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第219回 サントラ無頼派 〜UN-GO〜
腹巻猫です。公開中の劇場アニメ『アイの歌声を聴かせて』を観ました。ちょっと懐かしいジュヴナイルSFの雰囲気にミュージカル要素が加わったような作品。主役の土屋太鳳はミュージカル「ローマの休日」にも主演しているのでハマり役です。高橋諒の音楽もなかなかいい。今年は『竜とそばかすの姫』『サイダーのように言葉が湧き上がる』、そして本作と、音楽が重要な役割を果たすアニメが当たりかも。
NHK土曜時代ドラマ枠で「明治開化 新十郎探偵帖」の放映が始まった。昨年12月にBSプレミアムで放映された番組だから新作ではないが、そのときは未見だったので新鮮な気分で観ている。原作は坂口安吾の「明治開化 安吾捕物帖」。明治時代を舞台に探偵・結城新十郎が難事件・怪事件を解決していく探偵小説だ。筆者が小学生の頃、同じ原作による「快刀乱麻」というTVドラマを放映していた。それがとても好きだったので、今作も楽しみなのである。
実はアニメにも「安吾捕物帖」をベースにした作品がある。TVアニメ『UN-GO』だ。今回はその音楽を聴いてみよう。
『UN-GO』は2011年10月から12月までフジテレビ「ノイタミナ」枠で放送された作品。「安吾捕物帖」を原案に、ストーリー&脚本・會川昇、監督・水島精二、アニメーション制作・ボンズのスタッフで制作された。
主人公が探偵・結城新十郎であるのは「安吾捕物帖」と同じだが、随所に大胆なアレンジがほどこされている。舞台は明治時代ではなく近未来の日本。詳しくは語られないが、戦争を経験し、街にも人の心にも戦争の傷跡がいまだ残っているという設定だ。新十郎の相棒として活躍するのが因果。ふだんは少年の姿なのに、いざとなると妖艶な大人の女性に変身し、不思議な力を使って相手から真実を聞き出す。これはもちろん「安吾捕物帖」にはない設定。こんな風にSF的要素を採り入れたことで、ユニークなミステリーになった。
音楽はギタリスト、音楽プロデューサーとしても活躍するNARASAKIが担当している。1991年に結成した自身のバンド「COALTAR OF THE DEEPERS」で活動するいっぽう、大槻ケンヂのバンド「特撮」に参加するなど幅広く活躍。アニメ・特撮ファンでもあり、テクノユニット「Sadesper Record」では「渡五郎」の変名で活動しているくらいだ(「Sadesper(サデスパー)」も「渡五郎」も特撮TVドラマ「イナズマン」に由来する)。
映像音楽では、劇場作品「クラッシャーカズヨシ」(2005)、TVドラマ「スミレ16歳!!」(2008)、「ザ・クイズショウ」(2008)、「妄想姉妹〜文學という名のもとに〜」(2009)などの音楽を担当。アニメでは、『Paradise Kiss』(2005/THE BABYSと共作)、『デッドマン・ワンダーランド』(2011)、『楽園追放 -Expelled from Paradise-』(2014)、『覆面系ノイズ』(2017/SADESPER RECORD名義)、『BEATLESS』(2018/kzと共作)などの音楽を手がけている。躍動感のあるバンドサウンドとクールなデジタルサウンド、両方を自在に使った音楽が現代的でカッコいい。映像音楽の作り手として気になる作家のひとりだ。
雑誌「CDジャーナル」2012年3月号に水島監督とNARASAKIが『UN-GO』の音楽について語った対談が掲載されている。それがなかなか興味深い。
『UN-GO』の劇中に「夜長姫3+1」という少女アイドルグループが登場する。NARASAKIが最初に依頼されたのは、そのグループが歌う曲の制作だったそうだ。「どうせなら劇伴も」ということになり、音楽を担当することが決まった。
水島監督は「昭和チックな作品なので、そのままやると古臭くなる。だからモダンな音楽や、普通の劇伴とは違うテイストの曲が書ける人で、なおかつ『UN-GO』のテーマにも理解があって話ができる人がいい」と思ってNARASAKIの起用を決めたという。
同じSF作品でも『BEATLESS』や『楽園追放』の音楽と『UN-GO』の音楽はひと味もふた味も違う。『UN-GO』ではノイズ的なサウンドが多用され、不気味さやミステリアスな感じが強く押し出されている。SFとホラーと探偵ものが合体した音楽なのだ。
音楽設計も一般的なアニメ音楽とは異なっている。メインテーマと呼べるような中核となるメロディが本作にはない。そもそも明解なメロディを持った曲が少なく、サウンド重視の曲や効果音的な曲が多いのである。音楽の使い方も、あえて感情移入させず、一歩引いて状況を見せるような、あるいは視聴者を眩惑させるような演出になっている。
しかし、それが『UN-GO』という作品らしいのだ。
具体的な音楽作りも聞いてびっくりである。上記の「CDジャーナル」の対談によれば、NARASAKIは全曲漢字一文字の音楽メニューを渡されて「これに沿ったものを作ってくれればいい」と言われたそうだ。水島監督は「あんまり具体的に言うと器用にこなしちゃうかもしれない」と思い、音響監督の三間雅文と一緒に「単語一文字で連想、発想で書くっていうメニュー」を考えて発注したという。漢字一文字のメニューなんてほかに聞いたことがない。それに応えて曲を作ってしまうNARASAKIもすごいし、その曲を巧みに使って作品世界を演出する音響監督もすごい。なんとも常識破りの作り方である。
本作のサウンドトラック・アルバムは2012年2月に「UN-GO ORIGINAL SOUNDTRACK」のタイトルでソニーミュージック/エピックレコードレーベルから発売された。収録曲は以下のとおり。
- How to go -Anime edit-(歌:School Food Punishment)
- 獣
- 回
- 念
- 過
- 真
- ヴァルハラ処女が丘(歌:夜長姫3+1)
- 神
- 興
- 空
- 不屈なれ
- 光
- 殺
- 怒
- 犠
- Beautiful dreamer(歌:夜長姫3+1)
- 暴
- 飄
- Fantasy -Short version-(歌:LAMA)
最初と最後にオープニング主題歌とエンディング主題歌を配し、その間にBGMと挿入歌を並べた構成。挿入歌はアイドルグループ「夜長姫3+1」が歌う2曲と、軍歌風の1曲(「不屈なれ」)、あわせて3曲が収録されている。
BGMは14曲。曲名は音楽メニューと同じく漢字一文字で統一されている。聴く側にも想像力を要求する挑戦的なタイトルだ。
トラック2の「獣」は因果が妖艶な女性に変身するシーンにたびたび選曲された曲。暗闇から何かが近づいてくるような不穏なサウンド。それが徐々に大きくなり、最後にようやくリズムが加わったかと思うと、途切れるように終わる。ホラー作品風の音楽で因果の得体の知れないキャラクターを表現している。
トラック3「回」は、アコースティックギターのコードストローク(ジャランと鳴らすやつ)とパーカッションだけで構成された曲。新十郎が推理をめぐらす場面や聞き込みをする場面などに使われた。この曲のバリエーションがトラック12の「光」。冒頭部はほぼ同じだが、途中からスパニッシュなリズムになり、シンセサウンドが加わって緊張感のある演奏に展開していく。こちらは新十郎と因果が事件の真相をあばく場面によく使われていた。NARASAKIによれば「『快傑ズバット』のイメージ」なのだそうだ。
トラック4の「念」は第7話で新十郎が小説家の世界に囚われてしまうシーンに使われた曲。リズムを刻む音がしだいに増えていき焦燥感をあおる。怪しくうねるシンセの音が不安をかきたてる。この曲からアルバム全体が摩訶不思議な世界に突入してくようだ。
トラック6「真」は、新十郎のライバルである海勝麟六(「安吾捕物帖」の勝海舟にあたるキャラクター)が自分の推理を語る場面にたびたび流れた曲(ただし、その推理は当たらない)。ピアノの細かいフレーズがくり返され、シンセやパーカッションが加わり、ミニマルミュージック風に展開する。後半のエピソードでは新十郎が事件の謎解きをする場面にも選曲された。本作の「推理のテーマ」とも呼べる曲である。
トラック7の「ヴァルハラ処女が丘」とトラック16の「Beautiful dreamer」は第2話に登場したアイドルグループ、夜長姫3+1が歌う曲。あえて昭和歌謡風のメロディに作られている。本作の中では、夜長姫3+1の歌は権力への抵抗の象徴になっていて、その後も重要な役割を担う曲として再登場する。
同じ劇中歌でもトラック11の「不屈なれ」は男声合唱で歌われる軍歌。第5話の劇中で街宣車が流す歌として使われ、「戦後」の雰囲気をかもし出していた。
ところで、本作のエンディング主題歌を担当したLAMAは、『リズと青い鳥』などの作曲家・牛尾憲輔が参加するバンド。その縁でか、本作のBGMにも牛尾憲輔が参加している。宗教曲のような「神」(トラック8)、ピアノとシンセによる日常曲「空」(トラック10)、コミカルなタッチの「暴」(トラック17)の3曲だ。もともと牛尾憲輔がNARASAKIのファンで、NARASAKIの参加する「肉の会」に呼ばれて水島監督と知り合い、本作への参加につながったというから面白い。
また、ほのぼのムードの「興」(トラック9)、歪んだシンセの音色がいらだちを表現する「怒」(トラック14)、可愛くユーモラスな「飄」(トラック18)の3曲は『BEATLESS』の音楽にも参加しているコジマミノリの作曲。NARASAKIの楽曲とはサウンドも雰囲気も違って、本作の音楽世界を広げている。
NARASAKIの曲に戻ろう。トラック13の「殺」は緊迫したシーンによく使われた曲だ。アップテンポのリズムとシンセコーラスが危機感と不安感をあおり、「事件発生」をイメージさせる。第11話の因果と別天王の対決シーンで長く使われたのが印象深い。
そして、トラック15の「犠」は本作の中でも珍しい情感描写系の曲。重苦しい導入部から繊細なピアノのフレーズに展開し、後半は霧が晴れるようなさわやかな雰囲気に転じて終わる。登場人物が心情を打ち明ける場面や新十郎が事件の真相を語る場面などに使用された。「事件解決」のイメージである。アルバムはこの曲で終わってもよかったのではないかなと思う。
『UN-GO』はNARASAKIの仕事の中でも、そうとうユニークな作品である。映像音楽(劇伴)の定型にはまっていないし、わかりやすくもない。しかし、既成の劇伴のスタイルに頼らず、独自の世界を追求するカッコよさがある。無頼派と呼ばれた作家・坂口安吾にちなんでいえば、サントラ無頼派とでも言おうか。
UN-GO ORIGINAL SOUNDTRACK
Amazon
第361回 『グッバイ、ドン・グリーズ!』のワールドプレミア
アニメ様の『タイトル未定』
325 アニメ様日記 2021年8月15日(日)
2021年8月15日(日)
Amazon prime videoで『:序』『:破』『:Q』に続けて、『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』の視聴を始める。劇場で「激ウマだな」と思ったレイアウトが普通に見えて、「このカットの秒数はこれでいいのか」と思った部分がまるで気にならない。スクリーンとモニターで、こんなにも印象が違うのか。
2021年8月16日(月)
早朝散歩は続けている。この日は池袋から代々木公園まで歩いた。途中で明治神宮に参拝した。その後はデスクワーク。ある映画の試写会の最終日だったけれど、原稿を優先。1日のタイムスケジュールを細かく決めて、原稿の時間は他のことはやらないで集中して作業をした。
ある方に取材のアポとり。この方はメールの返信はなかなかくれないけれど、電話にはすぐに出てくれるので電話で。
Amazon prime videoで『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』の視聴を終了。『:序』『:破』『:Q』『シン』と続けて観たことで、自分の中で作品が立体的になった。特に『:Q』と『シン』は「4本でひとつの作品」として観た方が面白い。『シン』の後だと『:序』『:破』の日常的な場面で「ああ」と思うところあり。色々なことが伏線として活きている。『シン』で気になっていた表現が、どうしてそうなっているのかが分かった、ような気がした。
2021年8月17日(火)
仕事の合間に、ワイフとグランドシネマサンシャインに。16時20分からの回で『サイダーのように言葉が湧き上がる』を観る。自分は二度目、ワイフは初めての鑑賞。僕は今回のほうが楽しめた。
取材の予習で『ワンダーエッグ・プライオリティ』を1話から12話まで観る。最初の4話はBlu-rayソフトで観た。
2021年8月18日(水)
インタビューの質問状ができた。傑作。そして、長編。いや、質問状が傑作になっても、あまり意味はないんだけど。久しぶりに『エロマンガ先生』8話を観て、冒頭に感心する。ついでに「アニメスタイル012」の『エロマンガ先生』特集に目を通す。8話の列車内のレイアウトを載せてよかった。
SNSで須田正己さんが亡くなられたことを知る。僕が最初に須田さんに取材したのは、アニメージュの1987年9月号(vol.111)の「PROFESSIONAL INTERVIEW」。次が2014年6月号(VOL.432)「この人に話を聞きたい」第百六十七回だった。素晴らしい仕事を沢山残してきた方だ。タツノコプロ時代の仕事、キャラクターデザインを務めた『北斗の拳』は勿論のこと、『愛してナイト』のオープニングや『Dr.SLUMP』のマシリトの歌と躍りの作画等も忘れがたい。心よりご冥福をお祈り致します。
2021年8月19日(木)
