第515回 てーきゅうとイボ

さっき、『てーきゅう第9期』の「つづく」カードのラフ(レイアウト)を描いてました!

 あとは社内のスタッフに原画・動画にしてもらいます。最近では社内の若手スタッフが本当に頼りになるんです(感謝)!で、「つづく」について思い出した事をツラツラと。
 もともと、アニメ『てーきゅう』の監督テーマは

たった「2分」で最高のサービスを!!

なんです。作品の内容的なテーマはもちろん「ギャグ」なんですが、監督テーマとは「今回の作品を作るうえでの制作上のコンセプト」みたいなもので、自分は毎作それを決めて現場に上げるようにしてます。言葉は下手な設定100ページより、よっぽどスタッフの意識に残りますから。ちなみにアニメ『ベルセルク』では最初から

美しい未完の物語を演出する!!

と事あるごとに言ってます。「この作品を終わらせられるのは三浦建太郎先生だけ! 勝手にアニメオリジナルラストはあり得ない!」と。つまりこの一言でスタッフ全員が「あ、監督はこのまだ未完の原作を全肯定で作りたいと言ってるんだな」と共通の認識が生まれると思うんです。
 で、『てーきゅう』は「最高のサービス」というわけで、頭アバンから始まって、オープニングは絶対にいる! で本編も原作の内容を削るくらいなら無理してギュウギュウに詰め込み、エンドカードも楽しく次回予告も兼ね、最後の最後まで制作費の許す限りのサービスを尽くそう! と。それさえスタッフが理解していれば結構スムーズに現場が進みます。つまり「原作と少々違っても、プラスに膨らむならOK! 原作よりショボく変わってたらNGなんだな、このシリーズは」と思って描いてもらえれば、作画も美術も役者さんらの芝居や音響効果も元気で楽しいモノが上がってきます。こーなればこっちのもんでしょう? だから監督テーマは大事!
 そして、4人の女の子による「笑い」と「癒し」の2分間サービス『てーきゅう』も第9期まできました。なんとなくで始まり、いつ打ち切られてもおかしくないシリーズも気づけば100本を超え5周年。「制作費が安いから続けられる」とか「尺が短いから短期間で作れる」とか今まで何回も笑い話でしてきましたが、シリーズを重ねるにつれて、冗談ではなく本気で

『てーきゅう』はお金と時間の哲学だ!

と思えてきました。人(スタッフ)と現場を成長させつつ、常にお金(制作費)の問題が背中合わせ。その事がこれだけ分かりやすい現場は他にないのだから。
 でもスピンオフも含む『てーきゅう』全話マラソン(イベント上映会)やったら面白いかも〜とこちらも本気で思ってます(笑)。

そして、近いうちにイボを切りに行かなきゃならないらしい(汗)!


 親知らずを抜き歯の治療が終わりかけてる今、イボの治療。とにかく仕事の合間を見て病院行かなきゃならず、ホントに時間が欲しいです。

新文芸坐×アニメスタイル セレクションVol. 94
アニメファンなら観ておきたい200本 原恵一監督のアニメーション映画

 アニメスタイルは新文芸坐と共同企画で、定期的にアニメーションのオールナイト上映を開催している。2017年6月17日(土)のプログラムは、現代のアニメ界を代表する監督の一人である、原恵一監督の特集だ。
 上映タイトルは『百日紅~Miss HOKUSAI~』『河童のクゥと夏休み』『カラフル』の3本。いずれも見応えのある仕上がりであり、「映画的」な作品だ。トークコーナーのゲストには原恵一監督自身をお迎えする。個々の作品についてじっくりと話をうかがうことにしよう。

 前売り券はチケットぴあと新文芸坐の窓口で、5月27日(土)から発売となる。

 なお、「アニメファンなら観ておきたい200本」はアニメファン初心者にお勧めの作品を上映するオールナイトの連続企画である。勿論、初心者以外の観客も大歓迎だ。

新文芸坐×アニメスタイル セレクションVol. 94 アニメファンなら観ておきたい200本
原恵一監督のアニメーション映画

開催日

2017年6月17日(土)
開場:22時15分/開演:22時30分 終了:翌朝6時00分(予定)

会場

新文芸坐

料金

一般2600円、前売・友の会2400円

トーク出演

原恵一、小黒祐一郎

上映タイトル

『百日紅~Miss HOKUSAI~』(2015/90分/DCP)
『河童のクゥと夏休み』(2007/138分/35mm)
『カラフル』(2010/127分/35mm)

備考

※オールナイト上映につき18歳未満の方は入場不可
※トークショーの撮影・録音は禁止

●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

第514回 まだまだ半人前!

会議室にて、タブレットに描いて作画スタッフらに一気に説明する!
コレ、もはやウチ(ミルパンセ)のスタンダードです!

 自分の発案で始めたやり方で「もう、演出・作監の机で、指示書き・修正待ちのカットが何十何百も眠るのは御免だ!」と。一度の修正+説明+実演(?)で、担当の原画マン・演出・作監へ一気に戻す! デジタル作画だからこそできるやり方だと思ったのです。

「やり直し不可」なアナログの頃の作り方そのまんまを、ツール(道具)だけ変えたって、
「やり直し可能」のデジタルを本当の意味で効果的に使ってるとは言えませんから!

 2017年現在でも、「作監・総作監は選ばれし者! ゆえにその方の修正は何が何でもお待ちするべし!」とまるで作家の原稿でも待ってるかのように「アニメーター=作家」論を唱える業界人——俺の皮膚感覚ではだいぶ減ったように思いますが、そろそろ考え直す時期ではないでしょうか?
 ウチではまず「作家である前に職人たれ!」と教えてます。なぜなら、

「職人」からスタートしてもいずれ「作家」にはなれるけど、
「作家」気取りからスタートしてもけして「職人」にはなれない!

と思うからです。若い頃、テレコムで大塚康生さんや先輩たちから「宮さん(宮崎駿監督)は作家である前に職人としても超一流なんだ」と、そのアニメーターとしての宮崎監督の仕事量を聞かされて驚愕した自分。出崎統監督の場合でもそう。全話コンテだけではなく、アニメーター時代は非常に巧い作画マンだったと丸山正雄さんから聞きました——と言うまでもなくコンテがすでに神がかってますよね!

俺が好きなクリエイターは「作家である前に職人として一流」な人!

なんです。と多少話が逸れましたが、要するに言いたいのは、アナログ作画からデジタル作画への移行期たる現在、「昔はよかった」とか「もっと制作費持ってこい!」なんか言ってないで、

まず新しいツールによる新しい作り方、それに伴う「アニメーターという仕事」の見直し。その際、全スタッフの給料がそれぞれの働きに見合った正当なものか? の確認

をするべき時なのではないでしょうか? デジタル時代のアニメ職人をどう育てるか? その後、本当のデジタル時代の「作家」が生まれるべきなのだと。
 俺みたいな「動画3年、原画5年でやっと演出助手」と教えられた世代の人間が、「新しい作り方」というより、アニメ業界が何十年も信じて疑わなかった「動画3年云々」を壊そうと、これまた敵を作るかもしれない事を提唱しているんですが、そーゆー自分もまだまだ職人として半人前です。

早く腕のいい職人になりたい!!

第106回 旅に出かけよう 〜ニルスのふしぎな旅〜

 腹巻猫です。5月21日に蒲田でサントラDJイベント、Soundtrack Pub【Mission#31】を開催します。特集は「80年代アニメサントラ群雄割拠時代(ビクター編)&松山祐士追悼」。1980年代のアニメサントラ群雄割拠時代をメーカーごとにふり返る新企画の第1弾・ビクター編です。お時間ありましたらぜひご来場ください!

「Soundtrakc Pub」公式ページ
http://www.soundtrackpub.com/event/2017/05/20170521.html


 今回はSoundtrack Pubのテーマにからめて、80年代ビクター・アニメサントラの第1弾となった作品『ニルスのふしぎな旅』を取り上げよう。
 ビクター——現在はビクターエンタテインメント、当時はビクター音楽産業という会社名だった。2007年よりアニメ部門が独立してフライングドッグという別会社になっているが、便宜上、フライングドッグもビクターの仲間に入れることにする。
 ビクター(フライングドッグ)といえば、『超時空要塞マクロス』(1982)に始まる「マクロス」シリーズや、『天空のエスカフローネ』(1996)、『カウボーイビバップ』(1998)、『創世のアクエリオン』(2005)等の菅野よう子作品、『機動戦士ガンダムSEED』(2002)、『ケロロ軍曹』(2004)など、ヒット作品を多く擁するアニメ音楽界の雄である。フライングドッグはこの3月にランティスなどとともに、ANiUTa(アニュータ)というアニメソング専門の定額聴き放題サービスを立ち上げて話題になった。
 しかし、アニメ音楽ビジネスへの本格参入では、日本コロムビア、キングレコードに次ぐ後発組だった。70年代には『ミュンヘンへの道』(1972)、『まんが世界昔ばなし』(1976)、『バーバパパ』(1977)、『ヤッターマン』(1977)、『ゼンダマン』(1979)等のレコードを発売しているが、まだアニメファンに注目されるメーカーではなかった。ビクターの躍進は、やはり『超時空要塞マクロス』以降だろう。
 しかし、『超時空要塞マクロス』にも前史となった作品がある。そのひとつが『ニルスのふしぎな旅』である。

 『ニルスのふしぎな旅』は1980年1月から1981年3月までNHKで放送されたTVアニメ作品。NHKオリジナルの連続TVアニメとしては『未来少年コナン』(1978)、『キャプテンフューチャー』(1978)に続く3作目(実写とアニメを組み合わせた『マルコ・ポーロの冒険』も数えれば4作目)となる作品である。
 原作はスウェーデンの女性作家セルマ・ラーゲルリョーブの同名児童文学。動物をいじめるいたずら好きの少年ニルスが妖精に罰を与えられて体を小さくされ、ガチョウのモルテン、ハムスターのキャロットとともに旅をしながら精神的に成長していく物語だ。制作は学研(現・学研グループ)。アニメーション制作を創立したばかりのスタジオぴえろ(現・ぴえろ)が担当した。今年(2017年)3月に廉価版のDVD-BOXが発売されている。
 チーフディレクターに鳥海永行、美術監督は中村光毅。タツノコプロ出身のスタッフが作り上げた丁寧な映像が心に残る。日本アニメーション制作の「世界名作劇場」とは異なったテイストの名作アニメとして記憶と歴史に刻まれる作品である。
 音楽は主題歌・挿入歌の作曲をタケカワユキヒデ、劇中音楽をチト河内が担当している。
 チト河内は1944年、福岡県出身。1967年に兄のクニ河内らとともにGSバンド、ザ・ハプニングス・フォーを結成してデビューした。のちにロックバンド、トランザムを結成して活躍。トランザムはTVドラマ「俺たちの勲章」(1975)、「俺たちの旅」(1975)、「俺たちの朝」(1977)、「俺たちの祭」(1977)等の音楽を担当し、70年代TV音楽ファンには「太陽にほえろ!」(1972-1986)の井上堯之バンドや「西遊記」(1978)のゴダイゴとともに記憶に残るグループだ。また、劇場アニメ『宇宙戦艦ヤマト 完結編』挿入歌「明日に架ける虹」の編曲と演奏・ボーカルも担当している。
 チト河内名義でかかわったアニメ作品には、TVアニメ『野生のさけび』(1982)(主題歌作曲)、劇場アニメ『ゆき』(1981)(主題歌とBGM作曲)、TVアニメ『あしたのジョー2』(1981)(後期主題歌の編曲)などがある。
 兄のクニ河内もアニメ作品を手がけていて、TVアニメ『グロイザーX』(1976)、『ドン・ドラキュラ』(1982)、『つるピカハゲ丸くん』(1983)等の主題歌を作曲している。先の『野生のさけび』の主題歌は、チト河内が作曲、クニ河内が編曲、『ゆき』の主題歌はクニ河内が作詞、チト河内が作・編曲という兄弟コラボ作品だ。
 本作の音楽アルバムは、1980年2月「ニルスのふしぎな旅 〜たのしいうたと音楽集〜」のタイトルでビクター音楽産業より発売された。1999年発売の2枚組CD「殿堂TWIN ニルスのふしぎな旅/スプーンおばさん」で全曲CD化されている。
 収録内容は以下のとおり。

  1. ニルスの不思議な旅(歌:加橋かつみ)
  2. ぼくはキャロット(歌:山崎唯)
  3. 鳥にのって(空とぶテーマ)
  4. わたしは歌う(スイリーのテーマ)(歌:松金よね子)
  5. 北をめざして(ガンの隊長アッカのテーマ)
  6. いつまでも友だち(歌:加橋かつみ)
  7. ワンダフル・アドベンチャー(歌:加橋かつみ)
  8. わんぱくニルス(歌:小山茉美)
  9. ねずみの行進
  10. 腹ペコ・レックス(歌:富山敬)
  11. ニルスの不思議な旅(英語)〈The Song to Nils〉(歌:加橋かつみ)
  12. つるの舞踏会

