第653回 本職ですみません!

「ネタなら何でもよい」と、時事ネタ拾って偉そうに不勉強なことを描く場ではないと思っています。自分はアニメーターであり、アニメ監督なのでなるべくアニメに関することを書きたいし、アニメに関することで世間に何かを言いたいです。というわけで、またイラスト(ラクガキ?)1枚で申し訳ありません!

第179回 こんなときこそ「よかった探し」 〜愛少女ポリアンナ物語〜

 腹巻猫です。5月に開催が予定されていたコミックマーケット98が中止になりました。参加を予定していたので残念ですが、今の状況ではやむなし。平和に開催できるときが1日も早く来ますように。


 3月16日から、『愛少女ポリアンナ物語』全51話が日本アニメーションの公式YouTubeチャンネル「日本アニメーション・シアター」で無料公開されている。新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止対策として外出を控えている人に向けて公開されたものだ(無料公開は3月31日までの予定)。
 この企画にはすごく共感した。本作は、主人公・ポリアンナが日常の中にある「よかった」を探す物語。日々の暮らしの中にも新鮮な驚きや感動があることを伝えてきた「世界名作劇場」のエッセンスが詰まった作品なのである。心がモヤモヤしがちな今こそ、多くの人に観てもらいたい。
 『愛少女ポリアンナ物語』は1986年1月から12月まで放送されたTVアニメ。日本アニメーション制作による「世界名作劇場」第12作目の作品である。
 原作はアメリカの作家エレナ・ポーターが1910年代に発表した小説。アニメ版は『少女パレアナ』を原作にした第1部と、その続編『パレアナの青春』を原作にした第2部の2部構成になっている。第2部では主題歌も新しい曲になった。
 両親を亡くした少女ポリアンナが、父から学んだ「よかったさがし」をしながら、悲しみを乗り越えて明るく生きていく物語。辛いことに出会っても日常の中から「よかった」を探し出すことを忘れないポリアンナの生き方が、周囲の人々の心を変えていく。
 苦境にくじけず、いつも前向きに「よかった」を探し続けるポリアンナのキャラクターが魅力だ。平凡な日常の中にこそ喜びがあることをポリアンナが教えてくれる。観ているうちに、こちらも影響されて、毎日「よかった」を探すようになってしまう。主演の堀江美都子は主題歌の仕事が少なくなっていたときにこの作品に出会い、ポリアンナの前向きなキャラクターに自身も救われたという。

 音楽は、劇場作品「ゴジラ」(1984)やTVドラマ「ゆうひが丘の総理大臣」(1978)、NHK大河ドラマ「秀吉」(1996)、TVアニメ『新・ど根性ガエル』(1981)、『ふしぎの国のアリス』(1983)、TV人形劇「プリンプリン物語」(1979-1982)等の音楽を手がけた小六禮次郎が担当した。
 小六禮次郎は「世界名作劇場」第2作『母をたずねて三千里』(1976)のエンディング主題歌「かあさんおはよう」のアレンジを担当している。作曲した坂田晃一のアシスタントを務めていた縁で手がけた仕事だった。本作の音楽もその流れで(同じ関係者の紹介で)担当することになった、とインタビューで語っている。
 本作の音楽録音は4回行われている。放送開始前の1985年12月に第1回録音が行われ、約50曲が収録された。1986年3月の第2回録音で25曲を追加。1986年7月の第3回録音でさらに25曲を追加。1986年9月の第4回録音では、4曲のみが収録された。総曲数は100曲あまりになる。
 小六禮次郎は50曲におよぶ第1回録音の曲をたった2日で書いたという。当時は猛烈な量の仕事をこなしていた時期で、年間1000曲ぐらい書いていた。本作の音楽も、頭に浮かんでくる曲を次々とスコアにしなくては間に合わず、楽器で音を確認する余裕もなかった。しかし、手を抜いたわけではない。たくさん書けば早く書けるようになるし、当時はそれだけの仕事をする勢いがあった。
 「手を抜いたわけではない」ことは音楽を聴けばわかる。ポリアンナのキャラクターに負けない明るく前向きな音楽や美しいメロディを聴かせる抒情的な音楽が多く作られた。ポリアンナが探した「よかった」は音楽の中にもたくさん見つけることができる。
 本作のサウンドトラック・アルバムは1986年4月に「愛少女ポリアンナ物語 音楽編」のタイトルでキャニオンレコード(現・ポニーキャニオン)から発売された。第1回録音のBGM16曲を10トラックに構成し、オープニング&エンディング主題歌を加えたLPアルバムだ。このアルバム自体はCD化されていないが、2006年に放送20周年を記念した完全版音楽集「世界名作劇場メモリアル音楽館 愛少女ポリアンナ物語」(CD2枚組)が日本コロムビアから発売されている。

 以下、「メモリアル音楽館」をベースに紹介しよう。
 収録曲は下記を参照。
https://www.oricon.co.jp/prof/183/products/637292/1/
 選曲・構成は筆者が担当した。CD2枚でBGMをほぼ全曲収録している。ディスク1は本編の第1部(第1話〜第27話)、ディスク2は第2部(第28話〜第51話)のストーリーに沿って構成した。複数のBGMをブロックにまとめてタイトルをつけるスタイルで、BGMは1曲1トラックで収録。1曲ごとのタイトルはつけていない。
 工藤夕貴が歌う主題歌はフルサイズとTVサイズを収録。堀江美都子が歌った2曲の挿入歌——「星屑のシャンデリア」「夢色天使」も収録した。当初は堀江美都子による主題歌のカバー・バージョン4曲も収録したいと考えていたが、CD2枚のキャパシティに収まらないため、残念ながら見送り。しかし、音楽集としてはベストな内容に仕上がったと自負している。
 では、ポリアンナと一緒に音楽のよかった探しを始めよう。
 ディスク1は第1回録音と第2回録音のBGMから構成した。
 最初のブロック「教会の小さな娘」は、第1話の序盤で流れた4曲をまとめたもの。特に本編で最初に流れる1-M-1は重要な曲だ。なお、本作のBGMのMナンバーは録音ごとにM-1から始まっているため、混同を避けるため、アルバムでは頭に録音回数をつけて表記している(1-M-1は第1回録音のM-1の意)。
 1-M-1は3分近い長さの曲で、音楽編LPでは「春から夏へ 秋から冬へ」のタイトルで収録されていた。そのタイトルどおり、1曲の中で曲調が次々と変化する。導入部は牧歌的で大らかな曲調の「春」。バンジョーと木管楽器群が軽快に奏でる「夏」へと展開し、ストリングスとオーボエがさみしげに歌う「秋」へ。さらに弦合奏が凍える空気を表現する「冬」へ。そして、ふたたび「春」の訪れを告げる明るい曲調に転じて終わる。
 第1話では、アメリカ西部の雄大な情景に「春」のパートが、ポリアンナが登場すると「夏」のパートが流れ、絵と音楽のマッチングが絶妙の効果を上げていた。小六禮次郎は本作の音楽について「絵コンテを参考に書いた記憶がある」と語っているが、それを裏づける楽曲である。
 この曲、季節の移り変わりを表現すると同時に、本作のストーリーの流れ、ポリアンナの運命の転変も表現している。そういう意味でも、物語の序曲にふさわしい。最後は希望的な曲調で終わるところが『愛少女ポリアンナ物語』らしくて好きだ。
 次のブロックは「ポリアンナのテーマ」。1-M-6と1-M-5の2曲を収録した。ポリアンナの明るく元気な姿を描写する1-M-6はバンジョーの軽快な演奏と終盤のピアノのアドリブが最高。1-M-5は木管と弦楽器を中心にした編成でポリアンナのちょっとおしゃまな姿を表現する。元気なポリアンナだけでなく、少女らしい可憐な姿やもの思う横顔にもぴったりな曲である。この2曲は、ポリアンナが母の妹であるパレーおばさんを頼ってベルディングスビルにやってくる第4話で使われている。新しい生活のスタートを前にポリアンナの心に芽生えた「よかった」を表現する曲なのだ。
 ずばり「よかった探し」と名づけたブロックには、1-M-25&29を収録。1-M-25と1-M-29が連続したひとつの曲として演奏されている。演奏時間は3分。第2話で、死期が迫った父がポリアンナを呼び、「よかったを探すんだ。それがきっとお前を幸せにしてくれる」と言い残す場面にフルサイズで流れて感動を盛り上げた。この曲も絵コンテを参考に作曲されたのではないだろうか。音楽集LPでは「すべての人に愛を」のタイトルで収録されていた。本作のテーマを象徴する曲である。
 本作の音楽の特徴のひとつに、メロディの豊かさが上げられる。たとえば、「ポリアンナのテーマ」としてまとめた曲は、ポリアンナの場面に使われてはいるが、メロディは異なる。キャラクターごとにメロディを付与するライトモティーフの手法は採られていないのだ。以前、当コラムで取り上げた『私のあしながおじさん』とは異なる点である。
 メインとなるメロディがないために、どの曲にも新しいメロディが現れる。しかも、1曲の中で次々とメロディが変化する、展開のある曲が多い。
 かといって、各曲の印象が薄いわけではない。その理由には、音楽自体の魅力とともに、音楽演出の巧みさがあげられる。本作の音響監督は出崎統監督作品にも多く参加している山田悦司。音楽をコマ切れにせず長く使う映画的な演出が印象的だ。本作でも長い曲を切らずに流して大きな情感の流れを作り出している。その結果、楽曲の持ち味が生かされ、非常に豊かに聴こえる。これも本作の音楽に見つかる「よかった」のひとつだ。

 収録曲の話に戻そう。
 パレーおばさんのもとに引き取られたものの、おばさんからは冷たくされて落ち込むポリアンナ。そんなポリアンナの味方となり、一緒に「よかった探し」を始めるのがメイドのナンシーである。
 「ナンシーの約束」と題したブロックには、第5話のナンシーとポリアンナの場面に流れた3曲をまとめた。1-M-41は弦楽器とフルートなどが繊細な心情を表現する静かな曲。ナンシーがポリアンナを「天使のようなお方」と呼ぶ場面に流れて心にしみる。1-M-47はナンシーがポリアンナから「よかった探し」の話を聞く場面に使用。弦楽器がやさしいメロディを奏でる前半から、後半はピアノのメロディに変わる。この後半がたまらなく美しい。ポリアンナを想うナンシーの気持ちが伝わる音楽だ。
 ポリアンナの「よかった探し」は街の人々のあいだにも広がっていく。
 「ふしぎな特効薬」のブロックタイトルは、医師のチルトン先生がポリアンナのことを「誰でも元気にする特効薬」と呼んだエピソードにちなんだ。室内楽風の2-M-2は第12話でポリアンナがスノー夫人を見舞う場面に使用された曲。偏屈だったスノー夫人がポリアンナのペースに巻き込まれてしだいに心を開いていくさまが愉快だ。スノー夫人の心境の変化を巧みに表現する曲である。
 ディスク1の終盤には、パレー夫人の心情を描写する「秘められた想い」と「パレー夫人の幸せ」のふたつのブロックを配した。
 「秘められた想い」の2-M-7は、第24話でパレー夫人とチルトン先生との切ない恋の思い出が語られる場面に流れた曲。ピアノと弦と木管が静かにおごそかに奏でる、本作の音楽の中でもとりわけ美しい曲のひとつである。
 そして、「パレー夫人の幸せ」には第1部の大団円となる第27話で使用された2曲をまとめた。1-M-32は音楽集LPで「さようならの笑顔」のタイトルで収録されていた曲。フルート、ハープ、ホルンの序奏に続き、ピアノと弦楽器による抒情的なメロディに展開。木管がメロディを引き継ぎ、変奏していく。そのまま劇場作品のメインタイトルになりそうなロマンティックな曲である。劇中では、なかなか素直になれないパレー夫人の複雑な心境を表現する曲として使用された。音楽の力もあって、劇場作品の一場面を観ているような気分になる。
 もう1曲の1-M-23は第27話のクライマックスに使用された曲。音楽集LPでも「しあわせが続きますように」のタイトルでアルバムの最後に収録されている。フルート、ビブラフォン、弦楽器などが絡み合う印象主義音楽風の楽曲だ。第27話ではたっぷり2分間にわたって流れ、大人の恋の物語をしっとりと彩っている。
 ディスク1を駆け足で紹介してきたが、第3回録音と第4回録音の楽曲を中心に収録したディスク2にもいい曲がたくさんある。
 中でも、数々の名場面に流れた「生きることのよろこび」の2-M-9、最終回のラストを飾った「幸せはすぐそばに」の3-M-12は、筆者もお気に入りの名曲だ。
 『愛少女ポリアンナ物語』が小六禮次郎によるすばらしい音楽に恵まれたこと。これがいちばんの「よかった」なのかもしれない。

 小六禮次郎は本アルバムのために行った2005年のインタビューで、「少し殺伐とした世の中なので、この音楽を聴いて豊かになってくれればうれしい」と語っている。この言葉は現在にも当てはまりそうだ。こんなときこそ「よかった探し」。ぜひ、CDで、あるいは本編とともに、音楽を味わっていただきたい。明日も新しい「よかった」が見つけられるように。

世界名作劇場 メモリアル音楽館 愛少女ポリアンナ物語
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アニメ様の『タイトル未定』
245 アニメ様日記 2020年2月2日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。

