アニメ様の『タイトル未定』
253 アニメ様日記 2020年3月29日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。

2020年3月29日(日)
外出を自粛して、散歩はおやすみ。事務所にこもって原稿作業。朝は雨、その後に雪。原稿だけの日というも悪くない。

2020年3月30日(月)
昼過ぎに原稿が一段落。Netflixで『日常』を観始める。当然、未遂で終わるんだけど、女子高生がお酒を吞もうとする話をよくNHKでやったよねえ(念のために書いておくと、Eテレで再編集版が放送されたことがあったのだ)。『日常』には京都アニメーションの精神(価値感)が現れている気がする。アニメーションとして丁寧につくるかどうかとは別の意味で。

2020年3月31日(火)
朝から倦怠感があって、おそらくは風邪の初期症状。もしものことがあったらマズいので、外部のライターさんが参加するはずだった打ち合わせは延期に。朝から昼にかけて集中的に原稿作業をし、14時くらいに自宅に戻って横になる。19時に事務所に戻ってまた作業。去年までだったら、ちょっ風邪ぎみでも気にしないで打ち合わせとかしていたけど、今はそんなわけにもいかない。
『日常』の視聴も続く。15話はなのちゃんが初めて学校に行く話。三好一郎演出の傑作。なのちゃんの一挙一動が素晴らしい。

2020年4月1日(水)
風邪の初期症状が続く。打ち合わせはSkypeで。Skypeの打ち合わせは初めてだった。ちょっと不自由なところもあるけれど、これでも打ち合わせはできるなあ。デスクワークはデザイナーさんへのラフ出しを中心に。 『日常』を最終回まで視聴。 最終回は最後で「これは日常を描いた作品だ」と分かる仕掛け。素晴らしい。

2020年4月2日(木)
朝には平熱に。ではあるが、なるべく人と顔をあわせないようにする。昼過ぎまではラフ作業。午後は新文芸坐で打ち合わせ。今度の企画などについて。しばらくはオールナイトはできそうもない。午後はコメント原稿のまとめ。
『虫籠のカガステル』を1話から最終回まで観る。「今石洋之アニメ資料集[コンテ・原画編]」で確認することがあって、実写映画「キューティーハニー」とOVA『Re:キューティーハニー』を再生する。

2020年4月3日(金)
まだ風邪っぽいので対面の打ち合わせは避ける。1日ラフ描き、というかデザイナーさんに仕事を依頼するための作業。仕事実務以外はいろいろと厳しい。
新番組『かくしごと』『球詠』『八男って、それはないでしょう!』『神之塔 -Tower of God-』の1話を観る。『ドロヘドロ』の未視聴分を観る。Amazon Prime Videoで「暴走パニック 大激突」を観る。その後「妹」(藤田敏八監督)を観る。夜になって「仮面ライダー」を13話「トカゲロンと怪人大軍団」から観る。ネット配信で「スペクトルマン」とか「快傑ライオン丸」とかがあるといいなあ。Blu-rayを買えと言われそうだけど、配信の緩い感じで観たいのよ。
仕事をお願いしている会社でスタッフが在宅勤務になったうえに、働き方改革で作業時間の制限が。誰も悪くないけど、進め方を考えないと。

2020年4月4日(土)
外出は朝のラジオ体操のみ。その後は事務所でデスクワーク。仕事をしながら、Amazon Prime Videoの「仮面ライダー」をずっと流していた。ライダーガールズがいい。特に山本リンダさんがいい。本放送時、小学生男子だった僕としては、あまりその存在がピンとこなかったはず。今はチャラチャラしたところもいい。ライダーがまじめに戦闘員と戦っている脇で、ライダーガールズが戦闘員をやっつけてしまうのも楽しい。当時はその作劇が不真面目に見えたはずだ。

第660回 ふと、また大塚さん

 とある編集会社より、大塚康生さんに関する寄稿の依頼があり、近々描く予定。「描く」としてるだけで内容は知れようってもんですが、ちょっとしたイラスト(らくがき)的なものになるはず。ま、この連載で幾度となく話題にさせていただいたアニメ界の巨匠・大塚康生さん。自分にとっては二十歳からほぼ7年間、毎日スタジオ(テレコム・アニメーションフィルム)で顔を合わせていた、当時は空気のように俺の日常にあった存在、そしてアニメファンなら皆さんご存知のアニメ界の最重鎮。今回の寄稿では描ききれないくらい色々なお話をしてくださいました。今回改めてふと思い出した分を箇条書き(?)っぽく書き出してみます。過去回との重複(被り)はご容赦ください。なんせ660回ですから(汗)。

小田部ちゃんから「板垣くんをよろしく」と言われたよ

 これは入社して間もなくでした。学生時代の恩師である小田部羊一・奥山玲子両先生より「ウチ(東京デザイナー学院)の教え子が大塚さんとこ行くからよろしく」的な電話(奥山先生は電話が苦手らしく手紙)で報告があったらしく、その際、気さくに声をかけていただき、奥山さんからの超絶達筆な手紙も見せてくださいました。ただその時感じたニュアンスでは、大塚さんにとって「小田部さん」とは小田部さんと奥山さんお二人合わせてみたいだってこと。別件で「小田部先生が」と板垣が切り出した時も、間髪入れず「どっちの?」と返されてましたから。

ああ、ちばてつやね〜

 俺が動画時代、自宅で夜中に描いた原画の習作で、意識的にあえて大塚さんの持ちキャラであるルパン三世や未来少年コナンなどではなく『おれは鉄兵』(ちばてつや原作で1977年にアニメ化された際、大塚さんはレイアウトを担当)を描いて持っていくと、こう返されて個人的に嬉しかった一言。板垣はちばてつや先生大好き人間なので、ご自身が参加された作品として『おれは鉄兵』を憶えていらっしゃった! と。

『未来少年コナン』の時、地下住民たちの存在・描き方について、僕は宮崎に「人間を階級で分けるのは良くないよ」と言ったら、宮崎はルーケっていう賢い地下住民を出したでしょ

 テレコム社内で、ベテランアニメーター・田中敦子さんの発起により、ちょくちょく開催された「大塚さん講演会」でのお話。その当時(1998年頃?)ですでに「今をときめく」宮崎駿監督を宮崎と呼び捨てにできる大塚さん、作品のオリジナリティは宮崎監督であっても、アニメーターとしてキャラクターの描き方には一言言わせてもらうよ的な職人気質な大塚さんがカッコよく思えました。あちこちの本でも大塚さんが語っているとおり「アニメーターは役者(演技者)である」ゆえ、内面から納得できない人物は演じられないのです。

パクさん(高畑勳監督)は「小田部(羊一)さんは笠智衆で、大塚さんは植木等だ」って言ってね〜

 同じく講演会にて。芝居の描き方(アニメート)の個性が話題に上り、小田部先生は芝居を意識させないくらい自然に描くのに対して、大塚さんが描くと「芝居ですよ」と分かりやすい動きになる、という内容でした。

僕が『ルパン(三世)』描いてて面白かったのは——

 で、すみません。また時間です(汗)。

アニメ様の『タイトル未定』
252 アニメ様日記 2020年3月22日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。

2020年3月22日(日)
この日はイベントの準備など。昼にワイフと大塚で食事。山下書店の店頭で『SHIROBAKO』のガチャを見つけて、ワイフが挑戦する。武蔵野アニメーションの会社ロゴの入ったふせんと、同じくレイアウト用紙を模したふせんが出て、僕がもらって仕事で使うことにした。『虚構推理』を最新話話数まで観た。dアニメストアに『NOIR』を勧められたので1話を観てみる。

2020年3月23日(月)
「第168回アニメスタイルイベント アニメ様とサムシング吉松の酔っ払いトークPART7 アニメスタイルの20年」開催日。13時から社内打ち合わせで、14時半から西武新宿線方面で打ち合わせ。自宅で少し休んでから、18時40分くらいに阿佐ヶ谷ロフトAに到着。イベント、雑誌、書籍など、テーマごとにアニメスタイルの思い出話をする。この構成自体は吉松さんのアイデアだ。歴代の雑誌「アニメスタイル」を持っていって、お客さんが手に取れるようにしたのだけれど、あまり読んでいる人はいなかったようだ。お客さんがバックナンバーを持っている人ばかりだったということかもしれない。

2020年3月24日(火)
イベントあけの睡眠不足のためか体調がいまひとつ。進行中の書籍群とは別の作業を進める。
『魔動王グランゾート 最後のマジカル大戦』を観終わって、次に『魔動王グランゾート 冒険編』を視聴。いずれもパンダイチャンネルの配信だ。『冒険編』は全3巻。キャラクター中心で話が進むし、ノリが陽気なので観ていて楽しい。
『魔神英雄伝ワタル』『魔神英雄伝ワタル2』『魔動王グランゾート』のキャラクターデザインの表記について確認する。『魔神英雄伝ワタル』『魔神英雄伝ワタル2』のキャラクターデザインは芦田豊雄さん。『魔動王グランゾート』はキャラクターデザインがスタジオライブと表記されている(細かいことを言うと「スタジオ」と「ライブ」の間に1マス空きがある)。なお、3シリーズとも、サブキャラデザインはエンディングで別にクレジットされている(サブキャラデザインの担当者名も面白いのだけれど、それは別の話)。『魔動王グランゾート』もメインのデザイナーは芦田さんであるはずだけど、スタジオライブで分担したということだろう。放送当時から噂話的には聞いているが、記事になったことはあるのだろうか。

2020年3月25日(水)
午前中からやることが山盛り。14時から取材と打ち合わせ。ちょっと歩いてから事務所に戻る。
早朝から昼にかけて『真魔神英雄伝ワタル』『魔神英雄伝ワタル -終わりなき時の物語-』を観た。 『-終わりなき時の物語-』は初めての視聴だった。このところ『ワタル』と『グランゾート』を次々に観ているが、これだけの本数をレンタルビデオで観たら、レンタル代が幾らかかったか。借りてくるのも手間だ。配信のおかげで楽にチェックができる。ありがたい。

2020年3月26日(木)
書籍編集以外で心配事が。と言いつつも書籍の編集は続く。『Panty & Stocking with Garterbelt』を視聴する。『天元突破グレンラガン』も『キルラキル』もながらで観ることができるんだけど、『Panty & Stocking with Garterbelt』は何故かながら観に向かない。好きなんだけどなあ。

2020年3月27日(金)
コミックマーケット98の中止が発表になる。マチアソビの中止が発表になる。4月のアニメスタイルイベントの中止も発表する。コミケの中止はうちの会社としてはかなり痛い。コミックマーケット98で販売する予定だった「今石洋之アニメ画集」「今石洋之アニメ資料集[コンテ・原画編]」「パンスト 今石洋之マンガ全集」の編集作業はそのまま続けることになる。状況は大変だが、原稿はサクサクと進む。
「今石洋之アニメ画集」のテキスト作成のために『フリクリ』1話の動画を一時停止したり、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』の2号機のバージョンについて調べたり。

2020年3月28日(土)
朝のラジオ体操で公園に行った以外はほとんど外出はせず、事務所に篭もって原稿作業。Amazon Prime Videoで『DEAD LEAVES』を観る。新マスターになっているようでかなり綺麗だ。NHK-FMの「アニソンアカデミー」の堀江美都子さんの回を聴く。こんなことを言ってはかえって失礼かもしれないけれど、本当によく声が通るなあ。そして、お喋りの内容も楽しい。曲が同じで歌詞が違う『グレートマジンガー』の「ビューナスAの歌」と「大非常線」の「別れを告げて旅に出る」を続けて流すというマニアックさ。濃い番組だった。

第659回 コンテという冒険と使命

 世間がいろいろと大変な事態ですが、コンテは進められます。日々デスクトップに向かう毎日ですが、コンテ上では冒険がいっぱい。毎度のことながら、次のカットがどんな画になるのか分からないハラハラ・ドキドキ感を楽しんでコンテを切って(描いて)います。特に今作は(まだタイトルは明かせませんが)いわゆる「冒険・ファンタジー」に属するもの。主人公主観でコンテという冒険を味わえて本当に面白い日々。これだからコンテはやめられません! 現在少々遅れつつの8話目。
 そんなわけで、板垣個人的には楽しく仕事ができておりますが、アフレコ・音響現場は収録不能なトコが多いらしく、とにかく心配。役者さんの現場は大勢集まりがち。今は無理させてはいけません。できる環境になったところから徐々に始めましょう、と。恐らく、抜き録り・別録りで収録日が分散せざるを得ないはずなので、アフレコが開始されるまでにできるだけコンテを進めておく! それが今の自分の使命。

現在のような状況ではそれぞれの判断で「今、自分ができること」を考えて行動をするしかりません! このような事態でもやらせていただける仕事がある俺のような幸せ者は、まずそれをやりたいと思います!

第182回 サティのように 〜ガラスの仮面(2005年版)〜

 腹巻猫です。日本オペラ振興会(藤原歌劇団・日本オペラ協会)が、今年1月に上演された歌劇「紅天女」の記録映像をインターネットで無料配信しています(5月14日まで)。

OPERA de STAY HOME♪第3弾 日本オペラ協会公演 歌劇「紅天女」
https://www.jof.or.jp/operadestayhome_2001_kurenai.html

 美内すずえの少女マンガ「ガラスの仮面」に登場する舞台劇「紅天女」をオペラ化したもの。原作でもまだ描かれていない「紅天女」の結末が観られると話題になりました。筆者は残念ながら公演に行けなかったので、こういう形で観られるのはとてもうれしい。


 オペラ「紅天女」の作曲を担当したのは寺嶋民哉。アニメファンには劇場作品『ゲド戦記』の音楽で知られる作曲家である。
 実は寺嶋民哉と「ガラスの仮面」の縁は深い。1998〜1999年にリリースされたOVA『ガラスの仮面』(全3巻)の音楽を担当したのが寺嶋民哉だった。2005年にはTVアニメ『ガラスの仮面』の音楽を担当している。
 それだけではない。1998年に舞踏家・花柳鶴寿賀のために「紅天女」を題材にした歌曲を作曲。2008年と2010年には蜷川幸雄演出による音楽劇「ガラスの仮面」「ガラスの仮面〜二人のヘレン〜」の音楽を手がけている。そして、2020年上演の歌劇「紅天女」。これだけ長い期間にわたり、「ガラスの仮面」ゆかりの音楽に取り組んだ作曲家はほかにいない。寺嶋民哉にとって、「ガラスの仮面」はもはやライフワークのひとつと呼べるのではないだろうか。
 今回はTVアニメ『ガラスの仮面』の音楽を紹介したい。
 『ガラスの仮面』は、2005年4月から2006年3月まで全51話が放送された、MEDIANET、トムス・エンタテインメント製作のTVアニメ作品。アニメーション制作は東京ムービーが担当した。1984年にもエイケン制作でアニメ化されているが、そのときは物語の途中までしか描かれていない。2005年版は、原作の大半を映像化した上で、物語に一応の結末をつけているのが特徴だ。
 天才的な演技の才能を持った2人の少女、北島マヤと姫川亜弓。『ガラスの仮面』は、2人がライバルとして競い合いながら、伝説の舞台「紅天女」の主役の座をめざす物語である。芸能一家に生まれ、環境にめぐまれた姫川亜弓に対し、主人公・北島マヤはまったく演技経験がない素人から女優をめざす。マヤが数々の試練を乗り越え、女優として成長していく姿が見どころだ。

