第439回 サムシング漫画のアニメ様
座談会参加者:板垣伸(アニメ監督)、小黒祐一郎(編集長)、松本昌彦(編集者)
板垣 ちなみに今のアニメってどうですか。自分は全然、新作が観れてないんですよ。
小黒 え、いきなり始まるの?
板垣 (笑)。いきなりだとまずいですか。
小黒 普段は板垣さんが原稿を書いている連載なのに、今回はこうやって座談会になっているわけじゃない。そこから読者に説明したほうがいいんじゃない?
板垣 ああ、筋が通ったことを言いますね。さすが編集長は違いますね。
小黒 ちっとも誉められている気がしないね(笑)。では、「いきあたりバッタリ!」の編集担当の松本君に説明してもらおうか。
松本 「いきあたりバッタリ!」の連載が800回を迎えたので、アニメスタイル編集部から板垣さんにお祝いの品を贈ろうかということになったんですよ。それで何がほしいのか、板垣さんに訊いたら「連載の休みが欲しい」と。
板垣 そうです。そう言いました。連載を見てもらえば分かると思いますが、今やっている仕事が忙しすぎて、このコラムを書く時間をとるのも大変なんですよ。
小黒 編集部としては、板垣さんがひと月くらい休んでも構わないんだけど、板垣さんは休むのは嫌なのね。
板垣 ここまで続いているのを休むのも悔しいじゃないですか。
松本 それで板垣さんのほうから、座談会をやって、それを原稿の代わりに載せてほしいと言われたんです。
小黒 プレゼントでものをもらうよりも、休みがほしい。原稿を書く時間を制作中のアニメの作業に充てたいということね。了解しました。それでは最初の話に戻ろうか。
松本 お願いします。
小黒 今のアニメはどうかってことね。『異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する』がよくできてて感心しているよ(編注:『異世界で~』は板垣さんが総監督を務めているTVシリーズ)。
板垣 やだなあ、お世辞を言っているでしょ。
小黒 略称は『いせれべ』って言うんだね。『いせれべ』は画がしっかりしてるから、映像を観ているだけで楽しいよ。
板垣 うちの有望株の木村(博美)っていう子がやってくれているんです(編注:木村博美さんは『異世界で~』のキャラクターデザイン・総作画監督)。『コップクラフト』でキャラデをやってもらったのが20歳の時だから、今は25歳ぐらいですね。頑張って濃い画を描いてくれているので、彼女が描いてくれた画を守って、それを映像に落とし込むのが、今回の自分の仕事かなと思っています。彼女の手が届いていないところを、俺が一生懸命直してる感じですかね。
小黒 忙しそうだね。
板垣 忙しいですね。自分に関して言うと、しばらくは土日がない感じです。ただ、「何かほしい物ないですか」と訊かれて「休みがほしい」と言ったのは、忙しいからだけではないんです。今、物欲がもうないんですね。だって、出崎(統)さんの新作が出ないじゃないですか。
小黒 新作がないのは当たり前じゃない。
松本 (笑)。
板垣 過去作品のDVDでもいいんですけどね。出崎さん関係くらいしか欲しいものがないんです。去年、4Kで『コブラ(スペースアドベンチャー コブラ)』の再上映があったけれど、それも観に行けてないんですよ。仕事のことで必死で、全然観てる時間がなくって(苦笑)。どうしたら、アニメを楽しめるのかなあと思って。
小黒 今、話している内容を記事にしていいの?
板垣 自分は大丈夫ですよ(笑)。こういう機会いただいたので、今のアニメのどういうとこが面白いのかを教えてもらっておこうかと思って。小黒さん、まだアニメが面白いですか。
松本 凄いことを訊きますね。
小黒 面白いよ。
板垣 どの辺り楽しんでます?
小黒 お話を楽しんでいる作品もあるし、作画とかの良さを楽しんでいる作品もあるよ。
板垣 だって、本数めちゃめちゃ多いでしょ?
小黒 本数はめちゃめちゃ多いね。
板垣 だから、各方面のプロデューサーと話ししてても、そんな話ばっかりですよ。「いったい何本あるんだ。いつまでこの状況が続くんだ!?」って。
小黒 そうだねえ……(どう話を続けるか考えている)。
板垣 最近、今石(洋之)さんはどうしているんですか。
小黒 えっ、そっちの話? 去年、新作『サイバーパンク: エッジランナーズ』を発表したよ。Netflixで配信しているよ。
板垣 そうなんですね。全然、チェックできてないです。マズいなあ。そう言えば小黒さんは、体調を崩されたみたいですね。
小黒 (松本君に向かって)板垣さんって昔からこうでね。会話の途中でガンガン話題を変えていくのよ。
板垣 いやいや(笑)。
松本 いいじゃないですか、この座談会は録画もしてるし。後で使えるところだけ使えば。
小黒 使えるところあるかなあ。
板垣 いや、自分の中では話題は変わってないんですけど。
松本 (笑)。
小黒 体調の話だと、僕は昨年末から入院したり、手術したりとか。
板垣 大変でしたね。もう具合はいいんですか。
小黒 今はね。かなりよくなっています。
板垣 よかったです。だけど、やっぱり歳取りましたよねえ。
小黒 歳を取ったねえ。
板垣 お互い様ですけどね。
小黒 (棒読み風に)いやいや、板垣さんなんてまだまだ若いじゃないですか。
板垣 若くないですよ(苦笑)。来年で終わりかなと思ってますよ。今の働き方に、ちょっと限界が……。今はまだ結構描いてますよ。
小黒 そうなんだ。
板垣 最近は背景も直したりもしています(編注:板垣さんは『異世界で~』で背景としてもクレジットされている)。「これはCGや撮影も自分でやらないとな」と思っているくらいです。それはそれで面白いんですけどね。自分の場合、あれなんですよ。大きなスタジオで、ゴージャスにアニメ作るのって向いてなかったみたいですね。スタジオが大きいからできる事もたくさんあるんですけどね。
この連載でも描きましたが、今のアニメって無駄が多いんですよ。例えば、やっていると同じ画を何回も描いてるという意識が出てくるんですよ。制作さんで、何人かが同じことを言っていたんですけど、レイアウトの時に作監修正を入れて、それを発展させて原画を描いて、また、作監修正を入れる。どれも同じような画なんですよ。それが訳がわかんないと言うんです。
松本 うんうん。
板垣 2000年に出た最初の雑誌「アニメスタイル」があったじゃないですか。
小黒 なにを言いたいのか分かるよ。『(機動戦艦)ナデシコ』ね。
板垣 そうです。後藤圭二さんの特集で、レイアウトとレイアウト作監と原画と原画作監の原画を並べて載せていたじゃないですか。
小黒 載せた。何度も同じ画を描いているように見えるわけね。
板垣 そうなんです。言っていいのか分からないけど、そう見えるじゃないですか。
小黒 あの時は「こだわって作っている特別な例」として載せたんだけど。
板垣 だけど、今はあれが正しいやり方とされて、アニメの制作を崩している気がするんです。
小黒 作画の工程数が増えているのは間違いないよね。
板垣 俺は無駄を減らしたいんですよね。さっきの木村の画を守る話に戻りますけど、俺が描いたラフに木村が作監修正を入れて、原画マン無しで次の工程に進めるとか、そういうやり方にしたほうが早いんですよ。そんなやり方をしているから、俺の仕事が増えていくんですけど。動かすカットについてはそういうわけにもいかないから、動かしたいアニメーターに任せますけど。極端なことを言うと、顔を描く人は何人もはいらないんじゃと思うんです。出崎さんにとって、杉野(昭夫)さん1人がいればよかったように。
小黒 言いたいことは分かるよ。
板垣 そういう事ばっかりなんか考えているんです。やろうと思えば、作り方そのものを変えられるんですよ、今はそれが楽しいというのがありますよね。今のうちの会社なら「制作進行をなくしてしまおう」とか、そういう話もできるわけですよ。それは大きなスタジオだと難しいですよね。小さい会社だから、できることもあるんですよ。
特別編・いきあたりバッタリ座談会(2)に続く
腹巻猫です。2月から放映中のTVアニメ『ひろがるスカイ! プリキュア』のオリジナル・サウンドトラックが5月31日に発売されます。腹巻猫が構成・解説・インタビューを担当しました。音楽はプリキュアシリーズの劇伴を初めて手がける深澤恵梨香。シリーズ20年目にふさわしい気合の入った作品です。今回はこのアルバムを紹介します。
プリキュアシリーズ20作目となる『ひろがるスカイ! プリキュア』は、原点回帰と新しい挑戦をミックスした意欲作。主人公は異世界スカイランドからこちらの世界(ソラシド市)へやってきた少女ソラ・ハレワタール。ソラはソラシド市で中学2年生の少女・虹ヶ丘ましろと出会い、友だちになる。2人はプリキュアになる力を得て、それぞれ、キュアスカイ、キュアプリズムに変身し、謎の敵アンダーグ帝国に立ち向かっていく。
本作では4人のプリキュアが登場することが明らかになっているが、中心になるのはキュアスカイとキュアプリズムの2人。2人で技を放つときに手をつないで技名を叫んだり、そらがノートに「ふたりはプリキュア」と書くシーンがあったり(第5話)と、シリーズ第1作『ふたりはプリキュア』を意識している部分が見られる。
いっぽうで、主人公のソラが異世界の住人でイメージカラーが青であったり、男の子が変身するプリキュアが登場したりと、これまでにない試みに挑んだ作品でもある。「伝統をふまえた上で新しいステージに行こう」という意欲が伝わってくるのだ。
音楽面でのトピックは、初めてプリキュアシリーズの劇伴を担当する作曲家・深澤恵梨香の参加。深澤は劇場作品や舞台、ゲーム等の音楽で活躍しているが、連続TVアニメの音楽を単独で担当するのは初めて。既存作品のイメージがないぶん、「どんな曲を書いてくれるのか」と期待がふくらんだ。
深澤恵梨香がインタビューやコラムでたびたび語る言葉が「あて書き」である。「あて書き」とは脚本家が役を演じる俳優を想定して脚本を書くことだが、深澤は演奏家を想定してスコアを書く意味で使っている。
劇伴音楽の制作ではインスペクター(通称インペク)と呼ばれる演奏家のコーディネーターがスタジオミュージシャンを集めて録音を行うのが一般的だ。その際に作曲家が「トランペットは○○」「ギターは○○」とミュージシャンを希望することがある。その多くは、「ファーストコールミュージシャン」と呼ばれる実力のある演奏家である。作曲家が演奏家を指名することは広く行われていることだ。ただし、演奏家のスケジュールの都合などで、その希望がかなうとは限らない。
深澤恵梨香の「あて書き」はこれとは少し異なるようだ。深澤はミュージシャン1人ひとりに直接声をかけて参加してもらい、最初から誰が演奏するかを想定して、それこそ、1人ひとりの顔を思い浮かべながらスコアを書くという。深澤いわく「スコアは演奏家へのラブレター」なのである。「こう書けばこう演奏してくれる」という信頼関係が、完成した音楽を単に「譜面どおりに演奏した音楽」以上のものにしている。
プリキュア20作目の音楽を担当するという大役を任された深澤恵梨香は、過去のシリーズを観て、サントラもすべて聴いて、それをいったん置いた上で新しいものを作ろうと作曲に取りかかった。
『ひろがるスカイ! プリキュア』は「ヒーロー」がテーマとして掲げられている。タイトルの「ひろがる」は「Hero Girl」とのダブルミーニングだ。「ヒロイン」ではなく「ヒーロー」であるところにスタッフのこだわりがある。
音楽作りも「ヒーローってなんだろう」と考えるところから始まった。深澤恵梨香は自分なりのヒーロー像をスコアで表現し、さらに録音時に、ミュージシャンにそれぞれのヒーロー像を思い浮かべながら演奏してもらった。「ヒーローはこうだ」と決めるのではなく、それぞれの考えるヒーロー像を反映した音が集まって、ヒーローの音楽になる。「ヒーローとは?」と模索しながら進める音楽作りは、本編のソラの姿に重なる。
オーケストラはプリキュアシリーズ最大規模となる50人以上の編成。トランペット6本、ホルン6本など、金管が厚い編成になっているのが特徴だ。一部シンセやエレキ楽器も使われているが、大スケールのオーケストラサウンドを中心にした生音重視の音楽である。いくつかの曲では、主題歌歌手の石井あみがコーラスで参加している。
本作のサウンドトラック・アルバムは「ひろがるスカイ!プリキュア オリジナル・サウンドトラック1 プリキュア・サウンド・ミラージュ!!」のタイトルで、5月31日にマーベラスからリリースされる予定だ。
収録曲は以下のとおり。
放映開始前に本作のために制作された楽曲は約80曲。アルバムにはその中から38曲を収録した。
1曲目に収録した「ひろがるスカイ!」は本作のメインテーマ。「空」と「ヒーロー」をイメージした曲になっている。冒頭に聴こえてくるのは、エリックミヤシロによるトランペットソロ。もちろん、エリックミヤシロの演奏を想定して書かれたスコアである。そのトランペットの響きに呼ばれるように、ほかの楽器が少しずつ加わってくる。ヒーローのもとに次々とヒーローが集まってくるようなイメージだ。筆者は梁山泊に英傑が集う「水滸伝」を想像してしまった。この曲は第1話で、ソラがプリキュアの力を手に入れる重要な場面に選曲されている。
オープニング主題歌を挟んで、トラック3は「空の王国スカイランド」。第1話のアバンタイトルで、ソラがスカイランドの都にやってくる場面に流れた曲だ。6本のホルンの音を生かした雄大な曲想で、空に浮かぶ王国のファンタジックな情景が描写される。番組が始まったとたんにこの曲が流れて、「おおーっ」と思った人も多いだろう。
サブタイトル音楽に続いて、「ソラシド市でこんにちは」(トラック5)、「おしゃべりしましょう」(トラック6)と、使用頻度の高い日常曲を並べた。木管の響きが優雅な「ソラシド市でこんにちは」はクラシカルな室内楽風。ピアノソロを中心にした「おしゃべりしましょう」はラグタイムやジャズの雰囲気。どちらも第1話でソラとましろの出会いのシーンに流れていた。