昼飯で「完全栄養のパン」がキャッチフレーズのBASE BREADを試してみる。これはいいかもしれない。ダイエットに効果的というよりも、健康的に痩せるためによさそうだ。近所の文房具屋に廃盤が決まったBICジャパンの油性ボールペン「オレンジ イージーグライド」があったので1本だけ買う。
水曜に『エロマンガ先生』8話観たけど、この日は『エロマンガ先生』を1話から観て、また8話にたどりついた。今回の取材とは関係ない話になるけれど、『エロマンガ先生』はバランスがいいなあ。次に『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』で若林信さんの作画をチェックする。
2021年8月20日(金)
13時から、新高円寺で「この人に話を聞きたい」で若林信さんの取材。予習は90点で、取材は120点。写真もいいものになった。取材終了後、新高円寺から高円寺まで歩くつもりが、久しぶりに散歩スイッチが入って高田馬場まで歩いてしまう。
2021年8月21日(土)
「アニメスタイル販売会・2021_01」の開催日。販売会そのものはスタッフに任せた。自分は事務所で原稿を進めて、開始直後に販売会をのぞきに行った。その後、デパ地下で予約していたバースデーケーキを回収して、トークイベント「アニメーター40周年を迎えちゃいまして~伊藤郁子と○○人の呑兵衛たち~」の会場に。着いた時にはトークが始まっていて、楽屋に伊藤さん宛てのケーキを置いて池袋に戻る。その後はトークの配信を観ながら、原稿を進める。
第729回 懐かしいアングル
そういえば、何かYouTubeで友永和秀師匠がルパン描いてるムービーが上がってました。素晴らしい! やや高めの筆圧でグリグリとねちっこく描かれる、板垣が25年前、原画を習ってた時に見つめた友永さんの筆致! 懐かしいアングルでした。欲を言えば、早送りでなくリアルスピードで観たかったですが、それだと一般向けではなくなりますね。まだまだ友永さんには原画を描き続けて欲しいものです。
ところで、原画の先生ってどんな感じで教えるの? と思われる方、いらっしゃるかと思います。ま、単純に言うと人それぞれです。
この連載で何回か紹介したと思うのですが、自分には原画の先生が3人いました。ただ、大塚康生さんに関しては、自分が動画マンの頃から勝手に原画の習作を見て頂いてた訳で、言わば「押し掛け」。それは、学生時代の恩師・小田部羊一先生より自分がテレコム入社の際「大塚さんには描いたもの何でも見てもらいなさい」とのアドバイスがあったし、自分からも毎日スタジオ内をうろついている巨匠がいるなら見て頂かなければ損、と進んで見せに行ってただけ。大塚さんの場合、“大塚さんの気が向いた所”に関しては「ここはこーゆーポーズの方が良い」とか「この間には外回りの画が要るんだよ」とかその場でササっと達筆に描かれました。その他“気の向かない”のは「ここ目線こっち向けなきゃ」と部分的アドバイス程度。でも、その時の目線やポーズの一工夫で、一枚の画にどれだけ躍動感を与える事ができるのかを大塚さんから教わりました。後に『ベルセルク』(2016・2017年)の制作の際、原作者・三浦建太郎先生に自分が大塚さんからポージングを学んだことを話すと、「あ、だからコンテの画に躍動感があるんですね!」と納得されてました。
で、原画試験合格して直ぐ正式に先生に付いて下さったのは、スタジオ・ジブリ作品参加多数・宮﨑駿監督のお気に入りのアニメーター・田中敦子さん。『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年)のルパンと次元がスパゲティを食らうシーンや『じゃりン子チエ』(1981年)のお好み焼きのシーンなどで有名。その田中さんが『もののけ姫』(1997年)を終えてジブリから帰ってきた日、板垣的には例のサンの胸揺らした動画を徹夜で上げた日の、朝11時から二人一緒に演出の富沢信雄さんと作画打ち合わせ(完徹で眠かった)。『SUPERMAN』(1996〜2000年)を1本だけ(2本はやってないはず)面倒見て頂きました。田中さんの場合は「アクションやりたいでしょ? とにかく原画描いて!」と大胆に任せてくれて、上がったラフを持って行くとまず一笑。こちとら初原画なのに“戦闘ヘリからの爆撃を躱すスーパーマン”って言う高難易度なシーンを振られ、「こんなに走って~(笑)」「前のカットとスピードが違うぅ~(苦笑)」といった感じ。でも、アクションのポーズや“つけPAN”などのカメラ・ワークポイントとかはちゃんと押さえて指導して下さり、素人目には普通に見える位までの調整をして下さり、「後は失敗を画面で見て反省しなさい」と、全体的に大雑把。その1本目を見て頂いてる最中に田中さんのアメリカ出張が決まり、俺の指導は次の友永さんへと引き継がれたのです。
何度も話題にしているとおり、友永さんこそ自分にとっての本当の原画の師匠と言えるでしょう。友永さん御自身が板垣を金田伊功さんに紹介する際、「こいつ、俺の弟子!」と仰ったのですから。
友永さんは田中さんと対照的でかなり細かく丁寧! それこそ原画1枚1枚に黄色い修正用紙を重ね、今回のYouTubeみたいに筆圧高くカッコ良い画をバンバン入れ、めくって見せて下さるだけでなく、「あーでもない、こーでもない」とその場で迷い考えることもしばしば。決して達筆に天才を見せつけるような描き方はせず、当時ド新人原画マンだった自分と同じ目線で、
目の前のコンテから最大限面白いカットを描き上げるにはどうしたらいいか?
だけを考える! 小手先のテクニックよりそれを俺にいちばん教えたかったのかと思います。例えばコンテに描かれたパネル数分をそれぞれ拡大してデッサン整えて、その間に画を足した程度(現在はそれを原画だと勘違いしている人が非常に多い)のを見せると、1枚残らず全修正され、さらに何枚も原画を足されて「もっと、グリグリと考えて描けよ!」と返されました。ところが、『BATMAN』(1992〜1999年)でバットガールが階段の踊り場を駆けて来るカットを、原画時のアドリブで途中で足を滑らせて転ぶアクションにして持って行くと、その原画をパラパラめくった友永さん、ニヤリと笑って「ま、これはこれでやってみろ」とノー・チェックで通して下さいました。要は、「何も考えずつまんない原画を描くな!」と。そういう意味で言えば、演出・監督志望でアニメーターはあくまで通過点と思っていた俺に、“職業としての原画マンの面白さ”を教示して下さったのは友永さんに違いなく、自分が今ミルパンセの若手に指導する時、友永さんを真似させて頂いています。パースやデッサンより、コンテを貰ってどんなカットを仕上げようとしたいのか? そのプランを訊いた上で「そう見せたいなら、この画とその画が必要」と作画のコツを説明するようにしています。結局、画なんて描いてりゃ巧くなるもんですが、“原画という仕事に対する取り組み方”は新人の時から教え込んでおかないと、後になってなかなか軌道修正が効きませんから。つまり、
仕事を教えるとは技術だけでなく、身をもってその姿勢を見せる事が最優先!
特に昨今はアニメの作画・コンテ・演出まで、スマホ擦ればなんでもマニュアルが出てくるし、巨匠方のインタビューや対談も山と出てます。有料のアニメ関連の塾や講義を開く側も受ける側も、別に悪いとは言いませんが、そんなことせずとも本気でやる気あるなら直にアニメの現場に来た方が早いし、運が良ければ自分みたいに本格的な先輩方に教わることができると思います。少なくとも板垣はテレコムという現場で、お金では買えないほどのことを教わりました(しかも給料を貰って)。
第360回 いしづか監督がレッドカーペットに登場!
アニメ様の『タイトル未定』
324 アニメ様日記 2021年8月8日(日)
2021年8月8日(日)
「機動戦艦ナデシコ画集」の羽原信義さんのインタビュー記事まとめのために、『UFOロボ グレンダイザー対グレートマジンガー』での宇門大介の目が、TVシリーズ『UFOロボ グレンダイザー』の小松原一男作監回の宇門大介よりも小さいのかを、それぞれの映像を観て確認する。
昼から吉松さんとSkype呑み。缶ハイボールを3本買ったのだが、久しぶりの飲酒だったためか、1本で充分だった。少し休んでから、事務所でデスクワーク。
2021年8月9日(月)
ちょっと事情があって『きまぐれオレンジ☆ロード』TVシリーズを2話分、『きまぐれオレンジ☆ロード あの日にかえりたい』を視聴する。視聴にはアメリカ版のBlu-ray BOXを使った。『あの日にかえりたい』はVHSやLDではスタンダードサイズで収録されており、このBlu-ray BOXではビスタサイズで収録されている。劇場公開時もビスタサイズだったはずだが、自分はスタンダードサイズでの視聴に慣れているので、少し違和感があった。三角関係の決着の付け方については、色々と思うところもあるけれど、やはり力作。まどかの描写が面白い。この年になって初めて分かったこともあった。
2021年8月10日(火)
「週刊少年ジャンプ」に掲載された「BLEACH」の新作読み切りを読む。いやあ、よかった。連載の終盤よりもずっとよかった。内容は最終回のその後の物語だ。このまま続きを描いてほしいけれど、難しいのだろうなあ。
2021年8月11日(水)
午前中の散歩で『めぞん一刻』のサントラを聴く。『めぞん一刻』は何度も観ているのだけれど、サントラを聴いたのは多分、初めて。「ああ、こんな曲あったなあ」などと思いながら歩いた。
『ゲッターロボ アーク』を1話から最新話まで観る。『天元突破グレンラガン』のヴィラルって、『ゲッターロボ アーク』のカムイ・ショウの立ち位置なのね。どちらも人間ではなく、主役合体ロボの乗組員。性格はクールで、プライドが高い。身体能力が優れている。偶然なのか、ヴィラルがカムイ・ショウを意識したキャラクターなのか(既にどこかで言及されていたらごめんなさい)。
続けて『小林さんちのメイドラゴン』の最初のシリーズを観始める。
2021年8月12日(木)
早朝散歩は続けている。この日は池袋から代々木公園まで歩いた。『小林さんちのメイドラゴン』1期が終わり、『小林さんちのメイドラゴンS』配信最新話の5話まで観る。最初のシリーズと『S』との違いは、この段階ではまだ言語化できない。
2021年8月13日(金)
グランドシネマサンシャインで『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ【Dolby Atmos版】』を鑑賞。今回はワイフと一緒だ。僕は劇場でこの映画を観るのが三度目であり、三度目ともなるとさすがに驚きは薄れて、技術的なところを確認しつつ観る。この日から配布の入場者プレゼントの絵コンテ集は、自分とワイフでタイプA<cut0174~0233収録>、タイプB<cut0950~1011収録>の両方をゲット。入手できたのが片方だけだったら、コンテを入手するために、また劇場に行くつもりだった。コンテの内容もよかった。「ああ、そうだったのか」と思うようなことがト書きに書かれていた。全カットを収録した絵コンテ本が欲しい。
以下はSNSに書き込んだ冗談だ。あくまで冗談として読んでもらいたい。
僕がアニメージュの編集長で、今のアニメージュのストライクゾーンが広かったら、『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』特集をやるな。特集のタイトルは「サンライズの逆襲2021」か「逆襲のサンライズ2021」だ。
一応、説明しておくと、アニメージュの1983年10月号が「日本サンライズの逆襲」、1988年4月号が「逆襲のサンライズ’88」、1997年4月号が「サンライズの逆襲’97」だった。今のアニメ雑誌の感覚だと、このタイトルは使えないと思うので、やっぱり冗談でしかない。
2021年8月14日(土)
朝から昼までは散歩とデスクワーク。昼は近くのコーヒーショップで打ち合わせ。14時から吉松さんとSkype呑み。今回は缶ビール2本。少し休んでから事務所に。
10数年ぶりに、CD「ゲキ・ガンガー3 うたとおはなし大決戦!!」を聴いた。構成・台本は僕がやっていて、自分の仕事に関してはちょっと反省もあるけれど、キングの担当だった吉岡隆志さんの仕事がとてもよい。中盤で、ささきいさおさんの歌が2曲続くんだけど、そこで本物度数がぐっと上がる。ささきさん自身は本物であるのだれけど、オマージュ作品が本物に限りなく近づいていく感じが面白い。
ささきいさおさんのパート以外だと、アクアマリンのパートがとてもいい。水谷優子さんの持ち味が発揮されており、素晴らしい。芹川有吾演出回(と勝間田具治演出回)のリスペクトとして、よく出来てる(ここは自画自賛)。
第728回 レジェンドはあくまでレジェンド
前回のまた続きで。じゃあ、スケジュール管理や製作費(予算)を考えず、我を通した偉大な監督を板垣はどう思うか? をもう少し詳しく。
例えばその手のレジェンドでまず有名なのは実写の黒澤明監督。「七人の侍」(1954年)に於けるラストの合戦シーン未撮を人質にして会社側に製作スケジュール超過をゴリ押しした話や、「赤ひげ」(1965年)でも公開延期を繰り返した挙句に穴埋めゴジラシリーズ『三大怪獣 地球最大の決戦』(1964年)が作られたりと、その他莫大な費用(予算オーバー)をかけた映画作りで周りのプロデューサー・スタッフら振り回しエピソードには枚挙に暇がありません。
アニメ界でそれ級のレジェンドはなんと言ってもやっぱり、高畑勲監督でしょう。『太陽の王子 ホルスの大冒険』(1968年)での予算・スケジュール大幅超過や、『火垂るの墓』(1988年)で未完成版公開、『かぐや姫の物語』(2013年)も公開延期など、こちらも中々なものです。
因みに自分が最も尊敬する出﨑統監督も『白鯨伝説』(1997・1999年)で放送打ち切りやったりしてますが……。
それらお騒がせレジェンド監督らに対して、板垣的にはハッキリ、
決してカッコいいことだとは思っていません!