 歌8曲とBGM4曲の12曲入り。
 ジャケットにはキャラクターの絵が大きくデザインされ、インナーにもふんだんに絵が使われている。ニルスが一緒に旅をするガンの群れのメンバーや憎めない敵役レックスらが絵と説明つきで紹介されているのが、番組を見る子どもたちにはうれしいサービスだ。子ども向けを意識した作りだが、歌を担当する歌手と声優の顔写真が掲載されていたり、主題歌の英語版が入っていたりするのは、明らかに中高生のアニメファンを意識したところだろう。
 1曲目はオープニング主題歌。元ザ・タイガースの加橋かつみが歌う、フォークロック調の軽快な曲だ。
 12/8拍子のピアノのアルペジオから始まるイントロが地平線に昇る朝陽のきらめきをイメージさせる。途中から4拍子に転じてリズミカルになる仕掛けが「旅立ち」への期待を表現してすばらしい。短いブリッジが高揚感を高め、歌がスタートする。タケカワユキヒデ作品で「旅」を歌った曲といえば名作「銀河鉄道999(The Garaxy Express 999)」があるが、「999」に甘酸っぱい別れの哀愁があるのに対し、「ニルス」は新しい出逢いへのわくわく感に満ちている。「銀河鉄道999」に劣らぬ名曲である。
 この曲、TVサイズとレコードサイズとでずいぶん印象が違う。TVサイズはシンプルなバンドスタイルのアレンジと演奏。レコードサイズは音数が増えてテンポがやや遅くなっている。おそらくはTVサイズを先に録音したあと、レコード用に新たにアレンジを起こして録音し直したのだろう。同様の例は『ルパン三世』第1作(1971)の主題歌でも聴けるが、この時期には珍しいパターンである。曲のノリ、勢いはTVサイズのほうが抜群によい。
 2曲目の「ぼくキャロット」は、キャロット役の山崎唯が歌うキャラクターソング。山崎唯はトッポ・ジージョの声で人気を博した歌手・声優でトッポ・ジージョの歌もたくさん吹き込んでいる。フェイクをまじえた表情豊かな歌い方は「うまいなあ」と舌を巻く仕上がり。「気軽に書いてみました」という感じの曲なのだが、ベテラン声優の力量を聴くことができる。
 3曲目「鳥にのって」はチト河内作曲によるBGM。鳥に乗って空を旅するイメージの曲で、ふわっとしたシンセの音と弦のアンサンブルが浮遊感を産む。ドラムス、エレキベース、ギター、キーボードが刻むリズムが心地よい。本作のBGMはバンド編成を中心に弦や管楽器が加わった小規模のオーケストラで演奏されていて、ロックのインスト曲のようなサウンドが特徴である。
 4曲目は松金よね子が歌う「わたしは歌う(スイリーのテーマ)」。スイリーはメスのガンで、歌が大好きだけどひどい音痴という設定。松金よね子は舞台出身のコメディエンヌで歌も達者なのだが、ここではわざと音痴風に歌う芸を聴かせてくれる。バイオリンやアコーディオンをフィーチャーしたアレンジがヨーロッパの香りを漂わせる華やかで楽しい曲だ。
 5曲目「北をめざして(ガンの隊長アッカのテーマ)」はふたたびBGM。舞い上がる鳥たちをイメージしたような弦のイントロに続いて、チェンバロのアルペジオをバックにシンセがふわふわと漂うようなフレーズを奏でる。アッカはラップランドに向かうガンの群れを率いるメスのガン。アルバムのライナーには「百才をこすメスガンで沈着で冷静、威厳と情愛をかねそなえたすぐれたリーダー」と紹介されている(100歳だったんだ!?)。「鳥にのって」と共通する雰囲気の曲だが、こちらは「前進」のイメージが強い。中間部に踊るような弦の間奏が入る。アッカに率いられたガンたちが旅の途中に空を旋回したり、仲間とじゃれあったりしている場面が目に浮かんで温かい気持ちになる。
 6曲目はエンディング主題歌「いつまでもともだち」。ニルスとモルテンとキャロットの友情を歌ったマーチ調の明るい曲だけど、本編の最終回を観たあとに聴くとちょっと泣けるんですよね。
 7曲目(レコードではB面1曲目)に入っているのが「ワンダフル・アドベンチャー」という歌。本アルバムの白眉と言っていい名曲である。
 曲はミドルテンポのロックバラード風。小さくなったニルスが見る世界のすばらしさ、ニルスの旅の意味を歌った味わい深い歌詞が胸に沁みる。間奏のエレキギター・ソロがぐっとくる。劇中にもたびたび挿入された、本作の第2のメインテーマともいうべき歌だ。
 アルバムはニルス役の小山茉美が歌う「わんぱくニルス」、BGM「ねずみの行進」、レックス役・富山敬が歌う「腹ペコ レックス」と続いて、主題歌の英語版「The Song to Nils」が登場する。
 日本語版の作詞は奈良橋陽子と藤公之介の連名だが、こちらの作詞は奈良橋陽子の単独クレジット。ゴダイゴのほとんどの作品でも作詞を手がけている奈良橋陽子は英語で詞を書くことで知られている。日本語詞は英語詞をもとに書かれたものなのだ。この英語版こそ、奈良橋が書いたオリジナルの歌詞なのである。日本語詞と読み比べてみると、奈良橋がオリジナル歌詞で意図したことや、藤公之介が日本語詞でふくらませた部分がわかって興味深い。
 ラストに置かれたのは「つるの舞踏会」というBGMである。キラキラしたバッキングの上で深いリバーブのかかったフルートのメロディが踊る。霧の立ちこめる湖でつるが舞う光景が目に浮かぶような幻想的な雰囲気の曲だ。
 アルバムのラストがなぜこの曲なのか。主題歌の英語版か「ワンダフル・アドベンチャー」でもよかったのではないか。と初めてこのアルバムを聴いたときは思ったものだが、今聴くと、これはこれでいい。ニルスが目にする大自然の情景が心に残る。「旅」よりも「自然や動物との出逢い」に主眼を置いた構成なのだろう。
 この種のファンタジー作品の音楽ではシンフォニックなオーケストラ・サウンドが使われる例が多い。が、本作ではエレキベースやギターの音が印象的なロック・サウンドが独特の空気感と香りを作品に与えている。このコラムで以前紹介した『白い牙 ホワイトファング物語』(1982)(音楽・小室等)とも重なる音楽スタイルだ。ロック・サウンドがむき出しの自然の肌触りや躍動感を表現しているのである。本作がほかの名作アニメと異なる雰囲気を持っているのは、この音楽によるところも大きい。本格的な音楽集アルバムが発売されなかったのが惜しまれる。

 『ニルスのふしぎな旅』は1982年にTVシリーズを95分ほどにまとめた劇場版が作られた。ただし、当時はビデオソフトとして発売されただけで、劇場公開は2014年にようやく実現した。劇場版ではTVシリーズの主題歌は使われず、新しい主題歌が作られている。「ビューティフル・メロディ」と「ラプランドは夢の国」の2曲で作曲・タケカワユキヒデ、編曲・チト河内というTV版と同じコンビの作(作詞は山上路夫、歌はTOMO)。この2曲は残念ながら一度もレコード化、CD化されていない。
 オリジナルBGMともども、もし音楽テープが残っていれば、ぜひ商品化したいものである。

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第513回 第100面〜現状報告

現在『てーきゅう』第100面のコンテ中!!

といっても裏面(パッケージ用特典映像)や『高宮なすのです!』『うさかめ』などもあったため、『てーきゅう』系のコンテはとっくに120本(?)は越えてて、今さら「100本頑張った!」との感慨はまったくありません。あくまで「本線が第100面なの」って。たかが各話90秒のコンテでも、情報量(台詞・カット)がギュウギュウに詰まっているから実際は(まあ1260秒[30分アニメの本編尺]ほどではありませんが)数百秒ぶんは疲れる感じはある『てーきゅう』シリーズですが、コツコツ続けてたら

気がつけばBlu-ray Boxになってた!

と。この連載と同じ「続けた結果」。自分が考える作品づくりはコレです。とにかく続ける。続けた結果、できるのが作品。次の作品の準備は、現行の作品づくりをしながら。これが俺のルーチンです。

準備期間や金や日々の贅沢がなくても作り続けます!!

 で、現状報告。まず『ベルセルク』はCG・作画ともラストスパート! 自分の方は毎日のCG上がりをチェックしつつ社内の作画の面倒を見てます。コンテは去年、最終回まで上げてたので、今は上がってくるラッシュを見ると若干懐かしく思う不思議。そして『Wake Up, Girls! 新章』は、脚本がラスト2〜3本。コンテは今3本めに手をつけてて、キャラ表・美術設定も続々上がってきてます。この作品は版権類が多いので、キャラデの菅原(美幸)を中心に社内スタッフ一同楽しく作業しております。あとちょくちょく仙台に取材に行ったり、鋭意制作中!
 そーこーしてるうちに2018〜19年に仕事が埋まってきました。まだまだ作らせていただけるなんて、本当に感謝です。と、なんか突如イボができたので病院に行ってきます(汗)。

新文芸坐×アニメスタイル セレクションVol. 93
『天元突破グレンラガン』10周年! 今石洋之SPECIAL!!

 『天元突破グレンラガン』放映開始10周年を記念して、『天元突破グレンラガン』と監督である今石洋之関連作品のオールナイトを開催する。開催日は5月27日(土)。

 上映作品は今石洋之の監督作品の『劇場版 天元突破グレンラガン 紅蓮篇』、『同 螺巌篇』、『宇宙パトロールルル子』、『日本アニメ(ーター)見本市/SEX and VIOLENCE with MACHSPEED』。そして、彼が絵コンテ、演出、作画監督を担当した『アベノ橋魔法☆商店街』3話「合体! アベノ橋☆大銀河商店街」。今石作品をたっぷりと楽しめるプログラムだ。

 トークのゲストは今石洋之を予定。前売り券は新文芸坐とチケットぴあで5月13日(土)から発売となる。

新文芸坐×アニメスタイル セレクションVol. 93
『天元突破グレンラガン』10周年! 今石洋之SPECIAL!!

開催日

2017年5月27日(土)
開場:22時15分/開演:22時30分

会場

新文芸坐

料金

一般2600円、前売・友の会2400円

トーク出演

今石洋之、小黒祐一郎

上映タイトル

『劇場版 天元突破グレンラガン 紅蓮篇』
『劇場版 天元突破グレンラガン 螺巌篇』
『宇宙パトロールルル子』
『日本アニメ(ーター)見本市/SEX and VIOLENCE with MACHSPEED』
『アベノ橋魔法☆商店街』3話「合体! アベノ橋☆大銀河商店街」

備考

※オールナイト上映につき18歳未満の方は入場不可
※トークショーの撮影・録音は禁止

●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

第105回 80年代のきらめきと熱気 〜CAT’S EYE〜

 腹巻猫です。5月4日に中野サンプラザで開催される「資料性博覧会10」で、SOUNDTRACK PUBレーベル新譜「おはよう!スパンク 歌と音楽集」を先行販売します。TVアニメ『おはよう!スパンク』の主題歌・挿入歌と音楽を集大成した3枚組。放送当時発売された2枚のアルバムの復刻に加え、初商品化となるオリジナルBGMをたっぷり収録しました。また、3月に発売した「渡辺宙明コレクション ガードドッグ/おーい!太陽っ子」を渡辺宙明直筆サイン入りカード付きで頒布します(なくなり次第終了)。当日は会場内イベントスペースでは奉力萬さんと早川優さんによる「流用ライブラリ音楽の世界」というサントラファンには興味深いトークイベントも開催されます。お時間ありましたら、ぜひご来場ください。

「資料性博覧会10」公式ページ
https://mandarake.co.jp/information/event/siryosei_expo/


 昨年(2016年)4月に発売された「ニッポンの編曲家」(川瀬泰雄、吉田格、梶田昌史、田渕浩久著/DU BOOKS)という本を読んでいる。70年代から80年代に活躍したポップスのアレンジャーに焦点を当て、レコーディングに関わったミュージシャンやディレクターにも取材した労作だ。川口真、若草恵、星勝、武部聡志らアニメファンになじみ深い作曲家・編曲家も登場するし、サントラの録音にも数多く参加しているトランペッター数原晋やシンセサイザー・プログラマー松武秀樹のインタビューもある。そして、巻末には鷺巣詩郎の寄稿。70〜80年代の音楽制作現場の熱気に触れることができる貴重な証言集だ。同時期のアニメソングやアニメサントラの多くも、このような現場から生まれたのである。
 この本にたびたび名前が登場するのが、キーボード奏者&作・編曲家として活躍した大谷和夫である。
 残念ながら大谷和夫は2008年に他界。本書にインタビューは掲載されていないが、ミュージシャン仲間やディレクターの証言から、その仕事ぶりや人柄をうかがうことができる。
 今回は、大谷和夫の代表作のひとつ『CAT’S EYE』を取り上げよう。

 『CAT’S EYE』は1983年7月から日本テレビ系で放送されたTVアニメ作品。北条司の原作マンガを東京ムービー新社(現トムス・エンタテインメント)が映像化した。1984年3月まで36話が放映されたあと、中断を挟んで1984年10月から第2期37話が放映された。
 喫茶店を営む来生泪、瞳、愛の美人3姉妹。彼女たちのもうひとつの顔は、レオタードに身を包んで夜の街を駆け、美術品を盗み出す怪盗キャッツ・アイだ。キャッツ・アイを追う刑事・内海俊夫と瞳は恋人同士でありながら、追う者・追われる者という間柄。瞳の正体を知らない俊夫とキャッツ・アイとの虚虚実実のかけひきと追跡劇が繰り広げられる。
 スタイル抜群の美女3人組キャッツ・アイの華やかなアクションと俊夫を相手にしたユーモラスなやりとりが見どころ。杏里が歌う主題歌「CAT’S EYE」が大ヒットし、アニメ主題歌が歌謡曲のヒットチャート1位にランクインする先駆けとなった。
 この主題歌のアレンジと劇中音楽を手がけたのが大谷和夫である。「ニッポンの編曲家」の中に、「CAT’S EYE」のメロディとアニメの世界観にSHOGUNの世界観がぴったりだったので劇中音楽も含めて大谷和夫に発注した、という当時のディレクターの証言が紹介されている。
 そう、大谷和夫といえば、なによりSHOGUNである。1978年にギタリストの芳野藤丸を中心に結成され、TVドラマ「俺たちは天使だ!」の主題歌と音楽を担当して一躍注目されたバンド、SHOGUN。腕利きのスタジオ・ミュージシャンが集まったバンドとしても話題になった。1979年にはTVドラマ「探偵物語」でも主題歌と音楽を担当。同時期に登場したゴダイゴとともに、日本の映像音楽に新しい感性とサウンドをもたらしたグループである。SHOGUNは、1979年10月放送のTVアニメスペシャル『大恐竜時代』の音楽も手がけている。
 そのSHOGUNでキーボードとアレンジを担当していたのが大谷和夫だった。
 大谷和夫の詳しいプロフィールは定かでない。1946年生まれ、東京都出身。「ニッポンの編曲家」には「クラシックからジャズにいった人」という証言がある。大谷が音楽を担当したTVアニメ『わたしとわたし ふたりのロッテ』のサウンドトラックのライナーノーツには、プロフィールとして「フリーのジャズマンとしてフル・コンボ等を経験」と記載されている。ともかく、1978年のSHOGUN結成時には、スタジオ・ミュージシャン、アレンジャーとしてすでに活躍していた。
 アレンジャーとしての代表作は、SHOGUN「男達のメロディ」、西城秀樹「YOUNG MAN」、田原俊彦「恋=Do!」、杏里「CAT’S EYE」、本田美奈子「Temptation(誘惑)」、C-C-B「空想Kiss」、浅香唯「夏少女」など。他にも中山美穂、近藤真彦、山口百恵、中森明菜らの楽曲のアレンジを手がけた。
 作曲家としては、TVドラマ「セーラー服反逆同盟」(1986)、「ベイシティ刑事」(1987)、「火曜サスペンス劇場」「土曜ワイド劇場」などの2時間ドラマの音楽や、劇場作品「はいからさんが通る」(1987)、「恋子の毎日」(1988)などの音楽を担当。変わったところでは1992年に発表された京本政樹原作・脚本・監督・主演のビデオ特撮作品「髑髏戦士 ザ・スカルソルジャー 復讐の美学」の音楽を担当している。
 アニメ音楽では1982年の『ときめきトゥナイト』を皮切りに、『CAT’S EYE』(1983)、『ガラスの仮面』(1984)、『悪魔島のプリンス 三つ目がとおる』(1985)、『愛の若草物語』(1987)、『美味しんぼ』(1988)、『わたしとわたし ふたりのロッテ』(1991)等の音楽を担当。ドリーミングの「アンパンマンのマーチ」(最初に発表された1988年版)のアレンジも大谷の手になるものだ。80年代アニメ音楽クリエイターとして忘れてはならない作家のひとりである。

