第797回 今さらな話

「紙で充分原画が描けるのに、デジタル作画を推奨するのは制作側の怠慢である」的なことをSNSで仰ってたアニメーターさんがいたんですけど、板垣さんはどう思いますか?

と、ウチの若手に訊かれました。それに対し俺は「違う」と返しました。

 いつものことながらここからはあくまで私見です。ネットの普及で、単純な話「物理的にモノを運ぶ仕事を厳選」することができるようになり、

アナログのカット袋に原画・動画(と昔はセルも)を詰めてあちこち回す「制作進行」本来の仕事を、デジタルによるデータの送信で手軽にするために、アニメーターにデジタル化を押し付けている?

とでも仰りたいような意見です、前述のSNSの方のは。今現在の状況に当てはめると、やや的外れかと。
 もちろん、20年前だったらそういう側面もありました。2000年初頭に聞いた話では、某超大手アニメ制作会社のデジタル化説明会的なイベントで語られた内容で「デジタル作画の本当の目的は、紙・鉛筆・消しゴムをなくすことではなく、作業者(アニメーター)とPCで繋がることで作業の進行具合と勤務時間を管理して、制作進行を要らなくすること」と発表されていたのを憶えていますから。
 ところが昨今のデジタル作画化は、制作進行をなくす目的がまだありつつも、むしろ、

高解像度(フルHD)に対応した映像作りのため!

に寄っている気がします。
 まだ紙で作業されている方々、作画用紙で原画・作監された作業分を“HDに耐え得る綺麗な線での動画・仕上げ”まで持っていこうとする制作の苦労ってご存知でしょうか? いくら作監様が丁寧に入れたつもりの修正でも、紙に描いた線の曖昧さ(昔は寧ろ周りが “達筆”と崇めた画)は、制作さんが海外撒きの手配する際、「もっと、清書してからでないと受けられない」と撥ねられているという事実。さらに自身の知らないところで、そのご自慢の修正がさらに清書(第二原画)を通されている事実もご承知おきください。動画も同様で、いくら緻密に中割りしても人間の紙と鉛筆による手作業には限界があります。たとえ作監修正時に気の利いた中割り参考を入れても、ブヨブヨに溶けた動画・仕上げが上がってきて、結局はその作監様のあずかり知らないところで、“二値化(デジタル仕上げ)”のじか直しが行われているというのが現状です(「だから昭和の頃の様にセルで塗れば~」の話はこの際、無しね!)。
 それが原画・作監~動画へと全てデジタル作画(タブレット&ペン)でやるとどう変わるか? まず、細かい所は拡大作画ができます、原画も作監も。動画経験者なら誰でもその苦労は知っているであろう、“長距離の直線・曲線の中割り”も直線・曲線ツールの使用によりぐにゃぐにゃにならずに綺麗で継ぎ目のない長距離線が描けます。そして、“作監修正を動画マンが拾えるかどうか?”も作監修正の線がちゃんと清書状態(一本のデジタル線)で描かれていれば、仕上げデータに直接貼って使うことだって可能な訳(社内で仕上げをやるパートに限るかもしれませんが)。正直な話いくら人手不足でも「作監手伝ってあげたいけど“紙”です」と言われたら、よっっっぽどのことでもない限り、丁重にお断りしているのもまた事実です。もしくは「デジタル作画にチャレンジする気はありませんか?」と、制作ではない俺でもデジタル作画の推奨をしてしまっています!

 これは、何人かの制作さんから異口同音に聞いた言葉ですが、

アニメーターや演出と言ったクリエイターさんらは原画に作監修正がのったところで終わりだと思っていらっしゃるみたいですが、我々制作はそこからが“始まり”なんです!

 この言葉を聞いてその苦労も想像せず「自分は紙で描きたいから」ってだけで、周りに苦労を強いるのってどうなんでしょうね?

 てとこで、放映が近づいているので、仕事に戻ります!

アニメ様の『タイトル未定』
387 アニメ様日記 2022年10月23日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2022年10月23日(日)
昼はワイフと雑司ヶ谷に。「出没!アド街ック天国」で取り上げられていた都電テーブルでラーメンを食べる。「アド街」で紹介されたように、子ども達が子どもだけで店に来ていた。その後、雑司ヶ谷を歩く。雑司が谷公園では子ども達が工作などをする「ぞうしがやプレーパーク」、鬼子母神では写生大会、大鳥神社では「雑司が谷かぼちゃと鎮守のスイーツ祭」と日曜昼の雑司ヶ谷はなかなかカルチャーだった。色々な催しがあるのに静かなのもよかった。
配信で色々観る。Netflixの『ONI~神々山のおなり』も観た。
就寝前にKindleで「POPEYE」2022年11月号の「僕にとっての、漫画のスタンダード。」に目を通す。実際にマンガのスタンダードがとりあげられているかどうかは別にして大変な労作。センスもいい。編集者の意地のようなものを感じた。
仕事もそこそこ進んだし、日曜らしい散歩もできたし、悪くない1日だった。

2022年10月24日(月)
10年に一度くらいの緊張する電話をかけた。相手は大ベテランのアニメ監督。

20年くらい前のテキストをコピーしたディスクが出てきたので、中を確認。探しているテキストは見つからず。当時の日記がでてきたので読みふける。日記に書かれている自分が若い。デートに行ったり、事務所スタッフの女の子(当時20代半ば)が深夜帰る時に下ネタ話をぶつけてきたりしていて、それなりに楽しそう。「自分以外の事務所スタッフ全員が4時間遅刻」なんて日もあった。ディスクの中に平松禎史さんの画のスキャンが大量に出てきたので慌てて保存する。
朝の散歩時に『BLEACH』のサントラ3、4を聴く。1、2よりもいいかも。

2022年10月25日(火)
『劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 冥き夕闇のスケルツォ』Dolby Atmosを岩浪音響監督監修「ATOMSフルダイ”ブクロ”サウンド」で鑑賞。音もよかったし、僕的には前作よりも満足度が高かった。それとは別の話で、最近のアニメにしては珍しく、作画が統一されていないというか、原画マンの(あるいは個々の作画監督の)個性が残っているところが散見された。観ていて「あれ、あのアニメーターさんが参加しているのかな」と思うところがあって、エンディングにその人の名前はあったけれど、僕が思ったところがその人の原画かどうかは分からない。
朝の散歩時に『劇場版BLEACH MEMORIES OF NOBODY』『劇場版BLEACH The DiamondDust Rebellion もう一つの氷輪丸』のサントラを聴いた。

2022年10月26日(水)
TOKYO MXの『新世紀エヴァンゲリオン』『マジンガーZ』を録画で視聴。『エヴァ』の第四話は「ヤマアラシのジレンマ」の話で、『マジンガーZ』の4話は甲児とボスが対立して和解する話。ちょっとシンクロしていた。
進行中の書籍について、印刷会社から「本が重くなりすぎるので、紙を軽いものにしたほうがいいのではないか」という提案をいただく(後日追記。この書籍は2023年3月現在でまだ完成していない)。
「設定資料FILE」の構成。全体を4ページにするか6ページにするかを決めないで進めた(可能なら最後の2ページを美術設定で埋めるページだった)。全6ページにすると、4ページ目がスカスカになるのが分かったので、全体で4ページでおさめる。
「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア 公式記録全集 ―BEYOND THE TIME―」を開封。ざっと目を通す。見たことのない資料が山盛り。『ガンダム』関連の「NEWTYPE 100% COLLECTION」でページをめくってワクワクしていたのを思い出した。何よりも、ずっと前から欲しかった『逆襲のシャア』の絵コンテを入手できて嬉しい。装丁や資料の載せ方について、もっとこうしてほしかったと思うところもあるれど、それは好みの問題。実はかなり前にアニメスタイルで『逆襲のシャア』の絵コンテ本の企画を出したことがあったのだけど、その時は上手く企画が着地しなかった。
朝の散歩時に『劇場版BLEACH Fade to Black 君の名を呼ぶ』と『劇場版BLEACH 地獄篇』のサントラを聴く。『地獄篇』がいい。映画を観た時も曲の印象がよかったのだけれど、曲だけ聴くとさらによい。かなり『エヴァ』っぽい。いや、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』っぽい。むしろ、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』の曲が『BLEACH』っぽいのか。

2022年10月27日(木)
ワイフとグランドシネマサンシャインで「RRR」【IMAXレーザーGT字幕版】を鑑賞。評判通りに面白いしパワフル。ほぼ3時間の映画だけど、あっという間に終わった印象だ。見どころはおじさん二人のイチャイチャとダンス。いや、アクションもいいんだけど、イチャイチャとダンスが凄い。95%は肯定できる作品だった。

2022年10月28日(金)
『アキバ冥土戦争』って何かに似ていると思ったら、あれだ。『てなもんやボイジャーズ』だ。いや、バランス感覚が全然違うんだけど。
練馬 よつぼしで吉松さんと飲んで食べる。吉松さんが貯まったポイントで大量の牡蠣をおごってくださる。吉松さんに「旧『うる星やつら』のベストエピソードはどれか?」と聞かれて大層悩む。ちなみに吉松さんのベストは「戦りつ! 化石のへき地の謎」だそうだ。
この日の朝の散歩では「劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア」と「劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-」のサントラを聴いた。

2022年10月29日(土)
午後はワイフの買い物に付き合って外出。「池袋ハロウィンコスプレフェス2022」が開催されており、中池袋公園、東池袋中央公園、イケ・サンパークでコスプレを見る。印象的だったのは「チェンソーマン」の田中脊髄剣を持ったヨル、『サイバーパンク: エッジランナーズ』のルーシー(海外の女性がやっていた)のコスプレ。他は『SPY×FAMILY』が多かったなあ。

第252回 DIYって…… 〜Do It Yourself!! ‐どぅー・いっと・ゆあせるふ‐〜

 腹巻猫です。先日、松本零士がデザインした隅田川クルーズ船ホタルナに乗ってきました。このシーズンだけ運航している花見遊覧コースで船上から隅田川沿いの桜を堪能。松本メカに乗って21世紀の花見という気分でしたよ。


 昨年から発売を楽しみにしていたサウンドトラック・アルバムが2月15日にリリースされた。「Do It Yourself!! ‐どぅー・いっと・ゆあせるふ‐ Music Collection」だ。今回はこの音楽を紹介しよう。
 『Do It Yourself!! ‐どぅー・いっと・ゆあせるふ‐』は2022年10月から12月まで放送されたTVアニメ。監督・米田和弘、シリーズ構成と脚本・筆安一幸、アニメーション制作・PINE JAMによるオリジナル作品である。
 この春、高校に入学した結愛せるふはのんびりやで夢みがちな少女。やりたい部活が見つからずにいたせるふは、ある日、なりゆきでDIY部に入部することになる。部員がいなくて存続が危ぶまれていたDIY部だったが、少しずつ部員や仲間が増えていく。ぷりんたちはDIY部の宣伝のために校庭の木の上にツリーハウスを作ろうと考える。
 舞台はものづくりの町として知られる新潟三条市。劇中では、無人バスが走り、空をドローンが飛び交う近未来的な町に描写されている。しかし、せるふたちがDIY部で進めるのは、のこぎりやカッターで材料を切り、ドリルで穴をあけ、ネジ止めや接着をして塗料を塗る、昔ながらのものづくり。時間もかかるし失敗することも多いが、手と体を動かしてものを作る楽しさが伝わってくる。
 第1話のラストに流れるナレーションが、この作品のテーマを簡潔に伝えている(公式サイトのトップページにも同じ言葉が書かれている)。
 「これは、家具や友情や、ひいては人生までも、考え、工夫し、苦労し、失敗し、それでも諦めずに自分の手で完成させて、未来を切り開いていこうとする少女たちの、その最初の一歩を描く物語である——」
 筆者も子どもの頃は工作が好きで、模型を組み立てたり、材料を集めて一からものを作ったりしていた。だから、この作品にはすごく共感するところがあった。
 それにこのアニメ、なにげに絵作りがすぐれている。シンプルな線で描かれたキャラクターにしっかり立体感があるし、レイアウトもセンスがいい。なにより、手の描き方がうまい。たびたび登場する工具を使う場面が、どれもさまになっている。手を描くのって、すごく難しいのだ。
 原作のないオリジナル作品であり、いわゆる萌え系でもないし、派手な展開やシリアスな物語があるわけではない。ものづくりの楽しさをゆるーく描くアニメである。けれど、心に残る、とてもよい作品だった。

 音楽を担当しているのは佐高陵平。驚くべきは、オープニング主題歌、エンディング主題歌の作詞・作曲と劇中音楽(劇伴)の作曲を佐高陵平がひとりで手がけていること。主題歌と劇伴の分業があたりまえになった現在では珍しい作り方だ。
 その主題歌が今風のJ‐POP風の曲ではなく、懐かしいTVマンガ主題歌を思わせる楽しい曲調なのもいい。
 佐高陵平は、アニメソングやアーティストへの楽曲提供(作詞・作曲・編曲)、『RELEASE THE SPYCE』(2018)、『D4DJ First Mix』(2020)などのアニメ音楽(劇伴)で活躍する音楽家。y0c1e(よしえ)名義でも活動している。ヒップホップ、エレクトロニカ、電波ソングなどを取り入れた現代的な曲も得意だが、本作の音楽はアコースティック楽器を中心とした素朴なサウンドで作られている。
 本作の音楽について、佐高陵平はTwitterの投稿でこうコメントしている。
 「劇伴は口笛・リコーダー・ピアニカ・木琴みたいな軽い音をアコギ/ピアノで支えるイメージで作りました。こじんまりな可愛さ。厚めの曲もなくはないのですが基本軽めで、ピンチの曲でもリコーダーが鳴ってます。のほほんと楽しく作ってましたが、作品にマッチしていて良かったです」
 バンドサウンドを基調にした手作り感のある音は、本作のテーマであるDIYを意識しているのだろう。ピアノ、ギター、パーカッション、ピアニカ、トランペットなど、温かみのある楽器の音が耳に心地よい。
 本作のサウンドトラック・アルバムはエイベックス・ピクチャーズからCD(2枚組)と配信でリリースされた。収録曲と構成は同じだが、CDの末尾に収録されているオリジナルドラマは配信されていない。CD版のディスク1から紹介しよう。収録曲は以下の通り。

