
第548回 アニメーターえんぴつ(シャーペン)講義

たしか、5話Bパートからだったような。サンエー具志川メインシティで比嘉さんとてーるーのデート(?)話。これ、まず作画云々より純粋に、
てーるーってやっぱイイ奴だよな~
と。いきなりアロハシャツ(実はかりゆしウェア)買ったり、無邪気に沖縄に溶け込もうとしてて、本当に可愛いキャラです。「かりゆしウェア!(どやんちゅ!)」から「……ごめん(しょぼんちゅ)」の比嘉さんも可愛い、篠(衿花)さんカットです。で、「こここここここここここここここここここここここここここ、恋人に~」の比嘉さんは市川(真琴)さん。表情が良かったので、お二人の作画はそのまま活かしてます。店内の利用客モブはまた森(亮太)君に助けられました。サンエーデートで「なんか得したね」、その帰路(バス内)でも「~一緒に行こうね」だと、天然で女たらしなてーるーがイヤミじゃなく、ちゃんと“笑いのネタ”でオチているのが、この原作の良いところだと思います。5話に限らず『沖ツラ』って、コンテ~作画~アフレコ~ダビング~と何度も観聴きしてるはずなのに、何度もスタッフ皆で笑いながら作らせてもらえた幸せな現場でした。
で、5話最後は“ラジオ体操”! うちなーぐちバージョンのラジオ体操には驚き、爆笑しました! だって、
マジで何言ってるのかわからないんだもん(笑)!
この話で特筆すべきは、長谷川(千夏)さんのコンテがいちばん活かされているパートだということです。元々の長谷川さんコンテが、時間経過(ラジオ体操の初日~1週間後)を、同ポジ(同じレイアウトの使い回し)で巧く表現できていて非常に良かった上、さらに全体カット数が抑えめであったため、自身による原図チェックもスムーズに流れた印象でした。こういうキメの細かい演出って、納品前のリテイク数でその成果が発揮されるもので、実はこの5話が全話数の中で作画・美術・撮影含めいちばんリテイクが少なかったのではないか?(なぜか1話より……)と思います。
で、そろそろ『キミ越え』に戻ります。
監督やアニメーターとして活躍し、様々な作品を手がけてきた北久保弘之さん。8月24日(日)にその北久保さんのトークイベントの第3弾「北久保弘之の仕事3」を開催します。会場は前回と同じ、阿佐ヶ谷ロフトAです。
「北久保弘之の仕事3」では北久保さんの監督作品である『ブラックマジック M-66』『老人Z』『BLOOD THE LAST VAMPIRE』を中心にお話を伺います。トークの聞き手は小黒編集長が務めます。
前々回、前回の北久保さんのイベントでは、トーク中に関係者席の方からコメントをいただきました。今回も同様のかたちで進める予定です。関係者席に座っていただく方が決まりましたら、改めてお伝えします。
配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。
チケットは2025年7月12日(土)正午12時から発売となります。チケットについては、以下のロフトグループのページをご覧になってください。
■関連リンク
告知(LOFT) https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/325377
会場(LivePocket) https://t.livepocket.jp/e/imza0
配信(ツイキャス) https://twitcasting.tv/asagayalofta/shopcart/384761
第243回アニメスタイルイベント | |
開催日 |
2025年8月24日(日) |
会場 |
阿佐ヶ谷ロフトA | 出演 |
北久保弘之、小黒祐一郎 |
チケット |
会場での観覧+ツイキャス配信/前売 2,300円、当日 2,500円(税込·飲食代別) |
腹巻猫です。今年はアニメ制作会社・日本アニメーションの創業50周年。それを記念して、さまざまな企画が動いています。
7月8日、日本アニメーション作品の劇伴音楽を紹介するWebサイト「NICHI-ANI Classics」が開設され、サウンドトラック音源を配信でリリースする企画が発表されました(配信自体は7月1日から始まっています)。
NICHI-ANI Classics公式サイト
https://sites.google.com/view/nichi-aniclassics
劇伴音楽配信の第1弾として選ばれたのは、『みつばちマーヤの冒険』(1975)、『ピコリーノの冒険』(1976)、『トンデモネズミ大活躍』(1979)の3タイトル。いずれも劇伴は初商品化となる作品ばかりです。
注目すべきは、これがレコードメーカーからの配信ではなく、日本アニメーション主体の配信であること。アニメ制作会社が自主的に過去作品のサントラ音源を配信しようという意欲的な試みなのです(一種の自主レーベルですね)。主要配信プラットフォームで聴けるので、ぜひアクセスしてみてください。
筆者はこのプロジェクトに、配信タイトルの選定、音楽集の構成・解説などで協力しています。「NICHI-ANI Classics」の開設を記念して、当コラムでは配信第1弾の3タイトルを順に取り上げていきたいと思います。
今回取り上げるのは、1975年に放送されたTVアニメ『みつばちマーヤの冒険』。ドイツの作家ワルデマル・ボンゼルスの児童文学をアニメ化した作品だ。
古城の下にあるみつばちの国に生まれたマーヤは、好奇心旺盛で活発な女の子。城の周囲の花畑の外には出てはいけないと言われていたが、未知の世界へのあこがれを抑えることができないマーヤは、ある日、掟を破って外の世界へ飛び出していく。旅の仲間はのんびり屋のみつばちの男の子ウィリーとマーヤを心配してついていくバッタのフィリップ。マーヤたちの行く手には広大な自然と、さまざまな生きものたちが待っていた。困っている昆虫を助けたり、逆に凶暴な生き物に襲われたりしながら、マーヤは冒険の旅を続けて行く。
マーヤとウィリーとフィリップのユーモラスなやりとりが楽しい作品である。現在のTVアニメではほとんど見られなくなった、やわらかい描線の作画がいいし、瑞々しい自然を水彩画風に描いた井岡雅宏の美術がまたいい。しかし、ほのぼのしたメルヘンタッチの作品というわけでもない。厳しい弱肉強食の世界が描かれたり、種の違いを超越した友情の物語があったり、神秘的な花の妖精が登場したりと、バラエティに富んだエピソードが展開する。たまに深く考えさせるエピソードもある。子ども向けとあなどれない、多様な魅力にあふれた作品なのだ(それは原作も同じ)。
音楽は大柿隆が担当。大柿は1960年代にいずみたくが設立したオールスタッフ・プロダクションに所属し、いずみたくが作曲した歌謡曲の編曲などを手がけていた。TVアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』第1期・2期の主題歌のアレンジも大柿隆によるものである。
筆者の勉強不足で大柿隆の詳しいプロフィールはわからなかったが、彼が作・編曲した作品から、ジャズと管弦楽を学んだ人であることが推測できる。1972年にビクターから発売されたイージーリスニング・アルバム「いそしぎ/ファンタジック・サウンドへの誘い」で、大柿が片面6曲を編曲している(ちなみにもう片面は『空手バカ一代』の音楽を手がけた小谷充が担当)。それを聴くと、大柿隆が『宇宙戦艦ヤマト』の宮川泰サウンドに通じるような、カラフルでムーディなポップ・オーケストラのスタイルを得意としていたことがわかる。
『みつばちマーヤの冒険』の音楽にも、そのポップ&ジャジーな持ち味が生かされている。短い曲でも耳に残るキャッチーなメロディ、そのメロディを生かすシンプルで効果的なアレンジ。これは60〜70年代の歌謡曲で活躍した作・編曲家に共通して見られる特徴だ。ジャズ、ロック、クラシカルと多彩な曲調を操る、当時の歌謡曲のアレンジャーの技量おそるべしである。
『みつばちマーヤの冒険』では2回に分けて約140曲もの音楽(劇伴)が作られた。その中には主題歌のメロディ(「みつばちマーヤの冒険」「おやすみマーヤ」)をアレンジした曲もいくつか(6曲)あるが、大半はオリジナルのメロディで書かれている。そのメロディの豊富さも驚くべきところである。
今回配信された「音楽集」では、約140曲の劇伴の中から85曲を選んで構成した。
「NICHI-ANI Classics」の作品紹介ページ(下記)では、配信音楽集の簡単な解説が掲載されている。配信アルバムでも解説が付いているのがこのプロジェクトの特徴(売り)なのだ。構成意図や曲の流れはその解説に書かれている(筆者が書いた)ので、ここでは解説に書ききれなかったことを補足しながら、聴きどころを紹介しよう。
「みつばちマーヤの冒険音楽集」紹介ページ
https://sites.google.com/view/nichi-aniclassics/home/mitsubachi_maya_no_boken
トラック1「さわやかな風」はリコーダーのメロディによる短い曲。1曲目に『マーヤ』を知らない人にも興味を持ってもらうようなフックになる曲を入れたいと考え、この曲を選んだ。本作にはリコーダーを使った曲が10曲くらいあり、その素朴で愛らしい音色が『マーヤ』の世界観を象徴しているようだ。