トラック7「ランボーグ出現」はエレキギターがうなるロック。ランボーグ出現シーンによく選曲されている危機描写曲だ。
続くトラック8「激闘の嵐」は第1話で生身のソラがランボーグに向かっていく場面に流れた曲。以降のエピソードではプリキュア対ランボーグの場面によく選曲されている。プリキュアとランボーグの戦いをアップテンポのロックサウンドが描写する。スリリングな曲調は思わず「カッコいい!」と口に出してしまうほど。
そしていよいよお待ちかね。変身BGM「スカイミラージュ!トーンコネクト!」(トラック9)である。これまでのシリーズの華麗でキラキラした変身BGMとはひと味異なる音楽になっていることに注目。イントロのあと、抑えた曲調になり、続いて同じフレーズをさまざまな楽器が変奏していく展開。深澤恵梨香によれば、変身するソラの緊張感と期待感、そして徐々にプリキュアの姿が現れてくるようすを表現しようと考えたという。既成のイメージにとらわれない、ダンス音楽的な躍動感あふれる曲になった。
次のトラック10「ヒーローの出番です!」は第1話のキュアスカイ初登場シーンから使われているプリキュア活躍曲。メインテーマのメロディをアレンジした曲だ。オーケストラが奏でるスケールの大きなヒーローサウンドが爽快。
ここまでは、第1話をイメージした選曲と構成である。
トラック11「朝の息吹」からは、日常曲、コミカル曲、心情曲を並べ、ソラとましろの平和な(ちょっとユーモラスな)日々をイメージしてみた。アコースティックギターをフィーチャーした「そばにいるよ」(トラック19)、「誰かを思う夜」(トラック20)は、本編でもいい場面で流れていた胸にしみる曲だ。
アイキャッチ音楽を挟み、トラック35「神秘の扉がひらく」からは、ソラがスカイランドに帰還する第14話、15話のエピソードをなんとなくイメージして構成した。「なんとなく」というのは、構成したとき、第14話、15話は放映されておらず、使用される曲を想像しながら選曲したからである。放映が終わって、その想像は大きくははずれてなかったことがわかり、ほっとしている。
「神秘の扉がひらく」は第13話でスカイランドにつながるトンネルが開いた場面に流れていた神秘的な曲。
スカイランドの情景をイメージした「スカイランドの城」(トラック23)、「王都のにぎわい」(トラック24)が続き、ファンタジックなムードが高まる。「スカイランドの城」はクラシック音楽風の格調高い曲、「王都のにぎわい」は民族楽器を取り入れたエキゾティックでにぎやかな曲。どちらも第14話でソラたちがスカイランドの王と王妃に謁見するシーンで使われた。
「ヒーローになるために」(トラック25)と「猛烈にがんばります」(トラック26)はソラの特訓やトレーニングのイメージで収録。「ヒーローになるために」は第12話のソラの特訓シーンで流れ、第14話でソラがスカイランドの護衛隊に入隊するシーンにも使われていた。
トラック27「あこがれを胸に」は希望やあこがれをイメージした曲。第2話でソラがあこがれのシャララ隊長との出会いを語る場面で初めて使用された。第15話でソラが再会したシャララ隊長と語らう場面にも流れて、ふたつのシーンを結びつける役割を果たしている。ストリングスと木管が演奏するしみじみとした曲である。
トラック28「不安な雲行き」から雰囲気が変わり、アンダーグ帝国とプリキュアの戦いをイメージした構成になる。アルバムの中でもシリアスで緊迫感のある曲が続くパートだ。
トラック30「アンダーグ帝国」は、いまだ全貌が明らかでない敵・アンダーグ帝国のテーマ。
トラック31「嵐の前兆」から「息詰まる攻防」「迫りくる強敵」とバトル音楽が続いて、アンダーグ帝国の襲撃とプリキュアの激闘を表現する。手加減なしの激しいサウンドが燃える。熱気あふれる演奏はサントラでじっくり味わっていただきたいところ。
沈んだ曲調のトラック34「砕かれた希望」はプリキュア敗北のイメージ。その暗いムードを打ち破るように、トラック35「胸に燃える怒り」が熱い思いと強い決意を表現する。「胸に燃える怒り」は第15話でシャララ隊長がひとりで超巨大ランボーグに向かっていく場面に流れて、悲壮感を盛り上げた。
このままアルバムを終わらせるわけにはいかない。トラック36「翔べ!ヒーローガール」、トラック37「プリキュア・アップドラフト・シャイニング!」は、プリキュアの反撃と勝利をイメージして並べた。颯爽とした「翔べ!ヒーローガール」は「ヒーローの出番です!」と並ぶプリキュア活躍曲。「プリキュア・アップドラフト・シャイニング!」はキュアスカイとキュアプリズムがふたりで放つ浄化技の曲だ。
最後にエピローグをイメージして、平和なシーンに使われる2曲を収録した。
トラック38「心の手をつないで」は友情のテーマ。第2話でソラとましろが友だちになる場面(ブラス、ギター、パーカッション抜きバージョンを使用)、第5話でキュアプリズムがキュアスカイに「あなたは私の友だち」と言う場面など、ソラとましろの友情を描く大切なシーンを彩った。ふたりの場面を思い出しながら聴くとキュンキュンする。
トラック39「澄みわたる空」はハッピーエンドの曲。メインテーマのアレンジ曲のひとつである。木管とストリングスによる軽快なタッチの導入に始まり、途中からピアノソロとストリングスのしっとりとした曲調に転じる。シーンの雰囲気によって、曲を頭から使ったり、ピアノソロから使ったりできるように作られている。曲のラスト、トランペットソロがメインテーマのモティーフを奏で、その音が空に吸い込まれるように消えていく。1曲目に収録した「ひろがるスカイ!」と対をなす構成である。このアルバムもトランペットソロに始まり、トランペットソロに終わる。そのあとにエンディング主題歌と予告音楽が入って、アルバムは締めくくられる。
自分で言うのもなんだけれど、いいアルバムができたなあと筆者は思っている。
『ひろがるスカイ! プリキュア』第1話の放映日を、深澤恵梨香はドキドキしながら迎えたという。新しい音楽がファンにどう受け止められるか怖かった。しかし、いい音楽を作ったという自信はあった。
心配は杞憂だった。新しいプリキュア音楽はファンに好評で、SNSにも好意的な感想が流れた。深澤が音楽に込めたヒーローへの思いは、しっかりと視聴者に伝わったようだ。
この音楽を作った全員がヒーローです。とソラならヒーロー手帳に書いてくれるんじゃないかな。
ひろがるスカイ!プリキュア オリジナル・サウンドトラック1
プリキュア・サウンド・ミラージュ!!
Amazon
小黒 『泣きたい私は猫をかぶる』の企画はどこから始まってるんですか。
佐藤 これは山本幸治さんから始まった企画ですね。前から折に触れ「岡田さんとサトジュンさんで映画を1本やりましょう」と言っていて、やっと実現したのがこれですね。でも、結局配信になったんだよね。
小黒 何歳ぐらいのお客さんをイメージしてたんでしょうか。
佐藤 中学生ぐらいの子達と大人も、みたいな気分ですかね。ただ、「中学生はこういうものを観るよ」という情報やデータをもらってるわけじゃないので、単に推測ですけど。
小黒 コロナ禍の影響でNetflix配信になったんですよね。最初は「Netflixのお客さんにはストライクではないんじゃないの?」と思いました。実際には好評だったわけですけど。
佐藤 まあ、今でもNetflixのお客さんの層自体、僕は分かんないんだけど(笑)。
小黒 意外と家族で見てる人が多かったんですかね。それに、大人が観て喜んでくれたんですかね。
佐藤 「分かる分かるその感じ」みたいな反応が来たのは、中高生のほうが多かった印象ですけどね。大人になると「ムゲみたいな子を見るのはつらいです」になっちゃう。
小黒 じゃあ、共感してもらいたい人達に共感してもらえたということなんですね。
佐藤 かな? 具体的には分かんないからね。個々の反応ってTwitterで見るぐらいしかないので分からないですけど。
小黒 監督が佐藤さんと柴山さんの連名になってますけども、どういう仕事分けだったんですか。
佐藤 そもそもは、監督と助監督ぐらいの感じだったんだけども、僕が1人でコンテをやるんじゃなくて、柴山君にもコンテを沢山やってもらおうと思ってやってもらったんです。現場のコロリドも、その時点ではアウェイなので、どのアニメーターがどういう画が得意かも分かんない。そこを柴山君が仕切ってるので、途中で「やっぱり柴山君も監督じゃない?」という感じになって、このかたちで落ち着いたんですよ。
小黒 なるほど。
佐藤 実際の現場は基本的に柴山君が回していたけど、柴山君がキャパオーバーだったところをむしろ僕が手伝うみたいな感じ。原画チェックとかね。音響周りは基本的に自分でやるっていう方向ですけど、そこは他の作品と変わらない。
小黒 絵コンテの序盤は佐藤さんですよね。
佐藤 はい。
小黒 全体はどのぐらい描いてるんですか。
佐藤 どうかなあ。6:4ぐらいで柴山君が多く描いてんじゃないかな。僕がすぐに現場に入れなかったのもあって、柴山君にどんどん先行してやってもらってたから、「じゃあ、ここもうちょっと柴山君やってくれる?」という感じで増えたような気がする。
小黒 そうなんですね。
佐藤 日之出っていうキャラクターの家を、柴山君の実家をモデルにしてやることになったので、日之出周りはほぼ柴山君のコンテです。ムゲの部屋のシーンは柴山君の担当が多いかな。結構な物量をやってるはず。
小黒 お話は誰が作ってるんですか。
佐藤 これはベースの部分から、岡田さんです。
小黒 岡田さんの出してきたアイデアやプロットに、佐藤さんがアドバイスをしたり、注文を付けたりして作っていったと。
佐藤 そんな感じですね。
小黒 岡田さんにしてはソフトな思春期ものですね。
佐藤 岡田麿里的には、サトジュンシフトな書き方をしてると思うんすよ。「佐藤さんならこういう感じが得意でしょ」という書き方をしてる。
小黒 なるほど。
佐藤 打ち合わせで「岡田さんのマックス、やりたいものを書いてもらっていいですよ」ということも言ったと思うんだけど、多分そうではなく。きっと「それは他の作品でやってるんでいいです」ってことなんだよね。
小黒 ああ。
佐藤 「私はサトジュンに合わせた脚本を書くのである」っていう意思が多分あるんじゃないかと思うけど(笑)。直接聞いたわけじゃないけどね。
小黒 ちょっと下品なものとか、ドロドロしたものは置いといてみたいな。
佐藤 多分そんな感じで、やってくれてると思うんだけど。こっちは下品なものでも全然いいっすよと思ってんだけど。
小黒 岡田さんが本当にやりたいものが、ドロドロしたものなのかどうか分からないですけどね。
佐藤 そうなんです。岡田さんの色々な作品を観ていくと、基本的にはピュアなんだなっていうことが、僕の中では分かったので。
小黒 中学生とかがエロいことを言って、周りの人を当惑させたいみたいなムードを岡田さんには感じるんですよね。
佐藤 うん。
小黒 別にそういうところが自分の表現だと思ってるのかどうか分かんないっすよね。
佐藤 それが自分の表現だとは思ってないだろうけど、そういうものをタブー視するのが気持ち悪いと思ってるんじゃない。
小黒 ああ、それはそうですね。
佐藤 当たり前にあるものは当たり前に書きたいですよ、っていうところはあると思うんで。それも含めて描かれる作品世界はやっぱりピュアだなって。悪意は悪意としてちゃんと出てくるピュアさみたいなものを感じるね。
小黒 僕の中でのベスト岡田麿里作品は『臨死!!江古田ちゃん』ですよ。
佐藤 演出がみんな違うやつでしょ。
小黒 そうですそうです。杉井ギサブローさんが、自分の担当回で岡田さんを指名してたんです。短編なのであっという間に終わるんですけど、岡田さんの生々しさが全開になってる。短編なので、生々しいだけで終わるんです。
佐藤 へえ(笑)。
小黒 ああいうものをずっと書いててほしい。
佐藤 それも結構疲れるだろうけどね。『泣き猫』が終わってから、岡田さんと対談したりする機会がなくて喋れてないので、答え合わせができてない。
小黒 なるほど。
佐藤 コンテをやってる時も、上がったコンテを全部回して「意見あったら返してね」と言っていたんだけど、ご意見が来なかったので、なにを思って見てるのかが分かんないところがある。「岡田さんはこうです」と喋れないところもあるんだけどね。
『いせれべ』OPの話、続き。
【c-020〜023】モテモテ優夜の現実世界と異世界の女子シャッフル。わざとバラしてその中から、佳織に絞ろうとしたんだと思います。
【c-024】走りは当然全原画! 【c-025】“佳織の腕を掴む優夜”こーゆーカットを作画する際のコツは「一度フレームからOUTさせかけてから、引き戻す!」テレコム時代『BATMAN』で友永和秀師匠から習ったまんまを再現。
【c-026】“佳織を捕まえた優夜のまま現実世界から異世界へBG(背景)スライド!”曲を聴いてかなり早い段階で思いついたカット。異世界の背景は、さて何処でしょう? 原作既読の方なら分かっていただけるかと。
【c-027∼029】ちょっとドラマチックなムードにしてみました。c-029はやっぱりリップシンクロ。
【c-030】前カット(c-029)のシルエットから大きくT.B! 白ベタに黒シルエットのツーショットは『ROCKY』のキービジュアル(?)のイメージでした。“男女シルエットに縦横に流れるメインタイトル”は同じく曲を聴いて、おそらくいちばん最初に思いついたカットかと。
【c-031∼033】の点描は現放送話数的にネタバレが含まれるのでここでは語りません。
で、最後のメインタイトルの出し方は撮影さん任せに各キャラの点描を自分が監督・田辺に指示して手配させました。実は「いせかいでちーとすきるを~」のタイトルをリップシンクロさせて読ませているのですが、編集時ズタズタに詰めていったら、認識できなくなってしまいました……(汗)。
OPに関して総括すると、まずはやっぱり
月詠みさんの「逆転劇」(作詞・作曲:ユリイ・カノン)が、
大変良かった!!
