第783回 50年男?

 以前話題にした、“某雑誌のインタビュー取材”、

「昭和50年男」が発売されました!

 俺が尊敬する漫画家“藤子不二雄Ⓐ先生特集”で『プロゴルファー猿』について語ってくださいとの要請がメールにて会社に届き、「写真NGで良いなら是非OKで!」と。写真は苦手だけど、『猿』については是非語りたい板垣です。昔からこの連載にちょくちょく飛び出す『プロゴルファー猿』を編集の方が読んでくださってたことにより実現したインタビュー、しかも4ページ分も!
 いやぁ、何事も続けるもんだな~と思ったし、全てアニメ様・小黒祐一郎さんのお陰です。ありがとうございます!
 決してオーバーに表現しているつもりもなく、『あしたのジョー2 Blu-ray BOX2』のコラムといい、子供の頃からの純粋にファンだった方・その作品に関して“公式公認”でインタビューを受けたり、作品について書ける——これは、この歳になっても心底嬉しいことです。Twitterなどでゲリラ的に語ったり、コッソリイラスト上げたりするのが当たり前になった世の中で(別にそれはそれで良いことですよ!)、公式で自分を“ファン”として扱ってくださるのは光栄なことだし、どれだけ忙しくとも必ず受けなければならない案件でしょう。

休日とかじゃダメでしょうか?

と、控えめにお願いしてみると「OKです、是非」とので実現。
 もともと「昭和○○年男」という雑誌はコンビニとかで見かけてたので知ってはいましたが、一つの疑問を抱えつつ、編集・ライターさんをお迎えしました。

「自分、昭和49年生まれですけど大丈夫なんですか?」
「“ほぼ”50年でしょう」

 俺の最大の疑問が軽く躱されたところから、始まったそのインタビュー。一応「板垣がどれだけ『プロゴルファー猿』と藤子不二雄Ⓐ先生に思い入れがあるか」をしこたま語ったので、その内容は是非本を買って読んでください。山本俊輔さん・金丸公貴さん、とても綺麗に纏めていただきありがとうございました!
 で、「藤子不二雄キャラ(Ⓐ・F問わず)は今でもそらで描ける!」と『猿』のイラストも描かせていただき、藤子スタジオ公認(ですよね、金丸さん?)で載せていただけました! 更にそのイラストに“再アニメ化希望!”と書いたせいか、後日「藤子スタジオさんから、アニメ化楽しみにしています」との返事があったそうなことを、金丸さんより会社にメールをいただきました! 感激です! 子供の頃から憧れの藤子スタジオ様からそんなこと言っていただけるなんて! そんなん言われたら、

『猿』アニメ化したくなるじゃないですか!
誰かやらせて下さい!!

 全部自分で原画描くショート・アニメでもいいから作らせてくれないかな?

第245回 トムの胸の中には 〜トム・ソーヤーの冒険 音楽集〜

 腹巻猫です。SOUNDTRACK PUBレーベル第31弾として、12月21日に「トム・ソーヤーの冒険 音楽集」を発売します。1980年に放送された「世界名作劇場」第6作『トム・ソーヤーの冒険』の歌と音楽を集大成した2枚組CDアルバムです。音楽は惜しくも2020年に他界した服部克久が担当。アニメ音楽の代表作と呼べる作品でした。ぜひ、お聴きください!
https://www.amazon.co.jp/dp/B0BNDKPSVH


 当コラムでは5年前にも『トム・ソーヤーの冒険』を取り上げたことがある。そのときは放送当時発売された音楽アルバム(LPレコード)の曲に内容を絞って紹介した。そして最後に「未収録のBGMを含めた完全版サントラの発売が待望される」と書いた。それがようやく実現した。

 「トム・ソーヤーの冒険 音楽集」は過去に発売されたレコードやCDの内容に未収録の音源を加えた完全版。今回はこのアルバムを取り上げて、『トム・ソーヤーの冒険』の音楽の全貌と聴きどころを紹介したい。

詳しい収録内容は下記を参照。
https://www.soundtrack-lab.co.jp/products/cd/STLC050.html

こちらで試聴用動画も公開中。
https://youtu.be/OMBF72idXJE

 「トム・ソーヤーの冒険 音楽集」の第1の注目ポイントは、1980年にキャニオン・レコードから発売された音楽アルバム「トム・ソーヤーの冒険」の完全復刻である。同アルバムには主題歌・挿入歌6曲とインストゥルメンタル6曲が収録されているが、過去にCD化されたのは歌ものだけ。インストゥルメンタルは1度もCD化されていなかったのだ。
 復刻にあたって、オリジナルのままの構成を再現することにこだわり、曲間(曲と曲のあいだの無音部分)の長さもLPレコードと同じ秒数になるように調整してもらった。アルバムは頭からまるごと聴くことを想定して作られているので、曲間も曲の雰囲気や曲の終わり方(フェードアウトなど)に応じて、曲ごとに微調整しているものなのだ。パソコンや携帯音楽プレーヤーに取り込んで聴く方も多いと思うが、機会があればぜひCDプレーヤーで頭から再生して、オリジナル盤の雰囲気を味わってみてほしい。
 実は本アルバムに収録された6曲のインストゥルメンタルは劇中では1度も使われていない。本編で「アルバムの曲では?」と思う曲は、もとになったオリジナルBGMのほうなのだ。アルバムの曲は1曲が長く、編成も厚く、アレンジも凝っているため、劇中では使いづらかったのではないかと想像する。服部克久は、アルバムは純粋に音楽作品として楽しんでもらいたいと思っていたのかもしれない。
 「トム・ソーヤーの冒険 音楽集」の第2の注目ポイントは、劇中で使用されたオリジナルBGMを完全収録したこと。オリジナルBGMは1999年発売のCD「懐かしのミュージッククリップ トム・ソーヤーの冒険」(東芝EMI)で40曲あまりが商品化されているが、今回は未収録曲を60曲以上増補した完全版とした。
 本作のBGM録音は2回行われている。1回目は1979年12月10日、2回目は1980年3月17日。1回目と2回目のあいだにアルバム用の録音が行われた(詳しい日付は不明)。
 2回の録音で収録されたBGMは100曲以上。そのうちわけは、トムのテーマ(主題歌「誰よりも遠くへ」のアレンジ)、ハックのテーマ、ポリーおばさんのテーマ、物語の舞台である19世紀のアメリカ中西部をイメージさせるジャズ風の曲、ゆったりとした情景描写曲、トムのいたずらシーンに流れるコミカルな曲、インジャン・ジョーの登場場面などに流れるサスペンスタッチの曲などである。19世紀に活躍したアメリカの作曲家スティーブン・フォスターの楽曲も3曲用意された。
 なかでも印象深いのは、トムがいたずらをしかけたり、失敗したりする場面のコミカルな曲。ずばり「先生に叱られるトム」と名づけられた曲もある(この曲名はマスターテープに記載されていた)。タイトルどおり、トムが先生に叱られる場面によく流れた、とぼけたマーチ調の曲だ。
 また、本作では数秒から数十秒ほどの短い音楽(いわゆるブリッジ)が40曲ほど作られ、効果的に使われている。コミカルなシーンにブリッジを重ねることで笑いを誘う、古典的なギャグアニメ風の使い方である。過去の「世界名作劇場」ではこういう演出はあまり見られず、本作で「あ、なんか雰囲気変わったな」と思ったところのひとつだ。ブリッジ曲の大半は今回のアルバムが初収録である。
 BGMの構成は、基本的に物語に沿って使用曲を並べる形にした。といっても、本作は全体をつらぬく大きなストーリーがあるわけではないので、エピソード順と使用順にはそれほどこだわっていない。自由にストーリーや場面を思い浮かべながら聴いてもらいたい。
 BGMコレクションの頭には「物語の始まり」「ミシシッピー川のほとりで」「風わたる緑の丘」の3曲を収録した(ディスク1のトラック14〜16)。「物語の始まり」はオープニング主題歌のメロディをオーケストラで演奏した雄大な曲。曲名はマスターテープに記載されていたもので、服部克久は物語の序曲のイメージで書いたのだろう。この曲は実際は本編では使用されなかった。続く「ミシシッピー川のほとりで」「風わたる緑の丘」の2曲は初期のエピソードで使用された、しっとりとした曲調の情景描写曲。いずれも服部克久らしい、さわやかで品のよい曲である。物語が進むにつれて、こうした曲に合う場面が少なくなったためか、使われなくなったのがもったいない。
 次の「トムとハックのディキシー」(トラック17)からいよいよ『トム・ソーヤーの冒険』らしい雰囲気になる。この曲はハックのテーマとして書かれたメロディをディキシーランドジャズ風に演奏した曲。ハックだけでなくトムのシーンにもたびたび使用されている。「トム・ソーヤーらしい」と感じる曲のひとつだ。
 トムのいたずらシーンに流れる曲が続いたあと、フォスターの名曲「金髪のジェニー」(トラック22)で雰囲気は一転。トムとベッキーの出逢いを彩るロマンティックな曲を続けてみた。ストリングスとピアノによるオープニング主題歌の美しいアレンジ「トム、ロマンティック」(トラック23)は初収録である。
 ジャジーな「なまけものトム」(トラック27)からふたたびユーモラスなムードに。次の曲「猫のように忍び足」から「トムのお葬式」(トラック34)までは、トムたちが家出してミシシッピー川の小島で気ままな日々を送る第13話〜16話のイメージで構成した。このブロックに収録した「冒険者たち」(トラック31)は『トム・ソーヤーの冒険』の音楽の中でもちょっと変わったタイプの曲である。クロスオーバージャズ風のしゃれたサウンドが大野雄二の『ルパン三世』の音楽みたい。本編では2回しか使われていないが、印象に残る曲だ(初収録)。
 次回予告音楽とエンディング用の曲をまとめた「冒険はつづく」(トラック35)でディスク1は終わる。

 ディスク2は第2回録音の楽曲を中心に収録した。
 ハーモニカやギターが奏でる「毎日が夏休み」(トラック3)が抜群にいい。ブルージーなメロディを使った、のんびりムードの曲である。この曲をアップテンポにしたのがトラック23の「トムは人気者」(初収録)。第2回録音におけるトムのテーマとも呼べるメロディーだ。服部克久は洗練された品のよい曲を書く作家というイメージがあるが、こういうとぼけた曲やユーモラスな曲もうまいのだなあ、と認識をあらためた。
 トラック10「星降る夜の祈り」は第31話で1度だけ使われた曲(初収録)。ハックが亡き母のために祈りを捧げるラストシーンで流れている。ピアノとストリングスを主体にした美しい曲だ(服部克久の曲といえばこういうイメージですよ)。このエピソードはトムがポリーおばさんのスプーンの数をごまかすコミカルなシーンが見どころなのだが、最後は感動的に締めくくられる。
 トラック11「気球がやってきた」からトラック14「あこがれを胸に」までの4曲は、トムたちの村に気球がやってきて騒ぎになる第34〜37話のイメージで構成。ダイナミックな曲調の「気球がやってきた」はもともと蒸気船のイメージで書かれた曲。アルバム「トム・ソーヤーの冒険」では、この曲をアレンジした「はるかなる蒸気船」という曲がB面の1曲目に収録されている。本作の音楽の中でも、とびきり華やかで躍動感のある曲である。「空からの眺め」(トラック13)と「あこがれを胸に」(トラック14)の2曲もいい。トムたちが気球に乗って飛ぶ場面、そして村に帰ってくる場面に流れた。いかにも「空の旅」というイメージのさわやかで広がりのある曲調に胸が熱くなる(ともに初収録)。
 音楽集の終盤、トラック30「インジャン・ジョーのゆくえ」からトラック34「希望の光」までの5曲は、インジャン・ジョーの復讐を恐れていたトムが洞窟の中でインジャンに遭遇するエピソード、第46話〜48話のイメージで構成した。トラック32の「せまる危機」はトムのピンチをスリリングに描写する音楽。サスペンス映画のクライマックスみたいでドキドキする。アップテンポのアクション曲「勇気ある追跡」(トラック33)を経て、ストリングスがおだやかに奏でる「希望の光」(トラック34)がトムのほっとした気持ちを表現する。聴きながら絵が浮かぶような流れを意識した。
 BGMコレクションの最後のパートは、トムと仲間たちのテーマを集めた。オープニング主題歌のメロディをフルートがやさしく演奏する「トムの胸の中には」(トラック35)、ハックのテーマの変奏「はだしで走ろう」(トラック36)、軽快な行動曲「トムとハックと仲間たち」(トラック37)。
 「トムの胸の中には」は、Mナンバー「M-1」が振られたBGMである。マスターテープに記載されたタイトルは単に「トムのテーマF」となっていたが、「M-1」は多くの場合メインテーマなど重要な曲に振られる番号なので、収録する位置と曲名は少し悩んだ。考えたすえ、大事件を経験して、少し成長したトムをイメージして収録した。
 締めくくりの曲はオープニング主題歌のディキシーランドジャズ風アレンジ「調子のいいトム」。やはりトム・ソーヤーの物語のラストは明るくにぎやかでなくては。
 ディスク2の末尾にはボーナストラックとして主題歌2曲のオリジナル・カラオケを収録した。歌う前に、まずはじっくりとカラオケに耳を傾けたい。特に「ぼくのミシシッピー」は1番と2番とリフレインがすべて違うアレンジになっているのが感動的。「音楽の料理人」と呼ばれた服部克久のみごとなアレンジを味わってほしい。
 ようやく実現した『トム・ソーヤーの冒険』の完全版音楽集。追悼盤と呼ぶには遅くなってしまったが、メモリアルの思いを込めてリリースする。服部克久の代表作のひとつを収めたアルバムとして、愛聴していただければ幸いである。

 ところで「トムの胸の中には」何があるのだろう?
 勇気? 希望? 夢?
 もちろん、それもあるだろうけど、それだけじゃない。トムの胸の中には、いつもミシシッピー川が流れているのさ。

トム・ソーヤーの冒険 音楽集
Amazon

第782回 出﨑『コブラ』30年振り?

