第142回 はみだし者の子守唄 〜TOKYO GODFATHERS〜

 腹巻猫です。来週10月27日公開される劇場アニメ『HUGっと! プリキュア・ふたりはプリキュア オールスターズメモリーズ』のサウンドトラック盤が、公開3日前の10月24日に発売されます。構成・解説・作曲家(林ゆうき)インタビューを担当しました。プリキュア15周年記念作品にふさわしく、音楽にも感動的な趣向が盛り込まれています。サントラ盤が思いきりネタバレになっていますので、公開前に購入された方は作品をご覧になるまで開封せず、ぜひ劇場で不意打ちの感動を味わってください!

映画 HUGっと!プリキュア・ふたりはプリキュア オールスターズメモリーズ オリジナル・サウンドトラック
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 前回も触れた劇場アニメ『若おかみは小学生!』を観て、「ほお」と思ったのが「音楽・鈴木慶一」のクレジットだった。
 鈴木慶一はロックバンド「ムーンライダーズ」の活躍で知られるミュージシャン。ギター、キーボード、ボーカル、作詞、作曲、編曲、プロデュースとその活動は幅広い。80年代にはムーンライダーズのメンバーとともに「綿の国星」や「わかつきめぐみの宝船ワールド」といった少女マンガのイメージアルバムを作り、映像音楽の分野でも北野武監督の「座頭市」(2003)、「アウトレイジ」(2010)、実写劇場作品「ゲゲゲの女房」(2010)、劇場アニメ『TOKYO GODFATHERS』(2003)、『聖☆おにいさん』(2013)、TVアニメ『Dororonえん魔くん メ〜ラめら』(2011)などの音楽を担当。近年ではTVアニメ『宝石の国』(2017)への楽曲提供も記憶に新しい。だから、『若おかみは小学生!』の音楽を担当するのは意外ではない。
 しかし、鈴木慶一が参加する映像作品は、実写でもアニメでも、社会からドロップアウトした者や妖怪・神様・仏様などこの世ならざるものを主役にした変化球的なものが多い印象がある。だから、児童文学を原作にした直球の感動作『若おかみは小学生!』の音楽を担当していて、「ほお」と思ったのだ。
 実際、『若おかみは小学生!』の音楽は、それまでの鈴木慶一のサウンドとは違った印象を受ける。コミカルなシーンの曲はわかりやすくポップに書かれているが、ドラマを支える音楽はクラシカルでリリカルで温かい。こういうストレートな音楽は、それまでの鈴木慶一作品にあまりなかった気がする。
 では、鈴木慶一らしさが出た作品は? ということで、今回は『TOKYO GODFATHERS』を取り上げたい。

 『TOKYO GODFATHERS』は2003年に公開された劇場アニメ。『千年女優』(2002)に続く今敏監督作品で、精緻な美術、作画は国内外で高く評価された。
 それぞれに過去を抱える3人のホームレス、ギン、ハナ、ミユキが、クリスマスの夜にゴミ溜めで見つけた赤ん坊の親を探して東京をさすらう物語。
 主役は東京の街、と思えるほど描きこまれた都会の風景と、細かい芝居がつけられたキャラクターの作画が見どころ。クライマックスでは人知を超えた奇跡が起こったようにも見える演出が今敏監督らしい。
 音楽は「鈴木慶一」とクレジットされているが、実際はムーンライダーズのメンバーが総出で担当している。ムーンライダーズというバンドはメンバー全員が作曲・編曲も手がけるのが特徴で、本作でも、鈴木慶一、岡田徹、武川雅寛、鈴木博文、かしぶち哲郎、白井良明の6人が作曲・編曲を分担して行っているのだ。そこが、本作の音楽のユニークなところである。
 本作のサウンドトラック・アルバムは、JOY RIDE recordsという独立系レーベルから発売された。収録曲は以下のとおり。

  1. きよしこの夜
  2. 浮浪者のテーマ
  3. ギンのテーマ
  4. 東京ゴッドファーザーズ
  5. ギン
  6. 探索のテーマ
  7. ハナのテーマ
  8. 探索のテーマ2
  9. ドキドキのテーマ
  10. 3人の浮浪者
  11. ゴッドファーザーのように
  12. ドキドキのテーマ2
  13. 事件
  14. 更に事件?
  15. ドキドキのテーマ
  16. 街の清掃隊
  17. 揺れる心
  18. ハナ
  19. きよしこの夜
  20. MAUVAIS GARCON
  21. 三人組
  22. すきま風
  23. 探索のテーマ3
  24. ギンの顔
  25. 交響曲第9番 二短調 フィドルヴァージョン
  26. 優しさ
  27. 昔話
  28. ハナ、さあヴァイオリンを聞こう
  29. ギンと仲間達
  30. 一件落着
  31. ドキドキのテーマ4
  32. ドキドキのテーマ5
  33. 追跡
  34. 奪回
  35. 悲しいくらいにいじましく
  36. ギンちゃん
  37. No.9
  38. Mauvais garcon(カラオケ)●Bounus track

 曲はどれも本編のシーンに合わせて書かれている。そのため1分に満たない曲も多い。サウンドトラック・アルバムを作るときは、聴きごたえのある長めの曲だけを集めて、1分未満の短い曲は割愛してしまうこともよくあるのだが、本アルバムはそうではない。短い曲も残さず、本編で流れた楽曲を完全収録している。本作のファンにとっても、ムーンライダーズのファンにとっても、うれしい仕様だ。
 先に書いたように、本作の音楽はムーンライダーズ全面参加で作られた。その分担の仕方も面白い。鈴木慶一はタイトル曲「東京ゴッドファーザーズ」とエンディング主題歌「No.9」などテーマ的な部分を主に担当。「浮浪者のテーマ」「3人の浮浪者」などは岡田徹、「ギンのテーマ」「ギン」「ギンの顔」などギンがらみの曲がかしぶち哲郎、「ハナのテーマ」「ハナ」「ハナ、さあヴァイオリンを聞こう」などのハナがらみの曲は鈴木博文、サスペンスタッチのシーンに流れる「ドキドキのテーマ」とそのバリエーションは白井良明といった具合に、メンバーそれぞれに担当となるキャラクターやシチュエーションが決まっている。まるで、音楽のキャラクターシステムである。こんな作り方をした映画音楽は、ほかに例がないのではないか。
 冒頭の教会のシーンで流れる「きよしこの夜」の合唱(編曲・鈴木慶一)に続いて、ギンとハナが炊き出しの鍋を分けてもらう場面に流れるのが「浮浪者のテーマ」。ゆったりしたテンポのビッグバンド風の曲調から、哀愁とおかしみが伝わってくる。
 このジャジーな浮浪者のテーマの別タイプとも呼べるのが、ギンたちが自動車に押しつぶされそうになっているヤクザの親分を助ける場面の「3人の浮浪者」。こちらはクラリネットがメロディを担当するベニー・グッドマン風の曲。作曲・編曲を担当した岡田徹はアニメ『イヴの時間』の音楽も手がけている。
 ゴミ溜めで捨て子を見つけたギンが、この子に比べたら……とわが身をふり返る場面の「ギンのテーマ」はアコーディオンをフィーチャーしたしみじみとした曲。ギンがハナに「娘のことは忘れたことがない……」と話をする場面の「ギン」もアコーディオンが歌うリリカルな曲で、どちらも作・編曲はかしぶち哲郎の担当だ。惜しくも2013年に他界したかしぶち哲郎は、実写劇場作品「恋する女たち」(1986)や「釣りバカ日誌」5〜10(1992〜1998)、OVA『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』(1989)等の音楽で活躍。本作でも正道の映画音楽的な曲を提供している。本編ではセリフのバックになると音量がぐっと下げられて音楽が目立たなくなるが、サントラで聴くと愁いを帯びたメロディやアレンジの妙をじっくり味わえる。
 そして、街の看板にクレジットが表示される秀逸なタイトルバックに流れるのがメインテーマ「東京ゴッドファーザーズ」。軽快なリズムとトランペットのメロディ。陽気な中に切なさが宿り、それを吹き飛ばすようなアバンギャルドさが顔を見せる。いかにも鈴木慶一らしい……と筆者が感じる曲だ。
 姿が消えたハナと赤ん坊をギンとミユキが探す場面の「探索のテーマ」も鈴木慶一の作。ほとんどリズムだけのようなシンプルな曲だが、ユーモラスで存在感がある。この曲は3人が赤ん坊の母親探しをする場面の「探索のテーマ2」「探索のテーマ3」と反復される。
 鈴木慶一の実弟・鈴木博文による「ハナのテーマ」も重要だ。ハナが赤ん坊の母親を探し出すと決意する場面の曲「ハナのテーマ」はほとんどコードだけで明快なメロディはないが、ハナが誘拐されたミユキと赤ん坊に再会する場面の「ハナ」ではアコーディオンがワルツ風のしみじみとした旋律を奏でる。ハナが赤ん坊を警察に届けると言い出す場面の「ハナ、さあヴァイオリンを聞こう」では、同じメロディがバイオリンによって明るく変奏される。ハナの心情の変化に合わせてテーマが展開していく巧みな音楽設計だ。
 白井良明による「ドキドキのテーマ」は、家出娘のミユキが父に発見される場面やギンがパーティ会場でうらみを持つ相手に遭遇して近づく場面、終盤の赤ん坊を渡した母親が偽者とわかる場面など、サスペンス調の場面を盛り上げる役割。本編中で5回も使われている。登場するたびに楽器の組み合わせやアレンジの細部が異なっているので、くどい印象はない。サスペンスだけどシリアスになりすぎない、さじ加減の絶妙な曲だ。
 アルバムのラストに置かれた「No.9」は、ベートーベンの「第九」のメロディに鈴木慶一が詩をつけて、ムーンライダーズがレゲエ風にアレンジ・演奏したエンディングクレジットの曲。ほろ苦い大人のメルヘンともいうべき本作にふさわしい、ちょっとビターでアバンギャルドな曲に仕上がっている。鈴木慶一自ら「渾身の出来」と呼ぶナンバーだ。鈴木慶一はのちに自身のレーベル「Run, Rabbit, Run Records」から、この曲の映画館用5.1サラウンド版をSACD仕様のCDシングルでリリースしている。

 こんな風に複数の作家の共作となっている『TOKYO GODFATHERS』の音楽だが、同じバンドで演奏やアルバム制作をともにしているメンバーの作だけに、バラバラな印象はない。鈴木慶一プロデュースのもと、ひとつの世界を創り出しているのが興味深く、映画音楽のユニークな作り方としても注目したい作品である。
 実のところ、『TOKYO GODFATHERS』はそれほど音楽が記憶に残る作品ではない。音楽はアンダースコア(背景に流れている音楽の意)に徹し、作中に溶け込んでいる。それは映画音楽としてすぐれているということでもある。
 その音楽をサウンドトラック盤であらためて聴くと、ムーンライダーズらしいサウンドの作り込み、こだわりが伝わってくる。本作の背景美術と同じく、裏方に徹しながら、実はしっかりと個性を発揮しているのだ。そのサウンドは、人生をドロップアウトしてしまった主人公たちに寄り添うわけでもなく、突き放すわけでもなく、大人らしい距離を取った共感と応援の音楽として奏でられているように聴こえる。その、押しつけがましくないところが魅力だ。
 ひるがえって『若おかみは小学生!』の音楽を思い出してみると、出しゃばりすぎず、感動を押し売りしない距離の取り方は同じ。考えてみれば、『若おかみ』って立派な妖怪・オバケ作品じゃん。鈴木慶一の“はみだし者・妖怪作品の系譜”はちゃんと引き継がれているのだった。

東京ゴッドファーザーズ オリジナル・サウンドトラック
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No.9
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アニメ様の『タイトル未定』
175 アニメ様日記 2018年9月30日(日)~

2018年9月30日(日)
早朝から『よんでますよ、アザゼルさん。』のOAD「イソギンチャク編」を観て、その濃さに驚く。で、勘違いしていたのだけど、『アザゼルさん。』のOADは全部で4巻もあって「イソギンチャク編」は4巻目なのね。時系列を整理すると、以下のかたちになるようだ。

2010年2月 OAD「泣き牛編」(原作4巻特別限定BOX)
2010年9月 OAD「セーヤ編」(原作5巻限定版)
2011年4月~7月 TV『よんでますよ、アザゼルさん。』
2012年5月 OAD「ルシファー編」(原作8巻限定版)
2013年4月~6月 TV『よんでますよ、アザゼルさん。Z』
2014年6月 OAD「イソギンチャク編」(原作11巻限定版)

 2010年から2014年まで、毎年、新作を発表していたんだなあ。手元にない「泣き牛編」「セーヤ編」のBlu-ray、「ルシファー編」のDVD付き原作限定版をAmazonに注文した。それから『ドットハック セカイの向こうに』Blu-ray映像特典のパイロットフィルムを確認。

2018年10月1日(月)
TOKYO MXを流しながらキーボードを叩いていたのだけれど、『幽★遊★白書』66話「戸愚呂の償い・一番の望み」から、『交響詩篇エウレカセブン』1話への流れが豪華だった。『幽★遊★白書』66話は絵コンテ・演出が新房昭之さんで、作画監督が若林厚史さん。とにかく演出のセンスがよい。静かな話なのだけど、作画を含めて、作り手のエネルギーを感じる。

2018年10月2日(火)
『薬師寺涼子の怪奇事件簿』を1話から10話まで観る。『薬師寺涼子』は、前にも取材の予習で観返した。今回も涼子さんに振り回される泉田君に感情移入してしまった。そして、この作品は、振り回す涼子さんの目線で観たほうがいいのだろうとも思った。

