小黒 この後は佐藤さんが取材を沢山受けた作品が続きます。他の媒体の記事と内容が重複するかもしれませんが、そこは気にせずにいきましょう。
佐藤 はい。
小黒 こうして振り返ると、松竹の作品が多いですね。佐藤さんと松竹の繋がりはいつ頃から始まってるんですか。
佐藤 『ARIA The ANIMATION』(TV・2005年)が最初かな。同じ松竹でも作品ごとにプロデューサーが違うんです。『たまゆら』は『うみものがたり』の繋がりで田坂秀将さんで、『ARIA』と『あまんちゅ!』(TV・2016年)は飯塚寿雄さんというように、同じ松竹作品だけどラインは別なんですよ。
小黒 なるほど。
佐藤 しかも、プロデューサー同士が凄く緊密に情報共有をする感じでもなく、わりと独立して活動している。その都度、お互いの状況を聞きながらそれぞれの仕事をするような感じでしたね。
小黒 「今は『たまゆら』が動いてるから『ARIA』はもうちょっと待って」とか、そういう調整があり得るわけなんですね。
佐藤 そんな感じですね。とはいえ、制作会社は同じなのでバランスを取りつつやっていたのでしょうね。振り返ると、長い付き合いになりましたね。
小黒 年表で見ると、2015年は『たまゆら』と『ARIA』の2つのシリーズが続き、翌年に『あまんちゅ!』が始まります。この頃が松竹アニメを次々に作っていた時期ですね。
佐藤 そうなんです。何年のことか覚えていませんけど、新ピカ(新宿ピカデリー)の登壇回数が、演出家の中でナンバーワンになった時期があったそうで (笑)。
小黒 その1年で最も多く舞台挨拶やイベントに出た監督だと。
佐藤 そうそう。何度も新ピカに行きましたね。
小黒 アニメを作る上で、松竹さんとの仕事がやりやすかったんですか。
佐藤 永年の付き合いもあって、段々やりやすくなりましたね。松竹はプロデューサージャッジで決められることが多い印象で、提案もしやすかった。だから、今でもやりやすい会社ではありますね。
小黒 なるほど。『たまゆら』は企画経緯を伺ったことがないんですが、どういうかたちで始まったんですか。
佐藤 『うみものがたり』が終わった頃に、プロデューサーの田坂さんと「次もなにかやりたいね」という話になりました。僕も田坂さんも飯塚晴子さんのキャラクターが好きになっていて、そこを軸に出した提案のうちの1つなんですよね。同時に『うみものがたり』の続編的な企画も出したと思いますが、飯塚さんの画で『ARIA』の系譜の作品を提案したのが『たまゆら』なんですよね。
小黒 しっとりしていて、観ているとなにか心が優しくなるようなものですか。
佐藤 そうですね。「観ていて寝ちゃったら寝ちゃっててもいいかな」ぐらいのテイストの作品と言いましょうかね。「スライス・オブ・ライフ」、つまり「日常の『素敵』を切り取るようなアニメはどうでしょう?」と提案しました。
小黒 なるほど。
佐藤 ちょうど『ARIA』のTVシリーズが終わった頃だったんだけど、ファンの熱量が高くて「続編を観たい」という声も大きかったんですね。松竹的にもなにかやりたかったけど、原作の終わりまでアニメ化しているから、作るとしたらオリジナルということになるけど、オールオリジナルで『ARIA』のTVシリーズを作るのは難しいと思っていました。『たまゆら』は『ARIA』が好きだったファン達に、どこか近い世界観のものを提案できたらいいな、という感じでしたね。それもあって、最初の頃の宣伝では「あの『ARIA』スタッフが」と多く謳われていたんじゃないでしょうか。
小黒 舞台が広島で、カメラがモチーフになったのはどうしてなんでしょう。
佐藤 他所でも語ったかもしれないけど、「写真」という要素は最初からありました。『ARIA』的な世界観を作るにあたっては「懐かしさ」が重要な要素だと思っていたんですが、写真なら自然に懐かしさを表現できますからね。特に聖地巡礼的なことを考えてたわけではないんだけど、具体的なロケーション場所がほしかったんです。松竹経由で色々候補を出してもらって、最終的に選んだのが広島県の竹原市でした。
