
第441回 久しぶりの番組打ち上げ

座談会参加者:板垣伸(アニメ監督)、小黒祐一郎(編集長)、松本昌彦(編集者)
板垣 小黒さんだったら覚えてるかもしれないけれど、うちの会社にベテランの林(隆文)さんがいるんですよ。『うる星やつら』のローテーション作監をやっていた人です。
小黒 アニメーターの方ね。面識はないけど、名前は知っているよ。
板垣 うちで今、社員なんです。面接した時に自分よりも年配の方だったから、恐縮はしたんだけど、採用を一瞬で決めたんですよ。どうしてかというと、履歴書を見たら「CGをやってました」とあったんですよ。「FLASHでアニメ作ってました」とも書いてありました。ベテランなのに色んなことに手を出しているんですよ。そういう人が現場にいるのは、若手に希望を与えるかもしれないと思ったんです。林さんは毎日朝に出社して、夕方に帰っているんです。ベテランの方がそういう仕事をしてくれるのも、頼もしいですよね。それもあって、今はシルバー枠を考えてるんですよね。
小黒 シルバー枠?
板垣 アニメーターとして引退したけど、まだアニメに関わってみたいなあという人がいたら、そういう立場で参加してもらうのもいいんじゃないかと思うんです。デジタルって拡大して作画ができるじゃないですか。林さんもタブレットで拡大して作画しているんです。
小黒 目が悪くなっても作画ができるということね。
板垣 そうなんです。林さんに話をすると「(自分と近しい年齢で)やりたいと言う人はいると思いますよ」と言うんです。それもあって「シルバー枠っていいかもなあ」と思うようになりました。それで、昭和の頃の原作をやるのも面白いかもなあと考えたりしますね。これって記事にすると、夢のない話になっちゃいますかね(笑)。
小黒 いや、むしろ、夢があると思うよ。
板垣 『いせれべ』が落ち着いたところで何か動かんとなあと思ってるんですけど⋯⋯小黒さんは何歳まで生きる気なんですか。
小黒 (唐突な話題の変更に対して)おっ! 松本君、これが板垣節だよ(笑)。
一同 (笑)。
小黒 板垣さんはイベントのトーク中に「ところで、このイベント面白いんですか」とか、いきなり言い出すんだ笑)。
一同 (爆笑)。
板垣 (笑)。いやあ、自分の中では一貫してるんですよ。
松本 そうなんですね(苦笑)。
板垣 自分はあと何年仕事ができるかなあと考えていて、目の前にいる小黒さんも、多分、同じことを考えてるだろうなあと思って「何歳まで生きる気ですか」と訊いたんです。
小黒 元気でいられるなら、なるべく長生きしたいけど。仕事はねえ⋯⋯、俺は明後日で59歳になるのね(編注:この座談会は4月末に行われた)。
板垣 明後日、誕生日なんですか。おめでとうございます。
小黒 ありがとう。で、もうこの8年間ぐらい「60歳まで現役」を目標にしてたの。60歳まではそれまでのテンションで仕事を続けると。ところが去年の暮れからの2回の入院と2回の手術で、これはもう今までのテンションで仕事をしていてはいかんっていう事になって……。
板垣 仕事の内容を緩くして長く続けようって事なんですか、それとも今のテンションでやれるところまでやるつもりなんですか。
小黒 そこら辺が悩みどころだよね。
板垣 で、小黒さんは何歳まで仕事するんですか。
小黒 だから、えーと、まあ、とりあえずは60まで現役が目標で、そのあとはもう……。
板垣 現役って、なんか含みがありますね。
小黒 「アニメファンでありつつ、アニメ本編集者」としての現役だよね。新しい作品を……。
板垣 追いかける?
小黒 そうそう。新しい作品を追いかけて取り上げるのを辞めちゃうという手はあるよね。「俺の守備範囲は1963年の『鉄腕アトム』から平成の最後までだ」ということにするとか。
板垣 ああ~。あれですね、なみきたかし方式ですよね。
小黒 そう言うと、なみきさんに失礼かもしれないけどね。前になみきさんに「大塚康生より後のアニメーターは小黒君に任せた」と言われた事があって。
一同 (笑)。
小黒 「大塚康生さんより後って、猛烈に守備範囲が広くない?」と思ったけど(笑)。
板垣 それだけ、小黒さんが期待を背負っているってことですよ。自分で守備範囲を設定するとしたら、何年から何年までにするんですか。
小黒 作品で言うと、守備範囲は1970年くらいからじゃないかな。
板垣 小黒さんはその頃の作品から詳しいですよね。白黒のアニメも観てます?
小黒 観てるよ。『アトム』が始まったのが1963年で、俺が生まれたのが64年だから。リアルタイムで観てないのは最初の『アトム』の1年間ぐらいだよ。
板垣 ああ、そうか。『アトム』って4年間やっているから、後ろの方は観てる可能性あるわけですよね。
小黒 途中のエピソードも、一度ぐらいは本放送で観てるよ。具体的な記憶があるかどうかは別にして。
板垣 それを聞くと、感慨深いですね。
小黒 なにが。
板垣 国産の初の30分アニメから、現在の作品まで観てるわけでしょ。それって凄くないですか。やっぱアニメ様ですよね。
小黒 昔から観ている人は大勢いるけど、今でも新番組をひと通り観ているのは、自分でも偉いと思う。
板垣 そうですね。でも、新番組はどっかで切るでしょ。最後まで観ます?
小黒 いや、どんどん脱落していく。
板垣 ですよね。
小黒 例えば、昨日観たアニメが『私の百合はお仕事で!』『異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する』『Opus.COLORs』『王様ランキング 勇気の宝箱』『Dr.STONE NEW WORLD』『勇者が死んだ!』だね。1日で6本観ている。ながら観だけどね。
板垣 めちゃめちゃ観てるじゃないですか。
小黒 その前の日は『推しの子』『贄姫と獣の王』『アイドルマスター シンデレラガールズ U149』『この素晴らしい世界に爆焔を!』『神無き世界のカミサマ活動』を観てるから5本か。
板垣 凄いですね。確かに現役ですよねえ。
小黒 それでも全部を観ているわけではないんだよね。仕事で昔のアニメも観なくてはいけないから、どうしても最新のアニメを全部観ることはできない。
松本 そろそろこの座談会のまとめに入ったほうがいいんじゃないですか。
小黒 ああ、そうか。
板垣 どうすればまとまるんですか。
小黒 今から、この座談会がまとまるような話をするよ。
松本 お願いします。
小黒 板垣さんは「板垣伸のいきあたりバッタリ!」の連載が始まった頃って、まだ若くて、ブイブイ言わせていたわけじゃない。
板垣 ブイブイ言わせてかどうか分かんないですけど、若かったですよね。
小黒 この連載とともに板垣さんの人生があったというのが、面白いよね。
板垣 そうですね。連載の中でも、軽く触れたんですけど、この連載って『BLACK CAT』が終わったぐらいくらいの時に始めたんですよ。監督歴が丸々入ってるのは間違いないんです。だから、心境の変化も現れますよ。前半の方は結構刺々しかったし、業界にヒトコト言いたいなあというのもあった。だけど、今は業界に言いたいことなんてないんですよ。今は作り方に興味があるんですよ。だから、作り方の話をよくしていると思います。
前はね、やっばり不健全でしたよ。なんかくだを巻いてるだけっていう印象があったので(苦笑)。今はCGに触れたり、撮影を覚えたりとか、まだチャレンジする事があるなと思っているので、そこら辺を連載で描いていけたらいいなと思いますけどね。
小黒 この連載は2007年に始まってるから、今年で16周年だよ。
板垣 そうですよ。1年で50回しか載らないわけだから、800回って凄いですよね(笑)。
小黒 凄いね。
板垣 我ながら呆れますよ(笑)。
小黒 「いきあたりバッタリ!」はインターネット世界の『こち亀』だよ。
板垣 (笑)。
松本 しかも、アニメ監督でこんな事をやってる人はいないんですよ。
板垣 俺って天邪鬼なところがあるんですよ。小黒さん、覚えてますかね? 連載が始まって1年経ったぐらいの時に、小黒さんに「4月ぐらいまで続けられる?」と言われた時あったんですよ。
小黒 時期は覚えてないけど「いつまでやれるの?」と訊いた事あるよね。
板垣 その時に「えっ!? 4月でやめなきゃ駄目なの?」と思ったんですよ。それで「続けられるなら、続けてもらっていいんだけど」と言われたので「鬱陶しいから、もうやめてくれ」と言われるまでやろうと思ったんですよ。
小黒 なるほど。
板垣 「頼むから、やめてくれと言われるまで続けるのが目標かな」と思ったんですよね。だから、続いているんじゃないですか。
松本 そもそも、小黒さんはなんで板垣さんに声かけたんですか。
小黒 言いたい事が、いっぱいあるみたいだから。
板垣 そうですよね。確か言われましたよ。実際に言いたい事がありましたしね。毒にも薬にもならないものっていうのは嫌だったので、単純に言いたい事を言おうかなと思った。ただ、やっていくうちに、監督って下手な事を言えないというのが、分かったんですよ。
松本 うん(笑)。
板垣 やっぱり関係者も連載を見るじゃないですか。例えば、その時に作っている作品の製作委員会の人もこの連載を見ているんですよ。そうすると、昨今のアニメについての不満とか言えないじゃないですか。今は楽しく作ってるということを、描けたらいいなあと思っています。
この連載の原稿は気分転換にいいんですよ。仕事の途中でも、ちょっと時間をもらって原稿を描くと、その時は仕事から解き放たれるというか。いつも原稿の上がりがギリギリで申し訳ないんですけど、続けられる限り続けたいなあとは思ってます、っていうのがまとめですね。
小黒 いつも更新してくれてる松本君に労いの言葉はどうですか。
板垣 毎回、ギリギリまで引っ張ってしまって申し訳ないかなと思ってるんですけど、もう嫌になりませんか?(苦笑)
松本 大丈夫です。すでに木曜は板垣さんの原稿を待つのが当たり前の身体になっているので。
板垣 (笑)。それ、なんか切ないですねえ。
松本 昔に比べたら、ずっと楽ですね。
小黒 昔は板垣さんの手書きのテキストを、松本君がタイプ打ちしていたんだよね。
松本 今はテキストもデータでもらっていますから。
板垣 だけど、松本さんがアニメスタイルを退職したら、更新ができなくなるんじゃないかと思っているんです。辞める予定はないですよね。
松本 今のところ、その予定はないです。
板垣 それはよかった。だったら、1000回を目指したいですね。1000回までお付き合いいただけると、嬉しいです。
松本 分かりました。任せてください。
小黒 座談会のまとめっぽくなったね。よかった。
板垣 まあ、そんな感じでひとつよろしくお願いします。
----終わり----
