
第410回 最近『うる星』のことを考えがち

片渕須直監督は『この世界の片隅に』『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』に続く、新作劇場アニメーションを準備中です。まだ、タイトルは発表になっていませんが、平安時代に関する作品であるのは間違いないようです。
新作の制作にあたって、片渕監督はスタッフと共に、平安時代の生活などを調査研究しています。その調査研究の結果を少しずつ語っていただくのが、トークイベントシリーズ「ここまで調べた片渕須直監督次回作」です。これまでのイベントでも、あっと驚くような新しい解釈が語られてきました。
2022年11月12日(土)に開催する第12弾のサブタイトルは「平安中期 何がどれくらいの大きさだったのか 編」。現在、片渕さん達は「平安時代の何がどれくらいの大きさだったのか」を主に調べているのだそうです。その調査研究の成果を語っていただきましょう。出演は片渕須直さん、前野秀俊さん。聞き手はアニメスタイルの小黒編集長が務めます。
会場は阿佐ヶ谷ロフトA。今回は会場にお客様を入れての開催となります。ただし、会場の定員は少なめの人数に設定します。今回のイベントは「メインパート」の後に、ごく短い「アフタートーク」をやるという構成になります。配信もありますが、配信するのはメインパートのみです。アフタートークは会場にいらしたお客様のみが見ることができます。
配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。また、今までの「ここまで調べた片渕須直監督次回作」もアニメスタイルチャンネルで視聴できます。
チケットは11月1日(火)19時から発売となります。チケットについては、以下のロフトグループのページをご覧になってください。
■関連リンク
LOFT/PLUS ONE https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/233292
会場チケット https://t.livepocket.jp/e/animestyle_event197
配信チケット https://twitcasting.tv/asagayalofta/shopcart/194133
第197回アニメスタイルイベント | |
開催日 |
2022年11月12日(土) |
会場 |
阿佐ヶ谷ロフトA |
出演 |
片渕須直、前野秀俊、小黒祐一郎 |
チケット |
会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,500円、当日 1,800円(税込・飲食代別) |
先日、とある雑誌のインタビュー取材をお受けし、楽しくお話させていただきました!
アニメ誌ではありません(写真もなし)。依頼のメールを見た時、「あ、コンビニで見たことある~」と言った感じの雑誌です。まだ、詳細は伏せますが、単純に“俺が大好きな某漫画について語ってください”のインタビューで、それは当たり前にテンションが上がりました!
で、「なぜ、俺に?」と取材に来た方々に尋ねると、このWEBアニメスタイルの連載で何回かその某漫画について語ってたのを目にしたかららしいのです。(777回も続けてて良かった! ありがとうアニメ様)イラストも描かせていただきましたが、その件に関しては雑誌発売時、もう一度話題にさせてください。
で、つい先程(リアルにこの原稿に手をつける2時間前)、数年前に家庭の事情でウチ(ミルパンセ)を辞めた人から電話がきました。訊けば「実家に帰って地元にある小さなアニメ会社で、またアニメーターを始めた」とのこと。「おお、それは良かった!」と返し、要件は? と訊くと「作監を手伝ってくださる方いませんか?」とのHELP要請でした。俺は、
ごめん、ウチも作監が全然追いつかない状態で(汗)!
と、返さざるを得なかったのは言うまでもありません。「手伝ってあげたいけど、今は逆にこっちが手伝って欲しいくらいで」と続けて。ここで何度も繰り返し言ってる“現状アニメ業界全体の人手不足”。“今の段階での”自分の答えは、
まずは、会社内でできるだけ何とかすることを考える!
です。とにかく当たり前な話、その仕事が元請けだグロスだ関係なく、“現場で受けたんだから、現場でこなす”少なくとも“こなそうとする”のところまではスタッフを鼓舞して、その上でもちろんできない分は次の手を考える。例えば作監の修正をラフまでにして、清書をその作監の指導の下、社内の新人にやってもらうとか。昨今は制作進行・デスク・制作プロデューサーが100人に電話しても10人アニメーターが摑まるかどうかな上、よしんば摑まったとてそれは、いつ手を付けてくれるかも分からないフリーの方々。しかも、言い値の請求に応えなければならないので赤字必至。だから自分、ここ何年とかは、先輩を含めキャリアのある知り合いのアニメーターさんらにも声を掛けていません(それどころか、飲みにも行っていないし電話もしていないという……ごめんなさい)。なぜなら自分の先輩は皆さん巧い方々なので、どうせ手が埋まってて電話するだけでも時間がもったいないという。でも、そうは言っても、以前はダメもとで電話を掛けては、お互い情報交換みたいなことをしていましたが、それもここ7〜8年は社内の新人との交友がほぼ9割(この連載で見ても、ろくに友人・知人に会えてないのが分かりますよね?)。そんな訳で、社内の若手を指導しての人海戦術。幸い毎年新人は入ってくれるし、捕まらないアニメーターに電話しまくって仕事した気になるよりも、自ら手を動かし、若手に教えて何とかする方がよっぽど早いのです。よって、ウチのスタッフは脚本や演出やキャラデザといった要職に就くのも早い訳です。
さて、現在制作中のシリーズを年内で作り終えての、さらに来年以降制作する作品らの打ち合わせが次々始まっています。この先2年程の予定が埋まり、それらに自分がどう関われるか? がこれからの問題。制作プロデューサーかまた総監督・シリーズ構成? なるべく現場の若手にメインを任せつつ、ちょっと距離を置いて監修して、自分の監督作のほうも準備しようと思っています。
現在、オープニングのコンテ清書中(ラフは済)!