 音楽を担当した寺嶋民哉は熊本県出身。音楽の原体験は劇場作品「ベン・ハー」のレコードだったという。学生時代はブラスバンド、卒業後はロックバンドで活動しながら手探りで作曲、編曲を学んだ。上京後、ゲーム音楽を皮切りに作曲家として活動を開始。劇場作品やTVドラマ等の映像音楽に活躍の場を広げた。2004年、劇場作品「半落ち」で日本アカデミー賞優秀音楽賞を受賞している。
 筆者は90年代〜2000年代のマンガ原作ドラマの音楽で寺嶋民哉の名を意識した。ドラマ音楽デビュー作「南くんの恋人」(1994)をはじめ、「イグアナの娘」(1996)、「おそるべしっっ!!!音無可憐さん」(1998)、「可愛いだけじゃダメかしら?」(1999)、「月下の棋士」(2000)、「動物のお医者さん」(2003)などなど。「真珠夫人」(2002)、「愛のソレア」(2004)、「新・風のロンド」(2006)など、東海テレビ制作の昼の帯ドラマ(昼ドラ)も強烈だった。アニメでは、OVA『KEY THE METAL IDOL』(1994)、TVアニメ『花右京メイド隊』(2001)、『魔法少女隊アルス』(2004)、『夢使い』(2006)、『聖剣の刀鍛冶』(2009)、劇場アニメ『ゲド戦記』(2006)などの音楽を担当。近年はPlanet Terra Projectを立ち上げ、オリジナル音楽を生み出す活動も精力的に行っている。
 さて、『ガラスの仮面』ではマヤたちの日常(現実)と芝居(虚構)のふたつの世界が描かれる。音楽のアプローチとして、日常場面にはオーソドックスな音楽を流し、芝居の場面には思い切ってドラマティックな音楽をつけてメリハリを付ける方法が考えられる。
 1984年版『ガラスの仮面』では、ロックバンドSHOGUNのキーボーディストでTVアニメ『CAT’S・EYE』(1983)の音楽も手がけた大谷和夫が音楽を担当した。80年代アニメらしい、そして大谷和夫らしい、都会的なサウンドのオーソドックスな音楽だ。サウンドトラック盤でも、「紫のバラのひと」「月影のテーマ」などわかりやすい曲名がつけられている。
 2005年版『ガラスの仮面』の音楽はアプローチが違う。「こういう場面はこの曲」というわかりやすい音楽ではないし、そういう音楽演出もされていない。
 場面場面に音楽がついているのではなく、シークエンス全体にゆったりと音楽が流れている印象だ。シーンをまたがって音楽が長く流れることが多い。
 音楽自体も、「こういう場面ですよ」「こういう感情ですよ」と説明する音楽ではなく、さまざまに解釈できる、想像力を喚起する音楽だ。
 あらためてサントラ盤を聴き、本編を観て、筆者はサティの音楽を思い出した。
 薬師丸ひろ子が主演した劇場作品「Wの悲劇」(1984)に、劇中劇のBGMとしてエリック・サティの曲が流れる場面がある。サティは舞台音楽も書いたが、純音楽として書いた作品も劇場作品や舞台の音楽としてよく使われる。淡々と同一音型をくり返すスタイルが、芝居のBGMに向いているのだろう。存在を主張せず、空気のようにそこにある音楽が、知らず知らず観客の想像力を喚起し、虚構にリアリティを与える。アニメ『ガラスの仮面』の音楽とその使い方も、サティの音楽に通じるものがある。
 実際、寺嶋民哉はサントラ盤の解説書に掲載された美内すずえとの対談の中で、本作の音楽について、「ヒーリング系というか、おとなしめに音楽を作りたいという意向もありまして、割と起伏が多くない音楽の付け方をしました」「空気のようにあまり主張しないように心がけて音楽を作りました」と語っている。
 『ガラスの仮面』の音楽で印象的なのが、メインテーマである。サントラ盤では「千の仮面」のタイトルで収録されている。メロディは歌曲のような大きなうねりを持ったものではなく、同一の音型をくり返して展開していくサティ的なもの。このメインテーマのメロディがさまざまにアレンジされて、劇中に使用される。マヤの決意も悩みも悲しみも、同じメロディで表現され、解釈は観る者にゆだねられる。この世界全体がひとつの舞台劇であるかのように。これが『ガラスの仮面』の音楽演出のねらいではないだろうか。シンセサイザーを主体にした独特のサウンドも日常と非日常の境界を溶かす役割を果たしている。
 本作のサウンドトラック・アルバムは「TVアニメ ガラスの仮面 サウンドトラック」のタイトルで2006年1月にサイトロン・デジタルコンテンツ(現・ハピネット)から発売された。収録曲は以下のとおり。

  1. 千の仮面
  2. Pray for aJNjana
  3. Spice of Feel
  4. 風光る刻
  5. Impressive
  6. 慟哭
  7. ありし日の憂鬱
  8. Voce Pathetique
  9. 懊悩と焦燥
  10. Physical Sniper
  11. Crystal Syndrome
  12. Fountain
  13. 星と祈り
  14. Breath of Gaia
  15. ここより永遠に
  16. 夢魔
  17. ASH City
  18. いとたかき主よ
  19. Valse pour Nobles
  20. Dry Manhattan
  21. 落花流水
  22. Natural Breeze
  23. Time healed my sorrow
  24. 紅天女より『風』
  25. 紅天女より『火』
  26. 紅天女より『水』
  27. 紅天女より『土』
  28. Promise TV version(歌:Candy)
  29. zero TV version(歌:幾田愛子)

 ラストの2曲は前期オープニング主題歌と後期オープニング主題歌。BGMパートのラストには、劇中劇「紅天女」をテーマにした曲が4曲収録されている。
 構成はなかなかユニークだ。ストーリーを追うのではなく、劇中劇も含めた『ガラスの仮面』の世界をまるごと表現するオリジナル・アルバムのような印象。曲名も多くは本編にこだわらずにつけられている。
 印象に残る曲を紹介しよう。
 まずは1曲目の「千の仮面」。本作のメインテーマである。
 ピアノが奏でるイントロにシンセの背景音がそっと加わり、木管の音色によるテーマに発展する。同じ音型をくり返しながら展開していく曲調が耳に残る。第1話でマヤが初めて観た舞台に衝撃を受ける場面をはじめ、物語の要所要所で流れる重要曲だ。
 同じメロディをアレンジしたトラック7「ありし日の憂鬱」はハープの音色をメインにしたリリカルな変奏。マヤと劇団員の日常場面などに流れて、やさしい印象を残す。
 トラック15「ここより永遠に」は不安や暗い情念を連想させる前半部分からメインテーマを変奏した希望的な後半に展開する曲。この曲自体が1本のドラマのような構成だ。
 次のトラック16「夢魔」はケーナ風の音色によるメインテーマの変奏曲。マヤの不安や悲しみ、さびしさを描く場面によく流れている。が、「夢魔」というタイトルが示すように、特定の感情を表現する曲というより、押しとどめることのできない運命の流れを感じさせる曲である。第27話のマヤと母親との別れの場面での使用が切ない。
 そして、トラック23「Time healed my sorrow」は弦合奏と木管の音色を主体にしたメインテーマのアレンジ。エピソードのラストに流れることが多く、試練に直面したマヤの想いや運命の転変を伝える曲というイメージだ。毎回の次回予告に流れるのもこの曲である。
 本作の中でメインテーマと並んで耳に残る曲が、トラック5「Impressive」だ。ピアノがシンプルな音型をくり返すミステリアスな曲で、まさにサティ的。劇中ではマヤを導く元大女優・月影千草のテーマ的に使用されているので、本編をご覧になった方なら「あの曲か」とピンとくるはず。といっても、使用されているのは月影の場面ばかりではない。マヤや亜弓を成長させる芝居の世界の厳しさを描く曲という印象だ。
 この曲のメロディはトラック21「落花流水」にも登場する。水面に広がる波紋を思わせる弦合奏の序奏に続いて、「Impressive」の弦による変奏が現れる。この曲は物語の中盤、芸能界に飛び込んだマヤが大きな試練に直面するエピソードから使用され始めた。暗転するマヤの運命を象徴する曲である。
 本アルバムには、いわゆる日常曲がほとんど収録されていない。日常場面に流れる明るい曲はトラック4の「風光る刻」とトラック13「星と祈り」くらい。「風光る刻」はマヤに想いを寄せる少年・桜小路とマヤとの語らいの場面などによく選曲されている。また、トラック12「Fountain」は芝居が成功した場面や劇団が練習に励む場面などに流れていた高揚感のある曲。本アルバムの中では珍しい、オーソドックスな劇音楽的な曲のひとつである。
 代わりに強い印象を残すのが、トラック2「Pray for aJNjana」、トラック8「Voce Pathetique」、トラック14「Breath of Gaia」など、宇宙的とでも呼ぶべき、空間系の神秘的なサウンドの楽曲だ。中でも女声コーラスを使った「Voce Pathetique」の美しさは際立っている。この曲、亜弓が演技の冴えを見せる場面などで、亜弓のテーマ的に使用されている。が、むしろ、天才的な演技のきらめき、芝居へのほとばしる情熱を美しいサウンドで表現した曲として聴くべきだろう。
 ピアノのキラキラした音色が奏でるトラック22「Natural Breeze」は、第26話のマヤと桜小路との別れの場面などに選曲された曲。これも、悲しみの曲というより、もっと中間色の、タイトル通り「自然の風」を音にしたような透明感のある曲である。
 そして「紅天女」を題材にした4曲。1998年に作曲された舞踏用の歌曲をもとにインストゥルメンタルとして作り直したものだ。幻想的にして壮大。スケールの大きい和製ファンタジーの趣がある。『ガラスの仮面』と『ゲド戦記』のあいだは意外に近いのだ。

 ドラマを題材にした作品に、あえてドラマティックでないスタイルで挑んだ『ガラスの仮面』の音楽。しかし、その音楽は別の意味でとても劇的=演劇的だ。サウンドトラック盤は入手困難になっているが、本編はネット配信等で観ることができるので、機会があれば、ぜひ音楽と音楽演出に注目しながら観ていただきたい。

TVアニメ ガラスの仮面 サウンドトラック
Amazon

アニメ様の『タイトル未定』
251 アニメ様日記 2020年3月15日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。

2020年3月15日(日)
昼からワイフと映画に行くつもりで、チケットも購入していたのだけど、体調がいまひとつだったのでとりやめる。普段ならこれくらいの体調で映画をやめたりしないのだけど、時期が時期だけに慎重に。
数日間に渡って『疾風!アイアンリーガー』 を観続けたせいで、色々な曲が『アイアンリーガー』 のBGMに聞こえてしまう。ラーメン屋でかかっていたラジオで、お調子者っぽい喋り声が聞こえてきて「おっ、トップジョイか」と思ってしまった。当然のことであるが、トップジョイでもなければ、小杉十郎太さんでもなかった。
あるネットの記事を読んだ。その記事自体はひどいものではないのだけれど、「過去の記事や書籍、あるいは発言の積み重ねを前提にして、新しい記事が書かれていく」というわけではないのだなと思った。今までも、必ずしも「過去の記事や書籍、あるいは発言の積み重ねを前提にして、新しい記事が書かれていった」わけではないのだけれど、これからもっと顕著になっていくのだろう。裏付けはない。ただ、そう思った。勿論、アニメについての話だ。

2020年3月16日(月)
早朝にこの数日やっていた原稿を仕上げる。その後は散歩とデスクワークと打ち合わせ。昼に自宅に戻って、大鍋で豚汁をつくる。いろいろと大変なんだけど、豚汁を食べて焼酎を飲んだら楽しい気持ちになった。夕方、先日知った西巣鴨の豚丼屋で、吉松さんとイベントの打ち合わせ。
『ダーウィンズゲーム』を1話から最新話まで観た。次は『痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います。』を1話から視聴。

2020年3月17日(火)
「今石洋之アニメ画集」の先行入稿分の色校正が出る。アレクサに「クラシックピアノのステーション」をかけてもらったり、Amazon Prime Videoで「駅ピアノ」を再生したりしつつ作業を進める。原稿以外の用事を一気に片づけるつもりだったけど、そんなわけにもいかなかった。
月朝に仕上げたロングインタビューの原稿チェックが早くも戻ってきた。修正は無し。有り難い。

2020年3月18日(水)
昼までデスクワーク。色々と片づける。12時から打ち合わせで、あるプロダクションに移動して打ち合わせと取材。「今石洋之アニメ画集」で掲載が難しかったイラストを、編集部スタッフが知恵と技術で掲載できるところまでもっていってくれた。素晴らしい。

2020年3月19日(木)
昼間はデスクワークと散歩。仕事で数年ぶりの大ダメージをくらう。夕方に休んで、夜はレイトショー「新文芸坐×アニメスタイル 日本アニメーション映画史『わんぱく王子の大蛇退治』」を開催。ゲストは叶精二さん。僕としては高畑勲さんによる絵コンテ修正の話が興味深かった。

2020年3月20日(金)
春分の日。心身を休めるため、ほぼ休日に。午前中からワイフとお手軽花見。コンビニで缶ビールを買って公園に行って桜を見て、スーパーで缶ハイボールと弁当を買って別の公園に。そして、また別の公園に。

2020年3月21日(土)
朝からNetflixで配信が始まった『BNA』を視聴。その後、やはりNetflixでオリジナル長編アニメ『オルタード・カーボン: リスリーブド』を観る。その後は昼風呂、デスクワークなど。

アニメ様の『タイトル未定』
250 アニメ様日記 2020年3月8日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。

2020年3月8日(日)
朝から雨。午前中から昼過ぎまで、事務所で原稿作業。今まとめている取材原稿は2020年の段階で「おお、なるほど」と思ってくれる人は50人くらいしかいないかもしれないけれど、後世の研究家の役に立つかもしれないので、なるべく精度を上げておきたい。面白さよりも情報優先。雨がやんだ後、14時くらいから散歩。自宅でハイボールを呑みながらカレーを作って、また事務所に。カレーを作りながら『SUPER SHIRO』を10数本観た。
『牧場の少女カトリ』を最終回まで視聴。終盤のトゥルクでの話は登場人物も多彩で、話数の少なさが勿体ない。学校に通い始めたカトリのことを、クラスメートがどこかの国の王女様ではないかと噂する辺りなんて膨らませたらかなり面白かっただろう。「TVアニメ25年史」の解説によれば、この作品はシリーズ中に何度か打ち切りの話があったらしい。作り手も思ったように話を進めることができなかったのかもしれない。
面白かったのが38話のカトリ、マルティ、ペッカの会話だった。医者になりたいというカトリに対して、そんなことは不可能だとペッカが言い、マルティは夢は絶対にかなえられると熱弁をふるう。ペッカはそんなマルティのことを感心して「お前、この前会った時と比べると、すごく成長したぜ」と言う。マルティを演じるのは古谷徹さんで、その木訥すぎる喋り方は独特のものだ。話数が進むにつれて、その喋り方が味わいとなり、キャラクター性をつくっていった。マルティの熱弁は古谷徹さんのその芝居だからこそ説得力のあるものだった。
40話で町に旅立つカトリに、マルティが父親からの餞別だと言ってお金を渡す場面があるのだが、それも面白かった。

