第428回 ひさしぶりの一発描き
3月8日発売の「80年代アイドル総選挙!ザ・ベスト100」のイラスト10枚を描きました!
前の藤子不二雄(A)先生特集の時は「昭和50年男」。今回は「昭和40年男」の増刊になります。「80年代アイドルBEST-10の似顔絵をアニメのセル版権風に仕上げて欲しい」とのご要望で、
板垣が原画を描き、動画(清書)・仕上げをミルパンセ社内スタッフでやりました!
久し振りに“知り合いじゃない人の似顔絵”を描いたのです。中学校・高校の同級生が、今回の似顔絵イラストを見たら「あ、板垣まだやってる」と思うでしょう。学生時代は友人や時には先生から「描いて!」と頼まれて、よく描いてましたから。頼まれもしないで、次の授業に来る先生の似顔絵を黒板に描いて出迎える悪戯とかもしました、友人らに促されて。高校の卒業記念品マグカップにもクラスメート全員の似顔絵を描きましたし。まあ、単純に好きな仕事だからお引き受けした。
が、そもそも80年代のアイドルブームに自分自身は全く興味を感じていませんでした。ただ、姉は当時、河合奈保子だその後は中山美穂だ~と一通り騒いでいたので、それらを思い出し追体験(?)するように、楽しんで書かせていただきました。作業期間的には年末年始に試し描きを2〜3パターン提出し、方向性を確認。その際“アニメキャラ風”より“ややリアルに振る”と方針が決まり、今年に入って10人分のラフを描き提出。で、週末メインに1日2~3体ずつ原画を描いては、社内の若手に清書を頼んで仕上げまで。
いちばん悩んだのは、メイク(化粧)とポーズ。昭和のアイドル、今みたいにダンス~ダンス~しておらず、基本“マイク持って歌っている”統一で~と決まっていたため、個体差を10通り作るのにやや苦労しました。特に薬師丸ひろ子とかは突っ立ってるだけで……。
あと、メイクも今と比べるとかなり地味で、ちょっと口紅のせただけで、下手するとケバくなってしまいます。そんな訳で、最終チェックで仕上げ+処理の段階、モニターに貼り付き指示出しまくったイラストでした。
ま、コンビニ・本屋その他で見かけたら是非手に取って下さい!
3月の新文芸坐とアニメスタイルの共同企画は「STUDIO4゚Cのキセキ 『鉄コン筋クリート』」をお届けします。
『鉄コン筋クリート』は松本大洋の同名原作を映像化した劇場アニメーション。STUDIO4゚Cならではのエッヂの効いた映像が魅力の作品です。スコープサイズで制作された本作を、映画館のスクリーンでお楽しみください。
上映は2回あります。16日(木)はトーク無しの通常上映で、18日(土)は上映後に田中栄子プロデューサーのトークがあります。なお、貴重な35mmフィルムによる上映となります。
チケットは開催日の1週間前から発売。チケットの発売方法については、新文芸坐のサイトで確認してください。なお、新型コロナウイルス感染予防対策で観客はマスクの着用が必要。入場時には検温・手指の消毒を行います。
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【新文芸坐×アニメスタイル vol. 157】 |
開催日 |
2023年3月16日(木)、18日(土) |
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開演 |
16日:19時 |
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会場 |
新文芸坐 |
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料金 |
16日:一般1500円、各種割引・友の会1100円 |
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トーク出演(18日) |
田中栄子(プロデューサー)、小黒祐一郎(アニメスタイル編集長) |
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上映タイトル |
『鉄コン筋クリート』(2006/111分/35mm) |
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備考 |
※トークショーの撮影・録音は禁止 |
●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/
腹巻猫です。劇場アニメ『BLUE GIANT』をTOHOシネマズの轟音上映で観ました。心底「劇場で観てよかった」と思った作品でした。音楽映画としても青春映画としても強烈なインパクトがある作品。心がゆさぶられる、くらいでは収まらず、頭の中をかきまわされ、何かを吐き出さずにはいられなくなります。未見の方は、ぜひ音響のよい劇場で。
劇場アニメ『BLUE GIANT』はこんな物語だ。
世界一のジャズサックス奏者をめざして、高校卒業後、仙台から上京した少年・宮本大。東京に住む同級生・玉田俊二のアパートに転がり込んだ大は、ある日、ライブハウスで同い年の沢辺雪祈が弾くピアノを聴いて衝撃を受け、「一緒にジャズをやろう」と誘う。雪祈もまた、大のサックスを聴いて感動し、ともに活動する決心をする。2人に感化されてドラムを始めた玉田が加わり、3人のバンド「JASS」が始動した。当初はぎこちなかったJASSの演奏は、徐々に洗練され、ファンを増やしていく。そしてついに、あこがれの舞台、日本最高峰のジャズクラブ「SO BLUE」で演奏するチャンスがおとずれた。
原作は石塚真一によるマンガ作品。アニメ化される前からジャズマンガとして人気を集め、マンガにちなんだジャズ・アルバムがリリースされたり、ジャズ・フェスが開催されたりしていた。ファン待望の劇場アニメ化である。
音楽を手がけるのはジャズピアニストの上原ひろみ。上原は以前から原作にほれ込んで熱い思いを語り、ライブイベント「BLUE GIANT NIGHTS」にも出演していた『BLUE GIANT』ファン。音楽担当は「必然」とも言える。
上原ひろみは劇中音楽を作曲するだけでなく、劇中で雪祈が弾くピアノの演奏も担当している。アニメ『ピアノの森』では劇中のピアノ演奏をプロのピアニストが担当し、劇中音楽は別の作曲家が書いていた。『BLUE GIANT』は上原がキャラクターになりきってピアノを弾き、いっぽうで劇中音楽の作曲と演奏も担当するという、珍しいスタイルの作品である。
