第623回 ただ今戻りました(汗)

V編(ビデオ編集)とは納品の儀式。
TV局に納める最終形態がここで決まります!

 V編は、まずその話数のスタッフロールや字幕のテロップを組み、その後TV局のプロデューサーさんらによる考査(?)チェック——パカパカ(激しい明滅)やエロ・グロ潰しなどがやることのスタンダード。その次にあくまでサービスとして(自分はそう認識してます)演出や作画の微調整。例えば黒パラ(画面の一部を暗く落すこと。アナログ時代はパラフィンシートを用いたことの名残)や簡単な口パクの直し(デジタルで切って貼る)など。あとは原版(オフライン編集)に間に合わなかったカットの直差し。アニメ業界は今、当たり前のように「ここまでスケジュールとして計算する」クセがついてます。自分が育った古巣(テレコム)では「V編で加工するなど邪道! 演出の仕事は原画チェックですべて終わらせるべき!」という風潮が、当時の社長を中心にあったため、アニメーターだけやってる時はそれを信じてた俺ですが、2001年版『グラップラー刃牙』で演出を始めてから考えがガラリと変わりました。だって散々待った挙げ句、全く満足いく作画があがってこなかった時、もちろん俺もアニメーターだからギリギリまで直そうとするけど、それでも直しきれなかった場合どーする? 諦めるか? いや、作画でダメだったらその作品を捨てるようじゃ演出じゃないでしょ!

撮影処理だろうがV編加工だろうが、その時考え得るすべての技を総動員し、最後まで決して諦めない姿勢こそが演出家としていちばん大事なんじゃないか!

と気づいたからです。それから10数年、納品は闘いで、本日は朝までV編で格闘して戻ってきた板垣でした(疲労)。原稿も半日遅れ(汗)。

第163回 サントラ盤がニュッとでる!! 〜空飛ぶゆうれい船〜

 腹巻猫です。8月30日(金)19時より神保町・楽器カフェにてトーク&DJイベント「レッツゴーサントラさん4〜大暴れ!サントラさん大集合〜」を開催します。出演:貴日ワタリ、早川優、腹巻猫ほか。ゲスト:麻宮騎亜。サントラLOVEの出演者が集まり、お奨めのサントラや秘蔵の音盤を紹介します。お時間ありましたら、ぜひご来場ください。料金は1000円+ドリンク代500円。詳細・予約は下記ページを参照ください。
https://gakki-cafe.com/event/20190830/


 『わんぱく王子の大蛇退治』『太陽の王子 ホルスの大冒険』のサウンドトラック盤をリリースしたCINEMA-KANレーベルが、今度は9月に『空飛ぶゆうれい船』のサウンドトラックを発売するという。10月には70年代のマイナー特撮劇場作品「恐竜・怪鳥の伝説」のサントラ盤まで出るらしい。CINEMA-KANレーベルの狂った、いや、すばらしいリリース攻勢はとどまるところを知らない。今回は応援の意味も込めて、『空飛ぶゆうれい船』の音楽を取り上げたい。
 『空飛ぶゆうれい船』は1969年に公開された東映動画(現・東映アニメーション)制作の劇場アニメ。「東映まんがまつり」の1本として上映された。同時上映は「飛び出す冒険映画 赤影」『ひみつのアッコちゃん』『もーれつア太郎』など。1966年公開の『サイボーグ009』、1967年公開の『サイボーグ009 怪獣大戦争』に続く、石ノ森章太郎原作の劇場用漫画映画である。
 この頃はTVアニメが大人気の時代。東映動画の劇場用漫画映画も、『白蛇伝』(1958)以来の名作・メルヘン路線からTVアニメ的なテンポの速い作品に移行しつつあった。『空飛ぶゆうれい船』も上映時間60分というコンパクトな作品で、巨大ロボットが登場する少年向けSF冒険ものである。
 ちなみに朝ドラ「なつぞら」的ポイントは、作画監督が小田部羊一で、原画に奥山玲子が参加していること。

 音楽は小野崎孝輔が担当した。
 小野崎孝輔は東京芸術大学楽理科卒業後、ジャズピアニストとして、また、作・編曲家、指揮者として活躍した。ラジオ、テレビ、CM、劇場等の音楽を多数担当し、アニメでは、TVアニメ『おらぁグズラだど』(1967)、『ピンク・レディー物語 栄光の天使たち』(1978)、『大雪山の勇者 牙王』(1978)、『アニメーション紀行 マルコ・ポーロの冒険』(1979)、『ヒロシマに一番電車が走った』(1993)等の音楽を手がけている。特撮ファンには「キャプテン・スカーレット」「謎の円盤UFO」の日本語版主題歌の作曲も忘れられない仕事だ。ポップスの編曲も多く手がけ、小椋佳の楽曲のアレンジを数年にわたって続けた。『マルコ・ポーロの冒険』もその1本である。余談だが、渡辺岳夫が作曲し、小椋佳が歌った「大いなる旅路」(1972年の同名ドラマ主題歌)の編曲も小野崎孝輔が手がけていて、これが実に胸にしみる名アレンジ。数ある渡辺岳夫ソングの中でも筆者フェイバリットの1曲である。小野崎孝輔は残念ながら2017年に逝去している。
 本作の音楽は、1996年に発売された10枚組CD-BOX「東映動画長編アニメ音楽大全集」の1枚に『海底3万マイル』の音楽とカップリングで収録されている。上映時間が60分しかないため、大半の曲がこのCDに収録された。今回は、本編とこのCDを参照しながら、本作の音楽の魅力を語ってみよう。
 本作の音楽はすべて映像に合わせて作曲・録音されている。CM音楽を多く手がけた小野崎孝輔は、画にタイミングを合わせるのは慣れていたが、音楽が多いことと時間がないことに苦労したという。録音は、朝から晩まで続けて5日くらいかかったそうである。

 本作は、霧に包まれた海のシーンから始まる。納谷悟朗の「近頃、このような深い霧の夜になると、決まって船の沈没事故が世界各地で起きている……」というナレーションに続き、女声ボーカリーズによる妖しい幽霊船のテーマが流れる。オープニングタイトルの曲(M-1)である。メインタイトルとクレジットが表示されるバックには不気味な幽霊船の姿。音楽はスリラー音楽風に妖しさを増し、観客の心をざわつかせる。実にキャッチーな導入だ。
 一転して、主人公の少年・隼人とその家族がボートで海を進むシーンに変わり、音楽も明るい調子に(M-2)。このメリハリは心地よい。
 自動車事故を目撃したことをきっかけに、隼人たちはさびれた洋館でドクロの顔をした幽霊船長と対面することになる。ハマープロのホラー映画を思わせる怪奇ムードたっぷりの展開。冒頭に流れた女声ボーカリーズの曲の変奏を含む、スリラー感満点の音楽が流れる(M-3〜M-6)。音楽が観客の情感をリードし、本編に没入させる。古典的だが効果のある音楽設計である。
 次に、この作品の見どころのひとつとなるシーンが現れる。突如出現した巨大ロボット・ゴーレムが町を破壊する場面である。
 音楽(M-8)は、重いティンパニのリズムと荒々しいブラスのフレーズでゴーレムの脅威を描写。歪んだエレキギターの音を重ねて、怪獣とは異なるロボットの質感を表現している。
 隼人が傷ついた父の口から自らの出生の秘密を知る場面の曲(M-11)は、弦楽器と木管主体の悲哀曲。隼人の心情を伝え、観客の涙を誘う。現代ならもう少し抑えた曲調の音楽をつけるところだが、この時代らしいストレートな表現である。
 ここまでで、サスペンス、明るい日常、スペクタクル、悲哀、とバラエティに富んだ音楽が流れたことになる。テンポのよい展開とシーンに密着した音楽で観客の心をつかむ。娯楽作品の王道をゆく演出だ。
 『空飛ぶゆうれい船』でゴーレムとともに話題に上るのが、劇中に流れるボアジュースのコマーシャルである。
 このシーンはやや唐突だ。隼人が見ているTVのニュースが中断し、ボアジュースのCMソング(M-14)が挿入される。このCMソングも本作のためのオリジナル。小野崎孝輔はCM音楽もたくさん手がけているので、こうした曲もお手のものだったろう。劇中では5秒くらいしか流れないが、公開当時、長尺版を収録したレコードが発売されていた(曲名表記は「ボワジュースのうた」)。長尺版は当時の名作CMソングのパロディを織り込んだ愉快な曲になっている。今回のサウンドトラック盤にも当然収録されるはずなので楽しみだ。
 このあと、海上に浮上した幽霊船がゴーレムと死闘をくり広げる短いスペクタクルシーンがあり、戦争音楽風のダイナミックな曲(M-15)が付けられている。隼人はゴーレム騒動の黒幕を知り、対決を決意する。ここが全体の折り返し点である。
 後半の音楽は、ボアが送り込んだマシン生物が暴れる場面の怪獣映画風サスペンス曲(M-24)、隼人が、幽霊船が実は超近代兵器であったことを知る場面のリズムとフルートを使った近未来的なミリタリー調の曲(M-26)など、ぐっとSF映画的になる。
 本作のヒロインと呼べる少女・ルリ子の登場場面に流れるハープとストリングスによる曲(M-29)は、本作の数少ないリリカルな音楽。少ししか流れないのがもったいない。ルリ子の登場が本編の半分を過ぎてからというのも遅すぎるではないか。正統派の石ノ森ヒロインなのに……(個人の感想です)。
 隼人が幽霊船長の正体を知る場面は、音楽的にもドラマの上でも、大きな転換点となる。ここで初めて、主題歌「隼人のテーマ」のメロディ(M-30)が流れるのである。これはタイトルどおり、隼人のテーマと呼べる曲だが、ここでは隼人の成長、旅立ちを予感させる役割を果たしている。このテーマは、ルリ子と隼人の語らいの場面でも変奏される(M-34)。
 クライマックスは、幽霊船が、すべての元凶であるボアの本拠地を破壊する場面。SFスペクタクルにふさわしい、オーケストラを駆使した重厚な曲(M-38〜M-40)が最後の戦いを盛り上げる。ここはサントラ盤で聴いても熱くなるところだ。
 ラストは、主題歌「隼人のテーマ」の歌入り(M-41)。スケールの大きい、颯爽とした印象の旅立ちの歌だ。作詞は本作の脚本家・辻真先。作曲はもちろん小野崎孝輔。どこかヒーローソングの趣もあるこの歌は、本当にカッコいい。歌っている泉谷広は、新田洋と名を変えて、本作の公開後にスタートしたTVアニメ『タイガーマスク』の主題歌を歌うことになる。カッコいいのも当然だ。主題歌は劇中バージョンとレコードバージョンでアレンジが異なるので、そこもサントラ盤を聴くときのお楽しみである。
 60分という尺にドラマを詰め込んだ『空飛ぶゆうれい船』は、劇場作品としてはもの足りない印象もあるが、音楽は聴きどころ満載である。小野崎孝輔が音楽を担当した劇場アニメは本作1本のみ。躍動的なジャズのテイストと情感をあわせもった小野崎孝輔の劇音楽をもっと聴きたかった。サントラ盤としてリリースされた作品がわずかしかないのももったいない。そういう意味でも、今回の単独盤リリースはよろこばしい。

 さて、ここまで来たら、CINEMA-KANには『海底3万マイル』の単独サントラ盤発売も期待したいところ。こちらの音楽は渡辺岳夫。しかも、渡辺岳夫が愛してやまなかった海をテーマにした作品である。いや、もちろん『どうぶつ宝島』でも『ちびっこレミと名犬カピ』でもいいですけれど。実現できるよう、みんな、買って応援しましょう。

空飛ぶゆうれい船 オリジナル・サウンドトラック
Amazon

アニメ様の『タイトル未定』
217 アニメ様日記 2019年7月21日(日)

2019年7月21日(日)
夏の書籍の編集作業の追い込み。久しぶりに暗いうちからウォーキング。そして、朝のうちに投票に。夕方、作業が手空きになったところで、ワイフとポケモンGOのコミュニティ・デイに参加。西口公園の窓際の席でコーヒーを飲みながら、優雅にミズゴロウをとりまくる。それから、次の書籍の準備を始める。Netflixの『聖闘士星矢』を観る。今回の配信は6話までなのね。黄金聖闘士の布石は合っているから、当然、続きの予定はあるんだろうけど。『通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃のお母さんは好きですか?』1話も観た。アニメ化が発表される前からタイトルだけは知っていて、ちょっと気になっていた作品だ。

2019年7月22日(月)
朝からストレスが高まる。ストレス対策で昼飯はいきなり!ステーキで、ワイルドステーキ300グラムとワイルドハンバーグ150グラムのセットに、スパイシーカレーをトッピング。その後、都内某所である取材に同席。結局、同席ではなくインタビュアーをやることになった。映像での取材なので、取材中に相づちはあまりしないほうがいいだろうし、後でインタビューイの発言をテキストで補足するわけにもいかない。そういう意味では、普段の取材とちょっと勝手が違う。インタビューイとは近々にお茶をすることを約束して、事務所に。
書籍関連でインタビューのチェックが戻る。取材をさせていただいた方から「上手くまとめてくださってありがとうございます。自分について色々と整理がつきました」とのお言葉をいただき、修正は無し。ありがたや。

2019年7月23日(火)
夏の3書籍の作業は続く。それはそれとして、ポケモンGOの話。高田馬場の駅前に「古代支那兵士」というポケストップがあって、高田馬場の駅前のどこに古代支那兵士がいるんだ、と思っていた。打ち合わせ帰りに高田馬場駅前の中華料理屋に入ったら、そこにあった。「古代支那兵士」は中華料理屋店内に飾りで置かれた人形だったのだ。

2019年7月24日(水)
夏の書籍の編集の大詰め。自分の原稿は終わっているんだけど、嵐のような忙しさ。吉松さんが差し入れを持って事務所に。その後、一緒に昼飯。

2019年7月25日(木)
夏の書籍の編集の大詰め。ワイフとグランドシネマサンシャインで『ガールズ&パンツァー 最終章 第2話』7.1ch上映を観る。知波単学園が健闘。そんなわけにはいかないけど、知波単学園が勝ってもいいと思った。今回も「え~、ここで終わりなの」というところで終わった。

2019年7月26日(金)
朝の7時から9時の2時間が、嵐のような忙しさ。午前9時30分の回でグランドシネマサンシャインで、ワイフと『トイ・ストーリー4』【IMAXレーザー/GTテクノロジー字幕版】を鑑賞。午後はずっとデスクワーク。

2019年7月27日(土)
午前9時30分からシネ・リーブル池袋で『センコロール コネクト』を鑑賞。ようやく観ることができた。設定がいろいろと分かって、ここからいくらでも話を展開できそう。最初の『センコロール』を観た時も思ったのだけど、作家性の強い作品で、こういった少年マンガ的なアクションもの、あるいはキャラクターものの方向性で作るのはありだ。同日同劇場で「夢見るコリア・アニメーション2019」というプログラムがあり、知り合いが何人も来ていた模様。他はメールとかスケジュールの調整とか。来週の撮影にあわせて床屋に行って、髪と髭を整えてもらう。午後は上京していたガイナックス京都の佐藤裕紀さんとワイフと食事。早めに就寝。

第161回アニメスタイルイベント
『エウレカセブン』を語ろう!

