第843回 スケジュールは皆のモノ

 先程この原稿に着手する前、制作定例(全体会議)で、

スケジュールを“自分だけのモノ”と勘違いしないように!

という話をしました。
 例えば社内のアニメーター、「僕(私)はこうこうこれだけバッチリ下描きを敷かないと描けないんです」と。それはもちろん技術レベルには個人差がある故、あくまで“徐々に慣れて~”としか言えませんが、

基本、“原画”とは丸チョンでレイアウトと動き(タイミング含む)を決めたら、後は“一発描き”!

なんです。当然カット(シーン)の難易度にもよりますが、“巧い人ほど下描き(ラフ)が少ない”のは現実問題としてあります。つまり、巧い人が数(物量)を上げられるのは“答えを出すまでの速度”が早い。それに対して、力量が追い付かないアニメーターが「私はこうでないと描けない」とか「俺はこう描きたい」とかの主義をいつまでも通し、幾度となく下描きを重ねれば各々のスケジュールだけではなく、ひいては全体スケジュールをも食い潰していきます。
 現状まだアニメ業界に蔓延っている“フリー(業務委託)8割で作るテレビシリーズ”の問題点はここにあります。“下手なのにフリー”ってのが多過ぎるんです、この業界。いや、“下手だから”か? 他の業界に比べて多い気がします、下手フリー。巧いか下手か? 且つ何本掛け持ちしているかも分からないフリーにばら撒いて、上がってくるのが約束した原画UP日ではなく、“納品”の寸前。そりゃあ当然、作監修(作画監督の修正)の手が追い付かずに放映されて崩壊は当たり前。
 ウチ(ミルパンセ)は今、フリーに撒かないようにし、さらに脚本・コンテ段階からカット内容のカロリーコントロールをして、できる限り社内で作る! にしています。社内のアニメーターであればこそ、作打ち(作画打ち合わせ)後でも、停滞しているパートを「ごめん、これ俺持っていくー」と引き上げて、「次の話数進めて~」と別スケジュールに乗せ換えることができますから。

早い話、各アニメーターが貰っているスケジュールは、各自のモノでありつつも“スタッフ皆のモノ”——全体スケジュールでもある!

訳です。例えば原画マンたちに、

各自、1日の作業量を1カット……いや、半カットでもいいから多く上げる工夫をして!

と鼓舞すると、全員合計して1日数カットずつ上りが増えます。
 こういう時、土台無理な数——「各自1日10カットずつ多く上げること!」とか言うと、アニメーターは拗ねます、「どーせ無理……」と。半カット、「いつもの作業量にラフまででもいいから追加・前進することを目指して~」だと、頑張ってくれたりするもんです。

「各々半カット増」を1ヶ月(実労働20日)続ければ、結構生産量増えると思いません?

昨今限られた人員で作品を作らざるを得ない、我々みたいな中小アニメ企業こそ、「スタジオの総合力」で安定を図るべきかと。 勝ち名乗りを上げている業界人員獲得合戦の勝ち組大手プロダクションさんらには、健闘を祈ります! ファンの御期待に応えて、業界を盛り上げてください。

アニメ様の『タイトル未定』
432 アニメ様日記 2023年9月3日(日)

2023年9月3日(日)
事務所でデスクワーク。ToDoを次々に片づけているのに、ToDoが増えていく。
WOWOWでやっていた「秘密」を流し観。広末涼子さんが出演している映画だ。初見だと思ったけれど、話は知っているなあ。公開時には生理的に乗れない映画だったのだけど、この年齢になると広末さんに中年男の奥さんをやらせたい作り手の気持ちが分かる。だけど、ラストはやっぱり乗れないなあ。若い頃に観たら、ラストの直子(広末涼子)に感情移入したかも。
「ラウリ·クースクを探して」をkindleで読了。物語としてはあっさりしているんだけど、小説としては面白かった。

2023年9月4日(月)
ワイフは昨年から体調が思わしくなく、自宅にいることが多い。僕がWOWOWの映画『クレヨンしんちゃん』一挙放映の話をしたのがきっかけなのか、先週から配信で『クレヨンしんちゃん』を観るようになった。無料配信中のものは全て観て、サブスクにある映画も大半を観てしまい、ついに「クレヨンしんちゃん月額見放題パック」を購入した。むさえとシロが好きらしくて、むさえとシロが出てくる話を優先的に観ているようだ。
ワイフが久しぶりに映画館に行きたいというので『アステロイド・シティ』をWHITE CINE QUINTOで鑑賞。ワイフにとっては久しぶりの外出だった。そして、映画館で「『クレヨンしんちゃん』成分が足りない……」と一言。観たかった映画を観る直前になって『クレヨンしんちゃん』のことを言い出したことに、本人も驚いていた。それ以外も映画が始まる前に、映画館の売店でビスケットを買ったら、映画『クレヨンしんちゃん』でビスケットが出てくる作品を思い出したそうだ。
『アステロイド・シティ』は4時間以上ある映画を2時間にまとめたような作品だと思った。映像はよかった。話はよく分からないところもあったが、飽きる間もない感じだった。

2023年9月5日(火)
Apple Musicに『おジャ魔女どれみ』関係のアルバムがどっさり入っていることに気づいて、朝の散歩で「おジャ魔女どれみ Sound Select」を聴いた。
引き続き、原稿以外でやることが多い。夕方から新文芸坐で「狂い咲きサンダーロード オリジナルネガ・リマスター版」を観るつもりだったけど、諦める。ネットで注文したMacBook Airが届いたので、セッティングも進める。これから作る書籍についてのZoom打ち合わせ。なるべく自分が作業を抱え込まない方向に持っていきたい。
Amazon prime videoのスターチャンネルEXで配信が始まった第1シリーズ『宇宙戦艦ヤマト』の1話から10話までをながら観。Blu-ray BOXを買い逃したので、ハイビジョンで第1シリーズを視聴するのはおそらくこれが初めて。主に背景の美しさや凝った撮影を楽しんだ。記憶モードで書くと、今までのビデオマスターよりセルの汚れやホコリが目立っているはず。ではあるけれど、僕は第1シリーズ『ヤマト』に関して、セルの汚れやホコリはあまり気にならない。何よりも『ヤマト』が配信で観られるようになったのが嬉しい。

2023年9月6日(水)
印刷会社の新しい担当さんと顔あわせ。15時からあるアニメーターさんとZoom打ち合わせ。Zoomとはいえ、お目にかかるのは10数年ぶり。お元気そうでよかった。TOKYO MXの『マジンガーZ』46話でこしゃくな原画があると思ったら、友永さんだった。

2023年9月7日(木)
グランドシネマサンシャインで『劇場版 天元突破グレンラガン 紅蓮篇』をBESTIA enhancedで鑑賞。リマスターの力か、BESTIA enhancedの力か、久しぶりに観たのがよかったのか、今までに観た『紅蓮篇』の中で一番楽しめた。最近は穏やかなアニメを観ることが多いので『グレンラガン』の乱暴さが心地よかったのかもしれない。分かっていたことかもしれないけれど、やっぱりシモンとニアって距離があるなあ。シモンがニアを愛していないということではない。愛してはいるんだけど、距離がある。だとすれば、最終回がああなるのも、筋が通っているはず。それは作品にとって大事なことなのだろう。

『文豪ストレイドッグス』の公式サイトで「アニメージュ」10月号について「事実や作品の公式見解とは異なる内容が掲載」されると告知された。そこで書かれていることが本当なら、修正不可能なタイミングで監修依頼を出したアニメージュがよくないはずだけど、どうしてそんな状況になったのかがなんとなく分かるだけに辛い。

2023年9月8日(金)
10年前にはどこのレンタルショップにもDVDが置いてあった某TVアニメ。最近はずっと配信サイトにあったので安心していたのだけど、用事があって観ようとしたらどの配信サイトでも配信が終了している。Amazonで確認したら中古DVDの1巻は激安だけど、ちょっとお高い巻もあるぞ。今回はネットレンタルでDVDを借りるにしたけれど、今後はこういうことが増えるのだろうなあ。
台風の影響で弊社出勤組3人のうち2人は自宅作業となった。昼飯はゴーゴーカレー。ゴーゴーカレーを食べると、福田淳さんを思い出す。

2023年9月9日(土)
「第210回アニメスタイルイベント アニメマニアが語るアニメ60年史」を開催した日。イベント前に話すことを年ごとに書き出したら、大変な量になってしまい、このままだと伝えたいことが伝わらない。そこでイベントの最初に「60年の大きな流れ」を話すことにした。その結果、最初の90分で60年を語ることができた。以下はレジュメからの抜粋だ。
…………
プロローグ アニメ60年の全体像

1963年~1977年 アニメ黎明期
1978年~1984年 アニメブーム
1985年~1987年 TVアニメ冬の時代
1988年~2000年 作品とファンの再構築
2001年~2023年 増大と一般化の時代
…………
「60年の大きな流れ」に関しては「アニメブーム」の後に「冬の時代」と「再構築」の時期があるのが、今回のトークのポイントだ。それから、重要なキーワードが「コンテンツ化」。イベント中でもアニメブームを1977年からにするか、1978年からにするかで悩んだと言ったけれど、トークに参加してくれた高橋望さんの意見を取り入れて、次回は1977年から始まったことにするかもしれない。

第276回 音楽の海を渡る 〜舟を編む〜

 腹巻猫です。2月18日からNHKで放映が始まったTVドラマ「舟を編む 〜私、辞書つくります〜」が気になります。本屋大賞を受賞した三浦しをんの同名小説が原作。実写劇場作品とTVアニメにもなりました。過去の映像化作品と比較すると今回のドラマがいちばん大胆なアレンジがなされてます。なにせ、原作では後半から登場する岸辺みどりが主人公なのですから。しかし、池田エライザを主演に辞書作りを描くならこういうアレンジにするほかないか……などと思いながら、興味深く観ています。


 今回は、2016年10月から12月まで放映されたTVアニメ版『舟を編む』の音楽を取り上げよう。
 玄武書房の営業部員・馬締(まじめ)光也は、名前どおりの真面目な性格だが、口下手で空気が読めない不器用な人物。しかし言葉への感性とこだわりは人一倍強い。その馬締が辞書編集部にスカウトされ、異動してくるところから物語は始まる。玄武書房では新たな中型辞書「大渡海」の編集が進められていた。責任者の荒木は定年を間近に控え、後継者として馬締に目をつけたのだ。馬締を中心に、辞書作りに情熱を傾ける人々の姿を描く人間ドラマである。
 辞書作りの作業は地味で細かい作業が中心。アニメ向きとは言いがたい題材だが、本作は丁寧な描写を重ねて登場人物の繊細な心情を表現し、映像的な面白さと人間ドラマを両立させていた。フジテレビ「ノイタミナ」枠ならではの意欲作である。

 音楽は池頼広が担当。アニメでは『BLOOD THE LAST VAMPIRE』『TIGER & BUNNY』『神撃のバハムート GENESIS』など、SFアクション系の作品の印象が強い。
 しかし、いっぽうで池頼広は、TVドラマ「相棒」シリーズや「女王の教室」「家政婦のミタ」など、人間ドラマ中心のシリアスな実写作品をたくさん手がけている。アニメよりもドラマ向けと言える本作の音楽にうってつけの作曲家だった。
 ドラマ的な作品であるから、音楽もドラマ的だ(ドラマチックという意味ではなく、実写のドラマに流れるような音楽という意味)。
 本作には、わかりやすく喜怒哀楽を表現するような曲がない。たとえばストリングスが奏でる「憂愁」という曲があるが、悲しみや憂いを表現しているかというと、そうとも言いきれない。心配や思いやりや切なさなど、いろいろな感情を想起させる。実際、さまざまなシーンに使われている。
 また、キャラクターテーマに該当する曲もない。シチュエーションを描写する曲はあるが、特定のキャラクターに結びついた曲は用意されていない(あったとしても、そういう使い方はされていない)。本作の登場人物は、辞書作りをしながら成長し、年齢も重ねていく。そういうキャラクターをひとつの曲では表現しきれないからだろう。
 過去に当コラムで池頼広が手がけたTVアニメ『かみちゅ!』を取り上げたときに、中間色のふわっとした感じの音楽、という表現をした。うれしいけれど、どこか悲しい。悲しいけれど、希望もある。そんな多面的な音楽のことだ。本作の音楽も同じ系統である。
 本作のサウンドトラック・アルバムは2016年12月21日に「舟を編む オリジナルサウンドトラック」のタイトルでアニプレックスから発売された。

  1. 言葉の海
  2. 茫洋
  3. 編纂
  4. 出発
  5. 浮標
  6. 不器用
  7. 早雲
  8. 彷徨い
  9. 安寧
  10. 憂愁
  11. 歓迎
  12. 継続
  13. 邂逅
  14. 高揚
  15. 定義
  16. 団欒
  17. 逢着
  18. 悲哀
  19. 報復
  20. 用例
  21. 訥弁
  22. 策戦
  23. 場違い
  24. 腐れ縁
  25. 休日
  26. 恋文
  27. 不安
  28. 返事
  29. 完成
  30. 和気藹々
  31. 活気
  32. 舟を編む

