第171回アニメスタイルイベント 
20周年記念飲み会 アニメ兄貴のこれを観ろSP!

 12月も会場にお客さんを入れるかたちでのトークイベントを開催します。タイトルは「第171回アニメスタイルイベント  20周年記念飲み会 アニメ兄貴のこれを観ろSP!」。開催日時は2020年12月6日(日)の昼。会場は阿佐ヶ谷ロフトAです。

 「アニメ兄貴のこれを観ろ」はこれから色々なアニメを観たいと考えている若いファンに、ずっとアニメを観てきた先輩達が、自分が好きな作品やお勧めの作品等を紹介するシリーズ企画です。今回の出演者はアニメーター、演出として活躍し、さらに作画研究家でもある沓名健一さん。アニメーター&マンガ家のサムシング吉松さん(吉松孝博さん)。そして、アニメスタイル編集長の小黒祐一郎。

 イベントの第1部では沓名さんには「アニメファンなら教養として観ておきたい作画アニメ」を語ってもらい、小黒は「アニメファンなら教養として観ておきたいアニメ」と「アニメ様のお勧め1980年代アニメ」を語ります(吉松さんは第1部では、主に突っ込み役となるはず)。
 イベント第2部はノンテーマのフリートークを予定してます。こちらは「飲み会」的なリラックスしたトークになるはずです。

 今回のイベントはロフトグループによるTwitCastingと、アニメスタイルチャンネルで配信します。どちらの配信も内容はイベントの第1部のみとなります。TwitCastingの配信は当日から3日間。アニメスタイルチャンネルでの配信は12月7日(月)から2021年1月8日(金)までを予定しています。

 チケットは11月28日(土)から販売開始。チケットを購入された方は会場でイベントに参加し、TwitCastingの配信も観ることができます。なお、TwitCastingの視聴のみのチケットの販売はありません。チケットについて詳しくは以下にリンクした阿佐ヶ谷ロフトAのサイトでご確認ください。

 新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止の観点から、今回のイベントは通常の半分ほどの人数で定員となります。また、飲食物についてはお客様がカウンターで注文し、その場で代金を支払うキャッシュオン形式となります。

■関連リンク
アニメスタイルチャンネル
https://ch.niovideo.jp/animestyle

阿佐ヶ谷ロフトA
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/163313

第171回アニメスタイルイベント
20周年記念飲み会 アニメ兄貴のこれを観ろSP!

開催日

2020年12月6日(日)
開場12時30分 開演13時 終演16時(予定)

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

沓名健一、サムシング吉松、小黒祐一郎

現場+配信
チケット

1500円

■アニメスタイルのトークイベントについて
 会場となる阿佐ヶ谷ロフトAはトークライブができる居酒屋。入場料(今回は配信チケット込みで1500円)とは別に飲食(最低でもドリンク1杯)をお願いしています。ソフトドリンクもあるので、未成年の方でも大丈夫です。 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。

第685回 蜘蛛ですが、なにか?

 はい、ようやく発表になりました!

『蜘蛛ですが、なにか?』来年1月より放映開始!
で、鋭意制作中!

 お話を頂いたのは前作『コップクラフト』の制作中。たしか去年の7月か8月でしたか? 荻窪のファミレス。プロデューサーが原作をテーブルの上に積んで、俺がアイスティーを飲んでいた記憶があるので、たぶん夏。「クモが主人公なんですか? 自分にくる仕事ってアクションものばっかで、最近疲れてて」とか俺。すると、「いや、これもアクションなんですよ!」ってプロデューサーが仰り、

とも。でまあ、「『コップクラフト』の終わりが見えたらホン読み(脚本打ち)やりますか」とお引き受けしたわけです。他の監督さんらがどうされているのかは分かりませんが、自分の場合は「期待してる云々」の言葉に弱いので、基本スケジュールが許す限りお受けして、その後原作を読み込んで、仕事に入っていく中で面白くなっていく、の順。今回も自然と作り始めて、現在はドップリ浸っています! で、また短くてすみません! 次回以降、もっと掘り下げます。

アニメ様の『タイトル未定』
279 アニメ様日記 2020年9月27日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2020年9月27日(日)
急に思い立って、ワイフと新文芸坐の「TAAF2020 コンペティション部門ノミネート作品上映」に。「短編アニメーション スロット1」を観る。本郷みつるさんがTwitterで勧めていたプログラムだ。短編12本を上映。フランスの『Iron Me』はアイロン台を恋人のように扱い、一緒に暮らす男の物語。着想が面白く、印象に残った。その後、昼飯をとってから事務所に。

2020年9月28日(月)
「なつぞらのアニメーション資料集[劇中アニメ・小道具編]」 編集作業が大詰め。と言っても、比較的ゆっくりと作業が進む。『妄想代理人』のオールナイトの準備も進める。
病院に行って、健康診断の結果を聞く。そして、体重を落とすことを決意する。デスクワークをはさんで「馬越嘉彦 仕事集」展示最終日のササユリカフェに。来場した馬越さんにご挨拶。そして、アニメスタイル感想ノートにイラストを描いてもらう。

2020年9月29日(火)
事務所近くの自販機に缶コーヒーのホットが入った。「なつぞらのアニメーション資料集[劇中アニメ・小道具編]」とその次に出す書籍の作業。Amazonから「フィギュア王№272」が届く。なんと表紙が『小さなバイキング ビッケ』だ。表紙のデザインもシンプルでよい。設定資料や関修一さんのインタビューも載っている。

2020年9月30日(水)
レイトショーの予習で『若おかみは小学生!』を視聴。トークの参考になるかどうか分からないけど、『茄子 アンダルシアの夏』と『MASTERキートン』で高坂希太郎さんが演出を担当したエピソードを観る。夜はレイトショー「新文芸坐×アニメスタイルSPECIAL 現代アニメの傑作 劇場版『若おかみは小学生!』」を開催。トークのゲストは高坂希太郎監督と豊田智紀プロデューサーのお二人だ。豊田さんに出てもらったおかげで、トークに広がりが出たと思う。会場では「劇場版 若おかみは小学生! 原画集」のサイン本を販売した。

2020年10月1日(木)
今年の1月から4月は自分でも感心するくらいよく働いた。5月から9月も働いてはいるんだけど、スピードが落ちている。個々のプロジェクトのスピードが落ちているのは、新型コロナのためでもあるのだけど、自分の仕事のやり方の問題でもある。10月10日くらいまでは今のペースでやるしかないんだけど、その後は仕事の進め方を変えなくては。
「なつぞらのアニメーション資料集[劇中アニメ・小道具編]」の編集作業は続いている。後から追加でお願いした素材も全て揃った。
富田耕生さんが亡くなったことを知る。アニメでは手塚治虫作品のヒゲオヤジ役、ロボットアニメの博士役等で知られる名優だ。僕個人は『鉄人28号(1980年版)』の大塚警部が特に印象に残っている。心よりご冥福をお祈り致します。

2020年10月2日(金)
購入したあるアニメムックを見て「ああ、編集費が少なかったんだろうなあ。時間もかけられなかったのだろうなあ」と思う。編集費が少ないのは、販売数を考えるとしかたないことなのだろう。きびしいなあ。
新文芸坐の花俟良王さんと話をして、今さんが新文芸坐に来たのはいつだったのかが話題になり、気になって、アニメスタイルと新文芸坐の今 敏さん関連の上映企画を確認してみた。以下のとおりだ。

…………
2005年6月4日 オールナイト「今、注目のアニメ作家たち」
2008年2月16日 オールナイト「新文芸坐アニメスペシャル(3) 今 敏」
2012年8月11日 特別上映「映画館で出逢う素晴らしきアニメーションの世界Vol.3 三回忌追悼 今 敏監督 全劇場作品」
2016年11月19日 オールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションVol. 88 アニメファンなら観ておきたい200本 今 敏のアニメーション」
2017年3月25日 オールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションVol. 91 今 敏監督の”感染する”サイコサスペンス『妄想代理人』」
2018年12月22日 オールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションVol. 110〈聖夜の奇跡〉今 敏のアニメーション」
…………

今さん自身にゲストとして来ていただいたのが2005年6月4日、2008年2月16日。この2回は「新文芸坐×アニメスタイル セレクション」のシリーズが始まる前ではあるけれど、僕も企画に関わっているはずだ。ちなみに2005年6月は今さんと湯浅政明さんがゲストだった。実はもう一人の監督にも声をかけていて、アニメ監督三人にスポットを当てる企画だった。その監督は都合が付かず、今さんと湯浅さんになったのだ。
夕方、上野で吉松さんと吞む。

2020年10月3日(土)
散歩以外はデスクワーク。新番組『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』1話を観る。手間をかけた丁寧な仕上がり。特にモンスターが大勢集まった場面の画が豪華だった。

第195回 アニマが宿る音楽 〜ソング・オブ・ザ・シー 海のうた〜

 腹巻猫です。10月末から公開されている劇場アニメーション『ウルフウォーカー』を観ました。今年観た劇場作品の中でもとりわけ心に残る1本になりました。絵本がそのままアニメーションになったような映像は、美しく、力強く、まさにアニマ(魂)が宿っているかのよう。ドラマもシンプルでいて深く胸を打つ。そして、ブリュノ・クレとKiLAが手がけた音楽がすばらしい。サウンドトラック・アルバムがiTunesでダウンロード販売中です。
https://music.apple.com/us/album/wolfwalkers-original-motion-picture-soundtrack/1539748859


 『ウルフウォーカー』はアイルランドのアニメーションスタジオ、カートゥーン・サルーン制作の劇場アニメーション。『ブレンダンとケルズの秘密』(2009)、『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』(2014)に続く「3部作の最終作」として製作された作品だ。この3作は、いずれもケルト伝説から着想を得たファンタジー。手描きアニメーションによる映像も見ごたえがあるが、3作すべてに参加しているブリュノ・クレとKiLAによる音楽も大きな魅力だ。
 今回は『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』の音楽を取り上げよう。

 『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』は、セルキーの伝説から着想された物語だ。セルキーとは、ふだんはあざらしの姿をしているが、「あざらしの皮」を脱ぐことで人間になることができる海の妖精である。岩波文庫『イギリス民話集』(河野一郎編訳)には「ウェイストネス島の男」と題されたセルキーの民話が収録されている。島の男が人間の姿になって泳いでいたセルキーの娘のあざらしの皮を隠してしまう。娘は男と結婚し、子どもをもうけるが、やがてあざらしの皮を取り戻し、海へ帰っていく。日本に伝わる「羽衣伝説」と同じ構造の話だ。『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』はこの伝説をもとにしている。
 島の灯台の家で父のコナーと妹のシアーシャと3人で暮らす少年ベン。母親のブロナーはシアーシャが生まれた日に姿を消してしまった。そのことが心にひっかかり、ベンはシアーシャにやさしく接することができない。ある日、シアーシャは父親が隠していたセルキーのコートを見つけ、それを着て海に入っていく。母のブロナーは実はセルキーで、シアーシャはその血を受け継いでいたのだ。ショックを受けたコナーはセルキーのコートを海に沈め、ベンとシアーシャを海を隔てた町に住む祖母のもとへ送り出す。しかし、町には妖精を石に変えるフクロウの魔女・マカが待っていた。
 音楽が重要な役割を果たす作品だ。セルキーの歌をはじめ、劇中ではボーカル曲(歌と歌詞のないボーカリーズ)がふんだんに使われている。
 音楽を担当したのはフランスの作曲家ブリュノ・クレ(Bruno Coulais/ブリュノ・クーレと表記されることもある)。バイオリンとピアノを学び、現代音楽の作曲家をめざしていたが、やがて映像音楽に興味を持ち、映画音楽やテレビ音楽の仕事を始めた。1996年公開のドキュメンタリー「ミクロコスモス」でセザール賞の最優秀音楽賞を受賞。音楽を担当した劇場作品には、「キャラバン」(1999)、「WATARIDORI」(2001)、「ホワイト・プラネット」(2006)、「シーズンズ 2万年の地球旅行」(2016)など、ドキュメンタリーやセミ・ドキュメンタリー作品が多い。劇映画では「クリムゾン・リバー」(2000)、「ルーヴルの怪人」(2001)、「コーラス」(2004)、「小間使いの日記」(2015)などの作品がある。
 中でも日本のアニメファンに知られているのは、カートゥーン・サルーン作品と『コララインとボタンの魔女』(2009)だろう。『ブレンダンとケルズの秘密』『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』はケルト風味たっぷりの音楽がすばらしかったし、『コララインとボタンの魔女』ではダニー・エルフマンを思わせるダークなファンタジー音楽にぞくぞくした。
 ブリュノ・クレの音楽には、シンフォニック・サウンドを中心としたハリウッド王道スタイルの映画音楽とはひと味違う特色がある。
 ひとつはボーカルの多用。「ミクロコスモス」ではミステリアスな女声ボーカルで驚異に満ちた昆虫の世界を描き、「キャラバン」では男声コーラスでネパール高原の旅を民族色豊かに彩る。「WATARIDORI」ではシンガーソングライターのニック・ケイブやロック・ボーカリストのロバート・ワイアットの歌声をフィーチャーして、渡り鳥の飛翔の高揚感や孤独感を伝えるなど、ボーカル(ボーカリーズ)曲が音楽演出の中核を担っているのだ。『コララインとボタンの魔女』にも歌やコーラスが入った曲がふんだんに使用されて、妖しくも魅惑的な世界を作り出している。
 もうひとつは、楽器の個性的な音色を生かした印象的なメロディである。もともとフランスにはミシェル・ルグラン、フランシス・レイ、ジョルジュ・ドルリューらに代表される、魅力的な旋律とサウンドで映像を引き立てる映画音楽の伝統がある。ハリウッド映画の映像に寄り添った音楽とは対照的に、音楽が作品に生き生きとした香りや彩りを与える役割を果たしている。ブリュノ・クレの音楽も状況説明ではなく(そういう要素もあるが)、世界観や空気感をまるごと表現する独立性の高い音楽になっている。
 加えて、民族楽器やパーカッション、ギター、ハープなどを使ったナチュラルなサウンド。それがドキュメンタリー映画ではとりわけ効果を発揮しているし、『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』のようなファンタジー作品でも、自然や妖精を表現する音楽に生かされている。
 ブリュノ・クレと並んで音楽担当にクレジットされているKiLA(キーラ)は1987年に結成されたアイルランドのバンド。ケルト音楽をベースに、アフロ、カリブ、ジプシー、プログレ、ファンクなど、さまざまな音楽ジャンルを融合したサウンドを聴かせる民族音楽グループである。カートゥーン・サルーンのケルト伝説3部作を彩るケルティックなサウンドはKiLAによるところが大きい。
 『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』の音楽の中心になるのは、主題歌「Song of the Sea」だ。この曲は劇中でシルキーが歌う歌として登場し、シアーシャが貝殻で吹くメロディとなって何度も反復される。シアーシャがこの曲を歌う場面が物語のクライマックスだ。
 海の場面に流れる幻想的な曲や妖精が登場する場面のボーカリーズを使った曲も印象に残る。映像と音楽が共鳴しあって、一幕の映像詩を作り上げているようだ。

 本作のサウンドトラック・アルバムは2014年9月にデジタル・アルバムとCDでリリースされた(CD版は現在入手困難)。2016年8月には日本公開に合わせた日本版アルバムがユニバーサルミュージックよりデジタル限定で発売されている。デジタル・アルバムはストリーム配信やダウンロード販売で聴くことが可能だ。
 収録曲は以下のとおり。

