136 アニメ様日記 2017年12月31日(日)~

2017年12月31日(日)
3日間のコミックマーケットが終了。今年も1年を振り返る余裕がないまま、年が暮れる。
 Kindleで森見登美彦さんの小説「ペンギン・ハイウェイ」を読了。登場人物と作品世界が素敵だった。どこかがそっくりというわけではないのだけど、読んでいて『電脳コイル』を思い出した。  

2018年1月1日(月)
新文芸坐で実写映画「駅馬車」を観る。1939年公開のアメリカの映画である。僕にとって「タイトルは知っているけれど、きちんと観たことのない映画」のひとつだった。99分の中にみっちりと内容が詰め込まれており、見どころがいくつもある。名画と呼ばれるのが納得できる仕上がりだ。駅馬車に乗り込んだ人達の人間模様が中心で、アパッチ族とのアクションは時間としては短いのだが、迫力満点で見応えがあった。よく撮ったものだと驚くカットがいくつもあった。駅馬車が目的地についてから、もう一山あって、そちらが本当のクライマックス。観客をハラハラさせる、あるいは驚かせる演出で、どこかで見たようなものがあったのだけれど、当時は斬新なものであったに違いないし、この映画がルーツなのかもしれない。登場人物としては飲んだくれ医者のブーンと、賭博師のハットフィールドがよかった。  

2018年1月2日(火)
新文芸坐で実写映画「荒野のガンマン」を観る。1961年のアメリカの映画。これも「タイトルは知っているけれど、きちんと観たことのない映画」のひとつ。ああ、なるほど、こういう内容だったのか。
 Kindleで喜国雅彦さん、国樹由香さんの「本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド」を読了。いくつかのパートで構成されている書籍で、その中の「H-1グランプリ」が楽しかった。本格ミステリについて研究している博士と女子高生のかけあいのかたちで、推理小説について熱く語りあうというもの。読み物としても面白かったし、濃い人の濃い世界に触れられたのもよかった。  

2018年1月3日(水)
新文芸坐で実写映画「戦争のはらわた」を観る。1977年のアメリカの映画。これも「タイトルは知っているけれど、きちんと観たことのない映画」だ。当時の観客が感じたであろう衝撃については想像するしかない。公開当時に観ていたら、かなり違った感想を抱いただろう。
 新番組『宇宙よりも遠い場所』を観る(1話の放映は1月2日(火))。監督/いしづかあつこ、シリーズ構成・脚本/花田十輝、キャラクターデザイン・総作画監督/吉松孝博のオリジナル作品だ。予想よりもリアル寄りの作品で、そして、初々しさがある。これからの展開が楽しみだ。  

2018年1月4日(木)
TOHOシネマズ新宿で「スター・ウォーズ 最後のジェダイ」を観る。よい意味で観客の予想を裏切り続ける物語構成に感心。レジスタンスのメンバーが頼りない人物や小物ばかりだったりするのは、次回作で彼らを大活躍させるためだと思ったのだけれど、どうだろうか。  

2018年1月5日(金)
仕事はじめの日。テレビ放映版『君の名は。』の録画を流しつつ、キーボードを叩く。
散々話題になったのだろうと思うけど、『君の名は。』本編からSoftBankのCMへの流れに驚いた。板垣伸さんから電話があり、「『空手バカ一代』のパイロットフィルムの作画は大塚さんですか?」と訊かれる。Blu-ray BOXの映像特典を観て気になったらしい。検索をしたら、過去の「WEBアニメスタイル」に「大塚康生さんが描いた『空手バカ一代』のパイロットフィルムがあるらしい」という情報があったので、それを彼に伝える。濃いネタを振られて悔しいので「『ハッスルパンチ』の宮崎駿さんの仕事」の話で返す。
 Netflixで配信が始まった『DEVILMAN crybaby』を視聴。言うまでもなく、湯浅政明監督の新作である。1話から3話は試写で観ているので、4話から最終回までを一気観する。原作通りではないが、原作の魅力を伝える映像化になっている。なによりも湯浅さんの「どんなものでも描けるんだ、描けば表現できるんだ」という姿勢が素晴らしい。  

