アニメ様の『タイトル未定』
382 アニメ様日記 2022年9月18日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2022年9月18日(日)
午前7時半から営業をしている「台湾早餐天国/TSUMUGU CAFE」で、ワイフと朝食。ここ数日は『Fate/Grand Order 絶対魔獣戦線バビロニア』を再見している。なんだかんだで、この作品の女性キャラは好きだなあ。

2022年9月19日(月)
新文芸坐で「女と男のいる舗道 4Kデジタル・リマスター版」【4K上映】(1962・仏/84分/DCP)を鑑賞。ブログラム「彼女たちと世界(4)」の1本(正確には(4)は丸数字)。客の入りは満員に近い。作品としてはいいところがいくつもあるし、映画的な時間が流れているとも感じたのだけれど、他のゴダール作品と同様に、公開当時のインパクトは想像するしかない。
スターチャンネルの「それ行けスマート/0086笑いの番号[吹]日曜洋画劇場版」を録画でながら観。「それ行けスマート」のTVシリーズは子どもの頃に観ていて、この劇場版は初めての視聴。悪の組織ケイオスが開発した新兵器は世界中の人間を全裸にしてしまうヌード爆弾で、その爆弾の計画を阻止するのがスマートの任務だ。スマートのパートナーの美女は34号、22号、36号で、34号を演じるのがシルビア・クリステル。敵の新兵器がヌード爆弾でヒロインがシルビア・クリステルだったら、お色気シーンを期待するところだけど、彼女のヌードは無し。最後に22号が裸になるけど、見えるのは肩から上だけ。その後に後ろ姿が見えるけど、すぐにENDマークで隠れてしまう。企画段階では22号をシルビア・クリステルにやらせたかったのではないかなあ。脚本段階では22号と34号が同一人物だった可能性もある(34号が登場している間、22号が登場しない)。ちなみに吹き替えキャストはスマートが小松政夫さん。34号が小宮和枝さん、22号が戸田恵子さん、36番が吉田理保子さん。

2022年9月20日(火)
10月からテレビで放映されるジャンプアニメをカウントしてみた。新番組として始まるのが(原作が「少年ジャンプ+」等で連載しているもの、先行して配信されていた作品も含めると)『SPY×FAMILY』第2クール、『BLEACH 千年血戦篇』、『チェンソーマン』、『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン』第2期、『僕のヒーローアカデミア』第6期継続番組が『BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS -』と『ONE PIECE』。合計で8作品だ。
Netflixで『恐竜少女ガウ子』の第2シーズンを観た。視聴履歴が残っていて、第1シーズンは観ているらしい。主人公の名前が渡辺奈緒子で、演じているのが松井菜桜子さんだ。原作・監督はしぎのあきらさん。第1シーズンを観た時も同じことを思ったはずだけど、『おそ松くん』の延長線上にある企画だったんだろうなあ。検索してみたら、公式サイトの「ガウ子の足跡」に「1980年代のどこか、松井菜桜子にインスパイヤされてガウ子の企画を考える。」とあった。
WOWOWで『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ―2人の英雄―』を放映していて、これがかなり綺麗。多分、Blu-rayソフトと同等の画質だろうと。ただし、ウチの環境では動きが速いところなどでブレが生じていた。同じ映画を同じモニターでU-NEXTで少し観てみたが、WOWOWほどパキっとした感じではない。ブレも多いかな。やっぱりWOWOWはいいなあ。

2022年9月21日(水)
ワイフと新宿ピカデリーで「川っぺりムコリッタ」を観た。予告も観ないでの鑑賞だったが、監督が荻上直子さんであることと、満島ひかるさんが出ていることは知っていた。ものすごく雑な感想を書くと「恋愛要素のない『めぞん一刻』」だった。主人公はアパートで暮らすことになった山田たけし(松山ケンイチ)。パートの管理人は南詩織(満島ひかり)で、彼女は「妊婦を見ると腹を蹴りたくなる」という変わり者。山田の部屋に入ってきて風呂をつかったり、冷蔵庫の中のものを勝手に食べたりする隣人が島田幸三(ムロツヨシ)。他のアパートの住人は一年中喪服を着て、墓を売っている溝口親子、自分が死んだことに気づいていないらしいお婆さんの幽霊。島田が図々しくあがりこんできたあたりで「ということは、満島ひかりさんの管理人は未亡人なのね」と思ったらそうだった。溝口親子がすき焼きを食べようとしたら、他の住人や南親子が部屋に入り込んですき焼きを食べ始めてしまうあたりも「めぞん一刻」的だと思った。「めぞん一刻」的であることがこの作品にとって重要なことではないが、書いておきたかった。
それはそれとして「川っぺりムコリッタ」は映画として面白かった。「身近な人の死に対していかに向き合うか」を描いた映画であるのだけど、それと同時に「味わい」の映画だった。ワイフはこの映画に入れ込んでいたようで、三度泣いたそうだ。それから、ちょっと話が飛躍するけれど『リラックマとカオルさん』はやっぱり荻上直子さんのカラーが強かったのだろうなあと思った。
映画の後で、新宿マルイメンの「スーパーロボット&ヒーローの世界 越智一裕画展」に立ち寄る。濃い空間だった。越智さんのイラストが本にまとまったことも、このようなイベントが開催されたことも、ファンにとって喜ばしいことだと思った。僕はサイン本を購入。高校の文化祭でもらうことができなかった越智さんのサインを、ようやく手に入れることができた。

2022年9月22日(木)
グランドシネマサンシャインで「ロード・オブ・ザ・リング」【IMAXレーザーGT字幕版】を鑑賞。この映画を観たのは初めて。長い映画だった。実際の時間も長いし、体感としても長かった。原作未読なので、原作との関係は分からないけれど、真摯に原作に向き合った作られた作品なのだろうと思った。IMAXに関しては、向いている場面と向いていない場面があった印象。
配信で『ストレンヂア 無皇刃譚』を観る。U-NEXTはハイビジョンだ。Amazon prime videoを確認したら、Amazon prime videoもハイビジョンになっている。以前は解像度が低いバージョンで配信していたはずだ。

2022年9月23日(金)
『それでも歩は寄せてくる』最終回が、予想していたよりも最終回らしい内容だったので驚く。あのまま告白するかと思った。『劇場版 呪術廻戦 0』のBlu-rayソフトで視聴。やっぱりこれは劇場で観たほうがいいな。Blu-rayの特典は今時らしく、あっさりした感じ。

2022年9月24日(土)
無責任な書き方になるけれど、自分の周りで『雨を告げる漂流団地』と『夏へのトンネル、さよならの出口』の評価が真っ二つに分かれていて面白い。『夏へのトンネル』に辛口な人が『雨を告げる漂流団地』を誉めている。その一方で『夏へのトンネル』を誉めている人もいる。感想はそれぞれだなあ。『雨を告げる漂流団地』に関しては配信で観たのか、劇場で観たのかで印象が違ってくるような気がする。
これからの仕事のために、あるアニメをチェックする。同じ話を何度も観たり、作画と演出を確認したり。それがこの日の主な作業だった。

第792回 ヤバいっ!!!

 タイトルから匂わせているとおり、大前提今回お茶濁しなのです。何か仕事が多過ぎてとにかくヤバい!
 今日日のコンテンツ過多による業界的人手不足、つまり作業者(アニメーターに限らず美術も)の絶対数に対してアニメの本数が多過ぎることによる忙しさに加えて、面白そうだから~の理由でお受けしたイラストの仕事が重なって(汗)。

まあ、いいや! 四の五の言う前に仕事に戻ります、ごめんなさい!
ではまた……

第202回アニメスタイルイベント
ここまで調べた片渕監督次回作14【人物の名前を覚えてもらうのは諦めました編】

 片渕須直監督は『この世界の片隅に』『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』に続く、新作劇場アニメーションを準備中です。まだ、タイトルは発表になっていませんが、平安時代に関する作品であるのは間違いないようです。
 新作の制作にあたって、片渕監督はスタッフと共に、平安時代の生活などを調査研究しています。その調査研究の結果を少しずつ語っていただくのが、トークイベントシリーズ「ここまで調べた片渕須直監督次回作」です。これまでのイベントでも新しい視点から見つけた、これまであまり語られていなかった「枕草子」の側面について語られてきました。

 2023年3月11日(土)に開催する第14弾のサブタイトルは「人物の名前を覚えてもらうのは諦めました編」。今回は「枕草子」に登場する人物の名前が話題となります。サブタイトルの「名前を覚えてもらうのは諦めました」とは、いったいどんな意味なのでしょうか。出演は片渕須直監督、前野秀俊さん。聞き手はアニメスタイルの小黒編集長が務めます。

 会場は阿佐ヶ谷ロフトA。今回も会場にお客様を入れての開催となります。イベントは「メインパート」の後に、ごく短い「アフタートーク」をやるという構成になります。配信もありますが、配信するのはメインパートのみです。アフタートークは会場にいらしたお客様のみが見ることができます。

 配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。また、今までの「ここまで調べた片渕須直監督次回作」もアニメスタイルチャンネルで視聴できます。

 チケットは2月16日(木)19時から発売となります。チケットについては、以下のロフトグループのページをご覧になってください。

■関連リンク
LOFT  https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/243372
会場チケット https://t.livepocket.jp/e/q5h7a
配信チケット https://twitcasting.tv/asagayalofta/shopcart/217452

 なお、会場では「この世界の片隅に 絵コンテ[最長版]」上巻、下巻を片渕監督のサイン入りで販売する予定です。「この世界の片隅に 絵コンテ[最長版]」についてはこちらの記事をどうぞ→ https://x.gd/57ICr

第202回アニメスタイルイベント
ここまで調べた片渕監督次回作14【人物の名前を覚えてもらうのは諦めました編】

開催日

2023年3月11日(土)
開場12時30分/開演13時、終演15時~16時頃予定

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

片渕須直、前野秀俊、小黒祐一郎

チケット

会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,500円、当日 1,800円(税込・飲食代別)
ツイキャス配信チケット/1,300円

■アニメスタイルのトークイベントについて
 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。

アニメ様の『タイトル未定』
381 アニメ様日記 2022年9月11日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2022年9月11日(日)
新文芸坐で「ウエスト・サイド・ストーリー」(2021・米/157分/DCP)を鑑賞する。この映画はロードショー時にIMAXで観たかったのだけど、その時は時間がとれなかった。なお、1961年の「ウエスト・サイド物語」は1980年代にレンタルビデオで視聴しているけれど、その記憶は薄くなっている。中盤までは本当によかった。カメラワークもセットも役者も音楽もいい。特にポスターにもなっているベランダのシーンの臨場感が素晴らしかった。決闘前の登場人物が全て参加してのミュージカルシーンもよかった。新文芸坐の音響もよい。ただ、映画終盤に物語が深刻になってからは「映画が小さくなった」印象。これは僕が映像とかセットのスケールなどを楽しんでいたからそう思うのであって、登場人物がどうなるのかを気にして観ているなら、あまり問題にならないのかもしれない。エンディングもよかった。映画全体の印象としてはいまひとつだけど、もう一度、劇場で観たいくらいには気に入った。