  1. Song of the Sea
  2. The Mother’s Portrait
  3. The Sea Scene
  4. The Song
  5. The Key in the Sea
  6. The Derry Tune
  7. In the Streets
  8. Dance with the Fish
  9. The Seals
  10. Something Is Wrong
  11. Run
  12. Head Credits
  13. Get Away
  14. Help
  15. Sadness
  16. Molly
  17. I Hate You
  18. Who Are You
  19. The Storm
  20. Katy’s Tune
  21. In the Bus
  22. The Thread
  23. Amhran Na Farraige
  24. Song of the Sea(Lullaby)
  25. La chanson de la mer(berceuse)
  26. ソング・オブ・ザ・シー 海のうた

 1曲目が主題歌。トラック23「Amhran Na Farraige」はそのアイルランド語版。トラック24「Song of the Sea(Lullaby)」はエンディング・クレジットに流れる子守唄で、次の「La chanson de la mer(berceuse)」はそのフランス語版だ。トラック26は、日本版アルバムのみに追加された主題歌の日本語版。吹替版でブロナーの声も担当した中納良恵(EGO-WRAPPIN’)が歌っている。
 トラック2からトラック22が劇中音楽である。
 曲順は独特だ。劇中使用順に並んでいるわけではない。収録曲を劇中使用順に並べると以下のようになる(カッコ内は使用場面)。

  1. Head Credits(オープニング・クレジット)
  2. The Seals(あざらしに呼ばれるように海に入るシアーシャ)
  3. Katy’s Tune(シアーシャの誕生日を祝うおばあちゃん)
  4. The Mother’s Portrait(シルキーのコートを手に入れ、海へ向かうシアーシャ)
  5. Dance with the Fish(海に入り、白いアザラシとなって泳ぐシアーシャ)
  6. The Key in the Sea(シルキーのコートを入れた衣装箱と鍵を海に投げ込むコナー)
  7. Sadness(島から町へ向かう船の上で悲しむベン)
  8. In the Streets(町でシアーシャを誘拐する妖精ディーナシー〜あとを追うベン)
  9. Molly(ディーナシーの歌の伴奏)
  10. Get Away(フクロウの襲撃を受け、石にされるディーナシー)
  11. In the Bus(シアーシャとバスに乗って逃げるベン)
  12. The Derry Tune(魔法の光に導かれて森に入っていくベンとシアーシャ)
  13. The Storm(後半)(森の中で道に迷うベンとシアーシャ)
  14. The Storm(前半)(元気がなくなったシアーシャを犬のクーの背に乗せて進むベン)
  15. Who Are You(地下で妖精シャナキーに出会うベン)
  16. Something Is Wrong(シアーシャの危機を知り、助けに行く決心をするベン)
  17. The Thread(シャナキーの魔法の力のでベンが見る過去の情景)
  18. I Hate You(魔女・マカの屋敷にたどりつくベン)
  19. Help(ベンを誘惑するマカ)
  20. Run(ベンとシアーシャを乗せて島へ走るクー)
  21. The Sea Scene(海に沈んだ衣装箱からシルキーのコートを取り戻すベン)
  22. The Song(シルキーのコートを着て歌い始めるシアーシャ)
  23. Katy’s Tune(エピローグ)
  24. Song of the Sea(エンディング・クレジット1)
  25. Song of the Sea (Lullaby)(エンディング・クレジット2)

 ストーリーに沿って聴きたい方は、プレイリストを作って並べ替えてみるのもよいだろう。
 以下、劇中使用順に紹介しよう。
 トラック12「Head Credits」は主題歌のメロディを含んだオープニング曲。幼いベンと母親の想い出の情景とともに流れ始め、スクリーンにはタイトルとメインスタッフのクレジットが映し出されていく。作品全体の序曲となる音楽である。
 トラック2「The Mother’s Portrait」は、シアーシャが魔法の光に導かれてシルキーのコートを手に入れ、それをまとって海へ向かう場面に流れる。ピアノとストリングスをメインに奏でられる夢幻的な曲だ。神秘的なイメージと母親の想いが重ねられている。
 トラック8「Dance with the Fish」は序盤の見どころ、アザラシに変身したシアーシャが魚やアザラシと一緒に海の中を泳ぐ場面の曲。ピアノ、ギター、ストリングスなどのアンサンブルが美しく幻想的な海の情景を彩り、忘れがたいシーンになった。
 町でベンが出会った妖精ディーナシーがシアーシャのために歌う場面で軽快なバンド音楽風のトラック16「Molly」が流れる。これは、ギタリストのSlim Pezinが作曲し、KiLAとPezinが演奏した曲。スタジオで即興演奏しながら作ったような雰囲気だ。
 こうしたバンド音楽的な曲は、ほかにトラック6「The Derry Tune」とトラック20「Katy’s Tune」がある。この2曲は本作のために書かれた曲ではなく、KiLAが2010年に発表したアルバム「Soisin」に収録されている既成曲である。
 トラック13「Get Away」は、ディーナシーがフクロウの襲撃からシアーシャを守ろうとする場面から、ディーナシーがフクロウの魔法で石にされてしまう場面まで流れるサスペンス曲。フィドルやパーカッションやケルトの笛が使われ、クラシック的なサスペンス音楽とは一線を画するサウンドになっている。
 トラック19「The Storm」も同じくケルティックなサウンドによる暗くさびしい雰囲気の曲。ケルトの笛の音から始まり、ストリングスとパーカッションなどによる不安な曲想に展開する。ベンの胸中に心細さが広がり、空の向こうからは黒い雲が近づいてくる。
 ベンはシアーシャとはぐれてしまい、地下で出会った妖精シャナキーからシアーシャの危機を知らされる。その場面に流れるトラック10「Something Is Wrong」は、パーカッション、ピアノ、ボイス、ストリングスなどが絡み合う、幻想的で哀愁ただよう曲だ。ケルト音楽とオーケストラ音楽が融合した本作らしい曲のひとつ。
 トラック22「The Thread」は、シアーシャを助けに向かったベンが地下のトンネルで過去の情景を見るシーンに流れる曲。母親の正体と彼女が家族のもとを去ったいきさつを知ったことで、ベンの心にあったわだかまりが消えていく。ドラマのターニングポイントとなる重要な場面である。女声ボーカルとストリングスを主体に奏でられる音楽が母親の愛情と切ない心情を描き出している。主題歌と並んで心に残る曲と言えるだろう。
 トラック3「The Sea Scene」とトラック4「The Song」は、アルバムでは頭のほうに収録されているが、劇中で流れるのは物語の大詰めである。
 「The Sea Scene」は、コナーがベンとシアーシャをボートに乗せる場面から、ベンが嵐の海に飛び込み、セルキーのコートを取り戻す場面にかけて流れる曲。前半はリズム主体のエスニックな曲調。後半からベンが海に潜るシーンになり、ギターやパーカッションによる浮遊感のあるサウンドが加わる。同じ海中シーンの曲「Dance with the Fish」と聴き比べると、サウンドは共通性がありながらも、雰囲気は大きく異なっている。
 そして、「The Song」はシアーシャが歌うシルキーの歌。劇中でシアーシャが口ずさむ歌に伴奏が加わり、さらにブロナーの歌声が加わって、スケールの大きな「海のうた」になっていく。演奏時間5分を超える、本編中でもいちばんの聴きどころの曲である。
 物語は短いエピローグで締めくくられ、エンディング・クレジットには主題歌と子守唄が続けて流れる。最後まで歌に彩られた、本作らしいエンディングだ。子守唄はここでしか流れないのだが、ブロナーがシアーシャのために歌っているのだと想像すると胸に迫るものがある。

 『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』は独特の個性を放つ作品である。アニメーションや音楽が持つ根源的なパワーがみなぎっていて、心が揺さぶられる。『ブレンダンとケルズの秘密』や『ウルフウォーカー』も同様だ。旧作は動画配信サービスなどで観ることができるので、チャンスがあればぜひ観てもらいたい。そして、映像と音楽に宿る力に触れていただきたい。

ソング・オブ・ザ・シー 海のうた オリジナル・サウンドトラック
Amazon

佐藤順一の昔から今まで(6)シリーズディレクターとレイアウトシステム

小黒 『メイプルタウン』の放送が始まった時点で、佐藤さんは25歳ですね。参加していた演出の方は、岡(佳広)さん、貝澤さん以外の方は歳上じゃないですか。

佐藤 岡さんも歳上です。確か『海のトリトン』で制作やってますからね。

小黒 じゃあ、貝澤さん以外は、作監も含めて皆さんが歳上ですか。

佐藤 作監はそうでもないです。安藤さんは同期なので、年上とは言ってもそんなには離れていないし、記憶が曖昧ですが、オニオン(ムッシュ・オニオン・プロダクション)班の伊藤奈緒美さんは歳下かもしれないです(編注:佐藤順一さんと同じ年生まれで、1学年下)。

小黒 若すぎるシリーズディレクターということでやりづらいところもあったのではないですか。

佐藤 画作りの現場で、年齢が理由でストレスが生じた記憶は、そんなにないですよね。ベテランの人達に「もっとこういう画作りしようよ」と、無理に要求すると軋轢も出るでしょうし、上手くいかずにストレスになるんでしょうけど。東映の場合、「その話を担当した演出が、その話の責任を持つ」というところがあるので、他の人の仕事につべこべ言うことはないんですよね。各話で面白いものを作ったら、ベテランの人も褒めてくれるし、評価もしてくれるので。自分がいいものを作ることで引っ張っていく、といったやり方なんです。脚本家の方も、ホン読みの時にピントが大きくズレたり、失礼な発言をしなければ、別に敵視されたりすることもないので、仕事を上手く進めていくことに関して、ストレスはないですよね。それまでとの比較で言っても『メイプル』ではストレスがなかった。『メモル』の頃は、音響現場のミキサーさんや効果さんがベテランさんで、意外と言うことを聞いてくれないことがあって(笑)。

小黒 『メモル』が始まった頃の佐藤さん、23歳ですからねえ。

佐藤 「もっとこうしたい」と思っても、「そんな音ないから」と言われて折れなきゃいけないことがよくありました。でも『メイプルタウン』の頃は「音楽の付け方が、ちょっと変じゃない?」と言われても「これは考えがあってやってるんで、いいんです」と言えるくらいには、対等の立場になっていたと思います。

小黒 奥様になられる恭野さん(編注:現在は佐藤恭野。当時は渡辺恭野)が選曲をやられるのもこの頃から?

佐藤 『メモル』の時点からやってますね。師匠の宮下(滋)さんの下でやってるんですよ。

小黒 なるほど。

佐藤 最初の音楽発注、作曲家さんとの打ち合わせ、音楽録りの段階から一緒に入ったのは、『メイプルタウン』が初めてですね。

小黒 ということは、佐藤さんも音楽発注にも関わっているわけですね。

佐藤 関わってます。それまで、音楽についての打ち合わせって、選曲家の宮下さんが書いてきた音楽メニューをそのまま使ってやることが多かったんですけど、それは『メイプルタウン』では避けたかった。「音楽メニューは監督が書くべきだ」と思ってたので、まず自分でメニューを書いて、選曲家の渡辺恭野さんと一緒に作っていったはずです。

小黒 音楽に関するビジョンはしっかりあったんですね。

佐藤 そうです、そうです。「こういう作品ならこういう曲が必要だな」ということも大体読めるようになっていたので、たとえ音楽メニューの定番のものでも、今回使わないようなものは発注しないようにしました。

小黒 キャスティングには関わっているんですか。

佐藤 はい。それも勉強になりました。東映の場合はマネージメントを青二プロダクションがやっていました。やりとりも生のやつを見せられましたので(笑)。「ああ、そういうことがあんのかあ」と思って見てました。

小黒 「そういうこと」というのは、キャスティングが決まっていく流れのことですか。

佐藤 ええ。青二のイチ推しな人が『メイプルタウン』の主役に決まらないんですよ。プロデューサーの山口(康男)さんが「それではない」と、別の会社の人を主役にするんですけど、会議の場で青二の偉い人が「この子の良さが分からないんですか?」って食い下がったりとかね(笑)。「でも、この役とこの役は青二でやるよ」というような、生っぽいやりとりを見て、それもまた「勉強になるなあ」と。

小黒 なるほど。

佐藤 実際には一番勉強になったのは、そんな大人の事情的なやりとりじゃなくってですね、印象に残っていることがあるんですよ。岡本麻弥さんが主役になるんですけど、山口さんは、岡本さんの評価ポイントとして「野性味を感じる」と言ってたんです。「パティというキャラクターをこう考えたから、このキャスティングにする」と決めるまでのプロセスが明快なんですよね。僕はパティの声は女の子が好きそうな可愛くて綺麗な声がいいかなって思ってたんだけど、そういう角度の決め方もあるのかと思ったし、勉強になりました。

小黒 グレテル役の屋良(有作)さんはどなたが推したんですか。

佐藤 グレテルはオーディションをやってるんじゃなかったかな。ちょっと覚えてないです。

小黒 屋良さんの代表作のひとつですよね。

佐藤 そうですよね。屋良さん、当時だとまだそんなにアニメの本数は多くないですよね。僕も『メモル』のトリローネさんで初めて知ったくらいですから。

小黒 この頃でも、中堅くらいの年齢だと思いますが、アニメでメインを張る感じではなかったですよね。

佐藤 元々、別の仕事をやっておられて、役者のほうに転向されたっていう話を聞いた覚えがあります。今はベテランとして現場を仕切ったりもされる感じですけど、当時はそこまででもなかった気がします。

小黒 『メイプルタウン』の1話が、佐藤さんの代表作のひとつだと思います。パティのキャラクターを掘り下げてますよね。

佐藤 はいはい。

小黒 一喜一憂したり、悩んで独り言を言ったり。

佐藤 そこで、さっきの『赤毛のアン』の話に繋がるんですね。

小黒 そうです。1話のパティはめちゃめちゃ『赤毛のアン』だなと思って。

佐藤 それはね、あると思います。『赤毛のアン』をそんなに熱心に観ていたわけじゃないんだけど、アンの言動が意識の中にあって、ああいった「女の子のちょっと面白い感じ」を入れたいと思った記憶があります。

小黒 1話はちょっと「世界名作劇場」っぽい感じがありますよね。

佐藤 そうかもしれない。『メイプルタウン』は「大草原の小さな家」をベースにしていたんですよ。それとは関係なく、確実に『赤毛のアン』を意識した芝居付けをしてますね。

小黒 パティ以外で、佐藤さんが推したキャラや、膨らませたキャラはいますか。

佐藤 『メイプルタウン』だとどうだろう? やっぱりパティを一番広げたとは思いますけどね。あとはキツネで長女のダイアナが、やりやすくて好きだった気がします。それにダイアナのお母さんもちょっと面白いキャラではありますよね。

小黒 いつも釣りしてるカワウソがいて、シリーズ通してアクセント的に使ってましたよね。あれは脚本に入ってるんですか。

佐藤 入ってたと思います。そもそもは、ウサギ等の動物を人形のお家に並べて遊ぶということが出発点なので、各キャラクターに関しては、スポンサーからオーダーがあったと思うんですね。

