【25周年&画集刊行記念】劇場版『機動戦艦ナデシコ』上映会!!

 東京・池袋の新文芸坐で、レイトショー「【25周年&画集刊行記念】劇場版『機動戦艦ナデシコ』上映会!!」を開催します。上映作品は劇場作品『機動戦艦ナデシコ The prince of darkness』。トークコーナーのゲストは佐藤竜雄監督です。開催日は2021年10月23日(土)。
 会場では「機動戦艦ナデシコ画集」を特典小冊子「劇場版 機動戦艦ナデシコ 原画集」付きで先行発売いたします。

●『機動戦艦ナデシコ』イラストの集大成! TV放映25周年記念「機動戦艦ナデシコ画集」を刊行!!
http://animestyle.jp/news/2021/10/01/20600/

 『機動戦艦ナデシコ The prince of darkness』は、TVシリーズ『機動戦艦ナデシコ』の続編です。TVシリーズのキャラクターの活躍もありつつ、新キャラクターも登場し、新たな物語が展開します。精緻な作画と映像の作り込みが素晴らしく、その映像は当時のアニメーションにおける最高レベルのものです。是非とも劇場でご覧になってください。

 前売りチケットは10月16日(土)10時からオンラインと新文芸坐窓口にて販売します。詳しくは新文芸坐のサイトをご覧になってください。

【25周年&画集刊行記念】劇場版『機動戦艦ナデシコ』上映会!!

開催日

2021年10月23日(土)

開場

開場:19時25分/開演:19時45分 終映:21時05分 トーク:21時15分~22時05分(予定)

会場

新文芸坐

料金

一般1600円、学生・友の会・シニア1400円

トーク出演

佐藤竜雄(監督)、小黒祐一郎(アニメスタイル編集長)

上映タイトル

『機動戦艦ナデシコ The prince of darkness』(1998/80分)

備考

※トークコーナーの撮影・録音は禁止

●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

アニメ様の『タイトル未定』
320 アニメ様日記 2021年7月11日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2021年7月11日(日)
この日の『ONE PIECE』は982話「カイドウの切り札 飛び六胞登場」。画作りが凝っていて、観ていて楽しかった。特にラストがよかった。演出は石谷恵さん、作画監督が涂泳策さん、斉藤圭太さん、北崎正浩さん。
昼は新宿の焼肉屋に。各テーブルに蛇口があって、そこから自分でサワーを注いで呑む形式の店だ。前の非常事態宣言中に見つけて、ワイフが入りたがっていたのだ。明日からまた非常事態宣言となるので、慌てて駆け込んだ。自分で注いで呑むのは面白かった。肉をこんなに食べたのは久しぶり。当然、あすけんの数字は大変なことになった。午後は事務所に戻って、簡単なテキスト作業など。
僕が知っている限り、紙媒体ではあまりスタッフのインタビューがなく、ネットではいくつも記事があった某劇場アニメ。これって10年後とかに取材記事を参照しようとしても、ほとんど消えてしまっているのではないかなあ。それでも取材記事がないよりはいいんだろうけど。

2021年7月12日(月)
仕事の合間に、新文芸坐で「3-4X10月」(1990/96分)を観る。プログラム「乾いた銃声/虚無の闇 北野武と黒沢清の暴力」の1本。作品としては成功しているとは思えないけれど、つまらないわけではない。キッチュな魅力がある。事務所に戻ってデスクワークの続き。30分で終わるかと思ったある記事の企画書に90分もかかってしまう。

2021年7月13日(火)
バルト9の午前8時からの回で『劇場編集版かくしごと ―ひめごとはなんですか―』を観る。バルト9で映画を観たのは久しぶりのはず。

2021年7月14日(水)
Zoom打ち合わせ中に、事務所が入っているビルのオーナーさんがやってきて、水道の事故があったことを知る。事故の対応はオーナーさんと事務所スタッフに任せて、自分は取材に。13時から羽原信義さんにインタビュー。羽原さんの取材はかなり久しぶりだった。SNSで世間話はしているんだけど、リアルで話をしたのも久しぶり。取材場所近くの遊歩道を歩いてから事務所に戻る。
『ゲキガンガー3』のイラストで、再録時に僕が「レイアウト」の役職でクレジットされたものがあるらしいと最近知った。発注ラフのことかなあと思っていたけど、確認したら、そのイラストは発注ラフを描いていないものだった。そもそも『ゲキガンガー3』で発注ラフは描いてないのではないかなあ。発注ラフを「レイアウト」と表記するのも違うと思うけれど。ちなみに『機動戦艦ナデシコ』ではかなり発注ラフを描いている。
確認することがあって「こんなこともあろうか」と段ボール箱には入れないで、倉庫のラックに並べてあった「別冊COMIC BOX」のスタジオジブリ関係の特集号をひっばり出す。それにしても濃いなあ。「これぞ、雑誌」って感じだ。

2021年7月15日(木)
新文芸坐で「あのこは貴族」(2020/124分/DCP)を観る。プログラム「映画監督・岨手由貴子の魅力 グッド・ストライプス | あのこは貴族」の1本。ロードショー時から、この映画の評判はSNSで目にしていて、自分は作品のターゲットから外れているだろうと思っていたのだけど、結構やられてしまった。若い頃に観たらかなり「痛さ」を感じたと思う。物語としてはあまり痛くないのだけれど、物語以外の表現の部分がグイグイきた。分かりづらい感想になったけれど、とてもよくできた映画だった。事務所に戻ってデスクワーク。書籍の企画書を書いた。

2021年7月16日(金)
ダイエットは続いている。起床時の体重が69.6キロ。遂に60キロ台に突入した。60キロ台になった記念に新しいTシャツをおろす。午前中の散歩時にApple Musicで富田勲のプレイリストを聴く。富田さんのアルバムは10代の頃に聴きたかったのだけれど、なかなか聴く機会がなかった。Apple Musicには富田さんのアルバムが何枚もあった。これは贅沢だなあ。
グランドシネマサンシャインで、ワイフと「ブラック・ウィドウ」【IMAレーザーGT字幕】を観る。ワイフはかなり楽しんだようで「今までのマーベル映画で一番好きかもしれない」とのこと。僕のほうはまあまあ、かな。

2021年7月17日(土)
トークイベントの前にワイフと、デイユースで予約を入れたホテルバリアンリゾート新宿本店に。非常事態宣言で店で呑めなくなったので、「部屋呑み」を売りにしているホテルで呑んでみることにしたのだ。ワイフがホテルでのんびりしている間に、自分はロフトプラスワンに。時間に余裕があったので、話題の「新宿の猫」を見に行く。途中で先に「新宿の猫」を見た片渕さん達とすれ違う。「新宿の猫」って「そこに本当の猫がいるみたい」ではなくて、「ブレードランナー」的な感じなのね。電脳的と言えばいいのかな。12時から無観客トークイベント「第177回アニメスタイルイベント ここまで調べた片渕須直監督次回作【覚えておいてほしい人の名 編】」を開催。直前になって前野秀俊さんが出演できないことが分かって慌てる。イベントの最後には、片渕さんがプロデューサーを務めている「由宇子の天秤」についての話題も。イベント終了後、少し歩いてからホテルに戻る。ワイフと呑んで食べる。注文してから酒や料理が届くまでにちょっと時間がかかるので、居酒屋と同じというわけにはいかないが、自宅で呑むよりもずっといい。

第724回 年内、あれこれ

本日朝からデジタル作画志望の方との面接一件済ませて、昼間は某作品のお手伝い(作画&リテイク)の原画修正。そして夕方、次のシリーズのホン読みと盛り沢山でした!

 ここんとこ面接が立て続きでそこそこ大変ですが、来年入社希望の新人に限らず、今からデジタル作業を覚えたいアニメーターの人達も、ウチで一緒にやりたいと言って下さる方々とは時間の許す限り面接をしたいと思います。現在、何処の会社(スタジオ)も人手不足でアニメーターの取り合いになっている模様ですが、自分らの会社はそこには参戦するつもりありません。俺は自分の体力が続く限り、コツコツとゼロからスタッフを育てていく方が、長い目で見て効率が良いと思っているのです。「育てても、すぐ辞めてくじゃん!」と、とある業界の友人に言われた事もありますが、「それでもいいじゃん、また新しい人入れて育てれば!」って。だって、スタッフが入る~辞めるの循環は本来作りたい作品の規模に応じて調整するもので、そこに合わせて新人育成をし続けるのが会社の役割だと思うのです。例えば、監督とかキャラデザとか所謂メインスタッフとして作品を作りたいと、アニメーターだっていつか思うはずで、その野望を抑えさせて「俺の下で原画を描き続けろ!」なんて傲慢な事自分は言えないし、権威のない俺は言う資格すらないと思うのです。そう、育ったスタッフはいつか辞めて行く宿命にあるので、育て続けるしかないのです。金に物言わせてスタッフを搔き集めて「アニメーターが多ければ多いほど良し! それこそがTHE・勝ち組アニメ会社!」などと短絡的な事自分は考えていませんので、悪しからず。
 で、次のシリーズに作画INするまでの繋ぎ——他社のお手伝い。もちろんこれも社内の若手と一緒に作画したり修正したり演出したり。前述の新人育成の一環であり、会社の維持費のためでもあります。因みに3~4本程? やる予定。また近いうちに何ヶ月も1シリーズを描き続けなきゃならない社内スタッフにとっても、自分にとっても大切な気分転換の数週間。これはこれで楽しい作業です。それら、お手伝い作品の放送は年明け以降になると思います。
 そして、年末年始あたりに作画INする予定のシリーズのホン読み。今回は自分は一歩引いた総監督と言う立ち位置で、監督・コンテ・演出を俯瞰しての全体チェックに徹し、各話のコンテ・演出
を何本かやりますが、いつもの全話コンテはやりません。コンテチェックも含めて監督を育成するつもりの取り組み方です。あ、シナリオ(脚本)も何本か担当します、たぶん。それで、そのシリーズのホン読みが終わるタイミングで更に次の純正自分監督作品の準備に入りたいと思います(ここら辺はあくまで予定)。
 後は、出来たらマンガ描きたい! とかも。

 んなわけで、時間が足りなかった事による「年内の予定の話でお茶濁しの巻」でした。え、前にもそれらしいのやったって? 忘れて下さい(汗)。

第216回 少年アニメ音楽の後継者 〜うしおととら〜

 腹巻猫です。NHKで放映中のドラマ「古見さんは、コミュ症です。」にハマってます。コミュニケーションに不器用な少年少女たちの姿に痛かゆいような気持ちになりながら、青春の悩みは昔も今も変わらないのだなーと、ほのぼの。10月からはテレビ東京ほかでアニメ版が放映されるそうで、こちらも楽しみです。


 ドラマ版「古見さんは、コミュ症です。」の音楽は瀬川英史。「勇者ヨシヒコと魔王の城」や「アオイホノオ」など、ちょっとクセの強いドラマの仕事が多い印象がある。しかし、アニメではもっぱらオーソドックスな少年向け作品を手がけているのだ。
 今回は瀬川英史の『うしおととら』の音楽を聴いてみよう。
 『うしおととら』は2015年7月から2016年6月まで、全39話が放送されたTVアニメ。藤田和日郎によるマンガを原作に、監督・西村聡、アニメーション制作・MAPPA&VOLNのスタッフでアニメ化された。
 原作は『週刊少年サンデー』に連載された人気作品。1992年から1993年にかけて全10話のOVAが発売されたが、そのときは物語は完結していなかった。TVアニメ版はあらためてストーリーを最初から最後まで描いた初の映像作品である。シリーズ構成に脚本を担当する井上敏樹とともに原作者自身が参加し、長大な原作を39話のボリュームに収めている。
 中学2年生の少年・蒼月潮(うしお)は、ある日、自宅の蔵の地下室で虎のようなバケモノと出会う。バケモノは体に刺さった「獣の槍」の力によって500年にわたって動きを封じられていたのだ。バケモノの妖気に誘われて集まってきた妖怪を退治するために、潮は獣の槍を引き抜いてバケモノを解放した。槍の力で自身も妖のような姿になり、バケモノと協力して妖怪を撃破する潮。獣の槍の伝承者となった潮は、「とら」と名付けたバケモノとともに、人間を襲う妖怪を次々と退治していく。やがて潮ととらは、人間と妖怪の運命を握る強大な敵との戦いに巻き込まれていくのだった。
 不思議な縁で結ばれた潮ととらのコンビ。度重なるピンチを勇気と友情と強い意志で乗り越え、仲間を増やしていく。正道の少年マンガ的展開に胸が熱くなる。

 音楽を担当した瀬川英史は岩手県盛岡市出身。1986年から作曲家として活動を開始し、2500本以上のCM音楽を手がけた。現在は劇場作品、TVドラマ、ドキュメンタリー等の音楽で活躍する作曲家だ。TVドラマ「勇者ヨシヒコ」シリーズ(2011〜2016)や「コドモ警察」(2012)、「アオイホノオ」(2014)、「極主夫道」(2020)、劇場作品「HK 変態仮面」(2013)、「ヲタクに恋は難しい」(2020)など、福田雄一監督作品を多く手がけているほか、TVドラマ「最高の離婚」(2013)、「推しの王子様」(2021)、劇場作品「ビリギャル」(2015)などの音楽を担当。近年ではNHK朝の連続テレビ小説「エール」(2020)が印象深い。
 実写作品に比べるとアニメの仕事は少なく、7本を手がけた「バトルスピリッツ」シリーズと『戦国乙女〜桃色パラドックス〜』、本作『うしおととら』があるくらい。
 『うしおととら』の音楽は、妖怪退治を題材にした正道の少年アニメらしい作り。妖怪を表現する怪しく不気味な曲とバトルシーンを盛り上げる激しく熱い曲が聴きどころだ。
 音楽全体は大きく4つのテーマを中心に構成されている。
 まず主人公である潮のテーマ。少年マンガらしいまっすぐで元気な少年のテーマが、コミカル系、ほのぼの系など、さまざまな曲調にアレンジされている。面白いのは、潮の登場場面だけでなく、潮の同級生の少女・麻子や真由子の場面などにも選曲されていること。本作の日常シーンを彩る曲という位置づけだ。
 次に、潮が獣の槍の力で変身した「槍の男」のテーマ。いわば本作のヒーローのテーマであり、メインテーマと呼んでもいい。悲壮感をともなう力強いメロディが設定され、さまざまなバトルシーンに対応した曲調にアレンジされている。
 そして、潮のバディとなるとらのテーマ。こちらは、サントラを聴く限りでは、サスペンス系とバトル系の2種類があるだけで、バリエーションはないようである。
 最後に、潮ととらが戦う妖怪のテーマ。共通のモチーフ(メロディ)はなく、琵琶や三味線などの邦楽器や人の声を取り入れた多彩なサウンド、曲調で作られている。瀬川英史は音色にこだわる作曲家で、ドラマ「アオイホノオ」では80年代の空気感を表現するために当時のビンテージもののシンセサイザーを使用、「エール」では戦前に使われていたカーボンマイクを録音に使って当時のサウンドを再現している。本作の個性的な妖怪音楽にも、そうしたこだわりと、キャッチーな曲作りが要求されるCM音楽の豊富な経験が活かされている気がする。
 この4種類のテーマをメインに、ドラマに必要なサスペンス曲、心情曲、状況描写曲などを加えて、『うしおととら』の音楽世界が構築された。少年冒険アニメの音楽といえば、「わかりやすく、元気になる曲」というイメージがあるが、本作では、その伝統が現代的なセンスとテクニックでアップデートされている。
 本作のサウンドトラック・アルバムは2015年10月に「TVアニメ『うしおととら』オリジナルサウンドトラックI」のタイトルで徳間ジャパンから発売された。タイトルに「I」と付いているが「II」は発売されていない。代わりに、2017年12月発売の「アニメ『うしおととら』ブルーレイ&CD完全BOX」に同梱される形で「サウンドトラック2」がリリースされた。
 「オリジナルサウンドトラックI」の収録曲は以下のとおり。