2018年10月3日(水)
『薬師寺涼子の怪奇事件簿』の残り話数を観る。DVDソフトは最終巻に、映像特典として新作パートのある総集編がついていた。立川シネマシティで <極上音響上映>の『リズと青い鳥』を観る。僕が劇場で観るのは三度目のはずだが、音響のおかげか、没入感が強く、今までで一番楽しめた。『リズと青い鳥』の良さを再確認した。

2018年10月4日(木)
新番組をチェック。『風が強く吹いている』1話がよかった。面白かったし、作画もいい。これからどうなるのかも気になる。原作をチェックしたいけど、それは放映が終わってからにしよう。

2018年10月5日(金)
新番組をチェック。『ゾンビランドサガ』1話がよくできていて楽しめた。池袋HUMAXシネマズで『ペンギン・ハイウェイ』を観る。石田祐康監督のトーク付きの上映だ。トークはリラックスムードで楽しかった。

2018年10月6日(土)
新番組をチェック。『とある魔術の禁書目録III』1話を観た。楽しかったし、登場人物が懐かしかった。ポイントを押さえた作りが流石。午前中はワイフの付き合いで明治神宮方面を散歩。バルト9が入っているビル内の駿河屋に寄ったら、アニメ関連本の古本が充実。持っていなかったムックを数冊購入した。その後、同じビルのゴジラ・ストアで「東宝特撮 公式ヴィジュアル・ブック」から3冊を購入する。このシリーズはまさしく「うすい本」で、ゴジラ・ストアのみで販売しているらしい(同・通販サイトでも販売)。このシリーズは、価格設定を含めて書籍企画としてとてもよいと思う。今回買った中だと「天本英世1967」が秀逸だった。
 Kindleで「ゲゲゲの鬼太郎 CHARACTER BOOK ねこ娘大全」を購入。これは紙の本はなく、電子書籍のみの企画であるらしい。今後、こういった形式のムックが増えるのだろうか。

新文芸坐×アニメスタイル Vol. 109
宇宙の星よ永遠に 『無敵超人ザンボット3』

 11月17日(土)に『無敵超人ザンボット3』のオールナイト上映を開催する。『ザンボット3』は1977年に放映されたロボットアニメ。ハードなドラマが魅力の傑作だ。総監督は富野由悠季(当時・富野喜幸)、キャラクターデザインは安彦良和、企画・制作はサンライズ(当時・日本サンライズ)。富野・安彦コンビは『ザンボット3』の2年後に『機動戦士ガンダム』を手がけることになる。
 今回のオールナイトでは全23話のうち、12話をセレクトして上映する。トークの出演は、明治大学大学院特任教授の氷川竜介、アニメスタイル編集長の小黒祐一郎。前売りチケットは10月13日(土)から、チケットぴあと新文芸坐窓口で販売開始となる。

新文芸坐×アニメスタイル Vol. 109
宇宙の星よ永遠に 『無敵超人ザンボット3』

開催日

2018年11月17日(土)

会場

新文芸坐

料金

当日一般2600円、前売・友の会2400円

トーク出演

氷川竜介、小黒祐一郎

上映タイトル

『無敵超人ザンボット3』 全23話からセレクトした12話を上映

備考

※オールナイト上映につき18歳未満の方は入場不可
※トークショーの撮影・録音は禁止

●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

『無敵超人ザンボット3』公式サイト
http://zambot3.net/index.html

第582回 やはり神聖な仕事

『ユリシーズ ジャンヌ・ダルクと錬金の騎士』
いよいよ放映開始しました!

 モンモランシやジャンヌがどんな感じで動くのか、これから楽しみです。監督って作監修正まで入った原画、つまり動画仕上げ出し前の素材を全部確認できるわけではないので、上がったラッシュで初めて見る画が以外に多いんです。もちろんレイアウト・ラフ原はチェックしますが、そこで監督ができるのは各話演出さんや作監さんに「ここは○○に目線を送ってください」とか「カゲつけ逆光でお願いします」などの指示書きをするくらいです。自分みたいなアニメーター監督は、原図を直したりアクションを全修したりしますが、できてもそこまで。ちなみに制作サイドから見ると、板垣の修正は他よりやや多めらしいです。ま、なんにせよ作監修正済み原画まで確認することはスケジュール的に無理。となるとラッシュ初見で「この画、凄ぇ!」と作監さんに感謝したり、「え!? この画大丈夫(汗)?」と困ったり一喜一憂することになります。そりゃすべてが気に入った画で上がった作品なんてこれまで一度もありません。ただ自分も作監をやったことがあるので、その仕事の大変さは分ってしまい、「……ま、このカットは目をつむりましょう」となることも多かったり。でも20数年アニメの仕事をしてて未だに変わらない感覚があります。それは

アニメーションは神聖だ!

ということ。初動画の『ルパン三世 くたばれ!ノストラダムス』や『耳をすませば』(当時、テレコムでは2作交互にやってました)の時から変わりません。制作スタッフの試写会で観た動くルパンや雫。自分の描いた動画に色がついて動いてしゃべって。架空のキャラクターが今そこに生まれた(創造された)瞬間を「神聖なこと」だと感じ、監督をやらせてもらえるようになった今でも、それが続いています。もちろん「映画は監督のモノ」という考え方はあるでしょうし、それを否定する気はさらさらありません。ただ俺はやっぱりアニメーションという表現そのものが好きでやってて、

幾人ものスタッフによって人物が作られ、時間が生まれ、世界が作られるアニメーションという神聖な表現をこれからも続けていきたい!

と思ってるのです。
 だから、今回の『ユリシーズ』もラッシュを観る度に一喜一憂。年内ドキドキが続くことでしょう。

 で、とりあえずは第1話に話を少々。残念なことに第1話はどうしてもジャンヌが登場しない話数になってしまいました。金月龍之介さんや委員会の皆さんとも話し合った結果、現行のかたちに。最初からジャンヌを出して子ども編を回想にする構成なども考えたのですが、そうすると子ども編にジャンヌは絡めないので、ジャンヌが不在の話が結局できる。それと子どもの頃の仲良し同士の「誓い」が原作者・春日みかげ先生のやりたかった件だと聞いてましたから。だとすると、やはりその誓いはジャンヌと出逢う前のモンモランシ、ジャンヌが知らないモンモランシから始めなければならん! と。「じゃあ」と自分が提案したのは「第1話はオープニングを最後に流せば? そうすりゃジャンヌ出せますよ」でした。
 あ、またOPコンテムービーをUPする許可を得たので、近々お観せできるかと。てとこで。

アニメ様の『タイトル未定』
174 アニメ様日記 2018年9月23日(日)~

2018年9月23日(日)
早朝の新文芸坐に着いたら、オールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 107 ストップモーション・アニメの世界」が終わった直後。つまり、オールナイトの終了に立ち合うことができなかったのだ。残念。今回は終了が午前5時と、いつものオールナイトよりも早かった。午前中は「アニメスタイル014」やこれから編集する書籍の作業。昼は新宿方面に散歩。17時に「黄瀬和哉展」開催中のササユリカフェへ。黄瀬さんのトークとサイン会で、トークの司会を務めた。出演は黄瀬和哉さん、西尾鉄也さん。お客として来場していた本田雄さんにもトークに参加してもらった。トークの前後に、本田さんに『若おかみは小学生!』の担当パートについてうかがう。

2018年9月24日(月)
三連休の3日目。池袋HUMAXシネマズの午前9時20の回で『若おかみは小学生!』を観る。二度目の視聴なので、今回は語り口や、物語の構成を確認しながら観た。脚本が巧みなのは間違いないが、絵コンテの段階で脚本を圧縮しているのではないかと思った。最初の鑑賞と同じところでウルっときた。山寺宏一さんが演じる親子連れの父親(木瀬文太)が、おっこが彼のために作り直した料理を食べて喜ぶところだ。他の観客が感動したところとちょっとズレているかもしれない。ラストシーンも感動的なのだけど、そこが一番ぐっときた。

2018年9月25日(火)
昼間は『ヤマノススメ サードシーズン』を、数話分をまとめて観る。それから『銀魂』の最新話を観た。『銀魂』の今のシリーズは9月いっぱいで終わると思い込んでいたのだけど、まだ続きそうだ。しかし、もう1クール分は原作がないはず。どうするのだろう。午後、有楽町マルイで開催中の「若おかみは小学生! 劇場公開記念 原画展」に。規模の大きな展示ではないが、貴重な資料が沢山あった。

2018年9月26日(水)
『よんでますよ、アザゼルさん。』のTV第1シリーズを全話観る。 午後は、お借りしていた資料を返却するために、あるプロダクションに。予定より早く着いたので、プロダクションの前でぼんやり立っていたら、知り合いの監督がやってきたのでご挨拶。この方と会ったのは7年ぶりくらいだ。その後、別の監督がやってきて、その方と『若おかみは小学生!』についてちょっと話す。

2018年9月27日(木)
『おおきく振りかぶって』を1話から11話まで観た。本放送でも観ているし、その後、少なくとも1回は全話を観ている。やっぱりよくできているなあ。早稲田松竹で 「マルホランド・ドライブ」を観る。新文芸坐のデヴィッド・リンチ特集で観ることができず、いつか観たいと思ったのだが、すぐにそのチャンスが巡ってきた。確かに刺激的な映画だ。色気もある。自分が20代の頃に観ていたら、かなりハマったと思う。

2018年9月28日(金)
ユーロスペースで『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』を観る。散々言われていることだと思うが、手法と物語がマッチしている。終盤の展開については理解しづらいところがあった。再見したら分かるだろうか。

2018年9月29日(土)
午前4時に「▼▼▼(作品タイトル)で★★★さん(人名)が描いたイラストは何枚だか分かる?」と編集スタッフにメールしたら、3分後に「現在確認されているのは▲枚です」と返信が来た。劇場版『フリクリ プログレ』を観た。この作品が『フリクリ』的であるかどうかはおいておくとして、作画についてはいいところがいくつもあった。

第581回 放映開始!

いよいよ10月7日から
『ユリシーズ ジャンヌダルクと錬金の騎士』の
放映が始まります!

 今作の制作会社アクシズのプロデューサーさんよりお話をいただいたのは『Wake Up, Girls! 新章』の作画IN前だったでしょうか? 集英社の足立聡史プロデューサーからの指名だと聞きました。足立Pとは『迷い猫オーバーラン!』『ベン・トー』に続いて3本目。原作を読んでる最中に1回目の打ち合わせがあったような(うろ覚え)。「お久しぶりです」と足立Pとお会いして早速出たのが「シリーズ構成、誰にします?」でした。『迷い猫』『ベン・トー』も脚本を自分で書きましたが、今回は『WUG! 新章』もあったので無理せずに

コンテをメインにさせていただきます!

と(ま、コンテメインはいつもと変わらずですが)。
 そんなわけで、自分が「是非に」と名前を出させていただいたのが金月龍之介さん! 金月さんとは以前『ヴァンキッシュド・クイーンズ』(『クイーンズ・ブレイド』シリーズのスピンオフ的OAD)全4巻でご一緒してて、「構成力は折り紙つきです」と。プロデューサーの皆さんからも「いいですね」と賛同を得て、俺自身で電話したという流れです。プロデューサーについでシリーズ構成、この

ひとつの企画について話し合いをする相手が
増えてくる高揚感は堪りません!

 俺は本当に好きなんです! この先どうなるか分からない「作品の船出」に人が集まってくる時が。キャラクターデザインの澤田譲治さんはアクシズさんからの紹介です。自分、初めてのスタッフとの出会いも大事にしているので、その制作会社さんが推すスタッフに対してNOを言うことはほぼありません。脚本でもキャラでも、同時期に別の監督作を持っていなければ「俺がやりましょうか?」と言うのですが、今回はそうもいかず。まずは金月さん、澤田さんの上げてくださるものを楽しみに待つとしました。あ、ティザーとキービジュアルのレイアウトをラフ原はいつもどおり自分で描きました。

第141回 引き算の美学 〜フルーツバスケット〜

 腹巻猫です。9月21日公開の劇場アニメ『若おかみは小学生!』がすばらしい良作。映像も物語も見応えあります。上映回数が減っているようなので、お早目に劇場へ!