 劇伴のみ32曲を収録。曲順は劇中使用順にこだわらず、イメージアルバム的に構成したようだ。曲名も劇中の使用場面とは必ずしも一致していない。
 1曲目は「言葉の海」。ピアノ、ギター、パーカッションなどによるバンド編成のセッション曲である。ピアノがコード進行に沿ってパラパラとフレーズを弾いているが、メロディラインはつかみづらい。「言葉の海」というタイトルどおり、無数の言葉が漂う広大な海のようなイメージの曲だ。
 メロディアスではないけれど、この曲、実にいい。何度もリピートして聴きたくなる。
 トラック3の「編纂」は「言葉の海」のバリエーション、もしくは同系統の曲である。ピアノとギターとパーカッションを中心にしたサウンドは共通しているが、こちらはピアノのメロディがよりくっきりと聞こえる。茫漠とした「言葉の海」にメロディという「舟」を渡すイメージだろうか、と筆者は考えた。この曲は第11話で馬締たちが刷り上がったばかりの「大渡海」の紙面を見る場面に流れている。
 同じメロディを使った曲にトラック12の「継続」がある。ピアノとストリングスと木管を中心に奏でられる前進感のある曲で、「大渡海」の編集作業が進行する場面にたびたび使用されていた。
 トラック31の「活気」は「編纂」をアップテンポにした雰囲気の曲。活気に満ちた編集部の情景が目に浮かぶ。これら一連の曲をまとめて、「辞書作りのテーマ」と呼べそうだ。
 トラック2「茫洋」は、アコースティックギターによるほのぼのした雰囲気の曲。辞書編集部の日常を描写する曲としてよく使われている。このメロディはアルバムの最後(トラック32)に収録された曲「舟を編む」と共通している。おそらくは「舟を編む」がフルバージョンなのだろう。同じメロディをアレンジした曲がほかにも作られている。
 たとえば、トラック5の「浮標」はピアノとアコースティックギターをメインにしたおだやかなアレンジ。第9話で馬締が新たに辞書編集部に配属された岸辺みどりに「辞書は人と人がふれあう助けになるもの」と語る場面に流れている。
 「安寧」(トラック9)はピアノソロによる変奏曲。第1話で馬締と西岡正志が公園で話す場面など、ふと心が動くような場面に使われた。
 「憂愁」(トラック10)はストリングスによる変奏曲。第2話で、馬締と林香具矢の出会いのシーンに使用され、その後もふたりの初デートや馬締の告白シーンなどに使われていたのが印象深い。しかし、ふたりのテーマというわけではなく、第8話では岸辺みどりの登場シーンに、第11話、12話では、馬締たちと松本先生のシーンに使用されている。
 「言葉の海」とそのバリエーションが「辞書作りのテーマ」だとすれば、「舟を編む」とそのバリエーションは「辞書作りに挑む人々のテーマ」と呼べそうだ。
 キラキラしたイントロからホルンなどによる大らかなメロディに展開する「邂逅」(トラック13)も重要な曲だ。第1話で荒木が馬締を「発見」する場面、第2話で馬締が辞書編集にやりがいを見出す場面、第9話でみどりが松本先生から「あなたも言葉を愛している人なんですね」と言われる場面、最終話(第11話)の本編ラストで馬締が西岡から「松本先生に似てきた」と言われる場面など、心にぐっとくる名場面に流れていた。
 ギターがブルージーなメロディを奏でる「悲哀」(トラック10)は本作には珍しいタイプの、心情をストレートに表現したような曲。劇中では1度しか使われていない。第10話で、収録語に抜けがないか確認するために馬締たちが校正刷りのチェックを始める場面である。やはりこういう曲は使える場面があまりなかったのかなと思う。
 ほかに耳に残る曲といえば、馬締がらみでよく使われたユーモラスな「不器用」(トラック6)がある。弦のピチカートを使ったサウンドが共通する「報復」(トラック19)、「場違い」(トラック23)も同じカテゴリに入れられる。
 アルバムの終盤に「恋文」「不安」「返事」(トラック26〜28)の3曲が並んでいるのが面白い。本作の中でもとりわけ印象に残る、馬締の恋文のエピソードをイメージした構成だろう。実際には劇中のその場面ではこれらの曲は使われていないのだが、作曲の段階では(音楽メニューでは)使用が想定されていたのかもしれない。ここは、劇中の使用場面にこだわらず、自由にイメージをふくらませながら聴いてみたい。それもサントラの楽しみ方のひとつだ。

 派手さはないが、すごくいいアルバムだと思う。落ち着いた曲調の、耳に心地よい楽曲が多い。放映当時、池頼広はSNSで本作の音楽を「癒し系の曲です」と表現していた。サロンミュージックのようなリラックスして聴ける音楽である。
 『舟を編む』を観て、サウンドトラック・アルバムを聴きながら、辞書作りとサウンドトラック・アルバムの構成は似ているのかもしれない、と少し考えた。あまたある楽曲の中から曲を選び、並べたものがサウンドトラック・アルバムである。サウンドトラックはときには作品の入口になり、ときには作品を読み解くヒントになる。なによりサウンドトラックという形の舟がなければ、音楽を聴く手がかりがなくなる。音楽の海を渡る人の助けになればと思いながら、筆者はアルバムという舟を編んでいる。

舟を編む オリジナルサウンドトラック
Amazon

第842回 アニメ人生、時間が足りない(汗)!

あ、2024年はうるう年なんですね! 1日得した感!

 本当にもう、圧倒的に時間が足りません。このまま行くとあっという間に生涯を終えてしまうじゃないですか!
 今現在いただいている仕事を全部(数本有り)こなすと2027~28年? 53~4歳!? アニメは怖い! 一本一本にそれなりの制作期間が掛かる故、2~3本作ってる間にポンポン歳を取って、10本作り終わる頃にはもう“し”が目の前です!
 だからと言って、一時期のどなたかみたいに年間3本4本5本やってヒットメーカーを気取っていた監督がいいかと言うと、板垣個人的にそれは目指していません。やりたい人はやればいいでしょうが、個人的にはそんな掛け持ち大王になっても、どうせ各作品の自前コンテ本数が減って、自分の目指したい画面の完成度が複数の作品に分散されるだけ、且つ終いには音響にすら行けなくなった例も俺は聞いたことがあります。漫画・ラノベの人気原作を何本も数打って(監督して)、その内たまたま当たった1本を基に周りが持て囃して「ヒット監督」とでっち上げ、その監督自身も図に乗って「売れっ子監督」を名乗り始めて闊歩する時代は大分終わりを告げつつあるようです。新作アニメ情報を見ても最近は、一人の監督があっちもこっちも顔を出してることが少なくなりましたよね。むしろ、時代は各スタジオ(会社)のお座付き? に近い立場の演出家の、我々より1~2世代若い人たちが監督されてることが多くなった気がします(気のせい?)。特に最近はスタッフ不足により品質管理が非常に厳しく、監督2人制も増えたみたい……。
 これはプロデューサー的にもスタジオ的にも良い傾向だと個人的には思います。前々からここ(この連載)で語っているように、作品が売れる売れないは“スタジオ力”もしくは“チームの力”の賜物であって、監督個人の力では絶対にありません!(こちらは断言! え? まだ勘違いしているプロデューサーさんっていらっしゃるんですか?)

 いいですか?

天才も凡人も1日分の持ち時間は24時間で互角なんですよ!

複数本掛け持ちしてイイ気になって自分だけボロ儲けしている自称天才監督様の陰で、リテイクやら指示待ちやらで振り回されて泣いているスタッフは数知れず、だったんです! それを「この監督じゃなきゃ売れないんだから!」とスタジオ側に無理強いしたプロデューサーさんや、特定アニメ監督との癒着で原作を消化するライツ事業部さんらが、10年程前までは多かったように思いますが、今はだいぶ落ち着いた気がします。
 例えば板垣の場合、自ら監督する作品ならコンテは最低半分以上切り(描き)たいし、悪い作画は自ら手を下してでも時間の許す限り修正したいし、音響現場でもできるだけ落ち着いて口を出したいです(現場に来れないなんて論外)。逆にそれくらいやってから初めて監督を名乗るべきでしょう。てとこまでは、何年も前に語ってましたよね? すみません(汗)、話が逸れたので、戻します。

 そんな訳で、50代はもっとやれることを増やそうと考えています。現場の制作体制のさらなる効率化を実現して、その脇で色々自分の勉強やらラクガキやらができる時間を作り、新しい創作に取り組むつもりです。現状の自分に許された枠内での“発信”もしなければ、と。
 発信と言っても、世間に対して身の程知らずに挑む言論活動のことではありません。自分にとって“時間”はお金より大切なので、大して影響力のない舌戦を発信などしている時間ありませんから。まずは集めた人たち(スタッフ)とちゃんと給料を払えるように作品を作ること。これだけは外せません。その責任を全うしつつ、少しだけでも許された時間を大切に使って、短いオリジナルのMVみたいなものを作ろうと思います。内容はなんでもいいか……というより、とにかく現場の人手&力不足を補う原画陣フォローではなく、“自分の作画”仕事をしたいので、「何かメッセージを伝える話」より先に久し振りに純正な作画のをみっちりやりたくて、短いフィルムをまずやりたい! 脚本や物語優先で出来る作品ではなく。

 創作的にもう一息アグレッシブな50代にしたいと思……いや、します!

残りの人生(時間)を丁寧に消化していかなければ、生んでくれた両親に申し訳ないので!

【新文芸坐×アニメスタイル vol. 172】
今こそ観よう、今こそ語ろう『老人Z』

 2024年3月16日(土)に新文芸坐で『老人Z』を上映します。監督が北久保弘之、原作・脚本・メカニックデザインが大友克洋、キャラクター原案が江口寿史。さらにもう一人のメカニックデザインとして磯光雄が、美術設定として今 敏が参加するなど、豪華スタッフによる作品で、老人介護とロボットをモチーフにしたアクションアニメというコンセプトも秀逸。1991年に劇場公開されました。
 上映後に北久保弘之監督によるトークを予定しています。聞き手はアニメスタイル編集長の小黒が務めます。

 チケットは3月9日(土)から発売。チケットの発売方法については、新文芸坐のサイトで確認してください。

【新文芸坐×アニメスタイル vol. 172】
今こそ観よう、今こそ語ろう『老人Z』

開催日

2024年3月16日(土)18時~  

会場

新文芸坐

料金

一般 1900円、各種割引 1500円

トーク出演

北久保弘之(監督)、小黒祐一郎(聞き手)

上映タイトル

『老人Z』(1991/80分/35mm)

備考

※トークショーの撮影・録音は禁止

●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

アニメ様の『タイトル未定』
431 アニメ様日記 2023年8月27日(日)

2023年8月27日(日)
「第208回アニメスタイルイベント 沓名健一の作画語り 2023年夏」を開催。出演は沓名健一さん、ちなさん、そして、僕。関係席のメンバーがやたらと豪華。ちなさんが作ってきてくれた年表がとてもよかった。充実したイベントになったと思う。

2023年8月28日(月)
仕事の合間に、蔵元居酒屋 清龍 南池袋店で一人吞み。自分以外の客は常連らしきお爺さんが一人いるだけだった。昼間の居酒屋で、店長とお爺さんがのんびりと話をしていて、いい雰囲気だった。取材の予習で『うる星やつら いつだってマイ・ダーリン』を観た。取材と関係ないけど、Disney+で『シンデレラ』 4K UHDを少し観た。映像は落ち着いた感じ。いわゆる4Kのイメージではないけれど、これはこれでよいのではないかと。

2023年8月29日(火)
以下はTwitterに書いた話。
…………
先週の話になりますが、Netflixの『範馬刃牙』を最終回まで視聴しました。観る前はどうかな? と思っていた「地上最強の親子喧嘩編」もよかった。小黒としては原作よりもずっと楽しむことができました(連載で読んだ時との比較です)。アニメ『範馬刃牙』では原作の単行本38巻分を全39話で映像化しているはず。つまり、だいたい1話で単行本1冊の内容を消化しているわけです。この圧縮具合が面白さに繋がっているのだと思います。勿論、面白いのは圧縮しているからだけではないですが。第2部「バキ」も原作を圧縮している感じがいいと思いましたが、今回のほうが圧縮率が上がっていますね。第2部「バキ」は原作31巻分を38話かけて映像化しているはずです。
…………
WOWOWでやっていた「最新作公開記念!「映画クレヨンしんちゃん」28作品一挙放送だゾ!」の『嵐を呼ぶ黄金のスパイ大作戦』『嵐を呼ぶ!オラと宇宙のプリンセス』『バカうまっ! B級グルメサバイバル!!』を流し観。『クレヨンしんちゃん』の映画って、劇場で観ると「今回は傑作だ」とか「脚本が甘い」とか、一本の映画としてどうかという目線で観てしまうんだけど、こうやって観ていると『クレヨンしんちゃん』なんだからユルくてもいいじゃん、という気がしてくる。それはそれとして、もっとシッチャカメッチャカな『クレヨンしんちゃん』も観てみたい。

