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佐藤順一の昔から今まで(41)
『たまゆら』で勉強になったこと

小黒 シリーズ最終作の『たまゆら~卒業写真~』(OVA・2015年)は劇場公開されていますが、OVAということになっていますね。

佐藤 アニメーションの届け方、ディストリビュートの仕方をずっと探っていました。TVの4クールがいい時代もあったし、1クールがいい時代もあった。あるいはTVが難しい時代、OVAの時代、映画館のイベント上映がいい時代と色んな時代がありましたよね。『卒業写真』の時は映画館のイベント上映で観てもらってパッケージに繋げるのが、ビジネスモデルとして最適解だった時代だと思うので、その流れに合わせていったはずですね。

小黒 最初に松竹のマークがバーンと出るので、観ている側としては「映画が始まった感」はありましたよ。

佐藤 TVとOVAと劇場作品で、音響費やキャスト費等の予算って違うんですよ。劇場作品と謳うと、劇場作品の予算規模で作らないといけないんです。この作品はOVAとして作って、イベント上映をするというかたちになってますが、限りなく映画っぽい作り方になってるんですよね。松竹は小屋(映画館)を持っていて、新宿ピカデリーのように500人も入るスクリーンで上映できるから、そこを使っていきたいね、という話はあったと思うんですよね。

小黒 『卒業写真』は公開の後、画に手を入れているんですよね。

佐藤 配信しているのは多分手を入れてないやつですよね。いくつかバージョンがあると思うんですが、Blu-rayBOXが最終形です。会社都合もあって、公開当時はリテイクが充分にできなかったんです。

小黒 公開と同時に映画館で売っていたディスクでは、充分でなかったと。

佐藤 そうです。BOX用に改めて手を入れ直してるんです。

小黒 第4部の前半で、楓がお母さんとおばあちゃんに「東京に行きたい」と言う場面が凝ってるんですよ。彫刻とか小物が凄く綺麗に描いてあるんです。

佐藤 あの辺に僕は手を入れてないので、名取(孝浩)君のコンテがほぼ残ってると思いますね。「茶房ゆかり」というカフェがモデルになっていて、お店のものをそのまま使ってるんですよね。

小黒 写真参考で絵コンテを描いたり、写真レイアウトにしたりしたことが上手くいった?

佐藤 そうかもしれないですね。

小黒 『卒業写真』は各章がTVシリーズの2話分のボリュームでしたが、TVシリーズ1本単位で制作していたのだろうと思います。佐藤さんはどの章でも絵コンテでクレジットされていますが、前半か後半のどちらかを担当しているということですか。

佐藤 そうですね。

小黒 第4部後半は「これぞ最終回!」という感じでしたね。

佐藤 「卒業写真」というシリーズの最後にユーミンの「卒業写真」を使おうと決めてやっていましたからね(笑)。

小黒 この最終回をやるための構成だったわけですね。

佐藤 第4部に、お父さんの葬式で楓が嗚咽している画がありますけど、あのイメージは最初のOVAの頃からありました。それをどこで見せるのか、あるいは見せないのか。ずっと考えてたんだけど、やっぱり最後に入れようと思って入れました。だから、最初から画のイメージがあったことはあるんですよね。

小黒 そういえば、『たまゆら』って「なにか」をする話じゃなかったんですね。

佐藤 そう。「なにか」をしないですね。

小黒 なにかを克服するまでの物語とか、卒業に向かってなにかをする話じゃないですよね。一つ一つの出来事があって、終わっていく。

佐藤 そう。そういう感じですね。お父さんが亡くなって歩みを止めた子が、また歩き出すまでの話ですね。ちょっとずつ、じわりじわりと這い出すように歩き始めて、自分の力で歩く。歩き始めたよ、東京に行ったよ、までがストーリーの軸なので、大したことはしないです(笑)。

小黒 むしろ劇的なことは起きない。

佐藤 起きないです。

小黒 佐藤さんが常々言っている「物語がなくても、キャラクターがいれば作品は成立する」ということですね。いかにもお話めいた展開があるとかえって違うものになってしまう。

佐藤 そうなんですよね。そうすると、やろうとしていることがずれていっちゃいますね。

小黒 さっき「卒業写真」の話が出ましたけど、既存曲を使うことが多かった作品ですよね。

佐藤 そうですね。「やさしさに包まれたなら」はフライングドッグの福田さんから提案してもらいましたね。その後で、坂本真綾さんがユーミンのファンだったという情報が入ってきて、曲を作ってもらう話が実現する。

小黒 なるほど。佐藤さんもユーミンは好きだったんですか。

佐藤 特別な思い入れがあるほどの好きではなかったけど、「ユーミンならみんなが幸せになるよね」という気持ちはありますよね。まさか新曲まで作ってもらえるとは思わなかったけど。

小黒 そういう点でも、音楽に相当恵まれた作品になったわけですね。

佐藤 本当にそうですね。

小黒 『たまゆら』を振り返ってみるといかがですか。

佐藤 『たまゆら』は色々勉強になりました。お客さんとの距離をここまで詰めていったのも、『たまゆら』が初めてだと思うし、イベントでも色んなことをやりましたよね。宣伝にならなきゃいけないので、自分は監督だけど「ちゃんとイベントでお客さんが呼べるようにならなきゃな」という感じで、立ち振る舞いを研究したりね。他の人の横に並んでオチ担当になれるように、スキルを持たなければと(笑)。

小黒 東映動画時代の佐藤さんからすると、考えられないような変化ですね。

佐藤 考えられないですよ。そういうのができないから、演出やってるってところがあったのに、イベント出まくって着ぐるみだって着ちゃいそうな勢いですからね。
 『たまゆら』で、みんなと一緒に作品を楽しむということが、なんとなく見えたかな。その後の『ARIA』でも、ここで得た感覚を大事にしていると思うので、転機の作品ですね。

小黒 話は変わりますが、Wikipediaの佐藤さんのページを見ると『ピュアドラゴン』のパイロットフィルムが2011年に公開されたとあります。これはどういう作品なのでしょうか。

佐藤 GENCOさんの企画に協力したやつですね。ハルフィルムとGENCOさんが一緒にやる流れがあったので、お手伝いしたという感じですね。ポケモンデザイナーの1人である、にしだあつこさんのデザインしたキャラクターを元に世界観を作って、アニメにしていくという企画だったと思うんですね。パイロットフィルムはそこそこ尺があったので、起承転結のあるお話になっています。

小黒 これは公開されたんですか。

佐藤 公開はしてないんじゃないかなあ。これもハルフィルムで作ってたんですよ。

小黒 佐藤さんはコンテと監督をやったんですね。

佐藤 そうですね。演出は別にいたと思いますね。

小黒 Wikipediaのリストを作った人はよくこれを知ってましたね。

佐藤 なんでだろうね。(編注:2011年に配信ゲーム「TWIMON」と連動するかたちで、YouTubeとニコニコ動画で公開された)


佐藤順一の昔から今まで(42)『クロワーゼ』と『ファイ・ブレイン』 に続く


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