第259回 表の顔と裏の顔 〜私の百合はお仕事です!〜

 腹巻猫です。4月期に放送されたTVアニメで楽しみにしていたのが『私の百合はお仕事です!』でした。何の予備知識もなく、キラキラでコミカルな作品なのかと思って観始めたら、緊張感ただよう展開に意表をつかれました。でも最終回はほんわかしていてよかった。観ようと思った理由のひとつが、音楽を大橋恵さんが担当していたことでした。


 『私の百合はお仕事です!』は、未幡による同名マンガを原作に、2023年4月から6月まで放映されたTVアニメ作品。
 完璧な外面(そとづら)を作ることで誰からも愛される自分を演じてきた女子高生・白木陽芽(ひめ)。ある日、小柄な女性・舞とぶつかってけがをさせてしまい、彼女の代わりにカフェ「リーベ女学園」で働くことになる。リーベ女学園はお嬢様学校をイメージしたカフェで、店員は学園の制服を身にまとい、生徒を演じているのだ。得意の外面を生かしてリーベ女学園で働き始めた陽芽だが、慣れない学園のしきたりや生徒(店員)たちの表と裏の顔の違いにとまどうことになる。
 見どころは、リーベ女学園の表と裏で進行する二重構造のドラマ。本心の探り合い、葛藤、すれ違い。キラキラでコミカルどころか、心理サスペンスのような展開にドキドキして、毎週目が離せなかった。
 この感じ、デジャビュがあるなあと思ったら、出崎統監督のアニメ『おにいさまへ…』だった。女子高を舞台にした少女たちの愛と友情のドラマという点が共通している。しかし、『おにいさまへ…』はリアルに女子校が舞台なのに対し、こちらは、カフェの客の前で女学校の生徒を演じているというのが大きな違い。演じている役柄でもドラマがあり、素顔でもドラマがある。その二重性、演劇性が、本作の大きな特徴になっている。
 演出面では、心情の揺れを画で見せるよりも、会話やモノローグで表現する場面が多い作品だった。オーディオドラマとしても聴けるのではないかと思うくらい。そのぶん大切になってくるのが音楽だ。
 音楽を担当した大橋恵は、自身も中学・高校と女子校で過ごした経験から、女子校を外から見たイメージがリーベ女学園で、実際の女子校の中の様子がカフェのバックヤードに近いなとイメージしたという(サウンドトラック・アルバム解説書のコメントより)。
 そして、きらびやかなリーベ女学園の世界と現実の世界とのメリハリをつけるために、それぞれの世界で流れる音楽にも違いをつけるようにした。リーベ女学園のパートの曲は、ストリングスを中心にした、きらびやかな曲調に。バックヤードや現実の学校のシーン、回想シーンなどでは会話劇が中心になってくるので、きれいなメロディを意識しつつも、楽器編成はシンプルに、会話に寄り添えるような曲調で。結果、ふたつの世界の対比が明瞭になり、演劇性が際立つことになった。
 現実パートの音楽は、ほのぼのとした曲もあるが、悲しみや苦悩を表現する曲も多い。そういった曲でも、必要以上に深刻にならず、品のよい繊細なタッチで書かれている。クラシカルという言葉がぴったりだ。それが、本作全体の印象をソフトで麗しいものにしている。もしかしたら、もっとシリアスでどろどろした世界観を期待していたファンには物足りなかったかもしれないが、TVアニメという媒体を考えれば、これでよかったと思うのだ。

 大橋恵は、『機動戦士ガンダム MS IGLOO』や『トランスフォーマー ギャラクシーフォース』、東映スーパー戦隊シリーズなど、アクション系の作品での活躍が記憶に残る作曲家。筆者もいくつかのサントラ・アルバムで構成やインタビューを担当した。大橋恵が手がけた作品の中には、『クプ〜!! まめゴマ!』『夢色パティシエール』といったメルヘン系、少女マンガ系の作品もあるし、近年は『おかあさんといっしょ』への楽曲提供もしているから、ほんわかした作品やリリカルな作品がないわけではない。しかし、本作ほど華麗な世界観の作品は珍しい。『私の百合はお仕事です!』は、大橋恵がクラシカルでキラキラした音楽の技法をフルに発揮して挑んだ意欲作である。
 本作のサウンドトラック・アルバムは「TVアニメ『私の百合はお仕事です!』オリジナルサウンドトラック」のタイトルで2023年6月7日に日本コロムビアから発売された。
 収録曲は以下のとおり。

  1. 秘密【ハート】Melody(TVサイズ)(歌:小倉唯)
  2. かわいらしい天使
  3. 再会
  4. ようこそリーベ女学園へ
  5. わたしは白鷺陽芽☆
  6. 困ったなぁ
  7. ピンチ!
  8. いつもの風景
  9. 焦るっ
  10. ごきげんよう
  11. 負けませんわ
  12. 訳がわからない…
  13. 冷たい空気
  14. 不穏
  15. 陽芽と美月
  16. わたしたち友達ね!
  17. 不安な気持ち
  18. しあわせな時間
  19. 暗い思い出
  20. 本当のこと
  21. 切ない想い
  22. 答えが見えない
  23. 陽芽ちゃん、どうして?
  24. あなたが好き
  25. 一触即発
  26. 悲しい過去
  27. いらだち
  28. あたふたあたふた
  29. 感激です!
  30. 夢が覚めても(TVサイズ)(歌:白鷺陽芽(CV:小倉唯)&綾小路美月(CV:上坂すみれ)

 1曲目にオープニング主題歌、ラストにエンディング主題歌を配し、あいだにBGMを収録したオーソドックスな構成。BGMは全曲収録でなく、「この曲も入れてほしかったなあ」と思う曲もあるが、印象に残る楽曲はほぼ網羅されている。
 大橋恵のコメントにあるように、音楽はリーベ女学園の曲と現実世界の曲とに大別される。それぞれの音楽性の違いにも注目しながら聴くと興味深いだろう。
 トラック2「かわいらしい天使」は、第1話で陽芽の紹介シーンに流れる曲。同級生から「天使」と呼ばれる陽芽の愛らしい姿が、バイオリン、ピアノ、フルートによる優雅な曲調で表現される。
 トラック3「再会」は、陽芽がリーベ女学園で「きれいなお姉様」風の生徒・美月と出会う場面に流れた曲。陽芽は気づいていないが、美月は陽芽と古い因縁のある少女だった。陽芽の目に写った美月のたたずまいを表現する、ゆったりとしたピアノソロの曲である。
 トラック4「ようこそリーベ女学園へ」はチェンバロとストリングスが奏でる華麗なワルツの曲。リーベ女学園のテーマだ。クラシカルな曲調でお嬢様学校の世界観が表現されている。
 ここまでが、いわば物語の導入部。
 トラック5「わたしは白鷺陽芽☆」は軽快ではつらつとした陽芽のテーマ。クラシカルではあるが、ポップス的な香りもある。それが、リーベ女学園の空気に染まりきっていない陽芽のキャラクターに通じて楽しい。
 トラック8「いつもの風景」もポップクラシック風の軽快な曲。カフェのシーンにも日常シーンにも使われていた。リーベ女学園の世界と日常の世界の両方にまたがる曲と言えるだろう。
 トラック6「困ったなぁ」、トラック7「ピンチ!」、トラック9「焦るっ」は、日常シーンでよく使われたコミカルな曲。物語序盤のシチュエーションコメディ的な場面で効果を発揮していた。トラック28の「あたふたあたふた」も同じカテゴリの曲だ。こういう曲が含まれていることで、作品としても、アルバムとしても、世界観に広がりが出る。
 トラック10「ごきげんよう」は平和なカフェの描写でおなじみの曲。優雅で楽しげな曲調は宮廷のサロンの音楽みたいだ。
 次のトラック11「負けませんわ」は一転して、チェンバロや弦楽器によるバロック風の曲。メガネをかけたリーベ女学園の上級生・純加のシーンによく流れている。緊張感のある曲調が何か起こりそうな不穏な空気をかもしだす。リーベ女学園のドラマに不可欠の曲である。
 次のトラックからは、繊細な心情描写曲が続く。不安や悲しみを表現するトラック12「訳がわからない…」、トラック13「冷たい空気」、トラック14「不穏」、トラック17「不安な気持ち」、トラック19「暗い思い出」などなど。シンプルな編成で心情を的確に表現する大橋恵の手腕が冴える。会話劇のじゃまをしない「会話に寄り添えるような曲調」というコンセプトが十二分に反映された楽曲群である。
 ところで、TVアニメ『私の百合はお仕事です!』は、陽芽と美月の物語を描く前半(第1話〜第6話)と、果乃子と純加の物語を描く後半(第7話〜第11話)のふたつのパートに大きく分けることができる(第12話はいわばエピローグ)。どちらの物語も、友情と葛藤とほのかな恋愛感情がテーマになっている。
 このサウンドトラック・アルバムも、前半は陽芽と美月の物語、後半は果乃子と純加の物語をイメージした構成になっているようだ。もちろん前半と後半で共通に使用された曲も多いから、アルバムを通してひとつの物語ととらえることもできる。が、前半・後半に分かれた構成として聴くこともできる。
 というのも、ちょうど折り返し点にあたるトラック15に「陽芽と美月」という曲が置かれており、これが第6話のラスト近く、陽芽と美月の重要なシーンで流れた曲だからだ。
 そして、トラック16「わたしたち友達ね!」は、第9話の果乃子の回想の中で、陽芽が同級生から果乃子をかばう場面に流れた曲。いわば果乃子と陽芽の友情のテーマであり、後半の始まりの曲にふさわしい。
 以降、曲は果乃子の陽芽への想いと果乃子が覚える不安を交互に描写するような順に並べられている。アルバムの前半とは、また違った雰囲気である。
 アルバム後半で特に印象深い曲のひとつが、トラック20の「本当のこと」。ピアノとストリングスが不安とも期待ともとれる中間色の心情を描いていく。曲の後半は希望に満ちた明るい雰囲気に転じ、しっとりと心にしみる曲調でコーダを迎える。第6話の陽芽と美月の心が通じるシーン、第11話の純加が果乃子の秘密を共有しようとするシーンなど、ドラマのクライマックスとなる場面に流れて感動を盛り上げていた。
 次のトラック21「切ない想い」も印象的な、筆者のお気に入りの曲である。ピアノソロが奏でるメロディーは、曲名通り、切なく美しい。陽芽と美月の物語でも、果乃子と純加の物語でも、まさに切ない想いを描写するシーンに流れていた。シンプルなのに、いや、シンプルだからこそ、心に残る。本作の音楽の名曲のひとつである。
 トラック22「答えが見えない」以降も、主に後半の物語で使用された楽曲が続く。つらい曲調が並ぶが、トラック24「あなたが好き」だけは幸せなイメージの曲だ。ピアノとバイオリン、オーボエなどが奏でるやさしいメロディーが、果乃子の陽芽への純粋な気持ちを表現する。劇中での果乃子の行動はちょっと危なげに見えるのだが、この曲を聴くと果乃子を応援したくなる。
 BGMパートの最後に置かれたトラック29「感激です!」は、ハープのイントロからバイオリンとストリングスのメロディに展開する曲。しみじみとした曲調は、衝突や葛藤を乗り越えたリーベ女学園の平和な情景を描いているようだ。劇中では第11話のラストシーン、カフェの人気投票で一位(ブルーメ・デア・リーベ)に選ばれた純加が、「1年間仲よくしていきましょう」と挨拶をする場面で流れている。アルバムの締めくくりとしても最適な選曲だろう。

 聴き終えて、「ドキドキもしたけれど、最後は幸せに終わってよかったなあ」と思えるアルバムだ。なにより、音もメロディも耳にやさしいのがいい。大橋恵には、少女マンガ系のジャンルでもっと仕事をしてほしいなあ。「百合は私のお仕事です!」……いや、「少女ものは私のお仕事です!」と言えるくらいに。

TVアニメ「私の百合はお仕事です!」オリジナルサウンドトラック
Amazon

アニメ様の『タイトル未定』
400 アニメ様日記 2023年1月22日(日)

2023年1月22日(日)
「第200回アニメスタイルイベント ANIMATOR TALK 今石洋之&吉成曜」を開催。第200回に相応しい充実したイベントになった。配信しないパートでのトピックスのひとつが、吉成さんがTRIGGER作品で使い回すために描き溜めたエフェクト原画、新人教育をするのにあたり練習のために描いた走りや歩きの原画の公開だった。昨年12月の「作画を語る上で重要なこと」で「作画論壇の作画史」について話をして、それを踏まえて「ANIMATOR TALK 今石洋之&吉成曜」をやるはずだっただけど、僕が緊急入院で「作画を語る上で重要なこと」に参加できなかったので、「ANIMATOR TALK 今石洋之&吉成曜」を先にやることになってしまった。

解説書で確認したいことがあって『タイガーマスク』DVD BOX 2を中古で購入。解説書は僕が構成・編集をやっているのだけれど、DVD BOX 2の解説書だけが事務所で見つからなかったのだ。自分でも言うのもなんだけれど、『タイガーマスク』DVD BOXの解説書はよくできている。LD BOXライナーに主要スタッフのインタビュー、寄稿があり(LD BOXの編集は僕でない)。それをDVD BOX 2解説書で全て再録。さらに足りないと思った内容について、新たに取材してDVD BOX2とDVD BOX 3の解説書に収録した。それから、DVD BOX 3解説書の読みどころのひとつが『タイガーマスク』キャスト一覧だ。あの頃の作品だから『タイガーマスク』のエンディングでクレジットされているキャストはほんの僅かなのだけれど、斎藤侑プロデューサーが各話のキャストのメモを残しており、それをベースにメイン&各話ゲストのキャスト表を作成して掲載した。キャスト表を作成したのは小川びい君だったはず。バラ売りDVDの解説書も僕が構成・編集をやっていて、最近になって読み返したのだけれど、これはこれで読み応えがある。