 「交響詩篇エウレカセブン アーカイブス」の刊行を記念して、トークイベントを開催する。出演者は監督の京田知己、キャラクターデザインの吉田健一、デザインワークスのコヤマシゲト。開催日は2019年9月1日(日)で、会場は阿佐ヶ谷ロフトAだ。
 トークの第1部はお客さんの質問に答えながら進行し、第2部は主に『交響詩篇エウレカセブン』のデザインについてお話をうかがう予定だ。また、今までのイベントと同様に、トークの一部を「アニメスタイルチャンネル」で配信する。
 チケットは8月20日(火)昼12時から発売となる。詳しくは以下にリンクした阿佐ヶ谷ロフトAのページをどうぞ。また、会場では「交響詩篇エウレカセブン アーカイブス」をはじめとするアニメスタイルの書籍を販売する。

 出演者に質問、あるいは話してほしいことがある方は、TwitterのWEBアニメスタイルのアカウント( @web_anime_style )にリプライするか、「WEBアニメスタイル」のcontactで「その他」の項目にチェックしてメッセージを送っていただきたい。質問を受け付ける期間は8月20日(火)昼12時から、22日(木)昼12時まで。全ての質問に答えることはできないが、なるべく答えてもらう予定だ。

■関連リンク
【C96新刊】『交響詩篇エウレカセブン』のイラストとデザインの集大成!
http://animestyle.jp/news/2019/07/29/15865/

阿佐ヶ谷ロフトA
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/126320

アニメスタイルチャンネル
https://ch.nicovideo.jp/animestyle

第161回アニメスタイルイベント
『エウレカセブン』を語ろう!

開催日

2019年9月1日(日)
開場12時00分 開演13時00分

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

京田知己、吉田健一、コヤマシゲト、小黒祐一郎(司会)

チケット

前売1500円 当日1800円(共に飲食別・要1オーダー)

■アニメスタイルのトークイベントについて
 会場となる阿佐ヶ谷ロフトAはトークライブができる居酒屋。入場料(今回は前売1500円、当日1800円)とは別に飲食(最低でもドリンク1杯)をお願いしている。ソフトドリンクもあるので、未成年の方でも大丈夫。 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものだ。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていないし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれない。その点は、あらかじめお断りしておく。

第622回 落ちかけ?

 すみません。先週はお盆休みで休載(もちろん『コップクラフト』の制作現場での自分はバリバリ稼働中)。で、今週はちゃんと原稿を書けると思ってたら、急遽各話演出のフォローに入らなければならなくなり、やや遅れてしかもお茶濁し的内容になることをご容赦ください(汗)! もともとこの連載、アニメ様の温情により「(現場の)仕事が忙しい時はイラストだけでもOK」と。そして確か「現場の仕事より優先はしないように」的な気遣いの一言もいただいたのを憶えています。あくまでアニメ制作現場を応援する立ち位置から、仕事を振ってくださるアニメ様に感銘を受け、俺は誓いました。「絶対に落さない!」と。

で、申し訳ありません、今回もお茶濁し(汗)!
しかも半日遅れ。重ね重ねゴメンナサイ!

アニメ様の『タイトル未定』
216 アニメ様日記 2019年7月14日(日)

2019年7月14日(日)
午前中からテキスト作業。雨が降っていたけど、昼前後にウォーキング。ウォーキングの途中で公園脇のレストランでランチ。なんとなく、日曜日気分を味わった。マンションで休んでから、午後も事務所に戻ってテキスト。16時から、ワイフとポケモンGOのエンテイのレイドに参加。
『交響詩篇エウレカセブン』の再々々視聴(再々々々か再々々々々かもしれない)が終了。続けて『交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション1』を観る。TVシリーズを完走した直後だったせいか、冒頭のサマー・オブ・ラブのシークエンスが猛烈に面白い。テロップの出し方のシャープさも、映像の密度も、TVシリーズからわかりやすく進化したかたち。以下、思いつくままに。ある人が『ハイエボリューション1』について「(レントンを襲った)あの犬はなんなんだ」と言っていたけど、BONES作品だから犬を出したのでは? いや、最近は「BONES作品だから犬を出す」ということはないんだけど。それから、テロップで、レントンの身長が158センチと出ている。イメージよりも背が高い。そんなことよりも驚いたのは最後についていた「交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション2 One World One Future』の予告編(「ANEMONE/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション」ではない)。ロードショー時にも観ているはずなんだけど、こんな内容だったっけ。えらく豪華で、おそらくは全カットが新作画。サッカーシーンまである。なお、シリーズのサッカー回とは全然違う内容だ(以下は後日、関係者に教えてもらったことだが「One World One Future」はサブタイトルではなくて、キャッチコピーのようなものだそうだ)。

2019年7月15日(月)
明け方に事務所へ入り、Amazon Prime Videoで『蟲師 続章』を観ながら、「馬越嘉彦 アニメーション原画集 第二巻」の長峯達也さんの取材記事をまとめる。昼まで事務所で作業。午後からワイフと秩父の温泉旅館に。この後のスケジュールを考えて強制的に休みを入れたのだ。風呂に入って寝て、食べて、風呂に入って、寝た。

2019年7月16日(火)
午前11時まで温泉旅館に。帰りに乗った循環バスが『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』のラッピングバスだった。外装だけでなく、内装も『あの花』仕様で、途中でめんまの声のアナウンスも流れた。午後に事務所へ戻り、仕事に復帰。

2019年7月17日(水)
明け方に事務所へ入り、外が暗いうちにまた『蟲師 続章』を観る。やっぱり、『蟲師 続章』は深夜とか明け方に観るのがいいな。夏の書籍3タイトルと特典小冊子3冊の作業が並行して進む。原稿などの回収も2箇所。目が回るような忙しさ。『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』のOVA全4話をdアニメストアで観る。面白い。どれも、本編に対するサブエピソードなんだけど、ギャグあり、シリアスありで、バラエティに富んでいる。dアニメストアさん、いいものを観せてくれてありがとう。次は『天元突破グレンラガン』を視聴を始める。

2019年7月18日(木)
夏の3書籍のインタビュー原稿の作業が山を越える。ネットで京都アニメーションの事件を知る。事件についてテレビ局から取材のオファーがあるが、編集作業の佳境で、どう考えても時間がとれないので辞退する。テレビで事件についての報道を目にして、あまりの深刻さと報道の生々しさにショックを受ける。

2019年7月19日(金)
公開日の朝イチで、営業開始初日のグランドシネマサンシャインでIMAXの『天気の子』を観る。正確には【IMAXレーザー/GTテクノロジー】での上映だ。ヒット作『君の名は。』のテイストやポイントをある程度残し、新しいことにも挑戦。新海誠監督が「若者側」にいてくれることが嬉しい。グランドシネマサンシャインの第一印象はかなりいい。
事務所に戻って、夏の3書籍の編集作業。まだまだ作業は大量にある。確認したいことがあって『宇宙の騎士 テッカマンブレード』Blu-ray BOXのパッケージを開ける。『天元突破グレンラガン』は最終回まで視聴。色々と忘れていたなあ。11話のニア回想パートが記憶していたよりも、その後の劇団イヌカレーに近かった。それから、当時、ヴィラルが仲間になってから、もっと他のキャラとの絡みが観たいと思った、というのを思い出した。それが別キャラクターで『プロメア』で実現した。少なくとも僕にとってはそうだ。

2019年7月20日(土)
映画を観に行った以外はデスクワーク。今日の「なつぞら」で、公園らしき場所でメインの登場人物がボール遊びをしたり、木々の間を歩いたりするところが青春な感じでよかった。そのシーンで、マコ(大沢麻子)が結婚を機にアニメーターを辞めるという。マコのモデルは中村和子さんと思われるが、中村和子さんは結婚のためにアニメーターを辞め、しばらくしてから、虫プロダクションでアニメーターとして復帰している。マコは劇中でいったいどうなるのか。
午前中にシネ・リーブル池袋で『薄暮』を観る。内容としては非常にシンプルなもので、それ自体は悪くはない。技術的によくできた作品とはいえないが、最後まで飽きることなく観ることができた。

新文芸坐×アニメスタイル 特別編
日本アニメーション映画史『白蛇伝』『太陽の王子 ホルスの大冒険』

  新文芸坐とアニメスタイルが2019年9月14日にお届けするのは、恒例のオールナイトではなく、レイトショーだ。上映作品は東映動画(現・東映アニメーション)を代表する劇場アニメーション『白蛇伝』と『太陽の王子 ホルスの大冒険』である。現在、アニメーション黎明期をモチーフのひとつにした、連続テレビ小説「なつぞら」が放送中だ。このドラマを観て東映初期の長編アニメーションに興味を持った視聴者もいることだろう。

 『白蛇伝』は1958年に公開されたもので、日本初のカラーの長編アニメーションである。『太陽の王子 ホルスの大冒険』の公開は1968年。高畑勲、大塚康生、宮崎駿らの若き日の仕事であり、鮮烈な表現が素晴らしい作品だ。なお、『白蛇伝』はDCP、『太陽の王子ホルスの大冒険』は35mmフィルムによる上映となる。

 上映後のトークコーナーの出演者は映像研究家で、高畑勲・宮崎駿作品研究所代表の叶精二。上映作品について解説をしていただく。聞き手はアニメスタイル編集長の小黒祐一郎が務める。前売り券は新文芸坐の窓口では本日(8月14日(水))から、チケットぴあでは8月17日(土)から販売開始となる。

新文芸坐×アニメスタイル 特別編
日本アニメーション映画史『白蛇伝』『太陽の王子 ホルスの大冒険』

開催日

2019年9月14日(土)

開場

開場:17時15分/開映:17時30分 終了:21時20分(予定)

会場

新文芸坐

料金

当日・一般2000円、前売・友の会1800円

トーク出演

叶精二、小黒祐一郎(司会)

上映タイトル

白蛇伝(1958/81分/DCP)
太陽の王子 ホルスの大冒険(1968/82分/35mm)

備考

※トークショーの撮影・録音は禁止

●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

アニメ様の『タイトル未定』
215 アニメ様日記 2019年7月7日(日)

2019年7月7日(日)
早朝に新文芸坐へ。オールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol.117 完結30周年記念 OVAの金字塔『トップをねらえ!』」の終盤を見届ける。その後、ワイフとユナイテッド・シネマとしまえんに。午前9時5分からの2D吹き替え版で「スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム」を観る。このくらいだったらネタバレにならないと思うけど、ヒーロー物としては物語が変化球で、敵が小者なのだけど、それでも充分に面白かった。青春映画で、旅行映画で、ヒーロー映画。話が詰まっているうえにテンポもいい。僕的には、オタク向け恋愛映画として点数が高くて(「オタク向け恋愛映画」とは何なんだと言われると困るけど)、最終的にヒロインが主人公にとっての「素敵な恋人」に着地したのが楽しかった。主人公の相棒のデブ少年の恋愛描写は、決着も含めてとてもよかった。江古田で食事をして、池袋に。マンションで夕方まで休んで、事務所に。

2019年7月8日(月)
一日、デスクワーク。夏の3書籍と「アニメスタイル015」を進行中。ストレスがどんと来そうだったので、先回りしてランチにアルコールをつける。

2019年7月9日(火)
一日、デスクワーク。特に昼前から夕方まで猛烈なスピードで作業をこなす。だけど、自分の原稿にはほとんど手をつけられず。『からかい上手の高木さん』2期1話を観る。催眠術にかかった高木さんが鼻をほじろうとした場面で「このキャラデザインで鼻をほじるとどうなるんだ」と、本筋と別のところでドキドキした。ちょこんと描いてある鼻の下のほうに鼻の穴があるのだろうか。それはそれとして、Netflixで『からかい上手の高木さん』OADが配信されていたのにちょっと驚く。購入しないと視聴できないと思って、OADを購入したのだけど。いや、購入したことを後悔はしない。

2019年7月10日(水)
一日、デスクワーク。猛烈に忙しい。忙しい時に限って、面白そうな仕事の話がくる。今回は脚本関係のお仕事。ながらでAmazon Prime Videoで「リトル・フォレスト」を視聴。映画館で予告を何度か観ていた。原作を読んでから観たのだけど、よくぞあの原作をこんなにしっかりと映像化したものだと驚く。最初は、橋本愛さんはこの原作の主人公にしては可憐すぎるのではないかと思ったのだけれど、観ているうちにハマリ役に思えてきた。実写の映画よりも漫画である原作のほうが「リアル」に思えるのが不思議。「リトル・フォレスト」の春夏秋冬を観て、次は「海街diary」。こちらは劇場でも観ていて、配信で観るのも数度目。

2019年7月11日(木)
一日、デスクワーク。やっぱり大忙し。諸般の事情で『交響詩篇エウレカセブン』の再々々視聴を始める(再々々々かもしれない。いや、再々々々々かもしれない)。『交響詩篇エウレカセブン』3話の「男は家に帰ってきたらパンツ一丁って、決まってんだろ」というセリフは、本放送時には違和感があった。今になると、むしろ、いいセリフだよね。どうして、あんなに違和感を感じたんだろう。15話の「ゲッコーステイト第5次健康ブームとやらに火をつけてしまい」のナレーションで笑った。

2019年7月12日(金)
またまた一日、デスクワーク。やっぱり猛烈な大忙し。夏の書籍の特典冊子用の原稿が次々にあがってくる。自分の作業に関して言うと、7月でいちばんボリュームのある原稿が仕上がる。「こんなこともあろうかと」買っておいた『ガリバーの宇宙旅行』のDVDが役に立った後、同じく『青の6号』のDVDが役に立つ。
『交響詩篇エウレカセブン』を視聴中。29話「キープ・オン・ムービン」のラストのアクセル・サーストンが、ドミニクにかけるセリフが素晴らしい。青野武さんがすごい。これならドミニクが泣くのも納得。

2019年7月13日(土)
半休モードで、午前中は原稿作業。昼前後はウォーキングに。王子の飛鳥山公園まで行って、さらに歩く。午後はマンションで休んでから、事務所に。夜は早めに就寝。ようやく、自分が『交響詩篇エウレカセブン』についての感想を言語化するためのキーワード(切り口)が見つかったかもしれない。まあ、それはそれとして、この作品の最も幸福な視聴パターン(と思えるの)は、毎週日曜の朝7時の放送を1年かけて観ることだろう。作品のテンポもそうなっている。その意味では「名作劇場的」だ。1年の作品であることの価値は分かってはいるけれど、同じスタッフ、同じ設定、同じプロットで全26話の作品であったら、どんな手触りのものになっていたのだろうか。それを考えずにはいられない。

第621回 宝物と納品2

NHK? 朝ドラ? 「なつぞら」? あ、これ小田部羊一先生がアニメ時代考証で、奥山玲子先生がモデルなんだ!!