2020年2月2日(日)
映画を観に行くつもりだったのだけど、ワイフの要望で赤羽に。ワイフが公園で猫と戯れている間に、荒川まで歩いて戻る。ワイフと面白駄菓子屋に寄ったら、高校生くらいのシュッとした男子が10円の駄菓子を買って、店の前のテーブルで友達と駄菓子を食べていた。赤羽はあちこちに清野とおるさんのポスターが貼ってあった(店頭の黒板に「壇蜜さんとの結婚おめでとう」と書いてある店もあった)のだが、入った飲み屋には清野とおるさんのサイン色紙が。公園にいる人も飲み屋の客もなんだか濃かったと思うのは、清野とおるさんのマンガの影響か。池袋に戻って、買い物に行ってから、事務所に。

2020年2月3日(月)
『魔動王グランゾート』の視聴が終わったので、さかのぼって『魔神英雄伝ワタル』の視聴を始める。1話が猛烈に面白い。内容が詰まっているし、アイデアも豊富。なおかつエピソードの中でのメリハリもいい。2話で剣部シバラク先生が登場するんだけど、初登場時はかなり乱暴なおじさんだったんだなあ。芦田豊雄さんはコンテも描いている。
アニメスタイル編集部では、年に2回くらい「『フリクリ』の絵コンテ本はどこにあるんですか」と誰が言い出す。今回は他の編集スタッフが使用中だった。日本でいちばん『フリクリ』の絵コンテ本を使っている編集部に違いない。

2020年2月4日(火)
15時から新宿で打ち合わせ。その後、事務所に。Prime VideoチャンネルのNHKオンデマンドに登録した。これはながらで観るにはかなりいい。「駅ピアノ」と「ノーナレ」と「ネコメンタリー 猫も、杓子も。」を観た。「岩合光昭の世界ネコ歩き」なんて70話もある。本家のNHKオンデマンドはあまり使ったことがないのだけど、操作性はこちらのほうがいいのでは。

2020年2月5日(水)
「ぐるぐるてくてく」という女子高生が主に池袋を歩くマンガがあって、その中に、護国寺に猫に会いに行く話があった。護国寺に猫がいるなんて知らなかった。ネットで検索して見ると、確かにいるらしい。それで、午前中にワイフと護国寺に。何度も通り過ぎていたけど、護国寺に入るのは初めて。休憩スペースもあるし、大仏があったり、仁王像があったり。それから広い。こんな場所だったのか、という感じ。ひとまわりして最後の最後に一匹の猫に会えた。近づいてはこないけど、逃げもしない感じだった。
事務所で作業をしている間は、ずっとPrime VideoチャンネルのNHKオンデマンドを観ていた。「ドキュメント72時間」がとてもよかった。観たのは「赤羽・おでん屋エレジー」「駄菓子屋・子どもたちの小さな宇宙」「北の大地の学生寮」「秋田・真冬の自販機の前で」「秋田 真冬の自販機の前で・惜別編」。特に「北の大地の学生寮」がよかった。

2020年2月6日(木)
午前中に集中してデスクワーク。企画書を何本か書く。作業をしている間はずっと、Prime VideoチャンネルのNHKオンデマンドの「ドキュメント72時間」を流していた。夕方から声優博士と打ち合わせ。

2020年2月7日(金)
編集部で、あらためて書籍に絵コンテを載せる際のサイズについてディスカッションする。例によっていくつものプロジェクトが同時進行。夕方、 有楽町マルイの「映像研による『最強の世界』展」に。展示品は多くはないけれど、線画設定を見ることができてよかった。上野の立飲みカドクラに寄って軽く呑んでから事務所に。
『慎重勇者〜この勇者が俺TUEEEくせに慎重すぎる〜』を一気観する。最終回は意外な展開。トータルではかなり楽しめた。『この素晴らしい世界に祝福を!』のアクアと『この勇者が俺TUEEEくせに慎重すぎる』のリスタルテは物語の中での位置づけも、キャラクターの印象も近い。僕としては、リスタルテのほうが言動に共感できるのだけれど、キャラクターとしてはあまり執着できない。リスタルテに執着できないのは主人公に対する欲望がダダ漏れすぎるからか。あるいは思考や感情が理解しやすぎるためか。アクアのほうが華があると思えるのは、性格がカラっとしているからか。あるいは主人公との距離感のためか。ちなみに『この素晴らしい世界に祝福を!』の3人娘の中だと、ダクネスが好きです。

2020年2月8日(土)
午前中に散歩。昼は吉松さんと打ち合わせを兼ねてシェラスコの店でランチ。次のイベントの内容が固まる。店でお手洗いに行くお客さんの姿を見て、横田守さんのような人だなあと思ったら、本当に横田守さんだった。

第652回 アニメーターとしての終末

最近、というか40代に突入してから「自分はあと何年アニメーターをやれるのだろうか?」とよく考えます!

 再三語ってるとおり、自分はアニメーターとしてスタートから非常に恵まれていました。(株)テレコム・アニメーションフィルム——大塚康生さんを中心に友永秀和さんや田中敦子さん、富沢信雄さんらスタジオ・ジブリ以前の宮崎アニメを支え、超大作『NEMO』(1989)を作り上げた精鋭スタッフにアニメーションを教わることができたのですから。しかも当時(1990年代半ば)では1枚いくらの出来高(単価)制が当たり前だったアニメ業界において、テレコムは動画1年目から完全給料制、しかも夏・冬ボーナスがもらえて——と言うと我々の同期からは相当羨ましがられたものです。同年代のアニメーターからすると、俺は本当に温室育ち。実はテレコムを辞める際、原画キャリア丸4年だった自分に「ジブリに紹介しようか?」と仰ってくださった先輩がいたのですが、その時は「有り難いお話ですが、演出やりたいって会社辞めるのに、ジブリで原画マンやっちゃ嘘になるので」とお断りしました。その時、もちろん「演出やりたい」が退社理由で間違いはなかったのですが、本当は

このまま温室育ちのアニメーターじゃ、俺はダメになるから!

というちょっと贅沢な理由もあったんです。当時の先輩方ゴメンナサイ。お気遣いありがとうございました。
 で、自分がテレコム退社後、演出デビューの場に選んだのが小さな某グロス会社。ちなみにその小さな会社で新人数人を引き連れて作った数本のグロス話数は、現在ミルパンセで「全員新人からの作り方」を実践する際の勇気を育んでくれました。その会社では、自分が320〜330カットほどのコンテを上げると、その半分以上の150〜200カットほどは、50〜60代くらいのかなり年配のフリーで自宅作業の方に振られるのが常でした(残りは社内の新人)。これはもう本当に大変でした! だって狙った意図の画がまったく上がってこない! そりゃそうですよ。当時27〜28歳の板垣は、自分と同年代の今石洋之さんらGAINAX(現在はTRIGGERに在籍)の活きのいい巧い原画マンの傍らで、アニメーター仕事もしてたわけで、それと比べると大ベテランの方々の原画は正直「酷かった」です! 髪の毛も服もいっさい揺れず、どんな芝居・アクションも限界まで簡略・省略されたラフな原画が1〜2枚ペラペラっとタイムシートに挟まれてるだけのものが、毎日30〜40カット机に積まれてるんです! それを社内の新人と自分も加わって全修に次ぐ全修。ハッキリ「地獄」でした。ただその時、テレコムでの大塚さんの言葉を思い出してたんです。

「歳をとると画は下手になるんだよ。僕はもう社内(テレコム)の若い人より下手になってるからね〜」

と。事実か謙遜かはどうでもよくて、大塚さんほどの方がそう言うくらい、アニメーターって肉体労働だってこと。目だって衰えるし、集中力も散漫になり、何より自身が描きたい画と世間が求めてくる画とのギャップは激しくなるばかり。それでも60歳越えて机にしがみつくカッコいい方たちをただ「老害」といって切り捨てるヤツに「本当の人生とは何か?」など描けるはずもないと思いました。それが描ける演出家にこそ、俺はなりたい!
 つまり目の前の年配の方の原画を見た時、

誰でも必ず歳をとり、俺もいずれこうなるのかもしれない。今この酷い原画に対して怒ったり笑ったりスタジオの壁に貼り出して揶揄したり、ひとしきり憂さ晴らしをしたあと、新人と自分で直しまくろう! 我々が子どもの頃に夢中になって観たアニメを作ってた人たちのフォローもできないところだと思いたくない、アニメ業界!

と。この考えは現在にいたっても変わっておりません。画の荒い部分や足りない原画は、俺らで修正・追加すればいいんです。そして若い人らは業界の大先輩からその生き様を学ぶ。先輩と後輩の相互関係こそがアニメ制作現場のいいところなはず。そもそも俺らみたいな若造の作品にご年配の方が入ってくるって、よっぽど人手不足だからで、どんな画が上がってこようと文句を言える義理はないはず。だから我々は全修しまくって使えばいいんです!
 ただ、笑ったり揶揄したりくらいはご容赦ください。こちらも人間なので、現場でおかしなモノが上がってきたら爆笑の対象となります。でもその代わり、自分自身も将来後輩に笑われる覚悟は完了してます。あとSNSなどで拡散するようなマネは最低なので絶対やりません。

TVアニメ黎明期から描かれてる方々は、2秒以内のカットは基本「止メイチ」で上がってくると初めて知った27歳の夏!

アニメ様の『タイトル未定』
244 アニメ様日記 2020年1月26日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。

2020年1月26日(日)
早朝に新文芸坐へ。オールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 123 中村豊のスーパーアクション vol .1」の終幕を見届ける。午前中は散歩。昼はアニメスタイル卒業生(数年前までの学生スタッフ)が事務所を訪れて食事に。ここ数日、卒業生に次々と会った。午後はワイフの希望で雑司が谷霊園まで散歩。その後は事務所に。

2020年1月27日(月)
事務的な用事を次々とこなす。電話もする。このところ、仕事はしているし、やりきれないくらい作業があるんだけど、原稿らしい原稿を書いていない。いかんなあ。作業をしながらDVD BOOKの『スペースコブラ』vol.1、『じゃりン子チエ』vol.1を半分ずつくらい観る。

2020年1月28日(火)
雪が降ると聞いていたけど、起きた時には雨。その後も、雪を見ることはなかった。昼は体力が落ちているワイフを誘って蕎麦屋に。鍋を食べる。午後に打ち合わせが一件。これから出す本、出したい本をまとめた。数はあるけど、順番がよくないなあ。
『魔動王グランゾート』を1話から観る。1話冒頭の「冒険モノ」感が凄い。耐えて久しい感じ。『魔動王グランゾート』6話でアクアビートが登場。本放映時もこの初登場シーンはインパクトあったなあ。BANKのラビも作画がいいぞ。
立東舎のサイトで「【連載エッセイ】押井守の映画50年50本アーカイブ」の「1988年『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』編」を読む。面白い。さすがは押井さん。ただし、「逆シャア本」の思い出部分はちょっと押井さんの記憶は違うかもしれない。前段階でアニメージュの記事で押井さんが『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』を誉めていて、それを知っているから同人誌で取材を申し込んだという流れだったはず。

2020年1月29日(水)
午前中は散歩とデスクワーク。13時から中央線方面で取材3本立て。取材までに晴れてよかった。ちょっとだけ吞んでから、池袋に。「アニメの仕事は面白すぎる 絵コンテの鬼・奥田誠治と日本アニメ界のリアル」を読了。僕にとっては大変に面白い本だったけど、個々の記述については「?」なところもあった。ドラゴンクエストウォークは上級職が強くて楽しい。ドラゴンクエストウォークのために1日4万歩くらい歩きたいけど、そんなわけにもいかない。

2020年1月30日(木)
グランドシネマサンシャインの13:35~15:33の回で『メイドインアビス 深き魂の黎明』を鑑賞。僕的にはかなり内容がキツかった。そのキツさは作り手が狙ったものであるはずなので、これは悪口ではない。僕がもっと若ければ「すげえ」と言っていたかもしれない。作画はよかった。あの複雑な衣装を着たキャラクターを、丁寧に動かしていたのがすごい。それから、脚本の力かコンテの力か分からないが、中盤の話の運びが猛烈に上手いと思った。映画の後は打ち合わせとデスクワーク。片づけなくてはいけない用事が山盛り。ドラゴンクエストウォークは新イベント「あくま大王襲来」がスタート。これも歩く意欲が高まりそう。

2020年1月31日(金)
午前中から昼までは散歩とデスクワーク。闇雲に作業を進める。14時から上井草で打ち合わせ。17時から石神井公園で打ち合わせ。上井草から石神井公園までの移動は徒歩。まわりみちをしつつ、ドラゴンクエストウォークを進める。池袋に戻ってまたデスクワーク。
『魔動王グランゾート』の視聴が最終回にたどり着く。最終回の作画監督は吉松さん。よい仕事をされている。そして、原画に大張正己さん名前が。

2020年2月1日(土)
トークイベント「第166回アニメスタイルイベント スタッフが語る『海獣の子供』」を開催。イベントは大変に充実したものとなった。出演を予定していなかったスタッフが、次々とステージにあがってくれたのも嬉しかった。トーク終了後はスタッフによるサイン大会に。先に会場を出たワイフと落ちあって、晩飯を食べて池袋に。

第651回 幸せ感じるコツ

朝、誰よりも早く会社に入る俺。窓から入り込む朝陽でモニターが見づらいのがずぅ〜っと気になっており、ようやくこないだの日曜日、無事クリア!


