アニメ様の『タイトル未定』
352 アニメ様日記 2022年2月20日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。後日、追記をするかもしれません。
2022年2月20日(日)
午前中にワイフとTOHOシネマズ池袋に。『グッバイ、ドン・グリーズ!』を鑑賞する。巣鴨まで歩いて、ワイフの買い物に付き合ったり、池袋西武の古本市に寄ったり、前から気になっていた街中華で食事をしたり。その後はデスクワーク。インタビューまとめをチェック出し寸前まで持っていったのだけど、チェック出しまでにマンガ単行本を2冊読まないといけないことに気づく。
作業をしながら『トップをねらえ2!』Blu-ray BOX Complete Editionを流し観。このBlu-ray BOXは購入はしたものの開封していなかった。本編ディスク2枚と特典が入ったEX−DISCの3枚組で、EX−DISCが盛り沢山。再録ではあるが映像のインタビューが何本か入っているし、線画設定も収録。線画設定はパソコンの大きなモニターで見ても問題ないくらいの解像度で、それが嬉しい。

2022年2月21日(月)
リメイク版『フルーツバスケット』を配信で改めて1話から視聴する。

2022年2月22日(火)
バルト9で『フルーツバスケット -prelude-』を観る。かなりよかった。総集編プラス新作の構成は1本の映画としてのまとまりはよくないし(作り手も1本の映画としてまとめることを優先してはいないだろう)、総集編部分は乱暴と言えば乱暴だし、一見さんお断りなんだけど、それでもよかった。

2022年2月23日(水・祝)
天皇誕生日。午前中は主に原稿作業で、午後は主に取材の予習。淡々として、これはこれで休日らしい1日だった。『Sonny Boy』1話から6話をBlu-ray BOXで観る。ながら観ではなく、ヘッドホンをつけて集中して観た。

2022年2月24日(木)
牛丼一杯で幸福感が得られるところがダイエットのよいところだなあ。午前中は主に取材の予習。11時から社内Zoom打ち合わせ、13時からZoom取材、16時半からZoom打ち合わせ。
取材の予習で『Sonny Boy』の後半を観た。パキっとした画作りが魅力の作品だけに、Blu-rayが威力を発揮。配信で観るよりもずっとよかった。Blu-ray BOXは映像特典も非常に充実。満足度の高いパッケージだった。ちなみに『Sonny Boy』のBlu-ray BOXはTOWER RECORDSと公式サイトでのみ販売。他の店舗やAmazonでは購入できない。僕は公式サイトで購入した。

2022年2月25日(金)
気になることがあって、アニメと実写の歴代『若草物語』のキャストについてチェックする。日生ファミリースペシャルの『若草物語』とTVシリーズの『若草の四姉妹』って四姉妹のキャストは同じだと思い込んでいたけど、違うのね。小山茉美さんは『若草物語』だとエイミーで『若草の四姉妹』だとメグなんだ。潘恵子さんは『若草の四姉妹』ではベスだけど、世界名作劇場の『愛の若草物語』ではメグ。そういえば『愛の若草物語』で潘恵子さんに取材した際に『若草の四姉妹』の話題が出た。山田栄子さんは『愛の若草物語』『若草物語 ナンとジョー先生』でジョオ(ジョー)で、1949年の実写「若草物語」(1990年・NHK放送バージョン)でもジョー。1990年のNHKバージョンは『愛の若草物語』を意識して山田さんにしたのかもしれない。杉山佳寿子さんは1949年の実写「若草物語」(1972年・東京12ch放送バージョン)はジョーで、日生ファミリースペシャルの『若草物語』でもジョー。
最近、配信や電子書籍でお金を使いすぎているなあと反省したその直後に、確認することがあって「書を捨てよ町へ出よう」を、Amazon Prime Videoでレンタルしてしまう。

2022年2月26日(土)
朝と昼間は、散歩以外は原稿作業。16時から吉松さんとSkype吞み。
合田浩章さんの仕事のおさらいで『バブルガムクライシス』の『8』を観る。その後、『1』から『3』を観る。

第759回 人間の旬は過ぎた

40代がそろそろ終わりに近づきつつあります!

そして今、社内の若手に対して「ああ~これが若い頃の自分に、当時の先輩方が抱いたと思われる感情なのだ……」と考える様になった、歳食った自分がいます。つまり、現在の板垣は、自分に原画を教えてくださってた頃の友永(和秀)師匠と同年代なのです。
 若い世代とのやり取りは、それ自体、毎日が勉強。若手にムカつくことがあった時などは、一瞬踏み止まり——

多分、友永さんも25年前の俺に同じくムカついたことがあるはず!

と考えれば、いちいち怒らず「仕方ないか、昔の自分もこうだったしな〜次に期待しよう」と許せるようになりました。期待を裏切られたり、仕事から逃げられた時とかも同様です。

50代に近づいて、ようやく“相手を許す”ことができるようになりつつある板垣です!

 そんな心境でYouTubeをダラ観してると、「ああ言われたら、こう言い返した~」だ「誹謗中傷! 訴えてやる!」だと、自分より10以上若いYouTuberさんらが過激な発言などで賑わしているのとかが目について複雑な気持ちになります。ま、ここで俺、説教するつもりは毛頭なく、前述同様「この連載で自分も若い頃、色々世間に唾棄してたもんな~」とも思うし、誰でも世間に言いたいことはあるだろうし、誰でも程々に言ってもよいかと思います。あくまで、“程々に”です。

しかし、若い頃——と言えるくらい無駄に長期連載であることに今更ながら驚き、呆れます……

 やっぱり、人間の旬は20~30代だと思います。その時期は誰もが元気で、仕事も遊びもとにかく楽しくて、たくさんの物事に怒り、様々なことを真剣に考え、幾人の友人と大笑いするものです。
 そういう板垣も20代の頃は、語り合える友人らと「宮崎駿作品・高畑勲作品、そしてスタジオ・ジブリの未来」とか「押井守監督&Production.I.Gに於ける数々の問題作」についてとか、何を偉そうにと、今振り返ってもとても恥ずかしいことを肴に朝まで語り明かしたものでした。本当に恥ずかしい! でも、その当時は最先端の本気だったし、本当に楽しい宝物のような時間だったんです。
 だから、ウチの若手に限らず、世間にモノ申したい20~30代の方々、“旬”を存分に楽しんでください! その旬の時期に成果を残せると、40~50代で“もう一段上のステージの旬”を味わえるのではないでしょうか?
 ま、このコラム連載からも読み取れる(?)ように、その人間の旬を過ぎた現在の俺は、コ●ナ禍関係なく飲み会とかも自らの意思でほぼしなくなったし、これからは今いる自分の立場でできる作品作りに没頭したいと思っています。その現場から、新しい監督を生み出すお手伝いができたら——それが今回、“総監督”の目的の一つでもあります。

これまでの人生で、今が一番“穏やかな心境”なのかも知れません!

新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol.136
平尾隆之の世界

 6月25日(土)のオールナイトは意欲的な作品を発表してきた平尾隆之監督の特集です。上映作品は『映画大好きポンポさん』『ギョ』『魔女っこ姉妹のヨヨとネネ』の3本。それぞれ方向性の違う作品が揃いました。『映画大好きポンポさん』は貴重な35mmフィルムでの上映となります。  
 
 余談ですが、『ヨヨネネ』は『ポンポさん』のコルベット監督が、原作の中で好きな映画の1本として挙げている作品です。今回のオールナイトはその『ヨヨネネ』と、コルベット監督も登場する『ポンポさん』を一緒に観ることができるプログラムとなります。  
 
 トークのゲストは平尾監督を予定。チケットは6月18日(土)から発売開始です。チケットの発売方法については、新文芸坐のサイトで確認してください。なお、新型コロナウイルス感染予防対策で、観客はマスクの着用が必要。入場時には検温・手指の消毒を行います。

新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol.136
平尾隆之の世界

開催日

2022年6月25日(土)

開演・終演

開演 22時30分/終演 5時00分(予定)

会場

新文芸坐

料金

一般3000円、各種割引・友の会2800円(ポイント利用19P)

トーク出演

平尾隆之、小黒祐一郎(アニメスタイル編集長)

上映タイトル

『映画大好きポンポさん』(2021/90分/35mm)
『ギョ』(2011/70分/BD)
『魔女っこ姉妹のヨヨとネネ』(2013/100分/DCP)

備考

※オールナイト上映につき18歳未満の方は入場不可
※トークショーの撮影・録音は禁止

●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

第232回 一番私らしい曲 〜シートン動物記 くまの子ジャッキー〜

 腹巻猫です。SOUNDTRACK PUBレーベル第30弾「シートン動物記 くまの子ジャッキー/りすのバナー 音楽集」が6月22日に発売されます。「シートン動物記」を原作にしたTVアニメ2作品の初のサウンドトラック・アルバム。小森昭宏が作曲した主題歌・挿入歌・BGMをCD2枚に集大成しました。予約受付中!
https://www.amazon.co.jp/dp/B0B2JFQ666


 ということで、今回は『シートン動物記 くまの子ジャッキー』の音楽を紹介しよう。
 『シートン動物記 くまの子ジャッキー』(以下『くまの子ジャッキー』と表記)は1977年6月から12月まで放送されたTVアニメ作品。アーネスト・T・シートンが書いた動物文学「タラク山の熊王」を原作に日本アニメーションが映像化した。
 舞台は1870年頃(第1話で「今から100年ほど前」のナレーションが流れる)のアメリカ合衆国の南部、シェラネバダ山脈にそびえるタラク山のふもと。ネイティブ・アメリカンの少年ランと親をなくした子ぐまのジャッキーとの友情を描く物語である。瑞々しい大自然の描写や森やすじが手がけた愛らしいキャラクターが印象的で、同じく日本アニメーションが制作した「世界名作劇場」に通じる雰囲気がある。
 監督は『フランダースの犬』『家族ロビンソン漂流記 ふしぎな島のフローネ』などを手がけた黒田昌郎。本作の姉妹作品である『シートン動物記 りすのバナー』(以下、『りすのバナー』と表記)も黒田昌郎が監督を務めている。
 そして、『くまの子ジャッキー』と『りすのバナー』の両方の音楽を担当したのが小森昭宏だ。