 時代に乗り遅れててスミマセン。忙しくて、まだ「なつぞら」観れていませんが、『コップクラフト』の音響現場で話題になったのでネットで検索すると小田部先生のお名前が。若い時の奥山先生がモデルになっているとの情報も。このコラムでも数回触れましたが、小田部・奥山両先生は自分の学生時代の恩師。東京デザイナー学院卒業後もちょくちょく先生に会いに学校に遊びに行っては、お二方と食事をご一緒させていただいたり、展覧会に呼んでくださったり、電話で雑談させてもらったり。奥山先生は電話より手紙派(ご本人談)で、テレコムに入社してからも大塚康生様宛に「板垣くんによろしく」的な手紙が届いて、大塚さんが「奥山さんからこんな手紙がきたよ(笑)」と見せてくれました。奥山先生の銅版画展を観に行った際、作品の搬出をお手伝いさせていただいたことがあるのですが、その数日後に直接自分に届いた直筆のお手紙(ハガキ)が今でも自分の宝物。その内容は「お越しいただいただけでなく搬出まで手伝っていただき〜」とお礼に始まり、学生時代の板垣の印象(?)、そして「思惑どおりいかないことはあるかも知れませんが、大塚さんのもとで頑張ってください」とありました。それはもう宝物!

そう、作品づくりは思惑どおりいかないのが普通! その中でもがき、あがき、言い訳をせず道を切り開くこと自体が作るということなのだ!

と何か勇気をもらった気がします。

で、なかなかその思惑どおりにいかない納品、『コップクラフト』の制作も後半戦真っ只中!

少しずつ語れることから。オープニングの話。「オープニングは大石昌良さんはどうでしょう?」とポニーキャニオンのP。「いいですね!」と割と早いうちに決まったと思います(去年とか?)でラフが上がってきたのは今年4月。この時点でほぼ現状のものになってました。何より初めて聴いた時の印象はイントロ部分の「バキューン!」!!

第162回 愛と再生の祈り 〜ヴァイオレット・エヴァーガーデン〜

 腹巻猫です。このたびの京都アニメーションの事件で被害に遭われた方に心より哀悼の意を表し、お見舞いを申し上げます。あまりに哀しく、痛ましく、無念の思いでいっぱいです。


 7月28日に開催した第58回日本SF大会・彩こん内の企画・空想音楽大作戦2019では、哀悼の意を込めて『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の音楽を1曲紹介させていただいた。
 『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は2018年1月から4月まで全13話が放映されたTVアニメ作品である。2018年春からはNetflixで世界に配信されている。原作は京都アニメーションが主催する京都アニメーション大賞の大賞受賞作(小説)。アニメーション制作はもちろん京都アニメーションが担当した。生粋の京アニ・ブランドの作品だ。
 舞台は第一次大戦頃のヨーロッパを思わせる架空の国。戦場で活躍する「武器」として育てられた少女ヴァイオレット・エヴァーガーデンが、終戦後に手紙を代筆する代書屋(自動手記人形)として働き始めるところから物語が始まる。重い傷を負った体と空虚な心を抱えたヴァイオレットが、手紙を書くことを通して、人間らしい心を取り戻し、癒されていく。人は辛い出来事と悔恨の想いを乗り越えて生きる意味を見出せるのか。深いテーマを美しい映像と丁寧な描写で綴った作品である。

 音楽はアメリカ出身の作曲家・EVAN CALLが担当している。
 EVAN CALLは1988年生まれ、カリフォルニア州出身。バークリー音楽大学でフィルムスコアリングを学んだあと、日本で作曲家になる道を選んだ。アメリカでは「音楽家が多すぎて、かなりレベルの高い人でも簡単には仕事が得られない状況」だったため、日本のほうがチャンスがあるのではないかと、最初は観光ビザで来日したのだそうだ。運よく、音楽制作チーム・Elements Gardenに所属することができ、アニメ・ゲーム作品の音楽制作に参加する。現在はミラクル・バスに所属。EVAN CALL単独名義で担当した作品には『東京ESP』(2014)、『シュヴァルツェスマーケン』(2016)、『ビッグオーダー』(2016)、『時間の支配者』(2017)、『ハクメイとミコチ Tiny little life in the woods』(2018)などがある。
 ジャズやファンクなど作品によってさまざまなスタイルの音楽を聴かせるEVAN CALL。本作では、生楽器をふんだんに使ったオーケストラ音楽で、ヨーロッパの香りただよう落ち着いた雰囲気を紡ぎ出している。本人によれば、実は「こういう音楽の方が得意」で、ずっとやりたいと思っていたのだそうだ。
 本作の音楽は実にぜいたくに、手間をかけて作られている。最初にPV用の音楽が作られたあと、TVシリーズ用の音楽が3回に分けて録音された。第1回録音のメニューは第1話の映像に合わせたもの。2回目は以降のエピソードのための溜め録りの音楽。3回目は、第10話から最終話に向けた向けたエピソード用の音楽だ。録音は、広いスタジオに50人ものオーケストラがそろい、一斉に音を出して行われた。
 音楽へのこだわりはサウンドトラック・アルバムにも表れている。本作のサントラ盤は2018年3月28日にランティスからCD2枚組で発売された。驚くのはブックレットの厚さで、32ページもある。中には、EVAN CALLと主題歌歌手、音楽プロデューサー、音響監督、監督、演出家らとの対談インタビューをたっぷり掲載。さらにEVAN CALL単独のインタビューまであって、音楽制作の背景やEVANのプロフィールを知ることができる。近年のサントラ盤には珍しい、熱心なファンのニーズに応えた商品だ。また、ブックレットはつかないが、ハイレゾ音源のダウンロード販売も行われている。
 収録曲は下記のランティス商品ページを参照。
https://www.lantis.jp/release-item/LACA-9573.html

 アルバムの構成(選曲・曲順・タイトル決め)は作曲者のEVAN CALL自身が行った。「Automemories」というアルバム・タイトルもEVANがつけたものだ。
 ストーリーに沿った曲順であるが、厳密に本編で使用された順というわけではない。音楽アルバムとしての曲の流れが重視されている。
 ディスク1の1曲目に置かれたのは、PV用に書かれた「Theme of Violet Evergarden」。ピアノとボーカリーズによる導入部にタイプライターのタイプ音が重なる。本作の内容を音で表現する工夫だ。曲は管弦楽の合奏となって盛り上がり、その中にもタイプ音が挿入されてアクセントになっている。この曲で使われたメロディが本作のメインテーマとなり、TVシリーズの音楽にも使われていく。
 前述のように、TVシリーズ用の第1回録音の楽曲は第1話の本編に合わせて作曲・録音された。
 第1話の冒頭、兵士時代のヴァイオレットが上官・ギルベルト少佐にエメラルドのブローチを買ってもらう場面から流れる曲がディスク1のトラック2「A Doll’s Beginning」。曲名の「Doll」とは、作中で代筆を行う女性たちを呼ぶ「自動手記人形」の通称「ドール」にちなんだものだ。音楽は、戦闘で傷つき病院で目覚めたヴァイオレットがギルベルト少佐に報告書を書こうとする場面まで続いて流れる。曲の後半は物語の舞台である大陸の情景と海辺の都市を描写する雄大な音楽になり、PV用の曲と同じく、タイプ音が聴こえてきて終わる。ヴァイオレットの紹介と物語の始まりを伝える、プロローグにふさわしい曲である。
 続いて、第1話でギルベルトの旧友ホッジンズが病院にヴァイオレットを迎えに来る場面に流れたのが、ディスク1のトラック4「Unspoken Words」。淡々としたピアノの音から始まる、やや不安で寂しげな曲だ。「無言の言葉」という意味の曲名には、ヴァイオレットにギルベルトの消息を伝えることができないホッジンズの気持ちが込められている。
 ヴァイオレットがホッジンズの会社、C.H郵便社(クラウディア・ホッジンズ郵便社)に案内されて、ここで働くようにと言われる場面には、ディスク1のトラック7「The Voice in My Heart」が流れる。ニーノ・ロータを思わせるような哀愁を帯びた3拍子の曲で、以降のエピソードでも、ヴァイオレットやドールたちが代筆の仕事をする場面にたびたび流れている。働くドールのテーマとも呼ぶべき、印象的な曲である。
 第1話の終盤、ホッジンズはヴァイオレットの心の傷を気遣い、「いつか、自分がたくさんやけどをしていたことに気づく」と言う。その場面に流れる「Rust」(ディスク1のトラック8)は、ヴァイオレットの抱える心の虚無を第三者の視点から描く音楽である。「Rust(錆)」という曲名が意味深い。第2話で、ヴァイオレットが依頼人の言葉の裏を想像することができず、初めての代筆の仕事に失敗してしまう場面にもこの曲が流れている。
 第1話の続く場面では、ヴァイオレットが先輩ドール・カトレアが綴る手紙の言葉を聞きながら、戦場を回想する。ハープの爪弾きから始まる「Ink to Paper」(ディスク1のトラック10)はそのシーンに流れた、弦とピアノ、管楽器が絡み合うスリリングな曲。何かが起こりそうな緊張感のある曲調が耳に残る。第2話で、カトレアがヴァイオレットの両手が義手であることを知って驚く場面や、第5話で、ヴァイオレットが公開恋文を書くために王宮を訪れる場面などに使われている。
 第1話のラストシーン、ヴァイオレットがホッジンズに「ドールの仕事がしたい」と告げる場面に流れる曲がディスク1のトラック3「One Last Message」。管楽器の合奏から始まる、希望的な曲である。この場面では、ヴァイオレットがギルベルト少佐の最後の言葉「愛してる」の意味を知るためにドールの仕事を選ぶという動機が語られる。いわば、ヴァイオレットの第2の人生の始まりを告げる曲だ。第3話でヴァイオレットがドール育成学校の教師からドールとして認められる場面にもこの曲が流れて、ヴァイオレットの成長を伝えていた。
 フィルムスコアリングを本格的に学んだEVAN CALLにとって、絵に合わせた音楽作りは得意な分野だったはずだ。が、第1話のために作られた曲は一度使われただけで終わらず、その後のエピソードにも使用されて、みごとな効果を上げている。シーンに合わせながらも、曲としてもしっかり自立しているのが、EVANの音楽の特徴だ。

 第2回録音では、第4話の誕生パーティのシーンなどで使われた軽快な「To The Ends of Our World」(ディスク1のトラック12)、ブラスを使った躍動感のある曲「Back in Business」(同トラック13)、ヴィオラ・ダ・ガンバを使ったカントリー風の「A Place to Call Home」(同トラック14)など、さまざまな楽器・スタイルの曲が用意されて、本作の物語世界を彩っている。
 中でも印象に残る曲のひとつが、ディスク2の1曲目に置かれた「Across the Violet Sky」。第7話のクライマックス、ヴァイオレットが劇作家オスカーの言葉に応えて、湖を飛んで渡ろうとする場面に流れた、高揚感のある美しい曲である。ピアノの細かいフレーズから始まり、ゆったりと流れる弦が情感をかき立てる。後半からリズムが加わり、心の解放を表すような爽快な曲調に展開する。第3話でドール育成学校に通うヴァイオレットが同窓のルクレアと友だちになる場面、第4話で、里帰りした同僚アイリスの家族にヴァイオレットが優雅にあいさつする場面などに使われている。
 ハープとバイオリン、ピアノのアンサンブルがしっとりと奏でる「Never Coming Back」(ディスク2のトラック3)も心に残る曲だ。第2話、思い出のブローチを手にしたヴァイオレットを見たホッジンズが、沈痛な思いで「あいつはもう戻ってこない」とつぶやくラストシーンに流れた。曲名もそれに由来する。ほかにも、ヴァイオレットがギルベルト少佐を想う場面や手紙を通して家族の想いが伝えられる場面などにしばしば選曲されている。
 第9話では、ヴァイオレットが過去と対峙し、苦悩する姿が描かれる。そのラストシーン、ヴァイオレットが手紙を受け取るよろこびを知り、生きる意味を見出していく場面には「私たちを結ぶ愛」と名づけられた「The Love That Binds Us」(ディスク2のトラック7)が流れた。ピアノと弦の合奏から始まり、中盤から管楽器が加わって力強く盛り上がる。希望を予感させる、勇気の湧いてくる曲だ。3分55秒と、アルバムの中でももっとも長い、力の入ったナンバーである。
 ほかにも、第2話のラストで雨に濡れたヴァイオレットが同僚のエリカに「『愛してる』を知りたいのです」と言う場面の弦の悲痛な曲「Inconsolable」(ディスク2のトラック6)、第6話、ヴァイオレットが天文台の若き職員リオンと一緒に夜空に輝く彗星を見る場面の「Wherever You Are, Wherever You May Be」(ディスク2のトラック2)、第9話の回想シーンで、ギルベルト少佐がヴァイオレットに「心から愛してる」と告げる場面の弦とピアノによる愛のテーマ「The Ultimate Price」(ディスク2のトラック5)など、本作には、画と音楽とが一体となって記憶される名場面が多い。
 監督の石立太一は「音楽が先に上がっていたシーンは、劇伴ありきで演出を考えていたところもあった気がします」と語っており、本作における音楽の役割が非常に大きかったことがうかがえる。

 第3回録音は第10話以降のエピソードを想定した音楽が収録された。
 病気の母親のためにヴァイオレットが手紙を代筆するエピソード=第10話のために作られたのが、ディスク2のトラック11「Innocence」とトラック12「Always Watching Over You」。前者は母親を気遣う少女アンとヴァイオレットとの出逢いの場面に、後者はヴァイオレットがアンと遊ぶ場面に選曲されている。いずれもボーイソプラノをフィーチャーした、やさしく胸にしみる音楽である。
 同じエピソードの終盤、ヴァイオレットとアンの別れの場面に流れたのがディスク2のトラック18「Letters From Heaven」。ストリングスがたおやかに奏でる慈愛に満ちた曲だ。本編を観てからだと涙なしには聴けない名曲のひとつ。
 そして、本作を観たファンが忘れられない曲が、最終話のラストシーンに流れた「Violet’s Letter」(ディスク2のトラック20)だろう。物語の締めくくりの曲として書かれた曲で、アルバムでもBGMパートの最後に置かれている。
 曲はヴァイオレットが書くギルベルト少佐への手紙の言葉とともに流れ始める。ピアノと弦によるしっとりした導入からゆるやかに盛り上がり、第1話の冒頭に流れた「A Doll’s Beginning」の旋律が再び奏でられて、静かに終わる。ヴァイオレットの人生の次のステージの始まりを祝福する、愛情に満ちた調べだ。

 失ったものは戻らないけれど、それでも希望を捨てず、痛みを抱いて生きていくしかない。今できることをひとつひとつ進め、その先に光があると信じて。『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の音楽は、その道しるべとなるような、愛と再生の祈りを伝える音楽である。

アニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』オリジナルサウンドトラック
VIOLET EVERGARDEN:Automemories
Amazon

ハイレゾ版
(mora)
https://mora.jp/package/43000152/LACA-9573_HI-24_96/
(e-onkyo)
https://www.e-onkyo.com/music/album/laca9573/
(レコチョク)
https://recochoku.jp/album/A2001192534/

アニメ様の『タイトル未定』
214 アニメ様日記 2019年6月30日(日)

2019年6月30日(日)
早朝に新文芸坐に。オールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol.116 映画館で観る『ヤマノススメ』」の終盤を見届ける。その後はデスクワーク。16時まで作業。明るいうちからワイフと居酒屋で晩ご飯。