  1. オープニングテーマ 混ぜるな危険 〜TV Mix Version〜(歌:筋肉少女帯)
  2. 槍の男1
  3. 妖気
  4. うしおのテーマ1
  5. うしおのテーマ5
  6. 浮遊
  7. 妖艶
  8. うしおのテーマ7
  9. とらのテーマ
  10. うしおのテーマ2
  11. 敵2
  12. 恐怖
  13. 槍の男3
  14. うしおのテーマ6
  15. 不安
  16. 事件発生
  17. とらのテーマ2
  18. 敵3
  19. 怨み
  20. 敵7
  21. 槍の男5
  22. 不穏
  23. 心配
  24. 希望
  25. うしおのテーマ4
  26. 邪教
  27. 敵8
  28. 槍の男4
  29. 対峙
  30. 精査分析
  31. うしおのテーマ3
  32. 敵4
  33. うしおのテーマ9
  34. 敵1
  35. 槍の男2
  36. エンディングテーマ HERO(TV size)(歌:ソナーポケット)

 1曲目にオープニングテーマを、ラストにエンディングテーマを収録したオーソドックスな構成。BGMは34曲を収録している。
 本アルバムは、TVアニメの1クール目を意識した内容になっている。「うしおのテーマ」「槍の男」「とらのテーマ」「敵(妖怪)」と、4つの主要なテーマをたっぷり収録。その代わり、2クール目以降に登場するキャラクター関連の楽曲は収録されていない。おそらく、順調にいけば2枚目、3枚目とサントラを発売する予定があったのではないか。そこは残念なところである。
 曲名もちょっともったいない。「うしおのテーマ」をはじめ、音楽メニューの仮タイトルをそのまま使ったような曲名が並ぶ。曲名のあとに「1」「2」などの数字がついた表記も味気ない。マニアックなファンが買うサントラならそれもよいかもしれないが、こういう少年向けアニメのサントラは、物語をイメージさせる曲名がついていてほしいと思うのだ。余談だが、CDのジャケットではトラック4と5が「うしおとテーマ」と誤記されていて、それも残念な感じをいや増している。
 ただ、少しマニアックなファンにとっては、音楽がどのような意図で作られているかが曲名からうかがえて、とても興味深い。
 曲名に注文をつけてしまったが、楽曲は文句なしにすばらしい。
 「うしおのテーマ」は1から9まで8曲を収録(8が未収録)。「うしおのテーマ1」は軽快なリズムとさわやかなメロディによる躍動的な少年のテーマだ。「2」はラテン風のはじけた曲調で、潮がサッカーをする場面や海で遊ぶシーンなどに使用。「3」と「4」はピアノを中心にしたやさしい曲調のアレンジで、ほのぼのしたシーンに使われた。「3」は第24話のラストシーンに真由子のモノローグとともに流れたのが印象的。「5」「6」は木琴や弦のピチカートを使ったユーモラスなアレンジ。潮や麻子、真由子たちの会話シーン、潮ととらのけんかのシーンなどによく使われている。「7」は弦とビブラフォンなどによるコミカルなアレンジ。第10話で潮ととらが温泉につかっているシーンでの使用が面白かった。「9」はピアノの伴奏にギターのメロディが重なるしみじみしたアレンジ。第10話のラストシーン、白い髪の少女・小夜に見送られて旅立つ潮ととらの場面が思い浮かぶ。
 ひとつのメロディを多彩な表情に変化させる瀬川英史のアレンジの巧みさにも注目したい。
 「槍の男」は1から5まで5曲を収録。「槍の男1」が劇中でもよく使われたメインのアレンジである。冒頭の緊迫したリフの部分はアバンタイトルのナレーションバックにも使われた。
 基本はバトルシーンを想定した曲なので、「うしおのテーマ」ほどにはアレンジの幅は広くない。が、どの曲もキャッチーな導入部、テーマ部分のサウンドの組み立て、コーダの処理などに工夫がこらされており、聴きごたえがある。叩きつけるようなパーカッションと高速で上下する弦のフレーズが潮の闘志を表現する「1」、緊迫したサウンドに悲壮感がみなぎる「2」、ピアノと弦を主体にした哀感ただよう「3」、重い苦戦ムードの「4」、シンセサウンドを取り入れたスピード感のある「5」。それぞれに、ドラマを感じさせるアレンジになっている。
 なかでも鮮烈な印象があるのは「槍の男3」である。第7話で潮の父・紫暮(しぐれ)がとらと立ち会う場面、第9話でのかまいたちとの戦い、第17話と18話で麻子、真由子ら潮ゆかりの少女たちが「獣」に変貌してしまった潮を助けようとする場面など、痛みをともなうバトルの場面に選曲されて抜群の効果を上げていた。
 「とらのテーマ」は、「とらのテーマ」と「とらのテーマ2」の2曲のみ。「とらのテーマ」は第1話で潮がとらと初めて出会う場面に使用された不気味な曲。「とらのテーマ2」のほうがメインとなる曲で、とらが妖怪と戦うシーンに使われた。心を熱くするビートの上でブラスとストリングスが勇壮なメロディを奏でる。妖怪の曲というより、「槍の男」と並ぶヒーロー活躍曲という印象だ。潮や麻子や真由子がピンチに陥ったときに、とらがこの曲とともに登場するシーンは文句なしに燃える。
 そして、妖怪のテーマである「敵」は1から8まで6曲を収録(5、6が未収録)。「1」は尺八の音や低音の弦、パーカッションなどによるミステリアスな曲。潮が妖怪の伝承を聞く場面などに使われた。「2」はパーカッションのリズムと不気味にうなる金管、緊迫した弦のフレーズなどが危機感を盛り上げる「妖怪登場!」という雰囲気の曲。妖怪との戦いの場面にもよく使われた。「3」は琵琶、「4」はホーミー風の男声ボーカル、「8」は三味線と太鼓をフィーチャーした楽曲。いずれも、エキゾチックでユニークなサウンドの怪異表現曲である。「7」は緊張感ただよう導入部からブラスが重量感なフレーズを奏する中間部を経て、女声コーラスが妖しくも神秘的な雰囲気をかもしだす終盤へと曲調が変化するドラマチックな曲。第6話の海中から現れる巨大な「あやかし」、第8話の旅客機を襲う空の妖怪「衾(ふすま)」など、強力な妖怪が出現する場面に選曲されている。
 そのほかの曲では、恐怖描写に欠かせない「恐怖」、重苦しいサスペンス曲として使われ、強敵「白面の者」の脅威を表現する曲としても使用された「怨み」、悲しみややりきれなさを伝える曲としてしばしば選曲された「不安」などが印象に残る。女声スキャットをフィーチャーした「妖艶」は、タイトルから艶っぽい場面を連想してしまうが、実際には第10話に登場する少女の姿をした妖怪オマモリサマ(座敷童)のテーマとして使用されていた。
 ドラマを支える楽曲として忘れてはならないのが「心配」と「希望」である。
 深いリバーブがかかったピアノの音がリリカルなメロディを奏でる「心配」は、しみじみした情感や哀感を表現する曲。第8話のラストで父を亡くした少女・勇のわだかまりがとけるシーンや第9話でのかまいたちの十郎の最期、第11話で麻子が真由子に子どもの頃の潮の思い出を語る場面などに選曲されている。不安な「心配」ではなく、心の奥深くにある大切な想いを表現する曲として使われている印象だ。
 ピアノの切ない旋律から始まり、ストリングスや木管が奏でるやさしいメロディに展開していく「希望」は、数々の感動シーンを彩った曲。第3話で画に宿った妖怪が浄化されて消えていく場面、第6話での少年タツヤと潮たちとの別れのシーン、第13話の潮の旅立ち、第16話で人間の体内に入って妖怪と戦った潮ととらが生還する場面など、「ここぞ」と言う名場面に使われている。本アルバムの中でも、きわめつけの「泣ける曲」である。

 アルバム全体の流れは、本編の楽曲使用順にはこだわらず、妖怪退治のサスペンスを表現する曲と潮ととらのユーモラスな日常を描く曲をバランスよく配してアニメの雰囲気を再現する構成。曲名はともかく(しつこい)、第1クールで印象的な楽曲をほぼ収録した、ツボを押さえたアルバムだ。
 しかし、アニメ本編を観ていたファンなら、第2クール、第3クールで流れていた重要曲が収録されていないことに不満を覚えるに違いない。
 この「オリジナルサウンドトラック1」は、現在、音楽配信サイト等で圧縮音源とハイレゾ音源の2種がダウンロード販売されている。どうせなら「サウンドトラック2」も配信してくれよー、と思うのである。瀬川英史のアニメ音楽の代表作であり、少年アニメ音楽の意欲的な後継作品なのだから。

TVアニメ「うしおととら」オリジナルサウンドトラック1
Amazon

第180回アニメスタイルイベント
沓名健一の作画語り[ネットで観られる若手の注目アニメ]

 2021年10月10日(日)に開催するトークイベントは「第180回アニメスタイルイベント 沓名健一の作画語り[ネットで観られる若手の注目アニメ]」。アニメの作画について語るイベントです。

 メインゲストはアニメーター、演出として活躍し、さらに作画研究家でもある沓名健一さん。聞き手はアニメスタイル編集長の小黒祐一郎が務めます。今回のテーマは「ネットで公開されている若手アニメーターの作品」です。それぞれの作品に触れつつ、ネットアニメ、若手アニメーター(アマチュアを含む)の傾向などについて語ってもらいます。

 今回のイベントは会場にお客さんを入れ、尚かつ、配信も行う予定です。会場では実際に作品の映像を観ながらトークを進めますが、配信では作品の映像を観ていただくことはできません。沓名さんには、イベント中に彼のTwitterアカウント( @coosun )で、とりあげる映像のURLをツイートしてもらう予定です。配信で参加される方は、沓名さんのツイートを追いながらご覧になってください。

 会場は新宿のLOFT/PLUS ONE。チケットは〈会場での観覧+配信視聴〉と〈配信視聴〉の2種類を販売しますが、諸般の事情で、配信のみのイベントとなる可能性もあります。その場合は〈会場での観覧+配信視聴〉のチケットは払い戻しいたします。チケットは9月29日(水)18時から発売となります。
 詳しくは以下にリンクしたLOFT/PLUS ONEのイベントページをご覧になってください。

 配信は先行してロフトグループによるツイキャス配信を行い、その後にアニメスタイルチャンネルで配信します。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。

 また、アニメスタイルチャンネルでは過去の沓名さんが出演したトークをアーカイブ配信しています。以下のリンクをご覧になってください。

■関連リンク
LOFT/PLUS ONEのイベントページ
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/plusone/192086

アニメスタイルチャンネル
https://ch.nicovideo.jp/animestyle

■過去の「沓名健一さんトーク動画」配信
アニメスタイルTALK 001「沓名健一が語る 僕のアニメ人生」
https://www.nicovideo.jp/watch/so36943615

アニメスタイルTALK 002 沓名健一と語るアニメ作画の20年
https://ch.nicovideo.jp/animestyle

アニメスタイルTALK 005 続・沓名健一と語るアニメ作画の20年
https://www.nicovideo.jp/watch/so37292652

アニメスタイルTALK 007 沓名健一の作画語り
https://www.nicovideo.jp/watch/so37569483

第180回アニメスタイルイベント
沓名健一の作画語り[ネットで観られる若手の注目アニメ]

開催日

2021年10月10日(日)
開場11時半 開演12時 終演15時予定

会場

LOFT/PLUS ONE

出演

沓名健一、小黒祐一郎

チケット

会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,500円、当日 1,800円(税込・飲食代別)
ツイキャス配信チケット/1,300円

■アニメスタイルのトークイベントについて
 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。

佐藤順一の昔から今まで(31) 『ケロロ軍曹』の話題であります!・2

小黒 『ケロロ』って、メディアミックスが多かったじゃないですか。

佐藤 最初っからありましたっけ?

小黒 徐々に増えていったんですかね。挿入歌の数も多くて、CDも沢山出ていましたね。

佐藤 確かに挿入歌は凄く多いですね。

小黒 歌に関して言うと、弾けた歌が多いと思ったんですが、これはフライングドッグさんが頑張ったっていう事でしょうか。

佐藤 そうでしょうね。「歌を多めにほしい」と言ったかもしんないですけど、福田(正夫)さんが、色々とアイデアを思いつくらしくてね。

小黒 フライングドッグの福田正夫さんですね?

佐藤 そうです。「どすこい軍曹」みたいに、よく分からないんだけど、福田さんが思いついちゃった事、やりたい事を、こちらが暖かく受け止めるみたいな感じです(笑)。

小黒 佐藤さんが福田さんと一緒に仕事をしたのは『ケロロ』が最初なんですか。

佐藤 『ARIA』って、その後?