  1. どきどきアイデアをよろしく!(TV size)(歌:潟女DIY部!!)
  2. どぅー・いっと・ゆあせるふ
  3. どぅー・いっと・ゆあせるふ(しっとり)
  4. どぅー・いっと・ゆあせるふ(まったり)
  5. 毎日せるふ
  6. 夢見るせるふ
  7. 動物とせるふ(とお母さん)
  8. ぷくぷくなぷりん
  9. きっちりなぷりん
  10. センチなぷりん
  11. たよれる先輩
  12. たくみん
  13. にゃー!!
  14. 天才小学生?
  15. アイキャッチ・A
  16. アイキャッチ・B
  17. 能天気
  18. 日常と女の子
  19. また13時間後に!
  20. ひとりぼっち
  21. ワクワクワンワン
  22. どきどき会議
  23. きらきら潮風
  24. もくもく作業
  25. がんばるDIY部
  26. 秘密基地
  27. せるふとぷりん
  28. 居場所
  29. 変わらないもの
  30. 続く話(TV size)(歌:せるふとぷりん)

 オープニング主題歌に始まり、エンディング主題歌に終わるオーソドックスな構成。アイキャッチを挟んで前半・後半に分かれ、前半では、メインテーマ、せるふのテーマ、ぷりんのテーマ、DIY部の仲間たちのテーマが続く。後半はDIY部の活動と秘密基地作りをイメージさせる構成になっている。

 オープニング主題歌「どきどきアイデアをよろしく!」はトンカチをたたく擬音をスキャット風に盛り込んだ楽しい曲。佐高陵平によれば「新しさと懐かしさの共存が目標」だったとのこと。「00年代日常アニメ的能天気さの上に10年代以降っぽいブラスの積み方や韻の感じを乗せ、現代っぽいMIXで仕上げる…みたいな」とTwitterでコメントしている。メインキャストが歌っているのも部活ものっぽくていい。
 2曲目の「どぅー・いっと・ゆあせるふ」は本作のメインテーマ。軽快なリズムに乗ってリコーダー、トランペット、ピアノ、ピアニカなどがのびのびと合奏する。DIYの楽しさが表現された曲だ。第1話のラストでせるふが入部届けに名前を書く場面をはじめ、DIY部の活動場面にたびたび使用されている。
 続く2曲はメインテーマの変奏。トラック3「どぅー・いっと・ゆあせるふ(しっとり)」はピアノソロによる心情曲で、第11話でぷりんがせるふの誘いに応えてDIY部に参加するシーンにフルサイズで流れていた。トラック4「どぅー・いっと・ゆあせるふ(まったり)」はトランペットとオルガンなどによるミディアムテンポのアレンジ。第2話でたくみが、第3話でジョブ子が、それぞれDIY部に入部を決める場面に使われた。
 トラック5「毎日せるふ」は第1話から使われているせるふのテーマ。せるふの能天気でマイペースな感じがよく表現されている。
 次の2曲はせるふがらみでよく使われたユーモラスな曲。トラック6「夢みるせるふ」は妄想するせるふの場面など、トラック7「動物とせるふ(とお母さん)」はせるふが家で母と食事をする場面などに流れていた。
 トラック8「ぷくぷくなぷりん」から3曲は、せるふの幼なじみで別の高校に進学したぷりん(須理出 未来)のテーマ。「ぷくぷくぷりん」はふくれっつらをするぷりん(それがあだ名の由来)のイメージ。トラック9「きっちりなぷりん」はその変奏で、ぷりんの可愛いツンデレをイメージさせるアレンジだ。
 トラック10「センチなぷりん」はピアノとキーボードを主体にしたリリカルなアレンジ。ぷりんがせるふとの思い出を回想するシーンやぷりんに素直になれずため息をつく場面などに流れていて、しんみりさせられる。「ぷくぷくぷりん」のメロディの変奏から始まり、後半はよりエモーショナルなメロディに変わっていく。その展開が、ぷりんの心情の変化を表現しているようで味わい深い。
 次の曲からはDIY部に集まった仲間たちのテーマである。
 トラック11「たよれる先輩」はDIY部部長のくれい(矢差暮礼)のテーマ、トラック12「たくみん」はぷりんに誘われて入部するたくみん(日蔭匠)のテーマ、トラック13「にゃー!!」はDIY部が気になって遊びに来た、ぷりんと同じ高校の生徒しー(幸希心)のテーマ(語尾に「にゃー」をつけるのがくせ)、トラック14「天才小学生?」は飛び級で高校生になった12歳の天才留学生ジョブ子(ジュリエット・クイーン・エリザベス8世)のテーマ。くれいの曲はマーチ調のリズムと前進感のあるメロディ、引っ込み思案なたくみんのテーマはピアノやオルガンによるしっとりした雰囲気、にぎやかなしーのテーマはドタバタしたコミカルな曲調と、それぞれのキャラクターが巧みに表現されていて感心する。
 メインテーマとキャラクターのテーマを続けて、DIY部の仲間がそろった! というところでアイキャッチになる。うまい構成だ。
 トラック17「能天気」は日常シーンによく流れていた口笛の曲。せるふが自転車をこいで登校する場面などに使われていた。ディスク2には同じメロディをウクレレが演奏する別バージョン「能天気(ウクレレ)」が収録されている。本作の雰囲気を代表する曲である。
 トラック18「日常と女の子」も日常シーンの定番曲で、第1話の冒頭から使われている。こちらはピアノやピアニカ、ビブラフォンなどの音がおしゃれで、女子高の華やいだ空気感が広がる。
 トラック19「また13時間後に!」とトラック20「ひとりぼっち」は、しみじみとした雰囲気の心情曲だ。「また13時間後に!」はノスタルジックなサウンドで友情を表現する曲で、最終話でDIY部のみんなが集まってジョブ子の送別会をする場面の使用が印象深い。ギターと口笛が奏でる「ひとりぼっち」は、いつもは明るいジョブ子やしーが、ひとりでもの思う場面などに流れていた。
 トラック21「ワクワクワンワン」はくれいの両親が経営するDIYショップ「ワークワン」の店内で流れているテーマソング。歌は作詞家としても活躍する山本メーコ。佐高陵平によれば「地方企業とか地元スーパーのCMソング」みたいなイメージで作ったとのこと。そのままCMで流れても違和感のない完成度である。
 DIY部の日常を描くトラック22「どきどき会議」、トラック23「きらきら潮風」(第6話の海へ行くエピソードで使用)を挟んで、トラック24「もくもく作業」は本作ならではの楽しい曲。工具で金属を叩くようなパーカッションの音がリズムを刻み、ギターやリコーダー、ピアノなどのフレーズが重なる。曲名通り、せるふたちが工作をするシーンによく使われていた。この曲と似た曲に、ディスク2に収録された「ばりばり作業」がある。こちらもトンカチで釘を打つような音色のリズムを使った曲で、やはり工作シーンに使われている。
 トラック25「がんばるDIY部」は第11話のせるふたちがツリーハウス(秘密基地)作りを進める場面に、トラック26「秘密基地」は、最終話でツリーハウスが完成し、せるふたちが秘密基地を見上げる場面に流れていた曲。「秘密基地」はメインテーマの変奏になっている。物語のクライマックスにメインテーマのメロディーが流れる演出には胸が熱くなる。
 ディスク1の終盤には、じんわりと胸にしみる3曲が並んだ。
 トラック27「せるふとぷりん」はせるふとぷりんの友情の曲。ストリートオルガン風の郷愁を誘う音色が、幼なじみのふたりの心のつながりを表現する。よく聴くと「毎日せるふ」のメロディと「センチなぷりん」のメロディが織り込まれている。
 トラック28「居場所」は数々の名場面に流れた印象深い曲。ピアノとギター、バイオリンなどが奏でるやさしいメロディが、居場所を求めるせるふたちの心情に寄りそっていく。第5話でしーが海外に暮らす母に電話で「心配しなくても、ちゃんと居場所ができたよ」と話す場面、第9話で自分が役に立ってないと落ち込むせるふをぷりんたちが励ます場面などに流れている。曲の後半には女声スキャット(コーラス)が入ってきて、熱い想いを表現する。第10話で顧問の治子先生がDIY部の先輩の想いをせるふたちに語る場面、第11話で秘密基地完成を前にせるふとぷりんが語らう場面、第12話で涙ぐむジョブ子にたくみんがハンカチを渡す場面では、その女声スキャットの部分が流れて感動をいっそう盛り上げた。スキャットを歌っているのは声優・作詞家としても活躍する藤村鼓乃美。佐高陵平も「個人的に印象深い1曲」と語っている曲である。
 トラック29「変わらないもの」は演奏時間5分を超える大曲。ドリーミィな曲調で始まり、後半からストリングスが入って雄大な曲想に展開する。劇中ではぷりんやジョブ子が大切な思い出を回想するシーンに流れていた。本作の音楽の中でも映画音楽のようなスケール感を持つ聴きごたえのある曲だ。
 ディスク1のラストはエンディング主題歌「続く話」。せるふとぷりんが歌う、ふたりの友情のテーマである。佐高陵平はこの曲について、「こちらも新旧の共存で、基本アコギのミディアムバラードに、リズムやシンセは少し今っぽく」「歌詞の関係性や掛け合いの作り方が楽しかった」と語っている。本編を最後まで観て聴きなおすと、この作品はせるふとぷりんの物語でもあったんだなあ、とあらためて思う。
 ディスク2にはBGM17曲とオリジナルドラマ(約24分)を収録。ディスク1だけで世界が完結している感もあるので、ディスク2は特典ディスクみたいな印象だ。とはいえ、こちらにも「ひまわりの少女」をめぐるエピソードで印象的な「乙女な先輩」やDIY部のシーンでよく使われた「たのしいDIY部」「ようこそDIY部」などが収録されているので、十分楽しめる。微妙な空気感を表現する「なまやけクッキー…」の絶妙な曲調には思わずニヤリとしてしまう。

 『Do It Yourself!! ‐どぅー・いっと・ゆあせるふ‐』の音楽は、ものづくりのわくわく感や仲間と一緒にひとつのことをやりとげるよろこびを思い出させてくれる。シンプルに聴こえる音楽の中に、さまざまなアイデアや工夫が盛り込まれていて、それを探すのもサントラを聴く楽しみのひとつだ。DIYって、どの曲も、いい場面が、よみがえる。未見の方は、ぜひ本編といっしょにどうぞ。

Do It Yourself!! ‐どぅー・いっと・ゆあせるふ‐ Music Collection
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佐藤順一の昔から今まで(38)
『たまゆら』の企画と『ARIA』

小黒 この後は佐藤さんが取材を沢山受けた作品が続きます。他の媒体の記事と内容が重複するかもしれませんが、そこは気にせずにいきましょう。

佐藤 はい。

小黒 こうして振り返ると、松竹の作品が多いですね。佐藤さんと松竹の繋がりはいつ頃から始まってるんですか。

佐藤 『ARIA The ANIMATION』(TV・2005年)が最初かな。同じ松竹でも作品ごとにプロデューサーが違うんです。『たまゆら』は『うみものがたり』の繋がりで田坂秀将さんで、『ARIA』と『あまんちゅ!』(TV・2016年)は飯塚寿雄さんというように、同じ松竹作品だけどラインは別なんですよ。

小黒 なるほど。

佐藤 しかも、プロデューサー同士が凄く緊密に情報共有をする感じでもなく、わりと独立して活動している。その都度、お互いの状況を聞きながらそれぞれの仕事をするような感じでしたね。

小黒 「今は『たまゆら』が動いてるから『ARIA』はもうちょっと待って」とか、そういう調整があり得るわけなんですね。

佐藤 そんな感じですね。とはいえ、制作会社は同じなのでバランスを取りつつやっていたのでしょうね。振り返ると、長い付き合いになりましたね。

小黒 年表で見ると、2015年は『たまゆら』と『ARIA』の2つのシリーズが続き、翌年に『あまんちゅ!』が始まります。この頃が松竹アニメを次々に作っていた時期ですね。

佐藤 そうなんです。何年のことか覚えていませんけど、新ピカ(新宿ピカデリー)の登壇回数が、演出家の中でナンバーワンになった時期があったそうで (笑)。

小黒 その1年で最も多く舞台挨拶やイベントに出た監督だと。

佐藤 そうそう。何度も新ピカに行きましたね。

小黒 アニメを作る上で、松竹さんとの仕事がやりやすかったんですか。

佐藤 永年の付き合いもあって、段々やりやすくなりましたね。松竹はプロデューサージャッジで決められることが多い印象で、提案もしやすかった。だから、今でもやりやすい会社ではありますね。