2019年7月1日(月)
毎日のようにウォーキングをしているが、ひょっとしたら、ランニングもいけるのではないかと思って、池袋から北区の飛鳥山公園まで走ってみる。その後、ラジオ体操もやった。体調的はよくなったけれど、足に筋肉痛が。録画で昨日テレビ放映された『君の名は。』を視聴する。やっぱり凄い作品だなあ。ちょっと太刀打ちできない。いや、僕が太刀打ちする必要はないんだけど。それから、今回の放送はCM等も凝っていて「お祭り感」があった。その「お祭り感」が成立したのは、作品そのものの明朗さのためでもあるはずだ。
レンタルDVDで『ドラえもん のび太と緑の巨人伝』を視聴。同じ渡辺歩監督の『海獣の子供』と『ドラえもん のび太と緑の巨人伝』が似ているのではないか、について確認する。確かに似ていると言えば似ている。混沌とした内容になった理由は違うはずだが。

2019年7月2日(火)
事務所に入った後、午前4時50分に24時間営業のジムに。この時間でも人がいるなあ。少しだけ運動。昼間は打ち合わせが1本。午後は夏の書籍関連で原稿の回収が一件。昨日のランニングがきっかけの筋肉痛で、移動中の階段で一苦労する。それから、時間がかかった原稿がようやく仕上がる。
Amazonから、大野雄二さんのCD「スペース・キッド」が届いた。SNSで話題になっていたアルバムで、聴いてみたら『新ルパン』に流用されている曲があった。以前、選曲の鈴木清司さんに聞いても分からなかった曲だ。CDで聴いた後で、同アルバムがApple Musicで聴くことができるのが判明。

2019年7月3日(水)
半休モードで、昼休みをとって自宅に戻って休む。大物原稿には手をつけなかったけれど、他の用事が山ほどあって大忙し。 昼休みに「メタモルフォーゼの縁側」を最新の三巻まで読んだ。以前、ネットで話題になったマンガだ。話題になった時にも一部のエピソードを読んだ。75歳の女性・市野井雪がBLマンガに出会うところから始まる物語であり、彼女ともうひとりの主人公である高校生の佐山うららの関係、さらに二人の他の人間関係なども描いていく。つまり、話が広がっている。三巻ラストでは次の大きな展開が見えてきた。お婆さんがBLや現代のマンガに触れて人生を豊かにしていくという、シンプルな内容でもよかったと思うけれど、それは読者の我が儘か。派手さはないけど、テレビドラマか実写映画向きの題材だと思う。映画にしたら、お婆さんが亡くなるところで終わるのだろうか。いや、意地悪なことを書きたいわけではない。お婆さんが死なないまでも、何らかのかたちで死が描かれるような気がした。
この日に読了したわけではないが、別の本の感想も記しておく。タイトルは「『舞姫』の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本」。凄いタイトルだ。内容以外の部分で僕にとってはしんどいところがあり、途中から飛ばし読みになってしまったが、なるほどと感心するところがいくつも。この本のキモなので、ここで具体的なことは書かないが、確かに戦後のフィクションに対して、振り返られることの少ない「明治娯楽物語」が影響を与えている部分があるのだろう。

2019年7月4日(木)
夏の書籍の先行分の入稿。昼までに短めの取材原稿を1本まとめる。午後はある仕事の打ち合わせ。その打ち合わせは、初めて会う方との顔合わせでもあったのだけど、着替える時間がなかったので、短パン、Tシャツ、ヒゲ面で打ち合わせに。すいません。その打ち合わせには地方在住の編集者さんにも同席してもらう。諸般の事情でウォーキングはお休み。
イベントの予習で『名犬ラッシー』を再視聴する。8話「ラッシーなんか大嫌い」、9話「空から来たおてんばお嬢様」、10話「はじめてのケーキ作り」がぶっちぎりの面白さ。3本ともキレキレだ。10話は狭義の「アニメ」的でもある。

2019年7月5日(金)
編集作業とイベントの予習、オールナイトの予習。最近、朝の公園でラジオ体操をやるようになった。ラジオ体操をやりながら「ここで堺三保さんが現れたら、ラジオ体操をしている写真を撮られるのだろうなあ」と思っていたら、堺さんがやってきて、やっぱり写真を撮られた。僕が体操をしている写真が、Instagramなどにあがっているはずだ。オールナイト関連で「トップをねらえ! Blu-ray Box Complete Edition」で、2チャンネル版のコーチのセリフと5.1チャンネル版のコーチのセリフを聞き比べる。

2019年7月6日(土)
昼に新宿LOFT/PLUS ONEでトークイベント「第159回アニメスタイルイベント 『この世界の片隅に』に至る道(3)」を開催。夜はオールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol.117 完結30周年記念 OVAの金字塔『トップをねらえ!』」を開催。トークイベントの日時は何ヶ月も前から決まっていて、後からオールナイトの開催日を『トップをねらえ!』最終巻の発売日とノリコとおねえさまが地球に戻った日に合わせようと思いつき、同日開催にした。
話は前後するが、朝のことから記す。午前中はトークイベントの予習で、片渕さんが演出を担当したテレビアニメを何本か観る。『ちびまる子ちゃん』2期48話「『青春って何だろう』の巻」が猛烈に面白かった。トークイベントは片渕さんが作ってきてくれた作品年表が非常に充実。『名犬ラッシー』についてしっかりと話を聞けたのもよかった。トークイベント終了後に、歌舞伎町の「『シン・エヴァンゲリオン劇場版』0706作戦」の会場を見てから池袋に戻った。オールナイトが始まる前に、ネットで『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の冒頭10分40秒を観る。オールナイトのゲストは日高のり子さんと佐久間レイさんで、トークは非常に楽しいものだった。佐久間さんが語る、5.1チャンネル版の若本規夫さんの芝居についてのコメントは、僕も同じことを思っていた。佐久間さんの「次元波動超弦励起縮退半径跳躍重力波超光速航法」を生で聞けたのも嬉しかった。

アニメ様の『タイトル未定』
213 アニメ様日記 2019年6月23日(日)

2019年6月23日(日)
暗いうちからたっぷり散歩。谷端川緑道を池袋から見て右側を歩いて、下板橋まで行って戻る。これで谷端川緑道を全部歩いたことになる。その後はデスクワーク。日曜にしては画期的に作業が進んだ。16時に作業が一段落。一段落したところで「大蜘蛛ちゃんフラッシュ・バック」4巻を読んだ。今回も面白かった。1巻を読んだ時には、基本設定の部分で「ヘンタイだ」と思ったけれど、今となってはまるで気にならない。その基本設定は、大人で子持ちのヒロインを魅力的に見せるための装置になっている。オマケページの「ある日のお母さんのカラオケ曲リスト」は、ほとんどの曲が、お母さんの年齢設定とあっていないはず。というか、これはオジサンがこのキャラクターに歌ってほしい曲リストだな。もしも、アニメになったら、お母さんの声優さんに全曲歌ってもらってCDにしてほしい。息子(主人公)のコメントを合間に入れてほしい。あ、アニメにしないでCDドラマでもいいや。かるーい感じのやつで。何を書いているんだ、僕は。

2019年6月24日(月)
昼間はデスクワーク。夕方から新宿で馬越嘉彦さんの取材で、取材の前にBAHI JDさんの個展「MOMENT」に立ち寄る。イラストあり、パラパラマンガあり、フェナキストスコープ(おどろき盤)もあり。意欲的な企画だ。取材の後は食事。
ここ数日で『盾の勇者の成り上がり』を一気見した。23話「カルミラ島」まで配信で観て、最新24話「異世界の守護者」は録画で観た。話が面白い。デスクワークをしながら「モヤモヤさまぁ~ず2」の録画を再生する。代打の大橋未歩アナをTOKYO MXに送り届けた後、さまぁ~ずが喫茶店でTOKYO MXの「5時に夢中!」の放送を観るパートが自由すぎる。と思ったら、その後、「5時に夢中!」の生放送を、出演者の背後からさまぁ~ずが見るという展開が。気になって検索したら、当時、そのことがネットでニュースになっていた。ワイフが「5時に夢中!」が好きで、自宅のレコーダーでずっと録画しているはずなので、録画が残っているかどうか確認してみよう。

2019年6月25日(火)
夕方まで夏の3書籍の編集作業。それから取材の予習。『天空のエスカフローネ』最終回を観た。すっごくいいアニメだ。当時は、この作品のシリーズ全般について、少し物足りないと思ったはずだ。なんて贅沢だったんだろう。『カウボーイビバップ』も何本か観返す。「センスがいい」のも「スタイリッシュ」なのも間違いないが、それよりも「作り手の意欲」が素晴らしい。過去に自分がやったインタビューを読み直す。夕方から、中村豊さんのインタビュー。

2019年6月26日(水)
事務所のテーブルに32インチのモニターを置いて、ノートパソコンに繫いで、皆でテキストを見ながら打ち合わせをする。どうして今までこんな簡単で便利なことをやっていなかったのだろう。32インチのモニターは、注文した時に「こんなに安いの?」と思ったけれど、使ってみたら「こんなに安いのに、こんなに性能がいいの?」と思った。
「なつぞら」の最新話数で、なつと坂場一久のフラグが立つ。なつのモデルが奥山玲子さんで、坂場一久のモデルが高畑勲さんだと思うと、ハラハラしてしまう。高畑さんと小田部羊一さんは東映動画の同期であるはず。今、登場していないということは「なつぞら」の世界に小田部さんをモデルにした人物はいないのだろう。
Amazonのプライムビデオの「シネマコレクション by KADOKAWA」と「+松竹」に入ってみた。KADOKAWAの方は古谷一行の「横溝正史シリーズ」があった。それから「おくさまは18歳」。いや、他にも映画が沢山あるんたけど、まず目についたのがそれだった。「+松竹」は小津安二郎監督作品がある。早速、「横溝正史シリーズ」をながら観する。今観ると、自分が金田一耕助の何が好きだったのかがちょっと分かる気がする。好きだった理由はいくつかあって、そのひとつが、彼のモラトリアム感なのだろう。

2019年6月27日(木)
デスクワーク。昼にマンションに戻って休む。引き続き、夏の3書籍が同時進行中。

2019年6月28日(金)
15時までデスクワーク。編集スタッフが構成したラフを、デザイナーさんに渡せるかたちにするために整理する作業がメイン。それから、打ち合わせテーブルの上に置いた32インチモニターにPDFを映して、今やっている書籍の内容を、編集スタッフの皆で見た。「ここの順番を入れ替えます」「これ、トリミングがおかしくないっスか」といったやりとりがあって、編集部っぽい。今まで打ち合わせスペースにモニターがなかったので、こういうかたちでできなかった。
その後、ワイフと渋谷の「幻夢戦記レダ展」に。非常にこぢんまりとした展示ではあったが、2019年に『幻夢戦記レダ』のグッズが作られ、展示があったということだけでも夢のようだ。早めの晩飯で焼き鳥屋に入ったら、やたらとメニューがシンプルだけど、無闇に美味しい店だった。後でネットで調べたら、歴史のある名店だった。事務所に戻って、またデスクワーク。

2019年6月29日(土)
オールナイトの予習で『ヤマノススメ』を第1期から観直す。夜はオールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol.116 映画館で観る『ヤマノススメ』」を開催。

第619回 宝物と納品

 前々回(第617回)からの宝物の続きの話。

・『家なき子』の杉野昭夫作監修正 数カット分(直筆)
・『赤同鈴之助』の荒木伸吾原画(直筆)
・出崎統監督サイン色紙(直筆)
・椛島義夫さんサイン色紙(直筆)
・大塚康生さまサイン色紙(もちろん直筆)
・高畑勳監督と一緒に撮っていただいた写真
(『もののけ姫』の打ち上げパーティーにて)
・小田部羊一先生サイン入り画集(もちろん直筆)
・奥山玲子先生からの手紙(ハガキ)

 大塚康生様のサイン色紙は、忘年会の景品です。自分が在籍した当時のテレコムで、忘年会のくじ引きでいくつかあった景品の中に大塚さんのサイン色紙が3種類ほどあって、俺にそのうちのひとつが当たったわけ。『パンダコパンダ』が描いてあり、「あとで名前(宛名)書いてあげるから」と大塚さん。後日名前をかいてもらう際、話のネタに、と前々回話題にした椛島義夫さんのサインも持ってって見せたところ、大塚さんが「ああ、椛さんね〜」と”板垣伸君へ 椛島義夫”とあるサイン色紙に描き込まれた『ガンバの冒険』のイラストを見ながら懐かしそうでした。で、椛島さんの描かれた色付き(!)ガンバを見て感化されたのか、大塚さん「僕も色を付けてやるよ」と仰って美術部へ行き「ちょっと絵の具貸して」と”板垣伸君へ”と書かれたあとパンダに色を付けてくださいました。と言っても、何せパンダなので黒い部分と地面にうっすら茶色だけ。テレコム在籍中はとにかくの類いの楽しい思い出ばかりです。
 高畑勳監督と一緒の写真は、何年か前にもここで自慢したと思いますが、『もののけ姫』の打ち上げパーティーの時にこやかに笑っていただけて、嬉しくて周りの友人に見せまくりました。小田部羊一先生のは『アルプスの少女ハイジ』展にて、画集を購入した際「じゃ、サインしてあげるよ」と。
 奥山玲子先生からの手紙の話は次回。

とにかくしばらくは『コップクラフト』の納品でおおわらわっ!

