第433回 スペインに向かってフライト中
小黒 シリーズ最終作の『たまゆら~卒業写真~』(OVA・2015年)は劇場公開されていますが、OVAということになっていますね。
佐藤 アニメーションの届け方、ディストリビュートの仕方をずっと探っていました。TVの4クールがいい時代もあったし、1クールがいい時代もあった。あるいはTVが難しい時代、OVAの時代、映画館のイベント上映がいい時代と色んな時代がありましたよね。『卒業写真』の時は映画館のイベント上映で観てもらってパッケージに繋げるのが、ビジネスモデルとして最適解だった時代だと思うので、その流れに合わせていったはずですね。
小黒 最初に松竹のマークがバーンと出るので、観ている側としては「映画が始まった感」はありましたよ。
佐藤 TVとOVAと劇場作品で、音響費やキャスト費等の予算って違うんですよ。劇場作品と謳うと、劇場作品の予算規模で作らないといけないんです。この作品はOVAとして作って、イベント上映をするというかたちになってますが、限りなく映画っぽい作り方になってるんですよね。松竹は小屋(映画館)を持っていて、新宿ピカデリーのように500人も入るスクリーンで上映できるから、そこを使っていきたいね、という話はあったと思うんですよね。
小黒 『卒業写真』は公開の後、画に手を入れているんですよね。
佐藤 配信しているのは多分手を入れてないやつですよね。いくつかバージョンがあると思うんですが、Blu-rayBOXが最終形です。会社都合もあって、公開当時はリテイクが充分にできなかったんです。
小黒 公開と同時に映画館で売っていたディスクでは、充分でなかったと。
佐藤 そうです。BOX用に改めて手を入れ直してるんです。
小黒 第4部の前半で、楓がお母さんとおばあちゃんに「東京に行きたい」と言う場面が凝ってるんですよ。彫刻とか小物が凄く綺麗に描いてあるんです。
佐藤 あの辺に僕は手を入れてないので、名取(孝浩)君のコンテがほぼ残ってると思いますね。「茶房ゆかり」というカフェがモデルになっていて、お店のものをそのまま使ってるんですよね。
小黒 写真参考で絵コンテを描いたり、写真レイアウトにしたりしたことが上手くいった?
佐藤 そうかもしれないですね。
小黒 『卒業写真』は各章がTVシリーズの2話分のボリュームでしたが、TVシリーズ1本単位で制作していたのだろうと思います。佐藤さんはどの章でも絵コンテでクレジットされていますが、前半か後半のどちらかを担当しているということですか。
佐藤 そうですね。
小黒 第4部後半は「これぞ最終回!」という感じでしたね。
佐藤 「卒業写真」というシリーズの最後にユーミンの「卒業写真」を使おうと決めてやっていましたからね(笑)。
小黒 この最終回をやるための構成だったわけですね。
佐藤 第4部に、お父さんの葬式で楓が嗚咽している画がありますけど、あのイメージは最初のOVAの頃からありました。それをどこで見せるのか、あるいは見せないのか。ずっと考えてたんだけど、やっぱり最後に入れようと思って入れました。だから、最初から画のイメージがあったことはあるんですよね。
小黒 そういえば、『たまゆら』って「なにか」をする話じゃなかったんですね。
佐藤 そう。「なにか」をしないですね。
小黒 なにかを克服するまでの物語とか、卒業に向かってなにかをする話じゃないですよね。一つ一つの出来事があって、終わっていく。
佐藤 そう。そういう感じですね。お父さんが亡くなって歩みを止めた子が、また歩き出すまでの話ですね。ちょっとずつ、じわりじわりと這い出すように歩き始めて、自分の力で歩く。歩き始めたよ、東京に行ったよ、までがストーリーの軸なので、大したことはしないです(笑)。
小黒 むしろ劇的なことは起きない。
佐藤 起きないです。
小黒 佐藤さんが常々言っている「物語がなくても、キャラクターがいれば作品は成立する」ということですね。いかにもお話めいた展開があるとかえって違うものになってしまう。
佐藤 そうなんですよね。そうすると、やろうとしていることがずれていっちゃいますね。
小黒 さっき「卒業写真」の話が出ましたけど、既存曲を使うことが多かった作品ですよね。
佐藤 そうですね。「やさしさに包まれたなら」はフライングドッグの福田さんから提案してもらいましたね。その後で、坂本真綾さんがユーミンのファンだったという情報が入ってきて、曲を作ってもらう話が実現する。
小黒 なるほど。佐藤さんもユーミンは好きだったんですか。
佐藤 特別な思い入れがあるほどの好きではなかったけど、「ユーミンならみんなが幸せになるよね」という気持ちはありますよね。まさか新曲まで作ってもらえるとは思わなかったけど。
小黒 そういう点でも、音楽に相当恵まれた作品になったわけですね。
佐藤 本当にそうですね。
小黒 『たまゆら』を振り返ってみるといかがですか。
佐藤 『たまゆら』は色々勉強になりました。お客さんとの距離をここまで詰めていったのも、『たまゆら』が初めてだと思うし、イベントでも色んなことをやりましたよね。宣伝にならなきゃいけないので、自分は監督だけど「ちゃんとイベントでお客さんが呼べるようにならなきゃな」という感じで、立ち振る舞いを研究したりね。他の人の横に並んでオチ担当になれるように、スキルを持たなければと(笑)。
小黒 東映動画時代の佐藤さんからすると、考えられないような変化ですね。
佐藤 考えられないですよ。そういうのができないから、演出やってるってところがあったのに、イベント出まくって着ぐるみだって着ちゃいそうな勢いですからね。
『たまゆら』で、みんなと一緒に作品を楽しむということが、なんとなく見えたかな。その後の『ARIA』でも、ここで得た感覚を大事にしていると思うので、転機の作品ですね。
小黒 話は変わりますが、Wikipediaの佐藤さんのページを見ると『ピュアドラゴン』のパイロットフィルムが2011年に公開されたとあります。これはどういう作品なのでしょうか。
佐藤 GENCOさんの企画に協力したやつですね。ハルフィルムとGENCOさんが一緒にやる流れがあったので、お手伝いしたという感じですね。ポケモンデザイナーの1人である、にしだあつこさんのデザインしたキャラクターを元に世界観を作って、アニメにしていくという企画だったと思うんですね。パイロットフィルムはそこそこ尺があったので、起承転結のあるお話になっています。
小黒 これは公開されたんですか。
佐藤 公開はしてないんじゃないかなあ。これもハルフィルムで作ってたんですよ。
小黒 佐藤さんはコンテと監督をやったんですね。
佐藤 そうですね。演出は別にいたと思いますね。
小黒 Wikipediaのリストを作った人はよくこれを知ってましたね。
佐藤 なんでだろうね。(編注:2011年に配信ゲーム「TWIMON」と連動するかたちで、YouTubeとニコニコ動画で公開された)
『異世界でチート能力(スキル)を手にした俺は、現実世界をも無双する~レベルアップは人生を変えた』
略称は『いせれべ』!
いよいよ放映開始! 現在、毎週納品の緊張が走っています!