2022年9月12日(月)
へえ、そんな映画があるんだ、だけど、観る機会があるかな、と思っていた「最後にして最初の人類」がAmazon prime videoの見放題に入っていた。こんなマニアックな映画をパソコンで気軽に観ることができるのは贅沢だなあ。ただし、この作品は劇場で観ていたら随分と印象が違っていたに違いない。
SNSで2002年に開催した「マッドハウス・アニメスタイル合同イベント 出崎統NIGHT2」が話題になった。そのイベントでは『家なき子』の名場面を抜粋でビデオ上映をした。TMSに許可をもらった上映で、編集は僕がやった。上映が終わったところで、小林七郎さんが涙ぐんでしまって、出崎さんも言葉が少なくなってしまった。そして、イベントが終わった後、出崎さんがすまなさそうに「あの時、涙が出そうになって話ができなくなったんだ」とおっしゃった。配信がある企画だと、ああいった空気感のイベントは難しいかもしれない。

2022年9月13日(火)
吉祥寺の肉山で業界の方達と食事。去年から約束していたのが、ようやく実現できた。午前中は『ツルネ ―風舞高校弓道部―』を1話から6話くらいまで流し観。夕方は『サイバーパンク: エッジランナーズ』1話、2話を観る。

2022年9月14日(水)
『サイバーパンク: エッジランナーズ』を最終話まで観る。NetflixとAmazon prime videoで色々と観て、画質を確認する。

2022年9月15日(木)
いつでも観られると思った『Fate/Grand Order 絶対魔獣戦線バビロニア』のNetflixの配信が終了する模様。他の配信サイトはどうなるんだろうか。近年の有名タイトルはずっと配信で観られるものだろうと思っていたが、そういうわけでもないのか(追記。2023年2月現在で、同作はAmazon prime videoやU-NEXTでは配信が続いている)。
原作「うる星やつら」の再読を始める。個々の話というか、個々のコマとかセリフとかは覚えているんだけど、エピソードの順番などは覚えていなくて「あれ、弁天の登場ってこんなに早かったっけ」と思ったり。今見ると、押井さんがあたるの母親に興味をもったのが分かるような気がする。

2022年9月16日(金)
グランドシネマサンシャインの午前8時10分からの回で『雨を告げる漂流団地』を鑑賞。作り手の、というか、石田祐康監督の登場人物への想いはかなりのもので、その想いを作品にぶつけられるところに彼の価値があると思う。1本の映画としてはまとまりがよくないと思うが、それと監督の想い入れは表裏一体なのだろう。
Zoom打ち合わせの後で有楽町マルイの「機動警察パトレイバー 30周年突破記念[TV-劇パト2]展」に。目当ては『機動警察パトレイバーEZY』パイロット映像だった。具体的なことは書かないけれど、興味深いものだった。有楽町マルイの同フロアでは「おそ松くん 60周年 おそ松さん 6周年 記念展」も開催していて、マンガ原稿、アニメの設定資料等が展示されてた。こちらは入場無料だったけれど、なかなか充実した展示。「おそ松くん」と『おそ松さん』のコラボ商品がよかった。同フロアでは『夏へのトンネル、さよならの出口』のPOPUP SHOPもあり。こちらも絵コンテ等の資料が展示されていた。凄いぞ、有楽町マルイ。

2022年9月17日(土)
某所から問い合わせがあって、事務所内で「アニメビジョン」のバックナンバーを探すが、目当ての号は見つからず。ちなみに「アニメビジョン」とはVHDのビデオマガジンで、僕は学生時代に編集スタッフとして参加していた(後日追記。SNSで「アニメビジョン」のバックナンバーをお持ちの方がいて、問い合わせをくれた方にお伝えした)。
新文芸坐で「高校大パニック」(1978/94分/35mm)を鑑賞。プログラム「反逆のメロディー 澤田幸弘傑作選」の1本だ。「数学できんが、なんで悪いとや!」のキャッチフレーズは当時からよく耳にしていたので、予告くらいは観ていたはず。タイトルとキャッチフレーズから、大勢の学生が教師相手に大暴れする話だと思っていたのだけれど、かなり違った。昔の映画なのでネタバレを気にしないで書くが、前半で主人公の男子生徒が盗んだライフルで教師を教室で撃ち殺し、その時に同級生の女子生徒も撃ってしまう。その後も先生や警察に対して撃ちまくるし、ヒロイン格の女子生徒が警察側の誤射で死んだりするけど、センセーショナルなのは、やはり前半の教師を撃ち殺すところで、その場面の「やっちゃった感」が凄い。90分ほどの映画だけど、プロットがシンプルなので体感としてはちょっと長い。途中で緊張感が維持できなくなっている感じはあるのだけど、そこまでは確実に面白い。最後に警察に捕まったところで、これだけの事件を起こしたのに主人公が来年の受験や、受験勉強のためのラジオ講座のことをしきりに気にしているというのが皮肉なオチとなるのだが、そこまでの展開での主人公の描写からするとしっくりこない。ラストは元になった8ミリ映画と同じなのだろうか。映画後半で校舎から脱出した男子生徒達が、教師が殺されたことではなく、彼が死んだことで自分達の受験勉強が遅れることを心配するのも、当時としては痛烈な描写だったのだろう。

第791回 裸と鎧

 先日、某S社の——もう10数年の付き合いになるプロデューサーA氏と外食でした。次のさらに次作品(シリーズ)の関係で、よくある打ち合わせから流れてのお食事会。お久し振りにお互いの近況報告・確認、それプラス業界四方山を語り散らしつつの食事を楽しみました。
 そこでの雑談。俺が過去に某アニメ会社社長に向かって「勝ち組には付き合えない」と言って、その会社を離れたという話をしました。「はあ、何でまた?」とA氏。で、俺の“主義”の話に。ちなみにその時話題にした“俺が離れた某アニメ会社”は、現在、新卒者らが最も就職したいアニメ会社のひとつになり立派に勝ち名乗りを上げております。おめでとうございます。それはそれでいいのです。
 つまり、どうやら40年以上生きて分かった自分自身の性格と言うか、主義と言うか。ハッキリ分かったのでハッキリ言います。

勝ち組、権威、それに付随した金持ちとかになりたくない!

らしいのです、俺は。
 だって、自分が勝ったとすると、必ず負ける人がどこかにいます。自分が多くお金を貰えば低賃金で働かされている人が必ずどこかにいます。特に後者はアニメの現場が正にそうなりがちで、ろくに絵コンテも直さず右から左に流すだけのくせに、“監督”を名乗ってるだけで1話あたり●●万持って行き、さらに何シリーズも同時に掛け持ちで月●●●万荒稼ぎとか。それは勝ち組になった者の特権なのでしょうか? それ、俺はできない性格だということ。自分だけいいギャラ貰って、動画マンは単価で食うか食われるか? 想像しただけで、たとえ自分がそれなりのお金が貰えても、家買ったり車買ったりってできません。やっぱり、贅沢するなら役職上の誰と誰~の特権階級だけなく、“会社丸ごと”に限ります、あくまで自分の場合は。
 テレコム退社後から今まで、あちこちの会社を渡り歩いた中でも、社員だ拘束だと誘っていただいたり、「僕だったら、板垣さんに年収●●●万以下になんかさせません」と言ってくださったプロデューサーさんもいましたが、「自分はそんな格ではありませんので」と丁重にお断りして、今日までやってきました。で、どこにいても勝ち組になりそうになった会社からは、作品の切れ目ごとに自ら出て行っています。多分、それが板垣の性分です、と。
 さらに話は転がって「学歴主義・権威主義が嫌い!」話へ。自分ら世代はまごうことなき受験世代。中学生から高校は受験勉強あるのみ。「受験に勝ちさえすれば生涯安泰!」を本気で信じて、周りの学友らは勉強勉強の毎日でした。何せ我々団塊ジュニア(第二次ベビーブーム)最多と言われる1973年(板垣は1974年の早生まれ)、自分も一応当時は「進学校」と呼ばれる“大学に進学するのが当たり前”の高校に入学したので、周りの同級生らが皆、揃って少しでも良い大学へ進学を希望していたのです。そんな中、自分は行っても芸大、画が描けるなら専門学校で上等、という考えでした。で、河合塾美術研究所という所で芸大受験に向けて鉛筆デッサンやったりしていたのですが、周りの受講生は半分が1浪、中には2浪も当たり前。つまり、芸大の座席の空き待ち(に見えました)。「要は画で食えるようになれば良い」と考えていた自分は、浪人してまで“大学”に拘る気は更々なく、両親に相談もなく受験自体を止めて、無試験の専門学校に入学したのでした。

自分の腕一本で食っていく将来なら“裸”で結構!
学歴と言う“鎧”は俺には不要!

と。学歴や権威で世を渡るのが自分には向いてない、とその時既に感じていたのだと思いますし、その決断に関しては未だ別に後悔などはしておらず、本当に良かったと思っています。
 てな話をS社・プロデューサーA氏に何となく雑談したところ、

そうですか~、僕は逆に“鎧”で固めて世間に出たかったんですよね~

と自然に返ってきました。別にどちらでもいいのです。考え方・行動は人それぞれなのですから。要は世の中何事も役割分担。各役職にそれぞれ向き不向きがあるだけのこと。「学歴のない奴は、高学歴監督の言うとおりに黙って画を描いて、低賃金労働アニメーターで我慢して、僕の作品のために全てを捧げ続けなさい(そうすれば僕は君に優しくしてあげるから)」とかのマウント思考、そして、そのお陰で手にした権威を振りかざして職人を掌握しようとする考え方が大嫌い! だということです。ちなみにA氏と同席された他2名の方々、皆さん揃っていい大学出身のいわゆる高学歴。その上でマウント思考でなく、自分とウチの会社のやり方(条件)を尊重してくださっています。その頭の良い方々にプロデュースしていただけるのですから光栄な話で、自分は良い作品を作って期待に応えたい——今はそれだけです。

 で、またごめんなさい!チェックの時間になりました!