 現在、観に行きたい映画は色々あるけど、それらよりも真っ先に行きたい

公開40周年記念 特別4K上映
『SPACE ADVENTURE コブラ』!

 勿論、出﨑統監督作品です。公式で“40周年”と謳ってるのに、なぜ自分に取っては「30年振り」なのか?
 憶えている方もいらっしゃると思いますが、本公開の1982年からほぼ10年後の1992年、“ビデオ&LD発売記念上映”がテアトル池袋で行われ、自分はそれを観て以来だからです。
 逆に本公開のリアルタイム時、俺はまだ8歳とかで、劇場には『コブラ』より『ドラえもん』を観に行くのが当然という年代。その後、水曜ロードショー(『金曜~』の前番組)で、『あしたのジョー2』を観て以来の出﨑ファン入り、の順番なので、出﨑劇場初体験は17歳の時のテアトル池袋、となる訳です。
 その上映期間と東京デザイナー学院の説明会の日が重なっていたので、当時喜び勇んで上京~御茶ノ水で学校説明会に参加し、その足で池袋へ。観ましたよ、大画面で『コブラ』を! 体感しましたよ、躍動感ある出﨑アニメを!
 繰り返しPANやダイナミックな流背引きなどに代表される出﨑演出も「大画面で観ると目が回る?」とか想像してましたがそんなことは全くなく、眼前で次々に繰り広げられる画面の楽しさに酔いしれた100分間でした。その後、劇場版『BLACK JACK』(1996年)も興奮の連続で3回劇場に行きました!

出﨑作品程、「観て感じる」と言う楽しみに満ちたアニメを自分は未だに知りません!

で、今回公開されている“4K”版は30年のテアトル池袋や4K Blu-ray版(当然購入済)とは、また違った“体験”をさせてくれるに違いありません。でも……、

 PVも公開になり、納品も始まった総監督としての責任上、4K『コブラ』に限らず他の映画も観に行っている暇が無いのです。ごめんなさい、出﨑監督! もう少しスタジオ(現場)を育てて、自分が付いていなくても回るようになった時、またやって欲しいな。

アニメ様の『タイトル未定』
373 アニメ様日記 2022年7月17日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2022年7月17日(日)
オールナイトを前にして「WEBアニメスタイル[旧サイト]」の『映画ドラえもん のび太の恐竜2006』のインタビューを久しぶりに読む。

渡辺歩・小西賢一が語る『のび太の恐竜2006』
http://www.style.fm/as/13_special/mini_060417.shtml

面白かった。この頃はネットの記事でこのノリが出せたんだな。今でも出せなくはないけど、難しいはず。インタビュアーは私だけど、インタビュアーの「大塚康生さんに始まる美意識を捨てている」という発言が凄すぎる。渡辺さんの「我々スタッフが最初に登った天王山だったかもしれません」もいいなあ。気になるアニメーターさんの仕事を満遍なく聞いているので、その意味でも充実。「最後の闘技場から逃げるところって、欠番カットが出ていませんか?」と聞くのも凄い。

2022年7月18日(月)
ワイフとグランドシネマサンシャインに。「ミニオンズ フィーバー」【吹替版】を観る。今回だけのことではないけれど、キャラクター(&世界観)と物語と映像技術の一致が素晴らしい。その後は池袋をあちこち歩く。ミクサライブ東京の「モヤさまドイヒー展」に寄ったり、サンシャインシティの「ガシャポンのデパート池袋総本店」に行ったり。なんだか夏休みっぽい。「少年ジャンプ+」で連載を再開した「チェンソーマン」を読む。

2022年7月19日(火)
先日の「出没!アド街ック天国」の「千川・要町」の回を録画で観た。要町は散歩でたまに行くんだけど、知らない店が沢山紹介されていた。驚いたのはチェーンの中華料理屋の「福しん」について。「福しんこだわりは各店舗に“名物おばちゃん”となるようなスタッフを置くこと(以上はテロップから)」だという。ええっ、マジか。会社の方針なの? 閉店した事務所近くの福しんにも、確かに印象に残るおばちゃんがいた。最近使っている店舗にも印象的な女性定員がいるんだけど、その人はおばちゃんと呼ぶのは申しわけないくらい若い(はず)。これから「名物おばちゃん」になる「おばちゃん候補」なのだろうか。
今日で『THE END OF EVANGELION』公開から25周年であることを知る。『戦え!!イクサー1』のBlu-rayを流していたのだけれど、『THE END OF EVANGELION』に切り換える。Blu-rayだと、通常再生と別に「試写会上映版」をPLAYできるのだけど、「試写会上映版」だと、本編の後に「ラブ&ポップ」の予告(特報?)がついている。試写会の時はこの構成だったんだ。すっかり忘れていた。

2022年7月20日(水)
『映画 バクテン!!』を観る。面白かった。展開が予想外だったのもよかった。詳しくは再見した時に改めて。
『THE END OF EVANGELION』に続いて、TV『新世紀エヴァンゲリオン』をBlu-ray BOXで視聴。第壱話でミサトが「システムは利用するためにあるものね」と言う。このセリフは小説「愛と幻想のファシズム」からの引用だったはず。引用といっても、同じセリフがあるわけではなかったと思うけど。「愛と幻想のファシズム」に読んで確認しようとしたら、電子書籍になっていないのね。いつか紙の本で確認しよう。
『怪盗グルーの月泥棒』を配信で流し観。未見かと思ったら、記憶にある場面がいくつも。怪盗グルーの長編は5本あって、そのうちの数本は観ていないはずなんだけど、観てないのはどれだ?

2022年7月21日(木)
身近な人に聞いた話。仕事の打ち合わせで「あなた、2コロ? 3コロ?」と聞かれたらしい。2コロは新型コロナに2回感染、3コロは3回感染の意味だそうだ。これだけ感染者が出ているだから、複数回感染している人もいるはずだけど、ちょっと怖い言い方だ。
朝の散歩で毎日のように見かけている猫が数匹いて、そのうちの一匹の名前が分かった。マイケルだそうだ。その猫は辺りのボス猫のはずだし、見た目がタフな感じだから、もっとケンカに強そうな名前を想像していた。

2022年7月22日(金)
『5億年ボタン』の2話を観た。かなり面白かった。だけど、これは全話を一気に観たほうが面白いかもしれない。で、これは作品の本質とは関係ないけど、2話は野沢雅子さんをキャスティングしている意味があった。それからオマケコーナーでの野沢さんのイジられ方が凄かった。
『RE:cycle of the PENGUINDRUM [後編]僕は君を愛してる』を鑑賞。前編と合わせての感想になるけれど、オリジナルの物語やキャラクターを大事にした作品だと思った。幾原邦彦監督の完全新作劇場長編が観たくなるのは前編と同じ。

2022年7月23日(土)
『映画ドラえもん のび太の恐竜2006』を配信で視聴。映像がかなりパキパキしている。配信版の映像はフィルムに落とす前のデータでマスターを作っているのだろうか。
夜はオールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol.137 渡辺歩&小西賢一の劇場アニメーション」を開催。トークは充実。「ここだけの話」も多かった。それから、今まで語られていなかったノンクレアニメーターさんの話題も。

新文芸坐×アニメスタイルSPECIAL
湯浅政明の超傑作『マインド・ゲーム』と『犬王』

 12月11日(日)の14時から、新文芸坐とアニメスタイルの共同企画で「湯浅政明の超傑作『マインド・ゲーム』と『犬王』」を開催します。

 上映するのは湯浅政明さんにとって初の長編監督作品の『マインド・ゲーム』(2004年)と最新作にして、話題作の『犬王』(2022年)。『マインド・ゲーム』はロビン西の同名マンガを映像化したもので、アニメーションの快楽に満ちたフィルム。『犬王』は古川日出男の小説「平家物語 犬王の巻」を原作としており、室町時代に実在した犬王を活躍をロックオペラとして描いた野心的な企画。両作とも芸術性と娯楽の両立が素晴らしく、また、是非とも劇場のスクリーンで観てもらいたい作品です。
 『マインド・ゲーム』は、過去に新文芸坐とアニメスタイルのオールナイトで何度か上映しましたが、今回は昼間の上映となります。

 トークコーナーのゲストは湯浅監督を予定。トークコーナーは作品上映の後となります。チケットは12月4日(日)から発売。チケットの発売方法については、新文芸坐のサイトで確認してください。なお、新型コロナウイルス感染予防対策で観客はマスクの着用が必要。入場時には検温・手指の消毒を行います。

 ※トークコーナーにつきまして、出演予定でした小黒祐一郎(アニメスタイル編集長)は体調不良のため登壇を見送らせていただきます。代わりに岡本敦史(ライター・編集者)さんが聞き手を務めます。直前のお知らせとなってしまい誠に申し訳ありませんが、何卒ご理解賜りますようお願いいたします。(12/9追記)

新文芸坐×アニメスタイルSPECIAL
湯浅政明の超傑作『マインド・ゲーム』と『犬王』

開催日

2022年12月11日(日)

開演

14時

会場

新文芸坐

料金

一般2200円、各種割引・友の会2000円

トーク出演

湯浅政明(『マインド・ゲーム』『犬王』監督)、小黒祐一郎(アニメスタイル編集長)岡本敦史(ライター・編集者)

上映タイトル

『マインド・ゲーム』(2004/103分/35mm)
『犬王』(2021/97分/DCP)

備考

※トークショーの撮影・録音は禁止

●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

第781回 背景30年振り?

“総監督”とはいったい何をする役職か?
これが問題です!