あ、もちろん現在、シリーズ構成・総監督で携わってるシリーズの、です。因みにエンディングの方も、コンテプランのサムネイルはできています。本来は監督に任せるはずだったのですが、現場スケジュール的に慣れてる自分がコンテ切った(描いた)ほうが早いだろう、という話で引き取ることにしました。
今回は本編の内容的に“優しさ”がテーマなので、OP映像も比較的アクション要素よりは、キャラクターを丁寧に魅せるカット割りを心掛けています。
以前にもここで語った(書いた)かと思いますが、俺のOP・ED場合「さあ、これから1週間OPコンテのことだけを考えるぞ!」と、他の仕事を止めてそれだけやる体制で取り組んだことがほとんどありません。必ず何かと同時進行。それは『化物語』OPや『はなまる幼稚園』ED・『妖狐×SS』EDなど、他者の監督作品のOP・EDのみお手伝いパターンも例外ではありません。なぜなら、
(総製作費から逆算した)OP・EDのコンテ・演出料では1ヶ月食えるかどうか?
程度ですから。同時にシリーズ本編のコンテからレイアウト・チェック──時には原画や作監等もやりつつ、頭の片隅でOP・EDの構成を日々考えるものです。『化物語』や『はなまる幼稚園』の時も、さらに別作品のコンテや次の監督作品の脚本などを片手でやりつつでした。
今作のOP・EDも本編作業をやりつつ、ヘッドホンで主題歌を繰り返し聴きつつ、ふと思いついたところで、
と、傍らのメモ用紙(フレーズ毎に2~3行ずつ空けた歌詞カードをPDFで書き出したモノ)にサムネでメモっていくのです。「このフレーズに、あの画を~」と部分部分バラバラ、90秒がパズルのように埋まっていく場合もあれば、頭からまるでドラマの如く順番に描かれる時もあります。『化物語』OPはパズル的に、『ユリシーズ ジャンヌ・ダルクと錬金の騎士』OPはドラマ的に画が埋まっていった記憶があります。
特に今回は(も?)作画スタッフの労力軽減のため、コンテの段階でややラフ原画にできるくらいの精度で清書しています。本来は自分「過度なコンテ清書は不要」派です。それは若い頃、
コンテの意図をくんで、より良くなるよう考えて描くのが原画の仕事である!
との教えを受けて育ったし、他人のコンテで俺自身が原画を描く際でも、余りに細かく決めこまれたコンテだと逆に動きもレイアウトも巧く繋がらなかったりもするからです。
でも、自分の主義・主張なんかより、ここ数回分の内容でも触れているとおり“業界全体の人手不足”を補う方が最優先。不本意ながらも、ある程度細かく描き込んであった方が、新人に原画を振ることもできて現場が助かるので、時と場合、必要とあらば、今は粛々と清書をすることにしています。その代わり、自らが既に原画を描いているつもりでのコンテ清書です。それくらいのワガママは許してください。
てとこで、明日はワクチン接種に行ってきます。
『四畳半タイムマシンブルース』は森見登美彦さんの同名小説を映像化したアニメーション。2010年に放映されたテレビアニメ『四畳半神話大系』のキャラクター達が活躍する新たな作品です。監督を務めたのは『四畳半神話大系』にも参加した夏目真悟さん。アニメーション制作はサイエンスSARUです。
10月30日(日)に開催するトークイベント「第196回アニメスタイルイベント 夏目真悟と仲間達」では、夏目監督と制作に参加したスタッフの方々に『四畳半タイムマシンブルース』のメイキングについて語っていただきます。
トークは2部構成で、第1部では夏目監督が登壇。第2部では他のスタッフの方達にも出演していただきます。会場は新宿のLOFT/PLUS ONE。お客さんが会場で観覧するかたちでの開催で、第1部のみをネット配信します。
配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。
チケットは10月18日(火)19時から発売。購入方法については、以下のリンクをご覧になってください。
『四畳半タイムマシンブルース』はディズニープラスで独占配信中。また、9月30日から3週間限定で劇場公開されています。イベントに来る前に是非とも本編をご覧になってください。
■関連リンク
LOFT/PLUS ONE
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/plusone/231885
『四畳半タイムマシンブルース』公式
https://yojohan-timemachine.asmik-ace.co.jp
第196回アニメスタイルイベント | |
開催日 |
2022年10月30日(日) |
会場 |
LOFT/PLUS ONE |
出演 |
夏目真悟、小黒祐一郎、スタッフの方達 |
チケット |
会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,500円、当日 1,800円(税込・飲食代別) |
腹巻猫です。小学生の頃は模型作りや工作大好き少年だったので、10月からスタートしたTVアニメ『Do It Yourself!!』に注目しています。舞台が「ものづくり」の街として有名な新潟県三条市。空にドローンが飛び、市内を自動運転バスが走る近未来的な街に描写されていて、SFなの? リアルなの? とドキドキ。オープニング&エンディング主題歌の作詞・作曲と劇中音楽を佐高陵平がひとりで担当していることに驚きました。アコースティックサウンドの音楽がいい感じです。
