小黒 『SHORT PEACE「武器よさらば」』(劇場・2013年)では、ストーリーアドバイジングという役職ですが、これはどういう仕事だったんですか。
佐藤 カトキ(ハジメ)さんが演出をするにあたって、「自分だけの目線では分からないことがあるので、技術的な観点で1回見てくれないですか」というオファーをもらって、カトキさんのコンテを見るっていう役目ですね。でも、全然問題なくてなにも言うことがなかったので、「カトキさん、なにも言うことはないです」って言うことぐらいしかしてない (笑)。
小黒 なるほど。カトキさんとは、カトキさんが『ケロロ軍曹』でコンテを描いた頃からのお付き合いなんですか。
佐藤 『ケロロ』からですね。コンテ担当のカトキさんがホン読みに来られて、そこでの打ち合わせで議論をしたところが大きくて、コンテ自体ではそんなにやりとりはなかったですけどね。本当に面白かったので、勉強になりましたって感じでした。
小黒 なるほど。次にいきますと『絶滅危愚少女 Amazing Twins』(OVA・2014年)ですが、成り立ちが非常に分かりづらい作品ですよね。
佐藤 まあ、そうですね。池田東陽がこの時は生きていたんですけど、彼の会社エンカレッジフィルムズで作品をやりたいっていう話がずっとあった。それを実現させようという流れと、田坂さんと「次作どうしましょうね」と相談しているタイミングがあったんだと思うんですよね。それで、じゃあ一緒にどうですかと提案しました。これも『たまゆら』と同じように最初はOVAからスタートして、上手くいったら展開して、というざっくりとしたプランで進めてたやつです。
ただ、当時エンカレッジの制作システムがかなりガタガタになってる時だったので。お披露目上映会みたいなところで観せるはずだったんだけど、その上映会の1時間前までV編をやってて(笑)。その何時間か前には「カットがないです」みたいなことをやってたぐらいの現場だったんですよね。
小黒 なるほど。作品内容について、池田プロデューサーの意向は沢山入ってるんですか。
佐藤 いや、東陽も一緒に議論はしてますが、ベースになるものは僕のほうから出しています。プロデューサーや制作デスクと話をして、エンカレッジとしてどうしたいのかを聞いて「それを俺がまとめてやるよ」という気分ではあったんですよね。途中で池田が倒れてしまったので、とにかく作品を作りきらなければならなくなっていったんだけど、現場がドタバタしてて、カットの持ち運びもやる羽目になるっていう感じだね(笑)。
小黒 佐藤さんが制作進行みたいな仕事を。
佐藤 そうそう。制作デスクがそこまで回ってなかったから、「じゃあ、俺が直接行って聞いてくるんで」と、アニメーターのところに行って、「すいません、今日出さないといけないんで、手放してください!」ってお願いをしたりしました(笑)。
小黒 そこまでやられていたんですね。佐藤さんの企画的な狙いはどうだったんですか。
佐藤 双子だったけれど、片方が生まれることができなくて、脳内に意識だけが残ってる姉妹の話です。『バビル2世』が好きなので、超能力ものをやりたいなとは思ってたんですよね。それで、女子超能力活劇的ななにかをやりたいなって思ってやってる作品ですね。
小黒 てっきり池田さんが変身美少女ものをやりたくって企画したのかと思ってました。
佐藤 元々ずっと企画で動いていた『ウィッシュエンジェル(-翼は小さいけれど-)』っていう作品もあって、池田の好みはどっちかっていうと、そっちでしょうね。だけど、ビジネス的なところ考えると着地しやすいのはこっちだろうなっていうことでやることになったんです。でも、池田が死ぬことが分かっていたら、そちらをやればよかったと思わなくもないですけどね。
小黒 作品がスタートした時にはご存命で、完成する時には亡くなられていたわけですね。
佐藤 そうですね。そんな制作体制ボロボロのところになったので、それをなんとかしようとしてて、体を壊したんだろうとは思うんですけど。
小黒 岡田麿里さんはまとめ役だったんですか。
佐藤 そうですね。これも『たまゆら』の時の玲子さんと同じで、田坂さん的にはトピックになる人に参加してほしいということだったので、岡田さんにちょっと協力してくださいとお願いして。でも、忙しいのもあって、3回くらい構成を書いてもらったぐらいで、そんなに沢山キャッチボールをする感じではなかったです。
小黒 あ、そうかそうか。佐藤さんがいきなりコンテを描いてるから、岡田さんの仕事はプロットまでなんだ。
佐藤 そうですね。かなりラフなプロットまで、です。
小黒 画が、かなりいいじゃないですか。
佐藤 画は追ちゃん(追崎史敏)の画ですね。追ちゃんが作品のエンジンになってバリバリやってましたから。
小黒 追崎さんがラフ入れまくり、修正しまくりという感じなんですか。
佐藤 そんな感じです。伊藤(郁子)さんが作画と作監で入ってくれていて、相当密度を上げてくれたんですが、そうすると今度は制作が追いつかないっていう感じでもありましたけどもね。
小黒 これも『カレイドスター』ファンに向けて作ったという、ニュアンスはあったんですか。
佐藤 気分的にはそうですね。
小黒 おなじみのキャストも登場しますもんね。そうそう、子安(武人)さんが、ちょっと変態的なキャラクターを演じていて、そのキャラが「次回はブルマとユルユル体操着! レオタードもいいかな、カレイドスター的な」と言っているんです。
佐藤 言ってた?