 自分は学生時代のグループ制作では美術監督と背景をやっていました。当時はもちろん、画用紙にポスターカラーで。というか、30年前も今と変わらず何でもやってた板垣です。筆やペンを使ってのレタリングも得意だったため、タイトルも(セルに)描いたし、仕上げも手伝いました。
 現在ではデジタル・ツール(CLIP STUDIO)で何でもできるので、もっと色々やれます! アニメ業界は作画の人手不足ばかり取沙汰されがちですが、実は現状、背景・美術の人員も結構深刻なのです。

ってことで、また短いのですが“背景”作業に戻ります。

アニメ様の『タイトル未定』
372 アニメ様日記 2022年7月10日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2022年7月10日(日)
配信の『ソウルイーター』を流しながら作業。今になって、作り手のマカに対する愛情の深さを感じる。

2022年7月11日(月)
午前8時から13時に集中して原稿を進めた。その前後はあまり集中しなくてもできる作業。
早朝散歩で『さらば宇宙戦艦ヤマト ―愛の戦士たち―』のサントラを聴いて、急に本編が観たくなり、Blu-rayソフトを注文しようとしたら、Amazon先生が「君はそのBlu-rayを購入しているよ」と教えてくれた。ありがとう、Amazon先生。ラックにあった『さらば』のBlu-rayを再生。あ、これって4:3収録なんだ。16:9収録でもやっぱり文句を言うと思うけど、16:9のほうがいいカットもあるなあ。

2022年7月12日(火)
この日も午前8時から13時に集中して作業を進めた。前後はあまり集中しなくてもできる作業。
年末に開催される海外でのイベントに、ゲスト出演のお誘いがあった。声をかけてもらったのは嬉しいけれど、その時期に8日も事務所をあけるのは無理だなあ。それとは別にアニメ企画お手伝いの話が舞い込む。

2022年7月13日(水)
買うだけ買って再生していなかった(当時は事務所に4K再生環境がなかった)『君の名は。』4K Ultra HD Blu-rayを4Kモニターで再生してみる。これは凄い。映像が鮮やかで、かなりの見応え。国立新美術館の「新海誠展」でモニターで流れていた『君の名は。』も色が鮮やかだったけれど、その印象に近い。実際に4Kで映像を作っているわけではなく、アプコンなのだろうと思うけれど、満足度は高い。作画に関して言うと、ロングショットでも顔がちゃんと描いてあるのがいい。多少は省略してあるけど、破綻はない。
『新テニスの王子様 U-17 WORLD CUP』2話で観客席の観客が背景描きで、背景の人物に目鼻まできちんと描いているカットあった。前からこんな処理があったっけ。そのうちに確認してみよう。
この日のデスクワークは先週校了した書籍関連の作業、進行中の書籍の作業(これが多い)、それに関連した連絡、「この人に話を聞きたい」の原稿、イベント関係の連絡、今後の書籍の企画、「WEBアニメスタイル」の作業等。とにかくやることが多い。

2022年7月14日(木)
早朝散歩で雑司ヶ谷を歩く。パラパラと雨が降っており、涼しくて非常に快適。ちょっとしたバカンス気分だった。池袋HUMAXシネマズの15時半からの回で『神々の山嶺』を観る。谷口ジローの同名マンガをフランスでアニメーション映画にしたもので、画作りがいい。キャラクターは日本のリアル系作画に近い。過去の日本も舞台になっているのだけれど、その描写が丁寧であり、時代考証的な粗は少ない。現代の劇映画として考えると、もう一押しかもう一ひねり欲しいところだけど、観てよかったと思える作品だった。
『ヒーラー・ガール』を再見。ながら観で全話を観た。

2022年7月15日(金)
散歩以外はデスクワーク。事務所の近くに、金曜だけランチにカレーライスを出し、そのカレーライスのために行列ができるうなぎ屋がある。正確にはうなぎが売りの居酒屋だ。行列に並ぶのが嫌で金曜には入ったことがなかったのだけれど、この日は行列が短くて、すぐに入店できそうだったので並んでみた。カレーライスを注文して食べてみたところ、予想通りの「昭和のカレーライス」だった。懐かしい味だし、食べようと思ってもなかなか食べられないのかもしれないけど、僕は二度目はないかなあ。
『機動戦士ガンダムF91』を4Kで観た。

2022年7月16日(土)
仕事の合間に、新文芸坐で「MEMORIA メモリア」(2021・コロンビアほか/136分/DCP)と「MONOS 猿と呼ばれし者たち」(2019・コロンビアほか/102分/DCP/R15+)の2本立てを観た。プログラム名は「大地から呼ぶ者、大地で叫ぶ者」だ。新文芸座アカウントの「(略)特に『MEMORIA メモリア』は音が物語の一部になっていると言っても過言ではありません。家では聞こえない音が聞こえ、そこに意味が持たされています。」等のツイートを目にして観る気になった。確かに「MEMORIA メモリア」は劇場か、音響が整った場所で観ないと成立したないと思われるシーンがあった。「MONOS 猿と呼ばれし者たち」も気になるところがあったので、両作のパンフレットを購入した。

第244回 再会を待ちながら 〜花の詩女 ゴティックメード〜

 腹巻猫です。12月2日にNHKホールで「渡辺宙明 追悼コンサート」が開催されます。今年6月、96歳で亡くなった渡辺宙明先生のメモリアルコンサート。ご子息の渡辺俊幸さんが音楽監督と指揮、一部の楽曲のアレンジも担当。私が好きな『戦え!!イクサー1』からも選曲されているそうなので楽しみです。まだ若干チケットが残っているようなので、迷っている方はぜひ。
https://chumei2022.com/


 少し前のことになるが、11月1日から10日間限定でリバイバル上映された劇場アニメ『GOTHIC MADE 花の詩女』を劇場に観に行った。
 永野護が原作・脚本・監督を務めた作品。初公開は2012年11月で、今回は10周年記念の上映だった。
 本作は永野護の意向により、映像ソフト化や配信はされていない。12Kの解像度で制作された映像とこだわりぬいた音響を劇場で体験してほしいということらしい。
 大スクリーンで観る映像は格別で、作画や色彩の美しさを堪能した。音響はドルビーアトモスだったので、これも極上。音楽のすばらしさにも感動した。
 作品は劇場でしか観られないが、サウンドトラック・アルバムはCDで発売されている。今回は『GOTHIC MADE 花の詩女』の音楽を聴いてみたい。

 音楽を手がけたのは長岡成貢。「ストライクウィッチーズ」シリーズの音楽でもおなじみの作曲家である。
 本作の企画が決まったときから音楽は長岡成貢に頼もうと決めていた、と永野護がサウンドトラック・アルバムの解説書で明かしている。
 永野の妻でもある声優・歌手の川村万梨阿が、1997年に発売されたOVA『神秘の世界エルハザード2』の主題歌「眠れない夜には」を歌った。作・編曲を担当したのが長岡成貢だった。その曲を聴いて、「いつかこの作曲家と仕事をしたい」と思っていたそうだ。
 さらに2004年、長岡成貢が故郷・三重県の明和町で開催される「斎王まつり」で川村万梨阿をゲストボーカルに迎えたコンサートを行った。それに同行した永野護が、斎王の伝説からヒントを得て思いついたのが『花の詩女 ゴティックメード』の物語だった。
 余談になるが、筆者が長岡成貢にインタビューしたとき、雑談の中で斎王まつりの話を聞いたことがある。長岡成貢は長年、斎王まつりに音楽を提供していて、CDも発売している。故郷の祭りに音楽で参加できることに格別な想いがあるようだった。
 それから間もなく、筆者は第55回日本SF大会「いせしまこん」に参加するために三重県を訪れた。斎王まつりの時期ではなかったので祭りは見られなかったが、伊勢の雰囲気に触れることができた。ついでに鳥羽水族館を見学して帰ってきた。水族館はおまけだが、この風景と空気が長岡成貢の音楽を育てたのだろうかと考えたことを思い出す。
 話を戻すと、『GOTHIC MADE 花の詩女』では川村万梨阿が主役を務め、挿入歌や主題歌を歌っている。
 物語の舞台は植民惑星カーマイン。惑星の歴史の語り部である「詩女(うため)」は、代々記憶を受け継ぎ、都へ登る儀式を行うことになっている。新しい詩女になった少女ベリンが都に旅立つ日、ドナウ帝国の皇子トリハロンが彼女を警護するために現れた。2人は互いの考え方や立場の違いにとまどいながら、都への旅を続けていく。
 音楽づくりは川村万梨阿が歌う曲の制作が先行した。特に劇中でベリンが数え歌を歌うシーンは、曲に合わせて作画することになっていた。
 永野護は音楽について、ひと言「いい曲を作ってください」と長岡成貢に依頼したという。
 まるっとおまかせみたいな言い方だが、曲づくりは大変だったそうだ。永野護は自分がほしい音楽にこだわり、長岡成貢も自分がイメージする音楽にこだわった。ひとつの曲に複数のアレンジが作られ、何人ものミュージシャンが演奏し、録音スタジオをいくつも使い、テイクを重ねた。「昨今のアニメ映画では桁外れの予算と時間をかけて『花の詩女』の音楽が作られた」と永野護はふり返っている。
 その音楽が収録されたサウンドトラック・アルバムは、2012年10月に日本コロムビアから発売された。劇中音楽と川村万梨阿の歌3曲を収録した充実盤だ。
 収録曲は以下のとおり。

  1. ベリンのテーマ
  2. 詩女の旅立ち
  3. セイラーソング
  4. 歴史の闇〜ウォーキャスター
  5. 湖水地方
  6. トレーサー
  7. 暗雲〜太陽風の気まぐれ
  8. 種の理由
  9. ゴティックメード V1
  10. ゴティックメード V2
  11. GTM・カイゼリン
  12. 巨大な陰謀
  13. 都にて…
  14. ベリンの数え歌
  15. 茜の大地
  16. 空の皇子 花の詩女

 解説書では永野護が各曲解説を書き、使用された場面や音楽制作の裏話を紹介している。
 1曲目は「ベリンのテーマ」。本作のメインテーマでもある。金属の弦を張ったイランの民族楽器サントゥールが使われている。サントゥールの澄んだ響きにストリングスが重なり、詩女の神秘性を描写する。エスニックで美しい曲調は『神秘の世界エルハザード』にも共通するものだ。
 永野護の解説によれば、この曲のイメージに合う音を探すのが大変だった。サントゥールの音色にたどりつくまでに世界中の楽器がスタジオに集められ、試されたそうだ。
 2曲目「詩女の旅立ち」はベリンたち一行が都に旅立つシーンに流れる女声スキャット(ボーカリーズ)の曲。のちに登場する「ベリンの数え歌」のスキャットバージョンである。ボーカルはベリンを演じた川村万梨阿。やさしくノスタルジックなメロディと川村万梨阿の歌声の組み合わせが絶品で、このシーンを観て、聴いて、心をわしづかみにされた人も多いのではないか。序盤の聴きどころである。
 トラック3「セイラーソング」はベリンとトリハロンの旅の描写、惑星カーマインの風景が紹介されるシーンで流れる曲。ピアノとサントゥールとベースのトリオで奏でられる。音数が少ないぶん、楽器の音色が際立ち、メロディーの優美さにぞくぞくする。
 トラック5の「湖水地方」も同じ曲想の情景描写曲。ピアノの代わりにハープがアルペジオを奏でる。ハープ奏者は朝川朋之。朝川は作曲家として永野護原作の劇場アニメ『The Five Star Stories』(1989)の音楽を担当していた。奇しき縁である。『The Five Star Stories』も昨年(2021年)、角川映画祭で上映されていたのを観たので記憶に新しい。
 次の曲「トレーサー」で雰囲気が一変する。前の曲までは生楽器による演奏だったが、これはシンセサイザーのみで作られた曲。ほとんどリズムだけで構成されている。ベリンとトリハロンを監視する謎の追跡者の登場場面(だったと思う)に流れて緊迫感をあおる。実は劇中に使用されたのはデモバージョンで、もっとヘビーな音の「完成版」もあったのだそうだ。デモを使ったのは「音がもっともソリッドだった」からと永野護は解説している。サントラファンとしては完成版もボーナストラックで入れてほしかったなぁと思う。
 トラック8「種の理由」はピアノとハープが奏でる可憐で優雅な曲。エンニオ・モリコーネやニーノ・ロータが好きだという長岡成貢の音楽性がよく表れている。『ストライクウィッチーズ』のような作品ではアクション系の曲が印象に残りがちだが、長岡成貢は本当にきれいな曲を書く人なのである。この曲は、ベリンとトリハロンのあいだのわだかまりが消え、ふたりが微笑む場面に流れた。緊迫したシーンのあいだでほっとひと息つくところである。
 トラック9「ゴティックメード V1」と次の「ゴティックメード V2」は後半の聴きどころ。
 ゴティックメード(GTM)は本作に登場する巨大ロボットの名称。GTMの起動シーンは作品全体の中でも見せ場になっている。「ゴティックメード V1」では金属的なシンセの音と強いリズムが敵GTMの威容を描写。この曲では永野護が自らベースを弾いている。
 「ゴティックメード V2」は「V1」のオーケストラバージョン。激しくうねるストリングスとリズムが緊迫感を表現する。トリハロンのGTM・カイゼリンの起動シーンに使用された。ゴティックメードの曲はいくつものバージョンが作られたが、その中からGTMの起動音をじゃましないものとして採用されたのがこのバージョンである。
 カイゼリンの戦闘シーンに使われたのがトラック11の「GTM・カイゼリン」。シンセサイザーのみで演奏されたリズム主体のテクノロックである。このシーンには別の曲が用意されていたのだが、予備として作っておいたこちらの曲が採用された。「カイゼリンのエンジン音を邪魔せず、イケイケムードを盛り上げる」という理由なのだそうだ。映像音楽は映像や効果音やセリフと合致してこそなのだなぁとあらためて思う。
 トラック13「都にて…」は都にたどりついたベリンとトリハロンが語らう場面に流れる曲。アコースティックギターのソロで奏でられる。ギター奏者・嘉多山信のほぼアドリブなのだそうだ。おだやかな演奏から、言葉にしきれないふたりの気持ちが伝わってくるようで、みごとだ。
 アルバムのラストには川村万梨阿が歌う曲が3曲続けて収録されている。ベリンが花の種をまきながら歌う「ベリンの数え歌」、エンディングに流れる「茜の大地」、そして主題歌「空の皇子 花の詩女」。作中でも、ラストにこの3曲が続けて流れる。しかもすべてフルサイズ。ちょっとした音楽映画みたいで、ゴージャスな趣向である。
 しかし、そうしたくなる気持ちもわかる。3曲とも実にいい曲だからだ。
 作詞はすべて川村万梨阿が担当。「ベリンの数え歌」はわらべ歌みたいに始まるが、サビでぐっと感情が入ってきて、胸をつかれる。もうひとつのベリンのテーマとも呼べる曲だ。
 「茜の大地」はエンドクレジットのバックに流れる歌。少しさみしげな曲だが、その曲調ゆえに、物語が終わったあとの余韻に静かにひたることができる。夕陽に照らされた大地の前でベリンがさみしく歌っているイメージの曲である。
 主題歌「空の皇子 花の詩女」はベリンとトリハロンのテーマ。ピアノとシンセの幻想的なイントロから川村万梨阿の歌が始まり、しばらくは浮遊感のあるサウンドが続く。2コーラス目からドラムのリズムとエレキギターが加わり、曲は急に力強い雰囲気になる。まるでベリンの強い意志を示すように。この変化が鮮やかで感動的だ。歌に込められた願いと希望とともに作品は幕を下ろす。