 大谷和夫の音楽は、歯切れのよいリズムとブラスやサックスのしゃれた使い方が印象的。70年代に活躍した映画音楽出身の作曲家やジャズ出身の作曲家のよくも悪くも泥臭いサウンドとは一線を画していた。軽快でカラッと明るく爽快感がある。それが80年代を予見したドラマ「俺達は天使だ!」や「探偵物語」にうまくハマった。『CAT’S EYE』もその流れを汲む作品である。
 『CAT’S EYE』のサウンドトラック・アルバムは1983年9月にフォーライフレコードから発売された。このアルバムは1度もCD化されていない。1984年11月に、第2期のサウンドトラック・アルバムが徳間ジャパンより発売されている。こちらは1985年3月に初CD化され、その後も何度か品番を変えて再発されている。
 2008年、ウルトラヴァイブ/ソリッドレコードより、「アニメ・ミュージック・カプセル」シリーズの1タイトルとして「キャッツ・アイ」と「キャッツ・アイ Season 2」が相次いで発売された。アニメ版第1作の音楽が聴けるCDはこれだけである。今回は、「アニメ・ミュージック・カプセル『キャッツ・アイ』」から紹介しよう。
 収録曲は以下のとおり。

[1] 01.『CAT’S EYE』(TVオープニング)(歌:杏里)
[2]02〜05.BGM(『CAT’S EYE』インストゥルメンタル)/M-1〜M-3、M-23
[3]06〜08.BGM(『Dancing with the sunshine』インストゥルメンタル)/M-4〜M-6
[4]09〜37.BGMコレクション/M-7〜M-22、M-24、M-26〜M-35、M-38、M-39
[5]38.予告編音楽(『CAT’S EYE』インストゥルメンタル)
[6]39.『Dancing with the sunshine』(TVエンディング1)(歌:杏里)
[7]40.『Dancing with the sunshine』(TVエンディング2)(歌:キャリー・リン)
[8]41.『CAT’S EYE』(レコード・ヴァージョン)(歌:杏里)
[9]42.『Dancing with the sunshine』(レコード・ヴァージョン)(歌:杏里)
[10]43.『Dancing with the sunshine』(レコード・ヴァージョン)(歌:キャリー・リン)

※[1]〜[10]はブロック番号。01〜43がトラック番号。

 1曲目にTVサイズ・オープニング主題歌。BGM集を挟んで、TVサイズ・エンディング主題歌(前期・後期)とレコードサイズ主題歌が並ぶ構成。
 BGMはこのシリーズのいつもの方式で、オープニング・アレンジ、エンディング・アレンジ、その他、と大きく3ブロックに分けた構成。各ブロック内はM-No.順になっている。アルバムとしての聴きやすさはまったく考慮されていないが、これはこれで潔い。M-No.順に聴きながら「どんな音楽メニューだったのだろう」と想像するマニアックな聴き方をする楽しみもある。
 M-1はオープニング主題歌のストレート・アレンジ。軽快なギターのカッティングに乗せてサックスがメロディを奏する。後半はブラスとサックスのアンサンブル。リフレインに入る前のギターのアドリブが超絶カッコいい。この曲はフォーライフ版アルバムには未収録。歌入りヴァージョンとはまた違うカッコよさが味わえる1曲である。
 M-2は一転して、オープニング主題歌のスローバラード風アレンジ。アコギにフルートのメロディ。シンプルな編成でしっとりと情感をかもしだす。サビから弦のメロディになり、リズムはラテン調に。意表をついた変化が心憎い。この曲も、リフレイン前にフルートのアドリブが入る。作曲家とスタジオ・ミュージシャンとが共同で曲作りをしていた様子がうかがえる録音だ。
 M-3はシンセサイザーとリズムセクション、ミュート・トランペットが奏でるコミカル・アレンジ。
 M-23は歌入りヴァージョンに準じたアップテンポのアレンジ。リフのように繰り返されるストリングスのクレシェンド・デクレシェンドが効果的だ。シモンズ(シンセドラム)のフィルインがこの時代ならではの音で楽しい。サックスのアドリブからクライマックスになだれ込むドラマティックな構成。この曲はフォーライフ盤では「CHANGING MY HEART」のタイトルで収録されている。
 続いてエンディング主題歌アレンジのブロック。
 M-4はアコギのカッティングと4つ打ちリズムの上でサックスがメロディを奏するディスコ風アレンジ。1コーラスのあとサックスのアドリブになる構成はM-1やM-23とと同様だ。巧みに挿入されるシンセサイザーのキラキラした音色が特徴的で、いかにも80年代サウンドという香りがする。
 M-5はチェレスタ風の音色が奏でるバラード・アレンジ。音数は少なめだが、思わず聴き入ってしまうような濃度の高いプレイが楽しめる曲だ。BGMのプレイヤーは明かにされていないが、おそらく、大谷和夫がいつも一緒にプレイしているミュージシャンを指名して、歌ものと同様の録音が行われたのだろう。
 M-6はM-3と同じスタイルのコミカル・アレンジ。
 次の曲から「BGMコレクション」と大きくくくられたブロックになる。収録曲数は29曲。
 M-7〜M-16は日常描写、情景描写曲。
 M-7はストリングスとフルートのアンサンブルが平和な日常を描写するカラフルでポップな曲。フォーライフ盤では「10¢ BAG」のタイトルで収録されている。
 デートやショッピングのシーンが浮かぶM-9もフルートとストリングス主体の明るい曲。フォーライフ盤タイトルは「WALKING LIGHTLY」。
 サックスが軽やかにメロディを奏でるM-9は「MELANCHOLY BABY」とタイトルが付けられた、ちょっともの憂い雰囲気の曲。今ではこういう曲も珍しくないが、アルバム発売当時は「アニメにこんな曲がつくようになったか」と思わせる大人びたサウンドだった。
 キラキラしたシンセとエレキギターによるM-11は80年代サウンド全開の爽やかなフュージョン曲。フォーライフ盤で付けられた「BREEZY&WINDY」という曲名も時代を感じさせる。
 M-17〜M-28はサスペンス曲、アクション曲。『CAT’S EYE』のアクションシーンを盛り上げた楽曲群である。
 フォーライフ盤で「MYSTERIOUS BOY」と名付けられたM-17はトライアングルのリズムの上でミュートしたギターとストリングスがスリリングなフレーズを奏でる曲。
 シンセとエレキギターが不安感をあおるM-18やサスペンス映画音楽風のM-19、「ピンチ!」または「悪の登場」という雰囲気のM-20など、このあたりは、刑事ドラマ・探偵ドラマを多く手がけた大谷和夫の映像音楽作家としての技が光る曲が続く。
 M-24はフォーライフ盤に「SWINGING SCANDALOUS」のタイトルで収録されているサックスとブラスによる危機感ただようアクション曲。キャッツ・アイと警察との追跡劇をイメージさせる緊迫感に富んだ曲だ。
 M-29〜M-32は心情描写曲。
 前半はクラリネット、後半は木管風のシンセがメロディを受け持つM-29は、おだやかで少し切ない印象の曲。揺れ動く心の描写やふと寂しさを感じる場面などによく合う曲調である。
 バイオリンが情感豊かに歌うM-30は悲しみや虚しさを描写する哀歌。フルートが奏でるもの憂いバラードM-31はフォーライフ盤で「ALL I WANT IS YOU」と名付けられた大人の愛の歌。そして、ストリングスがドラマティックに演奏するM-32は「LOVE FINALE」と名付けられたフランシス・レイのようなロマンティックな曲である。
 コミカルなシーンをイメージさせるM-33、M-34に続いて、M-35はシンセと木管楽器のアンサンブルによる神秘的なムードの曲。霧深い森や夜明けのイメージが浮かぶ静かな曲だ。ブロックを締めくくるM-38とM-39は、それぞれアイキャッチとサブタイトルの曲。
 以上でBGMコレクションは終わり。M-No.順に並んでいるだけだが、日常〜事件発生〜アクション〜苦い解決〜ふたたび日常、という雰囲気で聴けるのが面白い。
 最後の予告編音楽はM-1の編集。第2話(第3話予告)から使用されている(第1話で使用された曲は未収録)。

 本作のあと、大谷和夫は同じ枠で放送された『ガラスの仮面』の音楽を担当。オープニング&エンディング主題歌のアレンジも手がけた。少女マンガ原作の『ガラスの仮面』では、アイドル歌手のアレンジの仕事を思わせるポップな曲やリリカルな曲が多く、『CAT’S EYE』とはひと味違う大谷サウンドを聴くことができる。
 その後、大谷が『愛の若草物語』や『わたしとわたし ふたりのロッテ』などの名作アニメに起用されたのは少し意外だった。SHOGUNの仕事の印象が強いため、「合わないのでは?」と思ってしまうのだが、そんなイメージを振り払うすばらしい音楽を書いている。『愛の若草物語』の美しい女声スキャットの曲や『わたしとわたし ふたりのロッテ』のヨーロッパの香り漂う上品な音楽を聴くと、大谷和夫の原点がクラシックだったという証言もうなずける。実際、『わたしとわたし ふたりのロッテ』では、スタッフの意向で、バッハやブラームス、モーツァルトらの名曲をクラシカルな室内楽曲風にアレンジしている。
 大谷和夫が亡くなったのは2008年、61歳。音楽家としてはまだまだ活躍できる年齢であった。『ニッポンの編曲家』でも、多くのミュージシャンからその死を悼む声が寄せられている。
 大谷がアニメ音楽に携わった1980年代、スタジオでは日夜、凄腕のミュージシャンとアレンジャーたちが新しいサウンド、心ゆさぶるサウンドを作り出そうと苦闘を繰り広げていた。『CAT’S EYE』の音楽にはそんな時代の空気感が閉じ込められている。きらめく80年代サウンドに耳を傾けながら、当時のスタジオの熱気を感じ取ってほしい。

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第131回アニメスタイルイベント
長濵博史、THE REFLECTIONを語る!!

 『THE REFLECTION』は数々のヒット作を生み出したアメコミの巨匠スタン・リーと、『蟲師』『惡の華』の監督で知られる長濵博史が共同で原作を務めるアクションアニメーションである。NHK総合で7月から放送となる本作だが、どういった経緯で長濵博史は監督を務めるだけでなく、共同原作者というかたちになったのか。気になっているファンも多いはずだ。

 2017年5月21日(日)に開催する「第131回アニメスタイルイベント 長濵博史、THE REFLECTIONを語る!!」はタイトル通り、長濵博史をメインとしたトークイベントだ。メインのパートでは『THE REFLECTION』の企画成立までの道のりについて、どんな作品なのか、監督としてどのように作り上げるのか、あるいは彼のアメコミに対する想いなどを語っていただく予定だ。裏話もたっぷり。濃いトークに期待してほしい。

 他の出演者は『THE REFLECTION』でキャラクターデザインを担当する馬越嘉彦を予定。会場は阿佐ヶ谷ロフトA。今回もトークの一部を「アニメスタイルチャンネル」で配信する。前売り券は、4月29日(土)から販売となる。詳しくは阿佐ヶ谷ロフトAのサイトを見てもらいたい。

■関連リンク
「THE REFLECTION WAVE ONE」公式サイト
http://thereflection-anime.net

アニメスタイルチャンネル
http://ch.nicovideo.jp/animestyle

阿佐ヶ谷ロフトA
http://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/64853

第131回アニメスタイルイベント
長濵博史、THE REFLECTIONを語る!!

開催日

2017年5月21日(日)
開場18時 開演19時 終演22時予定

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

長濵博史、馬越嘉彦、小黒祐一郎

チケット

前売1500円 当日1800円(共に飲食別・要1オーダー)

■アニメスタイルのトークイベントについて

 会場となる阿佐ヶ谷ロフトAはトークライブができる居酒屋。入場料(今回は前売1500円、当日1800円)とは別に飲食(最低でもドリンク1杯)をお願いしている。ソフトドリンクもあるので、未成年の方でも大丈夫。 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものだ。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていないし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれない。その点は、あらかじめお断りしておく。

第512回 ミルパンセの歩み

 (前回のつづき)で、南阿佐ヶ谷のワンルームに白石と自分、そして専門学校の新卒2人でスタートしたミルパンセ。どこかの会社から何人か引っこ抜いて作った会社ではないため、最初は俺がライデンフィルムやフッズエンタテインメントやMAPPAで監督やって走り回ってる傍ら、新人・三宅舞子さんの動画から面倒を見て、第16面の温泉卓球回で半分原画、裏面(特典)のトマリンとボーリック星人回でメイン原画(実は板垣の作監修正はほとんどのってません)、第3期になると彼女に渡す話数はほぼ全面的にお任せになっていきました。その頃ミルパンセは「制作協力」のクレジットで、そーこーしてる間にスタジオも田無に移転し、宮村明さん、鴨田航くんら新人を数名増やして2年めに突入。『人生』や『Wake Up, Girls!(第1期)』をやってる頃、『てーきゅう(第4期)』&『高宮なすのです!』の話がきたと記憶してます。と同時期に『Wake Up, Girls!(第2期・青春の影/Beyond the Bottom)』の共同制作の話がきた事により、新人育成の場を田無に残し、荻窪に出張。その荻窪で面接をして採用になったのが菅原美幸さん(現在『Wake Up, Girls! 〜新章』のキャラクターデザイン担当)で、線も綺麗で形もしっかりとれてたので『てーきゅう』『なすの』『WUG!』の動画チェックを任せ、「人に教えられるようになりたい」との自身の希望もあり、新人動画の指導もお願いすることになりました。そしてまた数名の新人を採用したところで、田無にもう少し広い物件を探してたらなぜか武蔵関にたどり着き3年め。『てーきゅう』第5〜7期、『ベルセルク(第1期)』へ続きます。新人が原画・動画をやり、三宅・菅原で作監(作画チーフ)体制へ。
 そして4年めの去年、

 ペーパレス!! 最初5人にデジタル作画の研修を受けにいってもらい、戻ってきて社内のスタッフに教えてもらおうと! 数名ずつ1年かけてゆっくりと考えていたのですが、数日間皆の様子を見ていたところ、アナログ組がたった5人のデジタル組より圧倒的に分が悪い事が分かり、全員一気にデジタル作画へ切り替えました。そーゆー決断は即決です、我々!

