第795回 納品に追われる中

 前回紹介した、「80年代アイドル総選挙!ザ・ベスト100」(3月8日発売)のイラスト10枚の話は、また後ほど改めてで。今は鋭意制作中の

『異世界でチート能力(スキル)を手にした俺は、現実世界をも無双する~レベルアップは人生を変えた』(略して『いせれべ』)

の納品を頑張ってます!
 “作品の納品”とは毎回鬼気迫るものです。少しでも良くして納品したく、総監督とは言っても「ここは○○のせいで~」と言い訳を並べるのはイヤなので、でき得る限り手を出すかたちで取り組んでいます。この件に関しては幾度となく「監督は手出しするべきか否か?」論争が勃発したところですが、そのこと自体の是非はともかく、自分はただただ単純に「出来が悪いところは他人のせいにして、賛辞だけ自分のものにしようとする監督」になりたくないだけです。
 発表された『いせれべ』PVをご覧いただければ分かっていただけると思いますが、キャラクターデザイン・総作画監督の木村博美さんは本当に頼りになる画描きです。『てーきゅう(8期)』で作監デビューした時が入社3~4ヶ月の頃、『COP CRAFT』で初キャラデの担当時はまだ20歳。俺は決断が速いので、「巧い!」を見つけたら直ぐ何かをやらせたくなります。
 まだ“紙(アナログ)”作画時代で、彼女の帰宅後、作画机に置いてあった“女子の走りリピート”! 髪の毛やスカートまでちゃんと、跳ねるようになびくその動画(原画)を捲って見て衝撃が走りました。それはさながら俺がテレコム時代、大塚(康生)さんに見せていただいた「天才・貞本義行の動画研修課題」の走りのようでした(褒め過ぎ?)。で、即『てーきゅう(8期)』で作監に抜擢しました。当時まだ18歳の高卒入社組でした。
 『COP CRAFT』のキャラデに取り組んだ時は“まだ20歳”という若さに、原作者・賀東招二さんも驚愕し、キャラ原案・村田蓮爾さんからも「若い! 巧い!」と。
 そんな木村作画の後押しをする感じで、彼女の手の及ばない部分の作監をお手伝いしている日々です。また短くてすみません。納品です。

アニメ様の『タイトル未定』
385 アニメ様日記 2022年10月9日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2022年10月9日(日)
ワイフと新文芸坐で『シチリアを征服したクマ王国の物語』(2019・仏=伊/82分/DCP/吹替版)を鑑賞。プログラムのタイトルは「親子で楽しむモーニングショー」。本編は「語り手が語っている物語」という構成で、途中で語り手が別人になったり、「その結末では満足できません」といった意味のコメントが入ったり、語り手の1人が劇中の人物を演じて、さらに劇中でその人物が成長するという「ちょっとしたメタ構造」。「物語の結末は観客に委ねます」で終わるのだけど、そこで語り手の1人が劇中人物を演じたことに意味が生じているはず。映画の構成としては展開がスピーディで澱みがない。話が二転三転するので、先を予想させない。画作りは絵画的。さらに画作りに関する引き出しの数が多いので飽きさせない。アニメーションであることに甘えず、観客と向き合って、1本の映画としての満足度を意識して制作していると感じた。吹き替えも好印象。語り手のアルメリーナ 、劇中のアルメリーナ、クマのトニオの幼少時代を演じた伊藤沙莉が素晴らしい。僕はモーニングの単独上映で観たが、前夜にオールナイト「俳優・伊藤沙莉 ブクロに狂い咲けVol. 2」の1本としても上映された。流石、新文芸坐。分かっている。
その後、池袋西口に。第23回 東京よさこいが開催中だった。ブルーシートが空いていたので、そこに座ってしばらくよさこいを見る。学生さんの演目には学生さんのよさがあるし、大人の演目には大人のよさがあった。中にはかなり中二っぽい演目もあって、それも含めて面白かった。学生さんのよさこいは、見ているこちらが彼等の青春を浴びた感じ。大人のチームに小学生の男子が参加し、大きな旗を2本振っていたのだけれど、これが圧倒的。その男子は自分達のよさこいが始まるまでの雰囲気もよくて、少年マンガに出てくる寡黙で強いキャラクターのようだった。
この日に観た新番組は『ぼっち・ざ・ろっく!』、『ブルーロック』、『限界アニメ「松山あおい物語」』season4、『弱虫ペダル LIMIT BREAK[第5期]』。『ぼっち・ざ・ろっく!』は隙のない仕上がりだった。よくできているうえに、ちゃんと面白い。2話以降も楽しみだ。

2022年10月10日(月)
前にも話題にしたはずだけど、配信の『けいおん!』について。dアニメストアとAmazon prime videoの『けいおん!』の画面比率は今でもスタンダード。解像度はおそらくSD。つまり、地上波本放映時のマスターであると思われる。4:3の『けいおん!』は今では貴重は気もするけど、それはまた別の話。当時はそんなことを感じはしなかったけれど、改めて観ると、『けいおん!』は色遣い等の自由度が低い感じだ。『響け!ユーフォニアム』も配信で観る。こちらの配信ははっきりくっきりのフルHD。当時は『響け!ユーフォニアム』の撮影について単純に「すごいすごい」と思っていたけれど、改めて観ると発展途上ゆえに頑張っている感じとも思え、今だったら感じが変わるのだろうなあとも思う。
時代劇チャンネルの『カムイ外伝』を録画で視聴。ちょっと画面がザラザラしているが、それ以外は極めて良好。セルの塗りムラまで分かる。少し驚いたのだけれど、オープニングが自分が知っている再放送版とまるで違う。「光る東芝」のインストゥルメンタルから始まって「しのびのテーマ」に変わる。最後は「東芝がカラーでお送りする忍法カムイ外伝」というナレーションが付く。Wikipediaを見ると、これは本放映版のオープニングであり、Blu-rayソフトで46年ぶりに世に出たらしい。同じくWikipediaによれば時代劇チャンネルの『カムイ外伝』はオープニングは本放送版で、エンディングは再放送版らしい。ややこしい。
この日は休みの日にしては仕事が進んだ。夕方にワイフとIKE・SUNPARKに。夕焼けを見ながら、缶のビールとハイボールを吞む。
この日に観た新番組は『夫婦以上、恋人未満。』『ピーター・グリルと賢者の時間 Super Extra[第2期]』。それから、アニメではないけど、アニコミ「女体化した僕を騎士様達がねらってます」。

2022年10月11日(火)
ストップウォッチを仕掛けて「2時間位内に終わらせるぞ」と息込んで始めた作業が1時間きっかりで終了。午後は打ち合わせで、あるアニメプロダクションに。ここに来たのは2年ぶりくらい。世間話もたっぷり。
この日に観た新番組は『BLEACH 千年血戦篇』『クールドジ男子』『永久少年 Eternal Boys』。配信で『魔法騎士レイアース』を1話から8話くらいまで観る。

2022年10月12日(水)
グランドシネマサンシャインで『君を愛したひとりの僕へ』『僕が愛したすべての君へ』を観る。予告で「僕愛から観るとちょっと切ないLOVEStory」「君愛から観ると幸せなLOVEStory」というコピーがついていて、幸せなLOVEStoryがいいと思って『君愛』から観た。『君愛』だけでもひとつの物語としてまとまっているけれど、いくつか疑問点が残るので、やはり『僕愛』が観たくなるはず。『僕愛』は単独映画として観ると、終盤の展開が唐突に思えるはずだし、まとまりはよくないはず。画作りについてはいいところもある。演出もしっかりしているところがある。『僕愛』で和音がカラオケボックスで椅子から転げ落ちるところがやたらとよかった。新海誠作品リスペクトとしては、今までの後継作品とは違ったところを攻めていた。これはプロデューサーレベルでの判断であると思われる。細田守作品リスペクトについては、リスペクトだと思わないでやっている可能性があるくらいしっくりとしていた。
『チェンソーマン』1話を観る。力の入った仕上がりで、まだ余力を残している感じ。これからの話数も楽しみ。「制作・製作 MAPPA」のクレジットが大変なインパクトだ(自社で製作費を集めているという意味)。『ヤマノススメ Next Summit』2話のエンディングは大傑作だった。エンディングに脚本があるのか、絵コンテを担当した吉成鋼さんのアドリブなのかが気になる。
改めて『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』を観る。ああ、なるほど。これはハイエンドアニメだ。画作りの設計が根本的なところから違う。Netflixの『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』はフルHDと思われるが、少なくともうちの環境では効果が濃いところはきちんと再現できていない。これはBlu-rayを購入する価値があるということか。

『モノノ怪』について少し心配していたのだけれど、Twitterを見ると、和解したようだ。よかった。以下は橋本敬史さんのツイートと山本幸治さんのツイートだ。

橋本敬史さんのツイート
https://twitter.com/norider1965/status/1579734777418354688?s=20

山本幸治さんのツイート
https://twitter.com/koji8782/status/1579746370621419520?s=20

2022年10月13日(木)
12日(水)と13日(木)にSNSと社内Zoom打ち合わせで「~の手による」「~の手になる」問題を話題にした。5年に一度くらい、社内で話題になるなあ。僕は「~による」と書くようにしている。つまり、「山田一郎の手によるイラスト」とも「山田一郎の手になるイラスト」とも書かないで「山田一郎によるイラスト」と書く。
新宿ピカデリーの8時15分からの回で『劇場版ツルネ -はじまりの一射-』を<7.1ch> で鑑賞。映画前半は物語を引っぱるものが弱く、少々退屈だったのだけれど、クライマックスは(やや強引ではあるが)しっかりと盛り上がる。演出や作画に関しても、終盤は緊張感のある構図や決まった構図が連続。その意味でも楽しめた。7.1chのお陰がどうかは分からないが、矢を放った際の音は迫力もあったし、臨場感もあった。BGMに関しては一部の曲の立体感が際立っていた。紀伊國屋で本を見ようかと思ったら、まだ開店前だった。池袋まで歩いて帰る。
新番組は『恋愛フロップス』『ある朝ダミーヘッドになっていた俺クンの人生』を観る。『恋愛フロップス』は絵に描いたような明るいエロコメで、これはこれでOK。
朝の散歩時に『∀ガンダム』のサントラ1を聴いた。かなりよかった。

2022年10月14日(金)
『うる星やつら』の放映開始とともに起床。寝ないで待機していたワイフと一緒に1話を観る。基本的に好印象。キャストに関しては文句無し。ラムのキャラクターはデサインが秀逸で、色もいい。全体として原作を重視し、旧アニメも意識し、なおかつ現代的なアレンジもしている。バランスを取りまくった作品だと思った。1話のポイントは、あたるがラムのツノをつかんで「これで結婚だ~」と叫んだ後の、あたるを見つめるラムの表情と芝居だと思った。そのラムの表情と芝居で、ラムがあたるのことを好きになった瞬間を描いたのではないか。その前の「鬼さんこちら~」のセリフの辺りで、すでにラムは、あたるのことが少し好きになっている。電撃をくらったあたるが立ち上がったの見て感心して、さらに「まだまだ~」と言いながら迫ってくるところで、ちょっと好意をもって、「これで結婚だ~」と叫んだあたるを見つめている時に好きになった、という感じかな。
Blu-rayで『夜桜四重奏 ~ホシノウミ~』を観る。『ホシノウミ』って「WEB系」と「WEB系NEXT世代」の両方が参加している作品という位置づけになるのか。『ホシノウミ』『ハナノウタ』等で、りょーちもさんが育てていたアニメーターがWEB系NEXT世代になっているのか。これは頭の隅っこに入れておこう。

2022年10月15日(土)
『ワッチャプリマジ!』が最終回を迎えて、後番組はアニメではない。僕の観測範囲内で言うと、新作の女児アニメはプリキュアシリーズだけになった。
オールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol.139 『MEMORIES』と大友克洋のアニメーション」を開催。田中栄子さんは「昔の作品だから昔からのお客さんが多いのでしょうね」と言っていたのだけれど、実際には若いお客さんが多かった。『MEMORIES』『Manie-Manie 迷宮物語』はそれぞれ初見の方がお客さんの7割くらい。『AKIRA』でも2割か3割が初見だった。若いお客さんが多いので、片渕さんと田中さんの紹介から始めてほしいというオーダーが新文芸坐サイドからあったのだけれど、片渕さんも田中さんも紹介の途中でグイグイと話を進めるので、紹介にならなかった。だけど、問題はそれくらいで、30年近く前の作品であるにも関わらず、濃密なトークが展開。僕にとっても初耳のエピソード(当時の大友さんの高い志の話、「大砲の街」の撮影の話、田中さんが「録音がないから言うけど」と前置きしてから始めた話題など)がいくつも披露された。『MEMORIES』と『Manie-Manie 迷宮物語』は35ミリフィルムでの上映。それぞれ少しずつ上映を観たが、味わいのあるいい上映だった。

第794回 アイドルのイラスト

3月8日発売の「80年代アイドル総選挙!ザ・ベスト100」のイラスト10枚を描きました!