前作『蜘蛛ですが、なにか?』後(正確に言うと制作中?)に、続いていただいたKADOKAWAさん案件。そして、“UNLIMITED PRODUCE by TMS”のクレジット。つまり、トムスエンタテインメントさんによるプロデュースとなります。
よく話題にしている、板垣の古巣——テレコム・アニメーションフィルムはトムスエンタテインメントの系列会社。ちなみに自分が入社した時は“(株)東京ムービー新社 三鷹スタジオ(株)テレコム・アニメーションフィルム”。入社1~2年目で“(株)キョクイチ 東京ムービー事業本部 三鷹スタジオ(株)テレコム・アニメーションフィルム”に変わり、自分が退社後~現在は“(株)トムスエンタテインメント”。東京ムービー新社の頭文字“TMS”をさらに“トムス”に呼び変えたのだと思います。よって、トムスといえばある意味、自分にゆかりのある会社。KADOKAWAさんにTMS……色々な縁によって、いただいた企画と言えると思います。
で、今作も『蜘蛛~』に続いて、音響監督も兼任。選曲はすべて俺がやって、要所を共同音監の納谷僚介さんに相談し調整していくスタイル。納谷さんとは『ユリシーズ~ジャンヌ・ダルクと錬金の騎士』(2018)でご一緒して以来。今回も大変楽しく仕事させていただいています。
主役・天上優夜役・松岡禎丞さんとは、『てーきゅう』の野球部員役でご一緒しました。野球ボールをオスとメスに分類して「な!」とドヤ顔する補欠部員を面白くやっていただきましたが、本格的にメイン・キャストでお付き合いするのは今回が初めて。
で、すみません、また次週。
4月の新文芸坐とアニメスタイルの共同企画ブログラムは、2月に続いて劇場版『クレヨンしんちゃん』をお届けします。今回上映するのは1993年に公開された、記念すべき劇場版第1作の『クレヨンしんちゃん アクション仮面VSハイグレ魔王』です。
4月23日(日)の10時からと、19時20分からの2回の上映を予定しています。なお、貴重な35mmフィルムによる上映となります。
19時20分からの回では、上映後に本郷みつる監督のトークを予定しています。また、2月のブログラムと同様に、トークの後に本郷監督が刊行した同人誌「本郷みつる/足跡」の販売を予定しています。
チケットは開催日の1週間前から発売。チケットの発売方法については、新文芸坐のサイトで確認してください。
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【新文芸坐×アニメスタイル vol. 158】 |
開催日 |
2023年4月23日(日) |
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開演 |
10時~、19時20分~ |
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会場 |
新文芸坐 |
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料金 |
10時の回:一般1500円、各種割引・友の会1100円 |
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トーク出演(19時20分) |
本郷みつる(監督)、 |
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上映タイトル |
『クレヨンしんちゃん アクション仮面VSハイグレ魔王』(1993/93分/35mm) |
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備考 |
※トークショーの撮影・録音は禁止 |
●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/
腹巻猫です。神保町のシェア本棚型書店「ネオ書房@ワンダー店(ブックカフェ二十世紀)」に「劇伴倶楽部」で棚を借りました。評論家の切通理作さんが店主のお店です。「劇伴倶楽部」の棚にはSOUNDTRACK PUBレーベルCDや個人誌「劇伴倶楽部」を置いています。近くにおいでの際はぜひお立ち寄りください。
ネオ書房@ワンダー店(神保町駅A1出口すぐ)
東京都千代田区神田神保町2-5-4 開拓社ビル2階(1階は古書店「@ワンダー」)
営業時間11:00-19:00(日曜18:00)月曜休
いやー、驚いた。
3月に発売された『うる星やつら』オリジナル・サウンドトラックの曲数にである。80年代の旧作ではなく、2022年10月から2023年3月まで放映されたTVアニメ『うる星やつら』(以下「2022年版」と表記)のサントラだ。
全93トラック。最初は2枚組だと思っていたが、CD1枚だった。1枚で93トラック。効果音集とかでなければ、ほとんど見たことがない曲数だ。
2022年版『うる星やつら』は高橋留美子の同名マンガを原作にしたTVアニメ。80年代に放送されたTVアニメ『うる星やつら』のリメイク(リブート)である。2022年版は旧作より原作準拠になっているのが特徴。ラムの髪のカラフルな色遣いなど、80年代版より原作に近い表現がされている。いっぽうで旧作の魅力だった演出の暴走や声優のアドリブは控えめで、全体にマイルドになった印象。旧作を懐かしむファンからは「旧作と比べて物足りない」という声も聞こえるが、令和世代には観やすいのではないだろうか。筆者はけっこう楽しんだ。
音楽は『四月は君の嘘』『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』などを手がけた横山克が担当している。
旧作は風戸慎介、安西史孝を筆頭にさまざまな作曲家が参加し、音楽も評判になった。風戸慎介の生楽器を中心にしたオーソドックスな音楽と安西史孝による当時はまだ珍しかったシンセサイザーによる劇伴のアンサンブルが独特の味わいを出している。特に安西史孝は原作の大ファンで、「アニメにするならオレに音楽をやらせてくれ」と売り込んで音楽担当になったという。安西のテクノポップ風音楽が旧作『うる星やつら』の音楽イメージを決定づけたと言ってもよい。という話は以前に当コラムで紹介した。
今回は横山克が風戸慎介と安西史孝の役割をひとりで担うことになる。人気作だから、どうしても旧作と比べられてしまう。そうとうな苦心があったのではないかと想像する。
横山克は作品ごとにコンセプトを変えて取り組む作曲家である。実写、アニメにかかわりなく、多彩なジャンルの作品を手がけているのはそのおかげだろう。器用にこなすようにも見えるが、1作1作に工夫があり、サウンドも作り込まれている。その作風を「横山サウンド」「横山節」とひと言で表現するのは難しい。
2022年版『うる星やつら』の場合はどうか。本作の音楽のコンセプトをサウンドトラックからひも解いてみよう。
まず、冒頭にも書いた「1曲が短い」こと。93曲で演奏時間は約72分、平均すると1曲約45秒。1分以上の曲もあるが、30秒くらいの曲がたくさんある。映像のテンポを意識して、1曲を短く作っているのだろう。横山克は学生時代からCM音楽の仕事を始めたという。短い時間で商品イメージを伝えるCM音楽は、今回の『うる星やつら』の音楽に通じるものがある。その経験が生きたのではないだろうか。
次に「昭和風のサウンド」を意識していること。シンセサイザーの音色は80年代の懐かしい音に近づけている。また、ギター、ベース、ドラムが生楽器の演奏で録音されていて、現在主流の打ち込みのリズムにない温かみがある。アレンジも今風に音を詰め込んだスタイルではなく「隙間」が多い。こうした工夫が「昭和の劇伴」っぽい印象につながっている。
旧作音楽になかった試みとしては、スキャットを多用していることが挙げられる。「ポンポン」「ラパパ」「ランラン」「ダダダ」など多彩なスキャットがフィーチャーされている。ミュージシャンクレジットには男女6人のボーカリストが表記されていて、こだわりがうかがえる。そのうち1人が横山克本人というのも面白い。
80年代の『うる星やつら』のシンセサイザーを使った音楽は、当時としては新しかった。だから、2022年版も思い切って新しい音楽をつける方法もあったと思う。たとえば現代的なダンスミュージックとか。しかし、それだと本編の80年代っぽい雰囲気に合わなくなってしまう。本編とのなじみを考えての音楽設計だろう。音楽についても「思いきった冒険がなく物足りない」という声を聞くが、現代のアニメ劇伴としてはかなりユニークである。
