COLUMN

第774回 現状と希望

 プロデューサーさんらとの雑談において、業界全体の人手不足が話題になることが多い昨今。でも以前から何度もここで語っているとおり、

他社からの引き抜き及びフリーの引っ掻き集めによる大量生産ではなく、 新人から育成したスタッフと共に身の丈に合った“コツコツ地道に”型の作品づくり

をモットーに10年やってきてる我々にとっては、多少キツくても現状「まあ、まだ予想の範囲内」です。
 最近、「動仕(動画・仕上げ)を海外に撒くと、1週間でも上がってこなくなった」と何人もの制作プロデューサーが泣きを入れる事態が始まっているようですが、俺自身は1994年アニメ業界入りした頃から、こうなるのは概ね分かっていたので、現状に対して何も憂いたり驚いたりなんてしません。
“動画”とは原画より神経質な質感の線が求められ、その線の間と間にさらなる中割りを数枚ずつ描いていく根気の要る役職。そんな動画作業を1ヶ月間でも描いた事がある方なら分るはずです。これ“忍耐と根性こそが最大の美徳”的昭和価値観を持ち合わせていないと続かない仕事だと。そんな苦痛な動画作業をしてると、自分らが新人の頃から「まあ、早く原画になったら、楽しくなるから頑張って~」と周りの先輩より繰り返し言われたものです。諸先輩方は声援のつもりで声を掛けてくださったのだと思いますが、当時から自分はこう思っていました。

俺らが皆数ヶ月とかで原画になったら、動画マン不足はどう補うの?

と。早い話、単純計算で原画マン1人当たりが上げる原画分を全て動画にするのに3〜5人の動画マンが必要と言うこと。つまり、

作品本数増やす → 原画マン増やす(動画マンを原画に上げる) → 動画マンが足りなくなる
——そして、動画(仕上げも)海外に撒く

を今までやってきた訳です。「誰もやりたがらない作業を海外で安く人雇って」って。すると当たり前ですが、日本の下請けのみを延々やってくれるモンだと(日本だけが勝手に)思い込んでいた外国が、自国のアニメを作るようになって日本のお手伝いができなくなった、ってだけ。小学生レベルの算数ができれば当然はじき出せる結果でしょう。逆に“アニメ大国”とか煽てられて、よく今まで持ったものだとさえ思います。
 故にそれを今頃になって鬼の首を取ったように「俺だけは分かった! 製作費が安いからだ!」「俺だけは見抜いた! アニメ業界は終わりだ!」「俺だけは言う! 業界責任者出てこい!」とか言ってるだけの類の話は、まず動画を1000枚描いてからにしてくださいってこと。
 ネットが開かれたお陰で、テレビや大手代理店だの権力の影響を比較的受けずに自分の作品を発表できるようになってきました。ようやく

今こそ純粋に画を動かすことの大変さ
そして、その面白さを見直す時期!

に来ているのではないでしょうか? 一度でも動画職で飯を食ったことがある方々は、感じたはずです。

自分で描いた画が動いた瞬間の興奮を!

その自分の持ってる技術にもう少しデジタル力を借りて“作品を創る知恵”さえ磨けば、小さい作品からでも楽しくアニメを創れる未来がすぐそこに来ていると思うし、それができる便利なデジタル・ツールが今はあります。
「俺らを56す気か!?」とか言って“働き方改革”だ“インボイス制”だに反感持つ昭和気質な“低収入と引き換えに自由だけは守りたい”フリーの方々(俺も以前はそうでした)——ここで一つ、監督だぁ演出家だぁ原画マンだぁのプライド云々は取り敢えず置いておいて、それこそプロデューサーも含む業界人の皆さん、

1カットでも2カットでもいいから、デジタル動画・仕上げをやってみてはどうでしょうか?

そこから、創作に対する自分らの姿勢を見直して「次に何ができるか?」が見えてくるものだと思います。自分も今のシリーズが納品し終わったら、徐々に“小さい作画アニメ”とか作りたいと思っています。

 はい、仕事に戻ろ! と。