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佐藤順一の昔から今まで(42)
『クロワーゼ』と『ファイ・ブレイン』

小黒 次が『異国迷路のクロワーゼ』(TV・2011年)です。これはシリーズ構成と音響監督としての参加ですね。

佐藤 そうですね。随分前に1回企画として立ち上がったことがあって、監督をやるように言われたんです。原作の画が緻密で、これを再現しないと『クロワーゼ』という作品になんないけど、カロリーが相当高いから難しいだろうと言って、二の足踏んでた記憶があるんですよね。それが、安田(賢司)監督でやることが決まったところで、当時サテライトにいた金子文雄プロデューサーから、「シリーズ構成をやりませんか」って話をもらって。

小黒 ここまでで何度かお名前の出ている金子さんですね。

佐藤 そうそう。その金子の作品なので、基本的にはノーとは言わないという流れです。だから、原作の先生にシリーズ構成をプレゼンするところぐらいから入ってますね。

小黒 では、現場のことはやらないで、お話作りとか。

佐藤 うん。脚本発注とホン読みまではやるけど、絵コンテ以降は安田さんでしたね。原作者の先生にプレゼンに行った時に、凄く構成を褒めていただいたんですよ。で、褒めてもらって気持ちよくなっている帰り道で、金子プロデューサーとご飯食べている時に「佐藤さん、音響もやるべきですよ」って言われて、なし崩しでやることになって、仕事が増える (笑)。

小黒 これも『ARIA』的な、静かな曲を上品にずっと付けている作品でしたね。

佐藤 そうですね。音楽的にはそんな感じです。

小黒 「佐藤順一作品には松竹というジャンルがある」と言いましたけど、フライングドッグというジャンルもあるんですよね。

佐藤 そういえばそうですね(笑)。

小黒 『クロワーゼ』はめちゃめちゃ作画がよかったですよね。キャラデが『ARIA』で超ハイクオリティ作画をやった井上(英紀)さんですか。

佐藤 そうです。井上さんにキャラクターデザイナーと総作監で入ってもらってますね。制作がサテライトで、フランス人スタッフがいたんですよね。

小黒 ロマン・トマさんとか。

佐藤 ええ。何人かいて、その方達が凄い密度の設定を上げていて、そこに驚くわけですよ。

小黒 その精緻な設定がしっかり画面に反映されてますよね。

佐藤 そうなんですよね。フランスのことをよくご存知なので、正しいフランスが描かれている。

小黒 この取材にあたって佐藤さんがコンテを描いた回は全部観るつもりだったんですけど、配信だと『クロワーゼ』の佐藤さんコンテ回がないんですよ。これは映像ソフトを買わないと観れないんですね。

佐藤 そうですそうです。

小黒 どんな作品なんですか。

佐藤 音楽回ですね。中島愛さんが演じるボヘミアンの女の子が来て、日本の歌を披露する。湯音が懐かしいって興味を持って交流していると、その子のおじいちゃんが日本に繋がりがあって、さらに湯音のお姉さんとも接点があるかもね、という感じで歌と歌が繋がっていく、いい話ですね。これは「シナリオ=コンテ」なので、脚本家がいないはずです。

小黒 それは原作にある話なんですか。

佐藤 ないです。これはオリジナル。

小黒 じゃあ、なんとかして観ますよ(編注:取材の後で観ました)。

佐藤 たまに観返すんです(笑)。ネット配信では観られないので自分用のやつを持っています。

小黒 次が『ファイ・ブレイン 神のパズル』(TV・2011年)。これも謎アニメですけれども。

佐藤 そうなんですよねえ。『ケロロ』と同じスタートの仕方をした作品なんですよね。サンライズの内田(健二)さんに呼ばれて「実はこんな企画があるんだけど」と言われるというね。NEP(NHKエンタープライズ)の作品で、パズルを使ったアニメということは決まっていました。ラフストーリーや設定についてはプレゼンが終わった頃に呼ばれているので、言ってみれば東映時代の作品の入り方と似てるんですよね。

小黒 なるほど。じゃあ、企画立ち上げには関わってはいない。

佐藤 そうですね。サンライズ的には、NHKの作品をやりたいとは思っていて、NEPにプレゼンをしていた。データ放送が重視され始めた頃で、パズルをデータ放送で楽しめるようにして参加者を増やしていく。そんな感じで動いていた企画だろうなというのは想像してましたけど。

