第109回 一陣の風 〜ちはやふる〜

 腹巻猫です。8月11日(金)夜、阿佐ヶ谷ロフトにて「渡辺宙明トークライブPart11」を開催します。脚本家の荒川稔久さんをトークゲストに迎え、宙明先生の最新作や作詞とメロディとの関係などについて語っていただきます。コミケ初日の夜ですので、打ち上げも兼ねてぜひおいでください。前売券は7月1日(土)10時より発売! 詳細は下記を参照ください。
http://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/68971


 6月24日、前回紹介したコンサート「作曲家の祭典2017」に足を運び、4人の作曲家の音楽とパフォーマンスを大いに堪能した。
 今回は、そのコンサートでも取り上げられたTVアニメ『ちはやふる』の音楽を紹介しよう。
 TVアニメ『ちはやふる』は2011年10月から2012年3月まで放映された作品。原作は末次由紀の同名少女マンガ。『カードキャプターさくら』(1998)、『NANA』(2006)等を手がけた浅香守生が監督、アニメーション制作をマッドハウスが担当している。深夜枠の放映だったが人気作品となり、第2期『ちはやふる2』が、2013年1月から6月まで放送された。2016年には広瀬すず主演の実写劇場作品も公開されている。
 美人だがかるた以外目に入らない「かるたバカ」の高校生・綾瀬千早を主人公に、競技かるたの世界で腕を競う少年少女たちが描かれる。技を磨き、ライバルと闘うスポ根的な要素と少女マンガらしい繊細な心情描写の融合が絶妙で、ぐいぐい引き込まれる。この作品で競技かるたがどういうものか具体的に初めて知ったというファンも多いだろう(筆者もそうだ)。
 音楽は山下康介が担当した。シンプルな楽器編成で試合の緊迫感や焦燥感、静かな闘志、仲間への友情や恋心などを描写している。派手なサウンドで自己主張する音楽ではないが、耳に残る。『ちはやふる』という作品にふさわしい、端正なたたずまいと躍動感を兼ねそなえた音楽である。

 山下康介は1974年生まれ、静岡県浜松市出身。小さい頃からピアノを習っていたが格別音楽好きというわけではなかった。転機は中学生になって吹奏楽部に入部したこと。楽器のアンサンブルの楽しさを知り、自分でも曲を書くようになった。高校生時代には自作のスコアを見てもらおうと作曲家・すぎやまこういちの事務所に送ったところ、本人から電話がかかってきて励まされたという逸話が残っている。本格的に作曲家を志して勉強を重ね、東京音楽大学音楽学部に入学。作曲専攻/映画・放送音楽コースに進んだ。
 在学中から山下のオーケストレーションの技術は評価が高く、山下が師事した羽田健太郎は山下のことを「百点満点の学生」と評したという。世に出たきっかけも、羽田健太郎のコンサートのアレンジを1曲まかされたことだった。卒業後、TVドラマ、アニメ、劇場作品、ゲーム音楽の作曲家として、また、ポップス、クラシックのアレンジャーとして活躍。代表作には、ゲーム「信長の野望」シリーズ(1996〜2009)、TVドラマ「花より男子」(2005〜2007)、「クロサギ」(2006)、「有閑倶楽部」(2007)、「小暮写眞館」(2013)、特撮ドラマ「魔法戦隊マジレンジャー」(2005)、「海賊戦隊ゴーカイジャー」(2011)、「手裏剣戦隊ニンニンジャー」(2015)、「宇宙戦隊キュウレンジャー」(2017)、アニメ『Xenosaga THE ANIMATION』(2005)、『ガラスの艦隊』(2006)、『デジモンクロスウォーズ』(2010)、『パズドラクロス』(2016)などがある。2009年公開の劇場アニメ『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』では、宮川泰、羽田健太郎の跡を継いで新作BGMを書き下ろしている。
 山下康介といえば、オーケストラを巧みに鳴らす、華やかで勢いのある音楽というイメージがある。出世作となったゲーム「信長の野望」がそうだし、一連のスーパー戦隊シリーズの音楽もそうだ。アニメでも、壮大な宇宙SFや冒険ものをよく手がけている。少女マンガ原作のTVドラマ「花より男子」や「有閑倶楽部」だって、メインテーマはミュージカル音楽のような華やかさにあふれている。
 しかし、山下康介を語る上で、もうひとつ忘れてはならないことがある。それは、山下康介が大林宣彦監督の作品とずっと寄り添ってきたことである。
 音楽にこだわることでも知られる大林監督は、1996年のTV映画「三毛猫ホームズの推理」でアレンジャーとして山下康介を起用。以降、山下は作・編曲家として、ほぼすべての大林作品の音楽制作に関わってきた。「あの、夏の日 〜とんでろ じいちゃん〜」(1999)、「理由」(2004)、「転校生 —さよなら あなた—」(2007)、「この空の花 長岡花火物語」(2012/メインテーマ作曲・久石譲)、「野のなななのか」(2014)などなど。そのほとんどは、學草太郎と並んで音楽担当にクレジットされている。學草太郎とは大林宣彦の作曲家としての筆名。大林監督が紡ぎ出したメロディを、山下康介がシーンに合わせてオーケストレーション、補作し、映画音楽として完成させているのである。
 大林監督は独特の音楽の付け方をする。心の中で何かが動くとき、その気持ちと連動するような音楽が鳴る。とまどいやひらめき、歓び、失意。感情に音楽がついているのではなく、音楽が感情を導いているような印象を受けることすらある。そういうときの山下康介の音楽は、心にすっと入り込んでくる。音楽が流れるシーンが多いのに、押しつけがましくない。どこか懐かしくて少しさびしい。
 『ちはやふる』の音楽は、そんな大林映画の音楽に感触が似ている。煌びやかな宇宙SFやヒーローものとは違った、山下康介の抒情的な持ち味が生かされた作品である。
 サウンドトラック・アルバムは、第1期に「ちはやふる オリジナル・サウンドトラック&キャラクターソング集 第1首」と「同 第2首」の2枚が、第2期に「ちはやふる2 オリジナル・サウンドトラック」が1枚(Webラジオとのカップリングで2枚組)発売された。
 今回はサントラ1枚目の「第1首」から紹介しよう。収録曲は以下のとおり。

  1. YOUTHFUL (TVサイズ)(歌:99RadioService)
  2. かるた日和
  3. 高ぶるキモチ
  4. まなざし
  5. 心構え
  6. 秘めた想い
  7. 「ちはやふる」メインテーマ
  8. かるたの目
  9. 過去の記憶
  10. かるたなんて
  11. 勝利への道
  12. 焦り
  13. 思わぬ展開
  14. 本当の実力
  15. 和美人
  16. 曇りココロ
  17. 大きな存在
  18. 活動開始!
  19. おさななじみ
  20. チームちはやふる
  21. 「ちはやふる」メインテーマ〜p.f.ver.〜
  22. full throttle(歌:綾瀬千早[CV:瀬戸麻沙美])
  23. 夢への地図(歌:綿谷新[CV:細谷佳正])
  24. NICK MAN!(歌:西田優征[CV:奈良徹])
  25. そしていま(歌:瀬戸麻沙美)

 オープニング主題歌のTVサイズで始まり、エンディング主題歌のフルサイズで終わる構成。トラック22〜24の3曲は声優が歌うキャラクターソングである。
 山下康介がラジオ「山下康介の作曲夜話」で語ったところによれば、本作の音楽メニューはTVアニメとしては曲数が少なく、初回録音は30曲程度だったそうである。
 楽器編成は、ストリングスとハープ、木管がフルート、オーボエ、クラリネット1本ずつ、金管もトランペット、トロンボーン1本ずつにホルンが2本。加えて、近年は打ち込みですませることが多い4リズム=ドラムス、ベース、ギター、ピアノが生で入っている。スーパー戦隊シリーズなどの音楽と比べるとシンプルな編成だ。
 このシンプルな編成が効果を上げている。百人一首の札を一瞬の判断で取り合う競技かるたの世界に雄大重厚な音楽は似合わない。颯颯とした一陣の風のような音楽がふさわしい。ほとんどの曲はドラムス、ベース、ギターを伴わないクラシカルなスタイルで統一されている。リズムセクションが入る曲も生楽器でバンド的な躍動感を出し、現代の少年少女が活躍する作品らしい軽快さを表現している。
 トラック2「かるた日和」は軽い雰囲気の日常テーマ。ピアノのリズムの上でバイオリンのメロディが軽やかに歌う。ドラムスが入って、弦と木管が楽しく絡み合うバンド音楽風に展開。高校でかるた部を作ろうと意気込む千早が幼馴染の太一と再会する場面や千早たちがかるた部の部員を勧誘する場面などに流れた。浮き立つ気持ちを描写する曲だ。
 トラック3「高ぶるキモチ」はかるたの対戦に向けて高揚する気持ちを表現する曲。弦の刻みが胸の鼓動の高まりを表し、ピアノがメインテーマのモティーフの断片を繰り返す。後半には金管が同じモティーフを奏して心に情熱があふれていくようすを描き出す。第1話では、小学生の千早が転校生の新とかるたの対戦をし、初めてかるたの面白さを知る場面にフルサイズ流れていた。対戦中、劣勢から逆転のチャンスをつかむ場面などにも流れた印象的な曲だ。
 トラック4「まなざし」は木管とストリングスが繊細に奏でる心情曲。中盤からピアノがメロディを引き継ぎ、暖かく奏される。第1話で太一と再会した千早が小学生時代を思い出す場面に使われている。
 トラック5「心構え」では、かるたに向かう気持ちが弦と木管のアンサンブルで描写される。ひとつのモティーフがさまざまに変奏されて繰り返され、試合に挑む期待と不安、静かな闘志が伝わってくる。
 次のトラック6「秘めた想い」は全篇を通して印象深い曲だ。ホルン、ストリングス、木管がゆったりと奏でる3拍子のメロディ。抒情的な旋律がしみじみと胸を打つ。第1話のラストで千早がかるたで日本一になりたいと思い立つ重要なシーンにほぼフルサイズ流れていた。山下康介によればもともとは新の想いを表現する曲だったとのことだが、新だけでなく、広くキャラクターの心情を表わす曲として多くの感動的な場面を飾っている。
 そして、続くトラック7が「ちはやふる」メインテーマ。サントラ盤ではメインテーマを冒頭に持ってくることが多いが、本アルバムはここでようやくメインテーマが登場する。新との出会い、かるたとの出会いを経て、千早の胸にかるたの女王=クイーンになりたいという夢が芽生える。その展開を受けてのメインテーマである。よく考えられた曲順だ。
 メインテーマのモティーフとなっている5音のフレーズは、山下康介がタイトルの「ちはやふる」の5音を象徴するものとして考えたとのこと。このフレーズが決まるまで2週間ほどを費やしたが、決まってから後の作曲はスムーズに進んだという。『ちはやふる』の音楽では、この5音のモティーフがさまざまな楽曲の中に登場する。曲数が少ないこともあり、本作ではキャラクターごとのテーマなどは設けず、メインテーマを中心に全体が構築されている。映画音楽のような音楽設計が特徴である。
 トラック8「かるたの目」は筆者が本作の中でももっとも印象に残っている曲。一瞬の緊迫、心の揺れを表現するような冒頭の弦とピアノの動きが鮮烈である。緊張した心が徐々に動き始め、しだいに新しい風景が見えてくる。最後に登場するのはホルンと木管が奏でるメインテーマのメロディ。2分間の演奏時間にドラマが凝縮されている。大林作品にもこのような音づかいで心情を表現するシーンがたびたび登場する。大林流音楽演出を経験した山下康介らしい映画的な楽曲だ。
 本作の音楽の特徴のひとつは、1曲1曲が長く作られていること。アルバム収録用に長く録ったわけではなく、音楽設計の必然から長くなっている点が重要だ。本アルバムに収録されたBGM20曲の中でも1分台の曲は4曲しかなく、あとはすべて2分以上である。
 これもラジオで山下が語っていた話だが、かるた競技には糸が張り詰めたような緊張感から、上の句が詠まれたときの一瞬の勝負、試合の中での駆け引きなど、静と動の対比と大きなうねりを持った流れがある。競技の中の心と体の動きを音楽でも表現するため、1曲の中で展開のある長い曲になった。歌もののように1コーラスを繰り返す曲ではなく、次々と新しい曲想に展開していく曲が多い。最後まで緊張感を保ちながら、じっくり聴ける曲ばかりである。
 アルバム中盤は、かるたを辞めてしまった新との確執、かるた部員勧誘の苦心などをイメージした楽曲が並ぶ。
 トラック12「焦り」は曲名通り、焦燥感を表現する曲。ほとんど弦とピアノだけの編成で不安といらだちの心情が表現される。シンプルだが山下の曲作りの巧みさが際立つ曲である。
 木琴と木管が奏でるトラック13「思わぬ展開」は、猪突猛進する千早などを描写したちょっとユーモラスな曲。フルート奏者・赤木りえのアドリブが効いている。第14話では現クイーン・詩暢(しのぶ)と対戦した千早が詩暢のレアなTシャツの柄に気づく場面に流れていた。
 呉服屋の娘・かなちゃんこと奏の登場シーンに流れたトラック15「和美人」は、ほっと一息つける曲。邦楽器風の演奏で雅な雰囲気を出している。
 アルバムの終盤は千早たちのかるた部の活動が本格化したイメージで盛り上がっていく。
 アクティブなトラック18「活動開始!」は、かるた部の部員がそろい始める場面などに流れた軽快な曲。アコースティックギターのカッティングを導入にドラムス、ベース、ピアノが加わり、弦と木管楽器がさわやかにメロディを奏で始める。青春の躍動感を表現するバンドサウンドが心地よい。
 トラック19「おさななじみ」は千早と太一と新の友情をイメージした曲。ピアノのアルペジオをバックに弦とクラリネットがノスタルジックなメロディを奏でる。懐かしくてどこかさびしい。ここにも『転校生』などの大林作品の香りがただよっている。
 トラック20「チームちはやふる」は、かるた部の快進撃を予感させる勢いのある曲。4リズムをバックに弦、木管、金管がメインテーマのモティーフを歌い継いでいく。それぞれの楽器がかるた部メンバーを表現しているようにも聴こえる。コーダは一転して静かな曲調になり、ピアノがそっとメインテーマを奏でて終わる。余韻のある心憎いアレンジである。
 BGMパートの最後はメインテーマのピアノ・バージョン。本編を観てから聴くと、かるたへの想い、友情、秘めた恋心、さまざまな想いが詰まった曲に聴こえてくる。
 少ない曲数の中で練り上げられた充実したサウンドトラックだ。アルバムを聴き終えた印象もさわやかで、まさに一陣の風を浴びたような気分になる。