上原ひろみの映像音楽といえば、真っ先に思い浮かぶのが2009年放送のTVドラマ「トライアングル」だ。テーマ曲が上原ひろみの「Flashback」。劇中音楽は澤野弘之と林ゆうきが担当という、今にして思えばすごいドラマだった。
しかし、筆者はそれ以前から上原ひろみに注目していた。TVでピアノを弾く姿を見て、一度生で見たいと思い、2007年12月に横浜BLITZで開催された上原ひろみライブに足を運んだ。以降も何度か上原ひろみのライブ/コンサートを聴きに行っている。人馬一体という言葉があるが、上原ひろみのプレイはいわば「人ピアノ一体」。心底楽しそうにピアノを弾く上原ひろみの指から自由でエネルギッシュな音が飛び出す。聴いているうちに音に酔っぱらいそうになるほどだ。
そんな上原ひろみを見ていたから、『BLUE GIANT』の音楽を担当すると聞いたときは、期待と心配が半々くらい入り混じった気持ちになった。
最初は、上原ひろみが原作にインスパイアされた楽曲を10曲くらいスタジオで録音し、その曲を映像にはめていくのかと思った。アーティストが手がける映画音楽でちょくちょく見られる手法である。
ところが、作品を観て、サントラを聴いてびっくり。
正攻法の映画音楽なのである。
音楽を先に作って画に合わせるのではなく、ちゃんとシーンの雰囲気と尺に合わせた曲を書き、演奏している。そのことにとても感心した。もっと言えば、上原ひろみがこういう曲を書くとは思わなかった。
まず注目は、劇中でJASSが演奏する曲。ピアノ・上原ひろみ、サックス・馬場智章、ドラム・石若駿の演奏で録音されている。3人はもともと一緒に活動していたわけでなく、馬場は大のサックスをイメージして、石若は玉田のドラムをイメージして選ばれたメンバーである。レコーディングでは、上原が雪祈に、馬場が大に、石若が玉田にそれぞれなりきって音を出している。そこがふつうのジャズサントラとは違うところだ。
たとえば玉田は作品の中で初めてドラムを叩き始め、しだいに上達していく。その過程を石若駿が演奏で表現している。それぞれが自分の本来の演奏スタイルを抑えて、「大っぽいサックス」「雪祈っぽいピアノ」「玉田っぽいドラム」になるよう相談しながらプレイした。3人はプレイヤーであると同時に、この作品の重要な「キャスト」なのである。
だからこそ、劇中の演奏がリアリティを持って迫ってくる。「世界一のジャズミュージシャンになる」という大の強い思いや、「テクニックはあるけれど面白くない」と言われてしまう雪祈の葛藤、ドラムがうまく叩けない玉田の悔しさなどに説得力が生まれる。作品に映像や言葉では表現しきれない圧倒的な説得力を与えているのが3人の演奏なのだ。
いっぽう、劇中音楽は意外なほどオーソドックスだ。ピアノ、ギター、ベース、ドラムにパーカッション、フルート、クラリネット、サックス、ストリングスなどを加えた編成。演奏メンバーも、ピアノの上原ひろみ以外はJASSのメンバーと変えて、サウンドに違いを出している。
本作のサウンドトラック・アルバムは、「BLUE GIANT オリジナル・サウンドトラック」のタイトルで2月17日にユニバーサルミュージックからCDと配信でリリースされた。4月19日には同内容のアナログ盤の発売が予定されている。
収録曲は以下のとおり。
劇中に流れる音楽を登場順に収録したサウンドトラックらしい構成のアルバムである。
1曲目の「Impressions」は上京した大が東京の風景に感激するシーンに流れる曲。「Impressions=印象」のタイトルがシーンにぴったりだ。ジャズ界の巨人、ジョン・コルトレーンの曲をピアノ・上原ひろみ、テナーサックス・本間将人、ベース・田中晋吾、ドラム・柴田亮のカルテットが演奏した。シーンからすればふつうの劇伴でもいいところだが、冒頭にジャズの名曲を流すことで「ジャズの劇場作品」だと宣言しているように感じられる。
注目すべきJASSの演奏は、トラック17「N.E.W.」、トラック26「WE WILL」、トラック28「FIRST NOTE」、トラック29「BLUE GIANT」の4曲。
「N.E.W.」は音楽フェスに出場したJASSが1曲目に演奏する曲。サックスのソロから入るのがキャッチーだ。この曲はアニメ化が決まる前に上原が原作に感動して書いていた曲のひとつ。
「WE WILL」はクライマックスのライブで大と玉田が演奏する曲。楽器はサックスとドラムだけ、ジャズで重要なコード(和音)を響かせる楽器が入らないため、上原も作曲に苦心したという。劇中の2人そのままの緊張感に満ちた演奏が聴きどころ。
「FIRST NOTE」はライブのアンコールで演奏される曲。JASSが初めてライブで演奏したときの「へたなバージョン」もあるのだが、それはサントラに収録されていない。上原ひろみによれば、JASSにとって大きな意味を持つ曲であり、劇中何度も流れる曲なので、作曲に一番時間がかかったという。
「BLUE GIANT」はエンドクレジットに流れる曲。上原ひろみが上記3曲をレコーディングしているときに曲想を得て書き上げた。劇中にはピアノとチェロによるバージョン(トラック6)も流れる。実は冒頭で大が吹いているサックスもこの曲と同じフレーズを奏でている。本作のメインテーマとも呼べる曲である。
本アルバムには、ほかにも「劇中のバンドが演奏する曲」という設定の曲がいくつかある。
トラック4「Kawakita blues」は大が東京のライブハウスで聴く曲。このとき雪祈の演奏を聴いて、大は雪祈とジャズをやろうと考える。ギターはこの曲だけ参加の田辺充邦。エフェクターを使った、ちょっと古いタイプのサウンドで雰囲気を出している。
トラック12「Another autumn」は大たちが「SO BLUE」を見学に行ったときに演奏されていたバラードの曲。
トラック16「Samba five」はJASSが参加した音楽フェスでJASSの前に出演したグループが演奏していた曲。この曲は作曲者も異なり、Netflixアニメ『ULTRAMAN』や劇場アニメ『すずめの戸締まり』の音楽を手がけた陣内一真が作曲している。ホーンセクションがにぎやかなサンバ風の曲だ。
トラック22「Count on me」は、雪祈が急遽呼ばれて、来日した海外のジャズバンドと一緒に演奏する曲。トラック1「Impressions」と同じメンバーで録音されている。雪祈になりきって上原ひろみが弾く「内臓をさらけだす」ようなアドリブが聴きもの。