小黒 シリーズディレクターとして、メーカーさんとのやりとりにも参加して、それを作品に反映させるようなお仕事をされていたわけですね。

佐藤 ええ、バンダイにも行きました。パティのデザインを持って玩具の会議に行った時に重役の方が「この目では目線が分からないから、白目を入れたほうがいいのではないか」という案を出してきて(笑)。「やべえ! このままにしといたら、白目が入っちゃう」と思って「目線はハイライトの位置等でも出せます。常に入れちゃうと可愛くなくなるからこれは黒目だけでよいと思います」と力説した記憶がありますね。

小黒 話は前後するんですけど、この時に佐藤さんが、東映内でアニメーション制作の新しいシステムを作ったんでしたね。まず、演出がレイアウトをチェックして、レイアウトを戻してから、原画マンが原画を描くというフォーマットを作った。

佐藤 はいはい。

小黒 制作のフローチャートを作って、『メイプルタウン』からそれを使い出したんですよね。

佐藤 そうです。

小黒 記事を読んでる人に説明すると、それまでは、原画マンがレイアウトと原画を同時に出していた。だから、レイアウトが演出意図と違った場合は全てを描き直すか、演出家が諦めるしかなかった。描き直すと作業に無駄も生じるし、そのやり方だと演出家が構図等に立ち入りづらかったわけですね。

佐藤 そうですねえ。それまでも自分の話数に関しては「レイアウトを先に見せてください」と言って、そうやっていたんですけど、シリーズ通してそのやり方にしようと思ったのは、この時かな。

小黒 ということは『メモル』や『ステップジュン』でも、佐藤さん自身は原画の前にレイアウトを見てたんですか。

佐藤 やってたと思いますね。だから『メイプル』で、特別凄いことをやろうと思ったわけではなくて、それまで自分の話数でやっていたことを、全話数でやると決めただけです。ただし、それをやったら、制作部から「原画とレイアウトを同時に上げるかたちに戻せ」と言われた。作業の遅れについて「レイアウトを出してOKがでてから原画を描いていて、一工程増えているので遅くなっている」と説明した作画班があったんでしょうね。
 それで制作部と話をして「枚数をかけないスタイルの作品にとって、レイアウトは重要なファクターで、これを直せないのは、演出の武器をひとつ奪われたに等しいことである」と言ったら「それは分かる」と。それで「もし、原画とレイアウトを一緒に出すなら、レイアウトがNGだった場合に原画も全部描き直しになっちゃうんですが」「それでもいいからまとめて上げるかたちでやってくれ」というやりとりがあって、その時は「分かりました」と言いました。その後で原画が上がってきて、直しを出していくと、当然レイアウトも原画もほぼ全カット全部描き直しになる。そうすると、作画班から「レイアウトを先に出させてください」と要望が出た。それで、レイアウトを先に出してチェックをするというやり方が定着した。そういった若干の戦いがありました。

小黒 日本のアニメのレイアウトの歴史だと、おそらくかなり早いです。

佐藤 ほう。

小黒 「世界名作劇場」では1970年代から宮崎駿さんをはじめとする、レイアウト専門の役職を立てて、その人達がレイアウトを描くというシステムをとっていました。それは演出家がレイアウトをチェックするのとはやり方が違いますが、レイアウトシステムの先駆けですよね。亜細亜堂もレイアウトシステムの導入は早かったと聞いています。

佐藤 ああ、なるほど。

小黒 今では当たり前になった、演出家が原画作業の前にレイアウトをチェックする工程が定着するのは、アニメ界全体だと、80年代後半か90年代のはずです。だから、1986年放映開始の『メイプルタウン』でやっている佐藤さんはかなり早いんです。

佐藤 早いんだねえ。まあ、作画を凄く力のある人がやってくれれば、意外とそれでいいっていうこともあるんですけどね(笑)。

小黒 画が巧ければ、レイアウトがよいことも多いということですね。

佐藤 うん。『パタリロ!』の時、スタジオバードも伊東誠さんの班も、原画とレイアウトが同時に上がってきてましたけど、レイアウトがマズいと思ったことはないですもんね(笑)。

小黒 レイアウト段階で演出、作監がそれぞれ見るという現代のアニメで当たり前になっているシステムはこの辺りから始まるわけですよ。

佐藤 ああ、そうだね。僕にとっては、戦いの果てに手に入れたシステムだったね。


●佐藤順一の昔から今まで (7)パイロットフィルムと『ビックリマン』 に続く


●イントロダクション&目次

第684回 今の心境


 まあ、そんなわけで今回もなんの話を、とか言うと「ほぼ丸14年の週間連載やってて、ついにネタ切れか?」などと思われるかもしれませんが、それはまずあり得ません。アニメ様(小黒編集長)より頂いたテーマ「古今東西アニメに関することならなんでも」ならネタは尽きないでしょう。なぜなら、

アニメの仕事は無限に面白く、奥深いものだから!

です。あとその辺にある話題に噛み付いたり、愚痴ったりなどはしたくないし、政治や経済とかろくに知りもせず、不勉強な意見を無責任にアニメスタイルに上げるわけにもいきません。そもそも、そういったことが言いたいなら、とっくに手前でTwitterやってますよね。
 とか言いつつ、この連載も10年前はもっとトゲトゲしいことをいっぱい書いてたと思います。ところがここ数年はあまり激しい論調は控え気味になったと思います(そう思いません?)。別に日和ったとかではなく、ちゃんと理由があるのです。それは、

今の自分が、今まで生きてきた中でいちばん幸せだと思えてるから!

です。だから、年とって牙をなくしたわけではなく、世間に唾棄したり愚痴ったりしたいことがないんです(これはマジ)。身の丈にあった仕事もいっぱい頂けてるし(来年以降の話も、もうあります)。
 あと、人生も折り返し地点を迎えて

世界のいろいろな事、物、そして人。できるだけ多くを「肯定」して死んでいきたい!

とも。そして、二十歳前後の新人を毎年面倒見て、いろいろな不満や悩みを打ち明けられると「ああ、俺も同じこと考えてたなあ」とか、アニメ業界に入ってくる新人を面倒見させてもらえる環境もまた幸せ。あ、時間切れ。

アニメ様の『タイトル未定』
278 アニメ様日記 2020年9月20日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2020年9月20日(日)
無観客配信トークイベント「アニメスタイルTALK 沓名健一の作画語り」を開催。「沓名健一と語るアニメ作画の20年」と「続・沓名健一と語るアニメ作画の20年」と、この日のイベントで「WEB系」から近年の「デジタル作画によるスーパーアクション」への流れが見えたと思う。この後も沓名さんに出演してもらうイベントを開催する予定だ。イベントは14時頃に終了。今回も打ち上げはやらず、その場で解散。ちょっと寂しい。

2020年9月21日(月)
起きたのは9月20日の21時半。入浴したり、Kindleで本を読んだりしてから、9月21日の午前1時半に事務所へ。その後はゆったりと作業を進める。
Kindleの読み放題で「発作的座談会」があったので読む。椎名誠さん、沢野ひとしさん、木村晋介さん、目黒考二さんの座談会集で、紙の本の刊行は1990年。1990年だったら、この4人は40代半ばであり、僕は20代半ば。当時は「面白いおじさん達だなあ」と思って読んでいたはずだ。今では僕は50代半ばなので「元気なお兄ちゃん達だなあ」と思いつつ読む。その感覚がちょっと不思議。

2020年9月22日(火)
4連休の最終日。14時くらいまでデスクワーク。取材の予習で実写映画「サイモン&タダタカシ」と「フラッシュバック・メモリーズ」を配信で観る。どちらも『音楽』監督の岩井澤健治さんが参加した実写映画だ。マンションで休んでから、ワイフと新宿武蔵野館に。21時からの回で『音楽』を観る。僕は2度目の鑑賞だった。どうして21時からの回だったかというと、今はこの回の上映しかやっていないのだ。話は変わるが、新宿武蔵野館の予告でやっていた映画はどれも面白そうだった。
Kindleで「純情クレイジーフルーツ」前編、後編を読む。これもタイトルだけ知っていて読んでいなかった少女マンガだ。今の目で見ても充分に面白い。キャラクターが魅力的だ。時代の気分も懐かしい。
山本圭子さんが下肢骨折の治療のため休養をとることになり、『サザエさん』の花沢さんに代役が立った。代役は伊倉一恵さんだと思う。録画を観たところ、大健闘だった(後日、代役が伊倉一恵さんだったことが「100日サザエさん」アカウントのツイートで明らかになった)。

2020年9月23日(水)
雨天のため、早朝散歩はおやすみ。13時までは取材の準備、進行中の書籍作業、ちょっとした原稿などで大忙し。14時から新宿で「この人に話を聞きたい」取材。今回登場していただくのは『音楽』監督の岩井澤健治さん。学生時代のことからたっぷりと話をしてもらった。
『ソードアート・オンライン アリシゼーション』の視聴開始。

2020年9月24日(木)
またも雨天のため早朝散歩はおやすみ。夕方までずっとデスクワーク。「なつぞらのアニメーション資料集[劇中アニメ・小道具編]」 の表紙案がかたまる。馬越嘉彦さん描きおろしイラストの缶バッチの制作も進む。
『ソードアート・オンライン アリシゼーション』を最終回まで観て『ソードアート・オンライン アリシゼーション War of Underworld』を観始める。イベントで泉津井陽一さんが「最近のもので、撮影が凄いアニメと言えば『ソードアート・オンライン』だ」と言っていたが、その意味が分かった。

2020年9月25日(金)
うっすらと雨が降る中、ワイフと早朝散歩に。ワイフとグランドシネマサンシャインの13時からの回で「TENET テネット【IMAXレーザーGT字幕】」を鑑賞。ワイフは大満足。僕も「映画を観たぞ」という気分だ。ただ、メインのアイデアは映像に落とし込むのが難しいタイプのもので、二度目以降の鑑賞で理解できる部分が多そうだ。とにかく、これでネットのネタバレを気にしなくてすむ(すでにいくつかネタバレをくらっていた)。食事をしてから事務所に戻る。

2020年9月26日(土)
雨天のため早朝散歩はおやすみ。午前10時くらいまでデスクワーク。傘をさして池袋から東中野まで歩く。東中野から電車で西荻窪に。ササユリカフェの「アニメスタイル20周年展」の「馬越嘉彦 仕事集」の展示を見る。池袋に戻ってデスクワーク。17時から吉松さんとSkype吞み。
『ソードアート・オンライン アリシゼーション War of Underworld』を最終回まで観る。ラス前まではNetflixで。最終回は配信がまだだったので録画で観た。

新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 127
超大作OVA全話上映!ジャイアントロボ THE ANIMATION 地球が静止する日!!

 2018年、2019年に続いて、今年も『ジャイアントロボ THE ANIMATION 地球が静止する日』全話上映のオールナイトを開催します。

 『ジャイアントロボ THE ANIMATION 地球が静止する日』は横山光輝原作、今川泰宏監督によるOVAシリーズです。「水滸伝」「三国志」「鉄人28号」「マーズ」等、横山光輝作品のキャラクターがメイン、サブを問わず、続々登場。ケレン味たっぷりの演出。濃いキャラクターとダイナミックなアクション。アニメ史上空前にして、おそらく絶後の豪華キャスト陣。天野正道作曲、ワルシャワ・フィルハーモニーによるフルオーケストラのBGM。作品コンセプト、ドラマ、ビジュアル、出演者、音楽、その全てにおいて破格の娯楽作です。

 この傑作OVAを劇場の大スクリーン、劇場の音響で楽しんでください。開催日は2020年11月28日(土)。トークのゲストは音響監督の本田保則さんです。

 なお、新型コロナウイルス感染予防対策で、観客はマスクの着用が必要。入場時に検温・手指の消毒を行います。全席指定席で、前売り券の発売は11月21日(土)から。前売り券の発売方法については、新文芸坐のサイトをご覧になってください。

新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 127
超大作OVA全話上映!ジャイアントロボ THE ANIMATION 地球が静止する日!!

開催日

2020年11月28日(土)

開場

開場:22時10分/開演:22時30分 終了:翌朝6時00分(予定)

会場

新文芸坐

料金

一般2800円、友の会・シニア2600円

トーク出演

本田保則(音響監督)、小黒祐一郎(アニメスタイル編集長)

上映タイトル

『ジャイアントロボ THE ANIMATION 地球が静止する日』全7話(1992~1998/BD)

備考

※オールナイト上映につき18歳未満の方は入場不可
※トークショーの撮影・録音は禁止

●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

佐藤順一の昔から今まで(5)『機動戦士Ζガンダム』と『メイプルタウン物語』

小黒 『ステップジュン』の放送中に、ペンネームで『機動戦士Ζガンダム』(TV・1985年)の絵コンテを描かれてるわけですね。

佐藤 そうです。富野(由悠季)さんに、僕の仕事のサンプルとして送られたのが『ステップジュン』2話のコンテだったので、その時期で間違いないです。

小黒 これはどなたからのご紹介だったんですか。

佐藤 オファーをくれたのは、バンダイビジュアルにいた高梨(実)さんだと思いますね。高梨さんは『メモル』を観て「こいつ面白そうだな」と思ってくれていたようで、サンライズの内田(健二)さんから「誰かいない?」と聞かれた時に、僕を推してくれたんじゃないかな。この縁がゆくゆくは『ユンカース・カム・ヒア』(劇場・1995年)に繋がるんです。

小黒 なるほど。東映の研修生は他所の仕事をするのはマズかったんですか。

佐藤 基本的には、そうですね。『Zガンダム』の前に芦田(豊雄)さんがやっていた『(超力ロボ)ガラット』(TV・1984年)のコンテの話をもらったことがあって、面白そうなのでやりたいと東映の制作に言ったんですよ。そしたら制作からは「駄目に決まってるだろ」と。芦田さんにも「そりゃあ制作に聞いたら駄目だよ」と言われて、やっとそこで外の仕事をするのは認められていないのが分かって。だから『Ζガンダム』の時は言わないでやりました(笑)。

小黒 (笑)。何度かお話になってると思いますが、『Ζガンダム』のお仕事はいかがだったでしょうか。

佐藤 さっきも話題になったように『ガンダム』を全然通ってないので、富野さんがどういう人かもよく分からなかった。サンプルとして、1話の今川(泰宏)さんのコンテが届いたんですが、それは富野さんが筆ペンでガンガンと罵詈雑言を書き足したものだったんです。それを見たので「富野さんは、今回のTVシリーズはかなり映画的なテイストでやりたいんだろうなあ」という事前情報を持って臨むことができたんですね。

小黒 今川さんが描いた絵コンテがアニメっぽい派手な見せ方をしていて、それに対して富野さんが駄目出しをしていたわけですよね(編注:余談だが、富野監督による絵コンテへの書き込みの中に「このアニメ屋が」というものがあった。否定的なニュアンスの言葉だが、それをかっこいいと思った佐藤順一は、自ら「アニメ屋」と名乗ることにした)。

佐藤 ですね。もしかしたら、その前がマンガテイストな作品だったかもしれないんですけど、「同じつもりでやるんじゃない」というふうなことが書いてあったんですね。

小黒 なるほど。

佐藤 登場人物についても「このシリーズで重要なキャラクターの初登場シーンなのに、これかよ」とか、色々書いてありました。富野さんのところに行ったら、コンテの打ち合わせが「このシーンはどういう感情で」といった話じゃなかった。「キャラクターAとBが向かい合っている。同ポジでいきたいんだけども、場所を変えたい時はどうすればいいと思いますか?」という謎掛けみたいなことを言われて。

小黒 キャラクターがお互いに向かい合っていて、そのまま同ポジ?

