小黒 『うみものがたり~あなたがいてくれたコト~』(TV・2009年)は僕が不思議だと思っている作品です。この取材の前に全話を観返しました。
佐藤 ああ、ありがとうございます。
小黒 本放映で観て、以前に飯塚(晴子)さんの取材する時に観返して、今回も取材の前に観ているので、3回目の視聴でした。キャラクターの気持ちはしっかり追っていて、ちゃんとドラマになっている。
佐藤 はいはい。
小黒 でも、「なんでこういう作品になったのか?」が分からない。この企画はパチンコ・パチスロの「海物語」の映像化から始まってるわけですよね。それが、どうしてああいう作品になったんですか。
佐藤 これは活字にしづらい事情が多い話だと思うんですけど(苦笑)。企画をもらった時に、まずは話を聞いてみて、会社(TYOアニメーションズ)としてやる意義があればやりますと。ただ、自分がガチッと監督をやるのは無理なんで、「監修ならできるよ」と、会社には話をしてあったんです。
小黒 ところが監督をやる事になった?
佐藤 そう。企画が動き出して、ホン読みにも入り、紅優さんに監督で入ってもらってね。既に2、3話ぐらいまで動いたところで、「監督・佐藤順一でやってもらう事になってる」と言われたんです。「現場も紅優さん監督で進めているんで、今から切り替えるのは無理なんだけど」と話をしたんですが、紅優さんには最初からそのかたちで伝わってたんです。そんな状態で、脚本3話ぐらいまで進んでしまっていた。
小黒 なるほど。
佐藤 じゃあ、今からにはなるけれども、ここからは監督という立場で作ります、コンテも全部チェックします、アフレコも全部やりますっていう話をしたんです。
小黒 なるほど。現場はゼクシズなんですよね?
佐藤 ゼクシズです。ゼクシズは何も悪くない。
小黒 佐藤さんはTYOの所属で、TYOからゼクシズに行って作業していた。
佐藤 そうですね。ゼクシズで机をもらって作業していました。結果、楽しかったし、飯塚さんと知り合えたりして、得るものもすごく多かったシリーズではあるんですけどね。
小黒 作品コンセプトに佐藤さんは関わってないんですか。
佐藤 そもそものプランでは、変身戦闘美少女ものだったんですよ。
小黒 そうなんですか。
佐藤 ただ、前も言いましたけど、子供向けで、女の子が変身して戦う美少女ものは分かるんだけど、変身美少女もので年齢の高い人をターゲットにした作品については、ちょっと理解できないところがあるんです。それで「元々の企画原案の面白さが全く分からないんだ」という事を訴えて、バトルのテイストをちょっと抑えさせてほしいと言ったんです。本当は変身も無くして、海の女の子と陸の女の子の友情物語ぐらいにしたいんだけど、企画として変身美少女は外したくないという事でした。なので、「変身して戦うのは入れるけれども、基本の方向は友情の物語、姉妹の物語で進めたいです」と言って、その方向で進めてる感じですね。
小黒 企画としては「海の巫女と空の巫女が変身して大活躍」という感じだったんですね。
佐藤 そう。変身する美少女も大勢いる、ぐらいの感じでしたね。
小黒 元になったストーリー案はどなたが作ったんですか。
佐藤 ストーリー原案の築地俊彦さんが、プランニングで関わってますね。元々は、小説とかを書かれてる方だと思うんですけど。
小黒 もう少し確認させてください。原作の「海物語」にはマリンちゃんというグラマーな女の子がいて、それと日焼けした逞しい男の子(サム)が出てくる。これはパチンコをやった事がない僕でも知ってます。あの男の子はあのまま出さなくてよかったんですか。
佐藤 そこは飯塚さんとデザインを詰める段階で「もうちょっとスレンダーなサムを出すかたちでもいいですか?」と(原作サイドに)了解を取りながら進めている。
小黒 同様にマリンちゃんもほっそりした感じになったわけですね。
佐藤 うん。
小黒 以前、飯塚さんに取材した時も「自由にアレンジしてよい」と言われてやったとうかがいました。
佐藤 そうですね。アニメ化に関しては、割と自由にさせてもらってましたね。プロデューサーは『たまゆら』もやってる田坂(秀将)さんなんですけども、田坂さんがパチンコ屋さんとお話をしていて、ある程度の自由度はもらっていたんだと思うんですね。
小黒 そうか! これは松竹製作の佐藤順一シリーズの一環なんですね。
佐藤 そうですね。『ARIA』のプロデューサーは飯塚(寿雄)さんで、『たまゆら』の田坂さんとは、この『うみものがたり』の時に初めて一緒にお仕事をしました。
小黒 『うみものがたり』の次のステップとして、佐藤さんと飯塚さんコンビで『たまゆら』が始まるわけですね。
佐藤 そうなんです。この時の出会いが大きかったっていうのは、ありますね。
小黒 もう一度確認させてください。全体としては自由に作っていいという話だった。そして、パチンコの「海物語」のイメージとは違った「戦闘もの」のプランがあったんですね。で、佐藤さんは、いざ自分が作品をまとめる段階になってから、「戦闘色を弱めたい」と思われたわけですね。
佐藤 なるべく薄めたかった。
小黒 で、主にはマリンとウリンの姉妹の話にまとめて、さらに周辺の夏音ちゃんの恋模様とか、友情のほうを押していった。
佐藤 そういう青春テイストみたいな物語がいいかなって。それだったら、イメージできるなという感じでもあるんですけど(笑)。
小黒 なるほど。
佐藤 なので、音楽的な話だと、戦闘音楽はほとんど録ってない。
小黒 大島という女の子のキャラクターがいて、佐藤さんは相当力を入れていたのではないかと思います。大島は面白キャラでしたよね。
佐藤 そうですよね。大島は意図して、ああいうふうにしている感じがありました。マリンって、最初の設定からそうだと思うんですけど、とにかく闇のないキャラクターで、すごく綺麗な事しか言わないじゃないですか。それは本人にとって嘘でもなんでもなくて、あれが彼女の本心なんですよね。大島のほうは、狡い事もするんですけど、それも本心でやっている。2人とも本心が剥き出しなんです。だけど、「大島のほうは観ている人の好感度が上がるけども、マリンのほうは好感度が上がらないのではないか?」とは予感してましたね。
小黒 なるほど。大島のほうが面白いですからね。
佐藤 そうなんです(笑)。だから、あんまり澄んでないっていうか、綺麗すぎないキャラクターのほうが、みんな、好きなんだなっていう事を再確認した。
小黒 あの1話で始まって、まさか「このキャラがこんなふうに膨らむとは!」、という驚きがありますよ。
佐藤 大島は「あんな事もさせたい。こんな事もさせたい」ってなったね(笑)。
小黒 大島の時によく書き文字が出るじゃないですか。「胸を大きく見せるワザ!」とか「きわどいアングル」という「ト書き」が手書きの文字で入ってますよ。
佐藤 そんなに出てましたっけ?(笑)
小黒 大島が活躍するようになってから頻度が上がった気がします。
佐藤 そうか。『うみものがたり』って、結構何回も観直すんですよ(笑)。
小黒 そうなんですね。
佐藤 ええ(笑)。「あのシーン面白かったよな」つって。
小黒 すみません。僕は本放映時は当惑しました。
佐藤 (笑)。
小黒 ところで、『うみものがたり』は佐藤さんの絵コンテ率高いですね。
佐藤 そうですね。やっぱり、結果そうなってるんですよ。「自分でやっていくかな」って感じでやっていました。
小黒 これも他の方が描いたコンテを直したりしてるんですか。
佐藤 結構直してますね。
小黒 未放映話の13話があるんですが、覚えてます?
佐藤 クジラかイルカの親子が出てくるやつですかね。
小黒 ジュゴンの親子ですね。本編の1年後の話。夏目真悟さんが絵コンテと演出をやってて、それまでの『うみものがたり』と全く違う感じのデフォルメもある、面白作画が炸裂している回です。これは放映されなかったようで、ディスクに入っているみたいですね。
佐藤 うん。それ用に作ってたやつだと思いますね。
小黒 放映最終話の12話って、お話だけでいっぱいいっぱいで、エピローグ部分が、あまりないですもんね。
佐藤 話的には12話で終わらせるつもりでした。ジュゴンの親子を大原(さやか)さんと葉月(絵理乃)さんにお願いしてるのは、プロデューサー的な意向だったかなと思います。
小黒 『ARIA』の2人にやってもらったわけですね。佐藤順一さんワールドで重要人物である儀武ゆう子さんですが、この時が初めてですか。
佐藤 そうです。この時の鈴木っていうキャラクターが初です。なおかつ沖縄弁もできるので、方言指導的な役割でも入ってもらって、イベントやラジオで盛り上げてくれたんですよ。だから、『たまゆら』では「ガツンと広報的なところにも入ってもらえますか?」とお願いしました。
小黒 佐藤さん的には、儀武さんの人柄がお気に入りなんですか。
佐藤 そうなんですよね。言うたら、遠慮なく弄ってくれるじゃないですか。あんまり持ち上げられると、トークってやりにくいので、いい感じに下げてくれたほうがやりやすい(笑)。そういう感じが、大変ありがたかった。
小黒 なるほど。そういえば『海物語』は、佐藤さん的には方言にチャレンジした作品ですよね。
佐藤 そうですね。あんまりやらないんですけど、奄美大島が舞台という事だったので「沖縄弁を入れてみようかな」と思ったら、想像以上に拒否反応が多かったので、以降はやらない事にしました。
小黒 えっ、拒否反応? お客さんからですか。
佐藤 そうそう。聞きづらいとか、方言なのかお芝居なのか分からないと感じる人達が多くて。
小黒 ああ、確かに。セリフを通して表現されるものではなくて、方言のイントネーションの面白さのほうが耳に残っちゃうのは、あるかもしれない。
佐藤 なので、以降はなるべくやらないようにしてるんです。
小黒 なるほど。
佐藤 本当は現実味を求めて舞台を描くのであれば、方言でやるほうが好きなんですけどね。労力がかかる割に、それを求めていない人も多いので、方言のキャラを混ぜるくらいにして、基本的には避けとこうと思いましたね。
アニメ様の『タイトル未定』
337 アニメ様日記 2021年11月7日(日)
2021年11月7日(日)
徒歩で池袋から新宿に。ロフトプラスワンで「第181回アニメスタイルイベント ここまで調べた片渕監督次回作6【清少納言の歩んだ道を思い浮かべてみましょう編】」を開催。「ここまで調べた片渕監督次回作」としては久しぶりにお客さんを入れてのイベントとなった。休憩時間にぶっちゃけトークあり。東映アニメーション演出家の佐々木憲世さんの質問に片渕さんが答えるコーナーもイベントらしくてよかった。今回はお客さんの鳴り物もOKにした。以前と同じというわけにはいかないけれど、イベントらしい感じはあった。イベント終了後、歩いて池袋まで戻った。
池袋から新宿までは『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』のサントラを、復路では『きまぐれオレンジ☆ロード』のアルバムを聴いた。
2021年11月8日(月)
会社関連の作業、「設定資料FILE」の構成、イベント関係の用事、編集中の3書籍の進行、等々。やることが多くて、自分の原稿には手がつけられず。余裕があったら、新文芸坐で映画を観るつもりだったけど、そんな時間はなかった。Amazon prime videoの東映アニメチャンネルで色々と観てみる。
2021年11月9日(火)
『先輩がうざい後輩の話』の再生が終わったところで、Netflixに勧められたのが『俺物語!!』。「でかい男繋がり」でのお勧め、ということですね。見事です。『先輩がうざい後輩の話』の原作を読み始めた頃から、自分の中では『俺物語!!』とリンクしていたので、その意味でも納得。
この日も仕事が山ほど。午前4時に事務所に入って、色々やって22時に帰宅。
2021年11月10日(水)
ランチはワイフと、高田馬場の「酒肴 新屋敷」でアジフライ。一度は席が埋まっているということで断られたのだが、キャンセルで席が空いたとの報せがLINEであり、高田馬場に向かった。今回も旨かった。いや、ここのアジフライは本当に美味しいんですよ。散歩と食事で外出した以外はデスクワーク。Zoom打ち合わせ2本。対面の打ち合わせ1本。主には書籍の進行、スケジュールを組み直したり、増刷の収支を試算したり。
『カードキャプターさくら』のシリーズ序盤を再視聴。片渕さんが演出をした3話がやっぱりよくできている。アクションシーンの途中に入る知世の芝居が抜群にいい。演出の指示も入っているんだろうけど、多分、原画もいい。5話で知世がビデオの知識をまくしたてて、注意をひこうとする展開は何度観ても可笑しい。発想がお仲間(マニア)なんだよね。
Twitterで以下の内容を書いた。
https://twitter.com/animesama/status/1458213062121459714?s=20&t=gMd5NYNcuTS5ubuBsjds9Q
(以下は誤記を修正したテキスト)
「アニメスタイル007」は本編カットの載せ方で凝ってみました。『響け!ユーフォニアム』『スペース☆ダンディ』『苺ましまろ』『フリクリ』で、それぞれまるで違ったコンセプトで本編カットを使っています。アニメ雑誌マニア(アニメ書籍マニア)はそのあたりをチェックするといいかも、です。
「アニメスタイル007」は自分でも達成感のある号でした。作品に合わせてインクを変えて印刷したり、画像の変換に手間をかけたりしています。『響け!ユーフォニアム』の本編カットを使ったページの構成は自分の雑誌人生の中でも思い出深いものとなりました。
2021年11月11日(木)
グランドシネマサンシャインで、ワイフと「エターナルズ」【IMAXレーザーーGT字幕】を観た。予想していたよりも面白かった。登場人物が多くて、回想を使った説明も多いのだけれど、それでも楽しめた。フルサイズIMAX画角(1.43:1)のシーンは多くはないが、効果的だった。
「エターナルズ」が「サイボーグ009」と似ているという発言をSNSで目にしていた。確かに似ているポイントが多い。列記すると以下の通り。
・主人公チームは、それぞれがひとつの能力に特化したヒーローの集団。
・チームには様々な人種(に見える)のメンバーが揃っている。
・メンバーには子ども、役者もいる。
・メンバーに加速能力(「サイボーグ009」では加速装置)を持った者がいる。
・全員が「作られた存在」であり、その悲哀を描く。
・バラバラになったメンバーを集めるために各国に赴く。
・クライマックスでメンバーの1人が人間に(「サイボーグ009」だと『超銀河伝説』)。
・最終的に神と戦う。
「エターナルズ」が「サイボーグ009」を意識していたかどうか分からないし、意識していたとしても文句はない(以下は後日追記、いつか「サイボーグ009」を映像化したいと思っていた業界の知人が「『エターナルズ』で夢がかなった」と言っていた。「エターナルズ」は彼が思い描いた映像化に近かったのだろう)。
2021年11月12日(金)
定例Zoom打ち合わせで、参加者の1人の音声入力ができなくなった。「音を聞くことはできるの? こちらの声が聞こえたら、手を振って」といったやりとりの後、彼だけがチャットで打ち合わせに参加することになった。「(音声)あの作業は……だっけ」「(チャット)はい」「(音声)その『はい』はYesの『はい』なの?」「(チャット)そうです」みたいな感じ。21世紀の科学技術を使ったビデオ会議なのにアナログ感があって面白い。
午後の散歩で、池袋から東十条まで歩いた。その前に『名探偵コナン』を観ていた流れで『名探偵コナン から紅の恋歌』のサントラを聴きながら歩いた。
久しぶりに「アニメスタイル010」をパラパラとめくったら、自分の『NEW GAME!』に対する愛の深さに、ちょっとひいた。他の作品にも愛情は注いでいるんだけど、愛情を注ぎすぎた。
2021年11月13日(土)
放送中の『SHAMAN KING』と『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』は似たタイプの企画だな、と思った。どちらも、連載中にアニメ化されたタイトルだ。今回のアニメ化は、恐らくは原作ラストまでを映像化する企画であり、全何話で映像化するのかを決めてからスタートしているのだろう。
早朝散歩では『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』のサントラを聴いて、午後の散歩では『機動戦士Vガンダム』のサントラ1と2を聴いた。
第741回 最終話でバタバタ
すみません! 本日、脚本(シナリオ)作業とコンテチェックで、てんてこ舞いです!
