152 アニメ様日記 2018年4月22日(日)~

2018年4月22日(日)
トークイベント「辻田邦夫 生誕55周年記念 色彩設計スペシャル再び」に司会で参加。内容については辻田さんにお任せで、基本的に自分の仕事はスケジュールの管理。終了時間が大幅に超過しないように気をつけた。イベント中にある方に「作品企画をやりませんか」と振られたのは嬉しいけれど、実際にできるのだろうか。

2018年4月23日(月)
イベントにそなえて、先週末から『新ルパン』を視聴をしている。DVDBOXの解説書で全話解説を書いた時に何度か観ているので、1話から順に観るのは最低でも5回目のはず。DVDBOXの解説で全話を観たときよりもずっと楽しい。本放映時に「ちょっとなあ」と思ったところも、今では魅力だと思える。単に子供っぽいと思った話も、キッチュな感じを狙った話ではないかと思えたり。

2018年4月24日(火)
描きおろしイラストのラフを描く。iPad Proのおかげで、イラスト発注のラフを描くのが楽になった。『新ルパン』の視聴が続く。

2018年4月25日(水)
『新ルパン』の視聴が続く。オールナイトで使うために『カイバ』のサントラを探したら、DVDの1巻に同梱されていたのね。一度、サントラを聴いてみたかったので、AmazonでDVDを購入。『新ルパン』のサントラ(オンエア時にレコードとして発売されたもの)って、発売中のCDはリマスター版で、しかも、ボーナストラックがついているのね。知らなかった。こちらもイベントの休憩時間に流すためにサントラの「2」を購入。

2018年4月26日(木)
『新ルパン』の視聴が続く。こうやって書いていると、他の仕事をしていないみたいだけど、やっていますよ。現行作品の録画の消化は遅れています。

2018年4月27日(金)
『新ルパン』の視聴が続く。それはそれとして、打ち合わせ4本立て。1本目はネットでの活躍を目にしていたライターさん。2本目は定例の書籍打ち合わせ。3本目は西武新宿線方面でアニメーターさんと打ち合わせ。4本目は地方在住の編集さんとの打ち合わせ。4本目の打ち合わせで、世間話から政岡憲三さんの話題となり、編集さんが見たことがないというので『くもとちゅうりっぷ』の動画を見てもらい、さらに「政岡憲三『人魚姫の冠』絵コンテ集」に目を通してもらう。編集さんは「『人魚姫の冠』絵コンテ集」に感銘を受けていた模様。

2018年4月28日(土)
『新ルパン』の視聴が続く。午後はオールナイトの予習で『カイバ』を1話から観る。久しぶりの視聴なので、新鮮だった。ネットで、羽原さんがジーベックの代表取締役社長となることを知る。驚いた。夜はオールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 102 湯浅政明の『カイバ』」開催。放映がWOWOWで、当時は決してメジャーではなかった『カイバ』が、10年後のオールナイトで満員になったのが嬉しい。

151 アニメ様日記 2018年4月15日(日)~

2018年4月15日(日)
「ここまで調べた『この世界の片隅に』京都上洛編」で聞き手を務めるため、日帰りで京都に。ファンの方が企画したイベントだが、イベントスタッフの方達がしっかりと仕切っていた。「ここまで調べた『この世界の片隅に』」もこれが最後。片渕さんは、今までのイベント触れていなかったある話題にも触れて、それと関連してロケハン動画の公開もあった。普段の阿佐ヶ谷ロフトAのイベントが休憩込みで3時間。こちらは休憩を入れないで3時間半(トークが3時間半で休憩が30分)なので、普段のスピード感でやると、ちょっと時間があまる。終盤はちょっとのんびりとした進行となった。自分で企画したイベントではないので、聞き手をやるだけで交通費を出してもらい、出演料をもらっていいのかと思ったのだけれど、一応、責任は果たせたかなと思う。
 イベントの楽屋にある方がいらして、これから出す書籍についての打ち合わせ。小黒がこのイベントに出ると知って、京都までいらしたらしい。ええっ、マジですか。普段はお互い東京にいるんだから、東京で打ち合わせしたほうがよかったんじゃないですか。世の中、不思議がいっぱいだ。

2018年4月16日(月)
仕事の合間にササユリカフェ。「プリンセスチュチュ展・15年目の復活祭(イースター)~Ostern im 15. Jahr~」の最終日を少しだけのぞく。貴重な資料が山盛り。伊藤さんの画をたっぷり見ることができた。特に初期デザインがよかった。

2018年4月17日(火)
事務所近くのコンビニが「あんさんぶるスターズ!」のラッピング店舗になっていた。同店舗でのキャンペーンとしてもかってないほど大がかりで、店の外も内部も「あんさんぶるスターズ!」だらけ。しかも、店に入るとキャラクターの声がランダムに鳴って挨拶してくれるという徹底ぶり。
 午後に3月いっぱいで退社したスタッフが、荷物の整理で事務所に。入社時に貸した2000年の「アニメスタイル」第1号と第2号を記念に差し上げた。

2018年4月18日(水)
取材の予習で『ハナヤマタ』を全話観る。『宇宙よりも遠い場所』を観た後だと、いろんな事がわかるような気がする。辻田邦夫さんとイベントの打ち合わせ。盛り沢山で、予定した時間に収まるかどうかが心配。

2018年4月19日(木)
午前2時20分に事務所へ入ってデスクワーク。池袋から徒歩で新宿に行って、新宿ピカデリーの8時40分からの回で『文豪ストレイドッグス DEAD APPLE』を観る。徒歩で池袋に戻る。打ち合わせをはさんで、夕方までテキスト作業。早めの晩飯。またデスクワーク。早めに帰宅。

2018年4月20日(金)
午前3時20分に事務所へ入ってデスクワーク。池袋から徒歩で新宿に行って、バルト9の8時40分からの回で「レディ・プレイヤー1」を観る。盛り沢山で熱量が凄いうえに、バランスもいい。特に印象的だったのが登場人物のひとりであるジェームズ・ハリデーの自己愛と自己肯定の強さ。僕にとって、その意味で猛烈なオタク映画だ。しかも、それが嫌味でもなければキモくもない。ガンダムが出ることは知っていたけど、出撃時のあのセリフには笑った。
 12時からフリーの編集さんと打ち合わせ。16時半から単行本打ち合わせ。19時から新宿で主にイベントの打ち合わせ。12時からの打ち合わせでは本題から外れて『リズと青い鳥』を、19時からの打ち合わせでもやっぱり本題から外れて『さよならの朝に約束の花をかざろう』を熱く語ったような気がする。

2018年4月21日(土)
渋谷HUMAXシネマの13時10分からの回で『リズと青い鳥』を観る。完成披露上映会に続いて二度目の鑑賞だった。改めて感想を書くと、映像だけでなく、ドラマもいい。いや、ドラマと映像を分けて語るのはこの作品に関しては適切でない。映像が心情を物語り、ドラマが映像に溶け込んでいる。演出、画作りにおいて、現在のアニメーションの最先端のひとつであるのは間違いない。

第130回 ジャングルへようこそ 〜ジャングルはいつもハレのちグゥ〜

 腹巻猫です。5月4日(金)開催のまんだらけ主催「資料性博覧会11」に委託参加します。「THE MUSIC OF YAMATO 1974 〜宇宙戦艦ヤマト(1974)の音楽世界〜[第2版]」を30部だけ置かせてもらいます。委託本コーナーでどうぞ。

「資料性博覧会11」公式サイト
https://mandarake.co.jp/information/event/siryosei_expo/


 ゴールデンウィークど真ん中の更新となった今回。せっかくなのでバカンス的な作品を紹介しよう。常夏のジャングルでユニークなキャラクターたちが駆けめぐる『ジャングルはいつもハレのちグゥ』でどうでしょう。

 『ジャングルはいつもハレのちグゥ』は2001年4月から同年9月まで全26話が放送されたTVアニメ作品。金田一蓮十郎の同名マンガを原作に、のちに『おおきく振りかぶって』(2007)、『侵略!イカ娘』(2010)、『ガールズ&パンツァー』(2012)などを手がける水島努監督が映像化。アニメーション制作はシンエイ動画が担当した。
 舞台はどことも知れぬジャングル。マイペースな母親ウェダと暮らす少年ハレの家に、色白で小柄な少女グゥがやってくる。初対面のときは可愛い表情を見せていたグゥだが、一夜明けると無愛想で別人のような顔に。シニカルで毒のある言動でハレをたじろがせる。人間を丸呑みにしたり、体内に異世界を持っていたりと、人知を超えた能力があるらしい。グゥの登場をきっかけにジャングルでは次々と奇妙な騒動が巻き起こる。
 正体不明のグゥのキャラクターが強烈だ。舞台となるジャングルも奇妙な生きものが跋扈する不思議な世界(B・W・オールディス「地球の長い午後」か筒井康隆「メタモルフォセス群島」みたいだ)。いっぽうでハレが住む村ではTVや冷蔵庫などの電気製品がふつうに使える。突っ込んではいけないのだろうが、文明生活がどうやって維持されているかは謎だ。シュールでSFっぽい世界観がクセになるギャグアニメである。TVアニメ終了後、OVAシリーズが2作、作られた。
 ギャグアニメの音楽というと、音楽もコミカルタッチにするか、逆にシリアスに寄せてギャップの面白さを押し出すか、ふたつの方向性がある。
 本作は前者。コミカルというよりも、なんとも不思議で奇妙な音楽が全編を彩っている。そこにスパイスのようにシリアスな音楽が加わり、『ハレのちグゥ』の独特の空気感が創り出されている。
 音楽は多田彰文が担当した。

 多田彰文は兵庫県出身。音楽の道に進んだきっかけは小学生の頃から通ったピアノ教室だった。中学時代にギターを始める。中学ではブラスバンド部にも所属してトロンボーンを演奏。この頃から譜面作りを始めた。高校時代はブラスバンドでサックスを担当。そのかたわら、バンドでギターを弾いてフォークソングを作ったりしていた。
 高校卒業後上京し、アルバイトをしながらプロの音楽家への道を模索した。音楽事務所に送ったデモテープがスタッフの目に止まり、プロとしての第一歩を踏み出す。同じ事務所にいた辛島美登里のコンサートのバックミュージシャンとして4年ほど全国ツアーに同行。それが一段落したあと、好きな英語を究めたいという思いから日本大学文理学部英文学専攻科に入学するも、音楽の仕事が忙しくなって中退してしまった。以降は、さまざまな歌手・アーティストのツアーサポートや編曲、サウンドプロデュースなどで活躍。アニメーション・ドラマ・劇場作品・ゲーム等の音楽も手がけるようになった。
 アニメ音楽の代表作にTVアニメ『FF:U 〜ファイナルファンタジー:アンリミテッド〜』(2001/浜口史郎と共作)、『キャプテン翼』(2001/岩崎文紀と共作)、『ヤミと帽子と本の旅人』(2003)、『サムライガン』(2004)、『スキップ・ビート!』(2008)、『クロスファイト ビーダマン』(2011)など。劇場版『ポケットモンスター』シリーズ、劇場版『クレヨンしんちゃん』シリーズの音楽にも参加している。歌ものではTVアニメ『ああっ女神さまっ』(2005〜2006)のエンディング主題歌「願い」「僕らのキセキ」、『ポルフィの長い旅』(2008)のオープニング主題歌「ポルフィの長い旅」、『魔法使いプリキュア』(2016)のエンディング主題歌「CURE UP↑RA?PA☆PA! 〜ほほえみになる魔法〜」などを作曲。特撮ファンにとっては、TVドラマ「ウルトラQ dark fantasy」(2004)の音楽も重要だ。
 手がける作品はSF・ファンタジーからスポーツ、ギャグ、日常ものまで幅広く、キーボード、ギター、ベース、木管・金管楽器、バイオリン、パーカッションなどの楽器演奏や指揮もできるというマルチプレーヤー。まさに音楽の仕事人という感じの音楽家である。
 『ジャングルはいつもハレのちグゥ』の監督・水島努は音楽を依頼するにあたって、不思議なジャングルの感じを出すために、あえてわかりづらい音楽を注文したという。うれしいとか悲しいとか、感情や情景が見えやすいものよりも、ジャングルの中でいつも鳴っているような音楽を作ってほしいと。
 どこかわからないけれど、確かにどこかにあるジャングル。そこで鳴っている音楽は、なんとも形容しがたい、ユニークな音楽になった。コミカルになりすぎず、じわじわと不思議でおかしい雰囲気をかもしだす。そのさじ加減が実にうまい。
 本作のサウンドトラック・アルバムは2001年7月に日本コロムビアから「音楽もいつもハレのちグゥ」のタイトルで発売された。収録曲は以下のとおり(曲名の後ろにBGMのMナンバーを補った)。

  1. LOVE・トロピカーナ(歌:Sister MAYO) ※「・」=ハートマーク
  2. 密林(ジャングル)(M-14/M-15/M-28A)
  3. ハレのテーマ(M-1/M-12)
  4. グゥのテーマ(M-2/M-3/M-16)
  5. 学校(M-13)
  6. ジャングルの仲間たち(M-4/M-5/M-5B/M-6/M-7/M-8)
  7. 胸毛(M-9)
  8. 散髪屋のババア(M-11)
  9. サスペンスいっぱい(M-17/M-20/M-21/M-23/M-26AB/M-27)
  10. うきうき、晴ればれ(M-30A/M-36)
  11. 南国の涼風(M-33)
  12. バースデイ(M-35)
  13. 再会(M-37)
  14. 逃げろ逃げるんだ!(M-38A/M-39A)
  15. 不思議なジャングル(M-10/M-42/M-51/M-31A)
  16. 「回想」「悲」(M-45/M-46)
  17. マリィの孤独(M-34)
  18. おやすみ(M-29A/M-43)
  19. ふしぎなジャングル(歌:ジャック・伝ヨール)
  20. ゲーム(M-47/M-48)
  21. 密林(ジャングル)の大人たち(M-49/M-49B/M-32/M-50)
  22. ハイクラス(M-52/M-53)
  23. サブタイトル(M-54/M-55)
  24. ソウルトレイン(M-56)
  25. のんびり晴ればれ(M-40AB/M-41AB/M-60A)
  26. おはし(歌:0930)