本作のサウンドトラック・アルバムは2023年3月に「TVアニメ『うる星やつら』オリジナル・サウンドトラック」のタイトルで、フジパシフィックミュージック/FABTONEから発売された。CDと配信版が同時リリースされている。CD版と配信版の内容(収録曲・曲順)は同じである。
収録曲は下記のレーベル公式サイトを参照。
https://fabtone.co.jp/release/detail/id/411
1曲目は「LUM」。タイトルどおりラムのテーマである。軽快なリズムにシンセ、ピアノ、エレキギターなどがからみ、リズム主体に展開する。後半になってエレキギターによるイキのいいフレーズが登場する。前半のリズムパターンは「My Darling」(トラック21)や「For You I Do」(トラック86)などで反復され、後半のフレーズは「No Way Out」(トラック5)で再現される。いずれもラムをイメージしたモチーフなのだろう。怒ったり、すねたりしているラムちゃんが目に浮かぶ。
2曲目は「Girls, Girls, Girls!」。こちらは(たぶん)あたるのテーマ。「ポンポンポン」というスキャットとエレキベースがリズムを作り、ユーモラスに展開。中盤から女声スキャットをまじえた軽快なメロディが現れる。この部分は第1話のあたるとラムの鬼ごっこのシーンで、あたるがラムの角をつかんで勝利する場面に使われていた。
前半の「ポンポンポン」のモチーフを変奏した曲が「Oopsie Whoopsie」(トラック18)、「Low Power Laziness」(トラック30)、「Chest Out」(トラック41)など。後半のモチーフは「Thunder Runner」(トラック14)、「Ataru Robot」(トラック83)、「Sunset Smile」(トラック89)などで再登場する。ワーグナーのライトモチーフ方式を意識した音楽作りが行われていることがわかる。
こんな具合に1曲ずつ紹介しているときりがないので、第1話のアバンタイトル(オープニング前のプロローグ部分)で流れた音楽を聴いてみよう。
冒頭、地球の各地に巨大な宇宙船が現れる場面に流れるのが「Earth Invasion」(トラック3)。地球侵略の脅威を描写するSF映画風の曲である。
橋の上であたるとしのぶが話しているシーンになり、あたるが「しのぶ一筋じゃ!」と言うバックにかかるのがリリカルな「Love in Words」(トラック10)。
その直後、あたるがランニングをする女性に気を取られる場面に「Skippin’ Tweets」(トラック38)が流れる。混声スキャットに口笛が重なるユーモラスな曲だ。
しのぶが「あたるくんなんて大っ嫌い!」とあたるを張り飛ばす場面にあたるのテーマ「Girls, Girls, Girls!」というピッタリの選曲。
橋の欄干にもたれてため息をつくあたるに錯乱坊(チェリー)が駆け寄り、あたるを川に落とす場面でドタバタ曲「Decibel Hurricane」(トラック23)。
錯乱坊があたるにつきまとうシーンにはチェリーのテーマである「Cherry’s Bad Luck」(トラック7)。
家に帰ったあたるが政府のエージェントから重大な話を聞く場面に「Do Not Open」(トラック36)が流れて不穏な空気が広がる。
あたるの前にラムが初めて現れるシーンに再び「Earth Invasion」。
ラムの姿を見て、あたるが地球の命運を賭けた鬼ごっこをやる気になる場面に旧作主題歌をアレンジした「ラムのラブソング (Pajama Version)」(トラック92)。
あたるが「必ず(ラムを)この手に抱きしめてみせる!」と決意を表明する場面にあたるのモチーフの変奏「Chest Out」(トラック41)。
ラムの父のセリフ「地球を賭けた大勝負、楽しませてもらうで」に重なり、ラムのテーマ「LUM」が流れて、アバンタイトルが終わる。
ここまで約5分。5分のあいだに10曲以上のBGMが使われている。本作のテンポの早さと音楽演出の特徴がわかるだろう。このテンポを想定しての音楽なのだ。
もっとも、音楽演出もエピソードの性格によって異なる。しみじみした後味が残る第5話後半「君待てども…」や第10話後半「君去りし後」では、音楽を短く切らず、たっぷり流す演出がされている。使われている曲も比較的長い曲が多い。
「君待てども…」でラムが煙突の上で夕暮れを見ながら「やっぱりダーリンが好きだっちゃ」とつぶやくシーンに「Handle With Care」(トラック44)。ピアノやチェロが切ないメロディを奏でる心情描写曲である。喫茶店でラブレターの送り主を待つあたるの前に変装したラムが現れる場面には女性スキャットがキュートな「Cheek to Cheek」(トラック91)。ラストシーンでは再び「Handle With Care」が流れて余韻を残す。
「君去りし後」では、ラムがあたるを残して飛び去る場面にしんみりとしたピアノとストリングスの曲「Marshmallow Float」(トラック33)。あたるが必死にラムを探し回る場面に悲痛な「Tearful Cadence」(トラック57)。ラストでは「君待てども…」でも使われた「Handle With Care」が流れる。
このあたりの心情曲のうまさは、『四月は君の嘘』などを手がけた横山克の持ち味が生かされた感じだ。
ほかに印象深い曲を挙げると——。
「Lantern Whispers」(トラック26)と「Hold My Hand」(トラック39)は全編を通してよく使われた軽いタッチのサスペンス&コミカル曲。旧作っぽい雰囲気の曲である。
女声スキャットをフィーチャーしたユーモラスでおしゃれな曲もいい。「Tippy Toes Happiness」(トラック27)、「The Ladykiller」(トラック37)、「Touchy Touchy」(トラック54)、「Estrogenic Glamour」(トラック69)などだ。「Tippy Toes Happiness」は第8話「転入生、危機一髪…」でセーラー服を着たラムがあたるの教室に現れる場面に、「Estrogenic Glamour」は第4話「口づけと共に契らん!!」でクラマ姫が面堂終太郎を宇宙船に誘う場面に使われていた。
弁天のテーマ「Benten’s Seduction」(トラック55)やラムの母のテーマ「Lum’s Mother」(トラック70)も女声ボーカルをうまく使った曲である。「Lum’s Mother」は、ボイスチェンジャーを通した造語の歌をディスコ調のアレンジで聴かせるという凝った作りで、ラムの母のキャラクターを音楽化している。
本アルバムのラストは、トラック90に「No Sugar Added」、トラック91に「Cheek to Cheek」、トラック92と93に「ラムのラムソング」のアレンジ2曲という流れで締めくくられる。「No Sugar Added」は最終回(第23話)のラスト近く、ラムがあたるに「うち、ダーリンのクイーンにはなれたっちゃ?」と聞く場面に流れたピアノとストリングスの曲。「Cheek to Cheek」は上で紹介した「君待てども…」で流れたスキャットの曲。旧作とは違う雰囲気をねらった構成であることがうかがえる。
1分に満たない短い曲をアルバムに収録する場合、数曲を1トラックにまとめて、メドレー、もしくは組曲風に聴かせることがよくある。本アルバムをそういう構成にしなかったのは、たとえ短くても、それぞれを独立した曲として聴いてもらいたいからだろう(バラエティ番組などで使いやすいというメリットもある)。頭から通して聴くだけでなく、シャッフルして思いがけない流れで曲を聴いても楽しめる。そういう聴き方が似合う音楽であり、作品である。
最後に余談。
本サウンドトラックCDを聴いて気になったことがある。トラック59「Poppin’ Balloon」とトラック60「Floating Away」が同じ曲なのだ。念のためPCに取り込んで波形編集ソフトで比較してみると波形も同一だった。
これは意図的なのかと思い、配信版を聴いてみると2曲は別の曲である。正確に言うとトラック59「Poppin’ Balloon」がCD版と配信版では別の曲になっている。配信版のほうが正しい音源だと思われる。
公式には特にアナウンスはないようだが、CD用の音源を用意するとき(マスタリング時)に手違いで同じ曲を入れてしまったのではないだろうか。アルバムを完全な形で聴くために、筆者は配信サイトで「Poppin’ Balloon」だけを購入した。そういうことができるのが配信時代のいいところで、「正しい盤と交換しろ」とは思わない。筆者もサントラ盤を作っている経験から、93曲のマスタリングを確認する手間の大変さも事故が起こる可能性も理解できる。理解してはいけないのかもしれないが、理解できる。そして、こんなトラブルも「『うる星やつら』っぽいなあ」とつい思ってしまう。
