第800回 800回だそうです!

 今回で何と800回! ——はい、だからどうした状態でしょうが、とりあえず話題にしてみました。800回って事は単純な話、1年50数回×16年! 監督でクレジットされるようになって間もなく(『BLACK CAT』と『Devil May Cry』の間くらい?)に始まってる連載なので、最初から読み返すと“板垣の監督キャリア”がほぼ網羅されている訳です! が、読み返すことは多分ないでしょう(汗)。
 以前、『てーきゅう』原作・ルーツ先生に「あの連載、書籍化しないんですか?」と訊かれ、「そんな気、ありません」と即答しました。所詮は毎週毎週いきあたりバッタリ! に書(描)いてるだけの駄文。そんなの売れる訳ありませんから。そんな文章も稚拙な駄文を10数年続けさせて下さるWEBアニメスタイル様には本当に感謝しかありません。ありがとうございます! もし、許されるならもう少々お付き合いいただけるともっと嬉しいのです。現状、仕事尽くしの毎日には丁度よい“気分転換”になっているから。今後ともよろしくお願いいたします!

 で、放映開始した新シリーズ、

『異世界でチート能力(スキル)を手にした俺は、現実世界をも無双する~レベルアップは人生を変えた』
略称は『いせれべ』!

 間もなくまた仕事に戻らなきゃならない時間のため、手当たり次第に話題を探ることとします。
 企画自体をいただいたのは前に説明したとおり、前作『蜘蛛ですが、なにか?』の最後辺りにKADOKAWAさんより「次の企画を~」といただいたんだと思います。社長(白石)の記憶とは少々ズレがあるかも知れませんが、大体そんな感じだったかと。で、いただいた話ではありますが、「ウチも新しい監督(田辺慎吾君)を育成したいから」と、監督2人(総監督&監督)体制を願い出て承諾された、という流れ。さらにシリーズ構成も自分が兼ねることで、脚本も社内の演出・アニメーターにやってもらおうと。周りのプロデューサー間でも忘れられがちですが、板垣は監督になるより脚本デビューの方が先(『この醜くも美しい世界』[2004]の#07)なため、演出やアニメーターでも脚本を書きたいと言う若手には書かせてやりたいと思ってしまうのです。
 キャラクターデザインは『COP CRAFT』(2019)において二十歳でキャラデ・デビューを果たした木村博美さん。彼女は本当になんでも描ける天才です。もちろん、自分の20代の頃より断然“巧い”です。今回、話数によって一緒に総作画監督をやっています(EDテロップにのみ表記)が、これはあくまで“美麗なメインキャラのアップ”の木村作監を活かすため、その周りで巧くいってないレイアウト・芝居・アクションその他の原画描き直し・作監修正・背景修正を一手に引き受けるかたちでのフォロー役。

 ——ってとこですみません、時間になってしまいました。仕事に戻ります。

第204回アニメスタイルイベント
ここまで調べた片渕監督次回作15【タイトル発表直前、どんな題名になるのかな?編】

 片渕須直監督は『この世界の片隅に』『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』に続く、新作劇場アニメーションを準備中です。まだ、タイトルは発表になっていませんが、平安時代に関する作品であるのは間違いないようです。
 新作の制作にあたって、片渕監督はスタッフと共に、平安時代の生活などを調査研究しています。その調査研究の結果を少しずつ語っていただくのが、トークイベントシリーズ「ここまで調べた片渕須直監督次回作」です。これまでのイベントでも新しい視点から見つけた、これまであまり語られていなかった「枕草子」の側面について語られてきました。

 2023年5月6日(土)に開催する第15弾のイベントは「タイトル発表直前、どんな題名になるのかな?編」。遂に片渕監督が制作中の作品のタイトルが発表されるようです。今回はそのタイトル発表直前のイベントとなります。作品タイトルを含めて、作品の全体像について語られることでしょう。そして、最新の調査の結果も語られるはず。出演は片渕須直監督、前野秀俊さん。聞き手はアニメスタイルの小黒編集長が務めます。

 会場は阿佐ヶ谷ロフトA。イベントは「メインパート」の後に、ごく短い「アフタートーク」をやるという構成になります。配信もありますが、配信するのはメインパートのみです。アフタートークは会場にいらしたお客様のみが見ることができます。

 配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。また、今までの「ここまで調べた片渕須直監督次回作」もアニメスタイルチャンネルで視聴できます。

 チケットは4月22日(土)昼12時から発売となります。チケットについては、以下のロフトグループのページをご覧になってください。

■関連リンク
LOFT  https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/248798
会場チケット https://t.livepocket.jp/e/fdzn1
配信チケット https://twitcasting.tv/asagayalofta/shopcart/230193

 なお、会場では「この世界の片隅に 絵コンテ[最長版]」上巻、下巻を片渕監督のサイン入りで販売する予定です。「この世界の片隅に 絵コンテ[最長版]」についてはこちらの記事をどうぞ→ https://x.gd/57ICr

第204回アニメスタイルイベント
ここまで調べた片渕監督次回作15【タイトル発表直前、どんな題名になるのかな?編】

開催日

2023年5月6日(土)
開場12時30分/開演13時 終演15時~16時頃予定

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

片渕須直、前野秀俊、小黒祐一郎

チケット

会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,500円、当日 1,800円(税込・飲食代別)
ツイキャス配信チケット/1,300円

■アニメスタイルのトークイベントについて
 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。

アニメ様の『タイトル未定』
390 アニメ様日記 2022年11月13日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2022年11月13日(日)
紅葉を見るために、ワイフと光が丘公園に。ワイフは途中で寄ったフリーマーケットに熱中になっていた。公園を歩いて、紅葉を見て、お茶を飲む。

2022年11月14日(月)
『映画 ゆるキャン△』を配信で視聴。公開時にも気になったんだけど、冒頭で現在の(TVシリーズと同年齢と思われる)なでしこ達が「大人になったら……」といった内容の話をしたところでオープニングが始まり、オープニングが終わると、なでしこ達が社会人になった本編が始まる。つまり、『映画 ゆるキャン△』の本編は現在のなでしこ達が想像した未来の自分達という位置づけだと考えることができるわけで、原作やTVシリーズの彼女達の未来が、映画の通りになるとは限らないのだ。どこかですでに言及されていたら、すいません。

SNSで自分の発言の間違いを指摘されて確認したのだけれど、現行のTVアニメ『うる星やつら』4話の「口づけと共に契らん!!」って、原作14巻の1話「クラマ再び!!」、2話「口づけと共に契らん!!」、3話「掟、おさらば!!」の映像化なのね(参照したのは新装版。以下同)。原作14巻の1~3話は、過去エピソード(原作2巻7話)であたると目覚めの口づけをしてしまったクラマが、目覚めの口づけをやり直そうとするが、またしてもあたると口づけをしてしまって、という話だ。現行のTVアニメでは、あたるとの最初の口づけをした話をやらないで、原作の二度目の口づけを最初の口づけにした。大きなアレンジはそれくらいのはず。原作14巻3話で目覚めの口づけの掟が根拠のないものだと分かるので、目覚めの口づけの話はこれでお終いのはず。原作だと何度かあるクラマの話を1話でやりきったわけだ。

2022年11月15日(火)
新文芸坐で「にっぽん昆虫記」(1963/123分/35mm)を観る。プログラム「師弟特集 今村昌平(イマヘイ)と長谷川和彦(ゴジ)」(新文芸坐のサイトではイマヘイとゴジがルビになっている)の1本。タイトルだけ知っている映画で、さらに言うと、小学生の頃に手塚治虫の「人間昆虫記」を手に取って、面白いタイトルだなあと思った後で、その元ネタらしいこの映画の存在を知った。今まで何度も新文芸坐で上映していたのだけれど、いつもタイミングが合わず、観ることができなかった。今回ようやく観ることができたわけだが、かなりよかった。物語構成も演出もよかった。役者もいいんだけど、多分、メイクも凄い。物語としてはあまり共感できないんだけど、映画としては楽しめた。1人の女性の半生をねっとりと描いた作品で、体感時間が異様に長い。実際には123分の作品で、体感としては3時間以上。冗長で体感が長いのではなくて、内容が濃いのでたっぷりとした印象になってるのだと思う。主人公の母親は夫以外の男性の子を産み、映画終盤に主人公の娘もこれから結婚する青年とは別の男性の子を妊娠するのだけれど、2人の妊娠の意味は違っている、という構成が面白かった。映像も凝っていて、光の感じも、長回しも、構図もいい。飛んでくる飛行機から始まって登場人物の芝居を撮ってから、走って行くバスを追っていく1カットには驚いた。それから、ラストカットについては「えっ、ここで終わるの?」と思った。新文芸坐のロビーに貼ってあった粗筋を見ると、プランとしては、もう少し先まで話があったようだ。演出的な判断で、その手前でスパンと切ったのだろうか。
散歩時にサブスクにあった『機動戦士Vガンダム』のサントラを聴く。プレイリストの1、それから2枚目の途中まで。

2022年11月16日(水)
「WEBアニメスタイル」の腹巻猫さんのコラムは『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』。今回も大充実の内容で、僕が読みたい記事でもあった。

サントラ千夜一夜 / 腹巻猫(劇伴倶楽部)第243回 スタンダードの証明 ~機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島~
http://animestyle.jp/2022/11/15/23122/

事務所で使っているスマートテレビでDisney+が視聴できることが判明。リモコンにDisney+のボタンがないので視聴できないのかと思っていたが、ホーム画面まで行くとDisney+を選ぶことができるのだ(勿論、Disney+に加入していないと観ることはできない)。4K&IMAX Enhancedで「エターナルズ」を視聴。続けて『ズートピア+』を観る。『ズートピア+』って『ズートピア』の主人公達の「その後」の話ではないのね。

2022年11月17日(木)
ワイフと「フジオプロ旧社屋をこわすのだ!! 展」に参加。ワイフは参加者がハンマーで壁を壊すような企画だと思ってたらしい。故・赤塚不二夫が設立したフジオプロの旧社屋が取り壊される前に、そこで原稿の展示等を行うという企画だ。展示内容もいいし、展示方法も凝っていて楽しかった。赤塚不二夫が写っているホームビデオを、そのホームビデオが撮られた部屋(リビングルームだったかな)で観るというシチュエーションが感動的だった。

2022年11月18日(金)
Amazon prime videoで「DAICON FILM版 帰ってきたウルトラマン」を視聴。凄い。今観ても、よくできている。そして、燃える。続けて「シン・ウルトラマン」を再生してたのだけれど、両作の地続き感が凄い。
「お目が高い」と書こうとしたら「オメガ高い」と変換された。『ぱにぽにだっしゅ!』か!

2022年11月19日(土)
20周年ということもあって(それだけではないけど)『ラーゼフォン』の1話~3話を視聴。U-NEXTでの配信を43インチモニターで観た。多分、映像はアプコンで、くっきりはっきりとはいかないけれど、この時期のTVアニメとしては悪くない感じ。画作りは今観てもリッチで、というか、今のほうがその価値が分かる。1話のガラスの破片は今観ても凄い。デジタルが当たり前になれば、こういった表現がどんどん出てくるのかと思ったけれど、そうはならなかった。
知人とZoomで打ち合わせ。最近、レスポンスが遅いなあと思っていたら、コロナで療養中とのこと。しかも、彼は今年になって二度目の感染だそうだ。これが「2コロ」というやつか。

佐藤順一の昔から今まで(41)
『たまゆら』で勉強になったこと

小黒 シリーズ最終作の『たまゆら~卒業写真~』(OVA・2015年)は劇場公開されていますが、OVAということになっていますね。

佐藤 アニメーションの届け方、ディストリビュートの仕方をずっと探っていました。TVの4クールがいい時代もあったし、1クールがいい時代もあった。あるいはTVが難しい時代、OVAの時代、映画館のイベント上映がいい時代と色んな時代がありましたよね。『卒業写真』の時は映画館のイベント上映で観てもらってパッケージに繋げるのが、ビジネスモデルとして最適解だった時代だと思うので、その流れに合わせていったはずですね。

小黒 最初に松竹のマークがバーンと出るので、観ている側としては「映画が始まった感」はありましたよ。

佐藤 TVとOVAと劇場作品で、音響費やキャスト費等の予算って違うんですよ。劇場作品と謳うと、劇場作品の予算規模で作らないといけないんです。この作品はOVAとして作って、イベント上映をするというかたちになってますが、限りなく映画っぽい作り方になってるんですよね。松竹は小屋(映画館)を持っていて、新宿ピカデリーのように500人も入るスクリーンで上映できるから、そこを使っていきたいね、という話はあったと思うんですよね。

小黒 『卒業写真』は公開の後、画に手を入れているんですよね。

佐藤 配信しているのは多分手を入れてないやつですよね。いくつかバージョンがあると思うんですが、Blu-rayBOXが最終形です。会社都合もあって、公開当時はリテイクが充分にできなかったんです。

小黒 公開と同時に映画館で売っていたディスクでは、充分でなかったと。

佐藤 そうです。BOX用に改めて手を入れ直してるんです。

小黒 第4部の前半で、楓がお母さんとおばあちゃんに「東京に行きたい」と言う場面が凝ってるんですよ。彫刻とか小物が凄く綺麗に描いてあるんです。

佐藤 あの辺に僕は手を入れてないので、名取(孝浩)君のコンテがほぼ残ってると思いますね。「茶房ゆかり」というカフェがモデルになっていて、お店のものをそのまま使ってるんですよね。

小黒 写真参考で絵コンテを描いたり、写真レイアウトにしたりしたことが上手くいった?