 小森昭宏といえば、『勇者ライディーン』『超人戦隊バラタック』等のロボットアニメ作品や「忍者キャプター」「バトルホーク」等の特撮ヒーロー作品の音楽がよく知られているし、人気が高い。本作は日常描写中心の、どちらかといえば地味な作品。しかし、とても小森昭宏らしい作品だ。
 その理由のひとつは、本作が「動物もの」であること。
 小森昭宏の初期の代表作となったのがNHKで放送された「ブーフーウー」。3匹の子ブタを主人公にした着ぐるみ人形劇だ。また、編曲を担当した「黒ネコのタンゴ」は大ヒットし、小森昭宏が作編曲の仕事に専念するきっかけとなった。いまでも歌い継がれる童謡「げんこつやまのたぬきさん」も小森の作曲。ほかにもTVアニメ『名犬ジョリィ』、劇場アニメ『ほえろブンブン』、人形アニメーション『コラルの探検』(子ぐまのコラルが主人公)など、小森昭宏作品には「動物もの」が多い。
 また、小森昭宏は子どものための音楽に深い関心を持ち、力を入れた作曲家でもある。「げんこつやまのたぬきさん」のほかにも童謡や子ども向けの合唱曲を多数作曲し、日本童謡協会の理事を務めた。同協会が開催するコンサート「こどもコーラス展」の実行委員長も務めていた。
 子ぐまと少年の友情を描く『くまの子ジャッキー』は、まさに小森昭宏にぴったりの作品だったのだ。
 小森昭宏は外科医出身という珍しい経歴の持ち主である。少年時代から音楽に親しんだが、戦争で命を失いかけた体験から医者を志して慶應義塾大学医学部に進み、卒業して脳外科医になった。外科医として勤務しながら、ラジオやTVの音楽の仕事を続けていた。小森昭宏が作る音楽は、生きるよろこびや命の輝きと深く結びついている。

 そんな小森昭宏が手がけた『くまの子ジャッキー』の音楽。まず、大杉久美子が歌う主題歌が出色だ。小森はオープニング主題歌「おおきなくまになったら」について、「一番私らしい曲だといえます。自分でも気に入ってる曲です」とコメントしている。エンディング主題歌「ランとジャッキー」も一度聴いたら耳に残る楽しい曲だ。
 劇中音楽(BGM)は約100曲が録音されている。全26話のTVアニメにしては多めの曲数である。この音楽は『りすのバナー』でも引き続き使われた。
 アメリカの大自然を舞台にした作品らしく、アコースティックギターやアコーディオン、マリンバなどを使った素朴なサウンドの曲が多い。フルートなどの木管楽器や木琴(シロフォン、もしくはマリンバ)も活躍する。
 こういう題材であれば、弦楽器をたっぷり使ったスケール感豊かな音楽にする選択もありえたと思う。が、シンプルな編成で演奏される温かみのあるやさしい音楽が、この作品には合っている。予算の都合ではなく、小森昭宏があえて選んだサウンドだと思うのだ。
 本作の劇中に流れるのは、ほのぼのした音楽ばかりではない。
 物語の中で、ジャッキーは猟師に狙われたり、犬に追われたり、山火事に巻き込まれたりして、たびたびピンチに陥る。そういう場面では、アップテンポのアクション系の曲や緊迫感のあるサスペンス曲が流れる。『勇者ライディーン』なんかを思い出して、ニヤニヤしてしまうところだ。
 本作のBGMはこれまで一度もレコードやCDに収録されたことがなく、今回の「シートン動物記 くまの子ジャッキー/りすのバナー 音楽集」が初商品化になる。2枚組のうち、ディスク1が『くまの子ジャッキー』の音楽集、ディスク2が『りすのバナー』の音楽集という構成。
 ディスク1を聴いてみよう。
 詳しい収録曲は下記を参照。
https://www.soundtrack-lab.co.jp/products/cd/STLC046.html
 1曲目はオープニング主題歌「おおきなくまになったら」のTVサイズをステレオ音源で収録した(初商品化)。レコードサイズの編集ではなく、カラオケ、ボーカルとも別録音されたものだ。当時はレコードサイズとTVサイズを別に録ることが多かったのである。エンディング主題歌のTVサイズも同様だ。
 トラック2「タラク山のふもとで」は本作の世界観を象徴する、雄大な自然描写曲。ノスタルジックなメロディが「シートン動物記」の世界へ誘ってくれる。
 トラック3「森の中へ〜サブタイトル」は、第1話で子ぐま(ジャッキー)が森の中へ進んでいく場面に流れた短い曲とサブタイトル曲をつなげたもの。サブタイトル曲はほぼ毎回、本編の冒頭に使用されているので、聴くと「『くまの子ジャッキー』が始まる!」という気分になる。
 トラック4「くまの子ジャッキー」はオープニング主題歌のストレートアレンジ。ジャッキー初登場の場面に流れた。軽快に始まり、中盤で哀愁を帯びた曲調に変化、ふたたび軽快な曲調に戻って終わる。この展開が何度聴いても気持ちよく、引きこまれる。
 子ぐまの兄妹が仲よく遊ぶ場面に流れたトラック5「なかよく遊ぼう」に続いて、トラック6「ともだちになろうよ」は、森の中で子ぐまに出会ったランが「ともだちになろうよ」と子ぐまに語りかける場面のゆったりしたオープニング主題歌アレンジ。
 次の「きみの名はジャッキー」は、ランが子ぐまに「ジャッキー」と名前をつける場面のやさしく愛情あふれる曲である。
 ここまでが第1話で流れた曲。
 以降、ほぼストーリーの流れを追う形でBGMを収録している。
 聴きどころをいくつか紹介すると——。
 トラック10「追いつめられて」は、猟師にねらわれた母ぐまピントーが、森の中でしだいに追いつめられていく場面に流れた危機描写曲。スリリングな曲調は小森昭宏のロボットアニメや特撮ヒーローものの音楽に通じるところがある。トラック29「せまる危機」、トラック34「もえるタラク山」なども同様の曲調の楽曲。
 トラック15「森を走ろう」は、ジャッキーとランが森の中を駆ける場面などに流れる、ちょっとユーモラスなタッチの軽快な曲。木管楽器や木琴が奏でる元気いっぱいの音楽は小森昭宏が得意とするところである。トラック24「楽しい水あそび」も木琴やフルートの響きを生かした楽しい楽曲だ。こうしたユーモラスな音楽は『くまの子ジャッキー』よりも『りすのバナー』でよく使われている。
 トラック19「サクラメントの町へ」は、第15話「西部の町」でランとジャッキーたちが馬車に乗って西部の町サクラメントへ向かう場面に流れた曲。はずむようなウエスタン風の曲調に胸が躍る。使用回数は少ないが印象に残る曲のひとつだ。
 アルバム後半は、ランとジャッキーが離れ離れになり、ふたたび再会するまでのドラマをイメージした構成。
 トラック30「つらい別れ」、トラック35「ランの悲しみ」、トラック39「会いたい想い」などは、ランの悲しみやジャッキーを心配する気持ちを表現する哀感ただよう曲。もともと小森昭宏は舞台劇の音楽が認められてデビューした作曲家。朝の連続テレビ小説「いちばん星」や「音楽劇 窓際のトットちゃん」といった作品も手がけている。人間ドラマに寄り添った音楽も達者なのである。
 本作の音楽の中でとりわけ印象に残るのが、ジャッキーが辛い試練に立ち向かう場面に流れる、悲壮感のあるボレロ風の曲ではないだろうか。
 ジャッキーは猟師のボナミィに目をつけられ、猟犬の訓練の相手をさせられる。また、物語後半では、川を流され、ふるさとの山から遠く離れた土地に流れ着いてしまい、故郷をめざして長い旅をすることになる。そんな場面に流れたのが、トラック32「ジャッキーとジルの旅」とトラック33「ふるさとへの遠い道」。こうしたボレロ風の曲は『りすのバナー』の終盤でも、バナーたちが新天地を求めて旅をする場面に使用されている。
 アルバムの終盤は、最終回のラストに流れたトラック41「ジャッキーとの再会」とトラック42「さようならジャッキー」を続けて収録して、感動の名場面を再現した。
 続くトラック43「はるかなるタラク山」は、第5話でピントーとジャッキー、ジルの親子がタラク山の森の奥へと帰っていく場面に1度だけ流れた曲。さわやかで感動的な曲調がフィナーレにふさわしいと考えて、この位置に収録した。
 エンディング主題歌「ランとジャッキー」のTVサイズが物語を締めくくる。
 以降はレコード用音源コレクション。オープニング、エンディング主題歌のレコードサイズとそのカラオケを収録した。カラオケはガイドメロ入りの音源がレコードに収録されたことがあるが、ガイドメロの入らない純カラオケは初商品化である。
 最後に、小森昭宏自身が編曲したオープニング主題歌のマーチアレンジ「おおきなくまになったら 並足行進曲」を収録。放送当時レコードで発売された、アニメソングのマーチアレンジ・シリーズの1曲である。初CD化。

 ディスク2の『りすのバナー』の音楽についても触れておこう。
 先に書いたように、『りすのバナー』では『くまの子ジャッキー』の音楽が引き続き使用されている。『りすのバナー』のオリジナル曲もあるが、その数はおそらく40曲ほど。「おそらく」と書いたのは、『りすのバナー』の音楽テープが未発見で、その全貌がわからないためである。
 そういう事情もあって、ディスク2の収録曲の半分は、『りすのバナー』で使われた『くまの子ジャッキー』の音楽で構成した。特にユーモラスな曲やアクション系の曲が『りすのバナー』でよく使われている。
 ただ、それだけでは『りすのバナー』の世界を再現するには不足なので、『りすのバナー』のオリジナルBGMをMEテープ(本編音声からセリフを除いた効果音と音楽をミックスしたテープ)から採録・復元して収録した(編集に苦心しましたよ)。効果音が重なっている部分もあるが、貴重な音源ゆえにご容赦いただきたい。
 『りすのバナー』の主題歌2曲のTVサイズは、『くまの子ジャッキー』と同様に、ステレオ音源で収録した。こちらもレコードサイズとは別録音、初商品化である。
 ディスク2の終盤は「ソングコレクション」として主題歌・挿入歌のレコードサイズを収録。『りすのバナー』の挿入歌のCD化は今回が2回目。挿入歌のうち、大塚周夫とはせさん治が歌う「おれたちはいつも」は、過去に発売されたレコードやCDではナレーション入りで収録されていたが、このたびナレーションなしの音源が見つかり、初収録が実現した。本アルバムの目玉のひとつである。

 最後に本アルバムのブックレット(解説書)について。
 小森昭宏は残念ながら2016年に逝去している。ブックレットには2001年に取材したインタビューを再構成して掲載した。
 『くまの子ジャッキー』『りすのバナー』に共通する魅力のひとつが、森やすじがデザインを手がけた愛らしいキャラクター。森やすじは筆者が少年時代から敬愛するアニメーターのひとりである。その魅力を伝えたくて、ブックレット内にキャラクター設定を紹介するページを設けた。音楽ともども、お楽しみください。

シートン動物記 くまの子ジャッキー/りすのバナー 音楽集
Amazon

試聴用動画(期間限定公開)

アニメ様の『タイトル未定』
351 アニメ様日記 2022年2月13日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2022年2月13日(日)
無観客配信イベント「第184回アニメスタイルイベント 作画マニアとはなにか?」を開催。イベント中に呑みすぎた。すいませんでした。

