―― よろしくお願いします。
本郷 はい、よろしくお願いします。
―― 芝山努さんの事はいつからご存じでしたか。
本郷 子供の頃にTVアニメの『元祖天才バカボン』『ど根性ガエル』『ガンバの冒険』等が好きで、それらの作品のオープニングに芝山さんの名前が出ていて、なんとなく記憶していたと思います。
―― それで芝山さんが主催していたスタジオ、亜細亜堂に入ったのでしょうか。
本郷 そうですね。アニメ雑誌に亜細亜堂の動画募集があったんです。芝山努さん、小林治さんの名前だけは知っていましたので。
―― そこで芝山さんとお会いになったのですか。
本郷 そうだと思いますが、21歳から始めた動画の時は接する機会がほとんどなくて、記憶に残るエピソードはありませんね。
―― それでは亜細亜堂で演出を始めてから?
本郷 はい、そうです。機会があって23歳で演出助手として『まんが日本昔ばなし』で作画打ち合わせに立ち合い、上がった原画を見て、撮出しを担当しました。私が初めてTVシリーズで演出を担当した『伊賀野カバ丸』も、前の話数は芝山さんが担当していて、それを引き継ぐかたちで仕事を始めました。最初の何本かの絵コンテもチェックしてもらいました。
―― 間近で見た芝山さんの仕事ぶりはいかがでしたか。
本郷 時期的には芝山さんが『ドラえもん のび太の海底鬼岩城』(編注:芝山努が最初に監督を務めた映画『ドラえもん』。1983年公開)の監督を務められてから10年弱、間近で見ていました。私は完全な素人から亜細亜堂に入ったのですが、入社してからしばらくの間、亜細亜堂では芝山さん、小林治さん、河内日出夫さん、山田みちしろさん、須田裕美子さんの5人だけが経験豊富な人達で、それ以外のスタッフは先輩も含めて私と歳の近い人達だったんですよ。5人は全員アニメーターで絵コンテ、演出もやり、キャラクターデザインもやる人達だったので、アニメーターとはそういう人達だと思っていたのです(笑)。
―― それは凄い勘違いですね(笑)。
本郷 その後、演出として沢山のアニメーターと会い、全員がそうではない事を知りました。
―― なるほど(笑)。
本郷 私は10年弱、亜細亜堂に在籍した後フリーになったのですが、芝山さんの凄さを理解したのは会社を辞めてしばらく経ってからでしたね。
―― それはどういう事ですか。
本郷 私が亜細亜堂にいた頃、芝山さんは毎年、映画『ドラえもん』を監督し、TVシリーズの『ドラえもん』の監督をやりつつ、それと並行して『ちびまる子ちゃん』の監督や『忍たま乱太郎』の総監督等を務めていたんです。あまりに身近だったので「沢山監督をやっているなぁ~」ぐらいの感覚でいました。
『伊賀野カバ丸』の後は、各話の絵コンテで『ドラえもん』を手伝うぐらいで、『まる子』や『乱太郎』と関わる事はなく、その当時は芝山さんの仕事量を具体的にイメージできていなかったんです。
―― なるほど。
本郷 フリーになって『クレヨンしんちゃん』のシリーズを4年半やって、その間に4本の映画を作って改めて芝山さんの仕事量が超人的なものだった事を思い知りました。
―― 芝山さんは日本のTVアニメの歴史の中でも特異な存在かもしれませんね。
本郷 さっき挙げた『ドラえもん』『まる子』『乱太郎』は、今現在も新作が放送されていますし、私が亜細亜堂に在籍していた頃は他に『らんま1/2』の監督、『おねがい!サミアどん』のキャラクターデザイン、『まんが日本昔ばなし』の絵コンテ、演出等もやっていたんですよ。
―― 本当に凄い仕事量ですね。
本郷 私くらいしか知らない芝山さんの仕事もあります。1985年から3年間で、ディズニーとの合作で東京ムービーが作った『The Wuzzles』『わんぱくダック夢冒険』『新くまのプーさん』で、日本側のチーフディレクターを芝山さんがやっていたんです。多分記録は残っていませんが、私は亜細亜堂班の演出として3年間参加しました。
―― 本郷さんがいた10年だけでも信じられないくらいの量ですね。
本郷 『サミアどん』の亜細亜堂回は新人アニメーターばかりだったので、芝山さん、小林さん、山田さんがローテーションで全カットのレイアウトを切っていました。だから、今見ても画面の完成度が高いですよ。
―― 亜細亜堂の社長として裏方の仕事もやっていたんですね。
本郷 はい。私が各話演出をやっていた『エスパー魔美』でも新人アニメーターが参加する最初の回は、芝山さんがレイアウトを切ってくれました。西村博之君、藤森雅也君、玉川真人君は芝山さんの恩恵を受けた筈です。
―― そこまでやっていたのですか!?
本郷 1人の人間の仕業とは思えませんね(笑)。
―― 所謂「手が早い」とは違う異次元の仕事ぶりですね。
本郷 そうなんです。ひとつひとつのレイアウトや絵コンテや演出のクオリティが高いのは勿論ですが、並行して様々な仕事をマルチタスクで平然とこなしていたんです。さっきも言った事と重複しますが、後に監督をいくつか経験してみてその凄さを実感しました。
―― 本郷さんから見た芝山さんの演出、監督としての凄いところってどんなところなんでしょうか。
本郷 『ドラえもん』『ちびまる子ちゃん』『忍たま乱太郎』に関して言うと、原作をかみ砕いて誰にでも愛される分かりやすいアニメ作品に仕上げる手腕ですね。『ずっと続く作品』は狙って作れるものではないのですが、芝山さんはその本質を掴んでいたのだと思います。
―― 一見すると、誰でもできそうな作品ですが。
本郷 作家性を前面に出すのではなく、その作品を芝山さん以外の人も作れるような方法論が、あらかじめ用意してある感じでしょうか。もし野心的な各話演出がいれば、そこで遊べるような余地も用意してある……。
―― そういったタイプのアニメ演出は他にもいますか。
本郷 芝山さん以外見た事ありませんね。元々、アニメーターとして大活躍した後に監督業を長くやって絵コンテ、演出も手掛けていて感心するのは、画にこだわらないところなんです。
―― と言うと?
本郷 上手いアニメーターが絵コンテや演出をやると、大抵の場合、自分より上手くない原画は耐えられないんですよ。
―― その場合はどうするんですか。
本郷 原画やタイミングを徹底して直すわけです。
―― 自然な流れですね。
本郷 芝山さんはそれを一切やらないんです。映画『ドラえもん』だと絵コンテ、作画打ち合わせまでやって演出処理は任せるやり方でした。
―― 上手いアニメーター出身では珍しいわけですね。
本郷 実はそれについて芝山さんに聞いた事があるんです。
―― 大胆ですね(笑)。
本郷 当時はなんでもずけずけ聞いていました。おかげで今でも演出をやれています。
―― それでどんな答えだったんですか。
本郷 単純なんですが、「監督になってから、画に口出しするのはやめた」という返答でした。
―― え、監督が画に口出ししない?
本郷 当時はその意味がよく分からなかったのですが、それから10年以上経って、ボンヤリ分かったんです。
―― と言うと?
本郷 例えば私が画の事をとやかく言っても、そんなに優れた絵描きではないのでアニメーターも「分かってない奴の戯言」で済みますが、芝山さんが画やタイミングをいじったら大抵のアニメーターはその人の仕事が意味を失ったり、あるいは自信を喪失すると思うのです。それに芝山さんがやった仕事全てにそれをやるのはいかに驚異的な仕事のスピードでも難しい筈です。
―― 大局的な判断で自分の関わり方を決めたという事ですね。
本郷 私はそう考えています。自分が作品と関わって、どういうかたちがベターかを考えて実践していたのだと考えています。「沢山仕事をする」事は評論家やマニアには評価されにくいですが、芝山さんが手掛けた作品達が無かったら、今より少し寂しいアニメ界になっていましたね。
―― 最後にうかがいますが、芝山さんは、本郷さんの「師匠」なんですね?
本郷 そうですね。望月智充、荒川真嗣、もりたけし、湯浅政明、浜名孝行、藤森雅也、佐藤竜雄(敬称略)、本郷みつる、他にも沢山の芝山チルドレンを生み出したと思います。
―― 人材育成ですね。
本郷 芝山さんがそれを意識していたのではなく、芝山さんの仕事の方法論が人材育成に適していたのだと思います。私が長くこの仕事ができたのも、演出になって最初に出会った監督が芝山さんだった事が大きいです。
2024年 取材・構成/本郷みつる(一人二役)
●プロフィール
本郷 みつる(ほんごう みつる)。アニメーション演出者。監督として『チンプイ』『クレヨンしんちゃん』『星方武侠アウトロースター』『本好きの下剋上 司書になるためには手段を選んでいられません』『柚木さんちの四兄弟。』等、数多くの作品を手掛ける。
第899回 『沖ツラ』制作話~1話と2話あたり?
前回からの続き、というより溢れ分から~。
『沖ツラ』第1話のラストはコンテ第1稿の修正を終え提出すると、里見哲朗プロデューサー(協力)より、「『●ヴァ』パロで終わるのはど~かなぁ~?」と。さらに続けて「原作の短編オチとして『●ヴァ』パロは良いと思うんだけど、TVシリーズ第1話のラストとしては(物足りない)……」とも。
言われて確かに、
「ありがとう」の『●ヴァ』(1995〜6年TVシリーズ版最終回)パロで“次回に続く”はちょっとクール過ぎるか……!
と思い直し、「分かったわ、調整してみる」と、もう一度持ち帰り、見直して加筆したのが現状の「沖縄の皆さん、ありがとう! そして、よろしくお願いします!」なラストでした。結果、里見Pの助言で、“そこはかとないアットホーム感”が出せた、と個人的に気に入っています。で、
次、第2話冒頭 “オジサン”話の作画は、篠 衿花さん!
C-001“じ”~の喜屋武さん、それを見て考え込むてーるー(C-002)も、さらにそれを見ている比嘉さん(C-003)も、全部キャラ表を上回る表現力。表情・止めだけでなく、C-026「マース煮ぃがー一番やしがてー。わんねー~」と楽し気に “オジサンの良さ”を伝える喜屋武さんの両手オーバーアクションや、C-036の投網を投げる鉄さんのアクションも本当に秀逸な一発原画。以前にも軽く触れましたがこの辺りの篠作画を見て「いける!」と判断したから、自分と一緒に他話数のキャラ修正に全面的参入してもらい、最終的に完全な『沖ツラ』の主戦力となっていったのです。あ、
C-031~032の具志堅さんアクションは板垣の方で作監やりました!
が、それ以外冒頭“オジサン”パート(C-054まで)は篠さんによる原画になります。
そして、具志堅用高さんのボクサー役はご本人に楽しく演じていただきました。実はこの後の第6話の比嘉おじいさん役を先行でお願いしていて、そっちが決まる際「(2話で)ボクサーキャラが出るなら、これも僕がやった方が良いんじゃない?」と提案して下さったと聞いています。
で、「ちょっちゅね──!」と軽快にいただいた後、こちらを向いて「ボク、ちょっちゅね~なんて言ったことないんだよ(笑)」と。とても気さくな方で嬉しかったです!
ありがとうございました、具志堅用高さん!