第249回 やっぱりヤマタケはすごかった 〜魔犬ライナー0011変身せよ!〜

 腹巻猫です。前回『LUPIN ZERO』を取り上げたばかりのタイミングで、ディスクユニオンが展開するCINEMA-KANレーベルから『魔犬ライナー0011変身せよ!』のサウンドトラックCDが発売されました。音楽は『ルパン三世』第1作の山下毅雄。劇中音楽は初商品化! ヤマタケファン待望のリリースです。


 『魔犬ライナー0011変身せよ!』は1972年7月に「東映まんがまつり」の1本として公開された東映動画(現・東映アニメーション)制作の劇場アニメ。同時上映には「仮面ライダー対じごく大使」「変身忍者嵐」「超人バロム・1」といった特撮ヒーロー作品が並ぶ。子どもたちのあいだで「変身ブーム」が盛り上がっていた時期の作品である。タイトルに「変身」の文字が入っているのが時代を反映している。
 198X年、宇宙の侵略者デビル星人は地球に狙いをさだめ、ひそかに侵攻を開始した。異変を察知した科学者・林博士は、デビル星人の攻撃で命を落とした4匹の犬をサイボーグとしてよみがえらせ、息子ツトムにプレゼントする。サイボーグ犬はそれぞれに特殊能力を備え、さらに変形合体してサイボーグ艇ライナー号となるのだ。ツトムはサイボーグ犬と力を合わせてデビル星人に立ち向かっていく。
 この劇場アニメ、ヤマタケファンのあいだでも、ちょっとマイナーな作品である。『ルパン三世』(1971)を手がけた直後の作品であるが、90年代末〜00年代の山下毅雄再評価ブームの際もほとんど話題に上らなかった。サウンドトラックが商品化されていなかったという事情もあるだろう。
 公開当時、筆者は小学生。同じ時期に公開された「ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘」は観ているが、本作は観た記憶がない。怪獣好きだったので、「東宝チャンピオンまつり」に連れていってもらったのだろう。のちに日本コロムビアから発売された「なつかしの長編漫画映画傑作集」(1977)というレコードで本作の主題歌「ゴー!ゴー!ライナー」を聴き、「SFメカアニメとしては変わった曲調だなあ」と思った。本編を観たのはさらにあとになってからだった。現在はdアニメストアやAmazon Prime Videoなどで配信されているので、手軽に鑑賞することが可能だ。
 少年とサイボーグ犬の活躍を描く本作は、SFメカアクションというよりは、ジュブナイルSFの香りがする。未来都市の描写やデビル星人のデザインなど、70年代というより60年代の雰囲気。『鉄腕アトム』の未来像を受け継いだような、懐かしい味わいがある。

 そんな中で異彩を放っているのが山下毅雄の音楽だ。
 山下毅雄のSF作品といえば『スーパージェッター』があるし「ジャイアントロボ」がある。「レッドマン」も手がけている。SFヒーローと縁がないわけではない。『魔犬ライナー0011変身せよ!』というタイトルから『サイボーグ009』みたいな、あるいは「007」シリーズみたいな、スピード感のあるカッコいい音楽が聴けるのでは? と思ってしまう。しかし、その期待は軽く裏切られる。
 冒頭から「プレイガール」みたいな曲なのである。女声スキャットが入ったジャズ。意表をつかれる。作品を観ないでサントラを聴き始めたら「ディスク間違えたんじゃないか?」と思ってしまいそうなくらい。でも面白い。
 本作の公開日は1972年7月16日。TVでは7月8日に『デビルマン』と「人造人間キカイダー」が始まったばかりだった。同じ年に放映される『科学忍者隊ガッチャマン』(10月放映開始)と『マジンガーZ』(12月放送開始)はまだ始まっていない。SFメカニックものや変身ヒーローものの音楽スタイルが確立されていない時期だった。そんなタイミングで誕生した本作の音楽は、SFアクションアニメ音楽の可能性のひとつと考えるといっそう興味深い。
 「魔犬ライナー0011変身せよ! オリジナル・サウンドトラック」の収録曲は以下のとおり。

  1. アバンタイトル
  2. メインタイトル
  3. ツトムと4匹の仲間
  4. 悲しみのツトム
  5. 魔犬ライナー誕生!
  6. 「ゴー!ゴー!ライナー」映画バージョン
  7. 恐怖のデビル星人
  8. 富士山の洞窟
  9. 父とともに戦え!
  10. マンデラスとの死闘
  11. エネルギーが足りない!
  12. 魔犬ライナーの反撃
  13. 「魔犬ライナー」映画バージョン
  14. カウントダウン
  15. 魔犬ライナーの帰還
  16. 「ゴー!ゴー!ライナー」レコード・バージョン
  17. 「魔犬ライナー」レコード・バージョン
  18. 「魔犬ライナー」映画バージョンその2
  19. 「魔犬ライナー」映画バージョンその1
  20. 「魔犬ライナー」映画バージョンその1 カラオケ
  21. 「魔犬ライナー」映画バージョンその2 カラオケ
  22. 「魔犬ライナー」映画バージョンその3 カラオケ
  23. 「ゴー!ゴー!ライナー」映画バージョン カラオケ
  24. 別テイク集その1
  25. 別テイク集その2

 トラック1からトラック15までが劇中使用順に音楽を収録したサウンドトラック。そのあとに主題歌のバージョン違いと別テイク集がまとめられている。
 解説書には構成を手がけた大塩一志氏による詳細な楽曲解説が掲載されているので、そちらを読んでいただくのがいちばん。
 ここからは、筆者が印象に残った曲を紹介しよう。

 トラック1「アバンタイトル」は東映マークからメインタイトルが出るまでに流れる曲。東映マークの音楽からヤマタケサウンド全開で思わず笑ってしまう。続いて、未来都市の夜景とハイウェイを走るエアカーのシーンになり、しゃれたジャズの音楽が流れる。富士山頂気象観測所への場面転換には女声スキャットのブリッジ。観測所に謎のモンスターが現れて所員が襲われるシーンは打楽器のリズムにオルガンやトロンボーンの怪しいフレーズをからめたフリージャズ風音楽。曲だけ聴いていると、子ども向け漫画映画とは思えない。
 トラック2「メインタイトル」はメインタイトルとスタッフ・キャストがクレジットされるタイトルバックに流れる曲。女声スキャットをフィーチャーしたヤマタケジャズである。「『プレイガール』の音楽」と言われても信じてしまいそうだ。これも音楽だけを聴くと「なぜこの曲調?」と思うが、タイトルバックはデビル星人のモンスターが次々と紹介される怪獣映画みたいな映像。相性はばっちりである。
 トラック3「ツトムと4匹の仲間」でがらりと雰囲気が変わり、ブラスと口笛とパーカッションなどがセッションするディキシーランドジャズ風の曲になる。本作の音楽の主要モチーフのひとつである「犬のテーマ」だ。ツトムと犬たちの日常シーンに流れる曲は山下毅雄が手がけた『冒険ガボテン島』や『ガンバの冒険』に通じる明るいタッチの音楽。デビル星人側のサイケデリックな曲とは対照的なサウンドでメリハリをきかせている。デビル星人は昆虫から進化した、人間と対話不能の宇宙人という設定なので、アバンギャルドな音楽が似合う。
 トラック4「悲しみのツトム」は犬たちの死を悲しむツトムの心情描写曲。副主題歌「魔犬ライナー」のメロディが女声スキャットをともなうムーディなジャズ風アレンジで奏でられる。続いて口笛とギターなどによる主題歌「ゴー!ゴー!ライナー」のさみしいアレンジ。感情を強調しすぎない音楽演出がヨーロッパ映画みたいでしゃれている。悲しみをムーディなジャズで表現する手法はトラック9「父とともに戦え!」の林博士の死の場面の曲(M28)でも反復される。
 トラック5「魔犬ライナー誕生!」の終盤に収録された、ツトムがサイボーグ犬とともに父の研究所に急ぐ場面の曲(M16)がいい。「魔犬ライナー」のメロディーをサンバ風にアレンジした『ルパン三世』の音楽を思わせる曲調。短いながら印象に残るナンバーだ。
 デビル星人との対決に向かってドラマが盛り上がる終盤ではアクション曲が多くなる。
 トラック10「マンデラスとの死闘」のカマキリ型モンスター・マンデラスとの戦いの曲(M36)はオルガンと女声ボーカルなどによるグルービーなアフロロック。トラック12「魔犬ライナーの反撃」のカタツムリ型モンスター・エスカルゴンとの戦いの曲(M39)は「LUPIN WALKIN’」をテンポアップしたような軽快なロック。いずれも『ルパン三世』風サウンドでうれしくなる。本作の音楽の聴きどころである。
 ラストに流れる「魔犬ライナーの帰還」(トラック15)は、口笛と女声スキャットをフィーチャーしたスペイシーなラテンロック。映画冒頭の音楽(「アバンタイトル」)と呼応するイメージである。大団円というより狂騒の音楽みたいだ。
 主題歌「ゴー!ゴー!ライナー」と副主題歌「魔犬ライナー」はミディアムテンポの明るいジャズ風の曲。これが山下毅雄がとらえた本作のイメージなのだろう。SFやメカニックよりも、「少年と犬」をイメージした音楽だと思えば、この曲調も納得がいく。
 『魔犬ライナー0011変身せよ!』の音楽は、ストレートにカッコいい、スカッとするというタイプの曲ではない。しかし、ヤマタケ成分100%の、山下毅雄ファンにはたまらない作品である。
 もし本作が1973年や1974年に公開されていたら、音楽のスタイルも違っていただろうか。いや、山下毅雄なら同じ音楽を書いただろう。SFメカアクションであっても、いつものヤマタケサウンドを貫く。それが山下毅雄だし、だからカッコいい。やっぱりヤマタケはすごかった。

魔犬ライナー0011変身せよ! オリジナル・サウンドトラック
Amazon

アニメ様の『タイトル未定』
380 アニメ様日記 2022年9月4日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2022年9月4日(日)
「川本喜八郎 岡本忠成 作品集」(川本喜八郎|岡本忠成 作品集 4K修復版 UHD+Blu-ray)のUHDを4Kモニターで視聴。これは4Kにする意味があったと思う。「おこんじょうるり」と「注文の多い料理店」が特によかった。高額商品だが、4Kマスターを作る予算が含まれていると思えば、この価格は高くはないと思う。
「地球外少年少女プロダクションノート」に目を通す。これはいいな。アニメのメイキング本としては画期的な情報量(資料の量)で、本の作りも面白い。作品完成の10年後や20年後では作ることができない本だろうとも思う。
ANIMUSEの「『王立宇宙軍 オネアミスの翼』展 SPECIAL PROLOGUE」[ https://animuse.jp/pages/anime-museum ]を少し見る。

2022年9月5日(月)
この日の仕事は外部スタッフに渡すための取材原稿の粗まとめ。それから、他は細かい作業が色々。大物原稿に手がつけられないので、仕事をしている感じがあまりない。

2022年9月6日(火)
ワイフとTOHOシネマズ池袋で「さかなのこ」を鑑賞。観るのも楽しいし、語るのも楽しい映画だ。可愛いのんさんを沢山観ることができたのもよかった。男性であるさかなクンの半生を、女性であるのんさん主演で映像化した作品である。主人公のミー坊は男性のようでもあるし、女性のようでもあり、それが物語の中で活きている。女性が演じることでミー坊が「キャラクター化」されている。女性が演じているから、男性の友人達がミー坊を大事にするのが自然に思える。その一方で、危うさもある。「女優のん」としては自身のよさをナチュラルに出せる役でもあったと思う。他の登場人物について言うと、カミソリモミーがよかった。
散歩時にサブスクにあった『ガールズ&パンツァー』関係の楽曲をたっぷり聴いた。

2022年9月7日(水)
ワイフとグランドシネマサンシャインで『劇場版 うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVEスターリッシュツアーズ』を鑑賞。サービス満点の作品であり、かなり極まった作りだ。絵コンテの力か編集の力か分からないけど、カットの繋ぎで面白いところがあった。CGはいいところとそうでないところがあった。記憶違いでなければ、CGスタッフの筆頭が稲野義信さんだった。

2022年9月8日(木)
中村豊Tシャツの告知を開始した。面白い商品になったと思う。
Netflixで『リラックマと遊園地』を観る。Netflixで配信中のアニメの映像をチェックしていて、『範馬刃牙』1話を再見したら、あんまり面白いので12話まで(ドリアンが廃人になるところまで)観てしまう。
アニメスタイルのことばかり考えていたけど、スタジオ雄(編集プロダクション)は今年で30年目だ。来年で30周年。今はスタジオ雄としての活動はほとんどないけど、僕がライターではなくて、チームで仕事をとるようになって30年ということだ。
突然思いついたけど、配信用に新作を作ったら面白いのは『こちら葛飾区亀有公園前派出所』ではないか。正攻法ではなく、エッヂの効いた感じで作っても面白い。

2022年9月9日(金)
『それでも歩は寄せてくる』の最新話。うるしの父親を演じていたのが立木文彦さんで、しかも、子供との和解の話だった。『エヴァ』を観ているようだった(途中から、父親はマダオのようだった)。
グランドシネマサンシャインで『夏へのトンネル、さよならの出口』を鑑賞。僕は楽しんで観ることができた。
ある記事を見たのをきっかけにして、Twitterの自分のプロフィールを10年ぶりくらいに書き直す。ここで書くのも変だけど、僕は株式会社スタイル(出版社)と有限会社スタジオ雄(編集プロダクション)の社長です。

2022年9月10日(土)
ワイフと小石川植物園に行く。小石川後楽園は前にも行ったけれど、植物園は初めて。園内は高低があって、歩いているとピクニックっぽい。仕事関連である本が必要で、本を探すために事務所を片づける。Amazonの梱包を次々に開ける。未整理な本を積み上げる。本は見つかった。大量の本が積み上がった。

小林七郎さんが亡くなられたことを知る。美術監督として素晴らしい作品を残してきた方だ。そして、新たなスタイルを生み出し、多くの後進を育てた。自分自身のことでは言えば、取材で何度もお世話になったし、イベントに来ていただいたこともある。心よりご冥福をお祈り致します。

第790回 必死で修正

毎度のことながら、

今現在、制作中のシリーズで総監督として原画と美術を修正しています!

