
第456回 同じグループ会社?

まだ、『いせれべ』話の続きです。
8話の脚本・コンテ・演出は長谷川千夏さん!
『蜘蛛ですが、なにか?』(2021)制作中に入社した、若手アニメーター。現在でも原画・動画・仕上げ・背景となんでもアグレッシブにこなしてもらっています。本人がもともと演出志望であると、面接時からそう言っていました。という訳で、今回は「脚本やってみる? 俺が面倒見ることが条件になるけど」と誘ったところ、「いいんですか!?」と。やりたいと言ってくれるのなら、ガッツリ最後まで付き合っていただこう! で、ちょっと背伸びさせるつもりで“脚本・コンテ・演出1本まるまる”任せてみました。
ちなみにそれを言うと「アニメーター3年目で脚本・コンテ・演出なんてやらせ過ぎだろ!」と仰る業界人(特に我々同世代より上)が必ずいらっしゃいます。でも考えてみて下さい。我々が20代だった頃の数倍(小さいのを入れると10倍以上?)の本数のアニメが作られてる昨今、それに対し業界全体でアニメーターの人数は30年以上変わっていないと聞いています。ということは各制作チーム(会社)が業界全体の人材を互いで奪い合ってアニメ作ったって、現状付け焼き刃に過ぎません。なぜなら我々団塊ジュニアが早ければあと10年もすると使いものにならなくなるからです。さらにそれにオーバーラップして、2000年以降の出生数から計算しても“アニメーターを目指す人”自体が減り続けるのは間違いないと思います。加えて“働き方改革”による労働時間制限では、
40年は続いたであろう旧態依然とした“監督1人に脚本3〜4人、演出6人、以外作業者100人”のなだらかなピラミッド体制で作り続けられるハズがありません! 脚本家・演出家の権威どーのこーのなんて言ってる場合じゃない!
でしょう。よって、ウチは複数の役職を掛け持ちしてもらうのであり、全員時給換算の社員雇用であればこそ可能な作り方です。業務委託のアニメーターに作画以外の仕事を振るのはルール上NGなので。
実作業の話に戻ります。脚本作業は初めてにしては順調でした。もちろん、シリーズ構成の立場からホン読み(脚本打ち)で少々揉ませてもらいましたが、長谷川さん自身賢い人なので特段問題なく普通にこなしてくれました。
続いてコンテ。こちらは数回に割って、それぞれのブロックでラフ段階に修正・アドバイス入れて戻す。それを反映させた清書を彼女が上げて行く、な感じでチェックしました。基本、長谷川さんのやりたいことをベースに、俺の方が「こう見せたいならカット割った方が作画しやすい」とかの部分修から、「このシーンのカット割りはこう!」などと大きな流れから直したものまであったりしましたが、長谷川さんのは他話数のコンテに比べると比較的直しが少なかったように思います。どちらかと言うと、凝り過ぎている芝居内容を「ここ止めて」「ここBG ONLYのOFFで」などの整理してた感じの修正でした。
レイアウト・原画のチェックは田辺(慎吾)監督が長谷川さんにアドバイスをしていたようです。自分、任せるところは大雑把に任せる性格です。
が、任せっぱなしには絶対にしません! 納品前のリテイク作業は自分が仕切り、且つ手伝いました。例えば、“沢田先生の髪の毛クルクル”はラッシュ(撮影上がり)を見て、動画の(と言うより原画から)の上りが良くなかったので、俺の方が仕上げデータに直修正を入れて、長谷川さんに仕上げてもらいました。他ディティールの甘い部分の修正も同様に板垣修正・長谷川仕上げでやりました。最後は前回話題にした“撮影張り付き”も。
あと印象的なのは、長谷川さん演出・作画の料理のシーンや食材のディティールの描き込み、大変良かったと思います!
そして、3話でも見事な“投げアクション”を描いてくれた篠衿花さん、今回は“熊の投げ飛ばし”で大活躍!ありがとうございました!
はい、また次週へ。
「ANIMATOR TALK」はアニメーターの方達に話をうかがうトークイベントシリーズです。今回は『機動警察パトレイバー[劇場版]』『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』等で知られる黄瀬和哉さん、『NARUTO ‐ナルト‐』『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』等を手がけた西尾鉄也さんをゲストに迎えて開催します。
お二人がリスペクトするアニメーターについての話を中心にトークをしていただく予定です。
開催は10月8日(日)昼。会場はLOFT/PLUS ONEです。チケットは9月19日(火)18時から発売。購入方法についてはLOFT/PLUS ONEのサイトをご覧になってください。 また、会場では「黄瀬和哉 アニメーション画集」「西尾鉄也画集」のサイン本を販売する予定です。
イベントは「メインパート」のみを配信します。配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。このイベントに関してはアニメスタイルチャンネルでの配信も期間限定となる予定です。
なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。
■関連リンク
LOFT/PLUS ONE
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/plusone/263599
■商品情報
【アニメスタイルの新刊】「黄瀬和哉 アニメーション画集」の一般販売が開始!!
http://animestyle.jp/news/2018/08/21/14114/
西尾鉄也の集大成「西尾鉄也画集」ネット書店、一般書店で9月26日発売!
