
第463回 3Dメガネはずした状態!!

どこかのCMでAIタレント(この呼び方正しいのか?)を起用して話題になり、さらにそれに対して批判的なコメントを流した役者さんが炎上したとかしないとか……!
正直、それに関する是非を語るつもりはありません。ただ、あくまで個人的な意見としては、AI(人工知能)に人間の仕事を奪われることを極端に否定する方たちは「AI断固反対!」のプラカードを掲げて運動する前に、自身の守りたい仕事内容について、もう一度落ち着いて考えた方がよいとだけは思います。
アニメ業界においても昨今、“AI導入”について話題になることが多いのも事実で、最近我が社にも「アニメ制作にAI導入するため、現状のアニメーター作業を教えて欲しい」との相談がありました。もちろん、自分は反対プラカードを掲げる側ではないので当然協力し、開発の方に“現状の原画作業と動画作業について”を詳しく説明し、「こんな作画ツールがあると、動画人員不足を補えるのでは?」との提案をさせていただきました。
つまり、時代が一回りして昭和の既得権益を維持しようとしている、選ばれしお金持ち人間が現状維持を叫び、俺みたいに儲かった経験もない人間は
AIに限らず新しい技術をどんどん取り込んで、新しい制作体制でアニメを作りたい!!
と、非常にシンプルに考えています。究極の究極、AIの導入により、自分の仕事に需要がなくなって食えなくなったら「仕事を辞める?」と、自問してみると「稼げなくても続けたい」という答えしかないのですよ、板垣は。
間違っても、
「現状のやり方を変えたくないし、現状の仕事内容に+αを課すことも拒否するくせに、収入も減らしたくないし、勉強も努力もしたくない」だけの人に、“進化”を止められるのだけは本気でゴメンです!!
元々、金持ちになった経験のない俺にとって“相次ぐ作業工程の変化”や“月15〜20万生活”など怖くもなんともありません。AI拒否を謳ってる方々の中でも、今現在なかなか上手く生活できていない人が「食えなくなる」と悲鳴を上げるのは理解できるし、それこそは国が何がしかの支援を考えるべきだと自分も思います。ただ、現状好きなこと・得意なことを職業にし、かつ莫大に稼いで豪遊している一部の富裕層らが仰る「AIに仕事を取られてなるものか!!」は、俺からすると「AIなんか出回っちゃったら、“今までみたいに楽しく稼げる仕事が回ってこなくなる”じゃないか!!」と目くじら立ててるようにしか聞こえないのです。だって、十分貯えがあるのなら、それを切り崩して暫く生活できるはずで、(稼ぎは減るけど)次の手を考えればいいだけでしょ?
腹巻猫です。劇場『北極百貨店のコンシェルジュさん』を観ました。イマドキの日本のアニメっぽくない小粋な作品でした。絵作りがヨーロッパの絵本みたいで、観ていて気持ちがいい。ストーリーも、昔の、笑わせてちょっとホロっとさせる劇場作品みたいで後味がいい。実際ホロっとしてしまいました。
派手なアクションもないし、美少女が活躍するわけでもないけれど、心に残るものがある。大切にしたいなと思わせる作品です。もう上映終了している劇場も多いようですが、たくさんの人に観てほしいです。
『北極百貨店のコンシェルジュさん』は2023年10月に公開された劇場アニメ。西村ツチカによる同名マンガを、監督・板津匡覧、アニメーション制作・Production I.Gのスタッフで映像化した。
従業員は人間だが、お客はすべて動物という不思議な「北極百貨店」。そこで新人コンシェルジュとして働き始めた秋乃は、慣れない接客にとまどったり、気持ちが先走ったりして失敗続き。しかし、先輩のコンシェルジュやフロアマネージャーに見守られて、少しずつ成長していく。今日も北極百貨店には、大切なプレゼントやお気に入りの品を探す動物たちがやってくる。
ユニークな設定の物語である。北極百貨店を訪れる動物は人間と同じように話をするし、その中には「絶滅種」と呼ばれる、地球上からすでに絶滅した動物もいる。いったいどういうからくりになっているのか、SFファンとしては説明を求めたいところだが、そういう作品ではないのだろう。筆者も、メルヘン、もしくは一種の寓話として楽しんだ。
童話を思わせる設定の作品だから、音楽もアコースティックなサウンドのほんわかとしたものが似合いそうだ。ところが、作品を観たら、シンセサウンドを中心にしたビートの効いた曲が多い。これは意外だった。
音楽を担当したのは、音楽プロデューサー、DJ、トラックメーカーとして活躍し、多くのアーティストに楽曲を提供しているtofubeats。2018年に映画「寝ても覚めても」の音楽を担当しているが、劇場アニメの音楽を手がけるのは本作が初めてである。
tofubeatsの参加は板津監督の希望だったという。監督が以前からtofubeatsが好きで聴いていたことから、本作の音楽を担当してもらうことになった。板津監督はインタビューで、「電子音楽のもつ、現代的であるけどちょっと懐かしいような印象がほしいと思った」と語っている。
実はtofubeatsと原作者の西村ツチカとは高校生の頃からの知り合い。監督はそのことを知らずに音楽を依頼したというから面白い。
板津監督が希望したとおり、本作の音楽はシンセサイザーを使ったテクノ風の曲がメインになっている。現代的なテクノではなく、少しレトロな、懐かしい感じのテクノだ。北極百貨店という現実離れした空間に、テクノサウンドが不思議となじんでいる。たぶん、舞台が牧歌的な空間ではなく、百貨店という近代的な商業施設だからだろう。メルヘンではあるけれど、現代と通底する物語であるから、電子音楽が違和感なく聴こえる。そして、テクノの音が持つクールな響きが、洗練された、小粋な印象につながっている。もし、全編生楽器の音楽だったら、もっと古風な印象になったのではないか。
本作のサウンドトラック・アルバムは、「映画『北極百貨店のコンシェルジュさん』Original Soundtrack」のタイトルで2023年10月20日にアニプレックスから発売された。CDと配信の2形態である。
収録曲は以下のとおり。
最後に収録された2曲のボーナストラックは未使用曲。トラック1〜28には、本編使用曲が使用順に収録されている。
CDのブックレットにはtofubeatsによる全曲解説を掲載。それを読めば、各曲の作曲意図や聴きどころがわかる。気になる方はぜひCDを買って読んでいただきたい。
以下、筆者の心に残った曲を紹介していこう。
1曲目の「北極百貨店のテーマ」は冒頭のプロローグに流れる曲。北極百貨店のCMソングである。観終わったあと、つい口ずさんでしまいたくなる曲だ。
本作のメインテーマは2曲目に収録された「Gift」という曲なのだが、映画音楽としては「北極百貨店のテーマ」のほうがメインと言ってよい。劇中にこの曲の変奏がたびたび登場するからだ。「北極百貨店のテーマ(春)」(トラック5)、「北極百貨店のテーマ(秋)」(トラック17)、「北極百貨店のテーマ(冬)」(トラック27)などである。それぞれ、シーンに合わせたアレンジがされているのがいい。終盤に流れる「北極百貨店のテーマ(冬)」は、のちに登場する「ウーリーのテーマ」と「北極百貨店のテーマ」を合体させたもので、感動的な曲に仕上がっている。
