第616回 アニメ監督の仕事、令和元年(4)

 第613回からの続き。飛び過ぎてすみません。何度もくり返しますが、自分は「画が描けない人はアニメ監督になるべきではない」などとは言ってません。一言も言ってないのですよ! あくまで、

これからは(もうすでに?)「僕は監督(演出)、君はアニメーターなんだから頑張って線を引き続けてね! 僕はこれから飲み会、そして直帰だから」という昭和なワークスタイルはアニメ監督(演出家)に約束されていません!

と言いたいだけ。つまり早い話、誤解を恐れずにハッキリ言うと、

画が描けないなら描けないなりに、最後まで「画以外」の実務作業を手伝うべき!

なんです。少なくとも今は! 仕上げでも撮影でも、もっと言うと制作的外回りとか。制作出身の監督(演出)なら動仕撒きだってできるはず。

現場での追い込み作業すら手伝わず、監督・作家ヅラだけ一人前の方は、これからのアニメ業界には不要でしょう? だって「人手不足」なんだから!

 監督や脚本が不足って、少なくとも現場では聞かないですよ? そんな業界的に不足していないブルジョア役職(スミマセン、俺らアニメーター側からはそう見えます)を何職も兼ねたって、制作現場には何も寄与しません。アニメーターの傍らで「あの作品、印税メチャメチャ美味しかったんだよね〜」的発言を、画が描けない監督や脚本家がしているのを実際聞いたことがあります。これ、想像力が必要不可欠な監督や脚本家なら「貴方のを画にして作品にしてあげてる俺らの目前でどう思われているか?」と想像してから発言してます? アニメーターって99%の人が印税とかに縁のないトコで描いてるんですよ。その商売道具のひとつである「想像力」を持っていれば、アニメーター側から白い目で見られるであろうことは容易に想像がつくと思うのですが。ちなみに自分は今だから言いますが、『てーきゅう』に関する脚本・音響監督料は監督料の枠内でやっており、もちろん印税とかもありません。そして監督料も1期分(2分+12本)で普通のTVシリーズ1話分の演出料ですから。さらにあとがきにも書いたとおり、コンテ集(委員会認可)の売り上げも、会社の新人歓迎会や忘年会などの費用にあててます。あと、これも監督や脚本家に限らず他の役職にも言えることですが、

「俺が贅沢しないと後進・後輩が将来に夢を持たないから」や「俺が代表してギャラを釣り上げてやってる」云々といった詭弁を大義だと勘違いしてる昭和人は、アニメ制作費の振り分けを勉強してからギャラの話をすること! 一部のスタッフだけ贅沢して8割が貧乏するような道理は、令和になってもあるはずがありませんから!

「じゃあアニメ作ってていつ楽になるんだよ?」と仰るブルジョア役職の方々、考えてみてください。アナログ(セル)時代からデジタル制作時代になって、アニメ業界のあらゆる役職が以前より楽に短時間で稼げるようになりました。例えば美術は、PCの導入で絵の具の乾き待ちがなくなり、大量に蓄積したテクスチャやBANK素材で作業の効率化が成されました。仕上げ・撮影も高速化・少人数化に成功。音響方面ではデジタル導入で、かつては1日がかりだったダビングもアフレコと同日でこなせるようになり、仕事の掛け持ちが増えました(てことは稼ぎも)。制作進行業務もたいがいの素材がデータでやりとりできるようになって車両進行も減ったはず。で、作画方面は?

デジタル化しようが線の量は増え続け、ハイビジョンや4Kに耐えられる質が求められ、単価は何十年変わらず!

ちなみに作画はまだ半数以上が紙に鉛筆(アナログ)、デジタル作画に持ち替えようと、おそらく「消しゴムをかける時間の短縮」と「多少バレない程度のコピペが使える」くらいの効果しかありません。もちろんそれでも単価は変わらず(クドい?)。
 だから俺が言いたいのは、

作画のデジタル化を進めている今だからこそ、業界をあげて各セクション(役職)のギャラの見直しが必要でしょう! 難しそうですが!

 実務時間で言うなら、各話作画監督が1日中机にへばりついて必死で修正を入れて1話分こなす期間、シナリオは5本上がります。監督も同じでコンテも微チェックで各話のレイアウト・ラフ原もノーチェックで2〜3シリーズ掛け持ちすれば大金持ちになれますが、一所懸命コンテも全部書き直し、レイアウトもラフ原もバンバン描き直してたら掛け持ちなどできるはずなく、稼ぎは各話演出とさほど変わりません。自分の場合、作品の掛け持ちをやっても、ホン読み(シナリオ打ち)とコンテ作業期間が重ならないようにスケジュールを切ります。次の仕事を受ける際、「今やってる作品のコンテが終わらないとそっちのコンテに入れませんがそれで大丈夫?」と聞いてからお受けするようにしてるわけ。シナリオとコンテは頭の中で常に1本にしておきたい主義で。でもなぜか今まで、それで断られたことはありません。で、今の自分の月収は各話演出と変わりません。
 ま、話がとっちらかってしまいましたが、ここまで書いてたことは、あくまで自分の考えです。業界のデジタル化とギャラの見直しもせず、ブルジョア役職が無節操に荒稼ぎしてるうちは「アニメ制作費を多く出させる」など、たとえ国がメーカーやTV局に命じても叶うはずがありません。だってメインスタッフがさらに高いギャラを持っていくだけですから。まずは何本も掛け持ちしてるブルジョア階級クリエイターに目がくらまないスポンサーが、制作費をちゃんと上手く使える制作会社にお金を出すようになること(難しそう、これも)。あとはその制作会社で監督や脚本家を育てること。そのためにブルジョアさんらがギャラを少しの間ガマンして生活水準を下げて、制作費分配の見直しに協力してくれることなど。最後のがいちばん難しそう。

とにかく「いつまでも」というわけでなく「今は」制作体制の見直しに協力していただけないでしょうか、ブルジョア様! アニメってみんなで作ってるんだから!

アニメ様の『タイトル未定』
209 アニメ様日記 2019年5月26日(日)

2019年5月26日(日)
この土日はかなり作業を進めた。大物の原稿ではなく、ウイークデーにやってもよさそうな小さめの作業ばかり片づけた。大物の原稿も進めなくてはいけないのだけど、全体の進行を考えると、これがベターだったはず。『交響詩篇エウレカセブン』の再々視聴をしている(再々々かもしれない)。9話「ペーパームーン・シャイン」のラストで、ホランドがレントンをゲッコーステイトの一員だと認めるのだが、その時にわざとらしく顔をそむけて、レントンと目をあわせない。自分の不器用さを隠さないところが「しかたないやつだなあ」という感じ。

2019年5月27日(月)
某所で打ち合わせ。夏に出す書籍が全部で4タイトルになった。事務所に戻ってデスクワーク。デスクワークはいくらやっても終わらない。

2019年5月28日(火)
午前3時過ぎに事務所に。このところ、暗いうちからウォーキングをしていて、今日は午前4時からワイフと散歩。大塚経由で巣鴨まで歩いて、都電で大塚に戻る。朝5時からやっている手作りパンの店でパンを買って、いつもの公園に。その後、事務所に入ってデスクワーク。ワイフと12時に吉祥寺に。ひと月遅れの僕の誕生祝い。事務所に戻って、デスクワークと打ち合わせ。現在、進行中の書籍が(特典小冊子を数えないで)7冊。準備をしているイベントが5つ。それらが同時進行中。「アニメスタイル015」が取材をはじめたばかりなのに、「アニメスタイル016」の巻頭特集が決まった(はず)。

2019年5月29日(水)
打ち合わせ三本立て。夕方からある方と食事。その食事の席で『リラックマとカオルさん』が、僕の感覚だと『魔法のスター マジカルエミ』に近いという話をして、そこから『マジカルエミ』について説明することになった。事務所に戻ってから、「アニメ様365日」の『マジカルエミ』の回を読み返す。ちなみに「アニメ様365日」とは、僕が「WEBアニメスタイル」で連載していたコラムである。

「アニメ様365日」
第246回 『魔法のスター マジカルエミ』
http://www.style.fm/as/05_column/365/365_246.shtml

第247回 『魔法のスター マジカルエミ』15話
http://www.style.fm/as/05_column/365/365_247.shtml

第248回 『魔法のスター マジカルエミ』26話
http://www.style.fm/as/05_column/365/365_248.shtml

第249回 『魔法のスター マジカルエミ』22話
http://www.style.fm/as/05_column/365/365_249.shtml

第250回 『魔法のスター マジカルエミ』27話
http://www.style.fm/as/05_column/365/365_250.shtml

第251回 『魔法のスター マジカルエミ』34話
http://www.style.fm/as/05_column/365/365_251.shtml

第252回 『魔法のスター マジカルエミ』最終回3部作
http://www.style.fm/as/05_column/365/365_252.shtml

第253回 『魔法のスター マジカルエミ』最終回3部作・続き
http://www.style.fm/as/05_column/365/365_253.shtml

第254回 『魔法のスター マジカルエミ』と『魔法の天使 クリィミーマミ』
http://www.style.fm/as/05_column/365/365_254.shtml

第333回 『魔法のスター マジカルエミ 蝉時雨』
http://www.style.fm/as/05_column/365/365_333.shtml

「アニメ様365日」『マジカルエミ』は全部で10回あるのだけれど、あと、2回か3回あってもいいな。書いている時もそう思ったはず。

2019年5月30日(木)
また、暗いうちからワイフと散歩。昼に『若おかみは小学生!』関係の取材。面白いインタビューになったと思う。これで『若おかみは小学生!』の取材は最後かもしれない。

2019年5月31日(金)
公開初日朝イチで、バルト9で『LUPIN THE ⅢRD 峰不二子の嘘』を鑑賞。呼んでもらったが、試写会に行けなかったのだ。新宿の飲食笑商何屋ねこ膳でちょっと吞んでから池袋に。午後はひたすらデスクワーク。10数年前のあるTVシリーズの作監修正集を見た。キャラクターの一人の描線がぐんにゃりしている(かたちのとりかたが骨太で、なおかつ、うねるようなフォルムになっている)のがずっと気になっていたのだけれど、作監修正集を見たら、画面の印象よりもぐんにゃりしていた。意図されたぐんにゃりだったのだ。

2019年6月1日(土)
朝9時から、新宿バルト9で「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ(Dolby-ATMOS・字幕版)」を鑑賞。あまりにSNSでの評判がいいので、自分の中でハードルを上げすぎていた。ビジュアルは凄かった。昼は里帰りするワイフを駅まで見送る。デスクワークを挟んで、ある雑誌の編集者さんと昼吞み。「いだてん」は1話を観た後、録画をしてはいるけれど、全然観ていなかった。たまたま再放送を途中から観た。前後関係とかまるでわからなかったけど、面白かった。これからなるべく観よう。

第159回 江戸の女流アーティスト 〜百日紅—Miss HOKUSAI—〜

 腹巻猫です。6月7日に公開された劇場アニメ『海獣の子供』を観ました。原作の描線の味を再現した映像が圧巻。久石譲のストイックな音楽もいい。劇場の大画面と音響で体験してほしい作品です。今年の劇場アニメは豊作の予感がします。


 今回取り上げるのは2015年5月に公開された劇場アニメ『百日紅—Miss HOKUSAI—』。杉浦日向子の原作マンガを『クレヨンしんちゃん』『河童のクゥと夏休み』などの原恵一監督が映像化した。江戸時代の浮世絵師・葛飾北斎の娘で、父を助けながら自身も絵師として活躍したお栄(葛飾応為)を主人公にした作品である。アニメーション制作はProduction I.Gが担当している。
 音楽を手がけたのは、近年活躍目覚ましい女性作曲家・富貴晴美(ふうきはるみ)。
 国立音楽大学作曲専攻を首席で卒業後、数々の劇場作品、ドラマで活躍。劇場作品「わが母の記」(2012)で日本アカデミー賞優秀音楽賞を最年少で受賞した。NHK大河ドラマ「西郷どん」(2018)を手がけた際にはテレビ番組やイベントにもたびたび出演して広く知られるようになった。代表作に朝の連続テレビ小説「マッサン」(2014)、TVドラマ「ハゲタカ」(2018)、劇場「日本のいちばん長い日」(2015)、「関ヶ原」(2017)などがある。
 TVなどで見せる素顔はおっとりとしているが、見かけによらない(失礼)情熱と気骨の持ち主で、テーマのくっきりした線の太い音楽を書く作曲家だ。映像に必要な音楽を的確にとらえ、大編成オーケストラの壮大な曲から繊細なピアノソロの曲まで自在に書き分ける技量が多くの監督から信頼されている。

 原恵一監督も富貴晴美ファンを自認する1人である。2人の出逢いは実写劇場作品「はじまりのみち」。富貴の提供した音楽に関心した原恵一がラブコールを送って実現した作品が『百日紅—Miss HOKUSAI〜』だった。原恵一監督の最新作『バースデー ワンダーランド』も富貴晴美が音楽を担当している。
 『百日紅—Miss HOKUSAI—』は富貴晴美が初めて手がけたアニメ作品である。
 しかし、音楽的にはいわくのある作品だ。富貴晴美はメインテーマといくつかの曲を書いたところで体調を崩してダウン。同じ事務所の作曲家・辻陽があとを引き取って音楽を仕上げた。クレジットでは2人の名が並ぶ共作作品となっている。TVドラマ「トリック」やアニメ『あずきちゃん』『ダンタリアンの書架』などの音楽を手がけた辻陽も個性豊かな楽曲を書くすばらしい作曲家だ。いずれ代表作を取り上げたいと思うが、今回は富貴晴美をメインに話を進めよう。
 サウンドトラック・アルバムは2015年6月に配信アルバムとCDで発売。配信版はユニバーサルミュージックから、CDはインスパイア・ホールディングスから発売されている。
 収録曲は以下のとおり。