 1曲目はSister MAYOが歌うオープニング主題歌。平成アニメソングのヒットメーカー・小杉保夫の作曲。奇妙キテレツでテンションの高い世界観をみごとに表現した名曲だ。この路線はOVAでも踏襲され、歌詞とメロディを変えた主題歌「LOVE☆トロピカ〜ナ デラックス」「LOVE☆トロピカ〜ナ ファイナル」が作られた。
 サントラでは主題歌がTVサイズで収録されることが多いが、本アルバムはオープニング、エンディングともフルサイズ収録なのがうれしい。
 サウンドトラックのパートは1トラックに複数曲をまとめて収録するスタイル。構成・解説は浅野智哉が手がけている。曲順はストーリーの流れを追うよりも曲調重視。音楽的流れを優先したイメージアルバム的構成だ。
 トラック2「密林(ジャングル)」はタイトルどおりジャングルのテーマ。M-14はコミカルなリズムの上で不思議なメロディが踊る『ハレのちグゥ』らしい曲。やや牧歌的なM-15を挟んで、M-28Aはレス・バクスター的な曲想の雄大なエキゾティック・ミュージック。このトラックだけでも多田彰文の音楽性の幅広さが表れている。
 トラック3は本作の主人公ハレのテーマ。木琴のとぼけたリズムにクラリネットのメロディが重なるM-1は、ハレの明るさ、元気良さがユーモラスに描写された曲だ。M-12はウクレレがリズムを刻むのんびりした曲。常夏の雰囲気がよく出ている。
 トラック4は不思議少女グゥのテーマ。M-2はキラキラしたイントロから暖かいシンセのメロディに展開する、可憐な表情のグゥを表した曲。M-3は一転してパーカッション主体のちょっと不安な雰囲気の曲で無愛想な顔のグゥをイメージさせる。M-16はサーカス的な曲調でグゥの正体不明の不気味な面を表現。スクラッチノイズ風の音や生きものの声みたいな音もまじって、もう何がなんだかわからない。これがグゥなのだ。
 トラック5「学校」はハレたちの学校生活をイメージした明るく楽しい雰囲気の曲。ジャングルには立派な2階建ての学校も建っているのだ。
 トラック6「ジャングルの仲間たち」はジャングルに住む個性的なキャラクターや生きもののテーマを6曲まとめた、にぎやかなトラック。オルガンが活躍する60年代ロック風の曲やインドネシア音楽っぽい曲、笛の音が奏でる怪しく神秘的な曲などが次々登場して飽きない。最後のM-8は「アオ!」と男声スキャットが入るロック調の曲。こんな曲、『ハレのちグゥ』でなければ考えられない。
 長老をイメージしたトラック7「胸毛」、霊能力のある散髪屋のダマばあさんをイメージしたトラック8「散髪屋のババァ」など、ユニークなキャラクターのテーマはまだまだ続く。
 トラック9「サスペンスいっぱい」は映画音楽的な楽曲を集めたトラック。1曲目のM-17は第1話冒頭などウェダの過去がらみの場面でよく使われたピアノ曲だ。
 続くトラック10「うきうき、晴ればれ」にはトロピカルムードいっぱいの明るい曲が集められている。トラック11「南国の涼風」とともに、刺激的な曲が続いたあとにほっとひと息つける構成である。
 トラック13「再会」は本アルバムの中では珍しくシリアスでメロディアスな曲。第5話でハレが実の父親を初めて知る場面や第14話でハレがウェダから実家を出た理由を聞く場面、最終回でウェダが母親(ハレの祖母)と再会する場面などで流れた感動的な曲である。
 しっとりした雰囲気のあとは、追っかけのドタバタを描写するトラック14「逃げろ逃げるんだ!」、スペイン風、中国風、和風、クリスマス音楽風など、色とりどりの楽曲を集めたトラック15「不思議なジャングル」と、またにぎやかな曲が続く。
 次のトラック16「「回想」「悲」」は弦合奏によるクラシカルな情感曲M-45とビブラフォンとオカリナ、弦楽器による切ない曲M-46の2曲で構成。オルゴールが奏でるトラック17「マリィの孤独」とトラック18「おやすみ」が続いて本アルバム第2のひと息ポイントとなっている。本作は意外にシリアスなキャラクターの心情が描かれる場面もあり、そんなときにこうした曲が活躍していた。
 水島監督の歌詞をジャック・伝ヨールが作曲・編曲し、自ら歌ったトラック19「ふしぎなジャングル」は、本作のシュールな雰囲気を伝えるエキセントリックな歌。ジャングルの不思議な生き物「ポクテ」の名が連呼され、間奏では謎の声や動物の鳴き声があちこちから聴こえてくる。摩訶不思議なジャングルに迷い込んだ気分になる歌だ。これも『ハレのちグゥ』でなければ考えられない楽曲である。
 第1話などでハレが遊んでいたTVゲームの音楽(ジャングルにはTVゲームもあるのだ!)がトラック20「ゲーム」。ちょっとチープなゲームサウンドが再現されている。
 トラック21「密林(ジャングル)の大人たち」は艶めかしいサックスやピアノが奏でる音楽を集めたトラック。ほかのトラックに比べてぐっと大人っぽい曲調で雰囲気が変わる。これもまた多田彰文の音楽性の幅広さを伝えるトラックだ。ウッドベースがリズムを取るジャズタッチのM-50がいい。
 次のトラック22「ハイクラス」にはクラシカルで優雅な雰囲気の曲がまとめられている。
 トラック23「サブタイトル」はパーカションだけのアフリカンな曲M-54とスネアドラムだけのM-55の2曲で構成。実際は本作には決ったサブタイトル音楽はなく、本曲はハレたちがジャングルの中を進む場面やグゥの奇矯な行動の場面などに流れていた。
 トラック24「ソウルトレイン」はタイトルからイメージされるとおりのディスコチューン。第3話でアフロのかつらをかぶって踊るグゥの姿(天井にはミラーボール!)が思い出される。
 サウンドトラック・パートを締めくくるトラック25「のんびり晴ればれ」はとぼけた曲調の音楽を集めたトラック。ミュートトランペットとファゴットの音色が奏でるのんびりムードのM-40AB、オルガンとシンセのメロディが軽快なM-41A、怪しい木琴のリズムと愛らしい笛の音の組み合わせでジャングルの日常を描写するM-41B、ラストはトロピカルではじけた曲調の次回予告音楽M-60Aという構成。ハッピーエンド……とは言いきれないけれど、大騒ぎもひとまずおしまい。そんな雰囲気のトラックである。
 エンディング主題歌「おはし」は、2000年にデビューした女性2人の音楽ユニット「0930(オクサマ)」が歌うタイアップ曲。第20話の雪合戦の場面で挿入歌として使用されている。いい歌なのだが、あまり作品には合ってなかったのが惜しい。でも、筆者はこの曲で0930の名を覚えました。

 コミカルな作品は音楽作りもアルバム作りも難しい。楽曲はともすればやかましく品のない音楽になりがちだし、いろいろなタイプの曲が作られるのでアルバムもバラバラの曲を並べたような統一感のないものになりがちだ。
 けれども本作は、“不思議なジャングルで鳴っている音楽”というコンセプトで音楽を統一することで、ひとつの世界を完成させている。ユーモラスだけれど、オチがつくようなわかりやすいコメディではなく、背後に暗い闇がひそんでいるようなちょっとブラックでシュールな笑いが、サウンドから伝わってくる。水島監督が望んだ「わかりにくい音楽」の効果である。部屋で目を閉じて、この音楽に浸って欲しい。そこはもう、『ハレのちグゥ』のジャングルだ。

音楽もいつもハレのちグゥ
Amazon

【ARCHIVE】 「この人に話を聞きたい」
第24回 吉松孝博


●「この人に話を聞きたい」は「アニメージュ」(徳間書店)に連載されているインタビュー企画です。
このページで再録したのは、2000年10月号掲載の第二十四回のテキストです。




この10年間、『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』、劇場『スレイヤーズ』、『TRIGUN』、『十兵衛ちゃん』と、間断なく人気作のキャラクターデザインを担当し、その一方でゲーム誌やアニメ誌で痛快なマンガを発表し、カルト的な人気を得ている彼。「特殊アニメーター」という肩書きで、ヘンテコな原画を描いていたりもする。マジメなのかフマジメなのか、腕がいいのかセンスがいいのか、なんとも正体がつかめない人物である。今月は、そんな彼の素顔に迫ってみよう。




PROFILE

吉松孝博(Yoshimatsu Takahiro)

 1965年(昭和40年)8月27日生まれ。大阪府出身。血液型はB型かO型。高校卒業後、スタジオライブに入社し、アニメーターとしての活動を始める。代表作は『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』、劇場『スレイヤーズ』(キャラクターデザイン・作画監督)『TRIGUN』、『十兵衛ちゃん』(キャラクターデザイン・総作画監督)、『風まかせ月影蘭』(総作画監督)等。サムシング吉松のペンネームでマンガ家としても活躍しており、『セガのゲームは世界いちぃぃ!!』(ソフトバンクパブリッシング)「週刊ドリームキャストマガジン」連載はカルト的な人気を集めている。

取材日/2000年8月23日 | 取材場所/東京・スタジオ雄 | 取材・構成/小黒祐一郎





―― え~と、それじゃあ、よろしくお願いします。

吉松 よろしくお願いします。さっき、撮影で缶ビールを2本飲んで、今、飲んでるこれで3本目なんだよね。あはは(笑)。いいですねえ、こういうインタビューも。

―― お酒、飲みながらで大丈夫?

吉松 大丈夫ですよ。普段も素面じゃやってませんから。

―― 普段から、酒飲んで仕事してるの?

吉松 いや、そういうわけじゃなくて(笑)。それくらいの勢いで、やっておりますという事でね。

―― 俺は吉松さんとは10年近いつきあいになるんだけど、実は、昔の話って訊いた事ないんだよね。そのあたりからいきたいんだけど、良い?

吉松 ええ、お任せします。

―― まず先に確認するけど、あなたの仕事の基本はアニメなの?

吉松 そうですね。やっぱり、基本はアニメーターですよ。「特殊アニメーター」、「特殊マンガ家」といった肩書きもあるけど、それはアニメーターである自分に付随しているものだよね。

―― じゃあ、「特殊アニメーター」の話は後回しにしてだね。そもそも、どうしてこの仕事をやろうと思ったわけ?

吉松 やっぱり、中学の頃に『ヤマト』とか、『ガンダム』とかの洗礼を受けまして、中学の時は、美術部に所属してアニメーションを作ったんですよ。美術部の部員だけだと人が足りなかったんで、周りからヘッドハンティングして、巻き込んで、それで、8ミリのアニメを作りまして。そこで作品を作り上げるという悦楽にですね、どっぷりと浸かってしまったのが事の発端というか。

―― 高校でも部活でアニメを?

吉松 中学の時は、別の高校に行ったりしてバラバラになっちゃったんですよ。だけど、付き合いはずっと続いてたんで、高校の頃にも中学の時の仲間と自主制作サークルという感じでやっていたんです。今度はセルアニメーションに挑戦してですね。

―― ああ、中学の頃はペーパーアニメだったんだ。

吉松 そうそう。それが例のDAICONの頃なんですよ(注1)。アニメ誌でDAICONの記事を読んで、素人でもセルアニメが作れるという事を知ったんです。ちゃんとしたセルじゃなくて、大きなセルを買ってきて自分達で裁断すれば、安く作る事ができるという事を知って。「うちらも工業団地までセル買いに行かなきゃ」という話になって(笑)。問屋へ行ってセルを買って、みんなで裁断して。で、どのサイズで切り取るかという問題がそこで発生したんです。確か、DAICONのアニメは、B5版ぐらいにセルを切ってたんですよね。そのくらいにしておけばよかったんだけどねぇ。うちらはB4版ぐらいで切ってたんですよ(笑)。

―― (爆笑)。

吉松 あれはねえ、やめたほうがよかったなぁ(笑)。

―― (笑)。そんなに大きいと絵の具が大変じゃない。

吉松 そうそう。1500枚ぐらい描いたんだけど。塗るのが大変でねえ。後々考えると、そのセルのサイズって、通常の……。

―― TVアニメより大きいね。B4っていうと、劇場アニメサイズだね。

吉松 あれは誤算だったなぁ。当時、メカとかわいい女の子が出てくるのが自主制作でも王道だったんですけどね。メンバーの中にそれに異を唱える者がいたんですよ。それで宇宙飛行士が出てくるやつを作ったんですよ。

―― 宇宙飛行士?

吉松 宇宙空間に二つの米ソの宇宙船があって、片やアポロからアメリカの宇宙飛行士が出てきて、片やソユーズからソ連の宇宙飛行士が出てきて、大気圏に突入するんですね。酸素ボンベは1コしかなくて、それで、どっちが勝つかっていう(笑)。生きてた方が勝ちという。

―― ああ、なるほど。酸素ボンベを奪い合う。その奪い合う様子を作画で見せるわけだ。

吉松 そうそう。ドンドン真っ赤に燃えて、煙が出てですね(笑)。

―― それで、ちゃんと完成したの?

吉松 した、した。

―― 高校時代に作ったのは、その一本だけなの。

吉松 高校の文化祭の時に、生徒会でもなんか出品しようという事になったんですよ。当時、僕は生徒会に出入りしてて、出入りと言っても放課後に行って、うだうだと遊んでただけなんですけど。それで生徒会の作品を、その自主制作サークルに協力してもらって作りました。これは実写で『地蔵人間カタイダー』という(笑)。馬鹿馬鹿しいヒーローもののパロディです。

―― 吉松さんは、生徒会の役員だったの?

吉松 役員ではなかったんです。

―― 毎日遊びに行ってるだけの人だったの?

吉松 そうそう。生徒会にいる謎の男(笑)。

―― で、高校卒業後、専門学校に行くわけだよね。

吉松 行かない、行かない。

―― いきなりスタジオライブに行っちゃうの?

吉松 そうそう。マンガ家の眠田直さんが、自主制作サークル仲間のひとりの先輩だったんですね。それで高校の時に、眠田さんに地元で葦プロのアニメのイベントがあるんで手伝ってくれって言われて。上映会&トークショーだったんですけど、その幕の緞張を上げたり下げたりとかのスタッフをやっていたんですよ。そのイベントの時に芦田(豊雄)さんと、わたなべひろしさんに会って。そん時にまあ、将来。スタジオライブに行けたらいいなあ~と思ったわけです。将来と言っても、すぐその後なんだけどね。

―― 当時のライブは『アラレちゃん』をやってる頃?

吉松 『アラレちゃん』と『ミンキーモモ』ですねぇ。

―― すでに、ゴーゴーな時期だ。

吉松 ええ。「アニメージュ」でも特集なんかが組まれていてですね。スタジオライブは楽しい職場みたいだから、行けたらいいなあと思っていたわけです。

―― で、具体的にどうやってライブへ。

吉松 芦田さんに話したら「とりあえず画が見たい」という事だったので。ルーズリーフにしこたま落書きを描いてですね、見せに行ったんですよ。

―― 東京まで持っていって。

吉松 ところが場所が分かんなくてね(笑)。アポも取らずに行っちゃって。電話帳で調べて、まあ、なんだかんだでライブに行く事はできたんだけど。行ったら、たまたま芦田さんがいなかったんで。とりあえず、その落書きだけ置いて帰っちゃったんです。その後、芦田さんから連絡があって、「来たければ来てもいいですよ」みたいな話になって。

―― 高校卒業して、そのままライブに行って、それですぐに『超獣機神ダンクーガ』に参加する事になるの?(注2)

吉松 そうなりますね。4月にライブに入って、秋口には『ダンクーガ』をやっていたんじゃないかな。

―― あれって、ライブのみんなでキャラデザインをしようみたいな感じだったんでしょ?

吉松 そうそう。芦田さん以外の人にもキャラデザインをやるチャンスを、みたいな企画だったんだと思うんですけどね。

―― と言いつつも、動画マンがTVシリーズのキャラデザインに参加するなんて前代未聞だよね。

吉松 そうだよねえ。しかも、三将軍のデスガイヤーとシャピロ・キーツを。未だに「スパロボ」に出てるんで、嬉しいんですけどね。

―― ああ、そうだね。大活躍してるね。

吉松 あのですね、当時の吉松は、凄い生意気だったと思うんですよ。

―― まあ、自分で言うのもなんだけどね(苦笑)。

吉松 僕が入った頃のライブは『バイファム』をやっていたんですよ。で、その後の作品の『ガラット』のキャラ設定を芦田さんが作りはじめて。それを見せてもらった時に僕は「ああ、やっぱり、こっちの方向に来ましたか」みたいな(笑)、そういう非常に生意気な事をベラベラと喋ったんですよ。そんな事があったから、芦田さんとしては「吉松を困らせてやろう」という考えがあって、僕に『ダンクーガ』のキャラデザインの仕事で声をかけたのかもしれない(笑)。

―― なるほどなあ。アニメーターになってからの印象的な作品は何になるの。

吉松 何だろう? 初原画は『ダンクーガ』でしたけど。『ハイスクール! 奇面組』が印象深いかなあ。その作品でギャグ作画っていうのを思う存分できたかなぁ、という感じで。

―― と言うと。

吉松 僕は『ハイスクール! 奇面組』には途中参加だったんですよ。それで、自分が参加するまでの話数を観ると、ギャグ作画とかがですね、非常にイカンと(笑)。まあ、そんな風に思ったわけですね。あれって、集団ギャグだからドリフターズみたいなギャグをイメージしていたんだけど、なんか違和感があってねえ。で、たまたま一番最初にやった回が、割とコンテ段階で内容を決め込んだ感じじゃなかったんで、そこでちょっと色々とやらかせていただきまして。

―― 愉快な作画をしたわけ?

