COLUMN

第248回 音楽のバトン 〜LUPIN ZERO〜

 腹巻猫です。「モリコーネ 映画が恋した音楽家」を観ました。映画音楽作曲家エンニオ・モリコーネの人生と仕事をインタビューと資料映像でふりかえるドキュメンタリー。モリコーネの音楽を聴いてサントラファンになった筆者には、たまらない内容でした。モリコーネの名曲が次々と登場するので、音楽を聴いているだけでも幸せ。映画ファン、映画音楽ファン必見です。


 DMM TVで配信中のアニメ『LUPIN ZERO』がなかなかいい。
 1960年代の日本を舞台にルパン三世の少年時代を描く作品。主人公のルパンは13歳の中学生。泥棒になるつもりがなかったルパンが、「ルパン三世」を名乗るようになるまでが全6話で語られる。アニメーション制作はテレコム・アニメーションフィルム。昭和の「テレビまんが」を思わせるキャラクターやアクションが楽しく、高畑勲と宮崎駿が演出を手がけた『ルパン三世』第1作(旧ルパン)の後半の雰囲気を受け継いだ印象だ。
 音楽は大友良英が担当。『ルパン三世』第1作の山下毅雄の音楽のリメイクをベースに新曲を加えて音楽を構築した。
 『LUPIN ZERO』の音楽作りについて、大友はこう語っている。
 「初代ルパンの音楽は完全には残っていません。アニメについている劇伴の断片をもとに欠けているピースを想像で埋めつつオリジナルに近い感じで録音、さらに『LUPIN ZERO』で必要な新たな要素を、ヤマタケさんへのアンサーのつもりで新たに作り足しました。」(WEBサイト「音楽ナタリー」2022年12月13日)
 このニュースを聞いたとき、「これ以上ない人選だ」と思った。
 大友良英はヤマタケファンを自認し、1999年にはトリビュートアルバム「山下毅雄を斬る」をリリースしている。『ルパン三世』「ジャイアントロボ」『ガンバの冒険』などのヤマタケ作品をリメイクしたアルバムだ。原曲に忠実な再現ではなく、大友流の解釈とアレンジが加えられているのだが、即興演奏を取り入れたサウンドが本家ヤマタケ音楽を思わせ、なかなかの名盤に仕上がっている。
 2002年には、山下毅雄の次男・山下透によるヤマタケルパン音楽のリメイクアルバム「LUPIN THE THIRD TAKEO YAMASHITA Rebirth」もリリースされている。大友良英版とは方向性の異なる名盤で、アバンギャルドな大友版に対し、山下透版はおしゃれでカッコいいジャズ&ロックという印象だ。
 ヤマタケルパン音楽をリメイクするなら、この2人だろうと思っていた。
 しかし、そうであっても、これはなかなかハードルの高い仕事である。
 NHK BSプレミアムで不定期に放送されている「大岡越前」(主演・東山紀之)では、70年代に作られた山下毅雄の音楽(劇伴)をリメイクして使用している。しかし、原曲を忠実に再現しようとすればするほど、ヤマタケらしいサウンドから離れていく。ヤマタケサウンドのかなりの部分がミュージシャンの即興(アドリブ)によって作られているからである。
 山下毅雄の音楽にはきっちりしたスコアがない。メロディだけが決まっていて、おなじみのミュージシャンが山下毅雄の指示に沿って演奏すると、あのヤマタケ音楽になるのだ。
 大友良英はかつて、山下毅雄の音楽作りについてこう書いている。
「彼(=山下毅雄)がより重点をおいたのは録音現場でのハプニングだったのだ。気心の知れた即興演奏の出来る演奏家を集め、時には簡単なモチーフ程度の譜面だけで、ひと番組分の音楽を作ってしまう。メロディだけの譜面を前にした演奏家は、彼の指揮を見ながら自分のパートをその場ででっちあげなくてはならない。(中略)事故のように生まれた偶然のサウンドが生きた音楽に変貌してゆく。いい加減にも見えるこの方法から『悪魔くん』のアバンギャルドな音楽や、『七人の刑事』の緊張感あふれる世界が生まれたわけだ」(「STUDIO VOICE」2001年2月号)
 だが、大友良英なら誰よりも山下毅雄のような音楽作りができるはずだ。もともと前衛的なジャズを得意とし、即興を重視した音楽作りをしていた音楽家なのだから。