  1. 百日紅 ~Miss HOKUSAI~
  2. 江戸の風
  3. 龍図1
  4. 善次郎萎む
  5. 龍図2
  6. 絵師の朝
  7. My Sister
  8. Ukiyoe artist & Daughter
  9. 吉原行脚
  10. 両腕の幻影
  11. 結界
  12. 見返り柳ブルース
  13. 火事は江戸の華
  14. Camellia Japonica
  15. お猶と童子
  16. 雪に甦る記憶
  17. 姉の背中で
  18. 地獄絵の祟り
  19. 悪霊祓い
  20. 礼拝の絵筆
  21. Fell in love with you in Edo
  22. 信じる者も救われない
  23. 後光の阿弥陀如来
  24. 大江戸漫遊記
  25. 黄昏の橋
  26. 再会への小径
  27. Last Smile
  28. 切ない定め
  29. 予感は激情へ変わる
  30. 別離の空
  31. お猶に捧ぐ
  32. 百日紅 〜Miss HOKUSAI〜 Reprise

 全32曲。その中で富貴晴美が書いた曲は7曲。トラック番号でいえば、1、7、8、14、21、27、32。英語のタイトルまたは副題がついている曲が富貴晴美の曲だ。曲数は少ないが、重要な曲ばかりである。
 冒頭に流れるメインテーマ「百日紅 〜Miss HOKUSAI〜」は主人公・お栄のテーマでもある。エレキギターが唸るバンド編成のロックで書かれていることに意表を突かれる。
 しかし、原作者・杉浦日向子が好きだった音楽の中にはキング・クリムゾンもあったと聞けば意外ではない。江戸時代に女性絵師として活躍したお栄。その自立した女性像をロック・サウンドで表現したのだ。このテーマ曲を決めるまでに1ヶ月近くデモテープのやり取りがあったという。ギター演奏は、ZARD、大黒摩季らのレコーディングに参加しているギタリスト・葉山たけしが担当している。
 トラック7「My Sister」はお栄と目の不自由な妹・お猶(なお)との姉妹愛を描く曲。お栄がお猶を連れて日本橋に出かける場面に流れている。ピアノと弦が奏でる美しいメロディから、一見ぶっきらぼうなお栄が妹に注ぐ温かい想いが伝わってくる。このメロディはのちに登場する曲でも反復される。
 トラック8「Ukiyoe artist & Daughter」は橋の上でお栄と絵師・初五郎が語らう場面に流れる曲。ストリングスとフルート、コールアングレなどが奏でるほのかに甘い旋律が、お栄の初五郎への秘めた想いを表現する。いわば本作の愛のテーマである。曲はお栄とお猶が船に乗って川を行く場面まで途切れることなく流れ続ける。演奏時間3分余り。聴きごたえのある1曲だ。
 トラック14「Camellia Japonica」は「My Sister」の変奏。お栄とお猶が雪景色の江戸を歩く場面に使用された。曲の構成は同じだが、情景に合わせて、より繊細な演奏になっている。
 トラック21「Fell in love with you in Edo」はお栄の恋心を描写する曲。「Ukiyoe artist & Daughter」の変奏である。たゆたうようなストリングスの上で奏でられる木管のメロディが胸にしみる。雨の降る中、お栄と初五郎がひとつの傘に入って通りを歩く場面に付けられる予定だったようだが、実際にはその場面に音楽は流れない。演出上の判断で音楽は付けないことになったのだろう。幻となった曲である。
 トラック27「Last Smile」も「My Sister」の変奏曲のひとつ。お栄が北斎が描いた魔除けの絵の詳細をお猶に説明する場面に使われた。情感のこもった演奏で、お猶を気遣うお栄の気持ちが表現される。曲は感情のほとばしりを抑えて静かに盛り上がる。それゆえ、かえってお栄の切ない心情が際立つ。
 そして、アルバムを締めくくるのはメインテーマ「百日紅 〜Miss HOKUSAI〜」のReprise。お栄のモノローグが登場人物のその後を語るラストシーン(エンドクレジットの直前)に流れる曲だ。トラック1の同名曲よりも長いバージョンで収録されている。
 ピンチヒッターとなった辻陽の楽曲はオーケストラ楽器にギター、パーカッション、尺八などを加えた編成。こちらは江戸の情景を描写する音楽やドラマの進行に沿った音楽、サスペンス描写音楽などに技が光る。尺八をフィーチャーしたメインタイトルの曲「江戸の風」、花魁・小夜衣の身に起こる怪異を描く「決壊」、ギターが奏でる「見返り柳ブルース」「お猶と童子」、鬼気迫る「地獄絵の祟り」などが聴きものだ。比率としては辻陽楽曲のほうが多いので、本作の空気を作り上げているのは辻陽の音楽と言って差し支えないだろう。
 しかしながら、作品の核となるお栄のキャラクターを表現する楽曲は富貴晴美が担当している。原監督としても、そこは富貴晴美の音楽で行きたかったところなのだろう。作品のテーマを担っているのは富貴晴美の音楽なのだ。特にメインテーマには、江戸時代をたくましくたおやかに生きた女性絵師・お栄への、同じ女流アーティストとしての共感が込められているのではないかと感じる。辻陽の音楽もすばらしいが、もし、富貴晴美が全曲を担当していたら、どんな音楽になっていたか——。そんな想像をしてみたくなる作品である。

 本作のあと、富貴晴美はTVアニメ『ピアノの森』『ツルネ —風舞高校弓道部—』の音楽を担当。瑞々しい音楽で映像を彩った。
 そして、今春公開された原恵一監督の劇場アニメ『バースデー ワンダーランド』では、『百日紅—Miss HOKUSAI—』で果たせなかったことが実現した。富貴晴美が全編の音楽を担当したのだ。ファンタジー作品らしいスケール豊かな音楽が聴ける力作である。
 実はけっこうアニメ好きだという富貴晴美。もっともっとアニメ音楽を書いてほしいと筆者は願っている。

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バースデー・ワンダーランド オリジナル・サウンドトラック
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アニメ様の『タイトル未定』
208 アニメ様日記 2019年5月19日(日)

2019年5月19日(日)
早朝に新文芸坐に。オールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol.115 スクリーンで観る『ジャイアントロボ THE ANIMATION 地球が静止する日』」の最後を見届ける。前回もそうだったけど、ロボが大怪球に迫るあたりから観た。昼間は事務所の片づけ、事務作業、取材の予習の準備、今後の仕事のプランづくり等。作業をしながら録画で「出没!アド街ック天国」の噂の飯能の回(5月4日放映)を観る。蔵カフェの店主として、元動画工房社長の石黒育さんが登場。知っていても、ちょっと驚く。番組中で『一休さん』のイラストを描き下ろしていた。15時からポケGOでアチャモをとり続ける。夕方から近所の居酒屋でワイフと晩飯。早めに就寝。

2019年5月20日(月)
事務所で片づけと取材の予習など、そして、打ち合わせ。昼はランチ難民になった。確認することがあって『鉄コン筋クリート』DVD BOXの映像特典を観て、メイキングムービーの映像縦横比率が4:3でちょっと驚く。

2019年5月21日(火)
雨天で散歩はお休み。事務所にこもっていたけど、散歩をしない分だけ仕事が進むかというと、そんなことはなかった。夕方から打ち合わせで、あるプロダクションに。今年の春まで学生としてアニメスタイルでバイトをしていて、今はそのプロダクションで働いている女子が、これから打ち合わせをするアニメーターさんと一緒に(正確には、先に着いていたアニメスタイルのスタッフと一緒に)ニコニコしながら僕を出迎えてくれた。元気に仕事をしているようでなにより。

2019年5月22日(水)
ATOKが更新されて「きょう」で「令和元年5月22日(水)」が変換できるようになった。よかったよかった。午前3時くらいからウォーキング(この後も暗いうちからのウォーキングを続ける)。デスクワークをはさんで、午前中はある用事で有楽町に。そのついでに日比谷公園でポケGO。午後は取材の予習と打ち合わせ。夕方から「この人に話を聞きたい」の取材。

2019年5月23日(木)
吉野家のライザップ牛サラダを食べてみた。美味しかった。問題は腹持ちだ。ゴールデンウィーク前に終わらせるつもりだった事務作業がようやく終わった。事務所の片づけはこれからだ。シド・ミード展に行く。新鮮な驚きのあるよい展示だった。その後、吉松さんと合流して打ち合わせ。

2019年5月24日(金)
10時40分から、新宿バルト9でワイフと『プロメア』を観る。試写でも観ているので二度目の鑑賞だ。昼飯を食べた後、事務所に戻ってデスクワーク。夜は『ヴィナス戦記』のイベント上映に行くつもりだったが、片づけなくてはいけない用事がいくつも発生して諦める。

2019年5月25日(土)
この土日はのんびりモードの予定。暗いうちから散歩。その後は池袋マルイの「画業50周年記念 弓月光原画展」をチラリとのぞいた以外はのんびりとデスクワーク。
「宝島 COMPLETE DVD BOOK」vol.1のディスクを全部観た。最初の数話でビリー・ボーンズに感情移入してしまった。これは自分でもびっくり。5話ラストのジムの旅立ちも、以前は旅立つジムに気持ちを重ねていたけど、今は見送るお母さんや、リリーのおじいさんに感情移入してしまう。6話「敵か味方かジョン・シルバー」で、シルバーが初対面のジムを未成年者だと思わずに酒を呑ませてしまう展開がある。脚本で確認はしていないけど、これは脚本通りなのではないか。脚本はジムをもっとスラリとした若者としてイメージしていたのではないかと。
7話「肉焼きおやじはニクい奴」。カジキマグロを捕ろうするシルバーとジム。その最中にシルバーはハバナの居酒屋で黒人の大男と腕相撲をした話をはじめる。「馬鹿言っちゃいけない。男の勝負に引き分けなんかあってたまるかい」。突然、昔話を始めるのも、セリフも猛烈に巧い。『宝島』8話「幽霊船がオレを呼ぶ!」。シルバーの「主人公感」が素晴らしい。ラストでジムが「シルバー、俺、俺、ちょっとだけだけど、疑って悪かったと思っている。うん」と言うのだが、後の展開とシルバーの心中を思うと、かなり複雑。
『宝島』9話「奴隷みなとの人さらい」。シルバーは(港で撃たれて傷ついた身体で)火薬とバターを使った奇策を発案・実行し、味方に負傷者を一人も出さずに海賊を撃退。視聴者の目にもシルバーが只者ではないことが明らかに。それが10話「リンゴ樽の中で聞いた!」に繋がることになるのだが、「宝島 COMPLETE DVD BOOK」vol.1の収録はここまで。『宝島』と劇場版『銀河鉄道999』に共通するのは「旅」と「ロマン」。そして「理想的な大人(そのメインとなるのはどちらも海賊)と少年の関係」。さらに言えば「少年」に対する大人と、物語の語り手の「優しい目線」なのだろう。

第614回 また短い、すみません!

 また「アニメージュ○周年おめでとう」サイン色紙を描かせていただきました。「まだ自分にこんな依頼をくださるなんて」と思いつつ今回は『コップクラフト』を2枚。たぶん1枚は失敗して時用の予備なのでしょうが、たいがい失敗しないのでいつも2枚送ってます。アフレコの休み時間にちょこちょこっと。
 で描くと必ず送られてきます、「アニメージュ」! 今月(7月号)の見所はやっぱり「富野に訊け!」。俺はこのコーナーが大好きで、「アニメージュ」をいただくと必ず読むのがココ。今回はなんと200回記念に相応しく、相談者に辻真先先生! 辻先生の相談内容も富野監督のお答えも面白かったので、是非買って読んでください(なんの宣伝だ?)。ただその富野監督のお答えの中に

僕がよく「量産もできないで作家面するな」とあちこちで言ってるのは、辻さんのような(手の早い)方を知っているからです

とあり、久しぶりに「そう!」と大きく頷きました。かつて富野監督ご自身も「コンテ千本切りを目論んでいる」と噂されたほどのコンテ早切り達人! 出崎統監督もそうですが、仕事の早い先達らには本当に憧れます、自分。そんな板垣、

ようやく年1本のシリーズと全話コンテができるようになりました! 作家とやらには一生なれません(汗)! まあなる気もありませんが、ただコンテも原画ももっと早くなってたくさん描きたい!!

