第850回 集中力散漫なところに届きました!

いや、決して仕事を受け過ぎたつもりはありません(汗)!

いつも、いただいた仕事に対していろんな可能性が見えてしまうんです。だから「お受けできません」ではなく、「こうすればできると思います」と、“やる”前提で話します。すると、現状の板垣が仕上がるという訳。
 この歳になると集中力が益々散漫になって、一つのことを何時間も集中してやり続けることが難しく、そんな時別の仕事(作品)に頭を切り替えるのです。例えば原画修正などの画を描き行き詰まると、脚本やプロットなどのテキスト作業を1~2時間やったり、その後オープニングのコンテ切る、で合計一日とか。
 子供の頃から現在まで、大概のモノに飽きっぽい俺。今までで一番辛かったのは、仕事が監督一本しかなく、キャリアが浅くヒット作がないという政治的理由から、自分の監督作品なのに脚本にも参加させてもらえなかった頃の脚本上り待ち時間の暇。当時のプロデューサーから「まあ、監督には“待ち時間”てのがあるもんで」と窘められた、というか俺の主義として義理を欠きたくないので、さらなる仕事を重ねる場合、現在受けてる仕事のほうのプロデューサーに必ず断りを入れるのですが、入れたのが仇になり了解が得られず、ユル~い暇ができてしまったという訳。
 本来「これに一本集中させてくれよ! それでいて拘束料くれよ!」という監督の方が多いかと思いますが、俺の場合は「拘束料は要らないから、仕事の隙間を埋めてくれよ!」なんです。ま、ミルパンセができてからは、自分にくる仕事が基本“会社の仕事”になってるため、シリーズ構成・脚本や音響監督、はたまた背景の直しまで、隙間を空けるどころか、今度は溢れんばかりの仕事量をやらせてもらってます。
 そんな訳で、制作中2本、脚本・シリーズ構成中2本、その他準備中1本、の今。

 と、そこへまた届きました!

ぴあの『劇場版あしたのジョー2 COMPLETE DVD BOOK』が!

 1981年の出﨑統監督作品! 板垣をアニメの世界に誘(いざな)った大傑作です! この映画で「アニメって凄い!!」と思い、“出﨑統”という名前を覚え、“監督”と言う職業があることを知りました。ビデオレンタルで何度も借り、レーザーディスクからDVD、そしてノーマルのBlu-rayから4K ULTRA HD Blu-ray、さらに今回ぴあDVDと、出る度買ってしまう俺がいます。
 “ぴあ”シリーズ、毎回楽しみのブックレット。唯一劇場版のみの“砂浜〜足跡シーン”のコンテや原画+作監修正、杉野昭夫インタビューと今回も見所満載でした!

 次巻は『劇場版ガンバの冒険』!! “東京ムービー新社(現:トムスエンタテインメント)版・劇場出﨑アニメ”編、まだまだ続きますように!

【新文芸坐×アニメスタイル vol. 176】
破格の超大作OVA ジャイアントロボ THE ANIMATION 地球が静止する日

 5月4日(土・祝)と5日(日・祝)の2日連続で、新文芸坐とアニメスタイルの共同企画で上映プログラムを組みました。
 新文芸坐とアニメスタイルの共同企画による上映プログラムは今年で15周年、アニメスタイル編集部は今年で25年目。それを記念しての特別企画です。

 5日(日・祝)は「【新文芸坐×アニメスタイル vol. 176】破格の超大作OVA ジャイアントロボ THE ANIMATION 地球が静止する日」。コンセプト、映像、音楽、キャスト、全ての点において破格であり、今川泰宏のケレン味と趣味性が遺憾なく発揮されたOVAシリーズです。新文芸坐×アニメスタイルの企画では、今までも何度かオールナイトでこの作品の全話上映を行っていますが、今回は昼間の上映。勿論、全7話を一挙上映します。

 今回はスタッフのトークはありません。アニメスタイルの小黒編集長と、新文芸坐の花俟良王さんが、上映前にご挨拶として少しお話をさせていただきます。  

 チケットは4月28日(日)から発売します。チケットの発売方法については新文芸坐のサイトで確認してください。

●関連リンク
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

【新文芸坐×アニメスタイル vol. 175】今 敏が描いた華麗なる騙し絵 『千年女優』
http://animestyle.jp/2024/04/24/26934/

【新文芸坐×アニメスタイル vol. 176】
破格の超大作OVA ジャイアントロボ THE ANIMATION 地球が静止する日

開催日

2024年5月5日(日・祝)13時35分~20時20分

会場

新文芸坐

料金

3000円均一

上映タイトル

『ジャイアントロボ THE ANIMATION 地球が静止する日』全7話(1992-1998/339分/BD)

備考

※トークショーの撮影・録音は禁止

●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

【新文芸坐×アニメスタイル vol. 175】
今 敏が描いた華麗なる騙し絵 『千年女優』

 5月4日(土・祝)と5日(日・祝)の2日連続で、新文芸坐とアニメスタイルの共同企画で上映プログラムを組みました。
 新文芸坐とアニメスタイルの共同企画による上映プログラムは今年で15周年、アニメスタイル編集部は今年で25年目。それを記念しての特別企画です。

 4日(土・祝)は「【新文芸坐×アニメスタイル vol. 175】今 敏が描いた華麗なる騙し絵 『千年女優』」です。『千年女優』は今 敏監督の手がけた傑作長編アニメーション。今回は4Kデジタルリマスター版での上映となります。
 このプログラムではスタッフのトークはありません。アニメスタイルの小黒編集長と、新文芸坐の花俟良王さんが、上映前にご挨拶として少しお話をさせていただきます。

 当日はアニメスタイルの新刊「千年女優 アーカイブス」を、本田雄さんの描き下ろしによる複製ミニ色紙付きで販売します。 

 チケットは4月27日(土)から発売します。チケットの発売方法については新文芸坐のサイトで確認してください。

●関連リンク
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

【アニメスタイルの新刊】「千年女優 アーカイブス」を刊行します!
http://animestyle.jp/news/2024/04/13/26861/

【新文芸坐×アニメスタイル vol. 176】破格の超大作OVA ジャイアントロボ THE ANIMATION 地球が静止する日
http://animestyle.jp/2024/04/24/26938/

【新文芸坐×アニメスタイル vol. 175】
今 敏が描いた華麗なる騙し絵 『千年女優』

開催日

2024年5月4日(土・祝)16時35分~

会場

新文芸坐

料金

一般 1700円、各種割引き 1300円

上映タイトル

『千年女優』4Kデジタルリマスター版【4K上映】(2001/87分)

備考

※トークショーの撮影・録音は禁止

●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

アニメ様の『タイトル未定』
437 アニメ様日記 2023年10月8日(日)

2023年10月8日(日)
「第212回アニメスタイルイベント ANIMATOR TALK 黄瀬和哉&西尾鉄也」を開催。遊びに来た本田雄さんにも登壇していただいた。楽しいイベントになったと思う。

2023年10月9日(月)
『野球狂の詩』の「北の狼南の虎」について調べることになって、自分が「北の狼南の虎」のロマンアルバムを持っていないことに気づく。あのロマンアルバムは古本屋でやたらと見かけた記憶があるなあ。それから「北の狼南の虎」の劇場版を観たことがないことにも気づいた。

以下はこの日に観た『サザエさん』Cパート「父さんの常備薬」(作品No.8642 脚本/城山昇 演出/望月敬一郎)について。酔って帰る途中の波平が同様に酔った男性に声をかけられて話し込み、翌日に会うことを約束する。しかし、波平はその男性が誰だったのかが思い出せない。カツオがサッカーをやって膝を擦りむいたところでサングラスをかけた男性が現れて治療をしてくれる。カツオはサングラスの男性がどこかであった人のような気がするが、誰なのか思い出せない。それを聞いたフネに、お礼を言わなくてはいけないから、誰なのかを思い出すように言われる。前夜の飲酒のために調子がよくない波平が家の薬箱で胃薬を探すが見つからず、胃薬を探していることを知られたくなくて、誤魔化すためにツメを切る。買い物に出かけたサザエは途中でマスオに会って話をして、カツオに会って話をして、薬屋に寄って置いてあった雑誌を読み耽って、子どもに風船をあげる。同じ薬屋に波平が胃薬を買いに来て、薬屋のご主人が昨夜の男性であることが判明。酔っていた波平が胃薬を買いにくると予想して、彼は翌日の再会を予告していたのだ。次いでサングラスの男性も薬屋のご主人であることが判明する。大筋は波平が約束した相手も、カツオを治療してくれた人物も同じ人だったという話で、それ自体はあまり面白くないし、尺を持て余している感じすらあるのだけれど、むしろ、話がぼんやりしているところが、本当の意味で日常を描いていると感じられて、とてもよかった。特にサザエが買い物に出かけた部分での物語がぼんやりしている感じが凄い。サブタイトルの「父さんの常備薬」もエピソードの内容を説明しているわけではなく、その曖昧さも悪くない。

この日に録画で観たアニメは以下の通り。当然ながら、ながら観である。
…………
『経験済みなキミと、経験ゼロなオレが、お付き合いする話。』1話
『アンデッドアンラック』1話
『はめつのおうこく』1話
『彼女もカノジョ』 13話(Season 2 1話)
『シナモンと安田顕のゆるドキ☆クッキング』1話
『キボウノチカラ オトナプリキュア’23』1話
『最果てのパラディン 鉄錆の山の王』1話
『ひきこまり吸血姫の悶々』1話
『SPY×FAMILY』26話
『新しい上司はど天然』1話
『帰還者の魔法は特別です』1話
『オチビサン』1話
『豚のレバーは加熱しろ』1話
『ティアムーン帝国物語 断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー』1話
『僕らの雨いろプロトコル』1話
『ポーション頼みで生き延びます!』1話
『THE IDOLM@STER MILLION LIVE!』1話
『ちびまる子ちゃん』1405話
『サザエさん』2721話
『君のことが大大大大大好きな100人の彼女』1話
…………
10月の新番組で、1話で作品のタイトルロゴがどこにも表示されていないものが何本かあった。配信をメインだと考えれば、タイトルロゴを出さなくてもいいだろうという感覚なのかな。

2023年10月10日(火)
10月7日の『キボウノチカラ オトナプリキュア’23』1話と、10月8日の『ひろがるスカイ!プリキュア』36話で内容が重複しているのが狙いのわけがないけれど、タイミングがよくない。小学校の先生になった夢原のぞみよりも、専門学校生で保育士の実習をやっている聖あげはのほうが安心して見ていられる。
ワイフと大阪に行く。会場前で吉松さんと合流して、心斎橋PARCOの「大友克洋全集 AKIRAセル画展 OSAKA」を観覧する。池袋で同イベントをやっていた時にはチケットを取り損なって行くことができなかったのだ。僕的な見どころはセルよりもレイアウトや原画であり、感想としては「やっぱり大友さんは桁違いに巧い」だった。大阪まで行ってよかった。物販ではクリアファイルを購入。晩飯は大阪出身の吉松さんに選んでもらった店に行った。店に入って注文する段階で、大阪に来て博多料理の店に入ってしまったことに気づく。いかにも大阪らしいものを食べたかったのだけど。

この日に観た録画で観たアニメは以下の通り。
…………
『星屑テレパス』1話
『川越ボーイズ・シング』1話
『デッドマウント・デスプレイ』13話(Season 2 1話)
『ひろがるスカイ!プリキュア』36話
『七つの大罪 黙示録の四騎士』1話
『青のオーケストラ』24話
『私の推しは悪役令嬢。』2話
…………
Kindleで「蹴りたい背中」(綿矢りさ)を読了。面白かったし、感心した。言葉にできないものを表現するというのはこういうことか、という感じ。作品の感想とはちょっとズレるけれど、登場人物の「にな川」の視点で書いたら、全然違う話になるよね。

