第827回 ファンが拘るところ

4Kレストアによる高画質化! ファン待望の第33話以降の初Blu-ray化の実現!

ということで、少々遅ればせながら『あしたのジョー』Blu-ray1・2を買いました。”第33話以降の初Blu-ray化”というのは、以前発売されていたBlu-ray BOXは途中で発売中断になったからです。それを聞いていたため「全巻揃ってから買おう」と思っていた俺は結局買わずじまいでした(ぴあDVDも出たし)。
 で、今度は「全話揃う初Blu-ray化」とあったので纏めて購入。

確かに昭和45年当時の“セル重ね”まで全て見渡せるほどの超高画質!!

本当に数々の名場面が鮮明な画面で蘇るって感動! 素晴らしい!!

——ですが、信じたくないことに、

各話エンディングが! まさかオープニングも!? レーザーディスク版のほうに戻ってる!?

 説明すると、DVD BOX版の際に「可能な限り、当時のクレジットを再現しよう」と、発掘された「各話に合った正確なOP・ED」が収録されていないのです! 一体どーなってるのですか!?
 以前(VHS/レーザーディスク)版のEDテロップは、出﨑統監督名物(?)“脚本を使わない”で、脚本家さんより「テロップを外してくれ」との要請があり、再放送用に“脚本テロップ間”を前後のジョーの走りカットで潰したバージョン、さらにその際“演出クレジットを基準のローテーション”で各話を差し替えたため、原画マンを始めとするスタッフクレジットが各話数に付合していない——つまり、クレジットが“半分デタラメ”ってことです。
 DVD BOX版ではその拘りから、全話本物のEDを収録(脚本家クレジットも復活)! 正規のEDが発見できなかった話数(3本ほど?)に関しては、演出クレジットのみを載せたWOWOW放送用特別編集版を収録したくらい、”間違いクレジットを正す”が徹底されていたのです。DVD BOXのライナーノートにはその旨が詳しく書かれており、DVDが最新版だった頃の自分は、そのオリジナル再現度に歓喜したモノでした。

 それが、今回待望のBlu-ray化なのにコリャないですぜ……(涙)。

だって、本来第1話に使用した“演出 出崎統”のクレジットも、それ以降の出﨑監督のペンネーム“演出 崎枕”クレジット版のEDに統一されていたり……。もっと悔しいのは当時ファン待望力石徹登場を祝した(?)“力石版インストED(第9話のみ使用)”までもが、せっかくDVD版で発掘されていたにも拘わらず、こちらも今回のBlu-rayには未収録。

どうしてこうなったのか、誰か教えてください!!

※ただ、悪い事ばかりではなく、WOWOW放送版をマスターとしたDVD BOX版では本編から消されていた(こちらは各話ラストカットを“尻止め”て雑に潰されていました)、シリーズ後半で毎話ラストの「次週へ」の締めは今回Blu-rayで復活していました(嬉)!!!

第215回アニメスタイルイベント
演出家トーク 本郷みつる&原恵一

 12月2日(土)昼に本郷みつる監督、原恵一監督のトークイベントを開催します。

 数々の作品を手がけてきたお二人に若き日の作品についてのお話をうかがう企画で、『クレヨンしんちゃん』以前の作品が中心になると思われます。今回も聞き手はアニメスタイル編集長の小黒が務めます。お楽しみに。

 今回のイベントもトークの一部を配信します。配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。
 アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。

 チケットは11月4日(土)正午12時から発売。購入方法については阿佐ヶ谷ロフトAのサイトをご覧になってください。

■関連リンク
LOFT https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/268265
Livepocket(会場) https://t.livepocket.jp/e/bjg1p
ツイキャス(配信) https://twitcasting.tv/asagayalofta/shopcart/271338

アニメスタイルチャンネル
https://ch.nicovideo.jp/animestyle

第215回アニメスタイルイベント
演出家トーク 本郷みつる&原恵一

開催日

2023年12月2日(土)
開場12時30分/開演13時 終演15時~16時頃予定

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

本郷みつる、原恵一、小黒祐一郎

チケット

会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,500円、当日 1,800円(税込・飲食代別)
ツイキャス配信チケット/1,300円

■アニメスタイルのトークイベントについて
 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。

アニメ様の『タイトル未定』
417 アニメ様日記 2023年5月21日(日)

2023年5月21日(日)
前夜の『僕の心のヤバイやつ』がよかった。気持ちを乗せて観ることができた。
14時から17時半まで午睡。MAPPA STAGE 2023に途中から参加。片渕さんの新作コーナーと『アリスとテレスのまぼろし工場』のコーナーを見る。片渕さんの新作のタイトルが発表になった。『つるばみ色のなぎ子たち』だ。アニメスタイルの「ここまで調べた~」イベントは次回から「ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』」になるはず。

2023年5月22日(月)
『青のオーケストラ』のCGのキャラクターと手描きキャラクターの印象の近さは画期的だなあ。
以下は別の話題。どの作品かは書かないけど、数日前、ある深夜アニメを観て「演出がないとはこのことか」と思った。原作にあるセリフをキャラクターがそのまま言っているんだけど、原作未読の人にはそのセリフの意味が分かりづらいはず。そのセリフは文字で読むと面白さが分かりやすいが、音だけだと分かりづらいのだ。やりとりを足して、それが面白いセリフであることを強調することもできるだろうし、セリフを足さなくても、役者さんがちょっと含みを持たせた芝居をすれば、面白さが分かりやすくなったはず。「演出がない」と言ったけど、プロデューサーや音響監督が指示すれば済むことだ。それとも、強調すらせず、原作のセリフをそのまま言わせるという方針なのか。これは大きな問題に繋がっている話かもしれない。
寝不足で体調もよろしくなかったので、マンションに戻って横になる。18時半くらいに起きて事務所に。新文芸坐の19時30分からの回で「セーラー服と機関銃 完璧版」(1981/131分/35mm)を鑑賞。ブログラム「二十三回忌 哀惜・相米慎二」の1本。かなり面白かった。詳しくは、また改めて。

2023年5月23日(火)
まとまったテキスト作業はないのだけれど、やることが多い。
ワイフとグランドシネマサンシャインで「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3」【字幕版】を鑑賞。IMAXも上映中だったが、ワイフが3D上映を避けたいと言うので通常上映で観た。SNSでの評判がよかったのだけれど、それも納得の出来。キャラ立ても、各キャラの見せ場の作り方も上手いし、見せ場の数も多い。キャラクターもののお手本みたいな仕上がりだと思った。クライマックスの集団バトルは作りが上手かった。通常上映でも充分に楽しめた。

2023年5月24日(水)
WOWOWでやっていた「ミュージカル『るろうに剣心 京都編』」をチラと観る。キャラの再現度がなかなか。特に志々雄がよい。相楽左之助と悠久山安慈がラップバトル(?)をやったのも面白かった。
この日は久しぶりに余裕をもって仕事が進められた。

2023年5月25日(木)
SNSで実写版『超電磁マシーン ボルテスV』の動画の断片を観る。今までに観た動画も原作アニメのファンである自分にとって嬉しい仕上がりだったけれど、今回の動画もロボットの描写が素晴らしく、アニメじゃないけど「これぞ、アニメっ!」という感じ。作り手の「ロボットアニメ愛」が素晴らしい。
グランドシネマサンシャインで『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』【IMAXレーザーGT3D吹替版】を鑑賞。吉松さんも同行。シンプルな話で、尺も短めだけど、ちゃんと面白い。原作ゲームについては殆ど知らないのだけど、ゲーム要素の取り込み方も上手いのだろう。ピーチ姫の生い立ちについて何かあるらしいことが仄めかされていたけど、それは続編でやるのかな。
お客さんが事務所を訪れたので、近くのコーヒーショップに。近況を聞いたり話したり。
「アニメスタイル017」で大変なアクシデントが発生。アニメ雑誌の仕事は長いけれど、こんなことは初めてだ。

2023年5月26日(金)
やたらと忙しかった日。主には「アニメスタイル017」の作業。昨日のアクデントのためにページ数を大幅に変更することになり、どうするかを検討する。余裕があったら、新文芸坐で映画を観るつもりだったが、そんな時間はなかった。
亀田祥倫さんが演出した『王様ランキング 勇気の宝箱』の7話が、アニメーションとしてよかった。「演出はここまでできるんだ」とも思った。前日に観た入江泰浩さんが演出の『推しの子』7話もよかった。
ドラマ「名建築で昼食を 大阪編」の配信が全話始まっていたので、ながらで一気観。全6話なのですぐに終わった。お嬢さんっぽい感じだった春野藤(池田エライザ)が髪を切って大人びた感じになっていて、それだけでなく、物語中での藤の扱いが変わっていて、最初のシリーズにあった「初々しい若い女性と文系マニアおじさんの、同じ趣味を持った師匠と弟子だけど、ひょっとしたら恋愛になるかもと思わせる関係」が維持されていないのが残念。いや、前作からの続きなら、その関係がないのは当然だし、作品に対して誠実とも言えるんだけど。

2023年5月27日(土)
80%くらい休日だった日。午前1時頃に起床。まだ起きていたワイフが「こってりしたラーメンが食べたい」と言うので付き合うことにした。一度、事務所に入ってメールチェックをしてから、ワイフと外出。いくつかの候補の中からワイフが博多天神を選んで、そちらでラーメンをいただく。その後はワイフと深夜の散歩。朝の散歩やデスクワークを挟んで、昼はHUMAXシネマズで『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』を鑑賞。池袋の公開終了前日の鑑賞となった。内容について首を捻るところがあったのだけれど、劇場を出た時に、同じ回を観ていた子どもが親に対して「すっごく面白かった!」と言っていて、本来の対象である子どもが喜んでいるなら、自分が文句を言うべきではないかもなと思った。夕方は前から気になっていた「新時代 池袋西口店」でワイフと吞む。串が50円で、生中が190円の店なので、あまり期待してなかったのだけど、なかなかよかった。安くて美味しくて酒が進む。店構えからして、客はサラリーマン中心かと思ったけれど、自分達が行った時は若い女性ばかりだった。就寝前、ワイフにDVDとBlu-rayで「翔んだカップル」で薬師丸ひろ子が自転車でゴミ箱に突っ込む長回しのカット、「ションベンライダー」のファーストカット、「雪の断章 ―情熱―」の「18シーン・14分長回し」や、テトラポッドのシーン等を観せる。相米慎二ブームは続く。

第826回 また、ごめんなさい。

今日は、朝から打ち合わせ三昧。

 朝11時から現在制作中の新作『沖縄で好きになった子が方言すぎてツラすぎる』定例。各設定の進行具合の確認と、その作戦会議。そのまま12時30分から、同じく『沖ツラ』原画チェック。新人3人分で30カット程。各カット“直描き”と“口頭説明”、たまに“ホワイトボードに図解”で若手原画マンの指導にあたります。

 さらにそのままの流れで、15時30分から新作のキャラクター会議。今はまだ発表できません。

 さらに続いて、16時30分から新シリーズ(『沖ツラ』の次)の脚本(シナリオ)修正内容確認。こちらも詳細は公式発表後で。

 さらに本日の社内作業上り分チェック。これは19時から、基本毎日定例でスタッフ全員分の1日分の上りを確認します(※詳細は第824回参照)。これが20時くらいまで。

 で、今ようやく解放されて、この原稿書いています。
 てことで、すみません(汗、21時脱稿)。

第267回 怖さのかたち 〜ダークギャザリング〜

 腹巻猫です。TVアニメ『ダークギャザリング』のサウンドトラック発売記念スペシャル動画がYouTubeで公開中です。



 内容は音響監督と音楽を担当した3人の作曲家の座談会。サントラのプロモーションにここまでやるとは、発売元のポニーキャニオンの力の入れようがうかがえます。今回は、この『ダークギャザリング』のサウンドトラックを取り上げます。


 『ダークギャザリング』は2023年7月から放映中のTVアニメ。近藤憲一による同名マンガを原作に、監督・博史池畠、アニメーション制作・OLMのスタッフでアニメ化された。
 子どもの頃から霊を引き寄せてしまう体質の大学生・螢多朗は、バイトで始めた家庭教師の生徒として、ふしぎな瞳を持つ小学生の少女・夜宵を紹介される。夜宵は悪霊に連れ去られた母親の手がかりを探すために、心霊スポットをめぐって悪霊を捕らえる活動を続けていた。霊を引き寄せる螢多朗と悪霊を捕らえたい夜宵は協力しあうことを約束。夜宵を紹介した螢多朗の幼なじみ・詠子も加わって、3人の心霊スポットめぐりが始まった。 悪霊が出そうな心霊スポットを3人が訪れ、危険な目にあいながらも霊を捕らえていく物語。心霊スポットによって現れる霊や心霊現象が異なり、さまざまな怖さが描かれる。心理的に怖いだけでなく、絵的にエグい場面も多く登場する。実は怖い作品が苦手な筆者は、毎回恐る恐る本編を観ている。映像だけでなく、背景に流れる音楽がまた怖いのだ。