50〜100人以上になると、一気にPCを揃えるなぞ我が社の財政的に絶対無理!
20人前後の時に多少無理してでも切り替えた方が後で楽になるはず!!

と。よって『てーきゅう(第7期)』途中から紙と鉛筆は使わずデジタル作画です! ちなみに『てーきゅう』は第4期から「制作元請け」、第8期と『うさかめ』は「製作」になりました。
 そんなわけでミルパンセの成長の傍らにはいつも『てーきゅう』があるのです! 次は何やろーかな? と。

第130回アニメスタイルイベント
アニメ様のイベント 雑誌デザインのこだわり編

 昨年の5月に続き、アニメスタイル編集長の小黒祐一郎が自分の仕事について語るイベントが開催される。題して「第130回アニメスタイルイベント アニメ様のイベント 雑誌デザインのこだわり編」である。

 アニメ雑誌編集者として三十数年活動している小黒が、アニメ雑誌のデザインやページ構成に対するこだわりについて語る。例えば、本編カットをどのように掲載したいと思っているのか。設定資料や原画を掲載する際の理想はどういったものなのか。あるいは、どんなものに影響を受けて誌面構成を考えたのか(例えば『新世紀エヴァンゲリオン』レーザーディスクのデザインは何に触発されて思いついたのか)等々。

 トークはざっくばらんな、のんびりとしたものになるはずだ。ゲストとしてお馴染みのサムシング吉松も出演。会場では5月11日に発売される「アニメスタイル011」の先行販売も予定している。会場は阿佐ヶ谷ロフトA。チケット予約はすでに始まっている。詳しくは阿佐ヶ谷ロフトAのサイトを見ていただきたい。

■関連リンク
アニメスタイルチャンネル
http://ch.nicovideo.jp/animestyle

阿佐ヶ谷ロフトA
http://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/64416

第130回アニメスタイルイベント
アニメ様のイベント 雑誌デザインのこだわり編

開催日

2017年5月3日(水・祝)
開場18時 開演19時 終演22時予定

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

小黒祐一郎、サムシング吉松

チケット

前売1500円 当日1800円(共に飲食別・要1オーダー)

■アニメスタイルのトークイベントについて

 会場となる阿佐ヶ谷ロフトAはトークライブができる居酒屋。入場料(今回は前売1500円、当日1800円)とは別に飲食(最低でもドリンク1杯)をお願いしている。ソフトドリンクもあるので、未成年の方でも大丈夫。 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものだ。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていないし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれない。その点は、あらかじめお断りしておく。

第511回 てぇ……キュウ

『てーきゅう』第9期決定!!

らしいです。「らしい」というのは正式に決定の話を聞いたのが3月後半だからで、今大急ぎでキービジュアル制作中。こないだ俺がレイアウトを描き、現在原画以降を社内の若手にお任せ!
 思えばこの『てーきゅう』シリーズはミルパンセの歴史です。当時「某シリーズの続編待機状態」な頃、そのシリーズがポシャッた事で急遽手空きになった自分のところに、(当時)MAPPA・丸山正雄様より「ウチに来い、仕事はある!」的な電話をいただき、始まったのが第1期『てーきゅう』でした。超低予算アニメのため、てゆーか1期は今よりもっと安かったので、

コンテから原画、動画まで「自分でやるしかなかった」シリーズ!

です。続いて「2期、3期(2クール)できないか?」とダックスさんからMAPPAさんに話があり、丸山様は「板垣がやりたいなら」と仰ったと聞いてます。その頃、白石はミルパンセを起こしてて、俺自身はミルパンセとMAPPAとライデンフィルムとフッズエンタテインメントと、青梅街道を行ったり来たりしてました。ミルパンセも最初、南阿佐ヶ谷のワンルームで——。

第104回 心地よく秘密めいた世界 〜Rozen Maiden〜

 腹巻猫です。5月4日に中野サンプラザで開催される「資料性博覧会10」に参加します。個人誌「劇伴倶楽部」既刊のほか、《SOUNDTRACK PUB》レーベルCD等を頒布の予定。参加サークル、入場方法などは、まんだらけ「資料性博覧会」公式ページを参照ください。
https://mandarake.co.jp/information/event/siryosei_expo/


 前回、『彼氏彼女の事情』のエンディングテーマ「夢の中へ」のアレンジャーとして名前を挙げた光宗信吉。TVアニメ『ナースエンジェル りりかSOS』や『少女革命ウテナ』の音楽を担当した作曲家である。
 今回は光宗信吉の代表作のひとつ『Rozen Maiden』を取り上げよう。

 光宗信吉は1963年生まれ。幼少時は熊本に暮らし、福岡に移り住んだ。4歳よりヤマハ音楽教室に通い、作曲と音感のトレーニングを受ける。10歳からエレクトーンを始め、コード進行やアレンジの面白さに目覚めた。中学生時代にエレクトーン奏者の沖浩一からジャズ・オルガンを学ぶ。
 作曲は小学校の頃から始めたが、音楽家を志したのは、シンセサイザーに出会って音作りの面白さを知ってから。高校卒業後上京し、立教大学に進学する。音楽大学に進まなかったのは、冨田勲や神保彰(フュージョンバンド《カシオペア》のドラマー)ら尊敬するミュージシャンが音楽大学を出ずにすばらしい音楽活動をしていたからだった。
 大学在学中からバックバンドの仕事を始め、マリーンのバンドに約2年間在籍。各地のジャズ・フェスティバルなどに出演した。その後も西村由紀江ら、数々のアーティストのサポートを務めた。
 しかし、本当にやりたいのは作曲の仕事だった。CM音楽の事務所に曲を送ったりしたが声がかからない。そんなとき、送っていた曲が若手作曲家を探していたキングレコードのディレクター・大月俊倫の目に止まった。TVアニメ『GS美神』『BLUE SEED』等の歌のアルバムに参加したのち、1995年放送のTVアニメ『ナースエンジェル りりかSOS』の音楽担当に抜擢された。
 『りりかSOS』ではフルオーケストラを使った音楽を初めて書いた。手加減がわからず全力で書いた音楽が評価され、続けて手がけた『少女革命ウテナ』の音楽もクラシカルで美しい音楽でファンの支持を集めた。
 以来、数々のアニメ作品の音楽を手がけている。代表作は『少女革命ウテナ』(1997)、『アキハバラ電脳組』(1998)、『フリクリ』(2000)、『遊戯王デュエルモンスターズ』(2000〜2004)、『ちっちゃな雪使いシュガー』(2001)、『魔法先生ネギま!』(2005)、『ロケットガール』(2007)、『スカイガールズ』(2007)、『ゼロの使い魔』シリーズ(2006〜2012)など。庵野秀明監督初の実写劇場作品「ラブ&ポップ」の音楽も担当した。最新作は2017年5月から放送される『遊戯王VRAINS』。
 少女を主人公にした作品が多く、ピアノや弦楽器の音色を生かしたエレガントで美しい音楽が魅力。クラシカルな音楽の印象が強いが、意外にも原点はクラシックではなく、冨田勲、YMOと坂本龍一、カシオペアに影響を受けたという(筆者がインタビューしたときにうかがった話)。若い頃は、ラリー・カールトンやリー・リトナーといった西海岸のジャズ・フュージョンを好んで聴いていた。光宗信吉の音楽がクラシカルでありながら、ときにポップで明るいサウンドを聴かせてくれるのは、このあたりに秘密があるのかもしれない。

 『Rozen Maiden』は2004年10月から12月までTBS系で放送されたTVアニメ作品。PEACH-PITの原作漫画を松尾衡監督で映像化した。アニメーション制作はノーマッド。2005年には第2作『Rozen Maiden traumend』が、2006年に特別編『Rozen Maiden ouverture』が放送された。2013年にはスタッフを一新した別の物語『ローゼンメイデン』が放送されている(アニメーション制作はスタジオディーン)。光宗信吉は全作品で音楽を担当した。
 『Rozen Maiden』の仕事は『少女革命ウテナ』の音楽を聴いたTBSのプロデューサーからのオファーだったという。『ウテナ』のような美しく豪華な音楽がほしいという注文だった。
 魂を持ったアンティークドール「薔薇乙女」たちと引きこもりの少年ジュンとの交流を描く不思議な作品である。薔薇乙女は人間の言葉をしゃべり、人間と同じものを食べ、不思議な力を操る。薔薇乙女の真紅と契約を交わしたジュンは、「アリスゲーム」という薔薇乙女同士の争いに巻き込まれていく。
 光宗信吉の音楽は、ピアノ、チェンバロ、弦楽器等のアンサンブルによるバロック的な響きが印象的。薔薇乙女の古風で華麗な姿にぴったりの音楽だ。
 サウンドトラック・アルバムは2005年1月にメロウヘッドから発売された。収録曲は以下の通り。

  1. 禁じられた遊び(TVサイズ)
  2. Battle of Rose
  3. 困った趣味
  4. 暖かな心
  5. Ivy
  6. Reminiscence
  7. 暗闇より来たるもの
  8. Noble Dolls
  9. 癇癪
  10. Cute Girl
  11. 激しい思い
  12. 受難の日々
  13. Battle in the House
  14. 内省
  15. 淡い想い出
  16. 孤独な心
  17. Abstract
  18. 壊れた世界
  19. Rose Garden
  20. Concerto
  21. Alice Game
  22. 薔薇の誓い
  23. 薔薇の呪縛
  24. 残忍な攻撃
  25. おもちゃの国
  26. 宿敵
  27. Bright Red
  28. Neat Sister
  29. 天真爛漫
  30. 臆病者
  31. 邪悪なたくらみ
  32. バリケ-ド戦
  33. かしましい彼女たち
  34. 上機嫌
  35. Funny Dolls
  36. Jet Fighters
  37. Garden Party
  38. 美しい泉
  39. 朝の朝食
  40. 探偵くんくん
  41. 氷解
  42. 小高い丘にて
  43. Change
  44. 透明シェルター(TVサイズ)


 44曲収録、演奏時間74分のボリューム。1曲目がオープニングテーマ、44曲目がエンディングテーマ、それ以外はすべて光宗信吉の手による劇中音楽である。サブタイトル曲「Ivy」、アイキャッチ曲「Rose Garden」「Concerto」もしっかり収録されている。
 サントラパートの冒頭を飾る「Battle of Rose」は、本作きっての人気曲。次回予告にも使用された本作のメインテーマとも呼ぶべき曲だ。
 ロックのリズムにバロック的な弦のメロディ。間奏ではエレキギターのアドリブが炸裂する。薔薇乙女の闘いを描写するアクション曲でありながら、美しくはかないイメージが広がる。劇中では、第2話で薔薇乙女・雛苺と真紅が闘う場面や第4話でジュンたちが夢の世界から脱出する場面、第6話、第11話、第12話で真紅をつけ狙う薔薇乙女・水銀燈と真紅が闘う場面など、「ここぞ」というシーンで使用されている。
 トラック3の「困った趣味」は、わがままな薔薇乙女たちに翻弄されるジュンのユーモラスな場面を彩った曲。アンティークドールと人間との奇妙な共棲の描写は本作の見どころのひとつ。ちょっととぼけた曲調の音楽がほんわかしたムードを作り出していた。9曲目の「癇癪(かんしゃく)」、12曲目「受難の日々」、31曲目「邪悪なたくらみ」なども同じ雰囲気を持つ日常描写曲だ。
 トラック4「暖かな心」はピアノが奏でるメロディがしみじみと胸を打つ名曲。第1話で真紅がジュンの姉・のりの入れた紅茶を飲んで「とてもやさしい味がする」と言う場面や第6話で傷ついた人形を直すジュンの手つきに真紅が感動する場面など、薔薇乙女と人間の心が通う味わい深い場面に使用された。
 サブタイトルを挟んだトラック6「Reminiscence」は第4話でジュンが夢の世界に入っていくシーンに使われたミステリアスな曲。
 トラック7「暗闇より来たるもの」はチェンバロがメランコリックな旋律を奏でる不安曲。妖しい夢の中をさまようような気持ちになる神秘的で緊張感のある曲だ。この曲に限らず、本作ではチェンバロを使ったバロック風の曲が効果的に使われている。
 なかでもトラック21の「Alice Game」は薔薇乙女たちの悲しい宿命を表す曲として印象深い。真紅に屈折した憎しみを抱く水銀燈の登場場面にたびたび使用された。「Battle of Rose」と並ぶ本作を代表する曲である。
 また、トラック23「薔薇の呪縛」はチェンバロの旋律が真紅とジュンの絆を表現する重要な曲。第1話でジュンが真紅と契約を結ぶ場面に使われ、第11話、第12話ではジュンが水銀燈の攻撃から真紅を守ろうとする場面に流れた。「呪縛」というタイトルが示すように、曲は当初、緊迫した不安なイメージに聴こえる。しかし、真紅とジュンの絆が深まるにつれて、情感を伴った感動的な曲に聴こえてくる。物語に結びついたサウンドトラックならでは醍醐味である。
 ほかに、トラック18「壊れた世界」、トラック22「薔薇の誓い」、トラック27「Bright Red」など、弦楽器が奏でる抒情的な曲も耳に残る。

 しかし、本作の音楽の一番の聴きどころはピアノ曲だ。
 派手ではないが、淡々と静かに、ピアノが心情を語る曲が心に残る。
 トラック14「内省」は、ピアノがシンプルなメロディを奏でる、サティの音楽のような淡い印象の曲。曲名の通り、ジュンの心の内を描写する曲として、ほぼ毎回のように使われている。第3話で雛苺が引きこもっているジュンを自分と一緒だと言う場面、第6話で真紅がジュンに「あなたは迷子なのね」と語りかける場面、第10話でジュンが真紅のドレスのボタンをつけながら真紅と語らう場面など、穏やかな、しかし、じんわりと胸を打つ名場面に流れた。
 次の「淡い想い出」も美しいピアノの旋律が心に沁みる曲だ。ジュンが反発する素振りを見せながらも薔薇乙女たちを気遣う場面や、のりがジュンを心配して心を痛める場面など、胸に秘めた愛情を表現する曲として使われている。
 トラック16「孤独な心」は寂しさや哀しみを表現するピアノ曲。第4話で植物と交感することができる薔薇乙女・翠星石がジュンの心の樹に水をやる場面、第10話のラストで真紅が眠るジュンに口づけして出ていく場面などの使用が印象に残る。
 チェンバロは本作のドラマティックな一面を象徴する音だが、ピアノは登場人物の内なる心情を表現する大事な役割を担った音なのである。
 アルバムの終盤には最終回に使用された曲が続けて登場する。
 トラック41「氷解」は水銀燈の悲しき最期の場面に流れたピアノと弦楽器による美しい悲哀曲。次の「小高い丘にて」は、ジュンと薔薇乙女たちが闘いを終えて夢の世界から帰還する場面に使用。サントラパートの最後を飾るのは、引きこもりだったジュンが散歩に出かける場面に流れた「Change」。未来に開かれた希望とともにアルバムは幕を閉じる。ジュンと真紅たちの間に芽生えた絆とジュンの成長をイメージさせるいい構成だ。
 ひとつ間違えば病的な世界に傾きそうな題材を、光宗信吉は華麗で上品な音楽でファンタジーの世界に引き留める。不思議な作品だけど、音楽は不思議なだけではない。薔薇乙女と人間たちへの共感に根差した音楽だ。その世界はやさしく、心地よい。

TVアニメ『ローゼンメイデン』オリジナル サウンドトラック
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第510回 イベントと放映開始!