はい、また短いですが、ここらで仕事(『キミ越え』)に戻らせていただきます(汗)。
第239回アニメスタイルイベント
ANIMATOR TALK ちな
若きアニメーター&演出家である、ちなさんにスポットを当てたイベントを開催します。ちなさんは10代から敏腕アニメーターとして活躍し、近年はオリジナルの短編アニメーション『ファーストライン』を監督。各話演出として参加した『ヤマノススメ』シリーズや『ぷにるはかわいいスライム』での仕事も印象的でした。
トークでは活動を始めてから現在まで、そして、これからの仕事をご本人に語っていただきます。マニアックな話題が次々に飛び出すはず。さらにちなさんの仕事仲間の方々に関係者席へ座ってもらい、トーク中にコメントをしていただく予定です。トークの聞き手は沓名健一さん、アニメスタイルの小黒編集長が務めます。
開催日は2025年5月25日(日) 。会場は阿佐ヶ谷ロフトA。当日はアニメスタイルの新刊を発売する予定です。
今回のイベントも「メインパート」の後に、短めの「アフタートーク」をやるという構成になります。配信もありますが、配信するのはメインパートのみです。アフタートークは会場にいらしたお客様のみが見ることができます。
配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。
チケットは2025年4月26日(土)13時から発売となります。チケットについては、以下のロフトグループのページをご覧になってください。
■関連リンク
LOFT(告知) https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/316495
会場&配信チケット https://t.livepocket.jp/e/k3hyk
配信チケット(ツイキャス) https://twitcasting.tv/asagayalofta/shopcart/372097
第239回アニメスタイルイベント | |
開催日 |
2025年5月25日(日) |
会場 |
阿佐ヶ谷ロフトA | 出演 |
ちな、沓名健一、小黒祐一郎 |
チケット |
会場での観覧+ツイキャス配信/前売 2,300円、当日 2,500円(税込·飲食代別) |
アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。
第303回 愛の対位法 〜戦隊レッド 異世界で冒険者になる〜
腹巻猫です。1975年に「秘密戦隊ゴレンジャー」の放映が始まってから今年で50年。NHKで「全スーパー戦隊大投票」が行われ、8月からは「全スーパー戦隊展」が開催されるなど、さまざまな記念企画が動いています。そんな年にぴったりのアニメが3月まで放映された『戦隊レッド 異世界で冒険者になる』でした。戦隊ヒーローもののパロディではなく、その世界観をマルチバース的発想で取り入れた作品です。今回はその音楽を紹介します。
『戦隊レッド 異世界で冒険者になる』は中吉虎吉によるマンガを原作に2025年1月から3月まで放映されたTVアニメ。監督・川口敬一郎、アニメーション制作・サテライトのスタッフで映像化された。
絆創戦隊キズナファイブのキズナレッド・浅垣灯悟は、悪の組織ゼツエンダーとの最終決戦で敵の首領と相打ちになり、異世界に転移してしまう。異世界では女性魔導士イドラが実力のある冒険者を探していた。イドラのテストに合格した灯悟は、イドラとともに冒険の旅に出発。キズナファイブの装備と経験を生かして、さまざまな危機を乗り越え、仲間を増やしていく。いつか元の世界に戻れる日を待ちながら。
戦隊ヒーローが異世界に行ったら? という発想の異世界転移もの。異世界で灯悟がキズナレッドに変身して活躍する様子が見どころになっている。面白いのは、異世界でも、われわれがTVで観ている戦隊ヒーロー番組のお約束が守られていること。たとえば灯悟が変身するとき後ろで爆発が起き、近くに人がいるとその爆発に巻き込まれてしまう。また、レッドの呼び声に応えてロボットや必殺武器が飛んできたり、レッドと一緒に戦う異世界の仲間たちが自分でもわからないうちにキメポーズをとってしまったりと、パロディ的な描写がしばしば見られる。そんな「お約束」を知らない異世界の住人が、それにいちいち突っ込むのがおかしい。本作は一種のメタフィクションでもあるのだ。
筆者は2003年から2014年まで東映スーパー戦隊シリーズのサントラの仕事をしていたこともあり、本作を興味深く観ていた。随所にスーパー戦隊シリーズへのオマージュが散りばめられていることに感心したし、灯悟以外のキズナファイブのメンバーの声を、かつてスーパー戦隊シリーズで戦隊メンバーを演じた俳優が担当していることに驚いた。観ているうちにわかってきたのは、本作はパロディではなく、戦隊ヒーローへの愛にあふれた作品であるということ。けしてギャグをねらった作品ではないのだ。
音楽にも本家戦隊ヒーローへのリスペクトが込められている。音楽を担当したのは、『未来戦隊タイムレンジャー』『特捜戦隊デカレンジャー』など、スーパー戦隊シリーズを何作も担当した作曲家の亀山耕一郎。スタッフクレジットを見て、「本物だ!」と思ってしまった。
監督の川口敬一郎はサウンドトラックのブックレットにこんなコメントを寄せている。
「やはり本家の特撮と言えば『ロボが出てくる時にはロボの歌!』『必殺技の時は必殺技の曲!』(中略)と、決まった所で決まった曲がかかるというのが魅力の一つだと思うんですよ。
そんな訳で『異世界レッド』でも、なるべくキャラクターに定番の音楽を乗せられるよう頑張ったつもりです。(中略)今回は我儘を言うために音響監督も務めさせていただきました」
おなじくサントラのブックレットで亀山はこう語る。
「変身時や必殺技や最終兵器やらの、王道で滅茶苦茶ベタですが迫力のある楽曲も、是非お楽しみくださいませ!」
2人の言葉どおり、本作の音楽の第一の聴きどころはスーパー戦隊シリーズの伝統を継承した楽曲である。変身からアクションにつながる曲「絆装チェンジ!」、必殺武器召喚時の「来い!ビクトリー・キズナバスター!」、アコースティックギターの音色が束の間の平和を描写する「キズナファイブの日常」などだ。
きわめつけは、キズナファイブのオープニング主題歌「さぁいこう!キズナファイブ」と合体ロボの歌「マキシマム・キズナカイザー爆現!!」。作詞はスーパー戦隊シリーズの歌を多く手がける藤林聖子と桑原永江がそれぞれ担当。作編曲は亀山耕一郎。「マキシマム・キズナカイザー爆現!!」を歌うのは串田アキラ。ここでも本物志向が貫かれている。音楽制作は「秘密戦隊ゴレンジャー」以来すべてのスーパー戦隊シリーズにかかわっている日本コロムビアだから抜かりはない。
『アニメージュ』2025年4月号にも亀山耕一郎のインタビューが掲載されている。亀山は、音楽の内容については全部まかされ、原作や川口監督の説明から曲を発想をしていったという。監督のリクエストを受けて、半分はオーケストラっぽい曲を書き、自分の好みでギターとベースの絡みを入れた。さらに、これまで戦隊シリーズの音楽を書いた経験から効果音的に使えるシンセ主体の曲を用意した。
ほかには、主要キャラクターのテーマと異世界を描写する音楽、魔法発動の曲やバトルの曲、日常描写曲などが制作されている。異世界側の曲はファンタジー風や民族音楽風など、戦隊側とは違った曲調でまとめられているのが特徴だ。ただし、バトル曲や日常曲の多くは戦隊ヒーローのシーンにも異世界のシーンにも共通して使われている。
本作のサウンドトラック・アルバムは2025年3月19日に「TVアニメ『戦隊レッド 異世界で冒険者になる』オリジナル・サウンドトラック」のタイトルで日本コロムビアからCDと配信でリリースされた。
収録曲は以下のとおり。
- Cuz I(TV size)(歌:牧島 輝)
- さぁいこう!キズナファイブ(歌:隆成)
- 戦隊レッドと…
- 熱き友情の戦士・キズナレッド
- 大魔導士・イドラ
- マナメタル
- 王家の杖
- 戦闘開始!
- 絆装チェンジ!
- 来い!ビクトリー・キズナバスター!
- 平和な日々
- 仲間との日常
- 湧き上がる怒り
- 魔物の気配
- 強敵、現る
- イドラの魔法
- 王女・テルティナ
- 剣士・ロゥジー
- 迫りくる魔王軍
- 作戦会議
- 故郷
- はちゃめちゃな仲間たち
- 灯悟の想い
- 聖剣の勇者
- 結ばれる絆
- 温かな気持ち
- キズナファイブの日常
- 平和な時間
- 怪しい動き
- 太陽の森
- 神聖な力
- アメンの継承者・ラーニヤ
- 内気な本性
- 新たなる敵
- すれ違う心
- 脅威
- 清弘・バンソウキラー
- 孤独な旋律
- 最終決戦!
- 緊迫感
- マキシマム・キズナカイザー爆現!!(歌:串田アキラ)
- 決戦
- 掴んだ勝利
- Explosive Heart(TV size)(歌:内田彩)
劇中で流れた曲はほぼすべて収録されているようだ。1曲目にオープニング主題歌、ラストにエンディング主題歌を収録し、さらに2曲の挿入歌が収録されている。
曲順はストーリーの大まかな流れに沿った構成。
特徴的なのは、1曲目が番組のオープニング主題歌「Cuz I」で2曲目がキズナファイブの主題歌「さぁいこう!キズナファイブ」であること。「戦隊ヒーロー」を前面に出した構成で、気分が盛り上がる。
トラック3「戦隊レッドと…」はサブタイトル曲。本作のサブタイトルは第12話を除いてすべて「戦隊レッドと○○○○」で統一されているから、うまい曲名である。
トラック4「熱き友情の戦士・キズナレッド」とトラック5「大魔導士・イドラ」は本作の主人公レッド(灯悟)とイドラのテーマ。レッドのテーマはブラスとエレキギターを主体にした王道の戦隊ものらしい曲調で、イドラのテーマは弦のピチカートや木管を使ったファンタジックで軽快な曲調で書かれている。2人は異なる世界の出身だからサウンドも対照的である。
トラック23の「灯悟の想い」はレッドのテーマのバリエーションだ。フルートとサックスがメロディを奏でる哀愁ただよう曲調で、熱血だけではない灯悟の心情を表現していた。
トラック16の「イドラの魔法」はイドラのテーマのバリエーションである。イドラのテーマをアップテンポにアレンジした曲で、イドラが魔法を使って戦うシーンなどに選曲された。
トラック7「王家の杖」には、サブタイトル曲「戦隊レッドと…」と共通のモチーフが使用されている。「王家の杖」とは王族に仕える最高の魔導士の称号である。イドラの家は代々王家の杖であったが、父の代でその座を奪われてしまう。イドラは王家の杖の座を取り戻すことを目標にしているのだ。この曲は本作の世界観にかかわる重要なテーマのひとつ。
トラック8「戦闘開始!」からトラック10「来い!ビクトリー・キズナバスター!」へと続く流れは、戦隊ヒーローもののフォーマットを意識した構成だ。「戦闘開始!」は序盤戦や小競り合いの場面などに使えるシンセ主体の曲。回想で描かれるキズナファイブの戦闘シーンでよく使われた。「絆装チェンジ!」(トラック9)はレッドのテーマのヴァリエーションのひとつで、レッドのバトルを盛り上げる定番の曲。「来い!ビクトリー・キズナバスター!」(トラック10)はキズナファイブが5人そろって発射する必殺武器のテーマ。高らかに鳴るファンファーレが「勝利確定!」をイメージさせる。
トラック17「王女・テルティナ」とトラック18「剣士・ロゥジー」は、第3話で灯悟とイドラが出会う王女テルティナと彼女に仕える勇者ロゥジーのテーマ。亀山耕一郎のインタビューによれば、テルティナはイドラとの差別化のためバロック風の曲にし、ロゥジーはギャグっぽいキャラなので「ちょっと遊びました」とのこと。「剣士・ロゥジー」はフラメンコとマカロニウエスタンを合体したような曲になっている。
トラック24「聖剣の勇者」は「剣士・ロゥジー」のバリエーション。ブルージーなロック調のアレンジで、ロゥジーのカッコいい(もしくはカッコつけた)一面が表現されている。
日常曲も聴いてみよう。
トラック12「仲間との日常」は、はねたリズムの上でサックスやトランペットが軽快に歌うミディアムテンポのロック。『特捜戦隊デカレンジャー』などでも聴かれる、亀山耕一郎が得意とする(好みのタイプの)サウンドである。はずんだ曲調を生かしてコミカルなシーンにも使用された。
トラック22の「はちゃめちゃな仲間たち」もいい。オルガンやサックスがフィーチャーされたファンキーな楽曲で、コミカルなシーンやドタバタシーンにたびたび選曲されている。実写のヒーローものだと、ここまではじけた曲はなかなか使いどころがない。アニメならではの楽しい曲だ。
ストリングスがやさしく奏でるトラック26「温かな気持ち」は、灯悟が故郷の世界を回想するシーンや仲間との友情のシーンなどに使われている。落ち着いた曲調はアルバムの中でも貴重である。
灯悟たちは災いをもたらす魔力の種を探して、砂漠にあるエルフの聖域「太陽の森」を訪れる。トラック30「太陽の森」からトラック33「内気な本性」までは、第7話から描かれた太陽の森のエピソードで使われた曲である。
「太陽の森」は中東を思わせるエキゾチックな曲調で書かれている。「神聖な力」(トラック31)、「アメンの継承者・ラーニヤ」(トラック32)、「内気な本性」(トラック33)も同じ曲調で統一されている。亀山耕一郎は、2016年放映の「動物戦隊ジュウオウジャー」で素朴な旋律や民族楽器を用いたエスニックな音楽を提供しており、そのテイストがこうした楽曲に受け継がれているようだ。
アルバムの中でも異彩を放っているのがトラック37「清弘・バンソウキラー」とトラック38「孤独な旋律」の2曲。基本は同じ曲で、ピアノが奏でる「孤独な旋律」にフルートとストリングスを加えたものが「清弘・バンソウキラー」になる。灯悟の過去を描く第8話のために用意された曲だ。この回は特撮ヒーロー番組では定番の「親友が敵になって現れ……」というパターンのエピソード。灯悟の親友・清弘が弾くピアノのメロディが共通のモチーフになっている。亀山耕一郎によれば、自身が好きなラヴェルのピアノっぽさを出してみたとのこと。
トラック39「最終決戦!」から、いよいよクライマックスに突入する。
「最終決戦!」と次の「緊迫感」(トラック40)は、灯悟たちがピンチに陥るシーンによく使われた曲。「最終決戦!」は第1話アバンタイトルのキズナファイブ対ゼツエンダーの決戦シーンに早々と使われている。「最終決戦!」の中心となるモチーフがトラック19「迫りくる魔王軍」にも登場することから、戦隊ヒーロー側、異世界側を問わず、強大な敵を表現するモチーフであることがわかる。
トラック41は串田アキラが歌う「マキシマム・キズナカイザー爆現!!」。ここで挿入歌! ロボの歌である。なんという、よくわかった燃える構成。特撮ヒーローものの音楽集はこうでなくてはいけないのだ(アニメだけど)。
しかし、ストレートに勝利では終わらない。トラック42「決戦」は、第10話でアジールが魔力の種に心を飲み込まれるシーンや第11話で灯悟がキズナブラックに変身するシーンに使用された曲。悲壮な心情と悲劇的な展開をイメージさせる曲調で「これからどうなるのか?」と思わせる。
ラストはやはりハッピーエンド。トラック43「掴んだ勝利」は大団円を思わせる曲だ。スネアドラムにストリングス、ブラス、木管などが加わって雄大なメロディを奏でる。第5話でマキシマム・キズナカイザーが巨大な魔物を宇宙に運び去る場面や第11話で魔力の種に飲み込まれたアジールをラーニヤが助ける場面などに使用された。最終回には使われていないが、アルバムを締めくくる曲としてはぴったりだろう。
本作は戦隊ヒーロー+異世界ものというパロディ的な作品であるが、音楽はきわめて正統。戦隊ヒーロー側の曲は本家そのものだし、異世界の音楽はファンタジックな曲やエスニックな曲を中心に世界観に沿ってまとめられている。ふたつの世界を彩る曲がそれぞれに個性を放ち、両立している印象だ。
メインのメロディ(主旋律)に対して対になるメロディ(対旋律)を重ねる手法を対位法と呼ぶ。本作では戦隊ヒーローの音楽と異世界の音楽が主旋律と対旋律のように重なり、ひとつの音楽になっている。どちらが主旋律かというと、たぶん戦隊ヒーローのほうだろう。強烈な個性を持った戦隊ヒーローの音楽に異世界ファンタジーの音楽をぶつけることで、戦隊ヒーローの魅力が際立つ。変身すると爆発が起きたり、ポーズをとって名乗ったり、必殺技の名を叫んだり、異世界人の目から見てもおかしいかもしれないけれど、カッコいいじゃないか。そのカッコよさを照れずに正面きって描こうとしているところに戦隊ヒーロー愛を感じる。本作の音楽は、戦隊ヒーロー愛が奏でるふたつの世界の対位法の音楽である。
TVアニメ『戦隊レッド 異世界で冒険者になる』オリジナル・サウンドトラック
Amazon
【新文芸坐×アニメスタイル vol.189】
押井守映画祭2025《立喰師 編》
上映イベント「押井守映画祭」が再スタートします。これは押井守監督が手がけた作品を連続して上映していく企画で、今回のシリーズではなかなか映画館で観ることができないマニアックな作品まで網羅していく予定です。他の【新文芸坐×アニメスタイル】と同様に新文芸坐とアニメスタイルの共同企画でお届けします。
5月3日(土)の「押井守映画祭2025」の第一回は《立喰師 編》。押井監督にとって重要なモチーフである「立喰」にスポットを当てた「立喰師列伝」と「真・女立喰師列伝」を上映します。
「立喰師列伝」は押井監督が原作と脚本も兼任。実写写真を使ったアニメーションである「スーパーライヴメーション」という独特なスタイルで制作された異色作。河森正治さん、神山健治さんなど、業界の方々が写真で出演しているのも話題です。
「真・女立喰師列伝」は複数の監督によるオムニバス作品であり、押井さんは原作、総監修、OP監督、「金魚姫 鼈甲飴の有理」と中CMと「ASSAULT GIRL ケンタッキーの日菜子」の監督、脚本を担当しています。
トークコーナーのゲストは押井監督と辻本貴則監督のお二人となります。辻本さんは「真・女立喰師列伝」の「荒野の弐挺拳銃 バーボンのミキ」で監督、脚本、撮影、編集を務めており、さらに「KILLERS キラーズ」「THE NEXT GENERATION パトレイバー」等にも参加。押井作品の常連クリエイターの一人です。聞き手はアニメスタイル編集長の小黒祐一郎が務めます。
なお、「アニメスタイル通信」等で、トークのゲストとして鈴木敏夫プロデューサーが登壇するとお伝えしていましたが、都合により鈴木さんの登壇はなくなりました。ご了承ください。
「真・女立喰師列伝」はDVDによる上映となります。
チケットは4月26日(土)から発売。チケットの発売方法については新文芸坐のサイトで確認してください。
●関連リンク
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/
新文芸坐オフィシャルサイト(押井守映画祭2025《立喰師 編》 情報ページ)
https://www.shin-bungeiza.com/schedule#d2025-05-03-1
【新文芸坐×アニメスタイル vol.189】 |
開催日 |
2025年5月3日(土)16時00分~21時30分予定(トーク込みの時間となります) |
会場 |
新文芸坐 |
料金 |
3800円均一 |
上映タイトル |
立喰師列伝(2006/104分/35mm) |
トーク出演 |
押井守(監督)、辻本貴則(監督)、小黒祐一郎(アニメスタイル編集長) |
備考 |
※トークショーの撮影・録音は禁止 |
第536回 ラスベガスのホテルからお届け

芝山努さんの仕事の話
第三回 もりたけし(演出家)[後編]
もり 僕は『らんま』でディーンに出向になって、亜細亜堂に戻ってないんですよ。ぴえろに行って、小林(治)さんが断った『江戸っ子ボーイ がってん太助』で監督をやって。ディーンからガイナックスに行って『ふしぎの海のナディア』をやって。で、その途中でフリーになっちゃったから。
本郷 戻っていない?