小黒 『ARIA』が後ですね。

佐藤 じゃあ、『ケロロ』が最初かな。

小黒 『ケロロ』も最初の1年のクレジットでは、佐々木史朗さんの名前が上で、2番目が福田さんなんです。実際に動いてるのは、福田さんなんですね?

佐藤 そうです。鈴木さえ子さんにオファーしたのは、福田さんですから。そもそも、福田さんが鈴木さえ子さんのファンだったっていう事があったんですよね。

小黒 なるほど。

佐藤 「アフロ軍曹」のダンス☆マンも福田さんのアイデアだったかな。

小黒 「アフロ軍曹」が「なんでアフロだったのか?」という事は福田さんに聞かないと分からない?

佐藤 そうですね。ただ、本編の中でドカーンと爆発すると髪の毛が急にアフロになる事は、本編の中でもちょいちょいあったので、そこで思いついたんじゃないですか。「ケロロとアフロは似てるな」みたいな(笑)。

小黒 「ケロッ!とマーチ」の歌詞はかなり個性的ですが、作詞さんの方にお任せだったんですか。

佐藤 こちらからもアイデアは出していますね。「主題歌どうします?」という話の時に、ちょっとマーチっぽいものがいいんだけど、歌詞に関しては「あるある集みたいなものでは、どうだろう?」とアイデアを出して……。

小黒 それは佐藤さんが?

佐藤 そうですね。「内容はなくてもいいので、あるあるみたいなのどうだろう?」っていう話をして。「参考になんかありますか?」と言われたので、「机に足の小指を当てる」とか「おかずは材料から作るより、惣菜買ったほうが安く上がるよね?」って、いくつかアイデアを出したのをまとめてもらっています(笑)。

小黒 まさか、この事について訊ける日がくるとは思わなかったという質問になります。「社員旅行はケロン」って意味が、全く分からないんですが。

佐藤 そこは作詞のもり(ちよこ)さんに聞いていただかないと(笑)。分かんなくても分かんないままでいいかな、と思って。

小黒 (笑)。(編注:「社員旅行でどこかの星にいけるかと思ったら、生まれ育ったケロン星だった」という意味だという説があるそうだ)

佐藤 「それじゃーソルジャー……」とかも、もりさんのアイデアです。

小黒 ああ、素晴らしいですね。

佐藤 そうです、そうです。途中で訳が分からないような事になってるのは、それはそれでありかな、と思って。

小黒 いやいや、名曲ですよ。

佐藤 そうですね(笑)。

小黒 『ケロロ』は、歌のおかげでずいぶんと弾んだ印象のアニメになってますよ。

佐藤 よかったです。確かに、主題歌が思った以上に作品の顔になってくれたなという感じはありますね。

小黒 さらに些末な事を聞くんですけれども、アイキャッチが『ど根性ガエル』のパロディだったのは、誰がやってるんですか。

佐藤 「わたくし」ですね(笑)。

小黒 あっ、そうなんですね(笑)。何故『ど根性ガエル』なんですか。

佐藤 『ケロロ』の原作はパロディ色強めで、みんなそこを楽しんでる感があったじゃないですか。色んなパロディが入ってる事が作品の特色として捉えられていたんだけど、「パロディだから面白い」にしちゃうと、子供が分かんないじゃないですか。だから、「パロディだと分かんないと面白くない」はNGだけど、「知らなくても面白い」はありだなというくくりでトライしていますよね。

小黒 なるほど。

佐藤 『ど根性ガエル』に関してもそうで、「分かる人が分かればいいかな」ぐらいの感じにしてますね。

小黒 カエル繋がりですね(笑)。

佐藤 そうなんです。分かる人が観たら、「ああ、『ど根性ガエル』ですね」って思うけど、ほとんどの子供達は初見でしょ?

小黒 子供達はそうですね。

佐藤 あの感じは、インパクトありますからね。

小黒 看板ひっくり返すのとか。

佐藤 看板ひっくり返してサブタイトルが書いてあるっていうのは、トピック感あると思いますね(笑)。

小黒 ああ、なるほど。

佐藤 『ど根性ガエル』を当時観ていた自分的にも、記憶に残ってるからね。


●佐藤順一の昔から今まで(32)『ケロロ軍曹』の話題であります!・3 に続く


●イントロダクション&目次

アニメ様の『タイトル未定』
319 アニメ様日記 2021年7月4日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2021年7月4日(日)
早朝散歩の後、都議会議員選挙の投票に。僕が行った投票所は一番乗りと二番目の人が投票箱の中を見ることになっているようで、僕は二番目だったので、投票前に箱の中を確認した。
カセットハードディスクの録画を整理していたら、鈴木敏夫さんと岩井俊二さんの対談があった。番組タイトルは「日本映画専門チャンネル×岩井俊二映画祭 present 映画は世界に警鐘を鳴らし続ける 特別番組 鈴木敏夫×岩井俊二」。2012年に日本映画専門チャンネルの岩井俊二特集内で放送された番組で、録画はその再放送であるらしい。驚いたのはアニメージュで「風が吹くとき」を特集した号の話題だ。特集を企画したきっかけ、社内と読者の反応についての話。自分がアニメージュで仕事をしていた時期の話だけど、まるで知らなかった。敏夫さんが大袈裟に語っている可能性はあるけれど。

2021年7月5日(月)
ワイフと椎名町まで歩いて、餃子の満州で昼飯。僕もワイフも餃子の満州が好きなんだけど、酒が呑めない間は行く気にならなかったのだ(念のため書いておくと、外食で酒が提供できた時期のことである)。
「この人に話を聞きたい」の原稿に集中できるかと思ったけれど、それ以外のやらなくてはいけない作業が次々と生じる。

2021年7月6日(火)
久しぶりに『機動戦艦ナデシコ』1話を視聴。今さら言うまでもないけど、脚本も演出も尖っている。2話以降が楽しみになる超盛り沢山な内容。当時もそう思ったはずだけど、ダイゴウジ・ガイは1980年代に割といたタイプのオタクなんだろうなあ。1話のルリは後の彼女とキャラが違うけれど、それは味わいのうち。ユリカは今観ると「普通の女の子」だな。突飛な言動はあるけれど、それも含めて普通の女の子。1話のエステバリスのアクション作画はかなりいい。当時は、『ゲキガンガー3』との対比を考えると、リアルロボットとして扱われるエステバリスの描写がスーパーロボット的でいいのか? と思ったけれど、むしろ、スーパーロボット的でいいのだと思えた。
『機動戦艦ナデシコ』2話。1話に負けず、超盛り込み。大筋はマジメで表現はコメディで、1990年代らしいノリもあり。ダイゴウジ・ガイ大活躍の回でもある。3話の予告がこれまた面白くて、期待が高まる。2話劇中の『ゲキガンガー3』はロクロウ兄さんの話。異星人シックースの地球名がロクロウなのは、『大空魔竜ガイキング』でフジヤマ・ミドリのピジョン星人としての名前がグリーンであったことに由来する。ちなみに、この日記で『ゲキガンガー3』のタイトルに「・」を入れないのはわざとであります。
『機動戦艦ナデシコ』関係で佐藤徹さんにインタビューをする。お元気そうでよかった。

2021年7月7日(水)
『機動戦艦ナデシコ』再視聴は5話から10話まで。5話で炸裂する首藤ワールド。この話でルリのキャラクターが固まるかと思ったら、そんなことはなくて徐々に完成していく感じ。作品全体のノリとしては、イネスが出てきてからが本調子。アカツキ・ナガレは記憶にあるよりもコメディ寄り。というか、アカツキが面白お兄ちゃんとして描かれる回が連続する。これは当時も思ったことだけど、イネスの「ワープという言葉もちょっと⋯⋯」というセリフはややメタな感じ。
11時に行きつけの病院に行って、新型コロナウイルス・ワクチン接種を受ける。ほとんど待たずにサクっと終わる。次に出す書籍の構成1弾のPDFが上がる。次の次の書籍の素材関係が動く。引き続き「この人に話を聞きたい」原稿を進める。
引き続き、1人で散歩する時はネックスピーカーでサントラを聴いている。この日の早朝散歩では『こどものおもちゃ』『ナースエンジェルりりかSOS』のサントラを聴いた。サントラではないけれど、最近、聴いたCDだと「小んなうた亞んなうた 小林亜星 楽曲全集 コマーシャルソング編」がよかった。

2021年7月8日(木)
「この人に話を聞きたい」の原稿を進める。原稿まとめの参考に『恋は雨上がりのように』原作最終巻に目を通して、改めてアニメ最終回を観て、実写映画版を観る。『メジャーセカンド』もチェック。『彼女がフラグをおられたら』を観ていたら、何故か『僕は友達が少ない』を観たくなった。
以下は『恋は雨上がりのように』について。確かに原作とアニメでは、ラストが違っている。原作だと、店長にとっての小説と、あきらにとっての陸上は「待たせているもの」であって、アニメだと「果たさなくてはいられない自分との約束」なのね。言葉遊びっぽくなるけど、アニメは約束だから、それを果たしたら戻ってくるかもしれない。さらにアニメだと、店長とあきらが「自分との約束」を果たした後のことを語りあっていて、改めて恋を続けるかもしれない余地を残している。しかも、本編ラストカットで小説を書き終えたのかもしれないと匂わせている。

2021年7月9日(金)
「この人に話を聞きたい」原稿の大詰め。最後の最後でインタビュアーの口調を整えた。

2021年7月10日(土)
最近、テレビをつけるといつも、CSで『おそ松さん』をやっている。どうして? と思っていたけれど、確認したら帯番組なのね。こっちが毎日同じ時間にテレビをつけているだけだった。
新文芸坐の9時45分からの回で「ソナチネ」(1993/94分)を観る。プログラム「乾いた銃声/虚無の闇 北野武と黒沢清の暴力」の1本。この映画は初見。予想以上に面白かった。スリリングだし、味わいもある。些末なことだけど、スチールでお馴染みのビートたけしが自分の頭に銃をあてるカットって、クライマックスではなかったのね。
築地食堂源ちゃん東池袋店にで昼飯。呑んで食べる。再び緊急事態宣言が実施されるので、源ちゃんのホッピーもまたしばらく呑めない。14時から2時間ほどZoom打ち合わせ。割と冴えたことを言った気がする。その後はレイトショーの用意等。夜はレイトショー「新文芸坐×アニメスタイル スクリーンで観たいアニメ映画vol. 2 『魔女見習いをさがして』」を開催。ゲストは関弘美さんと佐藤順一さん。佐藤さんは前の仕事の関係で遅刻するかもしれなかったのだけれど、余裕で間に合った。トークは公開インタビューのようなノリになってしまった。内容は充実していたと思う。『魔女見習いをさがして』を観るとビールを呑みたくなる。コンビニで缶ビールを買ってから帰る。

佐藤順一の昔から今まで(30) 『ケロロ軍曹』の話題であります!

小黒 そして『カレイドスター』が終わって『ケロロ軍曹』が始まる。

佐藤 はいはい。

小黒 『カレイドスター』の放映が2004年3月までで、『ケロロ軍曹』が4月にスタート。『カレイド』の作業を引っ張ったので、佐藤さんが『ケロロ』に本格的に入るのが遅れた、と聞いた記憶があります。

佐藤 そう……だったです? 並行してやっている時期があるのか。『ケロロ』とか『(ふしぎ星の☆)ふたご姫』(TV・2005年)とか、その頃の記憶は、色々ごちゃごちゃになってるんですよね。

小黒 並行してやっていたのは間違いないですね。『カレイド』が遅れていなかったとしても、『カレイド』の制作中に『ケロロ』の仕込みをやっていたわけですよね。

佐藤 そうだね。気分がダウンになった頃の具体的な記憶はないんですけど、例えば『ふたご姫』の主題歌を聴くと、その時の気分がよみがえるんですよ。

小黒 つらかった時の気分ですか?

佐藤 そうそう。「あっ、この時、つらい気分だったな」って。

小黒 分かります、分かります。僕もそういう曲があります。

佐藤 (笑)。何があったかは覚えてないんだけど、その時期なんですよね。『ケロロ』もね、2年目の主題歌なんかを聴くと、その気分がよみがえってくるんですよ。

小黒 じゃあ、精神的につらい時に作ったんですね?

佐藤 そうそう(笑)。

小黒 つらい時期の話で申しわけないですが、『ケロロ』の事を聞いてもいいですか。

佐藤 はいはい。

小黒 どうして総監督をやる事になったんですか。

佐藤 オファーはサンライズからもらったんだったかな。あの原作を「ファミリーコンテンツ」にしたかったそうなんだけど、その時、サンライズでやってる人の中には、そういったものが得意な人が見当たらなかったと。それと、あまり予算を使わないのが前提だったんです。「枚数を少なくしても面白いものを作れるのは、やっぱり東映の人じゃないか。佐藤さんなら、なんとかしてくれるんじゃないか?」という感じで呼ばれた(笑)。その2点が大きかったんじゃないかな。

小黒 ファミリーコンテンツにするというのは、原作にあるマニアックな味付けや、色っぽいところを薄味にしていくという事ですね。

佐藤 そうですね。そういう意図でオファーをもらいました。ただ、現場的な作業をガチではできないと思うので、例によって「総監督ならできると思います」とお話して、監督として山本(裕介)さんに入ってもらう事になった。山本さんはサンライズからのオファーだったはずで、僕は初対面だったと思いますね。

小黒 脚本打ちやコンテチェックは佐藤さんの役割なんですね?