2023年10月11日(水)
深夜に大阪のホテルで目を覚ます。ワイフがお腹が空いたというので、午前3時過ぎの大阪の街にくりだす。この時間でも営業している店は多いし、歩いている若者も多い。あちこち歩いて24時間営業の居酒屋に入って、前日に食べられなかった串カツ等をいただく。ホテルの朝食ビュッフェには串カツ、たこ焼き、お好み焼き、ミックスジュースなどがあった。せっかくなので、また串カツをいただく。ちなみにホテルの名前は「天然温泉 朝霧の湯 ドーミーインPREMIUMなんばANNEX」だ。ホテルの部屋でテレビを点けたら、サンテレビで午前7時から「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」、午前7時半から旧『うる星やつら』を放送していた。確認したら両方とも帯枠で、前者は月~木、後者は月~金。金曜のみ午前7時から『CAT’S EYE』をやっているらしい。いいなあ、朝の帯枠。
午前中は大阪の街を歩く。チェックアウトした後も梅田の地下街を歩いて、ワイフの希望で有名な串カツ屋で昼食。この日、三度目の串カツだった。大阪に行ったのは今までの人生で4度目だと思うけど、たっぷりと歩き回ったのは初めてだった。元気のある街だと感じた。帰りの新幹線の中では仕事のメール。事務所に戻って定例Zoom打ち合わせ。
ある人のSNSへの投稿で「オリジナルアニメが人気でジャンプ原作に勝てるわけがないんだから」といった内容のものを見かけて、軽くショックを受ける。それが現在のアニメファンの感覚を代表するものかどうかは分からないけど、そんな意見が出るくらいにオリジナルは力を失っているということだろう。

この日に録画で観たアニメは以下の通り。
…………
『ミギ&ダリ』2話
『鴨乃橋ロンの禁断推理』2話
…………

2023年10月12日(木)
試写会で『屋根裏のラジャー』を鑑賞。疑問点はあるが、物語としては、つまらなくはない。現代性もあると思った。ただし、ヒットするかどうかはわからない。話は変わるけれど、東宝社内に「ゴジラ会議室」という名称の部屋があった。
あまりにも用事が多くて、自分の作業(原稿とはページ構成とか)をやっている時間がない。数えてみたら10数冊の書籍が同時進行だった。

この日に観た録画で観たアニメは以下の通り。
…………
『婚約破棄された令嬢を拾った俺が、イケナイことを教え込む』2話
『16bitセンセーション ―ANOTHER LAYER―』2話
『Helck』16話
『東京リベンジャーズ』39話
『でこぼこ魔女の親子事情』2話
『MFゴースト』2話
『オーバーテイク!』2話
『シャングリラ・フロンティア』2話
『マジンガーZ』52話
…………

2023年10月13日(金)
この日の作業は大半が取材原稿の粗まとめ。「設定資料FILE」の素材の確認も進めた。いいことがあった。難しいだろうと思っていた書籍の企画にOKが出たのだ。

この日に録画で観たアニメは以下の通り。
…………
『Dr.STONE NEW WORLD』12話(第2クール1話)
『呪術廻戦 渋谷事変』36話
『放課後少年 花子くん』1話
『ビックリメン』2話
『柚木さんちの四兄弟。』2話
『お嬢と番犬くん』3話
『レヱル・ロマネスク2』2話
『冒険者になりたいと都に出て行った娘がSランクになってた』2話
…………

2023年10月14日(土)
20数年前に細田守君(ここは「君づけ」にします)と、飲み屋で朝までかけて、大学生男子の恋愛相談に乗ったことがあった。その大学生男子は40歳過ぎとなり、恋人ができた。この日の食事では、彼に恋人を紹介してもらった。20年ぶりの伏線回収だった。ちなみに恋愛相談に乗った時点で、大学生男子は直前まで彼女がいて、僕と細田君は彼女がいなかった。
就寝前に「ゲッサン」最新号で『からかい上手の高木さん』最終回を読む。大団円だ。マンガとしての表現も高みに上っていた。自分的には引っ越しの話題はないほうがよかったけど、それは言ってもしかたがない。

この日に録画で観たアニメは以下の通り。
…………
『アンデッドアンラック』2話
『葬送のフリーレン』6話
『はめつのおうこく』2話
『彼女もカノジョ』14話
『盾の勇者の成り上がり Season 3』2話
『め組の大吾 救国のオレンジ』1話
『め組の大吾 救国のオレンジ』2話
…………

第849回 どうやらマズそうです

なんか、仕事を受け過ぎたみたいです(汗)!

 でも、信じられない方がいらっしゃるかと思いますが、やりたくない仕事はやっていません。
 と言うか、これも同じく信じていただけないかも知れませんが、

どんな仕事でも真剣に取り組むと“やりたくてやってる仕事”になる!

のです。
 とにかく、そんな訳で決められた労働時間いっぱいいっぱい仕事三昧。なんだかんだ言って30年アニメやってこられただけで幸せ者なのでしょう。
 願わくば、将来寿命が尽きる瞬間まで「アニメ作り続けてよかった!」と思っていられることを……。

第279回 知的でエモい 〜道産子ギャルはなまらめんこい〜

 腹巻猫です。4月13日にめぐろパーシモンホールで開催された「カレイドスター音楽祭 〈20周年の すごい究極 オーケストラコンサート〉」に参加してきました。クラウドファンディングで支援者を集めて実現した、ファンによるファンのための音楽祭です。窪田ミナさん作曲のBGM50曲以上をオーケストラが演奏。ホールに響く音に出演者とファンのカレイドスター愛を感じたイベントでした。いつか第2回を期待します。


 2024年1月期のTVアニメの中で筆者が気に入って観ていた1本が『道産子ギャルはなまらめんこい』。伊科田海の同名マンガをアニメ化した作品である。
 東京から北海道北見市に引っ越してきた男子高校生・四季翼は、引っ越し初日に金髪ギャル風の少女・冬木美波と出会う。美波は翼が転校した高校の同級生だった。慣れない土地の生活に不安を覚えていた翼だが、開放的で人懐っこい性格の美波のおかげで北海道のよさを知るようになり、しだいに友だちを増やしていく。
 美波以外にも、一見クールなゲーム好き美少女・秋野沙友理、美波が憧れる学年トップの先輩・夏川怜奈など、個性的な少女が翼に接近してくる。ラブコメといえばラブコメなのだけど、コミカルなエピソードを重ねる中で、翼と周囲の少女たちが成長していく姿が描かれているのがとてもさわやかで気持ちよかった。
 実在するスポットや食べものなども登場し、「北海道に行きたい!」と思わせてくれるのもいい。筆者が北海道に行ったのは3回くらいで、北見は未体験。機会があれば聖地巡礼してみたい。

 音楽はピアニスト、作・編曲家の高尾奏之助が担当。アニメを観ながら、透明感のある素敵な音楽だなあと思っていた。サウンドトラックであらためて聴いて、知的に組み立てられた音楽でもあると感じた。
 サウンドトラック・アルバムのライナーノーツに、高尾奏之助がコメントを寄せている。それによれば、打ち合わせで「ギャルであることを前面に押し出すというよりも、高校生の青春と優しい雰囲気を大切にしたい」と方向性が決まり、そのイメージを求めて、弦、木管、ピアノ、パーカッション、アコースティックギターなどの生楽器を中心に音楽を作っていったという。「北海道の寒さと、それとは対照的に、そこに生きるキャラクター達の青春の温かさがそれぞれの温度感で伝わればいいな」という想いで作曲を進めたそうだ。
 こだわったポイントとして、「日常曲のにぎやかさとポジティブ感を演出するためにブルーズ・ジャズ感のある音使いを忍ばせたこと」「弦楽器メインの曲では雰囲気をライトなクラシックにおさめ、メロディーだけでなく内声の動きでもキャラの心情の繊細さを表現したこと」「木管系では気温の寒さ、儚さ、温かさをフレーズによって使い分けたこと」などを挙げている。理論的な裏づけのある曲作りはクラシックを学んだピアニストらしい。
 といっても曲が難しいわけではない。とてもわかりやすく、親しみやすく、どの曲もイメージがくっきりしている。曲に託された雰囲気や感情がしっかり伝わる曲ばかりだ。なまら知的でエモい。そんな音楽である。
 本作の放送中に、エフエム北海道で「道産子ギャルはなまらめんこい 〜どさこいラジオ〜」なる番組が毎週オンエアされた。アニメの声優やスタッフが毎回交代でパーソナリティを務める番組で、その第4回に高尾奏之介が出演している。そこで高尾が語った内容も興味深いので紹介しよう。
 高尾が劇伴作りで大事に考えていることは「その物語がどういう世界にあって、どんなキャラクターがそこで生きていて、それぞれが何を考えているのか」。それをしっかり理解して全体の楽器編成や音楽スタイル、ジャンルなどを決めていく。本作の場合は、原作を読み、「翼のにぎやかな日常とヒロインたちの抱えている心模様を魅力的に演出するには、どういう音楽をつけたらいいのか」を考えて曲を作っていったという。「音楽で作品の世界観が決まってくると思う」とまで高尾は言っている。
 本作のサウンドトラック・アルバムは「TVアニメ『道産子ギャルはなまらめんこい』オリジナルサウンドトラック」のタイトルで2024年3月6日にポニーキャニオンから発売された。収録曲は以下のとおり。

  1. 冬の寒い地へ
  2. 道産子ギャルはなまらめんこい メインテーマ
  3. なんて攻撃力してるんだ!!
  4. トホホに帰して
  5. その言葉に胸がジーンと
  6. なんだこの状況は!?
  7. トキメキと、ありがと……
  8. 平穏であったかい時間
  9. 寒い!寒すぎる!!
  10. はずむ会話と足取り
  11. うきうきな北見的日常
  12. ごめん、じゃあね……
  13. 大切な友達だと思ってるから
  14. 今日もみんなで元気よく
  15. 陽気な気分で
  16. モヤモヤした気持ち
  17. 楽しみは一緒に
  18. ふんわりと見惚れて
  19. 翼の赤面
  20. ふ、冬木さん!?
  21. くもり後、笑顔
  22. ぽつりぽつりと、新たな一面
  23. その気持ちが嬉しくて
  24. やばいやばいやばい!
  25. ちゃんといい街なんだなーって
  26. 思春期的葛藤
  27. 不安、不穏、隠した想い
  28. 真夜中のひまわり -Piano ver.-
  29. やっと本音を、言えたから
  30. あの頃の思い出
  31. 愉快軽快ダイジョブかい?
  32. ちょびっと乙女な冬木さん
  33. 安心、その先で
  34. なまら仲睦まじく
  35. 自分と向き合い憧れて
  36. あふれる想いと涙
  37. 心拍数、上昇
  38. ほんとの気持ちは、どっち……?
  39. 問題勃発
  40. はやる想いはめんこい君へ
  41. やっぱり道産子ギャルはなまらめんこい
  42. 真夜中のひまわり -Inst ver.-