トラック2に収録した「みつばちの国」は、第1話でみつばちが蜜を集める場面に流れた曲。軽やかに動くストリングスのメロディが元気に働くみつばちの様子を表現する。アルバムの序盤に勢いのある曲を入れようという意図で収録した。
続いてオープニング主題歌をアレンジした「マーヤの誕生」(トラック3)。タイトルどおり、第1話のマーヤ誕生シーンに流れた曲である。前半のおだやかな雰囲気から、後半は軽快な曲調に転じ、マーヤが元気に飛び立つイメージが広がる。なお、本作に限らず、今回配信開始したアルバムには主題歌の歌入りは収録されていない。劇伴とは権利が異なるためなのでご容赦いただきたい。
トラック13「旅立ち」は第4話のラスト、マーヤの旅立ちの場面に流れた曲。ストリングスのメロディが大空を飛ぶ心地よさを表現し、聴いている方も爽快な気分になる。中盤で故郷を思い出すようなリリカルなメロディが登場するところもいい。
次のトラック14「大空を自由に」も「飛翔」をイメージした曲。花畑や草原の上をくるくると飛び回るマーヤの姿が目に浮かぶようだ。
アルバム後半に収録したトラック44「知らない世界へ」、トラック45「希望の空」、トラック82「よろこびの飛翔」なども、未知の世界へ羽ばたくマーヤを応援するような躍動感のある曲である。
本作の音楽の魅力のひとつが、個性的な昆虫や生き物を描写する音楽。第5話のフンコロガシのシーンに使われた「葉っぱの下の力持ち」(トラック18)、第11話のミミズのシーンに流れた「ゆかいな仲間」(トラック19)、第14話のハサミムシの子どもたちのシーンをかわいく彩る「元気な子どもたち」(トラック21)、第5話や第13話などのアリの行進シーンに流れるファンキーな「アリの行進」(トラック22)など。聴いていて「なるほどなー」と思ってしまうユーモラスな表現が楽しい。
「マーヤのマーチ」(トラック33)、「進めや進め」(トラック34)、「意気揚々」(トラック35)の3曲は、第22話「マーヤの一日隊長」のために書かれた曲。ほかのBGMとはMナンバーの体系が分けられている。おそらく映像か絵コンテを見て書かれたのだろう。これらの曲は、その後のほかのエピソードでも使用された。
大柿隆が『ゲゲゲの鬼太郎』の主題歌アレンジを手がけたことはすでに紹介したが、その『鬼太郎』のBGMを思わせるようなサスペンス曲もある。
「忍びよる影」(トラック23)、「つのる不安」(トラック24)、「危ない!マーヤ」(トラック25)などは、『鬼太郎』の妖怪出現シーンの音楽を思わせる不気味な緊迫曲。アルバムの後半にも、「物陰からドッキリ」(トラック50)、「こわいものが出た!」(トラック51)など、同様のサスペンス曲を収録している。「『マーヤ』にはこんな曲もあるんだ!?」と驚き、感激してもらえたらうれしい。
また、本作にはヒーローもの的な勇ましい曲もある。
トラック26「草原の風来坊」はトランペットのメロディがカッコいいマカロニウエスタン風の曲。残念ながら本編では未使用。
アルバム終盤に収録したトラック76「勇気の槍を手に」は、力強いリズムとエレキギターのメロディによる勇壮な曲。これも本編未使用曲。
次のトラック77「スズメバチをやっつけろ」は、最終回(第52話)のスズメバチ対蜜蜂の決戦場面に流れた、強い決意と勇気をイメージさせる曲。曲調が変わる中間部のピアノのバッキングがクールだ。
最後に筆者好みの美しい曲、抒情的な曲をまとめて紹介しよう。
トラック15の「あこがれ」はリコーダーやストリングス、ピアノなどが奏でる曲。可愛らしい前半から後半は大きくうねるストリングスのメロディになる。外の世界を知りたいと願うマーヤの気持ちを表現する曲である。
トラック28「マーヤのやさしさ」も途中で表情が変わる曲。始めはオーボエのやさしいメロディ、中間部はフルートによる情感豊かな曲調に変化する。ふたたびオーボエのメロディに戻ってコーダとなる。第18話でマーヤが自分を食べようとしたカエルの無事をよろこぶ場面に流れた曲だ。同様の曲調は、トラック40の「夕暮れの空」でも聴くことができる。
トラック56「すてきな花畑」は第24話でセミたちが奏でる音楽として使用された弦合奏の曲。第40話で春を夢見ながら眠るマーヤの場面にも使われた優雅な曲だ。
素朴なメロディがフォークソングを思わせるトラック64「枯れ葉の季節」、哀愁たっぷりの歌謡曲風のトラック65「冬を前に」とトラック66「雪景色」、フランス恋愛映画を思わせるトラック67「センチメンタル」。このあたりは、たぶん大柿隆が歌謡曲やポップスのアレンジで慣れ親しんだ曲調なのだろう。『マーヤ』にはこんな曲が似合うシーンもあるのである。
トラック69「花の妖精」は女声コーラスを使ったファンタジックな曲。花の妖精が登場するエピソードである第30話で使用された。実は花の妖精のテーマとして女声コーラスの曲がもう1曲流れるのだが、その曲は音楽テープに見つからず、収録できなかった。
トラック79「マーヤもの想い」は、ストリングスとビブラフォン、フルートなどによる抒情的な曲。夜、葉っぱの中で休むマーヤの場面などに使われている。
トラック80「美しい心」は、マーヤと大自然の生きものたちとのあいだに芽生えた友情や感謝の気持ちを表現する曲。チェロがリードする弦楽器のメロディが心に沁みる。
次のトラック81「仲間たちといっしょに」はマーヤと昆虫たちとの交流の場面によく流れた曲。リコーダーとオーボエの音色が印象的な味わいのある曲だ。
トラック84「愛のぬくもり」はストリングスとギターによる、しっとりとしたエンディング曲。第30話でマーヤが人間の少年たちの愛情あふれる行動を目撃する場面に流れており、曲名はそのシーンにちなんでつけた。
ラストに収録したのはエンディング主題歌アレンジの「マーヤの夢」。ドリーミィなサウンドはエンディングにぴったりだ。
実のところ、筆者は『みつばちマーヤの冒険』の音楽をそれほど意識したことはなかった。が、今回、音楽集を構成するために本編を通して観て、音楽の豊かさに驚いた。現代のアニメ音楽のような緻密で洗練されたサウンドではないかもしれないが、70年代ならではの親しみやすさと、素朴なあたたかさがある。その背景にはきっと「子どもたちに良質の音楽を」という想いがあったのだろう。筆者もその意を汲んで構成したつもりである。
「みつばちマーヤの冒険音楽集」はサブスクでも聴けるので、ほかの用事をしながらでもいいから、ぜひお聴きいただきたい。そして、「NICHI-ANI Classics」という野心的な試みをぜひ応援してほしい。次の作品の配信につなげるためにも。
みつばちマーヤの冒険音楽集
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監督、会社に“シーサー”送らせていただいていいですか?
アニメ『沖ツラ』の打ち上げにて、空えぐみ先生より声を掛けられた俺。
是非~!
そして先日届きました、立派なシーサーが! 喜屋武さん、比嘉さんのシーサー解説とかも思い出し、改めて見ると趣があって、3話のてーるーじゃないけど確かに「シーサーって可愛いよね!」と、思いました。
スタジオに大切に飾らせていただきます!
今回も短く、大変申し訳ありません……。仕事に戻ります。
先日放送された「岩井 狩野 えびちゅうの推しかるちゃー」(MBS)の話!
自分、テレビ出演とかステージ登壇とか、とにかく極度に緊張する体質なので本来なるべくならお断りさせていただくのです。初監督『BLACK CAT』のDVD映像特典ですらパペット人形に“声のみ”出演にさせていただいたくらい……。
今回はハピネットのプロデューサーさんより「出て欲しい」と言われました。
ハライチ・岩井勇気さんが『沖ツラ』をとても気に入ってくださってて、是非に~!
と。それは光栄なことだし、単純に嬉しい話だと思ったし、こちらの会社(ミルパンセ)にカメラを入れてのインタビュー取材と聞いていたので、「まあそれくらいなら対応可能かなぁ?」とお受けしてしまったのです。以前、『沖ツラ』制作中に2回ほどミルパンセに、沖縄のTV局の取材クルーが入ったことがあり、その際も社内スタッフたちがインタビュー受けてたり——があったので、「また、その手のかな~」と高を括っていた上での承諾でした。
ところが“こちらの会社に取材が入ったは入った”のですが、その時は制作現場代表スタッフのインタビューで撮影監督のみ。その際いらっしゃったディレクターさんから、
「監督の収録は別日、岩井さんとスタジオ収録で宜しく!」と!
そう、最初っから「監督はスタジオのゲストで~」とミルパンセ側には伝えていたそうで、完全に俺の聞き違いの勘違い。今さらお断りもできず、5月某日~会社で仕事を終えてから(都内某所の)スタジオへ向かいました。
緊張で控え室弁当も食えず、ディレクターさんより段取りの説明をされ、間もなくスタジオ入り。せめてもの救いは、方言指導の譜久村帆高さんが一緒だったこと。ちょっとだけリラックスできました。
で、スタジオ収録直前、忙しくて伸び放題の髪をネックウォーマーに放り込み帽子状にした板垣の頭に気付いたスタッフさんが「はみ出た髪、入れちゃいましょうか?」「お願いします」と。
MCの岩井さんも巧く俺をのせてくださって、周りのアイドルの方たちや譜久村さんとも楽しくお話できて、結果とても楽しかったです。カメラが回っていないとこでも「二期やってくださいよ」ととても気さくな岩井さんでした。——が!