新文芸坐とアニメスタイルは6月も劇場版『クレヨンしんちゃん』をお届けします。
6月18日(日)に上映するのはシリーズ第2作の『クレヨンしんちゃん ブリブリ王国の秘宝』です。17時からと19時からの2回上映で、19時からの回は本郷みつる監督、湯浅政明さんのトーク付きとなります。今回も貴重な35ミリフィルムによる上映となります。
アニメスタイルは2月から本郷みつる監督の初期劇場版『クレヨンしんちゃん』を上映してきました。これからも上映の機会を作りたいと考えていますが、ひとまず、今回の『ブリブリ王国の秘宝』で一連の企画は完結することになります。
また、トークの後に本郷監督が刊行した同人誌「本郷みつる/足跡」の第二版「本郷みつる/足跡+」を販売する予定です。「+」の販売価格は1500円ですが、初版を持参した方は1000円で購入できるそうです。
チケットは6月11日(日)から発売。チケットの発売方法については、新文芸坐のサイトで確認してください。
【新文芸坐×アニメスタイル vol. 160】 |
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開催日 |
2023年6月18日(日) |
開演 |
17時~、19時10分~ |
会場 |
新文芸坐 |
料金 |
17時の回:一般1500円、各種割引1100円 |
トーク出演 |
本郷みつる(監督)、湯浅政明(設定デザイン)、小黒祐一郎(アニメスタイル編集長) |
上映タイトル |
『クレヨンしんちゃん ブリブリ王国の秘宝』(1994/96分/35mm) |
備考 |
※トークショーの撮影・録音は禁止 |
●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/
「ANIMATOR TALK」はアニメーターの方達に話をうかがうトークイベントシリーズです。今回は原作・監督として『電脳コイル』『地球外少年少女』を手がけ、アニメーターとして『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』『新世紀エヴァンゲリオン』等で素晴らしい仕事を残している磯光雄さんをゲストに迎えて開催します。
今回のイベントでは磯光雄さんがリスペクトするアニメーターについての話を中心に、トークを展開する予定です。
開催は6月25日(日)夜。会場はLOFT/PLUS ONE。チケットは6月10日(土)正午12時から発売。購入方法については、LOFT/PLUS ONEのサイトをご覧になってください。なお、今回のイベントは配信を予定していません。
■関連リンク
LOFT/PLUS ONE
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/plusone/253849
第206回アニメスタイルイベント | |
開催日 |
2023年6月25日(日) |
会場 |
LOFT/PLUS ONE |
出演 |
磯光雄、小黒祐一郎 |
チケット |
前売 1,500円、当日 1,800円(税込・飲食代別) |
■アニメスタイルのトークイベントについて
アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。
腹巻猫です。6月3日に東京国際フォーラムBホールで開催された「松本零士先生お別れの会」に参加し、献花してきました。宇宙をイメージした祭壇、写真パネル展示、アニメ音楽の生演奏などで、松本零士先生を偲ぶ会でした。ちょうど会場に入ったときに『さよなら銀河鉄道999』の主題歌「SAYONARA」を演奏していて、かなりぐっときました。いつかまた、遠く時の輪の接するところで。
劇場アニメ『THE FIRST SLAM DUNK』のオリジナル・サウンドトラック・アルバムが5月31日にリリースされた。
その情報をつかんでなくて、リリースされたあとに知って驚いた。劇場版が公開されたのが昨年12月。サントラ盤はもう出ないか、映像ソフトに同梱かなあ、と思っていたからだ。
サントラアルバムはメディアミックスによる劇場作品の宣伝グッズという一面もあるため、公開から半年を経てのリリースは珍しい。Blu-ray等の発売に合わせて出す例はあるが、本アルバムは単独での発売。もしかしたら、Blu-rayと合わせて発売する予定があったものの、まだ絶賛公開中だからBlu-rayは先送りになり、サントラのみ発売されたという可能性もある。なんにしろ、快挙である。劇場版が大ヒットしているからこそだろう。
そしてこのサントラ、めちゃめちゃ売れてる。この原稿を書いている6月6日現在、Amazonの売れ筋ランキングで、サウンドトラック(ミュージック)部門1位、キッズアニメ・テレビ音楽部門1位、アニメ音楽部門1位を記録。ミュージック全体でも8位。商品ページには「過去1週間で3000点以上購入されました」と表示される(この表示は出たり出なかったりする)。近年は初回プレスが3桁(数百枚)というサントラCDも珍しくないのに、1週間で3000枚とは驚異だ。これはAmazonのみの数字で、ほかのショップの売り上げや配信版も含めると、実際に売れてる数は数倍になるだろう。
それだけ、このサウンドトラックを待っていた人がいたということ。サントラが売れない時代と言われるが、やはり作品の人気と音楽の人気次第なのだ。
劇場アニメ『THE FIRST SLAM DUNK』は、井上雄彦のバスケットボールマンガ『SLAM DUNK』を、原作者自身の監督・脚本でアニメ化した作品。アニメーション制作は東映アニメーションとダンデライオンアニメーションスタジオが担当した。
『SLAM DUNK』は90年代に東映アニメーションの制作でTVアニメが放映されていた。今回はまったく新しい構想によるアニメ化。原作の絵がそのまま動いているような映像、臨場感あふれるバスケットボールの試合描写など、細部までこだわりぬいた表現と演出に圧倒される。
実は筆者はTVアニメ版をほとんど観ていない。ストーリーもよく知らなかった。が、本作は劇場で観てたちまち引き込まれた。昨年観た『DRAGON BALL超 SUPER HERO』に次ぐ衝撃だった。
衝撃を受けたのは映像だけではない。音もすごい。セリフ、効果音、音楽ぜんぶを含めた音響がすばらしいのだ。音のよい劇場で観ると、バスケットコートの中に立っているような気分になる。
音楽の量は、劇場アニメとしては控え目である。音楽に頼らず、セリフと効果音だけで演出している場面が多い。たとえば、少年リョータが海岸の洞穴で兄ソータの遺品を手にし、兄のバスケットへの想いを引き継ぐ場面。音楽は一切流れない。そのぶん、音楽が流れたときの印象が際立つ。その音楽も、メロディより音の響きやリズムを重視したサウンド志向のものになっている。
音楽を担当したのは、J-POPのアレンジャー、プロデューサーとして活躍する武部聡志と本作の主題歌を手がけたロックバンド10-FEETのTAKUMA。主に心情描写の曲を武部聡志が、試合シーンの曲をTAKUMA(10-FEET)が担当している。
井上監督から「のびのびやってください」と言われた武部聡志は、デモを作ってはどんどん送り、それを試しに画にはめてもらって違和感を修正する形で音楽作りを進めていった。「物語に入り込めるようメロディが主張する音楽ではなく、コードやピアノの響きがメインになる音作りを心がけました」と武部はコメントしている。
ピアノの響きを効果的に使うよう意識し、レコーディングも音響演出の笠松広司らとともに、シーンにあった音色になるよう試行錯誤を重ねた。武部が担当した曲は、ピアノやギターの繊細な音色が印象的で、音の響きだけで心情が伝わってくる。
いっぽうのTAKUMA(10-FEET)は、「劇伴の経験がない分、先入観なしでやれたのが結果的に良かったんかな」と語る。パンクロックっぽい曲からEDM的な曲まで大量のデモをまず作って、監督と相談しながら方向性を探っていった。井上監督と何度か話すうちに、監督と自分の中で「劇中で鳴っている音」がシンクロしていく感覚があり、そこをどう一致させるかを考えたという。
そうやって作り上げた劇中曲が以下の5曲。
「暁の砂時計」
「Alert of oz」
「Slash Snake」
「BLIZZARD GUNNER」
「Double crutch ZERO」
いずれもギターサウンドとロックのリズムが印象的なナンバーで、劇伴というより独立した楽曲として聴くことができる。劇中では曲をシーンにあわせて編集する形で使用されている。
この5曲は劇場版主題歌「第ゼロ感」とともに、2022年12月発売の10-FEETのアルバム「コリンズ」に収録された(完全生産限定盤と通常盤Bタイプのみ)。「コリンズ」には本編では使われなかったけれど『THE FIRST SLAM DUNK』にインスパイアされた楽曲も収録されている。そのため、「THE FIRST SLAM DUNK オリジナル・サウンドトラック」が発売されるまで、アルバム「コリンズ」がサウンドトラック・アルバムの役割も果たしていた。先にリリースされたオープニング主題歌「LOVE ROCKETS」とエンディング主題歌「第ゼロ感」に、「コリンズ」に収録された劇中曲5曲を加えれば、サントラ盤と呼んでもおかしくないプレイリストを作ることができる。筆者が「単独のサントラ・アルバムはもう出ないかも」と思っていた背景には、そういう事情もあった。
でも、やはり劇場版に魅せられたファンとしては、武部聡志の楽曲も聴きたいし、10-FEETの曲も劇中で使用されたバージョンで聴きたい。
満を持してリリースされた「THE FIRST SLAM DUNK オリジナル・サウンドトラック」は、そんな願望を満たしてくれるものだった。すべての楽曲が劇中に流れたとおりの形で収録されたのである。発売元はユニバーサルミュージック。収録曲は以下のとおり。
本編に流れた曲を使用順に収録した理想的な構成。
劇場版を観た方には各曲の細かい紹介は不要だろう。サントラを聴けば、劇場の興奮がよみがえる。逆に未見の方には細かく紹介しないほうが親切というもの。早く観て、観ればサントラが聴きたくなるから、と言いたい。
以下、聴きどころにポイントを絞って紹介しよう。
1曲目「Moving Logo」はアルバムの中でもユニークなトラック。本編が始まる前、配給や制作会社のロゴマークが表示されるバックに流れる音だ。音楽配信サイトで確認すると、著作者は「THE FIRST SLAM DUNK Film Partners」の名義になっている。音楽として作られたものではなく、効果音扱いなのかもしれない。サントラとしては入ってなくても差し支えないが、劇場版の雰囲気を追体験するにはあったほうがいい。サントラ制作者のこだわりが感じられるトラックである。