2018年1月6日(土)
三連休の1日目。これからの仕事のための資料の読み込み。それとは別に、購入した書籍「政岡憲三『人魚姫の冠』絵コンテ集」に目を通す。日本動画の父・政岡憲三が温めていた企画『人魚姫の冠』の絵コンテ、スケッチを収録した書籍である。驚いたのは主人公である人魚姫が、劇中のかなり場面において裸であるということだ。そして、人魚姫はなまめかしい。収録されたスケッチもヌードが多い。「ええっ、これは?」と思って、巻末の高畑勲さんによる解説を読むと、そこには僕の疑問に対する答えがあった。そして、同じく高畑さんの解説にあるとおり、この書籍は画期的な出版物である。  

第544回 新年と『空手』と『WUG新章』

というわけで、年が明けました!


 ま、今年もこんなんしか描けない板垣です。皆さん、よい年を迎えたでしょうか?

で、新年早々、大好きなBOOK OFFで
『空手バカ一代』Blu-ray BOXを購入!

しました。数年前にも一度購入した『空バカ』。その時はDVD BOX1、2でした。今回買い直した理由はパッケージに書いてあった「特典映像・パイロット映像〜番宣スポット集」に惹かれたから(DVDの時はなかったのです)。で、お目当てのパイロットフィルムを観てみると、あれ? 見覚えある画が。そうだ!

大塚康生作画!

 テレコム・アニメーションフィルム時代の先生、大塚さんのアニメだ! と直感し、即アニメ様(小黒祐一郎編集長)に電話。アニメ様いわく「ああ、『空バカ』のパイロットは大塚さんらしいよ〜」とのこと。で、スミマセン! 『WUG新章』最終話んの話は次回で。

第123回 奇跡の思い出 〜ユンカース・カム・ヒア〜

 腹巻猫です。本年もよろしくお願いします。
 1月27日(土)に筆者も参加している劇伴専門バンドG-Sessionのライブがあります。特集「80年代ビクターアニメソング」「角川映画」他。お時間ありましたら、ぜひご来場ください! 詳しくは下記を。

http://www.soundtrackpub.com/event/2018/01/20180127.html


 今年は戌年。それにちなんで犬の劇場アニメを紹介しよう。
 1995年3月18日に公開された『ユンカース・カム・ヒア』だ。
 TM NETWORKの木根尚登が1990年に発表した同名小説を原作に、佐藤順一監督が映像化した。脚本はTVドラマ「熱中時代」(1978)、「たけしくん、ハイ!」(1985)など実写作品を中心に活躍する布勢博一。キャラクターデザインと作画監督は小松原一男が担当している。
 小学6年生の野沢ひろみの家で飼われている犬ユンカースは、人間の言葉をしゃべる不思議な犬。しかし、それはひろみとユンカースだけの秘密なのだ。仕事が忙しく留守がちのパパとママの間に別れ話が持ち上がる。心を痛めるひろみに、ユンカースは「君が願えば、ぼくは3つだけ奇跡を起こすことができるんだ」と話しかける……。
 どちらかといえば地味なアニメである。アニメ的な誇張を排したキャラクター。サトジュンらしいデフォルメやギャグも控えめだし、大きな事件も起こらない。ひろみの年上の家庭教師への憧れや留守がちな両親への複雑な想いを描きながら、淡々と物語は進む。少女の心情を丹念に描いた誠実な作品だ。唯一ファンタジーの要素であるユンカースも、格別非日常的な存在としては描かれず、ひろみと2人(1人と1匹)きりのときに話すだけ。ユンカースが人間の言葉を話すことの説明は本編にはなく、ひろみの空想ともとれるが、そうではないことを示すエピソードが挿入されている。
 ユンカースのモデルはTM NETWORKの小室哲哉がイギリス滞在時に飼っていたミニチュア・シュナウザー犬だそうだ。木根尚登の原作では主人公は16歳の女子高生。アニメ版のスタッフは人の言葉を話す犬ユンカースと「3つの願い」という部分を生かして、新しい物語を作り出した。
 公開当時は上映館数も少なく、あまり評判にならなかった。しかし、公開した年の毎日映画コンクール・アニメーション映画賞を受賞したことが本作の実力を示している。その後、作品に感動した熱心なファンが地道に上映活動を続け、本作の名は徐々に知られるようになっていった。BS、CSなどの放送を経て、2001年にようやくDVD発売。手軽に観られるようになったが、まだまだ本作の魅力は知られていないように思う。