雪祈は劇中のさまざまな会場で大きさの異なるピアノを弾いている。上原ひろみもスタジオに3台のピアノを入れて、シーンに合わせたピアノを使って演奏したそうだ。ミュージシャンならではのこだわりである。
残りのトラックのほとんどは劇伴として作られた曲である。
大と玉田が一緒にオムライスを食べる場面のトラック2「Omelet rice」を聴くと劇中音楽の方向性がわかる。ノリよく軽快に、しかし、映像やセリフのじゃまをしないよう、主張は抑えて演奏されている。続く場面に流れる「Day by day」も同様だ。曲によっては指揮者を立てて演奏していることからも、こうした曲がジャズのセッションではなく、背景音楽であることを意識して作られていることがわかる。
が、そんな中でも勢いのあるジャズっぽい曲が聴けるのが本作の音楽ならでは。
3人の活動が始まる場面のトラック9「The beginning」や大がバンドを「JASS」と命名する場面のトラック11「Forward」、大たちが音楽フェスに向けて練習を始める場面のトラック15「Kick off」などは、大たちの鼓動がそのまま音楽になったような熱いナンバーになっている。
いっぽう、初ライブのあとで大たちが語らう場面のトラック10「Monologue」を始め、トラック14「Challenge」、トラック18「Recollection」、トラック19「No way out」、トラック21「Reunion」、トラック24「Nostalgia」などは、しみじみと心にしみる曲調で書かれていて、上原ひろみの作曲家としての幅広い才能を感じさせる。
本作のサウンドトラック・アルバムは上原ひろみのアルバムとして、ジャズファンのあいだでも評判になった。
しかし、これを上原ひろみのアルバムとして聴くと、少し期待はずれかもしれない。
ピアニスト・上原ひろみよりも、作曲家・上原ひろみが前面に出たアルバムだと思うからだ。上原ひろみのファンよりも、劇場作品『BLUE GIANT』に感動したファン、または、上原ひろみが好きなサントラファン向けのアルバムだと思う。ピアニスト・上原ひろみと作曲家・上原ひろみのふたつの顔が楽しめるのが、本アルバムの面白さであり、魅力である。
このアルバムが気に入ったら、上原ひろみのオリジナル・アルバムを聴き、彼女のライブを聴きに行くことをお奨めしたい。なんといっても、生で聴いてこそのジャズだから。
BLUE GIANT オリジナル・サウンドトラック
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ラッシュ・チェックをしては、リテイクをいくつか出し、自分も参加して直す。そして、またリテイク上りを確認する、が繰り返される日々。何年やってきても楽しくもあり、悔しい思いもすれば悲しい思いもする“納品”とは本当に悲喜こもごも。
監督の自分としては、
すべてを受け入れる覚悟をする儀式!
スタッフ一同精いっぱい作ったフィルムが完成する瞬間——その労をねぎらいこそすれ、自分の不満は決して言わないようにしています。そりゃあ、正直言うと思ったとおりになっていないことは多々ありますが、それでもすべてを受け入れて、次に進むのです!
当然、俺も人間ですから不満が爆発してしまいそうになった時もありましたが、そんな時は“それもこれも己の力不足に起因した事態ではないか?”と自分を省みるようにしています。そうすると、「じゃあ次はこうしてみよう!」と新たな作戦が生まれてきます。その繰り返しの“監督20年間”です。じゃ、また——。
腹巻猫です。マンガ家の松本零士さんが亡くなりました。『宇宙戦艦ヤマト』『銀河鉄道999』『宇宙海賊キャプテンハーロック』『1000年女王』……と当コラムでも代表的な「松本アニメ」の音楽を取り上げました。これらの作品がなければ、現在のアニメ音楽はなかったかも。仕事で「松本零士音楽大全」と「銀河鉄道999 エターナル・エディション・シリーズ」に関われたのが大切な思い出です。ありがとうございました。心より哀悼の意を表します。
NHKの番組で小室哲哉のインタビューを観ていたら、最近、AIを利用して曲を作ったと話していて、思わず身を乗り出した。自分の曲をAIに学習させ、「小室哲哉風のメロディ」を生成させて、それに手を加えて新曲を書いたのだという。
実は映像音楽でも曲作りにAIを利用した作品がある。牛尾憲輔が音楽を手がけた『チェンソーマン』である。
『チェンソーマン』は2022年10月から12月まで放映されたTVアニメ。藤本タツキのマンガを監督・中山竜、アニメーション制作・MAPPAのスタッフで映像化した作品だ。
悪魔と呼ばれる怪物が跋扈する世界。父が遺した借金を返すためにデビルハンターとなったデンジは、悪魔との戦いで命を落としてしまう。しかし、デンジは相棒のチェンソーの悪魔ポチタから心臓をもらい、チェンソーマンとなってよみがえった。公安警察の対魔特異4課にスカウトされたデンジは、女性リーダーのマキマ、同僚のアキ、パワーらとともに凶悪な悪魔と戦うことになる。
本作の音楽については藤津亮太氏による牛尾憲輔インタビューが「クイック・ジャパン」vol.164に掲載され、それを再編した記事がWEBサイト「クイック・ジャパン・ウェブ」で公開されている。さらに、サウンドトラックCDのブックレットにも同じく藤津亮太氏によるインタビューが掲載されており、そちらではさらに深堀りした内容を読むことができる。
牛尾憲輔の言葉によれば、原作を読んで受けた印象は「メチャクチャ」だったそうだ。その「メチャクチャ」を音楽に落とし込もうと考えた。そのために牛尾が使った手法が面白い。一度作った曲を切り刻んで編集したり、プログラムでランダムに生成したリズムを使ったりしたのだ。生演奏でもインプロビゼーションやアドリブといった即興を重視した手法があるが、コンピュータを利用して同様のことを行おうとした点がユニークである。
特にバトルシーンに流れる曲に、そうした手法を使ったものが多い。「the devil appears」という曲では、ブレイクビーツを切り刻み、リズムがあるのかないのかわからないくらいメチャクチャにした。「the devil hunter」という曲では、AIで生成した音とプログラムで自動生成させた音を共演させている。