 元来、板垣はいわゆる「幸せのハードル」ってやつが結構低いので、即幸せを感じます。物心ついた頃より、朝起きた瞬間からマンガを描いたり、ゲームを作ったり(プログラミング)、ゴルフクラブや竹とんぼを作ったり(木工細工)してるだけで幸せでした。こう言うとまた「そんなやついるわけねぇ、嘘つくな!」と信じない方がいらっしゃるのでしょうが、事実、存在するんですよ。なぜなら自分がそうだから! てのは以前お話したと思います(第何回かは忘れた)。
 若手(新人)にも言うんです。「誰でもたいがいひとつは夢を叶えられるはず」と。例えば「アニメーターになりたい」なら少々の絵心でなれるでしょう。でも「なれた」だけでなく「自分の好きな画を描きたい」とふたつめの夢を重ねるなら、それなりの努力が必要になります。さらに「大金持ちになりたい」や「名声も欲しい」と3つめ・4つめを重ねるなら、才能や運までも必須でしょう。
 おそらく俺が両親に「もっと金が欲しい」とか言おうものなら「お前、自分の好きな仕事やってて贅沢言うな!」と一蹴されるでしょう。親からすれば「子どもの頃から画を描くのが好きで、それで今食えてるのに何が不満なの?」なわけ。ウチの両親は好きなことを仕事にできる云々どころか、中学にも碌に行かせてもらえなかった(本人ら談)人たちですから。よって息子の自分も幼少の頃から、分不相応な贅沢はさせてもらえず、幸せハードルが低いというのも当然の話なのです。
 だから、本当に大変だと思います。「監督をやらせてもらえる」ことなどあたり前の最低条件で、あとは「富と名声を手にするだけ!」と幸せの条件ハードルを身の丈に合わせない高さに上げまくってる方々を目にすると、気の毒でなりません。前回話題にしたSNSなどでそういった人が暴言・暴論を繰り広げてると聞くと、腹が立つというより「助けてくれ!」と悲鳴を上げているとしか受け取れませんから、自分。
 少なくとも板垣は(信じてもらえるかどうかは分かりませんが)

監督をやらせてもらえて、いっぱいコンテが描けて、新人の育成までさせてもらえてるだけで、今、幸せ過ぎて怖いくらいです!

 皆さんも身の丈にあった「ほどほど」の幸せハードルを見つけてください。

第178回 冒険者たちの音楽 〜太陽の子エステバン〜

 腹巻猫です。新型コロナウイルスの影響で、楽しみにしていたコンサートやイベントがことごとく中止・延期になり、引きこもりに拍車がかかっています。一日も早い終息を祈ります。


 当コラムでも何度か話題にしたディスクユニオンの《CINEMA-KAN》レーベルから5月に発売される新譜のタイトルが発表された。『太陽の子エステバン』の放送当時発売された音楽集2枚の復刻盤である。
 「そう来たか!?」と思わず声を上げてしまうセレクトだ。同時期のアニメの中ではちょっと地味な印象の作品。しかし、筆者のような「名作アニメ好き」「NHK放送作品好き」にはたまらない。CINEMA-KANレーベルらしい、マニア心をくすぐる商品である。
 『太陽の子エステバン』は1982年6月から1983年6月までNHK総合テレビで放送されたTVアニメ。『未来少年コナン』に始まるNHK連続TVアニメ枠の1本だ。
 舞台は16世紀。スペイン・バルセロナの少年エステバンが、行方不明になった父の手がかりを求め、黄金都市エルドラドをめざして旅をする物語。古代文明が遺した巨大船やコンドル型の飛行艇が登場するSF冒険ファンタジーである。謎の船乗りメンドーサ、インカ帝国の娘シア、ムー大陸人の血を引く少年タオらとともに、エステバンは壮大な冒険を繰り広げる。

 音楽は60年代からアニメや放送音楽で活躍したベテラン・越部信義が担当している。
 南米や南の島を舞台にした作品とあって、民族楽器を取り入れたエキゾティックな楽曲が耳に残る。が、全体としてはオーケストラ主体のオーソドックスなスタイルの音楽である。60年代の『マッハGoGoGo』や70年代の『ジェッターマルス』などでもおなじみの越部サウンドの特徴——歯切れのよいリズミカルなメロディとただようペーソスは健在。そんな中に80年代らしい新しい試みがあるのが聴きどころだ。
 本作の音楽は、越部信義ファンにとっても、アニメ音楽史の上でも注目すべきものだと筆者は考えている。
 ひとつは、シンセサイザーを積極的に取り入れた作品であること。60〜70年代のアニメ音楽では生楽器中心の音作りを続けてきた印象がある越部だが、本作を担当した直後の1983年から、日本コロムビアが発売する「デジタル・トリップ・シリーズ」に参加。「宇宙刑事シャリバン」『聖戦士ダンバイン』『宇宙海賊キャプテンハーロック』など、アニメ音楽や特撮音楽のシンセサイザー・アレンジ・アルバムを次々に発表している。そんなサウンドの変革期に担当したアニメ音楽が『太陽の子エステバン』だった。
 もうひとつは、越部信義にとっては、本作が放映中に音楽集が発売された唯一のアニメ作品であることだ。
 越部作品のサントラ盤は『マッハGoGoGo』『紅三四郎』『サザエさん』『ジェッターマルス』などが発売されているが、いずれも放映終了後に熱心なスタッフが音源を発掘して商品化したもの。映像作品の公開とタイミングを合わせて発売された音楽集は、劇場作品「上海バンスキング」(1984)のサントラ盤があるくらいだ。本作は、越部が手がけたアニメ作品の中でも、放映当時に音楽が商品化された貴重な作品なのである。
 本作の音楽集は、1982年11月に「太陽の子エステバン BGM集 Vol.1」が、1983年4月に「同Vol.2」が、いずれもキングレコードから発売された。CD化は今回のCINEMA-KANレーベルの復刻が初めてである。
 BGM集1枚目から紹介しよう。
 収録曲は以下のとおり。

  1. 冒険者たち(歌:パル)
  2. エステバンのテーマ
  3. 新大陸をめざして
  4. シアのテーマ
  5. 想いははるか
  6. おかしな島
  7. 不安な夜
  8. 大冒険
  9. ムーの巨船出航
  10. 大草原の旅
  11. おかしな仲間
  12. 静かな海
  13. アマゾンの密林
  14. 不思議な夢
  15. せまりくる危機
  16. 黄金都市をめざして
  17. いつかどこかであなたに会った(歌:パル)

 LPレコードでは8曲目までがA面、9曲目以降がB面だった。
 1曲目と最後に収録された2曲の主題歌——「冒険者たち」「いつかどこかであなたに会った」は越部信義の作曲ではない。これは越部が音楽を担当した作品では珍しいことである。主題歌は2曲とも、作詞を阿久悠、作曲を大野克夫が手がけている。沢田研二の楽曲などでおなじみのヒットメーカーコンビの作だ。大野克夫がアニメ主題歌を作曲するのは「ヤマトより愛をこめて」(1978年公開『さらば宇宙戦艦ヤマト —愛の戦士たち—』主題歌)以来であり、TVアニメでは本作が初になる。
 この2曲、80年代アニメソングの中でも特に印象深い、筆者お気に入りの作品だ。辰巳出版から発売された「日本懐かしアニメソング大全」でも、巻末に「思い出の曲」として取り上げたくらいである。
 歌唱を担当したパルは、TVドラマ「ちょっとマイウェイ」(1979)の主題歌「夜明けのマイウェイ」や『劇場版 エースをねらえ!』主題歌のキングレコード・カバー・バージョン等で知られる、男性3人、女性1人の4人組ポップス・グループ。メンバーの1人であった新井正人はグループ解散後、ソロで活躍。『機動戦士ガンダムΖΖ』(1986)主題歌「アニメじゃない」を歌った。現在も作曲家・歌手として活動を続けている。
 2枚目のBGM集に収録された2曲の挿入歌「黄金のコンドル」「それぞれのユートピア」も同じ作詞・作曲コンビと歌手による曲。アルバムに収録されたのはTVサイズ(ショートサイズ)だが、CDにはボーナストラックとしてレコードサイズが収録される予定だ。
 個人的には、越部信義にも挿入歌を書いてほしかった。越部信義のメロディメーカーとしての本領は、歌モノでこそ発揮されると筆者は思っているのだ。本作の音楽で唯一残念な点である。
 BGMは複数曲を1トラックにまとめて収録するスタイル。物語前半の内容に沿ったイメージアルバム的な構成になっている。
 最初の登場するBGM「エステバンのテーマ」は、タイトルどおり、主人公エステバンをイメージした曲。第1話のエステバン初登場のシーンから流れている。チャランゴ風のギター(?)がテーマを提示し、弦〜トランペット〜トロンボーンによって展開される。越部音楽の特徴=「歯切れのよいリズミカルなメロディとペーソス」が凝縮された、「これぞ越部節!」とひざを叩きたくなる曲である。
 次の「新大陸をめざして」はエステバンたちの旅立ちをイメージしたトラック。前半では金管、木管、弦楽器が雄大な曲想で新大陸への憧れと希望を歌い、後半は軽快なリズムと勇壮なメロディで血沸き肉躍る冒険の旅を表現する。
 「旅」は越部音楽と縁の深いテーマだ。『紅三四郎』は父の仇を追う三四郎の旅を描いた作品だし、『昆虫物語みなしごハッチ』も『ジムボタン』も『風船少女テンプルちゃん』も旅から旅への物語だ。本作は、そんな「越部信義・旅ものアニメ」の系譜につながる作品である。
 トラック4「シアのテーマ」は本作のヒロイン・シアをイメージした曲。ケーナ(もしくはケーナ風の笛)と弦楽器が哀愁を帯びたシアの主題を変奏していく。シアがふと見せる大人びた横顔にぴったりの曲調だ。この曲で聴けるような、思わず胸がキュンとなるペーソスの香りも越部音楽の大きな魅力である。
 続いて、「想いははるか」「おかしな島」「不安な夜」と冒険の旅のさまざまな場面を彩る曲が続く。「おかしな島」はユーモラスな曲を集めたトラックで、『サザエさん』にも通じるとぼけた曲調が楽しい。「おかあさんといっしょ」「ひらけ!ポンキッキ」などの幼児番組に多くの曲を提供した越部信義にとっては、この手の曲は得意分野だったのだろう。
 トラック8「大冒険」はLPレコードのA面を締めくくる曲。朝日に輝く大地をイメージさせる悠々たる曲調の導入部から、追いつ追われつの追跡劇をコミカルなタッチで描写する中間部、そして危機感に富んだクライマックスへと展開する。冒険活劇に不可欠の要素をドラマティックに構成したトラックである。
 B面の1曲目は「ムーの巨船出航」。第6話から登場するムー文明が遺した巨船「ラ・ムー号」のテーマだ。
 この曲では、本作の音楽の特徴のひとつ、シンセサイザー・サウンドがフィーチャーされている。本作の音楽では、シンセサイザーは古代文明が遺したスーパーテクノロジーの象徴なのだろう。越部音楽といえば、歯切れのよいブラスサウンドの印象が強いが、このトラックではブラスとシンセの音が融合した新しい越部サウンドを聴くことができる。
 もうひとつ注目すべき点は、この曲がラ・ムー号という「のりもの」をテーマにしていること。「のりもの」は「旅」と並んで越部音楽と縁の深いテーマなのだ。『マッハGoGoGo』『ジムボタン』は、いずれものりもの(マッハ号と機関車エマ)が主役とも言えるアニメだし、キッズソングの分野では「はたらくくるま」シリーズという大傑作がある。ほかにも、「ぼくは電車」「ぼくはきかんしゃ」「ピポピポ救急車」「ダンプカー」「パトカーのうた」「のろうよ地下鉄」など、「のりものソング」は越部信義の代名詞と言ってもよいジャンルなのである。
 本作では、ラ・ムー号をテーマにしたBGMと飛行艇・大コンドルをテーマにしたBGM(2枚目に収録)を聴くことができる。歌ではないのが淋しいが……。うーん、やっぱり越部信義に「進めラ・ムー号」とか、「とべとべ大コンドル」といった挿入歌を書いてほしかったなぁ。
 次の「大草原の旅」はアンデスの情景をイメージしたトラック。抒情的で土の匂いが感じられる民族音楽風の曲だ。『母をたずねて三千里』の音楽が大好きな人(筆者のことだ)にはたまらない。後半は天空にそびえる都マチュピチュのテーマである。
 旅の楽しい一面を描写するユーモラスな曲を集めた「おかしな仲間」をはさんで、「静かな海」と題されたトラックが続く。牧歌的な前半部分から、チェレスタがしっとりと奏でるリリカルな曲想に転じる。本アルバムの中では「シアのテーマ」と並ぶ美しい曲だ。
 次の「アマゾンの密林」はタイトルの印象とはうらはらの抒情的な曲想のトラック。ケーナやシンセサイザーが、シアのテーマを美しく変奏する。「大草原の旅」とイメージが重なる、民族音楽風のリリカルな曲だ。「アマゾンの密林」とは結びつかない。もしかしたら、次のトラック「不思議な夢」とタイトルが入れ替わっているのではないか……とも想像するが、真相は不明である。
 その「不思議な夢」はシンセサイザーと管弦楽のアンサンブルによる緊張感に富んだ曲を集めたトラック。終盤にはラテンパーカッションがリズムを刻むアップテンポの追跡曲が現れる。緊迫感を残したまま、次のトラック「せまりくる危機」へ。じわじわとサスペンスが盛り上がり、シンセとオーケストラが絡み合う大ピンチ描写で終わる。
 BGMパートのラストを飾るトラックは「黄金都市をめざして」。トランペットがエステバンのテーマを朗々と奏で、未知の世界への憧れを描写する。中間部からはアップテンポのアクティブな曲調に変わり、金管と弦、パーカッションのかけあいでエステバンたちの活躍を軽快に描いてフィナーレとなる。
 アルバムの締めくくりとしては、最後にもう1曲、抒情的なトラックを配したほうがよかった気がするが、エンディング主題歌「いつかどこかであなたに会った」がその役目を果たしている。
 『日本懐かしアニメソング大全』でも書いたことだが、「いつかどこかであなたに会った」は、歌が終わったあとにバイオリン・ソロが歌のメロディをゆったりと繰り返すアレンジがすばらしい(この部分はTVサイズにはない)。うまく口に出せない友への想いが、このヴァイオリン・ソロで表現されている。深い余韻とともに、アルバムも終わるのだ。
 2枚目のアルバム「BGM集 Vol.2」では飛翔する大コンドルのテーマや神秘の都エルドラドのテーマが登場。SFファンタジー色が濃くなり、シンセサイザー・サウンドも多めになっている。また、1枚目にはなかった主題歌のアレンジBGMが収録されているのも聴きどころだ。ぜひとも、2枚セットで聴きたい。