TVアニメ『うる星やつら』オリジナル・サウンドトラック
Amazon
小黒 キャストで異彩を放っていたのが、珠恵役の緒方恵美さんだと思います。アニメのお母さんの典型じゃなくて、まず声が低い。
佐藤 キャラクターデザインを見ても、全然想像がつかないですよね。緒方さんにも「なぜ私なんですか」と聞かれたぐらいですからね(笑)。
小黒 もの凄い存在感がありますけど、なぜ緒方さんだったんですか。
佐藤 楓のお母さんだから、お母さんお母さんした優しい女性のつもりはそもそもなくて、どっか不器用ながら頑張って子育てしている人のイメージがあったんですよね。それに、緒方さんはバイク好きじゃないですか。お母さんの話を考えている時に、バイク乗りのイメージが出てきて、合うんじゃないかなと思ったことが切っ掛けですね。
小黒 なるほど。その意味でも緒方さんが合っていたわけですね。
佐藤 そうなんですよ。最初のOVAに比べて『たまゆら~卒業写真~』(OVA・2015年)に出てくる珠恵さんは、人間としての深みが大分増していると思うんですけど、それは緒方さんにお願いしたからこそ、出てきている深みですよね。
小黒 佐藤さんの作品のイベントでおなじみの儀武ゆう子さんについて、伺わせてください。佐藤さんの作品に頻繁に出ていますけど、どれも主人公や、主人公の一番の友達という役どころではないんですよね。
佐藤 そう言われてみるとそうですね(笑)。
小黒 『たまゆら』の桜田麻音は口笛を吹く女の子で、セリフより口笛が多いぐらいですが、どうしてこの役になったんでしょうか。
佐藤 そもそも『うみものがたり』の時が最初の出会いで、ラジオやイベントの司会をやってもらっていくうちに「この人は面白い」と思ったんですよね。『たまゆら』にも入ってほしかったけど、メインのキャラは女の子4人しかいないから、その役に上手くはまらなかったら動物キャラを入れてそれをやってもらおうか、ぐらいに思っていて(笑)。でも、麻音という内気な女の子を儀武さんがやったら「美味しい」んじゃないかって、作ってるうちに思うようになったんですよね。
小黒 普段は活発な儀武さんが、大人しいキャラを演じると。
佐藤 そう。内気なキャラクターで、喋るのも苦手で口笛吹くような子だからね。それで、口笛が吹けるかオーディションをしてから、お願いしました。
小黒 なるほど。儀武さんがロケハン旅行中の佐藤さん達を追い掛けてきたから仕方なく出てもらった、というわけじゃないんですね(編注:儀武ゆう子がロケハン旅行をしている佐藤監督達を追い掛けていった模様は公式サイトで「たけはらんど ~儀武ゆう子が行く!~」として動画が配信された)。
佐藤 ロケハンまでやって来たのは本当にあった出来事だったんですけど(笑)。口笛オーディションも旅先でやったんです。
小黒 (笑)。
佐藤 作品に入ってもらおうと考えてはいたんだけど、最初は「動物かな?」と思っていた。『わんおふ』が正にそうで、儀武さんに犬役で出てもらうのも美味しいかなという流れだった。
小黒 古川登志夫さんと平野文さんが夫婦役を演じたのに驚きました。これは『うる星やつら』ファンへのサービスなんですか。
佐藤 どちらかというと自分達の趣味ですかね(笑)。ちなみに儀武さんも『うる星やつら』とか『らんま1/2』が好きなんですよ。
小黒 佐藤さんもお好きなんですね。
佐藤 うん。それで古川さんにお願いしようと思ったんだけど、その頃の平野さんって声優活動をやられていなかったので、確認してもらったんですよね。もし、家業の魚河岸の仕事のほうに専念しておられていたら悪いので。でも、「オファーが来たら是非色々やりたいです」と仰ってくださったので、夫婦役をお願いしました。これはキャストで遊んでいた『ケロロ(軍曹)』の頃の癖が残ってるんでしょうね(笑)。
小黒 『ARIA』のキャストもまんべんなく登場、という感じですよね。
佐藤 ちゃんと出しておきたいなと思ってましたね。
小黒 画作りはどうだったんですか。
佐藤 最初のOVAでは、自分で絵コンテまでやっていましたが、その後は基本的に画はおまかせでやっていました。自分はそこにはこだわりは持たずに、コンテと音響周りをやろうという感じではありましたかね。
小黒 ロケハン写真をレイアウトに使っていますよね。
佐藤 竹原はロケハンに行ける場所だったので「そのまま使えるなら使いたい」と竹原市に打診してもらったらOKと言ってもらえました。日の丸写真館やほり川さんとかをはじめ、町並み保存地区の辺りはアニメ用にアレンジせず、そのまま作品に使っていました。『ARIA』のヴェネツィアの時と同様、基本はロケハン写真を設定がわりにしてレイアウトを起こしますが、中には写真をそのままレイアウトに使っているカットもあります。
小黒 なるほど。
佐藤 そもそも、TVシリーズへの展開方法を考えたりするのではなく、OVAをしっかり作り込むという気分だったんだよね。『たまゆら』のOVAを観た人が竹原に行ったら、同じ風景が見られるという楽しみを提供できたらいいかなと。だから、この場所からあの店へ行くのにかかる時間とか、移動の雰囲気もなるべく生かして作れたらと思ってましたよね。
小黒 TVシリーズの第1期総作監が渡辺はじめさんなんですけど、渡辺さんの画がいいですよね。
佐藤 いいですよね。渡辺さんにお父さん目線があるからなのか、落ち着いて観られますよね。品があるし、変にギラギラしてないから。
小黒 TVシリーズが始まった時は、OVAと画の感じが違うなと思って観ていたんです。でも、完結編までいった後に改めてTVシリーズの第1期を観返すと、飯塚さんのデザインとは違うんだけど、画がいいですよ。
佐藤 そうだね。飯塚さんの画って、意外と再現するのが難しいんですよね。渡辺さんは少女マンガ原作の作品をずっとやっていることもあって、好感度のある画を描かれる印象がありますよね。
小黒 第1期が成功して、第2期も作ることになりますが、3年生までやることは決まってたんですか。
佐藤 「やれればいいね」とは話してましたね。TVシリーズ1期は、楓と友達と学校を軸にした話で、2期では楓と大人達の視点の話にしようとしていた。お父さん目線で女の子達を愛でることを意識したのが2期だった。
小黒 2期は、多分シリーズ中で最も異色というか、毒のあるキャラクターとして夏目さんが出てきますね。お父さんの友達で楓の写真に対して厳しいことを言うおじさま。
佐藤 はいはい。
小黒 9話が佐藤さんのコンテ回で、あの話はよかったですよね。
佐藤 僕も好きなんですよ(笑)。玲子さんのホンの力が大きいと思いますけどね。
小黒 取材の前に、頭から順番に観返したんですが、エンディングを観る前に「この回は佐藤さんのコンテだ」と分かりましたよ。『たまゆら』では普段やらないような、アップショットの入れ方をしていましたよね。
佐藤 夏目さん目線で楓の物語を描いているから、確かに今までの流れと毛色の違う話ではあるんですよね。この話は自分がやっといたほうがいいかなと思った記憶はありますね。
小黒 各話にも佐藤さんのアイデアは入っていたんですか。
佐藤 その話でなにをやるか、ぐらいは最初に提案してると思いますけど、作り込みはライターさんに依存してるはずですね。例えば夏目さんのキャラクター造形も、打ち合わせの時点ではあそこまで固まっていないはずですから、玲子さんが膨らませたキャラだと思うんですよね。
いよいよ、新シリーズの放送開始です!
当然、毎週の納品に追われるわけで!
まあ、色々語るのはまた後ほど。とりあえず、
「ANIMATOR TALK」は第一線で活躍されているアニメーターの方達にお話をうかがうトークイベントです。今回は『おねがい☆ティーチャー』『やがて君になる』等でキャラクターデザインを務めた合田浩章さん、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』『サクラ大戦』等で知られる松原秀典さんをゲストに迎えて開催します。
イベントではお二人が影響を受けたアニメーターについて、あるいはお二人が手がけた『バブルガムクライシス』PART8、『ああっ女神さまっ』等についてうかがいます。
開催は4月16日(日)昼。会場は阿佐ヶ谷ロフトA。会場では「合田浩章スケッチブック」のサイン本を販売する予定です。「合田浩章スケッチブック」については以下のリンクをどうぞ。
『やがて君になる』『おねがい☆ティーチャー』の合田浩章による初のオリジナル女性イラスト画集を刊行!