小黒 「セリフで言っちゃうんだ!」って思いました。アドリブなんですかね。
佐藤 いや、どっちだろう。でも、子安さんだからアドリブで言ってる可能性もあるな。覚えてない(笑)。
小黒 佐藤さん、前に「変身美少女ものは大人が観て面白いと思う理由が分からない」みたいなことをおっしゃってましたけど、超能力バトルはOKなんですね。
佐藤 超能力は好きなんですよ。
小黒 その差が分からない!(笑)
佐藤 やっぱり『バビル2世』が好きなんですよ。作りながら『バビル2世』のリメイクって難しいんだなっていうことが実感できましたね。色んな人が何度かトライしてるけど、なかなか上手くいかない。
小黒 『バビル2世』と『マーズ』は難しいですね。
佐藤 難しいんだなって、分かりましたよ。
小黒 『M3 ~ソノ黒キ鋼~』(TV・2014年)ですが、佐藤さんはどういう関わりなんでしょうか。
佐藤 僕は原作なんですよ。『ARIA』繋がりでマッグガーデンさんとの作品ですね。アニメとマンガのどっちが先か忘れてしまいました。
小黒 アニメの前に「Mortal METAL 屍鋼」っていうマンガがあって、これは原案が佐藤さんで、メカデザインが河森(正治)さんで、製作協力がサテライトとなっています。マンガは貞松龍壱さんという方ですね。この後にアニメの『M3』が始まるみたいなんですよ。
佐藤 マンガのスタッフに河森さんが入ってるので、その段階でアニメのプランは動いてますね。「屍鋼」の簡単な企画書があって、先出しがマンガになっただけだったと思います。
小黒 マンガが2バージョンあって、後に始まったマンガの作者は港川(一臣)さんですね。
佐藤 そうかそうか。港川さんのほうはアニメーションのシナリオからマンガにしていたのを覚えています。
小黒 まず、アニメの企画であって、それを元にして貞松さんがマンガを連載した。そして、TVアニメを始めることになって、港川さんのマンガが始まった。港川さんのマンガはアニメのコミカライズということでしょうか。
佐藤 そうだね。マンガ単独で動いてたことはないから。
小黒 で、元々のお話は佐藤さんが作ってたんですね。
佐藤 物語は、岡田さんがキャラクター造形も含めてシリーズ構成の時に作ったんですよ。だから、僕のはただの原案ですよね。
小黒 なるほど。じゃあ、世界観や物語の構成には、佐藤さんと岡田さんの両方のアイデアが入ってる。
佐藤 基本的な柱を組んでくれたのは岡田さんですね。例えば主人公のアカシのキャラクターは、性格設定も含めて岡田さんですね。
小黒 劇中に「無明領域」という異空間が出てきますが、あれはなにかの象徴だったんですか。
佐藤 全部終わってから「そうか」と思ったことがあるんですよ。無明領域って「明かりが無い」って書くんですけど、岡田さん的にはきっと「名前がない」でもあったんだよね。最初に上がってきた最終回のシナリオは、名前を失ったことが結構キーになってたんだけど、最終回までのストーリーは、そこに向けて作ってなかったので、違う方向の話にして着地させたんですよ。そういう意味では、最終回辺りの作り込みは岡田さんのものではなくて、僕のものになってる。
小黒 そういうことなんですね。
佐藤 うん。確かにそう言われてみると、「無明領域=名前がない」ってことを最初から重視しておけば、岡田さんが書こうと思った物語になったんだろうなということに後から気づいて、ごめんねって思ったやつです。
小黒 岡田さんがやろうとしてたのは、もっと観念的なことだった?