2023年8月30日(水)
この日は高橋久美子さんの取材だった(後日追記。「高橋久美子アニメーションワークス」のための取材だった)。僕にとっては17年前にできなかった取材が、かたちを変えて実現したかたちとなる。当時取材が実現したとしても、この日の取材ほど、輪郭がはっきりした内容にはならなかったはず。取材で使ったのが、珈琲西武 本店の個室。店が移転するので、ここの個室を使うのもこれが最後だ。取材のついでに店の名物らしいカレーかオムライスを食べようかと思っていたのだけれど、時間的にも気持ち的にもそんな余裕はなかった。
取材の前に『桜蘭高校ホスト部』の頃のアニメディアの記事をチェックした。アニメーターを取り上げる連載で高橋久美子さんが取り上げられていたのだ。たった2ページに作品歴から高橋さんの机の上にあるものまで、情報がギッチリ詰まっているのに感心する。編集者(とライターかな?)の作品愛も感じられた。
取材の予習で『CITY HUNTER 2』を視聴した。本放映時にはそれをおかしいとは思わなかったけど、美女達のセリフで「もっこり」という言葉が連発されていて、それだけで可笑しい。
以下は取材と関係ない話。「機動戦士ガンダム サンダーボルト 22 アニメ原画BOOK付き限定版」を購入した。原画集はページ数は少ないけれど、本のサイズも大きいし、セレクトもよかった。

2023年8月31日(木)
グランドシネマサンシャインで『マイ・エレメント』【吹替版】を鑑賞。予告編の印象がいまひとつで、観る気はなかったのだけれど、SNSで好意的な感想をいくつか目にして観ることにした。平日昼間の回で小さなスクリーンではあったけれど、6割~7割は埋まっていた。作品の感想としては「とにかく練ってある」。お話も練っているし、小ネタ(火の能力を使って水漏れしているパイプを溶かして直すとか)の質も量も凄い。物語の大筋についても小ネタにしても、アイデアを沢山出して上手に取捨選択したのだろう。お説教くさくなっても仕方がないモチーフだけれど、お説教くささよりも面白さが勝っている。アニメーションとしてもよかった。映像的な見どころも多い。キャラクターとしては主人公の女の子(エンバー)の蓮っ葉な感じと、素直さが共存しているのがいい。キスシーンがよかった。設定ゆえだけど、ちゃんとドキドキするキスシーンになっていた。水害が起きた理由とか、最後に彼氏(ウェイド)が生き返った理由についてはもうちょっと説明があってもよかったのではないかなあ。
夕方から、ライターの小林治さんと打ち合わせを兼ねて吞む。

2023年9月1日(金)
午前2時半くらいにドイツにいる沓名さんとLINEでやりとり、午前8時過ぎにスイスに向かっている(?)吉松さんからLINEでメッセージが届く。14時にスタジオジブリに。ジブリ作品に関連した仕事をやっているわけではなくて、ジブリとは関係ない仕事で用事があったのだ。世間話も有意義だった。夕方は事務所スタッフと営業を再開した築地食堂源ちゃん 東池袋店で食事。お店のスタッフは全員が入れ替わっていて、10数年いたはずの板前さんもいなくなっていた。それは残念だけど、再開してくれたのはありがたい。
Netflixの実写『ONE PIECE』の視聴を開始。まだ1話の途中だけれど「『ONE PIECE』を観ているぞ」という感じが強い。それが凄い。

2023年9月2日(土)
「第209回アニメスタイルイベント ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』2 【「枕草子」には本当は何が書かれているのか? 裏にあった事態をその文章から読み解く 編】」を開催。制作中のパイロットフィルムの一部というかたちで、本編の映像を観ることができた。今までのイベントで、ずっと作品についての話を聞いてきたわけだけど、映像を観ることができて、ちょっと安心した。

第841回 コンテチェック終了

ハイ、本日最終話のカッティング(編集)終了しました!

 当然、その前にコンテも全話チェック終了しました。今作は前作『いせれべ(異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する)』同様、社内の監督&各話演出にコンテを全部振って、こちらで全面的にチェック・修正・所々描き直しして、総監督・板垣のほうでコンテ決定稿を作っています。社内のコンテ・演出が育つまで頑張るしかありません。
 何年か前にも話題にしたと思いますが、経年数や現状の会社などを鑑みて改めて説明をすると、監督にとって

コンテとは、自分がゼロから切る(描く)コンテと、他人のコンテを修正して使う、の2種類!

があります。
 前者の自前コンテは脚本と設定に従っている限り、比較的好きに描けます(出﨑統監督はコレが楽しいのでしょう)。それに対し後者の場合、つまり他者のコンテを直す場合は、素で7~8割使える上りであれば間違いなく“振った甲斐”があるし、心底有難いモンです! ところがその逆、“7~8割描き直し必須”な素上りを目にした時、監督の目は血走ります! それくらい“他者コンテの使える箇所を探して1本に繋げる”作業は本当に苦痛です。ハッキリ楽しくはありません!

これこそ正直「結局ゼロから描いた方が早かった!」と思わされるコンテも屡々!

 監督にもよると思います。「基本的に他人に振ったからにはそのまま使う!」という監督もいらっしゃいます(ここ近年は減ったかも?)。
 それに対し板垣は他の監督より比較的手を入れて使うほうかも知れない、と最近自覚しました。大体「たくさんコンテ描きたくて監督になった」ような人間ですから、本音を言うとその“楽しいコンテ”を人に任せること自体が嫌なんですよね。ただ、作画・美術・撮影などをより良いモノにしようとすると、他者のコンテを認めざるを得ない、という物理的な問題もあるのです。
 それと、たとえ監督自ら毎週1本ずつコンテを上げ続けることができても、各話演出を制御しきれないというのが実感です。なぜなら、監督自前のコンテを他者(この場合各話演出)に渡す際、その“話の根幹”“各キャラの心情”“各シーンの場面設定”などを一気に説明して理解してもらう必要があるからで、この説明・解説が本当に苦労します。苦労した割に作画や処理の指示・リテイクがおざなりになりがちです(己のコンテじゃないフィルムなんて、当然流し作業になりやすい……)。
 ところが、各話演出に“コンテから振る”と、前後の脚本を読みキャラやシーンの繋ぎも探った上で、その話数に取り掛かってくれる(ハズ。でないとそもそもコンテ切れないから)ので、たとえ監督のほうで“コンテ全修”することになろうとも、その後各話演出に理解を促しやすいです。一旦は、コンテで一とおり演出作業をしていますし、話自体が変わることはそーそーありませんから。
 よって、まだまだ未熟で手が掛かったとしても、できるだけ板垣は“コンテ・演出”で受けてくれるウチの社内の若手にのみコンテを振りたい訳です。

アニメ様の『タイトル未定』
430 アニメ様日記 2023年8月20日(日)

2023年8月20日(日)
オールナイト「【新文芸坐×アニメスタイル vol. 164】真夏の『Sonny Boy』Night」は、午前5時35分に二度目のトークを含めて終了。駅まで夏目監督を見送る。自宅に戻って朝食とシャワー。横にはならないで事務所に。昼間はデスクワークと事務所の片づけ。明るいうちに帰宅。17時前に就寝したはず。

2023年8月21日(月)
この日に見た夢。現実には存在しない行きつけの古本屋に行ったら、リニューアル中で店の半分くらいが空いていた。店内で何故か『超電磁ロボ コン・バトラーV』の原画が売られていた。一目で分かる安彦良和さんの原画だった。一枚一枚がビニール袋に入れてあり、天井からぶら下げられている。コンVの原画が2万7千円くらい。バトルマシンはメカが描かれている部分だけを切り抜いたものが売られていて、そちらはそれぞれが7千円か8千円。ちょっとお高いなあと思っていたら、見たことのない『BIRTH』のムックがあった。近づいて手に取ってみると、それは『BIRTH』のムックではなくて『マッドマシン』の豪華本だった。ページをめくってみると、記事のタイトルの文字がやたらと大きかったり、本文が変わったフォントだったりとデザインが過剰だったけれど、丁寧な作りの本だった。『マッドマシン』の豪華本は3冊組みで2700円。これは買っておこうと思ったところで目が覚めた。
グランドシネマサンシャインで『SAND LAND』【IMAXレーザーGT版】を鑑賞。アニメーションとしてはよく出来ている。映画としても出来は悪くない。だけど、お客さんがあまり入っていない理由もよく分かる。現在の娯楽映画のストライクゾーンの狭さを痛感した。自分もその狭いストライクゾーンで作品を判断してしまうことがよくある。
事情があって『アニメンタリー 決断』を数話観る。

2023年8月22日(火)
朝の散歩は池袋から明治通りを歩いて、明治神宮を経由して原宿駅まで。
上映プログラムのタイトルを考えるために『妄想代理人』本編を観直す。10話でアニメの制作進行である猿田直行の声が吉野裕行さんで「タローじゃん」と思った。逆だ。『妄想代理人』の制作進行の猿田直行を演じた役者さんと『SHIROBAKO』の制作進行のタローを演じた役者さんが同じなのは理由があったけ? と思って「アニメスタイル006」の『SHIROBAKO』特集の堀川憲司プロデューサーのインタビューを読むと、ちゃんとそのことを訊いている。えらいぞ自分。記事によれば、堀川プロデューサーはオーディションテープを聞いて吉野さんを選んで、後から『妄想代理人』でも制作進行を演っていたことに気づいたとある。少なくとも、P.A.WORKS側としては偶然だったようだ。久しぶりに読んだけど、『SHIROBAKO』特集は面白かった。
新文芸坐で「ソフト/クワイエット」(2022・米/92分)を鑑賞。「全編ワンショット」のコピーに惹かれて、どんな内容か、ほとんど知らないで観た。全編ワンショットはかなり上手にやっている。92分の映画で、途中で主人公が寝たり、気絶したりしていないし、それ以外の時間の省略もないので、進んだ時間も92分のはずなんだけど、劇中では6時間以上の時間が流れているはず。ではあるけれど、違和感を感じさせない。それが上手い。その点に関しては同じ趣向の「1917 命をかけた伝令」よりもいい。「全編ワンショット」のために観客は主人公達と時間を共有し、まるでその場に自分が立ち合っているような感覚になる。主人公達は白人至上主義のグループ(公式サイトにあった表現)だ。主人公達がヤバい発言を繰り返し、どんどん危険な方向に突き進んでいく。その行動に自分が巻き込まれている感覚になる。嫌な没入感だ。序盤のグループ結成会がかなりキツくて「うわあ、この連中と一緒にいたくない」と思った。普通にカットを割っていたら、ここまではキツいと思わなかったはず。

2023年8月23日(水)
税理士さんと打ち合わせをしたり、買い物に行ったり。デスクワークを色々と進める予定だったけれど、思ったほどは進まず。
『プロジェクトA子 完結編』北米版Blu-rayを視聴。作品としては、今までも何度か視聴している。この作品のタイトルは『プロジェクトA子 完結編』だと認識しているけど、作品中で表示されるタイトルは「PROJECT A-KO ―FINAL―」だなあ(国内版のソフトでも同様)。北米版Blu-rayの見どころは映像特典に静止画で入っているキャラ設定の「ベランダの親子」だ。親子の母親はあるキャラクターのパロディで、オリジナルのキャラクターの声優がキャスティングされている。キャラ設定を見ると、完成作品だと顔を出していないそのパロディキャラの顔が分かる。「画面では絶対顔を見せない!」という注意書きもあった。『完結編』で見てみたい美術設定があるんだけど、北米版Blu-rayには美術設定の収録はなし。美術設定でなく、絵コンテでも知りたいことは分かるかもしれないけど、絵コンテを見る機会はあるかなあ。

2023年8月24日(木)
事務所スタッフと新刊の企画について話しているうちに、20年前に出した原画集を復刻するのはどうかという話が出て「無理だよ。当時のデータなんて残っていないよ」と言うと「いや、事務所でMOを見たことがありますよ」と返された。残っていても、簡単には見つからないだろうと思っていたら、1週間もかからず「MOが見つかりました」との報せが。もしも、入っているのが入稿データならイラストレーターのデータのはずだから、今のMacでも開けるかもしれない(後日追記。MOにはその原画集の入稿データの一部と、入稿するためにゴミ取りした原画のデータの一部が入っていた。入稿データと原画のデータを合わせても1冊分にはなならなかった。残念)。
午後から「バービー」を観るつもりだったけれど、シアター・イメージフォーラムで『オオカミの家』を観ることにした。これは芸術作品だ。「芸術的」ではなくて「芸術」。映像は刺激的であるけれど、似た映像が続くので途中で少し飽きる。それから、この物語とこのテーマが、この映像と合っているのかについては考えたい。
ようやく『妄想代理人』一挙上映のプログラムタイトルが決まった。

2023年8月25日(金)
試写会で『アリスとテレスのまぼろし工場』を鑑賞。内容についても、アニメーションとしても、いいところが沢山ある。「ああ、ここは平松さんがラフを描いているな」と分かるところもあった。だけど、ひっかかるところもある。劇場公開されたら、改めて観ることにしよう。

2023年8月26日(土)
Netflixの『範馬刃牙』を最終回まで視聴。これはお見事。ピクル編も親子喧嘩編も原作よりもずっと面白くなっている。特にピクル編は冗長だと思ったところが、観やすくなっていた。僕的にはアニメの「刃牙」がここで完結してもいいし、「刃牙道」に進んでもいい。原作第1部「グラップラー刃牙」の再アニメ化もいいんじゃないかなあ。