小黒 なるほど。『たまゆら』は企画経緯を伺ったことがないんですが、どういうかたちで始まったんですか。

佐藤 『うみものがたり』が終わった頃に、プロデューサーの田坂さんと「次もなにかやりたいね」という話になりました。僕も田坂さんも飯塚晴子さんのキャラクターが好きになっていて、そこを軸に出した提案のうちの1つなんですよね。同時に『うみものがたり』の続編的な企画も出したと思いますが、飯塚さんの画で『ARIA』の系譜の作品を提案したのが『たまゆら』なんですよね。

小黒 しっとりしていて、観ているとなにか心が優しくなるようなものですか。

佐藤 そうですね。「観ていて寝ちゃったら寝ちゃっててもいいかな」ぐらいのテイストの作品と言いましょうかね。「スライス・オブ・ライフ」、つまり「日常の『素敵』を切り取るようなアニメはどうでしょう?」と提案しました。

小黒 なるほど。

佐藤 ちょうど『ARIA』のTVシリーズが終わった頃だったんだけど、ファンの熱量が高くて「続編を観たい」という声も大きかったんですね。松竹的にもなにかやりたかったけど、原作の終わりまでアニメ化しているから、作るとしたらオリジナルということになるけど、オールオリジナルで『ARIA』のTVシリーズを作るのは難しいと思っていました。『たまゆら』は『ARIA』が好きだったファン達に、どこか近い世界観のものを提案できたらいいな、という感じでしたね。それもあって、最初の頃の宣伝では「あの『ARIA』スタッフが」と多く謳われていたんじゃないでしょうか。

小黒 舞台が広島で、カメラがモチーフになったのはどうしてなんでしょう。

佐藤 他所でも語ったかもしれないけど、「写真」という要素は最初からありました。『ARIA』的な世界観を作るにあたっては「懐かしさ」が重要な要素だと思っていたんですが、写真なら自然に懐かしさを表現できますからね。特に聖地巡礼的なことを考えてたわけではないんだけど、具体的なロケーション場所がほしかったんです。松竹経由で色々候補を出してもらって、最終的に選んだのが広島県の竹原市でした。

小黒 その後、佐藤さんと奥様(佐藤恭野)は、竹原と深い付き合いになっていくわけですが、元々なにか縁があったわけではなかったんですね。

佐藤 全然そうじゃなかった。最初に考えていたのは、現実にある町を舞台として使わせてもらうので、迷惑だけはかからないようにしなければということでした。協力いただくにしても、市役所なり、NPOなりに話を通して、ルールを守りながらやらないといけない。例えば、アニメファンが現地に来たら迷惑だと思われているような状態だと、あまりよくないわけですよね。せっかくそこを舞台にして作品をやるからには、ファンと地元の方の両方が「いいな」って思えるような作品作りができたらいいかなと考えていました。

小黒 なるほど。

佐藤 竹原市のNPOや、お好み焼のほり川さん達が大変協力的で、アニメに対して色々とお力を貸していただけたので、二人三脚のような感じで続けられましたが、最初からそこを狙っていたわけではないんです。

小黒 ところで、『けいおん!』が世の中を席巻してる頃に世に出た作品ですよね。『けいおん!』の後に女の子が部活動をやったり戦車に乗ったりする作品が次々と作られていました。『たまゆら』も、その流れの1つと考えてよいのでしょうか。

佐藤 企画を立てていた頃は、そこまで『けいおん!』人気が爆発してる状況ではなかったかもしれない。主役の竹達(彩奈)さんも、「そういえば『けいおん!』で人気がでているらしい」ぐらいの感じだったかな。それに『たまゆら』の下敷きは『ARIA』なんですよね。『ARIA』は、灯里がマンホームからネオ・ヴェネツィアに来て、日常の素敵を発見していく。でも、住んでる人はそのことに気づいていない、という構図があって、『たまゆら』もそれを踏襲しているんですよね。

小黒 なるほど。

佐藤 写真を撮ろうとする中で、地元の人が知らないものを見つけていく話だったので、部活動になったのも遅かったんです。

小黒 部活の話になったのは第2期でしたね。あそこで「最近の女子高生が主役のアニメでよく見る展開!」という感じはちょっとありました。

佐藤 一歩踏み出す描写として部を作るのがよさそうだし、そこに後輩がいるといいなという感じでしたね。

小黒 最初にOVAとして4話分を作ってますけれども、これはパイロットフィルム的な意味合いだったんですか。

佐藤 オリジナル作品を、いきなりTVシリーズにするのはハードルが高いので、観測気球的な意味も含めて方法を探っていましたね。それがOVAの2本なんですが、4話セットになったのは僕の提案だったと思います。そもそも『たまゆら』って、TVシリーズ1話30分でしっかり観せようというつもりの作品ではなかったんです。場合によったら15分枠でもいいし、どんな枠でもできるつもりで考えていました。プロデューサーの田坂さんと相談しつつ、イベントも沢山やって、まずはお客さんに認識してもらおうというプランで動いていました。

小黒 OVAのエピソードって、TVシリーズ第1期の途中に収まる話なんですよね。この時点で、シリーズ全体の構成がある程度存在したんですか。

佐藤 ではないです。OVAを作ってから、その前後にあたる話をTVシリーズで作ろうということになりました。

小黒 OVAは、1話と4話が佐藤さん脚本とコンテですね。2話と3話の脚本は吉田玲子さんですが、佐藤さんのプロットを元に吉田さんが書いているんでしょうか。

佐藤 基本的にはそうですね。1話と4話は脚本を起こさずにいきなりコンテを描いています。間の2本は吉田さんにシナリオを書いてもらって、そこからコンテを描いたのかな。

小黒 全部自分でコンテから描くのではなく、脚本を作ってもらう部分もあったほうがいいということですね。

佐藤 そうです。それに『ARIA』の吉田玲子さんに入ってほしいという松竹の意図もあったと思いますね。

小黒 なるほど。OVA1作目の手応えはどうだったんでしょうか。

佐藤 OVAは完全に手探りで始めたんですけど、イベントの結果が大きかったですね。人に来てもらうことを重視して、基本無料のイベントを沢山やっています。その中でも竹原市の照蓮寺でやったイベントの影響が大きかった。チケット配布前の早朝からファンの方が並んでくれたりして、想像以上に人が来たんですね。そこで勢いがついたところはありました。結局OVAというジャンルは、何本売れたかは分かっても、観た人が面白いと思ったかどうか、分からないんですよね。だから、イベントでお客さんのリアクションをしっかり見られたのは大きかったかなと思いますけどね。


佐藤順一の昔から今まで(39)『たまゆら』とお父さん目線 に続く


●イントロダクション&目次

アニメ様の『タイトル未定』
386 アニメ様日記 2022年10月16日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2022年10月16日(日)
オールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol.139 『MEMORIES』と大友克洋のアニメーション」のトークを終えて、自分は帰宅。少し休んだ後、途中まで上映を観たワイフを迎えに行く。その後、事務所でキーボードを叩いたり、散歩をしたり。その後、オールナイトの終幕を見届けるため、また新文芸坐に。
デスクワークをはさんで、午後にまたまた新文芸坐に。「マイライフ・アズ・ア・ドッグ」を鑑賞。プログラムのタイトルは「スウェーデンの名匠による永遠の1本 マイライフ・アズ・ア・ドッグ」。この映画はタイトルとポスターのビジュアルだけ知っていて、本編は未見。自分のことをライカ犬になぞられている少年ということで、深刻な話かと思ったら、そんなことはなかった。深刻なところもあるのだけれど、のんびりとした映画であり、ユーモアが基調。都会と田舎町が舞台になるのだが、田舎町では性的なモチーフが多い。主人公のイングマルに女性下着の広告のテキストを朗読される老人、街の芸術家のためにヌードになるグラマーなお嬢さんなど。サガという少女が登場するのだが、ボクっ子というか、男装少女というか。見た目は美少年で、常に少年として振る舞っている。オタク的な目線での発言になるけれど、サガは「男性が好きなボーイッシュキャラ」としての純度が高い。実写でここまでできるんだ、と思った。
晩御飯はランチ以外では入ったことがなかった近所の居酒屋に。「近所の人が来る地元の居酒屋」って感じでこれはこれで悪くない。駅近くの店よりも店員さんが元気だった。しかも、安かった。

2022年10月17日(月)
久しぶりにアニメ探偵をやることになった。アニメ探偵とは「あるデザイン画について、誰が誰の依頼で描いたものか」とか「その作品に参加できなくなった監督が本当は何をやりたかったのか」といったことを、資料や調査で調べることだ。

2022年10月18日(火)
夕方、ワイフと鬼子母神の御会式に。ワイフは金魚すくいをやったのだが、数十匹の金魚を掬ったけれど、ポイ(金魚を掬う道具)の紙は少し破れただけ。まだまだ掬えそうだったのだけど、足腰が疲れたということで終了。近くで見ていた親子連れが「あの人、すごい!」と言って盛り上がっていた。深夜アニメでサブキャラクターが意外な才能を発揮するエピソードを見ているようだった。

2022年10月19日(水)
ワイフと旧古河庭園の「バラの香りのツアー」に参加した。午前8時開始のイベントで、庭師さんの案内で薔薇の香りをかぎながら歩くというもの。普段は触ってはいけない薔薇に触ってもいいし、花壇に足を踏み入れるのもOK。優雅な催しだった。池袋に移動して、西武池袋本店屋上で食事。
午後はTOHOシネマズ池袋で『私に天使が舞い降りた!プレシャス・フレンズ』を鑑賞。自分は『私に天使が舞い降りた!』のTVシリーズは熱心に観ていたわけではなく、今回の鑑賞の前に全話を一気観した。予告も観ないで劇場に足を運んだのだけれど、なんとびっくりのスコープサイズ。しかも、画作りのためか、やたらとワイド感がある。内容に関しては、観る人が観たら「ある思想をもって作られた映画」と解釈するのではないか。それから、成立するとは思えなかった「みやこと花のカップル」について「成立するかも」と思うことができるストーリーになっており、それについてはちょっと驚いたし、感心した。
朝の散歩では『鋼の錬金術師』の「オリジナル・サウンドトラック 1」「同・2」を聴いた。

2022年10月20日(木)
10月の新番組はよくできた作品が沢山あるけど、異色というか正体不明なのが『ヒューマンバグ大学 不死学部不幸学科』だ。元になっているYouTubeの「ヒューマンバグ大学 闇の漫画」は少しだけ観た。
ワイフと吉祥寺に。レストランの肉山でワイフの誕生祝い第1弾。同じ日に吉松さんも同じ店に予約を入れていて、業界の方と一緒に来店していた。決して広くない店内で知人がアニメやマンガの話をしているのが、ちょっと面白かった。食事の後、リベストギャラリー創で「志村貴子展 まじわる中央感情線」をのぞく。カットなどのオリジナル原稿が販売されていたけど、3万円から5万円だったかな。買おうと思えば手が出せるいい値段だと思った。
朝の散歩時に『鋼の錬金術師』の「オリジナル・サウンドトラック 3」と『シャンバラを征く者』のサントラを聴く。『シャンバラを征く者』の曲は幾つか覚えていた。

2022年10月21日(金)
グランドシネマサンシャインで『ぼくらのよあけ』を鑑賞。大筋は悪くない。自分が中学1年くらいの年齢で観たら感銘を受けたかもしれない。ただ、同じ内容を90分でまとめたら、もっと気持ちよく観られたかも。キャラクターで言うと、オートボットのナナコが抜群にいい。それだけに、ナナコが嘘をつくようになった理由について、もう一押しほしかった。それから、『アキハバラ電脳組』『電脳コイル』『ぼくらのよあけ』で「デンスケ」が家庭用ロボットペットの定番ネーミングとなった(と思った)。
Amazon prime videoで「Prime見放題が終了間近の映画」に『銀河英雄伝説 わが征くは星の大海』が入っていたので視聴。マスターが古いらしくて、画質はいまひとつ。終盤まで観て気がついたけど、4K版が公開されるわけだから、来年の今頃にはリマスター版が配信されているんじゃないか。面白かったから問題ないけど。
Amazon prime videoで「モダンラブ・東京 さまざまな愛の形」の山田尚子監督作品『彼が奏でるふたりの調べ』を鑑賞。しっかりした、そして、山田監督らしい仕上がりだった。山田監督が寡作にならず、次々に作品を手がけてくれるのが嬉しい。
午前中の散歩では『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』の「Original Soundtrack 1」「同・2」を聴く。

2022年10月22日(土)
この土日は原稿作業を進めるつもりだったのだけど、これからやる作業を整理したら原稿以外の作業が沢山あったので、そちらを優先。
『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』最終回はリアルタイムで視聴。長大な原作を100話かけてしっかりと描いた。駆け足にもならず、水増しもない。ある意味においては理想的な映像化だった。それはそれとして、原作が連載中の映像化と、原作が完結してからの映像化には明らかな違いがあるということを改めて感じた。上記の「駆け足にもならず、水増しもない」とも関連したことなのだけれど、それだけではない。
朝の散歩時に『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』の「Original Soundtrack 3」を聴く。かなりよかった。「1」「2」よりもよかったかも。

第795回 納品に追われる中

 前回紹介した、「80年代アイドル総選挙!ザ・ベスト100」(3月8日発売)のイラスト10枚の話は、また後ほど改めてで。今は鋭意制作中の

『異世界でチート能力(スキル)を手にした俺は、現実世界をも無双する~レベルアップは人生を変えた』(略して『いせれべ』)

