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アニメ音楽丸かじり(170)
水島努監督の巧みな音楽用法が光る『ガールズ&パンツァー』劇場版サントラ

 11月21日にTOHOシネマズ府中にて『ガールズ&パンツァー 劇場版』を鑑賞してきた。さすがに公開初日だけあって客入りは上々で、グッズ販売コーナーにも長蛇の列ができていた。客層は男性中心で、大学生から20代がボリュームゾーンだろうか。TVシリーズの開始が2012年10月、劇場版の制作発表が2013年4月だから、最近のTVシリーズ劇場化の中では、たっぷりと時間をかけた部類に入るだろう。待たされただけのことはある、充実したフィルムに仕上がっていて嬉しい限りだ。
 パンフレットに掲載された水島努監督のコメントに「個人的に『ガールズ&パンツァー』は映画の大画面と音響がよく似合う、とTVシリーズをつくっている当時から感じていました」とあるが、まさにそのとおり。戦車の履帯がきしむ音や、腹の底に響くような主砲の発射音、ガキンガキンと痛々しい装甲への着弾音など、いずれも劇場の環境にこそふさわしい。本作は最初から劇場版のためにあったのではないか、と思うほどだった。
 これから作品をご覧になる方も多いだろうからネタバレは避けるが、僕が特に評価したいのは時間配分だ。日常シーンや会話シーンはかなり絞り込まれ、ストーリーもほぼ一本道でシンプル。全てはクライマックスの大戦車戦を見せるための布石であり、ストーリーはその戦いに動機を与えるという役割に徹している。バトルシーンは大迫力で白熱したものだが、全体の時間管理は冷静で客観的なのだ。