9月30日から3週間限定で劇場公開されている『四畳半タイムマシンブルース』を観た。
『四畳半タイムマシンブルース』公式サイト
https://yojohan-timemachine.asmik-ace.co.jp/
『四畳半タイムマシンブルース』はTVアニメにもなった森見登美彦の小説「四畳半神話大系」と、実写劇場化もされた上田誠の戯曲「サマータイムマシン・ブルース」がコラボした作品。
『四畳半神話大系』がアニメ化された際に上田誠がシリーズ構成・脚本を手がけ、また同じく森見登美彦原作の劇場アニメ『夜は短し歩けよ乙女』『ペンギン・ハイウェイ』でも上田が脚本を担当した縁もあって、2作品のコラボが実現したのだとか。森見登美彦が小説「四畳半タイムマシンブルース」を2020年に発表し、それをアニメ化したのが今回の作品。単純にTVアニメを劇場用にした作品ではないわけだ。
『四畳半神話大系』は大学三回生の「私」が「もし入学したときに違うサークルを選んでいたら」と異なる可能性を考え、それを体験する物語。時間ループと並行世界(今風に言えばマルチバース)の要素を取り入れた不思議な世界観の作品である。実験的な映像表現も観られる意欲作だった。
いっぽうの『サマータイムマシン・ブルース』は、クーラーのリモコンを求めてタイムマシンで時間旅行を試みる大学生たちのスラップスティックなSFコメディ。筆者も好きな作品だ。
その2作がコラボしたという話を最初に聞いたときは、込み入ったプロットの作品がふたつ合体して、話がこんがらがるのではないかとちょっと心配した。
しかし、作品を観て感心した。ドタバタはあるけれど正攻法のタイムトラベルSFになっている。驚くほどTVアニメ版(便宜上TVアニメ『四畳半神話大系』をこう呼ぶ)の雰囲気が再現されているし、キャストも2020年に逝去した藤原啓治以外はオリジナルメンバーが集結した。TVアニメ『四畳半神話大系』が放映されたのは2010年。10年以上経っているとは思えないのがすごい。
今回はTVアニメ版にあった実験的な映像表現やシュールな描写が抑えられ、ぐっと観やすい作品になっている。さわやかな後味の青春ものとしても観ることができる。TVアニメ版を観てない人も、きっと楽しめるはずだ。
本作はDisney+でも配信されていて、配信版は5つのエピソードに分けて公開している。でも、できれば劇場で一気に観ることをお奨めしたい。タイムトラベルにからむ伏線の回収や謎解きなどは一気に観たほうが面白いはずだし、カタルシスがあると思うからだ。
ただ、Disney+では劇場版に含まれないエピソードを第6話として配信しているので悩ましい。事情が許すなら両方観てほしいところだ。
音楽にも感心した。TVアニメ『四畳半神話大系』の音楽を手がけた大島ミチルが本作でも音楽を担当。TVアニメ版の雰囲気を受け継いだ楽曲を提供している。劇場版のために書かれた新曲もあるし、TVアニメ版のBGMをアレンジした曲もある。音楽が流れてくると「ああ、『四畳半』だ!」という気分になる。
劇場版のために書かれたメインテーマは、ギターが奏でるブルージーな曲。「タイムマシンブルース」のタイトルにちなんだ曲想だろう。また、タイムトラベルのサスペンスを表現する曲、新たに登場するキャラクター「もっさりくん」のテーマなどが設定され、それらのアレンジが全編に散りばめられて、映画音楽としての統一感を生んでいる。
劇場版のための新曲とTVアニメ版をふまえた曲、2種類の音楽が流れることで、過去と現在の『四畳半』の世界が混然となる。物語と同様に音楽も時間を行き来しているようだ。絶妙の音楽設計なのである。
本作のサウンドトラック・アルバムは「四畳半タイムマシンブルース Original Soundtrack」のタイトルでFABTONE/フジパシフィックミュージックより2022年9月28日に発売された。
収録曲は以下のとおり。
フィルムスコアリングで作られた音楽を使用順に収録した構成(ただし、完全収録ではないもよう)。TVアニメ版の音楽をアレンジした曲のタイトルは、原曲のタイトルを踏襲してつけられている。TVアニメ版のサントラをお持ちの方は、新旧の演奏を聴き比べてみるのも一興だろう。
1曲目の「京都の夏」が本作のメインテーマ。ギターが奏でる、もの憂いムードの曲である。冒頭、京都の夏の暑さにうんざりする「私」のモノローグとともに流れていた。トラック11「タイムマシーンブルースにおける相島と小津」やトラック24「壮大な時空の旅路」は同じメロディをアレンジした曲だ。
トラック2「タイムマシンサスペンスの始まり」は時間旅行をめぐるトラブルを描写する曲。このモチーフはトラック10「タイムマシンサスペンス」に発展する。緊張感とコミカルさが同居する曲調が『四畳半』らしい。
さらに困った状況を描写する音楽がトラック17「ピンチ!宇宙崩壊の危機!!」とトラック21「ピンチ!宇宙崩壊の危機!! 絶望バージョン」。
物語が進むにつれて、同じモティーフがよりダイナミックなアレンジで反復されるのが映画音楽ならでは。サントラを聴く楽しみのひとつである。