 音楽は、KOHTA YAMAMOTO、成田旬、瀬尾祐介の3人が担当。
 3人がそれぞれの持ち味を生かした「怖い音楽」を提供している。そのアプローチの違い、表現の多様性が面白い。
 スペシャル動画でも語られているように、吉田光平音響監督の発案により、本作の音楽には少しレトロなシンセサイザーの音が使われている。サウンドに共通する要素があるため、3人で作った音楽であっても、バラバラな印象はない。3人の楽曲が、本編の中で自然に混ざりあっている。
 シンセサイザーは自由に新しい音を作ることができる楽器であるが、今回は3人とも1から音を作ることはせず、シンセサイザーにプリセットされた音や市販の音源を使ったという。といってもありきたりの音を使ったわけではなく、ふつうの作品では出番がないような音を選び、さらにフィルターなどを通して加工し、怖い音を作り上げた。生楽器の音も入っているが、そのままでは使わず、音をゆがめたり、ピッチ(音の高さ)を変えたりして、不穏なサウンドを作り出している。趣向を凝らした怖いサウンドが本作の音楽の魅力だ。
 総曲数は60曲あまり。明るい日常曲は少なく、ほとんどが、何か起こりそうな不穏な曲、不安をかきたてる曲、気持ち悪い曲、緊迫感を盛り上げる曲などである。これほど多種多様な「怖い曲」が並ぶサウンドトラックも珍しいのではないか。1人の作曲家では「怖い曲」のバリエーションを数十曲も作り上げることはなかなか難しい。3人の共作だからこそ実現した音楽だろう。
 現代のシンセサイザーを使って生み出された音楽であるが、レトロな音色が使われていることもあって、なんとなく昭和のホラー作品に通じる雰囲気がただよう。「エクソシスト」(1973)や「オーメン」(1976)、「サスペリア」(1977)といった往年のホラー映画音楽を思い出すのだ。シンセサウンドを使いながらも、手作りの音楽の香りがする。怖くて懐かしい、ふしぎな音楽である。
 本作のサウンドトラック・アルバムは2023年10月18日に「TVアニメ『ダークギャザリング』オリジナルサウンドトラック」のタイトルでポニーキャニオンから発売された。CD3枚組で、作曲家別に構成されている。配信版も同時リリース。収録曲は下記の商品ページを参照。

https://www.amazon.co.jp/dp/B0CB83BJ29

 構成は筆者が担当した(曲順のみ)。ふつうなら物語の流れに沿って曲を並べたいところだが、作曲家別の構成のため、一連のシーンで流れた曲が別々のディスクに分散することになる。また、発売時点で放映がまだ続いているので、先の展開が読めるような構成は控えたい。そんなことを考えて、今回は作曲家別の『ダークギャザリング』イメージアルバムを想像して構成してみた。結果的にそれぞれの作曲家の個性が表れた内容になったと思う。
 以下、各ディスクの注目曲を紹介してみよう。

 ディスク1はKOHTA YAMAMOTO作曲の楽曲で構成。KOHTA YAMAMOTOはTVアニメ『進撃の巨人 The Final Season』『七つの大罪 黙示録の四騎士』や、現在第2期が放映中のNHKドラマ「大奥」などの音楽を手がける作曲家。本作の核となる楽曲を担当している。
 1曲目に収録した「D_REST IN PIECES_G」は本作のメインテーマとして書かれた曲。悪霊に立ち向かう夜宵のイメージを中心に、夜宵に協力する螢多朗と詠子のイメージも加味されている。不穏な導入部から始まり、後半は果敢に悪霊に向かっていく少女のイメージが女声ボーカルで表現される。
 このメロディは「D_REST_G」(トラック7)、「D_PIECES_G」(トラック17)でも反復され、最後のトラックに収録した「D_REST IN PIECES_G -Inst-」で再度登場して締めくくられる。
 トラック11「D_ARK GATHERIN_G」はメインテーマから派生した第2メインテーマとも呼べる曲。「D_REST IN PIECES_G」のフレーズを使い、よりじっとりとした怖さを表現した曲である。
 トラック2の「D_KEITARO_G」とトラック3の「D_YAYOI_G」は、それぞれ螢多朗と夜宵のテーマとして書かれた曲。
 トラック6に収録した夜宵のバトル曲「D_PURGE_G」がカッコいい。アクション系の曲を得意とするKOHTA YAMAMOTOの持ち味が生かされた曲である。
 聴きどころは強力な悪霊をイメージした重厚で怖い楽曲群。大僧正のテーマ「D_THE HIGH PRIEST_G」(トラック13)、鬼軍曹のテーマ「D_SERGEANT_G」(トラック14)、花魁のテーマ「D_DARK FLAME_G」(トラック16)、神との闘いの曲「D_THE SUPREME BEING_G」(トラック21)、空亡のテーマ「D_M_OTHER_G」(トラック22)などだ。いずれも演奏時間3分以上と長く、頭がぐらぐらするような濃密な恐怖と緊迫感を味わえる。
 ディスク2は成田旬作曲の楽曲で構成。成田旬はTVアニメ『あかねさす少女』『カワイスギクライシス』、劇場アニメ『らくだい魔女 フウカと闇の魔女』などの音楽を手がけ、KOHTA YAMAMOTO、瀬尾祐介と共作の経験もある作曲家。ギタリストとしても活躍する成田だが、本作ではあえてギターサウンドを使わない曲作りに挑んだという。
 1曲目に収録した「Gotcha!」は第2話以降のアバンタイトルのナレーションバックによく使われている曲。もともとは霊を捕らえたときの「ゲットだぜ!」という感覚をイメージした曲である。相手が霊なので明るいファンファーレにするわけにもいかず、どんな曲調にするか苦心したとインタビューで語っている。
 ディスク2には、忍び寄る恐怖や異変を表現した曲が多い。トラック2から「Getting Worse」「Behind you!」「Dyspnea」とサスペンス系の曲が続く。トラック16「TRAUMA」からも「Spooky 6th Sense」「The Standoff」と静かな恐怖や不安感を描写する曲が並ぶ。
 そのいっぽうで、「How embarrassing!」(トラック6)、「Fleeting_A」(トラック7)、「Nooooope!」(トラック11)、「Live Streaming」(トラック12)といった明るい曲も登場するのが面白いところ。怖い曲との対比、メリハリを楽しんでもらたい。
 また、「Mutual Feelings_A」(トラック5)、「How embarrassing!」(トラック6)、「Kizuna_B」(トラック14)など、ほのぼのとした心情を表現する曲が聴けるのもディスク2の特徴だ。ラストは、第10話で夜宵と螢多朗のあいだに芽生えた絆を描写する曲として使われた「Kizuna_A」(トラック29)でしっとりと締めくくった。
 ディスク3は瀬尾祐介作曲の楽曲で構成。「Starving Trancer」「Xceon」等の別名義でも知られる瀬尾祐介は、クラブ&デジタルJ-POP系アーティストとしてメジャーデビューし、アニメやゲーム音楽でも活躍する作編曲家。TVアニメ『THE MARGINAL SERVICE』『アンダーニンジャ』などの音楽を手がけている。
 1曲目の「Let’s Ghost!」は夜宵、螢多朗、詠子の3人が車で悪霊ハンティングに出かける場面に流れる曲。軽快でポップな曲調は「どこが悪霊ハンティング?」という感じだが、このノリが夜宵と詠子なのである。次の「KAMIYO AI」は第8話から登場するキャラクター・神代愛衣のテーマ。リリカルでさわやかな曲調はホラーアニメっぽくないが、この振り幅の広さも本作の魅力のひとつ。
 トラック3からは『ダークギャザリング』らしいホラー系の曲が続く。「CHOKING」(トラック4)、「Filled with TERROR」(トラック5)、「Old F Tunnel」(トラック9)、「Old, Old F Tunnel」(トラック10)と、しだいに怖さが増していくイメージで構成してみた。
 トラック14「The Story of a Child」は、これから放映される水門の霊のエピソードのために書かれた曲で、ピアノの素朴なメロディがしだいに崩れて不気味に変化していくさまが怖い怖い。ディスク3の聴きどころである。
 トラック16には第1話の夜宵の回想シーンに流れた「Twin Pupils’ Vow」を収録し、1曲目の「Let’s Ghost!」と対をなす明るい曲「Let’s Go Camping!」(トラック17)で締めくくった。いろいろあっても、夜宵と螢多朗たちはまた元気(?)に悪霊ハンティングに出かけるだろう。そんなイメージの選曲である。

 3枚のディスクで、作曲家それぞれが工夫を凝らした多彩な怖い曲を味わうことができる。ボリュームたっぷりのホラー音楽集になった。CD同梱の解説書には3人の作曲家の鼎談インタビューも掲載。スペシャル動画で語り尽くせなかったことを深掘りして語ってもらった。
 『ダークギャザリング』は、じわじわと忍び寄る怖さ、ギョッとする怖さ、痛みを想像させる怖さ、不気味でおどろおどろしい怖さなど、いろいろな怖さが描かれたホラーアニメである。音楽で表現された多種多様な「怖さのかたち」をサウンドトラックで味わっていただきたい。

TVアニメ『ダークギャザリング』オリジナルサウンドトラック
Amazon

アニメ様の『タイトル未定』
416 アニメ様日記 2023年5月14日(日)

2023年5月14日(日)
10時から新文芸坐で「雪の断章 ―情熱―」(1985/100分/35mm)を観る。前日の「翔んだカップル オリジナル版」と同じく、ブログラム「二十三回忌 哀惜・相米慎二」の1本だ。前にもざっと目を通したことがあるのだが、スクリーンで観るのはこれが初めて。とんでもない映画だった。デスクワークを挟んで、15時から「やきとん えん家 池袋東口駅前地下店」で吉松さん、ワイフと呑む。

「雪の断章 ―情熱―」の感想は改めて後日に書く。今日は以下のポイントだけを記しておく。

『おおかみこどもの雨と雪』で、廊下をPANして部屋の中の描写を変えることで時間の経過を表現しているのは「雪の断章 ―情熱―」の影響ではないか、という指摘をネットで見たことがあるけれど、「雪の断章 ―情熱―」からの細田作品への影響でもっと分かりやすいのは『時をかける少女』の男女3人のキャッチボールだと思う。『時をかける少女』の功介、千昭、真琴のキャッチボールは「雪の断章 ―情熱―」終盤の雄一(榎木孝明)、大介(世良公則)、伊織(斉藤由貴)のキャッチボールを下敷きにしているのではないか。男性2人と女性1人のキャッチボールというのが同じだし、3人の関係をキャッチボールで示しているのも同様。「雪の断章 ―情熱―」では長回しのロングショット(1シーン1カット)で、それに対して『時をかける少女』は小気味よいカット割りでキャッチボールを見せているのが対照的で、それも面白い。

2023年5月15日(月)
散歩以外はデスクワーク。珍しく、予定よりも作業が進んだ日だった。
本当に今さらだけど、『Do It Yourself!! -どぅー・いっと・ゆあせるふ-』のタイトルロゴを確認。公式サイトやTwitter公式アカウントのタイトル表記は『Do It Yourself!! -どぅー・いっと・ゆあせるふ-』で、それに倣っていたんだけど、タイトルロゴを見たら『Do It Yourself!! どぅー・いっと・ゆあせるふ!!』だ。「-」がつかないうえに最後にもう一度「!!」がついている。なんてこった(後日追記。「アニメスタイル017」では公式に合わせて『Do It Yourself!! -どぅー・いっと・ゆあせるふ-』表記でいくことになった)。