小黒 その後、佐藤さんと奥様(佐藤恭野)は、竹原と深い付き合いになっていくわけですが、元々なにか縁があったわけではなかったんですね。
佐藤 全然そうじゃなかった。最初に考えていたのは、現実にある町を舞台として使わせてもらうので、迷惑だけはかからないようにしなければということでした。協力いただくにしても、市役所なり、NPOなりに話を通して、ルールを守りながらやらないといけない。例えば、アニメファンが現地に来たら迷惑だと思われているような状態だと、あまりよくないわけですよね。せっかくそこを舞台にして作品をやるからには、ファンと地元の方の両方が「いいな」って思えるような作品作りができたらいいかなと考えていました。
小黒 なるほど。
佐藤 竹原市のNPOや、お好み焼のほり川さん達が大変協力的で、アニメに対して色々とお力を貸していただけたので、二人三脚のような感じで続けられましたが、最初からそこを狙っていたわけではないんです。
小黒 ところで、『けいおん!』が世の中を席巻してる頃に世に出た作品ですよね。『けいおん!』の後に女の子が部活動をやったり戦車に乗ったりする作品が次々と作られていました。『たまゆら』も、その流れの1つと考えてよいのでしょうか。
佐藤 企画を立てていた頃は、そこまで『けいおん!』人気が爆発してる状況ではなかったかもしれない。主役の竹達(彩奈)さんも、「そういえば『けいおん!』で人気がでているらしい」ぐらいの感じだったかな。それに『たまゆら』の下敷きは『ARIA』なんですよね。『ARIA』は、灯里がマンホームからネオ・ヴェネツィアに来て、日常の素敵を発見していく。でも、住んでる人はそのことに気づいていない、という構図があって、『たまゆら』もそれを踏襲しているんですよね。
小黒 なるほど。
佐藤 写真を撮ろうとする中で、地元の人が知らないものを見つけていく話だったので、部活動になったのも遅かったんです。
小黒 部活の話になったのは第2期でしたね。あそこで「最近の女子高生が主役のアニメでよく見る展開!」という感じはちょっとありました。
佐藤 一歩踏み出す描写として部を作るのがよさそうだし、そこに後輩がいるといいなという感じでしたね。
小黒 最初にOVAとして4話分を作ってますけれども、これはパイロットフィルム的な意味合いだったんですか。
佐藤 オリジナル作品を、いきなりTVシリーズにするのはハードルが高いので、観測気球的な意味も含めて方法を探っていましたね。それがOVAの2本なんですが、4話セットになったのは僕の提案だったと思います。そもそも『たまゆら』って、TVシリーズ1話30分でしっかり観せようというつもりの作品ではなかったんです。場合によったら15分枠でもいいし、どんな枠でもできるつもりで考えていました。プロデューサーの田坂さんと相談しつつ、イベントも沢山やって、まずはお客さんに認識してもらおうというプランで動いていました。
小黒 OVAのエピソードって、TVシリーズ第1期の途中に収まる話なんですよね。この時点で、シリーズ全体の構成がある程度存在したんですか。
佐藤 ではないです。OVAを作ってから、その前後にあたる話をTVシリーズで作ろうということになりました。
小黒 OVAは、1話と4話が佐藤さん脚本とコンテですね。2話と3話の脚本は吉田玲子さんですが、佐藤さんのプロットを元に吉田さんが書いているんでしょうか。
佐藤 基本的にはそうですね。1話と4話は脚本を起こさずにいきなりコンテを描いています。間の2本は吉田さんにシナリオを書いてもらって、そこからコンテを描いたのかな。
小黒 全部自分でコンテから描くのではなく、脚本を作ってもらう部分もあったほうがいいということですね。
佐藤 そうです。それに『ARIA』の吉田玲子さんに入ってほしいという松竹の意図もあったと思いますね。