2020年3月9日(月)
やはり月曜は慌ただしい。片づけなくてはいけない用事が多くて、自分の原稿は進められず。昼にずっと前から存在は知っていたけれど、入ったことのなかった定食屋でランチを食べた。看板には喫茶、中華、うなぎ、和食とあって、のれんには小料理、家庭料理をとある。味は昭和の食堂の味って感じ。『疾風!アイアンリーガー』をdアニメストアで視聴開始。極十郎太の声が、工藤新一に聞こえるよ(逆だ)。

2020年3月10日(火)
いきなり!ステーキでランチ。『キン肉マン』関連のキャンペーンをやっていて、サラリーマンも初老のオジサンも、デカデカとキン肉マンの画がプリントされた紙エプロンをつけているのが愉快だった。勿論、僕もその紙エプロンをつけた。15時まではデスクワークと散歩。15時から社内打ち合わせ、17時から外部で打ち合わせ。バレンタインの打ち合わせにチョコレートを持っていった方からホワイトデーのおかえしをいただく。男子から男子へのお返しである。
最近のアニメスタイル編集部は、編集スタッフが線画を元にセル塗りする段階を越えて、オリジナルのセルイラストに塗りミスがあったら、塗り直しのついでに修正する領域に。あるセルイラストが完成から20年を経て、塗りミスが修正されることになった。
引き続き、『疾風!アイアンリーガー』を視聴中。どうして、極十郎太が山口勝平さんで、トップジョイが小杉十郎太さんなんだ。逆じゃないのかとずっと思っていたけれど、このキャスティングで正解という気がしてきた。

2020年3月11日(水)
「入ったことのない店にランチで入ってみよう」シリーズで、散歩の復路で西巣鴨の豚丼屋に入る。かなり美味しい。しかも、夜はホッピーも飲めるし、かなりのデブメニューもあるみたい。ちなみにデブメニューとはデブが好きなそうなメニューのことである。
『疾風!アイアンリーガー』 の32話「熱砂の大盗賊」(脚本/山口亮太、絵コンテ・演出/大畑清隆、作画監督/神志那弘志)がかなりの力作。いつか大畑さんの『アイアンリーガー』を観直さなくてはと思っていたけど、観てよかった。すごいよ、大畑さん。勝平さんもいい。

2020年3月12日(木)
『劇場版 SHIROBAKO』を観る。内容について不満もあるんだけど、あのキャラクター達に再会できたのは嬉しかった。一番よかったのはTVシリーズとの地続き感が強かったところ。
「今石洋之アニメ資料集[コンテ・原画編]」の束見本が出た。表紙まわりの紙を変えて、2バージョン作った。自分で言うのもなんだけど、セットの内の一冊とは思えないボリュームだ。
『疾風!アイアンリーガー』41話「魂の勝利宣言」(脚本/稲荷昭彦、絵コンテ/赤根和樹、演出/織田美浩、作画監督/本橋秀之、宮田忠明)は「はぐれリーガー編」のクライマックス。ああ、この回が赤根さんの絵コンテだったか。「はぐれリーガー編」の後半は熱い話が連続する。アミノ監督が脚本、コンテを担当した38話「はぐれリーガーの絆」もよかった。

2020年3月13日(金)
深夜から朝まで「この人に話を聞きたい」の原稿。散歩とデスクワークと打ち合わせはさんで、14時から某プロダクションで打ち合わせと取材。

2020年3月14日(土)
午前中に散歩。その後に雨。さらに雪。昼間はデスクワーク。夕方からワイフと蕎麦屋に。夜の仕事の段取りに失敗する。『疾風!アイアンリーガー』 を最終回まで視聴。シリーズ全体として、本放送と大きく印象が変わることはなく、本放送時の視聴をトレースした感じ。印象が変わったのはルリー銀城くらい。今観ると、頑張ってオーナーの仕事をしているよ。もう一度観たら、『疾風!アイアンリーガー』 の作品解説が書けそうだ。その後、橋本愛さん目当てでAmazon Prime Videoで「さよならドビュッシー」を観る。

第657回 初監督と藤原さん

 自分の初監督作『BLACK CAT』(2005〜2006)のスヴェン=ボルフィード役・藤原啓治さんが4月12日にお亡くなりになられました。『BLACK CAT』は板垣が初監督なだけではなく、原作の矢吹健太朗先生も初アニメ化で、秋山由樹子さんもキャラクターデザイン・総作監は初、近藤隆さんも初の主役、福圓美里さんもメインキャラは初めて。当時、自分がちょうど30歳になったばかりで、矢吹先生も秋山さん、近藤さん、福圓さんも20代前半で、今思えば若い現場。そのアフレコ現場で藤原さんは、若い役者さんらをリードしてくださったムードメーカーでした。画の状態が芳しくない中、アドリブもたくさんいただきました。休憩中気さくにおしゃべりしてくださったり、イベントなども楽しく盛り上げていただきました。「また是非ご一緒させてください」の約束は果たすことができずじまい。
 過去の作品はあまり振り返らない性格ゆえ、この機会に思い返してみたのですが、当時の自分は「先が予想できない画面作り・カット割り」にこだわっていたので、脚本・演出・作画だけでなく、藤原さんらキャストの皆さまをも大変迷わせてしまったように思います(まぁ未だにそうかもしれませんが)。「とにかく変なこと、そして『BLACK CAT』でしか味わえないカッコよさ」をとコンテを好き勝手切り(描き)まくって、キャストの方々に楽しく演じてもらおう! 藤原さんからも俺の画作りの特徴について「面白い!」とアフレコ時褒めていただいたことがあります。

若さに任せて作った無法地帯な現場で、スタッフもキャストも全員主人公となって遊びまくった作品、それが『BLACK CAT』! 藤原啓治さん、紳士で優しく面白く、そしてカッコいいスヴェンを本当にありがとうございました! 謹んでご冥福をお祈り申し上げます。

第181回 待て、しかして希望せよ 〜巌窟王〜

 腹巻猫です。2016年公開のフル3DCG劇場アニメ『GANTZ:O』のサウンドトラック・アルバムが4月30日に発売されます。音楽を手がけた作曲家・池頼広さん自身のレーベル「スタジオ・キッチン」からのリリース。解説とインタビューを担当しました。全曲・初商品化! 自宅作業のおともにぜひどうぞ!

GANZ:O オリジナル・サウンドトラック
https://www.amazon.co.jp/dp/B0876RTSLT/


 今年のNHK大河ドラマ「麒麟がくる」の音楽はハリウッド映画音楽などで活躍するアメリカの作曲家、ジョン・グラムが担当している。大河ドラマで海外の作曲家が音楽を担当するのは「武蔵 MUSASHI」(2003)のエンニオ・モリコーネ以来である。
 日本制作のアニメでも海外の作曲家が音楽を担当した例がある。『幻魔大戦』(1983)のキース・エマーソンを筆頭に、劇場アニメ『シニカル・ヒステリー・アワー』(1988)のジョン・ゾーン、OVA『GATCHAMAN』(1994)のモーリス・ホワイト&ビル・メイヤーズ、TVアニメ『若草物語 ナンとジョー先生』(1993)のデービッド・シービルズ、劇場アニメ『STEAM BOY』(2004)のスティーブ・ジャブロンスキー、TVアニメ『BLOOD+』(2005)のマーク・マンシーナなどが思いつく。『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』(2018)のエバン・コール(EVAN CALL)のように海外出身ながら日本を拠点に活動している作曲家もいる。
 今回は、そんな海外の作曲家が参加した作品のひとつ、『巌窟王』を取り上げよう。

 『巌窟王』は2004年10月から2005年3月まで放送されたTVアニメ。監督は前田真宏、アニメーション制作はゴンゾが担当した。
 原作はアレクサンドル・デュマの「モンテ・クリスト伯」。日本でも明治時代から「巌窟王」のタイトルで親しまれた傑作長編小説だ。友に裏切られ、無実の罪で投獄された船乗りエドモン・ダンテスが、辛い獄中生活を耐え抜いて脱獄、巨万の富を手に入れ、自分を裏切った者たちに復讐する物語である。
 アニメ版は舞台をいつともしれない未来に設定。原作の19世紀フランスの香りも残しながら、月面都市や宇宙船、甲冑型ロボットなどが登場する絢爛たるSF絵巻として作られている。テクスチャを貼ったような衣装の処理など、CGを駆使した大胆な映像表現に目を奪われる。
 監督の前田真宏によれば、本作には、「モンテ・クリスト伯」を下敷きにしたアルフレッド・ベスターのSF小説「虎よ、虎よ!」のイメージも投影されているとか。「虎よ、虎よ!」はワイドスクリーン・バロックと称される実験的手法を駆使した小説。アニメ版『巌窟王』もバロック的イメージに彩られている。バロックといっても「バロック音楽」ではなく、本来の意味での「バロック」=グロテスクなまでに華麗で過剰で壮大で劇的という印象だ。その豊穣なイメージは今観ても古びていない。
 本作の音楽も実に華麗で壮大で劇的である。
 音楽を担当したのはジャン=ジャック・バーネル。パンク・ロックバンド、ストラングラーズのベーシストとして知られるミュージシャンだ。オープニングテーマ「WE WERE LOVERS」、エンディングテーマ「You won’t see me coming」をはじめ、バーネルの作った楽曲は本作の音楽イメージのコアをなしている。
 しかし、本作のドラマを彩るのはバーネルの音楽だけではない。サウンドトラック盤に収録された楽曲の半数には、作曲・編曲者として「teng」の名がクレジットされている。その実態はサウンドデザイナー・音響監督としても活躍する音楽家・笠松広司と作曲家・北里玲二の2人。ジャン=ジャック・バーネルの楽曲は力強いロックとバラードが主体。いっぽう、tengの楽曲はテクノミュージックとリリカルなピアノ曲が中心になっている。バーネルの楽曲にない要素をtengの楽曲が補っている形だ。
 さらに、本作で大きな役割を果たしているのが既成のクラシック音楽である。使用されたのは、チャイコフスキーの「マンフレッド交響曲」、ドニゼッティのオペラ「ランメルモールのルチア」、マイヤベーアのオペラ「悪魔のロベール」、ドビュッシーの「ヒースの草むら」、ラフマニノフの「ピアノ協奏曲第二番」など。本編では、とりわけ劇的な場面や壮大なスケールの場面にクラシック音楽がよく選曲されている。本作におけるクラシック音楽は、オリジナル音楽と同等かそれ以上に存在感のある、重要なピースなのである。
 ロック、テクノ、クラシック……大ざっぱに言っても、これだけ音楽性の異なる楽曲がアニメ『巌窟王』の中で共存している。これもある意味、バロック的だ。
 本作のサウンドトラック・アルバムは「巌窟王 オリジナル・サウンドトラック」のタイトルで2005年2月に発売された。このアルバムに収録されているのは本作のために作られた楽曲のみで、既成のクラシック曲は2005年4月発売のアルバム「巌窟王 クラシック・コンピレーション」にまとめられている。発売はいずれもビクターエンタテインメント。どちらも美しくデザインされたデジパック仕様のアルバムだった。「クラシック・コンピレーション」のリーフレットには前田真宏監督が選曲や音楽演出について記したコメントが掲載されているので、ファンは2枚とも必携・必聴である。
 今回は「巌窟王 オリジナル・サウンドトラック」の楽曲を紹介しよう。収録曲は以下のとおり。

  1. 謝肉祭
  2. WE WERE LOVERS ★
  3. prologue
  4. 闇色の夢
  5. Anger(エドモンからの手紙) ★
  6. 情景、ある晴れた日に彼は
  7. 遠い記憶
  8. MONTECRISTO ☆
  9. 天体儀
  10. sorrow(宿命) ★
  11. Auteui
  12. 少年の日
  13. Waltz(waltz in blue) ★
  14. desire(復讐はただ我にあり) ★
  15. mercedes(渚にて) ★
  16. 地下宮殿
  17. 月夜
  18. 海嘯
  19. You won’t see me coming(TVsize) ★
  20. You won’t see me coming(FULL) ★