 前の藤子不二雄(A)先生特集の時は「昭和50年男」。今回は「昭和40年男」の増刊になります。「80年代アイドルBEST-10の似顔絵をアニメのセル版権風に仕上げて欲しい」とのご要望で、

板垣が原画を描き、動画(清書)・仕上げをミルパンセ社内スタッフでやりました!

 久し振りに“知り合いじゃない人の似顔絵”を描いたのです。中学校・高校の同級生が、今回の似顔絵イラストを見たら「あ、板垣まだやってる」と思うでしょう。学生時代は友人や時には先生から「描いて!」と頼まれて、よく描いてましたから。頼まれもしないで、次の授業に来る先生の似顔絵を黒板に描いて出迎える悪戯とかもしました、友人らに促されて。高校の卒業記念品マグカップにもクラスメート全員の似顔絵を描きましたし。まあ、単純に好きな仕事だからお引き受けした。
 が、そもそも80年代のアイドルブームに自分自身は全く興味を感じていませんでした。ただ、姉は当時、河合奈保子だその後は中山美穂だ~と一通り騒いでいたので、それらを思い出し追体験(?)するように、楽しんで書かせていただきました。作業期間的には年末年始に試し描きを2〜3パターン提出し、方向性を確認。その際“アニメキャラ風”より“ややリアルに振る”と方針が決まり、今年に入って10人分のラフを描き提出。で、週末メインに1日2~3体ずつ原画を描いては、社内の若手に清書を頼んで仕上げまで。
 いちばん悩んだのは、メイク(化粧)とポーズ。昭和のアイドル、今みたいにダンス~ダンス~しておらず、基本“マイク持って歌っている”統一で~と決まっていたため、個体差を10通り作るのにやや苦労しました。特に薬師丸ひろ子とかは突っ立ってるだけで……。
 あと、メイクも今と比べるとかなり地味で、ちょっと口紅のせただけで、下手するとケバくなってしまいます。そんな訳で、最終チェックで仕上げ+処理の段階、モニターに貼り付き指示出しまくったイラストでした。

 ま、コンビニ・本屋その他で見かけたら是非手に取って下さい!

【新文芸坐×アニメスタイル vol. 157】
STUDIO4゚Cのキセキ 『鉄コン筋クリート』

 3月の新文芸坐とアニメスタイルの共同企画は「STUDIO4゚Cのキセキ 『鉄コン筋クリート』」をお届けします。
 『鉄コン筋クリート』は松本大洋の同名原作を映像化した劇場アニメーション。STUDIO4゚Cならではのエッヂの効いた映像が魅力の作品です。スコープサイズで制作された本作を、映画館のスクリーンでお楽しみください。



 上映は2回あります。16日(木)はトーク無しの通常上映で、18日(土)は上映後に田中栄子プロデューサーのトークがあります。なお、貴重な35mmフィルムによる上映となります。

 チケットは開催日の1週間前から発売。チケットの発売方法については、新文芸坐のサイトで確認してください。なお、新型コロナウイルス感染予防対策で観客はマスクの着用が必要。入場時には検温・手指の消毒を行います。

【新文芸坐×アニメスタイル vol. 157】
STUDIO4゚Cのキセキ 『鉄コン筋クリート』

開催日

2023年3月16日(木)、18日(土)

開演

16日:19時
18日:18時30分

会場

新文芸坐

料金

16日:一般1500円、各種割引・友の会1100円
18日:一般1800円、各種割引・友の会1400円

トーク出演(18日)

田中栄子(プロデューサー)、小黒祐一郎(アニメスタイル編集長)

上映タイトル

『鉄コン筋クリート』(2006/111分/35mm)

備考

※トークショーの撮影・録音は禁止

●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

第251回 圧倒的な説得力 〜BLUE GIANT〜

 腹巻猫です。劇場アニメ『BLUE GIANT』をTOHOシネマズの轟音上映で観ました。心底「劇場で観てよかった」と思った作品でした。音楽映画としても青春映画としても強烈なインパクトがある作品。心がゆさぶられる、くらいでは収まらず、頭の中をかきまわされ、何かを吐き出さずにはいられなくなります。未見の方は、ぜひ音響のよい劇場で。


 劇場アニメ『BLUE GIANT』はこんな物語だ。

 世界一のジャズサックス奏者をめざして、高校卒業後、仙台から上京した少年・宮本大。東京に住む同級生・玉田俊二のアパートに転がり込んだ大は、ある日、ライブハウスで同い年の沢辺雪祈が弾くピアノを聴いて衝撃を受け、「一緒にジャズをやろう」と誘う。雪祈もまた、大のサックスを聴いて感動し、ともに活動する決心をする。2人に感化されてドラムを始めた玉田が加わり、3人のバンド「JASS」が始動した。当初はぎこちなかったJASSの演奏は、徐々に洗練され、ファンを増やしていく。そしてついに、あこがれの舞台、日本最高峰のジャズクラブ「SO BLUE」で演奏するチャンスがおとずれた。
 原作は石塚真一によるマンガ作品。アニメ化される前からジャズマンガとして人気を集め、マンガにちなんだジャズ・アルバムがリリースされたり、ジャズ・フェスが開催されたりしていた。ファン待望の劇場アニメ化である。
 音楽を手がけるのはジャズピアニストの上原ひろみ。上原は以前から原作にほれ込んで熱い思いを語り、ライブイベント「BLUE GIANT NIGHTS」にも出演していた『BLUE GIANT』ファン。音楽担当は「必然」とも言える。
 上原ひろみは劇中音楽を作曲するだけでなく、劇中で雪祈が弾くピアノの演奏も担当している。アニメ『ピアノの森』では劇中のピアノ演奏をプロのピアニストが担当し、劇中音楽は別の作曲家が書いていた。『BLUE GIANT』は上原がキャラクターになりきってピアノを弾き、いっぽうで劇中音楽の作曲と演奏も担当するという、珍しいスタイルの作品である。

 上原ひろみの映像音楽といえば、真っ先に思い浮かぶのが2009年放送のTVドラマ「トライアングル」だ。テーマ曲が上原ひろみの「Flashback」。劇中音楽は澤野弘之と林ゆうきが担当という、今にして思えばすごいドラマだった。
 しかし、筆者はそれ以前から上原ひろみに注目していた。TVでピアノを弾く姿を見て、一度生で見たいと思い、2007年12月に横浜BLITZで開催された上原ひろみライブに足を運んだ。以降も何度か上原ひろみのライブ/コンサートを聴きに行っている。人馬一体という言葉があるが、上原ひろみのプレイはいわば「人ピアノ一体」。心底楽しそうにピアノを弾く上原ひろみの指から自由でエネルギッシュな音が飛び出す。聴いているうちに音に酔っぱらいそうになるほどだ。
 そんな上原ひろみを見ていたから、『BLUE GIANT』の音楽を担当すると聞いたときは、期待と心配が半々くらい入り混じった気持ちになった。
 最初は、上原ひろみが原作にインスパイアされた楽曲を10曲くらいスタジオで録音し、その曲を映像にはめていくのかと思った。アーティストが手がける映画音楽でちょくちょく見られる手法である。
 ところが、作品を観て、サントラを聴いてびっくり。
 正攻法の映画音楽なのである。
 音楽を先に作って画に合わせるのではなく、ちゃんとシーンの雰囲気と尺に合わせた曲を書き、演奏している。そのことにとても感心した。もっと言えば、上原ひろみがこういう曲を書くとは思わなかった。
 まず注目は、劇中でJASSが演奏する曲。ピアノ・上原ひろみ、サックス・馬場智章、ドラム・石若駿の演奏で録音されている。3人はもともと一緒に活動していたわけでなく、馬場は大のサックスをイメージして、石若は玉田のドラムをイメージして選ばれたメンバーである。レコーディングでは、上原が雪祈に、馬場が大に、石若が玉田にそれぞれなりきって音を出している。そこがふつうのジャズサントラとは違うところだ。
 たとえば玉田は作品の中で初めてドラムを叩き始め、しだいに上達していく。その過程を石若駿が演奏で表現している。それぞれが自分の本来の演奏スタイルを抑えて、「大っぽいサックス」「雪祈っぽいピアノ」「玉田っぽいドラム」になるよう相談しながらプレイした。3人はプレイヤーであると同時に、この作品の重要な「キャスト」なのである。
 だからこそ、劇中の演奏がリアリティを持って迫ってくる。「世界一のジャズミュージシャンになる」という大の強い思いや、「テクニックはあるけれど面白くない」と言われてしまう雪祈の葛藤、ドラムがうまく叩けない玉田の悔しさなどに説得力が生まれる。作品に映像や言葉では表現しきれない圧倒的な説得力を与えているのが3人の演奏なのだ。
 いっぽう、劇中音楽は意外なほどオーソドックスだ。ピアノ、ギター、ベース、ドラムにパーカッション、フルート、クラリネット、サックス、ストリングスなどを加えた編成。演奏メンバーも、ピアノの上原ひろみ以外はJASSのメンバーと変えて、サウンドに違いを出している。
 本作のサウンドトラック・アルバムは、「BLUE GIANT オリジナル・サウンドトラック」のタイトルで2月17日にユニバーサルミュージックからCDと配信でリリースされた。4月19日には同内容のアナログ盤の発売が予定されている。
 収録曲は以下のとおり。

  1. Impressions
  2. Omelet rice
  3. Day by day
  4. Kawakita blues
  5. Ambition
  6. BLUE GIANT 〜Cello & Piano〜
  7. Motivation
  8. In search of…
  9. The beginning
  10. Monologue
  11. Forward
  12. Another autumn
  13. Next step
  14. Challenge
  15. Kick off
  16. Samba five
  17. N.E.W.
  18. Recollection
  19. No way out
  20. New day
  21. Reunion
  22. Count on me
  23. Faith
  24. Nostalgia
  25. What it takes
  26. WE WILL
  27. From here
  28. FIRST NOTE
  29. BLUE GIANT