 『花の詩女 ゴティックメード』を観る機会は、またしばらくないかもしれない。手にすることができるのは音楽だけである。だからこそ、このアルバムをくり返し、深く味わいたい。
 本アルバムは、一時CDショップで在庫切れになっていたが、現在は在庫が復活している。映像の代わりと思わずに、音楽が作り上げる世界、音楽でしか体験できない世界をぜひ楽しんでほしい。劇場で再会できる日を待ちながら。

花の詩女 ゴティックメード オリジナル・サウンドトラック
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第780回 話せるトコまで、とその他!

新作のPV、発表されました。以上!

 その他、スタッフ・キャスト等に関しては、また公式からの続報が出次第ってことで!

 いつものことですが、公式の許諾を得ずに勝手に新情報を書(描)いたりはできないので、公式の情報開示に合わせたかたちで、落ち着いて話題にさせていただきます。で、本日はさらに次の作品(別タイトル)のキャラクターのラフを描いて提出。年が明けたら、3シリーズ分のホン読み(脚本開発)が始まることでしょう。何か色々頭の中で作品がグルグル回ってる状態で、フリーの演出・監督業で駆けずり回っていた頃を思い出します。慢性的に忙しい状態が、おそらく生理的に好きなんでしょう、俺は。ガイナックスにいた頃、板垣の働き方を見て「ワーカホリックというヤツだな~」と仰った庵野(秀明)監督を思い出します。当時、社長の山賀(博之)監督にも同様のことを言われた記憶があります。
 まあ、どうなんでしょう? 自分的には“働き過ぎ”とは思っていません。ちょうど1年前に亡くなった父親は、俺が名古屋にいた頃(上京前)の18年間ずっと、朝6時前後~夜8時半頃まで毎日(月~土曜日)に加え日曜日も昼まで働きに出て、の今では国から怒られそうな週休半日(!)で、月給20万円でしたから。細かい事情は多く語らずに死んだのですが、東北(山形)から中卒の出稼ぎ集団就職組で、我々家族を食わせるために遮二無二働いたんだと思います。が、少なくとも会社(工場)の愚痴一つ自分は聞いたことがありませんでした。
 そんな働き詰めの父を見て育ったせいか、自分だけでなくウチの実家は姉も妹も、そして姪・甥(姉の子供ら一姫二太郎)らも含め皆「働かざる者食うべからず」と言わんばかりに、ホントによ~く働くようです。各々稼ぎが多いかは? ですが。
 で、自分は——別にアニメの仕事を卑下するつもりはないのですが、「好きが高じて」の職であると自負しているし、実家で独り立ちした姉らよりは「運が良く、得してる」と思っている分、金が入り用だとの一報が入ると直ぐお金送るようにしています(己が金持ちでもないのに)。なぜなら、自分が好きを仕事にできているのも実家の母・姉・妹ら家族あってこそだと思っているからです。好きな仕事だからこそ、いくら働いても苦にならないし、また金がなくなったら、いくらでも好きな仕事をして稼げばいいだけのことですからね。
 ま、それをワーカホリックと言うなら——そうなんでしょうね。さて、仕事に戻ります。

第198回アニメスタイルイベント
作画を語る上で重要なこと

 12月19日(月)にトークイベント「第198回アニメスタイルイベント 作画を語る上で重要なこと」を開催します。出演はアニメーター、演出として活躍し、さらに作画研究家でもある沓名健一さん、『Sonny Boy』『四畳半タイムマシンブルース』等で監督を務めた夏目真悟さん、アニメスタイル編集長の小黒祐一郎です。

 今回のイベントでは「作画を語る」をキーワードにして、いくつかの話をする予定です。 小黒は「マニア目線の作画史で、1980年代前半のアクション作画は空白になっているのではないか」といった話をするつもりだそうです。
 会場は阿佐ヶ谷ロフトA。お客さんが会場で観覧するかたちでの開催です。配信もあり、トークのメイン部分を配信します。配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。

 チケットは11月25日(金)19時から発売。購入方法については、以下のリンクをご覧になってください。

  ※トークの聞き手として、アニメスタイルの小黒編集長が出演する予定でございましたが、体調不良のため、出演を見合わせることとなりました。心よりお詫び申し上げます。沓名健一さん、夏目真悟さんは予定どおり出演していただきます。直前のお知らせとなってしまい誠に申し訳ありませんが、何卒ご理解賜りますようお願いいたします。(12/15追記)

■関連リンク
阿佐ヶ谷ロフトA
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/235674

第198回アニメスタイルイベント
作画を語る上で重要なこと

開催日

2022年12月19日(月)
開場18時30分/開場19時 終演22時頃予定

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

沓名健一、夏目真悟、小黒祐一郎

チケット

会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,500円、当日 1,800円(税込・飲食代別)
ツイキャス配信チケット/1,300円

■アニメスタイルのトークイベントについて
 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。

新文芸坐×アニメスタイルSPECIAL
アバンギャルドアニメの最先端 劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト

 12月3日(土)に新文芸坐とアニメスタイルの共同企画で『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』のレイトショーを開催します。
 『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』は、TVシリーズ『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』の続編として制作された劇場アニメーションです。TVシリーズも奇抜な設定や表現が魅力の作品でしたが、劇場版はそれが数倍にパワーアップし、非常に「攻めた」作品となっています。雑誌「アニメスタイル016」でも「アバンギャルドアニメの最先端」として特集を組みました。

 劇場のスクリーンと音響で楽しみたい作品でもあります。是非とも劇場でご覧になってください。トークコーナーのゲストは古川知宏監督を予定。トークコーナーは上映の後となります。
 チケットは11月26日(土)から発売。チケットの発売方法については、新文芸坐のサイトで確認してください。なお、新型コロナウイルス感染予防対策で観客はマスクの着用が必要。入場時には検温・手指の消毒を行います。

新文芸坐×アニメスタイルSPECIAL
アバンギャルドアニメの最先端 劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト

開催日

2022年12月3日(土)

開演

19時20分

会場

新文芸坐

料金

1900円均一

トーク出演

古川知宏(『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』監督)、小黒祐一郎(アニメスタイル編集長)

上映タイトル

『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(2021/120分/DCP)

備考

※トークショーの撮影・録音は禁止

●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

【最新号の詳細発表!】「アニメスタイル016」の巻頭特集は中村豊!
http://animestyle.jp/news/2022/03/31/21779/

アニメ様の『タイトル未定』
371 アニメ様日記 2022年7月3日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2022年7月3日(日)
ワイフとグランドシネマサンシャインに。午前7時35分からの回で「バズ・ライトイヤー」【IMAXレーザーGT吹替版】を鑑賞。子ども向けの冒険活劇かと思ったら、予想よりもずっと大人向けだった。フルサイズIMAX画角(1.43:1)のシーンは多かった。そして、後半のフルサイズIMAX画角がよかった。
新番組を色々と観る。『てっぺんっ!!!!!!!!!!!!!!!』の「!」の数は15個。ちぃ、覚えた。

2022年7月4日(月)
この日は早朝ではなくて、深夜から散歩に。午前3時にワイフとマンションを出て、目的地を決めずに新宿に向かって歩く。ドン・キホーテ新大久保駅前店で買い物をして、ワイフが島寿司が食べたいというので、歌舞伎町の磯丸水産で朝食。午前5時の磯丸は若い男女が元気に語らっていて、不思議と楽しいムードだった。
この日に録画で観たTVアニメの1話は「BLEACH ANIMATION BEST」『ユーレイデコ』『連盟空軍航空魔法音楽隊ルミナスウィッチーズ』『RWBY 氷雪帝国』『シュート! Goal to the Future』『森のくまさん、冬眠中。』。この日に録画で観たTVアニメの最終回は『魔法使い黎明期』『まちカドまぞく 2丁目』。他には継続番組の『BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS』『ちびまる子ちゃん』『サザエさん』の最新話を観た。『森のくまさん、冬眠中。』はやたらと濃かった。『シュート! Goal to the Future』って原作の再アニメ化ではなくて、その後の話なのね。『RWBY 氷雪帝国』の1話は好印象。『魔法使い黎明期』最終回は演出がベテランの波多正美さんだったことに驚き。

2022年7月5日(火)
書籍編集のスケジュールを組み直すのも零細出版社の社長&編集長の仕事なんだけど、根が編集者兼ライターなので、こういうことばかりやっていると仕事をしている気にならない。自分の原稿も進まない。
仕事の合間に新文芸坐で「天使のはらわた 赤い淫画」(1981/67分/35mm/R18+)を観る。プログラム「追悼・石井隆 堕ちゆく者たちの美学Vol. 1」の1本。これは面白かった。いきなり話は飛躍するけど、最近のTVアニメは分かりやすさが最優先で、変わった構図とか、変わった演出とか激減したなあと思った。勿論、分かりやすさを優先すること自体は悪くないのだけれど。

2022年7月6日(水)
緊急社内Zoom打ち合わせがあったりして、慌ただしい日。ではあるが、夕方はワイフと鬼子母神の夏市に。夏市は賑わっていた。池袋でこんなに中学生や高校生が大勢いるのを見たのは久しぶり。
「マツコの知らない世界」の「世界から見る!アニソンの世界」が面白かった。番組としても面白かったんだけど、ゲストのユリコタイガーさんが面白かった。『ダンベル何キロ持てる?』のジーナ・ボイドのようだった(悪口ではない。ジーナよりも「こっち側」だけど)。ユリコタイガーさんは自分の名前について百合子と『とらドラ!』の大河の合成だと言っていたけど、『無責任艦長タイラー』の「ユリコ・スター」と「タイラー」のひっかけもあるのではないかなあと思った。

2022年7月7日(木)
グランドシネマサンシャインで「エルヴィス」【IMAXレーザーGT字幕版】を観た。長い映画なので観るのを躊躇していたが、観てよかった。凝りに凝った豪華な映画で、物語も楽しめた。コンサートシーンの臨場感もよかった。映画終了後に、ロビーで昔からの友人であるライターさんとバッタリ。同じ回を観ていたらしい。
『異世界おじさん』1話を観た。原作既読。僕個人としては100点満点以上の内容だった。子安さんの声も芝居も素晴らしい。少なくとも僕にとってはイメージが原作のおじさんから外れていないし、なおかつ、人間的な魅力が増している。演出もよかった。細かいところだけど、おじさん、たかふみが椅子に座る前に「椅子を引く」、座った後で「椅子ごと前に出る」をやっているのが、かなりよかった。

2022年7月8日(金)
グランドシネマサンシャインで「ソー:ラブ&サンダー」【字幕】ATMOSを観る。娯楽作としては充分によくできているし、文句を言いたいポイントはあまりないんだけど、ちょっとだけ物足りない感じはある。我ながら贅沢な感想だなあ。
片渕さんの近しい方に濃厚接触者が出たため、7月9日(土)のイベントは配信のみに切り換えることになった。朝からその対応。
「中村豊 アニメーション原画集 vol.3」が校了した。

2022年7月9日(土)
アニメージュの「設定資料FILE」vol.256『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』を紙の雑誌で確認。自分的に攻めた構成だったのだったので、きちんと紙で確認したかった。書き文字もフォントの文字がかなり小さくなっているけれど、僕的にはOKな大きさ。画の並べ方を含めて、同じコーナーを四半世紀も続けたからできた構成だと思う。
「第192回アニメスタイルイベント ここまで調べた片渕監督次回作10【世紀末の京都を歩き回ってみよう編】」を開催。今回は片渕さんがリモートでの参加となり、配信だけのイベントとなった。
朝買った文庫本のひとつが「コンビニ人間」。あっという間に読了。予想よりもずっと面白かった。自分でも意外だったけれど、主人公に共感できるところがあった。乱暴な言い方になるけれど、いわゆるオタク的な人で、共感できる人は多いのでは。

第779回 逸れて逸れて、読みにくく

先日、某アニメ会社社長の友人からの電話で、お互いの近況報告をしました、30分ほど!