★=ジャン=ジャック・バーネル作曲・編曲・演奏
☆=teng編曲
上記以外=teng作曲・編曲

 バーネルの曲とtengの曲が混在し、雰囲気やスタイルの異なる音楽が次々と現れる。アンバランスな印象もあるが、それがかえって本作の世界観を表現している。
 1曲目に置かれた「謝肉祭」は第一幕(=第1話)冒頭の月面都市ルナのカーニバルの場面に流れる曲。明快なメロディを持たないリズム主体のテクノ曲だ。これがアルバム全体の序曲となり、オープニングテーマ「WE WERE LOVERS」に続く。
 「WE WERE LOVERS」はピアノ・ソロのイントロから始まるバラード。ショパンの名曲を思わせる切なく甘いメロディは、『巌窟王』の物語が実は狂おしい愛の物語でもあることを語っている。
 トラック3「prologue」は第二幕以降、毎回のように本編冒頭で流れた回想シーン(前回のあらすじを語るモノローグ)の曲。本作の音楽の中でもひときわ印象に残る不安なピアノ曲である。深いエコー(リヴァーブ)がかかったピアノの音色が夢の中にさまよいこんだような気持ちにさせる。  ここまでがいわば序章。聴く者を『巌窟王』の世界に引き込む導入部だ。
 トラック4「闇色の夢」はモンテ・クリスト伯の復讐を予感させるミステリアスなテクノ曲。この曲も明快なメロディはなく、重ねられたシンセの音が伯爵の暗い情念を表現する。
 トラック5「Anger(エドモンからの手紙)」はジャン=ジャック・バーネルの手になる伯爵の怒りのテーマ。歪んだ音色のエレキギターと重いリズムが絡む荒々しい曲だ。曲の中盤に入る女声コーラスが伯爵の心に隠された憂愁を伝える。4分を超える、聴きごたえのあるナンバーである。
 さて、アニメ版『巌窟王』の大きな特徴は、主人公をモンテ・クリスト伯ではなく、伯爵の復讐対象であるモルセール将軍の息子・アルベールに設定していること。若きアルベールと伯爵との関係が物語の軸になっている。
 次のトラック6「情景、ある晴れた日に彼は」は、そのアルベールたちの日常につけられた曲だ。アコースティックギターとシンセが穏やかに奏でる牧歌的な曲で、アルベールと友人たちとの語らいの場面などによく使われていた。全体に「闇」の雰囲気がただよう本作の中で、この曲は「光」をたたえた重要な曲。伯爵の復讐心に対抗する、若さと希望を象徴する曲である。
 続くトラック7「遠い記憶」はピアノ・ソロによるメランコリックな曲。モンテ・クリスト伯が過去を回想するシーンや伯爵に使える少女・エデがアルベールに自分の身の上を語る場面(第十六幕)などに流れている。本作の音楽では、ピアノの音色が登場人物の内面を伝える役割を担っている印象だ。
 トラック8の「MONTECRISTO」はアルバムの中でも特別な曲。既成のクラシック曲の演奏をサンプリングし、テクノサウンドとミックスした楽曲なのである。使用された曲は、チャイコフスキーの「マンフレッド交響曲」、ドニゼッティの「ランメルモールのルチア」、マイヤベーアの「悪魔のロベール」の3曲。本編でも重要な場面で使用されている曲ばかりだ。個々の楽曲はアルバム「巌窟王 クラシック・コンピレーション」でも聴くことができるが、ここでは、テクノサウンドとミックスしたメドレーでハイライトが披露される。クラシックとテクノの共演で本作独特の世界観を表現した、もっとも『巌窟王』らしいとも呼べるトラックである。
 シンセによるSE(効果音)風のトラック「天体儀」を経て、バーネル作曲の「sorrow(宿命)」が登場。ギターとストリングス、シンセが奏でる悲痛な宿命のテーマである。この曲は第一幕でアルベールとモンテ・クリスト伯が初めて出逢う場面に使用。その後も、伯爵の復讐が進行する中で苦悩するアルベールやその母・メルセデスらの想いを表現する曲としてたびたび使われた。
 次のトラック「Auteui」はシンセによる明快なメロディのないミステリ—曲。Auteui(オートゥイユ)とは、モンテ・クリスト伯が別荘をかまえたパリの地名である。この別荘も伯爵の復讐劇の舞台となる。
 トラック12「少年の日」は穏やかで淡々としたピアノ・ソロの曲。タイトルのとおり、アルベールと友人たちの心通うひとときを描写する曲として使われた。第二幕でアルベールの親友フランツがアルベールとの初めての出逢いを回想する場面などが印象深い。トラック6の「情景、ある晴れた日に彼は」と並んで、本作の「光」の部分を表現する曲のひとつ。
 バーネルの曲「Waltz(waltz in blue)」はバーネル自身のボーカルで歌われるワルツの曲。フランスの民族音楽「ミュゼット」の雰囲気を持つ牧歌的な曲だ。第二十四幕のパリのカーニバルのシーンで一度だけ使用されている。
 同じくバーネルによるトラック14「desire(復讐はただ我にあり)」は緊迫感のある復讐のテーマである。フラメンコ風のギターのフレーズが伯爵の心に燃える暗い炎を描き出す。獣の声のような笛の音、パーカッションと男声コーラスが加わる。この雰囲気はまるでマカロニウエスタン。復讐劇にはぴったりのサウンドだ。
 この曲はシリーズ後半、伯爵の復讐が本格化してから使用頻度が高くなる。第十幕でモルセール将軍が「エドモン・ダンテス」の名が記された手紙を見て動揺する場面や第十五幕でエデがモルセール将軍の過去の悪事を告発する場面など、原作ファンなら思わず拳を握ってしまう名場面を盛り上げている。
 次の「mercedes(渚にて)」もバーネルの曲。こちらはオープニングテーマ「WE WERE LOVERS」と共通する雰囲気を持つ、ピアノとボーカル主体のバラード曲。モンテ・クリスト伯のかつての恋人であり、今は宿敵の妻となったメルセデスのテーマである。第四幕でモンテ・クリスト伯の正体を知らぬメルセデスが伯爵とバルコニーで語らう場面に流れた。また、第二十幕でアルベールが結婚式場から幼なじみのユージェニーを奪い去る場面でも使用。使用回数は少ないながら、強い印象を残す愛のテーマだ。
 伯爵が館の地下に築いた壮麗な宮殿のテーマ「地下宮殿」を挟み、ピアノとストリングスが繊細に奏でる「月夜」が続く。これは、モンテ・クリスト伯と出会ったことで運命が変わってしまった人々の苦悩や迷いを表現する瞑想的な楽曲。淡々とした曲調ながら、ピアノの冷たい音色が行く手に待つ悲劇を暗示して、緊張感が募る。
 そして、BGMパートの掉尾を飾るトラック18「海嘯」。本作の音楽を語る上で、オープニング&エンディングテーマと並んで忘れてはならない曲だ。シンセの不安な序奏から始まり、ピアノとハープ(?)が奏でるシンプルな旋律のくり返しにフルートのオブリガード、シンセの通奏音などが重なるオスティナートに展開。リズムが加わって、終盤に向けて静かに盛り上がっていく。トラック14の「desire(復讐はただ我にあり)」とは異なる曲調で伯爵の復讐劇を表現する、暗く、切ない宿命の曲だ。第十五幕のラスト、モンテ・クリスト伯がアルベールに「さようなら」を告げる場面、第十八幕で伯爵が倒れた決闘相手にとどめを刺す場面、第二十二幕でモルセール将軍が妻メルセデスに過去の友への裏切りを告白する場面など、「ここぞ」という場面で使われている。
 それに続いて、エンディングテーマ「You won’t see me coming」がTVサイズで収録されているのが本アルバムのニクイところ。本編でも、「海嘯」に続いてエンディングテーマが流れ、いやおうなしに次回への期待が盛り上がる場面がたびたびあった。「You won’t see me coming」のTVサイズは、イントロがドラムの連打から始まる。これがインパクト抜群で、本編のラストシーンに続けて流れると、ぞくぞくするほどカッコいいのだ。しかし、フルサイズはイントロにアコースティックギターの短いメロディがついているので、本編の「ぞくぞく感」が再現できない。本アルバムでは、TVサイズで本編の雰囲気を再現したあと、アルバム全体のエピローグとしてフルサイズを収録。ファンを満足させる、みごとな構成になっている。

 本アルバムは、モンテ・クリスト伯の復讐劇を音楽で再現するイメージアルバムとして聴くことができる。パリに降り立つ伯爵、アルベールたちの平和な日常とそれを侵食する復讐計画、明らかになる伯爵の過去、そして、復讐の始まり。そんなイメージだ。
 が、物語の終わりまでは描かれていない。復讐の旅はまだ途上、今も続いている。そんな雰囲気のまま、アルバムは締めくくられる。それがいい。聴きながら、ときにモンテ・クリスト伯に、ときにアルベールに共感し、来るべき運命におののきながらも、立ち向かう気持ちになる。逆境に屈せず、未来を信じて戦う力が湧いてくる。伯爵が書き残した手紙の言葉が示すように。——待て、しかして希望せよ。

巌窟王 オリジナル・サウンドトラック
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巌窟王 クラシック・コンピレーション
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アニメ様の『タイトル未定』
249 アニメ様日記 2020年3月1日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。

2020年3月1日(日)
朝の段階でセキもだるさもほとんどなくなっていたけれど、事務所にこもってデスクワーク。外出しなかったおかげで、普段よりも仕事が進んだ。
Kindleで「かわいい後輩に言わされたい」1巻を読む。自分の年齢でこれを楽しんでいいのかという気はするけど、楽しかった。映像化するならアニメもいいけど、実写でもいい。これは実写でもいけると思う。
『ID:INVADED イド:インヴェイデッド』を最新話数まで観る。このくらい尖った作品をもっと観たい。観ていなかった『ぼくたちは勉強ができない!』最終回を観る。ラストが猛烈に最終回らしくてびっくり。さらに買うだけ買って観ていなかったOADの『ぼくたちは勉強ができない』を観る。前半で小美浪あすみが水着に、後半で桐須真冬が水着になる。他のヒロインはエンディングの後でまとめて水着に。

2020年3月2日(月)
午前中に病院に。予想した通りだけど、風邪かインフルエンザかコロナかは分からず。今日の事務所内の打ち合わせ、明日の外部での打ち合わせはキャンセルする。事務所でも他のスタッフとは顔をあわせず、メールで作業の指示をする。それから、電話で仕事の打ち合わせをした。電話での打ち合わせなんて何年ぶりだろう。先にメールで打ち合わせ用の資料を送っておくのが、20年前と違うところ。
仕事をしながら「チャーリーズ・エンジェル」「ロッキー」「ロッキー2」を観た。「ロッキー」の吹き替えがよかった。

2020年3月3日(火)
事務所にこもってデスクワーク。『赤毛のアン』を観ながら作業。今さらいうまでもないけど、猛烈によくできている。1話なんて「よくできている」なんて言葉では足りないくらい。日本のTVアニメの最高峰のひとつだ。今回は配信ではなく、Blu-ray BOXで観ているんだけど、配信とはまるで色が違う。『赤毛のアン』のセルは何枚も持っていたけれど、Blu-rayの色はセルに近い。

2020年3月4日(水)
事務所にこもってデスクワーク。引き続き、『赤毛のアン』を観る。マシュウがアンのために服を買いに行って失敗するエピソードは、10年前なら「わかるわかる」と感情移入しただろうし、今なら微笑ましい気持ちで観ることができる。本放送当時の自分は中学生で、若い女性の店員からマシュウが感じた(であろう)プレッシャーを、我がことのように感じた。つまり、いたたまれない気持ちになった。それから、37話でアンが成長した姿になるのだけれど、マリラが劇中でそのことに言及するのが、ちょっと面白かった。

2020年3月5日(木)
仕事は通常業務に。ただし、打ち合わせではマスクを着用。
火曜から視聴を始めた『赤毛のアン』が最終話に到達。シリーズ終盤の語り口が素晴らしい。シリーズ序盤の凄さとは方向性の違ったよさだ。名作劇場の作品は(名作劇場に限らず、かもしれないけれど)週イチで、なおかつ集中して観るのがベストだと思うのだけど、一気に観るのも悪くない。宮崎駿さんがシリーズ最後まで参加していたら、話は同じでも、語り口は違ったものになったのではないか、と妄想する。もう一度観直したら、 宮崎さんが参加していた頃と、シリーズ終盤の語り口の違いを言葉にできるかもしれない。
『赤毛のアン』Blu-ray BOX特典の「Digital Gallery Disc“Memory of Anne”」にはレイアウト、キャラ設定、原画、デザインの前のラフ、習作、イラストギャラリーなど、相当量の画素材が詰め込まれている。Amazonなどの商品紹介では「レイアウト200以上」とあるが、600点以上は収録されているはず。貼り付けられたセロハンテープも生々しい。これはパソコンモニターで見るほうがよいだろうと思う。
『赤毛のアン』が終わったので、名作劇場で自分が一番観ていないかもしれない『牧場の少女カトリ』を再生する。古谷徹さんが演じている少年は覚えていた。

2020年3月6日(金)
散歩も再開。10時少し前に、ドラッグストアの前に行列ができているのを二件見た。マスクやトイレットペーバーを買うための行列だ。月末に予定していた新文芸坐のオールナイトも、コロナのために中止することになった。まだ告知していなかったプログラムだ。
引き続き『牧場の少女カトリ』を視聴。段々と楽しくなってきた。「ドラゴンクエストウォーク」をやっているせいで「こんなに沢山ケモノが出るなんて、今までにはなかったことだ」なんてセリフを聞くと、魔王の仕業かと思ってしまう。

2020年3月7日(土)
デスクワークと散歩。昼前にワイフと出かけて食事。イケバスがガラガラなので、初めて乗ってみた。イケバスというのは池袋を周遊する電気バスだ。オモチャのような外見が可愛らしい。今日は最初から最後まで僕とワイフの貸し切りだった。事務所でデスクワークをして、夕方に散歩。
『牧場の少女カトリ』の視聴も後半戦。熊と牛が戦って、そのバトルの途中で「続く」になったのには驚いた。当時も「変な話だった」と噂に聞いたかもしれないけど、観たのは初めて。吉田理保子さん演じるハンナが本当に悪人で、印象に残る。わざわざ「吉田理保子さん演じる」と書くのは僕にとって意味があるから。

アニメ様の『タイトル未定』
248 アニメ様日記 2020年2月23日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。

2020年2月23日(日)
午前1時50分くらいに起きて、2時50分くらいに事務所へ。散歩と食事以外は外出せず、事務所で用事を片づける。NHK-FMの「×(かける)クラシック」という番組がアニメの特集で、アニメ関連のクラシックをかけていた。『銀河英雄伝説』『るろうに剣心』『ユーリ!!! On ICE』、それから『新世紀エヴァンゲリオン』の『DEATH』等々。16時くらいに大体の作業を終えて、自宅に帰って料理をつくる。食事を終えた後、用事がまだあったことを思い出して事務所に戻る。

2020年2月24日(月)
深夜に事務所へ入って朝まで原稿。グランドシネマサンシャインで、13:50からの回で『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』を観る。全体に力の入った作品で、アクションもいい。『デジモンアドベンチャー』劇場第1作、『ぼくらのウォーゲーム!』へのリスペクトには驚いた。あのラストでよかったのかについては疑問が残るが、トータルでの印象は悪くない。
事務所で『22/7』を1話から観る。話題の最新話も観る。確かにしっかりと演出されていた。

2020年2月25日(火)
午前3時23分に事務所へ入って朝まで原稿。15時半に社内で打ち合わせ。17時に中央線方面で打ち合わせ。自宅に戻って休んでから、新文芸坐で岩波音響監督のオールナイトの音響調整に立ち合う。
『虚構推理』を最新話数まで観た。『虚構推理』の岩永琴子はいいな。ずっとセリフを聴いていたい。彼女も「アニメならでは」の人物像で「アニメならでは」の心地よさ。その後は『宇宙パトロールルル子』の一気見。次は『デジモンアドベンチャー tri.』を1話から視聴。

2020年2月26日(水)
オールナイトの準備を兼ねて『ガールズ&パンツァー』のTVシリーズを視聴する。一気観したせいでもあるけど、すごいスピード感。劇場版や完結編を観た後だと「あ、このキャラにこんな芝居をさせるんだ」と思うところがあったり。

2020年2月27日(木)
早朝にデスクワーク。朝のツイートの後、山手線で新宿に。新宿ピカデリーの9:00~10:45の回で『劇場版 Gのレコンギスタ II ベルリ撃進』を観る。徒歩で池袋に戻って、デスクワークと打ち合わせ。ワイフと西荻窪のササユリカフェに。「『この世界の片隅に』ができるまで展2」をのぞく。追加の展示物を見ていなかったのだ。展示を企画した僕が言うのも変だけど、マニアックな展示だなあ。ササユリカフェに2人の若い女性のお客さんがいて、どうやら業界の人らしい。別に話を聞こうと思って聞いたわけではないのだけど、他にお客さんがいないうえに、声が大きいので話が全部聞こえてしまう。「いや、それはガイナックスじゃない」「それは新谷真弓さん」とか突っ込みを入れたくなるが、会話の邪魔以外の何物でもないので我慢する。事務所に戻ってデスクワーク。声優博士と打ち合わせ。新文芸坐から『ガールズ&パンツァー』オールナイトのトークショー中止の報せが入る。新型コロナウイルス感染拡大の可能性を考慮しての配給元の判断である。
『ガールズ&パンツァー 第63回戦車道全国高校生大会 総集編』を観てから『劇場版 ガールズ&パンツァー 』を視聴。もしも、TVシリーズの『ガールズ&パンツァー』が全26話で、アンツィオ戦をシリーズ中で描いたとしたら、アンツィオ高校の描写は随分違っていたのではないかと思った。