「Gift(メインテーマ)」(トラック2)はtofubeatsの作曲による主題歌「Gift」のインストゥルメンタル版。歌入りは別売でサントラには収録されていない。インストゥルメンタルはメインタイトルから流れるが、ここでは控え目な印象だ。
「北極百貨店のテーマ」と同様に本編でたびたび流れるのが主人公・秋乃のテーマ。「秋乃のテーマ(真剣)」(トラック4)、「秋乃のテーマ(一歩ずつ)」(トラック9)、「秋乃のテーマ(お客様は神様)」(トラック18)、「秋乃のテーマ(悩み)」(トラック22)と4曲のバリエーションが作られている。曲調はリズム主体のテクノ。tofubeatsのコメントによれば、「シンキングタイムみたいなテイストが秋乃かなと思って」こういう曲にしたのだそうだ。「考える秋乃のテーマ」といった趣で、メロディで主張しないところが本作の音楽らしい。
北極百貨店に現れる個性的な動物たちに付けられた曲も印象深い。
まず、「エルルのテーマ」(トラック3)。エルルは北極百貨店内をいつも歩いている謎のペンギン。どうやら客ではなく、北極百貨店の重要人物(動物)らしい。そのテーマは、シンセサイザーによるエキゾチックな舞曲みたいな曲。初登場時の、少しコミカルで謎めいた雰囲気が表現されていて楽しい。
「クジャクたちのワルツ」(トラック6)は、店内で求愛行動を始める孔雀カップルの曲。宝塚歌劇風のゴージャスな音楽は、いっぱいに広がった孔雀の羽根の華麗なイメージだ。
「ウーリーのテーマ」(トラック15)は、tofubeatsが「個人的に一番好き」とコメントしている曲。ウーリーは絶滅したケナガマンモス。造形作家であり、北極百貨店内に作品が展示されている。そのテーマ曲は、キラキラした音を使った浮遊感のあるサウンドで奏でられる。ウーリーの芸術性を表現したのだそうだ。
本作を観て心に残るシーンのひとつが、「絶滅種と人間」(トラック20)が流れる場面だと思う。なぜ北極百貨店に絶滅した動物が客として訪れ、人間がおもてなしをしているのか。そんな疑問への回答がエルルの口から語られる。この曲は「北極百貨店のテーマ」の変奏のひとつ。聴いていると、絶滅した動物への哀悼や人間の罪深さへの嘆きなど、さまざまな感情が呼び起こされる。しかし重くはなく、シンセサイザーの音色は未来に向かってすべきことを問いかけているようだ。本作の隠されたテーマを表現した曲とも言えるだろう。
トラック24「JOY TO THE WORLD」とトラック28「Good King Wenceslas」は、クリスマスを迎える北極百貨店内のBGM。「JOY TO THE WORLD」は「もろびとこぞりて」の曲名で有名な讃美歌。「Good King Wenceslas(ウェンセスラスはよい王様)」は古いクリスマス・キャロルである。どちらも、うたたね歌菜がオーケストラ曲にアレンジしている。本編の音楽がテクノなので、オーケストラサウンドが聞こえてくるのは特別感があってよかった。特に「Good King Wenceslas」は本編のラストを飾る曲。最後に思い切り盛り上げて終わる音楽設計がうまい。
作品はこのあとエピローグになり、プロローグに使われた「北極百貨店のテーマ」がもう一度流れる。エンディングは主題歌「Gift」の歌入り。主題歌とサントラを両方入手すれば、プレイリストを作って本作の曲順を再現することも可能だ。
この作品、クリスマス頃に公開したほうがよかったのではないかなと思う。そのほうがクリスマスの音楽が生きるし、気分も盛り上がるだろう。
作品の中でくり返し描かれるのは、大切な人へ贈り物を届けたいという想いである。tofubeatsらによる音楽も、劇場作品への、そして作品を観に来た観客への贈り物=ギフトだ。サウンドトラックを聴けば、ギフトをもらったときの温かい気持ちがよみがえる。その気持ちを、また誰かに渡したくなる。
映画「北極百貨店のコンシェルジュさん」Original Soundtrack
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4Kレストアによる高画質化! ファン待望の第33話以降の初Blu-ray化の実現!
ということで、少々遅ればせながら『あしたのジョー』Blu-ray1・2を買いました。”第33話以降の初Blu-ray化”というのは、以前発売されていたBlu-ray BOXは途中で発売中断になったからです。それを聞いていたため「全巻揃ってから買おう」と思っていた俺は結局買わずじまいでした(ぴあDVDも出たし)。
で、今度は「全話揃う初Blu-ray化」とあったので纏めて購入。
確かに昭和45年当時の“セル重ね”まで全て見渡せるほどの超高画質!!
本当に数々の名場面が鮮明な画面で蘇るって感動! 素晴らしい!!
——ですが、信じたくないことに、
各話エンディングが! まさかオープニングも!? レーザーディスク版のほうに戻ってる!?
説明すると、DVD BOX版の際に「可能な限り、当時のクレジットを再現しよう」と、発掘された「各話に合った正確なOP・ED」が収録されていないのです! 一体どーなってるのですか!?
以前(VHS/レーザーディスク)版のEDテロップは、出﨑統監督名物(?)“脚本を使わない”で、脚本家さんより「テロップを外してくれ」との要請があり、再放送用に“脚本テロップ間”を前後のジョーの走りカットで潰したバージョン、さらにその際“演出クレジットを基準のローテーション”で各話を差し替えたため、原画マンを始めとするスタッフクレジットが各話数に付合していない——つまり、クレジットが“半分デタラメ”ってことです。
DVD BOX版ではその拘りから、全話本物のEDを収録(脚本家クレジットも復活)! 正規のEDが発見できなかった話数(3本ほど?)に関しては、演出クレジットのみを載せたWOWOW放送用特別編集版を収録したくらい、”間違いクレジットを正す”が徹底されていたのです。DVD BOXのライナーノートにはその旨が詳しく書かれており、DVDが最新版だった頃の自分は、そのオリジナル再現度に歓喜したモノでした。
それが、今回待望のBlu-ray化なのにコリャないですぜ……(涙)。
だって、本来第1話に使用した“演出 出崎統”のクレジットも、それ以降の出﨑監督のペンネーム“演出 崎枕”クレジット版のEDに統一されていたり……。もっと悔しいのは当時ファン待望力石徹登場を祝した(?)“力石版インストED(第9話のみ使用)”までもが、せっかくDVD版で発掘されていたにも拘わらず、こちらも今回のBlu-rayには未収録。
どうしてこうなったのか、誰か教えてください!!