2023年5月16日(火)
午前1時57分に出社。朝の散歩までにかなり作業が進む。やっぱり1時間早いと違うなあ。
設定資料を掲載するにあたってキャラクターを切り抜きにしたため、無くなってしまったキャラクターの周辺の手書き文字の内容について、作品の窓口さんから「(これはメイキングとして重要な情報なので)キャプションでその情報を入れてもらえないでしょうか」という連絡があり、資料とページ構成を読み込んでいることと、作品を大事にしていることに感心した。こういう担当さんが大勢いるといいなあ。
「Gメン’75」の録画をながら観。144話「雪原に消えた13人の乗客」(脚本/池田雄一、監督/山口和彦)ではバスジャックに乗っ取られたバスが雪崩に巻き込まれてしまう。バスは雪に埋まってしまい、乗客達は外に出ることができない。やがて乗客の酸素が足りないことが分かり、乗客の1人である弁護士が、乗客の人数が半分になれば生きのびることができる時間が倍になるという理由で、刑法37条を持ち出した上で、バスジャックが持っていた銃で他の乗客を殺そうとする。これは「カルネアデスの船板」だ。それ以外にも話が詰まっていて「カルネアデスの船板」の話になるのがエピソードの終盤なので、その部分を突き詰めてはいないのだけれど、ええっ、そんな展開になるの? という驚きを含めて面白かった。念の為に書いておくと、バスが雪崩に巻き込まれるところはミニチュア(バスの玩具かもしれないけど)を使った特撮だった。エピソードの作りとしては、先週再放映をしたばかりの142話「エレベーター密室殺人事件」に近い。こちらも脚本/池田雄一、監督/山口和彦。ネットで検索すると、刑法37条をモチーフにした話は前にもあったようだ。84話「三本指の刑事」だ。こちらも脚本は池田雄一。

2023年5月17日(水)
久しぶりに『プロメア』を視聴。『サイバーパンク: エッジランナーズ』を見慣れると『プロメア』は実にアニメらしいアニメだなあ。それはそれとして『プロメア』から『サイバーパンク: エッジランナーズ』、『リトルウィッチアカデミア』から『BNA ビー・エヌ・エー』の流れがあって、それと別に『グリッドマン ユニバース』があるのが、とてもいいと思う。トリガーの可能性が広がった感じ。
朝の散歩では「アルジュナ into the another world」「アルジュナ 2 オンナの港」「CMようこ」を聴いた。
WOWOWでやっていた「流浪の月」をチラ観したら、なかなかよかった。たまたま録画もしていたので、頭から最後まで再生。流し観してしまったけど、これは映画館で観てもよかったかも。
サンプルで頂いた「湘南爆走族 COMPLETE DVD BOOK vol.1」を視聴。やっぱり『湘南爆走族』は面白い。画質もDVDとしてはかなりよい。ディスク1枚で4話も観られるのも嬉しい。ブックレットには設定資料が載っていて、特に原作者の吉田聡さんがアニメ用に描いたキャラ設定(厳密にはキャラ原案になるはず)がよかった。資料の載せ方もいい。満足度の高い商品だった。

2023年5月18日(木)
東映チャンネルで斉藤由貴さんの「スケバン刑事」の番組CMをやっていたけど、「雪の断章」を観た後だと「スケバン刑事」ってメチャクチャな番組だね。
映像特典観たさに「雪の断章 ―情熱―」のBlu-rayソフトを購入してしまった。当時発売された「A MAKING OF 雪の断章-情熱-」は途中で謎のイメージビデオ(斉藤由貴さんがビデオ合成で世界を旅する)が入っていてびっくり。映像特典の見どころは斉藤由貴さんと、この作品で助監督だった榎戸耕二さんの対談だ。例の「18シーンを14分間の長回しで撮った1カット」をやったのは斉藤由貴さんのためだったとか、その1カットの次があの妙なカットだったのも理由があったとか。一時期までの相米慎二作品の「歪さ」についての話も納得できた。レンタルDVDで「翔んだカップル」「ションベン・ライダー」の映像特典も観た。どちらも映像特典は特集上映でのトークショーだ。
朝の散歩では「劇場版 エースをねらえ! 総音楽集」を聴く。ディスク1は散歩中に聴くのは向いていないかも。アルバムとしては貴重だけど。

2023年5月19日(金)
この数日の仕事のピークだった日。食事と散歩以外はずっとデスクワーク。一度はマンションに戻って横になろうかと思っていたけれど、そのタイミングがつかめなかった。午前0時に帰宅。普段の3日分くらいの作業をした。主には「アニメスタイル017」の作業だった。
朝の散歩では「聖闘士星矢 音楽集」と「テレビオリジナルBGMコレクション マジンガーZ」を聴いた。
Netflixの『ヤキトリ』の1話から3話を観る。キャラクターのデザインとアニメーションが悪くない。美術がいい。ロングショットの使い方が上手い。
WOWOWで10時15分から19時まで、劇場版『Gのレコンギスタ』の一挙放映をやっていて、事務所にいる間、ずっと流しっぱなしにしていた。元々、話の密度が高いので、延々と流していると、ちょっと不思議な感じになる。TVアニメの一気観とも違う感じ。ハイビジョンの劇場版『Gのレコンギスタ』を大きな4Kモニターで流すと、アナログっぽい感じをねらった撮影のために面白い画になっていると感じた。「セルアニメなのにデジタルっぼい」というか「フィルム作品のリマスターの理想的なかたち」というか。だけど、セルの透過性の高さについては「やっぱりデジタルなんだなあ」と思ったり。

2023年5月20日(土)
新文芸坐の12時15分からの回で「魚影の群れ」(1983/140分/35mm)を観る。プログラム「二十三回忌 哀惜・相米慎二」の1本。こちらの感想も後日に改めて。居酒屋で軽く呑んでから西口のTSUTAYAに。『クレヨンしんちゃん 雲黒斎の野望』と『らんま1/2』のDVDをレンタルする。事務所に戻って『雲黒斎の野望』を確認。配信やBlu-rayとはバージョンが違っていた。キーボードを叩いてからマンションで仮眠。20時半くらいに新文芸坐に行く。上映プログラム「【新文芸坐×アニメスタイル vol. 159】熱烈再見!クレヨンしんちゃん 雲黒斎の野望」を開催。トークのゲストは本郷みつる監督と原恵一さん。トークは充実したものとなった。トークの後、本郷さんの同人誌の販売。原さんと久しぶりに世間話をした。

以下は『クレヨンしんちゃん 雲黒斎の野望』のトークで語られたこと等。

完成した映画は物語の大半が時代劇パートであり、最後にオマケのように現代の冒険がくっついているけれど、プラン段階ではそうではなかった。原さんにアフレコ台本を見せてもらったのだけど、Aパートが序盤(野原一家が冒険に出かけるまでだったはず)、Bパートが「時代劇編」、CパートとDパートが「現代編」だった。仕上がった映画でもそうなっているけど、アフレコ台本のページ数は70%くらいがBパートの「時代劇編」だった。Cパートはとても短い。あっという間に終わる。これには驚いた。ちなみに絵コンテの割り振りはA、C、Dパートが本郷監督。Bパートが原さん。ただし、Bパートでもヒエール・ジョコマンが登場している辺りは本郷さんが描いている。湯浅さんはデザインと作画だけで、今回は絵コンテは描いていない(ロボットバトルは本郷監督が湯浅さんの作画を意識して絵コンテを描いている)。
プロット段階では「現代編」がもっとたっぷりしていた。最初は時代劇をやることについてあまり興味がなかった原さんが、色々と調べながら絵コンテを描いているうちにノリにノって、どんどん内容が膨らんでしまい、Bパートがあれほどの分量になってしまった。絵コンテは本郷監督と原さんが同時進行で進めており、本郷さんが調整してCパート、Dパートを短くした。変わった構成になってしまったが、本郷監督は「これはこれでいいと思う。二度と作れない映画となった」と語っている。
もうひとつ、今回のトークで明らかになったのは「時代劇編」のエピローグについて。歴史が元の時間軸に戻って、吹雪丸が母に「なにやら、長き夢を見ていたような心持ちがいたします」と語るシーンは、絵コンテでは「現代編」に挿入されていた。アフレコ台本でも同様だ。制作が進む中で、本郷監督の判断で位置を変えたのだそうだ。確かに感情の流れとしても、映画のまとまりとしてもこのほうがいい。
さて、以下が重要なポイント。未来からやっていたタイムパトロールのリング・スノーストームの名前は吹雪丸を文字ったものだ(リング=丸、スノーストーム=吹雪)。吹雪丸とリング・スノーストームは外見も似ていて、吹雪丸はリング・スノーストームに対して「他人とは思えぬ」と言っており、リング・スノーストームはそれに対して、含みのある感じで「ええ」と頷いている。トークで本郷監督にうかがったところ、リング・スノーストームは吹雪丸の子孫で間違いないそうだ。リング・スノーストームがシロの姿でなく、彼女自身の姿で野原一家と活躍するのが、圧縮された「現代編」だ。もしも、Cパート、Dパートのボリュームがもっとあったら、吹雪丸とリング・スノーストームの関係が掘り下げられたのかと本郷監督に訊いたところ、「その可能性はある」とのこと。

以下は僕がまとめた『雲黒斎の野望』のバージョンの推移。変化しているのはパラレルワールドでのサブリミナル効果の有り無し。公開当時のバージョンでは日本の支配者になったヒエール・ジョコマンの顔が、ニュース番組中でチラチラと挿入される。サリン事件の後で、アニメの1コマの遊びが問題になった頃だった。

(1)劇場公開(オリジナルのフィルム)
これがオリジナル。サブリミナル効果あり。

(2)TV放映
ここで初めて修正が入って、サブリミナル効果が無くなった。

(3)
ビデオソフト、LD
修正が入ったバージョン。

(4)DVD
修正が入ったバージョン。

(4)ネット配信
修正なし。サブリミナル効果あり(ただし、ネット配信の初期はDVDと同じマスターが使われていたかもしれない)。

(5)Blu-rayソフト
修正なし。サブリミナル効果あり。

第825回 『いせれべ』の話(15)~新アニメ企画

 前回話が逸れてしまったので、仕切り直して。

『異世界でチート能力(スキル)を手にした俺は、現実世界をも無双する~レベルアップは人生を変えた~』(略称=いせれべ)の12話と13話の話!

 12・13話2本分纏めて、脚本(シナリオ)は自分が書いたのですが、まぁ、いつもながら

まだ終わっていない原作を、シリーズの制作話数の都合上で無理矢理“一旦終わらせる”!

というのは毎作品、予想以上に難しいモノ。アニメ化が決まると同時に制作委員会と最初に話し合うのが「全○○話で、(原作の)どこまでやる?」です。
 今までのシリーズでも例えば『ベルセルク』(2016・2017年)は「原作“途中から途中”まで」、しかも話数(こちらは全24話)で原作を割っていくとラスト数話分にガッツのバトルがない構成にならざるを得ません。結果、島田(明)プロデューサーのアドバイスで、“酒場で大喧嘩~シールケの笑顔”で終わる、落ち着きのある幸せ最終話になりました。
 『ベン・トー』(2011年)でも、原作の中身が非常に濃いので、描写の一挙手一投足全部拾うと“モナークとの対決”(原作2巻、現行アニメの6話)の辺りで10話越えてしまいます。そして、当時の制作委員会的には「水着か温泉話数必須で!」と。さらに「ラストバトルが男対男(佐藤 洋VS.モナーク)になると“華”がない!」との意見もありました。今となっては笑い話ですが、一旦は「じゃ、モナークを女にするか?」が真剣に議題に上がったほどです。ま、結局「各エピソードを巧く纏めて、オルトロス編(原作3巻)までやりましょう」と決まり、自分の方で原作割り+オリジナルパートの配置をしました(OPの“構成”クレジットはこれ)。
 で、今作『いせれべ』も同様。今回のアニメ、全13話(1クール)で原作のどこまで?」との最初の議題に対し「やっぱ、レイガーまででしょう」と某プロデューサー。「じゃ、その線で」と俺の方でシリーズ構成案を纏めていたところ、レイガーをラスボスに据えると、もし続編があった場合ユティに繋ぐのが難しくなる、ということが分かり「ユティまで!」と決めました。それを提出し、ホン読みでプロデューサーさんらに説明し、同意を得られ現行のかたちに落ち着きました。

 と、そうこうする内に、

『いせれべ』新アニメ企画進行決定!

が公式で発表されました。こちらは続報をお待ち下さい。

 で、仕切り直したつもりが、またすぐ退場(汗)すみません、また来週!