大変申し訳ありません! 収録~放送された番組本編、自分は観ていません! ごめんなさい!
これは今回の番組に限らずのことで、自分が映った番組など、とても恥ずかしくて観ることができないのです。完パケ(白箱)をいただいた場合でも、本棚に置いてはありますが、自分は観ることはないでしょう。
とにかく作った作品はスタッフ皆の力の結集なので、多くの方々に観ていただきたいのですが、板垣個人は承認欲求が大変低い人間なのです(汗)。プロデューサーの皆さん、今後もいろんな企画を持ってきていただきたくとは思いますが、番組出演や登壇などの依頼はお断りさせていただくとは思いますが、御容赦ください。そもそも、俺の話を聞いたって為にもならなきゃ、面白くも何ともないですから。
はい、本来の仕事に戻ります。
腹巻猫です。前回取り上げた『天久鷹央の推理カルテ』に続いて、今回も探偵が活躍するミステリー作品を取り上げたいと思います。6月末で最終回を迎える「小市民シリーズ」です。こちらは高校生探偵が活躍する青春ミステリー。一風変わった音楽と音楽演出が特徴です。
「小市民シリーズ」は米澤穂信のミステリー小説を原作に、監督・神戸守、アニメーション制作・ラパントラックのスタッフで制作されたTVアニメ。第1期(第1話〜第10話)が2024年7月から9月まで、第2期(第11話〜第22話)が2025年4月から6月まで放映された。
小鳩常悟朗と小佐内ゆきは、人並はずれた推理力と洞察力を持ちながら、平凡な日常にあこがれて「小市民」をめざす高校生。2人は中学時代に関わった事件の苦い体験から、探偵のようにふるまうことをやめ、「小市民」として生きることを選んだのだ。しかし、2人は新たな事件に巻き込まれ、謎を解かざるをえなくなってしまう。
小鳩と小佐内は、恋人とも友人とも異なる「互恵関係」を結んでいる。2人は協力しあうこともあれば、互いに秘密で行動することもある。その微妙な関係が緊張感を生む。事件を通して2人の関係が徐々に変化していくのが、青春ミステリーらしい味わいになっている。
アニメ版では小説ではできない独特の演出が見られる。小鳩と小佐内が話をしていると、突然背景が変わり、2人のいる場所が移動したように見えることがある。しかし、それは一種の心象風景で、実際は移動していないのだ。視覚的な変化をつけることでセリフの多いシーンを飽きさせずに見せ、同時に言葉の裏にある感情を表現しているのだろう。
音楽演出にも特徴がある。前回取り上げた『天久鷹央の推理カルテ』で1話あたりの使用曲数が少ないという話をしたが、本作はそれに輪をかけて少ない。1話あたり2〜6曲くらい。音楽が少ないぶんセリフと画面に集中することになる。そして音楽が流れると、特にドラマティックなシーンでなくても「何かが起こっている」という気分になる。これも小説ではできない演出である。
音楽(劇伴)はTVアニメ『約束のネバーランド』『ニンジャラ』等の劇伴を手がける小畑貴裕が担当。『約束のネバーランド』も「小市民シリーズ」と同じ神戸守監督作品だった。
月刊Newtypeの2024年9月号に神戸監督と小畑貴裕が本作について語るインタビューが掲載されている。以下、そのインタビューを参考に本作の音楽を読み解いてみよう。
神戸監督から小畑には「舞台は岐阜の郊外ののどかなイメージだけど、音楽には少しとがった要素がほしい」とオーダーがあったという。そこで小畑は、日常感を重視しつつも、特徴のある音を取り入れて音楽を作っていった。
具体的には、さまざまな民族楽器が使われている。アイルランドのティン・ホイッスル、フィドル、イタリアのオカリナ、マンドリン、12弦ギターなど。ファンタジー系の作品で使われるような楽器が日常描写や情景描写に使われ、地方都市の素朴な風景にふしぎな味わいを加えている。作曲にあたり、小畑は物語の舞台になった土地(岐阜)まで足を運んで、現地の空気感を参考にしたそうだ。
女声ボーカルが入る曲も印象的だ。その代表が本作のメインテーマである「小市民シリーズMain Theme」という曲。神戸監督はもともと、歌詞のついた曲をいくつか作り、それを推理シーンに流すことを考えていたという。しかし、小畑が作った最初のデモがすごくよかったので、それ1曲でいこうということになったそうだ。
ほかにも、曲によっては変拍子を入れたり、あるべき拍子を1拍抜いたりといった、すぐには気づかないけれどなんとなく違和感を感じるような工夫がほどこされている。
音楽演出の特徴としては、先述したとおり、1話あたりの曲数が少ないことが挙げられる。神戸監督から小畑には「この作品ではあまり音楽を使わない。だけど、使いたいシーンではフル尺で使いたい」と話があったそうだ。神戸監督は第1話のクライマックスにメインテーマを流そうと決め、そこから逆算して絵コンテを切っていったという。音楽を限定して使うことで最大限の効果を上げようとしたことがうかがえるエピソードである。
もうひとつ、スイーツを食べるシーンが多い本作ならではの試みがある。カフェやレストランで流れるBGM、つまり現実音楽を演出に取り入れていることだ。小鳩と小佐内がスイーツを食べながら話をするシーンでは店内のBGMがずっと流れている。それらはすべて小畑貴裕のオリジナル曲で、場面に合わせて選曲されている。目立たないように流れている店内BGMだけど、シーンの雰囲気をコントロールし、2人の会話にほのかな色づけをする役割を果たしているのだ。
本作のサウンドトラック・アルバムは、2025年6月18日に「TVアニメ『小市民シリーズ』オリジナル・サウンドトラック」のタイトルでバップからリリースされた。CDと配信があり、CDは2枚組。
収録曲は以下のとおり。
ディスク1
1-01.小市民シリーズMain Theme
1-02.キュートな小佐内さん
1-03.復讐
1-04.ミステリアス
1-05.捜査
1-06.推理する小鳩常悟朗
1-07.謎解き
1-08.おいしいココアの作り方
1-09.推察
1-10.二人の日常
1-11.フラッシュバック
1-12.スイート・メモリー
1-13.静かな景色
1-14.のどかな街並み
1-15.さて、ケーキを食べよう
1-16.忍び寄る不安
1-17.緊迫
1-18.約束のいちごタルト
1-19.ハンプティ・ダンプティ
1-20.Bittersweet
1-21.泣きながら、タンメン
1-22.泣きながら、タンメン (No Vocal ver.)
1-23.トロピカルパフェ
1-24.スイーツ巡り
1-25.Race Against The Clock
1-26.小市民シリーズMain Theme (pf ver.)
ディスク2
2-01.小市民シリーズMain Theme (inst ver.)
2-02.不審火
2-03.夜のパトロール
2-04.瓜野のプライド
2-05.瓜野の決意
2-06.小市民シリーズMain Theme (Major ver.)
2-07.My Home Town
2-08.メイルシュトロム
2-09.Four Season
2-10.逃避
2-11.独白
2-12.小市民シリーズMain Theme (Gt ver.)