トラック7の「ワクワク!のんきなタイムトラベラーズ」も本作のための新曲。弦・パーカッションによるリズムとクラリネットのとぼけた音色のアンサンブルが楽しい。
トラック8「もっさりくんと樋口さんのシャンプー」で初登場するのが、新キャラクター「もっさりくん」のテーマ。このテーマはトラック13「もっさりくん」でも聴ける。クラシカルでユーモラス、謎めいているが妙に親しみを感じるキャラクター「もっさりくん」のイメージがうまく表現されている。
TVアニメ版のBGMをアレンジした曲にも注目してみよう。
TVアニメ版に由来する曲のタイトルは基本的に原曲のタイトルを踏襲している。その曲名のつけ方にはいくつかのパターンが見られる。
トラック3「責任者はどこか2022」とトラック4「小津と明石さんのテーマ2022」は曲名のあとに「2022」がついたパターン。「責任者はどこか2022」はTVアニメ版の「責任者はどこか?」のアレンジ。「小津と明石さんのテーマ2022」はTVアニメ版の「小津のテーマ」と「明石さんのテーマ」を合体してアレンジした曲である。2曲が1曲になっているのは、同じシーンで小津と明石さんが続いて登場するから。いずれもTVアニメ『四畳半神話大系』でよく流れたおなじみの曲だ。
TVアニメ版のBGMと同じ曲名が付いた曲もある。
トラック9「私のテーマ」、トラック15「京都、左京区」、トラック16「不毛な日常」、トラック22「四畳半主義者」は、TVアニメ版に同じタイトルの曲がある。メロディや楽曲の構成も同じで、アレンジ曲というより、同じスコアで演奏された「新録版」のようである。
といっても、原曲と新録版とではミュージシャンも録音環境も異なっているから、曲のニュアンスも異なる。
TVアニメ版との大きな違いは、本作の音楽の大部分が海外で録音されていること。TVアニメ版は日本のスタジオとミュージシャンで録音されたが、劇場版はブダペスト、パリ、ニューヨーク、東京の4都市で録音が行われている。オーケストラはブダペスト、バオリンソロはパリという具合だ。近年は世界を飛び回ってレコーディングやコンサートを行っている大島ミチルならではの仕事である。
劇場版の音楽はTV版よりクラシック的というか、広がりのある、まろやかな音に仕上がっている。劇場に映える音楽(音だから「映える」はおかしいけど)、劇場の音響システムで体験してほしい音楽である。
トラック25「四畳半の終わり」はラストシーンに流れるピアノソロの曲。TVアニメ版に「四畳半紀の終わり」という似たタイトルの曲があるが、そのアレンジではない。「私」と明石さんが河原で語らうシーンに流れる、しみじみと心に残る曲である。
ここまでが劇場版で使われた音楽で、トラック26以降は実は劇場版では使用されていない。Disney+のみで観られる配信版で使われた曲である。
トラック26「Time Machine Blues〜Ending Version」は配信版のエンディング主題歌。メインテーマに歌詞をつけて歌にした曲だ。トラック33「Time Machine Blues」はそのフルサイズ。
トラック27〜32は配信オンリーの第6話で使用された曲である。
そのうち、曲名に「四畳半タイムマシンブルースVer.」と付けられたトラック27〜31はTVアニメ版の音楽をアレンジした曲。「薔薇色のキャンパスライフ」「四畳半の甘い生活」「憧れの黒髪の乙女」など、『四畳半神話大系』で耳になじんだ曲が選ばれている。「四畳半タイムマシンブルースVer.」としたのは劇場版の曲と区別するためだろうか。シーンに合わせて演奏されているため、曲の長さも30秒程度から2分を超えるものまでさまざまだ。
トラック32の「夏休みへ続く儚い想い」は第6話のラストシーンに流れる、3分を超える曲。「明石さんのテーマ」の変奏から始まり、メインテーマのピアノソロに展開、ストリングスとピアノのリリカルな演奏で締めくくられる。本アルバムの中でも「四畳半の終わり」と並ぶ感動的なナンバーになっている。
『四畳半タイムマシンブルース』のサウンドトラックは、劇場用新曲とともにTVアニメ版の代表曲を新アレンジ・新演奏で聴くことができる、TVアニメ『四畳半神話大系』のファンにも魅力的なアルバム。TVアニメ版のサントラが入手困難になっているだけに、遅れて『四畳半』のファンになった人にもぜひ聴いてほしい作品である。配信版もリリースされており、一部の音楽配信サービスではハイレゾ版も選択可能だ。
四畳半タイムマシンブルース Original Soundtrack
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『BLACK CAT』のコラボカフェ、とのことです!
2005年に放映された自分の初監督作。放映時の自分は30歳、前作『砂ぼうず』(2004年・副監督)の後半は同時に『BLACK CAT』の脚本打ち合わせを開始してたので監督に着手した時は29歳、若かった。原作者・矢吹健太朗先生にとっても初アニメ化で当時24歳(自分より6つ若いはず)。
で、先日、
「お久し振りです~」と『BLACK CAT』の
キャラデザ秋山由樹子さんより電話!