 今回はTVアニメ『フルーツバスケット』を取り上げよう。
 『フルーツバスケット』は2001年7月から12月まで全26話が放送されたTVアニメ作品。高屋奈月の少女マンガを原作に大地丙太郎監督が映像化。アニメーション制作はスタジオ・ディーンが担当した。ファンには「フルバ」の愛称で親しまれている。
 両親を亡くして1人でテント暮らしをしていた女子高生・本田透は、ひょんなことから学校のプリンス・草摩由希の家に居候することになる。実は草摩家の人々は十二支のモノノケにとりつかれていて、異性に抱きつかれるとネズミや犬などの動物に変身してしまうのだ。秘密を知ってしまった透と草摩家の一族、透の同級生たちとのスリリングな日々を描く学園ファンタジーラブコメ。
 と書くとドタバタ中心のコミカルな作品みたいだが、本作はそれだけに終わらない。心に傷や劣等感を抱えた人々の癒しと再生を描く、深いテーマを内包したドラマである。
 本作を語るとき、必ず話題に上るのが岡崎律子が手がけた主題歌だ。
 静かにささやくように淡々と歌われる歌は、「アニメのオープニングぽくない曲を」という大地丙太郎監督のリクエストに応えて生まれた。本作のテーマを具現化したすばらしい出来で、アニメ『フルーツバスケット』を象徴する曲になっている。『魔法のプリンセス ミンキーモモ[新]』(1991)、『ラブひな』(2000)、『プリンセスチュチュ』(2002)などのアニメ作品に楽曲を提供し、日向めぐみ(meg rock)とのユニット「メロキュア」でも活躍したシンガーソングライター・岡崎律子の代表作のひとつだ。岡崎は2004年に惜しくも44歳の若さで他界している。
 第5話で一度は草摩家を出た透が再び由希の家に帰っていく場面、第8話で草摩家の主治医・はとりの過去が描かれる場面、第13話で草摩家の当主・慊人(あきと)の影におびえていた由希の心が癒えていく場面、第15話で草摩紅葉の辛い思い出を聞いた透が泣く場面など、ここぞというシーンに本曲のカラオケや歌入りが流れている。
 そのため、本作はいつも岡崎律子の旋律に満たされているような印象すら受けるのだが、実は本編では、それほど頻繁に「for フルーツバスケット」が流れているわけではない。
 多くの場面では劇中音楽がしっかりとドラマを支えているのである。

 本作の音楽は「ダブルオーツ」として活躍する安部純と武藤星児が担当した。
 兵庫県出身のシンガーソングライター安部純とAKB48の楽曲の編曲などを手がけるアレンジャー・武藤星児。1996年発売のドラマCD「太陽の少女インカちゃん」で出逢った2人は音楽ユニット「ダブルオーツ」を結成。以降、ダブルオーツ名義、もしくは、安部純、武藤星児の連名で数々のアニメ音楽を担当している。『こどものおもちゃ』(1997)、『レジェンズ〜甦る竜王伝説〜』(2004)、『僕等がいた』(2006)などの大地丙太郎監督作品を多く手がけているほか、『SWEET Valerian』(2004)、『猫神やおよろず』(2011)などの仕事がある。
 『こどものおもちゃ』『レジェンズ』等で聴かれる明るく元気な曲が印象深く、『フルーツバスケット』でもそういう曲がコミカルなシーンや透の学園生活を盛り上げている。
 しかし、本作で重要な役割を果たしているのは、透たちの心情を描写する、やさしく繊細な楽曲群である。その代表がメインテーマ「memory」。さまざまにアレンジされて劇中に流れ、主題歌に勝るとも劣らぬ印象を残す。「for フルーツバスケット」と「memory」の2曲が、本作を代表する音楽と言ってよいだろう。
 本作のサウンドトラック・アルバムは「フルーツバスケット オリジナル・サウンドトラック Memory for You」のタイトルで2001年12月にキングレコードから発売された。また、主題歌・挿入歌とインスト曲で構成された音楽アルバム「フルーツバスケット —四季—」が2001年10月に発売されている。この「四季」に収録された楽曲は、本編の最終3話(第24話〜26話)で効果的に使用されていた。2016年11月発売の「フルーツバスケットBlu-ray BOX」には、上記の2枚の音楽アルバムの内容に未収録曲を加えて再構成した特典サントラCD2枚が同梱されている。
 サウンドトラック・アルバム「Memory for You」から紹介しよう。収録曲は以下のとおり。

  1. For フルーツバスケット(On Air Ver.)(歌:岡崎律子)
  2. memory 〜for you〜
  3. secret
  4. solitude
  5. both styles
  6. I’m「drummer」
  7. memory 〜in daily life〜
  8. on the stage
  9. I’m「chin-don-ya」
  10. going my own way
  11. I’m 「fairy」
  12. psycho-doctor
  13. mysterious family
  14. memory 〜at home〜
  15. theme for the landlady
  16. theme for the landlady (so hard)
  17. I’m「hardworking fellow」
  18. black-and-white (normal)
  19. black-and-white (hard)
  20. teru-teru-momiji
  21. モゲ太のうた(Instrumental Ver.)
  22. memory 〜on vacation〜
  23. a hot-blooded man
  24. so gorgeous
  25. forward-looking attitude
  26. reason of quibble
  27. 「Fruits Basket」in waltz
  28. 小さな祈り(On Air Ver.)(歌:岡崎律子)

 全28曲。1曲目がオープニング主題歌、最後の28曲目がエンディング主題歌。その1曲前の「「Fruits Basket」in waltz」は次回予告に使われたオープニング主題歌のアレンジ曲である。
 あえて言うと、本アルバムのハイライトは頭の3曲だと思う。この3曲に本作の世界が凝縮されている。
 2曲目の「memory 〜for you〜」はメインテーマの基本となるバージョン。温かく豊かな響きの弦合奏をバックに、ふわっとした透明感のある音色のシンセがやさしくメロディを奏でる。第1話冒頭の透と由希が出逢う場面には、バックの弦合奏だけが使われた。以降も、透や由希たちの心情を表す曲として重要なシーンにたびたび選曲されている。本編を観た人なら、聴けば「あ、フルバの曲」とピンとくる、印象深い曲である。
 のちに登場する「memory 〜in daily life〜」「memory 〜at home〜」「memory 〜on vacation〜」等は、いずれもメインテーマをアレンジした楽曲だ。
 次の「secret」は、キラキラした音色のシンセとピアノで奏でられる情感曲。第1話で由希が透に十二支の話をする場面をはじめ、第9話で正月に本家に戻る由希たちが、1人留守番する透のことを心配する場面、第20話で透が由希の兄・綾女と話す場面、第24話で猫憑きの夾(きょう)が辛い胸のうちを師匠に打ち明ける場面などに使われた。誰にも言えない秘めた思いや、悲しみと怒りの入り混じったやりきれない気持ちなど、複雑な心情が淡々とした曲調で表現される。本作のドラマになくてはならない曲だ。アルバムには収録されていないが、この曲のスローバージョンも劇中でよく使われていた。
 トラック4「solitude」はタイトル通りの寂しげな曲だが、本編ではほとんど使用されていない。
 以降は、元気でコミカルな曲やユニークなキャラクターのテーマが続く。
 ネズミ憑きの由希と猫憑きの夾の対立シーンによく流れていたドラムソロ「I’m「drummer」」、元気で甘えん坊の紅葉のテーマ「going my own way」、牛(丑)憑きのはつはるのテーマ「black-and-white」、王様気質の綾女のテーマ「so gorgeous」、草摩家が保有する温泉旅館の女将やその息子・利津のテーマとして使われた「theme for the landlady」、人の記憶を消す秘法を知る医師・はとりのテーマ「psycho-doctor」など。いずれも本作の音楽世界を構成する重要なピースである。
 ただ、アルバムを通して聴くと、ハイテンションの曲が多くて、本編のしっとりした心情ドラマの雰囲気が再現されていない印象を受ける。多彩なキャラクターのテーマを収録するのはサントラ・アルバムとしては正しいが、フルバのアルバムとしては、もっと静かな曲、繊細な曲を多く選曲してほしかったと思うのだ。メインテーマのスローテンポの変奏など、劇中印象深かった曲のいくつかが収録されていないのが惜しまれる。

 安部純は本作の音楽作りについて、「いろんな飾りを積み上げていくのとは逆にいろんなものを取り除いていく引き算のような」作業だったとライナーノートでコメントしている。
 実際、本編で記憶に残るのは「memory 〜for you〜」「secret」「memory 〜at home〜」などの、余分な音をそぎ落としたシンプルなサウンドの楽曲である。
 それに加えて、本作ではBGMをそのまま使わず、リズム抜きのメロディのみや、逆にメロディのない伴奏のみといった形で使うケースが多かった。「引き算」で作った曲をさらに引き算して、極限までシンプルな音でシーンを演出しているのだ。音に隙間があるぶん、キャラクターの心情を想像する余地があり、情感が際立つ。サントラを聴くと「音が鳴りすぎている」と感じてしまうほどだ。この「引き算」の演出が、本作の独特の空気感を作っている。
 そう考えると、サウンドトラック・アルバムは、本編の雰囲気を再現するアイテムというより、独立した音楽アルバムとして聴いた方がよさそうだ。できれば、劇中で使われた「メロディのみバージョン」や「伴奏のみバージョン」など、BGMに「引き算」を施したバージョンをそろえたサントラを作ってほしいところ。ないものねだりだけど、それほど、本作の「引き算の音楽」は心に沁みる。

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アニメ様の『タイトル未定』
173 アニメ様日記2018年9月16日(日)~

2018年9月16日(日)
三連休の2日目。「設定資料FILE」の構成する。前にトークイベントでも話題にしたが、僕はいまだに「設定資料FILE」の構成は線画設定をコピー機で縮小し、それを切り貼りしてラフを作っている。今は素材の設定資料もデータで届くし、デザインもデジタルで行われているのだが、その途中にはさまる僕のラフ作業だけがアナログなのだ。ラフをデジタルでやると勘が狂いそうだし、丁寧にラフが作れるだけに逆に時間をかけてしまいそうで、それが嫌でアナログでやっている。事務所2階のコピー機(正確にはスキャンもFAXもできる複合機)が新しくなって、初めての構成作業だったのだが、コピーの精度があがったのが裏目に出たのか、コピーの濃さの調整が難しい。これもしばらくやっていたら慣れるのだろうか。
「設定資料FILE」の内容とは関係ないが『ちおちゃんの通学路』を1話から流しながら作業をした。

2018年9月17日(月)
三連休の2日目。午前中は事務作業をいくつかこなす。観ていなかったアニメ映画をdアニメストアのレンタル販売で観る。午後から事務所から歩いていける某所で休む。カレンダーでは連休最終日だけど、自分の連休はここから。

2018年9月18日(火)
午前中は休んで、昼から事務所に。ちょっと確認したいことがあって「アニメスタイル007」の『フリクリ』特集を読み返す。この特集の鶴巻和哉監督のインタビューで、もしも『フリクリ』の続編を作るなら、どう作ればいいのか(記事中の発言は、正確には「もしも『フリクリ』的なものをもう1回作ろうと思った時に、何が描かれていれば『フリクリ』らしいと言えるのか?」)という話題がある。貞本義行さんや榎戸洋司さんと話をしたが、それが何かは分からない、というのが結論だったそうだ。
録画で「のぞき見ドキュメント 100カメ」の週刊少年ジャンプ編集部の回を観る。机の上が散らかっている感じとか、臨場感があって面白い。

2018年9月19日(水)
午前中は休んで、昼から事務所に。

2018年9月20日(木)
上野の森美術館で開催中の「世界を変えた書物展」に。守備範囲外ということもあって、展示されていたものの価値は僕にはわからないが、展示の仕方が凄まじく凝っていた。唐突に話は変わるが、ATOKは「ゆめおうこく」で「夢王国と眠れる100人の王子様」が、「いせかい」で「異世界魔王と召喚少女の奴隷魔術」が変換候補にでる。便利だなあ。なんでもかんでも深夜アニメが変換されるわけではないけど。

2018年9月21日(金)
早朝に新文芸坐に。翌日開催のオールナイトのための試写に参加。短編の『モリモリ島のモーグとペロル』『陸にあがった人魚のはなし(パイロット版)』『映画の妖精 フィルとムー』を観る。昼にポケモンGOでミュウツーをゲット。これでカントー地方のポケモンが揃った。12時に事務所で打ち合わせ。14時に西武池袋線方面のあるスタジオで打ち合わせ。18時に新文芸坐で打ち合わせ。「電脳コイル アーカイブス」の二刷りの校正紙がでる。実際に二刷りが出るのは少し先だが、先行して作業をしておく。

2018年9月22日(土)
昼間は「アニメスタイル014」や年末刊行予定の書籍の準備。オールナイトの予習で『ぼくの名前はズッキーニ』を観る。夜はオールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 107 ストップモーション・アニメの世界」。中村誠監督のトークは、ストップモーション・アニメの現状、自身とストップモーション・アニメとの関わり、自身の作品、上映作品についてと、話題が多岐にわたり充実したものとなった。特に短編については、中村監督の解説で周辺事情を知ってから観たほうが理解しやすいだろう。

第580回 短いフィルム

オープニングとエンディングを自由に作りたい!
というアニメーターが多いと聞くのですが
俺個人はやっぱり本編が基本だと思っています!

 そもそもずっと前に1度話題に上げたとおり、自分はOP・EDやミュージッククリップ的ないわゆる短いフィルムを作るのは嫌いじゃないけど、その年の仕事がそれ1本ってなるくらいなら、シリーズの本編を1本コンテ・演出でやるほうが絶対好き! ドラマがあるから。でも現実問題『妖狐×僕SS』(2012年)の時のように、監督に恩返しはしたいものの、本編1本をやる時間がなくてED1本だけのお手伝いになったり。自分の監督作品の場合、OPは大概やってもEDは誰かに振ってしまうことがちょくちょくあります。ま、その時の状況次第で、本編のコンテが落ち着いてたら自分で切っちゃうけど、本編に手こずってたら「誰かお願いします!」と。でも3日空けられたら自分でやったほうが確実に早い。そんな感じです。
 で、今回の『ユリシーズ ジャンヌ・ダルクと錬金の騎士』もOPのコンテ・演出をやりました。本編のコンテが全話上がってから取りかかったコンテなので、ラフのカット割りはすんなり1〜2日でできました。ただ清書からそのまま直接レイアウトまで描いたため(原画の人手不足をカバーした)、これまた本編のレイアウト・ラフ原チェックと重なって大変なことに(汗)。後ほど、またコンテムービーをお観せするので、今回も「短くて」ゴメンナサイ!