吉松 愉快な作画ですねえ。頭身が低くなった奇面組の5人が唯を取り囲んで、なぜかツイストを踊るという(笑)。

―― (笑)。

吉松 それも2枚で(笑)。

―― 動画2枚のパカパカした動きの繰り返しで(笑)。

吉松 そうそう、2枚の繰り返しを2パターン使うから、計4枚なんですけどね。豪君とか無表情なんで、結構イイ感じのギャグになって。

―― 他にも『奇面組』では愉快な事をしたわけ?

吉松 今思うと非常に情けない話ですけど、大爆発が起こって画面の奥から、ばくはつ五郎が飛んでくるとかですね(笑)。(注3)

―― (爆笑)。ばくはつ五郎がそのまんま飛んでくるの?

吉松 そう。うろ覚えで描いているから、似てないんだよね。

―― ああ、なるほどね。ばくはつ五郎みたいなキャラが。

吉松 そうそうそう。画面に向かってウインクして去っていく。

―― ああ、なんか若気の至りだねえ。

一同 (爆笑)。

吉松 ええ、ええ。そんな事をやってましたよ。

―― 『奇面組』の臨海学校の話もライブがやっていなかったっけ。

吉松 オイラは臨海学校のヤツだと、スイカを切ってるところをやってる。スイカを切るところは結構、無茶をしてて。あれこそ若気の至りだよね。コンテにない事をやらせて下さいって言ってね。スイカをバラす技のバリエーションを色々いれて。1カットなんだけどね、「1カットじゃね~だろ、それ!」というものになってしまって(笑)。

―― (笑)。

吉松 1カットの中で、さらにカット割りをしまくったんですよ。背景を何枚も作って。

―― つまり、「カット100」だったら、カットの100A、カットの100B、カットの100C って、必要な背景を増やしちゃったんだ。勝手に内容変えちゃって、秒数も増えまくり?

吉松 増えまくり。秒数はね、さすがに演出の人が抑えて、少し縮まったんだけど。縮まったなりに、むちゃくちゃでしたけど(笑)。零君が南斗水鳥拳を使ったりね。

―― ああ、覚えているよ。あれは吉松さんがやったところなんだ。

吉松 そうそう。南斗水鳥拳でスイカを斬っちゃうんだよ。結構、そういう事をやらしてもらっちゃいましたね。

―― なるほどなあ。初作監は何になるの。

吉松 一番最初にやったちゃんとした作監は、『グランゾート』の最終回。

―― 『ワタル』と『グランゾート』で、美少年を描くのはどうだったの?

吉松 ああ。う~ん、そうですね……まあ、その辺は何ですかね? 芦田の血ですかね(笑)。

―― ライブで育っただけあって、無理せず描けたわけだ。

吉松 割とそっち系のスキルはあったのかな。虎王とかラビとかは楽しんで描けましたけどね。

―― 吉松さんのは、割と濃いめの画だったよね。

吉松 僕のはね、ほっぺたの感じとか、鼻のところの影とかは、当時、ふくやまけいこさんと今井ひづるさんが歌にするぐらいの(笑)。(注4)

―― なに、それ?

吉松 今井ひづるさんが歌ってたんだね。「えぐれほっぺ~、鼻の上に影~♪」とかなんとか。

―― 吉松さんの画の事を?

吉松 そうそう。100メートル先からでも分かるという(笑)。

―― 俺、『ワタル2』の時に「アニメージュ」で吉松さんに描き下ろし描いてもらったんだよ。(注5)

吉松 『ワタル2』で? 後ろに黒龍がいるヤツ。

―― そうそう、あれは俺がラフ切ったんだよ。

吉松 ああ、そうだっけ?

―― うん。やたらと線に力のある画が上がってきて、「へー、上手い人がいるんだ」と思ったのを覚えている。その後に『サイバーフォーミュラ』が始まる時に「あの版権イラストの人だ」と思って、ちょっと期待したんだ。

吉松 ああ、そうなんだ。

―― で、吉松さんは『サイバーフォーミュラ』でキャラクターデザインに大抜擢される。

吉松 そうそう、大抜擢。

―― これは、いきなり天から降って湧いたような話だったの?

吉松 たまたま、という感じですね。『サイバーフォーミュラ』の話がライブに来た時に、芦田さんが「じゃ~、吉松やってみっか~」みたいな感じで。多分、別の人に振る予定もあったんだろうけど。

―― もっとキャリアのある人に?

吉松 うん。その時の作品の兼ね合いとかで、僕のところに話が来たと思うんだけど。

―― その当時、25歳、26歳?

吉松 そのくらいかな。

―― 自分の中で『サイバーフォーミュラ』は大きい?

吉松 大きいですねぇ。最初はやっぱり、僕という人間の実力が、あんまり信用されてなかったと思うんですよね。その辺をどうやって払拭していくかというのが課題だったんです。まあ、結果で見せるしかないんですけどね、そういうのは。

―― 信用されてなかったというのは、サンライズ側に?

吉松 サンライズにも、周囲の人達にも。

―― で、実作業をやってみてどうだったの。

吉松 制作状況が良くなかったのも大変でしたね。実作業は……う~ん、まあいつもそうなんだけど「できる範囲で、できる事をやる」という心がけでやりました。

―― なるほど。

吉松 その結果、充実感もあったし、楽しかった。何よりもファンに支持されたっていうのが、大きかったッスね。一生懸命にいいものを作っても、なんのリアクションも起きなくて埋もれてしまう場合もありますからね。

―― 当時は話題になる事が多かったよね。

吉松 「アニメージュ」的には、アニメグランプリも頂きましてですね。(注6)

―― 吉松さん自身も、雑誌でバシバシと描き下ろしを描いていたし、マンガも描いたしね。

吉松 そうそう。サムシング吉松の名前が世に出たのも、「サイバープレス」からですからね。

―― そうだよね。懐かしいなあ。ここで読者の方に説明すると、昔、「アニメージュ」で「サイバープレス」という連載記事があってですね。で、この連載のインタビュアーである小黒さんが「サイバープレス」の担当だったんです。

吉松 そうそう。

―― 「サイバープレス」での吉松さんはマンガを描いていたんだけど、それ以外の「サイバープレス」の記事に関しても、吉松さんの愉快なノリの影響が出ていたような気がする。

―― (笑)。自画自賛しちゃうけど、面白かったよね。

吉松 あれ、そのまま単行本にしたら良かったのに(笑)。

―― (笑)。『サイバー』の後の吉松さんの仕事は、『スレイヤーズ』『TRIGUN』『十兵衛ちゃん』『月影蘭』……と。あっ、こんなもんだっけ。

吉松 そう、作品数少ないんだよね。そういった意味では。

―― 『サイバー』と『スレイヤーズ』が長いんだ。

吉松 長いねぇ。『スレイヤーズ』も、まあ実作業的には4年くらいやっているから。

―― その前の『サイバーフォーミュラ』も足かけ4年ぐらいだね。

吉松 その後、『TRIGUN』以降はマッドハウスさんにお世話になってますね。マッドハウスに自分の机があるという状況は、この仕事を始めてからも、想像だにしなかったですね。

―― よもや、『幻魔大戦』を作った会社に行く事になるとは。

吉松 長生きはするもんですよね(笑)。

―― 『サイバーフォーミュラ』から『月影蘭』の間で、転機はある?

吉松 やっぱ大地(丙太郎)さんとの出逢いかなぁ?僕は、一緒に仕事をする監督や演出家には恵まれてきたし、面白い作品に関わってこれたと思うんですよ。その中でも、大地さんとの出逢いは大きいですね。

―― 『TRIGUN』では、ずっとライブで一緒に仕事をしてきた西村(聡)さんとのコンビだったよね。

吉松 西村とは、もう長い付き合いだからね。彼のやりたい事は非常によく分かるんです。彼が演出家として画に求めるものは非常に分かりやすいし、僕も表現しやすいんですよ。だから、彼とはあんまり組まない方がいいのかなという気も、最近はしてる(苦笑)。

―― あっ、なるほど。

吉松 お互いに頼っちゃうんだよね。

―― ベストパートナーすぎるから。

吉松 うん、具合が良すぎるかもしれない。今後も彼とは一緒に仕事をやっていきたいんだけど、『TRIGUN』の後には、西村には僕じゃない人と組んでほしいなぁというのがあったんですよ。今、彼は監督作品を動かしてますけど、面白い作品になるんじゃないですかねえ。

―― 吉松さんは、実は今までオリジナルのキャラクターデザインは、ほとんどやってないんじゃない?

吉松 ハハハハハハハッ(パンと手を打つ)。そうなんですよ。

―― 今思ったけど、『ダンクーガ』ぐらい?

吉松 そうそう。そろそろ自分のオリジナルキャラで作品を作らなければいけない時期にさしかかってきてるのかなあと思っているところに、運良くそういう話がきまして。現在、その作品に関わっています。

―― タイトルは、もう公表できるの?

吉松 タイトルは『学園戦記ムリョウ』。今の段階で言える事は来年の4月放送開始予定で、マッドハウスが制作、監督が佐藤竜雄。それから、作監・キャラデザが吉松だっていう事くらいかな。

―― 今までは、他の人の原作やキャラクター原案のある作品に参加してきて、ストレスが溜まっていたとか。

吉松 うーん。ストレスって言うほどでもないですけどね。やっぱり、元があった方が、楽っちゃ楽ですしね。ただ、オリジナルでやりたいという気持ちも無かったわけじゃないんです。

―― 今までオリジナルキャラは、小出しにしてたわけだよね。『サイバー』のブリード加賀とかさ。次の作品のキャラクターも、シャピロのような、ブリード加賀のようなラインなの。

吉松 いや、それが実は……質素な(苦笑)。質素というと言葉が変だけど、あんまり濃い系のキャラという感じではないんだよね。それは佐藤さんのオーダーもあるんですけど。非常に普通な感じの少年少女の活躍するアニメになると思いますけど。

―― なるほど。

吉松 少年マンガらしさっていうか、みんなのイメージの中にあるような少年マンガらしさというものを狙っていますね。

―― 吉松さんには、さっき言った「特殊アニメーター」という顔もあるわけだよね。(注7)

吉松 はいはい。

―― ここでまた、読者に説明するとですね。『ゲキ・ガンガー』の劇画タッチ作画とかですね。『ジェネレイターガウル』のアイキャッチとかね。

吉松 それと『天なる』のアイキャッチとか。

―― 『デ・ジ・キャラット』のペーパーアニメ風作画とか。それと『新・天地無用!』とか。

吉松 ああ、『新・天地』のポリスメンね。まあ、なんつんでしょうねぇ、「一芸アニメ」というか。他の人が真面目にやってる中で、少し芸を見せるというかね(笑)。

―― あそこら辺の仕事は、サムシング吉松としてマンガを描いているのに近いんだようね。

吉松 そうそう。

―― 「特殊アニメーター」の仕事は息抜きに近い?

吉松 息抜きに近いですね。特に、ポリスメンの時なんかは、どれくらいイイ加減にやって画面を成立させられるか、という事にチャレンジしていましたから(苦笑)。でも、でき上がると、結構、ちゃんとしたものに見えちゃうんだよね。あれは口惜しかったです。ハハハハハッ。

―― 『ゲキ・ガンガー』やるまで、吉松さんがあんなに芸達者な人だとは思わなかった。勿論、『サイバー』みたいな格好いい画を描くのは知っていたけど。

吉松 芸という事では、そうだよね。キャラデザインや作監は全体で見る仕事だけど、原画で参加する場合は、そうじゃないからね。特に「特殊アニメーター」の場合は、どうやって目立つかというのを考えるよね。

―― 「特殊アニメーター」の仕事の場合は「特殊な仕事をしてくれ」って依頼されるわけ?

吉松 最近はそういう形の方が多いかもしれない。そういうオーダーでくる場合は、非常にやりやすいよね。要するに、周りとの違和感を求められているわけだから。「そういう事なら、オッケー!」って暗示ですね。

―― ちょっと意地悪な質問になっちゃうけど、アニメの『セガのゲームは世界いちぃぃ!!』は、現在、どういう状態なの?

吉松 ハハハハッ。あれはポシャった事はポシャったんですけど、僕としてはあきらめたつもりはまだないので、あのー、機会があれば。(注8)

―― そういう事なんだ。機会があるといいなあ。

吉松 あるといいなぁ。完全に芽が無くなってるわけではないので、まあ、運が良ければ、何かしらのかたちに。たとえ10分のものでも、アニメの作品として発表できるといいなぁと思っとるわけですよ。

―― それはさっき言った自主制作に始まり、『奇面組』を経由して「特殊アニメーター」に至る、愉快ラインの。

吉松 そうそう。愉快ラインの集大成というかね。キャス子をアニメにしようと考えてたりすると、やっぱり自主制作をやってて良かったなぁと思いますね。プロとしてモノを作るのとは、別の傾向の作品というか。そういうものをプロのスキルで作れたら面白いんじゃないかなと思いますね。最近、アメリカのアニメーションが好きなんですよ。『サウスパーク』とか『キング・オブ・ザ・ヒル』とか、ああいった作品の根っ子にあるものは、少人数で作品を作る自主制作イズムみたいなものじゃないかと思うんですよ。

―― プライベートっぽいけど、芸術作品じゃない。

吉松 そうそう。猥雑な、単なる受け狙いというか。最近、そういう純粋な面白さが、ちょっと薄れてきているような気がする。

―― それは自分に関して、業界に関して。

吉松 自分と業界の両方で。そういうのをやってもいいんじゃないかという気もしている。

―― 今まで、特殊アニメーターとして細々とやってきたものを。

吉松 全開にしても、良いのかも。ひょっとして作品として成立するんじゃないかなという気がしてるわけですよ。

―― 吉松さんは『サイバーフォーミュラ』とか、『十兵衛ちゃん』と、ちゃんとした商業的なモノをやりつつ、特殊な事をやってるのがバランスいいよね。

吉松 僕は、やっぱり自分は商業アニメーターだと思うんですよ。

―― マンガを描こうが何しようが。

吉松 うん。それでアニメーターとして、めちゃくちゃ素晴らしいレイアウトが切れるわけでもないし、かっこいいエフェクトができるわけでもない。自分のできる事をできる範囲でやるという生き方を、ずっとしてるんで(苦笑)。

―― 実は俺、吉松センセに憧れてるところがあるんだよね。吉松さんてさ、やっぱ気張んないよね。

吉松 気張らないですね。無理しないッス(笑)。

―― 昔、『サイバーフォーミュラ』で、雑誌用の描き下ろし頼んだ時に、何となく仕上がりがイマイチだった時があったんだよね。それで「どうしたの」って訊いたら、「いやあ、調子が出ない時には、何を描いてもダメですね。わっははははっ」って、豪快に笑われた。

吉松 ハハハハッ! ひでえ。それはひどいよ、君! はっははは。

―― その時は「コイツめ」と思ったんだけどね。後でよくよく考えてみると、こだわるときはものすごくこだわって、ダメな時は「ダメでした」って笑えるというのは、羨ましい事だなと思った。

吉松 (笑)。そんな事がありましたか。まあ、表面だけ繕ってもしょうがないからね。

一同 (大爆笑)。

―― 身も蓋も無いなあ。で、マンガの方はどうなの?