2023年1月23日(月)
『名探偵ホームズ』を配信で視聴。TVシリーズ1話に関してはU-NEXTよりもAmazon prime videoのほうが綺麗。YouTubeに公式でTVシリーズ1話が上がっていて、こちらはAmazon prime videoより綺麗。YouTubeの映像はキャラクターがセルに近い印象で、これが最新のマスターかな。劇場版はU-NEXTもAmazon prime videoも綺麗だけれど、「ミセス・ハドソン人質事件の巻/ドーバー海峡の大空中戦の巻」よりも「青い紅玉(ルビー)の巻/海底の財宝の巻」のほうが少し鮮明だった。勘違いかもしれないけど。
新文芸坐で「トットチャンネル」(1987/97分/35mm)を観る。プログラム「インディーズからメジャーへ 大森一樹の仕事」の1本だ。主人公達がNHKで経験を積んでいくところの積み重ねの構成は巧いし、柴柳徹子(斉藤由貴)が収録で失敗を繰り返すところは面白かったけど、全体にTVドラマ的。一番よかったのは中盤の、皆で別荘に行く場面での青春っぼさ。僕はそれを1980年代的だと思った。斉藤由貴は初々しかった。渡辺典子が綺麗だった。
「トットチャンネル」の上映前にたっぷりと予告編の上映があった。「ザ・メニュー」「線は、僕を描く」「名優ポール・ニューマン特集」「シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション」「ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー」だったかな。古今東西新旧の予告編が観られるのが、新文芸坐の醍醐味だと思っていて、その意味で満足だった。

2023年1月24日(火)
新文芸坐で「ヒポクラテスたち」を観るつもりだったのだけど、金曜までにやらなくてはいけない作業が発生したので、色々と前通しすることにして映画は中止。晩飯はワイフと、アジフライで有名な酒肴 新屋敷に。「アジフライのコース」をいただく。「入院前に行きたい店に行っておこう」シリーズの第1弾だった。
パナソニックが録画用ブルーレイディスク生産を完了するとのことで、SNSで話題になる。

2023年1月25日(水)
また、病院Bに。2月末に入院するのとは別の病気で、2月前半に入院するかもしれないことになり、予想外の事態に当惑する。入院するかどうかは1月30日に分かるはず。病院の行き帰りと待ち時間に、紙の文庫本で「パルプ」(チャールズ・ブコウスキー)を読む。帯に「伝説の怪作解禁!」とあって、それをきっかけにして手に取った。確かに怪作ではあった。これは一日で読み切らないと、後で続きを読むことはないなと思って、猛スピードで最後まで読んだ。若い頃に読んだらもっと楽しめたかもしれない。
TOKYO MXの昨日の『マジンガーZ』は16話「兜甲児暗殺指令!!」。ラストで甲児が「それより、夕焼けを見てごらん」と言うと「まあ、綺麗だわ」とさやか。そして、マジンガー(甲児)とさやかが、夕陽を見て終わる。カット割りでカメラの回り込み風の表現にしているのも面白いんだけど、それまでの展開とあまり関係なく「それより、夕焼けを見てごらん」と言い出したことに驚いた。これをやれば、それまでがどんな話でも綺麗に終わるなあ。

2023年1月26日(木)
『名探偵ホームズ』の「ドーバー海峡の大空中戦!」を視聴。炸裂している。こんなセリフを言わせたい、こんなことをやらせたいという想いが詰まっている。今まで気にならなかったセル浮きとか気になってしまった。それから、ホームズの部屋とか下宿の外観の美術が凄い。
アニメを楽しむために『お兄ちゃんはおしまい!』の原作は目を通さないでいたんだけど、仕事の関係で1巻から3巻までにざっと目を通す。話は同じなのに、アニメは別物になっていると感じた。「設定資料FILE」の構成に着手する。

2023年1月27日(金)
『終末のワルキューレII』前編(1話~10話)を一気観した。面白かったけど、この辺りは前シリーズを視聴した直後に、原作を一気読みしてしまった部分なので、なんとなく再見している気分になってしまった。「設定資料FILE」の構成を終わらせる。
新文芸坐で「夏子と、長いお別れ(ロンググッドバイ)」(1978/25分/16mm)、「オレンジロード急行(エクスプレス)」(1978/86分/35mm)のセット上映を鑑賞。このセット上映はプログラム「インディーズからメジャーへ 大森一樹の仕事」のひとつ。「オレンジロード急行」は自分が「ぴあ」とか「シティロード」といった雑誌で映画の情報を仕入れるようになった頃によくタイトルを目にしていた作品で、どんな映画なのかはまるで分からず、なんとなく気になっていたのだが、45年経ってようやく観ることができた。当時としては翔んだ映画だったに違いないし、今観ても面白い。観る直前にあらすじに目を通して、自動車泥棒をやっている老人コンビと、海賊放送をやっている若者達の珍道中を描いたものだろうと思ったけれど、老人コンビと若者達が出会うのは映画が2/3を過ぎてから。しかも、すぐに別行動をとることになる。Wikipediaを読むと最初の構想では海賊放送局だけの話で、後から老人コンビを足したらしいけど、老人コンビがいないと、もっと1970年代的な若者のドラマになったのだろうなあ。一番よかったのはお爺さん(嵐寛寿郎)が旅の終わりに、ミカンの木の枝を折って盗んでしまうところ。劇中で本人がどうしてそんなことをしたのか分からないと言っていたと思うけど、確かに分からない。分からないけど面白かった。お婆さん(岡田嘉子)のアップでやたらと長いカットが数度あったのも印象的。海賊放送の若者達はあの時代の雰囲気があって、それにちょっと惹かれた。ヒロインのダンプ(中島ゆたか)は男性の観客にとって都合のいい「かっこいい女」なんだけど、それもよかった。主人公格の流(森本レオ)が海賊放送でDJをやっているのだけど、シロツグに聞こえるところが何ヶ所もあった。逆だ。海賊放送の若者達がクライマックスで警察を煙に巻くところは手並みが鮮やかで、船で海に脱出して、カリフォルニアに行くかもという流れは『ルパン三世』のようだった。タイトルの「オレンジロード急行」にちなんだのか、何度も映画の中でオレンジを出しているのがおかしかった。また、オレンジが出たって感じ。
「夏子と、長いお別れ(ロンググッドバイ)」は自主制作映画風で時代の気分がたっぷり。メインの女優さんの言動がいかにもあの頃の女性らしい。文芸坐第一回製作作品なんだけど、これが文芸坐の第一回製作作品でいいのかという気もするし、これでいいのだという気もする。

2023年1月28日(土)
吉松さんと人気店でとんかつを食べる予定だったのだけれど、行き違いがあって、吉松さんは遅れて到着。2人でイケ・サンパークまで歩いて、ビールなどをいただく。16時からZoomでイベントについての打ち合わせ。話が弾んで2時間も打ち合わせが続いた。珍しく人と沢山話をした土曜日だった。20時20分まで事務所に。疲れているのに「帰るまでにこれを終わらせよう」と思って、簡単な作業に時間をかけてしまうのはよろしくないな。

第809回 最終話納品待機中~『いせれべ』の話(1)

今『いせれべ』最終話納品(V編)の撮影上り待ち時間に、この原稿を書いています!

“いせれべ”とはもちろん、正式タイトル『異世界でチート能力(スキル)を手にした俺は、現実世界をも無双する~レベルアップは人生を変えた~』の公式略称。“いせれべ”と決まったのはアニメ化決定告知が発表される直前? 脚本開発中は「異世界チート」から始まり、“それだと他の既存タイトルの略称と被る”との意見で「チート無双」に呼称変更。制作中、我々の社内スタッフは「異世界」とか「チート」と呼んでいて~からの結果『いせれべ』。正直、「あ、俺たち『いせれべ』作ってる」と略称がスタッフ間で定着したのは放映開始してからでした。
 という訳で、最終回放映を機に、ここから何回かに分けて『いせれべ』制作話を己の記憶を辿る形で語ってみるとします。『いせれべ』のアニメ化企画は、前作『蜘蛛ですが、なにか?』の終盤制作中、KADOKAWAさんから「次の企画を」とお話をいただきました。「内容を聞かせてください」と返し、プロデューサーさんらと顔合わせ。で、その際今回は“KADOKAWAとトムスエンタテインメントとの共同プロデュース”と知り、個人的には「縁だな」と。つまりトムスエンタテインメント(元・東京ムービー新社)と言えば、自分の出身——テレコム・アニメーションフィルムの親会社。トムスのプロデューサーさんと、自分の師匠・友永(和秀)さんやテレコムの話でひとしきり盛り上がって、「やらせていただきます」。実はその時、別タイトルを提示されて一旦はそちらの話を進めようとしたのですが、程なくして滑り込むように「こちらの原作でお願いします!」と決まったのが『いせれべ』でした。
 その別タイトルの時点で自分が総監督、監督/田辺慎吾とキャラデ・総作画監督/木村博美というメインスタッフは決まっていたので、『いせれべ』に変わった際もそのままスライド。個人的にも会社的にも“後進の育成”は必須で、次作での自分は“総監督”デビューと決めていました。キャラクターデザインの木村博美さんは『COP CRAFT』でキャラデ・総作監デビューをさせた、ウチの若手ホープ。誰よりも画が巧い彼女に“社内新人スタッフの目標となって欲しい”と、続けて指名。その期待に十分応える画が上がってきて、自分・スポンサー共々歓喜しました。
 キャラデ発注の際、俺の方から要望したのは「原作のカラーイラストがそのまま動くように!」で、情報量は減らさず“止めでも持つ画”を求めました。で、“画”全般に関して非常に真面目に考えて描く木村は、キャラデに限らず作監修正や原画1カットでも、パース・骨格・デッサン——つまり、ゼロから計って描き出すアニメーターです。例えば俺が「ごめん、これ直して」と彼女に原画修正を頼むと、キャラの芝居を直して欲しいだけだったのに、「原図のパースからオカシイから背景も直していいですか?」と返され、労力を倍にしてくるんです。でも、元のモノより3倍魅力的なカットに仕上げてくるので、逆らえない——という巧さです。今作のキャラデに関しても例外ではなく、原作数巻に渡る絵柄の変容を彼女なりに研究しつつ、平均値を図り出して描いていたようで、流石です。
 で、シリーズ構成に関しては───また、次回。

第808回 来週こそは!

 現在まだ『いせれべ』最終話の制作超佳境。毎作品、最終回を駆け抜ける際のモチベーション! それは、

これが終わったら、次の作品に取り掛かれる!!

です。しかもこの後2シリーズ連チャン。両作とも楽しみです、作るのが!
 とりあえず、『いせれべ』終わったら、じっくりあれこれ、もっと“長文”書くので、今回はご勘弁を(汗)!

アニメ様の『タイトル未定』
399 アニメ様日記 2023年1月15日(日)

2023年1月15日(日)
珍しく途中に休憩を入れないで、6時間くらいみっちりとデスクワーク。14時半くらいにワイフと外出して、ちょっと吞む。事務所に戻ってまたデスクワーク。

2023年1月16日(月)
昨日の『サザエさん』で、着物姿のフネさんが喫茶店で小説を読んでいた。昔はお年を召した方だから着物を着ていると思っていたけど、今の目で見ると、普段から和装のお洒落な女性だ。波平の和服姿もお洒落に思えなくもない。
イベント関係でZoom打ち合わせ。このままの内容をイベントで話してもらえばいいじゃん、と思うくらいに面白かった。自分の病気とこれからのことについて話したら「小黒さんが死んだら、アニメ界の何かが失われてしまう」と言ってもらって、ちょっと嬉しかった。いや、喜んでいる場合ではないのだけれど。
『タイガーマスク』のDVD解説書を事務所スタッフに探してもらう。バラ売りDVDの解説書は全部あったけれど、BOXの解説書は2巻のものだけ見つからない。しかし、読みたい記事が載っているのがBOXの2巻の解説書のようだ。バラ売りDVDの解説書を読み直すと、ちゃんと書くべきことを書いているなあ。とりあえず、見つかった解説書はスキャンしてPDF化してもらう。ちなみにどちらの解説書も僕が構成・執筆を担当している。

2023年1月17日(火)
新番組の『FLAGLIA ~なつやすみの物語~』のビジュアルがかなり独創的なのだけれど、ずっとあれでいくのかしら。確認したら、全6話(15分×6)のようだ。全6話ならこのスタイルでいけるかも。
昼は病院Bに。新型コロナPCR検査(鼻咽頭検査)の後、しばらく待って、手術のための肺活量の検査。4種類のやり方で肺活量を測る。この日の検査はこれだけ。病院の帰りに京王百貨店新宿店の「第58回 元祖有名駅弁と全国うまいもの大会」に寄って、自分とワイフの分の駅弁を買う。
紙の文庫本で「チルドレン」 (伊坂幸太郎) を読了。これも「今まで読んでいなかったタイプの小説を読んでみるシリーズ」。小説として巧いし、充分に楽しんだけど、贅沢を言うと、もう一押し欲しかった。

2023年1月18日(水)
昼に病院Bに。レントゲンと採血の後に診察。肺の病気については投薬がお終い。2ヶ月後に改めて肺を見てもらうことになった。今回の検査は次の手術のためのものでもあった。当たり前だけど、電車に乗っての通院があると、その日の仕事は捗らないなあ。
病院での待ち時間に、紙の文庫本で「きらきらひかる」(江國香織)を読み始める。面白いけど、個人的にしんどい部分も。このしんどさは小説の価値とは関係ない。

2023年1月19日(木)
『タイガーマスク』の再々々視聴が最終回(105話)まで到達。最終回でタイガーのマスクが外れて正体が分かることは知っているのに、やっぱり息を吞む。前回の全話視聴が2013年のはずだから、ほぼ10年ぶりの再視聴だった。今回は原作と照らし合わせながら観た。前回も原作をチェックしつつ観たのだけれど、紙の本とディスクの映像だったので、簡単には行き来できなかった。今回は原作はKindle、映像は配信だったので、気になるところまで飛んですぐに確認できる。だから、楽だった。前回の全話視聴で納得できなかった部分について、違った解釈ができるようになった。
ある方から「逆シャア本の鈴木敏夫さんのインタビューで話題になっている、富野さんと高畑さんの対談って今も読めるものなんですか」という問い合わせがあり、瞬時にラックから『機動戦士ガンダム』劇場版第1作のロマンアルバムを取りだし、事務所スタッフにスキャンしてもらい、PDFを送った。