 『太陽の子エステバン』が放映された1982年〜1983年は、『宇宙戦艦ヤマト』の大ヒットをきっかけに始まったアニメブームの絶頂期。宇宙を舞台にしたSFアニメやロボットアニメが大人気で、地上の冒険を名作アニメ風に描いた本作の注目度はいまひとつだった。そんな中で、キングレコードが本作の音楽をアルバム化(それも2枚!)してくれたことは、本当によかった。おかげで、われわれは越部信義が遺したアニメ音楽をステレオ録音で聴くことができるのである。CD化を機会に、多くのアニメファン、音楽ファンに聴いていただきたい。

太陽の子エステバン BGM集 Vol.1
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太陽の子エステバン BGM集 Vol.2
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アニメ様の『タイトル未定』
243 アニメ様日記 2020年1月19日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。

2020年1月19日(日)
ワイフの希望で朝から六義園に。大塚で食事をしてから池袋に戻る。その後、事務所に。この数日はのんびり過ごすことができた。

2020年1月20日(月)
『映像研には手を出すな!』3話を観る。かなりよかった。この話だけでも『映像研』がアニメになってよかったと思える。午前中にワイフと池袋マルイで開催中の「機動警察パトレイバー30周年突破記念展~30th HEADGEAR EXHIBITION featuring EARLY DAYS─PATLABOR THE MOVIE~in 東京ACT.2」に。今回はアニメの原画等の展示はほぼ無し。それはともかく、この一連の展示は最初にヘッドギアの方々の写真をドカーンと見せるとよいと思う。その後、事務所に。夕方は西武池袋線方面で、あるアニメーターさんと打ち合わせ。帰りに寄った食堂が、昭和からそのまま残っているような店だった。

2020年1月21日(火)
午前中は散歩とデスクワーク。12月からやらなくてはいけないと思っていたあるラフの作業がようやく終わった。やれば2時間くらいなんだけど、ずっと考えていた。いや、そんなに考えたらいかんのだけど。その後は新しい書籍の企画書を書いたり。社内で打ち合わせ。そして、井荻で打ち合わせ。去年から井荻に行くことが多い。

2020年1月22日(水)
ワイフとグランドシネマサンシャインの10:40~13:28の回で「フォードvsフェラーリ【IMAXレーザーGT字幕】」を鑑賞。IMAXで観てよかった。息詰まる場面がいくつもあった。変な言い方になるけれど、予想していたよりも「映画らしい映画」だった。
「フォードvsフェラーリ」の上映前に、ロビーでGAINAX京都の佐藤てんちょさんとばったり。その後で、てんちょさんの席が僕たちの真後ろだと判明。偶然すぎる。てんちょさんとランチをしてから、事務所で打ち合わせ。その後、ビデオメーカーさんに。急に忙しくなる。
『ゲゲゲの鬼太郎』の後番組が『デジモンアドベンチャー』だと知る。これは予想外だった。

2020年1月23日(木)
『ちはやふる3』を観ながらデスクワーク。昼はアニメスタイルの元編集スタッフが新年の挨拶のために来社。近所でランチ。社内打ち合わせとデスクワークの後、お茶の水で開催されていた「『漫画の手帖』40周年記念展」を見に行く。目当ては「人間写植機 藤本さん」の直筆原稿だった。印刷されたものも凄いけれど、ホンモノはさらに凄い。池袋に戻って、またデスクワーク。刊行されたばかりの「大蜘蛛ちゃんフラッシュ・バック」5巻を読む。

2020年1月24日(金)
夕方までデスクワーク。いろいろと進む。昨日に続いて、アニメスタイル卒業生(20年くらい前のアルバイト)が新年の挨拶のために来社。一緒に晩飯に。
『ちはやふる3』最新話数の第十五首まで観た。相変わらず面白いけど、展開が少しゆっくりになっているような気が。次は『星合の空』を1話から視聴。

2020年1月25日(土)
『星合の空』を最終話まで視聴。すっごいところで終わった。その後はオールナイトの予習、散歩、昼寝、床屋。夜はオールナイト新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 123 中村豊のスーパーアクション vol .1」に。

第169回アニメスタイルイベント
沓名健一と語るアニメ作画の20年

 2020年4月4日(土)に開催するのは作画について語るイベントだ。アニメーター、演出として活躍してきた沓名健一に、この20年間のアニメ作画を振り返ってもらう。なお、このトークの内容は後に加筆・修正し、雑誌「アニメスタイル」に掲載する予定だ。

 今までのイベントと同様に、トークの一部を「アニメスタイルチャンネル」で配信する。チケットは3月14日(土)午前10時から発売となる。詳しくは以下にリンクした阿佐ヶ谷ロフトAのページを見てもらいたい。また、会場ではアニメスタイルの関連書籍を販売する予定だ。

 この度の新型コロナウイルス感染症の拡大防止とお客さまの安全を考慮し、イベントの中止を決定致しました。楽しみにして頂いた皆さま、申し訳ございません。
 払い戻しの対応については阿佐ヶ谷ロフトAのサイトに詳細が掲載されております。
 こちらをご確認の上、お手続きをお願い致します。
 何卒ご理解賜りますようお願いいたします。(03/27追記)

■関連リンク
アニメスタイルチャンネル
https://ch.nicovideo.jp/animestyle

阿佐ヶ谷ロフトA
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/143332

第169回アニメスタイルイベント
沓名健一と語るアニメ作画の20年

開催日

2020年4月4日(土)
開場12時00分 開演13時00分

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

沓名健一、小黒祐一郎(司会)

チケット

前売1500円 当日1800円(共に飲食別・要1オーダー)

■アニメスタイルのトークイベントについて
 会場となる阿佐ヶ谷ロフトAはトークライブができる居酒屋。入場料(今回は前売1500円、当日1800円)とは別に飲食(最低でもドリンク1杯)をお願いしている。ソフトドリンクもあるので、未成年の方でも大丈夫。 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものだ。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていないし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれない。その点は、あらかじめお断りしておく。

第650回 無名くんとほどほど


 2007年の1月、自分の誕生日寸前から連載開始だったと記憶してます。初監督『BLACK CAT』が終わったあたり。つまりこのコラムを読めば監督作品のほとんどについて書いてあるというわけ。ま、いちいち過去の作品を振り返ることはしませんが、委員会の都合で放映開始がズレた作品を除き毎年監督を続けてきたわけで、そういう意味では当初の目論みどおり「凡庸なアニメ監督の日常が垣間見える連載」になっているのではないでしょうか? たしか、第1回でそんな前置きをして始めたはずです。……んでも、まさか10何年監督やってて未だに無名のままだとは、アニメ様本当に申し訳ありません(汗)。
 実際、自分がコレを始める前のWEBアニメスタイルで長く続いてた連載って吉松孝博さんの「サム死ね!」くらいしかなかった(と思った)ので、自分の目標は

お忙しい人気クリエイターさんらと違って、俺みたいな普通の人間ができるのは毎週落さず「もういいです(汗)」と嫌がられるまで続けてみせる!

でした。ま、当時からブログなどもやってなかったし、今もってSNSの類いもやらない自分にとって「週に1回」という限定のアニメ四方山話は、丁度よく楽しく書けるってのも事実。これはアニメ様、ありがとうございます!
 今回ついでなので改めてハッキリ言っておきますが

SNS類は、この連載が続いてる限り、一切手を出すつもりはありません! 作品以外の発信は「ほどほどに」が板垣のモットーですから!

 自らの監督作品に対する低評価・酷評・悪口ツイートに必死で反論などして炎上してる方もいらっしゃると聞きますが、それなど正直本気で呆れます。

好評だけでなく酷評をも黙って受け入れるとこまでが監督の仕事でしょう! だからこそ、制作中はスタッフもキャストも監督の言うことを基本聞いてくれるんです!

 俺はアニメーターでもあり、他人の監督作品に参加することもあるからそう言えます。スケジュールや人材・予算など、様々な悪条件があろうと「何を言われても全て自分のせい! スタッフ・キャストは悪くない! 作品の悪評は全部自分の力不足によるものです!」と言えない監督には金輪際付き合いたくありません。これがアニメーターの本音だと思います。

 そういえば藤子不二雄A先生の「無名くん」、好きです!

アニメ様の『タイトル未定』
242 アニメ様日記 2020年1月12日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。

2020年1月12日(日)
散歩と書籍Aの準備の続き。昼風呂にも入った。のんびりと仕事をした一日。Kindleで「忍風! 肉とめし」3巻を読む。

2020年1月13日(月)
事務所に入ったら、シネフィルWOWOWは『うる星やつら 完結篇』の終盤を放映中。その後、『うる星やつら いつだってマイ・ダーリン』をながらで観る。そして、『うる星やつら2 ★ビューティフル・ドリーマー★』がコメンタリー付きで録画できているのを確認。ワイフが池袋西武の無印良品に行きたいというので、午前中からお出かけ。衣装づくりの仕事をしているワイフは、歩きながら成人式の女性の晴れ着をチェックする。無印の後は西口公園のグローバル リング カフェで早めの昼飯。午後は書籍Aの準備の続き。

2020年1月14日(火)
午前中は散歩とラフ描き。今年のiPad Proはじめだった。午後は事務所で打ち合わせ。その後、あるスタジオで進行中の書籍Bのための打ち合わせ。ドラゴンクエストウォークの新イベントをやりつつ歩いて帰る。
『キルラキル』を1話から視聴。放送当時にも「昭和っぽい」と思ったけれど、今観ると「ほぼ昭和」だ。

2020年1月15日(水)
午前中は散歩とデスクワーク。グランドシネマサンシャインの12:00~13:15の回で「すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ」を観る。自宅に寄ってから、デスクワークと社内打ち合わせ。その後は「アニメスタイル016」の取材のための打ち合わせで、ある方に作画の話をいろいろと聞く。
SNSでノザキのコンビーフが台形の枕缶に入ったコンビーフの販売を終了することを知る。10年後、20年後に『ギャラクシーエンジェル』を観た人が「コンビーフの缶のネタ」の意味が分からなくなってしまうかもしれないと思ってしまった。他のメーカーが台形の枕缶のコンビーフを作り続けるのかもしれないけれど。

2020年1月16日(木)
午前中にワイフと、グランドシネマサンシャインの09:40~11:38の回で『ヒックとドラゴン 聖地への冒険【吹替版】』を観る。映像の作り込みは凄い。お話はスッキリしなかったなあ。その後、ワイフと散歩。午後はデスクワーク。夜は声優博士と打ち合わせ。
『キルラキル』を最終回まで再視聴。大づかみな印象は本放送時と変わらず。「三都制圧襲学旅行」編は本放送時よりも楽しめた。鬼龍院皐月も本放送時よりも好きになったかな。最終回のエンディングはやっぱりすごくいいんだけど、もう1分ほしい。『天元突破グレンラガン』と比べると、第1クールは『キルラキル』のほうが好きで、第2クールは『天元突破グレンラガン』のほうが好きだ。『キルラキル』のテーマって、最終回の纏流子と鬼龍院羅暁の問答とか、2人の決着とかそういうところにあるわけではないのだろうなあ。

2020年1月17日(金)
午前中はワイフと散歩。池袋から徒歩で、高田馬場近くのおとめ山公園に。おとめ山公園が「乙女山公園」ではないことを、ポケモンGOに教えてもらう。その後、ワイフの提案で人気店の「酒肴 新屋敷」でランチ。アジフライをいただく。確かにこれは美味しい。行列ができるのも分かるというものだ。事務所に戻ってから13時15分から印刷会社の方と打ち合わせ。社内打ち合わせ。14時15分から新文芸坐で打ち合わせ。その後はデスクワーク。
Kindleで読んでいた「衛府の七忍」が最新8巻までたどりつく。これって怨身忍者が7人揃った後で、本編に突入するという構成なのだろうか。7巻の作者後書きで「次巻にて、念願であった七人目の鬼の物語が開幕します」とあるから、8巻巻末で始まった「雷鬼編」で七人目の怨身忍者が出る(というか出ている)ということね。「沖田総司編」とかに出てきた怨身忍者はタイトルの「七忍」にはカウントしないと。それはともかく「沖田総司編」は面白かった。今まで出た桃太郎、宮本武蔵、沖田総司達が、7人怨身忍者と戦う展開になるなら分かりやすいけれど、予想通りにいくのか。

2020年1月18日(土)
『音楽』を新宿武蔵野館の10時半からの回で観る。よかった。「映画を観た」って感じ。内容と手法の一致も素晴らしい。森田という男子学生を女性が演じているのだけど、その声がキャラクターのナイーブさを表現していて、「ああ、こういうやつっているよな」と思った。改装してからの新宿武蔵野館に行ったのは初めてだと思うけど、素敵な映画館だ。また行きたい。その後、西荻窪に移動してササユリカフェで「『この世界の片隅に』ができるまで展2」を見る。自分も関わっている展示だけど、展示内容がマニアックだなあ。14時くらいにマンションに戻って、昼寝と昼風呂。その後に事務所に。『音楽』の原作をKindleで読んでまた驚く。

第649回 『マギレコ』間接的お手伝い

先日、ミルパンセが作画に参加した『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』第9話が放映されたようです!