もり 戻ってないです。ぴえろやガイナで仕事をしていても、芝山さんと仕事をした事が役に立っているというか。例えばガイナックスで鈴木俊二さんとか、鶴巻和哉君とか、本田雄君とか、あの辺と会った時に「あ、こいつらすげえ」って思えるくらいの目は養わせてもらったかなと。
本郷 うんうん。
もり 芝山さんに教えてもらった事の一部ですけど、『ど根性ガエル』的なタイミングをガイナの連中と共有できた事とか、そういうのは有意義だったかなあと。
本郷 その後で芝山さんと仕事をご一緒するのは『まじめにふまじめ かいけつゾロリ』ですか。
もり そうです。『ゾロリ』の3年目で、2006年ですね(編注:『まじめにふまじめ かいけつゾロリ』の第51話から芝山努が総監督、加瀬充子が監督、もりたけしがシリーズ構成となった。前シリーズ『かいけつゾロリ』から数えて3年目)。
本郷 そこまでは芝山さんとの接点がなかった?
もり ほぼないです。
本郷 『ゾロリ』にはどうして参加する事になったんですか。亜細亜堂から声が掛かった? 岡村(雅裕)さんから?
もり そう。ここで、です。ここ(池袋の喫茶店)に呼び出されて(笑)。
本郷 ここ? まさに?
もり ここに。僕が亜細亜堂を辞めた時は円満退社なかたちになっていて、『(秘境探検)ファム&イーリー』の監督でも呼び出されているので。
本郷 なるほど。『ゾロリ』のシリーズ構成というのはどういうかたちだったんですか。
もり 自分が参加する前の段階で、原作は使いきっていて、3年目は全話、オリジナルの話を考えなくてはいけなかったんです。僕は「話を考えて」と、岡村さんに言われたんですよ。脚本打ち合わせには原作者の原ゆたか先生も参加していて、原先生と話をしながら脚本作りを進めました。
本郷 芝山さんはどういった立場で参加されていたんですか。
もり 肩書は総監督でした。話は僕が考えてるから、原作とトーンが違ったりとか、温度差があったりするんですよ。それについて原先生が「これはどうなの?」と聞いてくるんです。そうなると、紛糾はしないんですけど、会議が長引くんですよね。
本郷 まあそうですね。
もり 芝山さんが2話目3話目ぐらいから、シナリオの第1稿の端とか余白に画を描いてきてくれるようになったんです。イメージボード的なものを。
本郷 私は見た事あるけど、滅茶苦茶上手な画でしたよね(編注:その一部が『まじめにふまじめ かいけつゾロリ』のムックに掲載されている)。
もり そうなんです。それを持ってきてくださる。それを見ると、原先生もすぐにやる事を理解して「ああ、はいはい」と言ってくれる。途中から原先生が、芝山さんの画を楽しみにするようになっちゃって。だから、本当に芝山さんに助けていただきました。話の内容云々じゃなくて、芝山さんの画の説得力。
本郷 3年目は52本あったんですか。
もり ほぼ1年やりました。
本郷 その1年分で芝山さんが。
もり ほぼ全部で。
本郷 毎回1枚か2枚の画を描いてた?
もり 1枚2枚どころじゃないですよ。多いと十数点。
本郷 単純に言うと500枚近くを描いたんだ。
もり そうですね。シーンに合わせてのイメージボードですから、美術設定も兼ねているんですよ。例えばシナリオに「消防署前」があると、昭和の消防署を何も見ないで描いちゃう。
本郷 芝山さんって見ないで描いちゃうんだよねえ。
もり 「芝山さん、なんでこんなの描けるんですか」と聞くと、「いやあ、なんとなく覚えてるからさ」って。
本郷 凄いよねえ。
もり 例えば、奥にパースがある住宅街の設定というと、奥に消失点があって一本線じゃないですか。
本郷 うんうん。
もり 道は本来なら曲がってるし、起伏もある筈なんです。芝山さんの描かれる画って、そういうところも再現してるんですよね。芝山さんの描かれる画って「どこかの写真をなぞったの?」と思うくらいリアルなんですよね。起伏とか、傾き方とか。
本郷 芝山さんの目を通して作ってあるから、もの凄い画としての説得力があるっていうのはある気がする。
もり そういうところは、やっぱり宮崎さんと被るというか。これを言うと怒られるかもしれないですが。
本郷 そういう事ができたのは、あの2人しかいないかもしれない。
もり いないですね。自分らの世代で同じような事を思ったのは、前田真宏氏ぐらいですね。彼は凄い。
本郷 らしいですね。
もり 彼も本当に脳内の引き出しで画が描けちゃう人なので。自分が見た中で凄いと思ったのは、宮崎さんと芝山さんと前田真宏さん。天才っていう言葉って、そういう人達の為にあるんだろうなとは思うんですよ。
本郷 だから全話じゃないけど、『ガンバの冒険』のレイアウトをシリーズ通じて1人で描いたとか。普通の人間がその仕事量はこなせないじゃない? 宮崎駿さんが『アルプスの少女ハイジ』と『母をたずねて三千里』で全話のレイアウトを描いていて、その後は誰も続かないわけで。そういう人達がいたおかげで、日本のアニメの礎が作られたというのはあると思うし。
もり 芝山さんがやられた『ガンバの冒険』で、どこかの家の縁の下の描写だったと思うんですが、BOOK3枚の置き換えで回り込みをやってるんですよね。それをパクろうと思って『ナディア』で大失敗して、庵野(秀明)さんに失笑された事がありますけど。
本郷 望月(智充)さんもやったよね。
もり そうそう。で、望月さんと話をしたら「オレも失敗したんだよ!」と言っていて。
本郷 ところで、芝山さんの作打ちって、見た事ありますか。
もり 1回だけあります。さっき話題にした「とんぼのやどり木」です。それから、自分が参加した打ち合わせではないですけど、端で聞いてた事はありますよ。
本郷 自分は『伊賀野カバ丸』とか『昔ばなし』。芝山さん以外の、他の演出の作打ちって見た事ないから、芝山さんの猿真似で作打ちをやっていたんです。
芝山さんって、声色を使い分けて「なんだよのび太!」「いい加減にしろよのび太」「のび太さーん」とキャラクターのセリフを読み上げるじゃない。作打ちってそうやるもんだと思ってやっていたんだけど、ある時に「なんで亜細亜堂の人は声色使って、作打ちをやるんですか」と言われて(笑)。それで「みんなこれでやっているわけではないんだ」と思ったんです。
もり 僕は小林さんのグループだったから、小林さん的な打ち合わせになりますね。
本郷 ああ、そうかそうか。小林さんは声色使わない?
もり 使わないです。
本郷 ああそうか。他の人の作打ちを見た事ないから、本当に、そういうのが作打ちだと思ってて。
もり 2大師匠の2人のうち、僕が直接仕事してたのは小林治さんなんです。『オレンジ★ロード』と『燃える!お兄さん』をやっていましたから。
本郷 話を戻すと、『ゾロリ』の流れで2007年にオリジナルのWEB小説「サンタクルーズ」を発表されるんですね。
もり はい。『ゾロリ』で距離が近くなった時に、たまたま「トルネードベース」(編注:2006年にスタートしたWEBマガジン。2008年まで更新されていた)に小説を掲載させていただく事になったので、ダメ元で芝山さんにおねだりをしたんです。岡村さんに『ゾロリ』で恩を売っていたので(笑)、岡村さんを通して頼んだら、芝山さんは「いいよ」って引き受けてくださった。
本郷 それは今でも読めるんですか。
もり もう読めないです。一応、原稿はありますし、芝山さんが描いてくださった画のデータは残してあって。
本郷 じゃあ、芝山さんの画集が出るのだったら、掲載されるといいかもしれないですね。
もり 勿論、勿論。私のところにデータがあります。
本郷 で、その時は注文とか付けたんですか。
もり なんにも付けてないです。「こういうものを書いたので、大変恐縮なんですけど、イラストを描いていただけませんか」というかたちでお願いしました。「どこの画がほしいとかないの?」と聞かれたので、芝山さんが思い付いたところを描いてくださいと言ったんですよ。そしたら、場面としては本当に的確に、さらに望んだ以上に格好いい画を描いていただいて。
本郷 本当、きちんと読める絵物語としては、芝山さんの仕事の中ではレアな部分だと思いますけど。
もり 本当に感謝してますよ。
本郷 その後は、2012年と2013年の『まじめにふまじめ かいけつゾロリ』の映画の脚本というかたちになる?
もり その時は、もう芝山さんは関わられてないです。
本郷 あ、そうなんですか。
もり あの時は監督も加瀬さんから岩崎知子さんに代わって。で、僕が呼ばれてシナリオ、最初の2本か3本かな。
本郷 2012年の『映画かいけつゾロリ だ・だ・だ・だいぼうけん!』には監修の役職で芝山さんの名前が出てるけど、実質は。
もり 名前は出てますけど、ほぼやってないです。
本郷 じゃあ、最後に芝山さんと関わったのは「サンタクルーズ」。
もり そうです。その後は仕事では関わってないですね。
本郷 その後に会ったのは芝山さんを囲む会ですか。師匠を囲む会は何回ぐらいやったのかな、4~5回やったのかな。
もり そうですね、4~5回やってますね。本郷さんのお声掛けのおかげで、やっと芝山さんが僕らに心を開いてくれた。
本郷 そうかもね(笑)。ちょっと嬉しかったんだろうね。
もり でね、それまではやっぱり上司と部下だったんだけど。
本郷 そうだね。距離感があった。
もり やっと認めていただいたというか。酔っ払わせて、無理やり我々が。
本郷 本音を吐かせた(笑)。
もり そうそう。本音を吐かせたり。それから無理やり弟子認定をしていただいたりとか。「僕らが弟子って事でよろしいですね?」と言って、「分かった。お前ら全員弟子だ」という言質をいただいてるとかね。
本郷 亜細亜堂を辞めたばっかりの時のシンエイの忘年会があって。大勢でワアワアやっている時、テレ朝のプロデューサーに「本郷ちゃんってオカマなの?」と言われたんですよ。「違いますけど」と答えたら「芝山さんが今来てさ、あいつは裏切り者でオカマだって言ってたよ」って。
もり 浅草の人だから口が悪いんですね。
本郷 だけど、それがちょっと嬉しかったね。認めてくれたから悪口を言ってくれるみたいな。どうでもいいなら言わないじゃない? その師匠の会を何回かやった時に、芝山さんが「本郷君はオレに似てるね。口の悪いところが」と言ったんです。「そこだけかい!」と思って。でも、ちょっと嬉しかった。
もり はいはい。
本郷 やっぱり洒落てるんだよね、全体的に。
もり だから、粋な方だと思う。
本郷 そうだよね。あんまり人間関係をベタベタさせない。全部仕事で結果を出す。何十年にも渡って亜細亜堂を支えていたわけじゃない?