 収録時間はたっぷり74分。劇中で流れたBGMは、ほぼすべて収録されている。
 アルバムの序盤は本編の第1話、第2話の流れを踏襲している。翼が美波と出会い、学校と北見の街になじんでいくまでが、音楽で綴られる。中盤にはさゆりや怜奈のエピソードで印象深い曲が現れ、終盤はエモーショナルな展開になって終わる。全12話の物語をふまえた内容になっているのがいい。
 トラック1〜10は第1話を思わせる構成。1曲目の「冬の寒い地へ」は冬の北海道をイメージさせる曲。キラキラした音色のピアノやパーカッションと木管のアンサンブルが雪の舞う情景を思わせる。この曲は第1話では使われていないが、物語の導入にはぴったりだ。
 トラック2「道産子ギャルはなまらめんこい メインテーマ」はタイトルどおり本作のメインテーマ。ピアノと木管のイントロから軽やかに舞い踊るようなメロディに展開する。高尾奏之助は本曲について「メロディーの音の跳躍が激しいのは、キャラクターの心の弾み具合を表現したいと思ったから」と語っている。またバックにはボディパーカッション(手・足・体などを叩いて出す音)が使われている。これはにぎやかさを演出するねらいで入れたのだそうだ。第1話のアバンタイトル、翼が雪の積もった道で美波と出会う場面から使用されている。
 トラック3「なんて攻撃力してるんだ!!」は翼から見た美波の印象を伝える曲。ジャズ風のブルージーな曲調がおかしみをかもしだす。第1話の使用順だとトラック8「平穏であったかい時間」のあと、翼が学校の教室で美波と再会する場面に流れるのだが、「美波登場!」のイメージでここに配置されているのだろう。アルバムの流れとしてはこのほうがいい。
 トラック4〜10までは第1話の翼と美波の出会いから教室で再会した2人が一緒に帰るまでの一連のシーンに使用されている。コミカルな「トホホに帰して」「なんだこの状況は!?」「寒い!寒すぎる!!」は翼が動揺するシーンによく使われた曲。「その言葉に胸がジーンと」「トキメキと、ありがと……」「平穏であったかい時間」はほのぼのしたシーンや心がほっこり温かくなるシーンによく流れた曲だ。どれもシンプルな楽器編成と構成ながら、タイトルどおりのイメージがストレートに伝わってくる。
 トラック10の「はずむ会話と足取り」は毎回のように使用された軽快な曲。翼と美波たちの会話シーンによく選曲されていた。
 トラック11〜13は第2話の終盤に連続して使われた曲。美波と一緒にかまくらに入っているところを厳しい祖母に見られた翼(「うきうきな北見的日常」)。美波との仲もこれまでかと落胆するが(「ごめん、じゃあね……」)、気を取り直して美波に素直な気持ちを伝える(「大切な友達だと思ってるから」)。翼の心情の変化が伝わる巧みな音楽演出だ。ハンドクラップを取り入れた「うきうきな北見的日常」は翼が同級生と遊ぶシーンなどによく使われた。
 本作の音楽は、大きく分けるとコミカル系、にぎやか系、ほのぼの系の3タイプがある(もちろん、このいずれにも当てはまらない曲もある)。コミカル系では、ほかに「翼の赤面」(トラック19)、「ふ、冬木さん!?」(トラック20)、「やばいやばいやばい!」(トラック24)、「思春期的葛藤」(トラック26)、「心拍数、上昇」(トラック37)などがあり、微妙なニュアンスの違いを書き分けているのがうまい。実際に使用されたシーンも曲タイトルと合致している。選曲家にとって、曲のねらいと曲の印象のあいだにずれのない、使いやすい曲なのだろう。
 にぎやか系の曲には「今日もみんなで元気よく」(トラック14)、「陽気な気分で」(トラック15)、「楽しみは一緒に」(トラック17)、「愉快軽快ダイジョブかい?」(トラック31)などがある。どれもバンドセッション的な躍動感が気持ちよく、本作らしいなあと思う曲だ。中でも「陽気な気分で」と「愉快軽快ダイジョブかい?」は使用頻度が高かった。
 ほのぼの系では、「その気持ちが嬉しくて」(トラック23)、「ちゃんといい街なんだなーって」(トラック25)、「あの頃の思い出」(トラック30)、「安心、その先で」(トラック33)などが翼と美波たちの友情のシーンによく使われていた。しみじみといい曲である。
 アルバムの後半になると、切なさやためらいなどを表現する心情曲が多くなる。本作の青春ものの側面を象徴する楽曲たちだ。
 「ぽつりぽつりと、新たな一面」(トラック22)は、木管、ピアノ、パーカッションなどが思春期の複雑な心情を描写するドビュッシー風の曲。第3話のリフトの上で語らう翼とさゆりの場面や第12話の美波が眠っている翼の顔を見つめる場面などに使われ、絵やセリフだけでは表現しきれない想いを描写していた。
 「自分と向き合い憧れて」(トラック35)は第8話で怜奈が翼に「私はいつも人の評価を気にしている」と意外な弱さを見せる場面に流れた曲。ピアノとアコースティックギターとストリングスが繊細な心情を演出する。第11話で美波が翼に「海外留学するんだ」と打ち明ける場面にも使われた。
 「あふれる想いと涙」(トラック36)は数少ない悲しみの曲のひとつ。第11話で美波との距離が遠くなったように感じる翼の心情を彩った。第12話では翼が美波と会いに行くことをためらう場面に流れている。ピアノとアコースティックギターをバックに奏でられるクラリネットの旋律が切なく響く。オーボエやフルートだと悲しくなりすぎるところだが、ぬくもりのあるクラリネットの音色が選ばれているところが絶妙である。
 「はやる想いはめんこい君へ」(トラック40)はメインテーマの変奏で、もどかしや切なさを感じさせるアレンジ。曲後半のクラリネットのアドリブが乱れる心を表しているようだ。第12話で翼が美波のヘアピンを握りしめて会いに行くことを決意する場面に一度だけ使われた。
 第12話の美波が空港で翼が来るのを期待して待つ場面には「ほんとの気持ちは、どっち……?」(トラック38)が流れている。これもメインテーマのモチーフを使った曲で、たゆたうような木管の旋律がゆれ動く気持ちを表現している。第5話で美波がさゆりから「翼にガチのチョコをあげないのか?」と聞かれる場面にも使われたのが音楽的伏線になっていた。
 アコースティックギターとストリングスによる「くもり後、笑顔」(トラック21)は第12話で翼が美波に自分の想いを伝える場面に流れた曲。それに続く、翼が旅立つ美波を見送るシーンでは、ドラマティックな構成の「やっと本音を、言えたから」(トラック29)が流れて2人の感情が交錯するクライマックスを盛り上げた。
 最終話のラストシーンに流れたのは「道産子ギャルはなまらめんこい メインテーマ」だったが、アルバムの締めくくりの曲はメインテーマアレンジの「やっぱり道産子ギャルはなまらめんこい」(トラック41)。テンポのゆったりした演奏が大団円を思わせる。この曲は第7話の翼と怜奈の和服デートのシーンや第11話アバンタイトルの美波がメイクするシーンなどに使われていた。
 トラック42「真夜中のひまわり -Inst ver.-」は第5話で美波がカラオケルームで歌っていた曲のカラオケ。ボーナストラック的な収録だ。そのピアノアレンジ版がトラック28の「真夜中のひまわり -Piano ver.-」。こちらは第5話で翼がピアノを弾いて美波を励まそうとする場面に現実音楽として使われた。こういう曲はサントラ盤ではオミットされてしまいがちなのだが、ちゃんと収録されているのがうれしい。

 高尾奏之助は30分枠のTVアニメの音楽を手がけるのは本作が初めてだったそうだ。そうとは思えないほど完成度の高い充実した内容の音楽である。高尾は何話分かのダビング作業にも参加したという。筆者は常々、作曲家もダビングに参加したほうがよいと思っているので、それを知って感心した。これからどんな音楽を聴かせてくれるか、楽しみな作曲家だ。

TVアニメ『道産子ギャルはなまらめんこい』オリジナルサウンドトラック
Amazon

第848回 まだまだ語り続けます!

ぴあより発売された『劇場版スペースアドベンチャーコブラ COMPLETE DVD BOOK』届きました!

 1982年の出﨑統監督作品。ここ数年買い続けている“ぴあCOMPLETE DVD BOOK”シリーズも、昨年末発売された『劇場版エースをねらえ!』に続き、今回の『劇場版コブラ』へと“東京ムービー新社(現:トムスエンタテインメント)版・劇場出﨑アニメ”編に突入!? 出る度買ってしまうんですよね。それだけ、

“出﨑アニメ”には、他のアニメにない魅力があるんですよ!

 昨今のレンズを通した画を無条件にリアルと信じたパース&レイアウトで、綺麗且つ高密度な作画・美術でストーリーを語るだけのアニメ映画とは全然違う“魅力”です。出﨑監督は生前残されたオーディオコメンタリ―などで「隅々まで描かれた画面が本当に良いのか?」的なことは語られてます。1980年前後、実写の光(入射光)を重ね始めたせいで出﨑アニメが実写的に捉えられた(過去「出﨑作品は実写的」と仰ってた出﨑組スタッフのインタビューあり)のかも知れませんが、自分はそうは思いません。出﨑監督はあくまで実写映画からインスパイアされつつも、その表現をアニメーションに——ですらなく、“画で繫いだフィルム”というかたちで作品にしたかったのではないのでしょうか? アニメという縛りから解き放たれて“フィルム”というカテゴリーで考えればこそ、動く必要もないから“止めハーモニー”や“繰り返し”、その他ありとあらゆるエモーショナルな手練手管により「出﨑フィルム」を目指した! のだと、思うのです。今日日の数あるハイクオリティアニメ映画になくて、出﨑監督作品のみにある何かが板垣にとっては愛おしくて堪らないのです。
 よく言われる“アップとロングの切り返し”の大胆さは言わずもがなですが、個人的に

劇場出﨑作品の最大の魅力は大胆且つ歯切れのいい“編集”!

だと考えています。それは“数コマ伸縮”程度の所謂アニメ演出処理的なテクニカル感度の話ではなく、シーンやカット繋ぎレベルといった全体的な意味での編集の話です。『劇場版エースをねらえ!』に於けるお蝶夫人とのダブルス戦の“ヘリコプター”とかの、試合を全部観せるなど不要! という割り切り。『劇場版あしたのジョー2』の見えないパンチの説明すらなく、そのダウン後“受け返す”工程もカット! これは『(劇)ジョー2』自体がTVシリーズの総集編(テレビの画の使い回し)だから雑に切り過ぎた……とかではなく、「スポーツもののセオリーをポンと飛ばして繋ぐことで、ジョーの野性(瞬発力?)を表現しようと思って~」との出﨑監督インタビューが残っている訳で、間違いなく意図的です。他に『(劇)ジョー2』では「それで終わりか?」金竜飛とか。
 で、『劇場版コブラ』でも、冒頭からコブラとジェーンがテレパシー通信(?)してたり。もちろん説明なし。コブラが元気に走り! 飛び! とアクションたっぷりで動画枚数を無限に使ったかと思えば、ラストのクリスタル・ボーイとの対決は前述の“繰り返し(高速)PAN”の止め画! このシャープさが堪りません! 勝ちが見えてる勝負を長々描く必要なし! でしょう! もう、大好き!!
 次(4/23)は『(劇)ジョー2』ですか!

 是非『劇場版ゴルゴ13』も(懇願)!

第222回アニメスタイルイベント
ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』6 【片渕さんの『調べる』とはどういう意味なのか 編】

 片渕須直監督が制作中の次回作のタイトルは『つるばみ色のなぎ子たち』。平安時代を舞台にした作品のようです。

 『つるばみ色のなぎ子たち』の制作にあたって、片渕監督はスタッフと共に平安時代の生活などの調査研究を進めています。アニメスタイルは「ここまで調べた片渕須直監督次回作」のタイトルでイベントを開催し、現在は「ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』」のタイトルでイベントを続けています。

 2024年5月18日(土)に開催する「ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』6」のサブタイトルは【片渕さんの『調べる』とはどういう意味なのか 編】。文字通り、今回は片渕監督にとって「調べる」ということにどんな意味があることかを語っていただくことになります。作品作りと深く関わったお話になりそうです。
 3月29日に小説家の山本弘さんが逝去されました。それを偲んで今回のアフタートークでは片渕監督に、アニメーション版『MM9』について話をしていただくことになりました。アフタートークは配信はなく、会場にいらしたお客様のみが観覧できます。

 なお、今回の会場はいつもの「ここまで調べた」イベントとは違い、新宿のLOFT/PLUS ONEとなります。

 配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。また、今までの「ここまで調べた~」イベントもアニメスタイルチャンネルで視聴できます。

 チケットは4月13日(土)昼12時から発売となります。チケットについては、以下のロフトグループのページをご覧になってください。

■関連リンク
LOFT  https://www.loft-prj.co.jp/schedule/plusone/280998
LivePocket(会場)  https://t.livepocket.jp/e/ixj5l
ツイキャス(配信)  https://twitcasting.tv/loftplusone/shopcart/302195

アニメスタイルチャンネル  https://ch.nicovideo.jp/animestyle

 なお、会場では「この世界の片隅に 絵コンテ[最長版]」上巻、下巻を片渕監督のサイン入りで販売する予定です。「この世界の片隅に 絵コンテ[最長版]」についてはこちらの記事をどうぞ→ https://x.gd/57ICr

第222回アニメスタイルイベント
ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』6 【片渕さんの『調べる』とはどういう意味なのか 編】」

開催日

2024年5月18日(土)
開場12時30分/開演13時 終演15時~16時頃予定

会場

LOFT/PLUS ONE

出演

片渕須直、前野秀俊、小黒祐一郎

チケット

会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,500円、当日 1,800円(税込・飲食代別)
ツイキャス配信チケット/1,300円

■アニメスタイルのトークイベントについて
 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。

第847回 楽しい、だけじゃ……

また原画描くのが面白くなってきました!

