小黒 佐藤さんは『おジャ魔女どれみ♯』(TV・2000年) 15話(通算66話)「母の日とお母さんのにがお絵」でも、矢田君の話を演出されますが、矢田君担当だったんでしょうか。
佐藤 母の日の話でしょ。
小黒 そうです。関先生も母子家庭だったということが分かるんです。
佐藤 この話は、ちょっとデリケートなところもある話だったので「お前がやれ」っていうことで、やることになったんじゃないかな。
小黒 ご自分から立候補したわけではないんですね。
佐藤 うん。
小黒 ところで『どれみ』を、五十嵐(卓哉)さんと2人でシリーズディレクターをなさったのはどうしてなんですか。
佐藤 『魔法使いTai!』のTVシリーズが動いていたので、『どれみ』に張り付くことができないっていうこともあったけど、『どれみ』がオリジナルだから、アイデアを出す脳みそは1つでも多いほうがよいと。ディレクターを2人体制にしてほしいっていうのは制作にお願いしていたけど、なかなかOKが出なくって。「前例がないからダメだ」って言われたんだけど、説得に説得を重ねて、企画プロデューサーの関さんからも制作に言ってもらって、2人体制にすることができたんです。五十嵐を推したのは、現場をちゃんと仕切ってくれる人が欲しいということと、アイデアを出す人が自分より少し若い世代で欲しいっていうこともありましたね。
小黒 五十嵐さんは、現場のまとめ役でもあったんですね。
佐藤 うん。
小黒 佐藤さんは、『#』でシリーズディレクターから外れて、各話の演出として参加されていますが、シリーズ構成の打ち合わせには出てるんですね。
佐藤 最初だけバンダイに行って、「次のシリーズどうするの?」という段階で立ち会ったぐらいで、基本的な構成の話にはあんまり関わってない。
小黒 なるほど。1年目のシリーズは各話のレイアウトをチェックをしていたとうかがいましたが。
佐藤 7話ぐらいまでは全カットを回してもらってたと思う。「スルーするかどうかはこっちで判断してスルーするので、1回全部回して」というふうにしてもらったんじゃなかったかな。
小黒 『どれみ』らしい芝居の付け方とかキャラの崩し方を、そこで統一したわけですね。
佐藤 基本的にはそう。オリジナル作品で、ベースになるものが何もないので「このシリーズはこんな感じでいきますよ」っていうことを演出に分かってもらうためのチェック。
小黒 それが作品にプラスに働いたわけですね。
佐藤 演出するほうも迷い迷いやってるんだけど、1回監督の手が入れば、方向性が分かるじゃない。方向が分かったら次からもやりやすいので、必要なことかなと思ってやりました。
小黒 佐藤さんは『#』は途中で離脱し、『も~っと!おジャ魔女どれみ』(TV・2001年)で戻ってくるわけですね。
佐藤 そういえば、『(おジャ魔女どれみ)ドッカ~ン!』(TV・2002年)はやってないのか。
小黒 『ドッカ~ン!』はやってないですね。その『も~っと!』で絵コンテを担当したのが20話(通算120話)「はじめて会うクラスメイト」です。引きこもりの女の子の三部作の1本目ですよね。これも脚本のプランには参加してないんですか。
佐藤 してないですね。ちょっとデリケートな回だからという理由で、こちらに振ってきたんだと思うけどね。
小黒 じゃあ脚本をもらって、絵コンテを描いてと。
佐藤 そう。さっき話題になった「母の日とお母さんのにがお絵」は、ホン読みに出た記憶もうっすらあるけど、ちょっと覚えていないですね。
小黒 『どれみ』で離脱する理由は、『魔法使いTai!』のTVシリーズが始まったからですね。
佐藤 そうだね。
小黒 正式に東映の所属でもなくなると。
佐藤 2000年にハルフィルムメーカー所属になるので、その前に外れてるんだよね。
小黒 ということは、『魔法使いTai!』をやってる時の所属は東映なんですか。
佐藤 フリーですね。1年ぐらいフリーの時期があった。
小黒 なるほど。ここでアニメファンらしいことを聞きたいんですけど、『魔法使いTai!』の茜ちゃんって、おんぷちゃんのルーツじゃないですか。
佐藤 いや、それは思ったことはないですね。そう見えます?(笑)
小黒 魔法少女チームの中の小悪魔系で。
佐藤 小悪魔系だよね。
小黒 どちらも、学校に行きつつ芸能活動やっていて、いけない魔法を使おうとしてみんなに止められるポジションです。しかも、演じているのは、茜ちゃんがセイントフォーの岩男潤子さん、そして、おんぷちゃんが宍戸留美さんと、どちらもアイドル出身の方が声をやってるという。
佐藤 ああ、そんなに符合しましたか(笑)。
小黒 ええ。茜ちゃんを小学生にすると、おんぷちゃんになるぐらいの勢いですよ。
佐藤 (笑)。いや、そう思ってはやってないけれども、きっとキャラクターを作る時に選んだパーツが似てるんだよね。
小黒 おんぷちゃんって、出てきた途端に完成されてるんですよね。描いているうちに育っていった感じじゃないんです。それが不思議だなと思ってたんですけど、元があったんだ! と。
佐藤 ああ。
小黒 キャラが育っていったと言えば、はづきちゃんは初登場した時って毒舌キャラなんですよ。思ったことをズケズケと言ってどれみが傷ついたりして。
佐藤 はいはい。はづきのそのあたりこそどっかにベースありそうだけどね。
小黒 多分ね、はづきちゃんって『ちびまる子ちゃん』のたまちゃんだと思うんですよ。
佐藤 ああ、たまちゃんの方向かもしんないね。
小黒 たまちゃんは毒舌じゃないんだけど、言ったことがグサッとくることはありじゃないですか。
佐藤 あるある。
小黒 去年のイベントの前に『どれみ』を観直して、「これはたまちゃんだ!」「佐藤さんが『まる子』をやった成果が表れているんだ!」と思ったんですよ。
佐藤 (笑)。なんの悪意もなく言ったことが、ピンポイントでグサッといっちゃう人ってイメージが、最初の頃のはづきにはあったんだよね。そういうセリフを脚本に入れてもらっていた気がする。
小黒 おんぷちゃんに関しては、意識はしてないと。
佐藤 意識してないし、キャラクター造形は山田さんがやっていると思うんです。当然のように、学校で掃除をしないで帰ったりするじゃないですか。ああいうところも含めて、山田さんの中には、ちょっと自分勝手なアイドルというイメージがあったんじゃないかな。
小黒 何をやっても要領がよく、器用にこなしちゃうってところも、茜ちゃんとおんぷちゃんは、一緒なんですよ。
佐藤 主人公に対するカウンターパートな感じが、同じなんじゃない。主人公が成績がよくなかったり、ドジだったりするのに対して、できる子が1人欲しいよねっていうことで、立ってる場所が似てるんだろうね。おんぷちゃんに関しては、後半のシリーズを回すにあたって作られたキャラクターだしね。
小黒 最初は仲間になるかどうかも微妙な感じですよね。
佐藤 初期段階では、おんぷちゃんの「お」の字もないんだよね。
小黒 今や『魔女見習いをさがして』の劇中でも「やっぱりおんぷちゃんファンなんだ」と言われるぐらいの人気ですよ。
佐藤 そうそう。紫のキャラは強いのかな、とか色んなことを思ったりするね。
●佐藤順一の昔から今まで(22) TV『まほTai!』と『プリーティア』 に続く
●イントロダクション&目次
6月4日に劇場公開された『映画大好きポンポさん』は杉谷庄吾【人間プラモ】の同名マンガを映像化した劇場アニメーション。クリエイターの才気が迸った意欲作です。
アニメスタイルではこの映画のトークイベントを開催します。トークの出演は平尾隆之監督と松尾亮一郎プロデューサー。他のゲストは決まり次第、告知します。『映画大好きポンポさん』についてたっぷり語っていただきましょう。
開催日は6月19日(土)で、会場は新宿のLOFT/PLUS ONEです。今回も配信を行います。先行してロフトグループによるツイキャス配信を行い、その後にアニメスタイルチャンネルで配信します。なお、配信はイベントの全てではなく、メインパートのみになるかもしれません。
チケットは6月8日(火)18時から発売。チケットは「会場でのイベント観覧+ツイキャス配信視聴」と「ツイキャス配信視聴」の2種類を用意します。アニメスタイルチャンネルでの配信は、同チャンネルの会員の方が視聴できます。チケットに関して詳しくは、以下にリンクしたLOFTグループのページをご覧になってください。
LOFT/PLUS ONEを含むLOFTの会場は厚生労働省が定めた、新型コロナウイルス感染症に関するガイドラインを遵守し、さらにガイドラインよりも厳しいLOFT独自の基準を設けて、万全を期してイベントを開催しています。
来場されるお客様にはマスクの着用、手指の消毒をお願いしています。消毒液は会場に用意してあります。また、体調の優れないお客様は来場をお控えください。
■関連リンク
『映画大好きポンポさん』公式サイト
https://pompo-the-cinephile.com/
LOFTグループのイベントページ
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/plusone/181664
アニメスタイルチャンネル
https://ch.nicovideo.jp/animestyle
第176回アニメスタイルイベント
『映画大好きポンポさん』を語ろう!