 本作の音楽は原作者である木根尚登が担当している。小室哲哉、宇都宮隆、木根尚登の3人で結成されたユニットTM NETWORKは1984年にデビューし、1987年にはTVアニメ『CITY HUNTER』のエンディングテーマ「Get Wild」が大ヒット。80年代後半から90年代のJ-POPシーンを代表するユニットとして活躍した。劇場アニメ『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(1988)主題歌「BEYOND THE TIME(メビウスの宇宙を越えて)」もTM NETWORKの楽曲だ。
 90年代に入ってTM NETWORKは「TMN」とリニューアルし活動を続けるが、1994年に活動終了。1999年に活動を再開するまで、3人はソロ活動に転じた。『ユンカース・カム・ヒア』はその時期の作品である。
 TM NETWORKでは作・編曲、キーボーディスト、ギタリストとして活躍した木根尚登は、本作で主題歌「ホントの君 ウソの君」「Winter comes around」とBGMの作曲を手がけている。BGMは木根尚登が書いた主題歌と「ひろみのテーマ」「パパのテーマ」などのいくつかのモティーフのアレンジが中心。CDシングル「ホントの君 ウソの君」のカップリング曲「Bye Bye Bye」のメロディも使用されている。
 本作の音楽を担当したのは、実は木根尚登だけではない。アレンジと補作曲でSYS musicians(サントラ盤の表記)というユニットが参加しているのだ。
 SYSは嶋田陽一、山下恭文、嶋田英二郎を中心としたユニット。杉真理らJ-POPアーティストのレコーディング・サポートやアレンジも担当している。本作では作曲・編曲のほかにミュージシャンとしてBGM録音にも参加し、サウンド作りに重要な役割を果たした。
 『ユンカース・カム・ヒア』の音楽は木根尚登のメロディとSYS musiciansのメロディ+サウンドの共作ともいうべき作品である。
 映像音楽の経験がない作家が作る音楽だったので、佐藤監督は音楽に若干の心配があったそうだ。しかし、仕上がりを聴いてみると杞憂だった。音響監督の斯波重治は「これは上手くいくよ!」と力強く言ったという。
 サウンドトラック・アルバムは1995年4月21日にアポロンから発売された。現在は廃盤だが、DVD同梱CDとして復刻されている。収録曲は以下のとおり。

  1. オルゴール/ホントの君 ウソの君
  2. はじめましてユンカースです。/ホントの君 ウソの君
  3. ひろみ/ひろみのテーマ
  4. 大正ロマン
  5. パパ/パパのテーマ
  6. ウエディング
  7. つまんないテニス
  8. 圭介を尾行/ひろみのテーマ
  9. 尾行、原田千恵
  10. トレンディードラマ
  11. 寂しさ
  12. パパが帰ってきた/パパのテーマ
  13. パパとの食事
  14. 寂しいひろみ/ホントの君 ウソの君
  15. 辛いひろみ
  16. ヤケ食い/ひろみのテーマ
  17. ママとの会話
  18. 洋子の人形劇
  19. 優しい夜/bye bye bye
  20. 静かな雪の朝
  21. ひろみの料理/パパのテーマ
  22. 危機感
  23. よかった、戻ってきた
  24. クリスマスパーティ
  25. 海の思い出/bye bye bye
  26. ホントの君 ウソの君(唄:木根尚登)
  27. 幻/bye bye bye
  28. ひろみの気持ち/ホントの君 ウソの君
  29. ありがとうユンカース、春
  30. Winter comes around(唄:日置明子)
  31. オルゴール/ホントの君 ウソの君

