COLUMN

第267回 怖さのかたち 〜ダークギャザリング〜

 腹巻猫です。TVアニメ『ダークギャザリング』のサウンドトラック発売記念スペシャル動画がYouTubeで公開中です。



 内容は音響監督と音楽を担当した3人の作曲家の座談会。サントラのプロモーションにここまでやるとは、発売元のポニーキャニオンの力の入れようがうかがえます。今回は、この『ダークギャザリング』のサウンドトラックを取り上げます。


 『ダークギャザリング』は2023年7月から放映中のTVアニメ。近藤憲一による同名マンガを原作に、監督・博史池畠、アニメーション制作・OLMのスタッフでアニメ化された。
 子どもの頃から霊を引き寄せてしまう体質の大学生・螢多朗は、バイトで始めた家庭教師の生徒として、ふしぎな瞳を持つ小学生の少女・夜宵を紹介される。夜宵は悪霊に連れ去られた母親の手がかりを探すために、心霊スポットをめぐって悪霊を捕らえる活動を続けていた。霊を引き寄せる螢多朗と悪霊を捕らえたい夜宵は協力しあうことを約束。夜宵を紹介した螢多朗の幼なじみ・詠子も加わって、3人の心霊スポットめぐりが始まった。 悪霊が出そうな心霊スポットを3人が訪れ、危険な目にあいながらも霊を捕らえていく物語。心霊スポットによって現れる霊や心霊現象が異なり、さまざまな怖さが描かれる。心理的に怖いだけでなく、絵的にエグい場面も多く登場する。実は怖い作品が苦手な筆者は、毎回恐る恐る本編を観ている。映像だけでなく、背景に流れる音楽がまた怖いのだ。

 音楽は、KOHTA YAMAMOTO、成田旬、瀬尾祐介の3人が担当。
 3人がそれぞれの持ち味を生かした「怖い音楽」を提供している。そのアプローチの違い、表現の多様性が面白い。
 スペシャル動画でも語られているように、吉田光平音響監督の発案により、本作の音楽には少しレトロなシンセサイザーの音が使われている。サウンドに共通する要素があるため、3人で作った音楽であっても、バラバラな印象はない。3人の楽曲が、本編の中で自然に混ざりあっている。
 シンセサイザーは自由に新しい音を作ることができる楽器であるが、今回は3人とも1から音を作ることはせず、シンセサイザーにプリセットされた音や市販の音源を使ったという。といってもありきたりの音を使ったわけではなく、ふつうの作品では出番がないような音を選び、さらにフィルターなどを通して加工し、怖い音を作り上げた。生楽器の音も入っているが、そのままでは使わず、音をゆがめたり、ピッチ(音の高さ)を変えたりして、不穏なサウンドを作り出している。趣向を凝らした怖いサウンドが本作の音楽の魅力だ。
 総曲数は60曲あまり。明るい日常曲は少なく、ほとんどが、何か起こりそうな不穏な曲、不安をかきたてる曲、気持ち悪い曲、緊迫感を盛り上げる曲などである。これほど多種多様な「怖い曲」が並ぶサウンドトラックも珍しいのではないか。1人の作曲家では「怖い曲」のバリエーションを数十曲も作り上げることはなかなか難しい。3人の共作だからこそ実現した音楽だろう。
 現代のシンセサイザーを使って生み出された音楽であるが、レトロな音色が使われていることもあって、なんとなく昭和のホラー作品に通じる雰囲気がただよう。「エクソシスト」(1973)や「オーメン」(1976)、「サスペリア」(1977)といった往年のホラー映画音楽を思い出すのだ。シンセサウンドを使いながらも、手作りの音楽の香りがする。怖くて懐かしい、ふしぎな音楽である。
 本作のサウンドトラック・アルバムは2023年10月18日に「TVアニメ『ダークギャザリング』オリジナルサウンドトラック」のタイトルでポニーキャニオンから発売された。CD3枚組で、作曲家別に構成されている。配信版も同時リリース。収録曲は下記の商品ページを参照。

https://www.amazon.co.jp/dp/B0CB83BJ29

 構成は筆者が担当した(曲順のみ)。ふつうなら物語の流れに沿って曲を並べたいところだが、作曲家別の構成のため、一連のシーンで流れた曲が別々のディスクに分散することになる。また、発売時点で放映がまだ続いているので、先の展開が読めるような構成は控えたい。そんなことを考えて、今回は作曲家別の『ダークギャザリング』イメージアルバムを想像して構成してみた。結果的にそれぞれの作曲家の個性が表れた内容になったと思う。
 以下、各ディスクの注目曲を紹介してみよう。