2023年1月20日(金)
『お兄ちゃんはおしまい!』は3話もよかった。作画もいいんだけど、それ以外も色々と濃かった。この濃さは貴重だと思う。この作品って、作画や演出以外についての話で「どこにグッときたか」を説明すると、自分の変態性に触れることになるし、SNSで感想を書くと、変態的なことについて濃い人に「けっ、わかってないな」と言われてしまいそうな気がする。『うる星やつら』14話はトータルでよくできていて、楽しめた。「ちゅど~ん」の解釈については「こういう感じか」と思った。

2023年1月21日(土)
仕事の合間に新文芸坐で「レイジング・ブル」(1980・米/129分/DCP)を鑑賞。プログラム「名優・名匠・盟友 スコセッシ&デ・ニーロ」の1本。どんな内容なのか知らないで観たのだけれど、こんな映画だったのね。少しは予習してから観ればよかった。今の自分の年齢と精神状態だとちょっとしんどい。ロバート・デ・ニーロが凄いのはよくわかった。

第258回 主題歌はいらない 〜夏への扉〜

 腹巻猫です。6月17日に一橋大学一橋講堂で開催された劇場アニメ『夏への扉』の上映会+トークセッションに足を運びました。上映後に行われたトークセッションは、丸山正雄プロデューサーと出演声優である水島裕、古谷徹、古川登志夫、三ツ矢雄二、潘恵子らによる豪華な顔ぶれ。「昭和のアニメイベントか!?」と思うような楽しいトークでした。ちょっと残念だったのは、ハネケンの音楽の話題が出なかったことですね。


 『夏への扉』は1981年3月に公開された東映動画製作の劇場アニメ。竹宮惠子(当時の表記は恵子)が1975年に発表した同名マンガを、監督・真崎守、脚本・辻真先、アニメーション制作・マッドハウス(クレジットは製作協力)のスタッフでアニメ化した作品だ。
 イベントでも語られていたが、少女マンガの絵柄や雰囲気を再現した華麗な映像がすばらしく、70年代のアニメ『エースをねらえ!』や『ベルサイユのばら』の表現をさらに進化させた印象がある。「少女マンガの再現」と書いたが、「再現」ではなく「アニメによる少女マンガ的表現への挑戦」と言ったほうが適切だろう。
 『夏への扉』が公開された1981年は『銀河鉄道999』や『機動戦士ガンダム』などのSFアニメが人気で、少女マンガ原作の『夏への扉』はアニメ雑誌でも大きく取り上げられる作品ではなかった。しかもこれは、一般の映画館ではなく、小さいホールや公共施設などで公開されるオフシアター作品だった。もう少し時代が下ればOVAで発売されていたと思うが、公開当時は観られる機会が限られていた。筆者も当時は観ていない。ようやく観られたのは2000年代に入ってから。現在はアマゾンプライムなどの動画配信で観ることができる。
 『夏への扉』はフランスの寄宿制男子校に通う少年たちを主人公にした物語である。主人公のマリオンは知性と勇気にすぐれた美しい少年。仲間のジャック、リンド、クロードとともに合理主義を唱え、不合理なルールや慣習に抵抗して、生徒たちから支持を集めていた。そんなマリオンがある日、美しい婦人サラと出会って心を奪われ、彼女の妖艶な魅力におぼれていく。マリオンの変化は仲間の少年たちの関係にも変化を及ぼし、やがて悲劇的な事件が起きる……。
 竹宮惠子は単行本「夏への扉」のあとがきで、この物語の主人公はマリオンではなく、登場人物全員だと語っている。マリオンが中心になってはいるが、誰もが主人公になりうる群像劇なのだ。主役クラスの声優がそろったキャスティングも、それを意識してのことだろう。

 音楽は『宝島』『宇宙戦士バルディオス』などのアニメ音楽を手がけていた羽田健太郎。羽田は「復活の日」「薔薇の標的」の2作で日本アカデミー賞優秀音楽賞を受賞したばかりで、本作が受賞後第1作だった。ヒット作『超時空要塞マクロス』を手がけるのは翌年の1982年である。まさに勢いに乗っていた時期の作品だ。
 音楽集アルバムのライナーノーツで、羽田は本作の音楽についてこう語っている。
「私は今度の作品に大変な意欲をもって取り組みました。(中略)打ち合わせの段階から、熱の入ったミーティングが重ねられ、作曲作業の過程でも、気がついたら夜が明けていたなんていうのはザラでした。(中略)したがって出来ばえも自分としては満足いくもので生涯思い出深いものになると思いますし、私の代表作の一つに数えられる作品だと思います」
 少女マンガを原作にした作品らしく、そしてフランスが舞台の作品らしく、音楽は60〜70年代のフランス恋愛映画音楽のような美しくロマンティックな曲調で書かれている。羽田自身のピアノがたっぷりフィーチャーされ、伊集加代子のスキャットも聴ける。ミシェル・ルグランやフランシス・レイを思わせる甘く切ない旋律とサウンドに彩られた、大人のムードのアニメ音楽である。
 羽田健太郎はピアニスト、アレンジャーとして、映画音楽のカバー演奏やアレンジをたくさん手がけていた。その経験が本作の音楽にも大いに生かされているはずだ。「こういう映画だったら、こういう音楽だよね」と言わんばかりの迷いのない音楽であり、これまでにないアニメ音楽を生み出そうという意欲も伝わってくる。
 結果、ハネケンの音楽は本作の「少女マンガらしさ」を支える大きな要素になった。ピアノの繊細な音色、スキャットの甘い香り、ストリングスのもの憂いアンサンブル。当時流行していたロボットアニメやSFアクションアニメのダイナミックなサウンドとは対照的な、柔らかく華やかなサウンドが、映像を際立てているのだ。
 本作のサウンドトラック・アルバムは1981年3月に「夏への扉 オリジナル音楽集」のタイトルで日本コロムビアから発売された。2005年に「ANIMEX1200シリーズ」の1枚として初CD化。一部の曲はCD「ハネケンランド」や「羽田健太郎 THE BEST〜10th memorial〜」にも収録されたが、いずれも現在は入手困難である。配信でいいから再発してほしいものだ。
 収録曲は以下のとおり。

  1. 夏への扉 —メインテーマ—
  2. レダニアのテーマ
  3. マリオンのテーマ
  4. 青春の迷路
  5. 愛のテーマ —サラ・ヴィーダ—
  6. 燃える夏
  7. レダと白鳥
  8. 年上の女(ひと) —愛のテーマII—
  9. 伯爵のテーマ
  10. 哀愁のマリオン
  11. 夏への扉 —メインテーマII—

 LPレコードではトラック1〜5がA面、6〜11がB面に収録されていた。
 録音スタジオは当時赤坂にあった日本コロムビアのスタジオ(多くのアニメサントラがここで録音された)。同じスタジオで15時間半に及ぶミックスダウンを行った、と羽田はライナーノーツに書いている。
 実は作品の中で使われた音楽は、音楽集アルバムに収録された音楽そのままではない。演奏はおそらく同一ながら、ピアノだけを抜き出したバリエーションやスキャット入りの曲からスキャットを抜いたバリエーションなど、ミックス違いが多く使用されている。観賞用の音楽と映像のための音楽は違うという判断だろう。本アルバムが「オリジナル・サウンドトラック」ではなく「オリジナル音楽集」と題されているのはそのためかもしれない。いずれにせよ、音楽集アルバムは、劇場用の音楽とはまた別ものの、独立した音楽作品になっている。
 音楽の核となるのは1曲目に収録された「夏への扉 —メインテーマ—」。劇中ではメインタイトルと、それに続くオープニング・クレジットのバックに流れる。ストリングスとホルンの序奏に始まり、ハネケンのピアノが甘く切ないメロディーを奏でる。金管楽器、リズムセクションが加わり、夏の香りが空気を満たす。ムード音楽かイージーリスニングの1曲と言われても納得してしまう、みごとなアレンジと演奏である。
 トラック2「レダニアのテーマ」は、マリオンに恋する美少女レダニアのテーマ。アコースティックギターとピアノをメインにした、これもフランシス・レイ風の1曲。レダニアの登場場面に必ずと言ってよいほど流れ、レダニアの可憐さと恋する想いを表現していた。
 この曲の変奏がトラック7の「レダと白鳥」。こちらは素朴な音色の木管楽器や民族楽器を加えた編成で演奏される。劇中では、ギリシャ神話のレダと白鳥の物語が紹介されるバックに流れていた。
 次の「マリオンのテーマ」は物語の中心になるマリオンのテーマ。これもアコースティックギターとピアノをメインにした曲であるが、曲調はさわやか。少年の純粋さとひたむきさを描写したような音楽だ。
 ストリングスがメランコリックなフレーズを速いテンポで奏でるトラック4「青春の迷路」は、乱れる心を表現する曲。マリオンにひそかに想いを寄せる少年クロードの苦悩のテーマとして使われている。
 そして、トラック5「愛のテーマ —サラ・ヴィーダ—」は本アルバムの聴きどころ。伊集加代子のスキャットをフィーチャーした、大人の女性サラのテーマである。マリオンを誘惑するサラの妖艶なイメージに、女声スキャットがこれ以上ないほどはまっている。間奏で登場するテナーサックスの音色も大人の雰囲気。官能的なムードはあっても下品にならないところがハネケンのアレンジのうまさだ。サラの初登場シーンから流れ、その後もマリオンとサラの関係を描くシーンにたびたび使用されて強い印象を残した。メインテーマとならぶ、本作を代表する楽曲である。
 この曲の変奏がトラック8「年上の女(ひと) —愛のテーマII—」。スキャットのメロディーをピアノが奏で、からっとしたリゾートミュージックのような雰囲気をかもしだす。サラはマリオンを大人の世界に誘うが、悪い女性ではない。自立した魅力的なキャラクターとして描かれている。原作者の竹宮惠子自身が「サラのような女性は私の理想です」(単行本あとがきより)と言っているくらいだから。「愛のテーマII」には、そんなサラのイメージが投影されているようだ。
 トラック6「燃える夏」はロック的なリズムとエレキギターがからむ、本アルバムの中では異色のサウンドの曲。冒頭のプロローグ部分に流れている。走るマリオン。決闘しようとするジャックとリンド。スリリングな曲調が緊迫感と少年たちの追い詰められた思いを表現する。
 トラック9「伯爵のテーマ」は、物語の終盤になって登場するサラのパトロン、クリューニー伯爵のテーマ。不穏なパーカッションとピアノの導入から、金管楽器がけだるく奏でる旋律へと展開。曲だけ聴くと、「伯爵ってどんな男? 悪人? 善人?」と思ってしまうけれど、実際もそんなキャラクター。少年たちにとっては、これまで周囲にいなかったタイプの、理解を越えた存在だ。音楽からもそんなイメージがただよってくる。
 トラック10の「哀愁のマリオン」はメインテーマのメロディーを使った心情曲。ストリングスのうねりがマリオンの苦しい胸の内を描写し、ピアノがメインテーマのフレーズを哀しげに奏でる。物語の終盤に流れ、マリオンの悲痛な思いを表現した。
 最後のトラック11「夏への扉 —メインテーマII—」はメインテーマの変奏。コーダの数小節を除いて、ピアノソロだけで演奏される。ハネケンのピアノプレイが堪能できる曲でもある。ラストシーンとエンドクレジットのバックに流れ、切ない余韻とともに作品を締めくくった。

 実は本作の音楽には、ドラマを盛り上げるためのアンダースコア、つまり背景音楽的な楽曲はほとんどない。メインテーマを除くと、マリオンやレダニア、サラ、伯爵など、キャラクターにつけられた曲ばかりである。「青春の迷路」もクロードのテーマと呼べるし、唯一ドラマティックな「燃える夏」も、状況ではなく少年たちにつけられた曲ととらえることができる。ドラマよりもキャラクターにフォーカスした音楽になっているのだ。これも本作の音楽の特徴のひとつで、同時代のほかのアニメ音楽とひと味違うところである。竹宮惠子は、本作を「誰もが主人公」の群像劇だと語った。その思いが、本作の音楽にも反映されているのではないか。
 もうひとつ、音楽集とともに本作をふり返って、あらためて驚くことがある。この時代の劇場アニメには珍しく、本作には主題歌がないのだ。オープニングもエンディングもハネケンのインストゥルメンタル曲が使われている。同時上映の劇場アニメ『悪魔と姫ぎみ』は30分の短編なのにちゃんと主題歌が作られているのだから、『夏への扉』に主題歌がないのは明快な意図があってのことだろう。
 もし、この作品に主題歌があったら……?
 いや、まったく想像できない。どんな曲が流れても、この作品には似合わない気がする。ぎりぎり、フランス語の歌詞の曲なら許せるかもしれない。でも、日本語の歌詞のポップスや歌謡曲は無理。きっと、ぶちこわしである。
 それくらい、ハネケンの音楽は本作と一体化している。
 ときにささやくように、ときにたおやかに、ときに弾むように奏でられるハネケンのピアノの音が、どんな歌詞よりも雄弁に登場人物の気持ちを伝える。
 だから『夏への扉』に主題歌はいらない。
 ハネケンのピアノがすでに歌なのだ。

夏への扉 オリジナル音楽集
Amazon

アニメ様の『タイトル未定』
398 アニメ様日記 2023年1月8日(日)

2023年1月8日(日)
散歩以外はデスクワーク。この日に観た新番組は『解雇された暗黒兵士(30代)のスローなセカンドライフ』『お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件』 『TRIGUN STAMPEDE』『UniteUp!』『NieR:Automata Ver1.1a』『魔王学院の不適合者 II ~史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う~』『イジらないで、長瀞さん 2nd Attack』『最強陰陽師の異世界転生記』『老後に備えて異世界で8万枚の金貨を貯めます』。新番組が多すぎて『タイガーマスク』のチェックはあまり進まず。

