小黒 『うみものがたり~あなたがいてくれたコト~』(TV・2009年)は僕が不思議だと思っている作品です。この取材の前に全話を観返しました。
佐藤 ああ、ありがとうございます。
小黒 本放映で観て、以前に飯塚(晴子)さんの取材する時に観返して、今回も取材の前に観ているので、3回目の視聴でした。キャラクターの気持ちはしっかり追っていて、ちゃんとドラマになっている。
佐藤 はいはい。
小黒 でも、「なんでこういう作品になったのか?」が分からない。この企画はパチンコ・パチスロの「海物語」の映像化から始まってるわけですよね。それが、どうしてああいう作品になったんですか。
佐藤 これは活字にしづらい事情が多い話だと思うんですけど(苦笑)。企画をもらった時に、まずは話を聞いてみて、会社(TYOアニメーションズ)としてやる意義があればやりますと。ただ、自分がガチッと監督をやるのは無理なんで、「監修ならできるよ」と、会社には話をしてあったんです。
小黒 ところが監督をやる事になった?
佐藤 そう。企画が動き出して、ホン読みにも入り、紅優さんに監督で入ってもらってね。既に2、3話ぐらいまで動いたところで、「監督・佐藤順一でやってもらう事になってる」と言われたんです。「現場も紅優さん監督で進めているんで、今から切り替えるのは無理なんだけど」と話をしたんですが、紅優さんには最初からそのかたちで伝わってたんです。そんな状態で、脚本3話ぐらいまで進んでしまっていた。
小黒 なるほど。
佐藤 じゃあ、今からにはなるけれども、ここからは監督という立場で作ります、コンテも全部チェックします、アフレコも全部やりますっていう話をしたんです。
小黒 なるほど。現場はゼクシズなんですよね?
佐藤 ゼクシズです。ゼクシズは何も悪くない。
小黒 佐藤さんはTYOの所属で、TYOからゼクシズに行って作業していた。
佐藤 そうですね。ゼクシズで机をもらって作業していました。結果、楽しかったし、飯塚さんと知り合えたりして、得るものもすごく多かったシリーズではあるんですけどね。
小黒 作品コンセプトに佐藤さんは関わってないんですか。
佐藤 そもそものプランでは、変身戦闘美少女ものだったんですよ。
小黒 そうなんですか。
佐藤 ただ、前も言いましたけど、子供向けで、女の子が変身して戦う美少女ものは分かるんだけど、変身美少女もので年齢の高い人をターゲットにした作品については、ちょっと理解できないところがあるんです。それで「元々の企画原案の面白さが全く分からないんだ」という事を訴えて、バトルのテイストをちょっと抑えさせてほしいと言ったんです。本当は変身も無くして、海の女の子と陸の女の子の友情物語ぐらいにしたいんだけど、企画として変身美少女は外したくないという事でした。なので、「変身して戦うのは入れるけれども、基本の方向は友情の物語、姉妹の物語で進めたいです」と言って、その方向で進めてる感じですね。
小黒 企画としては「海の巫女と空の巫女が変身して大活躍」という感じだったんですね。
佐藤 そう。変身する美少女も大勢いる、ぐらいの感じでしたね。
小黒 元になったストーリー案はどなたが作ったんですか。
佐藤 ストーリー原案の築地俊彦さんが、プランニングで関わってますね。元々は、小説とかを書かれてる方だと思うんですけど。
小黒 もう少し確認させてください。原作の「海物語」にはマリンちゃんというグラマーな女の子がいて、それと日焼けした逞しい男の子(サム)が出てくる。これはパチンコをやった事がない僕でも知ってます。あの男の子はあのまま出さなくてよかったんですか。
佐藤 そこは飯塚さんとデザインを詰める段階で「もうちょっとスレンダーなサムを出すかたちでもいいですか?」と(原作サイドに)了解を取りながら進めている。
小黒 同様にマリンちゃんもほっそりした感じになったわけですね。
佐藤 うん。
小黒 以前、飯塚さんに取材した時も「自由にアレンジしてよい」と言われてやったとうかがいました。
佐藤 そうですね。アニメ化に関しては、割と自由にさせてもらってましたね。プロデューサーは『たまゆら』もやってる田坂(秀将)さんなんですけども、田坂さんがパチンコ屋さんとお話をしていて、ある程度の自由度はもらっていたんだと思うんですね。
小黒 そうか! これは松竹製作の佐藤順一シリーズの一環なんですね。
佐藤 そうですね。『ARIA』のプロデューサーは飯塚(寿雄)さんで、『たまゆら』の田坂さんとは、この『うみものがたり』の時に初めて一緒にお仕事をしました。
小黒 『うみものがたり』の次のステップとして、佐藤さんと飯塚さんコンビで『たまゆら』が始まるわけですね。