開催日
2021年6月19日(土)
開場11時30分 開演12時 終演15時予定
会場
LOFT/PLUS ONE
出演
平尾隆之(監督)、松尾亮一郎(プロデューサー)、小黒祐一郎(アニメスタイル編集長・聞き手)
チケット
会場での観覧+ツイキャス配信視聴/1,500円 ツイキャス配信視聴のみ/1,300円
■アニメスタイルのトークイベントについて
アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。
編集長・小黒祐一郎の日記です。
2021年3月14日(日)
温かくなってきたので、久しぶりにワイフと早朝散歩に。去年歩いたコースを歩いて、馴染みの猫達に挨拶をする。新文芸坐で「TAAF2021 短編コンペティション スロット3」を観る。映像的に面白い作品が多く、楽しめた。13時からZoom打ち合わせ。その後は、配信でTAAF2021の「『SHIROBAKO』 から見るP.A.WORKS の想い」を流しつつ、原稿作業。
2021年3月15日(月)
打ち合わせで『22/7』(ななぶんのにじゅうに)と『ななか6/17』(ななかじゅうななぶんのろく)がゴッチャになって「ななかななぶんのにじゅうに」と言ってしまって、しかも、話題になっているのは『22/7』でも『ななか6/17』でもなかった。アニメのタイトルは難しい。
2021年3月16日(火)
日曜と同じく、ワイフと早朝散歩。これからはなるべく、早朝にワイフと歩くつもりだ。午前中は自分の原稿を進められたが、午後は他の作業が入って、原稿は後まわしに。ハードディスクに残っていた録画で、WOWOWプラスの『THE IDEON A CONTACT 接触 篇』と『THE IDEON BE INVOKED 発動 篇』を流し観。やはり湖川さんにとって、一世一代の仕事だなあ。最後に富野監督のインタビューが付いていた。
大塚康生さんが亡くなられたことを知る(亡くなられたのは15日)。言うまでもなく、日本を代表する偉大なアニメーターだ。多くのクリエイターと作品を大きな影響を与えている。心よりご冥福をお祈り致します。
2021年3月17日(水)
主に「この人に話を聞きたい」の原稿作業。確認することがあって『映画ドラえもん のび太の新恐竜』、『ハチクロ』7話を繰り返し再生。『新世界より』19話も改めてチェックする。
Web展開を始めた「Febri」に武井克弘プロデューサーのインタビューがあり、その中で『機動戦艦ナデシコ』が話題になり、「今考えると、プロスペクターみたいな大人に憧れて、プロデューサーになった気もします」という発言があって驚く。『機動戦艦ナデシコ』はファンが大勢いる作品だから、影響を受けた人がいてもおかしくないけれど、新鮮な驚きだった。武井さんは大学の卒論で『少女革命ウテナ』について書いているそうで、確かその話は前にご本人からもうかがっている。
2021年3月18日(木)
「この人に話を聞きたい」の本文を正午までに仕上げて社内チェックに。Zoom打ち合わせを挟んで「この人に話を聞きたい」本文以外の原稿を進める。夕方は赤羽で吉松さんと呑む。事務所に戻って20時までデスクワーク。
「川元利浩アニメーション画集」の見本が事務所に届く。自分で言うのもおかしいけれど、画集(イラスト集)は豪華な仕上がり。原画集は作っている過程では「ちょっと小さな本」という印象だったのだけど、できあがると決して小さくはない。A4判だから当然なんだけど。デザイン画集はB4判。『血界戦線』『ノラガミ』『ゴールデンボーイ』は元のデザイン画を原寸サイズで収録した。まるで目の前に生の鉛筆画があるようで非常に満足。
2021年3月19日(金)
東急ハンズの池袋店が9月下旬に閉店することを知る。これは寂しいなあ。自分の中では「困った時にはこの店」だった。
2021年3月20日(土)
午前中はワイフと公園をめぐる花見散歩。最初が上池袋さくら公園で、次が上池袋公園。池袋駅前公園で缶のハイボールを呑んで、昼飯を買ってから東池袋公園に。12時過ぎに事務所に戻って、原稿とZoom打ち合わせ。
アニメスタイルにいた岡本敦史君が「映画秘宝」の編集長になったことを知って驚く。これからはちゃんと「映画秘宝」を買うことにしよう。
小黒 そして、『夢のクレヨン王国』制作中に『どれみ』の準備が始まると。
佐藤 そうだね。
小黒 これは、企画段階で相当練り込んだ作品ということになるんでしょうか。
佐藤 『どれみ』に関してはそうだね。僕が入った時に決まっているのは「次はオリジナルで魔法少女ものをやることになったのよ」ということだけでした。だから、どういう魔法少女ものにするか、というところから関わっています。東映の作品は、プロデューサーとライター、あとはTV局のプロデューサー、おもちゃメーカーで大枠を決め込んでからディレクターが参加することが多かったけど、『どれみ』は、その大枠を決める段階から参加できたんです。
小黒 準備期間は長かったんですか。
佐藤 関さんとしては「オリジナルを作ることができる」というところにたどり着くまでに長い闘いがあったんだろうと思うけど、自分や(シリーズ構成の)山田隆司さんが呼ばれてからの期間は、そんなには長くなかったと思います。
小黒 「主人公達は魔女見習い」という基本の部分は、佐藤さん達のアイデアも入ってるんですね。
佐藤 そう。当然議論はしながらだけどね。魔法少女ものにするんだけど、主人公を幼稚園児にするか小中学生にするかという辺りから色々議論しています。最初の段階で、カラーリングとか性格が被らないようにするために、人数は3人くらいがいいよねと話しています。魔法のギミックに関して僕のほうから出したのは「魔法のエネルギー源みたいなものをスティックに入れると魔法が使える、それが無くなったら使えなくなる。そのエネルギー源を得るためにお店をやっている」といったところかな。
小黒 馬越(嘉彦)さんをキャラクターデザイナーに推したのは佐藤さんですか。
佐藤 それは関さんでしょうね。オーディションしたかどうかは覚えてないけど。馬越君は、俺よりも関さんのほうが付き合いが長いので。
小黒 関さんと馬越さんはかなり長いですよね。
佐藤 うん。関さんは、オリジナルをやるんだったら馬ちゃんで勝負したいと思ってたんじゃないかな。
小黒 佐藤さんが「手足を棒のようにしたい」とか「誰でも描けるキャラクターにしたい」というふうに提案したんですね。
佐藤 そうそう。東映で、しかも、TVシリーズでやるんだったら、描きやすいキャラクターがいい。悪い言い方になるけれど、巧いアニメーターばかりが参加するわけではないですから。最初に馬ちゃんが描いた画は当然上手だし、元気なキャラクターになっていたんだけど、少しリアルだったんだよね。体、腕とか足の凹凸がきっちりあって、これをみんなに「元気な女の子らしく描け」って言うのは難しいものだったんです。誰が描いても間違いなく元気一杯なキャラクターになるように「棒にしてください」とお願いをした記憶がある。
小黒 どれみちゃんがステーキが好きだけど、毎回食べられないというのは佐藤さんっぽいですけど、どうなんですか。
佐藤 あれは山田さんでしょうね。
小黒 そうなんですか。
佐藤 でも、その辺は定番じゃない? 好きなものと嫌いなものを何にするっていう話は、主人公を設定を決める時、議題に上がったかもしれないね。じゃあ、ステーキにしようか。それともたこ焼きにする? とか色々あるじゃない。
小黒 それを延々と引っ張るのが佐藤さんらしいと思っていました。
佐藤 山田さんもそうなんじゃない(笑)。だって、好きなものを1話で出したら、ずっと食べれないのが鉄則じゃん。
小黒 『魔女見習いをさがして』でも、ステーキを食べそうになって、結局食べれなかったから「あ、まだ引っ張ってる!」と思いました。
佐藤 (笑)。飛騨牛寿司は食べたから、今回はなんとか食べることができたけどね。
小黒 一応、肉は食べたと。
佐藤 1回は食べそこなってもらわないと。だから、そこはお約束かな。魔女界の女王様のクレジットを「?」にしておくのは、最初にアイデアとしては出てたんだけど、最後まで引っ張ることになるとは、当時は誰も思ってなかったと思うんだけどね(編注:キャストが誰なのかが分かると、魔女界の女王様とあるキャラクターが同一人物だと分かってしまうため、第4シリーズ『おジャ魔女どれみドッカ~ン!』50話まで配役が「?」と表示されていた)。
小黒 あの「?」だって東映だと初ですよね。要するに「月光仮面」とか、ああいった番組のネタですよね。
佐藤 そうそう、そういうやつですよ。
小黒 これは前にも聞いた時に「違う」と言われたんですけど、最初の『魔法使いサリー』や『ひみつのアッコちゃん』には悲劇的な話や感動的な話があったじゃないですか。『どれみ』で、ああいう感じを取り入れようという意図はあったんですか。
佐藤 それはなかったけど、多分、山田さんのほうにやりたいものがあった。これは僕の記憶であって、正確ではないかもしれないんだけど、教育テレビか何かで児童向けのドラマを書いてる時に、例えば「片親の家庭の話はやめてくれ」と言われたことがあったらしくて。山田さん的にはそういった話をきちんと子供達に観せたいという意識があったんだと思っていた。僕のほうでは、いい話が沢山書かれるだろうと思ったけれども、子供達は「いい話が観られるからアニメを観る」わけではないじゃない。つまり「楽しいから」「面白いから」「笑えるから」観るんだよね。「観たら、いい話だった」はアリなんだけど、いい話だけだと観てくれないから、笑いとか楽しさをこちらサイドで補強していきたかった。シナリオ会議でも、笑えるネタをなるべく出していくように意識的にやっていたけどね。
小黒 ああ、そうか。佐藤さんがお笑い回をやることが多かったのは、偶然じゃないんですね。
佐藤 そうなんだよね。いい話は、ちゃんと演出すればいい話になるんだけど、ギャグ回を笑わせるようにするのはなかなかハードルも高いので。
小黒 佐藤さんは、八太郎とスルメ子さんの話をやることが多かったですよね。
佐藤 そうね(笑)。あれはシナリオにもあった話だと思うけど。
小黒 放映当時、佐藤さんに「ある作品を意識している」と言われたことを、この前のイベント(編注:2019年11月9日(土)に開催された「第163回アニメスタイルイベント 馬越嘉彦の仕事を語る!3」)で改めて確認したら「それは意識してない」と言われたんですよ。
佐藤 そんなことがあったのね(笑)。
小黒 ええ。放映当時に矢田君のトランペットはドラマ「飛び出せ!青春」の高木を意識している。だから、埠頭でトランペット吹くんだ、と言われたんですよ。「飛び出せ!青春」の高木はトランペットは吹かなかったと思いますが、それを聞いた時、昔のドラマ風という意味だと思いました(編注:高木がギターを弾く場面はある)。
佐藤 記憶にないなあ。そんなことを意識したかなあ(笑)。
小黒 佐藤さんの演出回ではないですが、元祖MAHO堂と本家MAHO堂の話があったんですが(20話「ライバル登場!MAHO堂大ピ~ンチ!!」)、これも「飛び出せ!青春」ネタだよねと。
佐藤 「飛び出せ!青春」と思ってやった記憶はないけど、スタッフのみんなに刷り込まれてるんじゃないの?