 『沖ツラ』、原画の直し。建前上は“作監(作画監督)として原画修正”ですが、全修——早い話、原画描き直し。もちろん全カットそんなことしやしませんが、時々どーしてもやっちゃいます。
 やっぱり、原画は楽しくて面白い! 目の前に良くない原画上がりがあると、「は? これでいいの? なんでもっとカッコ良く描かないの!?」という気持ちで直しまくってしまうのです。若い頃は下手な原画に怒りを覚えましたが、この歳になると「誰もわざと下手に描いてる訳でもないだろうし~」と大らかに見れるもので、寛容に見る代わりに粛々と「全部直させていただきます!」と。修正後原画マン本人に「ここはこうした方がよくて~」と解説、時にはリテイクで戻す。修正理由を相手にハッキリ説明できないなら、リテイクは出しません! 黙って全修します。

しかし、もうそろそろ「原画描くのは楽しいからいいか……」とばかりは言ってられません!!

 自分はこれまで「コンテは楽しい」「原画も楽しい」「監督いちばん楽しい」でやってきましたし、数年前まではまだまだその調子でやってこうと思っていました。が、ついこの間、また学生時代の友人に「アニメーターが原画描いてるだけでなんの版権収入もなく食えない業界が問題なんだ! インボイス制とかもけしからん話だ!」と、なぜか俺に向かって吠えられました。俺に言わせると、

え? 原画だけ——もっと言ってアニメーターだけやってるからダメなんじゃない?

という時代が迫っているのに気づかないのでしょうか。その友人曰く「俺は君(板垣)みたいに監督やりたいとかコンテ描きたいとか贅沢言わないで、ただ“一原画マン”でいいって言ってんだから!」だそう。「……いや、世の6割のアニメーターが貴重な収入源としている“眼パチ・口パク程度の楽(らく)儲けカット”なぞはAIで仕留める時代が直ぐそこまで来てるぞ!」、つまり──

これからの時代、アニメの原画業だけで食って行こうってほうが、よっぽど贅沢なんですよ!!

と。すでにアニメ会社に就職せず、個人作品をYouTubeに上げてデビューしたアニメーターがゴロゴロいる訳で。そういった個人作家はコンテから編集まで自身でやってると思います。アニメの作り方なぞネットで調べりゃ簡単に出てきますからね。
 その友人だけでなく、アニメーターは不遇だ不遇だと言うけど、そもそも本格的エンターティナーたる漫画家になるほどの才能もなく、中学高校と碌に学業せず美少女落書き。無試験でアニメ専門学校入って親の脛齧った類友らとオタク談義三昧の2年間! 念願叶って(?)アニメーターになってからも自堕落に昼過ぎ~夕方近くにスタジオ入って、DVDとか観たりしながら朝までだらだら描いて? 当然これはその友人だけでなく、俺自身にも半分当てはまってると思うし、自分がフリーであちこち出向いていた時、このようなアニメーターに数多く出会いました。もっと嫌われるの覚悟で毒づくと、30年やってコンテの画を拡大して眼パチ・口パクつけた程度に毛が生えた位の原画しか描けない腕で今まで食えてきただけで幸運でしょ!? お金が儲からなかったこと以外、もう十分遊んだじゃないですか? これからもそれだけで食っていこうと思ってる? 社会や政治が悪い! インボイス制が悪い! と言って愚痴ってばかりで何も新しいことを勉強しようともしないの? 学生の頃「僕はオリジナルの企画を持ってるから!」と息巻いていたのはなんだったの? クリスタやAE・Premiere使って自作アニメ作って、動画サイトに上げればいいのに……。
 と言う訳で、自分ももう少し今までと違う仕事を——と、ここ何回かで話題にしているとおりストーリーを組み立てたり、そろそろCGも使えるようになりたく、小さくても自分の作品を作るための勉強をしようと思います。2025年問題が迫る中、AIの台頭に対して自分らアニメーターは今までのような「贅沢さえ諦めて原画描いてりゃ、自由に過ごせる~」な怠慢ワークスタイルを見直し、少しでも勉強して新しい技術を身に付ける時代がきたようです。その方がもっと仕事が楽しくなると思いませんか?

アニメ様の『タイトル未定』
436 アニメ様日記 2023年10月1日(日)

2023年10月1日(日)
雨宮哲さんが原作・脚本を務めた朗読劇「絶滅ホスト」を観劇した。物語そのものが面白いし、登場人物も魅力的。「朗読劇であること」を利用したメタ展開もイケていた。『グリッドマン ユニバース』でも感じたけれど、雨宮さんの恋愛観がいい。

2023年10月2日(月)
新文芸坐で「シンドバッド 7回目の航海」(1958・米/88分/BD)を鑑賞。プログラム「ワクワク!ストップモーションアニメと最新3DCGアニメの傑作」の1本だ。この映画の初見は子供の頃のTV放映で、その後も何度か観ているはず。改めて特撮カット(ダイナメーション)の多さに驚く。骸骨剣士とのチャンバラは今観ても凄い。展開がスピーディで、その意味でも楽しめた。「シンドバッド 7回目の航海」を観る気になったのは新文芸坐に貼られたポスターの左上に「総天然色メガスコープ」の文字があったからだ。 「7回目の航海」って4:3だった気がするんだけど、ワイドだったっけ? と思い、それを確認するために観ることにした。実際に上映された映像は4:3よりも横長。16:9かな。16:9ほどは横に長くなかったかもしれない。ネットで検索すると、米国版LDは4:3で、米国版DVDは上下を切って16:9としたとあった。同時上映の「アルゴ探検隊の大冒険」(1963・英/104分)のチケットも取ってあったので、そちらは冒頭だけ観た。

この日に観た深夜アニメは以下の通り。『オーバーテイク!』の1話がよかった。
…………
『でこぼこ魔女の親子事情』1話
『MFゴースト』1話
『オーバーテイク!』1話
『し~くれっとみっしょん 潜入捜査官は絶対に負けない!』1話
『ちびまる子ちゃん』1404話
『シャングリラ・フロンティア』1話
…………
深夜アニメの新番組ではないけれど、『青のオーケストラ』23話がよかった。やたらと濃厚だった。

2023年10月3日(火)
いくつもの仕事が動き始めた日。
この日に観た深夜アニメは以下の通り。『鴨乃橋ロンの禁断推理』は集英社原作でKADOKAWAアニメということかな。
…………
『鴨乃橋ロンの禁断推理』1話
『SHY』1話
『私の推しは悪役令嬢。』1話
『とあるおっさんのVRMMO活動記』1話
『聖剣学院の魔剣使い』1話
『ミギ&ダリ』1話
『B-PROJECT 熱烈*ラブコール』1話
…………

2023年10月4日(水)
グランドシネマサンシャインで「ジョン・ウィック:コンセクエンス」を【IMAXレーザーGT字幕版】で鑑賞。ワイフも行く予定でチケットを取っていたが、体調が優れず、彼女は行かないことになった。画がよくて、音がでかい映画が観たかったので、まずは満足。中二っぽいところもよかった。とにかくアクションのボリュームが凄い。序盤の日本でのアクションだけで、普通のアクション映画の1本分くらいあるのではないか。最後の決闘場所に行くまでのアクションの長いこと長いこと。屋内のシーンで天井をぶちぬいて真上から撮ったショットがなかなかよかった。自分の好みとしてはアクションのボリュームを半分にして、個々のアクションの見せ方の精度を上げたほうがよかったけど、あのボリュームが商品価値になっているのはよく分かる。

この日に観た深夜アニメは以下の通り。
…………
『Paradox Live THE ANIMATION』1話
『東京リベンジャーズ』38話
『聖女の魔力は万能です』Season2 1話
『忍ばない!クリプトニンジャ咲耶』1話
…………
『セーラームーン』の放映が始まった頃に入浴剤があったよなあ、と思って検索したら、ネットに画像があった。ありがとう。ブログ主さん。商品名は「美少女戦士セーラームーン へんしんタイム」だった。見どころはバッケージのイラストで、お風呂に入っているうさぎ達、それから、マスクをつけてシルクハットをかぶったまま入浴しているタキシード仮面だ。『セーラームーン』の入浴剤からの連想で『少女革命ウテナ』にも子供用の文具セットがあったなあ、と思って検索したところ、見つかった。商品名は「少女革命ウテナ バラの刻印セレクション」。僕が商品窓口として監修したものだ。『ウテナ』で子供用の商品といえば、ドールもあったはず、と思って検索したら、こちらも見つかった。今となっては嘘のような話だけれど、『少女革命ウテナ』も企画時は子供のための人形や各種商品を発売する作品だったのだ。

2023年10月5日(木)
昨年の緊急入院で学習したので、調子が悪い時は「とりあえずは様子をみよう」ではなくて「まずは病院に」と考えることにした。前日とこの日の体調が、緊急入院した時の少し前と同じ感じだったので、慌てて病院に行った。CTスキャンをとってもらったところ、現状では問題なし。午後はあるアニメーターさんと、年末に刊行する書籍について打ち合わせ。

この日に観た深夜アニメは以下の通り。
…………
『婚約破棄された令嬢を拾った俺が、イケナイことを教え込む』1話
『ブルバスター』1話
『陰の実力者になりたくて!』2nd season 1話
『ウマ娘 プリティーダービー =Season3=』1話
『絆のアリル』13話
「アニメ『ぼさにまる』傑作選」
『16bitセンセーション ―ANOTHER LAYER―』1話
『カミエラビ God.app』1話
『暴食のベルセルク』1話
…………
『私の推しは悪役令嬢。』1話と『婚約破棄された令嬢を拾った俺が、イケナイことを教え込む』1話が面白かった。自分勝手なことを言うと、どちらも1話の感じで全4話くらいで終わってくれると嬉しいけど、そういうわけにはいかないのは分かっている。勿論、1クールずっと面白ければそれはそれでOK。

2023年10月6日(金)
朝の散歩ではサブスクで『哀しみのベラドンナ』のサントラを聴いた。アナログレコードが出たよなあ、と思って検索したらサブスクにあったのだ。凄いぞ、サブスク。『哀しみのベラドンナ』があるなら、ひょっとして『千夜一夜物語』のサントラもあるのでは? と思って検索したらあった。こちらも聴いた。
『ガールズ&パンツァー 最終章』第4話をDolby Atmosで鑑賞。とにかく戦闘シーンが凄い。CGそのものについても「ここまできたか」という感じ。凄かったのが、決着が着く少し前の戦車がひたすら滑り落ちるシークエンスで、CGだけでなく、コンテや演出も凄い。21世紀になってから作られた全てのメカアニメの中で「一番板野サーカスに近い」と思った。別にミサイルが飛び回るわけでないけれど、精神が近い。これは第4話だけではないけれど、『最終章』はコアユーザー向けの「キャラクターもの」の枠から外れようとしているところがあると思っていて、今回は特に顕著だと感じた。もっと感動的に作ろうとしたらできるはずだし、キャラ描写でサービスもできたはず。それを含めて第5話と第6話がどうなるのかが楽しみ。普通に決勝をやって終わりではないだろうとは思う。今までやっていなかったテーマに挑むのかなあ。

この日に観た深夜アニメの新番組は以下の通り。
…………
『UNDER NINJA』1話
『魔法使いの嫁 SEASON2』1話
『ビックリメン』1話
『柚木さんちの四兄弟。』1話
『呪術廻戦 渋谷事変』35話
『お嬢と番犬くん』2話
『レヱル・ロマネスク2』1話
『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』14話
『冒険者になりたいと都に出て行った娘がSランクになってた』1話
…………
『お嬢と番犬くん』2話が面白かった。『柚木さんちの四兄弟。』『冒険者になりたいと都に出て行った娘がSランクになってた』も好印象。

X(旧 Twitter)で『鉄人28号』(1980年版)の45話「暴走! 地獄の天使」について書いた。5人の武装バイクに乗った若者がゲストの敵として登場して、5人を演じたのが神谷明(ジョー)、吉田理保子(ラン)、石丸博也(ケン)、千葉繁(アキラ)、二又一成(イサム)という異様な濃さ。神谷さんが演じるジョーがバイクで搭乗したまま、ロボットのライダーンに搭乗するのだけれど、その時に「ライダーン!」と叫ぶ。誰かが狙った『勇者ライディーン』のパロディであるはずだ。ドラマに関してパロディ的な空気がないので、分からない人は分からないというところが巧い。これはSNSに書かないと、どこにも書く機会がないのではないかと気がついて、書いたのである。パロディを仕掛けたのが誰なのかを調べたいが、それを調べる機会があるのだろうか。