佐藤 そうなんです。この時の出会いが大きかったっていうのは、ありますね。
小黒 もう一度確認させてください。全体としては自由に作っていいという話だった。そして、パチンコの「海物語」のイメージとは違った「戦闘もの」のプランがあったんですね。で、佐藤さんは、いざ自分が作品をまとめる段階になってから、「戦闘色を弱めたい」と思われたわけですね。
佐藤 なるべく薄めたかった。
小黒 で、主にはマリンとウリンの姉妹の話にまとめて、さらに周辺の夏音ちゃんの恋模様とか、友情のほうを押していった。
佐藤 そういう青春テイストみたいな物語がいいかなって。それだったら、イメージできるなという感じでもあるんですけど(笑)。
小黒 なるほど。
佐藤 なので、音楽的な話だと、戦闘音楽はほとんど録ってない。
小黒 大島という女の子のキャラクターがいて、佐藤さんは相当力を入れていたのではないかと思います。大島は面白キャラでしたよね。
佐藤 そうですよね。大島は意図して、ああいうふうにしている感じがありました。マリンって、最初の設定からそうだと思うんですけど、とにかく闇のないキャラクターで、すごく綺麗な事しか言わないじゃないですか。それは本人にとって嘘でもなんでもなくて、あれが彼女の本心なんですよね。大島のほうは、狡い事もするんですけど、それも本心でやっている。2人とも本心が剥き出しなんです。だけど、「大島のほうは観ている人の好感度が上がるけども、マリンのほうは好感度が上がらないのではないか?」とは予感してましたね。
小黒 なるほど。大島のほうが面白いですからね。
佐藤 そうなんです(笑)。だから、あんまり澄んでないっていうか、綺麗すぎないキャラクターのほうが、みんな、好きなんだなっていう事を再確認した。
小黒 あの1話で始まって、まさか「このキャラがこんなふうに膨らむとは!」、という驚きがありますよ。
佐藤 大島は「あんな事もさせたい。こんな事もさせたい」ってなったね(笑)。
小黒 大島の時によく書き文字が出るじゃないですか。「胸を大きく見せるワザ!」とか「きわどいアングル」という「ト書き」が手書きの文字で入ってますよ。
佐藤 そんなに出てましたっけ?(笑)
小黒 大島が活躍するようになってから頻度が上がった気がします。
佐藤 そうか。『うみものがたり』って、結構何回も観直すんですよ(笑)。
小黒 そうなんですね。
佐藤 ええ(笑)。「あのシーン面白かったよな」つって。
小黒 すみません。僕は本放映時は当惑しました。
佐藤 (笑)。
小黒 ところで、『うみものがたり』は佐藤さんの絵コンテ率高いですね。
佐藤 そうですね。やっぱり、結果そうなってるんですよ。「自分でやっていくかな」って感じでやっていました。
小黒 これも他の方が描いたコンテを直したりしてるんですか。
佐藤 結構直してますね。
小黒 未放映話の13話があるんですが、覚えてます?
佐藤 クジラかイルカの親子が出てくるやつですかね。
小黒 ジュゴンの親子ですね。本編の1年後の話。夏目真悟さんが絵コンテと演出をやってて、それまでの『うみものがたり』と全く違う感じのデフォルメもある、面白作画が炸裂している回です。これは放映されなかったようで、ディスクに入っているみたいですね。
佐藤 うん。それ用に作ってたやつだと思いますね。
小黒 放映最終話の12話って、お話だけでいっぱいいっぱいで、エピローグ部分が、あまりないですもんね。
佐藤 話的には12話で終わらせるつもりでした。ジュゴンの親子を大原(さやか)さんと葉月(絵理乃)さんにお願いしてるのは、プロデューサー的な意向だったかなと思います。
小黒 『ARIA』の2人にやってもらったわけですね。佐藤順一さんワールドで重要人物である儀武ゆう子さんですが、この時が初めてですか。
佐藤 そうです。この時の鈴木っていうキャラクターが初です。なおかつ沖縄弁もできるので、方言指導的な役割でも入ってもらって、イベントやラジオで盛り上げてくれたんですよ。だから、『たまゆら』では「ガツンと広報的なところにも入ってもらえますか?」とお願いしました。
小黒 佐藤さん的には、儀武さんの人柄がお気に入りなんですか。
佐藤 そうなんですよね。言うたら、遠慮なく弄ってくれるじゃないですか。あんまり持ち上げられると、トークってやりにくいので、いい感じに下げてくれたほうがやりやすい(笑)。そういう感じが、大変ありがたかった。
小黒 なるほど。そういえば『海物語』は、佐藤さん的には方言にチャレンジした作品ですよね。
佐藤 そうですね。あんまりやらないんですけど、奄美大島が舞台という事だったので「沖縄弁を入れてみようかな」と思ったら、想像以上に拒否反応が多かったので、以降はやらない事にしました。