佐藤 そうかもしれないですね。

小黒 『卒業写真』は各章がTVシリーズの2話分のボリュームでしたが、TVシリーズ1本単位で制作していたのだろうと思います。佐藤さんはどの章でも絵コンテでクレジットされていますが、前半か後半のどちらかを担当しているということですか。

佐藤 そうですね。

小黒 第4部後半は「これぞ最終回!」という感じでしたね。

佐藤 「卒業写真」というシリーズの最後にユーミンの「卒業写真」を使おうと決めてやっていましたからね(笑)。

小黒 この最終回をやるための構成だったわけですね。

佐藤 第4部に、お父さんの葬式で楓が嗚咽している画がありますけど、あのイメージは最初のOVAの頃からありました。それをどこで見せるのか、あるいは見せないのか。ずっと考えてたんだけど、やっぱり最後に入れようと思って入れました。だから、最初から画のイメージがあったことはあるんですよね。

小黒 そういえば、『たまゆら』って「なにか」をする話じゃなかったんですね。

佐藤 そう。「なにか」をしないですね。

小黒 なにかを克服するまでの物語とか、卒業に向かってなにかをする話じゃないですよね。一つ一つの出来事があって、終わっていく。

佐藤 そう。そういう感じですね。お父さんが亡くなって歩みを止めた子が、また歩き出すまでの話ですね。ちょっとずつ、じわりじわりと這い出すように歩き始めて、自分の力で歩く。歩き始めたよ、東京に行ったよ、までがストーリーの軸なので、大したことはしないです(笑)。

小黒 むしろ劇的なことは起きない。

佐藤 起きないです。

小黒 佐藤さんが常々言っている「物語がなくても、キャラクターがいれば作品は成立する」ということですね。いかにもお話めいた展開があるとかえって違うものになってしまう。

佐藤 そうなんですよね。そうすると、やろうとしていることがずれていっちゃいますね。

小黒 さっき「卒業写真」の話が出ましたけど、既存曲を使うことが多かった作品ですよね。

佐藤 そうですね。「やさしさに包まれたなら」はフライングドッグの福田さんから提案してもらいましたね。その後で、坂本真綾さんがユーミンのファンだったという情報が入ってきて、曲を作ってもらう話が実現する。

小黒 なるほど。佐藤さんもユーミンは好きだったんですか。

佐藤 特別な思い入れがあるほどの好きではなかったけど、「ユーミンならみんなが幸せになるよね」という気持ちはありますよね。まさか新曲まで作ってもらえるとは思わなかったけど。

小黒 そういう点でも、音楽に相当恵まれた作品になったわけですね。

佐藤 本当にそうですね。

小黒 『たまゆら』を振り返ってみるといかがですか。

佐藤 『たまゆら』は色々勉強になりました。お客さんとの距離をここまで詰めていったのも、『たまゆら』が初めてだと思うし、イベントでも色んなことをやりましたよね。宣伝にならなきゃいけないので、自分は監督だけど「ちゃんとイベントでお客さんが呼べるようにならなきゃな」という感じで、立ち振る舞いを研究したりね。他の人の横に並んでオチ担当になれるように、スキルを持たなければと(笑)。

小黒 東映動画時代の佐藤さんからすると、考えられないような変化ですね。

佐藤 考えられないですよ。そういうのができないから、演出やってるってところがあったのに、イベント出まくって着ぐるみだって着ちゃいそうな勢いですからね。
 『たまゆら』で、みんなと一緒に作品を楽しむということが、なんとなく見えたかな。その後の『ARIA』でも、ここで得た感覚を大事にしていると思うので、転機の作品ですね。

小黒 話は変わりますが、Wikipediaの佐藤さんのページを見ると『ピュアドラゴン』のパイロットフィルムが2011年に公開されたとあります。これはどういう作品なのでしょうか。

佐藤 GENCOさんの企画に協力したやつですね。ハルフィルムとGENCOさんが一緒にやる流れがあったので、お手伝いしたという感じですね。ポケモンデザイナーの1人である、にしだあつこさんのデザインしたキャラクターを元に世界観を作って、アニメにしていくという企画だったと思うんですね。パイロットフィルムはそこそこ尺があったので、起承転結のあるお話になっています。

小黒 これは公開されたんですか。

佐藤 公開はしてないんじゃないかなあ。これもハルフィルムで作ってたんですよ。

小黒 佐藤さんはコンテと監督をやったんですね。

佐藤 そうですね。演出は別にいたと思いますね。

小黒 Wikipediaのリストを作った人はよくこれを知ってましたね。

佐藤 なんでだろうね。(編注:2011年に配信ゲーム「TWIMON」と連動するかたちで、YouTubeとニコニコ動画で公開された)


佐藤順一の昔から今まで(42)『クロワーゼ』と『ファイ・ブレイン』 に続く


●イントロダクション&目次

第799回 KADOKAWAとTMSと略称

『異世界でチート能力(スキル)を手にした俺は、現実世界をも無双する~レベルアップは人生を変えた』
略称は『いせれべ』!

 いよいよ放映開始! 現在、毎週納品の緊張が走っています!
 前作『蜘蛛ですが、なにか?』後(正確に言うと制作中?)に、続いていただいたKADOKAWAさん案件。そして、“UNLIMITED PRODUCE by TMS”のクレジット。つまり、トムスエンタテインメントさんによるプロデュースとなります。
 よく話題にしている、板垣の古巣——テレコム・アニメーションフィルムはトムスエンタテインメントの系列会社。ちなみに自分が入社した時は“(株)東京ムービー新社 三鷹スタジオ(株)テレコム・アニメーションフィルム”。入社1~2年目で“(株)キョクイチ 東京ムービー事業本部 三鷹スタジオ(株)テレコム・アニメーションフィルム”に変わり、自分が退社後~現在は“(株)トムスエンタテインメント”。東京ムービー新社の頭文字“TMS”をさらに“トムス”に呼び変えたのだと思います。よって、トムスといえばある意味、自分にゆかりのある会社。KADOKAWAさんにTMS……色々な縁によって、いただいた企画と言えると思います。
 で、今作も『蜘蛛~』に続いて、音響監督も兼任。選曲はすべて俺がやって、要所を共同音監の納谷僚介さんに相談し調整していくスタイル。納谷さんとは『ユリシーズ~ジャンヌ・ダルクと錬金の騎士』(2018)でご一緒して以来。今回も大変楽しく仕事させていただいています。
 主役・天上優夜役・松岡禎丞さんとは、『てーきゅう』の野球部員役でご一緒しました。野球ボールをオスとメスに分類して「な!」とドヤ顔する補欠部員を面白くやっていただきましたが、本格的にメイン・キャストでお付き合いするのは今回が初めて。

 で、すみません、また次週。

【新文芸坐×アニメスタイル vol. 158】
30周年!クレヨンしんちゃん アクション仮面VSハイグレ魔王

 4月の新文芸坐とアニメスタイルの共同企画ブログラムは、2月に続いて劇場版『クレヨンしんちゃん』をお届けします。今回上映するのは1993年に公開された、記念すべき劇場版第1作の『クレヨンしんちゃん アクション仮面VSハイグレ魔王』です。

 4月23日(日)の10時からと、19時20分からの2回の上映を予定しています。なお、貴重な35mmフィルムによる上映となります。
 19時20分からの回では、上映後に本郷みつる監督のトークを予定しています。また、2月のブログラムと同様に、トークの後に本郷監督が刊行した同人誌「本郷みつる/足跡」の販売を予定しています。

 チケットは開催日の1週間前から発売。チケットの発売方法については、新文芸坐のサイトで確認してください。

【新文芸坐×アニメスタイル vol. 158】
30周年!クレヨンしんちゃん アクション仮面VSハイグレ魔王

開催日

2023年4月23日(日)

開演

10時~、19時20分~

会場

新文芸坐

料金

10時の回:一般1500円、各種割引・友の会1100円
19時20分の回:一般1800円、各種割引・友の会1400円

トーク出演(19時20分)

本郷みつる(監督)、
小黒祐一郎(アニメスタイル編集長)

上映タイトル

『クレヨンしんちゃん アクション仮面VSハイグレ魔王』(1993/93分/35mm)

備考

※トークショーの撮影・録音は禁止

●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

アニメ様の『タイトル未定』
389 アニメ様日記 2022年11月6日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2022年11月6日(日)
朝の散歩時にはサブスクで『パリピ孔明』のサントラとボーカル集を聴く。サントラが新鮮だった。「こんな曲もあったんだ」って感じ。

2022年11月7日(月)
北米版Blu-rayで『プロジェクトA子2 大徳寺財閥の陰謀』を視聴中。ちょっとゴミが目立ったり、フィルムの質感が出すぎていると思ったりもするけど、とにかく映像が綺麗。映像特典も山盛りで「こんなものまで入っているの?」と驚く。海外のファンとメーカーの熱意と愛情には頭が下がる。話は変わるけど、C子のことが好きすぎるB子は、当時は変な人として扱われていたはずだけど、今となってはC子のことが好きすぎること自体は普通だよなあ。時代がB子に追いついたんだな。
『プロジェクトA子2』で、アニメ美少女描写史として重要なのが、A子が水着に着替える部分だ。一度も裸にならずに、私服から水着に着替える様子を丹念に描いている。望月智充さんの入魂の仕事だと聞いている。

2022年11月8日(火)
TOHOシネマズで『花の詩女 ゴティックメード』(Dolby-ATMOS)を鑑賞。前に観た時と同様に「えっ、ここで終わりなの」と思った。あと40分~50分は観たい。1本の映画としては物足りないけど、作家が自作を自身の手で映像化した映像として価値がある。夜はワイフとIKE・SUNPARKの「皆既月食池袋天体観測会」に。これは公園の真ん中で、ビックカメラが用意してくれた双眼鏡で月を見るというもの。それだけではなく、大きなモニターで月の様子を映し出していた。列に並ぶのも面倒なので、双眼鏡は使わず、芝生で横になって月食を見た。

2022年11月9日(水)
午後は新宿に。ワイフが行きたがっていた「るーみっくわーるどPOPUPSTORE in 紀伊國屋書店新宿本店」に寄ってから新宿御苑に。就寝前に確認することがあって「チェンソーマン」の原作に目を通したら、一度読んだものなのに、あんまりにも面白くて3冊分くらい読んでしまう。

2022年11月10日(木)
『Do It Yourself!! -どぅー・いっと・ゆあせるふ-』6話も『モブサイコ100 III』6話もよかった。午前中の散歩では『装甲騎兵ボトムズ』のサントラを聴く。

2022年11月11日(金)
進行中の書籍のテキストチェックを進める。僕が粘ると全体の進行が遅れるので、ここは丁寧さよりもスピード優先。
『すずめの戸締まり』をBESTIA enhancedで観る。新海監督の熱意と意欲が素晴らしく、アニメーションとしての完成度も高い。作画に関しては映画前半の日常的な芝居がよかった。モチーフやテーマに関しては、まだ、自分の中で整理がついていない。他の人がどう受け止めるかが気になる映画だ。

2022年11月12日(土)
朝の散歩では『戦闘メカ ザブングル』のサントラ1、2を聴く。2人の方と『すずめの戸締まり』についてチャットで話をする。互いに疑問点をぶつけあったり。
「第197回アニメスタイルイベント ここまで調べた片渕監督次回作12【平安中期 何がどれくらいの大きさだったのか 編】」を開催。片渕さんの話が事前に聞いていた方向に転がらず、ちょっとだけ焦る。のんびりした空気のイベントだった。チラリと美術のデザインやキャラクターのデザインがスクリーンに映し出された。美術デザインはこれから変更されるものもあった。トーク中に、次回の正月のイベントをどうするかが話題になった。いつも通りのイベントにするのか、それともちょっと変わった趣向にするのか。
ディズニープラスで『-禅- グローグーとマックロクロスケ』を視聴。短編だった。これからのスタジオジブリの活動に関する布石として作られたものなのだろうか。

第253回 ソワソワしないで 〜うる星やつら(2022年版)〜

 腹巻猫です。神保町のシェア本棚型書店「ネオ書房@ワンダー店(ブックカフェ二十世紀)」に「劇伴倶楽部」で棚を借りました。評論家の切通理作さんが店主のお店です。「劇伴倶楽部」の棚にはSOUNDTRACK PUBレーベルCDや個人誌「劇伴倶楽部」を置いています。近くにおいでの際はぜひお立ち寄りください。