心情描写に使われるゆったりした曲でも同様の手法が使われている。抒情的なメロディに切り刻んだギターのフレーズを重ねたり、ノイジーな加工をしたりして、独特の雰囲気を作り出した。通常のアニメだと耳障りになりそうだが、『チェンソーマン』の世界観にはそれが合っていた。
本作のサウンドトラック・アルバムは、テレビアニメの放映中にリリースされた配信版EPと放送終了後にリリースされた「完全版」の2種類がある。配信版EPは、2022年10月リリースの「Chainsaw Man Original Soundtrack EP Vol.1 Episode 1-3」(11曲収録)と2022年11月リリースの「同 EP Vol.2 Episode 4-7」(10曲収録)、そして、2022年12月リリースの「同 EP Vol.3 Episode 8-12」(8曲収録)の3タイトル。完全版は2023年1月に「Chainsaw Man Original Soundtrack Complete Edition – chainsaw edge fragments -」のタイトルでCD(2枚組)と配信でリリースされた。
完全版サントラは49曲収録。配信リリースされたEP3タイトルの曲をすべて含んでいるが、曲順は変更されている。EPを並べて未収録曲を追加したのではなく、全49曲のアルバムとして構成し直しているのだ。
ディスク1の収録曲は以下のとおり。
1曲目の「edge of chainsaw」はチェンソーマンのバトル曲。第1話でデンジが初めてチェンソーマンとなって悪魔を倒す場面から流れた、チェンソーマンのテーマとも呼ぶべき曲だ。最終話クライマックスのサムライソードとの戦いの場面で流れたのも印象深い。
『チェンソーマン』の音楽の中では比較的ストレートなロックの曲で、ヒロイックなバトル曲として聴ける。が、曲の後半はリズムが切り刻まれた混沌としたサウンドに変わっていく。バトルが激化していくようすを曲調の変化で表現しているようだ。
2曲目「the door」はシンプルなメロディの心情曲。第1話でデンジがポチタの心臓をもらってよみがえる場面や第4話のパワーとニャーコの思い出の場面などに使われた。心温まるシーンを彩る曲だが、ノイジーに加工されたギターの音などが重なって不穏な空気がただようのが『チェンソーマン』ならでは。
効果音的な恐怖曲「imagine devils」をはさんで、トラック4「the devil hunter」はふたたびバトル曲。第2話でパワーがナマコの悪魔を一撃で倒す場面や第4話でのヒルの悪魔との戦い、第8話、第9話でのサムライソードとの戦いの場面などに流れた代表的なバトル曲のひとつ。切り刻まれたブレイクビーツがチェンソーの音にも聴こえる。本作の音楽のコンセプト「メチャメチャ」を体現した曲だ。
続くトラック5「rain」は悲しみの曲。第1話でデンジがポチタと出会う回想シーン、第10話でアキが姫野の死を悼んで泣く場面などに使われた。ロングトーンのメロディに切り刻んだノイズを重ね、しんみりしすぎない抑えたタッチの曲に仕上げている。
ほかの心情曲では、第1話でデンジがマキマにハグされて人間の姿に戻るシーンのトラック8「that’s a dream come true」、第8話で姫野が自分の命と引き換えにアキを助ける場面のトラック16「sweet dreams」、第6話でアキがデンジをかばって刺される場面のトラック30「dream… come true?」などが記憶に残る。
雑誌「Newtype」の2022年12月号で、牛尾憲輔は本作の音楽について「僕が自由に曲をつくるとメロウな曲ばかりを書いてましたね。デンジとかアキの気持ちをちゃんと昇華したい。つらいときの気持ちをきちんと描いてあげたいという気持ちがあったんじゃないかな」と語っている。
そうやって書いた曲を切り刻んだり、ノイズを乗せたりして完成させたのが今回の心情曲。メロディやアレンジで雰囲気を変えるのではなく、電子的な細工で曲のトーンや距離感を調整しているのがとても現代的だし、牛尾憲輔らしい。
本作には、いわゆる「日常曲」に分類される曲もある。
公安対魔特異4課に所属したデンジが同僚のアキに引き合わされる場面のトラック9「special division 4」、第5話でデンジがマキマに手をとられてドキドキする場面のトラック10「looking for something」、パワー登場場面に流れたトラック18「100% sales tax」、第2話でデンジがアキの尻をける場面や第7話でデンジが姫野にキスされる場面のトラック19「kick ass!」、第4話でデンジがパワーの胸をもませてもらう場面のトラック20「the golden bowlers」などだ。こうした曲は、バトル曲やサスペンス曲に比べるとノイジーな加工や編集は控えめ。本作では貴重な、ほっとするシーンや笑えるシーンに流れる曲だからだろう。アルバムの中でも親しみやすい曲になっている。
やはり本作らしい音楽と言えるのは、激しいバトル曲や強烈なサスペンス曲である。
第1話でデンジがゾンビの群れに追いつめられる場面のトラック6「nail-biter」、第2話で初出動したデンジが魔人と対面する場面のトラック21「search and destroy」、第3話でデンジがコウモリの悪魔にとらえられる場面のトラック28「verge of death」などは代表的なサスペンス曲。悪魔出現場面やデンジたちのピンチの場面にたびたび使用されている。「search and destroy」は「探索」をテーマにした曲で、低くうなるシンセの音に金属的な音を重ねて緊張感、不安感をかもしだす。インダストリアル・ミュージック的なサウンドが『チェンソーマン』の世界観にマッチしている。
トラック12「chainsaw attacks!」は1曲目の「edge of chainsaw」と並ぶチェンソーマンのバトル曲。こちらのほうがより『チェンソーマン』的だ。切り刻まれたリズムとノイジーなサウンドが融合し、すさまじくテンポの速い激しい曲になってる。第3話のコウモリの悪魔との戦い、第7話の永遠の悪魔との戦い、第12話のサムライソードとの戦いなど、数々の死闘を盛り上げた。牛尾憲輔によれば、こういう曲は1小節作るだけですごく時間がかかるため、「1日かけて2秒くらいしかできない」のだそうだ。プログラムやAIを使ったからといって制作時間が短縮されるわけではないのである。
