第211回アニメスタイルイベント
「磯光雄 ANIMATION WORKS preproduction」刊行記念トーク

 アニメスタイルが8月に刊行した「磯光雄 ANIMATION WORKS preproduction」は磯光雄さんが描いた企画書、アイデアメモ、シナリオ、設定、絵コンテ等をたっぷり収録した資料集です。この書籍の刊行を記念してトークイベントを開催します。磯光雄さんに今までのお仕事を振り返っていただきます。

 開催は9月23日(土)夜。会場は阿佐ヶ谷ロフトA。チケットは9月16日(土)正午12時から発売。購入方法については、ロフトグループのサイトをご覧になってください。なお、今回のイベントは現在のところ、配信を予定していません。

■関連リンク
LOFT  https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/263312
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■商品情報
「磯光雄 ANIMATION WORKS」第3弾の予約受付開始!コミックマーケット102で先行販売!
http://animestyle.jp/news/2023/07/20/24746/

第211回アニメスタイルイベント
「磯光雄 ANIMATION WORKS preproduction」刊行記念トーク

開催日

2023年9月23日(土)
開場18時/開演19時 22時頃終演予定

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

磯光雄、小黒祐一郎

チケット

前売 1,500円、当日 1,800円(税込・飲食代別)

■アニメスタイルのトークイベントについて
 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。

第264回 君たちはどう聴くか 〜君たちはどう生きるか〜

 腹巻猫です。劇場アニメ『君たちはどう生きるか』は、観た直後はお腹一杯と思いながら、しばらく経つとまた観たくなるふしぎな作品です。「面白いからリピートする」のとはちょっと違う(面白いのですが)。観ると心の奥をかき回され、「死と再生」を体験したような気持ちになります。そう感じる理由は、これまでの宮崎アニメとは異質のストイックな音楽にもありそうです。


 『君たちはどう生きるか』は2023年7月に公開されたスタジオジブリ制作の劇場アニメ。
 『風立ちぬ』以来10年ぶりとなる宮崎駿監督の長編劇場アニメであり、公開前に内容を一切明かさない大胆な宣伝手法も話題になった。
 第二次世界大戦中の日本。病院の火事で母を亡くした少年・眞人(まひと)は、父とともに東京を離れ、母の実家に疎開する。そこには父の再婚相手で、母の妹である夏子が待っていた。新しい母にも疎開先の学校にもなじめない眞人は、奇妙な青サギによって森の中の古い洋館に導かれ、生と死が混然一体となったふしぎな世界へと迷い込んでいく。
 音楽は宮崎アニメになくてはならない作曲家・久石譲。
 宮崎アニメでおなじみだった、親しみやすいメロディと大編成のオーケストラを使った音楽とはがらりと作風を変え、久石譲の原点でもあるミニマルミュージックの手法を取り入れた音楽で、全編を演出している。
 サウンドトラックのブックレットには、宮崎監督と鈴木敏夫プロデューサーのコメントが掲載され、久石譲が映画音楽をミニマルミュージックで統一したことへの驚きが表明されている。
 しかし、本作の音楽のすべてがミニマルミュージックかと言われると、たぶん違う。少なくとも、テリー・ライリーやスティーブ・ライヒに代表されるようなスタイルのミニマルミュージックばかりではない。単純な音型の反復がミニマルミュージックの典型だとしたら、『君たちはどう生きるか』の音楽には、わかりやすいメロディを持つ曲もあるし、どんどん展開していく曲もある。ただ、どの曲も編成は薄く、音数も少なく、メロディも控えめ。大きく盛り上がる展開もない。「ミニマルミュージックの手法を取り入れた音楽」で全編が彩られているのはたしかだ。

 ミニマルミュージックは久石譲の原点である。久石は過去の映像音楽作品でもミニマルミュージックの手法をたびたび使っている。まず思い出されるのは『風の谷のナウシカ』(1984)の腐海の曲。シンセサイザーによる単純なフレーズの反復はまさにミニマル的だった。OVA『BIRTH』(1984)ではロックとミニマルの融合とも呼べる音楽が聴けるし、『となりのトトロ』(1988)ではミニマル的な音楽が幻想と隣り合わせの童話的な日常を演出していた。ふしぎな感じや浮遊感を表現するのに、ミニマルミュージックの手法は有効なのである。
 また、余分な音をそぎ落としたミニマル的な音楽は、映画音楽の手法として古くから使われている。シンプルな旋律で淡々と奏でられるピアノソロの曲などは、繊細な心情描写や静かな情景描写に効果を発揮する。坂本龍一の晩年の映画音楽が、そういう、音を極限まで減らしたストイックな音楽だった。
 しかし、それは作品のテーマや演出が要求した必然的な音楽スタイルである。
 『君たちはどう生きるか』で驚くのは、ふつうならミニマル的な音楽がつくとは思えないシーンもミニマル的な音楽で通していること。
 たとえば、映画の冒頭、母を亡くした眞人が東京を離れて疎開するシーン。眞人の気持ちに寄り添うなら悲しい曲や不安な曲をつけるところだが、穏やかなテーマ「Ask me why」が静かに流れる。また、クライマックスの世界崩壊シーン。劇場アニメ『銀河鉄道999』の惑星メーテル崩壊シーンのような壮大な曲が流れそうなのに、最小限の音で演出している。従来のファンタジー作品の音楽を思い浮かべると、とても「らしくない」音楽なのである。
 本作におけるミニマル的な音楽は、演出の必然から採用されたスタイルというより、もう少し大きなコンセプト、もしくは、ある種のこだわりから採用されたスタイルだと思うのだ。
 音楽打ち合わせで宮崎監督と話した久石譲は、本作が監督の自伝的要素が強い作品だと理解し、それならピアノ1本とか、シンプルに主人公の心に寄り添う音楽がよいかもしれない、と提案したという。そこからミニマルミュージックという発想が自然に出てきた。
 久石譲は2000年代後半からミニマルミュージックに回帰する姿勢を見せ、オーケストラと共演したミニマルミュージック・アルバム「ミニマリズム」のシリーズを意欲的にリリースしている。一連のアルバムでは「シンプルなフレーズのくり返し」にとどまらない、ミニマルミュージックの久石譲流の解釈を聴くことができる。こうした挑戦、あるいは実験が、本作の音楽の下地になったのだろう。
 が、それだけで作品全体をミニマル的な音楽で彩るのは冒険である。
 本作の手法を予感させる作品があった。2019年に公開された劇場アニメ『海獣の子供』だ。この映画を観たとき、久石譲の音楽に大きな感銘を受けた。見せ場となる幻想的なシーンをピアノを使ったミニマル的な音楽で演出している。生命の神秘に迫る作品のテーマと音楽がみごとにマッチして、新鮮な体験をもたらしてくれた。
 久石譲はこの作品で、ファンタジーでもミニマルミュージックの手法が有効だと手ごたえを感じたのではないか。
 もうひとつ忘れてはならない先行作品がある。高畑勲監督の遺作となった『かぐや姫の物語』(2013)である。高畑監督と初めてタッグを組んだこの作品で、久石譲は「登場人物の気持ちを表現してはいけない」「状況につけてはいけない」「観客の気持ちをあおってはいけない」と求められたという。
 『君たちはどう生きるか』の音楽は、まさしく、気持ちを表現せず、状況を説明しない音楽である。表現も説明もしない音楽を聴いていると、観客は無意識に、この場面は何を表現しているのだろう、どういう意味なのだろう、と考える。
 音数を減らし、メロディを抑え、シンプルなフレーズのくり返しで紡いだ音楽は、観客に「この作品をどう観るか」と問いかけてくるようだ。
 本作には謎が多い。音楽もまた、観客に向けて放たれた謎である。
 本作のサウンドトラック・アルバムは「君たちはどう生きるか サウンドトラック」のタイトルで、2023年8月9日に徳間ジャパンコミュニケーションズから発売された。収録曲は以下のとおり。

  1. Ask me why(疎開)
  2. 白壁
  3. 青サギ
  4. 追憶
  5. 青サギII
  6. 黄昏の羽根
  7. 思春期
  8. 青サギIII
  9. 静寂
  10. 青サギの呪い
  11. 矢羽根
  12. Ask me why(母の思い)
  13. ワナ
  14. 聖域
  15. 墓の主
  16. 箱船
  17. ワラワラ
  18. 転生
  19. 火の雨
  20. 呪われた海
  21. 別れ
  22. 回顧
  23. 急接近
  24. 陽動
  25. 炎の少女
  26. 眞人とヒミ
  27. 回廊の扉
  28. 巣穴
  29. 祈りのうた(産屋)
  30. 大伯父
  31. 隠密
  32. 大王の行進
  33. 大伯父の思い
  34. Ask me why(眞人の決意)
  35. 大崩壊
  36. 最後のほほえみ
  37. 地球儀(歌:米津玄師)

 鈴木敏夫がライナーノーツに面白いことを書いている。
 久石譲は毎年、宮崎駿の誕生日に新曲をプレゼントしている。それのほとんどがミニマルミュージックだった。そして、本作には宮崎駿にプレゼントした曲が使われているというのだ。
 ただし、そのプレゼント曲は基本的に公開されていないので、全貌はわからない。が、このエピソードだけでも、本作の音楽が従来の宮崎アニメとは違う形で作られたことがうかがえる。
 1曲目の「Ask me why」は本作のメインテーマと呼べる曲。ピアノソロと薄いストリングス、パーカッションで奏でられる。シンプルな音とフレーズで構成された曲は、ミニマル的ではあるが、温かく、心を動かす。映画の重要な場面で、この曲の変奏が登場する。本作のタイトルは「君たちはどう生きるか」なのに、曲名は「私に理由をきいて」。これも音楽に秘められた謎のひとつだ。
 トラック2「白壁」は落ち着いたトーンのピアノソロの曲。眞人が疎開先の屋敷に到着する場面に流れた。これもミニマル的ではあるが、むしろサティが書いた「家具の音楽」に近い印象がある。
 トラック3の「青サギ」は、主人公・眞人を旅に導き、ときにはトリックスターの役割も果たす青サギの登場シーンに流れる曲。初めて登場したときはピアノが短いフレーズを奏でるだけだが、「青サギII」(トラック5)、「青サギIII」(トラック8)と、くり返し登場するたびに曲が長くなっていく。単純なフレーズとリズムで構成されたミニマル的な曲である。「青サギIII」では眞人の動揺にあわせて曲が展開し、典型的なミニマルミュージックのスタイルからは逸脱していく。が、心がしだいに波立っていくような感じは、ミニマル的な曲想の効果である。
 青サギと眞人が池で対峙する場面に流れたトラック10「青サギの呪い」も「青サギ」の変奏。眞人と青サギが対話し、眞人の動揺は最高潮に達する。「青サギ」から順に聞いていくと、ミニマルな響きが徐々にダイナミックに変化していくようすが興味深く面白い。一連の青サギの曲は「青サギのテーマ」というより、青サギが象徴するなにか、おそらく「異界」を表現している。眞人が青サギとともに旅を始めてからは、このテーマは聴こえなくなる。
 トラック11「矢羽根」は筆者が魅力を感じた曲のひとつ。眞人が弓と矢を自作するシーンに流れていた。ストリングスとピアノ、フルートなどが、単純な音型をくり返す曲だ。弦のピチカートがアクセントになっている。大きな起伏も展開もない曲想は、とてもミニマル的で気持ちいい。こういうモンタージュ場面にもミニマルミュージックは合っている。
 トラック13「ワナ」は眞人が古い洋館の奥に誘い込まれ、偽物の母を見つけるシーンに流れる曲。ふつうなら緊迫感に富んだ音楽で盛り上げるところだが、ここでも音楽はミニマル的。ストリングスやピアノがシンプルなフレーズをくり返す構成が、張り詰めた緊張感を醸成する。観客は「なにが起こっているのか」と息を呑んで見つめることになる。「青サギの呪い」の発展形とも呼べる曲である。
 次の曲「聖域」(トラック14)がいい。眞人の前に広がる異世界の情景。ファンタジー作品の常道なら、幻想的で壮大な音楽を流すところだ。久石譲が付けた曲は、ピアノが淡々と同じ音型を奏で続ける、静謐とも呼べる音楽。ミニマルミュージックの手法がこの上ない効果を上げている。静かで、感情的でないからこそ、生と死が混然となったふしぎな世界の印象が伝わってくる。本作の音楽の聴きどころのひとつだと思う。
 ここから本作の主な舞台は異世界になるわけだが、音楽のトーンは変わらない。現実世界と異世界とで、音楽を分けていないのだ。
 緊迫した場面に流れる「墓の主」(トラック15)、「箱船」(トラック16)なども、ミニマル的なアプローチを崩していない。
 後半の音楽の中でもほっとするのが、丸くふわふわした生き物ワラワラにつけられた曲「ワラワラ」(トラック17)。シンセサイザーとパーカッションを主体にした可愛い曲である。ミニマル的な曲想をベースに、声やリズムを加えて、ユーモラスな味を出している。これまでの宮崎アニメに登場した、小さくふしぎな生き物たちを連想させる曲だ。
 後半の音楽で印象的なのが、火を操る娘ヒミにつけられた曲。女声ヴォーカルが歌うモティーフが「火の雨」(トラック19)の終盤に初めて登場する。「炎の少女」(トラック25)では、そのモティーフがくり返され、活気のある神秘的な娘ヒミのイメージを印象づける。エキゾティックなフレーズのくり返しは呪文のようでもあり、祈りのようでもある。「回廊の扉」(トラック27)はその変奏で、ピアノとコーラスだけのアレンジによって神秘性が増している。
 女声ボーカルが入った曲想に『風の谷のナウシカ』の「ナウシカ・レクイエム」を連想する人もいるだろう。本曲のボーカルも「ナウシカ・レクイエム」と同じ麻衣(久石譲の娘)が担当している。ヒミは本作のヒロインと呼べるキャラクター。ナウシカの曲との相似は偶然ではないはずだ。
 眞人が夏子と再会するシーンに流れる「祈りのうた(産屋)」(トラック29)は原典が判明している。2015年にリリースされたアルバム「ミニマリズム2」に「祈りのうた for Piano」という曲が収録されているのだ。メーカーによるアルバムの説明には「戦後70周年を迎えたこの日本のために書かれた」とある。もともとは久石譲が宮崎駿にプレゼントした曲だという。このシーンの映像はドラマティックだが、音楽はストイックで、内面に深く斬り込んでいくようなすごみがある。
 「大叔父」(トラック30)は、旅路の果てに眞人が対面する大叔父の曲。パーカッションのリズムにピアノの強いアタック、ストリングス、木管などが重なり、大叔父の存在感を示す。明快なメロディはなく、ミニマル的な進行だ。「大叔父の思い」(トラック33)はその変奏。インコ大王と大叔父が世界の後継者をめぐって対峙するシーンに流れる。音楽は緊迫感をあおらず、ストリングスと木管による単純な音型のくり返しで、観客にこの場面を静かに見守ることをうながす。
 そして、クライマックスの曲「大崩壊」(トラック35)。これも大叔父のテーマの変奏である。「大崩壊」というタイトルに反して、悲壮感やスペクタクル感は感じられない。このシーンが哀しみよりも希望に彩られているという事情もあるだろう。無駄な音をそぎ落としたミニマルな音楽を聴きながら、観客は大崩壊の意味と、その先にある眞人たちの人生に思いをはせることになる。
 「最後のほほえみ」(トラック36)は本作を締めくくる曲。ストリングスとピアノ、パーカッションなどによるモティーフのくり返しが、いくたびも打ち寄せる波を思わせる。ミニマルというより、オスティナートと呼ぶほうがふさわしいように思える。オスティナートは同じフレーズを反復する手法で、音楽史的にはミニマルミュージックよりも古くからある。終幕に至って、久石譲はふたたび気持ちを表現する音楽、観客の情感を刺激する音楽に回帰したように感じた。この曲は眞人たちを、そして観客を、異界から現実へ送り出す役割を果たしている。