 その彼曰く「働き方改革で、アニメはもう作れない! 間もなくアニメ会社の9割が潰れる!」とのこと。現れます、定期的に“アニメ業界終末論”を語る人。数年前にも「“世界一有名な日本のアニメ監督”である某巨匠が引退したらアニメは5年で滅ぶ」発言をした監督さんもいらっしゃいました。それらを聞くにつれ、俺が思うのは生前の黒澤明監督によるお言葉、

映画が生まれてまだ100年しか経ってないんですよ!
まだまだこれからですよ!
——ダメになったのは映画じゃなくて、映画会社だ!

です。映画業界なら映画、アニメ業界ならアニメ、表現方法それ自体に惚れ込んでるクリエイターはそう簡単に生業にしているジャンルを「滅ぶ」とか言わないものだと思います。
 冒頭の友人社長の言葉聞いても、正直俺は「あ、そう」って答えしか出ません。少なくとも板垣は

「パラパラ漫画」をコツコツ描いて
ムービー再生することが無性に好きで、
それを繋いでフィルムを作ることがさらに無性に大好きなだけ!

ですから。黒澤監督程の映画好きとは比べ物にならないでしょうが、自分は自分なりにアニメーションというか表現手段それ自体が好きで作り続けている訳で、業界自体が滅ぶだ何だ言われたとて、全く動じません。だって“表現”は死なないでしょう? 仮に最後の一人になっても、自分は「パラパラ漫画」をネットに上げたりしてでも、パラパラ遊ぶと思いますから。
 あと、「手描きの作画が存続し得るのか?」的な問題も、俺にとっては全く関係ありません。3DCGでろうがライブ2Dであろうが、“コマ単位で画(情報)の操作(コントロール)が意のままになるならそれはアニメ”! よって、

予算内でその画を動かすのに最適な方法(テクノロジー)を選べば良いだけの話!

ハッキリ言って、俺に取ってここ10年はそれを計算に入れてないコンテは上げていません。現状、ウチの制作チームでこなせる枚数(1話4000枚)で収まるコンテを自分自身は切って(描いて)います。コンテを社内の新人や外注に撒く場合——特に外注(フリー)に任せるとその辺の制御が大変なので、近年は全話自分コンテになったりする訳です。因みに現在制作中のシリーズもそういう意味で、社内新人のコンテはかなり手を入れさせて貰いました。
 話は逸れましたが早い話、予算・受注内容に合わせて制作方法自体を変えれば良いだけの話を、デジタル作画ツールすら覚える気もない不勉強な監督や、予算配分の見直しすらできない同じく不勉強なプロデューサーらが簡単に「アニメはもうダメだ!」とか言って欲しくないし、聞きたもくない。さらに、その戯言をいちいち「問題だ~問題だ~」とネット記事にするなとは言いませんが、それらの意見が、“現在の制作現場に於いて、上手く活躍できている人によって発せられた意見かどうか?”くらい、ちゃんと調べてから記事を上げて欲しいモノです(無理か……)。勿論、全部とは言いませんが、中には誰かのフォローなしでは碌に監督できていない人の意見を、誰もが知ってる代表作あり(かのように振るまってるだけ?)という権威をくっ付けて、無造作に「○○監督が語るアニメ業界の大問題~」風にでっち上げられた記事もありますから。ま、代表作すら碌にない自分が偉そうに言うことではありませんでしたね、——て、また逸れました。
 つまり、それでも作れなくなるなら、やっぱり「パラパラ漫画」をネットに上げたりしてパラパラ遊びます。即ち、少なくとも俺が生きている間はアニメという表現が終わることはないと思いますよ(残念ながら)。

第243回 スタンダードの証明 〜機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島〜

 腹巻猫です。『すずめの戸締まり』を観てきました。心をざわざわさせるテーマを扱いながら、幅広い世代にアピールする娯楽性も追求した意欲作。席の隣の並びに高校生らしきグループが座っていて、終わったあと「めちゃめちゃ面白かったなあ」「すごかった」と話し合っていたので、相当心に刺さったみたいです。音楽はおなじみのRADWIMPSに加えて「ULTRAMAN」『攻殻機動隊 SAC 2045』などの陣内一真が参加。けっこうスペクタクルシーンがあるのでオーケストラ音楽が効果を上げています。


 今年(2022年)6月に劇場上映されたアニメ『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』のBlu-rayが11月25日に発売される。その特装限定版には劇場限定で発売されたものと同様にオリジナル・サウンドトラックCDが同梱されている。
 実はサウンドトラックは劇場公開と同時に配信でもリリースされており、音源のみなら入手可能だ。しかし、音盤として手元に持っていたい人には格好のチャンスだろう。
 『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』は当時劇場で観て、音楽にとても感心したことを覚えている。劇中で『機動戦士ガンダム』第1作(いわゆるファーストガンダム)の音楽をアレンジして使用しているのだが、選曲とアレンジの仕方にぐっときたのだ。
 今回はその音楽を紹介したい。
 『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』は『機動戦士ガンダム』の第15話「ククルス・ドアンの島」を翻案した作品。『機動戦士ガンダム』でキャラクターデザイン・作画監督を担当していた安彦良和が監督・絵コンテ・キャラクターデザインと一部のカットの原画を担当し、「ガンダムの映像を作るのはこれが最後」と語ったことでも話題になった。
 任務のためにガンダムで無人島に降り立ったアムロは、突然現れたザクと戦闘になり、気を失ってしまう。目覚めたアムロは、ザクを操縦していた元ジオン軍の兵士、ククルス・ドアンと対面する。彼はこの島で身寄りのない子どもたちと共同生活を行っているのだった。行方不明になったガンダムを探しながら、子どもたちと交流を深めていくアムロ。しかし、ドアンを裏切り者として追うジオン軍が島を発見し、ドアンと子どもたちの平和な生活に危機が迫る。

 音楽は服部隆之が担当。服部隆之は、安彦良和が総監督を務めたOVA『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(2015〜2018)の音楽を手がけており、2019年に開催された「劇場版『機動戦士ガンダム』シネマ・コンサート」でも編曲と指揮を担当しているので、この上ない人選だ。
 『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』では服部隆之が作曲した新曲とともに、渡辺岳夫と松山祐士が手がけた『機動戦士ガンダム』のオリジナルBGMをアレンジした曲も使用されていた。旧作音楽の使用は、懐かしいキャラクターがオリジナルキャストで登場するのと同じくらいファンの涙腺を刺激する。もちろんそれだけでなく、音楽によってふたつの作品世界がつながっていることを示す演出にもなっていた。
 『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』でも同様の音楽演出が行われている。大半の場面は服部隆之のオリジナル曲が使用されているが、随所に『機動戦士ガンダム』のBGMをアレンジした曲が流れる。特に驚いたのは、オリジナルのTVシリーズでもあまり使われたことのない、主題歌「翔べ!ガンダム」をアレンジした曲が2回も登場すること。ほかにも「おおー」と思った曲がある。『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』とは異なるコンセプトで旧作音楽を使っているようなのだ。
 本作のサウンドトラック・アルバムはサンライズミュージック/バンダイナムコミュージックライブからリリースされた。収録曲は以下のとおり。

  1. ククルス・ドアンの島 メインタイトル
  2. ホワイトベースの乗組員たち
  3. 任務開始
  4. 島に降り立つガンダム(『機動戦士ガンダム』より「苦き故郷 M-45」)
  5. たたかう子供たち
  6. ザク現る
  7. 撤収命令
  8. アムロの悪夢
  9. 迷い込んだ世界
  10. 招かれざる客
  11. 捜索するアムロ
  12. 賑やかな食卓
  13. カーラの優しさ(『機動戦士ガンダム』より「安堵」)
  14. 明日の約束
  15. 任務と葛藤
  16. 暗雲の気配
  17. 褐色のサザンクロス隊
  18. 眠れぬ夜
  19. 少女の願い
  20. 日々の労働
  21. 生命力と包容力
  22. 辿る記憶(『機動戦士ガンダム』より「苦き故郷 M-45」)
  23. 恵みの雨
  24. 意外な助っ人
  25. ドアンの外出
  26. それぞれの目的
  27. 不審な行動
  28. サザンクロス隊の裏切者
  29. 出撃準備(『機動戦士ガンダム』より「長い眠り」)
  30. 恐怖と雷鳴
  31. 和解の灯
  32. 逃れられない過去
  33. 望まぬ展開(『機動戦士ガンダム』より「戦いへの恐怖」)
  34. 急行するアムロたち
  35. 宿命の戦い
  36. 忍び寄る敵
  37. ガンダム突撃
  38. ブランカの逃亡
  39. ドアンの危機
  40. ガンダム登場
  41. 緊迫の刻
  42. 安堵(『機動戦士ガンダム』より)