 ディスク1はKOHTA YAMAMOTO作曲の楽曲で構成。KOHTA YAMAMOTOはTVアニメ『進撃の巨人 The Final Season』『七つの大罪 黙示録の四騎士』や、現在第2期が放映中のNHKドラマ「大奥」などの音楽を手がける作曲家。本作の核となる楽曲を担当している。
 1曲目に収録した「D_REST IN PIECES_G」は本作のメインテーマとして書かれた曲。悪霊に立ち向かう夜宵のイメージを中心に、夜宵に協力する螢多朗と詠子のイメージも加味されている。不穏な導入部から始まり、後半は果敢に悪霊に向かっていく少女のイメージが女声ボーカルで表現される。
 このメロディは「D_REST_G」(トラック7)、「D_PIECES_G」(トラック17)でも反復され、最後のトラックに収録した「D_REST IN PIECES_G -Inst-」で再度登場して締めくくられる。
 トラック11「D_ARK GATHERIN_G」はメインテーマから派生した第2メインテーマとも呼べる曲。「D_REST IN PIECES_G」のフレーズを使い、よりじっとりとした怖さを表現した曲である。
 トラック2の「D_KEITARO_G」とトラック3の「D_YAYOI_G」は、それぞれ螢多朗と夜宵のテーマとして書かれた曲。
 トラック6に収録した夜宵のバトル曲「D_PURGE_G」がカッコいい。アクション系の曲を得意とするKOHTA YAMAMOTOの持ち味が生かされた曲である。
 聴きどころは強力な悪霊をイメージした重厚で怖い楽曲群。大僧正のテーマ「D_THE HIGH PRIEST_G」(トラック13)、鬼軍曹のテーマ「D_SERGEANT_G」(トラック14)、花魁のテーマ「D_DARK FLAME_G」(トラック16)、神との闘いの曲「D_THE SUPREME BEING_G」(トラック21)、空亡のテーマ「D_M_OTHER_G」(トラック22)などだ。いずれも演奏時間3分以上と長く、頭がぐらぐらするような濃密な恐怖と緊迫感を味わえる。
 ディスク2は成田旬作曲の楽曲で構成。成田旬はTVアニメ『あかねさす少女』『カワイスギクライシス』、劇場アニメ『らくだい魔女 フウカと闇の魔女』などの音楽を手がけ、KOHTA YAMAMOTO、瀬尾祐介と共作の経験もある作曲家。ギタリストとしても活躍する成田だが、本作ではあえてギターサウンドを使わない曲作りに挑んだという。
 1曲目に収録した「Gotcha!」は第2話以降のアバンタイトルのナレーションバックによく使われている曲。もともとは霊を捕らえたときの「ゲットだぜ!」という感覚をイメージした曲である。相手が霊なので明るいファンファーレにするわけにもいかず、どんな曲調にするか苦心したとインタビューで語っている。
 ディスク2には、忍び寄る恐怖や異変を表現した曲が多い。トラック2から「Getting Worse」「Behind you!」「Dyspnea」とサスペンス系の曲が続く。トラック16「TRAUMA」からも「Spooky 6th Sense」「The Standoff」と静かな恐怖や不安感を描写する曲が並ぶ。
 そのいっぽうで、「How embarrassing!」(トラック6)、「Fleeting_A」(トラック7)、「Nooooope!」(トラック11)、「Live Streaming」(トラック12)といった明るい曲も登場するのが面白いところ。怖い曲との対比、メリハリを楽しんでもらたい。
 また、「Mutual Feelings_A」(トラック5)、「How embarrassing!」(トラック6)、「Kizuna_B」(トラック14)など、ほのぼのとした心情を表現する曲が聴けるのもディスク2の特徴だ。ラストは、第10話で夜宵と螢多朗のあいだに芽生えた絆を描写する曲として使われた「Kizuna_A」(トラック29)でしっとりと締めくくった。
 ディスク3は瀬尾祐介作曲の楽曲で構成。「Starving Trancer」「Xceon」等の別名義でも知られる瀬尾祐介は、クラブ&デジタルJ-POP系アーティストとしてメジャーデビューし、アニメやゲーム音楽でも活躍する作編曲家。TVアニメ『THE MARGINAL SERVICE』『アンダーニンジャ』などの音楽を手がけている。
 1曲目の「Let’s Ghost!」は夜宵、螢多朗、詠子の3人が車で悪霊ハンティングに出かける場面に流れる曲。軽快でポップな曲調は「どこが悪霊ハンティング?」という感じだが、このノリが夜宵と詠子なのである。次の「KAMIYO AI」は第8話から登場するキャラクター・神代愛衣のテーマ。リリカルでさわやかな曲調はホラーアニメっぽくないが、この振り幅の広さも本作の魅力のひとつ。
 トラック3からは『ダークギャザリング』らしいホラー系の曲が続く。「CHOKING」(トラック4)、「Filled with TERROR」(トラック5)、「Old F Tunnel」(トラック9)、「Old, Old F Tunnel」(トラック10)と、しだいに怖さが増していくイメージで構成してみた。
 トラック14「The Story of a Child」は、これから放映される水門の霊のエピソードのために書かれた曲で、ピアノの素朴なメロディがしだいに崩れて不気味に変化していくさまが怖い怖い。ディスク3の聴きどころである。
 トラック16には第1話の夜宵の回想シーンに流れた「Twin Pupils’ Vow」を収録し、1曲目の「Let’s Ghost!」と対をなす明るい曲「Let’s Go Camping!」(トラック17)で締めくくった。いろいろあっても、夜宵と螢多朗たちはまた元気(?)に悪霊ハンティングに出かけるだろう。そんなイメージの選曲である。

 3枚のディスクで、作曲家それぞれが工夫を凝らした多彩な怖い曲を味わうことができる。ボリュームたっぷりのホラー音楽集になった。CD同梱の解説書には3人の作曲家の鼎談インタビューも掲載。スペシャル動画で語り尽くせなかったことを深掘りして語ってもらった。
 『ダークギャザリング』は、じわじわと忍び寄る怖さ、ギョッとする怖さ、痛みを想像させる怖さ、不気味でおどろおどろしい怖さなど、いろいろな怖さが描かれたホラーアニメである。音楽で表現された多種多様な「怖さのかたち」をサウンドトラックで味わっていただきたい。

TVアニメ『ダークギャザリング』オリジナルサウンドトラック
Amazon