佐藤 正確には覚えてないですけど、場面が変わっても同ポジを使いたい時はどうすればいいのか、みたいな話だったかと。とにかく、そういう演出の方法について急に謎掛けをくださるんです。

小黒 それはコンテを担当する「シンデレラ・フォウ」の内容とは関係ないんですか。

佐藤 関係ないですね。

小黒 (笑)。

佐藤 背景が大きく変われば当然違う場所になったように見えるけど、単純にそういうことではないよなと思ったので「分からない」と言ったら、「背景を変えるんです」と言われた。つまり、シンプルな話でした。サンプルとしてお渡しした僕の絵コンテで何かひっかかったのかもしれないですが、その時思ったのは富野さんは次世代に教えていくモチベーションが強い人なんだろうなあ、ということでした。

小黒 なるほど。

佐藤 カット割りといえば、『ステップジュン』2話の最後でも、切り返しでイマジナリーラインを越えたカット割りをやっているところがあったんです。富野さんに「これはイマジナリーラインを越えてますね」と駄目出しをもらったんですけど、「わざとやりました」と口答えしてもいけないと思って「はあ」と言いましたね(笑)。

小黒 佐藤さんはわざとやってたんですね。

佐藤 そうなんです。当時イマジナリーライン信者が凄く嫌いだった(笑)。学校でもイマジナリーラインについては学んでたけれど、東映動画に入ってみたら、先輩に映画マニアみたいな人がいて、イマジナリーライン等について教えてくれるんです。だけど、その人達が作ったものが面白くなかったから「それはいうほど重要ではないのでは?」という気持ちがずっとありました。だから、あえてそういうルールに逆らったものを作ろうという気持ちがあったんですよ。

小黒 なるほど。

佐藤 話を聞いて、この回でやりたいと思ってるものが分かったので、仕上がった絵コンテに関しても、そんなにガツンと直しを食らうことはなかったですね。

小黒 『Ζガンダム』のシナリオは枚数が多かったと聞いています。シナリオが尺オーバーだったということはなかったですか。

佐藤 よく覚えてないですが「(東映の)外のシナリオは長えなあ」と思ったような気もします。でも、尺オーバーだったとしても、そのままの長さでコンテ切ったんじゃないかなあ。

小黒 最初に担当した19話「シンデレラ・フォウ」はフォウ・ムラサメにスポットが当たる回ですよね。内容とか、キャラクターの把握はどうだったんですか。

佐藤 自然に受け止めることができたので、そんなに難しくは思わなかったですね。それほど突拍子のないキャラも出ていない回なんじゃないですかね。

小黒 そうかもしれないです。

佐藤 戦闘シーンに一番直しが入っていましたね。富野さんの直しには「ロボットの動きだけでは感情が動かないので、カットインで表情を入れるものである」という注意書きが入っていましたね。それから、カミーユとのシーンで、フォウが手で金網に触れながら走るのは、富野さんが追加した描写です。

小黒 金網のくだりは、富野さんが足した部分なんですね。流石ですね。

佐藤 ええ。「ああ、そういうことかあ」と分かりました。その後のベンチに座ってのやりとりとか、目線のやりとり等は僕の出したものがそのまま残ってると思います。

小黒 直された絵コンテが戻ってくるんですね。

佐藤 戻ってきますね。直した意図が、筆ペンで書かれたやつが戻ってきます。そういう手間が掛かることを、富野さんはちゃんとやってるということですね。

小黒 『Ζガンダム』では2話分の絵コンテを描いていらっしゃいますね。2度目の33話「アクシズからの使者」もスムーズにできたんでしょうか。

佐藤 こちらもそんなに迷ったりはしなかったんですけど、脚本だと牢屋から脱出するのが、カミーユがお腹が痛いふりをして看守を引きつけるというかたちだったのかな。それが都合よすぎる感じがして、クワトロとカミーユが口論をして、クワトロが本気で殴るという段取りを足したと思うんです。

小黒 それにもチェックは入ったんですか。

佐藤 ちゃんと文章が来て、「考え方のルートは今回は合っていた。合っているので、このコンテでよいのだが、これはコンテにする前に監督に問い合わせて相談すべき事柄である」と。ひと言、お小言が書いてあるんです。

小黒 なるほど。

佐藤 「それもそうだな」と思って(笑)。そんなところも勉強になりました。

小黒 『Zガンダム』と『ケロロ軍曹』(TV・2004年)の間にも、サンライズの仕事はいくつかありますよね。

佐藤 どれもコンテだけの参加ですよね。『0080(機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争)』の2話と5話かな。それと『(天空の)エスカフローネ』(15話)と『(カウボーイ)ビバップ』(18話)ぐらいかな。

小黒 『ビバップ』は佐藤さんの代表作ですよ。

佐藤 「フレー、フレー、私」が?(笑)

小黒 「フレー、フレー、私」が代表作ですよ!

佐藤 その辺は単発でパラパラとお仕事いただいてやってますね。あとは『(THE)ビッグオー』のストーリーボードもやったっけな。

小黒 『ビバップ』以外は甚目喜一(はだめきいち)名義の仕事ですよね。昔、田舎に住んでいたお爺ちゃんが東京にやって来て絵コンテを描いているようなイメージのペンネームだと聞きましたが。

佐藤 そんなことを言ったっけ(笑)。実際は出身地の甚目寺町(じもくじちょう)の「甚目」と、母親の名前の「喜」の一字を取って、甚目喜一としています。

小黒 話を戻すと、『Ζガンダム』への参加は勉強になったのでしょうか。

佐藤 なりましたね。監督のスタイルって色々あるんだと実感しましたからね。

小黒 東映の作品に戻ると、『ステップジュン』の次が初シリーズディレクターを務めた『メイプルタウン物語』(TV・1986年)ですね。『メイプルタウン』も準備室がありましたね。

佐藤 あったかな?

小黒 二宮(常雄)さんがいて、キャラクターを描いていたのを覚えています。

佐藤 はいはい。狭い部屋があった。

小黒 『メモル』に続きオリジナルですね。『ステップジュン』もオリジナルに近いので、佐藤さんとしてはオリジナル作品が続いている感じだったのでは。

佐藤 そうですね。『ステップジュン』も作り方がオリジナルの作り方なんですよね。

小黒 後に手掛ける『悪魔くん』(TV・1989年)もそうですね。

佐藤 そうです。『もーれつア太郎』(TV・1990年)も原作はあるけど、オリジナルの部分が多いんですよ。純然とした原作ものはあまり手掛けていないんですよね。

小黒 『メイプルタウン』は、どの段階から参加されてるんでしょうか。

佐藤 最初の構成をやっている頃からだと思いますねえ。東映のやり方だと、基本的にプロデューサーとシリーズ構成が方向性を決めて、それからディレクターを探すんです。だから、ある程度の型ができた後での参加になるんですけどね。

小黒 佐藤さんが参加した段階でメイプルタウンという街があって、動物達が暮らしているということは決まってるわけですね。

佐藤 決まっていますね。キャラクターデザインも二宮さんに決まっていて、キャラを描き始めていましたね。

小黒 スタッフワークも制作の方が既に決めているんですね。

佐藤 東映は基本そうですね。制作の方とプロデューサーで現場を決めるのが普通なので。

小黒 美術が小林祐子さんと有川知子さんですけど、これは抜擢だったんでしょうか。

佐藤 美術部の方の大抜擢で、彼女達にやらせようということになったのだと思います。

小黒 今観ても「背景を見せるアニメ」になってますよね。

佐藤 『メモル』からの流れで、背景に個性を持たせることが大事なんだという認識が、演出の中にもありましたね。

小黒 佐藤さんとしては、どのような意気込みだったんでしょうか。

佐藤 シリーズディレクターをやるに当たって、まずは無理なく作れるようにしておきたいという思惑があったんです。最初に『メイプルタウン物語』の画面の作りの指針みたいなものを描いたんですよ。この間、稲上(晃)君が当時から持っていたものを見せてくれて、それまでは描いたのを忘れていました。「構図は平面的でいい」ということを含めて色々と指示してありましたね。

小黒 当時、その画作りの基本方針の書類は拝見しました。「こういう構図なら、止めセルを上下させて歩いているように見せてもいい」といったことが書いてありましたね。

佐藤 そうそう。無駄な負荷を掛けなくていいように、ちゃんと設計しとこうという考えがありましたよね。

小黒 確か「家の断面図は見せよう」という項目が最後にあって、それだけは、ほぼ実現してないんですよね。

佐藤 そうなんです。1話でやっただけでした。やっぱり無理だったなと思いました(苦笑)。

小黒 (笑)。

佐藤 誰もやってくれなくて。

小黒 話の必然性がないとやんないですよね。

佐藤 まあ、確かにねえ。できること、できないことってやっぱりあるので、やりながら変わっていくものですね。そういうのは「無理にやれ」ではなく、できないものはできないでいいからと言っていますね。


●佐藤順一の昔から今まで (6)シリーズディレクターとレイアウトシステム に続く


●イントロダクション&目次

第683回 なぜ出崎アニメ?

もう俺にとって、アニメは出崎アニメだけでいいっ!

 まだ今作ってる作品のタイトルが発表できないので、今回も出崎統監督の話。なぜなら板垣はハッキリ言って「アニメとは出崎監督作品のこと」だと思っているからです!

「板垣くんはなんでそんなに”出崎”なの? 君とはタイプが全然違うのに」

と以前、MAPPAの丸山正雄(現在・代表取締役会長)より訊かれたことがあります。誰よりも出崎監督を知り尽くした丸山プロデューサーから「出崎」という名前が出ただけでなく、「君とはタイプが〜」と比較されたようなお言葉をいただけただけで畏れ多くて、その時なんと返答したのか憶えてはいないのですが、おそらく「だって出崎さん、最高じゃないですか!」的な返しをしたと思います。あ、その際の以下のおしゃべりは憶えてます。

板垣「出崎さんて、企画とかジャンルとか選ばず、どんな原作でも自分の作品にしちゃうじゃないですか。そこが本当に凄いんですよ!」
丸山「そんなことない! 統ちゃんは作品選んでる」

 その話は俺にとってかなり意外な話で、亡くなられるまで引っ切りなしに監督作が続いていた出崎さんが、企画(仕事)を選んでいた——選ばずにすべてこなしていたら、いったい何本の出崎アニメが世に出ていたことか?
 また、今まで何人かのプロデューサーから「板垣さんはオリジナルはやらないの?」と訊かれたんですが、いつも「そんなん誰が期待してくれて、どこがお金出すんですか? 俺は基本、身の程をわきまえていますから」と答えていたのです。でも、本音を言うとあまり興味がないんです、オリジナルというものに。だって

どの作品も原作を上回る映像的な魅力と、さらに掘り下げられた演出(コンテ)によって、各キャラクターがまるで実在する人物であるかのように描かれた躍動感溢れる出崎アニメ! いや出崎フィルム!

を知ってしまうと「監督のオリジナル作品であることが最優先事項だ」なんて、マンガ家に挫折した俺にとっては、とっくの昔に諦めてることですから。「運がよければ1本オリジナルできたらな〜」くらい。1本のオリジナルより10本の原作ものがやりたいと思ってます。出崎監督ご自身がオリジナル企画についてどうお考えだったのかは存じ上げませんが、少なくとも板垣が築き上げたいフィルモグラフィーは、数年おきに劇場オリジナル作って30年で10本より、毎年何かしら監督して30年で30本以上できたら悔いなく死んでいけるかと。考えは人それぞれだと思います。

アニメ様の『タイトル未定』
277 アニメ様日記 2020年9月13日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2020年9月13日(日)
午前中はテキスト作業と取材の予習。13時からZoomで佐藤順一さんのインタビュー。「佐藤順一の昔から今まで」の2度目の取材だ。自分がホストでZoom取材をやったのは初めてだけど、録画と録音をクラウドに残せるのね。取材後、Kindleで「チェンソーマン」の1巻から4巻を読む。面白い。

2020年9月14日(月)
作業をしながら、13日の『ちびまる子ちゃん』『サザエさん』「魔進戦隊キラメイジャー」「仮面ライダーセイバー」『BORUTO』『ポケットモンスター』を再生。その後、「天元突破グレンラガン キラメキ☆ヨーコBOX」と「グレパラ 〜グレンラガン パラレルワークス〜」「同パラレルワークス2」を再生。
13日の『ポケットモンスター』はアローラが舞台の話で、『サン&ムーン』のキャラクターも登場。「あれ?」となってネットで確認したら、今のシリーズって『サン&ムーン』の後の話なのね。1話の最後でサトシとピカチュウが出会いが描かれていたので、物語がリセットされたのかと思っていた。1話と2話の間に『サン&ムーン』等の過去シリーズがあったと思えばいいということかな。
西口「うどん酒場 香川一福 池袋」で、東京都内の新型コロナ感染者数と同じ価格で生ビールを提供するというサービスをやっており、某社のアニメプロデューサー、ワイフと共に飲みに行く。13日の感染者が80人だったので生ビールが80円。念のため書いておくと、安いから行ったわけではなく、サービスのアイデアが面白いから行ったのである。ビールが安い分、つまみをたっぷりいただく。

2020年9月15日(火)
早朝散歩と銀行に行った以外はずっとデスクワーク。dアニメストアで『しあわせソウのオコジョさん』を数話観る。次は『弱虫ペダル』を観る。ある話のコンテがいいと思ったら、今回も鍋島修監督のコンテだった。
旧サイト「WEBアニメスタイル」の自分のコラムを見て、単純ミスがあまりに目立つので直したくなる(後日、事務所スタッフに直してもらった)。

2020年9月16日(水)
早朝散歩の後はずっとデスクワーク。サンドイッチとビールの組み合わせで食事がしたくて、近くのファミレスに。「チェンソーマン」5~8巻を読む。若々しい作品で、その若さがいい。

2020年9月17日(木)
10時半から、書籍関連の企画のためにある会社の方達と打ち合わせ。一度、事務所で資料を見てもらってから、喫茶店に移動。社内スタッフがテレワークになった頃、2階の打ち合わせ用テーブルを片づけてしまったので、事務所で多人数の打ち合わせができないのだ。
ここ数日は停滞ムードだったのだけれど、急に色々なことが動き出す。忙しさが気持ちがいい。

2020年9月18日(金)
夕方から「DVD化されていない映像作品を含む約6000タイトルのビデオテープを導入した」というSHIBUYA TSUTAYAに。なんでもかんでもあるわけではないけれど『御先祖様万々歳!』『魔法のスター マジカルエミ 蝉時雨』『ダウンロード 南無阿弥陀仏は愛の詩』等のVHSテープはあった。これから仕事のためにチェックしたい作品があるのではないかと思ったのだけど、それはなかった。帰りは「ドラゴンクエストウォーク」をやりながら、渋谷から代々木まで歩く。

2020年9月19日(土)
買い物と散歩以外はデスクワーク。16時から吉松さんとSkype吞み。『弱虫ペダル』TV第2シリーズを最終回まで観た。以下は第1シリーズ、第2シリーズまとめての感想。初見時のほうが面白かったが、今回の視聴も楽しめた。やはりよくできた作品だ。二度目の視聴だと「ここはもっとたっぷりと描写してほしい」と思ったりもするが、淀みなくスムーズに進むところもこのシリーズのいいところであるはずだ。