 劇中で流れたほぼ全曲を使用順に収録(未収録が数曲あるようだ)。楽曲はすべてフィルムスコアリング、つまり映像に合わせて作られている。
 『機動戦士ガンダム』のオリジナルBGMをアレンジした曲は、曲名のうしろにカッコで原曲名を表記している。が、実はそれ以外にも『機動戦士ガンダム』のBGMをアレンジした曲がある。それについてはあとで紹介したい。
 1曲目「ククルス・ドアンの島 メインタイトル」は、アバンタイトルの戦闘シーンの曲とメインタイトルが出るシーンの曲を続けたもの。『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』では暗く重厚なメインテーマが作品を象徴する曲として設定されていたが、本作のメインタイトル曲は希望を感じさせる曲調で書かれている。このメロディは島の畑でドアンとアムロが話をする場面のトラック21「生命力と包容力」の後半でも顔を出す。ドアンのテーマとも受け取れるが、ドアンのシーンにいつもこのメロディが流れるわけでもない。むしろ重要な場面には『機動戦士ガンダム』のBGMのアレンジ曲が使われている。メインタイトル曲ではあるが「メインテーマ」と名づけられていないのはそのためだろう。
 子どもたちが登場する楽しい場面が多いため、明るい曲が多いのも本作の特徴のひとつ。トラック5「たたかう子供たち」、トラック12「賑やかな食卓」、トラック20「日々の労働」、トラック23「恵みの雨」、トラック31「和解の灯」、トラック38「ブランカの逃亡」などは、同じメロディをアレンジした明るくはずんだ曲。「子どもたちのテーマ」とも呼べるメロディである。服部隆之のインタビューによれば、実写劇場作品「ホームアローン」がイメージのヒントになったという。
 本作のヒロインである島の少女カーラの場面にはリリカルな曲がつけられている。トラック19「少女の願い」はハープやフルートが奏でるドリーミィな曲。カーラが外出するドアンを心配する場面のトラック25「ドアンの外出」(前半部分)はフルートとピアノを主体にした曲。ただし、カーラには決まったモチーフは与えられていないようだ。
 ガンダムらしいサスペンス曲や戦闘曲も多い。トラック16「暗雲の気配」はマ・クベのイメージをサックスの旋律で表現した曲。ジオンのモビルスーツ部隊「サザンクロス隊」の登場場面に流れるトラック17「褐色のサザンクロス隊」は、メカニカルなリズムと緊迫感たっぷりの曲調が印象的だ。この曲の後半には女声スキャットが入って、悪漢イメージが強調される。
 服部隆之によるオリジナル音楽は、映像に寄りそった映画音楽らしい曲が多い。アンダースコア(背景音楽)に徹しているとも言える。その中で、『機動戦士ガンダム』のBGMをアレンジした曲は、どれも明解なメロディを持っていて耳に残る。どちらがよいということではなく、映画音楽とTV用音楽の違いである。
 トラック4「島に降り立つガンダム」は物語の序盤で、島に降り立ったアムロが調査を始める場面に流れる曲。
 劇場で聴いて最初に「おおー」と思ったのはこの曲だ。
 曲タイトルで表記されているように、これは『機動戦士ガンダム』の「苦き故郷 M-45」をアレンジした曲。といっても「苦き故郷 M-45」と聞いてすぐ原曲が思い浮かぶ人は少ないと思う。もともとは劇場『機動戦士ガンダム』の曲で、公開当時発売されたサウンドトラック・アルバム「MOBILE SUIT GUNDAMU II」では「ぬくもり」と名づけられていた。「苦き故郷」は、のちに発売された3枚組CDアルバム「機動戦士ガンダム 劇場版 総音楽集」に収録された際につけられた曲名だ。さらにその原曲は、TVシリーズのBGM「アムロの旅立ち」である。とここまで書くと「あの曲か」とピンとくる人も多いだろう。
 作曲は渡辺岳夫。いかにも渡辺岳夫らしい独特のうねりを持ったメロディが特徴で、TVドラマ「白い巨塔」のテーマ曲ともイメージが重なる。
 TVシリーズの「アムロの旅立ち」は、アムロがマチルダにほのかな恋心を抱く場面(第9話)やアムロが母と訣別する場面(第13話)などに流れた重要な曲。劇場版のM-45もホワイトベースがマチルダ隊から補給を受けるシーンに使用されている。
 『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』の第5話「V 激突 ルウム会戦」と第6話「VI 誕生 赤い彗星」の音楽を収録したサウンドトラック・アルバム「機動戦士ガンダム THE ORIGIN 〈ルウム編〉ORIGINAL SOUNDTRACK」には、「苦き故郷 M-45」をアレンジした曲が収録されている(曲名は原曲と同じ「苦き故郷 M-45」)。筆者は当然、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』の本編でこの曲が流れているのだと思い込んでいた。
 ところが、あらためて『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』を観直してみると、実は全エピソードを通して一度も「苦き故郷 M-45」は使用されていないのだった。劇中で使用する予定、もしくは使用候補の1曲として録音したが、使われなかったのだろう。
 それが『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』でふたたび取り上げられ、使用されたことには意味があると思う。
 『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』はシャアに焦点を当てた物語である。いっぽう、『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』にはシャアは登場せず(アムロの夢の中に現れるだけ)、アムロが主人公だ。想像だが、服部隆之は「苦き故郷 M-45」=「アムロの旅立ち」のメロディを「アムロのテーマ」ととらえて使用したのではないか。
 トラック4の「島に降り立つガンダム」は緊張感のあるリズムの上でストリングスがメロディを奏でるアレンジ。「おおー」と思った理由は、このアレンジにもある。「アムロの旅立ち」のメロディをこんなサスペンスタッチのアレンジで聴かせる作品は(筆者の知る限り)過去になかったからだ。
 トラック11「捜索するアムロ」はアムロがガンダムを探して島を歩き回る場面の曲。曲名には明記されていないが、この曲の後半も「苦き故郷 M-45」のアレンジである。こちらはチェロのメロディとストリングスや木管の伴奏で奏でられる情感豊かなアレンジ。過去の渡辺岳夫作品ではあまり聞いたことのないアレンジになっている。
 トラック22「辿る記憶」も同じメロディを使った曲。アムロが島での戦闘の記憶を思い出すシーンに流れた曲である。チェロのソロと不安なストリングスとティンパニがアムロの揺れ動く心を表現する。これもまた、過去に聴いたことのないタイプのアレンジで、フィルムスコアリングならではの変奏だ。服部隆之はインタビューに答えて「癒やしの音色のような曲を厳しいマイナーに落とし込み、(中略)アムロの葛藤や絶望を表現」したと語っている。
 以上3つのシーンで、「苦き故郷 M-45」のメロディがアレンジを変えて登場する。アムロの心情に応じて曲の表情を変える音楽演出が絶妙だ。
 トラック29「出現準備」とトラック33「望まぬ展開」で引用されている『機動戦士ガンダム』のBGM、「長い眠り」(後半部分)と「戦いへの恐怖」は、どちらもTVシリーズで使用頻度の高かった曲。「『機動戦士ガンダム』といえばこの曲」と呼べるような代表的な楽曲である。『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』では使用されなかったのだが、本作で久しぶりに復活することになった。これまた劇場で「おおー」と思った曲である。
 TVシリーズの主題歌「翔べ!ガンダム」をアレンジした曲はふたつある。どちらもTVシリーズのBGM「安堵」が原曲として表記されている。トラック13は「カーラの優しさ」と名つけられ、トラック42はずばり「安堵」と原曲名がそのまま採用された。
 「安堵」は「翔べ!ガンダム」のメロディをゆったりしたバラード調にアレンジした曲。TVシリーズではアムロが戦死したマチルダを悼んで心の中で「マチルダさん」と叫ぶシーン(第24話)に流れていたのが思い出深い。
 『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』で流れた2曲は、いずれも原曲を踏襲したアレンジ。「カーラの優しさ」はアムロがカーラから水をもらう場面、「安堵」はアムロがドアンのザクを海に投げ込むラストシーンに流れている。80年代に作られた劇場版『機動戦士ガンダム』三部作では「翔べ!ガンダム」をアレンジした曲は使われていない(「束の間の休息」という曲が録音されたが使用されなかった)ので、これは劇場版『ガンダム』で初めて流れた「翔べ!ガンダム」のアレンジ曲ということになる。
 劇場でこの曲を聴いたときは、「おおー」を通り越して「うわー」と思った。
 これは、本作がTVシリーズ『機動戦士ガンダム』の延長上にある作品だと示すアイコンのような曲ではないだろうか。そして、あらためて聴くと「翔べ!ガンダム」っていい曲だと思う。渡辺岳夫には珍しい、ちょっととっつきにくいメロディなのだが、聴いているうちに味が出てきて、真価がわかってくる。
 さてもう1曲。曲名に表記されていないがTVシリーズのBGMをアレンジした曲がある。アムロがドアンを助けるためにガンダムで登場する場面のトラック40「ガンダム登場」である。劇場で初めて聴いたときは、「うわー」どころか、椅子から転げ落ちそうになってしまった。
 曲の前半に『機動戦士ガンダム』のBGM「ガンダム大地に立つ」が引用されている。「ガンダム大地に立つ」はTVシリーズの次回予告に使われた曲。本編では冒頭のナレーションのバックに数回使われたことがあるだけで、曲名のようにガンダム登場シーンに流れたことはない。しかし、音楽メニューでは「ガンダム登場。重く、かっこ良く」と指定されているので、本作での選曲はまさに曲の意図に沿った使い方である。

 こうしてTVシリーズのBGMの使い方、アレンジの仕方を確認してみると、『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』という作品は、『機動戦士ガンダム』を「観てスカッとするロボットアニメ」として生まれ変わらせた作品なのだと思えてくる。主題歌アレンジBGMや主役ロボット登場のファンファーレみたいな曲が堂々と使用され、しかもそれが違和感なくはまっている。明解なメロディを持った音楽の魅力にあらためて気づかせてくれる作品でもある。
 そして、「苦き故郷 M-45」=「アムロの旅立ち」の大胆なアレンジにも感心した。こうした作品で旧作の音楽をアレンジして使用する際は、原曲をなるべく忠実に再現するケースがほとんどだ。ゴジラ作品における伊福部昭の曲の引用がそうだし、『宇宙戦艦ヤマト2199』における宮川泰の曲の再現もそうだ。ところが、『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』では原曲のメロディを生かしながら、違う印象の曲にアレンジして使用している。
 ポップスの世界でスタンダードと呼ばれる曲は、さまざまなスタイルにアレンジされ、アーティストがそれぞれの個性を発揮して歌える曲、演奏できる曲なのだという。『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』の渡辺岳夫音楽の引用は、映像音楽(劇伴)もスタンダードになりうることを証明しているのではないか。『機動戦士ガンダム』は40年以上前の作品(!)。音楽も、それだけの歴史を重ねてきたのだ。

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アニメ様の『タイトル未定』
370 アニメ様日記 2022年6月26日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2022年6月26日(日)
午前4時40分くらいの新文芸坐に行って「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol.136 平尾隆之の世界」の終幕を見届ける。『魔女っこ姉妹のヨヨとネネ』のラストを観たけれど、音響がかなりよかった。散歩や事務所での作業をはさんで、13時40分から新文芸坐で「奇跡の丘」(1964・伊=仏/138分/BD)を観る。寝不足のぼんやりした頭での緩い鑑賞になってしまった。 『五等分の花嫁』1期を配信で観る。

2022年6月27日(月)
『五等分の花嫁』を『∬』の最終話まで視聴。5人の名前と外見と性格が、自分の中で一致するようになってきたところで、五月が5人になってしまった。『∬』終盤になって演出も作画もいいところが増えた印象。
Netflixで『五等分の花嫁』を観終わったら『ONE PIECE』が始まったんだけど、なんとびっくり、1話の画面アスペクト比が16:9だ。気になって他の配信サイトをチェックしたら、dアニメストアとFODも16:9。GyaOは4:3。16:9でやるのもいいけど、皆の記憶が「『ONE PIECE』は最初から16:9だった」と改竄されたら困る。

2022年6月28日(火)
グランドシネマサンシャインで『映画 五等分の花嫁』を鑑賞。僕は原作未読で、TVシリーズについてもようやく全話を観たくらいの薄い視聴者であるのだけれど、アニメ『五等分の花嫁』の完結編としては100点満点以上の出来だったと思う。主人公が最終的に5人のうちの1人を選ぶということは、TVシリーズ1話の時点で分かっていたわけだけど、1人を選んだら他の4人はどうなるの? ということを含めて見事にまとまっていた。登場人物の生き方について、きちんと向き合った物語にもなっていて、若い頃に観たら「自分も将来を見据えて努力しなくては」と思ったかも。
一花はTVシリーズを含めて、自分の中では「ベスト花澤香菜キャラ」。中盤の同じ時間軸を繰り返して主人公と5人の関係を描くパートでは、三玖が美味しかった。二乃は主人公が5人の中から意中の相手を選んだ後の言動が超イカしていた。

『ゆるキャン△』1話から再視聴をはじめる。第1シリーズの最初の数本は何度も観ている。

2022年6月29日(水)
ワイフとTOHOシネマズ池袋に。「メタモルフォーゼの縁側」を観る。原作は最終巻だけ未読。最終話でおばあさん(市野井雪)が死んでしまうような気がして、最終巻まで買ってあるのに読まないでいた(実際には死なないらしいので、今度読んでみる)。映画はよくできていた。劇中で佐山うららが描いたマンガが稚拙なだけのものかと思ったら、実は素敵な作品だったという点が特によかった。以下は妄想。この映画とは別に「老婆とBL」を描いた映画を観てみたいと思った。「BLが人生を豊かにする」ということをテーマにした映画。世界に通用する名作ができるかもしれない。

『ゆるキャン△』は1期最終回まで観て、続けて2期の序盤を観る。ところで、1期最終回は「10年後のなでしこ達」で始まる。それは、なでしこが話した「もしも」の将来であるのだけれど、初見時に僕はうっかり信じてしまった。今回の映画も将来の話であるらしいんだけど、それがあったので、ひょっとしたら予告だけのフェイクかもしれないと疑っている(後日追記。予告だけのフェイクではなかった。ほぼ全編が将来の話だった)。

2022年6月30日(木)
今日は午前7時台から猛烈なスピードで仕事が進む。「中村豊 アニメーション原画集 vol.3」のためのインタビューと打ち合わせ。
マンガ「あくヨメ」を最終巻の4巻まで読んだ。ちょっとエロチックなラブコメディで、僕的には懐かしい感じもあり。1巻から3巻はKindle Unlimitedで無料で読めて、最終巻のみ有料。3巻まででたっぷり楽しませてもらったので、躊躇なく、4巻を購入した。