 物語の後半、「チームちはやふる」で高校かるた選手権地区大会を勝ち抜いた千早たちは、全国大会に挑む。サントラ2枚目「第2首」には、そんな展開に合わせた楽曲が収録されている。試合の駆け引きや強敵の出現を描写する音楽はドラマティックさを増して聴きごたえも十分。さらに「ちはやふる2 オリジナル・サウンドトラック」には千早たちが高校2年生となった第2期の追加楽曲がまとめられている。ぜひ「第1首」とあわせて聴いていただきたい。
 「作曲家の祭典2017」では、メインテーマの変奏のひとつ「かるたとともに」(「第2首」に収録)がコンサート用のオーケストラ・アレンジで演奏された。昨年の「作曲家の祭典2016」では「メインテーマ」が演奏されている。いつか、『ちはやふる』だけでボリュームのある組曲を作って演奏してくれないだろうか。それだけ魅力的な作品であり、音楽だと思うのだ。

ちはやふる
オリジナル・サウンドトラック&キャラクターソング集 第1首
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ちはやふる
オリジナル・サウンドトラック&キャラクターソング集 第2首
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ちはやふる2 オリジナル・サウンドトラック
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107 アニメ様日記 2017年6月11日~

2017年6月11日(日)
午前3時45分に事務所入りはいつものこととして(超朝型なのです)、午前7時から堺三保さんと打ち合わせ。午後はオールナイト関連で確認する事があって『カラフル』を鑑賞。いやあ、面白かった。初見時よりも楽しめた。物語の語り手として腰が据わっているところが素晴らしい。今、原恵一監督の劇場作品でどれが一番好きかと聞かれたら『カラフル』と応えてしまうに違いない。

2017年6月12日(月)
新宿バルト9で『KING OF PRISM PRIDE the HERO』を鑑賞。午前8時40分の回だった。今回は尺も長いし、広げた風呂敷を畳まなくてはいけないという事もあり、1作目『KING OF PRISM by PrettyRhythm』とは作りがやや違う。僕的には1作目に感じた驚きはなかったけれど、トンデモない映画であるのは間違いないし、ファンの期待に応えた作品になっているはず。
 昼間は「設定資料FILE」の構成。夜は会食。業界の先輩のある方に、5月3日の「第130回アニメスタイルイベント アニメ様のイベント 雑誌デザインのこだわり編」のトークに感銘を受けたと言っていただく。「小黒君は本当に『編集』が好きなんだね」とのこと。酔っ払いが好き勝手に話したイベントだったので、呆れられたと思っていた。よかった。

2017年6月13日(火)
午前中から夕方まで「設定資料FILE」の構成。設定資料と縮小コピーにまみれる。

2017年6月14日(水)
朝6時からのTOKYO MXの『母をたずねて三千里』1話を観る。ドラマづくりが大人目線で驚く。これは高畑勲監督の作品が客観的であるのとは、また別の話なのだろう。この年齢になって観ても『母をたずねて三千里』は凄い。
 午後は『山村浩二 右目と左目でみる夢』の試写会に。全9本で約57分の短編集。僕が内容を理解できたのかどうかは置いておくとして、贅沢な時間を味わった。気に入ったのは「古事記 日向篇」と「干支 1/3」。

2017年6月15日(木)
東京アニメセンターの「ポッピンQ展 POP IN MUSEUM」に行く。展示は設定資料、絵コンテ、原画など。原画は原画マンが描いたもので、僕が見たかった作監修正原画ではない模様。ただ、レイアウト段階での作監修正を元にして原画が描かれているはずで、展示されていた原画から作監修正の線がどんなものかを想像してみた。

2017年6月16日(金)
新宿ピカデリー『劇場版 黒子のバスケ LAST GAME』最終上映が朝の8時50分からで、観に行こうかと思ってサイトで確認したら、すでに完売していた。朝なのに。
 病気で休まれてた藤原啓治さんが、仕事を再開されることになったそうだ。ああ、よかった。ずっと心配していた。また新作であの声を聞ける日が楽しみだ。
 池袋に改装中のビルがあり、少し前から「すごいTSUTAYAができる」と掲示されていた。すごいTSUTAYAってなんだ? 店舗の大きさから考えて「レンタルの在庫が日本一ですごい」はないだろうなあと思っていたのだが、どうやら、アイドル&アニメ&コミック専門の店舗らしい。池袋だから、乙女ロード的な意味で女性ファンに特化した店ができるのではないかと予想していたのだけど、外れたかな。

2017年6月17日(土)
早朝、24時間営業の山下書店大塚店で雑誌を数冊買い込む。「EX大衆」7月号は「サンライズ栄光の全史」という記事の富野由悠季監督インタビューが目当て。『無敵超人ザンボット3』についてのコメントが印象に残った。
 夜はオールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションVol. 94 アニメファンなら観ておきたい200本 原恵一監督のアニメーション映画」。原恵一監督は缶のハイボールを片手に楽屋入り。トークは公開10周年を迎えた『河童のクゥと夏休み』がメインで、進めているうちに『河童のクゥ』から『ドラえもん』の話に流れた。『河童のクゥと夏休み』は「平凡な日常に非日常が入ってくる」という意味では『ドラえもん』と同じ。かつて、アニメ業界に『ドラえもん』を子どものものだからと馬鹿にする人達がいて、それがあったので『ドラえもん』のリアリティを増したものを作りたいという気持ちがあったのだそうだ。原さんが若手演出家として『ドラえもん』に参加していた頃、子ども騙しの作品ではないという意気込みで臨んでいたのも、それとリンクしている。それから、30数年前の僕との出会いの話になり「小黒さんは見るからに胡散臭かったけど、最初に自分の仕事を取り上げてもらったので恩を感じている」と言っていただいた。
 聞こうと思って用意していた話のいくつかは聞けなかったけれど、リラックスムードで気持ちよく話ができたので、僕的には満足。復帰が決まった藤原啓治さんについても話ができたし、トークの最後に原さんが「トイレ行きたくなっちゃった」と言って、慌てて席を立ったのも可笑しかった。用意していた質問はまたの機会に。
 明け方に新文芸坐に戻って、オールナイトの終了を見届ける。

第519回 手描きの有りよう


と、今週のイボ事情も最終回を迎えたトコで、今回は単刀直入に

動画を100枚も描いたことない人に
「やっぱりアニメは手描きでしょ!」と言ってほしくありません!

って。モブシーンやアクションシーン、メカやダンス、楽器演奏シーンに至るまで、動画100枚すら描いたことない監督に、そう易々と「やっぱりここは手描きじゃないとなー」とか「なんで皆なんでもCGにしちゃうのかなぁ」「アニメの監督なんだから、もっと手描きを大事にしないとさぁ」などなど。まあ、絶対言うなというのは言い過ぎですが、少なくとも

一度、手描き動画の「手間」を想像くらいしてみてください!

と。こう言うとアニメーターではない制作出身の監督さんで「失敬な! 自分は制作時代、何カットも動画をやったことくらいはある!」と仰る方、何人も知ってます。が、その方々がやったことある動画って、せいぜい「各話演出時代に足りない目パチ・口パクを描いたことがある!」だったり「中割りを2〜3枚足したぜ!」くらい。いいとこ「原トレ(原画のトレス)のみの止めは描いたことある」です。俺が言いたいのは

原トレ何十枚、中割り何十枚の「普通の動画」のこと!!