と。確かプロデューサーさんより「曲のイメージは?」と訊かれて、「ドラマチックで抑揚ありのアップテンポ」と答えたのですが、想像をはるかに上回る原作コミット感! には只々驚きました。最高の主題歌ありがとうございました!
そして、“主題歌の力強さ”に加え、
キャラデ&総作監・木村博美の“美しい画”!!
でしょう! 全カットにびっしり作監修正を入れてくれて、フィルム全体に“艶”を出してくれました。木村曰く「今まででいちばん満足な修正を入れられた」そうです。落ち着いたら何かの機会に彼女の作監修正集をお披露目したいものです。
まあ、これだけの好条件がそろっていたら、そりゃあ良いOPになるはずです。
てことで仕事に戻ります。
「ANIMATOR TALK」は第一線で活躍されているアニメーターの方達にお話をうかがうトークイベントです。今回は『モブサイコ100』シリーズのキャラクターデザイン、『犬王』の総作画監督等で活躍している亀田祥倫さんをゲストに迎えて開催します。
イベントでは亀田さんが影響を受けたアニメーターについての話をはじめ、色々なテーマでトークを展開する予定です。今回のイベントでは開場時にアンケート用紙を配ります。アンケートに答えてくださった方の中から抽選で、亀田さんからのプレゼントがあります。
開催は6月3日(土)昼。会場は阿佐ヶ谷ロフトAです。チケットは5月20日(土)12時から発売。購入方法については、阿佐ヶ谷ロフトAのサイトをご覧になってください。
今回のイベントも配信がありますが、配信するのはイベントの第一部のみ。配信は短めのものとなるかもしれません。リアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。
■関連リンク
阿佐ヶ谷ロフトA
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/248802
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第205回アニメスタイルイベント | |
開催日 |
2023年6月3日(土) |
会場 |
阿佐ヶ谷ロフトA | 出演 |
亀田祥倫、小黒祐一郎 |
チケット |
会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,500円、当日 1,800円(税込・飲食代別) |
小黒 2015年は『たまゆら~卒業写真~』(OVA・2015年)、『ARIA The AVVENIRE』(OVA・2015年)。
佐藤 はいはい。
小黒 そして、2016年は『たまゆら~卒業写真~』が続いていて、それから『あまんちゅ!』(TV・2016年)。『あまんちゅ!』はとてもよい環境で作ることができたのではないかと思うんですが、どうでしたか。
佐藤 そうね。環境がよすぎて、逆にどうしていいか分かんなくなるっていう (笑)。
小黒 『あまんちゅ!』はスルスルッと観れますよね。
佐藤 『あまんちゅ!』は原作の物語をちゃんとアニメにできているところがありますよね。『ARIA』の時は、大量の原作をワンクールでまとめなきゃいけなかったから、結構改変をしてるんですよね。原作の2つの話を合わせて1つにして、TVのお話を作ってるんだけど、『あまんちゅ!』の時には、基本的に原作のストーリーにちゃんと沿ってやろうっていう意図を持ってやってるんですよ。
小黒 なるほど。
佐藤 『ARIA』の時も「原作の『AQUA』からちゃんと観たいな」という声がやっぱりあったんです。なので、『あまんちゅ!』ではそうやっていこうと。その代わり、「原作が続く限りずっとアニメ作ってくださいよ」って松竹に言ってたんだけど、なかなかそうならなかった。ただ、J.C.(STAFF)の現場が、我々が知らないぐらいクオリティを求める人達で(笑)、リテイクが多かった。ラッシュチェックとかになると、こっちの胃が痛くなってくるぐらい直しを出してね。「え、それはそのままでもよくないスか?」ってつい言いたくなっちゃうみたいな。
小黒 『あまんちゅ!』は本当に綺麗にできてますよね。海の中の描写も綺麗ですよ。
佐藤 そうなんですよ。綺麗です。作画もちゃんと人を用意しているし、コンスタントにこれを作っていくのはやっぱ凄いなあという、これまで見たことのない世界で(笑)。
小黒 2017年はスタジオコロリドの『FASTENING DAYS 3』(配信・2017年)で音響監督をやっていらっしゃる。
佐藤 『FASTENING DAYS 3』は、YKKの企業PVみたいなやつですね。
小黒 そうです。これは音響監督だけの参加なんですか。
佐藤 そうですそうです。『泣き猫(泣きたい私は猫をかぶる)』(配信・2020年)をやってくれてる柴山(智隆)君が監督のやつで、音響をちょっと面倒見ましょうかって感じでやってるやつですね。そんなに長くもないですし。
小黒 そうか。この年からツインエンジンの所属なんですね。その前はどこにいたんですか。
佐藤 TYOアニメーションズです。TYOを離れて、1年ちょっとぐらいはフリーでいたのかな。
小黒 ということは『たまゆら』の途中でフリーになってるんですか。
佐藤 2016年の『卒業写真』でリテイク作業をやってる途中に、フリーになったんですよ。7月でリテイク作業が終わるので、そのタイミングで会社を辞めてフリーになって、というつもりだったんですよ。
小黒 なるほど。
佐藤 でも、リテイクが10月まで続いちゃったんですよね。コロリドには、シナリオ構成のアドバイスとかで、ちょいちょい行ってはいたんだけど、ツインエンジンに正式に入ったのは2017年からですね。
小黒 ツインエンジンと関わったのは、山本(幸治)プロデューサーからのお声がけなんですか。
佐藤 大元は岡田麿里さんだと思います。岡田麿里さんがツインエンジンで映画をやるにあたって、サトジュンを呼んでくれたんだと思っていますね。その映画が『泣き猫』になるんですけど。
小黒 『泣き猫』の参加は岡田さんのほうが先なんですね。
佐藤 同時かな。「サトジュンさんと岡田さん、ツインエンジンで映画やりましょう」って感じで、ゆるっと始まってるんです。その前から『ペンギン・ハイウェイ』の監督の石田(祐康)さんがオリジナル作品を準備していて、若干行き詰まってる時に、構成会議に岡田さんと僕が行ってアドバイスしたりしつつ、自分達の作品をどうしようかという話をしている。そんな期間が結構あるんです。
小黒 なるほど。
佐藤 最終的には映画をやろうねっていう気分で入ってて、その前に石田君の協力をするっていう感じでしたかね。
小黒 『ペンギン・ハイウェイ』では、クリエイティブアドバイザーなんですね。
佐藤 『ペンギン・ハイウェイ』もコンテでのアドバイスをして、最近情報が出た『(雨を告げる)漂流団地』も一応アドバイザーはしているという感じです。
小黒 佐藤さんが所属することになったのはツインエンジンで、コロリドはツインエンジンの関連会社だから繋がりがあると。
佐藤 そうですね。コロリドチームと組ませたいっていう意図はあったんじゃないかな。石田君達を育てるって意味もあるけれども、僕はずっとコロリド班のような役割だったのかな。
小黒 それは山本プロデューサーの采配ですか。
佐藤 ですね。作品の適性的にはこっちじゃないのっていう振り方だと思いますけど、他のスタジオは全然知らないので本当の狙いは分からないですね。
小黒 次に『HUGっと!プリキュア』ですが、アニメスタイルの紙の本のほうでも伺ってるので、具体的なことはみんなそっちを読んでねって感じですけど(編注:「アニメスタイル インタビューズ 01」で『HUGっと!プリキュア』についてのインタビューを掲載)。
佐藤 はい。
小黒 『HUGっと!』(TV・2018年)をやってる時は、ツインエンジンの所属だったわけですね。
佐藤 そうですそうです。
小黒 現状はツインエンジンの所属で、どこのスタジオで仕事しても構わないみたいというかたちではある?
佐藤 基本的にそのやり方ですね。『あまんちゅ!』の第1期はフリーだけど、『(あまんちゅ!)~あどばんす~』(TV・2018年)の時は確かツインエンジンです。
小黒 じゃあ、ギャラはまずツインエンジンに入るんですか。
佐藤 そうです。
小黒 比べてみると、TYOにいた頃より動きやすくはなった?
佐藤 それはあまり変わらないですね。ただ、ちゃんと制作に向き合える感じにはなりましたよね。TYOの時は、監督なのにプロデューサーのサポートしたりとか、そういうこともせざるを得なかったので。
小黒 2020年頃から、佐藤さんは長編を次々手がけたりして、仕事が活発になってるじゃないですか。これはTYOから離れたから、というだけではない?
