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佐藤順一の昔から今まで(22)TV『まほTai!』と『プリーティア』

小黒 『魔法使いTai!』TVシリーズですが、クレジットだと「アニメーション制作」としてマッドハウスとトライアングルスタッフの名前が並んでいます。実際の制作現場はどこになるんですか。

佐藤 トライアングルスタッフですね。

小黒 『まほTai!』のTVシリーズは、OVAとはテイストが違いますが、作品としての狙いが違うということですね。

佐藤 そうですね。OVAは割と自分の好きにやらせてもらったので、TVの時は、シリーズ構成の小中(千昭)さんとキャラクターデザインの伊藤郁子さんのやりたいことも、引き出しながらやれたらいいなと思っていましたね。

小黒 新キャラクターも登場しましたが、そこに伊藤さんがやりたかったことがあったんでしょうか。

佐藤 やりたかったことというよりも、伊藤さんはOVAの時に主人公の紗絵に共感できなかったわけですよ。「サトジュンが好きな主人公女子キャラ」以上のものではないと思っていて、ちゃんと女の子らしいところをやりたいと考えていたんだと思います。

小黒 なるほど。

佐藤 小中さんは、その辺の伊藤さんの波長とシンクロしていたと思っていた。その後の『(ふしぎ魔法)ファンファンファーマシィー』で一緒に仕事されていた時も、凄くシンクロしてましたからね。

小黒 ミッキー先輩とJの存在は、伊藤さんと小中さんのアイデアなんですか。

佐藤 確かそうだったと思います。TVシリーズに関しては、僕のほうから「ああしたいこうしたい」というものは、OVAほどはないんだよね。自分の中からは出てこないようなものがやりたいと、当時思ってた。なので、出してもらったものを面白がろうっていうところがあるかもね。主人公に関して言えば、既にやっていて楽しいキャラクターになっているので、自分はそれで十分楽しいし。

小黒 佐藤卓哉さんが『まほTai!』に絵コンテで参加されていますね。『まほTai!』への参加はどういった経緯だったんでしょうか。

佐藤 卓哉さんはトラスタのプロデューサーがコンテをオファーして、描いてもらってたはずですね。自分も卓哉さんの名前は聞いてるけれども会ったことはない、ぐらいの感じだったと思います。

小黒 その後、『チュチュ』で佐藤卓哉さんが脚本を書いていますね。これは?

佐藤 誰かが勧めてくれたんですよ。卓哉さんはホンも書けるということだったので、入ってもらいました。勧めてくれたのは、小中さんかもしれないです。

小黒 『まほTai!』TVシリーズの絵コンテを当時見た記憶があるんですけど、佐藤卓哉さんの絵コンテの画があまりにも独特で印象に残りました。

佐藤 画が最初から面白かったですね。

小黒 絵コンテの画が作品のようでしたね。

佐藤 そうそう。絵コンテの段階で面白かった。ただ、シリーズディレクターとして見ると、「結構枚数がかかる内容だな」というのが気になったんです。制作はそこを気にしていなかったけど、少し修正をしたかもしれない。

小黒 当時、佐藤卓哉さんの回だけでなく、TV『まほTai!』で絵コンテを何本か見せてもらったんですよ。「うわー、佐藤さん、手を入れてないなあ」と思いました。「映像ソフトを売る作品で、こんなにTVアニメっぽい絵コンテでいいの?」と思ったものもありました。

佐藤 この頃がそういう時期だったんだね。東映の外の空気を感じて、外のものをそのままやったものも見たいなという気分もあった頃です。

小黒 東映だと、シリーズディレクターは基本的に各話の絵コンテを直さないわけじゃないですか。だけど、他のプロダクションは監督が絵コンテを直すことが多い。この頃の佐藤さんは、その間にいたわけですね。

佐藤 そうなんです。コンテでガリガリ直すんじゃなくって、その後の音響の段階でなんとかしていくのが東映のスタイルなので、この辺りはそれと同じつもりでやってるはず。

小黒 同時期に『ゲートキーパーズ』(TV・2000年)もありますね。佐藤さんのカラーがほとんど感じられないのですが。

佐藤 そうでしょうね。なんで俺が呼ばれたのか、自分でも分かんなかったぐらいだからね(笑)。

小黒 設定やキャラクターの配置が決まってから、呼ばれてるんですか。

佐藤 既にあるゲームのアニメ化だから、キャラクターデザインとか設定も全て決まっていましたね。企画意図としては、ターゲット年齢をあまり上げたくないというか、男の子に向けて作るものにしたい。作風もマニアックじゃないほうにいきたいのでお願いしました、と聞きましたね。

小黒 でも、企画としてはバリバリにマニアックですよね(笑)。

佐藤 そうかもしれないけど、(シリーズ構成の)山口(宏)さんがやろうと思っていたことが、少年アニメ的だったので、それをちゃんと拾っていくつもりでやっています。ホン読みの時にもガチガチに設定で固めないで、ゆるいところはゆるく、という感じで進めてた気がするんだよね。