小黒 なるほど。OVA1作目の手応えはどうだったんでしょうか。
佐藤 OVAは完全に手探りで始めたんですけど、イベントの結果が大きかったですね。人に来てもらうことを重視して、基本無料のイベントを沢山やっています。その中でも竹原市の照蓮寺でやったイベントの影響が大きかった。チケット配布前の早朝からファンの方が並んでくれたりして、想像以上に人が来たんですね。そこで勢いがついたところはありました。結局OVAというジャンルは、何本売れたかは分かっても、観た人が面白いと思ったかどうか、分からないんですよね。だから、イベントでお客さんのリアクションをしっかり見られたのは大きかったかなと思いますけどね。
佐藤順一の昔から今まで(39)『たまゆら』とお父さん目線 に続く
●イントロダクション&目次
編集長・小黒祐一郎の日記です。
2022年10月16日(日)
オールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol.139 『MEMORIES』と大友克洋のアニメーション」のトークを終えて、自分は帰宅。少し休んだ後、途中まで上映を観たワイフを迎えに行く。その後、事務所でキーボードを叩いたり、散歩をしたり。その後、オールナイトの終幕を見届けるため、また新文芸坐に。
デスクワークをはさんで、午後にまたまた新文芸坐に。「マイライフ・アズ・ア・ドッグ」を鑑賞。プログラムのタイトルは「スウェーデンの名匠による永遠の1本 マイライフ・アズ・ア・ドッグ」。この映画はタイトルとポスターのビジュアルだけ知っていて、本編は未見。自分のことをライカ犬になぞられている少年ということで、深刻な話かと思ったら、そんなことはなかった。深刻なところもあるのだけれど、のんびりとした映画であり、ユーモアが基調。都会と田舎町が舞台になるのだが、田舎町では性的なモチーフが多い。主人公のイングマルに女性下着の広告のテキストを朗読される老人、街の芸術家のためにヌードになるグラマーなお嬢さんなど。サガという少女が登場するのだが、ボクっ子というか、男装少女というか。見た目は美少年で、常に少年として振る舞っている。オタク的な目線での発言になるけれど、サガは「男性が好きなボーイッシュキャラ」としての純度が高い。実写でここまでできるんだ、と思った。
晩御飯はランチ以外では入ったことがなかった近所の居酒屋に。「近所の人が来る地元の居酒屋」って感じでこれはこれで悪くない。駅近くの店よりも店員さんが元気だった。しかも、安かった。
2022年10月17日(月)
久しぶりにアニメ探偵をやることになった。アニメ探偵とは「あるデザイン画について、誰が誰の依頼で描いたものか」とか「その作品に参加できなくなった監督が本当は何をやりたかったのか」といったことを、資料や調査で調べることだ。
2022年10月18日(火)
夕方、ワイフと鬼子母神の御会式に。ワイフは金魚すくいをやったのだが、数十匹の金魚を掬ったけれど、ポイ(金魚を掬う道具)の紙は少し破れただけ。まだまだ掬えそうだったのだけど、足腰が疲れたということで終了。近くで見ていた親子連れが「あの人、すごい!」と言って盛り上がっていた。深夜アニメでサブキャラクターが意外な才能を発揮するエピソードを見ているようだった。
2022年10月19日(水)
ワイフと旧古河庭園の「バラの香りのツアー」に参加した。午前8時開始のイベントで、庭師さんの案内で薔薇の香りをかぎながら歩くというもの。普段は触ってはいけない薔薇に触ってもいいし、花壇に足を踏み入れるのもOK。優雅な催しだった。池袋に移動して、西武池袋本店屋上で食事。