2枚に分けて劇伴38曲を収録。主題歌は収録していない。
ディスク1が第1期で作られた曲、ディスク2が第2期用に作られた曲(メインテーマを除く)という構成。おそらくこれで全曲である。通常のTVアニメの曲数(40〜50曲)と比べて極端に少ないことがわかる。しかも、この中には劇伴として使われた曲だけでなく、店内BGMとして使われた曲も10曲くらい含まれている。
ディスク1から紹介しよう。
1曲目「小市民シリーズMain Theme」は本作のメインテーマ。アコースティックギターとフィドルによる前奏から始まり、ユリカリパブリックが歌うメロディに展開する。劇伴でありながら、歌詞のついた歌でもあるという曲。第1話のクライマックス、といっても小鳩と小佐内が会話するだけのシーンに流れて、2人の関係を印象づけていた。1期の最終回(第10話)で2人が互恵関係を解消しようと話し合うシーンに流れたのもこの曲。第2期の最終回(第22話)のラストシーンも同じ曲で締めくくられた。
メインテーマのバリエーションには、ボーカルを笛に置き換えたインスト・バージョン(inst ver.)、ピアノ・バージョン(pf ver.)、ギター・バージョン(Gt ver.)、メジャー・バージョン(Major ver.)がある。インスト・バージョンは第8話と第10話で、ピアノ・バージョンは第10話と第21話で、ギター・バージョンは第15話で、メジャー・バージョンは第17話で使用された。メインテーマのフレーズは変形されて、ほかの曲にも引用されている。
2曲目「キュートな小佐内さん」と3曲目「復讐」は小佐内ゆきのテーマ。どちらもメインテーマの変形だ。小佐内の少女っぽい風貌を表現するのがピチカートやビブラフォンの音色を使った「キュートな小佐内さん」。心の内にある狼のような一面を表現するのが「復讐」。「復讐」は2本のチェロの旋律を重ねて小佐内の2面性を表現した曲だ。第9話で小佐内が誘拐事件の背景を小鳩に話す場面に流れていた。
「ミステリアス」(トラック4)、「捜査」(トラック5)、「おいしいココアの作り方」(トラック8)、「推察」(トラック9)などは、小鳩と小佐内が謎を解こうとする場面によく使われた曲。シンプルな構成ながら、ゆれるリズムと民族楽器の音色などでミステリーっぽい雰囲気をかもし出している。「おいしいココアの作り方」は、第2話で小鳩がココアの作り方をシミュレーションする場面に流れていた。
「推理する小鳩常悟朗」(トラック6)と「謎解き」(トラック7)は小鳩常悟朗のテーマ。これもメインテーマの変形だ。曲名通り、小鳩が推理する場面などに使われている。
笛の音がさわやかな「二人の日常」(トラック10)を挟んで、「フラッシュバック」(トラック11)と「スイート・メモリー」(トラック12)は小鳩と小佐内の心情を描写する重要曲。メランコリックなチェロのメロディによる「フラッシュバック」は第1期後半のエピソード『夏期限定トロピカルパフェ事件』で小鳩と小佐内が事件をふり返るシーン(第9話、10話)に使われた。第2期では2人が中学生のときに関わった事件を回想する場面でも流れている。女声ボーカルがしっとり歌う「スイート・メモリー」は第10話で2人が互恵関係を解消したあと、小佐内が雨の中を赤い傘をさして帰っていく切ない場面に使用。メインテーマの変奏である。憂いをたたえた曲調が2人の胸に秘めた想いを代弁しているようだ。
ほっとひと息つく日常シーンに流れた3曲(「静かな景色」「のどかな街並み」「さて、ケーキを食べよう」)を挟んで、サスペンス描写曲が登場する。
「忍び寄る不安」(トラック16)と「緊迫」(トラック17)は小鳩と小佐内の動揺や憤りを表現する曲としてしばしば使われた前衛ジャズ風の曲。第1期後半で描かれる誘拐事件にからんで使用されたのが記憶に残る。「緊迫」では、低くうなるようなバスクラリネットの音が効果を上げている。
収録位置は離れるが、トラック25の「Race Against The Clock(時間との競争)」もサスペンス描写曲のひとつ。本作には珍しい、ストレートに焦燥感や緊迫感をあおるタイプの曲である。第4話で小佐内と連絡が取れないことを心配した小鳩がバスに乗って駆けつけようとする場面が唯一の使用だった。
ディスク1で残った7曲、トラック18「約束のいちこタルト」〜トラック24「スイーツ巡り」は、いずれも飲食店や商店街などで流れるBGMとして使用された曲である。ピアノ、ドラムス、ウッドベースのピアノトリオのスタイルで作られた「Bittersweet」はジャズ出身の小畑らしい曲。ピアノも小畑が弾いている。堤田ともこが歌う演歌「泣きながら、タンメン」が異色だが、これは商店街やラーメン屋で流れている曲。街ではおなじみのヒット曲らしく、いろんな場所でこの歌が聴こえてくる。
ディスク2も簡単に紹介しよう。
トラック2「不審火」〜トラック5「瓜野の決意」は、第2期前半の『秋期限定栗きんとん事件』のエピソードで使われた曲。小佐内にいいところを見せようとする新聞部の1年生・瓜野のための曲が作られているのが特徴だ。
トラック6の「小市民シリーズMain Theme (Major ver.)」は、第17話で小鳩と小佐内が一度解消した互恵関係を復活させる場面に使用。主旋律をメジャーに転調して使うアイデアが効いている。
続いて収録された3曲、「My Home Town」(トラック7)、「メイルシュトロム」(トラック8)、「Four Season」(トラック9)は、いずれも飲食店やホテルのラウンジで流れるBGMとして使われた曲。ちなみに「ハンプティ・ダンプティ」も「メイルシュトロム」も店の名前なのだ。
「逃避」(トラック10)と「独白」(トラック11)の2曲は、第2期後半のエピソード「冬期限定ボンボンショコラ事件」のために用意された曲。前衛ジャズ風の「逃避」ではバスクラリネットと弦が不穏な調べを奏で、「独白」は弦楽器と笛が哀感を帯びたメロディを聴かせる。物語の大詰めとなる第21話と第22話で使用された。
『小市民シリーズ』の音楽の大半は、一聴すると、そんなに変わった音楽には聞こえない。けれど、よく聴くと使われている楽器や演奏法、リズムやメロディの崩し方などに独特の工夫がある。日常に溶け込みながら、じわじわと日常を異化していくような、スリリングな要素を秘めた音楽である。そんな音楽の中で憩いとなるのが、店内BGM用に書かれた軽快な曲や優雅な曲なのだが、劇中では、その曲をバックにおだやかでない会話が交わされる。小市民にあこがれても小市民になりきれない小鳩と小佐内の屈折が、音楽と音楽演出にも反映されているのだ。劇中の小佐内ゆきは羊の着ぐるみで狼の本性を隠した少女のように描かれているが、このサントラも、羊のような親しみやすさの裏にとがった牙を隠した音楽である。
TVアニメ『小市民シリーズ』オリジナル・サウンドトラック
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上映イベント「押井守映画祭」は押井守監督が手がけた作品を連続して上映するシリーズプログラムです。他の【新文芸坐×アニメスタイル】のプログラムと同様に新文芸坐とアニメスタイルの共同企画でお届けしています。
「押井守映画祭2025」の第二弾として、7月26日(土)に《うる星やつら 編》を開催します。上映作品は『うる星やつら オンリー・ユー』(1983年)と『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(1984年)。いずれもTVアニメ『うる星やつら』(1981年版)放送中に公開された劇場版です。『オンリー・ユー』は押井監督にとって初の劇場監督作品であり、『ビューティフル・ドリーマー』は彼の代表作のひとつと評されています。
作品上映の前にトークコーナーを予定しています。ゲストは押井監督と古川登志夫さんのお二人。古川さんは『うる星やつら』(1981年版)や今回上映する2本等で主人公の諸星あたるを演じただけでなく、押井監督の『機動警察パトレイバー』と『御先祖様万々歳!』でも主人公を演じています。トークの聞き手はアニメスタイル編集長の小黒祐一郎が務めます。
チケットは7月19日(土)から発売。チケットの発売方法については新文芸坐のサイトで確認してください。 なお、今回の「押井守映画祭」でも押井守映画祭オリジナルグッズを販売する予定です。
●関連リンク
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/
緊急告知!押井守映画祭オリジナルグッズを販売します!!
https://animestyle.jp/news/2025/04/30/29056/
【新文芸坐×アニメスタイル vol.191】 |
開催日 |
2025年7月26日(土)17時00分~22時05分予定(トーク込みの時間となります) |
会場 |
新文芸坐 |
料金 |
3800円均一 |
上映タイトル |
『うる星やつら オンリー・ユー』(1983/89分/デジタル) |
トーク出演 |
押井守(監督)、古川登志夫(出演)、小黒祐一郎(アニメスタイル編集長) |
備考 |
※トークショーの撮影・録音は禁止 |
前回、オープニング・コンテ撮ムービーでお茶濁しで、すみませんでした!
まだ、出していないOPコンテ~例えば『いせれべ』とかありますが、またの機会に。
で、前々回5話の続き。“魔除け”話、この件も俺、結構コンテを描き直していると再確認。そして、最初の教室・掃除シーンも篠衿花さん原画、ということはほぼ作監修なしで篠さんの画。比嘉さん良い表情しています。「やしが大丈夫!!」と“琉球直伝”ポーズや、「まよけ~」で“OK”サイン~などの喜屋武さんは原作のコマ画より、“手のポーズ”が身体のシルエットから出るように自分の方で拘って調整したと思います。テレコム時代から、大塚康生さんや友永和秀師匠にこっぴどく叩き込まれたノウハウが“止め画”だからこそ活かされていたりします。てーるーの手に“サン”を握らせる辺り、篠作監と市川(真琴)作監が混在していますね。俺の方で適材適所の振り分けをしていました。
次、“てーるーを誘ってしまう比嘉さん”話。夏休みの時間経過を日捲りカレンダーで見せる演出にしたのですが、納品前に“~年”表記が物語内時間と現実とでズレているとか何かの理由で、急遽消したと思います。実際、具志川ビーチ堤防の通称“てーるーベンチ”がマンガもアニメも数年前のデザインを採用していますし。
「十時茶まで待てない!」は実際の番組を模して再現したのですが、個人的にこーゆーの好き! 一緒に「待てな~い」するすずが可愛いくて~。
バス停前で「あれ?比嘉さん!」とてーるーの呼び掛けに、背後で振り向いている人らは1話同様、もちろん“比嘉さん”たちです。ま、気づいていますよね。バス内・最後部座席で知らぬ間に隣にいるてーるーに“!?”の比嘉さんの顔、面白い! 原作まんまです!