2022年2月14日(月)
Amazon prime videoのアニメタイムズで『魔法のスター マジカルエミ 蝉時雨』の配信が始まっていた。よかった。人に勧めたい作品ではあるのだけれど、視聴が難しい作品だったのだ。劇場版『エースをねらえ!』の配信も始まらないかな。
先日、事務所で『美少女戦士セーラームーン』放送1年目に、アニメージュの記事でセーラー戦士の声優さん達と麻布十番に行った時の記念写真が出てきた。声優さん達だけでなく、僕やマネージャーさん、アニメージュの編集さんなど、記事づくりに関わった人達も一緒に写っている。『セーラームーン』が盛り上がり始めた頃の華やかさを思い出す。
「合田浩章スケッチブック」の4度目の校正紙が出る。もう一度、本機校正をとるつもりでスケジュールを組んでいたけど、次は簡易校正でよさそう。
「アニメスタイル016」のほうは二転三転。色々と考える。

2022年2月15日(火)
ワイフと新宿に。新宿ピカデリーで『地球外少年少女 後編「はじまりの物語」』を鑑賞。その後、新宿紀伊國屋別館アドホックビルで『地球外少年少女』のミニ複製原画展を見る。ワイフは店内にあったわたせせいぞうさんのマンガ原稿の、アナログ時代の色指定を見て感銘を受けていた。
『鬼滅の刃 遊郭編』最終回は先に配信で観て、改めて録画で観た。これは豪華な放送だなあ。作品が大切にされている感じがよい。

ネットで大橋学さんが2月12日に亡くなったことを知る。僕が大橋さんに最初に取材したのが1987年。アニメージュの『ロボットカーニバル』の記事だった。その後もインタビューでお話をうかがったり、イベントに来ていただいたり。イラストをお願いしたこともあった。思い出は数多い。心よりご冥福をお祈り致します。

2022年2月16日(水)
作業を進めながら、テレビアニメの録画を流し観。今さら言うまでもないけど、異世界物が多い。この日に観たのは以下のタイトル。

『異世界美少女受肉おじさんと』6話
『賢者の弟子を名乗る賢者』6話
『天才王子の赤字国家再生術』6話
『プリンセスコネクト!Re:Dive Season2』6話
『TRIBE NINE』6話
『王子の本命は悪役令嬢』5話
『フットサルボーイズ!!!!!』6話
『薔薇王の葬列』6話
『失格紋の最強賢者』6話
『ヴァニタスの手記』17話
『プラチナエンド』18話
『ハコヅメ 交番女子の逆襲』6話
『東京24区』6話
『リアデイルの大地にて』6話

ネットで購入した『ルパン三世』の「企画書復刻版セット」をパラパラと見る。本当にマニアックな商品だ。『新ルパン』の企画書は期待していたものではなかった。これと違うバージョンがあったら、それも見たい。
就寝前に「歩くひと 完全版」を読了。この作品はゆっくり読みたいと思ったのだけれど、2日で読み切ってしまった。読むだけで、心が豊かになった気がした。

2022年2月17日(木)
早朝散歩は続いている。最近は公園でラジオ体操をしてから、雑司ヶ谷を歩くパターンが多い。この日はIKE・SUNPARKで朝陽が昇るのを見ながらラジオ体操をした。仕事中にテレビをつけたらWOWOWで『映画ドラえもん のび太の海底鬼岩城』が放送中。リマスター版で猛烈に綺麗だ。フィルム時代の映画『クレヨンしんちゃん』もリマスターしてほしい。

2022年2月18日(金)
仕事でストレスがきているのだけど、プチ禁酒中なので、酒を呑むわけにはいかない。ユルめのダイエット中でもあるので、肉と炭水化物をガッツリというわけにもいかない。自分のストレス対策は不健康だなあ。
Twitterで書籍「市川崑のタイポグラフィ」で『さよなら絶望先生』が話題になっていることを知り、購入したものの読んでいなかった同書籍に目を通す。本当だ。「市川崑タイポグラフティの影響」の項で『新世紀エヴァンゲリオン』「古畑任三郎」と共に『【俗・】さよなら絶望先生』の「黒い十二人の絶望少女」が取り上げられていた。ちょっと嬉しい。

2022年2月19日(土)
午前1時20分頃に起床。午前2時05分に出社して、夜明け前に「土曜から月曜午前中までで一番重たい作業」を片づける。散歩や休みをはさんで18時半まで作業。
『ダイの大冒険』のラブコメ部分がとてもよかった。
今やっている仕事で、某作品で窓口からいただいた本編カットの数がやたらと多くて驚く。1話の本編カットが9802枚。2話以降もそのくらいの数がある。動画から機械的に静止画を出力したものだろう。欲しいカットの欲しいコマを選びたい場合は、このくらいあったほうがありがたい。

第758回 ダビング開始

#04までアフレコ終了! 来週は#05のアフレコ、そしていよいよ#01からダビング開始!

てとこが現状。あ、今制作中のシリーズです。昨今、3ヶ月前とかに納品する(放映開始前に全話納品する)作品が増えています。よって、本作もまだ未告知にもかかわらず、制作は先へ先へ進んでいるという訳。
 ダビング開始ということは、毎週選曲リストにも迫られます。今回も自分が共同で音響監督でもあるので。もちろん、先週#01の選曲は提出しました。その選曲を基に、共同の音監さんに現場でアドバイスをいただく、という感じです。これは前作(『蜘蛛ですが、なにか?』)も同様で、自分はまだ“音響監督を勉強中”の立場ですから。やはり、板垣はまだ音響に関して唯我独尊にはなり切れないし、客観的な意見が欲しくて、共同の方やミキサーさんから別の提案が出てきたら、「有難うございます」と、従う場合が多いです。
 今回は総監督ということで、コンテチェックまでやって監督に指示を出したところで、その話数の画に関する自分の仕事は一旦終了。演出・作画・美術の発注・打ち合わせなどはほぼ監督任せ。コンテチェック後直ぐに音響関連に頭を切り替えることができるお陰で、アフレコ済のロールを細かく確認し、音響スタッフさんらに宛てて詳細な“音響メモ”を渡すことができています。そこは前作よりやり易いシステムが敷けたと思っています。詳細と言っても音響のプロフェッショナルからすると、まだまだ緩いメモでしょうけど。
 ダビング前に声優さんの芝居を改めて聴いていると、やっぱり凄いですね、“役者の力”って! 余談ですが、以前は自分“声優さん”ではなく、“役者さん”と呼んでいました。ところが数年前、ある若い声優さんに

“声だけでも役者であり俳優だ”と言う大御所がいるけど、俺は逆にそういう方達こそ、声の仕事に誇りを持っていないと思うんですよ! 自分は声の仕事に誇りを持ってるからこそ“声優”と呼ばれたいです!

と言われて「なるほど!」と思い、それ以来、敬意を込めて“声優さん”と呼ぶようにしています。
 で、今回の作品は“友達との楽しい学園ライフ(+アクション)”系で、声優さんらの息の合った掛け合いがポイントなはずが、昨今のアフレコでは、コ●ナの影響で一度に録音ブース入りできる声優さんが3〜4人まで(※録音スタジオにより、多少の違いあり)。コ●ナ以前は一度に10~20人入ることも可能で、その場で「○○さんと△△さん、ここら次カットまでアドリブで埋めてください」と言えたのです。ところが現在は2~3人ずつグループ分けでスケジュールが組まれての収録になっているため、掛け合い相手が別グループになったりします。だから、ここもアフレコ前の音響メモで、間を埋める用の掛け合い台詞を板垣の方で書き、前もって音響制作さんに送ります。それでも現場で意欲的にアドリブをぶち込んで下さる声優さんは尊敬するし、本当に助けられています(現在進行形)!

 ——という訳で、現在制作中の作品で語れる(書ける)のはここまで。

 で、7月以降は去年~今年始めにかけてお手伝いした他社からのグロス(下請け)作品がポン・ポン・ポンと3本ほど、放映されると思います。興味のある方は観てください。

 そして、『ベルセルク』が“原作・三浦建太郎 漫画・スタジオ我画 監修・森恒二”として連載再開! の発表が! 先程、白泉社・島田明さんにメールしました。「応援しています!」と。

アニメ様の『タイトル未定』
350 アニメ様日記 2022年2月6日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2022年2月6日(日)
ワイフとグランドシネマサンシャインで「ゴーストバスターズ/アフターライフ」【IMAXレーザーGT字幕版】を鑑賞。「メガネ美少女もの」(あるいは「理系ローテンション美少女もの」)としての純度が異様に高い。「メカと美少女もの」としての完成度も高い。メガネ美少女が科学に精通し、さらにメカのギミックを使いこなしているところがポイント高いです。オリジナルの「ゴーストバスターズ」にはあまり思い入れはないので、無責任な発言になるかもしれないけれど、続編としては完璧な出来だったと思う。映画序盤が実に「映画的」で素晴らしかった。田舎町の撮り方も、人の撮り方もよかった。
午後は次回のイベントについてのZoom打ち合わせ。白熱する。

2022年月2月7日(月)
グランドシネマサンシャインで『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち 後章 -STASHA- 』を鑑賞。「えっ、そうなるの!?」という設定、あるいは展開の連続。ある設定については、昔なら納得できなかったはずだけど、それが「なるほど」と思えてしまったのが自分でも不思議だ。「よし、古代、よく言った」と思うところが何ヶ所かあった。

2022年2月8日(火)
ワイフとTOHOシネマズ池袋で『鹿の王』を観る。試写会に続いて二度目の鑑賞なので、作画等に注目しつつ観る。作品自体の印象は変わらず。

2022年2月9日(水)
すずめやで差し入れのどら焼きを買ってから、中村豊さんの撮影のため、BONESに。予定よりも早い時間に着いたら、カメラマンさんも来たところで、一緒にロケハンする。スタジオ内で撮影した後、公園で撮影(後日追記。公園で撮った写真は今回の特集では使わなかった)。
『真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました』がNetflixのランキングで上位にきていたので、改めて視聴。全話を流し観。

2022年2月10日(木)
配信で『神在月のこども』を観る。原画の大半をライデンフィルム京都スタジオで描いている模様。
仕事関係で、見たかったある作品のキャラ表を見ることができた。上手いねえ、凄いねえ。眼福眼福。

2022年2月11日(金)
仕事の合間に、早稲田松竹で「ストレンジャー・ザン・パラダイス」を観る。ブログラム「早稲田松竹クラシックスvol.178/ジム・ジャームッシュ監督初期作品特集 -路上の人々-」の1本。同監督の作品で今までに観たのは「デッドマン」「コーヒー&シガレッツ」「ブロークン・フラワーズ」かな。「ストレンジャー・ザン・パラダイス」はタイトルだけ知っていて、これが初見。かなり楽しめたし、ある意味では傑作だと思う。若い頃に観たらもっと感銘を受けただろうなあ。映画館で観ることができてよかった。
15時に某駅前の喫茶店に。あるアニメーターさんと打ち合わせ。顔をあわせるのは年末の夏以来かな。互いの近況報告から、書籍についての話。世間話では『閃光のハサウェイ』で盛り上がる。

2022年2月12日(土)
進行中の書籍のラフ描き。原稿。翌日のイベントの準備。『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』『半妖の夜叉姫』『名探偵コナン』をリアルタイムで観る。

第757回 予定が立たない人生

本当に申し訳ないことに、色々な方との約束を守れていない今日この頃!