佐藤 多分、そうなんですよね。ラストはすっきりと後味よく終わらせましたけど(笑)。最終回辺りのシナリオが全然上がんなかった。岡田さんの持ってたものと、アニメで描かれていたものが、ずれてたからなんだろうね。
小黒 特に序盤からしばらくの間にどんよりとした感じがあるじゃないですか。あれは岡田さんの狙いなんですか。
佐藤 いや、岡田さんのシナリオよりも強調してますね。重苦しくしたい、よく見えないぐらい暗くしたいって。
小黒 暗くしたいっていうのは、映像のことじゃなくて、雰囲気のことですね。
佐藤 そう、そうですね。
小黒 どうしてそっちのほうにいきたかったんでしょうか。
佐藤 それは、ひだまりのような、朗らかな作品を作り続けてきたので、揺り戻しで(笑)。
小黒 (笑)。じゃあ、これは「黒佐藤」だったんですか。
佐藤 「こういうものもやるんだよ」っていうのを、ちょっとアピールしたかった (笑)。
小黒 なるほどなるほど。
佐藤 それでも、最後はほんわかしちゃったけど。
小黒 でも、どんよりはしてるけど、どこか冷静な感じがありますよね。
佐藤 そうなんですよね。2014年の作品だから、震災の余韻がまだまだ残ってる時期でしょ。作品内で言ってることが、自然に結びついてるんだよね、やっぱり。「大人達が勝手に始めたものが悲惨なことを起こして、俺達に迷惑を掛けて、それを俺達に片付けさせてる」みたいなことっていうのは、どっか時代の叫びでもあるわけですよ。そういうことを作品に載せてやろうとしていることもあって、浮き足立ちきれないっていうか、ファンタジーのほうに寄せきれないものがどこか残ってるんですね。
小黒 これはサテライトさんの3DCGで作るというのも前提だったんですね。
佐藤 そうですね、河森さん含めたチームがいるので、ロボットアクションに関しては、ほぼほぼなにもしないで安田監督とCGチームにお任せしてやってる感じです。
小黒 なるほど。
佐藤 でも、河森さんがお忙しくて。仲間メカが3体くらいいるんですけど、メカデザインが間に合わなかったので、最初は1機だけでやってますね。8話ぐらいまでかな。でも、河森さんのデザインが上がってくると、3Dチームから「こう変形するんですよね」ってモデリングが速攻で上がってくるんですよね。そういうチームが作られてるのには、ちょっと驚きました。
小黒 アニメーションキャラクターデザインが井上英紀さんですね。
佐藤 金子プロデューサーが井上さんを気に入ってて、折に触れて一緒にやろうと思ってる時期ですよね。
小黒 なるほど。手応えはいかがでしたか。
佐藤 探り探りではあったんで、ロボットものはやっぱり難しいんだなっていう反省を得た作品ですね。
小黒 難しいというのは、見せ方ですか。
佐藤 そうですね。見せ方で言うと、まともなメカものにしちゃうと、メカが得意でない人間が作っているのがバレるので、ちょっとホラーテイストに振っといたほうがよさそうだなと思ってたんだけど、ホラーとメカとの相性がそもそもあんまりよくないということが、やってみて段々と分かっていった。
佐藤順一の昔から今まで(45)『あまんちゅ!』と『泣きたい私は猫をかぶる』 に続く
●イントロダクション&目次
2022年11月27日(日)
『ぼっち・ざ・ろっく!』の8話がとてもよかった。文句のつけようがない。特に演出がよかった。
取材の予習をしつつ、質問状を書く。1人目の質問状を書くのに1日半かかった。時間のかけ過ぎだ。おかげで面白い質問状が書けた。いや、今回のものに限らず、質問状が面白くてもしかたないのだけれど。仕事の合間にワイフと新宿御苑に行く。イチョウは盛りを過ぎていたけど、モミジはまだこれからのようだ。
朝の散歩では『王様ランキング』のサントラの続き。2枚目から3枚目の途中まで聴いた。
2022年11月28日(月)
新文芸坐で「レインマン 4K上映」(1988・米/134分/DCP)を観る。プログラム「80年代の名編 アカデミー作品賞2本立て」の1本。初めて観る映画だと思っていたのだけれど、いくつかのシーンが記憶にあった。TV放映で観たのかなあ。映画としては悪くはないんだけど、今の感覚で作ったら、物語の構成がかなり変わるのだろうなあと思った。
マンションで10数年使った液晶テレビに引退してもらって、新しい液晶テレビを設置。価格は前のものよりもずっと安く、そして、画質は猛烈によくなった。それから、物理的に軽くなった。前のテレビは「家具」って感じだったけど、今度のは大きなタブレットのような印象。どちらもサイズは32インチだ。