2023年1月9日(月)
仕事の合間に新文芸坐で「仁義なき戦い」(1973/99分/DCP)を鑑賞。プログラム「没後20年、そして『仁義なき戦い』から50年 深作欣二、アクションと情念」の1本だ。この映画を前に観たのは20年近く前だったはず。改めて観て思ったのは、映画として大変によくできているということ。ストーリーに無駄がないし、パンチが効いている。演出もカメラも役者もいい。今回の上映はDCPで、50年前の映画とは思えないほどに映像が鮮明だった。特に赤色が鮮やかだった(玩具屋シーンでの店内のピンクもよかった)。新文芸坐のスクリーンとこの頃の邦画のスコープサイズは相性がよく、その意味でも満足度が高い。同時上映の「広島死闘篇」のチケットも取ってあったのだけど、1本でお腹いっぱいだったので、「広島死闘篇」は遠慮して劇場を出る。
この日に観た新番組は『魔道祖師 完結編』『ノケモノたちの夜』『アイドリッシュセブン Vibrato』『The Legend of Heroes 閃の軌跡 Northern War』『神達に拾われた男2』『便利屋斎藤さん、異世界に行く』『しょうたいむ!2~歌のお姉さんだってしたい』『虚構推理(Season2)』『もういっぽん!』『KJファイル』。この日も新番組が多い。

2023年1月10日(火)
午後は上野に行って、吉松さんと食べて吞む。紙の文庫本で伊集院静の「乳房」の読了。「今まで読んでいなかったタイプの小説を読んでみるシリーズ」なのだが、意外なくらい楽しめた。若い頃だと、のれなかったろうなあ。
新番組を観るのを優先させて、後回しにしていた『機動戦士ガンダム 水星の魔女』第1クール最終回を観た(放映は1月8日)。先にネットで評判を目にしてからの視聴だけれど、話題になっているラストは僕的にはOKだ。この後が楽しみになった。
この日に観た新番組は『HIGH CARD』『吸血鬼すぐ死ぬ2』『もののがたり』『東京リベンジャーズ』『ヴィンランド・サガ SEASON2』『あやかしトライアングル』『英雄王、武を極めるため転生す 〜そして、世界最強の見習い騎士♀〜』。

2023年1月11日(水)
12月に入院した病院に行く(以降、病院Bと表記する)。採血、レントゲン、肺の診察、先生による手術と入院の説明、看護師さんによる入院の説明、別の検査の予約、また、看護師さんによる説明、会計。最後に薬局で薬をもらう。手術そのものと手術前の段取りの多さにどんよりとした気分になる。
この日に観た新番組は『人間不信の冒険者たちが世界を救うようです』『とんでもスキルで異世界放浪メシ』『久保さんは僕を許さない』『とーとつにエジプト神2』。新番組も落ち着いてきた。
朝の散歩では〈ウルトラサウンド殿堂シリーズ〉の「ウルトラマンA」を聴いて、続いて「帰ってきたウルトラマン」を聴いた。前にも書いたかもしれないけど、このシリーズは構成がいい。「ウルトラマンA」で女子大生達が歌った「ハチのムサシは死んだのさ」が入っているのもいい。

2023年1月12日(木)
猫の話。散歩コースに青果店があって、店内に大きな黒猫がいる。外から店内が見えるのだが、冬場はほぼ毎日、黒猫がストーブの前に陣取って丸まっている。黒猫は青果店の外をウロウロしていることもあり、飼い猫にしては外にいることが多いなあと思っていたのだが、青果店の方と話をしたところ、そこの飼い猫ではないのだそうだ。勝手に店に入ってきて、ストーブの前で丸まっているらしい。同じ青果店の店頭、あるいは店の脇によくいるサバトラも、やはり飼い猫ではないとのこと。そのサバトラが近所の宅急便の営業所に、当たり前の顔をして入っていったのを見たことがある。営業所の人も建物内に猫がいることを気にしていないようだった。
仕事の合間に、サンシャインで開催されている「生誕50周年記念 THE仮面ライダー展」に行く。イベントの構成はシンプルだが、展示のボリュームが凄かった。各世代が楽しめる展示だと思った。近年の作品のライダースーツを楽しそうに見ている若い女性の姿も印象的。

2023年1月13日(金)
仕事の合間に新文芸坐で「黒蜥蜴」(1968/87分/35mm)を観る。プログラム「没後20年、そして『仁義なき戦い』から50年 深作欣二、アクションと情念」の1本だ。多分、この映画を観たのは二度目。三島由紀夫がかなり面白い役で出演していて、前に観た時もそれで驚いたのを思い出した。前に観た時も同じように思ったかどうかは覚えていないが、松岡きっこがよかった。
『お兄ちゃんはおしまい!』は2話の作画も凄かった。いやあ、大したものだ。仕事関連で、同作のキャラ設定を見た。巧いなあ。巧い上に、デザイン以上のものを伝えているキャラ設定だった。キャラ設定で感心したのは『明日ちゃんのセーラー服』以来だ。

2023年1月14日(土)
トークイベント「ここまで調べた片渕監督次回作13【映画を作ろうとして見つけ出した新しいこと・総まとめ編】」を開催。タイトルは「総まとめ」だけど、片渕監督の「枕草子」と平安時代に対する姿勢を再確認し、そして、映画の内容に関わるであろう重大な解釈を提示するというものだった。今回も制作中の資料のお披露目があった。
この日は夕方から「《AnimeDRIFTER》『ブラックマジックM-66』上映+トークセッション」があり、チケットを取ってあった。昼間のアニメスタイルイベントの後で他のイベントに参加するのは不可能ではなかったけれど、翌日の仕事に支障をきたしそうだったので、チケットをアニメスタイルのスタッフに譲る。
朝と午前中の散歩では『とらドラ!』のキャラソンアルバム、サントラを聴いた。ベストに入っていない楽曲もあってよかった。

第807回 『いせれべ』EDの話

 ——はい。対談記事を3週挟ませていただいて、本日より通常営業再開。と言ってもこの原稿執筆中の現在はまだ『いせれべ』最終話の制作超佳境。ラッシュチェックから原画・作監作業のお祭り騒ぎ中! とにかく駆け抜けます!!  で、OPに続いて、

ED(「ハチミツ」作詞・作曲・歌:スガシカオ)の話!!

です。まず、スガシカオさんの曲自体が作品内容と凄くマッチしていました。当初アニメ制作に際し原作者・美紅先生より我々スタッフに対しての唯一のご要望、「主人公・優夜の“優しさ”をしっかり描いてほしい」に、見事に応えた名曲だと思います。
 その分いつも以上に“曲を聴かせる”ための画作りするように心掛けました。具体的に言うと、カット数が全6カット。今までやったどのEDより少ないカット数です。

異世界と現実世界の狭間でそれぞれのメインキャラたちが優夜を待つ……

というコンセプトで、コンテを纏めました。原画は板垣・篠(衿花)で、作監が木村(博美)。レイアウトや振り向いた各キャラの止めを自分が描き、“見上げるナイト・アカツキ”や“歩いて来るルナ・美羽”などの動きは篠さんに描いてもらいました。あ、流れる雲は板垣がやりました——が自分的には失敗。リピート作画が巧くいってなかったですね、まだまだ修行が足りませんでごめんなさい(汗)。
 あと、OP同様、木村作監に頼ったEDでもありました。やっぱり、木村の画は艶があって、圧倒的に長尺の止めに強い! きっと、最終話まで良い仕事・大活躍することでしょう!

 で、間髪入れず自分は7月からは次シリーズ、さらにその次シリーズのシリーズ構成・脚本作業(2本同時進行)に!

 しかし、その前に

今度こそ休み数日取って、自分にとって名古屋とは別のもう一つの故郷(両親の実家)・“山形”に行きたい!

ってことで、再開早々また短くて申し訳ありません! 仕事仕事!

第207回アニメスタイルイベント
ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』

 片渕須直監督の新作のタイトルは『つるばみ色のなぎ子たち』。平安時代を舞台にした作品のようです。

 『つるばみ色のなぎ子たち』の制作にあたって、片渕監督はスタッフと共に平安時代の生活などの調査研究を進めています。今までアニメスタイルイベントでは「ここまで調べた片渕監督次回作」のタイトルで、その調査研究の結果を少しずつ語っていただきました。これからは「ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』」のタイトルでイベントを続けます。

 2023年7月8日(土)に開催するのが「第207回アニメスタイルイベント ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』」。今までのイベントで語られたことのおさらいをしつつ、新しい話題に触れることになるはずです。出演は片渕須直監督、前野秀俊さん。聞き手はアニメスタイルの小黒編集長が務めます。

 会場は阿佐ヶ谷ロフトA。イベントは「メインパート」の後に、ごく短い「アフタートーク」をやるという構成になります。配信もありますが、配信するのはメインパートのみです。アフタートークは会場にいらしたお客様のみが見ることができます。

 配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。また、今までの「ここまで調べた片渕須直監督次回作」もアニメスタイルチャンネルで視聴できます。

 チケットは6月17日(土)昼12時から発売となります。チケットについては、以下のロフトグループのページをご覧になってください。

■関連リンク
LOFT  https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/254610
会場チケット https://t.livepocket.jp/e/4tf4e
配信チケット https://twitcasting.tv/asagayalofta/shopcart/242691

 なお、会場では「この世界の片隅に 絵コンテ[最長版]」上下巻セットを片渕監督のサイン入りで販売する予定です。「この世界の片隅に 絵コンテ[最長版]」についてはこちらの記事をどうぞ→ https://x.gd/57ICr

第207回アニメスタイルイベント
ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』

開催日

2023年7月8日(土)
開場12時30分/開演13時 終演15時~16時頃予定

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

片渕須直、前野秀俊、小黒祐一郎

チケット

会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,500円、当日 1,800円(税込・飲食代別)
ツイキャス配信チケット/1,300円

■アニメスタイルのトークイベントについて
 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。

アニメ様の『タイトル未定』
397 アニメ様日記 2023年1月1日(日)

2023年1月1日(日)
早朝散歩のついでに初詣をする。朝のツイートで「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア 友の会」「KISS AND CRY 資料集」の予約が始まったことを告知する。ハードディスクレコーダーの外付けハードディスクを2023年用のものと取りかえる。年末に買ったBlu-rayソフトで『おもひでぽろぽろ』を観る。夕方はワイフと外出。IKE・SUNPARKでお茶をしてから、「ふれあい酒場 ほていちゃん」で吞む。前にも元旦にほていちゃんで吞んだなあ。混んでいるわけでもなく、メニューも豊富で楽しかった。
朝と昼の散歩でサブスクにあった「2000年代アニメソング」を集めたプレイリストを聴いたのだけど、1970年代のアニソンとは違った意味で懐かしい。

2023年1月2日(月)
Amazonで「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア 友の会」の売れ行きが好調。午前中はワイフと六義園に。のんびりしていて正月らしかった。茶屋で甘酒などをいただく。事務所に戻って『タイガーマスク』の視聴を開始。原作と見比べながら1話から8話を観る。
朝の散歩ではサブスクにあった「2010年代アニメソング」を集めたプレイリストを聴いた。これも懐かしい。

2023年1月3日(火)
午後の散歩では、ワイフと雑司ヶ谷に。Chachat(茗荷茶屋)で自分は九条ねぎそばとわらびもちを、ワイフは十割そばと紅茶をいただいた。のんびりとした正月らしいひととき。
散歩以外は『タイガーマスク』を視聴してメモをとっただけ。他のことはほとんどやっておらず、これはこれで優雅だった。『タイガーマスク』は9話から19話まで観た。

2023年1月4日(水)
午前中の散歩では王子まで歩いて、王子駅周辺をウロウロする。『タイガーマスク』は34話までチェックした。この数日、就寝前に『タイガーマスク』の原作を読んでいたのだが、最終巻に到達。

2023年1月5日(木)
仕事始めの日。午前中の散歩では飛鳥山公園から旧古河庭園に。入園前に都立9庭園の年間パスポートも購入。旧古河庭園は空いていて、のんびりした雰囲気だった。事務所に戻ってZoom打ち合わせとデスクワーク。増刷とそれに関連した作業、しばらく病欠するスタッフがいて、それと関連したスケジュールの調整などで大わらわ。15時20分から新文芸坐で「天使の涙」【4K上映】(1995・香港/99分/DCP)を観る。プログラム「新春興行(2)  再びのウォン・カーウァイ」(正確には(2)は丸数字)の一本。話としてはとりとめがないと言ってもいいくらいだと思うけど、それを含めて「映画的」な映画だった。その意味で満足。これは映画館で観てよかった。事務所に戻って作業の続き。
この日に観た新番組は『氷属性男子とクールな同僚女子』『文豪ストレイドッグス(第4シーズン)』『テクノロイド オーバーマインド』『ツルネ -つながりの一射-』『トモちゃんは女の子!』『転生王女と天才令嬢の魔法革命』。
『トモちゃんは女の子!』の群堂みすずの芝居が誰かに似ていると思ったら、あれだ。『フルーツバスケット』の花島咲だ。
朝の散歩時には『のだめカンタービレ』サントラを、午前中の散歩では『のだめカンタービレ 巴里編』サントラを聴いた。「のだめカンタービレ フィナーレ オールシーズンズ ベスト」も途中まで聴いた。

2023年1月6日(金)
「生誕50周年記念 THE仮面ライダー展」に行くか、「アニメージュとジブリ展」に行くか、『かぐや様は告らせたい-ファーストキッスは終わらない』を観るかでちょっと悩んで、「アニメージュとジブリ展」に。
「アニメージュとジブリ展」は2021年の同展よりも内容がスッキリとまとまった印象。熱烈なアニメージュファン(めんどうくさいファン)の僕としては「あれやあれも取り上げてほしい」と思ったし、いつかこれとは別のかたちで、雑誌「アニメージュ」が総括されるといいなあと思った。
この日に観た新番組は『お兄ちゃんはおしまい!』『REVENGER』『スパイ教室』『冰剣の魔術師が世界を統べる』。
『お兄ちゃんはおしまい!』1話はよく出来ていた。OP、EDもよかった。これからの放映も楽しみだ。

2023年1月7日(土)
三連休の1日目。TOHOシネマズ池袋で『かぐや様は告らせたい-ファーストキッスは終わらない-』を鑑賞。『かぐや様は告らせたい』シリーズの1エピソードとしては楽しめたが、1本の映画として考えると、もう少し緩急があるとよかったし、導入部と結末をしっかりさせてほしかった。今回の映画では白銀がまだ告白していないので、この後、1クール分くらいやって完結かと思ってWikipediaで確認したら、今回の映画は原作の15巻で、完結は26巻なのね。まだ随分と先が長いなあ。
この日に観た新番組は『にじよん あにめーしょん』『シュガーアップル・フェアリーテイル』『Buddy Daddies』『犬になったら好きな人に拾われた。』 『齢5000年の草食ドラゴン、いわれなき邪竜認定』 『異世界のんびり農家』『アルスの巨獣』『ツンデレ悪役令嬢リーゼロッテと実況の遠藤くんと解説の小林さん』。
『タイガーマスク』の視聴は第52話に到達。
朝の散歩時に「テレビオリジナルBGMコレクション 仮面ライダー ~仮面ライダー・仮面ライダーV3~」を聴いた。久しぶりに聴いたけど、かなり染みた。