トラック13「the devil appears」は、切り刻まれたリズムが混乱と危機感を描写する曲。第3話のコウモリの悪魔との戦いや第5話でホテルの部屋から首だけの悪魔が現れる場面などに使われた。第9話でサムライソードにねらわれたデンジをコベニが助ける場面にも流れている。狂ったような激しいテンポで演奏されるトラック14「destroy them all」も同じコンセプトの曲だ。
トラック12からバトル曲が3曲続く構成はなかなか刺激的。連続で聴くと頭がくらくらしてしまう。
シンセのうなりと機械的なリズム、ノイズ、ボイスなどがミックスされたトラック23「run」は、バトルのイメージよりも不気味なサスペンスがまさった曲である。第1話でデンジがゾンビを皆殺しにしようとする場面や第8話のアキ対サムライソードの戦いの場面などで使われた。なんといっても印象深いのは、第9話でマキマが行う謎の儀式によってヤクザたちが次々と死んでいく場面。トラック25「humans are fools」と続けて使用されて、背筋が凍るような場面を生み出した。ドラマティックに感情をあおるような曲でないだけに、恐ろしさが際立つ。これも『チェンソーマン』らしい曲と言えるだろう。
日本の映像音楽の最前線に触れたかったら、ぜひ『チェンソーマン』のサントラを聴いてもらいたい。チェンソーのようにパワフルで切れ味の鋭い音楽がここにある。これはもはや「現代音楽」と呼んでよいだろう。
AIが進化すれば、劇伴も自動生成した曲ですませる時代が来るのかもしれない。しかし、『チェンソーマン』では、プログラムやAIの力を借りて、さらに新しい音楽を生み出している。AIも刃物も使い方次第。ノイジーで混沌としたサウンドの向こうに希望を感じさせる作品である。
Chainsaw Man Original Soundtrack Complete Edition – chainsaw edge fragments -
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タイトルから匂わせているとおり、大前提今回お茶濁しなのです。何か仕事が多過ぎてとにかくヤバい!
今日日のコンテンツ過多による業界的人手不足、つまり作業者(アニメーターに限らず美術も)の絶対数に対してアニメの本数が多過ぎることによる忙しさに加えて、面白そうだから~の理由でお受けしたイラストの仕事が重なって(汗)。
まあ、いいや! 四の五の言う前に仕事に戻ります、ごめんなさい!
ではまた……
片渕須直監督は『この世界の片隅に』『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』に続く、新作劇場アニメーションを準備中です。まだ、タイトルは発表になっていませんが、平安時代に関する作品であるのは間違いないようです。
新作の制作にあたって、片渕監督はスタッフと共に、平安時代の生活などを調査研究しています。その調査研究の結果を少しずつ語っていただくのが、トークイベントシリーズ「ここまで調べた片渕須直監督次回作」です。これまでのイベントでも新しい視点から見つけた、これまであまり語られていなかった「枕草子」の側面について語られてきました。
2023年3月11日(土)に開催する第14弾のサブタイトルは「人物の名前を覚えてもらうのは諦めました編」。今回は「枕草子」に登場する人物の名前が話題となります。サブタイトルの「名前を覚えてもらうのは諦めました」とは、いったいどんな意味なのでしょうか。出演は片渕須直監督、前野秀俊さん。聞き手はアニメスタイルの小黒編集長が務めます。
会場は阿佐ヶ谷ロフトA。今回も会場にお客様を入れての開催となります。イベントは「メインパート」の後に、ごく短い「アフタートーク」をやるという構成になります。配信もありますが、配信するのはメインパートのみです。アフタートークは会場にいらしたお客様のみが見ることができます。
配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。また、今までの「ここまで調べた片渕須直監督次回作」もアニメスタイルチャンネルで視聴できます。
チケットは2月16日(木)19時から発売となります。チケットについては、以下のロフトグループのページをご覧になってください。
■関連リンク
LOFT https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/243372
会場チケット https://t.livepocket.jp/e/q5h7a
配信チケット https://twitcasting.tv/asagayalofta/shopcart/217452
なお、会場では「この世界の片隅に 絵コンテ[最長版]」上巻、下巻を片渕監督のサイン入りで販売する予定です。「この世界の片隅に 絵コンテ[最長版]」についてはこちらの記事をどうぞ→ https://x.gd/57ICr
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第202回アニメスタイルイベント | |
開催日 |
2023年3月11日(土) |
会場 |
阿佐ヶ谷ロフトA | 出演 |
片渕須直、前野秀俊、小黒祐一郎 |
チケット |
会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,500円、当日 1,800円(税込・飲食代別) |
先日、某S社の——もう10数年の付き合いになるプロデューサーA氏と外食でした。次のさらに次作品(シリーズ)の関係で、よくある打ち合わせから流れてのお食事会。お久し振りにお互いの近況報告・確認、それプラス業界四方山を語り散らしつつの食事を楽しみました。
そこでの雑談。俺が過去に某アニメ会社社長に向かって「勝ち組には付き合えない」と言って、その会社を離れたという話をしました。「はあ、何でまた?」とA氏。で、俺の“主義”の話に。ちなみにその時話題にした“俺が離れた某アニメ会社”は、現在、新卒者らが最も就職したいアニメ会社のひとつになり立派に勝ち名乗りを上げております。おめでとうございます。それはそれでいいのです。
つまり、どうやら40年以上生きて分かった自分自身の性格と言うか、主義と言うか。ハッキリ分かったのでハッキリ言います。
勝ち組、権威、それに付随した金持ちとかになりたくない!