です。アニメーター出身でない監督さん、分かります? 動画用紙にビッシリ埋められたモブや爆発、髪・フリルの嵐のようななびき美少女、ロボットアクション。これ動画1枚何時間かかって、1日何枚描けるか!? ヘビーな内容のヤツは1日3枚しか上がらないとかあるんですよ! 昔の名作○場的な、線が少なくカゲなしキャラで繰り返し鑑賞しないこと前提な動画なら「ワシの若い頃は1日30枚は当たり前じゃった!」とか言ってられますが、現在のブルーレイやネット配信で何回こすってもボロが出ない、カゲ付きロボやフリフリ美少女の中割り動画を、1日30枚描けると思いますか? もうその基準自体が現代に相応しくないでしょう? あと

手描きの動画だから無条件に高尚なアニメ!

とかってのもどうですか? 1970年代生まれなら、いちばん多感な時期にジブリアニメを見て以来、今の今まで手描きアニメ素晴らしき! となるのは自由ですが、2000年生まれの若者に「手描き=高尚」は通じますかね? こーゆーと今度は「だからこそ手描きの素晴らしさを伝えなければならんのじゃろ!」とか言われそうですが違います。俺が言いたいのは「ほどほどに!」です。今の視聴者さんは、子どもの頃からCGバリバリ回り込みのゲームとかで遊んでるわけで、つまりは「画が動くなんて普通のこと」。その人たちに手描きの素晴らしさを伝えたいなら、ある程度——それこそほどほどに普段彼らが慣れ親しんだ映像をベースにするところから始めなきゃならないはず。その上で、手描きの魅力を味わえる作品を監督は作らなきゃなりません。でないと、作っても古くてまず観てもらえないでしょう。そしてさらにアニメータ側からすると

監督さん、そんなに「手描き、手描き」言うなら、あなたのコンテはこれだけの手間と労力のかかる手描き動画を十分に活かせる内容なんですか!? 本当に信じていい、このコンテ? 自分の何週間分の労力、絶対に無駄になりませんよね?

なんですよ。ご理解いただけますでしょうか、無条件手描き至上主義監督の方々様。

第134回アニメスタイルイベント
公開30周年 山賀博之が『王立宇宙軍 オネアミスの翼』を語る

 2017年2月18日(土)のオールナイトに続き、公開30周年を迎えた『王立宇宙軍 オネアミスの翼』にスポットをあてたトークイベントを開催する。オールナイトでも山賀監督に『王立宇宙軍』について話をうかがったが、もっともっとたっぷりとお話をうかがいたい。そのように考えてアニメスタイル編集部は、今回のトークイベントを企画した。

『王立宇宙軍 オネアミスの翼』はガイナックスの第一作であり、公開時に24歳であった山賀博之監督をはじめ、貞本義行、庵野秀明といった若いスタッフが中心となって作り上げた劇場アニメーションだ。作り手のエネルギーが迸ったフィルムであり、映像についても作劇についても非常に先進的。今の目で観ても充分に見応えのある作品だ。未見の方はDVDなどで作品を鑑賞してから、イベントに足を運んでほしい。

 今回のイベントもトークのメイン部分を「アニメスタイルチャンネル」で配信する予定だ。会場は阿佐ヶ谷ロフトA。前売り券は2017年6月24日(土)から発売開始だ。

■関連リンク
アニメスタイルチャンネル
http://ch.nicovideo.jp/animestyle

阿佐ヶ谷ロフトA
http://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/68416

第134回アニメスタイルイベント
公開30周年 山賀博之が『王立宇宙軍 オネアミスの翼』を語る

開催日

2017年8月6日(日)
開場18時 開演19時 終演22時予定

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

山賀博之(『王立宇宙軍 オネアミスの翼』監督)
小黒祐一郎(アニメスタイル編集長)

チケット

前売1500円 当日1800円(共に飲食別・要1オーダー)

■アニメスタイルのトークイベントについて

 会場となる阿佐ヶ谷ロフトAはトークライブができる居酒屋。入場料(今回は前売1500円、当日1800円)とは別に飲食(最低でもドリンク1杯)をお願いしている。ソフトドリンクもあるので、未成年の方でも大丈夫。 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものだ。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていないし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれない。その点は、あらかじめお断りしておく。

第133回アニメスタイルイベント
元祖 ここまで調べた『この世界の片隅に』 平成29年夏編

 多くの観客に受け入れられ、ロングランが続いている劇場アニメーション『この世界の片隅に』。先日、アヌシー国際アニメーション映画祭で長編部門審査員賞を受賞したばかりだ。

 片渕須直監督と制作スタッフは『この世界の片隅に』の制作過程で、舞台となる地域や時代風俗について綿密な調査研究を行った。それに裏付けされた臨場感や登場人物の存在感が本作の魅力のひとつだ。
 その調査研究の結果を披露していただくのが、トークイベント「ここまで調べた『この世界の片隅に』」シリーズだ。今回の出演者には片渕監督を予定している。今までのイベントでも「そんなところまで調べるの?」「当時の日本の風俗って、そうだったの!」と観客から驚きの声を頂戴した。今回のイベントも深い話をうかがうことができるはずだ。

 今回もトークのメイン部分を「アニメスタイルチャンネル」で配信する予定だ。会場は阿佐ヶ谷ロフトA。前売り券は2017年6月22日(木)から発売開始だ。

■関連リンク
アニメスタイルチャンネル
http://ch.nicovideo.jp/animestyle

阿佐ヶ谷ロフトA
http://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/68348

第133回アニメスタイルイベント
元祖 ここまで調べた『この世界の片隅に』 平成29年夏編

開催日

2017年7月16日(日)
開場18時 開演19時 終演22時予定

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

片渕須直(『この世界の片隅に』監督)
小黒祐一郎(アニメスタイル編集長)

チケット

前売1500円 当日1800円(共に飲食別・要1オーダー)

■アニメスタイルのトークイベントについて

 会場となる阿佐ヶ谷ロフトAはトークライブができる居酒屋。入場料(今回は前売1500円、当日1800円)とは別に飲食(最低でもドリンク1杯)をお願いしている。ソフトドリンクもあるので、未成年の方でも大丈夫。 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものだ。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていないし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれない。その点は、あらかじめお断りしておく。

106 アニメ様日記 2017年6月4日~

2017年6月4日(日)
国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2017」に行く。お目当ては、なかむらたかし監督の新作『イリオンとカリシア』。なかむら監督としては初の3DCG作品で、7分ほどの短編だ。元々、セルルックの3DCG作品を作るテストとして作られたもので、本来は一般公開する予定ではなかったのだという。キャラクターを含めて、なかむら監督らしいビジュアル。アクションも「アニメ」的。この延長線上で作れば、なかむら監督作品として、見応えのある長編が3DCGで作れるのではないかという可能性を感じた。同イベントでは、他にも印象に残る作品があった。愉快だったのがドイツの「素晴らしきかな、自然!-カメレオン編」。韓国の「グリーン・ライト」は画作りにいいところがいくつも。
 夕方は池袋の家電量販店に。4Kのモニターで『君の名は。』のプロモーションを流していたのだけど、驚くくらいに映像が鮮明。というか驚いた。これは凄いなあ。モニターを買うのは少し後になると思うけど、『君の名は。』は4K Ultra HD Blu-ray同梱版を購入してもいいかもしれない。

2017年6月5日(月)
ネットで『響け!ユーフォニアム』の完全新作劇場作品が2本作られることを知る。山田尚子監督による「みぞれと希美の物語」と、石原立也監督による「2年生になった久美子たちの物語」だそうだ。これは楽しみだなあ。

2017年6月6日(火)
『ポッピンQ』のBlu-rayを流しながら作業。『ポッピンQ』は僕にとっては愛おしい作品だ。名作とか傑作とかではなくて、愛おしい。アニメーションとして丁寧に作られているし、作品全体にもキャラクターにも初々しさがある。作画に関しては、キャラクターデザイン・総作画監督の浦上貴之さんはかなり丁寧な仕事をしているに違いない。線の感じもよい。修正原画が見てみたい。それから、集団ヒーローものとしてもいいところが沢山ある。最初に主人公4人が能力を発現させたところは高揚感が素晴らしくて、観る度にワクワクする。最後の戦いで伊純(特殊能力が俊足)が、あさひ(柔道と合気道の遣い手)をおんぶして、ボスキャラがいるところまで駆け上がるんだけど、そういう「特殊能力以外の部分は普通の女の子」な感じもいい。客観的に見ると、作品としてツッコミどころもあるんだけど、それと愛おしさはあまり関係ない。
 それから『ポッピンQ』は、僕の「セーラームーンアンテナ」にビビっとくるものがあるのだ。ちなみに、セーラームーンアンテナとは、アニメ『美少女戦士セーラームーン』濃度の高いものに反応するアンテナで、『セーラームーン』ファンに備わっている機能である。そのビビっときたのが、作画監督として伊藤郁子さんが参加しているのと関係しているのかどうかは、まだ解明できていない。「この人に話を聞きたい」で宮原直樹監督に取材をして伊藤さんの仕事ぶりについて聞いたのだが、まだ確信はもてないのだ。

2017年6月7日(水)
ドラマ「怪獣倶楽部」1話を観た。僕よりも上の世代の特撮ファンの方々をモデルにした作品だ。世代が違うので、感覚がズレているかもしれないが、時代の気分がちゃんと出ていると思った。それでいて、カジュアルな作りになっているのもいい。
 「三つ目がとおる オリジナル版大全集」が刊行されるそうだ。その告知で、今までの単行本で写楽と和登さんの入浴シーンがカットされていたことを知る。ああ、なるほど。なんとなく単行本は淡白になっている印象だった。他にも連載と単行本の違いは多かったはず。オリジナル版の刊行は嬉しいなあ。
 平松禎史さんとの打ち合わせのために吉祥寺に。目的地の町を目指してウロウロしていると、同行した編集スタッフCが、あるお店を指さして「小黒さん、ウッドベリーズがあります!」と言ったのだった。おお、これが『Occultic;Nine -オカルティック・ナイン-』でりょーたすが行きたがっていたウッドベリーズか。『オカルティック・ナイン』は吉祥寺が舞台だったものなあ。思わぬところで聖地巡礼。

2017年6月8日(木)
またまた吉祥寺。昼から駅前のルノアールである監督と打ち合わせ。何故かその監督とは縁もゆかりもない山田尚子監督の素晴らしさについて熱弁を振るってしまった気がするが、多分、気のせいではない。
 Amazonから事務所に「日本アニメ(ーター)見本市資料集Vol.3 カセットガール 全記録全集」が届く。表紙デザインはBetaのビデオケースをモチーフにしたもので、編集部の若いスタッフに「これ、分かる?」と聞いたところ「Betaってなんですか?」と返された。それはそうだよなあ。

2017年6月9日(金)
「カセットガール 全記録全集」をパラパラとめくる。巻頭言に「トラディショナルなアニメムックのスタイルをイメージしながら編集」とある。アニメムック的かどうかは分からないけど、確かに何だか懐かしい部分がある。スタッフ座談会の文字組みの感じとか。最初と最後の実写のページはSTUDIO VOICEあたりの雑誌っぽいと思ったり。
 11時から南阿佐ヶ谷で打ち合わせがあり、2時間ちょっとかけて池袋から歩いた。

2017年6月10日(土)
土曜だけど、事務所で作業。急いでやらなくてはいけない仕事もあるのだけど、あえて、急いでやらなくてもいい仕事に手をつける。やってみるとこれが難しい。作業をしながら、NHK-FMの「アニソン・アカデミー」を流す。ピンチヒッターパーソナリティが前川陽子さんで、ゲストが「ひょっこりひょうたん島」つながりで久里洋二さん、若山弦蔵さんという濃さ。若山弦蔵さん関連曲として『プロゴルファー猿』の「夢を勝ちとろう」が流れたんだけど、これはヒネり過ぎかな。若山さんがミスターXを演じたのは『プロゴルファー猿』のスペシャル版だけで、その時は「夢を勝ちとろう」は使われていないはず。

第518回 イボと作画と最終回

イボを切除してきました!