佐藤 いや、1年目のホン打ちは全部、立ち会ったんですけど、コンテチェックは基本的に山本さんですね。

小黒 そうなんですね。

佐藤 最初の頃は、山本さんのチェックの後に僕が見るやり方を考えていたんだけど、早い段階で「大丈夫だ」と感じたので、山本さんにお任せしてるはずです。

小黒 なるほど。途中から総監督じゃなくて、監修になるんですが、これはどういう経緯だったんですか。

佐藤 他の作業もあったりしたので、アフレコとダビングのところだけ立ち会うぐらいの関わり方にさせてもらおうと思って、そうしたんだったかな。ホン読みは全然出なかった。コンテ、内容も含めて、それは全部お任せするとなったんだけど、後半はアフレコも問題なく進むので、立ち会うのはダビングだけになってましたね。

小黒 ダビング立ち会いではどういった事をするんですか。

佐藤 特に何をするという事もないんですけどね。完成形ができるのがダビングなので、そこは一応、観ておくと。稀に、音楽について意見を出したりしたぐらいですね。

小黒 じゃあ、主にお仕事されたのは、1年目ですか。

佐藤 そうですね。シリーズ構成の池田眞美子さんも「じゃあ、構成を辞めようかな」という感じだったので、一緒に外れたんですよね。

小黒 いや、2年目もやってるんじゃないですか。総監督としてクレジットされているのが2年目の最後までなので(編注:3年目からの役職は監修。池田眞美子がシリーズ構成でクレジットされているのも、2年目の最後まで)。

佐藤 えっ、2年目もやったかな? そうだそうだ。2年目はオリジナルの話をやんなきゃいけなくなってるので、やってますね。その後、僕が総監督を外れた時に池田さんも一緒に辞めたんだった。

小黒 作品コンセプトの話に戻りますが、原作をちょっと子供向けにして、日曜の朝に観られるようなものにしたい。

佐藤 そうですね。「ファミリー向けにしたい」っていうオーダーだったので。

小黒 キャラクターデザインを誰にするのかについては、佐藤さんも関わってるんですか。

佐藤 キャラクターデザインを追ちゃん(追崎史敏)にオファーしたのは、僕なんですよね。「誰がいい?」みたいな話になって、僕から「追崎君がいいんじゃないか」と言って。「とりあえずラフでいいので、描いて」ってお願いしたんだけど、そん時の追ちゃんが凄く忙しかったんじゃなかったかな。これは、追ちゃんに聞かないと分かんないけど。

小黒 なるほど。佐藤さん的に「『ケロロ』はこういうふうに作るべき」と思った事は他にありますか。

佐藤 子供向けだったので、「どうしようかな?」と色々考えた。最初に思ったのは、冬樹が割とニュートラルなので、もうちょっと駄目っ子にしたほうがいいかなと。のび太的なテイストを出すのが、視聴者の年齢層を下げるにはいいかなと思ったんだけど、原作の吉崎(観音)さんに提案したら、「冬樹はそういう方向ではない」という話だったので、それはやめましたね。ただ、ファミリー向けにするなら、夏美やママがグラマラスなところは避けたいなと思いました。小学校高学年ぐらいになってくると、女の子がセクシャルなものについて、ちょっと嫌悪を示したりする事もあるので。そのぐらいの年齢の子が読む少女マンガって、ほんとに胸がペタンとしてるのが普通じゃないですか。「そういうテイストに変えたいです」って話をして、吉崎さんにもオッケーいただきました。最初はママもそうするつもりだったんだけど、それをやるとキャラが全然変わっちゃうので、「ママはグラマーなままでいいか」と、元に戻してるんですけど(笑)。内容的な事を含めていくつか提案して、オッケーもらって進めていましたね。吉崎さんは「ホン読みに参加したい」という事だったので、シナリオ打ち合わせには吉崎さんも参加してますね。ただ、最初の打ち合わせに入る時に「アニメーションの最終的なジャッジは僕のほうでするので、吉崎さんの意見を却下する事もあります」という了解をもらってます。そういうルール作りをしてから、スタートしたんですよね。

小黒 別の取材でもうかがいましたけど、他には「ケロロがいい奴で、冬樹との友情に厚い」事を重視すると。

佐藤 そうですね。そこは、とにかく死守しようと(笑)。それがズレると好感度が下がって、アニメだと笑えなくなるんじゃないかという気がしたので。「2人の友情に関しては揺るぎないほうがよいはずだ」と思っていました。

小黒 視聴者が観てて安心できるものにするという事ですね。

佐藤 うん。


●佐藤順一の昔から今まで (31)『ケロロ軍曹』の話題であります!・2 に続く


●イントロダクション&目次

アニメ様の『タイトル未定』
318 アニメ様日記 2021年6月27日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2021年6月27日(日)
早朝、新文芸坐に行ってオールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクション vol.130 鬼才・今 敏の仕事」の終幕を見届ける。午前中は散歩とデスクワーク。昼はワイフと吉祥寺の肉山で、二ヶ月遅れの誕生祝い。前にこの店に来た時は、ちょっとボリュームが足りないと思ったけれど、ダイエット中としては、ちょうどいい量だ。そして、美味しい。

2021年6月28日(月)
岡田麿里監督作品『アリスとテレスのまぼろし工場』の制作が発表される(実際に発表されたのは6月27日のようだ)。特報からして素晴らしい仕上がり。平松禎史さんの役職は副監督だそうだが、これは平松さんにとっても代表作になるのではないか。
新文芸坐で「若者たち」(1967/96分/デジタル)を観る。プログラム「追悼・田中邦衛 優しさとユーモアと」の1本だ。面白い映画で、それ以上に興味深い映画だった。男4人、女1人の5人兄弟の物語で、各人のエピソードが描かれる。先に同タイトルのTVドラマがあり、これは後に作られた劇場版なのだそうだ。90分足らずの作品なのに異様に沢山のエピソードが詰まっているのはTVドラマ版の内容を圧縮しているためだろうか。ザ・ブロードサイド・フォーのヒット曲「若者たち」はTVドラマ版の主題歌であり、この劇場版でも劇中で何度も使われている(本当に何度も使われる)。さらに映画の最後で、スタッフではなく、この主題歌のクレジットがドーンと出る。こんなふうに主題歌がクレジットされるのは初めて観た。登場人物がやたらと熱い。主に田中邦衛さんが演じる長男が熱い。青春ものでありつつ、社会派であるのも、兄弟が家庭内でディスカッションをするのも新鮮だ。演出的にも面白いところがあった。TVドラマ版は1966年の放送で、自分は生まれてはいるけれど、おそらく観てはいない。ああ、なるほど、自分が知っているTVドラマの前に、こういうものがあったのね。色々と合点がいった。TVドラマの本を漁って、どのように記述されているかチェックしたい。

2021年6月29日(火)
ワイフと映画に行くつもりでチケットをとっていたのだけれど、事務所でアクシデントが発生して行けなくなった。夫婦50歳割りのチケットだったので、一緒に行って入場して、映画を観ないで事務所に戻る。

2021年6月30日(水)
アニメスタイルが「天元突破グレンラガン アーカイブス」を刊行することを発表する。予定よりずれてこの日の告知となったが、今年前半の区切りになってよかったかもしれない。
Twitterで話題になっていた「アニメ様の七転八倒 第92回 『エスパー魔美』再見 「動き出した時間」」を読み直す。よく書けているなあ。自分がこれまでに書いた原稿の中で一番いいかもしれない。

アニメ様の七転八倒 第92回 『エスパー魔美』再見 「動き出した時間」
http://www.style.fm/as/05_column/animesama92.shtml

2021年7月1日(木)
試写会で『鹿の王 ユナと約束の旅』を観る。感想はまた改めて。その後、ガード下の居酒屋に入る。2000年の「アニメスタイル」第2号で取材に使った店だ。あすけんを入力しながら呑む。塩分を過剰にしないで呑むのは難しい。

2021年7月2日(金)
グランドシネマサンシャインで「ゴジラvsコング」【IMAXレーザーGT3D字幕】を鑑賞。作品として、全肯定はできないんだけど、とにかく映像が凄い。それだけで入場料分の価値があった。事務所に戻って、山のような用事をガシガシと片づける。
『東京リベンジャーズ』未視聴分を観る。面白かったけど、これって全何話なんだろうか。

2021年7月3日(土)
午前中の散歩で北区に。雨の名主の滝公園を楽しもうかと思って、公園の前まで行ったが、倒木発生のため閉園とのこと。残念。事務所で少しキーボードを叩いた後、吉松さんと、やきとんひなた池袋東口店で呑む。リアル店舗で吉松さんと呑むのは久しぶり(念のため書いておくと、外食で酒が提供できた時期のことである)。やきとんも旨い。今回は飲食時のみマスクを外して、話す時はマスクをする「マスク呑み」だった。二人で「あすけん」を入力しながら注文した。あっという間にカロリーも塩分も大変な数字になる。

第215回 21世紀の青春 〜Free!〜

 腹巻猫です。1977年に放送された日本アニメーション制作のロボットアニメ『超合体魔術ロボ ギンガイザー』のデジタルアーカイブ化をめざすクラウドファンディングがスタートしています。筆者にとっても、サウンドトラック・アルバムの企画・構成を手がけた思い出深い作品。実現を祈りたいです。支援募集は11月5日まで。詳細は下記を参照ください。

超合体魔術ロボ ギンガイザー 全28話保存プロジェクト
https://readyfor.jp/projects/ginguizer-2021


 『劇場版 Free! -the Final Stroke-』前編が9月17日からロードショー公開される。2013年から放送されているTVアニメ『Free!』の劇場版である。
 今回は、その『Free!』の音楽を聴いてみよう。
 『Free!』は2013年7月から9月まで放送されたTVアニメ。おおじこうじのライトノベル『ハイ☆スピード!』を原案に、監督・内海紘子、アニメーション制作・京都アニメーション、アニメーションDoのスタッフで映像化された。
 小学生時代に同じスイミングクラブに通っていた4人の少年、七瀬遙、橘真琴、松岡凛、葉月渚。小学校卒業前に水泳大会のメドレーリレーで優勝したのを最後に、4人はそれぞれの道へ進んでいた。水泳競技から離れていた遥は、高校2年の春に偶然、凛と再会。勝負を挑んできた凛とプールで対決するが、僅差で破れてしまう。それをきっかけに4人の止まっていた夏が動き出す。
 水泳競技を題材にしたスポーツ青春アニメ。かつてともに汗を流した少年が、成長してライバル同士になり、競技で対決する……という王道パターンをふまえているように見えて、実は勝敗には重きが置かれていないのが本作の特徴。ドラマの主軸は少年たちの友情である。
 2014年にTVアニメ第2期『Free! -Eternal Summer-』を、2018年に第3期『Free! -Dive to the Future-』を放送。劇場版もこれまで4作が公開されている。息の長い人気作品だ。

 音楽は第1作から一貫して加藤達也が担当している。加藤は1980年生まれ。父がレコード会社に勤務していたことから幼少時より洋楽に親しみ、少年時代からバンド活動や作曲を開始。東京音楽大学音楽学部に進学し、作曲指揮専攻 映画放送音楽コースで学んだ。卒業後、三枝成彰のアシスタントを経て作曲家デビュー。これまで、『聖痕のクェイサー』(2010)、『境界線上のホライゾン』(2011)、『食戟のソーマ』(2015)、『ラブライブ!サンシャイン!!』(2016)、『キラッとプリ☆チャン』(2018〜2021)、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(2018/藤澤慶昌と共作)など、多くのアニメ作品の音楽を手がけている。
 水泳を題材にしたアニメの音楽となれば、スピード感のあるリズムに流麗なストリングス、ピアノの高音できらめきを表現した爽快なサウンド……みたいなイメージが思い浮かぶ。
 が、21世紀のスポーツ青春アニメである本作の音楽は、実に現代的。「今、スポーツ青春アニメの音楽を作るとこうなるのか」とうならせるサウンドになっている。
 加藤達也の証言によれば、のどかな田舎の港町を舞台にしたアニメなので、ほんわかした曲を書けばよいのかと思っていたら、打ち合わせで監督からは提示されたのは「モダンでポップな作品」というコンセプト。それを受けて、音楽作りは「POPさ、オシャレ感、軽快感、そして通常の劇伴音楽とは一味違うトンガッた音楽」をコンセプトに挑んだという。ダンスミュージック的なリズムやデジタルサウンドを積極的に取り入れて、モダンでポップな音楽を聴かせてくれる。
 本作を象徴する楽曲が3つある。
 ひとつは物語の舞台となる港町をテーマにした「Rhythm of port town」という曲。加藤達也によれば、この曲が「全体の方向性を示した曲」になったという。「のどかな田舎の港町の雰囲気」から思い切って離れた、ポップで都会的な曲に仕上がっている。それでいて、温かい生活感もほのかに漂わせているあたりがうまい。
 もうひとつは、遥たちが立ち上げる岩鳶高校水泳部のテーマ「Melody of ever blue」という曲。本作の音楽はメロディよりもサウンドやリズムで聴かせるタイプの曲が多いのだが、この曲は、明解なメロディをオーケストラが力強く奏でる、ストレートな「青春アニメ!」という雰囲気の曲。同じメロディは劇中の感動的なシーンに流れる曲「Night sky & ever blue」にアレンジされ、また、歌詞をつけて、第12話のエンディングテーマ「EVER BLUE」にもなった。本作のメインテーマと呼べる曲である。
 そして3曲目は、本作の要となる「泳ぎ」を表現した曲「Brilliant swim」。
 競技の緊張感とスピード感、水を切って泳ぐ浮遊感や爽快感、飛び散る波しぶきと泡のきらめき。さまざまな要素を表現する音がひとつにまとまり、聴いていると水の中を進んでいるような気分になる。
 実はこの曲が流れるシーンは多くない。第2話で遥と凛がプールで泳ぐシーンと第12話で遥たち4人が県大会のリレーで泳ぐシーンの2回使われただけである。しかし、いずれも重要なシーンであり、特に第12話はクライマックスシーンに長く使われているので、本編を観た方は深く印象に残っているはずだ。本作を代表する楽曲のひとつと言えるだろう。
 本作のサウンドトラック・アルバムは2013年10月に「TVアニメ『Free!』オリジナルサウンドトラック Ever Blue Sounds」のタイトルでランティス(現・バンダイナムコアーツ)から発売された。2枚組、全64曲収録のボリューム。主題歌のTVサイズや予告用音楽、PV用音楽なども収録された完全版である。
 ディスク1から聴いてみよう。収録曲は以下のとおり。

  1. Rage on (TV size) / OLDCODEX
  2. A boy in the water
  3. Taste the satisfaction
  4. Rhythm of port town
  5. Innocent boy
  6. Revelry of student
  7. Funny group
  8. Woe is me!
  9. Formal horror
  10. Old days
  11. Words that changed my life
  12. Aggressive groove
  13. Diving & Spray
  14. Sparks crackled
  15. Great nostalgia
  16. To depths of blue
  17. Painful incident
  18. Analysis mania
  19. Comical theory
  20. Otoboke time
  21. Timid boy
  22. Strong rival team
  23. Rival and friendship
  24. Let’s go to camp
  25. Enjoy the tropical
  26. Beautiful sea
  27. Dangerous situation
  28. Crisis of life
  29. Memory of the past
  30. I need you
  31. Night sky & ever blue
  32. Melody of ever blue