http://animestyle.jp/news/2022/02/22/21570/
お客さんが会場で観覧する形式のイベントですが、トークのメイン部分は配信も行います。配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。
チケットは4月7日(金)19時から発売。購入方法については、以下のリンクをご覧になってください。
■関連リンク
LOFT PROJECT
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/247939
アニメスタイルチャンネル
https://ch.nicovideo.jp/animestyle
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第203回アニメスタイルイベント | |
開催日 |
2023年4月16日(日) |
会場 |
阿佐ヶ谷ロフトA | 出演 |
合田浩章、松原秀典、小黒祐一郎 |
チケット |
会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,500円、当日 1,800円(税込・飲食代別) |
小黒 『たまゆら』は評判もよく、シリーズになっていくわけですね。
佐藤 おかげさまで、という感じですね。『ARIA』ファンが結構乗っかってくれたのも大きいと思います。
小黒 スタッフの話に戻ると、「飯塚晴子さんのキャラクターデザインでアニメを作りたい」という動機で始まったけど、飯塚さん自身はあまり作画監督をしていない。これは、飯塚さんのお仕事が重なっていたからですか。
佐藤 そうですね。当時の飯塚さんの軸足はJ.C.STAFFだったかと思います。現場に張りついての作業もなかなかお願いできないし、TYOアニメーションズの制作スタイルもあるので、中に入ってガッツリとやるのも難しそうだなと。まずはキャラクターデザインと版権を描いていただいて、余力があったら肝のところを作監修正していただけるといいかなと思っていました。
小黒 キャラクターの外見等に、佐藤さんの要望も入っているんでしょうか。
佐藤 あんまり入ってないですね。飯塚さんに、女の子A、B~Jという感じで何種類もラフを描いてもらっていて、その中から「これがかおるかな、楓ならこれかな」と選んでいったような感じですね。
小黒 ももねこ様も、なんとなく『ARIA』っぽい猫がいるというイメージなんですね。
佐藤 そうそう。癒し成分として猫が欲しかったんだけど、ももねこ様のデザインは結構難航したんですよ。『おジャ魔女どれみ』の魔女ガエルは「カエルみたいだけどカエルじゃない」だったので、それを猫でやりたいと言ってデザインしてもらったんだけど、普通の猫から始まってあのキャラになるまで紆余曲折あったので、苦労を掛けてしまったところではありますよね。
小黒 主人公の女の子達は、個性的だけど現実離れしすぎない、そんなラインを探ってるんじゃないかと思うんですが、どうでしょうか。
佐藤 そうだね。ターゲットの年齢が低いアニメだったら、多少はおバカなことをして話を広げてくれたほうがやりやすい、ということもあるんですけど、やっぱり『ARIA』のラインにある作品だと思っているので、現実と地続きになる部分が欲しくて。アニメのターゲット、購買層が基本的に男性なので、ある種のファンタジー女子高生であってもいいとは思うんですけど、その中でも「地に足」感を持たそうとする気分ですかね。本当にリアルにすると、深刻なドラマもやらないといけないですけど、それは多分求められてないからね。
小黒 それからこれが重要な点ですが『たまゆら』で語るべき点は「お父さん目線」ですよ。
佐藤 そうですね。「大事にしないと、お父さんは死んでしまうぞ!」というメッセージ。
小黒 ええっ、それがメッセージなんですか!? 要するに「お父さんは娘さんに大事にされたい」ということですよね。
佐藤 そうそう(笑)。
小黒 『たまゆら』という作品は、女の子達を見る目もお父さん目線だし、全体的に品がいいので大人が観てても恥ずかしくならない。
佐藤 田坂さんと話した時に『ARIA』は購買層の年齢層が高めで、30代から50代ぐらいまで広がっているので、お父さん目線を求められているかもしれないという感触はありましたね。
小黒 劇場公開の時、客席にいたお客さん達の年齢層は高めでしたよ。
佐藤 高いですよ、やっぱり。だって、高校生とかが観てもあまり面白くないと思うわけですよ(笑)。
小黒 今、凄いこと言いましたね。
佐藤 でも、自分を振り返ってもそうだよね。中高生の頃って、背伸びをしたいというか、「世の中の汚いものをちゃんと見せろよ」と思ったりするじゃないですか。それに対して『ARIA』は「汚いものはもういいから、綺麗なものを見せてください」という年齢層に差し掛かった人達が観てくれたと思うんです。
小黒 なるほど。人生で色々なことを体験して、清らかなものを見たいと思うようになった人達に『ARIA』が届いたということですね。
佐藤 そうです。『たまゆら』も、そこは同じだよなっていうことです。
小黒 『たまゆら』は登場人物を自分の恋人のように思う作品ではないんですね。だけど、楓ちゃんは理想の娘像にしては大人しすぎませんか。
佐藤 ピュアな子が、そのピュアさゆえに、他の子達が気づかないものに気づいていく物語だから、ガツガツ前に進むキャラじゃないほうがいいんですよね。それに、主人公が不器用なほうが好感度が高いと思うんですよね。
小黒 お父さん的には?
佐藤 お父さん的な目線で言うと、楓やかおる、のりえ、麻音も、みんないいなと思える感じになってるとは思うんです。その中で楓は、これから自分の道を歩いていくとして、その歩みが少し心配だな、と感じるぐらいの子でありますよね。『たまゆら』はそんな楓が自分の足で歩けるようになるまでの物語ですよね。
小黒 昔、佐藤さんと「日本のアニメには『主人公の女の子は死んだお父さんが大好き』というジャンルがありますよね」という世間話をしたことがあったと思うんですけど、まさしくそれなんですね。
佐藤 そうそう。例えば、ちょっと感動系の刑事ドラマって、結構な頻度でお父さんのことが大好きな娘が出てくるんですよ。遺留品がキーアイテムになってたりしてね。
小黒 なるほど。
佐藤 「お父さんの跡を継いでこの道に進みました」「お父さんの大好きだった仕事をやる」、または「お父さんの仇を取る」という話が沢山あるんですが、それは多分男性ライターの希望、願望なんですよね。
小黒 ああ、ライターの願望なんだ。
佐藤 あるいは、男性のプロデューサーや演出家の願望だと思うんですよ。女性ライターはそこにあまり興味ないというか、そっち方面にはいかないと思うんだけど。
小黒 いかないでしょうね。
佐藤 ゲストの娘が生前は知らなかった父の気持ちに気づいて泣いたりするわけですよ。
小黒 実際に女の子がお父さんの気持ちを分かって泣いてくれたりすると嬉しいものなんですか。
佐藤 いや、そうでもないかもしれないね。そこはある種のファンタジーでいいと思うんですよ。
小黒 なるほど。今、『たまゆら』の全てが分かったような気がしました。
佐藤 (笑)。軸足は全部そこなんです。それでも、女の子のファンもいてくれたりするのが面白いなと思いますけど。
「紙で充分原画が描けるのに、デジタル作画を推奨するのは制作側の怠慢である」的なことをSNSで仰ってたアニメーターさんがいたんですけど、板垣さんはどう思いますか?
と、ウチの若手に訊かれました。それに対し俺は「違う」と返しました。
いつものことながらここからはあくまで私見です。ネットの普及で、単純な話「物理的にモノを運ぶ仕事を厳選」することができるようになり、
アナログのカット袋に原画・動画(と昔はセルも)を詰めてあちこち回す「制作進行」本来の仕事を、デジタルによるデータの送信で手軽にするために、アニメーターにデジタル化を押し付けている?
とでも仰りたいような意見です、前述のSNSの方のは。今現在の状況に当てはめると、やや的外れかと。
もちろん、20年前だったらそういう側面もありました。2000年初頭に聞いた話では、某超大手アニメ制作会社のデジタル化説明会的なイベントで語られた内容で「デジタル作画の本当の目的は、紙・鉛筆・消しゴムをなくすことではなく、作業者(アニメーター)とPCで繋がることで作業の進行具合と勤務時間を管理して、制作進行を要らなくすること」と発表されていたのを憶えていますから。
ところが昨今のデジタル作画化は、制作進行をなくす目的がまだありつつも、むしろ、
高解像度(フルHD)に対応した映像作りのため!
に寄っている気がします。
まだ紙で作業されている方々、作画用紙で原画・作監された作業分を“HDに耐え得る綺麗な線での動画・仕上げ”まで持っていこうとする制作の苦労ってご存知でしょうか? いくら作監様が丁寧に入れたつもりの修正でも、紙に描いた線の曖昧さ(昔は寧ろ周りが “達筆”と崇めた画)は、制作さんが海外撒きの手配する際、「もっと、清書してからでないと受けられない」と撥ねられているという事実。さらに自身の知らないところで、そのご自慢の修正がさらに清書(第二原画)を通されている事実もご承知おきください。動画も同様で、いくら緻密に中割りしても人間の紙と鉛筆による手作業には限界があります。たとえ作監修正時に気の利いた中割り参考を入れても、ブヨブヨに溶けた動画・仕上げが上がってきて、結局はその作監様のあずかり知らないところで、“二値化(デジタル仕上げ)”のじか直しが行われているというのが現状です(「だから昭和の頃の様にセルで塗れば~」の話はこの際、無しね!)。
それが原画・作監~動画へと全てデジタル作画(タブレット&ペン)でやるとどう変わるか? まず、細かい所は拡大作画ができます、原画も作監も。動画経験者なら誰でもその苦労は知っているであろう、“長距離の直線・曲線の中割り”も直線・曲線ツールの使用によりぐにゃぐにゃにならずに綺麗で継ぎ目のない長距離線が描けます。そして、“作監修正を動画マンが拾えるかどうか?”も作監修正の線がちゃんと清書状態(一本のデジタル線)で描かれていれば、仕上げデータに直接貼って使うことだって可能な訳(社内で仕上げをやるパートに限るかもしれませんが)。正直な話いくら人手不足でも「作監手伝ってあげたいけど“紙”です」と言われたら、よっっっぽどのことでもない限り、丁重にお断りしているのもまた事実です。もしくは「デジタル作画にチャレンジする気はありませんか?」と、制作ではない俺でもデジタル作画の推奨をしてしまっています!