2022年7月1日(金)
『ゆるキャン△』2期の最終回まで視聴。その後でNetflixの『BASTARD‼-暗黒の破壊神-』を1話から10話まで観る。
ワイフとグランドシネマサンシャインで『映画 ゆるキャン△』をBESTIAを鑑賞。冒頭で現在の(TVシリーズと同年齢の)なでしこ達が自分達が大人になった時のことを想像したところでオープニングが始まり、オープニングの後で、なでしこ達が社会人になった本編が始まる。ということは、『映画 ゆるキャン△』の本編は現在のなでしこ達が夢想した未来の自分達という位置づけだと考えることができるわけで、この映画で描かれたのは「こうなるかもしれない未来」のひとつなのかもしれない。気楽で自由だった学生時代に対して、大人になった彼女たちの日々は楽しいばかりではないわけで、それを残念に感じるファンもいるはずだと思うけど、僕は「美少女の成人バージョン」や「リアルバージョン」が好物なのでOKだった。
以下、アニメファンらしいことを書く。リンに関しては出版社勤務、しかも、編集者ということで、上司である編集長目線で見ることになったんだけど、部下の女の子だと思うと「こういう子、いる」と思えたのが妙に可笑しかった。しかし、部下だと思うとあんまり可愛くない。なでしこは女性の上司(店長?)と二人の職場みたいだけど、男性が多い環境だと、職場のアイドルになるんだろうなあ、とか(そうなると『ゆるキャン△』らしくなくなるのだけど)、恵那は社会人になってからのほうが可愛いなあとか。イヌ子の小学校の先生はハマっていていいんだけど、ハマっていない仕事でもよかったんじゃないのかとか。酒飲みキャラは千明が一人で背負うことになったけれど、同じ成人女子もので全員が酒飲みだった『魔女見習いをさがして』と好対照。他にも『魔女見習いをさがして』と比較したいところは多い。

以下は日記更新時の追記。『映画 ゆるキャン△』って、TVシリーズ1期最終回は「10年後のなでしこ達」のロングバージョンだと考える子ともできる。1期最終回の「10年後のなでしこ達」でも、千明は朝吞みキャラだし、リンは名古屋で働いているみたいだし。

2022年7月2日(土)
新文芸坐で「テオレマ 4Kスキャン版」(1968・伊/99分/DCP/PG12/2K上映)を観る。プログラム「パゾリーニ生誕100年(2)」(正しくは(2)は丸数字)の1本。予告を観て興味を持って観に行った。「分かりやすく難解な映画」だった。宗教的な教養があると、もう少し理解できるのかもしれない。

第778回 嬉しいことと大変なこと

前回、話題にしたインタビュー取材記事、無事ゲラ(校正刷り)の確認がやってきました!

単純に自分が大好きな某マンガとその原作者の先生について語ったインタビュー。しかも、自分の記事で4ページも割かれていて非常に恐縮でした。さらに、公式(?)でイラストまで描かせて頂き感慨無量! 40年前、よくクラスメイトからの依頼で落書き帳に描いた非公式モノではなく、正式な依頼で(原作元の許可を得て)描いた公式の大好きなマンガのイラスト! これは以前アニメ様に書かせて頂いた『あしたのジョー2 blu-ray box2』ブックレットのコラムと同じくらい嬉しくて、ゲラの確認しつつも思わずニヤニヤしてしまいました。詳細は雑誌の発売時にまた。
 で、嬉しいこともあれば、現場の仕事はまたまた大変な状態に!

新作シリーズ、PVも完成し現在オープニング・エンディングの作画中!

の中、次の別シリーズのキャラクターも描いていててんやわんや。清書は現場の若手に任せるかも知れませんが、次作はキャラクターデザインにも自分が関わる予定です。キャラデは『ベン・トー』(クレジット上はデザインワークス)・『てーきゅう』以来久し振り。たまにやるとこれまた面白いは面白いのですが、時間を割くのが大変で、毎週コツコツ少しづつラフを提出中。
 まだ画作りが残っているシリーズを抱えての次シリーズの立ち上げ作業は、いつものことながら本当に大変ではあります。でも、キャラクターの表情・仕草・ポーズを描いていると、それが例えマンガ原作でも、“真っ白から描き始めてる”感があって、これはこれでワクワクするし、感情表現が巧く出せた(と思えた)時は“そこに生きた人物を生み出せた”と言う喜びを感じるものです。
 そこに、さらに次シリーズの話も決まりそう。3本のシリーズが頭を駆け巡る毎日だけど、暇にしてるよりは自分の性に合ってるみたいで、前述サラッと“40年”て言って(書いて)みてハッとしたのです。

俺、40年前からずっと同じことをし続けて、いつの間にかそれでお金もらって食えてる!

と。絵描いたり、マンガが描いたり、パラパラマンガ描いたり、子供の頃からそればっかり。ま、偶にゴルフやプログラムに夢中になる数年はありましたが、おおむね何か描いたり、作ったりの人生を送ってきました。恵まれてますよ、結局。
 この分だと、遊ぶ時間がほとんどどないまま、あっという間に老人になって、気付いたら死んでるのではないでしょうか? ま、それでも悔いはなし。お父さん、お母さん、生んでくれてありがとう、ってまたチェックの時間です(汗)。

アニメ様の『タイトル未定』
369 アニメ様日記 2022年6月19日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2022年6月19日(日)
丸山正雄さんの生前葬に参加する。盛り沢山で、豪華で、心のこもった催しだった。普段会えない人達に会えたのもよかった。驚いたのはプログラムのひとつとして「闇夜の国から」が上映されたことだ。井上陽水さんの同名曲のプロモーションフィルムで、出崎統監督が手がけたものだ。20年ほど前に、アニメスタイルの出崎さんのイベントで上映できないかという話があったが、その時はフィルムが見つからなかった。10年程前にも丸山さんがどこにあるのだろうか、とTwitterでつぶやいていた。その後、見つかったのですね。素晴らしい。

「闇夜の国から」については20年前にコラムに書いた。以下のリンクをどうぞ。
http://style.fm/log/05_column/oguro17.html

2022年6月20日(月)
Netflixの『スプリガン』を全話視聴。クオリティコントロールが上手い。作画がいいアクションシーンが面白いのは当然としても、作画があまりよろしくないアクションシーンも面白い。
確認することがあって『トップをねらえ2!』Blu-ray BOX Complete EditionのEX-DISCをチェック。今さらだけど、DIEBUSTER TVの構成・演出って大塚ギチさんなんだ。DIEBUSTER TVの福井裕佳梨さんとマシーン兵器のやりとりは「saku saku」のパロディで、当時でも誰もが知っているネタではなかったと思うけど、今となっては説明が必要。

2022年6月21日(火)
新文芸坐で「アポロンの地獄」(1967・伊=モロッコ/105分/BD)を観る。プログラム「パゾリーニ生誕100年(1) 日本最終特別上映篇 奇跡の丘」の1本(正確には(1)は丸数字)。映像の撮り方は1960年代の作品としては新しいものだったのだろう。話はつまらなくはないけれど、もう一押しほしかった。画が今風だから、どうしても今の目で観てしまう。

2022年6月22日(水)
午後の散歩で紫陽花の見頃が終わるらしい六義園の中をひとまわり。
出演者の中に高畑勲さんの名前があったので、それをきっかけにAmazon prime videoで「いわさきちひろ~27歳の旅立ち~」を視聴。いわさきちひろさんについて、もっと知りたくなる作品だった。僕が寝ぼけて見逃しているのでなければ、高畑さんの出番はほんの少し。
宅配レンタルDVDで『ギョ』『魔女っこ姉妹のヨヨとネネ』を再見。レンタルだから仕方ないのだけど、Blu-rayソフトで観たほうがよかったかもしれない。

2022年6月23日(木)
夕方から新文芸坐で映画を観ようかと思ったけれど、タイミングが合わなかったのであきらめる。『古見さんは、コミュ症です。』『であいもん』『エスタブライフ グレイトエスケープ』最終回を録画で観た。大塚明夫さんのツイートで、午後のロードショーで「レッド・サン」をやっていることを知って途中から観る。配信で『機動戦士ガンダムNT』『機動戦士ガンダムUC』を観る。
スターチャンネルの「ローマの休日」吹き替え6バージョン放映をチェックするの忘れていたなあと思っていたら、Amazon prime videoのスターチャンネルEXで配信してた。配信も6バージョンある。ちなみに6バージョンのうち、池田昌子さんがアン王女をやっているのが3バージョン。とりあえず、広川太一郎さんのマリオが聞けたので満足。
Amazon prime videoのアニメタイムズに『デジタル・デビル物語 女神転生』があったので観てみた。リリーズ時以来の視聴かもしれない。自分の中で、同時期の他作品と記憶がゴッチャになっていたことが分かった。

2022年6月24日(金)
また、BONESでの打ち合わせ。中村豊さんと、打ち合わせとは関係ない亀田祥倫さんに差し入れをする。今回の差し入れも和菓子だ。新文芸坐の夕方の回で「アンビュランス」(2022・米/137分/DCP/PG12)を観る。プログラム「満腹! 娯楽映画の陰と陽」の1本。「THE BATMAN-ザ・バットマン-」と2本立てだった。「アンビュランス」はお金がたっぷりかかっていたし、意外な展開もあったし、楽しめた。ただ、個人の好みで言えばB級に徹したほうが好きだなあ。冒頭の救命士キャムが最高によかった。キャムがもっと活躍したら大好きな映画になったかもしれない。「THE BATMAN-ザ・バットマン-」は冒頭だけを観て画質、音質を確認。このまま最後まで観たいくらいのよかったのだけれど、そんなわけにもいかなかいので事務所に戻る。
「僕はイエローでホワイトで、ちょっとブルー」を読了。「僕、はまじ」「三千円の使いかた」「むらさきのスカートの女」と同じく、紙の文庫本で読んだ。「普段は自分が読まないような本を読もう」と思わなければ手を出さなかっただろう。やっぱり自分向きの本ではなかったけれど、楽しめた。

2022年6月25日(土)
散歩の途中で芳林堂書店の高田馬場店に寄って、これから読むつもりの文庫本を3冊購入。至る病に外れなしとして「陽だまりに至る病」「殺戮に至る病」「恋に至る病」「死刑に至る病」「死に至る病」を並べて売っているのが面白かった。なお、「死に至る病」は3バージョンあった。
「中村豊 アニメーション原画集 vol.3」編集作業のために『ソウルイーター』のレイトショー新作パートを本放送以来の視聴。というか、本放送時も夕方のほうを観ていたので、レイトショーはあまり観ていないはず。
夜に「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol.136 平尾隆之の世界」を開催。上映作品は『映画大好きポンポさん』『ギョ』『魔女っこ姉妹のヨヨとネネ』の3本。トークの話題はこの日は上映しない『空の境界』の「第五章 矛盾螺旋」から『映画大好きポンポさん』まで。トーク終了後、楽屋で平尾さんと世間話。

突然だけど、最近思っていること。狭い観測範囲内での感想になるけど、デジタルでの編集が当たり前になって、雑誌やムック(アニメ以外の雑誌やムックも含む)のラフは熱意が減っているよなあ。デザインも色使い以外の部分ではパワーが落ちているのではないか。ひとつひとつの記事に使える時間が少ないのだろうという事情も分かるのだけれど。

第242回 東映不思議コメディーの熱量 〜おもいっきり探偵団 覇悪怒組〜

 腹巻猫です。SOUNDTRACK PUBレーベル第31弾として「おもいっきり探偵団 覇悪怒組/じゃあまん探偵団 魔隣組 オリジナル・サウンドトラック」を11月23日に発売します。80年代に放映されたTVドラマ2作品の音楽(BGM)をCD2枚に収録したサウンドトラック・アルバムです。2作ともBGM集が発売されるのはこれが初めて。初商品化となる貴重な音源の数々をお楽しみください!
https://www.amazon.co.jp/dp/B0BKPF4HCW