「今度、遊びに行きます!」「今度、飲みに行きましょう!」など、よくある口約束な「今度今度~」が、年々実現できる頻度が下がっていて、本意じゃないけどただのよくある社交辞令に、結果なってしまう事態を本当にどうにかしたい! 同業者なら「お互い仕事は大事だよね~」と暗黙で許容して頂けるだろうと高を括ってばかりもいられません。なぜなら、そう言って先延ばしにしていた相手が、もう二度とお会いできない人になっていたりし始めたからです。
 でも、性格を疑われるのを怖れず本音を言うと

何かを作り続けているこの仕事自体は、飲み会より面白い!

のです。どこかの金持ちYouTuberさんが、「昼間から酒飲んで好きな映画観て、ゲームやってれば、僕は楽しいですけど~、え? 皆そうなんじゃないんすか?」ってなこと言ってるのをたまたま目にしたんですが、何の根拠もなく自分にとっての快楽を適当に一般化しないでほしいと思いました。俺は貴方の高尚な楽しみを否定する気は毛頭ないのですから、貴方ももう少し「人のそれぞれの幸せのかたちを分かったら?」と。

少なくとも俺は、ゲームやって酒飲むより、アニメの仕事をしてる方が幸せなんです!

 名古屋(実家)の友人らは、他人と遊ぶより一人で黙々と何かを作っている方が楽しい板垣を昔から知っています。自分から「今日、ウチで遊ぼう!」と友達を誘っておきながら、遊んでる最中に、マンガのアイデアでも思いつこうものなら、その場で「ごめん、今日帰って」と遊びを中断して自ら呼んだはずの友達を追い帰して一人漫画描き始めたり、またその逆、自分一人先帰っての場合もありました。子供の頃からそんな俺は、今も相変わらず。たとえ、そのYouTuberさんのように働く必要がないほどお金があっても、酔っぱらってゲームで遊ぶより、俺はコンテや原画描いていたい!
 という訳で、よりピュアに作品を創れる50代を迎えられるよう、現場を育てるので手一杯な毎日。そして、指導している若手が日に日に腕を上げて行く様を見ているのはとても嬉しいのです! その代わりやっぱり、人に会う口約束は二の次になってしまい、友人&関係者様、本当に申し訳ありません。現在制作中の作品が終わる頃には、コンテ・演出の経験者も増えて、徐々に時間が作れるようになると思うので、

皆さん、とにかく長生きして下さい!

 ——すみません、また、時間がなくなってしまいました。

第231回 なんくるないさー 〜白い砂のアクアトープ〜

 腹巻猫です。アニメ制作を題材にした劇場作品「ハケンアニメ!」を観ました。感想は賛否あるようですが、私は大いに楽しみました。ドラマが単純な視聴率対決におさまらず、フィクションを作る意義にまで斬り込んでいくのがとてもいい。池頼広さんの音楽も意欲作です。


 今年は沖縄本土復帰50周年。今回は沖縄を舞台にしたTVアニメ『白い砂のアクアトープ』の音楽を聴いてみたい。
 『白い砂のアクアトープ』は2021年7月から12月まで放送された、P.A.WORKS制作によるオリジナルアニメ作品。
 海咲野くくるは、両親をなくし、祖父母と一緒に暮らす女子高校生。夏休みのあいだ、祖父が館長を務める「がまがま水族館」の館長代理として働いている。ある日、がまがま水族館にひとりの少女がやってきた。岩手から上京してアイドルになったものの、挫折して居場所を失い、逃げるように沖縄行きの飛行機に乗った宮沢風花だ。がまがま水族館でふしぎな幻を見た風花は、くくるに「ここに置いてください」と頼み込む。しかし、経営難のがまがま水族館は閉館を迫られていた。「がまがま水族館を救いたい」というくくるの夢を聞いた風花は、その夢をくくると一緒にかなえようとする。
 連続2クールの2部構成。1クール目では、くくると風花が親友となり、がまがま水族館を立て直すために奮闘する姿が描かれる。2クール目は、がまがま水族館が閉館したあと、高校を卒業して働き始めたくくると風花たちの物語だ。
 沖縄の自然や水族館の生きものの描写がていねいで、観ていて癒やされる。飼育の苦労や客集めの苦心など、水族館の舞台裏が描かれるのも興味深い。
 しかし、見どころはやはり、くくると風花が夢を追い、さまざまな経験をして成長していく姿。2人が挫折の先に新しい夢を見出す展開は、すがすがしく感動的だ。
 話はそれるが、筆者が生まれ育った町は太平洋が近く、水族館のある浜辺が定番の遠足コースだった。今でも、旅先などで水族館を目にすると入りたくなる。そんなこともあって、本作は心惹かれる作品だった。
 監督の篠原俊哉とシリーズ構成の柿原優子は、2018年放送のTVアニメ『色づく世界の明日から』を手がけたコンビ。
 その『色づく世界の明日から』の音楽を担当していたのが、本作でも音楽を手がける出羽良彰である。

 出羽良彰は1984年生まれ。2006年に音楽ユニット「樹海」でメジャーデビューし、現在は作曲家、編曲家、音楽プロデューサー、ギタリストと、幅広く活躍する音楽家だ。映像音楽では、TVドラマ「問題のあるレストラン」(2015/羽深由理と共作)、「下剋上受験」(2017)、「私たちはどうかしている」(2020)、TVアニメ『凪のあすから』(2013)、『ふらいんぐうぃっち』(2016)、『キノの旅 -the Beautiful World- the Animated Series』(2017)などの音楽を担当している。
 映像音楽には、海や水を表現する定番的なサウンドがある。海の広大さや波のうねりを表現するストリングス。はじける泡や水面にきらめく光を連想させるハープ、ビブラフォン、ウィンドチャイムなど。
 が、本作の音楽には、そういった定番的な表現はほとんど使われていない。楽器編成は、ピアノ、フルート、オーボエ、クラリネット、ギター、小編成のストリングスがメイン。水のイメージにつながる爽快さ、流麗さはあるが、どちらかといえば、ピアノや木管楽器のやさしい響きが印象に残る。くくると風花の心情にフォーカスした音楽になっているのだ。
 沖縄が舞台の作品ではあるが、音楽に沖縄的な要素はあまりない。いくつかの曲に沖縄の三線の音が使われているくらいである(「三線」と書いたが、ミュージシャンクレジットに三線の表記がないので、これが生の三線の音かどうかは定かでない)。
 また、青春もののアニメやドラマの音楽では金管楽器やエレキギターを使って躍動感を表現することが多いが、本作ではどちらも使われていない。それが上品でさわやかな印象につながっている。
 全体に、とてもシンプルでさわやか。ときどきユーモラス。からっとして透明感のあるサウンドは、沖縄の空と海にふさわしい。
 本作のサウンドトラック・アルバムは2022年1月に「TVアニメ『白い砂のアクアトープ』オリジナルサウンドトラック」のタイトルでランティス/バンダイナムコアーツ(現・バンダイナムコミュージックライブ)から発売された。
 2枚組で、1枚目が1クール目、2枚目が2クール目のサウンドトラックになっている。
 1枚目を聴いてみよう。収録曲は以下のとおり。

  1. まくとぅそーけ、なんくるないさ
  2. 新しいスタート
  3. アクリルガラス
  4. くくる
  5. 導かれるままに
  6. 風花
  7. あきらめきれない夢
  8. アクアトープ
  9. がまがま水族館
  10. 夏休み館長
  11. ひるまさん、、
  12. うどんちゃん
  13. くちばしの傷
  14. なくしかけてるくくるの夢
  15. 夢を守るため
  16. ふたりの再出発
  17. ブルー
  18. フラッシュバック
  19. 母と子
  20. バックヤード
  21. 不審者
  22. 隠せない動揺
  23. 重なる心
  24. 予感
  25. 不穏な空気
  26. よんな〜 よんな〜
  27. まだ、大事な仕事が
  28. 悲しみを堪えて
  29. ファーストペンギン
  30. 久しぶりの休日
  31. 真帆とくくる
  32. チョコ
  33. 揺らぐ心
  34. 漂流
  35. くくるの絶望
  36. 夢の終わりと始まり

 1クール目に使用された曲はすべて収録されている。また、収録された曲はすべて1クール目で使用されている。曲順は1クール目の物語に沿って、ほぼ使用順に並べられている。美しい構成のサントラである。
 トラック1〜9は第1話で使用された曲。
 1曲目の「まくとぅそーけ、なんくるないさ」は第1話冒頭に流れた。沖縄の情景描写に続いて、くくるが登場し、道路わきの祠に手を合わせて「まくとぅそーけ、なんくるないさ」と祈る。「正しいこと(誠のこと)をしていれば、なんとかなるさ」という意味の沖縄方言(ウチナーグチ)だ。この「なんくるないさ」はくくるの気持ちを支える言葉であり、本作を貫く通奏低音でもある。ピアノの伴奏をバックに、三線の音がシンプルなフレーズを刻んでいく。沖縄の風に吹かれているような気分になる曲である。
 トラック2「新しいスタート」は、アイドルを辞めた風花が沖縄に旅立つ場面に流れた曲。ストリングスが刻む軽快なリズムとフルートのさわやかな旋律が風花の解放感を表現する。この曲はのちのエピソードでも、くくるたちが新しい挑戦を始める場面に使用されている。
 トラック3「アクリルガラス」はアコースティックギターとストリングス、木管楽器のアンサンブルによる軽やかな曲。くくるがスクーターに乗って登校する場面に流れた。特定の心情や状況を表現するというより、さまざまな場面に使えるニュートラルな曲のひとつだ。
 トラック4「くくる」は元気いっぱいのくくるのテーマ。
 風花ががまがま水族館にやってくる場面の「導かれるままに」、ピアノとストリングスがしっとりと奏でる風花のテーマ「風花」、水族館の魚を見て風花が思いにふける場面の「あきらめきれない夢」。繊細で美しい音楽とともに物語が動き始める。
 トラック8「アクアトープ」は、がまがま水族館を訪れた風花が、水と魚たちに包まれる幻を体験する場面の曲。幻想的というより、心に秘めていた想いや記憶があふれだすような、抒情的な音楽だ。のちのエピソードでも同様のシーンで使用されている。
 そして、トラック9「がまがま水族館」は第1話のラストに使用された、がまがま水族館のテーマ。この曲にも三線の音が使われている。
 トラック10から3曲はユーモラスな曲が続く。「夏休み館長」は第4話で初使用。パーカッションとピアノ、シンセ、三線などによる陽気な曲だ。
 「ひるまさん、、」は第1話で風花がなぞの占い師(実は後述の「うどんちゃん」の母)に「あなた、悩みごとがある」と話しかけられる場面で初使用。その後も怪しい人物の描写によく使われた。「ひるまさん」とは「あやしい」「めずらしい」という意味の沖縄方言だそうだ。
 「うどんちゃん」はくくるの同級生の「うどんちゃん」こと照屋月美のテーマ。ノリのよい曲調が月美の明るいキャラクターにぴったり。第2話で初使用された。
 トラック13〜16も第2話で使用された曲。
 「くちばしの傷」はピアノソロによる悲しみの曲。水族館を手伝い始めた風花が、ペンギンのえさやりに失敗して落ち込む場面で使われた。
 トラック14「なくしかけてるくくるの夢」はアコースティックギターとエレピが奏でる心情曲。タイトル通り、くくるが、がまがま水族館の行く末を心配する場面に流れていた。くくるの水族館への想いを象徴する曲でもある。
 トラック15「夢を守るため」と次の「ふたりの再出発」は、第2話終盤からラストにかけて使われた。ピアノと木管楽器、ストリングスが奏でる希望的なメロディが、くくると風花の友情と決意を表現する。「夢を守るため」は第12話の、「ふたりの再出発」は第11話の重要な場面でも使用された印象深い曲である。