※ただ、悪い事ばかりではなく、WOWOW放送版をマスターとしたDVD BOX版では本編から消されていた(こちらは各話ラストカットを“尻止め”て雑に潰されていました)、シリーズ後半で毎話ラストの「次週へ」の締めは今回Blu-rayで復活していました(嬉)!!!
12月2日(土)昼に本郷みつる監督、原恵一監督のトークイベントを開催します。
数々の作品を手がけてきたお二人に若き日の作品についてのお話をうかがう企画で、『クレヨンしんちゃん』以前の作品が中心になると思われます。今回も聞き手はアニメスタイル編集長の小黒が務めます。お楽しみに。
今回のイベントもトークの一部を配信します。配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。
アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。
チケットは11月4日(土)正午12時から発売。購入方法については阿佐ヶ谷ロフトAのサイトをご覧になってください。
■関連リンク
LOFT https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/268265
Livepocket(会場) https://t.livepocket.jp/e/bjg1p
ツイキャス(配信) https://twitcasting.tv/asagayalofta/shopcart/271338
アニメスタイルチャンネル
https://ch.nicovideo.jp/animestyle
第215回アニメスタイルイベント | |
開催日 |
2023年12月2日(土) |
会場 |
阿佐ヶ谷ロフトA |
出演 |
本郷みつる、原恵一、小黒祐一郎 |
チケット |
会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,500円、当日 1,800円(税込・飲食代別) |
今日は、朝から打ち合わせ三昧。
朝11時から現在制作中の新作『沖縄で好きになった子が方言すぎてツラすぎる』定例。各設定の進行具合の確認と、その作戦会議。そのまま12時30分から、同じく『沖ツラ』原画チェック。新人3人分で30カット程。各カット“直描き”と“口頭説明”、たまに“ホワイトボードに図解”で若手原画マンの指導にあたります。
さらにそのままの流れで、15時30分から新作のキャラクター会議。今はまだ発表できません。
さらに続いて、16時30分から新シリーズ(『沖ツラ』の次)の脚本(シナリオ)修正内容確認。こちらも詳細は公式発表後で。
さらに本日の社内作業上り分チェック。これは19時から、基本毎日定例でスタッフ全員分の1日分の上りを確認します(※詳細は第824回参照)。これが20時くらいまで。
で、今ようやく解放されて、この原稿書いています。
てことで、すみません(汗、21時脱稿)。
腹巻猫です。TVアニメ『ダークギャザリング』のサウンドトラック発売記念スペシャル動画がYouTubeで公開中です。
内容は音響監督と音楽を担当した3人の作曲家の座談会。サントラのプロモーションにここまでやるとは、発売元のポニーキャニオンの力の入れようがうかがえます。今回は、この『ダークギャザリング』のサウンドトラックを取り上げます。
『ダークギャザリング』は2023年7月から放映中のTVアニメ。近藤憲一による同名マンガを原作に、監督・博史池畠、アニメーション制作・OLMのスタッフでアニメ化された。
子どもの頃から霊を引き寄せてしまう体質の大学生・螢多朗は、バイトで始めた家庭教師の生徒として、ふしぎな瞳を持つ小学生の少女・夜宵を紹介される。夜宵は悪霊に連れ去られた母親の手がかりを探すために、心霊スポットをめぐって悪霊を捕らえる活動を続けていた。霊を引き寄せる螢多朗と悪霊を捕らえたい夜宵は協力しあうことを約束。夜宵を紹介した螢多朗の幼なじみ・詠子も加わって、3人の心霊スポットめぐりが始まった。 悪霊が出そうな心霊スポットを3人が訪れ、危険な目にあいながらも霊を捕らえていく物語。心霊スポットによって現れる霊や心霊現象が異なり、さまざまな怖さが描かれる。心理的に怖いだけでなく、絵的にエグい場面も多く登場する。実は怖い作品が苦手な筆者は、毎回恐る恐る本編を観ている。映像だけでなく、背景に流れる音楽がまた怖いのだ。
音楽は、KOHTA YAMAMOTO、成田旬、瀬尾祐介の3人が担当。
3人がそれぞれの持ち味を生かした「怖い音楽」を提供している。そのアプローチの違い、表現の多様性が面白い。
スペシャル動画でも語られているように、吉田光平音響監督の発案により、本作の音楽には少しレトロなシンセサイザーの音が使われている。サウンドに共通する要素があるため、3人で作った音楽であっても、バラバラな印象はない。3人の楽曲が、本編の中で自然に混ざりあっている。
シンセサイザーは自由に新しい音を作ることができる楽器であるが、今回は3人とも1から音を作ることはせず、シンセサイザーにプリセットされた音や市販の音源を使ったという。といってもありきたりの音を使ったわけではなく、ふつうの作品では出番がないような音を選び、さらにフィルターなどを通して加工し、怖い音を作り上げた。生楽器の音も入っているが、そのままでは使わず、音をゆがめたり、ピッチ(音の高さ)を変えたりして、不穏なサウンドを作り出している。趣向を凝らした怖いサウンドが本作の音楽の魅力だ。
総曲数は60曲あまり。明るい日常曲は少なく、ほとんどが、何か起こりそうな不穏な曲、不安をかきたてる曲、気持ち悪い曲、緊迫感を盛り上げる曲などである。これほど多種多様な「怖い曲」が並ぶサウンドトラックも珍しいのではないか。1人の作曲家では「怖い曲」のバリエーションを数十曲も作り上げることはなかなか難しい。3人の共作だからこそ実現した音楽だろう。
現代のシンセサイザーを使って生み出された音楽であるが、レトロな音色が使われていることもあって、なんとなく昭和のホラー作品に通じる雰囲気がただよう。「エクソシスト」(1973)や「オーメン」(1976)、「サスペリア」(1977)といった往年のホラー映画音楽を思い出すのだ。シンセサウンドを使いながらも、手作りの音楽の香りがする。怖くて懐かしい、ふしぎな音楽である。
本作のサウンドトラック・アルバムは2023年10月18日に「TVアニメ『ダークギャザリング』オリジナルサウンドトラック」のタイトルでポニーキャニオンから発売された。CD3枚組で、作曲家別に構成されている。配信版も同時リリース。収録曲は下記の商品ページを参照。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0CB83BJ29
構成は筆者が担当した(曲順のみ)。ふつうなら物語の流れに沿って曲を並べたいところだが、作曲家別の構成のため、一連のシーンで流れた曲が別々のディスクに分散することになる。また、発売時点で放映がまだ続いているので、先の展開が読めるような構成は控えたい。そんなことを考えて、今回は作曲家別の『ダークギャザリング』イメージアルバムを想像して構成してみた。結果的にそれぞれの作曲家の個性が表れた内容になったと思う。