2023年10月7日(土)
この連休で「インディーアニメクロスX! in 渋谷パルコ」が終わることに気がついて、仕事の合間に渋谷へ。目当ての図録を購入。図録はボリュームがあってよかった。Xで流れてくるショートアニメを観る際の参考になりそうだ。こむぎこ2000さんが在廊していたので、図録にサインを入れてもらう。
この日に観た深夜アニメは以下の通り。
…………
『盾の勇者の成り上がり Season 3』1話
『攻略うぉんてっど! 異世界救います!? 』1話
『葬送のフリーレン』5話
『ヒプノシスマイク Division Rap Battle Rhyme +』1話
『ゴブリンスレイヤーII』1話
『アークナイツ 冬隠帰路』1話
…………

【新文芸坐×アニメスタイル vol. 174】
デジタルの夢・アナログのロマン『BLOOD』『人狼』

 新文芸坐とアニメスタイルの共同企画による上映ブログラムは今年で15周年、アニメスタイル編集部は今年で25年目。それを記念して、これから来年にかけて何度かスペシャルなプログラムをお届けする予定です。

 4月20日(土)のプログラムは「【新文芸坐×アニメスタイル vol. 174】 デジタルの夢・アナログのロマン『BLOOD』『人狼』」。
 『BLOOD THE LAST VAMPIRE』(2000年)は最先端のデジタル技術を駆使して濃密な映像を作り上げた作品。『人狼 JIN-ROH』(2000年)は「最後の本格的アナログ長編アニメ」とも呼ばれた作品で、手描き作画の最高峰と評されています。同時期にProduction I.Gが送り出したデジタルとアナログの傑作2本立てです。

 トークのゲストは『BLOOD THE LAST VAMPIRE』の北久保弘之監督、作画監督の黄瀬和哉さん、『人狼 JIN-ROH』の沖浦啓之監督。聞き手はアニメスタイルの小黒祐一郎が務めます。  

 チケットは4月13日(土)から発売します。チケットの発売方法については新文芸坐のサイトで確認してください。

【新文芸坐×アニメスタイル vol. 174】
デジタルの夢・アナログのロマン『BLOOD』『人狼』

開催日

2024年4月20日(土)16時00分~

会場

新文芸坐

料金

3000円均一

トーク出演

北久保弘之、沖浦啓之、黄瀬和哉、小黒祐一郎

上映タイトル

『BLOOD THE LAST VAMPIRE』(2000/48分/35mm)
『人狼 JIN-ROH』(1999/102分/PG12)

備考

※トークショーの撮影・録音は禁止

●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

第278回 音楽は魔法 〜悪魔くん(2023)〜

 腹巻猫です。2023年11月からNetflixで配信されている新作アニメ『悪魔くん』のサウンドトラックCDが発売されました。サントラ出ないのかな? と思っていたので、これはうれしい! しかも、1989年放映のTVアニメ『悪魔くん』のサウンドトラックCDも同時発売! 1989年版のBGMが商品化されるのは初めてで、長年の夢がかないました。今回は2023年版『悪魔くん』の音楽を取り上げます。


 『悪魔くん』は水木しげるの同名マンガを原作にしたアニメ作品。“悪魔くん”とはこの世に千年王国をもたらすとされる1万人に1人の天才少年のことだ。原作にもさまざまなバージョンがあり、少しずつ設定は異なるが、特異な才能を持った少年“悪魔くん”が主人公である点は共通している。
 1989年に放映されたTVアニメ『悪魔くん』は、オカルトに詳しいゆえに“悪魔くん”と呼ばれる小学5年生・埋れ木真吾が主人公。真吾はファウスト博士から救世主“悪魔くん”と認められ、メフィスト2世と十二使徒とともに邪悪な悪魔と戦う。子ども向けにアレンジされているものの、多彩なキャラクターが活躍する魅力的な作品になっていた。
 2023年版のアニメ『悪魔くん』は1989年版のストレートな続編。物語の中でも30年近い年月が経っているようである。
 主人公は“悪魔くん”と呼ばれる埋れ木一郎。彼はある事情から幼い頃に前作の悪魔くん・埋れ木真吾に引き取られて育てられた。今は「千年王国研究所」に住んで悪魔や魔法の研究をしている。一郎の相棒として登場するのがメフィスト3世。1989年版に登場したメフィスト2世と真吾の妹・エツ子とのあいだに生まれた息子、つまり人間と悪魔の混血である。一郎とメフィスト3世は千年王国研究所に持ち込まれる奇怪な事件を調査し、背後にうごめく悪魔のたくらみを暴いていく。
 本編には埋れ木真吾やメフィスト2世、エツ子、こうもり猫といった旧作キャラクターも登場する。それを旧作と同じ声優が演じているのもうれしいところ。1989年版でシリーズディレクターを務めた佐藤順一が2023年版でも総監督を務めている。だから、旧作とのつながりが自然で、「キャラが変わった」と思わせるような違和感がないのもいい。
 しかし、作品の雰囲気はだいぶ変化している。
 2023年版はNetflixでの配信ということもあってか、大人向け、青年向けのテイストになっている。ホラー描写が多いし、絵柄もぐっとスタイリッシュになった。物語はダークファンタジー+探偵ものの味わいである。
 音楽は1989年版の青木望に代わって井筒昭雄が担当。井筒昭雄はTVドラマ「怪物くん」「猿飛三世」「妖怪シェアハウス」「トクサツガガガ」などの音楽を手がけた作曲家で、アニメ作品には当コラムで取り上げた『ファイ・ブレイン 神のパズル』がある。ユニークな作品にユニークな音楽を書く作家という印象だ。もっとアニメをやってほしいなと思っていたので、新作『悪魔くん』の音楽を担当すると聞いて期待に胸がふくらんだ。

 本作の音楽の特徴は、世界各地の民族楽器の音が取り入れられていること。ケーナ、オカリナ、ショーム、チャランゴ、バラフォン、カリンバ、カズーなどの民族楽器と、ギター、ピアノ、フルート、クラリネット、サックスなどの西洋楽器の音が混ざり合い、悪魔と人間が共存する不思議な世界観を表現する。メロディも一風変わっている。毎回のオープニングに流れるメインテーマからして、東洋風とも西洋風ともつかない、エキゾティック(異国的)な旋律である。
 サウンドトラック・アルバムのブックレットに掲載されたコメントで、井筒昭雄は「1989年版のスタッフの方も関わられるという事で責任感と冒険心を持って挑みました」と語っている。「責任感と冒険心」、いい言葉だ。井筒はさらにこう続ける。
 「日常に潜む悪魔たちの質感や人間の持つ欲や憎しみ、嫉妬、狂気…そんな心情を音に乗せて、西洋だけでなく世界中の悪魔たちも意識しつつ、全編を通して『悪魔くん』のサウンドだと感じられる音作りを心がけました」
 民族楽器の音やエキゾティックな旋律が「世界中の悪魔たち」を意識したサウンドなのだろう。
 本作のサウンドトラック・アルバムは「悪魔くん オリジナル・サウンドトラック〜2023〜」のタイトルで、日本コロムビアから3月20日に発売された。収録曲は以下のとおり。

  1. 悪魔くん -Main Theme-
  2. 凶夢 Red Dreams
  3. 天邪鬼 No Thanks
  4. 魔法陣 Summoning
  5. 鎮魂歌 Sanctus
  6. 相棒 Dance
  7. 偶像 Tea time
  8. 異世界 Link
  9. 外套 Eloim, Essaim
  10. 発生 Gong
  11. 妖 Visitor
  12. 獰猛 Attack
  13. 偏愛 Aberration
  14. 囁き Doll
  15. 契約 Error
  16. 闊歩 Underground
  17. 陰陽 Desire
  18. 耽溺 Phantasmagoria
  19. 拉麺 With
  20. 巨石 Ancient
  21. 厄災 Origin
  22. 捻転 Library
  23. 逢魔時 Purple
  24. 団欒 Kitchen
  25. 烏合衆 Prattle
  26. 怪奇呱々 Bubble Up
  27. 咆哮 Devil
  28. 心 Pancakes
  29. 家賃 Old Theater
  30. 迷宮 Dark Cloud
  31. 猛追 Limit
  32. 商店街 Humming
  33. 羽根 Vicious
  34. AKUMA KUN -召喚 Mix-
  35. 共鳴 Solomon
  36. ふたり(歌:吉河順央)

 構成(選曲・曲タイトル)は井筒昭雄のチームが担当したそうだ。曲タイトルは日本語と英語が併記されているが、対訳になっているわけではない。それぞれに意味があり、表と裏の二重性を表しているようでもある。さまざまな解釈ができる面白い趣向だ。
 1曲目の「悪魔くん -Main Theme-」が本作のメインテーマ。オープニングとエンディングにも使用されている。ゆったり始まるイントロから摩訶不思議なサウンド。アップテンポのリズムになり、即興演奏のようにさまざまな楽器が咆哮する。メインテーマのメロディーを奏でる楽器は……サックスなど何本かの管楽器が一緒に吹いているようだが、よくわからない。そのわからない感じがいかにも『悪魔くん』だ。バッキングにも民族楽器の音が散りばめられている。妖しくダークで不思議だけれど、カッコいい。トラック34の「AKUMA KUN -召喚 Mix-」は同じ曲のミックス違いで、実際にエンディングに使用されているのはこちらのバージョンだ。
 2曲目の「凶夢 Red Dreams」はメインテーマのバリエーション。奇妙な事件の発端や、一郎が事件の謎解きをする場面などに使われた。フルートやオカリナなどの木管(笛)の響きと民族打楽器の共演が幻想的な雰囲気をかもし出す。
 次の「天邪鬼 No Thanks」は、おそらく一郎のテーマだろう。一郎は複雑な生い立ちのために人間らしい感情を知らない(理解できない)という設定。傍から見ると、世間知らずで協調性がない人間に見える。そんな一郎を奇妙でユーモラスなサウンドで描写する曲である。
 劇中によく流れていたのが、怪奇な事件のバックに流れるサスペンス曲。本アルバムにもたくさん収録されている。「妖 Visitor」(トラック11)、「契約 Error」(トラック15)、「陰陽 Desire」(トラック17)、「厄災 Origin」(トラック21)、「捻転 Library」(トラック22)、「逢魔時 Purple」(トラック23)、「怪奇呱々 Bubble Up」(トラック26)など。どれも妖しく不気味で、ちょっと恐かったり、コミカルだったりする。民族楽器がふんだんに使われ、呪文のようにも聞こえるボーカルが重ねられた曲もある。井筒昭雄の「冒険心」が発揮されたユニークなサウンドが楽しめる。2023年『悪魔くん』の雰囲気を決定づけているのが、こういう楽曲である。
 井筒昭雄は「ブラッディ・マンデイ」「ジウ 警視庁特殊犯捜査係」といったクライムサスペンスドラマの音楽をいくつか手がけている。その系統にホラー色を加えたのが、こうした怪奇サスペンス曲ではないかと思う。
 もうひとつの聴きどころは、一郎とメフィスト3世の活躍を描写する曲。ダークでノイジーでエキゾティックなロックである。これをロックと呼んでよいのかわからないが(ジャンル分け不可能なので)、気分的にはロックがぴったりくる。
 「魔法陣 Summoning」(トラック4)は軽快なリズムに謎めいたボーカルがからむ曲。第3話で一郎が悪魔を召喚する場面に流れた。トラック6「相棒 Dance」はメインテーマの旋律をフィーチャーした曲で、バンジョーとギターのリズムが心躍らせる。第9話や第11話の悪魔との対決シーンを盛り上げた。トラック18「耽溺 Phantasmagoria」はタイトルの印象とは異なるアップテンポのアクション曲。第11話でメフィスト2世と3世が真吾を助けに向かう場面などに使われている。トラック27「咆哮 Devil」は一郎とメフィスト3世が悪魔と対決する場面にたびたび流れた忘れられない曲。悪魔の脅威を描写する曲とも思えるが、高速でうねる弦楽器と切迫感を呼ぶリズムが激しい戦いをイメージさせる。トラック31「猛追 Limit」はメインテーマのメロディをくずした追跡曲。第8話でピンチに陥った一郎とメフィスト3世をメフィスト2世が救う場面の使用がカッコよかった。
 一郎たちの日常を描写する曲も作られている。
 一郎とメフィスト3世がラーメンを食べる場面によく流れたのが、ずばり「拉麺 With」(トラック19)という曲。第10話で真吾とメフィスト2世夫婦が食事するシーンに流れた「団欒 Kitchen」(トラック24)、ホットケーキを食べる一郎が思い出される「家賃 Old Theater」(トラック29)、ほのぼのした場面を彩る「商店街 Humming」(トラック32)など、バンジョーやアコースティックギターの親しみやすい音色がほっとひと息つかせてくれる。
 数は少ないが、哀感ただよう心情曲も印象に残る。第2話で流れたトラック5「鎮魂歌 Sanctus」はこのエピソードのために書かれたのでは? と思われる曲。妖しくも哀しい女声ボーカルが、依頼人の女子大生・ヒナの運命に寄り添うように響く。トラック13の「偏愛 Aberration」はピアノと弦、女声ボーカルなどが切ないメロディを奏でる曲。第2話で事件の真相が明らかになる場面(薄めのアレンジ)や第4話で依頼人の映画監督・江井の真意が明かされる場面などに流れて、苦い後味の事件を締めくくった。トラック28の「心 Pancakes」はピアノとバンジョーのイントロから弦のしっとりしたメロディに展開する曲。第4話のエツ子の回想シーンや第10話のメフィスト2世と真吾のかたらいの場面、第11話で一郎が真吾の焼いたホットケーキを食べる場面など、心なごむシーンに使用されている。実はほかにも抒情的な曲がいくつか使われているのだが、アルバムには未収録なのが惜しいところ。
 思わず「来た!」と心の中で叫んでしまったのが、トラック9の「外套 Eloim, Essaim」。1989年版のオープニング主題歌のメロディ(つのごうじ作曲)をアレンジした曲である。第1話のラストに真吾が登場する場面で流れたときは(わずか数秒だけど)身を乗り出した。その後も真吾の活躍シーンや回想シーンなどに使用されている。1989年版と2023年版をつなぐ曲だ。
 トラック35の「共鳴 Solomon」も1989年版からの引用曲。真吾が吹いていた「ソロモンの笛」のメロディ(青木望作曲)である。1989年版を観ていた人なら覚えているに違いない旋律で、これも涙ものだ。最終話(第12話)の重要な場面でこの曲が流れる。
 アルバムの終盤に置かれた「羽根 Vicious」(トラック33)は、第5話で一郎の前に姿を現す「天使」ストロファイアのテーマ。荘厳さと邪悪さをまとった、悪魔くんの最大のライバルの曲である。
 そして、アルバムを締めくくる「ふたり」は最終話のエンディングに使われた挿入歌。佐藤順一作詞、井筒昭雄作曲による、フォークソング風のいい曲だ。この曲、実は第1話の冒頭ですでに流れている。全編を観終わって聴くと、「ふたり」とは誰と誰のことなのか、しみじみと考えてしまう。