第161回 音楽の虹のかけ橋 〜わんぱく王子の大蛇退治〜

 腹巻猫です。7月27日〜28日にさいたま市ソニックシティで開催される第58回日本SF大会「彩こん」内の企画「空想音楽大作戦2019」に出演します。企画の開始は28日15時から。サントラ研究家の早川優さんをゲストに、近年のSF映像音楽、埼玉県出身の作曲家のSF音楽作品、サントラ制作の舞台裏などを語ります。SF大会参加者のみなさま、ぜひご来場ください。詳細は「彩こん」公式サイトからどうぞ。
https://www.scicon.jp/


 1968年に公開された高畑勲監督、東映動画(現・東映アニメーション)制作の長編漫画映画『太陽の王子ホルスの大冒険』の2枚組サウンドトラック盤が7月24日に発売される。折しも、現在放送中のNHK朝の連続テレビ小説「なつぞら」では、アニメーターの主人公なつが勤める“東洋動画”で『ホルスの大冒険』をモデルにしたと思しき作品の制作が佳境を迎えているところ。東京国立近代美術館では高畑勲監督の初の大規模回顧展が開催中だし、「なつぞら」にも高畑監督を思わせる若き演出家が登場している。実にタイムリーな発売だ。
 『太陽の王子ホルスの大冒険』の音楽については、当コラムでも取り上げたことがある。今回は、高畑勲監督が演出助手として参加した長編漫画映画『わんぱく王子の大蛇退治』の音楽を取り上げよう。

 『わんぱく王子の大蛇退治』は1963年に公開された東映動画制作の劇場アニメ。日本神話に題材を得た、少年王子スサノオの大冒険活劇である。演出(監督)はこれが監督デビューとなった芹川有吾。原画監督の森康二以下、東映動画の総力を結集した作画は見どころ満載で、現在の目で観ても古びていない。そして、音楽は「ゴジラ」を手がけた日本映画音楽の巨匠・伊福部昭である。
 本作の音楽を担当した経緯について、伊福部昭は「監督の芹川有吾さんが日本神話の素材なら伊福部が適任ではないかと目星をつけておられたようで」と語っている。伊福部昭は1959年公開の東宝作品「日本誕生」の音楽を担当している。これもまた日本神話を題材にしたものだった。芹川有吾の頭に「日本誕生」の音楽があったことは容易に想像できる。いっぽう、伊福部昭もディズニーの長編『ファンタジア』を観て感銘を受けた経験から、アニメにも興味を持っていた。伊福部昭唯一の劇場アニメ映画音楽がこうして生まれることになった。
 『わんぱく王子の大蛇退治』は伊福部昭の映画音楽の中でも特異な位置を占める。200本を超える劇場作品の音楽を手がけた伊福部昭だが、その中で長編アニメはこの1作だけ。また、音楽の入れ方に慎重な伊福部昭には珍しく、86分の映画に73分以上もの音楽を作曲している。加えて、通常は効果音として処理される生き物の鳴き声やキャラクターの動作に伴う音、自然音なども、その多くを楽器による「音楽効果」で作り出している。「音楽ファンタジー」と呼べるような、全編、音楽にあふれた作品なのだ。
 その内容も、勇壮なマーチあり、巨大怪獣の恐怖を表現する音楽あり、エキゾティックな踊りの音楽あり、素朴な旋律の歌曲あり、スサノオが訪れるさまざまな国の情景を描くファンタジックな音楽ありと充実している。そのため、本作は伊福部昭ファン、特撮怪獣映画ファンにも人気の一本なのである。
 そういう事情もあり、本作の音楽は早くから音盤化が進められてきた。
 最初の収録盤は、1978年に東宝レコードから発売されたLPレコード「SF映画の世界 PART5」。日本の特撮SF映画音楽を集めたシリーズの1枚である。ジャケットは日活の怪獣映画「大巨獣ガッパ」。帯にも「宇宙大怪獣ギララ」「吸血鬼ゴケミドロ」といった怪獣映画のタイトルが並んでいる。しかし、中身は全24曲中19曲が『わんぱく王子の大蛇退治』で占められている驚きの1枚だった。「ガッパ」や「ギララ」の音楽を望んでいたファンには肩透かしだったかもしれないが、それだけ、『わんぱく王子』は特撮怪獣映画ファンにとっても特別な作品だったのだ。余談だが、このアルバムの中身を知ったとき、筆者は「構成って、ここまで自由にやっていいんだ……」と驚きを通り越して清々しい思いがしたことを記憶している。
 続いては、1984年に日本コロムビアから「オリジナルBGMコレクション」シリーズの1枚として発売されたLPレコード。初の単独アルバムである。このときは2枚めの発売を企図して映画前半の楽曲だけが収録されたが、残念ながら2枚目が出なかった。本編の一番の聴きどころの音楽が聴けないのでもの足りなさが残る。しかし、ジャケット画は見ごたえがあるし、アナログレコードで聴く伊福部サウンドは格別の味わいがある。愛着深い1枚だ。
 3度目は1989年にユーメックス/東芝EMIから発売された「完全収録 伊福部昭 映画音楽 東映動画編」。CD2枚に本編に使用された全楽曲とカラオケや別テイクを収めた、ファン待望のアルバムだった。
 4度目は、1996年に発売されたCD-BOX「東映動画長編アニメ映画音楽大全集」。10枚組のうちの1枚に本編使用の全楽曲が収録された。
 このほかに、本作の音楽をもとにしたオーケストラ作品、交響組曲「わんぱく王子の大蛇退治」がある。これはファンからの熱望に受けて伊福部昭がまとめたもので、2003年にキングレコードによってCD用に初演、発売された。
 かくのごとく、本作は、70年代、80年代、90年代、00年代とくり返し商品化されている人気作品なのである。
 その流れを汲む決定盤とも呼べる商品が、2018年5月にディスクユニオン・CINEMA-KANレーベルから発売された「わんぱく王子の大蛇退治 オリジナル・サウンドトラック」である。2枚組にテイク違いを含む全楽曲と効果音まで収録した「最終盤」だ。
 収録内容は下記を参照。

わんぱく王子の大蛇退治 オリジナル・サウンドトラック
https://www.amazon.co.jp/dp/B07CDFC7CQ/

 1枚目に本編で使用された音楽を完全収録、2枚めにテイク違いの楽曲と効果音、予告音楽等を収録した構成。
 すでに書いたように、本作には伊福部音楽のさまざまな魅力が凝縮されている。聴きどころをいくつか紹介しよう。
 1曲目の「メインタイトル」は映画の冒頭に流れる曲。木管と電子オルガンなどが奏でるエキゾティックで幻想的なテーマから始まる。ナレーションで国生み神話が語られるプロローグの曲だ。続いて、メインタイトルとスタッフクレジットのバックに流れる軽快なマーチの曲になる。伊福部ファンなら「きたきた!」と胸躍るところだ。このマーチは、中盤の火の神とスサノオの対決シーンでも使用されている(「火の神とスサノオ」の後半)。
 劇中にくり返し登場する「母のない子の子守唄」は、スサノオの母イザナミのテーマ。母子の情愛を表現する曲であると同時に、スサノオの郷愁の想いを表現する曲でもある。
 スサノオがひとり旅立つ場面に流れる「旅立ち」の後半では、メインタイトルとは異なる旋律のマーチが聴ける。未知の世界に船出するスサノオの高揚する心と凛々しさを表現する明るく希望に満ちた曲だ。
 海でスサノオが巨大な魚アクルと対決する場面の「怪魚アクル」は、伊福部ファン待望の怪獣出現音楽。といっても、ゴジラほどの凶暴さや巨大さはないため、表現は控えめ。本当の巨大怪獣は後半に控えている。
 本作の音楽最大の聴きどころのひとつが「岩戸神楽」だ。岩戸の中に隠れた太陽神アマテラスを誘い出すために、女神アメノウズメが躍る場面の曲である。この場面では音楽と絵を完全に合わせるために、早い段階から伊福部昭と監督、振付師らとの綿密な打ち合わせが行われた。先に音楽が作曲・録音され、その音楽をバックに生身のダンサーが躍り、その動きを参考にアニメーターが作画を行っている。音楽に合わせてアメノウズメがひらひらと舞い踊る、映像と音楽が一体となった名場面が生まれた。
 アメノウズメは芸能の神であり、その踊りは神話における日本の芸能の誕生を意味している。音楽に合わせて踊る女神の姿は、形は違えど、現代のプリキュアシリーズのエンディングで観られる、CGによるプリキュアのダンスのルーツとも呼べるだろう。伊福部昭は「このくだりの仕事は、『わんぱく王子』に限らず、私の映画音楽全体の中でも、際立って想い出深いものです」と語っている。
 もうひとつの聴きどころが、言うまでもなく、クライマックスのスサノオ対ヤマタノオロチの場面の曲である。
 「ヤマタノオロチ出現」は巨大怪獣の出現を描写する重厚な音楽。芹川有吾の巧みな演出と丹念な作画によるオロチ登場描写は息をのむような迫力だ。東宝怪獣映画にまったく負けていない。オロチが酒を飲む場面の不気味な「酒を飲むオロチ」に続き、勇壮なトランペットのメロディによる「スサノオ出撃」が流れて、スサノオ対オロチの戦いが始まる。
 スサノオとオロチの対決は、躍動感に富んだ戦いの曲で彩られる。天翔ける馬ハヤコマに乗ったスサノオが颯爽と空を駆け、オロチの長い首がそれを追う。オロチの八つの頭はどれも同じように見えて、実はすべて異なる顔にデザインされている。その頭をひとつひとつ倒していくスサノオ。スサノオが武器を矛(ほこ)から剣に持ち変えると、曲はミディアムテンポの「スサノオ対オロチI」からアップテンポの「スサノオ対オロチII」に変わる。思わず血沸き肉躍ってしまう興奮の場面だ。ここでは音楽はあえて画に細かく合わせるよりも、音楽としての流れと勢いを重視して一気呵成に突き進む。素早い弦のパッセージが緊迫感を呼ぶ危機描写曲「スサノオ対オロチIII」が続く。
 スサノオが剣を折られ、絶体絶命になりながらも最後のオロチの頭を倒す場面の「最後の戦い」で激闘は終わりを告げる。上下動する弦のオスティナート(同一モチーフのくり返し)が危機感を盛り上げ、高音のトランペットがスサノオの勇気を表現する。
 いやー、すごかった。もう満腹。ラストの曲は「勝利の朝」と「エンディング」。「母のない子の子守唄」が再び流れ、美しくよみがえる出雲の国の情景が映し出される。伊福部映画音楽の中でも際立って美しい女声コーラスの曲で映画は幕を下ろす。巷では「癒しの音楽」などと軽々しく口にする向きもあるが、本当に心が浄化される音楽とはこういう曲をいうのだ。

 伊福部昭の特撮映画音楽を愛するファンは多い。しかし、それらの多くが作品の性質上、どうしても悲劇性を帯びた音楽にならざるをえないのに対し、本作の音楽はファンタジックな美しさと躍動感に富んだ、聴くだけでも楽しく、また、心安らぐ音楽になっている。だからこそ、本作はアニメファンのみならず、特撮怪獣映画ファン、伊福部昭ファンのすべてに愛される作品になったのだと思う。
 本編が始まった当初は、森康二の愛らしいキャラクターに伊福部音楽は重厚すぎるようにも感じる。しかし、観ているうちに「この音楽しかない」と思えてくる。いにしえの香り漂う、落ち着いた響きに包まれると、そこは神話の世界。せわしく、せちがらい現代を離れた、ゆったりした時間の流れる世界が待っている。伊福部音楽は、観客を此岸(現実)から彼岸(神話世界)へと運んでくれるのだ。まさしく「虹のかけ橋」(本作の企画時のタイトル)と呼ぶべき音楽である。

わんぱく王子の大蛇退治 オリジナル・サウンドトラック
Amazon

太陽の王子ホルスの大冒険 オリジナル・サウンドトラック
Amazon

アニメ様の『タイトル未定』
212 アニメ様日記 2019年6月16日(日)

2019年6月16日(日)
土曜の23時半に起きて深夜の散歩に。午前1時50分頃に事務所。その後は基本的に原稿作業。WOWOWで『劇場版BLEACH MEMORIES OF NOBODY』『劇場版BLEACH The DiamondDust Rebellion もう一つの氷輪丸』『劇場版BLEACH Fade to Black 君の名を呼ぶ』『劇場版BLEACH 地獄篇』『BLEACH[実写版]』を連続放送。それを流しながら作業をする。

2019年6月17日(月)
今日も一日、デスクワーク。午前中は原稿。録画したTOKYO MXの「ヒーリングタイム&ヘッドラインニュース」を再生しながら作業を進める。具体的に書くと「路面電車のある風景その1」「猫の足跡&看板猫」「東京点描 城北1」を再生した。午後は夏の書籍の編集作業と「設定資料FILE」のページ構成。確認することがあって、『交響詩篇エウレカセブン ポケットが虹でいっぱい』を観る。続けて『交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション1』を観る。いつも仕事中に飲んでいるコーヒーをやめて、飴をなめながら作業。コーヒーを抜いて体調はよくなったけど、腹が減る。

2019年6月18日(火)
今日も昨日も一日、デスクワーク。大物のテキストがようやく終了。他も色々と大忙し。午前中は昨日と同じく、録画したTOKYO MXの「ヒーリングタイム&ヘッドラインニュース」を再生しながら作業。午後は『どろろ』の最新話を観る。『からくりサーカス』の視聴を再開。

2019年6月19日(水)
『からくりサーカス』をまとめて視聴。ものすごい「林原めぐみ祭り」の回があった。次の大物原稿に入らなくてはいけないのだけど、他の作業がたまっているので、そちらを優先して片づける。午後に「内藤泰弘の世界展」へ。吉松さんと合流して、一緒に回る。「トライガン」の原作を読み返したくなった。それから「栗本薫と中島梓 世界最長の物語を書いた人」をようやく読了。面白かった。同じ人物について書いても、もっとエキセントリックな内容にできたに違いない。筆者の愛情の深さとバランスのよさが素晴らしい。

2019年6月20日(木)
暗いうちから散歩。要町あたりから谷端川緑道を歩く。谷端川緑道は今までも何度か歩いていたのだけれど、今日初めて名前を知った。地図を見ると、かなりの長さがある。自分が今まで歩いていたのは谷端川緑道の一部だったのだ。その後はずっとデスクワーク。午後はメインマシンのMac miniの具合が悪くなり、悪戦苦闘する。前にも同じようなことがあった。次に買うマシンを決めておいたほうがいいかもなあ。『からくりサーカス』を、配信の最新話数である34話まで観た。

2019年6月21日(金)
朝の散歩は飛鳥山公園との往復。その後はデスクワーク。引き続き、夏に出す書籍の編集作業でてんてこ舞いで、またまた大物の原稿が後まわしに。てんてこ舞いと言いつつ、午後は「河森正治EXPO」に。展示されている資料もよかったし、展示の仕方もよかった。延々とゴチャゴチャと資料が貼られていて、このゴチャゴチャ感が(僕が思うところの)河森さんらしさとマッチしていた。音声ガイドは複数あったのだけど、河森さんversionで語られていた「学生時代の一日」の話が面白くて、二度も聞いてしまった。以下は記憶モードで書く。大学で授業に出て、学食で美樹本さんと『マクロス』について打ち合わせして、渋谷(だったと思う)のゲームセンターで少しだけアーケードゲームをやってから、ぬえに行く。自宅とぬえまで2時間半(だっけ?)かかるので、移動中の電車の中で小さなノートにデザインをしていた、といった内容だった。展示されていた『新世紀GPX サイバーフォーミュラ』の初期デザインで思い出したことがあった。放映開始前にアニメージュの武田編集長に見せられた企画書には、河森さんのイメージボードも使われていて、僕は「チキチキマシン猛レース」のような作品だと思ったのだ。その企画書が、アニメージュが『新世紀GPX サイバーフォーミュラ』を押すきっかけになった。話を戻すと、「河森正治EXPO」では「河森正治EXPO解態新書」も購入した(届くのはずっと先)。
「なつぞら」の新しい登場人物の坂場一久。おそらく、モデルは高畑勲さん。「アニメのリアリティ」を問題にするあたりも高畑さんらしい。前にも「本格作画ドラマだな」と思った回があったけれど、この日の回もそうだった。

2019年6月22日(土)
一日デスクワーク。と言いつつ、昼寝をしたり、床屋に行ったり。

第160回アニメスタイルイベント
帰ってきた亀田祥倫の思い出のアニメを語る会

 8月4日(日)に開催するトークイベントは「第160回アニメスタイルイベント 帰ってきた亀田祥倫の思い出のアニメを語る会」だ。
 これは『モブサイコ100』『映画ドラえもん のび太の宝島』等で知られるアニメーターの亀田祥倫をメインとした企画で、彼が好きなアニメや観てきたアニメについて語るというもの。6月2日(日)に開催したイベントの続編である。前回のイベントは楽しい内容で盛りあがったが、予定していた内容を消化することができなかった。その語りきれなかった部分を語るために今回のイベントが企画された。