オープニング主題歌に続くトラック3「拮抗(from 暁の砂時計)」は、冒頭の試合場面から流れる曲。本編の情景が浮かんでぞくぞくする。「最初からクライマックス」みたいに気分が上がる。
このトラックをはじめ、曲名のあとに「from XXX」とカッコ書きがついているのは、10-FEETによる劇中曲をもとにしたトラックである。「XXX」が原曲名。ひとつの曲が編集を変えてさまざまな場面に使われている。
アルバム「コリンズ」に収録された原曲と聞き比べてみると、シーンに合わせて巧みな編集が行われていることがわかる。サウンドトラックにも「Music Editor」としてクレジットされている音響演出の笠松広司の仕事だろう。笠松はセリフ、効果音、音楽を含めた音響制作全体を担当した、本作のサウンドデザイナーである。音楽の映像とのみごとなマッチングは、笠松広司の手腕によるところが大きい。本アルバムを聴くときに注目してほしいポイントのひとつだ。
10-FEETの曲は、試合シーンに流れるアップテンポのナンバーもよいが、ロックバラード風のトラック17「再起」やトラック21「湘北」もぐっとくる。「再起」はこの原稿の前半で紹介したリョータの洞穴のシーンの直後に流れる曲。「湘北」は湘北チームが反撃に向けて気持ちを切り替えるシーンに流れた曲である。
曲名のあとにカッコ書きのないトラックは武部聡志の曲。トラック4「ソータの部屋」のピアノとチェロの繊細な響きが胸にしみる。激しいロックサウンドのあとだけに、静かな音色が鮮烈に聴こえる。
トラック6「新しいコート」、トラック9「勝てないチーム」、トラック12「叶えられている願い」などは、いずれもピアノやギターの響きで、言葉や絵で表現しきれない心情を伝えるナンバー。武部が語った「メロディが主張する音楽ではなく、コードやピアノの響きがメインになる音作り」とはこういうことだったのか、と曲を聴いて納得する。
ストリングスが入ったトラック25「バスケ人生」はアルバム全体の中でも雰囲気の違う曲。試合中、関係者席に突っ込んで倒れた桜木花道が、自分とバスケットとの関わりを回想するシーンに流れるメロディアスな曲だ。花道が復活するシーンのトラック26「栄光の時」とセットで聴きたい。
トラック28「勝利」は、10-FEETの曲を武部聡志がアレンジしたナンバー。ここまで武部の曲と10-FEETの曲はほとんど対照的なサウンドで作られていたが、ここに来て両者の音楽性が合体したのである。最高のカタルシスが味わえるシーンだけに、この共作はうれしい。このアイデアは武部からの提案だったそうだ。
サウンドトラックは劇場版を追体験することができるアイテムである。音楽を聴いていると、脳内で本編が再生される。しかし、本作の場合はそれだけでは満足できず、もう一度劇場版を観たくなる。脳内の再現より、劇場版そのものを体験したいと思うのだ。
さらに、サントラを聴いていると、10-FEETの楽曲の原曲が収録されたアルバム「コリンズ」も聴きたくなる。10-FEETのアルバムは、劇場版とはまた異なる、音楽による『THE FIRST SLAM DUNK』の世界を表現していると思うからだ。
そんなふうに考えるのは、本作の音楽が、物語よりも作品世界そのものを「音」で表現しようとしているためだろう。音に世界が宿る。音響へのこだわりから生まれた、これまでにない『SLAM DUNK』を体験させてくれるサウンドトラック・アルバムである。
THE FIRST SLAM DUNK オリジナルサウンドトラック
Amazon
小黒 次が『魔女見習いをさがして』(劇場・2020年)です。こちらは佐藤さんが取材で話をされた回数も多いと思います。
佐藤 『魔女見習い』ですね。
小黒 僕のほうで説明をすると、最初に『どれみ』の新作を作るという話があって、小説版『おジャ魔女どれみ16』や『おジャ魔女どれみ17』を映像にする可能性もあった。でも、そうではないということで、かつて『どれみ』を観ていた女の子達の話になった。ということで間違いないですね。
佐藤 そうですそうです。
小黒 佐藤さん自身は、『どれみ』の新作を作るということ自体についてはどうだったんですか。
佐藤 「20周年なので映画やりたいんです」って聞いた時には、やっぱり「誰がどんな『どれみ』の映画を観たいんだろう」ということが掴めなくって、ぼんやりと返してたんですよ。小説が展開していることも知らなかったんですよね。だから、小説の映画化をやるのかなと思ったけど、それが求められているかどうかを自分では判断しきれずにいたんです。そうしたら『どれみ』ファンだけじゃなくて、もうちょっと裾野を広げてほしいっていうオーダーが上のほう(東映アニメーションの髙木勝裕社長)から来て、「『どれみ』を子供の頃に観ていた大人、アニメーションに背中を押されている大人の話」という切り口が出てきた。それで「あ、それならやれそうだな」と思ったのは覚えてるね。
小黒 新文芸坐のレイトショーでトークしてもらった時も聞きましたけど、もうちょっとリアル寄りの世界観なり演出なりで作る可能性もあったわけですね。
佐藤 あった。あったし、コンテに入る前になっても、どうしようかなあと思ってた。最初に上がってきた谷(東)さんのコンテは若干リアル寄りではあったんですよね。その後、五十嵐のコンテが上がってきたのを見て、谷さんも「ああ、こっちだった」とコンテを修正してね。僕も含めてみんなで「そうだな。こっちだな」って思って、腹が決まりましたね。
小黒 補足すると、五十嵐さんはTVの『どれみ』と同じような、ちょっとギャグがあったりする楽しい感じの絵コンテを上げてきたわけですね。
佐藤 そうですそうです。『どれみ』でよくやっていた「崩し」を大量に使う演出になっていた。
小黒 どれみちゃん達に憧れた人達がいる世界は、もっと現実に近い世界を作るのが定石なんだけど、彼女達がいる世界も、マンガ的な楽しい雰囲気の、ちょっと理想化された世界である。その世界の挫折や悩みはややリアルなものなんだけど、テイストとしては楽しい感じでいいんではないかとなっていったわけですね。
佐藤 『どれみ』の世界観と、空気が繋がってる感じにしていこうということだね。
小黒 正しいかどうか僕にはまだ分かんないんですけど、確かに映画を観てる間に『どれみ』を観てる気分にはなりましたね。
佐藤 最終的には、そうなってもらえばいいんじゃないのっていう感じでいるので(笑)。
小黒 最後、どれみちゃん達が出る必要性はあったんですか。
佐藤 店の中にいるやつね。でも、あそこしか、どれみの出る場所はないんだよね。
小黒 そうですね。
佐藤 僕は「魔法は現実にはなかったよ。なかったけれども明日から生きていけるよね、君達」という文脈を考えていたんです。だけど、それだと最後のどれみのシーンはあっちゃダメなんです。
小黒 あっちゃダメですよね。
佐藤 でも、イベントに行くと、最前線の席に座っている大人の女性達の目が凄くキラキラしてるわけですよ。それは『プリンセスチュチュ』のイベントの時もそうでした。この気持ちは肯定してあげるべきものだと思ったんですよ。
だから「魔法なんかない」じゃなくて「魔法はなかった。でもね、あるかもしれないよ」という映画にしていくわけですよ。そうすると『どれみ』が好きだった子供の時の自分を肯定することになるんでね。そういう流れだと、どれみ達が空を飛んでいくっていうビジュアルが力を持つことになる。この映画を観ることが、明日も生きる力に繋がるはずだ、という感じ。
小黒 3人の悩みが一段落した時に、どれみ達の姿を見るからいいわけですね。「つらい現実の中で私達は生きていて、魔法なんかなかったんだ」と思っている時に、どれみ達に会うとつらいじゃないですか。
佐藤 つらいし、もう見たくないになっちゃう。
小黒 彼女達も自分達の理想に一歩近づいて、現実世界の中で自分達の魔法を手に入れた上で、どれみちゃん達に会うと、そんなにおかしくはない。
佐藤 あそこにいる3人の子供の姿は視聴者、観客の一人一人というつもりなので、一緒に会ってる感じなんですよね。「映画のスクリーンにいるどれみ達に、観客の私も3人と一緒に会っている」。そして、飛んでいく気分で終われるんじゃないのかなって。ただ、映画館から出た後も余韻として残ってて、明日会社を辞めようって思われるかもしれないけど (笑)。自分の未来を信じてみたい気持ちになる人だっているかもしれないじゃんということですね。
小黒 ところで、『どれみ』を好きな人達をご自身で描くのは、照れ臭くなかったですか。
佐藤 それは最初からずっとそうなんだけど(笑)。「君達は『どれみ』が好きなんだろう」という映画を自分で作るのはやっぱ難しいよね。でも、そう信じないと描けないから。
小黒 最新作が『ワッチャプリマジ!』(TV・2021年)ですね。これはどういった取り組みなんですか。
佐藤 筐体ゲームのアニメなので、新しいビジネススタイルに取り組むのが面白い作品ではあります。これを楽しむ女の子達の年齢は『プリキュア』を観ている子達と同じくらいないんだけれども、遊び方が大きく違うからね。「おもちゃを買って遊ぶ」じゃないところが、難しくもあり、面白くもあり、ですね。
小黒 なるほど。
佐藤 『HUG』の時と同じように、脚本の坪田(文)さんが、お話の軸を作ってくれていて、個人的にも好きな話なので、演出的には楽しめるかなと思っています。
小黒 佐藤さんは、これから映画ばっかり作っていくのかと思いました。
佐藤 いや、映画が続いたのはたまたまだから。ビジネスのスタイルがそうなっていて、TVよりも映画のほうが制作をスタートさせるハードルが低かったから。これから、配信物ばかりやってるという時代になるかもしれないけど。
小黒 いやいや、もうなってますよ。配信される作品ばかり作ってる人もきっといますよ。
佐藤 その時代その時代の中でやってるだけなので。まあ、相変わらず映画は苦手だなと思ってる感じがありますけどね(笑)。
小黒 今でも映画は苦手なんですね。
佐藤 映画のスクリーンでなにかやるのは難しいと思ってます。やっぱりTVが一番自分に合ってるなっていうのは、今回『プリマジ』をやりながら思っていますね。
座談会参加者:板垣伸(アニメ監督)、小黒祐一郎(編集長)、松本昌彦(編集者)
小黒 『いせれべ(異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する)』だと、エンディングのクレジットに「原画」「動画」の役職がなくて、「作画」「原動画」の役職があるよね。アニメーターの仕事内容が通常の作品と違うの?