 ここからは重要な曲を拾って紹介しよう。
 トラック19「母と子」は、第3話でがまがま水族館を訪れた獣医の竹下先生が、これから生まれてくる自分の子どもの幻を見る場面に使用された。シンセとピアノがやさしく語りかけてくるような曲だ。のちのエピソードでは、くくるが亡くなった双子の姉妹の話を聞く場面に使われている。本作における「家族のテーマ」とも呼べる曲である。
 トラック23「重なる心」は、第4話で、くくると風花が互いに「もっと仲良くなりたい」という気持ちを伝えあい、ふたりの絆が深まる場面に流れた。ピアノソロが奏でる、しっとりと美しい友情のテーマである。初出は第3話のラストシーン。第11話では、風花がくくるに「くくるを手伝うことで私が元気をもらっていた」と話す感動的なシーンに流れている。
 トラック27「まだ、大事な仕事が」は、第5話で、自分を探しにきた母親から身を隠していた風花が大事な仕事をやり残していることを思い出し、がまがま水族館に戻る場面で使用。風花のまっすぐな性格が描写された名シーンだ。この曲はこの場面でしか使われておらず、場面の展開と曲の展開もぴったり合っている。こんなふうに、フィルムスコアリング的に作られた曲が本作にはいくつかある。実際に映像に合わせて書かれたのか、シナリオ段階で場面を想定して書かれたのかは不明だが、名場面と分かちがたく結びつき、記憶に残る曲になっている。
 トラック34からの3曲も、そうした1回しか使われなかった曲である。
 トラック34「漂流」は、第11話でくくるががまがま水族館にたてこもる場面に使用。
 トラック35「くくるの絶望」は同じく第11話で、くくると風花が停電したがまがま水族館の中の生きものたちを守ろうとする場面に使われた。厳しい現実に直面したくくるの折れそうな心と、それを支えようとする風花の想いが、ピアノとストリングスの愁いを帯びたサウンドで表現される。
 トラック36「夢の終わりと始まり」は第12話のラストシーンに流れた。がまがま水族館を離れて再出発しようとする、くくると風花の心情を表す曲だ。ピアノとストリングス、フルートが奏でる音楽に、ふたりが読む工藤直子の詩「おわりのない海」が重なる。
 夢はかなわなかったけれど、終わりではない。「またあした」。そんな気持ちが心にこみ上げてくる。しみじみとした余韻が残る、第1部締めくくりの曲である。

 『白い砂のアクアトープ』の音楽は、澄んだ水のように、すっと心に入ってくる。青春の日々で出会う、夢、葛藤、羽目をはずす楽しさ、友情、切なさなどが、シンプルなサウンドとメロディで表現されている。
 その源流は、美しい沖縄の海のイメージと本作の主人公であるふたりの少女のキャラクターだろう。
 本作の音楽を聴いていると、夢を信じて、口にしたくなる。「まくとぅそーけ、なんくるないさー」と。

TVアニメ『白い砂のアクアトープ』オリジナルサウンドトラック
Amazon

アニメ様の『タイトル未定』
349 アニメ様日記 2022年1月30日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2022年1月30日(日)
散歩以外はデスクワークの一日。色々と進んだので満足。
『ワンダーエッグ・プライオリティ』1話から6話まで観た。

2022年1月31日(月)
ワイフと新宿ピカデリーで『地球外少年少女 前編「地球外からの使者」』を鑑賞。仕事の関係で、既に視聴していたのだけれど、劇場で観たほうが没入感がある。
『ワンダーエッグ・プライオリティ』を7話から13話前半まで観る。数度目の鑑賞だけど、今までで一番面白かった。

2022年2月1日(火)
この日に抱えていた取材原稿のまとめ作業が7本。チェック出しのための仕上げ作業が3本、外部スタッフに出すための粗まとめが2本、外部スタッフから上がってきたまとめのチェックが2本。大忙しだ。
『ワンダーエッグ・プライオリティ』の終盤を何度か観て、『Sonny Boy』を1話から4話の途中まで観た。

気になることがあって、編集部のスタッフに改めてアニメスタイルの用字一覧を見せてもらう。それで、どの漢字がいつから開くようになったのか、いつから漢字でいくことになったのか、について話をする。さすがに20年以上の歴史があると、色々あって、漢字を多用していた時期もあるし、やたらと開いていた時期もある。最新の用字一覧は5、6年前に作られたものだと思うけれど、これによると「アニメスタイル007」から「アニメスタイル010」は漢字が多かったらしい(用字一覧の備考に書かれていた)。
ちなみに「絵コンテ」と「画コンテ」の使い分けは、かつては『フリクリ』と『空の境界』だけが画コンテ。他は絵コンテだったのだけれど、今は「その作品のクレジットで画コンテと表記されているものだけ、画コンテ」ということらしい。ただし、例外はあり。「いっしょうけんめい」は一時期まで「一所懸命」で統一だったけれど、先代の編集デスク時代に「一生懸命」になった模様。

2022年2月2日(水)
仕事の合間にグランドシネマサンシャインで「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム【IMAXレーザーGT字幕版】」を鑑賞する。二度目の鑑賞で、IMAX上映の映像が気になって足を運んだ。IMAXの「ノー・ウェイ・ホーム」は「IMAXフルサイズ」ではなかった。改めて告知を見ると、「全編IMAX画角」とあって、フルサイズとは書かれていないので間違ってはいない。IMAXで観てよかったと思えたのは終盤。アクションではなくて、芝居メインの場面だった。

『名探偵コナン』の「警察学校編」って、『コナン』物語開始時から7年前の話なのね。そして『コナン』は劇中であまり月日が経っていないはず。松田刑事が死んだのが20年以上前という感覚だったので、ちょっと違和感があった。20年以上前というのは、視聴者(読者)である僕の生活時間であって、間違っているのは僕の感覚なんだけど、まあ、とにかく驚いた。

2022年2月3日(木)
ワイフと西武池袋本店で開催されている「チョコレートパラダイス2022」に行く。ワイフがバレンタインで僕に贈るチョコレートを一緒に選んだ。あまり縁がなかった高級チョコレートを山のように見ることができて、それだけでも楽しかった。面白いチョコがあったので、中村豊さんの差し入れ用に購入する。
確認することがあって「アニメスタイル005」をパラパラとめくる。歴代「アニメスタイル」の中でも特に読み応えがある号なんだけど、1冊の雑誌としてはまとまりがないなあ。
『スーパーカブ』の取材のまとめで、原作に「主人公がショパンを聴いている」という記述があるかどうかを確認する必要があり、事務所スタッフにお願いして、Kindleの本文検索で確認してもらった。検索してもらったのは原作の1巻から4巻。ちなみに原作はKindleの読み放題にあった。調査は10分足らずで終了。ショパンを聴いている場面も、クラシックを聴いている場面もあった。すごいぞ、電子書籍。紙の本なら数時間はかかったはず。

2022年2月4日(金)
仕事の合間に、ワイフとグランドシネマサンシャインに行って「355」【字幕版】を観る。この映画を選んだのはワイフ。最近、美女が出る映画を観ていないので観たかったらしい。ポスターを見て「5人の女性エージェントが活躍する映画」と思ったら、5人のうちの1人はエージェントではなくて、セラピストだった。映画後半まで4人で話が進み、5人目が敵か味方か分からない感じで出てくるのは面白かった。5人目はキャラ立ちもいいし、戦闘力も高そう。

2022年2月5日(土)
BONESで中村豊さんの取材。先日購入したバレンタインチョコを差し上げる。Twitterを見ていたら、僕が惑星チョコを選んだのが作画ネタだと気づいた人がいてびっくり(『スペース☆ダンディ』『モブサイコ100』の中村パートにちなんで惑星チョコを選んだのだ)。

https://twitter.com/sekise10/status/1489883149903745028?s=20&t=zutya3aCM8TVPZDuYT8M8A

この日はテアトル新宿で「血ぃともだち」のレイトショーがあった。チケットは取れていたけど、熱っぽいこともあって鑑賞は控えた。それから、確認することがあって『スーパーカブ』を音声を消して映像だけ観た。

第756回 意外に、総監督って……

現在制作中のシリーズ、総監督なのに結構忙しい!

 総監督と監督の二重ディレクションだと、多少“暇”になるかと思いきやそうでもありませんでした。シリーズ構成・脚本は終えて、アフレコが始まると意外に毎日毎日やることがいっぱい。そして、監督の方はラスト3本分のコンテを鋭意作業中で、それを追う俺のコンテ・チェックが折り返し地点を超え、

多分、最後はまた板垣も作画修正のお手伝いもやることになりそうです!

 因みに作品のタイトル発表はもう少し後になりそうなので、勝手に詳細は書けず、申し訳ありません。そんなこんなで、作業に戻ります(汗)。

第191回アニメスタイルイベント
『犬王』の作画を語ろう!