最近ちょくちょく話題に出している次のシリーズは自分がシリーズ構成・総監督のため、シナリオチェックとコンテチェックが重なってる時期は——予想はしていたけど、やっぱり大忙しになってしまいました(汗)。ま、自分が今書いてるのが最終話の脚本(第1話とラスト2話分が板垣脚本)なので、こちらが上がれば後はコンテチェック、さらに春頃からは音響がメイン。今作では自分あくまで「総」監督であることに拘っているので、
自前のコンテはなし! メインは監督に任せて“チェック”に徹するスタイル!
でやってます。コンテ発注・設定類発注・その他打ち合わせ類は全て監督に任せます。特に「ここだけは」というところだけ、先に監督と打ち合わせをして、監督から発注してもらうかたちにします。
なるべくなら現場の若手に存分に活躍してもらって、作品の出来に関しては全責任を俺が負うつもりです(ま、作画は手伝うつもりですが)。
脚本を書くのは、原画やコンテを描くのとは違った面白さがあって、今回は久々にそれを楽しませてもらってます。常々、大塚(康生)さんが言ってた「画描きである前に“役者”である」はずのアニメーターの自身(つまり俺)が、ドラマの軸をブラさないように喋らせたい台詞と芝居を考え、シーンを作る——正に「作劇」ができる仕事で、今後も機会があったら、コンテとは別に続けていきたいと思っています。
とりあえず今はシリーズ構成の役職上、なる早で最終話の脚本を書き上げなければなりません。自分の立場的には3月以降、さらに次作品の準備を始めなきゃならないという会社の都合もあり、50代に向けて色々仕事の話は広がりつつありますし、自分からも仕掛けていけるようになりたいものです。若手に監督してもらって、プロデュース的な関わり方をするとか。
という訳で、短くてゴメンナサイ。また最終話の脚本に戻ります。
第372回 昔の生写に涙なりけり
佐藤順一の昔から今まで(36)『ロミオ×ジュリエット』から『シックスハートプリンセス』まで
小黒 『ロミオ×ジュリエット』(TV・2007年)についてうかがわせてください。これは音響監督ではなく、音響監修なんですね。
佐藤 そうです。音響監督は別の方がいらっしゃったんです。追ちゃん(追崎史敏)が監督で、「音まわりに関してちょっと面倒を見てほしいな」という話が来たので、立ち会いをやったんだと思いますね。だから、アフレコは全話立ち会っていて、音楽に関しては、僕のほうでライン引きしてて、うちの奥さんが選曲をやるという流れですね。
小黒 で、コンテも2本描いている(4幕「恥じらい~雨に打たれて~」と23幕 「芽吹き~死の接吻~」)。
佐藤 そうですね。お手伝いしました。
小黒 で、謎のお仕事に『スケッチブック~full color’s~』(TV・2007年)の「監修」がありますね。
佐藤 そうですねえ。でも、これはほとんど何もやってないんですよね。
小黒 そうなんですか。
佐藤 平池(芳正)が監督をやるので、サポートに付いてほしいという感じでオファーが来たんだと思います。まずは本人がやりたいようにやってもらって、上手くいかない事があったらサポートすればいいかな? ぐらいの感じだったので。
小黒 『しゅごキャラ!!どきっ』は『しゅごキャラ!』の2期ですが、スーパーバイザーとして参加されてますね。これは何をしたんですか。
佐藤 プロデュースをやっていたのが、『ARIA』でも一緒だった金子(文雄)で、「ちょっと助けてもらえませんか?」と相談されたので「金子が困っているんだったら、できる事は協力するよ」という事で、入りました。なので、現場のまとめ役というか何でも屋です。原作の先生や監督と話し合ったり、シナリオ打ち合わせとアフレコ、ダビングには、全部立ち会っていくという感じでしたね。
小黒 全体的に調整をした感じですね。
佐藤 そうなんですよ。
小黒 絵コンテで参加された『ナイトウィザードThe ANIMATION』(TV・2007年)も金子さんの作品ですね。
佐藤 そうですね。『うた∽かた』(TV・2004年)とか、ああいう作画がしっかりしてるやつは金子がやってたと思います。
小黒 なるほど。『キディ・ガーランド』(TV・2009年)で、佐藤さんは絵コンテと音響監督ですね。
佐藤 それも監督の後藤(圭二)さんにお返しをする意味でお引き受けをしましたね(編注:後藤圭二は『ARIA The ANIMATION』『ARIA The NATURAL』に絵コンテ、演出で参加)。
小黒 音響監督はどのようなかたちで?
佐藤 そうですね。後藤さんが監督をやられるに当たって、自分では音響まわりの事ができないのでと依頼された感じでしたね。後藤さんがやりたい事を実現するという立場でよければ、音響監督をしますと話をしましたね。なので、基本的には、後藤さんにアフレコに立ち会ってもらって、「これはこういう画になってますけど、今の芝居でいいですか?」と後藤さんの意図を確認して作っていく。そんな立場でしたね。
小黒 『おんたま!』(配信・2009年)の「スーパーバイザー」はどのような?
佐藤 『おんたま!』は、監督が追ちゃん(追崎史敏)だよね?
小黒 そうです。
佐藤 ですよね。音響監督を立てずに、音響まわりに関して追ちゃんをサポートするようなかたちでやっていましたね。
小黒 で、『墓場鬼太郎』(TV・2008年)の絵コンテがありますが、これはいかがでしたか。
佐藤 清水(慎治)さんからオファーをもらったのかな。誰からオファーもらったか、ちょっと忘れましたけど。
小黒 念願の『墓場鬼太郎』じゃないですか。
佐藤 「面白そうな企画をやってるな」って思ってたとこに話が来て、スケジュール的にもちょうどよかったんでしょうね。
小黒 手応えはいかがでしょう?
佐藤 いや、面白かったですよ。コンテをやったのは本編の映像を観る前だったと思うんだけれども、放映でオープニングを観て「電気グルーヴ!?」って驚いて。オープニングは原作の画を使っていて、それも面白いなと思いました。
小黒 内容に関しては、自分で選べたんですか。
佐藤 いや、シナリオができた状態で、普通にコンテの仕事を発注してもらってやっていますね。特にアレンジはしてないですね、ほとんど。
小黒 元々、ああいう話だった?
佐藤 そうですね。水木(しげる)テイスト満載にするっていう意図もあった企画なので、楽しかった。
小黒 他の方のコンテとか、見れたんですか。
佐藤 いや、見れてないかな。シリーズディレクターの地岡(公俊)君の1話は観たかもしれないけど。キャラ表を見ただけで「ああ! これですよね!」って感じあるじゃないですか(笑)。なので、迷わずできた気がしますね。
小黒 原作のコマをそのまま使ったりしているんですか。
佐藤 そこまではやっていないと思うけど、なるべく原作のテイストを出すようにしてやってたと思いますね。
小黒 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』は絵コンテを描いているんですか。
佐藤 あんまり記憶になくって。どれがどれだったのかも、ちょっと覚えていないんですよ。今日、その事を聞くと言われていたから、観直してるんですけど、『まごころを、君に(新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に)』と『新劇場版』って同じやつかと思ったら違うんだ、みたいな感じ(笑)。
小黒 違いますよ! 全然違いますよ(笑)。
佐藤 そんな状態だったりするので、うっかり何かを言うと間違った事を言いそうで。
小黒 かなり大勢の人がクレジットされていますからね。描いたとしても、使われていないのかもしれないですね。
佐藤 「過去のコンテの切り貼りで」と言われたので、その通りに切り貼りして渡した事があるんですよ。
小黒 それは、いつ頃の事ですか。
佐藤 いつのどの映画なのか、思い出せないんですよ。
小黒 なるほど。カラーに行った事はあるんですね。
佐藤 カラーに行きましたね。
小黒 じゃあ、『新劇場版』だ。佐藤さんがTVシリーズで絵コンテを描いたパートをなぞって作るプランがあったのかもしれないですね。
佐藤 切り貼りも、そんなに沢山はやってないです。その後は特に話をもらっていないし。
小黒 これはいつか解明しましょう。宿題とさせてください。『迷い猫オーバーラン!』(TV・2010年)という作品がありまして、各話で監督が違うんですよね。
佐藤 ありましたね。
小黒 脚本は既にあって、それを元にして、それぞれの監督が演出するんでしたね。どんなふうに言われたんですか。
佐藤 プロデュース側の意向としては「監督なのでどのようにやってもらってもいいです」「脚本からやってもいいし、こちらで用意する事もできます」だったと思います。それで、脚本は向こうにお願いしてやってもらったんですね。
小黒 佐藤さんが担当したのは最終回ですよ(12話「迷い猫、決めた」)。いや、その後に最終回あるんですけど、それは総集編なので。
佐藤 ああ、そうか。脚本は書いてもらって、コンテはやったけど演出はカサヰ(ケンイチ)さんだったかな。
小黒 かなり悩みながらやられたのではないかと思うのですが。
佐藤 ああ、悩んだかもしれないですね。この頃だとハルフィルムの体制が変わってて、TYOアニメーションズに変わっているんですよね。『うみものがたり(~あなたがいてくれたコト~)』(TV・2009年)もそうやって決めたところはあるんですけど、いつも色々な作品が動いてるので、TYOにはあまり余裕はなかったんです。他社作品のオファーをもらって作品をやってて、その時にTYOで作品制作が始まったら、自社の制作にブレーキがかかるかもしれない。それで、やるかどうかの判断をTYOに預けていた時期があったんです。『迷い猫』もそういう感じで、「やるかどうかは会社で決めて」と言ったら「やる事にしました」と言うので、やる事にしました。
小黒 各話監督制という事で「佐藤順一らしくやる」事が求められたと思うんですが、それについては悩まなかったんですか。
佐藤 どうだったかなあ(苦笑)。特にそれについては意識しなかったかもしれないね。
小黒 この時期だと、『シックスハートプリンセス』(PV・2010年)がありますね。
佐藤 ありましたね。
小黒 TVアニメのオープニング、エンディング風のPVですね。クレジットだと、PV全体の監修と、オープニング部分の絵コンテをやった事になっているようですね。
佐藤 そもそも「村上隆さんがアニメーションをアートとして作りたいと思っている。女児向けのアニメーションを考えている」と聞いていたんです。それで話を聞かせてほしいと言われて、向こうに行きました。自分の経験から「こういう作品の時は、これこれで」「こういう玩具があるんだったら、こんなプランニングをします」「キャラクターを作る時は、こういったかたちでシルエットを大事にしてやります」といったお話をしました。それで終わりかと思ってたら、その後、オープニングを作る流れになって、オープニングやるなら絵コンテもやれないですか、という感じで、気がつくと結構長く関わる事になったんですよね。そこで、小林治さんと仕事をする事になります(編注:『BECK』等の監督を務めた小林治。オープニングの絵コンテで佐藤順一と連名でクレジットされている。この取材の数日前に、自身のTwitterアカウントを通じて逝去された事が明らかにされた)。
小黒 若いほうの小林治さんですね。どういった仕事分担だったんですか。
佐藤 小林さんは、オープニングを実際に作る頃に入ってくれて、最終的なコンテのまとめをやってくれたと思います。僕がざっと描いたコンテを、1本のフィルムになるようにまとめたのが小林さんですね。
小黒 小林さんの印象はいかがでしたか。
佐藤 いや、やっぱり僕らとは違うじゃないですか。我々は、子供達に「何が食べたいの? こういうの食べたいの? こういうのも美味しいよ」という感じで料理して出すというか(笑)。小林さんは「こういうもの食べたほうがいいよ!」って出す感じというか。
小黒 (笑)。
佐藤 「俺、こういうの好きなんだよね。だからこういうの食べたほうがいいよ!」という感じで出すのが、やっぱり自分と違っていたなと。小林さんはアニメーションだけじゃなくて、映画も好きだからなあ。「好きなものが沢山あるんだな」という事と、それをエネルギーにして作っていくところが印象に残っていますね。そこは自分とは全然違うというかね。「何が好きか」に凄くまっすぐな人なんだなって思いましたね。
小黒 なるほど。小林さんとそういう話をしたんですね?