http://animestyle.jp/news/2016/08/16/10363/
第212回アニメスタイルイベント | |
開催日 |
2023年10月8日(日) |
会場 |
LOFT/PLUS ONE |
出演 |
黄瀬和哉、西尾鉄也、小黒祐一郎 |
チケット |
会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,500円、当日 1,800円(税込・飲食代別) |
■アニメスタイルのトークイベントについて
アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。
9月23日(土)と30日(土)に、新文芸坐とアニメスタイルの共同企画で『機動警察パトレイバー[劇場版]』『機動警察パトレイバー2 the Movie』を上映します。いずれの作品も押井守さんが監督を務めた傑作です。両作ともサウンドリニューアル版での上映となります。
23日(土)は上映前に、作画監督を務めた黄瀬和哉さん、プロデューサーの石川光久さんのトークを予定。聞き手はアニメスタイル編集長の小黒が務めます。
23日(土)分のチケットは16日(土)から、30日(土)分のチケットは23日(土)から発売となります。発売方法については、新文芸坐のサイトで確認してください。
【新文芸坐×アニメスタイル vol. 166】 |
|
開催日 |
2023年9月23日(土)14時~18時35分 |
会場 |
新文芸坐 |
料金 |
2023年9月23日(土) 一般 2800円、各種割引 2400円 |
トーク出演 |
黄瀬和哉(アニメーター)、石川光久(プロデューサー)、 |
上映タイトル |
機動警察パトレイバー[劇場版](1989/99分) |
備考 |
※トークショーの撮影・録音は禁止 |
●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/
『コブラ』の原作(ジャンプコミックス版)を全巻持っています。自分の場合、週刊少年ジャンプ連載時にリアルタイム読みするには、年齢的にちょっと子供だったので、出﨑統監督のアニメ——しかも再放送ぐらいから(中学生?)ハマった感じで、そこから全18巻揃え、何回も読み返していました。その後『MIDNIGHT EYEゴクウ』も大好きで、こちらも全巻持ってます! どれもカッコよくて、男なら皆寺沢作品が好きだったと思います。
『コブラ』の原作者・寺沢武一先生のご冥福を心からお祈り申し上げます
そして、『いせれべ』話の続き。
7話の脚本は2話と同じ竹田裕一郎さん!
脚本(シナリオ)の竹田裕一郎さん——自分とは『砂ぼうず』(2004)、『BLACK CAT』(2005)の連投で御一緒しました。当時、連絡先を交換しないままお別れしてその後ご縁がなかったのですが、今回、前述の筆安一幸君(6話・脚本担当)より、ホン読み(脚本打ち)前に「板垣さん、竹田さん知ってますよね、声掛けましょうか?」と切り出され今回の運びに。つまり、もともと筆安君が竹田さんと繋がっていたお陰で、またお仕事できました、感謝です! 筆安君も竹田さんも、様々なタイトルをこなしてきたベテランの貫禄で、仕事が早く助かりました。
この7話はルナ初登場で、木村(博美)総作監が結構粘っていた気がします。自分の方は、他話数同様アクション原画~レイアウト全般のフォロー。あと、この辺りから“撮影張り付き”が仕事のメインに入ってきました(汗)。撮影張り付きとは本来、原画と一緒に提出される撮影指定やタイムシートでそのカットで欲しい画面処理、光や影・カメラワークなどを指示するのが基本なのですが、今作みたいに画ができ上がってからのリテイクが少々多い場合、時間的に間に合わせるためのショートカットとして、
撮影監督・撮影スタッフのモニターに向かい、そこに張り付いて直接指差し指示をする!
という、撮影スタッフによっては嫌がる人は嫌がる強行演出スタイルです。
が、今回は撮影が物理的にウチの上の階にある白石社長のもう一つの会社──lxlxl(エルエルエル)だったからできた技(?)でした。つまり、階段上れば指示出しに行ける理想的な環境だった訳で、最終回まで納品前日は張り付きまくりました! ありがとう、田中翔太君、大見有正さん!
撮影張り付きの話が出たついでにぶっちゃけると、この話数も納品前の直しがかなり大変でした。前半はBG(背景)修正、2話や5話と同じく森が“大魔境になっていない!”と、また俺も参加して直し、後半は現実世界での校外学習。こちらはバス内のシーンから、モノによってはレイアウトから全修正も。現実世界の森や川周りは、またまた中島楽人君や長谷川千夏さんにBG修正を助けてもらい(ありがとう!)、さらに他話数と同じく俺の要望に合わせて、木村総作監がレイアウト・原画から容赦なく描き直してくれたので、何とか事なきを得られました。スタッフの皆本当にありがとう!
じゃ、また次週へ。
アニメスタイルが8月に刊行した「磯光雄 ANIMATION WORKS preproduction」は磯光雄さんが描いた企画書、アイデアメモ、シナリオ、設定、絵コンテ等をたっぷり収録した資料集です。この書籍の刊行を記念してトークイベントを開催します。磯光雄さんに今までのお仕事を振り返っていただきます。
開催は9月23日(土)夜。会場は阿佐ヶ谷ロフトA。チケットは9月16日(土)正午12時から発売。購入方法については、ロフトグループのサイトをご覧になってください。なお、今回のイベントは現在のところ、配信を予定していません。
■関連リンク
LOFT https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/263312
LivePocket(チケット) https://t.livepocket.jp/e/6910-
■商品情報
「磯光雄 ANIMATION WORKS」第3弾の予約受付開始!コミックマーケット102で先行販売!