 5月28日(土)に湯浅政明監督の最新作『犬王』が公開されます。湯浅監督ならではの奇想とビジュアルを堪能できる劇場アニメーションです。スクリーンでの鑑賞をお勧めします。

 アニメスタイルはこの『犬王』のトークイベントを開催します。開催日は公開一週間後の6月4日(土)。出演は湯浅監督、総作画監督の亀田祥倫さん、中野悟史さん。聞き手はアニメスタイル編集長の小黒が務めます。トークのテーマとなるのは「作画を中心とした『犬王』のメイキング」です。マニアックな話がたっぷりと語られることでしょう。

 今回のイベントはお客さんが会場で観覧するかたちでの開催となります。ただし、新型コロナウイルス感染症の状況を鑑みて、来場者の定員数はやや少なめに設定しました。イベントは二部構成で、第一部が「『犬王』の作画について」。第二部は会場のお客さんとの質疑応答をしながらのフリートークとなります。

 第一部に関しては配信も行います。先行してLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、その後にアニメスタイルチャンネルで配信する予定です。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。

 ツイキャス配信のチケットは本日(5月23日(月))18時から発売となります。詳しくは、以下のロフトグループのページをご覧になってください。

■関連リンク
LOFT CHANNEL
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/broadcast/215551

アニメスタイルチャンネル
https://ch.nicovideo.jp/animestyle

『犬王』公式サイト
https://inuoh-anime.com

第191回アニメスタイルイベント
『犬王』の作画を語ろう!

開催日

2022年6月4日(土)
開場12時半、開演13時、終演15時~16時

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

湯浅政明、亀田祥倫、中野悟史、小黒祐一郎

チケット

会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,500円、当日 1,800円(税込・飲食代別)
ツイキャス配信チケット/1,300円

■作品概要
[あらすじ]
 室町の京の都、猿楽の一座に生まれた異形の子、犬王。周囲に疎まれ、その顔は瓢箪(ひょうたん)の面で隠された。ある日犬王は、平家の呪いで盲目になった琵琶法師の少年・友魚と出会う。名よりも先に、歌と舞を交わす二人。 友魚は琵琶の弦を弾き、犬王は足を踏み鳴らす。一瞬にして拡がる、二人だけの呼吸、二人だけの世界。
 「ここから始まるんだ。俺たちは」
 壮絶な運命すら楽しみ、力強い舞で自らの人生を切り拓く犬王。呪いの真相を求め、琵琶を掻き鳴らし異界と共振する友魚。乱世を生き抜くためのバディとなった二人は、お互いの才能を開花させ、唯一無二のエンターテイナーとして人々を熱狂させていく。頂点を極めた二人を待ち受けるものとは――?
 歴史に隠された実在の能楽師=ポップスター・犬王と友魚から生まれた、時を超えた友情の物語。

[キャスト・スタッフ]
声の出演:アヴちゃん(女王蜂)、森山未來、柄本佑、津田健次郎、松重豊
原作:「平家物語 犬王の巻」古川日出男著/河出文庫刊
監督:湯浅政明 脚本:野木亜紀子 キャラクター原案:松本大洋 音楽:大友良英
アニメーション制作:サイエンスSARU 配給:アニプレックス、アスミック・エース 
公式サイト: https://inuoh-anime.com
公式Twitter:@inuoh_anime
(C)2021 “INU-OH” Film Partners

■アニメスタイルのトークイベントについて
 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者の多くは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。

アニメ様の『タイトル未定』
348 アニメ様日記 2022年1月23日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2022年1月23日(日)
新文芸坐で「ジャッリカットゥ 牛の怒り」を鑑賞。プログラム「カオスが横溢する、衝撃の映画体験 ジャッリカットゥ 牛の怒り | MONOS 猿と呼ばれし者たち」の1本。ドキュメンタリータッチのアクションものかと思ったら、最後の最後でファンタジーになった感じ。ポスターにあるキャッチコピーの「暴走牛VS1000人の狂人」の部分がファンタジーだ。映像はしっかりと作っていて、音響もよかった。物語については、どう受け止めればいいのか、という感じだった。多分、僕には分からない文脈があるのだろう。

2022年1月24日(月)
『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』の本編を改めて観て、過去のインタビューをチェック。そして、「アニメスタイル016」の取材の質問状を作る。かなり凝った質問状になった。『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』Blu-ray BOXを開封したら、特典ディスクは全て声優関係。解説書は無しで、そのかわりにトランプがついている。スタッフインタビューとか、設定資料はないのだ。しかし、徹底しているなあ。
丸の内ピカデリーでDolbyCinemaの『銀河鉄道999』を観る。「自分の中の美化された『銀河鉄道999』」よりもよかった。色が綺麗で、当時見たセルの色にかなり近い。セルの黒の部分が特に素晴らしくて、帽子でできた顔の影やハーロックの衣装の黒い部分の色がきっちりと出ていた。動画等の細部に関しては厳しいところもあるけれど、これはもともと厳しいところがあったので仕方がない。最近観たフィルム時代の劇場アニメのリマスターでいちばんよかった。

2022年1月25日(火)
編集中の合田浩章さんのオリジナルイラスト集は、まだ印刷スケジュールも出てないし、印刷費の見積もりも出ていないのに、テスト印刷で第3バージョンの校正紙を出すことになった。最初のテスト印刷が通常の印刷。第2バージョンがインクを変えて湧き水インキでの印刷に。第3バージョンはFMスクリーンを使ってみることになった。
『映画大好きポンポさん』Blu-ray豪華版を視聴し、特典に目を通す。僕にとって重要なのは特典小冊子「シナリオブック[本編編集前の決定稿シナリオ]」。監督が書いていることもあり、びっくりするくらい完成作品に近いのだけれど、90分にまとめる上でどこが切られたのかがよく分かる。イベントで話題になったジーンが編集をやっている時に、ポンポさん、ミスティア、ナタリー、マーティンがダイナーで話をする場面もシナリオにあった。これは分かっていたことだけど、Bパート頭で時間を巻き戻してナタリーの回想を入れる構成は脚本段階からある。
午後は「アニメスタイル016」の平尾隆之監督の取材。平尾さんから「小黒さんに取材してもらえるのが嬉しい」と言ってもらっていたので、期待に応えるために必殺技をいくつか用意して取材に臨んだ。取材の後はたっぷりと世間話。

2022年1月26日(水)
昼にワイフと散歩。すずめやでどら焼きを買って、ブルーボトルコーヒーでコーヒーを買って南池袋公園でいただく。その後、雑司ヶ谷を歩いてから、MUJIcomで弁当を買ってIKE・SUNPARKで食べる。まるで雑誌の記事に載っているような散歩だった。夕方から「アニメスタイル016」で古川知宏監督のインタビュー。面白い取材になったと思う。

2022年1月27日(木)
午後は「アニメスタイル016」で中村豊さんの取材。メインのロングインタビューではなく、サブインタビュー。
SNSで話題になっていた『おじゃる丸』の「んちゃ カレシ」をリアルタイムで視聴する。ひとつ前の回と前後編で、前編のサブタイトルは「カメつの八重歯」で、これは『鬼滅の刃』のパロディ。パロディといっても鬼(カミナリ)が出てくるのと、サブタイトルのダジャレ、「トメつの八重歯」「カメつの八重歯」のセリフ、「カメの呼吸」のフレーズくらい。
そして、鬼(カミナリ)つながりで後編が『うる星やつら』パロディになったということなんだろうなあ。ゲストキャラは雷の女の子で、声がリメイク版『うる星やつら』でラムを演じる上坂すみれさん。子供だけれど、外見はラム風だし、語尾は「だっちゃ」で、電撃を出す。微妙に『Dr.スランプ』が混じっている辺りが変化球。「カメつの八重歯」と「んちゃ カレシ」が最初に放送されたのは2021年9月で、この日は再放送。本放送はリメイク版『うる星やつら』が発表される前の放送だから、リメイク版を受けてのパロディではないはず。

2022年1月28日(金)
ワイフとグランドシネマサンシャインにで「フレンチ・ディスパッチ  ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊」【字幕版】BESTIA 5.1chを鑑賞。話は面白くないんだけど、映画としては非常に魅力的だった。

2022年1月29日(土)
散歩して、デスクワーク。また散歩して、ちょっと吞む。またデスクワーク。夕方から吉松さんとSkype吞み。
最近、ケーブルテレビはほとんど観ていないのに「シン・コンプリート・サンダーバード」のためにスターチャンネルの契約をしてしまう。月末締めの支払いだから、今日からの3日間で2500円だ(後日追記。この後、スターチャンネル3にハマって録画しまくることになる)。

第755回 野菜と動画——そして、アフレコ開始!

最近、ド新人の頃(26~7年ほど前)に戻ったように、毎朝野菜を刻んで調理しています!

 若い頃続けていた野菜たっぷり生活とは、単純に週2~3回、野菜を買い込んではこまめに調理して食う、の繰り返しってこと。自分は基本何でも食べます。野菜なども嫌いなものはないので、比較的健康生活を送ってます。俺、高校卒業して上京したばかりの頃、初めての一人暮らしで嬉し楽しくて、カップラーメンとポテトチップスばかり食っての偏った食生活が祟り、一度体壊しました。そこで医者に説教されるなどして以来、野菜・肉・魚・ご飯、なんでもバランス良く食べるようになって現在に至ってるので、たとえ仕事が忙しくてコンビニ飯&スーパーの惣菜サイクルに入っても、野菜多めもバランスは崩さずやってきました。
 で、また自ら野菜調理ターンに突入しただけ。

 すると、野菜を切っててふと思いだしました。

野菜切り刻むのって、動画作業に似ています!

と。あくまで個人的な意見ですが、例えば人参とかを2mm間隔で真っ直ぐ刻むとして、もちろん目指しはするものの実際できるのは何回かに1回とかの確率。半分以上は薄くなったり、斜めに切れたり。でも、「胃に入っちゃえばなんだって一緒」と気にせず刻み続けます。50~60点を取り戻そうとするより、常に先を見てすべて刻み切ることの方が重要!
 動画も同じなんです。一本の線が多少汚く引かれても、よほどの汚さでもない限り前進し続けて、早くカットを上げなきゃなりません。はっきり言って、汚い部分の指摘なんてのは誰でも簡単にできます。本当に難しいのは視聴の妨げにならない程度を見極めて流す、です。大塚(康生)さんも、

動画の線は気にし過ぎちゃイカン! アニメは“妥協の産物”だからね~!

 と仰ってました。もちろんそのまま受け取る馬鹿はいませんよね? 大塚さんが仰りたいのは「2~3コマしか見えない動画の1枚のさらにその線1本に拘ってたら、いつまで経っても完成しないんだから“程々に”」てことだったのでしょう。
 でも、これって動画だアニメだに限らず、あらゆる“仕事”すべてに当てはまることですよね? 自分の勝手な拘りが周りの仕事の妨げになっていることに気付かず、「この俺に“妥協しろ”って言うのか!? 自分はただただ真面目にやってるだけなのに!!」とキレる作業者がたまにいます。板垣に言わせるとそれは取り上げる発注主が悪いのではなく、“全体バランス良く薄っすら妥協すること”を怠った己の責任。もっと言うと“個人の拘りを最後まで待ってもらえるほどの権威を纏っていない”——これもやっぱり己のせい!