の納品を頑張ってます!
 “作品の納品”とは毎回鬼気迫るものです。少しでも良くして納品したく、総監督とは言っても「ここは○○のせいで~」と言い訳を並べるのはイヤなので、でき得る限り手を出すかたちで取り組んでいます。この件に関しては幾度となく「監督は手出しするべきか否か?」論争が勃発したところですが、そのこと自体の是非はともかく、自分はただただ単純に「出来が悪いところは他人のせいにして、賛辞だけ自分のものにしようとする監督」になりたくないだけです。
 発表された『いせれべ』PVをご覧いただければ分かっていただけると思いますが、キャラクターデザイン・総作画監督の木村博美さんは本当に頼りになる画描きです。『てーきゅう(8期)』で作監デビューした時が入社3~4ヶ月の頃、『COP CRAFT』で初キャラデの担当時はまだ20歳。俺は決断が速いので、「巧い!」を見つけたら直ぐ何かをやらせたくなります。
 まだ“紙(アナログ)”作画時代で、彼女の帰宅後、作画机に置いてあった“女子の走りリピート”! 髪の毛やスカートまでちゃんと、跳ねるようになびくその動画(原画)を捲って見て衝撃が走りました。それはさながら俺がテレコム時代、大塚(康生)さんに見せていただいた「天才・貞本義行の動画研修課題」の走りのようでした(褒め過ぎ?)。で、即『てーきゅう(8期)』で作監に抜擢しました。当時まだ18歳の高卒入社組でした。
 『COP CRAFT』のキャラデに取り組んだ時は“まだ20歳”という若さに、原作者・賀東招二さんも驚愕し、キャラ原案・村田蓮爾さんからも「若い! 巧い!」と。
 そんな木村作画の後押しをする感じで、彼女の手の及ばない部分の作監をお手伝いしている日々です。また短くてすみません。納品です。

アニメ様の『タイトル未定』
385 アニメ様日記 2022年10月9日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2022年10月9日(日)
ワイフと新文芸坐で『シチリアを征服したクマ王国の物語』(2019・仏=伊/82分/DCP/吹替版)を鑑賞。プログラムのタイトルは「親子で楽しむモーニングショー」。本編は「語り手が語っている物語」という構成で、途中で語り手が別人になったり、「その結末では満足できません」といった意味のコメントが入ったり、語り手の1人が劇中の人物を演じて、さらに劇中でその人物が成長するという「ちょっとしたメタ構造」。「物語の結末は観客に委ねます」で終わるのだけど、そこで語り手の1人が劇中人物を演じたことに意味が生じているはず。映画の構成としては展開がスピーディで澱みがない。話が二転三転するので、先を予想させない。画作りは絵画的。さらに画作りに関する引き出しの数が多いので飽きさせない。アニメーションであることに甘えず、観客と向き合って、1本の映画としての満足度を意識して制作していると感じた。吹き替えも好印象。語り手のアルメリーナ 、劇中のアルメリーナ、クマのトニオの幼少時代を演じた伊藤沙莉が素晴らしい。僕はモーニングの単独上映で観たが、前夜にオールナイト「俳優・伊藤沙莉 ブクロに狂い咲けVol. 2」の1本としても上映された。流石、新文芸坐。分かっている。
その後、池袋西口に。第23回 東京よさこいが開催中だった。ブルーシートが空いていたので、そこに座ってしばらくよさこいを見る。学生さんの演目には学生さんのよさがあるし、大人の演目には大人のよさがあった。中にはかなり中二っぽい演目もあって、それも含めて面白かった。学生さんのよさこいは、見ているこちらが彼等の青春を浴びた感じ。大人のチームに小学生の男子が参加し、大きな旗を2本振っていたのだけれど、これが圧倒的。その男子は自分達のよさこいが始まるまでの雰囲気もよくて、少年マンガに出てくる寡黙で強いキャラクターのようだった。
この日に観た新番組は『ぼっち・ざ・ろっく!』、『ブルーロック』、『限界アニメ「松山あおい物語」』season4、『弱虫ペダル LIMIT BREAK[第5期]』。『ぼっち・ざ・ろっく!』は隙のない仕上がりだった。よくできているうえに、ちゃんと面白い。2話以降も楽しみだ。

2022年10月10日(月)
前にも話題にしたはずだけど、配信の『けいおん!』について。dアニメストアとAmazon prime videoの『けいおん!』の画面比率は今でもスタンダード。解像度はおそらくSD。つまり、地上波本放映時のマスターであると思われる。4:3の『けいおん!』は今では貴重は気もするけど、それはまた別の話。当時はそんなことを感じはしなかったけれど、改めて観ると、『けいおん!』は色遣い等の自由度が低い感じだ。『響け!ユーフォニアム』も配信で観る。こちらの配信ははっきりくっきりのフルHD。当時は『響け!ユーフォニアム』の撮影について単純に「すごいすごい」と思っていたけれど、改めて観ると発展途上ゆえに頑張っている感じとも思え、今だったら感じが変わるのだろうなあとも思う。
時代劇チャンネルの『カムイ外伝』を録画で視聴。ちょっと画面がザラザラしているが、それ以外は極めて良好。セルの塗りムラまで分かる。少し驚いたのだけれど、オープニングが自分が知っている再放送版とまるで違う。「光る東芝」のインストゥルメンタルから始まって「しのびのテーマ」に変わる。最後は「東芝がカラーでお送りする忍法カムイ外伝」というナレーションが付く。Wikipediaを見ると、これは本放映版のオープニングであり、Blu-rayソフトで46年ぶりに世に出たらしい。同じくWikipediaによれば時代劇チャンネルの『カムイ外伝』はオープニングは本放送版で、エンディングは再放送版らしい。ややこしい。
この日は休みの日にしては仕事が進んだ。夕方にワイフとIKE・SUNPARKに。夕焼けを見ながら、缶のビールとハイボールを吞む。
この日に観た新番組は『夫婦以上、恋人未満。』『ピーター・グリルと賢者の時間 Super Extra[第2期]』。それから、アニメではないけど、アニコミ「女体化した僕を騎士様達がねらってます」。

2022年10月11日(火)
ストップウォッチを仕掛けて「2時間位内に終わらせるぞ」と息込んで始めた作業が1時間きっかりで終了。午後は打ち合わせで、あるアニメプロダクションに。ここに来たのは2年ぶりくらい。世間話もたっぷり。
この日に観た新番組は『BLEACH 千年血戦篇』『クールドジ男子』『永久少年 Eternal Boys』。配信で『魔法騎士レイアース』を1話から8話くらいまで観る。

2022年10月12日(水)
グランドシネマサンシャインで『君を愛したひとりの僕へ』『僕が愛したすべての君へ』を観る。予告で「僕愛から観るとちょっと切ないLOVEStory」「君愛から観ると幸せなLOVEStory」というコピーがついていて、幸せなLOVEStoryがいいと思って『君愛』から観た。『君愛』だけでもひとつの物語としてまとまっているけれど、いくつか疑問点が残るので、やはり『僕愛』が観たくなるはず。『僕愛』は単独映画として観ると、終盤の展開が唐突に思えるはずだし、まとまりはよくないはず。画作りについてはいいところもある。演出もしっかりしているところがある。『僕愛』で和音がカラオケボックスで椅子から転げ落ちるところがやたらとよかった。新海誠作品リスペクトとしては、今までの後継作品とは違ったところを攻めていた。これはプロデューサーレベルでの判断であると思われる。細田守作品リスペクトについては、リスペクトだと思わないでやっている可能性があるくらいしっくりとしていた。
『チェンソーマン』1話を観る。力の入った仕上がりで、まだ余力を残している感じ。これからの話数も楽しみ。「制作・製作 MAPPA」のクレジットが大変なインパクトだ(自社で製作費を集めているという意味)。『ヤマノススメ Next Summit』2話のエンディングは大傑作だった。エンディングに脚本があるのか、絵コンテを担当した吉成鋼さんのアドリブなのかが気になる。
改めて『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』を観る。ああ、なるほど。これはハイエンドアニメだ。画作りの設計が根本的なところから違う。Netflixの『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』はフルHDと思われるが、少なくともうちの環境では効果が濃いところはきちんと再現できていない。これはBlu-rayを購入する価値があるということか。

『モノノ怪』について少し心配していたのだけれど、Twitterを見ると、和解したようだ。よかった。以下は橋本敬史さんのツイートと山本幸治さんのツイートだ。

橋本敬史さんのツイート
https://twitter.com/norider1965/status/1579734777418354688?s=20

山本幸治さんのツイート
https://twitter.com/koji8782/status/1579746370621419520?s=20

2022年10月13日(木)
12日(水)と13日(木)にSNSと社内Zoom打ち合わせで「~の手による」「~の手になる」問題を話題にした。5年に一度くらい、社内で話題になるなあ。僕は「~による」と書くようにしている。つまり、「山田一郎の手によるイラスト」とも「山田一郎の手になるイラスト」とも書かないで「山田一郎によるイラスト」と書く。
新宿ピカデリーの8時15分からの回で『劇場版ツルネ -はじまりの一射-』を<7.1ch> で鑑賞。映画前半は物語を引っぱるものが弱く、少々退屈だったのだけれど、クライマックスは(やや強引ではあるが)しっかりと盛り上がる。演出や作画に関しても、終盤は緊張感のある構図や決まった構図が連続。その意味でも楽しめた。7.1chのお陰がどうかは分からないが、矢を放った際の音は迫力もあったし、臨場感もあった。BGMに関しては一部の曲の立体感が際立っていた。紀伊國屋で本を見ようかと思ったら、まだ開店前だった。池袋まで歩いて帰る。
新番組は『恋愛フロップス』『ある朝ダミーヘッドになっていた俺クンの人生』を観る。『恋愛フロップス』は絵に描いたような明るいエロコメで、これはこれでOK。
朝の散歩時に『∀ガンダム』のサントラ1を聴いた。かなりよかった。

2022年10月14日(金)
『うる星やつら』の放映開始とともに起床。寝ないで待機していたワイフと一緒に1話を観る。基本的に好印象。キャストに関しては文句無し。ラムのキャラクターはデサインが秀逸で、色もいい。全体として原作を重視し、旧アニメも意識し、なおかつ現代的なアレンジもしている。バランスを取りまくった作品だと思った。1話のポイントは、あたるがラムのツノをつかんで「これで結婚だ~」と叫んだ後の、あたるを見つめるラムの表情と芝居だと思った。そのラムの表情と芝居で、ラムがあたるのことを好きになった瞬間を描いたのではないか。その前の「鬼さんこちら~」のセリフの辺りで、すでにラムは、あたるのことが少し好きになっている。電撃をくらったあたるが立ち上がったの見て感心して、さらに「まだまだ~」と言いながら迫ってくるところで、ちょっと好意をもって、「これで結婚だ~」と叫んだあたるを見つめている時に好きになった、という感じかな。
Blu-rayで『夜桜四重奏 ~ホシノウミ~』を観る。『ホシノウミ』って「WEB系」と「WEB系NEXT世代」の両方が参加している作品という位置づけになるのか。『ホシノウミ』『ハナノウタ』等で、りょーちもさんが育てていたアニメーターがWEB系NEXT世代になっているのか。これは頭の隅っこに入れておこう。

2022年10月15日(土)
『ワッチャプリマジ!』が最終回を迎えて、後番組はアニメではない。僕の観測範囲内で言うと、新作の女児アニメはプリキュアシリーズだけになった。
オールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol.139 『MEMORIES』と大友克洋のアニメーション」を開催。田中栄子さんは「昔の作品だから昔からのお客さんが多いのでしょうね」と言っていたのだけれど、実際には若いお客さんが多かった。『MEMORIES』『Manie-Manie 迷宮物語』はそれぞれ初見の方がお客さんの7割くらい。『AKIRA』でも2割か3割が初見だった。若いお客さんが多いので、片渕さんと田中さんの紹介から始めてほしいというオーダーが新文芸坐サイドからあったのだけれど、片渕さんも田中さんも紹介の途中でグイグイと話を進めるので、紹介にならなかった。だけど、問題はそれくらいで、30年近く前の作品であるにも関わらず、濃密なトークが展開。僕にとっても初耳のエピソード(当時の大友さんの高い志の話、「大砲の街」の撮影の話、田中さんが「録音がないから言うけど」と前置きしてから始めた話題など)がいくつも披露された。『MEMORIES』と『Manie-Manie 迷宮物語』は35ミリフィルムでの上映。それぞれ少しずつ上映を観たが、味わいのあるいい上映だった。

第794回 アイドルのイラスト

3月8日発売の「80年代アイドル総選挙!ザ・ベスト100」のイラスト10枚を描きました!

 前の藤子不二雄(A)先生特集の時は「昭和50年男」。今回は「昭和40年男」の増刊になります。「80年代アイドルBEST-10の似顔絵をアニメのセル版権風に仕上げて欲しい」とのご要望で、

板垣が原画を描き、動画(清書)・仕上げをミルパンセ社内スタッフでやりました!