と改めて決意表明したところで、短くてゴメンナサイ。

アニメ様の『タイトル未定』
207 アニメ様日記 2019年5月12日(日)

2019年5月12日(日)
この日も半休のつもりで昼風呂に入ったり、昼寝をしたり。作業としては資料の読み込みの続き。夕方、ワイフと一緒に、吉松さんのマンションへ。4K Blu-ray+プロジェクター+100インチスクリーンの組み合わせでアニメを観せてもらった。『マモー編』『スペースアドベンチャー コブラ』『あしたのジョー2[劇場版]』『GHOST IN THE SHELL』『イノセンス』のそれぞれ一部を視聴。セル画時代のほうが画質向上の恩恵はあるのだけど、4Kの『イノセンス』もかなりよい。それから、セル画時代の4Kはまだまだよくなる伸びしろがあると思った。4Kではないけれど、プロジェクターで観た『リラックマとカオルさん』が相当によかった。質感が凄い。

2019年5月13日(月)
午前中はデスクワーク。書籍の企画書を2本書く。それから取材の予習。13時から試写で『プロメア』を観る。「アニメ様日記」は日記であるのだが、『プロメア』についてはこの日に感じたことではなく、後日考えたことも併せて書く。初見時は今までの今石作品と似た展開、似たモチーフが続出するので面食らってしまった。後になって、今石洋之の集大成と考えればいいのだろうと思うようになった。『ルパン三世 カリオストロの城』が公開された時に、東映長編時代からの宮崎駿の仕事を知っている人達が「同じことをやっている」と思ったと、宮崎さんのインタビューで読んだ記憶がある。それと同じなのだろう。『カリオストロの城』という作品の価値について考えるのに、それが過去の作品と似ているかどうかは重要なことではないはずだ。僕が『カリオストロの城』に感動したように、若いファンも『プロメア』に感銘を受けるのではないか。『プロメア』は現在のアニメーションでは珍しい痛快娯楽作であり、男性キャラクターに今石作品としては新味があった。アクションシーンの作り込みは素晴らしく、ある意味においては、日本のメカアニメの最高峰と言えるはずだ。他にも色々と思うところはあるけれど、それについてはまたの機会に。

2019年5月14日(火)
事務所でデスクワーク。

2019年5月15日(水)
「アニメスタイル015」の取材の3本立て。取材に立ち合ったメーカーの方が、作品のこともクリエイターのことも大好きな感じで、心地のよい取材となった。訳あって『ジャイアントロボ THE ANIMATION 地球が静止する日』のDVD BOXを購入した。Blu-ray BOXではなく、DVD BOXである。僕は『ジャイアントロボ THE ANIMATION 地球が静止する日』の映像ソフトを何度購入したのだろうか。

2019年5月16日(木)
デスクワーク。『さらざんまい』を1話から観た。続けて他の深夜アニメを。夕方はMacBookを持って帰って、マンションで休みつつ作業。

2019年5月17日(金)
午前中、デスクワーク。昼から『海獣の子供』試写。大変な仕上がりの映画だった。作画も美術も凄まじいほどの完成度。今年のアニメ映画で何番目ではなく、今までの全てのアニメーション映画で何番目か、というレベルだ。話を「理解する」映画ではなく、「感じる」映画なのだと思うが、原作をどのように整理したのかが気になる。原作を読むことにしよう。試写帰りに、買い物で外出していたワイフと合流して、神田の居酒屋で早めの晩飯。事務所に戻って社内打ち合わせ。渡辺歩監督に感想のメールを送ったら、すぐに返事がきた。

2019年5月18日(土)
午前中はたっぷりウォーキング。『海獣の子供』の原作を読み始める。午後は「『アニメ制作者たちの方法』刊行記念 井上俊之×原口正宏×高瀬康司 トークイベント」に。井上さんも原口さんも話し出したら止まらないタイプで、この2人が一緒に壇上にあがったらどうなるのだろうか、というのを確認するのが主な目的だった。結論としては原口さんは井上さんのフォローに回っていた。そして、原口さんはフォローに回ったほうが実力を発揮するのではないかと思った。
夜はオールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 115 スクリーンで観る『ジャイアントロボ THE ANIMATION 地球が静止する日』」。その前に、トークで話題になるかもしれないので、サブキャラクターの名前を確認した。「悪事を仕留める矢の数々は、腕に習った小李広」と言うのが「鎮三山の黄信(ちんざんさんのこうしん)/納谷六朗」で、「恐れはいらぬぞ、鎮三山」が「小李広の花栄(しょうりこうのかえい)/大塚明夫」。「腕に習った小李広」と言っているのが「小李広」ではなくて「黄信」だというあたりが、間違えやすいポイントだ。「そうはいかぬぞ、血風連! 命知らずはかかってきやがれ!」が「立地太歳・阮少二(りっちたいさい・げんしょうじ)/大塚芳忠」「短命二郎・阮少五(たんめいじろう・げんしょうご)/佐藤浩之」「活閻羅・阮少七(かつえんら・げんしょうしち)/千葉一伸」で、この3人が阮三兄弟。「狙った獲物は逃がさぬと」が「双尾蠍の解宝(そうびかつのかいほう)/関智一」で、「二人の後には悪は残さず」が「両頭蛇の解珍(りょうとうだのかいちん)」。その前に「後れを取るな、解珍! 解宝!」と言っているのが「小覇王・周通(しょうはおう しょうつう)/緒方賢一」。ここまで確認しておきながら、トークで僕は、十傑集の樊瑞の名前を言い間違ってしまった。
話は前後するが、今回のトークのゲストは音響監督の本田保則さん。本田さんとお目にかかるのは、20年以上前の『天地無用!』の取材以来だったのだけど、僕のことを覚えていてくださった。トークでは貴重な話をいくつもうかがうことができた。中でも興味深かったのが、アフレコ時に今川泰宏監督が役者に渡していたメモの話だ。プロデューサーの山木泰人さんにも来場。トークにも途中から参加していただいた。

新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 118
『この世界の片隅に』三度目の夏

 公開から足かけ4年経った今も、多くのファンに支持され、超々ロングランを続ける『この世界の片隅に』。新規場面を加えたもう1本の映画、『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』の公開も12月20日に控えている。

 2017年8月、2018年8月に続き、本年8月にも、新文芸坐とアニメスタイルは『この世界の片隅に』を手がけた片渕須直監督の作品を集めたオールナイトを開催する。今回は監督作品の劇場長編『アリーテ姫』『マイマイ新子と千年の魔法』『この世界の片隅に』に加えて、『リトル・ニモ』のパイロットフィルムを上映する。
 『リトル・ニモ』は55億円の予算と、長期に渡る期間によって製作された劇場作品である。内外の優秀なクリエイターが参加しており、日本のアニメ史で並ぶもののないビッグプロジェクトであった。その制作初期に3バージョンのパイロットフィルムが作られている。上映するのは3バージョンの中の「近藤喜文監督版」と「出崎統監督版」であり、「近藤喜文監督版」には、若き日の片渕監督がスタッフの一人として参加している。『リトル・ニモ』は彼自身にとって、大きな作品のひとつだ。トークでそのことについて語ってもらえるはずだ。

 前売り券は6月15日から新文芸坐窓口とチケットぴあで発売となる。

 なお、7月31日に 『リトル・ニモ』本編とパイロットフィルム3バージョンを収録したBlu-rayが発売される予定だ。

新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 118
『この世界の片隅に』三度目の夏

開催日

2019年8月17日(土)

開場

開場:22時45分/開演:23時00分 終了:翌朝6時15分(予定)

会場

新文芸坐

料金

当日・一般2800円、前売・友の会2600円

トーク出演

片渕須直、小黒祐一郎(司会)

上映タイトル

『リトル・ニモ』パイロットフィルム(近藤喜文監督版、出崎統監督版)
アリーテ姫(2000/115分/35mm)
マイマイ新子と千年の魔法(2009/93分/DCP)
この世界の片隅に(2016/129分/DCP)

備考

※オールナイト上映につき18歳未満の方は入場不可
※トークショーの撮影・録音は禁止

●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

第613回 アニメ監督の仕事、令和元年(3)

 前回と第609回で「監督は本来、画を描かないで描かせるもの云々」という、何十年もの間アニメ業界で先達らが伝え(広め?)てきた言葉がなんの根拠もなく、もしかするとアニメーター出身監督の出現を1人でも多く潰したいとお考えの、画が描けない監督(演出家)らによる詭弁に過ぎない(かもしれない)、ということがご理解いただけたかと思います。そして、

アニメ監督が「監督としてやらなければ(できなければ)ならない仕事」は時代の空気にあわせて年々変わる!

ことも。念のために言っておきますが「画を描かない(描けない)かたが監督をやってはいけない」とは思ってはいません、自分は。ただ「僕、監督! 君アニメーターなんだから、僕の思ったとおりに描くべきだよね! だって僕が監督なんだからさ! これ当たり前のルールだよね!」で守られる監督の立ち場はもうないと言いたいだけ。なぜなら週何十本しかアニメがなかった時代なら、制作現場もその数しかなく、さらにカメラと撮影台すら数に限りがあるわけで、その頃アニメーターになった人なら、自分じゃ画が描けない監督の言うことでも聞いたでしょう。他にパラパラマンガを作品にする手立てがなかったのですから。ところが今は、アニメの本数も制作現場も何倍もあり、そればかりか極端な話、PCがあればアニメーターなら誰でもアニメが作れます! アニメーター側からすると、何が悲しくて自分より画が下手な人の言うことを聞かなきゃならないのでしょうか? と言いたいだけ。この際だからハッキリ言います。

アニメーターは自分より巧い人の言うことしか聞きません!

 だからこそ、ウチの制作上がりの演出に

作画以外で取り柄を見つけなさい! その上で、できたら少しでも画を描こうとしなさい! いつまでも画を描くのを人任せにできると思わないこと! システムやルールなど5〜10年サイクルで必ず変わる! その空気も読めない人は演出だ監督だと肩書きをもらっても、結局淘汰される! そこで努力をしない人に、仕事も人間関係も会社も永遠などあり得ない!

と言ってるんです。

第158回 カヴァーではなく「再創造」 ~DIGITAL TRIP さよなら銀河鉄道999 シンセサイザー・ファンタジー~

 腹巻猫です。6月8日(土)15時より蒲田・studio80にてサントラDJイベント「Soundtrack Pub【Mission#39】」を開催します。テーマは「『非サウンドトラック』の世界」。カヴァーもの、アレンジもの等と呼ばれる、「オリジナル・サウンドトラック」ではない映像音楽を紹介します。前半は国内外の映画音楽を中心にしたカヴァー演奏盤の紹介。後半は日本コロムビアが1980年代に発売したアニメ音楽アルバムのシリーズ「デジタルトリップ」と「ジャムトリップ」を特集します。お時間ありましたら、ぜひご来場ください!
http://www.soundtrackpub.com/event/2019/06/20190608.html


 そんなわけで、今回は「デジタルトリップ」シリーズから1枚取り上げることにしよう。

 「デジタルトリップ(DIGITAL TRIP)」は日本コロムビアが1981年から発売したアニメ音楽アルバムシリーズのタイトル。1986年頃までに50タイトル以上が発売された。タイトル数の多さからも、本シリーズがアニメファンの人気を得ていたことがうかがえる。
 「デジタルトリップ」のコンセプトは、「アニメ音楽をシンセサイザーで演奏したアルバム」である。当時はYMOをはじめとするテクノポップが注目され、シンセサイザー音楽が急速に普及していった時期。作り手も聴き手も、シンセサイザーサウンドに音楽の新しい可能性を見出していた。そこに登場したのが「デジタルトリップ」だった。

 「デジタルトリップ」の大きな特徴は、日本コロムビアが発売しているのに、『機動戦士ガンダム』(キングレコード)、『超時空要塞マクロス』(ビクター音楽産業)、『風の谷のナウシカ』(徳間ジャパン)など、他社でサントラ盤がリリースされている作品がたくさん取り上げられていること。オリジナル音源が他社から発売されていても、カヴァー演奏なら自由に発売することができる。キャラクターを使わなければ版権の制約もない。アニソンのカヴァーは昔からあるが、「デジタルトリップ」は「サントラのカヴァー」という新しい発想だった。80年代、アニメ音楽一社独占の構図が崩れ、アニメ音楽ビジネスの新たな一手を模索していた日本コロムビアがつかんだ「奇策」とも呼べる新路線だったのである。

 しかし、「デジタルトリップ」は最初からアニメ音楽カヴァーのシリーズとしてスタートしたわけではない。「デジタルトリップ」と冠が付いた最初のアルバムは1981年に発売された「DIGITAL TRIP さよなら銀河鉄道999 シンセサイザー・ファンタジー」。あくまで『さよなら銀河鉄道999』のアルバムのヴァリエーションのひとつとして、また、東海林修のアルバムとして発売されたものだった。おそらくこれが予想以上のヒットになったことから、シンセサイザーアルバムのシリーズが企画されたのだろう。シリーズタイトルとして、1枚目のアルバムに付された「DIGITAL TRIP」がそのまま使われることになった……という経緯ではないかと想像する。

 そのあとに発売された「デジタルトリップ」は実はアニメ音楽アルバムではない。「ファラオの墓 シンセサイザーファンタジー」(シンセサイザー=神谷重徳/1982)、「日出処の天子 シンセサイザーファンタジー」(伊藤詳/1982)と、アニメ化されていないコミックスのイメージアルバムが続くのだ。当時はレコードメーカー各社からコミックスのイメージアルバムがさかんに発売されていた時期で、「デジタルトリップ」も当初はイメージアルバム路線が考えられていたようだ。

