COLUMN

第752回 コンテチェックと「センス」

今、社内の若手に切って(描いて)もらった
コンテをチェックする毎日です!

 何度も話題にした(もののタイトルはまだ発表できない)シリーズの話。今のところ自前の(一から自分で切った)コンテは1本のみ。他は全て俺以外に撒き切っていて、半分が監督(まだ名前は出しません)、もう半分は社内の新人数名。それらを修正するのが現在の俺の仕事。時には、監督・新人に関わらずその第1稿をほぼ全修正する場合もありますが、手加減せず直しに直し、後でそのコンテを切った本人に修正意図を説明・解説する近頃のルーチン。
 10年前とかにもここで「絵(画)コンテの切り(描き)方について」とか、書いたことがあると思うのですが、その時から板垣の

絵(画)コンテにマニュアルは存在しない!

という考えは今も変わっていません。むしろ、年々確信としてより強固なものになってきています。社内で「コンテ描いてみたい人いる?」と声を掛けて、手を挙げた人に振りました。それこそ入社2年目のアニメーターでも、「描きたい」と言う人にはやらせるのが自分のやり方。その代わり「画はラフでいいから、スケジュール内に最後まで描き切って!」と。画がラフでもエンドマークまで打ったら、クレジットに載せることにしています。
 数年前、知り合いの監督の方とこういう議論をしたことがあります。たとえば絵(画)コンテ試験をやるとして、

“あるシナリオ(脚本)のワンシーンをコンテ化せよ”的な試験で適性を判断するか否か?

すると、その監督の方は「ワンシーン試験で採用不採用を決める」と仰いました。それに対し俺、板垣の答えは「ワンシーンなんかで見抜けないから、試験自体をそもそもやりません」でした。つまり、自分の経験則でしかないのですが、たかだかワンシーンのカット割りセンスを見極めて、その人をコンテマンにしたとて、TVシリーズ1話分上げ切るのに2ヶ月とか掛けられたってスケジュールが崩壊するだけなんです。もっと最悪の場合、全部描き切ってもいないのに「今日から俺はコンテマン!」と、こっちの仕事を途中で投げ出して、こっそり自宅で別会社のコンテを受けて描き始め、結果、こちらも別会社も共倒れ……って例も自分は知っています。数ページの試し描きセンス程度で、コンテマンという権威を下手に与えてしまうと、アニメ業界にとって良くない結果を招きかねません。だから言うなら、“センスより体力”! 数ページのコンテ試験とかでその人の職業適性に合格不合格と難癖付けるより、本人の自己申告で「やりたい!」と言ったなら、その「やる気の持続力」でもって、

たとえ雑な絵(画)でも1話分、100~120ページのコンテを3週間で上げ切れるか?

こそを試すべき! だと。「え、じゃあセンスはどうでもいいの?」と言う方もいるのですが、「センスを磨く」という言葉が成立している以上、後でも磨けるんです。むしろ、コンテマンに任命した後でもセンスを磨く手伝いをすることこそ“指導する”ことだと思います! 俺に言わせると「センス」って才能じゃなくて、“努力の結果”ですから。これは、師匠・友永和秀より、どこでも通用するするレイアウト・センスを磨かれた板垣の実感としてあります。
 あと、今のミルパンセに限らず、スタッフ不足の会社(スタジオ)で監督していると、制作プロデューサーからよくされる相談、「ウチの○○にコンテやらせてみたいのですが(汗)」というのがあります。その会社からの雇われ監督である以上、自分は「あ、いいよ~」と大抵快諾します。「その代わり、(出来が)良くなかったら俺、全修(全部描き直し)するけどOK?」と更に確認します。すると、制作Pも大概「はい、本人の勉強にもなるので是非お願いします!」と答えてきます。
 だから、これも以前言いましたよね?

週1本コンテが上げられるくらいじゃないと、アニメ監督は務まらない!

のです。だって、いつ何時コンテの全直しが起こるか予想がつかないのが「現場」だから!

 以上あくまで私見……板垣個人のスタッフの育て方でした。結局、会社は会社、監督は監督でやりたいように現場を育てていくしかないわけです。「人それぞれ、仕事のやり方は色々あっていい」って出﨑統監督『ブラック・ジャック 劇場版』(1996年)のラストで言ったましたよね!