ネオ書房@ワンダー店(神保町駅A1出口すぐ)
東京都千代田区神田神保町2-5-4 開拓社ビル2階(1階は古書店「@ワンダー」)
営業時間11:00-19:00(日曜18:00)月曜休


 いやー、驚いた。
 3月に発売された『うる星やつら』オリジナル・サウンドトラックの曲数にである。80年代の旧作ではなく、2022年10月から2023年3月まで放映されたTVアニメ『うる星やつら』(以下「2022年版」と表記)のサントラだ。
 全93トラック。最初は2枚組だと思っていたが、CD1枚だった。1枚で93トラック。効果音集とかでなければ、ほとんど見たことがない曲数だ。
 2022年版『うる星やつら』は高橋留美子の同名マンガを原作にしたTVアニメ。80年代に放送されたTVアニメ『うる星やつら』のリメイク(リブート)である。2022年版は旧作より原作準拠になっているのが特徴。ラムの髪のカラフルな色遣いなど、80年代版より原作に近い表現がされている。いっぽうで旧作の魅力だった演出の暴走や声優のアドリブは控えめで、全体にマイルドになった印象。旧作を懐かしむファンからは「旧作と比べて物足りない」という声も聞こえるが、令和世代には観やすいのではないだろうか。筆者はけっこう楽しんだ。
 音楽は『四月は君の嘘』『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』などを手がけた横山克が担当している。
 旧作は風戸慎介、安西史孝を筆頭にさまざまな作曲家が参加し、音楽も評判になった。風戸慎介の生楽器を中心にしたオーソドックスな音楽と安西史孝による当時はまだ珍しかったシンセサイザーによる劇伴のアンサンブルが独特の味わいを出している。特に安西史孝は原作の大ファンで、「アニメにするならオレに音楽をやらせてくれ」と売り込んで音楽担当になったという。安西のテクノポップ風音楽が旧作『うる星やつら』の音楽イメージを決定づけたと言ってもよい。という話は以前に当コラムで紹介した。
 今回は横山克が風戸慎介と安西史孝の役割をひとりで担うことになる。人気作だから、どうしても旧作と比べられてしまう。そうとうな苦心があったのではないかと想像する。
 横山克は作品ごとにコンセプトを変えて取り組む作曲家である。実写、アニメにかかわりなく、多彩なジャンルの作品を手がけているのはそのおかげだろう。器用にこなすようにも見えるが、1作1作に工夫があり、サウンドも作り込まれている。その作風を「横山サウンド」「横山節」とひと言で表現するのは難しい。
 2022年版『うる星やつら』の場合はどうか。本作の音楽のコンセプトをサウンドトラックからひも解いてみよう。

 まず、冒頭にも書いた「1曲が短い」こと。93曲で演奏時間は約72分、平均すると1曲約45秒。1分以上の曲もあるが、30秒くらいの曲がたくさんある。映像のテンポを意識して、1曲を短く作っているのだろう。横山克は学生時代からCM音楽の仕事を始めたという。短い時間で商品イメージを伝えるCM音楽は、今回の『うる星やつら』の音楽に通じるものがある。その経験が生きたのではないだろうか。
 次に「昭和風のサウンド」を意識していること。シンセサイザーの音色は80年代の懐かしい音に近づけている。また、ギター、ベース、ドラムが生楽器の演奏で録音されていて、現在主流の打ち込みのリズムにない温かみがある。アレンジも今風に音を詰め込んだスタイルではなく「隙間」が多い。こうした工夫が「昭和の劇伴」っぽい印象につながっている。
 旧作音楽になかった試みとしては、スキャットを多用していることが挙げられる。「ポンポン」「ラパパ」「ランラン」「ダダダ」など多彩なスキャットがフィーチャーされている。ミュージシャンクレジットには男女6人のボーカリストが表記されていて、こだわりがうかがえる。そのうち1人が横山克本人というのも面白い。
 80年代の『うる星やつら』のシンセサイザーを使った音楽は、当時としては新しかった。だから、2022年版も思い切って新しい音楽をつける方法もあったと思う。たとえば現代的なダンスミュージックとか。しかし、それだと本編の80年代っぽい雰囲気に合わなくなってしまう。本編とのなじみを考えての音楽設計だろう。音楽についても「思いきった冒険がなく物足りない」という声を聞くが、現代のアニメ劇伴としてはかなりユニークである。
 本作のサウンドトラック・アルバムは2023年3月に「TVアニメ『うる星やつら』オリジナル・サウンドトラック」のタイトルで、フジパシフィックミュージック/FABTONEから発売された。CDと配信版が同時リリースされている。CD版と配信版の内容(収録曲・曲順)は同じである。
 収録曲は下記のレーベル公式サイトを参照。
https://fabtone.co.jp/release/detail/id/411
 1曲目は「LUM」。タイトルどおりラムのテーマである。軽快なリズムにシンセ、ピアノ、エレキギターなどがからみ、リズム主体に展開する。後半になってエレキギターによるイキのいいフレーズが登場する。前半のリズムパターンは「My Darling」(トラック21)や「For You I Do」(トラック86)などで反復され、後半のフレーズは「No Way Out」(トラック5)で再現される。いずれもラムをイメージしたモチーフなのだろう。怒ったり、すねたりしているラムちゃんが目に浮かぶ。
 2曲目は「Girls, Girls, Girls!」。こちらは(たぶん)あたるのテーマ。「ポンポンポン」というスキャットとエレキベースがリズムを作り、ユーモラスに展開。中盤から女声スキャットをまじえた軽快なメロディが現れる。この部分は第1話のあたるとラムの鬼ごっこのシーンで、あたるがラムの角をつかんで勝利する場面に使われていた。
 前半の「ポンポンポン」のモチーフを変奏した曲が「Oopsie Whoopsie」(トラック18)、「Low Power Laziness」(トラック30)、「Chest Out」(トラック41)など。後半のモチーフは「Thunder Runner」(トラック14)、「Ataru Robot」(トラック83)、「Sunset Smile」(トラック89)などで再登場する。ワーグナーのライトモチーフ方式を意識した音楽作りが行われていることがわかる。

 こんな具合に1曲ずつ紹介しているときりがないので、第1話のアバンタイトル(オープニング前のプロローグ部分)で流れた音楽を聴いてみよう。
 冒頭、地球の各地に巨大な宇宙船が現れる場面に流れるのが「Earth Invasion」(トラック3)。地球侵略の脅威を描写するSF映画風の曲である。
 橋の上であたるとしのぶが話しているシーンになり、あたるが「しのぶ一筋じゃ!」と言うバックにかかるのがリリカルな「Love in Words」(トラック10)。
 その直後、あたるがランニングをする女性に気を取られる場面に「Skippin’ Tweets」(トラック38)が流れる。混声スキャットに口笛が重なるユーモラスな曲だ。
 しのぶが「あたるくんなんて大っ嫌い!」とあたるを張り飛ばす場面にあたるのテーマ「Girls, Girls, Girls!」というピッタリの選曲。
 橋の欄干にもたれてため息をつくあたるに錯乱坊(チェリー)が駆け寄り、あたるを川に落とす場面でドタバタ曲「Decibel Hurricane」(トラック23)。
 錯乱坊があたるにつきまとうシーンにはチェリーのテーマである「Cherry’s Bad Luck」(トラック7)。
 家に帰ったあたるが政府のエージェントから重大な話を聞く場面に「Do Not Open」(トラック36)が流れて不穏な空気が広がる。
 あたるの前にラムが初めて現れるシーンに再び「Earth Invasion」。
 ラムの姿を見て、あたるが地球の命運を賭けた鬼ごっこをやる気になる場面に旧作主題歌をアレンジした「ラムのラブソング (Pajama Version)」(トラック92)。
 あたるが「必ず(ラムを)この手に抱きしめてみせる!」と決意を表明する場面にあたるのモチーフの変奏「Chest Out」(トラック41)。
 ラムの父のセリフ「地球を賭けた大勝負、楽しませてもらうで」に重なり、ラムのテーマ「LUM」が流れて、アバンタイトルが終わる。
 ここまで約5分。5分のあいだに10曲以上のBGMが使われている。本作のテンポの早さと音楽演出の特徴がわかるだろう。このテンポを想定しての音楽なのだ。

 もっとも、音楽演出もエピソードの性格によって異なる。しみじみした後味が残る第5話後半「君待てども…」や第10話後半「君去りし後」では、音楽を短く切らず、たっぷり流す演出がされている。使われている曲も比較的長い曲が多い。
 「君待てども…」でラムが煙突の上で夕暮れを見ながら「やっぱりダーリンが好きだっちゃ」とつぶやくシーンに「Handle With Care」(トラック44)。ピアノやチェロが切ないメロディを奏でる心情描写曲である。喫茶店でラブレターの送り主を待つあたるの前に変装したラムが現れる場面には女性スキャットがキュートな「Cheek to Cheek」(トラック91)。ラストシーンでは再び「Handle With Care」が流れて余韻を残す。
 「君去りし後」では、ラムがあたるを残して飛び去る場面にしんみりとしたピアノとストリングスの曲「Marshmallow Float」(トラック33)。あたるが必死にラムを探し回る場面に悲痛な「Tearful Cadence」(トラック57)。ラストでは「君待てども…」でも使われた「Handle With Care」が流れる。
 このあたりの心情曲のうまさは、『四月は君の嘘』などを手がけた横山克の持ち味が生かされた感じだ。
 ほかに印象深い曲を挙げると——。
 「Lantern Whispers」(トラック26)と「Hold My Hand」(トラック39)は全編を通してよく使われた軽いタッチのサスペンス&コミカル曲。旧作っぽい雰囲気の曲である。
 女声スキャットをフィーチャーしたユーモラスでおしゃれな曲もいい。「Tippy Toes Happiness」(トラック27)、「The Ladykiller」(トラック37)、「Touchy Touchy」(トラック54)、「Estrogenic Glamour」(トラック69)などだ。「Tippy Toes Happiness」は第8話「転入生、危機一髪…」でセーラー服を着たラムがあたるの教室に現れる場面に、「Estrogenic Glamour」は第4話「口づけと共に契らん!!」でクラマ姫が面堂終太郎を宇宙船に誘う場面に使われていた。
 弁天のテーマ「Benten’s Seduction」(トラック55)やラムの母のテーマ「Lum’s Mother」(トラック70)も女声ボーカルをうまく使った曲である。「Lum’s Mother」は、ボイスチェンジャーを通した造語の歌をディスコ調のアレンジで聴かせるという凝った作りで、ラムの母のキャラクターを音楽化している。
 本アルバムのラストは、トラック90に「No Sugar Added」、トラック91に「Cheek to Cheek」、トラック92と93に「ラムのラムソング」のアレンジ2曲という流れで締めくくられる。「No Sugar Added」は最終回(第23話)のラスト近く、ラムがあたるに「うち、ダーリンのクイーンにはなれたっちゃ?」と聞く場面に流れたピアノとストリングスの曲。「Cheek to Cheek」は上で紹介した「君待てども…」で流れたスキャットの曲。旧作とは違う雰囲気をねらった構成であることがうかがえる。
 1分に満たない短い曲をアルバムに収録する場合、数曲を1トラックにまとめて、メドレー、もしくは組曲風に聴かせることがよくある。本アルバムをそういう構成にしなかったのは、たとえ短くても、それぞれを独立した曲として聴いてもらいたいからだろう(バラエティ番組などで使いやすいというメリットもある)。頭から通して聴くだけでなく、シャッフルして思いがけない流れで曲を聴いても楽しめる。そういう聴き方が似合う音楽であり、作品である。

 最後に余談。
 本サウンドトラックCDを聴いて気になったことがある。トラック59「Poppin’ Balloon」とトラック60「Floating Away」が同じ曲なのだ。念のためPCに取り込んで波形編集ソフトで比較してみると波形も同一だった。
 これは意図的なのかと思い、配信版を聴いてみると2曲は別の曲である。正確に言うとトラック59「Poppin’ Balloon」がCD版と配信版では別の曲になっている。配信版のほうが正しい音源だと思われる。
 公式には特にアナウンスはないようだが、CD用の音源を用意するとき(マスタリング時)に手違いで同じ曲を入れてしまったのではないだろうか。アルバムを完全な形で聴くために、筆者は配信サイトで「Poppin’ Balloon」だけを購入した。そういうことができるのが配信時代のいいところで、「正しい盤と交換しろ」とは思わない。筆者もサントラ盤を作っている経験から、93曲のマスタリングを確認する手間の大変さも事故が起こる可能性も理解できる。理解してはいけないのかもしれないが、理解できる。そして、こんなトラブルも「『うる星やつら』っぽいなあ」とつい思ってしまう。