第806回 特別編・いきあたりバッタリ座談会(3)

座談会参加者:板垣伸(アニメ監督)、小黒祐一郎(編集長)、松本昌彦(編集者)


板垣 小黒さんだったら覚えてるかもしれないけれど、うちの会社にベテランの林(隆文)さんがいるんですよ。『うる星やつら』のローテーション作監をやっていた人です。
小黒 アニメーターの方ね。面識はないけど、名前は知っているよ。
板垣 うちで今、社員なんです。面接した時に自分よりも年配の方だったから、恐縮はしたんだけど、採用を一瞬で決めたんですよ。どうしてかというと、履歴書を見たら「CGをやってました」とあったんですよ。「FLASHでアニメ作ってました」とも書いてありました。ベテランなのに色んなことに手を出しているんですよ。そういう人が現場にいるのは、若手に希望を与えるかもしれないと思ったんです。林さんは毎日朝に出社して、夕方に帰っているんです。ベテランの方がそういう仕事をしてくれるのも、頼もしいですよね。それもあって、今はシルバー枠を考えてるんですよね。
小黒 シルバー枠?
板垣 アニメーターとして引退したけど、まだアニメに関わってみたいなあという人がいたら、そういう立場で参加してもらうのもいいんじゃないかと思うんです。デジタルって拡大して作画ができるじゃないですか。林さんもタブレットで拡大して作画しているんです。
小黒 目が悪くなっても作画ができるということね。
板垣 そうなんです。林さんに話をすると「(自分と近しい年齢で)やりたいと言う人はいると思いますよ」と言うんです。それもあって「シルバー枠っていいかもなあ」と思うようになりました。それで、昭和の頃の原作をやるのも面白いかもなあと考えたりしますね。これって記事にすると、夢のない話になっちゃいますかね(笑)。
小黒 いや、むしろ、夢があると思うよ。
板垣 『いせれべ』が落ち着いたところで何か動かんとなあと思ってるんですけど⋯⋯小黒さんは何歳まで生きる気なんですか。
小黒 (唐突な話題の変更に対して)おっ! 松本君、これが板垣節だよ(笑)。
一同 (笑)。
小黒 板垣さんはイベントのトーク中に「ところで、このイベント面白いんですか」とか、いきなり言い出すんだ笑)。
一同 (爆笑)。
板垣 (笑)。いやあ、自分の中では一貫してるんですよ。
松本 そうなんですね(苦笑)。
板垣 自分はあと何年仕事ができるかなあと考えていて、目の前にいる小黒さんも、多分、同じことを考えてるだろうなあと思って「何歳まで生きる気ですか」と訊いたんです。
小黒 元気でいられるなら、なるべく長生きしたいけど。仕事はねえ⋯⋯、俺は明後日で59歳になるのね(編注:この座談会は4月末に行われた)。
板垣 明後日、誕生日なんですか。おめでとうございます。
小黒 ありがとう。で、もうこの8年間ぐらい「60歳まで現役」を目標にしてたの。60歳まではそれまでのテンションで仕事を続けると。ところが去年の暮れからの2回の入院と2回の手術で、これはもう今までのテンションで仕事をしていてはいかんっていう事になって……。
板垣 仕事の内容を緩くして長く続けようって事なんですか、それとも今のテンションでやれるところまでやるつもりなんですか。
小黒 そこら辺が悩みどころだよね。
板垣 で、小黒さんは何歳まで仕事するんですか。
小黒 だから、えーと、まあ、とりあえずは60まで現役が目標で、そのあとはもう……。
板垣 現役って、なんか含みがありますね。
小黒 「アニメファンでありつつ、アニメ本編集者」としての現役だよね。新しい作品を……。
板垣 追いかける?
小黒 そうそう。新しい作品を追いかけて取り上げるのを辞めちゃうという手はあるよね。「俺の守備範囲は1963年の『鉄腕アトム』から平成の最後までだ」ということにするとか。
板垣 ああ~。あれですね、なみきたかし方式ですよね。
小黒 そう言うと、なみきさんに失礼かもしれないけどね。前になみきさんに「大塚康生より後のアニメーターは小黒君に任せた」と言われた事があって。
一同 (笑)。
小黒 「大塚康生さんより後って、猛烈に守備範囲が広くない?」と思ったけど(笑)。
板垣 それだけ、小黒さんが期待を背負っているってことですよ。自分で守備範囲を設定するとしたら、何年から何年までにするんですか。
小黒 作品で言うと、守備範囲は1970年くらいからじゃないかな。
板垣 小黒さんはその頃の作品から詳しいですよね。白黒のアニメも観てます?
小黒 観てるよ。『アトム』が始まったのが1963年で、俺が生まれたのが64年だから。リアルタイムで観てないのは最初の『アトム』の1年間ぐらいだよ。
板垣 ああ、そうか。『アトム』って4年間やっているから、後ろの方は観てる可能性あるわけですよね。
小黒 途中のエピソードも、一度ぐらいは本放送で観てるよ。具体的な記憶があるかどうかは別にして。
板垣 それを聞くと、感慨深いですね。
小黒 なにが。
板垣 国産の初の30分アニメから、現在の作品まで観てるわけでしょ。それって凄くないですか。やっぱアニメ様ですよね。
小黒 昔から観ている人は大勢いるけど、今でも新番組をひと通り観ているのは、自分でも偉いと思う。
板垣 そうですね。でも、新番組はどっかで切るでしょ。最後まで観ます?
小黒 いや、どんどん脱落していく。
板垣 ですよね。
小黒 例えば、昨日観たアニメが『私の百合はお仕事で!』『異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する』『Opus.COLORs』『王様ランキング 勇気の宝箱』『Dr.STONE NEW WORLD』『勇者が死んだ!』だね。1日で6本観ている。ながら観だけどね。
板垣 めちゃめちゃ観てるじゃないですか。
小黒 その前の日は『推しの子』『贄姫と獣の王』『アイドルマスター シンデレラガールズ U149』『この素晴らしい世界に爆焔を!』『神無き世界のカミサマ活動』を観てるから5本か。
板垣 凄いですね。確かに現役ですよねえ。
小黒 それでも全部を観ているわけではないんだよね。仕事で昔のアニメも観なくてはいけないから、どうしても最新のアニメを全部観ることはできない。
松本 そろそろこの座談会のまとめに入ったほうがいいんじゃないですか。
小黒 ああ、そうか。
板垣 どうすればまとまるんですか。
小黒 今から、この座談会がまとまるような話をするよ。
松本 お願いします。
小黒 板垣さんは「板垣伸のいきあたりバッタリ!」の連載が始まった頃って、まだ若くて、ブイブイ言わせていたわけじゃない。
板垣 ブイブイ言わせてかどうか分かんないですけど、若かったですよね。
小黒 この連載とともに板垣さんの人生があったというのが、面白いよね。
板垣 そうですね。連載の中でも、軽く触れたんですけど、この連載って『BLACK CAT』が終わったぐらいくらいの時に始めたんですよ。監督歴が丸々入ってるのは間違いないんです。だから、心境の変化も現れますよ。前半の方は結構刺々しかったし、業界にヒトコト言いたいなあというのもあった。だけど、今は業界に言いたいことなんてないんですよ。今は作り方に興味があるんですよ。だから、作り方の話をよくしていると思います。
 前はね、やっばり不健全でしたよ。なんかくだを巻いてるだけっていう印象があったので(苦笑)。今はCGに触れたり、撮影を覚えたりとか、まだチャレンジする事があるなと思っているので、そこら辺を連載で描いていけたらいいなと思いますけどね。
小黒 この連載は2007年に始まってるから、今年で16周年だよ。
板垣 そうですよ。1年で50回しか載らないわけだから、800回って凄いですよね(笑)。
小黒 凄いね。
板垣 我ながら呆れますよ(笑)。
小黒 「いきあたりバッタリ!」はインターネット世界の『こち亀』だよ。
板垣 (笑)。
松本 しかも、アニメ監督でこんな事をやってる人はいないんですよ。
板垣 俺って天邪鬼なところがあるんですよ。小黒さん、覚えてますかね? 連載が始まって1年経ったぐらいの時に、小黒さんに「4月ぐらいまで続けられる?」と言われた時あったんですよ。
小黒 時期は覚えてないけど「いつまでやれるの?」と訊いた事あるよね。
板垣 その時に「えっ!? 4月でやめなきゃ駄目なの?」と思ったんですよ。それで「続けられるなら、続けてもらっていいんだけど」と言われたので「鬱陶しいから、もうやめてくれ」と言われるまでやろうと思ったんですよ。
小黒 なるほど。
板垣 「頼むから、やめてくれと言われるまで続けるのが目標かな」と思ったんですよね。だから、続いているんじゃないですか。
松本 そもそも、小黒さんはなんで板垣さんに声かけたんですか。
小黒 言いたい事が、いっぱいあるみたいだから。
板垣 そうですよね。確か言われましたよ。実際に言いたい事がありましたしね。毒にも薬にもならないものっていうのは嫌だったので、単純に言いたい事を言おうかなと思った。ただ、やっていくうちに、監督って下手な事を言えないというのが、分かったんですよ。
松本 うん(笑)。
板垣 やっぱり関係者も連載を見るじゃないですか。例えば、その時に作っている作品の製作委員会の人もこの連載を見ているんですよ。そうすると、昨今のアニメについての不満とか言えないじゃないですか。今は楽しく作ってるということを、描けたらいいなあと思っています。
 この連載の原稿は気分転換にいいんですよ。仕事の途中でも、ちょっと時間をもらって原稿を描くと、その時は仕事から解き放たれるというか。いつも原稿の上がりがギリギリで申し訳ないんですけど、続けられる限り続けたいなあとは思ってます、っていうのがまとめですね。
小黒 いつも更新してくれてる松本君に労いの言葉はどうですか。
板垣 毎回、ギリギリまで引っ張ってしまって申し訳ないかなと思ってるんですけど、もう嫌になりませんか?(苦笑)
松本 大丈夫です。すでに木曜は板垣さんの原稿を待つのが当たり前の身体になっているので。
板垣 (笑)。それ、なんか切ないですねえ。
松本 昔に比べたら、ずっと楽ですね。
小黒 昔は板垣さんの手書きのテキストを、松本君がタイプ打ちしていたんだよね。
松本 今はテキストもデータでもらっていますから。
板垣 だけど、松本さんがアニメスタイルを退職したら、更新ができなくなるんじゃないかと思っているんです。辞める予定はないですよね。
松本 今のところ、その予定はないです。
板垣 それはよかった。だったら、1000回を目指したいですね。1000回までお付き合いいただけると、嬉しいです。
松本 分かりました。任せてください。
小黒 座談会のまとめっぽくなったね。よかった。
板垣 まあ、そんな感じでひとつよろしくお願いします。

----終わり----

【新文芸坐×アニメスタイル vol. 160】
30年目のクレヨンしんちゃん ブリブリ王国の秘宝

 新文芸坐とアニメスタイルは6月も劇場版『クレヨンしんちゃん』をお届けします。

 6月18日(日)に上映するのはシリーズ第2作の『クレヨンしんちゃん ブリブリ王国の秘宝』です。17時からと19時からの2回上映で、19時からの回は本郷みつる監督、湯浅政明さんのトーク付きとなります。今回も貴重な35ミリフィルムによる上映となります。

 アニメスタイルは2月から本郷みつる監督の初期劇場版『クレヨンしんちゃん』を上映してきました。これからも上映の機会を作りたいと考えていますが、ひとまず、今回の『ブリブリ王国の秘宝』で一連の企画は完結することになります。

 また、トークの後に本郷監督が刊行した同人誌「本郷みつる/足跡」の第二版「本郷みつる/足跡+」を販売する予定です。「+」の販売価格は1500円ですが、初版を持参した方は1000円で購入できるそうです。

 チケットは6月11日(日)から発売。チケットの発売方法については、新文芸坐のサイトで確認してください。

【新文芸坐×アニメスタイル vol. 160】
30年目のクレヨンしんちゃん ブリブリ王国の秘宝

開催日

2023年6月18日(日)

開演

17時~、19時10分~

会場

新文芸坐

料金

17時の回:一般1500円、各種割引1100円
19時10分の回:一般1900円、各種割引・友の会1400円

トーク出演

本郷みつる(監督)、湯浅政明(設定デザイン)、小黒祐一郎(アニメスタイル編集長)

上映タイトル

『クレヨンしんちゃん ブリブリ王国の秘宝』(1994/96分/35mm)

備考

※トークショーの撮影・録音は禁止

●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

第206回アニメスタイルイベント
ANIMATOR TALK 磯光雄

 「ANIMATOR TALK」はアニメーターの方達に話をうかがうトークイベントシリーズです。今回は原作・監督として『電脳コイル』『地球外少年少女』を手がけ、アニメーターとして『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』『新世紀エヴァンゲリオン』等で素晴らしい仕事を残している磯光雄さんをゲストに迎えて開催します。

 今回のイベントでは磯光雄さんがリスペクトするアニメーターについての話を中心に、トークを展開する予定です。

 開催は6月25日(日)夜。会場はLOFT/PLUS ONE。チケットは6月10日(土)正午12時から発売。購入方法については、LOFT/PLUS ONEのサイトをご覧になってください。なお、今回のイベントは配信を予定していません。

■関連リンク
LOFT/PLUS ONE
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/plusone/253849

第206回アニメスタイルイベント
ANIMATOR TALK 磯光雄

開催日

2023年6月25日(日)
開場18時/開演19時 22時頃終演予定

会場

LOFT/PLUS ONE

出演

磯光雄、小黒祐一郎

チケット

前売 1,500円、当日 1,800円(税込・飲食代別)

■アニメスタイルのトークイベントについて
 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。

アニメ様の『タイトル未定』
396 アニメ様日記 2022年12月25日(日)