 アニメ路線に舵が切られるのはアニメ映画公開と同時に発売された「わが青春のアルカディア シンセサイザーファンタジー」(淡海悟郎/1982)から。またも想像だが、このアルバムの評判がよくて「やはりアニメだよね」ということになったのではないか。
 続いて、「宇宙戦艦ヤマト(以下“シンセサイザー・ファンタジー”は略)」(深町純/1982)、「機動戦士ガンダム」(東海林修/1982)と鉄板の人気作品がリリースされ、「樹魔伝説」(安西史孝/1982)、「クイーンエメラルダス」(深町純/1982)とイメージアルバム路線にいったん戻るものの、以降はアニメ音楽中心のラインナップが続くことになる。
 発売されたタイトルは、「六神合体ゴッドマーズ」(東海林修/1983)、「超時空要塞マクロス」(東海林修/1983)、「クラッシャージョウ」(淡海悟郎/1983)、「伝説巨神イデオン」(五代孝/1983)、「戦闘メカ ザブングル」(東海林修/1983)、「キャッツ・アイ」(東海林修/1983)、「銀河漂流バイファム」(東海林修/1984)、「巨神ゴーグ」(越部信義・小久保隆・石川晶/1984)、「うる星やつら」(深町純/1984)、「風の谷のナウシカ」(宮城純子/1985)、「北斗の拳」(青木望/1985)、「機動戦士Zガンダム」(越部信義・小久保隆/1985)、「タッチ」(東海林修/1985)など、他社のヒット作・注目作がずらりと並ぶ。「宇宙海賊キャプテンハーロック」(越部信義/1983)、「未来警察ウラシマン」(越部信義・小久保隆/1983)、「ルパン三世」(東海林修/1984)等のコロムビア作品も取り上げられているが、比率から言えば他社作品の方が多い。当時のアニメ音楽状況を一望できるラインナップはなかなか壮観である。

 アレンジとシンセサイザー演奏を担当した作家は、東海林修を筆頭に、深町純、淡海悟郎、越部信義ら、作曲家としても活躍するそうそうたる顔ぶれだった。中には「北斗の拳」のようにオリジナル作曲家が手がけた作品もあって見逃せない。
 アレンジは、原曲の再現にこだわらず、アルバム独自のサウンドを追求したものが多い。盤ごとに作・編曲家の作家性が強く出た印象だ。大胆にアレンジされた演奏を聴いて、あまりのイメージの違いに「うーん」と首をひねってしまうこともあった。しかし、独立したシンセサイザーアルバムとして聴くぶんには、それぞれに個性豊かで楽しめる。「アニメ音楽の新しい楽しみ方」を提案したという意味でも大いに意義があり、再評価が望まれるシリーズである。筆者は東海林修の「ウルトラQ」と越部信義・小久保隆による「宇宙刑事シャリバン」がお気に入りだった。

 前置きが長くなったが、今回取り上げたいのは「デジタルトリップ」の記念すべき第一弾「さよなら銀河鉄道999 シンセサイザー・ファンタジー」である。

 オリジナルは東海林修が音楽を担当したアニメ映画『さよなら銀河鉄道999 アンドロメダ終着駅』(1981)のサウンドトラック。大編成オーケストラで演奏した音楽をシンセサイザーでセルフカヴァーしたアルバムだ。
 これがなかなか聴き応えがある。本編の音楽もシンセサイザーでよかったのではないかと思うくらい。

 LPレコードでのリリースは1981年12月。2001年にCD「ETERNAL EDITION さよなら銀河鉄道999」のボーナストラックとして復刻された。2010年には紙ジャケット仕様の単独盤でCD化されている。
 収録曲は以下の通り。

  1. Trip to the Unknown 未知への旅
  2. Mysterious Larmetal 幽玄なるラーメタル
  3. Doom’s Day 最後の審判
  4. Dream 青春の幻影
  5. Waves of Light 光と影のオブジェ
  6. La Femme Fatale 運命の女
  7. The Promised Land 約束の地
  8. SAYONARA サヨナラ

 LPレコードでは1~4までがA面、5~8がB面に収録されていた。
 オリジナル盤のライナーノーツによれば、A面はオリジナルスコアを大切に、B面はモチーフを使ったイメージの展開というコンセプトで作られたという。

 1曲目の「未知への旅」は、銀河鉄道999が旅立つ場面に付けられた曲(交響詩版「メインテーマ~新しい旅へ~」)のアレンジ。オーケストラ演奏版と比べると、勇壮さ、重厚さが薄まった代わりに、宇宙へと飛翔する軽やかなイメージが強くなった。いかにも宇宙ファンタジーというサウンドで、オーケストラ版にない魅力がある。

 2曲目「幽玄なるラーメタル」は宇宙の神秘を描写するトラック。交響詩版の「謎の幽霊列車」と「メーテルの故郷、ラーメタル」の2曲からアレンジされている。原曲よりも神秘的な雰囲気が増し、「幽玄」という言葉がぴったりはまる印象だ。曲の前後にメインテーマのモチーフが入り、SF冒険物語の雰囲気を盛り上げている。

 3曲目「最後の審判」は交響詩版の「崩壊する大寺院」と「黒騎士との対決」の2曲をアレンジしたもの。サスペンスに富んだ曲調で鉄郎の試練を表現したトラックだ。

 4曲目の「青春の幻影」は交響詩版の同名曲のアレンジ。管弦楽が奏でるロマンティックな曲が、シンセサイザーによってより幻想的に生まれ変わっている。サウンドの作り込みが秀逸で、音を聴くだけで切ない気持ちになる。生オーケストラでは出し得ない情感が広がる、シンセ独自の音色が生かされたトラックだ。

 5曲目「光と影のオブジェ」は交響詩版で唯一シンセサイザーで演奏されていた曲「大宇宙の涯へ~光と影のオブジェ~」のリメイク。映画では999号が惑星アンドロメダに到着する場面に流れている。交響詩版もテクノポップ寄りの軽快な演奏だったが、デジタルトリップ版はリズムが強調され、さらに派手になった印象。ダンスミュージック的な高揚感のある曲になっているのが楽しい。

 次の「運命の女」はメーテルのテーマ(原曲は「再会~LOVE THEME~」)。オーケストラ版はピアノと弦楽器のアンサンブルが美しいミシェル・ルグランのような曲だったが、デジタルトリップ版ではシンセサイザーの透明感のある音色がリリカルに響く。メーテルの時空を超越した神秘性が際立つ曲になった。

 続く「約束の地」は映画のクライマックスの曲「終曲~戦いの歌~」のアレンジ。劇中でも印象深いパルチザンの歌のメロディが登場する。原曲の悲壮感が消え、軽快なテクノポップに生まれ変わった。原曲のファンは「イメージが違う」と嘆くかもしれないが、情感が薄まった代わりに非常に聴きやすくなっている。純粋に「こういう曲だったんだ」と楽しめるトラックである。

 最後の曲「SAYONARA」は映画主題歌「SAYONARA」のアレンジ。原曲に忠実なアレンジで、インストゥルメンタルとして聴ける。これは「ファンに1曲プレゼント」といった趣向だろう。

 アルバムを聴いた印象は、「カッコいい!」だった。オーケストラ演奏による交響詩版とはまったく異なる色彩感の音楽になっている。どちらがすぐれているということではなく、どちらも他に代えられない魅力を持った音楽なのだ。それこそが、「デジタルトリップ」シリーズがめざしたものだった。

 筆者の手元にある『アニメージュ』(徳間書店)1983年8月号に「デジタルトリップ」シリーズを取り上げた日本コロムビアの広告が掲載されている。それによれば、「デジタルトリップ」は「アニメーション、コミックスなど映像作品のイメージを、シンセサイザーによって全く新鮮な音楽世界に展開しようという意図から企画されたもの」だそうだ。続くテキストでは生演奏からシンセサイザーへのアレンジを「再創造(リクリエイト)」と呼んでいる。デジタルトリップは単なるアレンジ盤ではなく、オリジナルから自由にイメージをはばたかせて、新たな魅力ある音楽を創造しようとしたものだった。だからこそ、当時のアニメファンはそれを「偽物」ではなく独自の音楽作品として支持したのである。

 デジタルトリップと並ぶアニメ音楽カヴァーのシリーズ「ジャムトリップ」は、アニメ音楽をジャズ、フュージョンにアレンジして生楽器の演奏で聴かせる、「デジタルトリップ」と対照的なコンセプトのシリーズだった。こちらは20タイトル程度と数は少ないが、当代一流のミュージシャンが参加したグルーヴ感あふれる演奏は今聴いても心が躍る。
 いっぽう、「デジタルトリップ」のサウンドは80年代という時代を如実に反映し、今聴き直すと、さすがに古いなぁと感じるところも多い。シンセサイザーが電子技術の産物である以上、それは仕方ないことだ。

 でも、今はさまざまな時代の音楽をフラットに聴ける時代。80年代の音楽も「古い音」ではなく「個性的な音」として楽しめる。シンセサイザーで生楽器さながらの音が出せるようになった現代では、カラフルでポップなシンセサイザーサウンドが、むしろ新しい。

DIGITAL TRIP さよなら銀河鉄道999 シンセサイザー・ファンタジー(紙ジャケット仕様)
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GALAXY EXPRESS 999 ETERNAL EDITION File No.3&4
劇場版 さよなら銀河鉄道999 アンドロメダ終着駅
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アニメ様の『タイトル未定』
206 アニメ様日記 2019年5月5日(日)

2019年5月5日(日)
マチアソビ2日目。朝は徳島中央公園の周辺を散歩。午前中から、馬越嘉彦さんのライブドローイングとサイン会がスタート。馬越さんに、サインする時間をたっぷりとったほうがいいと提案していただき、タイムスケジュールを変更。ライブドローイングは、決められたスペースとは別の広い場所を使わせてもらった。イベントスタッフの対応に感謝。ライブドローイングでは、馬越さんが描いている間、僕は喋り続けたほうがいいのかと思っていだけど、むしろ、喋り続けると邪魔になりそうだったので、たまに話すくらいにした。夜はホテル近くの居酒屋で打ち上げ。魚も鶏も美味しい。

2019年5月6日(月)
マチアソビ3日目。徳島中央公園を散歩した後、朝食をはさんで吉野川方面を歩く。その後、マチアソビの企画のひとつである橋の下美術館に参加。遊覧船に乗って、橋の下に飾られたアニメのイラストを見るというもので、予想以上に楽しかった。14時くらいまで徳島にいて、夕方には東京に到着。

2019年5月7日(火)
ゴールデンウィークは明けたけれど、すぐに本調子に戻るわけではなく、まだのんびりムード。午後は打ち合わせで、あるアニメプロダクションに。その後、近くの別のアニメプロダクションに。

2019年5月8日(水)
某社で打ち合わせ。夏に出す本がもう一冊増えそうだ。ネットで『映像研には手を出すな!』のアニメ化を知る。監督は湯浅政明さんで、制作はサイエンスSARU。原作はアニメファン好みではあるけれど、アニメ化は難しいだろうと思っていた。だけど、湯浅さんとサイエンスSARUなら、上手く映像化できるかもしれない。素晴らしい企画だ。

2019年5月9日(木)
池袋HUMAXシネマズで『名探偵ピカチュウ』を観る。僕にとっては「物語」よりも「ポケモンがいる世界」を楽しむ映画で、その意味でなかなか楽しい。ピカチュウを始めとするポケモンのデザインがリアル寄りだが、この内容なら正解だろう。映画とポケモンGOの連携もよかった。公開前後のポケモンGOでは、映画に登場するポケモンが出現。ゲーム中のタスクも映画を観ると解きやすくなるというものだった。

2019年5月10日(金)
公開日の朝イチの新宿ピカデリーで『甲鉄城のカバネリ 海門決戦』を観る。『カバネリ』ファンに向けた作りだった。終盤のラブコメ展開と、エンディングの踊りに驚く。僕はTVシリーズ初期のハードな路線を期待していたのだけれど、キャラクターのファンはこちらの方が嬉しいだろう。打ち合わせをはさんで、午後に『きみと、波にのれたら』の試写。主人公と彼氏の恋愛描写が素晴らしい。湯浅さんらしさもあるし、今までよりも一般の観客に向けた作品になっているはず。女性の感想を聞きたい。

2019年5月11日(土)
この日は半休のつもりで、昼間にちょっと休む。資料の読み込みをしたり、取材の準備をしたり。夕方に、ワイフと大塚ばらまつりを見てから、東京大塚のれん街に。

新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol.117
完結30周年記念 OVAの金字塔『トップをねらえ!』

 『トップをねらえ!』はSF、巨大ロボット、美少女、アニメや特撮のパロディといった要素を極めてセンスよく、しかも過剰な密度で詰め込んだOVAの傑作だ。庵野秀明の本格的初監督作品であり、彼とGAINAXの代表作である。同作の最終巻がリリースされたのは1989年7月7日。今回のオールナイトは完結30周年記念を企画したものである。
 上映作品は『トップをねらえ!』全6話、続編の『トップをねらえ2!』全6話。いずれも5.1ch音声での上映となる。トークのゲストはタカヤ・ノリコ役の日高のり子、アマノ・カズミ役の佐久間レイ。前売りチケットの6月8日(土)から新文芸坐とチケットぴあで発売となる。(追記)前売チケットは完売しました。当日券の販売はありません。

新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 117
完結30周年記念 OVAの金字塔『トップをねらえ!』

開催日

2019年7月6日(土)

開場

22時15分/開演:22時30分 終了:翌朝6時10分(予定)

会場

新文芸坐

料金

当日・一般2800円、前売・友の会2600円

トーク出演

日高のり子(タカヤ・ノリコ役)、佐久間レイ(アマノ・カズミ役)、小黒祐一郎(司会)

上映タイトル

『トップをねらえ!』全6話(1988~1989/BD/5.1ch音声)
『トップをねらえ2!』全6話(2004~2005/BD/5.1ch音声)

備考

※オールナイト上映につき18歳未満の方は入場不可
※トークショーの撮影・録音は禁止

●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

第612回 アニメ監督の仕事、令和元年(2)