第275回 熟練の手業 〜機動戦士ガンダムSEED FREEDOM〜

 腹巻猫です。2月11日にミューザ川崎シンフォニーホールで開催されたフィルムスコア・フィルハーモニック・オーケストラのコンサート「GEKIBAN! -Anime Symphonic Journeys-」に足を運びました。日本のさまざまなアニメ音楽をオリジナルスコアで演奏する画期的なコンサート。1960年代の『ジャングル大帝』から2020年代の『すずめの戸締まり』までバラエティに富んだ選曲と演奏を堪能しました。
 中でもオーケストラの豊かな響きに感動したのが、「交響組曲 機動戦士ガンダムSEED」からの1曲「Finale 第十章 闘いの果て届けられた想い」。『SEED』の音楽のすばらしさを改めて実感しました。
 今回は1月26日に公開された「SEEDシリーズ」最新作『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』を取り上げます。


 『機動戦士ガンダムSEED』は2002年〜2003年に放映されたTVアニメ作品。21世紀初のガンダムシリーズとして幅広い世代の人気を集め、2004年〜2005年には続編『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』が放映された。『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』は、その『DESTINY』の2年後を描く、完全新作劇場アニメだ。
 C.E.(コズミック・エラ)75、遺伝子調整がおこなわれた人類(コーディネイター)と従来の人類(ナチュラル)とのあいだの闘争はひとまず終息したが、世界各地ではまだ紛争の火種がくすぶっていた。その事態を鎮めるために世界平和監視機構コンパスが設立され、キラ・ヤマト、シン・アスカらはコンパスの一員として平和維持活動を続けていた。そんな折、新興国家ファウンデーションからの要請を受けて出動したコンパスは、何者かの罠にかかって猛攻撃を受け、敗走。コンパス総裁であるラクス・クラインが拉致されてしまう……。
 『DESTINY』から『FREEDOM』まで、物語の中では2年しか経っていないが、現実の時間では20年が経過している。そのブランクを感じさせないエネルギッシュな映像に感嘆した。戦闘描写も人間ドラマも実に濃厚で『SEED』らしい。それもそのはずで、本作には『SEED』『DESTINY』の主要スタッフ、キャストが集結している。もちろん、音楽を担当した佐橋俊彦も。
 もともと「SEEDシリーズ」は音楽の人気が高かった作品である。佐橋俊彦による劇中音楽を収録したサウンドトラックCDは、『SEED』『DESTINY』ともに4枚が発売され、ほかに両作品の交響組曲「シンフォニーSEED」シリーズ、キャラソンとドラマと佐橋俊彦作曲のインスト曲を収録した「SUIT CD」シリーズなど、多彩な音楽商品が発売されている。また、梶浦由記が手がけたエンディング主題歌や挿入歌も評判を呼んだ。筆者も『SEED』で初めて梶浦由記の名を意識した思い出がある。
 佐橋俊彦は、ウルトラマンシリーズや仮面ライダーシリーズ、スーパー戦隊シリーズなど、日本を代表するヒーロー作品の音楽を手がけた作曲家。が、『機動戦士ガンダムSEED』の音楽は、そうしたヒーロー音楽とはひと味違うアプローチで作られている。繊細な人間ドラマや心情を描写するために不協和音を取り入れたり、モビルスーツのスピード感と重厚さを表現するためにシンセサイザーのリズムにオーケストラを重ねたりと、サウンドが複雑かつ現代的になっているのだ。いっぽうで、佐橋俊彦が得意とする勇壮で胸躍るような楽曲も登場する。ガンダムシリーズらしいシリアスな曲とスーパーロボットアニメを思わせる燃える曲が共存するのがSEEDシリーズの音楽の魅力であり、人気のゆえんだろう。

 『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』でも、20年前のTVシリーズとまったく変わらない熱量のある音楽を聴くことができる。サウンドトラックCDのライナーノーツで佐橋は、「作曲に入ったとたん、この長かったブランクがまるで無かったかのようにTVシリーズ終了時の情熱を取り戻すことができ、このシリーズの持つパワーの凄さを改めて実感した」とコメントしている。
 映画音楽の核として佐橋が設定したのは、新たに登場する宇宙戦艦ミレニアムのテーマ、新たな敵キャラクター・オルフェのテーマ、そして、今回の物語のカギとなるキャラクター・ラクスのテーマである。
 この3つのテーマの変奏が随所にちりばめられる中、『SEED』『DESTINY』で使われた懐かしいメロディも劇中で聴こえてくる。古くからのSEEDファンにはたまらない音楽演出である。そして、激しい戦闘シーンを彩る楽曲のダイナミックでパワフルなこと。劇場で音を浴びるよろこびを感じさせてくれる作品だ。
 本作のサウンドトラック・アルバムは映画公開日と同じ2024年1月26日に「『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』オリジナルサウンドトラック」のタイトルでバンダイナムコミュージックライブから発売された。CD2枚組。収録曲は以下のとおり。

〈DISC1〉

  1. 序章
  2. ミレニアム出動
  3. フリーダム突入
  4. アークエンジェルのクルー達
  5. ラクスの憂い
  6. 心待ちな刻
  7. 逡巡する者たち
  8. 航行するミレニアム
  9. オルフェ
  10. ファウンデーション
  11. 挑発
  12. 優雅なる円舞曲
  13. 魅惑的な対話
  14. 月と光
  15. 作戦始動
  16. 陥穽
  17. 孤立無援
  18. 迫る危機と混乱
  19. 必死の攻防
  20. 援軍

〈DISC2〉

  1. 憂慮
  2. レクイエム
  3. 宣告
  4. 知られざる真実
  5. 打開策
  6. 然ればこそ
  7. 潜入開始
  8. 勇壮なる出航
  9. 強行
  10. 突進
  11. 平行線
  12. 中央突破
  13. 出撃!デスティニー
  14. 総力戦
  15. 熾烈な戦い
  16. 艦隊戦
  17. 自由への祈り
  18. 決意の出撃
  19. 対決の刻
  20. 自由を賭けた決戦

 すべてが佐橋俊彦によるもので、主題歌、挿入歌は収録されていない。劇場版で使用された全曲を使用順に収録している。
 ディスク1の1曲目「序章」は冒頭のプロローグに流れる曲。この曲で早くも「オルフェのテーマ」が提示されている。ラクスを篭絡しようとする謎めいた美青年オルフェのテーマは、哀愁を帯びたクラシカルな旋律で奏でられる。劇場パンフレットに掲載されたインタビューによれば、福田己津央監督から「オルフェの曲はチャイコフスキーのイメージで」というリクエストがあったそうだ。劇中では、ラクスとオルフェの対面の場面の曲「オルフェ」(ディスク1:トラック9)、ラクスとオルフェが語らう場面の優雅なワルツ「魅惑的な対話」(ディスク1:トラック13)、オルフェが真の目的を明らかにする場面のサスペンスタッチの「宣告」(ディスク2:トラック3)などでオルフェのテーマの変奏を聴くことができる。
 トラック2「ミレニアム出動」は、宇宙戦艦ミレニアムの出動場面に流れる「ミレニアムのテーマ」。佐橋俊彦の本領発揮とも言うべき、高揚感たっぷりの楽曲だ。このテーマは、「航行するミレニアム」(ディスク1:トラック8)、「勇壮なる出航」(ディスク2:トラック8)、「中央突破」(同:トラック12)など、ミレニアム活躍シーンでたびたび使用されている。「SEEDシリーズ」では、アークエンジェルやミネルバといった宇宙戦艦にそれぞれテーマ曲が書かれており、「ミレニアムのテーマ」もその流れを汲んで作られたのだろう。
 そのアークエンジェルのテーマ曲(『SEED』で作られた)が劇中で流れるのが、TVシリーズからのファンには胸アツなところである。始まって間もなく流れる「アークエンジェルのクルー達」(ディスク1:トラック4)でアークエンジェルのテーマのゆったりした変奏が聴ける。さらに中盤のクライマックスを飾る「必死の攻防」(ディスク1:トラック19)にもアークエンジェルのテーマが現れ、続く「援軍」(ディスク1:トラック20)ではアークエンジェルとの別れを惜しむように同じテーマが奏でられるのだ。
 『SEED』『DESTINY』から受け継がれた曲はほかにもある。
 特に印象深いのは、弱気になったキラにアスランが喝を入れる場面に流れた「然ればこそ」(ディスク2:トラック6)。『DESTINY』のサントラに収録された「信じればこそ」をリアレンジしたものである。2人の友情を想起させる曲として、最高の効果を挙げている。
 もうひとつ印象に残ったのが、シンがデスティニーガンダムで出撃する場面に流れた「出撃!デスティニー」(ディスク2:トラック13)。『DESTINY』の曲「出撃!インパルス」のリアレンジである。スリリングな導入部から勇壮なメロディに転じるスーパーロボットアニメ的な楽曲で、聴くと「来た来た!」と思わず拳を握りしめてしまう。
 こうした「音楽の引用」による世界観継承の工夫は、ほかにもまだあるはず。『SEED』『DESTINY』のサントラをお持ちの方はぜひ『FREEDOM』のサントラと聴き比べてほしい。
 本作の音楽の核となる3つのテーマの最後のひとつ「ラクスのテーマ」は、「ラクスの憂い」(ディスク1:トラック5)で初登場する。ラクスがキラやファウンデーションのことを心配する場面に流れた曲だ。憂いをたたえたメロディーをピアノ、ストリングス、木管が歌い継いでいく。このメロディの一部は『SEED』で佐橋俊彦が作曲したラクスが歌う曲「静かな夜に」から引用されている。
 ラクスのテーマは、キラとラクスが互いを気遣うシーンに流れる「逡巡する者たち」(ディスク1:トラック7)の後半でも変奏される。しかし、大きくフィーチャーされるのは終盤のラクスの演説シーンに流れる「自由への祈り」(ディスク2:トラック17)とラクス出撃シーンに流れる「決意の出撃」(同:トラック18)である。これらの場面では、音楽の力も手伝って、ラクスが主役に躍り出た印象がある。
 そのあとの音楽演出は興味深い。「対決の刻」(ディスク2:トラック19)では『SEED』の曲「翔べ!フリーダム」の変奏をはじめとする勇壮なメロディが次々と現れてキラの気持ちが表現される。が、最後の曲「自由を賭けた決戦」(同:トラック20)は「オルフェのテーマ」で締めくくられる。なぜ、ラクスのテーマではなく、オルフェのテーマで締めくくられるのだろう?
 筆者はこう考えた。劇場版では「自由を賭けた決戦」のあとにエンディング主題歌「去り際のロマンティクス」が流れ、物語をフィナーレへ導く。キラとラクスのドラマは歌で決着をつけ、オルフェのドラマは劇伴で決着をつけたのではないか。「自由を賭けた決戦」で奏でられる「オルフェのテーマ」の変奏は、オルフェへのレクイエムのように聞こえる。ドラマでは深く描写されなかったオルフェの哀しみを佐橋俊彦の音楽が表現しているのである。

 本作はぜひ、音響設備のよい劇場で鑑賞してほしい。音楽に包まれているだけで心が燃え立つような気分になる。映画館で体験してよかったと思う作品だ。佐橋俊彦の音楽は、旧作のサウンドを継承しつつ、新しいサウンドを盛り込み、音楽的な聴きどころを随所に配して、劇場版を盛り上げる。こういうのを「熟練の手業」と呼ぶのだろう。
 なお、本作のサウンドトラック・アルバムはCD、配信のほか、3月21日にアナログ盤の発売も予定されている。なんと3枚組。いまどきのアナログレコードなのでけっこうな値段だが、佐橋俊彦作品初のアナログ盤(LPレコード)であり、CDにはついてない佐橋俊彦の全曲楽曲解説インタビューブックレットが同梱されるというから見逃せない。

『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』オリジナルサウンドトラック(CD)
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『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』オリジナルサウンドトラック(アナログ盤)
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第840回 才能と平等

才能がある人は、金も地位も名誉も思いのまま! これが罷り通る世の中はもう終わり!

と、昨今世間で起こっている事例を見て、そう思います。
 今も昔も自分の周りの人は知っているし、憶えているでしょうが、板垣はやたら“平等”に拘る人間です。20年以上前、学生時代友人の一人が「僕は才能否定派だ! 才能なんて不平等なモノ、この世にない!(板垣を指し)お前の画力だって、子供の頃から他人より画をたくさん描いて努力してきたからに違いない」と。これ実は、何年か前にもここ(この連載)で取り上げた話題で、学生の頃どう返したか正確には憶えていませんが(おそらく、カドがたたないように流した?)、俺の本音を改めて言うと、

才能というモノは存在します! しかも“かなり不平等”に親ガチャ同様、“才能ガチャ”として!

 先に言っておくと、俺自身のことを才能に満ち溢れている天才なんて思っていません(強調)!! ただ、学生時代の友人が言う“努力”とやらは、それほどしていませんでした。いや最低限、趣味の延長にあるお絵描きくらいはしていましたよ、確かに。しかしそれまで、努力と言えるほど巧くなるために画を描いてこずとも、学生時代の美術の成績は満点だったし、アニメ業界に入ってからも大塚(康生)さんや友永(和秀)師匠、その他先輩方の言うとおりに描いたら何となく芝居・アクション・エフェクトと大概のモノが迷わず描けるアニメーターになりました。パースでもデッサンでも指摘されたら即理解でき、そもそも「描けない……描けない……」と、苦悩して画を描いた記憶がそれほどない。つまり、一流クリエイターの才能は自分にはないけど、運の良いことに“要領良く普通に画を描く”くらいの才能ガチャは当たって生まれてきたのかも知れない——くらいには思うからです。

 そう、全ては運が良かっただけ。とっくの昔に自覚済み。

所詮、人生なんて努力より運の方が優先……でしょう!