佐藤 それは、時代的に劇場作品のほうが、ビジネス的に読める流れになったせいでしょうね。
小黒 話は前後しますが『HUGっと!プリキュア』の手応えはいかがでしたか。
佐藤 『HUGっと!プリキュア』はやっぱり勉強になりましたね。この時は、目標があったんですよ。
小黒 目標ですか。
佐藤 これまで『どれみ』とか『セーラームーン』をやってきて自分が得てきたものがあるわけですよ。「女児ものでは、こういうふうにやるといいよ」とか、「おもちゃ屋さんとのやりとりでは、こういうやり方があるよ」とか、あるいは「音楽はこう付けましょう」「こういうツールがあるよ」。それを若手とか次世代に伝えられればいいなと思った。思ったよりも現場の人達にちゃんと継承されているものもあったけれども、なくなってるものも結構あったんですよね。
『セーラームーン』より昔だと、おもちゃメーカーとアニメの現場スタッフとのやりとりは、そんなになかったんですよね。自分が東映で演出助手をやってる頃は「おもちゃメーカーはおもちゃのことは分かるがアニメのことは素人だよね」という感じで、向こうも「アニメの人はおもちゃのことは分からないよね」というふうだったから、あんまりキャッチボールがなかった。それが、ちゃんとキャッチボールをして子供のほうを向いて楽しいものを一緒に作りましょうよ、というふうに協力できるようになっていったんですね。『どれみ』でもそういうふうにやって、多分、自分が離れた後も、五十嵐(卓哉)もそうやってたと思うんだけど、『HUGっと!』で久しぶりに東映の現場に入ってみたら、また分断してんですよ。
小黒 なるほど。
佐藤 おもちゃについてはこちらの意図が届かないし、おもちゃ会社側の意図もこっちでは汲みきれない、という感じになってて、それは驚きでもあったけれども「元に戻っちゃうのか」と残念に思ったのが大きかったです。
アフレコは昔と変わらずに演出がやってるけど、自分で現場を取り仕切ってやる方法が伝えられてなくて。ミキサーである川崎(公敬)君が、ディレクションに近いことをやらざるを得なくなってて、演出さん達は、例えば役者の気分を上げるとか、盛り上げるということに気持ちが向いてない。役者とキャッチボールするのは、演出じゃなくて川崎君がやってた。これは1年で修正できるとこでもないので、様子を見ていただけだったけれど、残念は残念だったかなと。
小黒 で、アニメーターは抜群に巧くなってたと。
佐藤 アニメーターはめちゃめちゃ巧くて。「こんなすげえことやる人達いたんや」ってことをやってて、画面は凄くいいんです。
自分が女児ものに参加したのは久々だったこともあって、色んなことが再確認できたんです。子供達を呼んで、前のシリーズを上映して、子供達の反応を見るといったこともやってるんだけど、例えば『プリキュア』の変身の部分って映像は豪華だけど、結構長いでしょ。
小黒 長いですね。
佐藤 「短くしたほうがいいんじゃないのかな」って思ったんだけど、プロデューサーとかは「この変身シーンを子供達は楽しみに観ているんだ」と言うのでそうかそうかと思ってたんですよ。でも、実際に子供達の反応を見てると、変身シーンを観てる子は観てるんだけど、長いとよそ見するをする子もいるんだよね。「初めての時は観るかもしんないけど、何度目かだとやっぱりそうなるよね」と確認ができる、とかね。『HUGっと!』を観た子供達がどう感じたかっていうのは、20年後になんないと分かんないなと思う。でも、まず目の前の子供達に向けて作るということはできたと思ってんだけどね。
小黒 はい。
佐藤 だから、凄くのびのびやったって感じでもないけど、やりにくさは別になかったっていうかね。
2月の『ヘンダーランドの大冒険』、4月の『アクション仮面VSハイグレ魔王』に続き、新文芸坐とアニメスタイルは5月も劇場版『クレヨンしんちゃん』をお届けします。
5月20日(土)と21日(日)に上映するのはシリーズ第3作の『クレヨンしんちゃん 雲黒斎の野望』です。20日(土)は19時50分からのレイト上映で、21(日)は14時50分からの上映となります。
20日(土)には本郷みつる監督と原恵一さんのトークを予定しています。また、今までと同様に、トークの後に本郷監督が刊行した同人誌「本郷みつる/足跡」の販売をする予定です。
チケットは開催日の1週間前から発売。チケットの発売方法については、新文芸坐のサイトで確認してください。
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【新文芸坐×アニメスタイル vol. 159】 |
開催日 |
2023年5月20日(土) 開演/19時50分~ |
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会場 |
新文芸坐 |
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料金 |
20日(土):一般1900円、各種割引・友の会1500円 |
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トーク出演 |
本郷みつる(監督)、原恵一(脚本・絵コンテ)、 |
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上映タイトル |
『クレヨンしんちゃん 雲黒斎の野望』(1995/96分/35mm) |
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備考 |
※トークショーの撮影・録音は禁止 |
●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/
『いせれべ』の制作も佳境で(汗)!
なんとなく前回に続き、もう少々オープニングの話——カット頭から。
冒頭の異世界への扉が開く【c-001~004】、まあベタにやりました。で、【c-005】歌詞の一部とリップシンクロ。初監督『BLACK CAT』でも似たことをやってました、そう言えば。
続いて【c-006】例によって“OP内サブタイトル”。これも初期の監督作品からずっとやってます。『てーきゅう』までも全期これ。たとえワンパターンだと揶揄されようとも、フィルム全体の構成として、やっぱりサブタイトルはOP内なのが好き。単純に
OPでそのアニメが始まったのに、CM開けに“もう一度改めて始める”感がまだるっこしい!
てだけ。
【c-007】雑踏の中の優夜、変身前~変身後。自分がどれだけ変わっても、世界にはなんの影響もないモノです。【c-008~010】ナイト・アカツキ・ウサギ師匠ら、モフモフ系マスコットキャラの紹介~矢継ぎ早に。ウサギ師匠対優夜のアクションはコンテに自分で画を足してラフ原、森亮太君がそれを清書した後、木村(博美)作監。勢いだけ……。
【c-012】デブ~イケメンに劇的変身——サンジゲンさんの撮影に助けられたカットです。本当に感謝! 【c-013~015】メインキャラ紹介。とにかく“走って! 回り込んで! 髪・スカートなびく!”紹介だけはやりたくない、と!
【c-016】またリップシンクロから、今度はレクシア。正直ここ苦労した記憶があります。何しろ今回のアニメ化範囲に於いて、ネタバレしない範疇で描いていいアクションが、各キャラの内容的に限られているからです。だからカット尻、珍しく歌詞に合わせて大量の“花弁”が舞ってる訳。ここも木村作監に救われてます!
【c-017】やっぱり、優夜の人格形成に多大な影響を及ぼしたはずのお爺ちゃんの死は入れたかったです。【c-018】双子の弟妹に見下され続ける優夜(変身前)。“虐め”についてはまた改めて回を設けるつもりです。【c-019】矢を放つ少女~寄ってリップシンクロ。ここは原画まで自分で描きました。
——てとこで、残り&総括はまた次回。仕事に戻ります。
腹巻猫です。4月29日に国立代々木競技場で「東京伴祭 -TOKYO SOUNDTRACK FESTIVAL- 2023」が開催されました。林ゆうきさんが立ち上げた、アニメの劇伴だけを演奏する音楽フェスティバルです。昨年京都で「京伴祭 -KYOTO SOUND TRACK FESTIVAL-」が開催され、無観客・配信のみの公演ながら、大いに注目を集めました。今回は東京に会場を移し、有観客での初の公演。会場にはアニメファンやサントラファンが集まり、大いに盛り上がったようです。
「ようです」と書いたのは、実は筆者は当日会場に行けなかったからです。早くからチケットを取って楽しみにしていたのに、開催数日前から38度の熱が出てダウンし、当日も外出できるまでには快復せず、涙を呑みました。しかし後日、チケット購入者が観られる動画配信のサービスがあり、自宅で公演の映像を観ることができました。配信万歳。今回は、このフェスで出会った音楽について書いてみます。
この20年ほどのあいだに、アニメの劇伴を演奏するコンサートは珍しくなくなってきた。人気のある作品や作曲家にフォーカスしたコンサートがたびたび開催されている。
しかし、さまざまな作品、作曲家の音楽が聴ける、劇伴に特化した音楽フェスは珍しい。きっかけは、ロックやジャズで行われているような音楽フェスティバルがアニメ劇伴でできないか、という発想だったという。その企画が作曲家の発案で立ち上がり、実現したところが「京伴祭」「東京伴祭」のユニークなところである。劇伴の作曲家が自ら作品を発信していく時代になった——。そう実感させてくれるイベントだ。
さて、「東京伴祭 2023」に参加した劇伴作曲家は、林ゆうき、高梨康治、宮崎誠、小畑貴裕の4人。各作曲家が40分〜1時間ほどの持ち時間で自作を演奏する構成で、休憩時間を含めると4時間を超える長いフェスになった。
ミュージシャンは、キーボード、ギター、ベース、ドラムスにストリングス、ホーンセクションなどを加えた、サウンドトラック録音と同様の編成。実際に録音に参加したメンバーも多く、サントラと同じ音が聴けるのもうれしいところだ。
トップバッターは宮崎誠。『ONE PUNCH MAN』と『SPY×FAMILY』からアクション系の軽快な曲を中心に演奏。エレキギターがうなるロックサウンドの『ONE PUNCH MAN』とウッドベースがジャジーな『SPY×FAMILY』の対比もよかった。
2人目は高梨康治。『FAIRY TAIL』と『NARUTO疾風伝』を中心にした選曲。ケルトメタルの『FAIRY TAIL』と和ロックの『NARUTO』という、こちらもサウンドの違いが楽しめる構成。スピード感のある熱いナンバーで盛り上がった。
3人目は小畑貴裕。開催直前に参加が決まった関係で出演時間は短く、『約束のネバーランド』と『ニンジャラ』から1曲ずつの演奏。『約束のネバーランド』はメインテーマに「イザベラの唄」を組み合わせた、「約ネバ」ファンにはたまらないアレンジを聴かせてくれた。
トリは林ゆうき。前半は『ガンダムビルドファイターズ』『シャーマンキング』『からくりサーカス』などから1曲ずつ、後半は『ハイキュー!!』と『ぼくのヒーローアカデミア』から3曲ずつというバラエティに富んだ内容。上映される映像とのマッチングにもこだわり、観客にめいっぱい楽しんでもらおうという意欲が伝わるステージだった。
それぞれ代表作をしっかり聴かせるのはもちろん、「隠し玉」とも呼べる意外な作品が混じっていたのが印象に残った。
高梨康治は、現在シーズン2が放送中の『東京ミュウミュウにゅ〜【ハート】』からメインテーマ「地球の未来にご奉仕するにゃん【ハート】」を演奏。サントラ盤は6月に発売予定だから、このフェスが先行お披露目である(昨年開催された高梨康治のライブ「CureMetalNite2022」でも演奏されていたからライブ初演ではないけれど)。この曲、コーラスに主役声優が参加しているのがポイントで、今回のステージでも桃宮いちご役の天麻ゆうきがサプライズで出演してキュートなコーラスを聴かせてくれた。作品とサントラ盤のよい宣伝になったのではないか。
小畑貴裕が演奏した『ニンジャラ』は不勉強にして観たことがなかった。テレビ東京系で2022年から放送されている、ゲーム原作のTVアニメである。演奏されたのは「Final Battle」というスリリングなビッグバンドの曲。サントラは配信のみでアルバム2タイトルが発売されていた(「Final Battle」はVol.2に収録)。
こういう、知らなかった作品との出会いがあるのが、ライブやコンサートの醍醐味。多彩な作曲家、作品の音楽が聴けるフェスならではの楽しさだ。
フェスで演奏された曲は、アップテンポのノリのよいナンバーが多い。ライブやコンサートではそういう曲が盛り上がるので、選曲もそういう傾向になりがちだ。
しかし、林ゆうきが演奏した1曲目はしっとりした情感豊かな曲だった。今風に言えば「エモい」曲で、意表をつかれた。
それが『君は放課後インソムニア』のメインテーマ「君は放課後インソムニア」だったのである。
『君は放課後インソムニア』は2023年4月から放送されているTVアニメ。石川県の高校を舞台に、不眠症に悩む高校生・中見丸太と曲伊咲が、校舎の屋上にある天文台で出会い、ふたりだけの天文部員として活動を始める物語だ。