グロス話数に限らず、上手くいってない原画はできる限り直す努力をします(CLIP STUDIOは原画だけでなく背景も描けます故)。
 で、まずアクション・シーンです。いつの世になろうとも、若手アニメーター、特に男子は“カッコ良いアクション原画”に憧れるものですね。しかも、勢いのある鉛筆タッチのアクション原画に! ウチ(ミルパンセ)の新人も例外ではなく、アニメスタイル様よりいただいた原画集や画集を熱心に見て研究している若手スタッフがいて、俺もちょくちょく「○○さんの原画ってどう思いますか?」的な質問されたりします。その都度、原画について俺自身が教わったことや常々考えていることなどを話すのですが、10年前会社を始めたばかりの時とでは話す内容が多少異なってきました。
 と言うのも、10年前の予想よりずっと早いスピードで“昭和のアニメ制作スタイルの崩壊”が始まったようで、例えば動画の育成でも

動画は“線”に始まり“線”に終わる!
毎日毎日、線と線の間に何本も綺麗な線を引き続けるのが仕事!

的な根性論も、10年前はやっぱり教えてました。自分自身が新人の頃そう習ったので。ところが社内全員デジタル作画に切り替えたところで、ここ数年は

今後、動画作業が自動中割りになるだろうけど、立体の認識や1コマ1コマを画で描くという動画の本質は知っておいた方がいい! で、デジタル仕上げも同時に覚えましょう!

となっていきました。これはあくまで持論ですが——後輩の育成を義務付けられている業界人が、心掛けなきゃならないのは、

若い世代がこれから手にする、もしくはすでに手にしたテクノロジーで画を動かすことの矜持・楽しさを教えること!

だと思います。でないと、アニメ制作(に限らずあらゆるエンタメ産業)の仕事がもっと早いスピードで、全てAIに持っていかれると思います。デジタルに持ち替えてみるとハッキリ気付きます——アニメ業界が「人手不足」だ「働き方改革の弊害」云々言いながら、“人の使い方に本当に無駄が多い”ことに! 単純に言うと、紙(アナログ)作業のスタッフのために“プリントアウトしてタップ貼る”制作進行が何人雇われなきゃならないか? と。「それは制作会社が考えることだから」と仰るアニメーター、そして演出の方々、「じゃ、全原画・全修正用紙をプリントアウト&タップ貼り、同スキャン&タップ貼りに1カット何分掛かって、1日何カットこなさなきゃならないか?」ご存知ですか? とりあえず、それを計算してから「デジタル化は制作の怠慢云々」を発するようにしましょう。少なくとも板垣が知る限り、これ以上“無駄な仕事に対して人員を配置”し続けると、製作費は完全に破綻します。実はスポンサーはアニメ制作工程での無駄(贅肉)部分にすでに気付いているからこそ、製作費をこれ以上上げられないのです。だから、先ずは今年の新人育成が始まる際、間違っても未だに「動画は紙から教えるべき」とか言わないこと!

 あ、そうそう、原画の話でした。つまり、原画でも自分は入社希望の新人らにこう話します。

これからCGの上にディティールを足すような手描き作画仕事が増えると思うけど、将来的にそうなったとしても“画を動かす仕事——アニメーター”をやりたい?

と。要は、これからの視聴者が何を求めるか? から逆算すると、我々昭和型アニメーターのよく謳い上げる「アニメは情報量(線・ディティール)を減らしても、動かしてなんぼ!」とかいった作画矜持は決して視聴者が望んでいるアニメではないのです。これからは、

情報量(線・ディティール)を増やし、且つ崩れずによく動くアニメ!

が求められているのだし、それが当然だと個人的に思っています。だって、生まれた時から3DCGやVRのゲームに慣れ親しんだ子供らが、ブヨブヨ作画な上、碌に動かないアニメに興味示すはずないでしょう!? ここ2~3年、製作委員会は「止めてもいいので、キャラ崩れは絶対NG」「作画崩壊は納品拒否」スタイルで仕事を振ってくる場合が多いし、故に委員会に厳しい目が注がれる中、俺自身も必死で作画も背景も直しまくっている日々で、誇張なく本当に必死です(汗)!

 てトコで、またすみません。チェックの時間なので、

【新文芸坐×アニメスタイル vol. 156】
名作再見!クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険

 今年で30周年を迎える映画『クレヨンしんちゃん』。2月はその映画『クレヨンしんちゃん』シリーズの初期の傑作である第4作『映画 クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険』(1996年)を上映します。

 上映は2回あります。15日(水)はトーク無しの通常上映で、18日(土)は上映後に本郷みつる監督、茂木仁史プロデューサーのトークがあります。なお、貴重な35mmフィルムによる上映となります。また、18日はトークの後に、本郷監督の同人誌「本郷みつる/足跡」の販売を予定しています。

 チケットは開催日の1週間前から発売。チケットの発売方法については、新文芸坐のサイトで確認してください。なお、新型コロナウイルス感染予防対策で観客はマスクの着用が必要。入場時には検温・手指の消毒を行います。

 今まで新文芸坐とアニメスタイルの共同企画はオールナイトのみ、イベントタイトルに通し番号をつけ、レイトショーには通し番号をつけていませんでした。今後はレイトショーが中心になっていくのため、この企画からオールナイトとレイトショーを合算した数字で通し番号をつけることになりました。今回は【新文芸坐×アニメスタイル vol. 156】です。

【新文芸坐×アニメスタイル vol. 156】
名作再見!クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険

開催日

2023年2月15日(水)、18日(土)

開演

15日:20時
18日:19時20分

会場

新文芸坐

料金

15日:一般1500円、各種割引・友の会1100円
18日:一般1800円、各種割引・友の会1400円

トーク出演(18日)

本郷みつる(監督)、茂木仁史(プロデューサー)、
小黒祐一郎(アニメスタイル編集長)

上映タイトル

『映画 クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険』(1996/97分/35mm)

備考

※トークショーの撮影・録音は禁止

●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

アニメ様の『タイトル未定』
379 アニメ様日記 2022年8月28日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2022年8月28日(日)
Amazonから届いたBlu-rayソフトの「リオの男」を、吹き替えで少し観る。山田康雄さんの芝居がどのくらいルパン的なのかを確認したかったのだ。昼はワイフと、偶々席がとれた吉祥寺の肉山に。4ヶ月遅れの誕生日祝いだった。今回も美味しくて満足。肉山の待ち時間などで「犬王 アニメーションガイド」に目を通した。

2022年8月29日(月)
録画してあった「saku saku 2022」を観る。楽しい。月に一度くらいやってほしいくらい。

2022年8月30日(火)
『王様ランキング』のBlu-rayソフトを大きなモニターで視聴。『王様ランキング』はキャラクターがシンプルだし、線もしっかりしているので、配信で観るのとあまり変わらないのではないかと思っていたのだけれど、これが大違い。画がパキッとすると見映えがまるで違う。色使いも分かりやすくなる。これが本来の『王様ランキング』のビジュアルなんだろうなあ(後日追記。後で気がついたのだが、『王様ランキング』はBlu-rayソフトと配信で随分と色が違うようだ)。
久しぶりに遠出をして、ワイフと散歩。日暮里の繊維街をのぞいてから、谷根千に。

2022年8月31日(水)
グランドシネマサンシャインに。吉松さんと一緒に「トップガン マーヴェリック」【4DXSCREEN吹替】を観る。午前8時10分からの回なのにかなりお客が入っていた。4DXで、なおかつScreenXという仕掛けが多い上映だけど、それがこの映画に合っていた。僕的には序盤の没入感が深かった。

2022年9月1日(木)
ワイフとグランドシネマサンシャインに。午前9時からの回で「ブレット・トレイン」【IMAXレーザーGT字幕】を鑑賞。この映画はワイフが観たがっていたので行くことになった。予告から予想した内容の数倍は面白かった。それから、日本の文字を使ったテロップがかっこよかった。特にエンディングがいい。劇中で表示される作品タイトルは「弾丸列車 Bullet Train」で「Bullet Train」よりも「弾丸列車」のほうが大きい。それがデザイン的なものであるのは分かっているけれど、邦題が「弾丸列車」でもよかったのではないかな、と思った。
ワイフの希望で池袋西口の「カレーうどん ひかり TOKYO」でランチをいただく。今まで何度も店の前は通っていて「5人も入れば満員のカウンターだけの店だろう」と思っていたのだけれど、入ってみたら店は広い。しかも、お洒落で美味しい。新しい店かと思ったら歴史のある店だった。

2022年9月2日(金)
WOWOWの『Free!』連続放映を大きめのモニターで視聴。やっぱりWOWOWは映像が綺麗だ。さすがはフルハイビジョン(念のために書いておくと、基本的に地デジはフルハイビジョンではない。また、BSのチャンネルでフルハイビジョンで放送しているのはNHK BSプレミアム、WOWOW、BS11のみのはず)。印象としてはBlu-rayソフトでの視聴に近い。ただし、自分の環境では早い動きでモザイクが起きたりするので、そこはBlu-rayソフトのほうが強いか。
Production I.Gから石川光久さんが会長になり、和田丈嗣さんが社長に就任したという報せが届く。いきなり何かが変わるわけではないだろうけれど、ひとつの時代が終わっていく。

2022年9月3日(土)
「第194回アニメスタイルイベント ここまで調べた片渕監督次回作11【どんどん広がる平安探求編】」を開催した。
散歩中にあることを思いついた。今なら旧『新世紀エヴァンゲリオン』から『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』までの総解説が書けるかもしれない(前にも同じことを書いたような気がする)。
以下は「アニメ大全」についてネガティブなことを書きたいわけではなくて、こういうことになっているというメモとして記しておく。「アニメ大全」だと、『ギャラクシーエンジェル』のタイトル表記は以下のようになっている。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯
ギャラクシー エンジェル
ギャラクシー エンジェル[Z][第2期]
ギャラクシー エンジェル[A][第3期]
ギャラクシー エンジェル S [第3期]
ギャラクシーエンジェル(第4期)
ギャラクシーエンジェル ミュージックコレクション ギャラクシーエンジェる~ん
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯
1期と2期の表記については納得。3期後半の『ギャラクシーエンジェルAA』は無くていいのかとか、シリーズ毎のタイトル表記が整合性がとれてないがいいのかとか、色々と考える。
「アニメ大全」のことだけでなく、『ギャラクシーエンジェル』のタイトル表記は意外と難物だ。少しだけ説明すると、ビデオソフト化の際にタイトルに「Z」や「A」などのアルファベットが足されたのだ。劇中のタイトルロゴは変わっておらず、ソフトの商品名に「Z」や「A」が足されている。ちなみに3期はDVDソフトだと、1話~13回が『ギャラクシーエンジェルA』、14回~26回が『ギャラクシーエンジェルAA』。スペシャルが『ギャラクシーエンジェルS』だ。配信だと、バンダイチャンネルは1話~26回をまとめて『ギャラクシーエンジェルA』としていて、dアニメストアは同じ内容を『ギャラクシーエンジェルA/AA』にしている。dアニメストアは妙に丁寧だ。

第789回 アニメは宇宙!