らしいのです、俺は。
だって、自分が勝ったとすると、必ず負ける人がどこかにいます。自分が多くお金を貰えば低賃金で働かされている人が必ずどこかにいます。特に後者はアニメの現場が正にそうなりがちで、ろくに絵コンテも直さず右から左に流すだけのくせに、“監督”を名乗ってるだけで1話あたり●●万持って行き、さらに何シリーズも同時に掛け持ちで月●●●万荒稼ぎとか。それは勝ち組になった者の特権なのでしょうか? それ、俺はできない性格だということ。自分だけいいギャラ貰って、動画マンは単価で食うか食われるか? 想像しただけで、たとえ自分がそれなりのお金が貰えても、家買ったり車買ったりってできません。やっぱり、贅沢するなら役職上の誰と誰~の特権階級だけなく、“会社丸ごと”に限ります、あくまで自分の場合は。
テレコム退社後から今まで、あちこちの会社を渡り歩いた中でも、社員だ拘束だと誘っていただいたり、「僕だったら、板垣さんに年収●●●万以下になんかさせません」と言ってくださったプロデューサーさんもいましたが、「自分はそんな格ではありませんので」と丁重にお断りして、今日までやってきました。で、どこにいても勝ち組になりそうになった会社からは、作品の切れ目ごとに自ら出て行っています。多分、それが板垣の性分です、と。
さらに話は転がって「学歴主義・権威主義が嫌い!」話へ。自分ら世代はまごうことなき受験世代。中学生から高校は受験勉強あるのみ。「受験に勝ちさえすれば生涯安泰!」を本気で信じて、周りの学友らは勉強勉強の毎日でした。何せ我々団塊ジュニア(第二次ベビーブーム)最多と言われる1973年(板垣は1974年の早生まれ)、自分も一応当時は「進学校」と呼ばれる“大学に進学するのが当たり前”の高校に入学したので、周りの同級生らが皆、揃って少しでも良い大学へ進学を希望していたのです。そんな中、自分は行っても芸大、画が描けるなら専門学校で上等、という考えでした。で、河合塾美術研究所という所で芸大受験に向けて鉛筆デッサンやったりしていたのですが、周りの受講生は半分が1浪、中には2浪も当たり前。つまり、芸大の座席の空き待ち(に見えました)。「要は画で食えるようになれば良い」と考えていた自分は、浪人してまで“大学”に拘る気は更々なく、両親に相談もなく受験自体を止めて、無試験の専門学校に入学したのでした。
自分の腕一本で食っていく将来なら“裸”で結構!
学歴と言う“鎧”は俺には不要!
と。学歴や権威で世を渡るのが自分には向いてない、とその時既に感じていたのだと思いますし、その決断に関しては未だ別に後悔などはしておらず、本当に良かったと思っています。
てな話をS社・プロデューサーA氏に何となく雑談したところ、
そうですか~、僕は逆に“鎧”で固めて世間に出たかったんですよね~
と自然に返ってきました。別にどちらでもいいのです。考え方・行動は人それぞれなのですから。要は世の中何事も役割分担。各役職にそれぞれ向き不向きがあるだけのこと。「学歴のない奴は、高学歴監督の言うとおりに黙って画を描いて、低賃金労働アニメーターで我慢して、僕の作品のために全てを捧げ続けなさい(そうすれば僕は君に優しくしてあげるから)」とかのマウント思考、そして、そのお陰で手にした権威を振りかざして職人を掌握しようとする考え方が大嫌い! だということです。ちなみにA氏と同席された他2名の方々、皆さん揃っていい大学出身のいわゆる高学歴。その上でマウント思考でなく、自分とウチの会社のやり方(条件)を尊重してくださっています。その頭の良い方々にプロデュースしていただけるのですから光栄な話で、自分は良い作品を作って期待に応えたい——今はそれだけです。
で、またごめんなさい!チェックの時間になりました!
腹巻猫です。前回『LUPIN ZERO』を取り上げたばかりのタイミングで、ディスクユニオンが展開するCINEMA-KANレーベルから『魔犬ライナー0011変身せよ!』のサウンドトラックCDが発売されました。音楽は『ルパン三世』第1作の山下毅雄。劇中音楽は初商品化! ヤマタケファン待望のリリースです。
『魔犬ライナー0011変身せよ!』は1972年7月に「東映まんがまつり」の1本として公開された東映動画(現・東映アニメーション)制作の劇場アニメ。同時上映には「仮面ライダー対じごく大使」「変身忍者嵐」「超人バロム・1」といった特撮ヒーロー作品が並ぶ。子どもたちのあいだで「変身ブーム」が盛り上がっていた時期の作品である。タイトルに「変身」の文字が入っているのが時代を反映している。
198X年、宇宙の侵略者デビル星人は地球に狙いをさだめ、ひそかに侵攻を開始した。異変を察知した科学者・林博士は、デビル星人の攻撃で命を落とした4匹の犬をサイボーグとしてよみがえらせ、息子ツトムにプレゼントする。サイボーグ犬はそれぞれに特殊能力を備え、さらに変形合体してサイボーグ艇ライナー号となるのだ。ツトムはサイボーグ犬と力を合わせてデビル星人に立ち向かっていく。
この劇場アニメ、ヤマタケファンのあいだでも、ちょっとマイナーな作品である。『ルパン三世』(1971)を手がけた直後の作品であるが、90年代末〜00年代の山下毅雄再評価ブームの際もほとんど話題に上らなかった。サウンドトラックが商品化されていなかったという事情もあるだろう。
公開当時、筆者は小学生。同じ時期に公開された「ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘」は観ているが、本作は観た記憶がない。怪獣好きだったので、「東宝チャンピオンまつり」に連れていってもらったのだろう。のちに日本コロムビアから発売された「なつかしの長編漫画映画傑作集」(1977)というレコードで本作の主題歌「ゴー!ゴー!ライナー」を聴き、「SFメカアニメとしては変わった曲調だなあ」と思った。本編を観たのはさらにあとになってからだった。現在はdアニメストアやAmazon Prime Videoなどで配信されているので、手軽に鑑賞することが可能だ。