 木根尚登が書いたモティーフのタイトルが「/」のあとに表記されている。同じモティーフの曲がどれかひと目でわかる、親切なタイトルづけである。
 音楽は絵に合わせて書かれている。サントラの構成も基本的に劇中使用順だ。
 しかし例外がある。1曲目と最後の31曲目に置かれた「オルゴール/ホントの君 ウソの君」だけは劇中使用位置とは関係なく配置されている。この曲についてはあとで語ろう。
 トラック2の「はじめましてユンカースです。」は冒頭、ユンカースが登場する場面に流れる曲。町を歩くユンカースの映像をバックに軽快なタッチで主題歌のメロディがたっぷり流れる。導入とともにメインテーマを印象づける巧みな音楽設計である。
 木根尚登が作曲した「ホントの君 ウソの君」のメロディが抜群にいい。これは本作のために作られた曲で、作品と無関係に作られたタイアップ曲にはない親和性がある。本作の場合、木根自身が原作者なのだからなおさらである。このメロディはひろみの寂しさや悲しみなど切実な気持ちを描写する楽曲に使われている。ひろみの心情に寄り添うやさしく切ないメロディが耳に残る。
 トラック3「ひろみ」、トラック8「圭介を尾行」、トラック16「ヤケ食い」などに使われた「ひろみのテーマ」は明るく元気なひろみを描写するメロディ。ひろみがユンカースと一緒に帰宅する場面の「ひろみ」ではクラリネットが旋律を受け持つほんわかしたアレンジで、ひろみが家庭教師の圭介を尾行する場面に流れる「圭介を尾行」は軽快なリズムに乗った躍動感のある曲調で、圭介に失恋したひろみがハンバーガーをやけ食いする場面の「ヤケ食い」ではビッグバンド+エレキギターの編成でユーモラスに奏でられる。ひろみの表情が目に浮かぶようなアレンジが楽しい。
 トラック5「パパ」、トラック12「パパが帰ってきた」、トラック21「ひろみの料理」などに使われた「パパのテーマ」は少し優雅な雰囲気の温かいメロディ。ひろみの目から見たパパのイメージだろう。パパは撮影のために海外を飛び回っている売れっ子CM監督だ。ひろみがパパに宛てた手紙が読み上げられる場面の「パパ」はアコースティックギターが奏でるやさしい曲調。ひろみの気持ちが伝わるアレンジだ。「パパが帰ってきた」では跳ねた3拍子のピアノでひろみの高揚感を表現。ひろみがクリスマスパーティのための料理を1人で作ろうとする場面の「ひろみの料理」ではアコーディオンとマリンバの音をフィーチャーして、南ヨーロッパの香りがするちょっとユーモラスなイメージに仕上げられている。
 ひろみとパパのテーマはあるが、ママのテーマはない。ホテルチェーンに務めるキャリアウーマンで、ひろみのことを気にかけていると言いながら、ひろみの本当の気持ちに気づかないママ。ママとひろみが絡むシーンでは、気持ちのすれ違いに寂しさを感じるひろみの心情に沿った曲が流れている。ひろみがホテルのラウンジでママと会話する場面のトラック17「ママとの会話」は、ラウンジのBGMとして流れるクラシック風の現実音楽だ。ママのテーマがないのは、ひろみとママの心の距離感の表れなのだろう。
 SYS musiciansのアレンジはバンドサウンドとシンセを中心に、短い曲であっても独立したポップスの楽曲風に完成されている。劇中で流れているときは目立たないが、サントラ盤で聴くとしっかり構成されたアレンジと演奏の質の高さに驚かされる。サントラで聴く価値がある音楽だ。
 「はじめましてユンカースです。」や「パパ」「寂しさ」「静かな雪の朝」「幻」などで聴かれる80年代風のふわふわした感じのシンセの音がとても耳にやさしく響く。「時をかける少女」(1983)の松任谷正隆の音楽をちょっと思い出させる。