 前回の続き。『ベルセルク』ビジュアル・スペクタクル・イベント「蝕2017〜生贄たちの宴〜」での9mm Parabellum Bulletさん、やなぎなぎさん、平沢進師匠らの生唄・生演奏はホント、超大迫力でトリ肌ものでした!! 9mmさんのオープニング曲は、1期のも2期のもガッツという男そのものを照れずに力強く歌い上げ、そして少々酔いしれてる感じがたまりません! やなぎさんのエンディング曲は、その激しいガッツの闘いの狭間に見える静かに瞬く星空なイメージ。ステージ上ではやなぎさんご自身が天使のようでした! そして平沢師匠の劇中歌は正に『ベルセルク』の世界観そのもの。会場全体を見事に一瞬で『ベルセルク』に染め上げ、もはや書いたり語ったりで表現できる語彙が見つかりません。その生の空間にいられる幸せを満喫させていただきました!!

それぞれがまったく違うアプローチで作り上げても、すべて受け入れる事ができる何層もの深みのある原作、それが『ベルセルク』!

だと思ってますから、俺。実際我々が作っている「画」に関しても自分はそーゆー解釈で、CGも手描きも今現在ある条件すべてを限界まで引き出させる魅力が『ベルセルク』の原作にはあると。
 で、第2期の1話2話の上映。もう少し大きな画面で観たかったのですが、上映後、原作者・三浦建太郎先生より「あの物量よく詰め込みましたね〜。アクションもホントに原作どおりやってるし、大変だったでしょう!?」と労いの言葉をいただき感激しました! さらに板垣はイベント終了後、役者さんやアーティストさんらの控え室への挨拶にもご一緒させてもらい、本当に『ベルセルク』三昧な1日を過ごしたわけです。

 そして、あっという間に

『ベルセルク』第2期、放映開始(WOWOWでは1・2話同時放映)!!

となりました。もともと分割2クールでホン読みやってたので、我々は制作ナンバー13話・14話と呼んでたんです。
 後半、まず取りかかったのは、ガッツやファルネーゼほかメインキャラの3Dモデルの調整。より原作に近づけるため、キャラデの阿部恒さんにもう一度修正を入れていただき、それを基にGEMBAさんの方でモデルの修正をしていただきました。コンテの方は、1期終了後、すぐ2期に移ったので2016年内に最後まで終えました。ぶっちゃけコンテ撮でのカッティングも最終話の再調整を除きすべて終わってます。現在は作画パートの指示出しとCGムービーのチェックしつつ、『Wake Up, Girls! 新章』のコンテ作業真っ最中に『てーきゅう9期』が入ってきたところです。本編の話はまだ次回に続く!

第509回 イベントの日曜日

 4月2日(日)、母校の東京デザイナーズ学院にて、

 アニメ業界を目指す若者らに向けた講演に出演した後、行ってきました!

TVアニメ『ベルセルク』ビジュアル・スペクタクル・イベント
「蝕2017〜生贄たちの宴〜」

に!! ユニバーサルさんより招待していただき、ありがとうございました! 内容は、9mm Parabellum Bulletさん、やなぎなぎさん、平沢進師匠(こう呼ばせてください!)らの生唄・生演奏と岩永洋昭さん(ガッツ)、日笠陽子さん(ファルネーゼ)、興津和幸さん(セルピコ)、行成とあさん(キャスカ)らによる朗読劇。そして第2期の1・2話の上映と盛りだくさん! 普段は我々が作った画の尺にあわせて芝居をしている役者の皆さんが、朗読だと自身のテンポで伸び伸び演じられてて、

と少々反省したりも。あと『ベルセルク』の魅力は、画やストーリーだけでなくセリフにもあると再認識しました。とにかく、三浦建太郎先生の書かれるセリフは

どのキャラのどのセリフも、物語のご都合主義から書かれたものではなく、先生自身がすべてのキャラに憑依して語っている生きた言葉なので、とても深く、ファンタジーマンガでありながら、我々が現実社会で生きていく際の道標になるものばかり!!

なんです。それが証拠に、スタッフや役者さんらと『ベルセルク』の話をすると、「好きなセリフ」の話になる事が多いんです。例えば、板垣個人的には原作24巻でイシドロに剣を教えてるガッツのセリフ、

お前何十年も修行して達人にでも
なるのを待ってから戦場に出るつもりか?

や、同じく26巻でもイシドロに対して言うガッツの

武器を持ちゃ——戦場じゃガキだろうが立派な戦力だ

とかのセリフが大好きで、この話数のホン読み(脚本打ち)の際、

て言ったほどです。「自分と白石(社長)以外ほぼ新人で始めたウチの会社では、PC(武器)を持った新人(イシドロ)に、動画歴何年な基礎から云々よりまず役職を越えて”戦力”になれ!っていう指導をしています!」と。アニメ『ベルセルク』はそうやって出来ているんです!

 で、いよいよ

TVアニメ『ベルセルク』第2期
4月7日より、MBSほか/アニメイズム枠/WOWOWにて放映開始!!

になります。その話も含めて、イベント話の続きは次週で。

第103回 回想の十代 〜彼氏彼女の事情〜

 腹巻猫です。3月23日に渋谷オーチャードホールで開催されたコンサート「シン・ゴジラ対エヴァンゲリオン交響楽」に足を運びました。タイトルについた「対」は伊達ではない。両作品の音楽ががっちりとぶつかり、渾然となったすばらしいコンサートでした。4月30日にNHK BSプレミアムで放送されるそうなので、当日会場に行けなかった方もお楽しみに!


 「シン・ゴジラ」と『エヴァンゲリオン』シリーズの音楽を手がけたのは鷺巣詩郎。コンサートで生の演奏を聴いて、あらためて音作りのセンスのよさと曲のクオリティに唸ってしまった。オーケストラを使ったシンフォニックな音も、エレキギター、エレキベース、ドラムス等のリズムセクションを入れたポップス的な音も、緻密で芳醇、自由でいて上品。サウンドトラックの演奏という枠組みを超えて、音を浴びる幸福感を存分に味わえたコンサートだった。
 鷺巣詩郎を映像音楽の作曲家と言ってしまっては語弊があるだろう。アニメファンにとっては何をおいても『エヴァンゲリオン』の作曲家であるのはたしかだが、そのキャリアは日本のポップスシーンに燦然と輝く刻印を残している。『宇宙戦艦ヤマト』の宮川泰のように、手がけた映像作品が大ヒットしたためにそれが代表作のようになってしまったが、本来はジャンルを超えて上質のポピュラー音楽を作り出してきた作家なのである
 鷺巣詩郎は1957年生まれ。父親はマンガ家のうしおそうじこと鷺巣富雄。鷺巣富雄は「マグマ大使」「快傑ライオン丸」等を制作した映像制作会社ピー・プロダクションを興した人物である。現在は鷺巣詩郎がピー・プロダクションの社長を務めている。
 1976年頃から毎日のように都内の音楽スタジオを巡ってプロの音楽家として活動。1978年にThe SQUARE(現T-SQUARE)のデビューアルバム「Lucky Summer Lady Midnight Lover」に参加。1979年にアルバム「EYES」でソロアーティストとしてデビュー。80年代からは数々のアーティスト、アイドルの楽曲の作曲・編曲・プロデュースを手がけ、劇場作品やTV番組の音楽でも活躍。1982年から30年以上続いたフジテレビのバラエティ「笑っていいとも!」の音楽も担当していた。90年代には日本レコード大賞の音楽監督として作曲・編曲・指揮を担当するほか、海外にも活躍の場を広げた。現在は日本とロンドンとパリの3ヶ所を拠点にジャンルと国境を越えた最先端の音楽作りを続けている。
 アニメファンが鷺巣詩郎の名を意識したのは、1982年に『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』の主題歌「めぐりあい」の編曲を手がけたときだろう。以降、アニメ作品では『アタッカーYOU!』(1984)、『幻夢戦記レダ』(1985)、『メガゾーン23』(1985)、『きまぐれオレンジ☆ロード』(1987)、『ふしぎの海のナディア』(1990)、『超時空要塞マクロスII』(1992)、『新世紀エヴァンゲリオン』(1995)、『BLEACH』(2004)、『マギ』(2012)、『ベルセルク 黄金時代篇』(2012)などの音楽を担当している。
 今回は、鷺巣詩郎が1998年に手がけたTVアニメ『彼氏彼女の事情』、通称「カレカノ」を取り上げよう。

 『彼氏彼女の事情』は津田雅美の同名漫画をガイナックスがアニメ化した作品。1998年10月から1999年3月まで全26話が放送された。庵野秀明監督が『エヴァンゲリオン』以降初めて監督したTVアニメ作品として話題になった(監督は途中から佐藤裕紀と連名でクレジット)。高校生・宮沢雪野と有馬総一郎の2人を中心に描かれる学園アニメである。明るいコメディシーンと丹念な心理描写、実験的な手法も取り入れた意欲的な画作りが印象に残る。『エヴァンゲリオン』の呪縛から逃れたような解放感と若手スタッフのセンスがはじける作品だ。
 映像とともに音も印象深い。原作のセリフを生かした膨大なセリフ。そのバックやセリフの間に流れる鷺巣詩郎の音楽。ラジオドラマとしても成立するくらい濃密な音が聴こえてくる。
 鷺巣詩郎の映像音楽作品といえば、どうしても『ふしぎの海のナディア』や『エヴァンゲリオン』を代表とするSF作品が思い浮かんでしまうが、本作ではそうした作品で聴かれるようなスリリングな曲や壮大な曲は登場しない。その代わり、聴いていると心がふわっと解放されるようなはじけた曲、明るい曲、しみじみと胸に沁みる曲がふんだんに作られている。鷺巣詩郎本人も「キャッチーで楽しいメロが多い」と語る充実した作品だ。庵野監督は本作の音楽がお気に入りで、のちに『エヴァンゲリヲン新劇場版』に流用しているくらいである。
 本作の音楽は2回のセッションでバージョン違いも含め165曲がレコーディングされた。演奏には、キーボード=宮城純子、ギター=今剛、トランペット=エリック宮城ら、「シン・ゴジラ対エヴァンゲリオン交響楽」にも参加した鷺巣作品おなじみのミュージシャンが参加。ほかにも、ドラムス=渡嘉敷祐一(ザ・プレイヤーズ)、ベース=富倉安生(トランザム)、ギター=芳野藤丸(SHOGUN)、ラテンパーカッション=斎藤ノヴら、1970年代から日本のポピュラーミュージック界を牽引してきたメンバーが参加している。ストリングスセクションは、弦一徹の名でも活躍する落合徹也のグループ。ずっと聴き続けていたい気分になるぜいたくな音楽だ。
 サウンドトラック・アルバムは「彼氏彼女の事情 ACT1.0」〜「同 ACT3.0」の3枚が発売された。2005年にはこの3枚に未収録音源と劇中使用クラシック曲を収録した「ACT4.0」を加えた4枚組CD-BOXが発売されている。発売元はいずれもキングレコード。
 今回は「ACT1.0」から紹介しよう。収録曲は以下のとおり。

  1. アバンタイトル
  2. 天使のゆびきり(歌:福田舞)
  3. 此迄ノ荒筋(正太郎マーチ)
  4. 宮沢雪野I(Concerto)
  5. 宮沢雪野II (March)
  6. 日々平和
  7. 平穏無事
  8. 切磋琢磨
  9. 天下泰平
  10. 会者定離
  11. 有馬総一郎II
  12. 有馬総一郎I
  13. 夢の中へII
  14. 宮沢一家
  15. 主客転倒
  16. 宮沢雪野III(Jazz rock)
  17. 共存共栄
  18. 宮沢雪野IV(Kanon)
  19. 宮沢雪野V(Nocturne)
  20. 不撓不屈
  21. 夢の中へIII
  22. 一期一会
  23. 夢の中へ(歌:榎本温子、鈴木千尋)
  24. 此来ノ荒筋