吉松 マンガは、まあ、頼まれればぼちぼち描くという感じで。

―― 吉松さんは、基本的に毎日スタジオで作画監督の仕事をしているわけじゃない。マンガはその仕事の合間をみてパパッとやっちゃうわけ?

吉松 そうですね。多分、原稿頼んでる人が、僕がマンガを描いているところを見たら、怒り出すと思いますよ。あまりにもサッサッと描いちゃうんで(笑)。ハッハハハハッ。僕のマンガっていうのは、本業に支障をきたさない程度の範囲内で描いているんで。

―― 下書きとかはするの?

吉松 下書きは一応あります。と言うと、みんな驚くんだけど(笑)。ただ、動画用紙に描いてますけどね。最初はちゃんとした紙に描いてたんだけど。タップがあると便利だしね。下書きの上に……。

―― ああ、乗せるとしたが透けて見えるからね。

吉松 そうそう。動画用紙は薄いからグチャグチャになりやすいんだけど、どんなにグチャグチャになっても、それを「味」と言い張る(笑)。「これは味ですから」と。

―― 去年から今年にかけては凄かったんじゃない。『セゲいち』のグッズが出たり、単行本が出たり、あなたの人生の仲でもかなり大きいイベントだったのでは?(注9)

吉松 やっぱ、楽しかったですね。

―― こんな事になるとは思わなかったでしょ。

吉松 ええ。単行本にする目論見なんて無かったですから。単行本になる時も「えっ、単行本になるんですか? うそー」って感じだった。グッズにしても、プロレスラーにしても、別にこっちから仕掛けてるわけではなくて、外部からきた企画ですからね。そういった意味では『セゲいち』は結構みんなに愛されていて、幸せなマンガですなぁ。

―― じゃあ、ここらでちょっと真面目な話に。吉松さんの、今後の目標は?

吉松 そこだぁ!(ビシッと膝を叩く) 実は目標が無いんですよ。

―― 無いの?(笑)35年間も生きてて、ずっと無いの?

吉松 いやいや、今年に限って無いの。

―― あっ、今まではあったんだ。

吉松 何かあったんだよね。でも、今は、これ以上望む事は無いんじゃないかって……。マンガもそこそこ受けたし。

―― 欲の無い人だなぁ(笑)。

吉松 僕は「知る人ぞ知る」っていうところに留まるのがいいんだよね(笑)。このくらいの位置でしょう。これ以上は頑張らない方がいいと思うんだよね。

―― 君のアニメーター人生は幸せなんだな、今のところ。

吉松 ハハハハッ。そうだねえ。ただ『セゲいち』のアニメ化の話が、このまま実現せずに埋もれてしまうと寂しいかな。一応、『セゲいち』の監督としてですね、フイルムを仕上げたいですね。それが目標かな。

―― なるほどね。監督願望はあんまり無いけど、1本くらいはやりたいわけね。

吉松 演出願望は無いけど、監督願望は無い事はないんだよね。

―― つまり、いろんな人と打ち合わせしたり、指示したりしながら、フイルムを作るような監督にはなりたくないのね。自分で、面白いフイルムを勝手に作る事はしたいわけだ。

吉松 そうそう。

―― あのさあ、ケーブルTVとかの音楽専門チャンネルでアイキャッチとしてやってる、妙なアニメがあるじゃない。

吉松 ああいうの作りたいよね。

―― あれを作ってる人達って、メチャメチャ幸せそうだよね。

吉松 そうだよね、ああいうのだよね。アニメーターの人でも、キャリアを積んで演出家になる場合があるじゃない。オイラは、そういう気持ちはあんまりないんだよね。そういう部分はマンガで発散しているし。フイルムを作るのは、プライベート的なものならできるだろうけど、シリーズや長いビデオ作品の監督はできそうもないし。色々ね、難しいですよ(笑)。

―― 話は全然前後しちゃうんだけど、吉松さんは『TRIGUN』と『十兵衛ちゃん』で全話のレイアウトチェックをしていたじゃない。『月影蘭』でもやったの?

吉松 一応全話見てます。ほとんど手をいれなかった回もあるけど。

―― 吉松さんは普段から自然体でさ、今、言ったみたいに「やれる事だけやってまーす」みたいなノリに見えるんだよね。だけど、実際に周囲の人に話を聞くと「吉松さんは凄いですよ」とか「『十兵衛ちゃん』のレイアウト、全部自分で見たんだよ」とかって話を聞く。

吉松 うーん。

―― 『TRIGUN』や『十兵衛ちゃん』では各話の作監はほとんどやらないので、その分、全話全カットのレイアウトを見たわけだよね。自分の作監担当回だけキッチリ修正入れてレベルを上げようとするんじゃなくて、シリーズ全体を良くするために、全話のレイアウトをチェックしたわけでしょう。

吉松 僕のスタンスとしては、そこまでがキャラクターデザインの仕事なんですよ。キャラクター設定を作った時点では、僕の中でキャラが完成してないんですよ。

―― ああ、なるほどね。

吉松 原画の人が描いてくれたキャラクターや表情をチェックして、こなしていくところまでがキャラクターデザインだというスタンスで、やってるんですね。

―― 各話に手を入れて、よりこなれたモノにしていきたい。

吉松 そうそう。だって、アニメってシリーズが進んでいくと、キャラクターが生き生きしてくるものじゃないですか。だから、そういう部分を自分でコントロールしたい。それが一番楽しんでるところでもあるんですよ。マッドハウスの仕事で、何がありがたいって、そういう事をやらせてくれるところですよね。

―― という話からも分かるように、吉松さんは、かなり制作現場寄りの人だよね

吉松 それはそうですね。

―― ファンの人は、自宅でドリキャス子のマンガ描いてて、時々現場に行ってると思ってるかもしれないけど(笑)。

吉松 今年、『ミルクチャン』と『月影』で、初めて2本掛け持ちっていうのをやってみたんですよ。大地さんって、たくさん掛け持ちをするじゃないですか。

―― どうだね。

吉松 そうれに触発されたわけでもないんだけど、そういう風に作品を同時に関わるやり方もあるかと思って。『月影』は総作監だけだったんで、自分的にはできるんじゃないかなと思って、『ミルクチャン』のキャラデザインだけを受けたんですよ。やってみたら、やっぱりキャラデザインだけやるのは僕には苦痛でしたね。

―― 自分で各話に手を入れないと。

吉松 うーん、なんか中途半端な作品の関わり方をしちゃったなぁという反省がありましてね。やっぱり、自分にとっては、各話のチェックまでするのがキャラクターデザインの仕事なんだなあと感じましたね。

―― 偉いなあ。根っからの作画の人なのね。

吉松 動画用紙の上の世界までやらないといけないというか。キャラ表だけだとやっぱり表現しきれない。その後の過程も、後追いでやりたいっていう感じなんですよね。



(注1)
81年に大阪で開催された第20回日本SF大会(愛称「DAICON Ⅲ」)のために制作されたOPアニメーションは、当時、アニメ雑誌等でも記事になり、アニメファンの間で話題となった。このフィルムの制作に関わっていたのが、当時はまだ学生だった庵野秀明さん、赤井考美さん、山賀博之さんといったメンバー。

(注2)
『超獣機神ダンクーガ』は、スタジオライブの数人が「いんどり小屋」というチームを組んでキャラクターデザインを担当した作品。吉松さんは動画を始めたばかりの新人アニメーターでありながら、いんどり小屋の1人としてキャラクターデザインに参加している。当時、弱冠19歳。

(注3)
『ばくはつ五郎』は70年に放映された学園アニメ。主人公の名前が五郎。

(注4)
ふくやまけいこさん、今井ひづるさんはマンガ家。『魔動王グランゾード』の大ファンであり、ライブのメンバーとも友達付き合いをしていた。

(注5)
91年2月号の巻頭特集。

(注6)
第14回アニメグランプリ(92年5月号発表)で、『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』は作品部門、男性キャラクター部門、アニメソング部門を獲得。

(注7)
「特殊アニメーター」とは『機動戦艦ナデシコ』の劇中アニメの『ゲキ・ガンガー3』の劇画タッチ作画や、『新・天地無用!』の劇中劇『ポリスメン』のヘナチョコ作画等、特殊なシーンで特殊な作画を担当する場合の彼の肩書き。『ゲキ・ガンガー3』では、東映動画系の劇画タッチと、虫プロ系の劇画タッチを描き分けるという技を見せた。『ジェネレイターガウル』と『天使になるもんっ!』では、1回ずつアイキャッチの作画を担当している。

(注8)
彼が描いている人気マンガ『セガのゲームは世界いちぃぃ!!』は、一度アニメ化が決定し、マスコミでも報じられたが、諸般の事情で企画自体が凍結されてしまった。彼自身が監督・脚本.キャラクターデザイン・作画監督を務める予定だた。

(注9)
『セガのゲームは世界いちぃぃ!!』(通称『セゲいち』)は、ソフトバンクパブリッシング「習慣ドリームキャストマガジン」連載中の人気マンガ。単行本の売れ行きも上々、グッズも発売され、主人公のドリキャス子をモデルにしたプロレスラーが登場する等、熱い盛り上がりをみせた。

第559回 高畑監督の話

 高畑監督が亡くなられて、何か書けることはないのか? と思っておりましたが、どこかの本に載っていたインタビューやTVのメイキングから引用して、監督について書くのもやっぱり失礼。なので自分が実際に高畑監督に遭遇した数少ない話から少々、書ける範囲で。恐らく1回目は『もののけ姫』の打ち上げパーティーで、我々テレコムのスタッフの後ろでお一人で料理を黙々と食べていらっしゃったところを、お願いして一緒に写真を撮らせていただきました! 一生の宝物! その後、帰りにトイレでも偶然お会いして「先ほどはお写真ありがとうございました!」ともう一度改めてお礼を言いました。
 2回目はたぶんまたテレコム時代、アニドウのイベント上映で大塚康生さんが前の方の席で観ていらっしゃったので、挨拶にいったらお隣に高畑監督が! 大塚さんが「ウチの若いの」と紹介してくださいました。若かった自分は歴史上の人物に値するお二人が並んでるだけで興奮したものです。
 3回目は、これは正に遭遇だったと思うのですが、高畑監督が書かれた「十二世紀のアニメーション―国宝絵巻物に見る映画的・アニメ的なるもの」という本のイベントにて、もちろん客席でファンとして! 会場はどこかのデパートだったかと。そのイベントで印象的だったのは質問コーナーで、かなり深読みしたインテリファンからの哲学的な質問に対して高畑監督が「いろいろ考えてくださるのは有り難いんですが、僕がこの本を作ったのは、単純にこれが面白いと思ったからで……、面白くないですか?」と一蹴したことです。

 あ、やばい。続きはまた次回!

150 アニメ様日記 2018年4月8日(日)~

2018年4月8日(日)
昨日に引き続き、外出の予定を入れないでずっと事務所でキーボードを叩く。作業に専念できるのは嬉しい。こんな日曜日も悪くない。

2018年4月9日(月)
トークイベント「第144回アニメスタイルイベント 南極到着記念!『宇宙よりも遠い場所』を語ろう!!」を開催。トーク中にも話したけれど、吉松さんはメインスタッフでありながら『宇宙よりも遠い場所』が好きだ。好きすぎるくらいだ。それが今回のイベントを企画したきっかけだった。企画をしたのは6話「ようこそドリアンショーへ」が放映された頃、つまり、キマリ達が南極に着く前だった。タイトルが「南極到着記念」になっているのは、僕がシリーズ終盤がどんな展開になるのか知らなかったからだ。イベントの企画が成立した後に、吉松さんに「これって最終回までに南極に到着するよね」と確認したのだった。
 放映終了直後にイベントをやるのは、アニメスタイルとしては珍しいのだけど、放映終了直後ならではの熱のあるトークとなった。吉松さんが用意してくれた制作現場を撮ったムービーも面白かった。いしづかあつこ監督は話が興味深いだけでなく、ご本人の人柄も華やか。もっともっとイベントに出てもらいたい。お客さんだけでなく、吉松さんもイベントを楽しんでくれたようだ。その意味でもハッピーなイベントだった。

2018年4月10日(火)
録画で『ゴールデンカムイ』1話を観る。本編を少し観たところで、上田耕行プロデューサーが関わっている作品なんだろうなあと思ったら、やはりそうだった。「アニメージュ」の発売日。「設定資料FILE」は『恋は雨上がりのように』と『からかい上手の高木さん』の2本立て。「この人に話を聞きたい」はおやすみ。

2018年4月11日(水)
ある作品の取材でシンエイ動画に。これで「アニメスタイル013」の取材は最後のはず。

2018年4月12日(木)
描き下ろしイラスト発注のためのラフを描く。iPad Proのおかげで、随分とラフ作業が楽になった。

2018年4月13日(金)
『ひそねとまそたん』1話を録画で観る。アニメーションとして綺麗な仕上がりで、観ていて楽しい。キャラクターは青木俊直さんのテイストが充分に活かされていて、プラスアルファの部分がまたおいしい。公開初日に『名探偵コナン ゼロの執行人』を観る。ここ数年のアクション押しだった劇場版『名探偵コナン』のよいところを引き継ぎ、推理ドラマをきっちりとやった作品だ。安室透のキャラクターが本作の魅力のひとつで、それを支えているのが古谷徹さんの存在だ。『ゼロの執行人』の前日談にあたるTV898話「ケーキが溶けた!」も古谷さんが輝いていた。
 A5サイズの本の企画を立てるために、改めて「さよなら絶望先生全書」をパラパラとめくる。この本はA5サイズなんだけど、構成が広々としていて、ページがかなり大きく見える。自分で作っておいて「あれ、この本ってA5だったっけ」と思うくらいに広々としている。A5サイズの本って、デザインによっては「大きなB6サイズ」くらいの印象になってしまうこともある。そのあたりが面白い。

2018年4月14日(土)
吉松さんとこれから作る「アニメスタイル」の打ち合わせ。

第558回 「うすい本」〜逸れます

アニメスタイル様より「アニメスタイルのうすい本」を
いただきました! ありがとうございます!

 でも正直、だいぶ前に描いた原稿なので自分でも何を描いた憶えていませんでした(汗)。俺以外のクリエイターさんたちは皆さん有名で天才な方々ばかりで、「なぜ俺も描いてるのか?」がとても謎な1冊です。振り返れば高校生の頃、「こりゃマンガ家になる才能は自分にはねーな」と挫折して以来、作家になるのを諦めてる自分が、この連載もそうですが、たまに「原稿」と名の付くものを依頼されると、他の才能豊かなアニメ作家さんほど面白いものが描けなくて描けなくて。そんな板垣に描かせてくださったことも、重ねてありがとうございます、アニメスタイル編集部様!