板垣 作画監督が修正を入れたラフを、第二原画を兼ねて動画の線でクリンナップしてしまうんです。そういったショートカットが、うちのやり方なんですよ。第二原画の作業もしているので、役職を動画でなく、原動画にしています。
小黒 第二原画をやる人は必ず動画もやるの?
板垣 ある話数でたまたま第二原画だけをやる場合もありますが、基本的には第二原画と同時に動画、それから、仕上げもやってもらっています。場合によってはアニメーターが背景も描きます。
小黒 それは凄いなあ。「作画」は?
板垣 ラフ原画だけを描いて、第二原画を任せるのが「作画」です。第二原画を担当しない代わりに、カットのあがりをチェックすることになっています。それから担当カットが少なかった作監を「作画」としてクレジットすることもあります。
小黒 それは社内スタッフのやり方だよね。参加しているのは全員が社員なの?
板垣 うちの会社(ミルパンセ)は基本的に社員雇用なので、社内のスタッフは社員ですね。結構な分量を社内生産でやっています。
小黒 「やろうと思えば、作り方そのものを変えられる」というのはそういうことなね。
板垣 昔の話になりますけど、パソコンとかに興味を持ってる友達が「コンピューターを使えば、漫画家とアシスタントぐらいの人数でアニメが作れる」と言っていたんですよ。自分達はアナログのアニメを目指してたから、彼に反発したんですよ。「アニメって、もっと大きいもんだ。みんなで作るもんだ」と言ったんです。でも、今は彼の説を推してるんです。多分ね、漫画家とアシスタントぐらいの人数で作った方が、人類の精神衛生上いいです。
小黒 ふむふむ。
板垣 クリエイターになりたい人と、作業者になりたい人がいるんですよ。うちらが若かった頃って、みんながクリエイターを目指していた。例えば、監督を目指すとか、キャラクターデザインや総作監を目指すとか。それについてこられない奴は切り捨てられるのではないかという空気だったんですよ。
小黒 わかるわかる。
板垣 要は「クリエイターになりたいんじゃないのか? 作業者でいいのか?」という意識があったんです。だけど、働き方改革で1日8時間労働と週休2日制を肯定するなら、作業者の存在を認めざるをえないんですよ。
小黒 そうなんだろうね。
板垣 今は「自分は作業者でいいから、1日8時間で帰って、家でゲームやってたいんだよ」という人達もいるわけです。だとすると、仕事を切り分けて、月給や時給をもらってやるような作業内容にしていかないといけないわけです。それは漫画家とアシスタントの、アシスタントなんです。クリエイターになりたい人もいるだろうし、クリエイターを求めている会社もあるんだろうけど、自分はそうでない人がいてもいいと思っています。
それが、これからの働き方でいいと思っているんです。どうなんです? アニメスタイルさんは、それができてるんですか。
小黒 昔に比べればね。今は、みんな、家に帰ってるよ。
板垣 ああ、帰ってます?
小黒 うん。
板垣 何人ぐらいなんですか、アニメスタイルは?
小黒 社内の編集スタッフは、僕を入れて5人かな。今は編集業務をしている人で出勤してるのは3人しかいないから。
板垣 リモートですか。
小黒 そうそう。家でできる作業は家でやる。
松本 会社で作業をしているアルバイトの人もいるから、3人ってことはないんじゃないですか。
小黒 ああ、そうか。もう少しいます(笑)。松本君も基本は自宅作業だから、板垣さんのコラムの原稿が届くのが、どんなに遅い時間になっても大丈夫です。
板垣 いや、遅い時間に原稿を送ったりはしてないですよ。
松本 (笑)。
板垣 でも、この連載も10数年やっているでしょ。
小黒 長いよねえ。
板垣 長いことやっているから、自分も変わりましたよ。一瞬の諦観があって、諦観と期待感がいい感じにバランス取れてるなあと思ってて。
小黒 昔の板垣さんはもっと脂っこかったね。
板垣 そうでしょ。あの頃に比べると、色んなものがどうでもよくなった(笑)。ただ、作品を作るのは本当に面白いんで、その面白さを伝えたいなあと思っているんです。クリエイターにならなくても、クリエイティブな現場にいられる。うちの会社で「人生の寄り道としてアニメの仕事をやってみたい」という人を受け止められるにしたい。そういうもの作りに参加することの面白さを伝えられる作品ができたらいいなあと思いますね。
小黒 「人生の寄り道」というのは、一生の仕事にするわけではないけれど、ということね。
板垣 そうです。自分は原作をいただいて作るのも嫌じゃないんですよ。ありがたいことに、このあとも2本ぐらい、企画が控えてるんです。だけど、そろそろ短いものでもいいので、自分1人で作ってみるとか、自分とアシスタントぐらいの規模で作れるようなものに手つけたいなあと思ってきた感じですかね。
小黒 オリジナルって事?
板垣 そうですねえ。自分が惚れ込んだ原作でもいいんですけど、でも、オリジナルが一番手っ取り早いですよね。
小黒 そうだね。
板垣 軽いアニメを作ってYouTubeとかで流すぐらいのところから、探るべきかなあと思っています。
特別編・いきあたりバッタリ座談会(3)に続く
座談会参加者:板垣伸(アニメ監督)、小黒祐一郎(編集長)、松本昌彦(編集者)
板垣 ちなみに今のアニメってどうですか。自分は全然、新作が観れてないんですよ。
小黒 え、いきなり始まるの?
板垣 (笑)。いきなりだとまずいですか。
小黒 普段は板垣さんが原稿を書いている連載なのに、今回はこうやって座談会になっているわけじゃない。そこから読者に説明したほうがいいんじゃない?
板垣 ああ、筋が通ったことを言いますね。さすが編集長は違いますね。
小黒 ちっとも誉められている気がしないね(笑)。では、「いきあたりバッタリ!」の編集担当の松本君に説明してもらおうか。
松本 「いきあたりバッタリ!」の連載が800回を迎えたので、アニメスタイル編集部から板垣さんにお祝いの品を贈ろうかということになったんですよ。それで何がほしいのか、板垣さんに訊いたら「連載の休みが欲しい」と。
板垣 そうです。そう言いました。連載を見てもらえば分かると思いますが、今やっている仕事が忙しすぎて、このコラムを書く時間をとるのも大変なんですよ。
小黒 編集部としては、板垣さんがひと月くらい休んでも構わないんだけど、板垣さんは休むのは嫌なのね。
板垣 ここまで続いているのを休むのも悔しいじゃないですか。
松本 それで板垣さんのほうから、座談会をやって、それを原稿の代わりに載せてほしいと言われたんです。
小黒 プレゼントでものをもらうよりも、休みがほしい。原稿を書く時間を制作中のアニメの作業に充てたいということね。了解しました。それでは最初の話に戻ろうか。
松本 お願いします。
小黒 今のアニメはどうかってことね。『異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する』がよくできてて感心しているよ(編注:『異世界で~』は板垣さんが総監督を務めているTVシリーズ)。
板垣 やだなあ、お世辞を言っているでしょ。
小黒 略称は『いせれべ』って言うんだね。『いせれべ』は画がしっかりしてるから、映像を観ているだけで楽しいよ。
板垣 うちの有望株の木村(博美)っていう子がやってくれているんです(編注:木村博美さんは『異世界で~』のキャラクターデザイン・総作画監督)。『コップクラフト』でキャラデをやってもらったのが20歳の時だから、今は25歳ぐらいですね。頑張って濃い画を描いてくれているので、彼女が描いてくれた画を守って、それを映像に落とし込むのが、今回の自分の仕事かなと思っています。彼女の手が届いていないところを、俺が一生懸命直してる感じですかね。
小黒 忙しそうだね。
板垣 忙しいですね。自分に関して言うと、しばらくは土日がない感じです。ただ、「何かほしい物ないですか」と訊かれて「休みがほしい」と言ったのは、忙しいからだけではないんです。今、物欲がもうないんですね。だって、出崎(統)さんの新作が出ないじゃないですか。
小黒 新作がないのは当たり前じゃない。
松本 (笑)。
板垣 過去作品のDVDでもいいんですけどね。出崎さん関係くらいしか欲しいものがないんです。去年、4Kで『コブラ(スペースアドベンチャー コブラ)』の再上映があったけれど、それも観に行けてないんですよ。仕事のことで必死で、全然観てる時間がなくって(苦笑)。どうしたら、アニメを楽しめるのかなあと思って。
小黒 今、話している内容を記事にしていいの?
板垣 自分は大丈夫ですよ(笑)。こういう機会いただいたので、今のアニメのどういうとこが面白いのかを教えてもらっておこうかと思って。小黒さん、まだアニメが面白いですか。
松本 凄いことを訊きますね。
小黒 面白いよ。
板垣 どの辺り楽しんでます?
