COLUMN

第847回 楽しい、だけじゃ……

また原画描くのが面白くなってきました!

 『沖ツラ』、原画の直し。建前上は“作監(作画監督)として原画修正”ですが、全修——早い話、原画描き直し。もちろん全カットそんなことしやしませんが、時々どーしてもやっちゃいます。
 やっぱり、原画は楽しくて面白い! 目の前に良くない原画上がりがあると、「は? これでいいの? なんでもっとカッコ良く描かないの!?」という気持ちで直しまくってしまうのです。若い頃は下手な原画に怒りを覚えましたが、この歳になると「誰もわざと下手に描いてる訳でもないだろうし~」と大らかに見れるもので、寛容に見る代わりに粛々と「全部直させていただきます!」と。修正後原画マン本人に「ここはこうした方がよくて~」と解説、時にはリテイクで戻す。修正理由を相手にハッキリ説明できないなら、リテイクは出しません! 黙って全修します。

しかし、もうそろそろ「原画描くのは楽しいからいいか……」とばかりは言ってられません!!

 自分はこれまで「コンテは楽しい」「原画も楽しい」「監督いちばん楽しい」でやってきましたし、数年前まではまだまだその調子でやってこうと思っていました。が、ついこの間、また学生時代の友人に「アニメーターが原画描いてるだけでなんの版権収入もなく食えない業界が問題なんだ! インボイス制とかもけしからん話だ!」と、なぜか俺に向かって吠えられました。俺に言わせると、

え? 原画だけ——もっと言ってアニメーターだけやってるからダメなんじゃない?

という時代が迫っているのに気づかないのでしょうか。その友人曰く「俺は君(板垣)みたいに監督やりたいとかコンテ描きたいとか贅沢言わないで、ただ“一原画マン”でいいって言ってんだから!」だそう。「……いや、世の6割のアニメーターが貴重な収入源としている“眼パチ・口パク程度の楽(らく)儲けカット”なぞはAIで仕留める時代が直ぐそこまで来てるぞ!」、つまり──

これからの時代、アニメの原画業だけで食って行こうってほうが、よっぽど贅沢なんですよ!!

と。すでにアニメ会社に就職せず、個人作品をYouTubeに上げてデビューしたアニメーターがゴロゴロいる訳で。そういった個人作家はコンテから編集まで自身でやってると思います。アニメの作り方なぞネットで調べりゃ簡単に出てきますからね。
 その友人だけでなく、アニメーターは不遇だ不遇だと言うけど、そもそも本格的エンターティナーたる漫画家になるほどの才能もなく、中学高校と碌に学業せず美少女落書き。無試験でアニメ専門学校入って親の脛齧った類友らとオタク談義三昧の2年間! 念願叶って(?)アニメーターになってからも自堕落に昼過ぎ~夕方近くにスタジオ入って、DVDとか観たりしながら朝までだらだら描いて? 当然これはその友人だけでなく、俺自身にも半分当てはまってると思うし、自分がフリーであちこち出向いていた時、このようなアニメーターに数多く出会いました。もっと嫌われるの覚悟で毒づくと、30年やってコンテの画を拡大して眼パチ・口パクつけた程度に毛が生えた位の原画しか描けない腕で今まで食えてきただけで幸運でしょ!? お金が儲からなかったこと以外、もう十分遊んだじゃないですか? これからもそれだけで食っていこうと思ってる? 社会や政治が悪い! インボイス制が悪い! と言って愚痴ってばかりで何も新しいことを勉強しようともしないの? 学生の頃「僕はオリジナルの企画を持ってるから!」と息巻いていたのはなんだったの? クリスタやAE・Premiere使って自作アニメ作って、動画サイトに上げればいいのに……。
 と言う訳で、自分ももう少し今までと違う仕事を——と、ここ何回かで話題にしているとおりストーリーを組み立てたり、そろそろCGも使えるようになりたく、小さくても自分の作品を作るための勉強をしようと思います。2025年問題が迫る中、AIの台頭に対して自分らアニメーターは今までのような「贅沢さえ諦めて原画描いてりゃ、自由に過ごせる~」な怠慢ワークスタイルを見直し、少しでも勉強して新しい技術を身に付ける時代がきたようです。その方がもっと仕事が楽しくなると思いませんか?