何でも、コラボカフェのために久し振りに 『BLACK CAT』の版権を描きおろしたとのこと。当時、秋山さんにとっても初キャラクターデザイン・総作画監督。つくづく、「皆若かったな~」と感慨深く、手短にお互いの近況報告。
てとこで、また短くてすみません。仕事に戻ります。次回は頑張ります( ̄▽ ̄;)。
プロデューサーさんらとの雑談において、業界全体の人手不足が話題になることが多い昨今。でも以前から何度もここで語っているとおり、
他社からの引き抜き及びフリーの引っ掻き集めによる大量生産ではなく、 新人から育成したスタッフと共に身の丈に合った“コツコツ地道に”型の作品づくり
をモットーに10年やってきてる我々にとっては、多少キツくても現状「まあ、まだ予想の範囲内」です。
最近、「動仕(動画・仕上げ)を海外に撒くと、1週間でも上がってこなくなった」と何人もの制作プロデューサーが泣きを入れる事態が始まっているようですが、俺自身は1994年アニメ業界入りした頃から、こうなるのは概ね分かっていたので、現状に対して何も憂いたり驚いたりなんてしません。
“動画”とは原画より神経質な質感の線が求められ、その線の間と間にさらなる中割りを数枚ずつ描いていく根気の要る役職。そんな動画作業を1ヶ月間でも描いた事がある方なら分るはずです。これ“忍耐と根性こそが最大の美徳”的昭和価値観を持ち合わせていないと続かない仕事だと。そんな苦痛な動画作業をしてると、自分らが新人の頃から「まあ、早く原画になったら、楽しくなるから頑張って~」と周りの先輩より繰り返し言われたものです。諸先輩方は声援のつもりで声を掛けてくださったのだと思いますが、当時から自分はこう思っていました。
俺らが皆数ヶ月とかで原画になったら、動画マン不足はどう補うの?
と。早い話、単純計算で原画マン1人当たりが上げる原画分を全て動画にするのに3〜5人の動画マンが必要と言うこと。つまり、
作品本数増やす → 原画マン増やす(動画マンを原画に上げる) → 動画マンが足りなくなる
——そして、動画(仕上げも)海外に撒く
を今までやってきた訳です。「誰もやりたがらない作業を海外で安く人雇って」って。すると当たり前ですが、日本の下請けのみを延々やってくれるモンだと(日本だけが勝手に)思い込んでいた外国が、自国のアニメを作るようになって日本のお手伝いができなくなった、ってだけ。小学生レベルの算数ができれば当然はじき出せる結果でしょう。逆に“アニメ大国”とか煽てられて、よく今まで持ったものだとさえ思います。
故にそれを今頃になって鬼の首を取ったように「俺だけは分かった! 製作費が安いからだ!」「俺だけは見抜いた! アニメ業界は終わりだ!」「俺だけは言う! 業界責任者出てこい!」とか言ってるだけの類の話は、まず動画を1000枚描いてからにしてくださいってこと。
ネットが開かれたお陰で、テレビや大手代理店だの権力の影響を比較的受けずに自分の作品を発表できるようになってきました。ようやく
今こそ純粋に画を動かすことの大変さ
そして、その面白さを見直す時期!
に来ているのではないでしょうか? 一度でも動画職で飯を食ったことがある方々は、感じたはずです。
自分で描いた画が動いた瞬間の興奮を!
その自分の持ってる技術にもう少しデジタル力を借りて“作品を創る知恵”さえ磨けば、小さい作品からでも楽しくアニメを創れる未来がすぐそこに来ていると思うし、それができる便利なデジタル・ツールが今はあります。
「俺らを56す気か!?」とか言って“働き方改革”だ“インボイス制”だに反感持つ昭和気質な“低収入と引き換えに自由だけは守りたい”フリーの方々(俺も以前はそうでした)——ここで一つ、監督だぁ演出家だぁ原画マンだぁのプライド云々は取り敢えず置いておいて、それこそプロデューサーも含む業界人の皆さん、
1カットでも2カットでもいいから、デジタル動画・仕上げをやってみてはどうでしょうか?
そこから、創作に対する自分らの姿勢を見直して「次に何ができるか?」が見えてくるものだと思います。自分も今のシリーズが納品し終わったら、徐々に“小さい作画アニメ”とか作りたいと思っています。
はい、仕事に戻ろ! と。
10月15日(土)開催のオールナイトは大友克洋監督作品の特集です。上映作品は『MEMORIES』『迷宮物語』『AKIRA』。
『MEMORIES』は「彼女の想いで」「最臭兵器」「大砲の街」の3本で構成されたオムニバス映画。大友さんは原作、制作総指揮などを兼任し、「大砲の街」では監督も務めています。
『迷宮物語(Manie-Manie 迷宮物語)』もオムニバス作品で、りんたろう監督の「ラビリンス*ラビリントス」、川尻善昭監督の「走る男」、大友監督の「工事中止命令」の3本で構成。「工事中止命令」が大友さんが初めて監督を務めたアニメーション作品です。
『AKIRA』は大友さんの同名マンガを、自身が監督することで映像化した劇場長編アニメーション。新文芸坐としては初めての『AKIRA』4Kリマスター版の4K上映となります(2021年4月のオールナイトでは4Kリマスター版を2Kで上映)。大迫力の映像と音声をお楽しみください。
上映前のトークでは『MEMORIES』にスポットを当て、プロデューサーの田中栄子さん、「大砲の街」で技術設計を務めた片渕須直さんにお話をうかがいます。チケットは10月8日(土)から発売開始となります。チケットの発売方法については、新文芸坐のサイトで確認してください。なお、新型コロナウイルス感染予防対策で、観客はマスクの着用が必要。入場時には検温・手指の消毒を行います。
新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol.139 |