 劇中に流れる音楽を登場順に収録したサウンドトラックらしい構成のアルバムである。
 1曲目の「Impressions」は上京した大が東京の風景に感激するシーンに流れる曲。「Impressions=印象」のタイトルがシーンにぴったりだ。ジャズ界の巨人、ジョン・コルトレーンの曲をピアノ・上原ひろみ、テナーサックス・本間将人、ベース・田中晋吾、ドラム・柴田亮のカルテットが演奏した。シーンからすればふつうの劇伴でもいいところだが、冒頭にジャズの名曲を流すことで「ジャズの劇場作品」だと宣言しているように感じられる。
 注目すべきJASSの演奏は、トラック17「N.E.W.」、トラック26「WE WILL」、トラック28「FIRST NOTE」、トラック29「BLUE GIANT」の4曲。
 「N.E.W.」は音楽フェスに出場したJASSが1曲目に演奏する曲。サックスのソロから入るのがキャッチーだ。この曲はアニメ化が決まる前に上原が原作に感動して書いていた曲のひとつ。
 「WE WILL」はクライマックスのライブで大と玉田が演奏する曲。楽器はサックスとドラムだけ、ジャズで重要なコード(和音)を響かせる楽器が入らないため、上原も作曲に苦心したという。劇中の2人そのままの緊張感に満ちた演奏が聴きどころ。
 「FIRST NOTE」はライブのアンコールで演奏される曲。JASSが初めてライブで演奏したときの「へたなバージョン」もあるのだが、それはサントラに収録されていない。上原ひろみによれば、JASSにとって大きな意味を持つ曲であり、劇中何度も流れる曲なので、作曲に一番時間がかかったという。
 「BLUE GIANT」はエンドクレジットに流れる曲。上原ひろみが上記3曲をレコーディングしているときに曲想を得て書き上げた。劇中にはピアノとチェロによるバージョン(トラック6)も流れる。実は冒頭で大が吹いているサックスもこの曲と同じフレーズを奏でている。本作のメインテーマとも呼べる曲である。
 本アルバムには、ほかにも「劇中のバンドが演奏する曲」という設定の曲がいくつかある。
 トラック4「Kawakita blues」は大が東京のライブハウスで聴く曲。このとき雪祈の演奏を聴いて、大は雪祈とジャズをやろうと考える。ギターはこの曲だけ参加の田辺充邦。エフェクターを使った、ちょっと古いタイプのサウンドで雰囲気を出している。
 トラック12「Another autumn」は大たちが「SO BLUE」を見学に行ったときに演奏されていたバラードの曲。
 トラック16「Samba five」はJASSが参加した音楽フェスでJASSの前に出演したグループが演奏していた曲。この曲は作曲者も異なり、Netflixアニメ『ULTRAMAN』や劇場アニメ『すずめの戸締まり』の音楽を手がけた陣内一真が作曲している。ホーンセクションがにぎやかなサンバ風の曲だ。
 トラック22「Count on me」は、雪祈が急遽呼ばれて、来日した海外のジャズバンドと一緒に演奏する曲。トラック1「Impressions」と同じメンバーで録音されている。雪祈になりきって上原ひろみが弾く「内臓をさらけだす」ようなアドリブが聴きもの。
 雪祈は劇中のさまざまな会場で大きさの異なるピアノを弾いている。上原ひろみもスタジオに3台のピアノを入れて、シーンに合わせたピアノを使って演奏したそうだ。ミュージシャンならではのこだわりである。
 残りのトラックのほとんどは劇伴として作られた曲である。
 大と玉田が一緒にオムライスを食べる場面のトラック2「Omelet rice」を聴くと劇中音楽の方向性がわかる。ノリよく軽快に、しかし、映像やセリフのじゃまをしないよう、主張は抑えて演奏されている。続く場面に流れる「Day by day」も同様だ。曲によっては指揮者を立てて演奏していることからも、こうした曲がジャズのセッションではなく、背景音楽であることを意識して作られていることがわかる。
 が、そんな中でも勢いのあるジャズっぽい曲が聴けるのが本作の音楽ならでは。
 3人の活動が始まる場面のトラック9「The beginning」や大がバンドを「JASS」と命名する場面のトラック11「Forward」、大たちが音楽フェスに向けて練習を始める場面のトラック15「Kick off」などは、大たちの鼓動がそのまま音楽になったような熱いナンバーになっている。
 いっぽう、初ライブのあとで大たちが語らう場面のトラック10「Monologue」を始め、トラック14「Challenge」、トラック18「Recollection」、トラック19「No way out」、トラック21「Reunion」、トラック24「Nostalgia」などは、しみじみと心にしみる曲調で書かれていて、上原ひろみの作曲家としての幅広い才能を感じさせる。

 本作のサウンドトラック・アルバムは上原ひろみのアルバムとして、ジャズファンのあいだでも評判になった。
 しかし、これを上原ひろみのアルバムとして聴くと、少し期待はずれかもしれない。
 ピアニスト・上原ひろみよりも、作曲家・上原ひろみが前面に出たアルバムだと思うからだ。上原ひろみのファンよりも、劇場作品『BLUE GIANT』に感動したファン、または、上原ひろみが好きなサントラファン向けのアルバムだと思う。ピアニスト・上原ひろみと作曲家・上原ひろみのふたつの顔が楽しめるのが、本アルバムの面白さであり、魅力である。
 このアルバムが気に入ったら、上原ひろみのオリジナル・アルバムを聴き、彼女のライブを聴きに行くことをお奨めしたい。なんといっても、生で聴いてこそのジャズだから。

BLUE GIANT オリジナル・サウンドトラック
Amazon

アニメ様の『タイトル未定』
384 アニメ様日記 2022年10月2日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2022年10月2日(日)
早朝散歩では『劇場版 弱虫ペダル』『弱虫ペダル NEW GENERATION』 のサントラを聴く。トークイベント「第195回アニメスタイルイベント 沓名健一の作画語り[アクション作画編]」を開催。出演は沓名健一さん、安藤真裕さん、中村豊さん。定員を少なめに設定していたこともあるが、大勢のお客さんに来ていただいて、ありがたいことにチケットは完売。全体として、沓名さんと中村さんの「安藤作画への愛」が色濃いイベントとなった。トークでも話題にしたけれど、今回のイベントで配信がなかったのは安藤さんの要望だった。配信がなかったこともあり、安藤さんもリラックスした感じでお話してくれたと思う。

2022年10月3日(月)
事務所近くの自販機にホットの缶コーヒーが入っていた。嬉しい。早朝散歩は散歩道「いきいきウォーク新宿」を途中から途中まで。散歩では「TVアニメ『SPY×FAMILY』オリジナル・サウンドトラック Vol.1」を聴いた。その後、新宿中央公園でラジオ体操に参加。新宿中央公園内のむさしの森Dinerで「20品目のGOODバランスサラダ」をいただく。
新文芸坐でワイフと「ベルファスト」(2021・英/98分/DCP)と「カモン カモン」(2021・米/108分/DCP)の2本立てを観る。プログラムのタイトルは「モノクローム、ハートウォーム」。両作とも内容についてはほぼ知らずに鑑賞した。「ベルファスト」も「カモン カモン」も映像は白黒(「ベルファスト」は一部がカラー)で、子どもと大人の関係を描いている。両作とも予算も手間もかかっており、物語も映像もしっかりとした仕上がり。「ベルファスト」は監督の自伝的な作品で、舞台は1960年代末の北アイルランド。お話としての面白さは薄いのだけれど、描かれている状況(プロテスタントがカトリックに攻撃をし、街に暴動が起きる)が興味深く、緊張感は維持されている。4K作品の4K上映で、いい画がいくつもあった。アメコミ、映画、TV番組など、主人公が触れていたフィクションの描写が丁寧だった。父親が英国から買ってきたお土産の「国際救助隊なりきりセット」も印象的。「カモン カモン」は現在の話で、独身中年の主人公が幼い甥の面倒をみることになる。似たプロットの映画は過去に沢山あったはずだが、それらとはかなり違っているはず。着想が面白いし、脚本も巧い。役者もいいし、何よりも芝居が素晴らしい(演出プランもいい)。街の撮り方もよかった。主人公はジャーナリストで、色々な子供へのインタビューが何度か挿入される。そのインタビューが非常に雄弁であり、雄弁さが鼻につかないと言えば嘘になるが、この映画には必要なものだったと思う。好きなタイプの映画ではないのだけれど、楽しめた。1本の映画としては「カモン カモン」のほうが楽しめたけれど、それとは別に、似た映画を2本連続で観たことの満足感があった。名画座ならでは贅沢な鑑賞だった。
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』1話を視聴。ネットで『少女革命ウテナ』に似ていると話題になっているのを目にしてからの視聴だったので、ニヤニヤしながら観た。話は変わるが、SNSである方の発言を目にしてから『宇崎ちゃんは遊びたい!ω』はタイトルロゴをチェックすると、確かにωに「だぶる」とルビがふってある。ω(オメガ)をダブルと読ませるということね。難易度高いなあ。他には『SPY×FAMILY[第2クール]』『農民関連のスキルばっか上げてたら何故か強くなった。』『勇者パーティーを追放されたビーストテイマー、最強種の猫耳少女と出会う』『ハーレムきゃんぷっ!』『悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました』の1話に目を通した。

2022年10月4日(火)
最近は「あの作品のサントラはあるかな」と思って検索すると、かなりの確率でサブスクにある。この数ヶ月で聴いて、特によかったサントラは『天空のエスカフローネ』1~3、『ブレンパワード』だった。CDで購入したら数万円分のサントラを、毎月サブスクで聴いているはず。かなりの贅沢をしている気分だ。
確認することがあって、『EUREKA/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』を配信で視聴。「ハイエボリューション」3作を映画館で連続して観たら面白いだろうなあ。
この日、目を通した新番組の1話は『ゴールデンカムイ[第4期]』『名探偵コナン 犯人の犯沢さん』『新米錬金術師の店舗経営』『ベルセルク 黄金時代篇 MEMORIAL EDITION』『ポプテピピック TVアニメーション作品第二シリーズ』『アイドリッシュセブン Third BEAT![第2クール]』。「タツノコタイムズ」第1回の「宇宙エース」も観る。それから、ここ数日は「出没!アド街ック天国」の雑司ヶ谷の回を繰り返し観ている。

2022年10月5日(水)
グランドシネマサンシャインで『秒速5センチメートル』【IMAXレーザーGT版】を鑑賞。技術を駆使して、画質の底上げをしていると思われるが、やはり、IMAXで上映するには解像度が足りていない(解像度以外にも問題があるのかもしれない)。ではあるが、客席には若い観客が多く、『君の名は。』以降のファンが『秒速5センチメートル』を劇場で観る機会を得たのは悪いことではないと思った。僕自身は映画館から帰った後、『秒速5センチメートル』の配信を小さいウィンドウで観て、自分の記憶にある『秒速5センチメートル』の映像を再確認した。
TOKYO MXで始まった『新世紀エヴァンゲリオン』と『マジンガーZ』の2本立ての初回を録画で視聴。『新世紀エヴァンゲリオン』の予告は当たり前だけど、15秒バージョンだった。サブタイトルに読み仮名も無し。『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』の後でTVシリーズを観ると、ゲンドウの見え方がかなり違ってくる。『マジンガーZ』は映像が猛烈に鮮明でびっくり。流石は35mmフィルムだ(ちなみにTV『新世紀エヴァンゲリオン』が使っているのは16mmフィルム。そのため今回の放映では1990年代の『エヴァ』よりも1970年代の『マジンガーZ』のほうが映像が鮮明になっている)。番組中で『マジンガーZ』関連のCMをやっているのも嬉しい。提供がLEVEL5で「メガトン級ムサシX」のCMも入っていて、ちゃんとTV番組として機能している感じ。
TOKYO MXの火曜19時からの『エヴァ』『マジンガーZ』の並びも凄いけど、月曜18時半からの「アニメ『ゲゲゲの鬼太郎』歴代セレクション」「タツノコタイムズ」の並びも凄い。改めて番組表を見ると、TOKYO MXは他の曜日の19時前後のプログラムも似た意図を感じる。言葉にすると「アニメの歴史を俯瞰できるプログラム」だ。やるなあ。
引き続き、新番組の視聴も続けている。『ヤマノススメ Next Summit』1話の新作部分はお馴染みの一人原画。作監無しで総作監一人。総集編部分は話がみっちり。作画もよくて見応えがあった。

2022年10月6日(木)
グランドシネマサンシャインで『四畳半タイムマシンブルース』を鑑賞。シンプルにお話が面白かった。配信作品の総集編ということで、ハードルを下げて観たのがよかったのかもしれない。『四畳半神話大系』の登場人物達にまた会うことができたのも嬉しかった。『四畳半神話大系』のその後の話かと思ったらそうではなく、アナザーワールドの話。物語のタッチとしては『四畳半神話大系』よりも若々しいかな。多分、明石さんの描き方が『四畳半神話大系』とちょっと違う。『四畳半タイムマシンブルース』のほうが普通の女の子っぽいか。アニメーションのスタイルとしては『四畳半神話大系』のスタイルを踏襲。作画には遊びもあり、楽しく作っている感じ。
「設定資料FILE」の構成を始める前に、構成の素材となる設定資料と向き合う。
この日、目を通した新番組の1話は『モブサイコ100 III』『Do It Yourself!! どぅー・いっと・ゆあせるふ』『不徳のギルド』『陰の実力者になりたくて!』『転生したら剣でした』『ヒューマンバグ大学 不死学部不幸学科』『VAZZROCK THE ANIMATION』。気になることがあって『らき☆すた』1話を観る。

2022年10月7日(金)
午前中の散歩時と、その後の作業中に「コンプリートサウンドトラック 涼宮ハルヒの完奏」を聴く。4時間49分もあるプレイリストだが、全部を聴いた。午後に始めた「設定資料FILE」の構成は夜には終了。その後、プログラム「夜に薫り立つ、ニヒル 新東宝の天知茂」を開催中の新文芸坐に。余裕があったら作品の上映も観るつもりだったのだけど、それには間に合わず、春日太一さんと上坂すみれさんのトークショーのみを観覧する。
この日、目を通した新番組の1話は『アキバ冥途戦争』『虫かぶり姫』『マブラヴ オルタネイティヴ[第2期]』「ボイスドラマスペシャル~SHIRANAMI 5 見参!!」『Sylvanian Families フレアのハッピーダイアリー』。

