COLUMN

第228回 去り行く者へのレクイエム 〜平家物語〜

 腹巻猫です。2014年にSOUNDTRACK PUBレーベルよりリリースした「最強ロボ ダイオージャ 総音楽集」が「最強ロボ ダイオージャ オリジナルサウンドトラック」のタイトルで3月より配信開始されました。CDと同じ構成なので、BGM、組曲「スペースファンタジー ダイオージャ」、主題歌・挿入歌のフルサイズ、カラオケなど盛りだくさんの内容です。
 Spotify、Amazon Music、YouTube Music、Apple Music、レコチョクなどのストリーミング&ダウンロードで配信中。CDはすでに在庫切れ、販売終了していますので、未入手の方はぜひ配信版をどうぞ!
https://lnk.to/aFk3aZbJ


 3月に終了した1月期のTVアニメの中で、とりわけ印象に残った作品が『平家物語』だった。
 今回は、その音楽を聴いてみたい。
 『平家物語』は2022年1月から3月まで放映されたTVアニメ作品。TV放映に先だって、2021年9月からFOD(フジテレビオンデマンド)で全話配信された。
 古川日出男訳で話題となった軍記物語「平家物語」のアニメ化である。シリーズ構成・脚本と監督は『けいおん!』『リズと青い鳥』などを手がけた吉田玲子と山田尚子のコンビ。アニメーション制作はサイエンスSARUが担当した。
 最終回を観終わって、「いいものを見せてもらったなあ」としみじみ思った。
 古風でモダンなビジュアル。緻密で大胆な演出。古典を現代のアニメ作品としてみごとに再構築している。
 主人公として、未来を見通す目を持つ少女・びわを設定したのがポイント。びわは歴史の目撃者であり、物語の語り手でもある。同時に、びわとの交流が描かれることで平家の一族が人間味にあふれた、身近な人間だと感じられる。特殊な力を持つびわが「ふつうの人々」の代表でもあるというのが面白い。

 音楽は『リズと青い鳥』『映画 聲の形』で山田尚子監督と組んだ牛尾憲輔。シンセサイザーを使った音楽や実験的な音楽を書く印象がある牛尾憲輔が『平家物語』にどんな音楽をつけるのか? そこも放送前から大いに興味をそそられる点だった。
 『平家物語』の音楽といえば「邦楽器を使った和風のサウンド」というイメージがある。冨田勲が手がけた大河ドラマ『新・平家物語』の音楽が恰好の見本だろう。最近のアニメでは池頼広による『どろろ』の音楽が邦楽器をフィーチャーしたサウンドで時代感を演出していた。
 ところが、アニメ『平家物語』の音楽はそういう方向性ではない。テクノっぽい曲やロック調の曲が流れ、琵琶や笛などの和風のサウンドがからむ。ユニークな音楽設計である。この自由さが『平家物語』の時代のおおらかさや勢いを表現しているように思える。
 音楽は大きく分けると、物語の中で流れる、いわゆる劇伴音楽と、びわの語りとともに流れる琵琶の曲の2種類。後者の琵琶の曲が『平家物語』の柱となる音楽とも言える。そのため、ほかの曲はかえって自由に作ることができたという。
 劇伴は思い切って現代的な感覚で書かれている。
 メロディを聴かせるというより、短いフレーズをくり返すミニマルミュージック的な、あるいはアンビエントミュージック的なスタイルの曲が多い。特定の感情や状況を表現する音楽というよりは、雰囲気を醸成し、映像に心地よいテンポ感を与える音楽だ。こういう曲は視聴者が自由に想像力をふくらませる余地がある。
 また、現代的なサウンドには、『平家物語』の登場人物も現代のわれわれと変わらない人間なのだと感じさせる効果もある。視聴者が『平家物語』の世界にすっと入っていける音楽なのである。
 本作のサウンドトラック・アルバムは2022年1月に「TVアニメ 平家物語 オリジナル・サウンドトラック 諸行鎮魂位相 requiem phases」のタイトルでポニーキャニオンから発売された。アナログ盤と音楽配信も同時にリリースされている。
 CDは2枚組。ディスク1は劇伴、ディスク2はびわの語りのバックに流れる琵琶の曲が主に収録されている。
 ディスク1を聴いてみよう。収録曲は以下のとおり。