TVアニメ『うる星やつら』オリジナル・サウンドトラック
Amazon

佐藤順一の昔から今まで(40)
『たまゆら』のキャスティング

小黒 キャストで異彩を放っていたのが、珠恵役の緒方恵美さんだと思います。アニメのお母さんの典型じゃなくて、まず声が低い。

佐藤 キャラクターデザインを見ても、全然想像がつかないですよね。緒方さんにも「なぜ私なんですか」と聞かれたぐらいですからね(笑)。

小黒 もの凄い存在感がありますけど、なぜ緒方さんだったんですか。

佐藤 楓のお母さんだから、お母さんお母さんした優しい女性のつもりはそもそもなくて、どっか不器用ながら頑張って子育てしている人のイメージがあったんですよね。それに、緒方さんはバイク好きじゃないですか。お母さんの話を考えている時に、バイク乗りのイメージが出てきて、合うんじゃないかなと思ったことが切っ掛けですね。

小黒 なるほど。その意味でも緒方さんが合っていたわけですね。

佐藤 そうなんですよ。最初のOVAに比べて『たまゆら~卒業写真~』(OVA・2015年)に出てくる珠恵さんは、人間としての深みが大分増していると思うんですけど、それは緒方さんにお願いしたからこそ、出てきている深みですよね。

小黒 佐藤さんの作品のイベントでおなじみの儀武ゆう子さんについて、伺わせてください。佐藤さんの作品に頻繁に出ていますけど、どれも主人公や、主人公の一番の友達という役どころではないんですよね。

佐藤 そう言われてみるとそうですね(笑)。

小黒 『たまゆら』の桜田麻音は口笛を吹く女の子で、セリフより口笛が多いぐらいですが、どうしてこの役になったんでしょうか。

佐藤 そもそも『うみものがたり』の時が最初の出会いで、ラジオやイベントの司会をやってもらっていくうちに「この人は面白い」と思ったんですよね。『たまゆら』にも入ってほしかったけど、メインのキャラは女の子4人しかいないから、その役に上手くはまらなかったら動物キャラを入れてそれをやってもらおうか、ぐらいに思っていて(笑)。でも、麻音という内気な女の子を儀武さんがやったら「美味しい」んじゃないかって、作ってるうちに思うようになったんですよね。

小黒 普段は活発な儀武さんが、大人しいキャラを演じると。

佐藤 そう。内気なキャラクターで、喋るのも苦手で口笛吹くような子だからね。それで、口笛が吹けるかオーディションをしてから、お願いしました。

小黒 なるほど。儀武さんがロケハン旅行中の佐藤さん達を追い掛けてきたから仕方なく出てもらった、というわけじゃないんですね(編注:儀武ゆう子がロケハン旅行をしている佐藤監督達を追い掛けていった模様は公式サイトで「たけはらんど ~儀武ゆう子が行く!~」として動画が配信された)。

佐藤 ロケハンまでやって来たのは本当にあった出来事だったんですけど(笑)。口笛オーディションも旅先でやったんです。

小黒 (笑)。

佐藤 作品に入ってもらおうと考えてはいたんだけど、最初は「動物かな?」と思っていた。『わんおふ』が正にそうで、儀武さんに犬役で出てもらうのも美味しいかなという流れだった。

小黒 古川登志夫さんと平野文さんが夫婦役を演じたのに驚きました。これは『うる星やつら』ファンへのサービスなんですか。

佐藤 どちらかというと自分達の趣味ですかね(笑)。ちなみに儀武さんも『うる星やつら』とか『らんま1/2』が好きなんですよ。

小黒 佐藤さんもお好きなんですね。

佐藤 うん。それで古川さんにお願いしようと思ったんだけど、その頃の平野さんって声優活動をやられていなかったので、確認してもらったんですよね。もし、家業の魚河岸の仕事のほうに専念しておられていたら悪いので。でも、「オファーが来たら是非色々やりたいです」と仰ってくださったので、夫婦役をお願いしました。これはキャストで遊んでいた『ケロロ(軍曹)』の頃の癖が残ってるんでしょうね(笑)。

小黒 『ARIA』のキャストもまんべんなく登場、という感じですよね。

佐藤 ちゃんと出しておきたいなと思ってましたね。

小黒 画作りはどうだったんですか。

佐藤 最初のOVAでは、自分で絵コンテまでやっていましたが、その後は基本的に画はおまかせでやっていました。自分はそこにはこだわりは持たずに、コンテと音響周りをやろうという感じではありましたかね。

小黒 ロケハン写真をレイアウトに使っていますよね。

佐藤 竹原はロケハンに行ける場所だったので「そのまま使えるなら使いたい」と竹原市に打診してもらったらOKと言ってもらえました。日の丸写真館やほり川さんとかをはじめ、町並み保存地区の辺りはアニメ用にアレンジせず、そのまま作品に使っていました。『ARIA』のヴェネツィアの時と同様、基本はロケハン写真を設定がわりにしてレイアウトを起こしますが、中には写真をそのままレイアウトに使っているカットもあります。

小黒 なるほど。

佐藤 そもそも、TVシリーズへの展開方法を考えたりするのではなく、OVAをしっかり作り込むという気分だったんだよね。『たまゆら』のOVAを観た人が竹原に行ったら、同じ風景が見られるという楽しみを提供できたらいいかなと。だから、この場所からあの店へ行くのにかかる時間とか、移動の雰囲気もなるべく生かして作れたらと思ってましたよね。

小黒 TVシリーズの第1期総作監が渡辺はじめさんなんですけど、渡辺さんの画がいいですよね。

佐藤 いいですよね。渡辺さんにお父さん目線があるからなのか、落ち着いて観られますよね。品があるし、変にギラギラしてないから。

小黒 TVシリーズが始まった時は、OVAと画の感じが違うなと思って観ていたんです。でも、完結編までいった後に改めてTVシリーズの第1期を観返すと、飯塚さんのデザインとは違うんだけど、画がいいですよ。

佐藤 そうだね。飯塚さんの画って、意外と再現するのが難しいんですよね。渡辺さんは少女マンガ原作の作品をずっとやっていることもあって、好感度のある画を描かれる印象がありますよね。

小黒 第1期が成功して、第2期も作ることになりますが、3年生までやることは決まってたんですか。

佐藤 「やれればいいね」とは話してましたね。TVシリーズ1期は、楓と友達と学校を軸にした話で、2期では楓と大人達の視点の話にしようとしていた。お父さん目線で女の子達を愛でることを意識したのが2期だった。

小黒 2期は、多分シリーズ中で最も異色というか、毒のあるキャラクターとして夏目さんが出てきますね。お父さんの友達で楓の写真に対して厳しいことを言うおじさま。

佐藤 はいはい。

小黒 9話が佐藤さんのコンテ回で、あの話はよかったですよね。

佐藤 僕も好きなんですよ(笑)。玲子さんのホンの力が大きいと思いますけどね。

小黒 取材の前に、頭から順番に観返したんですが、エンディングを観る前に「この回は佐藤さんのコンテだ」と分かりましたよ。『たまゆら』では普段やらないような、アップショットの入れ方をしていましたよね。

佐藤 夏目さん目線で楓の物語を描いているから、確かに今までの流れと毛色の違う話ではあるんですよね。この話は自分がやっといたほうがいいかなと思った記憶はありますね。

小黒 各話にも佐藤さんのアイデアは入っていたんですか。

佐藤 その話でなにをやるか、ぐらいは最初に提案してると思いますけど、作り込みはライターさんに依存してるはずですね。例えば夏目さんのキャラクター造形も、打ち合わせの時点ではあそこまで固まっていないはずですから、玲子さんが膨らませたキャラだと思うんですよね。


佐藤順一の昔から今まで(41)『たまゆら』で勉強になったこと に続く


●イントロダクション&目次

第203回アニメスタイルイベント
ANIMATOR TALK 合田浩章&松原秀典

 「ANIMATOR TALK」は第一線で活躍されているアニメーターの方達にお話をうかがうトークイベントです。今回は『おねがい☆ティーチャー』『やがて君になる』等でキャラクターデザインを務めた合田浩章さん、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』『サクラ大戦』等で知られる松原秀典さんをゲストに迎えて開催します。
 イベントではお二人が影響を受けたアニメーターについて、あるいはお二人が手がけた『バブルガムクライシス』PART8、『ああっ女神さまっ』等についてうかがいます。

 開催は4月16日(日)昼。会場は阿佐ヶ谷ロフトA。会場では「合田浩章スケッチブック」のサイン本を販売する予定です。「合田浩章スケッチブック」については以下のリンクをどうぞ。

『やがて君になる』『おねがい☆ティーチャー』の合田浩章による初のオリジナル女性イラスト画集を刊行!
http://animestyle.jp/news/2022/02/22/21570/

 お客さんが会場で観覧する形式のイベントですが、トークのメイン部分は配信も行います。配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。

 チケットは4月7日(金)19時から発売。購入方法については、以下のリンクをご覧になってください。

■関連リンク
LOFT PROJECT
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/247939

アニメスタイルチャンネル
https://ch.nicovideo.jp/animestyle

第203回アニメスタイルイベント
ANIMATOR TALK 合田浩章&松原秀典

開催日

2023年4月16日(日)
開場12時30分/開演13時、終演15時~16時頃予定

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

合田浩章、松原秀典、小黒祐一郎

チケット

会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,500円、当日 1,800円(税込・飲食代別)
ツイキャス配信チケット/1,300円

■アニメスタイルのトークイベントについて
 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。

アニメ様の『タイトル未定』
388 アニメ様日記 2022年10月30日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2022年10月30日(日)
トークイベント「第196回アニメスタイルイベント 夏目真悟と仲間達」を開催。賑やかで楽しいイベントになった。夏目真悟さんはプロになる前にアニメスタイルイベントにお客さんとして来ていて、12年前の新人演出家時代に「第57回アニメスタイルイベント 四畳半神話大系を語る会」 に出演。この日のイベントには監督として出演。他にも学生時代、あるいは新人時代にアニメスタイルイベントにお客さんとして来ていて、この日のイベントに出演した方が何人かいたらしい。
朝の散歩時には『ACCA13区監察課』と『四畳半タイムマシンブルース』のサントラを聴いた。

2022年10月31日(月)
新幹線で名古屋に。ジブリパークのオープニングセレモニーと内覧会に参加する。東京ではなかなか会えない人達に会うことができるのはマチアソビと同じだ。「ジブリの大倉庫」は館内の構造が複雑で、ウロウロと歩き回るのが楽しい。館内に書店や模型店があるのも面白かったし、ジブリ美術館の短編アニメが上映されているのも嬉しい。「ジブリの大倉庫企画展示」として「食べるを描く。増補改訂版」が開催されていた。僕の勘違いでなければ、ジブリ美術館でやった時よりも原動画の展示が増えていた。展示されている原動画はジブリ作品の食べ物に関するカットで、どのようにカットが作られているのかが分かるようになっていた。例えば、アジフライを揚げるカットの中割りの指示がよかった。こういう資料が載っている本をジブリに出してもらいたい。「どんどこ森」は「ジブリの大倉庫」からかなり歩くののも、「どんどこ森」そのものも新鮮だった。「サツキとメイの家」も凝っていて楽しめた。
オープニングセレモニーの後に高橋望さんと話し込んでいたら、背広姿の男性が声をかけてきた。会社員風の人物である。年齢はわからないが、僕や高橋さんよりは若いだろう。彼は僕達が座っている辺りを指さして「そこにまっくろくろすけはいませんか」と言った。念のため、立ち上がってベンチを見たけれど、それらしいものはない。彼は近くにいた他の人にもまっくろくろすけについて聞いていた。おかしいなあ、どうしていないんだろうという様子だった。

2022年11月1日(火)
時間を調整して映画に行けないかと思っていたけれど、なんだかんだで用事があったのと、日曜夜がイベントで月曜が朝から名古屋行きだったので、早めに就寝するために映画は延期。
この数日の深夜アニメを片っ端から再生。それから、Netflixで『ロマンティック・キラー 』を観る。朝の散歩では『魔女の宅急便』と『となりのトトロ』のサントラを聴く。『魔女の宅急便』の曲ってこんな感じだったっけ。

SNSのやりとりでジブリパーク内に「隠しまっくろくろすけ」が仕掛けられていることを教えてもらう。31日(月)のオープニングセレモニーで「まっくろくろすけはいませんか」と言った男性はそれを探していたのだ。変わった人ではなかった。むしろ、僕や高橋さんよりもジブリパークに詳しい人だったのだ。

2022年11月2日(水)
『ヤマノススメ Next Summit』5話を観る。松本憲生さん作画のAパートが素晴らしい出来だった。「画」が巧くて「動き」もよくて、しかも「芝居」がいい。どこまでが演出なのか分からないが、松本さんが「キャラクター表現」に踏み込んでいるのではないかと想像した。Bパート、エンディングを含めて大充実の話数だった。『ヤマノススメ Next Summit』がオール新作話数に入ったことで「2022年秋のスーパー作画大戦」が本格化した印象だ。
新文芸坐で「ボイリング・ポイント/沸騰」(2021・英/95分/DCP/PG12)を鑑賞。プログラム「厨房はスリリング! 思惑と事件が交錯する夜」の1本。あまり楽しめなかった。ええ~、ここで終わり? という感じ。レストランのスタッフ達が主人公で複数の事件が同時進行で進んで、クライマックスでそれらが解決するとか、そういう映画だと思っていた。キャッチコピーに「90分驚異のワンショット」とあって、実際にその通りなんだけど、それで緊張感とか没入感があるかというと、自分としてはそうでもなかった。
朝の散歩とその後で『ちはやふる』サントラ1、2、『ちはやふる2』サントラを聴く。