以下、各ディスクの注目曲を紹介してみよう。
ディスク1はKOHTA YAMAMOTO作曲の楽曲で構成。KOHTA YAMAMOTOはTVアニメ『進撃の巨人 The Final Season』『七つの大罪 黙示録の四騎士』や、現在第2期が放映中のNHKドラマ「大奥」などの音楽を手がける作曲家。本作の核となる楽曲を担当している。
1曲目に収録した「D_REST IN PIECES_G」は本作のメインテーマとして書かれた曲。悪霊に立ち向かう夜宵のイメージを中心に、夜宵に協力する螢多朗と詠子のイメージも加味されている。不穏な導入部から始まり、後半は果敢に悪霊に向かっていく少女のイメージが女声ボーカルで表現される。
このメロディは「D_REST_G」(トラック7)、「D_PIECES_G」(トラック17)でも反復され、最後のトラックに収録した「D_REST IN PIECES_G -Inst-」で再度登場して締めくくられる。
トラック11「D_ARK GATHERIN_G」はメインテーマから派生した第2メインテーマとも呼べる曲。「D_REST IN PIECES_G」のフレーズを使い、よりじっとりとした怖さを表現した曲である。
トラック2の「D_KEITARO_G」とトラック3の「D_YAYOI_G」は、それぞれ螢多朗と夜宵のテーマとして書かれた曲。
トラック6に収録した夜宵のバトル曲「D_PURGE_G」がカッコいい。アクション系の曲を得意とするKOHTA YAMAMOTOの持ち味が生かされた曲である。
聴きどころは強力な悪霊をイメージした重厚で怖い楽曲群。大僧正のテーマ「D_THE HIGH PRIEST_G」(トラック13)、鬼軍曹のテーマ「D_SERGEANT_G」(トラック14)、花魁のテーマ「D_DARK FLAME_G」(トラック16)、神との闘いの曲「D_THE SUPREME BEING_G」(トラック21)、空亡のテーマ「D_M_OTHER_G」(トラック22)などだ。いずれも演奏時間3分以上と長く、頭がぐらぐらするような濃密な恐怖と緊迫感を味わえる。
ディスク2は成田旬作曲の楽曲で構成。成田旬はTVアニメ『あかねさす少女』『カワイスギクライシス』、劇場アニメ『らくだい魔女 フウカと闇の魔女』などの音楽を手がけ、KOHTA YAMAMOTO、瀬尾祐介と共作の経験もある作曲家。ギタリストとしても活躍する成田だが、本作ではあえてギターサウンドを使わない曲作りに挑んだという。
1曲目に収録した「Gotcha!」は第2話以降のアバンタイトルのナレーションバックによく使われている曲。もともとは霊を捕らえたときの「ゲットだぜ!」という感覚をイメージした曲である。相手が霊なので明るいファンファーレにするわけにもいかず、どんな曲調にするか苦心したとインタビューで語っている。
ディスク2には、忍び寄る恐怖や異変を表現した曲が多い。トラック2から「Getting Worse」「Behind you!」「Dyspnea」とサスペンス系の曲が続く。トラック16「TRAUMA」からも「Spooky 6th Sense」「The Standoff」と静かな恐怖や不安感を描写する曲が並ぶ。
そのいっぽうで、「How embarrassing!」(トラック6)、「Fleeting_A」(トラック7)、「Nooooope!」(トラック11)、「Live Streaming」(トラック12)といった明るい曲も登場するのが面白いところ。怖い曲との対比、メリハリを楽しんでもらたい。
また、「Mutual Feelings_A」(トラック5)、「How embarrassing!」(トラック6)、「Kizuna_B」(トラック14)など、ほのぼのとした心情を表現する曲が聴けるのもディスク2の特徴だ。ラストは、第10話で夜宵と螢多朗のあいだに芽生えた絆を描写する曲として使われた「Kizuna_A」(トラック29)でしっとりと締めくくった。
ディスク3は瀬尾祐介作曲の楽曲で構成。「Starving Trancer」「Xceon」等の別名義でも知られる瀬尾祐介は、クラブ&デジタルJ-POP系アーティストとしてメジャーデビューし、アニメやゲーム音楽でも活躍する作編曲家。TVアニメ『THE MARGINAL SERVICE』『アンダーニンジャ』などの音楽を手がけている。
1曲目の「Let’s Ghost!」は夜宵、螢多朗、詠子の3人が車で悪霊ハンティングに出かける場面に流れる曲。軽快でポップな曲調は「どこが悪霊ハンティング?」という感じだが、このノリが夜宵と詠子なのである。次の「KAMIYO AI」は第8話から登場するキャラクター・神代愛衣のテーマ。リリカルでさわやかな曲調はホラーアニメっぽくないが、この振り幅の広さも本作の魅力のひとつ。
トラック3からは『ダークギャザリング』らしいホラー系の曲が続く。「CHOKING」(トラック4)、「Filled with TERROR」(トラック5)、「Old F Tunnel」(トラック9)、「Old, Old F Tunnel」(トラック10)と、しだいに怖さが増していくイメージで構成してみた。
トラック14「The Story of a Child」は、これから放映される水門の霊のエピソードのために書かれた曲で、ピアノの素朴なメロディがしだいに崩れて不気味に変化していくさまが怖い怖い。ディスク3の聴きどころである。
トラック16には第1話の夜宵の回想シーンに流れた「Twin Pupils’ Vow」を収録し、1曲目の「Let’s Ghost!」と対をなす明るい曲「Let’s Go Camping!」(トラック17)で締めくくった。いろいろあっても、夜宵と螢多朗たちはまた元気(?)に悪霊ハンティングに出かけるだろう。そんなイメージの選曲である。
3枚のディスクで、作曲家それぞれが工夫を凝らした多彩な怖い曲を味わうことができる。ボリュームたっぷりのホラー音楽集になった。CD同梱の解説書には3人の作曲家の鼎談インタビューも掲載。スペシャル動画で語り尽くせなかったことを深掘りして語ってもらった。
『ダークギャザリング』は、じわじわと忍び寄る怖さ、ギョッとする怖さ、痛みを想像させる怖さ、不気味でおどろおどろしい怖さなど、いろいろな怖さが描かれたホラーアニメである。音楽で表現された多種多様な「怖さのかたち」をサウンドトラックで味わっていただきたい。
TVアニメ『ダークギャザリング』オリジナルサウンドトラック
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前回話が逸れてしまったので、仕切り直して。
『異世界でチート能力(スキル)を手にした俺は、現実世界をも無双する~レベルアップは人生を変えた~』(略称=いせれべ)の12話と13話の話!
