じ時間にテレビをつけているだけだった。
新文芸坐の9時45分からの回で「ソナチネ」(1993/94分)を観る。プログラム「乾いた銃声/虚無の闇 北野武と黒沢清の暴力」の1本。この映画は初見。予想以上に面白かった。スリリングだし、味わいもある。些末なことだけど、スチールでお馴染みのビートたけしが自分の頭に銃をあてるカットって、クライマックスではなかったのね。
築地食堂源ちゃん東池袋店にで昼飯。呑んで食べる。再び緊急事態宣言が実施されるので、源ちゃんのホッピーもまたしばらく呑めない。14時から2時間ほどZoom打ち合わせ。割と冴えたことを言った気がする。その後はレイトショーの用意等。夜はレイトショー「新文芸坐×アニメスタイル スクリーンで観たいアニメ映画vol. 2 『魔女見習いをさがして』」を開催。ゲストは関弘美さんと佐藤順一さん。佐藤さんは前の仕事の関係で遅刻するかもしれなかったのだけれど、余裕で間に合った。トークは公開インタビューのようなノリになってしまった。内容は充実していたと思う。『魔女見習いをさがして』を観るとビールを呑みたくなる。コンビニで缶ビールを買ってから帰る。

佐藤順一の昔から今まで(30) 『ケロロ軍曹』の話題であります!

小黒 そして『カレイドスター』が終わって『ケロロ軍曹』が始まる。

佐藤 はいはい。

小黒 『カレイドスター』の放映が2004年3月までで、『ケロロ軍曹』が4月にスタート。『カレイド』の作業を引っ張ったので、佐藤さんが『ケロロ』に本格的に入るのが遅れた、と聞いた記憶があります。

佐藤 そう……だったです? 並行してやっている時期があるのか。『ケロロ』とか『(ふしぎ星の☆)ふたご姫』(TV・2005年)とか、その頃の記憶は、色々ごちゃごちゃになってるんですよね。

小黒 並行してやっていたのは間違いないですね。『カレイド』が遅れていなかったとしても、『カレイド』の制作中に『ケロロ』の仕込みをやっていたわけですよね。

佐藤 そうだね。気分がダウンになった頃の具体的な記憶はないんですけど、例えば『ふたご姫』の主題歌を聴くと、その時の気分がよみがえるんですよ。

小黒 つらかった時の気分ですか?

佐藤 そうそう。「あっ、この時、つらい気分だったな」って。

小黒 分かります、分かります。僕もそういう曲があります。

佐藤 (笑)。何があったかは覚えてないんだけど、その時期なんですよね。『ケロロ』もね、2年目の主題歌なんかを聴くと、その気分がよみがえってくるんですよ。

小黒 じゃあ、精神的につらい時に作ったんですね?

佐藤 そうそう(笑)。

小黒 つらい時期の話で申しわけないですが、『ケロロ』の事を聞いてもいいですか。

佐藤 はいはい。

小黒 どうして総監督をやる事になったんですか。

佐藤 オファーはサンライズからもらったんだったかな。あの原作を「ファミリーコンテンツ」にしたかったそうなんだけど、その時、サンライズでやってる人の中には、そういったものが得意な人が見当たらなかったと。それと、あまり予算を使わないのが前提だったんです。「枚数を少なくしても面白いものを作れるのは、やっぱり東映の人じゃないか。佐藤さんなら、なんとかしてくれるんじゃないか?」という感じで呼ばれた(笑)。その2点が大きかったんじゃないかな。

小黒 ファミリーコンテンツにするというのは、原作にあるマニアックな味付けや、色っぽいところを薄味にしていくという事ですね。

佐藤 そうですね。そういう意図でオファーをもらいました。ただ、現場的な作業をガチではできないと思うので、例によって「総監督ならできると思います」とお話して、監督として山本(裕介)さんに入ってもらう事になった。山本さんはサンライズからのオファーだったはずで、僕は初対面だったと思いますね。

小黒 脚本打ちやコンテチェックは佐藤さんの役割なんですね?