佐藤 それを言葉で小林さんに伝えたかどうかは、覚えてないんですけど、小林さんがやたらと褒めてくれるので、返すかたちでそんな話をしたかもしれないですね。
小黒 村上隆さんの印象は、どうでしたか。
佐藤 村上隆さんは、あんまり会った事のない人種なので……、分かんないですよ(笑)。アーティストなんだろうけども、プロデューサーであり、ビジネスマンでもあるし。その正体がなかなか掴めない感じはずっとありましたね。アーティストだからといって、「俺の作りたいものをやるんだ」っていう感じでもなかったんですよね。『シックスハートプリンセス』だったら、デザイナーをはじめ、周りのスタッフにやりたい事を聞いて、抽出して上げるようなところもあって、「不思議な人だなあ」と思ってましたけどね。
小黒 早く完成するといいですね。
佐藤 まだ完成してないんですかね。
小黒 完成しているのは全15話中の7話までです。
佐藤 そうなんですね。「ベルサイユ宮殿で上映する」って聞いた時、ひっくり返りましたけど(編注:佐藤順一が制作に参加したPVは2010年にベルサイユ宮殿で上映された)。
第740回 遊んでる暇はない
ぴあCOMPLETE DVD BOOKシリーズ『ベルサイユのばら』4巻買いました!やっぱ、出﨑監督最高!
何度でも観れます、出﨑統監督作品は! それこそ『ベルばら』に限らず、他作品もビデオ(VHS)・レーザーディスクにDVDやBlu-ray、更に“ぴあ”のでまたDVD——20数年間、何度もメディアを換えて買い直し続けました。その間、他監督のアニメや何百億稼ぎ出した大ヒットアニメが幾つも世間を賑わしましたが、それらは興味皆無なまま自分の眼前を通り過ぎた感じで、そんなの知ったことではありません。何にせよ世間・現代のヒット作より、自分の生理に一番好き合っているのが出﨑アニメなので。それは一生変わらない、生涯出﨑ブームの真っ只中、という訳で、来月発売5巻で完結。それこそレーザーディスクの頃から幾度となく観て、結末まで知ってるのに、何故こんなに楽しみなのでしょう?
あ、前述の“眼前を通過した大ヒット作”についての補足。別に自分は世間の大ヒットアニメに嫉妬できる立場でもなく、怨みもないもので、素直に「おめでとうございます!」と思ってきたし、アニメ業界全体を考えると、自分が関わる関わらない関係なしにヒット作が世に生まれること自体には「感謝する」のが当然。何故なら、それによってアニメに出資するスポンサーが増えれば、業界隅っこの我々にも仕事が回ってこようってものですから。そういう、業界的に感謝しかないヒット作らに、そんな作品一つ碌に作れていない俺らが難癖・批判・批評することなども野暮ってものです。
で、明日(1月28日)は板垣48歳の誕生日になります!(同日誕生日を迎える、水島精二監督、元テレコムの先輩・西見祥示郎さんもおめでとうございます! 毎年言ってる!)
早い……。月並みな話、あっという間ですね、40年なんて。てことは、残りの人生も“あっという間”だってことを意味していると思います(いや、もっと早いかも?)。昨年末に父親が亡くなり、その顔を見て以来——
人生は長いようで短い! 余計なことを考えてる暇などない! やれるだけのことをやり切るしかない!
てなことばかり考えています。元々「余計なことを考えず」「やるだけやり切る」をモットーに仕事してきたつもりですが、父親死去の現実に「人生は短し」が一番最初に付け加えられました。 そういえばこの間、某宣伝系プロデューサーの方が俺を指して、
板垣さんみたいに“満ち足りた人”を見ると、イラつく人が世の中にはいるんスよ! 知らないとこで恨み買ってますよ~!
と言って笑われました。その時俺は「満ち足りた~と言われれば、自覚はあります」と返しました。つまり、自分には「今、欲しいモノ」がないんです。金も地位も周りの人たちが欲しがってるほど、俺は興味がない。だって「死んだら関係ない!」と常に思っているから。これは我々世代が死に物狂いに欲した“学歴”についても同様の考え方でした。食べる物が貧相か高級か?なんて、胃に入ったら変わらないし、身に着けている物だって寒さが凌げて大事なトコが隠れてりゃそれでいいし、電車・バス移動も嫌いじゃないし(車が欲しいと思ったことが一度もない)、住み家だって寝る場所とエアコンと風呂くらいあれば、何処だって一緒でしょ? それら些末なことなど、どーせ死ぬまでの辛抱ですし、もし不意に欲しい物やしたい贅沢ができた時は、ちょっと頑張って手を動かせば(コンテ・作画の仕事を取れば)金は作れますから。そして、アニメは前回も言ったとおり“出﨑アニメ以外不要!”論。なので、もっとはっきり言ってしまうと、
自分は本当につまらない人間なんでしょう、世間的に!
48年生きてきて今更ながら薄々分かってきたんです、それが。本来そんな面白くない板垣に740回も連載続けさせて下さるなんて、アニメスタイル様はホント太っ腹だと思っていて、この場を借りてお礼申し上げます。
まぁ、これからも何処かで他人をムカつかせるかも知れませんが、スミマセン! もし、本当にそのような方々がいらっしゃっとしても、自分には残された時間が40年しか残っていない(もっと短いかも)ので、このまま突っ走ります。悪しからず!
今はただ、「死ぬまでにあと何作創れるか?」と「どれだけ後輩を育てられるか?」だけを考えて、死ぬまでやってみようと思っています。
アニメ様の『タイトル未定』
336 アニメ様日記 2021年10月31日(日)
2021年10月31日(日)
早朝の新文芸坐に行って、オールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol.132 押井守映画祭2021」の終幕を見届ける。『イノセンス』の最後で拍手が湧いていた。後で知ったのだけれど『うる星やつら2 ★ビューティフル・ドリーマー★』と『機動警察パトレイバー2 the Movie』の最後でも拍手があったそうだ。
今回のオールナイトでは、お客さんに押井さんへのメッセージを寄せ書きのかたちで書いてもらった。寄せ書きには「仕事が辛いとき 押井さんの映画を観ます!!」「この夜のことを忘れません!」「辛いことも多いけど 押井先生の作品を見て元気をもらってます」といったコメントが並んでいた。コメントの中にあった「守さんの作品で」というフレーズも印象的だ。お客さんが若くて、素直に作品を楽しんでいる感じだ。寄せ書きの現物は押井さんに送ることになっている。押井さんも喜んでくれるに違いない。
この日の起床時の体重が66.4キロ。10月はリバウンドするかと思ったが、なんとか66キロ台をキープ。10月は脂っこいものを食べたり、お酒を呑んだりもしたのだけれど、前後の食事でバランスをとった。体重と言えば、今まで押井さんに「もっと痩せなさい。なんだその腹は」と何度も言われていた。ところが今回のオールナイトで痩せた姿を見せたら、「やっぱり小黒君は太っていたほうがいいね」と一言。おお、やっぱりそうくるか(笑)。
昼間はデスクワークと散歩。散歩の途中で新宿区立中央図書館に寄る。ここも手塚治虫関連のマンガ単行本が充実。豪華本もあった。
2021年11月1日(月)
グランドシネマサンシャインで『劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア』の【IMAXレーザーGT版】を鑑賞。アクションシーンの音響がいい。それから、キャラクターが部屋に入ってくる際の、オフのドアが開く音がよかった。物語に関しては楽しめたけれど「もっと観たい」という感じ。
2021年11月2日(火)
新文芸坐で「真昼の決闘」(1952・米/85分/DCP)を観る。プログラム名は「スクリーンで観たい名作西部劇 真昼の決闘」。有名な映画だけど、自分は初めての鑑賞。物語はよくできているし、演出もよい。ただ、この映画が公開された頃と比べると、主人公は共感を得づらくなっているんだろうなあ。Wikipediaでは、この映画の上映時間は85分で、劇中で経過する時間もほぼ85分で、リアルタイム劇であると記述されているが、実際の劇中での経過時間はもっと長いはずだと思った。
金曜ロードショーで放送された『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』総集編を録画で観た。かなりよかった。TVシリーズは観ているので、内容は分かっているのだけれど、楽しめた。総集編であるにも関わらず、非常に「映画的」だと思った。途中でCMが入ることで、かえって劇的になっているのかもしれない。
配信で『交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション1』を観た。『ANEMONE/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』を途中まで観た。
2021年11月3日(水)
昼の散歩でJ9シリーズの主題歌、挿入歌を聴く。いいなあ、昔はちょっと苦手なところもあったのだけど、年齢を重ねる度に好きになる。東京国際映画祭で『犬王』を観る。一般公開はまだまだ先なので詳しいことは書かないけれど、芸術作品にして娯楽作。湯浅さんだから作ることができた作品だ。宣伝のやりがいがある作品だとも思った。
2021年年11月4日(木)
グランドシネマサンシャインでワイフと「最後の決闘裁判【字幕版】」を鑑賞。観るつもりはなかったのだけど、オールナイトのトークで押井さんが強く推していたので観る気になった。確かによくできている。「やりきっている感」がある。登場人物に共感はできないんだけど、楽しめた。
2021年11月5日(金)
『かげきしょうじょ!!』を配信で流しながら「設定資料FILE」の構成を進める。
グランドシネマサンシャインで『アイの歌声を聴かせて』を観る。これは笑い話として読んでもらいたいのだけれど、ネットの感想で「終盤で予想もしなかった展開に」といった内容のものを目にしていたので、とんでもないどんでん返しがあるのだと信じて、身構えて観てしまった。例えば、サトミのお母さん達の計画が乱暴なものに見えるのも、どんでん返しのための布石だと思って観ていたのである。考え過ぎはだめですね。それはさておき、吉浦康裕監督にとって、この映画は新境地だったはず。次回作がこの延長線のものになるのかどうかが気になる。
どういうわけか、月曜から毎日1本ずつ、5日連続で劇場で映画を観た。
2021年11月6日(土)
昼間は散歩。ワイフが「あたしゃ川尻こだまだよ」1巻を紙の本で買いたいということで、池袋と高田馬場の書店をめぐる。池袋ではIKEBUKURO LIVING LOOP2021というイベントをやっていて、街中で色々な企画をやっていた。池袋のグリーン大通りに出店が並び、そのうちのひとつで、閉店した東急ハンズ池袋店の備品を販売していた。ワイフはそこで文具を並べていたと思しき棚等を買い込んだ。
金曜ロードショーの『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 -永遠と自動手記人形-』を録画で観る。不思議なことに、先日の総集編の方が映画的だと感じた。これは作品としての善し悪しの話ではない。単純に感覚の話。『外伝』は映画館で観たほうが映画的だった。
第223回 銀河ネットワークで歌を歌った男 〜マクロス7〜
腹巻猫です。フランス・イタリア合作の劇場アニメ『シチリアを征服したクマ王国の物語』を観ました。原作はイタリアの作家ディーノ・ブッツァーティが書いた児童文学。寓話のような物語といい、絵本がそのまま動いたような映像といい、実に筆者好みの作品。吹替もよかった。『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』などの海外アニメが好きな方にお奨めします。
https://kuma-kingdom.com
アニメと音楽の関係を考えるとき、いつも思い出すのが『マクロス7』のことである。
ディズニーの劇場短編『蒸気船ウィリー』(1928)の頃からアニメと音楽は密接な関係があった。音楽は映像にテンポ感や躍動感を与え、絵で表現しきれない雰囲気や感情を伝える。もちろん、絵に十分な表現力と魅力があれば、絵だけで感動させることもできるだろう。しかし、予算やスケジュールが限られた商業作品でそれをやりきることはなかなか難しい。特にTVアニメでは、音楽が絵を補っていると感じるケースがしばしばある。
ところが、『マクロス7』は「劇伴を使わない」という大胆な挑戦をしたTVアニメなのである。
『マクロス7』は1994年10月から1995年9月まで放送されたTVアニメ作品。『超時空要塞マクロス』(1982)に始まるマクロスシリーズの1本だ。
舞台は『超時空要塞マクロス』の時代から35年が経過した2045年。かつて敵同士であった異星人ゼントラーディと地球人は共存の道を歩み、人類の移住先を探すために移民船団を組んで、長年にわたり宇宙を旅しているという設定だ。
その移民船団のひとつが宇宙都市マクロス7を中心とする第37次移民船団。しかし、マクロス7船団は正体不明の敵から攻撃を受ける。船団を守る防衛隊(統合軍)が出撃して宇宙戦をくり広げる中、戦闘機ファイヤーバルキリーで戦場に踊り出て敵機にスピーカーポッドを打ち込み、自分の歌を聴かせる男がいた。ロックバンド「Fire Bomber」のボーカル・熱気バサラである。バサラは歌で戦争を終わらせることができると信じ、敵の攻撃を受けても一切反撃せずに歌い続けるのである。