 まぁ、面白い原稿は苦手でも、監督をやってるとキービジュアルやBDパッケージ版権などのレイアウトはよく頼まれます。レイアウトとはつまり背景原図とキャラのラフのことで、『てーきゅう』みたいに自分でキャラデザの場合は、クリンナップ(動画の線で清書)まで俺自身でやっちゃいますが、『ベルセルク』や『Wake Up, Girls! 新章』はレイアウトもで自分で描いて、あとはキャラデザの方にお任せ! です。今までの監督作品でも同様です。こちらのほうはマンガ原稿と違ってアニメーター脳とテクニックでこなせるもので、特にレイアウトに関してはテレコム時代、大塚康生さんや友永和秀師匠から学んだので、委員会から頼まれると、各3点くらいずつ、お望みなら何点でも描いて提出します。最近だと『WUG! 新章』のパッケージレイアウトは全7巻分、それぞれ3種類ずつ案を提出しました(すでにすべて作業済み)。あ、もちろん『WUG! 新章』は本編のパッケージ修正を全カット自分で指示出しして、最終確認、T.P(動画・仕上げ)素材までチェックしました。もちろん作画スタッフも全力で取り組んでくれてます! 是非AT-Xでのリテイク版の放映、観てください、と話が逸れまくりでした、今回も。

第129回 サッカーはわが人生 〜蒼き伝説 シュート!〜

 腹巻猫です。4月14日に東京国際フォーラムで開催された「角川映画シネマコンサート」に足を運びました。『犬神家の一族』『人間の証明』『野生の証明』という濃い劇場作品3本のハイライトを上映しながらオーケストラの生演奏を聴くぜいたくなイベント。大野雄二サウンドを堪能しました。ただ、先にこちらを予約していたので、同日開催の「プリンセスチュチュ15周年記念コンサート」を聴けなかったのが残念無念。

 

 『H2』『タッチ』と野球アニメが続いたので、次はサッカー……というわけでもないが、今回は『蒼き伝説 シュート!』を取り上げたい。サッカーに打ち込む高校生たちを描いたスポーツ青春アニメだ。
 中学時代を共にサッカー部で過ごした田仲俊彦(トシ)、平松和広、白石健二の3人は掛川高校サッカー部に入部。全国大会出場をめざしてチームメイトとともに激しい試合に挑んでいく。そんな3人を見守るのがサッカー部マネージャーとなった幼なじみの遠藤一美だった。
 原作は1990年から週刊少年マガジンに連載された大島司のマンガ「シュート!」。TVアニメ『蒼き伝説 シュート!』は1993年11月から1994年12月まで全58話が放送された。アニメーション制作は東映動画(現・東映アニメーション)。シリーズディレクターは『DRAGON BALL』や『ゲゲゲの鬼太郎[4期]』『金田一少年の事件簿』『ふたりはプリキュア』などを手がける西尾大介が担当した。キャラクターデザインは荒木伸吾と姫野美智の名コンビが手がけている。
 特にサッカーファンではない筆者だが、本作は観ていた。フジテレビ日曜朝9時枠で放映されていた東映不思議コメディシリーズ最終作「有言実行三姉妹 シュシュトリアン」の後番組だったからだ。不思議コメディシリーズのファンだったのである。視聴習慣というのはあなどれない。

 音楽は本間勇輔。本間は東映不思議コメディーシリーズの音楽を1987年の「おもいっきり探偵団 覇悪怒組」から8作連続で手がけていて、そのまま本作も続投することになった。
 本間勇輔は1952年、福岡県八幡市(現・北九州市)生まれ。早稲田大学商学部出身。幼い頃、家にバイオリン、ギター、オルガンがあったことから自然に楽器を始め、弾けるようになったという。
 本間勇輔の代表作といえば、TVドラマ「古畑任三郎」である。本間は1980年代後半から90年代にフジテレビのドラマやアニメの音楽を数多く手がけた。80〜90年代のフジテレビを象徴する作曲家のひとりと言えるだろう。
 本間勇輔の音楽活動の原点はCD「古畑任三郎 サウンドトラック Vol.2」のライナーノーツに詳しい。高校時代はサッカーに熱中。早稲田大学に入学してからはバンド活動にどっぷりはまる。本間が参加したのが1946年創立の名門バンド、ザ・ナレオだった。創立当初はハワイアンを演奏していたというザ・ナレオだが、本間が入学した当時はホーンセクションを擁する大編成のビッグバンド。本間はボーカルを担当し、首都圏の大学バンド界では屈指のボーカリストと呼ばれていた。本間が参加したザ・ナレオは、1975年に開催された「大学対抗バンド合戦」のポピュラー部門で優勝する。
 学生時代はほとんど譜面が読めなかったという本間だが、このバンド活動を原点にプロの音楽活動を始める。フジテレビの子ども向け番組「ひらけ! ポンキッキ」に楽曲を提供し、自ら歌も歌った。1984年放映の東映不思議コメディシリーズの1本「どきんちょ! ネムリン」(音楽・藤本敦夫)では主題歌と挿入歌を作曲(1曲、歌も歌っている)。その後番組「勝手に! カミタマン」(1985)の音楽を担当し、これが初の本格的な映像音楽作品になった。
 90年代以降はフジテレビのTVドラマ音楽で活躍。「古畑任三郎」(1994)、「まだ恋は始まらない」(1995)、「コーチ」(1996)、「こんな恋のはなし」(1997)、「いいひと。」(1997)、「ソムリエ」(1998)、「ニュースの女」(1998)、「今夜、宇宙の片隅で」(1998)、「女子アナ」(2001)、「僕の生きる道」などを次々と手がけた。ドラマではほかにNHK朝の連続テレビ小説「私の青空」(2000)、TBS系「奥さまは魔女」(2004)などを担当しているが、9割近くがフジテレビ作品だ。実写劇場作品では「メッセンジャー」(1999)、「笑の大学」(2004)、「THE 有頂天ホテル」(2005)、「バブルへGO!! タイムマシンはドラム式」(2007)などがある。FNNスーパーニュース等の報道番組のテーマ曲も手がけた。
 いっぽう、特撮・アニメファンとしては、脚本家・浦沢義雄が参加した数々の作品の音楽が忘れられない。「美少女仮面ポワトリン」(1990)を代表とする東映不思議コメディシリーズ、アニメでは『のらくろクン』(1987)、『おそ松くん』(1988)、『ひみつのアッコちゃん』(1988)、『平成天才バカボン』(1990)、『とっても! ラッキーマン』(1994)、『ふしぎ遊戯』(1995)、『はじめ人間ゴン』(1996)など。『おそ松くん』『アッコちゃん』『天才バカボン』と赤塚不二夫の代表作3作の音楽をすべて手がけた作曲家は本間勇輔だけだろう。アニメではほかに『幽★遊★白書』(1992)、『NINKU』(1995)、『GTO』(1999)などを担当。その大半がフジテレビ×スタジオぴえろ制作作品というのも面白い。
 不思議コメディやアニメ作品の印象から、コメディやギャグ作品が得意なのかと思ってしまうが、ドラマでは、恋愛ものやミステリー、アクティブなワーキングウーマンが主人公のものなど、ジャンルを問わない。音楽的にも、ビッグバンドスタイルの「古畑任三郎」「奥さまは魔女」からチェコ・フィルハーモニーで録音した「いいひと。」「私の青空」まで幅広い。どの音楽もポジティブで、ユーモアがあり、ワクワク感にあふれている。往年のアメリカンポップスやハリウッド映画音楽への憧憬が感じられるサウンドだ。子どもの頃からポップミュージックのひとつとしてサントラに憧れたという言葉(「まだ恋は始まらない」ライナーノーツ)からも本間のポップス志向がうかがえる。筆者にとっては、佐橋俊彦、大島ミチルと並んで、聴いて元気になれる音楽を書く作曲家のひとりである。

 そんな本間勇輔にとって、『蒼き伝説 シュート!』は格別な想いを持って取り組んだ作品ではないかと思う。ほかでもない。本作がサッカーを取り上げたアニメだからだ。
 本間勇輔とサッカーの縁は深い。小学生時代にサッカーと出逢った本間は高校から本格的にサッカーを始め、さらにサッカーを続けたいと早稲田大学に進んだ。しかし、高校時代からの足のケガやアルバイトが必要になったことで結局は入部せず、音楽の道に進路を転じた。
 作曲家としてデビューしたあともサッカーへの情熱は冷めず、80年代にサッカーの指導者ライセンスを取得。平日は作曲家として活動しながら、週末は少年たちにサッカーを指導していた。2008年にはさらに上級のJFA・B級指導者ライセンスを取得。SC大阪エルマーノのコーチを務めた後、2008年、セレッソ大阪のスタジアム演出を担当するスタジアムマスターに就任する。オリジナルアンセム作曲などにとどまらず、試合に足を運んで選手を激励するなど全力で取り組み、2012年に退任するまで熱心な活動を続けた。本間は自身のブログで「サッカーとは人生の道標であり、聖書のようなもの」と語っている。それほどまでに愛したサッカーを題材にしたアニメだ。力が入らないわけがない。
 『蒼き伝説シュート!』のサウンドトラック・アルバムは1994年3月にフォーライフ・レコードから発売された。収録曲は以下のとおり。

  1. エール〜あなたの夢が叶うまで〜(歌:WENDY)
  2. キックオフ
  3. 代表への道
  4. 10番〜ハットトリック
  5. ライバル〜オフサイドトラップ
  6. E.K & PK
  7. MOCHISUGI
  8. もう一つのゴール
  9. KOKURITSU
  10. 素直でいたい(歌:WENDY)

 1曲目と11曲目はオープニング&エンディング主題歌。軽快で爽やかな曲調が青春スポーツアニメの主題歌にふさわしい。90年代アニメソングの中でも「絶対無敵ライジンオー」などと並ぶ女性ボーカルバンドスタイルの名曲だ。
 主題歌の歌と演奏を担当したWENDYは広島出身の女性4人で結成されたバンド。高校を卒業したばかりの1993年4月にフォーライフ・レコードよりデビューした。作詞・作曲も自分たちで手がけている。エンディング主題歌「素直でいたい」は本作のために作られた歌ではなく、1993年5月に発売されたWENDYの2ndシングルのタイトル曲だった。しかし、本作のために書いた歌としか思えないほど作品にマッチしている。
 サウンドトラックは9トラック。3分から5分の長尺の曲で構成されている。ストーリーを追う曲順ではなく、イメージアルバム的な構成だ。各トラックはひとつの楽曲として完結していて、聴きごたえがある。本間勇輔は、本アルバムをサッカーを題材にしたコンセプトアルバムのようなイメージで作り上げたのではないだろうか。
 トラック2「キックオフ」は本作のメインテーマとも呼べる曲だ。試合の朝の目ざめを描写するようなシンセの導入に続いて、競技場の歓声のような音が遠くに聴こえてくる。オーボエ風の音色が静かにメロディを奏で始める。リズムが加わり、ふたたび力強く奏されるメロディ。試合開始の高揚感が盛り上がる。終盤は男声コーラスも加わって競技場を包む熱気が表現される。サッカー少年だった本間勇輔ならではの臨場感あふれる曲である。この曲は最終回のラストでたっぷり使用されていた。
 トラック3「代表への道」はサッカー大会地区代表をめざす選手たちの闘志や練習風景がイメージされる曲。オケヒットのアタックに続いてシンセブラスのダイナミックなメロディが熱い思いを描写。後半では、軽快なリズムに乗って口笛にも似た音色のシンセのメロディが駆け巡る。
 本間勇輔はドラマ音楽では生楽器を使用したアコースティックなサウンドを聴かせることが多いが、特撮ドラマやアニメではシンセの音色をふんだんに使っている。これは予算の都合というより、作品世界を印象づけるための意図的なサウンド設計だと思う。
 トラック4「10番〜ハットトリック」は冒頭からアップテンポで勢いのあるアクティブな曲。ドラム、ベース、パーカッションのリズムの上でシンセのメロディがめまぐるしく展開し、試合のスピード感や緊迫感を感じさせる。後半はにぎやかな曲調になり、曲名通り「ハットトリック」の達成感とよろこびが表現される。「10番」はトシがあこがれた先輩選手・久保の背番号で、のちにトシはこの番号を受け継ぐことになる。
 トラック5「ライバル〜オフサイドトラップ」は、シンセとサックスのアンサンブルで緊迫感たっぷりにライバルを描写する前半から、スリリングな試合描写の後半に転じる構成が印象的な曲。アドリブをまじえたサックスの演奏が耳に残るナンバーだ。
 続く「E.K & PK」は、シンセが可愛くメロディを奏でるポップな曲。「PK(ペナルティキック)」はともかく、「E.K」は「こんなサッカー用語あったっけ?」と思ってしまうが、これはヒロインの遠藤一美のイニシャルだろう。一美とトシ、和広、健二たちの日常をイメージした明るい曲である。
 一美役は日高のり子。一美をめぐる恋愛模様も本作の見どころのひとつだった。終盤、一美がアイドル歌手としてデビューする展開には驚いた(日高のり子が遠藤一美名義で歌うミニアルバムも発売された)。
 トラック7「MOCHISUGI」もひねった曲名である。サッカーで選手がボールをパスしないでずっとドリブルしていると「持ちすぎ」と言われる。失敗や「やっちゃった」みたいな感じを思いきりユーモラスな曲調で表現した曲だ。『平成天才バカボン』などのコミカルなアニメ作品の音楽をほうふつさせる。ユーモラスな音楽作りも得意とする本間勇輔の持ち味が発揮されたナンバー。
 トラック8の「V」は「ブイ」なのか「ファイブ」なのか迷うが、曲調からして「ビクトリー」のブイだろう。ダンサブルなリズムに乗ってふわふわしたシンセの音とサックスが気持ちの高ぶりを表現。混声コーラスが勝利のよろこびを歌い始める。まさしくアンセム(賛歌・応援歌)だ。本間勇輔はセレッソ大阪のアンセムのほか、サッカーU‐6オープニングテーマやJFAアカデミー入校式音楽なども作曲している。映像音楽でもこういう曲を書きたいと願っていたのではないだろうか。
 トラック9「もう一つのゴール」は讃美歌風のメロディと透明感のあるサウンドで奏でられるリリカルな曲。曲名が意味深だが、これはやはり、トシと一美の恋のゆくえを暗示した曲なのだろう。イントロはオルガンと鐘(チューブラーベル)の音にまじって拍手の音が聴こえてくる。教会の情景が目に浮かぶサウンドである。
 サウンドトラックの最後の曲「KOKURITSU」では、メインテーマがふたたび奏でられる。曲名はサッカー少年のあこがれ、全国高校サッカー選手権大会の開会式と決勝戦の会場となる国立競技場を意味しているのだろう。トシたちも「めざせ! 国立」を合言葉に汗を流していた。インパクトのある導入部からピアノが刻むリズムに乗ってエレキギターがメインテーマのメロディを奏でる。国立競技場をめざす少年たちの気持ちが伝わってくるようなエモーショナルな演奏が感動的だ。後半は曲調が変わり、混声合唱を伴った力強いマーチになる。選手入場の高揚感か、あるいは勝利の賛歌か。いずれにせよ、サッカーをするよろこびにあふれた熱気みなぎる盛り上がりで曲は幕を閉じる。この曲は最終回中盤のいい場面で流れていた。
 本間勇輔のサッカー愛が音になったようなテンションの高いアルバムである。サントラアルバムとしては曲数が少なく、「あの曲が入ってない」と思われるかもしれないが、音楽アルバムとしては充実している。WENDYが歌う主題歌とメインテーマを聴くだけでも気持ちがぐいっと引っ張り上げられる、元気の出る1枚だ。