 など、毎朝野菜を刻んでいると要らんこと色々考えちゃいます。この時間がとても好きな今日この頃。そして、いよいよ一昨日からアフレコ開始! まだタイトルは言えませんが、今回も共同で音響監督もやるため、毎話の音響指示書きをびっしり書き込んでます。コンテ・チェックは後半戦。

第230回 ただ「音楽」がある 〜リーンの翼〜

 腹巻猫です。「シン・ウルトラマン」を初日にIMAXで鑑賞しました。旧来のイメージを一新する物語やビジュアルを堪能。初代ウルトラマン世代としては「音楽・宮内國郎 鷺巣詩郎」のクレジットが感激でした。本作を掘り下げて語りたい人は株式会社カラー発行の記録集『シン・ウルトラマン デザインワークス』もぜひ入手したほうがよいですよ。売り切れの劇場もあるようですが、増刷されるそうです。これから観る方はお楽しみください!


 サントラの媒体が、単独販売のCD、DVD・blu-ray同梱CD、配信へと移っていくのをさびしいと感じることもあるが、それでも、出ないより出たほうがはるかにいい。
 心からそう思った作品のひとつが、3月に配信先行リリースされた『リーンの翼』のサウンドトラックだ。
 『リーンの翼』は2005年から2006年にかけて全6話がWEB配信されたアニメ作品。富野由悠季監督が1980年代に発表した同名小説をベースに新たに構築した物語である。TVアニメ『聖戦士ダンバイン』を皮切りに富野監督が発表してきた、異世界バイストン・ウェルを舞台にした作品のひとつだ。
 物語の始まりは現代の山口県岩国市。アメリカ人の父と日本人の母を持つ青年エイサップ・鈴木は、港で突然、光の中から出現した異形の戦艦と遭遇する。それはバイストン・ウェルからオーラ・ロードを通ってこの世界(地上界)に現れたオーラ・バトル・シップ「キントキ」だった。キントキの甲板でホウジョウ国の姫リュクスと出逢ったエイサップは、近くにいた友人や自衛隊員らとともに、オーラ・ロードを抜けてバイストン・ウェルへたどりつく。そこで彼らは、バイストン・ウェルと地上界のからむ戦闘に巻き込まれていく。
 まったく説明なしに開幕から濃厚なストーリーが展開するので、予備知識がないと混乱するかもしれない。しかし、それも富野アニメを観る醍醐味のひとつ。進化したアニメ技術で描かれるオーラ・バトラー戦も見どころだ。
 そして、個人的に「おおーっ!」と思った本作の注目ポイントが音楽。樋口康雄が担当しているのである。

 当コラムでも『火の鳥2772 愛のコスモゾーン』を取り上げたことがある樋口康雄。そのとき彼を「天才」と紹介したが、その印象は今でも変わらない。
 オーケストレーションの巧みさ、センスのよさ、ハイレベルのスコアを魔法のように軽快に生み出していく(ようにみえる)才能。モーツァルトが現代に生きていたらこんな人ではなかったかと思わせる作曲家である(個人の感想です)。
 樋口康雄が音楽を担当したアニメ作品は多くない。主題歌だけを手がけた『ママは小学4年生』(1992)を別にすると、劇場アニメ『火の鳥2772 愛のコスモゾーン』(1980)、TVアニメ『ブレーメン4 地獄の中の天使たち』(1981)、『小公女セーラ』(1985)、『機動新世紀ガンダムX』(1996)、それに本作『リーンの翼』があるくらい。その中でCD化されたものは『火の鳥2772』『小公女セーラ』『ガンダムX』の3作だけで、『ブレーメン4』は放送当時レコードが発売されたのみ。本作にいたっては一度もサウンドトラックが商品化されていなかった。
 それが、配信アルバムとして、ついにリリースされたのだ。
 リリースにあわせて樋口康雄が興味深いコメントを寄せている。
 それによれば、音楽打ち合わせで富野監督から言われたことは「気遣いのある音楽を書いてほしい」のひと言。あとは雑談で、具体的な音楽の話はなし。樋口は「うーん、なぞなぞで来たな」と思い、「それならこちらもなぞなぞで」と覚悟を決めたという。
 樋口康雄はスタジオからストーリーボードにあった絵を数枚コピーして持ち帰り、その中の1枚、俯瞰で見たバイストン・ウェルの絵を壁に貼って作曲に取りかかった。「その絵に触発されてなぞなぞ音楽を速攻で36曲書いた」と樋口は語る。
 「なぞなぞ音楽」とはなんなのか? 想像するに、発注にストレートに応えた音楽ではなく、作曲家独自の視点と発想で練り直した音楽ということではないだろうか(と書いてもなんだかよくわからないが)。
 そのいっぽうで、本作の音楽は絵コンテをもとに作曲したと樋口康雄が別の場所で証言している。本編を観ても、特に初期のエピソードでは音楽の展開と映像の展開が絶妙に合っている。ただし、全編がフィルムスコアリングではないらしく、音楽を編集して使っているケースもあるし、同じ音楽を別のエピソードで使っているケースもある。また、絵合わせでない溜め録り的な音楽もあるようだ。
 絵に合わせて作られた曲は、1曲の中で曲調やテンポなどが次々と変わる。しかし、本作の音楽をサウンドトラックで聴いても、音楽として不自然な感じはしない。絵に合わせた音楽であっても独立した音楽として聴ける。あるいは、独立した音楽として書いても絵にあってしまう。樋口康雄のすごいところである。
 『リーンの翼』の音楽は、映像音楽の枠に収まらない、豊かなイメージを内包した作品なのだ。
 サンライズミュージック(バンダイナムコミュージックライブ)からリリースされたサウンドトラックは、Apple Music、Amazon Music Unlimited、Spotifyなどで配信中。なお、2023年にはCD発売が予定されている。曲目は以下のとおり。

  1. 君の色がきらめいて
  2. 時には翼は地上を夢見て
  3. オーラよ、はずめ
  4. オーラロードの女たち
  5. 黄昏のなかの赤光
  6. はじめてのおっぱい(挿入歌)
  7. ホウジョウの城の夜明け
  8. フェラリオたちのまどろみ
  9. 花々の入れ替え
  10. ジャコバの胸中
  11. 土を耕す季節
  12. 境界があるなら
  13. まほろばむまどろみ
  14. オーラ狂乱と
  15. ワーラーカーレーンからの使者
  16. 海鳴りがつむぐもの
  17. 触発される者たち
  18. 天空の薫り
  19. フェラリオたちが踊るなら
  20. うなじから流れゆくもの

 まず思ったのは、「樋口康雄は36曲書いたと言ってるのにサントラに収録されたのは20曲。容量制限のない配信なんだから全曲入れてくれよ〜」ということ。CD化の予定があることや楽曲としての完成度などの面から20曲が選ばれたのだと思うが、「この世に存在する音源はすべて聴きたい」と思うのがサントラファンである。

 が、それを別にすれば、すばらしいというほかない。
 曲順は劇中使用順を意識しつつ、音楽アルバムとしても聴きやすいようにまとめられている。富野アニメらしいひねった曲名が想像力をかきたてる。
 1曲目の「君の色がきらめいて」は第1話冒頭のメインタイトル部分に使用された曲。軽やかに踊る木管の響きから始まり、ティンパニの音をはさんで、緊張感のある曲調に。弦楽器と管楽器の音が入り乱れてカラフルな音の抽象画を描き出す。緻密にして華麗なオーケストレーションは樋口康雄の真骨頂だ。
 続く「時には翼は地上を夢見て」「オーラよ、はずめ」「オーラロードの女たち」の3曲も第1話で使用された。
 「時には翼は地上を夢見て」と「オーラよ、はずめ」は、突然現れたオーラ・シップを前に地上の人々が右往左往して戦闘になりかけるシーンに流れる。通常の映像音楽なら、危機感を感じさせる弦楽器の演奏や、ブラスや打楽器を使った荒々しいサウンドでサスペンスを盛り上げるところだが、樋口康雄の音楽は木管楽器やハープなどを使い、あくまで軽やかで心地よい。これはほかの多くの曲でも同様だ。
 「オーラロードの女たち」は第1話のラストでエイサップたちがバイストン・ウェルに移動する場面に流れた、女声コーラスが印象的な曲。
 トラック5「黄昏のなかの赤光」からトラック9「花々の入れ替え」までは主に第2話で使用されている。
 「黄昏のなかの赤光」はエイサップがバイストン・ウェルでホウジョウ国の王、サコミズと対面する場面に使用。弦楽器の低音を生かした重厚な曲で、終盤はエイサップが監禁される展開に合わせてドラマティックな曲調になる。
 次の「はじめてのおっぱい」は、このサウンドトラックの目玉のひとつ。エイサップがフェラリオ(妖精)の国へ入っていくときに聴こえてくる挿入歌である。子どもの声で歌われる愛らしい曲で、作詞は富野監督。『小公女セーラ』にも子どもたちが歌う「誕生日の歌」という挿入歌があったが、樋口康雄はこういう曲を書かせてもうまい。劇中では最初のほうだけ歌が流れて、途中からオーケストラの演奏になる。サウンドトラックではフルで歌が聴けるのがうれしい。
 トラック8「フェラリオたちのまどろみ」は、タイトルどおりフェラリオのテーマ的な曲。木管や弦を巧みに使い、民族音楽的な味わいのある楽しい曲に仕上げている。使用されたのは、監禁されたエイサップがフェラリオの力を借りて脱出する場面。緊迫した状況にのどかな曲が流れることで、緊張感がありつつもユーモラスな場面になっている。
 トラック9「花々の入れ替え」やトラック11「土を耕す季節」も同じ。曲名からはバイストン・ウェルの牧歌的な情景や農場で働く人々の姿がイメージされるが、本編では、いずれも戦闘がらみのシーンに選曲されている。多様な解釈ができる音楽だからこその演出である。
 トラック13「まほろばむまどろみ」は第3話で、離れ離れになっていたエイサップとリュクスが再会する場面に流れた。ヨーロッパの恋愛映画音楽のような切なく上品な曲だ。オーボエの音色が胸にしみる。たっぷりと4分以上ある曲だが、本編では一部しか流れない。サウンドトラックで初めてフルサイズが聴けるようになった。
 トラック14「オーラ狂乱と」は、管弦楽器とリズムが複雑にからみあうアップテンポの曲。本作の音楽の中では珍しい、激しい曲調の音楽である。第5話の冒頭で、オーラ・ロードを抜けて複数のオーラ・バトル・シップやオーラ・バトラーが地上界に現れる場面に流れている。この回はエイサップが第二次世界大戦を目撃する衝撃的なエピソードなので、このような激しい曲が必要とされたのだろう。トラック15「ワーラーカーレーンからの使者」も、同じく第5話の二次世界大戦の場面で使用されている。
 トラック19「フェラリオたちが踊るなら」とトラック20「うなじから流れゆくもの」は最終話の終盤からラストに使用された。
 「フェラリオたちが踊るなら」は、フェラリオが「命の手紙」をサコミズに届け、サコミズが核爆発から地上の人々を救う場面まで流れた。弦楽器と木管、ホルンなどによる美しい曲だ。
 次の「うなじから流れゆくもの」は戦いのあとのエピローグの曲。エイサップとリュクスがサコミズ家の墓参りをするラストシーンまで流れている。抒情的な弦合奏から金管・木管が加わって大きく盛り上がったあと、最後に木管楽器とパーカッションが別れのあいさつをするように鳴る。この余韻がいい。音楽としても、とてもおしゃれである。