「俺の歌を聴け!」と叫んで戦場で歌うバサラがインパクト抜群。が、それ以外にも、本作には音楽的に面白い点がいくつもある。
その第一が「劇伴を使わない」演出である。これは本作の監督・アミノテツローの発案であったという。音響監督の鶴岡陽太はこの提案を聞いて、「むしろやりやすい」と思ったそうだ。歌を聴かせることがメインになるはずだから、歌と劇伴が混在すれば音楽の配分が難しくなる。でも歌だけであれば、そこにフォーカスを合わせた演出ができる。音楽プロデューサーの佐々木史朗は「そうはいっても、きっと使うことになるだろう」とインストを5〜6曲作っておいたが、結局ひとつも使わなかったとふり返っている。『マクロス7』は「音楽」のクレジット表記がない稀有なTVアニメになったのである。
では『マクロス7』の世界に音楽が聴こえないかというと、そんなことはない。Fire Bomberの演奏と歌、街に流れる音楽やテレビやラジオから聴こえてくる音楽など、いわゆる「現実音」としての音楽がそこそこに流れている。
初期のエピソードでは本編冒頭に宇宙移民の歴史を語るプロローグが挿入されている。そのバックに雄大な曲調の音楽が流れていて、これは本作唯一の劇伴(BGM)ではないかと思うのだが、このプロローグも『マクロス7』の世界で作られた記録映像だという解釈もできる。少なくとも、ドラマを盛り上げるためのサスペンス音楽やアクション音楽、心理描写音楽のたぐいは一切使われていない。それを意識しながら映像を観ると、なかなか興味深い。
宇宙から敵の戦闘機が襲来し、移民船団が攻撃を受ける。防衛隊が出動し、ドッグファイトをくり広げる。一般のアニメなら緊迫した音楽や高揚感をあおる音楽が流れるところだが、それがない。そもそもドラマの背景に音楽が流れること自体がフィクションであるし、宇宙には現実音としての音楽も聴こえないのだから、これはとてもリアルな表現と言える。
そこにエレキギターの音が割り込み、熱気バサラの歌が聴こえてくる。「来たか!」という感じである。バサラの歌が映像に魂を吹き込む声のように聴こえる。
『マクロス7』は、なぜアニメに音楽があるのか、なぜ人が音楽を必要とするのかを考えさせてくれる、そんな作品である。
歌を聴かせることがメインの作品だが、音楽演出は実に緻密だ。Fire Bomberの演奏を、ボーカル、ギター、ベース、キーボード、ドラムスなどの楽器ごとの音源に分け、場面に応じてそれらを組み合わせて使っている。たとえばボーカルが先に聴こえてきて、あとから演奏が加わるとか、ときにはエレキギターだけ、ドラムスだけの演奏が流れてBGMの役割を果たすといった具合である。
物語が進むとバサラの歌の力が統合軍に認められ、Fire Bomberは「サウンドフォース」として出撃するようになる。SFメカアニメらしい戦闘機発進シーンや合体シーンが描かれるが、そんなシーンではFire Bomberの歌のイントロ部分が長く使われ、効果を上げている。現実音としての演奏をうまく劇伴として使っているのだ。
こんな作品だから、本作にはいわゆるサウンドトラック・アルバムはない。代わりに歌のアルバムが何種類も発売された。Fire Bomberのアルバムだけでも、スタジオ録音のロック・アルバム、アコースティック・アレンジ盤、ライブ盤、英語盤などがあるし、同じ歌でも、バサラがソロで歌うもの、Fire Bomberの女性ボーカル・ミレーヌが歌うもの、ふたりがデュエットするものなど、さまざまなバージョン違いがある。そのバリエーションを楽しむのも、本作の醍醐味のひとつだ。
面白いのが、これらのアルバムが『マクロス7』の世界でリリースされたアルバムという設定で作られていることである。ライナーノーツではFire Bomberのメンバーは劇中の役名で表記され、いわゆる「中のひと」は表記されていない。当初はバサラとミレーヌの歌を担当する歌手(福山芳樹とチエ・カジウラ)が秘密になっていたこともあるだろうが、それが明らかになったあとも、この趣向は一貫している。あくまで作品世界内のバンド、Fire Bomberとして扱われているのだ。
本作の代表曲を聴こうと思ったら、基本となるのはFire Bomberのアルバム「LET’S FIRE!!」と「SECOND FIRE!!」である。放送終了後にはベストアルバム「ULTRA FIRE!!」が発売されたので、これだけでも主要曲は集められる。
しかし、サントラファンとして面白いのは、最初に発売されたアルバム「マクロス7 MUSIC SELECTION FROM GALAXY NETWORK CHART」だ。これは『マクロス7』の世界のヒットチャートから選曲されたという設定のアルバム。ライナーノーツには選曲を担当した(という設定の)音楽プロデューサー・北条秋子(『マクロス7』に登場するキャラクター)のコメントが掲載されている。また、2046年1月21日付けのウィークリー・トップ10にランクインしたヒット曲のタイトルも掲載されている。そのトップ10には、懐かしいリン・ミンメイの「天使の絵の具」など、このアルバムには収録されていない曲も入っている。アルバムを手にしたファンは、『マクロス7』の世界の一員になった気分になれるのである。
「マクロス7 MUSIC SELECTION FROM GALAXY NETWORK CHART」は1995年1月にビクターエンタテインメントから発売された(のちにフライングドッグから再発)。収録曲は以下のとおり。
- PLANET DANCE(Fire Bomber)
- 突撃ラブハート(Fire Bomber)
- CHECK MATE(Bamboo-road Express)※インストゥルメンタル
- Galaxy(Alice Holiday)
- SEVENTH MOON(Fire Bomber)
- そこにあるのが未来だから(FLASCHAKAYA)
- Bitches Blue(FASCINATE MILES)※インストゥルメンタル
- Groove Along(POWER OF TOWER)
- MY FRIENDS(Fire Bomber)
- MY SOUL FOR YOU(Fire Bomber)
※()内はアーティスト名
番組のオープニング主題歌「SEVENTH MOON」が5曲目に入っているのが、あたりまえのアニメのソングアルバムとは違うところ。主題歌もFire Bomberの歌として作られているのだ。
「PLANET DANCE」と「突撃ラブハート」はバサラが戦場で歌う、おなじみのロックナンバー。Fire Bomberがステージで演奏する曲でもある。10曲目の「MY SOUL FOR YOU」はバサラがギターの弾き語りで歌ったりするバラード曲である。
6曲目の「そこにあるのは未来だから」は『超時空要塞マクロスII -LOVERS AGAIN-』(1992)の挿入歌(イメージソング)で、まさに時空を超えての再収録になった。作編曲は鷺巣詩郎。ここでは『マクロス7』の劇中の歌手・フラスチャカヤが歌っているという設定だ。歌自体はオリジナルの佐藤有香(現・YUKA)のもの。本編ではTVモニターの中でフラスチャカヤが歌っている場面がある。
4曲目の「Galaxy」は劇中の人気シンガー、アリス・ホリディが歌う曲。しっとりした雰囲気のロックバラードだ。『マクロス7』第9話は、そのアリス・ホリディがメインゲストで登場するエピソードである。
8曲目の「Groove Along」は、第10話で北条秋子が運転する車のカーラジオから流れていた。ブラスやハモンドオルガン、エレキギターなどがグルービーな演奏を聴かせるファンキーなナンバーである。
どの曲も完成度の高い楽曲に作り込まれている。アニメのキャラクターソングアルバムなら、こうした作りにはならなかっただろう。劇中のアーティストが演奏し、歌う曲という設定だからこそである。本編未使用曲もあるので「劇中で流れなかった曲はいらないなあ」と思う人もいるかもしれないけれど、『マクロス7』の世界のどこかで流れていた曲だと思うと楽しいではないか。
劇中のアーティストが歌う曲のコンピレーション・アルバムというコンセプトは、のちの『キャロル&チューズデイ』(2020)に受け継がれているし、劇中の音楽アルバムが現実のアイテムとしてファンに届けられるという趣向も、『サイダーのように言葉が湧き上がる』(2021)の劇中に登場したLPアルバムがブルーレイ特装版(ビクターオンラインストア限定版)の特典ピクチャーレコードとして再現される形で引き継がれている。いずれも音楽制作はフライングドッグ。『マクロス7』はアニメ音楽アイテムの新しい可能性を示した作品とも言えるだろう。
ところで、『マクロス7』の世界の音楽アルバムはどんな形でリリースされたのだろう。資源が貴重だから、やはり配信だけのデジタルアルバムなのだろうか(本作が放映された1994〜95年当時、そんなものはなかったけど)。劇中のレコードショップのシーンでは、LPレコードみたいな大きなジャケットのディスクが売られていた。2045年の宇宙都市では、案外、アナログレコードが現役で聴かれているのかもしれない。
マクロス7 MUSIC SELECTION FROM GALAXY NETWORK CHART
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マクロス7 LET’S FIRE!!
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ULTRA FIRE!! FIRE BOMBER BEST ALBUM
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第371回 マンおじ?
佐藤順一の昔から今まで(35)メイキング・オブ・ARIA〈後篇〉
小黒 佐藤さんの『ARIA』におけるシリーズ構成というのは、実際の作業としてはどういったかたちだったのですか。
佐藤 構成はシリーズの13本をどういうふうに組み立てるか、原作をどう配置するかを考える。「この話とこの話を組み合わせて、こういう軸の話を作ります」みたいな事はざっくり決めて、それでシナリオ書いてもらうっていう感じです。
小黒 佐藤さんがシナリオとしてクレジットされてる回は、いきなり絵コンテを描いているんですよね。
佐藤 そうですね。大体プロットからそのままコンテに入る。
小黒 プロットは綿密に書いていたんですか。
佐藤 書かないですね。自分で綿密に書いても、結局は変わっちゃうんです。だから、「大体こんな流れでお話が展開します」という事で了解をもらって、絵コンテに入るって感じかな。
小黒 佐藤さんは『ARIA』の世界について肯定的であり、1シリーズ目が終わった時には「今後も作っていきたいなあ」と思われたわけですね。
佐藤 そうですね。最初は凄く探り探りだったし、周りのスタッフから「えっ、この何もない物語で30分、大丈夫なんですか?」と聞かれる事もあったんだけど。やってみたら、自分でもいい感触だったんでしょうね。「あっ、なんかやれてる。イケてる。いいかも」と思っているところで「2期をやりたいんですけど」と言われたんです。それで、すぐに「やりましょう」と言ったはずだし、「やるんだったら、原作をしっかり拾っていけるように長めにやりたいですね」という話もしてると思うんですよね。次は2クールでやる事になるんですけど、そういう流れだから、凄く前向きですよ。
小黒 1期が2005年の10月から12月で、2期(『ARIA The NATURAL』)が翌年の4月からなので、連続して作っているはずですよね。
佐藤 そうなんですよね。どの時点で第2期をやろうっていうジャッジが下されたのかは覚えてないです。
小黒 1期の1話が放映された時には、2期を作ってるんでしょうか。
佐藤 どうかなあ。でも、なんらかのリアクションがないと、「2期やろう」とは言わないはずなので。
小黒 やっぱり放映が始まってから?
佐藤 だとは思うんですよね。そこはプロデューサーに聞かないと分かんないかもしれないですけど。ただ、2期はそんなにたっぷりとした時間はなかったような気もするので、結構バタバタと決まったかもしれないですね。
小黒 第3期は原作の終了と合わせて作ったんですか。
佐藤 そこはそうですね。原作も終わるので、「じゃあ作りますか」という感じでスタートしたはず。ただ、3期(ARIA The ORIGINATION)はちょっと時間があったんじゃないかな?
小黒 2期と3期の間は、随分空いてるんです。
佐藤 ですよね。間に『ARIETTA』 (『ARIA The OVA ~ARIETTA~』・2007年)が作られてますもんね。TVシリーズの期間が空くので、それでOVAを入れた気がする。
小黒 2006年に2期をやって、2007年はOVA。2008年が3期ですね。そして、第3期はマンガの最終回がどうなるかを踏まえて作られたと。
佐藤 そうですね。
小黒 まるで、それまでの全てが第3期最終回に向けて積み重ねてきたかのようですよね。
佐藤 そうでしたね(笑)。天野(こずえ)先生はもうちょっとじっくりと描けるスケジュールだったのに、こちらのスケジュールを間に合わせるために「ラストのネームを早めにください」とお願いするような事はあったかもしれない(笑)。
小黒 じゃあ、ネームいただいて、それを元にコンテを描いたんですね?