筆者はこの作品も観ていなかった。今さらながら配信で第1話から最新話までを追いかけて観た(配信万歳)。昨年(2022年)『よふかしのうた』という、やはり不眠に悩む中学生が主人公のTVアニメが放送されていたが、本作はその『よふかしのうた』から吸血鬼要素を除いたような印象である(お話はだいぶ違うが)。本作は「部活もの」でもあり、格別天文に興味のなかった主人公が、なりゆきで天文部員になってしまう展開が面白い。
4月スタートの作品なのでサウンドトラックはまだ発売されていないだろうと思ったら、4月19日にCDと配信でリリースされていたので驚いた。さっそくCDを入手した。気になった音楽がすぐに買えるのがネット時代のいいところだ。まんまと乗せられた気もするが、これも出会いである。
林ゆうきが手がけたアニメ作品には、スポーツものや冒険もの、SFアクションものが多く、躍動感のある音楽にファンが多い。いっぽうで、林ゆうきは劇場作品やTVドラマなどの実写作品で、繊細な心情描写に重点を置いた青春もの、恋愛ものもけっこう手がけている。『君は放課後インソムニア』は、青春もの・恋愛もの寄りの林ゆうきが楽しめるアニメ作品である。
本作のサウンドトラック・アルバムは「君は放課後インソムニア オリジナル。サウンドトラック」のタイトルでポニーキャニオンからリリースされた。全49曲収録。CDは2枚組になっている。収録曲は下記を参照。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0BX41M43S
発売時期が早いためだろう。曲順や曲名は劇中の使用場面にこだわらず、イメージアルバム的にまとめられている。これはこれで、楽曲を純粋に聴くことができるよさがある。「この曲がどんな場面で使われるのだろう」と思いながら放送を観る楽しみもある。
サントラを聴いて感じたのは、「不眠症」と「天体(宇宙)」を意識したサウンドになっているということ。ピアノやシンセのキラキラした音色を使い、深いエコー(リバーブ)やディレイをかけて浮遊感のあるサウンドに仕上げた空間系の曲が多い。「空間系」とは「空間の広がりを感じさせる」くらいの意味である。眠りと覚醒のあいだでゆらゆらする不安定な心情と星空の幻想的な情景を空間系のサウンドで表現しているのだろう。
それに対し、リズムを主体にした軽快な曲、ユーモラスな曲もけっこう作られている。こちらは学校生活や明るい日常の場面で流れることが多い。リズム系の曲を「昼の音楽」、空間系の曲を「夜の音楽」と呼ぶこともできる。昼と夜が音楽的に対比されており、しかも夜の音楽ほうが主役になっているのが、本作の音楽の特徴だ。
第1話で使用された楽曲を中心にサントラを聴いてみよう。
第1話の冒頭、眠れない中見丸太の描写に流れた曲が「能登星」(ディスク2のトラック1)。しっとりとしたピアノソロによる、夜の雰囲気の1曲。このメロディは、メインテーマ「君は放課後インソムニア」にも登場する。本作の音楽の核となるモティーフである。
続く学校生活の場面では、「夜ふかしなやつら」(ディスク1のトラック4)、「了解チョップ」(同じくトラック10)といったリズム系の曲やユーモラスな曲が活躍。「明るい高校生活」というイメージで、その明るさについていけない丸太の孤独感を強調している。
丸太が「どうしておれだけが変なんだろう?」と悩む場面に流れる曲は「半分だけの音」(ディスク2のトラック16)。ゆらめくシンセの音とアコースティックギターの音を組み合わせた空間系の曲である。ふわふわしたサウンドが丸太の気持ちを表現する。
丸太が校舎の屋上にある今は使われていない天文台に入り、その居心地のよさに感動したあと、思いがけなく曲伊咲と出会う場面。アコースティックギターとフルート、シンセなどが奏でる「朝が来る」(ディスク1のトラック3)が聴こえてくる。空間系の夜の音楽からさわやかな朝の音楽へと移行していく、展開のある曲である。
伊咲が不眠に悩んでいることを丸太に打ち明けるシーンでは、アコースティックギターとピアノ、シンセなどによる「今日の空は二度とない」(ディスク2のトラック14)が流れて、ふたりの気持ちの触れ合いを描写する。深い残響音が言葉にできない心情を表現する、リリカルな空間系の曲だ。
そのあと、天文台の中で語らううちにふたりが寄りそって眠ってしまう場面には、シンセと女声スキャットが幻想的に響きあう曲「星のじゅうたん」(ディスク1のトラック22)が選曲されている。プラネタリウムで流れていそうな、本作らしい空間系の曲のひとつである。スペーシィなサウンドがふたりにおとずれた「眠り」の幸福感を描写して、こちらも夢を見ているような気持ちにさせられる。
ふたりが天文台を出たあとは、リズム系の日常曲「活動準備!」(ディスク1のトラック8)、猫のツーちゃんのユーモラスなテーマ「ツーちゃん」(ディスク2のトラック5)が流れ、ふたたび昼の世界が描かれる。
第1話の終盤、伊咲が丸太に「夜のおたのしみ会を発足します」と宣言する場面。いよいよ満を持してメインテーマ「君は放課後インソムニア」(ディスク1のトラック1)が流れる。アコースティックギター、ピアノ、シンセ、ストリングス、女声スキャットなどによる、空間系のサウンドと青春アニメらしいさわやかさが合体した楽曲だ。「眠れないことを悩むより、楽しめばいいじゃない」と言われているみたいで、心が洗われる。
丸太と伊咲が夜の町を散歩するシーンには、軽快な「おもしろくしよう!」(ディスク2のトラック6)。夜のシーンなのにリズム系の「昼の音楽」が流れる選曲の妙が味わえる。夜こそふたりの「日常」であることが伝わってくる音楽演出だ。
第1話のラストは、ふたりが夜空を見上げて、伊咲が「こんな景色が見れるなら、眠れないのも悪くないね」とつぶやく場面。シンセとピアノ、ストリングスなどによるファンタジックな曲が感動的なシーンを彩る。曲名は伊咲のセリフと同じ「こんな景色が見れるなら、眠れないのも悪く無いね。」(ディスク1のトラック24)。夜の世界と星の世界の奥深さを感じさせる、神秘的な空間系の曲だ。
CDアルバムのディスク1の最後も、この曲で締めくくられている(厳密にはそのあとにアイキャッチ曲が収録されているが)。音楽だけ聴いても心地よいが、本編の映像を思い浮かべながら聴くと、なんとも切なく、温かく、輝く星の海に浮かんでいるような、複雑な気分になる。同じような曲調であっても、「ヒーリングミュージック」と呼ばれるジャンルの曲を聴いてもこういう気分にはならない。映像や物語と一体となることで心をゆさぶる、劇伴というジャンルの不思議である。
「東京伴祭 2023」で林ゆうきが『君は放課後インソムニア』の曲を取り上げてくれて、本当によかった。このフェスで曲を聴かなければ、もしかしたらこの作品を観ることも、サントラを聴くこともなかったかもしれない。同じような出会いが、「東京伴祭 2023」に集まった人たちにもあればいいなと思う。
林ゆうきは、この劇伴フェスに参加する作曲家をもっと増やし、海外からも観客が集まってくるような大きなフェスに育てたいと考えているそうだ。筆者も今後の公演が楽しみだし、こんどこそ会場で演奏を聴きたいと思っている。
そして、フェスではアップテンポのノリのよい曲ばかりでなく、『君は放課後インソムニア』のようなしっとりした癒やし系の曲も演奏する機会を設けてほしいなと思う。熱い曲でガンガンと盛り上がるステージがあるいっぽうで、別のステージではゆったりとした曲が演奏されて、気分を休めている人や夢見心地になっている人がいる。そんなフェスになるといいなと思うのだ。
君は放課後インソムニア オリジナル・サウンドトラック
Amazon
小黒 『SHORT PEACE「武器よさらば」』(劇場・2013年)では、ストーリーアドバイジングという役職ですが、これはどういう仕事だったんですか。
佐藤 カトキ(ハジメ)さんが演出をするにあたって、「自分だけの目線では分からないことがあるので、技術的な観点で1回見てくれないですか」というオファーをもらって、カトキさんのコンテを見るっていう役目ですね。でも、全然問題なくてなにも言うことがなかったので、「カトキさん、なにも言うことはないです」って言うことぐらいしかしてない (笑)。
小黒 なるほど。カトキさんとは、カトキさんが『ケロロ軍曹』でコンテを描いた頃からのお付き合いなんですか。
佐藤 『ケロロ』からですね。コンテ担当のカトキさんがホン読みに来られて、そこでの打ち合わせで議論をしたところが大きくて、コンテ自体ではそんなにやりとりはなかったですけどね。本当に面白かったので、勉強になりましたって感じでした。
小黒 なるほど。次にいきますと『絶滅危愚少女 Amazing Twins』(OVA・2014年)ですが、成り立ちが非常に分かりづらい作品ですよね。
佐藤 まあ、そうですね。池田東陽がこの時は生きていたんですけど、彼の会社エンカレッジフィルムズで作品をやりたいっていう話がずっとあった。それを実現させようという流れと、田坂さんと「次作どうしましょうね」と相談しているタイミングがあったんだと思うんですよね。それで、じゃあ一緒にどうですかと提案しました。これも『たまゆら』と同じように最初はOVAからスタートして、上手くいったら展開して、というざっくりとしたプランで進めてたやつです。
ただ、当時エンカレッジの制作システムがかなりガタガタになってる時だったので。お披露目上映会みたいなところで観せるはずだったんだけど、その上映会の1時間前までV編をやってて(笑)。その何時間か前には「カットがないです」みたいなことをやってたぐらいの現場だったんですよね。
小黒 なるほど。作品内容について、池田プロデューサーの意向は沢山入ってるんですか。
佐藤 いや、東陽も一緒に議論はしてますが、ベースになるものは僕のほうから出しています。プロデューサーや制作デスクと話をして、エンカレッジとしてどうしたいのかを聞いて「それを俺がまとめてやるよ」という気分ではあったんですよね。途中で池田が倒れてしまったので、とにかく作品を作りきらなければならなくなっていったんだけど、現場がドタバタしてて、カットの持ち運びもやる羽目になるっていう感じだね(笑)。
小黒 佐藤さんが制作進行みたいな仕事を。
佐藤 そうそう。制作デスクがそこまで回ってなかったから、「じゃあ、俺が直接行って聞いてくるんで」と、アニメーターのところに行って、「すいません、今日出さないといけないんで、手放してください!」ってお願いをしたりしました(笑)。
小黒 そこまでやられていたんですね。佐藤さんの企画的な狙いはどうだったんですか。
佐藤 双子だったけれど、片方が生まれることができなくて、脳内に意識だけが残ってる姉妹の話です。『バビル2世』が好きなので、超能力ものをやりたいなとは思ってたんですよね。それで、女子超能力活劇的ななにかをやりたいなって思ってやってる作品ですね。
小黒 てっきり池田さんが変身美少女ものをやりたくって企画したのかと思ってました。
佐藤 元々ずっと企画で動いていた『ウィッシュエンジェル(-翼は小さいけれど-)』っていう作品もあって、池田の好みはどっちかっていうと、そっちでしょうね。だけど、ビジネス的なところ考えると着地しやすいのはこっちだろうなっていうことでやることになったんです。でも、池田が死ぬことが分かっていたら、そちらをやればよかったと思わなくもないですけどね。
小黒 作品がスタートした時にはご存命で、完成する時には亡くなられていたわけですね。
佐藤 そうですね。そんな制作体制ボロボロのところになったので、それをなんとかしようとしてて、体を壊したんだろうとは思うんですけど。
小黒 岡田麿里さんはまとめ役だったんですか。
佐藤 そうですね。これも『たまゆら』の時の玲子さんと同じで、田坂さん的にはトピックになる人に参加してほしいということだったので、岡田さんにちょっと協力してくださいとお願いして。でも、忙しいのもあって、3回くらい構成を書いてもらったぐらいで、そんなに沢山キャッチボールをする感じではなかったです。
小黒 あ、そうかそうか。佐藤さんがいきなりコンテを描いてるから、岡田さんの仕事はプロットまでなんだ。
佐藤 そうですね。かなりラフなプロットまで、です。
小黒 画が、かなりいいじゃないですか。
佐藤 画は追ちゃん(追崎史敏)の画ですね。追ちゃんが作品のエンジンになってバリバリやってましたから。
小黒 追崎さんがラフ入れまくり、修正しまくりという感じなんですか。
佐藤 そんな感じです。伊藤(郁子)さんが作画と作監で入ってくれていて、相当密度を上げてくれたんですが、そうすると今度は制作が追いつかないっていう感じでもありましたけどもね。
小黒 これも『カレイドスター』ファンに向けて作ったという、ニュアンスはあったんですか。
佐藤 気分的にはそうですね。
小黒 おなじみのキャストも登場しますもんね。そうそう、子安(武人)さんが、ちょっと変態的なキャラクターを演じていて、そのキャラが「次回はブルマとユルユル体操着! レオタードもいいかな、カレイドスター的な」と言っているんです。
佐藤 言ってた?