2022年10月8日(土)
朝の散歩時に「TVアニメ『ツルネ ―風舞高校弓道部―』オリジナルサウンドトラック」を聴く。午前中に健康診断。「邦画プレゼン女子高生 邦キチ! 映子さん」Season8をKindleで読む。前にも書いたかもしれないけど、オタク男子とって駒木は理想的な後輩女子なのではないか。この日、目を通した新番組の1話は『令和のデ・ジ・キャラット』『聖剣伝説 Legend of Mana The Teardrop Crystal』『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』『メガトン級ムサシ シーズン2』。
新文芸坐が今後、オールナイト上映が原則として隔週開催になることをTwitterで発表した。詳しくは以下にリンクしたツイートとそのツリーを読んでもらいたい。 #いつまでもあると思うなオールナイト上映 のハッシュタグは僕にとって記憶に残るものになるだろう。映画視聴のスタイルに変化があるのは僕もよく分かっている。これから、新文芸坐とアニメスタイル共同企画のプログラムも変わっていくだろう。

https://twitter.com/shin_bungeiza/status/1578436685855346691?s=20

番外(2022年10月8日(土)頃のメモ)
以下はアニメの画質についての話。現状での僕の認識であって、間違いもあるかもしれない。SDが(720×480)480、HDが(1280×720)720、フルHDが(1920×1080)1080、4Kが(3840×2160)2160ということで話を進める。

(1)制作プロダクションが、TVアニメをテレビ局に納品する際の解像度は1080(納品時は1080pではなくて、1080i)。
(2)地上デジタル放送では横幅を1440に圧縮して送信。これをTV側で1920に引き伸ばして表示している。そのため、地デジの解像度は基本的には1440×1080。つまり、地デジの解像度はHDとフルHDの間の数値である。
[参考]https://jp.fujitsu.com/family/familyroom/syuppan/family/webs/digital/index6.html?fbclid=IwAR0a_M7ODp_uwQsIodd1mylLxYAecrtEfxNE184J4496KYUlUUTwlfIqurE
(3)地デジで一局だけ、フルHDで放送しているテレビ局がある。KBS京都だ。
[参考]https://www.phileweb.com/review/column/202206/15/1692.html
(4)1920×1080で放送しているBSのチャンネルはNHK BSプレミアム、WOWOW、 BS11のみ。他のBSのチャンネルは地デジと同じ1440×1080。以前は他のBSのチャンネルも1920×1080だったが、2018年に1440×1080となった。
[参考]https://av.watch.impress.co.jp/docs/news/1101216.html?fbclid=IwAR2lGVnjD2AgrlfSRnKHDAHM9QPNgggh8YXmm7aNttajQxcR5vKUIsRoBvQ
(5)BSのフルHDは1080i。1080pの計画もあるがまだ採用されていない。
[参考]https://www.soumu.go.jp/soutsu/kanto/bc/bs/gaiyo/bsdi_02.html?fbclid=IwAR2m1oEqmOyR4b5g8TzHJD2StlzMEFUay9xfuA55HFxqkjcaySmB5zwKdn8
(6)BSのフルHDは1080i、配信のフルHDは1080p。
(7)配信サイトでは1280×720と1920×1080を、まとめてHDと表記している場合が多いはず。
(8)Blu-rayソフトは1080pの場合と1080iの場合がある。
(9)BS、配信、Blu-rayソフトで、同じフルHDで画質が違うとしたら、理由はビットレートの違い。あるいは1080pと1080iの違い、等。

第793回 やはり、色々考えます

 ラッシュ・チェックをしては、リテイクをいくつか出し、自分も参加して直す。そして、またリテイク上りを確認する、が繰り返される日々。何年やってきても楽しくもあり、悔しい思いもすれば悲しい思いもする“納品”とは本当に悲喜こもごも。
 監督の自分としては、

すべてを受け入れる覚悟をする儀式!

スタッフ一同精いっぱい作ったフィルムが完成する瞬間——その労をねぎらいこそすれ、自分の不満は決して言わないようにしています。そりゃあ、正直言うと思ったとおりになっていないことは多々ありますが、それでもすべてを受け入れて、次に進むのです!
 当然、俺も人間ですから不満が爆発してしまいそうになった時もありましたが、そんな時は“それもこれも己の力不足に起因した事態ではないか?”と自分を省みるようにしています。そうすると、「じゃあ次はこうしてみよう!」と新たな作戦が生まれてきます。その繰り返しの“監督20年間”です。じゃ、また——。

アニメ様の『タイトル未定』
383 アニメ様日記 2022年9月25日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。

2022年9月25日(日)
「新文芸坐×アニメスタイルSPECIAL「『ストレンヂア 無皇刃譚』15周年 #ストレンヂアはいいぞ!」を開催。コメンタリー上映の前に、16時30分からの通常上映を少し観る。コメンタリー上映は19時から。安藤真裕監督と中村豊さんが映像を観ながら話すという形式で、大変に充実したイベントとなった。中村さんが他のスタッフからコメントをもらってきてくれたのもよかった。同じ形式で他作品の上映もやってみたいけれど、作品と人によってまるで違ったイベントになるのだろうなあ。

2022年9月26日(月)
Twitterでアニメのレイアウトが話題になっていたのをきっかけにして、宮崎駿さんのレイアウトについて書こうと思って『アルプスの少女ハイジ』の再視聴を開始。配信で1話から12話まで観た。「様式」とか「映画的な説得力」も凄いんだけど、それと同時に宮崎さんの「個々のカットを『画』にしようとする意欲」が凄い。それから、今回もアルムおんじの目線でドラマを観てしまう(後日追記。結局、この時期にレイアウトの話は書かなかった)。

2022年9月27日(火)
昼前の散歩で池袋から高田馬場まで歩いて、小豆島 大儀 高田馬場店で、前から食べてみたかった「岬のたらい手延べうどんセット」を食べる。
『アルプスの少女ハイジ』は20話まで観た。『CAT’S EYE』のDVD BOOKも少し観る。

2022年9月28日(水)
ここ数日、朝の散歩で『機動武闘伝Gガンダム』のアルバムを聴いている。「GUNDAM FIGHT-ROUND 3 新香港的武闘戯曲」を聴いたのは当時以来かも。かなり内容を忘れていた。グランドシネマサンシャインで『映画デリシャスパーティ▼プリキュア 夢みる▼お子さまランチ!』(▼はハートマーク)を鑑賞。『アルプスの少女ハイジ』の視聴も続く。

2022年9月29日(木)
朝の散歩時には『機動武闘伝Gガンダム』の「GUNDAM FIGHT-ROUND 4」「同・5」を聴く。アルパムではレインが、というか、天野由梨さんが大活躍。『アルプスの少女ハイジ』の視聴も続く。

2022年9月30日(金)
『5億年ボタン』最終回まで視聴。2話くらいで、観念的ハードSFアニメなのかと思ったのだけれど、そちらのほうには進まず。最終回で5億年ボタンの話としてまとまるかと思ったら、そんなこともなかった。ではあるけれど、とんでもない番組であったのは間違いない。それについては記憶に留めたい。制作スタッフは楽しかったのだろうか。楽しかったならいいな。
ところで『うる星やつら』の新テレビシリーズが、各回1話なのか各回2話なのか、あるいは各回3話なのかが気になっている。改めて原作を読むと、各回3話でもいけそうな気がする。
Twitterで『サイバーパンク: エッジランナーズ』について、現在のところ、Blu-ray Boxなどのパッケージの販売予定がないということを知る。映像パッケージが重要でない時代になっていく。

2022年10月1日(土)
グランドシネマサンシャインで「アバター:ジェームズ・キャメロン 3Dリマスター」【IMAXレーザーGT3D字幕版】を鑑賞。通常の感覚で観ると、話はかなりユルい。ではあるけれど、観客が作品世界に没入することが目的の映画であるなら、これでいいのかもしれない。ところで、このシリーズはタイトルが「アバター」だから、今後の続編でもアバターを出し続けなくてはいけないのだろうか。
朝の散歩時に『新機動戦記ガンダムW』のアルバムをサブスクで聴く。「OPERATION 1」がBGM、「OPERATION 2」がキャラソンとBGMの構成でちょっと驚く。「OPERATION 3」と「同・4」はまだ聴いてないけど、「3」は同様の構成で「4」はボーカル集らしい。時代だなあ。
引き続き『アルプスの少女ハイジ』を視聴。とにかく、アルムおんじがよく描けている。36話でパン屋の主人が、ハイジのことを「いい子だね。あの子は」と言ったあたりから、アルムおんじの表情が緩くなっているのがよかった。ハイジがフランクフルトから帰ってきたのが嬉しかったんだろうなあ。その後、ハイジがお嬢様と呼ばれていたと聞いて笑うという流れになるのだけれど、笑ったのはお嬢様と呼ばれていたのが可笑しいからだけではない。シリーズ全体としては、ハイジと暮らすようになってからも、おんじがハイジがいないところでは「かなりめんどうくさい人」として描かれているのがいい(ハイジがいるところでは他人に気を使っている)。ハイジは基本的には大人が考えた「いい子ども」なんだけど、言動が率直過ぎてペーターを軽く傷つけることがあるのがいい。フランクフルトでの生活について、おんじやペーターがどこまで知っているのかを把握しないで話をしたりするのがいい。

第250回 破壊と創造 〜チェンソーマン〜

 腹巻猫です。マンガ家の松本零士さんが亡くなりました。『宇宙戦艦ヤマト』『銀河鉄道999』『宇宙海賊キャプテンハーロック』『1000年女王』……と当コラムでも代表的な「松本アニメ」の音楽を取り上げました。これらの作品がなければ、現在のアニメ音楽はなかったかも。仕事で「松本零士音楽大全」と「銀河鉄道999 エターナル・エディション・シリーズ」に関われたのが大切な思い出です。ありがとうございました。心より哀悼の意を表します。


 NHKの番組で小室哲哉のインタビューを観ていたら、最近、AIを利用して曲を作ったと話していて、思わず身を乗り出した。自分の曲をAIに学習させ、「小室哲哉風のメロディ」を生成させて、それに手を加えて新曲を書いたのだという。
 実は映像音楽でも曲作りにAIを利用した作品がある。牛尾憲輔が音楽を手がけた『チェンソーマン』である。
 『チェンソーマン』は2022年10月から12月まで放映されたTVアニメ。藤本タツキのマンガを監督・中山竜、アニメーション制作・MAPPAのスタッフで映像化した作品だ。
 悪魔と呼ばれる怪物が跋扈する世界。父が遺した借金を返すためにデビルハンターとなったデンジは、悪魔との戦いで命を落としてしまう。しかし、デンジは相棒のチェンソーの悪魔ポチタから心臓をもらい、チェンソーマンとなってよみがえった。公安警察の対魔特異4課にスカウトされたデンジは、女性リーダーのマキマ、同僚のアキ、パワーらとともに凶悪な悪魔と戦うことになる。

 本作の音楽については藤津亮太氏による牛尾憲輔インタビューが「クイック・ジャパン」vol.164に掲載され、それを再編した記事がWEBサイト「クイック・ジャパン・ウェブ」で公開されている。さらに、サウンドトラックCDのブックレットにも同じく藤津亮太氏によるインタビューが掲載されており、そちらではさらに深堀りした内容を読むことができる。
 牛尾憲輔の言葉によれば、原作を読んで受けた印象は「メチャクチャ」だったそうだ。その「メチャクチャ」を音楽に落とし込もうと考えた。そのために牛尾が使った手法が面白い。一度作った曲を切り刻んで編集したり、プログラムでランダムに生成したリズムを使ったりしたのだ。生演奏でもインプロビゼーションやアドリブといった即興を重視した手法があるが、コンピュータを利用して同様のことを行おうとした点がユニークである。
 特にバトルシーンに流れる曲に、そうした手法を使ったものが多い。「the devil appears」という曲では、ブレイクビーツを切り刻み、リズムがあるのかないのかわからないくらいメチャクチャにした。「the devil hunter」という曲では、AIで生成した音とプログラムで自動生成させた音を共演させている。
 心情描写に使われるゆったりした曲でも同様の手法が使われている。抒情的なメロディに切り刻んだギターのフレーズを重ねたり、ノイジーな加工をしたりして、独特の雰囲気を作り出した。通常のアニメだと耳障りになりそうだが、『チェンソーマン』の世界観にはそれが合っていた。
 本作のサウンドトラック・アルバムは、テレビアニメの放映中にリリースされた配信版EPと放送終了後にリリースされた「完全版」の2種類がある。配信版EPは、2022年10月リリースの「Chainsaw Man Original Soundtrack EP Vol.1 Episode 1-3」(11曲収録)と2022年11月リリースの「同 EP Vol.2 Episode 4-7」(10曲収録)、そして、2022年12月リリースの「同 EP Vol.3 Episode 8-12」(8曲収録)の3タイトル。完全版は2023年1月に「Chainsaw Man Original Soundtrack Complete Edition – chainsaw edge fragments -」のタイトルでCD(2枚組)と配信でリリースされた。
 完全版サントラは49曲収録。配信リリースされたEP3タイトルの曲をすべて含んでいるが、曲順は変更されている。EPを並べて未収録曲を追加したのではなく、全49曲のアルバムとして構成し直しているのだ。
 ディスク1の収録曲は以下のとおり。

  1. edge of chainsaw
  2. the door
  3. imagine devils
  4. the devil hunter
  5. rain
  6. nail-biter
  7. black despair
  8. that’s a dream come true
  9. special division 4
  10. looking for something
  11. livingroom
  12. chainsaw attacks!
  13. the devil appears
  14. destroy them all
  15. good night,boy
  16. sweet dreams
  17. eat.sleep.play
  18. 100% sales tax
  19. kick ass!
  20. the golden bowlers
  21. search and destroy
  22. death cluster
  23. run
  24. confront
  25. humans are fools
  26. buddy
  27. song for unbirthday
  28. verge of death
  29. nmgeai
  30. dream… come true?

