COLUMN

第805回 特別編・いきあたりバッタリ座談会(2)

座談会参加者:板垣伸(アニメ監督)、小黒祐一郎(編集長)、松本昌彦(編集者)


小黒 『いせれべ(異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する)』だと、エンディングのクレジットに「原画」「動画」の役職がなくて、「作画」「原動画」の役職があるよね。アニメーターの仕事内容が通常の作品と違うの?
板垣 作画監督が修正を入れたラフを、第二原画を兼ねて動画の線でクリンナップしてしまうんです。そういったショートカットが、うちのやり方なんですよ。第二原画の作業もしているので、役職を動画でなく、原動画にしています。
小黒 第二原画をやる人は必ず動画もやるの?
板垣 ある話数でたまたま第二原画だけをやる場合もありますが、基本的には第二原画と同時に動画、それから、仕上げもやってもらっています。場合によってはアニメーターが背景も描きます。
小黒 それは凄いなあ。「作画」は?
板垣 ラフ原画だけを描いて、第二原画を任せるのが「作画」です。第二原画を担当しない代わりに、カットのあがりをチェックすることになっています。それから担当カットが少なかった作監を「作画」としてクレジットすることもあります。
小黒 それは社内スタッフのやり方だよね。参加しているのは全員が社員なの?
板垣 うちの会社(ミルパンセ)は基本的に社員雇用なので、社内のスタッフは社員ですね。結構な分量を社内生産でやっています。
小黒 「やろうと思えば、作り方そのものを変えられる」というのはそういうことなね。
板垣 昔の話になりますけど、パソコンとかに興味を持ってる友達が「コンピューターを使えば、漫画家とアシスタントぐらいの人数でアニメが作れる」と言っていたんですよ。自分達はアナログのアニメを目指してたから、彼に反発したんですよ。「アニメって、もっと大きいもんだ。みんなで作るもんだ」と言ったんです。でも、今は彼の説を推してるんです。多分ね、漫画家とアシスタントぐらいの人数で作った方が、人類の精神衛生上いいです。
小黒 ふむふむ。
板垣 クリエイターになりたい人と、作業者になりたい人がいるんですよ。うちらが若かった頃って、みんながクリエイターを目指していた。例えば、監督を目指すとか、キャラクターデザインや総作監を目指すとか。それについてこられない奴は切り捨てられるのではないかという空気だったんですよ。
小黒 わかるわかる。
板垣 要は「クリエイターになりたいんじゃないのか? 作業者でいいのか?」という意識があったんです。だけど、働き方改革で1日8時間労働と週休2日制を肯定するなら、作業者の存在を認めざるをえないんですよ。
小黒 そうなんだろうね。
板垣 今は「自分は作業者でいいから、1日8時間で帰って、家でゲームやってたいんだよ」という人達もいるわけです。だとすると、仕事を切り分けて、月給や時給をもらってやるような作業内容にしていかないといけないわけです。それは漫画家とアシスタントの、アシスタントなんです。クリエイターになりたい人もいるだろうし、クリエイターを求めている会社もあるんだろうけど、自分はそうでない人がいてもいいと思っています。
 それが、これからの働き方でいいと思っているんです。どうなんです? アニメスタイルさんは、それができてるんですか。
小黒 昔に比べればね。今は、みんな、家に帰ってるよ。
板垣 ああ、帰ってます?
小黒 うん。
板垣 何人ぐらいなんですか、アニメスタイルは?
小黒 社内の編集スタッフは、僕を入れて5人かな。今は編集業務をしている人で出勤してるのは3人しかいないから。
板垣 リモートですか。
小黒 そうそう。家でできる作業は家でやる。
松本 会社で作業をしているアルバイトの人もいるから、3人ってことはないんじゃないですか。
小黒 ああ、そうか。もう少しいます(笑)。松本君も基本は自宅作業だから、板垣さんのコラムの原稿が届くのが、どんなに遅い時間になっても大丈夫です。
板垣 いや、遅い時間に原稿を送ったりはしてないですよ。
松本 (笑)。
板垣 でも、この連載も10数年やっているでしょ。
小黒 長いよねえ。
板垣 長いことやっているから、自分も変わりましたよ。一瞬の諦観があって、諦観と期待感がいい感じにバランス取れてるなあと思ってて。
小黒 昔の板垣さんはもっと脂っこかったね。
板垣 そうでしょ。あの頃に比べると、色んなものがどうでもよくなった(笑)。ただ、作品を作るのは本当に面白いんで、その面白さを伝えたいなあと思っているんです。クリエイターにならなくても、クリエイティブな現場にいられる。うちの会社で「人生の寄り道としてアニメの仕事をやってみたい」という人を受け止められるにしたい。そういうもの作りに参加することの面白さを伝えられる作品ができたらいいなあと思いますね。
小黒 「人生の寄り道」というのは、一生の仕事にするわけではないけれど、ということね。
板垣 そうです。自分は原作をいただいて作るのも嫌じゃないんですよ。ありがたいことに、このあとも2本ぐらい、企画が控えてるんです。だけど、そろそろ短いものでもいいので、自分1人で作ってみるとか、自分とアシスタントぐらいの規模で作れるようなものに手つけたいなあと思ってきた感じですかね。
小黒 オリジナルって事?
板垣 そうですねえ。自分が惚れ込んだ原作でもいいんですけど、でも、オリジナルが一番手っ取り早いですよね。
小黒 そうだね。
板垣 軽いアニメを作ってYouTubeとかで流すぐらいのところから、探るべきかなあと思っています。

特別編・いきあたりバッタリ座談会(3)に続く