 久し振りに“知り合いじゃない人の似顔絵”を描いたのです。中学校・高校の同級生が、今回の似顔絵イラストを見たら「あ、板垣まだやってる」と思うでしょう。学生時代は友人や時には先生から「描いて!」と頼まれて、よく描いてましたから。頼まれもしないで、次の授業に来る先生の似顔絵を黒板に描いて出迎える悪戯とかもしました、友人らに促されて。高校の卒業記念品マグカップにもクラスメート全員の似顔絵を描きましたし。まあ、単純に好きな仕事だからお引き受けした。
 が、そもそも80年代のアイドルブームに自分自身は全く興味を感じていませんでした。ただ、姉は当時、河合奈保子だその後は中山美穂だ~と一通り騒いでいたので、それらを思い出し追体験(?)するように、楽しんで書かせていただきました。作業期間的には年末年始に試し描きを2〜3パターン提出し、方向性を確認。その際“アニメキャラ風”より“ややリアルに振る”と方針が決まり、今年に入って10人分のラフを描き提出。で、週末メインに1日2~3体ずつ原画を描いては、社内の若手に清書を頼んで仕上げまで。
 いちばん悩んだのは、メイク(化粧)とポーズ。昭和のアイドル、今みたいにダンス~ダンス~しておらず、基本“マイク持って歌っている”統一で~と決まっていたため、個体差を10通り作るのにやや苦労しました。特に薬師丸ひろ子とかは突っ立ってるだけで……。
 あと、メイクも今と比べるとかなり地味で、ちょっと口紅のせただけで、下手するとケバくなってしまいます。そんな訳で、最終チェックで仕上げ+処理の段階、モニターに貼り付き指示出しまくったイラストでした。

 ま、コンビニ・本屋その他で見かけたら是非手に取って下さい!

【文芸坐×アニメスタイル vol. 157】
STUDIO4゚Cのキセキ 『鉄コン筋クリート』

 3月の新文芸坐とアニメスタイルの共同企画は「STUDIO4゚Cのキセキ 『鉄コン筋クリート』」をお届けします。
 『鉄コン筋クリート』は松本大洋の同名原作を映像化した劇場アニメーション。STUDIO4゚Cならではのエッヂの効いた映像が魅力の作品です。スコープサイズで制作された本作を、映画館のスクリーンでお楽しみください。



 上映は2回あります。16日(木)はトーク無しの通常上映で、18日(土)は上映後に田中栄子プロデューサーのトークがあります。なお、貴重な35mmフィルムによる上映となります。

 チケットは開催日の1週間前から発売。チケットの発売方法については、新文芸坐のサイトで確認してください。なお、新型コロナウイルス感染予防対策で観客はマスクの着用が必要。入場時には検温・手指の消毒を行います。

【新文芸坐×アニメスタイル vol. 157】
STUDIO4゚Cのキセキ 『鉄コン筋クリート』

開催日

2023年3月16日(木)、18日(土)

開演

16日:19時
18日:18時30分

会場

新文芸坐

料金

16日:一般1500円、各種割引・友の会1100円
18日:一般1800円、各種割引・友の会1400円

トーク出演(18日)

田中栄子(プロデューサー)、小黒祐一郎(アニメスタイル編集長)

上映タイトル

『鉄コン筋クリート』(2006/111分/35mm)

備考

※トークショーの撮影・録音は禁止

●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

第251回 圧倒的な説得力 〜BLUE GIANT〜

 腹巻猫です。劇場アニメ『BLUE GIANT』をTOHOシネマズの轟音上映で観ました。心底「劇場で観てよかった」と思った作品でした。音楽映画としても青春映画としても強烈なインパクトがある作品。心がゆさぶられる、くらいでは収まらず、頭の中をかきまわされ、何かを吐き出さずにはいられなくなります。未見の方は、ぜひ音響のよい劇場で。


 劇場アニメ『BLUE GIANT』はこんな物語だ。

 世界一のジャズサックス奏者をめざして、高校卒業後、仙台から上京した少年・宮本大。東京に住む同級生・玉田俊二のアパートに転がり込んだ大は、ある日、ライブハウスで同い年の沢辺雪祈が弾くピアノを聴いて衝撃を受け、「一緒にジャズをやろう」と誘う。雪祈もまた、大のサックスを聴いて感動し、ともに活動する決心をする。2人に感化されてドラムを始めた玉田が加わり、3人のバンド「JASS」が始動した。当初はぎこちなかったJASSの演奏は、徐々に洗練され、ファンを増やしていく。そしてついに、あこがれの舞台、日本最高峰のジャズクラブ「SO BLUE」で演奏するチャンスがおとずれた。
 原作は石塚真一によるマンガ作品。アニメ化される前からジャズマンガとして人気を集め、マンガにちなんだジャズ・アルバムがリリースされたり、ジャズ・フェスが開催されたりしていた。ファン待望の劇場アニメ化である。
 音楽を手がけるのはジャズピアニストの上原ひろみ。上原は以前から原作にほれ込んで熱い思いを語り、ライブイベント「BLUE GIANT NIGHTS」にも出演していた『BLUE GIANT』ファン。音楽担当は「必然」とも言える。
 上原ひろみは劇中音楽を作曲するだけでなく、劇中で雪祈が弾くピアノの演奏も担当している。アニメ『ピアノの森』では劇中のピアノ演奏をプロのピアニストが担当し、劇中音楽は別の作曲家が書いていた。『BLUE GIANT』は上原がキャラクターになりきってピアノを弾き、いっぽうで劇中音楽の作曲と演奏も担当するという、珍しいスタイルの作品である。

 上原ひろみの映像音楽といえば、真っ先に思い浮かぶのが2009年放送のTVドラマ「トライアングル」だ。テーマ曲が上原ひろみの「Flashback」。劇中音楽は澤野弘之と林ゆうきが担当という、今にして思えばすごいドラマだった。
 しかし、筆者はそれ以前から上原ひろみに注目していた。TVでピアノを弾く姿を見て、一度生で見たいと思い、2007年12月に横浜BLITZで開催された上原ひろみライブに足を運んだ。以降も何度か上原ひろみのライブ/コンサートを聴きに行っている。人馬一体という言葉があるが、上原ひろみのプレイはいわば「人ピアノ一体」。心底楽しそうにピアノを弾く上原ひろみの指から自由でエネルギッシュな音が飛び出す。聴いているうちに音に酔っぱらいそうになるほどだ。
 そんな上原ひろみを見ていたから、『BLUE GIANT』の音楽を担当すると聞いたときは、期待と心配が半々くらい入り混じった気持ちになった。
 最初は、上原ひろみが原作にインスパイアされた楽曲を10曲くらいスタジオで録音し、その曲を映像にはめていくのかと思った。アーティストが手がける映画音楽でちょくちょく見られる手法である。
 ところが、作品を観て、サントラを聴いてびっくり。
 正攻法の映画音楽なのである。
 音楽を先に作って画に合わせるのではなく、ちゃんとシーンの雰囲気と尺に合わせた曲を書き、演奏している。そのことにとても感心した。もっと言えば、上原ひろみがこういう曲を書くとは思わなかった。
 まず注目は、劇中でJASSが演奏する曲。ピアノ・上原ひろみ、サックス・馬場智章、ドラム・石若駿の演奏で録音されている。3人はもともと一緒に活動していたわけでなく、馬場は大のサックスをイメージして、石若は玉田のドラムをイメージして選ばれたメンバーである。レコーディングでは、上原が雪祈に、馬場が大に、石若が玉田にそれぞれなりきって音を出している。そこがふつうのジャズサントラとは違うところだ。
 たとえば玉田は作品の中で初めてドラムを叩き始め、しだいに上達していく。その過程を石若駿が演奏で表現している。それぞれが自分の本来の演奏スタイルを抑えて、「大っぽいサックス」「雪祈っぽいピアノ」「玉田っぽいドラム」になるよう相談しながらプレイした。3人はプレイヤーであると同時に、この作品の重要な「キャスト」なのである。
 だからこそ、劇中の演奏がリアリティを持って迫ってくる。「世界一のジャズミュージシャンになる」という大の強い思いや、「テクニックはあるけれど面白くない」と言われてしまう雪祈の葛藤、ドラムがうまく叩けない玉田の悔しさなどに説得力が生まれる。作品に映像や言葉では表現しきれない圧倒的な説得力を与えているのが3人の演奏なのだ。
 いっぽう、劇中音楽は意外なほどオーソドックスだ。ピアノ、ギター、ベース、ドラムにパーカッション、フルート、クラリネット、サックス、ストリングスなどを加えた編成。演奏メンバーも、ピアノの上原ひろみ以外はJASSのメンバーと変えて、サウンドに違いを出している。
 本作のサウンドトラック・アルバムは、「BLUE GIANT オリジナル・サウンドトラック」のタイトルで2月17日にユニバーサルミュージックからCDと配信でリリースされた。4月19日には同内容のアナログ盤の発売が予定されている。
 収録曲は以下のとおり。

  1. Impressions
  2. Omelet rice
  3. Day by day
  4. Kawakita blues
  5. Ambition
  6. BLUE GIANT 〜Cello & Piano〜
  7. Motivation
  8. In search of…
  9. The beginning
  10. Monologue
  11. Forward
  12. Another autumn
  13. Next step
  14. Challenge
  15. Kick off
  16. Samba five
  17. N.E.W.
  18. Recollection
  19. No way out
  20. New day
  21. Reunion
  22. Count on me
  23. Faith
  24. Nostalgia
  25. What it takes
  26. WE WILL
  27. From here
  28. FIRST NOTE
  29. BLUE GIANT

 劇中に流れる音楽を登場順に収録したサウンドトラックらしい構成のアルバムである。
 1曲目の「Impressions」は上京した大が東京の風景に感激するシーンに流れる曲。「Impressions=印象」のタイトルがシーンにぴったりだ。ジャズ界の巨人、ジョン・コルトレーンの曲をピアノ・上原ひろみ、テナーサックス・本間将人、ベース・田中晋吾、ドラム・柴田亮のカルテットが演奏した。シーンからすればふつうの劇伴でもいいところだが、冒頭にジャズの名曲を流すことで「ジャズの劇場作品」だと宣言しているように感じられる。
 注目すべきJASSの演奏は、トラック17「N.E.W.」、トラック26「WE WILL」、トラック28「FIRST NOTE」、トラック29「BLUE GIANT」の4曲。
 「N.E.W.」は音楽フェスに出場したJASSが1曲目に演奏する曲。サックスのソロから入るのがキャッチーだ。この曲はアニメ化が決まる前に上原が原作に感動して書いていた曲のひとつ。
 「WE WILL」はクライマックスのライブで大と玉田が演奏する曲。楽器はサックスとドラムだけ、ジャズで重要なコード(和音)を響かせる楽器が入らないため、上原も作曲に苦心したという。劇中の2人そのままの緊張感に満ちた演奏が聴きどころ。
 「FIRST NOTE」はライブのアンコールで演奏される曲。JASSが初めてライブで演奏したときの「へたなバージョン」もあるのだが、それはサントラに収録されていない。上原ひろみによれば、JASSにとって大きな意味を持つ曲であり、劇中何度も流れる曲なので、作曲に一番時間がかかったという。
 「BLUE GIANT」はエンドクレジットに流れる曲。上原ひろみが上記3曲をレコーディングしているときに曲想を得て書き上げた。劇中にはピアノとチェロによるバージョン(トラック6)も流れる。実は冒頭で大が吹いているサックスもこの曲と同じフレーズを奏でている。本作のメインテーマとも呼べる曲である。
 本アルバムには、ほかにも「劇中のバンドが演奏する曲」という設定の曲がいくつかある。
 トラック4「Kawakita blues」は大が東京のライブハウスで聴く曲。このとき雪祈の演奏を聴いて、大は雪祈とジャズをやろうと考える。ギターはこの曲だけ参加の田辺充邦。エフェクターを使った、ちょっと古いタイプのサウンドで雰囲気を出している。
 トラック12「Another autumn」は大たちが「SO BLUE」を見学に行ったときに演奏されていたバラードの曲。
 トラック16「Samba five」はJASSが参加した音楽フェスでJASSの前に出演したグループが演奏していた曲。この曲は作曲者も異なり、Netflixアニメ『ULTRAMAN』や劇場アニメ『すずめの戸締まり』の音楽を手がけた陣内一真が作曲している。ホーンセクションがにぎやかなサンバ風の曲だ。
 トラック22「Count on me」は、雪祈が急遽呼ばれて、来日した海外のジャズバンドと一緒に演奏する曲。トラック1「Impressions」と同じメンバーで録音されている。雪祈になりきって上原ひろみが弾く「内臓をさらけだす」ようなアドリブが聴きもの。
 雪祈は劇中のさまざまな会場で大きさの異なるピアノを弾いている。上原ひろみもスタジオに3台のピアノを入れて、シーンに合わせたピアノを使って演奏したそうだ。ミュージシャンならではのこだわりである。
 残りのトラックのほとんどは劇伴として作られた曲である。
 大と玉田が一緒にオムライスを食べる場面のトラック2「Omelet rice」を聴くと劇中音楽の方向性がわかる。ノリよく軽快に、しかし、映像やセリフのじゃまをしないよう、主張は抑えて演奏されている。続く場面に流れる「Day by day」も同様だ。曲によっては指揮者を立てて演奏していることからも、こうした曲がジャズのセッションではなく、背景音楽であることを意識して作られていることがわかる。
 が、そんな中でも勢いのあるジャズっぽい曲が聴けるのが本作の音楽ならでは。
 3人の活動が始まる場面のトラック9「The beginning」や大がバンドを「JASS」と命名する場面のトラック11「Forward」、大たちが音楽フェスに向けて練習を始める場面のトラック15「Kick off」などは、大たちの鼓動がそのまま音楽になったような熱いナンバーになっている。
 いっぽう、初ライブのあとで大たちが語らう場面のトラック10「Monologue」を始め、トラック14「Challenge」、トラック18「Recollection」、トラック19「No way out」、トラック21「Reunion」、トラック24「Nostalgia」などは、しみじみと心にしみる曲調で書かれていて、上原ひろみの作曲家としての幅広い才能を感じさせる。