そして、アバンより“○○しようね”問題の伏線回収でAパート終わり。ここは田辺(慎吾)監督の構成勝利かと。
はみ出して、“からあげさんをとりあえず食べる~”はシナリオ時なかったものをこちらで足しました。やっぱ、出したからには唐揚げ、気になって。
という訳で、また短くてすみません。『キミ越え』に(汗汗)!
片渕須直監督が制作中の次回作のタイトルは『つるばみ色のなぎ子たち』。平安時代を舞台にした作品のようです。
『つるばみ色のなぎ子たち』の制作にあたって、片渕監督はスタッフと共に平安時代の生活などについての調査研究を進めています。その調査研究の結果を披露していただくのが、トークイベント「ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』」シリーズです(以前は「ここまで調べた片渕須直監督次回作」のタイトルで開催していました)。
7月19日(土)昼に「ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』13」を開催します。サブタイトルは「女房名からぎりぎりまで可能性を煮詰めて出身家系を探る 編」です。片渕監督によれば、女房の名前から出身家系について探っていくと、思いもよらなかった可能性に出会ってしまうとか。今回はそういった考察を中心にトークを進めていきます。興味深い話題が飛び出すことでしょう。
出演は今回も片渕監督、前野秀俊さん。聞き手はアニメスタイルの小黒編集長が務めます。会場は阿佐ヶ谷ロフトA。今回のイベントも「メインパート」の後に、短めの「アフタートーク」をやるという構成になります。配信もありますが、配信するのはメインパートのみです。アフタートークは会場にいらしたお客様のみが見ることができます。
配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。また、今までの「ここまで調べた~」イベントもアニメスタイルチャンネルで視聴できます。
チケットは2025年6月21日(土)正午12時から発売となります。チケットについては、以下のロフトグループのページをご覧になってください。
■関連リンク
告知(LOFT) https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/322769
会場&配信チケット https://t.livepocket.jp/e/5tg3a
配信チケット(ツイキャス) https://twitcasting.tv/asagayalofta/shopcart/381187
なお、会場では「この世界の片隅に 絵コンテ[最長版]」上巻、下巻を片渕監督のサイン入りで販売する予定です。「この世界の片隅に 絵コンテ[最長版]」についてはこちらの記事をどうぞ→ https://x.gd/57ICr
第242回アニメスタイルイベント | |
開催日 |
2025年7月19日(土) |
会場 |
阿佐ヶ谷ロフトA | 出演 |
片渕須直、前野秀俊、小黒祐一郎 |
チケット |
会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,800円、当日 2000円(税込·飲食代別) |
前回の続きで5話をやろうと思ったのですが、新作『キミと越えて恋になる』鋭意制作中で本日バタバタ! 公式で発表されているとおり、今回は木村(博美)さんと共同監督なのですが、相変わらず自分もアニメーターなため、「作画以降は全部お任せ!」とは行かずまた作画修正をやっています。
さらに、今回は『異世界でチート能力(スキル)を手にした俺は、現実世界をも無双する』同様、音響監督も兼任(こちらも納谷僚介さんと共同)故、選曲やら音響用ムービーのチェックなど、大忙し……。
それらが重なった訳で、本日はちょっと寄り道。
『沖縄で好きになった子が方言すぎてツラすぎる』
オープニング・コンテ撮ムービー公開!
ということでご勘弁を(汗)。
腹巻猫です。犯罪捜査を題材にしたミステリーものの音楽にジャズやロックが使われるようになったのはいつからでしょう? 劇場作品では50年代の犯罪サスペンス「死刑台のエレベーター」あたりが原点で、60年代の「夜の大捜査線」や70年代の「黒いジャガー」「ダーティハリー」などでイメージが固まったと思います。
日本では、60年代のTVドラマ「七人の刑事」で山下毅雄が渋いジャズを聴かせ、同じ作曲家によるTVアニメ『わんぱく探偵団』(1968)がそのサウンドを継承しました。70年代に入ると、TVドラマ「太陽にほえろ!」のロックサウンドが刑事ドラマ音楽のイメージを一新。こちらも同じ作曲家(大野克夫)によるTVアニメ『名探偵コナン』がサウンドを受け継いでいます。今回は、そんなミステリーサウンドの系譜につながる作品、『天久鷹央の推理カルテ』を取り上げます。
『天久鷹央の推理カルテ』は2025年1月から3月まで放映されたTVアニメ。知念実希人による人気ミステリー小説を、監督・いわたかずや、アニメーション制作・project No.9のスタッフで映像化した作品である。4月からは橋本環奈主演によるTVドラマ版も放映されている。
天医会総合病院の統括診断部部長を務める天久鷹央は、超人的な記憶力と知性を持つ天才医師。小柄で童顔のため少女に間違えられることもあるが、ほかの医師が診断困難とした患者の病因をつきとめ、警察も手に負えない事件の真相を暴いていく。いっぽうで鷹央には他人の感情を理解できない欠点があり、そのせいで人に嫌われたり、もめごとを起こしたりすることもしばしば。そんな鷹央のもとに、今日も不可解な患者や事件が持ち込まれる。
診断に特化した医師が探偵役の医療ミステリーである。医院の屋上に家を建てて暮している主人公・天久鷹央のキャラクターが強烈で、多少展開に無理があっても許してしまう。
音楽は3人組のジャズロックバンド、fox capture planが担当。以前当コラムで取り上げた『青春ブタ野郎』シリーズでは青春ものらしいリリカルな曲が多かったが、本作では本領発揮とも言えるジャズ&ロックスタイルの曲をたくさん提供している。fox capture planが音楽を手がけたドラマ「ブラッシュアップライフ」や「コンフィデンスマンJP」などのサウンドが好きな人にはたまらない音楽だ。
fox capture planのピアニスト・岸本亮は本作の音楽について、「鷹央が推理しているときの脳内を音楽でどう表現するか」にこだわったとコメントしている(アニメ公式サイトより)。鷹央は感情をあらわにするキャラではないから、何を考えているのか、映像だけではわかりづらい。鷹央のキャラクター描写を助けているのが音楽だ。たとえば、鷹央が謎を解き、真相にたどりつくシーンによく使われた曲「Q.E.D.」は、鷹央の頭の中でなにが起こっているかを視聴者に想像させる音楽になっている。
サウンドトラック・アルバムの解説書に掲載されたfox capture planのインタビューによれば、本作ではエレキギターを使った曲があるのが特徴だとのこと。fox capture planにはギタリストがいないので、ふだんギターを使う曲はあまり書かないのだそうだ。エレキギターはメインテーマ「天久鷹央」でもフィーチャーされていて、鷹央のキャラクターを印象づけるサウンドになっている。
ほかには、探偵ものらしいオーソドックスなジャズの曲が聴けるのも楽しいところ。ミステリーにはやっぱりジャズだろう。そう考えるサントラファンの期待を裏切らない音楽である。
本作の音楽の大きな特徴のひとつに、曲数の少なさがある。
サウンドトラック・アルバムに収録された音楽は全28曲。筆者がチェックしたところ、劇中で流れた曲はほぼすべてアルバムに収録されている。昨今は1クールの作品でも40曲くらい劇伴を作るのがふつうだが、おそらく本作では30曲程度しか作っていないのではないか。少ない曲数での音楽演出を可能にしたのが、音楽の作り方と使い方である。
まず音楽の作り方について。本作の音楽では、たとえば同じメロディを2回くり返す場合、ジャズの演奏でよくあるように2コーラスめのメロディをくずしたり、アドリブを入れたりして変化をつけている。その特徴を生かして、劇中では前半と後半を使い分けて別の曲のように聴かせている。また、同じ楽曲のミックス違いを用意することでバリエーションを増やし、音楽演出の幅を広げている。
次に音楽の使い方について。本作では1回の話数で使用される劇伴の曲数が少ない。だいたい1話あたり10曲程度で、エピソードによっては5、6曲の場合もある。べったりと音楽を流さず、映像をじっくり見せ、セリフを聴かせる、実写のドラマを思わせる演出になっている(TVドラマ版は逆に音楽が多すぎるくらい)。また、本作のストーリーは1〜3話でひとつの事件が解決するスタイル。基本的なフォーマットが決まっているので、「こういう場面にはこの音楽」という定番の音楽演出がある。その代表が先に上げた、鷹央が真相をつかむシーンに流れる「Q.E.D.」である。定番の音楽演出には、聴きなじみのある曲で視聴者の心を高揚させる効果もある。おそらくスタッフは、この作品なら、いたずらに曲数を増やす必要はないと考えたのだろう。少し話がずれるが、『機動戦士ガンダム』(1979)だって劇中でよく使われた音楽は30曲くらいしかないのである。それがかえって1曲1曲の印象を強めることになった。劇伴って、そういうものでよいのではないか、と思う。
本作のサウンドトラック・アルバムは「『天久鷹央の推理カルテ』Original Soundtrack」のタイトルで、2025年3月26日にアニプレックスから発売された。CDの解説書にはfox capture planのインタビューが掲載されている。
収録曲は以下のとおり。
歌は未収録で、すべて劇伴音楽で構成されている。
曲順は、本編使用順にこだわらず、本作の全体的なイメージを音楽で再現した印象だ。
トラック1「天久鷹央」は本作のメインテーマ。ドラムのリズムを導入にエレキギターがワイルドなフレーズを奏でる。オルガンが加わって、ロック調のノリのよい演奏が展開する。天久鷹央のキャラクターを表現した勢いのある曲だ。劇中では第1話の鷹央の登場シーンなどに使用されている。
トラック2〜トラック12は、よく使われるおなじみの曲を並べた構成。
