COLUMN

第242回 東映不思議コメディーの熱量 〜おもいっきり探偵団 覇悪怒組〜

 腹巻猫です。SOUNDTRACK PUBレーベル第31弾として「おもいっきり探偵団 覇悪怒組/じゃあまん探偵団 魔隣組 オリジナル・サウンドトラック」を11月23日に発売します。80年代に放映されたTVドラマ2作品の音楽(BGM)をCD2枚に収録したサウンドトラック・アルバムです。2作ともBGM集が発売されるのはこれが初めて。初商品化となる貴重な音源の数々をお楽しみください!
https://www.amazon.co.jp/dp/B0BKPF4HCW


 いつもアニメ音楽を紹介している当コラムだが、今回は初商品化を記念して、特別にTVドラマ「おもいっきり探偵団 覇悪怒組」の音楽を紹介したい。
 「おもいっきり探偵団 覇悪怒組」は1987年1月から12月まで放映された東映制作の子ども向けTVドラマ。80〜90年代にフジテレビ系日曜朝9時から9時半の時間帯(地方によって異同あり)に放映されていた通称「東映不思議コメディーシリーズ」の1本だ。
 タイトルからもわかるとおり、内容は少年探偵団もの。小学5年生の5人(男子4人と女子1人)が「おもいっきり探偵団 覇悪怒組」を結成して、街に出没する「怪人魔天郎」に立ち向かう物語だ。怪人魔天郎は財宝を盗んだりもするのだが、覇悪怒組に試練を与え、成長をうながす存在でもある。魔天郎のユニークな設定が本作をほかの「少年探偵団もの」とはひと味違う作品にしていた。
 本作の魅力になっているのが、「不思議コメディー」らしいバラエティに富んだエピソードの数々。ロボットや宇宙人や妖怪が登場したり、過去や未来にタイムトラベルしたり、魔天郎以上にエキセントリックな怪人が登場したりと、なんでもありの世界。かと思えば、考えさせられる話や心温まる話もある。覇悪怒組のメンバーもいわゆる「よい子」ではなく、ときには任務をさぼったり、いたずらをしたり、ささいなことで仲たがいしたりする、「子どもってこうだよな」と思わせるキャラクターに描かれているのがよかった。
 本作は東映不思議コメディーシリーズ中第2位の高視聴率を獲得した作品となり、好評を受けて、翌1988年には探偵団路線の第2作「じゃあまん探偵団 魔隣組」が1年間放映された。こちらはキャラクターや設定は一新されているが、「覇悪怒組」と同様のテイストを持つ姉妹作品である。
 音楽は、のちに人気TVドラマ「古畑任三郎」に参加する本間勇輔が担当。そもそも本間勇輔のドラマ音楽(劇伴)デビューは東映不思議コメディーシリーズの「勝手に!カミタマン」(1985)だった。本間勇輔は「おもいっきり探偵団 覇悪怒組」以降、東映不思議コメディーシリーズ最終作「有言実行三姉妹シュシュトリアン」(1993)まで、連続してこのシリーズの音楽を手がけることになる。本間勇輔にとっても初期の代表作と呼べる作品(シリーズ)なのである。
 そんな重要な作品であるが、これまで東映不思議コメディーシリーズの劇中音楽(BGM)を収録したアルバムが発売されたことはなかった。BGMの一部がコンピレーション・アルバム等に収録されたことも(筆者の知る限り)ない。東映子ども向け(特撮)TVドラマの中でも、サントラの商品化の面では恵まれないシリーズだった。
 本作の音楽はアニメファンにとっても興味深いものだと思う。本間勇輔は東映不思議コメディーシリーズと同時期に、『のらくろクン』(1987)、『おそ松くん』(1988)、『ひみつのアッコちゃん』(1988)、『平成天才バカボン』(1990)、『丸出だめ夫』(1991)等のギャグアニメの音楽を担当している(その多くが、脚本に東映不思議コメディーシリーズでもおなじみの浦沢義雄が参加した作品)。が、これらのアニメ作品の音楽もほとんど商品化されていない。『のらくろクン』は放映当時、音楽集が発売されていたが、以降復刻されたことはなく、現在、手軽に聴くことは難しい。『ひみつのアッコちゃん』のアルバムは歌とナレーションで構成された内容、『平成天才バカボン』のアルバムは歌とドラマに混じってBGMが収録された内容だった。
 本間勇輔が手がけたサウンドトラックのリリースが進むのは90年代に入ってから。『幽★遊★白書』(1992)、『蒼き伝説シュート!』(1994)、『とっても!ラッキーマン』(1994)、『NINKU』(1995)、『ふしぎ遊戯』(1995)などのサウンドトラック・アルバムが発売され、TVドラマの音楽も商品化されるようになった。しかし、初期のコメディー作品は再評価される機会がなかったのである。
 だから、今回の「おもいっきり探偵団 覇悪怒組/じゃあまん探偵団 魔隣組 オリジナル・サウンドトラック」の発売は、本間勇輔ファンにとっても、特撮・アニメサントラ研究者にとっても重要なリリースだと思う。
 2作品とも「不思議コメディー」のイメージどおりのコミカルな曲も多いが、意外にカッコいい曲やしっとりとした抒情的な曲も多い。本間勇輔のメロディ作りの巧みさや粋なアレンジが楽しめる作品である。
 全体のサウンドは、小編成の生楽器とシンセサイザーを使った80年代ポップス的な音。輪郭のくっきりしたパキッとしたサウンドに作られていて、この音だけで懐かしさを感じる人もいるだろう。

