COLUMN

第791回 裸と鎧

 先日、某S社の——もう10数年の付き合いになるプロデューサーA氏と外食でした。次のさらに次作品(シリーズ)の関係で、よくある打ち合わせから流れてのお食事会。お久し振りにお互いの近況報告・確認、それプラス業界四方山を語り散らしつつの食事を楽しみました。
 そこでの雑談。俺が過去に某アニメ会社社長に向かって「勝ち組には付き合えない」と言って、その会社を離れたという話をしました。「はあ、何でまた?」とA氏。で、俺の“主義”の話に。ちなみにその時話題にした“俺が離れた某アニメ会社”は、現在、新卒者らが最も就職したいアニメ会社のひとつになり立派に勝ち名乗りを上げております。おめでとうございます。それはそれでいいのです。
 つまり、どうやら40年以上生きて分かった自分自身の性格と言うか、主義と言うか。ハッキリ分かったのでハッキリ言います。

勝ち組、権威、それに付随した金持ちとかになりたくない!

らしいのです、俺は。
 だって、自分が勝ったとすると、必ず負ける人がどこかにいます。自分が多くお金を貰えば低賃金で働かされている人が必ずどこかにいます。特に後者はアニメの現場が正にそうなりがちで、ろくに絵コンテも直さず右から左に流すだけのくせに、“監督”を名乗ってるだけで1話あたり●●万持って行き、さらに何シリーズも同時に掛け持ちで月●●●万荒稼ぎとか。それは勝ち組になった者の特権なのでしょうか? それ、俺はできない性格だということ。自分だけいいギャラ貰って、動画マンは単価で食うか食われるか? 想像しただけで、たとえ自分がそれなりのお金が貰えても、家買ったり車買ったりってできません。やっぱり、贅沢するなら役職上の誰と誰~の特権階級だけなく、“会社丸ごと”に限ります、あくまで自分の場合は。
 テレコム退社後から今まで、あちこちの会社を渡り歩いた中でも、社員だ拘束だと誘っていただいたり、「僕だったら、板垣さんに年収●●●万以下になんかさせません」と言ってくださったプロデューサーさんもいましたが、「自分はそんな格ではありませんので」と丁重にお断りして、今日までやってきました。で、どこにいても勝ち組になりそうになった会社からは、作品の切れ目ごとに自ら出て行っています。多分、それが板垣の性分です、と。
 さらに話は転がって「学歴主義・権威主義が嫌い!」話へ。自分ら世代はまごうことなき受験世代。中学生から高校は受験勉強あるのみ。「受験に勝ちさえすれば生涯安泰!」を本気で信じて、周りの学友らは勉強勉強の毎日でした。何せ我々団塊ジュニア(第二次ベビーブーム)最多と言われる1973年(板垣は1974年の早生まれ)、自分も一応当時は「進学校」と呼ばれる“大学に進学するのが当たり前”の高校に入学したので、周りの同級生らが皆、揃って少しでも良い大学へ進学を希望していたのです。そんな中、自分は行っても芸大、画が描けるなら専門学校で上等、という考えでした。で、河合塾美術研究所という所で芸大受験に向けて鉛筆デッサンやったりしていたのですが、周りの受講生は半分が1浪、中には2浪も当たり前。つまり、芸大の座席の空き待ち(に見えました)。「要は画で食えるようになれば良い」と考えていた自分は、浪人してまで“大学”に拘る気は更々なく、両親に相談もなく受験自体を止めて、無試験の専門学校に入学したのでした。

自分の腕一本で食っていく将来なら“裸”で結構!
学歴と言う“鎧”は俺には不要!

と。学歴や権威で世を渡るのが自分には向いてない、とその時既に感じていたのだと思いますし、その決断に関しては未だ別に後悔などはしておらず、本当に良かったと思っています。
 てな話をS社・プロデューサーA氏に何となく雑談したところ、

そうですか~、僕は逆に“鎧”で固めて世間に出たかったんですよね~

と自然に返ってきました。別にどちらでもいいのです。考え方・行動は人それぞれなのですから。要は世の中何事も役割分担。各役職にそれぞれ向き不向きがあるだけのこと。「学歴のない奴は、高学歴監督の言うとおりに黙って画を描いて、低賃金労働アニメーターで我慢して、僕の作品のために全てを捧げ続けなさい(そうすれば僕は君に優しくしてあげるから)」とかのマウント思考、そして、そのお陰で手にした権威を振りかざして職人を掌握しようとする考え方が大嫌い! だということです。ちなみにA氏と同席された他2名の方々、皆さん揃っていい大学出身のいわゆる高学歴。その上でマウント思考でなく、自分とウチの会社のやり方(条件)を尊重してくださっています。その頭の良い方々にプロデュースしていただけるのですから光栄な話で、自分は良い作品を作って期待に応えたい——今はそれだけです。

 で、またごめんなさい!チェックの時間になりました!