 選曲と構成は庵野秀明監督。クレジットには「Songs Selected & Entitled: Hideaki Anno」と表記されている。漢字4文字でまとめられた曲名が本編のアイキャッチを思い出させてニヤッとしてしまう。
 曲順は番組と同様にアバンタイトル曲とオープニング主題歌から始まり、エンディング主題歌と次回予告の曲で終わる流れ。
 オープニング主題歌の後に本編の冒頭で毎回のように流れる「これまでのあらすじ」のBGM「此迄ノ荒筋(正太郎マーチ)」が入っているのがうれしい。これは1963年放送のTVアニメ『鉄人28号』のために書かれた曲(作曲=越部信義)。いわゆる流用曲である。それを本編の構成に倣って冒頭に持ってくるのが庵野監督らしいこだわりだ。本作のあらすじBGMでは他にも『宇宙戦艦ヤマト』(ACT19.0、ACT26.0)や『ウルトラマン』(ACT24.5)、『帰ってきたウルトラマン』(ACT25.0)等の楽曲が流用されている。
 あらすじ音楽に続くトラック4とトラック5は主人公・宮沢雪野のテーマ。ベートーベンのピアノ協奏曲風にアレンジされた「宮沢雪野I(Concerto)」は本性を隠した「仮面優等生」雪野の自己陶酔を表す曲だ。「宮沢雪野II(March)」は明るく威勢のよいマーチ。こちらも仮面優等生として調子に乗っている雪野を描写する曲。メニューではそれぞれ「A-2 派手なコンチェルト」「A-1 派手なマーチ」と指定されている。その注文どおりの振りきれ具合が心地よい。優等生の仮面の陰で「ふふふふ」と笑う雪野の顔が目に浮かぶ。
 トラック6「日々平和」は雪野たちの学園生活を描写する曲。音楽メニューは「B-15 喜び・ちょい地味め」。ヨーロッパのカフェの光景が浮かんでくるようなしゃれた雰囲気の曲だ。さりげない日常曲にも鷺巣詩郎の音作りのセンスとこだわりが表れている。
 次のトラック7「平穏無事」はとぼけた雰囲気の日常曲。「カレカノ」ファンには印象深い使用頻度の高い曲である。音楽メニューは「B-9 シラケ(軽めに)」。コミカルな曲はとかくやりすぎになったり、下品になったりしがちだが、この曲は品よくユーモラス。絶妙のバランスが気持ちいい。この手の楽曲が得意だった宮川泰の音楽をほうふつさせる。『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』でアスカの登場シーンに流用されている。
 トラック9「天下泰平」は行動のテーマ。音楽メニューは「C-1 明るい朝」。ブラスとパーカッションのアンサンブルによるラテンジャズ風の曲だ。この曲も『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』に流用され、アスカのテーマのような扱いでくり返し使用されていた。
 ピアノソロから始まるトラック10「会者定離」は孤独のテーマ。本作ではピアノを使った曲がとても印象深い。気持ちのすれ違い、寂しさ、自己嫌悪、いらだち。鷺巣サウンドになくてはならないピアニスト・宮城純子のピアノが繊細な思春期の心の揺れを表現する。登場人物のモノローグのバックなどに流れて、絶大な効果を上げていた。
 続くトラック11「有馬総一郎II」は「C-7 夕日の二人」というメニューで書かれた曲だが、ここでは有馬の恋心とやさしさを描写するイメージで収録されている。ピアノをバックにストリングスによる旋律が前半ではしみじみと、後半では明るく奏される。幸福感が伝わってくるよい曲だ。
 次の「有馬総一郎I」は有馬の内面を描写するピアノとストリングスの曲。有馬のモノローグのバックなどで使用されている。
 トラック13「夢の中へII」はエンディングテーマ「夢の中へ」のアレンジ曲。「夢の中へ」は井上陽水の1973年のヒット曲だが、本作では光宗信吉がアレンジし、主役2人が歌ったバージョンがエンディングテーマに採用されている。そのメロディをモチーフにしたBGMは劇中の「ここぞ」という場面に流れて鮮烈な印象を残す。この曲もそのひとつで、ACT3.0(第3話)のラスト、雪野と有馬の関係が変化する重要な場面に流れている。
 「カレカノ」でピアノ曲と並んで印象深いのが「パッパヤッパ」という女声スキャットが入った曲である。
 トラック14「宮沢一家」、トラック15「主客転倒」はその代表。コーラスは伊集加代子グループ。「プレイガール」(1969)や『ルパン三世(第1作)』(1971)などの山下毅雄作品でおなじみの、『アルプスの少女ハイジ』(1974)の主題歌や『銀河鉄道999』(1978)のスキャットも担当したあの伊集加代子さんですよ。さすが鷺巣さんわかってる! とうならされる人選。それにみごとに応えた伊集さんもすばらしい。昭和のTVドラマ音楽を現代の技術でリニューアルしたような楽しい楽曲に仕上がった。女声スキャットはトラック20「不撓不屈」にもフィーチャーされている。
 トラック18「宮沢雪野IV(Kanon)」とトラック19「宮沢雪野V(Nocturne)」は雪野のテーマのストリングスとピアノによる静かな変奏曲。雪野の長いモノローグの場面などに流れた、全編を通して印象に残る曲だ。
 アルバムは明るくはしゃいだ「不撓不屈」(メニューは「喜び」)を挟んで、「夢の中へ」の寂しげなアレンジ「夢の中へIII」(メニューは「別離」)、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』にも流用された内省的なピアノ曲「一期一会」(メニューなし)で締めくくられる。楽しかったひとときが終り、名残惜しいけれど友人たちと別れて帰らなければいけないときのような、ちょっと切ない印象が心に残る幕切れである。
 鷺巣詩郎はアルバムのブックレットにこんな言葉を記している。

“「ワケもなく楽しく、ハンで押したようにサビシー」っつーのが基本。
 これって「回想の十代」の典型なんですよネ、みんなが持ってる。”

 ああ、そうだ。ふり返ると10代ってたしかにそんな印象なのだ。バカをしたり、図に乗ったり、落ち込んだり、悩んだり、ほろっとしたり。そのただ中にいると実感できないけれど、時間を置いてふり返ると「楽しくて寂しい」。自分の10代はこんな上質な音楽が流れるような洗練されたものじゃなかったけれど、だからこそ、鷺巣詩郎の音楽に彩られた彼氏彼女たちの青春が愛おしくまぶしい。

彼氏彼女の事情 ACT1.0

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第508回 父親の哲学

 前回までの先生の話で、自分の父親の話を思い出しました。たぶん、コジマ先生と同世代だからだと思います。すでに定年を迎え、立派に実家のTVの番人を勤め上げてる父ですが、実は俺、若い時「オヤジみたいになりたくない」と考えてました。すみません(陳謝)。「もちろん感謝はしても尊敬はしてない」って。なぜかといえば学がない(と思っていた)からです。まず、自分が名古屋にいた18年間、本1冊読んでるとこすら見た事はなく、読む活字は新聞の見出しとTV欄のみ。観るTVは野球・相撲・プロレス。趣味はパチンコ。俺を遊びに連れていってくれたトコといえば、パチンコ屋と立ち飲み屋くらい。

 そんな父を子供の頃の俺がカッコいいと思うはずもなく、物心ついた時は「ああなりたくない!」と本読んでパソコン触ってゴルフやって〜な小・中・高生でした。で、アニメ監督になりたくて上京。「オヤジみたいになりたくない」は、こーゆー人間を作り上げたんです。

 しかし、大学受験をせず高校〜専門学校を選んだ自分、上京当初——今では笑い話ですが、いわゆる「学歴」に対して正直コンプレックスがありました。そんな自分の前に現れたんです、「学」のある友人が! その友人は専門学校に入学する前、大学(しかも六大学)を出てきた人で、俺の4つ上。一時期は本当に傾倒しました、その人に。毎日学校で話すのが楽しかったし、いろいろ教わって今でも感謝してます。何が嬉しかったのかといえば、

自分が言葉にできない事を言葉にしてくれる! 「学」って素晴らしい!!

という快感です。彼は哲学科だったそうで、俺の悩みや怒りを哲学で言葉にしてくれたんです。「カッコイイ! ウチの父と違う!」と。これは勉強になりました。「こんなふーに考えるのか〜」の連続で、彼といると楽しくてしょうがなく、専門学校卒業後も毎週一緒に飲み明かしました。けしてオーバーな表現ではなく、夢のような日々でした! 彼のおかげでクラシックのCDも買うようにもなったり。

ただ、いつの頃からか雲行きが怪しくなり、現在は疎遠

 なぜかというと20代前後の頃、あれほどカッコよく見えた彼の哲学や観念が、30代半ばに入ると「彼自身の仕事が上手くいかず、周りから人が去っていく事を正当化する言い訳」に使われてるように感じ始めたから。これはあくまで板垣主観ですが、

「自分は間違ってない! 間違ってるのは周りの方だ!」と豊富なボキャブラリーを流暢に操って自己をなぐさめ守るためだけの「学」は、俺からみるとメチャクチャカッコ悪っ!!

く見えました。本来、人生に有益なはずの哲学も、悪用され得るのだとその時始めて知ったんです。
 で、ふと親父の事を思い出しました。

父は仕事に関する愚痴は一切言わなかったし、けして他人のせいにはせず、50年近く週休半日で働き続け、子供3人を一人前に育て上げた——という人生そのもので我々に見せてくれたのだと思います。
「語らない」哲学を! 「語らない」カッコよさを!!

「俺も父のようになりたい!」と今は言えるようになった板垣です。

新文芸坐×アニメスタイル セレクションVol. 92
吉浦康裕の世界


 2017年4月29日(土)に開催するオールナイトは「新文芸坐×アニメスタイル セレクションVol. 92 吉浦康裕の世界」。3年ぶりの吉浦康裕監督作品の特集だ。

 今回は『ペイル・コクーン』『イヴの時間』『アルモニ 』『サカサマのパテマ』、そして、「日本アニメ(ーター)見本市」の『POWER PLANT No.33』『ヒストリー機関』『機動警察パトレイバーREBOOT』(いずれも短編)を上映。長編・短編おりまぜて全7本のプログラムとなった。意欲作揃いの吉浦監督作品を劇場で堪能していただきたい。

 トークのゲストは勿論、吉浦康裕監督を予定。前売り券は新文芸坐とチケットぴあで3月25日(土)から発売となる。

新文芸坐×アニメスタイル セレクションVol. 92
吉浦康裕の世界

開催日

2017年4月29日(土)
開場:22時30分/開演:22時45分 終了:翌朝5時15分(予定)

会場

新文芸坐

料金

一般2600円、前売・友の会2400円

トーク出演

吉浦康裕、小黒祐一郎

上映タイトル

『日本アニメ(ーター)見本市/POWER PLANT No.33』
『同/ヒストリー機関』
『同/機動警察パトレイバーREBOOT』
『ペイル・コクーン』
『イヴの時間 オリジナル版』
『アルモニ 』
『サカサマのパテマ』

備考

※オールナイト上映につき18歳未満の方は入場不可
※トークショーの撮影・録音は禁止

●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

第507回 先生の話〜「受け入れる」の姿勢

・画用紙をはみ出すように構図するべし!
・必ず絵の具を2色混ぜて、一筆塗ったらまた2色混ぜる。これを最後まで繰り返すべし!

 前回の続きで、これが小4の頃の担任コジマ先生流絵画術です。今思うとメチャクチャ単純な話で、「そんなん当たり前じゃん」「何を今さら」と思われた方も多いのでは? ただ、それまで誰からも絵を習った事がなくて小3まで図画工作はパーフェクトの成績だった板垣にとっては、正直「若干面倒くさい指示」でした。しかし、

俺は「騙されたと思って一度はやってみる性格」

とりあえず言われたとおり、はみ出させて、コツコツ混ぜて塗ってみたら驚きました。それまで周りから褒められたどの絵より巧く描けたんです! 当時コジマ先生ご自身からも「すばらしい!」と大変褒められました。その時の話を同窓会でコジマ先生にすると、

と懐かしそうに話されました。色塗りはともかく、「はみ出す構図」はそのままアニメでも活きてます。俺のコンテで、寄りは寄りでも、はみ出すくらいの寄りが多いのは、「はみ出す=迫力が出る!」というコジマ先生の刷り込みによるものが大きいのでしょう。そして、この方程式を知った自分のアンテナに、出崎統監督作品がひっかかったわけです。

フレームからはみ出すほどのド寄りに、
塗りムラこそが迫力を出す「止め(ハーモニー処理)」
ね? 出崎作品でしょう!

 で、先生に「今、自分が取り組んでいる新人育成」の相談。「何度言っても遅刻・無断欠勤する社員に手を焼いている」と。すると先生

 先生はやっぱりいつまでも先生でした。ありがとうございました!!

第102回 躍動とリリシズムの魔術師 〜長靴をはいた猫〜

 腹巻猫です。SOUNDTRACK PUBレーベル最新作「渡辺宙明コレクション ガードドッグ/おーい!太陽っ子」が3月22日に発売されます。渡辺宙明が手がけた幻のレア作品をカップリング。当面はAmazonの販売はなく、ディスクユニオン、神保町タクト、ARK SOUNDTRACK SQUARE専売となります。今なら渡辺宙明直筆サイン入りジャケットサイズカードつき!(なくなり次第終了) ぜひご利用ください。

「渡辺宙明コレクション ガードドッグ/おーい!太陽っ子」
ディスクユニオン
http://blog-shinjuku-movie.diskunion.net/Entry/3176/
http://diskunion.net/portal/ct/detail/1007348174

神保町タクト
http://www.tacto.jp

ARK SOUNDTRACK SQUARE (「ガードドッグ」で検索ください)
http://www.arksquare.net/jp/index_main.html


 第89回アカデミー賞はミュージカル「ラ・ラ・ランド」が監督賞、作曲賞、歌曲賞などを受賞。作品賞こそ逃したものの、最多6部門の栄冠に輝いた。往年の名作ミュージカルを現代のセンスと技術でアップデートしたような、「映画の魔法」にあふれた魅惑的な作品だ。
 『アナと雪の女王』(2013)の例があるように、劇場用アニメーションにはミュージカル仕立てのものが少なくない。黎明期の日本の劇場アニメも同様だった。東洋のディズニーを目指した東映動画(現・東映アニメーション)が1950〜70年代に送り出した劇場作品には、ミュージカル仕立ての場面がたびたび登場する。
 今回はミュージカルシーンが印象深い『長靴をはいた猫』を紹介したい。
 『長靴をはいた猫』は1969年公開。シャルル・ペローの原作を井上ひさしと山元護久が脚色し、矢吹公郎が監督を務めた。作画監督は森康二。原画に大塚康生、小田部羊一、宮崎駿、大工原章ら。美術は浦田又治と土田勇。大スクリーンに映えるレイアウトと作画・美術がすばらしい。ギャグ監修としてクレジットされているのが「怪人オヨヨ」シリーズで知られる作家・コラムニスト・映画評論家の中原弓彦(小林信彦)。全編ユーモアにあふれた、「まんがえいが」の面白さを満喫させてくれる作品である。主人公のペロは現在も東映アニメーションのマスコットキャラクターとして使用されている。
 矢吹公郎は本作に先立つ本格的なミュージカル劇場アニメ『アンデルセン物語』(1968)の監督も担当している。このときの脚本も井上ひさしと山元護久。井上と山元は両作品の主題歌・挿入歌の作詞も手がけた。井上ひさしと山元護久といえば、ミュージカル仕立てのTV人形劇「ひょっこりひょうたん島」(1964-1969)で子どもたちを魅了した作家。それを買われての起用だった。