どれだけ努力を促し続けても、やっぱりどうしてもできない人っているんですよ! 俺にとっては“運動・スポーツ”がそうでした。脳筋体育教師が自身ができるのをいいことに、俺ができないことを「こんなこともできないのか?」「皆できて当たり前!」と放課後、居残りまでさせて鉄棒にしがみ付かせるとか。これ、昭和あるあるですよね?
 ところが現在、運良く比較的得意分野の仕事に就けている自分はやっぱり幸せ者。その程度の才能ガチャの当たりは引けた——つまり、ただただ俺は運が良かっただけ、と分かっているからこそ、その時々で“思うようにできなくて苦しんでいる人”を目の前にして毎回考えてしまうのです。その人に対して「どこまで期待するべきか?」を。もう十分努力をして神経をすり減らしている者に別の道・手段を一緒に考えてあげる時期ってのもあるはずですから。例えばAIの導入とかって、ぶっちゃけガチャに外れた人たちにとっては、プラスに働くことも今後期待できるハズです。
 海外ではすでにAIで脚本書いたりとか、それに対してまたプラカードを掲げて反対している脚本家らがいるとかも聞いたことがあります。しかし、これからは脚本に限ったことではなく我々アニメーターや演出家、はたまたマンガ家までもAIによって仕事の在り方が変わっていくと思っています。それは、

AIに「助けてもらって能力格差を埋めてくれる」と取るのか、単に「仕事が奪われる」と取るか?

だと思います。おそらく後者は「今の仕事で豪遊できているのが“運”だと認めたくない人」ではないでしょうか? まあ、何しろ、

才能ガチャに当たっただけの強者だけが勝つこの世の中がひっくり返って、もう少し“平等”になりますように!!

 あ、才能・運に恵まれた人たちが全く努力していないとは一言も言ったつもりはありませんが、そう感じられた強者の方がいらっしゃったら、謝罪します。申し訳ありませんでした。

【新文芸坐×アニメスタイル vol. 171】
映画監督 原恵一『かがみの孤城』『オトナ帝国の逆襲』

 2024年2月24日(土)にお届けする新文芸坐とアニメスタイルの共同企画プログラムは「【新文芸坐×アニメスタイル vol. 171】映画監督 原恵一『かがみの孤城』『オトナ帝国の逆襲』」。
 原恵一監督が手がけた劇場アニメーションを、原監督のトーク付きで上映するプログラムの第二弾です。『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』は劇場版『クレヨンしんちゃん』の第9作であり、映画ファンをはじめとする大人の観客にも高く評価された作品。『かがみの孤城』は等身大に近い少年少女を真摯に描いたファンタジーで、多くの観客に支持されました。今回のブログラムは新旧ヒット作の2本立てです。
 トークコーナーの聞き手はアニメスタイル編集長の小黒が務めます。

 「映画監督 原恵一」は全三回の予定です。第三弾も近々に開催します。お楽しみに。

 チケットは2月17日(土)から発売。チケットの発売方法については、新文芸坐のサイトで確認してください。

【新文芸坐×アニメスタイル vol. 171】
映画監督 原恵一『かがみの孤城』『オトナ帝国の逆襲』

開催日

2024年2月24日(土)16時55分~ 

会場

新文芸坐

料金

一般2800円、各種割引 2400円

トーク出演

原恵一(監督)、小黒祐一郎(聞き手)

上映タイトル

『かがみの孤城』(2022/116分)
『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』(2001/89分/35mm)

備考

※トークショーの撮影・録音は禁止

●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

アニメ様の『タイトル未定』
429 アニメ様日記 2023年8月13日(日)

2023年8月13日(日)
コミックマーケット102の2日目。午前中は事務所でデスクワーク。「この人に話を聞きたい」の原稿に着手した。午後から東京ビックサイトに。しばらくアニメスタイルのブースにいてから、CLAPのブースに行って『夏へのトンネル、さよならの出口』の本を購入した。
この日の『ONE PIECE』も作画がよかった。噂話として太平さんがやっているのは聞いていたけど、あんなにしっかりとやっていると思わなかった(後に担当したのは1カットだけだと、ご本人がSNSで発言した。前後のカットは他のアニメーターが大平さんに合わせたのだろうか)。

2023年8月14日(月)
「この人に話を聞きたい」の原稿を進めるつもりだったけど、疲れていてまともに進みそうもなかったので、原稿以外の作業を片づけることにした。
新文芸坐で「JAWS/ジョーズ」(1975・米/124分/PG12)を鑑賞。プログラム「夏休みだよ スピルバーグ・スペシャル」の1本。映画館で観たのはこれが初めてのはず。映画前半で「サメが出るかと思わせて出ない」を何度も繰り返していた気がするんだけど、そうでもなかった。記憶よりもスムーズに物語が進む。映画中盤で主人公達がサメ退治のために海に出る。最初にサメと遭遇したあたりが素晴らしい。演出がいい。スコープサイズを活かした画作りで、観ている自分も海いるかのような臨場感。このあたりだけで映画館で観てよかったと思えた。終盤のサメとの戦いは、公開当時には充分にエキサイティングだったのだろうなと思った。

2023年8月15日(火)
連休明けだけあって、やることが多い。「この人に話を聞きたい」の原稿はあまり進まず。富士そばの『機動警察パトレイバー』コラボそばを食べた。一般販売開始を前に「作画マニアが語るアニメ作画史 2000~2019」を増刷することを決めた。

2023年8月16日(水)
「この人に話を聞きたい」の原稿を進めた。午前中にようやく記事の流れがつかめた。だけど、記事を完成させるために確認することが多い。Netflixの『メック・カデッツ』全10話を流し観。人物の芝居の動きに手描きっぽいところがあっていい。それから『Back Street Girls -ゴクドルズ-』の観ていなかった話数を観た。

2023年8月17日(木)
スターチャンネルでやっていた「愛と哀しみの果て」の吹き替え版を途中から観た。ロバート・レッドフォード(役名はデニス・フィンチ・ハットン)を古川登志夫さんがアテていた。セリフを聞いていると、たまに僕らが知っている古川登志夫さんらしい感じになる。それ以外は低い声の芝居が続く。こういうお芝居もされるんだなあ。勉強になった。1989年の日本テレビ版の「愛と哀しみの果て」はカレン・ブリクセンが池田昌子さんで、ロバート・レッドフォードが野沢那智さん。他に富山敬さんや肝付兼太さんが出ていたらしい。こちらも最近、スターチャンネルで放送したそうだ。録画しておけばよかった。
突然、思い出したけど、1993年に野沢那智さんに取材した時に、野沢さんが「今までの僕の仕事についてまとめた本が出るんだ」とおっしゃっていた。結局、その本は出なかった。読みたかったなあ。

2023年8月18日(金)
昼前後に「この人に話を聞きたい」の本文原稿が終わって、社内チェックに回す。その後、リードや注を書く。WOWOWで「カイジ 人生逆転ゲーム」「カイジ2 人生奪回ゲーム」「カイジ ファイナルゲーム」「カイジ 動物世界」の連続放送をやっていて、それを流し観した。
ワイフのためにマンガ「美味しんぼ」を月に1冊ずつkindleで買い続けてきたのだが、この日、最新の111巻を購入して、全巻が揃った。いやあ、長かった。10年近くかかったはずだ。

2023年8月19日(土)
コピー機(複合機)を新しいものと入れ替えるので、コピー機の周りを片づけた。その過程でどこにいったのかと思っていた未開封のCDや読みかけの小説を見つける。届いたままにしてあったAmazonの箱を次々と開けた。11時頃に昼食のために池袋駅西口に。目当ての洋食屋に行列が出来ていたので、チェーンの居酒屋に入る。この店はホッピーの中(焼酎)で、コーヒー焼酎を選ぶことができるのが面白い。作り置きではないのに頼んだものがあっという間に出てくるのも嬉しいし、店のお姉さんがやたらと元気なのもよかった。考えてみたら、最近は飲食店で店員さんが元気なのをあまり見なくなった。マンションで昼寝をして、夕方に事務所に戻る。オールナイトの予習をしてから新文芸坐に。
オールナイト「【新文芸坐×アニメスタイル vol. 164】真夏の『Sonny Boy』Night」を開催。マニアックな企画なので、あまりお客さんが入らなくても仕方がないと思っていたのだけれど、8割くらいの席が埋まった。お客さんは若い人が多かった。しかも、お洒落な若い女性が多い。いつものアニメスタイルのお客さんとの重複は少ない感じで、濃い目のサブカル系というわけでもないような。トークの最初にアンケートをとったら、このオールナイトで初めて『Sonny Boy』を観る人が4割くらい。Blu-ray BOXを購入した人が3割くらい。『Sonny Boy』を観たことがない人とBlu-ray BOXを購入するくらいのファンを足すと全体の7割になる。『パトレイバー』特集でも『ナデシコ』上映でも初見のお客さんがかなりの量いるのだが、『Sonny Boy』を観たことがなくて、オールナイトに足を運ぶ人がこんなにいるとは思わなかった。
オールナイトのゲストは夏目真悟監督。上映前のトーク(40分ほど)は企画の話、監督としての狙いの話を中心にして、キャストの話もうかがった。客筋がつかめないので、キャストの話はやっておこうと思ったのだ。夏目さんが、渡辺信一郎さんや川尻善昭さんに「もっと売れるものを作れ」とか「マジメにやれ」と言われた話も。だけど、夏目さんはメジャーな作品を作っているつもりだったそうだ。
僕も夏目さんも、関係者席で朝まで観た。『Sonny Boy』のクールさ、捻った感じ、あるいは画作りが予想以上にオールナイト向きだった。昼間のプログラムでやったら、こんなには楽しめなかっただろう。内容については理解しているつもりだったのだけど「分からない!」と思ったところがいくつもあった。ひとつひとつの話も密度が高いので、一晩で2クール以上観た手応え。集中して観ると、各話の作り込みの差がはっきりと分かる。後に『ぼっち・ざ・ろっく!』を監督として手がける斎藤圭一郎さんの絵コンテ・演出回(8話では脚本・絵コンテ・演出を担当)が抜きん出ていた。それから前から思っていたことではあるけれど、11話の作画がいい。
今まで気がつかなかったけれど『Sonny Boy』って、1話から11話までタイトルロゴも出なければサブタイトルも出ないのね。ちなみにオープニングもない。作品タイトルが出るのはエンディング最後のマルシー表記だけ。タイトルロゴもタイトル表記もなく、最終回の12話のエンディングで初めてタイトルロゴが表記される。『うる星やつら2 ★ビューティフル・ドリーマー★』でやった本編最後に作品タイトルが出るのを、TVシリーズで、しかも、全話を使ってやったということだ。
ロングショットで(たまに寄りのカットでも)キャラクターの顔を描かないで、さらに輪郭を色トレスにする手法は劇場で観たほうが違和感がないかも。トークで夏目監督も言っていたけど、劇場で観ると「黒のしまり」がいい。
上映後のトーク(10分ほど)は夏目さんが久しぶりに自作を再見して、その感想をファンの前で言うところが、企画的なポイントだった。トータルでの感想は「やり過ぎですね」というものだった。そこまでは言っていなかったけれど、渡辺さんや川尻さんに苦言を呈されるのも仕方ないということだろう。それから、若いから作れた作品で、これからこういったものを作るかどうかは分からないとのこと。
上映後にTwitterで検索してみると「すてきな夏をありがとうこざいました。」「自分の中ではアニメというよりアート作品に感覚が近いです。」「漂流してました。」「最愛の作品を劇場で、監督と一緒に観られた。これ以上の喜びはない。ありがとう。本当にありがとう。」「一緒に漂流を体験したような濃密さと、上映後の朝日の清々しさが最高でした。サニボを観ると、ゆっくりでいいから未来を見つめて生きていこうなんて前向きな気持ちになりますね。」「夏に一晩でサニーボーイ全部見る行為自体、終わってみれば夢っぽくてサニーボーイ感があるのが良いよね」等々、素敵なツイートがいくつもあった。

第219回アニメスタイルイベント
ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』5【あらためて、清少納言の前半生大検証 編】

 片渕須直監督が制作中の次回作のタイトルは『つるばみ色のなぎ子たち』。平安時代を舞台にした作品のようです。

 『つるばみ色のなぎ子たち』の制作にあたって、片渕監督はスタッフと共に平安時代の生活などの調査研究を進めています。アニメスタイルは「ここまで調べた片渕須直監督次回作」のタイトルでイベントを開催し、現在は「ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』」のタイトルでイベントを続けています。

 2024年3月2日(土)に開催する「ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』5」のサブタイトルは【あらためて、清少納言の前半生大検証 編】。今までのイベントでも清少納言の生涯について、度々触れてきましたが、今回はその総まとめになると思われます。

 会場は阿佐ヶ谷ロフトA。今回のイベントも「メインパート」の後に、ごく短い「アフタートーク」をやるという構成になります。配信もありますが、配信するのはメインパートのみです。アフタートークは会場にいらしたお客様のみが見ることができます。

 配信はリアルタイムでLOFT CHANNELでツイキャス配信を行い、ツイキャスのアーカイブ配信の後、アニメスタイルチャンネルで配信します。なお、ツイキャス配信には「投げ銭」と呼ばれるシステムがあります。「投げ銭」による収益は出演者、アニメスタイル編集部にも配分されます。アニメスタイルチャンネルの配信はチャンネルの会員の方が視聴できます。また、今までの「ここまで調べた~」イベントもアニメスタイルチャンネルで視聴できます。

 チケットは2月17日(土)昼12時から発売となります。チケットについては、以下のロフトグループのページをご覧になってください。

■関連リンク
LOFT  https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/257833
LivePocket(会場)  https://t.livepocket.jp/e/qu54v
ツイキャス(配信)  https://twitcasting.tv/asagayalofta/shopcart/291637

アニメスタイルチャンネル  https://ch.nicovideo.jp/animestyle

 なお、会場では「この世界の片隅に 絵コンテ[最長版]」上巻、下巻を片渕監督のサイン入りで販売する予定です。「この世界の片隅に 絵コンテ[最長版]」についてはこちらの記事をどうぞ→ https://x.gd/57ICr

第219回アニメスタイルイベント
ここまで調べた『つるばみ色のなぎ子たち』5【あらためて、清少納言の前半生大検証 編】

開催日

2024年3月2日(土)
開場12時30分/開演13時 終演15時~16時頃予定

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

片渕須直、前野秀俊、小黒祐一郎

チケット

会場での観覧+ツイキャス配信/前売 1,500円、当日 1,800円(税込・飲食代別)
ツイキャス配信チケット/1,300円

■アニメスタイルのトークイベントについて
 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものです。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていませんし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれません。その点は、あらかじめお断りしておきます。

第839回 面接と採用と『沖ツラ』

2月。毎年この時期、ウチの会社ではまだまだ採用のための面接やってます!