 作画監督の吉田智裕くんを中心に『コップクラフト』でキャラクターデザインを担当した木村博美さんほか、ウチの若手総出で150カットほど。シャフトの久保田光俊社長には自分が若い頃、『まほろまてぃっく〜もっと美しいもの〜』(2002年/共同制作・GAINAX)や『この醜くも美しい世界』(2004年/共同制作・GAINAX)、そして『化物語』(2009年)オープニングなどで大変お世話になりました。『まほろ』は演出、『この醜』では脚本・コンテ・演出・作監をやらせていただき、久保田さんは制作プロデューサー。俺を車に乗せてV編会場とスタジオ間を何度も往復してくださいました。『化物語』のオープニングディレクターは、その当時やってたシリーズの監督を降板した直後で、有り難い仕事を振っていただきました。「板垣くんならこの曲が向いてるんじゃない?」と渡されたのが「まよいマイマイ」のテーマ、「帰り道」。で、完成して放映後、久保田さんから

(君が降板したシリーズが)放映中に名前を出してやれてよかったよ!

と言われました。その時、「そうだよな、いくら不本意な降板とはいえ、ネットに恨みつらみを書き連ねるより、次々と作品をみんなに見せ続けることこそが大人のやり返しだ!」と確信したんです。現に「まよいOP」を見たプロデューサーさんらは降板に至った経緯を聞いてくださった上で、仕事も振ってくださいました(OVA『戦国BASARA』や『迷い猫オーバーラン!』の監督がそれです)。人間なので周りの人間に愚痴るのは仕方ないまでも、世界に「自分は悪くない!」と発信し続けると本来の目的(作品を創ること)を見失いますから。
 ま、話は逸れましたが、そんな訳で今回の『マギレコ』、間接的に自分もお手伝い。新人の作打ちに立ち会い、社内分のレイアウト(ラフ原)・原画のチェックを全部、連載第646回同様に

 もうすでに朝・夜のルーチン(日課)のチェックスタイル。板垣のチェックが通っていない原画はシャフトに送っておりません。その甲斐あってか、久保田社長も喜んでくださったそうです(白石談)。
 で、来月には新人が入ってきて、監督・コンテやりつつ育成です!

イベント「川元利浩・ファンミーティング」のチケット払い戻しにつきまして

 2020年3月7日(土)に予定していたイベント「第167回アニメスタイルイベント 川元利浩・ファンミーティング」のチケット払い戻しにつきまして、阿佐ヶ谷ロフトAから告知がありました。
 以下のページをご覧になってください。

https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/140375

第177回 心が疲れたときに 〜ナースエンジェルりりかSOS〜

 腹巻猫です。3月7日(土)にサントラDJイベント・Soundtrack Pub【Mission#42】を開催します。テーマは「2019年劇伴大賞&メモリアル」。新型コロナウィルス厳戒中につき、会場もしかるべき備えをしますが、健康に不安のある方は無理されませんようにお願いいたします。詳細は下記を参照ください。
https://www.soundtrackpub.com/event/2020/03/20200307.html


 2月から放映が始まった「プリキュア」シリーズ最新作『ヒーリングっどプリキュア』は、「地球のお手当て」をテーマに掲げた作品である。しかし、今から25年前に、地球を癒すために戦うヒロインを描いた作品があった。
 今回取り上げる『ナースエンジェルりりかSOS』である。
 『ナースエンジェルりりかSOS』は1995年7月から1996年3月まで全35話が放送されたTVアニメ。秋元康と池野恋による同名マンガを大地丙太郎監督が映像化した。アニメーション制作は前番組の『赤ずきんチャチャ』を手がけたスタジオぎゃろっぷが担当している。
 小学4年生の少女・森谷りりかがナースエンジェルに変身し、地球侵略を企む邪悪なダークジョーカーと戦う物語。ダークジョーカーは黒のワクチンによって地球や生き物をむしばみ、ナースエンジェルは緑のワクチンでそれに対抗する。しかし、緑のワクチンは限られており、ダークジョーカーを退けるためには地球のどこかにある「命の花」を見つけ出さなければならないのだ。
 「戦うナース」という設定がインパクト抜群。キワモノになりかねない題材だが、大地丙太郎監督は生き生きとしたキャラクター描写とギャグをまじえたテンポのよい演出で魅力的な作品に仕上げた。特に中盤以降のシリアスな展開が見どころで、ファンのあいだでいまだ語り草になっている衝撃のラストシーンまで目が離せない。筆者の中では、90年代に多数登場した「変身ヒロインもの」の中でも、格別な輝きを放つ作品である。なにせ、原作コミックからLD-BOXまで買ってしまったのだ。

 基本設定が暗示するとおり、本作のテーマは命と癒し。音楽もそれを受けて、「ポジティヴなヒーリング・ミュージック」を作ろうということになった。音楽を担当したのは光宗信吉。のちに『少女革命ウテナ』(1997)、『遊☆戯☆王デュエルモンスターズ』(2000)、『Rozen Maiden』(2004)、『魔法先生ネギま!』(2005)、『ゼロの使い魔』(2006)などのアニメ音楽で活躍する作曲家である。
 光宗信吉にとっては、本作が初めての映像音楽の仕事だった。それまで歌ものの仕事をいくつかした経験はあったが、アニメのBGMは初体験。しかも、「全曲オーケストラで」という発注だった。
 当時、光宗信吉は1曲だけオーケストラの曲を書いたことがあったが、オーケストレーションについてはほとんど初心者だった。加減がわからず、膨大な量の譜面を書いて現場を慌てさせたという。
 オーケストラの編成は40人ほど。8型(第1バイオリン×8、第2バイオリン×6、ビオラ×4、チェロ×4)のストリングスに木管×6、金管×4〜6、パーカッションとピアノという編成だった。
 近年の音楽録音は、打ち込みでベースとなるテンポとリズムを作りこみ、ミュージシャンはクリックを聴きながら演奏、それを楽器セクションごとに別々に録音する方法が一般的である。そのほうが効率的だし、楽器ごとに音が分離しているのでミックスの際に音量バランスを整えやすい。
 しかし、本作の音楽録音は打ち込みをほとんど使わず、オーケストラが一斉に音を出す同時録音で収録された。そのため、テンポも揺れているし、微妙に音がそろっていないところもある。だが、デジタルな音楽録音にはない揺らぎや、人の手と息が紡ぎ出す生楽器の響きが、「命」をテーマにした本作にはぴったりだった。
 本作の音楽にはいくつかの特徴がある。
 ひとつは上記の生オーケストラによる録音。エレキギターやドラムスなどのポップスのリズム楽器をほとんど使わず、古典的なオーケストラ音楽の編成で録られている。そのクラシカルなサウンドが映像に品のよい、やさしい雰囲気を与えている。
 もうひとつは曲数が少ないこと。第1回録音で収録された曲はバリエーションを含めて50曲ほど。第3クール以降用に10曲程度が追加録音されたが、大半は第1回録音の楽曲でまかなわれている。
 音響監督の田中一也は、2枚目のサントラ盤のブックレットに掲載されたインタビューで、「『こんな曲も必要になるかも』というこちらの都合で大量に発注するよりも、本当に作品に必要な曲を創ってもらって、それを大切に使っていきたかった」と語っている。大地監督は、同じ曲でも使われる場面が変われば感じ方は変わってくると考えていたという。
 結果、同じ曲がくり返し使われることで、視聴者にも深く印象が刻まれることになった。
 第3は、本作の音楽設計である。
 音楽の中心になるのは「りりかのテーマ」。Mナンバー「M-1」が振られた曲だ。このメロディがアレンジされて、りりかの心情や日常を描写する曲、サスペンス描写曲などが作られている。また、りりかがナースエンジェルに変身するBGMも同じメロディ。ナースエンジェルの戦いの曲も同じメロディのアレンジだ。りりかのテーマは同時に本作のメインテーマでもあり、ナースエンジェルのテーマにもなっている。
 近年のアニメ音楽ではひとつのテーマにこだわらず、変身は変身、バトルはバトル、日常は日常で異なるメロディの曲を作ることが多い。そのぶん音楽のバラエティは豊かになるが、ひとつひとつのメロディは印象に残りづらい。
 『ナースエンジェルりりかSOS』の音楽はメインテーマが反復されることで耳に残り、作品全体の音楽イメージも統一されている。このくらい徹底してひとつのテーマで押し通してもいいのではないか。本作の音楽を聴き直すと、あらためてそんなことを思ってしまう。
 本作のサウンドトラック・アルバムはキングレコードから2枚発売された。1枚目は「ナースエンジェルりりかSOS 〜ハート・エイド・ファースト〜」のタイトルで1995年11月に、2枚目は「ナースエンジェルりりかSOS 〜ハート・エイド・セカンド〜」のタイトルで放送終了間際の1996年3月に発売された。
 BGMの曲数が少ないため、2枚のアルバムで全曲が商品化されている。同時録音なので、「リズムのみ」「ストリングスのみ」といったトラックダウン(ミックス)違いによるバリエーションもなく、聴いていて、「あのシーンに流れていた曲が入っていない」というストレスがないのがうれしい。
 また、ブックレットには収録曲のMナンバーと音楽メニューが掲載されている。それを見れば、各曲がどんな意図で作られたのか、音楽全体がどんなふうに構想されたのかがわかる。本作のファンにとっても、サントラファンにとっても、この上ない資料である。さらに1枚目のブックレットには光宗信吉と大地丙太郎監督のコメントを、2枚目のブックレットには田中一也音響監督のインタビューを掲載。ライトなファンからディープなファンまで満足させるお手本のようなサントラだ。
 1枚目「ハート・エイド・ファースト」から紹介しよう。
 収録曲は以下のとおり。

  1. 恋をするたびに傷つきやすく…〈RIRIKA VERSION〉(歌:麻生かほ里)
  2. 生命(いのち)の輝きは永遠(とわ)に
  3. だから涙をふいて
  4. 気品あふれし学びの庭
  5. 毎日の中のしあわせ
  6. サブタイトル
  7. 少女は気高く美しく
  8. 素敵な笑顔にかこまれながら
  9. 事件はいつも突然に
  10. 恋をするたびに傷つきやすく…(アイキャッチ)
  11. せつなさだけが大人びて
  12. ここにいて(歌:麻生かほ里)
  13. 哀しみより重き使命 —カノンメインテーマ—
  14. 暗黒からの刺客
  15. 迫りくる影たち
  16. 守りたい人がいるから
  17. 優しさを勇気に変えるとき
  18. 光あふれる世界のために
  19. 冷酷な気配
  20. 負けられない理由
  21. 黄昏は胸に降りて
  22. 悪意に満ちた力
  23. 新たなる戦いの舞台
  24. 深い闇を越えて
  25. 心、あるがままに
  26. すべての愛すべきものへ —りりかメインテーマ—
  27. りりかSOS〈ALBUM VERSION〉(歌:麻生かほ里)