 2023年版『悪魔くん』の音楽は1989年版とはまったくテイストが異なる。が、ダークで妖しくてロックな曲調は、水木しげるが描く怪奇マンガの空気に近いのではないか。2023年版『悪魔くん』らしい音楽である。その中に1989年版のメロディが挿入されると、少し温度が変わる。けれど、時代も雰囲気も異なるふたつの作品世界がすんなりとつながってしまうのがすごい。音楽の記憶はあなどれない。月並みな言い方だが、「音楽は魔法」だと思うのだ。

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第221回アニメスタイルイベント
60歳になったアニメ様が色んな話をするイベント

 5月3日(金・祝)に開催するのは、アニメスタイル編集長小黒祐一郎(アニメ様は彼のニックネームです)のトークイベントです。5月1日(水)に誕生日を迎えて60歳になった小黒が、アニメについて色々と話をします。どんな話をするのかについてはイベントまでにある程度はお伝えできるはずです。

 トークの聞き手は、アニメプロデューサーで元アニメ雑誌編集者であった高橋望さんにお願いします。チケットは4月1日(月)18時から発売。購入方法については阿佐ヶ谷ロフトAのサイトをご覧になってください。


 イベントは「メインパート」のみを配信します。配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。

■関連リンク
LOFT(告知)  https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/280601
LivePocket(会場チケット) https://t.livepocket.jp/e/o10hv
ツイキャス(配信チケット)  https://twitcasting.tv/asagayalofta/shopcart/301123

アニメスタイルチャンネル  https://ch.nicovideo.jp/animestyle

第221回アニメスタイルイベント
60歳になったアニメ様が色んな話をするイベント

開催日

2024年5月3日(金・祝)
開場12時30分/開演13時 終演15時~16時頃予定

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

小黒祐一郎、高橋望

チケット

会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,500円、当日 1,800円(税込・飲食代別)
ツイキャス配信チケット/1,300円

■アニメスタイルのトークイベントについて
 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。

第846回 画描きからお話作り

画を描いたり、お話を作ったり!

 現在『沖ツラ』制作中なだけでなく、同時に色々やってます。次の作品では脚本書きをしました。さらに次もシリーズ構成・脚本。そして、小さいモノからでもとオリジナル作品の準備も進めています。脚本書いたり、イメージボードを描いたり。でも正直言ってこれ、「オリジナルがやりたい」からではなく、会社の将来を考えて「オリジナル考えなきゃ!」なのです。
 元々自分は“オリジナルアニメ至上主義”ではありません。何年も前にもこの連載で語ったと思いますが、アニメに於いて

“原作・脚本・監督”で個性的なアニメを作るより、どんな原作をアニメ化しても個性溢れる自分フィルムにしてしまう出﨑統監督の方が優れたアニメ作家だ!

と思っていましたし、現状でも思っています。
 よって、3年掛けてのオリジナル1本より、“3年あったら原作モノ3本監督”をモットーにやってきたのが俺。
 しかし板垣個人単位ではなく、スタジオ(会社)の将来を考えると、これからは頂いた企画のアニメーション制作をしているだけでは駄目。できることから地道に準備を——と。
 ただ、漫画家目指して漫画描く練習をしていた小中高校生の頃は、“お話を考える脳”を頻繁に使っていたのですが、アニメ業界に入ってからは、何作かお話作りから考える演出・監督仕事をやってきた程度。頻繁に使わなかった脳を復活させるのに、画・イメージボードなどを描きながら、周りの人に相談しつつ四苦八苦(汗)。

ま、画を描きながらあれこれ色々考えるのは面白いことなので、楽しませてもらいます!

 まだまだ勉強しなきゃならないことは沢山ありますね、いくつになっても。

アニメ様の『タイトル未定』
435 アニメ様日記 2023年9月24日(日)

2023年9月24日(日)
イベント2本立ての翌日。寝不足で頭がぼんやりしていたけど、昼寝をすると、夜に寝る時間が遅くなりそうだったので頭を使わないでできる作業だけをやった。Apple pencilの代替品を使ってみる。電源の入れ方の説明が解説書になくて、ネット検索で調べる。使えるようになったけれど、使いやすくはない。やっぱり純正品を買い直したほうがよいか。使っているiPad Proが第1世代なので選択肢が少ない。
『名探偵コナン』の萩原千速役は田中敦子さんだった。声と芝居がかなり大物っぽい感じ(大物っぽいのはセリフがゆっくり目なせいもあるか)。大塚明夫さんが演じている横溝重悟警部は千速に片想いしているんだよね。これも『名探偵コナン』お馴染みの声優ネタなんだろうか。二人とも警察所属だし。
就寝前にKindleで山崎ナオコーラさんの「お父さん大好き」を読み進める。先日観た映画「手」の原作も読んだ。映画もよかったけど、小説もよかった。だけど、おじさん的には痛いところも。
サブスクで配信が始まった「DIGITAL TRIP うる星やつら」を聴いてみた。なるほど、こんな感じか。一連の「DIGITAL TRIP」は当時は存在は知っていたけど、ほとんど聴いたことがない。サブスクのお陰で聴くことができた。『マクロス』『ガンダム』も少し聴いた。「JAM TRIP」も試してみよう。

2023年9月25日(月)
朝の散歩で聴いたのが「DIGITAL TRIP」の「Battle of SF Animation」。アニメブーム期のSFアニメの総集編のようなアルバムで楽しかった。
『無職転生II 異世界行ったら本気だす』最終回を観る。これは原作がどうなっているのか気になる。
トークのまとめに着手。作業が楽しい。原恵一監督に電話を入れたら留守。折り返し電話をいただく。20時半に帰宅。

2023年9月26日(火)
ずっとテキスト作業をしていた日。
朝の散歩では1980年の『地球へ…』サントラ(CD音源)と2007年の『地球へ…』サントラ(サブスク)を聴いて、さらにダ・カーポの「宇宙船地球号 『地球へ・・・』によせて」(サブスク)も少し聴いた。「宇宙船地球号 『地球へ・・・』によせて」はサブスクをウロウロしていて見つけたアルバムだ。
WOWOWで録画した映画「BU・SU」を流し観。記憶にある映画と全く違う。何と勘違いしていたんだろうか。これが初見かな。フレーム内の人物のサイズはTVドラマっぽいんだけど、それとは関係なく、とても映画っぽい。映画館で観る機会があったら観直したい。
kindleで「人のセックスを笑うな」を読み始める。予想していた内容とまるで違っていて、こちらもびっくり。

2023年9月27日(水)
早朝にワイフと出かけて「巾着田曼珠沙華まつり」開催中の巾着田曼珠沙華公園に。巾着田に着いたのが午前7時半くらい。この時間でも客は少なくない。公園を一回りして休憩所でお茶。高麗駅まで歩いて、西武秩父線各停で西武秩父駅に。高麗駅と西武秩父駅の間はのんびりしていて、この日で一番旅行っぽい感じだった。西武秩父駅の周りをあてもなく歩いた後、駅で缶ビールと弁当、事務所スタッフへの土産を買う。行きも帰りも特急ラビューを使った。昼の12時40分くらいに池袋駅に到着。13時からの定例Zoom打ち合わせに間に合った。午後は主に原稿作業。
TOKYO MXの『マジンガーZ』は49話「発狂ロボット大奮戦」。サブタイトルが凄い。まあ、それはおいておくとして。かなりヤンチャな画があった。作監が森利夫さん。原画は森利夫、兼森義則さん。原画がヤンチャなのか、動画が乱暴なのかわからないカットもあるけれど、とにかくヤンチャ。原画マンのカラーだとしたら、兼森さんの仕事かなあ。クレジットされていない原画マンが描いている可能性もあり。
『すずめの戸締まり』絵コンテ本に目を通す。分厚い本だ。1000ページ近い。

2023年9月28日(木)
新文芸坐で「せかいのおきく」(2023/90分)を鑑賞。ずっと「せかいのきおく(世界の記憶)」だと思っていたのだけど、チケットを買う直前に「きおく」ではなく「おきく」だと知った。「おきく」はヒロインの名前である。主な登場人物は中次(寛一郎)、その兄貴分の矢亮(池松壮亮)。そして、ヒロインの松村きく(黒木華)。中次と矢亮は下肥買いの仕事をしており、おきくは武家の娘(厳密には元武家)。おきくは映画序盤から中次のことが好きである。下肥買い仕事が丁寧に描写されており、かなりインパクトがある。だが、それが物語のメインになるのは中盤くらいまで。最終的には3人の青春ものとして物語がまとまる。90分の映画にしては盛り沢山で、それも悪くはないのだけれど、自分としてはひとつのことをじっくり描いた映画として観たかった。画面はスタンダードサイズでモノクロ。と思っていたら、各章のラストカットに色が付く(映画がいくつかの章に分かれている)。最初に色がついた時には、色が付いた意味もあって、息を飲んだ。構図がいいカットが沢山あった。タイトルの「せかいのおきく」について劇中で説明しそうで説明しないところが面白かった。
『すずめの戸締まり』4K Ultra HD Blu-rayを観た。 かなり見応えがあった。

2023年9月29日(金)
新文芸坐で「こちらあみ子」(2022/104分)を鑑賞。予告編や公式サイトで書かれた内容とは随分と違っていた。気持ちの準備ができていなかったのでちょっとダメージをくらった。
『すずめの戸締まり』Blu-rayコレクターズ・エディションの映像特典を観た。続けて、ビジュアルコメンタリーを全部観て、ビデオコンテを観はじめる。

2023年9月30日(土)
「『ルパン三世 PART2』上映+トークセッション」を観覧。出演は友永和秀さん、酒向大輔さん。上映エピソードは「カリブ海の大冒険」「マダムと泥棒四重奏」「マイアミ銀行襲撃記念日」「神様のくれた札束」「さらば愛しきルパンよ」の5本。友永さんが参加したエピソードだったら「ベネチア超特急」をやるかと思ったけど、そちらの上映はなかった。2021年のイベントでも感じたけれど、TVシリーズの『ルパン三世』をスクリーンで観るのは楽しい。それから、こんなマニアックな企画が商業イベントとして成立しているのが凄い。