小黒 お話を楽しんでいる作品もあるし、作画とかの良さを楽しんでいる作品もあるよ。
板垣 だって、本数めちゃめちゃ多いでしょ?
小黒 本数はめちゃめちゃ多いね。
板垣 だから、各方面のプロデューサーと話ししてても、そんな話ばっかりですよ。「いったい何本あるんだ。いつまでこの状況が続くんだ!?」って。
小黒 そうだねえ……(どう話を続けるか考えている)。
板垣 最近、今石(洋之)さんはどうしているんですか。
小黒 えっ、そっちの話? 去年、新作『サイバーパンク: エッジランナーズ』を発表したよ。Netflixで配信しているよ。
板垣 そうなんですね。全然、チェックできてないです。マズいなあ。そう言えば小黒さんは、体調を崩されたみたいですね。
小黒 (松本君に向かって)板垣さんって昔からこうでね。会話の途中でガンガン話題を変えていくのよ。
板垣 いやいや(笑)。
松本 いいじゃないですか、この座談会は録画もしてるし。後で使えるところだけ使えば。
小黒 使えるところあるかなあ。
板垣 いや、自分の中では話題は変わってないんですけど。
松本 (笑)。
小黒 体調の話だと、僕は昨年末から入院したり、手術したりとか。
板垣 大変でしたね。もう具合はいいんですか。
小黒 今はね。かなりよくなっています。
板垣 よかったです。だけど、やっぱり歳取りましたよねえ。
小黒 歳を取ったねえ。
板垣 お互い様ですけどね。
小黒 (棒読み風に)いやいや、板垣さんなんてまだまだ若いじゃないですか。
板垣 若くないですよ(苦笑)。来年で終わりかなと思ってますよ。今の働き方に、ちょっと限界が……。今はまだ結構描いてますよ。
小黒 そうなんだ。
板垣 最近は背景も直したりもしています(編注:板垣さんは『異世界で~』で背景としてもクレジットされている)。「これはCGや撮影も自分でやらないとな」と思っているくらいです。それはそれで面白いんですけどね。自分の場合、あれなんですよ。大きなスタジオで、ゴージャスにアニメ作るのって向いてなかったみたいですね。スタジオが大きいからできる事もたくさんあるんですけどね。
この連載でも描きましたが、今のアニメって無駄が多いんですよ。例えば、やっていると同じ画を何回も描いてるという意識が出てくるんですよ。制作さんで、何人かが同じことを言っていたんですけど、レイアウトの時に作監修正を入れて、それを発展させて原画を描いて、また、作監修正を入れる。どれも同じような画なんですよ。それが訳がわかんないと言うんです。
松本 うんうん。
板垣 2000年に出た最初の雑誌「アニメスタイル」があったじゃないですか。
小黒 なにを言いたいのか分かるよ。『(機動戦艦)ナデシコ』ね。
板垣 そうです。後藤圭二さんの特集で、レイアウトとレイアウト作監と原画と原画作監の原画を並べて載せていたじゃないですか。
小黒 載せた。何度も同じ画を描いているように見えるわけね。
板垣 そうなんです。言っていいのか分からないけど、そう見えるじゃないですか。
小黒 あの時は「こだわって作っている特別な例」として載せたんだけど。
板垣 だけど、今はあれが正しいやり方とされて、アニメの制作を崩している気がするんです。
小黒 作画の工程数が増えているのは間違いないよね。
板垣 俺は無駄を減らしたいんですよね。さっきの木村の画を守る話に戻りますけど、俺が描いたラフに木村が作監修正を入れて、原画マン無しで次の工程に進めるとか、そういうやり方にしたほうが早いんですよ。そんなやり方をしているから、俺の仕事が増えていくんですけど。動かすカットについてはそういうわけにもいかないから、動かしたいアニメーターに任せますけど。極端なことを言うと、顔を描く人は何人もはいらないんじゃと思うんです。出崎さんにとって、杉野(昭夫)さん1人がいればよかったように。
小黒 言いたいことは分かるよ。
板垣 そういう事ばっかりなんか考えているんです。やろうと思えば、作り方そのものを変えられるんですよ、今はそれが楽しいというのがありますよね。今のうちの会社なら「制作進行をなくしてしまおう」とか、そういう話もできるわけですよ。それは大きなスタジオだと難しいですよね。小さい会社だから、できることもあるんですよ。
特別編・いきあたりバッタリ座談会(2)に続く
腹巻猫です。2月から放映中のTVアニメ『ひろがるスカイ! プリキュア』のオリジナル・サウンドトラックが5月31日に発売されます。腹巻猫が構成・解説・インタビューを担当しました。音楽はプリキュアシリーズの劇伴を初めて手がける深澤恵梨香。シリーズ20年目にふさわしい気合の入った作品です。今回はこのアルバムを紹介します。
プリキュアシリーズ20作目となる『ひろがるスカイ! プリキュア』は、原点回帰と新しい挑戦をミックスした意欲作。主人公は異世界スカイランドからこちらの世界(ソラシド市)へやってきた少女ソラ・ハレワタール。ソラはソラシド市で中学2年生の少女・虹ヶ丘ましろと出会い、友だちになる。2人はプリキュアになる力を得て、それぞれ、キュアスカイ、キュアプリズムに変身し、謎の敵アンダーグ帝国に立ち向かっていく。
本作では4人のプリキュアが登場することが明らかになっているが、中心になるのはキュアスカイとキュアプリズムの2人。2人で技を放つときに手をつないで技名を叫んだり、そらがノートに「ふたりはプリキュア」と書くシーンがあったり(第5話)と、シリーズ第1作『ふたりはプリキュア』を意識している部分が見られる。
いっぽうで、主人公のソラが異世界の住人でイメージカラーが青であったり、男の子が変身するプリキュアが登場したりと、これまでにない試みに挑んだ作品でもある。「伝統をふまえた上で新しいステージに行こう」という意欲が伝わってくるのだ。
音楽面でのトピックは、初めてプリキュアシリーズの劇伴を担当する作曲家・深澤恵梨香の参加。深澤は劇場作品や舞台、ゲーム等の音楽で活躍しているが、連続TVアニメの音楽を単独で担当するのは初めて。既存作品のイメージがないぶん、「どんな曲を書いてくれるのか」と期待がふくらんだ。
深澤恵梨香がインタビューやコラムでたびたび語る言葉が「あて書き」である。「あて書き」とは脚本家が役を演じる俳優を想定して脚本を書くことだが、深澤は演奏家を想定してスコアを書く意味で使っている。
劇伴音楽の制作ではインスペクター(通称インペク)と呼ばれる演奏家のコーディネーターがスタジオミュージシャンを集めて録音を行うのが一般的だ。その際に作曲家が「トランペットは○○」「ギターは○○」とミュージシャンを希望することがある。その多くは、「ファーストコールミュージシャン」と呼ばれる実力のある演奏家である。作曲家が演奏家を指名することは広く行われていることだ。ただし、演奏家のスケジュールの都合などで、その希望がかなうとは限らない。
深澤恵梨香の「あて書き」はこれとは少し異なるようだ。深澤はミュージシャン1人ひとりに直接声をかけて参加してもらい、最初から誰が演奏するかを想定して、それこそ、1人ひとりの顔を思い浮かべながらスコアを書くという。深澤いわく「スコアは演奏家へのラブレター」なのである。「こう書けばこう演奏してくれる」という信頼関係が、完成した音楽を単に「譜面どおりに演奏した音楽」以上のものにしている。
プリキュア20作目の音楽を担当するという大役を任された深澤恵梨香は、過去のシリーズを観て、サントラもすべて聴いて、それをいったん置いた上で新しいものを作ろうと作曲に取りかかった。
『ひろがるスカイ! プリキュア』は「ヒーロー」がテーマとして掲げられている。タイトルの「ひろがる」は「Hero Girl」とのダブルミーニングだ。「ヒロイン」ではなく「ヒーロー」であるところにスタッフのこだわりがある。
音楽作りも「ヒーローってなんだろう」と考えるところから始まった。深澤恵梨香は自分なりのヒーロー像をスコアで表現し、さらに録音時に、ミュージシャンにそれぞれのヒーロー像を思い浮かべながら演奏してもらった。「ヒーローはこうだ」と決めるのではなく、それぞれの考えるヒーロー像を反映した音が集まって、ヒーローの音楽になる。「ヒーローとは?」と模索しながら進める音楽作りは、本編のソラの姿に重なる。
オーケストラはプリキュアシリーズ最大規模となる50人以上の編成。トランペット6本、ホルン6本など、金管が厚い編成になっているのが特徴だ。一部シンセやエレキ楽器も使われているが、大スケールのオーケストラサウンドを中心にした生音重視の音楽である。いくつかの曲では、主題歌歌手の石井あみがコーラスで参加している。