小黒 「セリフで言っちゃうんだ!」って思いました。アドリブなんですかね。
佐藤 いや、どっちだろう。でも、子安さんだからアドリブで言ってる可能性もあるな。覚えてない(笑)。
小黒 佐藤さん、前に「変身美少女ものは大人が観て面白いと思う理由が分からない」みたいなことをおっしゃってましたけど、超能力バトルはOKなんですね。
佐藤 超能力は好きなんですよ。
小黒 その差が分からない!(笑)
佐藤 やっぱり『バビル2世』が好きなんですよ。作りながら『バビル2世』のリメイクって難しいんだなっていうことが実感できましたね。色んな人が何度かトライしてるけど、なかなか上手くいかない。
小黒 『バビル2世』と『マーズ』は難しいですね。
佐藤 難しいんだなって、分かりましたよ。
小黒 『M3 ~ソノ黒キ鋼~』(TV・2014年)ですが、佐藤さんはどういう関わりなんでしょうか。
佐藤 僕は原作なんですよ。『ARIA』繋がりでマッグガーデンさんとの作品ですね。アニメとマンガのどっちが先か忘れてしまいました。
小黒 アニメの前に「Mortal METAL 屍鋼」っていうマンガがあって、これは原案が佐藤さんで、メカデザインが河森(正治)さんで、製作協力がサテライトとなっています。マンガは貞松龍壱さんという方ですね。この後にアニメの『M3』が始まるみたいなんですよ。
佐藤 マンガのスタッフに河森さんが入ってるので、その段階でアニメのプランは動いてますね。「屍鋼」の簡単な企画書があって、先出しがマンガになっただけだったと思います。
小黒 マンガが2バージョンあって、後に始まったマンガの作者は港川(一臣)さんですね。
佐藤 そうかそうか。港川さんのほうはアニメーションのシナリオからマンガにしていたのを覚えています。
小黒 まず、アニメの企画であって、それを元にして貞松さんがマンガを連載した。そして、TVアニメを始めることになって、港川さんのマンガが始まった。港川さんのマンガはアニメのコミカライズということでしょうか。
佐藤 そうだね。マンガ単独で動いてたことはないから。
小黒 で、元々のお話は佐藤さんが作ってたんですね。
佐藤 物語は、岡田さんがキャラクター造形も含めてシリーズ構成の時に作ったんですよ。だから、僕のはただの原案ですよね。
小黒 なるほど。じゃあ、世界観や物語の構成には、佐藤さんと岡田さんの両方のアイデアが入ってる。
佐藤 基本的な柱を組んでくれたのは岡田さんですね。例えば主人公のアカシのキャラクターは、性格設定も含めて岡田さんですね。
小黒 劇中に「無明領域」という異空間が出てきますが、あれはなにかの象徴だったんですか。
佐藤 全部終わってから「そうか」と思ったことがあるんですよ。無明領域って「明かりが無い」って書くんですけど、岡田さん的にはきっと「名前がない」でもあったんだよね。最初に上がってきた最終回のシナリオは、名前を失ったことが結構キーになってたんだけど、最終回までのストーリーは、そこに向けて作ってなかったので、違う方向の話にして着地させたんですよ。そういう意味では、最終回辺りの作り込みは岡田さんのものではなくて、僕のものになってる。
小黒 そういうことなんですね。
佐藤 うん。確かにそう言われてみると、「無明領域=名前がない」ってことを最初から重視しておけば、岡田さんが書こうと思った物語になったんだろうなということに後から気づいて、ごめんねって思ったやつです。
小黒 岡田さんがやろうとしてたのは、もっと観念的なことだった?
佐藤 多分、そうなんですよね。ラストはすっきりと後味よく終わらせましたけど(笑)。最終回辺りのシナリオが全然上がんなかった。岡田さんの持ってたものと、アニメで描かれていたものが、ずれてたからなんだろうね。
小黒 特に序盤からしばらくの間にどんよりとした感じがあるじゃないですか。あれは岡田さんの狙いなんですか。
佐藤 いや、岡田さんのシナリオよりも強調してますね。重苦しくしたい、よく見えないぐらい暗くしたいって。
小黒 暗くしたいっていうのは、映像のことじゃなくて、雰囲気のことですね。
佐藤 そう、そうですね。
小黒 どうしてそっちのほうにいきたかったんでしょうか。
佐藤 それは、ひだまりのような、朗らかな作品を作り続けてきたので、揺り戻しで(笑)。
小黒 (笑)。じゃあ、これは「黒佐藤」だったんですか。
佐藤 「こういうものもやるんだよ」っていうのを、ちょっとアピールしたかった (笑)。
小黒 なるほどなるほど。
佐藤 それでも、最後はほんわかしちゃったけど。
小黒 でも、どんよりはしてるけど、どこか冷静な感じがありますよね。
佐藤 そうなんですよね。2014年の作品だから、震災の余韻がまだまだ残ってる時期でしょ。作品内で言ってることが、自然に結びついてるんだよね、やっぱり。「大人達が勝手に始めたものが悲惨なことを起こして、俺達に迷惑を掛けて、それを俺達に片付けさせてる」みたいなことっていうのは、どっか時代の叫びでもあるわけですよ。そういうことを作品に載せてやろうとしていることもあって、浮き足立ちきれないっていうか、ファンタジーのほうに寄せきれないものがどこか残ってるんですね。
小黒 これはサテライトさんの3DCGで作るというのも前提だったんですね。
佐藤 そうですね、河森さん含めたチームがいるので、ロボットアクションに関しては、ほぼほぼなにもしないで安田監督とCGチームにお任せしてやってる感じです。
小黒 なるほど。
佐藤 でも、河森さんがお忙しくて。仲間メカが3体くらいいるんですけど、メカデザインが間に合わなかったので、最初は1機だけでやってますね。8話ぐらいまでかな。でも、河森さんのデザインが上がってくると、3Dチームから「こう変形するんですよね」ってモデリングが速攻で上がってくるんですよね。そういうチームが作られてるのには、ちょっと驚きました。
小黒 アニメーションキャラクターデザインが井上英紀さんですね。
佐藤 金子プロデューサーが井上さんを気に入ってて、折に触れて一緒にやろうと思ってる時期ですよね。
小黒 なるほど。手応えはいかがでしたか。
佐藤 探り探りではあったんで、ロボットものはやっぱり難しいんだなっていう反省を得た作品ですね。
小黒 難しいというのは、見せ方ですか。
佐藤 そうですね。見せ方で言うと、まともなメカものにしちゃうと、メカが得意でない人間が作っているのがバレるので、ちょっとホラーテイストに振っといたほうがよさそうだなと思ってたんだけど、ホラーとメカとの相性がそもそもあんまりよくないということが、やってみて段々と分かっていった。
小黒 作品の話をすると、『ファイ・ブレイン』って登場人物も生真面目だし、作品としても生真面目に思えるんですが、これはどうしてなんでしょうか。
佐藤 生真面目? 最初に話をもらった時に「『パズルを使ったアニメ』って、どうやって作ればいいんだろう」と考えたんです。それが一番の悩みどころで。パズルデザインの郷内(邦義)先生が、物語作りのことも含めてパズルを考えてくれる方だったのでなんとかなったんですけど。例えば「迷路をネタにしたパズル」をやるとすると、主人公がそれを失敗させるのが難しいんです。
小黒 物語を作る上で、パズルに失敗する展開も必要になってくるわけですね。
佐藤 そうそう。1度目は上手くいかないけど、主人公の努力なり頑張りで切り抜けて解決するっていう流れが欲しいんですけど、迷路でそれをやろうとすると、その迷路がインチキか、主人公がなにか見落としとするぐらいしかなくて、それも1回ぐらいだったらなんとかなるんだけど。
小黒 ええ。
佐藤 毎週色んなパズルで必ずピンチと切り抜けを設定しなければいけないのを、どうやってクリアすればいいのかっていうのが分からなかった。シナリオを書いてからパズルを決めるのも変だし、パズルを決めてからシナリオを書くのも難しいし、どうすればいいんだろうねっていうところのスタート。だから、若干生真面目な感じになってるかもしれないですよね (笑)。弾けすぎて、パズルが成立してないのもダメだし、データ放送があるので、パズルをちゃんと見せる必要もあるから、途中を省略して「なんとかなりました」もダメ。パズルもパズルとして成立しなきゃいけない。
小黒 例えばマンガ原作で同じような作品だと、主人公達にもうちょっと遊びというか、崩してるところがあると思うんですけど、『ファイ・ブレイン』はきっちりと作られてる感じがするんですよね。
佐藤 そのテイストは脚本の関島(眞頼)さんかな。キャラクター造形をメインでやってくれたのは関島さんなんですよね。例えば主人公のカイトの両親が、パズルで死ぬっていう話が出てくるんですけど、本物の両親じゃないという展開を提案したのは僕なんですよ。悪者の組織がカイトを育てるために遣わした構成員だった可能性を提案して、それを元に先の展開がわーって変わっていったんです。関島さんはきちっと作っていくタイプだったので、僕がそれを散らかしていく役目だったことはありましたね。
小黒 放送が始まった頃に、佐藤さんは「自分が少年ものをやるのは珍しいから嬉しい」というようなことをおっしゃってたんですよ。やってみて新鮮でしたか。
佐藤 そうだね。ただ、想定していた少年ものって、もっと低学年向けだったんだよね。『どれみ』と同じぐらいの世代の男の子向け作品をやるという気分だったので、それよりは対象年齢が高いですよね。なので、思っていたのとは違うんですけど、主人公が男の子で、友情とかをちゃんと口に出しつつ戦うってアニメはわりと楽しかったです。
小黒 よしやるぞ、みたいなノリがありますもんね。
佐藤 そうそう。でも、結局、ルーク君がカイト大好きってなって (笑)。
小黒 1期の最後でちょっといい仲になりますよね。
佐藤 ラブラブ感が出ちゃったんだよね(笑)。あれは友情のつもりでやってるんですけど、なんとなくその。
小黒 大人アニメの雰囲気が。
佐藤 (笑)。どうしてもそんな感じになっちゃうんだなって思いましたね。
小黒 次が『わんおふ -one off-』(OVA・2012年)です。オリジナル作品ですが、お話も佐藤さんが作ったんですか。
佐藤 これはTYOアニメーションズと広告代理店で作った企画で、お話作りからやってほしいという依頼が来たんです。一応原案から作ったんですけど、色々と大変でしたね。
小黒 大変だったというのは?
佐藤 TYOは元々CMの会社で、HONDAがスポンサー的なかたちで関わることは決まっていたんですよ。僕は早い段階でHONDAの意見を聞いておきたいと言ったんだけど、TYOの山口(聰)社長によれば「内容はお任せする、好きにやってもらっていいと言われている」ということだったんです。それで書いたプロットは、女の子がバイクに乗って世界が広がるとか、バイクって素敵だなと感じるというものでした。だけど、そのプロットを持っていったら、HONDAさんから「バイクを高校生にお勧めするアニメにはしないでくれ」と言われて。
小黒 ああ。それで、いまひとつバイクの存在感がないんですね。
佐藤 そうです。「だから、最初に話を聞こうと言ったじゃない!」ということも含めて(笑)、色々と面白かったです。
小黒 実際の制作はどうだったんですか。
佐藤 最初はプロット、構成までやったら、現場は監督に任せることになっていたんだけど、色々あってコンテにもかなり手を入れることになりました。
小黒 さっきも話題になったように『わんおふ』では儀武さんが犬の役をやってるんですね。それに緒方(恵美)さんも出てますね。
佐藤 出てます。その辺のキャストに関しては『たまゆら』と同じで、「この役はこの人に」と思った分は、ほとんど決め打ちでお願いしてますね。
小黒 キャストに関しては、小林ゆうさんの弾けっぷりが印象に残りますね。
佐藤 小林ゆうさんはオーディションだったかと思います。苦労が多かった作品なので、キャストと音周りでは、やりたいことをきちんとやりたいと思ってやってましたね。
小黒 2013年は『宇宙戦艦ヤマト2199』(TV・2013年)の絵コンテがありますね。戦闘シーンの少ない回を希望されたんでしょうか。
佐藤 これは総監督の出渕(裕)さんから最初七色星団の話を振られていたんですが、スケジュールが合わなかったのか、やっていないです。
小黒 そうなんですね。
佐藤 それで、次に「これは是非」って言われたのが、イスカンダル到着の回(第24話「遥かなる約束の地」)でした。その時も、スケジュールがばっちり空いてるわけじゃなかったんだけども、これはやるしかないだろうと思って引き受けて。結局、打ち合わせしてからコンテが上がるまで、1年近くかかってるんです(笑)。なかなか手が付けられなかったんだけど、催促もなかった。
小黒 でも、公開には間に合ってますよね(笑)。
佐藤 そう(笑)。もう何ヶ月も経ってるのに催促がないとおかしい、これ誰か別の人がやったのかなと思ったけど、お仕事として受けているのでコンテをまとめて「遅くなりましたけども一応終わりました」と言ったら、「前の話数がまだ上がってません」って。だから、意外と早かったそうです。
小黒 前半で女子の水着シーンがあるじゃないですか。佐藤さんのコンテでもあんなにたっぷりした分量があるんですか。
佐藤 ありますあります。でも、やっぱりSFは向いてないなと思った。飛び込んだ子達が第三艦橋の窓から見えるというかたちなんだけど、実際に寸法を測ると相当な深度だから、素潜りで行けねえだろって(笑)。そういうことに気づかないっていうね。
小黒 あー。
佐藤 第三艦橋まで素潜りで行くって相当なスキルで、スキューバでもないと行けないだろうし、光も届かないから見えないかもしれないということに、後で気づく。SFは向いてないなって思うんですよ (笑)。
小黒 なるほど。コンテに出渕さんの直しは入ってるんですか。
佐藤 そんなに入ってないですね。まんまに近い感じだったと思います。
小黒 結論としては『ヤマト』に参加できてよかったと。
佐藤 よかったですね。最初のTVシリーズを観返して、沖田艦長が「ありがとう、以上だ」って言うところでは、アングルをなるべく合わせるようにして(笑)。他にもイスカンダルから出発するシーンは、沖田艦長が「帰ろう、故郷へ」と言った後、真田さんが「錨を上げーい」って言ったところで音楽が始まるようにコンテで指定してる。
小黒 なるほど。
佐藤 完成したら違う音楽が付けられていて、「ええっ」となった (笑)。その後のバージョンでは直っていたから「そう、これこれ」と満足しました 。
小黒 『2199』はベテランのお歴々が参加しましたよね。
佐藤 そうですね。みんな思い出を、思いの丈を語る感じが面白かったですね。「俺もヤマトをやれる」っていうね。それ程の作品ですよね、僕らにとっては。
『異世界でチート能力(スキル)を手にした俺は、現実世界をも無双する~レベルアップは人生を変えた』
公式略称『いせれべ』!