 久石譲は、なぜ本作の音楽をミニマルミュージックの手法で通したのか。
 作品を説明しないため、シーンに意味を与えないためだと筆者は思う。観客それぞれの頭と心で、考え、感じ取ってもらうためだと。
 もちろん、音楽に(作品にも)正解はない。このコラムも筆者が妄想した考察のひとつにすぎない。
 この音楽を君たちはどう聴くか。

君たちはどう生きるか サウンドトラック
Amazon

アニメ様の『タイトル未定』
410 アニメ様日記 2023年4月2日(日)

2023年4月2日(日)
ワイフと雑司ヶ谷でのランチの後、東池袋中央公園でコスプレイベントを見る。自分が目にした範囲で言うと、今回は『ONE PIECE』『ブルーロック』『僕のヒーローアカデミア』が多かった。『名探偵コナン』のコスプレグループにいた蘭が、特徴的な髪型を「細いツノ」として表現していたのが印象的。17時から業界のある方とリモートで世間話。いろいろと話す。
この日に観た新番組は『僕の心のヤバイやつ』『地獄楽』『天国大魔境』『山田くんとLv999の恋をする』『逃走中 グレートミッション』 『きゃらトビ!』『デュエル・マスターズ WIN 決闘学園編』『冒険大陸アニアキングダム』。

2023年4月3日(月)
グランドシネマサンシャインで『らくだい魔女 フウカと闇の魔女』を鑑賞。アニメーションとしては通常のTVアニメよりも少し凝っている感じ。中盤の絵コンテが作画の手間をかけないで観客を退屈させないカット割りになっていると感じた。クライマッスで「影の付け方が黄瀬和哉さんみたいだなあ」と思ったところがあって、エンディングを見たら、いくつかの役職で黄瀬さんの名前があった。ただし、そこが黄瀬さんかどうかは分からない。観ていて幾つかの魔法少女物を思い出して、特に『赤ずきんチャチャ』を観返したくなった。堺三保さんと近所の蕎麦屋で早めの昼飯。
この日に観た新番組は『マイホームヒーロー』『転生貴族の異世界冒険録 ~自重を知らない神々の使徒~』『漣蒼士に純潔を捧ぐ』。この日に観た最終回は『KJファイル』『ノケモノたちの夜』『もういっぼん!』『Buddy Daddies』。それからDVDでOVA『東京BABYLON』を観た。

2023年4月4日(火)
5月頭までの仕事スケジュールを作成。それにあわせて生活パターンを少し変えることにした。DVDで『東京BABYLON 2』『不思議の国の美幸ちゃん』『X2(Xの二乗)』『聖伝』を観た。『不思議の国の美幸ちゃん』は今観ると随分と印象が違うなあ。『聖伝』の後編はアニメアールが作画のメインなのね。谷口守泰さんに見える画は谷口さんの作画なんだろうなあ。冒頭のアクションの作画は誰だろう。
この日に観た新番組は『くまクマ熊ベアーぱーんち!』『アリス・ギア・アイギス Expansion』『絆のアリル』『異世界はスマートフォンとともに。2』。

2023年4月5日(水)
午前1時頃に起床して、午前1時46分に出社。散歩以外はずっと作業を進めていたのだけど、13時くらいでかなり疲れた。やっぱり作業が多い日は途中で休みを入れたほうがいいなあ。
アニメミライ版『リトルウィッチアカデミア』を観る必要があったのだけれど、気がついたら配信で視聴できなくなっていた。慌てて事務所スタッフに頼んで社内のどこかにあるBlu-rayソフトを探してもらった。アニメミライ版『リトルウィッチアカデミア』は「文化庁若手アニメーター育成プロジェクト」の1本として制作された作品だけれど、今観ると原画のクレジットがとても豪華に見える。豪華に見えるということは、当時の若手が活躍しているということで、育成に成功したということなのだろう。『リトルウィッチアカデミア 魔法仕掛けのパレード』も観た。Amazon prime videoで『とつくにの少女』を全話観た。
この日に観た新番組は『スキップとローファー』と『東京ミュウミュウ にゅ~※[2期]』(※はハートマーク)。『スキップとローファー』1話はかなりの好印象。『SHIRANAMI THE TV』1話も観たけど、これはアニメではない、ということになるのだろうなあ。

2023年4月6日(木)
「この人に話を聞きたい」の原稿で確認することがあり、色々と観る。久しぶりに『ひそねとまそたん』を数話観る。この作品のOL感は面白いなあ。キャラ作画もいい。アクション物としてはやっぱりちょっと物足りない。
夜は新宿で知人と食事。退院祝いと「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア 友の会」刊行祝いで食事を奢っていただいた。
この日に観た新番組は『アイドルマスター シンデレラガールズ U149』『この素晴らしい世界に爆焔を!』『神無き世界のカミサマ活動』。『U149』1話はかなり凝った作りだった。『この素晴らしい世界に爆焔を!』も楽しかった。

2023年4月7日(金)
午前1時に起きて、午前1時42分に出社。散歩以外は「この人に話を聞きたい」の原稿作業。それからZoom打ち合わせを2本。午後はちょっと気怠い感じ。
テレビをつけたら東映チャンネルで「プレイガール」をやっていた。ゲストが天本英世さんで、天本さんがセリフを言う度に得した気分になる。次回予告のナレーションも面白かった。うろ覚えだけど「次回は5周年記念で~~のシャワーシーンもバッチリです」とか、そんな感じだった。
『かぐや様は告らせたい -ファーストキッスは終わらない-』を録画で視聴。劇場での先行上映も鑑賞している。先行上映では4話分を上映したけど、TV放映は2話ずつ二度に分けて放映するバージョンと、4話をまとめて放映するバージョンがあるらしい。TOKYO MXは4話をまとめてだけど、2話毎にOPとEDがつく。TVで4話まとめては長いなあ。劇場で観た時と体感時間が随分と違う。2話ずつ二度に分けて観たほうが楽しめたかも。
朝の散歩とその後で聴いたのはサブスクで配信が始まった「妖刀伝 -破獄の章-」「妖刀伝 -炎情の章-」「ぼくの地球を守って」のサントラ。「ぼくの地球を守って」はいいアルバムだった。
この日に観た新番組は『私の百合はお仕事です!』『Opus.COLORs』『異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する』『勇者が死んだ!』『魔法使いの嫁 SEASON2』『Dr.STONE NEW WORLD』。『私の百合はお仕事です!』はタイトルだけ知っていたけど、思っていたのと随分と違った内容だった。

2023年4月8日(土)
外部のライターさんが午前3時までに送ると言ってくれていた取材まとめ原稿が届いたのが午前3時50分。冗談でなく、かなり優秀だ。しかも、あまり手を入れなくてもチェック出しできる仕上がりで助かった。考えてみたら深夜の原稿待ちは久しぶりだった。その後は散歩、原稿、ランチ。16時から新文芸坐で劇場版『銀河鉄道999』の上映があり、4K上映の映像と音響を確認するために足を運ぶ。仕事もあるので、タイタンでアンタレスに会う辺りまで観て退散した。映像と音響はDolby Cinemaには及ばないかもしれないけれど、これはこれで贅沢な上映だった。Dolby Cinemaを観ていなければ「うわあ、すげえ」と思っていたはず。
この日も午前2時台から作業したけど、原稿以外の作業(スケジュールの確認、素材の確認等)が多くて「仕事したぞ」って感じではなかった。
この日に観た新番組は『六道の悪女たち』『女神のカフェテラス』『魔法少女マジカルデストロイヤーズ』『江戸前エルフ』『カワイスギルクライシス』『マッシュル -MASHLE-』『トニカクカワイイ(シーズン2)』『BIRDIE WING -Golf Girls’ Story-(Season 2)』。

第819回 ちょっと、次の仕事の話~『いせれべ』の話(10)

 昨日発表があったので、ちょっと解禁。ミルパンセの次のシリーズは

『沖縄で好きになった子が方言すぎてツラすぎる』(略称『沖ツラ』)

になります!
 また少々長めのタイトルで、沖縄が舞台のコメディてとこまでで、後は続報をお待ちください。ちなみにちょくちょく話題にしていますが、さらにこの次の作品も準備中。そちらは今まで自分がやってこなかったジャンルで、脚本(シナリオ)が半分上がった(折り返し地点を越えた)ところです。
 正直、50を目の前にしてこんなに忙しくなるとは思っていなかった(汗)。「もっと早くに振ってくださればよかったのに!」「何で10年前に持ってきてくれなかったの?」などと、現状非常にアタフタ中。

 で、『いせれべ』話の続き。

【5話は監督・田辺慎吾君の脚本・コンテ・演出、
たくらんけさんのグロス話数!】

 脚本(シナリオ)の割り振りの際、「小動物のモフモフがやりたい!」と田辺君自ら名乗り出たのを記憶しています。たくらんけグロスは毎回安定の出来で、非常に有り難いです。俺的には脚本より、コンテ・作画段階で少々手を出しました。ひったくり犯を捕まえる辺りの優夜&ナイトとか。“ひったくりを追いかけるナイト”は久々に描いた動物の走りでした。同じくアクション系では大魔境でクリスタル・ディアー(鹿型の魔物)に爪を振り下ろすナイトも板垣が原画を描き直しました(放映前のPVでも使用したカットです)。あと、木村(博美)総作監の修正が入ったナイトは、毛並みも骨格もめちゃめちゃリアルでカッコよかったですね。

【6話は作画監督・吉田智裕君のコンテ・演出話数!】

 この話の脚本は『ベン・トー』(2011)で一緒にやった筆安一幸(ふでやすかずゆき)君で、お久し振り! 脚本時に手は入れてないのですが、コンテ時に“非常階段と警備員の件”を追加しました。“退路を断たれた優夜”を画的に分かりやすくするためです。非常口を通れなくしないと、大炎上中の10階フロアを横切らなきゃならない必然がなくなってしまうので。
 その大炎上と床ぶち抜き・超全力疾走など、6話のアクションシーンを担当したのが社内の中堅アニメーター・森亮太君。彼のシーンはキャラ修正こそ入るものの、動きはほぼそのまま。他話数のアクションも森君大活躍しています。
 あと、ノンクレジットですがコンテは俺の方でそれなりに修正させてもらいました。やっぱ、これも学園の生徒だ、デパート客だと“モブ”で苦労した話数。最後、女子たちの救出劇~消化後の大団円辺りの消防隊員や救護班などのシーンも撮影上りを観て「これじゃあマズい」と、自分と木村でレイアウトから大直し——大変でした。モノによっては、あまり大きな声では言えませんが、