12・13話2本分纏めて、脚本(シナリオ)は自分が書いたのですが、まぁ、いつもながら
まだ終わっていない原作を、シリーズの制作話数の都合上で無理矢理“一旦終わらせる”!
というのは毎作品、予想以上に難しいモノ。アニメ化が決まると同時に制作委員会と最初に話し合うのが「全○○話で、(原作の)どこまでやる?」です。
今までのシリーズでも例えば『ベルセルク』(2016・2017年)は「原作“途中から途中”まで」、しかも話数(こちらは全24話)で原作を割っていくとラスト数話分にガッツのバトルがない構成にならざるを得ません。結果、島田(明)プロデューサーのアドバイスで、“酒場で大喧嘩~シールケの笑顔”で終わる、落ち着きのある幸せ最終話になりました。
『ベン・トー』(2011年)でも、原作の中身が非常に濃いので、描写の一挙手一投足全部拾うと“モナークとの対決”(原作2巻、現行アニメの6話)の辺りで10話越えてしまいます。そして、当時の制作委員会的には「水着か温泉話数必須で!」と。さらに「ラストバトルが男対男(佐藤 洋VS.モナーク)になると“華”がない!」との意見もありました。今となっては笑い話ですが、一旦は「じゃ、モナークを女にするか?」が真剣に議題に上がったほどです。ま、結局「各エピソードを巧く纏めて、オルトロス編(原作3巻)までやりましょう」と決まり、自分の方で原作割り+オリジナルパートの配置をしました(OPの“構成”クレジットはこれ)。
で、今作『いせれべ』も同様。今回のアニメ、全13話(1クール)で原作のどこまで?」との最初の議題に対し「やっぱ、レイガーまででしょう」と某プロデューサー。「じゃ、その線で」と俺の方でシリーズ構成案を纏めていたところ、レイガーをラスボスに据えると、もし続編があった場合ユティに繋ぐのが難しくなる、ということが分かり「ユティまで!」と決めました。それを提出し、ホン読みでプロデューサーさんらに説明し、同意を得られ現行のかたちに落ち着きました。
と、そうこうする内に、
『いせれべ』新アニメ企画進行決定!
が公式で発表されました。こちらは続報をお待ち下さい。
で、仕切り直したつもりが、またすぐ退場(汗)すみません、また来週!
11月19日(日)昼に開催するトークイベントは「第214回アニメスタイルイベント 作画マニアが語るアニメ作画史 1963~2000」。
書籍「作画マニアが語るアニメ作画史 2000〜2019」としてまとまったトークイベントの続編で、『鉄腕アトム』の放映が始まった1963年から2000年までのアニメ作画を、作画マニア寄りの目線で振り返ります。
出演はアニメーター、演出として活躍し、さらに作画研究家でもある沓名健一さん、アニメスタイル編集長の小黒祐一郎。今回は小黒がメインで話して、沓名さんが聞き手となります。さらにトークのコメント役として、アニメーターの井上俊之さんに来場していただく予定です。
会場では「作画マニアが語るアニメ作画史 2000~2019」等のアニメスタイルの書籍を販売。「作画マニアが語るアニメ作画史 2000~2019」は沓名さんのサイン本を販売します。
今回のイベントもメインのパートを配信します。配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。
アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。また、今までの「ここまで調べた~」イベントもアニメスタイルチャンネルで視聴できます。
チケットは10月21日(土)正午12時から発売となります。チケットについては、以下のロフトグループのページをご覧になってください。
■関連リンク
LOFT https://www.loft-prj.co.jp/schedule/plusone/266999
Livepocket(会場) https://t.livepocket.jp/e/ayvru
ツイキャス(配信) https://twitcasting.tv/loftplusone/shopcart/268212
アニメスタイルチャンネル
https://ch.nicovideo.jp/animestyle
第214回アニメスタイルイベント | |
開催日 |
2023年11月19日(日) |
会場 |
LOFT/PLUS ONE |
出演 |
小黒祐一郎、沓名健一 |
チケット |
会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,500円、当日 1,800円(税込・飲食代別) |
■アニメスタイルのトークイベントについて
アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。
11話はまたREVOROOTさんのグロス話数。4話同様、大変お世話になりました!
6話に続き、筆安一幸君の脚本。そしてこの辺りにくると、社内リソースをラスト2本(12・13話)に向けて送り出すことが必須になるため、ここでスケジュール的にも作画的にも安定したグロス班は、本当に有難いのです。よって、ラストの優夜・ナイト・ルナ大暴れもミルパンセ側の作画修正は最小限。カメラワークを駆使するなどして撮影メインの調整が多かったと思います。が、とどめのボディーブローは板垣の方で原画から修正させてもらいました。あと、異世界側・王都のモブ作画や、毎度お馴染みBG修正は社内の長谷川(千夏)さんに助けられました(ありがとうございます!)。
あと、アーノルド王の大塚明夫さんは最高でした!『Devil May Cry』(2007)ではダンディーでちょい悪なモリソン、『ベルセルク』(2016)では怪しく重量感あり且つカッコイイ髑髏の騎士、そして今作では威厳ある国王でありつつも娘に頭の上がらないコミカル親父。御一緒させていただく度、その幅の広さに驚かされます。この11話でも優夜が布団を出してから、アーノルド王が徐々にキレて爆発するまでが、「来る、来る、……キタ——!!」のテンポ感が絶妙なんですよね~。各シーンの“面白さの核”みたいなものを完璧に理解されている感じで、大塚さんが持って入られるプランで基本一発OK!『Devil~』の時から「~な感じでください」とか「ここのシーンの意図は~」などでテイクを重ねたことが、大塚さんに限っては記憶にありません。て、業界の大ベテランに大して当たり前なことばかり、大変失礼しました。
12話・13話はラスト2本纏めて自分が脚本書きました! コンテは監督・田辺(慎吾)と共同!