  1. the beginning 序
  2. vortex 渦潮
  3. visions 幻視
  4. boy’s own 平家嫡男
  5. unknown plan 入道相国
  6. children 童舞
  7. sal blossoms 沙羅双樹
  8. the day after tomorrow 明日明後日
  9. clap your hands 囃子
  10. ladies 女御
  11. vague light 紫陽窓
  12. sign 兆
  13. courtesy 典礼
  14. sorrow 悲風
  15. nothing 無限
  16. pray with hands 祈請
  17. Kiyotsune, Atsumori 名手邂逅
  18. moonlight 盃月波
  19. conspiracy 陰謀
  20. war situation 戦況
  21. east saburahi 東侍
  22. bad boy Yoshi 悪童義仲
  23. cresc. 漸強楽
  24. maternal 御母
  25. cats 猫
  26. once in a lifetime 桜人
  27. snowscape 雪花
  28. Yoshitsune attacks 義経襲来
  29. the battle 決戦
  30. requiem phases 諸行鎮魂位相

 曲名は英語表記が正式らしく、配信版は英語タイトルしか表記されていない。しかし、CDのインナーやアナログ盤のジャケットには漢字タイトルが併記されている。これがあるほうがイメージが伝わりやすいと思うので、上記のリストでも併記した。
 BGM30曲を物語を意識した曲順で並べた構成。ただし、未使用曲や劇中で使用されたものとバージョンの異なる曲も含まれているので、サウンドトラックとイメージアルバムがミックスされたような内容だ。
 アルバムの序盤に収録された曲は初期のエピソードで使われたものが多い。
 第1話を例に紹介しよう。
 アバンタイトルの蝶が舞う映像のバックに流れたのが1曲目の「the beginning 序」。幻想的なサウンドで『平家物語』の世界へ誘う導入の曲だ。
 続いて、びわの父が殺され、びわが右目で平家一族の未来を見る場面。びわの目には渦舞く海が映る。ここで流れる曲が2曲目の「vortex 渦潮」。不穏な空気がただよい、物語全体の予兆となる。
 びわの語りとオープニングテーマが流れたあと、平家の宴の場面。平清盛と重盛の対話の場面に流れるのがトラック5「unknown plan 入道相国」。エレキギターが鳴り響くロック調の曲である。降り始める雪に重盛が気づく場面ではトラック4「boy’s own 平家嫡男」。弦のフレーズがくり返され、ビートが加わって軽快な曲調に変化していく。平家の人々が身近に感じられるシーンである。
 びわと重盛が出逢い、重盛がびわに「お前も見えるのか?」とたずねる重要な場面ではトラック3の「visions 幻視」が流れる。びわの目に映る平家の運命を象徴するような曲として劇中たびたび使用された。第9話で母親との対面を果たしたびわが、自分にもできることが見つかったと語る印象的なシーンでも選曲されている。
 重盛に引き取られたびわの描写にはトラック6「children 童舞」、トラック7「clap your hands 囃子」といったシンセメインの軽いタッチの曲が使われている。日常シーンではけっこうテクノっぽい曲が使われているのが本作の特徴である。
 その代表と呼べるのが、トラック7の「sal blossoms 沙羅双樹」とトラック8の「the day after tomorrow 明日明後日」。日常の描写によく使われた曲で、筆者は『平家物語』の音楽というと、こういう曲が思い浮かぶ。
 「the day after tomorrow 明日明後日」は過ぎていく日々の時間を淡々と描写するアンビエント系の曲。第2話で「明日、明後日……、この先、いいこともある」とびわが重盛に話す場面から帝に輿入れする徳子を泣いて見送る場面まで流れていた。
 その徳子の登場するシーンでよく流れていたのが、トラック10の「ladies 女御」。徳子の場面以外にも、第2話の後白河法皇と滋子の場面や第9話でびわが母をたずねる場面などに使用されている。シンプルなフレーズのくり返しを聴いていると『平家物語』に登場する女性たちの思いやびわのさみしさに寄り添っているような気持ちになる。全編を通して使用頻度の高い曲である。