朝の散歩で『王様ランキング』のサントラの続き。3枚目の途中から最後まで聴いた。
2022年11月29日(火)
取材で三鷹に。「この道で中澤一登さんや中村健治さんとバッタリ会ったなあ」と思いながら歩いていたら、亀田祥倫さんとバッタリ会った。この日は取材3本立てだった。
2022年11月30日(水)
「チェンソーマン」8話は力作。冒頭の作画が特によかった。
グランドシネマサンシャインで「ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー」【IMAXレーザーGT3D字幕版】を鑑賞。ワイフと行くつもりでチケットをとっていたのだけど、彼女が行けなくなったので、吉松さんを誘った。内容の好き嫌いはおいておいて、161分は長いなあ。色々と端折って100分くらいにまとめたほうが観やすかったのではないかなあ。
TOKYO MXの『新世紀エヴァンゲリオン』と『マジンガーZ』の2本立てを2週分視聴。11月22日の『エヴァ』は第八話「アスカ、来日」。言うまでもなく、アスカ初登場で弐号機大活躍のエピソード。『マジンガーZ』は8話「大魔神 アブドラの正体!!」。アフロダイAを戦闘用に改造するかどうかが議論され、最終的にさやかはアフロダイAの改造をあきらめて、甲児に「アフロダイAはマジンガーZの恋人ですもの。少し控え目にしなくちゃ」と言う。少女キャラが主人公よりも活躍する『エヴァ』と、ヒロインがロボットで戦うのあきらめて女の子らしくなると言ってしまう『マジンガーZ』。いかにも1990年代のアニメと、1970年代のアニメという感じだし、それを連続して放映するのが面白い。11月29日の『エヴァ』は第九話「瞬間、心、重ねて」で、碇指令が留守中のエピソード。『マジンガーZ』9話「デイモスF3は悪魔の落し子」は弓教授がニューヨークで開かれる科学会議のため研究所を留守にした際のエピソード。
以下は別の話。『マジンガーZ』の再放送で『マジンガーZ』関連のCMが大量に流れるのが、TV番組らしくていい。22日の放送だと「超合金魂」「渡辺宙明 追悼コンサート」「メガトン級ムサシX(クロス)」。最後には『マジンガーZ』Blu-ray BOXのプレゼントのお報せまであった。
ブラックフライデーで購入した「犬神家の一族 4Kデジタル修復 Ultra HD Blu-ray【HDR版】」を4Kモニターで再生。「えっ、いったい何が起きたの?」と驚くくらいに綺麗だった。ネットでの商品紹介から引用すると「究極の画質を収録するために、UHD-BDは三層ディスク(100GB)を採用」だそうだ。東宝ワイドでの収録も納得。圧巻は同梱された書籍「市川崑 犬神家の一族 完全資料集成」。かなりデカい。A4判で本文192ページ。既存の映像の再録が多いようだが、映像特典も充実。書籍でも映像特典でも、編集の長田千鶴子さんのインタビューがあり、僕が気になっていた部分について触れられていて、その点でも満足。
2022年12月1日(木)
『恋愛フロップス』。前回も「えっ、そういう話だったの?」と思ったけど、最新回も引き続いて「え~」と思った。ラノベ原作だと思っていたら、オリジナルだったのね。これからの興味はどうやって終わらせるのか、だな。
2022年12月2日(金)
16時からあるプロダクションでインタビュー。「90分で」と言われていたので、90分きっかりで終わらせたのだけれど、終わった後で90分で終わらせる必要はなかったことが判明。取材の後に1時間ほど世間話をした。取材の帰り道で、いきなり体調が悪くなる。
2022年12月3日(土)
昨夜に続いて体調がよくない。熱があるわけではないけど、風邪の初期症状か。グランドシネマサンシャインで『THE FIRST SLAM DUNK』をDolby Atmosで鑑賞。予告から想像した数倍はよかった。まだ考えがまとまっていないが、原作者が監督だから成立した映画だろうし、3DCGだから作ることができた作品だろうと思う。レイトショー「新文芸坐×アニメスタイルSPECIAL アバンギャルドアニメの最先端 劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト」を開催。トークはまとまりのいい感じになった。
「事情を知らない転校生がグイグイくる。」最終13巻を読む。今巻もよかった。脚本を書きたい気持ちが湧いてくる。これから始まるTVシリーズに参加したいというわけではないし、自分が書けばいいものになるというわけではなくて、単純に脚本にしてみたいという欲求がある。どのくらいリアルな世界にするのかなどを考えたい。