もり そうですよね。売上の大半を芝山さんが出してたわけだから。
本郷 芝山さんが仕事を決めてきて、その仕事をみんなに分配する。芝山さんに「なんでそんなに沢山できるんですか」と聞いた事があるんだけど「責任があるからだよ」と言われた(笑)。
もり (笑)。僕はゴンゾの時代に似たような事を少しやりましたけど、無理ですね。芝山さんみたいにはできない。
本郷 普通の人なら「それが自分にとってなんのメリットがある?」と考えちゃうじゃない。だけど、芝山さんは何十年にも渡ってやった。自分がまだ亜細亜堂にいた頃の事だけど、「芝山さん、これもお願いします」「これもお願いします」と仕事を積まれた後、芝山さんの「なんでもかんでもオレがやれるってものじゃないんだよ」という独り言が聞こえた事があった。芝山さんでもきついんだって思いました。
もり いや、だって凄い仕事量ですから。自分は足元にも及ばないぐらいです。僕は亜細亜堂時代に5本掛け持ちとかした事がありました。大晦日に家に帰れず、熱を出して、元旦を亜細亜堂の2スタの奥の部屋で迎えた事がありましたけど、あの時の自分よりも仕事してますからね。芝山さんがあの仕事量を実現させていたのは即断即決ですね。
本郷 そうそう、それだね。
もり 即断即決って言葉を芝山さんから学びましたね。「プロは即断即決」って。
本郷 前に大武(正枝)さんに聞いた時もその話が出たんだけど、芝山さんって、迷ってる時間がないんだよね。机に座った瞬間に描き始める。普通の人って座ったところで「はあ~」とか「ふう~」とか、そういう時間があるんだけど、座った瞬間に手を動かしてて止まらないのが凄いよね。
もり 近くの席で仕事をしていた頃にも感じていました。それが気配で分かるんですよ。姿は見えてないけど、ず~っとそこにいて手を動かしているのが分かる。
本郷 手を動かしてる。
もり あれは恐怖ですよ、本当に。
本郷 ああいう人は、他に見た事がないなあ。
もり 怠けられないっていうか。
本郷 近くにいたらね。
もり 近くにいる他のベテランはのんびり仕事をしてるんですけどね(笑)。
本郷 芝山さんは他の人が自分と同じようにはできないっていう事を表面上は気にしてないよね。
もり 芝山さんの自慢的なトークってあまり聞いた事がないんですが、『狼少年ケン』の時に一晩で900枚描いたと聞いた事があります。
本郷 (笑)。
もり 一発描きで全部描いているから。
本郷 一発描きだろうね。
もり だけど、900ってどういう数だろうと思いますけど。
本郷 まあ、早いんだろうね。やっぱり巧くて早い人って描く画が見えてて、なぞるに近い。
もり それも言われてましたよね。「どうしたら描けるんですか」「いやあ、見えてるから、それをなぞってるんだよ」って。
本郷 『ドラえもん』の劇場を20作ぐらい、毎年、ほぼ1人でコンテをやっていたでしょ。
もり 表紙は描かなくていいのに、表紙の為にすげえ画を描いてるし。
本郷 そうそう。表紙の為に凝った画を描いている。それも洒落てるんだよね。端からだと余裕があるように見えるようにやってるというか。
もり 芝山さんが「オレの仕事はコンテが一番いいんだ」と言った事があるんです。「お前らが寄ってたかってひどいものにしてる」っていう。
本郷 芝山さんが酔っ払った時に、私もそれを聞きました。「みんなで寄ってたかって、オレのコンテをダメにしやがって」と言っていた。
もり その一言に尽きますよね。本当はそう思っているんだけど、普段は口に出さない。
本郷 芝山さんが、どこかの出版社のアニメとは関係ない編集部に依頼されてイラストを描いて、それで「あなたの画は冷たい」と言われたんです。それで凄く怒ってたのは覚えてるんだよね。
もり (笑)。
本郷 だけど、分かるところもあるんです。画に情念みたいなのを入れる事ってありますよね。小林さんはまさに情念の人じゃない。芝山さんって、それを入れたくないタイプなので。
もり 照れ屋さんなんですね。
本郷 そうそう。
もり 分かります。
本郷 気持ちは熱いし、嫉妬深いところもあるんだけど、それを気取られないようにしている。それが格好よさだと思っているところがあると思う。
もり だから小林さんとペアだったんじゃないですか。
本郷 そうだね。対になってるんだよね。2人とも小林さんタイプだったら、大喧嘩するよね。
もり そうそう。すぐに決別してる。
本郷 決別してるよね。一時期、藤子不二雄的なノリで、亜細亜堂って芝山さんと小林さんがコンビでやっていて。
もり 『ど根性ガエル』ではひとつのエピソードを前半と後半で分けて、「せーの」でそれぞれが描いてたって聞きましたからね。
本郷 亜細亜堂というペンネームでやっていた時はそうだったらしいよ。『昔ばなし』をやっていた時も、シナリオを半分ずつ持って帰って、家でやって合わせたと言ってたよ。
もり 『昔ばなし』で思い出しましたけど。「枚数使いすぎ」問題が亜細亜堂で勃発した事があるんです。それが小林さんの逆鱗に触れて。
本郷 ああ(笑)。
もり その時に芝山さんが、500枚で『昔ばなし』を作ったんです。カメラワークを駆使して。ほとんど止めスライドで、500枚でやりきりましたからね。その時にカメラワークで見せるっていう手法は、自分の中で残りましたよ。
本郷 小林さんはそう言うけど、自分が『昔ばなし』をやると滅茶苦茶枚数がかかる。
もり すげえかかってましたよ(笑)。
本郷 でも、人が枚数をかけてると怒るんだよ。経営者なので。
もり 小林さんといえばタイミングの付け方も凄いです。
本郷 凄いよね。
もり 「え、こんなところで5コマ使うの!?」っていうのもありましたから。
本郷 芝山さんも小林さんのタイミングを褒めていましたね。私は芝山さんと小林さんの撮出しが一番最初の仕事だったんです。最初にその2人の仕事ぶりを間近で見れたっていうのは凄くよかったと思いますけど。小林さんの話は尺足らずになる事が多くて、10分しかないのに2分足らない事があって、そうしたら小林さんが「全部のカットを2秒ずつ延ばせばいいんだよ」と言って。
もり (笑)。
本郷 芝山さんのはカッチリ作られてて、全部そのまんまでパッケージみたいになってるんだよね。小林さんのは意外とアバウト。
もり 長嶋(茂雄)な感じですよ。
本郷 そうそう。同じ作品をずっとやってた2人なのに、方法論がまったく違うんだよね。あれがやっぱアニメーションの面白いところだなあって。
もり それが亜細亜堂の個性になっていた。
本郷 個性だね。その2人がメインで、あとは河内さん、山田さんがいた。それに加えて須田さんがいた。それが亜細亜堂のスタイルだった事は間違いないですね。
もり そうだと思います。
本郷 芝山さんって『ドラえもん』と『ちびまる子ちゃん』と『忍たま乱太郎』の監督をやっていて、そのどれもが今も続いてるわけじゃないですか。それらの作られたフィルムの時間数はもの凄いものであるわけで。それが世の中に流布されていて、観た人がアニメ好きになっていったというのは絶対にあるわけで。
もり しかも、それらの作品のベースを作られてますからね。作品のマニュアルを最初に作っていて。
本郷 その部分って、世の中ではあまり評価されないんだけど、作品を周回軌道に乗せるっていうのは凄く難しい事だと思うんだよね。
もり 難しい事だと思います。
本郷 芝山さんは職人って言葉が一番合うかもね。
もり 職人ですよね。
本郷 建築で言うと、3階建ての豪華な邸宅を作るんじゃなくて、誰にとっても住みやすい平屋を作るというか。そして、自分を出しすぎず、原作者の作ったものに準じる事ができる。そういう能力がある人なんだと思います。
取材日時/2024年6月14日 取材/本郷みつる 構成/アニメスタイル編集部
●プロフィール
もりたけし。監督、演出家。代表的な監督作品に『ヴァンドレッド』『ストラトス・フォー』『秘境探検ファム&イーリー』等がある。
第898回 『沖ツラ』制作話~本編を初めから
さて、
『沖ツラ』の制作話、何処までやったか忘れたので、取り敢えず駆け足で第1話から?
実は、最初の方の数話分に色が付き始めた頃までは“作画監督”制はありました。ただ、仕上がりが良くなかったので、総ざらいで頭から直していったのです。どの辺りが良くなかったのか? は以前も説明したとおり、“表情・ポーズ・芝居”全てが硬く、レイアウトの締まりがなかったのです。それは決して、板垣の傲慢からくるモノではなく、委員会チェックレベルで、です。作画の覇気、芝居のテンポ、カット割り&カメラワーク、そしてテロップの出し方……それら全てが「コンテは面白く見えたのに、板垣さんこれで正解なんですか?」的な問い合わせだけでなく、正直リテイクとしていただきました。
これは、俺が責任取るしかない!
と。
キャラの表情はできるだけ豊かに! 美術は実在する“沖縄”をもう一回見直してウソのないモノに! そして、イメージ背景やテロップの色数も増やし、撮影処理もやり直し多数! 久々に大暴れさせていただきました。今回『いせれべ』と違い、音響は選曲も含め全て納谷僚介さんにお任せできたので、その分こちらは画作り(直し)に集中することができ、本当に有り難かったです。
音響監督の納谷さん始め、鬼頭明里さん、ファイルーズあいさん、大塚剛央さんらキャストの皆さん、方言指導の譜久村帆高さん、劇伴の石川智久さん・片山義美さん・金城綾乃さん、そして主題歌のHYさん——全て纏めて“音”面は本当に良かったと思います。納谷さんも「音段階は面白くできたから、あと“画”頑張ってください」とおっしゃってましたし、監督の立場からもアフレコ・ダビングの時点ですでに十分笑わせてもらいました。だから、ちゃんと画を直さなければ! と尚のこと思った次第です。
1話冒頭うちなーぐち(沖縄方言)をまくし立てる喜屋武さんのテロップはオープニングのスタッフテロップと同様の出し方で、とV編にお願いしました。つまり、後で比嘉さんによって通訳されるうちなーぐちはOP同様に“台詞発音と同時になめ出しテロップ”で。それに対して翻訳テロップと同時にのせられるテロップはフォントのバリエーションを豊富に、且つ“ポン置き”にし、
テロップも画の一部として“楽しく視認してもらえる”ように!
と、ある程度のルールを指示しました。
で、アフレコ後の芝居にのせて作画を直して行くにつれ、いつしか俺はこうスタッフ皆に言う様になっていたのです。
第535回 《短期集中連載 アニメーター飯》江古田の居酒屋「お志ど里」

第238回アニメスタイルイベント
ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』12 千年前の文章からどれほどのものが読み取れるのか、やってみる 編
片渕須直監督が制作中の次回作のタイトルは『つるばみ色のなぎ子たち』。平安時代を舞台にした作品のようです。
『つるばみ色のなぎ子たち』の制作にあたって、片渕監督はスタッフと共に平安時代の生活などについての調査研究を進めています。その調査研究の結果を披露していただくのが、トークイベント「ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』」シリーズです(以前は「ここまで調べた片渕須直監督次回作」のタイトルで開催していました)。
5月17日(土)昼に「ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』12」を開催します。サブタイトルは「千年前の文章からどれほどのものが読み取れるのか、やってみる 編」です。今回は千年前に書かれた文章そのものがテーマです。例えば「何故ここにこのような一文があるのだろうか」、あるいは「どうしてここが尻切れとんぼなのだろうか」といったところをきっかけにし、そこから考察を進めるイベントになるようです。どんな話題が飛び出すのでしょうか。アニメタイル編集部も楽しみです。
出演は今回も片渕監督、前野秀俊さん。聞き手はアニメスタイルの小黒編集長が務めます。会場は阿佐ヶ谷ロフトA。今回のイベントも「メインパート」の後に、短めの「アフタートーク」をやるという構成になります。配信もありますが、配信するのはメインパートのみです。アフタートークは会場にいらしたお客様のみが見ることができます。
配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。また、今までの「ここまで調べた~」イベントもアニメスタイルチャンネルで視聴できます。
チケットは2025年4月16日(水)19時から発売となります。チケットについては、以下のロフトグループのページをご覧になってください。
■関連リンク
告知(LOFT) https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/315362
会場&配信チケット https://t.livepocket.jp/e/qtjq1
配信チケット(ツイキャス) https://twitcasting.tv/asagayalofta/shopcart/370013
なお、会場では「この世界の片隅に 絵コンテ[最長版]」上巻、下巻を片渕監督のサイン入りで販売する予定です。「この世界の片隅に 絵コンテ[最長版]」についてはこちらの記事をどうぞ→ https://x.gd/57ICr
第238回アニメスタイルイベント | |
開催日 |
2025年5月17日(土)昼 |
会場 |
阿佐ヶ谷ロフトA | 出演 |
片渕須直、前野秀俊、小黒祐一郎 |
チケット |
会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,800円、当日 2000円(税込·飲食代別) |
アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。
芝山努さんの仕事の話
第二回 もりたけし(演出家)[前編]
本郷 今日は芝山さんとの仕事の関わりを中心にお聞きしたいと思っています。もりさんが最初に絵コンテ・演出をやったのは1988年の『燃える!お兄さん』で。
もり そうです。
本郷 その1~2年前に亜細亜堂に入社ですか。
もり 1985年の12月に動画の研修で入って。初めて芝山さんにお会いしたのはその頃ですね。研修の課題の動画をやって、当時の重鎮にあいさつ代わりに見ていただくんです。それが、山田(みちしろ)さんから始まって、須田(裕美子)さん、小林(治)さん、河内(日出夫)さん、芝山さんだったかな。順番は違っているかもしれないですが。芝山さんと最初に会ったのがその時ですね。
本郷 その時の芝山さんの印象はどうでしたか。
もり やっぱ巧い。巧いのは当たり前ですけど、巧い上に飄々とされている。
本郷 そういうところはあるかもしれないですね。
もり その後、動画を1年やって原画。『きまぐれオレンジ★ロード』の12話で初めて原画になったんです。当時の亜細亜堂って動画部屋が3階だったじゃないですか。2階が芝山さんや小林さんのいらっしゃる原画部屋。それで1階が制作室だった。それとは別に2スタもありましたけど。僕が原画になったのは、多分87年の1月ぐらいで「君の席はここだ」と言われたのが、芝山さんの隣だったんです(笑)。
芝山さんは映画『ドラえもん』をやっていたと思います。隣と言っても、机がL字型に配置されていて、僕の左側に芝山さんが半面見えるかたちで座ってらして。お顔は見えないんですけど、コンテを描くのに尺を計っている時に、ボソボソとジャイアンの声で喋ったりとか(笑)。
本郷 声色を変えて。
もり そうそう! それは聞いてましたね。あとは芝山さんって、当時ずっとそうでしたけど、朝10時に入られて6時に退社される。それを判で押したようにやってらしたので。で、芝山さんが帰られた後に、当然、我々は残って作業してるじゃないですか。飯田(宏儀)氏とかあの辺の連中と、芝山さんが帰った後の机を盗み見していました。芝山さんが出したゴミをみんなで漁ったり(笑)。
本郷 ゴミ箱を漁るのもアニメーターあるあるですね。
もり 芝山さんが描いたものをコピーしたりとかしてましたね。それから、芝山さんとの接点は、原画になって半年か1年くらいの頃に『オレンジ★ロード』がピンチだったんですよ。で、1人で原画を半パートやらされていた時期があった。それでご褒美として、芝山さんが、頑張った連中に『まんが日本昔ばなし』の原画を振ってくれたんですね。
本郷 ご褒美が仕事?(笑)
もり どういうご褒美かっていうと、僕らが『ど根性ガエル』とかが好きだから、『きまぐれオレンジ★ロード』でキャラクターの歯茎を描きたかったんですよ。大口開けて叫んでる時に『ど根性』の時みたいな歯茎を描こうとしていたんです。それは全部直されて「やめろ」と言われていた(笑)。『ど根性』みたいな動きを描こうとして、それも怒られて。で、その後で芝山さんが『まんが日本昔ばなし』をやらせてくれたんです。タイトルを覚えてます。「とんぼのやどり木」というタイトルでした(編注:芝山努が演出を担当。1987年放送)。その回だけ『ど根性ガエル』的なキャラクターだったんですよ。
本郷 そんな事があったんですね。
もり のんきな殿様が出てくるんですけど、そのキャラクターのモデルが齋藤卓(也)ちゃんなんです。
芝山さんですから「コンテ=ラフ原」じゃないですか。コンテを拡大コピーすると、それがラフ原画になるんです。しかも渡されたコンテを見ると、タイムシートに挟んであって、そこに全部タイミングが打ってあるんですよ(笑)。
本郷 ご褒美ですね。
もり だから僕らはなぞるだけ。なぞるだけでも勉強になるんです。芝山さんから学ばせていただいたのは、その時ですね。
仕事ではないんですが、シンエイとあにまる屋と亜細亜堂の合同の草野球チームに無理やり入れられた事はありました。
本郷 ボックスですね。
もり ボックスに無理やり入れられました。ボックスは芝山さんが監督だったんです。だから仕事の接点よりも、野球の接点のほうがあったかもしれないです。
本郷 芝山さんは試合で、監督として指示を出したりするんですか。
もり いや、ただいるんです。
本郷 ただいる?