2022年12月25日(日)
退院してから5日目。午前2時半くらいに目を覚ます。普段ならそのまま起きて出社するところだけど、今はたっぷり休んだほうがよいので二度寝。午前5時くらいに出社。グランドシネマサンシャインの午前8時35分からの回で『かがみの孤城』を観る。力作だった。原恵一監督自身が企画(原作を含む)に歩み寄っているというのもあるのだろうが、今回は原監督と企画との相性がよかったのだろうと思った。
体重の話。退院後も食生活に関して入院中のテンションを維持して、夢の65キロ台を達成。高校時代よりも軽くなっているはず。

2022年12月26日(月)
退院してから6日目。グランドシネマサンシャインで「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」【IMAXレーザーGT3D字幕版】を鑑賞。自分でIMAXを選んだのだけど、単純に映像を楽しむのだったら、Dolby Cinemaのほうがよかったかもしれない。かなり長い映画だった。TVドラマ数話分をまとめて観ている感じ。ただ、作り手が既存の娯楽映画の枠に収まらないものを作ろうとしているのなら、「長すぎる」と文句を言うのも違うのかもしれない。
「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」の前に「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」のメイキングが上映された。これが面白いし、迫力も凄い。CGで世界を描いた「アバター」の前に、生身の命がけアクションで観客を魅了する「ミッション:インポッシブル」のメイキングを流すのも狙いなのか。
東武百貨店池袋店の「忍たま乱太郎原画展 ~アニメ放送30年ありがとうの段~」を覗く。巧い原画がセレクトされているとか、作画監督の修正がセレクトされているとか、そういうことではなく、とにかく『忍たま乱太郎』の原画(一部は動画だったはず)が並んでいる感じだった。別にそれが悪いと言っているわけではない。作画好きのためのイベントではないのだろう。原画を使ったグッズが販売されていたのも面白かった。
『宇崎ちゃんは遊びたい!ω』『夫婦以上、恋人未満。』『女体化した僕を騎士様達がねらってます』『ピーターグリルと賢者の時間 Super Extra』『勇者パーティーを追放されたビーストテイマー、最強種の猫耳少女と出会う』の最終回を観る。『アイドリッシュセブン Third BEAT!』26話、『不滅のあなたに』シーズン2の10話を観る。
確認することがあって『ぐでたま 母をたずねてどんくらい』を1話からラス前まで観る。

2022年12月27日(火)
退院してから7日目。TOKYO MXの『マジンガーZ』を観ていると、画面はスタンダードでいいじゃん、構図はこれくらいシンプルでいいじゃん、と思う。今のキャラクターデザインや作画だと、あんなシンプルな構図だともたないのかもしれない。
『BLEACH 千年血戦篇』の1時間スペシャルを観る。溜まっていた『SPY×FAMILY』の録画を全部(6話分ほど)観る。

2022年12月28日(水)
午前中から昼は猛烈な勢いで用事を片づける。ある書籍の増刷をしなくてはいけないことが分かって、印刷会社に電話する。午後は先日まで入院していた病院に。レントゲン、採血、CTスキャン。先生によれば肺は大体治っているそうだが、1月にまた来ることに。事務所に戻って、また用事を片づける。年末らしい忙しさ。
『チェンソーマン』『ベルセルク 黄金時代篇 MEMORIAL EDITION』『後宮の烏』『マブラヴ オルタネイティヴ(第二期)』の最終回を観る。『うたわれるもの 二人の白皇』27話、28話スペシャルを観る。配信で『私ときどきレッサーパンダ』を観た。それから、TOKYO MXの『ファンタスティック・プラネット』を流し観。この映画は以前にも観ているけど、地上波で観ると味わい深いなあ。
今年辺り、TVアニメ『NEW GAME!』の完結編、あるいは第3期が始まるかと思ったら始まらなかった。

2022年12月29日(木)
『恋愛フロップス』『ある朝ダミーヘッドマイクになっていた俺クンの人生』『VAZZROCK THE ANIMATION』の最終回を観る。「魔法のプリンセス ミンキーモモ BD-BOX発売記念特別放送」を観る。『陰の実力者になりたくて!』13話を観る。

2022年12月30日(金)
コミックマーケット101の1日目。販売は事務所スタッフに任せて、自分は会場には行かなかった。会場はストレスが溜まりそうだし、今はそれも避けたほうがいいだろうと判断した。午前中の散歩で、池袋から新宿まで歩く。それを狙って行ったわけではないが、この日が紀伊國屋書店の新宿本店別館(アドホック新宿ビル)のコミック・DVD売場の最終営業日だった。使いやすい店だったので残念。買ってなかったアニメ関連書籍があったので購入する。事務所に戻って、その後はデスクワーク。年末年始にやるつもりの「原稿A」と「原稿B」のうちの「原稿A」に着手。原稿だけを集中してやるは久しぶりで、とても楽しかった。昼間から近くの居酒屋で吉松さんと吞む。ほぼひと月ぶりの飲酒だった。病気のこと等、色々と話す。事務所に戻ってまた原稿。夕方、コミックマーケット101の売り上げのことでアクシデントが発生。しかし、対応しきれず。
「『勇者特急マイトガイン』30周年Blu-ray BOX発売記念特別放送」「魔法使いの嫁 第12.5話『魔法使いの嫁』スペシャルダイジェスト」『シルバニアファミリー フレアのハッピーダイアリー 特別編』を観る。
確かめることがあって『たまゆら ~もあぐれっしぶ~』1話から7話途中まで流し観。

2022年12月31日(土)
コミックマーケット101の2日目。この日も会場のことはスタッフに任せた。前日のアクシデントは朝のうちに解決した。年末年始の作業は「原稿A」と「原稿B」だけにするつもりだったのだけど、30日に「原稿A」の作業が予想以上に進んだので、この日は「この人に話を聞きたい」Kindle化の作業を進めた。15時にワイフと蕎麦屋に行って、早めの年越し蕎麦。
朝の散歩では『たまゆら』のサントラを聴いた。これは散歩向きのアルバムだ。『ずんだホライずん 東北ずん子のミュージカルアニメ』を観る。『ブルーロック』を改めて1話から5話まで観た。『令和のデ・ジ・キャラット』を1話~14話まで流し観。
細野不二彦さんの「1978年のまんが虫」をKindleで読む。後に『さすがの猿飛』等を発表する彼の自伝的な作品で、プロデビューの前後が描かれている。スタジオぬえの面々や美樹本晴彦さん、河森正治さんも登場。知りたかった時期の、知りたかった人達の話ということもあって興味深く読んだ。地に足が着いた青春物で、ある意味において、島本和彦さんの「アオイホノオ」と好対照。作中の主人公の自己評価の低さは、ある程度は本当のことなのだろうけど、「いやいや、デビュー作の『クラッシャージョウ』から細野さんはイケてましたよ」と当時の細野さんに伝えたくなる。他の読者も同じことを思ったはずだけれど、続きが読みたい。せめて「GU-GUガンモ」連載終了辺りまでは読みたい。

第257回 音に世界が宿る 〜THE FIRST SLAM DUNK〜

 腹巻猫です。6月3日に東京国際フォーラムBホールで開催された「松本零士先生お別れの会」に参加し、献花してきました。宇宙をイメージした祭壇、写真パネル展示、アニメ音楽の生演奏などで、松本零士先生を偲ぶ会でした。ちょうど会場に入ったときに『さよなら銀河鉄道999』の主題歌「SAYONARA」を演奏していて、かなりぐっときました。いつかまた、遠く時の輪の接するところで。


 劇場アニメ『THE FIRST SLAM DUNK』のオリジナル・サウンドトラック・アルバムが5月31日にリリースされた。
 その情報をつかんでなくて、リリースされたあとに知って驚いた。劇場版が公開されたのが昨年12月。サントラ盤はもう出ないか、映像ソフトに同梱かなあ、と思っていたからだ。
 サントラアルバムはメディアミックスによる劇場作品の宣伝グッズという一面もあるため、公開から半年を経てのリリースは珍しい。Blu-ray等の発売に合わせて出す例はあるが、本アルバムは単独での発売。もしかしたら、Blu-rayと合わせて発売する予定があったものの、まだ絶賛公開中だからBlu-rayは先送りになり、サントラのみ発売されたという可能性もある。なんにしろ、快挙である。劇場版が大ヒットしているからこそだろう。

 そしてこのサントラ、めちゃめちゃ売れてる。この原稿を書いている6月6日現在、Amazonの売れ筋ランキングで、サウンドトラック(ミュージック)部門1位、キッズアニメ・テレビ音楽部門1位、アニメ音楽部門1位を記録。ミュージック全体でも8位。商品ページには「過去1週間で3000点以上購入されました」と表示される(この表示は出たり出なかったりする)。近年は初回プレスが3桁(数百枚)というサントラCDも珍しくないのに、1週間で3000枚とは驚異だ。これはAmazonのみの数字で、ほかのショップの売り上げや配信版も含めると、実際に売れてる数は数倍になるだろう。
 それだけ、このサウンドトラックを待っていた人がいたということ。サントラが売れない時代と言われるが、やはり作品の人気と音楽の人気次第なのだ。
 劇場アニメ『THE FIRST SLAM DUNK』は、井上雄彦のバスケットボールマンガ『SLAM DUNK』を、原作者自身の監督・脚本でアニメ化した作品。アニメーション制作は東映アニメーションとダンデライオンアニメーションスタジオが担当した。
 『SLAM DUNK』は90年代に東映アニメーションの制作でTVアニメが放映されていた。今回はまったく新しい構想によるアニメ化。原作の絵がそのまま動いているような映像、臨場感あふれるバスケットボールの試合描写など、細部までこだわりぬいた表現と演出に圧倒される。
 実は筆者はTVアニメ版をほとんど観ていない。ストーリーもよく知らなかった。が、本作は劇場で観てたちまち引き込まれた。昨年観た『DRAGON BALL超 SUPER HERO』に次ぐ衝撃だった。
 衝撃を受けたのは映像だけではない。音もすごい。セリフ、効果音、音楽ぜんぶを含めた音響がすばらしいのだ。音のよい劇場で観ると、バスケットコートの中に立っているような気分になる。
 音楽の量は、劇場アニメとしては控え目である。音楽に頼らず、セリフと効果音だけで演出している場面が多い。たとえば、少年リョータが海岸の洞穴で兄ソータの遺品を手にし、兄のバスケットへの想いを引き継ぐ場面。音楽は一切流れない。そのぶん、音楽が流れたときの印象が際立つ。その音楽も、メロディより音の響きやリズムを重視したサウンド志向のものになっている。

 音楽を担当したのは、J-POPのアレンジャー、プロデューサーとして活躍する武部聡志と本作の主題歌を手がけたロックバンド10-FEETのTAKUMA。主に心情描写の曲を武部聡志が、試合シーンの曲をTAKUMA(10-FEET)が担当している。
 井上監督から「のびのびやってください」と言われた武部聡志は、デモを作ってはどんどん送り、それを試しに画にはめてもらって違和感を修正する形で音楽作りを進めていった。「物語に入り込めるようメロディが主張する音楽ではなく、コードやピアノの響きがメインになる音作りを心がけました」と武部はコメントしている。
 ピアノの響きを効果的に使うよう意識し、レコーディングも音響演出の笠松広司らとともに、シーンにあった音色になるよう試行錯誤を重ねた。武部が担当した曲は、ピアノやギターの繊細な音色が印象的で、音の響きだけで心情が伝わってくる。
 いっぽうのTAKUMA(10-FEET)は、「劇伴の経験がない分、先入観なしでやれたのが結果的に良かったんかな」と語る。パンクロックっぽい曲からEDM的な曲まで大量のデモをまず作って、監督と相談しながら方向性を探っていった。井上監督と何度か話すうちに、監督と自分の中で「劇中で鳴っている音」がシンクロしていく感覚があり、そこをどう一致させるかを考えたという。
 そうやって作り上げた劇中曲が以下の5曲。
「暁の砂時計」
「Alert of oz」
「Slash Snake」
「BLIZZARD GUNNER」
「Double crutch ZERO」
 いずれもギターサウンドとロックのリズムが印象的なナンバーで、劇伴というより独立した楽曲として聴くことができる。劇中では曲をシーンにあわせて編集する形で使用されている。
 この5曲は劇場版主題歌「第ゼロ感」とともに、2022年12月発売の10-FEETのアルバム「コリンズ」に収録された(完全生産限定盤と通常盤Bタイプのみ)。「コリンズ」には本編では使われなかったけれど『THE FIRST SLAM DUNK』にインスパイアされた楽曲も収録されている。そのため、「THE FIRST SLAM DUNK オリジナル・サウンドトラック」が発売されるまで、アルバム「コリンズ」がサウンドトラック・アルバムの役割も果たしていた。先にリリースされたオープニング主題歌「LOVE ROCKETS」とエンディング主題歌「第ゼロ感」に、「コリンズ」に収録された劇中曲5曲を加えれば、サントラ盤と呼んでもおかしくないプレイリストを作ることができる。筆者が「単独のサントラ・アルバムはもう出ないかも」と思っていた背景には、そういう事情もあった。
 でも、やはり劇場版に魅せられたファンとしては、武部聡志の楽曲も聴きたいし、10-FEETの曲も劇中で使用されたバージョンで聴きたい。
 満を持してリリースされた「THE FIRST SLAM DUNK オリジナル・サウンドトラック」は、そんな願望を満たしてくれるものだった。すべての楽曲が劇中に流れたとおりの形で収録されたのである。発売元はユニバーサルミュージック。収録曲は以下のとおり。

  1. Moving Logo
  2. LOVE ROCKETS(Movie Ver.)(歌:The Birthday)
  3. 拮抗(from 暁の砂時計)
  4. ソータの部屋
  5. ゾーンプレス(from Alert of oz)
  6. 新しいコート
  7. プレス突破(from 暁の砂時計)
  8. 最強選手(from Slash Snake)
  9. 勝てないチーム
  10. 4POINTS
  11. O.R.(from Slash Snake)
  12. 叶えられている願い
  13. 俺の名前を言ってみろ
  14. リングしか見えない(from Double crutch ZERO)
  15. 霧中
  16. 帰郷
  17. 再起(from BLIZZARD GUNNER)
  18. 前夜
  19. スーパーエース(from Alert of oz)
  20. 布石(from 暁の砂時計)
  21. 湘北(from BLIZZARD GUNNER)
  22. 最強山王(from Slash Snake)
  23. 母上様
  24. いけ!(from Double crutch ZERO)
  25. バスケ人生
  26. 栄光の時
  27. 死守(from Double crutch ZERO)
  28. 勝利
  29. 第ゼロ感(Movie Ver.)(歌:10-FEET)