第214回アニメスタイルイベント
作画マニアが語るアニメ作画史 1963~2000

 11月19日(日)昼に開催するトークイベントは「第214回アニメスタイルイベント 作画マニアが語るアニメ作画史 1963~2000」。

 書籍「作画マニアが語るアニメ作画史 2000〜2019」としてまとまったトークイベントの続編で、『鉄腕アトム』の放映が始まった1963年から2000年までのアニメ作画を、作画マニア寄りの目線で振り返ります。
 出演はアニメーター、演出として活躍し、さらに作画研究家でもある沓名健一さん、アニメスタイル編集長の小黒祐一郎。今回は小黒がメインで話して、沓名さんが聞き手となります。さらにトークのコメント役として、アニメーターの井上俊之さんに来場していただく予定です。

 会場では「作画マニアが語るアニメ作画史 2000~2019」等のアニメスタイルの書籍を販売。「作画マニアが語るアニメ作画史 2000~2019」は沓名さんのサイン本を販売します。 

 今回のイベントもメインのパートを配信します。配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。
 アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。また、今までの「ここまで調べた~」イベントもアニメスタイルチャンネルで視聴できます。

 チケットは10月21日(土)正午12時から発売となります。チケットについては、以下のロフトグループのページをご覧になってください。

■関連リンク
LOFT https://www.loft-prj.co.jp/schedule/plusone/266999
Livepocket(会場) https://t.livepocket.jp/e/ayvru
ツイキャス(配信) https://twitcasting.tv/loftplusone/shopcart/268212

アニメスタイルチャンネル
https://ch.nicovideo.jp/animestyle

第214回アニメスタイルイベント
作画マニアが語るアニメ作画史 1963~2000

開催日

2023年11月19日(日)
開場12時30分/開演13時 終演15時~16時頃予定

会場

LOFT/PLUS ONE

出演

小黒祐一郎、沓名健一

チケット

会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,500円、当日 1,800円(税込・飲食代別)
ツイキャス配信チケット/1,300円

■アニメスタイルのトークイベントについて
 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。

アニメ様の『タイトル未定』
415 アニメ様日記 2023年5月7日(日)

2023年5月7日(日)
ゴールデンウィーク最終日。「名探偵コナン 祝祭の天空都市(サンシャインシティ)」のキャラクター撮影会の最終日で、この日のみ灰原哀の着ぐるみが来る。ワイフが灰原の着ぐるみを見たいというので、付き合いで行った。撮影会の参加者(整理券をもらって撮影をする人)は見た限りでは若い女性が大半で、子供は母子連れがいたくらい。UTのコナン灰原シャツ(白地に線画)の着用率が異様に高かった。
購入したものの開封していなかった『モブサイコ100 III』のBlu-ray BOXをチェックした。気になっていたのが映像特典の「厳選・原撮映像」だ。必ずしも観たかったカットの原撮が入っていたわけではないけれど、収録されたカットの数は多かった。他の特典も盛り沢山。本編映像も綺麗だった。
北米版『メタルスキンパニック MADOX-01』Blu-rayにも目を通した。こちらも画質は好印象。映像特典も多く、特に線画設定の満足度が高かった。このくらい綺麗に収録できるなら、他のパッケージでも収録してほしい。
ゴールデンウィークは目標としていた作業の75%くらいを達成。ただ、調子が出てきたので気分は悪くない。

2023年5月8日(月)
ワイフと西武池袋本店に。最終日の「東京カレーカルチャーDX GWにっぽんカレー列島」でカレーをいただく。自分はインディアゲート(京都)で「鰹出汁のゴボウビリヤニ牛肉載せ炙り」と「鯛出汁のチキンビリヤニ(麻婆豆腐付き)」の合盛りをいただいた。量は少なめだけど、食感が面白い。今回のカレーイベントは面白かった。ダイエットを考えなければ毎日でも行きたかったくらい。
ゴールデンウィークに予定していた作業が終了。
「アニメスタイル017」関連で某プロダクションの対応スピードの早さに驚く。窓口とのやりとりをお願いしている外部スタッフの方に「この資料について問い合わせしてください」とお願いすると、あっという間に素材が届く。いやあ、素晴らしい。
朝の散歩では『新ルパン』のサントラ1~3を聴いた。今だと、1のセリフありも楽しく聴ける。
『ダロス』のBlu-rayに目を通す。画質は良好。DVDの映像特典の再録(インタビュー集)が貴重だ。

2023年5月9日(火)
「アニメスタイル017」の作業が進む。書籍も色々と進む。「アニメ様の『タイトル未定』」のためのテキスト整理。「アニメ様日記」が入院の話になって、当時のことを思い出す。

2023年5月10日(水)
朝の散歩では『君は放課後インソムニア』のサントラを聴いた。面白いアルバムだった。
WOWOWで放映されていた実写映画「3月のライオン 前編」「3月のライオン 後編」を流し観。ああ、実写になるとこうなるのか。原作をなぞってはいるけど、全体に重たい感じ。桐山零も二海堂晴信も外見を原作に寄せているんだけど、ちょっと違う。その違いは意図されたものなのだろう。川本家三姉妹と父親の決着に桐山君が関わらない(三姉妹に関わることを拒否される)のにも納得できた。
「熱風」5月号の「薪を運ぶ人 もうひとつのスタジオジブリ物語」第16回を読んだ。細田守版『ハウルの動く城』についての話が興味深い。僕の知らないエピソードがいくつもあった。僕が細田さんをジブリに紹介した話題も記事化された。

2023年5月11日(木)
この日の作業は「設定資料FILE」がメインで、並行して「アニメスタイル017」関連。そして、これから作る書籍関連。「設定資料FILE」は水曜から実作業に入った。最後のページの構成から始めたのだけど、延々と試行錯誤を続けた。自分が設定したハードルが高すぎた。
『スキップとローファー』の1話から6話を連続して観た。原作を読んでから観ると、びっくりするくらい上手に作っていることが分かる。監督がシリーズ構成を兼ねているのが上手く行っている理由のひとつなのだろう。スルスルと物語が進みすぎるのでは? というのは贅沢過ぎる感想か。
「設定資料FILE」の構成をやりながら、配信で「地獄の花園」と「ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結(吹替版)」を流し観。「地獄の花園」は前から気になっていた映画なのだけど、イメージ通りの映画だった。よく作ったなあ。

2023年5月12日(金)
映画「はい、泳げません」を作業をしつつながら観。映画館で予告を何度か観ていて「こんな映画なんだろうなあ」と思っていた。綾瀬はるかさんが演じる水泳コーチと泳げない男性の恋をコメディタッチで描いたものだと思っていたわけだけど、そうではなかった。あれー。
「アニメスタイル017」の編集作業でデザイン&編集のスタッフから「このページに載っているのは第二原画ですが、文字の書き方が違っているから、レイアウトを描いた人と載っている原画を描いた人は別の人なのではないですか」という突っ込みが入り、またまたタイムシートまで戻って確認する。
最近はマメに歩いているので腰痛とは縁がなかったのだけれど、この日は午前7時半から14時くらいまで座りっ放しだったので、腰の具合がヤバそうになった。慌てて何度か歩いた。
この日の作業は「アニメスタイル017」がメインで、連絡いろいろ。それ以外は進行中の書籍の件、「WEBアニメスタイル」の簡単な原稿など。
Netflixの「サンクチュアリ -聖域-」をながらだけど、全話一気観した。よくできていた。特に役者がいい。

2023年5月13日(土)
SNSで年齢が近い方が『トニカクカワイイ』をどう楽しめばいいのか分からないと書いていたけれど、僕は楽しんでいる。夫婦で温泉に入る話も微笑ましくてよかった。自分が若くて独身だったら、違った観え方をするんだろうなあ。
TOKYO MX2で「J-BOT ケロ太」という番組が始まった。飯能でケロ太というロボットが活躍するドラマで、印象としては東映の不思議コメディーに近い。どこかの局でやっていた番組なのかと思ったら、これが本放送らしい。
朝の散歩の後、朝のツイートを挟んでワイフと「春バラの早朝開園」をやっている旧古河庭園に。旧古河庭園は「緑に触れたい」というワイフの要望だった。薔薇を見ているうちに雨が降ってきた。しばらく雨宿りをしてから旧古河庭園を出る。旧古河庭園の後に六義園に行く予定だったけれど、それは中止。
新文芸坐で「翔んだカップル オリジナル版」(1980/122分/35mm)を鑑賞。プログラム「二十三回忌 哀惜・相米慎二」の1本だ。

以下は半月くらい経ってから書いた「翔んだカップル オリジナル版」の感想だ。
映像内で表示される作品タイトルは以下の通り。
…………
翔んだ
カップル
ラブコールHIROKO※オリジナル版
…………
相米慎二監督のデビュー作。これが初見と思って観始めたのだけれど、モグラ叩きのシーンを始め、記憶にあるシーンや展開があったので、観たことがあったようだ。テレビ放映で断片的に観たのかもしれない。
鑑賞中には「演出としてはやりきれていないのではないか」と思っていたけれど、鑑賞してからしばらく経って振り返ってみると、「突出した演出的」と「青春映画のバランス」がいいと思うようになった。公開当時、映像に関してかなり新しかったはずで、その新しさは今となっては体感はできないが、想像はできる。今観ても凄いのは間違いない。物語に関してはやや説明不足。ただし、想像で補える範囲だ。登場人物の描写や言動に「あの時代」の空気感、気分が色濃い。
一番よかったのが、それぞれ別にデートをしていた田代勇介(鶴見辰吾)と杉村秋美(石原真理子)、山葉圭(薬師丸ひろ子)と中山わたる(尾美としのり)が合流してダブルデートになるところ。高層ビルと鯨のアドバルーンの使い方がお洒落。この時代のお洒落だ。アニメで言うと『魔法の天使 クリィミーマミ』とか『魔法のスター マジカルエミ』に感覚が近い。高層ビルのカフェ(?)で4人がお茶をするカットがあるのだが、ちょっと気怠い感じで、これもいい。このカットはもっと長いショットだったのを、つまんで短くしたのかもしれないし、ダブルデートで別のシークエンスも撮っていたのではないかという気もする。もっと長いバージョンがあるなら観てみたかった。
最初の公開版が106分で、オリジナル版が122分。最初の公開版は観ていないはずだけど、そちらのほうがまとまりがよかったのではないかと想像。
これも想像だけど、オリジナル版にはプロデューサーからの「薬師丸ひろ子のアップを増やせ」というオーダーで足したのではないかと思われるシーンがふたつある(公開版からあるのかもしれないけど、観ていないので分からない)。ひとつが勇介が秋美のマンションに行っている日に、圭が窓ガラスにスプレーで「勇介 バカ」と書く数カット。もうひとつが、秋美のマンションから帰った直後の、圭が階段を降りるだけの謎の場面。両方ともそこまでの演出から浮いているし、後者は物語的に意味のない描写だ。Wikipediaでも触れられ、DVDの特典のトークでも話題になっていたけれど、モグラ叩きのシーンについて、プロデューサーから「アップカットを入れて撮り直すように」という指示があったが、相米監督は同じような長回しの1シーン・1カットで撮ったのだそうだ。それと同様に薬師丸ひろ子のアップを増やせ」というオーダーが出たのではないだろうか。
圭が自転車で坂を走り降りてゴミ箱に突っ込んで、その後に立ち上がって勇介と歩き出す場面もよかった。ここも長回しの1シーン・1カットなのでスタントマンを使うことは不可能。こんなに「体当たりの演技」という言葉が相応しいものも珍しい。
若々しい魅力に溢れた映画で、それは若者4人の恋愛模様を描いているからということもあるのだけれど、それだけでなく、役者の元気さ、撮影現場の楽しさが反映されているのだろう。

第824回 『いせれべ』の話(14)~アニメ作りは全て計算、今は!

11話はまたREVOROOTさんのグロス話数。4話同様、大変お世話になりました!