佐藤 そうですね。だから原作の同じ画を本編にも使えているんですよ。原作といえば、2期で「海との結婚」の話があるじゃないですか(編注:『ARIA The NATURAL』23話「その 海と恋と想いと…」。なお、「海との結婚」は実際にベネチアで開催されている伝統行事だ)。その時は「海との結婚」についての話をやるという事だけ聞いていたんですよ。原作が来る前にアニメは動く事になって「こういう話なのかな?」と思って作ったら、全然違っていたという事はありましたね(笑)。
小黒 (笑)。『ARIA』は、キャラクターの画が本当にどんどん変わっていくんですけど、第3期の井上英紀さんの回(4話「その 明日を目指すものたちは…」)が、びっくりするぐらいハイクオリティというか、まるで違うアニメみたいですよね。
佐藤 そうそう(笑)。しかも、1人で作画やってるじゃないですか、あれ。びっくりしますよ。
小黒 この取材の前に『ARIA』の第1期から第3期までを通して観たんですが、4話が始まった時の衝撃たるや。
佐藤 (笑)。
小黒 「何が始まったんだ!?」と思いました。
佐藤 そうなんですよね。『カレイドスター』の和田高明さんのような衝撃感がありますよね。
小黒 衝撃感ありますね。『Ζガンダム』のオープニングの梅津(泰臣)さんのような鮮烈さで、画が巧いだけじゃなくて、妙にリアルなんですよね。みなさん、あれに引っ張られたりはしなかったんですか。
佐藤 引っ張られてますね。ただ、『ORIGINATION』は、他の話数も同時に動いてるので、そんなに画面には出てないはずです。最後のところで、アリシアさんの前髪の細かくばらついた描き方に、影響が出てますよね。後年の『ARIA The AVVENIRE』(劇場・2015年)をやる時には、あの感じがベースになって描いてる感じはありましたね。
アニメ様の『タイトル未定』
335 アニメ様日記 2021年10月24日(日)
2021年10月24日(日)
新文芸坐のモーニングショーで「83歳のやさしいスパイ(2020・チリほか/89分/DCP/ドキュメンタリー)」を観る。実写のドキュメンタリー映画だ。新文芸坐で何度も予告を目にして、鑑賞する気になった。ごく普通の老人が探偵事務所の依頼を受け、ある調査をするために老人ホームに入居者として潜入する。老人は自分の正体を隠しつつ、そこで生活しながら調査を続ける。何か事件が起きるわけではなく、カメラは老人ホームの人々を追っていく。内容は面白い。面白いんだけど、一体どうやって撮ったのか。入居者には主人公がスパイであるということを秘密にして撮影をしたということだけど、入居者は撮影スタッフを何だと思っていたのだろうか。
午後はワイフの希望で、旧古河邸に行って薔薇を観た。珍しく、ほとんど仕事をしない一日になった。
2021年10月25日(月)
取材のための質問状を2本作る。動画を確認しつつ質問を組み立てたので、かなり時間がかかった。これはこれで楽しい作業だった。ドーミーイン池袋にチェックインする。ワイフは仕事が一段落したのだけど、心身ともにぐったりしているので連泊することにした。今回も自分はホテルで寝て、ホテルから出社する生活となる。
2021年10月26日(火)
「中村豊 アニメーション原画集 vol.2」の準備もあり、『僕のヒーローアカデミア』を1話から順に観ている。この日は23話「轟焦凍:オリジン」も観た。この話は何度も観ているのだけど、やっぱり1話から順に観ていったほうが、その価値が分かる。話は変わるけれど、先日、『ヒロアカ』には参加していない50代のあるアニメ監督と話をしていて、23話の話題となった。彼は「23話って轟君の話ですよね」という言い方をした。その「轟君」という言い方が印象的で、この人は現役のアニメファンだなと思った。
2021年10月27日(水)
「中村豊 アニメーション原画集 vol.2」のBookletのために中村豊さんに取材。「ちゃんと作画を語ったインタビュー」になった気がする。作画についての何かを言語化できたかもしれない。
2021年10月28日(木)
16時からBONESで、「アニメスタイル016」の取材2本立て。
『ヒロアカ』を観まくる。ここ数日、散歩時にも『ヒロアカ』のサントラを聴いている。『ヒロアカ』はサブスク時代のタイトルだな、と思う。アニメ本編はTVシリーズと劇場版だけでなく、OVA(OAD)サブスクで配信されている。音楽に関しては、第5期のサントラのCDがまだ発売されていないのに配信が始まっていた。
2021年10月29日(金)
ユーロスペースで「由宇子の天秤」を観る。片渕さんがプロデューサーを務めた実写映画だ。公開前から観に行くつもりだったけれど、事務所近くの映画館でやっていないのと、上映時間が打ち合わせとぶつかることが多くて、なかなか観ることができなかった。昼間の上映が無くなりそうだったので、定例社内Zoom打ち合わせを休みにして観にいった。映画としては力作だった。モチーフも面白いし、演出もしっかりしている。細部もよい。ただし、物語に関して気になるところが少しあった。それは僕が作品を受け止めきれなかったということかもしれない。渋谷では『名探偵コナン』のキャラクターを使ったフラッグを掲示し、ハロウィンを自宅で過ごすことを呼びかけていた。フラッグは6種類あり、高木刑事と佐藤刑事がピックアップされているのが嬉しかった(後日追記。この時点では2022年公開の劇場版『名探偵コナン』で高木刑事と佐藤刑事にスポットが当たるらしいことは、まだ発表されていなかった)。
『ヒロアカ』の再視聴は続いている。『ヒロアカ』はシリーズが複数あっても、話数カウントが通算で統一されているから分かりやすくていいなと思っていたら、そんなことはなかった。dアニメストアとNetflixで話数カウントが違っている。例えば「轟焦凍:オリジン」はdアニメストアでは23話で、Netflixでは24話。Netflixは各シリーズのOVA(OAD)を、シリーズの1話としてカウントしているのでズレが生じているのだ。dアニメストアはOVA(OAD)を単独作品として扱っている。
『あたしゃ川尻こだまだよ デンジャラスライフハッカーのただれた生活』で、主人公の川尻こだまを悠木碧さんが演じることを知る。これは意外。いや、あのマンガがアニメになるのがそもそも意外だったのだけど、それはともかく、川尻こだまは芸能人キャスティングになると思っていた。それから、なんとなく面白キャラっぽい声になる気がしていた。いったいどんな芝居になるのか。楽しみだ。
2021年10月30日(土)
昼間は散歩、オールナイトの予習、花屋に行って押井さんの誕生祝いのための花を注文したり。夜はオールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol.132 押井守映画祭2021」を開催。トークのゲストは押井守監督と西尾鉄也さん。押井さんにたっぷりと語ってもらい、トークは20分オーバーとなった。お客さんは若い方が多く、『うる星やつら2 ★ビューティフル・ドリーマー★』を初めて観る方も大勢いた。今回の上映作品は『★ビューティフル・ドリーマー★』『機動警察パトレイバー2 the Movie』『イノセンス』。つまり、いずれも人気作のパート2だ。「押井作品はパート2が傑作」が今回のプログラムのテーマであり、トークで押井さんがそのことについて触れてくれた。トークが終わった後、『★ビューティフル・ドリーマー★』の上映を少し観た。35ミリでの上映で、フィルムの状態がとてもよかった。
第739回 出﨑監督の表現
究極、俺——
出﨑監督以外のアニメがなくなっても、全く困りません!
板垣がちょくちょく周りに言ってる言葉です。つまり、そのくらいだってこと、自分にとっての出﨑統監督作品は!
『あしたのジョー2』を初めて観た時の衝撃と観た後の自分の人生については、光栄なことにBlu-ray BOX2の特典ブックレットの寄稿文にも書かせていただけたし、この連載でも何度も語ったかと思います。繰り返し言いますが、
“止めハーモニー”や“入射光”・“3回PAN”・“分割画面”とかは、どうでも良いんです!
出﨑作品を語る時、画作りの技法についてしか語れないやつは所詮“にわか”です! いくつかあった追悼本の中でもそんな記事ばっかで、心底ウンザリしたんですから。これも何度かはっきり言ってますが、止めも光も3回うんちゃらも分割も、むしろ板垣は嫌いです! 自作でコンテ発注打ちをする際、「それだけは止めてくれ!」と言ってるくらい。ギャグ表現とかで敢えて使ったり、演出処理の人が良かれと思ってやった止め画をそのまま使ったりはありますが、自分発で真似はしたことは一切ありません。嫌いだから! そもそも
出﨑監督作品の最大の魅力は画コンテで「人間」を描くところ!
にあります。そんなアニメ作家、現在いらっしゃいますかね? オリジナリティあるデザインや世界観、練りに練って凝ったストーリーを売りにしている作家気質アニメ監督が多い中、出﨑監督の創作スタイルは、
オリジナルか原作かなんてどうでもいい! それらは所詮「器」で描くべきはあくまで人間!
で一貫してました(何作か「ネズミ」が混じってますが)。「俺にとっての現場は“コンテ”だよね」と仰るくらい、コンテに全てを懸けた出﨑監督。アニメにおける画コンテとは画と尺のトリミングであり、フィルムの完成予想図。各キャラクターの人生をドラマチックに覗く窓みたいなのがコンテのフレームな訳で、原作があろうが、オリジナルだろうがそこは変わりません。その辺のコンテ作業の面白さにハマると、10年間で2〜3本の劇場オリジナル作品を監督する寡作では満足できるはずありません。だって、10年で5〜6時間分のコンテしか切れないんだもの。ところが「コンテ切る(描く)のが好き」を公言してはばからない出﨑監督は、毎年1本の原作ありのTVシリーズ+たまにOVAや劇場作品も加わる、といった多作っぷりを、晩年まで通し切りました。Wikipediaとかで数えてみてください。テレビ・劇場・OVA合わせて何作手がけられているか? これだけ多くの作品、さらにそのすべてが超個性的な「出﨑アニメ」に仕上がっている。ファンからすると、そりゃあ、他要らないでしょう! 出﨑ライブラリーさえあれば、死ぬまで何度も楽しめるのですから!!
と、いうわけで前回の続き。『ベルサイユのばら』・出﨑編。実は板垣は単に「コンテ」という単位で言うと、『あしたのジョー』や『エースをねらえ!』より『ベルばら』がいちばん好きかも知れません。
急な監督交代劇による、準備期間不足での後半スタートを余儀なくされたからか、『ジョー』におけるボクシングや『エース』のテニスのような、アニメーション的に魅せるアクション・サービスシーンがほとんどなく、動きを極力少なくした体脂肪率ゼロ、本当に無駄を排した滅茶苦茶クールな、究極の“演出”コンテで、実はこれこそが熱心なファンなら周知の出﨑アニメの真骨頂! 実際、自分が新人だった頃、テレコムの先輩に『エースをねらえ!2』のコンテ(もちろんコピー)を見せてもらったことがあるのですが、他人の描いたコンテに入っていた“出﨑修正”はアクション・パートはそのまま放置。その代わり、キャラクターの感情線を追ったドラマのシーンは全修正されていたのです——それこそ台詞ごとゴッソリ! つまり、出﨑監督にとって、「アクションなんてアニメーターが見せ場とするサービス」に過ぎず、「ドラマを描くことこそ“演出”の仕事」でしょうし、監督自身がドラマの方が好きなのだと思います。
で、『ベルばら』第21〜24話はジャンヌと「首飾り事件」。このエピソード、出﨑監督はジャンヌのことをかなり好きになって描いてたと思います(何処かのインタビューでも監督自身語られてましたよね?)。結局、ジャンヌは貧困から這い上がろうと足掻いて、貴族に紛れ込み悪の限りを尽くし、法廷でも口から出まかせ——全て嘘。遂には両肩に“V”の焼き印を押し終身禁固の刑。そして更に脱走~逃亡、最後は夫・ニコラスと共に自爆。碌でもない悪女な訳だけど、最後道連れに殺される前、ニコラスがジャンヌに言った台詞「それにしても、お前え最高の女だったぜ」は恥ずかしながら何度見ても号泣! これコンテ切ってる時の出﨑監督の圧倒的ハイ・テンションがフィルムから滲み出てますよね! 悪事を重ねて破滅に突き進むジャンヌに、観てるこちらも一緒になってゾクゾクして見入ってしまう。これはもう視聴ではなく「体験」です! そんな観る者を疑似体験に巻き込む力を持っているのが出﨑アニメで、そんなコンテが自分の永遠の目標です! 3回繰り返すとかではなく——。
第370回 今、浅草が熱い!
