SPECIAL

佐藤順一の昔から今まで(45)
『あまんちゅ!』と『泣きたい私は猫をかぶる』

小黒 2015年は『たまゆら~卒業写真~』(OVA・2015年)、『ARIA The AVVENIRE』(OVA・2015年)。

佐藤 はいはい。

小黒 そして、2016年は『たまゆら~卒業写真~』が続いていて、それから『あまんちゅ!』(TV・2016年)。『あまんちゅ!』はとてもよい環境で作ることができたのではないかと思うんですが、どうでしたか。

佐藤 そうね。環境がよすぎて、逆にどうしていいか分かんなくなるっていう (笑)。

小黒 『あまんちゅ!』はスルスルッと観れますよね。

佐藤 『あまんちゅ!』は原作の物語をちゃんとアニメにできているところがありますよね。『ARIA』の時は、大量の原作をワンクールでまとめなきゃいけなかったから、結構改変をしてるんですよね。原作の2つの話を合わせて1つにして、TVのお話を作ってるんだけど、『あまんちゅ!』の時には、基本的に原作のストーリーにちゃんと沿ってやろうっていう意図を持ってやってるんですよ。

小黒 なるほど。

佐藤 『ARIA』の時も「原作の『AQUA』からちゃんと観たいな」という声がやっぱりあったんです。なので、『あまんちゅ!』ではそうやっていこうと。その代わり、「原作が続く限りずっとアニメ作ってくださいよ」って松竹に言ってたんだけど、なかなかそうならなかった。ただ、J.C.(STAFF)の現場が、我々が知らないぐらいクオリティを求める人達で(笑)、リテイクが多かった。ラッシュチェックとかになると、こっちの胃が痛くなってくるぐらい直しを出してね。「え、それはそのままでもよくないスか?」ってつい言いたくなっちゃうみたいな。

小黒 『あまんちゅ!』は本当に綺麗にできてますよね。海の中の描写も綺麗ですよ。

佐藤 そうなんですよ。綺麗です。作画もちゃんと人を用意しているし、コンスタントにこれを作っていくのはやっぱ凄いなあという、これまで見たことのない世界で(笑)。

小黒 2017年はスタジオコロリドの『FASTENING DAYS 3』(配信・2017年)で音響監督をやっていらっしゃる。

佐藤 『FASTENING DAYS 3』は、YKKの企業PVみたいなやつですね。

小黒 そうです。これは音響監督だけの参加なんですか。

佐藤 そうですそうです。『泣き猫(泣きたい私は猫をかぶる)』(配信・2020年)をやってくれてる柴山(智隆)君が監督のやつで、音響をちょっと面倒見ましょうかって感じでやってるやつですね。そんなに長くもないですし。

小黒 そうか。この年からツインエンジンの所属なんですね。その前はどこにいたんですか。

佐藤 TYOアニメーションズです。TYOを離れて、1年ちょっとぐらいはフリーでいたのかな。

小黒 ということは『たまゆら』の途中でフリーになってるんですか。

佐藤 2016年の『卒業写真』でリテイク作業をやってる途中に、フリーになったんですよ。7月でリテイク作業が終わるので、そのタイミングで会社を辞めてフリーになって、というつもりだったんですよ。

小黒 なるほど。

佐藤 でも、リテイクが10月まで続いちゃったんですよね。コロリドには、シナリオ構成のアドバイスとかで、ちょいちょい行ってはいたんだけど、ツインエンジンに正式に入ったのは2017年からですね。

小黒 ツインエンジンと関わったのは、山本(幸治)プロデューサーからのお声がけなんですか。

佐藤 大元は岡田麿里さんだと思います。岡田麿里さんがツインエンジンで映画をやるにあたって、サトジュンを呼んでくれたんだと思っていますね。その映画が『泣き猫』になるんですけど。

小黒 『泣き猫』の参加は岡田さんのほうが先なんですね。

佐藤 同時かな。「サトジュンさんと岡田さん、ツインエンジンで映画やりましょう」って感じで、ゆるっと始まってるんです。その前から『ペンギン・ハイウェイ』の監督の石田(祐康)さんがオリジナル作品を準備していて、若干行き詰まってる時に、構成会議に岡田さんと僕が行ってアドバイスしたりしつつ、自分達の作品をどうしようかという話をしている。そんな期間が結構あるんです。

小黒 なるほど。

佐藤 最終的には映画をやろうねっていう気分で入ってて、その前に石田君の協力をするっていう感じでしたかね。

小黒 『ペンギン・ハイウェイ』では、クリエイティブアドバイザーなんですね。

佐藤 『ペンギン・ハイウェイ』もコンテでのアドバイスをして、最近情報が出た『(雨を告げる)漂流団地』も一応アドバイザーはしているという感じです。

小黒 佐藤さんが所属することになったのはツインエンジンで、コロリドはツインエンジンの関連会社だから繋がりがあると。

佐藤 そうですね。コロリドチームと組ませたいっていう意図はあったんじゃないかな。石田君達を育てるって意味もあるけれども、僕はずっとコロリド班のような役割だったのかな。

小黒 それは山本プロデューサーの采配ですか。

佐藤 ですね。作品の適性的にはこっちじゃないのっていう振り方だと思いますけど、他のスタジオは全然知らないので本当の狙いは分からないですね。

小黒 次に『HUGっと!プリキュア』ですが、アニメスタイルの紙の本のほうでも伺ってるので、具体的なことはみんなそっちを読んでねって感じですけど(編注:「アニメスタイル インタビューズ 01」で『HUGっと!プリキュア』についてのインタビューを掲載)。

佐藤 はい。

小黒 『HUGっと!』(TV・2018年)をやってる時は、ツインエンジンの所属だったわけですね。

佐藤 そうですそうです。

小黒 現状はツインエンジンの所属で、どこのスタジオで仕事しても構わないみたいというかたちではある?