飛雄馬の右腕が大暴投の唸りを上げている
今週(TMS公式の『新・巨人の星』より)、
1月28日——49歳を迎える板垣です!

 毎年言ってる、同日誕生日を迎える「水島精二監督、西見祥示郎先輩! お誕生日おめでとうございます!」ってことで、いよいよ俺も40代最後に突入。相変わらずのめちゃくちゃな忙しさですが、精神的には年々穏やかになっていってる気がします。
 当然、腹の立つことはありますが、原画描いたり修正してたりすると、なんとなく忘れていきます。

なんでしょう? 30年近く続けてきたアニメーターという仕事、最近ますます面白がっている自分がいることに気付かされているのです!

 原作かオリジナルか? マンガ原作かラノベ原作か? はたまた脚本だコンテだキャラ表だと、前提としてどんな素材があろうとも、そこには“動き”がありません。ところが白紙から原画を描き、動画にして、声が入るとたちまち“生命”が宿ります。このある種“宇宙の誕生”的な感覚——アニメーターをやったことある方なら少なからず一度は感じた喜びではないでしょうか。個人差はあると思いますが、その喜び・快感をいつまでも忘れられない方々が、アニメーターを続けられているのだと信じています。
 この歳になった俺も、自分で描いたカット、もしくは修正したカットのラッシュ(撮影上り)チェックする毎日がいまだに楽しみです。特に今ウチの会社はLO・原画を含む全てがデジタル素材。

ラッシュを見て気に入らないところは、作画・美術問わず自分で直せる!

訳で「あ、これ俺直すから!」と。そういった意味でも49歳になってもまだまだ「楽しく」描けそうです。後はスタジオ(会社)を育て、かつ体力を付けて“企画”を考えたいと思っています。
 これ考え方次第だと思うのですが、自分の場合は“面白いオリジナル企画”を持って各会社を回るには歳が行き過ぎているし、“実績がない”と自覚しています。よしんば何処かの会社が企画を買ってくれたとして、他所(よそ)様の会社・スタッフを統率するのにも、やはり実績がない“監督”という肩書きだけでは、必ずしも現場は言うことを聞いてくれないし、聞く義理すらもある筈もないのです。なぜならそのお借りする会社にもれっきとした“若手監督候補”が在籍している訳で。現実、ファンに知られず表沙汰にならないように、クレジットの“監督”は残したまま、現場で“実質監督”に挿げ替えてなんとか事なきを得たアニメ作品って結構あり、業界人なら大抵そんなタイトルの10本や20本挙げられます。知りたい方は、例えばシリーズで言うならWikipediaなどで各話スタッフ・リストを調べてください。途中から監督自身のコンテ回が消えたり、同スタジオの次作以降、コンテのお手伝いすらしていない場合は「何かがあった?」と想像するに難しくありません。勿論、例外はいくつもある前提の話ですが。

 まあそんな訳で、今は

いただいた企画を丁寧に作り込める現場を育てる!

ことこそが自分の仕事だと思い、頑張っています。で、50歳を迎えるころには自分たちから企画が提案出来る会社になって——いるといいな……(遠い目)。何にしてもまだまだアニメの宇宙は続きそうです。

第248回 音楽のバトン 〜LUPIN ZERO〜

 腹巻猫です。「モリコーネ 映画が恋した音楽家」を観ました。映画音楽作曲家エンニオ・モリコーネの人生と仕事をインタビューと資料映像でふりかえるドキュメンタリー。モリコーネの音楽を聴いてサントラファンになった筆者には、たまらない内容でした。モリコーネの名曲が次々と登場するので、音楽を聴いているだけでも幸せ。映画ファン、映画音楽ファン必見です。


 DMM TVで配信中のアニメ『LUPIN ZERO』がなかなかいい。
 1960年代の日本を舞台にルパン三世の少年時代を描く作品。主人公のルパンは13歳の中学生。泥棒になるつもりがなかったルパンが、「ルパン三世」を名乗るようになるまでが全6話で語られる。アニメーション制作はテレコム・アニメーションフィルム。昭和の「テレビまんが」を思わせるキャラクターやアクションが楽しく、高畑勲と宮崎駿が演出を手がけた『ルパン三世』第1作(旧ルパン)の後半の雰囲気を受け継いだ印象だ。
 音楽は大友良英が担当。『ルパン三世』第1作の山下毅雄の音楽のリメイクをベースに新曲を加えて音楽を構築した。
 『LUPIN ZERO』の音楽作りについて、大友はこう語っている。
 「初代ルパンの音楽は完全には残っていません。アニメについている劇伴の断片をもとに欠けているピースを想像で埋めつつオリジナルに近い感じで録音、さらに『LUPIN ZERO』で必要な新たな要素を、ヤマタケさんへのアンサーのつもりで新たに作り足しました。」(WEBサイト「音楽ナタリー」2022年12月13日)
 このニュースを聞いたとき、「これ以上ない人選だ」と思った。
 大友良英はヤマタケファンを自認し、1999年にはトリビュートアルバム「山下毅雄を斬る」をリリースしている。『ルパン三世』「ジャイアントロボ」『ガンバの冒険』などのヤマタケ作品をリメイクしたアルバムだ。原曲に忠実な再現ではなく、大友流の解釈とアレンジが加えられているのだが、即興演奏を取り入れたサウンドが本家ヤマタケ音楽を思わせ、なかなかの名盤に仕上がっている。
 2002年には、山下毅雄の次男・山下透によるヤマタケルパン音楽のリメイクアルバム「LUPIN THE THIRD TAKEO YAMASHITA Rebirth」もリリースされている。大友良英版とは方向性の異なる名盤で、アバンギャルドな大友版に対し、山下透版はおしゃれでカッコいいジャズ&ロックという印象だ。
 ヤマタケルパン音楽をリメイクするなら、この2人だろうと思っていた。
 しかし、そうであっても、これはなかなかハードルの高い仕事である。
 NHK BSプレミアムで不定期に放送されている「大岡越前」(主演・東山紀之)では、70年代に作られた山下毅雄の音楽(劇伴)をリメイクして使用している。しかし、原曲を忠実に再現しようとすればするほど、ヤマタケらしいサウンドから離れていく。ヤマタケサウンドのかなりの部分がミュージシャンの即興(アドリブ)によって作られているからである。
 山下毅雄の音楽にはきっちりしたスコアがない。メロディだけが決まっていて、おなじみのミュージシャンが山下毅雄の指示に沿って演奏すると、あのヤマタケ音楽になるのだ。
 大友良英はかつて、山下毅雄の音楽作りについてこう書いている。
「彼(=山下毅雄)がより重点をおいたのは録音現場でのハプニングだったのだ。気心の知れた即興演奏の出来る演奏家を集め、時には簡単なモチーフ程度の譜面だけで、ひと番組分の音楽を作ってしまう。メロディだけの譜面を前にした演奏家は、彼の指揮を見ながら自分のパートをその場ででっちあげなくてはならない。(中略)事故のように生まれた偶然のサウンドが生きた音楽に変貌してゆく。いい加減にも見えるこの方法から『悪魔くん』のアバンギャルドな音楽や、『七人の刑事』の緊張感あふれる世界が生まれたわけだ」(「STUDIO VOICE」2001年2月号)
 だが、大友良英なら誰よりも山下毅雄のような音楽作りができるはずだ。もともと前衛的なジャズを得意とし、即興を重視した音楽作りをしていた音楽家なのだから。

 『LUPIN ZERO』の音楽は、かつて大友が作った「山下毅雄を斬る」とはだいぶ印象が異なるものになった。「山下毅雄を斬る」は大友良英のアルバム作品という意味合いが強く、サンプリング音やノイズを加えるなど前衛音楽的な手法も使っている。『LUPIN ZERO』の音楽はもっとシンプルだ。セリフや効果音とぶつからないよう余分な音を省き、映像音楽として機能するよう作られている。
 おそらく、「山下毅雄を斬る」のあとにドラマ「あまちゃん」(2013)や「いだてん」(2019)、劇場アニメ『犬王』(2022)といった、幅広い世代が観る話題作・ヒット作の音楽を手がけた経験が、『LUPIN ZERO』の音楽に反映されているのだろう。
 「山下毅雄を斬る」の曲は「ヤマタケサウンドに挑戦!」みたいな意気込みが感じられるが、『LUPIN ZERO』の曲はすごく楽しそうな、リラックスした音楽なのである。そのリラックスして作っている雰囲気が、「山下毅雄を斬る」以上にヤマタケっぽい。
 本作のサウンドトラック・アルバムは、「LUPIN ZERO オリジナルサウンドトラック Vol.1」が2022年12月25日に、「同 Vol.2」が2023年1月13日に、トムス・ミュージックよりリリースされた。配信のみでCDは発売されていない。
 「Vol.1」の収録曲は以下のとおり。

  1. AFRO “LUPIN’68″ Opening Ver.
  2. 危険なハイウェイ ※
  3. DEEP SUSPENSE&サスペンスB
  4. アクションゼロ ※
  5. ルパン荒野へ ※
  6. ルパン三世主題歌II Slow Vocal Ver.
  7. AFRO “LUPIN’68″ 口笛 Ver.
  8. MOODY AFTERNOON&ハードアフタヌーン
  9. ルパン三世主題歌II Male Vocal Ver.
  10. DARK EYES & Dark.Night
  11. ルパン三世主題歌I Innocent Ver.
  12. AFRO “LUPIN’68″ Arrange Ver.
  13. 不穏 ※
  14. ルパン三世主題歌II Ending 口笛Ver.
  15. リズム&ノイズ ※
  16. ルパン三世主題歌3 ver 1.
  17. LUPIN’S HEART ※
  18. ルパン三世主題歌II Blues Harp Ver.
  19. ルパン三世主題歌I Slow Vocal Ver.
  20. HAPPENING 1
  21. 一件落着&一件落着B
  22. ルパン三世主題歌I Notice Ver.
  23. ルパン三世主題歌II Ending Ver.(歌:七尾旅人)