てか、コンテは田辺監督のモノに、俺の方が多めに手を加えた感じ。つまり、田辺君の方から「アクションは板垣さんが手を入れるでしょ?」とかなりラフで提出。で、俺が全体のコンテやってる時、彼の方は現場の打ち合わせや演出処理を進めていた訳で、そういう意味では監督・総監督の分業は上手くいってました。そして、総監督・監督体制でやる代わりに他社のシリーズより各話演出の人数が少ないハズです。つまり、監督と名の付く人(板垣も含む)が半分のコンテ・演出を担当するのがウチ(ミルパンセ)のやり方。ま、“業界的に人手不足”は何度もここで話題にしているとおりで、フリーの演出さんに電話掛けまくり、隙間を見つけてねじ込んだりするくらいなら、社内の新人アニメーターに教えて、演出も兼任してもらったりした方がよっぽどマシ!「俺がフォローするから、演出もやってみる?」と。
あと、今現在ウチの演出スタイルは、いくつかの工程をショートカットしているので、各話演出がそれほどの人数が必要ないんです。もちろんグロスに出す場合は、そのスタジオ(会社)で立てられた演出の方で作ってくださればOKです。ただ我々の場合はほぼ全員社員給で雇っているため、あらゆる作業工程の所要時間を測って、給料分の仕事をしてもらわなければなりません。
例えば画コンテ。全話・全カット、コンテに俺の方で難易度を“△・○・◎”でランク付けして作業INします。ちなみにコンテは“アニメ制作における作家的ポジション”であることより先に、“アニメ事業の設計図”であるべきと考えており、“画面作りの面白さ”と“その作業工程における費用対効果”の両立ができてないコンテは、自分の方で手を入れる! あえて、今はコレでやってます。
その難易度で一番軽い“△”カットの原画は、所謂“止め・口パク・目パチ”のみ。こちらは1カット¥4000で計算すると、「1日2~3カットは上げてください。ラフではなく、一発原画で」と。これで、土・日休みで1ヶ月22日働くと、最低賃金に届く計算です。
作監。こちらもラフと清書、同じカット(画)に2回作監修正なんて入れません。一発原画に一発作監。このショートカットで固定給を実現している訳です! 今は。
これを演出に当てはめると、
レイアウトのチェックにざっと10分、原画チェックとタイムシート&撮影指定チェックにそれぞれ10分ずつ。1カット計30分程度!
で、1話分。平均300カット×30分で150時間。1日8時間勤務で計算すると18日ほどで1話分の原画チェックが終わります。もちろん、打ち合わせやリテイク処理まで入れると1ヶ月で1話。つまり給料から逆算すると、1シリーズの作画期間で演出1人で6話分は処理できるる。これも、あくまで今は、です。
ま、当然これは机上の計算。現役の演出の方は仰るでしょう。「1カット30分なんて!? レイアウトだって、ダメなものは全部描き直しで1時間じゃ済まない時だってあるんだぞ!」とか。そんなこと俺が知らないとでもお思いですか!? それが分かった上で「全修つったって、全カットじゃないですよね?」と俺は返します。そもそも、
脚本・コンテ・演出・作監・原画・動画、自分でやったことがある作業の所要時間くらいは把握済み!
だから、逆に止め・口パク程度の軽いカットは10分とかからず「作監様シクヨロでーす」で終わるということも承知している訳です。しかも、従来のフリー演出は作品掛け持ちのせいで、毎日スタジオ(会社)に入りもせず、
簡単な10分「シクヨロ~」を何10カット×何日も机に眠らせ、作監作業の時間を奪うと!
大体、演出を作家か何かと勘違いした人に限って、「演出を時間で測れるか! こちとら“作品”を作ってんだぞ!」とか言って自身の怠惰なワークスタイルを正当化しようとするんです! フリーを決め込み、週2~3回2~3時間ずつしか社内に入らず9割「作監シクヨロ~」で……。さらにその“平成”演出スタイルで3~4社掛け持ちして、月50万以上稼ぐと。このような演出を何人も雇ってる会社——ハッキリ言います。「製作委員会さん、そこの会社お金(製作費)余ってますよ!」これを業界に横行させてる内は我々「製作費が足りない」「人手が足りない」云々言えた義理じゃないと思います。
ちなみにウチの場合はその机上の計算から零れた分を、板垣が引き取ります。すると『いせれべ』スタッフ・クレジットの出来上り。これも、あくまでも“今は”で、これからももっとスタッフを指導して、何とかしないといけないと考えています(自戒)。
……と、久々に結構ぶちまけました故、最後に。
今回みたいのに対して
奔放な発想・作家性とその法外な金銭感覚で活躍された“昭和の巨匠”方をご本人無許可で引用しては、無計画とピュアな作家性を混合して「そんなの創作じゃない!」とかのたまう方々
が何か言いたいのはよく分かります。でも、考え方は人それぞれ。そのそれぞれで、まず板垣個人が今やらなきゃならないと思っていることは、アナログからデジタルに各工程が進化した“令和”において、
“デジタルフル活用で各作業者をちゃんと固定給で食わせられるアニメ作り”! そのために妥当な製作費と人員数の算出! そしてそれに付随し“昭和~平成”と続いた業界一部の既得権益層の見直し!
だと考えています(今は)。当然日々の作品作りと同時進行で、です。何々団体作ったり、プラカード掲げて運動家になるつもりは自分にはありません。で、これもその運動に懸ける方たちを否定するつもりは全くありません。業界各人が業界のことを思って——であること前提で、そのために取る手段は人それぞれですから。
今回はあくまでも「今の板垣がやるべき事」を言ったまでです。
で、また話が逸れたので、12・13話は次回、仕切り直しましょう(汗)!