 1曲目の「edge of chainsaw」はチェンソーマンのバトル曲。第1話でデンジが初めてチェンソーマンとなって悪魔を倒す場面から流れた、チェンソーマンのテーマとも呼ぶべき曲だ。最終話クライマックスのサムライソードとの戦いの場面で流れたのも印象深い。
 『チェンソーマン』の音楽の中では比較的ストレートなロックの曲で、ヒロイックなバトル曲として聴ける。が、曲の後半はリズムが切り刻まれた混沌としたサウンドに変わっていく。バトルが激化していくようすを曲調の変化で表現しているようだ。
 2曲目「the door」はシンプルなメロディの心情曲。第1話でデンジがポチタの心臓をもらってよみがえる場面や第4話のパワーとニャーコの思い出の場面などに使われた。心温まるシーンを彩る曲だが、ノイジーに加工されたギターの音などが重なって不穏な空気がただようのが『チェンソーマン』ならでは。
 効果音的な恐怖曲「imagine devils」をはさんで、トラック4「the devil hunter」はふたたびバトル曲。第2話でパワーがナマコの悪魔を一撃で倒す場面や第4話でのヒルの悪魔との戦い、第8話、第9話でのサムライソードとの戦いの場面などに流れた代表的なバトル曲のひとつ。切り刻まれたブレイクビーツがチェンソーの音にも聴こえる。本作の音楽のコンセプト「メチャメチャ」を体現した曲だ。
 続くトラック5「rain」は悲しみの曲。第1話でデンジがポチタと出会う回想シーン、第10話でアキが姫野の死を悼んで泣く場面などに使われた。ロングトーンのメロディに切り刻んだノイズを重ね、しんみりしすぎない抑えたタッチの曲に仕上げている。
 ほかの心情曲では、第1話でデンジがマキマにハグされて人間の姿に戻るシーンのトラック8「that’s a dream come true」、第8話で姫野が自分の命と引き換えにアキを助ける場面のトラック16「sweet dreams」、第6話でアキがデンジをかばって刺される場面のトラック30「dream… come true?」などが記憶に残る。
 雑誌「Newtype」の2022年12月号で、牛尾憲輔は本作の音楽について「僕が自由に曲をつくるとメロウな曲ばかりを書いてましたね。デンジとかアキの気持ちをちゃんと昇華したい。つらいときの気持ちをきちんと描いてあげたいという気持ちがあったんじゃないかな」と語っている。
 そうやって書いた曲を切り刻んだり、ノイズを乗せたりして完成させたのが今回の心情曲。メロディやアレンジで雰囲気を変えるのではなく、電子的な細工で曲のトーンや距離感を調整しているのがとても現代的だし、牛尾憲輔らしい。
 本作には、いわゆる「日常曲」に分類される曲もある。
 公安対魔特異4課に所属したデンジが同僚のアキに引き合わされる場面のトラック9「special division 4」、第5話でデンジがマキマに手をとられてドキドキする場面のトラック10「looking for something」、パワー登場場面に流れたトラック18「100% sales tax」、第2話でデンジがアキの尻をける場面や第7話でデンジが姫野にキスされる場面のトラック19「kick ass!」、第4話でデンジがパワーの胸をもませてもらう場面のトラック20「the golden bowlers」などだ。こうした曲は、バトル曲やサスペンス曲に比べるとノイジーな加工や編集は控えめ。本作では貴重な、ほっとするシーンや笑えるシーンに流れる曲だからだろう。アルバムの中でも親しみやすい曲になっている。
 やはり本作らしい音楽と言えるのは、激しいバトル曲や強烈なサスペンス曲である。
 第1話でデンジがゾンビの群れに追いつめられる場面のトラック6「nail-biter」、第2話で初出動したデンジが魔人と対面する場面のトラック21「search and destroy」、第3話でデンジがコウモリの悪魔にとらえられる場面のトラック28「verge of death」などは代表的なサスペンス曲。悪魔出現場面やデンジたちのピンチの場面にたびたび使用されている。「search and destroy」は「探索」をテーマにした曲で、低くうなるシンセの音に金属的な音を重ねて緊張感、不安感をかもしだす。インダストリアル・ミュージック的なサウンドが『チェンソーマン』の世界観にマッチしている。
 トラック12「chainsaw attacks!」は1曲目の「edge of chainsaw」と並ぶチェンソーマンのバトル曲。こちらのほうがより『チェンソーマン』的だ。切り刻まれたリズムとノイジーなサウンドが融合し、すさまじくテンポの速い激しい曲になってる。第3話のコウモリの悪魔との戦い、第7話の永遠の悪魔との戦い、第12話のサムライソードとの戦いなど、数々の死闘を盛り上げた。牛尾憲輔によれば、こういう曲は1小節作るだけですごく時間がかかるため、「1日かけて2秒くらいしかできない」のだそうだ。プログラムやAIを使ったからといって制作時間が短縮されるわけではないのである。
 トラック13「the devil appears」は、切り刻まれたリズムが混乱と危機感を描写する曲。第3話のコウモリの悪魔との戦いや第5話でホテルの部屋から首だけの悪魔が現れる場面などに使われた。第9話でサムライソードにねらわれたデンジをコベニが助ける場面にも流れている。狂ったような激しいテンポで演奏されるトラック14「destroy them all」も同じコンセプトの曲だ。
 トラック12からバトル曲が3曲続く構成はなかなか刺激的。連続で聴くと頭がくらくらしてしまう。
 シンセのうなりと機械的なリズム、ノイズ、ボイスなどがミックスされたトラック23「run」は、バトルのイメージよりも不気味なサスペンスがまさった曲である。第1話でデンジがゾンビを皆殺しにしようとする場面や第8話のアキ対サムライソードの戦いの場面などで使われた。なんといっても印象深いのは、第9話でマキマが行う謎の儀式によってヤクザたちが次々と死んでいく場面。トラック25「humans are fools」と続けて使用されて、背筋が凍るような場面を生み出した。ドラマティックに感情をあおるような曲でないだけに、恐ろしさが際立つ。これも『チェンソーマン』らしい曲と言えるだろう。

 日本の映像音楽の最前線に触れたかったら、ぜひ『チェンソーマン』のサントラを聴いてもらいたい。チェンソーのようにパワフルで切れ味の鋭い音楽がここにある。これはもはや「現代音楽」と呼んでよいだろう。
 AIが進化すれば、劇伴も自動生成した曲ですませる時代が来るのかもしれない。しかし、『チェンソーマン』では、プログラムやAIの力を借りて、さらに新しい音楽を生み出している。AIも刃物も使い方次第。ノイジーで混沌としたサウンドの向こうに希望を感じさせる作品である。

Chainsaw Man Original Soundtrack Complete Edition – chainsaw edge fragments -
Amazon

アニメ様の『タイトル未定』
382 アニメ様日記 2022年9月18日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2022年9月18日(日)
午前7時半から営業をしている「台湾早餐天国/TSUMUGU CAFE」で、ワイフと朝食。ここ数日は『Fate/Grand Order 絶対魔獣戦線バビロニア』を再見している。なんだかんだで、この作品の女性キャラは好きだなあ。

2022年9月19日(月)
新文芸坐で「女と男のいる舗道 4Kデジタル・リマスター版」【4K上映】(1962・仏/84分/DCP)を鑑賞。ブログラム「彼女たちと世界(4)」の1本(正確には(4)は丸数字)。客の入りは満員に近い。作品としてはいいところがいくつもあるし、映画的な時間が流れているとも感じたのだけれど、他のゴダール作品と同様に、公開当時のインパクトは想像するしかない。
スターチャンネルの「それ行けスマート/0086笑いの番号[吹]日曜洋画劇場版」を録画でながら観。「それ行けスマート」のTVシリーズは子どもの頃に観ていて、この劇場版は初めての視聴。悪の組織ケイオスが開発した新兵器は世界中の人間を全裸にしてしまうヌード爆弾で、その爆弾の計画を阻止するのがスマートの任務だ。スマートのパートナーの美女は34号、22号、36号で、34号を演じるのがシルビア・クリステル。敵の新兵器がヌード爆弾でヒロインがシルビア・クリステルだったら、お色気シーンを期待するところだけど、彼女のヌードは無し。最後に22号が裸になるけど、見えるのは肩から上だけ。その後に後ろ姿が見えるけど、すぐにENDマークで隠れてしまう。企画段階では22号をシルビア・クリステルにやらせたかったのではないかなあ。脚本段階では22号と34号が同一人物だった可能性もある(34号が登場している間、22号が登場しない)。ちなみに吹き替えキャストはスマートが小松政夫さん。34号が小宮和枝さん、22号が戸田恵子さん、36番が吉田理保子さん。

2022年9月20日(火)
10月からテレビで放映されるジャンプアニメをカウントしてみた。新番組として始まるのが(原作が「少年ジャンプ+」等で連載しているもの、先行して配信されていた作品も含めると)『SPY×FAMILY』第2クール、『BLEACH 千年血戦篇』、『チェンソーマン』、『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン』第2期、『僕のヒーローアカデミア』第6期継続番組が『BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS -』と『ONE PIECE』。合計で8作品だ。
Netflixで『恐竜少女ガウ子』の第2シーズンを観た。視聴履歴が残っていて、第1シーズンは観ているらしい。主人公の名前が渡辺奈緒子で、演じているのが松井菜桜子さんだ。原作・監督はしぎのあきらさん。第1シーズンを観た時も同じことを思ったはずだけど、『おそ松くん』の延長線上にある企画だったんだろうなあ。検索してみたら、公式サイトの「ガウ子の足跡」に「1980年代のどこか、松井菜桜子にインスパイヤされてガウ子の企画を考える。」とあった。
WOWOWで『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ―2人の英雄―』を放映していて、これがかなり綺麗。多分、Blu-rayソフトと同等の画質だろうと。ただし、ウチの環境では動きが速いところなどでブレが生じていた。同じ映画を同じモニターでU-NEXTで少し観てみたが、WOWOWほどパキっとした感じではない。ブレも多いかな。やっぱりWOWOWはいいなあ。