し、むしろ悪いことだろ!
と。例えば「トラ・トラ・トラ!」の降板(1968年)なども諸説ありますが早い話、予算的にもスケジュール的にも黒澤監督では作れないとプロデューサーから判断されたってことは間違いない訳で。それってカッコいいですかね? 黒澤監督の信奉者である俺から見ても感心できるはずもありません。
ただ、それらの巨匠の場合、“後世に残る傑作を数々作った”という結果から、御本人だけでなく、その時迷惑を被ったスタッフまでもが後に笑って話せる苦労話として、ファンの人たちの耳に面白おかしく、時には美談・武勇伝として届けられているだけの話です。そもそも真面目な業界人であれば、ジャーナリズムが取り上げない一般の人には見えない部分——現場で本当に泣いてるプロデューサーやスタッフ、そして中には巨匠様の作品のお陰で潰された関連会社、そしてその会社の社長にも当たり前のように家族・子供が居て、とかまで想像がつくから、軽々しく「我ままに周りの人間を振り回すのが大物名監督」だなんて口が裂けても言えないハズだし、監督自身がそれらをドヤ顔で自慢話にできる訳もないと思います。「創造力のある人」は「想像力のある人」でもあるので、本当に優れたクリエイターなら自分の創作が予定どおりに進行しないことが何をもたらすか? くらいは想像つくと思うのです。
まあ、巨匠の方々も「あの時は失敗した」と普通に反省していると信じたいです! 失敗と反省、で他人に迷惑掛けたらに謝罪を繰り返すのが人間の普通ってものです!
そんな訳で当然の成功と失敗を繰り返す狭間で作品ができ、観たお客から遠慮なく「面白い」「面白くない」と批評され、決して言い訳をしない! ましてや人のせいになどするはずもありません。黒澤監督も高畑監督も出崎監督もそうだと思います。
そもそも、巨匠の方々のそういった破滅的創作活動伝説を鵜吞みにする前に考えましょうよ、それぞれの作家が活躍した時代背景等を。
黒澤監督は戦時中の過ぎた検閲から戦後の焼け野原、そして映画の繁栄からTVの盛勢による映画の衰退、全てと戦って映画を撮られてたお方な訳で、
TVみたいな小さい箱で観せるドラマなんかよりも、うんとお金を掛けて作り込んだ画面の威力を世に魅せなきゃならん! 映画はここまで美しくなれるんだよ!
と日本映画の尖兵としての使命感があったのだと思います。だから、他より破格製作費と予算が必要だったんです、「映画」を繁栄させるために。その替わりに晩年は5年に1本しか撮れなくなったし、高畑監督もそう。
ロボットや美少女やる前に、自分はアニメーションと言う表現の可能性を広げる作品をこそ作らなきゃならん! ジブリが作らなくて——いや、自分が作らなくて誰が作る!
って考えてた上での製作費何十億だ、スケジュール崩壊だ、であると。その替わり高畑監督も晩年10年以上の空白期間ができてしまいました。
つまり、俺の考えではそれらの事例は、誰も手を付けたことのないスケール感でのもの作りを自らに義務付けた、文化の担い手である者の責任感から起因する必要悪? とでもいいましょうか。
だから、間違っても
我々みたいな世代のアニメ監督風情が、いい加減に金と時間を使い尽くした挙句、「○○監督は許されたのに~」とか都合の良い例として挙げる際に出して良い名前じゃないんです!黒澤さんも高畑さんも!
そもそも、他人の昔の失敗を例に挙げて「だから自分のも許して!」って、名前を出した巨匠方に対してこれ以上の失礼はありません。時代も環境も違うのですから。
現代のアニメ・コンテンツは、昔の10〜20倍に増えたと言われる訳で、ということはスタッフなどの人手不足は必須条件(現に自分も他所の会社からアクション原画の直しを頼まれて描いてる最中)。よって、予算やスタッフに文句さえ言わない限り、ちゃんと仕事できる人にはそれ相応の仕事が回るはずなので、とにかく——
第218回 あれから10年! 〜ハートキャッチプリキュア! メモリアルアルバム〜
腹巻猫です。10月23日から『映画 トロピカル〜ジュ! プリキュア 雪のプリンセスと奇跡の指輪!』が公開中です。サウンドトラック・アルバムの構成・解説を担当しました。鑑賞のおともにぜひどうぞ!
そして、この作品にはハートキャッチプリキュア!(ハトプリ)がゲストで登場。トロピカル〜ジュ!プリキュアとともに活躍する姿が見られます。それを記念して、10月27日に「ハートキャッチプリキュア! メモリアルアルバム」が発売されます。こちらも筆者が選曲・構成・解説を担当しました。
ということで、今回は「ハートキャッチプリキュア! メモリアルアルバム」を紹介しよう。
『ハートキャッチプリキュア!』は2010年2月から2011年1月まで放送されたプリキュアシリーズ7作目となるTVアニメ。花咲つぼみ、来海えりか、明堂院いつき、月影ゆりの4人がプリキュアに変身し、地球を砂漠化しようとする敵「砂漠の使徒」に立ち向かう物語だ。馬越嘉彦による愛らしいキャラクターデザインや旧来のヒロイン像をくつがえすつぼみとえりかのキャラクター、エンディングのダンスアニメーションなどが評判を呼び、プリキュア人気を幅広い世代に拡大するきっかけになった作品である。
劇中音楽は高梨康治が担当。高梨は『ハートキャッチプリキュア!』を含め、プリキュアのTVシリーズ4作品の音楽を担当している。当コラムでは過去に一度、本作を取り上げたことがあるが、そのときは「キュアメタル」をテーマに、ハトプリの音楽だけでなく高梨康治が手がけたプリキュアサウンド全般をふり返って紹介した。今回は「メモリアルアルバム」の収録曲と商品としての魅力を紹介したい。
4月に発売された「Yes!プリキュア5&Yes!プリキュア5 GoGo! メモリアルアルバム」と同様に、本アルバムも「歌と音楽によるコンサート」をイメージして選曲・構成した。主題歌・挿入歌・キャラクターソング等のボーカル曲と劇中音楽(BGM)を交互に並べて、『ハートキャッチプリキュア!』の世界を音で楽しんでいただこうという趣向である。
過去のハトプリ関連のCDは全部持っているという熱心なファンは、初収録音源があるかどうかが気になるかもしれない。プリキュア5のメモリアルアルバムでは初収録音源を6曲入れて目玉のひとつにした。今回の初収録音源は残念ながら1曲(BGMのミックス違い)だけ。これは初めてハトプリの音楽商品を手にする新しいファンにも向けた商品なので、ベスト・オブ・ベストの選曲にした結果である。本作は歌もBGMも名曲が多く、使用回数の少ないレアな音源まではフォローしきれなかった。そのぶん、密度の高い内容になったと自負している。
また、過去に発売された音源をコンプリートしている方でも、本アルバムは聴いていただく価値があると思う。収録にあたっては全曲リマスタリングを実施。同じ曲でも10年前のアルバムとは音の質感や立体感が変わっているからだ。
マニアックな話をすると、放送当時のアルバムは、九段北にあった、今はなき一口坂スタジオでマスタリングを行った。今回のスタジオは乃木坂にあるSony Music Studio。機材もエンジニアも異なる。Sony Music Studioは「NARUTO」シリーズなど高梨康治作品の多くをマスタリングしているスタジオでもあり、高梨サウンドの魅力を最大限に引き出す技術とノウハウを持っている。旧盤をお持ちの方はぜひ聴き比べていただきたい。
本アルバムのもうひとつの大きな魅力は、キャラクターデザイン・作画監督を務めた馬越嘉彦がジャケットイラストを描き下ろしていること。初回盤は三方背スリーブケースとキャンバスブロマイドつきという、ファンにはたまらない仕様なのだ。
初回盤と通常盤では解説書にも違いがある。初回盤の解説書は28ページだが通常盤は16ページとページ数が減ってしまう。音楽解説や主題歌歌手・池田彩と工藤真由のコメントが読めるのは初回盤だけなので、入手したい方はお早目に。
収録曲を紹介しよう。
- プリキュア!オープン・マイハート! – Long version -
- Alright! ハートキャッチプリキュア!(歌:池田彩)
- 堪忍袋の緒がきれました!
- プリキュア颯爽活躍です!
- プリキュア・フローラルパワー・フォルテシモ!
- つ.ぼ.み 〜Future Flower〜(歌:花咲つぼみ/キュアブロッサム[CV:水樹奈々])
- スペシャル*カラフル(歌:来海えりか/キュアマリン[CV:水沢史絵])
- サブタイトル
- 希望ヶ花へようこそ(Drumless version)
- こころの種、生まれるです
- こころの花(歌:つぼみ&えりか&いつき)
- ハートキャッチ☆パラダイス!(歌:工藤真由)
- ハートキャッチ!
- もひとつハートキャッチ!
- Tomorrow Song(English ver.)(歌:MICKY-T)
- こころの花よ、出ておいで
- デザトリアンのおでましだ!
- Power of Shine(歌:明堂院いつき/キュアサンシャイン[CV:桑島法子])
- MOON 〜月光〜 ATTACK(歌:月影ゆり/キュアムーンライト[CV:久川綾])
- 暗黒の挑戦者
- 明日への戦い
- HEART GOES ON(歌:池田彩&工藤真由)
- プリキュア・ハートキャッチオーケストラ!