小黒 NHK側から「こういう話にしてほしい」という要望はあったんですか。

佐藤 それはないですね。基本的にはサンライズが作ってNEPを通してNHKにプレゼンをして、何回かキャッチボールをしてるようでしたけど、サンライズサイドが主だったと思います。
 冒険活劇の中にパズルを取り入れることは決まっていたけど、そのパズルをどうするかは、まだ探ってる途中だったと思うんですよね。僕が入った時点では、テーブルパズルじゃなくて、主人公達が洞窟に入っていく感じのパズルが想定されていましたね。

小黒 なるほど。僕がなにを気にしているかというとですね、劇中でアインシュタインの称号とか、ガリレオの称号とかが出てきたじゃないですか。これが、NHKの要望だったのかなと気になってるんですよ。

佐藤 要望ではなかったと思うけれども、NHKだからということで、多少忖度があったかもしれないですね(笑)。

小黒 この前の、2009年頃に『マリー&ガリー』っていうのがあって。

佐藤 はいはい。

小黒 馬越(嘉彦)さんのキャラデザインの東映のアニメで、ガリレオとかキュリー夫人、ニュートンと、歴史上の偉人をモチーフにしたキャラクターが出てくるんですよ。サンライズが『ファイ・ブレイン』の後に作った『クラシカロイド』というアニメは、ベートーヴェンやモーツァルト等の世界的な音楽家をモチーフにしたキャラクターが出てくるんですよ。この頃、NHKのアニメはそういった作品をやる方針があったのかな、と思っていたんですよ。

佐藤 放送もEテレだから、そうだった可能性はあったかもね。NHKって、未就学児や低学年の定番コンテンツはいっぱいあるんだけど、もう少しティーンの視聴者欲しいという希望があって、その一連の企画ではあったと思うんですね。映像ビジネスのできるコンテンツが欲しいと考えていたんだと思いますね。

小黒 1期のクレジットを見ると、佐藤さんの役職は監督で、ディレクターとして遠藤広隆さんがいらっしゃいます。これは総監督的な仕事をしていたんですか。

佐藤 はい、そうですね。

小黒 現場のことはディレクターの遠藤さんがやってた。

佐藤 全部遠藤君ですね。デザインの発注とかも含めてですね。スタート時の作品のベースは多分、プロデューサーがやってますけど、遠藤君が入ってから以降は、デザイン発注やジャッジは全部彼ですね。僕がデザインについてあれこれ言ったことはないかな。

小黒 『ファイ・ブレイン』は長寿作品となり第3シリーズまで続くわけですが、佐藤さんが監督だったのは第1シリーズだけで、第2シリーズ以降はシリーズ構成と、各話の絵コンテですね。

佐藤 いや、ずっと仕事内容は同じなんですよ。1期は実際には総監督。第2期は遠藤君を監督にすると決めていたので、自分は総監督や監修とかの役職にして、遠藤君を監督として立たせてほしいっていう話をしたんです。でも、NHKにクレジット縛りみたいなものがあるから、「総監督っていうクレジットは認められない」と言われたんですよ。

小黒 「総監督」がダメなんですね。

佐藤 そうそう。遠藤君を監督としてクレジットしたいので、NHKが無理だと言うんだったら、僕はもうこの先は参加できないなっていうくらいのことを言ってたんだけど、結局NHKの方から「総監督は絶対認められません」という回答が来た。それで、妥協案として受け入れたのが、シリーズ構成。だから、やってることは変わんないんですよ。

小黒 なるほど。

佐藤 選曲の仕事は佐藤恭野がやってるんだけど、NHKの編成部のレギュレーションから「選曲」としてクレジットするのは無理だと言われて、音響スタッフのようなクレジットになってる(編注:「音響効果」としてクレジット)。

小黒 なるほど。

佐藤 前例がないからダメという説明を受けたんだけど、「そうだっけ?」と思ってNHKでやってた『キャプテン・フューチャー』を観たら、ちゃんと「選曲」ってクレジットが入ってたから「大丈夫だったんじゃん」とは思ったけど (笑)。

小黒 それでいうと『(ふしぎの海の)ナディア』の時に庵野(秀明)さんが総監督ですよ。

佐藤 そうなんですよね。昔はやってたのが、今はなぜかダメになってる。これは規則だからしかたないんだなと思うことにしました。


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