 「ひょっこりひょうたん島」から『アンデルセン物語』と『長靴をはいた猫』に参加したスタッフがもう1人いる。音楽を担当した宇野誠一郎である。
 宇野誠一郎は1927年生まれ、兵庫県出身。早稲田大学文学部仏文科卒業。幼少時からピアノを習うが、小学3年生のとき中断。その後独自に勉強を続け、早大に進学してから池内友次郎と安部幸明に師事して作曲を学んだ。作曲の道に入ったのは、身体が悪く、どうせ死ぬなら好きな音楽をやって死のうと思ったからだという。
 大学在学中から自由舞台やテアトル・ブッペなどの舞台音楽を手がけた。ラジオ番組の仕事を経てTVにも進出。NHKのTV人形劇「チロリン村とくるみの木」(1956-1964)、「ひょっこりひょうたん島」(1964-1969)、「ネコジャラ市の11人」(1970)で人気を博した。NHKラジオドラマ「モグッチョチビッチョこんにちは」(1962)で作家の井上ひさしとと出会い、以降、コンビで多くの作品を作っている。井上ひさし主宰の劇団こまつ座の舞台音楽も大半を手がけた。
 アニメでは、劇場アニメ『少年ジャックと魔法使い』(1966)、『アンデルセン物語』(1968)、『長靴をはいた猫』(1969)、『アリババと40匹の盗賊』(1971)、『ながぐつ三銃士』(1972)、『長靴をはいた猫 80日間世界一周』(1981)、TVアニメ『W3』(1965)、『悟空の大冒険』(1967)、『ムーミン』(1969/1972)、『アンデルセン物語』(1971)、『ふしぎなメルモ』(1971)、『さるとびエッちゃん』(1971)、『山ねずみロッキーチャック』(1973)、『小さなバイキング ビッケ』(1974)、『一休さん』(1975)などで主題歌と音楽を担当。日本の劇場・TV音楽史を語る上で忘れてはならない作曲家である。惜しくも2011年に逝去している。
 宇野誠一郎作品の特徴は、意表をついたメロディラインと思わず体をゆすりたくなるリズム。いっぽうで、TVアニメ『アンデルセン物語』のエンディング主題歌「キャンティのうた」などで奏でられるリリカルな旋律も大きな魅力だ。感情を煽るような曲調ではないのに、聴いていると泣きたくなってしまう。「心の琴線にふれる」とはこういう曲のことを言うのだろう。
 『長靴をはいた猫』はそんな宇野誠一郎の持ち味が生かされた作品。「まんがえいが」の醍醐味がたっぷり詰まった本編を、楽しい曲、美しい曲が彩っている。
 残念ながら本作は単独のサントラアルバムは発売されていない。レコードとしては公開当時発売された4曲入りコンパクト盤と1979年に発売された2枚組ドラマ編LPがあるだけ。1996年に発売された10枚組CD-BOX「東映動画長編アニメ音楽全集」の1枚として、ようやく音楽集がリリースされた。
 しかし、東映ビデオから発売されているDVDには音声特典としてミュージックトラックが収録されているので、こちらで劇中に流れた音楽をすべて聴くことができる。
 CD-BOX版の収録曲は以下のとおり(構成と解説は中島紳介)。

  1. オープニング〜裏切り者ペロ
  2. 主題歌「長靴をはいた猫」
  3. ペロとピエール
  4. 3匹の殺し屋
  5. さあ、出かけよう
  6. 挿入歌「友達」(「はなれられない友だちさ」)
  7. ローザ姫の花婿候補
  8. 我こそは魔王ルシファ
  9. 挿入歌「幸せはどこに」
  10. 挿入歌「ネズミたちの行進」
  11. ペロをさがせ!
  12. 白薔薇のプリンス
  13. ペロ、一計を案ず
  14. 挿入歌「カラバ様万歳!」
  15. 不安を胸に
  16. ピエールの告白
  17. 魔王激怒す
  18. 急げピエール
  19. 魔法七変化
  20. 塔の上の姫君
  21. ペンダント争奪戦
  22. ローザ姫を救え!
  23. ピエールとローザ姫
  24. 楼閣の大混戦
  25. 魔王の焦り
  26. 朝陽よ!
  27. 大団円〜エンディング:主題歌「長靴をはいた猫」

 猫の掟を破ってネズミを助けたために裏切り者として殺し屋に追われることになったペロ。ペロの境遇とキャラクターを紹介するアバンタイトルの曲「オープニング〜裏切り者ペロ」に続き、ペロのテーマでもある主題歌「長靴をはいた猫」が流れる。
 歌い出しからキャッチー、一度聴いたら耳から離れない名曲だ。歌うはペロ役の石川進。アニメファンなら、いや、アニメファンならずとも、『オバケのQ太郎』(1965)、『パーマン』(1967)、『ウメ星殿下』(1969)、『ど根性ガエル』(1972)等の主題歌で記憶に刻まれている歌手である。ユーモアとペーソスを感じさせる表情豊かな歌唱がすばらしい。ペロ役としても主題歌歌手としてもこれ以上はないハマりようだ。
 2人の兄に冷遇される農家の息子・ピエールとペロが出逢い、旅に出る。そのとき流れるのがペロとピエールがデュエットする「はなれられない友だちさ」(CDでは「友達」のタイトルで収録)。歌うは石川進とピエール役の藤田淑子だ。
 藤田淑子もまた、アニメファンには忘れられない歌手・声優である。歌手としては『キングコング』(1967)、『どろろ』(1969)、『ムーミン』等の主題歌を歌い、声優としては、『一休さん』(1975-1982)、『がんばれ元気』(1980)、『キテレツ大百科』(1988-1996)、『デジモンアドベンチャー』(1999)等の主役でおなじみ。『CAT’S・EYE』(1983)の長女・泪役、『ロミオの青い空』(1995)のアルフレド役も忘れがたい。
 藤田淑子は1968年の劇場アニメ『アンデルセン物語』でも主人公のハンスを演じ、主題歌・挿入歌を披露している。本作では勇敢で正義感の強い青年ピエール役。歌はこの1曲だが、爽やかな声と達者な歌唱力に聴き入ってしまう。歌の途中、ペロとピエールのセリフ風のかけ合いが入る。2人の友情が感じられるミュージカルシーンならではの演出だ。
 この歌は次のローザ姫の歌のシークエンスのあとにペロのソロでもう一度歌われている。
 悪い魔王ルシファ(小池朝雄)がローザ姫を見初め、求婚する。ローザ姫は断るが魔王は聞き入れない。ローザ姫がまだ見ぬ恋人を想って城のバルコニーで歌う歌が「幸せはどこに」。可憐なローザ姫にふさわしいロマンティックな曲で、本作のサブテーマとも呼べる旋律である。
 歌はローザ姫役の榊原ルミ(現・るみ)。本作の2年後に「帰ってきたウルトラマン」のヒロイン・坂田アキ役で子どもたちの前に登場する。歌手は本業ではないけれど、初々しい歌い方がローザ姫の心情を表現する歌にぴったりだ。数ある東映動画の劇場アニメの挿入歌の中でも、際立って心に残る曲のひとつである。
 ペロの策略でピエールの衣装を手に入れるためにネズミたちが行進しながら歌う歌が「ネズミたちの行進」。主題歌「長靴をはいた猫」の替え歌である。ネズミらしく語尾を「チュー」に変えて歌っているのが楽しい。
 歌はCDのクレジットでは水垣洋子とボーカル・ショップ。劇中ではネズミたちの父親の声で熊倉一雄が加わっている。Wikipediaにはネズミたちの父親の声は「すべての資料で熊倉一雄と書かれているが実際の声優は辻村真人」とあるが、この歌だけは熊倉一雄の声である。歌は熊倉一雄でプレスコ収録されたが本編のアフレコは違ったという可能性もある。
 ペロがピエールを花婿として売り込むために王様とローザ姫に聴かせる歌が「カラバ様万歳!」。劇中ではネズミたちが蓄音機にかけたレコードで歌を流す演出になっている。歌はボーカル・ショップとトリオ・ポワンの混声コーラス。たたみかけるような曲調と繰り返しの多い歌詞で「カラバ様」が印象づけられるしかけだ。
 王様の城にカラバ侯爵として迎えられたピエールは、噴水のそばでローザ姫と語らううちに、心苦しくなって自分の正体を明かしてしまう。その場面に流れるのが「幸せはどこに」の女声コーラスによる変奏曲。CDにクレジットはないが歌はトリオ・ポワンだろう。画面ではムードを盛り上げるためにペロの指揮でネズミたちが歌っているという演出。
 肩を落とすピエールに「身分なんかどうでもいいの。あなたが必要なの」と語りかけるローザ姫。「幸せはどこに」のメロディからローザ姫の気持ちが伝わってくる。
 以降、物語はローザ姫をさらった魔王とピエール、ペロとの対決を描くアクションが中心となり、ミュージカルシーンは登場しない。もう少し尺があれば、ピエールとローザ姫のデュエットや、ペロを追う殺し屋猫の歌、魔王ルシファの歌なども聴きたかったと思うが、それはないものねだりだろう。
 それでも本作のミュージカルシーンはどれも効果的で心に残る。クライマックスでピエールとローザ姫が塔の頂上をめざす場面の曲「朝陽よ!」とすべてが終わって2人が抱き合う場面の曲「大団円」は、「幸せはどこに」のアレンジBGM。観客の耳にはローザ姫の歌が残響のように聴こえてくる。それだけ、ミュージカルシーンが劇中に溶け込んでいるのである。
 ラストシーン。ピエールとローザ姫の幸せを見届けたペロはふたたび旅に出る。主題歌「長靴をはいた猫」が流れる心躍る幕切れだ。

 CD-BOX「東映動画長編アニメ音楽全集」の解説書所収のインタビューで、宇野誠一郎は、劇場アニメでは「情緒よりもリズム感、動感を基本に置いた作曲をしようと思った」と語っている。動きに音楽を合わせるだけではなく、逆に音楽を合わせやすい絵を作ってほしいという提案もしたが、絵のスケジュールが間に合わなくなり、満足のいく形では実現しなかった。宇野誠一郎のアニメ音楽に対する考え方を知ることができる興味深いインタビューである。
 実際、宇野誠一郎のアニメ音楽を聴いていると、映像以上に音楽のほうがアニメっぽい印象を受けることがある。躍動的という言葉では足りない。ダンス音楽とも違う。動きの快感が音楽からあふれているような感じ。人間の根源的な衝動や悦びに根差した、体の奥から律動がわいてくるような音楽だ。
 その動的な音楽と、リリカルなメロディが同居しているところが、宇野誠一郎作品の魅力である。心の奥にある大切な場所にそっと触れてくるような旋律。「ムーミンのテーマ」や「キャンティのうた」や「ふしぎなメルモ」などを聴いていると、なぜだかわからないけど、胸の奥がきゅっとしてじっとしていられない気分になる。子ども心に、この宇野メロディに心をとらわれた人は多いだろう。
 『長靴をはいた猫』には、宇野誠一郎音楽の魅力が詰まっている。作品とともに何度でも聴いて、何度でもわくわくし、何度でもため息をつきたい。そんな名作である。
 宇野誠一郎の作品をまとめて聴きたい向きには、ウルトラヴァイブから発売されている「宇野誠一郎作品集」がお奨めだ。第3集まで発売されているが、アニメソングの主要曲は第1集にほぼ網羅されている。

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宇野誠一郎 作品集

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宇野誠一郎 作品集 II

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宇野誠一郎 作品集 III

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第129回アニメスタイルイベント
ANIMATOR TALK 亀田祥倫

 2017年4月2日(日)に「第129回アニメスタイルイベント ANIMATOR TALK 亀田祥倫」を開催する。
 『モブサイコ100』『ワンパンマン』などで知られるアニメーターの亀田祥倫が主役となるトークイベントだ。今までの作品や、仕事に関しての考えなどについてたっぷり語っていただく。もう一人のゲストは『デス・パレード』『モブサイコ100』で監督を務めた立川譲。肩の凝らない楽しいイベントになるはずだ。
 なお、今回のイベントでは、来場者全員に「亀田さん入魂! のプレゼント」を用意する。どんなプレゼントかは当日までのお楽しみだ。

 会場は阿佐ヶ谷ロフトA。今回もトークの一部を「アニメスタイルチャンネル」で配信する予定だ。前売り券については、3月22日(水)から販売となる。詳しくは阿佐ヶ谷ロフトAのサイトを見てもらいたい。

■関連リンク
アニメスタイルチャンネル
http://ch.nicovideo.jp/animestyle

阿佐ヶ谷ロフトA
http://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/62003

■参考記事
アニメーター・インタビューズ 亀田祥倫(1)『エヴァ』と今石洋之がきっかけだった
http://animestyle.jp/2014/12/08/8346/

雑誌「アニメスタイル010」(立川譲監督と彼の『モブサイコ100』インタビューを掲載)
http://animestyle.jp/news/2016/11/17/10757/

第129回アニメスタイルイベント
ANIMATOR TALK 亀田祥倫

開催日

2017年4月2日(日)
開場18時 開演19時 終演22時予定

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

亀田祥倫、立川譲、小黒祐一郎

チケット

1800円(飲食別・要1オーダー)

■アニメスタイルのトークイベントについて

 会場となる阿佐ヶ谷ロフトAはトークライブができる居酒屋。入場料(今回は前売1500円、当日1800円)とは別に飲食(最低でもドリンク1杯)をお願いしている。ソフトドリンクもあるので、未成年の方でも大丈夫。 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものだ。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていないし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれない。その点は、あらかじめお断りしておく。

第506回 同窓会と先生


と、小学生の頃の自分に檄を飛ばしたコジマブンゾウ先生に30数年振りにお会いでき、感激しまくりの同窓会でした。久しぶりにクラスメイトに会えるのはもちろん楽しみだったけど、事前にT君より「コジマ先生がご出席される」とメールがあった時は、俺も「何が何でも出席するぞ!」と。で、75歳になられた先生は

精悍だった昔とは打って変わって温厚な雰囲気を放たれてました。多少細かい話を挟むと、自分にとってコジマ先生は小学4年生の時の担任で、5・6年生では板垣は1組でコジマ先生は2組の担任(玉川小は各学年2クラス)。よって卒業時が基準の今回の同窓会では、気持ち離れたところから先生を見ていようと思っていたのですが、なぜか先生と隣り合わせの席に座る事になってしまい緊張! そして先生は色々お話してくださり、30年前の思い出が次々と蘇ってきたんです。「どきなさい、どきなさい! 危ないからどきなさい!」と生徒たちをかき分けてドリブルして、あさっての方向へ大シュートするコジマ先生。板垣が上級生と殴る蹴る噛みつくの大喧嘩をした時は、仲裁に入ってくださったコジマ先生。その大泣きしてた俺を指してまわりの生徒らに「見なさい!! 自分より強い相手とばかり喧嘩する伸みたいなヤツが本当に強いんだ!」と励まして(?)くださったコジマ先生。運動会の退場式でクラスメイトと殴り合いの大喧嘩してた時(喧嘩ばっか……)は、すでに退場したはずの姉が門から戻ってきて、俺を引っ張ってムリヤリ退場。それを見て「伸はいい姉さん持っとる!」と感心してたコジマ先生。
 中でも板垣がいちばん影響を受けたのは「画の描き方」でした。小学校の先生なのでなんでも教えるわけですが、どう見ても体育会系のコジマ先生はなぜか図画工作の授業、特に「画」にうるさかったんです。小4当時の「コジマ流絵画術」はごく単純な2点(基本水彩です)。

・画用紙をはみ出すように構図するべし!
・必ず絵の具を2色混ぜて、一筆塗ったらまた2色混ぜる。これを最後まで繰り返すべし!