 術後、痛くて口が7割しか開かず、飯が食いづらい食いづらい。けど休んでる暇はありません。なぜなら『ベルセルク』最終回の作画が大忙しだから! 以前某プロデューサーに言われました。

板垣さんは現場で最前線を突っ走り過ぎなんですよ。監督ってのは本来、最後尾で作品を守る立ち位置でしょう?

とか。うーむ、なるほど。それも一理ある。というか正確に言うと「そーゆー管理で成立する現場もある!」です。コンテ切って打ち合わせして発注したら上がるのを待つだけ。そもそも、その某Pにも言ったんだけど「そんな現場で作った事ない、俺!」と。しかし、それは決してPのせいではなく、すべて「自分のせい!」だって自分の名前にお金を集める力がなく、スタッフを集める人望もない。それを他人のせいにしたってカッコ悪いだけ!

どのような悪条件でも、作品の出来不出来の責任はすべて俺がとる!
そう言えない人は監督名乗っちゃダメ!!

そうだからこそ、スタッフは監督のワガママを少〜しだけ聞いてくれるんだと思いますが、どう?
 あとまぁ、ぶっちゃけ板垣は現場が好きなんで、俺の画がまだ使えるんなら若手に交じって原画描きたいんです。そのうち必ず「板垣の画なんて必要ない」と言われるんだから、そう言えるまでは描かせてもらえたらなぁと。それと若いスタッフには、そんな先頭に立ってもがく今の俺を見て、

責任をとれるって楽しそう、俺(私)も責任を負いたい!

と思ってもらえたら嬉しい限りです。だってアニメ作りは、本当にどこを切り取ってもシンプルに面白いので、皆ただ原画だけ描いて喜んでないで、コンテでも監督でもドンドン「やりたい!」って手を挙げればもっと楽しいですから。って、ああ、また中途半端だ。

 そんなわけで『ベルセルク』の作画に戻ります(汗)! 短くて申し訳ありません。

第108回 安息の地を求めて 〜ウォーターシップダウンのうさぎたち〜

 腹巻猫です。6月24日に洗足学園前田ホールにてコンサート「作曲家の祭典2017」が開催されます。渡辺俊幸、田中公平、植松伸夫、山下康介の4人が自作のオーケストラ作品を自らの指揮で披露するコンサート。今回はアニメ音楽やゲーム音楽がたっぷり演奏されるので、サントラファンも聴き逃せません。詳細は下記公式サイトを参照ください。
http://www.senzoku-online.jp/concert2017/


 前々回『ニルスのふしぎな旅』、前回『おはよう!スパンク』と動物が準主役を務めるアニメの話題が続いたので、今回は動物つながりで海外のアニメーション作品を取り上げよう。
 本国公開は1978年、日本では1980年に公開されたイギリスの劇場アニメーション『ウォーターシップダウンのうさぎたち』である。
 原作はイギリスの作家リチャード・アダムスが1972年に発表した同名のベストセラー小説。動物が主人公の作品なので児童文学と思われがちだが、どちらかといえば大人に向けた作品だ。
 主人公はイギリスの田園地帯に暮らす野うさぎたち。危険を察知する力にすぐれたファイバーは「恐ろしいことが起こる。野原が血だらけになる」と災厄を予言する。平和に慣れた大人のうさぎたちは信じないが、ファイバーの兄ヘイゼルと一部のうさぎたちはその言葉を信じ、故郷を捨てて、平和に暮らせる土地をめざして旅を始める。タイトルの「ウォーターシップダウン」は、うさぎたちがたどりつく安息の地の名である。
 水彩画で描かれたイギリスの田園風景、渋い色合いのリアルな動物たち。ピーターラビットの世界を大人向けにしたような画作りは日本のTVアニメを見慣れた目にはなじみにくいが、観ているとすぐに気にならなくなる。動物のアニメートを指導したのは、『バンビ』や『ファンタジア』に参加したアメリカのアニメーター、フィリップ・ダンカン。動物のリアルな動きが、死と隣り合わせの旅の緊迫感を支えている。戦う力を持たないうさぎたちが、知恵と勇気で苦難を乗り越えていく物語は深い感動を呼ぶ。生と死、信頼と裏切り、支配と自立、世代交代など、多彩なテーマが織り込まれた端正で味わい深い作品である。

 筆者は1980年の公開当時、劇場で観た。同じ年に『ヤマトよ永遠に』『地球へ…』『サイボーグ009 超銀河伝説』などの劇場アニメが公開され、どれも観に行った記憶があるが、ふり返るともっとも心に残っているのが本作品である。
 日本公開は、古川登志夫、杉山佳寿子、はせさん治、森山周一郎、檀ふみらが出演した吹き替え版。筆者はのちに日本語版レーザーディスクも買った(今でも持っている)。
 音楽もすばらしい。音楽を担当したのはイギリスの作曲家アンジェラ・モーレイとマルコム・ウィリアムソン。主題歌はマイク・バットの曲をサイモンとガーファンクルの片割れ、アート・ガーファンクルが歌っている。日本語版ではその主題歌を井上陽水が訳して歌ったことも話題になった。
 公開当時、主題歌と音楽を収録したサウンドトラックLPが日本でも発売された。その後、国内ではCD化されていないが、海外では90年代に一度CDになり、つい先ごろ、2016年12月にSACDとCDのハイブリッド仕様で再発売された。公開当時と比べると話題にする人は少なくなったが、今でも世界中に熱心なファンがいる作品なのだ。輸入盤はAmazonやタワーレコードで購入することができる。
 サウンドトラック・アルバムの収録曲は以下のとおり。

  1. Prologue And Main Title/プロローグ&メインタイトル
  2. Venturing Forth/決意の前進
  3. Into The Mist/霧の中へ
  4. Crossing The River And Onward/河を越えて
  5. Fiver’s Vision/ファイバーの見解
  6. Through The Woods/森を通って
  7. The Rat Fight/ラット・ファイト
  8. Violet’s Gone/スミレの季節が去って
  9. Climbing The Down/逆境を乗り越えて
  10. Bright Eyes And Interlude/ブライト・アイズ
  11. Bigwig’s Capture/ビッグウィッグの捕獲
  12. Kehaar’s Theme/キーハーのテーマ
  13. The Escape From Efrafa/エフラファからの脱出
  14. Hazel’s Plan/ヘイゼルの計画
  15. Final Struggle And Triumph/最後の奮闘と勝利
  16. The End Titles/エンドタイトル

 原題の後に添えた日本語タイトルは当時の日本版サウンドトラックLPの曲名。音楽と主題歌をほぼ劇中使用順に並べた構成である。ただし、鑑賞用であることを配慮して一部曲順が入れ替えられている。
 トラック1「Prologue And Main Title/プロローグ&メインタイトル」は本作の冒頭に流れる曲。うさぎたちの伝説を語る絵物語風のプロローグの曲とうさぎたちが暮らす土地を映し出すメインタイトルの曲が1曲になっている。叙事詩的な格調を感じさせる、始まりにふさわしい曲だ。
 プロローグとメインタイトルを作曲したのはマルコム・ウィリアムソン。もともとは彼が全編の音楽を担当する予定だったが都合により降板。指揮を担当していたマーカス・ドッズがアンジェラ・モーレイを推薦した。以降の主題歌を除く全曲がアンジェラ・モーレイの作である。
 マルコム・ウィリアムソンは1931年生まれ。オーストラリア、シドニー出身。1950年からロンドンに移住した。「吸血鬼ドラキュラの花嫁」(1960)などの映画音楽を手がけているが、本来は純音楽の作曲家で、1975年にマスター・オブ・クィーンズ・ミュージックという英国王室付きの音楽師範に任ぜられている。プロローグとメインタイトルを聴いただけでも、彼が創り出す音楽の格調高さが伝わってくる。交響曲、舞台音楽、室内楽など多くの作品を遺して2003年に逝去した。
 アンジェラ・モーレイは1924年生まれ。イギリス、ヨークシャー州出身の作曲家。クラリネットとサキソフォンの奏者として活動したのちに作・編曲家に転身。「ネモ船長と海底都市」(1969)や「八点鐘が鳴るとき」(1971)などの映画音楽を手がけた。当初はウォルター・ストットの名で活動していたが、1972年に性転換して女性になり、アンジェラ・モーレイと名を替えて活躍。日本でも放映されたTVドラマ「ダラス」(1978-1991)、「ダイナスティ」(1981-1989)などの音楽を担当している。2009年に逝去。
 モーレイは本作の音楽を電気楽器やシンセサイザーを使わないクラシカルなオーケストラ編成で書き上げた。木管やハープのデリケートな音色を活かした素朴で自然の匂いのするサウンドである。それが柔らかい色調で描かれた田園地帯の情景にマッチしている。
 アルバムの前半はヘイゼルたちの旅を綴る音楽。霧の中の旅立ち、熊やふくろうが潜む森を抜け、知恵を働かせて川を渡る。休息をとるために潜り込んだ小屋ではねずみたちとひと騒動。うさぎたちの冒険を、モーレイは落ち着いた、けれど緊張感の途切れない音楽で彩っていく。
 モーレイが書いた音楽の中に、本作のメインテーマと呼ぶべき重要なメロディがある。アルバムではトラック4「Crossing The River And Onward/河を越えて」の後半に登場するメロディである。
 川の向こう岸にたどりついたうさぎたちは、もう故郷には帰れないと決意を固める。そこに流れるのがフルートとクラリネットが奏でる前進のテーマ。CDのライナーノーツでは“QUEST”(探究)のテーマと書かれている。この旋律はトラック6「Through The Woods/森を通って」にも登場するほか、本編のさまざまな場面で使用されている。
 マーチというほど力強い曲調ではない。けれど、静かに、たしかに、旅を続けるうさぎたちの希望と決意が伝わってくる。本作を代表する名曲だ。
 このメロディは30数年前から筆者の耳に染みついていて、自分を元気づけたいときなどに、ふと口をついて出ることがある。すぐれた音楽とは、そういうものではないだろうか。
 そのメインテーマが力強く感動的に鳴り響くのが、トラック9「Climbing The Down/逆境を乗り越えて」。うさぎたちがウォーターシップダウンにたどりついた場面に流れる曲である。曲名は「あの丘を登れ」という直訳のほうがしっくりくる。アルバム前半のハイライトである。
 曲名といえば、トラック8「Violet’s Gone」は「スミレの季節が去って」と訳されているが、本来はメスうさぎのヴァイオレットの死とそれに続くシークエンスにつけられた曲。「ヴァイオレットの死」と訳したほうが適切だろう。しかし、「スミレの季節が去って」というタイトルもダブルミーニングの味があり、雰囲気があって悪くない。
 トラック10の「Bright Eyes And Interlude/ブライト・アイズ」はアート・ガーファンクルが歌う主題歌。農夫の鉄砲に撃たれたヘイゼルをファイバーが探しに行く場面に流れる。アレンジはモーレイが担当し、間奏にメインテーマのメロディが挿入されている。
 ファイバーは霧の中でうさぎたちの死神=死の黒うさぎの姿を見る。その幻がファイバーをヘイゼルのもとに導いてくれる。生と死の幻想と愛する者を想う気持ちが溶け合ったような、静謐で美しい曲である。透明感のあるアート・ガーファンクルの歌声がその印象をより強くしている。
 日本語版では同じ場面に井上陽水がカバーしたバージョンが流れる。こちらもガーファンクル版に劣らず、すばらしい出来。この井上陽水版はCD化の機会に恵まれず、高価なCD-BOXにしか収録されていないのがもったいない。
 物語の後半は、獰猛なうさぎの将軍が支配する恐怖政治の国エフラファとヘイゼルたちとの対決が中心になる。スネアドラムがリズムを刻むミリタリー調の曲がエフラファの脅威を表現する。エフラファへの潜入と脱出、ヘイゼルの死を賭した作戦、将軍との決戦。緊迫感に富んだ音楽をバックに描かれるうさぎたちの闘いは壮絶だ。
 そんな中、ほっと一息つけるのが、トラック12「Kehaar’s Theme/キーハーのテーマ」。キーハーはヘイゼルたちの友人となるちょっと風変りなカモメだ。吹き替え版では藤村俊二の軽妙な演技がいい味を出していた。
 キーハーのテーマはユーモラスで明るいワルツ。このテーマは、エンドタイトルの最後にも登場する。メインテーマや「Bright Eyes」と並ぶ、本作を代表する曲のひとつである。
 ラストに置かれた「The End Titles/エンドタイトル」はオリジナル版のエンドタイトル曲。メインテーマと劇中に現れたいくつかのメロディがメドレーで演奏され、最後にキーハーのテーマで明るく締めくくられる。日本語版ではこの曲の代わりに井上陽水の「ブライト・アイズ」がたっぷり流れる。高揚感のあるオリジナル版としっとりとした余韻を残す日本語版。どちらもそれぞれによさがあり、甲乙つけ難い。
 本作のラストシーン。季節がめぐり、年老いたヘイゼルの前に見覚えのある黒いうさぎが現われる。生きることの意味を考えさせられる場面だ。今の年齢になって観返すと、公開当時よりも深い感慨を覚える。自分にとって死がより身近なものになったからだろう。そんなふうに、観る年齢に応じて発見があるのが本作の魅力である。