小黒 えっ、拒否反応? お客さんからですか。
佐藤 そうそう。聞きづらいとか、方言なのかお芝居なのか分からないと感じる人達が多くて。
小黒 ああ、確かに。セリフを通して表現されるものではなくて、方言のイントネーションの面白さのほうが耳に残っちゃうのは、あるかもしれない。
佐藤 なので、以降はなるべくやらないようにしてるんです。
小黒 なるほど。
佐藤 本当は現実味を求めて舞台を描くのであれば、方言でやるほうが好きなんですけどね。労力がかかる割に、それを求めていない人も多いので、方言のキャラを混ぜるくらいにして、基本的には避けとこうと思いましたね。
佐藤順一の昔から今まで(38)『たまゆら』の企画と『ARIA』 に続く
●イントロダクション&目次
編集長・小黒祐一郎の日記です。
2021年11月7日(日)
徒歩で池袋から新宿に。ロフトプラスワンで「第181回アニメスタイルイベント ここまで調べた片渕監督次回作6【清少納言の歩んだ道を思い浮かべてみましょう編】」を開催。「ここまで調べた片渕監督次回作」としては久しぶりにお客さんを入れてのイベントとなった。休憩時間にぶっちゃけトークあり。東映アニメーション演出家の佐々木憲世さんの質問に片渕さんが答えるコーナーもイベントらしくてよかった。今回はお客さんの鳴り物もOKにした。以前と同じというわけにはいかないけれど、イベントらしい感じはあった。イベント終了後、歩いて池袋まで戻った。
池袋から新宿までは『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』のサントラを、復路では『きまぐれオレンジ☆ロード』のアルバムを聴いた。
2021年11月8日(月)
会社関連の作業、「設定資料FILE」の構成、イベント関係の用事、編集中の3書籍の進行、等々。やることが多くて、自分の原稿には手がつけられず。余裕があったら、新文芸坐で映画を観るつもりだったけど、そんな時間はなかった。Amazon prime videoの東映アニメチャンネルで色々と観てみる。
2021年11月9日(火)
『先輩がうざい後輩の話』の再生が終わったところで、Netflixに勧められたのが『俺物語!!』。「でかい男繋がり」でのお勧め、ということですね。見事です。『先輩がうざい後輩の話』の原作を読み始めた頃から、自分の中では『俺物語!!』とリンクしていたので、その意味でも納得。
この日も仕事が山ほど。午前4時に事務所に入って、色々やって22時に帰宅。
2021年11月10日(水)
ランチはワイフと、高田馬場の「酒肴 新屋敷」でアジフライ。一度は席が埋まっているということで断られたのだが、キャンセルで席が空いたとの報せがLINEであり、高田馬場に向かった。今回も旨かった。いや、ここのアジフライは本当に美味しいんですよ。散歩と食事で外出した以外はデスクワーク。Zoom打ち合わせ2本。対面の打ち合わせ1本。主には書籍の進行、スケジュールを組み直したり、増刷の収支を試算したり。
『カードキャプターさくら』のシリーズ序盤を再視聴。片渕さんが演出をした3話がやっぱりよくできている。アクションシーンの途中に入る知世の芝居が抜群にいい。演出の指示も入っているんだろうけど、多分、原画もいい。5話で知世がビデオの知識をまくしたてて、注意をひこうとする展開は何度観ても可笑しい。発想がお仲間(マニア)なんだよね。
Twitterで以下の内容を書いた。
https://twitter.com/animesama/status/1458213062121459714?s=20&t=gMd5NYNcuTS5ubuBsjds9Q
(以下は誤記を修正したテキスト)
「アニメスタイル007」は本編カットの載せ方で凝ってみました。『響け!ユーフォニアム』『スペース☆ダンディ』『苺ましまろ』『フリクリ』で、それぞれまるで違ったコンセプトで本編カットを使っています。アニメ雑誌マニア(アニメ書籍マニア)はそのあたりをチェックするといいかも、です。
「アニメスタイル007」は自分でも達成感のある号でした。作品に合わせてインクを変えて印刷したり、画像の変換に手間をかけたりしています。『響け!ユーフォニアム』の本編カットを使ったページの構成は自分の雑誌人生の中でも思い出深いものとなりました。
2021年11月11日(木)
グランドシネマサンシャインで、ワイフと「エターナルズ」【IMAXレーザーーGT字幕】を観た。予想していたよりも面白かった。登場人物が多くて、回想を使った説明も多いのだけれど、それでも楽しめた。フルサイズIMAX画角(1.43:1)のシーンは多くはないが、効果的だった。