 構成は光宗信吉自身が手がけている。
 構成意図は明快だ。代表的な曲をセレクトし、アルバム1枚で『ナースエンジェルりりかSOS』の世界を表現するものになっている。前半は物語の導入からりりかの日常、心情を表わす曲を配し、後半はナースエンジェルりりかとダークジョーカーとの戦いにフォーカスしてまとめている。
 オープニング主題歌の〈RIRIKA VERSION〉に続くトラック2「生命の輝きは永遠に」は本作の「話全体のテーマ」して作曲された。ピアノと弦と木管のアンサンブルで奏でられる、やさしく光あふれるイメージの曲だ。第1話の冒頭に流れ、物語の開幕の音楽になった。
 大地丙太郎監督はこの曲について「これからりりかを待ち受けるその『運命』の序章として使われました」とコメントしている。第14話でりりかが憧れる加納先輩=カノンが消えていく場面や第34話でりりかが幼なじみの星夜のために最後に残った緑のワクチンを使う場面など重要なシーンに使用された。もうひとつのメインテーマとも呼ぶべき曲である。
 続くトラック3「だから涙をふいて」はりりかのテーマによる心情曲。りりかが他人をいたわるやさしい気持ちを表現した、本作のテーマにも直結した曲である。オーボエの音色が心にしみる。
 トラック4「気品あふれし学びの庭」は学園生活のテーマ。学校でおなじみのチャイムの音から始まり、そのメロディがオーケストラによって変奏されていく。遊び心のある楽しい曲だ。
 トラック5「毎日の中のしあわせ」は、りりかのテーマを変奏したユーモラスなBGMを2曲つなげたもの。りりかと星夜やクラスメートたちの日常をにぎやかに彩った。躍動的なリズムを弦のピチカートやピアノが受け持っているのが本作らしいところ。
 そして、サブタイトル2パターンをつなげたトラック「サブタイトル」となる。ここまでが、いわばアルバムの序章。
 トラック7「少女は気高く美しく」はりりかのクラスメート・桑野みゆきのテーマ。大地監督作品によく登場するハイテンションな少女のために、光宗信吉はバイオリンをメインにした優雅でユーモラスな曲を書いている。
 クラリネットの音色がジャジーな「素敵な笑顔にかこまれながら」、ドタバタイメージの「事件はいつも突然に」、主題歌のメロディをアレンジしたアイキャッチ音楽が続いたあと、次の曲で雰囲気が変わる。
 トラック11「せつなさだけが大人びて」は、りりかのテーマのアレンジBGM2曲を1トラックに収録したもの。前半はピアノとバイオリンによるアレンジ、後半はピアノ・ソロによる変奏。りりかの切ない心情や少女らしいもの思いを表現するしっとりした雰囲気のトラックだ。
 次のトラックは、りりか役の麻生かほ里が歌う挿入歌「ここにいて」。第15話のラストで、りりかが命尽きてしまった加納先輩を想って泣く場面に流れた忘れられない曲である。
 そのあとに、加納先輩=カノンのテーマ「哀しみより重き使命」が現れる絶妙の構成に唸らされる。
 りりかが憧れる加納先輩は、実はダークジョーカーによって滅亡の危機に瀕したもうひとつの地球・クィーン=アースから、地球のナースエンジェルを目覚めさせるためにやってきたカノンだったのだ。この曲では、オーケストラが複雑に絡み合うイントロでカノンのミステリアスな登場を表現。続いて、弦楽器と木管が奏でる陰のある旋律で悲劇的な運命を宿したカノンのキャラクターを描写している。りりかのテーマと対をなす、本作の3番目の主要テーマである。
 ここからが後半。いよいよ、ナースエンジェル対ダークジョーカーの戦いだ。
 「暗黒からの刺客」「迫りくる影たち」と敵の出現を描写するサスペンス曲が続いたあと、ナースエンジェルりりかの登場になる。
 トラック16「守りたい人がいるから」の前半は第1話のりりか初変身シーンに流れた、りりか目覚めの曲。後半は変身シーンを想定したBGMだが、実際は変身シーンには使われていない。
 続く「優しさを勇気に変えるとき」「光あふれる世界のために」の2曲は、それぞれ、「実戦(優勢)」「巻き返し」というメニューで書かれたバトル曲。
 後者の「光あふれる世界のために」が変身BGMとして使われた曲である。りりかのテーマをアップテンポにアレンジした勢いのある曲で、番組の見せ場である変身シーンを高揚感たっぷりに盛り上げる。この曲はナースエンジェルが必殺技を放つシーンにも使用された。変身したナースエンジェルが戦う場面には「優しさを勇気に変えるとき」が多用されている。こうした選曲の妙も本作の見どころ・聴きどころのひとつだ。
 トラック19からの2曲「冷酷な気配」「負けられない理由」は、いずれもピンチや劣勢を描写する曲。
 トラック21「黄昏は胸に降りて」はりりかの不安や哀しみを表現する、りりかのテーマのメランコリックなアレンジ曲である。シリーズ中盤から終盤にかけては、こうした曲の使用頻度が高くなり、観ているファンも胸をかきむしられた。
 敵のさらなる攻撃を描写する「悪意に満ちた力」「新たなる戦いの舞台」が続き、トラック24「深い闇を越えて」は、高まる不安と緊張感を表現して「さあ、どうなる?」と盛り上げるクリフハンガーの曲。
 そのあとはヒーローものだったら、反撃〜必殺技〜勝利! となるところだが、本作の場合は違う。
 トラック25「心、あるがままに」は、「敵をも癒すりりかパワー」というメニューで書かれた曲。幻想的な導入部からフルートが奏でるりりかのテーマに展開する癒しの曲である。最終話では、すべての運命を受け入れたりりかが、カノンに「みんなの心から私の記憶を消してほしい」と頼む場面に流れてファンの涙を誘った。
 BGMパートの最後を飾る曲は「すべての愛すべきものへ」。りりかのテーマ(M-1)である。メインテーマとしてアルバムの頭に収録してもおかしくないところだが、最後に収録することで、本作のテーマが明確になり、りりかのイメージがリスナーの胸に刻まれる。心憎い構成だ。
 アルバム全体を通して反復されるりりかのテーマは、懐かしい欧米ポップスを思わせる親しみやすいメロディで書かれていて、アルバムを聴き終えたあとは、ふと口ずさんでしまう。
 アルバムを締めくくるのは、麻生かほ里が歌うエンディング主題歌「りりかSOS」。主人公の名前を詠み込んだ昔ながらのスタイルのアニメソングが気持ちいい。本作の主題歌はオープニングもエンディングも名曲である。

 2枚目のアルバム「ハート・エイド・セカンド」にも触れておこう。
 2枚目には、1枚目から漏れた第1回録音のBGMと追加録音BGMが収録された。
 ハイライトは、最終回に流れた重要曲をまとめたトラック「組曲 命の花」。組曲を構成するのは、本作の音楽の中心となる「話全体のテーマ」「りりかのテーマ」「カノンのテーマ」の3つのテーマをアレンジした4曲だ。りりか最後の変身の曲も、ラストシーンの曲も、この組曲に含まれている。本編の記憶とアルバムの構成がシンクロして感動を呼ぶ。
 『ナースエンジェルりりかSOS』のサントラは、発売当時から筆者の愛聴盤のひとつだった。ポジティブな癒しの音楽をめざして作られた楽曲は、メロディもサウンドも尖ったところがなく、やさしく美しい。そして生命力にあふれている。聴いていると、物語がよみがえるだけでなく、心洗われたような晴々とした気分になる。心が疲れたときに聴き返したいサントラだ。

ナースエンジェルりりかSOS 〜ハート・エイド・ファースト〜
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ナースエンジェルりりかSOS 〜ハート・エイド・セカンド〜
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アニメ様の『タイトル未定』
241 アニメ様日記 2020年1月5日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。

2020年1月5日(日)
事務所で「仕事はじめ」のための準備を始める。『青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない』をdアニメストアのレンタルで観る。『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』1話を録画で観る。ある制作プロダクションからきた年賀状が、ホログラム加工(それもかなり派手な)されていた。やる気満々って感じ。

2020年1月6日(月)
「仕事はじめ」のための準備を進める。新番組『ID:INVADED イド:インヴェイデッド』1話、2話を観る。1話は抜群のインパクト。これは期待。

2020年1月7日(火)
株式会社スタイルの仕事はじめ。仕事はじめの日は慌ただしい。午後に長い打ち合わせ。新番組『群れなせ!シートン学園』『恋する小惑星』1話を観る。ちょっと寂しくなる噂話をふたつ聞く。

2020年1月8日(水)
まだ風邪が全快していないので、半休モード。運動についても低空飛行なんだけど、普段より少食なので体重は減っている。仕事は主にこれから作る書籍の準備。新番組をチェック。WEB版の『無限の住人』も観る。早めに帰宅。

2020年1月9日(木)
半休モード。基本的にはデスクワーク。景気づけに『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』を再生する。いろいろと忘れていた。特に『新劇場版』におけるアダムとリリスの扱いについてとか。新番組の『魔術士オーフェンはぐれ旅』もチェック。早めに帰宅。

2020年1月10日(金)
散歩に復帰。この日の歩数は20629歩。昼まではひたすらデスクワーク。15時からササユリカフェで打ち合わせ。その後、有楽町マルイの「機動警察パトレイバー 30周年突破記念展」に。展示スペースとしては広いものではないが、展示は充実。劇場版1作目が展示のメインだった。

2020年1月11日(土)
午前中に散歩。池袋HUMAXシネマズの11時40分からの回で「パラサイト 半地下の家族」を観る。確かに面白いし、印象に残る映画ではあるけれど、僕にはあまり刺さらなかった。宣伝だけでなく、映画館内での掲示でもネタバレ注意を強調していた。大どんでん返しがあるわけではないけれど、中盤のアレが先に分かっていると面白さが半減したかもしれない。映画の後、今年出す書籍の素材の確認をする。夕方から吉松さんと中華。

第648回 版権とレイアウト

 前回キービジュアルの話題が出たとこで思い出したのですが、版権もののレイアウトを学んだのもやっぱりテレコム・アニメーションフィルムでした。板垣が入社した年、1994年は大塚康生さんもまだ社員として我々の研修・指導をやりつつ普通の現役アニメーター仕事もされてて、当時水張りしたパネルに『パンダコパンダ』のレーザーディスクのジャケットを鉛筆+水彩で描いておられました。


 と見せていただいた時は、初めて見る「製品になる前の生の画」(しかも描きかけ)に興奮を憶えたものです! テレコム時代、他にも田中敦子さんの『名探偵ホームズ』のレーザーディスクのジャケットや、友永和秀師匠の『姿三四郎』DVDパッケージなどの作業を間近で見ることができたのは未だに自分にとっての財産。なぜなら現在に至ってもキービジュアルやパッケージイラストのレイアウトを描く際の大きな指針になっていますから。
 つまり当時巷に溢れていた美麗なキャラのアップやカッコいい立ちポーズではなく「崩れたポーズのルパン三世が好き」な大塚さんが作ってたテレコムの空気が、板垣のレイアウトやポージングの基礎にあるということ。四角いフレーム内にキャラ(ポーズ)を三角形に配置し、左右非対称の表情(ポーズ)を心掛ける——画を描くことが「全て感性・感覚だ!」と思ってた若造の俺に「レイアウトの半分以上はロジックである」と教えてくれたのが大塚さんとテレコムの先輩方でした。
 そのおかげで、フリーになり監督をやるようになってからも、ティザービジュアルからキービジュアルまで、宣伝・広報プロデューサーの要望に応えるべく数種類の案を出し、たいがいの修正要請にも速攻でお応えできるようになれたんです。だから案ひとつ出すのに何日もかかった挙げ句、さらに委員会からの「もう少し元気な感じに」などの指示にいちいちプンスカ抵抗してる人とか見ると「イヤなら俺が描こうか?」と思ってしまうんです。「案を出す」こともある程度ルーチン・ワークでこなせないようじゃプロじゃない! と。ちなみに画描きのルーチン・ワークは手抜きって意味ではありませんから。

第168回アニメスタイルイベント
アニメ様とサムシング吉松の酔っ払いトークPART7 アニメスタイルの20年

 2020年3月23日(月)に開催するのは、アニメスタイル編集長のアニメ様(小黒祐一郎)とアニメーター&マンガ家のサムシング吉松(吉松孝博)によるトークイベントだ。

 今回のトークのテーマは20周年を迎えた「アニメスタイル」。アニメスタイルの雑誌や書籍、イベントなどについて振り返る。と言っても堅苦しい内容ではなく、リラックスムードの楽しいトークになる予定だ。

 会場はお馴染み阿佐ヶ谷ロフトA。前売りチケットは2月26日(水)から発売となった。前売りチケットについて詳しくは以下にリンクした阿佐ヶ谷ロフトAのサイトで確認してもらいたい。なお、今回のイベントでも、一部を「アニメスタイルチャンネル」で配信する予定だ。

■関連リンク
アニメスタイルチャンネル
https://ch.nicovideo.jp/animestyle

阿佐ヶ谷ロフトA
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/141903

第168回アニメスタイルイベント
アニメ様とサムシング吉松の酔っ払いトークPART7 アニメスタイルの20年

開催日

2020年3月23日(月)
開場18時30分 開演19時30分

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

サムシング吉松、小黒祐一郎(司会)

チケット

前売1500円 当日1800円(共に飲食別・要1オーダー)

■アニメスタイルのトークイベントについて
 会場となる阿佐ヶ谷ロフトAはトークライブができる居酒屋。入場料(今回は前売1500円、当日1800円)とは別に飲食(最低でもドリンク1杯)をお願いしている。ソフトドリンクもあるので、未成年の方でも大丈夫。 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものだ。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていないし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれない。その点は、あらかじめお断りしておく。

アニメ様の『タイトル未定』
240 アニメ様日記 2019年12月29日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。

2019年12月29日(日)
コミックマーケット97の2日目。コミケは午後からいくつもりだったのだけど、川元さん、馬越さんが来場されるとの報せが入り、慌てて会場に向かう。お二人にはアニメスタイルのブースに座っていただいた。豪華なツーショットだった。

2019年12月30日(月)
コミックマーケット97の3日目。昼まで事務所でデスクワークで、午後からコミケ会場に。その後、また事務所に。年内にやらなくてはいけない作業は一段落した。コミケへの行きの電車の中で、iPhoneのKindleで「冴えない彼女の育てかた13 」に目を通す。原作の最終巻だ。劇場版を観て、原作のラストがどうなっているかを確認したかったのだ。コミケからの帰りにはKindleで「はじめての技術書ライティング IT系技術書を書く前に読む本」の気になった箇所を読む。これはSNSで話題になっていた本だ。
DIAMOND onlineで「【庵野監督・特別寄稿】『エヴァ』の名を悪用したガイナックスと報道に強く憤る理由」という文章が公開される。この文章は「事件」だ。今まで噂として聞いていた内容もあり、初めて知った内容もあり。

2019年12月31日(火)
コミックマーケット97の最終日。午前中は事務所で作業。午後からコミケ会場に。今回も最終日はのんびりムードだ。コミケの行き帰りではiPhoneのKindleで、有栖川有栖の『カナダ金貨の謎 国名シリーズ 』を読む。安心して楽しめる本に違いないと思って、この本をセレクトした。事務所に戻って、BS11の『劇場版 天元突破グレンラガン』は『紅蓮篇』の序盤を観て、自宅で家飲みしながら『螺巌篇』を観た。
実現したら嬉しい書籍の企画(僕が嬉しい)を思いついて、早速、最初の一手を打った。大晦日だけど。

