SPECIAL

佐藤順一の昔から今まで(37)『うみものがたり』の様々なエピソード

小黒 『うみものがたり~あなたがいてくれたコト~』(TV・2009年)は僕が不思議だと思っている作品です。この取材の前に全話を観返しました。

佐藤 ああ、ありがとうございます。

小黒 本放映で観て、以前に飯塚(晴子)さんの取材する時に観返して、今回も取材の前に観ているので、3回目の視聴でした。キャラクターの気持ちはしっかり追っていて、ちゃんとドラマになっている。

佐藤 はいはい。

小黒 でも、「なんでこういう作品になったのか?」が分からない。この企画はパチンコ・パチスロの「海物語」の映像化から始まってるわけですよね。それが、どうしてああいう作品になったんですか。

佐藤 これは活字にしづらい事情が多い話だと思うんですけど(苦笑)。企画をもらった時に、まずは話を聞いてみて、会社(TYOアニメーションズ)としてやる意義があればやりますと。ただ、自分がガチッと監督をやるのは無理なんで、「監修ならできるよ」と、会社には話をしてあったんです。

小黒 ところが監督をやる事になった?

佐藤 そう。企画が動き出して、ホン読みにも入り、紅優さんに監督で入ってもらってね。既に2、3話ぐらいまで動いたところで、「監督・佐藤順一でやってもらう事になってる」と言われたんです。「現場も紅優さん監督で進めているんで、今から切り替えるのは無理なんだけど」と話をしたんですが、紅優さんには最初からそのかたちで伝わってたんです。そんな状態で、脚本3話ぐらいまで進んでしまっていた。

小黒 なるほど。

佐藤 じゃあ、今からにはなるけれども、ここからは監督という立場で作ります、コンテも全部チェックします、アフレコも全部やりますっていう話をしたんです。

小黒 なるほど。現場はゼクシズなんですよね?

佐藤 ゼクシズです。ゼクシズは何も悪くない。

小黒 佐藤さんはTYOの所属で、TYOからゼクシズに行って作業していた。

佐藤 そうですね。ゼクシズで机をもらって作業していました。結果、楽しかったし、飯塚さんと知り合えたりして、得るものもすごく多かったシリーズではあるんですけどね。

小黒 作品コンセプトに佐藤さんは関わってないんですか。

佐藤 そもそものプランでは、変身戦闘美少女ものだったんですよ。

小黒 そうなんですか。

佐藤 ただ、前も言いましたけど、子供向けで、女の子が変身して戦う美少女ものは分かるんだけど、変身美少女もので年齢の高い人をターゲットにした作品については、ちょっと理解できないところがあるんです。それで「元々の企画原案の面白さが全く分からないんだ」という事を訴えて、バトルのテイストをちょっと抑えさせてほしいと言ったんです。本当は変身も無くして、海の女の子と陸の女の子の友情物語ぐらいにしたいんだけど、企画として変身美少女は外したくないという事でした。なので、「変身して戦うのは入れるけれども、基本の方向は友情の物語、姉妹の物語で進めたいです」と言って、その方向で進めてる感じですね。

小黒 企画としては「海の巫女と空の巫女が変身して大活躍」という感じだったんですね。

佐藤 そう。変身する美少女も大勢いる、ぐらいの感じでしたね。

小黒 元になったストーリー案はどなたが作ったんですか。

佐藤 ストーリー原案の築地俊彦さんが、プランニングで関わってますね。元々は、小説とかを書かれてる方だと思うんですけど。

小黒 もう少し確認させてください。原作の「海物語」にはマリンちゃんというグラマーな女の子がいて、それと日焼けした逞しい男の子(サム)が出てくる。これはパチンコをやった事がない僕でも知ってます。あの男の子はあのまま出さなくてよかったんですか。

佐藤 そこは飯塚さんとデザインを詰める段階で「もうちょっとスレンダーなサムを出すかたちでもいいですか?」と(原作サイドに)了解を取りながら進めている。

小黒 同様にマリンちゃんもほっそりした感じになったわけですね。

佐藤 うん。

小黒 以前、飯塚さんに取材した時も「自由にアレンジしてよい」と言われてやったとうかがいました。

佐藤 そうですね。アニメ化に関しては、割と自由にさせてもらってましたね。プロデューサーは『たまゆら』もやってる田坂(秀将)さんなんですけども、田坂さんがパチンコ屋さんとお話をしていて、ある程度の自由度はもらっていたんだと思うんですね。

小黒 そうか! これは松竹製作の佐藤順一シリーズの一環なんですね。

佐藤 そうですね。『ARIA』のプロデューサーは飯塚(寿雄)さんで、『たまゆら』の田坂さんとは、この『うみものがたり』の時に初めて一緒にお仕事をしました。

小黒 『うみものがたり』の次のステップとして、佐藤さんと飯塚さんコンビで『たまゆら』が始まるわけですね。

佐藤 そうなんです。この時の出会いが大きかったっていうのは、ありますね。

小黒 もう一度確認させてください。全体としては自由に作っていいという話だった。そして、パチンコの「海物語」のイメージとは違った「戦闘もの」のプランがあったんですね。で、佐藤さんは、いざ自分が作品をまとめる段階になってから、「戦闘色を弱めたい」と思われたわけですね。