 アルバムの収録曲は下記リンク先を参照。
https://www.soundtrack-lab.co.jp/products/cd/STLC048.html
 下記リンク先で試聴用動画も公開中(公開日から1年間の期間限定)。
https://youtu.be/y6KOCmGQ–c

 ここからは、アルバムのディスク1に収録した「おもいっきり探偵団 覇悪怒組」の音楽から聴きどころを紹介しよう。
 「おもいっきり探偵団 覇悪怒組」の音楽で核となる要素はふたつある。主人公である覇悪怒組のテーマと、敵役である魔天郎のテーマだ。
 覇悪怒組のテーマは、オープニング主題歌「摩天楼のヒーロー」(作曲・有澤孝紀)をアレンジした曲と本間勇輔が作曲した「探偵団(覇悪怒組)のテーマ」とも呼ぶべきメロディのアレンジ曲が中心。
 試聴用動画で1曲目に流れる「覇悪怒組集合!」(CDのトラック4)がオープニング主題歌アレンジの曲。クラリネットとミュートしたトランペットがメロディを担当する軽快なアレンジだ。ちょっとユーモラスな音色が不思議コメディーシリーズらしい。
 オープニング主題歌アレンジは、アクションシーンに流れるアップテンポの曲(トラック37「行くぞ!覇悪怒組」)やシンセの音色を使ったコミカルな曲(トラック13「お騒がせ探偵団」)、スローテンポのリリカルな曲(トラック32「この想い届くなら」)など、多彩なバリエーションが用意されている。温かみのあるトランペットがメロディを奏でる「この想い届くなら」は、使用回数は少ないながら、切ない心情が描かれる場面に流れた記憶に残るナンバーだ。
 本間勇輔が作曲した探偵団のテーマは、試聴用動画の2曲目「進め!おもいっきり探偵団」(トラック5)で聴くことができる。威勢よく、けれどユーモラスなメロディは本作の雰囲気にぴったり。このテーマもさまざまなアレンジが作られている。トラック10「奇妙な追跡」はドタバタ場面などに使われたシンセサイザーによるアップテンポのアレンジ。トラック12「思い込んだら一直線」はホイッスルなどが入った「猪突猛進」のイメージのアレンジだ。また、トラック25「覇悪怒組の危機」とトラック35「危険の中へ」は緊迫感のあるサスペンスタッチのアレンジ。バリエーションの豊富さからも、このメロディが主題歌と並ぶメインテーマとなっていることがわかる。
 いっぽう、敵役である魔天郎のテーマは、試聴用動画の5曲目「対決!魔天郎」(トラック38)で聴くことができる。同じメロディのバリエーションが「怪人魔天郎」(トラック2)と「魔天郎の挑戦」(トラック16)。いずれも魔天郎の登場シーンに必ずといってよいほど流れた印象深い曲だ。番組を観ていた方なら、主題歌アレンジや探偵団のテーマ以上に、この魔天郎のテーマが記憶に刻まれているのではないだろうか。
 魔天郎のテーマは、ややエキゾティックでミステリアスな曲調で書かれている。ヒーローものの「悪のテーマ」のような怖い曲、強そうな曲ではない。魔天郎は覇悪怒組に挑戦してくるライバルではあるけれども、「悪役」ではないためだろう。覇悪怒組を助ける味方として描かれることもしばしばあった。
 シンセサイザーが奏でる「怪人魔天郎」はスローテンポのアレンジ。魔天郎が姿を見せる場面や魔天郎の挑戦状が届く場面などに使用された。幻想的なサウンドが正体のわからない魔天郎の神秘性を表現している。
 「魔天郎の挑戦」と「対決!魔天郎」はリズムが強調されたアクティブなアレンジ。ともに魔天郎が行動を起こすシーンや格闘シーンなどに使われた。3曲の中では「対決!魔天郎」がもっとも使用回数が多く、また、カッコいいイメージのアレンジになっている。
 カッコいいといえば、本作にはヒーローものみたいなスリリングでスピード感のある曲もいくつかある。
 「華麗なる罠」(トラック26)は覇悪怒組のピンチの場面などに流れるピアノソロの曲。危機描写にピアノソロを使う手法が新鮮だし、おしゃれだ。
 「嵐を呼ぶ乱戦」(トラック36)はアクションシーンでよく使われたアップテンポの曲。緊迫感を盛り上げるリズムとシンセのフレーズが融合し、同時代の変身ヒーローものやTVドラマ「スケバン刑事」の音楽を思わせる迫力あるサウンドになっている。