佐藤順一の昔から今まで(34)メイキング・オブ・ARIA〈前篇〉
小黒 『ARIA The ANIMATION』(TV・2005年)にいきましょう。『ARIA』は今でも続いてますね(編注:この取材が行われた時点で『ARIA The CREPUSCOLO』が公開済み、『ARIA The BENEDIZIONE』が制作中だった)。
佐藤 そうですね。こんなに続くとは、思わなかったですけど。
小黒 継続中の作品なので、総括はしづらいと思うんですが、聞ける範囲でうかがいたいと思います。
佐藤 はい。
小黒 佐藤さんのところに話が来た時には、原作はどのぐらい進んでたんですか。
佐藤 はっきりとは覚えていないんですけれども、単行本でいうと5巻がまだ出てなかったんじゃないかな。6巻に収録されているエピソードは連載のほうで読んでます。
小黒 アニメの1話を観れば、原作が相当先まで進んでいるのが分かりますね。
佐藤 そう、キャラクターは全部出ていたね。アテナさんが出たのが、原作だと5巻ぐらいでしょ。
小黒 アニメ化はどういったプランで臨まれたんでしょうか。
佐藤 「大きな柱になる事件がない作品で1クールって、どういうふうに作ればいいんだろう?」というところが、スタートですよね。基本的には悪意とかがない、澄んだ水のような作品なので。
小黒 ええ。
佐藤 この作品を観て「あっ、こんな綺麗な作品が好きな自分も捨てたもんじゃないな」と思えるものにするのが、作るべき娯楽のかたちかな。その綺麗さが満足感に繋がるんじゃないかな、と思ったはずです。だから、とにかく余計なものは足さない。ただ、原作の1エピソードが短いので、1クールの中でなるべく消化するために、2つぐらいのお話を上手く繋げて1本の話にしていこうと思った。もう1つには、アクアっていう星を開拓して住むという要素を縦軸に使って、オリジナルの話を入れてまとめようと。そんなざっくりとしたプランからスタートしてます。
小黒 始まった時点で、第2期をやるのは決まってたんですか。
佐藤 いや、始まった時は全然。1クールで着地させる企画としてこちらに来てますね。
小黒 後々、別れや卒業のエピソードがある事は分かっていたわけですね。
佐藤 そうですね。原作に「オレンジな日々」というエピソードがあって、それが肝の話になるんだろうなと感じながらやっていたと思いますね(編注:そのエピソードでは回想でアリシア、晃、アテナの関係が描かれる。そして、彼女達がそうなったように、灯里、 藍華、 アリスも、それぞれが一人前の水先案内人になったら、今のように一緒にいるのが当たり前でなくなるのだろうという事が分かる)。成長して、壁を1つ越えると、なかなか会えなくなるのは切ない。それがシリーズ全体の軸になるな、と思っていました。意外と物語ではその後も度々会うんですけどね。
小黒 最初の3話ぐらいでメインキャラクターを揃えるじゃないですか。これは1クールでまとめるためですか。
佐藤 そうですね。1クールっていう短期勝負なのでそうしました。灯里がペアからシングルに昇格する流れも、原作では順番に描かれてるんだけど、そこをそのままやっていくと、あっという間に話数を食うので、構成の時点で「既にシングルに昇格したところからスタートしよう」と考えていますね。
小黒 あらためて原作を読むと、アニメの作り方がいくつか考えられると思うんですよ。例えば、もっと舞台中心の作り方をして、観光旅行アニメのような作品にもできると思うんです。
佐藤 はいはい。
小黒 でも、『ARIA』は、キャラクターの気持ちに寄った作りになっていますよね。これは狙いを絞り込んで作ったという事ですよね。
佐藤 どうだったかなあ? でも、「観光アニメにしよう」とは、多分一度も考えてないと思うんですよね。ただ、「ネオ・ヴェネツィアっていう街も、川や水の流れる音もキャラだよね」「音と画が1つになってる世界観だよな」というイメージがあったかな。だから、音楽を発注する時にも音と画がワンセットでイメージができるような音楽を依頼したと思いますね。
小黒 画が悪いというわけではないですが、画よりも音楽とドラマで押していく感じになっていますよね。
佐藤 そうですね。結果、そういう感じになってますね。とりあえず、本編が始まったらまず音楽を流すっていうやり方ですから。
小黒 佐藤さんの作品作りが、この辺りから変わっていくわけですよ。音重視になっていく。『カレイドスター』はコンテを沢山描いていましたが、ここではシリーズ構成と音響監督をやっていますからね。
佐藤 そうだね。
小黒 コンテはそんなに押してなくて、音と雰囲気とドラマで作っていく感じにシフトしていくわけですね。
佐藤 でも、実はどの作品も、コンテをガリガリとやるつもりはないので(笑)。『ARIA』だから特別に! という気分でもないんですけどね。ただ、音楽に関しては、『ふたご姫』のような子供向け作品だったら、基本的にドラマに付けるようにはしてるんだけどね。この時のトライとしては、音楽をドラマに付けるんじゃなくて、画に付けるっていうイメージはありますね。当時話していたんだけど、車に乗って運転してる時に音楽をかけるじゃないですか。雨の中を走ってても、音楽がロックだったら外がロックな風景に見えるし、ヒーリングミュージックになったら、そういう風景に見えるんですよ(笑)。
小黒 なるほど。
佐藤 「音楽によって風景の見方って、全然変わるんだな」っていう印象があったので、画を『ARIA』の世界にしてしまうような音楽をもらって、流しっぱなしにするプランで臨んでますね。逆に事件とか起こると、音楽を切るぐらいの気分でやってます。
小黒 『魔法使いTai!』の時におっしゃってた「お話やドラマがなくても成立する作品作り」は、続いているという事でしょうか。
佐藤 「キャラクターで観れるはずである」っていうやつですね。
小黒 そうです。
佐藤 切り替えたつもりもないので、基本はあんま変わってないかな。
小黒 アニメ界全体として、ドラマじゃない作りが当たり前になっていく過程に、佐藤さんのそれらの作品があると思うんですよね。
佐藤 『ARIA』とかは、確かにそうですね。「そもそもドラマを入れなくていいんだ」と。「小さな発見をした。幸せ。以上終了」という物語で大丈夫だと思えたんですよね。やっぱりキャラクターがよくできているので、そのキャラクターを追っかければ、1本の映像作品になるっていう確信があったから。灯里っていうキャラクターの設計が、凄く優れてるんですよね。迷いなく幸せを見つけていく視点を持っているので。
小黒 綺麗な佐藤さんですね。佐藤さんの清らかな面が一番出ている。
佐藤 そうだといいですね(笑)。
小黒 奥様(佐藤恭野)はどこから参加されてたんですか。
佐藤 これは、最初の音楽発注の時からずっといます。『ふたご姫』の時も、音楽の発注の時には、基本入ってもらっていますね。大昔だったらBGMの録りの時に、僕も立ち会ってるんですけど、BGM録りの時って現場のスケジュールとかち合って大変になっている場合が多いので、録りに関してはもう完全に任せていますね。
小黒 『ストレンジドーン』以降はずっと奥様が選曲をされてますね。
佐藤 そうですね。もしかしたら『ストレンジドーン』は、僕も録りに立ち会ったかもしれないけど、音楽の録りに関しては向こうにお願いして、こっちは現場のほうにかかりきりになるスタイルが多くなります(笑)。
小黒 『ARIA』では、佐藤さんのほうから「この場面でこの曲を使いたい」といった事を奥様に伝えるような事があったんですか。
佐藤 「この場面では、この音楽を使いたい」という方針を立てて、絵コンテを切る事もあるっちゃあるんだけど、基本的には東映のやり方と同じです。絵コンテにラインをバーッて引いて「ここにいい感じの曲ください」とお願いするやり方ですね。ラインと一緒に「朝のワクワクタイム」とか「お散歩」や「切ない夕暮れ」という感じの説明書きをつけて、そのイメージと尺に合わせて音楽を選曲してもらう流れは変わらないですね。「1話のこのシーンでこの曲を使ったから、後の関連する話数にもこの曲を使おう」といったプラン作りは、選曲のほうでやっています。最近だと、「音楽演出」というクレジットにしてるんですけど、東映でやっていた頃から演出的な視点で音楽を入れていく作業をしてもらってるんですよね。
第738回 2022年も出﨑アニメ
ぴあDVDBOOKシリーズ『ベルサイユのばら』3巻、いよいよ後半・出﨑アニメに突入!
前半・長浜忠夫監督版は漫画・劇画的演出に満ちています。長浜監督は自身で画コンテを描かれる演出家ではなく、アングルやカメラワークなどコンテマン任せになるため、『巨人の星』同様、常に“全体的に通したい演出のトーン”を説明して描いてもらったのだと思います。この辺りの“自らコンテを切らない初期東京ムービー(現・トムス・エンタテインメント)作品の監督スタイル”については、『(旧)ルパン三世』DVDBOXで大隅(現・おおすみ)正秋監督インタビューにて触れられており、興味深い話でした。それは東京ムービーに限らず、業界全体に「アニメの監督って何する人?」に対しての明確な回答がなかった頃の話で、会社によって監督の仕事内容は(自分が話に聞いたことがある範疇内でも)バラバラ。現在アニメファンの方々がイメージする“当然、画が巧くてこそのアニメ監督”には程遠く、
自分は筆を執らず「画を描くのはアニメーターの仕事」と割り切り、指令塔に徹するのが監督!
だったようです。よって、世にまだアニメ監督なる職が存在しなかったことにより、異業種から演出(長浜監督・おおすみ監督共に人形劇出身)を呼ばざるを得なかった時代から、アニメーターの中より選ばれた次世代のアニメ監督へバトンタッチされた——即ち、監督スタイルの世代交代が行われた作品としても象徴的なのがアニメ『ベルサイユのばら』と言えるでしょう(現に出﨑監督は長浜監督よりひと回り若いはず)。この前後で出﨑さん以外にも宮崎(駿)さんやりん(たろう)さんら、アニメーター出身監督が世間に認知されるようになり、現在まで続くメイキング・ドキュメンタリーなどで皆さん御存知の、自らコンテ・作画もできる人が監督をするのが主流になっていった訳です。ただ、どっちの監督スタイルが良いのか? は議論になるところなので、それはまた今度。
で、後半は全くの出﨑アニメ! 女性の本性を覗き見たような映画的トリミング画面が魅力です! 監督降板による準備不足からか、『ベルばら』における出﨑監督(さきまくら)によるコンテは、極端に“部分”に寄ってトリミングされ、現在プロになった自分から見ると、TVではやむを得ない作画の省力化と本編ドラマの緩急とが神がかり的にマッチしていて素晴らしいの一言。
第19話「さよなら、妹よ!」
ここから、最終話(第40話)まで全話“コンテ・さきまくら”!!
19話のファースト・カット——振り向くシャルロットで、画はもう“出﨑アニメ”! 続いて贈られた花束のド寄りに被るシャルロットのOFF台詞、ド・ギーシュ侯爵登場(あおりで高笑い)~シャルロット気絶までのアバンだけで「諸君、こっからは俺のフィルムだ!」と言う出﨑監督の声が聞こえてくるような、誰にも真似できない演出の妙技。毎週一筆書きの様にコンテを描き綴ったのでしょう。カットの流れに迷いがない! というか、
TVアニメとは1980年に出﨑統監督によって完成した表現形態である!
と断言出来るでしょう!——ごめんなさい、『ベルばら』は1回では語り切れない。また次週。
アニメ様の『タイトル未定』
334 アニメ様日記 2021年10月17日(日)
2021年10月17日(日)
この日の『トロピカル~ジュ!プリキュア』は絵コンテが大地丙太郎さん。『ワッチャプリマジ!』は放送2回目。『ミュークルドリーミー みっくす!』は引き続き放送中。つまり、同じ日の午前中に、大地丙太郎さん絵コンテ回、佐藤順一さん総監督作品、桜井弘明さん監督作品が放送されたわけである。ちょっと嬉しかった。
昼の散歩時にApple Musicの「THE BEST!! スーパーロボット魂 -Ultimate LIVE 10th Anniversary Edition-」を聴いた。MIQさんが「MEN OF DESTINY」の最初に「オッケー、私のガンダムも盛り上がってる!」と言う。以前に聴いた時も変な言い回しだなあと思ったのだけれど、「私のガンダム」がニナ・パープルトンのセリフからの引用であることに気がついた。MIQさんのセリフがあまりにパワフルなので、ニナのセリフと重ならなかったのだ。それから、前にも書いたかもしれないけど、堀江美都子さんとMIQさんの「宇宙の王者! ゴッドマーズ」が最高にいい。
上野を散歩して、時間が合うようなら吉松さんと合流して呑む予定だったのだけど、ワイフが風邪気味っぽいので中止。午後になって吉松さんと練馬で呑むことになり、串揚げ屋で呑む。ワイフにはお土産でシュガーバターサンドを買って帰る。
2021年10月18日(月)
株式会社サンライズ、株式会社バンダイナムコピクチャーズ、株式会社SUNRISE BEYOND、株式会社サンライズミュージックの本社が荻窪の藤澤ビルディングに移転することが発表となった。藤澤ビルディングは、以前、マッドハウスが入っていたビルで、今はコミックス・ウェーブ・フィルムがここにあるはずだ。サンライズは上井草の印象が強いので、そこを離れることになったのには驚いたし、少しばかり寂しい。
ワイフとグランドシネマサンシャインで「DUNE/デューン 砂の惑星」【IMAXレーザーGT字幕版】を観る。原作1巻は学生時代に読んでいるし、デヴィッド・リンチ監督の映画も観ている。単純に自分の趣味で言えば、今回の映画は好きなタイプのものではなかったけれど、それはともかく、よくできていた。雰囲気や世界観を楽しむ映画だった。
2021年10月19日(火)
グランドシネマサンシャインで『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち 前章-TAKE OFF-』を観る。予想の倍くらいよかった。ヤマト側のドラマが全体的によかった。意外なくらい「俺達のヤマト」な感じがあった。
『境界戦機』1話と2話を観る。偶然だと思うが、羽原さんが監督のロボットアニメで、主人公の相棒の名前が「ガイ」というところが胸アツである。
TOKYO MX2で放送されている「JET STREAM」を録画で観る。同名ラジオ番組のTV版だ。初代パーソナリティである城達也さんの語りに映像をつけたものなのだが、かなりいい。仕事に流すBGVに最適だと思う。
バンダイナムコホールディングスが映像事業会社3社の統合と音楽・ライブイベント事業会社3社の統合を実施すると発表した。
2021年10月20日(水)
駅前の喫茶店であるプロデューサーと打ち合わせ。この方と話をするのは10数年ぶり。近況を含めて、たっぷりと話す。午後はある監督と電話で打ち合わせ。打ち合わせから雑談に入り、作画話など。こちらも色々と話ができて楽しかった。緊急事態宣言が解除されて、人と会えるようになったのだから、もっと色んな人と会って話そう。
『見える子ちゃん』を観る。タイトルから想像したのと随分違った。おじさんが観て楽しめると思う。『シキザクラ』の1話と2話を観る。こちらは3DCG作品なんだけど、演出がいい。特に日常芝居がいい。抑制を効かせてポイントのみを動かしている感じ。要するにTVアニメ的だ。見やすいし、この方向で作り込んでいくのはありだと思う。