トラック2「My mood」は「鷹央が自分の部屋で聴いている音楽」という設定の曲。ピアノトリオによる軽快なジャズだ。fox capture planのコメントによれば、自分たちの本来のスタイルは抑えて、作品世界の中のジャズトリオが演奏した曲というイメージで演奏したとのこと。
トラック3「1年目の研修医」は鷹央にあこがれる研修医・鴻ノ池舞のテーマ。ユーモラスなシンセの音を使ったほのぼのした曲だ。
トラック4「捜査」とトラック5「原因」は、不可解な事件が起こって警察や鷹央が捜査を進める場面によく使われた曲。緊張感と不安感ただよう曲調がミステリーの雰囲気を盛り上げている。
トラック6「救急要請」は歯切れのよいフレーズの連続で緊迫感と焦燥感をあおる曲。医療ドラマ「救命病棟24時」などを思わせる曲調がカッコいい。
トラック7「懐疑心」とトラック8「緊迫」は毎回のように使用された不安曲。じりじりと心を圧迫するような曲調が、謎が深まる場面や事態が急展開する場面などに効果を上げていた。
トラック9「Q.E.D.」は、すでに紹介したように、鷹央が事件の真相に気づく場面に流れた定番曲。鷹央の頭の中で脳のシナプスが発火し、推理がフル回転する。そんなイメージをスリリングなピアノとエレキギターのアンサンブルで表現し、謎が解ける瞬間をドラマティックに演出している。
次のトラック10「Dr. Sherlock」は、鷹央が関係者を集めて事件の謎解きをする場面によく流れた曲。ピアノとストリングスを主体にした軽快な曲調で真相が明らかになっていくカタルシスを表現している。「Q.E.D.」とセットで使われる印象だ。
トラック11「鷹と小鳥」は鷹央の下に配属された医師・小鳥遊(たかなし)優の登場シーンによく流れた日常曲。エフェクターを効かせたギターのフレーズとのんびりしたリズムが緊張感をほぐしてくれる。続くトラック12「一件落着」も、事件が終わったあとの平和なひとときを描写する、リラックスしたジャズの曲である。
トラック13「蘆屋炎蔵」とトラック14「呪いの墓」は、陰陽師の墓にまつわる奇怪な事件を描いたエピソード第4〜6話で使用された和風の曲。三味線や笙の音が歴史を感じさせるとともに、不穏な雰囲気もかもしだす。fox capture planには珍しいタイプの音楽である。
トラック15〜21は、特定のエピソードにフォーカスしたというよりも、ふたたび本作全体の雰囲気を再現した構成。
ギターを使ったミステリアスな曲「不可解」(トラック15)に続いて、ピアノとストリングスによる沈んだ曲調の「医師として」(トラック16)が、鷹央と小鳥遊が感じる無力感や苦い思いを描写する。
トラック17の「致命的問題」は、鷹央と対立する院長・天久大鷲をイメージした曲で、第7話で大鷲が統括診断部の廃止を決めようとする場面に使用された。
メランコリックな曲想のトラック18「終幕」はすっきりしない幕切れを思わせる曲。まだ事件は終わらず、軽快な曲調で鷹央の謎解きを描写する「正体」(トラック19)とアップテンポの追跡曲「逃がすな!」(トラック20)が、アルバムの終盤を盛り上げる。
ストリングスがやさしく奏でる「救った命」(トラック21)は、ようやく訪れた大団円に流れる曲だ。
これでアルバムが終わってもおかしくない。が、まだ聴きどころが残っている。
トラック22〜26は、第8話と第9話で描かれた「天使の舞い降りる夜(前編・後編)」で使用された曲で構成されている。小児科病棟に入院した少年たちに起きた事件と彼らの友情を描くエピソードである。本アルバムの中でもとりわけエモーショナルな曲が並んだブロックだ。
鷹央と難病の少年・健太との回想シーンに流れる「胸の内」(トラック22)、鷹央の健太への複雑な想いを描写する「空虚」(トラック23)。いずれも繊細なピアノソロの演奏で、鷹央にも人間的な弱さがあることを伝える重要な曲である。
トラック24の「Silent Night -Ameku Takao’s Detective Karte Ver.-」は、「きよしこの夜」をfox capture plan流にアレンジした曲。劇中で流れる現実音楽であると同時に、鷹央が表に出さない心情を表現する役割も果たしている。
トラック25「願い」は鷹央と健太の交流のシーンに流れたピアノソロ。しみじみとした、あたたかい曲調が心にしみる。
トラック26「Good night emotional wounds」は、トラック2の「My mood」と同じく、鷹央が自分の部屋で聴いている音楽という設定で書かれたジャズの曲。第9話のラストシーンに使用された。
本編ではこのあと、第10〜12話で描かれる最後のエピソードが続くのだが、アルバムとしては、ここでエンディングになる。第8・9話の印象を残して終わるのは後味がよいので、いい構成だ。
トラック27と28は、それぞれオープニング主題歌とエンディング主題歌のインストルメンタル・バージョン。ボーナストラック的な配置だが、劇中でもしっかり使われている。
トラック27「SCOPE -Anime Instrumental Ver.-」は第1話をはじめ、鷹央の部屋のBGMとしてたびたび使用されていた。トラック28「will be fine feat.Anly -Anime Instrumental Ver.-」は最終回(第12話)で使用されているから、アルバムの締めくくりとしてはぴったりだ。
『天久鷹央の推理カルテ』のサントラ盤は、ジャズ・ロックを使ったミステリーサウンドの系譜を現代に受け継ぐ好アルバムである。ピアノ、ベース、ドラムスというピアノトリオの編成で結成されたfox capture planは、このスタイルの音楽にぴったりのバンドだと思う。この路線はぜひ続けてもらいたいし、せっかくバンドなのだから、劇伴のライブもやってほしいなあ〜。
「天久鷹央の推理カルテ」Original Soundtrack
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いきなりですが、ご本人より指摘していただいたため、最初に訂正させてください!
以前『沖ツラ』作画スタッフ・市川真琴さんを「キャリア3年」と解説してしまいましたが、正確には「5年」でした! 大変失礼しました!
もう少し細かく言うと、市川さんは『沖ツラ』制作期間中では5年目、今年春から6年目に突入! になります。と言うのも、『蜘蛛ですが、なにか?』から参加しているのを憶えていて、その後『いせれべ』『沖ツラ』——“3作目”というのが頭にあったことによる勘違いでした。毎年監督していたけど、全てが1年で作り終えていないわけですから、3作で3年と結びつけるのは安直でした。本当に申し訳ありませんでした。
まあ……あと、それなりに歳を取って、
自分の体感より現実に流れる時間の方が遥かに早い現象!
ってヤツで……。
そして続き、4話Cパート(ED開け) “指笛講座”編。構成(ラフ脚本)では最初、Bパート本編の“比嘉さんが指笛をすず・なおや・てーるーに教える”件の後に入っていたパートでした。それを「内容が重なるから」とCパートにまわしました。指笛お手本に比嘉さんがもう一度登場するところ5も可笑しくて良いですね。Cパート比嘉さんは前述の市川さんによる作監でした。
で、5話“~しようね問題、前振り”編のアバン。こちらはメインアニメーター篠(衿花)さんによる作監。オフィス・イメージの喜屋武さんや、ファミレス・イメージの比嘉さん、非常に良い感じにしていただけました!
今回も短くてすみません!また、『キミ越え』へ!
6月の【新文芸坐×アニメスタイル】では故・平田敏夫監督が手がけた『グリム童話 金の鳥』『ボビーに首ったけ』を上映します。両作とも「珠玉」という言葉が相応しい、アニメーションの魅力が詰め込まれた傑作です。
『グリム童話 金の鳥』(1987年)は「東映まんがまつり」の1本として公開された劇場アニメーション。飄々とした登場人物、ポップなキャラデザイン、絵本の1ページのような背景美術。ドラマに関しても映像に関しても、楽しさいっぱいの作品です。
『ボビーに首ったけ』(1985年)は片岡義男の同名小説を原作とした劇場アニメーション。写真のコラージュ、線画による背景動画など、様々な手法を駆使した尖鋭的な作品です。1980年代の空気が濃厚な青春ドラマでもあり、その意味でも魅力的なフイルム。
トークのゲストは両作を手がけた丸山正雄プロデューサーです。作品について、平田敏夫監督について、参加した他のクリエイターについて語っていただきたいと思います。
チケットは6月21日(土)から発売。チケットの購入方法については新文芸坐のサイトで確認してください。
●関連リンク
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/
新文芸坐オフィシャルサイト(「平田敏夫の珠玉のアニメーション」情報ページ)
https://www.shin-bungeiza.com/schedule#d2025-06-28-1
TVアニメ『あずきちゃん』のエピローグイラストを収録した画集が刊行!
http://animestyle.jp/news/2017/09/07/11936/
【新文芸坐×アニメスタイル vol.190】 |
開催日 |
2025年6月28日(土)14時05分~17時00分予定(トーク込みの時間となります) |
会場 |
新文芸坐 |
料金 |
2800円均一 |
上映タイトル |
『グリム童話 金の鳥』(1987/52分) |
トーク出演 |
丸山正雄(プロデューサー)、小黒祐一郎(アニメスタイル編集長) |
備考 |
※トークショーの撮影・録音は禁止 |
う~ん、改めてコンテを見直すと、この4話も結構手を入れて(修正して)ますね……
という訳で “指笛”編。喜屋武さん・なおや・すずが「教えて、教えて~」と比嘉さんの周りをグルグル回るところ、市川(真琴)さんの原画で、“角度変化のある走り”という高難易度な原画を巧くこなしてくれていたので、そのまま通した気がします。同じく市川作画で印象的なのは“舌の裏をを見せて説明~てーるーに見られてて赤面する”比嘉さんのアップ。こちらも可愛くて良い画だったのでそのまま流しました。レイアウト的に弱い部分はこちらでフォローしましたが、基本市川さんは手が早いほうなので、俺のほうでラフを入れて「これ清書して~」と渡せばなんとかしてくれるので、とても助かりました。キャリア3年では上出来と言えるでしょう!