新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 108
押井守映画祭2019 第一夜《パト2&攻殻機動隊》編

 連続オールナイト企画「押井守映画祭 2019」がスタートする。「押井守映画祭」は鬼才・押井守監督の作品を数回に分けて上映する連続プログラムであり、「押井守映画祭2015」「同 2016」に続く、今回の「同 2019」は三度めのシリーズとなる。
 「押井守映画祭 2019」も今までのシリーズと同じく、押井作品ビギナーにも楽しんでもらえるプログラムを組む予定だ。勿論、ビギナーだけでなく、昔からの押井ファンの来場も大歓迎だ。

 第1弾「《パト2&攻殻機動隊》編」は10月27日(土)に開催。上映作品は『機動警察パトレイバー2 the Movie』『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』『イノセンス』だ。トークのゲストは押井守監督と、上映する3作品で作画監督を務めたアニメーターの黄瀬和哉。黄瀬の仕事が、今回のトークのテーマのひとつになるはずだ。

 前売り券は9月29日(土)から、新文芸坐とチケットぴあで発売開始。「第二夜」「第三夜」も企画進行中だ。なお、会場では「黄瀬和哉 アニメーション画集」をはじめ、アニメスタイルの画集を販売する。

新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 108
押井守映画祭2019 第一夜《パト2&攻殻機動隊》編

開催日

2018年10月27日(土)

会場

新文芸坐

料金

当日一般3000円、前売・友の会2800円

トーク出演

押井守、黄瀬和哉、小黒祐一郎

上映タイトル

『機動警察パトレイバー2 the Movie』
『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』
『イノセンス』

備考

※オールナイト上映につき18歳未満の方は入場不可
※トークショーの撮影・録音は禁止

●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

【アニメスタイルの新刊】「黄瀬和哉 アニメーション画集」の一般販売が開始!!
http://animestyle.jp/news/2018/08/21/14114/

アニメ様の『タイトル未定』
172 アニメ様日記 2018年9月9日(日)~

2018年9月9日(日)
昼間は日曜日らしく、デパートで買い物とか。夕方、確認したいことがあってDVDで『名探偵コナン から紅の恋歌』を観始めたのだけど、あまりにも面白くて、頭から終わりまで全部観てしまう。最近の劇場版『名探偵コナン』はケレンの塊のようなアクションが見どころだが、『から紅の恋歌』はさらにラブコメ要素が入っていて、カルタ対決もあり。推理についても薄くはない。ラブコメ部分は、ちょっと『らんま1/2』っぽいと思う。本人が覚えていない許嫁が登場するあたりとか。

2018年9月10日(月)
「馬越嘉彦 アニメーション原画集 第一集」の「アニメスタイル ONLINE SHOP」での特典、複製ミニ色紙4枚セットが完成して事務所に届いた。最初はコミケで小冊子を特典にする企画はなく、コミケ用の特典が複製ミニ色紙2枚、「アニメスタイル ONLINE SHOP」用の特典が色紙2枚になる予定だったのだけれど、いろいろあって、「アニメスタイル ONLINE SHOP」用の特典が色紙4枚になったのである。

2018年9月11日(火)
TOHOシネマズ新宿で「トップガン」を観た。「午前十時の映画祭」シリーズのプログラムだ。「トップガン」はレーザーディスクは持っていたけれど、劇場で観るのはこれが初めて。映像に関しても、音響に関しても、レーザーディスクで観るのとは段違い。劇場で観てよかった。ちなみに本作は、劇場公開ではシネマスコープサイズで、レーザーディスクはスタンダードサイズ収録だったはずだ。内容に関しては、記憶以上に「時代の作品」だった。

2018年9月12日(水)
WOWOWで放映中の「ガメラ対大魔獣ジャイガー」を流しながら作業をした。最後まで観て分かったけど、子どもの頃、上映の途中から地元の映画館に入ってクライマックスだけ観たのは「ガメラ対大魔獣ジャイガー」ではなかった。ということは「ガメラ対深海怪獣ジグラ」だったのか。「ガメラ」シリーズは好きだったのだけど、どういうわけか、あまり反芻していない。

2018年9月13日(木)
ワイフと「黄瀬和哉展」開催中のササユリカフェに。「黄瀬和哉 アニメーション画集」に関して、企画の最初期に黄瀬さんから「版権イラストよりも原画を中心にした本にしてほしい」というオーダーがあった。だが、画集の編集作業が始まった頃に『xxxHOLiC』や『劇場版 BLOOD-C The Last Dark』の版権イラストの作監修正原画、つまり、他のアニメーターが描いた版権イラストの原画を修正するために描かれた原画を見せてもらった。それがあまりに見事だったので、版権イラストをメインにした企画に切り替えたのである。「黄瀬和哉展」では、その版権イラストの作監修正原画を壁に展示してもらった。

2018年9月14日(金)
新宿のK’s cinemaで『こんぷれっくす×コンプレックス』を観る。随分前から話題になっていた作品で、ようやく観ることができた。発想が非常に斬新な作品だ。どんな内容なのか知らないで観たら「これは凄い」と驚いたに違いない。この日の上映に関してはお客さんの反応がよく、特に僕の隣に座った男性は大いに受けていた。これも劇場で観るよさだなあ。上映後に舞台挨拶があり、その司会が『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督だった。『こんぷれっくす×コンプレックス』のふくだみゆき監督は、上田慎一郎監督の奥さまなのだ。
夕方は電話である仕事の打ち合わせ。しかも、携帯電話ではなく、事務所の電話で。事前に打ち合わせの時間を決めて、かかってくるのを電話機の前で待っていた。久しぶりだったなあ。電話の打ち合わせ。

2018年9月15日(土)
三連休の1日目。事務所でデスクワーク。「設定資料FILE」の構成をやるつもりだったけれど、そこまではたどりつかず。今日の『僕のヒーローアカデミア』は61話「デクvsかっちゃん2」。3期で初めて馬越嘉彦さんが総作監を担当し、馬越さんは連名で作監も担当。原画で中村豊さんも参加し、さすがの仕上がり。

第579回 オープニングを作るということ

先週お茶濁しでも書いたように、現在『ユリシーズ ジャンヌ・ダルクと錬金の騎士』のオープニング作業中。原画と背景原図のチェック中です!

第576、577回で『Wake Up, Girls! 新章』と『ベルセルク』(次篇)のOPムービーコンテを紹介しましたが、最近のOP・EDはすべてあの手法。上がってきた主題歌をStoryboard Proにインポートして、曲を聴きながら直接タイミングを合わせて、タイムラインに画を並べて制作してます。早い話、ムービーを作りながらコンテを描き、部分的にはラフ原まで一気に片付けちゃう! ちなみに第577回で上げた『ベルセルク』(次篇)が初めてStoryboard Proで描いたムービーです。だから、今観ると手前・奥で密着スライドさせてたり、色が着いてたり実に楽しく描いてますよね。もちろんコンテから直接レイアウト・背景原図を作るわけなので無駄ではないにせよ、ツールを初めて使うことの楽しさが満ちている気がします。『WUG! 新章』の頃になるとStoryboard Proにも慣れて、ダンスシーンのカット割りをする時などは本当に助かりました。ま、なんにしても10数年監督をやってきて、OP・EDは結構やりました。20本くらいは作ったか?

第150回アニメスタイルイベント
黄瀬和哉が作画を語る

 黄瀬和哉の初の作品集「黄瀬和哉 アニメーション画集」。その刊行を記念して、彼をメインゲストに迎えたトークイベントを開催する。今まで関わった作品について、作画についてたっぷりと話してもらえるはずだ。出演は黄瀬和哉と西尾鉄也を予定。他のゲストについては決まり次第発表する。

 会場では「黄瀬和哉 アニメーション画集」のサイン本を販売する予定だ。開催日は2018年10月14日(日)の昼。会場は新宿のLOFT/PLUS ONE。アニメスタイルイベントでお馴染みの阿佐ヶ谷ロフトAではないので、お間違えなきように。

 今までのイベントと同様に、トークの一部を「アニメスタイルチャンネル」で配信する。前売り券は9月22日(土)から発売開始。詳しくは以下のリンクやロストプラスワンのページを見てもらいたい。

■関連リンク
【アニメスタイルの新刊】「黄瀬和哉 アニメーション画集」の一般販売が開始!![WEBアニメスタイル]
http://animestyle.jp/news/2018/08/21/14114/

アニメスタイルチャンネル
http://ch.nicovideo.jp/animestyle

LOFT/PLUS ONE
http://www.loft-prj.co.jp/PLUSONE/

第150回アニメスタイルイベント
黄瀬和哉が作画を語る

開催日

2018年10月14日(日)
開場12時00分 開演13時00分 

会場

LOFT/PLUS ONE

出演

黄瀬和哉、西尾鉄也、小黒祐一郎(司会)

チケット

前売1500円 当日1800円(共に飲食別・要1オーダー)

■アニメスタイルのトークイベントについて

 会場となるLOFT/PLUS ONEはトークライブができる居酒屋。入場料(今回は前売1500円、当日1800円)とは別に飲食(最低でもドリンク1杯)をお願いしている。ソフトドリンクもあるので、未成年の方でも大丈夫。 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものだ。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていないし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれない。その点は、あらかじめお断りしておく。

第140回 魚は大きかった 〜STEAM BOY〜

 腹巻猫です。10月1日(月)19時より、神保町・楽器カフェで「サントラさん」というトークイベントをやることになりました。インターネットラジオ「帝都電詠ラヂヲ局」の1コーナー「みゅーらぼ」の出張版です。出演・貴日ワタリ、早川優、腹巻猫、那瀬ひとみ、山本紗織 ほか。ゲスト・麻宮騎亜(予定)。平日夜ですが、ご都合のつく方はぜひ! 予約受付中です。

 9月22日「Soundtrack Pub【Mission#36】」、9月29日「渡辺宙明トークライブPart12」もよろしくお願いします。

楽器カフェ「サントラさん」予約情報ページ
https://gakki-cafe.com/event/20181001/

Soundtrack Pub【Mission#36】80年代アニメサントラ群雄割拠時代〜キャニオン編(後編)
http://www.soundtrackpub.com/event/2018/09/20180922.html

渡辺宙明トークライブPart12 〜宙明サウンド・クロニクル 80s〜
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/97688


 『AKIRA』『MEMORIES』と大友克洋監督作品が続いたので、今回は『STEAM BOY』を取り上げよう。
 『STEAM BOY』は大友克洋が原案・脚本・監督を務め、2004年に公開された劇場アニメ。製作期間9年をかけたこだわりの作品である。
 舞台は19世紀のイギリス。発明好きの少年レイが、超エネルギーを秘めた金属球スチームボールを手にしたことから陰謀に巻き込まれ、大冒険を繰り広げる物語。蒸気エネルギーで駆動する奇想天外な発明品や乗り物、超兵器が登場する、スチームパンクと呼ばれるタイプのSF作品だ。
 手描きアニメとCGを駆使して表現された、大友克洋らしい緻密な映像が見どころ。クライマックスの万国博覧会場とロンドンの街を舞台にしたスペクタクルが圧巻だ。『AKIRA』(1988)と比べると、映像と音響の進歩は歴然で、これをやりたくて9年をかけたのか……と思わせる。
 音楽はハンス・ジマーの工房メディアベンチャーズ(現・リモートコントロール)に所属していたスティーブ・ジャブロンスキーが担当した。『AKIRA』『MEMORIES』と、アニメ音楽の枠を越えた音楽を追求してきた大友克洋作品がハリウッドの作曲家にたどりついたのは、必然だったといってよいだろう。

 アニメ版『トランスフォーマー』シリーズなど、もともとが海外製作の作品を別にすれば、海外の作曲家が日本製アニメの音楽を手がけることは珍しい。『幻魔大戦』(1983)のキース・エマーソンは部分的な参加だったし、ほかには、TVアニメ『ナンとジョー先生』(1993)のデービッド・シービルズ、『ゾイド』(1999)のロバート・エトール、『BLOOD+』(2005)のマーク・マンシーナなどが思いつくくらいだ。
 欧米と日本では映像音楽の作り方が違う。向こうではTVシリーズでも毎回画に合わせた作曲が基本であるし、劇場作品なら、日本とは段違いの作曲・録音・仕上げ期間を用意するのがふつうだ。打ち合わせなど、コミュニケーションが取りづらいという事情もある。インターネットが発達し、大量のデータをオンラインでやりとりできるようになった現在は制約もなくなってきたが、2000年代はまだ過渡期だった。
 それでも、本作は海外の作曲家を起用した。音楽だけではない。音楽を含めた音響制作全体が、それまでの日本製アニメを超えたスケールで行われている。
 音響監督は百瀬慶一。2000年の劇場アニメ『BLOOD THE LAST VAMPIRE』ですでにハリウッドの技術を取り入れた音楽作りを行っていた(音楽担当は池頼広)。『STEAM BOY』はそれをさらに推し進めた作品である。
 『BLOOD THE LAST VAMPIRE』で大きな役割を果たしたハリウッドの音楽プロデューサー/サウンドエンジニアのアラン・マイヤーソンが『STEAM BOY』にも参加している。百瀬のインタビューによれば、音響効果などの素材が膨大になるため、日本のスタジオでは処理しきれないと考えたことが、ハリウッドで音響制作を行った理由の一つだった。素材は最終的にハリウッド作品でも例を見ない100トラック以上になったという。
 実は海外の作曲家に音楽を依頼したことよりも、ハリウッドの設備とノウハウを使って音響制作を行ったことが、本作の大きなポイントなのである。音楽、効果音、台詞を含む緻密なサウンドデザインが百瀬慶一によって行われ、ハリウッドのシステムで仕上げられた。音のバランス、広がり、質感などが、それまでの日本の劇場アニメとは一線を画している。本作によって、日本のアニメ作品の音響は確実に一歩先へ進んだと思う。