 第610回からの続き。で、『巨人の星』の長浜忠夫監督は、コンテを描かずに音響メインの演出スタイルだったという話。自らは画を描かずとも1960年代なら「アニメ監督」は成立したのです。なぜなら、前回すでに半分説明したかもしれませんが、当時は舞台や映画における演出(監督)のプロは存在しても、アニメのそれはまだ存在していなかったからです。それゆえ、演劇や実写畑など別分野の権威を連れてきて、アニメーター・画描きの前に立たせて「この方が監督です! 今日から監督に従って画を作ってください!」と言うしかなかったのです、アニメ黎明期は。1970年初頭になると、演出志望の優れたアニメーターが現れだします。当然のことですよね。その代表格が出崎統監督でしょう! 富野由悠季監督も以前インタビューで「アニメーターでありながら映像指向のある演出家が崎枕(出崎統)だった」と仰ってました。出崎さんの監督デビューは27歳で『あしたのジョー』。もちろん前述の長浜監督と違って、アニメーター出身の出崎監督はコンテを切りまくるだけではなく原画まで描かれたそうです(ご自身のインタビュー記事より)。そりゃ長時間かけられる劇場作品と違って、スケジュールも短く巧い人から下手な人までアニメーターをかき集めなければならない時、画作りに直接参加できる監督(演出)は重宝されて当然。1980年代は出崎監督だけではなく、りんたろう監督、杉井ギサブロー監督、そして2019年現在も現役の宮崎駿監督と、アニメーター出身監督がメインになっていきます! ね? 1960〜1980年代ですでにアニメの監督(演出)になるのならアニメーターのほうがいいと証明されてるわけです。現に板垣程度の凡人が今でも監督をやらせてもらえるのは、ひとえに小田部羊一先生や大塚康生様、友永和秀師匠らによるアニメーター指導の賜物だと思っておりますから。もちろん1980年代以降でも、高畑勲監督や富野由悠季監督や押井守監督といったアニメーターではなくとも天才な方々はご活躍されております。ただ現在のような深刻なアニメーター不足の中、「画のほうはよろしく」と音響のあと、声優さんらと毎週飲みにいってしまう監督はやりづらくなってる気がします。そりゃ最初の顔合わせ的飲み会は音響チームとの親睦を深める必要もあるため、それを監督の仕事と位置づけることもできますが、毎週ともなればアニメーターに悪いと思わないのでしょうか? ちなみに夜の飲み会目的でアフレコを必ず午後からにしてもらう監督、自分がまだド新人だった頃に知ってましたが、ご多分に漏れず現在は自然淘汰済みなようです。その方も自身で画を描かれない監督でした。ただ、

自分もこのまま原画とコンテが描けるだけではダメでしょう!

 今後はCGや撮影も勉強しないと、アニメ監督など続けられなくなる時代が10年以内にやってくるのは間違いないでしょうから。

アニメ監督が「監督としてやらなければ(できなければ)ならない仕事」は時代の空気にあわせて年々変わる、の話はまた次週へ!

新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol.116
映画館で観る『ヤマノススメ』

 6月29日(土)のオールナイトは『ヤマノススメ』特集だ。『ヤマノススメ』は「登山」をモチーフとしたTVアニメである。可愛らしいキャラクター、地に足のついたドラマ、丁寧に作り込まれた映像が魅力の作品だ。
 『ヤマノススメ』は現在まで第3シリーズまでが制作されている。今回のオールナイトでは、5分枠の番組だった第1シリーズ全12話と、15分枠の番組となった『セカンドシーズン』全24話を上映する予定だ。

 トークコーナーのゲストは山本裕介監督を予定している。前売りチケットの6月1日(土)から新文芸坐とチケットぴあで発売となる。

新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 116
映画館で観る『ヤマノススメ』

開催日

2019年6月29日(土)

開場

22時/開演:22時15分 終了:翌朝6時20分(予定)

会場

新文芸坐

料金

当日・一般2600円、前売・友の会2400円

トーク出演

山本裕介、小黒祐一郎(司会)

上映タイトル

『ヤマノススメ』第1シリーズ(2013/BD)
『ヤマノススメ セカンドシーズン』(2014/BD)

備考

※オールナイト上映につき18歳未満の方は入場不可
※トークショーの撮影・録音は禁止

●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

第159回アニメスタイルイベント
『この世界の片隅に』に至る道(3)

 2019年7月6日(土)に開催するトークイベントは「第159回アニメスタイルイベント 『この世界の片隅に』に至る道(3)」だ。「『この世界の片隅に』に至る道」は、片渕監督が『この世界の片隅に』を手がけるまで、どのような道をたどってきたのかについて、じっくりとうかがうイベントシリーズである。
 1月に開催した「『この世界の片隅に』に至る道(2)」では、彼が若き日に関わった『NEMO』が話題となった。今回の「『この世界の片隅に』に至る道(3)」では『NEMO』と『アリーテ姫』の間の、ミッシングリンク的な位置づけの仕事について語っていただく予定だ。

 会場は阿佐ヶ谷ロフトAではなく、新宿のLOFT/PLUS ONEだ。くれぐれもお間違えなきように。また、今までのイベントと同様に、トークの一部を「アニメスタイルチャンネル」で配信する。前売り券は6月1日(土)から発売開始。詳しくは以下のリンクLOFT/PLUS ONEのページを見てもらいたい。

■関連リンク
アニメスタイルチャンネル
https://ch.nicovideo.jp/animestyle

LOFT/PLUS ONE
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/plusone/120098

第159回アニメスタイルイベント
『この世界の片隅に』に至る道(3)

開催日

2019年7月6日(土)
開場12時00分 開演13時00分

会場

LOFT/PLUS ONE

出演

片渕須直、小黒祐一郎(司会)

チケット

前売1500円 当日1800円(共に飲食別・要1オーダー)

■アニメスタイルのトークイベントについて

 会場となるLOFT/PLUS ONEはトークライブができる居酒屋。入場料(今回は前売1500円、当日1800円)とは別に飲食(最低でもドリンク1杯)をお願いしている。ソフトドリンクもあるので、未成年の方でも大丈夫。 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものだ。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていないし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれない。その点は、あらかじめお断りしておく。

アニメ様の『タイトル未定』
205 アニメ様日記 2019年4月28日(日)

2019年4月28日(日)
早朝に新文芸坐へ。オールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 114 押井守映画祭2019 第三夜《ガルム&立喰師》編」の終了を見届ける。事務所に戻ってデスクワーク。その後、ワイフと散歩に。池袋から大塚まで歩いて、大塚から日暮里まで山手線。日暮里から不忍ブックストリートの一箱古本市をのぞきながら、上野まで歩く。一箱古本市では文庫本1冊とマンガ1冊を購入。PARCO_ya上野でワイフの買い物(『らんま1/2』のハンカチ)に付き合って、その後、アメ横をウロウロ。入りたかった店はどこも行列で、前に行った24時間営業の飲み屋で遅めの昼飯。谷根千の落ち着いた感じと、一箱古本市のカルチャーな雰囲気(と一箱古本市の文系女子)でゴールデンウィーク気分を満喫。

2019年4月29日(月)
表参道で食事をしながら、ある監督さんとこれから作るTシャツについて打ち合わせ。

2019年4月30日(火)
新宿ピカデリーで『えいがのおそ松さん』を鑑賞。公開直後に観ることができなかったので、こんな時期になってしまった。内容に関して全肯定はできないけれど好印象。久しぶりに「六つ子が好きだ」と思った。終盤のドタバタの中で、現在の六つ子が高校時代の六つ子に語りかけるところだけでも、観てよかった(特にカラ松のセリフ)。あるキャラクターの存在で、『おそ松さん』ファンの女子の目線を入れているのは面白いけど、僕的にはなくてもよかった。いや、これは我が儘な感想だ。それから、エンディングの高校時代の六つ子を、本編で観たかった。

2019年5月1日(水)
「第157回アニメスタイルイベント アニメ様のイベント 語りまくり編」を開催。僕が語りまくるイベントである。こんな自分勝手なイベントに、数十名のお客さんに来ていただいた。ありがとうごさいます。トークではサムシング吉松さん、遠藤一樹君にサポートしてもらった。第2部以降のほうが、気持ちよく話すことができた。以下はイベント前に書いたトークの構成だ(一部、加筆修正してある)。
⋯⋯⋯⋯
第1部 アニメ様の好きなアニメを語る『鉄人28号[1980年版]』編
・正統派ロボットアニメ。「人間にとってロボットとは何か」を描いている点において正統派。小黒個人にとっては傑作。
・『機動戦士ガンダム』の後に作られたことの意味
・この前後の「東京ムービー新社作品」にあるシャープさ
・作画アニメとして素晴らしい
・配信で観てほしい話数はこれとこれ
・キャラクターデザインは楠部系
・ブラックオックスと作品を貫くテーマ
・49話「さらば! ブラックオックス」ラストのロボットアニメ史上屈指の名場面
・名作になり損ねた最終回
・気になって仕方がない「暴走!地獄の天使」
・マジンガーシリーズやウルトラシリーズへのリスペクト

第2部前半(アニメと出版物、アニメとファンの関係)
・小黒が気になっていること。「ネットの記事は残らない」ようだ。紙で残すことの意義
・「今の作品を取り上げること」の意味
・感想も残らない。皆にも自分の感想を残してほしい。ネットだけでなく、できたら紙に

第2部後半(アニメスタイル大賞2018)
・アニメスタイル大賞2018を選ぶ
【劇場アニメ編】ノミネート
 『さよならの朝に約束の花をかざろう』
 『リズと青い鳥』
 『若おかみは小学生!』
 『名探偵コナン ゼロの執行人』
 『ペンギン・ハイウェイ』
【TVアニメ編】ノミネート
 『宇宙よりも遠い場所』

第3部前半(アニメについて色々)
・『リズと青い鳥』と『劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』を観てわかった『響け!ユーフォニアム』第一シリーズの意味
・劇場版『名探偵コナン』の静野監督の仕事
・『宇宙戦艦ヤマト2199』と『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』に対するアニメ様の屈折
・評価されていない『傷物語』
・『君の膵臓をたべたい』はいいぞ
・『SSSS.GRIDMAN』で日本のメカ(怪獣)アクションが『パシフィック・リム』に追いついた

第3部後半(アニメスタイルについて)
・「アニメスタイル インタビューズ01」でやりたかったこと。やった感想
・『名探偵コナン』の島本須美さんについて
・今後のアニメスタイル。ちょっとだけ方向性を変える
・小黒がこれからの人生でできることは限られている。あれもこれもは無理(あれもこれもできると思っていた)。できることをできるだけやりたい
・商業アニメに対して(編集や研究を)色々とやってくれる人に大勢でてきてほしい
⋯⋯⋯⋯
アニメスタイル大賞2018は、僕が一人で決める賞だ。劇場アニメ部門は『さよならの朝に約束の花をかざろう』『リズと青い鳥』『若おかみは小学生!』『名探偵コナン ゼロの執行人』『ペンギン・ハイウェイ』の5作品が受賞。5作品の中のスペシャル賞が『さよならの朝に約束の花をかざろう』だ。TVアニメ部門は『宇宙よりも遠い場所』。イベント中に発表できなかったが、アニメーター賞は井上俊之さん(『さよならの朝に約束の花をかざろう』)と本田雄さん(『さよならの朝に約束の花をかざろう』『若おかみは小学生!』)。
それから、数人のお客さんに誕生日のプレゼントとして焼酎をいただいた。これも嬉しかった。イベントの帰りに阿佐ヶ谷の古本屋で、40年ほど前の設定資料集(『まえがみ太郎』、『リスのバナー』、それからイベント販売用に編集されたらしい『宇宙戦艦ヤマト』)と雑誌「ファントーシュ」を購入する。設定資料資料集は各500円、「ファントーシュ」は一冊1000円だった。

2019年5月2日(木)
TSUTAYA東池袋店が6月いっぱいで閉店することを知る。この10年間で一番お世話になったレンタル屋だ。24時間営業だった頃は、特に重宝した。午前中は、ワイフと東京ソラマチの「幾原邦彦展 ~僕たちをつなげる欲望と革命の生存戦略~」と丸善日本橋店の「関修一原画展 ~思い出のキャラクターたち~」に。午後は事務所でデスクワークと片づけ。

2019年5月3日(金)
アクアシティお台場で『バースデー・ワンダーランド』を観る。原作未読だが、原恵一監督としてはおそらく原作に対して向き合い、観客に対してのサービスも考え、自身の映画作りも貫いたのではないかと。

2019年5月4日(土)
「マチ アソビ vol.22」1日目。アニメスタイルとして、マチアソビに参加するのはこれが初めて。馬越嘉彦さん、アニメスタイルのスタッフ達と徳島に。

第611回 エンディングは吉岡さん!

 前回の続き(アニメ監督の仕事、令和元年[2])は次回に回させてください。時間的に上手くまとめきれずスミマセン! で、今回はコレ、

『コップクラフト』のエンディング収録に立ち会ってきました!

 もう発表されてるようなので改めて説明する必要はないかと思いますが、『コップクラフト』のEDは吉岡茉祐さんによるティラナのキャラソンです。事の顛末は、メインスタッフ&キャストさんらとの打ち入りのような食事会の帰り、プロデューサーより「ED、ティラナのキャラソンってダメですか、監督?」との問いに、俺「いいじゃないですか!」と即答。トントンと決定。そして5月某日、すでに曲のラフ(ボカロ入り)をいただいてラフコンテは上がってて清書中だったのと、収録日がアフレコ日の午後となっていたので、帰りに寄っていったというわけです。画のイメージを説明し、かつ俺の方も吉岡さんの歌を聴いてコンテに反映させるため。で、感想、

めちゃくちゃカッコいい!
詞も曲も原作のイメージにピッタリで、抑揚のあるドラマチックな仕上がりに、吉岡さんの歌声が凛としてて気持ちいい!