 そして相変わらず、未だに実技試験はやっていません。ポートフォリオと面接のみ。ミルパンセの新入社員採用までの手順は至って簡単。

• ポートフォリオを送る。→作品と履歴書を見てOKなら面接、NGなら不採用通知を送る。
• 板垣が面接。→後ほど合否の通知を送る(電話かメール)。

これだけです。
 繰り返しますが実技試験は一度もやったことがありません。なぜなら動画の中割りや原画のトレスのような露骨に“即戦力求む!”的試験で合否を決めるとなると、アニメ専門学校卒が圧倒的に有利で高・大卒は不利だし、そもそも入社してからプロの作画を指導するのが当たり前だと板垣は考えているからです。少なくとも自分を育ててくれたテレコム(・アニメーションフィルム)はそうでしたから。そして、ただの“絵心の有無”を見極めるだけならポートフォリオで十分かと。
 あと、ちゃんとした試験課題を作って「合格!」と太鼓判を押したとて辞める人は辞めていくもので、残留率には何にも寄与しません。それは今まで自分が渡り歩いた幾つかの会社(スタジオ)における新人採用試験と結果を見てきて知っていますから。それこそ「○○○に入れれば一生幸せ!」とか「スタジオ●●●に入社できて辞めていく人の気持ちが分からない!?」くらいのことを言ってた新人が1~2年で「原画になったのでフリーになりました~」と簡単に退社——何人いたことか……。
 で、じゃあ「ポートフォリオで何(どこ)を見るか?」を、あくまで俺基準で言うと、まず申し訳ないのですが「模写」は何枚描いてあっても、採点対象にはなりません。むしろ自前の画(皆さんが“オリジナル”と表記してくる画)との“落差”を計る基準になるかと思います。そして、その自前の画が、

楽しそうに描かれているか? そして、描くのを面倒臭がっていないか?

を、見ていると思います。もちろん、巧い・下手も重要ですが、個人的な実感としては、パース・デッサンは理解してても画を描くこと自体が苦痛・面倒臭いという方は、少なくとも作画(手描き)のアニメーターには不向きかと。昔、大塚(康生)さんに教わっていた頃、宮﨑駿監督についてこう仰ったのを覚えています。

僕が宮﨑(の画)を初めて見た時、「あ、僕よりたくさん画を描いてる!」と思った!

と。巧い・下手ではなく、自分より10歳若いのに“自分以上の量、画をすでに描いてきている”ことのほうを重視していたのです。実際、メイキング映像などで宮﨑監督が喋りながら、その瞬間脳内に思い浮かぶモノを、恐ろしいほどの速さで画にしていく様が観られますよね? 「あ、大塚さんが言ってたのはコレか!」と。アニメーターにとって「画を描く」とは「語る」こと! つまり、「語る」のが面倒な人はアニメーターにはなれない思う訳です(あくまで私見)。
 で、さらに面接はと言うと、履歴書とポートフォリオを再度見直しつつ、質疑応答。それと、ウチ(ミルパンセ)の就業規則。その後、アニメ業界に関する疑問・質問(時事ネタも含む)などに、自分の知る限りお答えするくらい?
 それに対し、控えめに会社概要を確認するだけでお帰りになる人もいらっしゃれば、ざっくばらんに“歓談”のようになる人、中には「企画書見てください!」と本題と関係ないことを持ち込んで来られる方も10年間で1~2人。

 こんな感じで、今年も新入社員がやって来ます!

 お、そろそろ時間なので締めは『沖ツラ』!

『沖縄で好きになった子が方言すぎてツラすぎる』、ティザーPVが公開されました!

是非、観てください。追って続報をお待ちください!
鬼頭明里さんもファイルーズあいさんも、前作『いせれべ』から引き続き。お二人共、沖縄方言巧い!!

第274回 ふたつのトットちゃん 〜窓ぎわのトットちゃん〜

 腹巻猫です。「音楽物語『窓ぎわのトットちゃん』」をコンサートホールで聴いたことがあります。黒柳徹子さんの語りとオーケストラの生演奏による音楽劇でした。『勇者ライディーン』や『くまの子ジャッキー』などのアニメ音楽で知られる小森昭宏が作曲を担当。メインテーマは「窓ぎわのトットちゃん」と自然に歌えるメロディになっていて、終演後もつい歌ってしまいます。物語の中で子どもたちが歌う「トモエ学園」の歌も印象的でした。
 『窓ぎわのトットちゃん』が劇場アニメになると聞いて、いちばん気になったのは音楽でした。「音楽物語」の音楽は使われるのか? 使われないとしたらどんな音楽になるのか?
 今回はその劇場アニメのお話。


 「窓ぎわのトットちゃん」は黒柳徹子が1981年に発表した自伝的小説。日本でヒットしただけでなく、世界中で翻訳され、発行部数は全世界累計2500万部を超える。大ベストセラーである。
 その小説をもとに作曲された「音楽物語『窓ぎわのトットちゃん』」は1982年に初演され、2022年までに32回も公演されている。こちらも広く親しまれた名作だ。レコードやCDにもなっているので、生で聴いたことがなくても知っている人は多いだろう。
 劇場アニメ『窓ぎわのトットちゃん』は、原作小説の初のアニメ化作品。監督・脚本・八鍬新之介、アニメーション制作・シンエイ動画のスタッフで作られ、2023年12月に公開された。
 映像のない「音楽物語」では自由に想像をふくらませてトットちゃんの物語をイメージしていたので、アニメ化すると知ってちょっと心配した。イメージと大きく違っていたら辛いなと思ったのだ。
 しかし、心配することはなかった。劇場アニメ『窓ぎわのトットちゃん』はすばらしい作品だった。冒頭、トットちゃんの登場シーンで描かれる街の人々の動きから心をつかまれる。スタッフが本気で、丁寧に作品を作っていることが伝わってくる。アニメならではの表現を駆使した、小説や音楽物語とは異なる魅力を持った感動的な作品に仕上がっていた。

 気になる音楽は、劇場アニメ『耳をすませば』『猫の恩返し』、TVアニメ『日常』などの音楽を手がけた野見祐二が担当。
 結論から言えば、アニメ版『窓ぎわのトットちゃん』の音楽は「音楽物語」とは別ものだった。生楽器による音楽という共通点はあるが、「音楽物語」からのメロディの引用などはない。アニメ版『窓ぎわのトットちゃん』にふさわしい独自の音楽になっている。子どもたちが歌う「トモエ学園」の歌(サントラには未収録)は「音楽物語」と同じようだが、これは小森昭宏の創作ではなく、黒柳徹子と子どもたちが実際に歌っていた歌なのだろう。
 本作の舞台は1940年前後から1945年まで。野見祐二は、「その時代にはあり得なかった音楽のスタイルや楽器の音は使わない方針で」音楽を作った、とサントラCDのライナーノーツでコメントしている。現代的なリズムや電子楽器の音は使わないと作曲の枷をはめたわけだ。といっても当時の日本で流行していた音楽の再現というわけでもない。当時あり得たかもしれない音楽としての劇伴なのである。
 八鍬監督は本作についてのインタビューに答えて、ケレン味を削った「引き算」の演出を心がけた、という意味のことを語っている。その考え方は、音楽作りにも反映されている。
 結果、本作の音楽はトットちゃんの世界に自然になじむ、素朴でどこか懐かしい響きのものになった。サウンドトラックだけを聴くと地味に感じるかもしれないが、映像と一体となったときに効果を発揮する。正攻法の映画音楽である。

 本作のサウンドトラック・アルバムは「映画『窓ぎわのトットちゃん』オリジナルサウンドトラック」のタイトルで、2023年12月6日にNBCユニバーサル・エンターテイメントから発売された。収録曲は以下のとおり。

  1. 映画『窓ぎわのトットちゃん』タイトル
  2. トットちゃん興奮する
  3. トットちゃんはどんな子?
  4. トットちゃんのまどろみ
  5. おはよう
  6. ロッキーは良い子
  7. 夢の客車は走る
  8. 「犬」〜「うぐいす」
  9. よくかめよ
  10. お財布探し
  11. お家に帰ろう
  12. 一日の終わりに
  13. 教室がやってきた
  14. 水のフェアリー
  15. 君はともだち
  16. 木の上の世界へ
  17. 魔法の箱ってなに?
  18. こんにちは、ひよこさん
  19. リトミック
  20. こま
  21. コマ変奏曲
  22. 友だちを乗せて走れ
  23. 皇紀2600年奉祝曲オープニング
  24. 皇紀2600年奉祝曲エンディング
  25. トモエ学園の運動会
  26. 日がくれた 独唱
  27. 日がくれた
  28. 日がくれた エンディング
  29. ぼんやりした不安
  30. あの人は何処に?
  31. よくかめよ
  32. 雨にかめば
  33. Deep River
  34. タイスの瞑想曲 ヴァイオリン独奏
  35. 賛美歌474番
  36. 心の窓
  37. トットちゃんの悲しみ
  38. よくかめよ
  39. トットちゃんは良い子
  40. さよならトモエ学園

●ボーナストラック

  1. 竹に雀
  2. 水のフェアリー (Piano solo ver.)
  3. Deep River(Instrumental)
  4. 心の窓(Instrumental)

 あいみょんが歌う主題歌「あのね」は収録されていない。
 曲数が多いのは、1分に満たない短い曲が多いから。フィルムスコアリングで細かく音楽をつけていることがわかる。
 本アルバムで注目してほしいのは、トットちゃんが通うトモエ学園の校長先生・小林宗作が書いた曲が聴けること。小林宗作は実在の人物で、トモエ学園で「リトミック」と呼ばれるユニークな音楽教育を行っていた。サウンドトラックに収録された以下の曲が、小林宗作の作品である。

「犬」〜「うぐいす」(トラック8)
よくかめよ(トラック9、31、38)
リトミック(トラック19)
こま(トラック20)
日がくれた(トラック26、27、28)

 また、「皇紀2600年奉祝曲」(トラック23、24)、「タイスの瞑想曲」(トラック34)、「賛美歌474番」(トラック35)は西洋の既成曲で、それぞれ、リヒャルト・シュトラウス、ジュール・マスネ、レジナルド・ヒーバーの作曲。「Deep River」(トラック33、43)、「竹に雀」(トラック41)も既成曲だが、こちらは作曲者不詳となっている。
 こうした当時の実在の楽曲と、野見祐二が手がけたオリジナル楽曲が自然に共存しているのが、本作の音楽のユニークさであり、魅力である。
 「音楽物語」とアニメ版の音楽は別ものと書いたが、アニメ版音楽の中には「音楽物語」をほうふつさせる楽曲もある。
 作品が始まってまもなく流れる「トットちゃん興奮する」(トラック2)である。アコーディオンやピアノが奏でるメロディが「トットちゃん」と歌っているように聴こえる。「音楽物語」のメインテーマを思わせるのだ。「トットちゃん」という言葉を素直に音楽にするとこういうメロディになると思うので、「音楽物語」を意識したわけではないだろうが、観ていてちょっとうれしかった場面だ。トラック10「お財布探し」にも「トットちゃん」と歌えるフレーズが登場する。
 音楽とともに印象に残るシーンといえば、なんといってもトットちゃんの「空想」のシーンである。
 トラック7「夢の客車は走る」は、トモエ学園の校庭に置かれている古い客車(教室として使われている)の座席にトットちゃんが座って、客車が走り出すのを想像する場面の曲。この場面は「映画『窓ぎわのトットちゃん』イメージシーン」としてYouTubeの東宝MOVIEチャンネルで一部が公開されている。