 作曲家の話に戻ると、百瀬慶一は作曲家選びについてもアラン・マイヤーソンに相談したという。名前が挙がったのはハンス・ジマー。しかし、ギャラが高額すぎて無理ということになり、ハンス門下の作曲家にあたることになった。デモを集めて検討した結果、選ばれたのがスティーブ・ジャブロンスキーである。
 ジャブロンスキーはこの時、まだ無名といってよい存在だった。1970年生まれのジャブロンスキーはバークレー音楽大学を卒業後、インターンとしてメディアベンチャーズに参加。ゲーム「メタルギアソリッド」や劇場アニメ『シュレック』の音楽を担当した作曲家ハリー・グレッソン=ウィリアムズのアシスタントを2年間務めていたものの、単独で映像音楽を手がけた経験はなかった(本作の作業が開始されたあと、2003年に劇場作品「テキサス・チェーンソー」でデビューを果たしている)。
 ジャブロンスキーを選んだ理由について百瀬慶一は、「優しさとアクションの両方が書ける人」だったことを挙げている。「この作品は優しさに満ちていないといけない。そしてアクションの後ろにある、人間の混沌とした情感も描かなければいけない。そんな存在感を感じさせるのはSteveだけだった」(「スチームボーイ オリジナル・サウンドトラック」ライナーノーツより)。
 実際、本作の音楽は日本のアニメっぽくない(あたりまえだが)。日本のアニメなら、アクションシーンはもっとガンガンにアクションぽく、心情シーンはもっとメロディアスに、分かりやすい音楽が付きそうだ。
 ジャブロンスキーの曲はアクションの中に心情がまじり、心情曲もよろこび・悲しみなど一面的ではなく多層的に表現され、さまざまな色彩が絶妙のバランスでブレンドされている。加えて、音楽が主張しすぎず、効果音や台詞の入る隙間を空けて音を配置してあるので、映像と合わせた時に音楽が効果音や台詞とぶつからない。日本にもそういう音楽を書ける作曲家はいるが、細かい打ち合せやリクエストをしなくても、自然とそういう音楽を書いてくる点が、ジャブロンスキーのすぐれた資質であり、ハリウッドの作曲家らしいところだった。
 本作のサウンドトラック・アルバムは公開日より3日早い2004年7月14日にビクター・エンタテインメントから発売された。ジャケットイラストは大友克洋描き下ろし。DVD用トールケースよりもやや幅の広いサイズのワイドデジパック仕様。初回盤はフォグケース入り。フォグケースというのは曇りガラスのように加工されたプラスチックケースで、ジャケット画が霧(本作の場合、蒸気か)を通したようにややぼやけて見えるようになっている。
 収録曲は以下のとおり。

  1. Manchester 1866
  2. The Chase
  3. Unexpected Meeting
  4. Scarlet
  5. Raid by the airship
  6. London World Exposition
  7. The Atelier of Ray
  8. Crystal Palace Waltz
  9. Ray’s Dilemma
  10. The Sortie of Scotland Yard
  11. Fight in the Exposition Ground
  12. Launch!
  13. Temptation
  14. Fly in the sky
  15. Two Delusions
  16. Collapse and Rescue
  17. Ray’s Theme

 126分の本編に対し、90分もの楽曲が作られたそうだが、サントラ盤に収録されたのはおよそ60分。作品の世界を凝縮したアルバムになっている。
 マスタリングは百瀬慶一の監修のもと、ハリウッドのマーカソン・マスタリングスタジオで行われた。
 トラック1「Manchester 1866」はタイトルが出た直後のマンチェスターの工場の場面に流れる音楽。機械のトラブルであわや大事故……という状況をレイが救う場面だ。弦と木管を中心にしたサウンドはシリアスになりすぎず、柔らかい。百瀬が語る「優しい」という言葉がしっくりくる。
 トラック2「The Chase」は祖父から送られてきたスチームボールを手にしたレイが、超エネルギーを手に入れようとするオハラ財団に追われて逃げる場面の曲。5分に及ぶチェイスシーンを盛り上げる長い音楽だ。自作の一輪自走車に乗って逃げるレイ、追撃する財団の蒸気歯車メカ、蒸気機関車が迫る線路上の追っかけなど、序盤の見せ場となるシーン。場面の展開に合わせて、曲も次々と展開していく。本編の音楽としては最初に書かれた曲で、ジャブロンスキーは大友克洋監督のイメージに適うよう、かなりの時間をかけて仕上げたという。
 ヒロインのスカーレットが双胴蒸気船「スカーレット号」に乗って登場するシーンの「Scaret」は、フルートがメロディを奏でる愛らしい曲。
 そのスカーレットのテーマの変奏が聴けるのがトラック8の「Crystal Palace Waltz」だ。本作では、1851年に開催されたロンドン万国博覧会の会場が重要な舞台として登場する。ロンドン万博の象徴となった建物・クリスタルパレス(水晶宮)が映像で再現されているのが見どころだ。レイとともにクリスタルパレスに忍び込んだスカーレットが、ガラス張りの水晶宮の美しさに目をみはり、思わず踊り出す。そのシーンに流れる優雅なワルツは、本作の音楽の中でもとりわけ美しい曲である。
 アルバムの後半は、オハラ財団とロンドン警察、英国軍が入り乱れる激しいバトルの音楽が続く。緊迫感をたたえつつも、どこかユーモラスで温かい曲調になっているのが本作らしいところだ。
 そんな中で、レイがスチームボールを使って飛翔する場面に流れたトラック14「Fly in the sky」は金管の響きが高揚感を生む爽快な曲。シリアスな曲よりも、こういう冒険映画らしい音楽にジャブロンスキーの持ち味がよく出ていると思う。
 そして、アルバムのハイライトとなるのが、クライマックスに流れるトラック16「Collapse and Rescue」。暴走するスチーム城の脅威からロンドンの街を救うべく、レイ達が必死の奮闘をくり広げる場面に流れる8分に及ぶ曲である。ジャブロンスキーはサスペンスよりも心情の表現に重きを置き、レイと父・エドワード、祖父・ロイドの3人の葛藤と絆をこの1曲に織り込んだ。作曲家・ジャブロンスキーの底力を感じさせる聴きごたえのある曲だ。
 最後のトラック17「Ray’s Theme」はエンドクレジットにも流れるレイのテーマ。本作のためのデモとして最初に作られた曲を生楽器で録り直したものだ。曲の構成などはほとんどデモのままだという。百瀬慶一がジャブロンスキーを選んだ理由=「優しさ」が伝わってくる曲想である。
 『STEAM BOY』には戦闘も大破壊もあるが、人が死ぬ描写は出てこない。全体が、少年少女向けの冒険SFといった雰囲気で作られている。そういう意味では『AKIRA』と対極にある作品だ。そこに攻撃的な音楽や過剰なサスペンス音楽を持ち込んだら、世界観はだいなしになる。「優しさ」と「アクション」の両立が不可欠だったわけである。ジャブロンスキーの音楽はその難しい要求に応えるものだった。
 そして、その音は、ハリウッド製アクション作品の音楽によくある迫力優先の尖った音ではなく、真鍮細工のようなぬくもりと味わいを持ったサウンドに仕上げられている。最先端の技術で録音・仕上げが行われていながら、どこか懐かしい。これが、百瀬慶一とアラン・マイヤーソンがめざしたサウンドなのだ。ぜひ、サウンドトラック盤で確かめてほしい。

 スティーブ・ジャブロンスキーは、本作の後、日本とも縁の深い作品でメジャー作曲家として飛躍する。その作品は2007年に公開されたマイケル・ベイ監督の実写劇場作品「トランスフォーマー」! 以降、最新作「トランスフォーマー/最後の騎士王」(2017)まで「トランスフォーマー」シリーズ全ての音楽を担当。「バトルシップ」(2012)、「エンダーのゲーム」(2013)等の話題作の音楽も手がけ、2017年には映画音楽ファンの間で評判になったドキュメンタリー「すばらしき映画音楽たち」にも出演するなど、すっかりハリウッドを代表する作曲家として活躍している。
 ハリウッドの音響制作システムを取り入れたこととともに、スティーブ・ジャブロンスキーを見出したことも、『STEAM BOY』の先駆的な成果だった。釣った魚は大きかったのである。

スチームボーイ オリジナル・サウンドトラック
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アニメ様の『タイトル未定』
171 アニメ様日記 2018年9月2日(日)~

2018年9月2日(日)
トークイベント「第149回アニメスタイルイベント 馬越嘉彦の仕事を語る!」を開催。出演者は馬越嘉彦、山内重保、西位輝実。イベント前半は馬越さんにお客さんの質問に答えてもらい、後半はライブドローイングとフリートーク。馬越さんはあまり喋るのが得意ではないそうだが、しっかりたっぷり話していただいた。山内さんがゲストということで『キャシャーンSins』の話が出るだろうとは思ったが、予想以上にその話題が多かった。そして、西位さんの「イベント力」が凄い。話の流れの読み方も、他の出演者への気遣いも抜群だった。

2018年9月3日(月)
中央線方面のある事務所で、これから企画を動かす書籍の打ち合わせ。貴重な制作素材を見せていただきながら。

2018年9月4日(火)
フレンド機能が実装されてから、ポケモンGOを熱心にやっている。持っていないポケモンが出現したことを知って、西口の池袋平和通り商店街に行く。ポケモンがいたのは「池袋の森」という名前の公園。名前の通り、森のような公園だ。こんなところに、こんな公園があったのか。後でSNSで教えてもらったのだが、東京大学農学部の名誉教授の屋敷を公園にしたものだそうだ。

2018年9月5日(水)
昼間はイベントの予習で『河童のクゥと夏休み』を再見。夕方、群馬県の館林に到着。市民大学講座で原恵一さんの対談相手を務めた。市民大学講座全5回を通じてのテーマは「生きるということ」で、原さんとの対談のテーマは「たてばやしに生まれたわたし」。原さんは館林近くで生まれ育ったのだ。来場されたお客さんで、アニメファン、あるいは原さんのファンの方は、見たところ数人だった。原さんがこのあたりで生まれ育ったことと、作品の内容がリンクしていればそれをメインにして話を進めたのだけれど、直前の打ち合わせで聞いたところ、ほぼリンクしていないとのこと。それとは別に原さんが地元のことで話したいことがあり、手がけた作品について触れる必要もあり、トークの構成についてちょっと苦労した。

2018年9月6日(木)
仕事の合間に、埼玉県立近代美術館の「アニメーション作家生活55周年 昔ばなしとススキダトシオ(小林治)展」に行く。設定画、原画、本編画像などを展示。見せ方も凝っていて、アニメに詳しくない方でも楽しめるかたちになっていた。味わい深い画がたくさんあった。開催者の想いが感じられるイベントだった。

2018年9月7日(金)
株式会社ガイナが、劇場アニメ『蒼きウル』、オリジナルアニメ『トップをねらえ3』(仮題)、『あくびをするにはワケがある』、新企画子供向けアニメ番組『レスキューアカデミア』を製作することが発表された(以上のタイトル表記は公式サイトのママ)。以上のタイトルについて、貞本義行、山賀博之がアドバイザーとなり、また『蒼きウル』に関しては、山賀さんが監督を、貞本さんがキャラクターデザインを務める。ややこしい話だが、『蒼きウル』の企画を進めていたのが株式会社ガイナックスで、それを株式会社ガイナが引き継くかたちとなる。
『トップをねらえ3』についてはどんな内容になるのか、誰が作るのかが気になるが、正式タイトルが『トップをねらえ3』なのか『トップをねらえ3!』なのか『トップをねらえ!3』なのかも気になる。

2018年9月8日(土)
午前中は映画館に。その後、アニメスタイルの現役編集スタッフ、学生編集スタッフの卒業生、現役の学生編集スタッフと昼から吞んだ。

アニメ様の『タイトル未定』
170 アニメ様日記 2018年8月26日(日)~

2018年8月26日(日)
早朝の新文芸坐に。着いた時にはオールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 106 『この世界の片隅に』二度目の夏」の終盤だった。いつものようにイベントの最後を見届ける。その後は事務所で「この人に話を聞きたい」の原稿。

2018年8月27日(月)
昼までに「この人に話を聞きたい」の本文を仕上げて、午後にリード、注、プロフィールを書く。「この人に話を聞きたい」の第200回は諏訪道彦さん。諏訪さんに前回、登場していただいたのが「アニメージュ」1999年3月号(VOL.249) 掲載の第5回だから、19年ぶりの登場だ。200回目に相応しい内容になったと思う。

2018年8月28日(火)
朝の6時に公園へ行き、ワイフが猫と戯れている間に軽くポケモンGOをやっていたら、スマホふたつ持ちの外国人の青年が現れた。まもなくレイドバトルが始まって、その青年に「やらないの」と聞かれたのだけど、周りにポケGO者は僕と彼しかいないようだ。「この人数だと無理じゃない?」と言い返したら、不満そうだった。数分して参加者が数人現れたので、レイドに参加。レジロックを倒して、ゲットもできた。彼がゲンコツをこちらに向けたので、ああ、映画とかでよく見るあれかと、こちらもゲンコツを出してぶつけ合う。彼はgood luck的なことを言って立ち去っていった。次のレイドに向かったのだろう。
新文芸坐で「エレファント・マン」(1980・米=英/124分)を観た。特集「鬼才 デヴィッド・リンチの世界」の1本。公開当時から本編映像の抜粋は観ていて、なんとなく内容を知ったつもりになっていたのだが、想像していた内容と随分違った。シネスコ作品だったのも意外。主人公が病院側に受け入れられるまではかなりよかった。その後が悪いわけではないけれど、演出的な緊張感が維持できていない印象だった。いや、公開時の観客はモチーフに圧倒されて、そんなことは思わなかっただろうけど。新文芸坐の花俟さんによればデヴィッド・リンチ作品のお勧めは「ロスト・ハイウェイ」「マルホランド・ドライブ」だそうだが、今回の特集では観ることができなかった。次があったら観たい。