- 宿命の戦士
- プリキュアの絆
- Alright! ハートキャッチプリキュア! 〜ギター・アレンジ〜
- こころの種(歌:つぼみ&えりか&いつき&ゆり)
- Tomorrow Song 〜あしたのうた〜(歌:工藤真由)
構成はトラック13、14のアイキャッチ曲をはさんで前半・後半に分かれる。前半がコンサートの第1部、後半が第2部のイメージだ。
前半はプリキュアの登場と活躍、つぼみたちの日常をイメージした。
プリキュア変身BGMとオープニング主題歌「Alright! ハートキャッチプリキュア!」でコンサートは開幕する。
トラック03「堪忍袋の緒がきれました!」はタイトルどおり、プリキュアが砂漠の使徒やデザトリアンに怒りを向け、立ち向かう場面にたびたび選曲された曲。これぞ高梨サウンド! という曲調で、大いに盛り上がってもらいたい。
次の「プリキュア颯爽活躍です!」と「プリキュア・フローラルパワー・フォルテシモ!」(プリキュアが放つ浄化技の曲)は、かわいさとカッコよさをあわせもった、本作の代表的なキュアメタルの曲。
続いては、つぼみとえりかがそれぞれソロで歌うキャラクターソング「つ.ぼ.み 〜Future Flower〜」と「スペシャル*カラフル」が登場。この2曲はCDシングルとして発売されたほか、メロディをアレンジしたBGMが、つぼみのテーマ、えりかのテーマとして劇中に使用されている。
サブタイトル曲をはさみ、トラック09「希望ヶ花へようこそ(Drumless version)」はつぼみたちの日常場面によく流れた曲のドラム抜きバージョン。本アルバム初収録曲である。トラック10「こころの種、生まれるです」はエンディングなどによく使われたやさしい曲調の音楽。同じメロディでいくつかの変奏曲が作られている。日常曲はもっと入れたかったのだが、収録時間の都合でこの2曲だけに絞った。
トラック11「こころの花」は、つぼみ、えりか、いつきの3人が歌うキャラクターソング。プリキュアが歌う歌ではなく、変身前の素顔の3人が歌う曲として作られているのがポイント。
第1部を締めくくるのは前期エンディング主題歌「ハートキャッチ☆パラダイス!」。ユーモラスでかわいい、プリキュアソングの名曲のひとつ。思えば、放送当時はこの曲で「踊ってみた」動画が動画投稿サイトにたくさんアップされていたなぁ。あのとき踊っていたみんなも、このアルバムを聴いてくれるかなぁ……とそんなことを思ってしまう。
アイキャッチでひと息入れたあと、第2部開幕の曲は「Tomorrow Song(English ver.)」。後期エンディング主題歌「Tomorrow Song 〜あしたのうた〜」の英語バージョンである。
もともと「Tomorrow Song 〜あしたのうた〜」はゴスペルを意識して作られた曲だが、プリキュアの対象年齢を意識して、楽しく踊れる歌に仕上げられていた。この英語バージョンは、本格的なゴスペル風アレンジとボーカルで聴かせる、大人びた曲にリメイクされている。歌っているのは、原曲「Tomorrow Song 〜あしたのうた〜」のバックでリードコーラスを務めたMICKEY-T(神崎まき)。米国でジャネット・ジャクソンのPVに出演したこともある実力派ボーカリストである。ここでは第1部と雰囲気を変えて、第2部はちょっと変わるわよ、と印象づける意味で収録した。この曲は放送当時発売された「ハートキャッチプリキュア! ボーカルベスト」以来の収録になるので、同アルバムを持っていない方は新鮮に聴いていただけると思う。
トラック16からはプリキュアとデザトリアンの死闘をイメージした構成。
まずは不穏な雰囲気をただよわせる敵の曲を2曲。「こころの花よ、出ておいで」は砂漠の使徒の襲撃のテーマ。「デザトリアンのおでましだ!」は砂漠の使徒が操る怪物デザトリアン登場曲である。ダークなロックサウンドは高梨康治の得意とするところだ。
トラック18「Power of Shine」とトラック19「MOON 〜月光〜 ATTACK」は、それぞれキュアサンシャインとキュアムーンライトのキャラクターソング。この2曲もCDシングルで発売され、劇中にも歌入りで使用されている。「MOON 〜月光〜 ATTACK」はハトプリのキャラクターソングの中でも屈指の人気を誇る曲だ。
今回収録したプリキュアがソロで歌う4曲のキャラクターソングは、すべて劇中音楽を担当した高梨康治の作曲によるもの。こういうケース(劇中音楽の作曲家がプリキュア全員のキャラクターソングを書くこと)はプリキュアシリーズの中でも珍しい。『ハートキャッチプリキュア!』は高梨康治色が非常に濃厚な作品なのである。キャラクターソングとBGMが1枚のアルバムにまとまることで、その特色が明確になった。
トラック20からは最終決戦のイメージでまとめた。
「暗黒の挑戦者」は強敵登場をイメージした曲。砂漠の使徒がダークブレスレットを使ってパワーアップする場面によく使われている。次の「明日への戦い」はプリキュアの不屈の闘志を表現するバトル曲。数々の名場面に使用された、本作を代表する楽曲のひとつだ。
そして、トラック22は池田彩と工藤真由がツインボーカルで歌う「HEART GOES ON」。第36話の学園祭ライブのシーンのために作られた曲である。第38話、第48話ではプリキュアのバトルシーンに流れ、「燃える挿入歌」として存在感を発揮した。最終回の1話前となる第48話で、キュアムーンライトの「私たちは憎しみではなく、愛で戦いましょう」という言葉に重なって流れたのが印象深い。
トラック23はプリキュア4人が力を合わせて放つ技「プリキュア・ハートキャッチオーケストラ!」の曲。ここからトラック26までは、最終回(第49話)の使用曲で構成した。
トラック24は……。いや、これ以上書くと、これから観る人・聴く人の楽しみを奪ってしまうので、あとはアルバムの解説書とともにお楽しみいただきたい。
トラック27に収録した「こころの種」は、つぼみ、えりか、いつき、ゆりの4人が歌うキャラクターソング。トラック11の「こころの花」の続編とも呼べる歌である。ここでも、プリキュアではなく素顔の4人が歌う曲であるのがポイント。本編最終回の余韻のあとに聴くと、格別な味わいがある。
ラストソングはもちろん、工藤真由が歌う後期エンディング主題歌「Tomorrow Song 〜あしたのうた〜」。泣きたいときも顔をあげて、元気に笑顔で歌おう。そう呼びかけるこの歌は、今でも、今だからこそ、強く胸を打つ。
こうしてふたたびアルバムにまとめられた『ハートキャッチプリキュア!』の楽曲たち。かわいく、やさしく、りりしく、カッコいいハトプリの魅力がぎゅっと詰まった1枚になった。放送を観ていた方も、これから観ようと思っている方も、10年ぶりにリマスターされたサウンドをたっぷり浴びて、ハトプリの世界に浸っていただければ幸いである。
『映画トロピカル〜ジュ! プリキュア 雪のプリンセスと奇跡の指輪!』では、ハトプリとトロプリの音楽による共演を聴くことができる。ハトプリは10年前と変わらずキラキラしているし、トロプリは思い切りトロピカっている。プリキュアファンはぜひ、『映画トロピカル〜ジュ!プリキュア』のサントラもあわせて聴いてもらいたい。
ハートキャッチプリキュア! メモリアルアルバム
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映画トロピカル〜ジュ!プリキュア 雪のプリンセスと奇跡の指輪! オリジナル・サウンドトラック
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第359回 『映画 トロピカル~ジュ! プリキュア』に原画で参加してます
第727回 動画という仕事
前回の続きっぽく、もう少し「職人」の話。最近また『ルパン三世』シリーズの新作があるらしく、ふとまた思い出した『ルパン三世 くたばれ!ノストラダムス』(1995年)という映画。何度も話題にしている自分の初動画作品の一つで、同時期に動画やってた作品としては『耳をすませば』と『On Your Mark』などがあります。
まず、我々アニメ業界人にとっての「動画」と現代人にとってのそれとは多少の隔たりがあると思われるので曖昧さ回避(?)を。昨今ではYouTubeなどに上がってる作品やスマホ・デジカメで撮れる映像、というか映像全般が「動画」と呼ばるご時世になったようです。ところが、我々アニメーターにとって「動画」とは
原画をトレスしてそのトレスした画と画の間に描く中間の画一枚一枚、もしくはその画を描く人の役職名!
のことなんです。だから、実写のユーチューバーさんらが「~について動画を一本上げます」とか「以前~の動画で……」などの台詞が発せられるのを耳にする度、少々違和感が付き纏うアニメーターは自分だけではないはず(ですよね?)。
ま、話を戻します。何しろ『ルパン三世 くたばれ~』の動画で思い出すのは、この連載の初期でも何回か話題にした
ラスト、ルパンらが脱出した後、地上1000メートルの超高層ビルが横倒しになる大俯瞰(1時間30分25秒あたり?)の動画!
です。これはコンテが友永和秀師匠、原画は後に細田守監督作品の作監もやられている青山浩行先輩(因みに青山さんの師匠も友永さん)。
友永師匠曰く、「『長靴をはいた猫』(1969年・東映動画制作)のラストシーン、倒れる塔で「朝日よ~!!」がやりたかった!」だそうです。一緒に飲んだ時そう言ってました。
このシーン一連の青山さん原画パートは板垣の方で何カットか動画にさせて頂き大変勉強になりました。青山さんの原画は本当に巧くて動画にするだけで色々学べて、特に『くたばれ~』では青山さん拘りのエフェクト作画を数々割らせて(中割させて)もらい、その時の影響は今でも自分の原画に色濃く残っていると思います。
で、『くたばれ~』の高層ビル横倒しの青山さん作画カットは、
原画4枚で、動画時Aセル…ビルの土台(止めハーモニー処理)、Bセル…倒れるビル、Cセル…爆炎、Dセル…鉄骨&ガラス破片~に分けて、Aセル止め以外のB・C・Dセルはそれぞれの原画の間に10枚・9枚・9枚の中割りで計97枚の大判動画!
の構成でした。なにぶん20数年前の記憶なので以前話題にしたときと多少誤差があるかも知れませんが、改めて計算したのでこちらの方が正しい数字かと。
カメラを捻る(回転する)ため、全動画A3用紙一杯の大判。当時はセル仕上げなのでトレスマシンに差し込む際ガタらないように動画用紙全てにタップ補強(もう1枚タップ穴の開いた紙をボンドで貼る)をし、その作業だけで半日費やした上で、まわりの先輩方からは「君がこれやるの?」「頑張れ~」などの声が上がる中、ようやく夕方から動画作業に挑んだのでした。
結果から言うとCG繁栄の現代から見ると“別にどうってことないカット”でしょう。でも、当時でも既にCG(コンピューター・グラフィックス)という技術はあったので「何でこれCGでやらないんだろう? 予算の問題?」などの思いも駆け巡る中、
「よし!どうせやるならブレたりガタッたりせず、CGと見紛うばかりの動画を仕上げて見せる!」
と意気込んで取り組んだのでした。Dセルの破片は大して時間は掛からないのは分かっていたのですが、大変だったのは煙(Cセル)とビル(Bセル)。特にビルの横倒しは、9割方直定規を使っての立体図形割り(?)とでも言いましょうか。ひたすら各移動曲線に目盛りを均等に打ち、点と点を直線で繋ぎまくる——単純に言うと、動画一枚一枚がまるで“製図”状態!

はっきり言って、毎日16~18時間程(当時はもちろん働き方改革などなしで)机に向かって一日2~3枚が限度。煙・破片まで含めすべて終わらせるのに2週間近く掛かったと記憶しています。お陰様で自分の上げた大判動画はガタりもブヨりもせず、周りの先輩方からも好評頂いたようで正直自分も鼻高々でした。
もちろん、こんな話題を繰り広げてもどなたも喜ばないのも分かってるし、ufotable近藤光社長(テレコムでの同期)ともこの映画の欠点については何度も語ったし、歴代ルパンの中でも決して上位には食い込まないほぼ無名な作品なのも承知してます。でも、東京現像所で完成試写を観た時の充実感は未だに忘れられない、自分にとっては愛すべき駄作(失礼!)なんです。アニメーターの方なら誰でも、参加した役職に限らず、そんな作品ってあるのではないでしょうか?
そして、何故今頃こんな話を持ち出したかと言うと、冒頭で言った「動画」と言う職人仕事についての疑義を呈するのに丁度良い例だと思ったからです。
今、我々の会社——ミルパンセでは、動画の在り方について考えています。自動中割だ中割マシンだと動画をコンピューターによる自動化という発想は当たり前だし、社内でも自動中割ツールを要所要所使ったりしています。もちろん、俺自身はそれらの模索はとても良いことだと思っています。自分たちが味わった苦労を、「お前ら若者も味わえ!」とばかりに後世に残そうとする意味不明な筋肉頭脳的発想を板垣は持っていませんから。
ただ、「どんな人間が描いた原画でも必ず割ってみせる自動中割ツール(マシン)」にはまだ時間が掛かりそうなのと、そうこうしている間に「どんな芝居もアクションもCGで作った方が早いし、費用的にも手描きより安く上がる」って時代の方が先にやって来そうだし。
……てとこで考えるのです。
つまり、“機械でやらせる手段を考えている”時点で会社(スタジオ)は、というかアニメ業界は、少なからず我々がやってきた「動画」という作業には、
“アニメーター育成”という大義名分のもと、本当は“大概の人がやりたがらない仕事”を、ただ単に後輩に押し付けただけ! という一面がある!
と感じていたということでしょう。全てがとは言いません。走りや歩きのメカニズムや、前述のエフェクト類など、先輩の原画をトレス&中割りすることによって学べることは数多くありますから。ただ、動画経験者なら分かって頂けると思うのですが、
世にある動画の6~7割は線と線の間に線を引くだけの“誰がどう描いても結果は同じ動画”で、且つ“誰もやりたくないけど機械化がまだ追いついていないために誰かがやらなきゃ終わらない仕事”!
なんです。自分が割った超高層ビルの動画などは正にそれ! 当時は新人だったから「原画になるための勉強~」的モチベーションで低賃金でも乗り切りましたが、前回説明したような状況である多様な趣味を持ち、時間の切り売り的に“仕事として”付き合ってくれている現代の若者に対して、「俺が若かった頃は~」とか精神論を説教するより前に、正直に
これは、近い将来コンピューターで中割り出来るカットのはずなんですけど、今は手で割るしかないので、本当に申し訳ないけど貴方の手で何とかして下さい!報酬は○○万で如何でしょう?
と、会社(スタジオ)やプロデューサー、あと監督も、ちゃんと頭を下げて動画職人に交渉するべきだし、受ける側もその方が割り切って作業に没頭出来るんです。これ、アニメに限った問題ではなく、
これからの時代、才能や芸能に払うのと同じかそれ以上の報酬を“本当は誰もやりたがらない仕事・職種”に対しても払われるべき!