午後はTOHOシネマズ池袋で『私に天使が舞い降りた!プレシャス・フレンズ』を鑑賞。自分は『私に天使が舞い降りた!』のTVシリーズは熱心に観ていたわけではなく、今回の鑑賞の前に全話を一気観した。予告も観ないで劇場に足を運んだのだけれど、なんとびっくりのスコープサイズ。しかも、画作りのためか、やたらとワイド感がある。内容に関しては、観る人が観たら「ある思想をもって作られた映画」と解釈するのではないか。それから、成立するとは思えなかった「みやこと花のカップル」について「成立するかも」と思うことができるストーリーになっており、それについてはちょっと驚いたし、感心した。
朝の散歩では『鋼の錬金術師』の「オリジナル・サウンドトラック 1」「同・2」を聴いた。
2022年10月20日(木)
10月の新番組はよくできた作品が沢山あるけど、異色というか正体不明なのが『ヒューマンバグ大学 不死学部不幸学科』だ。元になっているYouTubeの「ヒューマンバグ大学 闇の漫画」は少しだけ観た。
ワイフと吉祥寺に。レストランの肉山でワイフの誕生祝い第1弾。同じ日に吉松さんも同じ店に予約を入れていて、業界の方と一緒に来店していた。決して広くない店内で知人がアニメやマンガの話をしているのが、ちょっと面白かった。食事の後、リベストギャラリー創で「志村貴子展 まじわる中央感情線」をのぞく。カットなどのオリジナル原稿が販売されていたけど、3万円から5万円だったかな。買おうと思えば手が出せるいい値段だと思った。
朝の散歩時に『鋼の錬金術師』の「オリジナル・サウンドトラック 3」と『シャンバラを征く者』のサントラを聴く。『シャンバラを征く者』の曲は幾つか覚えていた。
2022年10月21日(金)
グランドシネマサンシャインで『ぼくらのよあけ』を鑑賞。大筋は悪くない。自分が中学1年くらいの年齢で観たら感銘を受けたかもしれない。ただ、同じ内容を90分でまとめたら、もっと気持ちよく観られたかも。キャラクターで言うと、オートボットのナナコが抜群にいい。それだけに、ナナコが嘘をつくようになった理由について、もう一押しほしかった。それから、『アキハバラ電脳組』『電脳コイル』『ぼくらのよあけ』で「デンスケ」が家庭用ロボットペットの定番ネーミングとなった(と思った)。
Amazon prime videoで「Prime見放題が終了間近の映画」に『銀河英雄伝説 わが征くは星の大海』が入っていたので視聴。マスターが古いらしくて、画質はいまひとつ。終盤まで観て気がついたけど、4K版が公開されるわけだから、来年の今頃にはリマスター版が配信されているんじゃないか。面白かったから問題ないけど。
Amazon prime videoで「モダンラブ・東京 さまざまな愛の形」の山田尚子監督作品『彼が奏でるふたりの調べ』を鑑賞。しっかりした、そして、山田監督らしい仕上がりだった。山田監督が寡作にならず、次々に作品を手がけてくれるのが嬉しい。
午前中の散歩では『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』の「Original Soundtrack 1」「同・2」を聴く。
2022年10月22日(土)
この土日は原稿作業を進めるつもりだったのだけど、これからやる作業を整理したら原稿以外の作業が沢山あったので、そちらを優先。
『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』最終回はリアルタイムで視聴。長大な原作を100話かけてしっかりと描いた。駆け足にもならず、水増しもない。ある意味においては理想的な映像化だった。それはそれとして、原作が連載中の映像化と、原作が完結してからの映像化には明らかな違いがあるということを改めて感じた。上記の「駆け足にもならず、水増しもない」とも関連したことなのだけれど、それだけではない。
朝の散歩時に『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』の「Original Soundtrack 3」を聴く。かなりよかった。「1」「2」よりもよかったかも。