 本作のサウンドトラック・アルバムは上原ひろみのアルバムとして、ジャズファンのあいだでも評判になった。
 しかし、これを上原ひろみのアルバムとして聴くと、少し期待はずれかもしれない。
 ピアニスト・上原ひろみよりも、作曲家・上原ひろみが前面に出たアルバムだと思うからだ。上原ひろみのファンよりも、劇場作品『BLUE GIANT』に感動したファン、または、上原ひろみが好きなサントラファン向けのアルバムだと思う。ピアニスト・上原ひろみと作曲家・上原ひろみのふたつの顔が楽しめるのが、本アルバムの面白さであり、魅力である。
 このアルバムが気に入ったら、上原ひろみのオリジナル・アルバムを聴き、彼女のライブを聴きに行くことをお奨めしたい。なんといっても、生で聴いてこそのジャズだから。

BLUE GIANT オリジナル・サウンドトラック
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アニメ様の『タイトル未定』
384 アニメ様日記 2022年10月2日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2022年10月2日(日)
早朝散歩では『劇場版 弱虫ペダル』『弱虫ペダル NEW GENERATION』 のサントラを聴く。トークイベント「第195回アニメスタイルイベント 沓名健一の作画語り[アクション作画編]」を開催。出演は沓名健一さん、安藤真裕さん、中村豊さん。定員を少なめに設定していたこともあるが、大勢のお客さんに来ていただいて、ありがたいことにチケットは完売。全体として、沓名さんと中村さんの「安藤作画への愛」が色濃いイベントとなった。トークでも話題にしたけれど、今回のイベントで配信がなかったのは安藤さんの要望だった。配信がなかったこともあり、安藤さんもリラックスした感じでお話してくれたと思う。

2022年10月3日(月)
事務所近くの自販機にホットの缶コーヒーが入っていた。嬉しい。早朝散歩は散歩道「いきいきウォーク新宿」を途中から途中まで。散歩では「TVアニメ『SPY×FAMILY』オリジナル・サウンドトラック Vol.1」を聴いた。その後、新宿中央公園でラジオ体操に参加。新宿中央公園内のむさしの森Dinerで「20品目のGOODバランスサラダ」をいただく。
新文芸坐でワイフと「ベルファスト」(2021・英/98分/DCP)と「カモン カモン」(2021・米/108分/DCP)の2本立てを観る。プログラムのタイトルは「モノクローム、ハートウォーム」。両作とも内容についてはほぼ知らずに鑑賞した。「ベルファスト」も「カモン カモン」も映像は白黒(「ベルファスト」は一部がカラー)で、子どもと大人の関係を描いている。両作とも予算も手間もかかっており、物語も映像もしっかりとした仕上がり。「ベルファスト」は監督の自伝的な作品で、舞台は1960年代末の北アイルランド。お話としての面白さは薄いのだけれど、描かれている状況(プロテスタントがカトリックに攻撃をし、街に暴動が起きる)が興味深く、緊張感は維持されている。4K作品の4K上映で、いい画がいくつもあった。アメコミ、映画、TV番組など、主人公が触れていたフィクションの描写が丁寧だった。父親が英国から買ってきたお土産の「国際救助隊なりきりセット」も印象的。「カモン カモン」は現在の話で、独身中年の主人公が幼い甥の面倒をみることになる。似たプロットの映画は過去に沢山あったはずだが、それらとはかなり違っているはず。着想が面白いし、脚本も巧い。役者もいいし、何よりも芝居が素晴らしい(演出プランもいい)。街の撮り方もよかった。主人公はジャーナリストで、色々な子供へのインタビューが何度か挿入される。そのインタビューが非常に雄弁であり、雄弁さが鼻につかないと言えば嘘になるが、この映画には必要なものだったと思う。好きなタイプの映画ではないのだけれど、楽しめた。1本の映画としては「カモン カモン」のほうが楽しめたけれど、それとは別に、似た映画を2本連続で観たことの満足感があった。名画座ならでは贅沢な鑑賞だった。
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』1話を視聴。ネットで『少女革命ウテナ』に似ていると話題になっているのを目にしてからの視聴だったので、ニヤニヤしながら観た。話は変わるが、SNSである方の発言を目にしてから『宇崎ちゃんは遊びたい!ω』はタイトルロゴをチェックすると、確かにωに「だぶる」とルビがふってある。ω(オメガ)をダブルと読ませるということね。難易度高いなあ。他には『SPY×FAMILY[第2クール]』『農民関連のスキルばっか上げてたら何故か強くなった。』『勇者パーティーを追放されたビーストテイマー、最強種の猫耳少女と出会う』『ハーレムきゃんぷっ!』『悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました』の1話に目を通した。

2022年10月4日(火)
最近は「あの作品のサントラはあるかな」と思って検索すると、かなりの確率でサブスクにある。この数ヶ月で聴いて、特によかったサントラは『天空のエスカフローネ』1~3、『ブレンパワード』だった。CDで購入したら数万円分のサントラを、毎月サブスクで聴いているはず。かなりの贅沢をしている気分だ。
確認することがあって、『EUREKA/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』を配信で視聴。「ハイエボリューション」3作を映画館で連続して観たら面白いだろうなあ。
この日、目を通した新番組の1話は『ゴールデンカムイ[第4期]』『名探偵コナン 犯人の犯沢さん』『新米錬金術師の店舗経営』『ベルセルク 黄金時代篇 MEMORIAL EDITION』『ポプテピピック TVアニメーション作品第二シリーズ』『アイドリッシュセブン Third BEAT![第2クール]』。「タツノコタイムズ」第1回の「宇宙エース」も観る。それから、ここ数日は「出没!アド街ック天国」の雑司ヶ谷の回を繰り返し観ている。

2022年10月5日(水)
グランドシネマサンシャインで『秒速5センチメートル』【IMAXレーザーGT版】を鑑賞。技術を駆使して、画質の底上げをしていると思われるが、やはり、IMAXで上映するには解像度が足りていない(解像度以外にも問題があるのかもしれない)。ではあるが、客席には若い観客が多く、『君の名は。』以降のファンが『秒速5センチメートル』を劇場で観る機会を得たのは悪いことではないと思った。僕自身は映画館から帰った後、『秒速5センチメートル』の配信を小さいウィンドウで観て、自分の記憶にある『秒速5センチメートル』の映像を再確認した。
TOKYO MXで始まった『新世紀エヴァンゲリオン』と『マジンガーZ』の2本立ての初回を録画で視聴。『新世紀エヴァンゲリオン』の予告は当たり前だけど、15秒バージョンだった。サブタイトルに読み仮名も無し。『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』の後でTVシリーズを観ると、ゲンドウの見え方がかなり違ってくる。『マジンガーZ』は映像が猛烈に鮮明でびっくり。流石は35mmフィルムだ(ちなみにTV『新世紀エヴァンゲリオン』が使っているのは16mmフィルム。そのため今回の放映では1990年代の『エヴァ』よりも1970年代の『マジンガーZ』のほうが映像が鮮明になっている)。番組中で『マジンガーZ』関連のCMをやっているのも嬉しい。提供がLEVEL5で「メガトン級ムサシX」のCMも入っていて、ちゃんとTV番組として機能している感じ。
TOKYO MXの火曜19時からの『エヴァ』『マジンガーZ』の並びも凄いけど、月曜18時半からの「アニメ『ゲゲゲの鬼太郎』歴代セレクション」「タツノコタイムズ」の並びも凄い。改めて番組表を見ると、TOKYO MXは他の曜日の19時前後のプログラムも似た意図を感じる。言葉にすると「アニメの歴史を俯瞰できるプログラム」だ。やるなあ。
引き続き、新番組の視聴も続けている。『ヤマノススメ Next Summit』1話の新作部分はお馴染みの一人原画。作監無しで総作監一人。総集編部分は話がみっちり。作画もよくて見応えがあった。

2022年10月6日(木)
グランドシネマサンシャインで『四畳半タイムマシンブルース』を鑑賞。シンプルにお話が面白かった。配信作品の総集編ということで、ハードルを下げて観たのがよかったのかもしれない。『四畳半神話大系』の登場人物達にまた会うことができたのも嬉しかった。『四畳半神話大系』のその後の話かと思ったらそうではなく、アナザーワールドの話。物語のタッチとしては『四畳半神話大系』よりも若々しいかな。多分、明石さんの描き方が『四畳半神話大系』とちょっと違う。『四畳半タイムマシンブルース』のほうが普通の女の子っぽいか。アニメーションのスタイルとしては『四畳半神話大系』のスタイルを踏襲。作画には遊びもあり、楽しく作っている感じ。
「設定資料FILE」の構成を始める前に、構成の素材となる設定資料と向き合う。
この日、目を通した新番組の1話は『モブサイコ100 III』『Do It Yourself!! どぅー・いっと・ゆあせるふ』『不徳のギルド』『陰の実力者になりたくて!』『転生したら剣でした』『ヒューマンバグ大学 不死学部不幸学科』『VAZZROCK THE ANIMATION』。気になることがあって『らき☆すた』1話を観る。

2022年10月7日(金)
午前中の散歩時と、その後の作業中に「コンプリートサウンドトラック 涼宮ハルヒの完奏」を聴く。4時間49分もあるプレイリストだが、全部を聴いた。午後に始めた「設定資料FILE」の構成は夜には終了。その後、プログラム「夜に薫り立つ、ニヒル 新東宝の天知茂」を開催中の新文芸坐に。余裕があったら作品の上映も観るつもりだったのだけど、それには間に合わず、春日太一さんと上坂すみれさんのトークショーのみを観覧する。
この日、目を通した新番組の1話は『アキバ冥途戦争』『虫かぶり姫』『マブラヴ オルタネイティヴ[第2期]』「ボイスドラマスペシャル~SHIRANAMI 5 見参!!」『Sylvanian Families フレアのハッピーダイアリー』。

2022年10月8日(土)
朝の散歩時に「TVアニメ『ツルネ ―風舞高校弓道部―』オリジナルサウンドトラック」を聴く。午前中に健康診断。「邦画プレゼン女子高生 邦キチ! 映子さん」Season8をKindleで読む。前にも書いたかもしれないけど、オタク男子とって駒木は理想的な後輩女子なのではないか。この日、目を通した新番組の1話は『令和のデ・ジ・キャラット』『聖剣伝説 Legend of Mana The Teardrop Crystal』『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』『メガトン級ムサシ シーズン2』。
新文芸坐が今後、オールナイト上映が原則として隔週開催になることをTwitterで発表した。詳しくは以下にリンクしたツイートとそのツリーを読んでもらいたい。 #いつまでもあると思うなオールナイト上映 のハッシュタグは僕にとって記憶に残るものになるだろう。映画視聴のスタイルに変化があるのは僕もよく分かっている。これから、新文芸坐とアニメスタイル共同企画のプログラムも変わっていくだろう。

https://twitter.com/shin_bungeiza/status/1578436685855346691?s=20

番外(2022年10月8日(土)頃のメモ)
以下はアニメの画質についての話。現状での僕の認識であって、間違いもあるかもしれない。SDが(720×480)480、HDが(1280×720)720、フルHDが(1920×1080)1080、4Kが(3840×2160)2160ということで話を進める。

(1)制作プロダクションが、TVアニメをテレビ局に納品する際の解像度は1080(納品時は1080pではなくて、1080i)。
(2)地上デジタル放送では横幅を1440に圧縮して送信。これをTV側で1920に引き伸ばして表示している。そのため、地デジの解像度は基本的には1440×1080。つまり、地デジの解像度はHDとフルHDの間の数値である。
[参考]https://jp.fujitsu.com/family/familyroom/syuppan/family/webs/digital/index6.html?fbclid=IwAR0a_M7ODp_uwQsIodd1mylLxYAecrtEfxNE184J4496KYUlUUTwlfIqurE
(3)地デジで一局だけ、フルHDで放送しているテレビ局がある。KBS京都だ。
[参考]https://www.phileweb.com/review/column/202206/15/1692.html
(4)1920×1080で放送しているBSのチャンネルはNHK BSプレミアム、WOWOW、 BS11のみ。他のBSのチャンネルは地デジと同じ1440×1080。以前は他のBSのチャンネルも1920×1080だったが、2018年に1440×1080となった。
[参考]https://av.watch.impress.co.jp/docs/news/1101216.html?fbclid=IwAR2lGVnjD2AgrlfSRnKHDAHM9QPNgggh8YXmm7aNttajQxcR5vKUIsRoBvQ
(5)BSのフルHDは1080i。1080pの計画もあるがまだ採用されていない。
[参考]https://www.soumu.go.jp/soutsu/kanto/bc/bs/gaiyo/bsdi_02.html?fbclid=IwAR2m1oEqmOyR4b5g8TzHJD2StlzMEFUay9xfuA55HFxqkjcaySmB5zwKdn8
(6)BSのフルHDは1080i、配信のフルHDは1080p。
(7)配信サイトでは1280×720と1920×1080を、まとめてHDと表記している場合が多いはず。
(8)Blu-rayソフトは1080pの場合と1080iの場合がある。
(9)BS、配信、Blu-rayソフトで、同じフルHDで画質が違うとしたら、理由はビットレートの違い。あるいは1080pと1080iの違い、等。

第793回 やはり、色々考えます

 ラッシュ・チェックをしては、リテイクをいくつか出し、自分も参加して直す。そして、またリテイク上りを確認する、が繰り返される日々。何年やってきても楽しくもあり、悔しい思いもすれば悲しい思いもする“納品”とは本当に悲喜こもごも。
 監督の自分としては、

すべてを受け入れる覚悟をする儀式!