2018年8月29日(水)
編集部スタッフの数人はササユリカフェの「黄瀬和哉展」の設営。一方で、事務所のプリンター(複合機)とFAX(本当はこちらも複合機)を新しいものと入れ替える。その前に、二階のFAX周りを片づける。

2018年8月30日(木)
『劇場版 のんのんびより ばけーしょん』を観た。71分と尺は短いし、ドラマチックではない。むしろ、アンチドラマチックな作品。演出はポイントを抑えているし、全体の構成も、モチーフのセレクトも上手い。情緒もある。主人公達が沖縄に遊びに行く話なんだけど、観客も「旅をした気」になれる。それから、二箇所か三箇所「その場面の空気」のようなものが分かるところがあった。「あ、この場所は涼しいんだな」とか「水が冷たいんだろうな」とか。それもよかった。

2018年8月31日(金)
ネットで『BORUTO NARUTO NEXT GENERATIONS』『ポケットモンスター サン&ムーン』の放送が日曜夕方に移動することを知る(僕が観た記事は8月30日18時に配信されたもの)。これでキー局の19時代に放映のアニメは『ドラえもん』と『クレヨンしんちゃん』だけになるはず。
新文芸坐で「イレイザーヘッド」(1976・米/89分)を観た。これも特集「鬼才 デヴィッド・リンチの世界」の1本。この映画については、なんとなく観たつもりになっていたのだけれど、上映が始まってから初めての鑑賞であることに気づく。僕が「こんな話だ」と思っていたのは、完全に妄想だった。これが1976年に公開されたなら、それはショッキングだったろう。この後に「エレファント・マン」を作ったというのも面白い。デジタル上映で映像は鮮明、音響もよかった。

2018年9月1日(土)
今日から9月。1月から8月もかなり忙しかったのだけど、今から12月までで、8月までと同じくらいの仕事をこなさないといけないようだ。ジョーダン・ベス風に言うと「なんてこった。この空域には、今まで撃墜した数と同じだけの戦艦がいる」。昼に吉松さん、今石さん、ワイフと食事。
その後、新文芸坐で「幻の湖」(1982/164分)を観る。「追悼 橋本忍/加藤剛」の1本。噂通りの内容で、大筋は知っていたけれど、それでも驚くしかない映画だった。クライマックスで主人公が、愛犬の仇と走り、追い抜いたところであるセリフを言うのだけど、客席で笑いが起きていた。内容はとんでもないんだけど、撮影はしっかりしていて、いい画が沢山あった。大筋以外で驚いたのは、主人公のソープランド(公開時の呼称はトルコ風呂)での同僚だった金髪の女性が、実はアメリカから来たスパイで、簡単に日本人のある個人情報を手に入れられる立場にあり、NASAにも通じているということであった。

第577回 PCクラッシュ! とコンテムービー

 前回上げた『WUG! 新章』OPコンテムービーについて補足。画的にはやはり「寮生活」をテーマに考えました。WUG!7人それぞれの朝、楽しい共同生活。実際あの寮に取材に行って、あちこち写真を撮って、畳に座って、窓を開けて庭を歩いたりしてイメージした彼女らを、曲に合わせてカット割り。間にモーションキャプチャーのダンスパートをインサート、でラストは事務所(グリーンリーヴズ)にご出勤。RGR!の3人も仲間入り! わりと悩まずにラフコンテは1日でまとまったと思います。自分が「Storyboard Pro」を使ってコンテにする場合、その清書を直接レイアウトに使用するため、その後の作画の作業効率はぐんとアップ! 止めカットなどは、板垣のコンテに直接デジタル作監修正、そして直接デジタル動画・仕上げ。もちろん動きのあるカットなどはこんなにショートカットばかりはできませんが、効率良くまわるトコを詰めることによって、本当に大変なカットに人手も予算もまわせます。今までの作り方に根本的にメスを入れなければ、デジタル化なんて大して効果を上げるはずありませんから。当然、RGR!3人の駆けるカットなどは、人手も菅原作監修も従来どおりかかってます。ちなみに布団を押し入れに戻すカットは、俺が作監を入れてます。OPの完成映像を観るとクセが見えるかもしれません。2015年の劇場版後篇もレイアウトチェックだけでなく数カット作監をやりました(ノンクレジット)。現場の若手のお手伝いでした。

と、先週の金曜日


 ま、もちろんPCが直るまではアナログの仕事(『ユリシーズ』のレイアウト、ラフ原チェックなど)を中心に進めてましたが、その間この原稿が中断したため、今回も短くてスミマセン(汗)! そんなわけで、今回もコンテムービーを。

■『ベルセルク』第2期OP2コンテムービー(コンテ・演出/板垣伸)

©三浦建太郎(スタジオ我画)・白泉社/ベルセルク製作委員会

PCの修復に奔走してくださった制作の皆さん、
本当にありがとうございました!

第139回 8cmの想い出 〜MEMORIES〜

 腹巻猫です。9月22日(土)蒲田studio80(スタジオ・オッタンタ)にてサントラDJイベント・Soundtrack Pub【Mission#36】を開催します。特集は「80年代アニメサントラ群雄割拠時代〜キャニオン編(後編)」。『パタリロ!』以降のキャニオンアニメ音楽を時間の許す限り紹介します。
 その翌週9月29日(土)には阿佐ヶ谷ロフトAにて「渡辺宙明トークライブ Part12」を開催。『光速電神アルベガス』『ビデオ戦士レザリオン』等の80年代宙明サウンド特集です。前売りチケットは9月1日よりe+にて発売中!
 詳細は下記ページを参照ください。

Soundtrack Pub【Mission#36】80年代アニメサントラ群雄割拠時代〜キャニオン編(後編)
http://www.soundtrackpub.com/event/2018/09/20180922.html

渡辺宙明トークライブ Part12 〜宙明サウンド・クロニクル 80s〜
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/97688


 話題の実写劇場作品「カメラを止めるな!」を観て、「そういえばアニメにも1カットで作られた作品があったなあ」と思い出した。大友克洋が原作・総監督を務めたオムニバス劇場アニメ『MEMORIES』の1本「大砲の街」だ。インディペンデント・アニメーションなら、手塚治虫の『JUMPING』など、1カットを生かした実験的な作品は他にもあるだろうが、商業アニメで1カットにこだわった作品は珍しい。
 『MEMORIES』は1995年に公開された劇場アニメ。『AKIRA』(1988)以来7年ぶりとなる大友克洋監督のアニメ作品だ。「彼女の想いで」「最臭兵器」「大砲の街」の3話で構成されている。
 『AKIRA』では「1人で何もかもやりすぎた」という大友克洋は、この作品では演出家を別に立てた。「彼女の想いで」は森本晃司、「最臭兵器」は岡村天斎が監督。3話目の「大砲の街」は大友克洋自身が監督した。
 「大砲の街」は、およそ20分の短編。3本の中でもっとも短い作品だ。しかし、大友克洋は本作で原作・監督・脚本・美術監督などを兼任。濃厚な大友色に染まった1本に仕上がっている。
 舞台は、戦争が続く、どことも知れない外国の街(建物や衣装はスラブ風だ)。街の中には敵都市を攻撃するための砲台が林立し、毎日決まった時刻に砲撃が行われる。そんな大砲の街で暮らす父子の、ある一日を描写した作品である。ストーリーと呼ぶほどのものはなく、大砲発射と砲弾の製造、軍事教育などに明け暮れる街の夜明けから夜までが淡々と描かれる。全編が1カットで表現されているのが大きな特徴だ。
 といっても、巧妙な場面転換が入るので厳密な1カット作品ではない。メイキング映像の大友克洋の言葉によれば、1カットがねらいではなく、絵巻物のように切れ目なく続いていく映像を作りたかったのだそうだ。一部にCGが使用されているものの、基本はアナログ作画とアナログ撮影。大変な手間と工夫で作り上げられた作品である。
 『MEMORIES』は音楽も刺激的な劇場作品だった。3本それぞれに異なるコンセプトの音楽がつけられ、個性を主張している。
 「彼女の想いで」の音楽は菅野よう子。オペラが重要なモチーフになる作品で、チェコフィルハーモニー管弦楽団とプラハフィルハーモニー合唱団のメンバーによる本格的な音楽が録音された。『MACROSS PLUS』(1994)で鮮烈なアニメ音楽デビューをしたばかりの菅野よう子がつむぐ音楽は、クラシカルであると同時に先鋭的。才気がほとばしっている。
 「最臭兵器」の音楽は、ジャズからポップス、現代音楽、民族音楽など、ジャンルを横断して活躍する三宅純が担当。ノンストップで駆け抜けるようなイキのいい、とんがった音楽で映像を引っ張っていく。演奏は三宅純自身のオルガンとドラムス、エレキベース、エレキギター、ラテンパーカッション等のリズムセクションに20人ほどの生楽器のオーケストラを加えた編成。フリージャズ風、またはノイズ風のサウンドが突拍子もない物語の面白さと滑稽さを際立たせている。
 「大砲の街」の音楽は長嶌寛幸。劇場作品「エンジェル・ダスト」(1994)やTVドラマ「戦国BASARA -MOONLIGHT PARTY-」(2012)など実写作品を中心に活躍する作曲家だ。シンセサイザーを使って独学で作曲を始め、寺井昌輝との電子音楽ユニット・Dowserでも活躍。劇場作品「ゴジラ×メガギラス G消滅作戦」(2000)では「サウンドデザイン」でクレジットされている。「大砲の街」では生楽器のサンプリング音源も使いつつ、全編シンセサイザーによる音楽で映像を彩った。
 そして、全体のオープニングとエンディングの音楽はテクノバンド・電気グルーヴの石野卓球。大友克洋は、『MEMORIES』というタイトルが懐古的な印象を与えるので、オープニングとエンディングには「今の音楽」を持ってきたかった、と起用の理由を語っている。

 この作品、サウンドトラック・アルバムも非常にユニークなパッケージだった。発売はビクターエンタテインメント。紙ジャケに透明プラスティックのトレイがついたデジパックと呼ばれる仕様だが、ただのデジパックではない。紙ジャケの、トレイの裏側になる部分が大きく切りぬかれ、透明なトレイを通してCDのレーベルが見えるようになっている。トレイにも白い文字が印刷されているので、紙ジャケ、トレイ、CDと、三層構造が見える仕組みだ。
 紙ジャケットの表紙側はブックレットが入るポケットになっていて、その外側の中央にも横に細長く窓が開いている。3つの作品の場面写を印刷した透明プラスティックのシートが3枚ついており、これをブックレットに重ねてポケットに収納すると、表紙の細長い窓を通して「MEMORIES」のタイトルが浮かび上がる仕組み。なんとも凝っている。
 そして、もっともユニークなのはCDの構成。通常の12cmCDと8cmCDの2枚組になっているのだ。12cmCDの方には「彼女の想いで」と「最臭兵器」の音楽が、8cmCDの方には「大砲の街」の音楽が収録されている。
 3話からなるオムニバスであることを商品の形に反映させた、こだわり抜いたパッケージだ。
 テーマ曲を収録したシングル盤や特典盤などを別にして、シングル盤サイズのサウンドトラックというのは過去にあるだろうか? ある。アナログ時代には、実写劇場作品「ブルークリスマス」やTVドラマ「おしん」のサントラが17cmLPで発売されている。海外でも4曲入り17cmLPで発売されたサントラがあった。CD時代になってからは、TVドラマ「三姉妹探偵団」の音楽(サントラではなく新録版)が「三姉妹探偵団 Single’s Story」というタイトルで8cmCDで発売されているし、アニメでは「オリジナル・サウンドトラック・ミニアルバム 機動戦士SDガンダム SPECIAL」という8cmCDに主題歌・イメージソングとともに川井憲次のBGMが3曲収録された例がある。しかし、これらはいずれも、音楽を抜粋収録したものだった。
 『MEMORIES』サウンドトラックの8cmCDには「大砲の街」の音楽が完全収録されている。8cmCDで完全収録サントラ。これは世界的にも例がないはずだ。短編作品だからこそ実現したミニサイズのサントラである。大騒ぎするほどのことでもないが、ユニークであることは間違いない。なお、1996年に発売されたアメリカ版サントラは、2枚組の構成と収録曲は日本盤と同じだが、パッケージは一般的なプラスティックケース、CDは2枚とも12cmサイズでリリースされていた。
 8cmCDの収録曲を紹介しよう。

  1. A BOY AND A PORTRAIT
  2. MORNING IN THE CITY
  3. SONG OF THE SOLDIERS
  4. A BOY’S DREAM
  5. THE CANNON’S FANFARE
  6. GUN CREW’S MARCH
  7. LUNCH TIME
  8. THE CANNON’S FANFARE [REPRISE]
  9. DISCIPLINARY MEASURES
  10. EVENING FALLS
  11. A BOY AND A PORTRAIT [REPRISE]
  12. IN YER MEMORY