アニメ様の『タイトル未定』
434 アニメ様日記 2023年9月17日(日)

2023年9月17日(日)
早朝の新文芸坐に行って、オールナイト「【新文芸坐×アニメスタイル vol. 165】今 敏の奇想と混沌 ーー 妄想代理人」の終幕を見届ける。その後はデスクワークと昼寝。仕事で必要があってDVDソフトで『鋼鉄天使くるみ零』を観る。吉松さん、ワイフと大塚の幸龍軒で昼呑み。疲れが溜まっていたためか、ご飯ものまで到達できなかった。酒量も少なめ。
以下は小説「推し、燃ゆ」の感想。読了したのは9月16日(土)。推し生活に関する描写の説得力が凄い。そして、小説に匹敵するくらい後書きがインパクトがあった。作者の若さと自意識の強さが眩しい。

2023年9月18日(月)
この日の仕事は連休の間にできなかった作業、火曜以降の作業の準備等。仕事の合間に新文芸坐で「氷の微笑」4Kレストア版(1992・米/128分/R18+)を鑑賞。タイトルは知っていたけれど、これが初見。いやあ、面白かった。最近観た映画で一番面白かった。話もよかったし、ヒロインもいい。そして、音響がかなりよかった。こんないいものを1100円(アプリ会員料金)で観ちゃっていいのかと思うくらいだった。
WOWOWで録画した「手」を観た。こぢんまりとした感じで終わってしまったけれど、好きなタイプの映画だった。平熱感覚で誇張の少ないエロスも新鮮だった。日活ロマンポルノ50周年記念プロジェクトの1本として作られた映画だそうだ。

2023年9月19日(火)
この日は他の映画を観るつもりだったのだけど、大きなスクリーンでやっているうちに『映画プリキュアオールスターズF』を観ておいたほうがいいと気づいて、グランドシネマサンシャインで『オールスターズF』を観る。以下、思いっきりネタバレあり。映画前半は異世界でバラバラになったプリキュア達が集結するまでの珍道中。中盤ですでに全てのプリキュアが戦いに敗れており、今までの世界は消去されていることが判明。舞台になっている異世界は今までの世界をベースにして再創造されたものであり、この映画に登場するプリキュア達は「実験」のために再生されたものだった。ただし、劇中では「全てのプリキュアが死んだ」とか「プリキュアの家族を含む全ての人間が消滅した」とはっきり言うことは避けてはいる(再生した世界にプリキュアの家族や友人がいないことは言及されている)。物語の大筋は目が眩むほどにハード。敵は世界を消滅させ、再創造するほどの力を持っている。「サイボーグ009」で喩えると、今までプリキュアが戦ってきた相手は「黒い幽霊団」で、今度の敵は「神」。さあ、プリキュアはどう戦うのか。プリキュア達が自分達はコピーであって、オリジナルではないのだということに悩まないのが現代風。そのあたりは『Sonny Boy』『グリッドマン ユニバース』に通じるものがあると思った。映画の結末についてはもう少しロジックが欲しかった。演出には熱があるし、プリキュア愛も感じられた。作画に関しては担当アニメーターの画風が、いい意味でモロ出しになっているところがあり、それも好印象。

2023年9月20日(水)
ワイフと新文芸坐で「TAR/ター」を鑑賞。この映画はすでに観ていたのだけれど、新文芸坐のポストを読んで観る気になった。確かに音が凄かった。演奏シーンもいいのだけれど、通常シーンの音もよかった。二度目の鑑賞でも充分に楽しめた。初見時の別劇場での鑑賞では、家の中で物音がする箇所で20~30メートル後ろで音がした感じの不思議な現象があったのだけど、今回はそれはなかった。
TOKYO MXの『マジンガーZ』48話「ボスロボット戦闘開始!!」を録画で視聴。ボスロボット(ボスロボット)の誕生と初出動。ボスがカメラ目線で「全国の良い子の諸君、頑張るぜ。今度一緒に乗っけてやるからよ」と視聴者の子どもに話しかけるし、ボスが『マジンガーZ』の主題歌の替え歌を歌うし。しかも、替え歌はちゃんとカラオケとコーラスがついている。スタッフの力の入れ方が凄い。ちなみに演出は芹川有吾さん。ボスが乗っているロボットの名前はサブタイトルだとボスロボットで、劇中のセリフではボスボロット。劇中で出るテロップでもボスボロット。ボスロボットが正式名称で、ニックネームがボスボロットだと認識しているんだけど、ひょっとしてボスボロットは大竹宏さんのアドリブでそれを取り入れたのか。あるいは芹川さんが絵コンテ段階でボロットにしたのか。
横槍メンゴさんのXのポストに「花澤香菜さんになりたい系女子」という言葉が出てきた。記憶に留めておきたいフレーズだ。花澤香菜さんに少しでも近づくためにする活動を「花活」と呼ぶのだそうだ。

2023年9月21日(木)
『アリスとテレスのまぼろし工場』の小説を読了。映画を観て「これはどうなっているんだろう?」と思った疑問のほとんどが解消された。「あのセリフにはこんな意味があったのか」と思ったところもあった。タイトルの「アリスとテレス」の意味も分かった。夜は平松禎史さん達と呑む。平松さんと呑んだのは2020年7月以来かな。
『カードファイト!! ヴァンガード will+Dress Season3』の10話「重なり合う音色(ユニゾン)」が熱かった(脚本/大西雄仁、絵コンテ/洋平、鈴木龍太郎、演出/小松和真、総作画監督/永作友克、PARK Gayoung)。女の子二人がバトルをする話で迸るものがあった。テンションが高く、トリップ感があった。

2023年9月22日(金)
MacBook AirでZoomとLINEが使えるようにした。今までMac miniにカメラとヘッドセットの組み合わせてZoomをやっていたが、MacBook Air単体のほうが相手がこちらの音声が聞きやすいらしい。池袋ロフトの『好きな子がめがねを忘れた』ロフトPOPUPに行って、展示を見て原画集を買った。土曜のトークの予習で『機動警察パトレイバー(アーリーデイズ)』1話から6話を観た。
Kindleで「悠木碧のつくりかた」を読了。文章から読み取れる人柄や仕事に対する取り組み方がよかった。「悠木碧式ルーティン」の話、ロックオン・ストラトスの話、マイティ・ソーの話が印象的。

2023年9月23日(土)
この日は、昼に新文芸坐で「映画館で出逢うアニメの傑作 劇場版『機動警察パトレイバー』1&2」を、夜に阿佐ヶ谷ロフトAで「『磯光雄 ANIMATION WORKS preproduction』刊行記念トーク」を開催した。
朝はワイフが『らんま1/2』のグッズを探すのに付き合って、池袋のファミマを巡った。グッズの発売日が前日だったので、人気商品は売り切れていた。その後は『パトレイバー』のトークの準備。地下の床屋に行って頭を刈ってもらう。『パトレイバー』のトークのゲストは石川光久さんと黄瀬和哉さん。お客さんは劇場版『機動警察パトレイバー』1&2を初めて観る人が3割くらい。この日は『パトレイバー』の前に劇場版『伝説巨神イデオン』の上映があったのだが、『イデオン』から続けて観ている人が4割くらい。トークはインタビューっぽい感じになってしまったけど、盛り沢山なものになった。『機動警察パトレイバー[劇場版]』の上映を10分くらい観てからマンションに戻って少し横になる。横になったまま磯さんのトークの予習をする。その後、阿佐ヶ谷に。世間話などを経て、予定通りに19時からトーク。当初の予定から30分オーバーして22時半にトークが終了。長く続いた「磯光雄 ANIMATION WORKS preproduction」の作業がこのイベントで一段落したような気がした。

第845回 定例ですから!

毎週各作品ごとの定例会議をやっています!

 現在制作中の『沖ツラ』だけでなく、次の作品も、そしてさらに次の作品も。俺からの提案でした。
 ウチ(ミルパンセ)は『いせれべ』以降、各話制作進行制を止めました。故に「スケジュール管理は皆でやるべき!」と、演出・作画監督含めメインスタッフは出席必須。毎週1~2回、朝11時から。全員社員採用、毎朝皆タイムカードを押す。だからこそ可能な会議と言えます。
 じゃあ何を話し合うのかと言うと、まず、

現状のアベレージから割り出されるスケジュールの確認!

 制作期間中、現状は常に動き続けています。コンテ・演出・作画の遅れが美術・仕上げ・撮影まで“玉突き”で遅れ遅れ、延いては納品を溢す羽目に。TVシリーズあるあるです。以前までは制作進行とデスク・制作Pが各話数毎に管理していましたが、あらゆるセクションがほぼデジタル作業メインになったなら、“モノの運び屋”は不要と考え、進行管理は各セクション1日分の生産量からメインスタッフ同士で一斉に管理する時間を持ったほうが効率的ですから。次に、

設定・演出指示・その他決まり事の確認!

をする。例えば話数を跨ぐシチュエーションなどで「こっち(の話数)は“夕陽”光源」にしてるから、そちら(次話数)も合わせて~」とか、直接伝達できる場になります。従来どおりの“制作進行を介する又聞き確認”より、演出陣が決めたことを直接、作画・仕上げ・撮影陣に伝達したほうが早いし、正確ですから。そのことからも、ウチはフリーの演出陣をローテーションに入れる場合、「毎日定時の労働」と「週2回の朝定例に出席」が必須になります。が、今はむしろそれらを拒むフリーの演出さん・アニメーターさんに頼らなくて済むシステムを組むことのほうに従事しています。あと、

臨機応変なスタッフ配置の調整!

も定例で話し合います。何気にこれが一番大事かも……。
 いや、何を勘違いしたのか分からないですが、以前まだ各話で制作進行を置いていた時、「自分担当の話数以外は知らん!」とばかりに勝手に社内作画スタッフを束ねて自分チームを作って、ピンチ話数にスタッフを回さないとかいう制作進行君がいて、非常に困ったんです。当然の話ですが、作画の難易度は話数によってバラつきが出ます。そのバラつき故に難航しているところにリソースを割くのは当たり前でしょう? なのに進行君、仲良し自分チームだけ「俺のモノ」と抱えて、「○○話に手の空いた作画スタッフを回して」との要請に対し「いや、俺のスタッフで手の空いてる人はいません」と、自分話数さえ良ければ作品全体のクオリティーは我関せず……。そんな進行ならハッキリ言っていない方が良いと思い、制作進行を使わない体制を考えよう! となっていった訳です。あ、それまでいた制作進行らは、タイムカードを置き、働き方改革に則った朝から8時間勤務を実践し始めた時点で、窮屈がって各々自ら去って行きました。所詮“夕方出勤~朝までダラダラ勤務でOKでしょ”と舐めてアニメ業界に入ってきた人たちは、そもそも規則・管理が苦手なんですよね。そして、そのタイミングで制作進行の募集も止めるようにしたのです。
 すみません、また話逸れました(汗)。つまり、そういった作品全体をスタッフ皆で管理できるように始めたのが“定例会議”なのです。
 で、偶に遅刻する人はいますが、我が社では今のところ、巧くいっているやり方。これからも続けて行こうと思います。

【新文芸坐×アニメスタイル vol. 173】
映画監督 原恵一『河童のクゥ」『戦国大合戦』

 原恵一監督が手がけた劇場アニメーションを、原監督のトーク付きで上映するプログラムの第三弾を2024年3月30日(土)に開催します。ブログラムのタイトルは「【新文芸坐×アニメスタイル vol. 173】映画監督 原恵一『河童のクゥ」『戦国大合戦』」。上映作品は『河童のクゥと夏休み』『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ! 戦国大合戦』の2本です。

 『河童のクゥと夏休み』は原監督が映像を希望し、長い年月をかけて実現させた渾身の作品。『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ! 戦国大合戦』は劇場版『クレヨンしんちゃん』の第10作で、本格的な時代劇の醍醐味としっかりと構築されたドラマが魅力です。

 プログラム「映画監督 原恵一」は今年はこれが最後となる予定。チケットは3月23日(土)から発売します。チケットの発売方法については新文芸坐のサイトで確認してください。

【新文芸坐×アニメスタイル vol. 173】
映画監督 原恵一『河童のクゥ」『戦国大合戦』

開催日

2024年3月30日(土)16時50分~21時05分

会場

新文芸坐

料金

一般 2800円、各種割引 2400円

トーク出演

原恵一(監督)、小黒祐一郎(聞き手)