小黒 この頃は『サクラ大戦』(TV・2000年)と『だぁ!だぁ!だぁ!』(TV・2000年)で1本ずつ絵コンテを描いてますね。『サクラ大戦』はどなたからのオファーだったんですか。

佐藤  (中村)隆太郎さんかな。隆太郎さんから「1本コンテやって」と言われて、やったはずです。

小黒 どうでしたか。

佐藤 『サクラ大戦』の世界観自体がなかなか難しかった記憶があります。隆太郎さんが作品の取り扱いに困ってる感じがあって、「佐藤さんはどう思いますか?」って聞かれたこともあったから(笑)。隆太郎さん的には「少女達の物語」としてちゃんと組み立てたいんだな、と解釈して取り組んだ気がする。隆太郎さんが何に困っているのか、実はよく分かってなかったりするんだけど、「これってこういうもんでしょ」というお約束的なところが引っかかったのかもね。だから、隆太郎さんのやりたいものにしようと思ってやった記憶がある。

小黒 『だぁ!だぁ!だぁ!』はいかがですか。

佐藤 『だぁ!だぁ!だぁ!』は桜井(弘明)さんから話をもらったのかな? 少女マンガ原作でターゲットも割とよく分かってる層なので、あんまり悩まずにスルッとできた気がするね。シーンは忘れたけども桜井さんに「このキャラクターの行動分かりますか」と聞かれて、「めっちゃ分かります! これはこういうことですよね」「そうなんすよ!」という話をした気がする。

小黒 (笑)。次が問題作と言えるかもしれない『ストレンジドーン』(TV・2000年)ですね。

佐藤 『ストレンジドーン』は、ハルフィルムに入って最初の作品だもんね。

小黒 1つ覚えてることがあって、この頃、佐藤さんはやたらと深夜アニメをチェックしてたんですよ。「小黒君、あの番組はどういうターゲットに向かって作ってるの?」と聞かれたりして、「うわ、佐藤さん、めちゃめちゃ深夜アニメ観てるよ!」と感心したのを覚えてます。

佐藤 (笑)。

小黒 これからはコアターゲット向けに作っていくのだ、という時期だったわけですよね。

佐藤 ハルフィルムに入って、「じゃあ、テレビの企画やりましょう」って言われた時に、どういう時間帯で誰に向けた作品なのかを聞くじゃないですか。

小黒 はい。

佐藤 ターゲットに関しては、特に濃いアニメファンではなく、広めに考えているということだった。要は、深夜にザッピングしている人達が「これなんか変なのやってるよ」とチャンネルを止めて観ちゃうっていうことだよね、と思って作ったのが『ストレンジドーン』かな。

小黒 なるほど。

佐藤 「こんなのやっているけど、なんなのこのアニメ」と思って、つい観てしまうような人達がターゲットかなと思ってて。視聴率も深夜なので1%とか2%いけばよいっていう企画かなと思ってスタートしたんだけど、作ってたら「パッケージを出す」と言われてね。「パッケージ!? これ、売れますか!?」って (笑)。

小黒 (笑)。いや、この頃のものだったらパッケージにするでしょう。

佐藤 そう。当時、その常識がわかってなかったんですよ。

小黒 なるほど。

佐藤 「それだったら宣伝の仕方とかを一考しないと、普通に棚に置いても誰も手に取らないと思います」みたいなことを言ったけど、タイミングが遅かったのか実現しなくて。外でやるアニメは、パッケージでビジネスしてるんだということが、徐々に分かっていく。

小黒 その後の『(新白雪姫伝説)プリーティア』(TV・2001年)の時も、まだ分かってないわけですね。

佐藤 その時もまだ分かってないですよ。

小黒 『プリーティア』は作品として悪いわけではないけれど「なぜこれをWOWOWでやってるんだ?」という疑問が。

佐藤 『ストレンジドーン』の時も、当初は地上波の深夜でやるという話で企画してんだけど、最終的に「放映するのはWOWOWの夕方になりました」と言われて「えっ、WOWOW? 映画やスポーツとか音楽が好きな人が、お金を払って観てるチャンネルなのに大丈夫ですか」と思ったんだよね。

小黒 なるほど。

佐藤 『プリーティア』の時も「WOWOWは全国ネットなので、エリアの狭い地上波よりもビジネスチャンスが多いのだ」と言われて、「そういうもんすか」と思ってやったんだけど(笑)。後で全然違うじゃんってことが分かる。

小黒 少なくとも女の子向けの番組をやる枠ではなかったですね。当時も佐藤さんは「聞いていた話と違った」と言っていましたよ。

佐藤 そうなんですよ。そういうことはこの後も結構あるんですよ。だんだん賢くなっていって「ターゲットがこうだから、こういうふうに作りましょう」と最初に言われても、それとは違う結果になるかもしれないというのが分かっていったんです。


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