http://animestyle.jp/news/2023/07/20/24746/
第211回アニメスタイルイベント | |
開催日 |
2023年9月23日(土) |
会場 |
阿佐ヶ谷ロフトA |
出演 |
磯光雄、小黒祐一郎 |
チケット |
前売 1,500円、当日 1,800円(税込・飲食代別) |
腹巻猫です。劇場アニメ『君たちはどう生きるか』は、観た直後はお腹一杯と思いながら、しばらく経つとまた観たくなるふしぎな作品です。「面白いからリピートする」のとはちょっと違う(面白いのですが)。観ると心の奥をかき回され、「死と再生」を体験したような気持ちになります。そう感じる理由は、これまでの宮崎アニメとは異質のストイックな音楽にもありそうです。
『君たちはどう生きるか』は2023年7月に公開されたスタジオジブリ制作の劇場アニメ。
『風立ちぬ』以来10年ぶりとなる宮崎駿監督の長編劇場アニメであり、公開前に内容を一切明かさない大胆な宣伝手法も話題になった。
第二次世界大戦中の日本。病院の火事で母を亡くした少年・眞人(まひと)は、父とともに東京を離れ、母の実家に疎開する。そこには父の再婚相手で、母の妹である夏子が待っていた。新しい母にも疎開先の学校にもなじめない眞人は、奇妙な青サギによって森の中の古い洋館に導かれ、生と死が混然一体となったふしぎな世界へと迷い込んでいく。
音楽は宮崎アニメになくてはならない作曲家・久石譲。
宮崎アニメでおなじみだった、親しみやすいメロディと大編成のオーケストラを使った音楽とはがらりと作風を変え、久石譲の原点でもあるミニマルミュージックの手法を取り入れた音楽で、全編を演出している。
サウンドトラックのブックレットには、宮崎監督と鈴木敏夫プロデューサーのコメントが掲載され、久石譲が映画音楽をミニマルミュージックで統一したことへの驚きが表明されている。
しかし、本作の音楽のすべてがミニマルミュージックかと言われると、たぶん違う。少なくとも、テリー・ライリーやスティーブ・ライヒに代表されるようなスタイルのミニマルミュージックばかりではない。単純な音型の反復がミニマルミュージックの典型だとしたら、『君たちはどう生きるか』の音楽には、わかりやすいメロディを持つ曲もあるし、どんどん展開していく曲もある。ただ、どの曲も編成は薄く、音数も少なく、メロディも控えめ。大きく盛り上がる展開もない。「ミニマルミュージックの手法を取り入れた音楽」で全編が彩られているのはたしかだ。
ミニマルミュージックは久石譲の原点である。久石は過去の映像音楽作品でもミニマルミュージックの手法をたびたび使っている。まず思い出されるのは『風の谷のナウシカ』(1984)の腐海の曲。シンセサイザーによる単純なフレーズの反復はまさにミニマル的だった。OVA『BIRTH』(1984)ではロックとミニマルの融合とも呼べる音楽が聴けるし、『となりのトトロ』(1988)ではミニマル的な音楽が幻想と隣り合わせの童話的な日常を演出していた。ふしぎな感じや浮遊感を表現するのに、ミニマルミュージックの手法は有効なのである。
また、余分な音をそぎ落としたミニマル的な音楽は、映画音楽の手法として古くから使われている。シンプルな旋律で淡々と奏でられるピアノソロの曲などは、繊細な心情描写や静かな情景描写に効果を発揮する。坂本龍一の晩年の映画音楽が、そういう、音を極限まで減らしたストイックな音楽だった。
しかし、それは作品のテーマや演出が要求した必然的な音楽スタイルである。
『君たちはどう生きるか』で驚くのは、ふつうならミニマル的な音楽がつくとは思えないシーンもミニマル的な音楽で通していること。
たとえば、映画の冒頭、母を亡くした眞人が東京を離れて疎開するシーン。眞人の気持ちに寄り添うなら悲しい曲や不安な曲をつけるところだが、穏やかなテーマ「Ask me why」が静かに流れる。また、クライマックスの世界崩壊シーン。劇場アニメ『銀河鉄道999』の惑星メーテル崩壊シーンのような壮大な曲が流れそうなのに、最小限の音で演出している。従来のファンタジー作品の音楽を思い浮かべると、とても「らしくない」音楽なのである。
本作におけるミニマル的な音楽は、演出の必然から採用されたスタイルというより、もう少し大きなコンセプト、もしくは、ある種のこだわりから採用されたスタイルだと思うのだ。
音楽打ち合わせで宮崎監督と話した久石譲は、本作が監督の自伝的要素が強い作品だと理解し、それならピアノ1本とか、シンプルに主人公の心に寄り添う音楽がよいかもしれない、と提案したという。そこからミニマルミュージックという発想が自然に出てきた。
久石譲は2000年代後半からミニマルミュージックに回帰する姿勢を見せ、オーケストラと共演したミニマルミュージック・アルバム「ミニマリズム」のシリーズを意欲的にリリースしている。一連のアルバムでは「シンプルなフレーズのくり返し」にとどまらない、ミニマルミュージックの久石譲流の解釈を聴くことができる。こうした挑戦、あるいは実験が、本作の音楽の下地になったのだろう。
が、それだけで作品全体をミニマル的な音楽で彩るのは冒険である。
本作の手法を予感させる作品があった。2019年に公開された劇場アニメ『海獣の子供』だ。この映画を観たとき、久石譲の音楽に大きな感銘を受けた。見せ場となる幻想的なシーンをピアノを使ったミニマル的な音楽で演出している。生命の神秘に迫る作品のテーマと音楽がみごとにマッチして、新鮮な体験をもたらしてくれた。
久石譲はこの作品で、ファンタジーでもミニマルミュージックの手法が有効だと手ごたえを感じたのではないか。
もうひとつ忘れてはならない先行作品がある。高畑勲監督の遺作となった『かぐや姫の物語』(2013)である。高畑監督と初めてタッグを組んだこの作品で、久石譲は「登場人物の気持ちを表現してはいけない」「状況につけてはいけない」「観客の気持ちをあおってはいけない」と求められたという。
『君たちはどう生きるか』の音楽は、まさしく、気持ちを表現せず、状況を説明しない音楽である。表現も説明もしない音楽を聴いていると、観客は無意識に、この場面は何を表現しているのだろう、どういう意味なのだろう、と考える。
音数を減らし、メロディを抑え、シンプルなフレーズのくり返しで紡いだ音楽は、観客に「この作品をどう観るか」と問いかけてくるようだ。
本作には謎が多い。音楽もまた、観客に向けて放たれた謎である。
本作のサウンドトラック・アルバムは「君たちはどう生きるか サウンドトラック」のタイトルで、2023年8月9日に徳間ジャパンコミュニケーションズから発売された。収録曲は以下のとおり。
鈴木敏夫がライナーノーツに面白いことを書いている。
久石譲は毎年、宮崎駿の誕生日に新曲をプレゼントしている。それのほとんどがミニマルミュージックだった。そして、本作には宮崎駿にプレゼントした曲が使われているというのだ。
ただし、そのプレゼント曲は基本的に公開されていないので、全貌はわからない。が、このエピソードだけでも、本作の音楽が従来の宮崎アニメとは違う形で作られたことがうかがえる。