 本編に流れた曲を使用順に収録した理想的な構成。
 劇場版を観た方には各曲の細かい紹介は不要だろう。サントラを聴けば、劇場の興奮がよみがえる。逆に未見の方には細かく紹介しないほうが親切というもの。早く観て、観ればサントラが聴きたくなるから、と言いたい。

 以下、聴きどころにポイントを絞って紹介しよう。

 1曲目「Moving Logo」はアルバムの中でもユニークなトラック。本編が始まる前、配給や制作会社のロゴマークが表示されるバックに流れる音だ。音楽配信サイトで確認すると、著作者は「THE FIRST SLAM DUNK Film Partners」の名義になっている。音楽として作られたものではなく、効果音扱いなのかもしれない。サントラとしては入ってなくても差し支えないが、劇場版の雰囲気を追体験するにはあったほうがいい。サントラ制作者のこだわりが感じられるトラックである。
 オープニング主題歌に続くトラック3「拮抗(from 暁の砂時計)」は、冒頭の試合場面から流れる曲。本編の情景が浮かんでぞくぞくする。「最初からクライマックス」みたいに気分が上がる。
 このトラックをはじめ、曲名のあとに「from XXX」とカッコ書きがついているのは、10-FEETによる劇中曲をもとにしたトラックである。「XXX」が原曲名。ひとつの曲が編集を変えてさまざまな場面に使われている。
 アルバム「コリンズ」に収録された原曲と聞き比べてみると、シーンに合わせて巧みな編集が行われていることがわかる。サウンドトラックにも「Music Editor」としてクレジットされている音響演出の笠松広司の仕事だろう。笠松はセリフ、効果音、音楽を含めた音響制作全体を担当した、本作のサウンドデザイナーである。音楽の映像とのみごとなマッチングは、笠松広司の手腕によるところが大きい。本アルバムを聴くときに注目してほしいポイントのひとつだ。
 10-FEETの曲は、試合シーンに流れるアップテンポのナンバーもよいが、ロックバラード風のトラック17「再起」やトラック21「湘北」もぐっとくる。「再起」はこの原稿の前半で紹介したリョータの洞穴のシーンの直後に流れる曲。「湘北」は湘北チームが反撃に向けて気持ちを切り替えるシーンに流れた曲である。
 曲名のあとにカッコ書きのないトラックは武部聡志の曲。トラック4「ソータの部屋」のピアノとチェロの繊細な響きが胸にしみる。激しいロックサウンドのあとだけに、静かな音色が鮮烈に聴こえる。
 トラック6「新しいコート」、トラック9「勝てないチーム」、トラック12「叶えられている願い」などは、いずれもピアノやギターの響きで、言葉や絵で表現しきれない心情を伝えるナンバー。武部が語った「メロディが主張する音楽ではなく、コードやピアノの響きがメインになる音作り」とはこういうことだったのか、と曲を聴いて納得する。
 ストリングスが入ったトラック25「バスケ人生」はアルバム全体の中でも雰囲気の違う曲。試合中、関係者席に突っ込んで倒れた桜木花道が、自分とバスケットとの関わりを回想するシーンに流れるメロディアスな曲だ。花道が復活するシーンのトラック26「栄光の時」とセットで聴きたい。
 トラック28「勝利」は、10-FEETの曲を武部聡志がアレンジしたナンバー。ここまで武部の曲と10-FEETの曲はほとんど対照的なサウンドで作られていたが、ここに来て両者の音楽性が合体したのである。最高のカタルシスが味わえるシーンだけに、この共作はうれしい。このアイデアは武部からの提案だったそうだ。

 サウンドトラックは劇場版を追体験することができるアイテムである。音楽を聴いていると、脳内で本編が再生される。しかし、本作の場合はそれだけでは満足できず、もう一度劇場版を観たくなる。脳内の再現より、劇場版そのものを体験したいと思うのだ。
 さらに、サントラを聴いていると、10-FEETの楽曲の原曲が収録されたアルバム「コリンズ」も聴きたくなる。10-FEETのアルバムは、劇場版とはまた異なる、音楽による『THE FIRST SLAM DUNK』の世界を表現していると思うからだ。
 そんなふうに考えるのは、本作の音楽が、物語よりも作品世界そのものを「音」で表現しようとしているためだろう。音に世界が宿る。音響へのこだわりから生まれた、これまでにない『SLAM DUNK』を体験させてくれるサウンドトラック・アルバムである。

THE FIRST SLAM DUNK オリジナルサウンドトラック
Amazon

佐藤順一の昔から今まで(47)
『魔女見習いをさがして』と『どれみ』のファン

小黒 次が『魔女見習いをさがして』(劇場・2020年)です。こちらは佐藤さんが取材で話をされた回数も多いと思います。

佐藤 『魔女見習い』ですね。

小黒 僕のほうで説明をすると、最初に『どれみ』の新作を作るという話があって、小説版『おジャ魔女どれみ16』や『おジャ魔女どれみ17』を映像にする可能性もあった。でも、そうではないということで、かつて『どれみ』を観ていた女の子達の話になった。ということで間違いないですね。

佐藤 そうですそうです。

小黒 佐藤さん自身は、『どれみ』の新作を作るということ自体についてはどうだったんですか。

佐藤 「20周年なので映画やりたいんです」って聞いた時には、やっぱり「誰がどんな『どれみ』の映画を観たいんだろう」ということが掴めなくって、ぼんやりと返してたんですよ。小説が展開していることも知らなかったんですよね。だから、小説の映画化をやるのかなと思ったけど、それが求められているかどうかを自分では判断しきれずにいたんです。そうしたら『どれみ』ファンだけじゃなくて、もうちょっと裾野を広げてほしいっていうオーダーが上のほう(東映アニメーションの髙木勝裕社長)から来て、「『どれみ』を子供の頃に観ていた大人、アニメーションに背中を押されている大人の話」という切り口が出てきた。それで「あ、それならやれそうだな」と思ったのは覚えてるね。

小黒 新文芸坐のレイトショーでトークしてもらった時も聞きましたけど、もうちょっとリアル寄りの世界観なり演出なりで作る可能性もあったわけですね。

佐藤 あった。あったし、コンテに入る前になっても、どうしようかなあと思ってた。最初に上がってきた谷(東)さんのコンテは若干リアル寄りではあったんですよね。その後、五十嵐のコンテが上がってきたのを見て、谷さんも「ああ、こっちだった」とコンテを修正してね。僕も含めてみんなで「そうだな。こっちだな」って思って、腹が決まりましたね。

小黒 補足すると、五十嵐さんはTVの『どれみ』と同じような、ちょっとギャグがあったりする楽しい感じの絵コンテを上げてきたわけですね。

佐藤 そうですそうです。『どれみ』でよくやっていた「崩し」を大量に使う演出になっていた。

小黒 どれみちゃん達に憧れた人達がいる世界は、もっと現実に近い世界を作るのが定石なんだけど、彼女達がいる世界も、マンガ的な楽しい雰囲気の、ちょっと理想化された世界である。その世界の挫折や悩みはややリアルなものなんだけど、テイストとしては楽しい感じでいいんではないかとなっていったわけですね。

佐藤 『どれみ』の世界観と、空気が繋がってる感じにしていこうということだね。

小黒 正しいかどうか僕にはまだ分かんないんですけど、確かに映画を観てる間に『どれみ』を観てる気分にはなりましたね。

佐藤 最終的には、そうなってもらえばいいんじゃないのっていう感じでいるので(笑)。

小黒 最後、どれみちゃん達が出る必要性はあったんですか。

佐藤 店の中にいるやつね。でも、あそこしか、どれみの出る場所はないんだよね。

小黒 そうですね。

佐藤 僕は「魔法は現実にはなかったよ。なかったけれども明日から生きていけるよね、君達」という文脈を考えていたんです。だけど、それだと最後のどれみのシーンはあっちゃダメなんです。

小黒 あっちゃダメですよね。

佐藤 でも、イベントに行くと、最前線の席に座っている大人の女性達の目が凄くキラキラしてるわけですよ。それは『プリンセスチュチュ』のイベントの時もそうでした。この気持ちは肯定してあげるべきものだと思ったんですよ。
 だから「魔法なんかない」じゃなくて「魔法はなかった。でもね、あるかもしれないよ」という映画にしていくわけですよ。そうすると『どれみ』が好きだった子供の時の自分を肯定することになるんでね。そういう流れだと、どれみ達が空を飛んでいくっていうビジュアルが力を持つことになる。この映画を観ることが、明日も生きる力に繋がるはずだ、という感じ。

小黒 3人の悩みが一段落した時に、どれみ達の姿を見るからいいわけですね。「つらい現実の中で私達は生きていて、魔法なんかなかったんだ」と思っている時に、どれみ達に会うとつらいじゃないですか。

佐藤 つらいし、もう見たくないになっちゃう。

小黒 彼女達も自分達の理想に一歩近づいて、現実世界の中で自分達の魔法を手に入れた上で、どれみちゃん達に会うと、そんなにおかしくはない。

佐藤 あそこにいる3人の子供の姿は視聴者、観客の一人一人というつもりなので、一緒に会ってる感じなんですよね。「映画のスクリーンにいるどれみ達に、観客の私も3人と一緒に会っている」。そして、飛んでいく気分で終われるんじゃないのかなって。ただ、映画館から出た後も余韻として残ってて、明日会社を辞めようって思われるかもしれないけど (笑)。自分の未来を信じてみたい気持ちになる人だっているかもしれないじゃんということですね。

小黒 ところで、『どれみ』を好きな人達をご自身で描くのは、照れ臭くなかったですか。

佐藤 それは最初からずっとそうなんだけど(笑)。「君達は『どれみ』が好きなんだろう」という映画を自分で作るのはやっぱ難しいよね。でも、そう信じないと描けないから。

小黒 最新作が『ワッチャプリマジ!』(TV・2021年)ですね。これはどういった取り組みなんですか。

佐藤 筐体ゲームのアニメなので、新しいビジネススタイルに取り組むのが面白い作品ではあります。これを楽しむ女の子達の年齢は『プリキュア』を観ている子達と同じくらいないんだけれども、遊び方が大きく違うからね。「おもちゃを買って遊ぶ」じゃないところが、難しくもあり、面白くもあり、ですね。

小黒 なるほど。

佐藤 『HUG』の時と同じように、脚本の坪田(文)さんが、お話の軸を作ってくれていて、個人的にも好きな話なので、演出的には楽しめるかなと思っています。

小黒 佐藤さんは、これから映画ばっかり作っていくのかと思いました。

佐藤 いや、映画が続いたのはたまたまだから。ビジネスのスタイルがそうなっていて、TVよりも映画のほうが制作をスタートさせるハードルが低かったから。これから、配信物ばかりやってるという時代になるかもしれないけど。

小黒 いやいや、もうなってますよ。配信される作品ばかり作ってる人もきっといますよ。

佐藤 その時代その時代の中でやってるだけなので。まあ、相変わらず映画は苦手だなと思ってる感じがありますけどね(笑)。

小黒 今でも映画は苦手なんですね。

佐藤 映画のスクリーンでなにかやるのは難しいと思ってます。やっぱりTVが一番自分に合ってるなっていうのは、今回『プリマジ』をやりながら思っていますね。


●イントロダクション&目次

第805回 特別編・いきあたりバッタリ座談会(2)

座談会参加者:板垣伸(アニメ監督)、小黒祐一郎(編集長)、松本昌彦(編集者)