納期までに修復可能なアングルにカット内容自体コンテから組み直し

もしました。他話数も同様なのが何箇所もあります。それに合わせて現場(社内)の動画・仕上げスタッフもギリギリまで付き合ってくれて、感謝しかありません。

 そして、また次週へ。

第210回アニメスタイルイベント
アニメマニアが語るアニメ60年史

 突然ですが、9月9日(土)の昼にトークイベント「第210回アニメスタイルイベント アニメマニアが語るアニメ60年史」を開催します。急な告知になってしまってすいません。

 アニメスタイル編集長の小黒祐一郎が、独自の視点で1963年の『鉄腕アトム』から現在までのアニメの歴史について語ります。主にはアニメファン(アニメマニア)の視点による歴史になります。「アニメ制作における3大革命」や「作品とファンの再構築があった」など、目新しい話もあるはずです。

 話の聞き手はプロデューサーとして活躍し、かつてはアニメージュの編集者として腕を振るっていた高橋望さんにお願いします。なお、今回のトークの内容を加筆修正して書籍化するかもしれません。

 会場はLOFT/PLUS ONE。イベントは「メインパート」の後に、ごく短い「アフタートーク」をやるという構成になる予定です。配信もありますが、配信するのはメインパートのみです。

 配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。

 チケットは既に発売中。チケットについては、以下のロフトグループのページをご覧になってください。

■関連リンク
LOFT https://www.loft-prj.co.jp/schedule/plusone/261936

第210回アニメスタイルイベント
アニメマニアが語るアニメ60年史

開催日

2023年9月9日(土)
開場12時30分/開演13時 終演15時~16時頃予定

会場

LOFT/PLUS ONE

出演

小黒祐一郎、高橋望

チケット

会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,300円、当日 1,600円(税込・飲食代別)
ツイキャス配信チケット/1,000円

■アニメスタイルのトークイベントについて
 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。

アニメ様の『タイトル未定』
409 アニメ様日記 2023年3月26日(日)

2023年3月26日(日)
仕事の合間に新文芸坐で「大いなる沈黙へ グランド・シャルトルーズ修道院」を観る。修道院での修道士達の生活を追ったドキュメンタリーで、ネットの感想を目にして観に行くことにした。緊張感のある作品を期待したのだけれど、そういうタイプの映画ではなかった。修道士達が雪遊びに興じるところがあったけれど、あれはごく珍しい出来事だったのだろうなあ。他にもテロップ等で解説を入れてほしいと思う箇所があった。自分はハマらなかったけれど、この映画にハマる人がいるのは分かる。169分の時間は修道院で変化のない日々を表現するのに必要だったのだろう。Amazonを見ると、DVDには未収録映像が約52分入っており、それとは別に資料が満載なのだそうだ。
『お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件』『TRIGUN STAMPEDE』『弱虫ペダル LIMIT BREAK』『老後に備えて異世界で8万枚の金貨を貯めます』の最終回を観た。

2023年3月27日(月)
仕事の合間に花見。ワイフの体調のこともあって、近所の公園で桜を見た。社内スタッフとのやりとりにChatworkを導入して、ラフやデザインのやりとりを進める。
『デジモンゴーストゲーム』の後番組は『逃走中 グレートミッション』。あの枠が、既存シリーズの新作あるいはリメイクでないのは何時以来かと確認したら、どうやら『トリコ』(2011年~2014年)以来のようだ。
DMM TVのCMの雨宮天さんがよい。レンタルビデオ店の店員の役なんだけど、リアルにいるかもしれないオタク系美人という感じ。
買うか買わないかで悩んでいた「宣弘社ヒーロー全記録」。定価が税込で5000円近い本が、Kindle Unlimitedで無料で読めることに気づく。マジか。
『魔道祖師 完結編』『The Legend of Heroes 閃の軌跡 Northern War』『神達に拾われた男2』『便利屋斎藤さん、異世界に行く』『虚構推理 Season2』の最終回を観る。
録画でWOWOWで放映された『Coo/遠い海から来たクー』を観た。

2023年3月28日(火)
『グリッドマン ユニバース』を鑑賞。語るべきポイントが多すぎる。次回作は「新条アカネの大冒険」でいいんじゃないのとか、極々普通の告白で終わったところがトリガー作品(ルーツのガイナックス作品を含む)として画期的とか、雨宮哲監督にはアクション無しの恋愛ものを作ってほしいとか、クライマックスのアクションのボリュームが破格だとか、エンディングの後のアレが「アベンジャーズ」のパロディだとしたら秀逸だとか、中盤の異変はもっとボリュームがあったほうがよかったんじゃないかとか、ガウマの姫は決着の付け方が最高とか、『パシフィック・リム』の一作目で「これからはこれをやらんといかんのか」と思った巨大感の表現にようやく追いついたとか。一番驚いたのは、やっぱり実写世界(現実)に行った新条アカネのその後を描いた点で、あれは『まごころを、君に』のオマージュだったとしても、それを超えたものになっていて、この作品で語るべきのポイントだと思う。物語を整理したら、もっと気持ちよく観られたと思うんだけと、それを上まわるくらい語りたいポイントが多かった。
新しい書籍の企画書を書く。この書籍については珍しくとんとん拍子で進みそうなのに「これってイラストの線画のコピーが残っているから、印刷物から影線を抽出したら、セル塗りできますよ」とか、社内スタッフが手間がかかることばかり言い出す。たまにはスピーディーに本を作る方向で考えてほしい。
『吸血鬼すぐ死ぬ2』『もののがたり』『永久少年 Eternal Boys』『クールドジ男子』『吸血鬼すぐ死ぬ2』『英雄王、武を極めるため転生す そして、世界最強の見習い騎士』の最終回を観た。『永久少年 Eternal Boys』の最終回がよかった。

2023年3月29日(水)
ローソンで「3月のライオン」コラボの「川本家 パズルのおとも おやつセット」を購入。入っているお菓子は羽海野チカ先生が選んだのだそうだけど、そうか、川本家で食べられているお菓子はこんな感じなのかと納得。ちょっと感動した。
15時に病院Bに。今回は呼吸器関係の診察。薬がひとつ減った。よかったよかった。事務所に戻って、ショートメッセージで『グリッドマン ユニバース』について長々と熱く語る。しかも、相手は『グリッドマン ユニバース』の関係者だった(監督ではない)。
『人間不信の冒険者たちが世界を救うようです』『とんでもスキルで異世界放浪メシ』の最終回を観る。少し前の放映だけど『ブルーロック』の最終回も観る。
録画で『デュエル・マスターズ WIN』最終回を観る。声優トークのコーナーで、ボウイ(男子)のヒロイン力が目を見張るという話題で、オープニングでヒロインみたいになっているのは「作画チームの暴走のため」という話がちょっと面白かった。ただし、映像を観るとそんなに暴走はしていない。
『SSSS.DYNAZENON』の再見を始める。

2023年3月30日(木)
『トモちゃんは女の子!』の最終回、『テクノロイド オーバーマインド』の最終回、『ツルネ -つながりの一射-』の最終回、『文豪ストレイドッグス』4期の最終回を観た。『トモちゃんは女の子!』の最終回がなかなかよかった。
『SSSS.DYNAZENON』の再見が終わったので、続けて『SSSS.GRIDMAN』を全話観る。『グリッドマン ユニバース』は本当にハッピーな作品だったんだなあ。

2023年3月31日(金)
『【推しの子】』の先行上映をグランドシネマサンシャインで観る。今回の映像化分は原作既読。きちんとした映像化になっているはず。ただ、映画館で観るものとしては物語の構成がしんどいかも。原作にある内容なので、ネタバレを気にしないで書くけど、星野アイが死ぬシーンは力が入っていた。仕事が一段落したら観に行くつもりで、ギリギリにチケットを取ったのだけれど、ほぼ満員になっていて、一番前の列の端の席で観た。
『スパイ教室』と『コタローは1人暮らし』の最終回を観た。

2023年4月1日(土)
日本映画専門チャンネルでやった『シュンマオ物語 タオタオ』を録画で少し視聴。記憶に間違いがなければ動いている映像を観たのはこれが初めて。公開当時の1981年に、都内のデパートでこの映画のセル画が販売されており、友人に付き合って一緒にその販売コーナーに行ったことがある。キャラクター(主にパンダ)の影色とノーマル色の境界部分に、大きな模様が並ぶようような処理でグラデーションが表現されていた。その表現が日本のアニメのセルでは見たことがないもので、また、表現そのものが面白くて感心したのを覚えている。当時から、そのグラデーション部分が動いたらどう見えるのが気になっていたのだけれど、それがようやく確認できた。キャラクターが動くとグラデーション部分がモワモワと動く。きれいに動いているわけではないけれど、生命感が表現されていると考えることもできる。それから、基本的には背景のグラデーションとキャラクターのグラデーションを合わせるという発想だったのだろうと思う。
話は変わるけど、『ニャンジャラ』で「教師生活5、6年~」というセリフがあってちょっと笑った。

第818回 監督の仕事~『いせれべ』の話(9)

『いせれべ』4話はREVOROOTさんのグロス話数! 
非常に助かりました! ありがとうございます!

 REVOROOTさんの演出・作画、サッカーシーンも女子更衣室シーンも総作監が入っていない段階でも安定のクオリティで素晴らしかったです。
 コンテは俺が直接切り(描き)ました。他話数もコンテのチェックは全部自分でやってたのですが、一からやったコンテはこれだけ? な気がします。ま、部分的にアクション部分とかを、最初から俺の方で引き取った話数(10話とか)もありますが、1本まるまるはこの4話のみ。
 自分の中にある監督の仕事での一番は、コンテの主導権を握ること! その考えでここ10年続けてきた“基本全話コンテ”を『いせれべ』では自ら封印。それは今作が板垣の“総監督デビュー”作だから。
 里見哲朗P(今回はプロデュース協力)より、もう何年も前から助言されていたやり方です。里見P曰く、

板垣さんは最前線に立ち過ぎ! むしろ最後列で援護する作り方をやってみては?

と。これは彼の会社、ライデンフィルムで制作した『劇場版 カードファイト!!ヴァンガード ~ネオンメサイア』(2014) の監督を終えた後辺りから『COP CRAFT』(2019)の時も同様のことを言われてたので、今回はあくまで総監督。
 つまりコンテの前——シナリオ(脚本)段階で押さえて、コンテは別の人に撒き、その上りを修正する、です。
 そんな中4話はスケジュール的に適当な描き手が見つからず、自分に回ってきた訳。ま、久々に“白紙のコンテ用紙”に向かうのは新鮮だった、という1本でした。

 また次回~。

第263回 いつかきっと! 〜愛の若草物語〜

 腹巻猫です。SOUNDTRACK PUBレーベル第33弾「愛の若草物語 音楽集」を8月30日に発売します。TVアニメ『愛の若草物語』の音楽(BGM)を収録した初のCDアルバムです。試聴用動画も公開中ですので、ぜひお聴きください!