今年、アニメスタイルが出した書籍は以下のとおり。沢山出した。僕もスタッフもよく働いた。
▼書籍
「劇場版『若おかみは小学生!』絵コンテ 高坂希太郎」
「アニメスタイル014」
「アニメスタイル インタビューズ01」
「馬越嘉彦 アニメーション原画集 第二巻」
「交響詩篇エウレカセブン アーカイブス」
「中村豊 アニメーション原画集 vol.1」
「『なつぞら』のアニメーション資料集[オープニングタイトル編]」
「村田峻治 ANIMATION WORKS 車輌設定資料」
「アニメスタイル015」
「この世界の片隅に 絵コンテ[最長版]上巻」
「この世界の片隅に 絵コンテ[最長版]下巻」
「川元利浩 SketchBook」
「馬越嘉彦 仕事集 第一巻」
▼特典小冊子
「中村豊 お疲れ様本」
「馬越嘉彦 描き下ろし原画集」
「交響詩篇エウレカセブン 作監修正集」
「川元利浩のうすい本」
▼グッズ
中村豊エフェクトTシャツ
尾石達也Tシャツ

2020年1月1日(水)
ワイフと『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』を観て、その後、出かける予定だったのだけど、ワイフが二日酔いで延期。予定を変更して、自分は新宿バルト9で『劇場版 新幹線変形ロボ シンカリオン 未来からきた神速のALFA-X』を観る。夜はワイフとチェーンの居酒屋に。

2020年1月2日(木)
ワイフの希望で、ホテル椿山荘東京のビュッフェに。年末に行ったホテルのビュッフェと違って、こちらはゆったりしていてよかった。帰りに急に疲れが来て、途中の公園で休む。その後、パルコでワイフが靴を買うのに付き合って、自宅に。熱も出てないし、疲れ以外に自覚症状はないのだけれど、風邪だといけないので、早めに就寝。

2020年1月3日(金)
ワイフと『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』を観る。グランドシネマサンシャインの13時55分からの回で【IMAXレーザーGT字幕】。初めてのプレミアムクラスのシートだ。プレミアムクラスのシートは快適だけど、快適すぎるかも。映画は次の展開が大体分かる感じ(観客に展開を予想させて、それを大きく裏切りはしない)なのだけれど、それも悪くない。クライマックスはワクワクした。だけど、30分短くてもよかった。熱はないけれど、だるい状態は続く。

2020年1月4日(土)
トークイベント「第165回アニメスタイルイベント 『この世界の片隅に』に至る道(4)」を開催。今回のテーマは『アリーテ姫』『マイマイ新子と千年の魔法』『この世界の片隅に』。『アリーテ姫』と『マイマイ新子』については何度も話してきたし、今は『この世界の片隅に』についてたっぷり話したい気分であるのだけれど、ポリュームを気にしつつ進めて、結果的にはバランスのよいトークになった。アニメスタイルイベントが「歴史の一部」になっているのがちょっと面白かった。
「この世界の片隅に」をタイトルにしたアニメスタイルのイベントは2013年12月23日の「第77回アニメスタイルイベント 1300日の記録 特別編 ここまで調べた『この世界の片隅に』」が最初。足かけ8年。実質7年間のイベントもこれにて終了のはず。次は半年後に開催予定の「ここまで調べた片渕監督次回作(仮)」。自宅に帰って横になって、ようやく『この世界の片隅に』が終わった気がした。

第647回 ティザーとキービジュ!

いかん! 新作のキービジュアルを描いてて、原稿書く時間が(汗)!

 まだ自分の口からタイトルの発表ができない新作のキービジュアル作業を朝からやってて、今上がり、委員会チェックへ回したところです。以前も話題にしましたが、板垣は監督作の版権やキービジュはたいがい自分でレイアウト・ラフ原を描いています。DVDやBlu-rayのパッケージも。委員会や制作会社の都合などで「キャラクターデザインの方に」と決め打ちでくる時以外は、俺が広報からの発注内容を受けて必ず3〜4パターンの案を出します。そこから委員会の方々に選んでもらい、追加の要望を聞き、今度はレイアウトとしてまとめて「何か問題があれば遠慮なく戻してください!」と言って提出します。他の監督はどうしているか知りません。別にプロデューサーに媚を売るつもりは毛頭ありません。ただ自分はレイアウトを描くのが苦痛じゃないのでホイホイ描いて、早く本編の作画を進めようと思ってるだけ。今は作監の人に案出しからレイアウトを任せてると、本編の作画が何日も止まってしまいます。俺がやれば案4つ出すのに計2〜3時間、レイアウト・ラフ原で半日で片付きますから。その清書を作監さんに任せるほうがスケジュールが読みやすいわけ。

 そんな感じで今回は短くて申し訳ありません。

新文芸坐×アニメスタイル
日本アニメーション映画史『わんぱく王子の大蛇退治』

 新文芸坐とアニメスタイルは、今まで続けてきたオールナイトとは別に、レイトショーのかたちで過去のアニメーション作品を上映する企画をスタートさせる。

 その第1回が『わんぱく王子の大蛇退治』だ。これは1963年に公開された東映動画(現・東映アニメーション)の劇場アニメーションだ。シンプルでグラフィックなキャラクター、アニメーター各人のアイデアを集めたバラエティに富む場面描写、伊福部昭の土俗的で重厚な音楽と魅力たっぷり。大塚康生と月岡貞夫の2人が腕を振るったクライマックスのアクションは特に語りぐさになっている。日本アニメーションのベストとするファンも多い。

 トークのゲストは映像研究家の叶精二さん。アニメスタイルの小黒祐一郎が話をうかがうかたちとなる。2月22日(土)から新文芸坐窓口とチケットぴあで、前売り券が発売となる。

新文芸坐×アニメスタイル
日本アニメーション映画史『わんぱく王子の大蛇退治』

開催日

2020年3月19日(木)

開場

開場:19時20分/開演:19時35分 上映終了:21時 トーク終了:22時(予定)

会場

新文芸坐

料金

当日、前売共に1600円均一

トーク出演

叶精二(映像研究家)、小黒祐一郎(司会・アニメスタイル編集長)

上映タイトル

わんぱく王子の大蛇退治(1963/DCP)

備考

※トークショーの撮影・録音は禁止

●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

第176回 ミュージカルはいかが? 〜私のあしながおじさん〜

 腹巻猫です。2月16日に開催された「堀江美都子デビュー50周年記念特別公演 〜ワンガールコンサート’20〜」に足を運びました。デビュー以来の名曲を選りすぐった充実の内容。変わらぬミッチの歌声に癒され、パワーをいただきました。アニソン歌手仲間からの素敵なサプライズもあり、もらい泣き。70年代から一ファンとして応援してきた身には感無量です。デビュー50周年おめでとうございます!


 今回は堀江美都子が主役を演じ、主題歌を歌ったTVアニメ『私のあしながおじさん』の音楽を紹介しよう。
 『私のあしながおじさん』は1990年1月から同12月まで放映された日本アニメーション制作のTVアニメ。『フランダースの犬』(1975)から始まる「世界名作劇場」の第16作目の作品である。
 原作はジーン・ウェブスターが1912年に発表した少女小説『あしながおじさん』。くり返し映画化され、日本でも親しまれてきた人気作品だ。
 アニメ版の監督は横田和善。横田は日本アニメーション制作のTVアニメ『ミームいろいろ夢の旅』(1983〜1985)と『宇宙船サジタリウス』(1986〜1987)の監督を続けて務めたあとで、キャラクターデザインの関修一、音響監督の藤野貞義、プロデューサーの松土隆二も上記2作から続けて本作に参加している。
 孤児院出身の少女ジュディ・アボットは、「あしながおじさん」からの学費援助を受けて進学。学園生活の日々をあしながおじさんに手紙で伝えるが、あしながおじさんが誰であるのかは知らない。やがて成長したジュディは青年実業家ジャーヴィス・ペンデルトンからプロポーズされる。悩んだジュディがあしながおじさんとの面会を果たすとそこには……。

 本作は世界名作劇場の歴史の中でもターニングポイントとなった作品である。ひとつには、主人公の年齢。ジュディが進学するのは高校(原作では大学)で、ジュディの年齢は従来の世界名作劇場の主人公より高めに設定されている。終盤では主人公とその友人たちのロマンスが物語の主軸になる。きわめつけは、第34話で描かれるジュディのキスシーン。世界名作劇場では初めての展開だった。この趣向は次作『トラップ一家物語』(1991)に受け継がれる。
 もうひとつは、音楽アイテムの変化である。本作が放送された1990年はレコードからCDへの転換が終わる時期。前々作『小公子セディ』(1988)は主題歌シングルはレコード盤で、音楽集はレコードとCDで発売されていた。次の『ピーターパンの冒険』(1989)では主題歌シングルはレコードとCDで、音楽集はCDのみで発売。そして本作は主題歌も音楽集もCDのみの発売になっている。
 さらに発売メーカーも、『トム・ソーヤーの冒険』(1980)以来10年にわたって世界名作劇場の音楽商品を手がけてきたキャニオンレコード⇒ポニー・キャニオンから日本コロムビアに交代。もともと世界名作劇場の初期5作品——『フランダースの犬』から『赤毛のアン』まで——は日本コロムビアが音楽商品を発売していたので、10年を経て日本コロムビアに戻ってきたことになる。
 この変化は大きかった。たとえばキャニオン時代は『トム・ソーヤーの冒険』から『南の虹のルーシー』(1982)までの3作品では「音楽編」と「ドラマ編」の2種類のアルバムが発売されていたのだが、『アルプス物語 わたしのアンネット』(1983)からは「音楽編」のみの発売となってしまう。キャニオン時代の中期までは主題歌のほかに挿入歌も作られていたが、後期の『小公子セディ』『ピーターパンの冒険』では、それもなくなった。80年代アニメブームがひと息つくのと時期を同じくして尻すぼみになっていった印象だ。
 しかし、その間に日本コロムビアは着々と世界名作劇場奪還計画を進めていたのである。日本コロムビアは『小公女セーラ』から「コロちゃんパック」というミュージックテープ(カセットテープ)商品で「うたとおはなし」のアルバムを発売。『愛少女ポリアンナ物語』では主役を演じた堀江美都子がコロムビア専属であったため、「コロちゃんパック」で堀江美都子が歌うコロムビア独自の挿入歌を発売している(主題歌も堀江美都子がカバーした)。この商品展開が『私のあしながおじさん』の伏線になったのだ。
 そんな経緯を経て日本コロムビアのもとに戻ってきた世界名作劇場『私のあしながおじさん』では、音楽にも力が入れられた。音楽アルバムが「レディを夢見て」(ソングアルバム)、「音楽集」「おはなしミュージカル」と3タイトルも発売されていることからも日本コロムビアの気合の入れようがうかがえる。
 オープニング主題歌「グローイング・アップ」は作詞・来生えつこ、作曲・来生たかおのヒットメーカーコンビの作。主役のジュディを演じた堀江美都子が歌唱した。大人びた本編にふさわしい名曲で、堀江美都子にとっても90年代、そして平成時代の開幕を飾ることになった記念すべき歌だ。堀江美都子のベスト盤には必ず収録され、コンサートでも欠かせないナンバーとなっている。

 劇中音楽(BGM)は世界名作劇場には初参加となる若草恵が担当した。
 1980年代、若草恵は歌謡曲の売れっ子アレンジャーとして腕をふるういっぽう、劇場作品やテレビの音楽でも活躍。TVドラマ「ザ・ハングマン」シリーズ(1980〜1987)やTVアニメ『六神合体ゴッドマーズ』(1981)、『重戦機エルガイム』(1984)、TV特撮「世界忍者戦ジライヤ」(1988)等の音楽を手がけていた。映像音楽作家として脂が乗っていた時期だ。アクションものが多い印象だが、インタビューによれば、本人はアクションものは得意ではないと思っていたという。若い頃から映画音楽が好きで、ミュージカル映画『サウンド・オブ・ミュージック』のような抒情的でロマンティックな音楽が書きたいと思っていた。『私のあしながおじさん』はまさにうってつけの作品だった。
 本作の音楽についてプロデューサーが示した方向性は「ミュージカル」。スタッフの頭には1955年に公開されたフレッド・アステアとレスリー・キャロン主演のミュージカル映画『足ながおじさん』のイメージがあったのだろう。その方向性は、初期エピソードでジュディが劇中で歌う歌(「お絵かき歌」)に生かされた。
 ミュージカルのイメージは音楽全般に反映されている。本作の制作が始まった年(1989年)は、バブル景気の最中。音楽は60人編成のオーケストラによる録音というぜいたくな作り方で収録された。まさにミュージカル映画のような、あるいはブロードウェイの舞台音楽のような、華やかで洗練されたロマンティックな音楽。世界名作劇場の歴史の中でも、とびきり華のある音楽が誕生した。
 先述のとおり、本作の音楽商品は放送当時3種類が発売されている。1枚目のアルバム「私のあしながおじさん Vol.1 レディを夢見て」(1990年6月発売)には堀江美都子が歌う主題歌・挿入歌8曲に加えて、BGM4トラック(8曲)も収録(一部ナレーションがかぶっている)。2枚目の「私のあしながおじさん 音楽集」(1990年9月発売/2枚目以降にはVolume表記はない)では主題歌2曲とBGM8トラック(28曲)を収録。3枚目の「私のあしながおじさん おはなしミュージカル」(1990年11月発売)には、主題歌2曲と挿入歌4曲、ミニドラマを収録。ドラマ編の代わりにミュージカル仕立てのアルバムが作られているのが本作らしいところだ。
 さらに放送20周年となる2010年には主題歌・挿入歌全曲と主要BGMを網羅した2枚組CD「世界名作劇場 メモリアル音楽館 私のあしながおじさん」が発売された。「音楽集」には未収録の楽曲をたっぷり収録した決定版音楽集である。
 「世界名作劇場 メモリアル音楽館」をベースに本作の音楽を紹介しよう。以下、曲名はすべて同アルバムによる。収録曲は下記を参照。