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開催日 |
2022年10月15日(土) |
開演・終演 |
開演/23時、終演/5時35分(予定) |
会場 |
新文芸坐 |
料金 |
一般3000円、各種割引・友の会2800円 |
トーク出演 |
片渕須直(『MEMORIES』技術設計)、田中栄子(プロデューサー)、小黒祐一郎(アニメスタイル編集長) |
上映タイトル |
『MEMORIES』(1995/107分/35mm) |
備考 |
※オールナイト上映につき18歳未満の方は入場不可 |
●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/
腹巻猫です。今週から新しい連続テレビ小説(朝ドラ)「舞いあがれ!」が始まりました。主演がクッキングアイドルまいんちゃんであり、キュアカスタードである福原遥さん。音楽が富貴晴美さんということで大いに楽しみ。主人公が空にあこがれる女性である点も、劇場アニメ『ブルーサーマル』や76年放映の朝ドラ「雲のじゅうたん」(音楽は坂田晃一)を思い出させてわくわくします。大きく舞いあがってほしい。
8月に公開された『劇場版ツルネ —はじまりの一射—』をようやく観に行った。
なんとなく腰が重かったのは、これがTVアニメ『ツルネ —風舞高校弓道部—』の総集編的な作品であり、音楽も含めて音響が一新されていると聞いたからだ。
特に音楽は、作曲家がTVアニメ版の富貴晴美から横山克に交替している。TVアニメ版の音楽がとてもよく、音楽ともども印象に残るシーンも多かっただけに、劇場版がよくても悪くても、なんとなくもやっとするような気がしていた。
しかし、観てよかった。TVアニメ版とは印象の異なる1本の作品に仕上がっている。音楽も想像をはるかに超えてよかった。TVアニメ版とはまったく異なる方向の音楽になっていて、比べる意味がない。TVアニメ版も劇場版も、どちらもよいのだ。
劇場版のベースになったTVアニメ『ツルネ —風舞高校弓道部—』は2018年10月から2019年1月まで放映された作品。綾野ことこの原作小説を京都アニメーションが映像化した。弓道に打ち込む高校生たちの青春を描く物語だ。
『劇場版ツルネ —はじまりの一射—』はTVアニメの放映から3年余りを経て公開された劇場版である。TVアニメ版の映像が使用され、大まかなストーリーは変わらないが、新作カットも追加されている。
劇場版の大きな特徴は、セリフの再アフレコが行われ、効果音と音楽も作り直されていること。劇場によっては7.1chによる上映が行われている。音響を一新した効果は抜群で、本作を象徴する音である弦音(ツルネ)=弓の弦の鳴る音や矢が飛ぶ音、矢が的を射る音などが、全身に響くほど臨場感たっぷりに聴こえる。
物語のまとめ方も感心した。
TVアニメ版は弓道部員とその周辺のキャラクターが織りなす群像劇の趣がある。個性の異なる少年たちが互いに競い合いながら成長し、友情を育んでいく姿が「青春ドラマ」という感じで清々しい。
いっぽう劇場版のほうは、主人公の鳴宮湊にぐっとフォーカスを絞った物語になっている。余計なエピソードをばっさりカットし、TVアニメの終盤の展開をクライマックスに据えて、そこに向けてすべてが収斂していくように再構築されている。劇場版としてすっきりした姿にまとまっているのだ。総集編ベースの作品であることを忘れるくらいである。
そして音楽。
TVアニメ版の富貴晴美の音楽はすごくよかった。弓道の凛としたイメージ、青春もののさわやかさ、躍動感、切なさなどが、ピアノ、ギター、ストリングスなどの生楽器を中心にした音楽で表現されている。
劇場版の音楽は横山克。当コラムで取り上げた『四月は君の嘘』をはじめ、アニメ、ドラマ、劇場作品の音楽を数多く手がけ、その実力は誰もが認めるところ。10月から始まる『うる星やつら』も楽しみだ。だから不満があるわけではないが、最初に書いたように、TV版がよかっただけに、ちょっともやっとしたのである。
ふりかえれば、TV版と劇場版とで作曲家が代わるのは珍しいことではない。TV『新竹取物語 1000年女王』(音楽・宇崎竜童、朝川朋之)と劇場『1000年女王』(音楽・喜多郎)、TV『北斗の拳』(音楽・青木望)と劇場『北斗の拳』(音楽・服部克久)など、「劇場作品は劇場作品」と割り切って音楽をがらっと変える例は昔からあった。
しかし、TV版の映像を使った総集編的作品で音楽担当が代わるのは珍しいと思う。『科学忍者隊ガッチャマン』はボブ佐久間(TV版)からすぎやまこういち(劇場版)に交替しているが、これは特殊な例だろう。TVシリーズを熱心に観ていたファンは、音楽込みで場面を記憶し、音楽が感動に結びついている。TVシリーズのファンを呼び込みたい劇場作品で音楽を変更することは冒険である。
作曲家にとっても、同じ映像に別の音楽をつける仕事はプレッシャーを感じるのではないだろうか。
が、本作の横山克の音楽は、観る側の不安や想像をはねとばす、みごとなものだった。観る前からあれこれ考えて「大きなお世話だったなあ」と思ったくらい。まったくブレのない、直球勝負の音楽である。
劇場版のドラマが鳴宮湊にフォーカスを絞っているのと同じように、映画音楽も鳴宮湊の内面にぐっとフォーカスを絞っている。筆者は劇場版を観ながら、「これは湊のための作品であり、音楽だな」と感じていた。後日サントラ盤を入手してライナーノーツを読んだら、横山克が「本作は、湊のために、音楽の全てを向けて書きました」とコメントしていたので、筆者は「うんうん」と大きくうなずいたのだった。