ですよね? 少なくとも一動画スタッフとはいえ、どんなカットでも割れる高度な技術と忍耐の持ち主には原画マンどころか監督以上の報酬を払って良いと思います——その人がいなければ作品が成立しないのであれば。逆に今時、素材作りの実作業になんのお手伝いすらできないノー技術の監督などいなくても、各セクションの職人がしっかりしていれば、ともかく作品は出来上がって納品できるのですから。ましてや学歴だけで職人を顎で使える立場になれると勘違いした監督とかは糞の役にも立たない時代が、デジタル化によりようやく来たのだと思います。仕事できるできないが数字化できるわけですから。あ、もちろん、我が国にとって学歴は尊いものですよ(高学歴の友人らのこと、俺は本当に尊敬していますから)! ただ!“そ・れ・だ・け・で”一生安泰だと思う妄想がおかしいと言うだけ。
そろそろ道具として定着したデジタル・ツールで動画の数枚でも割ってみたらどうでしょう、監督さんも? できればプロデューサーさんも。そうすれば監督が通した(描いた)コンテに記される矢印一つで動画マンがどれだけ意味のない苦労をさせられるのか分かります。また、気づくでしょう、その現場の苦労を知らず(知ろうともせず)闇雲に描かれたコンテの内容から制作予算を割り出せないプロデューサーがアニメ事業に携わることの危険性に! そして
我々アニメーターも、現状のアニメ業界全体の人手不足という足元を見て自分だけギャラをでたらめにボッタくるのではなく、ちゃんと「この内容は一日8時間取り組んだら何日掛かる~故にいくらでならお受けできます」と真っ当な計算でもって交渉することを願うし、それに対応する制作さんらもしっかり上(上司?)と相談して現代に見合った価格設定もしくは契約を、ちゃんと互いが将来を見据えた上で合意して結ぶことを切に願います! わがまま個人に言い値を払う姿勢を業界全体で見直し、会社単位の計算された交渉をしないと、割りと早いうちにアニメ業界の“成果に結びつかない無駄遣い”がクライアント側もばれると思います! もしかすると既にバレているから最近、メーカー自身が次々とアニメ制作に手を出し始めたのかも!
……と、「お前、何様?」て声が聞こえてきそうなとこで、今回はここまで。
あ!因みに、板垣自身はビル横倒しのカットに対して骨折って損しただとか怨んでいるとかはありません。もちろん当時低賃金だったことにも。むしろ機械作業に変わる前に動画マンとしての苦労を満喫できた貴重な経験だと思い、その幸運を喜んでいます。だからこそこうしてネタにするわけで。それと今回のような話題をすると「じゃあ、お前は○○監督や△△監督とかのやり方を全否定するのか!?」と仰る方々が現れるのですが、

────てことです、はい。
アニメ様の『タイトル未定』
323 アニメ様日記 2021年8月1日(日)
2021年8月1日(日)
早朝に新文芸坐に。オールナイトの終幕を見届ける。事務所でイベントの予習をした後、新宿まで歩く。日陰を選んで歩いたけれど、やっぱり暑い。12時から「第178回アニメスタイルイベント 『映画大好きポンポさん』を語ろう!2」を開催。前回のイベントで触れることができなかったテーマに触れることができた。触れたかったのは以下のような内容だ。
(1)劇中でジーンが映画のために友人や生活を捨てたのと、劇中劇「MEISTER」でダルベールが音楽のために家族などを捨てたのがシンクロしている。ダルベールのアリアが、ジーンにとっての「MEISTER」。
(2)つまり、平尾隆之監督が作品を作るために、人生をある程度犠牲にしているのが(1)とシンクロ。乱暴にまとめると、平尾監督=ジーン=ダルベールという関係。
(3)劇中劇の「ダルベールの音楽活動」、劇中の「ジーンの映画作り」、現実における「平尾監督の作品作り」がメタ構造である。
(4)そして「何かを得るために、何かを捨てること」はクリエイターだけがやっていることではない。誰もが何らかのかたちでやっていることだ。だから、この映画のメタ構造は観客にとっても他人事ではないはず。
さらに付け加えると、映像を編集する(切る)ということで、人生の決断を描いているのだ。と考えることもできる。平尾監督に聞きたかったのは(2)の部分。つまり、平尾監督がそのメタ構造を意識していたのか、ということだ。
イベント終了後、新文芸坐で「嘘」(1963/99分)を観る。7月31日(土)の「足にさわった女」と同じく、プログラム「増村演出の神髄に迫る めくるめく増村保造の世界 PART2」の1本。3本構成のオムニバスで、増村保造演出の1本目はかなりパンチが効いている。ではあるけれど、不条理劇的な3本目(衣笠貞之助監督の作品)のインパクトが凄くて、そちらが印象に残った。現存する「嘘」のフィルムにはオープニングと1話目のサブタイトルが欠けているため、先にDVDでオープニングとサブタイトルを見せて、そこからフィルムに切り換えるという今の新文芸坐だから可能な、ウルトラテクニックによる上映だった。
2021年8月2日(月)
12月にコミケが開催されることが発表される。嬉しいけれど、中止になる可能性はあるわけで、そのことも考慮して、刊行スケジュールを立てなくてはいけない。
2021年8月3日(火)
TOHOシネマズ池袋の午前中の回で『映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』 を観る。これは秀作だ。過剰なくらいに物語を作り込んでおり、その作り込みが面白さに直結している。笑えるだけでなく、感動できるポイントもあり。人物描写にもいいところがある。大筋としては推理物で『クレヨンしんちゃん』のリアリティレベルだからこそ成立するミスディレクションがあり、それも素晴らしい。
2021年8月4日(水)
『Fate / Grand Order -終局特異点 冠位時間神殿ソロモン-』を観る。さすがはPREMIUM THEATER。音がよかった。ある人に『ワンダーエッグ・プライオリティ』や『Sonny Boy』の画作りについて、色々と教えてもらう。Amazonのアニメージュのページを見たら、どの記事が電子版に載っていないかが表記されるようになっていた。
2021年8月5日(木)
早朝散歩は続けている。この日は池袋(豊島区)から王子(北区)まで行って、さらに隅田川、荒川の辺り(足立区)まで歩く。夏休み感のある散歩だった。
2021年8月6日(金)
池袋HUMAXシネマズで『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ワールド ヒーローズ ミッション』を鑑賞。中村豊さんの担当以外もアクション作画が山盛り。16時半からBONESで打ち合わせ。
2021年8月7日(土)
押井守監督は今年の8月8日で70歳になる。それに合わせて、8月7日から8日にかけて、押井作品のオールナイトをやる予定だった。しかし、諸般の事情でこの日に開催することはできなかった。残念だ。せっかくなので、エア押井守映画祭として、1人で「立喰師列伝」を配信を観た。昼の散歩では『イノセンス』のサントラを聴いた。
14時から、NHK文化センターの配信「アニメプロデューサー丸山正雄が語る アニメ制作の歴史」を視聴。90分で現在の話まで到達するのかでハラハラしたけれど、奇跡のようにまとまった。16時半から新文芸坐で花俟さんと今後のオールナイトについて打ち合わせ。
『響け!ユーフォニアム』を1話から視聴。もしも、久美子達の前に滝先生が現れなくても、それはそれで楽しい物語になったのではないかと思ったり。楽しさと、ちょっとリアルな人間関係(葉月の他人との距離の取り方について久美子が馴染めないとか。あすかが面白お姉さんのようで、他人に心を開いてないとか)の両立も面白い。
第181回アニメスタイルイベント
ここまで調べた片渕監督次回作6【清少納言の歩んだ道を思い浮かべてみましょう編】
片渕須直監督は『この世界の片隅に』『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』に続く、新作劇場アニメーションを準備中です。まだ、作品のタイトルや内容は発表になっていませんが、平安時代に関する作品であるのは間違いないようです。
新作の制作にあたって、片渕監督は平安時代の生活などを調査研究しています。その調査研究の結果を少しずつ語っていただくのが、トークイベントシリーズ「ここまで調べた片渕須直監督次回作」です。これまでのイベントでも、あっと驚くような新しい解釈が語られてきました。
2021年11月7日(日)に開催する第6弾のサブタイトルは【清少納言の歩んだ道を思い浮かべてみましょう編】。清少納言の人生を辿る内容になるようです。出演は片渕須直さん、前野秀俊さん。聞き手はアニメスタイルの小黒編集長が務めます。
今回のイベントは会場にお客さんを入れての開催となる予定です。
チケットは〈会場での観覧+配信視聴〉と〈配信視聴〉の2種類を販売します。配信は先行してロフトグループによるツイキャス配信を行い、その後にアニメスタイルチャンネルで配信します。アニメスタイルチャンネルではトーク本編とは別に「ここまで調べた片渕須直監督次回作・ミニトーク」も配信する予定です。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。
チケットについては10月23日(土)から発売となります。詳しくはLOFT/PLUS ONEのページをご覧になってください。
■関連リンク
LOFT/PLUS ONE
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/plusone/194768
アニメスタイルチャンネル
https://ch.nicovideo.jp/animestyle
|
第181回アニメスタイルイベント | |
開催日 |
2021年11月7日(日) |
会場 |
LOFT/PLUS ONE | 出演 |
片渕須直、前野秀俊、小黒祐一郎 |
チケット |
会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,500円、当日 1,800円(税込・飲食代別) |
■アニメスタイルのトークイベントについて
アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。
第358回 アニメ様のビジュアル改訂版
第726回 職人魂と参加する理由
アニメーターだからといって、監督(演出)自身が何でも描いてちゃだめだよ!
世が平成の頃、先輩の監督から頂いた非常に有難“かった”助言であり説法です。あと、新人に混じって「原画に参加したりはやめるべき~云々」とかも。色々先輩や同業種の方らのアドバイスは感謝して聞き入れるつもりはあるのですが、未だにそう仰る方々が存在するとしたら、それはアニメ業界の現状が見えていないと思うし、業界に限らず常日頃今の二十歳前後の若者とお喋りをする機会が非常に乏しい方々なのだと思います。
自分は毎年何人も新人の面接をさせてもらえてて、且つその新入社員らの技術指導もしています。そんな事を10年続けているだけでも、10年前と今とで若い人たちの感性の変化が分かるもので、単純に言うとどんどん「優しく」なってきている気がします。その優しさというのは、その人の為を思って厳しく叱咤する昭和的優しさではなく、あくまでその人の“個”を尊重する優しさになってきている、と。例えば同期で一緒に入社した仲間で、その内一人が早期退職を決意したとしても、「もう少し頑張ろうよ!」などと説得を試みたり一緒に連鎖退社するような同期は周りにいません。むしろ「人それぞれですから」と送り出した上、彼らは仕事を続けつつ、退社した人ともLINEやらで連絡は取り続ける「優しさ」ですよね。
子供時代を昭和で教育された我々からすると「脱落しそうな人を止めてあげるお節介こそが本当の優しさ!」と思いがちですが、早い話——
今は昔と違い、仕事以外に楽しみや生き甲斐がたくさんある!
んです。その中で「どうせ毎日8時間働かなきゃならないなら、なんとなく好きなアニメで~」という消去法的で打算的な考え方で業界の門を叩くのが当たり前。そして、それが「自分に向いていない」と判断した人を誰が非難できるのでしょうか?
ある日の面談で新人とそれらの優しさについての話を聞いたところ、やはり小・中学生の頃の学校教育が「人それぞれの“個”を否定しないのが優しさ」だったのだそうです。
つまり、二言目には「根性が足りん」だ「やる気がない」だと
一流の職人になりたかったらあらゆる叱咤や説教に耐え、黙って俺に付いてこい!
──的な昭和根性論指導は令和のアニメ業界では通用しないんです。だから、自分としては演出・コンテ・作画と率先してお手本を見せなきゃならないと思ってます。
決して、現代の若者に臍曲げて辞めていかれないようにと、ご機嫌を伺って媚びへつらっているのではありません。時には必要だと思うのです——昭和の頃より様々に多様化したそれぞれの“個”に合った楽しみが数多くあり、「早く帰ってオンライン・ゲームで遊びたいなぁ~」と思ってる若手の目の前で、
ゲームも面白いかもしれないけど、俺が惚れ込んで20数年続けてるアニメもこんなに遊べるし、こんなに面白いんだよ!と戯れて見せることが! それが出来るのがやはり職人だと思うし、特に何処かのインタビューで押井守監督が仰っていたとおり「アニメーターは自分より巧い奴の言うことしか聞かない」訳で、はっきり言って
誰かに何かを指導する上で、「論破」なんて今時全く意味がない!!