本作のサウンドトラック・アルバムは「ひろがるスカイ!プリキュア オリジナル・サウンドトラック1 プリキュア・サウンド・ミラージュ!!」のタイトルで、5月31日にマーベラスからリリースされる予定だ。
収録曲は以下のとおり。
放映開始前に本作のために制作された楽曲は約80曲。アルバムにはその中から38曲を収録した。
1曲目に収録した「ひろがるスカイ!」は本作のメインテーマ。「空」と「ヒーロー」をイメージした曲になっている。冒頭に聴こえてくるのは、エリックミヤシロによるトランペットソロ。もちろん、エリックミヤシロの演奏を想定して書かれたスコアである。そのトランペットの響きに呼ばれるように、ほかの楽器が少しずつ加わってくる。ヒーローのもとに次々とヒーローが集まってくるようなイメージだ。筆者は梁山泊に英傑が集う「水滸伝」を想像してしまった。この曲は第1話で、ソラがプリキュアの力を手に入れる重要な場面に選曲されている。
オープニング主題歌を挟んで、トラック3は「空の王国スカイランド」。第1話のアバンタイトルで、ソラがスカイランドの都にやってくる場面に流れた曲だ。6本のホルンの音を生かした雄大な曲想で、空に浮かぶ王国のファンタジックな情景が描写される。番組が始まったとたんにこの曲が流れて、「おおーっ」と思った人も多いだろう。
サブタイトル音楽に続いて、「ソラシド市でこんにちは」(トラック5)、「おしゃべりしましょう」(トラック6)と、使用頻度の高い日常曲を並べた。木管の響きが優雅な「ソラシド市でこんにちは」はクラシカルな室内楽風。ピアノソロを中心にした「おしゃべりしましょう」はラグタイムやジャズの雰囲気。どちらも第1話でソラとましろの出会いのシーンに流れていた。
トラック7「ランボーグ出現」はエレキギターがうなるロック。ランボーグ出現シーンによく選曲されている危機描写曲だ。
続くトラック8「激闘の嵐」は第1話で生身のソラがランボーグに向かっていく場面に流れた曲。以降のエピソードではプリキュア対ランボーグの場面によく選曲されている。プリキュアとランボーグの戦いをアップテンポのロックサウンドが描写する。スリリングな曲調は思わず「カッコいい!」と口に出してしまうほど。
そしていよいよお待ちかね。変身BGM「スカイミラージュ!トーンコネクト!」(トラック9)である。これまでのシリーズの華麗でキラキラした変身BGMとはひと味異なる音楽になっていることに注目。イントロのあと、抑えた曲調になり、続いて同じフレーズをさまざまな楽器が変奏していく展開。深澤恵梨香によれば、変身するソラの緊張感と期待感、そして徐々にプリキュアの姿が現れてくるようすを表現しようと考えたという。既成のイメージにとらわれない、ダンス音楽的な躍動感あふれる曲になった。
次のトラック10「ヒーローの出番です!」は第1話のキュアスカイ初登場シーンから使われているプリキュア活躍曲。メインテーマのメロディをアレンジした曲だ。オーケストラが奏でるスケールの大きなヒーローサウンドが爽快。
ここまでは、第1話をイメージした選曲と構成である。
トラック11「朝の息吹」からは、日常曲、コミカル曲、心情曲を並べ、ソラとましろの平和な(ちょっとユーモラスな)日々をイメージしてみた。アコースティックギターをフィーチャーした「そばにいるよ」(トラック19)、「誰かを思う夜」(トラック20)は、本編でもいい場面で流れていた胸にしみる曲だ。
アイキャッチ音楽を挟み、トラック35「神秘の扉がひらく」からは、ソラがスカイランドに帰還する第14話、15話のエピソードをなんとなくイメージして構成した。「なんとなく」というのは、構成したとき、第14話、15話は放映されておらず、使用される曲を想像しながら選曲したからである。放映が終わって、その想像は大きくははずれてなかったことがわかり、ほっとしている。
「神秘の扉がひらく」は第13話でスカイランドにつながるトンネルが開いた場面に流れていた神秘的な曲。
スカイランドの情景をイメージした「スカイランドの城」(トラック23)、「王都のにぎわい」(トラック24)が続き、ファンタジックなムードが高まる。「スカイランドの城」はクラシック音楽風の格調高い曲、「王都のにぎわい」は民族楽器を取り入れたエキゾティックでにぎやかな曲。どちらも第14話でソラたちがスカイランドの王と王妃に謁見するシーンで使われた。
「ヒーローになるために」(トラック25)と「猛烈にがんばります」(トラック26)はソラの特訓やトレーニングのイメージで収録。「ヒーローになるために」は第12話のソラの特訓シーンで流れ、第14話でソラがスカイランドの護衛隊に入隊するシーンにも使われていた。
トラック27「あこがれを胸に」は希望やあこがれをイメージした曲。第2話でソラがあこがれのシャララ隊長との出会いを語る場面で初めて使用された。第15話でソラが再会したシャララ隊長と語らう場面にも流れて、ふたつのシーンを結びつける役割を果たしている。ストリングスと木管が演奏するしみじみとした曲である。
トラック28「不安な雲行き」から雰囲気が変わり、アンダーグ帝国とプリキュアの戦いをイメージした構成になる。アルバムの中でもシリアスで緊迫感のある曲が続くパートだ。
トラック30「アンダーグ帝国」は、いまだ全貌が明らかでない敵・アンダーグ帝国のテーマ。
トラック31「嵐の前兆」から「息詰まる攻防」「迫りくる強敵」とバトル音楽が続いて、アンダーグ帝国の襲撃とプリキュアの激闘を表現する。手加減なしの激しいサウンドが燃える。熱気あふれる演奏はサントラでじっくり味わっていただきたいところ。
沈んだ曲調のトラック34「砕かれた希望」はプリキュア敗北のイメージ。その暗いムードを打ち破るように、トラック35「胸に燃える怒り」が熱い思いと強い決意を表現する。「胸に燃える怒り」は第15話でシャララ隊長がひとりで超巨大ランボーグに向かっていく場面に流れて、悲壮感を盛り上げた。
このままアルバムを終わらせるわけにはいかない。トラック36「翔べ!ヒーローガール」、トラック37「プリキュア・アップドラフト・シャイニング!」は、プリキュアの反撃と勝利をイメージして並べた。颯爽とした「翔べ!ヒーローガール」は「ヒーローの出番です!」と並ぶプリキュア活躍曲。「プリキュア・アップドラフト・シャイニング!」はキュアスカイとキュアプリズムがふたりで放つ浄化技の曲だ。
最後にエピローグをイメージして、平和なシーンに使われる2曲を収録した。
トラック38「心の手をつないで」は友情のテーマ。第2話でソラとましろが友だちになる場面(ブラス、ギター、パーカッション抜きバージョンを使用)、第5話でキュアプリズムがキュアスカイに「あなたは私の友だち」と言う場面など、ソラとましろの友情を描く大切なシーンを彩った。ふたりの場面を思い出しながら聴くとキュンキュンする。
トラック39「澄みわたる空」はハッピーエンドの曲。メインテーマのアレンジ曲のひとつである。木管とストリングスによる軽快なタッチの導入に始まり、途中からピアノソロとストリングスのしっとりとした曲調に転じる。シーンの雰囲気によって、曲を頭から使ったり、ピアノソロから使ったりできるように作られている。曲のラスト、トランペットソロがメインテーマのモティーフを奏で、その音が空に吸い込まれるように消えていく。1曲目に収録した「ひろがるスカイ!」と対をなす構成である。このアルバムもトランペットソロに始まり、トランペットソロに終わる。そのあとにエンディング主題歌と予告音楽が入って、アルバムは締めくくられる。
自分で言うのもなんだけれど、いいアルバムができたなあと筆者は思っている。
『ひろがるスカイ! プリキュア』第1話の放映日を、深澤恵梨香はドキドキしながら迎えたという。新しい音楽がファンにどう受け止められるか怖かった。しかし、いい音楽を作ったという自信はあった。
心配は杞憂だった。新しいプリキュア音楽はファンに好評で、SNSにも好意的な感想が流れた。深澤が音楽に込めたヒーローへの思いは、しっかりと視聴者に伝わったようだ。
この音楽を作った全員がヒーローです。とソラならヒーロー手帳に書いてくれるんじゃないかな。
ひろがるスカイ!プリキュア オリジナル・サウンドトラック1
プリキュア・サウンド・ミラージュ!!