本作のサウンドトラック・アルバムは8月21日に「『劇場版ツルネ —はじまりの一射—』オリジナルサウンドトラック」のタイトルでバンダイナムコミュージックライブから発売された。収録曲は以下のとおり。
劇中曲を使用順に並べ、主題歌も収録した理想的な構成のアルバムである。
音楽はメロディを抑えたストイックな曲調で書かれている。特に作品の前半は、登場人物のゆらぎ、震える感情をシンプルなサウンドで描写する曲がほとんどだ。心のサウンドスケープを描く音楽とでも言おうか。シーンを盛り上げすぎない寡黙な感じの音楽が、弓道のイメージや作品全体のトーンと合っている。
特に印象的なのはメインテーマである(と思われる)1曲目の「Tsurune the Movie – The Sound of Origin」。ピアノと薄い弦と控えめなリズムが奏でる曲だ。最初のピアノの音が弓から矢が放たれる音のように聴こえる。後半に現れるピアノとリズムによる緊張感のあるパートは射手が矢を射る場面にかかる「一射のテーマ」とも呼ぶべきモティーフ。PVにも使われ、本作を象徴するサウンドになっている。
作品が進むにつれて、音楽が少しずつ色づいてくる。弓をうまく射れなくなっていた湊が自信を取り戻し、弓道部の結束も増していくにつれ、音楽の音色や響きが豊かになっていく。この音楽設計は劇場作品ならではだ。
トラック21「Like a Flower」ではメインテーマの緊張感のあるパート(「一射のテーマ」)が反復され、タイトルどおり「花が開くような」湊の復活を音楽で表現する。
それに続く、トラック22「Tailwind」、トラック23「When the Rain Is Gone」が、抑えめながらも解放感のある曲調で書かれているのもいい。
トラック24「Tsurune the Movie – The First Shot」はメインテーマの変奏。木管楽器が加わり、弦の音も大きくなり、情感豊かな演奏になっている。湊や弓道部員たちの成長が音楽にも反映されているのだ。
本作の音楽は録音にもこだわりがある。管弦楽とコーラスはブルガリアで録音。チェロのソロやギター、ドラムスなどを日本で録音している。海外録音だからよいというわけではないが、ヨーロッパのミュージシャンのストリングスや管楽器は「よく鳴る」というのは音楽スタッフからしばしば聞く話である。音が重要な作品なだけに、音楽も「鳴り方」にこだわったのではないか、と筆者は考えている。
『劇場版ツルネ —はじまりの一射—』の音楽は、音楽としても、サウンドとしても、みごとに鳴っている。TVアニメ版の総集編だから、音楽が違うから、と敬遠していてはもったいない。音響設備の整った劇場で、ぜひ体験してもらいたい作品である。
2023年1月からは、『ツルネ』のTVアニメ第2期がスタートするという。音楽はどうなるのか。ドキドキしながら、待っている。
『劇場版ツルネ —はじまりの一射—』オリジナルサウンドトラック
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最近、「歳をとるとはこういうことか」と考えることが多くなりました。でも、若い頃に考えていた“将来老けるイメージ”より、本当に老けた現状の方が概ねマシな感じです。
物理的に集中力は散漫になり、モノ覚えも悪くなるし、体力は落ちる一方。でも、仕事は楽しくできていますから。徐々に老眼も入ってきてはいるけど、デジタル作画は拡大して描けるので、それほど支障ありません。40歳になったあたりから、イベント絡み以外で酒を飲むこともなくなって、自分で調理して野菜の多めの食事も心掛けてます。健康に気を遣って、後30年は何がしか描けたらいいな~と。あ、後は運動もしなきゃ。
と言う訳で、若い頃浅はかに考えがちな「太く短く楽しく生きることこそ男らしい」なんて、今は微塵も思っていません。そんなんより、できるだけ長くしぶとく生きて、長くしぶとく作り続けたい! なんでもいいから。
現状の自分、
人生半分以上消化した時点で、今までにヒット作と呼べるものなし! 貯金もなし!
大金持ちになることに興味なし(金は常時食うのに困らないくらいあれば十分)!
仕事は次々くる! コンテや原画はまだまだ描ける! デジタル・技術革新は大歓迎!
現代に合った作り方改革中! そして、創作意欲まだまだ旺盛! が、慢性的運動不足!
て、とこ。今の自分を正確に見据えることが、更なる成長への第一歩ってことで、これだけ揃えば仕事をする——描くしかない。上記の条件で許す限りのモノ作りをしていきたいです。勿論、若手の育成をしつつ、です。
ま、新人採用&育成も初めて早10年。やっぱり当然の話ですが10年経つと、初期に入ってきた人と今とでは既にだいぶ違います。まず、デジタル競争。社内スタッフ全員PCやツールを共通規格で通そうとしても、「俺だけはもっと優位な液タブとツールで!」とどうしても他者にマウントを取りたいのか、勝手に規格外れな道具を持ち込むなどのスタンドプレーで、データ書き出しにひと手間掛かって制作上かえって迷惑だったりしたものです。ところがここ数年内入社組は、皆協調性があって現場に優しい人たちばかりになりました。
その分、「将来、監督になって自分の作品を作りたい!」とか派手な夢を語ってくる人が減りました。先週面接した2人もそれぞれ「作画までしか考えていません」でした。
やはり、“たかが10年、されど10年”。アニメ『あしたのジョー』の荒々しさが、『あしたのジョー2』の洗練された美しい画面になるまでがたった10年なのです。
色々なモノが変わり進化するのに10年は十分過ぎる時間!