んですよ。演出指示も同様。ネットで調べりゃなんでも出てくるご時世、博識や学を武器に職人を説得して使いこなそうなんてのも、今時虫が良過ぎます。これ、アニメーターでない演出家・監督は覚悟しておいた方が良いと思います。あ、別に制作上がりの演出さんを否定しているのではありません。ただ、これから大変だろうな~と思っているだけです。
でも23~4年前の友永和秀師匠は板垣の眼前で大盤振る舞いで、かりかりかりかりと原画を描く手本を見せて下さってましたけど、ただ、それ真似てるだけでした。
アニメ様の『タイトル未定』
322 アニメ様日記 2021年7月25日(日)
2021年7月25日(日)
あるアニメーター、ある関係者とこれから作る書籍についての打ち合わせ。編集作業に入るのは早くて2022年。もっと先になるかも。
2021年7月26日(月)
グランドシネマサンシャインで『サイダーのように言葉が湧き上がる』を観る。ようやく鑑賞することができた。新型コロナのために1年以上も公開が延期になった作品だ。ビジュアルの新しさを考えても、制作に関わった方達は早く公開したかったろうなあ。
この日の起床時の体重は68.8キロ。68キロ台がこの数ヶ月の目標だったので、とりあえず目標は達成。余力があったら、さらに800グラム落とそう。
2021年7月27日(火)
TOHOシネマズ池袋で『とびだせ!ならせ! PUI PUI モルカー(3D)』を観る。デスクワークとZoom打ち合わせの後、吉祥寺に移動して、リベストギャラリー 創の「『夢幻紳士』40周年 高橋葉介 原画展 ~『にぎやかな悪夢』(河出書房新社)出版記念~」に。この日が最終日だった。40数年前、僕は「マンガ少年」に載った異形の短編を読んで、高橋葉介さんのファンになった。僕が着いた時、高橋葉介さんが在廊しており、関係者と談笑していた。生きて動いている彼を目の前にできただけでも嬉しかった。画集にサインを入れてもらう時に「『マンガ少年』の頃からファンです」と告げたところ、「それは随分と古いですね」と言って苦笑された。画集と一緒にTシャツ、マグカップも購入した。
早朝散歩で「EVANGELION INFINITY」のディスク1と2を聴く。全3枚組みのCDだけど、2枚でお腹いっぱいだ。
WOWOWの『あしたのジョー』73話から76話を観る。終盤の杉野昭夫作監回はかなりいい画がある。
2021年7月28日(水)
行きつけの病院で二度目の新型コロナワクチンの接種。今回もあっさり終了。月曜にワクチン接種をしたワイフは熱が下がらず、アイスを買ってマンションに持って行く。
「機動戦艦ナデシコ画集」の編集作業は続く。アニメディアに掲載されたイラストが、初出時にどんなかたちであったかを確認する必要が生じ、記事に目を通す。20世紀のアニメディアをほとんど揃えておいてよかった(事務所にはアニメージュやNewtypeも揃っている)。「機動戦艦ナデシコ PREMIUM BOX」のインタビュー本「NADESICO STAFF BOOK PILOT」にも目を通す。僕も取材を受けていて、今では覚えていない裏話を語っていた。「NADESICO STAFF BOOK PILOT」について、当時は1冊の本としては薄口かなと思ったけれど、読み返したらそんなことはなかった。
散歩時にサブスクで配信が始まった〈ウルトラサウンド殿堂シリーズ〉の「ウルトラマン」と「帰ってきたウルトラマン」を聴く。どちらもCDを持っているけど、サブスクシリーズで全部が聴けるのは嬉しい。
2021年7月29日(木)
ワクチン接種の翌日。倦怠感があったので、午後はマンションに戻って昼寝。熱は出なかった。
最近、就寝前にKindleで「ゴールデンカムイ」を読んでいる。この日は12巻まで読んだ。12巻は姉畑支遁のアレと、ラッコを食べた後のアレが衝撃的。
2021年7月30日(金)
散歩以外はデスクワーク。早朝散歩では雨に降られた。
中古で購入した「機動戦艦ナデシコ1000%コレクション」が事務所に届いた。これは僕が構成・編集で参加したCD-ROMだ。それが狙いでウェブブラウザで開く形式にしたのだけど、20年以上経った現在でも、パソコンでも大半のコンテンツを読むことができる。内容は企画書、アフレコ台本、予告台本、メイン設定、各話設定、色見本、各話のスチル、各話あらすじ、各話解説、スタッフリスト、用語辞典、声優辞典、アニメ誌のインタビュー再録等々。今のウチの環境では再生できないけど、ノンクレジットOPやEDのムービーも収録。大変に充実している。素材を集めてくれたのはプロデューサーの佐藤徹さんのはず。確かイベントでも話したと思うけど、このCD-ROMを企画した段階では『機動戦艦ナデシコ』の「NEWTYPE 100% COLLECTION」は出そうもなかった。「だったら、100%以上のものを」ということで、タイトルを「1000%コレクション」にしたのだった。その後「100% COLLECTION」が出るのが決まって、ちょっと焦った。
2021年7月31日(土)
仕事の合間に、新文芸坐で「足にさわった女」(1960/85分/35mm)を観る。プログラム「増村演出の神髄に迫る めくるめく増村保造の世界 PART2」の1本。面白かった。自分は同じ映画の市川崑監督版も観ているはずで、そちらも観直したくなった。事務所に戻って、オールナイトの予習で『アリーテ姫』をDVDで視聴。夜はオールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 131 『この世界の片隅に』五度目の夏」を開催。トークは『アリーテ姫』『マイマイ新子と千年の魔法』『この世界の片隅に』を、キャラクターデザインを軸に振り返るというものになった。このテーマを思いついたのは、オールナイトの直前だった。トーク終了後、楽屋で少し話をしてから解散。
第217回 忘れられた名作 〜シリウスの伝説〜
腹巻猫です。9月30日にすぎやまこういち先生が亡くなりました。60〜70年代には歌謡曲のヒットメーカーとして名を馳せ、70年代後半から80年代にかけてはアニメ『科学忍者隊ガッチャマン[劇場版]』『サイボーグ009』『伝説巨神イデオン』や映画「ゴジラVSビオランテ」などの映像音楽で活躍。後年はゲーム「ドラゴンクエスト」シリーズの音楽で多くのファンを魅了しました。本当に残念です。心より哀悼の意を表します。
すぎやまこういちのアニメ音楽の代表作といえば、上記の『科学忍者隊ガッチャマン』『サイボーグ009』『伝説巨神イデオン』がまず挙がる。それに異論はないが、筆者はもうひとつ大好きな作品がある。劇場アニメ『シリウスの伝説』である。
今回は、すぎやまこういちを偲んで、この作品を聴いてみたい。
『シリウスの伝説』は1981年7月に公開されたサンリオ製作の劇場アニメ。サンリオの辻信太郎が「『ファンタジア』を超えるアニメ映画を」と意欲を燃やし、3年の歳月をかけ、8万枚以上の動画を使って完成させた力作である。
遠い昔に仲たがいし、憎みあっている水の一族と火の一族。ふたつの一族は一切の交流を絶ち、それぞれの領域を守っていた。
ある日、禁を侵して火の領域に入り込んだ水の一族の少年シリウスは、火の一族の王女マルタと出会い、恋に落ちる。それは許されない恋だった。ふたりは火の一族と水の一族が反目するようになった真相を知り、水と火が仲良く暮らせる星をめざそうとする。
ギリシャ神話風のストーリーを美麗な映像で描いたメルヘン。フルアニメーションで描かれるキャラクターや自然現象、絵本のように美しい背景美術など、見ごたえのある作品だ。シリウスとマルタを演じるのは古谷徹と小山茉美。共演に榊原郁恵、宇野重吉、内海賢二、武藤礼子、鈴木ヒロミツら。出演者も豪華だった。
筆者は公開当時劇場で観た。が、正直なところ、ピンとこなかった。当時は『宇宙戦艦ヤマト』『銀河鉄道999』『機動戦士ガンダム』などのSFメカアニメ全盛期。メルヘン路線の本作は方向性が違いすぎて、自分の趣味に合わなかったのかもしれない。
しかし、すぎやまこういちの音楽は気に入った。衝撃を受けたと言ってもよいくらいだった。
劇中に流れるのは、サーカスが歌う主題歌「時をゆるやかに」「愛のカンタータ」とNHK交響楽団が演奏する音楽。流麗な旋律と豊かな音に包まれる体験は圧倒的で、観終わる頃には頭の中を音楽がぐるぐると回っていた。さっそくレコードを買い、くり返し聴いた。
すぎやまこういちのフィルモグラフィの中で、本作はTVアニメ『伝説巨神イデオン』(1980)とその劇場版『THE IDEON』(1982)のあいだに位置する作品。『イデオン』的な響きも聴けるし、のちの「ドラゴンクエスト」を予感させる部分もある。
音楽は映像に合わせたフィルムスコアリングで作られている。が、映像が完成する前から音楽制作は始まっていた。すぎやまこういちは1980年の暮れに、それまでにできあがっていたフィルムを見せてもらい、作曲に取りかかったと証言している。
「こんなに美しい画面に、負けることのない音楽が果たして私に書けるのだろうかと、不安になりながらも、意識は“よおし、がんばりがいがあるぞ”と闘志を燃やしたのです。」(LPレコード「シリウスの伝説 オリジナル・サウンドトラック」ライナーノーツより)
そして、何度も旋律を作り、書き直し、3ヶ月目にやっと納得のいくメロディができた。
中心になるのは2つの主題歌「時をゆるやかに」と「愛のカンタータ」のメロディ。こんなにも美しく格調高いアニメソングがあっただろうか。この2曲のモチーフは劇中音楽に編曲されて、くり返し使われる。
もうひとつ、切ない別れの場面に流れる「哀しみのテーマ」とも呼ぶべき主題があり、これもいくつかの変奏曲が劇中に流れている。
音楽録音は1981年4月に行われた。スタジオはメディアスタジオとCBS・ソニー六本木スタジオ。公開は7月だから、音楽制作に余裕があったことがうかがわれる。
演奏はNHK交響楽団。すぎやまこういちとは、劇場版『科学忍者隊ガッチャマン』の音楽でもコラボした実績があった。
すぎやまはこう語っている。
「『シリウス』は世界をマーケットとし、さらに、10年、20年後もなお生きつづけるスケールの大きな作品にしたいということでしたので、音楽もなまはんかなものではバランスがとれない。そこで、はやりすたりのないクラシックサウンドをベースに、絵の美しさに合わせて、ひたすら美しい旋律を作り、オーケストラの持つ豊かな色彩を引き出すようにこころがけました」(『月刊アニメージュ』1981年7月号)
すぎやまこういちの原点はクラシック音楽。専門的な音楽教育は受けていないが、譜面を読みながら音楽を聴き、独学で理論を学び、感性を磨いた。そんなすぎやまのクラシック志向が存分に発揮された作品が『シリウスの伝説』だ。アニメ音楽・映画音楽と呼ぶより、「交響詩」「音楽叙事詩」と呼びたくなる。
本作のサウンドトラック・アルバムはワーナー・パイオニアからLPレコードで発売された。
収録曲は以下のとおり。
【A面】
- プロローグ〜愛のカンタータ
- 美しい夜明け
- 海のギャングエレキ
- 王子シリウスの行進
- 竜神の聖域
- リリカの岬にて
【B面】
- シリウスのいない海
- マルタの運命
- マブゼの酒盛〜天国と地獄より〜
- 哀しみよ永遠(とわ)に
- 星への出発(たびだち)
- 時よゆるやかに
全曲収録ではない。A面では物語の序盤(全体の3分の1くらい)の音楽が使用順に収録され、B面では物語の中盤からラストまでの音楽が一部順序を変えて抜粋収録されている。重要なシーンの楽曲は押さえられており、作品全体をふり返りながら音楽アルバムとしても鑑賞できる、理想的な構成だ。
1曲目「プロローグ〜愛のカンタータ」は、メインタイトルからオープニング・クレジットのバックに流れる曲。サーカスが歌う主題歌「愛のカンタータ」が聴ける。史劇映画音楽のような重厚なタイトル曲からリリカルな「愛のカンタータ」につながる展開は導入にふさわしく、「どんな物語が始まるのだろう」とわくわくさせる。
オープニングが終わり、海の中の夜明けの場面に流れる曲が「美しい夜明け」。サメの子チークがシリウスを起こして、一緒に海中を泳ぐ場面にかけて流れる。映像に合わせたユーモラスな表現が聴ける、映画音楽らしい曲。
次の「海のギャングエレキ」はチークや魚たちがおそれる恐ろしい電気クラゲのテーマ。この曲には、(電気クラゲだけに)エレキギターがフィーチャーされている。ちょっと『伝説巨神イデオン』の戦闘音楽を思わせる。アルバムの中では異色の曲。
「王子シリウスの行進」は、16歳になり、成人式を迎えることになったシリウスが魚たちを引き連れて海中を進む場面の曲。シリウスのりりしさを表現するマーチである。のちの「ドラゴンクエスト」シリーズの音楽を思わせる、クラシカルなヨーロッパ風の曲。
シリウスが水の一族の王の証を受け取る場面に流れる厳かな「竜神の聖域」をはさみ、序盤の大きな見せ場の曲「リリカの岬にて」がA面のラストに登場。7分を超える大曲である。
