COLUMN

第738回 2022年も出﨑アニメ

ぴあDVDBOOKシリーズ『ベルサイユのばら』3巻、いよいよ後半・出﨑アニメに突入!

 前半・長浜忠夫監督版は漫画・劇画的演出に満ちています。長浜監督は自身で画コンテを描かれる演出家ではなく、アングルやカメラワークなどコンテマン任せになるため、『巨人の星』同様、常に“全体的に通したい演出のトーン”を説明して描いてもらったのだと思います。この辺りの“自らコンテを切らない初期東京ムービー(現・トムス・エンタテインメント)作品の監督スタイル”については、『(旧)ルパン三世』DVDBOXで大隅(現・おおすみ)正秋監督インタビューにて触れられており、興味深い話でした。それは東京ムービーに限らず、業界全体に「アニメの監督って何する人?」に対しての明確な回答がなかった頃の話で、会社によって監督の仕事内容は(自分が話に聞いたことがある範疇内でも)バラバラ。現在アニメファンの方々がイメージする“当然、画が巧くてこそのアニメ監督”には程遠く、

自分は筆を執らず「画を描くのはアニメーターの仕事」と割り切り、指令塔に徹するのが監督!

だったようです。よって、世にまだアニメ監督なる職が存在しなかったことにより、異業種から演出(長浜監督・おおすみ監督共に人形劇出身)を呼ばざるを得なかった時代から、アニメーターの中より選ばれた次世代のアニメ監督へバトンタッチされた——即ち、監督スタイルの世代交代が行われた作品としても象徴的なのがアニメ『ベルサイユのばら』と言えるでしょう(現に出﨑監督は長浜監督よりひと回り若いはず)。この前後で出﨑さん以外にも宮崎(駿)さんやりん(たろう)さんら、アニメーター出身監督が世間に認知されるようになり、現在まで続くメイキング・ドキュメンタリーなどで皆さん御存知の、自らコンテ・作画もできる人が監督をするのが主流になっていった訳です。ただ、どっちの監督スタイルが良いのか? は議論になるところなので、それはまた今度。
 で、後半は全くの出﨑アニメ! 女性の本性を覗き見たような映画的トリミング画面が魅力です! 監督降板による準備不足からか、『ベルばら』における出﨑監督(さきまくら)によるコンテは、極端に“部分”に寄ってトリミングされ、現在プロになった自分から見ると、TVではやむを得ない作画の省力化と本編ドラマの緩急とが神がかり的にマッチしていて素晴らしいの一言。

第19話「さよなら、妹よ!」
ここから、最終話(第40話)まで全話“コンテ・さきまくら”!!

19話のファースト・カット——振り向くシャルロットで、画はもう“出﨑アニメ”! 続いて贈られた花束のド寄りに被るシャルロットのOFF台詞、ド・ギーシュ侯爵登場(あおりで高笑い)~シャルロット気絶までのアバンだけで「諸君、こっからは俺のフィルムだ!」と言う出﨑監督の声が聞こえてくるような、誰にも真似できない演出の妙技。毎週一筆書きの様にコンテを描き綴ったのでしょう。カットの流れに迷いがない! というか、

TVアニメとは1980年に出﨑統監督によって完成した表現形態である!

と断言出来るでしょう!——ごめんなさい、『ベルばら』は1回では語り切れない。また次週。