 最後の「IN YER MEMORY」は石野卓球が書いたエンディング曲で、「大砲の街」の音楽ではない。
 トラック1から11までが「大砲の街」のサウンドトラック。およそ20分の作品に音楽が11曲。演奏時間にすると15分も鳴っている。音楽のないところにはセリフや効果音が流れるので、感覚的には、ずっと音が鳴り続けている印象である。映像と同様に音響も途切れることのない1カット的なサウンドを目指したのではないか。そんな風に感じる作品だ。
 トラック1「A BOY AND A PORTRAIT」は主人公の少年が家の壁にかかった砲撃手の肖像画に敬礼する場面に流れる短い曲。本作のタイトル曲である。
 次の「MORNING IN THE CITY」は大砲の街の全貌が見えてくる場面に流れる曲。エキゾティックなメロディにハンマーのような音や蒸気が噴射するような音が重なり、大砲と工場の街のイメージを音楽で表現する。効果音と音楽がブレンドされたようなサウンドが本作の音楽の特徴である。曲の最後は巨大な砲台を描写する重苦しいフレーズで終わる。
 トラック3「SONG OF THE SOLDIERS」は列車で出勤した街の人々が一斉に職場に向かう場面に流れる無機質なリズム主体の曲。機械の部品となったような表情のない人々を描写する曲で、「兵士の歌」というタイトルに反して歌えるようなメロディはない。風刺の効いた曲名である。
 トラック5「THE CANNON’S FANFARE」は大砲発射準備のシーンに流れる曲。これも「ファンファーレ」というタイトルなのに威勢はよくない。機械的なリズムと明確なメロディのないフレーズで、砲弾装填、装薬装填、砲身の角度調整などの長いプロセスを格式ばった儀式のような雰囲気で描写する。4分に及ぶ、本作の音楽の中でもっとも長い曲だ。
 そして、トラック6「GUN CREW’S MARCH」が大砲発射場面の音楽。砲撃手が登場して砲台に上り、発射操作をするまでの一連の場面に流れている。スネアドラムがリズムを刻むマーチ的な曲だが、高揚感よりも不安感が増す曲調だ。前の曲とこの曲の流れる場面が映画の中でも一番の見せ場であり、音楽的にも聴きどころである。
 民族楽器ダルシマーの音色をフィーチャーしたトラック10「EVENING FALLS」は、夕暮れの街から父子の家への場面転換に流れる曲。
 最後に流れる曲は1曲目と対をなす「A BOY AND A PORTRAIT [REPRISE]」。マーチ的なリズムとスラブ風のメロディで軍国少年の夢を表現する曲だ。
 「大砲の街」の音楽は全体にエキゾティックで、突き放したようなサウンドにまとめられている。感情移入を拒むような曲調が、どこか危うく、不条理な香りがする本編にふさわしい。隅々まで計算された音楽設計を感じさせる密度の高い音楽である。その音楽が8cmのCDに収まっているというのも、すごく象徴的だ。

 『MEMORIES』のサウンドトラックCDは、すでに入手困難になっている。が、幸い、音楽自体は配信版(ダウンロードまたはストリーミング)で聴くことができる。ただ、当然ながら、配信版では12cmCDと8cmCDを組み合せたユニークなパッケージの面白さは味わうことはできない。音楽ビジネスの流れとしては仕方ないことかもしれないが、やはり一抹の寂しさを感じてしまう。

MEMORIES original motion picture soundtrack
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KATSUHIRO OTOMO PRESENTS『MEMORIES』ORIGINAL MOTION PICTURE SOUNDTRACK
※配信版
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アニメ様の『タイトル未定』
169 アニメ様日記 2018年8月19日(日)~

2018年8月19日(日)
映画館で映画を観る日々・その2。TOHOシネマズ新宿で『ペンギン・ハイウェイ』を観る。ビジュアルにもキャラクターにも魅力があり、物語もしっかりしている。石田祐康監督のいいところが残ったまま、多くの人に楽しんでもらえる方向に進化した感じ。僕は原作既読だったので、初めて観る映画なのに、次におきることが分かってしまった。それがちょっと残念だった。キャストだと、ウチダ君役の釘宮理恵さんがとてもよかった。他のキャストも素敵なんだけど、釘宮さんが特によかった。

2018年8月20日(月)
映画館で映画を観る日々・その3。シネ・リーブル池袋で『えいが それいけ!アンパンマン かがやけ!クルンといのちの星』を観る。映画『アンパンマン』の30作目だ。小川びい君の受け売りになってしまうけれど、アンパンマンとばいきんまんの共闘、今までのばいきんメカの再登場が見どころ。
「アニメスタイル ONLINE SHOP」で「黄瀬和哉 アニメーション画集」「馬越嘉彦 アニメーション原画集 第一巻」「電脳コイル アーカイブス」の予約受付を開始。

2018年8月21日(火)
映画館で映画を観る日々・その4。新文芸坐で洋画「グレイテスト・ショーマン」を観る。ロードショー時にあるアニメ監督が誉めていて、それで気になっていた映画だ。音も映像もよかった。最近の僕は「映画を観たい欲」が強くて、「映画を観た満足感」が欲しくてたまらない。だから、映画に手間がかかっていて、それが効果に繋がっているだけで嬉しい。本編終了後に謎のメイキングがついていた。メイキング自体も感動的だったけれど、映画の余韻を考えると、これが付くのはどうだろうかとは思った。

2018年8月22日(水)
松屋の「茎わさび山形だし牛めし」が終了したのが軽くショック。映画館で映画を観る日々・その5。シネ・リーブル池袋で『詩季織々』を観る。日中合作アニメということでいいのかな。3本立てオムニバス。3作品ともドラマ方向性が違っていて、それがプラスになっている。3本目の「上海恋」は新海誠作品へのリスペクトも含めて好印象。カセットテープのモチーフもいいし、主人公達が男女3人並んでラジカセでカセットテープの曲を聴く場面がよかった。『詩季織々』は芝居(作画の芝居)もよかった。

2018年8月23日(木)
映画館で映画を観る日々はひとやすみ。デスクワークとか原稿とか。

2018年8月24日(金)
映画館で映画を観る日々・その6。TOHOシネマズ新宿で『ポノック短編劇場 ちいさな英雄-カニとタマゴと透明人間-』を観る。『詩季織々』と同じく、3本立てオムニバス。3本ともアニメーションとしてはいいところがあるのだけど、まとめて57分の尺は短すぎて「え、もう終わり」と思ってしまった。特に『サムライエッグ』に関しては、3倍くらいの尺がほしかった。

2018年8月25日(土)
昼間は原稿作業。夜はオールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 106 『この世界の片隅に』二度目の夏」を開催。昨年夏の『アリーテ姫』『マイマイ新子と千年の魔法』『この世界の片隅に』に加えて、今年は「ACE COMBAT 04 shattered skies」サイドストーリーも上映。「ACE COMBAT 04 shattered skies」サイドストーリーがスクリーンで上映されるのは世界で三度目か四度目。スタッフクレジット付きのバージョンは今回が初だった。トークでは制作中の『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』の話題も。

第576回 アニメーターと役者とデジコンテ

 前回からの続き、のつもり。

アニメのキャラクターは何人もの手を介して作られるもの!

だと思います。皆さんご存知のキャラクターデザインや役者(声優)さんだけではキャラクターは動かないからです。アニメの行程を簡単に書くと、脚本の方(原作ものの場合はその前に原作者さん)がセリフ・大まかな芝居を書いて、それをコンテマンがコンテにし、それに監督チェックが入り、そのコンテに沿って演出の方が作画に発注、そして原画→演出チェック→作画監督→動画・仕上げへ。極端な話、カメラの前に役者が立てば何かしら動く芝居が撮れる実写と違い、アニメのキャラクターはそのすべての行程を経なければ指1本動くわけがありません! 当たり前ですよね。たぶん俺が役者さんに対して上から目線な監督になれないのは、自分が監督である前にアニメーターだからでしょう。もちろん大概は脚本ありきの上ですが、例えば『ユリシーズ』でも役者さんから「こーゆー言い方ってします?」的な質問がきた時、「俺はこんなつもりでコンテ描いてましたけど」と説明した上で「じゃ、どう演りたい?」と訊き「ま、思ったようにやってみてください」と本番に臨むんです。で、その芝居を聞いて違和感がなければ「OKです! こちら画の方を直します」となるわけ。役者さんがそのキャラクターになりきって感情を繋ごうとするのは、アニメーターがそのシーンの芝居(動き)を考えるのと似てると思うんです。だから役割が違うだけで、一緒にキャラクターを作ってるんですよね。故に自身で画を描かない監督さんが「自分の思ってる演技を違う!」と言っては役者が泣くまで演技をくり返させる録り方が理解できないのです。ま、やり方の違いなのでそれを批判するつもりは毛頭ありません。ただ、

何を言ってもアニメのキャラクターは画と声で半分半分! 役者さんの芝居が多少自分のプランから逸れても、もう半分の画の部分で補完できる腕さえ身につければ、もっといろんなモノが寛容に受け入れられる!

のに、とは思いますが。
 まあ、そんなこんなで「アニメーターは役者」ですから、こないだ(前回分)の食事会でも役者さんらとそんな話に。「俺自身もアニメーターで、皆さんと同じ役者の一種だからなるべく一緒に考えながらキャラクターを作る。それが自分のやりたいアニメ作りです」と。
 で、現在は『ユリシーズ』のオープニングコンテとラフ原画の同時進行。本編は制作会社さんからの要望で久々の紙(アナログ)コンテ。OPはカット尺が決めやすく、ラフ原の描き足しなどの効率の良さから再び「Storyboard Pro」によるデジタルコンテ。近作『ベルセルク』や『Wake Up, Girls! 新章』のOPコンテもこれを使っていて、コンテを描きながらラフ原を足し、尺を取りつつムービーまで作れる楽しいツールです! 参考までに初のムービーを!

■『Wake Up, Girls! 新章』OPコンテムービー(コンテ・演出/板垣伸)

©Green Leaves/Wake Up, Girls! 3製作委員会

な感じです。大ラフの部分(水色画面)はCGパートのため、あえてラフのカット割りのみにして、直にCG会社へ赴き後で調整しました。作画パートは自分のこのコンテの画を基にデジタル作画。コンテで描きたいだけ描いて、動かせてカメラワークも付けられるのが素敵です。

アニメ様の『タイトル未定』
168 アニメ様日記 2018年8月12日(日)~

2018年8月12日(日)
コミックマーケット94の3日目。今回のコミケで、アニメスタイルのブースが配置されたのは、東7ホールだった。東7ホールは広いし、冷房も効いていて涼しい。実に快適だった。ただ、あれだけ広々としてるのなら、遠目に見てもアニメスタイルのブースだと分かるように工夫をするべきだったかもしれない。事務所に戻って、テレビを付けたらファミリー劇場で『アルプスの少女ハイジ』の一挙放映をやっていた。改めてその出来のよさに感心。見入ってしまう。

2018年8月13日(月)
コミックマーケットの後で、株式会社スタイルはお休み。TOHOシネマズ新宿で実写映画「カメラを止めるな!」を観る。確かにこれはよくできている。「面白い映画にする」ということを徹底的にやっていて、それ以外のことはやっていない。それが新鮮だった。この映画が極めて小規模の興行に始まり、大々規模の公開となり、多くの人に受け入れられたのが素晴らしい。色々な条件が重なってのヒットであるはずで、この件だけで「現在でも面白い映画は、有名な役者やタイアップがなくても当たるのだ」と断言はできないけれど、それでもやっぱりこの映画がヒットしたことには夢がある。

2018年8月14日(火)
馬越嘉彦さんの複製ミニ色紙用の原稿を回収。その後は、打ち合わせ3本立て。次の「この人に話を聞きたい」の取材が決まる。取材日は明日である。

2018年8月15日(火)
午前中は取材の予習で『ブラック・ジャック』『ブラック・ジャック21』『輪廻のラグランジェ』を観る。今回は予習に使える時間が非常に短かった。昼から「この人に話を聞きたい」の取材。誰の取材だったかはまだ秘密。

2018年8月16日(木)
事務所で本の片づけをしてもらっていたアルバイトさんと世間話をして、その会話の中で『千夜一夜物語』『クレオパトラ』『哀しみのベラドンナ』の解説をする。2年に一度くらいは若い人に、この3作品の話をしている気がする。『哀しみのベラドンナ』はまだ話題になることがあるが、『千夜一夜物語』『クレオパトラ』は同時期の東映長編と比べて、振り返られる機会が少ない。

2018年8月17日(金)
レンタルオフィスの下見に。「アニメスタイル ONLINE SHOP」の発送用に借りるつもりだったのだけど、予想していたよりも狭かった。やっぱり普通にマンションを借りたほうがいいなあ。夏の書籍の作業が一段落したので、映画館にいくつもりだったのだけど、なかなか時間がつくれない。

2018年8月18日(土)
映画館で映画を観る日々・その1。ユナイテッド・シネマ アクアシティお台場で実写映画「オーシャンズ8」を吹き替え版で観る。作品のセレクトは一緒に行ったワイフの要望にあわせた。物語構成的に「あれ?」と思うところもあった(最後にある人をハメめたところは、犯人が誰かバレバレなのではないかとか)けれど、華やかな映画であり、充分に楽しめた。タイトル通り、8人の女性がチームを組む話で、8人目が仲間に入る動機のユルさがよかった。

第575回 コンテとお食事会

8月某日、『ユリシーズ〜ジャンヌ・ダルクと錬金の騎士』最終話アフレコ終了記念(?)お食事会が催されました! モンモランシ役・逢坂良太さん、ジャンヌ・ダルク役・大野柚布子さん他、キャストの皆様と!!