 伊福部昭はストラビンスキーの「音楽は音楽以外、何も表現しない」という言葉を支持し、特定の効果を目的に作曲される映画音楽などは「効用音楽」として、芸術的な音楽(純粋音楽)とは分けて考えていた。
 しかし、樋口康雄の音楽を聴くと、映像音楽であっても「効用音楽」とは遠いのではないかと感じてしまう。『リーンの翼』の音楽もそうだ。映像を離れても十分に成立するほど、音楽が豊かで自立している。「純粋音楽」と呼んでも違和感がないくらい。それでいて、不思議なくらい映像にマッチしてしまう。
 思うに、樋口康雄には、純粋音楽、効用音楽という区別はないのだろう。ただ「音楽」があるだけ。樋口康雄の音楽からは、音楽を書くよろこび、演奏するよろこび、そして音楽を聴くよろこびが伝わってくる。
 『聖戦士ダンバイン』のナレーションにならって、こう言いたい。
 樋口康雄の音楽を聴く者は幸せである。心豊かになれるだろうから。

各種サイトへの配信リンク
https://lnk.to/rean-wings

Amazon Musicはこちら
https://music.amazon.co.jp/albums/B09VZV9SKS

アニメ様の『タイトル未定』
347 アニメ様日記 2022年1月16日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2022年1月16日(日)
早朝の新文芸坐に行き、オールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 134 アニメーターの仕事に痺れろ! ビバップ・エスカフローネ・ストレンヂア!!」の終幕を見届ける。
午前中の散歩では都電荒川線の早稲田停留所まで歩いて、劇場版『BanG Dream! ぽっぴん’どりーむ!』×都営交通「東京さくらトラム(都電荒川線)沿線キャンペーン」のパネル展示を見る。スマホの地図で、その近くに知らない公園があるのを知って行ってみる。甘泉園公園。小さいけれど、いい公園で、公園好きのワイフは大喜び。自販機でお茶を買って、その公園で飲んだ。15時過ぎにワイフとドーミーイン池袋に。新潟旅行に行くつもりだったのだけれど、コロナのために断念。その旅費をドーミーインの連泊にあてることにした。例によって自分はドーミーインから会社に通うことになる。

2022年1月17日(月)
「22/7 あの日の彼女たち Animation note」の、アニメ書籍マニア的な注目ポイントを記しておきたい。
まず、原画マンが描いたレイアウト&ラフ原画、演出(監督)によるレイアウト修正&ラフ原画修正、作画監督によるレイアウト修正&ラフ原画修正。あるいは原画マンの原画、演出(監督)の原画修正、作画監督の原画修正を並べるかたちで載せたところが画期的だ。近しいことは雑誌「アニメスタイル」でもやったことがあるのだが、その時は原画マンが描いたレイアウトもしっかり描かれたものをセレクトしたし、ほぼ止めのカットだった。「22/7 あの日の彼女たち Animation note」は原画マンが描いたもの、演出(監督)の修正、作画監督の修正を並べることによって、演出(監督)と作画監督が何をやっているのかが分かるかたちになっている。
それから、一部の原画を「原寸」で載せたところが新しい。今までアニメスタイルの書籍、雑誌では原画全体を載せるようにしてきたけれど、今回は一部の原画についてトリミングして原寸サイズで載せた。これは「タップ穴を入れればそこから逆算して、どのようにトリミングしてるかが読者にも分かるはずだから、トリミングしても大丈夫だ」という発想に基づいた構成だ。なお、以上は僕ではなくて、アニメスタイル編集部の村上君のアイデアだ。

グランドシネマサンシャインで、ワイフと「ハウス・オブ・グッチ」を観る。派手ではないけれど、よい映画だった。フィクションとして作ったら、随分と違った内容になっていたんだろうなあ。

水島新司さんが亡くなられたことを知る。子供の頃、水島さんのマンガが大好きだった。勿論、野球マンガとして面白いのだけれど、自分はキャラクター物として好きだったのだと思う。特に「ドカベン」はキャラクター物としての魅力を感じていた。心よりご冥福をお祈り致します。

2022年1月18日(火)
取材の予習で『音楽』を再見して、その後、豪華版Blu-rayの映像特典「ドキュメント of 『音楽』」に目を通す。凄いよ。1時間44分もある。一番古い映像が2012年かな。本当に最初期から撮っているんだなあ。公開時の宣伝関係では出ていないと思われる実写映像とアニメ映像の比較もあり。
『からかい上手の高木さん』総集編を観た。どうやって総集編にするんだと思っていたんだけど、ちゃんと総集編になっていた。というか面白い。最後の花火のパートがもっとたっぷりしていたら完璧だった。
散歩時にはサブスクにあった「「古美術」ベスト」を聴いた。

2022年1月19日(水)
散歩時に「からかい上手の高木さん Music Collection」「からかい上手の高木さん2 Music Collection」を聴く。おお、曲を単独で聴くとこんな感じなのか。なかなか新鮮だった。15時半から近くの蕎麦屋で業界のある方と昼呑み。
取材原稿をまとめていたら、インタビュー中で僕が「50年を越えるテレビアニメの歴史の中で」という言い回しを使っていた。違和感があったので考えたら、もうテレビアニメの歴史は60年だ。今年で『鉄腕アトム』から60年目。来年がテレビアニメ60周年だ。

2022年1月20日(木)
Amazonで予約し損なった「Animation AKIRA Storyboards 1」を探す旅に。途中にある書店で売っていないかを確認しながら、池袋から新宿まで歩いた。ちなみに同シリーズの「童夢」は予約が間に合ったので、Amazonで購入した。書店でも「童夢」は入荷しているけど、「AKIRA Storyboards 1」は仕入れていない店が何軒かあった。
確認することがあって配信で『スペース☆ダンディ』を数本観る。『スペース☆ダンディ』って配信向きかもしれないなあ。

2022年1月21日(金)
就寝前にKindleで「それでも歩は寄せてくる」最新10巻を読む。ため口の話がよかった。

2022年1月22日(土)
池袋から阿佐ヶ谷ロフトAまで歩く。このルートを歩いたのは久しぶり。トークイベント「第183回アニメスタイルイベント ここまで調べた片渕監督次回作7【いよいよ千年前の疫病について語ろうと思います編】」を開催。第2部がクライマックスで、第3部は雑談モードとなった。
就寝前に「お近づきになりたい宮膳さん」4巻を読む。ええっ、完結? あと2巻、いや、あと1巻は読みたかった。

第754回 また短いけど……

「自分の画力はまだまだ」と自覚のある人は、
日々描いてさえいれば必ず今より上達します!

 それとは逆に、

「自分は大したものだ」と現時点で思っている人は、
それ以上巧くなりません!

 これ、自分が10年若手の育成をしてきて実感したことの内のひとつです。

というのも最近また、アニメーターとして入社希望の女性と面接しました。履歴書を見ると特に問題なさそう(というかハッキリ言うと高学歴さん!)で、志望動機を読んでも真面目そうな方でした。ひとしきり会社の説明をした後、もう一度彼女のポートフォリオを捲りつつ「何か訊きたいことありますか? アニメ業界四方山でもいいですよ?」と尋ねたところ、美術系学校卒でもなく、小・中・高と美術の成績は“普通(本人談)”である彼女から出た質問が以下。

「動画のトレスはどのくらいで慣れますか?」
「デッサンの勉強する時、どんな被写体を描いたらよいでしょうか?」
「レイアウトを勉強するにはどの辺から始めるべきでしょうか?」
「そもそも私、アニメーターになれるでしょうか?」など

 「本当に真面目だなぁ~」と思い、そのままの感想を御本人に伝え、更に問答を続けました。

正直、自分も高等な美術教育を受けていないので偉そうなことは言えないし、何の権威もヒット作もない俺の言うことにどこまで説得力があるのか分からないけど思ったこと言います。個人的には現状の画を見る限りでは「普通」です。でも、可能性は十分あると思います。だって「0(ゼロ)からでも勉強してアニメーターをやりたい」と思ったから来たんでしょ? こんな一流大学を受験して合格するってことはよっぽど勉強したはずだし、その成功体験があるなら、対象が大学からアニメに替わっても、ある程度の努力は続けられると思いますよ。まず、そもそも自身の画力が「まだまだ」なのは自覚あるでしょ?

と訊くと、彼女は何度も頷きました。で、冒頭の話が出たわけです。

「自分の画力はまだまだ」と自覚のある人は、日々描いてさえいれば必ず今より上達します! 逆に、「自分は大したものだ」と現時点で思っている人は、それ以上巧くなりません! 日々修練を積めばデッサンだパースだは後から付いてきます!

 本っっっ当に“ド”月並みだけどこれに集約されます、どんな技術職も芸事も。

テレコム時代、先輩方の指導を何の抵抗もなく受け入れられて上達できたのは、「大したことない、まだまだな板垣」を自覚してたから——なのです!

新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol.135
押井守映画祭《4K VS 35mm》編


 新文芸坐が改装が終了し、新文芸坐とアニメスタイル共同の上映企画も再開します。再開第1弾のオールナイトは「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol.135 押井守映画祭《4K VS 35mm》編」。『天使のたまご』(35ミリ上映)、『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(4K上映)、『イノセンス』(35ミリ上映)の3本立てです。

 新文芸坐は今回のリニューアルで、DCPによる4K上映が可能となりました。そこで今回は4K上映と35ミリ上映が混在するプログラムを組んだというわけです。4Kと35ミリ、それぞれの良さを楽しんでください。

 トークのゲストは押井守監督を予定。開催日は5月21日(土)。チケットは5月14日(土)から発売開始です。前売り券の発売方法については、新文芸坐のサイトで確認してください。なお、新型コロナウイルス感染予防対策で、観客はマスクの着用が必要。入場時には検温・手指の消毒を行います。

 なお、トークの出演者には関しましては、新型コロナウイルス感染状況等を鑑み、変更する場合もございます。ご了承ください。 

新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 135
押井守映画祭《4K VS 35mm》編

開催日

2022年5月21日(土)

開演

開演 22時30分/終演 5時00分(予定)

会場

新文芸坐

料金

一般3200円 、各種割引3000円(招待券21P)

トーク出演

押井守、小黒祐一郎(アニメスタイル編集長)

上映タイトル

『天使のたまご』(1985/71分/35mm)
『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊 4Kリマスター版』(2021/82分/DCP)
『イノセンス』(2004/99分/35mm)

備考

※オールナイト上映につき18歳未満の方は入場不可
※トークショーの撮影・録音は禁止

●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/