少年とサイボーグ犬の活躍を描く本作は、SFメカアクションというよりは、ジュブナイルSFの香りがする。未来都市の描写やデビル星人のデザインなど、70年代というより60年代の雰囲気。『鉄腕アトム』の未来像を受け継いだような、懐かしい味わいがある。
そんな中で異彩を放っているのが山下毅雄の音楽だ。
山下毅雄のSF作品といえば『スーパージェッター』があるし「ジャイアントロボ」がある。「レッドマン」も手がけている。SFヒーローと縁がないわけではない。『魔犬ライナー0011変身せよ!』というタイトルから『サイボーグ009』みたいな、あるいは「007」シリーズみたいな、スピード感のあるカッコいい音楽が聴けるのでは? と思ってしまう。しかし、その期待は軽く裏切られる。
冒頭から「プレイガール」みたいな曲なのである。女声スキャットが入ったジャズ。意表をつかれる。作品を観ないでサントラを聴き始めたら「ディスク間違えたんじゃないか?」と思ってしまいそうなくらい。でも面白い。
本作の公開日は1972年7月16日。TVでは7月8日に『デビルマン』と「人造人間キカイダー」が始まったばかりだった。同じ年に放映される『科学忍者隊ガッチャマン』(10月放映開始)と『マジンガーZ』(12月放送開始)はまだ始まっていない。SFメカニックものや変身ヒーローものの音楽スタイルが確立されていない時期だった。そんなタイミングで誕生した本作の音楽は、SFアクションアニメ音楽の可能性のひとつと考えるといっそう興味深い。
「魔犬ライナー0011変身せよ! オリジナル・サウンドトラック」の収録曲は以下のとおり。
トラック1からトラック15までが劇中使用順に音楽を収録したサウンドトラック。そのあとに主題歌のバージョン違いと別テイク集がまとめられている。
解説書には構成を手がけた大塩一志氏による詳細な楽曲解説が掲載されているので、そちらを読んでいただくのがいちばん。
ここからは、筆者が印象に残った曲を紹介しよう。
トラック1「アバンタイトル」は東映マークからメインタイトルが出るまでに流れる曲。東映マークの音楽からヤマタケサウンド全開で思わず笑ってしまう。続いて、未来都市の夜景とハイウェイを走るエアカーのシーンになり、しゃれたジャズの音楽が流れる。富士山頂気象観測所への場面転換には女声スキャットのブリッジ。観測所に謎のモンスターが現れて所員が襲われるシーンは打楽器のリズムにオルガンやトロンボーンの怪しいフレーズをからめたフリージャズ風音楽。曲だけ聴いていると、子ども向け漫画映画とは思えない。
トラック2「メインタイトル」はメインタイトルとスタッフ・キャストがクレジットされるタイトルバックに流れる曲。女声スキャットをフィーチャーしたヤマタケジャズである。「『プレイガール』の音楽」と言われても信じてしまいそうだ。これも音楽だけを聴くと「なぜこの曲調?」と思うが、タイトルバックはデビル星人のモンスターが次々と紹介される怪獣映画みたいな映像。相性はばっちりである。
トラック3「ツトムと4匹の仲間」でがらりと雰囲気が変わり、ブラスと口笛とパーカッションなどがセッションするディキシーランドジャズ風の曲になる。本作の音楽の主要モチーフのひとつである「犬のテーマ」だ。ツトムと犬たちの日常シーンに流れる曲は山下毅雄が手がけた『冒険ガボテン島』や『ガンバの冒険』に通じる明るいタッチの音楽。デビル星人側のサイケデリックな曲とは対照的なサウンドでメリハリをきかせている。デビル星人は昆虫から進化した、人間と対話不能の宇宙人という設定なので、アバンギャルドな音楽が似合う。
トラック4「悲しみのツトム」は犬たちの死を悲しむツトムの心情描写曲。副主題歌「魔犬ライナー」のメロディが女声スキャットをともなうムーディなジャズ風アレンジで奏でられる。続いて口笛とギターなどによる主題歌「ゴー!ゴー!ライナー」のさみしいアレンジ。感情を強調しすぎない音楽演出がヨーロッパ映画みたいでしゃれている。悲しみをムーディなジャズで表現する手法はトラック9「父とともに戦え!」の林博士の死の場面の曲(M28)でも反復される。
トラック5「魔犬ライナー誕生!」の終盤に収録された、ツトムがサイボーグ犬とともに父の研究所に急ぐ場面の曲(M16)がいい。「魔犬ライナー」のメロディーをサンバ風にアレンジした『ルパン三世』の音楽を思わせる曲調。短いながら印象に残るナンバーだ。
デビル星人との対決に向かってドラマが盛り上がる終盤ではアクション曲が多くなる。
トラック10「マンデラスとの死闘」のカマキリ型モンスター・マンデラスとの戦いの曲(M36)はオルガンと女声ボーカルなどによるグルービーなアフロロック。トラック12「魔犬ライナーの反撃」のカタツムリ型モンスター・エスカルゴンとの戦いの曲(M39)は「LUPIN WALKIN’」をテンポアップしたような軽快なロック。いずれも『ルパン三世』風サウンドでうれしくなる。本作の音楽の聴きどころである。
ラストに流れる「魔犬ライナーの帰還」(トラック15)は、口笛と女声スキャットをフィーチャーしたスペイシーなラテンロック。映画冒頭の音楽(「アバンタイトル」)と呼応するイメージである。大団円というより狂騒の音楽みたいだ。
主題歌「ゴー!ゴー!ライナー」と副主題歌「魔犬ライナー」はミディアムテンポの明るいジャズ風の曲。これが山下毅雄がとらえた本作のイメージなのだろう。SFやメカニックよりも、「少年と犬」をイメージした音楽だと思えば、この曲調も納得がいく。
『魔犬ライナー0011変身せよ!』の音楽は、ストレートにカッコいい、スカッとするというタイプの曲ではない。しかし、ヤマタケ成分100%の、山下毅雄ファンにはたまらない作品である。
もし本作が1973年や1974年に公開されていたら、音楽のスタイルも違っていただろうか。いや、山下毅雄なら同じ音楽を書いただろう。SFメカアクションであっても、いつものヤマタケサウンドを貫く。それが山下毅雄だし、だからカッコいい。やっぱりヤマタケはすごかった。
魔犬ライナー0011変身せよ! オリジナル・サウンドトラック
Amazon
毎度のことながら、
今現在、制作中のシリーズで総監督として原画と美術を修正しています!