 本間勇輔は2015年に故郷、長崎に帰郷。長崎市野母崎に移住し、地域の魅力を発信するため活動しているという。映像音楽の近作は移住前に手がけたTVドラマ「素敵な選TAXI」(2014)。TVアニメは『大江戸ロケット』(2007)が今のところもっとも新しい作品である。地元にいながらも作曲活動を続けているそうなので、いつかまた、映像音楽の世界に帰ってきてほしい。

蒼き伝説シュート! オリジナル・サウンドトラック
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KAZUMI/遠藤一美
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149 アニメ様日記 2018年4月1日(日)~

2018年4月1日(日)
早朝に新文芸坐へ戻ると、オールナイト『ジャイアントロボ THE ANIMATION 地球が静止する日』の終盤だった。「Last Episode 大団円~散りゆくは、美しき幻の夜~」を途中から観る。午前中のウォーキングで練馬方面を歩いていたら、今日の夜にイベントをご一緒する泉津井陽一さんとバッタリ。
 夜は阿佐ヶ谷ロフトAで「第143回アニメスタイルイベント アニメをもっと楽しむための撮影講座3【楽しむための総括編】」を開催。このシリーズのレギュラー出演者の泉津井さんに加えて、スタジオカラー デジタル部の山田豊徳さんも登壇。山田さんにはお客さんへのプレゼントも提供していただいた。撮影イベントは企画を練り直してまたやりたい。

2018年4月2日(月)
『ロボットカーニバル』の海外版Blu-rayを観る。画面が鮮明で、当時、記事の編集作業で観たフィルムよりもずっと綺麗。セル画そのものに近い印象だ。特典も山盛りで、僕が作ったDVDの販売促進ポスターも静止画で入っていた。SNSでも話題になっていたが、映像特典でレーザーディスクバージョンとして、レーザーディスクでの再生を再現しており、A面からB面に切りかわる部分までが収録されていた。非常に満足度の高いパッケージだった。
 午後は最終日の滑り込みで、ササユリカフェの「B: The Beginning」原画展に行く。僕的には今回の展示の一番の見どころはキャラ表だった。画としてもとてもいいし、サイズがA3と無闇に大きいのも興味深かった。

2018年4月3日(火)
CSで録画したテレビドラマ版『ねらわれた学園』の1話を観たら、『Dr.スランプ アラレちゃん』のアニメ映像がない。「あれ?」と思って検索したら、wikiに「(略)『オレたちひょうきん族』『Dr.スランプ アラレちゃん』『うる星やつら』の番宣が挟まれていた」とあった。あれはドラマの一部ではなく「挟まれた番宣」だったのか。夜は『リズと青い鳥』完成披露上映会。ビジュアルに関しては予告編で期待した通りの方向性で、期待以上の仕上がり。少なくとも、もう一度は劇場で観たい。

 吉田正高さんが亡くなったことを知る。僕は直接の面識はなかったはずだ。東北芸術工科大学の教授であり、SNSでアニメ、マンガ関連について熱心に発言されていた方だ。その熱心さは驚くくらいのものだった。僕とは守備範囲も違うし、SNSで言葉を交わした回数も多くはなかったが、シンパシーを感じていた。心よりご冥福をお祈り致します。

2018年4月4日(水)
『ルパン三世 PART5』1話を観た。よかったのは冒頭にあった歴代『ルパン三世』の名場面。特に『新ルパン』と『PARTIII』のセレクトが「わかってらっしゃる」という感じ。本編はこれからに期待。「設定資料FILE」の構成をはじめる。まずは縮小コピーを並べて、密度感を探る。

2018年4月5日(木)
あるテレビ番組の制作スタッフから電話があって「今度、▼▼▼の特集をします。御社の『Febri』の画像と文章の一部を番組で使わせてもらえませんか」とのことだった。うちが記事の紹介にOKは出せないので制作委員会にあたってほしいと話した。それから、うちから「Febri」は出ていないことをやんわりと伝えた。夕方から三鷹で打ち合わせ。「設定資料FILE」の構成を終えた。

2018年4月6日(金)
『からかい上手の高木さん』の単行本がAmazonから届く。途中までKindleで購入していたのだが、仕事で使うので、事務所用に紙の本を購入したのだ。紙の本はいいなあ。カバーの手触りも本の魅力の一部だ。

 高畑勲さんが亡くなられたことを知る。言うまでもなく、数々の名作を残した巨匠であり、日本のアニメの在り方に多大な影響を与えた方だ。そして、僕を含めた多くの人が、アニメについての考え方に関して、高畑さんから強い影響を受けている。心よりご冥福をお祈り致します。

2018年4月7日(土)
この土日は取材もイベントもない。映画に行ったりしないで、ひたすらテキストを進める予定。

第557回 面接がいっぱい

3月から4月に入ってもなお、
入社希望者さんの面接が毎週のように続いています(汗)!

 作画・演出志望の方たちは、基本板垣のほうで面接します。コンテ作業の隙を見てなので大変ではありますが、いろんな人とお話できるのは楽しくもあるので続けてます。ちなみに自分の場合、面接にお呼びした時点で合格はほぼ決まってますし、実技試験などは特に設けておりません。なぜなら履歴書とポートフォリオなどの作品で、向き不向きは分かりますから。試験をするくらいなら、最初から書類選考で「申し訳ありませんが」とお断りさせていただいてます。あと個人的な「試験嫌い」ってのもあります。たった1回の試験で何が分かる? と。特にアニメは表面的に画が抜群に巧いことより、地味なルーチンワークをコツコツ続ける才能のほうが必須なんです。もちろん最低限の画力はあった上でですが、それこそ下手に緊張感漂う中、短時間で描かせるより、のびのび描かれたポートフォリオで判断してあげたほうが、本人も気が楽でしょう? まぁ、ウチみたいなまだまだ実績のない会社は、応募してきてくださるだけでも有難い話で、わざわざ足を運んでもらって試験するってのもねぇ。もっと希望者が何十〜何百人になったら考えるかもしれませんが。

148 アニメ様日記 2018年3月25日(日)~

2018年3月25日(日)
『ドラゴンボール超』最終回をリアルタイムで視聴。なかなかの盛り上がりで、ビジュアルもよかった。シリーズ終盤で人造人間17号が大活躍したのも新鮮だった。僕個人の感想としては「宇宙サバイバル編」が充実した内容だったために『ドラゴンボール超』が始まった頃に感じていた違和感はなくなった。これからどんどん続編が作られても、素直に受け入れられそうだ。WOWOWで『ドラえもん のび太のドラビアンナイト』を途中から観る。歴代映画『ドラえもん』の中では地味な印象だったんだけど、楽しかった。改めて芝山努監督の映画『ドラえもん』のよさが分かってきた。

2018年3月26日(月)
『ポプテピピック』最終回を観る。最後までテンションは下がらず。各スタッフの力もさることながら、作品をまとめたプロデューサー、あるいはディレクターの力もすごい。

2018年3月27日(火)
『からかい上手の高木さん』最終回を観る。最終回の演出も見事。シリーズ全体として、文句無しの映像化だった。ネットで『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』のアニメプロジェクトが6話「誕生 赤い彗星」で完結することを知る。『機動戦士ガンダム』本編にあたる『THE ORIGIN』の一年戦争の部分の映像化について、安彦良和総監督が取材等で語っていたが、それは実現しないということだ。僕としては残念なのが半分、安堵したのが半分。いや、安堵の気持ちのほうが大きい。一年戦争を映像化するとなると、相当のボリュームになるはずだ。OVAのイベント上映のかたちで発表していくと、完結までにかなりの歳月が必要だし、TVシリーズとして作るなら、全ての話数に安彦さんが充分に手をいれるわけにはいかないだろうと思うからだ。

2018年3月28日(水)
『宇宙よりも遠い場所』最終回を観た。最後の最後の予想外の展開にやられた。シャッポを脱ぎます。「TVアニメ 少女終末旅行 公式設定資料集」をパラパラとめくる。書名は設定資料集だが、インタビューや本編カットも掲載、版権イラストも再録されている。つまり、ムックである。表紙のデザインもよい。僕個人としては設定資料は色指定ではなく、線画を載せてほしいところだけど、それは些末な問題であり、ムックとしてバランスのよい構成だと思った。

2018年3月29日(木)
アニメスタイルスタッフの送別会があった。社員が一人、学生編集スタッフが一人、編集部から卒業していった。お疲れ様でした。ありがとう。

2018年3月30日(金)
都内某所であるコマーシャルのための取材。2月6日(火)と同じ作品で、別スタッフへのインタビューだった。

2018年3月31日(土)
オールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol.101 100回記念シリーズ Best of Best(2) 『ジャイアントロボ THE ANIMATION 地球が静止する日』」を開催。トークゲストは草間大作役の山口勝平さん、音楽監督の鶴岡陽太さん。そして、飛び入りで山木泰人プロデューサーにも登壇していただいた。色々と楽しい話をうかがうことができたが、BGMについてのある裏話にはびっくり。トークの終了後に、僕も1話をスクリーンで観た。Blu-rayの映像と劇場の大スクリーン、新文芸坐お馴染みの増し増しの音響の組み合わせによる『ジャイアントロボ THE ANIMATION 地球が静止する日』の鑑賞はかなり贅沢だった。中でもバシュタールの惨劇のシーンでの楽曲が格別だった。

第556回 コンテと傲慢

最近は朝6時起きで、会社に入ってコンテを切る毎日です!

 とにかく自分にとって監督とは「コンテを切る人」のことです。もちろんTVシリーズの場合はスケジュールの都合もあるので、出崎統監督のように全話切るわけにはなかなかいかないわけだけど、それでも半分以上は自分でコンテを担当するようにしております、板垣の場合は。監督のやり方は人それぞれなので、あくまで板垣は、です! もともと出崎監督みたいに全話コンテは、拘っただけでできるほど生易しいしろものではありません。むしろ俺は以前ここで語ったとおり、「コンテ・演出」で参加してくださる方にはできるだけコンテもやっていただきます。それで総監督に徹する話数もあった方がシリーズとしては豊かなものになるからです。同じことが原画にも言えて、ぶっちゃけほぼ全修だったとしても、1割でも使える部分は使ったほうが複雑で面白い動きになることはよくあるものです。
 ただ他人に振ったコンテでもよくないものは徹底的に直さないといけません! 監督は1〜2割ちょこちょこって直してあとは諦めるものと思っている方もいらっしゃるようですが、俺はそう思えないのです。

もし、フィルムの7〜8割を決めてしまうコンテが面白くないと判断できた時、監督は全修や描き直しをしなければなりません! コンテとはそーゆー傲慢なものだと思います!

 このように、他人の描いたものを多かれ少なかれ潰してしまうことが許される傲慢な仕事だからこそ、面白いものが作れなかった時は、お客さん(視聴者)からどれだけ批判されても「すべて自分の責任です」と言えなきゃ監督なんてやっちゃダメだ! と板垣は思ってます。
 あ、ちなみにミルパンセにも新人が——作画が5人、制作が3人入りました。で、今監督してるシリーズのティザーが来月発表になるようです。そーこーしてるうちに来年放映予定のミルパンセの新作のほうもホン読み(脚本打ち合わせ)が始まりました。

147 アニメ様日記 2018年3月18日(日)~

2018年3月18日(日)
朝は散歩のついでに近くの公園で、缶コーヒーを片手にワイフと早咲きの桜を見る。11時30分からTOHOシネマズ新宿で『シェイプ・オブ・ウォーター』を鑑賞。かなりよかった。言葉にするのが難しいのだけれど、サブキャラクターの過剰な描写とか少し悪趣味なところを含めてよかった。物語や役者もいいだけど、映像も音楽もいい。全部あわせてひとつのテイストを形成していて、そのテイストがよい。それをオタク的という言葉で表現してよいのかは分からないが、作り手がある嗜好を貫いており、しかも、それがある程度は一般に届くかたちとなっていると思った。また「地味女性萌え」映画としての純度も高い。『シェイプ・オブ・ウォーター』を観た後、新宿御苑でまた桜を見た。

2018年3月19日(月)
WOWOWの「映画ドラえもん のび太の宝島」公開記念 37作一挙放送!史上最大の映画ドラえもんまつり」の『ドラえもん のび太の魔界大冒険』を録画で確認。エンディング曲が劇場公開版と同じ、「風のマジカル」だった。現在のところ、この映画のエンディングは映像ソフトでは、別の曲に差し替えられているのだ(なお、Amazonビデオの『のび太の魔界大冒険』もエンディングが「風のマジカル」になっている)。ちなみに、2013年に開催したオールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションVol. 37 芝山努の仕事『ドラえもん』編」で上映作品の1本に『のび太の魔界大冒険』をセレクトした理由のひとつが、フィルム上映なら「風のマジカル」を聴けるから、というものだった。ちなみに「風のマジカル」は、ぴえろの魔法少女シリーズの楽曲と、テイストが近いと思っている。  

2018年3月20日(火)
「アニメスタイルのうすい本」を印刷会社に入稿。  

2018年3月21日(水)
春分の日。9時45分からの回で実写映画「おかあさん」を観る。「女優人生70年企画 『凛たる人生 映画女優 香川京子』刊行記念 香川京子映画祭」の1本だ。成瀬巳喜男監督の作品を連続して新文芸坐で観ていた時期があり、その頃にタイミングがあわず、観ることができなかった作品だ。成瀬監督について詳しいわけではないけれど、僕の感覚では実に成瀬監督らしく、愛すべき作品。「画」がいい。アニメでいうところのレイアウトがいい。画面の中における事物の配置がいい。巧みに奥行きを出しているので、スタンダードの画角でも映画的に見応えのある画となっている。主人公の「おかあちゃん」役は田中絹代。映画終盤で香川京子が演じる長女が、髪結いのモデルをやって花嫁姿になるのだが、文字通りに輝くような美しさ。夫が亡くなった後で、家業のクリーニング店を手伝う男を加東大介が好演。話のはこびがいい。98分の本編の中で、いくつもの死と別れが描かれる。最後に長女が「おかあちゃんは幸せなのだろうか」と疑問に感じるが、それについての答えはでないまま映画は幕をおろす。それもいい。
 昼過ぎから、吉松さんと『宇宙よりも遠い場所』イベントの打ち合わせ。寒い日だったので、赤羽の立ち飲みおでん屋に行ったのだけど、大変な行列になっていたので、それはあきらめて昼間からやっているジンギスカンの店に。  

2018年3月22日(木)
『さよならの朝に約束の花をかざろう』で、井上俊之さんの取材。  

2018年3月23日(金)
 先日、ネットで『BLUE SEED』の中古LDを全巻分購入した。それを、打ち合わせで皆で見て、ちょっと盛りあがる。iPhoneのKindleでちまちま読んでた「コーヒーと恋愛」を読了。獅子文六が1962年から新聞で連載した小説で、ジャンルとしてはユーモア小説かな。かなりよかった。こういう小説が楽しめる年齢になってしまったか。生々しさのない感じもいいし、描かれている生活とか、登場人物の感覚(常識とか価値感とか)もよかった。  

2018年3月24日(土)
『劇場版 Infini-T Force/ガッチャマン さらば友よ』を観る。画づくりにいいところがあった。たとえば、南部博士のプロポーションがよかった。ネットで購入したMacbookが届く。小さい、軽い。これなら持ち運ぶのも楽そう。使うのはテキスト関係とメールくらいで、基本的にアプリケーションを増やさない予定。  

第555回 コンテについて

絵コンテは1週間で1本切れるのが理想!!
(だと思います)

 そりゃ、作品によっても難易度が違うし、シナリオの完成度にも左右されるものなので一概には言えないでしょうが、自分の中では「21〜22分(30分TVシリーズのOP・ED抜きの本編尺)のコンテを1週間、というか4〜5日で切れなきゃ監督なんてできない!」と思っています。だってTVシリーズは、制作が始まるとすべてが1週間刻み。ホン読み(脚本打ち)も演出・作監打ちも編集も音響も「毎週」あるんです。そこで出来の悪いコンテが上がってきた場合、数日で全修正できなければ、すべてもローテーションが1週ずつズレるわけですから。ただ監督作品の合間にイレギュラーで1本だけコンテのお手伝いを受けた場合、たいがい他の原画だのOPやEDなどのコンテ・演出などと掛け持ちになってしまい、手をつけるタイミングが遅れてしまうことが多いので、制作様には本当に申し訳なく思います。でも、手をつけて1日まるまるコンテをやれば20〜25ページは上げられます。ちなみにアクションものだと、コンテ1話分で100〜120ページくらいなので4〜5日かと。そしてシリーズのコンテが始まると毎回思うのが、

コンテは肉体労働だ!!