 トットちゃんが空想をめぐらすと、日常の場面とは絵柄ががらりと変わり、アニメーションならではのファンタジックな映像が展開する。本作の見どころのひとつである。音楽も日常シーンとは異なる躍動感たっぷりの曲調になって、トットちゃんの空想世界を彩る。
 トラック14「水のフェアリー」も同様の空想シーンに流れる音楽。こちらはドビュッシーやラベルの音楽を思わせる幻想的で華麗な曲調だ。
 トラック33「Deep River」はちょっと怖い空想シーンに流れる黒人霊歌。悪夢を思わせる暗い曲調にアレンジされている。
 いずれも本アルバムの聴きどころと言えるだろう。
 トラック16「木の上の世界へ」は、トットちゃんと泰明ちゃんとの友情を描く、本編の中でもとりわけ感動的な場面に流れるクラシカルな曲。この旋律はのちに登場する「心の窓」と共通していて、音楽的伏線になっている。
 本作の音楽の中で、筆者がもっとも深く印象に残ったのが、その「心の窓」(トラック36)という曲だった。野見祐二の作詞・作曲による讃美歌風の合唱曲だ。古くから歌われているような素朴な曲調から、トットちゃんと周囲の人々の切なさ、悲しみ、愛情、祈りなどの想いが伝わってくる。その想いは、トットちゃんの時代にとどまらず、現代のわれわれの心にも響いてくる。本作のもうひとつの主題歌と呼べる楽曲である。

 劇場アニメ『窓ぎわのトットちゃん』は現在も一部の劇場で公開中だ。
 未見の方はぜひ観ていただきたいし、アニメ版が気に入った方は、もうひとつのトットちゃんの音楽「音楽物語『窓ぎわのトットちゃん』」もぜひ聴いていただきたい。2022年の公演がYouTubeの黒柳徹子公式チャンネル「徹子の気まぐれTV」で映像とともに公開されている。音楽物語とアニメ音楽、それぞれの表現の違いを意識して味わうのも面白いだろう。どちらも、後世に残すべき作品である。

窓ぎわのトットちゃん オリジナルサウンドトラック
Amazon

アニメ様の『タイトル未定』
428 アニメ様日記 2023年8月6日(日)

2023年8月6日(日)
吉松さんとワイフと大塚 幸龍軒で吞む。セルフの350円缶アルコール飲料に始まり、ヤカンサワーに。沢山食べて吞む。21日ぶりの飲酒だった。
ずっと書いてきたけれど、いまだに仕上がっていないコラム。ここまでの書き方をやめて、違った感じでまとめることにする。

2023年8月7日(月)
「キン肉マン」の最新話をネットで読む。相変わらず意表を突きまくっていて面白いんだけど、マリキータマンって劇中の時間だと、つい最近に倒されたんじゃなかったっけ。と思って検索したら、やっぱり倒されたのは最近のようで、しかも、串刺しになって死んでいた。
病院Bに行く。この日は採血とCTスキャン。原稿以外の作業多くて、原稿は進まず。今週は通院が二度あるし、外出も多いので、どこかで原稿だけをやる時間を作らないと。
WOWOWの『タッチ 背番号のないエース』を録画で観た。

2023年8月8日(火)
ワイフと一緒に『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 ~とべとべ手巻き寿司~』を鑑賞。平日昼間の割りにお客は入っていて、子連れやカップルよりも、女性単独や女性2人組が多かった。いいところもよくないところもあるけれど、プラスとマイナスを合算するとプラスだった。CGに関してはイケないところもあるけれど、「『クレヨンしんちゃん』が3DCGになった面白さ」はあった。その域に達していた。美術がよい感じで、人物の表情は改善の余地あり。巨大物と比較したロングショットの人物も見どころのひとつ。細部だけど、まつざか先生のシャツとトレパンの着こなしがよかった。
内容に関しては、今までの映画『クレヨンしんちゃん』とは似て非なるものだけれど、こういう『クレヨンしんちゃん』があってもいいとは思った。プロットと脚本については明らかに練れていないと思った。文句をつけようと思えばつけられるけれど、上にも書いたようにプラスとマイナスを合算するとプラスだった。今までの映画『クレヨンしんちゃん』よりも面白いと思った人はいるはず。

WOWOWの『タッチ2 さよならの贈り物』『タッチ3 君が通り過ぎたあとに -DON’T PASS ME BY-』を録画で観た。以下は1、2、3の感想だ。TVシリーズと同時進行で作られた『タッチ』の劇場版であり、3本とも過去にも視聴している。今回の放送は恐らくは最新のビデオマスター。配信も同じマスターかもしれないけど、配信は解像度を落としているようだし、Blu-rayソフトは出ていないはずなのでこの放送は貴重かもしれない。
『タッチ 背番号のないエース』は終盤まではいい感じなのだけれど、達也が死んだ和也の代わりにマウンドに立つ展開はかなり強引だ。90分前後で1本の映画にまとめるにはこれしかないと思うくらいの見事なアイデアだし、インパクトはあるんだけど、この展開に持っていくまでの積み重ねが必要なはず。だけど、前知識無しに映画館で観たら納得するんだろうなあ。
『タッチ2 さよならの贈り物』は3本の中では一番ラブストーリーの色、青春物の色が濃い。『背番号のないエース』は『タッチ2』があるかどうか分からないで作っているけど、『タッチ2』は『タッチ3』があるのが分かって作ってる感じ。南が達也に傘を渡すところで、観たことがないような面白いカット繋ぎがあった。面白いし、成功している。「南が甲子園に連れていって欲しいと言った」ので、達也は頑張っているのだと誤解している人がいるが、それは『タッチ2 さよならの贈り物』のせいかもしれないと思った。
『タッチ3 君が通り過ぎたあとに -DON’T PASS ME BY-』は画面で確認すると、確かにタイトルに「-DON’T PASS ME BY-」の文字がある。柏木の話(と須見工との試合)に絞り込んでいて、それゆえに見応えあり。初見時にはダイジェストのように感じて「TVシリーズのほうが面白い」と思ったはずだけど、TVシリーズと比較しなければ充分以上に面白い。新田との最後の対決は手に汗握った。ただし、試合が終わったところで本編が終わってしまうので、そこは物足りない。柏木のその後と、達也の南への告白はエンディングで、セリフ無しの画だけで表現されている。ちなみに新田の妹の由加の出番は無し。由加絡みの人間関係もなく、そのためにスッキリしているとも言えるはず。
色々と端折ってはいるけれど、90分ほどの映画3本で、劇中時間の3年分を描いて、それをまとめて観ると「3年分のドラマを描いている」と思えるのだから大したものだ。演出的なことで言うと、TVシリーズのほうが色々なことをやっていて、作品として「豊か」であるはず。
以下は余談。当たり前といえば当たり前だけど、『MIX』を観た後だと、西村と原田が若い。逆に言うと『MIX』だと見事に年をとっている。それから、この頃の原田は理性的だし、言っていることがロジカルだ。どうして、ああなった。それから『タッチ』の時に大人だったキャラクターって、『MIX』にはほとんど出ていないんだなあ。映画3本だと、南の見せ場ってあまりないんだけど、それでもやっぱり華がある。それに関しては、後のあだち充作品のヒロインは逆立ちしても敵わないのではないか。
さらに余談は続く。Wikipediaの劇場版『タッチ』3本の記述は「劇場アニメ70年史」が出典元になっているんだけど、「70年史」の劇場版『タッチ』の原稿って誰が書いたんだっけ。ひょっとして自分が書いているかもしれない。

2023年8月9日(水)
その気にならないと原稿の時間がとれないので「ここからの2時間は他のことはやらないで取材原稿のまとめをやる」と決めて、作業を始める。午後は病院Bに。先日の検査の結果を聞いた。年末の入院の後に肺炎になっていたらしい。そして、すでに治っているらしい。
「この人に話を聞きたい」の今千秋さんの回の原稿のためにYouTubeで「りぼんオリジナルアニメ」をチェックする。これは僕が知らなかった世界だ。ネット配信のみの作品で、映像中にスタッフクレジットが無いし、公式サイトも無いようなので、版権元か制作会社に問い合わせないと誰が作ったものなのかも分からない。遂にネット配信のために作られた作品について調べなくてはいけない日がやってきた。同じく「この人」原稿のために『BLEACH』15話、33話、『tactics』7話、17話を観た。インタビューで今石洋之さんの『小さな巨人ミクロマン』の影響を受けているという話が出たのだが、確かに33話は今石さんの影響らしき部分があった。
「磯光雄 ANIMATION WORKS preproduction」と「作画マニアが語るアニメ作画史 2000~2019」の見本が印刷会社から届いた。
暑いかと思ったら、雨、やたらと蒸したり、涼しくなったり。目まぐるしい一日だった。

2023年8月10日(木)
「文藝春秋」2023年9月号の本田雄さんの記事をkindleで読む。『君たちはどう生きるか』で本田さんがしっかり修正を入れたと思われる場面、本田さんが原画を描いたと思われるカットの多くが話題になっていて、その意味で満足。
渋谷TSUTAYAがCD、DVDのレンタルを終了することを知る。店頭でレンタルできる時代が終わりに近づいた。ネットレンタルはいつまで続くのか。
夕方に新文芸坐に。『マジンガーZ対デビルマン』と『マジンガーZ対暗黒大将軍』を観て、余力があったので『機動戦艦ナデシコ The prince of darkness』も観た。
「『マジンガーZ対暗黒大将軍』でグレートマジンガーに乗っていたのは不動明だった」という冗談がある。『マジンガーZ対暗黒大将軍』のグレートマジンガーのパイロットは声が田中亮一さんだし、素顔は見せないし、自分の名前を名乗っていないのだ。前作『マジンガーZ対デビルマン』で「俺でよかったらいつでも手を貸すぜ」と言った不動明がグレートマジンガーに乗って助けにきた、というわけだ。その冗談を念頭に置いて『マジンガーZ対デビルマン』と『マジンガーZ対暗黒大将軍』を連続して観ると、本当に不動明がグレートマジンガーに乗っているように見える。悪霊型戦闘獣ダンテの声が野田圭一さんだというのが、さらに事態を複雑化させている。

2023年8月11日(金)
「この人に話を聞きたい」の原稿を進めるつもりだったのだけど、他の用事が多くてあまり進めることができず。まずい。
僕の勘違いでなければサブスクにある「スーパーロボット魂」系の楽曲が減っている。これは困った。今のうちにCDを買っておいたほうがいいのか。

東映チャンネルの「Gメン’75」の19話、20話を録画で観た。19話「デカ部屋の悪霊」(脚本/高久進、新井光 監督/佐藤肇)では山田刑事(藤木悠)の弟が誘拐される。山田刑事はおそらくは40代で、弟は大学受験を控えていて、まだ少年の面影を残している。それくらい年齢が離れた兄弟もあるだろうけど、親子と言われたほうがしっくりくる。そのあたりには劇中の誰も突っ込まない。弟が誘拐された後、身代金として2000万円が必要になり、黒木警視(丹波哲郎)がその金を用意してくれる。その時のセリフが凄い。「Gメン全員の退職金を担保にしてな、警視庁から融通してもらったんだ。遠慮はいらん」。これは笑った。無茶苦茶すぎる。最後の「遠慮はいらん」も凄い。遠慮するよ。細かい見どころとしては、響圭子刑事(藤田美保子)が、山田刑事の弟をもてなすために、山田刑事のアパートにやってきて、手料理を振る舞ったこと。家庭的なところを見せることもあるのね。作った料理がオムレツ、焼肉、サラダ。料理が上手過ぎず、慣れていないわけでもない感じが絶妙だった。
20話「背番号3長島対Gメン」(脚本/池田雄一 撮影/下村和夫 監督/深作欣二)は「Gメン’75」で4本しかない深作欣二監督回の1本。サブタイトルのインパクトがかなりのものだが、勿論、Gメンと長嶋茂雄が戦うわけではなく、野球にちなんだ事件にGメンが挑む。前半にプロ野球選手の写真が何度か送られてきて、その写真に秘められた暗号をGメンが読み解くという展開があり、その部分が「Gメン’75」には珍しいコメディタッチ。推理の途中で黒木警視が昔の野球選手に関する知識を披露するのも可笑しい。「Gメン’75」ファンのサイトで「『バーディー大作戦』を思い起こさせるような」と書かれていたけれど、確かに「バーディ大作戦」だ。

2023年8月12日(土)
コミックマーケットの1日目であったが、新文芸坐でのトークが入ってしまったため、この日のコミケ会場は事務所スタッフに任せて、僕は不参加となった。新文芸坐のプログラムは「【新文芸坐×アニメスタイル vol. 162】映画館で出逢うアニメの傑作『マジンガーZ対デビルマン』『マジンガーZ対暗黒大将軍』」と「【新文芸坐×アニメスタイル vol. 163】公開25周年!『劇場版 機動戦艦ナデシコ』」の2本立て。順番としては劇場版『マジンガー』2本を上映した後に、羽原信義さんと僕のトーク。次が佐藤竜雄さんと僕のトークで、その後が『機動戦艦ナデシコ The prince of darkness』の上映だった。
いつものように新文芸坐さんに関係者席を用意してもらっていたのだけれど、8月10日(木)の上映で劇場版『マジンガー』2本は前の席で観たほうがいいことが分かったので、自分と羽原さんのために前の席のチケットを購入して、その席で鑑賞した。トークでは自分はアニメ映画史における2作の位置づけ、TVシリーズとの関係などを簡単に説明。TVシリーズでマジンガーが初めて空を飛んだ4日前に、『マジンガーZ対デビルマン』でマジンガーが飛んだと言ったところ、羽原さんから34話の予告で飛ぶことは分かっていたとナイスな突っ込み。羽原さんには主に技術的な部分を語っていただいた。『マジンガーZ対デビルマン』『マジンガーZ対暗黒大将軍』を初めて観たお客さんが半分近く。予定していた前説をやらなくてよかった。トークの間、ずっと頷き続けているベテランファンらしき女性がいて印象に残った。
『機動戦艦ナデシコ The prince of darkness』は作品未見の人は1割くらい。こちらのトークは初心に返って、劇場版を作ることになった理由、大月俊倫さんからどんなオーダーがあったのか、佐藤竜雄監督とXEBECスタッフのモチベーション等について。そして、アキトに過酷な運命を与えた理由について。当時のパンフレットやムックで話してもらえなかったことについて話してもらえた。それから「ルリが初登場時に『こんにちは』と言うのは観客に挨拶しているということでよいのか」「ルリがハーリー君と一緒に寝たのはどういうつもりだったのか。その描写の意味は」といった意外と訊いていなかった(はずの)ことについて。トークの後、佐藤竜雄監督と羽原さんと軽く呑んだ。

第838回 50代の抱負

さて、1月28日で50歳になりました!
水島精二監督、そしてテレコム・アニメーションフィルム時代の先輩・西見祥示郎監督、同日誕生日でおめでとうございます!