小黒 『おジャ魔女どれみナ・イ・ショ』(OVA・2004年)のタイヤキの回(7話「タイヤキダイスキ!~親子のないしょ~」)でも、本家と元祖の話が出てくるので「佐藤さん、またやってる」と思ったんですが。
佐藤 それも定番ネタのつもりで書いてるんじゃないかな。シナリオライターさんが書いたネタである可能性も高いし(笑)。
●佐藤順一の昔から今まで(21)『魔法使いTai!』の愛川茜と『おジャ魔女どれみ』の瀬川おんぷ に続く
●イントロダクション&目次
編集長・小黒祐一郎の日記です。
2021年3月7日(日)
13時から配信イベント「アニメスタイルTALK ここまで調べた片渕須直監督次回作【基礎知識編】」を開催。事前に告知していなかったけれど、ゲストとして前野秀俊さんにも出演していただいた。予想以上に濃い内容で、しかも、前回よりもまとまったトークとなった。今回は片渕さんのパソコンから、直接配信の画面に資料を出力する形式で、視聴者がモニターで全画面表示にするとクリアに資料を見ることができる。これは新鮮だったけど、クリアすぎるんじゃないのかとハラハラした。無観客イベントだが、コントレールのスタッフに観客として会場に入ってもらった。若い人ばかりで、学校の先生になったみたいだった。イベント終了後はすぐに解散。池袋に戻ってワイフと食事。イベントの打ち上げのつもりでちょっと吞む。
2021年3月8日(月)
深夜に出社し、散らかり放題になっていた事務所2階の片づけに着手。片づけ中と朝の散歩時に、気持ちを高めるために『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』歴代サントラを聴く。今さらだけど「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序 オリジナルサウンドトラック」って、ボーナストラックに三石琴乃さんの「You are the only one」「蒼いレジェンド」「Fall in Star」が入っているのね。いずれも「Lilia~from Ys~」の曲のはず。自分がこれらの曲をちゃんと聴いたのはTV『新世紀エヴァンゲリオン』LDの解説書を作った時以来だ。
11時から社内Zoom打ち合わせ。次の次の次の次くらいの書籍の企画についても話す。ワイフとグランドシネマサンシャインで「シン・エヴァンゲリオン劇場版」【IMAXレーザーGT版】を鑑賞。予想していた内容とかなり違っていた。そして、見事に完結していた。『エヴァンゲリオン』がこういったテイストになったことが最大の驚きだった。細部に関してはよく分からないところがあったし、自分の考えがまとまるのもしばらく先になりそうだ。鑑賞後はワイフと焼肉屋に行って、生ビールで完結を祝った。
『BORUTO NARUTO NEXT GENERATIONS』の最新回189話「共鳴」が凄まじいまでのクオリティ。そして、脚本/絵コンテ/演出でクレジットされている名前が「・・」。つまり、点がふたつなのである(記号の小さい四角がふたつかもしれない)。匿名ということなんだろうけど、何者? 「#189キャラクターデザイン/作画監督」でクレジットされているのは夘野一郎さん。
2021年3月9日(火)
デスクワークの後、新文芸坐で「家族の肖像 デジタル完全修復版」(1974・伊=仏/121分/DCP)を観る。プログラム「芸術と魂を高め合った二人の巨匠 フェリーニとヴィスコンティ」の1本。内容をほとんど知らないで観たのだけど、タイトルから受ける印象とは随分と違っていた。セットというか美術が圧巻。自分が長生きして、改めて観たら主人公の教授に感情移入できるかもしれない。鑑賞後にWikipediaを見たところ、吹き替え版では副主人公のコンラッドを野沢那智さんが演じていたらしい。それはいいなあ。機会があったら観てみたい。
衣装製作が追い込みのワイフのために、すき家の「初号機オム牛カレー オニオンスープセット」を買って帰る。『エヴァ』コラボの「外食5チェーン共同作戦」のひとつ。クリアファイルは綾波だった。
Amazon prime videoで『UFOロボ グレンダイザー』を1話から9話までながら観。小松原さんの作監回はいいなあ。画だけでなくて、芝居もいい。『UFOロボ グレンダイザー』を1話から順に観たのは『機動戦艦ナデシコ』(『ゲキガンガー3』)の作業をやっていた時以来だ。
2021年3月10日(水)
なか卯で『エヴァ』とのコラボ親子丼を買って、引き続き追い込み中のワイフに持って行く。今回のクリアファイルはシンジだった。「アニメ様の『タイトル未定』」のテキスト作成のために「ペイン・アンド・グローリー」をAmazon prime videoでチェックする。この映画にとって、多分、とても大事な男性ヌードにボカシが入っていた。仕方ないんだろうけど、あの場面の意味が分かりづらくなっているかもしれない。
以下は思い出したこと。『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』のクライマックスの一部は、TVシリーズ放送中に関係者に聞いた「最後はこうなります」という話と重複している。その時の話だと、シンジが初号機で宇宙からロンギヌスの槍を持って帰ると……という展開だったので、前後関係はまるで違うのだけれど。
話が変わるけれど『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』の後に『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』を観たら、謎が増えた。謎といっても解釈できる範囲だけど。
2021年3月11日(木)
「佐藤順一の昔から今まで」の第16回以降の原稿まとめを進める。いやあ、楽しい。原稿以外の作業が続いたので、ボリュームのある原稿の作業は久しぶりだ。午後は某スタジオで夏以降に出る書籍の打ち合わせ。
WOWOWの『あしたのジョー』の5~8話をながら観。その後、ハードディスクに残っていた『マジンガーZ対暗黒大将軍』を観る。これも綺麗だなあ。Blu-ray BOXと同じマスターかな。『あしたのジョー』と同じく、セルよりも映像が鮮やかになっている気がする。
「呪術廻戦 公式ファンブック」に目を通す。作者の芥見下々さんのアニメ歴の話が面白い。WEB系のアニメーターが好きだというのは噂に聞いていたけど、そのことについても触れられていた。
2021年3月12日(金)
散歩、デスクワーク、Zoom打ち合わせ、対面での打ち合わせ。
Twitterでアニメについて発言をしている研究者タイプの若者がいて、機会があったら仕事を頼もうと思っていたら、既にアニメスタイルで仕事をしていた。編集部スタッフが声をかけて、取材の起こしをお願いしていたのだ。
2021年3月13日(土)
配信で、東京アニメアワードフェスティバル(TAAF)の『アニメ功労部門顕彰記念「マンガからアニメーションへ~名作劇場を創った人々~」』を視聴。東京建物 Brillia HALLでTAAFの「アニメ功労部門顕彰特別展示」の展示を見る。テキストに読み応えがあってよかった。特に伊集加代さんのコメント部分がよかった。新文芸坐で『ジャン・ズーヤー:神々の伝説』を観た。これは「TAAF2021 長編コンペティション」のプログラムのひとつで、映像の仕上がりはかなりのものだった。17時から吉松さんとSkype呑み。
腹巻猫です。5月29日、30日に開催予定の「ノイタミナ presents シネマティックオーケストラコンサート」は、収容定員50%以内で有観客公演を行うそうです。会場で販売するパンフレットに寄稿していますので、ご来場の方はぜひお求めください。有料オンライン公演もあります。
https://www.noitamina-concert.jp/
アニメや劇場作品を観ていると、音楽が流れるシーンで「うまいなぁ」と思うことがある。曲が凝っているとか、カッコいいとか、美しいとかいうのとはちょっと違う。作品のテーマを的確にとらえ、ツボを押さえた表現で最大限の効果が出るように書かれている。そんな曲を聴いたときである。
アニメ『恋は雨上がりのように』の中で流れる吉俣良の曲を聴いたときも、そう感じた。