第194回 街の記憶 〜サクラダリセット〜

 腹巻猫です。3月公開の予定が延期になっていた『映画 プリキュアミラクルリープ みんなとの不思議な1日』が10月31日に公開されました。子どもたちがミラクルライトを振って応援する姿を見るためにわざわざ休日を選んで劇場に観に行ったら、今年は新型コロナウイルスの影響でミラクルライトを振るのは自粛なんですって。さびしい。でも、公開されて感無量です。サウンドトラック・アルバムは10月28日に発売。構成・解説・インタビューを担当しました。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0841ZN46W/


『映画 プリキュアミラクルリープ みんなとの不思議な一日』のストーリーは時間ループもの。何度も巻き戻される時間の謎が物語のカギとなっている。
 今回は時間の巻き戻しを扱ったTVアニメ『サクラダリセット』を取り上げよう。
 『サクラダリセット』は2017年に放映されたTVアニメ作品。住人の半数が特別な能力を持つ街、咲良田(さくらだ)を舞台に、記憶保持能力を持つ高校生の少年・浅井ケイと、ケイの同級生で世界を最大3日分巻き戻す「リセット」能力を持つ少女・春埼美空(はるき・みそら)が、街の人々を不幸から救おうとする物語だ。
 春埼の能力「リセット」はタイムトラベル能力ではない。あらかじめ「セーブ」しておいた日付・時刻の状態に世界を再構築する能力、と説明されている。セーブされていなければリセットすることはできず、自由に時間を行き来できるわけではない。ゲームをセーブしたところから再開するのと似た能力なのである。
 ケイと春埼はこの能力を使って、一度起きた出来事を変化させようとする。子どもが母親から引き離されるのを食い止めたり、猫を交通事故から救ったりと、その活動は身近なことからスタートするが、やがて2人は街の能力者を管理しようとする組織「管理局」の計略に巻き込まれていく。そして、ケイは心にひそかな目標を抱いていた。それは、過去にリセットを使った影響で死なせてしまった同級生・相麻菫を復活させること——。
 派手さはないが、よく練られたストーリーと繊細な心情描写に引きこまれる。SFというより青春ドラマの色合いが強い、じわじわとしみてくる作品だ。
 原作は河野裕のライトノベル。アニメーション制作はdavid production、音楽はRayonsが担当した。

 Rayons(レヨンズ)は作曲家・中井雅子のソロプロジェクト。Rayonsの名はフランス語で「光線」「半径」を意味する言葉から採られている。
 中井雅子は音大にてクラシック、管弦楽法、ポップス、スタジオワークを習得。卒業後、音源製作活動を開始した。作曲、ストリングスアレンジ、ピアノ演奏等で幅広く活躍する音楽家である。2012年、ミニアルバム「After the noise is gone」でデビュー。2015年にアルバム「The World Left Behind」をリリースした。本作以外の映像音楽作品に、劇場作品「ナミヤ雑貨店の奇蹟」(2017)、「サヨナラまでの30分」(2020)等がある。
 インタビューによれば、中井雅子は中学生の頃から映画を見始め、映画音楽を作りたいと考えて作曲科に進んだそうだ。音大では現代音楽を学ぶ傍ら、バンドに参加してソウルミュージックなどを演奏。クラシックからポップス、ブラックミュージックまで、さまざまな音楽との出会いを経て生まれたのが、クラシックとポップスをミックスしたネオクラシック的アプローチによるデビューアルバム「After the noise is gone」だった。このアルバムに参加したシンガーソングライター・Predawn(清水美和子)は、『サクラダリセット』のサントラにも参加している。
 『サクラダリセット』の音楽は非常にシンプルだ。楽器編成は、ピアノ(Rayons)、フルート、クラリネット、5人編成のストリングス、アコースティックベース、ドラムス、パーカッションの11人。これにPredawnのボーカルが加わる。シンプルではあるが貧弱ではない。それぞれの楽器の音色がくっきりと響き、美しく瑞々しいサウンドを奏でる。淡い色彩と柔らかい線で描かれたアニメの映像にフィットする音楽である。厚いオーケストラ音楽やポップス的な音楽では、違った印象になってしまうだろう。絶妙なバランスで世界が成立しているという点でも、『サクラダリセット』にふさわしい。
 劇中では、ピアノの音とともに、Predawnのボーカルが耳に残る。ノーブルで透明感のあるピアノと無垢な温かさを伝える女声ボーカル。このふたつが音楽の核になっている。
 本作のサウンドトラック・アルバムは、放送から2年経った2019年4月に独立系のFlauレーベルから発売された。アルバム・タイトル表記は「Sagrada Reset soundtrack for the animation」。ジャケットにもインナーにアニメの絵は使われておらず、コメントや曲解説もなし。アーティスト・Rayonsのアルバムとしての性格が強い。アニメ・サントラとしては異色のスタイルだ。
 収録曲は以下のとおり。

  1. テトラポットにて
  2. もうすでに失ったもの
  3. ケイについてゆく
  4. ねたみ・執着・執念/li>
  5. ケイの決心
  6. 使命と宿命
  7. 対峙・対決
  8. 灰色の記憶
  9. 悲痛なサスペンス
  10. ミチル、ごめんね
  11. 私たちの未来
  12. サクラダリセット(day time)
  13. こいごころ
  14. 野ノ尾さんのところ
  15. あなたの力になれていますか?
  16. 後悔・慚愧
  17. バトル 〜勇壮〜
  18. 不思議な既視感
  19. 暗闇をかきわけて
  20. 桜が満開の庭
  21. ミチルの世界
  22. 咲良田の街
  23. サクラダリセット
  24. 最終作戦
  25. 叶えられる願い
  26. 流れゆく日々

 アニメのために作られた楽曲からRayons本人がセレクトした全26曲を収録。
 構成はアニメサントラというより、ソロアルバムという感じ。ストーリーをイメージさせる大きな流れはあるが、劇中での使用曲順が再現されているわけではない。選曲も、劇中で使用頻度の高くない曲が選ばれていたり、逆に印象に残る曲が入っていなかったりする。
 1曲目の「テトラポットにて」はおだやかなピアノソロから始まる曲。1分を過ぎて、フルート、クラリネット、弦、ベースなどが加わり、豊かなサウンドが広がっていく。劇中ではテトラポッドのある海岸が重要なシーンの舞台になっている。浅井ケイと相麻菫が出会う場所、そして、再会する場所がテトラポッドの上なのだ。アルバムのジャケットにもテトラポッドが並ぶ海辺が描かれている。しかし、この曲、本編で流れた印象はない。Rayonsによる『サクラダリセット』の世界を象徴する曲である。
 2曲目「もうすでに失ったもの」は番組のPVにも使われた印象深い曲。ピアノとボーカル、ストリングスによる、はかなく、やさしく、美しい曲である。第2話で春埼美空がケイに協力しようと決心する場面、第7話で回想されるケイと菫の初めての出会いの場面、第19話で菫がケイの家でチキンカレーを作る場面、そして、最終話の夢の世界で菫と春埼が話をする場面など、数々の名場面に流れた。『サクラダリセット』の音楽といえばこの曲を思い出す人が多いのではないだろうか。Predawnのボーカルがとても心地よい。
 瞑想的な弦とピアノのアンサンブルから始まるトラック4「ねたみ・執着・執念」はストリングスとピアノによる心情曲。弦の旋律がしだいに激しくからみあい、渦巻く感情を描写する。第1話でケイが春埼に「悲しんでいるのは誰だ?」とたずねる場面、第19話で浴室の扉越しにケイと菫が話す場面、第23話で管理局員の加賀谷がケイの味方につくことを決心する場面など、迷いや苦悩の末にたどりつく決意を表現する曲としてしばしば使われた。
 ケイの心情を描写するトラック5「ケイの決心」では、歌もののような魅惑的なメロディがピアノソロで奏でられる。第9話でケイが菫を生き返らせることを決意する場面や第15話でケイが菫に自分の本当の気持ちを打ち明ける場面などに流れた。タイトルどおり、ケイの心に生まれた強い意思を表現する曲である。
 トラック6「使命と宿命」は弦とピアノによるメランコリックなナンバー。愁いを帯びたチェロの音色が印象的だ。第9話で菫の死とリセットの関係について春埼とケイが考える場面や第18話で管理局員の浦地が街のすべての能力をなくす計画を進める場面など、能力の意味と存在意義について考える場面にしばしば選曲されている。
 トラック7「対峙・対決」は、うねる弦とクラリネット、フルート、パーカッション、ドラムなどがセッションするサスペンス系の曲。トラック9「悲痛なサスペンス」、トラック16「後悔・慚愧」、トラック17「バトル 〜勇壮〜」、トラック24「最終作戦」などとともに、物語後半のケイと管理局との闘いのエピソードを盛り上げた。ネオクラシック的なアプローチで書かれた、本アルバムの中でも聴きどころの楽曲群である。
 トラック8「灰色の記憶」はピアノとボーカルによるもの憂い雰囲気の曲。第2話のラストでケイが菫の死を知る場面をはじめ、ケイが菫を思い出す場面やケイと菫が語らう場面などにしばしば使われている。「灰色の記憶」とは「菫の記憶」なのだろう。悲しいともさみしいともつかない、中間色の感情がわきあがってくる複雑な味わいの曲である。こうした、感情をはっきりさせない中間色の曲が本作には多く、それが独特の雰囲気につながっている。
 次の「ミチル、ごめんね」もそんな曲のひとつ。薄く流れる弦の音とピアノの淡々としたフレーズが、ほのかな哀感をじんわりと伝える。比較的使用頻度の高い曲だが、必ずしも悲しいシーンに選曲されているわけではない。なんでもない会話の場面にも使用されている。水の中をたゆたっているような気分になる曲である。
 ピアノとボーカル、ストリングスによるトラック11「私たちの未来」は、タイトルどおりの希望を感じさせる曲だ。第1話でケイと春埼と菫が校舎の屋上で会話する場面、第10話でケイがよみがえった菫とテトラポッドの上で会話する場面など、未来をイメージさせるシーンでの使用が心に残る。
 「サクラダリセット」と名づられたトラック12とトラック23は本作のメインテーマと呼べる曲。トラック12「サクラダリセット(day time)」はピアノソロで、トラック23「サクラダリセット」はピアノにフルート、クラリネット、ストリングス、ドラムなどを加えたジャズバンド・スタイルで演奏される。劇中では「魔女」と呼ばれる未来視能力を持った女性とケイが会話する場面に使われたほか、第21話でケイたちが菫に会うために写真の中の世界に入ろうとする場面など、物語のカギとなる重要な場面で使用された。
 第11話で春埼が病欠したケイの見舞いに行く場面に流れた「こいごころ」や猫と意識を共有できる少女・野ノ尾盛夏のテーマ曲「野ノ尾さんのところ」は、本作の音楽の中でも珍しい、明るくユーモアただよう曲。繊細な心情を描くシーンや緊張感ただようシーンが多い本作の中で、こうした曲が流れる場面は貴重である。アルバムの中でもほっとひと息つける時間となっている。夢の世界の少女ミチルをテーマにしたユーモラスでペーソスただようワルツ「ミチルの世界」も特定のキャラクターに寄った個性的な曲のひとつ。
 トラック20「桜が満開の庭」も心休まる曲だ。ピアノのアルペジオをバックに、ストリングスが美しく、たおやかな旋律をゆったりと奏でていく。最終話のラスト、夢の世界から目覚めた菫とケイが月光の射し込む部屋で会話する場面に流れたのがこの曲だった。咲良田の街とケイたちの幸せな未来を予感させる、いい曲である。
 「もうすでに失ったもの」と並んで筆者がとりわけ気に入っている曲がトラック15の「あなたの力になれていますか?」とトラック26「流れゆく日々」だ。この2曲は同じメロディの変奏で、「あなたの力になれていますか?」はピアノとストリングスで、「流れゆく日々」はピアノとボーカルで演奏される。そのメロディがいい。かすかに哀愁があるけれど、やさしくしみじみと心にしみる、郷愁を感じさせるメロディだ。
 「あなたの力になれていますか?」は第8話の魔女の少女時代の挿話や第11話で同級生に励まされた春埼がケイの見舞いに向かうラストシーンなどに使用。「流れゆく日々」はボーカルを抜いたピアノソロ・ヴァージョンもしばしば使用され、ピアノソロからボーカル入りへとつなぐ演出が効果を上げていた。中でも、第16話でケイが春埼に「能力なんかなくても君と会いたい」と告白する場面と第20話で故郷の街に帰ったケイが母親と再会し、自分の名前の意味を知る場面での使用が感動的である。「もうすでに失ったもの」と同じく、Predawnのボーカルがとても心地よい。この曲でアルバムが幕を下ろす構成もすてきだ。

 Rayonsの音楽はシンプルだが、とても豊かだ。特定の感情や状況を表現する機能的な(劇伴的な)音楽ではなく、聴く側がさまざまに受け取ることができる多義的な音楽である。音楽そのものだ、と言ってもいいだろう。だから、劇中に流れる曲も映像の意味を限定せず、視聴者の想像をふくらませる。イメージを喚起する音楽だ。
 もし、Rayonsが咲良田の街の住人だったとしたら、その能力は音楽を紡ぐことに違いない。このアルバムを聴くと、街の外にいながら咲良田の街に迷い込むことができる。これは、たぶんそういうサントラなのである。

サクラダリセット オリジナル・サウンドトラック (Sagrada Reset soundtrack for the animation)
Amazon

第170回アニメスタイルイベント
ササユリの仕事

 アニメスタイルとしては、8ヶ月ぶりにお客さんを会場に入れてのトークイベントを開催します。タイトルは「第170回アニメスタイルイベント ササユリの仕事」。開催日は11月22日(日)。会場は新宿ロフトプラスワンです。

 NHK 連続テレビ小説「なつぞら」(2019年放送)はアニメーション制作をモチーフにした作品で、沢山の劇中アニメーションが制作されたことも話題となりました。「なつぞら」のアニメパートの制作、アニメに関連した小道具の制作で中核になったプロダクションがスタジオササユリです。
 そして、スタジオササユリとは、アニメ関連の展示でもお馴染みのササユリカフェのもうひとつの姿でもあります(正確には株式会社ササユリの業務のひとつがササユリカフェであり、それとは別の業務としてスタジオササユリとしての活動があります)。

 11月22日(日)のイベントは「なつぞらのアニメーション資料集[劇中アニメ・小道具編]」 の発売を記念したものです。出演者は「なつぞら」にアニメーション監修、アニメーション制作プロデューサーとして参加したササユリの舘野仁美さん、アニメーション制作のコーディネートを担当した深瀬雄介さん、アニメーションパートの撮影監督として参加した泉津井陽一さん。「なつぞら」のアニメーション制作の話題を中心にお話をしていただく予定です。興味深いエピソードをうかがうことができるはず。

 会場では「なつぞらのアニメーション資料集[劇中アニメ・小道具編]」 を販売いたします。前売りチケットの発売は11月9日(月)の19時から。前売りチケットについて詳しくは以下にリンクした新宿ロフトプラスワンのサイトでご確認ください。トークの一部を「アニメスタイルチャンネル」で配信しますが、今回の配信は短めのものとなるかもしれません。