 6話に続き、筆安一幸君の脚本。そしてこの辺りにくると、社内リソースをラスト2本(12・13話)に向けて送り出すことが必須になるため、ここでスケジュール的にも作画的にも安定したグロス班は、本当に有難いのです。よって、ラストの優夜・ナイト・ルナ大暴れもミルパンセ側の作画修正は最小限。カメラワークを駆使するなどして撮影メインの調整が多かったと思います。が、とどめのボディーブローは板垣の方で原画から修正させてもらいました。あと、異世界側・王都のモブ作画や、毎度お馴染みBG修正は社内の長谷川(千夏)さんに助けられました(ありがとうございます!)。
 あと、アーノルド王の大塚明夫さんは最高でした!『Devil May Cry』(2007)ではダンディーでちょい悪なモリソン、『ベルセルク』(2016)では怪しく重量感あり且つカッコイイ髑髏の騎士、そして今作では威厳ある国王でありつつも娘に頭の上がらないコミカル親父。御一緒させていただく度、その幅の広さに驚かされます。この11話でも優夜が布団を出してから、アーノルド王が徐々にキレて爆発するまでが、「来る、来る、……キタ——!!」のテンポ感が絶妙なんですよね~。各シーンの“面白さの核”みたいなものを完璧に理解されている感じで、大塚さんが持って入られるプランで基本一発OK!『Devil~』の時から「~な感じでください」とか「ここのシーンの意図は~」などでテイクを重ねたことが、大塚さんに限っては記憶にありません。て、業界の大ベテランに大して当たり前なことばかり、大変失礼しました。

12話・13話はラスト2本纏めて自分が脚本書きました! コンテは監督・田辺(慎吾)と共同!

 てか、コンテは田辺監督のモノに、俺の方が多めに手を加えた感じ。つまり、田辺君の方から「アクションは板垣さんが手を入れるでしょ?」とかなりラフで提出。で、俺が全体のコンテやってる時、彼の方は現場の打ち合わせや演出処理を進めていた訳で、そういう意味では監督・総監督の分業は上手くいってました。そして、総監督・監督体制でやる代わりに他社のシリーズより各話演出の人数が少ないハズです。つまり、監督と名の付く人(板垣も含む)が半分のコンテ・演出を担当するのがウチ(ミルパンセ)のやり方。ま、“業界的に人手不足”は何度もここで話題にしているとおりで、フリーの演出さんに電話掛けまくり、隙間を見つけてねじ込んだりするくらいなら、社内の新人アニメーターに教えて、演出も兼任してもらったりした方がよっぽどマシ!「俺がフォローするから、演出もやってみる?」と。
 あと、今現在ウチの演出スタイルは、いくつかの工程をショートカットしているので、各話演出がそれほどの人数が必要ないんです。もちろんグロスに出す場合は、そのスタジオ(会社)で立てられた演出の方で作ってくださればOKです。ただ我々の場合はほぼ全員社員給で雇っているため、あらゆる作業工程の所要時間を測って、給料分の仕事をしてもらわなければなりません。
 例えば画コンテ。全話・全カット、コンテに俺の方で難易度を“△・○・◎”でランク付けして作業INします。ちなみにコンテは“アニメ制作における作家的ポジション”であることより先に、“アニメ事業の設計図”であるべきと考えており、“画面作りの面白さ”と“その作業工程における費用対効果”の両立ができてないコンテは、自分の方で手を入れる! あえて、今はコレでやってます。
 その難易度で一番軽い“△”カットの原画は、所謂“止め・口パク・目パチ”のみ。こちらは1カット¥4000で計算すると、「1日2~3カットは上げてください。ラフではなく、一発原画で」と。これで、土・日休みで1ヶ月22日働くと、最低賃金に届く計算です。
 作監。こちらもラフと清書、同じカット(画)に2回作監修正なんて入れません。一発原画に一発作監。このショートカットで固定給を実現している訳です! 今は。
 これを演出に当てはめると、

レイアウトのチェックにざっと10分、原画チェックとタイムシート&撮影指定チェックにそれぞれ10分ずつ。1カット計30分程度!

で、1話分。平均300カット×30分で150時間。1日8時間勤務で計算すると18日ほどで1話分の原画チェックが終わります。もちろん、打ち合わせやリテイク処理まで入れると1ヶ月で1話。つまり給料から逆算すると、1シリーズの作画期間で演出1人で6話分は処理できるる。これも、あくまで今は、です。
 ま、当然これは机上の計算。現役の演出の方は仰るでしょう。「1カット30分なんて!? レイアウトだって、ダメなものは全部描き直しで1時間じゃ済まない時だってあるんだぞ!」とか。そんなこと俺が知らないとでもお思いですか!? それが分かった上で「全修つったって、全カットじゃないですよね?」と俺は返します。そもそも、

脚本・コンテ・演出・作監・原画・動画、自分でやったことがある作業の所要時間くらいは把握済み!

だから、逆に止め・口パク程度の軽いカットは10分とかからず「作監様シクヨロでーす」で終わるということも承知している訳です。しかも、従来のフリー演出は作品掛け持ちのせいで、毎日スタジオ(会社)に入りもせず、

簡単な10分「シクヨロ~」を何10カット×何日も机に眠らせ、作監作業の時間を奪うと!

大体、演出を作家か何かと勘違いした人に限って、「演出を時間で測れるか! こちとら“作品”を作ってんだぞ!」とか言って自身の怠惰なワークスタイルを正当化しようとするんです! フリーを決め込み、週2~3回2~3時間ずつしか社内に入らず9割「作監シクヨロ~」で……。さらにその“平成”演出スタイルで3~4社掛け持ちして、月50万以上稼ぐと。このような演出を何人も雇ってる会社——ハッキリ言います。「製作委員会さん、そこの会社お金(製作費)余ってますよ!」これを業界に横行させてる内は我々「製作費が足りない」「人手が足りない」云々言えた義理じゃないと思います。
 ちなみにウチの場合はその机上の計算から零れた分を、板垣が引き取ります。すると『いせれべ』スタッフ・クレジットの出来上り。これも、あくまでも“今は”で、これからももっとスタッフを指導して、何とかしないといけないと考えています(自戒)。
 ……と、久々に結構ぶちまけました故、最後に。

 今回みたいのに対して

奔放な発想・作家性とその法外な金銭感覚で活躍された“昭和の巨匠”方をご本人無許可で引用しては、無計画とピュアな作家性を混合して「そんなの創作じゃない!」とかのたまう方々

が何か言いたいのはよく分かります。でも、考え方は人それぞれ。そのそれぞれで、まず板垣個人が今やらなきゃならないと思っていることは、アナログからデジタルに各工程が進化した“令和”において、

“デジタルフル活用で各作業者をちゃんと固定給で食わせられるアニメ作り”! そのために妥当な製作費と人員数の算出! そしてそれに付随し“昭和~平成”と続いた業界一部の既得権益層の見直し!

だと考えています(今は)。当然日々の作品作りと同時進行で、です。何々団体作ったり、プラカード掲げて運動家になるつもりは自分にはありません。で、これもその運動に懸ける方たちを否定するつもりは全くありません。業界各人が業界のことを思って——であること前提で、そのために取る手段は人それぞれですから。
 今回はあくまでも「今の板垣がやるべき事」を言ったまでです。

 で、また話が逸れたので、12・13話は次回、仕切り直しましょう(汗)!

第266回 仕込まれた毒 〜ヨルムンガンド〜

 腹巻猫です。先月のことになりますが、9月16日に京都で林ゆうきさん、高梨康治さんらが参加する劇伴フェス「京伴祭」が開催されました。京都まで行く気満々だったのですが、残念ながら当日仕事が入って上洛がかなわず、後日配信で視聴しました。今回特に注目していたのが初参加となる岩崎琢さんのステージ。『天元突破グレンラガン』『文豪ストレイドッグス』『刀語』『ジョジョの奇妙な冒険[戦闘潮流]』などにまじって『ヨルムンガンド』の曲が演奏され、「おおっ!」と思いました。なぜか。それは本文で。


 『ヨルムンガンド』は2012年4月から6月にかけて放映されたTVアニメ。高橋慶太郎の同名マンガを原作に、監督・元永慶太郎、アニメーション制作・WHITE FOXのスタッフで映像化された。2012年10月から12月にかけて第2期『ヨルムンガンド PERFECT ORDER』が放映され、原作のラストまでを映像化して完結している。
 この作品のことがひっかかっていたのは、庵野秀明監督が『ヨルムンガンド』の音楽を気に入って、実写劇場作品「シン・仮面ライダー」の音楽担当に岩崎琢を選んだと聞いたからである。岩崎琢が作曲の参考に見せてもらったフィルムには、すでにいくつかのシーンに仮の音楽として『ヨルムンガンド』の曲がつけられていたという。
 オリジナルの『仮面ライダー』の菊池俊輔による音楽をこよなく愛する筆者であるが、『シン・仮面ライダー』に関しては、旧作の音楽を使わず、全編岩崎琢の音楽でよかったんじゃないか、と思った。それくらい、岩崎琢のサウンドが新しい仮面ライダーの世界観と映像に合っていると感じたのだ。
 その音楽の原点とも言える『ヨルムンガンド』とはどんな作品なのか。
 戦争で両親を失い、少年兵として生きていたヨナ(ジョナサン)は、武器商人の女性ココ・ヘクマティアルに預けられ、彼女の護衛と任務の遂行を担うチームの一員となる。世界の紛争地域でビジネスを展開するココは、年中トラブルに巻き込まれ、命をねらわれていた。ココとともに世界を旅するヨナは、心の中では武器を憎みながらも、各地で激しい戦闘を経験していく。いっぽうココは「世界平和」のためにある計画を実現しようとしていた。

 音楽をつけるのが難しそうな作品である。ガンアクション、とひと口に言いきれない。銃を使ったバトルはあるが、スカッとする作品ではない。主人公は武器商人。正義や人助けのために戦っているわけではない。カッコいい曲をつけて盛り上げるのは向かないだろう。かといって、劇場作品「ダンケルク」のようなシリアスでリアルな雰囲気にしてしまうと後味が悪い。フィクションとしての面白さを損なわないようにしつつ、カッコよくなりすぎない、でも魅力のある音楽がほしいところだ。
 岩崎琢の音楽が、なかなか意欲的である。
 まず気になるのが、ボーカルが入った曲が多いこと。第1話冒頭に流れる曲「Jormungand」もそうだし、毎回の次回予告で流れるラップを使った曲「Time to attack」も耳に残る。
 アクション曲にもボーカルが使われている。人の声が入った曲が劇中に流れるとセリフと重なったり、歌詞が気になったりして、じゃまになることが多い。本作のラップは外国語の歌詞なので聞き流すこともできるが、気になるといえば気になる。その「気になる感じ」、ある種の違和感が、戦闘の非日常性と混沌とした状況を感じさせ、アクションシーンを必要以上に盛り上げず、ココたちをヒロイックに見せないようにしている。
 世界各地を旅するストーリーに合わせて、ヨーロッパや中東、東南アジアなど、エスニックなサウンドを取り入れた曲が多いことも本作の音楽の特徴だ。これもまた、音楽を「洗練されたカッコよさ」から遠ざける独特の味つけになっている。
 多くの作品でエッジの立ったクールな曲を聴かせてくれる岩崎琢だが、本作ではクールになりすぎない絶妙なラインをねらっているようだ。クールというよりドライ。スタイリッシュというより土臭い。でもカッコいい。
 本作のサウンドトラック・アルバムは「ヨルムンガンド オリジナルサウンドトラック」のタイトルで2012年6月にジェネオン・ユニバーサル・エンタテイメントから発売された。2012年12月には第2期のサントラ「ヨルムンガンド PERFECT ORDER オリジナルサウンドトラック」が同じメーカーからリリースされている。
 第1期のサントラから聴いてみよう。収録曲は以下のとおり。

  1. Jormungand
  2. Time to Rock and roll
  3. Jonathan
  4. cul-de-sac
  5. Hard drive music
  6. H.W.Complex no’3
  7. Colmar
  8. Insert
  9. H.W.Complex no’4
  10. “Cogito, ergo sum”
  11. Masala Dosa
  12. Mad symphony
  13. The crafty jewelry
  14. Poached egg
  15. Mania Butterfly
  16. Lamento
  17. Essentia
  18. Alligator
  19. MIM-40-12
  20. H.W.Complex no’5
  21. Rock’ n roll boobs
  22. Tristeza
  23. Meu mundo amor
  24. Time to attack