もり しかもお忙しいから、来るのは5回に1回とか。だから、山田みちしろさんが……。
本郷 実質的なチームの監督だった?
もり 実質的な親分でしたね。仕事の話に戻ると、原画として教えていただいたのは「とんぼのやどり木」の時ぐらいで。僕は演出になって2スタに移動になって、芝山さんの隣から席が移りましたから。
本郷 もりさんは1989年の『らんま1/2』で絵コンテ、演出、原画をやっていますが、これは芝山さんが監督だった時期ですね。
もり そうです。その頃、既に僕はスタジオディーンに出向になっていました。
本郷 じゃあ、芝山さんと会う事はなかった?
もり アフレコとかダビングで会っています。それから、芝山さんが後半でコンテを描かれた時に僕が処理をやらせていただいたという事はありました。
本郷 じゃあその時には、何度か打ち合わせをしていますね。何か印象に残った事ってある?
もり 芝山さんって「こうだよ」とか「こうしなさい」って、一切言わないんですよ。
本郷 そうかもしれない。
もり (アフレコやダビングで)手を広げたりとか、横で変な動きをしてるんですよ。自分の処理とかに気になる部分があって、それをなんとなく間接的に伝えようとしているのかもしれない。それが分からないと、分からないまま終わってしまうから、気付けてよかったっていうのはあるんですけど。芝山さんって、直接具体的な指導をなかなかされないので。
本郷 これは記事に残していいのかどうか分からないけど、「言っても分からないんだろうなあ」と思っていた節があるような気がする。
もり ああ~。
本郷 元々芝山さんって、天才的なアニメーターじゃないですか。自分より巧い人間があまりいない世界で生きてきたから「これは言ってもダメなんだろう」という一種の諦観がある。
宮崎駿さんって「これはこうで、これはこうで!」と言って、最終的には「そうじゃないんだ!」となって全部描き直すじゃない。芝山さんがそれを始めたら、あんなに沢山の仕事はできないわけだから、ダメな奴がいても仕方がないと思っていたのかもしれない。今思い出すと、それを感じるんだよね。その頃は生意気だから気付いてなかったんだけど。亜細亜堂を辞めてから何年も経って思い出すと、あの時、呆れてたんだろうなって。
もり 一緒ですよ。いまだに思い出すとゾッとしますよ。
本郷 「こいつはしょうがないなあ」って。同じような事を自分も思う時がありますからね。
もり 芝山さんは言葉では言わない。「背中を見ろ」的な感じですよね。本郷さんの声掛けで、十数年後に芝山さんを囲んで会食をしたじゃないですか。あの時からようやく、ボソッと本音を言ってくださるようになった。
本郷 そうね、本当にそういう事を言わないっていうかね。
私は亜細亜堂にいる間も、芝山さんの事を凄いとは思ってたけど、同時に「そんなに凄くない」と思ってるところがあったんです。どういう事かと言うと「ちょっと手抜きっぽいところがあるんじゃない?」と思っていたんです。だけど、辞めてしばらく経ってから、芝山さんがどういうスタンスでやっていたのかが、凄くよく分かるようになった。つまり、1人じゃどうしようもないんですよね。芝山さんが大勢いれば解決するけど、1人では解決する事ができない。常にそういう問題に直面してたんだ。
芝山さんを囲む会みたいなのを何回かやらせてもらったのは、芝山さんのおかげで、その後も仕事ができたんだという事に気付かされたというのもあったんです。もりさんもそうだと思うけど「沢山やる」というのを学ばせてくれたのは、芝山さんだけだったんですよね。
もり 本当にそこです。自分が芝山さんから受け継いだ唯一のものが、スピードですね。芝山さんの金言というか、もの凄く僕の心に響いたのが「オレはコンテを頭に浮かぶリアルタイムで描きたいんだよ」という言葉なんです。
本郷 (笑)。
もり 実際には手が追い付かないので、無理なんですけどね。俺も同じ事を思うんですよ。浮かんだ映像をそのまんま、浮かぶスピードのまま描きたい。芝山さんにはスピードを落としたらマズいという恐怖感もあったのかもしれないですね。
本郷 そうかもしれない。
もり 芝山さんはスピードも量も凄かった。朝10時に入って6時に帰られるまでの時間で『劇ドラ』のコンテを進める量とかね。「どうして、この人こんなにできるんだ」と思っていました。芝山さんが帰られる時に、埼京線の電車でご一緒させていただいた事があったんです。だけど、仕事についての話は一切してくれないですから。世間話しかしない。
さっき言った芝山さんを囲む会の前後に、芝山さんのお宅にお邪魔した事があったじゃない?
本郷 あったあった。
もり その時に初めて、やっと本音を言ってくださったんです。6時に帰ってから何をしていたのかを聞いたら「何言ってるんだ、お前。うちに帰ってからも仕事していたに決まってるだろう」って(笑)。「お前らに苦労してるところ見せられるか」というのをボソッと言われて。帰られてもお仕事をされてたんですね。
本郷 そういう事だったんだね。
もり 半分は安心しましたよね。それから、そういうところで弱みを見せないのが、江戸っ子らしいというか。
本郷 江戸っ子だよね。苦労してるところを人に見せない、それをやるのは格好悪い。
もり そういう部分に感心しました。
取材日時/2024年6月14日 取材/本郷みつる 構成/アニメスタイル編集部
●プロフィール
もりたけし。監督、演出家。代表的な監督作品に『ヴァンドレッド』『ストラトス・フォー』『秘境探検ファム&イーリー』等がある。
第897回 もう忙しい!
『沖ツラ』が終わって、一息吐く間もなく『キミと越えて恋になる』——『キミ越え』の制作真っ只中に飛び込んだ感じで、もう忙しい!
去年からこの連載で度々話題にしていた“次シリーズ”とは、もちろんこの『キミ越え』のこと。『沖ツラ』と同時に『キミ越え』の構成・脚本を俺の方で終わらせて、その間、木村(博美)さんはキャラクターデザインを進めて。その後、木村さんと共同監督でコンテを完成させた、が去年の主な仕事。
今年、我々が『沖ツラ』追い込み中、設定類の開発をしつつ、コツコツ作画を進めた木村監督の成果があのPVです。
そして、今『沖ツラ』終了後、もう既に『キミ越え』絶賛作画中に駆け付けた自分。木村監督と作業分担を決めて、後は手を動かすだけ!
で、久々にレイアウトチェックだ、明日はダビングだ、早くもバッタバタ……。
と言いつつさらに次の『いせれべ』も準備中(これ発表されています)!!
また短くてごめんなさい。来週にご期待いただきたいと思います。
第534回 《短期集中連載 アニメーター飯》下赤塚の「Y’sラーメン」

第302回 桜の木の下で 〜日本へようこそ、エルフさん。〜
腹巻猫です。4月12日(土)15時から蒲田studio80にてサントラDJイベント・Soundtrack Pub【Mission#47】を開催します。特集は「2024年劇伴大賞」と「Playback ガンダム1979」の2本立て。2024年劇伴大賞では、2024年に発表・発売されたサウンドトラック(映像音楽)から参加者推薦の名作・名曲を紹介します。Playback ガンダム1979では、『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』公開&放映開始で再び注目される『機動戦士ガンダム』第1作(TV&劇場)の音楽をふり返ります!
詳細は下記リンクを参照ください!
https://www.soundtrackpub.com/event/2025/04/20250412.html
折しも桜の季節。筆者の仕事場付近の桜も見ごろになっている。今回はそんな時期にぴったりのサウンドトラックを紹介したい。2025年1月から3月まで放映されたTVアニメ『日本へようこそエルフさん。』の音楽である。
『日本へようこそエルフさん。』は、まきしま鈴木によるライトノベルを原作に、監督・喜多幡徹、アニメーション制作・ゼロジーのスタッフで制作されたTVアニメ。
平凡なサラリーマン・北瀬一廣は、子どもの頃から夢の中で異世界を訪問していた。そこは竜やエルフが棲むファンタジーのような世界。そこでは一廣は少年の姿のままで、カズヒホと呼ばれている。実はそれは夢ではなく、一廣は眠ることで異世界に転移していたのだ。
ある日、異世界で魔導竜と遭遇したことをきっかけに、一廣はこちらの世界に異世界のエルフの少女・マリアーベル(マリー)を連れてきてしまう。突然、カズヒホ(一廣)の世界に転移したマリーは驚くが、日本の文化や食べものに触れるうちに、日本が大好きになっていった。一廣とマリーは互いの世界を行き来しながら、少しずつ心を通わせていく。
流行りの異世界転生・転移もののようだが、基本は一廣とマリーの関係が接近していくようすをほほえましく描くラブコメである。見どころはマリーの日本紀行。マリーが日本の食べ物やアニメや温泉などを体験して感激し、どんどん日本が好きになっていくのが面白い。バトルやサスペンスの要素は控えめで、観ていてほっこりする作品になっているのがいい。
音楽は、ピアニスト・作曲家のはらかなこが担当。はらかなこは、ドラマ、アニメ、CM等の音楽やアーティストへの楽曲提供で活躍し、アニメ作品ではTVアニメ『ぼくのとなりに暗黒破壊神がいます。』(2020)、『俺だけ入れる隠しダンジョン』(2021)などの音楽を手がけている。
本作の音楽は、ピアノ、フルート、オーボエ、ギター、ストリングスなどの生楽器によるアコースティックなサウンドを基本に作られている。一廣とマリーの日常を彩る音楽は、あたたかく軽やかな楽曲が多く、聴いていてさわやかな気分になる。そこに民族音楽風の楽曲やアクション系、サスペンス系の曲が加わり、異世界冒険ものの雰囲気をかもしだす。日本での日常を彩る音楽と異世界を彩る音楽が乖離せず、自然に共存しているのが本作らしいところである。
作曲のタイミングで全話のシナリオができており、いくつかの曲はシナリオの具体的なシーンを想定して発注・作曲されている。ただし、完成作品ではそのとおりに選曲されていない場合もある。
筆者が気に入っているのは、ピアノを主体にしたリリカルな曲や愛らしい曲。特にマリーのテーマとして書かれた曲「マリーは気になるお年頃」やマリーが日本の食べ物や文化に感激する場面に流れる曲「ウキウキお弁当タイム」「興味津々」などがいい。
本作のサウンドトラック・アルバムは、2025年3月29日に「TVアニメ『日本へようこそエルフさん。』オリジナルサウンドトラック」のタイトルでバンダイナムコミュージックライブ/ランティスより配信開始された。CDでの発売はない。
収録曲は以下のとおり。
- 桜の木の下で
- Palette Days (TV Size Ver.)(歌:佐々木李子)
- カズヒホ
- マリーは気になるお年頃
- ウキウキお弁当タイム
- いつもと違う風景
- ようこそエルフさん
- 夢に溺れて
- 冒険の始まり
- 一触即発
- 魔導竜ウリドラ
- カツ丼と竜
- アヤシイ挙動
- 興味津々
- もどかしい二人
- 見知らぬ明日
- 忍び寄る危機
- 疾風のごとく
- 悲しい思い出
- 異郷の月を見上げて
- 君がいないと
- アイキャッチA
- マリーのお気に入り
- マリーのお気に入り II
- アイキャッチB
- 世界は不思議に満ちている
- 魔導士ギルド
- 砂の国
- 異世界地図を広げて
- 地下迷宮
- 魔物との遭遇
- 思わぬ苦戦
- 夢幻剣士
- 夜の時代
- はずむ想いが止まらない
- 初めての体験
- 異世界でダンス
- 精霊が照らす道
- いつも二人で
- マリアーベル
- ふれた手のぬくもり
- 桜吹雪
- そのままの君で
- いっしょに歩いていこう
- Yummy Yummy (TV Size Ver.)(歌:樋口楓、叶)
- 夢の続き
構成は筆者が担当した。本作のために制作された劇伴全44曲を余さず収録し、主題歌2曲もTVサイズで収録している。本作のファンもきっと納得していただける内容である。
構成にあたっては、細かくストーリーを追うよりも、ゆったりした流れで本編の雰囲気を再現するように考えた。
前半はメインキャラクターである一廣(カズヒホ)、マリー、魔導竜ウリドラの3人を紹介し、異世界での冒険を経て一廣とマリーの仲が接近していくまで。後半はふたたび異世界の冒険を経験したあと、日本に戻った一廣とマリーが互いの気持ちを確認するまで。そんなイメージで構成している。
以下、聴きどころを紹介しよう。
1曲目の「桜の木の下で」は本作のメインテーマとも呼べる曲。第1話のアバンタイトルで桜の花びらが舞い散る中にマリーが登場する場面に流れている。涼やかなピアノと箏の音色が満開の桜の美しさを表現し、優雅さとともに儚さも感じられる曲だ。実は最終回にも同じような桜吹雪の場面が登場する。その場面には「桜の木の下で」のロングバージョン「桜吹雪」(トラック42)が流れた。第1話に流れる「桜の木の下で」は、いわば最終回の予告、一廣とマリーの未来を予感させる音楽なのである。
オープニング主題歌を挟んで、カズヒホのテーマ「カズヒホ」(トラック3)とマリーのテーマ「マリーは気になるお年頃」(トラック4)を続けた。2曲ともピアノの音色が耳に残るさわやかな曲だ。「マリーは気になるお年頃」は、日本に来たマリーが目を輝かせている場面などによく使われて印象深い。