 『愛の若草物語』は1987年1月から12月まで放送されたTVアニメ。日本アニメーション制作による「世界名作劇場」第13作にあたる作品である。
 原作はルイザ・メイ・オルコットが1868年に発表した小説『若草物語(Little Women)』。くり返し映像化されてきた古典的名作である。日本でも何度かアニメ化されており、1980年に東映動画制作のTVアニメスペシャル『若草物語』が、1981年に国際映画社制作のTVアニメ『若草の四姉妹』全26話が放送されている。同じ原作を全48話のTVシリーズとして映像化した『愛の若草物語』は、再放送や映像ソフト化の機会も多く、もっとも親しまれているアニメ作品だろう。
 舞台は南北戦争末期のアメリカ合衆国。マーチ家の四姉妹——メグ、ジョオ、ベス、エイミーは、従軍した父の帰りを待ちながら母とともに家を守っている。つつましい暮らしの中で、母の愛情に包まれて成長していく個性豊かな四姉妹の物語である。
 監督(演出)は『小公女セーラ』を手がけた黒川文男。脚本は『ペリーヌ物語』『トム・ソーヤーの冒険』などの宮崎晃。そして、メインキャラクターのデザインは『赤毛のアン』の近藤喜文。主人公ジョオを演じるのが『赤毛のアン』でアン・シャーリーを演じた山田栄子ということもあって、当時、楽しみに観ていた思い出がある。

 音楽は大谷和夫が担当した。大谷和夫といえば、ロックバンドSHOGUNのキーボーディスト、作編曲家として活躍し、ドラマ「探偵物語」やアニメ『CAT’S・EYE』などの音楽を手がけた人物。軽快なアクションものが得意な印象があったので、名作劇場への登板は意外にも思えた。しかし、これがすばらしいのである。
 オーケストラを使ったクラシカルな音楽を基調としながら、リズミカルな曲やジャズ風の曲を忍ばせてくる。後期にはシンセサイザーを使った曲もある。優雅でありつつ、快活でモダンな響きをまじえた音楽が、四姉妹のキャラクターにぴったりだった。
 音楽全体を見て気づくのは、本作にはキャラクターテーマにあたる曲がないこと。四姉妹のテーマや、ジョオたち1人ひとりのテーマは設定されていない。その代わり、心情や状況を表現する曲がふんだんに作られて、シーンに応じて使用されている。原作もそうだが、本作は本来、四姉妹全員が主人公と言える作品。特定のキャラクターにフォーカスしない音楽設計は作品の性格に沿ったものと言えるだろう。
 また、オリジナル音楽にまじって「故郷の人々(スワニー川)」「草競馬」といったフォスターの楽曲が挿入されているのも特徴のひとつ。『トム・ソーヤーの冒険』でも同様の試みがされていたが、本作ではフォスターの曲のフレーズをBGMに引用したり、ベスが弾くピアノの曲としてフォスターの曲(やショパンの曲)が登場したりと、より物語に密着した使い方がなされている。音楽が四姉妹の生活に溶け込んでいるのだ。

 さて、本作の音楽(BGM)の商品化は、放送当時キャニオンレコードから発売されたアルバム「愛の若草物語 音楽編」が初。同アルバムには、主題歌・挿入歌4曲、BGM18曲が収録されていた。挿入歌2曲はのちに後期主題歌として使用されている。以来、主題歌はたびたびCD化されたものの、BGMは一度も再録の機会に恵まれなかった。
 今回発売される「愛の若草物語 音楽集」は本作のBGMを収録した初のCDアルバムである。初商品化曲も含めたBGM全曲をステレオ音源で収録した。放送当時のアルバムを聴いて「18曲ではもの足りないなあ」と思っていた方も、きっと満足していただけるはずだ。
 収録曲は下記を参照。
https://www.soundtrack-lab.co.jp/products/cd/STLC052.html
 構成は筆者が担当した。
 ストーリーに沿った曲順とし、ディスク1を第1話〜第20話、ディスク2を第21話〜最終話のイメージでまとめた。
 ディスク1でまず注目してほしいのは、オープニング主題歌のすぐあとに収録した「マーチ家の四姉妹」(トラック7)から「不安な影」(トラック14)までの8曲。いずれも第1話で流れた音楽である。実は第1話の音楽は映像にタイミング合わせたフィルムスコアリングで作曲されているのだ。四姉妹が1人ずつ登場するシーンの「マーチ家の四姉妹」は場面転換やキャラクターの動きに合わせて次々と曲調が変化する。それが姉妹の生き生きとした表情や動作を思わせて楽しくなる。トラック13「ピクニック」では軽快で楽しげな曲調が、終盤で不安な曲調に変化する。これもシーンの展開に合わせたものである。
 トラック20「戦争の足音」からトラック22「燃える街」までの3曲は、ほかの楽曲とは雰囲気が異なるサスペンスタッチ、ミリタリータッチで書かれている。南北戦争の描写や兵士の登場場面に使われた音楽だ。街が戦火に包まれるなど、世界名作劇場らしからぬ緊迫した場面が描かれているのが、本作の前半エピソードの特徴。それを象徴する音楽である。
 トラック23「さよならふるさと」からトラック28「新しい町」までは、マーチ一家が故郷を離れてニューコード(原作ではコンコード)に引っ越すまでをイメージした構成。トラック26「明日への希望」は、試聴用動画の1曲目で紹介した、さわやかで躍動感のある曲。本作の代表的な楽曲のひとつである。放送当時発売された音楽編アルバムにも収録されていたから、記憶に残っている人も多いのではないだろうか。次の「ふるさとを離れて」(トラック27)はフォスターの「故郷の人々」を引用した曲。原曲のノスタルジックな雰囲気よりも旅立ちの期待感を強調した楽曲になっている。
 ディスク1の後半はニューコードに住まいを構えた四姉妹の日常をバラエティに富んだ曲で表現してみた。
 トラック32「ジョオは怒りん坊」は第9話のジョオと新聞記者アンソニーのやりとりのバックに流れたコミカルな曲。お隣の少年ローリーとの友情を快活な曲調で表現する「友情」(トラック36)、エイミーのユーモラスなシーンに流れた「おしゃまなエイミー」(トラック38)などを挟み、もの憂く大人びたムードの「夢みる乙女心」(トラック41)がメグやジョオの繊細な心情を表現する。
 次の曲からがディスク1のクライマックス。華やかなワルツを3曲続けた。
 舞踏会にあこがれるメグやジョオの場面に流れた「舞踏会に行けたら」(トラック42)と「初めての舞踏会」(トラック43)、そして、速いテンポで新生活への期待と希望を表現する「明るい新天地」(トラック44)である。
 四姉妹のちょっと背伸びしたロマンティシズム、少女たちが憧れる華麗な世界を表現していたのが、こうしたワルツの曲だった。ワルツの曲はディスク2にも収録しているのでお楽しみいただきたい。
 ディスク1の締めくくりに、女声スキャットをフィーチャーした「ニューイングランドのたたずまい」(トラック45)を配した。第11話でジョオがマーサおばさまと馬車で港へ向かう場面など、美しい情景とともに流れることが多かった曲だ。
 本作のBGMで女声スキャットをフィーチャーしたのは5曲。音楽全体に占める割合は大きくはないが、要所に挿入されて強い印象を残している。ワルツとともに華やかな香りで『若草物語』らしさを演出したのが、女声スキャットの曲だった。
 女声スキャットが入るほかの曲はディスク2に収録した。こちらもお楽しみいただきたい。
 ディスク2は、原作の冒頭で描かれたクリスマスのエピソードで流れた曲から始まる。クリスマスの朝の情景を描写する「クリスマスの朝」(トラック3)、ごちそうを貧しいフンメルさんにあげて、パンとミルクだけの朝食を食べるマーチ一家の場面に流れる「愛の贈りもの」(トラック4)、マーチ一家の行動に感心したお隣のローレンス氏からプレゼントされた夕食にジョオたちが感謝する場面の「お父さまへのララバイ(Instrumental)」(トラック5)。マーチ一家の、とりわけ母メアリーの慈愛あふれる行動に感動するエピソードだった。
 続いて、ピアノ好きのベスがローレンス氏からピアノをプレゼントされる、原作でも印象深いエピソードの曲をトラック6から4曲続けて収録。特に、はじけるようなベスのよろこびを表現する「美しい笑顔」(トラック8)とベスの純粋な気持ちが伝わる「胸いっぱいの幸せ」(トラック9)は、聴いていて幸せな気分になる。
 ジョオとエイミーの仲たがいから始まり、ジョオの不注意からエイミーが氷の張った川に落ちてしまうエピソードは衝撃的。シリーズ中盤の大きな見せ場になった。トラック13「エイミーの傷心」〜トラック19「悲しみが癒えるまで」は、第29話から第30話までで描かれた一連のシーンを音楽で再現した。音楽だけ聴いても、なかなかドラマティックで感動的である。
 メグとブルック先生との恋も本作の重要なエピソード。メグのゆれる想いをイメージして、「恋するメグ」(トラック23)、「ときめき」(トラック24)、「月夜のもの想い」(トラック25)とロマンティックなナンバーを収録した。この恋が実を結ぶシーンに流れたのがトラック44の「愛のともしび」。ピアノとストリングスによる甘く美しい曲である。
 友人から舞踏会に誘われたメグのエピソードなどを経て、物語は、父の戦場での負傷、猩紅熱にかかって生死をさまようベス、と不安な展開が続く。けれど、最後はハッピーエンドが待っている。元気になった父が帰ってきて、ジョオたちは家族そろってクリスマスを迎える。帰宅した父と娘たちが語らうシーンに流れるトラック42「父と娘たち」は、やすらぎと愛情を感じさせるしっとりした曲。華やかではないけれど、とてもいい曲だ。
 トラック48「父との再会」は、最終話で父の全快とメグの婚約を祝うパーティのシーンに流れた。次回予告にも使われたおなじみのメロディが長く演奏される。この曲も筆者が好きな曲のひとつ。クラシックにジャズの要素を加えたような、今風にいえばモダンクラシック的な曲である。大谷和夫の詳細な経歴は不明だが、マネージャーを務めていた早川泰氏は大谷和夫を「クラシックからジャズへ行った人」と語っている(『ニッポンの編曲家』DU BOOKSより)。その経験が生かされた曲だろう。
 ディスク2の締めくくりとして、最終話のラストシーンに使われた「ジョオの旅立ち」(トラック49)を収録した。ジョオが作家をめざしてニューヨークに旅立つシーンに流れた、2分30秒を超える長い曲だ。おそらく当初から最終話での使用を想定して書かれたのだろう。
 この曲の冒頭や中間部にはフォスターの「故郷の人々」のメロディが引用されている。そこで思い出してほしいのが、ディスク1のトラック27に収録した「ふるさとを離れて」。これも「故郷の人々」のメロディを引用した曲だった。2曲を比べると、「ジョオの旅立ち」の序盤部分は「ふるさとを離れて」とほぼ同じ構成であることがわかる。つまり、マーチ一家が故郷を離れて旅立つシーンに流れた曲を発展させたのが、ジョオが家族から離れて旅立つシーンに流れた曲だったのだ。1人汽車に乗るジョオの姿に家族の旅立ちの思い出が重なり、ジョオの成長を感じさせる。うまいなあ。

 原作の続編以降を読んでいる方なら、あるいは、世界名作劇場第19作『ナンとジョー先生』(1993)をご覧になった方なら、ジョオがニューヨークで作家にならなかったことをご存じと思う。しかし、『若草物語』のマルチバースのひとつである『愛の若草物語』の世界の未来では、ジョオは作家になってバリバリ活躍しているのではないか。本作のラストシーンを観ると、そして、「ジョオの旅立ち」を聴くと、つい、そんなふうに思ってしまう。筆者がジョオの(そして山田栄子さんの)ファンだからでもあるんですけれどね。

愛の若草物語 音楽集
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【新文芸坐×アニメスタイル vol. 165】
今 敏の奇想と混沌 ーー 妄想代理人



 9月に新文芸坐とアニメスタイルの共同企画で『妄想代理人』の一挙上映を開催します。上映は2回。9月3日(日)は15時50分にスタートして22時に終了。9月16日(土)はオールナイトで、22時30分にスタートして翌朝5時35分に終了です。16日(土)のオールナイトは上映前にトークを予定しています。トークの出演者は現在、調整中です。決まり次第お伝えします。

 『妄想代理人』は故・今 敏さんが手がけた唯一のTVシリーズです。放映されたのは2004年で全13話。今さんの役職は原作、総監督。濃密な作品世界に加えて、TVシリーズだからこそのバラエティに富んだ物語構成も見どころです。

 9月3日(日)分のチケットは8月27日(日)から、9月16日(土)分のチケットは9日(土)から発売となります。発売方法については、新文芸坐のサイトで確認してください。

【新文芸坐×アニメスタイル vol. 165】
今 敏の奇想と混沌 ーー 妄想代理人

開催日

2023年9月3日(日)15時50分~22時
2023年9月16日(土)22時30分~5時35分

会場

新文芸坐

料金

一般 3000円、各種割引 2800円

トーク出演

安藤雅司(キャラクターデザイン)、板津匡覧(アニメーター)井上俊之(アニメーター)、小黒祐一郎(アニメスタイル編集長)
諸般の事情で板津匡覧さんは登壇できなくなりました。申し訳ありません。代打としてアニメーターの井上俊之さんに出演していただくことになりました。何卒ご了承ください。(09/15追記)

上映タイトル

『妄想代理人』全13話(2004/325分/BD/全13話上映)

備考

※トークショーの撮影・録音は禁止

●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

アニメ様の『タイトル未定』
408 アニメ様日記 2023年3月19日(日)

2023年3月19日(日)
午前9時半にワイフとマンションを出て「新潟国際アニメーション映画祭」開催中の新潟に向かう。新幹線の中で取材原稿のまとめを進める。新潟ではまずワイフの希望で、ぽんしゅ館 利き酒番所で利き酒体験。その後、Italian みかづきで「ナポリタン」をいただく。学生が学校帰りに食べるものみたいな感じで、まさしくB級グルメ。この日も時間があれば映画祭のプログラムのどれかを観るつもりだったのだけど、酒が入ったのでやめておくことにした。これもワイフの希望で「新潟市マンガ・アニメ情報館」に立ち寄る。展示を観るまで山賀博之さんと鶴巻和哉さんが新潟出身であることを忘れていた。ドーミーイン新潟にチェックイン。少し休んでから晩飯に出かける。目当ての店はどれも休みか満席だったので、飲み屋街に行ってみるが、やっぱり休みか満席ばかり。ではあるけれど、知らない街をうろうろと歩くのも旅行らしい感じで悪くなかった。マチアソビと違って、街をウロウロしてもアニメ業界の方に会うこともないなあと思っていたら、レセプションに向かう途中だった某プロダクションの方に声をかけられる。さらにウロウロして、貝が売りの店に入る。どれも美味しくて満足。特に牡蠣がよかった。