 「優しい夜」「海の思い出」「幻」にアレンジされた「Bye Bye Bye」は、主題歌「ホントの君 ウソの君」のカップリング曲。本編には歌入りは使用されていないが、これも作品のイメージにつながる曲だ。昨日の君にさよなら、と歌う歌詞に、小さな事件を通して少し大人になるひろみの心の成長が重なる。その曲が、ひろみを気遣うユンカースのやさしさを表現する「優しい夜」、ひろみが両親との大切なひとときを思い出す場面の「海の思い出」「幻」にアレンジされているのはなかなか意味深である。これはユンカースの視点でひろみを見守る歌ではないだろうか。
 主題歌「ホントの君 ウソの君」はクライマックスで流れる。
 ひろみが思わず口にした願いを聞いて、ユンカースが奇跡を起こす場面だ。ひろみの日常がリアルに描かれるぶん、このシーンの驚きとカタルシスは大きい。大橋学が作画を手がけ、キャラクターと背景を描いている。水彩画調の背景が動くダイナミックな映像が「奇跡」を実感させて大きな感動を呼ぶ。本作の一番の見せ場である。この場面はセリフと歌がかぶらないように苦心して何度もやり直した、と斯波重治はふり返っている。
 しかし、本当のクライマックスはそのあとなのである。ユンカースの力で思い出の場所に集まったパパとママに、ひろみが本当の気持ちを告げる場面。ギターとシンセだけのシンプルなアレンジで「ホントの君 ウソの君」のメロディを奏でる「ひろみの気持ち」が流れる。ひろみ役・押谷芽衣の名演とともに忘れがたい名場面だ。思わず感情があふれるママの芝居もいい。このシーンは何度観ても胸が熱くなる。
 エピローグに流れる「ありがとうユンカース、春」はアコースティックギターの音色が心に沁みるやさしい曲。後半はピアノが同じメロディを明るく奏でて締めくくる。
 エンディングテーマは日置明子が歌う「Winter comes around」。TM NETWORKのアルバム「CAROL 〜A DAY IN A GIRL’S LIFE 1991〜」(1988)に収録された同名曲のカバーである。オリジナルは小室哲哉がアレンジしているが、劇場版は「愛・おぼえていますか」(『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』主題歌)や「愛はブーメラン」(『うる星やつら2 ★ビューティフル・ドリーマー★』主題歌)のアレンジを手がけている清水信之によって新しくアレンジされた。原曲より温かい曲調のバラードに仕上がっていて、本編の余韻をゆったり味わわせてくれる。
 そして、アルバムの1曲目とラストに置かれた「オルゴール/ホントの君 ウソの君」だ。劇中でこの曲が流れるのは3回。序盤でひろみが机の上のオルゴールのふたを開くと、パパとママと3人で過した夏の思い出の写真が現れ、このオルゴールの曲が流れ始める。次は家庭教師の圭介と婚約者・洋子の仲違い、両親の不和などにひろみが小さな胸を痛める場面。3回目はひろみが口にした言葉をユンカースがかなえる終盤のクライマックスの始まりの場面。いずれも、ひろみの胸の奥に潜む気持ちがにじみ出す重要な場面に使用されている。
 1曲目と最後に置かれた「オルゴール」は同じ音源。同じ曲を2回収録するというCDとしては異例の構成になっている(アナログレコードの時代には「Reprise」と題して同じ曲をもう一度収録するケースもときどきあった)。
 しかし、アルバムの構成としてはうなずける。本作を観たファンなら、この曲とともに本編を思い出し、ひろみの物語とともに観たときの情景や感動までもがよみがえるはずである。「オルゴール」を頭と最後に配したことで、作品に忠実なサントラ盤であるだけでなく、「思い出のアルバム」として完成しているのだ。この思い切った構成には賛辞を贈りたい。