今思い返すと、アニメの仕事にも通じてる内容なので、次週に続きます。ここんとこ仕事が忙しくて長く書けず申し訳ありません! 今度挽回します(汗)。

第505回 また同窓会

先週末、今度は名古屋市立玉川小学校の同窓会に行ってきました!
声をかけてくれた友人たちに感謝です!

 もちろん、昨年の11月に催された名古屋市立昭和橋中学校の同窓会と参加者が一部被るわけですが、こーゆーのは何回やっても楽しいモンです、理屈抜きで。玉川小は各学年2クラスなので、自分らの代は全員で卒業時77名で、今回30名集まったというのは、そこそこの出席率かと。昭和橋中の同窓会に欠席だった人などは30数年振りとか。ホント皆いい顔してました! あとやっぱり、当時のまま

と呼んでくれるのは嬉しいやら恥ずかしいやら。そもそも俺は、自分の「伸」という名前があまり好きではなかったんです。だって呼び捨てで「しん!」だと余程力を入れないと聞き取りづらいわ呼びづらいわ、電話で何度も聞き返されるわ。で、周りの友人は「しんくん」、家族は「しんちゃん」だったり、何かとガキっぽさがつきまとうから。ただ、この歳になると若返った感じで嬉しく思えるようになりました。
 そして、今回の目玉は玉川小の恩師・コジマブンゾウ先生がご出席される事でした!

第101回 官能のステージミュージック 〜真マジンガー 衝撃!Z編〜

 腹巻猫です。3月4日に渋谷で開催された「渡辺宙明スペシャルコンサート」、すばらしかったです。トランペットにエリック・ミヤシロ、トロンボーンに中川英二郎という日本最高峰の奏者を迎えたオーケストラの演奏に大興奮でした。その興奮冷めやらぬ3月12日に「渡辺宙明トークライブPart10」が阿佐ヶ谷ロフトで開催されます。SOUNDTRACK PUBレーベル最新作「渡辺宙明コレクション ガードドッグ/おーい!太陽っ子」の先行販売もあり。コンサートの余韻を胸に、ぜひご来場ください!

「渡辺宙明トークライブPart10 〜宙明サウンドのディープな世界〜」
http://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/58961


 「渡辺宙明スペシャルコンサート」でも大きくフィーチャーされていた渡辺宙明の代表作『マジンガーZ』。その原作を再び映像化した作品が2009年にTVアニメとして制作されている。2009年4月から9月まで全26話が放送された『真マジンガー 衝撃! Z編』である。
 監督は『機動武闘伝Gガンダム』(1994)、『ジャイアントロボ THE ANIMATION 地球が静止する日』(1994-1998)、『鉄人28号』(2004)等を手がけた今川泰宏。デザインや雰囲気は永井豪のマンガ版『マジンガーZ』に寄せつつも、独自の設定を多数盛り込み、誰も観たことがないストーリーを展開した意欲作だった。
 本作には1972年の元祖TVアニメ版『マジンガーZ』の影はない。音楽も変わった。音楽を担当したのは宮川彬良。『宇宙戦艦ヤマト』で知られる宮川泰の息子である。
 宮川彬良は1961年、東京生まれ。音楽一家に育ち、東京藝術大学音楽学部作曲科に進む。在学中から東京ディズニーランドのショー音楽などを手がけてプロとして活躍。学業より仕事が忙しくなって大学は中退してしまう。この頃に宮川彬良の仕事を手伝い、東京ディズニーランドの仕事を引き継いだのが、同じ東京藝術大学の後輩・佐橋俊彦だった。
 宮川彬良は高校生時代から父の『宇宙戦艦ヤマト』の音楽作りも手伝っていた。『さらば宇宙戦艦ヤマト』のパイプオルガンの演奏をした話はヤマトファンの間では有名だし、いくつか曲も提供している。
 が、宮川彬良は父のように歌謡曲や映画・TV音楽を主な仕事の舞台にはしなかった。彬良が選んだのはミュージカルなどの舞台・ショー音楽の世界。彬良は舞台音楽の第一人者としてメキメキと頭角を現していった。2004年には松平健の公演用に書いた「マツケンサンバII」が大ヒット。宮川彬良本人もTVやステージへの露出が増え、父ゆずりのサービス精神にあふれたトークとパフォーマンスを見せる機会が多くなった。近年は吹奏楽コンサートやサックス奏者・平原まこととのデュオによる「ふたりのオーケストラ」コンサートなど演奏活動も精力的に行っている。
 アニメの仕事では『大草原の小さな天使 ブッシュベイビー』(1992)、『星のカービィ』(2001)、『風の少女エミリー』(2007)などを手がけた。そして、2012年に『宇宙戦艦ヤマト2199』の音楽を担当。現在は『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』の音楽を担当しているのはアニメファンならご存知のとおり。

 宮川彬良のアニメ作品の中でも『真マジンガー 衝撃!Z編』はちょっと意外な印象を受ける作品である。なにより、元祖『マジンガーZ』の渡辺宙明の音楽のイメージが強すぎて分が悪い。が、無心に聴いてみると、これはこれでいい。渡辺宙明とは別のアプローチによる、独自の魅力を持った作品になっている。
 筆者は本作の放送前に、宮川彬良に本作の音楽について聞いてみたことがある(正式の取材ではなくて、宮川彬良が出演したライブハウスの楽屋でだった)。そのとき、宮川彬良は面白い話をしてくれた。
「自分も子どもの頃に『マジンガーZ』を観ていて、渡辺宙明先生の音楽は印象に残っている。宙明先生の音楽はちょっとエロい。そのエロい感じを自分の音楽にも忍ばせてみた」
 「エロい」ではなく「色気がある」という表現だったかもしれない。とにかく、そんな意味のことを語ってくれた。
 たしかに渡辺宙明の音楽にはある種の官能性がある。その官能性に着眼して新しい『マジンガーZ』の音楽を紡いだというのだ。
 宮川彬良のちょっとエロい『マジンガーZ』。これは聴いてみたいではないか。
 本作のサウンドトラック・アルバムは、2009年6月に「TVアニメ『真マジンガー 衝撃!Z編 on television』オリジナルサウンドトラック Vol.1」が、2009年10月に同「Vol.2」が、ランティスから発売されている。
 Vol.1から紹介しよう。収録内容は以下のとおり。

  1. 全能なる者
  2. 感じてKnight(TV size)(歌:ULTIMATE LAZY for MAZINGER)
  3. 戦士たちのレクイエム
  4. 敵軍侵攻!
  5. 迎撃戦線
  6. 兜甲児は止まらない!!
  7. 兜甲児は止まらない!!(リズムバージョン)
  8. バードス島
  9. ブロッケン・ワルツ
  10. 暗黒寺
  11. 兜十蔵
  12. 兜シロー
  13. 兜シロー(リズムバージョン)
  14. 錦織つばさ
  15. シュトロハイム
  16. くろがね屋の野郎ども
  17. それぞれの闘い
  18. 緊迫感
  19. Dr.ヘルの脅威
  20. Dr.ヘル
  21. 困惑と謎
  22. 危機感
  23. 響き止まぬ行軍歌
  24. 立ち上がれ、怒りと共に!!
  25. 進軍!ブロッケン伯爵
  26. Hurry UP!
  27. 出撃!パイルダー!!
  28. 燃えよ闘志!!
  29. 侵略作戦
  30. 漆黒の翼
  31. Brand new world(TV size)(歌:麻生夏子)

 2曲目と31曲目がオープニング&エンディング主題歌。主題歌の作曲は宮川彬良ではない。
 1曲目の「全能なるもの」は、マジンガーZがジェットスクランダーと初めて合体するシーンや科学要塞研究所が姿を現す場面に流れた短い曲。この曲がプロローグとなり、主題歌につながる。マジンガーZの無敵のパワーを強調する導入部である。
 主題歌が終わると、女声ボーカルとチェンバロがフィーチャーされたクラシカルな「戦士たちのレクイエム」が流れる。第2話の冒頭シーンや第3話でマジンガーZがブレストファイヤーを放つシーンで流れた曲である。最終話ではDr.ヘルが古代ミケーネ人を虐殺する回想場面に選曲された。マジンガー軍団とDr.ヘルとの壮絶な死闘を彩る曲だ。
 この1曲で、「元祖『マジンガーZ』とは音楽もまったく別物」という印象が際立つ。オペラ的なイメージの、宮川彬良らしい曲である。
 トラック4「敵軍侵攻!」にも宮川彬良の独自性が発揮されている。敵の侵攻を描写するサスペンス音楽だが、ギターとベースが刻むリズムは軽快で、思わず体をゆすりたくなるような高揚感がある。
 トラック6「兜甲児は止まらない!!」は軽快なファンク・ロック風の曲。アクション曲ではあるが、この曲も踊りたくなるようなダンサブルな曲調に仕上がっている。
 トラック27「出撃!パイルダー!!」も同様の雰囲気の曲。マジンガー出撃シーンなどによく使われたメインのアクションテーマだが、テンポはミディアムに近く、スピード感よりもダンスミュージック的な躍動感が感じられる。
 本作の音楽を代表する曲と呼べるのが、トラック9「ブロッケン・ワルツ」である。タイトルどおり、3拍子のワルツの曲だ。
 「『マジンガーZ』にワルツ!?」と意表をつかれるが、これがDr.ヘルとあしゅら男爵の登場シーンやマジンガーZ対機械獣の戦いの場面などに選曲されて、抜群の効果をあげている。緊迫した戦いの場面が、まるで舞台の上の1シーンのように見えてくる。
 実は『真マジンガー 衝撃!Z編』の音楽には、こうしたワルツの曲やミッドテンポのダンスミュージック的な音楽が目立つのである。
 トラック12の「兜シロー」は哀愁を帯びたジンタ風。ジンタというのはサーカスや芝居小屋などの客寄せに使われた大衆音楽だ。
 トラック15の「シュトロハイム」もワルツの曲。科学者シュトロハイム・ハインリッヒがミケーネ人の伝説を語る場面や兜十蔵とDr.ヘルの回想シーンなどに流れた。最終話では、あしゅら男爵の復活の秘密が語られるバックに使用。悲劇的でありながら、どこか甘美な抒情性がある。「ブロッケン・ワルツ」とともに印象に残る曲である。
 「オリジナルサウンドトラック Vol.2」に収録された「ゴッドスクランダー」も、曲名から受ける勇ましい印象を裏切るワルツの曲だ。マジンガーZの戦闘シーンや最終話でDr.ヘルが地獄王ゴードンを駆って科学要塞研究所を襲うシーンなどに使用された。
 元祖『マジンガーZ』では、マジンガーZの出動シークエンスにマカロニウェスタン調の「Zのテーマ」が流れてパイルダーオンの場面を大いに盛り上げていたが、本作では、それに相当するようなアップテンポの疾走感のある曲は登場しない。
 代わりに、ワルツやミッドテンポのダンサブルな曲が戦闘シーンや緊迫したシーンに流れている。
 ロボットアニメ音楽でよく聴かれる、激しく荒々しいサウンドや重量感のあるサウンドも、本作ではほとんど聴かれない。アクション曲でも、軽快で洗練されたサウンドに仕上げられている。そして、ちょっと大人びた香りがする。
 これって、ロボットアニメの音楽というより、ミュージカルの音楽のようではないか。

 カット割りやカメラワークで見せる映画の音楽とステージの音楽とでは、求められるテンポやリズムが異なる。舞台で生身の人間が動いたり歌ったりするときには、足運びや呼吸といった肉体性に沿った音楽が必要だ。ワルツなどのダンス音楽はまさにそういう音楽なのである。
 そして、肉体性は官能性に通じる。ステージの上の肉体を気持ちよく動かすテンポやリズム。さらに、ブロードウェイ的な華やかさと大人の香りをまとったサウンド。これが、宮川彬良が到達した自分の音楽だったのではないだろうか。
 ジャズとロックをベースにした渡辺宙明の先鋭的な音楽とも違う。歌謡曲的な大衆性で多くの人に親しまれた父・宮川泰の音楽とも違う。
 洗練されたサウンドと官能性をあわせ持った「アキラさんの音楽」が、『真マジンガー 衝撃!Z編』には結実している。
 そんなことを意識して聴いてみると、『真マジンガー 衝撃!Z編』の音楽も、『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』の音楽も、宮川彬良ならではの独自の魅力を放つ作品として聴こえてくるのだ。

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第128回アニメスタイルイベント
音楽演出の仕事2017

 2017年3月19日(日)にお届けするトークイベントは「第128回アニメスタイルイベント 音楽演出の仕事2017」。昨年の7月に開催した「音楽演出の仕事」の続編イベントである。

 『たまゆら』『あまんちゅ!』『デジモンユニバース アプリモンスターズ』『ドラゴンボール超』等の作品に音楽監督や選曲の役職で参加している佐藤恭野に、そのお仕事について語っていただく。どのように曲を選び、どのように映像につけていくのか。あるいは曲の編集はどのように行われているのか。アニメファンの多くが知らない「音楽演出」の世界だ。
 前回のイベントでは『あまんちゅ!』の映像を使った選曲の実演をやっていただいた。今回もそれに近しいコーナーを予定している。

 また、今回もトークの一部を「アニメスタイルチャンネル」で配信する予定だ。ただし、既存の楽曲を使った「選曲の実演」のようなコーナーは配信が難しい。興味がある方は是非とも会場に足を運んでもらいたい。

 会場は阿佐ヶ谷ロフトA。前売り券については、3月4日(土)から販売となる。詳しくは阿佐ヶ谷ロフトAのサイトを見てもらいたい。

■関連リンク
アニメスタイルチャンネル
http://ch.nicovideo.jp/animestyle

阿佐ヶ谷ロフトA
http://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/60851

第128回アニメスタイルイベント
音楽演出の仕事2017

開催日

2017年3月19日(日)
開場18時 開演19時 終演22時予定

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

佐藤恭野、小黒祐一郎、早川優、他

チケット

前売1500円 当日1800円(共に飲食別・要1オーダー)

■アニメスタイルのトークイベントについて

 会場となる阿佐ヶ谷ロフトAはトークライブができる居酒屋。入場料(今回は前売1500円、当日1800円)とは別に飲食(最低でもドリンク1杯)をお願いしている。ソフトドリンクもあるので、未成年の方でも大丈夫。 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものだ。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていないし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれない。その点は、あらかじめお断りしておく。