「ウキウキお弁当タイム」(トラック5)、「いつもと違う風景」(トラック6)、「ようこそエルフさん」(トラック7)の3曲は、一廣とマリーの日常シーンによく使用された。一廣にとってはあたりまえの日本の風景もマリーの目には新鮮に映る。マリーが体験する感動やわくわく感がうまく表現されていて、ずっと聴いていたくなる。こういう曲が本作の世界観を支えていると思う。
トラック8「夢に溺れて」〜トラック12「カツ丼と竜」は、第1話、第2話でのカズヒホと魔道竜ウリドラの出会いをイメージした構成。「夢に溺れて」(トラック8)は異世界転移のテーマ。「冒険の始まり」(トラック9)はタイトル通り、異世界での冒険開始をイメージした曲だ。
「魔導竜ウリドラ」(トラック11)と「カツ丼と竜」(トラック12)の2曲はともにウリドラのテーマ。「魔導竜ウリドラ」が巨大な竜の姿のウリドラ、「カツ丼と竜」が人間の女性の姿のウリドラを表現している。同じモチーフを使っているのだが、かたや重厚、かたやコミカルと、キャラクターの変化に合わせた曲調の落差が面白い。
トラック14「興味津々」は、好奇心いっぱいのマリーのシーンによく使われたピアノソロによる軽快な曲。マリーが一廣の料理に感動する場面(第2話)や覚えたての日本語を話す場面(第3話)、ウリドラの魔法に感激する場面(第8話)、新幹線の中で駅弁を食べる場面(第11話)など、さまざまな場面が思い浮かぶ。はずむようなピアノの演奏が心地よい。
トラック16「見知らぬ明日」〜トラック19「悲しい思い出」は第3話から第5話にかけての魔石をめぐる冒険をイメージした構成。哀愁を帯びた笛の音が素朴な旋律を奏でる「悲しい思い出」は、第5話で猫族の子どもミュイが過去を回想する場面に流れている。
トラック20の「異郷の月を見上げて」は、ピアノのやさしいメロディがしみじみとした心情を伝える曲。第6話のラストで、一廣が「ありがとうね、日本へ来てくれて」と言ってマリーと手をつなぐシーンに流れた。2人の気持ちが通う名場面を彩った大切な曲である。
次の「君がいないと」(トラック21)も一廣とマリーの心情を表現する曲。第7話のラストシーン、それぞれの世界で忙しくなった2人が、いっしょにいる時間が少なくなったことをさびしく思う場面に流れた。ピアノとクラリネットによるもの憂い調べが心細い想いを表現している。
ここでアイキャッチ(トラック22)。それに続く「マリーのお気に入り」(トラック23)と「マリーのお気に入り II」(トラック24)の2曲は、マリーが一廣の家で観る日本のアニメのBGMとして流れた曲だ。某有名劇場アニメの音楽を思わせる曲調に作られているのが楽しい。もうひとつアイキャッチ(トラック25)が流れて、アルバム後半へ。
トラック26「世界は不思議に満ちている」〜トラック34「夜の時代」は、物語後半の地下迷宮をめぐる冒険をイメージした構成。日常シーンが多い本作だが、異世界ものらしいファンタジックな曲やサスペンス系の曲もけっこう作られている。この中では、カズヒホのアクションテーマ「夢幻剣士」(トラック33)に注目。「夢幻剣士」とは、魔法で敵を翻弄しながら戦うカズヒホに付けられた別名である。トラック18に収録した「疾風のごとく」とともに、スピード感のあるアクション曲として楽しめる。本作は全体にバトルシーンは少ないので、あまり使われなかったのが残念。
トラック35「はずむ想いが止まらない」〜トラック37「異世界でダンス」は、ユーモアのある明るい曲を続けた。こういうのほほんとした雰囲気が本作の味わいで、聴いていてほっとするのである。
トラック38「精霊が照らす道」〜トラック44「いっしょに歩いていこう」は、第11話と第12話(最終回)をイメージした構成。
「精霊が照らす道」(トラック38)は、第11話の終盤、光の精霊に照らされた道で一廣とマリーが語らう場面で使用。異世界ではなく日本の弘前(青森県)での幻想的なシーンだ。同じく第11話のラストで、一廣とマリーが月明りの中で見つめ合う場面に流れたのが「いつも二人で」(トラック39)。2人の気持ちをやさしく包み込む弦合奏の響きが胸にしみる。音楽メニューでは、ずばり「幸せ」と仮題が付けられていた。
トラック40「マリアーベル」はピアノとフルートなどによるマリーのテーマ。第12話でマリーが満開の桜並木を見て歓声を上げる場面に使用された。次の「ふれた手のぬくもり」(トラック41)は最終回には使用されていないのだが、音楽的な流れを考えてここに収録。第8話でマリーが一廣の額にキスをするシーンなどに使われた、ピアノとオーボエによるやさしい曲である。
トラック42の「桜吹雪」は先に紹介した「桜の木の下で」(トラック1)のロングバージョン。桜の木の下で一廣とマリーが、初めてマリーが日本に来たときのことを思い出し、寄り添う場面で流れる。2人の関係が一歩先に進む、全編のクライマックスと言ってもよいだろう。演奏時間は3分近く、収録曲の中でもっとも長い。美しさと儚さが同居する曲調にうっとりして、この時間が少しでも長く続くようにと思ってしまう。
続く2曲は第12話のラストを締めくくるふたつのシーンで使用された。トラック43「そのままの君で」は、マリーがエルフであることを察した一廣の祖父が、マリーに「そのままの君でいいんだよ」と話す感動的な場面に、トラック44「いっしょに歩いていこう」は一廣とマリーが新幹線で東京へ帰っていくラストシーンに流れた。どちらもピアノを主体にした曲で、あらためて本作のサウンドイメージをピアノが担っていることがわかる。
トラック45に収録したエンディング主題歌でいったん本編は終了。最後のトラック46「夢の続き」は、コンサートのアンコールみたいなつもりで収録した。この曲は本編用の音楽でなく、2024年3月に公開された本作のティザーPV用に作られた曲である。聴いていただくとわかるとおり、「桜の木の下で」「冒険の始まり」など、本編で流れる代表的な曲をメドレーにした構成になっている。アニメは最終回を迎えたけれど、2人の冒険はまだまだ続いていく。そんな気分でアルバムを聴き終えてもらいたいという願いを込めた。
はじめに書いたように、本作は基本的にラブコメだと思う。はらかなこが作り上げた音楽は、未知の世界に触れるときめきや身近な人を大切に想う気持ちがさわやかな曲調で表現されていて、聴いているだけで楽しく、やさしい気分になる。
しかし、本来は所属する世界が異なり、接触するはずのない2人が出会って始まるラブコメだ。ぎこちなくもほほえましい2人の関係には、いつ離れ離れになるかわからない儚さがつきまとう。だから、2人でいる時間がかけがえのない、尊いものになっていく。メインテーマである「桜の木の下で」「桜吹雪」には、そんな儚さゆえの美しさがすくいとられている。桜も儚いからこそ美しい。こんな音楽を聴きながら桜の木の下を歩くと、桜がよけい愛しくなりそうだ。
TVアニメ『日本へようこそエルフさん。』オリジナルサウンドトラック
Amazon
芝山努さんの仕事の話
第一回 大武正枝(アニメーター)
◇口上◇
本郷みつるです。もう40年以上アニメーションの仕事をしています。そのキャリアの最初は亜細亜堂という会社からスタートしました。私はその会社でアニメーションの演出の仕事を始め、社長の芝山努さんと出会いました。私のいた頃、芝山さんは『ドラえもん』『ちびまる子ちゃん』『忍たま乱太郎』の監督を同時にこなしていました。『ドラえもん』に関しては毎年劇場の監督をやり、絵コンテも1人でやっていました。とにかく圧倒的な仕事の質と量です。現場から引退されてしばらく経ちましたが、後世に残した影響は計り知れません。でもご本人は前に出る事を好むタイプではなく、業界に関わった人間が「芝山さんは凄かった」と言うのを伝え聞く機会があるくらいです。そこで今回、私の知っているアニメーターや演出の方にインタビューをして芝山さんの凄さを後世に伝えたいと考えこの企画をスタートしました。何回続くか分かりませんが、よろしくお願いします。第一回としてお話をうかがったのは、大武正枝さん。アニメーター歴45年以上のベテランの方ですが、アニメーターとしての最初期のキャリアで、1978年に公開された劇場版『ルパン三世』に動画チェックとして関わっていた事を知り、インタビューをお願いしました。
アニメーション演出者 本郷みつる
本郷 それでは、よろしくお願いします。
大武 はい。
本郷 大武さんはスタジオ古留美で仕上げのアルバイトの仕事から、アニメーション業界に入ったという事でよろしいんでしょうか。
大武 そうです。
本郷 芝山さんとの仕事は劇場版『ルパン三世』(以下『マモー』と表記)が初めてだったんでしょうか。
大武 はい、その時が初めてです。
本郷 その時って、大武さんは業界に入られて何年目くらいだったんでしょうか。
大武 私自身は18歳で仕上げのバイトを始めて稼げないので一回辞めて一般職に入ったんですね、イトーヨーカドーに勤めて1年半。それを辞めてアニメーターになったんです。
本郷 最初がスタジオ古留美ですか。
大武 そうです。そしてアニメーターになったのが5月末なんですが、7月の頭から動画チェックをやってくれと言われて。
本郷 え、動画を始めて2ヶ月後に動画チェックの仕事を?
大武 ええ、劇場をやってくれって。
本郷 『マモー』の作画監督の椛島義夫さんに言われたのですか。椛島さんとはいつから一緒に仕事をされていたのですか。
大武 私のアニメの先生が椛島さんなんです。椛島さんはシンエイ動画を辞めて古留美に移籍して、作画部を作ったんです。私がアニメーターをやりたいと思ってスタジオを探していた時に、古留美が作画部を作るという事を知って試験を受けたんです。
本郷 へえ~、それで試験に受かって2ヶ月後には劇場の動画チェックを?
大武 仕上げを1年半やっていたから、シートを読むとかの最低限の知識があったので。
本郷 それで動画チェックを始められたのはおいくつからだったんですか。
大武 21歳でした。
本郷 そうでしたか。それで今回は当時の芝山努さんについてお聞きしたいのですが、『マモー』の時はスタッフルームがあったんでしょうか。
大武 『マモー』を作る為に阿佐ヶ谷に劇場専用の棟がありました。隣がテレコムだったかな。
本郷 そこには、芝山さん以外に監督の吉川惣司さん、作画監督の椛島さんがいらした?
大武 作画監督の青木悠三さんもいました。
本郷 大塚康生さんも?
大武 大塚さんはいませんでした。椛島さんが途中で体調を崩して休んだ時期があって、それでどうしよう、劇場は進めなきゃいけないしという事になった時に大塚さんが手伝ってくれて。
本郷 大武さんは芝山さんとは初対面だったんですね。芝山さんの事はご存じだったんですか。
大武 仕上げで『ガンバの冒険』をやっていたので、多少知っているくらいでした。
本郷 因みにスタッフルームは広い場所だったんですか。
大武 広かったですね。
本郷 スタッフルームに行ったら、芝山さんがレイアウトをやっていた?
大武 そうです。
本郷 当時、レイアウトだけをやっているポジションはそれまでの日本の劇場作品にはなかった?
大武 なかったですね。色んなスタジオに原画を出していたけど、公開が12月で時間もないし、上手いレイアウトが必要だという事で芝山さんが全部担当したんだと思います。
本郷 大武さんは椛島さんと一緒にスタッフルームに入ったんですか。
大武 私は古留美で動画をやっていて、7月から入りました。椛島さんは6月頭にスタッフルームに入っていましたね。
本郷 なるほど。
大武 私もどうなるのか想像が付かなかったんですが、とりあえずやってみようと。
本郷 では、最初に芝山さんとお会いになった時の印象とか覚えていますか。
大武 あの、とにかく机にずっと座って、まるで事務職のようにひたすら、朝10時にはもう机に向かって、ずうっと仕事をしていて、私は最初のうちはチェックする物が無かったので「動画チェックなんだから動画をやっていなさい」と言われて『マモー』の動画をやっていたんです。その間ずっとスタッフルームにいたのが、芝山さん、椛島さん、青木さん、私だったんですね。淡々と仕事をする芝山さんを見ていました。
本郷 芝山さんは椛島さんと話したりはしなかったんですか。
大武 していましたよ。椛島さんは来てもすぐには仕事をしなくてタバコを吸って、芝山さんを見て「芝さんは凄いなって」と言って。
本郷 芝山さんはずっと机に向かっていたんですね。何時間くらいやっていたんですか。
大武 最初の頃はそんなに遅くまでやっていなかった筈です。公開が迫った10月頃には朝までやって、朝ちょっと帰って、仮眠を取ってまた来て働くみたいな生活が1ヶ月ほど。
本郷 芝山さんは全カットのレイアウトを上げた後はお役御免だったのでしょうか。
大武 えっとね、あ、立ち会っていましたね。
本郷 原画をやったりとか?
大武 原画はやっていないですね。
本郷 でも1人で全カットのレイアウトをやったんですよね(編注:青木悠三が作監をしたパートのみ、青木自身がレイアウトを描いているとも言われている)。
大武 1000カット以上あって、6月から入って4ヶ月くらいで上げた筈ですよ。
本郷 4ヶ月!? 現存するレイアウトを見ると、清書すると原画で通用するレベルの、克明なレイアウトだったようですが。
大武 監督の吉川さんの絵コンテが出来たところから、どんどんレイアウトにしていました。
本郷 ああ、絵コンテは完成していたわけではなかったんですね。
大武 そうです。
本郷 仕事に入られて、芝山さんとお話して何か覚えている事はありますか。
大武 どうして、こんなに凄いレイアウトを描けるんですかって聞いたら「いやいやいや、映画を観なよ、黒澤(明)とか」。
本郷 やはり黒澤ですか!