 本作の音楽は、日本のアニメ音楽に影響を与えたというわけではない。けれども、筆者にとっては特別な位置を占める映画音楽のひとつである。イギリスの伝統に根差した格調のある音楽は時代を超えた普遍性を持っている。それは、『ウォーターシップダウンのうさぎたち』という作品が持つ普遍性と一体のものだ。本編を未見の方は、ぜひDVDなどでご覧になってほしい。

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ウォーターシップダウンのうさぎたち [DVD]
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第517回 時間ありません!

今、めっちゃ忙しいです! 吐きそうなくらい(汗)!

 現在放映中の『ベルセルク』ラストの作画追い込み、『てーきゅう』第9期のコンテ、そして『Wake Up, Girls! 〜新章』のホン読み(脚本打ち合わせ)とコンテ作業! で、この原稿を書いてます(汗)。
 まあ、ここでは毎度お馴染みの忙しいアピール——「ああ、またか」と思ってください。実は本心を言うと「幸せアピール」だったりするので。何しろ今の俺は世に言う「楽しくて楽しくてしょうがない」状態で、新人育成をしつつ、そのスタッフたちと一緒に作ったフィルムが次々できあがってゆく。これで幸せを感じなければバチが当たるというものでしょう? もちろん「どんな作品を作るのか?」の方が重要という人がいるのも分かります。ただ、今の板垣、今のミルパンセがやらなきゃいけないのは作品を作る力を鍛える事。これをまずやってるだけです。正直30代は「なんとか自分の代表作を作らねば!」と意気込んで、身勝手に各スタジオのスタッフを振り回してた自分ですが、その結果、代表作らしいものもできなければ、居着くスタジオもなかったわけ。そこで40代は基本に立ち返り、「自分の作品を作ってくれるスタッフ」などというアニメ監督にありがちな驕りではなく、「自分と一緒に作品を作って、一緒に喜べるスタッフ」を育てていこうと。今現在は板垣の監督作品が立て続けではありますが、それは自分が先輩だからというだけで、もう何年もしないうちに、社内で育った監督のもと板垣が原画で参加する作品ができると思うのです。

アニメはやはり監督だけのものではありません! スタッフ皆のもの!!
そしてスタッフ皆の代表作を作りたいと思うのです!!

第132回アニメスタイルイベント
アニメをもっと楽しむための撮影講座2

 デジタルによるアニメーション制作が成熟する中、撮影の存在はますます大きなものとなっている。アニメーションの撮影とはどんな仕事なのか、どのように映像を作り上げているのか。それを知れば、より作品が楽しめるようになるはずだ。
 6月25日(日)夜に開催するトークイベントは「第132回アニメスタイルイベント アニメをもっと楽しむための撮影講座2」。撮影監督、ビジュアルエフェクトとして活動している泉津井陽一をゲストに招いて、撮影について解説してもらう企画である。トークは具体的な素材を見てもらいつつ、進めることになる。

 タイトルに「2」とあるように、撮影イベントの第2弾であるが、今回は「アニメの撮影とはどんなものなのか」という基本中の基本から話を始める。ビギナーの方も安心して参加してほしい。

 イベントでは来場者からの質問に答えるコーナーも予定している。質問は「WEBアニメスタイル」のTwitterアカウントにリプライのかたちで送るか、この「WEBアニメスタイル」の[contact]からメールで送ってもらいたい。質問は6月23日(金)の昼12時まで受け付ける。全部に答える事はできないかもしれないが、なるべく答えてもらうつもりだ。

 今回もトークの一部を「アニメスタイルチャンネル」で配信する。前売り券は、6月3日(土)から販売となる。詳しくは阿佐ヶ谷ロフトAのサイトを見てもらいたい。

■関連リンク
アニメスタイルチャンネル
http://ch.nicovideo.jp/animestyle

阿佐ヶ谷ロフトA
http://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/67467

第132回アニメスタイルイベント
アニメをもっと楽しむための撮影講座2

開催日

2017年6月25日(日)
開場18時 開演19時 終演22時予定

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

泉津井陽一(『電脳コイル』『攻殻機動隊 新劇場版 GHOST IN THE SHELL』『日本アニメ(ーター)見本市/ブブとブブリーナ 』ほか)
小黒祐一郎(アニメスタイル編集長)

チケット

前売1500円 当日1800円(共に飲食別・要1オーダー)

■アニメスタイルのトークイベントについて

 会場となる阿佐ヶ谷ロフトAはトークライブができる居酒屋。入場料(今回は前売1500円、当日1800円)とは別に飲食(最低でもドリンク1杯)をお願いしている。ソフトドリンクもあるので、未成年の方でも大丈夫。 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものだ。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていないし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれない。その点は、あらかじめお断りしておく。

第516回 ヤンチャな昭和と平成

いよいよ明日、イボの相談に大きな病院に行ってきます!


 予約がとれたからです。最近はイボだけでなく、たまに蕁麻疹も出て、皮膚科に行ったら例によってストレスだそう。この歳になったらとにかく「健康第一」。お酒もあまり飲まなくなりました。こんな自分でも20代のころは結構無茶な飲み方を続けたりもしたんです。なんとなく昭和に生まれた男なんでヤンチャとか無頼、破滅型とかに多少ロマンを感じたりしてたのでしょう。昭和のタレント・芸能人・アーティスト・作家らを見た我々世代は、

太く短い人生を送ってこそ大物(天才)だ!

的「昭和のヤンチャ」をカッコよく思ったりする人、少なくないと思います。でもそんなのに未だに憧れて、酒・タバコ・ギャンブルに溺れてる人、悪い事は言わないので、いますぐ考え直す事をお勧めします! 俺は自分が天才じゃない事に早々気づいてたので、そのへんはホドホドで諦めました。
 そもそも人間って、20代と30代と40代では社会で求められる要素って違うと思います。例えば20代でやる酒・女での失敗とかは「ヤンチャな可愛げある若者」だけど、40代で次の日使いものにならないほど酒に溺れてたらただの「ダメな大人」で、仕事の信用をも失いますよ。派手な女遊びも同様だと思います。
 俺も40代になって自然と残りの人生から逆算しての「死ぬまでにこなせる事」の優先度をつけ始めてて、そうすると酒・タバコで寿命を削るのはバカバカしいとの結論。地道に長く生きて何か作り続けたい!! で今こそ見直そう、「昭和のヤンチャ」はカッコ悪い! と。て、今の若い人たちには言わずもがなで、むしろ心配なのは自分と同世代の人ですよね。どーせヤンチャするなら仕事内、自分にとってはアニメ作りでやりたいものです、平成の世は!(なんじゃこりゃ?)

第107回 笑いと涙の二重奏 〜おはよう!スパンク〜

 腹巻猫です。5月31日にTVアニメ『キラキラ☆プリキュアアラモード』のオリジナル・サウンドトラックCDが発売されます。音楽は今年から『プリキュア』シリーズに参加した林ゆうき。構成・解説・インタビューを担当しました。変身BGMはロングバージョンとショートバージョンのほか、キュアカスタード、キュアジェラート、キュアマカロン、キュアショコラのキャラ別バージョンも収録。お奨めはお菓子作りシーンにかかる「レッツ・ラ・クッキング!」です。ぜひお聴きください!