2023年3月20日(月)
午前2時に目を覚まして、温泉に入ったり原稿を進めたり。午前7時40分に同じくドーミーインに宿泊していた吉松さんと合流。バスセンターに行って「バスセンターのカレー」をいただく。午前8時の開店前から行列ができていた。これは美味しい。行列ができるのも分かる。ドーミーインに戻って休憩と荷物の整理。吉松さん激推しの立食い寿司の弁慶で早めの昼食。同じ店にいらしていたアニメ業界の方に声をかけられてご挨拶。吉松さんと新潟市民プラザに移動。上映前に顔見知りの方達とご挨拶。「山中貞雄に捧げる漫画映画『鼠小僧次郎吉』」を鑑賞する。りんたろう監督の最新作で、これを観るために今回の映画祭にやってきた。『鼠小僧次郎吉』では兼森義則さんの健在ぶりが嬉しかった。トークの後、上映に参加しなかったワイフと合流。時間に余裕があったので「新潟市マンガの家」に。無料で色々なマンガを読むことができる施設なのだけれど、ラインナップが非常に充実。古今東西のマンガをバランスよくセレクトしてあった。聖悠紀作品の充実ぶりは驚くほどで、同人誌時代の単行本や雑誌の特集やアンソロジーまで揃っていた。さらに聖悠紀関連書籍として、連載作品が載った「ランデヴー」や初期の「アニメージュ」まで並んでいた。
「新潟市マンガの家」では『マジぬ剣』という作品のPVが流れていて、ご当地イベントで作ったアニメにしては豪華すぎるし、妙に垢抜けているなあ、和田高明さんが参加しているじゃん、と思いつつクレジットを見たら、制作が新潟エイトビットだった。ネット検索をして新潟エイトビットの記事を見つける。えっ、あの金子真枝さんがプロデューサーになったの? あの「アニメ制作進行・金子真枝伝説」の金子さんが。『マジぬ剣』のクレジットを改めて観たら、金子さんがプロデューサーとしてクレジットされていた。その後、海に移動。波打ち際などを歩く。新潟の食事のクライマックスは「旬魚酒菜 五郎 古町店」。吉松さんお勧めの居酒屋で、何を食べても美味しかった。日本酒もこの数年で吞んだ酒の中で一番旨かった。新幹線で東京に戻る。車中で少しキーボードを叩く。

2023年3月21日(火)
春分の日なので会社はお休み。午前中は新文芸坐で「青いパパイヤの香り」(1993・仏=ベトナム/104分/BD)を鑑賞。どこの国の映画かも知らないで観た。物語はシンプルで、映像は作り込まれており、なおかつ繊細。見どころはセットと昆虫など。知る人ぞ知る映画なのか思いつつ観ていたけれど、ロビーに貼ってあったポスターにはパリ、全米で大ヒットとあった。散歩と映画以外は原稿を進めた。

2023年3月22日(水)
この日はやたらと疲れていた。仕事の合間に新文芸坐で「犯罪都市」(2017・韓/121分/DCP)を鑑賞。この映画はこれが初見。こってりしていて、話の構成もよくできている。いい映画なんだろうと思うけど、こちらの体力が落ちているせいか、いまひとつ作品に入れなかった。
Eテレの『しゅわわん!』1話を録画で観た。とてもよかった。映像のスタイルと内容のマッチングもいいだけど、ゆったりした間合いもよかったなあ。Eテレの『夜廻り猫』1~5話も観た。配信でOVA『鉄腕バーディ』の1話を観た。

2023年3月23日(木)
朝から病院Bに。採血と採尿。精密検査の結果を聞く。先月末に手術した腎臓癌は他への転移はなし。完治したと考えてよいそうだ。腎臓の機能が落ちる可能性があるので、これからは半年に一度のペースで通院して検査をすることになる。病院の待ち時間にスマホとKindleで「事情を知らない転校生がグイグイくる。」14巻、「異世界おじさん」9巻、「推しに甘噛み」1巻を読む。どれも面白かった。事務所に戻ってZoom打ち合わせとデスクワーク。17時30分にマンションに戻って、少し休んでからワイフと六義園に。この日から始まった「春夜の六義園 夜間特別観賞」に参加する。雨が降っているし、参加者はあんまりいないんじゃないの、と思ったら甘かった。予想よりもずっと人が多かった。六義園全体がライトアップされ、順路に沿って歩いてそれを楽しむというもので、ロマンチックな催しだった。ライトアップも気合いが入っていた。
『氷属性男子とクールな同僚女子』が終わってしまった。お話としては全然終わってない気がするけど、とにかく終わり。冬月さんと氷室くんのカップルは好きだった。冬月さん単体だとそれほど好きではないので、あの2人のセットがいいのだろうなあ。
OVA『鉄腕バーディー』2~4巻を配信で観る。

2023年3月24日(金)
『お兄ちゃんはおしまい!』『うる星やつら』『REVENGER』『冰剣の魔術師が世界を統べる』の最終回を観た。『お兄ちゃんはおしまい!』はもうちょっと最終回らしいとよかったかな。『うる星やつら』は「ミス友引コンテスト」の原作2話目以降のアニメ化を観ることができて満足。
仕事の合間にマンションに戻って1時間ほど午睡。このパターンが効率的かな。

2023年3月25日(土)
午前2時半に出社。午前3時20分から5時50分まで集中して原稿作業。この2時間半で、この土日の作業の50%くらいが終わった。その後は散歩とか、午睡とか、また原稿とか。深夜アニメの最終回を色々と観る。

第817回 『アイナナ PV』上がりました!

『いせれべ』の直後に作った『アイドリッシュセブン 8周年 PV』(約100秒)!

が、公式YouTubeに上がってます。『いせれべ』制作中にバンダイナムコさんからお話をいただき、「まず社内でやりたい人はいるか、訊いてみたら?」と、社長・白石に。そこで「『アイナナ』やりたい!」と手を挙げた社員が今回コンテ・演出担当の八田能理子(旧・典子)さん。「志願者がいたなら、自分が面倒みるからやらせてみたら?」というのが始まり。
 コンテに関してはカメラワークのコツやアングルのアドバイス程度で、特に手出しはしていません。むしろ、コンテが通ってレイアウト・原画チェック辺りから、少々手出しをし始めました。
 『いせれべ』から引き続き、総作画監督は木村博美さん。今短編でもその力は遺憾なく発揮されました! 超シャープで美麗な仕上がり、これからまだまだ巧くなることでしょう。で、いつもの如く、最終的には頼まれて自分も原画のお手伝い。

やっぱり、単なる監修で済むはずもありませんでした!

 例えば、「三日月斬り」や「吹雪と桜吹雪エフェクト」など(ムービーを観ていただければ直ぐ分かります)は、板垣が描きました。その他、必要に応じてあちこち参考アタリを入れたり、と。最終的な役職クレジットはアニメーションプロデューサー。
 使用動画枚数はリテイクを含め3000枚ほど。動画の中割り1枚1枚にも拘る木村のチェックに、社内の動画スタッフもよく頑張ってくれて、大変な力作にしあがったと思います。是非観て下さい!

 で、今回いつにも増して短く、申し訳ありません。今日は朝から久しぶりに

“腰痛”!!

が酷くて一日仕事になりませんでした。明日、整骨院に行って来ようと思います。

第209回アニメスタイルイベント
ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』2 【「枕草子」には本当は何が書かれているのか? 裏にあった事態をその文章から読み解く 編】

 片渕須直監督が制作中の次回作のタイトルは『つるばみ色のなぎ子たち』。平安時代を舞台にした作品のようです。

 『つるばみ色のなぎ子たち』の制作にあたって、片渕監督はスタッフと共に平安時代の生活などの調査研究を進めています。今までアニメスタイルは「ここまで調べた片渕須直監督次回作」のタイトルでイベントを開催し、15回にわたって調査研究の結果を語っていただきました。前回から「ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』」のタイトルとなりました。

 2023年9月2日(土)に開催するのが「第209回アニメスタイルイベント ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』2 【「枕草子」には本当は何が書かれているのか? 裏にあった事態をその文章から読み解く 編】」。「枕草子」から読み解いた事実を語っていただきましょう。出演は片渕須直監督、前野秀俊さん。聞き手はアニメスタイルの小黒編集長が務めます。

 会場は阿佐ヶ谷ロフトA。イベントは「メインパート」の後に、ごく短い「アフタートーク」をやるという構成になります。配信もありますが、配信するのはメインパートのみです。アフタートークは会場にいらしたお客様のみが見ることができます。

 配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。また、今までの「ここまで調べた片渕須直監督次回作」もアニメスタイルチャンネルで視聴できます。

 チケットは8月23日(水)18時から発売となります。チケットについては、以下のロフトグループのページをご覧になってください。

■関連リンク
LOFT  https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/260806

 なお、会場では「この世界の片隅に 絵コンテ[最長版]」上巻、下巻を片渕監督のサイン入りで販売する予定です。「この世界の片隅に 絵コンテ[最長版]」についてはこちらの記事をどうぞ→ https://x.gd/57ICr

第209回アニメスタイルイベント
ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』2 【「枕草子」には本当は何が書かれているのか? 裏にあった事態をその文章から読み解く 編】

開催日

2023年9月2日(土)
開場12時30分/開演13時 終演15時~16時頃予定

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

片渕須直、前野秀俊、小黒祐一郎

チケット

会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,500円、当日 1,800円(税込・飲食代別)
ツイキャス配信チケット/1,300円

■アニメスタイルのトークイベントについて
 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。

アニメ様の『タイトル未定』
407 アニメ様日記 2023年3月12日(日)

2023年3月12日(日)
午前中はワイフと六義園に。僕は「都立9庭園共通年間パスポート」で入園した。春の花が咲く前の六義園をひとまわりして、茶屋で甘酒と桜まんじゅうの「甘あまセット」をいただく。その後、近くにTwitterでよく見かけていた古書店「BOOKS青いカバ」があったので入ってみた。いい店だなあ。僕もワイフも1冊ずつ本を購入。ワイフの希望で東洋文庫ミュージアムに行く。入ったのは初めてだったけど、素敵な施設だった。展示も面白かった。東洋文庫ミュージアムに併設されたカフェレストラン「Orient Cafe オリエント・カフェ – produced by 小岩井農場」でランチをいただく。ワイフと「名建築で昼食を」みたいなランチに行こうと話していたのだけれど、早くも実現した。午後は事務所でデスクワーク。久しぶりにコラムの続きを書く。「アニメ様365日」を連載していた頃は他の作業をやりながら1日1本を書いていたのに、丁寧に書こうとするとなかなか進まない。
Kindleで氷川竜介さんの「日本アニメの革新 歴史の転換点となった変化の構造分析」を読む。テキストの密度が高い。新書なのに無駄なブロックがない。読者的にはボリュームが倍あってもOKかな。

2023年3月13日(月)
グランドシネマサンシャインで「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」を【IMAXレーザーGT字幕版】 で鑑賞。SNSで賛否が分かれていた作品だけど、僕はノレなかった。事務所に戻ってネットを見たら「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」が第95回アカデミー賞で各賞を獲っていた。東京建物 Brillia HALL パークプラザで「TAAF2023アニメ功労部門顕彰者特別展示」を見る。
NHK BSで『アニメーション紀行 マルコ・ポーロの冒険』の再放送が始まった。映像は決してクリアではないけれど、放送してくれるだけでありがたい。

2023年3月14日(火)
体重が63キロ台に突入した。落とすつもりだったけど、ここまで落ちるとは思わなかった。この数字が維持できるとは思えないので、すぐに64キロ台に戻るはず。
午前中は『アニメーション紀行 マルコ・ポーロの冒険』再放送2日目を途中まで観て、その後、デパ地下に行ってホワイトデーのお菓子を購入した。あるアニメーターさんと電話でやりとり。この人とお話ができる日がくるとは思わなかった。午後は「アニメスタイル016」で取材3本立て。1本目はコテコテのクリエイター的なトーク。2本目はインタビュイーが語りたいことを語りまくる感じのグイグイいく取材。3本目は客観的に作品を総括するインタビューで、3本のバランスがいい。これだけ方向性がバラバラの取材を連続でやったのは初めてかも。
『キボウノチカラ オトナプリキュア’23』の制作が発表になった。『Yes!プリキュア5』『Yes!プリキュア5GoGo!』は自分の夢がモチーフのひとつになっているので、その後を描くのは意味があると思う。続きが観たいのは『ハートキャッチプリキュア!』なんだけどね。