 1回目のテスト後のディレクターさんと俺。

 収録当日はとうふのような真っ白いワンピースの吉岡さんで、そちらもティラナの「白の鎧」と重なって無垢な感じでした。やっぱ芝居同様、歌も上手い! で、収録風景のスケッチ↓。

 今、大変忙しそうですが「全部手を抜きたくない!」だそう。

吉岡さんは何事も一所懸命だからカッコいいのだと思います!

 ED、放送日をお楽しみに。と言いつつ、その完成版(ファイナルミックス)を聴きつつこの原稿を書いてます。よい!

第157回 観たら買わずにいられない 〜REDLINE〜

 腹巻猫です。早川優さん企画の労作「ウルトラ・マエストロ 冬木透 音楽選集」が5月15日に日本コロムビアから発売されました。「ウルトラセブン」で知られる作曲家・冬木透の作品を集大成したCD10枚組セット。アニメ作品パートの選曲・構成・解説を腹巻猫が担当しました。注目は世界名作劇場『牧場の少女カトリ』の音楽の初CD化! 放送当時発売された音楽編アルバムから主題歌と交響詩「フィンランディア」を除く全曲を収録しました。高額商品ですが、名作アニメファンの方はぜひ!
https://www.amazon.co.jp/dp/B07JVF89ZP/


 5月31日にアニメ『LUPIN THE IIIRD 峰不二子の嘘』が一部劇場で公開される。小池健監督がこだわりの作画と演出で『ルパン三世』をアニメ化した「LUPIN THE IIIRD」シリーズの3作目。音楽は前2作に続いて、ジェイムス下地が担当している。
 『次元大介の墓標』『血煙の石川五ェ門』と、独特のルパン音楽を構築してきたジェイムス下地が今度はどんな音楽をつけてくるか。映像ともども大きな楽しみだ。
 今回は「LUPIN THE IIIRD」シリーズの前にジェイムス下地が小池健監督と組んだ劇場アニメ『REDLINE』(2010)を取り上げよう。

 ジェイムス下地は1965年、北海道出身。「ペプシマン」(ペプシコーラ)、「カーキン音頭」(フロム・エー)などのヒットCM音楽を手がけた作曲家・音楽プロデューサーである。音楽は少年時代から好きだったが音楽家になるつもりはなく、CMディレクター志望だった。しかし、学生時代にCM制作現場を見学させてもらって、とても下積みには堪えられないと痛感。CM音楽の制作に関心が移っていった。CM音楽制作会社で年間1000本近い現場を経験。やがて作曲もまかせられるようになり、作曲家として活躍を始める。
 映画音楽の仕事は「ウルトラマンゼアス」(1996)から。2000年に石井克人監督の「PARTY7」の音楽を担当し、当時としては斬新なサウンドが注目される。「PARTY7」にはアニメーションディレクターとして小池健も参加していた。その縁が「LUPIN THE IIIRD」シリーズにつながることになる。
 『REDLINE』は2010年10月に公開された劇場アニメ。原作・脚本・音響監督を石井克人、絵コンテ・演出・作画監督を小池健が担当している。手描きにとことんこだわり、作画に4年もかかったという映像が圧巻である。主役2人の声が木村拓哉と蒼井優。これがすばらしいハマリ具合で驚く。
 未来の宇宙を舞台に、銀河最速を決めるルール無用のカーレース「REDLINE」に参加するレーサーたちの友情と恋とデッドヒートを描く。見どころは武器使用もOKのレースシーンの迫力と個性的なレーサーたちのキャラクター。「絵と音がすごい『チキチキマシン猛レース』」みたいな劇場作品だ。
 音楽は、映像が完成したあと全面的にジェイムス下地のフィーリングにまかせて作ってもらったという。ここでも聴きどころとなるのは、レースシーンの音楽とレーサーたちに付けられた曲。映像に負けないパワフルなサントラだ。
 サウンドトラック・アルバムは2010年10月にジェイムス下地の独立レーベル good-beat.com から発売された。「PARTY7」のサントラも「LUPIN THE IIIRD」シリーズのサントラもこのレーベルから発売されている。
 収録曲は以下のとおり。

  1. Yellow Line
  2. Inuki
  3. REDLINE Title
  4. Boy’s Memory
  5. Winner March
  6. ROBOWORLD TV
  7. TV Show
  8. ROBOWORLD
  9. EUROPASS
  10. Mogura Oyaji
  11. OASIS
  12. And it’s so beautiful(feat.Kitty Brown)
  13. Shinkai
  14. MachineHead
  15. Capture Operation
  16. Let me love you(feat.Veronica Torraca-Bragdon)
  17. Get The Stones(feat.Andrew O.Jones)
  18. Crab Sonoshee
  19. 彼のシフトはブンブンブン(feat.SUPER BOINS)
  20. LynchMan & JohnnyBoya
  21. Redline News
  22. Gori-Rider
  23. Miki & Todoroki
  24. Put-up Guy
  25. Red Angels
  26. Three-point decomposition cannon
  27. Tension
  28. Chatter Void
  29. Volton Unit
  30. Vertical Drop
  31. Moniter Room
  32. Sand Biker
  33. Spinning Car
  34. Trouble
  35. Semimaru
  36. Gangstar
  37. Flying Finger
  38. Funky Boy
  39. REDLINE
  40. Exceed Limit
  41. Dead Heat
  42. REDLINE DAY(feat.Rob Laufer)

 収録時間約79分とボリュームたっぷり。楽曲は基本的に映像に合わせて作曲されている。サントラでは作中で使用されなかった部分も聴くことができる。
 1曲目の「Yellow Line」は冒頭のREDLINE出場者を決めるレースシーンの曲。7分近い長さでくり返されるリズムとリフ。いやが上にもテンションが上がる。
 メインタイトルの「REDLINE Title」は50秒程度の短い曲。打ち込みのリズムからコーラスが入り、短いジングルで終わる。CM音楽のようなキャッチーな作りである。
 レーサーが登場するときに流れる曲がどれも秀逸だ。マシンヘッド登場場面の「MachineHead」は「♪マシンヘッド」と歌うコーラス入り。美女2人組のスーパーボインズ登場場面の「彼のシフトはブンブンブン」は2人が歌うキャラソン。リンチマン&ジョニーボーヤ登場場面の「LynchMan & JohnnyBoya」ではコーラスだけでなく、2人のセリフまで入る。
 同じ曲をくり返し使うTVアニメではキャラクターごとに「○○のテーマ」を設定することはよくあるが、映画音楽でここまでやるのは珍しい。ぜいたくな作り方である。マシンヘッドの曲とスーパーボインズの曲はのちのレースシーンでも流れて、キャラクターを印象づけている。
 独裁国家ロボワールドの大統領とボルトン大佐がレースの開催を阻止しようとする場面に流れるオルガンの曲「ROBOROWLD」「Three-point decomposition cannon」「Funky Boy」などは、わかりやすい「悪のテーマ」風。これもTVアニメ的だ。短い登場シーンでキャラクターの立ち位置を伝える工夫だろう。
 また、いちいちそれらしく作曲された劇中のニュース番組のジングルやBGMも耳に残る。細かいところまでこだわった音楽作りは「ここまでやるか……」と呆れるほどだ。
 短い尺で観客を集中させ、心に何かを残す音楽はとてもCM音楽的。メロディやサウンドがということではなく、音楽のコンセプトがそうなのだ。『REDLINE』はジェイムス下地がCM音楽制作で培った技術やノウハウがフルに生かされた作品なのである。
 本作の音楽でもう一つ印象的なのがボーカル曲である。
 ヒロインのソノシーが登場する場面に流れる「And it’s so beautiful」、主人公JPの回想場面に流れる「Let me love you」、ロボワールドの街で聴こえる「Get The Stones」、スーパーボインズのテーマ曲「彼のシフトはブンブンブン」。
 どれもキャッチーでスタイリッシュ。劇中では一部しか流れないが、ちゃんとフルサイズの楽曲が作られている。まるでタイアップ曲のように。これもまた別の意味でCM音楽的だ。
 トラック30からが劇中のクライマックス。ゴールを目指すレーサーたちとレースを阻止しようとするロボワールド軍、レースに熱狂し応援する人々らが入り乱れる、レース&バトルシーンになる。ボロボロになったレーサーたちが立ち上がって走り始める場面のタイトルチューン「REDLINE」では、冒頭シーンの曲「Yellow Line」のモチーフがくり返される。最後の壮絶な競り合いのあとに、美しいエンディング曲「REDLINE DAY」が流れる演出も素敵だ。

 CMディレクター志望から音楽制作の道に入ったジェイムス下地の音楽の作り方は、音楽家というよりディレクター、プロデューサーに近い。映像で何を伝えたいのか? どんな世界を見せたいのか? そこから音楽のコンセプトを決め、曲作りに入る。音楽面での演出家の役割を担っているのだ。小池監督が音楽についてほとんど注文をつけないというのも、氏のディレクターとしての資質に信頼を寄せているからだろう。
 この『REDLINE』のサントラ、試写会に来た人の75%が買って帰ったという(ジェイムス下地氏談)。それもうなずける。作品を観たらサントラを買わずにいられない。そのくらい勢いとパワーのあるサウンドトラックである。ヘッドフォンでなくスピーカーで、大音量で聴きたい1枚だ。

REDLINE オリジナルサウンドトラック
Amazon

アニメ様の『タイトル未定』
204 アニメ様日記 2019年4月21日(日)

2019年4月21日(日)
『スパイダーマン:スパイダーバース』をシネマサンシャイン池袋で、ワイフと一緒に観る。前回はIMAX 3D字幕版で、吹替版はこれが初めて。吹替版もよかった。アニメーションとしてどんなことが行われているのかを確認するなら、2Dのほうがいい。

2019年4月22日(月)
調布で『劇場版 幼女戦記』を「岩浪音響監督監修 シアタス調布”存在4DX”魔音術式上映! 」で観た。戦闘シーンの音響のよさは言うまでもない。TVアニメの『MIX』を1話から3話まで観た。この作品ならではの「語り口」を作ろうとしているのではないかと思った。

2019年4月23日(火)
昼から夜までかけて、打ち合わせ四本立て。事務所での企画打ち合わせ、アニメーターさんとの打ち合わせ、また、アニメーターさんと打ち合わせ、さらに別の方との打ち合わせ。20年以上、一緒に仕事をしてきたその方が業界を去るらしいことを知る。

2019年4月24日(水)
Netflixで『リラックマとカオルさん』を観始める。かなりいい。生活系アニメに近い。こういう書き方をすると、誤解されるかもしれないけど、僕の感覚では『魔法のスター マジカルエミ』に近い。そして、ストップモーションアニメならではの作品にもなっている。同じ物語、同じキャラクター、同じカット割りで手描きアニメでやっても、この存在感は出ないだろう。実写でもやれたとしても違うだろう。
印刷会社から「アニメスタイル インタビューズ01」の見本が届いた。ページ数が少ないことは分かっていたけれど、実際に手に取ってみると、今までの「アニメスタイル」との厚みの違いに驚く。

2019年4月25日(木)
『リラックマとカオルさん』を最終回まで観て、また1話から最終回まで観る。カオルさんの理想の異性のイメージとか、通信販売で買い物をし過ぎた際の金額とか、意外な笑いどころもあり。SNSで、KADOKAWAから「Animec」が刊行されるらしいことを知る。

2019年4月26日(金)
ゴールデンウィーク前で事務作業が山盛り。

2019年4月27日(土)
午前中に、ユナイテッド・シネマとしまえんで『アベンジャーズ/エンドゲーム』を2D吹き替え版で鑑賞。3時間の上映時間も長くは感じなかった。立派な出来だった。お見事。

第610回 アニメ監督の仕事、令和元年(1)

 予定どおりこちらの話題でいきます。

アニメ監督が「監督としてやらなければ(できなければ)ならない仕事」は時代の空気に合わせて年々変わる。当たり前だと思います!