2022年11月3日(木)
朝の散歩時には『リトルウィッチアカデミア』のサントラを聴く。3時間27分もあって、最後まではたどりつかなかった。

スタジオバードの作画担当回をチェックするために、TV『銀河鉄道999』を配信でチェックしているのだけれど、個々の話がびっくりするくらい面白い。そのうちの1本が49話「これからの星」(脚本/藤川桂介、演出/葛西治)だ。のんびりした話で、悪人がひとりも出てこない。その星の人達は貧しいけれど、皆が元気であり、よく働く。鉄郎達の荷物と999号のパスが行方不明になり、鉄郎は一度は星の人達を疑うが、発車直前に旅館の夫婦が持ってきてくれる。町の人達が総出で荷物とパスを探してくれたのだ。鉄郎がパスを使って999号に乗ろうとは思わなかったのかと尋ねると、そんなものは欲しくないと彼らは答える。働けばいつかは買える、ここには他人のものを欲しがる人なんていないのだと言うのだった。ポジティブに、そして、しみじみとした読後感をもってこのエピソードは幕を下ろす。気になって原作をチェックしてみると、大筋はほぼ原作どおり。詰め込みすぎない物語構成と、オーソドックスな演出の勝利か。
原作からの大きな変更はメインのゲストである宿の父娘の設定で、原作では父娘だった2人がアニメでは中年の旦那と美人の奥さんになっている(多分、奥さんはかなり若い。そう思うのは後述するキャストのためだ)。娘(奥さん)が「風呂に入らないとインキンになります」と言って鉄郎に入浴を勧めたり、デッキブラシで鉄郎の身体をゴシゴシ洗うという展開があり、そこは娘のままのほうが色気があったかもしれないが、夫婦が未来を信じて働いていることにしたために、テーマがよりくっきりしたと思う。宿の主人を演じているのが八奈見乗児さん、奥さん(名前は奈美)を演じているのが小山まみさん(テロップでは「まみ」がひらがな)で、小山さんの奈美がよい。この話が成功している理由のひとつがこのキャストだろう。
このエピソードで語られている「未来を信じている元気で大らかな人達」というのは、戦後のある時期の日本人のことで、原作やTV『銀河鉄道999』の頃には少し前の時代の人達だった。今観ると、おとぎ話のようないい時代に思える。当時もこのエピソードを観ているはずだけど、まったく記憶に残っていないので、多分、地味な話だなあと思ったのだろう。
1995年か96年の夕方にTV『銀河鉄道999』の再放送があり、一緒に仕事をしていた友達と「面白いね」と言い合ったのを覚えているけど、今の目で観てもやはり面白い。本放送当時も楽しく観ていたのだけれど、今の方が作品が熟成されている感がある。

2022年11月4日(金)
以下はTwitterに書いた内容。最近のマニア目線の作画語りだと、なかむらたかしさんに始まって『AKIRA』『御先祖様万々歳!』『THE八犬伝』と続く、リアル作画の流れが話題になることが多いけれど、1980年代前半当時に多くの作画マニアが熱中していたのは金田伊功さん、そして、山下将仁さん、越智一裕さん達の仕事、あるいは金田さん達の影響を受けたアクションアニメーターの仕事だった。それと板野一郎さんとその影響を受けたメカアニメーターの方々の仕事にも注目が集まっていた。1980年代前半のアクション作画が、現在の作画語りにおいて「空白期間」になっている気がする。

『恋愛フロップス』4話。イリーナが股間に天狗のお面をつけて男風呂に入る展開が大変オゲレツで愉快だった。ながら観で感想を書いて申し訳ないけれど、『夫婦以上、恋人未満。』の4話の演出がやたらとこなれていた印象だ。 絵コンテ・演出は内沼菜摘さん。

『王立宇宙軍 オネアミスの翼』 4Kリマスター版をグランドシネマサンシャインのBESTIA enhanced で鑑賞。音響に関しては「おっ」と驚くくらい音が響いている箇所があった。映像は全体に鮮明。ただし、これは『王立宇宙軍』に限ったことではなく、『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』や『ルパン三世 カリオストロの城』もそうだったのだが、リマスターして映像が鮮明になったため、動画の粗いカットがより目立つようになっている。それから、セル、背景のそれぞれの質感が際立って、セルと背景のマッチングの印象がフィルムと変わっている。

朝の散歩で『シドニアの騎士 あいつむぐほし』のサントラを聴く。同TVシリーズのサントラ1も途中まで聴く。

2022年11月5日(土)
以下はTwitterに書いた内容。『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』のTV放送版が最終回を迎えた。改めて思ったのだけれど、この作品はアニメーションとして「豊か」だ。内容に大らかさがあり、よく動いているだけでなく、芝居やキャラクターデザインにも「豊かさ」がある。「豊かさ」に関しては線の太さも重要だと感じた。勿論、線が太ければ「豊か」になるというわけではなく、何を描くか、どう描くかということと線の太さがリンクしているのだろう。アニメーションとして「豊か」であり、狭義の「アニメ」的な魅力もたっぷりのところが素晴らしい。

佐藤順一の昔から今まで(39)
『たまゆら』とお父さん目線

小黒 『たまゆら』は評判もよく、シリーズになっていくわけですね。

佐藤 おかげさまで、という感じですね。『ARIA』ファンが結構乗っかってくれたのも大きいと思います。

小黒 スタッフの話に戻ると、「飯塚晴子さんのキャラクターデザインでアニメを作りたい」という動機で始まったけど、飯塚さん自身はあまり作画監督をしていない。これは、飯塚さんのお仕事が重なっていたからですか。

佐藤 そうですね。当時の飯塚さんの軸足はJ.C.STAFFだったかと思います。現場に張りついての作業もなかなかお願いできないし、TYOアニメーションズの制作スタイルもあるので、中に入ってガッツリとやるのも難しそうだなと。まずはキャラクターデザインと版権を描いていただいて、余力があったら肝のところを作監修正していただけるといいかなと思っていました。

小黒 キャラクターの外見等に、佐藤さんの要望も入っているんでしょうか。

佐藤 あんまり入ってないですね。飯塚さんに、女の子A、B~Jという感じで何種類もラフを描いてもらっていて、その中から「これがかおるかな、楓ならこれかな」と選んでいったような感じですね。

小黒 ももねこ様も、なんとなく『ARIA』っぽい猫がいるというイメージなんですね。

佐藤 そうそう。癒し成分として猫が欲しかったんだけど、ももねこ様のデザインは結構難航したんですよ。『おジャ魔女どれみ』の魔女ガエルは「カエルみたいだけどカエルじゃない」だったので、それを猫でやりたいと言ってデザインしてもらったんだけど、普通の猫から始まってあのキャラになるまで紆余曲折あったので、苦労を掛けてしまったところではありますよね。

小黒 主人公の女の子達は、個性的だけど現実離れしすぎない、そんなラインを探ってるんじゃないかと思うんですが、どうでしょうか。

佐藤 そうだね。ターゲットの年齢が低いアニメだったら、多少はおバカなことをして話を広げてくれたほうがやりやすい、ということもあるんですけど、やっぱり『ARIA』のラインにある作品だと思っているので、現実と地続きになる部分が欲しくて。アニメのターゲット、購買層が基本的に男性なので、ある種のファンタジー女子高生であってもいいとは思うんですけど、その中でも「地に足」感を持たそうとする気分ですかね。本当にリアルにすると、深刻なドラマもやらないといけないですけど、それは多分求められてないからね。

小黒 それからこれが重要な点ですが『たまゆら』で語るべき点は「お父さん目線」ですよ。

佐藤 そうですね。「大事にしないと、お父さんは死んでしまうぞ!」というメッセージ。

小黒 ええっ、それがメッセージなんですか!? 要するに「お父さんは娘さんに大事にされたい」ということですよね。

佐藤 そうそう(笑)。

小黒 『たまゆら』という作品は、女の子達を見る目もお父さん目線だし、全体的に品がいいので大人が観てても恥ずかしくならない。

佐藤 田坂さんと話した時に『ARIA』は購買層の年齢層が高めで、30代から50代ぐらいまで広がっているので、お父さん目線を求められているかもしれないという感触はありましたね。

小黒 劇場公開の時、客席にいたお客さん達の年齢層は高めでしたよ。

佐藤 高いですよ、やっぱり。だって、高校生とかが観てもあまり面白くないと思うわけですよ(笑)。

小黒 今、凄いこと言いましたね。

佐藤 でも、自分を振り返ってもそうだよね。中高生の頃って、背伸びをしたいというか、「世の中の汚いものをちゃんと見せろよ」と思ったりするじゃないですか。それに対して『ARIA』は「汚いものはもういいから、綺麗なものを見せてください」という年齢層に差し掛かった人達が観てくれたと思うんです。

小黒 なるほど。人生で色々なことを体験して、清らかなものを見たいと思うようになった人達に『ARIA』が届いたということですね。

佐藤 そうです。『たまゆら』も、そこは同じだよなっていうことです。

小黒 『たまゆら』は登場人物を自分の恋人のように思う作品ではないんですね。だけど、楓ちゃんは理想の娘像にしては大人しすぎませんか。

佐藤 ピュアな子が、そのピュアさゆえに、他の子達が気づかないものに気づいていく物語だから、ガツガツ前に進むキャラじゃないほうがいいんですよね。それに、主人公が不器用なほうが好感度が高いと思うんですよね。

小黒 お父さん的には?

佐藤 お父さん的な目線で言うと、楓やかおる、のりえ、麻音も、みんないいなと思える感じになってるとは思うんです。その中で楓は、これから自分の道を歩いていくとして、その歩みが少し心配だな、と感じるぐらいの子でありますよね。『たまゆら』はそんな楓が自分の足で歩けるようになるまでの物語ですよね。

小黒 昔、佐藤さんと「日本のアニメには『主人公の女の子は死んだお父さんが大好き』というジャンルがありますよね」という世間話をしたことがあったと思うんですけど、まさしくそれなんですね。

佐藤 そうそう。例えば、ちょっと感動系の刑事ドラマって、結構な頻度でお父さんのことが大好きな娘が出てくるんですよ。遺留品がキーアイテムになってたりしてね。

小黒 なるほど。

佐藤 「お父さんの跡を継いでこの道に進みました」「お父さんの大好きだった仕事をやる」、または「お父さんの仇を取る」という話が沢山あるんですが、それは多分男性ライターの希望、願望なんですよね。

小黒 ああ、ライターの願望なんだ。

佐藤 あるいは、男性のプロデューサーや演出家の願望だと思うんですよ。女性ライターはそこにあまり興味ないというか、そっち方面にはいかないと思うんだけど。

小黒 いかないでしょうね。

佐藤 ゲストの娘が生前は知らなかった父の気持ちに気づいて泣いたりするわけですよ。

小黒 実際に女の子がお父さんの気持ちを分かって泣いてくれたりすると嬉しいものなんですか。

佐藤 いや、そうでもないかもしれないね。そこはある種のファンタジーでいいと思うんですよ。

小黒 なるほど。今、『たまゆら』の全てが分かったような気がしました。

佐藤 (笑)。軸足は全部そこなんです。それでも、女の子のファンもいてくれたりするのが面白いなと思いますけど。


佐藤順一の昔から今まで(40)『たまゆら』のキャスティング に続く


●イントロダクション&目次

第797回 今さらな話

「紙で充分原画が描けるのに、デジタル作画を推奨するのは制作側の怠慢である」的なことをSNSで仰ってたアニメーターさんがいたんですけど、板垣さんはどう思いますか?

と、ウチの若手に訊かれました。それに対し俺は「違う」と返しました。

 いつものことながらここからはあくまで私見です。ネットの普及で、単純な話「物理的にモノを運ぶ仕事を厳選」することができるようになり、

アナログのカット袋に原画・動画(と昔はセルも)を詰めてあちこち回す「制作進行」本来の仕事を、デジタルによるデータの送信で手軽にするために、アニメーターにデジタル化を押し付けている?

とでも仰りたいような意見です、前述のSNSの方のは。今現在の状況に当てはめると、やや的外れかと。
 もちろん、20年前だったらそういう側面もありました。2000年初頭に聞いた話では、某超大手アニメ制作会社のデジタル化説明会的なイベントで語られた内容で「デジタル作画の本当の目的は、紙・鉛筆・消しゴムをなくすことではなく、作業者(アニメーター)とPCで繋がることで作業の進行具合と勤務時間を管理して、制作進行を要らなくすること」と発表されていたのを憶えていますから。
 ところが昨今のデジタル作画化は、制作進行をなくす目的がまだありつつも、むしろ、

高解像度(フルHD)に対応した映像作りのため!