小黒 『いせれべ(異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する)』だと、エンディングのクレジットに「原画」「動画」の役職がなくて、「作画」「原動画」の役職があるよね。アニメーターの仕事内容が通常の作品と違うの?
板垣 作画監督が修正を入れたラフを、第二原画を兼ねて動画の線でクリンナップしてしまうんです。そういったショートカットが、うちのやり方なんですよ。第二原画の作業もしているので、役職を動画でなく、原動画にしています。
小黒 第二原画をやる人は必ず動画もやるの?
板垣 ある話数でたまたま第二原画だけをやる場合もありますが、基本的には第二原画と同時に動画、それから、仕上げもやってもらっています。場合によってはアニメーターが背景も描きます。
小黒 それは凄いなあ。「作画」は?
板垣 ラフ原画だけを描いて、第二原画を任せるのが「作画」です。第二原画を担当しない代わりに、カットのあがりをチェックすることになっています。それから担当カットが少なかった作監を「作画」としてクレジットすることもあります。
小黒 それは社内スタッフのやり方だよね。参加しているのは全員が社員なの?
板垣 うちの会社(ミルパンセ)は基本的に社員雇用なので、社内のスタッフは社員ですね。結構な分量を社内生産でやっています。
小黒 「やろうと思えば、作り方そのものを変えられる」というのはそういうことなね。
板垣 昔の話になりますけど、パソコンとかに興味を持ってる友達が「コンピューターを使えば、漫画家とアシスタントぐらいの人数でアニメが作れる」と言っていたんですよ。自分達はアナログのアニメを目指してたから、彼に反発したんですよ。「アニメって、もっと大きいもんだ。みんなで作るもんだ」と言ったんです。でも、今は彼の説を推してるんです。多分ね、漫画家とアシスタントぐらいの人数で作った方が、人類の精神衛生上いいです。
小黒 ふむふむ。
板垣 クリエイターになりたい人と、作業者になりたい人がいるんですよ。うちらが若かった頃って、みんながクリエイターを目指していた。例えば、監督を目指すとか、キャラクターデザインや総作監を目指すとか。それについてこられない奴は切り捨てられるのではないかという空気だったんですよ。
小黒 わかるわかる。
板垣 要は「クリエイターになりたいんじゃないのか? 作業者でいいのか?」という意識があったんです。だけど、働き方改革で1日8時間労働と週休2日制を肯定するなら、作業者の存在を認めざるをえないんですよ。
小黒 そうなんだろうね。
板垣 今は「自分は作業者でいいから、1日8時間で帰って、家でゲームやってたいんだよ」という人達もいるわけです。だとすると、仕事を切り分けて、月給や時給をもらってやるような作業内容にしていかないといけないわけです。それは漫画家とアシスタントの、アシスタントなんです。クリエイターになりたい人もいるだろうし、クリエイターを求めている会社もあるんだろうけど、自分はそうでない人がいてもいいと思っています。
 それが、これからの働き方でいいと思っているんです。どうなんです? アニメスタイルさんは、それができてるんですか。
小黒 昔に比べればね。今は、みんな、家に帰ってるよ。
板垣 ああ、帰ってます?
小黒 うん。
板垣 何人ぐらいなんですか、アニメスタイルは?
小黒 社内の編集スタッフは、僕を入れて5人かな。今は編集業務をしている人で出勤してるのは3人しかいないから。
板垣 リモートですか。
小黒 そうそう。家でできる作業は家でやる。
松本 会社で作業をしているアルバイトの人もいるから、3人ってことはないんじゃないですか。
小黒 ああ、そうか。もう少しいます(笑)。松本君も基本は自宅作業だから、板垣さんのコラムの原稿が届くのが、どんなに遅い時間になっても大丈夫です。
板垣 いや、遅い時間に原稿を送ったりはしてないですよ。
松本 (笑)。
板垣 でも、この連載も10数年やっているでしょ。
小黒 長いよねえ。
板垣 長いことやっているから、自分も変わりましたよ。一瞬の諦観があって、諦観と期待感がいい感じにバランス取れてるなあと思ってて。
小黒 昔の板垣さんはもっと脂っこかったね。
板垣 そうでしょ。あの頃に比べると、色んなものがどうでもよくなった(笑)。ただ、作品を作るのは本当に面白いんで、その面白さを伝えたいなあと思っているんです。クリエイターにならなくても、クリエイティブな現場にいられる。うちの会社で「人生の寄り道としてアニメの仕事をやってみたい」という人を受け止められるにしたい。そういうもの作りに参加することの面白さを伝えられる作品ができたらいいなあと思いますね。
小黒 「人生の寄り道」というのは、一生の仕事にするわけではないけれど、ということね。
板垣 そうです。自分は原作をいただいて作るのも嫌じゃないんですよ。ありがたいことに、このあとも2本ぐらい、企画が控えてるんです。だけど、そろそろ短いものでもいいので、自分1人で作ってみるとか、自分とアシスタントぐらいの規模で作れるようなものに手つけたいなあと思ってきた感じですかね。
小黒 オリジナルって事?
板垣 そうですねえ。自分が惚れ込んだ原作でもいいんですけど、でも、オリジナルが一番手っ取り早いですよね。
小黒 そうだね。
板垣 軽いアニメを作ってYouTubeとかで流すぐらいのところから、探るべきかなあと思っています。

特別編・いきあたりバッタリ座談会(3)に続く

アニメ様の『タイトル未定』
395 アニメ様日記 2022年12月18日(日)

2022年12月18日(日)
入院11日目。「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア 友の会」リーフレットの校正を進める。
配信で『LUPIN ZERO』1話と2話を観る。とにかく音楽がいい。『旧ルパン』の楽曲をリメイクして使っているのだ。『PARTIII』の後くらいに、この手法で『ルパン三世』のOVAをやってくれたら幸せだったろうなあ(『風魔一族の陰謀』にこの曲を付ければよかったと言っているわけではない)。『チェンソーマン』9話、10話、『モブサイコ100 III』10話を観る。スマホとイヤフォン(Bluetooth)の組み合わせで動画を観るのは1日2~3時間が限界か。慣れていないためか、普段の視聴よりもずっと疲れる。Kindleで「怪獣第8号」1巻から最新8巻まで読んだ。

2022年12月19日(月)
入院12日目。体調はよくなっているのだけれど、いつ退院できるのかはまだ分からない。酸素注入器を外すことになった。看護師さんが酸素注入器を付けないでトイレまで歩いた時の血中酸素を計りたいというので、血中酸素を計る機器を付けて、トイレの前まで行って戻る。
仕事のお供は配信の『GHOST IN THE SHELL』。
トークイベント「第198回アニメスタイルイベント 作画を語る上で重要なこと」を開催。一部と二部を配信で見る。自分が出ていないアニメスタイルイベントを配信で観るのも不思議な気分だった。

2022年12月20日(火)
入院13日目。21日に退院できることが決まった。担当の先生に病状のこと、今後のことを説明してもらう。入院中の洗濯物を宅急便で自宅に送る。
『異世界おじさん』10話を観る。エンディングで確認する前に坂井久太さんが作監だと分かった。『ポケットモンスター』の最終回も観た。「アニメスタイル017」のある特集の企画書を書く。

2022年12月21日(水)
入院14日目にして退院の日。深夜、配信で『ヤマノススメ Next Summit』最終回を観た。いい最終回だった。遂にここまできたか、という感じ。午前10時に病院の1階に行って会計をしてから、病室に戻る。病室で書類を書いて、退院の手続きは終了。病院から少し歩いて、山手線で池袋に。昼に自宅に到着。ワイフと話をする。午後から事務所に。Amazonから届いた段ボール箱等を片っ端から開封する。15時からZoom打ち合わせ。仕事でお世話になっている方とメッセージのやりとり。12月中に片づけなくてはいけない用事があったことを思い出す。いかんいかん。
二週遅れで『うる星やつら』のレイの初登場回を観る。改めて原作を読むと、あたるの母親がレイによろめくのが生々しい。今回のアニメ化ではどうするんだろうと思っていたのだけれど、やっていることは原作のママだけど、芝居等のニュアンスで生々しさを弱めていた。なるほど。

2022年12月22日(木)
退院してから2日目。散歩は少しだけ。ラジオ体操も休む。仕事に関しては調子が戻らず、作業が進まない。入院中のほうがスピーディーだった。「アニメスタイル017」関連の新しい企画書を書く。
現行の深夜アニメを次々に視聴。『ヒューマンバグ大学 不死学部不幸学科』はラスト4本くらいをまとめて観た。TOKYO MXの『新世紀エヴァンゲリオン』と『マジンガーZ』は2週分をまとめて観た。『エヴァ』の第拾壱話「静止した闇の中で」は当時の印象よりも異色作だ。情報量が多いし、シーンの数も多い。ネルフ内での人間の繋がりを肯定的に描いているのも新鮮。それはそれとして、第拾壱話、第拾弐話の感じがもう少し続いてもよかったなあ。

2022年12月23日(金)
退院してから3日目。朝の散歩を再開。久しぶりに雑司ヶ谷を歩いて、馴染みの猫に会う。ラジオ体操もやった。
TOHOシネマズ 池袋で「空の大怪獣ラドン」(4K)を鑑賞。この映画を最初に観たのは名画座だったか、ビデオソフトだったか。とにかく、過去に二度くらいは観ている。今回の4Kデジタルリマスター版は猛烈に映像が綺麗で、記憶にある映画とかなり違っていた。これは贅沢な感想なのだけれど、映像が鮮明になって、逆に「あれ?」と思うところがある。アニメの4Kリマスターで「背景が筆で描かれた画に見えてしまう」のと同じ現象が起きていた。例えば「ミニチュアで表現された戦車」が「戦車のミニチュア」になってしまったとか、そういうことだ。二週間入院して頭がスッキリしたためだと思うが、映画鑑賞に全くストレスがなかった。ずっとリラックスしていて、スルスルと映画の内容が頭に入ってきた感じ。
入院する直前に行った地元の病院に行く。11月25日の検査で大腸癌ではないと言われたが、あれは間違いで、やはり大腸癌だったそうだ。その病院では手術はできないので、先日まで入院していた病院で手術することになりそうだ(自分のために書いておくが、この辺りは当時のメモを頼りに書いていて、前後関係が怪しい)。腎臓癌に続いて大腸癌だ。
病院の待ち時間に「樋口真嗣特撮野帳 -映像プラン・スケッチ-」に目を通した。とてもいい本だ。収録されている資料も素晴らしいいんだけど、「本」としていい。装丁、本文デザイン、判型に対する厚み、そのいずれもがイケている。解説、キャプションが手書きなのもいい。
現行の深夜アニメを片っ端から観る。『ポケットモンスター 遥かなる青い空』はリアルタイムで視聴。よかった。先週までやっていたシリーズの続きではなく、1月から始まるシリーズのプロローグでもなく、『ポケットモンスター 遥かなる青い空』というタイトルの単独作品で、監督は湯山邦彦さん。1月から始まるシリーズが完結したところで、全シリーズ中における『遥かなる青い空』の位置づけが見えるのではないだろうか。

2022年12月24日(土)
退院してから4日目。ワイフと近所のフルーツカフェに行く。24日の午前中の段階で、小黒家のクリスマスはピークに達した。肉好きに分かりやすく説明すると「サーロインステーキ500グラム」とか「塊肉をキロ単位で注文」とか、そういうレベルの店だった。すいません。舐めていました。午後はゆるーくデスクワーク。

アニメ様の『タイトル未定』
394 アニメ様日記 2022年12月11日(日)

2022年12月11日(日)
入院4日目。自分は会場に行けなかったが、この日は新文芸坐で「湯浅政明の超傑作『マインド・ゲーム』と『犬王』」を開催した。トークのゲストは湯浅さんだ。僕が聞き手を務める予定だったが、岡本敦史君にやってもらうことになった。トークの前に湯浅さんとメッセージのやりとり。「小黒さんはどんなことを訊くつもりだったんですか」という質問をもらって答える。
引き続き、病室でできる編集作業を進める。Wordでないと開けない書類が届いた。何故かMacBookにWordをダウンロードをすることができなかったので、iPad Proで開く。
Kindleで「チ。-地球の運動について-」を1巻から最終巻まで読む。これはいつか読もうと思って買って、読んでいなかったマンガだ。

2022年12月12日(月)
入院5日目。レントゲンを撮るために病院の二階に。二階には外来の患者も大勢いて、数日ぶりに社会に触れた気がした。この日はレントゲン以外にCTスキャンがあり、それとは別にハンディタイプの機器を使った検査が二回。来年以降に出版する書籍のために資料について、ある制作会社からメールが届く。ありがたい提案だったけれど、入院中なので今は進めることができない。
Kindleで「ローカル女子の遠吠え」1巻を読み始める。消灯後、堺三保さんと「KISS AND CRY 資料集」の英題についてメッセージでやりとり。

2022年12月13日(火)
入院6日目。入院してから初のシャワー。沓名君、夏目さんとLINEでやりとりして、僕抜きでイベントを開催してもらうことになった。小黒が不参加でも開催したほうがいいというのは、会場側の意見だった。

2022年12月14日(水)
入院7日目。Kindleで「宝石の国」特装版に目を通す。担当の先生に「明日の検査の結果がよければ退院が見えてくる」と言われる。「退院できる」ではなくて「退院が見えてくる」なのね。この病院には1階にセブンイレブンがある。看護師さんにセブンイレブンの利用について質問したところ、移動していいのは病室がある階のみとのこと。池袋のジュンク堂の地下に、買い損なっていた「シン・エヴァンゲリオン劇場版 アニメーション原画集 下巻」があったのを思い出して、メールで、事務所スタッフに購入を頼む。
夕方から夜にかけて、やることが多かった。編集作業が進行中の書籍についても、それ以外も。
病室の洗面台で歯を磨いていたら、看護師さんが飛び込んできて「大丈夫ですか!」と訊かれた。心電図の数値が急に上がったらしい。自分は歯を磨く時に息を止める癖があって、そのせいで数値が上がったらしい。ナースステーションで心電図をチェックしてくれているのが分かった。

2022年12月15日(木)
入院8日目。血圧検査の結果、治療中の病気とは別に、肝臓に問題があるかもしれないことが分かり、その検査をした。看護師さんに1人でセブンイレブンまで行っていいと言われて、早速行ってみた。何かを売っている店に行ったのが久しぶりで、大袈裟なことを言うようだけど、店内に並んだ商品がキラキラしているように見えた。隣にあるユニクロも物質文明の塊に見えた。セブンイレブンで購入したのはスリッパ、イヤホン(有線)、ボールペン、ペットボトルの「お~いお茶 濃い茶」。イヤホンは病室での動画視聴用に買ったのだけど、使ってみたら音がこもっている。これはきびしいかなあ。濃いお茶は最初の数口の味が異様に濃かった。入院してから薄味のものばかり食べていたので、そう感じたのだろう。

2022年12月16日(金)
入院9日目。肝臓に問題なかったけれど、腎臓に問題があるらしいことが分かる。どうやら腎臓癌であるらしい。今の治療が一段落したら、改めて検査をして手術をすることになるそうだ。癌か。遂にきたか。正直に言うと、ショックだった。悔いを残さないように、これからやることの順番を考えたほうがいい。自分が出しておきたい本はなんだろう。その優先順位は? 出版だけでなく、書きたい原稿は書けるうちに書いておいたほうがいいな。最初に書かなくてはいけない原稿はなんだ? そんなことを考えると、どんどん気持ちが重たくなっていく。
進行中の治療に関しては、この日、胸に付けていたコードを外してもらう。残るのは点滴の管と酸素注入器だ。引き続き、病室でできる範囲で仕事を進める。Kindleで「名探偵コナン」を97巻から読み始める。この辺りは、既にアニメで大体観ているなあ。「ラディカル・ホスピタル」の読んでいなかった巻を読む。病院で読むと臨場感が倍増してしまい、気持ちが入りすぎてしまうのが分かった。一冊だけ読んで読むのを中止する。

2022年12月17日(土)
入院10日目。MacBookにMicrosoft365をインストール。病院内のセブンイレブンとユニクロで買い物。スマホとイヤホン(Bluetooth)の組み合わせで配信のアニメを観る。入院してから、アニメを30分まるまる観たのは初めて。担当の先生にもう少しで酸素ポンペがいらなくなるはずだと言ってもらう。それから、なるべく歩いたほうがいいそうだ。と言っても、歩いていいのはセブンイレブンまでなんだけど。
数土直志さんの「日本のアニメ監督はいかにして世界へ打って出たのか?」をKindleでざっくりと読む。ドラゴンウォークで、強敵モンスターの竜騎将バラン(レベル30)を倒した。歩くことができないので、ドラゴンウォークでできるのは強敵モンスターと、どこでもメガモンスターくらいだ。