 主題歌は収録されず、劇伴(BGM)のみで構成。
 1曲目の「Jormungand」は番組タイトル「ヨルムンガンド」を曲名にしたナンバー。本作のメインテーマと言えるだろう。ヨルムンガンドは北欧神話に登場する毒蛇の名だが、本作における意味は物語の終盤でようやく明らかになる。この曲は、第1話の冒頭、第7話、第11話で使用され、第2期の最終話でまた登場する。福岡ユタカが作詞とボーカルを担当。福岡ユタカは「シン・仮面ライダー」の音楽にも参加している。9月の「京伴祭」でも岩崎琢のステージにゲスト出演していた。
 トラック2「Time to Rock and roll」はアクションシーンにたびたび流れた曲。リズムから始まり、女性ボーカリストSANTAによるラップへと展開する。劇伴にラップを取り入れる手法は『天元突破グレンラガン』ですでに試みられているが、より劇伴と一体になった形に進化している。
 録音はニューヨークで行われた。SANTAのラップをフィーチャーしたねらいは、音楽が単なる「スタイリッシュ」に流れてしまわないように「強めの毒」を仕込むことだった、と岩崎琢はアルバムのライナーノーツで語っている。
「違和感と、幾許かの羨望の念を抱かせること、そしてこの作品に不可欠な、キナ臭さと一触即発的なヤバさを音楽をもって補完させるために、Santaのラップはどうしても必要だったのだ」
 トラック3「Jonathan」はヨナのテーマ。もの憂い雰囲気のギターの調べがヨナの無口なキャラクターを伝える。ギターサウンドは日常描写によく使われており、トラック7「Colmar」やトラック14「Poached egg」などもギターによるリラックスムードの曲だ。
 ここまでが、いわばアルバムの導入部。3曲で本作の世界観と音楽のコンセプトが伝わってくる。
 トラック4「cul-de-sac」からはサスペンス、アクション描写曲が続く。男声ボーカルをフィーチャーしたエスニカルな「cul-de-sac」はトラブルの前兆などに使用されたサスペンス系の曲。疾走感のあるトラック5「Hard drive music」は第4話でココたちが殺し屋「オーケストラ」の襲撃にあう場面に流れた。ノイジーなエレキギターのリフから始まるトラック6「H.W.Complex no’3」は第1話から使われている戦闘曲。曲名が共通する「H.W.Complex no’4」(トラック9)、「H.W.Complex no’5」(トラック20)とともに、アクションシーンに流れた本作の代表的な曲だ。
 トラック10「”Cogito, ergo sum”」は、シンセとバイオリンなどが奏でるエキゾチックでミステリアスな曲。曲名は哲学者デカルトの有名な言葉「我思う、ゆえに我あり」から。ココの心情を描写するシーンにしばしば選曲されている。ココは何を想い、何を自分の存在証明とするのか……? そう考えると味わい深い曲だ。第1期の最終話(第12話)の本編ラストに流れたのもこの曲だった。
 トラック11「Masala Dosa」の曲名「マサラ・ドーサ」とは南インド料理の名。タイトルどおり、ボーカルの入ったインド風の曲である。第8話で元女優の兵器ブローカー、アマーリア・トロホブスキーとココが話をする場面に流れている。インドが関係するシーンではなく、民族音楽による異化効果をねらった演出だろう。
 ギターとハーモニカが奏でるトラック12「Mad symphony」は、第3話に登場する殺し屋「オーケストラ」のテーマ的に使われた曲。その後も狂気を宿した殺し屋の登場シーンなどにしばしば選曲された。「狂ったシンフォニー」とはうまい曲名である。
 トラック13「The crafty jewelry」はアマーリアのテーマ的に使われたストリングスによるタンゴ風の曲。
 トラック15「Mania Butterfly」は蝶マニアの科学者Dr.マイアミのテーマ。優雅なストリングスの曲だ。
 やはりストリングスが奏でるトラック16「Lamento」は「哀歌」を意味するタイトルの曲。第5話でヨナがココとの出会いを思い出すシーンに使用された。
 トラック17「Essentia」は第4話で殺し屋「オーケストラ」のひとりチナツが師匠を撃たれて動揺するシーンに選曲された。これもストリングスの曲だ。
 こんなふうに、ストリングスの曲がけっこう重要なテーマとして使われているのも本作の特徴である。
 次のトラック18「Alligator」はエレピとフルート、リズム、ストリングスなどによるセッション曲。ラウンジ風の曲想だが、全体に不穏な雰囲気がただよう。ココと武器商人が話をする場面によく使われていて、曲名「Alligator(=ワニ)」の意味を考えさせられる。
 トラック19「MIM-40-12」から3曲は、サスペンス〜バトルという流れ。トラック21「Rock’ n roll boobs」はユーロビート風のリズムと女声ボーカルを組み合わせたダンサブルな曲で、これがバトルシーンに合うのだから面白い。第6話の銃撃戦の場面などに使われた。
 トラック22「Tristeza」からはアルバムを締めくくる流れとなる。
 「Tristeza」は「悲しみ」を意味するスペイン語・ポルトガル語。曲名どおり、哀感をたたえたストリングスの曲である。第11話の冒頭でココのチームの一員であるバルメが辛い過去を回想するシーンに流れていた。
 続くトラック23「Meu mundo amor」は第12話でバルメがヨナをかばって銃弾を受けるシーンに流れた挿入歌。タイトルはポルトガル語で「私の世界の愛」といった意味だ。岩崎琢はこの曲について「『この世界は愛に満ちて素晴らしい』という、物語に対して全く逆の意味の歌詞がついている」とSNSでコメントしている。作詞とボーカルはSilvio Anastacio。
 最後の曲となるトラック24「Time to attack」は女声ラップによるココのテーマと呼べる曲。トラック2「Time to Rock and roll」のラップを担当したSANTAが作詞とボーカルを担当。歌詞にココの名が読み込まれている。次回予告で流れたほか、劇中でもたびたび使われた印象深い曲だ。戦闘的な曲ではないけれど、本作の雰囲気と世界観をもっともよく表現してるのがこの曲だと思う。岩崎琢の言葉を借りるなら「キナ臭さと一触即発的なヤバさ」が宿った曲だ。

 ドライでエスニカルなサウンド、そして、ラップに仕込まれた違和感という「毒」。「シン・仮面ライダー」が必要とした音楽はそれだったのではないか、と筆者は考えている。
 そして、『ヨルムンガンド』を聴いたあと、全編岩崎琢の音楽による特撮ヒーロー作品も観てみたいなあと思うのだ。

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アニメ様の『タイトル未定』
414 アニメ様日記 2023年4月30日(日)

2023年4月30日(日)
ゴールデンウィーク2日目。朝の散歩では池袋から日暮里の一由そばまで歩く。到着したのは午前7時過ぎだったのだけど、店の前に行列ができていてびっくり。その後は昼過ぎまで事務所でデスクワーク。この日の作業はページ構成だった。14時過ぎにワイフとドーミーイン池袋にチェックイン。マンガを読んで、温泉に入って、缶ハイボールを吞む。ホテルの部屋でワイフと吞みながら『機動戦士ガンダム 水星の魔女』『BLEACH 千年血戦篇(再放送)』「ナニコレ珍百景 3時間SP 系列局対抗!!日本一決定戦」等を観る。『BLEACH』は字幕付きで観ると、面白さが増すなあ。就寝したのは20時過ぎかな。

2023年5月1日(月)
誕生日を迎えて59歳になった。この一年も仕事を続けることができました。ありがとうございます。数年前から「60歳まで今の仕事を続ける」を目標にしています。60歳になったからといって、仕事をやめるわけではないですが、まずは60歳まで現役を目指したいと思います。

ゴールデンウィーク3日目。会社は通常業務なので、早朝と昼間は仕事。夕方はワイフと池袋西口の落ち着いた店で誕生祝い。パルコで「名探偵コナンプラザ」が始まったことを知って立ち寄る。ワイフがグッズを買い込んだ。
以下は妄想の話。「めんつゆひとり飯」がアニメになるならシリーズ構成をやりたい。途中の話をオリジナルで3本くらい書くのでもいい。保ヶ辺と舞ちゃんの話だけでもいい。なんなら、保ヶ辺単体のエピソードでもいい。十越さんでオリジナルを作れたら楽しいだろうなあ。まあ、そんな話はこないだろうし、きてもやっている時間がとれるのかというとそれも難しい。妄想の話でした。

2023年5月2日(火)
ゴールデンウィーク4日目。この日も会社は通常業務。昼にドーミーイン池袋をチェックアウト。この日も色々と進めたのだけど、連絡関係が多いので「仕事をやったぞ」という感じはあまりない。
Netflixで「あいの里」という番組の配信が始まった。ジャンルとしては恋愛リアリティショーらしい。予告動画(サンプル動画)にロトスコープの映像があった。本編を観てみると、ロトスコープはかなりちゃんとしている。技術がある人がやっている。1話のスタッフクレジットを見ると、ロトスコープをやっているのはロッケンロール・マウンテンだ。ロッケンロール・マウンテンは『音楽』の岩井澤健治監督の会社である。2話、3話もロトスコープ部分はあった。
現行のアニメだと『君は放課後インソムニア』が引き続き、好印象。『桜蘭高校ホスト部』を1話から6話まで観る。何度も観ているのに1話が新鮮だった。各話の演出もトバしているところがある。

2023年5月3日(水)
ゴールデンウィーク5日目。午前中はワイフと「春のバラフェスティバル」開催中の旧古河庭園に。帰りは西武池袋本店の「東京カレーカルチャーDX GWにっぽんカレー列島」に寄った。午後はずっと原稿。原稿作業だけ進められるのが嬉しい。数時間キーボードを叩いたら調子が出てきた。

2023年5月4日(木)
ゴールデンウィーク6日目。この日の作業は主に「アニメスタイル017」の写真選び。それにあわせてテキスト作業。苦労すると思っていた作業だけど、やってみたら楽しかったし、それほどは時間はかからなかった。ただし、全体の予定としては遅れ気味。
Twitterで、2024年5月3日昼に阿佐ヶ谷ロフトAで「アニメ様イベント(仮)」を開催することを告知する。サンシャインシティに行ったら『名探偵コナン』関係のデコレーションが大変なことになっていた。 特にサンシャインまでの地下道が凄い。
東映チャンネルの「Gメン’75」。141話「団地奥様族の犯罪」と142話「エレベーター密室殺人事件」をオンエアと録画で視聴。141話のラストは記憶にあるなあ。142話はGメンを含めた数人がエレベーターに閉じ込められて、ドラマが進行するという内容で、着想が面白い。本編の後に「劇中のエレベーターは、旧タイプで、現在は使われていません。今のエレベーターは、安全設計になっています。念の為。」のテロップが出た。さらに次回予告と別に「ヨーロッパ・ロケシリーズ」の特報付き。別枠で倉田保昭さんのインタビューをやっていて得した気分。
『異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する』最新話で総監督の板垣さんが、背景でもクレジットされていた。僕が気づかなかっただけで、今までの話数でもやっていたのかもしれない。

2023年5月5日(金)
ゴールデンウィーク7日目。昼間は仕事をしたり、食事に行ったり。15時くらいにマンションに戻って横になる。少し休んで仕事を続けるつもりだったのだけど、熟睡。そのまま翌日の午前1時まで寝てしまう。

2023年5月6日(土)
ゴールデンウィーク8日目。目を覚ましてスマホを見ると、ご家族からメールがあり、片渕さんの体調が思わしくないとのこと。午前1時50分に出社。片渕さんの件にメールで対応。イベント中止も考える。その後、片渕さんの体調がよくなり、朝にはイベントに出演できることになった。昼から「第204回アニメスタイルイベント ここまで調べた片渕監督次回作15【タイトル発表直前、どんな題名になるのかな?編】」を開催。熱がひいたとはいえ、片渕さんの体調はやはりよくない。イベントの最初にそれをお断りする。今回は新作の作品タイトル発表直前の開催だった。お客さんにタイトルの予想をアンケート用紙に書いてもらい、イベント後半ではそれを読み上げながらトークを展開。片渕さんの体調のこともあり、アフタートークはごく短めに。イベント全体も2時間弱のショートバージョンとなった。
『魔法少女マジカルデストロイヤーズ』に「ワシは(オタクではなくて)マニアじゃ」というセリフがあり、懐かしくてよかった(なお、括弧内は筆者の補足)。
『王様ランキング』を観た後で『モブサイコ100 III』の資料を見ていて、自分が櫻井孝宏さんのファンだということに気がついた。

第823回 佳境は乗り越えて『いせれべ』の話(13)

 前回、“佳境”とお伝えした脚本(シナリオ)作業は無事、最終話まで書き終わりました。後は委員会チェックと原作者先生チェックをいただき、調整・修正をする流れに。もちろん、修正も自分でやります。そして、その作品はと言うと、現在制作中『沖縄で好きになった子が方言すぎてツラすぎる』(こちらはすでに制作発表済)より、さらに次のシリーズになりますゆえ、タイトルも内容もまだ言えません、アシカラズ。

ということで、既にお忘れかも知れませんが『いせれべ』話の続きに戻ります。

9話は田辺慎吾/脚本・コンテ・演出、作画監督/木村博美・吉田智裕!