佐藤 基本的にそのやり方ですね。『あまんちゅ!』の第1期はフリーだけど、『(あまんちゅ!)~あどばんす~』(TV・2018年)の時は確かツインエンジンです。

小黒 じゃあ、ギャラはまずツインエンジンに入るんですか。

佐藤 そうです。

小黒 比べてみると、TYOにいた頃より動きやすくはなった?

佐藤 それはあまり変わらないですね。ただ、ちゃんと制作に向き合える感じにはなりましたよね。TYOの時は、監督なのにプロデューサーのサポートしたりとか、そういうこともせざるを得なかったので。

小黒 2020年頃から、佐藤さんは長編を次々手がけたりして、仕事が活発になってるじゃないですか。これはTYOから離れたから、というだけではない?

佐藤 それは、時代的に劇場作品のほうが、ビジネス的に読める流れになったせいでしょうね。

小黒 話は前後しますが『HUGっと!プリキュア』の手応えはいかがでしたか。

佐藤 『HUGっと!プリキュア』はやっぱり勉強になりましたね。この時は、目標があったんですよ。

小黒 目標ですか。

佐藤 これまで『どれみ』とか『セーラームーン』をやってきて自分が得てきたものがあるわけですよ。「女児ものでは、こういうふうにやるといいよ」とか、「おもちゃ屋さんとのやりとりでは、こういうやり方があるよ」とか、あるいは「音楽はこう付けましょう」「こういうツールがあるよ」。それを若手とか次世代に伝えられればいいなと思った。思ったよりも現場の人達にちゃんと継承されているものもあったけれども、なくなってるものも結構あったんですよね。
 『セーラームーン』より昔だと、おもちゃメーカーとアニメの現場スタッフとのやりとりは、そんなになかったんですよね。自分が東映で演出助手をやってる頃は「おもちゃメーカーはおもちゃのことは分かるがアニメのことは素人だよね」という感じで、向こうも「アニメの人はおもちゃのことは分からないよね」というふうだったから、あんまりキャッチボールがなかった。それが、ちゃんとキャッチボールをして子供のほうを向いて楽しいものを一緒に作りましょうよ、というふうに協力できるようになっていったんですね。『どれみ』でもそういうふうにやって、多分、自分が離れた後も、五十嵐(卓哉)もそうやってたと思うんだけど、『HUGっと!』で久しぶりに東映の現場に入ってみたら、また分断してんですよ。

小黒 なるほど。

佐藤 おもちゃについてはこちらの意図が届かないし、おもちゃ会社側の意図もこっちでは汲みきれない、という感じになってて、それは驚きでもあったけれども「元に戻っちゃうのか」と残念に思ったのが大きかったです。
 アフレコは昔と変わらずに演出がやってるけど、自分で現場を取り仕切ってやる方法が伝えられてなくて。ミキサーである川崎(公敬)君が、ディレクションに近いことをやらざるを得なくなってて、演出さん達は、例えば役者の気分を上げるとか、盛り上げるということに気持ちが向いてない。役者とキャッチボールするのは、演出じゃなくて川崎君がやってた。これは1年で修正できるとこでもないので、様子を見ていただけだったけれど、残念は残念だったかなと。

小黒 で、アニメーターは抜群に巧くなってたと。

佐藤 アニメーターはめちゃめちゃ巧くて。「こんなすげえことやる人達いたんや」ってことをやってて、画面は凄くいいんです。
 自分が女児ものに参加したのは久々だったこともあって、色んなことが再確認できたんです。子供達を呼んで、前のシリーズを上映して、子供達の反応を見るといったこともやってるんだけど、例えば『プリキュア』の変身の部分って映像は豪華だけど、結構長いでしょ。

小黒 長いですね。

佐藤 「短くしたほうがいいんじゃないのかな」って思ったんだけど、プロデューサーとかは「この変身シーンを子供達は楽しみに観ているんだ」と言うのでそうかそうかと思ってたんですよ。でも、実際に子供達の反応を見てると、変身シーンを観てる子は観てるんだけど、長いとよそ見するをする子もいるんだよね。「初めての時は観るかもしんないけど、何度目かだとやっぱりそうなるよね」と確認ができる、とかね。『HUGっと!』を観た子供達がどう感じたかっていうのは、20年後になんないと分かんないなと思う。でも、まず目の前の子供達に向けて作るということはできたと思ってんだけどね。

小黒 はい。

佐藤 だから、凄くのびのびやったって感じでもないけど、やりにくさは別になかったっていうかね。


佐藤順一の昔から今まで(46)『泣きたい私は猫をかぶる』と岡田真理 に続く


●イントロダクション&目次