に寄っている気がします。
 まだ紙で作業されている方々、作画用紙で原画・作監された作業分を“HDに耐え得る綺麗な線での動画・仕上げ”まで持っていこうとする制作の苦労ってご存知でしょうか? いくら作監様が丁寧に入れたつもりの修正でも、紙に描いた線の曖昧さ(昔は寧ろ周りが “達筆”と崇めた画)は、制作さんが海外撒きの手配する際、「もっと、清書してからでないと受けられない」と撥ねられているという事実。さらに自身の知らないところで、そのご自慢の修正がさらに清書(第二原画)を通されている事実もご承知おきください。動画も同様で、いくら緻密に中割りしても人間の紙と鉛筆による手作業には限界があります。たとえ作監修正時に気の利いた中割り参考を入れても、ブヨブヨに溶けた動画・仕上げが上がってきて、結局はその作監様のあずかり知らないところで、“二値化(デジタル仕上げ)”のじか直しが行われているというのが現状です(「だから昭和の頃の様にセルで塗れば~」の話はこの際、無しね!)。
 それが原画・作監~動画へと全てデジタル作画(タブレット&ペン)でやるとどう変わるか? まず、細かい所は拡大作画ができます、原画も作監も。動画経験者なら誰でもその苦労は知っているであろう、“長距離の直線・曲線の中割り”も直線・曲線ツールの使用によりぐにゃぐにゃにならずに綺麗で継ぎ目のない長距離線が描けます。そして、“作監修正を動画マンが拾えるかどうか?”も作監修正の線がちゃんと清書状態(一本のデジタル線)で描かれていれば、仕上げデータに直接貼って使うことだって可能な訳(社内で仕上げをやるパートに限るかもしれませんが)。正直な話いくら人手不足でも「作監手伝ってあげたいけど“紙”です」と言われたら、よっっっぽどのことでもない限り、丁重にお断りしているのもまた事実です。もしくは「デジタル作画にチャレンジする気はありませんか?」と、制作ではない俺でもデジタル作画の推奨をしてしまっています!

 これは、何人かの制作さんから異口同音に聞いた言葉ですが、

アニメーターや演出と言ったクリエイターさんらは原画に作監修正がのったところで終わりだと思っていらっしゃるみたいですが、我々制作はそこからが“始まり”なんです!

 この言葉を聞いてその苦労も想像せず「自分は紙で描きたいから」ってだけで、周りに苦労を強いるのってどうなんでしょうね?

 てとこで、放映が近づいているので、仕事に戻ります!

アニメ様の『タイトル未定』
387 アニメ様日記 2022年10月23日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2022年10月23日(日)
昼はワイフと雑司ヶ谷に。「出没!アド街ック天国」で取り上げられていた都電テーブルでラーメンを食べる。「アド街」で紹介されたように、子ども達が子どもだけで店に来ていた。その後、雑司ヶ谷を歩く。雑司が谷公園では子ども達が工作などをする「ぞうしがやプレーパーク」、鬼子母神では写生大会、大鳥神社では「雑司が谷かぼちゃと鎮守のスイーツ祭」と日曜昼の雑司ヶ谷はなかなかカルチャーだった。色々な催しがあるのに静かなのもよかった。
配信で色々観る。Netflixの『ONI~神々山のおなり』も観た。
就寝前にKindleで「POPEYE」2022年11月号の「僕にとっての、漫画のスタンダード。」に目を通す。実際にマンガのスタンダードがとりあげられているかどうかは別にして大変な労作。センスもいい。編集者の意地のようなものを感じた。
仕事もそこそこ進んだし、日曜らしい散歩もできたし、悪くない1日だった。

2022年10月24日(月)
10年に一度くらいの緊張する電話をかけた。相手は大ベテランのアニメ監督。

20年くらい前のテキストをコピーしたディスクが出てきたので、中を確認。探しているテキストは見つからず。当時の日記がでてきたので読みふける。日記に書かれている自分が若い。デートに行ったり、事務所スタッフの女の子(当時20代半ば)が深夜帰る時に下ネタ話をぶつけてきたりしていて、それなりに楽しそう。「自分以外の事務所スタッフ全員が4時間遅刻」なんて日もあった。ディスクの中に平松禎史さんの画のスキャンが大量に出てきたので慌てて保存する。
朝の散歩時に『BLEACH』のサントラ3、4を聴く。1、2よりもいいかも。

2022年10月25日(火)
『劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 冥き夕闇のスケルツォ』Dolby Atmosを岩浪音響監督監修「ATOMSフルダイ”ブクロ”サウンド」で鑑賞。音もよかったし、僕的には前作よりも満足度が高かった。それとは別の話で、最近のアニメにしては珍しく、作画が統一されていないというか、原画マンの(あるいは個々の作画監督の)個性が残っているところが散見された。観ていて「あれ、あのアニメーターさんが参加しているのかな」と思うところがあって、エンディングにその人の名前はあったけれど、僕が思ったところがその人の原画かどうかは分からない。
朝の散歩時に『劇場版BLEACH MEMORIES OF NOBODY』『劇場版BLEACH The DiamondDust Rebellion もう一つの氷輪丸』のサントラを聴いた。

2022年10月26日(水)
TOKYO MXの『新世紀エヴァンゲリオン』『マジンガーZ』を録画で視聴。『エヴァ』の第四話は「ヤマアラシのジレンマ」の話で、『マジンガーZ』の4話は甲児とボスが対立して和解する話。ちょっとシンクロしていた。
進行中の書籍について、印刷会社から「本が重くなりすぎるので、紙を軽いものにしたほうがいいのではないか」という提案をいただく(後日追記。この書籍は2023年3月現在でまだ完成していない)。
「設定資料FILE」の構成。全体を4ページにするか6ページにするかを決めないで進めた(可能なら最後の2ページを美術設定で埋めるページだった)。全6ページにすると、4ページ目がスカスカになるのが分かったので、全体で4ページでおさめる。
「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア 公式記録全集 ―BEYOND THE TIME―」を開封。ざっと目を通す。見たことのない資料が山盛り。『ガンダム』関連の「NEWTYPE 100% COLLECTION」でページをめくってワクワクしていたのを思い出した。何よりも、ずっと前から欲しかった『逆襲のシャア』の絵コンテを入手できて嬉しい。装丁や資料の載せ方について、もっとこうしてほしかったと思うところもあるれど、それは好みの問題。実はかなり前にアニメスタイルで『逆襲のシャア』の絵コンテ本の企画を出したことがあったのだけど、その時は上手く企画が着地しなかった。
朝の散歩時に『劇場版BLEACH Fade to Black 君の名を呼ぶ』と『劇場版BLEACH 地獄篇』のサントラを聴く。『地獄篇』がいい。映画を観た時も曲の印象がよかったのだけれど、曲だけ聴くとさらによい。かなり『エヴァ』っぽい。いや、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』っぽい。むしろ、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』の曲が『BLEACH』っぽいのか。

2022年10月27日(木)
ワイフとグランドシネマサンシャインで「RRR」【IMAXレーザーGT字幕版】を鑑賞。評判通りに面白いしパワフル。ほぼ3時間の映画だけど、あっという間に終わった印象だ。見どころはおじさん二人のイチャイチャとダンス。いや、アクションもいいんだけど、イチャイチャとダンスが凄い。95%は肯定できる作品だった。

2022年10月28日(金)
『アキバ冥土戦争』って何かに似ていると思ったら、あれだ。『てなもんやボイジャーズ』だ。いや、バランス感覚が全然違うんだけど。
練馬 よつぼしで吉松さんと飲んで食べる。吉松さんが貯まったポイントで大量の牡蠣をおごってくださる。吉松さんに「旧『うる星やつら』のベストエピソードはどれか?」と聞かれて大層悩む。ちなみに吉松さんのベストは「戦りつ! 化石のへき地の謎」だそうだ。
この日の朝の散歩では「劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア」と「劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-」のサントラを聴いた。

2022年10月29日(土)
午後はワイフの買い物に付き合って外出。「池袋ハロウィンコスプレフェス2022」が開催されており、中池袋公園、東池袋中央公園、イケ・サンパークでコスプレを見る。印象的だったのは「チェンソーマン」の田中脊髄剣を持ったヨル、『サイバーパンク: エッジランナーズ』のルーシー(海外の女性がやっていた)のコスプレ。他は『SPY×FAMILY』が多かったなあ。

第252回 DIYって…… 〜Do It Yourself!! ‐どぅー・いっと・ゆあせるふ‐〜

 腹巻猫です。先日、松本零士がデザインした隅田川クルーズ船ホタルナに乗ってきました。このシーズンだけ運航している花見遊覧コースで船上から隅田川沿いの桜を堪能。松本メカに乗って21世紀の花見という気分でしたよ。


 昨年から発売を楽しみにしていたサウンドトラック・アルバムが2月15日にリリースされた。「Do It Yourself!! ‐どぅー・いっと・ゆあせるふ‐ Music Collection」だ。今回はこの音楽を紹介しよう。
 『Do It Yourself!! ‐どぅー・いっと・ゆあせるふ‐』は2022年10月から12月まで放送されたTVアニメ。監督・米田和弘、シリーズ構成と脚本・筆安一幸、アニメーション制作・PINE JAMによるオリジナル作品である。
 この春、高校に入学した結愛せるふはのんびりやで夢みがちな少女。やりたい部活が見つからずにいたせるふは、ある日、なりゆきでDIY部に入部することになる。部員がいなくて存続が危ぶまれていたDIY部だったが、少しずつ部員や仲間が増えていく。ぷりんたちはDIY部の宣伝のために校庭の木の上にツリーハウスを作ろうと考える。
 舞台はものづくりの町として知られる新潟三条市。劇中では、無人バスが走り、空をドローンが飛び交う近未来的な町に描写されている。しかし、せるふたちがDIY部で進めるのは、のこぎりやカッターで材料を切り、ドリルで穴をあけ、ネジ止めや接着をして塗料を塗る、昔ながらのものづくり。時間もかかるし失敗することも多いが、手と体を動かしてものを作る楽しさが伝わってくる。
 第1話のラストに流れるナレーションが、この作品のテーマを簡潔に伝えている(公式サイトのトップページにも同じ言葉が書かれている)。
 「これは、家具や友情や、ひいては人生までも、考え、工夫し、苦労し、失敗し、それでも諦めずに自分の手で完成させて、未来を切り開いていこうとする少女たちの、その最初の一歩を描く物語である——」
 筆者も子どもの頃は工作が好きで、模型を組み立てたり、材料を集めて一からものを作ったりしていた。だから、この作品にはすごく共感するところがあった。
 それにこのアニメ、なにげに絵作りがすぐれている。シンプルな線で描かれたキャラクターにしっかり立体感があるし、レイアウトもセンスがいい。なにより、手の描き方がうまい。たびたび登場する工具を使う場面が、どれもさまになっている。手を描くのって、すごく難しいのだ。
 原作のないオリジナル作品であり、いわゆる萌え系でもないし、派手な展開やシリアスな物語があるわけではない。ものづくりの楽しさをゆるーく描くアニメである。けれど、心に残る、とてもよい作品だった。

 音楽を担当しているのは佐高陵平。驚くべきは、オープニング主題歌、エンディング主題歌の作詞・作曲と劇中音楽(劇伴)の作曲を佐高陵平がひとりで手がけていること。主題歌と劇伴の分業があたりまえになった現在では珍しい作り方だ。
 その主題歌が今風のJ‐POP風の曲ではなく、懐かしいTVマンガ主題歌を思わせる楽しい曲調なのもいい。
 佐高陵平は、アニメソングやアーティストへの楽曲提供(作詞・作曲・編曲)、『RELEASE THE SPYCE』(2018)、『D4DJ First Mix』(2020)などのアニメ音楽(劇伴)で活躍する音楽家。y0c1e(よしえ)名義でも活動している。ヒップホップ、エレクトロニカ、電波ソングなどを取り入れた現代的な曲も得意だが、本作の音楽はアコースティック楽器を中心とした素朴なサウンドで作られている。
 本作の音楽について、佐高陵平はTwitterの投稿でこうコメントしている。
 「劇伴は口笛・リコーダー・ピアニカ・木琴みたいな軽い音をアコギ/ピアノで支えるイメージで作りました。こじんまりな可愛さ。厚めの曲もなくはないのですが基本軽めで、ピンチの曲でもリコーダーが鳴ってます。のほほんと楽しく作ってましたが、作品にマッチしていて良かったです」
 バンドサウンドを基調にした手作り感のある音は、本作のテーマであるDIYを意識しているのだろう。ピアノ、ギター、パーカッション、ピアニカ、トランペットなど、温かみのある楽器の音が耳に心地よい。
 本作のサウンドトラック・アルバムはエイベックス・ピクチャーズからCD(2枚組)と配信でリリースされた。収録曲と構成は同じだが、CDの末尾に収録されているオリジナルドラマは配信されていない。CD版のディスク1から紹介しよう。収録曲は以下の通り。