 今回もざっくばらんな雰囲気の、肩の凝らないトークとなるはずだ。現在のところ、決まっている出演者は亀田祥倫とアニメスタイル編集長の小黒祐一郎。追加のゲストについては改めてお伝えする。

 今までのイベントと同様に、トークの一部を「アニメスタイルチャンネル」で配信する。前売り券は明日・2019年7月13日(土)から発売開始となる。詳しくは、以下のリンクの阿佐ヶ谷ロフトAのページを見てもらいたい。また、会場ではアニメスタイルの関連書籍を販売する予定だ。

(8/2 追記)
・追加ゲストとして益山亮司さんと山田有慶さんの出演が決まりました。
・前売チケットは完売しました。当日券の販売はありません。
・当日は「阿佐谷七夕まつり」開催中のため、阿佐ヶ谷駅・南阿佐ヶ谷駅から阿佐ヶ谷ロフトAまでの道が混雑することが予想されます。時間に余裕をもってご来場ください。

■関連リンク
アニメスタイルチャンネル
https://ch.nicovideo.jp/animestyle

阿佐ヶ谷ロフトA
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/123501

第160回アニメスタイルイベント
帰ってきた亀田祥倫の思い出のアニメを語る会

開催日

2019年8月4日(日)
開場12時00分 開演13時00分

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

亀田祥倫、小黒祐一郎(司会)

チケット

前売1500円 当日1800円(共に飲食別・要1オーダー)

■アニメスタイルのトークイベントについて

 会場となる阿佐ヶ谷ロフトAはトークライブができる居酒屋。入場料(今回は前売1500円、当日1800円)とは別に飲食(最低でもドリンク1杯)をお願いしている。ソフトドリンクもあるので、未成年の方でも大丈夫。 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものだ。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていないし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれない。その点は、あらかじめお断りしておく。

[先行公開]渡辺歩・小西賢一が語る『海獣の子供』
後編 ホテルに軟禁されて描いた絵コンテ

小黒 小西さんは、参加する前から『海獣の子供』の原作を読んでたんですか。

小西 深くは読んでなかったですね。画に魅力があるので、気にはしてましたけど。実は映画の制作中も深くは読んでなかった(笑)。後半になってからですよ、ちゃんと読んだのは。

小黒 原作の画だけを見ていた?

小西 極端に言えば画とシチュエーションですね。語弊はあるかもしれないけれど、原作は画集みたいなもんじゃないですか。それが魅力だと思って、そのつもりで見ていました。

小黒 ご自身としては、どういうふうに原作に迫ろうと思われたんですか。

小西 特に変わったことをやっていたつもりではないんです。面白い話ができるかな。

渡辺 (笑)。

小西 「原作の画が大事である」ということは、自分の中でありました。だけど、制作に入っていくと、まずは「渡辺さんが何をしたがるのか?」というのがあるわけです。今まで付き合ってきた監督の皆がそうでしたけど、監督がやりたいことがコンテに落とし込まれたらそれが土台になって、そこから何をするかが決まっていく。監督が何をしたいのかが分からないと、動きようがないんです。だから、「コンテが上がってこないと、どうにもならないな」とは思ってました。

小黒 今回、絵コンテをお借りして拝見したんですが、凄いですよね。こんな情念の込もった絵コンテを見たのは初めてかもしれないです。

小西 渡辺さんはいつもこのくらい濃密じゃないですかね。

小黒 確かに『謎の彼女X』の絵コンテも濃かったですね。

渡辺 (笑)。

小西 あれもテレビでそこまで濃いことをするのか、という感じでしたよね。だから、僕は、いつものことだと受け取っちゃいましたけどね。渡辺さんは無茶ばっかりするんですよね。『ドラえもん(ドラえもん のび太の恐竜2006 )』の頃から分かってるのは、それを作画として落とし込んでいくと、大変になってしまうというか(苦笑)。まあ、そこを警戒はしていますよね。

小黒 『海獣の子供』でも「大変そうな絵コンテが上がってきた」と思われたんですね。

小西 そうですね。前半はともかく、終盤の「祭り」のところとか。あんな大変なことを全部をできるわけないんです。結局、欠番も出ているんです。

渡辺 (笑)。

小西 作画のカロリー等について、本当はコンテでコントロールしてほしいところじゃないですか。それをどう考えているのか。(渡辺監督に)どうなんですか。途中から考えなくなっちゃったんですか(笑)。

渡辺 え?(笑)あ、いやいやいや。

小西 考えてました? 僕は「あんま大変にしないでね」と釘を刺してたと思うんですよ(笑)。

渡辺 だからね、後半はなるべく計算をしてね。

小黒 いやいや、仕上がった作品を観たら、序盤から「ここでこんな大変なことを」と思いますよ。

渡辺 (苦笑)。

小西 そうですね。

渡辺 すみません(笑)。やっぱりある程度、小西さんの力を当て込んでというか。どうせだったら、その力を全部出してもらいたいと思ってやっているので。

小西 そう思っちゃうのが、いけないんだと思います。そんなことしてないコンテでも、こっちは大変にしちゃうわけですよ(笑)。

小黒 普通の絵コンテで作画をするとしても、小西さんはそれ以上のものにしようと思うわけですね。

小西 そうそう。普通のコンテでも、面白いものにしたいと思ってやるわけだから。渡辺さんのコンテはとんでもないことを沢山やっているので、こちらもガチで取り組むし、コンテに答えているうちに、深みに入ってくことが多いんですよね。

小黒 渡辺さん的としてもこんなに大変な絵コンテを描いたのは、久々なんじゃないですか。

渡辺 そうですよね。

小西 認識はあるんですね?(苦笑)

渡辺 いやいや、あります。

小西 テレビのコンテとは、モードのようなものが、全然違うんですか。

渡辺 まあ、違うでしょうね。こう言っちゃなんですけど、テレビの時はテレビで実現できるコンテになりますよね。

小黒 『海獣の子供』は生活描写もリアルに描いていますよね。『のび太の恐竜2006』も出来はいいんだけど、あれは舞台の大半が白亜紀だった。その意味では、渡辺さんが手がけた『おばあちゃんの思い出』等の中編『ドラえもん』の進化形が、ようやく『海獣の子供』で観られたと思いました。

渡辺 ありがとうございます。本当にそれはあるかもしれないですね。大変なコンテを描いてしまうことについては、まあ、難しいですけどね。カットを作っていく上での材料を揃えておきたいというのはあるんです。それで、こんな材料もあったほうがいいんじゃないか、あんな材料もあったほうがいいんじゃないかと、どんどん入れ込んでしまうというのはあるんです。「ここからいくつか拾ってもらいたい」という思いではいましたけどね。

小西 渡辺さんが出したコンテを制御する演出が、本当は必要なんですよ(笑)。

小黒 「絵コンテにはこう描いてあるけど、ここは止めでもいいですよ」といった感じで処理する演出家が必要?

小西 そうそう(笑)。それを僕が担っちゃってるところもあったんだけど、やっぱり制御はしていないかな。

小黒 小西さんもむしろ大変な方向に?

小西 プロデューサーに対しても「抑えるとこは抑えるから」と言っていたけど。まあ、結果的にはそうはなりませんでしたね(苦笑)。

小黒 この絵コンテの執筆は何年ぐらいかかってるんですか。

渡辺 3年ぐらいですか。

小西 そんなかけてるんですか。

渡辺 そんなかかってないか。そういえば、コンテを長く持つことは許されなかったような気がする。

小西 ホテルに軟禁されましたよね。

渡辺 そうです。「この日までにコンテを上げろ」と言われて、ホテルで描いていたんですよ。一旦、それで上げています。それが2015年くらいなんです。

小黒 2015年の段階で、絵コンテを最後まで描いている?

渡辺 最後までいっているんですよ。でも、その時に描いたものはほとんど描き直しています。

小黒 だけど、話の流れはそこで1回できているんですね。それを五十嵐先生に見てもらった?

渡辺 その段階では先生には見せてないと思います。まずはプロデューサーの田中さんと……。

小西 揉み合いがあったのかな?

渡辺 そうです。揉み合いました。僕の描いたコンテでは「祭り」の部分も、ほぼ原作のままでした。

小黒 田中さんは何を望んだの?

渡辺 確か、それじゃ足りないと言われたんです。もっと琉花を中心としたほうがいい。彼女を通して色んなものを見せていくかたちにしたいということでした。

小黒 田中さん、さすがですね。

小西 「この作品で何をやるのか」という指針については、田中さんの存在が大きいですね。

渡辺 田中さんの存在は大きいですよ。僕も教えられることがありました。さっき、田中さんが「女性として感じるものがある」と言ったとお話しましたが、映画の構成についても女性の感覚で話されていました。それが正しいと思えたので、「じゃあ、もうこれは一旦、止めます」と。僕自身もホテルに軟禁されて、短い時間で描いていますから、描ききれたという気はしてなかったんですよ。

小西 とにかく上げろと言われて、無理に仕上げたわけですから。

渡辺 そうそう(笑)。ラストはそんなに変わってないと思うんですけどね。ただ、そこに至るまでに何があるのか、というのが変わっているんです。ただ、魚が出てきて、古代の世界を垣間見たとしても、展開としては足りないという気は僕もしていたんです。それで「チャンスがもらえるなら、やり直しをさせて」という話になって、全部を練り直したんですよ。

小黒 具体的には何が変わったんですか。

渡辺 そうですね。「祭り」の部分はほとんど全部変わりましたよ。

※この後もインタビューは続く。インタビュー全文は9月刊行の「アニメスタイル015」に掲載する予定だ。お楽しみに!

[先行公開]渡辺歩・小西賢一が語る『海獣の子供』
前編 描くべきだった事とあえて描かなかった事

 公開中の劇場アニメーション『海獣の子供』。これは是非とも映画館で観てもらいたい作品だ。なんといっても映像の力が凄まじい。日本の商業アニメーションでかつてないレベルに達している。「かつてない」という言葉が、決して大袈裟ではないのだ。
 本作は五十嵐大介による同名漫画を映像化したものであり、アニメーション制作はSTUDIO4℃。監督は渡辺歩、キャラクターデザイン・総作画監督・演出が小西賢一、美術監督が木村真二といった布陣で作られている。
 アニメスタイルでは、9月に刊行予定の「アニメスタイル015」で『海獣の子供』の特集を組む予定だ。それに先行するかたちでこの「WEBアニメスタイル」でインタビュー記事の前半部分を掲載する。

PROFILE

渡辺歩(WATANABE AYUMU)

1966年9月3日生まれ。東京都出身。血液型A型。1986年、スタジオメイツに入社し、同社で原画デビュー。1988年にシンエイ動画へ。同社で劇場短編『帰ってきたドラえもん』『のび太の結婚前夜』『おばあちゃんの思い出』(監督・作画監督)、『映画 ドラえもん のび太の恐竜2006』(監督・脚本[共同])等を手がけた。フリーになった後、『謎の彼女X』『宇宙兄弟』『団地ともお』『恋は雨上がりのように』(監督)等を手がける。


小西賢一(KONISHI KENICHI)

1968年6月23日生まれ。埼玉県出身。血液型A型。1989年、研修第1期生としてスタジオジブリ入社。1999年にフリーとなる。主な作品に『ホーホケキョ となりの山田くん』『かぐや姫の物語』(作画監督)、『TOKYO GODFATHERS』(キャラクターデザイン[共同]・作画監督)、『鋼の錬金術師 嘆きの丘(ミロス)の聖なる星』(キャラクターデザイン・総作画監督)等がある。

取材日/2019年6月5日
取材場所/東京・STUDIO4゚C
取材・構成/小黒祐一郎

●関連サイト
アニメーション映画『海獣の子供』公式サイト
https://www.kaijunokodomo.com

小黒 いや、素晴らしい出来でした。今年のアニメーション何位かとかではなくて、今までの全てのアニメーションの中で、上から何番目かという出来だと思います。

渡辺 本当ですか?

小西 本当に? 僕らが話さなくても、小黒さんがいっぱい解説してくれれば、それでいいんじゃないの?(笑)

小黒 いやいや(笑)。

一同 (笑)。

小黒 実際のところ『海獣の子供』は制作に何年ぐらいかかったんですか。

渡辺 リアルに言うと、どうでしょうね。やっぱり5年くらい?

小西 5年と言ってしまうと、時間をかけすぎたと思われるかもしれないけれど。色々あったじゃないですか(苦笑)。

渡辺 うんうん。

小西 渡辺さんが合流してからは、何年なんですかね? 僕は先行して入ってたけど、渡辺さんはいくつもテレビシリーズをやっていたので、なかなかこの作品に本格的に入ることができなかったんです。渡辺さんが入るまで、僕はSTUDIO4゚Cで他社作品の原画をやっていたんですよ。

渡辺 そうね。でも、コンテ期間も入れると、5年くらいはやっていたんじゃないですかね。

小西 ああ、そう?

渡辺 うん。最初に五十嵐大介先生にお会いしたのは6年前ですからね。そこから、脚本を作って、コンテを始めたと思うんです。作画を始めてから大体5年だったはずです。

小黒 小西さんが先に声をかけられたんですか。

小西 と言われてるんだけど、違います?

渡辺 違うと思いますよ。

小西 田中栄子さん(STUDIO4゚Cのプロデューサー、代表取締役社長)の記憶が混乱しているのかな。少なくとも僕は『海獣の子供』の監督として誘われた記憶はないんですよ。

小黒 田中栄子さんは、小西さんを監督にオファーしたと言っているんですか。

小西 らしいんですけどね。僕が忘れているだけかもしれないですが。

小黒 渡辺さんが参加した時は、もう小西さんはいたんですか。

渡辺 いや、それもちょっと記憶がないんですよねえ。

小西 あまりにも前のことすぎるので(笑)。ただ、その前に、渡辺さんと僕とでSTUDIO4゚Cに他の企画を出しているんです。「この企画を二人でやりたい」というかたちで、企画を出していたので、他の仕事を振られるにしても、二人一緒にやることになるだろうなとは思っていました。

渡辺 『海獣の子供』に関して言うと、僕のところに話がくるまでにも、映像化の話は動いていたらしいんですよ。他の方が監督として立って、構成を進めていたらしいんです。僕の前に動かしていた監督も一人ではなかったみたいです。

小黒 ということは、かなり前からある企画なんですね。

渡辺 おそらくそうでしょうね。田中栄子さんは「なんとか実現したい」と思っていたようです。

小黒 渡辺さんが参加した段階では、劇場作品で全5巻の原作を1本の映画にまとめるという話になっていたんですね。

渡辺 そうですね。その時はすでに完結してましたから。最初に映像化の企画が動いたのは、原作の連載中だったようですよ。

小西 シナリオのすったもんだのこととか、僕もあんまり分かってないんですよね。

渡辺 シナリオは僕が入ったのとほぼ同時にスタートしています。その時期を入れると制作期間が6年になるんだと思います。

小黒 なるほど。シナリオの作業に1年ぐらいかかっている? シナリオライターはいたんですか。

渡辺 どこまで言っていいのか分かりませんが、いました。その方が作業をしている期間があったんです。だけど、なかなか構成がまとまらなかった。それで僕が作業をすることになった。

小黒 ということは、途中で渡辺さんがシナリオを引き取って、まとめたということ?