2021年10月21日(木)
『僕のヒーローアカデミア』を再見。1期1話から始める。
音響監督の水本完さんが亡くなられたことを知る。沢山の作品を手がけた方だ。タツノコプロ初期から活躍したベテランで、『おそ松くん(1988年)』『幽★遊★白書』での仕事も素晴らしかった。心よりご冥福をお祈り致します。
2021年10月22日(金)
『僕のヒーローアカデミア』の再視聴は1期を終えて、2期に入った。
以下はTwitterに書いた話。
『機動戦艦ナデシコ The prince of darkness』の予告編は4分30秒ほどの、予告編としては大変に長いものです。この予告編の構成は僕が担当しています。内容はTVシリーズの総集編ですね。僕は使用するシーンを選んで、台本を書きました。演出は羽原信義さんです。記憶が正しければ、僕に発注が来た段階で、これは予告編ではなかった。「TVシリーズを観ていない人のために、TVシリーズを紹介するフィルムを作って映画館で流す。その構成してくれ」というオーダーだったと思います。作っている途中で「予告編として使う」ということが決まったのかもしれませんが、構成している段階では予告編は別に作られると思っていました。劇場版の内容にほとんど触れていないのはそのためです。
フィルムがあれば、10月23日のレイトショーで、劇場版と一緒に上映してもらいたいと思っていたのですが、残念なことにフィルムは現存していないようです。Blu-ray BOX等に映像特典として収録されているはずです。よろしかったら、そちらでどうぞ。
2021年10月23日(土)
東京国際映画祭『グッバイ、ドン・グリーズ!』は、ようやくチケット販売ページに入れたと思ったら、既に完売。残念。
夜はレイトショー「【25周年&画集刊行記念】劇場版『機動戦艦ナデシコ』上映会!!」を開催。上映を少し観たが、映像の完成度は今の目で観てもかなりのもの。フィルムの状態もよかった。トークはゲストが多くて、時間が短めだったので、タイムキープを優先。楽屋ではゲストの佐藤徹プロデューサーとご家族の仲のよい感じが印象に残った。
第222回 聞こえてる? 〜見える子ちゃん〜
腹巻猫です。今年もよろしくお願いします。新年早々、構成を担当したサントラが発売されました。1月5日発売「大正オトメ御伽噺 音樂集」です。音楽は高梨康治さん。得意のヘビィメタルを封印して挑んだ音楽はハートウォーミングかつノスタルジック。ほっこりします。
https://www.amazon.co.jp/dp/B09HZ3F4DR/
最近楽しみに観ていた作品が昨年(2021年)9月から12月まで放送されたTVアニメ『見える子ちゃん』だ。
ある日突然、化物が見えるようになってしまった女子高校生・四谷みこ。バス停にも学校にも商店街にも化物が現れて、「見える?」と話しかけてくる。それが見えているのは自分だけらしい。みこは恐怖におびえながら、化物を完全に無視することで状況を乗り切ろうとする。
超自然の存在が「見えてしまう」少年少女の話は多いが、そのほとんどは化物退治の話になる。それに対して『見える子ちゃん』は化物を徹底的にスルーするのがユニーク。みこは何も見えてないふりをして化物をやりすごそうとしたり、唐突な理由をつけてその場を離れようとしたりする。ホラーなのにコミカルだ。コミカルだけどじわじわと怖くなる。
しかし、これはとても現代的なホラーだと思う。今の世の中、見たくないものが目に飛びこんできたり、聞きたくないことが耳に入ってきたりする機会が多い。正体のわからない者が近寄ってくることもある。そんなとき、真正面から対抗すると相手に気づかれてかえって状況が悪化する。スルーすることが最善だったりするのだ。みこの行動はとても身につまされるし、共感する。本作がなんだか心にひっかかるのは、だからかもしれない。
そんな『見える子ちゃん』の音楽を担当したのは、うたたね歌菜。幼少期よりピアノを習い、18歳から作曲を始めて半年後には「アイドルマスター」のメインキャラのキャラソンコンペに採用された(公式プロフィールより)という才媛である。安田悠基と共に作家ユニット「KanadeYUK」を結成し、アーティストやアニメ作品への楽曲提供、アレンジなどで活躍。また、単独でTVアニメ『RE-MAIN』(2021)、『明日ちゃんのセーラー服』(2022)等の劇中音楽も担当している。
この1月から放送が始まった『明日ちゃんのセーラー服』ではリリカルなピアノの曲などが映像をやさしく彩っていた。おそらく、こういう音楽がうたたね歌菜本来の持ち味なのだろう。
それに比べると、『見える子ちゃん』の音楽はなかなか挑戦的だ。大きく分けると「怖い音楽」と「怖くない音楽」に大別できる。「怖くない音楽」はキャラクターテーマや日常曲、心情曲などのオーソドックスな楽曲。弦や木管、ピアノなどの生楽器中心の編成で親しみやすいメロディを聴かせてくれる。
いっぽう「怖い曲」は明確なメロディを持たない効果音的、あるいは実験音楽的な曲が多い。さまざまな工夫を凝らした恐怖サウンドは一般的なポピュラー音楽では聴けない映像音楽ならではの表現にあふれている。筆者の大好物のジャンルである。
本作のサウンドトラック・アルバムは2021年12月にKADOKAWAから発売された。収録曲は以下のとおり。
- お分かり頂けただろうか
- 恐怖の交信
- 見える? 見えてる?
- 出現
- 見えてない見えてない
- 目があったらさようなら
- 我慢するみこ
- 迫り来る恐怖
- ハナ
- 占いの館のマザー
- ユリア
- 善
- 怪しい神社
- さんかい
- さんかいの怒り
- 不穏な気配
- 困惑のみこ
- 発見
- 見えているんだろ?
- 水面下の作戦
- ほっこり子猫
- 耐えるみこ
- 助けてあげないと!
- 心配
- センチメンタル
- 困ったな
- 一安心
- 対峙
- 追い込まれた!
- 戦う化物
- 緊急事態
- 暴走する化物
- 束の間の日常
- お友達
- お買い物
- るんるんご機嫌
- 見えないふり
- あっちとこっち
- 恥ずかしい
- 優しい気持ち
- ありがとう、さようなら
帯には「劇中音楽を全トラック収録!」とあり、ボリュームたっぷりの内容。ただ、劇中で流れた曲がすべて入っているわけではないので、完全収録ではないようだ。
なお、CD版と配信版ではなぜか一部の曲名が違っている。上記の収録曲リストは配信版の曲目表記。CDのブックレットに掲載された曲リストではトラック35の曲名が「ありがとう、さようなら」(上記のトラック41)になっていて、以下、36が「お買い物」、37が「るんるんご機嫌」という具合に配信版と1曲ずつ曲名がずれている。曲順が違っているのではなく、曲は同じで曲名だけが異なっているのだ。曲調から考えて、配信版のほうが正しくてCDのほうが表記ミスだと思うのだが……。
さて、アルバムの序盤は「怖い曲」の連発である。
第1話の本編冒頭、バス停でバスを待っていたみこが不気味に乱れるスマホの画面におびえる場面。流れてくるのが1曲目の「お分かり頂けただろうか」。ビブラフォン風の音色が奏でるシンプルなメロディに不安な効果音が重なり、「日常に割り込んでくる恐怖」を表現する。物語の始まりにふさわしい音楽だ。この曲についてはまだ語りたいことがあるが、それはあとで。
「ピーピーガーガー」という耳ざわりな電子音が連続する「恐怖の交信」、緊迫感をあおるパーカッションと電子音に混じって人のささやき声らしきものが聞こえる「出現」、不気味で重苦しいリズムと弦の特殊奏法を組み合わせた「迫り来る恐怖」など、ホラーものらしい音楽が続く。
第1話で自宅の洗面所の鏡の中に化物を見てしまったみこが、「目が痛いなあ」とつぶやいて化物を無視しようとする。そこに流れるのがトラック5の「見えてない見えてない」。アルペジオ風のピアノのメロディとノイズ風のサウンドがミックスされた曲で、これも日常の中に出現する恐怖を演出している。こういう、日常描写的なサウンドが恐怖に浸食されていく表現が、本作の音楽の真骨頂と言えるかもしれない。
トラック9の「ハナ」からは、みこをとりまくキャラクターのテーマ。シタールの音色を使ったエキゾチックな「占い館のマザー」、ストリートオルガンが奏でるサーカスミュージック調の「ユリア」(ダニー・エルフマンっぽい)、怪しさ全開の「善」など、どれも個性的だ。なかでも印象に残るのは、みこの親友・百合川ハナのテーマ「ハナ」。弦のピチカートとピアノ、木管などの愛らしいサウンドがハナの天真爛漫さを表現する。みこにとってハナは化物の恐怖を忘れさせてくれる心のよりどころ的存在。劇中でもこの曲が流れてくるとほっとする。トラック34「お友達」も同様の曲調の日常曲だ。
アルバム中盤ではふたたび恐怖音楽が並んだあと、しっとりした心情描写曲が登場する。
ピアノとチェロが奏でるトラック26「困ったな」は、第8話のラスト近く、産休に入る先生にまといつく白い影の正体をみこが気づく場面に流れた曲。みこが見えるのが悪い化物だけでないことがわかる印象深いシーンだ。
パーカッションとハープのアンサンブルが奏でる「心配」は第8話の金庫を開けようとするおばあさんのエピソードで流れた曲。第4話のエピローグでみこが父にプリンをあげるシーンの「センチメンタル」や、タイトルどおりのほっとひと息つくシーンに流れる「一安心」もしみじみとしたいい曲である。
トラック28の「対峙」からはまた恐怖ムードへ。「追い込まれた!」「戦う化物」「緊急事態」などは、みこが化物から逃げる場面、神社に現れたなぞの巫女姿のもの(霊的存在らしい)が化物を消滅させる場面などに使われた。怖い雰囲気よりも直接的な恐怖や緊迫感を表現するアクティブな楽曲である。
トラック33の「束の間の日常」からラストまでは明るい日常曲やユーモラスな曲が収録されている。怖い曲に始まり、ほっとする曲で終わるアルバムの構成はなかなかいい。
アルバム終盤で印象深い曲はトラック37の「見えないふり」。木管と弦のピチカート、パーカッションなどが、ちょっととぼけたメロディを奏でる曲だ。第8話で、いったんは化物に「ちゃんと向き合おう」と思ったみこだが、現れた化物を目にして「やっぱり無理」と思い直す。その場面にもこの曲が使われた。このメロディをアレンジした別の曲も劇中で流れており、次回予告にも同じメロディが使われている。「見えないふり」という曲名ともども、本作を代表する楽曲と呼べるだろう。
最後に収録された「ありがとう、さようなら」は、ピアノとストリングスが奏でる温かくやさしい曲。最終回のラストシーンで使われた。物語を締めくくる曲であり、アルバムのラストナンバーとしても味わい深い。
こういうリリカルな曲が『明日ちゃんのセーラー服』でも聴けそうだと筆者は期待しているのである。
その「ありがとう、さようなら」だけど、曲中に「チリチリ」というノイズっぽい音がときどき混じるのが気になる。曲の終盤には楽曲に似つかわしくないような電子音も聴こえてくる。思うに、しっとりした日常曲の中に違和感を潜ませるためにこうした音作りをしているのではないか。
で、1曲目の「お分かり頂けただろうか」である。
この曲、すごく不思議なところがある。不思議というか、ドキッとするところがある。曲の中で音が一瞬途切れたり、レコードの針が飛ぶように音が飛んだりする箇所があるのだ。CDにキズがついていたり、デジタルコピーに失敗したりするとこういう現象が起きる。筆者は、これが再生ミスやコピーミスでないことを確認するために、CDのリッピングをやり直し、配信版のデータも買ってしまった。波形レベルで確認するとCD版も配信版も同一。つまり、エラーではなく、こういう曲なのだった。
恐怖を表現するために、映像音楽は古くからいろいろな工夫を重ねてきた。楽器の特殊奏法、民族楽器やミュージックソー、テルミンなど特殊な音を出す楽器の導入。シンセサイザーが普及してからは、不安感や恐怖感をあおるサウンドを人工的に合成する試みも進んだ。
近年進化したのが、デジタル技術による音の加工である。アナログの時代ではレコードやテープの回転をコントロールしたり、テープを切断編集したりして行っていた加工が、今はデジタルで自在にできるようになった。そうして生まれた音楽の代表がブレイクビーツだ。
「お分かり頂けただろうか」で行われている音の加工も、ブレイクビーツ的と言えなくもない。が、ブレイクビーツがカッコよさを追求しているのに対して「お分かり頂けただろうか」は気持ち悪さを追求している。映像の分野では、フィルムの傷やブロックノイズを模した表現で恐怖を演出する試みが行われている。それと同じ方向性だ。
けれど、これはとても勇気のいる試みである。なぜかというと、こういう音を聴いたら、ユーザーは「楽曲もしくはCDの制作ミスではないか」「ダウンロードに失敗したのではないか」と疑うと思うからだ(実際、筆者がそうだった)。購入者から問い合わせが来る可能性もある。
でも、『見える子ちゃん』ではあえてそれをやっている。結果、とても気持ち悪い、怖い曲ができた。メロディや音色が気持ち悪いのではない。デジタルエラーを連想させるサウンドが恐怖を呼ぶのである。ハードディスクやメディアに保存していた大切なデータが壊れてしまったときの衝撃を想像すれば、その怖さがおわかりいただけると思う。これこそ、デジタル時代の恐怖サウンドでないかしら。
「見える子ちゃん」オリジナルサウンドトラック
Amazon
第369回 『グッバイ、ドン・グリーズ!』試写会の控え室で
第737回 2022年始まり
今年もアニメ制作、頑張ります!
また、その枠内で新たなチャレンジも!
2022の干支は寅ってことは、“年男”ですか、俺。寅年生まれが関係してるかどうか分かりませんが、板垣は3歳の頃からペンや鉛筆を握っては“トラ”ばかり描いてました。トラってカッコいいですよね! トラは未だに自分の中で「いちばんカッコいい動物!」と位置づいてます。因みに「いちばん美しい動物」は“ウマ”! ま、何しろ自分は、寅年生まれで、幼少期はトラの画ばかり描き、一時期流行った動物占いという名の性格判断でもトラだったということ。どーでもいい話題とは思いつつも、今の仕事に全く結びついていないとも思いません。
そんなわけで、話を戻しましょう。昨年は私事で色々ありましたが、今年はちょっと落ち着いて、これからの自分のライフスタイルとワークスタイル共に考え直す年にするつもりでいます。
まず、できるだけ父親の墓参りをしに名古屋(実家)に帰る回数を増やしたい、と。向こうの友人らにも会う機会を出来るだけ設けたいし。そのためにはまず、現場(会社)での自分の仕事内容をもう少し“管理”寄りにして、実務作業を後輩へ譲ります。次回作をシリーズ構成・総監督でやるのもその一環。監督として現場を仕切れる人間を育てるためです。そうすると、脚本とコンテ発注まで自分が付き合って、さらに次の仕事の準備ができるようになるはず(現実、次が控えてます)。ま、まだもう少し自分の方で面倒見なければならない作画カットは参加せざるを得ませんが、それも数を限定するつもりではいます。
そろそろ40代終わる現在まで、ヒット作や評価される作品も作れていない自分なんかの現場に付いてきてくれている後輩らに、半分譲っていかないと辻褄合いませんからね!