キラキラ☆プリキュアアラモード オリジナルサウンドトラック1 プリキュア・サウンド・デコレーション!! https://www.amazon.co.jp/dp/B06XS325ZS/


 今回は、5月24日に発売されたCD3枚組「おはよう!スパンク 歌と音楽集」を紹介したい。筆者が構成・解説・インタビューを担当した《SOUNDTRACK PUB》レーベル最新作である。
 『おはよう!スパンク』は1981年3月から1982年5月まで朝日放送/テレビ朝日系で全63話が放送されたTVアニメ。たかなししずえの原作マンガを東京ムービー新社(現 トムス・エンタテインメント)がアニメ化した。チーフディレクターは『荒野の少年イサム』(1971)、『柔道讃歌』(1974)の吉田しげつぐが担当。吉田は本作のあと同じ枠で『とんでモン・ペ』(1982)、『レディジョージィ』(1983)を続けて監督している。
 主人公は中学2年生の森村愛子(岡本茉莉[現・岡本茉利])と愛子の飼い犬スパンク(つかせのりこ)。ドジでブサイクなスパンクのキャラクターが最大の魅力だ。ふだんはなまけものなのに思い込んだら一直線、しょっちゅう騒動を巻き起こすけれど憎めない。犬のくせに猫に恋したり、警察犬になろうと無理してがんばったり、愛子の役に立とうとして失敗し、叱られて落ち込んだり。人間以上に人間くさいキャラクターとして描かれている。
 では、本作はスパンクのドタバタをメインにしたギャグアニメかというと、そうでもないのである。愛子の恋心、同級生との友情や対立、愛子の家族をめぐるシリアスなエピソードなど、少女マンガらしい要素がたっぷり含まれている。ギャグと人間ドラマがバランスよくミックスされているのが『おはよう!スパンク』の魅力なのだ。

 本作の音楽というと、おそらく誰もが井上望が歌った主題歌「おはようスパンク」(なぜか主題歌は「!」が付かない)を思い出すに違いない。キャッチーなイントロと歌い出し、井上望の可愛くさわやかな歌唱。キャラクターを印象づけ、物語が始まるわくわく感を伝える完璧な主題歌だ。
 けれど、注意深く本編に流れる音楽を聴くと、実に味わい深い魅力的な音楽が流れていることに気がつく。強く主張するわけではないけれど、しっかりと存在感のある質の高い音楽が全篇を彩っているのである。
 音楽は馬飼野康二と上野哲生が連名でクレジットされている。馬飼野康二は歌謡界のヒットメーカーであり、TVアニメ『新・エースをねらえ!』(1978)、『ベルサイユのばら』(1979)、『魔法の妖精ペルシャ』(1984)などの音楽を手がけた作曲家。上野哲生は本作の前にTVアニメ『ほえろ!ブンブン』(1980)の音楽を担当していて、アニメ音楽は本作が2作目だった。上野は本作の後番組『とんでモン・ペ』の音楽も担当するが、しだいに商業音楽から離れ、現在は古楽器を演奏するグループで活躍している。本作では、馬飼野康二が主題歌・挿入歌の作・編曲を担当し、上野哲生が劇中音楽(BGM)の作曲を担当するという分業スタイルで音楽作りが行われた。
 本作の音楽商品としては、放映当時、ビクターより3枚の主題歌シングルと「おはよう!スパンク 歌と詩集(ポエム)」と題されたLPアルバム1枚が発売されている。シングル盤が3枚あるのは、オープニングとエンディングが別々に発売された上、エンディングが前期と後期の2種類あるため。また、1982年3月に劇場版『おはよう!スパンク』が公開され、その主題歌シングル1枚とサウンドトラック・アルバム1枚が同じくビクターから発売された。
 今回のCD3枚組『おはよう!スパンク 歌と音楽集』は、過去にビクターから発売された音源をすべて収録し、初商品化となるオリジナルBGMやカラオケなどを補完した決定盤である。
 3枚のCDの内容は以下のとおり。

DISC1 「おはよう!スパンク 歌と詩集」「(劇場版)おはよう!スパンク オリジナル・サウンドトラック」
DISC2 オリジナルBGMコレクション I(ボーナストラックにカラオケを収録)
DISC3 オリジナルBGMコレクション II(ボーナストラックにカラオケを収録)
※詳しい収録曲は下記を参照ください。
http://www.soundtrack-lab.co.jp/products/cd/STLC029.html

 1枚目がTV版LPと劇場版LPのカップリング。残り2枚がオリジナルBGMという構成。当初はオリジナルBGMを1枚に収めて2枚組にしようと考えていたのだが、予想以上にBGMの曲数が多かったので思いきって3枚組にした次第。『おはよう!スパンク』の世界をたっぷり楽しんでいただける濃密なアルバムになった。
 DISC1から紹介しよう。
 「おはよう!スパンク 歌と詩集」は主題歌・挿入歌集と「愛子の詩集(ポエム)」の2部構成。
 前半には6曲の主題歌・挿入歌が収録されている。オープニング主題歌「おはようスパンク」も名曲だが、つかせのりこが歌った2曲のエンディング主題歌「ダ行のスパンク」と「スパンクの百面相」も、はじけた歌唱に思わず笑いがこぼれる快作。劇中では言葉をしゃべれないうっぷんを歌で晴らしているかのようだ。
 井上望が歌う「愛子のテーマ 心の扉を誰かがたたく」は馬飼野康二らしい美しい曲調のバラード。劇中でも重要な場面に挿入されている。
 つかせのりこと鶴ひろみが歌う「ネコに恋したヘンな犬」、松金よね子が歌う「赤いネコタイ トラ吉さん」、どちらも声優の個性を生かした楽しいキャラソンである。
 「愛子の詩集」のほうは、BGMをバックに愛子(岡本茉莉)がポエムを語る趣向。聞いているとちょっと気恥ずかしくなるが、岡本茉莉ファンにはたまらない内容である。
 この詩集のバックに流れているBGMがすばらしい。フュージョン風の曲や映画音楽風のドラマティックな曲、主題歌・挿入歌をポップなメドレーにした曲など、「スパンクってこんな番組だったっけ?」と思ってしまうような大人びた曲調が特徴だ。
 劇場版サウンドトラックもサウンドは共通している。TV版よりも年上の客層をねらったやや背伸びした内容に合わせて、ロマンティックな曲やシリアスな心情曲が印象に残る。バイオリン・ソロは当時N響のコンサートマスターを務めていた徳永二男。劇場版にふさわしいリッチな音楽である。
 劇場版で流れる歌はTV版と同じ作詞・荒木とよひさ、作曲・馬飼野康二コンビによる書き下ろし。主題歌「哀しみよこんにちは」と挿入歌「ワンダー・フルフル」、どちらもいい曲だ。TV版と同じく井上望が歌っているのもうれしいところ。井上望は愛子のクラスメート役で声の出演もしている。そのとき、つかせのりこと共演した思い出をインタビューで語っていただいた。若くして亡くなったつかせのりこの人柄が偲ばれるエピソードはちょっと泣けます。
 DISC2とDISC3のオリジナルBGMコレクションは全曲初商品化。本アルバムの目玉である。
 本作のために用意されたBGMはおよそ180曲。大きく分けると、

・主題歌・挿入歌アレンジ
・スパンクやトラ吉のシーンによく使われるユーモラスな曲
・愛子たちの日常や心情を描く曲

の3種類に分類できる。
 主題歌・挿入歌アレンジでは、「愛子のテーマ 心の扉を誰かがたたく」のアレンジ曲がいい。この歌は本作のもうひとつのテーマソングともいうべき曲で、愛子のさまざまな場面に使われている。
 「愛子、あふれる想い」(DISC2:トラック5)は、フルートとトランペットによる明るくさわやかなアレンジ。初めての恋に胸がときめくシーンなどに使用された。「ママへの手紙」(DISC2:トラック26)はフルートとエレピ、ピアノによるやさしい曲調。愛子がパリにいるママに手紙を書くシーンによく流れた、心がほっこり温かくなるような曲だ。「泣かないで愛子」(DISC3:トラック11)は愛子が寂しさを感じる場面などに流れる悲しげなアレンジ。最終回で流れた「希望の夜明け」(DISC3:トラック32)はタイトル通り昇る朝日を見るような気分になる感動的な曲。同じメロディをさまざまな表情に変えるアレンジの妙が聴きどころである。
 コミカルなシーンに流れるユーモラスな曲はどれも楽しく、しかも下品でないのがいい。作曲家・上野哲生のセンスのよさが感じられる。スパンクの恋心を描写する「愛しのキャットちゃん」(DISC2:トラック8)の軽妙な感じや、「お騒がせスパンク」(DISC2:トラック14)のいたずら小僧っぽい雰囲気、「ダメ犬スパンク」(DISC3:トラック22)の「トホホ…」という空気感など、スパンクの愉快な活躍が目に浮かぶ好ナンバーばかりである。
 そして、本作の音楽のいちばんの魅力が、愛子たちの日常を彩るさわやかな音楽だ。
 LP「歌と詩集」に「ヨットハーバーの風」という曲がある。潮風を感じさせるような爽快感のある軽快な曲で、愛子が恋する青年・池上玲のテーマ的に使用された。LPでは愛子のナレーションとSE(効果音)が重なっているのだが、BGMコレクションには音楽のみのオリジナル・バージョンを収録した(DISC2:トラック4。ただし、BGMはモノラル音源なのでご容赦いただきたい)。
 「歌と詩集」に収録された曲の中では、「夕暮の砂浜」も筆者のお気に入りである。ハーモニカをフィーチャーした哀愁を帯びた曲で、愛子と玲の切ない恋のエピソードで使用された。LPでは2曲を1曲に編集して収録されているが、BGMコレクションでは原曲通りに2曲に分けて収録している(DISC2:トラック31&32)。
 愛子が同級生たちと語らいながら登校するシーンによく流れた「朝の光の中で」(DISC2:トラック6)は、エレピ、フルート、アコースティックギターなどが奏でるしゃれた雰囲気の曲。本作の少女マンガらしいキラキラした一面を伝える楽曲である。
 「青春のきらめき」(DISC2:トラック34)は、愛子と友人たちをめぐるドラマを盛り上げた心にぐっとくる曲。涙のあとの笑顔、対立のあとの和解、挫折のあとの希望など、胸キュンもののエピソードを温かい音色で包み込んだ。
 本編では一度しか使用されてないが、「クリスマスの訪問者」(DISC3:トラック27)も忘れがたい。サンタクロースを信じるスパンクがサンタを待ちわびるエピソード(第41話)で使用された、やさしくドリーミィな曲。本編を思い出しながら聴くと涙ぐみそうになる。

 『おはよう!スパンク』は原作とアニメ版で結末が異なっている。筆者は少し切ないけれどさわやかな後味を残すアニメ版の終わり方が好きだ。
 青春ドラマの終わりは別れと旅立ちである。『おはよう!スパンク』もそうだ。最終回、愛子に別れと旅立ちのときが訪れる。ようやくなじんだ街を離れ、親しくなった友人たちと別れるときが。そんな最終回のもっとも感動的な場面に流れた曲が「また逢う日まで」(DISC3:トラック33)。筆者は、『おはよう!スパンク』で一番の名曲は? と聞かれたら、この1曲を挙げたい。甘酸っぱい青春の思い出がよみがえるような、心に沁みる曲である。
 『おはよう!スパンク』はギャグだけのアニメではない。いっぽうに明るい笑いを誘うドタバタシーンを配しながら、もういっぽうには、多感で繊細な心を持った少女・愛子とその一番の友だちスパンクの友情と成長の物語が配されている。その物語を彩る音楽の、なんとやさしく、さわやかなことか。このすばらしい音楽を、ひとりでも多くの人に聴いていただきたい。

おはよう!スパンク 歌と音楽集
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第515回 てーきゅうとイボ

さっき、『てーきゅう第9期』の「つづく」カードのラフ(レイアウト)を描いてました!