『恋は雨上がりのように』は2018年1月から3月までフジテレビ「ノイタミナ」枠で放送されたTVアニメ。眉月じゅんの原作マンガを、監督・渡辺歩、アニメーション制作・WIT STUDIOのスタッフでアニメ化した作品だ。原作ともども、ファンには『恋雨』の略称で親しまれている。
主人公は17歳の女子高校生・橘あきら。感情表現が苦手でクールに見られがちだが、胸の奥には熱い恋心を秘めている。その相手はバイト先のファミレスの店長・近藤正己。親子ほどに年が離れている上に、格別カッコいいわけでもない、冴えない中年男だ。ある日、あきらは客の忘れ物を届けるために走って足の古傷を痛めてしまう。そのあきらを店長が抱き起こし、病院に送り届けたことで、あきらの不器用な恋がにわかに動き出した。
ノイタミナは「月9ドラマのように観られるアニメ」を目標に立ち上げられた。『恋は雨上がりのように』は、まさに月9ドラマのようなまっすぐな恋愛ストーリーである。
あきらの一途な恋心、その想いを知った店長のとまどい、そしてあきらの周囲の人物の友情や恋模様が、コミカルな描写をまじえながら、じっくりと描かれる。「実写でやったほうがよいのでは?」と思う題材だ。実際、アニメ版が放送されたあとに実写劇場版も公開されている。
が、アニメ版にはアニメでなければ描けない魅力的な表現があふれている。あきらの心が動いたときの微妙な表情の変化や動作、体のまわりにカラフルな泡のようなものが飛び交う描写、目が覚めるような青空や雨に濡れた街、夜空に浮かぶ月などの瑞々しい風景。そういったものがキャラクターの心情を言葉以上に伝えていて、アニメを観るよろこびと楽しさを実感させてくれる。
そんな本作の音楽を手がけたのは吉俣良。TVドラマ「君の手がささやいている」(1997)、「きらきらひかる」(1998)、「Dr.コトー診療所」(2003)、「篤姫」(2008)、「江〜姫たちの戦国〜」(2011)、劇場「冷静と情熱のあいだ」(2001)など、主に実写作品の音楽で活躍する作曲家である。アニメは、本作のほかに『真・女神転生 デビチル』(2000)、『ソマリと森の神様』(2020)があるくらいだ。
本作の音楽は、吉俣良らしい耳に残るメロディとアコースティックな響きで構築されている。楽器編成は、ピアノ、ストリングス、ギター、クラリネット、フルート、サックス、トランペットなど。とりわけ、ピアノとストリングスの音色が耳に残る。落ち着いた、品のある音楽である。
本作における音楽の位置づけは、一般的なアニメとは少し違っている。
劇中で流れた曲は、ぜんぶで30曲に満たない。アニメではさまざまなシーンに対応するために、1クールの作品でも50曲ほどのBMG(劇伴音楽)が作られ、使われることが多いから、これは驚くべき少なさである。
いっぽう、実写のテレビドラマだと、BGMは20〜30曲しか用意されないことが多い。本作の音楽作りは実写的だと言える。
では、音楽演出もドラマ的かというと、そうとも言えない。
たとえば、ドラマでよく観られる「感情が盛り上がるシーンに主題歌を流してさらに盛り上げる」演出が、本作ではいっさいない。また、心情を強調するために悲しい場面に悲しい曲を流すといった使い方でもない。すでに書いたように、本作では映像だけでキャラクターの気持ちがしっかり伝わるように作られているから、音楽で補強する必要がないのである。
では、本作の音楽はどんな役割を担っているのか。
第1話の冒頭、あきらが下校する場面にメインテーマのアレンジ曲「アフターザレイン 〜君の雨〜」が流れる。歩くあきらの足元、陸上部の練習風景、雨上がりの街、青空などが次々と映し出される。音楽はそれらの映像を包みこむように、ずっと流れている。
こんなふうにキャラクターと風景、あるいは違った場所にいる複数のキャラクターの映像をモンタージュして、繊細な心の動きや空気感を表現する演出が本作では多い。セリフだけでは伝えきれない心情を映像が伝えている。そんな、いわば視聴者に行間を読ませるような場面に、音楽がゆったりと流れている。映像を説明するためでなく、映像をじっくり見せるために音楽が流れているのだ。
伊福部昭はかつて「映画音楽にできることは四つしかない」とことわった上で、それは「(1)場所や時代を示唆すること」「(2)感情や情趣を強調すること」「(3)ドラマのシークエンスを示すこと」「(4)フォトジェニー、つまり、映像そのものが持つ表現性に呼応すること」であると言った。1番目と2番目はわかりやすいが、3番目と4番目はちょっと高度な手法である。本作の音楽の使い方は、その3番目と4番目が融合したようなものだ。
もちろん、それだけではなく、感情を強調するオーソドックスな使い方がされている場面もある。が、強く印象に残るのは、映像の流れを音楽とともに見せるモンタージュ&フォトジェニー的な場面である。
そういう場面では、音楽がとても長く使われる。2分から3分もある曲が、まるごと流れることも珍しくない。だから、本作の1話あたりの使用曲数は少ない。1話に使われる音楽は6曲から8曲くらい。これも驚くべき少なさである。
吉俣良が書いた音楽は、映像を説明する音楽ではない。かといって、映像を離れて存在感を主張するわけでもない。映像とともに流れることで、視聴者にさまざまな感情を想起させる。音楽がドラマや映像の行間を想像させる。そんな音楽だ。
本作のサウンドトラック・アルバムは、2018年4月発売のBlu-ray BOX上巻の特典CDとしてリリースされた。その後、2019年2月にAmazon Recordsから単体CDが発売された。単体CDの収録曲は特典CDよりも7曲増えている。収録内容は以下のとおり。
アフターザレイン 〜メインテーマ〜
古い栞 〜おくれツバメの飛ぶ空〜
いつか見る夢 〜忘れ得ぬ空の下で〜
恋のシークレットキャラ
アフタヌーンホール
ひまわり
にわか雨 〜窓たたく雨〜
古い栞 〜雫のゆくえ〜
約束の雨
アフターザレイン 〜君の雨〜
坂を行くバス
トラックの逃げ水
遠い雨の足音
こごえる紫陽花
風見沢高校
アフターザレイン 〜雨の向こうに〜
青い雷雲
にわか雨 〜雨待ち〜
走れ!風のように
古い栞 〜それから〜
滲んだ夢
月に願いを 〜スーパームーン〜
わくわくガーデン
Ref:rain (Instrumental Version)
いつか見る夢
アフターザレイン 〜雲間の光り〜
主題歌の収録はなく、BGMのみ26曲収録。劇中で流れる音楽は、ファミレスの店内BGMなどの現実音楽をのぞいて、すべて収録されている。
音楽の中心となるのは、「アフターザレイン」と名づけられたメインテーマのメロディと「古い栞」と名づけられたサブテーマと呼ぶべきメロディ。このふたつのメロディがさまざまに変奏されて、劇中に散りばめられている。
トラック1「アフターザレイン 〜メインテーマ〜」は、あきらの恋心を表現する曲。静かなストリングスの前奏から始まり、ピアノと弦楽器がユニゾンでメロディを奏でだす。切なく、やさしく、ノスタルジックにも聞こえる、味わい深い旋律だ。本作の音楽を象徴する1曲である。この曲は第9話であきらと店長がスーパームーンを見上げて語らうシーンなどに流れていた。
トラック10「アフターザレイン 〜君の雨〜」は同じメロディのしっとりとした変奏曲。ピアノソロから始まり、後半はバイオリンやチェロが加わり、しみじみとした情感をかもしだす。こちらは第1話の冒頭のほか、第10話であきらが店長に「いつか店長の言葉を読んでみたいです」と伝える場面などに使われている。
トラック2「古い栞 〜おくれツバメの飛ぶ空〜」は、ピアノソロから始まるサブテーマ。チェロがそっと寄り添い、中間部からはストリングスが旋律を引き継いで、やさしい旋律を聴かせる。第2話でペディキュアを知らない店長にあきらが笑顔を見せる場面など、あきらと店長の気持ちが触れ合う場面にしばしば使われた。
同じメロディをアコースティックギターとピアノをメインに演奏した曲がトラック8の「にわか雨 〜窓たたく雨〜」。こちらもあきらと店長の場面によく流れている。
が、必ずしも「あきらと店長のテーマ」というわけではなく、ピアノとストリングスが演奏するトラック20「古い栞 〜それから〜」は、もっぱら、あきらと幼なじみのはるかとの友情を描くシーンに使われていた。曲の意味や役割を限定しないのは、本作の音楽演出の特徴のひとつだ。