 いつもアニメ音楽を紹介している当コラムだが、今回は初商品化を記念して、特別にTVドラマ「おもいっきり探偵団 覇悪怒組」の音楽を紹介したい。
 「おもいっきり探偵団 覇悪怒組」は1987年1月から12月まで放映された東映制作の子ども向けTVドラマ。80〜90年代にフジテレビ系日曜朝9時から9時半の時間帯(地方によって異同あり)に放映されていた通称「東映不思議コメディーシリーズ」の1本だ。
 タイトルからもわかるとおり、内容は少年探偵団もの。小学5年生の5人(男子4人と女子1人)が「おもいっきり探偵団 覇悪怒組」を結成して、街に出没する「怪人魔天郎」に立ち向かう物語だ。怪人魔天郎は財宝を盗んだりもするのだが、覇悪怒組に試練を与え、成長をうながす存在でもある。魔天郎のユニークな設定が本作をほかの「少年探偵団もの」とはひと味違う作品にしていた。
 本作の魅力になっているのが、「不思議コメディー」らしいバラエティに富んだエピソードの数々。ロボットや宇宙人や妖怪が登場したり、過去や未来にタイムトラベルしたり、魔天郎以上にエキセントリックな怪人が登場したりと、なんでもありの世界。かと思えば、考えさせられる話や心温まる話もある。覇悪怒組のメンバーもいわゆる「よい子」ではなく、ときには任務をさぼったり、いたずらをしたり、ささいなことで仲たがいしたりする、「子どもってこうだよな」と思わせるキャラクターに描かれているのがよかった。
 本作は東映不思議コメディーシリーズ中第2位の高視聴率を獲得した作品となり、好評を受けて、翌1988年には探偵団路線の第2作「じゃあまん探偵団 魔隣組」が1年間放映された。こちらはキャラクターや設定は一新されているが、「覇悪怒組」と同様のテイストを持つ姉妹作品である。
 音楽は、のちに人気TVドラマ「古畑任三郎」に参加する本間勇輔が担当。そもそも本間勇輔のドラマ音楽(劇伴)デビューは東映不思議コメディーシリーズの「勝手に!カミタマン」(1985)だった。本間勇輔は「おもいっきり探偵団 覇悪怒組」以降、東映不思議コメディーシリーズ最終作「有言実行三姉妹シュシュトリアン」(1993)まで、連続してこのシリーズの音楽を手がけることになる。本間勇輔にとっても初期の代表作と呼べる作品(シリーズ)なのである。
 そんな重要な作品であるが、これまで東映不思議コメディーシリーズの劇中音楽(BGM)を収録したアルバムが発売されたことはなかった。BGMの一部がコンピレーション・アルバム等に収録されたことも(筆者の知る限り)ない。東映子ども向け(特撮)TVドラマの中でも、サントラの商品化の面では恵まれないシリーズだった。
 本作の音楽はアニメファンにとっても興味深いものだと思う。本間勇輔は東映不思議コメディーシリーズと同時期に、『のらくろクン』(1987)、『おそ松くん』(1988)、『ひみつのアッコちゃん』(1988)、『平成天才バカボン』(1990)、『丸出だめ夫』(1991)等のギャグアニメの音楽を担当している(その多くが、脚本に東映不思議コメディーシリーズでもおなじみの浦沢義雄が参加した作品)。が、これらのアニメ作品の音楽もほとんど商品化されていない。『のらくろクン』は放映当時、音楽集が発売されていたが、以降復刻されたことはなく、現在、手軽に聴くことは難しい。『ひみつのアッコちゃん』のアルバムは歌とナレーションで構成された内容、『平成天才バカボン』のアルバムは歌とドラマに混じってBGMが収録された内容だった。
 本間勇輔が手がけたサウンドトラックのリリースが進むのは90年代に入ってから。『幽★遊★白書』(1992)、『蒼き伝説シュート!』(1994)、『とっても!ラッキーマン』(1994)、『NINKU』(1995)、『ふしぎ遊戯』(1995)などのサウンドトラック・アルバムが発売され、TVドラマの音楽も商品化されるようになった。しかし、初期のコメディー作品は再評価される機会がなかったのである。
 だから、今回の「おもいっきり探偵団 覇悪怒組/じゃあまん探偵団 魔隣組 オリジナル・サウンドトラック」の発売は、本間勇輔ファンにとっても、特撮・アニメサントラ研究者にとっても重要なリリースだと思う。
 2作品とも「不思議コメディー」のイメージどおりのコミカルな曲も多いが、意外にカッコいい曲やしっとりとした抒情的な曲も多い。本間勇輔のメロディ作りの巧みさや粋なアレンジが楽しめる作品である。
 全体のサウンドは、小編成の生楽器とシンセサイザーを使った80年代ポップス的な音。輪郭のくっきりしたパキッとしたサウンドに作られていて、この音だけで懐かしさを感じる人もいるだろう。

 アルバムの収録曲は下記リンク先を参照。
https://www.soundtrack-lab.co.jp/products/cd/STLC048.html
 下記リンク先で試聴用動画も公開中(公開日から1年間の期間限定)。
https://youtu.be/y6KOCmGQ–c

 ここからは、アルバムのディスク1に収録した「おもいっきり探偵団 覇悪怒組」の音楽から聴きどころを紹介しよう。
 「おもいっきり探偵団 覇悪怒組」の音楽で核となる要素はふたつある。主人公である覇悪怒組のテーマと、敵役である魔天郎のテーマだ。
 覇悪怒組のテーマは、オープニング主題歌「摩天楼のヒーロー」(作曲・有澤孝紀)をアレンジした曲と本間勇輔が作曲した「探偵団(覇悪怒組)のテーマ」とも呼ぶべきメロディのアレンジ曲が中心。
 試聴用動画で1曲目に流れる「覇悪怒組集合!」(CDのトラック4)がオープニング主題歌アレンジの曲。クラリネットとミュートしたトランペットがメロディを担当する軽快なアレンジだ。ちょっとユーモラスな音色が不思議コメディーシリーズらしい。
 オープニング主題歌アレンジは、アクションシーンに流れるアップテンポの曲(トラック37「行くぞ!覇悪怒組」)やシンセの音色を使ったコミカルな曲(トラック13「お騒がせ探偵団」)、スローテンポのリリカルな曲(トラック32「この想い届くなら」)など、多彩なバリエーションが用意されている。温かみのあるトランペットがメロディを奏でる「この想い届くなら」は、使用回数は少ないながら、切ない心情が描かれる場面に流れた記憶に残るナンバーだ。
 本間勇輔が作曲した探偵団のテーマは、試聴用動画の2曲目「進め!おもいっきり探偵団」(トラック5)で聴くことができる。威勢よく、けれどユーモラスなメロディは本作の雰囲気にぴったり。このテーマもさまざまなアレンジが作られている。トラック10「奇妙な追跡」はドタバタ場面などに使われたシンセサイザーによるアップテンポのアレンジ。トラック12「思い込んだら一直線」はホイッスルなどが入った「猪突猛進」のイメージのアレンジだ。また、トラック25「覇悪怒組の危機」とトラック35「危険の中へ」は緊迫感のあるサスペンスタッチのアレンジ。バリエーションの豊富さからも、このメロディが主題歌と並ぶメインテーマとなっていることがわかる。
 いっぽう、敵役である魔天郎のテーマは、試聴用動画の5曲目「対決!魔天郎」(トラック38)で聴くことができる。同じメロディのバリエーションが「怪人魔天郎」(トラック2)と「魔天郎の挑戦」(トラック16)。いずれも魔天郎の登場シーンに必ずといってよいほど流れた印象深い曲だ。番組を観ていた方なら、主題歌アレンジや探偵団のテーマ以上に、この魔天郎のテーマが記憶に刻まれているのではないだろうか。
 魔天郎のテーマは、ややエキゾティックでミステリアスな曲調で書かれている。ヒーローものの「悪のテーマ」のような怖い曲、強そうな曲ではない。魔天郎は覇悪怒組に挑戦してくるライバルではあるけれども、「悪役」ではないためだろう。覇悪怒組を助ける味方として描かれることもしばしばあった。
 シンセサイザーが奏でる「怪人魔天郎」はスローテンポのアレンジ。魔天郎が姿を見せる場面や魔天郎の挑戦状が届く場面などに使用された。幻想的なサウンドが正体のわからない魔天郎の神秘性を表現している。
 「魔天郎の挑戦」と「対決!魔天郎」はリズムが強調されたアクティブなアレンジ。ともに魔天郎が行動を起こすシーンや格闘シーンなどに使われた。3曲の中では「対決!魔天郎」がもっとも使用回数が多く、また、カッコいいイメージのアレンジになっている。
 カッコいいといえば、本作にはヒーローものみたいなスリリングでスピード感のある曲もいくつかある。
 「華麗なる罠」(トラック26)は覇悪怒組のピンチの場面などに流れるピアノソロの曲。危機描写にピアノソロを使う手法が新鮮だし、おしゃれだ。
 「嵐を呼ぶ乱戦」(トラック36)はアクションシーンでよく使われたアップテンポの曲。緊迫感を盛り上げるリズムとシンセのフレーズが融合し、同時代の変身ヒーローものやTVドラマ「スケバン刑事」の音楽を思わせる迫力あるサウンドになっている。
 本作の音楽で忘れてはならないのが、心情描写などに使われた、しみじみとした曲である。
 試聴用動画の6曲目で聴けるエンディング主題歌アレンジ「本当の気持ち」(トラック31)もそのひとつで、哀愁ただようハーモニカの音色が胸を打つ。同じくエンディング主題歌のメロディをギターで演奏した「涙は夢のかけら」(トラック18)も子どもたちの悲しみや悩みを描く場面に効果的に使われていた。
 筆者が本作の音楽の中で特に気に入っている曲が、試聴用動画の3曲目「あこがれの純子先生 I」(トラック29)と同じ曲の別テイクである「あこがれの純子先生 II」(トラック30)。ピアノソロによるロマンティックな音楽である。
 「おもいっきり探偵団 覇悪怒組」には、覇悪怒組の紅一点ヤスコと、子どもたちが通う小学校の美人教師・純子先生という、2人のマドンナ的存在がいる。この2人のテーマ的に使用されたのがピアノソロの曲。主にヤスコの場面に流れたのが「春を待ちながら」(トラック28)という曲、純子先生がらみの場面に使われたのが「あこがれの純子先生(I、II)」だった。どちらもクラシック音楽のような上品な曲調で、東映不思議コメディーにこんな曲があると知って驚く人もいるかもしれない。しかし、だからこそファンには思い出に残る曲なのである。特に第24話や第45話で「あこがれの純子先生」が流れる場面はちょっぴり大人の香りがしてドキドキする。
 なお、「あこがれの純子先生」は2回(2テイク)録音されており、演奏のニュアンス(テンポや装飾音の付け方)が異なる。劇中では2テイクとも使用されているので両方収録した。
 ディスク1の最後にはボーナストラックとして、特定のシーンやエピソード用に録音されたエキストラ音楽を収録した。
 ちょっと風変わりなのが、第25話で使われた「志乃の数え唄」(トラック45)である。この回は「白骨姫」の伝説をめぐる幻想的なストーリー。「志乃の数え唄」はその白骨姫が歌う曲のようなイメージで使われた。この曲、実は1973年に放映された特撮TVドラマ「風雲ライオン丸」の挿入歌として作られた歌なのだ。「風雲ライオン丸」の制作はピープロダクション、「志乃の数え唄」の作曲ははしだのりひこ(端田宣彦)。制作会社も作曲家も異なり、どういう経緯で「おもいっきり探偵団 覇悪怒組」の挿入歌として使われることになったのかは不明だが、シーンにはよく合っていた。使用された音源は、カラオケ、ボーカルとも、本作品用に新規に録音されたものである(歌手は不明)。解説書には書かなかったが、ボーカルは5回録音されたうちの3テイク目がOKテイクになっている。
 ディスク2に収録した「じゃあまん探偵団 魔隣組」の音楽についても少し触れておきたい。探偵団のテーマと怪盗ジゴマのテーマを軸とした音楽設計は「覇悪怒組」とほぼ同じ。こちらは冒険アクションもの風の曲が多くなっているのが特徴だ。
 この作品でもミステリアスなジゴマのテーマが印象深い。試聴用動画では10曲目(後半の4曲目)「ジゴマ登場」(トラック16)で、そのメロディを聴くことができる。
 試聴用動画の次の曲「ジゴマの如き君なりき」(トラック42)は魔隣組版「探偵団のテーマ」。「覇悪怒組」同様にさまざまにアレンジされて使われている。
 なお、「じゃあまん探偵団 覇悪怒組」には日本コロムビアの絵本つきカセットテープ「コロちゃんパック」で発売された挿入歌が存在するが、収録時間の都合で本アルバムには収録していない。日本コロムビアから2004年に発売されたCD「特撮ヒロイン&ファンタジー 主題歌・挿入歌大全集」で全曲聴くことが可能なので、ぜひそちらもあわせてお楽しみいただきたい。

 東映不思議コメディーシリーズ初のBGM集となる本アルバム、80年代に本間勇輔が生み出した、魅力的なメロディと粋なアレンジの音楽をアーカイブした歴史的な記録でもある。当時のフジテレビ=東映のタッグは「スケバン刑事」シリーズ(1985〜1987)をヒットさせて勢いに乗っていた。その勢いに通じる熱量が本作からも伝わってくる。

おもいっきり探偵団 覇悪怒組/じゃあまん探偵団 魔隣組 オリジナル・サウンドトラック
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