1曲目の「Ask me why」は本作のメインテーマと呼べる曲。ピアノソロと薄いストリングス、パーカッションで奏でられる。シンプルな音とフレーズで構成された曲は、ミニマル的ではあるが、温かく、心を動かす。映画の重要な場面で、この曲の変奏が登場する。本作のタイトルは「君たちはどう生きるか」なのに、曲名は「私に理由をきいて」。これも音楽に秘められた謎のひとつだ。
トラック2「白壁」は落ち着いたトーンのピアノソロの曲。眞人が疎開先の屋敷に到着する場面に流れた。これもミニマル的ではあるが、むしろサティが書いた「家具の音楽」に近い印象がある。
トラック3の「青サギ」は、主人公・眞人を旅に導き、ときにはトリックスターの役割も果たす青サギの登場シーンに流れる曲。初めて登場したときはピアノが短いフレーズを奏でるだけだが、「青サギII」(トラック5)、「青サギIII」(トラック8)と、くり返し登場するたびに曲が長くなっていく。単純なフレーズとリズムで構成されたミニマル的な曲である。「青サギIII」では眞人の動揺にあわせて曲が展開し、典型的なミニマルミュージックのスタイルからは逸脱していく。が、心がしだいに波立っていくような感じは、ミニマル的な曲想の効果である。
青サギと眞人が池で対峙する場面に流れたトラック10「青サギの呪い」も「青サギ」の変奏。眞人と青サギが対話し、眞人の動揺は最高潮に達する。「青サギ」から順に聞いていくと、ミニマルな響きが徐々にダイナミックに変化していくようすが興味深く面白い。一連の青サギの曲は「青サギのテーマ」というより、青サギが象徴するなにか、おそらく「異界」を表現している。眞人が青サギとともに旅を始めてからは、このテーマは聴こえなくなる。
トラック11「矢羽根」は筆者が魅力を感じた曲のひとつ。眞人が弓と矢を自作するシーンに流れていた。ストリングスとピアノ、フルートなどが、単純な音型をくり返す曲だ。弦のピチカートがアクセントになっている。大きな起伏も展開もない曲想は、とてもミニマル的で気持ちいい。こういうモンタージュ場面にもミニマルミュージックは合っている。
トラック13「ワナ」は眞人が古い洋館の奥に誘い込まれ、偽物の母を見つけるシーンに流れる曲。ふつうなら緊迫感に富んだ音楽で盛り上げるところだが、ここでも音楽はミニマル的。ストリングスやピアノがシンプルなフレーズをくり返す構成が、張り詰めた緊張感を醸成する。観客は「なにが起こっているのか」と息を呑んで見つめることになる。「青サギの呪い」の発展形とも呼べる曲である。
次の曲「聖域」(トラック14)がいい。眞人の前に広がる異世界の情景。ファンタジー作品の常道なら、幻想的で壮大な音楽を流すところだ。久石譲が付けた曲は、ピアノが淡々と同じ音型を奏で続ける、静謐とも呼べる音楽。ミニマルミュージックの手法がこの上ない効果を上げている。静かで、感情的でないからこそ、生と死が混然となったふしぎな世界の印象が伝わってくる。本作の音楽の聴きどころのひとつだと思う。
ここから本作の主な舞台は異世界になるわけだが、音楽のトーンは変わらない。現実世界と異世界とで、音楽を分けていないのだ。
緊迫した場面に流れる「墓の主」(トラック15)、「箱船」(トラック16)なども、ミニマル的なアプローチを崩していない。
後半の音楽の中でもほっとするのが、丸くふわふわした生き物ワラワラにつけられた曲「ワラワラ」(トラック17)。シンセサイザーとパーカッションを主体にした可愛い曲である。ミニマル的な曲想をベースに、声やリズムを加えて、ユーモラスな味を出している。これまでの宮崎アニメに登場した、小さくふしぎな生き物たちを連想させる曲だ。
後半の音楽で印象的なのが、火を操る娘ヒミにつけられた曲。女声ヴォーカルが歌うモティーフが「火の雨」(トラック19)の終盤に初めて登場する。「炎の少女」(トラック25)では、そのモティーフがくり返され、活気のある神秘的な娘ヒミのイメージを印象づける。エキゾティックなフレーズのくり返しは呪文のようでもあり、祈りのようでもある。「回廊の扉」(トラック27)はその変奏で、ピアノとコーラスだけのアレンジによって神秘性が増している。
女声ボーカルが入った曲想に『風の谷のナウシカ』の「ナウシカ・レクイエム」を連想する人もいるだろう。本曲のボーカルも「ナウシカ・レクイエム」と同じ麻衣(久石譲の娘)が担当している。ヒミは本作のヒロインと呼べるキャラクター。ナウシカの曲との相似は偶然ではないはずだ。
眞人が夏子と再会するシーンに流れる「祈りのうた(産屋)」(トラック29)は原典が判明している。2015年にリリースされたアルバム「ミニマリズム2」に「祈りのうた for Piano」という曲が収録されているのだ。メーカーによるアルバムの説明には「戦後70周年を迎えたこの日本のために書かれた」とある。もともとは久石譲が宮崎駿にプレゼントした曲だという。このシーンの映像はドラマティックだが、音楽はストイックで、内面に深く斬り込んでいくようなすごみがある。
「大叔父」(トラック30)は、旅路の果てに眞人が対面する大叔父の曲。パーカッションのリズムにピアノの強いアタック、ストリングス、木管などが重なり、大叔父の存在感を示す。明快なメロディはなく、ミニマル的な進行だ。「大叔父の思い」(トラック33)はその変奏。インコ大王と大叔父が世界の後継者をめぐって対峙するシーンに流れる。音楽は緊迫感をあおらず、ストリングスと木管による単純な音型のくり返しで、観客にこの場面を静かに見守ることをうながす。
そして、クライマックスの曲「大崩壊」(トラック35)。これも大叔父のテーマの変奏である。「大崩壊」というタイトルに反して、悲壮感やスペクタクル感は感じられない。このシーンが哀しみよりも希望に彩られているという事情もあるだろう。無駄な音をそぎ落としたミニマルな音楽を聴きながら、観客は大崩壊の意味と、その先にある眞人たちの人生に思いをはせることになる。
「最後のほほえみ」(トラック36)は本作を締めくくる曲。ストリングスとピアノ、パーカッションなどによるモティーフのくり返しが、いくたびも打ち寄せる波を思わせる。ミニマルというより、オスティナートと呼ぶほうがふさわしいように思える。オスティナートは同じフレーズを反復する手法で、音楽史的にはミニマルミュージックよりも古くからある。終幕に至って、久石譲はふたたび気持ちを表現する音楽、観客の情感を刺激する音楽に回帰したように感じた。この曲は眞人たちを、そして観客を、異界から現実へ送り出す役割を果たしている。
久石譲は、なぜ本作の音楽をミニマルミュージックの手法で通したのか。
作品を説明しないため、シーンに意味を与えないためだと筆者は思う。観客それぞれの頭と心で、考え、感じ取ってもらうためだと。
もちろん、音楽に(作品にも)正解はない。このコラムも筆者が妄想した考察のひとつにすぎない。
この音楽を君たちはどう聴くか。
君たちはどう生きるか サウンドトラック
Amazon
昨日発表があったので、ちょっと解禁。ミルパンセの次のシリーズは
『沖縄で好きになった子が方言すぎてツラすぎる』(略称『沖ツラ』)
になります!