2022年9月21日(水)
ワイフと新宿ピカデリーで「川っぺりムコリッタ」を観た。予告も観ないでの鑑賞だったが、監督が荻上直子さんであることと、満島ひかるさんが出ていることは知っていた。ものすごく雑な感想を書くと「恋愛要素のない『めぞん一刻』」だった。主人公はアパートで暮らすことになった山田たけし(松山ケンイチ)。パートの管理人は南詩織(満島ひかり)で、彼女は「妊婦を見ると腹を蹴りたくなる」という変わり者。山田の部屋に入ってきて風呂をつかったり、冷蔵庫の中のものを勝手に食べたりする隣人が島田幸三(ムロツヨシ)。他のアパートの住人は一年中喪服を着て、墓を売っている溝口親子、自分が死んだことに気づいていないらしいお婆さんの幽霊。島田が図々しくあがりこんできたあたりで「ということは、満島ひかりさんの管理人は未亡人なのね」と思ったらそうだった。溝口親子がすき焼きを食べようとしたら、他の住人や南親子が部屋に入り込んですき焼きを食べ始めてしまうあたりも「めぞん一刻」的だと思った。「めぞん一刻」的であることがこの作品にとって重要なことではないが、書いておきたかった。
それはそれとして「川っぺりムコリッタ」は映画として面白かった。「身近な人の死に対していかに向き合うか」を描いた映画であるのだけど、それと同時に「味わい」の映画だった。ワイフはこの映画に入れ込んでいたようで、三度泣いたそうだ。それから、ちょっと話が飛躍するけれど『リラックマとカオルさん』はやっぱり荻上直子さんのカラーが強かったのだろうなあと思った。
映画の後で、新宿マルイメンの「スーパーロボット&ヒーローの世界 越智一裕画展」に立ち寄る。濃い空間だった。越智さんのイラストが本にまとまったことも、このようなイベントが開催されたことも、ファンにとって喜ばしいことだと思った。僕はサイン本を購入。高校の文化祭でもらうことができなかった越智さんのサインを、ようやく手に入れることができた。

2022年9月22日(木)
グランドシネマサンシャインで「ロード・オブ・ザ・リング」【IMAXレーザーGT字幕版】を鑑賞。この映画を観たのは初めて。長い映画だった。実際の時間も長いし、体感としても長かった。原作未読なので、原作との関係は分からないけれど、真摯に原作に向き合った作られた作品なのだろうと思った。IMAXに関しては、向いている場面と向いていない場面があった印象。
配信で『ストレンヂア 無皇刃譚』を観る。U-NEXTはハイビジョンだ。Amazon prime videoを確認したら、Amazon prime videoもハイビジョンになっている。以前は解像度が低いバージョンで配信していたはずだ。

2022年9月23日(金)
『それでも歩は寄せてくる』最終回が、予想していたよりも最終回らしい内容だったので驚く。あのまま告白するかと思った。『劇場版 呪術廻戦 0』のBlu-rayソフトで視聴。やっぱりこれは劇場で観たほうがいいな。Blu-rayの特典は今時らしく、あっさりした感じ。

2022年9月24日(土)
無責任な書き方になるけれど、自分の周りで『雨を告げる漂流団地』と『夏へのトンネル、さよならの出口』の評価が真っ二つに分かれていて面白い。『夏へのトンネル』に辛口な人が『雨を告げる漂流団地』を誉めている。その一方で『夏へのトンネル』を誉めている人もいる。感想はそれぞれだなあ。『雨を告げる漂流団地』に関しては配信で観たのか、劇場で観たのかで印象が違ってくるような気がする。
これからの仕事のために、あるアニメをチェックする。同じ話を何度も観たり、作画と演出を確認したり。それがこの日の主な作業だった。

第792回 ヤバいっ!!!

 タイトルから匂わせているとおり、大前提今回お茶濁しなのです。何か仕事が多過ぎてとにかくヤバい!
 今日日のコンテンツ過多による業界的人手不足、つまり作業者(アニメーターに限らず美術も)の絶対数に対してアニメの本数が多過ぎることによる忙しさに加えて、面白そうだから~の理由でお受けしたイラストの仕事が重なって(汗)。

まあ、いいや! 四の五の言う前に仕事に戻ります、ごめんなさい!
ではまた……

第202回アニメスタイルイベント
ここまで調べた片渕監督次回作14【人物の名前を覚えてもらうのは諦めました編】

 片渕須直監督は『この世界の片隅に』『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』に続く、新作劇場アニメーションを準備中です。まだ、タイトルは発表になっていませんが、平安時代に関する作品であるのは間違いないようです。
 新作の制作にあたって、片渕監督はスタッフと共に、平安時代の生活などを調査研究しています。その調査研究の結果を少しずつ語っていただくのが、トークイベントシリーズ「ここまで調べた片渕須直監督次回作」です。これまでのイベントでも新しい視点から見つけた、これまであまり語られていなかった「枕草子」の側面について語られてきました。

 2023年3月11日(土)に開催する第14弾のサブタイトルは「人物の名前を覚えてもらうのは諦めました編」。今回は「枕草子」に登場する人物の名前が話題となります。サブタイトルの「名前を覚えてもらうのは諦めました」とは、いったいどんな意味なのでしょうか。出演は片渕須直監督、前野秀俊さん。聞き手はアニメスタイルの小黒編集長が務めます。

 会場は阿佐ヶ谷ロフトA。今回も会場にお客様を入れての開催となります。イベントは「メインパート」の後に、ごく短い「アフタートーク」をやるという構成になります。配信もありますが、配信するのはメインパートのみです。アフタートークは会場にいらしたお客様のみが見ることができます。

 配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。また、今までの「ここまで調べた片渕須直監督次回作」もアニメスタイルチャンネルで視聴できます。

 チケットは2月16日(木)19時から発売となります。チケットについては、以下のロフトグループのページをご覧になってください。

■関連リンク
LOFT  https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/243372
会場チケット https://t.livepocket.jp/e/q5h7a
配信チケット https://twitcasting.tv/asagayalofta/shopcart/217452

 なお、会場では「この世界の片隅に 絵コンテ[最長版]」上巻、下巻を片渕監督のサイン入りで販売する予定です。「この世界の片隅に 絵コンテ[最長版]」についてはこちらの記事をどうぞ→ https://x.gd/57ICr

第202回アニメスタイルイベント
ここまで調べた片渕監督次回作14【人物の名前を覚えてもらうのは諦めました編】

開催日

2023年3月11日(土)
開場12時30分/開演13時、終演15時~16時頃予定

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

片渕須直、前野秀俊、小黒祐一郎

チケット

会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,500円、当日 1,800円(税込・飲食代別)
ツイキャス配信チケット/1,300円

■アニメスタイルのトークイベントについて
 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。

アニメ様の『タイトル未定』
381 アニメ様日記 2022年9月11日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2022年9月11日(日)
新文芸坐で「ウエスト・サイド・ストーリー」(2021・米/157分/DCP)を鑑賞する。この映画はロードショー時にIMAXで観たかったのだけど、その時は時間がとれなかった。なお、1961年の「ウエスト・サイド物語」は1980年代にレンタルビデオで視聴しているけれど、その記憶は薄くなっている。中盤までは本当によかった。カメラワークもセットも役者も音楽もいい。特にポスターにもなっているベランダのシーンの臨場感が素晴らしかった。決闘前の登場人物が全て参加してのミュージカルシーンもよかった。新文芸坐の音響もよい。ただ、映画終盤に物語が深刻になってからは「映画が小さくなった」印象。これは僕が映像とかセットのスケールなどを楽しんでいたからそう思うのであって、登場人物がどうなるのかを気にして観ているなら、あまり問題にならないのかもしれない。エンディングもよかった。映画全体の印象としてはいまひとつだけど、もう一度、劇場で観たいくらいには気に入った。

2022年9月12日(月)
へえ、そんな映画があるんだ、だけど、観る機会があるかな、と思っていた「最後にして最初の人類」がAmazon prime videoの見放題に入っていた。こんなマニアックな映画をパソコンで気軽に観ることができるのは贅沢だなあ。ただし、この作品は劇場で観ていたら随分と印象が違っていたに違いない。
SNSで2002年に開催した「マッドハウス・アニメスタイル合同イベント 出崎統NIGHT2」が話題になった。そのイベントでは『家なき子』の名場面を抜粋でビデオ上映をした。TMSに許可をもらった上映で、編集は僕がやった。上映が終わったところで、小林七郎さんが涙ぐんでしまって、出崎さんも言葉が少なくなってしまった。そして、イベントが終わった後、出崎さんがすまなさそうに「あの時、涙が出そうになって話ができなくなったんだ」とおっしゃった。配信がある企画だと、ああいった空気感のイベントは難しいかもしれない。

2022年9月13日(火)
吉祥寺の肉山で業界の方達と食事。去年から約束していたのが、ようやく実現できた。午前中は『ツルネ ―風舞高校弓道部―』を1話から6話くらいまで流し観。夕方は『サイバーパンク: エッジランナーズ』1話、2話を観る。

2022年9月14日(水)
『サイバーパンク: エッジランナーズ』を最終話まで観る。NetflixとAmazon prime videoで色々と観て、画質を確認する。

2022年9月15日(木)
いつでも観られると思った『Fate/Grand Order 絶対魔獣戦線バビロニア』のNetflixの配信が終了する模様。他の配信サイトはどうなるんだろうか。近年の有名タイトルはずっと配信で観られるものだろうと思っていたが、そういうわけでもないのか(追記。2023年2月現在で、同作はAmazon prime videoやU-NEXTでは配信が続いている)。
原作「うる星やつら」の再読を始める。個々の話というか、個々のコマとかセリフとかは覚えているんだけど、エピソードの順番などは覚えていなくて「あれ、弁天の登場ってこんなに早かったっけ」と思ったり。今見ると、押井さんがあたるの母親に興味をもったのが分かるような気がする。

2022年9月16日(金)
グランドシネマサンシャインの午前8時10分からの回で『雨を告げる漂流団地』を鑑賞。作り手の、というか、石田祐康監督の登場人物への想いはかなりのもので、その想いを作品にぶつけられるところに彼の価値があると思う。1本の映画としてはまとまりがよくないと思うが、それと監督の想い入れは表裏一体なのだろう。
Zoom打ち合わせの後で有楽町マルイの「機動警察パトレイバー 30周年突破記念[TV-劇パト2]展」に。目当ては『機動警察パトレイバーEZY』パイロット映像だった。具体的なことは書かないけれど、興味深いものだった。有楽町マルイの同フロアでは「おそ松くん 60周年 おそ松さん 6周年 記念展」も開催していて、マンガ原稿、アニメの設定資料等が展示されてた。こちらは入場無料だったけれど、なかなか充実した展示。「おそ松くん」と『おそ松さん』のコラボ商品がよかった。同フロアでは『夏へのトンネル、さよならの出口』のPOPUP SHOPもあり。こちらも絵コンテ等の資料が展示されていた。凄いぞ、有楽町マルイ。

2022年9月17日(土)
某所から問い合わせがあって、事務所内で「アニメビジョン」のバックナンバーを探すが、目当ての号は見つからず。ちなみに「アニメビジョン」とはVHDのビデオマガジンで、僕は学生時代に編集スタッフとして参加していた(後日追記。SNSで「アニメビジョン」のバックナンバーをお持ちの方がいて、問い合わせをくれた方にお伝えした)。
新文芸坐で「高校大パニック」(1978/94分/35mm)を鑑賞。プログラム「反逆のメロディー 澤田幸弘傑作選」の1本だ。「数学できんが、なんで悪いとや!」のキャッチフレーズは当時からよく耳にしていたので、予告くらいは観ていたはず。タイトルとキャッチフレーズから、大勢の学生が教師相手に大暴れする話だと思っていたのだけれど、かなり違った。昔の映画なのでネタバレを気にしないで書くが、前半で主人公の男子生徒が盗んだライフルで教師を教室で撃ち殺し、その時に同級生の女子生徒も撃ってしまう。その後も先生や警察に対して撃ちまくるし、ヒロイン格の女子生徒が警察側の誤射で死んだりするけど、センセーショナルなのは、やはり前半の教師を撃ち殺すところで、その場面の「やっちゃった感」が凄い。90分ほどの映画だけど、プロットがシンプルなので体感としてはちょっと長い。途中で緊張感が維持できなくなっている感じはあるのだけど、そこまでは確実に面白い。最後に警察に捕まったところで、これだけの事件を起こしたのに主人公が来年の受験や、受験勉強のためのラジオ講座のことをしきりに気にしているというのが皮肉なオチとなるのだが、そこまでの展開での主人公の描写からするとしっくりこない。ラストは元になった8ミリ映画と同じなのだろうか。映画後半で校舎から脱出した男子生徒達が、教師が殺されたことではなく、彼が死んだことで自分達の受験勉強が遅れることを心配するのも、当時としては痛烈な描写だったのだろう。

第791回 裸と鎧

 先日、某S社の——もう10数年の付き合いになるプロデューサーA氏と外食でした。次のさらに次作品(シリーズ)の関係で、よくある打ち合わせから流れてのお食事会。お久し振りにお互いの近況報告・確認、それプラス業界四方山を語り散らしつつの食事を楽しみました。
 そこでの雑談。俺が過去に某アニメ会社社長に向かって「勝ち組には付き合えない」と言って、その会社を離れたという話をしました。「はあ、何でまた?」とA氏。で、俺の“主義”の話に。ちなみにその時話題にした“俺が離れた某アニメ会社”は、現在、新卒者らが最も就職したいアニメ会社のひとつになり立派に勝ち名乗りを上げております。おめでとうございます。それはそれでいいのです。
 つまり、どうやら40年以上生きて分かった自分自身の性格と言うか、主義と言うか。ハッキリ分かったのでハッキリ言います。

勝ち組、権威、それに付随した金持ちとかになりたくない!