 アニメ監督とはいったい何をする仕事なのでしょうか? この問いに対する様々な答えを先輩・後輩から聞きます。例えばメジャーな返答は「監督は画を描く仕事じゃない」と。アニメーター出身監督&現役アニメーターの俺に対してだから、あえて仰ってるのか分かりませんが、自分より年配の方によく言われました。もっと端的に「監督は画を描くべきではない!」と力説された方も。「自分で画を描いたら演出が巧くならないよ!」と。これは一理あると思いますし、少し前までは自分も結構信じてました。でも「監督は画描きじゃない」主張って本当に信憑性あるのでしょうか? 俺に言わせると、それを本気で仰っているのであれば、その監督は「画を作る現場の苦労」を全然知らないだろうし、もしかするとおのれ自身を脅かす存在になるであろう監督志望の有望アニメーターに諦めさせて、自分の地位を守りたいだけの発言でしょうと。少し考えれば分かる話だと思いますが、歴史上、アニメーションが発祥した時は基本皆「素人」なはずです。つまり「これから始まるアニメという文化はワシがすべてを取り決める! これがマニュアルじゃ! まずイマジナリーラインは守るべしっ! カメラは無駄に動かしてはならーぬ!」と仰った文字どおりのアニメ様が存在した? そんなわけがないでしょう。どんな文化も最初は手探り。始めは小品な短編アニメならアニメーターが演出(監督)も兼ねてたものはもちろんありましたが、商業ベースの映画を作る時でしょう——「画描きじゃない監督」がまるで演出のスタンダードであるかのような勘違いが生まれたのは。だって昔の映画興行サイドの偉い人たちがアニメーターに映画を作らせるわけありませんから。映画として長編アニメ映画を作る際、それがたとえアニメであろうと映画として公開されるのであれば「画が描ける、コンテ切れる云々」よりも、興行側としては「映画を撮ってお客に観せた」という実績のほうが断然優先なのは当然のこと。アニメの現場にしても、まだ「画で映画を作るって、演出(監督)は何をするのか?」が誰も分かっていなかった時代、今のようにレイアウトチェックができることが監督の条件ではなかったはず。そこでは必ずしも演出家がコンテを描かなければならないというルールも概念もなかったでしょうし、ましてや原画に手を入れるなど——。アニメ史に興味がある方なら当然ご存知かと思いますが、日本アニメの黎明期、アニメ会社(スタジオ)によってそれぞれ監督として立てた人材が違います。例えば虫プロダクションやタツノコプロはマンガ家、つまり手塚治虫先生や吉田竜夫先生らが監督として最初立ってました。東京ムービー(現・トムス・エンタテインメント)は初代社長の藤岡豊さん繋がりで、人形劇方面からおおすみ正秋さんや長浜忠夫さん。そして東映動画(現・東映アニメーション)は当然実写方面から薮下泰司さん。薮下さんは実写映画のなかでも教育映画出身だと大塚康生さんから聞いたことがあります。つまりアニメーション=まんが映画=子ども向け。「教育映画は実写とはいえ同じ子ども向け」というわけです。もっと遡ると、戦中には国産アニメ初の長編映画といわれる『桃太郎 海の神兵』(1945年公開/74分)があり、こちらの監督の瀬尾光世さんはすでに作画もご自身でやられています。ちなみに瀬尾さんは、後に「せお・たろう」のペンネームで絵本作家としてご活躍された方で、手塚治虫先生は自身のインタビューで「せお・たろう」さんと呼んでました。
 また話がバラバラになりましたが、早い話、初の長編カラー映画『白蛇伝』(1958年)の薮下監督が実写出身であったとしても、それより13年前に自ら画も描く瀬尾監督が『桃太郎』を作ってたということは、単純に前述の「監督は画を描くべきではない」論はまったく根拠がないということが分かります。そして後のTVシリーズにおいても演出を担ったのはマンガ家や人形劇作家と様々であると。特に絵コンテに関しては「画が描ける描けないに関わらず、演出家自身が描くべき」という概念は東映以外は見当たりません。他はほぼアニメーターが(マンガ感覚で、かもしれませんが)描いていたようです。前述の長浜監督はコンテは描かれませんが音響にはかなり拘ったらしく、色が付かない(線撮り)状態では絶対アフレコはせず、役者さんの前で芝居の手本を見せたり、遂には音響監督もされてました。これもひとつのスタイル。

アニメ様の『タイトル未定』
203 アニメ様日記 2019年4月14日(日)

2019年4月14日(日)
早朝の新文芸坐に。オールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 113 2018年傑作アニメ! リズ・ペンギン・若おかみ」の最後を見届ける。オールナイト終了後に、館内の掲示で気がついたのだが、お客さんの投票による「2018年 新文芸坐ベストテン」で、邦画の10位が『若おかみは小学生!』、12位が『ペンギン・ハイウェイ』だった(Twitterで『ペンギン・ハイウェイ』が11位だとツイートしたが誤りだった。すいません)。素晴らしい。

2019年4月15日(月)
「アニメスタイル インタビューズ01」の追い込みの日々。昼までに「アニメスタイル インタビューズ01」の最後の原稿。

2019年4月16日(火)
「アニメスタイル インタビューズ01」の追い込みの日々。コンビニを数件回って「気分はもう戦争3(だったのかも知れない)」が掲載された「漫画アクション」を購入した。

2019年4月17日(水)
「アニメスタイル インタビューズ01」校了。印刷会社に組んでもらったスケジュールから遅れてしまった。夕方、散歩をしたら事務所の近くに、アニメファンのためのヘアサロンができていた。

2019年平4月18日(木)
「アニメスタイル インタビューズ01」の編集作業が一段落したので、通常モードに戻る。午前中はデスクワーク。昼にポケモンGOでポケモンの交換をするために、業界のある方と喫茶店で待ち合わせ。ポケモンGOについて色々と話をした。僕も熱心にポケモンGOをやっているほうだと思うけれど、その方のやり込みにはとても敵わない。ちなみにその人は僕よりも年上だ。池袋HUMAXシネマズで『名探偵コナン 紺青の拳』を観る。絵コンテに目を通していたが、完成作品を観るのはこれが初めて。上映終了後、周囲に座っていた女性客達が大喜び。ファンが喜ぶポイントをしっかり押さえていた。新文芸坐で今後のオールナイトについて打ち合わせ。

2019年4月19日(金)
新宿ピカデリーで『劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』を初日朝イチの回で観る。感想としては「卒業した部の先輩が、後輩達が頑張っているのを見ている気分」だった。細かいところでよかったのは小笠原晴香元部長の描写。この日記がアップされる頃には、公開から数週が経っているはずなので、以下はネタバレ込みで書く。物語の構成を気にしながら観ると、映画の途中で久美子達が全国大会に行けないことが分かってしまう。それがちょっと残念だった。それから、新1年生にスポットが当たるので、どうしても「久美子の話」としては弱くなる。それでも真摯な作りで作品としてまとめていた。いつか作られる3年生編では、かつてのあすか先輩に匹敵するような3年生に、久美子がなれるかどうかが描かれるのだろう。意識して他人と距離をとっていたあすかに対して、久美子はどうするのかという点に興味がある。また、上級生ではあるけれど演奏が上手ではない夏紀のドラマを、葉月が引き継ぐことになるはずで、そこも楽しみだ。3年生編のタイトルは『劇場版 響け!ユーフォニアム~奇跡のアンコール~』がいいな(もっとヒネったタイトルになると思うけど)。
さらに『響け!ユーフォニアム』の話を続ける。石原立也監督の劇場作品と、山田尚子監督の劇場作品が作られると発表された時、正直、興奮した。『響け!ユーフォニアム』TV第1シリーズはどこまでが石原監督のカラーで、どこまでが山田監督のカラーか分からなかった。2人がそれぞれ監督作品を作ることで、カラーが分かると思ったのだ。結論としては分かった。いや、分かったような気がする。

2019年4月20日(土)
ユナイテッド・シネマとしまえんで『キャプテン・マーベル』の吹き替え版を、ワイフと一緒に観る。多くの人がそう思ったに違いないけれど、主人公の終盤での強さは反則レベルで、1人でサノスをやっつけられるのではないかと思った。話は変わるが、今日も池袋の街にはコスプレイヤーさんが大勢いて、『紺青の拳』のアーサー・ヒライのコスプレをしている人がいた。コナンではなくて、アーサー・ヒライのコスプレである。

第609回 人間は多面的

 前回の続きをもう少々。10数年前の原画仕事の時の、コンテを描かずに飲み歩いて原画マンを手空きにして、アフレコもバラされたダメ監督の話。いきなり話が逸れますが、役者(声優)さんにも「○月〜○月までの○曜日押さえ」があります。だからコンテのスケジュールを引っ張りすぎると、役者さんらの次のレギュラーが始まったりして、結果アフレコを2〜3回に分け、それぞれの空き時間に抜き抜きで収録するハメになります。特に人気声優さんがレギュラーになってる場合は。制作プロデューサーも音響制作も非常に困るわけです。
 実は我々みたいなフリーのアニメーターにとっても「ふざけんなっ!」で。だって「ひと月でこなせるカット数が減る=稼ぎが減る」のですから。このことは現在のアニメーター不足、さらに大手アニメ会社によるアニメーター大量拘束に繋がってるわけですが、その話はまた別途。
 で、ダメ監督の現場の話に戻します。俺個人はそのデスク氏が気の毒だったので、スタジオに入って別作品の仕事をやりつつ、ダメ監督のコンテが上がったところから、できる数だけ描く約束をして待ちました。その際、

 と腹の中で思っていました。これ性格悪いとか裏表のあるイヤな奴? そう思われる方、人間をなんだと思ってるのでしょうか? 俺に言わせると人間なんて誰でも「腹の中」というものがあります。特にアニメーターとかやってると、例えばモブシーンで「この人は何を考え、何をするためにここにいるのか?」を自分なりに考えて描かないとポーズが同じになってしまいます。だから本来は、そこにいて立ってる人数分の役をこなすつもりでないと描けないもの(もちろんどこまで突き詰めるかはアニメーター毎に個人差はありますが)。「ベルセルク」の三浦建太郎先生も、村人・兵士モブのそれぞれのバックグラウンドを考えて、コスチュームや表情・ポーズを描かれているらしいです。これ役者さんがその他大勢を演じてるのにも通じるし、声優さんのガヤ録りにも言えますね。今思い出しましたが、富野由悠季監督も以前(といっても10年以上前)N○Kの番組に出演なさった際、観客席の一角を差し「例えばあの人はなんでここに来たのか? を考え、名前をつけてまわりの人と絡みだして物語になる云々」と仰ってました。そして自分もアニメーター修業のテレコム時代、先輩から

電車の乗客のポーズを見れば、1人として同じポーズはない!

とも言われてましたから、未だに電車に限らず人ごみの中に入ると、人々のポーズを観察するクセが抜けていませんし、「何しにこの人はここに?」「あの人は誰かと待ち合わせ?」などと考えて歩くので、スマホなどイジらなくても退屈しないのです。そう考えて街に出て、いろんなものを感じてると当然思うはずです。

世界には自分以外の思考・感情が何十億、さらに同じ数だけの「腹の中」がある! しかも皆同じ時間を共有しているわけだから、自分が今真剣に考えてる「世の中の問題点」とは別の事柄について、自分と同じ時間考えてくれてる他人がいる!

と。今までのこの連載で語ってきたどれよりも当たり前の話してますよね? 例えば前述のダメ監督にも「役者やアニメーターの都合よりも大事な飲み会がある! そこで決まった仕事を皆に落してあげるんだから」な言い分(彼なりの正義)もあるんでしょう。そう、人間は物事を皆「多面的」に考えるべきで、もし「自分、腹立った!」があるなら、まず「相手の方は?」を同時に考えるのが普通。
 だから! ここからは持論なのですが、真剣に取り組んでるアニメーターやアニメ演出家なら「あれで監督できるなら俺だって」と腹の中で考えてる後輩らが現場には何十人とかいることくらい想像してるべきなんです。

何せ白紙から人の感情を組み立て、
描くのがアニメーターでありアニメ演出家!

ですからね。それぞれのキャラを正面だけでなく、側面や腹の中まで想像して描かなければ、アニメの作画もコンテも演出もできないのです、本来。出崎統監督も『おにいさまへ…』(1991年)で「エイリアン(女性)を想像して描く」と仰ってたし、『おにいさまへ…』を観れば、出崎作品の独特のカメラワークやストップモーションは、そのキャラの多面性を描くのに必要なのだと分かるはず。その腹の中を作画の芝居で表現できるならアニメーターセンスで表現すればいいし、それをカメラワークでこなすのも全然ありだし、脚本が書けるなら演者さんのセリフに託す、それはおのおの自由。「何をどう描いて伝えるのか?」が何よりも優先されるべき作品づくりにおいて、「FIXであることが最優先!」を掲げるだけの者こそ、90年代最高! に取り憑かれた頭デッカチのただのインテリ。

映像作品にとって、やっちゃいけない撮り方なんてありません! 「やっちゃいけないこと」を羅列する消去法的指導から、新しい作品なんて作れるはずがない!

と、また話が逸れて持論でした(読みにくくてすみません)。
 つまり前回・今回で言いたかったことは、他人の気持ちが分かるまでできなくても、少なくとも「分かろうとする」くらいができないとコンテも原画も描けませんし、脚本も書けないと思います、ということです。そして、それに取り組む努力を怠っている監督は、自然淘汰されていくでしょう。当然これは自らを律するためにも言ってることで、それこそ面接の時からウチの新人たちには「俺から仕事を奪ってくれ! 俺を干すことができたら一人前だ!」と言ってるんです。で、次回は

アニメ監督が「監督としてやらなければ(できなければ)ならない仕事」は時代の空気にあわせて年々変わる。当たり前だと思います!