 去年入ったミルパンセの新人・Nさんも同じ誕生日、とのことでした。ま、当たり前な話ですが誕生日なんて365しかなく、こじつければ誰でもどこかの有名人と被る訳で、どーってことない話題でしょう。ただ、何か「あの人もこの人も、今日俺と一緒に歳を取るのか~」と想いを馳せてしまうのは自分だけでしょうか?
 特に前述の西見先輩もそうですが、『けいおん!』キャラクターデザインの堀口悠紀子さんや業界大先輩『長靴をはいた猫』の森康二さんらといった超巧い同業者と誕生日が同じだと、何か光栄な感じがするのは、これも自分だけでしょうか? 勿論、御二方とも面識は全くありませんが(汗)。
 そんな感じで50代に突入して、まだまだ監督をやらせていただけるようなので増々頑張っていくには違いないのですが、今までどおりではダメなこともあります。それは、

もっと能動的に仕事を作る!

 まあ単純に言うと「自分のやりたいことを積極的に探す」のです。こちらについては何度も語ってると思いますが、俺は“出﨑統監督憧れ”で業界に入ってきた人間なので、

原作かオリジナルか拘らず、来た仕事は何でもやる!

というスタンスで40代終わりまでやりとおしたつもりで、それ自体には全然不満はなかったのです。それは生前の出﨑監督がインタビューで周りのスタッフに「来た仕事は全部やれ! 仕事を断るなんて10年早い!」的な檄を飛ばしていると仰ってたので、その影響は大きかったと思います。
 で、それは基本これからも変えるつもりはないのですが、50歳を迎えたこれからはそれに加えて「自分はこれがやりたい!」をもっと言っていこうと。

問題はその自分がやりたいモノが観る人にとって面白いかどうか? で(汗)

アニメ様の『タイトル未定』
427 アニメ様日記 2023年7月30日(日)

2023年7月30日(日)
朝の散歩で午前4時半に事務所を出て、渋谷を目指す。宮下公園のラジオ体操に参加できるのでは? と思ったのだけれど、6時半に宮下公園は間に合いそうもなかったので、明治神宮の宝物殿前のラジオ体操に参加。その後、明治神宮を歩いた。朝の6時台から明治神宮のベンチで読書をしている人を二人ほど見かけた。優雅だなあ。
取材の予習で『美少女戦士セーラームーンCrystal』第3部と『劇場版 美少女戦士セーラームーンEternal』を観た。
時間に余裕があったら、午前中に新文芸坐で映画を観るつもりだったけど、無理だった。やっぱり校了前日と取材前日が重なるとハードだ。

2023年7月31日(月)
社内打ち合わせで『ポケットの中の戦争』のタイトル表記は『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』ではなくて『MOBILE SUIT GUNDAM 0080 ポケットの中の戦争』が正しいのではないですか、という話になる。校了直前になってタイトル表記の話か。だったら、僕も気になるところがあるぞ。ちなみに「磯光雄 ANIMATION WORKS preproduction」の話だ。
「この人に話を聞きたい」で今千秋さんの取材。JCスタッフで「この人」の取材をするのは2012年4月号の神戸守さん以来かな。かなり予習したつもりだったけど、各話演出時代の仕事について予習が足りなかったかもしれない。事務所に戻って「作画マニアが語るアニメ作画史 2000~2019」の校正紙をざっと見て、Zoom打ち合わせ。その後も編集作業。
夕方にWOWOWでやっていた実写映画「百花」を流し観。前にも途中から途中まで観たけれど、今回はながら観とはいえ、最初から最後まで観た。雰囲気はいい。主人公の母親で認知症の百合子(原田美枝子)に妙に色気がある。いや、主人公と百合子の関係に色気があるのか。主人公の妻役の長澤まさみさんもよかった。映画的なムードが濃くて、その意味では楽しめた。映画館で観たら楽しめたかなあ。ロードショー時に映画館で観るかどうか悩んで、行きそびれたのだった。
Amazonから届いた『未来少年コナン』のムックに目を通す。

2023年8月1日(火)
グランドシネマサンシャインの11時40分からの回で『おそ松さん 魂のたこ焼きパーティーと伝説のお泊り会』を鑑賞。平日の割りにはお客が入っていた。女性客が多いが、男性客もチラホラ。つまらなくはないけれけど、話を詰めきれていない感じだと思った。SNSで感想をいくつか読んだけど、評判は悪くない。これもSNSで得た情報だけど、劇場限定版Blu-rayに付いた絵コンテを読むと、トト子がたこ焼きパーティーに参加し、奇行に走った理由が分かるらしい(すいません。あくまで「らしい」です)。
「ザ・フラッシュ」をU-NEXTのレンタルで視聴。現状でのレンタルは1980円もするので、映画館で観るのとほぼ同額。ポイントを使っているので懐は痛まないけれど。レンタルしたのはサッシャ・カジェのスーパーガールをもう一度観たかったのと、吹き替えがどうなってるのかが気になっていたため。結論だけ書くと、橋本愛さんのスーパーガールはかなりよかった。キャラクターの魅力を維持している。橋本愛さんのイメージとキャラクターのイメージも近い。バットマンは山寺宏一さん。劇中に出てきた全てのバットマンを山寺さんが吹き替えているわけではなく、時間を遡った世界での老バットマンを山寺さんが演じている。これは面白かった。字幕で観た印象とかなり違っている。字幕だと老バットマンはポンコツなイメージなのだけど、吹き替えだと言動がスマートで、頭も冴えている感じに。

2023年8月2日(水)
仕事の合間に、ワイフと新文芸坐で「若き仕立屋の恋 Long version」(2004・香港/56分/DCP/PG12)と「花様年華」【4K上映】(2000・香港/98分/DCP)を鑑賞。「花様年華」【4K上映】は去年の11月にも観ているが、ワイフの付き合いで再見。「若き仕立屋の恋 Long version」は初見。短いけれど、内容を絞り込んでいるため物足りなさはない。予想以上にエロティック。演出が強い作品で、その意味で映画充できた。ラスト寸前に主人公の背中を見せるカットがあって「次は正面から撮って主人公の表情を見せるカットだな」と予想できたのだけど、正面のカットの表情が思っていたのと違ったのでちょっと驚く。本編最後に「完」の文字が出るタイミングもいい。キレキレ。
「花様年華」については前に観た時のほうが楽しめたかな。前回の鑑賞ではラストの展開がよく分からず、あとでWikipediaで確認したのだけれど、今回も同じことをやった。お話としてはそんなに楽しめないのだけれど「映画を観たぞ」という気になる。ワイフの目当てはヒロインのチャイナ服で、劇中で着るチャイナ服が何着あるかを数えながら観たそうだ。たしか、22着だったかな。自分も衣装に注目して観たのだけれど、ひとつのカットで「チャイナ服の柄とカーテンの柄と画面奥のソファーの柄と持っているカップの柄を全部花柄にする」なんてことをやっているのね。他にもこだわりは多そうだ。
Netflixで『範馬刃牙』の「外伝ピクル+野人戦争編」を全話観る。気になって、kindleで原作を確認しながら観た。この辺りの原作は連載で読んでいるのだけれど、それでも驚くくらいに面白かった。原作とやっていることは同じなのに、より面白くなっている。これは作りが上手い。感心した。
「作画マニアが語るアニメ作画史 2000~2019」の編集作業が終了。

2023年8月3日(木)
深夜の散歩はワイフと。午前3時過ぎにマンションを出て要町方面に。水天宮の公園で、母猫と子猫3匹の親子に出逢う。子猫はまだ小さくて可愛い。要町まで歩いて、次は谷端川南緑道を歩く。緑道の近くでやたらと人なつっこい猫に会う。お腹が空いているのか、ニューニャーと鳴きながら近づいてきた。可愛い首輪をつけていたから飼い猫だろう。
時間があったら、新文芸坐で「にせ刑事」(1967/92分/35mm)を観るつもりだったのだけど、やることが多いのであきらめた。ちょっと残念だったので、Amazon prime videoでKADOKAWA channel対象作品チャンネルに再入会して「にせ刑事」を観た。本筋とはあまり関係ないんだけど、劇中で子どもが描いた絵が大魔神。途中で映画館で観た映画も大魔神(3本ある「大魔神」のどれかは確認していない)。
「Gメン’75」の17話と18話を流し観。17話「死刑実験室」は脚本/高久進、演出/小西通雄。時効目前の強盗殺人事件の容疑者(谷村昌彦)を、草野刑事(倉田保昭)が追い詰める。昔のドラマだから気にしないでネタバレを書くけど、容疑者を外界から切り離し、少しずつ時計を速めて、時効の前日に時効になったと思わせる。容疑者が凶器の隠し場所を明かしたところで、彼を逮捕。トンデモ話になると思うけど、盛り上がるし面白い。子どもの頃、自分は「Gメン’75」のこういう話が好きだったんだろうなあ。最初に「刑事訴訟法 第二百五十条」の文面を黒地に白抜き文字を見せるのもインパクトがあっていい。18話「警察の中のギャング」は脚本/高久進、撮影/林七郎、演出/鷹森立一。こちらは街の撮り方がよかった。
WOWOWで放送していた「シコふんじゃった。」を流し観。間違いなく過去に観ているんだけど、随分と忘れているなあ。

2023年8月4日(金)
朝の散歩ではサブスクで配信が始まったばかりの「電子戦隊デンジマン MUSIC COLLECTION」を聴いた。その次に聴いたのが「スーパー戦隊 主題歌・挿入歌大全集I」。
午前8時25分からの回で『特別編 響け! ユーフォニアム ~アンサンブルコンテスト~』を鑑賞。お話に関しては原作未読なのでノーコメント。ただ、1本の映画としては物足りない。気になっていたのは映像だ。残されたスタッフ達が健闘しているのはよく分かる。ただ、あの事件で失われたものの大きさを改めて噛みしめた。
ユニクロで、この日に発売された『チェンソーマン』の原画Tシャツを購入。デスクワークとZoom打ち合わせを挟んで、再びグランドシネマサンシャインに。14時40分の回で「トランスフォーマー ビースト覚醒」【IMAXレーザーGT3D字幕版】を鑑賞。例によって3DCGのロボットの変形とバトルは見事なもので、それだけでも入場料分は楽しめた。個々のロボットの活躍をもっとヒロイックに描いてくれたら、さらに嬉しかった。物語は緩めだけど、観ていてイライラするほどではない。エピローグ部分は「おお、そうきたのか」という感じ。クロスオーバーよりも、主人公の弟についての決着の付け方がよかった。

2023年8月5日(土)
トークを前にして『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』を配信で視聴。『君たちはどう生きるか』を観た後なので、北條家の庭に鷺が現れたところで「え、やばいじゃん」と思ってしまう。続けて『マイマイ新子と千年の魔法』を観る。午後に「【新文芸坐×アニメスタイル vol. 161】『この世界の片隅に』七度目の夏」を開催。お客さんは『マイマイ新子と千年の魔法』初見の方が6割くらい、『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』は初見の方が3割くらい。このプログラムと同日同時間に同じ池袋で「丸山正雄のお蔵出し」が開催されていた。行けるものなら行きたかった。
以下はこの日のトークの内容から。片渕さんは『マイマイ新子と千年の魔法』の後、続編を考えていた。続編のタイトルは『マイマイ新子と二つの塔』か『マイマイ新子と青ひげ』(『マイマイ新子と押し入れの中の青ひげ』かもしれない)。続編は構想レベルの話であり、企画まではいっていない。新子のその後を描くなら、なぎこ(清少納言)のその後も描く必要があると考えて、海外の映画祭(アヌシーだったかな)に行く際に「枕草子」と関連書籍を大量に持って行き、それを読破したことで、なぎこのその後だけで映画を作ることができると確信。それが『この世界の片隅に』を挟んで『つるばみ色のなぎ子たち』に結実する。