トラック3「いつか見る夢 〜忘れ得ぬ空の下で〜」は、本作のもうひとつのテーマでもある「夢」を表現する曲。あきらや店長が忘れかけていた夢を思い出す場面や、もう一度夢を見てみようと思う場面に流れる重要な曲だ。第10話で店長があきらに飛び立てなかったツバメのの話をする場面などに使用。最終回となる第12話のラストシーンにも使われた。Blu-ray BOXの特典CDには収録されず、単独盤で待望の収録がかなった曲である。
本作には明るい学園ドラマ的な曲も用意されている。トラック4からの3曲「恋のシークレットキャラ」「アフタヌーンホール」「ひまわり」は、あきらのバイト先での日常や学園生活に流れる曲。軽快なリズムとさわやかなメロディで映像を華やかに彩る。本作の音楽の中では脇役的な位置づけだが、映像に変化をつける大事な役割を担っている。トラック11「坂を行くバス」、トラック15「風見沢高校」、トラック23「わくわくガーデン」なども同様である。
トラック7「にわか雨 〜窓たたく雨〜」やトラック9「約束の雨」などは、沈む心や迷う気持ちを表現する曲。本作の音楽の中では心情をストレートに表現する劇伴音楽らしい曲と言える。「約束の雨」は深い残響をつけたピアノの音が雨に濡れた風景を連想させて印象に残る。メインテーマの変奏であるトラック16「アフターザレイン 〜雨の向こうに〜」も同じだ。
トラック22「月に願いを 〜スーパームーン〜」は、弦のピチカートをバックにバイオリンが優雅なメロディを奏でるワルツの曲。スーパームーンといえば第9話のラストシーンが思い浮かぶが、その場面にはこの曲は流れていない。しかし、曲のムードをうまくとらえたタイトルだ。第2話で思わず店長に告白してしまったあとのあきらや、第6話で願いがかなうキーホルダーを手に入れようとカプセルトイ自販機を回し続けるあきらなど、あきらの乙女心を描くほほえましい場面によく流れていた。
トラック24の「Ref:rain(Instrumental Version)」は本作のオープニング主題歌「Ref:rain」のピアノとストリングスによるアレンジ曲。本編で流れたのは1回だけ。しかし、それが必殺の名場面。第7話で風邪をひいた店長を見舞いに部屋を訪れたあきらを店長が思わず抱きしめてしまうシーンである。実写ドラマだと歌入りで主題歌が流れるような場面だ。が、落ち着いた曲調のインストルメンタルで控えめに演出するのが本作の流儀。あきらの気持ちになってドキドキしてしまうか、店長の気持ちになって切なくなってしまうか、とにかく本編を観てしまったあとでは平静な気持ちでは聴けない。
全12話の中では中盤で一度だけ流れた曲なのだが、アルバムの終盤に収録されていることに違和感はない。その第7話の場面が全編を通してのクライマックスとも言えるからである。『恋雨』の世界を再現するアルバムとして、みごとな構成だ。
トラック25「いつか見る夢」はトラック3のメロディをアコースティックギターとピアノ、ストリングスを中心に演奏した曲。後半はトランペット、フルートなどが加わり、メロディを歌い継いでいく。第3話であきらが陸上部の練習を見学する場面や第12話で店長の息子に走り方を教えていたあきらが自分ももう一度走ってみたいと思い始める場面に流れていた。
本作の物語の後半は、あきらと店長の恋のゆくえよりも、2人がそれぞれの「あきらめていた夢」を取り戻す展開がメインになっていく。そのドラマを支えた曲である。
そして、最後の曲は「アフターザレイン 〜雲間の光り〜」。メインテーマの変奏の中でも、ストリングスとピアノにホルン、フルートなどが加わったスケール感のあるアレンジで、「大団円」のイメージがある曲だ。第12話のラスト近く、青空の下を走るあきらのイメージシーンに流れ、あきらの心の中で「雨が上がった」ことを印象付けた。「雲間の光り」とは希望を感じさせるいいタイトルだ。
本作は吉俣良の持ち味と実写作品での経験が生かされたアニメの代表作と言える。切なさをたたえたメロディや本人が弾く繊細なピアノの音色など、音楽単体での聴きどころも多い。ゆったりと流れる音楽にひたると、『恋雨』に刺激されたさまざまな心情が浮かんでくる。26曲だけで、これだけ豊かな世界が描けていることに驚く。
アルバムも充実している。サウンドトラック・アルバムを聴いて「あの曲が入ってない」と不満が残ることがあるが、本アルバムにはその心配はない。必要な曲はすべて収録されているし、通して聴いても満足できる。ファンも納得の名盤である。
なお、本CDはAmazon Recordsのオンデマンド商品。通常のCDではないので一般流通には乗らないし、中古市場にも出にくい。そして、オンデマンドだからいつでも買えると安心していると突然入手できなくなったりする。気になる方は早めに手に入れることをお奨めする。
アニメ「恋は雨上がりのように」オリジナル・サウンドトラック
Amazon
新文芸坐とアニメスタイルの共同企画の新しいプログラムがスタートします。タイトルは「スクリーンで観たいアニメ映画」。オールナイトではなく、レイトショーを中心にしたプログラムとなります。
その第1回となるのが今石洋之監督とトリガーによる痛快アクション大作『プロメア』です。スクリーン映えする作品ですよ。是非とも劇場でご覧になってください。
開催日は5月29日(土)。開演時間は19時です。チケットは上映の3日前からオンラインと新文芸坐窓口で発売になります。詳しくは新文芸坐のサイトをご覧になってください。
今回の上映はスタッフによるトークはありません。代わりにというわけではありませんが、アニメスタイルの小黒編集長による前説トーク(20分程)を予定しています。また、当時は会場で「今石洋之アニメ画集 スペシャルセット(通常版)」を販売します。
新文芸坐×アニメスタイル スクリーンで観たいアニメ映画vol. 1
『プロメア』
開催日
2021年5月29日(土)
開場
開場:18時40分/開演:19時00分 終了:21時10分(予定)
会場
新文芸坐
料金
一般1500円、友学生・友の会・シニア1300円(招待券不可)
上映タイトル
『プロメア』(2019/111分/DCP)
●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/
●関連記事
【アニメスタイルの書籍】「今石洋之アニメ画集」と「同・スペシャルセット(通常版)」
http://animestyle.jp/news/2020/07/29/17866/
前回・前々回と、コバヤシオサムさんの話をしてきましたが、仲良く楽しくな思い出話ばかりではありません。
自分がオサムさんを激怒させた!
こともあったんです。あれは俺が『GAD GUARD』(2003年/制作・GONZO)の第15話のコンテまで上げて(演出をやらずに)現場を離れる時でした。もちろん自分で上げたコンテです。処理(演出)までやりたかったし、現場を去るのだって不本意でした。ただ、スタッフ内にどうしても許せないことを我々(当時の若手ら)に言った人がいて、俺を中心に口論となり、出て行かなければならなくなったわけ。その際、自分が放った一言に、口論の傍らで黙々と仕事中だったオサムさんが「うるせえ!」と大激怒! 以降、口もきいてくれず、スタッフルームを後にした自分。
その後、返りの電車の中で、
確かに俺も怒るだけの言い分はあるにせよ、単純にオサムさんの仕事中にテンションを下げてしまったことは謝らなければ! いや、やっぱりちゃんと謝りたい!
と思い、自宅に着いて即電話したものの出てくれず、仕方なくメールで
先程は失礼しました。言い訳はしません。いくらこちらにも言い分はあるにせよ、現場の他のスタッフにとっても聞きたくない暴言を吐いてしまったのは事実です。本当に申し訳ありませんでした。今回自分はここまでとなりますが、『GAD GUARD』でいちばん嬉しかったのはオサムさんと知り合えたことでした! ありがとうございました!!
と送ったところ、以下の返信をいただきました。
「謝ってくれてありがとう! 板垣君のこと、嫌いになりたくなかったんだよぉ〜」
そしてその流れで、数分後オサムさんから電話をいただき、こちらも正式に謝罪し、オサムさんは俺の言い分を全部聞いてくださったのでした。
そんなことがあってからは、もっと仲良くさせていただき、『天元突破グレンラガン』や『はなまる幼稚園』『Panty & Stocking with Garterbelt』『ダンタリアンの書架』と、一緒にコンテ・演出で参加して各話で競い合うかたちで楽しく仕事させていただいたし、飲みにもよく誘っていただきました!