 第1話のアフレコ後、大野さんが「(皆で)お肉(食べよ)ぅ〜お肉、お肉ぅ〜!」と皆さんを誘っていた際、自分とも目が合ったのですが、その時は

とお断り。その後も何回か「まだお忙しいですか?」と尋ねられたのですが、ようやく最終回に音響制作さんの計らいで今回のお食事会という名の飲み会となったわけです。大野さんは俺と同じ愛知県名古屋市出身。実家もそう遠くなくて、お互い卒業した高校の話や名古屋の名所の話をしたり、その場でアフレコ台本に似顔絵を描かせてもらいました。板垣は昔から気に入った人はすぐ似顔絵にします。大野さんは普段しゃべってても、とにかくジャンヌっぽい可愛い人。それでいてユリス化(豹変)して凶暴になった芝居もカッコよく「泣き」も巧い! 逢坂さんは『てーきゅう』『高宮なすのです!』からのお付き合い。もちろん、メインキャストは皆さんオーディションだったのですが、その中に逢坂さんがたまたま(?)入ってて、『てーきゅう』贔屓で選ぶまでもなく、演技を聴いて即「あ、モンモランシだ!」と思ったんです。まわりに自然と女の子が寄ってくるような優しく楽しい、それでいて芯がしっかりしている男子。物語の都合上、7歳や10歳も演じなきゃならないってトコも、器用な彼なら大丈夫! と。結果は、見事その期待に応えてくれました。ちなみに

今回も『てーきゅう』『ベルセルク』『Wake Up Girls 新章』同様、
ほぼ全話コンテ!

人に振ったコンテも、結果かなり描き直しに近くなってしまいました。キャラの感情線を追っていくと、どうしても全部描いちゃうというのは、やっぱり根がアニメーターだからでしょう。前々から言ってると思いますが

アニメーターは役者である!(By 大塚康生)

という考えのもと、自分の場合はそれぞれのキャラクターになり切って、コンテを切ってるようです、どうやら。だからシナリオを機械的にコンテ用紙のコマに並べただけのものを見ると「いや違う!」となってしまいます。そのお陰もあってか、アフレコ時の演技指示はやり易く、役者(声優)さんから質問が飛んできても困りませんでした。これはあくまで持論なんですが、と久々に中途半端なとこで。

第138回 破壊のあとの未来 〜AKIRA〜

 腹巻猫です。昭和のアニメソングをレコードジャケットとともに紹介した本「日本懐かしアニソン大全」が8月29日に辰巳出版より発売されます。水落隆行さん(レコード探偵団)、不破了三さんと一緒に執筆を担当しました。発売を記念して9月1日に執筆者たちによるトークイベント「昭和アニソン大放談」を神保町・楽器カフェで開催します。予約者プレゼントあり! 詳しくは下記ページを参照ください。

日本懐かしアニソン大全
https://www.amazon.co.jp/dp/4777821684/

楽器カフェ「昭和アニソン大放談」
https://gakki-cafe.com/event/20180901/?instance_id=471

Facebookページでも情報発信中!
https://www.facebook.com/Anison.Taizen/


 都内の名画座・目黒シネマで『AKIRA』を上映しているというので行ってきた。日本公開30周年記念。劇場公開版の35mmフィルムによる上映である。

目黒シネマ
http://www.okura-movie.co.jp/meguro_cinema/now_showing.html

 『AKIRA』は1988年7月に公開された劇場用アニメ。大友克洋が1982年から「週刊ヤングマガジン」(講談社)に連載したマンガ作品を自身で脚色・監督して映像化した。国内外で話題を呼んだ作品だ。今年公開されたスティーブン・スピルバーグ監督の「レディ・プレイヤー1」の中に本作で活躍する通称「金田バイク」が登場したことは記憶に新しい。
 舞台は第3次世界大戦の惨禍から復興を遂げた2019年の大都市・ネオ東京。封印された超能力者・アキラの力をめぐって、暴走族の少年たちと反政府ゲリラ、超能力を利用しようとする政府軍が入り乱れて争う近未来SFアクションだ。
 舞台となる2019年がもう来年に迫っていることに驚く。2020年に東京オリンピックが開催されるという劇中の設定も現実になった。
 30年前に観たときはストーリーがよくわからなかった。ラストは壮大に話を広げて投げ出して終わり? みたいに思ったことを覚えている。あらためて観るとストーリーはごくシンプルだが、当時は感情移入できるポイントがないのでとまどったのだろう。この作品はストーリーやテーマを追うよりも、大都市破壊のスペクタクルや超能力に目覚めた暴走族少年・鉄雄の変容していく姿などをただただ見守り、圧倒的な映像と音を全身で体験するものだと思う。だから、劇場での鑑賞が最適なのだ。
 それとは別に、本作の音楽を聴いていて、明確なメロディを持たないリズム主体の音楽の付け方が、ここ10年ばかりの映画音楽の流行に似ていると、逆デジャビュのような感覚を味わった。今にして思えば、この作品が、SFアクション映画音楽の転換点だったのかもしれない。

 『AKIRA』の音楽を担当したのは山城祥二率いる芸能山城組。1974年に創立され、世界の民族音楽をベースにした音楽制作やパフォーマンスなどの創造活動と研究活動を続けている芸能集団である。
 実は芸能山城組とアニメ音楽には浅からぬ縁がある。芸能山城組の前身は合唱団「ハトの会」。このハトの会に協力していたのが、民族音楽学者・小泉文夫を通じて民族音楽の研究を進めていた渡辺宙明(言わずと知れた『マジンガーZ』の作曲家)だった。そのため、芸能山城組のメジャーデビュー作品には渡辺宙明作曲の「恐山」が選ばれている。また、「恐山」のライブ演奏では渡辺宙明の長男・渡辺俊幸(現在『新幹線変形ロボ シンカリオン』の音楽で活躍中)がドラムを叩いたという。アニメ音楽で活躍する作曲家親子が芸能山城組に関わっていたのだ。
 その芸能山城組が『AKIRA』の音楽を担当したいきさつは、アルバムのライナーノーツをはじめ、さまざまな証言で語られている。
 音響監督の明田川進は、大友克洋監督に「芸能山城組に音楽をやってもらったら」と提案したという。いっぽう、大友克洋も以前から芸能山城組に注目していて、1986年に発売された「輪廻交響楽」を聴いて、「これは『AKIRA』の音楽にもっともふさわしい音楽ではないか」と考えていた。
 芸能山城組の山城祥二は大友克洋の「AKIRA」を読んでいた。映画音楽の依頼があったとき、ぜひやりたいという思いと、芸能山城組の従来の音楽の作り方では到底できそうもない、というふたつの思いの間で葛藤したという。が、「新曲が作れないなら『輪廻交響楽』の一部を使わせてほしい」という大友の話を聞いて、不完全な形で関わるよりは、と参加を決断。約半年をかけて『AKIRA』の音楽を創り上げた。
 制作期間半年は、日本の映画音楽作りのスケジュールとしては破格に余裕があるほうである。
 が、芸能山城組にとってはそうでなかった。新曲作りに何年もかけることがあたりまえの芸能山城組にとって、『AKIRA』の音楽作りは「かつて経験したことのない深刻な戦い」だったと山城祥二はふり返っている。
 大友克洋が音楽作りにあたってリクエストしたのは、いかにも「劇伴」的な方法は避け、暴走族やデモ隊が暴れまわるアナーキーな様子をひとつの「祭り」ととらえて表現する曲と、その対極にあるレクイエム的な曲のふたつを柱として、「芸能山城組としての音楽『アキラ』」を作ってほしいということだった。
 音楽作りは映像制作と並行して行われた。画に合わせて音楽をつける方式ではなく、また、溜め録りの音楽を選曲していく方式でもなく、独特の作り方が採用されている。
 それはモジュール化とシステム化。詳細は省くが、音楽をパーツに分け、組み合わせて使えるように作られているのだ。半年間で『AKIRA』にふさわしい音楽を創り上げるために編み出された方策だった。コンピュータでの音楽作りが発達した現在ではあたりまえにできる方法だが、当時としては画期的かつ実験的な作り方だった。
 こうして、ガムランなどの民族音楽と声明、能などの日本の伝統音楽、それに、シンセサイザーを使った合成音などが融合した、かつて例のない音楽が誕生した。映画音楽であると同時に、芸能山城組の音楽としても成立する、独立性の高い音楽である。
 その成果は映画を観れば体感できる。映像と寄り添うでもなく、対立するでもなく、圧倒的な存在感で観る者の心をゆさぶり続ける。本作の魅力の半分を音楽が担っているといってもよいほど、その印象は強烈だ。
 本作の音楽は、劇中の台詞やSEと音楽を組み合わせた「AKIRA Original Motion Picture Soundtrack」と音楽のみで構成された「Symphonic Suite AKIRA」の2枚のアルバムで発売されている。「Soundtrack」の方はいわゆるドラマ盤ではなく、独自のサウンドアルバムとしてミックスされたもの。本作のカオスな雰囲気を再現していて味がある。ここでは「Symphonic Suite」の方を紹介しよう。収録曲は以下のとおり。

  1. KANEDA 金田
  2. BATTLE AGAINST CROWN クラウンとの闘い
  3. WINDS OVER THE NEO-TOKYO ネオ東京上空の風
  4. TETSUO 鉄雄
  5. DOLLS’POLYPHONY ぬいぐるみのポリフォニー
  6. SHOHMYOH 唱名
  7. MUTATION 変容
  8. EXODUS FROM THE UNDERGROUND FORTRESS ケイと金田の脱出
  9. ILLUSION 回想
  10. REQUIEM 未来

 全10曲。「Symphonic Suite」(交響組曲)と題されているとおり、映画に使われたミックス、サイズそのままではなく、アルバム用に作り込まれた楽曲で構成されている。

 トラック1「金田」は本作のテーマのとなる曲。物語の中心となる暴走族のリーダーの少年・金田のエネルギッシュなテーマだ。曲の冒頭にはハーレー・ダビィッドソンの本物の爆音がミックスされている。リズムはバリ島の竹製の打楽器ジェゴグ。それに青森のねぷた祭りのかけ声「ラッセラ」が加わるという祝祭感満点の曲である。この曲はエンドロールにも使われている。
 トラック2「クラウンとの闘い」は暴走族同士の対決を描く激しい曲。バリ島の男声合唱ケチャの息づかいとジェゴグのリズムが混じり合い、金田のテーマに集約されていく。映像のリズムとはまったく別のリズムがぶつかることで、闘争の混乱が描写される。
 トラック3「ネオ東京上空の風」はシンセサイザーによる風をイメージした音色で奏でられる曲。民族音楽のイメージが強い芸能山城組だが、シンセサイザーや電子音響機器を積極的に取り入れる現代的な一面も持っている。その先進性が本作の音楽作りを可能にした。この曲は、軍の研究施設から脱走した鉄雄がひと息つく場面に流れている。
 トラック4「ぬいぐるみのポリフォニー」は鉄雄が見る悪夢のような幻影につけられた曲。「ポロン」「ピロン」という女声のくり返しに不気味な男声合唱が加わる。聴いただけで使用場面が思い浮かぶ印象的な曲だ。
 トラック7「変容」は鉄雄の肉体がモンスターのように変容していくクライマックスに流れる曲。男声合唱でお経の文句が唱えられ、「鉄雄」「かおり」「金田」とキャラクターの名前を早口で呼ぶケチャが加わる。終盤はブルガリア風の美しい女声合唱で歌われる「應時普地」(大無量寿経の一部)。変容してしまった鉄雄を悼むイメージが重ねられている。
 トラック8「ケイと金田の脱出」はアクションシーンに流れる軽快な曲。ジェゴグのリズムとシンセサイザー、エレキギターが絡み合うエスニカルな疾走感が聴きどころだ。ロック的なカッコよさを持つ曲だが、本アルバムの中では異色の感触である。
 トラック9「回想」の中心となるのは能の音楽。わずか26秒の鉄雄の回想シーンのためにオーダーされた曲だが、山城祥二はそれをふくらませ、10分近くに及ぶ、オリジナルの能の曲にしてしまった。能管、太鼓などの邦楽器とグンデルなどのガムランの楽器が共演する、芸能山城組ならではの音楽である。
 トラック10「未来」はラストシーンに流れるレクイエム。「金田」と対をなす、本作のもうひとつのテーマである。14分を超える長い曲で、これだけでちょっとした組曲になっている。終盤に現れる「ねむれ アキラ」「ねむれ 鉄雄」のコーラスが作中でも耳に残る。
 このトラックは英語では「REQUEM」、日本語では「未来」と名づけられている。山城祥二は、「いったん壊してしまって、そのあとにつくる未来」を本作の音楽のテーマとして考えていたという。そのテーマを象徴する曲である。
 本作の音楽は海外でも評判を呼び、アメリカ版サントラが1990年にリリースされている。国内では山城祥二の監修により音響の改善が進められて、2002年にDVDオーディオ盤、2016年に超高周波成分を加えたハイパーハイレゾ版がリリースされた。2017年にはハイレゾ版をベースにした2枚組のLPアルバムがアメリカMILANレーベルから発売されている。本作の音楽の人気は今でも健在だ。

 はじめに書いた「逆デジャビュ」に話を戻すと、ドコドコと間断なく刻まれるリズムがアクションシーンを牽引する音楽設計は、近年のハリウッド製大作でよく聴かれるサウンドだ。その原イメージは本作にあるのではないのか? ハンス・ジマーも本作の音楽を聴いて何かしらのインプレッションを得たのではないだろうか。
 また、アジアの民族音楽のリズムや合唱がクール、というイメージも本作がいち早く提示したものだ。そのイメージは、『GHOST IN THE SHELL』(1995)の川井憲次の音楽などに受け継がれている。
 まあ、このあたりの関係性は妄想の域を出ないが、本作の音楽が先進的であったことは間違いない。
 『AKIRA』の音楽はまさに「破壊のあとの未来」を示した作品——伝統的な映像音楽を解体し、映画音楽の未来を示した作品だったと思うのである。

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