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佐藤順一の昔から今まで(7)パイロットフィルムと『ビックリマン』

小黒 戦いの果てにレイアウトシステムが出来上がって、『メイプルタウン』はストレスなく制作することができたわけですか。

佐藤 いや、シナリオを絵コンテで修正していくスタイルに関して、いきなり3話ですったもんだが起きまして。

小黒 といいますと。

佐藤 詳しくは言えませんが、シナリオからコンテで変更して、そのままオンエアまでいってしまったことでちょっとトラブルがあったんです。こちらとしては変更を脚本家にチェックしてもらって、問題があれば直せるように早めにコンテを上げてるのに、脚本家には届いていなかったという行き違いで、山口(康男)プロデューサーとの間でちょっとしたバトルになりました。

小黒 そんなことがあったんですね。

佐藤 「コンテを見せなかったのがよくなかったんですよ」という話をしたんだけど、山口さんに「次からはもっとシナリオに沿うようにしてもらうからね」と言われて、21話では、山口さんのコンテチェックが入るようになりました。山口さんの文字入り修正が戻ってきて、「ここはこうしたほうがいい。ここは演出的にどうだ? ギャグが笑えない」といったことが書いてあって、僕のほうで直した上でそれについての自分の考えをさらに書き加えて、それを山口さんに戻して(笑)。その両方のコメントが入ったコンテで打ち合わせをするつもりだったんだけど、山口さんから「コメントは全部消して」という指示が出て、コメントが消されたコンテで打ち合わせをしていた。まあ、そんなことがあって、続編の『パームタウン編(新メイプルタウン物語 -パームタウン編-)』(TV・1987年)でシリーズディレクターは設楽さんに交代。

小黒 その話は初めてうかがいました。絵コンテチェックはずっと続いたんですか。

佐藤 続いたけれど、何か大きな問題が生じることはなかったですね。

小黒 佐藤さん自身が、作品内容について不満が持ちながら作っていたという訳ではないんですね。

佐藤 それはなかった。そういう意味では、ディレクターとしてちゃんと戦えていた。

小黒 各話だと、佐藤さんが演出をした13話「愛を呼ぶ手紙」はライオンの村長さんのエピソードで、泣ける話でしたよね。

佐藤 そうですねえ。「大草原の小さな家」テイストでやろうというのがあったので、やっぱりドラマ軸は重要だというつもりでやってたんですよね。家族とか大人と子供の関わりでドラマの軸を作るということに関して、『メイプルタウン』は思ったことができた実感はあるんですね。シナリオのセリフのアレンジの仕方とかも含めて。

小黒 各話演出として参加した『パームタウン』はどうだったんですか。

佐藤 『パームタウン』の印象はあまり残ってないんですよねえ。自分の手元から離れていってしまったし、舞台も都会になってしまい、流れもよく掴めなかったりして、粛々と仕事をした気がします。

小黒 『パームタウン編』の頃、企画の仕事もやっているのではないですか。

佐藤 いつ頃だったか覚えてないんですけど、パイロットフィルムを沢山作ってるんですよねえ。世に出てないので具体的な話は言えませんけど。籏野さんの企画のパイロットをやることが割と多かったんですね。パイロットフィルムで『SEASIDE COMPANY』というのがあって、あの井上(俊之)さんがキャラクターデザインをやって、全カットの原画を描いています。ただ、総尺が1分半で短かったので、もうちょっと間があってもよかったかもしれない。

小黒 それは東映の資料室で観せてもらったことがあります。キャラクターが魚で、会社で働いているんですよね。井上さんの原画だけあって、作画もよかったです。島田満さんの小説「ぼくらのペレランディア!」は、アニメにするのを前提にしたものだったんじゃないですか。

佐藤 そうですね。僕も関わっていたけれど、どちらかというと、大久保(唯男)が動かそうとしていた企画です。小説にしたところまでいったけど、その後はなかなか進まなかったですね。

小黒 「ペレランディア」の小説が刊行されたのが86年だから、『メモル』や『ステップジュン』の頃に「ペレランディア」の話をしてたんでしょうか。

佐藤 もっと前かもしれない。まだ助手をやってた頃ですね。

小黒 佐藤さん自身としても「オリジナル作品を作りたい」という気持ちはあった?