2020年2月28日(金)
午前中に散歩。13時から事務所で打ち合わせ。その後、BONESで打ち合わせ。川元利浩さんのイベントを中止することが決まる。川元さんにとって初めての国内のイベントであるはずで、そのイベントはなるべくハッピーなものにしたい。だから、僕も中止に賛成した。改めてイベントを企画するつもりだ。すぐにロフトの担当さんに連絡を入れる。事務所に戻ってデスクワーク。
この2年ほど仕事を手伝ってもらっていた外部スタッフの女性が、この日いっぱいでうちの仕事をお休みすることになった。地方在住でメールと電話のやりとりがほとんどだったが、彼女のおかげで出せた本も多い。しばらくしたら復帰してほしいが、どうなるかは分からない。仕事の引き継ぎも完璧だった。
『劇場版 ガールズ&パンツァー』の後は『完結編』を観る予定だったのだけど、変更して『化物語』に。あ、意外とキャラの顔が違う(記憶と違う)。尾石さんのセンスはやっぱり素晴らしい。それにても「30過ぎの年季の入った中年」というセリフはちょっとひどい。
「映画大好きポンポさん」のアニメ化を知る。監督は平尾隆之さん、キャラクターデザインが足立慎吾さん。これはいいキャスティングだ。

2020年2月29日(土)
午前中から外出の予定だったが、ちょっと熱があったので、事務所で作業をすることにした。夜はオールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 124 岩浪音響監督 ワンナイト・スーパーセンシャラウンド!!!」を開催。トークがなくても様子を見に行くつもりだったが、時期が時期だけに遠慮させていただく。オールナイトでは岩浪さんのビデオメッセージが流された。

第655回 アニメーターとしての終末(3)

 前回からの続きで、アニメーターという職の行く末についてです。結局巧くてフリーのスーパーアニメーターが個人的に「1カット○万円で」や「リテイクは受け付けない条件、且つラフ原までで○千円なら」などと、一見「正当」に見える値段交渉、早い話がギャラのつり上げをしたって現状は何も変わりません。もちろんSNSやらで「アニメーターの苦しさ」を訴えたり、記事に飢えたネットニュースにのせられて業界人を代表したつもりで語った持論など、ここ数年で自分も2〜3回取材を受けましたが(汗)、正直ほぼ意味がないと思ってしゃべってました。なら、なぜ受けたのか?ただの確認です。この連載も同じ機能ですが、自分が今現在考えていることを「たまに(適度に)」まとめて(語って)記事になったものを客観的に確認・反芻することが、頭の悪い俺には必要だと思うからです。余程の知識人や喋りのプロでもない限り、主観的な言いっ放しの乱打は人間性がドンドン壊れていきそうで。やり過ぎは逆効果。目的が自己顕示になっては本末転倒。だから板垣の場合は、あくまで「たまに」です。
 話が逸れました、スミマセン。そう、改めて、刹那的なギャラ高騰やSNSなどによる呼びかけ、そして業界人インタビューなんかでは、アニメーターの待遇改善には何も寄与しないと思います! さらに「アニメ業界の夢」を盛り込んだドラマやアニメも、多少のアニメーター志望者の増加には繋がるかもしれませんが、結局現場でアニメーターをやってみれば、フィクションと現実の世界とのギャップに打ちのめされるだけ。アニメ業界に必要なのは、国の言うところの「働き方改革」と「作り方改革」! です。それには制作会社だけに「改革しろ!」と言ってるだけではダメ。メーカーやTV局など、制作費を集める側に「もっと金出せ!」と迫ったりするだけでももちろんダメ。アニメーターはじめスタッフ皆の意識改革が必要なんです。なぜなら

アニメ制作は単純にタイムカードを押した上での時給換算が極めて難しい集団作業だからです!

 原画も動画も仕上げも美術も撮影も、各セクションすべてが「各カットの内容の難易度」によって、1カット1時間で上がるモノから2〜3日かかるモノ、中には1週間かかる激重カットまでさまざま。これで時給換算してたら、手が遅い人、下手な人ほど、残業手当で大もうけの仕組みが出来上がるというわけ。そうしないためには各スタッフの1日分の生産量のアベレージをとって会社が管理することが「働き方改革」の今だからこそ必須。フリーで出勤時間も自由、遊びながら描くのも自由、そんな遊びの延長上にあるフリーランスのスタッフで8割占めた計算皆無の作り方に対して、メーカーだってこれ以上制作費なんて集められないでしょう。

何十年と続いた安月給を言い訳にした自由三昧の結果が現在なんだ! とすべての業界人が反省するのがまさに今!

第180回 愛の映画 〜少年ケニヤ〜

 腹巻猫です。4月10日、実写劇場作品「転校生」「時をかける少女」などを手がけた大林宣彦監督が亡くなりました。多感な時期に大林作品に出会い、新作が公開されるたびに追いかけてきた筆者にとっては、特に思い入れのある映像作家のひとりでした。本当に残念です。すばらしい作品と体験をありがとうございました。


 今回は追悼の意を込めて、大林宣彦監督が手がけた唯一の劇場アニメ『少年ケニヤ』の音楽を紹介したい。
 『少年ケニヤ』は1984年3月に公開された劇場アニメ。『幻魔大戦』(1983)に続く角川映画製作の劇場アニメ(角川アニメ)第2弾である。
 原作は山川惣治が1950年代に発表した絵物語。産業経済新聞に連載されて読者を熱狂させ、ラジオドラマや劇場作品、テレビドラマにもなった人気作品だ。
 舞台は第二次大戦下のアフリカ。ケニヤのサバンナで父とはぐれ、ひとりぼっちになってしまった日本人の少年ワタルが、マサイ族の酋長ゼガや金髪の美少女ケートらとともに父を探す旅を続ける冒険物語。険しく壮大な大自然、牙をむく野生の動物や武装した原住民、密林にひそむナチスの陰謀など、次から次へと現れる脅威との闘いが、大林監督らしいめくるめく映像で描かれる。
 大林宣彦監督は、これが劇場アニメ初演出。山川惣治のペンタッチを再現した線画アニメや水彩画風の描写、さまざまな合成やオプティカル処理など、アニメならではの実験的な手法を駆使して、驚きに満ちた映像を作り上げている。「映像の魔術師」とも称される大林監督の映像マジック全開である。当時、劇場で観て、最初はあっけにとられた記憶がある。
 もっとも、大林宣彦には「アニメだから」との気負いはなかったそうだ。サントラ盤のライナーノーツに寄せたコメントで、大林監督は「『初めてのアニメ映画』という気持ちは全くありません」「私にとって映画は『動かないものに息を吹き込む』という本来の意味で全てアニメーションなのです。ただ、素材が山川惣治氏の絵物語であるということなのです」と語っている。アニメファンは面食らったかもしれないが、大林ファンにとっては、『少年ケニヤ』はすこぶる大林監督らしい作品だった。
 現在はDVDやネット配信でも観ることができるが、テレビやPCのモニターでは本作の映像が持つセンス・オブ・ワンダーは伝わらない気がする。すべての大林作品がそうであるように、暗闇の中で、大スクリーンで観てこそ、真価を発揮する作品だ。

 そんな本作の音楽を担当したのは宇崎竜童。クレジットでは「音楽監督・宇崎竜童」「編曲・朝川朋之」と表記されている。作曲家・ハープ奏者として活躍する朝川朋之は、本作の制作当時、東京芸術大学で学びながら宇崎竜童のもとで音楽作りを行っていた。アニメ音楽への本格的な参加は、TVアニメ『新竹取物語 1000年女王』(1981)の音楽を宇崎と共同で担当して以来である。
 大冒険物語の音楽に宇崎竜童とくれば、ロックのビートが心ゆさぶる躍動的な音楽を期待するが、実際は、オーケストラによる抒情的な音楽が多い。宇崎竜童よりも朝川朋之の音楽性が発揮された作品という印象だ。管弦楽が奏でるスケール豊かな音楽が、アフリカの情景描写やワタルの心情表現などに生かされている。朝川朋之は、本作の5年後に同じくアフリカを舞台にしたTVアニメ『ジャングル大帝』(1989)の音楽を手がけることになるが、それも奇しき縁である。
 また、サントラ盤には「指揮・熊谷弘」のクレジットがある。熊谷弘は劇場版『銀河鉄道999』や『宇宙海賊キャプテンハーロック』『聖闘士星矢』『牧場の少女カトリ』『もののけ姫』などの音楽録音を手がけた指揮者。オーケストラによるクラシック系アニメ音楽を語る上で忘れてはならない人物だ。
 同じくサントラ盤に「アフリカ楽器演奏」として、ジャズドラマーの石川晶がクレジットされているのもポイントだ。『海のトリトン』や「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」『さらば宇宙戦艦ヤマト —愛の戦士たち—』『宇宙海賊キャプテンハーロック』などの録音に参加している石川晶は、演奏者として70〜80年代アニメ音楽を支えた重要人物のひとり。そして、アフリカともひとかたならぬ因縁があった。アフリカを愛した石川晶は、アフリカで打楽器を学び、日本でバンドを組んでアフリカ音楽を演奏し、後年は一家でケニヤに移住、現地で生涯を終えた。『少年ケニヤ』の舞台であるアフリカを音で表現するためには、うってつけの、そして、なくてはならないミュージシャンだった。石川晶は、本作の音楽を越部信義と小久保隆がアレンジしたアルバム「デジタルトリップ 少年ケニヤ シンセサイザーファンタジー」にも参加している。
 こんなふうに、『少年ケニヤ』の音楽には、ロック、クラシック、ジャズ&アフリカ音楽の才能が結集していたのである。欲を言えば、石川晶のドラムをもっとフィーチャーして、全編アフリカ音楽が流れるサントラにしてもよかった気がする。もしかしたら、同じような発想から、次の角川アニメ『カムイの剣』(1985)はああいう音楽になったのかもしれない。これは余談。

 本作のサウンドトラック・アルバムは劇場公開と同じ1984年3月に「少年ケニヤ オリジナル・サウンドトラック Vol.1 〈音楽編〉」のタイトルで日本コロムビアから発売された。なお、「オリジナル・サウンドトラック Vol.2」はドラマ編。音楽アルバムは1枚だけである。このアルバム(音楽編)は、1999年にカルチュア・パブリッシャーズからCD復刻されている。
 収録内容は以下のとおり。

A面

  1. プロローグ
  2. ジャングルの夜
  3. 遥かなるキリマンジャロ
  4. I am Keniya, You are Keito(愛)
  5. サバンナ・サンセット

B面

  1. 少年ケニヤ(歌:渡辺典子)
  2. ゼガとワタル(友情)
  3. 時空を超えて……
  4. WILD BOY KENIYA(勇気)
  5. エピローグ

 「プロローグ」と「エピローグ」はそれぞれ、本編冒頭と本編ラストに流れる曲。それ以外の劇中音楽(BGM)と主題歌は、本編の使用順にはこだわらない順序で収録されている。
 波瀾万丈の冒険物語のサントラ。ドラマティックな音楽が詰まっているだろう……と思うと裏切られる。じっくり聴かせる落ち着いた楽曲が中心なのだ。
 「プロローグ」は作品全体の序曲。冒頭、原作者・山川惣治が実写で登場する場面から流れる。山川惣治が紡いだ物語が映像となってあふれだし、スクリーンにアフリカの雄大な大地が広がると、オープニングクレジットとタイトルが映し出される。曲の終盤に主題歌「少年ケニヤ」のメロディが引用され、ワルツのリズムで軽やかに奏でられる。華やかでロマンティックな開幕の曲だ。
 「ジャングルの夜」はケニヤの密林を描写するミステリアスな曲。ワタルと父が夜の森を歩く場面に流れている。
 本作の音楽は画に合わせたフィルムスコアリングをベースにしながら、同じ曲を使いまわす選曲方式で処理されたシーンも多い。この曲も、終盤、ワタルたちが密林を進む場面にふたたび登場する。まさに「密林のテーマ」である。
 「遥かなるキリマンジャロ」は石川晶のアフリカン・ドラムの演奏から始まる。アフリカの大自然を描写する音楽である。劇中では、ワタルが病に苦しむゼガを助けるために薬草を探しに行く場面で使用された。広大な湖と滝が現れると、音楽も美しく感動的な曲調に展開。終盤では躍動するリズムが加わり、薬草を見つけたワタルの高揚感を表現する。
 次の「I am Keniya, You are Keito」と「サバンナ・サンセット」の2曲は重要な曲だ。
 「I am Keniya, You are Keito」は主題歌「少年ケニヤ」をワルツ風にアレンジした優雅な曲。ワタルがケートと初めて出会う場面に流れ、雨の中で踊るケートの美しさに心奪われるワタルの心情を表現する。また、中盤、ケートが湖で泳ぐ幻想的なシーンにも選曲されて、本編随一の美しい場面を盛り上げた。「ケートのテーマ」とも呼べる曲である。
 「サバンナ・サンセット」は弦楽器を主体に奏でられる、穏やかで心温まる曲。タイトルどおり、ワタルと父が夕暮れのサバンナでたき火を囲む場面に流れて親子の愛情を表現した。その後も、ワタルに命を救われたゼガがワタルと一緒に旅立つ場面、原住民にとらわれていたケートを救い出したワタルが夜明けを迎える場面、ワタルたちが密林の研究所からの脱出に成功する場面などに流れ、ワタルの心に育つ友情や勇気、異性への想いなどを印象づける。この曲のメロディはラストシーンに流れる「エピローグ」にふたたび登場する。主題歌と並んで本作のメインテーマとも呼べる曲である。
 アルバムのB面の1曲目は本作の主題歌「少年ケニヤ」。劇中では、本編が始まってまもなくサバンナの動物たちが線画で現れるシーンに歌詞1番が、「エピローグ」に続くエンディングクレジットに歌詞2番が流れている。
 作詞・阿木燿子、作曲・宇崎竜童のコンビによるこの歌は渡辺典子の歌手デビュー曲。公開当時はテレビスポットなどでサビの部分がくり返し流れたので、耳に残っている人も多いだろう。
 B面の頭に目玉曲を収録する構成は、片面ごとのまとまりと、外周ほど音質がよいLPレコードの特性を考慮したものだろう。CDでは曲順が変えられ、主題歌が1曲目に収録されている。
 「ゼガとワタル」も石川晶のアフリカン・ドラムからスタートする曲。ドラムの音がフェードアウトすると、弦合奏がしっとりと奏でる友情のテーマが始まる。ワタルの採ってきた薬草で快復したゼガが、ワタルと火を囲んで語らう場面に流れた。大冒険物語に不似合いでは? と思うくらい繊細な、胸にしみる曲である。
 「時空を超えて……」は、序盤、サバンナをさまようワタルが空腹を抱えながら水と食料を探す場面に少しだけ流れた曲。意味深なタイトルはアルバムの構成上、選ばれたものと思われる。
 そして、「WILD BOY KENIYA」は本アルバムに収録された唯一のアクション系の曲。緊迫感に満ちたアフリカン・ドラムの演奏から始まり、オーケストラによる危機描写〜活劇描写音楽に展開する。劇中では、ゼガのために薬草を探すワタルが、襲ってきた大ガマと闘う場面に使用された。アルバムの中では、本曲がクライマックスの位置づけだ。
 アルバムの最後を飾る曲は「エピローグ」。本編のラストシーン、冒険を終えたワタルが両親と再会し、ケートとともに街に帰る場面に流れている。前半は親子の愛情を表現する再会のテーマ。後半は「プロローグ」と同様の華やかで胸躍る曲調になり、大団円を盛り上げる。スクリーンには、ふたたび実写で山川惣治が登場し、物語を締めくくる。この劇場作品をノスタルジックな作品でなく、現代に向けた新しい作品として観てもらいたいという力強いメッセージを感じる終曲だ。