また少々長めのタイトルで、沖縄が舞台のコメディてとこまでで、後は続報をお待ちください。ちなみにちょくちょく話題にしていますが、さらにこの次の作品も準備中。そちらは今まで自分がやってこなかったジャンルで、脚本(シナリオ)が半分上がった(折り返し地点を越えた)ところです。
正直、50を目の前にしてこんなに忙しくなるとは思っていなかった(汗)。「もっと早くに振ってくださればよかったのに!」「何で10年前に持ってきてくれなかったの?」などと、現状非常にアタフタ中。
で、『いせれべ』話の続き。
【5話は監督・田辺慎吾君の脚本・コンテ・演出、
たくらんけさんのグロス話数!】
脚本(シナリオ)の割り振りの際、「小動物のモフモフがやりたい!」と田辺君自ら名乗り出たのを記憶しています。たくらんけグロスは毎回安定の出来で、非常に有り難いです。俺的には脚本より、コンテ・作画段階で少々手を出しました。ひったくり犯を捕まえる辺りの優夜&ナイトとか。“ひったくりを追いかけるナイト”は久々に描いた動物の走りでした。同じくアクション系では大魔境でクリスタル・ディアー(鹿型の魔物)に爪を振り下ろすナイトも板垣が原画を描き直しました(放映前のPVでも使用したカットです)。あと、木村(博美)総作監の修正が入ったナイトは、毛並みも骨格もめちゃめちゃリアルでカッコよかったですね。
【6話は作画監督・吉田智裕君のコンテ・演出話数!】
この話の脚本は『ベン・トー』(2011)で一緒にやった筆安一幸(ふでやすかずゆき)君で、お久し振り! 脚本時に手は入れてないのですが、コンテ時に“非常階段と警備員の件”を追加しました。“退路を断たれた優夜”を画的に分かりやすくするためです。非常口を通れなくしないと、大炎上中の10階フロアを横切らなきゃならない必然がなくなってしまうので。
その大炎上と床ぶち抜き・超全力疾走など、6話のアクションシーンを担当したのが社内の中堅アニメーター・森亮太君。彼のシーンはキャラ修正こそ入るものの、動きはほぼそのまま。他話数のアクションも森君大活躍しています。
あと、ノンクレジットですがコンテは俺の方でそれなりに修正させてもらいました。やっぱ、これも学園の生徒だ、デパート客だと“モブ”で苦労した話数。最後、女子たちの救出劇~消化後の大団円辺りの消防隊員や救護班などのシーンも撮影上りを観て「これじゃあマズい」と、自分と木村でレイアウトから大直し——大変でした。モノによっては、あまり大きな声では言えませんが、
納期までに修復可能なアングルにカット内容自体コンテから組み直し
もしました。他話数も同様なのが何箇所もあります。それに合わせて現場(社内)の動画・仕上げスタッフもギリギリまで付き合ってくれて、感謝しかありません。
そして、また次週へ。
突然ですが、9月9日(土)の昼にトークイベント「第210回アニメスタイルイベント アニメマニアが語るアニメ60年史」を開催します。急な告知になってしまってすいません。
アニメスタイル編集長の小黒祐一郎が、独自の視点で1963年の『鉄腕アトム』から現在までのアニメの歴史について語ります。主にはアニメファン(アニメマニア)の視点による歴史になります。「アニメ制作における3大革命」や「作品とファンの再構築があった」など、目新しい話もあるはずです。
話の聞き手はプロデューサーとして活躍し、かつてはアニメージュの編集者として腕を振るっていた高橋望さんにお願いします。なお、今回のトークの内容を加筆修正して書籍化するかもしれません。
会場はLOFT/PLUS ONE。イベントは「メインパート」の後に、ごく短い「アフタートーク」をやるという構成になる予定です。配信もありますが、配信するのはメインパートのみです。
配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。
チケットは既に発売中。チケットについては、以下のロフトグループのページをご覧になってください。
■関連リンク
LOFT https://www.loft-prj.co.jp/schedule/plusone/261936
第210回アニメスタイルイベント | |
開催日 |
2023年9月9日(土) |
会場 |
LOFT/PLUS ONE |
出演 |
小黒祐一郎、高橋望 |
チケット |
会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,300円、当日 1,600円(税込・飲食代別) |
『いせれべ』4話はREVOROOTさんのグロス話数!
非常に助かりました! ありがとうございます!
REVOROOTさんの演出・作画、サッカーシーンも女子更衣室シーンも総作監が入っていない段階でも安定のクオリティで素晴らしかったです。
コンテは俺が直接切り(描き)ました。他話数もコンテのチェックは全部自分でやってたのですが、一からやったコンテはこれだけ? な気がします。ま、部分的にアクション部分とかを、最初から俺の方で引き取った話数(10話とか)もありますが、1本まるまるはこの4話のみ。
自分の中にある監督の仕事での一番は、コンテの主導権を握ること! その考えでここ10年続けてきた“基本全話コンテ”を『いせれべ』では自ら封印。それは今作が板垣の“総監督デビュー”作だから。
里見哲朗P(今回はプロデュース協力)より、もう何年も前から助言されていたやり方です。里見P曰く、
板垣さんは最前線に立ち過ぎ! むしろ最後列で援護する作り方をやってみては?