改めて、ご冥福をお祈りいたします(早過ぎますよ……)。
編集長・小黒祐一郎の日記です。
2021年2月28日(日)
午前中はワイフの「100円ショップを巡る旅」につきあって、池袋から大塚に。昼飯の後、ワイフはさらなる100円ショップを求めて山手線で旅立つ。自分は事務所に戻り、Zoom打ち合わせとデスクワーク。取材の予習で『新世界より』を観る。
このところ、就寝前に「かしましハウス」を読んでいる。このマンガを読むのはおそらく3度目。今の自分にとって、一番好きなマンガかもしれない。
2021年3月1日(月)
散歩で池袋と飛鳥山公園を往復。久しぶりに公園の奥に行ったら、大河ドラマをきっかけに渋沢栄一関連の新しい施設、チケット販売所等が出来ていた。渋沢栄一をデフォルメキャラ化したグッズやイケメンにしたイラストもあった。その後はデスクワーク。主な作業は「川元利浩アニメーション画集」の追い込み、取材の予習、次の書籍の準備など。
取材の予習で「アニメスタイル006」の『四月は君の嘘』特集を読み直す。誌面構成がゆったりしていて、自分で言うのも何だけど、内容も濃い。資料も豊富で、5話の原画に3ページ使っていて、各話のコンテ(石浜真史さん、神戸守さん、中村章子さん)をそれぞれ1ページずつ掲載するというマニアックさ。続けて「アニメスタイル011」の『フリップフラッパーズ』特集に目を通す。
2021年3月2日(火)
午前1時に出社。タイプミスではなく、午前1時に出社して取材の予習等。13時から「この人に話を聞きたい」で小島崇史さんの取材。取材場所はまたまた新宿で、写真が今までと似た感じにならないかが心配だったのだけど、今回もカメラマンの平賀さんが新しい撮影場所を見つけてくれた。小島さんの取材は仕事に対する前向きさと、しっかりとしたビジョンを持っていることが印象に残った。
2021年3月3日(水)
午前中の散歩は池袋から江古田。14時からZoom打ち合わせ2本立て。作業は「川元利浩アニメーション画集」の追い込みと次の書籍、次の次の書籍の準備。『ゆるキャン△』第1シリーズを改めて視聴。
Zoom打ち合わせ用に新たに買ったヘッドセットを試す。今度はBluetooth接続だ。どうやら早口で喋るとノイズが出るらしい。テスト中に「小黒さん、ゆっくり話してください」と言われる。これは僕の環境では実用的ではないなあ。
2021年3月4日(木)
午前中に池袋HUMAXシネマズで『劇場版ポケットモンスター ココ』を観る。他は散歩とデスクワーク。引き続き「川元利浩アニメーション画集」の大詰め。次の書籍、次の次の書籍の準備。
WOWOWの4Kリマスター版『あしたのジョー』を録画で視聴。今までフィルム時代のアニメのリマスターを観て「デジタルアニメのような鮮明さ」と思ったりしたけど、それとも別次元の映像。印象で言うと「セルそのものよりも鮮やか」。『ウマ娘 プリティーダービー』第1期を1話から10話まで観る。
2021年3月5日(金)
『ARIA The CREPUSCOLO』を観るためにグランドシネマサンシャインに。初日朝イチのBESTIA上映で観るぞ、と思って行ったのだけど、機材トラブルのために、その回は上映中止。中止後のグランドシネマサンシャイン側の対応は相当によかった。そして、お客さん達は文句を言うわけでもなく素直に劇場を出ていった。『ARIA』のファンになる人は、やはり紳士的だなと感心した。デスクワークの後、グランドシネマサンシャインのチケットを再度とって、夕方のBESTIAの回で『ARIA The CREPUSCOLO』を鑑賞。ここで観ないと何時観られるか分からないと思って、その日のうちに再チャレンジしたのだ。
「川元利浩アニメーション画集」「川元利浩アニメーション画集[原画編]」「川元利浩アニメーション画集[デザイン編]」の編集作業が全て終了。
2021年3月6日(土)
散歩とデスクワークの後、新文芸坐で「甘い生活」(1960・伊=仏/174分/DCP)を観る。プログラム「芸術と魂を高め合った二人の巨匠 フェリーニとヴィスコンティ」の1本。学生時代からタイトルだけ知っている映画だが、観るの初めて。途中までは楽しく鑑賞できたのだが、終盤の展開はノレなかった。ノレなかったのは公開された当時と現在のモラルの違いのためだろう。公開当時の観客が、この作品をどう受けとめたかを想像することはできる。以下は別の話。近年の、といっても15年程前の邦画で、終盤に浜辺に流れついた鯨が出てくる映画があった。あれは「甘い生活」へのオマージュだったのか。16時から吉松さんとSkype飲み。
すみません! コンテ終わって以来、作画の直しに加勢していてバッタバタです(汗)!
とはいっても社内班は若手に任せて、俺の方はもっぱらグロス話数(社外に撒いた分)の修正がメイン。現状よりも少しでも良くなるようにと、ギリギリまでペンも走らせもがき、足掻き続けます。それが監督の責任だと思うから。
ふと、先週の話題の続きで、またコバヤシオサムさんのことを思い出しました!
というのも、自分の知ってるオサムさんはどんなピンチでも仕事と遊び両方とも諦めないお方だったからです。周りのスタッフを多少振り回してでもご友人らと飲みに行くときは行ってしまうんですが、飲み終わるとスタジオに戻って仮眠して、また机にしがみつくんです。おそらく良い仕事をするために飲みに行くことが必要だったのでしょう! 少なくともご一緒したゴンゾ時代は、下(1階)のサイゼリ○で朝まで安ワインを飲んだりしたんですが、オサムさんの机の上にはいつも未チェックカットが山積みになっておりました。でもそこからも絶対に逃げないんです! 人付き合いも創作もすべてテンションマックス——それがコバヤシオサムという男でした。それに対して、仕事をなんとかこなすために遊びから逃げてしまう、気の小さい男が板垣だと思ってください(苦笑)。
編集長・小黒祐一郎の日記です。
2021年2月21日(日)
午前中にワイフと散歩。去年の早朝散歩と同じコースを歩く。何匹かの猫に会えたけれど、早朝散歩で馴染みになった猫達には会えなかった。その後、ワイフと西武池袋本店の屋上に。ビールを飲みながら、デパ地下で買った弁当を食べた。いい昼飯だった。その後はデスクワーク、Zoom打ち合わせ等。17時から吉松さんとSkype呑み。
2021年2月22日(月)
この数日はラジオ体操の前に、ワイフと公園で夜明け前の空気を楽しんでいる。「川元利浩アニメーション画集」の校正紙が事務所に届いて、それを持って打ち合わせに。「Switch」のMAPPA特集に目を通す。
2021年2月23日(火)
散歩以外はデスクワーク。これから作る書籍のためのある作業。自分の思い切りがよければ10分で終わる内容だけど、今回は3時間かけても終わらなかった。「この人に話を聞きたい」の取材の予習で『ドラえもん のび太の新恐竜』をBlu-rayで観る。
2021年2月24日(水)
午前中の散歩は池袋から新宿まで。昼飯はタカマル鮮魚店4号館で「サバサンド朝食セット」を食べる。その後は事務所に戻って、21時20分までデスクワーク。「川元利浩アニメーション画集」とその後に作る書籍で嵐のような忙しさ。取材の予習で『ARIA The ANIMATION』を全話観た。その後は『ARIA The NATURAL』を6話の途中まで観る。
『ふしぎの海のナディア』展の図録が届く。大阪に行って展示を見たかったけれど、状況が状況なので我慢。庵野秀明監督による各話プロットは初出だと思う。他にも「こんなものが残っていたのか」と驚くような資料が山盛りだった。『装甲騎兵ボトムズ』Blu-ray BOXも届く。
2021年2月25日(木)
「川元利浩アニメーション画集」の追い込み、次の書籍の作業、イベントの準備、取材の準備等でやることが多い。『装甲騎兵ボトムズ』Blu-ray BOXを開封する。解説書はスタンダードな作りで、ボリューム多め。「スタンダードな作り」と思うのはDVD BOXの解説書と比べているからだ。ディスクの再生はまた改めて。『ボトムズ』DVD BOXはほとんど再生してないけど、Blu-ray BOXは再生するような気がする。
2021年2月26日(金)
早朝散歩中の午前6時に、進行中の「川元利浩アニメーション画集」でアクシデントが発生。あるイラストが載せられなくなったのだ。散歩をしつつ、スマホでメールのやりとりをする。せめて、もう1日早く分かっていれば傷が浅かったのに。その対応も含めて、やることが多い日だった。
『ARIA The NATURAL』を最終回まで観た後、OVA『ARIA The OVA ~ARIETTA~』、『ARIA The ORIGINATION』を全話視聴。『ARIA The ORIGINATION』の4話はショッキングと言っていいほどのハイクオリティ。井上英紀さんが演出、絵コンテ、作画監督を担当。さらに一人原画。『ARIA』シリーズはアニメーションとしてのテイストが変わり続けていったのも面白い。
2021年2月27日(土)
昼間は散歩とデスクワーク。15時にワイフと西武池袋本店の屋上に行って酒と食事。屋上にはそれなりにお洒落をした女子中学生のグループが来ていて、うどんを食べながらキャアキャアと騒いでいた。池袋らしいなあと思う。
取材の予習で『四月は君の嘘』『輪るピングドラム』をピンポイントで視聴。散歩では「ふしぎの海のナディア オリジナル・サウンドトラック」を聴きながら歩いた。『ふしぎの海のナディア』の本放送時に自分は20代半ばのはずだけど、聴いていると、思春期の気分を思い出す。