 アルバム全体の構成は、ディスク1が前半(1〜6話)のストーリー、ディスク2が後半(7〜12話)のストーリーをイメージした内容。
 物語の前半は水泳競技のシーンはほとんどなく、遥たちが水泳部を立ち上げ、新入部員を勧誘し、練習を重ね、チームの絆を深めていく過程がユーモアをまじえて描かれる。同じ京都アニメーションが制作を手がけた『けいおん!』や『響け!ユーフォニアム』を思わせる「部活もの」の雰囲気が楽しい。
 そのため、音楽も日常シーンを彩る明るい曲やコミカルな曲が多め。競技シーンに流れるスポーツものらしい曲はディスク2にまとめて収録されているため、「いちばん『Free!』らしい曲が出てこない」と感じるかもしれない。しかし、ディスク1に収録された曲の多くは物語の後半でも多用されている。まったりと作品世界に浸ることができる内容なのである。
 オープニング主題歌に続く2曲目「A boy in the water」は第1話のアバンタイトルに使われた導入の曲。「水は生きている……」という少年時代の遥のモノローグとともに流れた。シンセとピアノで水のイメージを表現したSE的な曲だ。
 トラック3「Taste the satisfaction」からは、遥たちの日常を描く曲が並ぶ。水泳部の練習シーンなどに流れる軽快な「Taste the satisfaction」、町の情景をさわやかに描く「Rhythm of port town」、とぼけたシーンによく使われた脱力系の「Innocent boy」、はじけたラテンムードの「Revelry of student」などなど。ポップなリズムを生かした曲が多く、曲調もバラエティに富んでいて飽きさせない。
 トラック9「Formal horror」は第1話で遥たちが夜のスイミングクラブを訪れる場面に流れた曲。ホラー映画音楽風の曲調がくすっとさせる。
 トラック10「Old days」は曲名通り、回想シーンにたびたび使われた曲。ピアノとアコーディオンなどがノスタルジックに奏でる青春アニメらしい曲である。
 次の「Words that changed my life」はピアノとストリングスによる心情曲。リリカルなメロディが胸にしみる。遥たちの想いを表現する曲として、全編を通してよく使われた。これも、本作を代表する楽曲と言ってよいだろう。
 トラック12からは、遥と凛の再会と、ふたりの対決場面に流れる曲が続く。凛の登場シーンに流れるヘヴィなロック「Aggressive groove」、ふたりの高揚した感情を表現する「Diving & Spray」と「Sparks crackled」。「Sparks crackled」は、以降のエピソードでも遥と凛の対決シーンに使われている。緊張感とともに、ちょっとユーモラスな空気がただよう曲である。この絶妙な味の出し方がうまいなあと思う。
 トラック15「Great nostalgia」は、ギターとストリングスにコーラスが絡む、さわやかでノスタルジックな曲。遥たちの友情を表現する曲としてよく使われた。「Words that changed my life」とともに、本作の青春ドラマの側面を支えた曲である。
 トラック18の「Analysis mania」は、渚に勧誘されて水泳部の仲間に加わる竜ヶ崎怜のテーマ。理論を重視する頭脳派で、その理屈っぽい性格が音楽でもコミカルに描かれている。続く「Comical theory」「Otoboke time」も怜がらみのシーンで使われたユーモラスな曲だ。
 トラック24からは第5話と第6話で描かれた水泳部の夏合宿をイメージした曲がまとめられている。合宿への期待感やキャンプの楽しさをラテンのリズムで表現する「Let’s go to camp」、トロピカルムードの「Enjoy the tropical」「Beautiful sea」。一転して、緊迫した曲調で嵐の海の危機を描く「Dangerous situation」「Crisis of life」と続く。
 トラック30「I need you」は、第6話、夜の無人島の洞窟で、渚と怜、真琴と遥が語らう場面に流れた、やさしい心情曲。ピアノとストリングスが、4人の心が通い合う様子をしっとりと描写する。使用されたのはこの回だけだが、少年たちが絆を深めていくシーンに流れて忘れがたい曲になった。
 トラック31「Night sky & ever blue」は、第6話で、遥、真琴、渚、怜の4人が夜空いっぱいの星を見上げる感動的な場面に流れた曲。ピアノとストリングスが奏でるメロディが4人の友情を歌い上げる。本作の音楽の中ではオーソドックスな「ベタな曲」と言えるかもしれないが、そこがいい。この曲は、第4話で凛の妹・江が遥に「なんのために泳いでいるんですか?」とたずねる場面や、第11話で遥と渚が夜の公園で語らう場面にも使われた。
 ディスク1のラストは、本作のメインテーマと呼べる「Melody of ever blue」。劇中では、第8話で遥たち4人がメドレーリレーを泳ぐ場面に流れている。

 ディスク2は、先に紹介した「Brilliant swim」からスタート。「Strong swim」「Swim toward the hope」と「泳ぎ」をテーマにした曲が続き、以降もクライマックスに向けた曲が並ぶドラマティックな内容。
 最終回(第12話)では映像に合わせたフィルムスコアリングで新曲が制作されている。長いシーンに合わせて流れる「Real feeling」と「Feelings and emotions」は聴きごたえたっぷり。曲の中には、ディスク1に収録された「Words that changed my life」「Melody of ever blue」のメロディが登場する。そのメロディを聴くと、さまざまなシーンが頭の中をよぎり、じーんとしてしまう。溜め録りとフィルムスコアリングの組み合わせでドラマを盛り上げる音楽演出もうまい。
 『Free!』第1作で作られた楽曲のメロディは、以降のシリーズでもアレンジされて再登場する。キャラクターとともに音楽も成長しているのだ。
 21世紀のスポーツ青春アニメ『Free!』。音楽はオシャレでポップ。けれど、シンプルでオーソドックスな楽曲もしっかりとドラマを支えている。新作映画も音楽に注目しながらお楽しみいただきたい。

TVアニメ『Free!』オリジナルサウンドトラック Ever Blue Sounds
Amazon

佐藤順一の昔から今まで(29) 『カレイドスター』の すごい 思い出・3

小黒 その後、『カレイドスター』のOVAが2本ありますが、お話としてはTVで完結しているじゃないですか。

佐藤 うん。そうですね。

小黒 でも、描けるならもっと描きたいみたいな感じだったんですか。

佐藤 そうでしたね。TVシリーズ本編のほうに自分のカラーが出すぎているので、1本目はそうじゃないものが観たいなと思って、和田さんにまるっとやってもらったんだよね(編注:OVA『笑わない すごい お姫様』で和田高明は絵コンテ、演出を担当した上に、音地正行と共同で作画監督を担当。原画も描いた)。

小黒 ロゼッタの話ですもんね。

佐藤 そうです。ロゼッタの話を好きなようにやってもらおうかな、と思って。結構好きなようにやってくれて、それはそれで和田さんらしくて面白かった。2本目のほうは、池田東陽が成立させたんだと思うんだけど、「本編の映像をBANKで使いながらひとつの話を作れない?」という感じのスタートラインから始まったものだったかな。

小黒 『カレイドスター Legend of phoenix ~レイラ・ハミルトン物語~』(OVA・2005年)ですね。

佐藤 総集編的なものなんだけど、それでOVAになんないかな? みたいなとこからスタートしてるんですね。だから、過去映像を大分使っているんですけど、玲子さんに書いてもらっただけあって、思ったよりちゃんと新作になった。

小黒 完成した作品は回想部分もありますが、新作部分がメインになっていましたよね。

佐藤 そうそう。全体の尺はこれで新作部分はこのぐらいという条件で作る事になったんだと思うんですけど。どこで切り替わったのかは、あんまり詳しく覚えてないですね。

小黒 ここで話はいきなり30年くらい前に飛ぶんですけども、佐藤さんが「島本和彦さんの『仮面ボクサー』をアニメにしたい」と言ってた事があって。

佐藤 マジっすか!?

小黒 マジっすよ。

佐藤 記憶にないです(笑)。

小黒 時期的に言うと、『ビックリマン』か『悪魔くん』の頃だったのではないかと。

佐藤 ああ。

小黒 「あれをアニメにできないかと思うんだけど、編集部の担当さんは分からないかな」と言われたんですよ。僕が「アニメージュ」で仕事をしていて、「仮面ボクサー」の連載が、同じ徳間書店の「月刊少年キャプテン」だったんですよね。それで「仮面ボクサー」の担当さんの電話番号を教えた覚えがあります。

佐藤 当時は東映にいたから、やったとしたら東映の企画部に企画を持っていってるはずですね。

小黒 そうですね。作品のかたちにはならなかった。

佐藤 覚えてないや。企画書を一瞬見た記憶があった気がしたけど、それも気のせいかもしれないです。

小黒 でも、「仮面ボクサー」は好きだったわけですね?

佐藤 そうね。今、言われるまで忘れてましたけど(笑)。島本和彦さんの作品は好きなノリだったので。

小黒 『カレイドスター』の仮面スターは、全然、島本ノリじゃないんだけど、名前が「仮面ボクサー」っぽい(笑)。

佐藤 「仮面ボクサー」があったから仮面スターをやったわけではないと思うんですけど(笑)。仮面スターは、玲子さんのアイデアかなあ。

小黒 レイラさんにしては、ちょっとはっちゃけてますよね。

佐藤 そうですよね。もしかしたら「そろそろ仮面のキャラがほしい」みたいな事を言ったのは、池田だったかもしれないですね(笑)。「やっぱ仮面じゃないスか」みたいな事を。

小黒 あっ、タキシード仮面的な意味で?

佐藤 そうそう(笑)。

小黒 ほんとかなあ?(笑) だけど、池田さんならそのぐらいの事は言ってもおかしくないですね。

佐藤 (笑)。

小黒 その後は、池田さんとはどうだったんですか。

佐藤 『カレイド』の後、「やっぱりもっと一緒にやりたいね」って話はあったので、機会があればと思ってやってましたけど。ずっとベタでやってるわけではないので、折に触れ、ぐらいの感じで。

小黒 以下の話は、このインタビューで記事として活かす必要はないんですけど、池田さんが亡くなった時に、みんながあんまり驚かなかった。

佐藤 はいはい。

小黒 イベントでも「死んじゃったね、バーカ」みたいなノリだったと思うんですが、あれはどうしてだったんですか。

佐藤 いや、体調悪そうなのにガールズバーに行くし、ずっとバーボンかなんか持って歩いてる奴だったので(笑)。

小黒 なるほど。

佐藤 まあ、愛情込めて「バーカ」と言ってました。みんな、嫌いではない。「お前の事は大好きだったよ、馬鹿野郎」っていうやつですよ(笑)。

小黒 池田さんが亡くなる前のことですが、楽屋での世間話で印象的だった事があります。イベントが始まる前に、池田さんはどれだけ自分の体、生活がボロボロかという話をしていたんですよ。それを聞いて僕はかなり驚いて。イベントが始まってからも、僕はそのイベントに気持ちが入らない、みたいな事がありました。

佐藤 (笑)。体調悪そうなのは、見てても分かったので、「大丈夫かよ?」って言うんだけど、飲むのをやめないので、もうどうしようもなかった。

小黒 顔色悪かったですものね。

佐藤 うん。後になってみるとね、「ああ、これが原因かな」というものは色々と分かるんだよね。会社を興して、色んな人の責任を背負い込まざるをえなくなった事もあったので、そこは大きいんじゃないかなあ、とは勝手に思ってるけど。

小黒 なるほど。でも、愛すべき人物だったという事は、語り継いでいきたい感じではありますね。

佐藤 そうですね。今までにも何度か言ってるんだけど、池田東陽がいなかったら、僕もあそこまで『カレイドスター』に没頭しなかったと思うんですね(笑)。

小黒 ああ。

佐藤 普段なら、ちゃんと距離をとって作っただろうと思うんだけれども、「やんちゃな熱意にやっぱ応えていきたいな」という変なスイッチが入っちゃった事は確かです。

小黒 池田さんはエンカレッジフィルムズを立ち上げて、ほどなく亡くなられたんでしたっけ。

佐藤 『おんたま!』とか、作品をいくつかやってはいるので、作ってすぐではなかったですよね。『(絶滅危愚少女)Amazing Twins』(OVA・2014年)っていう作品をやり始めたぐらいの頃だったんだよね。

小黒 分かりました。池田さんの事は語り継いでいきましょう。池田さんは面白い人物でした。

佐藤 うん。


●佐藤順一の昔から今まで (30)『ケロロ軍曹』の話題であります! に続く


●イントロダクション&目次

アニメ様の『タイトル未定』
317 アニメ様日記 2021年6月20日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2021年6月20日(日)
15時からSkype打ち合わせ。取材の予習で『謎の彼女X』を1話から観る。久しぶりの視聴であり、新鮮だ。自分の思い入れは置いておいて、アニメ『謎の彼女X』のカラーは卜部美琴のキャスティングで半分くらいは決まっているなあ。アニメ版の方向性を反映したキャスティングともいえるんだけど。

2021年6月21日(月)
自分が住んでる辺りでは、この日からコロナワクチン接種の申し込み受付が始まった。行きつけの病院の始業時間に電話をしたら「今すぐ、来て」と言われる。クーポン券を持って病院に行って、申し込みをする。
緊急事態宣言からまん延防止等重点措置へ移行して、外食で酒を飲むことができるようになった。午前中の散歩で東池袋と西池袋の飲み屋の店頭を見て歩く。営業を再開する店もあれば、6月いっぱい休みの店もあり、7月11日まで休む店もあり。
本放送時にも同じことを思ったはずだけど、『謎の彼女X』を観ていて「あれ、この回、なんだか違うぞ」と思ったら、山内重保さんの演出回。役者の芝居も他の回と違うような。最終回についてはまとまりがいいんだけど、こんなにまとまりがよくていいのか、というあまり他の人に共感してもらえない気持ちで終幕。
仕事で20数年前のあるアニメのレイアウトや原画を見ている。この作品のレイアウトや原画は当時も見ていて「レイアウトでこんなに修正を入れて、また原画で修正を入れるの?」と思ったものだけど、今となっては、レイアウト時のラフ原画があっさりしていて、見ていてホッとする。ラフ原画がこのくらいラフでも、きちんと原画が上がっているものなあ。
夕方、営業を再開した築地食堂源ちゃん東池袋店に。ホッピーを飲むのは4月24日以来だ。