火の一族の領域に入っていったシリウスが、マルタとはじめて対面する。ふたりは惹かれあい、たちまち恋に落ちる。その場面に流れるドラマティックかつロマンティックな音楽だ。導入部は、とまどい震えるふたりの心を表現する音楽。やがて、ふたりの心が触れ合うと、サーカスが歌う「時よゆるやかに」へと展開する。シングルレコード・バージョンとは異なる、劇中音楽と一体になった歌と演奏である。音楽と映像の相乗効果で心に残る名場面になった。
アルバムB面の1曲目は「シリウスのいない海」。「愛のカンタータ」の甘美なアレンジから始まる。ピアノやトランペットによるロマンティックな演奏にうっとりするところだ。
曲は、マルタとシリウスがひそかに逢瀬を重ねる場面に流れる。後半は不安な曲調に転じ、サスペンスを演出する。シリウスがマルタと会っているあいだに、海では電気クラゲが魚たちを襲い、大騒ぎになっていたのだ。だから曲名は「シリウスのいない海」。
「マルタの運命」は「時よゆるやかに」のアレンジ曲。曲はふたつの部分に分かれている。最初の部分は、マルタがシリウスに別れを告げる場面に流れる哀愁を帯びた変奏曲。続いて、サーカスがスキャットで「時よゆるやかに」のメロディを歌う幻想的な変奏になる。こちらは物語の終盤でマルタが少女から大人の女性に変身を遂げ、女王となって目覚めるシーンに使われている。別々のシーンのために書かれた曲が1トラックにまとめられているが、うまい編集だ。
「マブゼの酒盛〜天国と地獄より〜」は、B面の中でも、ほっと息がつけるトラック。ウツボのマブセが酒盛りをする場面からチークの愉快な活躍場面にかけて流れている。おなじみ、オッフェンバックの「天国と地獄」のモチーフのアレンジ曲だが、よくあるドタバタ風のアレンジでなく、テンポを落としたユーモラスで可愛いアレンジになっている。すぎやまこういちのセンスと編曲の技が光る曲だ。
「哀しみよ永遠(とわ)に」は本作の「哀しみのテーマ」である。ソロバイオリンが奏でる旋律が切なく胸を打つ。使用場面は前曲「マブセの酒盛り」の場面より前で、マルタを慕う火の精ピアレが自分を犠牲にしてマルタを助けようとする場面に流れていた。同じモチーフが物語の終盤でシリウスがチークの死を悲しむ場面の曲にも登場する。
そして、「星への出発(たびだち)」は物語のラストを飾る曲である。水と火が仲良く生きられる星へ行こうとしたシリウスとマルタ。しかし、その夢はかなわなかった。哀しみと希望に彩られたラストシーンに流れるのは、「時よゆるやかに」のストリングスを中心としたアレンジ。哀感に満ちた前半から、後半は厳かで重厚な曲調となり、コーダは壮大なフィナーレを聴かせる。交響曲の1楽章であってもおかしくない、聴きごたえのある終曲だ。
アルバムのラストはエンディング・クレジットに流れる主題歌「時よゆるやかに」。レコード・バージョンのフルサイズで、物語の余韻にたっぷりとひたることができる。
以上が、「シリウスの伝説 オリジナル・サウンドトラック」の全曲。美しいメロディと壮大なシンフォニック・サウンドが聴ける名盤だと思う。
すぎやまこういちは、自身の作品を東京都交響楽団の演奏で録音したアルバム「君だけに愛を 東京都交響楽団×すぎやまこういちヒット曲集」(2008年発売)の中で、「コスモスに君と」とともに「時をゆるやかに」を取り上げている。アニメソングから選曲されたのはこの2曲だけ。すぎやまこういちにとっても、重要な作品のひとつなのだろう。
しかし、本作はいわば、「忘れられた名作」である。
サウンドトラック・アルバムは一度もCD化されていないし、主題歌「時をゆるやかに」と「愛のカンタータ」は、サーカスのベスト盤(2枚組CD)「GOLDEN☆BEST/サーカス 歌の贈り物」に収録されているだけ。いずれも配信はされていない。
クラシカルな曲のためか、DJイベントなどで流れることもほとんどない。多くの人に聴いてもらいたいのに、その機会がないのだ。あまりにもったいない。
本編はAmazon Prime Videoなどで観られるので、ぜひ、映像とともに音楽を堪能していただきたい。
ところで、この原稿を書くためにAmazonの商品をチェックしたら、筆者は「GOLDEN☆BEST/サーカス 歌の贈り物」と「君だけに愛を 東京都交響楽団×すぎやまこういちヒット曲集」をそれぞれ2回買っていた(とAmazonが教えてくれた)。買ったことを忘れて注文したのだと思うが、それだけ、本作の音楽がお気に入りなのである。
ワーナー・パイオニアさん、ぜひ、サントラ盤のCD復刻、または配信をお願いします。
GOLDEN☆BEST/サーカス 歌の贈り物
Amazon
君だけに愛を 東京都交響楽団×すぎやまこういちヒット曲集
Amazon
第357回 IMAXで「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」を観ました!
佐藤順一の昔から今まで(33) 劇場版『ケロロ軍曹』と『ふしぎ星の☆ふたご姫』
小黒 『ケロロ』は劇場版も沢山作られてますけど、佐藤さんの役職は常に総監督です。実際にはどういう関わりだったんでしょうか。
佐藤 映画に関しては、シナリオ打ち合わせから参加して、コンテチェックもやっていますね。
小黒 なるほど。
佐藤 どういうネタにするかは、吉崎さんからアイデアが出てきていて、それを「どう映画にする?」っていうところからスタートします。それで、シナリオの打ち合わせを進めていくという感じですかねえ。
小黒 ご自身的に苦労された映画とか、印象的だった映画はありますか。
佐藤 現場的な事は何も関わってないので、画作りに関しては、苦労も何もしてないんです(笑)。ただ、探り探りではありました。『ケロロ』を映画にするっていうのが、「何を求められてるのか」っていうところからなんですけど。吉崎さんのほうから出てくるネタを、どうアレンジしてターゲットを広くしていくかという事かなあ。最初の映画に出てくるキルルっていうキャラクターは、吉崎さんの中では、設定含めて物凄くしっかりと柱が立ってるんですよね。キルルってこういう存在であって、この映画だけじゃなくて、色々膨らませたいという事をお話されたんだけど、全部を拾う事はできない。「この映画の中だけでそれを扱うなら、どういうかたちで着地させればいいんだろう?」と考えましたね。でも、映画を作る時はそれぞれ各作品の監督のカラーの事も考えて、どうやってきちんとかたちにするか、みたいな事のほうが大きかったかな。僕は半分プロデューサーみたいな感じですよね(笑)。
小黒 各映画の監督はシナリオ打ちに参加するんですか。
佐藤 します、します。監督にも演出的なプランを出してもらうし、それに対して修正の意見を出したりとか、別なアイデアを出したりして。監督がやろうと思ってるところになるべく近づけていくように、周りを整理していくっていうのかな。「じゃあ、こんな音楽はどうだろう?」という提案もしていましたね。
小黒 1本目の監督が近藤(信宏)さんで、2本目以降の監督は山口(晋)さんですね。
佐藤 そう。山口さんは凄く合ってるなって思っていました。山口さんのコンテを見ると、「ガンダム好きというところも含めて、色んな意味で『ケロロ』に合ってるんだなあ」というか……。
小黒 あのシャープな絵柄も。
佐藤 そうなんですよね。そういうところも『ケロロ』に凄く合ってると思いましたよね。
小黒 ちょっと画がマニアックなんですね。山口さん本人が、多分巧い絵描きなんだと思うんですが、カッコいいフォルムの取り方をするというか。
佐藤 そうですね。山口さんの描いたラフ原、めっちゃ動いてますからね。見ると「巧いっ!」って思いますよ。
小黒 今年の映画『ドラえもん』の監督ですよ(編注:『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』は公開が2022年に延期となった)。
佐藤 あっ、そうなんですねえ。いや、優秀な方でした。『ケロロ軍曹』の劇場版に関しては用意されたネタが大きかったり、多かったりするのを尺の中に収める事が、一番難しかったかもしれないですね。
小黒 『ケロロ』は、また機会があったら作りたいですか。
佐藤 そうですね。面白かったので、なんか機会があれば。
小黒 好きだったキャラクターはいますか。
佐藤 えっ、『ケロロ』の中で?(笑)。ケロロですね。ケロロが楽しかったですね。
小黒 『ケロロ軍曹』と並行して手掛けていたのが『ふしぎ星の☆ふたご姫』(TV・2005年)ですね(編注:『ケロロ軍曹』の放映2年目に『ふしぎ星の☆ふたご姫』の放映がスタートする)。
佐藤 はい。
小黒 『ふたご姫』は雑味のない、非常にまっすぐな作品ですね。
佐藤 そうですね。玩具ベースの企画自体が、なかなかなかった。東映以外ではあまり成立しない中で珍しくそういう話が来たので、手の中でやってる感がありますよね。
小黒 バースデイが原作でクレジットされてますけど、原作に当たるものが既にあったんですか。
佐藤 あります、あります。基本的にはバースデイのスタッフが作り上げているものなんです。星の設定や、ほとんどのキャラクターの設定がありました。
小黒 なるほど。
佐藤 お話だけがない状態。なくもないんですけど、1年走るだけのお話は用意されてなくて、キャラクターと設定がどっさりあった感じなんですよね。
小黒 キャラクターの設定は、そのままアニメに置き換えられるようなものだったんですか。
佐藤 割とそのまんまアニメに翻案してますね。元々、バースデイさんがバンダイに女児向け玩具を展開させる作品について、何年もプレゼンしてるんですよね。それでようやくゴーが出てやる事になって、制作の話がハルフィルムに来た感じだったので、元々は玩具ベースからスタートしてるんです。
小黒 じゃあ、東映で作っていた時のように普通に子供向けに作ったと。
佐藤 そうですね。
小黒 見どころといえば、ダンスだったと思いますけど、ダンスはどなたのアイデアですか。
佐藤 イヤイヤダンスとかは、僕ですね。子供に真似してほしいと思って入れました。
小黒 ダンスはシリーズ中に増えていきますが、シナリオ打ちの時に入れたんですか。
佐藤 シナリオの時に色々なダンスを入れてもらってましたね。新しいダンスをやる時は、どんな動きにするかは演出さんに任せて、セリフもキャストの2人に任せて、といった感じでやってますね。
小黒 キャストの2人に任せるのは、言い方とかですか。
佐藤 そう。「節回しとかは2人で相談して」と言ってやってもらう感じ。
小黒 「ハルフィルムにしては」と言うと凄く失礼なんですけど、めちゃめちゃ作画が安定してますよ。
佐藤 そうですね。優秀な人がいた時期なんでしょうねえ。この時は西位(輝実)さんとかが普通に作画で入ってますからね。ただ、キャラクターデザイナーが数井(浩子)さんなんですけど、制作体制の不備で、相当に苦労掛けてます(苦笑)。
小黒 クレジットだと、キャラクターデザインは数井さんと小林明美さんの連名ですね。
佐藤 はい。メインは数井さんなんです。ハルフィルムが玩具もののアニメをやった事がなくて、全然対応ができていなくてご苦労を掛けたんですよ。
小黒 対応というのは、どういうものですか。
佐藤 例えば、バンダイから商品化に向けて「キャラクターの画を描いてくれ」という版権のオーダーが来るんです。ハルフィルムも版権管理のスタッフを1人入れたんですけど、経験値が足らなくて上手く回らなかったんですよ。結局、数井さんの負担が大きくなってしまって。凄いご迷惑を掛けたし、制作上も色々不備があって、キャラクターの数も多い中で、大変ご苦労をお掛けしました。
小黒 これは2年間のシリーズになりましたけど、延長だったんですか。
佐藤 これはそうですね。元々は、1年走る予定だったんですけど。
小黒 好評だった?
佐藤 そこは難しいところですよね。何をもってよしとするかなんだけれど。これは記事にしづらいかもしれないけど、例えば『ケロロ軍曹』も視聴率的にはよかったんですよ。だけど、玩具展開はあまりできなかった。元々、玩具を売るのがメインの企画だったので、その意味ではすぐに終わってもおかしくなかったんだけど、ビデオパッケージはかなり売れていたんです。視聴率もいいし、パッケージは売れているし、原作元の角川書店も続けたいという事で、ずっと続いていたんです。どうして番組が続くかという事については、一言では言えないんですよね。
小黒 なるほど。
佐藤 『ふたご姫』も「玩具が凄く売れたか」というと、期待されたほどではなかったはずです。視聴率は取れてるので、続けてみようかという事だったのかな。「続けたい」という意志がどこかにはあって、それが働いてるんでしょうけど、具体的にそれがなんだったのかは、現場の我々には分かんない事ですね。
小黒 『ふたご姫』では、キャスティング的な冒険はしてない?