手に入れたのは少し前だけど、「BRUTUS」の『THE IDOLM@STER』特集について書いておく。自分としてはこの10年間に見た雑誌の特集で一番よかった。『THE IDOLM@STER』のゲームはやっていないので、特集内容についてどのくらい濃いのか、正確なのかは分からない。だが、とにかくいいと思った。雑誌の作り手の熱意も、アイデアも素晴らしい。「編集力がある人が力いっぱいに、そして、ネチっこく作った特集」って感じ。折り込みピンナップ風の観音開き部分の詰め込み方は「この10年」どころか、今まで見た雑誌の誌面の中でもベスト10に入るかも。詰め込みすぎたせいか、特集の総タイトルが変なところにあるんだけど、それも勢いのせいということでマル。
4月24日、作曲家の菊池俊輔先生が亡くなりました。筆者にとっては、小さい頃からお世話になった恩人が亡くなったような、悲しいニュースでした。
子どもの頃から、アニメで、特撮番組で、ドラマや劇場作品で、菊池俊輔の音楽を浴びるように聴いてきました。それは筆者の血と肉になったと言っても言い過ぎではないと思います。そういう日本人はたくさんいるのではないでしょうか。
菊池俊輔はアニメだけでなく、日本の劇場・TV音楽の分野でジャンルを問わず活躍し、膨大な量の作品を遺した作曲家である。
70年代にTVに夢中になっていた男子なら、「仮面ライダー」をはじめとする特撮ヒーロー番組や『バビル2世』『ゲッターロボ』などのSFアクションアニメの音楽が心に刻まれているに違いない。80年代には『Dr.スランプ アラレちゃん』『忍者ハットリくん』などのコミカルな作品で人気を集め、80年代後半〜90年代にかけては『DRAGON BALL』シリーズや『キテレツ大百科』などで親しまれた。1979年にスタートした『ドラえもん』は2005年まで音楽を担当し続けた。アニメだけとってみても、時代を超えて愛される名作を遺した作曲家だった。
菊池俊輔の作品の中では、特撮ヒーロー番組やロボットアニメの主題歌が特に人気が高い(少なくとも筆者の周囲では)。筆者自身もアップテンポの菊池ソングは大好きだし、カラオケで歌うことも多い。
けれど、菊池俊輔自身はテンポの速い勇ましい曲よりも、じっくり聴かせる抒情的な曲が好きだと語っていた。
「ぼくはもともと、アクションものよりもメロドラマが好きでした。悲しい曲を書くことが好きですよ。だからコスマ(※注:フランスの映画音楽作曲家ジョセフ・コスマ)のメロディには惹かれますね。ニーノ・ロータなんかもいいけど、コスマのメロディは特別好きだったですね。」(「宇宙船」Vol.94所収のインタビューより)
そんな菊池俊輔の持ち味が生かされた作品が、今回取り上げる『宇宙円盤大戦争』である。
『宇宙円盤大戦争』は1975年7月に「東映まんがまつり」の一編として公開された劇場アニメ。TVアニメ『UFOロボ グレンダイザー』(1975)の原型になった作品である。実は筆者が菊池俊輔作品の中で特に好きなのが『グレンダイザー』であり、さらにその原点である『宇宙円盤大戦争』も大好きなのだ。
ヤーバン帝国に故郷のフリード星を滅ぼされた王子デューク・フリードは、戦闘メカ・ガッタイガーに乗って地球に逃げのびた。宇門大介と名乗り、地球人として生きていたデューク・フリードだが、ヤーバン帝国の探索部隊が地球にも迫ってくる。その指揮をとるのは、ヤ—バン帝国の王女であり、デュークのかつての恋人でもあったテロンナだった。
宇宙SFとロボットとメロドラマが合体した作品で、30分とは思えない密度の高いドラマが展開する。演出(監督)は芹川有吾。とくれば、劇場アニメ『サイボーグ009 怪獣大戦争』や『ちびっ子レミと名犬カピ』などの、音楽と一体になった悲哀演出が思い出される。本作でもデューク・フリードとテロンナの悲恋を情感たっぷりに描いて涙を誘う。
菊池俊輔は『ちびっ子レミ』の音楽を手がけた木下忠司に師事した作曲家。芹川演出との相性はばっちりだった。
1983年に発売されたLPレコード「テレビオリジナルBGMコレクション UFOロボ グレンダイザー」のライナーノーツに、本作と『UFOロボ グレンダイザー』の企画を担当した東映動画プロデューサー(当時)勝田稔男がこんなコメントを寄せている。
「『宇宙円盤——』は菊池さん自身の映画音楽100本記念の作品で、非常にノリまくって作って戴いたという嬉しい思い出が忘れられません」
意外にも、菊池俊輔の劇場作品の中で、全編新曲を書き下ろしたアニメは本作が初めてである。
菊池俊輔は子どもの頃からの映画少年。故郷の弘前で映画に熱中し、映画音楽が書きたくて作曲家になった。
100本目の映画音楽、そして初の書き下ろし劇場アニメ作品。勝田の言葉どおり、力が入ったに違いない。本作の音楽は実に充実している。ドラマの中心になるのはデュークとテロンナの悲恋。菊池俊輔が得意とする、哀愁を帯びたメロディアスな曲がたっぷりと味わえる。
『宇宙円盤大戦争』の基本設定は『UFOロボ グレンダイザー』に受け継がれた。そして音楽も。本作の主題歌「戦え!宇宙の王者」と「燃える愛の星」は歌詞を変えて、『グレンダイザー』のエンディング主題歌「宇宙の王者グレンダイザー」と挿入歌「ちいさな愛の歌」になった。
また、本作の劇中音楽(BGM)も『UFOロボ グレンダイザー』のために用意された新録音BGMとともに『グレンダイザー』の劇中で使用されている。劇場作品ならではのドラマティックな音楽が加わったことで、『グレンダイザー』は豊かな音楽性を持つ作品になった。
本作の音楽の初商品化は先に紹介したLPレコード「テレビオリジナルBGMコレクション UFOロボ グレンダイザー」。『グレンダイザー』のオリジナルBGMと『宇宙円盤大戦争』の音楽をミックスして構成したアルバムだった。完全収録盤は、2003年に発売されたCD「ETERNAL EDITION ダイナミック・プロ・フィルムズFILE No.7&8 UFOロボ グレンダイザー」で初めて実現した。
ちなみに、『グレンダイザー』の音楽はMナンバーの頭文字がA〜L、『宇宙円盤大戦争』の音楽は同様に頭文字がMで統一されている。が、「テレビオリジナルBGMコレクション」ではMナンバーの表記ミスがあり、『グレンダイザー』の曲であるのに頭文字Mの番号が振られたものがある。筆者が調べたところでは『宇宙円盤大戦争』から収録されたのはM-19、M-23、M-27の3曲である。
「ETERNAL EDITION」版で『宇宙円盤大戦争』の音楽を聴いてみよう。収録トラックは以下のとおり。
プロローグ〜戦え!宇宙の王者(M-1,M-2)
平和を破るもの(M-3,M-4,M-5,M-6)
テロンナからのメッセージ(M-7,M-8,M-9,M-10)
円盤部隊襲撃(M-11,M-12,M-13)
再会(M-14,M-8,M-15)
テロンナの悲しみ(M-16,M-17,M-18)
ガッタイガー再び(M-19,M-20,M-21)
ロボイザーの戦い(M-22,M-23,M-24)
悲恋(M-25,M-26,M-27)
エピローグ〜燃える愛の星(M-28〜M30EDIT,M-28,M-29,M-30)
全曲を劇中使用順に並べたオーソドックスな構成で、聴きながらドラマをふり返ることができる。
ヤーバン帝国の宇宙船に追撃されるデューク・フリードの描写で幕を開ける。メインタイトルとともに流れるのが主題歌「戦え!宇宙の王者」。トラック1にはプロローグとメインタイトルの2曲を収録している。
続くトラック2は、宇門大介となったデューク・フリードの平和な日々を描写するM-3から始まる。2曲目は宇宙を観察するレーダーに不吉な影が映る場面のサスペンス曲M-4。デューク・フリードを探しに来たテロンナに視点が移ると、美しいテロンナのテーマM-5が流れる。
このテロンナのテーマこそ、『宇宙円盤大戦争』の真の主題曲と呼べるメロディである。テロンナのテーマは劇中にさまざまにアレンジされて流れ、本作全体の雰囲気を決定づけている。
トラック3「テロンナからのメッセージ」の1曲目は、テロンナがデューク・フリードにテレパシーでメッセージを送る場面のM-7。曲の後半にストリングスとギターによるテロンナのテーマの変奏が現れ、テロンナと大介(デューク)の苦悩を描写する。
テロンナの呼び出しに応じたデュークとテロンナの再会のシーンでは、トラック5「再会」のM-14が流れる。木管とビブラフォンを中心にしたテロンナのテーマのロマンティックな変奏だ。愛し合いながらも一緒に生きることが許されない2人の悲しみが胸をしめつける。
トラック4「円盤部隊襲撃」のM-11は円盤部隊の攻撃場面に流れる悲壮感ただよう曲。全体的に本作の戦闘音楽は、ガッタイガー活躍場面をのぞいて、躍動感を抑えた哀感を帯びた曲調で書かれている。戦争のために故郷を失ったデュークの戦いを憎む思いが反映されているのだ。
それは、70年代に数多く作られたSFアクション作品の勇ましい戦闘曲とは一線を画していて、本作を単純な勧善懲悪ものではない深みのある作品にしている。映画を愛し、映画のための音楽を書き続けてきた菊池俊輔の作家性が、こんなところにも表れているのだ。
デューク・フリードがガッタイガーを起動し、分離したロボイザーでヤーバン帝国軍を迎撃する場面(トラック7〜8)では、主題歌「戦え!宇宙の王者」のアレンジ曲が流れる。さすがに「東映まんがまつり」なので多少はカッコいい音楽も流れないと、という配慮もあるだろう。本作の中でも貴重な軽快な音楽が聴ける部分である。