これは、何人かの制作さんから異口同音に聞いた言葉ですが、
アニメーターや演出と言ったクリエイターさんらは原画に作監修正がのったところで終わりだと思っていらっしゃるみたいですが、我々制作はそこからが“始まり”なんです!
この言葉を聞いてその苦労も想像せず「自分は紙で描きたいから」ってだけで、周りに苦労を強いるのってどうなんでしょうね?
てとこで、放映が近づいているので、仕事に戻ります!
腹巻猫です。先日、松本零士がデザインした隅田川クルーズ船ホタルナに乗ってきました。このシーズンだけ運航している花見遊覧コースで船上から隅田川沿いの桜を堪能。松本メカに乗って21世紀の花見という気分でしたよ。
昨年から発売を楽しみにしていたサウンドトラック・アルバムが2月15日にリリースされた。「Do It Yourself!! ‐どぅー・いっと・ゆあせるふ‐ Music Collection」だ。今回はこの音楽を紹介しよう。
『Do It Yourself!! ‐どぅー・いっと・ゆあせるふ‐』は2022年10月から12月まで放送されたTVアニメ。監督・米田和弘、シリーズ構成と脚本・筆安一幸、アニメーション制作・PINE JAMによるオリジナル作品である。
この春、高校に入学した結愛せるふはのんびりやで夢みがちな少女。やりたい部活が見つからずにいたせるふは、ある日、なりゆきでDIY部に入部することになる。部員がいなくて存続が危ぶまれていたDIY部だったが、少しずつ部員や仲間が増えていく。ぷりんたちはDIY部の宣伝のために校庭の木の上にツリーハウスを作ろうと考える。
舞台はものづくりの町として知られる新潟三条市。劇中では、無人バスが走り、空をドローンが飛び交う近未来的な町に描写されている。しかし、せるふたちがDIY部で進めるのは、のこぎりやカッターで材料を切り、ドリルで穴をあけ、ネジ止めや接着をして塗料を塗る、昔ながらのものづくり。時間もかかるし失敗することも多いが、手と体を動かしてものを作る楽しさが伝わってくる。
第1話のラストに流れるナレーションが、この作品のテーマを簡潔に伝えている(公式サイトのトップページにも同じ言葉が書かれている)。
「これは、家具や友情や、ひいては人生までも、考え、工夫し、苦労し、失敗し、それでも諦めずに自分の手で完成させて、未来を切り開いていこうとする少女たちの、その最初の一歩を描く物語である——」
筆者も子どもの頃は工作が好きで、模型を組み立てたり、材料を集めて一からものを作ったりしていた。だから、この作品にはすごく共感するところがあった。
それにこのアニメ、なにげに絵作りがすぐれている。シンプルな線で描かれたキャラクターにしっかり立体感があるし、レイアウトもセンスがいい。なにより、手の描き方がうまい。たびたび登場する工具を使う場面が、どれもさまになっている。手を描くのって、すごく難しいのだ。
原作のないオリジナル作品であり、いわゆる萌え系でもないし、派手な展開やシリアスな物語があるわけではない。ものづくりの楽しさをゆるーく描くアニメである。けれど、心に残る、とてもよい作品だった。
音楽を担当しているのは佐高陵平。驚くべきは、オープニング主題歌、エンディング主題歌の作詞・作曲と劇中音楽(劇伴)の作曲を佐高陵平がひとりで手がけていること。主題歌と劇伴の分業があたりまえになった現在では珍しい作り方だ。
その主題歌が今風のJ‐POP風の曲ではなく、懐かしいTVマンガ主題歌を思わせる楽しい曲調なのもいい。
佐高陵平は、アニメソングやアーティストへの楽曲提供(作詞・作曲・編曲)、『RELEASE THE SPYCE』(2018)、『D4DJ First Mix』(2020)などのアニメ音楽(劇伴)で活躍する音楽家。y0c1e(よしえ)名義でも活動している。ヒップホップ、エレクトロニカ、電波ソングなどを取り入れた現代的な曲も得意だが、本作の音楽はアコースティック楽器を中心とした素朴なサウンドで作られている。
本作の音楽について、佐高陵平はTwitterの投稿でこうコメントしている。
「劇伴は口笛・リコーダー・ピアニカ・木琴みたいな軽い音をアコギ/ピアノで支えるイメージで作りました。こじんまりな可愛さ。厚めの曲もなくはないのですが基本軽めで、ピンチの曲でもリコーダーが鳴ってます。のほほんと楽しく作ってましたが、作品にマッチしていて良かったです」
バンドサウンドを基調にした手作り感のある音は、本作のテーマであるDIYを意識しているのだろう。ピアノ、ギター、パーカッション、ピアニカ、トランペットなど、温かみのある楽器の音が耳に心地よい。
本作のサウンドトラック・アルバムはエイベックス・ピクチャーズからCD(2枚組)と配信でリリースされた。収録曲と構成は同じだが、CDの末尾に収録されているオリジナルドラマは配信されていない。CD版のディスク1から紹介しよう。収録曲は以下の通り。
オープニング主題歌に始まり、エンディング主題歌に終わるオーソドックスな構成。アイキャッチを挟んで前半・後半に分かれ、前半では、メインテーマ、せるふのテーマ、ぷりんのテーマ、DIY部の仲間たちのテーマが続く。後半はDIY部の活動と秘密基地作りをイメージさせる構成になっている。
オープニング主題歌「どきどきアイデアをよろしく!」はトンカチをたたく擬音をスキャット風に盛り込んだ楽しい曲。佐高陵平によれば「新しさと懐かしさの共存が目標」だったとのこと。「00年代日常アニメ的能天気さの上に10年代以降っぽいブラスの積み方や韻の感じを乗せ、現代っぽいMIXで仕上げる…みたいな」とTwitterでコメントしている。メインキャストが歌っているのも部活ものっぽくていい。
2曲目の「どぅー・いっと・ゆあせるふ」は本作のメインテーマ。軽快なリズムに乗ってリコーダー、トランペット、ピアノ、ピアニカなどがのびのびと合奏する。DIYの楽しさが表現された曲だ。第1話のラストでせるふが入部届けに名前を書く場面をはじめ、DIY部の活動場面にたびたび使用されている。
続く2曲はメインテーマの変奏。トラック3「どぅー・いっと・ゆあせるふ(しっとり)」はピアノソロによる心情曲で、第11話でぷりんがせるふの誘いに応えてDIY部に参加するシーンにフルサイズで流れていた。トラック4「どぅー・いっと・ゆあせるふ(まったり)」はトランペットとオルガンなどによるミディアムテンポのアレンジ。第2話でたくみが、第3話でジョブ子が、それぞれDIY部に入部を決める場面に使われた。
トラック5「毎日せるふ」は第1話から使われているせるふのテーマ。せるふの能天気でマイペースな感じがよく表現されている。
次の2曲はせるふがらみでよく使われたユーモラスな曲。トラック6「夢みるせるふ」は妄想するせるふの場面など、トラック7「動物とせるふ(とお母さん)」はせるふが家で母と食事をする場面などに流れていた。
トラック8「ぷくぷくなぷりん」から3曲は、せるふの幼なじみで別の高校に進学したぷりん(須理出 未来)のテーマ。「ぷくぷくぷりん」はふくれっつらをするぷりん(それがあだ名の由来)のイメージ。トラック9「きっちりなぷりん」はその変奏で、ぷりんの可愛いツンデレをイメージさせるアレンジだ。
トラック10「センチなぷりん」はピアノとキーボードを主体にしたリリカルなアレンジ。ぷりんがせるふとの思い出を回想するシーンやぷりんに素直になれずため息をつく場面などに流れていて、しんみりさせられる。「ぷくぷくぷりん」のメロディの変奏から始まり、後半はよりエモーショナルなメロディに変わっていく。その展開が、ぷりんの心情の変化を表現しているようで味わい深い。
次の曲からはDIY部に集まった仲間たちのテーマである。
トラック11「たよれる先輩」はDIY部部長のくれい(矢差暮礼)のテーマ、トラック12「たくみん」はぷりんに誘われて入部するたくみん(日蔭匠)のテーマ、トラック13「にゃー!!」はDIY部が気になって遊びに来た、ぷりんと同じ高校の生徒しー(幸希心)のテーマ(語尾に「にゃー」をつけるのがくせ)、トラック14「天才小学生?」は飛び級で高校生になった12歳の天才留学生ジョブ子(ジュリエット・クイーン・エリザベス8世)のテーマ。くれいの曲はマーチ調のリズムと前進感のあるメロディ、引っ込み思案なたくみんのテーマはピアノやオルガンによるしっとりした雰囲気、にぎやかなしーのテーマはドタバタしたコミカルな曲調と、それぞれのキャラクターが巧みに表現されていて感心する。