指笛教えて~からの流れでそのまま、Bパート“幼少期・指笛の想い出”編へ。『沖ツラ』は幼少期エピソードも秀逸で、これは空(えぐみ)先生の原作を読んだ時から「良い話だ~!」と思っていました。
ひーなーと指笛吹き合いっこしだがっだのぉー!!
と、幼少期の比嘉さんが大泣きするシーンなどは、子供の頃“泣き虫”で通っていた自分からすると、かなり感情移入ポイントでした。いや、子供の頃って虐められた時だけでなく、周りの人から受ける“情”に対してどう応えたらいいのか分からず、感情だけが溢れて大泣きするもんです。俺はそうでしたから。で、泣いて訴える比嘉さんを受けるかたちで次カット“それを聞いて嬉しい喜屋武さん”のアップを入れました。喜屋武さんのほうも喜ぶはずだ! と。
さらに言うと不用意に女の子を傷つけるようなことを言ってしまう男の子側の気持ちも分かるし──と、沖縄だ、指笛だ関係なく、心揺さぶれる話で、本当に大好きなエピソードです。
アフレコでキャストさんの声が入った時、ゾクッとしましたから!
で、今回も短くてすみません! 鋭意制作中の『キミ越え』に戻ります!
腹巻猫です。ついに、ついに、ついに! 5月28日、『キミとアイドルプリキュア♪』のサウンドトラック・アルバムが発売されます! プリキュアとアイドルものをミックスした作品として、これまでにない意表をついた展開を見せている本作。それを盛り上げているのがキラキラした魅力がいっぱいの音楽です。サントラ発売日はこのコラムがアップされる翌日ですが、もうフラゲ(フライングゲット)したという方もいるでしょう。今回はその内容を最速でチェックしましょう。
『キミとアイドルプリキュア♪』は2025年2月から放映中のTVアニメ。東映アニメーション制作のプリキュアシリーズ第22作目となる作品である。
アイドルプリキュア、それは世界中を真っ暗闇にしようとするダークイーネから世界を救う伝説の救世主。ある日、歌うことが大好きな中学生の咲良うたは、ふしぎな妖精プリルンと出会い、キュアアイドルに変身する力を手に入れる。同じ中学に通う蒼風ななと紫雨こころも、それぞれキュアウインク、キュアキュンキュンに変身した。アイドルプリキュアとなった3人は、力を合わせてダークイーネとその手下チョッキリ団の野望に立ち向かっていく。
そのいっぽうで、プリルンがプリキュアの動画をSNSにアップしたため、アイドルプリキュアは世間の注目を集め、ついに本当のアイドルとしてデビューすることになってしまった。アイドルプリキュアの3人は、CM出演、CDデビュー、握手会など、アイドルとしても活動の場を広げていく。
過去に素顔で歌手活動やアイドル活動をするプリキュアはいたが、変身してアイドル活動をするプリキュアは初めて。アイドルプリキュアがモンスターを倒す(本作では「キラッキランランにする」と表現される)ときの決め技は歌(「ステージ曲」と呼ばれる)。その曲がアイドルとして活動するときの持ち歌にもなっていて、リアルに(視聴者が買える)CDとしても発売される。本作の設定のユニークな点であり、フィクションと現実をリンクさせるしくみとして「うまいなあ」と感心する点だ。
また、本作では、うたたちがアイドル活動をするためだけにプリキュアに変身するシーンが日常的に描かれる。これも過去のプリキュアシリーズにない趣向である。アイドルの要素は予想していた以上に本作の根幹になっているのだ。
音楽は深澤恵梨香と馬瀬みさきが共同で担当。深澤恵梨香は『ひろがるスカイ! プリキュア』『わんだふるぷりきゅあ!』に続いて、プリキュアシリーズ3作目の音楽担当。馬瀬みさきはプリキュアシリーズの劇伴を担当するのは初めてだが、過去にキャラクターソングや挿入歌の作・編曲でシリーズに参加しているし、当コラムで以前取り上げた『変人のサラダボウル』などの劇伴を手がけた実績がある。2人のアイドル観が反映された音楽が劇中に流れるのが楽しいところだ。
音楽作りは、深澤がメインテーマやプリキュアの変身曲、バトル曲、敵側のテーマなどを担当し、馬瀬が主に日常曲や心情曲とステージ曲を担当する分担で行われている。
「千と千尋の神隠し」等の舞台の音楽監督を務めたことがある深澤恵梨香は、華やかなステージで活躍するアイドルの姿をイメージしたようだ。メインテーマはビッグバンドジャズ風の躍動的なサウンドに女声コーラスを加え、ブロードウェイ・ミュージカルを思わせる華麗な楽曲に仕上げた。プリキュアの変身テーマやメインの活躍テーマも同様の曲想で作られている。
いっぽう、馬瀬みさきの担当曲で重要なのがプリキュアが歌うステージ曲。3人のプリキュアそれぞれがソロで歌う曲と3人一緒に歌う曲の作曲・編曲を担当している。キャラクターソングでありつつ、劇中のアイドルソングであり、プリキュアの決め技でもあるという難しい要求に苦心しながら、一度聴いたら耳に残るポップでキャッチーな楽曲を作り出した。劇伴の日常曲のほうも、アイドル的な可愛らしさと親しみやすさを現代的なサウンドで奏でた楽曲になっている。実は馬瀬自身が子どもの頃からプリキュアシリーズを観ていたというプリキュア世代。それゆえにプリキュアらしい楽曲のツボみたいなものが自然に身についているらしい。
本作のサウンドトラック・アルバムは「キミとアイドルプリキュア♪ オリジナル・サウンドトラック プリキュア・キラキラ・サウンド!!」のタイトルでマーベラスから2025年5月28日に発売。CDと配信があるが、CDのほうは深澤恵梨香と馬瀬みさきのインタビューが掲載されたブックレットつきなので、熱心なファンにはCDがお奨めだ。
収録曲は以下の通り。
主題歌2曲とステージ曲4曲、劇伴30曲と予告用音楽を収録した内容。構成は筆者が担当した。
アルバムの大まかな流れは、前半がプリキュアが1人ずつ増えていき、アイドルプリキュアが3人そろうまでのイメージ。後半は、パワーアップして襲い来る敵に3人が協力して立ち向かい、勝利するまでのイメージ。その中に日常曲や心情曲、キャラクターテーマなどをちりばめた構成にしてみた。
本アルバムの聴きどころを紹介しよう。
1曲目「キミとキラッキランラン♪」は本作のメインテーマ。思わず体が動いてしまうような躍動感のある曲だ。サックスの音色が少し大人びた雰囲気をかもし出している。サックスを入れるのは音楽プロデューサーの注文だったそうだ。あとで出てくる「勇気のドアをあけて」(トラック12)、「はなみちタウンで会いましょう」(トラック17)、「歌って踊ってファンサして【ハート】」(トラック31)、「キミと一緒に」(トラック35)の4曲はメインテーマのアレンジ曲である。
オープニング主題歌を挟んで、「陽だまりのパレット」(トラック3)と「さくら色のティータイム」(トラック5)は、うたたちの日常をイメージした選曲。明るく軽やかな曲調が本作のムードに合っている。本作では、劇伴の曲名もこれまでと趣を変えて、アイドルソングっぽいタイトルにしてみた。
チョッキリ団のアジトのシーンに必ず流れるジャズ風の曲「チョッキリ団」(トラック6)に続いて、第1話でプリルンがうたにプリキュアのことを説明する場面に流れた「闇を照らす救世主」(トラック7)。壮大なファンタジーの世界を思わせる曲だ。
トラック8「プリキュア!ライトアップ!(Short version)」はプリキュアの変身テーマの1人変身用バージョン。アイドルがステージに出て行くときのわくわく感や意気込みをイメージさせる本作ならではの曲想。変身テーマは1人用、2人用、3人用……と何種類か作られている。
トラック9「笑顔のユニゾン♪〜プリキュア!アイドルスマイリング!」はキュアアイドルのステージ曲である。フルサイズの「笑顔のユニゾン♪」を40秒に短縮した劇中バージョンだ。
トラック11〜トラック16は、キュアウインク、キュアキュンキュンが1人ずつプリキュアになっていく姿をイメージした構成にした。
「思い出に沈むとき」(トラック11)は第3話のななの回想シーンに流れたしんみりした曲。次の「勇気のドアをあけて」(トラック12)も第3話でなながプリキュアになる直前に使用されていた曲だ。プリキュアシリーズに欠かせない、勇気や決意を描写する曲で、ななだけでなく、うたとこころがそれぞれ初めて変身するときにも使われていた。