トラック9「悲恋」は、テロンナとデューク・フリードの悲しい対決を描くクライマックスの曲。ここでも、テロンナのテーマが2人の苦しく切ない思いを表現する。戦いが終わり、瀕死のテロンナをデュークが抱き上げる場面にテロンナのテーマの変奏曲M-27が流れる。この曲は、『グレンダイザー』で本作のストーリーをリメイクしたルビーナのエピソード(第72話)でも使用された。テロンナのテーマは本作に込められた反戦の思いを象徴する曲とも言えるだろう。
ラストシーンからエンディングに使用された主題歌「燃える愛の星」は『グレンダイザー』最終回のラストシーンにも使用された。『宇宙円盤大戦争』と『グレンダイザー』の世界がつながるような音楽演出にぐっときたファンも多かったはずだ。
『宇宙円盤大戦争』の悲劇性とロマンティックな香りは、『UFOロボ グレンダイザー』に引き継がれた。音楽も同じで、『グレンダイザー』のオリジナルBGMには『宇宙円盤大戦争』の音楽に通じる哀感、悲壮感が宿っている。それは『UFOロボ グレンダイザー』という作品の大きな魅力になっている。
『UFOロボ グレンダイザー』はヨーロッパでも放送され、特にフランスで大人気を博した。菊池俊輔は『グレンダイザー』のBGMで、JASRACが海外からの音楽著作権収入がもっとも多かった作品に贈る「国際賞」を2度受賞している(厳密に言えば、1度目のときは「国際賞」という名ではなく、JASRAC賞の「外国使用部門第1位」だった)。その後も菊池俊輔は『DRAGON BALL Z』『ドラえもん』などのBGMで国際賞をたびたび受賞。1983年から2019年までに9回もの受賞を果たした。海外でもっとも聴かれた日本の音楽は菊池俊輔の曲だったのだ。その死を、世界のファンが悼んでいる。
ありがとう菊池俊輔。あなたの音楽を私たちは忘れない。
ANIMEX 1200シリーズ UFOロボ グレンダイザー
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ETERNAL EDITION ダイナミック・プロ・フィルムズ File No.7&8 UFOロボ グレンダイザー
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小黒 この頃のシリーズディレクターとしての仕事に『夢のクレヨン王国』(TV・1997年)がありますね。
佐藤 ありました。
小黒 久々に観返してですね、めちゃめちゃ面白いじゃん! と思いました。多分、佐藤さんの素に近いですよね。
佐藤 素?(笑)
小黒 ええ。あまり気取らないで、ナチュラルに作ったんじゃないかと。
佐藤 そうだね。あんまり気負ってはないかな。
小黒 原作はこういう話じゃないんですよね。
佐藤 違います違います。原作では大人のシルバー王妃を、12歳の女の子にするという改変から始まって。凄く長いシリーズの、トピックの話をベースにTVシリーズを作ろう、というプランは既に立っていたからね。
小黒 そこまで決まってからの参加なんですか。
佐藤 そう。(シリーズ構成の)山田(隆司)さんと、関(弘美)プロデューサーのほうで大体の方針が決まっていたところから「ディレクターやってくんない?」という感じで来てる話なので。稲上(晃)君にオファーしたのは、僕だったような気がするんだけど、自分の参加は稲上君にオファーする少し前かな。
小黒 シルバー王女の人柄や性格設定は、佐藤さんが方向性を考えたんですか。
佐藤 こちらからこうしたいというのはなかったんです。「12の悪い癖」の設定は原作にもあるし、自分が参加する前のプランにもありました。ただ、キャラデをどうするかという時に「12歳に見えないぐらい幼くしてくれ」とオーダーしたのは僕のほうで。
小黒 原作だとシルバー王女は大人で、しかも、王妃なんですね。
佐藤 そうそう。原作では大人で、それが企画段階で12歳にすることになって、その上で僕が頭身は5、6歳ぐらいにしてくれとオーダーしてるんだよね。そのぐらい幼く見えてれば可愛いけれども、大人っぽいキャラクターで12の悪い癖があったりすると、視聴者が親しむ存在にならないだろうと思ったんです。それを描いてくれるんだったら稲上君かな、と判断してオファーしたんだと思うよね。稲上君が当時『ドラゴンボール(GT)』か何かで凄く忙しくて、制作からは「できないかも」と言われていて、それで、直接口説きに行った記憶があるんですよ。
小黒 なるほど。キャスティングには関わってるんですか。
佐藤 キャスティングは、めちゃめちゃ関わってますね。
小黒 東映が青二プロダクションの声優を使っていなかった時期のものですよね。
佐藤 そうでしたね。
小黒 当時の僕は東映のアニメを観すぎていてですね、「あ! いつもの東映の感じじゃない!」と思いました(笑)。
佐藤 (笑)。
小黒 今観ると、アラエッサもストンストンもいいです。
佐藤 いいでしょ(笑)。
小黒 いいです。アラエッサは相当いいですよ。
佐藤 キャスティング会議は楽しかったですからね。そういえば(アラエッサ役の)坂田おさむさんは、いいと思ってオファーしたんだけど、オーディションで一回読んでもらったらガチガチで「これは流石に無理かもな」と思ったんです。だけど、「こんな感じで」とオーダーしてもう一回やってもらったら、ステップ3、4段飛ばしてよくなったんですよ。「えーっ! ちょっとしたアドバイスで、こんな自然な感じになるんだ。これならいいだろう」ということになって坂田さんにやってもらうことにしたんですよね。
アニメのアフレコをやったことがない人達もいるので、オーディションの台本もいつもと少し変えましたね。いつもだったら、本編のセリフを抜き出したものを渡して、それを読んでもらうんだけど、この時のオーディション台本はキャラ表から変顔とか怒ってる顔をいっぱい抜き出して、その顔のそばに「なんなのよもう!」「トンカツにしちゃうわよ!」といったセリフを配置して、その顔を見ながら読むという台本だったの。特にシルバー王女のオーディション台本には顔を沢山貼ってあったと思います。
小黒 なるほど。シルバー王女役の徳光由禾さんはこれがデビュー作ですね。
佐藤 そうです。それまでやったことないんじゃないですかね。
小黒 そうみたいですね。
佐藤 オファー先も、アニメ声優さんがいないプロダクションまで裾野を広げていたからね。
小黒 ホーレソレ役は『まほTai!』で主演だった小西寛子さんですね。この頃の小西さんは若手ですから、サブキャラでもおかしくないですが。
佐藤 そうですね。「ちょっとオーディション受けてみて」と言って、やってもらったんじゃないかな。
小黒 キャラクターが多いから兼役も多いんですよね。番組始まる時に、先の分までキャスティングしてるんですか。
佐藤 いや、基本的にはメインどころだけやって、先の先まではしていないかな。
小黒 先に決めたのはメインキャラと野菜の精達くらいですか。
佐藤 王様、お姫様、クラウドとか、その辺りくらいは固めてた。もしかしたら、おにぎり国とハンバーガー国の王様、王子様は割と早い時期に決めてたかもしんない。
小黒 佐藤さん自身は番組の立ち上げをやって、その後は絵コンテで参加といった感じになったんですか。
佐藤 それとホン読みも、ほぼ全部出てるはずですね。
小黒 で、好評につき放映が延長になりました。例えば、9月放映分なら「9月の旅I」「9月の旅II」とサブタイトルに放映された月が入っていたので「なんて潔いんだ。一年で終わるんだ」と思っていました。だけど、「12月の旅」では終わんなかったんですよね。
佐藤 そうそう。「13月の旅」が始まるんだよね。
小黒 関さんとのお仕事はこれが初めてですよね。
佐藤 ええと、そうだね。初めてです。関さんのやり方は、まずプロデューサーとライターが方針を決めて、それからディレクターを呼ぶっていう東映プロデューサーのやり方なので、特に変わったことではない。
小黒 なるほど。
佐藤 むしろ『どれみ』のように、最初から呼ばれてるほうがイレギュラーですね。
●佐藤順一の昔から今まで (20)『おジャ魔女どれみ』の企画とキャラデザイン に続く
●イントロダクション&目次
板垣君のレンジ君のヤツ、良かったじゃん! 「おっ、ヤルな」って思っちゃった!
これはコバヤシオサムさんからもらった最後の電話でした。去年の始め頃だったと思います。「レンジ君」とはもちろん村田蓮爾さんのこと。つまり俺が監督した『COP CRAFT』をちょっと褒めてくださったのです。オサムさんは村田さんとお友達なので『COP CRAFT』は「レンジ君のヤツ」になるわけ。オサムさんからあまり褒められたことがなかった自分は、その時の電話が結構嬉しかったのを憶えています。ちなみにこの時に限らず電話はたいがいオサムさんから、やっぱり飲み屋からが多かったです。「今、○○さんと飲んでるんだけど、板垣君の話題になってさぁ、飲みにこない?」と。とにかく顔が広いオサムさんは自分との共通に知人が多いのです。
てのもありました。なぜオサムさんんがWUG!のメンバーと? 未だに謎です。
あと記録によると2013年6月になるのでしょうか? 意外と前だなと思ってるのですが、阿佐ヶ谷ロフトAにて12年ぶりの師匠との再会もオサムさんのおかげで実現したのでした。「コバヤシオサムのアニメ道(道)×3=アニメーター友永和秀」にゲストで呼んでいただいたんです。「板垣君、友永さんの弟子なんだから来てよ!」との電話で。あの名アニメーター・金田伊功さんがテレコムに遊びに来た際、友永さんの口から「コイツ俺の弟子!」と紹介されたのだから「弟子」と呼ばれることは否定しませんし光栄なことだ、と当時南阿佐ヶ谷にあったミルパンセから歩いて行きました、ロフトAへ。
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