 新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止の観点から、今回のイベントは通常の半分ほどの人数で定員となります。また、飲食物についてはお客様がカウンターで注文し、その場で代金を支払うキャッシュオン形式となります。

■関連リンク
アニメスタイルチャンネル
https://ch.niovideo.jp/animestyle

新宿ロフトプラスワン
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/plusone/161237

第170回アニメスタイルイベント
ササユリの仕事

開催日

2020年11月22日(日)
開場12時 開演13時 終演16時

会場

新宿ロフトプラスワン

出演

舘野仁美、深瀬雄介、泉津井陽一、小黒祐一郎(司会)

チケット

前売1500円 当日1800円(共に飲食別・要1オーダー)

■アニメスタイルのトークイベントについて
 会場となる新宿ロフトプラスワンはトークライブができる居酒屋。入場料(今回は前売1500円、当日1800円)とは別に飲食(最低でもドリンク1杯)をお願いしています。ソフトドリンクもあるので、未成年の方でも大丈夫です。 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。

アニメ様の『タイトル未定』
276 アニメ様日記 2020年9月6日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2020年9月6日(日)
雨天のため早朝散歩はおやすみ。朝から昼まで「なつぞらのアニメーション資料集[劇中アニメ・小道具編]」 のテキスト作業。ようやくこの本のテキストの正解が見えてきた。最後まで書いたら、頭まで戻って書き直しだ。16時から吉松さん、ワイフと新宿のビアガーデンに。暑くもないし、雨も降らず、快適。おまけに虹も見えた。

2020年9月7日(月)
この2週間くらい書いていた「なつぞらのアニメーション資料集[劇中アニメ・小道具編]」 のテキストがひとまず終了。まだまだ微調整が必要だけど、今日はここまで。
別の作業を進めながら、9月6日に放送された「アニメソング総選挙 国民13万人がガチ投票」の録画を流す。先にSNSで不満の声を目にしていたけど、20世紀のものから近年のものまでが選ばれており、バランスのいい結果になっていると思った。あの並びで「Butter-Fly」(デジモンアドベンチャー)が4位なのがいいなあ。6位に「only my railgun」(とある科学の超電磁砲)、15位に「君の知らない物語」(化物語)、23位「コネクト」(魔法少女まどか★マギカ)と深夜アニメの主題歌が入っているのもいい。『銀魂』でランキングに入ったのが「曇天」(20位)だというのも納得。僕的には『機動戦士ガンダム』と2003年版の『鋼の錬金術師』が入らなかったのが残念。
ネットの記事によれば、Netflixにおいて『泣きたい私は猫をかぶる』が世界30ヵ国以上で映画トップ10にランキングされ、『バキ』が世界約50ヵ国で総合トップ10にランキングしたのだそうだ。これはすごい。

2020年9月8日(火)
グランドシネマサンシャインで、ワイフと「インターステラー【IMAXレーザーGT字幕】」を鑑賞。僕にとっては初見がネット配信で、「映画館で観ればよかった」と思った作品だ。IMAXでの視聴は映像の満足度が高く、内容を知っているのに充分以上に楽しめた。映像は今まで観たIMAXの中で一番よかったかもしれない。
『弱虫ペダル』の再視聴も続いている。19話で1年生3人がインターハイのメンバーに入ったことが分かったところでの、手嶋純太の描写がよかった。キャラクターのことを考えて、愛情を込めて描いている感じだ。

2020年9月9日(水)
あるアニメスタジオで打ち合わせ。貴重な資料に目を通す。その中に、進行中の書籍とは関係のない大変なものがあった。たとえて言うなら「小松原一男さんの作監修正が入った箱の中から、金田さんの『ブライガー』の原画が出てきた」みたいな感じだ。
DVD BOXで『とんがり帽子のメモル』を流しつつデスクワーク。

2020年9月10日(木)
原稿作業と事務作業。まだ企画書も書いていない書籍のラフが、事務所スタッフから届く。とりあえずプリントして見てみた。これから判型等を考える。

2020年9月11日(金)
確認することがあって『は~いステップジュン』の数話を視聴。その後、「佐藤順一の昔から今まで」の取材の予習で『きんぎょ注意報!』の最初の5話分くらいを観て、その後は同シリーズの佐藤さん演出回をチェック。

2020年9月12日(土)
ちょっとした買い物。それから、取材の予習、書籍のスケジュールの作り直し、テキスト作業等。取材の予習で『きんぎょ注意報!』『美少女戦士セーラームーン』『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』を観直す。『ポケットの中の戦争』はU-NEXTで観たのだけど、リマスター版らしく、映像が非常に鮮明。VHSやDVDとは別ものだなあ。夕方から吉松さんとSkype吞み。
Kindleで「OL進化論」40巻を読了。相変わらず面白い。今でも田中さんが35歳であることが分かる話が2本。最近は「35歳で独身で」のタイトルが使われなくなっているので、年齢には触れないことにしたのかと思った。最近の田中さんは独身のベテランに磨きがかかりすぎて、印象としては40代半ばかなあ。

第682回 出崎・コンテ・旅

 現在制作中の新作のキービジュアル(のゲラ)を確認しました。が、まだ発表してはいけないらしいので、今回も俺の趣味、出崎統監督のコンテの話(また……)。前回購入した『家なき子』。収録話数11話分すべて観ました。出崎監督は常に「旅」に拘った作家であり、時にはコンテという仕事自体を「旅」に喩えていらっしゃいました。『家なき子』はまさに旅。主人公・レミが旅芸人・ビタリスに買われて旅に出てからずっと旅・旅・旅! 監督ご自身がどこかのインタビューで「いちばん好きな自作は?」の問いに「『家なき子』です」と答えてらっしゃったのも頷けます。何せ

『家なき子』=「旅」=コンテ!

ですから。『家なき子』を改めて1話から観直すと、出崎監督の演出は「コントラスト」の一言に尽きます。他のどの監督よりも、すべてがコントラスト。「静(止め)」と「動」のカット割り、「光(入射光)」と「影(パラ)」の画面構成、主人公とライバル、男と女。そして『家なき子』は「子ども」と「大人」。子どもからの目線で大人の「優しさ」と「怖さ」(あ、これもコントラストね)を出崎コンテで丁寧に丁寧に描いています。3回PANやハーモニーより

本来の演出の本領——キャラクターの心情をカット割りで表現することができる出崎監督を全板垣が尊敬します、いつまでも!

 余談。『家なき子』と同様の旅もチーフの出崎作品に『雪の女王』(2005年)がありますが、これなどはリアルタイムで「全話コンテなるか出崎監督!?」と、本来とは違う楽しみで見入ってたファンが多かったように見えました。特に業界内出崎ファンにとって、そんなメタ要素も作品の醍醐味。『スペースコブラ』(1982年)もあのムードでもっと長く続き、且つ自身のコンテ話数がもっと多ければ、出崎監督・異色旅アニメシリーズになったと思うのですが。ただのファンによる心の声でした。

佐藤順一の昔から今まで(4)『とんがり帽子のメモル』と『ステップジュン』

小黒 『こてんぐテン丸』の放送が1983年10月に終わって、『メモル』が1984年3月に始まるまで、クレジットされている仕事は『愛してナイト』(TV・1983年)の演出助手が1本あるだけですね。他には何をされていたんですか。

佐藤 『メモル』は準備室があったんですよ。土田さんと葛西さんもいたと思いますけれど、一緒に設定作りや資料作りを手伝ってましたね。僕はアシスタントディレクター的な立場での参加でした。

小黒 準備段階で参加していた若手演出家は佐藤さんだけで、貝澤さんはその段階では入ってないんですね?

佐藤 貝ちゃんはいないですね。

小黒 名倉さんは当然その準備室にいるんですね。

佐藤 いましたね。

小黒 その段階でキャラクターデザインの鈴木欽一郎さんは参加していたんですか。

佐藤 鈴木さんの参加は、スタッフルームがちゃんとできてからだったかな。

小黒 『メモル』の準備段階では、佐藤さんはどのような作業を? アイデアも出していたんですか。

佐藤 やったのは資料探しみたいなことですね。例えば、土田さんがイメージのベースで「ノーム」という小人図鑑のような絵本(編注:オランダの絵本。著者はヴィル・ヒュイゲン、リーン・ポールトフリート)を持っていて、そこから必要なページを資料としてまとめたりとか。他には設定打ち合わせに出たり、小人達の生活に必要になりそうなアイテムを考えたりしましたね。考えたアイテムがあんまり使われなかったから、自分の話数で使ったりということもありました。

小黒 佐藤さんが準備段階で思われていたことと、実制作でギャップを感じるようなことはありませんでしたか。

佐藤 演出さん達が「小人だから、こうなるよね」ということにあんまり注意を払わないことですかね。演出は映画を作りたくて仕事をしている人が多くて、その人達はモンタージュを駆使して映像を作っているんだけど、「画作り」で作っていないというのが、やっぱり大きかったですよね。例えば「メモルが帽子を取ってテーブルに置く」とシナリオに書いてあったとして、コンテだと無理矢理手を伸ばして帽子を取ってテーブルに置く芝居が描いてあるんです。そうすると、小人の短い腕が頭までニューンと伸びてしまうんですよ(苦笑)。頭を傾けて帽子をポトンと落として脱ぐような、小人なりの仕草があると思うんですけど、そういうアイデアを投入する演出さんがあまりいなかった。だから、僕や貝澤が重宝がられましたね。他にもメモル達が葉っぱから葉っぱに飛ぶ時に、コンクリのように固い葉っぱの上をピョンピョン飛んでいく画が上がってきたりして、土田さんも「(葉っぱなんだから)揺れるだろう」ということをずっと言ってました。

小黒 『メモル』は準備段階で関わってはいるけれども、物語作りや作品世界の構築について、ガンガン意見を出したというわけではないんですね?

佐藤 そうですね。シリーズ構成の雪室(俊一)さんとプロデューサーの籏野(義文)さんがアウトラインを決めていたので、そこに僕がつべこべ言うものでもないですからね。あくまで当時は助手ですから。最初の演出だって3話で設楽(博)さんのコンテの後処理ですから。

小黒 東映動画としてもアクション物や魔法少女物でないオリジナルは珍しいですよね。意欲的な企画ということで、社内は盛り上がっていたんじゃないですか。

佐藤 オリジナルだから盛り上がるという感じでは、なかったんじゃないかなあ。ちっちゃな可愛い女の子が人の手に乗っかるのも、「手に乗るサイズの人形」という玩具のアイデアから出てきてたと思うので。だから、本編の話でもメモルが人形の振りをする展開がありましたよね。なぜオリジナルの企画が通ったか分かんないですけど、そういった玩具的な要請が先にあったんじゃないんですかねえ。とはいえ、企画にも関わってないので、想像でしかないんですけどね。

小黒 そして『メモル』の放送が始まると、佐藤さんは大活躍をし……。

佐藤 ああ、そうなんですか(苦笑)。

小黒 業界で「東映動画に佐藤順一あり」ということになるわけですよ!

佐藤 まあね。やっぱり注目されたなっていう実感がありましたからねえ。

小黒 実際にはどのような意気込みで参加されたんですか。

佐藤 やっぱり「いよいよだな」と思ったというのはあるんですよ。いちいちはりきってるんですよ(笑)。最初にやった5話(「どうしてお腹がすくのかな?」)をご覧になったら分かると思いますけど。

小黒 ええ、ええ。

佐藤 家の中でメモルが猫と追いかけっこをするんですけど、そのレイアウトでいちいち宮崎駿さんのテイストをコピろうとしてますからね。

小黒 (笑)。あれは宮崎さんを意識していたんですね。

佐藤 ええ。屋根を使って登っていったりするところも含めて、レイアウトを弄って「俺にもこういうのができるんだ!」というのをやろうとしてるんです。でも、結局カット数が400ぐらいになってしまって、すげえ怒られたので「これは駄目だな」と学習して(笑)。

小黒 400カットだから枚数も当然オーバーしてるわけですね?

佐藤 オーバーするし、宮崎駿さんのレイアウトをトレスしてるので、いちいち組み線が多いんですね。似たようなレイアウトなのに組み線があるせいで兼用できないから、土田さんにも怒られる。

小黒 背景の枚数も多くなってしまったんですね。

佐藤 「このレイアウトを兼用にしてくれれば1枚で済むのに、なんで別なんだよ?」と怒られてしまって、「そういうケアも必要だな」と勉強になったので、次の話数は230カットぐらいに収めました(笑)。

小黒 それが10話「みんなそろって忘れ草」ですね。

佐藤 そうですね。250カットぐらいあったかな。とにかく、減らしています。

小黒 ファンの間で傑作と呼ばれているのは、やはり「忘れ草」ですね。僕個人としても『メモル』全話の中で一番好きかもしれない。貝澤さんの9話「マリエルの目玉焼」と10話「みんなそろって忘れ草」がワンツーパンチって感じでしたね。

佐藤 「目玉焼」もよかったですからね(笑)。

小黒 「忘れ草」は名倉さんの画もいいですけど、セリフのテンポもめちゃめちゃいいんですよね。

佐藤 その辺からシナリオにもちょいちょい自分テイストを入れることを覚え始めてますから(笑)。そもそもシナリオでは「忘れな草」だったと思うんですが、分かりにくいので勝手に「忘れ草(わすれそう)」に直してましたね(笑)。

小黒 ダジャレにもなると(笑)。

佐藤 駄目と言われても直せるタイミングで、コンテを出してると思います。

小黒 この頃、宮崎さんに傾倒してるということでしたが、ポピットがメモルを助けるために鳥に襲われそうになって、凄く凛々しく走るじゃないですか。『未来少年コナン』のスピリッツを感じますよ。

佐藤 そうでしょうねえ。鳥の動きも、原画に結構ラフを入れてますね(笑)。

小黒 この頃、佐藤さんは絵コンテも生半可じゃないぐらい描いてますもんね。

佐藤 描いてるはずですよ。

小黒 これまた読者に説明すると、貝澤さんの絵コンテはまた別の意味でアートなんです。

佐藤 コンテが既にアート(笑)。

小黒 当時、貝澤さんが描き直したレイアウトを見たことがありますけど、レイアウトもやっぱりアート的でしたね。

佐藤 そうそう(笑)。

小黒 30年以上経つので話題にしていいと思うんですけど、佐藤さんの『メモル』はアニメファンのハートを掴む描写が多かったですよね。

佐藤 そう、ですか?(笑)

小黒 マリエルとメモルが同じベッドで、すやすやと寝てるところで終わったり、一緒にお風呂入ったり、今風に言うと「尊い」感じで、2人の仲のよさを描いてるんですね。

佐藤 あんまり自覚はないですけどね(笑)。

小黒 5話「どうしてお腹がすくのかな?」の最後、腹が空いたマリエルの頬が赤くなっているところとか、凄くいい感じでした。マリエルのヒロイン度数が高いですよね。『ルパン三世 カリオストロの城』に似た描写があるわけではないですが、クラリスに通じるものがあると当時から思っていました。

佐藤 そういうところは、きっと無自覚ですね。

小黒 15話「あくびをしたお人形」がマリエルとメモルがお風呂に入る回ですね。これは青山(充)さんの作監回なんですけど、佐藤さんがかなり手を入れてるんじゃないかと思うんです。

佐藤 描いてますね。青山さんが作監で、原画も描いているんですけど、その原画に、演出の僕がアタリを描いて入れたんです。そうしたら、青山さんから電話が掛かってきて「これは作監の画なんだけど、なぜ演出の君の画が入ってるんだ?」とおっしゃるので、「青山さんはシリーズの途中からの参加なので、作品のテイスト等も掴みにくいかと思い、最初から参加している僕が参考までに入れてます。どうしてもおかしいと思ったら破ってもらってもいいです」という説明をしたら、納得してもらえたので、そのままずっとアタリを入れ続けるという感じでした。

小黒 前のめりな仕事ぶりですね。

佐藤 そうですね。撮影的にも色々と試せていましたよね。光と影を意識した画作りをして、撮影処理もかなり凝っていた時期ですね。

小黒 光と影といえば、25話「二人を結ぶ風の手紙」ですよ。これまた大傑作。

佐藤 これも気合が入った回ですからね。

小黒 実質的な最終回ですよね?