2023年3月15日(水)
午後は病院Bに。今回は年末の入院の原因になった肺について。肺はほぼ完治しているらしい。先生の言葉によれば「98点」だそうだ。引き続き薬をもらうことになった。
『アグレッシブ烈子』第5シーズンを観る。これが最終シリーズらしい。マンションから追い出されたハイ田がネットカフェ生活を経て、烈子と同棲するようになる。その一方でハイ田と、政治家一家である彼の家族との確執があり、烈子が選挙に出馬することになって、灰田一家と対立する。大筋としては面白いんだけど、実際にはいまひとつ。烈子とハイ田の同棲ってもっとドキドキするものでもよかったんじゃない。選挙戦ももう一押し、二押しほしかった。不満ばかり書いているみたいだけど、『アグレッシブ烈子』はトータルでは好きな作品だった。Netflix作品でありながら、最終回の選挙演説で烈子が「とるに足らない怒りの話」として「ネット配信の映画を観ていて、最後のスタッフロールをぶった切って、次のお勧め作品が表示されるのがムカつく」を挙げるのが地味にアグレッシブだった。
『アニメーション紀行 マルコ・ポーロの冒険』の3日目はリアルタイムと録画で観た。全9話で「なんとなく一通り観た」気がした。ロマンだね。ロマンはいいね。他の話数も観る機会があるといいな。

2023年3月16日(木)
デスクワークの後、10時にワイフと外出。アニメイト池袋本店はこの日がグランドオープン。店の前に行列ができていた。駒込駅から歩いて旧古河庭園に。目当ては枝垂桜だった。人の少ない庭園内をひとまわり。13時からZoom打ち合わせ。その後はひたすらある作品の原画のデータを見る作業。資料の読み込みや整理は夜中から朝とか、午前中にやることが多いんだけど、今回は午後にやった。楽しかったけど、あまり仕事をしている気がしなかった。夕方は事務所スタッフとグランドシネマサンシャインに。2月13日に取材した立川譲総監督の撮影。取材の日は諸般の事情で撮影ができなかったのだ。

2023年3月17日(金)
Twitterのアカウント凍結が解除された。よかった。凍結中に思ったのは、Twitterは生活の一部であるだけでなく、自分の人生の一部だということ。Twitterだけが接点になっている人も多いし、思い出も沢山ある。
スケジュールを確認したところ、翌日以降だと『劇場総集編 SSSS.GRIDMAN』の上映時間が見辛い時間ばかりになってしまうことが分かって、慌てて午前中の回で観ることにした。今回は普通に総集編だった。Zoom打ち合わせとデスクワーク。夕方はワイフとグランドシネマサンシャインで「『シン・仮面ライダー』全国最速公開記念 舞台挨拶&全国同時生中継」を鑑賞。作品の善し悪しの話ではなく、残念だったのは自分が映画館で予告を十数回、あるは二十数回も観てしまったことで、予告を観ないでいきなり本編を観たら「このデザインがかっこいい!」「この衣装もいい!」「このロケーションが最高!」とビジュアルだけで感動できはずなのに、その辺りが確認作業みたいになってしまったことだった。他の感想はまた改めて。

2023年3月18日(土)
「アニメスタイル017」関係で昨日届いたあるアニメのある資料。この作品で資料集が出たとしても、多分はこれは載らないだろうし、ましてや解説付きで載ることはまずないだろう。載ったら作品のファンは喜んでくれるんだろうけど、これで数ページを使っていいのか。これでページを使うのは贅沢過ぎないか。
昼は埼玉の某駅であるアニメーターさんと待ち合わせをして、喫茶店に。今まで取材を受けていただけなかった方なので、あれこれと色んなことを聞く。「あ、これはいつか取材をする時に聞けばよかった」と思った美味しい話題も。お宝資料を沢山見せていただく。夜はレイトショー「【新文芸坐×アニメスタイル vol. 157】STUDIO4゚Cのキセキ 『鉄コン筋クリート』」を開催。ゲストは田中栄子さん。お客さんは『鉄コン筋クリート』を初めて観る人が40%くらい。ビデオ等が初見でこの日初めて劇場で観たという人も多かった。お客さんの雰囲気から、キャストの話が喜ばれるかなと思って、トークではキャストやアフレコについての話もうかがう。普段の新文芸坐のトークは50分なのだけど、今回は何故か60分の設定で、時間に余裕があったので、終盤で質問を受け付けるコーナーをやった。最後はジャンケン大会で田中さんが持ってきた『鉄コン筋クリート』のコンテ本をプレゼント。プレゼントするコンテ本が5冊で、ジャンケンで綺麗に5人が残って終了。

第816回 モブとポーズ~『いせれべ』の話(8)

もう、忙しくてどこまで語ったのか忘れた! ま、とりあえず3話!

 いきなりですが3話はEDのスタッフ表記から、自分と木村(博美)の名前が漏れています。コンテ・演出に板垣、作画監督に木村、背景にも板垣がそれぞれ併記されるはずでしたが、あまりの忙しさにスタッフ表未確認で、気付いた時にはV編も終わっていたので、結局そのまま。
 つまり1話2話と同じくらい板垣・木村で修正した話数だということ。自分が憶えている中で一番大変だったのは「モブ」。ショッピングモール内の買い物客とか。たとえ作画的には“止め”でも、人をたくさん配置するのはやっぱり大変なモノです。
 最近のアニメーターや演出は、交通機関での移動中や歩いてる時もスマホばっか見て、普段街行く人々を観察していないせいか、1枚の画の中に何十人のポーズのバリエーションを描ける人がなかなかいなくて、「こっち向いてこんなポーズだってあるし、あっち見てあんなポーズもあるでしょう?」とスタッフの前で実演・説明して描き直してもらう。で、修正してもらったらもらったで、今度はデッサン・パースがダメ。結局、自分で直しに直しての連続。もう本当にクタクタになってしまい、皆が普段どれだけ“職業人としての観察”を怠っているか? を思い知った話数でした。このモブとの孤軍奮闘は後の話数でも繰り返されることに(汗)。
 俺はテレコム新人時代、大塚康生さんから

『太陽の王子 ホルス(の大冒険)』で、哀しみに暮れる村人らのモブシーンを描く時、宮崎(駿)は周りのスタッフたちに声を掛けて、各々演じてもらってポーズのバリエーションを作ってた~

と聞いたことがあります。後に原画修行中、田中敦子・友永和秀両師匠方にも「周りの人たちの観察を普段から怠ってはいけない!」と異口同音に言われていました。そのお陰で癖として「年がら年中観察眼」が備わっているようで、未だに電車に乗ってもイヤホンで音楽も聴かず、スマホも見ずに周りの乗客を観察する癖が抜けません。

そのあたりのスタッフ指導も、次作以降の課題です(ホント疲れた)!

他、3話では“イケメンモデルを投げ飛ばす優夜”のシーンは篠衿花さんが、大魔境での優夜アクションは中島楽人君がコンテの意図を拾ってカッコよく纏めてくれました。まだまだ、力足らずな部分はありつつも、社内スタッフが育っていくのは本当に嬉しいことです。
 「全員新人から会社を作る!」と決めたミルパンセでの作品作りは早10年越え。以前は余所様の会社(スタジオ)で好き勝手な凝ったコンテでアニメを作って来た30代——確かに演出や監督でそれなりに動画枚数を掛けたアクションものを作らせてもらえましたし、海外のアニメイベントに招待されるといった副産物(?)にもありつけたりしました。
 でも、その頃みたいな贅沢を捨てて、多少不本意ながら枚数を抑えてでも、自ら育成したスタッフで一から作るアニメ作り……今はまだ30点でもこれから40点50点と現場を成長させながら、“理想の作り方”を考え模索し続ける毎日の方が、本来俺の性に合ってるみたいです。過去よさようなら(冗談)!

第262回 進めばふたつ 〜機動戦士ガンダム 水星の魔女〜

 腹巻猫です。8月11日にサントリーホールで開催されたコンサート「オルガン×ベルサイユのばら」を聴きました。TVアニメ『ベルサイユのばら』の音楽をパイプオルガンで演奏し、俳優の七海ひろきさんがストーリーを朗読するという企画。TVアニメ版に準拠した内容で、パイプオルガンの演奏、七海ひろきさんの熱演がすばらしかったです。8月18日から24日までアーカイブ配信が1000円で視聴できるので、会場に行けなかった方、興味のある方はぜひどうぞ!
公演詳細
https://www.suntory.co.jp/suntoryhall/schedule/detail/20230811_M_3.html
視聴券購入
https://suntoryhall.pia.jp/ticket/zanmai-verbara.jsp


 7月26日に『機動戦士ガンダム 水星の魔女』のサウンドトラック・アルバムが発売された。物理メディアとしてCD初回限定盤、CD通常盤、アナログ盤と3タイプをリリースする攻めた商品展開。なかでも、もっとも高価なアナログ盤が早々に売り切れ、9月に追加生産分がリリースされるというから驚きである(もともと生産数が少なかったかもしれない)。サウンドトラック・ビジネスの刺激になったという意味でも、注目のタイトルだった。
 『機動戦士ガンダム 水星の魔女』は2022年10月から12月までシーズン1が、2023年4月から7月までシーズン2が放送されたTVアニメ作品。
 モビルスーツ産業の最大手「ベネリットグループ」が運営するアスティカシア学園。学園内では生徒間の問題をモビルスーツ同士の「決闘」で解決するルールが定められていた。水星から編入してきた少女、スレッタ・マーキュリーは、なりゆきでベネリットグループの一翼を担うジェターク社の御曹司グエルと決闘することになり、水星から持ち込んだモビルスーツ・エアリエルを操縦してグエルに圧勝してしまう。それをきっかけにベネリットグループの総裁デリングの娘ミオリネと「婚約」したスレッタは、徐々に学園内で居場所を見つけ、友人を増やしていった。いっぽう、父からの独立・自立を目指すミオリネはスレッタたちを巻き込んで株式会社ガンダムを設立。仲間とともにガンダム技術を平和利用する道を切り拓こうとするが、ベネリットグループの勢力争いとガンダム技術をめぐる陰謀に巻き込まれていく。
 母から教えられた「逃げればひとつ、進めばふたつ」の言葉を胸に果敢に挑戦し、前に進んでいくスレッタの姿は、青春ドラマを見るようで勇気づけられる。スレッタとミオリネ、ふたりの女性キャラクターが中心になってドラマが展開するところも現代的で新鮮だった。

 音楽は大間々昂が担当。洗足学園音楽大学音楽学部で作・編曲を渡辺俊幸に師事、実写劇場作品「スマホを落としただけなのに」(2018)、TVドラマ「アトムの童」(2022)などの音楽で活躍する作曲家だ。アニメでは『機動戦士ガンダム Twilight AXIS』(2017)、『君を愛したひとりの僕へ』『僕が愛したすべての君へ』(2022)などの作品がある。
 大間々昂のインタビューによれば、『水星の魔女』の音楽制作はTVシリーズに先がけて公開されたエピソード「PROLOGUE」からスタートした。「PROLOGUE」の音楽は画に合わせたフィルムスコアリングの手法で作られている。テクノ的なシンセのリズムを使ったサスペンス曲やピアノの旋律による心情描写曲、女声ボーカルをフィーチャーしたガンダムのテーマなど、『水星の魔女』の音楽の基本的なイメージが「PROLOGUE」で確立されている。
 TVシリーズの音楽は溜め録り方式で制作された。「PROLOGUE」で登場したモチーフも使いつつ、50曲ほどを制作。第2クールでは新たに必要になる音楽を補う形で20曲あまりが追加された。
 本作の音楽の特徴のひとつは、ガンダムシリーズでは珍しい、学園ものっぽい楽曲が作られていること。アスティカシア学園のテーマをはじめ、学園生活を描写する軽快な曲やユーモラスな曲などが日常シーンを彩る。こうした音楽が、ほかのガンダムシリーズにない味になっている。
 もうひとつ、株式会社ガンダムにまつわる音楽も特徴的だ。ミオリネを中心に結束していく学生たちを描写する曲や株式会社ガンダムの社歌なども、本作ならではの音楽と呼べるだろう。
 キャラクターをイメージした音楽では、スレッタの不器用な性格を表現する曲、ミオリネのツンデレぶりを表現する曲、デリング総裁の野心と冷たさを表現する曲などが性格描写に効果を上げている。スレッタの母プロスペラは複雑な背景と性格を持ったキャラクターであるだけに、同じモチーフで雰囲気の異なるバリエーションが作られ、シーンに応じて使い分けられていた。
 そして、本作の、またガンダムシリーズの音楽の醍醐味と呼べるのが、モビルスーツ戦の曲。本作では「決闘」としてモビルスーツ同士の対戦が描かれるため、特にシーズン1では、悲壮感よりもスポーツ的な躍動感を持ったモビルスーツ戦の曲が見せ場を盛り上げていた。「Get Ready for the Duel」と名づけられた「決闘」のテーマは本作を代表する楽曲のひとつである。
 「さすがガンダムだなあ」と思うのは、録音のぜいたくさだ。生楽器の録音は「PROLOGUE」のセッションが東京で、シリーズ本編のセッションはブダペスト、ウィーン、ローマで行われた。マスタリングもロサンゼルスのスタジオで行っている。各都市で楽曲をまるごと録るスタイルではなく、ブダペストでは木管とストリングス、ウィーンでは金管とストリングスと民族楽器、ローマでは女声ボーカルという具合に、都市ごとに異なる楽器を収録している。結果、メインテーマ「The Witch From Mercury」は、ブダペストで録った木管、ウィーンで録った金管とストリングス、ローマで録ったボーカルが共演する国際色豊かな楽曲になった。
 民族楽器を随所に使用しているのも本作の音楽の特色のひとつ。小林寛監督から「土くさい音楽がほしい」とのオーダーを受けて、南米のパンフルートやアルメニアのドゥドゥク、オーストラリアのディジュリドゥ、アイルランドのティンホイッスルといった多彩な民族楽器が使われた。古今東西の楽器を混ぜ合わせたサウンドは「新時代のガンダム音楽」という印象だ。
 本作のサウンドトラック・アルバムは7月26日に「機動戦士ガンダム 水星の魔女 Original Soundtrack」のタイトルでバンダイナムコミュージックライブから発売された。CDアルバムは4枚組で、ディスク1に「PROLOGUE」の音楽、ディスク2と3にシーズン1で収録された音楽(セッション1)、ディスク3にシーズン2で追加された音楽(セッション2)を収録している。
 ディスク2&3に収録されたセッション1の音楽から紹介しよう。
 収録曲は下記を参照(ページ下のTrack List)。
https://sunrise-music.co.jp/list/detail.php?id=783