 以上10曲。派手さはないが、『少年ケニヤ』のエッセンスの詰まったアルバムである。
 ただ、サントラとしては物足りない思いが残る。
 終盤でワタルが父と再会する場面の感動的な曲や恐竜が登場する大スペクタクルシーンの曲が入っていないからだ。特に後者はパイプオルガンの音色を使った壮大な楽曲で、音楽的にも本作のハイライトと言える。インパクトのあるクライマックスシーンの音楽が入ってないので、「これで終わり?」と感じてしまうのだ。
 なぜ、肝心な曲が入らなかったのだろう。想像だが、公開日にサントラ盤の発売を間に合わせるために、やむなくこうなってしまったのではないか。つまり、レコードを制作するタイミングで、クライマックスの音楽がまだできていなかったのではないだろうか。サントラ盤に収録されているのが、「エピローグ」を除いて、前半で使用された曲ばかりであることが、そう考える根拠である。
 とはいえ、大林宣彦監督唯一の劇場アニメのサントラ盤として、このアルバムは貴重である。冒険物語としての『少年ケニヤ』ではなく、ワタルの心の旅路を描く『少年ケニヤ』のイメージアルバムと考えれば、美しいアルバムだ。そして、アクションよりも情感にフォーカスした構成は、大林映画のサントラにふさわしい。大林宣彦が撮り続けてきたのは、いつも愛の作品だったのだから。

少年ケニヤ オリジナル・サウンドトラック
Amazon

アニメ様の『タイトル未定』
247 アニメ様日記 2020年2月16日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。

2020年2月16日(日)
雨が降っていたけど、午前中から散歩。10時過ぎにビデオデッキを求めてリサイクルショップに。明治通り沿いにリサイクルショップが幾つかあって、手前の店からのぞいて行ったら、三軒目でVHSのデッキを発見。3980円だった。外国人の店長から購入。11時からそのデッキで『KAZU&YASU ヒーロー誕生』を視聴。赤根和樹さんの初監督作品である。今までに何度か「観よう」と思ったことがあったけれど、これが初見。一時期までは新宿TSUTAYAにレンタルビデオがあって「いつでも観られる」と思っていた。羽原信義さんの役職は作監捕で「ここは羽原さんの担当だろう」と思うパートがあり。その後は資料の読み込みなど。夜に自宅に帰った後、ワイフにマンションの押し入れにVHSのデッキがあることを教えられる。ギャフン。

2020年2月17日(月)
今度は『ジーンシャフト』をAmazon Prime Videoのレンタルで視聴。『ヒートガイジェイ』もそうだけど、自分は据え置きのDVデッキ(DVDではなく、DVテープ)で録画していたはず。DVテープは残っているかもしれないけど、再生できるデッキがない。それから『コードギアス 亡国のアキト』を1話から最終回まで観る。
南Q太さんから同人誌が届いた。南Q太さんと面識はなくて、余った同人誌を欲しい人にくださるというので、Twitter上でリプライしたら、本を送ってくださった。同人誌だけでなく、ポストカードとペーパー、さらに手書きのお手紙付きだった。嬉しいなあ。南Q太さんは以前から好きな作家だ。いい機会なので、購入していない本をこれから買って読もう。

2020年2月18日(火)
昼までは散歩と取材の予習。改めて『星合の空』を1話から最終話まで観る。13時から書籍総合打ち合わせ。14時から印刷会社の方と打ち合わせ。16時からエイトビットで赤根和樹監督のインタビュー。久しぶりの「この人に話を聞きたい」の取材だ。充実したよい記事になりそうだ。実は「この人に話を聞きたい」で赤根監督に取材を申し込んだのがこれが二度目だ。前回は『ノエイン もうひとりの君へ』の時だったと思う。その時も赤根さんはオファーを受けてくれたのだが、「アニメージュ」の同じ号かひとつ前の号で『ノエイン』のインタビューがあり、内容が重なりそうだったのでキャンセルさせてもらったのだ。

2020年2月19日(水)
「出没!アド街ック天国」の大洗回を録画で観たけど、ほとんど『ガールズ&パンツァー』特集。内容も相当に濃い。ガルパンさんを応援したくなった。午前中にワイフと出かけて、南阿佐ヶ谷のとんかつ 成蔵に。ワイフに一度、ここでとんかつを食べさせたかったのだ。その後、ワイフが公園で休んでいる間に、善福寺川沿いを歩く。見た目がやたらと派手な建物があり、釣り堀と食堂の店らしい。後でワイフに写真を見せたら「ここって『孤独のグルメ』に出ていたよね」と教えてくれた。配信で確認したところ、第1シーズン5話「杉並区 永福の親子丼と焼うどん」で登場。サブタイトル通り、井之頭五郎が焼きうどんと親子丼を食べていた。 ただし、「孤独のグルメ」では店の全景があまり映っていない。

2020年2月20日(木)
9:30から池袋HUMAXシネマズで『ACCA13区監察課 Regards』を観る。その後は打ち合わせとデスクワーク。散歩は午後に。坐唯杏があったところが改装されて肉バルになり、いつから開店するのだろうかと思っていたら、2月19日(水)からだった。つまり、もう開店していた。早速、ワイフと行って、軽く食べる。店の名前は「ミートキッチン log50 ハレザ池袋前店」。「ハレザ池袋前」というのが時代だなあ。

2020年2月21日(金)
Blu-rayの『プロメア』を観た。すごくよかった。没入感は劇場のほうが強いんだけど、Blu-rayはモニターで色が映える。うちのモニターのセッティングの問題かもしれないけど。木上益治さんが監督、作画監督を務めた『呪いのワンピース』の配信が始まった。丁寧で見応えのあるアニメーションだ。それにしても、こんな綺麗な映像で観られるとは思わなかった。一緒に配信が始まった「景山民夫のダブルファンタジー/サイケデリック航空」「同・南洋ホテル」も観る。
Amazonで購入した大黒摩季さんのシングルCD「Over Top」の特典DVDの中身を確認する。当時の「WEBアニメスタイル」の記事には、この特典DVDには『OVAL×OVER』と同スタッフによって制作されたミュージックビデオが収録されているとある。一応、説明しておくと『OVAL×OVER』は今石洋之さんが監督した短編アニメだ。

『D.L』チーム再び! 今石洋之最新作
インディカーレース・アニメ『OVAL×OVER』
http://www.style.fm/log/02_topics/top050325.html

特典DVDを再生してみたところ、ミュージックビデオの映像は『OVAL×OVER』を編集した映像だった。『OVAL×OVER』のいい画はほとんど入っているのではないか。『OVAL×OVER』は映像ソフト化も配信もされていないはずなので、このミュージックビデオは貴重かもしれない。

2020年2月22日(土)
外出などはしないでデスクワーク。11時から14時にポケモンGOのコミュニティデイで、食事の前後にサイホーンの色違いを2匹ゲット。生活リズムの調整のために19時くらいに就寝。
堀江美都子さんのデビュー50周年記念アルバムは買おうと思っていたのだけど、Apple Musicで検索したら、ふたつのアイテムのうち、カバーアルバム「One Voice」があった。聴きたかったのは「炎のたからもの」で、聴いてみたら期待通りのよさだった。Apple Musicにあるアルバムもお金が動いていることは分かるんだけど、欲しいアルバムを聴くとなんとなく罪悪感が。もうひとつのデビュー50周年記念アルバム「One Girl BEST」 は購入しよう。

第654回 アニメーターとしての終末(2)

 前々回(第652回)の続き。アニメファンでアニメ史に興味がおありな方であるなら、とうにお気づきだとは思いますが、「アニメーターとして生を全うした方々」というのは、近年ようやく多く見られるようになったのです。もちろん戦前〜戦後、商業アニメーション以前の大先輩もいらっしゃったわけですが、その時代では横山隆一先生や酒井七馬先生といったマンガ家さんであったり、映画会社で短編アニメを作ってた市川崑監督だったりと、どちらかというと研究発表に近い様相のアニメが主流だったようで、今と違い生涯をアニメーターとしてギャラ(給料)をもらい続けた方は少なかったのではないでしょうか? 今回話題にしてるのは東映動画&虫プロ以降の商業アニメーション、いわゆる世間一般に知られている「低所得かつ過重労働なイメージがスタンダードのアニメーター」の終末を目の当たりにするようになったのは、つい最近であると。そのくらい自分らのやってるアニメーターという仕事は、世の中に数ある職業の中ではまだまだ若い部類。だからこそ、前々回語ったご年配のアニメーターの行く末が気になるんです。前々回説明したとおり、

アニメーターは歳をとると、当然目も悪くなるし、集中力も散漫になるし、自分が描きたい画と世間から要求される画のギャップは激しくなる一方!

なんです。その上付け加えるなら、50過ぎてどこかのスタジオで取締役でも社員でもなければ、誰にでも必ず訪れる老い、それに伴う画の劣化、何よりこなせる仕事量の低下によって、収入は減少必至。専門学校の講師なども年配枠は限りがあるでしょう。
 実は前々回話題にした、自分がフリーになって演出駆け出しの頃、たまたまご一緒した年配アニメーターさん、数年前行き倒れのホームレスとなって発見されたと知人より聞かされました。職人として脂がノってた頃は、某名作の作画監督としてアニメ誌に特集されたりもした方でしたが、晩年は思ったように原画が上がらず、いろいろ世話してくださった社長さんらの期待を裏切り続け、現場から逃亡、の繰り返しだったそうです。 つまり「平均的なアニメーターの誰にも許された生涯の終え方」ってどなたかご存知なのでしょうか? と。まぁ、マンガ家が売れなくなったらとか、役者さんだって仕事が来なくなったら? スポーツ選手の引退後は? などと同様でしょうと言われると「確かに」と答えるしかありません。しかしアニメーターはそれら人気商売(?)の中で、作品が当たった(売れた)としても利益を得る率が相当低いのも確かな話。何しろキャラクターデザインは1(〜3)人でも作画する人はとにかく多勢。そのすべてのアニメーターに利益を分配することはかなり困難なのです。
 だからといって、それらアニメーターの困窮状態をSNSなどで訴えたり「自分さえ良ければ」思考でフリーのアニメーターらが「僕は○万出さなきゃやりません!」と主張したって事態は良くなりません。

 う、テーマが壮大すぎて収まるはずがない(汗)! 時間です!

アニメ様の『タイトル未定』
246 アニメ様日記 2020年2月9日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。

2020年2月9日(日)
朝からデスクワーク。午前中に散歩、王子で立ち食いおでん屋に。その後はまたデスクワーク。Amazon Prime Videoで『あした世界が終わるとしても』をレンタルで視聴する。

2020年2月10日(月)
午前中に散歩。午後は打ち合わせ3本立て。朝にAmazon Prime Videoのレンタルで『二ノ国』を観た。狙って選んだわけではないけど、『あした世界が終わるとしても』と似た作品だと感じた。これらは20年くらい経ったら「あの頃らしい作品」と言われるのだろうか。
午後はdアニメストアで『メダロット』を1話から6話まで観る。作画がいいなあ。それから、全体に子供の声が可愛い。当時も思ったけど、キクヒメ(鈴木真仁さん)がナイスキャスティング。14話「忍びが通る」は絵コンテ、演出、作画監督を今石洋之さんが担当。「今石アニメ」として完成されている。
打ち合わせで「アニメ雑誌にきびしい時代だ。もう『設定資料FILE』を続けるのは無理かもしれない」と言ったら、編集部スタッフに「小黒さん、年に一度は同じことを言っていますよ」と突っ込まれる。

2020年2月11日(火)
建国記念の日。朝にデスクワーク、午前中からワイフと散歩。山手線で日暮里駅まで行って、谷根千を散策してから徒歩で上野に向かい、途中で上野動物園に寄る。動物が足りていなかったワイフは大喜び。アメ横の立飲みカドクラで昼飯。その後、秋葉原まで歩いて「太田じろうの世界展」に。太田じろうさんって、有志の方達の活動が始まるまでほとんど知らなかったんだけど、とにかく画が可愛い。太田さんの仕事とは知らず、作品に触れていたのかもしれない。池袋に戻って、少し休んでから事務所に。自分の机(メインの机とサブの机)の上の片づけに着手。Apple Musicで「『疾風!アイアンリーガー』ボーカル集」を聞きながら作業をする。

2020年2月12日(水)
午前3時頃に事務所へ入ってテキスト作業。朝のラジオ体操までに、この日の一番重たい作業が終了。バンダイチャンネルで『ノエイン もうひとりの君へ』の再視聴を開始。赤根和樹さんの取材の予習である。『星合の空』を観た後だと「あ~」と驚くことあり。午後もデスクワーク。プライベートな用事も片づけて、充実した1日。
10数年前に上京した時に、アニメスタジオに見学に連れて行った学生さんがいて、彼がお父さんになると知る。いや、今では学生さんでもなんでもなくて、大人なんだけどね。
青木俊直さんの「なのはなフラワーズ」上巻、下巻をKindleの読み放題で読了。元は雑誌に連載された作品で、単行本に収録されなかった分も含めて同人誌にまとめて、さらにそれをKindle化したらしい。女性だけが住んでいるアパート(なのはな荘)の住人達の物語で、上巻はマンガ家の青砥奈央の仕事と恋がメインで、下巻はそれぞれの住人のエピソードが続く。下巻のほうが面白い。下巻の感じでもう少し読みたかった。かつての住人がなのはな荘が訪れるパート(最終回の序盤)がよかった。

2020年2月13日(木)
散歩とデスクワーク。『ノエイン もうひとりの君へ』を最終回まで視聴。クライマックスの後にもう1パートほしい。次に『新世紀GPX サイバーフォーミュラ』を観る。この作品を観るのはいつ以来だろう。SUGOのメンバーの声が若い。三石琴乃さんは勿論、飯塚昭三さんですら若い。18話「超高速の罠」は絵コンテ、演出が赤根さん、作画監督が吉松さんの傑作。今観てもよくできている。クライマックスのシューマッハがかっこいいのは言うまでも無く、レース前の描写も充実。謎のセリフ「ドンピシャピッタンコ」もこの回(赤根さんの絵コンテ段階のアドリブらしい)。

2020年2月14日(金)
ワイフとグランドシネマサンシャインの08:50からの回で「1917 命をかけた伝令【IMAXレーザーGT字幕】」を観る。なんと初日朝イチのIMAXだった。物語は面白いし、労力と技術も凄まじい。評価されているのは分かる。だけど、僕は作品に入り込めなかった。カットが割られていないのに、時間と空間が誇張・省略されているのに猛烈な違和感を感じてしまったのだ。
バレンタインデーである。事務所では男子から男子に、女子から女子に、女子から男子にチョコレートが飛び交う。デスクワークと打ち合わせをはさんで、18時から某スタジオで打ち合わせ。せっかくなので打ち合わせ相手の監督(男性)にチョコレートを持っていく。

2020年2月15日(土)
この日は結果的にほぼ休日。『天空のエスカフローネ』を何本か観た後に『ヒートガイジェイ』を観る。夕方から若い人達の飲み会に呼ばれて参加。大人しくしていようと思ったのだけど、結局、酔って喋りまくってしまった。

第653回 本職ですみません!