 作監に関しては、最初から木村さんでスタートした話数ではあったものの、彼女が総作監の方で他話数の面倒を見続けていたため、原画作監を吉田君フォロー、だったと思います。
 こちらも4話同様、REVOROOTさんの原画は本当に助かりました。皆、巧い! 本話前半Aパートをまるまるやっていただき、木村作監からも(チェックの)上がりがスルスルと出ました。やっぱり、土台(原画)が巧いと作監修(キャラ修正)がやり易い、という当たり前の話。
 お風呂シーンのレンズ(画面)に着いた水滴は1987年以降の出﨑統監督OVA(『エースをねらえ!2』『華星夜曲』など)っぽくて大変気に入ってます。ちなみに自分が要望したのではありません。要は“大事な部分を隠す”手練手管の一種として載せてきた、撮影さんのファインプレーでした!
 サッカーのアクションシーンは作画をローカロリーにするため、レイアウト全修とポーズ全修を総作監としての俺が入れまくりました。“止めで持つ”ポージングを駆使した訳です。

 続いて10話。こちらも、

脚本・コンテとも板垣の方でかなり手を入れさせてもらいました、スミマセン!

まず、脚本の方で「物量的にエピソードが全て入らない」とのことで、こちらで引き取らせていただきました。確かにざっと並べただけでも、

「芸能界勧誘を断る優夜」+「ウサギ師匠登場~修行~聖VS.邪の説明~キングミスリルボアに勝つ!」+「球技大会~卓球~バレー~テニス」+「優夜と佳織のラブ下校」、そして「ユティ登場」

と、盛沢山のエピソード。でも全13話で“ユティとの対決”まで到達(製作委員会の決定)するためにはこの話数をテンポで乗り切らなければ、エピソード自体をまるまる削ることになってしまいますから。これは自分で責任を持って纏めるしかありません。
 でも最初シリーズ構成を纏めていた時、ボリューム的に多少キツイのは分かってはいたものの、

各エピソードの“面白い部分”をテンポ良く整理して繋げば1本になる!

というビジョンは自分的に見えていたので正直、脚本が難航しているのを見て「え? 何で出来ないの?」と、俺はなってしまうのです、いつも。
 例えば、ウサギ師匠との修行から巨大魔物に勝利するまでは、修行シーンの繰り返しにカットバック的に時系列を弄れば色々同時進行させられます。球技大会も卓球で“超力”を発揮したなら、同じことを繰り返しても意味がないので、バレーボールのシーンは“大爆音OFF”で通過など。

“各件(くだり)要点のトリミング”と“画面&音声の2段レイヤーを自在に操る”のが演出!

と、自分は出﨑アニメで学びました。主に『劇場版エースをねらえ!』(1979)で!
 アニメじゃなくマンガの方でも手塚治虫先生は「16ページあればなんでも描ける」と仰ってましたが、これも同様の話かと思います。だって、手塚先生の「ブラック・ジャック」16~18ページ(1話分)って、1冊の小説や2時間の長編映画にできる密度がありますから。
 次にコンテも同様のことが起こってきて、全部足すと440カット越えのコンテが上がってきて「おいおい……(汗)」と。結局、自分の方で360程? に切り直しました。

 また次週で。

アニメ様の『タイトル未定』
413 アニメ様日記 2023年4月23日(日)

2023年4月23日(日)
レイトショー「新文芸坐×アニメスタイル Vol.158 30周年! クレヨンしんちゃん アクション仮面VSハイグレ魔王」を開催。本郷みつる監督と一緒に関係者席で『クレヨンしんちゃん アクション仮面VSハイグレ魔王』を鑑賞。トークの前の作品をフルで鑑賞することができたのが嬉しかった。いつもは上映の前後には打ち合わせがあって上映をフルで観ることができないのだ。35ミリフィルムは映画序盤には傷があったが、その後は比較的良好。特に終盤は綺麗だった印象だ。上映の次がトークコーナー。お客さんは若い人が多くて『アクション仮面VSハイグレ魔王』が公開した年に生まれていない人も多かった。記憶が正しければ、この日にこの映画を劇場で初めて観た人が8割くらい。この映画を観るのが初めての人も2割か3割くらい。質問コーナーで最初に当てた方が、感動のあまり涙ながらに本郷監督に感謝の言葉を伝えたところから、トークが暖かい雰囲気に。ハッピーなプログラムとなった。企画してよかった。

2023年4月24日(月)
この日の午前3時16分に出社。出社時間が少し遅かったのと、月曜でやることが多かったので、あまり作業は進まず。焦る。
FODで「私のバカせまい史」の「カラオケビデオ俳優史」を観る。日曜の昼にたまたま地上波で再放送を観て、あんまりにも面白かったので、配信で観直した。
朝の散歩でサブスクにあった『Do It Yourself!! -どぅー・いっと・ゆあせるふ-』のサントラを聴く。これはいい。作品世界に浸れるサントラだ。聴いた後で腹巻猫さんのコラムを読み直したけれど、「ディスク1だけで世界が完結している感もあるので、ディスク2は特典ディスクみたいな印象だ。」の記述に納得。
ネットレンタルで届いたCDをパソコンに次々と入れる。『YAWARA! a fashionable judo girl!』のサントラが数枚あったので借りたのだけど、「YAWARA! サウンド・セレクション」というタイトルのアルバムがおかしい。データを見ていたら、浅香唯さんが歌ってる楽曲がある。実写映画版のサントラだったようだ。店舗でCDを借りたらジャケットを目にするから、こんな失敗はないよあ。
新番組は引き続き、可能な限り視聴し続けている。

2023年4月25日(火)
この日は午前2時8分に出社。仕事のピークは深夜から早朝までだった。午前中も集中して作業ができたが、午後は集中力が落ちて、主にメール作業。
以下は最近あった話。あるアニメスタジオの女性スタッフが、仲間と一緒に自主企画でアニメ上映会をやることになって、僕も誘われたのだけど行くことができなかった。それとは別のアニメスタジオ制作さんから連絡があり、内々で作品の上映会をやるので相談にのってほしいとのこと。あんまりにもマニアックで、僕のツボを押してくる上映内容だったので、忙しかったのに色々と説明してしまった。どちらもアニメスタジオの若い人が企画した勉強会のようだ。頼もしい。

2023年4月26日(水)
『名探偵コナン 黒鉄の魚影』の話題。「少年サンデー」22・23合併号の付録[黒鉄の書]と「少年サンデーS」6月号の[魚影の書]をチェックした。どちらも満足。だけど、逆に知りたいことが増えてしまった。どこかで取材できる機会があるといいなあ。
仕事の合間に新文芸坐で「狂った野獣」(1976/78分/35mm)を鑑賞。特集「中島貞夫 遊撃の美学 ネチョネチョ生きろ!」の1本。この映画は二度目の鑑賞だ。面白かった記憶があって再見したのだけど、やっぱり面白かった。前にも観た時もそう思ったけど、後半はメチャクチャ。どうして爆発したのか分からない自動車とか、どうして血まみれになっているのか分からない人とか、何のために走って転んだのか分からないバイクとか。勢いを出そうとしてメチャメチャやっている。いい気分転換になった。電車を乗り継いで病院Bに。レントゲンを撮った後に診察。去年の緊急入院からの肺の病気と、そこから治療が始まった呼吸器の問題が一段落したらしい。
スタッフクレジットを確認するために、あるシリーズのOADを確認。この作品にはオープニングがついていない。ひょっとしてこれって、作品タイトルの表示がない? 作品公式サイトでも単にOADとしか表記されていないなあ。とりあえずは「作品タイトル[OAD]」とかそんな表記にしておけばいいのか。
スターチャンネルの「続・青い体験 ゴールデン洋画劇場版」をながら観。「青い体験」よりも楽しい感じで、こちらのほうが観やすい。主人公の家のメイドの吹き替えが麻上洋子さん。これは聴いていて分かった。主人公の友達の1人の吹き替えが古川登志夫さん。

2023年4月27日(木)
仕事の合間に新文芸坐で「ベネデッタ」(2021・仏=オランダ/131分/R18+)を鑑賞。中盤まではお話も楽しめたのだけれど、後半はそうでもないかな。美術とか撮り方がよくて満足。女優もいい。映画充した。最近、映画で女性の裸をあまり観ていなかったんだけど、主人公と副主人公の美人が豪快に脱ぎまくる。ライトシーンなんて服を着ててもいいのにオールヌードだ。その意味でも満足度高し。
この日の作業は主に「アニメスタイル017」のページ構成。

2023年4月28日(金)
進行中の書籍であちこちに問い合わせて分かったこと。20年くらい前に某社から出た、あるアニメーターさんの画集。今、作り直したら、当時は載せられなかったあれとかあれとか載せられるらしい。勿論、資料が残っていればだけど。例えて言うならば「安彦さんの画集に『ガンダム』が載っていない」みたいなことがあったのだ。
去年からずっと拗れていたある件が一応の決着を見る。いやあ、長かった。気が重かった。ずっとどんよりしていた。

2023年4月29日(土)
ゴールデンウィーク1日目。基本的には事務所でデスクワーク。15時から板垣さん、アニメスタイル編集部の松本君とZoom座談会。「WEBアニメスタイル」の「板垣伸のいきあたりバッタリ!」の特別編として掲載するための座談会だ。どうして座談会をやることになったのかについても、後に更新した記事の中で語っているので、そちらを読んでもらいたい。

「板垣伸のいきあたりバッタリ!」
第804回 特別編・いきあたりバッタリ座談会(1)
http://animestyle.jp/2023/05/25/24355/

この日はゴールデンウィークにしては仕事が進んだ。夕方はワイフとイケ・サンパークのSUNSET BEER GARDENに。缶ハイボールを飲む。

第822回 ゴメンナサイとストップウォッチ崩壊!

 いきなりですが、最初に謝らせてください。

脚本(シナリオ)作業の佳境のため、今回また短いお茶濁し話で申し訳ありません!

こないだ発表された『沖ツラ』からさらに次のシリーズの、です。こちらはまだ何も語れません。

 あと、個人的に非常にショックな近況報告です。テレコム・アニメーションフィルム時代から使用していたストップウォッチが、『沖ツラ』コンテ作業中に壊れました! 原画試験に合格した22歳の秋、「自分へのご褒美!」と7000円で買った手巻きのストップウォッチ(ってことは27〜8年使っていた)です。今までのコンテ・監督作品全ての“尺”を一緒に計った相棒でした。

 ありがとう。そして、さようなら。近いうちに新しいのを買いに行きます。

 で、また次週へ。

第213回アニメスタイルイベント
ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』3 【着る物から見えてくる『平安時代中期人』はどんな人たちだったか 編】

 片渕須直監督が制作中の次回作のタイトルは『つるばみ色のなぎ子たち』。平安時代を舞台にした作品のようです。

 『つるばみ色のなぎ子たち』の制作にあたって、片渕監督はスタッフと共に平安時代の生活などの調査研究を進めています。今までアニメスタイルは「ここまで調べた片渕須直監督次回作」のタイトルでイベントを開催し、15回にわたって調査研究の結果を語っていただきました。現在は「ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』」のタイトルでイベントを続けています。

 2023年11月5日(日)に開催する「ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』3」では、片渕監督や前野秀俊さんに加えて、平安時代の装束や文化を研究されている承香院さんをゲストに迎えます。【着る物から見えてくる『平安時代中期人』はどんな人たちだったか 編】のサブタイトル通り、衣装についてディープなお話をうかがうことができるはずです。聞き手はアニメスタイルの小黒編集長が務めます。

 「ここまで調べた~」イベントは土曜の開催が多いのですが、今回の開催日は日曜です。お気をつけください。会場は阿佐ヶ谷ロフトA。イベントは「メインパート」の後に、ごく短い「アフタートーク」をやるという構成になります。配信もありますが、配信するのはメインパートのみです。アフタートークは会場にいらしたお客様のみが見ることができます。

 配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。また、今までの「ここまで調べた~」イベントもアニメスタイルチャンネルで視聴できます。

 チケットは9月30日(土)正午12時から発売となります。チケットについては、以下のロフトグループのページをご覧になってください。

■関連リンク
LOFT  https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/264706
会場(LivePocket)  https://t.livepocket.jp/e/k1inc
配信(ツイキャス)  https://twitcasting.tv/asagayalofta/shopcart/263738