腹巻猫です。先月のことになりますが、9月16日に京都で林ゆうきさん、高梨康治さんらが参加する劇伴フェス「京伴祭」が開催されました。京都まで行く気満々だったのですが、残念ながら当日仕事が入って上洛がかなわず、後日配信で視聴しました。今回特に注目していたのが初参加となる岩崎琢さんのステージ。『天元突破グレンラガン』『文豪ストレイドッグス』『刀語』『ジョジョの奇妙な冒険[戦闘潮流]』などにまじって『ヨルムンガンド』の曲が演奏され、「おおっ!」と思いました。なぜか。それは本文で。
『ヨルムンガンド』は2012年4月から6月にかけて放映されたTVアニメ。高橋慶太郎の同名マンガを原作に、監督・元永慶太郎、アニメーション制作・WHITE FOXのスタッフで映像化された。2012年10月から12月にかけて第2期『ヨルムンガンド PERFECT ORDER』が放映され、原作のラストまでを映像化して完結している。
この作品のことがひっかかっていたのは、庵野秀明監督が『ヨルムンガンド』の音楽を気に入って、実写劇場作品「シン・仮面ライダー」の音楽担当に岩崎琢を選んだと聞いたからである。岩崎琢が作曲の参考に見せてもらったフィルムには、すでにいくつかのシーンに仮の音楽として『ヨルムンガンド』の曲がつけられていたという。
オリジナルの『仮面ライダー』の菊池俊輔による音楽をこよなく愛する筆者であるが、『シン・仮面ライダー』に関しては、旧作の音楽を使わず、全編岩崎琢の音楽でよかったんじゃないか、と思った。それくらい、岩崎琢のサウンドが新しい仮面ライダーの世界観と映像に合っていると感じたのだ。
その音楽の原点とも言える『ヨルムンガンド』とはどんな作品なのか。
戦争で両親を失い、少年兵として生きていたヨナ(ジョナサン)は、武器商人の女性ココ・ヘクマティアルに預けられ、彼女の護衛と任務の遂行を担うチームの一員となる。世界の紛争地域でビジネスを展開するココは、年中トラブルに巻き込まれ、命をねらわれていた。ココとともに世界を旅するヨナは、心の中では武器を憎みながらも、各地で激しい戦闘を経験していく。いっぽうココは「世界平和」のためにある計画を実現しようとしていた。
音楽をつけるのが難しそうな作品である。ガンアクション、とひと口に言いきれない。銃を使ったバトルはあるが、スカッとする作品ではない。主人公は武器商人。正義や人助けのために戦っているわけではない。カッコいい曲をつけて盛り上げるのは向かないだろう。かといって、劇場作品「ダンケルク」のようなシリアスでリアルな雰囲気にしてしまうと後味が悪い。フィクションとしての面白さを損なわないようにしつつ、カッコよくなりすぎない、でも魅力のある音楽がほしいところだ。
岩崎琢の音楽が、なかなか意欲的である。
まず気になるのが、ボーカルが入った曲が多いこと。第1話冒頭に流れる曲「Jormungand」もそうだし、毎回の次回予告で流れるラップを使った曲「Time to attack」も耳に残る。
アクション曲にもボーカルが使われている。人の声が入った曲が劇中に流れるとセリフと重なったり、歌詞が気になったりして、じゃまになることが多い。本作のラップは外国語の歌詞なので聞き流すこともできるが、気になるといえば気になる。その「気になる感じ」、ある種の違和感が、戦闘の非日常性と混沌とした状況を感じさせ、アクションシーンを必要以上に盛り上げず、ココたちをヒロイックに見せないようにしている。
世界各地を旅するストーリーに合わせて、ヨーロッパや中東、東南アジアなど、エスニックなサウンドを取り入れた曲が多いことも本作の音楽の特徴だ。これもまた、音楽を「洗練されたカッコよさ」から遠ざける独特の味つけになっている。
多くの作品でエッジの立ったクールな曲を聴かせてくれる岩崎琢だが、本作ではクールになりすぎない絶妙なラインをねらっているようだ。クールというよりドライ。スタイリッシュというより土臭い。でもカッコいい。
本作のサウンドトラック・アルバムは「ヨルムンガンド オリジナルサウンドトラック」のタイトルで2012年6月にジェネオン・ユニバーサル・エンタテイメントから発売された。2012年12月には第2期のサントラ「ヨルムンガンド PERFECT ORDER オリジナルサウンドトラック」が同じメーカーからリリースされている。
第1期のサントラから聴いてみよう。収録曲は以下のとおり。
主題歌は収録されず、劇伴(BGM)のみで構成。
1曲目の「Jormungand」は番組タイトル「ヨルムンガンド」を曲名にしたナンバー。本作のメインテーマと言えるだろう。ヨルムンガンドは北欧神話に登場する毒蛇の名だが、本作における意味は物語の終盤でようやく明らかになる。この曲は、第1話の冒頭、第7話、第11話で使用され、第2期の最終話でまた登場する。福岡ユタカが作詞とボーカルを担当。福岡ユタカは「シン・仮面ライダー」の音楽にも参加している。9月の「京伴祭」でも岩崎琢のステージにゲスト出演していた。
トラック2「Time to Rock and roll」はアクションシーンにたびたび流れた曲。リズムから始まり、女性ボーカリストSANTAによるラップへと展開する。劇伴にラップを取り入れる手法は『天元突破グレンラガン』ですでに試みられているが、より劇伴と一体になった形に進化している。
録音はニューヨークで行われた。SANTAのラップをフィーチャーしたねらいは、音楽が単なる「スタイリッシュ」に流れてしまわないように「強めの毒」を仕込むことだった、と岩崎琢はアルバムのライナーノーツで語っている。
「違和感と、幾許かの羨望の念を抱かせること、そしてこの作品に不可欠な、キナ臭さと一触即発的なヤバさを音楽をもって補完させるために、Santaのラップはどうしても必要だったのだ」
トラック3「Jonathan」はヨナのテーマ。もの憂い雰囲気のギターの調べがヨナの無口なキャラクターを伝える。ギターサウンドは日常描写によく使われており、トラック7「Colmar」やトラック14「Poached egg」などもギターによるリラックスムードの曲だ。
ここまでが、いわばアルバムの導入部。3曲で本作の世界観と音楽のコンセプトが伝わってくる。
トラック4「cul-de-sac」からはサスペンス、アクション描写曲が続く。男声ボーカルをフィーチャーしたエスニカルな「cul-de-sac」はトラブルの前兆などに使用されたサスペンス系の曲。疾走感のあるトラック5「Hard drive music」は第4話でココたちが殺し屋「オーケストラ」の襲撃にあう場面に流れた。ノイジーなエレキギターのリフから始まるトラック6「H.W.Complex no’3」は第1話から使われている戦闘曲。曲名が共通する「H.W.Complex no’4」(トラック9)、「H.W.Complex no’5」(トラック20)とともに、アクションシーンに流れた本作の代表的な曲だ。
トラック10「”Cogito, ergo sum”」は、シンセとバイオリンなどが奏でるエキゾチックでミステリアスな曲。曲名は哲学者デカルトの有名な言葉「我思う、ゆえに我あり」から。ココの心情を描写するシーンにしばしば選曲されている。ココは何を想い、何を自分の存在証明とするのか……? そう考えると味わい深い曲だ。第1期の最終話(第12話)の本編ラストに流れたのもこの曲だった。