「ネタなら何でもよい」と、時事ネタ拾って偉そうに不勉強なことを描く場ではないと思っています。自分はアニメーターであり、アニメ監督なのでなるべくアニメに関することを書きたいし、アニメに関することで世間に何かを言いたいです。というわけで、またイラスト(ラクガキ?)1枚で申し訳ありません!

第179回 こんなときこそ「よかった探し」 〜愛少女ポリアンナ物語〜

 腹巻猫です。5月に開催が予定されていたコミックマーケット98が中止になりました。参加を予定していたので残念ですが、今の状況ではやむなし。平和に開催できるときが1日も早く来ますように。


 3月16日から、『愛少女ポリアンナ物語』全51話が日本アニメーションの公式YouTubeチャンネル「日本アニメーション・シアター」で無料公開されている。新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止対策として外出を控えている人に向けて公開されたものだ(無料公開は3月31日までの予定)。
 この企画にはすごく共感した。本作は、主人公・ポリアンナが日常の中にある「よかった」を探す物語。日々の暮らしの中にも新鮮な驚きや感動があることを伝えてきた「世界名作劇場」のエッセンスが詰まった作品なのである。心がモヤモヤしがちな今こそ、多くの人に観てもらいたい。
 『愛少女ポリアンナ物語』は1986年1月から12月まで放送されたTVアニメ。日本アニメーション制作による「世界名作劇場」第12作目の作品である。
 原作はアメリカの作家エレナ・ポーターが1910年代に発表した小説。アニメ版は『少女パレアナ』を原作にした第1部と、その続編『パレアナの青春』を原作にした第2部の2部構成になっている。第2部では主題歌も新しい曲になった。
 両親を亡くした少女ポリアンナが、父から学んだ「よかったさがし」をしながら、悲しみを乗り越えて明るく生きていく物語。辛いことに出会っても日常の中から「よかった」を探し出すことを忘れないポリアンナの生き方が、周囲の人々の心を変えていく。
 苦境にくじけず、いつも前向きに「よかった」を探し続けるポリアンナのキャラクターが魅力だ。平凡な日常の中にこそ喜びがあることをポリアンナが教えてくれる。観ているうちに、こちらも影響されて、毎日「よかった」を探すようになってしまう。主演の堀江美都子は主題歌の仕事が少なくなっていたときにこの作品に出会い、ポリアンナの前向きなキャラクターに自身も救われたという。

 音楽は、劇場作品「ゴジラ」(1984)やTVドラマ「ゆうひが丘の総理大臣」(1978)、NHK大河ドラマ「秀吉」(1996)、TVアニメ『新・ど根性ガエル』(1981)、『ふしぎの国のアリス』(1983)、TV人形劇「プリンプリン物語」(1979-1982)等の音楽を手がけた小六禮次郎が担当した。
 小六禮次郎は「世界名作劇場」第2作『母をたずねて三千里』(1976)のエンディング主題歌「かあさんおはよう」のアレンジを担当している。作曲した坂田晃一のアシスタントを務めていた縁で手がけた仕事だった。本作の音楽もその流れで(同じ関係者の紹介で)担当することになった、とインタビューで語っている。
 本作の音楽録音は4回行われている。放送開始前の1985年12月に第1回録音が行われ、約50曲が収録された。1986年3月の第2回録音で25曲を追加。1986年7月の第3回録音でさらに25曲を追加。1986年9月の第4回録音では、4曲のみが収録された。総曲数は100曲あまりになる。
 小六禮次郎は50曲におよぶ第1回録音の曲をたった2日で書いたという。当時は猛烈な量の仕事をこなしていた時期で、年間1000曲ぐらい書いていた。本作の音楽も、頭に浮かんでくる曲を次々とスコアにしなくては間に合わず、楽器で音を確認する余裕もなかった。しかし、手を抜いたわけではない。たくさん書けば早く書けるようになるし、当時はそれだけの仕事をする勢いがあった。
 「手を抜いたわけではない」ことは音楽を聴けばわかる。ポリアンナのキャラクターに負けない明るく前向きな音楽や美しいメロディを聴かせる抒情的な音楽が多く作られた。ポリアンナが探した「よかった」は音楽の中にもたくさん見つけることができる。
 本作のサウンドトラック・アルバムは1986年4月に「愛少女ポリアンナ物語 音楽編」のタイトルでキャニオンレコード(現・ポニーキャニオン)から発売された。第1回録音のBGM16曲を10トラックに構成し、オープニング&エンディング主題歌を加えたLPアルバムだ。このアルバム自体はCD化されていないが、2006年に放送20周年を記念した完全版音楽集「世界名作劇場メモリアル音楽館 愛少女ポリアンナ物語」(CD2枚組)が日本コロムビアから発売されている。

 以下、「メモリアル音楽館」をベースに紹介しよう。
 収録曲は下記を参照。
https://www.oricon.co.jp/prof/183/products/637292/1/
 選曲・構成は筆者が担当した。CD2枚でBGMをほぼ全曲収録している。ディスク1は本編の第1部(第1話〜第27話)、ディスク2は第2部(第28話〜第51話)のストーリーに沿って構成した。複数のBGMをブロックにまとめてタイトルをつけるスタイルで、BGMは1曲1トラックで収録。1曲ごとのタイトルはつけていない。
 工藤夕貴が歌う主題歌はフルサイズとTVサイズを収録。堀江美都子が歌った2曲の挿入歌——「星屑のシャンデリア」「夢色天使」も収録した。当初は堀江美都子による主題歌のカバー・バージョン4曲も収録したいと考えていたが、CD2枚のキャパシティに収まらないため、残念ながら見送り。しかし、音楽集としてはベストな内容に仕上がったと自負している。
 では、ポリアンナと一緒に音楽のよかった探しを始めよう。
 ディスク1は第1回録音と第2回録音のBGMから構成した。
 最初のブロック「教会の小さな娘」は、第1話の序盤で流れた4曲をまとめたもの。特に本編で最初に流れる1-M-1は重要な曲だ。なお、本作のBGMのMナンバーは録音ごとにM-1から始まっているため、混同を避けるため、アルバムでは頭に録音回数をつけて表記している(1-M-1は第1回録音のM-1の意)。
 1-M-1は3分近い長さの曲で、音楽編LPでは「春から夏へ 秋から冬へ」のタイトルで収録されていた。そのタイトルどおり、1曲の中で曲調が次々と変化する。導入部は牧歌的で大らかな曲調の「春」。バンジョーと木管楽器群が軽快に奏でる「夏」へと展開し、ストリングスとオーボエがさみしげに歌う「秋」へ。さらに弦合奏が凍える空気を表現する「冬」へ。そして、ふたたび「春」の訪れを告げる明るい曲調に転じて終わる。
 第1話では、アメリカ西部の雄大な情景に「春」のパートが、ポリアンナが登場すると「夏」のパートが流れ、絵と音楽のマッチングが絶妙の効果を上げていた。小六禮次郎は本作の音楽について「絵コンテを参考に書いた記憶がある」と語っているが、それを裏づける楽曲である。
 この曲、季節の移り変わりを表現すると同時に、本作のストーリーの流れ、ポリアンナの運命の転変も表現している。そういう意味でも、物語の序曲にふさわしい。最後は希望的な曲調で終わるところが『愛少女ポリアンナ物語』らしくて好きだ。
 次のブロックは「ポリアンナのテーマ」。1-M-6と1-M-5の2曲を収録した。ポリアンナの明るく元気な姿を描写する1-M-6はバンジョーの軽快な演奏と終盤のピアノのアドリブが最高。1-M-5は木管と弦楽器を中心にした編成でポリアンナのちょっとおしゃまな姿を表現する。元気なポリアンナだけでなく、少女らしい可憐な姿やもの思う横顔にもぴったりな曲である。この2曲は、ポリアンナが母の妹であるパレーおばさんを頼ってベルディングスビルにやってくる第4話で使われている。新しい生活のスタートを前にポリアンナの心に芽生えた「よかった」を表現する曲なのだ。
 ずばり「よかった探し」と名づけたブロックには、1-M-25&29を収録。1-M-25と1-M-29が連続したひとつの曲として演奏されている。演奏時間は3分。第2話で、死期が迫った父がポリアンナを呼び、「よかったを探すんだ。それがきっとお前を幸せにしてくれる」と言い残す場面にフルサイズで流れて感動を盛り上げた。この曲も絵コンテを参考に作曲されたのではないだろうか。音楽集LPでは「すべての人に愛を」のタイトルで収録されていた。本作のテーマを象徴する曲である。
 本作の音楽の特徴のひとつに、メロディの豊かさが上げられる。たとえば、「ポリアンナのテーマ」としてまとめた曲は、ポリアンナの場面に使われてはいるが、メロディは異なる。キャラクターごとにメロディを付与するライトモティーフの手法は採られていないのだ。以前、当コラムで取り上げた『私のあしながおじさん』とは異なる点である。
 メインとなるメロディがないために、どの曲にも新しいメロディが現れる。しかも、1曲の中で次々とメロディが変化する、展開のある曲が多い。
 かといって、各曲の印象が薄いわけではない。その理由には、音楽自体の魅力とともに、音楽演出の巧みさがあげられる。本作の音響監督は出崎統監督作品にも多く参加している山田悦司。音楽をコマ切れにせず長く使う映画的な演出が印象的だ。本作でも長い曲を切らずに流して大きな情感の流れを作り出している。その結果、楽曲の持ち味が生かされ、非常に豊かに聴こえる。これも本作の音楽に見つかる「よかった」のひとつだ。

 収録曲の話に戻そう。
 パレーおばさんのもとに引き取られたものの、おばさんからは冷たくされて落ち込むポリアンナ。そんなポリアンナの味方となり、一緒に「よかった探し」を始めるのがメイドのナンシーである。
 「ナンシーの約束」と題したブロックには、第5話のナンシーとポリアンナの場面に流れた3曲をまとめた。1-M-41は弦楽器とフルートなどが繊細な心情を表現する静かな曲。ナンシーがポリアンナを「天使のようなお方」と呼ぶ場面に流れて心にしみる。1-M-47はナンシーがポリアンナから「よかった探し」の話を聞く場面に使用。弦楽器がやさしいメロディを奏でる前半から、後半はピアノのメロディに変わる。この後半がたまらなく美しい。ポリアンナを想うナンシーの気持ちが伝わる音楽だ。
 ポリアンナの「よかった探し」は街の人々のあいだにも広がっていく。
 「ふしぎな特効薬」のブロックタイトルは、医師のチルトン先生がポリアンナのことを「誰でも元気にする特効薬」と呼んだエピソードにちなんだ。室内楽風の2-M-2は第12話でポリアンナがスノー夫人を見舞う場面に使用された曲。偏屈だったスノー夫人がポリアンナのペースに巻き込まれてしだいに心を開いていくさまが愉快だ。スノー夫人の心境の変化を巧みに表現する曲である。
 ディスク1の終盤には、パレー夫人の心情を描写する「秘められた想い」と「パレー夫人の幸せ」のふたつのブロックを配した。
 「秘められた想い」の2-M-7は、第24話でパレー夫人とチルトン先生との切ない恋の思い出が語られる場面に流れた曲。ピアノと弦と木管が静かにおごそかに奏でる、本作の音楽の中でもとりわけ美しい曲のひとつである。
 そして、「パレー夫人の幸せ」には第1部の大団円となる第27話で使用された2曲をまとめた。1-M-32は音楽集LPで「さようならの笑顔」のタイトルで収録されていた曲。フルート、ハープ、ホルンの序奏に続き、ピアノと弦楽器による抒情的なメロディに展開。木管がメロディを引き継ぎ、変奏していく。そのまま劇場作品のメインタイトルになりそうなロマンティックな曲である。劇中では、なかなか素直になれないパレー夫人の複雑な心境を表現する曲として使用された。音楽の力もあって、劇場作品の一場面を観ているような気分になる。
 もう1曲の1-M-23は第27話のクライマックスに使用された曲。音楽集LPでも「しあわせが続きますように」のタイトルでアルバムの最後に収録されている。フルート、ビブラフォン、弦楽器などが絡み合う印象主義音楽風の楽曲だ。第27話ではたっぷり2分間にわたって流れ、大人の恋の物語をしっとりと彩っている。
 ディスク1を駆け足で紹介してきたが、第3回録音と第4回録音の楽曲を中心に収録したディスク2にもいい曲がたくさんある。
 中でも、数々の名場面に流れた「生きることのよろこび」の2-M-9、最終回のラストを飾った「幸せはすぐそばに」の3-M-12は、筆者もお気に入りの名曲だ。
 『愛少女ポリアンナ物語』が小六禮次郎によるすばらしい音楽に恵まれたこと。これがいちばんの「よかった」なのかもしれない。

 小六禮次郎は本アルバムのために行った2005年のインタビューで、「少し殺伐とした世の中なので、この音楽を聴いて豊かになってくれればうれしい」と語っている。この言葉は現在にも当てはまりそうだ。こんなときこそ「よかった探し」。ぜひ、CDで、あるいは本編とともに、音楽を味わっていただきたい。明日も新しい「よかった」が見つけられるように。

世界名作劇場 メモリアル音楽館 愛少女ポリアンナ物語
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アニメ様の『タイトル未定』
245 アニメ様日記 2020年2月2日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。

2020年2月2日(日)
映画を観に行くつもりだったのだけど、ワイフの要望で赤羽に。ワイフが公園で猫と戯れている間に、荒川まで歩いて戻る。ワイフと面白駄菓子屋に寄ったら、高校生くらいのシュッとした男子が10円の駄菓子を買って、店の前のテーブルで友達と駄菓子を食べていた。赤羽はあちこちに清野とおるさんのポスターが貼ってあった(店頭の黒板に「壇蜜さんとの結婚おめでとう」と書いてある店もあった)のだが、入った飲み屋には清野とおるさんのサイン色紙が。公園にいる人も飲み屋の客もなんだか濃かったと思うのは、清野とおるさんのマンガの影響か。池袋に戻って、買い物に行ってから、事務所に。