と、いうわけで正月休みの抜けきらない年始めにしては、打ち合わせや面談などが本日目白押しであったため、短くてすみません。今年も宜しくお願いします!
アニメ様の『タイトル未定』
333 アニメ様日記 2021年10月10日(日)
2021年10月10日(日)
トークイベント「第180回アニメスタイルイベント 沓名健一の作画語り[ネットで観られる若手の注目アニメ]」を開催。スピード感、トークの密度感のようなものが、アニメスタイルイベントとしてはやや異色のものとなった。そうなったのは、進行を沓名君に任せたからというのもあるのだけど、出演者をステージと桟敷席に分けたせいでもあるのだろう。ただ、普段とノリが違うのが悪いわけではない。イベントの内容としては、沓名君がネットで作品を発表している若手を紹介するというもので、刺激的だったし、勉強にもなった。
『先輩がうざい後輩の話』『古見さんは、コミュ症です。』の1話を観た。どちらも素晴らしい出来。特に『古見さん』はこの後に2エピソードつけたら劇場作品になりそう。
2021年10月11日(月)
グランドシネマサンシャインで「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」【IMAXレーザーGT字幕版】を観る。IMAXはワイフと観に行くことが多いのだけれど、今は仕事が忙しいとのことなので、吉松さんを誘って一緒に観た。最近の007はきちんと観ていない(過去のものもそんなに観ているわけではない)ので、映画としての感想は書けない。ただ、IMAX(R)フルサイズのパートが素晴らしかった。フルサイズが序盤だけだったのがちょっと残念。
オールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol.132 押井守映画祭2021」で『うる星やつら2 ★ビューティフル・ドリーマー★』を上映することを発表する。ようやく『★ビューティフル・ドリーマー★』の上映が実現した。ずっと企画を出していたのだけれど、今まで実現しなかった。押井さんのトーク付きで『★ビューティフル・ドリーマー★』を上映できる。悲願達成だ。
2021年10月12日(火)
特典小冊子「劇場版 機動戦艦ナデシコ 原画集」の色校正紙が出る。新番組を片っ端から観た。11日から心身をリフレッシュするために、ワイフとドーミーイン池袋に泊まっている。ホテルから出社して、作業をしてホテルに戻る生活だ。この日はたっぷり休んで、温泉にも何度か入ったのだけれど、今まで意識していなかった疲労が顕在化して、クタクタになった。
2021年10月13日(水)
ドーミーインをチェックアウト。食事の後、今まで入ったことがなかった「ガシャポンのデパート池袋総本店」に寄る。
テレビ東京夕方のアニメ枠は月曜から水曜が無くなったようだ。それで毎日、18時台に実写ドラマをやっているのね。18時台のアニメは木曜の『SHAMAN KING』、金曜の『パウ・パトロール ベストセレクション』『妖怪ウォッチ♪』のみ。土日を入れても日曜の『BORUTO NARUTO NEXT GENERATIONS』『パズドラ』だけ。ちなみに19時台は金曜の『ポケットモンスター』『新幹線変形ロボ シンカリオン Z』のみ。これは少しばかりショックだ。テレ東アニメ枠が激減したのもショックだけど、それに自分が気づかなかったのもショックだ。
この数日は散歩時にAmazon Musicでプレイリスト「ルパン三世 アニメ・ソングス」を聴いていた。全100曲・7時間3分という長大なプレイリストで、初めて聴く曲も多かった。49曲目が「犬神家の一族~愛のバラード」で、なんで? と思ったら「LUPIN THE BEST “JAZZ” 」というアルバムに、この曲が入っているのね。それでも「犬神家の一族~愛のバラード」が『ルパン三世』のプレイリストに入っているのは首をひねるけれど。
最近、Kindleで「3月のライオン」を読んでいる。最初の数巻はアニメになった時に読んでいるはずなんだけど、新鮮な気持ちで楽しんでいる。自分が年をとったせいか、20代とか30代の男性キャラも可愛いと思ってしまう。いや、これは僕の年齢のせいだけでなく、作者のキャラ愛のためでもあるのだろう。10巻のラストには驚いた。
2021年10月14日(木)
小山高生さんがTwitterで、アニメシナリオハウスを開講した時に38歳だったと書かれていた。お若かったんだなあ。ぶらざあのっぽ結成時は40歳になる少し前のようだ。お弟子さんとそんなに年齢が離れているわけではなかったのだ。当時、小山さんには何度も会っているけれど、ベテランの風格があった。
一昨日書いたテレビ東京夕方枠について追記。9月までのテレビ東京の18時台は、月曜がTOKYO MXでやっていた『IDOLY PRIDE』の再放送で、火曜が「新生劇場版公開記念『テニスの王子様全国大会篇』セレクション」、水曜が実写ドラマの『ガル学。 Girls Garden』だった。つまり、夏の段階で、月曜から水曜は既に再放送か実写ドラマになっていたのだ。確かにテレ東夕方の印象が薄くなっていたなあ。
2021年10月15日(金)
13時から中野方面である監督に取材。「アニメスタイル016」のためのインタビューだった。取材が終わった後で、インタビューイと世間話をしたのだけれど、これが楽しかった。リモート取材でも世間話はできるけど、やっぱり対面のほうがいい。取材の帰り道で、今後の記事の相談もできた。「こういう企画はいかが」「いいですよ。ノリますよ」みたいな感じで。ああ、これこれって感じ。その帰り道の途中で見知らぬ若者に声をかけられた。「荷物を郵便局まで運びたいので手伝ってもらえませんか」とのこと。見ると彼の脇に大きな段ボール箱が置かれている。僕が手伝おうとすると、インタビューイが「(小黒さんとの)思い出づくりになるから僕も運びますよ」と言って、二人で若者の段ボールを運ぶのを手伝った。三人で運ぶほどの重さではないのだけれど、楽しかったから問題ない。確かに思い出になった。
2021年10月16日(土)
新文芸坐で「海と毒薬」(1986/123分/35mm)を観る。プログラム「生誕90周年企画 熊井啓映画祭2021」の1本だ。手術シーンのリアリティと緊張感は素晴らしい。その前後も面白い。ではあるけれど、映画全体としてはあまり面白くない。事件を提示し、人物やその心情を描くのみでドラマにしていないからだろう。ドラマになりそうなところを、あえてドラマにしていないようにも思えた。
金曜ロードショーの「アニメ化50周年記念「みんなが選んだルパン三世」第1弾TVシリーズセレクション」を録画で観る。贅沢な構成ではあるけれど、4本のメリハリはよくない。PART5を最終回だけ流してもなあ、と思う。『新ルパン』最終回の後というのもよくない。『新ルパン』最終回とPART5の最終回のスピード感の違いは凄まじいほどのもので、ますますPART5は不利だった。
第368回 『サイバーフォーミュラ』30周年記念展が開催中!
新文芸坐×アニメスタイルSPECIAL
フリクリ レイト
2022年最初のアニメスタイルと新文芸坐の上映企画は「新文芸坐×アニメスタイルSPECIAL フリクリ レイト」です。2000年から2001年にかけて発表された傑作OVA『フリクリ』全6話を劇場のスクリーンで上映します。
開催日は2022年1月8日(土)。トークコーナーの出演は鶴巻和哉監督を予定しています。前売りチケットは1月1日(土)10時からオンラインと新文芸坐窓口にて販売します。詳しくは新文芸坐のサイトをご覧になってください。
なお、当日は『フリクリ』の資料を集めた書籍「フリクリ アーカイブス」を、鶴巻監督のサイン入りで販売する予定です。
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新文芸坐×アニメスタイルSPECIAL |
開催日 |
2022年1月8日(土) |
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開場 |
開場:17時10分/開映:17時30分 トーク終了:21時20分(予定) |
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会場 |
新文芸坐 |
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料金 |
一般2000円、学生・友の会・シニア1800円 |
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トーク出演 |
鶴巻和哉(監督)、小黒祐一郎(アニメスタイル編集長) |
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上映タイトル |
『フリクリ』全6話(2000-2001/156分/BD/途中休憩あり) |
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備考 |
※トークショーの撮影・録音は禁止 |
●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/
新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 134
アニメーターの仕事に痺れろ!ビバップ・エスカフローネ・ストレンヂア!!
2022年1月15日(土)に劇場アクションアニメのオールナイトを開催します。上映作品は『カウボーイビバップ 天国の扉』『エスカフローネ[劇場版]』『ストレンヂア 無皇刃譚』の3本。いずれも見応えのある作品です。
トークのゲストは川元利浩さんと中村豊さんです。『カウボーイビバップ 天国の扉』で川元さんはキャラクターデザインと作画監督を、中村さんは『カウボーイビバップ 天国の扉』でアクション絵コンテ、アクション作画監督を担当しています。
川元さんも中村さんも『エスカフローネ[劇場版]』『ストレンヂア 無皇刃譚』では作画で参加。中村さんは『エスカフローネ[劇場版]』は冒頭の、『ストレンヂア 無皇刃譚』ではクライマックスのアクションシーンを描いています。
チケットは1月8日(土)から発売開始。前売り券の発売方法については、新文芸坐のサイトで確認してください。なお、新型コロナウイルス感染予防対策で、観客はマスクの着用が必要です。入場時に検温・手指の消毒を行います。
なお、既に告知されているように、新文芸坐は改装のため、2022年1月31日(月)から2022年3月31日(木)まで休業します。アニメスタイルと新文芸坐の上映企画も2月と3月はお休みとなります。
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新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 134 |
開催日 |
2022年1月15日(土) |
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開場 |
開場:22時10分/開演:22時30分 終了:翌朝5時30分(予定) |
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会場 |
新文芸坐 |
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料金 |
【指定席】一般3300円、友の会2800円 |
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トーク出演 |
川元利浩、中村豊、小黒祐一郎(アニメスタイル編集長) |
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上映タイトル |
『カウボーイビバップ 天国の扉』(2001/114分/DCP) |
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備考 |
※オールナイト上映につき18歳未満の方は入場不可 |
●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/
第183回アニメスタイルイベント
ここまで調べた片渕監督次回作7【いよいよ千年前の疫病について語ろうと思います編】
片渕須直監督は『この世界の片隅に』『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』に続く、新作劇場アニメーションを準備中です。まだ、作品のタイトルや内容は発表になっていませんが、平安時代に関する作品であるのは間違いないようです。
新作の制作にあたって、片渕監督は平安時代の生活などを調査研究しています。その調査研究の結果を少しずつ語っていただくのが、トークイベントシリーズ「ここまで調べた片渕須直監督次回作」です。これまでのイベントでも、あっと驚くような新しい解釈が語られてきました。
2022年1月22日(土)に開催する第7弾のサブタイトルは【いよいよ千年前の疫病について語ろうと思います編】。今までのイベントでも語られていた当時の疫病がテーマとなります。話を聞くと、清少納言が生きた時代の見え方が変わるかもしれません。出演は片渕須直さん、前野秀俊さん。聞き手はアニメスタイルの小黒編集長が務めます。
なお、会場は今までの新宿のLOFT/PLUS ONEではなく、阿佐ヶ谷ロフトAとなります。
今回のイベントは会場にお客さんを入れての開催となる予定です。チケットは〈会場での観覧+配信視聴〉と〈配信視聴〉の2種類を販売します。配信は先行してロフトグループによるツイキャス配信を行い、その後にアニメスタイルチャンネルで配信します。アニメスタイルチャンネルではトーク本編とは別に「ここまで調べた片渕須直監督次回作・ミニトーク」も配信する予定です。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。
チケットについては2021年12月25日(土)12時からチケット発売となります。詳しくは、以下のロフトグループのページをご覧になってください。
阿佐ヶ谷ロフトAを含むLOFTの会場は厚生労働省が定めた、新型コロナウイルス感染症に関するガイドラインを遵守し、さらにガイドラインよりも厳しいLOFT独自の基準を設けて、万全を期してイベントを開催しています。来場されるお客様にはマスクの着用、手指の消毒をお願いしています。消毒液は会場に用意してあります。また、体調の優れないお客様は来場をお控えください。
※新型コロナウイルス感染症の感染状況を鑑みて、本イベントを無観客配信のみの開催に切り換えさせていただきます。〈会場での観覧+配信視聴〉のチケットは払い戻しさせていただきます。詳しくは以下のページをご覧になってください。
直前のお知らせとなってしまい誠に申し訳ありませんが、何卒ご理解賜りますようお願いいたします。(01/18追記)
【無観客配信のみへ変更】ここまで調べた片渕監督次回作7【いよいよ千年前の疫病について語ろうと思います編】(LOFT/PLUS ONE)
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/broadcast/201252
■関連リンク
ロフトグループ
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/broadcast/201252
アニメスタイルチャンネル
https://ch.nicovideo.jp/animestyle
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第183回アニメスタイルイベント | |
開催日 |
2022年1月22日(土) |
会場 |
阿佐ヶ谷ロフトA | 出演 |
片渕須直、前野秀俊、小黒祐一郎 |
チケット |
会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,500円、当日 1,800円(税込・飲食代別) |
■アニメスタイルのトークイベントについて
アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。