佐藤 オーディションを凄くやってますね。ほとんどのキャラクターはオーディションの結果で決めているはずですね。誰が聴いても知ってる人以外は、その中から振り分けてキャスティングしてる感じです。
小黒 先ほどの話と重複しますが、『ふたご姫』は佐藤さんとしては、自分の守備範囲のものとして作る事ができた感じでしょうか。
佐藤 そうかもしれない。それから、軸の企画だったバースデイから「こういう物語にしたい」というオーダーが来て、それを落とし込む作業も多かった印象ですね。当時は『プリキュア』が動いてる事もあって、「戦うお姫様にしたい」という意志がバースデイ側にあったんです。「どう戦わせるか?」っていう事をずっとホン読みの時に言っていて、2年目の時にも「もっと戦いをシリアスにやったほうが、いいのではないか?」「敵をちゃんと設定して戦いを軸にしたい」という意見が出ていました。それで悪役の王子みたいなキャラクター(トーマ)を出したんですけど、何か効果があったかっていうと実感はなくて、でも、結局「もっとハードな戦いにしなくては」という話が出て。こちらも「戦いじゃないんじゃないですか?」「もうちょっと可愛い敵を出したほうが」と言って、敵を王子から白鳥(由里)さんの演じるビビンっていう魔法使いの女の子に変えてもらったりもしましたね。原作側からこうしたいという意向が出てくる作品だったから、「それをどう料理するの?」っていうところが、なかなか難しかったんです。
新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol.132
押井守映画祭2021
2年振りに押井守監督作品のオールナイト上映を開催する。上映タイトルは『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』『機動警察パトレイバー2 the Movie』『イノセンス』。
それぞれ『うる星やつら』『機動警察パトレイバー』『攻殻機動隊』の劇場版第2作であり、押井監督が手がけた中でも特に高く評価されている作品だ。なお、『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』はアニメスタイルと新文芸坐のオールナイトとしては初めての上映となる。
トークのゲストは押井守監督、アニメーターの西尾鉄也さん。聞き手はアニメスタイル編集長の小黒が務める。
チケットは10月23日(土)から発売開始。前売り券の発売方法については、新文芸坐のサイトで確認していただきたい。なお、新型コロナウイルス感染予防対策で、観客はマスクの着用が必要。入場時に検温・手指の消毒を行う。
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新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol.132 |
開催日 |
2021年10月30日(土) |
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開場 |
開場:22時10分/開演:22時30分 終了:翌朝5時45分(予定) |
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会場 |
新文芸坐 |
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料金 |
指定席3500円 |
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トーク出演 |
押井守、西尾鉄也、小黒祐一郎(アニメスタイル編集長) |
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上映タイトル |
うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー(1984/98分/35mm) |
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備考 |
※オールナイト上映につき18歳未満の方は入場不可 |
●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/
第725回 コミカライズと俺
新番組『プラオレ!』のコミカライズ(マンガ版)を
ウチ(ミルパンセ)が担当してます!
社内でマンガ家(~志望も含む)を採用し始めたのはやや偶然気味で、かれこれ3年程(?)前。自分的には『ユリシーズ ジャンヌ・ダルクと錬金の騎士』(2018年/制作AXsiZ)を作ってる時に、ミルパンセの新人募集に元マンガ家の方がポートフォリオを送ってきたことに端を発します。で、その方がアニメーター育成~『ユリシーズ~』や『COP CRAFT』の本番動画や第二原画をやり始めた頃、なんとなくご本人あてに再びマンガの依頼がきて「是非やりたい」とのことだったので、会社に所属したまま、アシスタントも会社で募集して正式にマンガを描いてもらおうという話になったのです。それが現在WEBコミックガンマ(竹書房)で連載中の「人狼ゲーム ロスト・エデン」になっており、ミルパンセは協力というかたちで関わってます。
で、『プラオレ!』コミカライズ版~「プラオレ! プレシーズン幣舞橋」になります。前述の「人狼ゲーム~」はノータッチですが、こっちは自分、たまにお手伝いしてます。今回は新人のマンガ家志望を集めてチームで描くことにしたので、“ちょっと困った箇所”などラフ参考を描いたり、スタッフ編成の相談にのったりと、板垣もアニメ仕事の合間にほんのちょっこっとだけ参加しているのです。
でも逆に、アニメ『蜘蛛ですが、なにか?』では「プラオレ!」のマンガ連載が動き出す前だったので、アニメのサブキャラや小物などの設定周りや、アニメ誌やグッズの版権イラストをマンガ部に手伝ってもらったりと持ちつ持たれつ。実際マンガの仕事も隙間なくあるわけでもないので、各々社員として固定給を払うには、マンガ担当の人にもアニメの設定やコンテの清書などを教えて“マンガ・アニメ問わず画に関わるならなんでもやってもらう”ことで固定給を捻出するというわけです。
アニメ様の『タイトル未定』
321 アニメ様日記 2021年7月18日(日)
2021年7月18日(日)
散歩とデスクワークと吉松さんとSkype呑み。「【高畑勲展】富野由悠季氏 特別講演会オンライン配信」を観た。Kindleで「進撃の巨人」28巻から最終34巻までを一気読みした。「進撃の巨人」の終盤は面白いかどうかというよりも「終わってよかった」という感じ。思えば、序盤から随分と遠くに来た。作者の方に「お疲れ様でした」と言いたい。
2021年7月19日(月)
夕方にBONESで川元さんと打ち合わせ。用事はすぐに済んだので、世間話など。川元さんを含めてBONESの方達に、僕が痩せたことについて美味しい反応をいただいた。
少年ジャンプ+で藤本タツキさんの「ルックバック」を読む。おお、これは凄い。作者の「こんな話をこんなふうに描きたい」という想いがはっきりしていて、それを力一杯に描いたという感じ。才能と若さと勢いが合致した幸福な作品だと思った。
『カノジョも彼女』の1話を観る。1話の演出が波多正美さん。えっ、マジ? 同姓同名でなくて? いや、去年や一昨年もテレビで演出されていたみたいだけど、1話の演出を? Wikipediaで確認したら、波多さんは今年で79歳だ。凄すぎる。
話は変わるけれど、これから進めようとしていた「アニメスタイル016」が早くも頓挫しそうだ。
2021年7月20日(火)
仕事の合間に、TOHOシネマズ池袋の午前9時からの回で『100日間生きたワニ』を観る。
数か月前にアポ取りをし、スケジュール調整をし、取材の準備を進めていたインタビューがNGになった。まあ、たまにはこんなこともある。
2021年7月21日(水)
社内打ち合わせで「機動戦艦ナデシコ画集」と関連して、トレスマシンを使ったセルと、ゼロックスを使ったセルの違いについて説明をする。まさか、仕事でこんなことを話す日がくるとは。
グランドシネマサンシャインで『竜とそばかすの姫』【IMAXレーザーGT】を観る。
2021年7月22日(木)
U-NEXTで「花束みたいな恋をした」を観る。押井さんの登場場面や扱われ方は、ネットの情報から想像した通り。「法人科学映画館」のサイトで安彦良和さんがメインスタッフとして手がけた『火事と子馬』が配信されていた。ある書籍で確認したところ、安彦さんの役職は絵コンテ、原画とある。キャラクターデザインはやっているはずだし、おそらく作監もやっているのではないか。あるいは作監でなく、1人原画だろうか。
やらなくてはいけないことが山盛りだけど、半ば現実逃避っぽく「佐藤順一の昔から今まで」の原稿まとめを進める。ああ、楽しい。インタビュー中のあるエピソードがいい話ではあるんだけど、WEBにアップする記事としては活かしづらい内容なので、オミットする。活字媒体だったら、活かすことができたかも。
2021年7月23日(金)
U-NEXTで「花束みたいな恋をした」を最後まで観る。よく出来た映画だった。「自分と趣味がぴったりあう恋人」という点がこそばゆいし、主人公達が別れるのは見えていたけど、別れた後の展開がよかった。配信で『虐殺器官』を観る。『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』を観た後だと「ああ、なるほど」と思うところがいくつも。
Microsoft 365 Personalを購入した。代替ソフトではなく、Wordを使うのは10数年ぶりかな。
2021年7月24日(土)
ワイフと早朝散歩で明治神宮を歩く。夏ということで、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』の再見を開始。いやあ、よくできている。センス、いいなあ。昼の散歩でも『あの花』のサントラを聴く。
第356回 アニメ様と超久々に祝杯
佐藤順一の昔から今まで(32) 『ケロロ軍曹』の話題であります!・3
小黒 さらに、本筋ではない話をうかがいます。何に驚くかというと、この「佐藤順一の昔から今まで」の第1回で「西尾大介さんが『ガンダム』の話をするのについていけなかった」と言ってた佐藤さんがですね。
佐藤 うん。
小黒 ガンダムパロディを始めた事ですよ!
佐藤 そうですね(笑)。だから、『ケロロ』をやってるうちに、『ガンダム』は相当詳しくなりましたよ。
小黒 1話を観返すと、フラウ・ボゥが爆発に巻き込まれるところをちゃんとコピーしてるんですよね(笑)。
佐藤 そうなんですよ。凄く頑張ってやってるんです(笑)。
小黒 職業人として、「やらねば!」と(笑)。
佐藤 そう。出てくるのはガンプラだけれども、パロディ元の『ガンダム』で拾えるとこは拾っといたほうがよいのではないか、というふうに思って。色々と観てみたところ、「あっ、ハロを抱えて爆風に煽られてる。じゃあ、ハロっぽい物を持たせとくといいかな?」と、意味なくスイカを持ってる(笑)。
小黒 他にも佐藤さんのコンテ回で、キシリアのセリフを言わせるために、キシリア役の小山茉美さんを呼んでいますよね(第9話「夏美 恋の行く手に来るクルル であります/日向秋 ダイナマイトな女 であります」)。あれは、あのセリフだけのために呼んだんですか。
佐藤 そうです。某魔法少女のパロディもやってもらっていて。
小黒 劇中の誰が言ってるのかよく分からないセリフ(編注:クルルのアイテム「ジンセイガニドアレバジュウ」の効果音)ですね。キシリアネタで呼んだけど、折角だから、小山さんが演じた魔法少女もお願いしたのかと思いました。
佐藤 両方お願いするつもりで、パロディを入れていると思います。「断られるかもしれないな」と思いつつでしたね。実際にお願いしても、スケジュールや様々な事情でオリジナルの役者さんに断られた事もあったんです。その時は別のキャストでやっていますね。一応、オファーをして、やってもらえる時はやってもらってるけど、駄目な時は別の人で、というぐらいのスタンスなんで(笑)。
小黒 サブロー先輩が石田彰さんなのは、あのキャラクターのパロディがあるのを見越してのキャスティングなんですね?
佐藤 あれはそうですね。サブロー先輩のキャラクターとしても石田さんであれば間違いないだろうし、後々パロディも成立させられると。草尾(毅)さんに関しても「左手は添えるだけ」が後々にあるので(笑)。
小黒 それで言うと、ケロロ小隊の中田(譲治)さん、子安(武人)さん、草尾さんというのは、相当凄いキャスティングですよね。
佐藤 そうですね。しっかりとキャラを作ってくれる人という事で、音響監督の鶴岡(陽太)さんと相談して、「これで間違いないよね」っていう感じでお願いしてるはずですね。渡辺久美子さんは、僕のほうから提案してます。最初はスケジュールが合わなかったんだけども、「いやいや、渡辺さんしかないんで」と言って、ちょっと無理を言って入ってもらった。
小黒 渡辺久美子さんって、これ以前にこういうキャラクター系の役があったんですか。
佐藤 僕が渡辺久美子さんを最初に認識したのって、『ヘリタコぷーちゃん』なんですよ。
小黒 そうか、そうか! あれが渡辺さんか。
佐藤 『ヘリタコぷーちゃん』を観ていて、「あれ? なんか面白いな」と思っていましたね。タバックの廊下で見掛けた時も「なんか面白そうな人だな」と感じていたので、「ケロロどうかな?」と思ってオファーしたんですけど、ちょうど当時やってる別のアニメーションがまだ続いていて、「スケジュールがバッティングしているのでできません」と1回断られているんですよね。
小黒 なるほど。
佐藤 それで、他のキャスティングも考えたんだけど、やっぱり渡辺さんがベストに思えて「もう1回、渡辺さんに頼んでほしいんだけど」とお願いして、それで「スケジュールを調整すればできそうかな」という事になって、やってもらったんですよね。
小黒 小桜エツ子さんも、佐藤さんの推しですか。
佐藤 そうです。「タママは小桜さんで間違いなさそうだな」っていう感じでお願いして。ナレーターの藤原(啓治)さんは、『カレイドスター』の時にカロスをやってくれてるんですけど、藤原さんがアフレコのテストの時に面白アドリブをやってたんですよ。本編では絶対使われない、テストだけの面白ネタが楽しかった(笑)。「そういう拾い方ができる人だな」と思って、「ナレーションは藤原さんに」と、僕のほうからお願いしたんですよね。
小黒 さらに聞きますけど、能登(麻美子)さんはどなたのキャスティングなんですか。
佐藤 当時、フッと思い浮かぶキャストの候補の中から、能登さんを選んだのだと思います。鶴岡さんも「能登さんかな」と言っていた気がします。「モアちゃんは誰にしよう?」ってあんまり悩んだ記憶がないので。
小黒 この頃の能登さんは若手で、レギュラーが増え始めた頃ですね。
佐藤 その前に『ゲートキーパーズ』で主人公の少年時代の役をやってもらっているんですよ。それから、記憶が正しいか分かんないんだけれども、「こういう癒し系みたいな、ふんわりキャラクターなら、今は能登だよ」みたいな事を鶴岡さんが言っていた気がしますね。
小黒 なるほど。
佐藤 それで「多分、間違いないだろう」と思って、お願いしてる気がする。原作にモアちゃんの元になった女子高生の不良が出てくるんだけど、その役がどのぐらいできるのかという事だけが分かんなかったけど、それについては「できなかったら、できないなりにも面白いかな?」みたいなところもありました。夏美はオーディションしたかもしれないけど、こうしてみると『ケロロ』のキャストは、主役以外はほぼほぼ決め打ちですよねえ。