  1. どきどきアイデアをよろしく!(TV size)(歌:潟女DIY部!!)
  2. どぅー・いっと・ゆあせるふ
  3. どぅー・いっと・ゆあせるふ(しっとり)
  4. どぅー・いっと・ゆあせるふ(まったり)
  5. 毎日せるふ
  6. 夢見るせるふ
  7. 動物とせるふ(とお母さん)
  8. ぷくぷくなぷりん
  9. きっちりなぷりん
  10. センチなぷりん
  11. たよれる先輩
  12. たくみん
  13. にゃー!!
  14. 天才小学生?
  15. アイキャッチ・A
  16. アイキャッチ・B
  17. 能天気
  18. 日常と女の子
  19. また13時間後に!
  20. ひとりぼっち
  21. ワクワクワンワン
  22. どきどき会議
  23. きらきら潮風
  24. もくもく作業
  25. がんばるDIY部
  26. 秘密基地
  27. せるふとぷりん
  28. 居場所
  29. 変わらないもの
  30. 続く話(TV size)(歌:せるふとぷりん)

 オープニング主題歌に始まり、エンディング主題歌に終わるオーソドックスな構成。アイキャッチを挟んで前半・後半に分かれ、前半では、メインテーマ、せるふのテーマ、ぷりんのテーマ、DIY部の仲間たちのテーマが続く。後半はDIY部の活動と秘密基地作りをイメージさせる構成になっている。

 オープニング主題歌「どきどきアイデアをよろしく!」はトンカチをたたく擬音をスキャット風に盛り込んだ楽しい曲。佐高陵平によれば「新しさと懐かしさの共存が目標」だったとのこと。「00年代日常アニメ的能天気さの上に10年代以降っぽいブラスの積み方や韻の感じを乗せ、現代っぽいMIXで仕上げる…みたいな」とTwitterでコメントしている。メインキャストが歌っているのも部活ものっぽくていい。
 2曲目の「どぅー・いっと・ゆあせるふ」は本作のメインテーマ。軽快なリズムに乗ってリコーダー、トランペット、ピアノ、ピアニカなどがのびのびと合奏する。DIYの楽しさが表現された曲だ。第1話のラストでせるふが入部届けに名前を書く場面をはじめ、DIY部の活動場面にたびたび使用されている。
 続く2曲はメインテーマの変奏。トラック3「どぅー・いっと・ゆあせるふ(しっとり)」はピアノソロによる心情曲で、第11話でぷりんがせるふの誘いに応えてDIY部に参加するシーンにフルサイズで流れていた。トラック4「どぅー・いっと・ゆあせるふ(まったり)」はトランペットとオルガンなどによるミディアムテンポのアレンジ。第2話でたくみが、第3話でジョブ子が、それぞれDIY部に入部を決める場面に使われた。
 トラック5「毎日せるふ」は第1話から使われているせるふのテーマ。せるふの能天気でマイペースな感じがよく表現されている。
 次の2曲はせるふがらみでよく使われたユーモラスな曲。トラック6「夢みるせるふ」は妄想するせるふの場面など、トラック7「動物とせるふ(とお母さん)」はせるふが家で母と食事をする場面などに流れていた。
 トラック8「ぷくぷくなぷりん」から3曲は、せるふの幼なじみで別の高校に進学したぷりん(須理出 未来)のテーマ。「ぷくぷくぷりん」はふくれっつらをするぷりん(それがあだ名の由来)のイメージ。トラック9「きっちりなぷりん」はその変奏で、ぷりんの可愛いツンデレをイメージさせるアレンジだ。
 トラック10「センチなぷりん」はピアノとキーボードを主体にしたリリカルなアレンジ。ぷりんがせるふとの思い出を回想するシーンやぷりんに素直になれずため息をつく場面などに流れていて、しんみりさせられる。「ぷくぷくぷりん」のメロディの変奏から始まり、後半はよりエモーショナルなメロディに変わっていく。その展開が、ぷりんの心情の変化を表現しているようで味わい深い。
 次の曲からはDIY部に集まった仲間たちのテーマである。
 トラック11「たよれる先輩」はDIY部部長のくれい(矢差暮礼)のテーマ、トラック12「たくみん」はぷりんに誘われて入部するたくみん(日蔭匠)のテーマ、トラック13「にゃー!!」はDIY部が気になって遊びに来た、ぷりんと同じ高校の生徒しー(幸希心)のテーマ(語尾に「にゃー」をつけるのがくせ)、トラック14「天才小学生?」は飛び級で高校生になった12歳の天才留学生ジョブ子(ジュリエット・クイーン・エリザベス8世)のテーマ。くれいの曲はマーチ調のリズムと前進感のあるメロディ、引っ込み思案なたくみんのテーマはピアノやオルガンによるしっとりした雰囲気、にぎやかなしーのテーマはドタバタしたコミカルな曲調と、それぞれのキャラクターが巧みに表現されていて感心する。
 メインテーマとキャラクターのテーマを続けて、DIY部の仲間がそろった! というところでアイキャッチになる。うまい構成だ。
 トラック17「能天気」は日常シーンによく流れていた口笛の曲。せるふが自転車をこいで登校する場面などに使われていた。ディスク2には同じメロディをウクレレが演奏する別バージョン「能天気(ウクレレ)」が収録されている。本作の雰囲気を代表する曲である。
 トラック18「日常と女の子」も日常シーンの定番曲で、第1話の冒頭から使われている。こちらはピアノやピアニカ、ビブラフォンなどの音がおしゃれで、女子高の華やいだ空気感が広がる。
 トラック19「また13時間後に!」とトラック20「ひとりぼっち」は、しみじみとした雰囲気の心情曲だ。「また13時間後に!」はノスタルジックなサウンドで友情を表現する曲で、最終話でDIY部のみんなが集まってジョブ子の送別会をする場面の使用が印象深い。ギターと口笛が奏でる「ひとりぼっち」は、いつもは明るいジョブ子やしーが、ひとりでもの思う場面などに流れていた。
 トラック21「ワクワクワンワン」はくれいの両親が経営するDIYショップ「ワークワン」の店内で流れているテーマソング。歌は作詞家としても活躍する山本メーコ。佐高陵平によれば「地方企業とか地元スーパーのCMソング」みたいなイメージで作ったとのこと。そのままCMで流れても違和感のない完成度である。
 DIY部の日常を描くトラック22「どきどき会議」、トラック23「きらきら潮風」(第6話の海へ行くエピソードで使用)を挟んで、トラック24「もくもく作業」は本作ならではの楽しい曲。工具で金属を叩くようなパーカッションの音がリズムを刻み、ギターやリコーダー、ピアノなどのフレーズが重なる。曲名通り、せるふたちが工作をするシーンによく使われていた。この曲と似た曲に、ディスク2に収録された「ばりばり作業」がある。こちらもトンカチで釘を打つような音色のリズムを使った曲で、やはり工作シーンに使われている。
 トラック25「がんばるDIY部」は第11話のせるふたちがツリーハウス(秘密基地)作りを進める場面に、トラック26「秘密基地」は、最終話でツリーハウスが完成し、せるふたちが秘密基地を見上げる場面に流れていた曲。「秘密基地」はメインテーマの変奏になっている。物語のクライマックスにメインテーマのメロディーが流れる演出には胸が熱くなる。
 ディスク1の終盤には、じんわりと胸にしみる3曲が並んだ。
 トラック27「せるふとぷりん」はせるふとぷりんの友情の曲。ストリートオルガン風の郷愁を誘う音色が、幼なじみのふたりの心のつながりを表現する。よく聴くと「毎日せるふ」のメロディと「センチなぷりん」のメロディが織り込まれている。
 トラック28「居場所」は数々の名場面に流れた印象深い曲。ピアノとギター、バイオリンなどが奏でるやさしいメロディが、居場所を求めるせるふたちの心情に寄りそっていく。第5話でしーが海外に暮らす母に電話で「心配しなくても、ちゃんと居場所ができたよ」と話す場面、第9話で自分が役に立ってないと落ち込むせるふをぷりんたちが励ます場面などに流れている。曲の後半には女声スキャット(コーラス)が入ってきて、熱い想いを表現する。第10話で顧問の治子先生がDIY部の先輩の想いをせるふたちに語る場面、第11話で秘密基地完成を前にせるふとぷりんが語らう場面、第12話で涙ぐむジョブ子にたくみんがハンカチを渡す場面では、その女声スキャットの部分が流れて感動をいっそう盛り上げた。スキャットを歌っているのは声優・作詞家としても活躍する藤村鼓乃美。佐高陵平も「個人的に印象深い1曲」と語っている曲である。
 トラック29「変わらないもの」は演奏時間5分を超える大曲。ドリーミィな曲調で始まり、後半からストリングスが入って雄大な曲想に展開する。劇中ではぷりんやジョブ子が大切な思い出を回想するシーンに流れていた。本作の音楽の中でも映画音楽のようなスケール感を持つ聴きごたえのある曲だ。
 ディスク1のラストはエンディング主題歌「続く話」。せるふとぷりんが歌う、ふたりの友情のテーマである。佐高陵平はこの曲について、「こちらも新旧の共存で、基本アコギのミディアムバラードに、リズムやシンセは少し今っぽく」「歌詞の関係性や掛け合いの作り方が楽しかった」と語っている。本編を最後まで観て聴きなおすと、この作品はせるふとぷりんの物語でもあったんだなあ、とあらためて思う。
 ディスク2にはBGM17曲とオリジナルドラマ(約24分)を収録。ディスク1だけで世界が完結している感もあるので、ディスク2は特典ディスクみたいな印象だ。とはいえ、こちらにも「ひまわりの少女」をめぐるエピソードで印象的な「乙女な先輩」やDIY部のシーンでよく使われた「たのしいDIY部」「ようこそDIY部」などが収録されているので、十分楽しめる。微妙な空気感を表現する「なまやけクッキー…」の絶妙な曲調には思わずニヤリとしてしまう。

 『Do It Yourself!! ‐どぅー・いっと・ゆあせるふ‐』の音楽は、ものづくりのわくわく感や仲間と一緒にひとつのことをやりとげるよろこびを思い出させてくれる。シンプルに聴こえる音楽の中に、さまざまなアイデアや工夫が盛り込まれていて、それを探すのもサントラを聴く楽しみのひとつだ。DIYって、どの曲も、いい場面が、よみがえる。未見の方は、ぜひ本編といっしょにどうぞ。

Do It Yourself!! ‐どぅー・いっと・ゆあせるふ‐ Music Collection
Amazon

佐藤順一の昔から今まで(38)
『たまゆら』の企画と『ARIA』

小黒 この後は佐藤さんが取材を沢山受けた作品が続きます。他の媒体の記事と内容が重複するかもしれませんが、そこは気にせずにいきましょう。

佐藤 はい。

小黒 こうして振り返ると、松竹の作品が多いですね。佐藤さんと松竹の繋がりはいつ頃から始まってるんですか。

佐藤 『ARIA The ANIMATION』(TV・2005年)が最初かな。同じ松竹でも作品ごとにプロデューサーが違うんです。『たまゆら』は『うみものがたり』の繋がりで田坂秀将さんで、『ARIA』と『あまんちゅ!』(TV・2016年)は飯塚寿雄さんというように、同じ松竹作品だけどラインは別なんですよ。

小黒 なるほど。

佐藤 しかも、プロデューサー同士が凄く緊密に情報共有をする感じでもなく、わりと独立して活動している。その都度、お互いの状況を聞きながらそれぞれの仕事をするような感じでしたね。

小黒 「今は『たまゆら』が動いてるから『ARIA』はもうちょっと待って」とか、そういう調整があり得るわけなんですね。

佐藤 そんな感じですね。とはいえ、制作会社は同じなのでバランスを取りつつやっていたのでしょうね。振り返ると、長い付き合いになりましたね。

小黒 年表で見ると、2015年は『たまゆら』と『ARIA』の2つのシリーズが続き、翌年に『あまんちゅ!』が始まります。この頃が松竹アニメを次々に作っていた時期ですね。

佐藤 そうなんです。何年のことか覚えていませんけど、新ピカ(新宿ピカデリー)の登壇回数が、演出家の中でナンバーワンになった時期があったそうで (笑)。

小黒 その1年で最も多く舞台挨拶やイベントに出た監督だと。

佐藤 そうそう。何度も新ピカに行きましたね。

小黒 アニメを作る上で、松竹さんとの仕事がやりやすかったんですか。

佐藤 永年の付き合いもあって、段々やりやすくなりましたね。松竹はプロデューサージャッジで決められることが多い印象で、提案もしやすかった。だから、今でもやりやすい会社ではありますね。