 『ユンカース・カム・ヒア』のサウンドトラックは、思い出のアルバムとして楽しめる1枚だ。それもやはり、作品の感動あってこそである。主題歌「ホントの君 ウソの君」も劇中の名場面の記憶ともに聴くことで胸にこみあげるものがある。戌年の今年、本作を未見の方はぜひDVDを手に入れて観ていただきたい。あわせて同梱のサントラを聴けば、やさしく、幸せな気分で年が始められるはず。奇跡を起こすのは君なんだ(byユンカース)。

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135 アニメ様日記 2017年12月24日(日)~

2017年12月24日(日)
昨日に続いて、新文芸坐でアメリカの実写映画「マンチェスター・バイ・ザ・シー」を観る。昨日の「ムーンライト」と同じく、ワイフの付き合いで、どんな内容の映画なのかまるで知らないで観た。人付き合いが苦手な男と亡くなった兄の息子の話。これも普段なら自分が積極的に観るタイプの映画ではないが楽しめた。前にもどこかで書いたかもしれないが、最近はその作品についての情報をたっぷり仕入れてから、映画館に行くことが多い。特にロードショーはそうだ。こんなふうに内容をよく知らないで観るほうが素直に作品と向き合えるような気がする。  

2017年12月25日(月)
『宝石の国』『少女終末旅行』を最終回まで観る。『宝石の国』は世界観にも映像にも新しさと魅力があり、世界観と映像のマッチングもよかった。前にも書いたけれど、『少女終末旅行』はかつて僕が思い描いた「こういうアニメがあったらいいな」に近い。その印象はあまりブレなかった。両作とも放映中は原作を読むのを我慢していた。これからチェックしてみる。

2017年12月26日(火)
TOKYO MXの『ペリーヌ物語』再放送は36話「よろこびと不安」。ラストのドラマチックな演出で「斎藤博監督の絵コンテ担当回ではないか」と思ったら正解だった。いや、そのドラマチックな感じが斎藤監督の持ち味である確証はないのだけれど。『クジラの子らは砂上に歌う』を最終回まで観る。予想したよりも最終回らしい最終回だった。

2017年12月27日(水)
年末の打ち合わせ4本立て。11時、12時、13時から事務所で打ち合わせで、15時から西武新宿線方面で打ち合わせ。「磯光雄 ANIMATION WORKS vol.2」と「磯光雄 Flip Book[vol.2]」の見本が印刷会社から届く。「磯光雄 ANIMATION WORKS vol.2」は本が分厚いという以上に迫力のある1冊になった。

2017年12月28日(木)
作業をしながら『キノの旅 -the Beautiful World- the Animated Series』を1話から観る。前にも途中まで観たのだけど、あえて1話から観た。面白かった。話そのものが面白かった。原作は未読だが、エピソードのチョイスがいいのだろう。2018年2月発売号の「設定資料FILE」の構成終わる。午後、サンシャインで開催されている原画展「ガールズ&パンツァー博覧会」に行く。

2017年12月29日(金)
コミックマーケット93の1日目。今回、アニメスタイルが販売するのは「磯光雄 ANIMATION WORKS vol.2」で、先行販売特典が「磯光雄 Flip Book[vol.2]」。午後の休憩時間にMacBook Airのキーボードを叩いて、「アニメ様のメルマガ」のテキストを書く。

2017年12月30日(土)
コミックマーケット93の2日目。休憩時間にKindleで小説を読む。テキスト主体の本なら、Kindle専用端末よりもスマホの方が読みやすいなあ。

134 アニメ様日記 2017年12月17日(日)~

2017年12月17日(日)
シネ・リーブル池袋で『劇場版 はいからさんが通る 前編 -紅緒、花の17歳-』を観る。スピーディな映画だとは聞いていたけれど、予想の倍以上の速さで物語が展開。それでも登場するキャラクターを好きになれる作りになっているとは思った。キャストに関しては紅緒もいいんだけど、男性キャストの華やかさが印象的。作画に関しては、映画後半のシベリアのある場面で「あ、羽山淳一さんがやっている」と思った。

2017年12月18日(月)
『ボールルームへようこそ』最終回を観る。画作りに新鮮な魅力のある作品だった。1話から観直したい。
 今朝のTOKYO MXの『ペリーヌ物語』はペリーヌが自分で靴とシミーズを作る話。ペリーヌが次の日曜に自分でシミーズを作ると言ったのに対して、同僚の女性が「ええ、なんだって?」と聞き返す。それに対してペリーヌが「シミーズ!」と言う。これは視聴者に対して、ヒロインの少女が自分で下着を作るということを強調しているわけである。そして、そのシミーズを作りはじめる場面でペリーヌは上半身ヌードに。本放映で驚いたのはこの場面かなあ。絵コンテは富野さん(クレジットでは「とみの喜幸」表記)。脚本のままなのか、コンテでアレンジしているのか、非常に気になる。

2017年12月19日(火)
来年は「この人に話を聞きたい」が20周年で、それをきっかけにして「インタビューまとめ」をテーマにしたトークイベントをやろうかと思って、話す内容を考えていたのだけど、30分くらいが限界だと分かったので、別のテーマを考えることにした。『ネト充のススメ』を最終話まで観る。心情描写でいいなと思うところのあるシリーズだった。

2017年12月20日(水)
昨夜の「ルパン三世ベストセレクション」は1位を放映。予想通り、1位は『新ルパン』最終回「さらば愛しきルパンよ」だった。アニメーションとしての評価が高いのは分かるけれど、それまでの『新ルパン』を否定したとも解釈できるこのエピソードが1位になるのは皮肉だ。以下が全ランキングの結果である。