メインテーマとキャラクターのテーマを続けて、DIY部の仲間がそろった! というところでアイキャッチになる。うまい構成だ。
トラック17「能天気」は日常シーンによく流れていた口笛の曲。せるふが自転車をこいで登校する場面などに使われていた。ディスク2には同じメロディをウクレレが演奏する別バージョン「能天気(ウクレレ)」が収録されている。本作の雰囲気を代表する曲である。
トラック18「日常と女の子」も日常シーンの定番曲で、第1話の冒頭から使われている。こちらはピアノやピアニカ、ビブラフォンなどの音がおしゃれで、女子高の華やいだ空気感が広がる。
トラック19「また13時間後に!」とトラック20「ひとりぼっち」は、しみじみとした雰囲気の心情曲だ。「また13時間後に!」はノスタルジックなサウンドで友情を表現する曲で、最終話でDIY部のみんなが集まってジョブ子の送別会をする場面の使用が印象深い。ギターと口笛が奏でる「ひとりぼっち」は、いつもは明るいジョブ子やしーが、ひとりでもの思う場面などに流れていた。
トラック21「ワクワクワンワン」はくれいの両親が経営するDIYショップ「ワークワン」の店内で流れているテーマソング。歌は作詞家としても活躍する山本メーコ。佐高陵平によれば「地方企業とか地元スーパーのCMソング」みたいなイメージで作ったとのこと。そのままCMで流れても違和感のない完成度である。
DIY部の日常を描くトラック22「どきどき会議」、トラック23「きらきら潮風」(第6話の海へ行くエピソードで使用)を挟んで、トラック24「もくもく作業」は本作ならではの楽しい曲。工具で金属を叩くようなパーカッションの音がリズムを刻み、ギターやリコーダー、ピアノなどのフレーズが重なる。曲名通り、せるふたちが工作をするシーンによく使われていた。この曲と似た曲に、ディスク2に収録された「ばりばり作業」がある。こちらもトンカチで釘を打つような音色のリズムを使った曲で、やはり工作シーンに使われている。
トラック25「がんばるDIY部」は第11話のせるふたちがツリーハウス(秘密基地)作りを進める場面に、トラック26「秘密基地」は、最終話でツリーハウスが完成し、せるふたちが秘密基地を見上げる場面に流れていた曲。「秘密基地」はメインテーマの変奏になっている。物語のクライマックスにメインテーマのメロディーが流れる演出には胸が熱くなる。
ディスク1の終盤には、じんわりと胸にしみる3曲が並んだ。
トラック27「せるふとぷりん」はせるふとぷりんの友情の曲。ストリートオルガン風の郷愁を誘う音色が、幼なじみのふたりの心のつながりを表現する。よく聴くと「毎日せるふ」のメロディと「センチなぷりん」のメロディが織り込まれている。
トラック28「居場所」は数々の名場面に流れた印象深い曲。ピアノとギター、バイオリンなどが奏でるやさしいメロディが、居場所を求めるせるふたちの心情に寄りそっていく。第5話でしーが海外に暮らす母に電話で「心配しなくても、ちゃんと居場所ができたよ」と話す場面、第9話で自分が役に立ってないと落ち込むせるふをぷりんたちが励ます場面などに流れている。曲の後半には女声スキャット(コーラス)が入ってきて、熱い想いを表現する。第10話で顧問の治子先生がDIY部の先輩の想いをせるふたちに語る場面、第11話で秘密基地完成を前にせるふとぷりんが語らう場面、第12話で涙ぐむジョブ子にたくみんがハンカチを渡す場面では、その女声スキャットの部分が流れて感動をいっそう盛り上げた。スキャットを歌っているのは声優・作詞家としても活躍する藤村鼓乃美。佐高陵平も「個人的に印象深い1曲」と語っている曲である。
トラック29「変わらないもの」は演奏時間5分を超える大曲。ドリーミィな曲調で始まり、後半からストリングスが入って雄大な曲想に展開する。劇中ではぷりんやジョブ子が大切な思い出を回想するシーンに流れていた。本作の音楽の中でも映画音楽のようなスケール感を持つ聴きごたえのある曲だ。
ディスク1のラストはエンディング主題歌「続く話」。せるふとぷりんが歌う、ふたりの友情のテーマである。佐高陵平はこの曲について、「こちらも新旧の共存で、基本アコギのミディアムバラードに、リズムやシンセは少し今っぽく」「歌詞の関係性や掛け合いの作り方が楽しかった」と語っている。本編を最後まで観て聴きなおすと、この作品はせるふとぷりんの物語でもあったんだなあ、とあらためて思う。
ディスク2にはBGM17曲とオリジナルドラマ(約24分)を収録。ディスク1だけで世界が完結している感もあるので、ディスク2は特典ディスクみたいな印象だ。とはいえ、こちらにも「ひまわりの少女」をめぐるエピソードで印象的な「乙女な先輩」やDIY部のシーンでよく使われた「たのしいDIY部」「ようこそDIY部」などが収録されているので、十分楽しめる。微妙な空気感を表現する「なまやけクッキー…」の絶妙な曲調には思わずニヤリとしてしまう。
『Do It Yourself!! ‐どぅー・いっと・ゆあせるふ‐』の音楽は、ものづくりのわくわく感や仲間と一緒にひとつのことをやりとげるよろこびを思い出させてくれる。シンプルに聴こえる音楽の中に、さまざまなアイデアや工夫が盛り込まれていて、それを探すのもサントラを聴く楽しみのひとつだ。DIYって、どの曲も、いい場面が、よみがえる。未見の方は、ぜひ本編といっしょにどうぞ。
Do It Yourself!! ‐どぅー・いっと・ゆあせるふ‐ Music Collection
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小黒 この後は佐藤さんが取材を沢山受けた作品が続きます。他の媒体の記事と内容が重複するかもしれませんが、そこは気にせずにいきましょう。
佐藤 はい。
小黒 こうして振り返ると、松竹の作品が多いですね。佐藤さんと松竹の繋がりはいつ頃から始まってるんですか。
佐藤 『ARIA The ANIMATION』(TV・2005年)が最初かな。同じ松竹でも作品ごとにプロデューサーが違うんです。『たまゆら』は『うみものがたり』の繋がりで田坂秀将さんで、『ARIA』と『あまんちゅ!』(TV・2016年)は飯塚寿雄さんというように、同じ松竹作品だけどラインは別なんですよ。
小黒 なるほど。
佐藤 しかも、プロデューサー同士が凄く緊密に情報共有をする感じでもなく、わりと独立して活動している。その都度、お互いの状況を聞きながらそれぞれの仕事をするような感じでしたね。
小黒 「今は『たまゆら』が動いてるから『ARIA』はもうちょっと待って」とか、そういう調整があり得るわけなんですね。
佐藤 そんな感じですね。とはいえ、制作会社は同じなのでバランスを取りつつやっていたのでしょうね。振り返ると、長い付き合いになりましたね。
小黒 年表で見ると、2015年は『たまゆら』と『ARIA』の2つのシリーズが続き、翌年に『あまんちゅ!』が始まります。この頃が松竹アニメを次々に作っていた時期ですね。
佐藤 そうなんです。何年のことか覚えていませんけど、新ピカ(新宿ピカデリー)の登壇回数が、演出家の中でナンバーワンになった時期があったそうで (笑)。
小黒 その1年で最も多く舞台挨拶やイベントに出た監督だと。
佐藤 そうそう。何度も新ピカに行きましたね。
小黒 アニメを作る上で、松竹さんとの仕事がやりやすかったんですか。
佐藤 永年の付き合いもあって、段々やりやすくなりましたね。松竹はプロデューサージャッジで決められることが多い印象で、提案もしやすかった。だから、今でもやりやすい会社ではありますね。
小黒 なるほど。『たまゆら』は企画経緯を伺ったことがないんですが、どういうかたちで始まったんですか。
佐藤 『うみものがたり』が終わった頃に、プロデューサーの田坂さんと「次もなにかやりたいね」という話になりました。僕も田坂さんも飯塚晴子さんのキャラクターが好きになっていて、そこを軸に出した提案のうちの1つなんですよね。同時に『うみものがたり』の続編的な企画も出したと思いますが、飯塚さんの画で『ARIA』の系譜の作品を提案したのが『たまゆら』なんですよね。