今回もオープニングは俺がコンテ切り(描き)、さらにそこから自分でレイアウトを起こしタイミングを付けたラフ原画を基に、社内の動かし系アニメーター・森 亮太君と篠 衿花さんに原画にしてもらうのが数カット。あと残りは同じく板垣コンテからキャラデ・木村博美さんが直原画。ここのところウチの作品はそういったショートカットなやり方が主流で、板垣コンテから直原画はもはや木村の得意技。
今回特に木村に感心したのは、#01とOPで出てくる変身前のデブ優夜です。俺から“リアルに情報量を盛って~”との注文どおり、妙に現実味のある肉付き感——服のしわの付き方などでちゃんと“贅肉”が表現できているところには本当に「スゲー!」と思いました。泣きの表情芝居も描けていて、『COP CRAFT』の頃からさらにその画力に磨きがかかってる感じです。ちなみに『COP CRAFT』の時のオーダーは今回とは真逆で“線少なめ”。当初は里見哲朗プロデューサーの提案も入って“影なし”まで試みましたが、木村自身が線をどんどん増やしていったのでした。
エンディングの方も、ほぼほぼ各キャラのラフを俺が描いて木村“直作監”でした。
ってとこですみません。800回越えてもこの体たらく。現在、毎週納品納品サイクルの毎日! 当然本日もバタバタしておりそろそろお時間。仕事に戻ります(汗)。
腹巻猫です。5月3日に中野サンプラザで開催される「資料性博覧会16」に「劇伴倶楽部」で参加します。パンフレットのサークル紹介で「SOUNDTRACK PUBレーベルの新譜を頒布予定」と書いたのですが、間に合いませんでした。ごめんなさい。その代わり、2015年に発売した『カレイドスター』の完全版サントラを放送20周年記念で再プレスして持ち込みます。
資料性博覧会の詳細は下記を参照ください。
https://www.mandarake.co.jp/information/event/siryosei_expo/
『グリッドマン ユニバース』は面白かったなあ。マルチバース、メタバースの設定をフルに活用して、めちゃめちゃ燃える劇場作品になっていた。期待以上だった。
2023年3月24日に公開された劇場アニメ『グリッドマン ユニバース』は、TVアニメ『SSSS.GRIDMAN』(2018)と『SSSS.DYNAZENON』(2021)の世界を受け継いだ新作劇場版。『SSSS.GRIDMAN』と『SSSS.DYNAZENON』のキャラクターが集合して新たな敵に立ち向かう、両番組を観ていたファンにはたまらない作品だ。
音楽はもちろん『SSSS.GRIDMAN』『SSSS.DYNAZENON』を手がけた鷺巣詩郎。本作のために新曲を提供している。
鷺巣詩郎の代表作といえば「エヴァンゲリオン」シリーズだが、このところ鷺巣は『シン・ゴジラ』『シン・ウルトラマン』、そしてこのグリッドマンシリーズと怪獣(ヒーロー)ものを立て続けに手がけている。まるで水を得た魚のように力の入った音楽を書きまくっている。
鷺巣詩郎の父は特撮TVドラマ「マグマ大使」や「快傑ライオン丸」を制作したピープロダクションの社長・鷺巣富雄(マンガ家・うしおそうじ)。鷺巣は子どもの頃から撮影スタジオの中で育ち、特撮映画や特撮ドラマに親しんでいた。もちろん怪獣映画音楽にも。そんな鷺巣が書く怪獣映画音楽が、60〜70年代の特撮映画・特撮ドラマ音楽を受け継いだ本格的なものになるのは、きわめて当然のなりゆきだった。といったことを、鷺巣は『SSSS.GRIDMAN』のサントラCDのライナーノーツに書いている。鷺巣詩郎は、大編成のゴージャスな怪獣(ヒーロー)映画音楽を「誇りを持って」書き続けているのだ。
『SSSS.GRIDMAN』の音楽も『SSSS.DYNAZENON』の音楽も、怪獣映画ファンをうならせるダイナミックなサウンドだった。『SSSS.GRIDMAN』には80年代テクノ風サウンドが取り入れられていたり、『SSSS.DYNAZENON』はロック色が強かったりと、それぞれ特色はあるものの、中心になっているのはオーケストラサウンド。60年代の怪獣映画音楽は映画スタジオで録音されたこともあって、ちょっと泥臭い印象があるが(それが味わいだが)、鷺巣詩郎が作る現代の怪獣映画音楽は、ロンドンやワルシャワといった海外のオーケストラで録音され、洗練された音に仕上がっている。いかにも現代的だし、世界に打って出る作品に必要なサウンドである。その音がTVアニメで聴けるのが、『SSSS.GRIDMAN』『SSSS.DYNAZENON』のぜいたくなところだった。
『グリッドマン ユニバース』でうれしいのは、TVアニメ版(『SSSS.GRIDMAN』『SSSS.DYNAZENON』)の音楽の中でもとりわけ燃えるヒロイックな曲がリメイク(リミックス、リマスタリング)されて使用され、さらに新曲も聴けること。鷺巣作品で重要なピアノソロの新曲もある。グリッドマンシリーズの「音楽いいとこ取り」みたいな作品なのである。
本作のサウンドトラック・アルバムはポニーキャニオンより「グリッドマン ユニバース オリジナルサウンドトラック」のタイトルで2023年3月22日に発売された。
収録曲は以下のとおり。
収録されているのはTVアニメ版音楽をリミックス/リマスタリングした曲と、新たに録音された曲。本編の中で使用されていない曲も含まれている(とライナーノーツに書いてある)。また、作中ではこのアルバムに収録されていないTVアニメ版音楽も使用されているようだ。本編使用曲を登場順に並べたオーソドックスなサウンドトラック・アルバムではない。ユニークな構成である。
CDのブックレットには鷺巣詩郎自身による解説が掲載されており、TVアニメ由来の曲はどこが変わったのか、新曲はどんな意図で制作したのかなどが細かく語られている。楽曲は配信で聴くことができるが、CD版のブックレットを読むと、より興味深く聴くことができるだろう。
1曲目の「HL pinch no vocals 2023」は『SSSS.GRIDMAN』の危機描写曲「HL_pinch」のボーカル抜きリミックスバージョン。頭から緊迫した曲で危機感をあおる大胆な構成だ。曲名に「2023」とついているのは、TVアニメ版の曲をリミックス/リマスタリングして、より進化させたバージョンである(とライナーノーツに書いてある)。
次のトラック2「1144 Fob 02 2023」からトラック5「1144 Fob 02 CH 2023 incomplete」までは予告編で使用された楽曲(これもライナーノーツに書いてある)。
「1144 Fob 02 2023」は『SSSS.GRIDMAN』のメインテーマとも呼ぶべき勇壮なヒーロー音楽。トラック3「all this fanfare 2023」は『SSSS.DYNAZENON』を代表するオーケストラ音楽。トラック4「all this human 2023」も同じく『SSSS.DYNAZENON』を代表するEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)風のイケイケ音楽。トラック5「1144 Fob 02 CH 2023 incomplete」は「1144 Fob 02」をブツ切りにして再構成した本作のための新曲。本編で流れた完成版はトラック25に収録されている。
ここまで、燃える音楽のつるべ打ち。オーソドックスなサントラの構成だとこうはならないところを、「予告編で使用された曲」を並べることで最高の導入になった。このアイデアはすばらしい。
トラック6「peaceful 1805 no piano melody」は『SSSS.GRIDMAN』の曲「peaceful」をピアノ抜きでリミックスした日常コミカル曲。トラック7「HL 29 mysterious no vocals 2023」は『SSSS.GRIDMAN』の曲「HL 29 mysterious」をボーカル抜きでリミックスした疑念・不安描写曲。曲名でどういう由来の曲かわかるようになっている。
トラック8「00320 piano alterna 01」は本作のための新曲。学校で裕太が六花と話す場面に流れるデリケートなピアノソロの曲である。トラック26に収録された「00320 piano alterna 02」は同じ曲の演奏の異なるバージョンだ。
トラック9「grid and dyna 108bpm choir only 2023」からトラック16「Human Love CH edm 04 2023」までは、TVアニメ版の曲のリミックス/リマスタリング版。原曲と聴き比べてみると、もとは同じ音源なのに別曲に聴こえるくらい大胆に音が変えられている。音響テクノロジーの進化の反映であると同時に、同じようで異なるものがいくつも存在するマルチバースを意識した表現である(という話もライナーノーツに書いてあった)。
トラック17「1187 am suspense」からトラック28「1801 GALAXY hiskool demo」までは劇場作品のために制作された新曲。終盤に向けてしだいに曲調が盛り上がっていく。
トラック17、18とサスペンス描写曲が続き、緊張感が高まる。トラック19「M10 emotion strings edit」はアコースティックギターとストリングスによるしっとりとした心情曲。後半で裕太がグリッドマンと会話する場面に流れていた。グリッドマンと裕太の心のつながりを描写する感動的な曲である。
トラック20「Human Love CHHF 2023」からは、最終決戦に流れる怒涛のクライマックス曲の連続。
「Human Love CHHF 2023」は『SSSS.GRIDMAN』を代表する曲「Human Love」の最新ハード・フュージョン風アレンジ。ノリノリのバトル曲だ。アレンジは鷺巣詩郎の盟友であるCHOKKAKU。曲名の「CHHF」は「CHOKKAKU HARD FUSION」の略なのだろう。
トラック21「11141 overture」からは壮大なオーケストラ&コーラスの曲が並ぶ。「ぜんぶメインテーマ?」と言われてもうなずいてしまうくらい、濃厚で高揚感のある曲ばかりだ。
トラック23「M10 galaxy gridman edit」とトラック24「1801 GALAXY」の2曲は、本作の壮大な世界観にちなんで、ジョン・ウィリアムズのSF映画音楽風アレンジがほどこされている。これはTVアニメ版にはなかったテイストで、劇場版ならではの味だ。
そして戦いが終わり……。
トラック26「00320 piano alterna 02」とトラック27「peaceful universe」は、いずれもラストのしみじみとしたシーンに流れた曲。ピアノソロによる「00320 piano alterna 02」はアカネとグリッドナイト(アンチ)の会話のバックに、アコースティックギターによる「peaceful universe」はグリッドマンと裕太の別れの場面に流れていた。
トラック28「1801 GALAXY hiskool demo」は、学園祭で上演されるグリッドマンの劇のシーンに流れていた曲。トラック24に収録されている「1801 GALAXY」のデモバージョンである。高校生が作った曲という設定だからあえて未完成のデモのほうを使ったのだ(これもライナーノーツの受け売り)。本編で流れた曲が劇中劇のBGM(現実音楽)としても流れるというメタ構造が、いかにもグリッドマンらしい。
収録曲の別バージョンを集めたボーナストラック(トラック29〜31)でアルバムは締めくくられる。
燃える曲の連続で始まり、燃える曲の連続で終わる。本編の流れそのままではないが、劇場の興奮がよみがえる、とても充実したアルバムだ。『SSSS.GRIDMAN』『SSSS.DYNAZENON』から選りすぐった楽曲(のリミックス/リマスタリング版)に新録音の楽曲を加えた内容が満足度を高めている。