だから何処かの監督さんのように、凡庸な才能のくせになぜか余裕かまして、平気で何年ものブランクを空けることができないのです、小心で凡庸な俺には。だって現状、まだ俺ら世代の監督相手の仕事(企画)ってそこそこありますよ。それが証拠に、上記の様な不安条件てんこ盛りの板垣にですら、常に2~3本は話があります。少なくとも出版社・メーカー問わずプロデューサーはそれぞれ案件を数件位ずつ持っているはずで、声が掛からない訳がないです。もし、仕事がないとすれば、その監督は身の程をわきまえず「この僕にふさわしくない企画だ~」とかお高くとまって断ってる(た)としか思えません。
おっと、時間切れ。また仕事に戻ります!
徐々にまた、自分自身も若手スタッフに混じって作画への参戦開始!!
(前回からの続き?)現在、正にその“動かす喜び”を実感中です。前作『蜘蛛ですが、なにか?』もそうでしたが、現場で困っている作画と言えば、やっぱりアクション! もちろん、業界屈指のアクション系のアニメーター“超激巧”級には全然敵いませんが、友永和秀師匠についてマンツーマンで教わった弟子である板垣が「アクション描けません」は通らないでしょう。という訳で、そこそこ世間で普通に通用する程度には成長させていただき、今でも若手スタッフの手が及ばない辺りのアクション・エフェクト作画のお手伝いはここ数年の通例。コンテ描いた(今回はチェックした)側の責任というか、
自分ができないことを、他人に強要するのは人道に反する!
というのが、俺の主義です。周りの人たちはとっくに知っています。板垣が“自分で描けないカット内容”をコンテにしない! ってことを。ま、むしろ友永さんの指導をちゃんと受け、その技術を身に付ければ「人間の手で描けないモノなどない!」と、自然に分かるのです。およそハッキリ言って、
作画はCGより万能!!
です。
この連載で地球の人口位の回数ほどは言ってますが、敢えて繰り返します。やっぱり作画って楽しいんですよ!! 実際、他の監督さんとかは知りませんが、自分の場合は制作サイドより
「このエフェクトのシーンまだ手付かずなんですよ~」とか
「ここのアクションシーンを振ってたアニメーターから、
“やっぱできない”とギブ・アップが出て、今浮いてます」
などと泣き言が入ると、どっかの勘違い監督さんと違って制作さんを責めたり、俺はしません(今までも責めたことがありません)。
と、“仕方なく俺が描くか~”風を装って、実は腹の中で「しめしめ、また楽しませて貰いましょう!」とほくそ笑んでいたりします。それくらい原画を描くのって面白いから! また、“良い様に使われて~”と非難する同業者もいるのは分かっています。だって仕方ないでしょう。
企画の数と監督の人数に対してアニメーターの人数が圧倒的に足りていない現状なのだから!
それで、「監督自身が何でもやったら、制作がサボるだけじゃないか!」と、俺を非難したいだけすれば良いけど、じゃあそう仰る同業者にお訊きしたいのです。
作品が作りたいの?
それとも、作業者をかしずかせて指揮者ヅラしたいの?
どっちが優先!?
と。板垣は前者が優先ってだけ。「どちらも無条件で保障されるべきが監督だ!」なんて理想論の話をするのは勝手ですが、「じゃあ、理想の現場が与えられる事を運に任せて、十分にご自愛下さい」ってだけ。
因みに、“痺れを切らして自分で作業をしちゃう系”監督の板垣には次の次くらいまでの話(仕事)がきています(汗)。
とにかく、作画の直しから新規レイアウトの作成、背景の修正や音響の指示出しまで、できることは何でもやるのが“総監督”だと思ってアニメ制作の醍醐味を楽しんでいます。また、やる気だけ剝き出しの中身薄い内容でごめんなさい。仕事戻ります。
10月2日(日)に開催するトークイベントは「第195回アニメスタイルイベント 沓名健一の作画語り[アクション作画編]」です。メインの出演者はアニメーター、演出として活躍し、さらに作画研究家でもある沓名健一さん。トークのテーマはアクション作画です。更にゲストとして監督であり、アニメーターとしての活躍もある安藤真裕さん、アニメーターの中村豊さんが出演。司会進行はアニメスタイルの小黒編集長が務めます。濃密なトークにご期待ください。
今回のイベントは3部構成で、第2部で沓名さんが安藤真裕さんにアクション作画についてうかがいます。中村さんはコメント役での参加。第1部と第3部は沓名さんと小黒がメインでトークを進める予定です。
会場は阿佐ヶ谷ロフトA。今回は会場での観覧のみで、配信はありません。チケットは9月22日(木)19時から発売の予定。チケットについては、以下のリンクをご覧になってください。
■関連リンク
阿佐ヶ谷ロフトA
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/229433
第195回アニメスタイルイベント | |
開催日 |
2022年10月2日(日) |
会場 |
阿佐ヶ谷ロフトA |
出演 |
沓名健一、安藤真裕、中村豊、小黒祐一郎 |
チケット |
前売 1,500円、当日 1,800円(税込・飲食代別) |