 アルバムの中盤は心情を表現するタイプの曲が並んでいる。トラック11「vague light 紫陽窓」は哀感ただようリリカルな曲で、第1話の重盛とびわが月明かりの下で語らう場面や第2話でびわが出家した祇王と話す場面などに使用された。トラック14の「sorrow 悲風」は深い悲しみを表す曲。第4話で重盛が妹・盛子の死を嘆く場面に流れている。
 トラック18「moonlight 盃月波」は3本の笛で演奏される曲。第6話で描かれた、月夜の浜辺で重衡、清経、敦盛の3人が笛を合奏する場面のイメージなのだろう。全編の中でも心に残るシーンのひとつである。ここに収録されたのは3分以上の長いテイクで本編では未使用。実際のそのシーンにはディスク2に収録された「Owada Harbor 大輪田泊」が使用されている。こちらは絵に合わせて演奏されたテイクのようだ。
 アルバムの終盤は、平家と源氏の決戦に向けた曲が並ぶ。トラック19「conspiracy 陰謀」やトラック20「war situation 戦況」はシンセサウンドを生かしたサスペンスタッチの曲。トラック22の「bad boy Yoshi 悪童義仲」はズバリ、木曽義仲のテーマで、テクノロック風サウンドで義仲の破天荒なキャラクターを表現している。
 トラック23の「cresc. 漸強楽」は、波紋を広げるように徐々に厚くなっていくサウンドとリズムで危機感、切迫感を表現する曲。第8話で維盛が敗走する場面や第9話で清経たちが大宰府から追われて立ち去る場面に使用。特に印象深いのが第10話でびわが維盛の最期を見る場面と第11話でびわが入水する徳子を助けようとする場面。クレッシェンドしたサウンドは曲の終盤に向かうにつれて徐々に薄くなり、波立った水面が静まるように終わる。平家の滅亡を見送る曲と言えるかもしれない。
 ここでひと息ついて、びわの慕情を描写するトラック24「maternal 御母」とコミカルな「cats 猫」が並ぶ。続くトラック26「once in a lifetime 桜人」とトラック27「snowscape 雪花」は第10話で使用された、静御前と源義経の恋心を彩る曲である。
 トラック28「Yoshitsune attacks 義経襲来」は第9話の義経出陣のシーンに流れる曲。力強いリズムとシンセサイザーのうなりが義経の若々しいパワーと勢いを伝える。
 第11話の壇ノ浦での決戦シーンは、トラック29「the battle 決戦」だけで描写されている。男声コーラスとリズム、シンセサウンドがからみあい、敵味方入り乱れる戦場を表現する。まさにクライマックスの音楽だ。
 最後の曲は「requiem phases 諸行鎮魂位相」。最終話のラストに流れる本作のメインテーマとも呼べる曲だ。静かな導入から徐々に音が増えていき、シンセ、笛、琵琶などのサウンドが重なりあい、呼応し、ふたたび消えゆくように終わる。シンプルな音型をくり返すミニマルミュージック的な曲である。
 この曲も本編に使われたものはバージョンが異なる。本編ではディスク2に収録された、より音数が少ないバリエーション「purple clouds 諸行鎮魂位相 紫雲」が使用されている。最後に響く琵琶の音は、物語を締めくくる音でもある。
 ちなみにアナログ盤では「requiem phases 諸行鎮魂位相」が1曲目に収録されている。レコードでは外周の曲ほど音がよいので大事な曲を1曲目に配置することが多い。このことからも、この曲が本作を代表する音楽であることがわかる。
 ディスク2に収録された琵琶の曲は『平家物語』を語る音楽。古典としての重みや格調を感じさせる、本作の世界観の核となる音楽である。いっぽう、ディスク1に収録された劇伴は『平家物語』の世界に生きる人間たちの日常や喜怒哀楽を彩る音楽だ。バラエティ豊かな曲調から、生き生きとした心情が伝わってくる。この音楽があったから『平家物語』は人間味豊かな作品になった。そう言えるのではないだろうか。

 本作のサウンドトラックはハイレゾ配信も行われている。アナログ盤も同じマスターから作られたとすれば、CDよりもいい音質で聴くことができるわけだ。特に琵琶の音色は、アナログで聴くと迫力が違う(気がする)。再生環境をお持ちの方は、ぜひアナログ盤でも聴いていただきたい。

TVアニメ 平家物語 オリジナル・サウンドトラック 諸行鎮魂位相 requiem phases
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※アナログ盤
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