大武 「あの黒澤の画面の収まり、手前になめて、山があって……」「観るといいよ、勉強になるよ」って。結構その後は黒澤作品を観ましたね。
本郷 芝山さんはずっと働いていたという話でしたが、雑談をする事もあったんですよね。雑談をしていたのはお昼の時間とかですか。
大武 お昼の時間はありましたね。あと夜の10時、11時になると制作が夜食用に吉野家の牛丼を買ってきて、それを食べていました。1ヶ月半くらい。
本郷 その時は芝山さんもいて。
大武 みんなで夜食を食べていました。
本郷 4人でいつも夜食を。
大武 他に背景さんが2人いたと思います。門野真理子さんとか。
本郷 アニメーターになって2ヶ月の時期に、大武さんが見た芝山さんのレイアウトってどうでしたか。
大武 もうね、鳥肌ものっていうか、プロはこういうものなのか! こうやれないとプロにはなれないのか……と思いました。
本郷 芝山さんは「巧い」というのもあるのですが、驚異的に「早い」んですよね。
大武 巧い、早い、またキャラがいいんですよね。
本郷 「いい画」ですよね。
大武 レイアウトのこの画があれば決まるという感じでしたね。芝山さんが自分で「1日何カット」と決めてやっていました。
本郷 『マモー』をやっていた時に思い出す印象的なエピソード等はありましたか。芝山さんはイタズラ好きな一面もあったりすると聞きますが。
大武 それはありましたね。『マモー』では制作の子がこの作品の為に雇われた人達だったのですが、芝山さんが、その子達に教えながらやっていましたね。みんな、仲よかったですね。「芝山さん、芝山さん」と言って、慕っていました。
本郷 吉川監督ではなく、芝山さんが。
大武 芝山さんはずうっとスタッフルームにいたので。青木さんはマイペースでふらっと現れて、さあっと帰っていきました。青木さんはパート作監だったので、大量にやっていたわけではないんです。それから、椛島さんは来ない時期があって、私はそもそも椛島さんに呼ばれて来た古留美からの派遣だったので、どうなるのかなと。
本郷 じゃあ、机が2つ空いていて、芝山さんと大武さんだけの時が。
大武 結構ありましたね。芝山さんが「椛島さんは結構ナイーブだから、今回プレッシャーかな?」と言って、一生懸命に場を和ませようとしていましたね。
本郷 凄い仕事量を飄々とこなしてなおかつ、余裕があるという。
大武 そう。「見てていいですか」って聞くと、「どうぞどうぞ」と言って、ふんふんふんって描いていました。
本郷 その時期の芝山さんは『ガンバの冒険』でシリーズを通じて画面設定、レイアウトをやった後で、アニメーターとして乗っている時期ですよね。大武さんが見ていた時にどう描くか迷っていたりとか。
大武 なかったですね。座ったら描き始めて、ずっと描いてる。
本郷 お休みとかあったんですか。
大武 最初のうちは日曜が休みで、途中からなくなりました。
本郷 昔のアニメ業界のお約束ですね。
大武 途中からやってきた大塚さんも飄々としていて、椛島さんがいなくて積まれたカットの中からシュッと修正前の原画を抜いて中を見て「はい! オッケー」って。
本郷 本当ですか!?
大武 「大丈夫、大丈夫」と言って。
本郷 以前もお聞きしましたが、椛島さんが全カットに修正を入れているわけではないんですね。
大武 青木さんもいたので、押さえるところは押さえていた筈です。
本郷 最終的に大武さんの動画チェックの仕事が終わったのはいつ頃だったんでしょうか。
大武 11月末だったと思います。
本郷 ギリギリですね。
大武 ギリギリです。
本郷 その頃、芝山さんは?
大武 いましたね。リテーク出しなんかもあったし。全部終わって解散するまでは。
本郷 私が芝山さんの仕事振りを見るのはそこから数年後からなんですが、アニメーターってこんなに巧くて早いんだって驚きました。しばらくして全員がそうではないと気付きましたが。大武さんと働いた頃の芝山さんはアニメーターとして最高の時期だったかもしれませんね。
大武 30代後半だったと思うけど、座ったら描いてる。悩んでる暇もないって様子でしたね。亜細亜堂の時も10時に来ていたのかしら。
本郷 9時に来ていました。誰よりも早く(笑)。他に当時の芝山さんに言われて覚えている事がありましたら聞かせてください。
大武 「君は椛島さんに付いていけば、間違いなく描いていけるよ」って。
本郷 間違いなかったわけですね。
大武 大塚さんにも言われましたよ。「とりあえず、この人って決めた人の画を盗めばいい」って。
本郷 アニメーターになったばかりの大武さんに、芝山さんの存在は大きな影響を与えたんですね。
大武 大きかったですね。量を描かないと上手くならないと言われましたね。言われた事を心に刻んでやってきました。
本郷 大武さんの「師」ですね。今日はどうもありがとうございました。
大武 ありがとうございました。
取材日時/2024年 取材・構成/本郷みつる
●プロフィール
大武 正枝(おおたけ まさえ)。アニメーター。キャラクターデザインを務めた『あたしンち』シリーズ、『黒魔女さんが通る!!』、『となりの関くん』をはじめ、様々な作品に参加。
第896回 『沖ツラ』制作話~指導方針と令和
作画話の続き。前回、作画に関して厳しめな話をしましたが、もう少し正直に深堀を。
俺がテレコム・アニメーションフィルムで大塚康生さんや友永和秀師匠教わった“原画”とは、理屈&リアリティでがんじがらめの、大よそ“自由に楽しくお絵描き”とは程遠い仕事!!
でした。1枚1枚の原画を丁寧に捲られて「このポーズとこっちのポーズのシルエットの変化が~」とか「波の散り方は~、炎の動きは~」などといちいち“芝居”と物理法則の指導が入り「とにかく黙ってこう描くべき」と。せっかく試験に合格してハレて原画になれたのに「やっぱり難しい……」とまた動画に戻る人が何人もいたぐらい、その楽しさは厳しさに裏打ちされた真剣な仕事でした。が、個性・多様性は二の次な昭和教育を受けた自分らとは違い、時代は令和。それ故、自分がミルパンセで新人を指導する時、
「とやかく言わずこうしろ!」と強制的に言うより、「一応セオリーとしてはこうだけど、あとは自分なりのやり方を見つければよい!」
的な言い回しを心掛けていました。で、今回はっきり言ってその自分の指導のし方が仇になっていたことが、如実に結果として現れた訳です。つまり、何年も前から繰り返し教えたハズのことが、皆大好き“多様性と人それぞれ”思考によって、俺が目の前で実演して見せても「あれは板垣さんのやり方~」と聞き流すだけで、その後ついてくるハズの“それぞれ自分なりのやり方”を見つけられていなかったのです。キャラのポーズだけでなく、海、水、炎、土煙他エフェクト——緩い。
別に俺の描き方を真似なくてもいいから、“好きに描いた”各々の研究結果を見せてくださいよ!
といった仕上がり。で、若手が元気な現場を作るという目論見は見事に外れて、緩い先輩が、只々優しく甘く根拠のない指導によって緩い後輩を育てる現場ができ上がりそうになっているのが分かって、「このままでは駄目な作品と駄目なアニメーターができ上がてしまう!」と、多様性総作監中止! 「取り敢えず今回は、俺のラフをトレスして!」と全編、責任を取って直し捲った訳です。
もちろん、俺の言ったことを自分なりに吸収して、上達している人達もいるし、今後もまた若手そして今年入社した新人らにも期待して、新たに更新版指導方法を模索中な毎日です。
第533回 《短期集中連載 アニメーター飯》江古田の定食屋「じゅん」

第895回 『沖ツラ』制作話~設定発注・作画IN
キャラクター・小物・美術・色彩設計など、設定類の発注は全面的に監督・田辺慎吾君に任せて、その上がりで気になったところにチェックをするという前作『いせれべ』と同じコンビネーション。前回話題にしたように、コンテ修正は全面的に板垣、設定発注は田辺。コンテを決定稿に持っていくにはキャリア的にまだちょっと……、だとしても監督の仕事の半分は“発注”ですから、そちらは全面お願いしました。
キャラクターの開発も、メインキャラ(喜屋武・比嘉・てーるー・安慶名・下地・上間)に関してはラフの時点で俺の修正が入っています。あと、サブキャラも吉田(智裕)君だけでなく社内スタッフ数人に撒いて、監督と一緒にチェックする、といった感じでスタッフ皆で設定を描いた感じです。あ、アニメーターに美術設定を描いてもらったりもしました。
で、いよいよ作画がまた大変!
先に謝っておきます。申し訳ありませんがここではスタッフ一同の将来の成長を願って、敢えて厳しくハッキリ言わせてもらいます。1話から「出来が良くなかった!」と。キャラが似てる似てないとかじゃなく、表情が硬い、ポーズが硬い、動きが硬い!!!
コンテを出し切った俺は、早々に“総作画監督”制の廃止。全員“平”の作監(メインアニメーター)として、板垣(作画プロデューサー)の指示のないものを勝手に次工程へ回すのを禁止しました。そして、すでに上がっていた仕上げ素材に板垣のほうで、直接デジタル作画修正~動仕スタッフ総出でクリーンアップ&仕上げ! 部分的に原画から描き直し。
制作期間前半は脚本・コンテ~後半はスタッフの未熟な部分の補完・修正に走り回っていた!
そんな毎日でした。まぁこーゆーのもまた楽しいものです。
その『沖ツラ』制作中、次作の準備・プリプロを進めてくれていたのが、木村博美さん。前回発表しましたが、もう一度念押し。
木村博美キャラデザ、そして初監督『キミと越えて恋になる』のPV、是非見て下さい!
【新文芸坐×アニメスタイル vol.188】
『デジモンアドベンチャー』劇場版初期三作
4月12日(土)に開催する【新文芸坐×アニメスタイル】の上映プログラムは「『デジモンアドベンチャー』劇場版初期三作」です。
細田守監督による第1作『デジモンアドベンチャー』は本格怪獣映画の醍醐味を詰めこんだ短編。同じく細田監督の第2作『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』はスタイリッシュを極めた映像&タイムサスペンスの娯楽作。山内重保監督による第3作『デジモンアドベンチャー02 前編 デジモンハリケーン上陸!! 後編 超絶進化!!黄金のデジメンタル』は濃厚な空気が観客を圧倒する異色作。いずれも作家性が発揮された傑作です。
トークのゲストは山内重保監督。【新文芸坐×アニメスタイル】での山内監督の登壇は2012年6月以来となります。
今回は貴重な35ミリフィルムによる上映となります。チケットは4月5日(土)から発売。チケットの発売方法については新文芸坐のサイトで確認してください。
●関連リンク
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/
新文芸坐オフィシャルサイト(『デジモンアドベンチャー』劇場版初期三作 情報ページ)
https://www.shin-bungeiza.com/schedule#d2025-04-12-1
【新文芸坐×アニメスタイル vol.188】 |
開催日 |
2025年4月12日(土)13時30分~16時50分予定(トーク込みの時間となります) |
会場 |
新文芸坐 |
料金 |
一般3000円、各種割引2800円 |
上映タイトル |
デジモンアドベンチャー(1999/20分/35mm) |
トーク出演 |
山内重保(監督)、小黒祐一郎(アニメスタイル編集長) |
備考 |
※トークショーの撮影・録音は禁止 |
第301回 きっと魔法のせい 〜魔法つかいプリキュア!!〜MIRAI DAYS〜〜
腹巻猫です。西武渋谷店で開催中の「宇宙戦艦ヤマト 全記録展」に行ってきました。膨大な数の資料がぎゅっと濃縮された展示。原画(複製含む)から伝わる作り手の熱気に打たれます。そして展示の背景にある、資料を散逸から救い、現在まで守り通したファンの熱意にも想像をめぐらせたい。筆者も50年前、同じ思いを胸にその活動を見守っていました。開催は3月31日までなので、気になる方はお早めに。
http://tfc-chara.net/yamato50th/exhibition/
今回取り上げるのは、今年(2025年)1月から放映中のTVアニメ『魔法つかいプリキュア!!〜MIRAI DAYS〜』の音楽。
本作は2016年に放映されたTVアニメ『魔法つかいプリキュア!』(通称「まほプリ」)のストレートな続編である。
『魔法つかいプリキュア!』は、中学2年生の朝比奈みらい(キュアミラクル)と魔法界から来た少女・十六夜リコ(キュアマジカル)、妖精の赤ちゃんから成長した花海ことは(キュアフェリーチェ)の3人が伝説の魔法つかい「プリキュア」に変身し、邪悪な闇の魔法使いや世界に災厄をもたらす「終わりなき混沌」と戦って世界を救う物語。
続編となる『魔法つかいプリキュア!!〜MIRAI DAYS〜』では、成長したみらいとリコが、刻の魔法をあやつる少年アイルの謎を追い、黒幕である刻の魔獣クロノウストと戦う姿が描かれる。
前作(『魔法つかいプリキュア!』)の第49話、物語の後日談となるパートに、大学生になったみらいと魔法学校の先生になったリコが登場する。『MIRAI DAYS』はその時間線の延長で展開する作品だ。「2人のその後が知りたい」と思いながら待っていたファンにとって、まさに待望の続編である。
音楽は前作も手がけた高木洋が担当。本作のために37曲の新曲を制作している。
そのうちわけは、新たに登場するキャラクターの音楽、敵があやつる「刻の魔法」の音楽、プリキュアの戦いを描写するアクション曲、成長したみらいたちの日常や心情を描く音楽、といった構成だ。
こうした新曲とともに前作の音楽も劇中ではふんだんに使われている。たとえばサブタイトル曲、プリキュアの変身BGMや浄化技の曲、心情描写曲や状況描写曲、アクション曲など。耳になじんだ音楽を聴いていると、放映当時の思い出がよみがえり、「あの世界に戻ってきた!」と思わせてくれる。
本作のために新曲を作るにあたり、高木洋は、みらいやリコが「成長した感じ」を音楽で表現しようとは特に意識しなかったという。というのも、前作の放映は8年前。それから現在まで、高木自身も経験を積み、スキルアップしている。8年のあいだに自身が身につけたことを自然に音楽に落とし込めば、意識せずとも成長した2人にふさわしい音楽ができるはずだと考えたのだ。
だから、本作のために書かれた音楽は、特に大人びた音楽にはなっていない。前作からシームレスにつながるような音楽である。それがいい。大学生になったみらいも先生になったリコも、「大人になった」という印象はなく、中学生の頃の無邪気さやノリを残している。筆者の経験から言っても、大学生って中学時代に思っていたほど大人ではないのだ。結果的に新作の音楽は前作の音楽と自然にまじりあい、ふたつの作品を隔てる時間を感じさせない。『まほプリ』という作品にとっては、それがよかったと思う。
特筆すべきは、新曲の中に前作の曲をアレンジした曲やモチーフを引用した曲があること。音楽発注の段階でそうした指定がされた曲もあるが、高木洋が自らアイデアを出して作った曲もある。高木は、前作で自分の音楽がどのように使われたかを熱心な『まほプリ』ファン並みに把握しており、「こういうテーマの曲なら、前作のあのモチーフを引用したほうが効果的だろう」と判断して作曲に臨んだのである。
また、前作の音楽制作のときに高木がこだわったのが、コーラスにプリキュア主題歌シンガーの五條真由美とうちやえゆかを起用することと、リズム(ドラム、ベース)に打ち込みを使わずに生楽器で録音することだった。本作でもそのふたつは継承され、『まほプリ』サウンドが再現されている。
こうした仕事ぶりからは高木洋の熱い「まほプリ愛」が伝わってくる。
本作のサウンドトラック・アルバムは2025年3月5日に「魔法つかいプリキュア!!〜MIRAI DAYS〜 オリジナル・サウンドトラック」のタイトルで、マーベラスからCDと配信でリリースされた。
収録曲は以下のとおり。
- ミラクル・マジカル・ジュエリーレ!〈ピンクダイヤ〉
- Dokkin◇魔法つかいプリキュア!!Part3〜MIRAI DAYS〜(TVサイズ)
- 助けて!魔法つかい
- キャンパスライフはワクワクもんだぁ!