本作を映像ソフトや配信で楽しめるようになったら、本アルバムに収録されていない劇中使用曲を『SSSS.GRIDMAN』と『SSSS.DYNAZENON』のサウンドトラックから探して、完全版サントラを構成してみるのもよいかもしれない。
そのときは、学園祭準備のシーンで流れていた曲「ふたつの勇気(インストゥルメンタル)」もぜひ入れておきたい。グリッドマンシリーズのオリジンである特撮TVドラマ「電光超人グリッドマン」(1993)の挿入歌のインスト版である。作・編曲は戸塚修。「電光超人グリッドマン」のサウンドトラック・アルバムに収録されている。本作には、実写とアニメの垣根を越え、作曲家もレーベルも異なる楽曲が共演しているのだ。グリッドマンシリーズは、サントラもマルチバースなのである。
グリッドマン ユニバース オリジナルサウンドトラック
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小黒 次が『異国迷路のクロワーゼ』(TV・2011年)です。これはシリーズ構成と音響監督としての参加ですね。
佐藤 そうですね。随分前に1回企画として立ち上がったことがあって、監督をやるように言われたんです。原作の画が緻密で、これを再現しないと『クロワーゼ』という作品になんないけど、カロリーが相当高いから難しいだろうと言って、二の足踏んでた記憶があるんですよね。それが、安田(賢司)監督でやることが決まったところで、当時サテライトにいた金子文雄プロデューサーから、「シリーズ構成をやりませんか」って話をもらって。
小黒 ここまでで何度かお名前の出ている金子さんですね。
佐藤 そうそう。その金子の作品なので、基本的にはノーとは言わないという流れです。だから、原作の先生にシリーズ構成をプレゼンするところぐらいから入ってますね。
小黒 では、現場のことはやらないで、お話作りとか。
佐藤 うん。脚本発注とホン読みまではやるけど、絵コンテ以降は安田さんでしたね。原作者の先生にプレゼンに行った時に、凄く構成を褒めていただいたんですよ。で、褒めてもらって気持ちよくなっている帰り道で、金子プロデューサーとご飯食べている時に「佐藤さん、音響もやるべきですよ」って言われて、なし崩しでやることになって、仕事が増える (笑)。
小黒 これも『ARIA』的な、静かな曲を上品にずっと付けている作品でしたね。
佐藤 そうですね。音楽的にはそんな感じです。
小黒 「佐藤順一作品には松竹というジャンルがある」と言いましたけど、フライングドッグというジャンルもあるんですよね。
佐藤 そういえばそうですね(笑)。
小黒 『クロワーゼ』はめちゃめちゃ作画がよかったですよね。キャラデが『ARIA』で超ハイクオリティ作画をやった井上(英紀)さんですか。
佐藤 そうです。井上さんにキャラクターデザイナーと総作監で入ってもらってますね。制作がサテライトで、フランス人スタッフがいたんですよね。
小黒 ロマン・トマさんとか。
佐藤 ええ。何人かいて、その方達が凄い密度の設定を上げていて、そこに驚くわけですよ。
小黒 その精緻な設定がしっかり画面に反映されてますよね。
佐藤 そうなんですよね。フランスのことをよくご存知なので、正しいフランスが描かれている。
小黒 この取材にあたって佐藤さんがコンテを描いた回は全部観るつもりだったんですけど、配信だと『クロワーゼ』の佐藤さんコンテ回がないんですよ。これは映像ソフトを買わないと観れないんですね。
佐藤 そうですそうです。
小黒 どんな作品なんですか。
佐藤 音楽回ですね。中島愛さんが演じるボヘミアンの女の子が来て、日本の歌を披露する。湯音が懐かしいって興味を持って交流していると、その子のおじいちゃんが日本に繋がりがあって、さらに湯音のお姉さんとも接点があるかもね、という感じで歌と歌が繋がっていく、いい話ですね。これは「シナリオ=コンテ」なので、脚本家がいないはずです。
小黒 それは原作にある話なんですか。
佐藤 ないです。これはオリジナル。
小黒 じゃあ、なんとかして観ますよ(編注:取材の後で観ました)。
佐藤 たまに観返すんです(笑)。ネット配信では観られないので自分用のやつを持っています。
小黒 次が『ファイ・ブレイン 神のパズル』(TV・2011年)。これも謎アニメですけれども。
佐藤 そうなんですよねえ。『ケロロ』と同じスタートの仕方をした作品なんですよね。サンライズの内田(健二)さんに呼ばれて「実はこんな企画があるんだけど」と言われるというね。NEP(NHKエンタープライズ)の作品で、パズルを使ったアニメということは決まっていました。ラフストーリーや設定についてはプレゼンが終わった頃に呼ばれているので、言ってみれば東映時代の作品の入り方と似てるんですよね。
小黒 なるほど。じゃあ、企画立ち上げには関わってはいない。
佐藤 そうですね。サンライズ的には、NHKの作品をやりたいとは思っていて、NEPにプレゼンをしていた。データ放送が重視され始めた頃で、パズルをデータ放送で楽しめるようにして参加者を増やしていく。そんな感じで動いていた企画だろうなというのは想像してましたけど。
小黒 NHK側から「こういう話にしてほしい」という要望はあったんですか。
佐藤 それはないですね。基本的にはサンライズが作ってNEPを通してNHKにプレゼンをして、何回かキャッチボールをしてるようでしたけど、サンライズサイドが主だったと思います。
冒険活劇の中にパズルを取り入れることは決まっていたけど、そのパズルをどうするかは、まだ探ってる途中だったと思うんですよね。僕が入った時点では、テーブルパズルじゃなくて、主人公達が洞窟に入っていく感じのパズルが想定されていましたね。
小黒 なるほど。僕がなにを気にしているかというとですね、劇中でアインシュタインの称号とか、ガリレオの称号とかが出てきたじゃないですか。これが、NHKの要望だったのかなと気になってるんですよ。
佐藤 要望ではなかったと思うけれども、NHKだからということで、多少忖度があったかもしれないですね(笑)。
小黒 この前の、2009年頃に『マリー&ガリー』っていうのがあって。
佐藤 はいはい。
小黒 馬越(嘉彦)さんのキャラデザインの東映のアニメで、ガリレオとかキュリー夫人、ニュートンと、歴史上の偉人をモチーフにしたキャラクターが出てくるんですよ。サンライズが『ファイ・ブレイン』の後に作った『クラシカロイド』というアニメは、ベートーヴェンやモーツァルト等の世界的な音楽家をモチーフにしたキャラクターが出てくるんですよ。この頃、NHKのアニメはそういった作品をやる方針があったのかな、と思っていたんですよ。
佐藤 放送もEテレだから、そうだった可能性はあったかもね。NHKって、未就学児や低学年の定番コンテンツはいっぱいあるんだけど、もう少しティーンの視聴者欲しいという希望があって、その一連の企画ではあったと思うんですね。映像ビジネスのできるコンテンツが欲しいと考えていたんだと思いますね。
小黒 1期のクレジットを見ると、佐藤さんの役職は監督で、ディレクターとして遠藤広隆さんがいらっしゃいます。これは総監督的な仕事をしていたんですか。
佐藤 はい、そうですね。
小黒 現場のことはディレクターの遠藤さんがやってた。
佐藤 全部遠藤君ですね。デザインの発注とかも含めてですね。スタート時の作品のベースは多分、プロデューサーがやってますけど、遠藤君が入ってから以降は、デザイン発注やジャッジは全部彼ですね。僕がデザインについてあれこれ言ったことはないかな。
小黒 『ファイ・ブレイン』は長寿作品となり第3シリーズまで続くわけですが、佐藤さんが監督だったのは第1シリーズだけで、第2シリーズ以降はシリーズ構成と、各話の絵コンテですね。
佐藤 いや、ずっと仕事内容は同じなんですよ。1期は実際には総監督。第2期は遠藤君を監督にすると決めていたので、自分は総監督や監修とかの役職にして、遠藤君を監督として立たせてほしいっていう話をしたんです。でも、NHKにクレジット縛りみたいなものがあるから、「総監督っていうクレジットは認められない」と言われたんですよ。
小黒 「総監督」がダメなんですね。
佐藤 そうそう。遠藤君を監督としてクレジットしたいので、NHKが無理だと言うんだったら、僕はもうこの先は参加できないなっていうくらいのことを言ってたんだけど、結局NHKの方から「総監督は絶対認められません」という回答が来た。それで、妥協案として受け入れたのが、シリーズ構成。だから、やってることは変わんないんですよ。
小黒 なるほど。
佐藤 選曲の仕事は佐藤恭野がやってるんだけど、NHKの編成部のレギュレーションから「選曲」としてクレジットするのは無理だと言われて、音響スタッフのようなクレジットになってる(編注:「音響効果」としてクレジット)。
小黒 なるほど。
佐藤 前例がないからダメという説明を受けたんだけど、「そうだっけ?」と思ってNHKでやってた『キャプテン・フューチャー』を観たら、ちゃんと「選曲」ってクレジットが入ってたから「大丈夫だったんじゃん」とは思ったけど (笑)。
小黒 それでいうと『(ふしぎの海の)ナディア』の時に庵野(秀明)さんが総監督ですよ。
佐藤 そうなんですよね。昔はやってたのが、今はなぜかダメになってる。これは規則だからしかたないんだなと思うことにしました。
今回で何と800回! ——はい、だからどうした状態でしょうが、とりあえず話題にしてみました。800回って事は単純な話、1年50数回×16年! 監督でクレジットされるようになって間もなく(『BLACK CAT』と『Devil May Cry』の間くらい?)に始まってる連載なので、最初から読み返すと“板垣の監督キャリア”がほぼ網羅されている訳です! が、読み返すことは多分ないでしょう(汗)。
以前、『てーきゅう』原作・ルーツ先生に「あの連載、書籍化しないんですか?」と訊かれ、「そんな気、ありません」と即答しました。所詮は毎週毎週いきあたりバッタリ! に書(描)いてるだけの駄文。そんなの売れる訳ありませんから。そんな文章も稚拙な駄文を10数年続けさせて下さるWEBアニメスタイル様には本当に感謝しかありません。ありがとうございます! もし、許されるならもう少々お付き合いいただけるともっと嬉しいのです。現状、仕事尽くしの毎日には丁度よい“気分転換”になっているから。今後ともよろしくお願いいたします!
で、放映開始した新シリーズ、
『異世界でチート能力(スキル)を手にした俺は、現実世界をも無双する~レベルアップは人生を変えた』
略称は『いせれべ』!
間もなくまた仕事に戻らなきゃならない時間のため、手当たり次第に話題を探ることとします。
企画自体をいただいたのは前に説明したとおり、前作『蜘蛛ですが、なにか?』の最後辺りにKADOKAWAさんより「次の企画を~」といただいたんだと思います。社長(白石)の記憶とは少々ズレがあるかも知れませんが、大体そんな感じだったかと。で、いただいた話ではありますが、「ウチも新しい監督(田辺慎吾君)を育成したいから」と、監督2人(総監督&監督)体制を願い出て承諾された、という流れ。さらにシリーズ構成も自分が兼ねることで、脚本も社内の演出・アニメーターにやってもらおうと。周りのプロデューサー間でも忘れられがちですが、板垣は監督になるより脚本デビューの方が先(『この醜くも美しい世界』[2004]の#07)なため、演出やアニメーターでも脚本を書きたいと言う若手には書かせてやりたいと思ってしまうのです。
キャラクターデザインは『COP CRAFT』(2019)において二十歳でキャラデ・デビューを果たした木村博美さん。彼女は本当になんでも描ける天才です。もちろん、自分の20代の頃より断然“巧い”です。今回、話数によって一緒に総作画監督をやっています(EDテロップにのみ表記)が、これはあくまで“美麗なメインキャラのアップ”の木村作監を活かすため、その周りで巧くいってないレイアウト・芝居・アクションその他の原画描き直し・作監修正・背景修正を一手に引き受けるかたちでのフォロー役。
——ってとこですみません、時間になってしまいました。仕事に戻ります。