 あとは社内のスタッフに原画・動画にしてもらいます。最近では社内の若手スタッフが本当に頼りになるんです(感謝)!で、「つづく」について思い出した事をツラツラと。
 もともと、アニメ『てーきゅう』の監督テーマは

たった「2分」で最高のサービスを!!

なんです。作品の内容的なテーマはもちろん「ギャグ」なんですが、監督テーマとは「今回の作品を作るうえでの制作上のコンセプト」みたいなもので、自分は毎作それを決めて現場に上げるようにしてます。言葉は下手な設定100ページより、よっぽどスタッフの意識に残りますから。ちなみにアニメ『ベルセルク』では最初から

美しい未完の物語を演出する!!

と事あるごとに言ってます。「この作品を終わらせられるのは三浦建太郎先生だけ! 勝手にアニメオリジナルラストはあり得ない!」と。つまりこの一言でスタッフ全員が「あ、監督はこのまだ未完の原作を全肯定で作りたいと言ってるんだな」と共通の認識が生まれると思うんです。
 で、『てーきゅう』は「最高のサービス」というわけで、頭アバンから始まって、オープニングは絶対にいる! で本編も原作の内容を削るくらいなら無理してギュウギュウに詰め込み、エンドカードも楽しく次回予告も兼ね、最後の最後まで制作費の許す限りのサービスを尽くそう! と。それさえスタッフが理解していれば結構スムーズに現場が進みます。つまり「原作と少々違っても、プラスに膨らむならOK! 原作よりショボく変わってたらNGなんだな、このシリーズは」と思って描いてもらえれば、作画も美術も役者さんらの芝居や音響効果も元気で楽しいモノが上がってきます。こーなればこっちのもんでしょう? だから監督テーマは大事!
 そして、4人の女の子による「笑い」と「癒し」の2分間サービス『てーきゅう』も第9期まできました。なんとなくで始まり、いつ打ち切られてもおかしくないシリーズも気づけば100本を超え5周年。「制作費が安いから続けられる」とか「尺が短いから短期間で作れる」とか今まで何回も笑い話でしてきましたが、シリーズを重ねるにつれて、冗談ではなく本気で

『てーきゅう』はお金と時間の哲学だ!

と思えてきました。人(スタッフ)と現場を成長させつつ、常にお金(制作費)の問題が背中合わせ。その事がこれだけ分かりやすい現場は他にないのだから。
 でもスピンオフも含む『てーきゅう』全話マラソン(イベント上映会)やったら面白いかも〜とこちらも本気で思ってます(笑)。

そして、近いうちにイボを切りに行かなきゃならないらしい(汗)!


 親知らずを抜き歯の治療が終わりかけてる今、イボの治療。とにかく仕事の合間を見て病院行かなきゃならず、ホントに時間が欲しいです。

新文芸坐×アニメスタイル セレクションVol. 94
アニメファンなら観ておきたい200本 原恵一監督のアニメーション映画


 アニメスタイルは新文芸坐と共同企画で、定期的にアニメーションのオールナイト上映を開催している。2017年6月17日(土)のプログラムは、現代のアニメ界を代表する監督の一人である、原恵一監督の特集だ。
 上映タイトルは『百日紅~Miss HOKUSAI~』『河童のクゥと夏休み』『カラフル』の3本。いずれも見応えのある仕上がりであり、「映画的」な作品だ。トークコーナーのゲストには原恵一監督自身をお迎えする。個々の作品についてじっくりと話をうかがうことにしよう。

 前売り券はチケットぴあと新文芸坐の窓口で、5月27日(土)から発売となる。

 なお、「アニメファンなら観ておきたい200本」はアニメファン初心者にお勧めの作品を上映するオールナイトの連続企画である。勿論、初心者以外の観客も大歓迎だ。

新文芸坐×アニメスタイル セレクションVol. 94 アニメファンなら観ておきたい200本
原恵一監督のアニメーション映画

開催日

2017年6月17日(土)
開場:22時15分/開演:22時30分 終了:翌朝6時00分(予定)

会場

新文芸坐

料金

一般2600円、前売・友の会2400円

トーク出演

原恵一、小黒祐一郎

上映タイトル

『百日紅~Miss HOKUSAI~』(2015/90分/DCP)
『河童のクゥと夏休み』(2007/138分/35mm)
『カラフル』(2010/127分/35mm)

備考

※オールナイト上映につき18歳未満の方は入場不可
※トークショーの撮影・録音は禁止

●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

第514回 まだまだ半人前!

会議室にて、タブレットに描いて作画スタッフらに一気に説明する!
コレ、もはやウチ(ミルパンセ)のスタンダードです!

 自分の発案で始めたやり方で「もう、演出・作監の机で、指示書き・修正待ちのカットが何十何百も眠るのは御免だ!」と。一度の修正+説明+実演(?)で、担当の原画マン・演出・作監へ一気に戻す! デジタル作画だからこそできるやり方だと思ったのです。

「やり直し不可」なアナログの頃の作り方そのまんまを、ツール(道具)だけ変えたって、
「やり直し可能」のデジタルを本当の意味で効果的に使ってるとは言えませんから!

 2017年現在でも、「作監・総作監は選ばれし者! ゆえにその方の修正は何が何でもお待ちするべし!」とまるで作家の原稿でも待ってるかのように「アニメーター=作家」論を唱える業界人——俺の皮膚感覚ではだいぶ減ったように思いますが、そろそろ考え直す時期ではないでしょうか?
 ウチではまず「作家である前に職人たれ!」と教えてます。なぜなら、

「職人」からスタートしてもいずれ「作家」にはなれるけど、
「作家」気取りからスタートしてもけして「職人」にはなれない!

と思うからです。若い頃、テレコムで大塚康生さんや先輩たちから「宮さん(宮崎駿監督)は作家である前に職人としても超一流なんだ」と、そのアニメーターとしての宮崎監督の仕事量を聞かされて驚愕した自分。出崎統監督の場合でもそう。全話コンテだけではなく、アニメーター時代は非常に巧い作画マンだったと丸山正雄さんから聞きました——と言うまでもなくコンテがすでに神がかってますよね!

俺が好きなクリエイターは「作家である前に職人として一流」な人!

なんです。と多少話が逸れましたが、要するに言いたいのは、アナログ作画からデジタル作画への移行期たる現在、「昔はよかった」とか「もっと制作費持ってこい!」なんか言ってないで、

まず新しいツールによる新しい作り方、それに伴う「アニメーターという仕事」の見直し。その際、全スタッフの給料がそれぞれの働きに見合った正当なものか? の確認

をするべき時なのではないでしょうか? デジタル時代のアニメ職人をどう育てるか? その後、本当のデジタル時代の「作家」が生まれるべきなのだと。
 俺みたいな「動画3年、原画5年でやっと演出助手」と教えられた世代の人間が、「新しい作り方」というより、アニメ業界が何十年も信じて疑わなかった「動画3年云々」を壊そうと、これまた敵を作るかもしれない事を提唱しているんですが、そーゆー自分もまだまだ職人として半人前です。

早く腕のいい職人になりたい!!

第106回 旅に出かけよう 〜ニルスのふしぎな旅〜

 腹巻猫です。5月21日に蒲田でサントラDJイベント、Soundtrack Pub【Mission#31】を開催します。特集は「80年代アニメサントラ群雄割拠時代(ビクター編)&松山祐士追悼」。1980年代のアニメサントラ群雄割拠時代をメーカーごとにふり返る新企画の第1弾・ビクター編です。お時間ありましたらぜひご来場ください!

「Soundtrakc Pub」公式ページ
http://www.soundtrackpub.com/event/2017/05/20170521.html


 今回はSoundtrack Pubのテーマにからめて、80年代ビクター・アニメサントラの第1弾となった作品『ニルスのふしぎな旅』を取り上げよう。
 ビクター——現在はビクターエンタテインメント、当時はビクター音楽産業という会社名だった。2007年よりアニメ部門が独立してフライングドッグという別会社になっているが、便宜上、フライングドッグもビクターの仲間に入れることにする。
 ビクター(フライングドッグ)といえば、『超時空要塞マクロス』(1982)に始まる「マクロス」シリーズや、『天空のエスカフローネ』(1996)、『カウボーイビバップ』(1998)、『創世のアクエリオン』(2005)等の菅野よう子作品、『機動戦士ガンダムSEED』(2002)、『ケロロ軍曹』(2004)など、ヒット作品を多く擁するアニメ音楽界の雄である。フライングドッグはこの3月にランティスなどとともに、ANiUTa(アニュータ)というアニメソング専門の定額聴き放題サービスを立ち上げて話題になった。
 しかし、アニメ音楽ビジネスへの本格参入では、日本コロムビア、キングレコードに次ぐ後発組だった。70年代には『ミュンヘンへの道』(1972)、『まんが世界昔ばなし』(1976)、『バーバパパ』(1977)、『ヤッターマン』(1977)、『ゼンダマン』(1979)等のレコードを発売しているが、まだアニメファンに注目されるメーカーではなかった。ビクターの躍進は、やはり『超時空要塞マクロス』以降だろう。
 しかし、『超時空要塞マクロス』にも前史となった作品がある。そのひとつが『ニルスのふしぎな旅』である。

 『ニルスのふしぎな旅』は1980年1月から1981年3月までNHKで放送されたTVアニメ作品。NHKオリジナルの連続TVアニメとしては『未来少年コナン』(1978)、『キャプテンフューチャー』(1978)に続く3作目(実写とアニメを組み合わせた『マルコ・ポーロの冒険』も数えれば4作目)となる作品である。
 原作はスウェーデンの女性作家セルマ・ラーゲルリョーブの同名児童文学。動物をいじめるいたずら好きの少年ニルスが妖精に罰を与えられて体を小さくされ、ガチョウのモルテン、ハムスターのキャロットとともに旅をしながら精神的に成長していく物語だ。制作は学研(現・学研グループ)。アニメーション制作を創立したばかりのスタジオぴえろ(現・ぴえろ)が担当した。今年(2017年)3月に廉価版のDVD-BOXが発売されている。
 チーフディレクターに鳥海永行、美術監督は中村光毅。タツノコプロ出身のスタッフが作り上げた丁寧な映像が心に残る。日本アニメーション制作の「世界名作劇場」とは異なったテイストの名作アニメとして記憶と歴史に刻まれる作品である。
 音楽は主題歌・挿入歌の作曲をタケカワユキヒデ、劇中音楽をチト河内が担当している。
 チト河内は1944年、福岡県出身。1967年に兄のクニ河内らとともにGSバンド、ザ・ハプニングス・フォーを結成してデビューした。のちにロックバンド、トランザムを結成して活躍。トランザムはTVドラマ「俺たちの勲章」(1975)、「俺たちの旅」(1975)、「俺たちの朝」(1977)、「俺たちの祭」(1977)等の音楽を担当し、70年代TV音楽ファンには「太陽にほえろ!」(1972-1986)の井上堯之バンドや「西遊記」(1978)のゴダイゴとともに記憶に残るグループだ。また、劇場アニメ『宇宙戦艦ヤマト 完結編』挿入歌「明日に架ける虹」の編曲と演奏・ボーカルも担当している。
 チト河内名義でかかわったアニメ作品には、TVアニメ『野生のさけび』(1982)(主題歌作曲)、劇場アニメ『ゆき』(1981)(主題歌とBGM作曲)、TVアニメ『あしたのジョー2』(1981)(後期主題歌の編曲)などがある。
 兄のクニ河内もアニメ作品を手がけていて、TVアニメ『グロイザーX』(1976)、『ドン・ドラキュラ』(1982)、『つるピカハゲ丸くん』(1983)等の主題歌を作曲している。先の『野生のさけび』の主題歌は、チト河内が作曲、クニ河内が編曲、『ゆき』の主題歌はクニ河内が作詞、チト河内が作・編曲という兄弟コラボ作品だ。
 本作の音楽アルバムは、1980年2月「ニルスのふしぎな旅 〜たのしいうたと音楽集〜」のタイトルでビクター音楽産業より発売された。1999年発売の2枚組CD「殿堂TWIN ニルスのふしぎな旅/スプーンおばさん」で全曲CD化されている。
 収録内容は以下のとおり。