佐藤 業界に入る時は「オリジナルのTVシリーズが、一生のうちに1本でもできたらいいな」ぐらいの気持ちだったんです。始めたらオリジナルものや、オリジナルに近いものばかりやることになったけど(笑)。

小黒 なるほど。

佐藤 今思い出したけど、大学の頃、スケッチブックにイメージスケッチを描いてたことがあるんです。ほとんどが冒険活劇と言われるようなものばっかりですね。

小黒 主人公は少年なんですか。

佐藤 少年だったり、少女や動物だったりと、色々ですね。どこかに『どうぶつ宝島』や『コナン』の匂いがすることが多かったな(笑)。

小黒 まんが映画的な感じですね。

佐藤 まんが映画的テイスト好きは、ずっと変わらない。今も好きですからね。

小黒 『パームタウン』と『ビックリマン』(TV・1987年)の3年間が各話演出家の時代ですね。『ビックリマン』の2本目の劇場版『ビックリマン 無縁ゾーンの秘宝』(劇場・1988年)で監督をされてますね。題材的にも派手な仕上がりにするのが難しそうな感じでしたが。

佐藤 そうですねえ。映画は当時から苦手だったので、その苦手感が出てますよねえ。

小黒 『ビックリマン』自体はどうだったんですか。

佐藤 最初は本当に分かんなかったんですよねえ。貝澤にとっての『ステップジュン』じゃないですけど、「どう面白くすればいいんだろう?」と思って(苦笑)。お話を追っかけてると、急に新しいキャラが出てきて事件を解決してたりするので(笑)。

小黒 (力強く)そうでしたね。

佐藤 「え!? これでいいの?」と思いましたね。「意味が分からないところがいいのだ」と、それを面白がれるところにいくまでに、結構掛かった気がしますね。

小黒 佐藤さんが演出をした回ではないですが、助っ人竹ちゃんの話が印象的です(15話「天魔界からの逆襲」)。

佐藤 助っ人竹ちゃんね。ヤマト王子が倒れているところを揺すったら、助っ人竹ちゃんからゴリッゴリッと竹筒を転がしたような音がするのが、凄いおかしかったな(笑)。

小黒 あの話の終盤で、かぐや姫みたいな天使(かぐや観音)が登場して、敵の悪魔をやっつけてしまうんですよね。その天使は聖フェニックスが連れてきたんだけど、登場するまでの伏線もなければ、何者なのかも分からない。それがさっき佐藤さんが仰った「意味が分からないところがいい」というところなんですよね。

佐藤 そうそう。そうなんですよ。

小黒 原作のシールを知っている子供なら、助っ人竹ちゃんとセットのキャラクターだと分かるんでしょうけどね。僕も新しいと思いました。

佐藤 「新しい物語の作り方なんだなあ」とは、思ったね。最初は「いいのかな?」と思ったけど(笑)。

小黒 佐藤さんが覚えているかどうか分からないんですけど、『もーれつア太郎』の頃に会う機会があって「佐藤さん、最近どうですか?」と聞いたら「いやあ、僕は鳴かず飛ばずだからねえ」と言ってたのが、凄く記憶に残ってて。

佐藤 えっ、そんなことを言っていた?(笑)

小黒 言っていました。ちゃん仕事をしているのに、本人の感覚としては、今は鳴かず飛ばずの時期なんだなあと思ったのを覚えています。

佐藤 『メイプルタウン』を降ろされたのが後を引いていたのかな(笑)。

小黒 逆に言うと『メモル』からの数年間に、脚光を浴びていたということですよね。

佐藤 そう。やっぱり『メモル』はスポットライトを当てられたなっていう印象があります。そうなったのは、プロデューサーの籏野さんが色々してくれたというのもあると思いますけど。『パームタウン』とか『ビックリマン』の辺りは、粛々と仕事をしてる感じはあります。

小黒 その後に『もーれつア太郎』『悪魔くん』で腕を振るうと。

佐藤 『悪魔くん』も最初は籏野さんがプロデューサーで入ってたんですけど、体調を崩されて途中で変わったんです。やっぱり、いつも籏野さんが手を引っ張ってくれるプロデューサーではあったんですね。

小黒 なるほど。80年代の話が大体終わったところですけど、取材の第1回目はこの辺りまでにしましょうか。

佐藤 はい。ありがとうございます。

小黒 次回は『ポケ戦(機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争)』『悪魔くん』『セーラームーン』『ユンカース』『魔法使いTai!』辺りまでですかね?

佐藤 ああ、頑張りましょう(笑)。


●佐藤順一の昔から今まで(8)横にならない大学生時代と『魔女の宅急便』 に続く


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