ってこと。もちろん頭は使った上でですが、理屈ばっかこねる前に、とにかくENDマークまで駆け抜けてから反芻するべきで——これ、マンガ描いた経験ある人は分かりますよね? 途中、どんなに気に入らなくても止めずに最後まで描き切ることこそが重要だと。コンテも同じ。プロデューサーからどんな横槍を入れられようが、SNSで何を書かれようが、四の五の言わずに描き続ける体力・精神力が必要とされるのです!

第145回アニメスタイルイベント
アニメ様のアニメ語りvol.2

 2018年5月4日(金)昼に「第145回アニメスタイルイベント アニメ様のアニメ語りvol.2」を開催する。アニメスタイル編集長の小黒祐一郎(通称・アニメ様)をはじめとするメンバーが、アニメについて語りまくるトークイベントだ。

 メインパートとなる第1部「アニメ様のアニメ語り」でとりあげるテーマは『新ルパン』の愛称で親しまれている『ルパン三世』TV第2シリーズだ。『新ルパン』の名作、傑作、異色作を取り上げ、全体としてどういった作品だったのかを小黒が解説。『ルパン三世』のビギナーでも理解できる内容となるはずだ。また、当日はトークを聞く参考となるペーパーを配布する予定だ。  マンガ家としても活躍しているアニメーターのサムシング吉松(吉松孝博)も出演。他の出演者、第2部以降の内容については決まり次第告知する。

 今までのイベントと同様に、トークの一部を「アニメスタイルチャンネル」で配信する。会場は阿佐ヶ谷ロフトA。前売り券は2018年4月1日(日)から発売開始となる。詳しくは以下のリンクを見てもらいたい。また、会場ではアニメスタイルの関連書籍を販売する。

■関連リンク
アニメスタイルチャンネル
http://ch.nicovideo.jp/animestyle

阿佐ヶ谷ロフトA
http://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/86022

第145回アニメスタイルイベント
アニメ様のアニメ語りvol.2

開催日

2018年5月4日(金)
開場12時00分 開演13時00分 

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

サムシング吉松、小黒祐一郎(司会)

チケット

前売1500円 当日1800円(共に飲食別・要1オーダー)

■アニメスタイルのトークイベントについて

 会場となる阿佐ヶ谷ロフトAはトークライブができる居酒屋。入場料(今回は前売1500円、当日1800円)とは別に飲食(最低でもドリンク1杯)をお願いしている。ソフトドリンクもあるので、未成年の方でも大丈夫。 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものだ。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていないし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれない。その点は、あらかじめお断りしておく。

新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 102
湯浅政明の『カイバ』

  2018年4月28日(土)に開催するオールナイトは「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 102 湯浅政明の『カイバ』」だ。

 『カイバ』は湯浅政明が監督のみならず、原作(マッドハウスと共同)から手がけたTVシリーズで、2008年にWOWOWで放映された。記憶のコピーや売買、肉体の乗り換えが可能になった異世界を舞台に、記憶を失った主人公カイバの愛と冒険を描くSFエピックであり、湯浅政明ならではの独創的な作品だ。『夜明け告げるルーのうた』『夜は短し歩けよ乙女』の伊東伸高、サイエンスSARUのCHOI EUNYOUNGもスタッフとして参加している。

 今回のオールナイトでは、全12話を一挙上映。上映素材はDVDとなる。トークのゲストは湯浅政明を予定。前売り券は3月31日(土)から新文芸坐とチケットぴあで発売される。

    

新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 102
湯浅政明の『カイバ』

開催日

2018年4月28日(土)

会場

新文芸坐

料金

一般2600円、前売・友の会2400円

トーク出演

湯浅政明、小黒祐一郎(司会・アニメスタイル編集長)

上映タイトル

『カイバ』(全12話)

備考

※オールナイト上映につき18歳未満の方は入場不可
※トークショーの撮影・録音は禁止

●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

●関連記事(WEBアニメスタイル・旧サイト)
『カイバ』湯浅政明監督・公開インタビュー(1)
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【artwork】『カイバ』 第1回 メインキャラクター
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146 アニメ様日記 2018年3月11日(日)~

2018年3月11日(日)
「アニメスタイルのうすい本」の山内重保さんの取材原稿をまとめる。この日は東京アニメアワードフェスティバル2018の3日目で、いくつか行きたいプログラムがあったのだけど、取材があったので学生編集スタッフに代わりに行ってもらった。後でどんな内容だったのかを教えてもらうことになっている。夕方から阿佐ヶ谷で『少女終末旅行』の取材。  

2018年3月12日(月)
山内重保さんの取材原稿が仕上がる。その日のうちに山内さんからチェックが戻る。素晴らしい。この日は東京アニメアワードフェスティバル2018の4日目で、僕は「アニメ功労部門顕彰記念 『北斗の拳』-高見義雄・須田正己の仕事―」に参加。大画面で観るTV『北斗の拳』は新鮮だった。登壇者の梅澤淳稔さんが、芦田豊雄さんに「毎回それまでになかったことに挑戦するように」と言われた話で、例として挙がったのが「セルと背景を破ったカット」と「セルの絵の具が乾く前に、画を崩しながら撮影したカット」だった。その話題になったときに「ひょっとしたら、あのカットとあのカットの話かな」と思ったら、正解だった。どちらも印象に残るカットだ。『ベムベムハンターこてんぐテン丸』の後で、梅澤さんが『とんがり帽子のメモル』に参加して、佐藤順一さんが『北斗の拳』をやるかもしれなかったという話が面白かった。
 テレ朝チャンネル2の「EXまにあっくす 特濃 ~帰ってきたザザーンさん~」で放映された「アニメちゃん」を録画で観る。これは1984年に公開された映画で、一度もソフト化されていない。僕も初めて観た。タイトルは「アニメちゃん」だが、実写作品である。ひょっとしたら、オープニングがアニメだったりするのではないかと思っていたが、そんなことはなかった。同じく「~帰ってきたザザーンさん~」で放映された「ザ・サムライ」がインパクト強し。これは月曜ドラマランドで放映されたもので、同名マンガの映像化。言葉にするのが難しいのだけれど、あの頃のオタク的作品のテイストが濃厚。さらに月曜ドラマランドらしいユルい感じがあってたまらない。  

2018年3月13日(火)
「アニメスタイルのうすい本」の井上俊之さんの取材原稿をまとめる。辻田邦夫さんとイベント打ち合わせ。中央線方面で書籍関係の打ち合わせ。昨年秋からお願いしていた打ち合わせがようやく実現した。  

2018年3月14日(水)
DVDで『BLUE SEED』を観る。映像特典の『BLUE SEED OMAKE THEATER』は観ていないものもあるなあ。『OMAKE THEATER』3話の「X-FILE ~国木田のばやい~」は地面がセル描きになっているところは歩くと危険だとか、ドアが背景描きだと開けないとか、そういったネタのメタもの。1話「奇稲田を見守る男」のオゲレツなオチはよく覚えていた。  

2018年3月15日(木)
『BLUE SEED』を最終回まで観る。続けて『BLUE SEED2』を視聴。『2』は初見かと思ったけど、覚えているセリフがあったから、少なくとも1話は観ていたようだ。TAKADA BANDのオープニング曲、エンディング曲はCDで何度も聴いているなあ。『2』の3話「美人OL6人旅 秘湯大爆破」は、作画監督が桂憲一郎さんでかなりの見応え。
 仕事の合間に「水玉螢之丞 おしごといろいろ展」に行く。水玉さんの仕事は濃くて、なおかつ洗練されており、さらにジャンルの幅が驚くほど広い。改めてそれを確認した。それから、自分の嗜好や想いと客観性のバランスが絶妙で、アウトプットが猛烈に上手い人だった。そんなふうに、ご本人に言ったら「やめてくださいよ」とおっしゃったに違いないけれど。  

2018年3月16日(金)
「アニメスタイルのうすい本」の平松禎史さんの原稿を受け取る。続けて『さよならの朝に約束の花をかざろう』の取材。  

2018年3月17日(土)
「アニメスタイルのうすい本」用のサムシング吉松さんとの対談原稿をまとめる。WOWOWの「映画ドラえもん のび太の宝島」公開記念 37作一挙放送!史上最大の映画ドラえもんまつり」で『ドラえもん のび太の恐竜』を観る。この企画は「初のハイビジョン一挙放映」が売りで、驚くくらい映像が鮮明。しかも、ビスタサイズなのも新鮮だ。  

第554回 カッティングが始まりました

まだタイトルは発表できない
次のシリーズのカッティングが開始となりました!

 これから毎週コンテを出しまくるわけです。個人的にコンテを出して即コンテ撮、即カッティング(編集)の流れが好きです。自分の場合、コンテ撮でも

と、アニメーター計算でそのカットの原画構成が分るので、楽しく編集できますから。とにかくコンテとドラマが繋がっていくのが毎週毎週ホント面白い! あ、ちなみに今シリーズは久しぶりの他社(ミルパンセではない)作品となります。『WUG! 新章』の間にお話をいただいていたんです、たしか。内容はアクションもの。以前に一緒にやったことのあるプロデューサーから、自分の名前が出たらしいです。ありがたや。制作会社も初めてのトコで、初めてのスタッフと仕事をするのは、これはこれで楽しみ。放映は年内、いつかはまだ言えません。コンテに追われてるので、今回は短くてすみません!

第128回 叙情性という源流 〜H2〜

 腹巻猫です。3月28日にマーベラスから発売される「プリキュア ボーカルベストBOX 2013-2017」の構成・解説を担当しています。CD6枚組のうち5枚が『ドキドキ!プリキュア』から『キラキラ☆プリキュアアラモード』まで5作品のボーカルベスト。6枚目がTVサイズ主題歌とBGMを収録したボーナスディスクになっています。BGMは劇中で使用されながら、これまで発売されたサウンドトラックに未収録だった曲(バージョン違い含む)を中心に選びました。初収録音源は29曲。プリキュアのサントラ盤を聴いて「本編で流れたあの曲が入ってない……」と思っていた方は、ぜひどうぞ。

プリキュア ボーカルベストBOX 2013-2017
http://www.amazon.co.jp/dp/B0788XQ5XS/

マーベラスの商品情報ページ(初収録音源表記あり)
https://www.marv.jp/titles/mc/9257/

 

 今回取り上げるのは1995〜1996年に放送されたTVアニメ『H2(エイチツー)』。あだち充の同名マンガを原作にした作品だ。  あだち充作品のアニメ化は『みゆき』(1983)に遡る。80年代は『ナイン』(1983)、『タッチ』(1985)、『陽当たり良好!』(1987)と続けてTVアニメ化され、一気にあだち充人気を盛り上げた。
 90年代はOVAで『スローステップ』(1991)、次いで『H2』(1995)がTVアニメ化された。21世紀に入ってからは『クロスゲーム』(2009)がTVアニメ化されている。この間に『タッチ』の単発スペシャルアニメが1998年と2001年に放映。あだち充作品はいまだ根強い人気(普遍性と呼ぶべきか)を持っているのだ。
 かくいう筆者もけっこうあだち充作品が好きなひとりである。たぶん、代表作はほとんど読んでいる。どれを読んでも同じという人もいるが、その変わらなさもまた安心する。好きな作家の作品を読む楽しみとはそういうものだろう。

 さて、『H2』は1995年6月から1996年3月まで、テレビ朝日系で全39話が放送された。未放映のエピソードが2話あり、それはDVD-BOXに収録されている。監督は70年代後半からタツノコプロ作品を中心に活躍したうえだひでひと。アニメーション制作は葦プロダクション(現プロダクション・リード)がメインで担当した。あだち充作品のアニメ化といえば杉井ギサブロー監督の『タッチ』がひとつの完成形と呼べるが、本作も原作の雰囲気をうまく映像化したいい作品である。
 物語はあだち充おなじみの青春野球もの。主役は4人。親友で野球のライバルでもある国見比呂(声・古本新之輔)と橘英雄(宮本充)、比呂の幼なじみで比呂に密かな想いを抱きつつ英雄と交際する雨宮ひかり(今村恵子)と比呂が進んだ高校の野球愛好会(のちに野球部に昇格)のマネージャー・古賀春華(鈴木真仁)。名前の頭文字が「H」の2組の少年少女が織りなす物語だ。
 残念ながらアニメ版は原作の物語の最後まで描かれずに終わっている。まだまだこれからというところで終わるので、不完全燃焼の思いが残る。
 それでも本作は愛すべき作品だ。主役4人の声もキャラクターに合っていてよかったし(主に俳優として活躍する古本新之輔と今村恵子、本作がアニメ初レギュラーの宮本充、『赤ずきんチャチャ』(1994)でデビューしたばかりの鈴木真仁というフレッシュな顔ぶれだった)、作画も丁寧で安定していた。安心して落ち着いて見られるアニメだった。