 ディスク2の1曲目はシーズン1のオープニング主題歌「祝福」のTVサイズ。ディスク3の末尾にシーズン1のエンディング主題歌「君よ 気高くあれ」のTVサイズを収録するオーソドックスな構成となっている。
 曲順は物語の流れに沿った形。ライナーノーツには大間々昂自身による全曲コメントが掲載されているので、「聴けばわかる」「読めばわかる」という内容だ。
 ディスク2の構成は、アスティカシア学園にやってきたスレッタがさまざまな出会いと経験を重ねて、友人を増やしていくイメージ。第1話冒頭で流れた「Cockpit」(トラック2)から始まり、学園のテーマ「Asticassia」(トラック3)が続く。「Cockpit」は本作の音楽の特徴のひとつであるテクノ的なシンセのリズムを使った緊張感のある曲。「Asticassia」は弦と金管がさわやかに奏でる曲。スレッタたちの胸に宿る希望や期待感を象徴する音楽である。このメロディはアレンジされて他の曲でも使われている。
 トラック3「Earth House」はスレッタが身を寄せる地球寮のテーマ。ギターや民族楽器を使い、素朴で温かいサウンドに仕上げられた。スレッタの「憩いの場所」みたいなイメージである。
 トラック7「Jeturk House」はグエルの横暴なイメージを重ねたジェターク寮のテーマ。第1話でスレッタとミオリネがグエルの決闘に巻き込まれそうになる場面からさっそく使われた。
 日常曲や心情曲を挟んで、ミオリネのテーマ「Miorine」(トラック8)、エランのテーマ「Elan Ceres」(トラック10)、スレッタのテーマ「Suletta」(トラック12)とキャラクターテーマが次々と現れる構成は学園ものっぽくていい。
 複数の顔を持つエランには、同じモチーフでいくつかの楽曲が作られている。中でもピアノと弦と木管をメインに奏でられる「Tell Me More About You」は、エラン(強化人士4号)とスレッタの交流の場面にたびたび使われて記憶に残る曲である。
 ディスク2の終盤には「決闘」シーンで流れた曲が登場する。
 「ジャジャジャジャン!」と勢いのあるイントロから始まる決闘準備の曲「Get Ready for the Duel」(トラック18)、決闘開始を告げる「フィックス・リリース」のセリフを受けて流れるバトル曲「Fix Release」(トラック19)、そして、メインテーマ「The Witch From Mercury」(トラック20)。この流れは完璧で、「『水星の魔女』といえばこうだよね!」と思わせる。
 「決闘」はルールに則ったバトルなので、「Get Ready for the Duel」や「Fix Release」は勇ましさはあっても悲壮感は薄い、スポーツもの的な曲調で書かれているのが特徴。
 メインテーマ「The Witch From Mercury」はスレッタとエアリアルのテーマでもある。カッコよさと同時に、スレッタの悲哀や心の叫びも表現する曲になっている。イタリア人歌手Clara Soraceによるボーカルがフィーチャーされて強烈な印象を残す。大間々昂は「登場人物の声にならない声、自分を曝け出す叫びのような物」を表現した、とライナーノーツで語っている。アルバムの中でもいちばんの聴きどころだ。
 ディスク2のラストを飾るのは「Will You Marry Me?」(トラック24)。ピアノとストリングスによるやさしい曲で、第3話でスレッタがグエルとの決闘に勝利した場面に流れた。第6話などでは、この曲のピアノのトラックだけを抜き出して使用している。
 ディスク3の構成はシーズン1の後半のイメージ。ミオリネが株式会社ガンダムを立ち上げ、仲間とともに困難を乗り越えていく。しかし、武装組織「フォルドの夜明け」の襲撃があり、スレッタたちは本物の戦闘に巻き込まれる……という展開だ。
 ミオリネの温室をイメージした「Greenhouse」(トラック1)、ミオリネのツンデレのイメージの「Tsundere」(トラック2)、仲間たちとの友情のテーマ「You are My Crew」(トラック3)と序盤は平和な曲が続く。
 トラック4の「Standing Up」は第8話で地球寮の生徒たちがカルド・ナボ博士のビデオを見てその理念に共感し、新会社の方向性を決める場面に流れていた感動的な曲。第8話ではそのあと株式会社ガンダムのPVが登場し、社歌「GUND-ARM Inc.」(トラック27)が流れる。社歌はボーナストラック扱いで、歌のないカラオケで収録されている。
 シーズン1の中盤から後半にかけて印象深い曲といえば、ガンダムの「呪い」を表現する「The Curse of GUNDAM」(トラック19)とエアリアルと対戦するガンダム・ファラクトのテーマ「GUNDAM PHARACT」(トラック9)だろう。
 チェロの音色が耳に残る「The Curse of GUNDAM」は第9話でエランがエアリアルのコクピットに座る場面などに使用。途中から民族楽器が入り、ミステリアスで不安な雰囲気をかもしだす。
 「GUNDAM PHARACT」は第6話のエラン対スレッタの決闘や第9話の地球寮対グラスレー寮の集団戦の場面に流れたバトル曲。クワイア風のコーラスが入り、重厚さと悲壮感がただよう。第12話の「フォルドの夜明け」の襲撃シーンにも使われていて、「決闘」だけでなく、実戦も想定した曲であることがわかる。
 ディスク3の終盤はスレッタたちが戦闘に巻き込まれる展開に合わせた緊迫した曲の連続になる。
 「Terrorism」(トラック23)は、武装組織の脅威を描写するサスペンス曲。敵の猛攻を描写する「Enemy Onslaught」(トラック24)は、第12話で襲撃に気づいた生徒たちが「訓練じゃないよね」「戦争だ」と身構える場面に流れている。
 ディスク3のBGMパートを締めくくるのは5分を超える長い曲「AERIAL REBUILD」(トラック25)。「PROLOGUE」のラストで流れた曲「Happy Birthday to You」のイメージを受け継いだ、改修型エアリアル登場シーンの曲である。この曲にもClara Soraceのボーカルが入っている。大間々のコメントによれば、「底知れぬ怖さみたいなものを表現したかったので魔女の兵器として覚醒したことを明確に現すために呪文のようなコーラスを入れました」とのこと。第12話では映像の展開と曲の展開がぴったりあって、シーズン1の終幕にふさわしい名場面を作り出していた。
 サウンドトラックとしては申し分ない内容と構成である。
 「本編で流れたあの曲が、サントラに入ってない?」と思うことがあるが、そういう場合はたいてい、楽曲から一部の楽器だけを抜き出したステム音源が使われている。楽器編成を薄くしたり、ピアノの演奏のみを使ったりして、音楽演出の幅を広げているのだ。本編の中で楽曲がどんな形で使われているか分析してみるのも興味深いだろう。
 ただ、第12話で使われた主題歌「祝福」のピアノアレンジ版は収録されていないようだ。「ここで主題歌アレンジか!?」と思ったインパクトのあるシーンだっただけに、未収録が惜しまれる。
 ディスク4はシーズン2の展開に合わせて、緊迫感のある曲や哀感をたたえた曲が多く収録されている。クライマックスに流れる「Liberation from the Curse」(トラック22)や「Wish」(トラック19)が圧巻だ。ディスク1からトータルで聴くと、『水星の魔女』の音楽がどのように進化・展開していったかがうかがえる。CD4枚組の「全部入り」ならではの楽しみである。

 冒頭に書いたように、このサントラ、商品としてのバリエーションの多さも目を引いた。初回限定盤、通常盤、アナログ盤の3種が同時発売されたのである(配信も含めると4種になる)。
 初回限定盤と通常盤はいずれもCD4枚組。初回限定盤はLPサイズジャケット仕様。通常盤はCD4枚をマルチケースに収納したタイプだ。アナログ盤はLP2枚組で、CD収録曲からセレクトした18曲が収録されている。CD初回限定盤とアナログ盤には早期予約特典としてカセットテープがついていた。
 CD、アナログレコード、カセットテープと3種類のメディアを使った商品展開は、話題性だけでなく、世界的にもアナログメディアが再流行していることを意識したものだろう。
 ニクいなあと思うのは、それぞれのジャケットイラストが異なることである。初回限定盤のLPサイズジャケットは正面を向いたスレッタのイラスト。アナログ盤のジャケットは正面を向いたミオリネのイラスト。スレッタは両手のひとさし指を(つまり指2本を)、ミオリネは右手のひとさし指を(指1本を)立てたポーズで描かれている。スレッタのモットーである「逃げればひとつ、進めばふたつ」の言葉が連想される。通常盤のジャケットは、同じポーズのスレッタとミオリネが向き合う姿を横から描いた絵になっている。
 とりあえずCDでほしいという人なら通常盤で十分だ。ジャケットの大きさや限定盤に魅力を感じる人はLPサイズジャケット仕様の限定盤を選ぶだろう。アナログ盤は収録曲も少ないし、よほどアナログの音にこだわりのある人か、熱心なファン向けだと思っていたのだが……予想を上回る人気のようである。
 しかし、わからなくもない。限定盤のスレッタのジャケットを手にすると、アナログ盤のミオリネのジャケットもそろってないと落ち着かなくなってくる。通常盤のジャケット画を見ればわかるとおり、ふたりそろって意味がある絵なのだ。片方だけだと、幸せなふたりが泣き別れになったような気分になる。だから、スレッタとミオリネ、片方を手に入れたら、もう片方も手に入れたくなる。ええ、買いましたよ、アナログ盤も。「逃げればひとつ、進めばふたつ」とはこのことだったのか!

機動戦士ガンダム 水星の魔女 Original Soundtrack(限定盤/LPサイズジャケット仕様)
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第815回 これからは…の話と、『いせれべ』の話(7)

さて、『いせれべ』の制作が終わったばかりなのに、なぜかもう忙しい~!

 なぜか次々企画がやってきて、すでに50代半ばくらいまでの仕事が決まりそうな勢い。でも、残りの人生から逆算して“自分発の企画”も考えたいので、お話をいただいた際それぞれの作り方は考えて受けるようにしています。ただ単に何も考えず「本来のアニメ作りはこうだから!」と我々世代がやってきた、保守的・旧態依然とした制作体制に固執した作り方では、増え続けるであろう需要に付いていけないからです。
 残念ながら未だに「ほら、制作会社が人手不足で番組落ちてんじゃん!」「だから、アニメ作りは終わりだ!」など、“ご自身が付いて行けない故のネガキャン”を垂れ流す業界の方々がいらっしゃいます。
安心してください。これからのエンターテイメント供給は、否が応でもAIなどの導入によって、回転・スピードは上がっていきます。例えば「人手不足で~」も、“手描きの動画”に固執しなければ……。
 もっとはっきり言うと

どんな手を使ってでも、“ムービー”にさえなっていれば、エンタメの供給は可能!

である訳だし、それを実現できるようにあれこれ考えるのが自分らの仕事のハズ。人手が何百人いなければ作れない前提というのは、アニメ業界人として怠慢以外の何物でもありません。

アニメは時代のニーズに応じて、どんなふうにも化けます!

 という訳で板垣は、来年1月28日から始まる50代も毎年毎年すし詰め状態に何某かの作品を作り続けられるように、作り方の試行錯誤をしている真っ最中。もちろん、社内スタッフらと新しい企画も考えています。
 で、これからの作り方を工夫——『いせれべ』でも一歩前進させました。それは、

各話の制作進行を無くした!