Amazon
小黒 『泣きたい私は猫をかぶる』の企画はどこから始まってるんですか。
佐藤 これは山本幸治さんから始まった企画ですね。前から折に触れ「岡田さんとサトジュンさんで映画を1本やりましょう」と言っていて、やっと実現したのがこれですね。でも、結局配信になったんだよね。
小黒 何歳ぐらいのお客さんをイメージしてたんでしょうか。
佐藤 中学生ぐらいの子達と大人も、みたいな気分ですかね。ただ、「中学生はこういうものを観るよ」という情報やデータをもらってるわけじゃないので、単に推測ですけど。
小黒 コロナ禍の影響でNetflix配信になったんですよね。最初は「Netflixのお客さんにはストライクではないんじゃないの?」と思いました。実際には好評だったわけですけど。
佐藤 まあ、今でもNetflixのお客さんの層自体、僕は分かんないんだけど(笑)。
小黒 意外と家族で見てる人が多かったんですかね。それに、大人が観て喜んでくれたんですかね。
佐藤 「分かる分かるその感じ」みたいな反応が来たのは、中高生のほうが多かった印象ですけどね。大人になると「ムゲみたいな子を見るのはつらいです」になっちゃう。
小黒 じゃあ、共感してもらいたい人達に共感してもらえたということなんですね。
佐藤 かな? 具体的には分かんないからね。個々の反応ってTwitterで見るぐらいしかないので分からないですけど。
小黒 監督が佐藤さんと柴山さんの連名になってますけども、どういう仕事分けだったんですか。
佐藤 そもそもは、監督と助監督ぐらいの感じだったんだけども、僕が1人でコンテをやるんじゃなくて、柴山君にもコンテを沢山やってもらおうと思ってやってもらったんです。現場のコロリドも、その時点ではアウェイなので、どのアニメーターがどういう画が得意かも分かんない。そこを柴山君が仕切ってるので、途中で「やっぱり柴山君も監督じゃない?」という感じになって、このかたちで落ち着いたんですよ。
小黒 なるほど。
佐藤 実際の現場は基本的に柴山君が回していたけど、柴山君がキャパオーバーだったところをむしろ僕が手伝うみたいな感じ。原画チェックとかね。音響周りは基本的に自分でやるっていう方向ですけど、そこは他の作品と変わらない。
小黒 絵コンテの序盤は佐藤さんですよね。
佐藤 はい。
小黒 全体はどのぐらい描いてるんですか。
佐藤 どうかなあ。6:4ぐらいで柴山君が多く描いてんじゃないかな。僕がすぐに現場に入れなかったのもあって、柴山君にどんどん先行してやってもらってたから、「じゃあ、ここもうちょっと柴山君やってくれる?」という感じで増えたような気がする。
小黒 そうなんですね。
佐藤 日之出っていうキャラクターの家を、柴山君の実家をモデルにしてやることになったので、日之出周りはほぼ柴山君のコンテです。ムゲの部屋のシーンは柴山君の担当が多いかな。結構な物量をやってるはず。
小黒 お話は誰が作ってるんですか。
佐藤 これはベースの部分から、岡田さんです。
小黒 岡田さんの出してきたアイデアやプロットに、佐藤さんがアドバイスをしたり、注文を付けたりして作っていったと。
佐藤 そんな感じですね。
小黒 岡田さんにしてはソフトな思春期ものですね。
佐藤 岡田麿里的には、サトジュンシフトな書き方をしてると思うんすよ。「佐藤さんならこういう感じが得意でしょ」という書き方をしてる。
小黒 なるほど。
佐藤 打ち合わせで「岡田さんのマックス、やりたいものを書いてもらっていいですよ」ということも言ったと思うんだけど、多分そうではなく。きっと「それは他の作品でやってるんでいいです」ってことなんだよね。
小黒 ああ。
佐藤 「私はサトジュンに合わせた脚本を書くのである」っていう意思が多分あるんじゃないかと思うけど(笑)。直接聞いたわけじゃないけどね。
小黒 ちょっと下品なものとか、ドロドロしたものは置いといてみたいな。
佐藤 多分そんな感じで、やってくれてると思うんだけど。こっちは下品なものでも全然いいっすよと思ってんだけど。
小黒 岡田さんが本当にやりたいものが、ドロドロしたものなのかどうか分からないですけどね。
佐藤 そうなんです。岡田さんの色々な作品を観ていくと、基本的にはピュアなんだなっていうことが、僕の中では分かったので。
小黒 中学生とかがエロいことを言って、周りの人を当惑させたいみたいなムードを岡田さんには感じるんですよね。
佐藤 うん。
小黒 別にそういうところが自分の表現だと思ってるのかどうか分かんないっすよね。
佐藤 それが自分の表現だとは思ってないだろうけど、そういうものをタブー視するのが気持ち悪いと思ってるんじゃない。
小黒 ああ、それはそうですね。
佐藤 当たり前にあるものは当たり前に書きたいですよ、っていうところはあると思うんで。それも含めて描かれる作品世界はやっぱりピュアだなって。悪意は悪意としてちゃんと出てくるピュアさみたいなものを感じるね。
小黒 僕の中でのベスト岡田麿里作品は『臨死!!江古田ちゃん』ですよ。
佐藤 演出がみんな違うやつでしょ。
小黒 そうですそうです。杉井ギサブローさんが、自分の担当回で岡田さんを指名してたんです。短編なのであっという間に終わるんですけど、岡田さんの生々しさが全開になってる。短編なので、生々しいだけで終わるんです。
佐藤 へえ(笑)。
小黒 ああいうものをずっと書いててほしい。
佐藤 それも結構疲れるだろうけどね。『泣き猫』が終わってから、岡田さんと対談したりする機会がなくて喋れてないので、答え合わせができてない。
小黒 なるほど。
佐藤 コンテをやってる時も、上がったコンテを全部回して「意見あったら返してね」と言っていたんだけど、ご意見が来なかったので、なにを思って見てるのかが分かんないところがある。「岡田さんはこうです」と喋れないところもあるんだけどね。
『いせれべ』OPの話、続き。
【c-020〜023】モテモテ優夜の現実世界と異世界の女子シャッフル。わざとバラしてその中から、佳織に絞ろうとしたんだと思います。
【c-024】走りは当然全原画! 【c-025】“佳織の腕を掴む優夜”こーゆーカットを作画する際のコツは「一度フレームからOUTさせかけてから、引き戻す!」テレコム時代『BATMAN』で友永和秀師匠から習ったまんまを再現。
【c-026】“佳織を捕まえた優夜のまま現実世界から異世界へBG(背景)スライド!”曲を聴いてかなり早い段階で思いついたカット。異世界の背景は、さて何処でしょう? 原作既読の方なら分かっていただけるかと。
【c-027∼029】ちょっとドラマチックなムードにしてみました。c-029はやっぱりリップシンクロ。
【c-030】前カット(c-029)のシルエットから大きくT.B! 白ベタに黒シルエットのツーショットは『ROCKY』のキービジュアル(?)のイメージでした。“男女シルエットに縦横に流れるメインタイトル”は同じく曲を聴いて、おそらくいちばん最初に思いついたカットかと。
【c-031∼033】の点描は現放送話数的にネタバレが含まれるのでここでは語りません。
で、最後のメインタイトルの出し方は撮影さん任せに各キャラの点描を自分が監督・田辺に指示して手配させました。実は「いせかいでちーとすきるを~」のタイトルをリップシンクロさせて読ませているのですが、編集時ズタズタに詰めていったら、認識できなくなってしまいました……(汗)。
OPに関して総括すると、まずはやっぱり
月詠みさんの「逆転劇」(作詞・作曲:ユリイ・カノン)が、
大変良かった!!
と。確かプロデューサーさんより「曲のイメージは?」と訊かれて、「ドラマチックで抑揚ありのアップテンポ」と答えたのですが、想像をはるかに上回る原作コミット感! には只々驚きました。最高の主題歌ありがとうございました!
そして、“主題歌の力強さ”に加え、
キャラデ&総作監・木村博美の“美しい画”!!
でしょう! 全カットにびっしり作監修正を入れてくれて、フィルム全体に“艶”を出してくれました。木村曰く「今まででいちばん満足な修正を入れられた」そうです。落ち着いたら何かの機会に彼女の作監修正集をお披露目したいものです。
まあ、これだけの好条件がそろっていたら、そりゃあ良いOPになるはずです。
てことで仕事に戻ります。
「ANIMATOR TALK」は第一線で活躍されているアニメーターの方達にお話をうかがうトークイベントです。今回は『モブサイコ100』シリーズのキャラクターデザイン、『犬王』の総作画監督等で活躍している亀田祥倫さんをゲストに迎えて開催します。
イベントでは亀田さんが影響を受けたアニメーターについての話をはじめ、色々なテーマでトークを展開する予定です。今回のイベントでは開場時にアンケート用紙を配ります。アンケートに答えてくださった方の中から抽選で、亀田さんからのプレゼントがあります。
開催は6月3日(土)昼。会場は阿佐ヶ谷ロフトAです。チケットは5月20日(土)12時から発売。購入方法については、阿佐ヶ谷ロフトAのサイトをご覧になってください。
今回のイベントも配信がありますが、配信するのはイベントの第一部のみ。配信は短めのものとなるかもしれません。リアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。
■関連リンク
阿佐ヶ谷ロフトA
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/248802
第205回アニメスタイルイベント | |
開催日 |
2023年6月3日(土) |
会場 |
阿佐ヶ谷ロフトA |
出演 |
亀田祥倫、小黒祐一郎 |
チケット |
会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,500円、当日 1,800円(税込・飲食代別) |
小黒 2015年は『たまゆら~卒業写真~』(OVA・2015年)、『ARIA The AVVENIRE』(OVA・2015年)。
佐藤 はいはい。
小黒 そして、2016年は『たまゆら~卒業写真~』が続いていて、それから『あまんちゅ!』(TV・2016年)。『あまんちゅ!』はとてもよい環境で作ることができたのではないかと思うんですが、どうでしたか。
佐藤 そうね。環境がよすぎて、逆にどうしていいか分かんなくなるっていう (笑)。
小黒 『あまんちゅ!』はスルスルッと観れますよね。
佐藤 『あまんちゅ!』は原作の物語をちゃんとアニメにできているところがありますよね。『ARIA』の時は、大量の原作をワンクールでまとめなきゃいけなかったから、結構改変をしてるんですよね。原作の2つの話を合わせて1つにして、TVのお話を作ってるんだけど、『あまんちゅ!』の時には、基本的に原作のストーリーにちゃんと沿ってやろうっていう意図を持ってやってるんですよ。
小黒 なるほど。
佐藤 『ARIA』の時も「原作の『AQUA』からちゃんと観たいな」という声がやっぱりあったんです。なので、『あまんちゅ!』ではそうやっていこうと。その代わり、「原作が続く限りずっとアニメ作ってくださいよ」って松竹に言ってたんだけど、なかなかそうならなかった。ただ、J.C.(STAFF)の現場が、我々が知らないぐらいクオリティを求める人達で(笑)、リテイクが多かった。ラッシュチェックとかになると、こっちの胃が痛くなってくるぐらい直しを出してね。「え、それはそのままでもよくないスか?」ってつい言いたくなっちゃうみたいな。
小黒 『あまんちゅ!』は本当に綺麗にできてますよね。海の中の描写も綺麗ですよ。
佐藤 そうなんですよ。綺麗です。作画もちゃんと人を用意しているし、コンスタントにこれを作っていくのはやっぱ凄いなあという、これまで見たことのない世界で(笑)。
小黒 2017年はスタジオコロリドの『FASTENING DAYS 3』(配信・2017年)で音響監督をやっていらっしゃる。
佐藤 『FASTENING DAYS 3』は、YKKの企業PVみたいなやつですね。
小黒 そうです。これは音響監督だけの参加なんですか。
佐藤 そうですそうです。『泣き猫(泣きたい私は猫をかぶる)』(配信・2020年)をやってくれてる柴山(智隆)君が監督のやつで、音響をちょっと面倒見ましょうかって感じでやってるやつですね。そんなに長くもないですし。
小黒 そうか。この年からツインエンジンの所属なんですね。その前はどこにいたんですか。
佐藤 TYOアニメーションズです。TYOを離れて、1年ちょっとぐらいはフリーでいたのかな。
小黒 ということは『たまゆら』の途中でフリーになってるんですか。
佐藤 2016年の『卒業写真』でリテイク作業をやってる途中に、フリーになったんですよ。7月でリテイク作業が終わるので、そのタイミングで会社を辞めてフリーになって、というつもりだったんですよ。
小黒 なるほど。
佐藤 でも、リテイクが10月まで続いちゃったんですよね。コロリドには、シナリオ構成のアドバイスとかで、ちょいちょい行ってはいたんだけど、ツインエンジンに正式に入ったのは2017年からですね。
小黒 ツインエンジンと関わったのは、山本(幸治)プロデューサーからのお声がけなんですか。
佐藤 大元は岡田麿里さんだと思います。岡田麿里さんがツインエンジンで映画をやるにあたって、サトジュンを呼んでくれたんだと思っていますね。その映画が『泣き猫』になるんですけど。
小黒 『泣き猫』の参加は岡田さんのほうが先なんですね。
佐藤 同時かな。「サトジュンさんと岡田さん、ツインエンジンで映画やりましょう」って感じで、ゆるっと始まってるんです。その前から『ペンギン・ハイウェイ』の監督の石田(祐康)さんがオリジナル作品を準備していて、若干行き詰まってる時に、構成会議に岡田さんと僕が行ってアドバイスしたりしつつ、自分達の作品をどうしようかという話をしている。そんな期間が結構あるんです。
小黒 なるほど。
佐藤 最終的には映画をやろうねっていう気分で入ってて、その前に石田君の協力をするっていう感じでしたかね。
小黒 『ペンギン・ハイウェイ』では、クリエイティブアドバイザーなんですね。
佐藤 『ペンギン・ハイウェイ』もコンテでのアドバイスをして、最近情報が出た『(雨を告げる)漂流団地』も一応アドバイザーはしているという感じです。
小黒 佐藤さんが所属することになったのはツインエンジンで、コロリドはツインエンジンの関連会社だから繋がりがあると。
佐藤 そうですね。コロリドチームと組ませたいっていう意図はあったんじゃないかな。石田君達を育てるって意味もあるけれども、僕はずっとコロリド班のような役割だったのかな。
小黒 それは山本プロデューサーの采配ですか。
佐藤 ですね。作品の適性的にはこっちじゃないのっていう振り方だと思いますけど、他のスタジオは全然知らないので本当の狙いは分からないですね。
小黒 次に『HUGっと!プリキュア』ですが、アニメスタイルの紙の本のほうでも伺ってるので、具体的なことはみんなそっちを読んでねって感じですけど(編注:「アニメスタイル インタビューズ 01」で『HUGっと!プリキュア』についてのインタビューを掲載)。
佐藤 はい。
小黒 『HUGっと!』(TV・2018年)をやってる時は、ツインエンジンの所属だったわけですね。
佐藤 そうですそうです。
小黒 現状はツインエンジンの所属で、どこのスタジオで仕事しても構わないみたいというかたちではある?