佐藤 いや、1年目のホン打ちは全部、立ち会ったんですけど、コンテチェックは基本的に山本さんですね。

小黒 そうなんですね。

佐藤 最初の頃は、山本さんのチェックの後に僕が見るやり方を考えていたんだけど、早い段階で「大丈夫だ」と感じたので、山本さんにお任せしてるはずです。

小黒 なるほど。途中から総監督じゃなくて、監修になるんですが、これはどういう経緯だったんですか。

佐藤 他の作業もあったりしたので、アフレコとダビングのところだけ立ち会うぐらいの関わり方にさせてもらおうと思って、そうしたんだったかな。ホン読みは全然出なかった。コンテ、内容も含めて、それは全部お任せするとなったんだけど、後半はアフレコも問題なく進むので、立ち会うのはダビングだけになってましたね。

小黒 ダビング立ち会いではどういった事をするんですか。

佐藤 特に何をするという事もないんですけどね。完成形ができるのがダビングなので、そこは一応、観ておくと。稀に、音楽について意見を出したりしたぐらいですね。

小黒 じゃあ、主にお仕事されたのは、1年目ですか。

佐藤 そうですね。シリーズ構成の池田眞美子さんも「じゃあ、構成を辞めようかな」という感じだったので、一緒に外れたんですよね。

小黒 いや、2年目もやってるんじゃないですか。総監督としてクレジットされているのが2年目の最後までなので(編注:3年目からの役職は監修。池田眞美子がシリーズ構成でクレジットされているのも、2年目の最後まで)。

佐藤 えっ、2年目もやったかな? そうだそうだ。2年目はオリジナルの話をやんなきゃいけなくなってるので、やってますね。その後、僕が総監督を外れた時に池田さんも一緒に辞めたんだった。

小黒 作品コンセプトの話に戻りますが、原作をちょっと子供向けにして、日曜の朝に観られるようなものにしたい。

佐藤 そうですね。「ファミリー向けにしたい」っていうオーダーだったので。

小黒 キャラクターデザインを誰にするのかについては、佐藤さんも関わってるんですか。

佐藤 キャラクターデザインを追ちゃん(追崎史敏)にオファーしたのは、僕なんですよね。「誰がいい?」みたいな話になって、僕から「追崎君がいいんじゃないか」と言って。「とりあえずラフでいいので、描いて」ってお願いしたんだけど、そん時の追ちゃんが凄く忙しかったんじゃなかったかな。これは、追ちゃんに聞かないと分かんないけど。

小黒 なるほど。佐藤さん的に「『ケロロ』はこういうふうに作るべき」と思った事は他にありますか。

佐藤 子供向けだったので、「どうしようかな?」と色々考えた。最初に思ったのは、冬樹が割とニュートラルなので、もうちょっと駄目っ子にしたほうがいいかなと。のび太的なテイストを出すのが、視聴者の年齢層を下げるにはいいかなと思ったんだけど、原作の吉崎(観音)さんに提案したら、「冬樹はそういう方向ではない」という話だったので、それはやめましたね。ただ、ファミリー向けにするなら、夏美やママがグラマラスなところは避けたいなと思いました。小学校高学年ぐらいになってくると、女の子がセクシャルなものについて、ちょっと嫌悪を示したりする事もあるので。そのぐらいの年齢の子が読む少女マンガって、ほんとに胸がペタンとしてるのが普通じゃないですか。「そういうテイストに変えたいです」って話をして、吉崎さんにもオッケーいただきました。最初はママもそうするつもりだったんだけど、それをやるとキャラが全然変わっちゃうので、「ママはグラマーなままでいいか」と、元に戻してるんですけど(笑)。内容的な事を含めていくつか提案して、オッケーもらって進めていましたね。吉崎さんは「ホン読みに参加したい」という事だったので、シナリオ打ち合わせには吉崎さんも参加してますね。ただ、最初の打ち合わせに入る時に「アニメーションの最終的なジャッジは僕のほうでするので、吉崎さんの意見を却下する事もあります」という了解をもらってます。そういうルール作りをしてから、スタートしたんですよね。

小黒 別の取材でもうかがいましたけど、他には「ケロロがいい奴で、冬樹との友情に厚い」事を重視すると。

佐藤 そうですね。そこは、とにかく死守しようと(笑)。それがズレると好感度が下がって、アニメだと笑えなくなるんじゃないかという気がしたので。「2人の友情に関しては揺るぎないほうがよいはずだ」と思っていました。

小黒 視聴者が観てて安心できるものにするという事ですね。

佐藤 うん。


●佐藤順一の昔から今まで (31)『ケロロ軍曹』の話題であります!・2 に続く


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