ということ。グロス(外注)話数はそれぞれの会社(スタジオ)の回し方にお任せしてましたが、社内班には制作進行のクレジットがありません。外のフリーアニメーターに振っていない以上、旧態依然の“車で外回り”も不要な訳。さらに社内のカット回しは、全カットカット袋を棚に並べて、自分らスタッフ各々で取りに行くシステムにしました。
 これが巧くいったかどうかは、次の作品でも続けてみて、微調整しつつってことで。まあ、他愛もない小さな一歩ですが、トライアル・アンド・エラーを繰り返すの——板垣は好きみたいです。

アニメ様の『タイトル未定』
406 アニメ様日記 2023年3月5日(日)

2023年3月5日(日)
入院7日目。午前2時40分頃に目を覚ます。二度寝はしないで「傘寿まり子」の続きをkindleで読む。「傘寿まり子」を最終巻まで読んで、他のマンガを挟んで「大奥」を1巻から読み始める。
若い男性の先生(主治医ではない)によれば、6日(月)午前中の血液検査で結果がよければ、最速でその日の午後に退院できるそうだ。ただし、退院が7日(火)以降にズレこむ可能性あり。血中酸素を計る機器が外れた。心電図とのコードも外れた。
病室のベッドの上で「アニメスタイル017」での作業を進める。『モブサイコ100 III』の取材のおこしに手を入れて、原稿まとめを手伝ってくれる外部スタッフに渡すことができるようにする。プロダクションから借りる資料についてもまとめた。事務所で作業していると、ながら観をしたりして、適度に緊張を緩めながら進めることができるんだけど、病室だと集中してやってしまうので、休む時間を挟まないといけない。

2023年3月6日(月)
入院最終日。朝の採血の結果、この日のうちに退院することになった。数日前に主治医の先生に「切って腎臓が小さくなっているので、酒の吞みすぎ、塩分の摂り過ぎは控えて。難しいと思うけど、仕事のやり過ぎ、疲れすぎも避けてください」と言われていた。さらに退院にあたって、次の通院で傷口を塞いでいるビニールを剥がすまではやってはいけないことが記されたリストをもらう。それと「手術から最低10年は通院してください」と言われた。10年かあ。後でワイフにそれを言ったら「これから10年は生きられるってことじゃない」と妙にポジティブシンキング。
ワイフに預けていた財布を持ってきてもらい、支払いをすませる。入院前の見積もりよりも3万円も安く済んだ。あんなに凄い機材と最先端の技術で手術と治療をしてもらったのだから、見積もりのままでも充分に安かったと思う。今回の入院では術後の段取りの確かさに感心した。タクシーでマンションに戻って、荷物を整理。上でも書いたように手術の跡にはビニールが貼ってあるのだけれど、服を脱ぐと、その周りに大きな痣ができており、大変な見た目になっていた。ワイフに見せたら、嬉々として写真を撮っていた(ワイフは手術が終わった直後も、手術跡や切りとった患部の写真を熱心に撮っており、主治医の先生に「奥さん、凄く沢山写真を撮っていましたよ」と言われた)。ワイフと餃子の王将に。どうして王将にしたかというと、入院中に読んだマンガにラーメンと瓶ビールの組み合わせが出てくることが多かったのと、SNSで最近の王将が美味しいという投稿を見ていたから。だけど、入店してから気がついたけど、今の王将には瓶ビールがないのね。ラーメンも思っていたようなものではなかった。
夕方から事務所に。椅子に座ると脇腹(手術の跡)が痛いので「椅子に座ってキーボードを叩く」のに慣れるところから始めないといけない。録画で『機動戦士ガンダムNT』TVエディション、『BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS』、『ちびまる子ちゃん』、『サザエさん』を観る。この回からタラちゃん役が愛河里花子さんに変わったのだけど、上手いなんてものじゃない。神業だった。

2023年3月7日(火)
主治医の先生には「とにかく歩け」「ラジオ体操をやっても大丈夫」と言われているのだけれど、まだラジオ体操は無理だ。この日は歩いた距離も普段の半分くらい。近くのスーパーマーケットまで買い物に行ったのだけど、それだけでもかなり疲れた。昼食はワイフと焼肉屋のランチに。量が多いメニューを選んだこともあるけれど、食が細くなっていて、食べきることができなかった。自分が食べきれなった分をワイフに食べてもらったのは初めてかもしれない。
入院中の『うる星やつら』『お兄ちゃんはおしまい!』『お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件』を録画でながし観。自分も天使様に駄目人間にされている感あり。先週のTOKYO MXの『新世紀エヴァンゲリオン』『マジンガーZ』を流し観。第弐拾壱話「ネルフ、誕生」は今観ても面白い。第弐拾壱話に関してはリテイクが入ったバージョンが地上波で流れたのはこれが初めてかもしれない。TOKYO MXの『X Anime さみしいあなた』も観る。ネットアニメを地上波で流したのかと思ったら、これはCBCテレビで放映中のTVアニメで、TOKYO MXでそれをまとめて放映したということらしい。衛星劇場の『アーバンスクウェア ~琥珀の追撃~』『Spirit of Wonder』の録画も流し観。
Amazon prime videoのシネフィルWOWOW プラス で『リトル・ニモ』のパイロットが配信されているのに気づく。テレコム版も出崎監督版もある。『ルパン三世』のパイロットもあって、しかも、シネスコ版とスタンダード版の両方がある。これは便利だなあ。ずっと配信してくれるとありがたいけど。劇場版『エースをねらえ!』があるのも嬉しい。『2』『ファイナルステージ』も配信してほしい。

2023年3月8日(水)
事務所に入ってTVを点けたら、衛星劇場で『プラスチックリトル』が放映中だった。そのまま流し観した。朝の散歩でいつものコースを歩いてみる。今までの1.5倍くらいの時間がかかった。そして、普段よりも疲れた。散歩では沢山の馴染みの猫に会った。人なつっこい「なっちゃん」は手にスリスリしてくれた。しばらくキーボードを叩いてから新文芸坐に。「冬の旅」(1985・仏/105分/DCP)を観る。淡々とした映画だった。淡々とした映画だろうと思って観たので、その点では問題なし。ただ、30~50分くらい短くてもよかった。午後はデスクワーク。17時過ぎに帰宅して、早めに就寝。
取材の予習で「日本アニメ(ーター)見本市」の「POWER PLANT No.33」「ヒストリー機関」、『機動警察パトレイバーREBOOT』をBlu-rayで視聴。コメンタリーも聴いた。

2023年3月9日(木)
この日の仕事は取材の予習と、別の取材のための質問状づくりを進めた。予習のために配信で観たあるアニメの画質の低さに驚く。そんなに昔の作品ではない。スマホで観る分には問題ないけど、大きめのモニターで観るとかなり厳しい。放映やパッケージはハイビジョンで、配信用に解像度の低い動画を作り、その後もその動画で配信しているとかそんな感じかなあ。僕が気づいていないだけで、他にもそういった作品はあるのかもしれない。
ホテルの店頭で弁当三個とサラダを買って、弁当のひとつとサラダはマンションに持っていってワイフに渡す。残りの二つは自分の昼飯と夕食のために買ったのだけど、ひとつを食べて「これはカロリーが高すぎて、翌日に後悔するやつだ」と気づいて、ひとつを事務所スタッフに食べてもらうことにした。美味しくて安くていい弁当なんだけど。
朝の散歩では「ラブひな OKAZAKI COLLECTION」を聴く。これはよかった。続けてプレイリスト「はじめての岡崎律子」を聴く。

木村貴宏さんが亡くなられたことを知る。木村さんは魅力的なキャラクターを数多く生み出してきたアニメーターだ。好きな作品が何本もある。20年ほど前に「この人に話を聞きたい」で取材を申し込んだのだけれど、その時には「自分の代表作と呼べるものができたら取材を受けたい」と言って断られた。その後も、僕はいつかまとまったかたちで取材をしたいと思っていた。心よりご冥福をお祈り致します。

2023年3月10日(金)
この日の朝の散歩ではアニメ『ジョゼと虎と魚たち』サントラを、続けて実写映画「ジョゼと虎と魚たち」サントラを聴いた。午後は「この人に話を聞きたい」で金子雄司さんの取材。取材場所への移動中に取材開始が1時間ズレることが分かり、近くの喫茶店で時間を潰す。せっかく時間ができたので、改めて質問事項を書きだす。金子さんが社長を務める青写真はお洒落なスタジオだった。スタッフは手描きで背景を描いている人とPCで作業をしている人が混在。写真は室内と室外の両方で撮ったのだけど、どちらもロケーションがよくて、面白い写真になりそう。最近は言われることが多いのだけれど、金子さんにも「若い頃にアニメスタイルを読んでいました」と言われた。
この日の起床時の体重が64.1キロ。入院前が65~66キロだった。退院直後が65.1キロだったので、そこからさらに1キロ落ちた。入院中に規則正しい生活をしていたので体重が落ちやすくなっているのだろう。だけど、ここまで落とせるとは思わなかった。

2023年3月11日(土)
退院してから初のラジオ体操。飛び跳ねる運動で手術跡が痛いのは想定内だったけれど、予想以上に身体が鈍っていた。これはいかん。ちなみに散歩は毎日続けている。朝9時にいつもの床屋に行って頭を刈ってもらう。オバチャンに手術や体調のことを色々と聞かれる。床屋で鏡に映った自分の顔をマジマジと見る。いやあ、顔が変わったなあ。
13時から「第202回アニメスタイルイベント ここまで調べた片渕監督次回作14【人物の名前を覚えてもらうのは諦めました編】」を開催。今回は新潟国際アニメーション映画祭のためにコントレールが作った小冊子を配り、それについての話も。キャラクターデザインを見ながら話を進めるが、いまだに主人公が誰なのか分からない(以前のイベントで中宮定子、清少納言、もう1人の3人が主人公だという話題は出ていた)。そして、今さら、『マイマイ新子と千年の魔法』に登場した諾子(なぎこ)についての疑問が生じているという話も。トーク終了後、雑誌「アニメスタイル」の本文にアンダーラインをいっぱい引いている読者の女性が「映画的な時間と空間とはなんですか」と訊いてきた。面白い質問だったので、楽しく答えた。
録画で『異世界おじさん』最終回を観た。何かが悪いわけではないけれど、なんだか、しっくりこない。

以下は、10日(金)と11日(土)にSNSに書いた内容。
ある作品のキャラクターデザイナーによる修正原画を見た。線がカリカリしていて、そのためにエッヂが効いた印象になっている。いかにも鉛筆が走っている感じ。これこれ。「この人が描いた画」として取り上げるならこういう原画だよね。
『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』の原画を見ると、田中将賀さんの修正原画はふわっとした力のない線で描かれている。特にめんまの髪とか。ご本人に伺うと、自分の画の個性が分かっているので、あえて力を入れすぎないようにして描いているとのこと。そういうことが分かるのが、原画を見る楽しみでもあるわけだ。
そして、そういった原画の線の面白さは第二原画になったところで、ほとんど無くなってしまう。
作画ファンが見たいのは巧いアニメーターの巧い原画であるはずだ。そして、巧い原画がどのように描かれているかを知りたいはずだ。だから、原画展で第二原画が展示されていたり、原画集に第二原画が掲載されているのは、ほとんどの場合において意味があるとは思えない。Blu-rayソフトのブックレットで第二原画ばかりが載っているとガッカリする。勿論、原画マンが第二原画まで描いた場合は別だけれど(レイアウトを描いた原画マンが描いた第二原画は、第二原画ではなくて「原画」と呼ぶべきだと言われそうだけど、まあ、それはそれとして)。
原画展を開催する方達や、原画集を編集する方達にその辺りを分かっていただきたい。

【新文芸坐×アニメスタイル vol. 164】
真夏の『Sonny Boy』Night

 8月19日(土)にTVアニメ『Sonny Boy』全話上映のオールナイトを開催します。新文芸坐×アニメスタイルの共同企画プログラムとしては、昨年の10月以来のオールナイトとなります。

 『Sonny Boy』は夏目真吾さんが原作、監督、脚本を務めたオリジナルアニメ。異次元に漂流することになった中学生達を描いた群像劇であり、物語についても、ビジュアルついても非常に斬新な作品です。真夏の夜に相応しいと考えて、このプログラムを企画しました。

 トークのゲストは夏目真吾監督。聞き手はアニメスタイルの小黒編集長が務めます。チケットは8月12日(土)から発売開始。チケットの発売方法については、新文芸坐のサイトで確認してください。

【新文芸坐×アニメスタイル vol. 164】
真夏の『Sonny Boy』Night

開催日

2023年8月19日(土)22時45分~5時20分

会場

新文芸坐

料金

一般 3000円、各種割引 2800円

トーク出演

夏目真吾(監督)、小黒祐一郎(アニメスタイル編集長)

上映タイトル

『Sonny Boy』全12話(2021)

備考

※トークショーの撮影・録音は禁止

●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/