2021年6月22日(火)
午前1時に出社して「シン・エヴァンゲリオンのオールナイトニッポン」を聴きながら作業をする。散歩や原稿作業を挟んで、昼にグランドシネマサンシャインで『宇宙戦艦ヤマトという時代 西暦2202年の選択』を鑑賞する。正直言うと、シリーズの『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』よりも面白かった。シリーズを観ているから感じられる面白さであるはずだけど。取材の予習で『宇宙兄弟#0 小山宙哉 Special Edition』を観る。『宇宙兄弟』の各話も少し観る。

2021年6月23日(水)
午前中はデスクワーク。午後にワイフと『漁港の肉子ちゃん』を観る。自分はネット試写に続いて二度目の鑑賞。その後、ワイフと居酒屋に。たっぷりと食べて吞む。
取材の予習で『MAJOR 2nd』第2シーズンの最初のクールを視聴。第2クールはポイントの回だけ観る。『団地ともお』も視聴。渡辺歩監督がコンテを描いた39話B「巡りゆくともお」がかなりよかった。
「パネルクイズ アタック25」が今秋で終了することを知った。生活パターンもっと余裕のあるものにして、日曜の昼にワイフとのんびりと「新婚さんいらっしゃい!」と「パネルクイズ アタック25」を観られるようになりたいと思っていたのだけれど、その夢が叶うことはなかった。

映像ソフト市場において、配信の数字がパッケージ販売・レンタルを合算した数字を上回ったそうだ。これから、作品が目的とするものや、何をもって作品の成功とするかが変わっていくはずだ。それは作品の内容にも影響する。

2020年映像ソフト市場6874億円、配信がパッケージ販売・レンタルを逆転(アニメーションビジネス・ジャーナル)
http://animationbusiness.info/archives/11523

2021年6月24日(木)
午前1時に出社し、午前4時まで次の次に作る書籍のための作業。取材の予習で『団地ともお』を数本観た後、『彼女がフラグをおられたら』の最初の6話分とラスト3話を観る。『彼女がフラグをおられたら』は本放送時に1話を観て、それ以降は未見だったけど、予想よりもずっとよかった。終盤は「えっ、こんな展開になるの」という感じだった。『漁港の肉子ちゃん』の原作にも目を通す。

2021年6月25日(金)
取材の予習で『恋は雨上がりのように』『大きい1年生と小さな2年生』、『ドラえもん』の「あの窓にさようなら」「45年後…未来のぼくがやってきた~」等を観る。『恋は雨上がりのように』については、渡辺歩監督自身がどう思っているかは分からないけど、渡辺さんの持ち味が原作にストンと綺麗に落とし込めている感じ。『漁港の肉子ちゃん』のパンフレットにも目を通す。
午後は「この人に話を聞きたい」で渡辺歩さんの取材。彼がこのコーナーに登場するのは、なんと21年ぶり。『漁港の肉子ちゃん』の話を中心に聞いて、他の作品についてはポイントのみを聞くかたちしようかと思っていたが、取材が始まってから、個々の作品についてきちんと聞いたほうがいいと分かり、21年分のほぼ全ての仕事についてうかがうことにした。長い付き合いだけあって「この作品は本人とってこういう位置づけなのだろう」という予想が、ほぼ当たっていた。和やかに取材は終了。

2021年6月26日(土)
早朝と午前中に散歩。散歩時にANIMEX 1200シリーズの「(45) テレビオリジナル BGMコレクション 宇宙刑事ギャバン (限定盤)」「(46) 宇宙刑事シャリバン 音楽集 (限定盤)」「(47) 宇宙刑事シャイダー 音楽集 (限定盤)」を聴く。
昼間は原稿作業。夜はオールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクション vol.130 鬼才・今 敏の仕事」を開催。トークのゲストは丸山正雄さんと平尾隆之さん。今回もトークは充実したものとなった。

第722回 美味しいと圧巻!

白泉社のミスター・ベルセルクこと島田明様、
招待頂きありがとうございます!

で、会場内はとにかく「圧巻!!」の一言。三浦建太郎先生は凄えですっ! 月並みな言い方だけど、やっぱり生の画は迫力が違う! 三浦先生の生原稿の数々を見て、自分が漫画に挫折した理由がはっきり分かりました。いや、何度も話題にしたと思うのですが、小・中学校の頃の板垣の夢は「漫画家になること」で、高校までは普通にペン入れして漫画を描いてました。それこそ受験勉強もせずに。でも、どうしてもペン入れしてる途中でその時描いてるネタ(お話)に飽きてしまい、さらにペン入れするも己の画自体が気に入らなくなってまた白紙から、の繰り返しでした。そんな俺と違い三浦先生は毎ページ毎ページ頭に思い描いた像と同じクオリティのものを紙の上に再現できたのだと思います。ニコ・ニコルソン先生の「マンガ道場破り」において三浦先生が「画を描くのが快楽で快楽で苦痛に思ったことがない」と語られてますし、自分も三浦先生御自身から同じ台詞を聞きました。生の画を見ると正にそのことがよく分かり、板垣には到底それが出来なかったのだと─。ま、そりゃただ単に俺に才能が無かっただけの話なんですが、本物の天才の仕事を見て改めて痛感した日だったということです。

佐藤順一の昔から今まで(28) 『カレイドスター』の すごい 思い出・2

小黒 『カレイドスター』が佐藤さんの歴史の中でもちょっと異色なのはですね、TVシリーズなのに、動かさないと成立しない作品だという事ですね。

佐藤 ああ。

小黒 『プリンセスチュチュ』も、ちゃんとバレエをやらないといけない企画なので近しいところはありますね。『カレイドスター』は肉感を出す感じの演技が必要なシリーズでした。

佐藤 はいはい。

小黒 1話とか、顕著ですよね。

佐藤 そうですね。1話はそんなに枚数をかけるコンテではなかったんだけど、和田高明さんとかが鬼のように動かして(笑)、ああなっているんだと思います。

小黒 なるほど。

佐藤 それはね、『ゲートキーパーズ』の時に思ったんですよ。『ゲートキーパーズ』で自分がコンテを描いた回で、コンテだと自動車がスライドで入ってくる想定のカットが、スピンして止まるみたいな画になってるんです。それで、オッケーになってて。誰か怒るわけでもないし、制作が困るわけでもない(笑)。

小黒 演出家が始末書を書かなきゃいけないわけでもない。

佐藤 わけでもないし、むしろ、それを評価してる感じもあって、「なんか住む世界が違うな」と思って(笑)。だから、「ガリガリと止めるみたいな事は求められてないんじゃないかな」とは思ってやってるかも。

小黒 今、和田さんの名前が出ましたね。他の方の回も動いていましたけど、和田さんはちょっと特殊でしたね。

佐藤 和田さんは別枠感がありましたね(笑)。色々勉強にもなりましたけど。原画1枚だけ見ると全く分からないんだけど、動くと「こういう動きなんだ」って分かるんです。全然画は違うんだけど、動かさないと分からないという意味では、尾鷲(英俊)さんとかと似ていたかもしれない。

小黒 ここで佐藤順一、生まれて初めてのスランプがあったわけですね?

佐藤 ええ、そうですね(笑)。正確には『カレイド』の後です。

小黒 まず、『カレイド』で物凄い量のコンテを描かれた。7週連続、佐藤順一コンテみたいな事があったわけですね。

佐藤 うん。やらざるをえなくなった。

小黒 前も聞きましたけど、何故なんですか。

佐藤 そうね。2期ですね。時期は迫ってくるんだけれども、2期をやるという正式なゴーが出なくて。流石にこれ以上待てなくなったので、「駄目だったらそん時に言ってくれればいいから、今はとにかくゴーと言ってくれ」という事でスタートしたけど、やっぱり時間が足りなくて、コンテを発注するのに必要な期間が取れない。「コンテを1週間で上げて」という感じだった。とりあえず頭のほうは自分でやるしかないな、となって。

小黒 他の方にコンテを描いてもらうよりも、自分で描いたほうが早いと判断したんですね。

佐藤 そうです。その頃になると、上がってきた他の人のコンテに多めに手を入れて全体の調整をするかたちになっていたので、なんだかんだで凄く作業本数が多くなってしまった。

小黒 第1期の2クール目、14話から26話までも、ほぼ毎週佐藤さんの名前が出ていますね。

佐藤 そこもスケジュールが詰まってきてて。ちょうどその頃だと、「流石にこの動きまくってるコンテだと間に合わないよね。内容から見直して、動かないコンテにしないと」と言って、直した話数も何話かあるんですよ。少しでもカロリーの低いコンテにするために、話の構造から変えた回が何回かあります。

小黒 なるほど。コンテの段階で、話を変えて動きを減らした、という事ですね。

佐藤 そうですね。

小黒 コンテマンが2人連名で出ている場合は、他の方が描いた絵コンテを半分ぐらい描き直したという事でしょうか。

佐藤 そういうケースもあるし、AパートとBパートで担当を割ったケースも混ざってます。それとは別に、さっき言ったように1回上げていただいたものを、制作上の都合で内容を変えなきゃならない時があって「そういう事情でコンテ直すんです。申し訳ないです」という話をして、直させてもらって連名にしたものもあります。

小黒 なるほど。

佐藤 修羅場が続く作品ではあったので、色んな事がありました(笑)。

小黒 佐藤さんが監督した作品で、こんなにご自身で絵コンテを描いたものはないですよ。

佐藤 ないでしょうねえ。大体、そんなに自分でコンテをやらないと気が済まないタイプではないので(笑)。前にも言ったように『チュチュ』でも上がったコンテに、相当手を入れてはいるんです。それは伊藤郁子さんのイメージが後から膨らんで、内容を修正した結果、次の話数も修正しなきゃなんなくなっちゃった、みたいな事があって。手を入れている物量は多いですけど、『カレイド』とはちょっと事情が違う感じなんですね。

小黒 なるほど。キャラクターについてもうかがいます。子安(武人)さんのやったフールのコミカルな感じは、佐藤さんの持ち味が出ていると思ってよろしいんでしょうか。

佐藤 そうですね。ああいうのは、やっぱり楽しいので。『チュチュ』の猫先生と同じ立ち位置ですよね(笑)。なんか膨らませやすいというか。

小黒 あと、ケンですね。延々と引っ張る、ケンのがっかりギャグ。

佐藤 (笑)。そうそう。ああいうの好きなので。弄られキャラがいると、ほっとするじゃないですか。

小黒 お話に関しても、キャラクターに関しても、なんの違和感もなく気持ちよく作れた、と。

佐藤 『カレイド』は、そうですねえ。「没頭するってこういう事かな?」と思うくらいにやっていました。あまり自覚していないけど、奥さんに「『カレイドスター』の頃は全然、家に帰ってこなかった」と言われたので、そうなんだよね(笑)。

小黒 なるほど。

佐藤 スタジオでコンテ中に痛風に襲われたので、近くのコンビニで1キロの氷を買ってきて足を冷やしながらやったりとか。

小黒 痛風対策で足を冷やした?

佐藤 そうそう。医者に行く時間がなかったので、とりあえず足を冷やしてなんとか乗りきる、みたいな。

小黒 ああ~。

佐藤 歯が痛い時に新宿の24時間開いてる薬屋を探して、そこで「新今治水」という歯痛の薬を買ってきたのも、『カレイド』の間の出来事なので。確かにずっとスタジオにいた可能性ありますね(笑)。

小黒 スランプの話に戻りますが、その後、コンテが描けなくなっても不思議はないぐらい、熱中してやっていたんですね。

佐藤 そう。『魔法使いTai!』の時も似た感情があったんだけど、『カレイドスター』が終わった時に「あっ、そらの演技がもう描けない」と思ってしまって。「そらが描けない」っていうのが、結構大きかった。

小黒 喪失感があったんですね。

佐藤 そうそう。

小黒 佐藤さんにとっては、キャラクターの芝居を描く事が、一番大事な事なんですね。

佐藤 そう。芝居というよりも、そのキャラクターを描いてる事が、なんかね、喜びになってるんですよ(笑)。「もっともっと描きたいな」っていう感じになってるんですね。

 それが終わったのと同時に、別の喪失感も沸いてきたんですよ。「俺って、周りから必要とされてないんではないだろうか?」みたいなものがゴソッて出てきて。

小黒 ええっ!?(笑) 「俺って、そんなに大した奴ではないのでは?」みたいな?

佐藤 「大した奴」というか「自分なんて、いてもいなくても同じじゃない?」みたいな感じというか。なんだろうね? ちょっと適切な言葉が出ないんだけど。

小黒 それが佐藤さんのスランプだったんですね。立ち直るまでに1年くらいかかったんでしたっけ。

佐藤 そう。飲み会に行ってみたり、色々やってみたりしながら(笑)。

小黒 ありましたねえ! あの頃、僕も、佐藤さんに飲みに誘われました。

佐藤 そうそう。駄目な飲み会を繰り返す、みたいなやつ(笑)。

小黒 佐藤竜雄さん達と順一さんとで飲みました。

佐藤 竜雄さんと凄く飲む機会が多かったの、あの頃ですからね。

小黒 なるほど、なるほど。

佐藤 みんなが心配してくれたのか、分かんないけど……。


●佐藤順一の昔から今まで (29)『カレイドスター』の すごい 思い出・3 に続く


●イントロダクション&目次

第721回 40代後半の色々

 たぶん誰でもそうだと思うのですが、20代の頃は「まさか自分が40歳になる」なんて夢にもおもわず、特に男に生まれたなら「将来、自分は何かの天才として世間から認められるはず!」と信じて疑わなかった10~20代があったという人は多いのでは?
 自分も幼少期から周りの人より少々絵を描くのが好きで、小・中・高と図画工作・美術の成績はそれなりに良かったし、今でもその延長で食えてるわけなので、それだけで十分幸せなんだと50歳を目の前にして更にそう思うようになりました。白状すると30代の頃までは自分も人並みに「何か人から評価される作品が必ず作れるはず」と張り切ってみたりもしたのですが、30代後半過ぎたあたりから、

はい、自分の才能はここまで!
てか、むしろ今まで良くやったよ……(ため息)

と、ある種の諦観みたいな気持ちになってきて、正直気が楽になりました。この連載を初期から読み続けている方——そんな人いないかも知れませんが、もしいたなら中には気づいて下さる方がいらっしゃるかも知れません。『てーきゅう』(2015年)以降、俺が知り合いや友人関係に仕事をお願いすることが極端に減っているということに。それは自分にとって当然の価値観(?)で、つまり、

皆、歳相応──それぞれの作品でメインを張ってるのにそれを置いて、現状の自分の作品を「手伝ってくれ!」なんて言えないし、言う資格がない!