らしいのです、俺は。
 だって、自分が勝ったとすると、必ず負ける人がどこかにいます。自分が多くお金を貰えば低賃金で働かされている人が必ずどこかにいます。特に後者はアニメの現場が正にそうなりがちで、ろくに絵コンテも直さず右から左に流すだけのくせに、“監督”を名乗ってるだけで1話あたり●●万持って行き、さらに何シリーズも同時に掛け持ちで月●●●万荒稼ぎとか。それは勝ち組になった者の特権なのでしょうか? それ、俺はできない性格だということ。自分だけいいギャラ貰って、動画マンは単価で食うか食われるか? 想像しただけで、たとえ自分がそれなりのお金が貰えても、家買ったり車買ったりってできません。やっぱり、贅沢するなら役職上の誰と誰~の特権階級だけなく、“会社丸ごと”に限ります、あくまで自分の場合は。
 テレコム退社後から今まで、あちこちの会社を渡り歩いた中でも、社員だ拘束だと誘っていただいたり、「僕だったら、板垣さんに年収●●●万以下になんかさせません」と言ってくださったプロデューサーさんもいましたが、「自分はそんな格ではありませんので」と丁重にお断りして、今日までやってきました。で、どこにいても勝ち組になりそうになった会社からは、作品の切れ目ごとに自ら出て行っています。多分、それが板垣の性分です、と。
 さらに話は転がって「学歴主義・権威主義が嫌い!」話へ。自分ら世代はまごうことなき受験世代。中学生から高校は受験勉強あるのみ。「受験に勝ちさえすれば生涯安泰!」を本気で信じて、周りの学友らは勉強勉強の毎日でした。何せ我々団塊ジュニア(第二次ベビーブーム)最多と言われる1973年(板垣は1974年の早生まれ)、自分も一応当時は「進学校」と呼ばれる“大学に進学するのが当たり前”の高校に入学したので、周りの同級生らが皆、揃って少しでも良い大学へ進学を希望していたのです。そんな中、自分は行っても芸大、画が描けるなら専門学校で上等、という考えでした。で、河合塾美術研究所という所で芸大受験に向けて鉛筆デッサンやったりしていたのですが、周りの受講生は半分が1浪、中には2浪も当たり前。つまり、芸大の座席の空き待ち(に見えました)。「要は画で食えるようになれば良い」と考えていた自分は、浪人してまで“大学”に拘る気は更々なく、両親に相談もなく受験自体を止めて、無試験の専門学校に入学したのでした。

自分の腕一本で食っていく将来なら“裸”で結構!
学歴と言う“鎧”は俺には不要!

と。学歴や権威で世を渡るのが自分には向いてない、とその時既に感じていたのだと思いますし、その決断に関しては未だ別に後悔などはしておらず、本当に良かったと思っています。
 てな話をS社・プロデューサーA氏に何となく雑談したところ、

そうですか~、僕は逆に“鎧”で固めて世間に出たかったんですよね~

と自然に返ってきました。別にどちらでもいいのです。考え方・行動は人それぞれなのですから。要は世の中何事も役割分担。各役職にそれぞれ向き不向きがあるだけのこと。「学歴のない奴は、高学歴監督の言うとおりに黙って画を描いて、低賃金労働アニメーターで我慢して、僕の作品のために全てを捧げ続けなさい(そうすれば僕は君に優しくしてあげるから)」とかのマウント思考、そして、そのお陰で手にした権威を振りかざして職人を掌握しようとする考え方が大嫌い! だということです。ちなみにA氏と同席された他2名の方々、皆さん揃っていい大学出身のいわゆる高学歴。その上でマウント思考でなく、自分とウチの会社のやり方(条件)を尊重してくださっています。その頭の良い方々にプロデュースしていただけるのですから光栄な話で、自分は良い作品を作って期待に応えたい——今はそれだけです。

 で、またごめんなさい!チェックの時間になりました!

第249回 やっぱりヤマタケはすごかった 〜魔犬ライナー0011変身せよ!〜

 腹巻猫です。前回『LUPIN ZERO』を取り上げたばかりのタイミングで、ディスクユニオンが展開するCINEMA-KANレーベルから『魔犬ライナー0011変身せよ!』のサウンドトラックCDが発売されました。音楽は『ルパン三世』第1作の山下毅雄。劇中音楽は初商品化! ヤマタケファン待望のリリースです。


 『魔犬ライナー0011変身せよ!』は1972年7月に「東映まんがまつり」の1本として公開された東映動画(現・東映アニメーション)制作の劇場アニメ。同時上映には「仮面ライダー対じごく大使」「変身忍者嵐」「超人バロム・1」といった特撮ヒーロー作品が並ぶ。子どもたちのあいだで「変身ブーム」が盛り上がっていた時期の作品である。タイトルに「変身」の文字が入っているのが時代を反映している。
 198X年、宇宙の侵略者デビル星人は地球に狙いをさだめ、ひそかに侵攻を開始した。異変を察知した科学者・林博士は、デビル星人の攻撃で命を落とした4匹の犬をサイボーグとしてよみがえらせ、息子ツトムにプレゼントする。サイボーグ犬はそれぞれに特殊能力を備え、さらに変形合体してサイボーグ艇ライナー号となるのだ。ツトムはサイボーグ犬と力を合わせてデビル星人に立ち向かっていく。
 この劇場アニメ、ヤマタケファンのあいだでも、ちょっとマイナーな作品である。『ルパン三世』(1971)を手がけた直後の作品であるが、90年代末〜00年代の山下毅雄再評価ブームの際もほとんど話題に上らなかった。サウンドトラックが商品化されていなかったという事情もあるだろう。
 公開当時、筆者は小学生。同じ時期に公開された「ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘」は観ているが、本作は観た記憶がない。怪獣好きだったので、「東宝チャンピオンまつり」に連れていってもらったのだろう。のちに日本コロムビアから発売された「なつかしの長編漫画映画傑作集」(1977)というレコードで本作の主題歌「ゴー!ゴー!ライナー」を聴き、「SFメカアニメとしては変わった曲調だなあ」と思った。本編を観たのはさらにあとになってからだった。現在はdアニメストアやAmazon Prime Videoなどで配信されているので、手軽に鑑賞することが可能だ。
 少年とサイボーグ犬の活躍を描く本作は、SFメカアクションというよりは、ジュブナイルSFの香りがする。未来都市の描写やデビル星人のデザインなど、70年代というより60年代の雰囲気。『鉄腕アトム』の未来像を受け継いだような、懐かしい味わいがある。

 そんな中で異彩を放っているのが山下毅雄の音楽だ。
 山下毅雄のSF作品といえば『スーパージェッター』があるし「ジャイアントロボ」がある。「レッドマン」も手がけている。SFヒーローと縁がないわけではない。『魔犬ライナー0011変身せよ!』というタイトルから『サイボーグ009』みたいな、あるいは「007」シリーズみたいな、スピード感のあるカッコいい音楽が聴けるのでは? と思ってしまう。しかし、その期待は軽く裏切られる。
 冒頭から「プレイガール」みたいな曲なのである。女声スキャットが入ったジャズ。意表をつかれる。作品を観ないでサントラを聴き始めたら「ディスク間違えたんじゃないか?」と思ってしまいそうなくらい。でも面白い。
 本作の公開日は1972年7月16日。TVでは7月8日に『デビルマン』と「人造人間キカイダー」が始まったばかりだった。同じ年に放映される『科学忍者隊ガッチャマン』(10月放映開始)と『マジンガーZ』(12月放送開始)はまだ始まっていない。SFメカニックものや変身ヒーローものの音楽スタイルが確立されていない時期だった。そんなタイミングで誕生した本作の音楽は、SFアクションアニメ音楽の可能性のひとつと考えるといっそう興味深い。
 「魔犬ライナー0011変身せよ! オリジナル・サウンドトラック」の収録曲は以下のとおり。

  1. アバンタイトル
  2. メインタイトル
  3. ツトムと4匹の仲間
  4. 悲しみのツトム
  5. 魔犬ライナー誕生!
  6. 「ゴー!ゴー!ライナー」映画バージョン
  7. 恐怖のデビル星人
  8. 富士山の洞窟
  9. 父とともに戦え!
  10. マンデラスとの死闘
  11. エネルギーが足りない!
  12. 魔犬ライナーの反撃
  13. 「魔犬ライナー」映画バージョン
  14. カウントダウン
  15. 魔犬ライナーの帰還
  16. 「ゴー!ゴー!ライナー」レコード・バージョン
  17. 「魔犬ライナー」レコード・バージョン
  18. 「魔犬ライナー」映画バージョンその2
  19. 「魔犬ライナー」映画バージョンその1
  20. 「魔犬ライナー」映画バージョンその1 カラオケ
  21. 「魔犬ライナー」映画バージョンその2 カラオケ
  22. 「魔犬ライナー」映画バージョンその3 カラオケ
  23. 「ゴー!ゴー!ライナー」映画バージョン カラオケ
  24. 別テイク集その1
  25. 別テイク集その2

 トラック1からトラック15までが劇中使用順に音楽を収録したサウンドトラック。そのあとに主題歌のバージョン違いと別テイク集がまとめられている。
 解説書には構成を手がけた大塩一志氏による詳細な楽曲解説が掲載されているので、そちらを読んでいただくのがいちばん。
 ここからは、筆者が印象に残った曲を紹介しよう。

 トラック1「アバンタイトル」は東映マークからメインタイトルが出るまでに流れる曲。東映マークの音楽からヤマタケサウンド全開で思わず笑ってしまう。続いて、未来都市の夜景とハイウェイを走るエアカーのシーンになり、しゃれたジャズの音楽が流れる。富士山頂気象観測所への場面転換には女声スキャットのブリッジ。観測所に謎のモンスターが現れて所員が襲われるシーンは打楽器のリズムにオルガンやトロンボーンの怪しいフレーズをからめたフリージャズ風音楽。曲だけ聴いていると、子ども向け漫画映画とは思えない。
 トラック2「メインタイトル」はメインタイトルとスタッフ・キャストがクレジットされるタイトルバックに流れる曲。女声スキャットをフィーチャーしたヤマタケジャズである。「『プレイガール』の音楽」と言われても信じてしまいそうだ。これも音楽だけを聴くと「なぜこの曲調?」と思うが、タイトルバックはデビル星人のモンスターが次々と紹介される怪獣映画みたいな映像。相性はばっちりである。
 トラック3「ツトムと4匹の仲間」でがらりと雰囲気が変わり、ブラスと口笛とパーカッションなどがセッションするディキシーランドジャズ風の曲になる。本作の音楽の主要モチーフのひとつである「犬のテーマ」だ。ツトムと犬たちの日常シーンに流れる曲は山下毅雄が手がけた『冒険ガボテン島』や『ガンバの冒険』に通じる明るいタッチの音楽。デビル星人側のサイケデリックな曲とは対照的なサウンドでメリハリをきかせている。デビル星人は昆虫から進化した、人間と対話不能の宇宙人という設定なので、アバンギャルドな音楽が似合う。
 トラック4「悲しみのツトム」は犬たちの死を悲しむツトムの心情描写曲。副主題歌「魔犬ライナー」のメロディが女声スキャットをともなうムーディなジャズ風アレンジで奏でられる。続いて口笛とギターなどによる主題歌「ゴー!ゴー!ライナー」のさみしいアレンジ。感情を強調しすぎない音楽演出がヨーロッパ映画みたいでしゃれている。悲しみをムーディなジャズで表現する手法はトラック9「父とともに戦え!」の林博士の死の場面の曲(M28)でも反復される。
 トラック5「魔犬ライナー誕生!」の終盤に収録された、ツトムがサイボーグ犬とともに父の研究所に急ぐ場面の曲(M16)がいい。「魔犬ライナー」のメロディーをサンバ風にアレンジした『ルパン三世』の音楽を思わせる曲調。短いながら印象に残るナンバーだ。
 デビル星人との対決に向かってドラマが盛り上がる終盤ではアクション曲が多くなる。
 トラック10「マンデラスとの死闘」のカマキリ型モンスター・マンデラスとの戦いの曲(M36)はオルガンと女声ボーカルなどによるグルービーなアフロロック。トラック12「魔犬ライナーの反撃」のカタツムリ型モンスター・エスカルゴンとの戦いの曲(M39)は「LUPIN WALKIN’」をテンポアップしたような軽快なロック。いずれも『ルパン三世』風サウンドでうれしくなる。本作の音楽の聴きどころである。
 ラストに流れる「魔犬ライナーの帰還」(トラック15)は、口笛と女声スキャットをフィーチャーしたスペイシーなラテンロック。映画冒頭の音楽(「アバンタイトル」)と呼応するイメージである。大団円というより狂騒の音楽みたいだ。
 主題歌「ゴー!ゴー!ライナー」と副主題歌「魔犬ライナー」はミディアムテンポの明るいジャズ風の曲。これが山下毅雄がとらえた本作のイメージなのだろう。SFやメカニックよりも、「少年と犬」をイメージした音楽だと思えば、この曲調も納得がいく。
 『魔犬ライナー0011変身せよ!』の音楽は、ストレートにカッコいい、スカッとするというタイプの曲ではない。しかし、ヤマタケ成分100%の、山下毅雄ファンにはたまらない作品である。
 もし本作が1973年や1974年に公開されていたら、音楽のスタイルも違っていただろうか。いや、山下毅雄なら同じ音楽を書いただろう。SFメカアクションであっても、いつものヤマタケサウンドを貫く。それが山下毅雄だし、だからカッコいい。やっぱりヤマタケはすごかった。