佐藤 基本的にそのやり方ですね。『あまんちゅ!』の第1期はフリーだけど、『(あまんちゅ!)~あどばんす~』(TV・2018年)の時は確かツインエンジンです。
小黒 じゃあ、ギャラはまずツインエンジンに入るんですか。
佐藤 そうです。
小黒 比べてみると、TYOにいた頃より動きやすくはなった?
佐藤 それはあまり変わらないですね。ただ、ちゃんと制作に向き合える感じにはなりましたよね。TYOの時は、監督なのにプロデューサーのサポートしたりとか、そういうこともせざるを得なかったので。
小黒 2020年頃から、佐藤さんは長編を次々手がけたりして、仕事が活発になってるじゃないですか。これはTYOから離れたから、というだけではない?
佐藤 それは、時代的に劇場作品のほうが、ビジネス的に読める流れになったせいでしょうね。
小黒 話は前後しますが『HUGっと!プリキュア』の手応えはいかがでしたか。
佐藤 『HUGっと!プリキュア』はやっぱり勉強になりましたね。この時は、目標があったんですよ。
小黒 目標ですか。
佐藤 これまで『どれみ』とか『セーラームーン』をやってきて自分が得てきたものがあるわけですよ。「女児ものでは、こういうふうにやるといいよ」とか、「おもちゃ屋さんとのやりとりでは、こういうやり方があるよ」とか、あるいは「音楽はこう付けましょう」「こういうツールがあるよ」。それを若手とか次世代に伝えられればいいなと思った。思ったよりも現場の人達にちゃんと継承されているものもあったけれども、なくなってるものも結構あったんですよね。
『セーラームーン』より昔だと、おもちゃメーカーとアニメの現場スタッフとのやりとりは、そんなになかったんですよね。自分が東映で演出助手をやってる頃は「おもちゃメーカーはおもちゃのことは分かるがアニメのことは素人だよね」という感じで、向こうも「アニメの人はおもちゃのことは分からないよね」というふうだったから、あんまりキャッチボールがなかった。それが、ちゃんとキャッチボールをして子供のほうを向いて楽しいものを一緒に作りましょうよ、というふうに協力できるようになっていったんですね。『どれみ』でもそういうふうにやって、多分、自分が離れた後も、五十嵐(卓哉)もそうやってたと思うんだけど、『HUGっと!』で久しぶりに東映の現場に入ってみたら、また分断してんですよ。
小黒 なるほど。
佐藤 おもちゃについてはこちらの意図が届かないし、おもちゃ会社側の意図もこっちでは汲みきれない、という感じになってて、それは驚きでもあったけれども「元に戻っちゃうのか」と残念に思ったのが大きかったです。
アフレコは昔と変わらずに演出がやってるけど、自分で現場を取り仕切ってやる方法が伝えられてなくて。ミキサーである川崎(公敬)君が、ディレクションに近いことをやらざるを得なくなってて、演出さん達は、例えば役者の気分を上げるとか、盛り上げるということに気持ちが向いてない。役者とキャッチボールするのは、演出じゃなくて川崎君がやってた。これは1年で修正できるとこでもないので、様子を見ていただけだったけれど、残念は残念だったかなと。
小黒 で、アニメーターは抜群に巧くなってたと。
佐藤 アニメーターはめちゃめちゃ巧くて。「こんなすげえことやる人達いたんや」ってことをやってて、画面は凄くいいんです。
自分が女児ものに参加したのは久々だったこともあって、色んなことが再確認できたんです。子供達を呼んで、前のシリーズを上映して、子供達の反応を見るといったこともやってるんだけど、例えば『プリキュア』の変身の部分って映像は豪華だけど、結構長いでしょ。
小黒 長いですね。
佐藤 「短くしたほうがいいんじゃないのかな」って思ったんだけど、プロデューサーとかは「この変身シーンを子供達は楽しみに観ているんだ」と言うのでそうかそうかと思ってたんですよ。でも、実際に子供達の反応を見てると、変身シーンを観てる子は観てるんだけど、長いとよそ見するをする子もいるんだよね。「初めての時は観るかもしんないけど、何度目かだとやっぱりそうなるよね」と確認ができる、とかね。『HUGっと!』を観た子供達がどう感じたかっていうのは、20年後になんないと分かんないなと思う。でも、まず目の前の子供達に向けて作るということはできたと思ってんだけどね。
小黒 はい。
佐藤 だから、凄くのびのびやったって感じでもないけど、やりにくさは別になかったっていうかね。
2月の『ヘンダーランドの大冒険』、4月の『アクション仮面VSハイグレ魔王』に続き、新文芸坐とアニメスタイルは5月も劇場版『クレヨンしんちゃん』をお届けします。
5月20日(土)と21日(日)に上映するのはシリーズ第3作の『クレヨンしんちゃん 雲黒斎の野望』です。20日(土)は19時50分からのレイト上映で、21(日)は14時50分からの上映となります。
20日(土)には本郷みつる監督と原恵一さんのトークを予定しています。また、今までと同様に、トークの後に本郷監督が刊行した同人誌「本郷みつる/足跡」の販売をする予定です。
チケットは開催日の1週間前から発売。チケットの発売方法については、新文芸坐のサイトで確認してください。
【新文芸坐×アニメスタイル vol. 159】 |
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開催日 |
2023年5月20日(土) 開演/19時50分~ |
会場 |
新文芸坐 |
料金 |
20日(土):一般1900円、各種割引・友の会1500円 |
トーク出演 |
本郷みつる(監督)、原恵一(脚本・絵コンテ)、 |
上映タイトル |
『クレヨンしんちゃん 雲黒斎の野望』(1995/96分/35mm) |
備考 |
※トークショーの撮影・録音は禁止 |
●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/
『いせれべ』の制作も佳境で(汗)!
なんとなく前回に続き、もう少々オープニングの話——カット頭から。
冒頭の異世界への扉が開く【c-001~004】、まあベタにやりました。で、【c-005】歌詞の一部とリップシンクロ。初監督『BLACK CAT』でも似たことをやってました、そう言えば。
続いて【c-006】例によって“OP内サブタイトル”。これも初期の監督作品からずっとやってます。『てーきゅう』までも全期これ。たとえワンパターンだと揶揄されようとも、フィルム全体の構成として、やっぱりサブタイトルはOP内なのが好き。単純に
OPでそのアニメが始まったのに、CM開けに“もう一度改めて始める”感がまだるっこしい!
てだけ。
【c-007】雑踏の中の優夜、変身前~変身後。自分がどれだけ変わっても、世界にはなんの影響もないモノです。【c-008~010】ナイト・アカツキ・ウサギ師匠ら、モフモフ系マスコットキャラの紹介~矢継ぎ早に。ウサギ師匠対優夜のアクションはコンテに自分で画を足してラフ原、森亮太君がそれを清書した後、木村(博美)作監。勢いだけ……。
【c-012】デブ~イケメンに劇的変身——サンジゲンさんの撮影に助けられたカットです。本当に感謝! 【c-013~015】メインキャラ紹介。とにかく“走って! 回り込んで! 髪・スカートなびく!”紹介だけはやりたくない、と!
【c-016】またリップシンクロから、今度はレクシア。正直ここ苦労した記憶があります。何しろ今回のアニメ化範囲に於いて、ネタバレしない範疇で描いていいアクションが、各キャラの内容的に限られているからです。だからカット尻、珍しく歌詞に合わせて大量の“花弁”が舞ってる訳。ここも木村作監に救われてます!
【c-017】やっぱり、優夜の人格形成に多大な影響を及ぼしたはずのお爺ちゃんの死は入れたかったです。【c-018】双子の弟妹に見下され続ける優夜(変身前)。“虐め”についてはまた改めて回を設けるつもりです。【c-019】矢を放つ少女~寄ってリップシンクロ。ここは原画まで自分で描きました。
——てとこで、残り&総括はまた次回。仕事に戻ります。