と。これは彼の会社、ライデンフィルムで制作した『劇場版 カードファイト!!ヴァンガード ~ネオンメサイア』(2014) の監督を終えた後辺りから『COP CRAFT』(2019)の時も同様のことを言われてたので、今回はあくまで総監督。
つまりコンテの前——シナリオ(脚本)段階で押さえて、コンテは別の人に撒き、その上りを修正する、です。
そんな中4話はスケジュール的に適当な描き手が見つからず、自分に回ってきた訳。ま、久々に“白紙のコンテ用紙”に向かうのは新鮮だった、という1本でした。
また次回~。
腹巻猫です。SOUNDTRACK PUBレーベル第33弾「愛の若草物語 音楽集」を8月30日に発売します。TVアニメ『愛の若草物語』の音楽(BGM)を収録した初のCDアルバムです。試聴用動画も公開中ですので、ぜひお聴きください!
『愛の若草物語』は1987年1月から12月まで放送されたTVアニメ。日本アニメーション制作による「世界名作劇場」第13作にあたる作品である。
原作はルイザ・メイ・オルコットが1868年に発表した小説『若草物語(Little Women)』。くり返し映像化されてきた古典的名作である。日本でも何度かアニメ化されており、1980年に東映動画制作のTVアニメスペシャル『若草物語』が、1981年に国際映画社制作のTVアニメ『若草の四姉妹』全26話が放送されている。同じ原作を全48話のTVシリーズとして映像化した『愛の若草物語』は、再放送や映像ソフト化の機会も多く、もっとも親しまれているアニメ作品だろう。
舞台は南北戦争末期のアメリカ合衆国。マーチ家の四姉妹——メグ、ジョオ、ベス、エイミーは、従軍した父の帰りを待ちながら母とともに家を守っている。つつましい暮らしの中で、母の愛情に包まれて成長していく個性豊かな四姉妹の物語である。
監督(演出)は『小公女セーラ』を手がけた黒川文男。脚本は『ペリーヌ物語』『トム・ソーヤーの冒険』などの宮崎晃。そして、メインキャラクターのデザインは『赤毛のアン』の近藤喜文。主人公ジョオを演じるのが『赤毛のアン』でアン・シャーリーを演じた山田栄子ということもあって、当時、楽しみに観ていた思い出がある。
音楽は大谷和夫が担当した。大谷和夫といえば、ロックバンドSHOGUNのキーボーディスト、作編曲家として活躍し、ドラマ「探偵物語」やアニメ『CAT’S・EYE』などの音楽を手がけた人物。軽快なアクションものが得意な印象があったので、名作劇場への登板は意外にも思えた。しかし、これがすばらしいのである。
オーケストラを使ったクラシカルな音楽を基調としながら、リズミカルな曲やジャズ風の曲を忍ばせてくる。後期にはシンセサイザーを使った曲もある。優雅でありつつ、快活でモダンな響きをまじえた音楽が、四姉妹のキャラクターにぴったりだった。
音楽全体を見て気づくのは、本作にはキャラクターテーマにあたる曲がないこと。四姉妹のテーマや、ジョオたち1人ひとりのテーマは設定されていない。その代わり、心情や状況を表現する曲がふんだんに作られて、シーンに応じて使用されている。原作もそうだが、本作は本来、四姉妹全員が主人公と言える作品。特定のキャラクターにフォーカスしない音楽設計は作品の性格に沿ったものと言えるだろう。
また、オリジナル音楽にまじって「故郷の人々(スワニー川)」「草競馬」といったフォスターの楽曲が挿入されているのも特徴のひとつ。『トム・ソーヤーの冒険』でも同様の試みがされていたが、本作ではフォスターの曲のフレーズをBGMに引用したり、ベスが弾くピアノの曲としてフォスターの曲(やショパンの曲)が登場したりと、より物語に密着した使い方がなされている。音楽が四姉妹の生活に溶け込んでいるのだ。
さて、本作の音楽(BGM)の商品化は、放送当時キャニオンレコードから発売されたアルバム「愛の若草物語 音楽編」が初。同アルバムには、主題歌・挿入歌4曲、BGM18曲が収録されていた。挿入歌2曲はのちに後期主題歌として使用されている。以来、主題歌はたびたびCD化されたものの、BGMは一度も再録の機会に恵まれなかった。
今回発売される「愛の若草物語 音楽集」は本作のBGMを収録した初のCDアルバムである。初商品化曲も含めたBGM全曲をステレオ音源で収録した。放送当時のアルバムを聴いて「18曲ではもの足りないなあ」と思っていた方も、きっと満足していただけるはずだ。
収録曲は下記を参照。
https://www.soundtrack-lab.co.jp/products/cd/STLC052.html
構成は筆者が担当した。
ストーリーに沿った曲順とし、ディスク1を第1話〜第20話、ディスク2を第21話〜最終話のイメージでまとめた。
ディスク1でまず注目してほしいのは、オープニング主題歌のすぐあとに収録した「マーチ家の四姉妹」(トラック7)から「不安な影」(トラック14)までの8曲。いずれも第1話で流れた音楽である。実は第1話の音楽は映像にタイミング合わせたフィルムスコアリングで作曲されているのだ。四姉妹が1人ずつ登場するシーンの「マーチ家の四姉妹」は場面転換やキャラクターの動きに合わせて次々と曲調が変化する。それが姉妹の生き生きとした表情や動作を思わせて楽しくなる。トラック13「ピクニック」では軽快で楽しげな曲調が、終盤で不安な曲調に変化する。これもシーンの展開に合わせたものである。
トラック20「戦争の足音」からトラック22「燃える街」までの3曲は、ほかの楽曲とは雰囲気が異なるサスペンスタッチ、ミリタリータッチで書かれている。南北戦争の描写や兵士の登場場面に使われた音楽だ。街が戦火に包まれるなど、世界名作劇場らしからぬ緊迫した場面が描かれているのが、本作の前半エピソードの特徴。それを象徴する音楽である。
トラック23「さよならふるさと」からトラック28「新しい町」までは、マーチ一家が故郷を離れてニューコード(原作ではコンコード)に引っ越すまでをイメージした構成。トラック26「明日への希望」は、試聴用動画の1曲目で紹介した、さわやかで躍動感のある曲。本作の代表的な楽曲のひとつである。放送当時発売された音楽編アルバムにも収録されていたから、記憶に残っている人も多いのではないだろうか。次の「ふるさとを離れて」(トラック27)はフォスターの「故郷の人々」を引用した曲。原曲のノスタルジックな雰囲気よりも旅立ちの期待感を強調した楽曲になっている。