- ひすいのテーマ
- 刻の魔法
- フラッシュバック
- アイルのテーマ
- 大きくなってる!?
- みらいとリコの新生活
- 懐かしき思い出
- 不安な未来
- あやしい影
- 闇に潜む脅威
- 大切なものを守るために
- 巨大モンスター出現
- 襲い来る強敵
- 砂嵐の中に
- アイルの過去
- 悪夢の序章
- 刻の魔獣クロノウスト
- 魔獣との対決
- めざめる力
- K’s レポート
- 闇の魔法つかい集結!
- 永遠への誘惑
- あらがえない現実
- 猛攻迫る
- 魔法大激突
- 宇宙終焉の危機
- 未来をこの手で
- 止まる時間
- 刻の迷宮
- あなたがここにいてほしい —オルゴールversion—
- 魔法がつなぐ未来
- 四人の魔法
- プリキュア・エクストリーム・レインボー! —MIRAI DAYS version—
- 歩みゆく日々
- キセキラリンク(TVサイズ)
収録曲はすべて本作のために制作された新曲。前作の曲は収録されていない。
構成は筆者が担当した。本作では脚本をベースに「どこにどんな曲を流す」という音楽プランが練られ、それをもとに音楽発注が行われている。つまり、多くの曲が具体的なシーンを想定して書かれている。いくつかの曲では絵コンテをもとに絵に合わせたフィルムスコアリングが行われた。本アルバムはその音楽プランに沿った構成でまとめている。ただし、完成作品では音楽プランとは異なる曲が流れているケースもあり、必ずしも本アルバムどおりの順で曲が使われているわけではない。
以下、ポイントとなる曲を紹介しよう。
1曲目「ミラクル・マジカル・ジュエリーレ!〈ピンクダイヤ〉」はプリキュアの変身BGM。前作の変身BGM「ミラクル・マジカル・ジュエリーレ!〈ダイヤ〉」をアレンジした曲である。変身に使う宝石が「ダイヤ」から「ピンクダイヤ」に変わっているのが物語の上でも伏線になっている。
実はもともと変身BGMを新録する予定はなく、前作の「ダイヤ」の曲を使う予定だったという。が、高木洋が第1話のアフレコを見学した際に「ダイヤ」ではなく「ピンクダイヤ」と言っているのを聴いて、「宝石が違うなら曲も新しくしたほうがよい」と考え、新曲を作ることを提案したそうだ。コーラスの歌詞も前作とは異なるものが作られ、五條真由美とうちやえゆかの歌唱で録音されている。
トラック5「ひすいのテーマ」は、みらいとリコの前に現れる謎の少女ひすいのテーマ。ひすいは新キャラクターではあるが、本作の冒頭で行方不明になった花海ことは(キュアフェリーチェ)と深い縁があり、風貌も似ている。そのため、「ひすいのテーマ」は前作のことはのテーマ「はーちゃん」の音型を受け継いだ曲になっている。
第8話ではひすいの秘密が明かされ、ことはが再登場する。そのときに流れる曲「めざめる力」(トラック23)も注目だ。前作のキュアフェリーチェの変身BGM「フェリーチェ・ファンファン・フラワーレ!」をアレンジした曲になっているのである。第8話では「めざめる力」と「フェリーチェ・ファンファン・フラワーレ!」の2曲が続けて流れ、新作・旧作の音楽リレーでキュアフェリーチェ復活シーンを演出していた。
ほかに新キャラクターのテーマとしては、プリキュアの前に立ちふさがる新たな敵アイルとクロノウストの曲がある。
「アイルのテーマ」(トラック8)は刻の魔法をあやつる少年アイルのテーマ。「刻の魔法」(トラック6)、「巨大モンスター出現」(トラック16)、「砂嵐の中に」(トラック18)、「アイルの過去」(トラック19)、「悪夢の序章」(トラック20)はそのヴァリエーションである。アイルは刻の魔法でみらいとリコを翻弄するが、実は心に悲しみを抱いたミステリアスなキャラクターだ。そのため、音楽も邪悪なイメージではなく、謎めいた面が強調されている。なかでも「アイルの過去」は哀感ただようリリカルなアレンジになっているのが聴きどころ。
「刻の魔獣クロノウスト」(トラック21)は第6話で姿をあらわす刻の魔獣クロノウストのテーマ。「魔獣との対決」(トラック22)、「永遠への誘惑」(トラック26)、「宇宙終焉の危機」(トラック30)は、そのバリエーションだ。いずれも強敵らしい、重厚で威圧感のある曲調で作られている。
バトル系の曲ではヒロイックな「未来をこの手で」(トラック31)のカッコよさにしびれる。いっぽう「闇の魔法つかい集結!」(トラック25)は変化球とも言えるユニークな曲だ。クロノウストの魔手が魔法界に迫ったとき、前作では悪役だった闇の魔法つかいたちも魔法界を守るために立ち上がる。第9話のそんなシーンに流れるのがこの曲。前作の闇の魔法つかいのテーマ曲「闇の魔法つかい」をロック調にリアレンジしたものだ。これも時をへだてた音楽リレーと呼べる、うれしい演出である。
前作の第49話で、みらい、リコ、ことはの3人が離れ離れになっていく、涙なしに観られないシーンに流れたのが、ピアノとストリングスによる「あなたがここにいてほしい」という曲だった。本作ではその曲をオルゴール風にアレンジした「あなたがここにいてほしい —オルゴールversion—」(トラック34)が作られている。実はこの曲も当初の音楽発注になく、高木洋が「こんな曲もあるとよいのでは」と考えて自主的に追加した曲だ。本編では第8話の終盤に流れたほか、第11話のみらいとリコが離れ離れになるシーンに、オリジナルの「あなたがここにいてほしい」につながる形で使用されている。高木洋の「まほプリ愛」あふれる音楽作りと、それを受け止めた音楽演出が生んだ、新たな名シーンである。
さて、この原稿を書いている現在、本作の放映は最終回(第12話)を残すのみ。「魔法がつなぐ未来」(トラック35)、「四人の魔法」(トラック36)、「プリキュア・エクストリーム・レインボー! —MIRAI DAYS version—」(トラック37)の3曲は、最終回用に、絵コンテに合わせたフィルムスコアリングで書かれた曲である。なので詳しく解説すると最終回の内容を明かしてしまう。それでは申し訳ないので、ここでは簡単な音楽解説にとどめることにしよう。
「魔法がつなぐ未来」には前作の「月夜のめぐりあい」という曲が引用されている。「月夜のめぐりあい」は前作で印象深い、重要なシーンに流れた曲。それを引用する趣向は発注によるものではなく、高木洋のアイデアである。
「四人の魔法」は最終決戦用の曲。ピアノ主体のやさしい曲調で始まり、後半からアップテンポに転じる。後半に引用されているのが2016年公開の劇場版『まほプリ』のために作られた挿入歌「キラメク誓い」(作曲・高木洋)のメロディ。これも高木のアイデアによるものだ。
「プリキュア・エクストリーム・レインボー! —MIRAI DAYS version—」は前作の3人合体技の曲「プリキュア・エクストリーム・レインボー!」をアレンジした曲。シーンの長さに合わせてリアレンジされているが、高木はここでも独自のアイデアを盛り込んだ。曲の終盤に『魔法つかいプリキュア!』のメインテーマ「魔法がひらく未来」のモチーフが登場するのだ。新作にはメインテーマをそのままアレンジした曲はない。最終回に流れるこの曲にメインテーマのモティーフが登場すれば、『まほプリ』の音楽としても完成するし、ファンもぐっとくるだろう。そんな発想で高木が作り上げた曲である。
『魔法つかいプリキュア!!〜MIRAI DAYS〜』の音楽は、懐かしい『まほプリ』サウンドを継承した上で、8年間の音楽的な進化も感じさせてくれる、前作ファンも納得の作品である。単純に新曲として聴いても楽しめるが、前作のサントラを聴きこんでいる人なら、楽曲のそこここに、前作へのオマージュやリスペクトを感じ取ることができるだろう。
特にアルバムの終盤にまとめられた最終回用の音楽を聴くと、前作にハマった人ほど、最終回がどうなるのか想像がふくらむと思う。想像と期待を胸に最終回を観れば、「こうくるか!」「やっぱりそうなるよね!」と楽しめるはず。そしてきっと、もう一度サントラ・アルバムを聴きたくなる。
それを「音楽がかけた魔法のせい」と言うことはたやすい。しかし、その魔法はなんとなく発動したわけではない。前作モチーフの計算された引用、演奏・録音手法の再現など、ファンを感動させるだけの理由がある。それが魔法なのだ。
魔法つかいプリキュア!!〜MIRAI DAYS〜 オリジナル・サウンドトラック
Amazon
第532回 『宇宙戦艦ヤマト』と師匠

第894回 『沖ツラ』制作話~納品完了、そして
お陰様でつい先日、『沖縄で好きになった子が方言すぎてツラすぎる(沖ツラ)』最終回まで納品完了。で、落ち着いて何を書(描)こうと考えたのですが——ま、『沖ツラ』本編話、頭からで……。
取り敢えず「原作を1話21~22分×12本のTVシリーズにどう纏める?」、これに関して自分から提案したのは、
オリジナルを足して引き伸ばすのはNG! で、原作を“21~22分”集め1話分を作る(×12本)!
と決めて、田辺慎吾君(シリーズ構成・監督)へ渡しました。原作がマンガの場合、ページ数で尺を計りづらいもので、例えば“ラブコメ”は間を作れるけど、“コント”はテンポのために尺を削る。この『沖ツラ』の原作はどちらも面白いので、
“アニメ21~22分に収めるのに適正な本数”の原作を繋ぐ構成を!
と。結果、田辺案で出てきた構成も、1話に収める使用原作本数が2本のもあれば4本のもあります。それを「ここのエピソード順は~」とか「シーサーの指笛講座はCパートに回して~」などといろいろ調整。
で、ホン読み(脚本打ち合わせ)で田辺君を始め社内の演出陣の上げた脚本に司令塔として修正指示を出し、委員会のOKをもらいます。今回、自分が脚本に入っていないのは、前作『異世界でチート能力(スキル)を手にした俺は、現実世界をも無双する(=いせれべ)』の作画リテイク作業と、スケジュール的に被っていたからです。ハッキリ言うと、
文字(テキスト)の修正(調整)より、作画の修正の方が時間が掛かるし人も選ぶから!
です(カチンときた人がいるかも知れませんが、本音の本音)。
で、コンテ。これは前作『いせれべ』同様、全面的に修正・調整させてもらいました。半分以上描き直しはザラです。ウチはできるだけコンテは外に撒かない主義で、必然的にキャリアの浅いスタッフにコンテを切ら(描か)せるため、直しは全て俺が面倒を見ることになります。「コンテやりたい人~」と声を掛けて、挙手した人に「その代わり出来が悪かったら全修しますよ」と。
『いせれべ』はある意味コンテ・デビューに対してのご祝儀代わりで、どれだけ直そうとスタッフ・クレジットでの連名は避けましたが、今回は本来の姿、身贔屓なしで全話連名。
これは監督によって(もしくは会社によって?)違いはあると思いますが、自分は基本、
上げられたコンテがその担当者のモノとして独立した完成度に達していると判断し、必要最小限の監督修正で終わっていれば、連名にしません!
だから、『いせれべ』のクレジットの方が異例で、今作の方が本物。これからはどうするか分かりませんが、いちばん早いのはスタッフが皆“一人前”になることでしょう。
で、そろそろ次の打ち合わせの時間なので——って、あ、そうでした! 次の作品、
『キミと越えて恋になる』のPVが解禁になりましたので、是非観てください!
以上。
第531回 話が噛みあわない

第893回 『沖ツラ』制作話~現状報告
『沖縄で好きになった子が方言すぎてツラすぎる(沖ツラ)』のOP話は、前回巻きかけて終わらせたところで、「次EDの~」とも思ったのですが、それどころではない現状なので、今回はその“現状”の話。
ハッキリ言って、ラストの追い込み中でバッタバタ!!
です。この原稿を書いているデスクトップには、作画修正カットが並べられたクリスタ(CLIP STUDIO)が同時に開かれているくらい……。
今作は総監督という一種総合的な監修職には到底止まらない仕事量です。まず当然、脚本・コンテのチェック、特にコンテは殆どの話数、半分以上直しています。あと、編集や音響対応も。
そして何より作画! 今回役職名も“作画プロデューサー”とあるとおり、画直し(作監修正)の総指揮をとっています。コンテ時の演出意図に沿って作画スタッフ(メインアニメーター)に直しの指示をし、残ったカットは全部“俺が拾う”! それを基本一発で修正しまくり、先に振った作画スタッフが手持ち分を終わらせられたら、こちらに戻ってもらい、ササっと入れた俺のラフを拾って修正してもらう、と。
よって、全話半分近く(話数によっては以上)、板垣の画が何某かのっていることになります。つまり、各話ひととおり修正をのせられるように、どうとでも対応可能な自分が構えているのです。
正直言うと、今の若いスタッフは我々世代より平均的に描くスピードが落ちているんです。あ、俺自身は決して手が速いほうではありませんよ。それはテレコム時代の先輩方ならよ~くご存じのはずです。その速くない俺から見ても、今の若手は“手が遅い”と感じます。
もちろん、若手でも量産できるアニメーターもいるし、遅い人はそれなりの理由があるのも分かります。例えば、
ハイビジョンに耐えられる作画や、それに付随して各キャラの増え続けるパーツやディティール、そしてデジタル作画ツールに神経を多く使う分遅くなる!
というくらいのことを考慮した上ででも“遅い人”が増えているのは確かかと思います。他社の社長や制作プロデューサーらに訊いても同様の返答が返ってくるからです。「今の若いアニメーターは(描くのが)遅い」と。
まぁでもウチは皆、社員給なので「まずは良い原画を描く」のが第一、そして「その上で手が速ければ尚良し」くらいに考えるようにしています。
と言う訳で、また作画修正に戻ります!