 ※=大友良英による新曲

 中心になっているのは「ルパン三世主題歌I」「ルパン三世主題歌II」「AFRO “LUPIN’68″」のメロディ。この3曲のさまざまなアレンジが登場し、「旧ルパン」っぽさをかもしだす。といっても、ノスタルジックなサウンドではない。
 勢いのある音楽だ。特にドラムがいい。抜群にいい。
 配信アルバムなのでミュージシャンクレジットは付いてないが、大友良英がtwitterで録音に参加したミュージシャンを紹介している。
 ドラムはモダンチョキチョキズなどに参加していたジャズドラマーの芳垣安洋。大友良英の音楽になくてはならないメンバーとして「あまちゃん」「いだてん」『犬王』などの音楽にも参加している。実はアルバム「山下毅雄を斬る」「LUPIN THE THIRD TAKEO YAMASHITA Rebirth」でもドラムを叩いていた、ヤマタケ音楽リメイクに縁の深いミュージシャンだ。
 エンディングに流れる「ルパン三世主題歌II」(トラック23)は何度もリメイクされている名曲だが、本作ではこれまでのリメイクにない疾走感で演奏されている。ドライブ感満点のドラムが演奏をリードする。
 大人のルパン三世だったら、この疾走感は合わなかったかもしれない。
 しかし、今回は13歳のルパン。ストレートに感情をぶつけ、目標を決めたら全力で向かっていく。少年らしいまっすぐなルパンに、このリズムがぴったりだ。若いルパンだからこそ、シンガーソングライターの七尾旅人によるボーカルが似合う。チャーリー・コーセイではアダルトすぎるだろう。
 その疾走感そのままに、メロディを口笛に変えたトラック14「ルパン三世主題歌II Ending 口笛Ver.」もいい。山下毅雄のオリジナル版にはなかった味わいがある。
 オープニングに流れるのは「AFRO “LUPIN’68″」(トラック1)。山下毅雄の原曲は意外とリズムはあっさりしている。「山下毅雄を斬る」ではアバンギャルドに、「LUPIN THE THIRD TAKEO YAMASHITA Rebirth」ではアダルトなジャズタッチにリメイクされていた。今回はエンディング同様にドライブ感のある演奏になっていて、少年ルパンのイメージと重なる。
 トラック4「アクション ゼロ」は大友良英によるアクション曲。第1話のクライマックスでルパンたちが乗りこんだ船が沈没し始める場面に流れている。ドラムとパーカッション、キーボードのスリリングな競演が聴きものだ。シンプルなメロディをアドリブを生かした演奏でカッコいい音楽に仕上げた、まさにヤマタケ的な楽曲である。
 キーボードとハーモニカは「あまちゃん」「いだてん」『犬王』の録音にも参加した近藤達郎。パーカッションは芳垣安洋の名パートナー・岡部洋一。息のあった演奏が聴ける。
 トラック15「リズム&ノイズ」は芳垣安洋のドラムと岡部洋一のパーカッション、大友良英のギターがセッションする緊張感とグルーヴ感満点のナンバーである。
 エンディング主題歌のメロディを女声スキャットが歌うトラック6「ルパン三世主題歌II Slow Vocal Ver.」は妖しくメロウな雰囲気。ヤマタケルパン好きにはぞくぞくっとするナンバーだ。
 同じメロディを男声スキャットで演奏したのがトラック9の「ルパン三世主題歌II Male Vocal Ver.」。ボーカルはエンディング主題歌の七尾旅人ではなく、百々和宏が担当している。
 『LUPIN ZERO』によく似合うと思ったのが、トラック16「ルパン三世主題歌3 ver 1.」。『ルパン三世』第1作の後期オープニングに使われていたラテン風の楽しい曲である。明るい曲調がルパンと次元のコミカルなアクションにぴったり。第1話ではルパンと次元が歌姫・洋子を連れてヤクザから逃げる場面に流れている。
 トラック17「LUPIN’S HEART」は第1話の中盤、出会って間もないルパンと次元のあいだに友情が芽生え始める場面に使用。6/8拍子のピアノのアルペジオから始まり、サックスがフレーズの断片を奏で、トロンボーンやトランペットが寄りそっていく。とりわけ泣けるメロディではないのに、なんともいえない切ない感情が胸に染みわたっていく。この切なさが、実にヤマタケ的。風変わりな音楽、奇抜な音楽という文脈で語られることが多い山下毅雄作品だが、その核には心を打つメロディがある。それを早くから指摘していたのも大友良英だった。
 同じく6/8拍子(もしくは12/8拍子)のピアノのアルペジオをバックにした「ルパン三世主題歌II Blues Harp Ver.」(トラック18)は、ビブラフォンとブルースハープをフィーチャーしたジャズバラード。オリジナルの山下毅雄版にも同様のアレンジがあるが、本作では映画音楽っぽいムーディな演奏になっている。
 トラック22「ルパン三世主題歌I Notice Ver.」は口笛メロによるスローテンポのアレンジ。ヤマタケといえば口笛というくらい、ヤマタケサウンドにとって口笛は大事な音色だ。口笛演奏は国際口笛コンクール優勝経験もある柴田晶子。「いだてん」の音楽にも参加しているプロの口笛奏者である。この曲は第1話のラスト近く、座礁した船の上でルパンたちがひと息つく場面に流れていた。そういえば、「旧ルパン」ってこういうのんびりムードの曲が似合うシーンが多かったなと思い出す。
 サウンドトラック「Vol.2」も合わせて聴いてもらいたい。オリジナル版で人気があった「SCAT THEME」「Lupin Walkin’」のほか、「YEAH! LUPIN」「TRAGEDY」などを収録。これまでリメイクの機会に恵まれなかった曲も選ばれているのがうれしい。

 『LUPIN ZERO』は今のところDMM TV独占配信なので全話観ている人は少ないかもしれない。が、無料配信されている第1話を観るだけでも、アニメと音楽の相性のよさがわかる。それに、たとえ本編を観てなくても、オリジナルのヤマタケサウンドを知らなくても、きっとこのサントラは楽しめる。
 大友良英は先に引用したコメントに続いて「この世代を超えた音楽のバトンを楽しんでいただけたら幸いです」と語っている。そう、これはリメイクでも再演奏でもない。「ヤマタケ的なるもの」を受け継いだ大友良英による新しいルパンサウンドだ。

LUPIN ZERO オリジナルサウンドトラック Vol.1
Amazon

LUPIN ZERO オリジナルサウンドトラック Vol.2
Amazon

第201回アニメスタイルイベント
作画を語る上で重要なこと・改

 2月12日(日)昼に開催するトークイベントは「第201回アニメスタイルイベント 作画を語る上で重要なこと・改」です。出演はアニメスタイル編集長の小黒祐一郎、アニメーター、演出家として活躍し、さらに作画研究家でもある沓名健一さん、『Sonny Boy』『四畳半タイムマシンブルース』等で監督を務めた夏目真悟さん。「作画を語る」をキーワードにして、いくつかの話をする予定です。

 昨年の12月19日に開催した「第198回アニメスタイルイベント 作画を語る上で重要なこと」では、急病のために小黒が出演することができませんでした。今回のイベントでは、小黒が昨年の12月のイベントで語ることができなかったことを改めて語ります。小黒がメインでトークを進めることになります。

 会場は阿佐ヶ谷ロフトA。お客さんが会場で観覧する形式のイベントですが、トークのメイン部分は配信も行います。配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。

 チケットは1月23日(月)18時から発売。購入方法については、以下のリンクをご覧になってください。

■関連リンク
阿佐ヶ谷ロフトA  https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/241170
会場チケット  https://t.livepocket.jp/e/9vw72
配信チケット  https://twitcasting.tv/asagayalofta/shopcart/212634

第201回アニメスタイルイベント
作画を語る上で重要なこと・改

開催日

2023年2月12日(日)
開場12時30分/開演13時、終演15時~16時頃予定

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

小黒祐一郎、沓名健一、夏目真悟

チケット

会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,500円、当日 1,800円(税込・飲食代別)
ツイキャス配信チケット/1,300円

■アニメスタイルのトークイベントについて
 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。

アニメ様の『タイトル未定』
378 アニメ様日記 2022年8月21日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2022年8月21日(日)
確認することがあって『夏服の少女たち ~ヒロシマ・昭和20年8月6日~』、OVA『ファイナルファンタジー』1話を観る。『ファイナルファンタジー』はゲームのイメージに近いかどうかは置いておいて、ビジュアルが面白い。りんたろう監督の狙いははっきりしている。キャラデザインもいい。ちなみに、リリース当時は「ゲームと違う」ことが気になっていた。

2022年8月22日(月)
今度は『ヒロシマに一番電車が走った』をDVDで観る。「この人に話を聞きたい」の丸山正雄さんの回の本文が仕上がった。

2022年8月23日(火)
原稿を進めながら『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』『:破』『:Q』『シン』を一気観した。

2022年8月24日(水)
「この人に話を聞きたい」のテキストに関して丸山さんのチェックが終了。本文の直しは無く、「この情報を追加してほしい」というオーダーがあり。いい原稿になったと思う。
『明日ちゃんのセーラー服』をBlu-rayソフトと大きなモニターで視聴中。やっぱりよくできている。TVアニメの限界に挑んでいると言っていいくらい。原作を読みながら本編を観て、4話のエンディングだけが縄跳びバージョンだった理由が分かった。

2022年8月25日(木)
新文芸坐で「リオの男」(1964・仏=伊/116分/DCP)を観た。プログラム「アクション! ベルモンド!!」の1本。盛り沢山なアクションもので、洒落たところもある。公開した頃に観たら、今よりもずっと楽しめたのだろうなあ。吹き替えでは山田康雄さんがベルモンドを演っている。吹き替え版を観るためにBlu-rayソフトを購入するかどうかをちょっと考える。
昨日の『継母の連れ子が元カノだった』で「読みたかった昔のラノベ」として東頭いさなが喜んで読んだのが「涼宮ハルヒの憂鬱」だった。確かに20年前の刊行だから「昔の」なんだけど。

ネットで「アニメ大全」が公開された。まずは気になる作品のタイトル表記を確認。『攻殻機動隊』劇場1作のタイトルは『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』、『パトレイバー』劇場1作目のタイトルは『機動警察パトレイバー 劇場版』、劇場2作目のタイトルは『機動警察パトレイバー2 the Movie』になっていた。ふむふむ(後日追記。この後、自分のTwitterのタイムラインで「アニメ大全」がしばらくの間、話題になった)。

2022年8月26日(金)
グランドシネマサンシャインでワイフと「NOPE/ノープ」【IMAXレーザーGT字幕】を観る。IMAXフルサイズの場面は比較的多め。映画としては、というかお話としてはそんなには楽しめなかったのだけれど、「IMAXで観てよかった」と思える場面があったので、それだけでも満足。

先日の『ちびまる子ちゃん』を観ていて「そういえば『ちびまる子ちゃん』のサントラって聴いたことがなかったなあ」と気がついて、AmazonでCD「ちびまる子ちゃん MUSIC COLLECTION」を購入して散歩時に聴いた。よく知っている曲をきちんと聴く喜びがあった。聴き覚えない曲もあり、それも楽しい。トータルで満足感高し。「火事を振り払え永沢くん」とか「愛をつかめ藤木くん」とか曲名も面白い。サントラを聴いた後で、改めて腹巻猫さんの連載を読み返す。しっかりした原稿だ。さすがは腹巻猫さん。

■サントラ千夜一夜 / 腹巻猫(劇伴倶楽部)第50回 まる子の出番だよ! ~ちびまる子ちゃん~
http://animestyle.jp/2015/01/13/8522/

2022年8月27日(土)
土曜昼の焼き鳥屋で吉松さんの誕生日を祝う。たっぷり食べて吞む。吉松さんと渋谷TSUTAYAに行って、VHSレンタルコーナーを見たり。

第788回 いただきました!