小黒 なるほど。『たまゆら』は企画経緯を伺ったことがないんですが、どういうかたちで始まったんですか。

佐藤 『うみものがたり』が終わった頃に、プロデューサーの田坂さんと「次もなにかやりたいね」という話になりました。僕も田坂さんも飯塚晴子さんのキャラクターが好きになっていて、そこを軸に出した提案のうちの1つなんですよね。同時に『うみものがたり』の続編的な企画も出したと思いますが、飯塚さんの画で『ARIA』の系譜の作品を提案したのが『たまゆら』なんですよね。

小黒 しっとりしていて、観ているとなにか心が優しくなるようなものですか。

佐藤 そうですね。「観ていて寝ちゃったら寝ちゃっててもいいかな」ぐらいのテイストの作品と言いましょうかね。「スライス・オブ・ライフ」、つまり「日常の『素敵』を切り取るようなアニメはどうでしょう?」と提案しました。

小黒 なるほど。

佐藤 ちょうど『ARIA』のTVシリーズが終わった頃だったんだけど、ファンの熱量が高くて「続編を観たい」という声も大きかったんですね。松竹的にもなにかやりたかったけど、原作の終わりまでアニメ化しているから、作るとしたらオリジナルということになるけど、オールオリジナルで『ARIA』のTVシリーズを作るのは難しいと思っていました。『たまゆら』は『ARIA』が好きだったファン達に、どこか近い世界観のものを提案できたらいいな、という感じでしたね。それもあって、最初の頃の宣伝では「あの『ARIA』スタッフが」と多く謳われていたんじゃないでしょうか。

小黒 舞台が広島で、カメラがモチーフになったのはどうしてなんでしょう。

佐藤 他所でも語ったかもしれないけど、「写真」という要素は最初からありました。『ARIA』的な世界観を作るにあたっては「懐かしさ」が重要な要素だと思っていたんですが、写真なら自然に懐かしさを表現できますからね。特に聖地巡礼的なことを考えてたわけではないんだけど、具体的なロケーション場所がほしかったんです。松竹経由で色々候補を出してもらって、最終的に選んだのが広島県の竹原市でした。

小黒 その後、佐藤さんと奥様(佐藤恭野)は、竹原と深い付き合いになっていくわけですが、元々なにか縁があったわけではなかったんですね。

佐藤 全然そうじゃなかった。最初に考えていたのは、現実にある町を舞台として使わせてもらうので、迷惑だけはかからないようにしなければということでした。協力いただくにしても、市役所なり、NPOなりに話を通して、ルールを守りながらやらないといけない。例えば、アニメファンが現地に来たら迷惑だと思われているような状態だと、あまりよくないわけですよね。せっかくそこを舞台にして作品をやるからには、ファンと地元の方の両方が「いいな」って思えるような作品作りができたらいいかなと考えていました。

小黒 なるほど。

佐藤 竹原市のNPOや、お好み焼のほり川さん達が大変協力的で、アニメに対して色々とお力を貸していただけたので、二人三脚のような感じで続けられましたが、最初からそこを狙っていたわけではないんです。

小黒 ところで、『けいおん!』が世の中を席巻してる頃に世に出た作品ですよね。『けいおん!』の後に女の子が部活動をやったり戦車に乗ったりする作品が次々と作られていました。『たまゆら』も、その流れの1つと考えてよいのでしょうか。

佐藤 企画を立てていた頃は、そこまで『けいおん!』人気が爆発してる状況ではなかったかもしれない。主役の竹達(彩奈)さんも、「そういえば『けいおん!』で人気がでているらしい」ぐらいの感じだったかな。それに『たまゆら』の下敷きは『ARIA』なんですよね。『ARIA』は、灯里がマンホームからネオ・ヴェネツィアに来て、日常の素敵を発見していく。でも、住んでる人はそのことに気づいていない、という構図があって、『たまゆら』もそれを踏襲しているんですよね。

小黒 なるほど。

佐藤 写真を撮ろうとする中で、地元の人が知らないものを見つけていく話だったので、部活動になったのも遅かったんです。

小黒 部活の話になったのは第2期でしたね。あそこで「最近の女子高生が主役のアニメでよく見る展開!」という感じはちょっとありました。

佐藤 一歩踏み出す描写として部を作るのがよさそうだし、そこに後輩がいるといいなという感じでしたね。

小黒 最初にOVAとして4話分を作ってますけれども、これはパイロットフィルム的な意味合いだったんですか。

佐藤 オリジナル作品を、いきなりTVシリーズにするのはハードルが高いので、観測気球的な意味も含めて方法を探っていましたね。それがOVAの2本なんですが、4話セットになったのは僕の提案だったと思います。そもそも『たまゆら』って、TVシリーズ1話30分でしっかり観せようというつもりの作品ではなかったんです。場合によったら15分枠でもいいし、どんな枠でもできるつもりで考えていました。プロデューサーの田坂さんと相談しつつ、イベントも沢山やって、まずはお客さんに認識してもらおうというプランで動いていました。

小黒 OVAのエピソードって、TVシリーズ第1期の途中に収まる話なんですよね。この時点で、シリーズ全体の構成がある程度存在したんですか。

佐藤 ではないです。OVAを作ってから、その前後にあたる話をTVシリーズで作ろうということになりました。

小黒 OVAは、1話と4話が佐藤さん脚本とコンテですね。2話と3話の脚本は吉田玲子さんですが、佐藤さんのプロットを元に吉田さんが書いているんでしょうか。

佐藤 基本的にはそうですね。1話と4話は脚本を起こさずにいきなりコンテを描いています。間の2本は吉田さんにシナリオを書いてもらって、そこからコンテを描いたのかな。

小黒 全部自分でコンテから描くのではなく、脚本を作ってもらう部分もあったほうがいいということですね。

佐藤 そうです。それに『ARIA』の吉田玲子さんに入ってほしいという松竹の意図もあったと思いますね。

小黒 なるほど。OVA1作目の手応えはどうだったんでしょうか。

佐藤 OVAは完全に手探りで始めたんですけど、イベントの結果が大きかったですね。人に来てもらうことを重視して、基本無料のイベントを沢山やっています。その中でも竹原市の照蓮寺でやったイベントの影響が大きかった。チケット配布前の早朝からファンの方が並んでくれたりして、想像以上に人が来たんですね。そこで勢いがついたところはありました。結局OVAというジャンルは、何本売れたかは分かっても、観た人が面白いと思ったかどうか、分からないんですよね。だから、イベントでお客さんのリアクションをしっかり見られたのは大きかったかなと思いますけどね。


佐藤順一の昔から今まで(39)『たまゆら』とお父さん目線 に続く


●イントロダクション&目次

アニメ様の『タイトル未定』
386 アニメ様日記 2022年10月16日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2022年10月16日(日)
オールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol.139 『MEMORIES』と大友克洋のアニメーション」のトークを終えて、自分は帰宅。少し休んだ後、途中まで上映を観たワイフを迎えに行く。その後、事務所でキーボードを叩いたり、散歩をしたり。その後、オールナイトの終幕を見届けるため、また新文芸坐に。
デスクワークをはさんで、午後にまたまた新文芸坐に。「マイライフ・アズ・ア・ドッグ」を鑑賞。プログラムのタイトルは「スウェーデンの名匠による永遠の1本 マイライフ・アズ・ア・ドッグ」。この映画はタイトルとポスターのビジュアルだけ知っていて、本編は未見。自分のことをライカ犬になぞられている少年ということで、深刻な話かと思ったら、そんなことはなかった。深刻なところもあるのだけれど、のんびりとした映画であり、ユーモアが基調。都会と田舎町が舞台になるのだが、田舎町では性的なモチーフが多い。主人公のイングマルに女性下着の広告のテキストを朗読される老人、街の芸術家のためにヌードになるグラマーなお嬢さんなど。サガという少女が登場するのだが、ボクっ子というか、男装少女というか。見た目は美少年で、常に少年として振る舞っている。オタク的な目線での発言になるけれど、サガは「男性が好きなボーイッシュキャラ」としての純度が高い。実写でここまでできるんだ、と思った。
晩御飯はランチ以外では入ったことがなかった近所の居酒屋に。「近所の人が来る地元の居酒屋」って感じでこれはこれで悪くない。駅近くの店よりも店員さんが元気だった。しかも、安かった。

2022年10月17日(月)
久しぶりにアニメ探偵をやることになった。アニメ探偵とは「あるデザイン画について、誰が誰の依頼で描いたものか」とか「その作品に参加できなくなった監督が本当は何をやりたかったのか」といったことを、資料や調査で調べることだ。

2022年10月18日(火)
夕方、ワイフと鬼子母神の御会式に。ワイフは金魚すくいをやったのだが、数十匹の金魚を掬ったけれど、ポイ(金魚を掬う道具)の紙は少し破れただけ。まだまだ掬えそうだったのだけど、足腰が疲れたということで終了。近くで見ていた親子連れが「あの人、すごい!」と言って盛り上がっていた。深夜アニメでサブキャラクターが意外な才能を発揮するエピソードを見ているようだった。

2022年10月19日(水)
ワイフと旧古河庭園の「バラの香りのツアー」に参加した。午前8時開始のイベントで、庭師さんの案内で薔薇の香りをかぎながら歩くというもの。普段は触ってはいけない薔薇に触ってもいいし、花壇に足を踏み入れるのもOK。優雅な催しだった。池袋に移動して、西武池袋本店屋上で食事。
午後はTOHOシネマズ池袋で『私に天使が舞い降りた!プレシャス・フレンズ』を鑑賞。自分は『私に天使が舞い降りた!』のTVシリーズは熱心に観ていたわけではなく、今回の鑑賞の前に全話を一気観した。予告も観ないで劇場に足を運んだのだけれど、なんとびっくりのスコープサイズ。しかも、画作りのためか、やたらとワイド感がある。内容に関しては、観る人が観たら「ある思想をもって作られた映画」と解釈するのではないか。それから、成立するとは思えなかった「みやこと花のカップル」について「成立するかも」と思うことができるストーリーになっており、それについてはちょっと驚いたし、感心した。
朝の散歩では『鋼の錬金術師』の「オリジナル・サウンドトラック 1」「同・2」を聴いた。

2022年10月20日(木)
10月の新番組はよくできた作品が沢山あるけど、異色というか正体不明なのが『ヒューマンバグ大学 不死学部不幸学科』だ。元になっているYouTubeの「ヒューマンバグ大学 闇の漫画」は少しだけ観た。
ワイフと吉祥寺に。レストランの肉山でワイフの誕生祝い第1弾。同じ日に吉松さんも同じ店に予約を入れていて、業界の方と一緒に来店していた。決して広くない店内で知人がアニメやマンガの話をしているのが、ちょっと面白かった。食事の後、リベストギャラリー創で「志村貴子展 まじわる中央感情線」をのぞく。カットなどのオリジナル原稿が販売されていたけど、3万円から5万円だったかな。買おうと思えば手が出せるいい値段だと思った。
朝の散歩時に『鋼の錬金術師』の「オリジナル・サウンドトラック 3」と『シャンバラを征く者』のサントラを聴く。『シャンバラを征く者』の曲は幾つか覚えていた。

2022年10月21日(金)
グランドシネマサンシャインで『ぼくらのよあけ』を鑑賞。大筋は悪くない。自分が中学1年くらいの年齢で観たら感銘を受けたかもしれない。ただ、同じ内容を90分でまとめたら、もっと気持ちよく観られたかも。キャラクターで言うと、オートボットのナナコが抜群にいい。それだけに、ナナコが嘘をつくようになった理由について、もう一押しほしかった。それから、『アキハバラ電脳組』『電脳コイル』『ぼくらのよあけ』で「デンスケ」が家庭用ロボットペットの定番ネーミングとなった(と思った)。
Amazon prime videoで「Prime見放題が終了間近の映画」に『銀河英雄伝説 わが征くは星の大海』が入っていたので視聴。マスターが古いらしくて、画質はいまひとつ。終盤まで観て気がついたけど、4K版が公開されるわけだから、来年の今頃にはリマスター版が配信されているんじゃないか。面白かったから問題ないけど。
Amazon prime videoで「モダンラブ・東京 さまざまな愛の形」の山田尚子監督作品『彼が奏でるふたりの調べ』を鑑賞。しっかりした、そして、山田監督らしい仕上がりだった。山田監督が寡作にならず、次々に作品を手がけてくれるのが嬉しい。
午前中の散歩では『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』の「Original Soundtrack 1」「同・2」を聴く。

2022年10月22日(土)
この土日は原稿作業を進めるつもりだったのだけど、これからやる作業を整理したら原稿以外の作業が沢山あったので、そちらを優先。
『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』最終回はリアルタイムで視聴。長大な原作を100話かけてしっかりと描いた。駆け足にもならず、水増しもない。ある意味においては理想的な映像化だった。それはそれとして、原作が連載中の映像化と、原作が完結してからの映像化には明らかな違いがあるということを改めて感じた。上記の「駆け足にもならず、水増しもない」とも関連したことなのだけれど、それだけではない。
朝の散歩時に『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』の「Original Soundtrack 3」を聴く。かなりよかった。「1」「2」よりもよかったかも。