スタッフ一同精いっぱい作ったフィルムが完成する瞬間——その労をねぎらいこそすれ、自分の不満は決して言わないようにしています。そりゃあ、正直言うと思ったとおりになっていないことは多々ありますが、それでもすべてを受け入れて、次に進むのです!
 当然、俺も人間ですから不満が爆発してしまいそうになった時もありましたが、そんな時は“それもこれも己の力不足に起因した事態ではないか?”と自分を省みるようにしています。そうすると、「じゃあ次はこうしてみよう!」と新たな作戦が生まれてきます。その繰り返しの“監督20年間”です。じゃ、また——。

アニメ様の『タイトル未定』
383 アニメ様日記 2022年9月25日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。

2022年9月25日(日)
「新文芸坐×アニメスタイルSPECIAL「『ストレンヂア 無皇刃譚』15周年 #ストレンヂアはいいぞ!」を開催。コメンタリー上映の前に、16時30分からの通常上映を少し観る。コメンタリー上映は19時から。安藤真裕監督と中村豊さんが映像を観ながら話すという形式で、大変に充実したイベントとなった。中村さんが他のスタッフからコメントをもらってきてくれたのもよかった。同じ形式で他作品の上映もやってみたいけれど、作品と人によってまるで違ったイベントになるのだろうなあ。

2022年9月26日(月)
Twitterでアニメのレイアウトが話題になっていたのをきっかけにして、宮崎駿さんのレイアウトについて書こうと思って『アルプスの少女ハイジ』の再視聴を開始。配信で1話から12話まで観た。「様式」とか「映画的な説得力」も凄いんだけど、それと同時に宮崎さんの「個々のカットを『画』にしようとする意欲」が凄い。それから、今回もアルムおんじの目線でドラマを観てしまう(後日追記。結局、この時期にレイアウトの話は書かなかった)。

2022年9月27日(火)
昼前の散歩で池袋から高田馬場まで歩いて、小豆島 大儀 高田馬場店で、前から食べてみたかった「岬のたらい手延べうどんセット」を食べる。
『アルプスの少女ハイジ』は20話まで観た。『CAT’S EYE』のDVD BOOKも少し観る。

2022年9月28日(水)
ここ数日、朝の散歩で『機動武闘伝Gガンダム』のアルバムを聴いている。「GUNDAM FIGHT-ROUND 3 新香港的武闘戯曲」を聴いたのは当時以来かも。かなり内容を忘れていた。グランドシネマサンシャインで『映画デリシャスパーティ▼プリキュア 夢みる▼お子さまランチ!』(▼はハートマーク)を鑑賞。『アルプスの少女ハイジ』の視聴も続く。

2022年9月29日(木)
朝の散歩時には『機動武闘伝Gガンダム』の「GUNDAM FIGHT-ROUND 4」「同・5」を聴く。アルパムではレインが、というか、天野由梨さんが大活躍。『アルプスの少女ハイジ』の視聴も続く。

2022年9月30日(金)
『5億年ボタン』最終回まで視聴。2話くらいで、観念的ハードSFアニメなのかと思ったのだけれど、そちらのほうには進まず。最終回で5億年ボタンの話としてまとまるかと思ったら、そんなこともなかった。ではあるけれど、とんでもない番組であったのは間違いない。それについては記憶に留めたい。制作スタッフは楽しかったのだろうか。楽しかったならいいな。
ところで『うる星やつら』の新テレビシリーズが、各回1話なのか各回2話なのか、あるいは各回3話なのかが気になっている。改めて原作を読むと、各回3話でもいけそうな気がする。
Twitterで『サイバーパンク: エッジランナーズ』について、現在のところ、Blu-ray Boxなどのパッケージの販売予定がないということを知る。映像パッケージが重要でない時代になっていく。

2022年10月1日(土)
グランドシネマサンシャインで「アバター:ジェームズ・キャメロン 3Dリマスター」【IMAXレーザーGT3D字幕版】を鑑賞。通常の感覚で観ると、話はかなりユルい。ではあるけれど、観客が作品世界に没入することが目的の映画であるなら、これでいいのかもしれない。ところで、このシリーズはタイトルが「アバター」だから、今後の続編でもアバターを出し続けなくてはいけないのだろうか。
朝の散歩時に『新機動戦記ガンダムW』のアルバムをサブスクで聴く。「OPERATION 1」がBGM、「OPERATION 2」がキャラソンとBGMの構成でちょっと驚く。「OPERATION 3」と「同・4」はまだ聴いてないけど、「3」は同様の構成で「4」はボーカル集らしい。時代だなあ。
引き続き『アルプスの少女ハイジ』を視聴。とにかく、アルムおんじがよく描けている。36話でパン屋の主人が、ハイジのことを「いい子だね。あの子は」と言ったあたりから、アルムおんじの表情が緩くなっているのがよかった。ハイジがフランクフルトから帰ってきたのが嬉しかったんだろうなあ。その後、ハイジがお嬢様と呼ばれていたと聞いて笑うという流れになるのだけれど、笑ったのはお嬢様と呼ばれていたのが可笑しいからだけではない。シリーズ全体としては、ハイジと暮らすようになってからも、おんじがハイジがいないところでは「かなりめんどうくさい人」として描かれているのがいい(ハイジがいるところでは他人に気を使っている)。ハイジは基本的には大人が考えた「いい子ども」なんだけど、言動が率直過ぎてペーターを軽く傷つけることがあるのがいい。フランクフルトでの生活について、おんじやペーターがどこまで知っているのかを把握しないで話をしたりするのがいい。

第250回 破壊と創造 〜チェンソーマン〜

 腹巻猫です。マンガ家の松本零士さんが亡くなりました。『宇宙戦艦ヤマト』『銀河鉄道999』『宇宙海賊キャプテンハーロック』『1000年女王』……と当コラムでも代表的な「松本アニメ」の音楽を取り上げました。これらの作品がなければ、現在のアニメ音楽はなかったかも。仕事で「松本零士音楽大全」と「銀河鉄道999 エターナル・エディション・シリーズ」に関われたのが大切な思い出です。ありがとうございました。心より哀悼の意を表します。


 NHKの番組で小室哲哉のインタビューを観ていたら、最近、AIを利用して曲を作ったと話していて、思わず身を乗り出した。自分の曲をAIに学習させ、「小室哲哉風のメロディ」を生成させて、それに手を加えて新曲を書いたのだという。
 実は映像音楽でも曲作りにAIを利用した作品がある。牛尾憲輔が音楽を手がけた『チェンソーマン』である。
 『チェンソーマン』は2022年10月から12月まで放映されたTVアニメ。藤本タツキのマンガを監督・中山竜、アニメーション制作・MAPPAのスタッフで映像化した作品だ。
 悪魔と呼ばれる怪物が跋扈する世界。父が遺した借金を返すためにデビルハンターとなったデンジは、悪魔との戦いで命を落としてしまう。しかし、デンジは相棒のチェンソーの悪魔ポチタから心臓をもらい、チェンソーマンとなってよみがえった。公安警察の対魔特異4課にスカウトされたデンジは、女性リーダーのマキマ、同僚のアキ、パワーらとともに凶悪な悪魔と戦うことになる。

 本作の音楽については藤津亮太氏による牛尾憲輔インタビューが「クイック・ジャパン」vol.164に掲載され、それを再編した記事がWEBサイト「クイック・ジャパン・ウェブ」で公開されている。さらに、サウンドトラックCDのブックレットにも同じく藤津亮太氏によるインタビューが掲載されており、そちらではさらに深堀りした内容を読むことができる。
 牛尾憲輔の言葉によれば、原作を読んで受けた印象は「メチャクチャ」だったそうだ。その「メチャクチャ」を音楽に落とし込もうと考えた。そのために牛尾が使った手法が面白い。一度作った曲を切り刻んで編集したり、プログラムでランダムに生成したリズムを使ったりしたのだ。生演奏でもインプロビゼーションやアドリブといった即興を重視した手法があるが、コンピュータを利用して同様のことを行おうとした点がユニークである。
 特にバトルシーンに流れる曲に、そうした手法を使ったものが多い。「the devil appears」という曲では、ブレイクビーツを切り刻み、リズムがあるのかないのかわからないくらいメチャクチャにした。「the devil hunter」という曲では、AIで生成した音とプログラムで自動生成させた音を共演させている。
 心情描写に使われるゆったりした曲でも同様の手法が使われている。抒情的なメロディに切り刻んだギターのフレーズを重ねたり、ノイジーな加工をしたりして、独特の雰囲気を作り出した。通常のアニメだと耳障りになりそうだが、『チェンソーマン』の世界観にはそれが合っていた。
 本作のサウンドトラック・アルバムは、テレビアニメの放映中にリリースされた配信版EPと放送終了後にリリースされた「完全版」の2種類がある。配信版EPは、2022年10月リリースの「Chainsaw Man Original Soundtrack EP Vol.1 Episode 1-3」(11曲収録)と2022年11月リリースの「同 EP Vol.2 Episode 4-7」(10曲収録)、そして、2022年12月リリースの「同 EP Vol.3 Episode 8-12」(8曲収録)の3タイトル。完全版は2023年1月に「Chainsaw Man Original Soundtrack Complete Edition – chainsaw edge fragments -」のタイトルでCD(2枚組)と配信でリリースされた。
 完全版サントラは49曲収録。配信リリースされたEP3タイトルの曲をすべて含んでいるが、曲順は変更されている。EPを並べて未収録曲を追加したのではなく、全49曲のアルバムとして構成し直しているのだ。
 ディスク1の収録曲は以下のとおり。

  1. edge of chainsaw
  2. the door
  3. imagine devils
  4. the devil hunter
  5. rain
  6. nail-biter
  7. black despair
  8. that’s a dream come true
  9. special division 4
  10. looking for something
  11. livingroom
  12. chainsaw attacks!
  13. the devil appears
  14. destroy them all
  15. good night,boy
  16. sweet dreams
  17. eat.sleep.play
  18. 100% sales tax
  19. kick ass!
  20. the golden bowlers
  21. search and destroy
  22. death cluster
  23. run
  24. confront
  25. humans are fools
  26. buddy
  27. song for unbirthday
  28. verge of death
  29. nmgeai
  30. dream… come true?

 1曲目の「edge of chainsaw」はチェンソーマンのバトル曲。第1話でデンジが初めてチェンソーマンとなって悪魔を倒す場面から流れた、チェンソーマンのテーマとも呼ぶべき曲だ。最終話クライマックスのサムライソードとの戦いの場面で流れたのも印象深い。
 『チェンソーマン』の音楽の中では比較的ストレートなロックの曲で、ヒロイックなバトル曲として聴ける。が、曲の後半はリズムが切り刻まれた混沌としたサウンドに変わっていく。バトルが激化していくようすを曲調の変化で表現しているようだ。
 2曲目「the door」はシンプルなメロディの心情曲。第1話でデンジがポチタの心臓をもらってよみがえる場面や第4話のパワーとニャーコの思い出の場面などに使われた。心温まるシーンを彩る曲だが、ノイジーに加工されたギターの音などが重なって不穏な空気がただようのが『チェンソーマン』ならでは。
 効果音的な恐怖曲「imagine devils」をはさんで、トラック4「the devil hunter」はふたたびバトル曲。第2話でパワーがナマコの悪魔を一撃で倒す場面や第4話でのヒルの悪魔との戦い、第8話、第9話でのサムライソードとの戦いの場面などに流れた代表的なバトル曲のひとつ。切り刻まれたブレイクビーツがチェンソーの音にも聴こえる。本作の音楽のコンセプト「メチャメチャ」を体現した曲だ。
 続くトラック5「rain」は悲しみの曲。第1話でデンジがポチタと出会う回想シーン、第10話でアキが姫野の死を悼んで泣く場面などに使われた。ロングトーンのメロディに切り刻んだノイズを重ね、しんみりしすぎない抑えたタッチの曲に仕上げている。
 ほかの心情曲では、第1話でデンジがマキマにハグされて人間の姿に戻るシーンのトラック8「that’s a dream come true」、第8話で姫野が自分の命と引き換えにアキを助ける場面のトラック16「sweet dreams」、第6話でアキがデンジをかばって刺される場面のトラック30「dream… come true?」などが記憶に残る。
 雑誌「Newtype」の2022年12月号で、牛尾憲輔は本作の音楽について「僕が自由に曲をつくるとメロウな曲ばかりを書いてましたね。デンジとかアキの気持ちをちゃんと昇華したい。つらいときの気持ちをきちんと描いてあげたいという気持ちがあったんじゃないかな」と語っている。
 そうやって書いた曲を切り刻んだり、ノイズを乗せたりして完成させたのが今回の心情曲。メロディやアレンジで雰囲気を変えるのではなく、電子的な細工で曲のトーンや距離感を調整しているのがとても現代的だし、牛尾憲輔らしい。
 本作には、いわゆる「日常曲」に分類される曲もある。
 公安対魔特異4課に所属したデンジが同僚のアキに引き合わされる場面のトラック9「special division 4」、第5話でデンジがマキマに手をとられてドキドキする場面のトラック10「looking for something」、パワー登場場面に流れたトラック18「100% sales tax」、第2話でデンジがアキの尻をける場面や第7話でデンジが姫野にキスされる場面のトラック19「kick ass!」、第4話でデンジがパワーの胸をもませてもらう場面のトラック20「the golden bowlers」などだ。こうした曲は、バトル曲やサスペンス曲に比べるとノイジーな加工や編集は控えめ。本作では貴重な、ほっとするシーンや笑えるシーンに流れる曲だからだろう。アルバムの中でも親しみやすい曲になっている。
 やはり本作らしい音楽と言えるのは、激しいバトル曲や強烈なサスペンス曲である。
 第1話でデンジがゾンビの群れに追いつめられる場面のトラック6「nail-biter」、第2話で初出動したデンジが魔人と対面する場面のトラック21「search and destroy」、第3話でデンジがコウモリの悪魔にとらえられる場面のトラック28「verge of death」などは代表的なサスペンス曲。悪魔出現場面やデンジたちのピンチの場面にたびたび使用されている。「search and destroy」は「探索」をテーマにした曲で、低くうなるシンセの音に金属的な音を重ねて緊張感、不安感をかもしだす。インダストリアル・ミュージック的なサウンドが『チェンソーマン』の世界観にマッチしている。
 トラック12「chainsaw attacks!」は1曲目の「edge of chainsaw」と並ぶチェンソーマンのバトル曲。こちらのほうがより『チェンソーマン』的だ。切り刻まれたリズムとノイジーなサウンドが融合し、すさまじくテンポの速い激しい曲になってる。第3話のコウモリの悪魔との戦い、第7話の永遠の悪魔との戦い、第12話のサムライソードとの戦いなど、数々の死闘を盛り上げた。牛尾憲輔によれば、こういう曲は1小節作るだけですごく時間がかかるため、「1日かけて2秒くらいしかできない」のだそうだ。プログラムやAIを使ったからといって制作時間が短縮されるわけではないのである。
 トラック13「the devil appears」は、切り刻まれたリズムが混乱と危機感を描写する曲。第3話のコウモリの悪魔との戦いや第5話でホテルの部屋から首だけの悪魔が現れる場面などに使われた。第9話でサムライソードにねらわれたデンジをコベニが助ける場面にも流れている。狂ったような激しいテンポで演奏されるトラック14「destroy them all」も同じコンセプトの曲だ。
 トラック12からバトル曲が3曲続く構成はなかなか刺激的。連続で聴くと頭がくらくらしてしまう。
 シンセのうなりと機械的なリズム、ノイズ、ボイスなどがミックスされたトラック23「run」は、バトルのイメージよりも不気味なサスペンスがまさった曲である。第1話でデンジがゾンビを皆殺しにしようとする場面や第8話のアキ対サムライソードの戦いの場面などで使われた。なんといっても印象深いのは、第9話でマキマが行う謎の儀式によってヤクザたちが次々と死んでいく場面。トラック25「humans are fools」と続けて使用されて、背筋が凍るような場面を生み出した。ドラマティックに感情をあおるような曲でないだけに、恐ろしさが際立つ。これも『チェンソーマン』らしい曲と言えるだろう。