小黒 しっとりしていて、観ているとなにか心が優しくなるようなものですか。
佐藤 そうですね。「観ていて寝ちゃったら寝ちゃっててもいいかな」ぐらいのテイストの作品と言いましょうかね。「スライス・オブ・ライフ」、つまり「日常の『素敵』を切り取るようなアニメはどうでしょう?」と提案しました。
小黒 なるほど。
佐藤 ちょうど『ARIA』のTVシリーズが終わった頃だったんだけど、ファンの熱量が高くて「続編を観たい」という声も大きかったんですね。松竹的にもなにかやりたかったけど、原作の終わりまでアニメ化しているから、作るとしたらオリジナルということになるけど、オールオリジナルで『ARIA』のTVシリーズを作るのは難しいと思っていました。『たまゆら』は『ARIA』が好きだったファン達に、どこか近い世界観のものを提案できたらいいな、という感じでしたね。それもあって、最初の頃の宣伝では「あの『ARIA』スタッフが」と多く謳われていたんじゃないでしょうか。
小黒 舞台が広島で、カメラがモチーフになったのはどうしてなんでしょう。
佐藤 他所でも語ったかもしれないけど、「写真」という要素は最初からありました。『ARIA』的な世界観を作るにあたっては「懐かしさ」が重要な要素だと思っていたんですが、写真なら自然に懐かしさを表現できますからね。特に聖地巡礼的なことを考えてたわけではないんだけど、具体的なロケーション場所がほしかったんです。松竹経由で色々候補を出してもらって、最終的に選んだのが広島県の竹原市でした。
小黒 その後、佐藤さんと奥様(佐藤恭野)は、竹原と深い付き合いになっていくわけですが、元々なにか縁があったわけではなかったんですね。
佐藤 全然そうじゃなかった。最初に考えていたのは、現実にある町を舞台として使わせてもらうので、迷惑だけはかからないようにしなければということでした。協力いただくにしても、市役所なり、NPOなりに話を通して、ルールを守りながらやらないといけない。例えば、アニメファンが現地に来たら迷惑だと思われているような状態だと、あまりよくないわけですよね。せっかくそこを舞台にして作品をやるからには、ファンと地元の方の両方が「いいな」って思えるような作品作りができたらいいかなと考えていました。
小黒 なるほど。
佐藤 竹原市のNPOや、お好み焼のほり川さん達が大変協力的で、アニメに対して色々とお力を貸していただけたので、二人三脚のような感じで続けられましたが、最初からそこを狙っていたわけではないんです。
小黒 ところで、『けいおん!』が世の中を席巻してる頃に世に出た作品ですよね。『けいおん!』の後に女の子が部活動をやったり戦車に乗ったりする作品が次々と作られていました。『たまゆら』も、その流れの1つと考えてよいのでしょうか。
佐藤 企画を立てていた頃は、そこまで『けいおん!』人気が爆発してる状況ではなかったかもしれない。主役の竹達(彩奈)さんも、「そういえば『けいおん!』で人気がでているらしい」ぐらいの感じだったかな。それに『たまゆら』の下敷きは『ARIA』なんですよね。『ARIA』は、灯里がマンホームからネオ・ヴェネツィアに来て、日常の素敵を発見していく。でも、住んでる人はそのことに気づいていない、という構図があって、『たまゆら』もそれを踏襲しているんですよね。
小黒 なるほど。
佐藤 写真を撮ろうとする中で、地元の人が知らないものを見つけていく話だったので、部活動になったのも遅かったんです。
小黒 部活の話になったのは第2期でしたね。あそこで「最近の女子高生が主役のアニメでよく見る展開!」という感じはちょっとありました。
佐藤 一歩踏み出す描写として部を作るのがよさそうだし、そこに後輩がいるといいなという感じでしたね。
小黒 最初にOVAとして4話分を作ってますけれども、これはパイロットフィルム的な意味合いだったんですか。
佐藤 オリジナル作品を、いきなりTVシリーズにするのはハードルが高いので、観測気球的な意味も含めて方法を探っていましたね。それがOVAの2本なんですが、4話セットになったのは僕の提案だったと思います。そもそも『たまゆら』って、TVシリーズ1話30分でしっかり観せようというつもりの作品ではなかったんです。場合によったら15分枠でもいいし、どんな枠でもできるつもりで考えていました。プロデューサーの田坂さんと相談しつつ、イベントも沢山やって、まずはお客さんに認識してもらおうというプランで動いていました。
小黒 OVAのエピソードって、TVシリーズ第1期の途中に収まる話なんですよね。この時点で、シリーズ全体の構成がある程度存在したんですか。
佐藤 ではないです。OVAを作ってから、その前後にあたる話をTVシリーズで作ろうということになりました。
小黒 OVAは、1話と4話が佐藤さん脚本とコンテですね。2話と3話の脚本は吉田玲子さんですが、佐藤さんのプロットを元に吉田さんが書いているんでしょうか。
佐藤 基本的にはそうですね。1話と4話は脚本を起こさずにいきなりコンテを描いています。間の2本は吉田さんにシナリオを書いてもらって、そこからコンテを描いたのかな。
小黒 全部自分でコンテから描くのではなく、脚本を作ってもらう部分もあったほうがいいということですね。
佐藤 そうです。それに『ARIA』の吉田玲子さんに入ってほしいという松竹の意図もあったと思いますね。
小黒 なるほど。OVA1作目の手応えはどうだったんでしょうか。
佐藤 OVAは完全に手探りで始めたんですけど、イベントの結果が大きかったですね。人に来てもらうことを重視して、基本無料のイベントを沢山やっています。その中でも竹原市の照蓮寺でやったイベントの影響が大きかった。チケット配布前の早朝からファンの方が並んでくれたりして、想像以上に人が来たんですね。そこで勢いがついたところはありました。結局OVAというジャンルは、何本売れたかは分かっても、観た人が面白いと思ったかどうか、分からないんですよね。だから、イベントでお客さんのリアクションをしっかり見られたのは大きかったかなと思いますけどね。
大変申し訳ありません、V編(納品)の真っただ中で何も語れません!
また来週宜しくお願いします!!
前回紹介した、「80年代アイドル総選挙!ザ・ベスト100」(3月8日発売)のイラスト10枚の話は、また後ほど改めてで。今は鋭意制作中の
『異世界でチート能力(スキル)を手にした俺は、現実世界をも無双する~レベルアップは人生を変えた』(略して『いせれべ』)
の納品を頑張ってます!
“作品の納品”とは毎回鬼気迫るものです。少しでも良くして納品したく、総監督とは言っても「ここは○○のせいで~」と言い訳を並べるのはイヤなので、でき得る限り手を出すかたちで取り組んでいます。この件に関しては幾度となく「監督は手出しするべきか否か?」論争が勃発したところですが、そのこと自体の是非はともかく、自分はただただ単純に「出来が悪いところは他人のせいにして、賛辞だけ自分のものにしようとする監督」になりたくないだけです。
発表された『いせれべ』PVをご覧いただければ分かっていただけると思いますが、キャラクターデザイン・総作画監督の木村博美さんは本当に頼りになる画描きです。『てーきゅう(8期)』で作監デビューした時が入社3~4ヶ月の頃、『COP CRAFT』で初キャラデの担当時はまだ20歳。俺は決断が速いので、「巧い!」を見つけたら直ぐ何かをやらせたくなります。
まだ“紙(アナログ)”作画時代で、彼女の帰宅後、作画机に置いてあった“女子の走りリピート”! 髪の毛やスカートまでちゃんと、跳ねるようになびくその動画(原画)を捲って見て衝撃が走りました。それはさながら俺がテレコム時代、大塚(康生)さんに見せていただいた「天才・貞本義行の動画研修課題」の走りのようでした(褒め過ぎ?)。で、即『てーきゅう(8期)』で作監に抜擢しました。当時まだ18歳の高卒入社組でした。
『COP CRAFT』のキャラデに取り組んだ時は“まだ20歳”という若さに、原作者・賀東招二さんも驚愕し、キャラ原案・村田蓮爾さんからも「若い! 巧い!」と。
そんな木村作画の後押しをする感じで、彼女の手の及ばない部分の作監をお手伝いしている日々です。また短くてすみません。納品です。