ディスク1の後半はニューコードに住まいを構えた四姉妹の日常をバラエティに富んだ曲で表現してみた。
トラック32「ジョオは怒りん坊」は第9話のジョオと新聞記者アンソニーのやりとりのバックに流れたコミカルな曲。お隣の少年ローリーとの友情を快活な曲調で表現する「友情」(トラック36)、エイミーのユーモラスなシーンに流れた「おしゃまなエイミー」(トラック38)などを挟み、もの憂く大人びたムードの「夢みる乙女心」(トラック41)がメグやジョオの繊細な心情を表現する。
次の曲からがディスク1のクライマックス。華やかなワルツを3曲続けた。
舞踏会にあこがれるメグやジョオの場面に流れた「舞踏会に行けたら」(トラック42)と「初めての舞踏会」(トラック43)、そして、速いテンポで新生活への期待と希望を表現する「明るい新天地」(トラック44)である。
四姉妹のちょっと背伸びしたロマンティシズム、少女たちが憧れる華麗な世界を表現していたのが、こうしたワルツの曲だった。ワルツの曲はディスク2にも収録しているのでお楽しみいただきたい。
ディスク1の締めくくりに、女声スキャットをフィーチャーした「ニューイングランドのたたずまい」(トラック45)を配した。第11話でジョオがマーサおばさまと馬車で港へ向かう場面など、美しい情景とともに流れることが多かった曲だ。
本作のBGMで女声スキャットをフィーチャーしたのは5曲。音楽全体に占める割合は大きくはないが、要所に挿入されて強い印象を残している。ワルツとともに華やかな香りで『若草物語』らしさを演出したのが、女声スキャットの曲だった。
女声スキャットが入るほかの曲はディスク2に収録した。こちらもお楽しみいただきたい。
ディスク2は、原作の冒頭で描かれたクリスマスのエピソードで流れた曲から始まる。クリスマスの朝の情景を描写する「クリスマスの朝」(トラック3)、ごちそうを貧しいフンメルさんにあげて、パンとミルクだけの朝食を食べるマーチ一家の場面に流れる「愛の贈りもの」(トラック4)、マーチ一家の行動に感心したお隣のローレンス氏からプレゼントされた夕食にジョオたちが感謝する場面の「お父さまへのララバイ(Instrumental)」(トラック5)。マーチ一家の、とりわけ母メアリーの慈愛あふれる行動に感動するエピソードだった。
続いて、ピアノ好きのベスがローレンス氏からピアノをプレゼントされる、原作でも印象深いエピソードの曲をトラック6から4曲続けて収録。特に、はじけるようなベスのよろこびを表現する「美しい笑顔」(トラック8)とベスの純粋な気持ちが伝わる「胸いっぱいの幸せ」(トラック9)は、聴いていて幸せな気分になる。
ジョオとエイミーの仲たがいから始まり、ジョオの不注意からエイミーが氷の張った川に落ちてしまうエピソードは衝撃的。シリーズ中盤の大きな見せ場になった。トラック13「エイミーの傷心」〜トラック19「悲しみが癒えるまで」は、第29話から第30話までで描かれた一連のシーンを音楽で再現した。音楽だけ聴いても、なかなかドラマティックで感動的である。
メグとブルック先生との恋も本作の重要なエピソード。メグのゆれる想いをイメージして、「恋するメグ」(トラック23)、「ときめき」(トラック24)、「月夜のもの想い」(トラック25)とロマンティックなナンバーを収録した。この恋が実を結ぶシーンに流れたのがトラック44の「愛のともしび」。ピアノとストリングスによる甘く美しい曲である。
友人から舞踏会に誘われたメグのエピソードなどを経て、物語は、父の戦場での負傷、猩紅熱にかかって生死をさまようベス、と不安な展開が続く。けれど、最後はハッピーエンドが待っている。元気になった父が帰ってきて、ジョオたちは家族そろってクリスマスを迎える。帰宅した父と娘たちが語らうシーンに流れるトラック42「父と娘たち」は、やすらぎと愛情を感じさせるしっとりした曲。華やかではないけれど、とてもいい曲だ。
トラック48「父との再会」は、最終話で父の全快とメグの婚約を祝うパーティのシーンに流れた。次回予告にも使われたおなじみのメロディが長く演奏される。この曲も筆者が好きな曲のひとつ。クラシックにジャズの要素を加えたような、今風にいえばモダンクラシック的な曲である。大谷和夫の詳細な経歴は不明だが、マネージャーを務めていた早川泰氏は大谷和夫を「クラシックからジャズへ行った人」と語っている(『ニッポンの編曲家』DU BOOKSより)。その経験が生かされた曲だろう。
ディスク2の締めくくりとして、最終話のラストシーンに使われた「ジョオの旅立ち」(トラック49)を収録した。ジョオが作家をめざしてニューヨークに旅立つシーンに流れた、2分30秒を超える長い曲だ。おそらく当初から最終話での使用を想定して書かれたのだろう。
この曲の冒頭や中間部にはフォスターの「故郷の人々」のメロディが引用されている。そこで思い出してほしいのが、ディスク1のトラック27に収録した「ふるさとを離れて」。これも「故郷の人々」のメロディを引用した曲だった。2曲を比べると、「ジョオの旅立ち」の序盤部分は「ふるさとを離れて」とほぼ同じ構成であることがわかる。つまり、マーチ一家が故郷を離れて旅立つシーンに流れた曲を発展させたのが、ジョオが家族から離れて旅立つシーンに流れた曲だったのだ。1人汽車に乗るジョオの姿に家族の旅立ちの思い出が重なり、ジョオの成長を感じさせる。うまいなあ。
原作の続編以降を読んでいる方なら、あるいは、世界名作劇場第19作『ナンとジョー先生』(1993)をご覧になった方なら、ジョオがニューヨークで作家にならなかったことをご存じと思う。しかし、『若草物語』のマルチバースのひとつである『愛の若草物語』の世界の未来では、ジョオは作家になってバリバリ活躍しているのではないか。本作のラストシーンを観ると、そして、「ジョオの旅立ち」を聴くと、つい、そんなふうに思ってしまう。筆者がジョオの(そして山田栄子さんの)ファンだからでもあるんですけれどね。