 先日アニメスタイル様より、またまた新刊を送っていただきました。どちらも良い本! まず、

『梅津泰臣 KISS AND CRY[資料集]』!!

梅津泰臣監督のキャラクターデザイン&イメージボード集! さすがに巧い! キャラも完成画面のイメージもド直球に伝わりますが、やはり本編——もちろん、劇場アニメーションで観たいものです。梅津さんと言うと自分、お会いしたことはないのですが過去に一度、梅津監督のTVシリーズに制作経由でコンテ・演出で声が掛かったのを思い出します。その制作が学生時代の同期なもので、「是非やらせて——」といい返事をしかけたのですが、当時『砂ぼうず』制作中かつ初監督『BLACK CAT』が控えていたため、結局断らざるを得ず、本当に申し訳ございませんでした! 当時の制作N君もごめんなさい!

 で、もう一冊が

『機動戦士GUNDAM逆襲のシャア 友の会』!!

「この本をもう一度手にできるとは!」と感激に震えるほどの名著の復刻!
1993年にこれまた学友(現在某撮影会社にて撮影監督をしている友人)から、「これ、めちゃめちゃ読み応えあるから読んで!」と無理矢理貸された本著。庵野秀明監督が『逆シャア』スタッフ&業界著名人に敢行したロングインタビューで、言われたとおり確かに抜群の読み応えでした。熟読して返却したものの、それから数年後急に読み返したくなり、アニメ様・小黒祐一郎編集長に「あの『逆シャア』本、もう手に入りません?」とお訊きしたところ、確か「もうウチにもないよ~」と言われてガッカリしたものです(でしたよね、小黒さん?)。
 という訳で今回の復刻は本当に嬉しく思います。まず、裏表紙に挙げられてる名前の豪華さは改めて驚愕!

富野由悠季——會川昇・あさりよしとお・幾原邦彦・出渕裕・井上伸一郎・内田健二・大月俊倫・押井守・北爪宏幸・ことぶきつかさ・此路あゆみ・サムシング吉松・鈴木敏夫・鶴田謙二・永島収・早見裕司・ふくやまけいこ・藤田幸久・美樹本晴彦・むっちりむうにい・山賀博之・結城信輝・ゆうきまさみ(アイウエオ順)
——責任編集 庵野秀明(以上敬称略)

現在制作中のシリーズが落ち着いたトコで、じっくり読みたいと思います。ちなみに、自分も富野由悠季監督作品の中では『逆シャア』がいちばん好きです!
 あと、話は飛びますが、一所懸命TVシリーズの制作に取り組んでいる現在、放映中の新作アニメを観る時間がほとんどありません。そんな中、観たい時間に手軽に観れるYouTube——TMS(トムス・エンタテインメント)公式で毎週上がっている『新・巨人の星』が密かに……と言うか、かなり楽しみになっています。
 『新・巨人の星』は1977〜78年放送の、俺が3歳の時のTVアニメ。流石にリアルタイムで、たとえ観ていたとしても記憶にあるはずがなく、つい最近まで毎月買っていた“ぴあDVDBOOKシリーズ『巨人の星』全16巻”からの続きの気分で毎週視聴中(毎週4話分ずつの全話配信)。
 特にスポ根というジャンルが好きと言うよりは、好きなのは“昭和”の方。『新・巨人~』も破天荒な反則技の応酬に「いやいや、ちゃんと野球しなさい!」とツッ込むなんて野暮ってもので、昭和の庶民の望みは野球ルール云々の細かいことよりも“毎週毎週の新しい驚き”こそが最も必須ってことで、令和の世では考えられない強引な感情劇、そして転がりまくるストーリー展開に目が離せません。お馴染みの旧作オープニング曲のリメイクも良いのですが、なんと言ってもエンディングが最高! 梶原一騎先生の詞「よ~みがえれ~、よ~みがえれ~」の繰り返しに、昭和TV番組の毎週締めにある、そこはかとなく何処か物悲しい“二度と返って来ない一日の終わり”感が漂ってて切なくて本当に良い!!
 ま、今回も誰も興味がなさそうな話題ですみませんでした。だって、まだ新作の話を語る訳には行かないもので。

アニメ様の『タイトル未定』
377 アニメ様日記 2022年8月14日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2022年8月14日(日)
コミックマーケット100の2日目。ブースは編集部のスタッフに任せて、自分は遅い時間に会場に行く。
今日の『ONE PIECE』は1029話 映画連動エピソード「淡い記憶 ルフィと赤髪の娘ウタ」。山内重保さん演出回で、とてもよかった。間の取り方、あるいは空気感の表現が素晴らしい。劇場版は既に観ているのに、この後のウタのことを応援したくなるくらいよかった。脚本がどうなっているのかが気になる。あまりにもよかったので山内さんにLINEを送ったら、すぐに返信がきた。

2022年8月15日(月)
8月14日(日)放映の『サザエさん』Bパートで、また、好きな食べ物を聞かれたワカメが「ご飯のおこげのところと、お魚の目玉。それから、お茶に梅干し入れて飲むの」と言っていた(「アニメ様日記」2018年11月12日(月)の項も参考 http://animestyle.jp/2018/11/27/14690/ )。
14時からZoomで佐藤裕紀さんの取材(後日追記。「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア 友の会[復刻版]」のリーフレットのための取材だった)。
新文芸坐で「血と砂」(1965/132分/35mm)を観る。先日の「どぶ鼠作戦」と同じく、プログラム「映画を通して歴史や社会を考える 反骨の映画作家・岡本喜八の流儀」の1本。鑑賞したのはこれも30年ぶりくらい。「面白かった」という記憶だけがあったが、今回の再見でも面白かった。三船敏郎、佐藤允もいいが、それに負けないくらい、お春を演じた団令子がよかった。とにかく映画充した。
朝の散歩時にサブスクにあった『天空のエスカフローネ』サントラの1、3を聴いた。何故かその時は2が見つからなかった。

2022年8月16日(火)
前に購入して観ていなかったBlu-rayソフトで『THE IDEON 接触篇』『同・発動篇』(『THE IDEON A CONTACT』『THE IDEON Be INVOKED』)を視聴。新作パートの映像は非常に鮮明で「まるで目の前にセルがある」ようだった。それはそれとして、やっぱりながら観する映画ではないと思った。それから観るなら深夜がいいかも。

2022年8月17日(水)
朝9時から地方在住の編集者と電話で打ち合わせ。彼女には東京在住時にも、地方に行ってからも、アニメスタイルの仕事を手伝ってもらっていた。随分と助かっていたけれど、アニメスタイルの仕事を引退することになった。残念だけど、仕方がない。
買い物時にサンシャインシティの「シン・ウルトラマン」のウルトラマンの10mバルーンの前で写真を撮る。15時に病院に行って3度目のワクチンを打ってもらう。

2022年8月18日(木)
仕事が一段落したワイフの休養のため、久しぶりにドーミーイン池袋に連泊している。朝食ビュッフェで料理を取るときのビニール手袋がなくなっていた。ホテルのスタッフに確認したところ、「(手袋を)つけなくてもよくなったんですよ」とのこと。それから、久しぶりに事務所近くの中華料理屋で食事をしたところ、カウンターで客と客の間にあった仕切りがなくなっていた。大丈夫なのか、とちょっと思った。個々のホテルや店への不満ではなくて、記録として記しておく。
新文芸坐で「TITANE/チタン」(2021・仏/108分/DCP/R15+)を観る。強烈な映画だったけれど、一緒に観たワイフが「最近、観た映画の中で一番面白かった。楽しかった。主人公が可愛かった」と言っていたのが印象的。「面白かった」は分からなくはないけど「楽しかった」の? 「可愛かった」の?

2022年8月19日(金)
先日、取材をした佐藤裕紀さんが東京にいらした。食事をご一緒させていただく。

2022年8月20日(土)
ロフトプラスワンで「第193回アニメスタイルイベント 中村豊 ファン・ミーティング」を開催。今回のイベントのポイントは「ミーティング」的な感じになるかどうかで、それについて、ちょっとだけ工夫をした。安藤真裕監督と大薮芳広プロデューサーの「中村愛」とお客さんからのメッセージがとてもよかった(安藤監督のコメントは、配信がないパートがまさしく「ラブコール」という感じ。顔を合わせていても、普段は言わないようなことを言ってくださった)。会場に来ていない大平晋也さんのコメントもよかった。

第787回 そんなわけで

 シリーズ制作中に別の仕事(イラスト)を受けるとこうなるって例!!
 すみません。仕事が多すぎて手が追い付いておらず、今年も始まったばかりなのに、“お茶濁し”。やっぱり仕事、断りたくないんです。今回いただいたイラストの仕事も面白そうだったので「自分でよければ是非に!」と己から前のめりで受けた訳だし。
 この連載に初期の頃からお付き合いして頂いてる方々(いる?)であればお気づきかも知れませんが、板垣が30代~40代入ってから~そして、50代目前の現在——確実に“口数が減っている”ことにお気づきかと思います。現場の話は依然としてネタにしますが、業界人の話とか、他者のアニメ作品の批評的な感想とか、意識的にしないようにしています。なぜなら、今の歳まで代表作のひとつも作れていない自分に語る資格などないと思っているからです(そこらへんの自制はきく人間です)。

だから、先ず目の前のあらゆる仕事から逃げずに、成果を出すこと! それができないうちは俺程度のアニメ監督兼アニメーターに訊きたい話など、お客さんにとってある筈がないと思っているから、とにかく“デカい口を叩かない”!

で、黙々と描き続けます。今年も——いや、50代になっても!