佐藤 そうですね。マリエルが町に帰ることを言っちゃうのが久岡(敬史)さんの23話(「さよならマリエル!」)なのかな?

小黒 はい。

佐藤 コンテが凄く盛り上がって泣けるものだったので、「これに負けちゃいけない!」というプレッシャーもあって(笑)、かなり頑張った記憶があります。講堂で鳥の影がバタバタ入ってくるところとか、撮影的に面倒なこともやってますね。

小黒 もの凄く広い空間を表現していて、それだけでもTVアニメとしては画期的でした。若さ溢れるというか、才気迸る仕上がりですよ。

佐藤 「やりきってしまおう」みたいな感じがありますよね(笑)。

小黒 そういう意味では、佐藤さんの数少ない暴走時期の作品ですね。

佐藤 その後は、大人しくなりますからね。

小黒 『とんがり帽子のメモル』だけで言っても、シリーズ後半の佐藤さんの演出回はちょっと大人しくなりますね。貝澤さんはシリーズ後半でも35話「白い木の実の秘密」、44話「ポピットが家出!?」といった回で炸裂していましたけど。

佐藤 そうですね(笑)。貝澤はそういう意味ではブレずにやってた感じがあるなあ。

小黒 後番組の『は~いステップジュン』(TV・1985年)の貝澤さんは居心地が悪そうというか、個性が上手くハマりきらない感じがありましたけど。

佐藤 貝澤は『ステップジュン』では「何が面白いのか分からない」と言ってましたからね(笑)。我々と見るとこが違って、アレンジの仕方がちょっとマニアックと言いましょうかね。

小黒 はい。

佐藤 それもあって、貝澤は『メモル』の時に上のほうからチクチクやられていて。確か20話近辺やってないですよね?

小黒 21話は演出処理だけで、絵コンテと演出をやったのは14話の次が27話ですね。

佐藤 本当は貝澤がローテーションだったんですけど、「1回お休み」になって、僕が1本多くやることになったんですよ。

小黒 なるほど。でも貝澤さんは復帰した後に「白い木の実の秘密」を作ってしまうんですね。

佐藤 そうです(笑)。復帰したら、またあの展開に行くんです。あの頃、貝澤的には色々な想いもあったんでしょうけど、やっぱり画作りが凄かった。我々の発想外の画を作るので、毎回初号の時には負けた気分になっていましたね。

小黒 ああ、そうだったんですか。

佐藤 偉い人達には僕のほうが喜ばれたんですけど、画的に見ると、どう考えてもアート性は貝澤のほうが高くってですね(笑)。

小黒 いやいや。

佐藤 「あの画は作れねえなあ。負けた」って、ずっと思ってます。

小黒 佐藤さんの「負け人生」は、この頃から始まるんですね?

佐藤 そう。貝澤には、全然勝てないっていう意識がずっとありますからね。

小黒 多分、佐藤さんが一番直したのが、32話「あたしは星空のバレリーナ」だと思うんですが。

佐藤 描き直してますね。

小黒 これは「シンシアが初めて脚光を浴びる回だから、ちゃんとしなきゃ」という意識があったんでしょうか。

佐藤 そうです。そして、確か原画が少し弱かったので、ちょっと多めにラフを入れた記憶がありますね。

小黒 『メモル』の時は一演出家なので、物語の展開について「こうしましょう」と提案するような立場ではなかったんですね?

佐藤 そうですね。東映システムなので、シナリオの打ち合わせには一応出ますけれども、全体的な構成に関して発言した記憶はないです。

小黒 ご自分の演出回に関しては、シナリオ打ちに出て、ああしましょう、こうしましょうということは言えたんですね。

佐藤 それは言っていますね。

小黒 シナリオ打ちは上手くできたんでしょうか。

佐藤 雪室さんを始め皆さんベテランなので、若造を見守る態度で接してくれたんじゃないですか(笑)。

小黒 なるほど。そして、次回作は『は~いステップジュン』でシリーズディレクター補ですね。

佐藤 補佐として、設楽さんに色々教えてもらうというスタンスですね。

小黒 ご自身にとっては、どんな作品だったんでしょうか。

佐藤 『ステップジュン』は、企画の当初から関わっていました。バンダイとの打ち合わせ等にも全部連れて行ってもらえたので、凄く勉強になりましたね。ディレクターを後々やるにあたって、重要なことを沢山学習できたのが『ステップジュン』ですね。

小黒 なるほど。

佐藤 「吉之介の玩具の売れ行きがよくないのでこうしてほしい」とスポンサーから直接オーダーが来るところに立ち会うことができて「ああ、本当にそういうことあるんだあ」と思いましたね。

小黒 吉之介の玩具を売るための番組だったんですね。

佐藤 そうなんですよ。売りものは女の子向けロボット人形なんだけど、いまいち売れ行きが伸びない。ゼロ(加納零)の人気が高いから、その分、吉之介が人気ないんだという理屈でしたね。

小黒 それで、シリーズの途中で、急にゼロが英国に留学することになるんですね。

佐藤 結局留学をすることになるんですけど、それに対して雪室さんがきちんとした反論をしていたのも勉強になった。

小黒 雪室さんが反論してたんですか。

佐藤 雪室さんも呼ばれているのでその場(スポンサーとの対話の場)に同席しているんですよ。そんなちょっとした修羅場的なものも経験できました。

小黒 個々の演出された回で印象的なものはありますか。

佐藤 それだと、先生の恋の話かなあ。

小黒 32話「ヘーハチローの恋」ですね。ポイントは先生のヘーハチローじゃなくて、彼が好きになる保健の先生のほうですね。

佐藤 そうですね。あれは自分でも結構好きな回だった(笑)。

小黒 保健の先生が初めて出たのは7話「吉之介がんばる」でしたね。僕の記憶が確かなら、保健の先生は脚本にいないキャラなんですよ。

佐藤 あっ、そうでした?

小黒 いたとしてもああいう感じの人じゃなくて、佐藤さんが絵コンテ段階で変な芝居をつけて、面白みのあるキャラクターにしてしまって。

佐藤 はいはい。してますね。

小黒 それが佐藤さんの中に残っていて「へーハチローと保健の先生を恋愛させちゃおう」という発想になったのではないでしょうか。

佐藤 あの先生に関しては、相当膨らませた記憶があるので、そんなところかもしれないです。

小黒 へーハチロー自体は、いかにも雪室さんが弄りそうな感じの先生でしたね。具体的に言うと『The・かぼちゃワイン』(TV・1982年)っぽいですよね。

佐藤 そうか。確かに『かぼちゃワイン』かもしれない(笑)。

小黒 シリーズディレクター補という役職は、各話の絵コンテをチェックするような仕事ではないんですね。

佐藤 そうではないんです。基本的にはシリーズディレクターに付いて、色んな勉強をする立場ですね。大島やすいちさんの原作は短編の読み切りぐらいしかなかったので、アニメはほぼオリジナルなんですよね。オリジナルの物語を展開する時、放送日が何の記念日であるかを調べるんです。敬老の日や勤労感謝の日なら、それに合わせたお話を組んでいく。そういう構成のやり方も覚えられたんです。演出以外の作業工程を具体的に見られた経験は大きかったですね。

小黒 『ステップジュン』に関しても、作品作りの方向性を決める部分には関わってないんですね?

佐藤 あまりないですね。

小黒 担当話数の演出に専念していたと。

佐藤 そう。思うようにやれたのは守備範囲だった自分の話数ぐらいだね。

小黒 なるほど。この頃も、ご自分の演出回ではレイアウト等に相当手を入れてますよね?

佐藤 入れてますね。


●佐藤順一の昔から今まで (5)『機動戦士Ζガンダム』と『メイプルタウン物語』 に続く


●イントロダクション&目次

第681回 『家なき子』と出崎コンテ

やった! ぴあの『家なき子』COMPLETE DVD BOOK vol.1買いました!


 ステレオクローム方式の立体アニメで出崎統監督作品。ぴあのこのDVD BOOKシリーズはブックレット(というより本屋で売る以上、書籍扱いなのでこちらがメインであるという建前なのでしょう)のほうが個人的に楽しみで、今回の注目ポイントはやっぱり出崎監督直筆のコンテ抜粋! 昔のアニメ誌で、もしかすると特集されてたり、レーザーディスクBOXでも、もしかしたら掲載されたりなどしたのかも知れませんが、『家なき子』の本放送時、板垣は3歳で、アニメ誌など買うはずもなく、LD BOX発売時もまだ学生(高校3年生?)だったため買えずじまい。DVD BOXは買えたのですが、こちらのブックレットはコンテ抜粋など載ってなかったし。で今回、商品内容紹介に「収録話数コンテ集」と告知があり、楽しみで仕方なかったんです。買ってきて早速観ました! 初『家なき子』のコンテ!

やっぱり出崎監督のコンテは凄えっ!!

と。軟らかい鉛筆タッチで、サラサラの一発描き。しかし、やりたい画のイメージはしっかり見えるし、キャラクターの感情も充分伝わる。この内容で全話コンテ! 正に神業! 天才アニメ監督なのは間違いありません! とても自分程度の人間には真似できませんが、永遠の目標——それが俺にとっての出崎コンテです! さて、こっちもコンテに戻らなきゃ……。

アニメ様の『タイトル未定』
275 アニメ様日記 2020年8月30日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2020年8月30日(日)
早朝散歩は一人で大塚方面をウロウロ。ここは初めて来た公園かなと思ったけれど「Pokemon GO」でポケストップを回していたので、一度は来たことがあるようだ。ポケGOの変化球の使い方である。事務所に入ってデスクワーク。税理士さんからきたメールで世の中の厳しさを知る。
取材の参考に、Kindleの「『コミックボンボン』版悪魔くん 水木しげる漫画大全集」に目を通す。終盤で悪魔くんの仲間というか、ガールフレンド的なポジションで巫女衣装の女の子が出てきてくるのだけど、アニメ版にも出る予定だったのだろうか。「水木しげる漫画大全集」を読んだのは初めてだけど、マンガ以外の読み物が充実していて満足度が高い。

2020年8月31日(月)
Netflixで映画「ビブリア古書堂の事件手帖」を視聴。公開時に予告を観た時には、いいんじゃないかと思ったけれど、実際に観てみると、栞子さんがちょっと違うかなあ。この場合の「違う」というのは、単純に原作のイメージとの比較であって、1本の映画のヒロインとしてはあり。それから、映画館で観たら、作品の雰囲気を楽しめたかもしれない。続けてドラマの「ビブリア古書堂の事件手帖」も観ようかと思ったけれど、現在は配信をしていないみたいだ。
そして、Netflix版『アグレッシブ烈子』第2シーズンを視聴。かなりよかった。脚本の練り込みが素晴らしい。最終回のオチもよかった。

2020年9月1日(火)
午前10時半までデスクワーク。昼に三鷹で打ち合わせ。打ち合わせ後、三鷹の行ったことのないあたりを少し歩く。コロナ以降は遠出することが減って、知らない街を歩いたのはかなり久しぶり。楽しかった。街を歩くだけでこんなに楽しいとは。事務所に戻ってデスクワーク。16時からZoomで打ち合わせ。
Netflix版『アグレッシブ烈子』第3シーズンを最終回まで視聴。最終回のまとめ方が見事。シリーズ全体としてもかなり楽しめた。
同じくNetflixで『ケモノヅメ』の1話を視聴。今までの配信を全部チェックしたわけでないけれど、僕が知る限り過去の『ケモノヅメ』の配信と比較にならないくらい映像が鮮明。ちなみに僕はこの作品に企画の段階から参加しているけれど、1話と2話にはほとんど関わっていないはず。文芸として1話から名前が出ているけど、その役職での参加は3話からではなかったかな。企画の後は5話の脚本を書いてお終いになるはずだったんだけど、後から文芸をやることになったのだと思う。

2020年9月2日(水)
DVDを倉庫に送るにあたり、一度も観ていなかった『少年徳川家康』DVD BOXの再生を始める。序盤は物語も地味で、演出もストイック。誇張を避けてリアルにしようという意図があったのだろう。赤ん坊だった竹千代が成長し、彼にスポットがあたるようになってからは観やすくなる。石丸博也さん演じる織田信長がいい。今にもマジンガーに乗りそうだ。キャラクターデザインも信長だけが派手で、まるで永井豪作品の登場人物みたい。Wikipediaによれば、織田信長役は途中で石丸博也さんから青野武さんに変わるらしい。マジか。
荒木伸吾さんの役職は「キャラクターデザイン、作画監修」。各話のポイントのカットに手を入れているのかな。「これは荒木さんの画だよね」と思うカットがある。というか想像していたよりも荒木テイストが出ている。
『少年徳川家康』の後番組は『一休さん』。離ればなれになった母と子の話ということでは『少年徳川家康』『一休さん』は同じで、しかも、両方とも母親役は増山江威子さん(ただし『一休さん』の母親役の最初は坪井章子さん)。

2020年9月3日(木)
雨天のため早朝散歩はおやすみ。深夜から午前中はテキスト作業。さすがに捗った。昼前後はZoom打ち合わせとテキスト以外の作業。15時に上井草で打ち合わせ。高田馬場で食事をして事務所に戻る。外出が減ったので、移動用Suicaの残額がなかなか減らない。
『少年徳川家康』を最終回まで視聴。織田信長役はうつけ者時代が石丸博也さんで、落ち着いた人物になったところで青野武さんに交替。言動も変わるので、予想していたほどの違和感はなかった。主人公は竹千代時代が小宮山清さんで、松平元康時代が野田圭一さん。野田圭一さんも(キャラクターのイメージをある程度残して)後番組『一休さん』の蜷川新右衛門に移行する。タイトルは『少年徳川家康』だけど、竹千代が松平元康になると、見た目が青年になるので、やや違和感あり。全話で20話ということで打ち切りかと思っていたけれど、最初から2クールの予定だったのではないかなあ。終盤はもう数話分の予定があったのだろうと思うけど。本放送以来の視聴だったけれど、記憶に残っている場面はあった。

2020年9月4日(金)
『弱虫ペダル』についてワイフと話をしていて、キャラクターについての記憶が曖昧になっていることに気づいて、dアニメストアで『弱虫ペダル』を再見。やっぱり面白い。「ここのカット割りは相当にイカすなあ」と思ったら、鍋島修監督が絵コンテを担当した話数だった。
「ドラゴンクエストウォーク」に歩数を記録する機能がつくことを知る。これは嬉しい。散歩のモチベーションも上がりそうだ。