「エターナルズ」が「サイボーグ009」と似ているという発言をSNSで目にしていた。確かに似ているポイントが多い。列記すると以下の通り。
・主人公チームは、それぞれがひとつの能力に特化したヒーローの集団。
・チームには様々な人種(に見える)のメンバーが揃っている。
・メンバーには子ども、役者もいる。
・メンバーに加速能力(「サイボーグ009」では加速装置)を持った者がいる。
・全員が「作られた存在」であり、その悲哀を描く。
・バラバラになったメンバーを集めるために各国に赴く。
・クライマックスでメンバーの1人が人間に(「サイボーグ009」だと『超銀河伝説』)。
・最終的に神と戦う。
「エターナルズ」が「サイボーグ009」を意識していたかどうか分からないし、意識していたとしても文句はない(以下は後日追記、いつか「サイボーグ009」を映像化したいと思っていた業界の知人が「『エターナルズ』で夢がかなった」と言っていた。「エターナルズ」は彼が思い描いた映像化に近かったのだろう)。
2021年11月12日(金)
定例Zoom打ち合わせで、参加者の1人の音声入力ができなくなった。「音を聞くことはできるの? こちらの声が聞こえたら、手を振って」といったやりとりの後、彼だけがチャットで打ち合わせに参加することになった。「(音声)あの作業は……だっけ」「(チャット)はい」「(音声)その『はい』はYesの『はい』なの?」「(チャット)そうです」みたいな感じ。21世紀の科学技術を使ったビデオ会議なのにアナログ感があって面白い。
午後の散歩で、池袋から東十条まで歩いた。その前に『名探偵コナン』を観ていた流れで『名探偵コナン から紅の恋歌』のサントラを聴きながら歩いた。
久しぶりに「アニメスタイル010」をパラパラとめくったら、自分の『NEW GAME!』に対する愛の深さに、ちょっとひいた。他の作品にも愛情は注いでいるんだけど、愛情を注ぎすぎた。
2021年11月13日(土)
放送中の『SHAMAN KING』と『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』は似たタイプの企画だな、と思った。どちらも、連載中にアニメ化されたタイトルだ。今回のアニメ化は、恐らくは原作ラストまでを映像化する企画であり、全何話で映像化するのかを決めてからスタートしているのだろう。
早朝散歩では『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』のサントラを聴いて、午後の散歩では『機動戦士Vガンダム』のサントラ1と2を聴いた。
すみません! 本日、脚本(シナリオ)作業とコンテチェックで、てんてこ舞いです!
最近ちょくちょく話題に出している次のシリーズは自分がシリーズ構成・総監督のため、シナリオチェックとコンテチェックが重なってる時期は——予想はしていたけど、やっぱり大忙しになってしまいました(汗)。ま、自分が今書いてるのが最終話の脚本(第1話とラスト2話分が板垣脚本)なので、こちらが上がれば後はコンテチェック、さらに春頃からは音響がメイン。今作では自分あくまで「総」監督であることに拘っているので、
自前のコンテはなし! メインは監督に任せて“チェック”に徹するスタイル!
でやってます。コンテ発注・設定類発注・その他打ち合わせ類は全て監督に任せます。特に「ここだけは」というところだけ、先に監督と打ち合わせをして、監督から発注してもらうかたちにします。
なるべくなら現場の若手に存分に活躍してもらって、作品の出来に関しては全責任を俺が負うつもりです(ま、作画は手伝うつもりですが)。
脚本を書くのは、原画やコンテを描くのとは違った面白さがあって、今回は久々にそれを楽しませてもらってます。常々、大塚(康生)さんが言ってた「画描きである前に“役者”である」はずのアニメーターの自身(つまり俺)が、ドラマの軸をブラさないように喋らせたい台詞と芝居を考え、シーンを作る——正に「作劇」ができる仕事で、今後も機会があったら、コンテとは別に続けていきたいと思っています。
とりあえず今はシリーズ構成の役職上、なる早で最終話の脚本を書き上げなければなりません。自分の立場的には3月以降、さらに次作品の準備を始めなきゃならないという会社の都合もあり、50代に向けて色々仕事の話は広がりつつありますし、自分からも仕掛けていけるようになりたいものです。若手に監督してもらって、プロデュース的な関わり方をするとか。
という訳で、短くてゴメンナサイ。また最終話の脚本に戻ります。