トラック14の「あこがれがとまらない」は夢みる気持ちをロマンティックな曲調で少し大げさに表現した曲。こころのイメージで選曲したが、実際には第12話から本格的に登場する妖精メロロンのシーンによく流れている。
次の「アイドルプリキュアをさがせ!」(トラック15)は第1話でプリルンとうたが街でアイドルプリキュアを探す場面に流れ、以降もイベントのシーンなどに使われている軽快なファンク風の曲。本編の明るくはじけた雰囲気が伝わってくる。
トラック13とトラック16に収録したキュアウインクとキュアキュンキュンのステージ曲が、それぞれのキャラクターを反映した曲調とアレンジになっているところもポイント。
メインテーマアレンジの日常曲「はなみちタウンで会いましょう」(トラック17)とアイキャッチ曲「アイドルキャッチ♪」(トラック18)を挟んで後半へ。
後半は、ファンタジックな曲とユーモラスな曲から始まる。
トラック19「光あふれる世界」はキラキラした音色を使った美しい曲。第10話でキュアキュンキュンがファンの女の子と握手する場面など、胸を打つ温かいシーンに使用されている。
トラック20「私はピカリーネ」はプリルンがいた妖精の国キラキランドの女王ピカリーネのテーマ。フルートとハープ、ストリングスなどによる神秘的なムードの曲である。
トラック21「あの子のひみつ」からトラック23「プリプリルンルン〜♪」までは特徴的なリズムや音色を使ったコミカルな曲を集めた。いずれもプリルンやうたのシーンによく選曲されている。
トラック24「キラキラをふりまいて」はプリルンやメロロンの登場場面にたびたび使用。弦のピチカートと木管が奏でる可愛い曲だ。
トラック25からは一転して不穏な気配がただよい始める。
ストリングスやハープの合奏が徐々に盛り上がっていく「闇の気配」(トラック25)は「緊張をはらんで後半に続く!」といった雰囲気のサスペンス曲。
敵のモンスター登場シーンに流れる危機感に富んだ「世界をクラクラの真っ暗闇にせよ」(トラック26)、それに対抗するプリキュアの決意を力強い曲調で描写する「キラッキランランにしちゃうよ」(トラック27)と2曲続いたあと、3人そろっての変身テーマ「プリキュア!ライトアップ!」(トラック28)がアイドルプリキュアの登場を描写する。
トラック29〜トラック32まではプリキュアのバトルを怒涛の選曲で再現してみた。
トラック29「激闘のプレリュード」とトラック30「白熱のバトルステージ」はプリキュア対モンスターの戦闘シーンに流れる定番曲。アイドルのイメージは希薄で、スピード感と緊迫感とカッコよさが強調されている。前作『わんだふるぷりきゅあ!』が「攻撃しないプリキュア」だったので、今年は久々に熱いバトル曲が復活した印象だ。
トラック31「歌って踊ってファンサして【ハート】」はメインテーマアレンジのプリキュア活躍曲。ビッグバンドサウンドと女声コーラスが組み合わさり、華麗で爽快で躍動感にあふれたアクション音楽になっている。いきなり女声コーラスから始まるのが最高!
そしてトラック32「Trio Dreams〜プリキュア!ハイエモーション!〜」はプリキュア3人で歌うステージ曲。エンディング主題歌と同じ曲だというのがニクい。ステージ曲はどれもそうなのだが、この曲も視聴者がコール&レスポンスで参加できる趣向。TVを観ながら声を出して応援してほしい。
トラック33〜トラック35の3曲は、エピローグのイメージで選曲した。うた、なな、こころ、3人の心情の流れを大切に構成を考えてみた。
「夢色のときめき」(トラック33)はタイトルどおり、ときめく気持ちを表現する曲。第3話でうたとなながステージに歩き出すラストシーンや第14話でこころが誕生日を祝ってもらうシーンなど、うたたちの心が通い合う感動的な場面に使われている。
「川沿いの道を走ろう」(トラック34)は軽快なリズムの上でバイオリンやピアノ、ギターがメロディを奏でる解放感のある曲。さわやかな青春の一場面のイメージだ。
「キミと一緒に」(トラック35)はメインテーマのしっとりとしたアレンジ曲。ピアノとストリングスのやさしい音色が友情や家族の愛情を表現する。曲は必要以上に盛り上がることなく、そっと終わる。しみじみとした余韻が残る曲である。おだやかな曲調と次のエンディング曲(トラック36)のダンサブルなサウンドとの対比もねらってみた。
最後のトラック37「今日もキミと!キラッキランラン〜♪」はオープニング主題歌のカラオケを編集した次回予告音楽。曲タイトルは毎回予告の締めに使われるフレーズである。
今回のアルバムは、アイドルムービーみたいな、明るく楽しく、けれど最後はじんわりと心に沁みるものが残るようなイメージで構成してみた。難しいことは考えなくていい。深刻にならなくてもいい。でも大切な何かが、心に残ってほしい。本作における大切な何かとは、たぶんキラッキランランになること。キラッキランランとは「キラキラして、ランランして、ニコニコって感じ」だそうだ(第1話のうたのセリフより)。周囲の人も、敵も、そして自分も、みんなキラッキランランにしてあげたくて、プリキュアは活躍しているのだ。このサントラを聴いた人がキラッキランランになってくれたら、筆者も本望(キラッキランラン)である。さあ、キミも一緒に! キラッキランラン〜♪
キミとアイドルプリキュア♪ オリジナル・サウンドトラック プリキュア・キラキラ・サウンド!!
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3話“エイサー祭り”編。前回説明したように、今さら自分「ダンス・踊りを作画で描くことに意義がある」とは考えていないので、最初からCGでと決めていました。「手描き最高!」とか「作画でやるからこそ~」云々言われるかも知れないのですが、CGを作るにしても、
スタッフが実際、沖縄に出向いて本当の具志川青年会の方々に演奏していただき、さらに踊りのモーションキャプチャーも本物を撮って作ったCGです!
から、作画とは別の手間がそれなりに掛かってはいるので、その辺を見ていただけると嬉しいです。
あと、クライアント(製作委員会)リテイクに対して、板垣がどんな感じで直していたか? の一例。
すずに促されてチョンダラー喜屋武さんを見、てーるー(OFF)「本当だ。よく見ると色々してる」
のシーン。これ“TAKE 1”では、太鼓隊を引き連れている画(現行カットの前半)しかなかったのです。ダラダラと。当然クライアントから“てーるーのOFF台詞通りに「色々」してください!”と、ごもっともなチェックが入り、演出・作監(その時点ではいた)たちに
これ、委員会による贅沢リテイクでもなんでもない、当然のご指摘だよ! 何やってんの?
みたいな軽い説教を入れて、「ま、俺が描くから、見て勉強して」と後半の“あっちこっちに指示している喜屋武さん”の動きをババ―! とラフ原描いて、篠(衿花)さんに清書してもらって現行の“色々しているチョンダラー喜屋武さん”になった訳です。教えながら作るってこういうこと! つまり“実演”できないとなんにも説得力がないんです。
そして、3・4話は
沖縄のバーチャルタレント・根間ういさん、ご出演ありがとうございました!
で、4話。エイサー祭りの締め、“カチャーシー”編。こちらはメインキャラの踊りなので、作画メイン。オリジナルの原画を担当した塩澤(枢)さん、修正を手伝ってくれた森(亮太)君、お疲れ様でした。
てーるー相手に空回りする比嘉さん、可愛いですよね。その表情・ポーズ・芝居、全て森君担当で、キャラ修以外はすべてそのまま使用しています。あ、「ど・ど・ど・どこに!?」「全部!?」とパ二くる比嘉さんの心情を“稲妻フラッシュ”内に描き足したのは、自分です。どことなく『てーきゅう』ムード? てか、元々ここも自分がコンテで描いた部分なので、原画が上手く上がってこなかった場合は“俺・責任カット”として引き取るつもりだったので思惑どおり。表面はドギマギでも“心の中では小躍り♡”な比嘉さんの幸せ感を出せたらな~と。ちなみに、作業的には俺が1枚描いては社内の新人動仕スタッフにピストンするやり方で、原画と動仕を同時進行という超ショートカットで、なんとか納品完了に漕ぎ着けたのでした。
最後に一緒に踊るてーる―と比嘉さんは、篠さんの作監修正でした。こちらも動き共々直してくれて非常に良かったです。
さぁ、『キミ越え』に戻ります(汗)。