と本気で思ったんです(今も思ってます)。そう言う意味で『てーきゅう』はそれまでの作品づくりのスタイルをリセットするつもりで取り組みました。キャラから音響監督までできる限り自分一人から再出発するつもりで。ミルパンセも知人を誘ってスタッフを引っ搔き集めるのではなく、自分に付き合ってくれるスタッフをド新人から自ら育てる。結果、いくら現場的に頑張って作った作品でも世間の評価が付いてこなかったら、それなりのところで辞めていくスタッフもいます。その際は止めもしないで、むしろ「今までありがとう!」——です。だって、自分も若い頃、数々の不義理を顧みずテレコムを辞めた身なので、俺に対する信頼値が無くなったなら、今度は逆に辞めていかれて当然。因果応報。また新人を育てればそれで良し。そんな考え。
 あと、良く自分、新人との面談で言うのですが、

誰でも数ある内の一つは必ず夢が叶うものだ!

と信じてます。そりゃあ全ての人が第一希望の夢が叶うわけありません。そういう意味ではなく、例えば板垣の場合「アニメ監督になりたい」夢は叶いました。それで本来十分幸せなはずなんです、普通の人なら。ただそこに身の程わきまえず「アニメ監督になった上で、評価もされたい!」と二つ目の夢(欲)を重ねるなら、年齢相応の努力が必要。更に「アニメ監督になった上、オリジナル劇場アニメを作らせてもらえて、世界中の賞を総なめし、ボロ儲け! そして褒め讃えられたい!!」と三つ以上になるとそれこそ天才な人。

なのです。だから自分は次のシリーズの準備をしつつ、社内の若手と一緒にグロスのお手伝いや原画描き&指導をする日々が何年も続いているし、監督やらせてもらえるだけで幸せな事なのでしょう。権威もお金も無く不自由することも多い——けどなぜか、最高の「自由」を感じています。

アニメ様の『タイトル未定』
316 アニメ様日記 2021年6月13日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2021年6月13日(日)
午前中は散歩とデスクワーク。昼は吉松さんとSkype飲み。あすけんにデータを入れつつ、宅配のピザと缶ハイボールをいただく。呑む機会が減ったせいか、酒に弱くなった。『閃光のハサウェイ』をBlu-rayで観る。劇場で衝撃を受けたカットについて確認する。
散歩時に「Gメン’75 MUSIC FILE」「FOREVER SERIES 勇者ライディーン」「勇者ライディーン オリジナル・サウンドトラック」を聴く。

2021年6月14日(月)
『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』のチケットが取れたので、グランドシネマサンシャインに。12日(土)から配布が始まった公式謹製36P冊子「EVA-EXTRA-EXTRA」(通称・シンエヴァの薄い本)をゲットする。薄い本と呼ばれるだけあって、同人誌的な作りだけれど、内容はかなり充実。イラストもいいし、前日譚の漫画「EVANGELION:3.0(-120min.)」は『新劇場版』のエピソードのひとつとして、きちんと成立している。今回のように漫画のかたちでよいので、他の空白期間の出来事も発表してくれると嬉しい。
この日の作業のメインは編集中の書籍の進行。他は新しい書籍の企画書を書いたり、それとは別の企画について連絡を取り合ったり。さらにイベントの準備を進めたり。

2021年6月15日(火)
午前中に新文芸坐で「大草原の渡り鳥」(1960/84分/35mm)を観る。プログラム「デビュー65周年記念 不滅のマイトガイ・小林旭」の1本。渡り鳥シリーズについては、影響を受けた作品やパロディは沢山観てきたけど、きちんと鑑賞するのは初めて。これがアレやアレのルーツなのだなあと思いながら観た。物語は予想以上に面白く、クライマックスでは「えっ、このタイミングでこの人が撃たれるの?」「この人がこの人を撃つの?」と驚いた。ポーカーの勝負も面白かったなあ。
昼以降はデスクワーク。次に出す書籍の編集以外の作業。普通に考えたら、編集長がやる必要のない作業だけど、今の状況で編集部スタッフにやってもらうと間に合わないので、自分でやるのであった。
『閃光のハサウェイ』からの流れで、パンダイチャンネルで『Witch Hunter ROBIN』を視聴。途中で配信の具合がよろしくなくなったので、dアニメストアの『Ergo Proxy』に切り換える。散歩時に「Gメン’75 テーマ・ヒストリー」と「Gメン’75 & ’82 ミュージックファイル」を聴く。

2021年6月16日(水)
Twitterで「この人に話を聞きたい」の浦沢義雄さんの回(2001年3月号 VOL.273)がちょっと話題になっていた。それをきっかけにして、その記事を読み返してみたら、かなり面白い。特に終盤の部分は「この人に話を聞きたい」でも珍しいノリになっている。
午前中はデスクワーク。午後は丸の内ピカデリーでDolbyCinemaの『閃光のハサウェイ』を観る。Blu-rayを入れると三度目の視聴。通常の上映でも不満はなかったけれど、DolbyCinemaでの上映はやはり印象がいい。映画館自体もかなりよかった。渋谷に寄ってTSUTAYAでCDを返してから事務所に。
長濵博史さんの新作『うずまき』の映像の一部がネットにアップされた。公開されたアニメ映像は短いものだが、これは凄い作品なるのでは! 期待して待つことにしよう。
Kindleで「進撃の巨人」を1巻から読み始める。序盤はアニメの最初のシリーズが始まる前に読んでいるはずだが、細部は忘れていて、新鮮な気持ちで読んだ。散歩時に『閃光のハサウェイ』のサントラを聴いた。

2021年6月17日(木)
数日前から、早朝散歩コースの途中にメカっぽい謎の物体が落ちていて、その前を通る度に「これは何だろう」と思っていた。この日の散歩で、ワイフが『甲鉄城のカバネリ』のアイテムではないかと気がついた。その場でスマホで検索してみたところ、確かに無名が腰につけていた金色のメカと、彼女が使っていた銃だ。要するに無名のコスプレで使う小道具だ。捨てた人物の手製かどうかは分からないけど、よく出来ていた。
次の次の書籍のために資料の整理に着手する予定だったけれど、他の用事を片づけるので精一杯。資料の整理は明日以降に。

2021年6月18日(金)
グランドシネマサンシャインで『映画大好きポンポさん』を観る。試写で観て、グランドシネマサンシャインで一度観たので、これでスクリーンで観るのは三度目。イベントの予習のための鑑賞だった。今回はテーマやメタ的な部分に注目しつつ観た。その後はデスクワーク。この日もやることが多かった。Netflixで『終末のワルキューレ』を1話から最終回まで観る。第2シリーズも作るのだろうけど、すごいところで終わった。アニメの続きを待つか、原作を読むかは難しいところ。

2021年6月19日(土)
朝、イベントの準備で『映画大好きポンポさん』の関連記事に目を通す。イベントで聞こうと思っていた事が既に話題になっていたのに気づく。過去記事をチェックしてよかった。昼にロフトプラスワンで「第176回アニメスタイルイベント 『映画大好きポンポさん』を語ろう!」を開催。途中でお客さんとの交流があったほうがいいのではないか、という流れになり、イベント後半で予定になかった質疑応答をやることになった。イベントとしては盛り沢山な内容となったけれど、僕個人が聞きたかった話題にはたどり着かず。可能ならパート2を開催したい。
このコラムの第298回(アニメ様日記 2021年2月7日(日))で「連れ狼 子を貸し腕貸しつかまつる」について「これが初見」と書いたが、過去の日記を確認していたら、その映画を2011年に観ていたことが判明。誰も気にしないと思うが、訂正しておく。すいません。前にも観ていました。

第214回 ひとつ殻を破ったような 〜漁港の肉子ちゃん〜

 腹巻猫です。公開から間があいてしまいましたが、フライングドッグ設立10周年記念劇場アニメ『サイダーのように言葉が湧き上がる』を観ました。実によかったです。若者向けのようでいて、昭和世代にも刺さる作品。劇中、アナログレコードが重要なアイテムとして登場します。それに合わせて、パンフレットがLPレコードを、サントラCDがシングルレコードを模したデザインで作られているのがたまりません(もちろん両方買いました)。いっぽう、牛尾憲輔による劇中音楽は実に現代的で、そこもフライングドッグらしい。


 今年(2021年)の6月に公開された劇場アニメ『漁港の肉子ちゃん』がモントリオールで開催された第25回ファンタジア国際映画祭でAXIS部門今敏アワード・審査員特別賞を受賞。吉祥寺の映画館・アップリンク吉祥寺で凱旋公開が行われている(9月2日まで)。
 今回は、その『漁港の肉子ちゃん』の音楽を聴いてみよう。
 『漁港の肉子ちゃん』は西加奈子の同名小説が原作。明石家さんまが企画・プロデュースし、『海獣の子供』(2019)を手がけた監督・渡辺歩とアニメーション制作・STUDIO4℃のスタッフでアニメ化された。
 漁港の焼肉屋で働く「肉子ちゃん」は大柄で食いしん坊でお人よし。男にだまされて前に住んでいた町を離れ、娘と2人でこの北の町にたどりついた。娘の喜久子(キクコ)は、肉子ちゃんとは外見も性格も似ていない、しっかりものの小学5年生。最近は肉子ちゃんのことを少し恥ずかしいと思い始めた。2人のユーモラスな日常とキクコの成長を描く、ちょっと“普通”でない家族の物語。
 筆者は公開当時に劇場で観た。今年の劇場アニメは良作ぞろいで、本作も「すごいものを観たなあ」と思った1本だ。お笑い系かと思われてしまいそうだが(たしかに笑えるシーンは多いが)、それが先入観になって敬遠する人がいたらもったいない。映像も演出も見ごたえがあり、ドラマも心を揺さぶる、感動的な作品である。

 音楽は村松崇継。実写の映画やドラマの音楽を多く手がけている作曲家だ。特に、実写劇場作品「クライマーズ・ハイ」(2008)、「誰も守ってくれない」(2009)、「64—ロクヨン—」(2016)、TVドラマ「氷壁」(2006)、「小公女セイラ」(2009)、「コールドケース〜真実の扉〜」(2016)など、シリアスな作品、硬派な作品にすぐれたスコアを提供している印象がある。
 実写作品の数に比べるとアニメの仕事は驚くほど少ない。劇場アニメ『思い出のマーニー』(2014)、『メアリと魔女の花』(2017)、『夜明け告げるルーのうた』(2017)、「カニーニとカニーノ」(オムニバス『ちいさな英雄—カニとタマゴと透明人間—』の1本)(2018)、TVアニメ『ひめチェン! おとぎちっくアイドル リルぷりっ』(2010)があるくらい。アニメでは子どもも楽しめる明るい作品が多く、情趣のあるヨーロッパ風の音楽やリリカルな音楽が記憶に残る。
 実写とアニメ、どちらにも共通するのは、村松崇継の持ち味である美しいメロディだ。村松自身が演奏するピアノをはじめ、ストリングスや木管などの生楽器の音色を生かしたサウンドが心地よい。繊細で品のある、美しい音楽を紡ぐ作曲家である。
 ところが、『漁港の肉子ちゃん』は、これまで村松崇継が手がけた作品とはひと味違うタイプの劇場アニメである。
 『漁港の肉子ちゃん』は人間のダメな部分、弱い部分をユーモアをまじえて描く、生活感あふれる作品だ。実写作品でいうなら「男はつらいよ」シリーズのような、アニメなら『じゃりン子チエ』のような……。
 村松崇継は本作のために、これまでの作品ではあまり聴けない、ぐっと大衆的な曲調のメインテーマを書いた。村松の代表作のひとつにNHK大阪放送局が制作した朝の連続テレビ小説「だんだん」があるが、その音楽もここまで「こてこて」ではない。これが、本作の音楽のトピックスのひとつめだ。
 本作の音楽のトピックスのふたつめは、キクコを演じたCocomiがフルート奏者として演奏に参加していること。Cocomiは木村拓哉・工藤静香夫妻の長女。モデルとしても活躍しているが、フルートは11歳から始めて各種コンクールに入選、ライブ、コンサートで演奏するなど本格的な活動を続けていて、けして余技ではない。とはいえ、声優が演奏家としてサウンドトラックの録音に参加するのは異例のこと。結果は、キャラクターの心情がフルートの演奏で表現され、映像音楽としても魅力的な楽曲が生み出された。
 本作の音楽的トピックスの3つめとして、サウンドトラック・アルバムが吉本興業の関連会社である「よしもとミュージック」から発売されたことが挙げられる。
 近年は、大手レコード会社系でない独立レーベルからサウンドトラックが発売されることも珍しくなくなった。でも、よしもとミュージックからアニメサントラが発売されるのはこれが初。本作の製作を吉本興業が手がけているからだろうが、「よくぞ出してくれた」と思う。
 収録曲は以下のとおり。

  1. イメージの詩(歌:稲垣来泉)
  2. 漁港の肉子ちゃん
  3. 肉子ちゃんは私の母親だ
  4. 肉子ちゃんはこの港で暮らすことにした
  5. 肉子ちゃん“おはよう”
  6. ええ食べっぷりやなあ
  7. あそこで皆生きてる、すげえな
  8. 「とっておき」だて
  9. 肉子ちゃんは優しいのである
  10. 「キクリン、何か言うた?」
  11. いつだって、全力で肉子ちゃんだ
  12. ゆっくり家族になっていく
  13. クラスの誰かに会いませんように
  14. 私は決められない
  15. 私、なんて狡い子なんだろう
  16. 肉子、落ち着け〜
  17. お母さん、大好き
  18. 普通がいちばんええんやで
  19. みんな、望まれて生まれてきたんやで
  20. ささやかな希望、あふれ出る光
  21. たけてん(歌:GReeeeN)