渡辺 うーん、まあ、そういうことですね。

小黒 一応、シナリオのかたちで書いたの?

渡辺 きちんとしたシナリオは書いてないです。

小黒 テキストとしては存在していないの?

渡辺 それは存在はしていますけど、非常にざっくりとしたものですよ(笑)。結局、コンテにする過程で詰めていくことになった。

小黒 なるほど。

渡辺 だから、五十嵐先生はその脚本ともいえないテキストを読んではいますけど、最終的にはその後に描かれるコンテで確認してもらうことになった。

小黒 脚本で難儀したのは、どうしてなんですか。

渡辺 えーとですねえ。まず構成が定まらなかった。当初のシナリオは、原作を全部そのまま入れるかたちだったんです。そうするとね、4時間とかあっても終わらない作品になってしまう(苦笑)。それから「どこを中心にしたらいいか?」という点について曖昧だった。要するに、海に纏わる話が中心なのか、主人公はいなくていいのか、ということです。さらに言えば「オチがない」みたいな話になっちゃって。1本の映画として「オチを付けるべきか、どうか?」ということが問題になった。一言で言ってしまうと、迷走したってことですね。

小黒 原作って、サブエピソードが沢山あるじゃないですか。

渡辺 そうですね。

小黒 お母さんの若い頃のエピソードとか。「いったいこのキャラクターは誰なんだろう?」という人のエピソードとか。

渡辺 (苦笑)。そうなんです。ありますでしょ?

小黒 いずれもが海に纏わるエピソードではあるんだけど、今回の映画ではそういった部分をオミットしたわけですね。

渡辺 そういうことですね。そこに辿り着いたわけですよね。最初に五十嵐先生にお会いした時にうかがったんですが、原作は意図的にそういう構成にしているわけですよね。むしろ、そういった海に纏わる不思議な話を描きたかった。そちらのほうが、ウェイトとしては大きくて、それを1本の漫画としてまとめていくために琉花という少女と、あの夏の出来事が……。

小黒 琉花の物語も、海に纏わる物語のひとつくらいの感じ?

渡辺 そういうことなんです。そういったことをうかがって、僕も「なるほどな」と思いました。僕は可能な限りね、原作の雰囲気を活かしたかったので、自分でまとめることになってからも、随分と悩みはしたんですよね。ただ、短いエピソードを入れていると、どうしても流れが寸断されてしまう。それで考え方を切り替えて、琉花の話にしていけば、もしかしたら1本の映画としてまとめられるんじゃなかろうか。要素をいくつか抜き出して、まるで違った作品にするよりは、琉花が直接関わらない話は描かないというかたちにしたほうがいいのではないか。そこに辿り着くまでに結構かかったということですね。一度、作品に取りかかってみないと、そこに到達できなかった。原作をざっと読んで、すぐにその答えが出るようなものではなかった。原作は非常に巧みに描かれてますからね。

小黒 プロデューサーとしては「不思議な話が並んだオムニバス」といった感じの映画になっても構わなかったんですかね。

渡辺 (笑)。いやあ、どうなんでしょうねえ? 田中さんの本当のところは分かりませんけど。ただ、田中さんは「女性として感じるものがある」と言っていたんです。女性の物語として、共感できるところがあると。そういう部分を掘り下げてみたいということでした。それは構成する上で、ヒントになったかもしれないですね。

小黒 スピリチュアルという言葉が適切なのか分からないですが、原作には自然や海に対する独特の考えがあるじゃないですか。その点について映画は薄味になってますよね。

渡辺 そうですね。あえて抑えてますね。

小黒 それは一般の観客に向けて作るから?

渡辺 結果的にはそういうかたちになっています。ですがむしろ、要約していかないと尺的に収まらないというのが大きかった。要するに、一人の少女のパーソナリティに収めたかったんですよね。琉花が経験したこと、理解したことの範囲で描いていくということです。原作だと、終盤に大人になった琉花が、少年に自分の体験を語るという構成になっているんです。その部分は映画には入らなかったんですけど、やがてそこに繋がっていくものとして考えています。
 スピリチュアルな部分については薄くなっているというよりは、物語と同じように要約したということですね。設定自体もちょっと変わってますから。琉花自身についても、海に対して親和性の高いという設定がなくなったわけじゃないけど、そこはあえて語ってないんです。ないとも言いません。ただ、特殊な能力を持った女の子じゃなくて普通の女の子として見えるようにしています。

小黒 お母さんに関しても、原作に描かれたような生い立ちがあるのかもしれないけど、描いてない。

渡辺 あえて描いてない感じです。

小黒 他のキャラクターも同様なんですか。

渡辺 そうですね。原作未読の方には、映画の鑑賞後に原作を手に取っていただきたい。そういったことを全て説明して入れることもできるけれども、それをやっても舌足らずになってしまう気がして。そうではないかたちのほうが、いいのではないかと。

小黒 映画らしい物語のスピード感というか、描写の積み重ねをしていたら、そういった説明をしている余裕がなくなるということでもありますよね。

渡辺 それもあります。だから、理解するよりも、感じとってもらうことに移行していったということですかね。

小黒 聞いていいのかどうか分からないんだけど、原作で描かれてることを理解はできたんですか。

渡辺 僕なりに一応、解釈はしてますけどね。

小黒 終盤の単行本5巻の後半の「祭り」の部分も?

渡辺 それも含めて解釈しています(笑)。五十嵐先生自身も、描きたいように描いてしまおうと思って描いていると思うんです。描いていくうちに描写に酔うというか、画に酔っていく。読者に感じとってもらうことを期待して、作品としてどんどんストイックになっていくというか。先生も「解釈を委ねている」とおっしゃっていましたね。感じることは読み手によって違っている。それぞれの読み手の解釈と合わさって作品が完成する、みたいな。

小黒 そもそも原作が「感じさせるもの」であるんですね。

渡辺 そうですね。結局、「生命は宇宙から来た」とか「海と生命は深い関わりがある」とかそういう考えは、諸説を挙げていけば、多くの人と共有できるものだと思うんです。ただ、そういうことを解説すると凄く小さいものになってしまう。だから、あえてそれはしないで、徹底的に描写を重ねていくことで、浮き彫りにしていくことはできないか。かなりチャレンジャブルな漫画なんですよね。特に5巻はほとんどセリフがないですから。とんでもないですよ。

小黒 最後に出てくるジュゴンと一緒にいる赤ん坊も、想像は付くけど、誰だか分からないですよね。

渡辺 そうでしたね。セリフも「る」と書いてあるだけで。だから、これは感じるしかないんです。映画として論理立てて構成していこうと思ったら、多分、そこで壁にぶつかってしまうと思うんです。自分より前に参加していた方達の中にも、それで匙を投げて、作品から去っていった人がいたんだろうと思います。正直、僕も苦しみましたから。「少女と出会いと別れ」のようなベタなかたちにすれば分かりやすいし、僕も作りやすかったかもしれないです。

小黒 いやいや、渡辺さんは『ドラえもん のび太と 緑の巨人伝』を作っているじゃないですか。

一同 (笑)。

小黒 「『海獣の子供』は『緑の巨人伝』を思わせる作品だ」と言ってるファンもいるようですよ。

渡辺 ありがとうございます。あの作品と似ているかどうかは置いておいて、なぜかこういう作品が出来ちゃったんですね。

小黒 作品の方向性の話に戻りますが、制作初期から「画で観せる作品であろう」ということは分かっていたんですね。

渡辺 そうですね。原作もそういうまとまりをしてますし。だから、相当な覚悟で臨まないといけないだろう。アニメーションを作るにあたって、その意味を考えなくてはいけない。原作のキャラクターが動けばいいというものではない。

小黒 覚悟というのは?

渡辺 つまり、描ききるかどうかですよ。

小黒 アニメーションとして作ることの意味についてですが。まず原作の画は魅力があるわけですね?

渡辺 そうですね。

小黒 描写力もあるわけですね。

渡辺 はい。

小黒 さらに言うと、表現力が凄い。

渡辺 相当だと思います(笑)。

小黒 それをアニメのスタッフが映像化するということは、大友克洋さん以外の人間が『AKIRA』を映画にするようなものであるわけですね。

渡辺 (笑)。いいこと言ってくださいますね。いや、まさにそうですよ。相当に参加するスタッフを選ぶだろうと思いますね。原作を軽くなぞったようなものを提示するのは許されない。というかすべきではない。それはファンのためというか、我々がそうしたくない。我々は原作の画の凄さに感動しているわけですから。これをどこまで再現できるかという挑戦だったという気がします。

[先行公開]渡辺歩・小西賢一が語る『海獣の子供』 後編に続く

アニメ様の『タイトル未定』
211 アニメ様日記 2019年6月9日(日)

2019年6月9日(日)
昨日も暗いうちから散歩。午前中に原稿。午後は夏に刊行する原画集のための取材。夕方から吉松さんと打ち合わせを兼ねて食事に。

2019年6月10日(月)
夕方からの取材の予定があり、その予習で関連作品をずっと観ていたのだけど、諸般の事情で取材が延期に。関連作品の視聴を止めて、7月6日の片渕さんのイベントのために『若草物語 ナンとジョー先生』を観る。本放送時に印象に残っていて、いつか確認しなくてはと思ってたエピソードは20話「大きくなったら何になる?」だったようだ。絵コンテが片渕さんで、少しだけ『名探偵ホームズ』を思わせるアクションがある。多分、本放送時に「あ、『名探偵ホームズ』の人が絵コンテか」と思ったはずだ。ただ、改めて観ると記憶にあったほどは派手ではなかった。自宅でEcho Dotに「アレクサ、リラックマとカオルさんの音楽をかけて」と言ったら、サントラの再生が始まった。凄いな、アレクサ。

2019年6月11日(火)
三つの書籍とそれぞれの特典が同時進行で、その編集作業のために大物原稿がなかなか進まず。『どろろ』を最新話まで観る。どろろの裸は、女の子だと思って見れば女の子に見える感じにはなっている。『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』を1話から観る。最初の数話は前にも観たのだけど、前よりもずっと面白い。ネットを見ていたら、『新世紀エヴァンゲリオン』のビデオフォーマット版の新作カットって、『DEATH』の新作カットを流用したことになっているのね。オヒィシャルでアナウンスしたことはないんだっけ(オヒィシャルの表記はわざとです)。自分がdアニメストアを使い始めて5年であるらしい。お世話になっているなあ。この日の日記も、とりとめがないなあ。

2019年6月12日(水)
暗いうちから散歩。午後は原稿以外の作業で、大物原稿を進められたのは午前中だけ。里帰りしていたワイフが帰宅。古川日出男さんの「平家物語 犬王の巻」を、湯浅政明さんが長編アニメーション「犬王」として映画化することをネットで知る。湯浅さんが同時進行で数本やっているのは聞いていたけど、具体的な新作タイトルは知らなかったのだ。湯浅さん、多作だなあ。すごい。

2019年6月13日(木)
昨日も暗いうちから散歩。夕方から夏の書籍のための取材。取材の帰りにまた少し歩く。赤塚不二夫さんが常連だったという洋食ぺいざんに。赤塚さんが好んで食べたという「いちおしセット」をいただく。前から行ってみたかった店なのだ。

2019年6月14日(金)
早朝からワイフと散歩。その後は午後に新文芸坐で打ち合わせがあった以外はデスクワーク。夕方から「設定資料FILE」の構成。
このところ、移動中にスマホとKindleの組み合わせで「栗本薫と中島梓 世界最長の物語を書いた人」を読んでいる。まだ半分くらいだけど、かなり面白い。読んでいて思い出したのだけど、僕は中学の頃に、中島梓さんの文章を面白いと思っていた。どの媒体で読んだのかは覚えていないけれど、マンガについて書いた原稿で、刺激を受けた。ひょっとしたら、内容よりも語り口に魅力を感じたのかもしれない。気取らない感じで、だけど、本質的なことを書いていたという印象だ。「わかるわかる」「なるほどなるほど」と思って読んだ(はずだ)。栗本薫名義の小説で最初に読んだのは「ぼくらの時代」だ。この本は僕が中学2年の時に刊行されているが、当時は読んでおらず、高校か大学の頃に古本で読んだ。中学の時点で、中島梓と栗本薫が同一人物だとは知っていたけれど、僕にとっては「中島梓は別名で小説も書いている」くらいの認識だったはずだ。
『ガールズ&パンツァー』最終章第1話をAmazonのPrime Videoで観る。いやあ、よく出来ているなあ。これは文化の極みだ。全てのアニメの頂点だとは言わないけれど、頂点のひとつだ。

2019年6月15日(土)
暗いうちから散歩。原稿。ワイフと近くのTSUTAYA東池袋店の閉店セール初日に。開店直前に行ったのだけど、お客さんの行列が店の外に伸びて、TSUTAYAが入っているビルをぐるっと取り囲んでいた。中に入ってみると、店内は購入するビデオを抱えてお客さんでごった返していた。「ハリー・ポッター」シリーズ等を何本も持ったOL風の女性とか、深夜の人気アニメを大量に抱えた初老の男性とか。普段はなかなか見られない光景であった。僕は『伝説巨神イデオン 接触篇』『同 発動篇』を購入したかったのだが、まだレンタルから戻っていないのか店内にはなかった。『伝説巨神イデオン 接触篇』『同 発動篇』はレーザーディスクは買っているけど、DVDとBlu-rayは買おうと思っているうちに品切れになってしまったのだ。CSで録画したものは事務所にはあるけれど、DVDソフトがラックにあったほうが検索しやすい。ワイフは『惡の華』の後半の巻を購入していた。
その後、ワイフとユナイテッド・シネマとしまえんで『海獣の子供』を観た。僕は試写会を含めて三度目の鑑賞。『海獣の子供』が名作かどうかは別にして「偉大な作品」であるのは間違いない。後世に残ってほしい作品であり、残したい作品だ。昼からやっている居酒屋で呑んでから自宅に。外が明るいうちに就寝。

第617回 俺の宝物

 ぴあから発刊された『あしたのジョー COMPLETE DVD BOOK』vol.1〜8、『あしたのジョー2 COMPLETE DVD BOOK』vol.1〜5に続き、『宝島』も発刊されて、出崎・杉野フリークな板垣は、もちろんブックレット目的に買い続けてます! VHSからLD、DVD、Blu-ray、そして廉価版DVD、何回買ったことか。ってことで無理矢理

自分の宝物の話!