愛の若草物語 音楽集
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9月に新文芸坐とアニメスタイルの共同企画で『妄想代理人』の一挙上映を開催します。上映は2回。9月3日(日)は15時50分にスタートして22時に終了。9月16日(土)はオールナイトで、22時30分にスタートして翌朝5時35分に終了です。16日(土)のオールナイトは上映前にトークを予定しています。トークの出演者は現在、調整中です。決まり次第お伝えします。
『妄想代理人』は故・今 敏さんが手がけた唯一のTVシリーズです。放映されたのは2004年で全13話。今さんの役職は原作、総監督。濃密な作品世界に加えて、TVシリーズだからこそのバラエティに富んだ物語構成も見どころです。
9月3日(日)分のチケットは8月27日(日)から、9月16日(土)分のチケットは9日(土)から発売となります。発売方法については、新文芸坐のサイトで確認してください。
【新文芸坐×アニメスタイル vol. 165】 |
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開催日 |
2023年9月3日(日)15時50分~22時 |
会場 |
新文芸坐 |
料金 |
一般 3000円、各種割引 2800円 |
トーク出演 |
安藤雅司(キャラクターデザイン)、 |
上映タイトル |
『妄想代理人』全13話(2004/325分/BD/全13話上映) |
備考 |
※トークショーの撮影・録音は禁止 |
●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/
『いせれべ』の直後に作った『アイドリッシュセブン 8周年 PV』(約100秒)!
が、公式YouTubeに上がってます。『いせれべ』制作中にバンダイナムコさんからお話をいただき、「まず社内でやりたい人はいるか、訊いてみたら?」と、社長・白石に。そこで「『アイナナ』やりたい!」と手を挙げた社員が今回コンテ・演出担当の八田能理子(旧・典子)さん。「志願者がいたなら、自分が面倒みるからやらせてみたら?」というのが始まり。
コンテに関してはカメラワークのコツやアングルのアドバイス程度で、特に手出しはしていません。むしろ、コンテが通ってレイアウト・原画チェック辺りから、少々手出しをし始めました。
『いせれべ』から引き続き、総作画監督は木村博美さん。今短編でもその力は遺憾なく発揮されました! 超シャープで美麗な仕上がり、これからまだまだ巧くなることでしょう。で、いつもの如く、最終的には頼まれて自分も原画のお手伝い。
やっぱり、単なる監修で済むはずもありませんでした!
例えば、「三日月斬り」や「吹雪と桜吹雪エフェクト」など(ムービーを観ていただければ直ぐ分かります)は、板垣が描きました。その他、必要に応じてあちこち参考アタリを入れたり、と。最終的な役職クレジットはアニメーションプロデューサー。
使用動画枚数はリテイクを含め3000枚ほど。動画の中割り1枚1枚にも拘る木村のチェックに、社内の動画スタッフもよく頑張ってくれて、大変な力作にしあがったと思います。是非観て下さい!
で、今回いつにも増して短く、申し訳ありません。今日は朝から久しぶりに
“腰痛”!!
が酷くて一日仕事になりませんでした。明日、整骨院に行って来ようと思います。
片渕須直監督が制作中の次回作のタイトルは『つるばみ色のなぎ子たち』。平安時代を舞台にした作品のようです。
『つるばみ色のなぎ子たち』の制作にあたって、片渕監督はスタッフと共に平安時代の生活などの調査研究を進めています。今までアニメスタイルは「ここまで調べた片渕須直監督次回作」のタイトルでイベントを開催し、15回にわたって調査研究の結果を語っていただきました。前回から「ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』」のタイトルとなりました。
2023年9月2日(土)に開催するのが「第209回アニメスタイルイベント ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』2 【「枕草子」には本当は何が書かれているのか? 裏にあった事態をその文章から読み解く 編】」。「枕草子」から読み解いた事実を語っていただきましょう。出演は片渕須直監督、前野秀俊さん。聞き手はアニメスタイルの小黒編集長が務めます。
会場は阿佐ヶ谷ロフトA。イベントは「メインパート」の後に、ごく短い「アフタートーク」をやるという構成になります。配信もありますが、配信するのはメインパートのみです。アフタートークは会場にいらしたお客様のみが見ることができます。
配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。また、今までの「ここまで調べた片渕須直監督次回作」もアニメスタイルチャンネルで視聴できます。
チケットは8月23日(水)18時から発売となります。チケットについては、以下のロフトグループのページをご覧になってください。
■関連リンク
LOFT https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/260806
なお、会場では「この世界の片隅に 絵コンテ[最長版]」上巻、下巻を片渕監督のサイン入りで販売する予定です。「この世界の片隅に 絵コンテ[最長版]」についてはこちらの記事をどうぞ→ https://x.gd/57ICr
第209回アニメスタイルイベント | |
開催日 |
2023年9月2日(土) |
会場 |
阿佐ヶ谷ロフトA |
出演 |
片渕須直、前野秀俊、小黒祐一郎 |
チケット |
会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,500円、当日 1,800円(税込・飲食代別) |