 日本の映像音楽の最前線に触れたかったら、ぜひ『チェンソーマン』のサントラを聴いてもらいたい。チェンソーのようにパワフルで切れ味の鋭い音楽がここにある。これはもはや「現代音楽」と呼んでよいだろう。
 AIが進化すれば、劇伴も自動生成した曲ですませる時代が来るのかもしれない。しかし、『チェンソーマン』では、プログラムやAIの力を借りて、さらに新しい音楽を生み出している。AIも刃物も使い方次第。ノイジーで混沌としたサウンドの向こうに希望を感じさせる作品である。

Chainsaw Man Original Soundtrack Complete Edition – chainsaw edge fragments -
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アニメ様の『タイトル未定』
382 アニメ様日記 2022年9月18日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2022年9月18日(日)
午前7時半から営業をしている「台湾早餐天国/TSUMUGU CAFE」で、ワイフと朝食。ここ数日は『Fate/Grand Order 絶対魔獣戦線バビロニア』を再見している。なんだかんだで、この作品の女性キャラは好きだなあ。

2022年9月19日(月)
新文芸坐で「女と男のいる舗道 4Kデジタル・リマスター版」【4K上映】(1962・仏/84分/DCP)を鑑賞。ブログラム「彼女たちと世界(4)」の1本(正確には(4)は丸数字)。客の入りは満員に近い。作品としてはいいところがいくつもあるし、映画的な時間が流れているとも感じたのだけれど、他のゴダール作品と同様に、公開当時のインパクトは想像するしかない。
スターチャンネルの「それ行けスマート/0086笑いの番号[吹]日曜洋画劇場版」を録画でながら観。「それ行けスマート」のTVシリーズは子どもの頃に観ていて、この劇場版は初めての視聴。悪の組織ケイオスが開発した新兵器は世界中の人間を全裸にしてしまうヌード爆弾で、その爆弾の計画を阻止するのがスマートの任務だ。スマートのパートナーの美女は34号、22号、36号で、34号を演じるのがシルビア・クリステル。敵の新兵器がヌード爆弾でヒロインがシルビア・クリステルだったら、お色気シーンを期待するところだけど、彼女のヌードは無し。最後に22号が裸になるけど、見えるのは肩から上だけ。その後に後ろ姿が見えるけど、すぐにENDマークで隠れてしまう。企画段階では22号をシルビア・クリステルにやらせたかったのではないかなあ。脚本段階では22号と34号が同一人物だった可能性もある(34号が登場している間、22号が登場しない)。ちなみに吹き替えキャストはスマートが小松政夫さん。34号が小宮和枝さん、22号が戸田恵子さん、36番が吉田理保子さん。

2022年9月20日(火)
10月からテレビで放映されるジャンプアニメをカウントしてみた。新番組として始まるのが(原作が「少年ジャンプ+」等で連載しているもの、先行して配信されていた作品も含めると)『SPY×FAMILY』第2クール、『BLEACH 千年血戦篇』、『チェンソーマン』、『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン』第2期、『僕のヒーローアカデミア』第6期継続番組が『BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS -』と『ONE PIECE』。合計で8作品だ。
Netflixで『恐竜少女ガウ子』の第2シーズンを観た。視聴履歴が残っていて、第1シーズンは観ているらしい。主人公の名前が渡辺奈緒子で、演じているのが松井菜桜子さんだ。原作・監督はしぎのあきらさん。第1シーズンを観た時も同じことを思ったはずだけど、『おそ松くん』の延長線上にある企画だったんだろうなあ。検索してみたら、公式サイトの「ガウ子の足跡」に「1980年代のどこか、松井菜桜子にインスパイヤされてガウ子の企画を考える。」とあった。
WOWOWで『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ―2人の英雄―』を放映していて、これがかなり綺麗。多分、Blu-rayソフトと同等の画質だろうと。ただし、ウチの環境では動きが速いところなどでブレが生じていた。同じ映画を同じモニターでU-NEXTで少し観てみたが、WOWOWほどパキっとした感じではない。ブレも多いかな。やっぱりWOWOWはいいなあ。

2022年9月21日(水)
ワイフと新宿ピカデリーで「川っぺりムコリッタ」を観た。予告も観ないでの鑑賞だったが、監督が荻上直子さんであることと、満島ひかるさんが出ていることは知っていた。ものすごく雑な感想を書くと「恋愛要素のない『めぞん一刻』」だった。主人公はアパートで暮らすことになった山田たけし(松山ケンイチ)。パートの管理人は南詩織(満島ひかり)で、彼女は「妊婦を見ると腹を蹴りたくなる」という変わり者。山田の部屋に入ってきて風呂をつかったり、冷蔵庫の中のものを勝手に食べたりする隣人が島田幸三(ムロツヨシ)。他のアパートの住人は一年中喪服を着て、墓を売っている溝口親子、自分が死んだことに気づいていないらしいお婆さんの幽霊。島田が図々しくあがりこんできたあたりで「ということは、満島ひかりさんの管理人は未亡人なのね」と思ったらそうだった。溝口親子がすき焼きを食べようとしたら、他の住人や南親子が部屋に入り込んですき焼きを食べ始めてしまうあたりも「めぞん一刻」的だと思った。「めぞん一刻」的であることがこの作品にとって重要なことではないが、書いておきたかった。
それはそれとして「川っぺりムコリッタ」は映画として面白かった。「身近な人の死に対していかに向き合うか」を描いた映画であるのだけど、それと同時に「味わい」の映画だった。ワイフはこの映画に入れ込んでいたようで、三度泣いたそうだ。それから、ちょっと話が飛躍するけれど『リラックマとカオルさん』はやっぱり荻上直子さんのカラーが強かったのだろうなあと思った。
映画の後で、新宿マルイメンの「スーパーロボット&ヒーローの世界 越智一裕画展」に立ち寄る。濃い空間だった。越智さんのイラストが本にまとまったことも、このようなイベントが開催されたことも、ファンにとって喜ばしいことだと思った。僕はサイン本を購入。高校の文化祭でもらうことができなかった越智さんのサインを、ようやく手に入れることができた。

2022年9月22日(木)
グランドシネマサンシャインで「ロード・オブ・ザ・リング」【IMAXレーザーGT字幕版】を鑑賞。この映画を観たのは初めて。長い映画だった。実際の時間も長いし、体感としても長かった。原作未読なので、原作との関係は分からないけれど、真摯に原作に向き合った作られた作品なのだろうと思った。IMAXに関しては、向いている場面と向いていない場面があった印象。
配信で『ストレンヂア 無皇刃譚』を観る。U-NEXTはハイビジョンだ。Amazon prime videoを確認したら、Amazon prime videoもハイビジョンになっている。以前は解像度が低いバージョンで配信していたはずだ。

2022年9月23日(金)
『それでも歩は寄せてくる』最終回が、予想していたよりも最終回らしい内容だったので驚く。あのまま告白するかと思った。『劇場版 呪術廻戦 0』のBlu-rayソフトで視聴。やっぱりこれは劇場で観たほうがいいな。Blu-rayの特典は今時らしく、あっさりした感じ。

2022年9月24日(土)
無責任な書き方になるけれど、自分の周りで『雨を告げる漂流団地』と『夏へのトンネル、さよならの出口』の評価が真っ二つに分かれていて面白い。『夏へのトンネル』に辛口な人が『雨を告げる漂流団地』を誉めている。その一方で『夏へのトンネル』を誉めている人もいる。感想はそれぞれだなあ。『雨を告げる漂流団地』に関しては配信で観たのか、劇場で観たのかで印象が違ってくるような気がする。
これからの仕事のために、あるアニメをチェックする。同じ話を何度も観たり、作画と演出を確認したり。それがこの日の主な作業だった。

第792回 ヤバいっ!!!

 タイトルから匂わせているとおり、大前提今回お茶濁しなのです。何か仕事が多過ぎてとにかくヤバい!
 今日日のコンテンツ過多による業界的人手不足、つまり作業者(アニメーターに限らず美術も)の絶対数に対してアニメの本数が多過ぎることによる忙しさに加えて、面白そうだから~の理由でお受けしたイラストの仕事が重なって(汗)。

まあ、いいや! 四の五の言う前に仕事に戻ります、ごめんなさい!
ではまた……

第202回アニメスタイルイベント
ここまで調べた片渕監督次回作14【人物の名前を覚えてもらうのは諦めました編】

 片渕須直監督は『この世界の片隅に』『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』に続く、新作劇場アニメーションを準備中です。まだ、タイトルは発表になっていませんが、平安時代に関する作品であるのは間違いないようです。
 新作の制作にあたって、片渕監督はスタッフと共に、平安時代の生活などを調査研究しています。その調査研究の結果を少しずつ語っていただくのが、トークイベントシリーズ「ここまで調べた片渕須直監督次回作」です。これまでのイベントでも新しい視点から見つけた、これまであまり語られていなかった「枕草子」の側面について語られてきました。

 2023年3月11日(土)に開催する第14弾のサブタイトルは「人物の名前を覚えてもらうのは諦めました編」。今回は「枕草子」に登場する人物の名前が話題となります。サブタイトルの「名前を覚えてもらうのは諦めました」とは、いったいどんな意味なのでしょうか。出演は片渕須直監督、前野秀俊さん。聞き手はアニメスタイルの小黒編集長が務めます。

 会場は阿佐ヶ谷ロフトA。今回も会場にお客様を入れての開催となります。イベントは「メインパート」の後に、ごく短い「アフタートーク」をやるという構成になります。配信もありますが、配信するのはメインパートのみです。アフタートークは会場にいらしたお客様のみが見ることができます。

 配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。また、今までの「ここまで調べた片渕須直監督次回作」もアニメスタイルチャンネルで視聴できます。

 チケットは2月16日(木)19時から発売となります。チケットについては、以下のロフトグループのページをご覧になってください。

■関連リンク
LOFT  https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/243372
会場チケット https://t.livepocket.jp/e/q5h7a
配信チケット https://twitcasting.tv/asagayalofta/shopcart/217452

 なお、会場では「この世界の片隅に 絵コンテ[最長版]」上巻、下巻を片渕監督のサイン入りで販売する予定です。「この世界の片隅に 絵コンテ[最長版]」についてはこちらの記事をどうぞ→ https://x.gd/57ICr

第202回アニメスタイルイベント
ここまで調べた片渕監督次回作14【人物の名前を覚えてもらうのは諦めました編】

開催日

2023年3月11日(土)
開場12時30分/開演13時、終演15時~16時頃予定

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

片渕須直、前野秀俊、小黒祐一郎

チケット

会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,500円、当日 1,800円(税込・飲食代別)
ツイキャス配信チケット/1,300円

■アニメスタイルのトークイベントについて
 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。