グロス話数に限らず、上手くいってない原画はできる限り直す努力をします(CLIP STUDIOは原画だけでなく背景も描けます故)。
で、まずアクション・シーンです。いつの世になろうとも、若手アニメーター、特に男子は“カッコ良いアクション原画”に憧れるものですね。しかも、勢いのある鉛筆タッチのアクション原画に! ウチ(ミルパンセ)の新人も例外ではなく、アニメスタイル様よりいただいた原画集や画集を熱心に見て研究している若手スタッフがいて、俺もちょくちょく「○○さんの原画ってどう思いますか?」的な質問されたりします。その都度、原画について俺自身が教わったことや常々考えていることなどを話すのですが、10年前会社を始めたばかりの時とでは話す内容が多少異なってきました。
と言うのも、10年前の予想よりずっと早いスピードで“昭和のアニメ制作スタイルの崩壊”が始まったようで、例えば動画の育成でも
動画は“線”に始まり“線”に終わる!
毎日毎日、線と線の間に何本も綺麗な線を引き続けるのが仕事!
的な根性論も、10年前はやっぱり教えてました。自分自身が新人の頃そう習ったので。ところが社内全員デジタル作画に切り替えたところで、ここ数年は
今後、動画作業が自動中割りになるだろうけど、立体の認識や1コマ1コマを画で描くという動画の本質は知っておいた方がいい! で、デジタル仕上げも同時に覚えましょう!
となっていきました。これはあくまで持論ですが——後輩の育成を義務付けられている業界人が、心掛けなきゃならないのは、
若い世代がこれから手にする、もしくはすでに手にしたテクノロジーで画を動かすことの矜持・楽しさを教えること!
だと思います。でないと、アニメ制作(に限らずあらゆるエンタメ産業)の仕事がもっと早いスピードで、全てAIに持っていかれると思います。デジタルに持ち替えてみるとハッキリ気付きます——アニメ業界が「人手不足」だ「働き方改革の弊害」云々言いながら、“人の使い方に本当に無駄が多い”ことに! 単純に言うと、紙(アナログ)作業のスタッフのために“プリントアウトしてタップ貼る”制作進行が何人雇われなきゃならないか? と。「それは制作会社が考えることだから」と仰るアニメーター、そして演出の方々、「じゃ、全原画・全修正用紙をプリントアウト&タップ貼り、同スキャン&タップ貼りに1カット何分掛かって、1日何カットこなさなきゃならないか?」ご存知ですか? とりあえず、それを計算してから「デジタル化は制作の怠慢云々」を発するようにしましょう。少なくとも板垣が知る限り、これ以上“無駄な仕事に対して人員を配置”し続けると、製作費は完全に破綻します。実はスポンサーはアニメ制作工程での無駄(贅肉)部分にすでに気付いているからこそ、製作費をこれ以上上げられないのです。だから、先ずは今年の新人育成が始まる際、間違っても未だに「動画は紙から教えるべき」とか言わないこと!
あ、そうそう、原画の話でした。つまり、原画でも自分は入社希望の新人らにこう話します。
これからCGの上にディティールを足すような手描き作画仕事が増えると思うけど、将来的にそうなったとしても“画を動かす仕事——アニメーター”をやりたい?
と。要は、これからの視聴者が何を求めるか? から逆算すると、我々昭和型アニメーターのよく謳い上げる「アニメは情報量(線・ディティール)を減らしても、動かしてなんぼ!」とかいった作画矜持は決して視聴者が望んでいるアニメではないのです。これからは、
情報量(線・ディティール)を増やし、且つ崩れずによく動くアニメ!
が求められているのだし、それが当然だと個人的に思っています。だって、生まれた時から3DCGやVRのゲームに慣れ親しんだ子供らが、ブヨブヨ作画な上、碌に動かないアニメに興味示すはずないでしょう!? ここ2~3年、製作委員会は「止めてもいいので、キャラ崩れは絶対NG」「作画崩壊は納品拒否」スタイルで仕事を振ってくる場合が多いし、故に委員会に厳しい目が注がれる中、俺自身も必死で作画も背景も直しまくっている日々で、誇張なく本当に必死です(汗)!
てトコで、またすみません。チェックの時間なので、
今年で30周年を迎える映画『クレヨンしんちゃん』。2月はその映画『クレヨンしんちゃん』シリーズの初期の傑作である第4作『映画 クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険』(1996年)を上映します。
上映は2回あります。15日(水)はトーク無しの通常上映で、18日(土)は上映後に本郷みつる監督、茂木仁史プロデューサーのトークがあります。なお、貴重な35mmフィルムによる上映となります。また、18日はトークの後に、本郷監督の同人誌「本郷みつる/足跡」の販売を予定しています。
チケットは開催日の1週間前から発売。チケットの発売方法については、新文芸坐のサイトで確認してください。なお、新型コロナウイルス感染予防対策で観客はマスクの着用が必要。入場時には検温・手指の消毒を行います。
今まで新文芸坐とアニメスタイルの共同企画はオールナイトのみ、イベントタイトルに通し番号をつけ、レイトショーには通し番号をつけていませんでした。今後はレイトショーが中心になっていくのため、この企画からオールナイトとレイトショーを合算した数字で通し番号をつけることになりました。今回は【新文芸坐×アニメスタイル vol. 156】です。
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【新文芸坐×アニメスタイル vol. 156】 |
開催日 |
2023年2月15日(水)、18日(土) |
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開演 |
15日:20時 |
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会場 |
新文芸坐 |
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料金 |
15日:一般1500円、各種割引・友の会1100円 |
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トーク出演(18日) |
本郷みつる(監督)、茂木仁史(プロデューサー)、 |
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上映タイトル |
『映画 クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険』(1996/97分/35mm) |
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備考 |
※トークショーの撮影・録音は禁止 |
●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/