 曲名は、劇中のセリフから採ったり、ナレーション風にしたりと、話し言葉を基調に付けられている。続けて読むとキクコと肉子ちゃんのかけあいのようで、ほのぼのした味わいがある。曲順はオーソドックスに劇中使用順に沿った並びだ。
 2曲目の「漁港の肉子ちゃん」が肉子ちゃんのテーマであり、本作のメインテーマ。アコーディオンをフィーチャーした、ジンタ風のメロディの曲だ。ちょっとユーモラスでノスタルジック、昭和の香りがする。村松崇継本人が「試行錯誤して出来上がった」と語るように、これまでの村松作品にない雰囲気の曲である。
 人間くさい方向に思い切り振りきったこの曲は、自分を飾らずに生きている肉子ちゃんにぴったり。同時に、こういう曲でも詩情がただよい、下世話になりきらないのが、村松崇継らしい。
 このメインテーマのメロディは、「肉子ちゃんは私の母親だ」「肉子ちゃんはこの港で暮らすことにした」「ええ食べっぷりやなあ」「肉子ちゃんは優しいのである」「いつだって、全力で肉子ちゃんだ」「肉子、落ち着け〜」といった肉子ちゃんがらみの曲にアレンジされて使われている。
 基本はユーモラスなテーマなのだが、本作の終盤に流れる「みんな、望まれて生まれてきたんやで」(トラック19)では、このメロディがしみじみと胸を打つ。映画音楽のマジックである。
 トラック5「肉子ちゃん“おはよう”」はCocomiのフルートをフィーチャーしたキクコのテーマ。本作の音楽の中で、フルートはキクコの分身である。
 村松はCocomiのフルート演奏を評して、「喜久子の気持ちをそのまま楽曲に投影し、素晴しい表現力と演奏技術により、楽曲の中でも喜久子という人物をしっかりと存在させた」(サウンドトラックのブックレットより)と絶賛している。実際、Cocomiのフルートの調べは表情豊かで、音の中にキクコの顔が見えるようだ。
 キクコのテーマは、「ゆっくり家族になっていく」「私は決められない」「お母さん、大好き」といったキクコの心情を表現する曲で変奏される。それぞれのシーンに合わせてフルートの音色や息づかいも変化しているのが聴きどころだ。
 トラック20「ささやかな希望、あふれ出る光」では、キクコのテーマと肉子ちゃんのテーマがメドレーで奏でられ、フルートからアコーディオンへと、まるで手をつなぐように演奏が引き継がれる。映画を締めくくるにふさわしい感動的な曲になっている。
 本作の音楽的トピックをひとつ付け加えると、チェロ奏者の宮田大の参加がある。宮田大は世界的に活躍するチェリストで、国内外のコンサートやソロアルバムなどで活躍。村松崇継とは以前から交流があり、村松が書いた曲を宮田が演奏したり、ライブで共演したりしている。
 本作の音楽では、不器用な少年・二宮とキクコが友情を深めていく場面の曲「『とっておき』だて」(トラック8)で宮田大のチェロがフィーチャーされている。深みのあるチェロの音色が、2人の心のふれあいをさわやかに、しっとりと表現して心にしみる。
 もう1曲、クライマックスを支える重要曲「みんな、望まれて生まれてきたんやで」(トラック19)にも宮田大のチェロが参加。この曲ではメインテーマである肉子ちゃんのテーマをチェロのソロとストリングスが奏でる。音楽はスコアだけでは完結せず、演奏によって完成すると言われるが、そのことをあらためて実感させられる、みごとな演奏だ。歌うような弦の響きが、物語の感動を何倍にもふくらませてくれる。
 『漁港の肉子ちゃん』の吉祥寺での凱旋公開はもうすぐ終わってしまうが、鑑賞の機会があれば、ぜひ音楽といっしょに肉子ちゃんの世界に浸ってもらいたい。

 本作は村松崇継にとっても、ひとつ殻を破ったような手ごたえがあった作品だったのではないかと思う。何年かのちにフィルモグラフィを見て、「これがターニングポイントだった」と回想する日がくるかもしれない。そのくらい、本作の音楽は一歩突き抜けて魅力的だ。村松崇継の今後の作品が楽しみである。

 「あしたへアタック!/リトル・ルルとちっちゃい仲間 音楽集」は越部信義が生み出した歌と音楽がたっぷり楽しめる2枚組。はずむリズムとペーソスただようメロディの魅力を堪能してほしい。越部信義大好きの筆者が自信を持ってお奨めします。

劇場アニメ映画『漁港の肉子ちゃん』オリジナル・サウンドトラック
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佐藤順一の昔から今まで(27) 『カレイドスター』の すごい 思い出・1

小黒 「佐藤順一の昔から今まで」の取材は今回で4回目です。『カレイドスター』(TV・2003年)からうかがいますね。佐藤順一ヒストリーの中でも、大きな1本ではないかと思いますが。

佐藤 そうですね。

小黒 そもそも、どうしてGONZOで監督をする事に?

佐藤 この前にGONZOの『ゲートキーパーズ』(TV・2000年)というTVシリーズがあったんですよ。オファーをもらって『ゲートキーパーズ』をやっている時に、池田東陽がアシスタントプロデューサーとして入っていて。「次は1本、一緒にやりたいよね」と話をしてる中で「こんなんあるんだけど」と言って出した企画が、『カレイドスター』のペライチの企画書。

小黒 じゃあ、元々の企画案は佐藤さんから出されたんですね。

佐藤 そうですね。僕のほうから「こんなTVシリーズやってみたいな」という企画を提出して、それを池田東陽が成立させたっていうのが、大まかな流れですかね。

小黒 佐藤さんの出した案は、元々はどういった内容だったんですか。

佐藤 基本的には、そんなに変わってないです。ターゲット的には子供向けで、女の子がサーカスをやるという。『(おジャ魔女)どれみ』とかよりも、少し上のターゲットっていうイメージの企画ではありました。

小黒 佐藤さんがやりたかったポイントはどこなんですか。

佐藤 サーカスですね。

小黒 サーカス。熱血じゃないんですか。

佐藤 自分が好きなので、そういう方向にしましたけど、そもそものきっかけとしては、サーカスもののアニメがあんまりない。だけれども、子供達はサーカスに凄く興味を持ってるなという体感があったんです。そう思ったきっかけは『ダンボ』なんですね。子供の頃にディズニー作品の『ダンボ』等でサーカスの存在は知ってるけど、実際には観た事がないという人が相当いる、と。そういう子達は、サーカスもので女の子が頑張る話があったら、興味を持つんじゃないかなっていうところが、スタートではあるんですね。

小黒 なるほど。

佐藤 だったら日本人が好きなスポ根の構造で作ろうか、という流れになったわけだから、そんなに大きなズレはないですよ。

小黒 で、そのままスポンサーも付いて、作れるようになったという事なんでしょうか。

佐藤 そこはやっぱり時間がかかっていて。池田東陽が生きていたら、彼に詳しく聞きたいところだけど、韓国の出資を使えば作れるんじゃないかな? っていうところにたどり着いたんです。韓国のスタッフを使う条件で、韓国の出資が決まるというシステムになったんだと思います。それで作ろうと。

小黒 その韓国のスタッフが、G&G ENTERTAINMENTというプロダクションなんですね。ゴンゾ・ディジメーションとG&G ENTERTAINMENTと、二つの会社がアニメーション制作でクレジットされています。

佐藤 ゴンゾ・ディジメーションについてはよく覚えていないけど、ゴンゾ・ディジメーション・ホールディングス(GDH)というトップの会社があって、その傘下にゴンゾ・ディジメーションがあったのかな。

小黒 話を戻すと、久々に佐藤さんが自分から動いた企画という事ですね。

佐藤 そうそう。軸になって動かそうと思った企画ではありましたかねえ。

小黒 シリーズ構成が吉田玲子さんなのは、どうしてなんですか。

佐藤 玲子さんには、色々無理もお願いしやすいのもありますし。僕が知ってる中で、長物の構成をする事について、一番信頼できる人でした。それで、玲子さんにお願いをした感じですね。

小黒 大きいお話の流れには、佐藤さんも関わっているわけですよね?

佐藤 そうそう。僕が大まかな縦のラインをダーッて作って、それを玲子さんに渡して構成にしてもらうんです。玲子さんの構成の時点で大分変わるんですけど、軸は変わらないっていうか。中盤にあるサーカスフェスティバルでの挫折のくだりは、僕はそんなに書いてないと思うので、あれは玲子さんじゃなかったかな。

小黒 その辺りは、吉田さんが膨らませたという事ですね。

佐藤 うん。

小黒 画作りに関しては、いかがですか。

佐藤 基本的には、池田東陽のチームで考えていたので、渡辺はじめさんとかも含めて、池田東陽が「この人とやりたい」という人を集めてきてる感じですね。

小黒 話は前後しますけど、池田さんが熱烈な『セーラームーン』ファンだという事を、僕達は『カレイドスター』をきっかけにして知るわけですが……。

佐藤 そうです(笑)。

小黒 その事を、佐藤さんには表明してたんですか。

佐藤 してたと思う、多分(笑)。でも、『セーラームーン』が好きだという事は分かってたと思うんだけど、どのぐらい好きかっていうのはね。人によって温度差があるじゃないですか。

小黒 ちょっと好きだったぐらいとかね。

佐藤 なんかの拍子に『セーラームーン』の話をしていて「大人が観て、本気で感動する話じゃないから」と言ったら、池田東陽に「(力強く)しますよ!」と言われた記憶がある(笑)。

小黒 (爆笑)。

佐藤 「ああ、ごめんごめん」って思いました(笑)。

小黒 池田さんの話が先になっちゃいますけど、池田さんの要望は、声優さんのキャスティングには反映されているんですか。

佐藤 まあまあ入ってるというか。「こういうところに『セーラームーン』のキャストを入れたいな」という空気感はあったので。

小黒 レギュラーにもいますし、シリーズ後半になると「ここで深見梨加さんか!」とか(笑)。

佐藤 そうそう(笑)。

小黒 打ち合わせで「俺はセーラー戦士全員を出すんだ」と言ってたわけではないんですね?(笑)

佐藤 言ってたわけじゃないけど、そういう空気感はありましたね。

小黒 確かOVAで富沢(美智恵)さんが出て、内部太陽系戦士がコンプリートされたんですよ。

佐藤 全制覇みたいな(笑)。

小黒 自分の事で言うと、放映中に「『セーラームーン』っぽい気がするのは、俺が『セーラームーン』のファンだからなのか?」と思っていて、「いや、違う違う。ここで深見梨加さんをキャスティングしたのは意図があるだろう」と途中で気づいたんだと思います。

佐藤 その意図は確かにあって、気がついたらセーラー戦士キャストが揃ったというわけではない。

小黒 シリーズ後半になって、久川(綾)さんと三石(琴乃)さんが会話すると、セーラームーンファンとしては、ちょっと楽しい気持ちになったり。

佐藤 そうそう(笑)。

小黒 佐藤さん的には、キャストはどうだったんですか。

佐藤 広橋(涼)さんはオーディションですね。櫻井(孝宏)君もオーディションだな。他は割とオファーで呼んでるはず。

小黒 後々、このカレイドチームのキャストの方々がですね、佐藤順一チームを形成していく事になると思うんですが、それは間違いないでしょうか?

佐藤 そんなつもりは別になかったけど、『カレイドスター』の頃に声優さんとの距離感が近くなったんです。それまでは「なあなあ」にならないように、ディスタンスを取るようにしてたんですけど。

小黒 佐藤さんはアフレコ後の飲み会も、あまり行く感じではなかったんですね。

佐藤 行かない。誘われても基本行かなかったんです。「そういうのもありかな?」って思ったのが、『カレイドスター』だったんですよね。そっから「作品を作る仲間」的な感じが、声優さんにも持てるようになったかな?

小黒 この「佐藤順一の昔から今まで」のインタビューで、初めて佐藤さんが照れていますね(笑)。

佐藤 そう、そうです(笑)。

小黒 (笑)。

佐藤 ずっと東映でやってると、アフレコでの演技指導を自分でやるじゃないですか。だからこそ、あまり関係が近くならないようにしておかないといけなくて。「友達みたいになると甘さが出るな」というのは、ずっと感じていた。だから、『セーラームーン』の時もそうだったけど、プロデューサー達は終わったら役者と飲み会に行ったけども、自分は「それには行ってはならん」と思ってたわけです。演技とかについての話は、基本的にはアフレコの時間の中でやるべきである、という考えだったので……。

小黒 で、それ以降は役者さんのパーソナリティをキャラクターに取り入れていくような事も。

佐藤 そう。「素はこんななんだな」と分かったら、その素も活かしていく。そういうやり方を覚えたのが『カレイドスター』だったと思います。

小黒 なるほど。例えば「レイラさんだって、全てにおいて立派なわけではない」といったかたちで掘り下げていくわけですね。

佐藤 そうですね。コーヒーを淹れられなかったりするのは、大原(さやか)さんの属性を拾ってきてる気がするし(笑)。

小黒 なるほど。

佐藤 だから、ラジオにも何回か行ってるんですよね。『カレイドスター』の「すごラジ(インターネットラジオ カレイドスター そらとレイラの すごい ○○)」といって、広橋さんと大原さんの素が出てるラジオがあって。キャラがちゃんと立ってて面白いなって凄く感じたので、「これを活かさない手はないな」と思ったんじゃないかなあ。

小黒 『カレイドスター』は飲む機会が多かったんじゃないですか。僕はスタッフでも関係者でもないけど、何度か『カレイドスター』の関係者と飲んだ記憶があります。当然そこには必ず池P(池田東陽プロデューサー)がいたわけですけど(笑)。

佐藤 (笑)。ただ、現場をやってる間は実はそうでもなかったんです。その辺の距離感が変わってきたのって、本編が終わって、ラジオをやってるぐらいからだと思うんですね。その後の作品で、キャストのキャラを活かすようになるんだけど、 『カレイドスター』の現場をやってる間は、『セーラームーン』の感じとそんなに変わってないです。池田が声優さんと仲良くして、声優さんの家でホームパーティーをやったりしてたのも、知らなかった。

小黒 そんな事をしてたんですね(笑)。

佐藤 僕が痛風で、ヒーヒー言いながらコンテの修正をしてる時に、あいつはホームパーティーに行ってやがりましたからね(笑)。


●佐藤順一の昔から今まで (28)『カレイドスター』の すごい 思い出・2 に続く


●イントロダクション&目次