COLUMN

第728回 レジェンドはあくまでレジェンド

 前回のまた続きで。じゃあ、スケジュール管理や製作費(予算)を考えず、我を通した偉大な監督を板垣はどう思うか? をもう少し詳しく。
 例えばその手のレジェンドでまず有名なのは実写の黒澤明監督。「七人の侍」(1954年)に於けるラストの合戦シーン未撮を人質にして会社側に製作スケジュール超過をゴリ押しした話や、「赤ひげ」(1965年)でも公開延期を繰り返した挙句に穴埋めゴジラシリーズ『三大怪獣 地球最大の決戦』(1964年)が作られたりと、その他莫大な費用(予算オーバー)をかけた映画作りで周りのプロデューサー・スタッフら振り回しエピソードには枚挙に暇がありません。
 アニメ界でそれ級のレジェンドはなんと言ってもやっぱり、高畑勲監督でしょう。『太陽の王子 ホルスの大冒険』(1968年)での予算・スケジュール大幅超過や、『火垂るの墓』(1988年)で未完成版公開、『かぐや姫の物語』(2013年)も公開延期など、こちらも中々なものです。
 因みに自分が最も尊敬する出﨑統監督も『白鯨伝説』(1997・1999年)で放送打ち切りやったりしてますが……。
 それらお騒がせレジェンド監督らに対して、板垣的にはハッキリ、

決してカッコいいことだとは思っていません!
し、むしろ悪いことだろ!

と。例えば「トラ・トラ・トラ!」の降板(1968年)なども諸説ありますが早い話、予算的にもスケジュール的にも黒澤監督では作れないとプロデューサーから判断されたってことは間違いない訳で。それってカッコいいですかね? 黒澤監督の信奉者である俺から見ても感心できるはずもありません。
 ただ、それらの巨匠の場合、“後世に残る傑作を数々作った”という結果から、御本人だけでなく、その時迷惑を被ったスタッフまでもが後に笑って話せる苦労話として、ファンの人たちの耳に面白おかしく、時には美談・武勇伝として届けられているだけの話です。そもそも真面目な業界人であれば、ジャーナリズムが取り上げない一般の人には見えない部分——現場で本当に泣いてるプロデューサーやスタッフ、そして中には巨匠様の作品のお陰で潰された関連会社、そしてその会社の社長にも当たり前のように家族・子供が居て、とかまで想像がつくから、軽々しく「我ままに周りの人間を振り回すのが大物名監督」だなんて口が裂けても言えないハズだし、監督自身がそれらをドヤ顔で自慢話にできる訳もないと思います。「創造力のある人」は「想像力のある人」でもあるので、本当に優れたクリエイターなら自分の創作が予定どおりに進行しないことが何をもたらすか? くらいは想像つくと思うのです。

まあ、巨匠の方々も「あの時は失敗した」と普通に反省していると信じたいです! 失敗と反省、で他人に迷惑掛けたらに謝罪を繰り返すのが人間の普通ってものです!

そんな訳で当然の成功と失敗を繰り返す狭間で作品ができ、観たお客から遠慮なく「面白い」「面白くない」と批評され、決して言い訳をしない! ましてや人のせいになどするはずもありません。黒澤監督も高畑監督も出崎監督もそうだと思います。
 そもそも、巨匠の方々のそういった破滅的創作活動伝説を鵜吞みにする前に考えましょうよ、それぞれの作家が活躍した時代背景等を。
 黒澤監督は戦時中の過ぎた検閲から戦後の焼け野原、そして映画の繁栄からTVの盛勢による映画の衰退、全てと戦って映画を撮られてたお方な訳で、

TVみたいな小さい箱で観せるドラマなんかよりも、うんとお金を掛けて作り込んだ画面の威力を世に魅せなきゃならん! 映画はここまで美しくなれるんだよ!

と日本映画の尖兵としての使命感があったのだと思います。だから、他より破格製作費と予算が必要だったんです、「映画」を繁栄させるために。その替わりに晩年は5年に1本しか撮れなくなったし、高畑監督もそう。

ロボットや美少女やる前に、自分はアニメーションと言う表現の可能性を広げる作品をこそ作らなきゃならん! ジブリが作らなくて——いや、自分が作らなくて誰が作る!

って考えてた上での製作費何十億だ、スケジュール崩壊だ、であると。その替わり高畑監督も晩年10年以上の空白期間ができてしまいました。
 つまり、俺の考えではそれらの事例は、誰も手を付けたことのないスケール感でのもの作りを自らに義務付けた、文化の担い手である者の責任感から起因する必要悪? とでもいいましょうか。
 だから、間違っても

我々みたいな世代のアニメ監督風情が、いい加減に金と時間を使い尽くした挙句、「○○監督は許されたのに~」とか都合の良い例として挙げる際に出して良い名前じゃないんです!黒澤さんも高畑さんも!

 そもそも、他人の昔の失敗を例に挙げて「だから自分のも許して!」って、名前を出した巨匠方に対してこれ以上の失礼はありません。時代も環境も違うのですから。
 現代のアニメ・コンテンツは、昔の10〜20倍に増えたと言われる訳で、ということはスタッフなどの人手不足は必須条件(現に自分も他所の会社からアクション原画の直しを頼まれて描いてる最中)。よって、予算やスタッフに文句さえ言わない限り、ちゃんと仕事できる人にはそれ相応の仕事が回るはずなので、とにかく——