って内容になる確率は60%。

第158回アニメスタイルイベント
亀田祥倫の新世紀の思い出のアニメを語る会

 6月2日(日)に開催するトークイベントは「第158回アニメスタイルイベント 亀田祥倫の新世紀の思い出のアニメを語る会」である。これは『モブサイコ100』『映画ドラえもん のび太の宝島』等で知られるアニメーターの亀田祥倫をメインとした企画で、彼が好きなアニメ、観てきたアニメについて語るというもの。ざっくばらんな雰囲気の、肩の凝らないトークとなるはずだ。現在のところ、決まっている出演者は亀田祥倫とアニメスタイル編集長の小黒祐一郎。追加のゲストについては改めてお伝えする。

 今までのイベントと同様に、トークの一部を「アニメスタイルチャンネル」で配信する。前売り券は本日・2019年5月8日(水)から発売開始となっている。詳しくは、以下のリンクの阿佐ヶ谷ロフトAのページを見てもらいたい。また、会場ではアニメスタイルの関連書籍を販売する予定だ。

■関連リンク
アニメスタイルチャンネル
https://ch.nicovideo.jp/animestyle

阿佐ヶ谷ロフトA
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/117521

第158回アニメスタイルイベント
亀田祥倫の新世紀の思い出のアニメを語る会

開催日

2019年6月2日(日)
開場12時00分 開演13時00分

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

亀田祥倫、小黒祐一郎(司会)

チケット

前売1500円 当日1800円(共に飲食別・要1オーダー)

■アニメスタイルのトークイベントについて

 会場となる阿佐ヶ谷ロフトAはトークライブができる居酒屋。入場料(今回は前売1500円、当日1800円)とは別に飲食(最低でもドリンク1杯)をお願いしている。ソフトドリンクもあるので、未成年の方でも大丈夫。 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものだ。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていないし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれない。その点は、あらかじめお断りしておく。

第156回 時代を越えた競演 〜ママは小学4年生〜

 腹巻猫です。令和の時代もよろしくお願いします。都内で5月19日まで開催中の「シド・ミード展」眼福でした。『YAMATO2520』『∀ガンダム』の展示もあり。もう1回ぐらい行きたい。


 今回は90年代アニメの中でも個人的に心に残る1本、『ママは小学4年生』を取り上げる。
 『ママは小学4年生』は1992年1月から12月まで放送されたTVアニメ。サンライズ制作のオリジナル作品である。『魔神英雄伝ワタル』(1988)、『魔動王グランゾート』(1989)などを手がけた井内秀治が総監督を務めた。
 ある日突然、15年後の未来からやってきた自分の赤ん坊を育てることになった小学4年生の少女なつみと周囲の人々の奮闘を描くSF作品。といってもSF要素は最小限に抑えられ、なつみの子育ての苦心や赤ん坊をめぐる騒動が、ときにコミカルに、ときに感動的に描かれる。SF的設定を借りて「親子の絆」を描いた、ほかにあまり類のないユニークな作品である。1993年にはSFファンがすぐれたSF作品を選出する「星雲賞」のメディア部門を受賞。派手さはないが、根強いファンがいる名作だ。

 しかし、音楽については謎がある。
 音楽担当としてクレジットされているのは、千住明、神林早人、加藤みちあきの3人。
 千住明は(記録に残る限り)これが初のアニメ作品である。それまでに劇場作品と単発ドラマを数本担当しているだけで、映像音楽作家としては駆け出しの時期だった。本作の翌年には『機動戦士Vガンダム』の音楽担当に抜擢され、TVドラマではヒット作「高校教師」(1993)、「家なき子」(1994)を続けて担当して注目される。まさにこれから飛躍しようとする直前の作品が『ママは小学4年生』だった。
 神林早人は井内秀治監督の『魔神英雄伝ワタル2』(1990)の音楽を門倉聡、兼崎順一と共同で手がけている。代表作のひとつはTVアニメ『コボちゃん』。アニメソングの作・編曲も多い作家である。
 加藤みちあきは1989年におおたか静流とのユニットdidoを結成し、1989年にポリスターよりアルバム「Pagina」をリリースしてメジャーデビュー。J-POPからCM音楽、映像音楽と多彩な分野で活躍する音楽プロデューサー、ギタリスト、作・編曲家である。アニメでは『ホワッツマイケル』(1988/馬飼野康二と共同)、『神風怪盗ジャンヌ』(1999) などの音楽を手がけている。
 ひとつの作品に3人の作曲家がクレジットされることも珍しいし、映像音楽の経験が少ない顔ぶれが集まった経緯も興味深いところだ。
 さらに、サントラ盤を手にすると、もう1人意外な作家が参加していることがわかる。

 その話の前に、本作の音楽アルバムを紹介しよう。
 本作の音楽アルバムはビクター音楽産業(ビクターエンタテインメント/現・フライングドッグ)から2タイトルが発売されている。1992年5月に発売された「ママは小学4年生 音楽篇」と1993年11月に発売された「CDシネマ ママは小学4年生〜AFTER〜」である。後者はオリジナルドラマを収録したドラマCDだが、アルバムの後半はBGM集になっている。
 収録曲は以下のとおり。

「ママは小学4年生 音楽篇」

  1. 未来からのプロローグ(作・編曲:神林早人)
  2. 愛を+ワン(歌:益田宏美)
  3. 友情(作・編曲:千住明)
  4. 急いで!!(作・編曲:千住明)
  5. 戸惑い(作・編曲:神林早人)
  6. さわやかな風(作・編曲:神林早人)
  7. 不思議なroute(作・編曲:千住明)
  8. この愛を未来へ(インスト・ヴァージョン)(作曲:樋口康雄/編曲:千住明)
  9. 夢のDoor(作・編曲:千住明)
  10. 愛を+ワン(インスト・ヴァージョン)(作曲:樋口康雄/編曲:千住明)
  11. みらいのテーマ(作曲:池毅/編曲:神林早人)
  12. ふれあい(作・編曲:神林早人)
  13. なつみのテーマ(作曲:神林早人/編曲:加藤みちあき)
  14. ほんのりLOVE(作・編曲:千住明)
  15. この愛を未来へ(歌:益田宏美)
  16. 未来へのエピローグ(作・編曲:神林早人)

「CDシネマ ママは小学4年生〜AFTER〜」

  1.愛を+ワン〜Short version(歌:益田宏美)
  2~7.ドラマ
  8.この愛を未来へ〜Short version(歌:益田宏美)
  〈ミニBGM集〉
  9.天才!江地さん(作・編曲:神林早人)
  10.恋はトラブル(作・編曲:加藤みちあき)
  11.危険な予感(作・編曲:神林早人)
  12.みらいちゃんのしっぽ(作・編曲:神林早人)
  13.今夜は騒ごう(作・編曲:加藤みちあき)
  14.ド・キ・ド・キ(作・編曲:千住明)
  15.タイムマシン(作・編曲:神林早人)
  16.夢が丘の希望(作・編曲:神林早人)

 「音楽篇」は主題歌2曲とBGM14曲を収録。頭にプロローグ曲とオープニング主題歌を、最後にエンディング主題歌とエピローグ曲を配した構成。日常、心情、ミステリー、サスペンスとバラエティに富んだ曲が選曲され、イメージアルバム風にまとめられている。
 しかしながら、総収録時間は40分足らずと短くて、ファンにはもの足りなかった。
 そのためか、2枚目の「CDシネマ」にはBGM8曲が追加収録された。
 繊細でクラシカルな音楽を書く作家という印象が強い千住明だが、本作ではシンセサイザーを取り入れた小編成の曲を提供していて、まだ本領発揮の感じではない。神林早人と加藤みちあきの曲も、同様にシンセ+小編成のオケ+バンドという編成。クラシック寄りでもなく、完全にポップス寄りでもなく、その中間的なサウンドである。
 注目は「音楽篇」のトラック11「みらいのテーマ」だ。作曲者は池毅。TVアニメ『超獣機神ダンクーガ』の音楽や『DRAGON BALL』『おジャ魔女どれみ』の主題歌など、キャッチーな楽曲で知られるヒットメーカーである。『ママは小学4年生』のサントラではこの1曲のみにクレジットされている。
 「みらいのテーマ」は、第2話以降、本編冒頭に毎回のように流れる「あたし、水木なつみ、小学4年生」というなつみのナレーションのバックにかかるおなじみの曲だ。池毅らしいポップなメロディの曲……というより、完全に歌メロ。もしや主題歌のコンペに残った曲だったのでは……? と想像がふくらむ。
 先に触れた、『ママは小学4年生』の音楽にかかわったもう1人の「意外な作曲家」が池毅なのだ。
 池毅の参加を含め、本アルバムからは、なんとなく音楽の方向性を決めかねているような雰囲気がうかがえる。
 赤ちゃんをめぐるドタバタに焦点を置いたにぎやかな作品なのか、親子の絆と友情に焦点を置いた心情重視の作品なのか。要素としてはどちらも重要なのだが、本編を観てきたファンとしては、後者の方向の音楽をもっと聴きたかったという思いが残る。
 以下、2枚のアルバムから印象深い曲を紹介しよう。
 「音楽篇」のトラック3「友情」はトランペットの温かい音色が奏でるミディアムテンポの日常曲。なつみとクラスメートとの友情や日常生活を描写する曲として第1話から使われている。アルバムの導入にぴったりのさわやかな曲。
 同じくトラック9「夢のDoor」はバイオリンが美しいメロディを奏でるしっとりとした心情曲。2クール目の重要エピソードである第17話「ゴメンネみらいちゃん!」で、なつみが同級生の大介にロンドンに行く決意を話す場面に流れている。
 その第17話で、なつみがみらいと離れて暮らす寂しさを大介に打ち明ける場面に流れたのがトラック14「ほんのりLOVE」。ピアノ・ソロによるメロディが胸に沁みる曲で、なつみと大介のラブテーマという趣だ。この曲は第49話「わたしがママです!」で、なつみがクラスメートたちにみらいは未来から来た自分の赤ん坊だと真実を明かす感動的なシーンに使われている。
 トラック12「ふれあい」は、オーボエのメロディが切ない心情曲。第17話と最終話では、なつみが悲しみをこらえてみらいと別れる決意をする場面に流れていた。
 ほかに、タイトル通り風が吹き渡るようなトラック6「さわやかな風」、次回予告に使われたメロディを発展させたトラック13「なつみのテーマ」も聴きごたえがある楽曲だ。
 樋口康雄の曲を千住明が編曲したトラック10「愛を+ワン(インスト・ヴァージョン)」は、木管とストリングスのアンサンブルがクラシカルで優雅なサウンドを聴かせる、さすが千住明と言いたくなる曲。本編では短いアレンジがたびたび使われていた。

 2枚目の「CDシネマ」には「音楽篇」からもれた重要な曲が収録されている。
 トラック9「天才!江地さん」は自称天才科学者の江地さん(エジソンのもじり)のテーマ。江地さんが初登場する第12話「タイムマシンで出発!」で江地さんが作った蒸気機関車型タイムマシンが爆走するシーンに流れた。
 同じく第12話でなつみたちがタイムマシンを見つける場面に流れたのがドラマティックな曲想のトラック15「タイムマシン」。ちょっと『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のテーマを思わせる曲である。
 トラック12「みらいちゃんのしっぽ」はシンセの音色が楽しく軽快に踊るユーモラスな曲。なつみがみらいの世話に手を焼く場面やなつみと大介の口げんかの場面など、日常シーンを彩る曲としてよく使われていた。
 トラック14の「ド・キ・ド・キ」は終盤のエピソードで、なつみとみらいをめぐるうわさ話が町に広まる場面やそれを聞きつけたレポーターがみらいの家に集まってくる場面などに使われたコミカルタッチのサスペンス曲。
 「CDシネマ」に収録された最重要曲はトラック16「夢が丘の希望」だ。ストリングスの駆けあがりから始まるミュージカルナンバーのようなロマンティックな曲で、第17話のラスト、ロンドン行きをやめたなつみが大介の抱くみらいのもとに帰ってくる場面に使われた。また、最終話「さよならみらいちゃん」では、タイムマシンで未来に帰っていくみらいとなつみたちとの別れの場面に流れて感動を盛り上げた。『ママ4』ファンには忘れがたい1曲である。

 さて、本作の音楽について語るなら主題歌に触れないわけにはいかない。
 オープニング主題歌「愛を+ワン」とエンディング主題歌「この愛を未来へ」は、ともに岩谷時子の作詞、樋口康雄の作・編曲、益田宏美(現・岩崎宏美)の歌唱による曲。
 個人的に「愛を+ワン」は90年代アニメソングのベストと呼びたい超絶名曲である。天才・樋口康雄。どうしたらこんな曲が生まれるのか想像もつかない。筆者が樋口康雄本人から聞いた話によれば、アメリカで仕事中に発注を受け、録音まで間がなかったので、帰国する飛行機の中でメロディを書き、帰国してすぐオーケストレーションして録音したのだそうだ。それでこんな曲ができてしまうのだから、やはり天才……。
 同時に、録音がぎりぎりだったことから、本作の主題歌づくりは難航したのでは……? とまたも想像がふくらんでしまう。
 ともあれ、すばらしい主題歌を得たことで、本作の音楽イメージは決定的なものになった。クラシック音楽を思わせる樋口康雄の精巧なオーケストレーション、岩谷時子のロマンティックな詩、益田宏美のみごとな歌唱。聴くたびにうっとりしてしまう。この歌が毎回流れることで、『ママは小学4年生』は日常アニメというよりも、スケールの大きな、時代を超えた大河ロマンの風格をそなえた作品に見えてくる。なつみたちの日常の背景にある、過去から未来へと連なる親子の絆を、この曲が表現しているのだ。
 そして、エンディング主題歌「この愛を未来へ」に樋口康雄はユニークなしかけを施している。モーツァルトの「ピアノソナタK.545」を伴奏にしてメロディを作ってしまったのだ。これまた天才としか言いようがない発想と技巧である。
 これで『ママは小学4年生』の音楽のピースがすべてそろった。
 千住明、神林早人、加藤みちあき、池毅、樋口康雄、そして、モーツァルト。18世紀の天才から現代の天才、これから活躍する未来の作曲家までがそろった顔ぶれは壮観だ。本作の音楽がどのように作られたか、まだまだ研究の余地がある。しかし、時代を越えた作曲家の競演は、過去・現在・未来と続く親子の絆を描いた『ママは小学4年生』という作品にふさわしかった、と思うのである。

ママは小学4年生 音楽篇
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CDシネマ ママは小学4年生 〜AFTER〜
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