 そして音楽は現在、映画音楽作曲家として国内外を問わずに活躍する岩代太郎が担当している。
 岩代太郎といえば、「レッドクリフ」「マンハント」などのジョン・ウー監督実写劇場作品、樋口真嗣監督の「日本沈没」、田中芳樹原作のTVアニメ『アルスラーン戦記』など、スケールの大きなダイナミックな作品を手がける作曲家という印象が強いかもしれない。
 しかし、『H2』前後の岩代太郎は、大林宣彦監督の実写劇場作品「あした」、TVドラマ「白線流し」、劇場アニメ『フランダースの犬』など、じっくり聴かせる繊細な音楽が得意な作家という印象だった。特に筆者が印象深いのは毎週楽しみに観ていた「白線流し」の音楽だ。『H2』と「白線流し」はアニメと実写ドラマという違いこそあれ、高校を舞台にした青春ものという枠組みは同じ。筆者の中ではひとつながりの印象なのである。
 岩代太郎は1965年5月1日、東京生まれ。1989年、東京藝術大学音楽学部音楽科作曲専攻を首席卒業。1991年、東京藝術大学音楽学部大学院修士課程を首席修了。大学院修了作品「To The Farthest Land Of The World/世界の一番遠い土地へ」はシルクロード国際管弦楽作曲コンクール最優秀賞を受賞した。
 現代音楽界の星と呼びたくなるきらびやかな経歴だ。しかし、作曲家をめざしたのは映像音楽の作曲家になりたかったからだという。
 岩代太郎の父・岩代浩一も作曲家だった(NHK教育「できるかな」の音楽などを手がけている)。音楽が身近な環境に育ち、小学生時代から独学でピアノを始めた。中学時代は友人とバンド活動。中学2年生のときに作曲家を志す。それは岩代の中では「映像音楽の作曲家になる」ということと同義だった。なぜ映像音楽の作曲家だったのか。小学生の時に観た劇場作品「ジョーズ」(1975)のジョン・ウィリアムズの音楽や「サスぺリア」(1977)のゴブリンの音楽が強く印象に残っていた。しかし、それがきっかけかどうか、明確な理由はわからない、と岩代太郎は2016年4月に上梓した著書「映画音楽太郎主義 サウンドトラックの舞台ウラ」(全音楽譜出版社)の中で書いている。ともかく、父の後押しもあって、東京藝術大学に進学。本格的な音楽教育を受けることになった。
 岩代は1991年、大学院修了と同時にNHKスペシャル「ファッションドリーム」の音楽でプロデビューを果たす。
 その後は、実写劇場作品「課長 島耕作」(1992)、「あした」(1995)、「あずみ」(2003)、「蝉しぐれ」(2005)、「日本沈没」(2006)、「レッドクリフ」(2008)、「聯合艦隊司令長官 山本五十六」(2011)、「魔女の宅急便」(2014)、「マンハント」(2017)、TVドラマ「君といた夏」(1994)、「沙粧妙子 最後の事件」(1995)、「あぐり」(1997)、「葵 徳川三代」(2000)、「義経」(2005)などの音楽で活躍。近年は映画音楽に軸足を置いて海外にも活動の場を広げている。
 アニメ作品は『H2』を皮切りに『みどりのマキバオー』(1996)、劇場『フランダースの犬』(1997)、劇場『明治剣客浪漫譚 維新志士への鎮魂歌』(1998)、劇場『MARCO 母をたずねて三千里』(1999)、劇場『鋼の錬金術師 嘆きの丘の聖なる星』(2011)、『翠星のガルガンティア』(2013)、『Blade & Soul』(2014)、『アルスラーン戦記』(2015)、『正解するカド』(2017)、『A.I.C.O. Incarnation』(2018)などを手がけている。実写劇場作品やTVドラマに比べると数は多くないが、聴きごたえのある作品ばかりである。
 『H2』は岩代太郎が職業作曲家としてデビューして4年目の作品である。だからこそ、作家の原点とも呼べる瑞々しい音楽を聴くことができるし、その瑞々しさがあだち充作品の世界と絶妙にマッチしている。
 本作のサウンドトラック・アルバムは、キングレコードから2枚発売された。1995年6月に発売された「H2 オリジナル・サウンドトラック」と1996年3月に発売された「H2 オリジナル・サウンドトラック2」である。1枚目は比較的長めの曲を中心に全13曲を、2枚目は1分から2分ほどの短めの曲を中心に全24曲を収録している(いずれも歌曲を含む)。
 1枚目から紹介しよう。収録曲は以下のとおり。

  1. 虹のグランドスラム(H2メインキャラヴァージョン)
  2. ALL OF YOUNGSTAR
  3. HIGH SCHOOL MORNING
  4. BASSBALL HERO
  5. HIGH SCHOOL WINDS
  6. HIGH SCHOOL ROAD
  7. ゆるやかな虹のように(歌:西脇唯)
  8. A PASSAGE TO BASEBALL
  9. HIGH SCHOOL MELODY
  10. THE CROSSING
  11. YOUTHFUL ZONE
  12. FAR AND AWAY
  13. 「二人」に帰ろう(歌:西脇唯)

 1曲目は久保田利伸が歌う前期主題歌をアニメのメインキャラを演じる声優4人が歌ったバージョン。オリジナル歌唱版が収録されなかったのは歌手の所属レーベルが異なるためだろう。久保田利伸の歌うオリジナル版はソニーミュージックからシングルCDで発売された。作詞・作曲ともに久保田利伸が担当。自身も野球部に所属していたという久保田の感性が生かされた、いい歌である。メインキャラ歌唱バージョンはオリジナル版とはカラオケが異なり、オリジナル版のファンキーなテイストが薄れた代わりにロック色が強くなっている。このバージョンは最終回のラストシーンに使用された。
 13曲目はシンガーソングライターの西脇唯が歌う前期エンディング主題歌。これがまた、番組を観ていたファンには忘れられない超絶な名曲。サビを聴くだけでアニメの映像と当時の気分がフラッシュバックする人もいるだろう。やはり、あだち充アニメには名曲が多いのだ。7曲目は、エンディング主題歌シングルのカップリング曲として発売された挿入歌である。
 残る10曲がBGM。2分から4分を超える長い曲ばかりが集められている。音楽アルバムとして聴ける充実した内容だ。
 トラック2「ALL OF YOUNGSTAR」は第1話の冒頭場面に流れた曲。医者から肘の故障を告げられた比呂が中学卒業を機に野球をあきらめようと川原でグラブを焼く場面だ。そこに春華が現れ、ふたりの出逢いとなる。ハープのアルペジオと弦のアンサンブルでじんわりと始まり、サックスの主旋律が現れる。スローバラード風の叙情的なメロディだ。ドラムが控えめにリズムを刻み始め、弦とサックスの合奏へ。物語の始まりを告げる、爽やかでちょっとノスタルジックな胸に沁みる曲だ。
 本作の音楽の特徴がすでに現れている。それはサックスの音色。『H2』ではサックスがメロディを受け持つ曲が多く、その艶やかな音色が音楽全体の基調音になっている。高校生たちの青春を描くアニメにサックスというのは、あまりない組み合わせではないだろうか。ふつうならエレキギターとか、トランペット、トロンボーンなどの金管を持ってくると思う。サックスは高校生よりももっと大人びたイメージだ。
 しかし、サックスの音色は青春時代の屈折や大人になりかけた少年少女の心の機微を表現するのに予想外にぴったりくる。絶妙の音楽設計である。映像を彩るサックスの音のおかげで、『H2』はちょっと大人になった視点から青春時代を思い出すような、独特の空気感を持った作品になったのではないだろうか。
 トラック3「HIGH SCHOOL MORNING」はピアノと弦でじわっと始まる日常曲。「じわっと」、もしくは「じんわりと」始まる曲が多いのも本作の音楽の特徴。頭からぐいぐい出る曲がほとんどない。非常にやさしい感触の音楽になっている。
 メインのメロディを受け持つのはケーナ(だと思う)。これも意表をついた組み合わせだが、聴いていると高校のグランドの上に広がる青空が見えてくるような気分になる。ケーナの素朴な音色が大地と空を感じさせるのだ。やさしく穏やかな曲である。比呂たちの日常シーンなどに使用された。
 トラック4「BASSBALL HERO」は軽快なリズムから始まるアクティブな曲。ギターのカッティングとドラム、ベースのリズム。そこに上下する弦のフレーズが乗って緊迫感を演出。40秒を過ぎて、サックスのフェイク気味のメロディが加わる。試合場面によく流れた躍動感のある曲だ。サックスの音色も手伝って、ちょっとおしゃれな雰囲気になっているのが特徴。90年代のアニメらしいテイストである。
 川面に光がきらめくような美しいイントロで始まるトラック5「HIGH SCHOOL WINDS」は、タイトルどおり、爽やかな風を感じさせる曲。主旋律を受け持つのはアコースティックギター。これぞ青春アニメといいたくなるサウンドである。流れるようなピアノと弦の上で奏でられる解放感のあるギターのメロディ、その合間に入ってくる高音のケーナの音色の組み合わせが心地よい。第1話で高校に入学した比呂たち4人の姿を紹介するモンタージュの場面に流れたほか、比呂たちの野球への想いを描く場面などに使われた印象深い曲である。
 次の「HIGH SCHOOL ROAD」はクラシカルな弦合奏から始まる感動曲。なんと美しい旋律。ストリングスが奏でる心洗われるメロディに陶然となる。岩代太郎の生みだす叙情的なメロディの魅力が生かされたナンバーだ。この方向性の音楽の名作が『フランダースの犬』。未聴の方はそちらのサントラもぜひ聴いていただきたい。曲はたっぷり1分近く弦合奏を聴かせたあと、サックスのメロウな旋律に受け継がれる。ここでもまたサックスなのだ。2分を過ぎて、ふたたび弦合奏に戻り、Aパートと同じ旋律が繰り返されて終わる。制服姿の英雄とひかりが並んで下校する場面など、青春時代の記憶を刺激する甘酸っぱいシーンに流れていた。
 トラック8「A PASSAGE TO BASEBALL」は2部構成。最初のパートはちょっと沈んだ気分を表現する弦とキーボード主体の曲。途中からサックスも加わり、ややメランコリックなトーンで青春時代の苦悩を奏でる。肘の故障のため野球への夢を断たれた比呂の気持ちを描いたような曲だ。2分を過ぎて曲調が一転し、軽快なリズムに乗せてフリー演奏風のサックスが湧き上がる想いを表現する。このパートは肘の故障が誤診と知り、ふたたび野球ができることを知った比呂のよろこびを表現しているようだ。
 トラック9「HIGH SCHOOL MELODY」はアコースティックギターとサックスによるリリカルで美しいバラード曲。メロウでおしゃれで、ヨーロッパの青春映画の音楽を聴くようだ。これが「高校のメロディ」だなんて、どんな高校生活なのだろう。しかし、ほかの曲でもたっぷりサックスが聴こえてくるので、いきなりこんな曲が流れても違和感がない。これも音楽設計のマジックである。
 弦のトリルが緊張感を表現する「THE CROSSING」は試合場面によく流れた曲。
 続く「YOUTHFUL ZONE」はアコースティックギター、ストリングス、サックスという編成で奏でられる、ややノスタルジックだけれど、けして後ろ向きではない想いを描写する曲。第1話で野球部のない千川高校に進学した比呂が、野球愛好会のマネージャーになっていた春華と思いがけなく再会する場面、第9話で、比呂と同様に野球への夢を断念しようとしてあきらめきれない柳が少年野球の練習風景をスケッチする場面など、迷いの中に希望が垣間見える場面に流れている。
 BGMパートの最後の曲「FAR AND AWAY」は締めくくりにふさわしい、希望を感じさせる曲。ミニマムなリズムとストリングスをバックに、サックスが比呂たちのはるかな夢を歌い上げる。これも海外の青春映画音楽を思わせるスケール豊かで爽やかな曲だ。本編では最終話の終盤、甲子園で戦う英雄を応援しに行ったひかりが、比呂に「おいで」と心の中で呼びかける場面から、地元で黙々と練習に励む比呂とそれを見守る春華の場面にまで流れている。比呂と英雄とひかりと春華、4人の夢とお互いの関係はこれからどうなっていくのか? このあと続く物語を想像させる名シーンに流れた大切な曲である。
 サウンドトラック1に収録されなかったコミカルな曲や明るく陽気な曲、試合シーンを彩る躍動的な曲、次回予告音楽などはサウンドトラック2で補完された。サウンドトラック2には後期主題歌2曲と主役4人が歌うキャラクターソングも収録されているので、ぜひ1枚目と合わせて聴いてもらいたい。

 80年代の『タッチ』では芹澤廣明が書いたオールディーズの香りがする音楽が、明るさとペーソスと滑稽さが入り混じった等身大の青春像を演出していてすばらしかった。およそ10年を経て作られた『H2』の音楽は、それに比べてぐっと叙情的で大人びた雰囲気だ。海外映画音楽のように洗練されていて、じんわりと胸に沁みる。
 その叙情性こそ、岩代太郎の音楽の核をなす要素のひとつだと思う。先に紹介した本「映画音楽太郎主義 サウンドトラックの舞台ウラ」の中で岩代は「僕が自分の音楽の中で最も失いたくないと意識しているのは叙情性だ」と語っている。どんな壮大な音楽、スリリングな音楽を書いても、岩代太郎は心の琴線にそっと触れるような叙情性を潜ませてくる。『H2』には岩代太郎の音楽の源流が流れているのである。

H2 オリジナル・サウンドトラック
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H2 オリジナル・サウンドトラック2
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映画音楽太郎主義 サウンドトラックの舞台ウラ
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145 アニメ様日記 2018年3月4日(日)~

2018年3月4日(日)
レンタルDVDで『みつあみの神様』を観る。朗読劇をDVD化したもので、アニメーションパートは舞台背後のスクリーンに映っているものを撮っているので観やすくはない。アニメーションパートは板津匡覧さんが監督・絵コンテ・キャラクターデザイン・作画監督を担当。新宿TOHOシネマズで『映画ドラえもん のび太の宝島』を観る。お話について「あれ?」と思うところはあるのだけれど、楽しく観ることはできた。特に映画前半に作画的な見どころが多い。
 イベント前に阿佐ヶ谷のファミレスで、「アニメスタイルのうすい本」のために井上俊之さんの取材。夜は「第142回アニメスタイルイベントアニメの作画を語ろう 2018年春」。第1部は「磯光雄の作画を語る! PART2」で井上俊之さんとcoosunが登壇。coosunが用意した解説用の映像が素晴らしく、勉強になった。第2部は井上さん、平松禎史さんによる『さよならの朝に約束の花をかざろう』のトーク。この2人ならではの内容の濃いものとなった。第3部は井上俊之さんに『エロマンガ先生』の作画について語っていただく予定だったが、第1部がボリュームアップしてしまったので割愛。『エロマンガ先生』についてはまたの機会に。  

2018年3月5日(月)
取材の予習。『NieA_7』『迷い猫オーバーラン!』『少女たちは荒野を目指す』『生徒会の一存』等を視聴。『NieA_7』はBlu-rayで観たのだけど、驚くくらい鮮明。居酒屋のカウンターで『STEINS;GATE』のムックを読む。  

2018年3月6日(火)
イオンシネマ大井で『映画 中二病でも恋がしたい!Take On Me』を鑑賞。いろいろとユルい感じなのだけど、そのユルさが楽しさに繋がっていた。しめるところはきっちりしめて、ファンムービーとしては文句のない仕上がりになっていた。六花が勇太を愛するうちに、中二病が抜けていくことが示されているところがよかった。元々、大人目線で中二病を描いている作品であり、落ち着くべきところに落ち着いた感じだ。観た後にファミレスに行きたくなった。  

2018年3月7日(水)
「設定資料FILE」の構成。構成をしながら、1話から『からかい上手の高木さん』を観る。楽しい。連絡いろいろ。書籍ふたつの企画が大きく前進。  

2018年3月8日(木)
「この人に話を聞きたい」取材。第百九十八回で登場していただくのは佐藤卓哉さん。写真はかなりの変化球となった。カメラマンの平賀正明さんは、その場でのオーダーに対して、臨機応変に応えてくれた。さすがだ。  

2018年3月9日(金)
インタビューの前に『さよならの朝に約束の花をかざろう』関係の取材(紙媒体、WEB媒体)をまとめて読んだ。多い多い。30本以上の記事に目を通したはず。『さよ朝』関係の記事にはいいものが多かった。具体的に言うと、ユリイカの上田麻由子さん、エキサイトレビューの丸本大輔さんのインタビューがよかった。11時半から『さよ朝』取材。11時半スタートして18時終了。6時間半ぶっつつけ。最初の予定では間に休憩をはさむ予定だったのだけど、1本目の取材が長引いたので、休憩もなくなったのであった。  

2018年3月10日(土)
「あにめたまご2018完成披露上映会」に行く。上映された4本の中では『えんぎもん』と『Midnight Crazy Trail』がよかった。『Midnight Crazy Trail』の絵コンテはワタナベシンイチさんで、かなりナベシンさんらしい感じだった。