2020年9月5日(土)
事務所でデスクワーク。13時に来客があって、世間話。Netflixの『アグレッシブ烈子』について熱く語る。

第193回 まっすぐで曇りなく 〜京騒戯画〜

 腹巻猫です。10月21日にCD「アニメ『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』オリジナルサウンドトラック VIOLET EVERGARDEN:Echo Through Eternity」が発売されました。腹巻猫はブックレット掲載のインタビューを担当しています。商品は3枚組で、1枚目が現在公開中の劇場版のサントラ、2枚目が昨年劇場公開された『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝—永遠と自動手記人形—』用に書かれた新曲集、3枚目が本アルバムのために書き下ろされたイメージ音楽集という構成。EVAN CALL渾身の音楽をお聴きください。
https://www.amazon.co.jp/dp/B08FDYGVN4/


 ものすごい勢いでヒット中の『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』。筆者も公開初日に観に行って、濃密なドラマと映像と音楽に心を揺さぶられた。音楽はTVシリーズと同じく梶浦由記と椎名豪が担当している。
 TVアニメ『鬼滅の刃』では、梶浦由記がメインテーマとそのアレンジBGMを手がけ、それ以外の音楽は椎名豪がフィルムスコアリング(エピソードごとに映像に合わせて作曲する方式)で作っている。『鬼滅の刃』を支える音楽の多くが椎名豪の手によるものなのだ。
 今回は椎名豪が音楽を担当したアニメ作品『京騒戯画』を取り上げよう。

 『京騒戯画』はバンプレストと東映アニメーションの共同企画によるアニメ作品。2011年にWEBアニメ版第1弾(全1話)が、2012年にWEBアニメ版第2弾(全5話)が配信され、2013年10月から12月にかけてTVアニメ版(全13話)が放映された。『映画 ハートキャッチプリキュア! 花の都でファッションショー…ですか!?』(2010)で注目を集めた松本理恵が監督(シリーズディレクター)を務めたオリジナル作品である。
 舞台は、京都であって京都ではない「鏡都」。そこでは、人とモノノケがともに暮らし、人は死なず、壊れたものもいつの間にか元通りになる。そのふしぎな世界に、ある日、時空の狭間から赤い目をした少女・コトが落ちてきた。母親を探しにきたというコトは、鏡都を自由に暴れまわり、街の均衡を乱し始める。やがて、鏡都の街の真実が明らかになり、街に崩壊の危機が訪れる。
 設定は少々わかりづらい。実は最後まで観てもよくわからないところがある。が、物語の主眼は世界の種明かしではなく、家族の再生のドラマだ。ポップで濃密な映像とテンポのよい演出に引き込まれて観ているうちに、人間関係や世界のなりたちがぼんやりと呑み込めてくる。2度、3度と観て楽しめる、噛みごたえのある作品である。
 音楽はWEBアニメ版第1作のみ高木洋が担当。WEBアニメ版第2作とTVアニメ版を椎名豪が担当した。
 椎名豪は1974年生まれ。神奈川県出身。ナムコに入社し、「テイルズ オブ レジェンディア」「ゴッドイーター」など多数のゲーム音楽を手がけた。2011年からアニメ音楽にも進出。短編アニメ『桜の温度』(2011)、伊藤潤二原作のOVA『ギョ』(2012)の音楽を担当したのち、『京騒戯画』に参加する。連続TVアニメの音楽は本作が初めてだ。ほかのアニメ作品に、TVアニメ『ゴッドイーター』(2015)、『十二大戦』(2017)、『叛逆性ミリオンアーサー』(2018)、『鬼滅の刃』(2019)などがある。
 『京騒戯画』の音楽を椎名豪が担当することになったのは、松本理恵監督がゲーム『テイルズ オブ レジェンディア』の音楽を聴いて、「いつか一緒にやりたい」と思っていたからだという。
 『京騒戯画』の音楽は、WEBアニメ版がフィルムスコアリングで、TVアニメ版は溜め録り方式で作られている。WEBアニメ版では映像に沿って、松本監督とのやりとりをくり返しながら音楽をつけていった。
 『京騒戯画』の音楽の重要なモチーフのいくつかはこのときに作られている。メインテーマや挿入歌「The Secret of My Life」などだ。1作ごとに、まったく別の作品であるかのように異なるテイストの音楽が作られているのが特徴である。このWEBアニメ版の音楽は、TVアニメ版の中でも効果的に使用されている。
 TVアニメ版では、映像よりも人間ドラマに重点を置いて音楽が作られた。メインテーマをアレンジしたコトのテーマ、家族愛のテーマ、ミステリアスなコトの父・稲荷(明恵上人)と母・古都のテーマなどが発注されている。ほかに、鏡都の街の生活を描写する音楽やコトのアクション曲などが用意された。曲調は、和の要素あり、讃美歌風あり、バロック風、ハリウッド映画音楽風、ロック、テクノもありと幅広い。楽器や音色の選び方に椎名豪ならではのこだわりがあり、1曲ごとに工夫が凝らされていて、耳に残る。それでいて、バラバラな感じはなく、ひとつの世界観を持った音楽になっているのがすばらしいところだ。

 本作のサウンドトラック・アルバムは2013年11月に日本コロムビアから「京騒戯画 音楽集」のタイトルで発売された。選曲・構成は椎名豪自身が担当。曲名は筆者がつけさせていただいた。本編に刺激されて、楽しみながら曲名を考えたことを覚えている。思い出に残るアルバムである。
 収録曲は以下のとおり。

  1. ココ(TVサイズ)(歌:たむらぱん)
  2. 鏡都開闢
  3. 永遠の都
  4. コト
  5. 見えない絆
  6. 険呑至極
  7. 三人議会
  8. ご機嫌ななめ
  9. コトかく立てリ
  10. 金剛巨人ビシャマル
  11. 電脳戯画
  12. ショーコ
  13. 口笛鳴らして
  14. 妄想戯語
  15. 華のにぎわい
  16. 鏡都鞍馬寺
  17. まどろみの昼下がり
  18. 大恐慌
  19. The Secret of My Life(歌:Aimee Blackschleger)
  20. 天衣無縫
  21. 駅開き
  22. 八瀬—雅(みやび)—
  23. 八瀬—変化(へんげ)—
  24. 始まりも終わりもなく
  25. 黒兎を追って
  26. その先の永遠
  27. 雪の約束
  28. 惑星統合機関神社
  29. コトかく語りき
  30. 風と雲と夕焼け空
  31. 傷心寥寥
  32. 稲荷
  33. 古都様
  34. 影を慕いて
  35. 迷走戯画
  36. 再会を待ちながら
  37. 逢魔が刻
  38. 世界の果てまでも
  39. 夢を生きる
  40. 疾走銀河(TVサイズ)(歌:TEPPAN)

 1曲目がTVアニメ版オープニングテーマ。40曲目がWEBアニメ版の主題歌であり、TVアニメではエンディングテーマとして使用された歌だ。
 BGMは、WEBアニメ版音楽とTVアニメ版音楽を分けずに混ぜて収録している。TVアニメ本編では両方の音楽が区別なく使用されているので違和感はない。両方合わせて『京騒戯画』の音楽という構成意図なのだろう。以下、特に断らない限り、話数はTVアニメ版の話数を指す。
 トラック2「鏡都開闢」は第2話以降のアバンタイトルに使われた曲。ストリングスにシンセの音がからんで、幻想的で美しいサウンドを作り上げている。短いながらインパクトのある曲だ。
 トラック3「永遠の都」は本作のメインテーマ。WEBアニメ版第1話で作られたメインテーマのロング・バージョンである。キラキラした神秘的な導入から始まり、木管がメインテーマのメロディをおだやかに奏でていく。コーラスが加わり、クラシカルに展開。『京騒戯画』の世界と物語を象徴するスケール豊かな曲だ。第1話冒頭のコトと稲荷が登場する場面や、実質的最終話となる第10話のラストシーンなど、重要な場面で流れている。
 トラック4「コト」はメインテーマをアレンジしたコトのテーマ。木琴やエレキギターの音色で、自由で活発なコトのキャラクターを表現している。
 次の「見えない絆」はメインテーマのアレンジによる家族愛のテーマ。ストリングスをメインにした室内楽風のアレンジが温かい。
 3曲続けてメインテーマのメロディが続くが、ここまでで、本作のスケールの大きな世界観とコトのキャラクターと物語を貫く家族愛のテーマの3つが紹介されたことになる。巧みな導入である。
 トラック6の「険呑至極」はノイズミュージック風の前半から後半の映画音楽的な危機描写に展開するサスペンス曲。
 雰囲気が変わったところで、トラック7「三人議会」が続く。鞍馬、八瀬、明恵の3人がふしぎな空間で会議を開く場面に流れている曲だ。楽器違いで、鞍馬バージョン、八瀬バージョン、明恵ヴァージョンが作られており、ここに収録されたのは、そのいずれでもないストリングス・バージョン。優雅な曲調が聴きどころである。
 トラック9の「コトかく立てり」は、WEB版第1話でコトの成長を描く場面に流れた3分近い長い曲。バイオリンの流麗なメロディが美しい前半から、中盤はアップテンポのコトの活躍テーマになる。前向きで力強い、椎名豪らしい曲調だ。
 トラック10からトラック12はWEB版第2話からの選曲。ロボットアニメ主題歌を模した「金剛巨人ビシャマル」が笑えるが、児童合唱団風コーラスにあえて感情をこめないで歌ってもらうなど、実は細かいところまで気を遣った曲である。TVアニメ版では第3話に登場した。
 トラック13「口笛鳴らして」は筆者も気に入っている曲のひとつ。タイトルどおり口笛をフィーチャーした曲で、第2話の回想シーンでコトが先生(稲荷)を起こす場面などに流れている。この口笛、あえてプロの奏者ではなく素人(といっても椎名豪の知人でサックスが吹ける人)に吹いてもらったのだという。
 トラック16「鏡都鞍馬寺」は三人議会の1人・鞍馬が主を務める鞍馬寺のテーマ。表向きは古い寺だが、内部は近代技術の粋が集められている。その設定に合わせて、前半ではお経が聞こえ、中盤からリズムが加わってロックに、終盤はふたたびお経が聞こえてくるユニークな構成。このお経は本物の僧侶に唱えてもらったそうである。
 トラック17「大恐慌」は頭から不穏な曲調のスペクタクル音楽。オーケストラとコーラスが危機感をあおる前半から、後半はストリングスがメインのヒロイックな曲調になる。メニューには「迫りくる恐怖」と書かれているのだが、ホラー映画のようなダークな曲にならないところが椎名豪サウンドの魅力である。
 次の「The Secret of My Life」は本作の音楽の中でもとびきり重要な、かつ人気のある曲(挿入歌)。もともとはWEBアニメ版第5話のために作られた歌だ。TVアニメ版では第9話のラスト、崩壊し始めた鏡都を救うために明恵がコトのもとに走るシーンに流れている。本作のもうひとつの主題歌とも呼ぶべき曲である。
 トラック20「天衣無縫」はコトの活躍テーマを3曲編集したトラック。コトの登場とアクションをイメージした躍動感あふれる曲だ。第0話や第7話のコトのアクションシーンに選曲されている。こういうハイテンションの曲は演奏もハイテンションで、録音は楽しかったが苦労した、と椎名豪はふり返っている。
 ハイテンションな曲といえば、追っかけの曲と怒りの曲の2曲を編集したトラック38「世界の果てまでも」も高揚感がみなぎる。この曲の前半は第0話でコトが鏡都を暴れまわるシーンに使用。スパニッシュなフレーズで怒りを表現した後半は、第1話終盤で鏡都にコトが落ちてくる場面や第8話で鏡都の崩壊を前にしたコトが「なんとかするから」と立ち上がる場面で使用されている。
 トラック21「駅開き」は第4話の駅開き(鏡都の人々が要らなくなったものを捨てる行事)の場面に流れた曲。もともとはWEBアニメ版第3話用に書かれた。鏡都の空を要らなくなったものが流れていくふしぎな場面。シンセの電子的な音色が組み合わさった、明確なメロディのない曲である。ミニマルでもないし、アンビエント(環境音楽)風とも違う。エスニックなテクノとでも呼ぶべき、ユニークな曲のひとつである。
 続く「八瀬—雅—」と「八瀬—変化—」の2曲は三人議会の1人・八瀬のふたつの顔を表現する曲。バロック風の「雅」、荒々しい「変化」。同じメロディでもアレンジの違いで曲の表情ががらっと変わるのが聴きどころだ。
 本作の音楽の中で、筆者がとりわけ心に残ったのが、「雪の約束」「風と雲と夕焼け空」「夢を生きる」の3曲である。
 いずれも、もともとはWEBアニメ版第4話のために書かれた曲。しっとりした曲調で、感傷を抱えた明恵とコトの心が触れ合うエピソードを彩った。このエピソードはTVアニメ版にも組み込まれている。
 トラック27「雪の約束」は第5話の明恵の少年時代の回想場面に使用。ピアノが奏でる哀愁を帯びた上品なメロディ(メインテーマのモティーフが現れる)が明恵の孤独を表現する。
 トラック30「風と雲と夕焼け空」は、第5話でスクーターに乗った明恵とコトが秋空の下を疾走する場面に流れた曲。爽快感と開放感のある美しいシーンである。音楽も、軽快なリズムの上で弦楽器や管楽器のフレーズが踊って、ミュージカルの一場面を観ているような気分になる。後半は大きく盛り上がったあと、抒情的な曲調になり、余韻を残して終わる。音楽と映像がぴたりとはまった名場面だ。曲名もこのシーンの印象からつけた。
 トラック39「夢を生きる」は第5話のラスト、夕焼けのすすき野原でコトと明恵が語らうシーンに流れた曲。ピアノが奏でるメロディにそっとバイオリンが加わる導入部がとても映画的ですてきだ。曲はしだいに盛り上がり、メインテーマのメロディが顔を出す。中盤で静かになると、讃美歌のような女声コーラスが聞こえてくる。終盤は弦とピアノをメインにした壮大なコーダ。アルバムの締めくくりにふさわしいドラマティックな曲である。第5話以外でも、第1話で明恵上人と黒うさぎの物語がナレーションで語られる場面や第7話でコトが母親と再会する場面などに使用されている。本作の音楽の中では、メインテーマに次いで重要な曲と言えるだろう。
 しかし、椎名豪は、音楽の中でもネガティブな部分を作るのが苦手で、このWEBアニメ版第4話の音楽を作るのがいちばん大変だったと語っているのが興味深い。

 椎名豪の音楽は変に屈折したところがなく、まっすぐだ。ハイテンションの曲はどこまでも勢いがあり、聴いていて元気になる。悲しい曲でも感情を押しつけることなく、救いがある。多彩なサウンドや曲調を操る作曲家であるが、ポジティブで曇りのない曲こそ椎名豪の本領だと思う。『京騒戯画』では、そのポジティブさが家族の再生のドラマを支えていた。
 そして、それは『鬼滅の刃』の音楽にも通じる。大ヒットの背景には音楽の力もあるはずなのだ。これからテレビや劇場でアニメ『鬼滅の刃』を観る方は、ぜひ音楽にも耳を傾けながら観ていただきたい。

京騒戯画 音楽集
Amazon