ANIME NEWS

アニメ音楽丸かじり(169)
エレクトロニカが描き出す麻枝准の新たな音世界 『Charlotte』サントラが発売

 11月5日に行われた日本芸能実演家団体協議会など各芸能団体合同の記者会見により、改めていわゆる2016年問題がクローズアップされた。東京オリンピックの開催に向け、さいたまスーパーアリーナ、横浜アリーナ等の大型会場の改修と、ここ数年で閉鎖されたホールの多さから、近いうちに首都圏でコンサート会場の不足が懸念されるという問題だ。アニメイベントやコンサートによく行く方ならご存知のとおり、ここ数年でイベントの数や開催頻度、会場の規模はどんどん大きくなっている。一方で海外アーティストの来日公演も増加しており、会場数が減っていく中で需要は増していくという切迫した状況だ。CDが売れなくなる時代の中で、アーティスト側もライブ活動に活路を見出すケースが多く、まさに死活問題と言える。簡単に解決できるとは思えないが、まずはこれを認識し、問題意識を共有するところから始めてみる必要があるだろう。

 さて、今回は11月4日にリリースされたTVアニメ『Charlotte』のサントラを購入したので、これを紹介したい。原作と脚本を手がけた麻枝准は作曲家・作詞家としての顔も持っており、本作でも主題歌・劇中歌・劇伴のすべてに関わっている。彼の手がけたゲームやアニメは、その多くで音楽の魅力が作品を引き立てていたことはご存知のとおり。今回のサントラも期待の作品といっていいだろう。オリコンのデイリーCDアルバムランキングでも発売以降トップ10に入っており、週間ランキングでのトップ10入りも間違いない。
 CDは2枚組で51曲の構成。Liaが歌うオープニング主題歌「Bravely You」と多田葵によるエンディング主題歌「灼け落ちない翼」をフルサイズで収録している。多田葵といえば『カウボーイ ビバップ』のエド役で知られているが、ここ10年はもっぱらシンガーソングライターとしての活動がメインだ。最終回のエンディングに使用された、熊木杏里の「君の文字」もフルサイズで収録している。
 麻枝にとっての前作『Angel Beats!』と同様に、本作『Charlotte』でも劇中バンドZHIENDが登場し、多数の劇中歌が制作されている。これらの楽曲はサントラになく、10月14日にリリースされたアルバム「ECHO」にまとめて収録されている。2枚組に英語版・日本語版がそれぞれ収められているので、こちらも要チェックだ。

ECHO/ZHIEND

KSLA-0108~0109/3,780円/ビジュアルアーツ
発売中
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 サントラはリリース前から「エレクトロニカを基調にしたBGM」という点がアピールされていて、このジャンルが好きな僕も楽しみにしていた。実際に聞いてみた印象だと、確かにエレクトロニカ調の楽曲もたっぷりと収録されているのだが、それだけではなく『AIR』の「夏影」を思わせるような爽やかなピアノ曲もあって、古くからの麻枝ファンにも楽しめる内容だろう。
 ところで、アニメ本編でBGMがかなり大きめにミックスされているのに気付いた方はいるだろうか。セリフと音楽が同等の存在感で視聴者に迫ってくるのが『Charlotte』の特徴だ。それでいてお互いがバッティングしないのは、シナリオと劇伴を同じ人物が作っている恩恵だろうか。
 それでは収録曲を見ていこう。ディスク1の3曲目「想い」は、第1話で主人公・乙坂有宇が渋谷駅前でモノローグを発するシーンに使用。曲の前半はビートレスの編成にダウナーで耽美的なピアノのオスティナートが効いており、エレクトロニカらしい曲調を楽しめるナンバーだ。後半はぐっとピアノ主体となり、「麻枝節」とでも言うべきメロディアスな旋律が光る。
 4曲目「朝」はピアノとアコースティックギターの爽やかな分散和音をたっぷりと楽しめる楽曲。第5話のバーベキューの場面での使用が印象深い。ミニマル的な淡々とした曲調の中に、チャーミングな旋律が見え隠れする。従来の麻枝スタイルと、本作での新境地をうまく融合させたナンバーと言えるのではないか。
 5曲目「団欒」は文字どおり日常シーンに使用。第2話アバンタイトルや第5話の買い物シーンなど、本編中でも多用されたナンバーだ。少ない音数のサウンドにエリック・サティを思わせる洒落たピアノの和音が引き立ち、ありふれた日常曲に留まらないセンスが独特のムードを作り出している。ちなみにこの曲の和音は、13曲目「ブレイクタイム」にも変奏して使用されているのだ。
 8曲目「ミーティング」は第2話の生徒会室のシーンや、第10話で有宇の兄・乙坂隼翼が過去にタイムリープしたシーンなどに使用された。変調されたシンセによって意図的に音程が不安定になっており、本作のテーマである特殊能力のイメージをうまく音で具現化している。
 ディスク2の12曲目「略奪」は有宇の特殊能力をそのまま曲名にしたもので、最終話で彼が世界各地の能力者から力を奪っていくシーンに使用された。せわしないビートと歪んだ不協和音が、有宇の略奪能力の強大さと禍々しさをストレートに表現している。16曲目「ループ」は最終話で記憶を失いながら孤独に戦う有宇を描写するシーンにて使用。本盤の中でもミニマル色が強いナンバーで、曲名どおり波のように繰り返されるリズムが終わらない戦いの虚無感を活写しているようだ。

 さて、タイムリープと特殊能力を軸に据え、ストーリーのあちこちに張り巡らされた伏線が印象的な本作。放映中から国内・海外を問わず多くの考察がなされてきた作品だけに、音楽も様々に深読みが可能だろう。分かりやすいところでは、オープニング主題歌「Bravely You」の歌詞に物語終盤のストーリーがほとんど言い尽くされていることや、最終話のエンディング曲「君の文字」の歌詞が、劇中のセリフ以上に有宇の心情を代弁している点が挙げられる。
 ただそういった深読みをしなくても、本盤の音楽はそのサウンドだけでも十分に魅力的だ。まず、TVアニメでこれだけエレクトロニカを多用した作品は過去に類例がないはず。それが奇をてらったものではなく、作品内容と有機的に絡んで独特の雰囲気を作り出していたことは、高く評価されるべきだろう。
 また、とかく無機的・単調になりがちなエレクトロニカというジャンル(それが美点でもあるのだが)の中に、麻枝准らしいメロディセンスを持ち込んだことによって、よりカラフルな表現をものにしたことも特筆すべきだ。新機軸をしっかりと打ち出しながらも、従来の麻枝ファンにも配慮がなされている。各楽曲は2分以上の尺があるものが大半で、音楽単体でもじっくりと楽しめる作りだ。番組の放映は9月に終了しているが、その余韻を噛みしめながら楽しみたいCDだ。(和田穣)

TVアニメ『Charlotte』 Original Soundtrack(音楽:麻枝准・ANANT-GARDE EYES)

KSLA-0110~0111/3,780円/ビジュアルアーツ
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