上映タイトル

『河童のクゥと夏休み(2007/138分/35mm)』
『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ! 戦国大合戦』(2002/95分/35mm)

備考

※トークショーの撮影・録音は禁止

●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

第277回 楽器が歌うミュージカル 〜映画ドラえもん のび太の地球交響楽〜

 腹巻猫です。3月9日に放映された「題名のない音楽会」(テレビ朝日系)の特集は「みんなで奏でる!ドラえもん交響楽の音楽会」。劇場版ドラえもんシリーズの最新作『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』とのコラボレーション企画で、アニメ『ドラえもん』関連の楽曲が演奏されました。TVアニメ版から菊池俊輔作曲の主題歌「ドラえもんのうた」と星野源作詞・作曲による主題歌「ドラえもん」の2曲が沢田完の編曲・指揮で演奏され、最新作の楽曲も服部隆之の指揮で演奏されるという、サントラファンにとってもたまらない番組でした。今回はこの作品の音楽を取り上げます。


 『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』は「藤子・F・不二雄生誕90周年記念作品」として2024年3月に公開された劇場版ドラえもんシリーズ第43作。「地球交響楽」は「ちきゅうシンフォニー」と読む。
 ふだんは『ドラえもん』をあまり観ていない筆者だが、今回は音楽がテーマ、しかも音楽担当は服部隆之ということで、これは観なければと劇場に駆けつけた。
 河原でリコーダーの練習をしていたのび太たちは、美しい歌声を持つふしぎな少女ミッカと出会う。その夜、のび太たちは宇宙空間に浮かぶ「ファーレの殿堂」へと招待された。のび太たちを出迎えたミッカは、音楽の力でファーレの殿堂を目ざめさせてほしいと言うのだ。楽器を手にして音楽を奏で、ファーレの殿堂を少しずつ目ざめさせていくのび太たち。その頃、かつてミッカの故郷が滅びる原因となった不気味な宇宙生命体ノイズが地球に接近していた。
 タイトル通り、音楽にあふれた作品である。
 のび太たちはそれぞれに楽器を手にして演奏を始める。のび太はリコーダー、ジャイアンはチューバ、スネ夫がバイオリン、しずかがボンゴ(とパーカッション全般)。最初はたどたどしかった演奏がしだいにうまくなり、息のあったセッションに発展する。楽器を手にするわくわく感や仲間といっしょに演奏する楽しさが伝わる描写である。
 ファーレの殿堂には地球の音楽家を思わせるロボットがいて、作曲や演奏を行っている。マエストロヴェントー(ベートーベン)、ワークナー(ワーグナー)、モーツェル(モーツァルト)、バッチ(バッハ)、タキレン(滝廉太郎)たちだ。彼らが奏でる音楽はモデルになった作曲家の作品によく似ている。また、のび太たちが楽器を奏でるとファーレの殿堂で眠っていた施設やロボットが反応し、本来の姿を取り戻す。こうした設定は、アニメ『クラシカロイド』やNHK Eテレで放映されている音楽教育番組「ムジカ・ピッコリーノ」を思わせて面白い。
 クライマックスはのび太たちとミッカ、ファーレの殿堂の住人たちが集まっての大合奏になる。その場面に流れる音楽は本作のタイトルと同じ「地球交響楽」と名づけられている。軽快なポップスから大編成のオーケストラ音楽まで書ける服部隆之の持ち味が生かされた作品である。

 ここで劇場版ドラえもんシリーズの音楽をふりかえってみよう。
 1980年公開の第1作『映画ドラえもん のび太の恐竜』から1997年公開の第18作『のび太のねじ巻き都市』まではTVシリーズの音楽を担当していた菊池俊輔が手がけた。
 1996年に藤子・F・不二雄が亡くなり、没後に制作が開始された第19作『のび太の南海大冒険』(1998)の音楽は大江千里が担当。劇場版ドラえもんでは初めて単独のサウンドトラック・アルバムがリリースされた(バンダイ・ミュージック発売)。次作『のび太の宇宙漂流記』(1999)は大江千里と堀井勝美の共同となり、第21作『のび太の太陽王伝説』(2000)から第25作『のび太のワンニャン時空伝』(2004)までを堀井勝美が単独で担当している。
 2005年にTVアニメ版『ドラえもん』のキャストが総入れ替えになる大きなリニューアルがあった。TVアニメの音楽担当も菊池俊輔から沢田完に交代。劇場版も第26作『のび太の恐竜2006』(2006)から第37作『のび太の南極カチコチ大冒険』(2017)まで沢田完が担当している。この間、単独のサウンドトラック・アルバムは発売されず、「ドラえもん サウンドトラックヒストリー」のタイトルで劇場版BGMをオムニバス形式で収録した商品がリリースされた(日本コロムビア発売)。
 そして、2018年公開の第38作『のび太の宝島』から音楽を担当しているのが服部隆之である。2020年に行われた今井一暁監督と服部隆之へのインタビューによれば、今井監督が初めて長編を監督するにあたり、好きな作曲家として服部隆之の名を挙げたことから、服部の参加が実現したのだという。服部はこのとき、「子どもとか大人とかは関係なく、僕はいい音楽をきっちりと作ることに専念することにしました。『ドラえもん』でも子ども目線などは意識せず、僕が反応したままの音楽を忖度せずに書いています」と語っている。
 特筆すべきは、この『のび太の宝島』で、『のび太の南海大冒険』以来20年ぶりに単独サウンドトラック・アルバムが発売されたこと。以降の作品もすべて単独サウンドトラック・アルバムが発売されている。それまで発売がなかったのが不思議なくらいなので、これはうれしい変化だった。

 『のび太の地球交響楽』のパンフレットに掲載されたコメントで、監督の今井一暁は3年以上かけて服部隆之とやり取りを重ね、音楽と密接につながったストーリーと演奏場面を作り上げていったと語っている。
 同じくパンフレットに掲載された服部隆之の言葉によれば、本作では映像よりも音楽を先行させる部分が多く、音楽と絵がうまく重なるよう監督と何度もキャッチボールをしながら作曲を進めたという。
 本作は楽器を演奏するシーンが多い。演奏する音楽は、練習曲もあれば即興的な曲もあり、クラシック音楽のアレンジもある。ソロ演奏もあればバンドスタイルの演奏もあり、大編成のオーケストラ音楽もある。音楽を作るのも映像を作るのもなかなか大変である。しかし、音楽好きにとっては見どころ、聴きどころの多い作品だ。
 本作のサウンドトラック・アルバムは「映画ドラえもん のび太の地球交響楽 オリジナル・サウンドトラック」のタイトルで2024年2月28日にエイベックス・ミュージック・クリエイティブから発売された。
 収録曲は下記商品ページを参照。

https://avex.jp/classics/catalogue/detail.php?cd=HATTA&id=1020173

 1曲目の「プロローグ〜黎明」は謎の来訪者との出会いを描写するミステリアスな音楽。続いて流れるタイトルバックの曲「オープニング〜音楽の旅路」(トラック2)が面白い。古代から現代までの音楽の変遷をさまざまなスタイルの音楽で表現しているのだ。メソポタミア(?)、エジプト、アジア、ギリシャ、近代ヨーロッパ、と音楽の歴史の旅が描かれる。本作のテーマに沿った凝ったタイトル曲である。
 本アルバムの収録曲は全55トラック。劇場版ドラえもんシリーズのサウンドトラック・アルバムの中でも際立って多い。その理由は、劇伴だけでなく、劇中で登場人物が奏でたり聴いたりする音楽、いわゆる現実音楽(英語ではソース・ミュージックと呼ぶ)も収録されているからだ。
 トラック12「ミッカの歌」はゲストキャラクターのミッカがソロで歌う曲。歌詞のないボーカリーズである。歌うのは、「題名のない音楽会」にも出演し「天使の歌声」と紹介されたミッカ役の平野莉亜菜。ミッカが歌うメロディが本作のメインテーマとなっている。
 次の「おもちゃdeセッション!」はミッカの歌とのび太たちのリコーダーがセッションする曲。ばらばらだった音がしだいにまとまり、おもちゃたちの演奏が加わり、にぎやかな合奏に発展していく。音楽を演奏する楽しさが描かれた序盤の名シーンである。ちなみにリコーダーの演奏を担当しているのは栗コーダーカルテットだ。
 トラック19「ミッカの歌〜スネ夫のヴァイオリン伴奏」はタイトルどおりの現実音楽。演奏時間28秒と短い曲だ。
 トラック21「雨の森の音楽会〜「ド!」」は、のび太たちがファーレの殿堂の森で、ロボットのタキレンのために奏でる曲。気持ちの沈んでいるタキレンは楽しい曲を聴いても気分が晴れない。のび太たちは寂しげな「雨の森の音楽会〜「シ!?」」(トラック22)を演奏する。曲の終盤には滝廉太郎風のメロディが現れる。悲しいときは寂しい曲を聴いたほうが癒されるという音楽の不思議さが描かれた印象的なシーンだ。
 ほかにも現実音楽として「鍵盤の街のサンバ」(トラック25)、「ジャイスネふんじゃった」(トラック27)、「ジャイアンのチューバソロ」「スネ夫のヴァイオリンソロ」「ジャイスネでこぼこアンサンブル」(トラック29〜31)、「ドラえもんを救え〜ケンカする音楽」「ドラえもんを救え〜4人のハーモニー」(トラック42〜43)など多彩な曲が登場する。さらに、テレビから流れる「愛の墜落メインテーマ」(トラック4)、街で流れる「これが私のピュアハート」(トラック7)、「歌姫ミーナ来日公演決定」「ヒップホップ勝負」(トラック34〜35)などがあるし、ファーレの殿堂のロボットたちが奏でるベートーベン、モーツァルト、バッハの作品をアレンジした曲もある(トラック45〜48)。
 本アルバムの収録曲のほぼ半数が現実音楽である。いわゆる劇伴音楽も作られているが、現実音楽のほうに重きが置かれている印象がある。のび太やロボットたちが演奏する音楽は、現実音楽であると同時に、キャラクターの心情を表現し、ドラマを推進する劇伴の役割も果たしている。
 その効果がもっとも発揮されたのがクライマックスに流れる楽曲群だ。「祝祭のファーレ」「チューニング〜いざ運命の演奏会」(トラック49〜50)を経て、トラック51から続く「地球交響楽〜1楽章」「地球交響楽〜2楽章」「地球交響楽〜3楽章」の3曲で、本編もアルバムも最大の盛り上がりを迎える。のび太たちの演奏とミッカの歌声、ファーレの殿堂のロボットたちの演奏が一体となった音楽が奏でられる。
 1楽章はクラシック的なオーケストラの演奏にミッカのボーカルとのび太たちの演奏が参加する曲。2楽章はピアノやパーカッションのリズムを背景に弦楽器、管楽器、ミッカのボーカル、のび太のリコーダーがかけ合う躍動的な曲。3楽章は掃除機の音や包丁がまな板を叩く現実音から始まり、パーカッション、ハンドクラップ、管弦楽が加わってアンサンブルへと発展する実験的な、しかし楽しさにあふれた曲。「交響楽」というタイトルながら、古典的なクラシック音楽のスタイルにこだわらない、遊び心たっぷりの音楽になっているのがすばらしい。

 個人的な感想を言えば、作品としては少し不満が残った。ファーレの殿堂で流れる音楽が近代西洋音楽に偏りすぎではないか(民族音楽や古楽などがあってもよかった)と思うし、ミッカと妹のドラマももう少しふくらませてほしかった。
 しかし、音楽をテーマにしたアニメが、バンドもの、オーケストラものなど、いろいろある中で、本作は子どもたちが楽器を手にする楽しさを感じられる作品になっているのがとてもいい。楽器演奏を中心にした、一種のミュージカルとして楽しみたい。
 本作のプロモーションの一環として、子どもたちが参加する「ドラドラ♪シンフォニー楽団」が結成され、イベントなどで演奏が披露されている。冒頭に紹介した「題名のない音楽会」の中でもオーケストラと一緒に演奏する姿が見られた。劇場で作品を観ながら楽器を演奏できる参加型上映が実現すれば楽しそうだ。観たり聴いたりするだけでなく、参加して楽しめる。そんな可能性を感じる作品である。

映画ドラえもん のび太の地球交響楽 オリジナル・サウンドトラック
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