 『LUPIN ZERO』の音楽は、かつて大友が作った「山下毅雄を斬る」とはだいぶ印象が異なるものになった。「山下毅雄を斬る」は大友良英のアルバム作品という意味合いが強く、サンプリング音やノイズを加えるなど前衛音楽的な手法も使っている。『LUPIN ZERO』の音楽はもっとシンプルだ。セリフや効果音とぶつからないよう余分な音を省き、映像音楽として機能するよう作られている。
 おそらく、「山下毅雄を斬る」のあとにドラマ「あまちゃん」(2013)や「いだてん」(2019)、劇場アニメ『犬王』(2022)といった、幅広い世代が観る話題作・ヒット作の音楽を手がけた経験が、『LUPIN ZERO』の音楽に反映されているのだろう。
 「山下毅雄を斬る」の曲は「ヤマタケサウンドに挑戦!」みたいな意気込みが感じられるが、『LUPIN ZERO』の曲はすごく楽しそうな、リラックスした音楽なのである。そのリラックスして作っている雰囲気が、「山下毅雄を斬る」以上にヤマタケっぽい。
 本作のサウンドトラック・アルバムは、「LUPIN ZERO オリジナルサウンドトラック Vol.1」が2022年12月25日に、「同 Vol.2」が2023年1月13日に、トムス・ミュージックよりリリースされた。配信のみでCDは発売されていない。
 「Vol.1」の収録曲は以下のとおり。

  1. AFRO “LUPIN’68″ Opening Ver.
  2. 危険なハイウェイ ※
  3. DEEP SUSPENSE&サスペンスB
  4. アクションゼロ ※
  5. ルパン荒野へ ※
  6. ルパン三世主題歌II Slow Vocal Ver.
  7. AFRO “LUPIN’68″ 口笛 Ver.
  8. MOODY AFTERNOON&ハードアフタヌーン
  9. ルパン三世主題歌II Male Vocal Ver.
  10. DARK EYES & Dark.Night
  11. ルパン三世主題歌I Innocent Ver.
  12. AFRO “LUPIN’68″ Arrange Ver.
  13. 不穏 ※
  14. ルパン三世主題歌II Ending 口笛Ver.
  15. リズム&ノイズ ※
  16. ルパン三世主題歌3 ver 1.
  17. LUPIN’S HEART ※
  18. ルパン三世主題歌II Blues Harp Ver.
  19. ルパン三世主題歌I Slow Vocal Ver.
  20. HAPPENING 1
  21. 一件落着&一件落着B
  22. ルパン三世主題歌I Notice Ver.
  23. ルパン三世主題歌II Ending Ver.(歌:七尾旅人)