と言ってはみたものの、やっぱりこの年になるとお金で買えるものには大して拘りがなくなるもので、昔の自分なら好きな映画やアニメのソフトとかを宝物と言っていたと思いますが、今は違います。たぶん現在挙げるとするならば、「お金では手に入らないもの」。

・『家なき子』の杉野昭夫作監修正 数カット分(直筆)
・『赤同鈴之助』の荒木伸吾原画(直筆)
・出崎統監督サイン色紙(直筆)
・椛島義夫さんサイン色紙(直筆)
・大塚康生さまサイン色紙(もちろん直筆)
・高畑勳監督と一緒に撮っていただいた写真
(『もののけ姫』の打ち上げパーティーにて)
・小田部羊一先生サイン入り画集(もちろん直筆)
・奥山玲子先生からの手紙(ハガキ)

以上順不動です。『家なき子』と『赤同鈴之助』の修正・原画はテレコム時代、フリーの大先輩アニメーターS氏よりいただいたもの。出崎監督のサイン色紙は学生時代(1992年冬)秋葉原石○電気でサイン会があり、「TO ITAGAKI SAN」とカッコよく書いていただき大興奮! 椛島さんのは、これもテレコム時代、フリーの大先輩アニメーターT氏に『ガンバの冒険』大好きアピールしたら「椛島さん俺の先輩だからサインもらってきてやるよ」と。T氏より当時椛島さんが立ち上げた夢弦館の連絡先を聞いて、お礼の電話をしたところ「大塚さんとこにいるんでしょ? Tから聞いたよ。大塚さんとこなら勉強になるから頑張ってね! 今度Tと一緒に遊びにきなよ」とどこの誰とも分からない板垣に、とても気さくに話してくださったのが印象に残っています。結局、夢弦館に行く時間を作ることができず、2017年に椛島さんがお亡くなりになられました。一度でもお会いしたかったです。で、仕事に戻らなければならず、続きは次週!

第160回 宇宙よりも広い世界 〜カイバ〜

 腹巻猫です。湯浅政明監督の最新作『きみと、波にのれたら』を観ました。これまでの湯浅監督作品のイメージを裏切るストレートなラブストーリー。しかし、随所に現れる凝った映像表現は、まぎれもなく湯浅監督のもの。多くの人に、とりわけ若い人に観てほしい。デートムービーとしてもお奨めしたいです。


 湯浅政明監督作品の音楽といえば、『きみと、波にのれたら』(2019)、『夜は短し歩けよ乙女』(2017)、『四畳半神話大系』(2010)を手がけた大島ミチルがまず頭に浮かぶ。メロディアスな大島ミチルの音楽とアーティスティックな映像表現とのマッチングが絶妙だった。いっぽう、『MIND GAME』(2004)、『ピンポン THE ANIMATION』(2014)では、山本精一、牛尾憲輔といったサウンド志向の強い作曲家と組んで効果を上げている。
 今回は、湯浅作品の中でも『きみと、波にのれたら』と対極にある『カイバ』を取り上げよう。
 『カイバ』は2008年4月から7月までWOWOWで放送されたTVアニメ。湯浅政明原作・監督によるオリジナル作品で、アニメーション制作はマッドハウスが担当した。
 舞台は記憶を自由に抽出・移植できる技術が発達した世界。自由に肉体(ボディ)を乗り換えて人生を楽しむ人々がいるいっぽうで、金のために肉体や記憶を売ったり、奪われたりして苦しむ人々もいた。ある日、記憶を失って目覚めたカイバは、理由もわからないまま命をねらわれ、惑星を脱出。星から星へと旅をしながら、記憶を取り戻していく。
 簡単には説明できない、不思議な作品である。舞台は地球とはまったく異なる風景・文明が広がる世界として描かれている。記憶を自由に出し入れできる人々のメンタリティ(心理)も独特のものだ。主人公のカイバからして、開幕早々記憶を別のボディに入れ替えて姿が変わってしまうし、「カイバ」と呼ばれる場面もほとんどない。記憶とは、人格とはなんなのか。幸福とはなんなのか。そんなことを考えさせる作品である。この物語全体が、人間の脳の中で起こっていることの隠喩と受け取ることもできる。

 このユニークな作品に音楽をつけたのは、吉田潔。劇場アニメ『時をかける少女』の音楽を担当した作曲家である。
 1964年生まれの吉田潔は、アメリカのバークリー音楽大学でコンテンポラリー・アレンジ、映像音楽を専攻。帰国後、シンセシスト、プロデューサーとして活動を始めた。「打 ASIAN DRUMS」「祭」「UBUD」などのオリジナル・アルバムを発表するかたわら、イベント音楽、映像音楽などで活躍。映像音楽では、NHKスペシャル「日本人 はるかな旅」(2001)、「新・シルクロード」(2007)、「チャイナ・パワー」(2009)、アニメ『時をかける少女』(2006)、『シグルイ』(2007)、『カイバ』(2008)、『黒塚』(2008)といった作品がある。
 『時をかける少女』は生のピアノとストリングスを入れた抒情的な音楽、『シグルイ』は津軽三味線、箏、和太鼓などをフィーチャーしたエスニック風味の強い実験的な音楽だったが、本作はシンセサイザーと女声ボーカルによるエレクトロニカ。シンセシストとしての吉田潔の持ち味が発揮されている。
 『カイバ』のサウンドトラック・アルバムは単独商品としては発売されていない。バップから発売されたDVD第1巻にサントラCDが同梱された。この1枚で、重要な楽曲はほぼ網羅されている。収録曲は以下のとおり。

  1. Never(tv size-KAIBA mix-)
  2. Initialize Me
  3. Baby’s Noise
  4. Night Sound
  5. Dark Nebula
  6. Planet (laughing version)
  7. Planet
  8. Planet(enjoying version)
  9. Planet(blueing version)
  10. Planet(lonely version)
  11. Gray In Calculation
  12. Chase to It!
  13. Catch It up!
  14. Think It over!
  15. Pink Algorithm
  16. Crazy in Love
  17. Crazy in Love(light version)
  18. Memories
  19. Twinkling Photon
  20. Nightmare
  21. The Tree Song(scat)
  22. The Tree Song(a capella)
  23. The Tree Song
  24. The grand soul flits freely
  25. Hello,Goodbye,My memory
  26. Carry Me Away(tv size-KAIBA mix-)

 1曲目の「Never」と26曲目の「Carry Me Away」はSeira(加賀美セイラ)が歌うオープニング&エンディング主題歌のTVサイズ。作詞もSeiraが担当している。フルサイズは当初、配信のみで発売。加賀美セイラのアルバム「IdeAnimation」で初CD化された。大切な人を想う気持ちを歌った、ファンタスティックな美しい歌である。
 BGMはストーリーを追う趣向ではなく、テーマごとにまとめて収録されている。
 トラック2「Initialize Me」は本作のメインテーマとも呼べる曲。シンセサイザーによる背景音とSE的なサウンドの中から、大きなうねりを持った抒情的なメロディが浮かび上がってくる。女声ボーカリーズがそれに続き、浮遊感と哀感が入り混じったサウンドが展開する。「Initialize Me」とはいかにも本作らしい意味深な曲名だ。
 劇中では第1話でカイバが旅立つラストシーン、第7話でカイバが恋人ネイロの記憶の一部を取り戻す場面などに流れた。第8話以降は毎回ラストシーンに流れて、複雑な味わいのエピソードを締めくくっている。記憶を失うことや思い出がよみがえることへの不安と悲しみを象徴する曲である。
 トラック3「Baby’s Noise」は曲名どおりノイズのような音が飛び交う環境音楽風の曲。メロディらしいメロディのないサウンド主体の曲だ。第4話で保安官のバニラがカイバの記憶の中に入っていく、本作ならではの場面に流れている。ざらっとしたサウンドが奇妙で不安な場面をうまく演出していた。
 トラック4「Night Sound」は女声スキャットとフルートの音色が入り混じるエスニカルな曲。これもメロディらしいメロディはない。劇中では第2話のカイバの肉体を使って快楽をむさぼる女の場面の使用が印象的。
 次のトラック5「Dark Nebula」は、スペーシィなサウンドを使った美しい曲で、宇宙の情景やネイロの心情を表現する曲として使われている。
 トラック19の「Twinkling Photon」も同じように空間系のサウンドで奏でられる、心象風景を描いたような曲だ。
 トラック6から10は「Planet」と名づけられたテーマのバリエーション。ヨーロッパの民謡のような素朴なメロディを持つ曲である。人々の記憶が消えていく場面や記憶がよみがえる場面、記憶だけになった人格が語り始める場面などに、ときに悲しく、ときにユーモラスに流れて、物語の味わいを深くしている。この曲も、本作の重要なテーマのひとつだ。
 トラック12「Chase to It!」とトラック13「Catch It up!」は追っかけシーンによく使われた曲。本作のサントラの中では珍しい、状況描写的な楽曲である。
 トラック15「Pink Algorithm」は白玉系のシンセのフレーズと4ビートのベース音で構成されたミステリアスな曲。悪いたくらみが進行する場面などに流れた。
 トラック16の「Crazy in Love」とトラック17「Crazy in Love (light version)」はコミカルな恋のテーマ。美少女クロニカにひと目ぼれしたバニラがクロニカにつきまとう場面に流れている。しかし、クロニカの中にはカイバの心が入っているのだから状況はやっかいだ。おかしくも悲しい恋を彩るファンキーな曲である。
 トラック18「Memories」はシンセ・ストリングスとボーカリーズが奏でる悲哀曲。第3話でクロニカの肉体を売ってしまった叔母の心にクロニカの想い出がよみがえる場面やカイバとネイロの恋人時代を描く第10話の回想場面などに流れた。本作の中でも数少ない、ストレートな情感描写曲である。
 トラック20の「Nightmare」は貧しい市民が住む地下都市の情景や権力に執着する人々の暗い情念を表現する曲。淡々と刻まれるリズムがディストピアを連想させる。
 トラック21からトラック23は「The Tree Song」と題されたテーマとそのバリエーション。本作の音楽の中でも特に重要な楽曲だ。この曲は、ボーカルとコーラス・アレンジも担当したシンガー・ソングライターのMinako”mooki”Obataの作詞・作曲によるもの。
 「The Tree Song」のメロディは第3話でクロニカが奏でるピアノの曲として初登場する(ピアノ・バージョンはサントラ未収録)。以降、スキャット・バージョン、アカペラ・バージョン、歌入りバージョンなどが劇中の重要なシーンに選曲された。胸にしみるメロディと孤独な心を歌った詩は、カイバの魂の彷徨を描く物語とシンクロしている。まさに『カイバ』という作品を象徴する曲だ。
 ダンサブルな「The grand soul flits freely」と明るいマーチ調の「Hello,Goodbye,My Memory」の2曲は和田貴文の作曲。いずれも、町の喧騒の描写などに使われた。

 映像作品における音楽の役割には、映像で描かれたことを補強し盛り上げること、映像で描き切れないキャラクターの心情や背後の意味を表現することなどがある。特にTV作品では、ドラマをわかりやすくするために、わかりやすい音楽を付けるケースが多い。
 しかし、『カイバ』では、作品自体が一筋縄でいかないこともあって、音楽が映像の説明になっていることはほとんどない。悲劇が同時に喜劇であったり、喜劇が同時に悲劇であったりするのが、本作の世界なのだ。
 記憶が自由に入れ替えられたり、操作されたりする世界では、思い出も感情も、本当のものであるかどうかわからない。むしろ、記憶という頼りないものに人生を左右されてしまう人間自体が、はかなく、悲しい存在だとも言える。
 吉田潔のたゆたうような音楽は、キャラクターの心情や物語に寄り添うよりも、もっと大きな視点で、人の心のはかなさ、悲しみ、おかしさ、美しさを描いている。第4話でカイバが出逢ったおばあちゃんは、カイバに「本当に広いのは人の心の中」と語りかける(そこに流れる曲は「Planet (lonely version)」)。SF作品では、シンセサイザーの音が宇宙や高度な科学技術を表現するために使用されることが多いが、本作はひと味違う。本作のシンセサウンドが表現するのは、宇宙よりも広く驚異に満ちた世界=人の心の中なのである。

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アニメ様の『タイトル未定』
210 アニメ様日記 2019年6月2日(日)

2019年6月2日(日)
昼からトークイベント「第158回アニメスタイルイベント 亀田祥倫の新世紀の思い出のアニメを語る会」を開催。楽しいイベントだった。ただし、予定していたプログラムの半分くらいは消化できず。実は亀田さんの質問に小黒が答えるコーナーの予定があり、そのために復習していた。いずれPART2をやりたい。

2019年6月3日(月)
今日も暗いうちから散歩。その後はデスクワーク。『交響詩篇エウレカセブン』の再々視聴(再々々かもしれない)が終了。誤解を招く書き方かもしれないけれど、この作品の根幹にある価値感は、たとえば生活系アニメに近いものなのかもしれない。放映された時期の「今」とリンクした作品だということだ。文章にすると当たり前のことだなあ。例によって3冊の書籍とその特典、他の作業が同時進行。

2019年6月4日(火)
午前1時に起きて事務所に。昼過ぎまでデスクワーク。午後にマンションで休む。夕方から業界のある方と食事。ひと月遅れの誕生日ということで、ご飯をおごっていただく。インタビューのための質問状を書くのに5時間強かかった。明らかに取材時間よりも長い。ある作品のキャラ設定を見る。かなりイカす。見たことのない指示がいくつも入っている。アニメファンよりも業界の人に見せたいキャラ設定だ。『ワンパンマン』第2期を最新話数まで観た。いいところで「つづく」になった。第1期と作りは違うけれど、話としては面白い。

2019年6月5日(水)
深夜の散歩してから事務所に入ったら『夜明け告げるルーのうた』の放映中だった。Netflixで『アグレッシブ烈子』を視聴。タイトルは知っていたけど、観るのは初めて。烈子が可愛い。部下に欲しい感じ。昼間は取材の予習。18時からあるプロダンションで打ち合わせ。19時からその近くのプロダクションで取材。取材の出来は95点くらい。

2019年6月6日(木)
あるアニメーターさんから、夏の書籍で使うラフ原画のA1とendが届く。A1とendの間に何枚か画が入るのだけれど、どんな画が入るのか分からない。トリガーの移転を知る。トリガーが入っているビルには何度も行ったので、少し寂しい。午後は馬越嘉彦さんと打ち合わせ。高田馬場で「すーぱーそに子のぱわふる肉汁麺」を食べる。夏の書籍の束見本が届いた。今回の束見本は5冊。読み返してみると、この数日の日記は普段よりもとりとめがない。

2019年6月7日(金)
昨日のアニメーターさんから、A1とendを含めた全部のラフ原画が届く。予想よりも原画の枚数が多い! ポイントの原画を使ってデザインをすることになった。朝イチの回で『海獣の子供』を観る。試写会に続いて二度目の鑑賞で、映像の凄まじさを再確認。内容についても、今回の鑑賞で分かったことがいくつかあった。物語が理解できたというよりも、どんなことを伝えるための映画か、ということについての理解が進んだ感じ。渡辺歩監督の入魂の作品であることも分かった。僕が10数年、待ち望んでいた渡辺歩監督作品だったのかもしれない。午後はササユリカフェに。

2019年6月8日(土)
昼は「第22回文化庁メディア芸術祭」の「アワードカンファレンス[功労賞]セッション2「アニメーションのコンピューター化、研究領域の活性化、人材育成に貢献 -アニメーション監督/アニメーション研究者 池田宏」に。池田さん自身は体調不良のため来場できず、片渕須直さんと横田正夫さんの二人でトークが進められる。以前、片渕さんと僕の二人で池田さんに話をうかがったことがあるが、その時よりも片渕さんの池田さんについての研究は進んでいるようだ。池田さんとドキュメンタリーの関係についての話で、それを感じた。