2020年2月3日(月)
『魔動王グランゾート』の視聴が終わったので、さかのぼって『魔神英雄伝ワタル』の視聴を始める。1話が猛烈に面白い。内容が詰まっているし、アイデアも豊富。なおかつエピソードの中でのメリハリもいい。2話で剣部シバラク先生が登場するんだけど、初登場時はかなり乱暴なおじさんだったんだなあ。芦田豊雄さんはコンテも描いている。
アニメスタイル編集部では、年に2回くらい「『フリクリ』の絵コンテ本はどこにあるんですか」と誰が言い出す。今回は他の編集スタッフが使用中だった。日本でいちばん『フリクリ』の絵コンテ本を使っている編集部に違いない。

2020年2月4日(火)
15時から新宿で打ち合わせ。その後、事務所に。Prime VideoチャンネルのNHKオンデマンドに登録した。これはながらで観るにはかなりいい。「駅ピアノ」と「ノーナレ」と「ネコメンタリー 猫も、杓子も。」を観た。「岩合光昭の世界ネコ歩き」なんて70話もある。本家のNHKオンデマンドはあまり使ったことがないのだけど、操作性はこちらのほうがいいのでは。

2020年2月5日(水)
「ぐるぐるてくてく」という女子高生が主に池袋を歩くマンガがあって、その中に、護国寺に猫に会いに行く話があった。護国寺に猫がいるなんて知らなかった。ネットで検索して見ると、確かにいるらしい。それで、午前中にワイフと護国寺に。何度も通り過ぎていたけど、護国寺に入るのは初めて。休憩スペースもあるし、大仏があったり、仁王像があったり。それから広い。こんな場所だったのか、という感じ。ひとまわりして最後の最後に一匹の猫に会えた。近づいてはこないけど、逃げもしない感じだった。
事務所で作業をしている間は、ずっとPrime VideoチャンネルのNHKオンデマンドを観ていた。「ドキュメント72時間」がとてもよかった。観たのは「赤羽・おでん屋エレジー」「駄菓子屋・子どもたちの小さな宇宙」「北の大地の学生寮」「秋田・真冬の自販機の前で」「秋田 真冬の自販機の前で・惜別編」。特に「北の大地の学生寮」がよかった。

2020年2月6日(木)
午前中に集中してデスクワーク。企画書を何本か書く。作業をしている間はずっと、Prime VideoチャンネルのNHKオンデマンドの「ドキュメント72時間」を流していた。夕方から声優博士と打ち合わせ。

2020年2月7日(金)
編集部で、あらためて書籍に絵コンテを載せる際のサイズについてディスカッションする。例によっていくつものプロジェクトが同時進行。夕方、 有楽町マルイの「映像研による『最強の世界』展」に。展示品は多くはないけれど、線画設定を見ることができてよかった。上野の立飲みカドクラに寄って軽く呑んでから事務所に。
『慎重勇者〜この勇者が俺TUEEEくせに慎重すぎる〜』を一気観する。最終回は意外な展開。トータルではかなり楽しめた。『この素晴らしい世界に祝福を!』のアクアと『この勇者が俺TUEEEくせに慎重すぎる』のリスタルテは物語の中での位置づけも、キャラクターの印象も近い。僕としては、リスタルテのほうが言動に共感できるのだけれど、キャラクターとしてはあまり執着できない。リスタルテに執着できないのは主人公に対する欲望がダダ漏れすぎるからか。あるいは思考や感情が理解しやすぎるためか。アクアのほうが華があると思えるのは、性格がカラっとしているからか。あるいは主人公との距離感のためか。ちなみに『この素晴らしい世界に祝福を!』の3人娘の中だと、ダクネスが好きです。

2020年2月8日(土)
午前中に散歩。昼は吉松さんと打ち合わせを兼ねてシェラスコの店でランチ。次のイベントの内容が固まる。店でお手洗いに行くお客さんの姿を見て、横田守さんのような人だなあと思ったら、本当に横田守さんだった。

第652回 アニメーターとしての終末

最近、というか40代に突入してから「自分はあと何年アニメーターをやれるのだろうか?」とよく考えます!

 再三語ってるとおり、自分はアニメーターとしてスタートから非常に恵まれていました。(株)テレコム・アニメーションフィルム——大塚康生さんを中心に友永秀和さんや田中敦子さん、富沢信雄さんらスタジオ・ジブリ以前の宮崎アニメを支え、超大作『NEMO』(1989)を作り上げた精鋭スタッフにアニメーションを教わることができたのですから。しかも当時(1990年代半ば)では1枚いくらの出来高(単価)制が当たり前だったアニメ業界において、テレコムは動画1年目から完全給料制、しかも夏・冬ボーナスがもらえて——と言うと我々の同期からは相当羨ましがられたものです。同年代のアニメーターからすると、俺は本当に温室育ち。実はテレコムを辞める際、原画キャリア丸4年だった自分に「ジブリに紹介しようか?」と仰ってくださった先輩がいたのですが、その時は「有り難いお話ですが、演出やりたいって会社辞めるのに、ジブリで原画マンやっちゃ嘘になるので」とお断りしました。その時、もちろん「演出やりたい」が退社理由で間違いはなかったのですが、本当は

このまま温室育ちのアニメーターじゃ、俺はダメになるから!

というちょっと贅沢な理由もあったんです。当時の先輩方ゴメンナサイ。お気遣いありがとうございました。
 で、自分がテレコム退社後、演出デビューの場に選んだのが小さな某グロス会社。ちなみにその小さな会社で新人数人を引き連れて作った数本のグロス話数は、現在ミルパンセで「全員新人からの作り方」を実践する際の勇気を育んでくれました。その会社では、自分が320〜330カットほどのコンテを上げると、その半分以上の150〜200カットほどは、50〜60代くらいのかなり年配のフリーで自宅作業の方に振られるのが常でした(残りは社内の新人)。これはもう本当に大変でした! だって狙った意図の画がまったく上がってこない! そりゃそうですよ。当時27〜28歳の板垣は、自分と同年代の今石洋之さんらGAINAX(現在はTRIGGERに在籍)の活きのいい巧い原画マンの傍らで、アニメーター仕事もしてたわけで、それと比べると大ベテランの方々の原画は正直「酷かった」です! 髪の毛も服もいっさい揺れず、どんな芝居・アクションも限界まで簡略・省略されたラフな原画が1〜2枚ペラペラっとタイムシートに挟まれてるだけのものが、毎日30〜40カット机に積まれてるんです! それを社内の新人と自分も加わって全修に次ぐ全修。ハッキリ「地獄」でした。ただその時、テレコムでの大塚さんの言葉を思い出してたんです。

「歳をとると画は下手になるんだよ。僕はもう社内(テレコム)の若い人より下手になってるからね〜」

と。事実か謙遜かはどうでもよくて、大塚さんほどの方がそう言うくらい、アニメーターって肉体労働だってこと。目だって衰えるし、集中力も散漫になり、何より自身が描きたい画と世間が求めてくる画とのギャップは激しくなるばかり。それでも60歳越えて机にしがみつくカッコいい方たちをただ「老害」といって切り捨てるヤツに「本当の人生とは何か?」など描けるはずもないと思いました。それが描ける演出家にこそ、俺はなりたい!
 つまり目の前の年配の方の原画を見た時、

誰でも必ず歳をとり、俺もいずれこうなるのかもしれない。今この酷い原画に対して怒ったり笑ったりスタジオの壁に貼り出して揶揄したり、ひとしきり憂さ晴らしをしたあと、新人と自分で直しまくろう! 我々が子どもの頃に夢中になって観たアニメを作ってた人たちのフォローもできないところだと思いたくない、アニメ業界!

と。この考えは現在にいたっても変わっておりません。画の荒い部分や足りない原画は、俺らで修正・追加すればいいんです。そして若い人らは業界の大先輩からその生き様を学ぶ。先輩と後輩の相互関係こそがアニメ制作現場のいいところなはず。そもそも俺らみたいな若造の作品にご年配の方が入ってくるって、よっぽど人手不足だからで、どんな画が上がってこようと文句を言える義理はないはず。だから我々は全修しまくって使えばいいんです!
 ただ、笑ったり揶揄したりくらいはご容赦ください。こちらも人間なので、現場でおかしなモノが上がってきたら爆笑の対象となります。でもその代わり、自分自身も将来後輩に笑われる覚悟は完了してます。あとSNSなどで拡散するようなマネは最低なので絶対やりません。

TVアニメ黎明期から描かれてる方々は、2秒以内のカットは基本「止メイチ」で上がってくると初めて知った27歳の夏!

アニメ様の『タイトル未定』
244 アニメ様日記 2020年1月26日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。

2020年1月26日(日)
早朝に新文芸坐へ。オールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 123 中村豊のスーパーアクション vol .1」の終幕を見届ける。午前中は散歩。昼はアニメスタイル卒業生(数年前までの学生スタッフ)が事務所を訪れて食事に。ここ数日、卒業生に次々と会った。午後はワイフの希望で雑司が谷霊園まで散歩。その後は事務所に。

2020年1月27日(月)
事務的な用事を次々とこなす。電話もする。このところ、仕事はしているし、やりきれないくらい作業があるんだけど、原稿らしい原稿を書いていない。いかんなあ。作業をしながらDVD BOOKの『スペースコブラ』vol.1、『じゃりン子チエ』vol.1を半分ずつくらい観る。

2020年1月28日(火)
雪が降ると聞いていたけど、起きた時には雨。その後も、雪を見ることはなかった。昼は体力が落ちているワイフを誘って蕎麦屋に。鍋を食べる。午後に打ち合わせが一件。これから出す本、出したい本をまとめた。数はあるけど、順番がよくないなあ。
『魔動王グランゾート』を1話から観る。1話冒頭の「冒険モノ」感が凄い。耐えて久しい感じ。『魔動王グランゾート』6話でアクアビートが登場。本放映時もこの初登場シーンはインパクトあったなあ。BANKのラビも作画がいいぞ。
立東舎のサイトで「【連載エッセイ】押井守の映画50年50本アーカイブ」の「1988年『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』編」を読む。面白い。さすがは押井さん。ただし、「逆シャア本」の思い出部分はちょっと押井さんの記憶は違うかもしれない。前段階でアニメージュの記事で押井さんが『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』を誉めていて、それを知っているから同人誌で取材を申し込んだという流れだったはず。

2020年1月29日(水)
午前中は散歩とデスクワーク。13時から中央線方面で取材3本立て。取材までに晴れてよかった。ちょっとだけ吞んでから、池袋に。「アニメの仕事は面白すぎる 絵コンテの鬼・奥田誠治と日本アニメ界のリアル」を読了。僕にとっては大変に面白い本だったけど、個々の記述については「?」なところもあった。ドラゴンクエストウォークは上級職が強くて楽しい。ドラゴンクエストウォークのために1日4万歩くらい歩きたいけど、そんなわけにもいかない。

2020年1月30日(木)
グランドシネマサンシャインの13:35~15:33の回で『メイドインアビス 深き魂の黎明』を鑑賞。僕的にはかなり内容がキツかった。そのキツさは作り手が狙ったものであるはずなので、これは悪口ではない。僕がもっと若ければ「すげえ」と言っていたかもしれない。作画はよかった。あの複雑な衣装を着たキャラクターを、丁寧に動かしていたのがすごい。それから、脚本の力かコンテの力か分からないが、中盤の話の運びが猛烈に上手いと思った。映画の後は打ち合わせとデスクワーク。片づけなくてはいけない用事が山盛り。ドラゴンクエストウォークは新イベント「あくま大王襲来」がスタート。これも歩く意欲が高まりそう。

2020年1月31日(金)
午前中から昼までは散歩とデスクワーク。闇雲に作業を進める。14時から上井草で打ち合わせ。17時から石神井公園で打ち合わせ。上井草から石神井公園までの移動は徒歩。まわりみちをしつつ、ドラゴンクエストウォークを進める。池袋に戻ってまたデスクワーク。
『魔動王グランゾート』の視聴が最終回にたどり着く。最終回の作画監督は吉松さん。よい仕事をされている。そして、原画に大張正己さん名前が。

2020年2月1日(土)
トークイベント「第166回アニメスタイルイベント スタッフが語る『海獣の子供』」を開催。イベントは大変に充実したものとなった。出演を予定していなかったスタッフが、次々とステージにあがってくれたのも嬉しかった。トーク終了後はスタッフによるサイン大会に。先に会場を出たワイフと落ちあって、晩飯を食べて池袋に。

第651回 幸せ感じるコツ

朝、誰よりも早く会社に入る俺。窓から入り込む朝陽でモニターが見づらいのがずぅ〜っと気になっており、ようやくこないだの日曜日、無事クリア!


 元来、板垣はいわゆる「幸せのハードル」ってやつが結構低いので、即幸せを感じます。物心ついた頃より、朝起きた瞬間からマンガを描いたり、ゲームを作ったり(プログラミング)、ゴルフクラブや竹とんぼを作ったり(木工細工)してるだけで幸せでした。こう言うとまた「そんなやついるわけねぇ、嘘つくな!」と信じない方がいらっしゃるのでしょうが、事実、存在するんですよ。なぜなら自分がそうだから! てのは以前お話したと思います(第何回かは忘れた)。
 若手(新人)にも言うんです。「誰でもたいがいひとつは夢を叶えられるはず」と。例えば「アニメーターになりたい」なら少々の絵心でなれるでしょう。でも「なれた」だけでなく「自分の好きな画を描きたい」とふたつめの夢を重ねるなら、それなりの努力が必要になります。さらに「大金持ちになりたい」や「名声も欲しい」と3つめ・4つめを重ねるなら、才能や運までも必須でしょう。
 おそらく俺が両親に「もっと金が欲しい」とか言おうものなら「お前、自分の好きな仕事やってて贅沢言うな!」と一蹴されるでしょう。親からすれば「子どもの頃から画を描くのが好きで、それで今食えてるのに何が不満なの?」なわけ。ウチの両親は好きなことを仕事にできる云々どころか、中学にも碌に行かせてもらえなかった(本人ら談)人たちですから。よって息子の自分も幼少の頃から、分不相応な贅沢はさせてもらえず、幸せハードルが低いというのも当然の話なのです。
 だから、本当に大変だと思います。「監督をやらせてもらえる」ことなどあたり前の最低条件で、あとは「富と名声を手にするだけ!」と幸せの条件ハードルを身の丈に合わせない高さに上げまくってる方々を目にすると、気の毒でなりません。前回話題にしたSNSなどでそういった人が暴言・暴論を繰り広げてると聞くと、腹が立つというより「助けてくれ!」と悲鳴を上げているとしか受け取れませんから、自分。
 少なくとも板垣は(信じてもらえるかどうかは分かりませんが)

監督をやらせてもらえて、いっぱいコンテが描けて、新人の育成までさせてもらえてるだけで、今、幸せ過ぎて怖いくらいです!

 皆さんも身の丈にあった「ほどほど」の幸せハードルを見つけてください。