https://artist.cdjournal.com/d/daddy—long—legs-music-collection/4109111113

 『私のあしながおじさん』の音楽は3回に分けて約100曲が録音されている。
 「世界名作劇場 メモリアル音楽館」ではDISC-1に34曲、DISC-2に35曲、あわせて69曲のBGMを収録している。選曲・構成は筆者が務めた。
 放映当時発売された「音楽集」に収録されたのは第1回録音と第2回録音の楽曲のみ。第3回録音の曲がまとめて商品化されるのが本アルバムが初になった。曲順は最終話までのストーリーに沿って構成。『私のあしながおじさん』の物語を音楽で再現することをめざした。
 残念ながらCDのキャパシティの制約により、BGMは全曲収録ではない。未使用曲や過去のアルバムに収録された曲のいくつかを割愛せざるをえなかった。「私のあしながおじさん 音楽集」(2004年に「ANIMEX1200シリーズ」の1枚として再発)と1999年に発売されたコンピレーションCD「名作アニメ ミュージックサンプラー」をあわせると、未収録BGMのうち8曲が補完できる。残る未収録曲は24曲(うち6曲が未使用曲)。収録を見送ったのは、使用頻度の低い曲やバージョン違い、10秒程度の短い曲である。
 本作の音楽で重要なのは「ジュディのテーマ(M-1)」だ。「音楽集」でもトップに収録されていた、本作のメインテーマと呼べる曲である。
 さまざまな表情を見せるジュディをひとつのメロディで表現するために、若草恵はいくども曲を書き直したという。結果できあがったのは、華やかさと活発さとユーモラスな表情をあわせ持つ曲。オーケストレーションにも力が入っている。
 当時は現在のように打ち込みでデモを作って事前に聴いてもらう進め方ではなかった。譜面を書き、スタジオで音を出して初めてどんな曲かがわかる。音楽録音でオーケストラがこの曲を演奏したあと、若草恵は自信を持って「どうですか?」と松土プロデューサーにたずねた。松土は興奮しながら「とてもいい曲です」と答えたという。
 「ジュディのテーマ」のメロディをアレンジして、「私のあしながおじさま(M-29)」「ジュディの旅立ち(M-30)」「ジュディ、センチメンタル(M-5)」「胸いっぱいのジュディ(M-7)」「大慌てのジュディ(M-8)」「親愛なるおじさま(M-3)」「夢見るジュディ(M-2)」「夏の日の恋(M-9)」など、多くのバリエーションが作られている。次回予告音楽(M-23)」も同じメロディだ。
 さらに、このメロディはアルバム「おはなしミュージカル」で歌詞がつけられて、「夢の草原」という歌に生まれ変わっている。このアルバムのために書き下ろされた歌はすべて若草恵の作・編曲。「ミュージカル」という当初の音楽プランと『サウンド・オブ・ミュージック』のような音楽を書きたいという若草恵の夢が、「おはなしミュージカル」で実現したわけである。
 1900年代初頭のアメリカの雰囲気を演出するジャジーな曲も本作の音楽の魅力のひとつ。ガーシュイン風のシンフォニック・ジャズ「摩天楼・ニューヨーク(M-21)」「街角のバンド(M-50)」「レディを夢見て(M-41)」など、ロマンティックでおしゃれなナンバーが素敵だ。若草恵が好きだという作曲家ヘンリー・マンシーニ的な香りもただよう。
 ストリングスや木管の響きが美しい、やさしい旋律の曲も忘れてはならない。第1話から流れる子どもたちの明るい日常を描く曲「はずむ心(M-10)」、小粋で優雅な「テラスでお茶を(M-19)」、パーティのシーンを彩るワルツの曲「ワルツはいかが(M-82)」、心を震わす繊細な気持ちを表現する「リペット先生のやさしさ(M-12)」「さみしい気持ち(M-13)」など。「こういう音楽が書きたかった」という若草恵の思いが伝わってくるようだ。
 劇中の名場面と連動して印象に残るのが「素直になれなくて(M-37)」。第39話でジュディが卒業式の答辞を読む場面に流れる曲である。弦がそっと奏でる旋律にピアノが加わり、ジュディの切ない心情を描写する。第33話でジュディの友人ジュリアが素直な気持ちを打ち明ける場面など、数々の名場面を彩った曲だ。
 本作の第3回録音の楽曲は、終盤のエピソードを想定して作られている。ジュディがあしながおじさんとの出会いから現在までを振り返る「夢のような気持ち(M-87)」、ジュディがあしながおじさんの正体を知る場面の「はじめましておじさま(M-86)」、ジュディとジャーヴィスとの結婚式の場面に流れる「ハッピーエンド(M-88)」。いずれも最終回(第40話)でしか流れないBGMである。映像に合わせて書いたかのようなはまりぐあいが心地よい。

 映画音楽のようなBGMとアルバム「おはなしミュージカル」でのミュージカルナンバーの作曲。『私のあしながおじさん』は若草恵の志向した音楽が実を結んだ、記念碑的作品だ。若草恵自身も、インタビューの中で本作を「ターニングポイントになった作品」と振り返っている。
 本作のあと、若草恵は『ロミオの青い空』(1995)でふたたび世界名作劇場の音楽を手がけた。こちらも美しいメロディが心に残る名作である。
 「メモリアル音楽館」のためにインタビューしたとき、若草恵が「子どもたちのための作品は書いていてやりがいがあるし、こういう作品をもっと作りたい」(大意)と語っていたのが深く印象に残っている。2007年に手がけた原恵一監督のアニメ映画『河童のクゥと夏休み』はまさにその言葉にかなう作品だった。
 若草恵は2019年11月にニコニコ生放送のトーク番組「THE JASRAC SHOW!」に出演。元気な姿を見せてくれた。しかも、その放送の中で思い出の作品として『私のあしながおじさん』にも触れてくれたのだ。筆者は聴いていて感激した。それだけ本作は若草恵にとって深く印象に残る作品だったのである。

世界名作劇場 メモリアル音楽館 私のあしながおじさん
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私のあしながおじさん 音楽集 <ANIMEX1200シリーズ>
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アニメ様の『タイトル未定』
239 アニメ様日記 2019年12月22日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。

2019年12月22日(日)
早朝に新文芸坐に。オールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol.122 Rexamination of PATLABOR the Movies」の最後を見届ける。その後は散歩。午後はデスクワーク。

2019年12月23日(月)
昼過ぎまでデスクワーク。午後はワイフの誕生日祝いとクリスマスをかねて、ホテルのデザートブッフェに。優雅で落ち着いた場所かと思ったら、そこはデザート戦士が集う戦場であった。事務所に戻って、デスクワーク。年末に出す書籍の編集作業が終了。
「WEBアニメスタイル」で尾石達也のオリジナルTシャツについて告知する。ようやく発売だ。準備に半年以上かかった。尾石さんがこだわりまくった作品だ。Tシャツを企画したのは僕だけど、尾石さんとやりとりして、印刷会社と交渉したのは編集部スタッフだ。

2019年12月24日(火)
TOHOシネマズ新宿で午前9時からの『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ヒーローズ:ライジング』を鑑賞。クラス全員の活躍が嬉しい。それから、終盤の展開について、確かに原作最終回がこういう話でもよいなと思った。クライマックスの作画は見応えあり。中村豊さんの最近のベストワークだろう。一番派手なところは中村さんの原画だけど、その前の部分もよい。そのパートの作監の仕事も素晴らしい。『ヒロアカ』の後、新宿から歩いて、表参道で開催されている米山舞初個展「SHE」に。面白い展示だった。米山さんの仕事をもっと観たい。新宿まで歩いて、新宿からバスで池袋に。その後はデスクワーク。

2019年12月25日(水)
この日、基本的に株式会社スタイルはおやすみ(木曜に休むスタッフと原稿回収があったスタッフを除く)。午前中の散歩時に「ドラゴンクエストウォーク」のギガデーモンのレベル50を倒す。これでドラクエ4イベントはほぼ終了。いやあ、今回のイベントは面白かった。昼過ぎまでは簡単な原稿と取材の予習。13時45分から「世界がふり向くアニメ術」で丸山正雄さんの取材。その後、西荻窪の居酒屋で吉松さんと合流して、ドラクエ4強敵制覇の祝杯をあげる。事務所に戻って、デスクワーク。

2019年12月26日(木)
午前中は『映像研には手を出すな!』マスコミ試写会に。湯浅さんはあれだけ連続して作品を制作して、なおかつ、この難しい原作をポイントを押さえて映像化した。さすがだ。『映像研には手を出すな!』については、他にも色々と思うところはあるけれど、それについてはまた改めて。帰りに「野菜を食べるカレーcamp 代々木本店」に。事務所に戻ってデスクワーク。思ったよりも疲れていたので、夕方にマンションに戻って休む。事務所に戻ってまた作業。
事務所に戻る途中、後ろを歩いていたカップルの男性が「ジブリの『セロ弾きのゴーシュ』というアニメがあってさ」と言っていて、おお、惜しいと思った。

2019年12月27日(金)
8時30分から新宿バルト9で『フラグタイム』を観る。予想していた内容とかなり違っていた。新宿から池袋まで徒歩で戻る。印刷会社から書籍、特典の見本が届く。「馬越嘉彦 仕事集 第一巻」と「川元利浩 SketchBook」の見本をそれぞれ馬越さんと川元さんに届ける。事務所に戻ってデスクワーク。その後、声優博士と吞む。50代のおっさん2人で『ぼくたちは勉強ができない』のヒロインで誰が好きかを語りあった。『本好きの下剋上 司書になるためには手段を選んでいられません』を観始める。

2019年12月28日(土)
コミックマーケット97の1日目。普段よりも早めに事務所を出たら、電車は空いていたし、座れた。今回の新刊は「川元利浩 SketchBook」「馬越嘉彦 仕事集 第一巻」、新アイテムは尾石達也Tシャツ。それから既刊の画集などをいくつか販売する。昼休みに会場のまわりを歩いて、お台場海浜公園で海を見ながら缶ビールを飲む。会場から離れた場所なのだけど、売店のおばさんに「今年のコミケは4日間になったのね」と言われて、見かけで僕がコミケにきた人間だと判断されたのかと思ったけれど、首からコミケの入館証を下げたままだった。夕方、事務所に戻る。

第12回 伝説の (終)

ルマン24時間レースでの打倒フェラーリを目指す、シェルビーが合計6台製造した伝説のモデルです。
デイトナ2000kmレースでデビューしたためデイトナというニックネームが付けられました。
レースにおける成績は輝かしいものでありましたが、フォードGT40との関係で突然の引退を迫られました。
現在、これらの車両はそれぞれ個人コレクターが所有し、オークション等において世界で最も高値のつく車の一つとされています。

■関連リンク
【アニメスタイルの書籍】アニメーター・村田峻治による車輌デザイン集を刊行!
http://animestyle.jp/news/2019/10/03/16389/

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https://amzn.to/2pusZlW

新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 124
岩浪音響監督 ワンナイト・スーパーセンシャラウンド!!!

 2020年2月29日(土)に開催するオールナイトは「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 124 岩浪音響監督 ワンナイト・スーパーセンシャラウンド!!!」。様々な作品を手がけ、ファンを魅了し続けている岩浪美和音響監督の仕事にスポットをあてたプログラムの第三弾であり、今回は『ガールズ&パンツァー』の大特集だ。

 上映作品は、同TVシリーズとOVA『これが本当のアンツィオ戦です!』をまとめた『ガールズ&パンツァー 第63回戦車道全国高校生大会 総集編』、TVシリーズの続編にあたる『ガールズ&パンツァー劇場版』、そして、進行中の最新シリーズの『ガールズ&パンツァー 最終章』第1話、第2話だ。

 これまでの「岩浪音響監督 ワンナイト」と同様に、岩浪音響監督に新文芸坐の上映設備にあわせた音響のセッティングをしていただく予定だ。前売り券は2月15日(土)から新文芸坐窓口とチケットぴあで発売となる。

新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 124
岩浪音響監督 ワンナイト・スーパーセンシャラウンド!!!

開催日

2020年2月29日(土)

開場

開場:22時30分/開演:22時45分 終了:翌朝5時55分(予定)

会場

新文芸坐

料金

当日、前売共に4200円均一

トーク出演

岩浪美和(音響監督)、小黒祐一郎(司会・アニメスタイル編集長)

上映タイトル

ガールズ&パンツァー 第63回戦車道全国高校生大会 総集編(2018/DCP)
ガールズ&パンツァー劇場版 (2015/DCP)
ガールズ&パンツァー 最終章 第1話(2017/DCP)
ガールズ&パンツァー 最終章 第2話(2019/DCP)

備考

※オールナイト上映につき18歳未満の方は入場不可
※トークショーの撮影・録音は禁止

●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/