トラック11「Masala Dosa」の曲名「マサラ・ドーサ」とは南インド料理の名。タイトルどおり、ボーカルの入ったインド風の曲である。第8話で元女優の兵器ブローカー、アマーリア・トロホブスキーとココが話をする場面に流れている。インドが関係するシーンではなく、民族音楽による異化効果をねらった演出だろう。
ギターとハーモニカが奏でるトラック12「Mad symphony」は、第3話に登場する殺し屋「オーケストラ」のテーマ的に使われた曲。その後も狂気を宿した殺し屋の登場シーンなどにしばしば選曲された。「狂ったシンフォニー」とはうまい曲名である。
トラック13「The crafty jewelry」はアマーリアのテーマ的に使われたストリングスによるタンゴ風の曲。
トラック15「Mania Butterfly」は蝶マニアの科学者Dr.マイアミのテーマ。優雅なストリングスの曲だ。
やはりストリングスが奏でるトラック16「Lamento」は「哀歌」を意味するタイトルの曲。第5話でヨナがココとの出会いを思い出すシーンに使用された。
トラック17「Essentia」は第4話で殺し屋「オーケストラ」のひとりチナツが師匠を撃たれて動揺するシーンに選曲された。これもストリングスの曲だ。
こんなふうに、ストリングスの曲がけっこう重要なテーマとして使われているのも本作の特徴である。
次のトラック18「Alligator」はエレピとフルート、リズム、ストリングスなどによるセッション曲。ラウンジ風の曲想だが、全体に不穏な雰囲気がただよう。ココと武器商人が話をする場面によく使われていて、曲名「Alligator(=ワニ)」の意味を考えさせられる。
トラック19「MIM-40-12」から3曲は、サスペンス〜バトルという流れ。トラック21「Rock’ n roll boobs」はユーロビート風のリズムと女声ボーカルを組み合わせたダンサブルな曲で、これがバトルシーンに合うのだから面白い。第6話の銃撃戦の場面などに使われた。
トラック22「Tristeza」からはアルバムを締めくくる流れとなる。
「Tristeza」は「悲しみ」を意味するスペイン語・ポルトガル語。曲名どおり、哀感をたたえたストリングスの曲である。第11話の冒頭でココのチームの一員であるバルメが辛い過去を回想するシーンに流れていた。
続くトラック23「Meu mundo amor」は第12話でバルメがヨナをかばって銃弾を受けるシーンに流れた挿入歌。タイトルはポルトガル語で「私の世界の愛」といった意味だ。岩崎琢はこの曲について「『この世界は愛に満ちて素晴らしい』という、物語に対して全く逆の意味の歌詞がついている」とSNSでコメントしている。作詞とボーカルはSilvio Anastacio。
最後の曲となるトラック24「Time to attack」は女声ラップによるココのテーマと呼べる曲。トラック2「Time to Rock and roll」のラップを担当したSANTAが作詞とボーカルを担当。歌詞にココの名が読み込まれている。次回予告で流れたほか、劇中でもたびたび使われた印象深い曲だ。戦闘的な曲ではないけれど、本作の雰囲気と世界観をもっともよく表現してるのがこの曲だと思う。岩崎琢の言葉を借りるなら「キナ臭さと一触即発的なヤバさ」が宿った曲だ。
ドライでエスニカルなサウンド、そして、ラップに仕込まれた違和感という「毒」。「シン・仮面ライダー」が必要とした音楽はそれだったのではないか、と筆者は考えている。
そして、『ヨルムンガンド』を聴いたあと、全編岩崎琢の音楽による特撮ヒーロー作品も観てみたいなあと思うのだ。
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前回、“佳境”とお伝えした脚本(シナリオ)作業は無事、最終話まで書き終わりました。後は委員会チェックと原作者先生チェックをいただき、調整・修正をする流れに。もちろん、修正も自分でやります。そして、その作品はと言うと、現在制作中『沖縄で好きになった子が方言すぎてツラすぎる』(こちらはすでに制作発表済)より、さらに次のシリーズになりますゆえ、タイトルも内容もまだ言えません、アシカラズ。
ということで、既にお忘れかも知れませんが『いせれべ』話の続きに戻ります。
9話は田辺慎吾/脚本・コンテ・演出、作画監督/木村博美・吉田智裕!
作監に関しては、最初から木村さんでスタートした話数ではあったものの、彼女が総作監の方で他話数の面倒を見続けていたため、原画作監を吉田君フォロー、だったと思います。
こちらも4話同様、REVOROOTさんの原画は本当に助かりました。皆、巧い! 本話前半Aパートをまるまるやっていただき、木村作監からも(チェックの)上がりがスルスルと出ました。やっぱり、土台(原画)が巧いと作監修(キャラ修正)がやり易い、という当たり前の話。
お風呂シーンのレンズ(画面)に着いた水滴は1987年以降の出﨑統監督OVA(『エースをねらえ!2』『華星夜曲』など)っぽくて大変気に入ってます。ちなみに自分が要望したのではありません。要は“大事な部分を隠す”手練手管の一種として載せてきた、撮影さんのファインプレーでした!
サッカーのアクションシーンは作画をローカロリーにするため、レイアウト全修とポーズ全修を総作監としての俺が入れまくりました。“止めで持つ”ポージングを駆使した訳です。
続いて10話。こちらも、
脚本・コンテとも板垣の方でかなり手を入れさせてもらいました、スミマセン!
まず、脚本の方で「物量的にエピソードが全て入らない」とのことで、こちらで引き取らせていただきました。確かにざっと並べただけでも、
「芸能界勧誘を断る優夜」+「ウサギ師匠登場~修行~聖VS.邪の説明~キングミスリルボアに勝つ!」+「球技大会~卓球~バレー~テニス」+「優夜と佳織のラブ下校」、そして「ユティ登場」
と、盛沢山のエピソード。でも全13話で“ユティとの対決”まで到達(製作委員会の決定)するためにはこの話数をテンポで乗り切らなければ、エピソード自体をまるまる削ることになってしまいますから。これは自分で責任を持って纏めるしかありません。
でも最初シリーズ構成を纏めていた時、ボリューム的に多少キツイのは分かってはいたものの、
各エピソードの“面白い部分”をテンポ良く整理して繋げば1本になる!
というビジョンは自分的に見えていたので正直、脚本が難航しているのを見て「え? 何で出来ないの?」と、俺はなってしまうのです、いつも。
例えば、ウサギ師匠との修行から巨大魔物に勝利するまでは、修行シーンの繰り返しにカットバック的に時系列を弄れば色々同時進行させられます。球技大会も卓球で“超力”を発揮したなら、同じことを繰り返しても意味がないので、バレーボールのシーンは“大爆音OFF”で通過など。
“各件(くだり)要点のトリミング”と“画面&音声の2段レイヤーを自在に操る”のが演出!
と、自分は出﨑アニメで学びました。主に『劇場版エースをねらえ!』(1979)で!
アニメじゃなくマンガの方でも手塚治虫先生は「16ページあればなんでも描ける」と仰ってましたが、これも同様の話かと思います。だって、手塚先生の「ブラック・ジャック」16~18ページ(1話分)って、1冊の小説や2時間の長編映画にできる密度がありますから。
次にコンテも同様のことが起こってきて、全部足すと440カット越えのコンテが上がってきて「おいおい……(汗)」と。結局、自分の方で360程? に切り直しました。
また次週で。