魔犬ライナー0011変身せよ! オリジナル・サウンドトラック
Amazon

アニメ様の『タイトル未定』
380 アニメ様日記 2022年9月4日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2022年9月4日(日)
「川本喜八郎 岡本忠成 作品集」(川本喜八郎|岡本忠成 作品集 4K修復版 UHD+Blu-ray)のUHDを4Kモニターで視聴。これは4Kにする意味があったと思う。「おこんじょうるり」と「注文の多い料理店」が特によかった。高額商品だが、4Kマスターを作る予算が含まれていると思えば、この価格は高くはないと思う。
「地球外少年少女プロダクションノート」に目を通す。これはいいな。アニメのメイキング本としては画期的な情報量(資料の量)で、本の作りも面白い。作品完成の10年後や20年後では作ることができない本だろうとも思う。
ANIMUSEの「『王立宇宙軍 オネアミスの翼』展 SPECIAL PROLOGUE」[ https://animuse.jp/pages/anime-museum ]を少し見る。

2022年9月5日(月)
この日の仕事は外部スタッフに渡すための取材原稿の粗まとめ。それから、他は細かい作業が色々。大物原稿に手がつけられないので、仕事をしている感じがあまりない。

2022年9月6日(火)
ワイフとTOHOシネマズ池袋で「さかなのこ」を鑑賞。観るのも楽しいし、語るのも楽しい映画だ。可愛いのんさんを沢山観ることができたのもよかった。男性であるさかなクンの半生を、女性であるのんさん主演で映像化した作品である。主人公のミー坊は男性のようでもあるし、女性のようでもあり、それが物語の中で活きている。女性が演じることでミー坊が「キャラクター化」されている。女性が演じているから、男性の友人達がミー坊を大事にするのが自然に思える。その一方で、危うさもある。「女優のん」としては自身のよさをナチュラルに出せる役でもあったと思う。他の登場人物について言うと、カミソリモミーがよかった。
散歩時にサブスクにあった『ガールズ&パンツァー』関係の楽曲をたっぷり聴いた。

2022年9月7日(水)
ワイフとグランドシネマサンシャインで『劇場版 うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVEスターリッシュツアーズ』を鑑賞。サービス満点の作品であり、かなり極まった作りだ。絵コンテの力か編集の力か分からないけど、カットの繋ぎで面白いところがあった。CGはいいところとそうでないところがあった。記憶違いでなければ、CGスタッフの筆頭が稲野義信さんだった。

2022年9月8日(木)
中村豊Tシャツの告知を開始した。面白い商品になったと思う。
Netflixで『リラックマと遊園地』を観る。Netflixで配信中のアニメの映像をチェックしていて、『範馬刃牙』1話を再見したら、あんまり面白いので12話まで(ドリアンが廃人になるところまで)観てしまう。
アニメスタイルのことばかり考えていたけど、スタジオ雄(編集プロダクション)は今年で30年目だ。来年で30周年。今はスタジオ雄としての活動はほとんどないけど、僕がライターではなくて、チームで仕事をとるようになって30年ということだ。
突然思いついたけど、配信用に新作を作ったら面白いのは『こちら葛飾区亀有公園前派出所』ではないか。正攻法ではなく、エッヂの効いた感じで作っても面白い。

2022年9月9日(金)
『それでも歩は寄せてくる』の最新話。うるしの父親を演じていたのが立木文彦さんで、しかも、子供との和解の話だった。『エヴァ』を観ているようだった(途中から、父親はマダオのようだった)。
グランドシネマサンシャインで『夏へのトンネル、さよならの出口』を鑑賞。僕は楽しんで観ることができた。
ある記事を見たのをきっかけにして、Twitterの自分のプロフィールを10年ぶりくらいに書き直す。ここで書くのも変だけど、僕は株式会社スタイル(出版社)と有限会社スタジオ雄(編集プロダクション)の社長です。

2022年9月10日(土)
ワイフと小石川植物園に行く。小石川後楽園は前にも行ったけれど、植物園は初めて。園内は高低があって、歩いているとピクニックっぽい。仕事関連である本が必要で、本を探すために事務所を片づける。Amazonの梱包を次々に開ける。未整理な本を積み上げる。本は見つかった。大量の本が積み上がった。

小林七郎さんが亡くなられたことを知る。美術監督として素晴らしい作品を残してきた方だ。そして、新たなスタイルを生み出し、多くの後進を育てた。自分自身のことでは言えば、取材で何度もお世話になったし、イベントに来ていただいたこともある。心よりご冥福をお祈り致します。

第790回 必死で修正

毎度のことながら、

今現在、制作中のシリーズで総監督として原画と美術を修正しています!

グロス話数に限らず、上手くいってない原画はできる限り直す努力をします(CLIP STUDIOは原画だけでなく背景も描けます故)。
 で、まずアクション・シーンです。いつの世になろうとも、若手アニメーター、特に男子は“カッコ良いアクション原画”に憧れるものですね。しかも、勢いのある鉛筆タッチのアクション原画に! ウチ(ミルパンセ)の新人も例外ではなく、アニメスタイル様よりいただいた原画集や画集を熱心に見て研究している若手スタッフがいて、俺もちょくちょく「○○さんの原画ってどう思いますか?」的な質問されたりします。その都度、原画について俺自身が教わったことや常々考えていることなどを話すのですが、10年前会社を始めたばかりの時とでは話す内容が多少異なってきました。
 と言うのも、10年前の予想よりずっと早いスピードで“昭和のアニメ制作スタイルの崩壊”が始まったようで、例えば動画の育成でも

動画は“線”に始まり“線”に終わる!
毎日毎日、線と線の間に何本も綺麗な線を引き続けるのが仕事!

的な根性論も、10年前はやっぱり教えてました。自分自身が新人の頃そう習ったので。ところが社内全員デジタル作画に切り替えたところで、ここ数年は

今後、動画作業が自動中割りになるだろうけど、立体の認識や1コマ1コマを画で描くという動画の本質は知っておいた方がいい! で、デジタル仕上げも同時に覚えましょう!

となっていきました。これはあくまで持論ですが——後輩の育成を義務付けられている業界人が、心掛けなきゃならないのは、

若い世代がこれから手にする、もしくはすでに手にしたテクノロジーで画を動かすことの矜持・楽しさを教えること!

だと思います。でないと、アニメ制作(に限らずあらゆるエンタメ産業)の仕事がもっと早いスピードで、全てAIに持っていかれると思います。デジタルに持ち替えてみるとハッキリ気付きます——アニメ業界が「人手不足」だ「働き方改革の弊害」云々言いながら、“人の使い方に本当に無駄が多い”ことに! 単純に言うと、紙(アナログ)作業のスタッフのために“プリントアウトしてタップ貼る”制作進行が何人雇われなきゃならないか? と。「それは制作会社が考えることだから」と仰るアニメーター、そして演出の方々、「じゃ、全原画・全修正用紙をプリントアウト&タップ貼り、同スキャン&タップ貼りに1カット何分掛かって、1日何カットこなさなきゃならないか?」ご存知ですか? とりあえず、それを計算してから「デジタル化は制作の怠慢云々」を発するようにしましょう。少なくとも板垣が知る限り、これ以上“無駄な仕事に対して人員を配置”し続けると、製作費は完全に破綻します。実はスポンサーはアニメ制作工程での無駄(贅肉)部分にすでに気付いているからこそ、製作費をこれ以上上げられないのです。だから、先ずは今年の新人育成が始まる際、間違っても未だに「動画は紙から教えるべき」とか言わないこと!

 あ、そうそう、原画の話でした。つまり、原画でも自分は入社希望の新人らにこう話します。

これからCGの上にディティールを足すような手描き作画仕事が増えると思うけど、将来的にそうなったとしても“画を動かす仕事——アニメーター”をやりたい?

と。要は、これからの視聴者が何を求めるか? から逆算すると、我々昭和型アニメーターのよく謳い上げる「アニメは情報量(線・ディティール)を減らしても、動かしてなんぼ!」とかいった作画矜持は決して視聴者が望んでいるアニメではないのです。これからは、

情報量(線・ディティール)を増やし、且つ崩れずによく動くアニメ!

が求められているのだし、それが当然だと個人的に思っています。だって、生まれた時から3DCGやVRのゲームに慣れ親しんだ子供らが、ブヨブヨ作画な上、碌に動かないアニメに興味示すはずないでしょう!? ここ2~3年、製作委員会は「止めてもいいので、キャラ崩れは絶対NG」「作画崩壊は納品拒否」スタイルで仕事を振ってくる場合が多いし、故に委員会に厳しい目が注がれる中、俺自身も必死で作画も背景も直しまくっている日々で、誇張なく本当に必死です(汗)!

 てトコで、またすみません。チェックの時間なので、

【新文芸坐×アニメスタイル vol. 156】
名作再見!クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険

 今年で30周年を迎える映画『クレヨンしんちゃん』。2月はその映画『クレヨンしんちゃん』シリーズの初期の傑作である第4作『映画 クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険』(1996年)を上映します。

 上映は2回あります。15日(水)はトーク無しの通常上映で、18日(土)は上映後に本郷みつる監督、茂木仁史プロデューサーのトークがあります。なお、貴重な35mmフィルムによる上映となります。また、18日はトークの後に、本郷監督の同人誌「本郷みつる/足跡」の販売を予定しています。

 チケットは開催日の1週間前から発売。チケットの発売方法については、新文芸坐のサイトで確認してください。なお、新型コロナウイルス感染予防対策で観客はマスクの着用が必要。入場時には検温・手指の消毒を行います。

 今まで新文芸坐とアニメスタイルの共同企画はオールナイトのみ、イベントタイトルに通し番号をつけ、レイトショーには通し番号をつけていませんでした。今後はレイトショーが中心になっていくのため、この企画からオールナイトとレイトショーを合算した数字で通し番号をつけることになりました。今回は【新文芸坐×アニメスタイル vol. 156】です。

【新文芸坐×アニメスタイル vol. 156】
名作再見!クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険

開催日

2023年2月15日(水)、18日(土)

開演

15日:20時
18日:19時20分

会場

新文芸坐

料金

15日:一般1500円、各種割引・友の会1100円
18日:一般1800円、各種割引・友の会1400円

トーク出演(18日)

本郷みつる(監督)、茂木仁史(プロデューサー)、
小黒祐一郎(アニメスタイル編集長)

上映タイトル

『映画 クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険』(1996/97分/35mm)

備考

※トークショーの撮影・録音は禁止

●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/