第200回アニメスタイルイベント
ANIMATOR TALK 今石洋之&吉成曜

 ついにアニメスタイルのトークイベントも第200回を迎えます。記念すべき第200回のゲストはアクション系アニメーターであり、監督として『プロメア』『サイバーパンク: エッジランナーズ』等を手がけた今石洋之さん。そして、アニメーター、デザイナー、イラストレーターとして幅広く活躍し、監督として『リトルウィッチアカデミア』『BNA ビー・エヌ・エー』を手がけた吉成曜さん。

 今回のイベントのテーマは「アニメーターが語るアニメーター」です。お二人が影響を受けたアニメーターを中心にトークを展開する予定です。会場はLOFT/PLUS ONE。トークの前後に「今石洋之アニメ画集」「吉成曜画集 イラストレーション編」のサイン本を販売する予定です。

 お客さんが会場で観覧する形式のイベントですが、トークのメイン部分は配信も行います。配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。

 チケットは1月14日(土)午前10時から発売。購入方法については、以下のリンクをご覧になってください。

■関連リンク
LOFT/PLUS ONE
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/plusone/239961

第200回アニメスタイルイベント
ANIMATOR TALK 今石洋之&吉成曜

開催日

2023年1月22日(日)
開場12時半、開演13時、終演15時~16時頃予定

会場

LOFT/PLUS ONE

出演

今石洋之、吉成曜、小黒祐一郎

チケット

会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,500円、当日 1,800円(税込・飲食代別)
ツイキャス配信チケット/1,300円

■アニメスタイルのトークイベントについて
 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。

第247回 子どもたちのリアル 〜かがみの孤城〜

 腹巻猫です。新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
 年末年始に観た劇場作品の中で、とりわけ心に残った作品が『かがみの孤城』でした。大学生時代、児童文学研究会に顔を出していた筆者には、ひときわ刺さるものがありました。富貴晴美さんの音楽がすごくよかった。
 今回はそのお話。


 『かがみの孤城』は2022年12月に公開された劇場アニメ。辻村美月の同名ベストセラー小説を原恵一監督、 A-1 Pictures制作でアニメ化した作品である。
 学校に通えなくなり、家に引きこもっていた中学1年生の少女・こころ。ある日、こころの部屋の鏡が突然光りだし、こころは鏡の中に吸い込まれてしまう。鏡の向こうにあったのは、孤島にそびえる城。狼の面をかぶった少女・オオカミさまに導かれて、こころは6人の少年少女に引き合わされた。オオカミさまによれば、この城のどこかに「願いの部屋」があり、その部屋に入る鍵を見つけることができれば、どんな願いも叶うのだという。こころたちは、とまどいながら城で時間を過ごし、鍵を探し始める。
 異世界ファンタジーか? と思わせる出だしだが、そう思って期待するような大冒険にはならない。こころたちは鏡を通っていつでも元の世界に帰ることができる。「通える異世界」というのが『ナルニア国物語』みたいで面白い。しだいに、城は子どもたちの心の寄りどころになっていく。
 ちりばめられた謎が解き明かされ、子どもたちの真実が明らかになる終盤の展開はドラマティックで感動的。子どもから大人まで、幅広い世代の人に観てほしい作品だ。
 音楽は原恵一監督とは4作目のタッグとなる富貴晴美。といっても、1作目の「はじまりのみち」は実写作品、2作目の『百日紅』は富貴が途中で体調を崩し、音楽の大半を辻陽が補った。劇場アニメでがっつり組むのは『バースデー・ワンダーランド』に続いて2作目である。

 2022年の富貴晴美はアニメ作品の活躍がめざましかった。劇場アニメ『鹿の王 ユナと約束の旅』『夏へのトンネル、さよならの出口』、TVアニメ『新米錬金術師の店舗経営』、それに本作と、4作品を担当している。たまたま公開年が同じになったのかもしれないが、実写作品よりアニメが多いのは珍しい。
 本作の音楽を聴いて、「富貴晴美はやはり映画の人だなぁ」と思った。TV用の溜め録りの音楽でもよい曲をたくさん聴かせてくれるが、映像に合わせて作曲する映画音楽のほうが本領発揮の印象がある。作品全体を通しての音楽の構成や演出意図を的確に汲み取った音楽作りがみごとで、まさに水を得た魚のようだ。
 それだけではない。『鹿の王 ユナと約束の旅』では異世界ファンタジーらしい壮大でエスニカルな音楽、『夏へのトンネル、さよならの出口』ではリズムやシンセサイザーを多用した現代的な音楽と、作品によってスタイルやサウンドを変えている。
 『かがみの孤城』は生楽器主体のクラシカルな編成の音楽。異世界ファンタジー的な壮大な曲も一部あるが、子どもたちの日常や繊細な心情を描く小編成の曲が中心である。中盤まではしっとりした心情曲とユーモラスな曲が入れ替わり登場して飽きさせない。終盤は子どもたちの気持ちの昂りを表現するドラマティックな曲が多くなる。クライマックスに向かって徐々に気持ちを高めていく音楽設計がすばらしい。
 本作のサウンドトラック・アルバムは公開の2日前、12月21日に配信(ダウンロード&ストリーミング)とCD(SHOCHIKU RECORDSレーベル)でリリースされた。収録内容は同じで、全35曲。作品の中で使用された全楽曲を収録している。

  1. 奇跡が起こりますように
  2. The Solitary Castle
  3. 7人の子供たち
  4. 城の中
  5. かがみの外へ!
  6. こころ
  7. ティータイム
  8. 穏やかな城
  9. クッキーとウレシノ
  10. 悲しみ
  11. ゲームタイム
  12. ほっとする人
  13. とまどい
  14. 喜多嶋先生
  15. 願いの鍵探し
  16. 怖い記憶
  17. 溢れる涙
  18. 雪科第5中学
  19. 理解なき担任
  20. クリスマスとケーキ
  21. みんなは…?
  22. リオン
  23. マサムネの推理
  24. オオカミ様
  25. Friendship
  26. 5時を過ぎて狼が
  27. ×のありか
  28. 大時計への階段
  29. 全員の真実
  30. かがみの孤城
  31. 秘密の答え
  32. 姉ちゃん
  33. いつかどこかで
  34. 未来へ歩き続けて

 1曲目の「夢」は導入部に流れる短いピアノ曲。
 こころのモノローグからタイトルが出るシーンのトラック2「奇跡が起こりますように」で、本作のメインテーマのメロディが提示される。
 次の「The Solitary Castle」は城としての「かがみの孤城」のテーマ。こころが初めて城を訪れる場面に流れる曲だ。女声コーラスをともなった壮大なイントロから民族音楽風の曲調に展開する。異世界ファンタジーを思わせる音楽だが、すぐにオオカミさまが現れ、コミカルな曲調に変わる。このメリハリの付け方がうまい。
 トラック4「7人の子供たち」は7人の子どもたちが初めて勢ぞろいする場面に流れる曲。ファンタジー風味のミステリアスな曲想で「何が起きているのか?」と謎めいた雰囲気を強調する。
 しかし、緊張感は長くは続かない。次の場面で、ユーモラスな「城の中」(トラック5)が流れてほっとさせる。子どもたちが城の中で過ごす場面では、のんびりした曲や穏やかな曲がたびたび流れて「居心地よさ」を表現している。「こころ」(トラック7)、「ティータイム」(トラック8)、「穏やかな城」(トラック9)、「クッキーとウレシノ」(トラック10)、「ゲームタイム」(トラック12)などだ。子どもたちの心がほぐれていくシーンであり、音楽が果たす役割も大きい。
 子どもたちの切ない心情を表現する曲もいい。富貴晴美は心に染みるメロディを次々と繰り出して、観客の気持ちをゆり動かす。「とまどい」(トラック14)、「喜多嶋先生」(トラック15)、「理解なき担任」(トラック20)、「みんなは…?」(トラック22)などなど。子どもたちの悲しみや動揺を表現するだけでなく、音楽としても美しい曲に仕上げている。曲によって楽器編成を変えて、同じような印象にならないようにしているのも、うまいなあと思うところだ。
 映画音楽らしい「ライトモティーフ」の手法(特定の人物や状況に同じメロディを割り当てる技法)も使われている。
 サッカーが得意な少年・リオンとこころの交流のシーンに流れる「ほっとする人」(トラック13)と「リオン」(トラック23)は同じメロディで書かれている。「ほっとする人」ではピアノと中低音域の弦でやさしく演奏されていたメロディが、「リオン」では弦合奏による豊かな音色で奏でられ、こころとリオンの気持ちがより近くなったことが示される。映画音楽の醍醐味を感じさせる演出である。
 ライトモティーフの例をもうひとつ。冒頭の曲「夢」と同じメロディがあとでもう一度登場する。たぶん本作の物語の核心に触れる部分だろうから説明は控えるが、作品を観たあとで、サウンドトラックを聴きながら確認してほしい。「なるほど」と思わせる趣向だ。
 メインテーマの使い方にも注目したい。すでに紹介したように、初めてメインテーマのメロディが現れるのは2曲目「奇跡が起こりますように」。それからしばらくメインテーマは使われず、映画の中盤、トラック18「溢れる涙」でふたたび現れる。こころの心情が大きく変化する重要なシーンだ。
 次にメインテーマが現れるのはクライマックスに流れる「大時計への階段」(トラック29)。以降は、「かがみの孤城」(トラック31)、「秘密の答え」(トラック32)、「いつかどこかで」(トラック34)、「未来へ歩き続けて」(トラック35)と、堰を切ったようにメインテーマのアレンジが続く。
 本当に大事な場面でしか使わず、しかし、重要なシーンでは控えることなく積極的にメインテーマを打ち出していく。これも(くり返しになるが)映画音楽の醍醐味であり、音楽にとっても幸せな使われ方だと思う。富貴晴美はこのメインテーマが決まるまでに12回も書き直したそうである。なかなかOKをくれなかった原恵一監督も最後には絶賛してくれたそうだ。
 メインテーマのバリエーションの中でも「かがみの孤城」とタイトルがつけられたバージョンは、もっとも重要なシーンに流れる曲。女声スキャット(ボーカリーズ)と躍動的なリズムが印象的なアレンジだ。劇中のほかの曲はクラシカルなタッチで書かれているのに、この曲だけはポップス的なアレンジになっていて驚かされるが、それだけに印象に残る。こういうセンスもうまいと思うところである。
 「かがみの孤城」と並ぶ本作の音楽の聴きどころが「全員の真実」(トラック30)。なんと9分超え、10分近い長さの曲である。子どもたちの真実が明らかになる、心をゆさぶる場面。原監督は9分あまりの一連の場面を「1曲で包んでほしい」とオーダーしたそうだ。富貴晴美は次々と展開する映像に合わせて曲調を変化させながら、しっかりとひとつの曲として音楽を作り上げている。映画を観ているあいだは、どうしても映像や物語に集中してしまうが、2度目に観る機会があれば、ぜひ音楽にも耳を傾けてもらいたい。

 筆者はこの作品を劇場で2回観た。
 最初に観たときは、感動しつつも、音楽のスケール感が少し気になった。たとえば、「The Solitary Castle」「かがみの外へ」「5時を過ぎて狼が」「×のありか」といった曲は、ほかの曲よりも壮大でボリューム感のある音楽になっている。「ロード・オブ・ザ・リング」みたいな本格的異世界ファンタジー風とでも言おうか。本作のテーマや物語のスケールを考えると、壮大すぎるのではないか。もう少し抑えめの、繊細な音楽のほうがふさわしいのではないかと思ったのだ。
 しかし、一晩寝て、考え直した。
 これでよかったのだ。日常で生きづらい思いをしている子どもたちが、いきなり見知らぬ城の中に放り出される。現実にはありえない試練に向き合い、挑むことになる。音楽のスケールが大きいのは、子どもたちの心の中の衝撃や恐怖感の反映だ。それはたぶん、子どもたちが現実の世界でさまざまな不条理に出会ったときの感情と同じなのだろう。こころの回想シーンに流れる「怖い記憶」(トラック17)という曲が、やはり非日常的なスケール感で書かれていることからも、それは明らか。この音楽が子どもたちのリアルなのである。

映画『かがみの孤城』オリジナル・サウンドトラック
Amazon

配信版(各種サービスへのリンク)
https://lnk.to/kagami_ost