 ※=大友良英による新曲

 中心になっているのは「ルパン三世主題歌I」「ルパン三世主題歌II」「AFRO “LUPIN’68″」のメロディ。この3曲のさまざまなアレンジが登場し、「旧ルパン」っぽさをかもしだす。といっても、ノスタルジックなサウンドではない。
 勢いのある音楽だ。特にドラムがいい。抜群にいい。
 配信アルバムなのでミュージシャンクレジットは付いてないが、大友良英がtwitterで録音に参加したミュージシャンを紹介している。
 ドラムはモダンチョキチョキズなどに参加していたジャズドラマーの芳垣安洋。大友良英の音楽になくてはならないメンバーとして「あまちゃん」「いだてん」『犬王』などの音楽にも参加している。実はアルバム「山下毅雄を斬る」「LUPIN THE THIRD TAKEO YAMASHITA Rebirth」でもドラムを叩いていた、ヤマタケ音楽リメイクに縁の深いミュージシャンだ。
 エンディングに流れる「ルパン三世主題歌II」(トラック23)は何度もリメイクされている名曲だが、本作ではこれまでのリメイクにない疾走感で演奏されている。ドライブ感満点のドラムが演奏をリードする。
 大人のルパン三世だったら、この疾走感は合わなかったかもしれない。
 しかし、今回は13歳のルパン。ストレートに感情をぶつけ、目標を決めたら全力で向かっていく。少年らしいまっすぐなルパンに、このリズムがぴったりだ。若いルパンだからこそ、シンガーソングライターの七尾旅人によるボーカルが似合う。チャーリー・コーセイではアダルトすぎるだろう。
 その疾走感そのままに、メロディを口笛に変えたトラック14「ルパン三世主題歌II Ending 口笛Ver.」もいい。山下毅雄のオリジナル版にはなかった味わいがある。
 オープニングに流れるのは「AFRO “LUPIN’68″」(トラック1)。山下毅雄の原曲は意外とリズムはあっさりしている。「山下毅雄を斬る」ではアバンギャルドに、「LUPIN THE THIRD TAKEO YAMASHITA Rebirth」ではアダルトなジャズタッチにリメイクされていた。今回はエンディング同様にドライブ感のある演奏になっていて、少年ルパンのイメージと重なる。
 トラック4「アクション ゼロ」は大友良英によるアクション曲。第1話のクライマックスでルパンたちが乗りこんだ船が沈没し始める場面に流れている。ドラムとパーカッション、キーボードのスリリングな競演が聴きものだ。シンプルなメロディをアドリブを生かした演奏でカッコいい音楽に仕上げた、まさにヤマタケ的な楽曲である。
 キーボードとハーモニカは「あまちゃん」「いだてん」『犬王』の録音にも参加した近藤達郎。パーカッションは芳垣安洋の名パートナー・岡部洋一。息のあった演奏が聴ける。
 トラック15「リズム&ノイズ」は芳垣安洋のドラムと岡部洋一のパーカッション、大友良英のギターがセッションする緊張感とグルーヴ感満点のナンバーである。
 エンディング主題歌のメロディを女声スキャットが歌うトラック6「ルパン三世主題歌II Slow Vocal Ver.」は妖しくメロウな雰囲気。ヤマタケルパン好きにはぞくぞくっとするナンバーだ。
 同じメロディを男声スキャットで演奏したのがトラック9の「ルパン三世主題歌II Male Vocal Ver.」。ボーカルはエンディング主題歌の七尾旅人ではなく、百々和宏が担当している。
 『LUPIN ZERO』によく似合うと思ったのが、トラック16「ルパン三世主題歌3 ver 1.」。『ルパン三世』第1作の後期オープニングに使われていたラテン風の楽しい曲である。明るい曲調がルパンと次元のコミカルなアクションにぴったり。第1話ではルパンと次元が歌姫・洋子を連れてヤクザから逃げる場面に流れている。
 トラック17「LUPIN’S HEART」は第1話の中盤、出会って間もないルパンと次元のあいだに友情が芽生え始める場面に使用。6/8拍子のピアノのアルペジオから始まり、サックスがフレーズの断片を奏で、トロンボーンやトランペットが寄りそっていく。とりわけ泣けるメロディではないのに、なんともいえない切ない感情が胸に染みわたっていく。この切なさが、実にヤマタケ的。風変わりな音楽、奇抜な音楽という文脈で語られることが多い山下毅雄作品だが、その核には心を打つメロディがある。それを早くから指摘していたのも大友良英だった。
 同じく6/8拍子(もしくは12/8拍子)のピアノのアルペジオをバックにした「ルパン三世主題歌II Blues Harp Ver.」(トラック18)は、ビブラフォンとブルースハープをフィーチャーしたジャズバラード。オリジナルの山下毅雄版にも同様のアレンジがあるが、本作では映画音楽っぽいムーディな演奏になっている。
 トラック22「ルパン三世主題歌I Notice Ver.」は口笛メロによるスローテンポのアレンジ。ヤマタケといえば口笛というくらい、ヤマタケサウンドにとって口笛は大事な音色だ。口笛演奏は国際口笛コンクール優勝経験もある柴田晶子。「いだてん」の音楽にも参加しているプロの口笛奏者である。この曲は第1話のラスト近く、座礁した船の上でルパンたちがひと息つく場面に流れていた。そういえば、「旧ルパン」ってこういうのんびりムードの曲が似合うシーンが多かったなと思い出す。
 サウンドトラック「Vol.2」も合わせて聴いてもらいたい。オリジナル版で人気があった「SCAT THEME」「Lupin Walkin’」のほか、「YEAH! LUPIN」「TRAGEDY」などを収録。これまでリメイクの機会に恵まれなかった曲も選ばれているのがうれしい。

 『LUPIN ZERO』は今のところDMM TV独占配信なので全話観ている人は少ないかもしれない。が、無料配信されている第1話を観るだけでも、アニメと音楽の相性のよさがわかる。それに、たとえ本編を観てなくても、オリジナルのヤマタケサウンドを知らなくても、きっとこのサントラは楽しめる。
 大友良英は先に引用したコメントに続いて「この世代を超えた音楽のバトンを楽しんでいただけたら幸いです」と語っている。そう、これはリメイクでも再演奏でもない。「ヤマタケ的なるもの」を受け継いだ大友良英による新しいルパンサウンドだ。

LUPIN ZERO オリジナルサウンドトラック Vol.1
Amazon

LUPIN ZERO オリジナルサウンドトラック Vol.2
Amazon