アニメスタイルチャンネル  https://ch.nicovideo.jp/animestyle

 なお、会場では「この世界の片隅に 絵コンテ[最長版]」上巻、下巻を片渕監督のサイン入りで販売する予定です。「この世界の片隅に 絵コンテ[最長版]」についてはこちらの記事をどうぞ→ https://x.gd/57ICr

第213回アニメスタイルイベント
ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』3 【着る物から見えてくる『平安時代中期人』はどんな人たちだったか 編】

開催日

2023年11月5日(日)
開場12時30分/開演13時 終演15時~16時頃予定

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

片渕須直、承香院、前野秀俊、小黒祐一郎

チケット

会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,500円、当日 1,800円(税込・飲食代別)
ツイキャス配信チケット/1,300円

■アニメスタイルのトークイベントについて
 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。

第265回 アリスとテレスとウルトラQ 〜アリスとテレスのまぼろし工場〜

 腹巻猫です。公開中の劇場アニメ『アリスとテレスのまぼろし工場』を観ました。タイトルから、アリスとテレスというふたりの子どもが活躍する児童文学風の(「チャーリーとチョコレート工場」みたいな)お話かと思っていたら、思春期の少年少女の心情を大胆な設定の物語で描く、心に深く刺さる作品でした。今回はその音楽を聴いてみます。


  『アリスとテレスのまぼろし工場』は、2023年9月に公開された劇場アニメ。監督と脚本は、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(2011)や『さよならの朝に約束の花をかざろう』(2018)などで知られる岡田麿里。アニメーション制作はMAPPAが担当した。
 菊入正宗は14歳の中学生。ある冬の日、町にある製鉄所が爆発し、正宗たちは時の止まった世界に閉じ込められてしまう。一見以前と変わらない町だが、住民は町から一歩も外に出ることができず、季節も冬のまま変化しなくなってしまったのだ。町の人々はいつか元の世界に戻ることができると信じて、爆発前と何も変わらない生活を続けようとする。そんな日々に閉塞感を抱く正宗は、あるとき同級生の佐上睦実に連れられて製鉄所の奥に入り、ひとりの少女と出会う。正宗は少女の正体に気づき、自分と世界を変えようと思い始める。

 音楽は、『心が叫びたがってるんだ。』『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』(2015)、『迷家』(2016)、『空の青さを知る人よ』(2019)など、岡田麿里脚本作品にたびたび参加している横山克。『うる星やつら』(2022)のようなポップな作品もある一方で、『四月は君の嘘』(2014)、『劇場版ツルネ —はじまりの一射—』(2022)のような、ストイックで繊細な音楽も得意な作曲家である。本作も後者の系統の作品で、登場人物の心情に寄り添い、空気感や情感を音で表現するみごとな音楽を提供している。
 まず特徴的なのは、横山克作品ではあまり聴かないタイプの抒情的なメロディが聴けること。岡田麿里監督は音楽を依頼するにあたり、「自分が子供の頃に憧れた“大人の邦画”の雰囲気がほしい」と伝えたという。本作の音楽に昭和の映画音楽のようなロマンティックな旋律が登場するのはそのせいだろう。特に最初に公開されたPV「超特報」では、本作のメインテーマと呼べる切ないメロディの曲が使われている。心をざわつかせる音楽が本作の雰囲気を伝え、作品への期待感をあおる。このメロディを横山克はウィーン滞在時に思いついて書き留めたという。
 もうひとつの特徴は、ボーカルやコーラスがふんだんに使われていること。コーラスは埼玉栄中学&高等学校コーラス部によるもの。10代の少年少女の歌声にはプロの合唱団にはない瑞々しさ、生々しさがあり、それが楽曲に繊細でウェットな味わいを加えている。
 さらに、本作の音楽全体にさりげなく散りばめられた重要な音がある。金属を叩いて鳴らした音である。横山克がサウンドトラックに寄せたコメントによれば、安曇野ちひろ美術館にあるシデロイホスというインスタレーションの音を挿入したのだそうだ。
 シデロイホスは金属彫刻家・原田和男と打楽器奏者・山口恭範の共同製作によって生まれた金属打楽器。「シデロイホス」はギリシャ語で「鉄の響き」を意味する。本来は楽器の名前ではなく、金属で作られた構造そのものにつけられた名称である。金属の楽器というと、鋭い音や重い音を連想するが、シデロイホスは親しみやすく心地よい音がする。
 金属の音を挿入したのは、本作で鉄工所が重要な舞台装置となっているからだろう。金属音を音楽に使う試みは古くからあり、ヨーゼフ・シュトラウス作曲の「鍛冶屋のポルカ」は金床が打楽器として使われ、アレクサンドル・モソロフは金属板や金鎚を使った「鉄工場」を作曲している。1970年代以降には機械音や金属音を取り入れたインダストリアル・ミュージックが発展した。しかし、多くは金属音を効果音的、ノイズ的に使ったものだった。シデロイホスの音には耳ざわりな鋭さがなく、音楽と調和する。
 実は過去にも音楽にシデロイホスを使った作品があった。1990年に公開された実写劇場作品「ウルトラQ ザ・ムービー 星の伝説」である。この作品では、実相寺昭雄監督の依頼で作曲家・石井眞木が「オーケストラとシデロイホスのための交響詩『遥かなる響き』」を書き下ろし、それを自由に抜粋する形で音楽がつけられた。岡田監督や横山克がこの作品を意識したとは思わないが、『アリスとテレスのまぼろし工場』は「ウルトラQ」の1エピソードであってもおかしくないSF幻想譚。ふしぎなつながりである。
 なお、本作の音楽に挿入された金属音がすべてシデロイホスによるものか、あるいは、ほかの金属製パーカッションやシンセの音なのか自信がないので、以下の楽曲紹介では単に「金属音」と表記している。
 本作のサウンドトラック・アルバムは「『アリスとテレスのまぼろし工場』オリジナルサウンドトラック」のタイトルで9月13日にヤマハミュージックコミュニケーションズから発売された。収録曲は以下のとおり。

  1. 1991
  2. My Smoky Hometown
  3. Detective Hero
  4. Cold Skirt
  5. Wolf Girl
  6. Runaway Stories
  7. Your Name Is Itsumi
  8. Complicated Family
  9. maboroshi
  10. SHIN-KI-ROU
  11. Love and Hate
  12. World of Cicadas
  13. Mifuse Countdown
  14. Steel Days
  15. Vapored Away
  16. Piece of Summer
  17. Monochrome Confession
  18. Parking Lot Hearts
  19. Rain Kiss Explosion
  20. Her Name Is Saki
  21. Gymnasium Hypothesis
  22. Choo Choo Escape
  23. Raging Impulse
  24. Borderland Express
  25. Fragile Distance
  26. One Desire
  27. WE ARE ALIVE
  28. Sweet Pain Factory
  29. Matsuri-Bayashi
  30. 心音(しんおん)(歌:中島みゆき)

 中島みゆきが歌う主題歌「心音」も収録。トラック29の「Matsuri-Bayashi」は終盤で聞こえる祭囃子で、いわゆる現実音楽=ソースミュージックである。トラック1〜28が実質的な映画音楽だ。曲は物語の流れに沿って並べられている。
 1曲目の「1991」は冒頭の導入部に流れる曲。「超特報」で流れたメインテーマのメロディが使われている。頭には金属音、そして合唱とピアノによる切ないメロディ。本作の音楽の三大要素がすべて含まれている。タイトルの「1991」は本作の物語の始まりが1991年であることを示唆している。
 メインテーマのメロディーは「Cold Skirt」(トラック4)、「Complicated Family」(トラック8)、「maboroshi」(トラック9)、「Steel Days」(トラック14)などで変奏される。そのいずれにも、金属音がさりげなく仕込まれている。特に「maboroshi」は印象深い。正宗の同級生・園部裕子が心を乱したことで空がひび割れ、狼の姿に似た煙が現れる場面に流れる曲である。
 このメロディは正宗たちが心に抱く閉塞感と焦燥感、切なさなどを象徴している。物語が進み、正宗たちがこれまでと違う日常を歩もうとし始めると、この旋律は使われなくなる。
 正宗が鉄工所で謎の少女に出会う場面の「Wolf Girl」(トラック5)は、金属音とコーラスを中心に構成されたミステリアスな曲。金属音が鉄工所の風景をイメージさせ、コーラスが謎めいた雰囲気を表現する。金属音と人間の声との融合がユニークだ。
 正宗が少女を「五実」と名づける場面の曲が「Your Name Is Itsumi」(トラック7)。チェレスタやパーカッション、ギターなどによる愛らしいメロディにボーカルが重なって、五実のキャラクターを印象付ける。五実のテーマと呼べる曲だ。
 空がひび割れたときに現れる狼の姿をした煙は「神機狼」と名づけられている。鉄工所の煙突から現れ、世界のほころびを修復する、ふしぎな存在である。トラック10「SHIN-KI-ROU」は、その神機狼に当てられた曲。不穏なコーラスとピアノが妖精とも妖怪ともつかない妖しい存在を表現する。この曲では金属音が不安感、緊張感を高める効果を担っている。
 正宗が五実を鉄工所の外に連れ出すと、風景にひびが入り、向こうに「夏の風景」が見える。その衝撃的な場面に流れる「World of Cicadas」(トラック12)は「Ha〜」と歌う女声ボーカルが印象的な曲。哀感を帯びたメインテーマとは対照的に、夏の開放感、明るさをボーカルとリズムだけのシンプルなサウンドで表現している。
 「Ha〜」と歌うボーカルは、正宗が駐車場で佐上睦実に告白するシーンに流れる「Monochrome Confession」(トラック17)と「Parking Lot Hearts」(トラック18)でも使われている。凍った心が溶けていく音なのだろう。この2曲に続いて流れるのが「Rain Kiss Explosion」(トラック19)。本作の中盤のクライマックスとなる長いキスシーンの曲だ。この3曲にも通奏低音のように金属音が使われている。ここでは、金属音は動き始めた世界が鳴らすきしみや身震いの音のように聞こえる。
 正宗が五実の正体を確信する場面の「Her Name Is Saki」(トラック20)は、ピアノとストリングス、ギター、女声ヴォーカルなどが奏でる切なさと希望が入り混じったナンバー。ストイックで繊細で心の奥深くに響いてくる。これぞ横山克サウンドと思わせるエモーショナルな曲である。
 終盤は「Choo Choo Escape」(トラック22)、「Raging Impulse」(トラック23)、「Borderland Express」(トラック24)など疾走感のある曲が多くなる。 「Borderland Express」はテンポの速いピアノに合唱が重なり、身もだえするような焦燥感と哀感が表現される。横山克のコメントにある「ヒリヒリした合唱曲」とはこのことか。本作の音楽の聴きどころのひとつ。
 トラック26「One Desire」は、メインテーマのメロディの希望的な変奏。閉塞感を表現していたメロディーが希望を宿した曲に変わる。ギターと一緒に鳴る金属音も軽快に聞こえる。同じ旋律がさまざまに変奏されていく映画音楽の醍醐味が味わえる曲だ。
 物語終盤の正宗と睦実のシーンに流れる「WE ARE ALIVE」(トラック27)は大団円(と言ってよいのか迷うが)の曲。この曲だけボーカルが「ラララ」と歌っているのがいい。
 次の「Sweet Pain Factory」(トラック28)はエピローグの曲。ピアノと金属音のみのシンプルなサウンドだ。金属音は音楽の一部でもあり、鉄工所で聞こえる環境音のようでもある。この音がなくても音楽としては成り立つが、たぶん、まったく異なる印象になるだろう。

 『アリスとテレスのまぼろし工場』を観たあと、「どんな音楽だったろう?」と振り返ってまず思い出すのが、切ないメロディと合唱である。メロディはシーンによって異なる雰囲気にアレンジされ、合唱も曲によって表情や歌い方が変わっている。その違いを意識しながらサウンドトラックを聴くと興味深い。
 そして、作品を観ているあいだはほとんど気にならないが、サウンドトラックを聴くと「ここにも、こんなところにも使われている」と気づかされるのが、曲の背景で鳴っている金属音、シデロイホスの音である。あるときは不安に、あるときは温かく、あるときは軽快に響いて、作品世界を象徴するサウンドを作り上げている。横山克は「作曲の終盤でこの音を入れ込んだ時、まぼろし工場の音楽世界がしっかり出来上がった実感がありました」とコメントしている。本作は、横山克による「ピアノと合唱とシデロイホスのための交響詩」と呼んでもよいかもしれない。

『アリスとテレスのまぼろし工場』オリジナルサウンドトラック
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