 ということで、今回は11月18日に発売された『ガールズ&パンツァー 劇場版』のサントラを取り上げたい。TVシリーズのサントラが長期にわたって売れ続けるロングヒットとなっただけに、今回も期待されていることだろう。CDはランティスからのリリースで、2枚組88分の収録時間。ChouChoの歌う主題歌「piece of youth」は入っていないが、主人公・西住みほの愛するキャラクター・ボコのテーマ曲「おいらボコだぜ!」はフルサイズで収録されている。
 BGMの全体的なサウンド傾向は、基本的にTVシリーズの時と変わらない。ひとつは1960年代の戦争映画のようなマーチ風の音楽を多用すること、そして「ブリティッシュ・グレナディアーズ」「カチューシャ」「パンツァー・リート」など各国の軍歌や民謡を、その国をモチーフにした各学校のテーマ曲にする、という用法である。ちなみにTVシリーズサントラについては2013年4月の本連載にて紹介しているので、そちらも参考にしてほしい。
 もちろん劇場版ならではの新要素もある。最大の変更点は、吹奏楽寄りだったTVシリーズの編成から、オーケストラ編成へと楽器を拡充したことだ。ホルンやストリングスの増員によってサウンドに広がりと深みが増し、劇場にふさわしいスケールの音響となっている。ちなみに劇場版には他にもいくつか新要素があるのだが、それについては後述する。
 それでは_楽曲を紹介しよう。ディスク1の1曲目「劇場版・戦車道行進曲!パンツァーフォー!」はTVシリーズでもおなじみの楽曲のアレンジ版。歯切れの良いメロディと、スネアドラムが生み出す2拍子のリズムはいかにも行進曲風で、聴いていて心が躍るサウンドだ。今回の劇場版でも冒頭に使用されており、いわば作品の顔とも言える。3分以上の尺があるため、たっぷりと『ガルパン』の世界に浸れる1曲だ。3曲目「劇場版・大洗女子学園チーム前進します!」も同様の曲調で、メインテーマには「戦車道行進曲!パンツァーフォー!」のメロディが使われている。タイトルどおり、主役校である県立大洗女子学園のテーマ曲だ。
 2曲目「Enter Enter MISSIONです!」はTVシリーズのエンディング主題歌をマーチ風にアレンジしたもの。この曲が用いられるのは映画の序盤なのだが、TVシリーズからの連続性をアピールしながら、ごく自然に作品世界へと引き込んでいく心憎い演出ではないだろうか。
 5曲目「知波単学園、戦車前進!」はマイナー調で軍歌的なメロディが印象的なナンバー。知波単学園はTVシリーズでも名前が出ていたが、その戦いぶりが描写されるのは今回の劇場版が初めてだ。戦車隊メンバーは軍人調の喋り方と生真面目すぎる性格、無茶な突撃を敢行しては玉砕を繰り返す姿など、コミカルに描写されている。23曲目「知波単、新たなる戦いです!」はこの曲のアレンジバージョンだ。
 劇場版のライバルキャラクター、島田愛里寿のテーマ曲が6曲目「孤高の戦車乗りです!」と23曲目「好敵手です!」の2曲。同じメロディを用いながら、前者はピアノソロ、後者は勇壮な軍楽調にアレンジされており、浜口史郎の巧みな編曲能力を見せてくれるナンバーだ。滔々と続いていくケルト風のメロディの魅力は、本作BGMの中でも白眉と言えるのではないか。
 17曲目「学園十色です!」は「パンツァー・リート」「リパブリック賛歌」「カチューシャ」「フニクリフニクラ」など各学校のテーマ曲がメドレー式に繋ぎ合わされているナンバー。まさにオールスター大集合的な豪華さがあり、それぞれの学校に思い入れのあるファンにとってはたまらない楽曲だろう。劇中でどのように使われたのか、特に注目してほしい楽曲のひとつだ。
 30曲目「ヴォイテク!」作品のラストに使われた、いかにも大団円といった感じの壮大なナンバー。「戦車道行進曲!パンツァーフォー!」のメロディをベースとし、合唱も加えてスケール感たっぷりに物語を締めくくっている。「ヴォイテク!」という曲名の由来については、ぜひ作品を見終えてから調べてみてほしい。作品内容と相まって、ちょっと泣けるエピソードが見つかるはずだ。
 ディスク2には劇場版における新機軸が詰まっている。1曲目「おいらボコだぜ!」は、主人公・西住みほが愛するクマのキャラクターのテーマソング。劇中では、みほと愛里寿を結びつける役割を果たしている。作曲は水島監督自身によるもので、『撲殺天使ドクロちゃん』『大魔法峠』『ケメコデラックス!』などで怪作主題歌に関わり、『ガルパン』TVシリーズでも「あんこう音頭」を生み出した異才がここでも発揮されている。
 2曲目「Sakkijarven polkka」はフィンランドの民族楽器カンテレによる演奏。劇場版で新登場した継続高校の隊長・ミカがいつも弾いていた楽器がこれであり、北欧をイメージした学校ゆえのチョイスだ。ツィターに似た構造を持った撥弦楽器だが、バチではなく指で爪弾くためにハープのように甘くサスティンの長い音が得られる。ポルカの陽気な曲調と、哀愁を帯びた音色とのコントラストが印象的だ。この楽器の使用と選曲も、水島監督からの提案によるもの。
 5曲目「Home! Sweet Home!」はイングランド民謡で、日本でも「埴生の宿」として親しまれている楽曲だ。「二十四の瞳」『火垂るの墓』での用例があり、「ビルマの竪琴」では劇中で重要な役割を果たしていることから、日本では太平洋戦争のイメージと結びつけやすい。そういった背景からの選曲だろうか。
 これらの既存楽曲の選曲や使用法は、すべて水島監督の指定によるものだ。特に今回初めて導入されたカンテレについては、プロの作曲家である浜口史郎も詳しくは知らなかったというから、水島監督の音楽知識の深さがうかがえる。またメロディが指定された中でバリエーションを多数揃えていく苦労は並大抵ではないはずだが、浜口史郎は編曲能力を駆使してそのオーダーによく応えている。一般的に、いい作品にはいい音楽が付くことが多いものだが、本盤もまたそのような幸せなマリアージュを楽しめる内容だ。(和田穣)

ガールズ&パンツァー 劇場版 オリジナルサウンドトラック(音楽:浜口史郎)

LACA-9430〜9431/3,780円/ランティス
発売中
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