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アニメ音楽丸かじり(105)今さらだけど……『ガルパン』のサントラはイイゾ!

 「苺ましまろ」の7巻が発売された。なんとこれが4年振りの新刊である。連載開始が2001年、TVアニメ第1期が2005年だったことを考えると、ずいぶんと長い時間が経ったものだと思う。
 巻中でひとつ面白い描写があった。167ページで末莉が全身を蚊に刺されたため、アナが末莉のワンピースをめくってかゆみ止めを塗っているシーンだ。そこで伸恵は持っていたカメラで末莉のパンツを激写している。ところがその前の51ページで、1コマだけだが伸恵は末莉・アナと一緒に風呂に入っている描写がある。つまり全裸を見ているはずなのだが、彼女はそこでおイタをするわけでもなく、むしろパンツの方を重要視している。
 この伸恵の視点に「萌えとは何か」というテーマへのひとつの答えがあるように思う。とにかく可愛くてイノセントなものを愛でたい、そういった存在を眺めることで自分が癒やされたいと願う心境である。この場合のパンツは性的な意味よりも、可愛らしさ、微笑ましさ、無邪気さを象徴する記号として描かれている。生身の肉体のエロティシズムよりも、パンツ丸出しの微笑ましさの方が優先されるわけだ。

 さて、4月上旬は年度の変わり目ということもあってか、発売されるCDの点数も少なめ。当然ながら4月に放映開始した新番組の主題歌も、リリースが本格化するのはまだ先である。そこでここ数ヶ月に発売されたCDの中から、これまで紹介し損ねていたものを取り上げてみたい。先頃ようやく第11話・第12話が放映されてひと区切りがついた『ガールズ&パンツァー』のサントラ盤だ。リリースは昨年末だが、タイミングが合わずにこれまで紹介できずにいた。
 サントラは2枚組で構成されており、1枚目にはBGMが37曲、2枚目には各高校のテーマとして使用された軍歌や愛唱歌、そして主題歌のTVサイズなど13曲が収録されているというボリューム。それでいてお値段は3200円なのだからお買い得と言えるだろう。もちろん、放映時に話題となった挿入歌「カチューシャ」「あんこう音頭」も収録されている。
 ところで近年のアメリカのエンタメ界では、戦争もののBGMにふたつの潮流がある。ひとつは「プライベート・ライアン」「バンド・オブ・ブラザース」の系譜に連なる、できるだけ音数を減らして叙情的な音楽をつけたもの。リアリズムと悲劇性を際立たせた方向性と言えよう。もうひとつはハンス・ジマー率いる作曲家グループ、リモート・コントロール(旧メディア・ベンチャーズ)の作風。生のオーケストラにシンセやサンプリングの音を重ねて、より鋭角的でド迫力の音を生み出すアグレッシブな作風だ。「パール・ハーバー」などの映画や、「Call of Duty 4」を代表とする戦争ゲームはこちらに含まれる。
 さてそれでは『ガルパン』の音楽はと言うと、その両者とは全く異なり、むしろ「史上最大の作戦」「バルジ大作戦」「大脱走」など、1960年代の戦争映画を思わせるような昔懐かしい作風だ。つまりスネアドラムやラッパが大活躍するような、マーチ(行進曲)風の派手で景気のいい音楽を中心に構成されている。これは可愛らしい少女達が戦車で戦う番組のBGMとしては、実に絶妙なチョイスだと言えるのではないか。きちんとミリタリー色を維持しながらも、明るく楽しげな基本線を崩していないわけだ。

 まずディスク1に収録されたBGMを紹介していこう。1曲目「戦車道行進曲!パンツァーフォー!」は第1話の冒頭に用いられたのを始め、第12話のマウス戦でも使用された本作を象徴する楽曲だ。ピッコロの軽快な旋律も楽しげなマーチであり、このメロディが3曲目「大洗女子学園チーム前進します!」、4曲目「戦車、乗ります!」、5曲目「学園艦は今日も勇壮に海原を進みます!」など、あちこちで変奏されているのに気づいた方も多いだろう。本作のBGMにおけるメインテーマと言っていい。
 2曲目「乙女のたしなみ戦車道マーチ!」は吹奏楽によるマーチ。少し「双頭の鷲の旗の下に」に似た、学校の運動会や吹奏楽演奏を想起させるような曲調だ。28曲目「栄光の戦車道全国大会始まります!」は、どことなく高校野球でお馴染みの「栄冠は君に輝く」やPL学園の校歌を思わせるメロディ。つまり「全国大会つながり」という諷意があるように思う。33曲目「緊迫する戦況です!」は第12話における大洗女子と黒森峰の最終決戦でも使用された、文字どおり緊迫感あふれる楽曲。スネアドラムのリズムに乗せて、金管だけで分厚いハーモニーを紡ぎながら転調していく手法はマーラーの交響曲を思わせる。
 ディスク2はまるで「世界軍歌集」のようなラインナップだ。聖グロリアーナ女学院(イギリスがモチーフ)には「ブリティッシュ・グレナディアーズ」、サンダース大学付属高校(アメリカがモチーフ)には「リパブリック讃歌」「アメリカ野砲隊マーチ」、プラウダ高校(ロシアがモチーフ)には「ポーリュシカ・ポーレ」「カチューシャ」、黒森峰女学園(ドイツがモチーフ)には「パンツァー・リート」「エーリカ」と、各国でよく知られている軍歌・行進曲・愛唱歌を収録。多くは日本でも合唱曲や吹奏楽のレパートリーとしてスタンダード化しており、軍歌とは知らずに口ずさんできた方も多いと思う。プラウダ高校の「カチューシャ」は歌入りバージョンも収録されており、使用された第8話ではそのロシア語発音のよさと、疾走する戦車隊には不似合いな可愛らしい歌声が話題となった。ノンナ役・上坂すみれのロシア語能力が存分に活かされた楽曲だ。他にも劇中では「ジョニーが凱旋するとき」「コサックの子守唄」「雪の進軍」などがアカペラで歌われていたが、これらはサントラに収録されていない。
 そして第4話、主人公・みほのチームがあんこうスーツを着用した珍妙な踊りで視聴者に衝撃を与えた「あんこう音頭」は、シリーズ構成の吉田玲子が作詞、水島努監督が自ら作曲したという珍品だ。水島監督はこれまでも『撲殺天使ドクロちゃん』『大魔法峠』『ケメコデラックス!』などで主題歌(いずれも最高の怪作だ)の作詞を行っているが、作曲までやってしまうとは驚きである。

 『ガルパン』では一貫して作品をマーチの曲調で染め上げることで、戦争ものにありがちな陰惨な空気を払拭しつつ、必要な程度にミリタリー色を残すという難しい舵取りをやってのけた。水島監督を始めとするスタッフの意思統一と、それに応えた作曲担当・浜口史郎の功績である。特にマーチという画一的になりがちなスタイルを用いながら、多くの楽曲数と豊富なバリエーションを生み出した浜口の編曲能力・センスは高く評価されるべきだろう。また各種軍歌からは異国情緒やミリタリー色たっぷりの雰囲気を味わえ、「カチューシャ」「あんこう音頭」でファンを楽しませることも忘れない。企画性の面でも楽曲クオリティの面でも、近年トップクラスのサントラであるように思う。(和田穣)

ガールズ&パンツァー オリジナル・サウンド・トラック(音楽:浜口史郎)

LACA-9256〜7/3,200円/ランティス
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