  1. ニルスの不思議な旅(歌:加橋かつみ)
  2. ぼくはキャロット(歌:山崎唯)
  3. 鳥にのって(空とぶテーマ)
  4. わたしは歌う(スイリーのテーマ)(歌:松金よね子)
  5. 北をめざして(ガンの隊長アッカのテーマ)
  6. いつまでも友だち(歌:加橋かつみ)
  7. ワンダフル・アドベンチャー(歌:加橋かつみ)
  8. わんぱくニルス(歌:小山茉美)
  9. ねずみの行進
  10. 腹ペコ・レックス(歌:富山敬)
  11. ニルスの不思議な旅(英語)〈The Song to Nils〉(歌:加橋かつみ)
  12. つるの舞踏会

 歌8曲とBGM4曲の12曲入り。
 ジャケットにはキャラクターの絵が大きくデザインされ、インナーにもふんだんに絵が使われている。ニルスが一緒に旅をするガンの群れのメンバーや憎めない敵役レックスらが絵と説明つきで紹介されているのが、番組を見る子どもたちにはうれしいサービスだ。子ども向けを意識した作りだが、歌を担当する歌手と声優の顔写真が掲載されていたり、主題歌の英語版が入っていたりするのは、明らかに中高生のアニメファンを意識したところだろう。
 1曲目はオープニング主題歌。元ザ・タイガースの加橋かつみが歌う、フォークロック調の軽快な曲だ。
 12/8拍子のピアノのアルペジオから始まるイントロが地平線に昇る朝陽のきらめきをイメージさせる。途中から4拍子に転じてリズミカルになる仕掛けが「旅立ち」への期待を表現してすばらしい。短いブリッジが高揚感を高め、歌がスタートする。タケカワユキヒデ作品で「旅」を歌った曲といえば名作「銀河鉄道999(The Garaxy Express 999)」があるが、「999」に甘酸っぱい別れの哀愁があるのに対し、「ニルス」は新しい出逢いへのわくわく感に満ちている。「銀河鉄道999」に劣らぬ名曲である。
 この曲、TVサイズとレコードサイズとでずいぶん印象が違う。TVサイズはシンプルなバンドスタイルのアレンジと演奏。レコードサイズは音数が増えてテンポがやや遅くなっている。おそらくはTVサイズを先に録音したあと、レコード用に新たにアレンジを起こして録音し直したのだろう。同様の例は『ルパン三世』第1作(1971)の主題歌でも聴けるが、この時期には珍しいパターンである。曲のノリ、勢いはTVサイズのほうが抜群によい。
 2曲目の「ぼくキャロット」は、キャロット役の山崎唯が歌うキャラクターソング。山崎唯はトッポ・ジージョの声で人気を博した歌手・声優でトッポ・ジージョの歌もたくさん吹き込んでいる。フェイクをまじえた表情豊かな歌い方は「うまいなあ」と舌を巻く仕上がり。「気軽に書いてみました」という感じの曲なのだが、ベテラン声優の力量を聴くことができる。
 3曲目「鳥にのって」はチト河内作曲によるBGM。鳥に乗って空を旅するイメージの曲で、ふわっとしたシンセの音と弦のアンサンブルが浮遊感を産む。ドラムス、エレキベース、ギター、キーボードが刻むリズムが心地よい。本作のBGMはバンド編成を中心に弦や管楽器が加わった小規模のオーケストラで演奏されていて、ロックのインスト曲のようなサウンドが特徴である。
 4曲目は松金よね子が歌う「わたしは歌う(スイリーのテーマ)」。スイリーはメスのガンで、歌が大好きだけどひどい音痴という設定。松金よね子は舞台出身のコメディエンヌで歌も達者なのだが、ここではわざと音痴風に歌う芸を聴かせてくれる。バイオリンやアコーディオンをフィーチャーしたアレンジがヨーロッパの香りを漂わせる華やかで楽しい曲だ。
 5曲目「北をめざして(ガンの隊長アッカのテーマ)」はふたたびBGM。舞い上がる鳥たちをイメージしたような弦のイントロに続いて、チェンバロのアルペジオをバックにシンセがふわふわと漂うようなフレーズを奏でる。アッカはラップランドに向かうガンの群れを率いるメスのガン。アルバムのライナーには「百才をこすメスガンで沈着で冷静、威厳と情愛をかねそなえたすぐれたリーダー」と紹介されている(100歳だったんだ!?)。「鳥にのって」と共通する雰囲気の曲だが、こちらは「前進」のイメージが強い。中間部に踊るような弦の間奏が入る。アッカに率いられたガンたちが旅の途中に空を旋回したり、仲間とじゃれあったりしている場面が目に浮かんで温かい気持ちになる。
 6曲目はエンディング主題歌「いつまでもともだち」。ニルスとモルテンとキャロットの友情を歌ったマーチ調の明るい曲だけど、本編の最終回を観たあとに聴くとちょっと泣けるんですよね。
 7曲目(レコードではB面1曲目)に入っているのが「ワンダフル・アドベンチャー」という歌。本アルバムの白眉と言っていい名曲である。
 曲はミドルテンポのロックバラード風。小さくなったニルスが見る世界のすばらしさ、ニルスの旅の意味を歌った味わい深い歌詞が胸に沁みる。間奏のエレキギター・ソロがぐっとくる。劇中にもたびたび挿入された、本作の第2のメインテーマともいうべき歌だ。
 アルバムはニルス役の小山茉美が歌う「わんぱくニルス」、BGM「ねずみの行進」、レックス役・富山敬が歌う「腹ペコ レックス」と続いて、主題歌の英語版「The Song to Nils」が登場する。
 日本語版の作詞は奈良橋陽子と藤公之介の連名だが、こちらの作詞は奈良橋陽子の単独クレジット。ゴダイゴのほとんどの作品でも作詞を手がけている奈良橋陽子は英語で詞を書くことで知られている。日本語詞は英語詞をもとに書かれたものなのだ。この英語版こそ、奈良橋が書いたオリジナルの歌詞なのである。日本語詞と読み比べてみると、奈良橋がオリジナル歌詞で意図したことや、藤公之介が日本語詞でふくらませた部分がわかって興味深い。
 ラストに置かれたのは「つるの舞踏会」というBGMである。キラキラしたバッキングの上で深いリバーブのかかったフルートのメロディが踊る。霧の立ちこめる湖でつるが舞う光景が目に浮かぶような幻想的な雰囲気の曲だ。
 アルバムのラストがなぜこの曲なのか。主題歌の英語版か「ワンダフル・アドベンチャー」でもよかったのではないか。と初めてこのアルバムを聴いたときは思ったものだが、今聴くと、これはこれでいい。ニルスが目にする大自然の情景が心に残る。「旅」よりも「自然や動物との出逢い」に主眼を置いた構成なのだろう。
 この種のファンタジー作品の音楽ではシンフォニックなオーケストラ・サウンドが使われる例が多い。が、本作ではエレキベースやギターの音が印象的なロック・サウンドが独特の空気感と香りを作品に与えている。このコラムで以前紹介した『白い牙 ホワイトファング物語』(1982)(音楽・小室等)とも重なる音楽スタイルだ。ロック・サウンドがむき出しの自然の肌触りや躍動感を表現しているのである。本作がほかの名作アニメと異なる雰囲気を持っているのは、この音楽によるところも大きい。本格的な音楽集アルバムが発売されなかったのが惜しまれる。

 『ニルスのふしぎな旅』は1982年にTVシリーズを95分ほどにまとめた劇場版が作られた。ただし、当時はビデオソフトとして発売されただけで、劇場公開は2014年にようやく実現した。劇場版ではTVシリーズの主題歌は使われず、新しい主題歌が作られている。「ビューティフル・メロディ」と「ラプランドは夢の国」の2曲で作曲・タケカワユキヒデ、編曲・チト河内というTV版と同じコンビの作(作詞は山上路夫、歌はTOMO)。この2曲は残念ながら一度もレコード化、CD化されていない。
 オリジナルBGMともども、もし音楽テープが残っていれば、ぜひ商品化したいものである。

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第513回 第100面〜現状報告

現在『てーきゅう』第100面のコンテ中!!

といっても裏面(パッケージ用特典映像)や『高宮なすのです!』『うさかめ』などもあったため、『てーきゅう』系のコンテはとっくに120本(?)は越えてて、今さら「100本頑張った!」との感慨はまったくありません。あくまで「本線が第100面なの」って。たかが各話90秒のコンテでも、情報量(台詞・カット)がギュウギュウに詰まっているから実際は(まあ1260秒[30分アニメの本編尺]ほどではありませんが)数百秒ぶんは疲れる感じはある『てーきゅう』シリーズですが、コツコツ続けてたら

気がつけばBlu-ray Boxになってた!

と。この連載と同じ「続けた結果」。自分が考える作品づくりはコレです。とにかく続ける。続けた結果、できるのが作品。次の作品の準備は、現行の作品づくりをしながら。これが俺のルーチンです。

準備期間や金や日々の贅沢がなくても作り続けます!!

 で、現状報告。まず『ベルセルク』はCG・作画ともラストスパート! 自分の方は毎日のCG上がりをチェックしつつ社内の作画の面倒を見てます。コンテは去年、最終回まで上げてたので、今は上がってくるラッシュを見ると若干懐かしく思う不思議。そして『Wake Up, Girls! 新章』は、脚本がラスト2〜3本。コンテは今3本めに手をつけてて、キャラ表・美術設定も続々上がってきてます。この作品は版権類が多いので、キャラデの菅原(美幸)を中心に社内スタッフ一同楽しく作業しております。あとちょくちょく仙台に取材に行ったり、鋭意制作中!
 そーこーしてるうちに2018〜19年に仕事が埋まってきました。まだまだ作らせていただけるなんて、本当に感謝です。と、なんか突如イボができたので病院に行ってきます(汗)。