 本作の音楽で忘れてはならないのが、心情描写などに使われた、しみじみとした曲である。
 試聴用動画の6曲目で聴けるエンディング主題歌アレンジ「本当の気持ち」(トラック31)もそのひとつで、哀愁ただようハーモニカの音色が胸を打つ。同じくエンディング主題歌のメロディをギターで演奏した「涙は夢のかけら」(トラック18)も子どもたちの悲しみや悩みを描く場面に効果的に使われていた。
 筆者が本作の音楽の中で特に気に入っている曲が、試聴用動画の3曲目「あこがれの純子先生 I」(トラック29)と同じ曲の別テイクである「あこがれの純子先生 II」(トラック30)。ピアノソロによるロマンティックな音楽である。
 「おもいっきり探偵団 覇悪怒組」には、覇悪怒組の紅一点ヤスコと、子どもたちが通う小学校の美人教師・純子先生という、2人のマドンナ的存在がいる。この2人のテーマ的に使用されたのがピアノソロの曲。主にヤスコの場面に流れたのが「春を待ちながら」(トラック28)という曲、純子先生がらみの場面に使われたのが「あこがれの純子先生(I、II)」だった。どちらもクラシック音楽のような上品な曲調で、東映不思議コメディーにこんな曲があると知って驚く人もいるかもしれない。しかし、だからこそファンには思い出に残る曲なのである。特に第24話や第45話で「あこがれの純子先生」が流れる場面はちょっぴり大人の香りがしてドキドキする。
 なお、「あこがれの純子先生」は2回(2テイク)録音されており、演奏のニュアンス(テンポや装飾音の付け方)が異なる。劇中では2テイクとも使用されているので両方収録した。
 ディスク1の最後にはボーナストラックとして、特定のシーンやエピソード用に録音されたエキストラ音楽を収録した。
 ちょっと風変わりなのが、第25話で使われた「志乃の数え唄」(トラック45)である。この回は「白骨姫」の伝説をめぐる幻想的なストーリー。「志乃の数え唄」はその白骨姫が歌う曲のようなイメージで使われた。この曲、実は1973年に放映された特撮TVドラマ「風雲ライオン丸」の挿入歌として作られた歌なのだ。「風雲ライオン丸」の制作はピープロダクション、「志乃の数え唄」の作曲ははしだのりひこ(端田宣彦)。制作会社も作曲家も異なり、どういう経緯で「おもいっきり探偵団 覇悪怒組」の挿入歌として使われることになったのかは不明だが、シーンにはよく合っていた。使用された音源は、カラオケ、ボーカルとも、本作品用に新規に録音されたものである(歌手は不明)。解説書には書かなかったが、ボーカルは5回録音されたうちの3テイク目がOKテイクになっている。
 ディスク2に収録した「じゃあまん探偵団 魔隣組」の音楽についても少し触れておきたい。探偵団のテーマと怪盗ジゴマのテーマを軸とした音楽設計は「覇悪怒組」とほぼ同じ。こちらは冒険アクションもの風の曲が多くなっているのが特徴だ。
 この作品でもミステリアスなジゴマのテーマが印象深い。試聴用動画では10曲目(後半の4曲目)「ジゴマ登場」(トラック16)で、そのメロディを聴くことができる。
 試聴用動画の次の曲「ジゴマの如き君なりき」(トラック42)は魔隣組版「探偵団のテーマ」。「覇悪怒組」同様にさまざまにアレンジされて使われている。
 なお、「じゃあまん探偵団 覇悪怒組」には日本コロムビアの絵本つきカセットテープ「コロちゃんパック」で発売された挿入歌が存在するが、収録時間の都合で本アルバムには収録していない。日本コロムビアから2004年に発売されたCD「特撮ヒロイン&ファンタジー 主題歌・挿入歌大全集」で全曲聴くことが可能なので、ぜひそちらもあわせてお楽しみいただきたい。

 東映不思議コメディーシリーズ初のBGM集となる本アルバム、80年代に本間勇輔が生み出した、魅力的なメロディと粋なアレンジの音楽をアーカイブした歴史的な記録でもある。当時のフジテレビ=東映のタッグは「スケバン刑事」シリーズ(1985〜1987)をヒットさせて勢いに乗っていた。その勢いに通じる熱量が本作からも伝わってくる。

おもいっきり探偵団 覇悪怒組/じゃあまん探偵団 魔隣組 オリジナル・サウンドトラック
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