佐藤 なるべく薄めたかった。

小黒 で、主にはマリンとウリンの姉妹の話にまとめて、さらに周辺の夏音ちゃんの恋模様とか、友情のほうを押していった。

佐藤 そういう青春テイストみたいな物語がいいかなって。それだったら、イメージできるなという感じでもあるんですけど(笑)。

小黒 なるほど。

佐藤 なので、音楽的な話だと、戦闘音楽はほとんど録ってない。

小黒 大島という女の子のキャラクターがいて、佐藤さんは相当力を入れていたのではないかと思います。大島は面白キャラでしたよね。

佐藤 そうですよね。大島は意図して、ああいうふうにしている感じがありました。マリンって、最初の設定からそうだと思うんですけど、とにかく闇のないキャラクターで、すごく綺麗な事しか言わないじゃないですか。それは本人にとって嘘でもなんでもなくて、あれが彼女の本心なんですよね。大島のほうは、狡い事もするんですけど、それも本心でやっている。2人とも本心が剥き出しなんです。だけど、「大島のほうは観ている人の好感度が上がるけども、マリンのほうは好感度が上がらないのではないか?」とは予感してましたね。

小黒 なるほど。大島のほうが面白いですからね。

佐藤 そうなんです(笑)。だから、あんまり澄んでないっていうか、綺麗すぎないキャラクターのほうが、みんな、好きなんだなっていう事を再確認した。

小黒 あの1話で始まって、まさか「このキャラがこんなふうに膨らむとは!」、という驚きがありますよ。

佐藤 大島は「あんな事もさせたい。こんな事もさせたい」ってなったね(笑)。

小黒 大島の時によく書き文字が出るじゃないですか。「胸を大きく見せるワザ!」とか「きわどいアングル」という「ト書き」が手書きの文字で入ってますよ。

佐藤 そんなに出てましたっけ?(笑)

小黒 大島が活躍するようになってから頻度が上がった気がします。

佐藤 そうか。『うみものがたり』って、結構何回も観直すんですよ(笑)。

小黒 そうなんですね。

佐藤 ええ(笑)。「あのシーン面白かったよな」つって。

小黒 すみません。僕は本放映時は当惑しました。

佐藤 (笑)。

小黒 ところで、『うみものがたり』は佐藤さんの絵コンテ率高いですね。

佐藤 そうですね。やっぱり、結果そうなってるんですよ。「自分でやっていくかな」って感じでやっていました。

小黒 これも他の方が描いたコンテを直したりしてるんですか。

佐藤 結構直してますね。

小黒 未放映話の13話があるんですが、覚えてます?

佐藤 クジラかイルカの親子が出てくるやつですかね。

小黒 ジュゴンの親子ですね。本編の1年後の話。夏目真悟さんが絵コンテと演出をやってて、それまでの『うみものがたり』と全く違う感じのデフォルメもある、面白作画が炸裂している回です。これは放映されなかったようで、ディスクに入っているみたいですね。

佐藤 うん。それ用に作ってたやつだと思いますね。

小黒 放映最終話の12話って、お話だけでいっぱいいっぱいで、エピローグ部分が、あまりないですもんね。

佐藤 話的には12話で終わらせるつもりでした。ジュゴンの親子を大原(さやか)さんと葉月(絵理乃)さんにお願いしてるのは、プロデューサー的な意向だったかなと思います。

小黒 『ARIA』の2人にやってもらったわけですね。佐藤順一さんワールドで重要人物である儀武ゆう子さんですが、この時が初めてですか。

佐藤 そうです。この時の鈴木っていうキャラクターが初です。なおかつ沖縄弁もできるので、方言指導的な役割でも入ってもらって、イベントやラジオで盛り上げてくれたんですよ。だから、『たまゆら』では「ガツンと広報的なところにも入ってもらえますか?」とお願いしました。

小黒 佐藤さん的には、儀武さんの人柄がお気に入りなんですか。

佐藤 そうなんですよね。言うたら、遠慮なく弄ってくれるじゃないですか。あんまり持ち上げられると、トークってやりにくいので、いい感じに下げてくれたほうがやりやすい(笑)。そういう感じが、大変ありがたかった。

小黒 なるほど。そういえば『海物語』は、佐藤さん的には方言にチャレンジした作品ですよね。

佐藤 そうですね。あんまりやらないんですけど、奄美大島が舞台という事だったので「沖縄弁を入れてみようかな」と思ったら、想像以上に拒否反応が多かったので、以降はやらない事にしました。

小黒 えっ、拒否反応? お客さんからですか。

佐藤 そうそう。聞きづらいとか、方言なのかお芝居なのか分からないと感じる人達が多くて。

小黒 ああ、確かに。セリフを通して表現されるものではなくて、方言のイントネーションの面白さのほうが耳に残っちゃうのは、あるかもしれない。

佐藤 なので、以降はなるべくやらないようにしてるんです。

小黒 なるほど。

佐藤 本当は現実味を求めて舞台を描くのであれば、方言でやるほうが好きなんですけどね。労力がかかる割に、それを求めていない人も多いので、方言のキャラを混ぜるくらいにして、基本的には避けとこうと思いましたね。


佐藤順一の昔から今まで(38)『たまゆら』の企画と『ARIA』 に続く


●イントロダクション&目次