24位『旧ルパン』第3話「さらば愛しき魔女」
23位『PARTIII』第44話「ボクたちのパパは泥棒」
22位『新ルパン』第26話「バラとピストル」
21位『新ルパン』第69話「とっつあんの惚れた女(ひと)」
20位『PARTIII』第37話「父っつあん大いに怒る」
19位『PARTIII』第50話「原潜イワノフの抹殺指令」
18位『新ルパン』第137話「華麗なるチームプレー作戦」
17位『旧ルパン』第13話「タイムマシンに気をつけろ!」
16位『PARTIII』第1話「金塊はルパンを呼ぶ」
15位『新ルパン』第32話「ルパンは二度死ぬ」
14位『旧ルパン』第2話「魔術師と呼ばれた男」
13位『新ルパン』第148話「ターゲットは555M」
12位『新ルパン』第7話「ツタンカーメン三千年の呪い」
11位『新ルパン』第98話「父っつあんのいない日」
10位『PARTIII』第24話「友よ深く眠れ」
9位『PARTIII』第5話「五右ェ門無双」
8位『新ルパン』第1話「ルパン三世颯爽登場」
7位『新ルパン』第112話「五右ェ門危機一髪」
6位『新ルパン』第99話「荒野に散ったコンバット・マグナム」
5位『旧ルパン』第1話「ルパンは燃えているか・・・・?!」
4位『旧ルパン』第4話「脱獄のチャンスは一度」
3位『旧ルパン』第5話「十三代五ヱ門登場」
2位『新ルパン』第145話「死の翼アルバトロス」
1位『新ルパン』第155話「さらば愛しきルパンよ」

 ランキング発表の途中までは「『PARTIII』が多いなあ」と思っていたけれど、終わってみれば『旧ルパン』6本、『新ルパン』12本、『PARTIII』6本であり、それぞれのシリーズの総話数を考えると、順当な割合と言えるのではないか。「どうしてこれが入っているのだろう?」というエピソードもあるが、そういうところを含めて面白い企画だった。なお、公式サイト「『ルパン三世 NETWORK」によれば25位から30位までは以下のエピソードだそうだ(順不同)。

『PARTIII』第49話「父っつあんが養子になった日」
『旧ルパン』第9話「殺し屋はブルースを歌う」
『旧ルパン』第11話「7番目の橋が落ちるとき」
『新ルパン』第21話「五右ェ門の復讐」
『新ルパン』第58話「国境は別れの顔」
『新ルパン』第152話「次元と帽子と拳銃と」

2017年12月21日(木)
午前9時15分から新文芸坐でとある映像の試写。吉松さんも同席。
 改めて確認すると、今の「アニメージュ」って表1のロゴも、背表紙も「Animage」で、奥付だけが「アニメージュ」なのね。それで言うと、「Newtype」も奥付は「月刊ニュータイプ」だな。今後、雑誌としてのアニメージュについて表記する場合は「Animage」ではなく、「アニメージュ」にしよう。改めて「アニメスタイル」編集用の用事・用語集を作りはじめる。

2017年12月22日(金)
『ヴィナス戦記』をDVD(海外版)で視聴。続けてAmazonプライムで『たまこラブストーリー』『好きになるその瞬間を。~告白実行委員会~』を観る。午後にササユリカフェで開催中の「後藤隆幸個人展『TAKAYUKI GOTO ART WORKS』」に。今回も貴重な展示物がたっぷり。特にセル画に迫力があった。時間の関係で、ファイルは一部を見ただけだが、『赤い光弾 ジリオン』の活き活きとした画がよかった。
 2018年1月発売号の「設定資料FILE」が校了。

2017年12月23日(土)
ワイフの付き合いで、新文芸坐で上映されていたアメリカの実写映画「ムーンライト」を観る。同劇場のプログラム「シネマ・カーテンコール 2017」の1本だ。どんな内容の映画なのかまるで知らないで観た。普段なら自分が積極的に観るタイプの映画ではなく、それもよかった。撮影が凝っており、映像で感心するところが多かった。

第122回 前へ進め! ~家なき子(その2)~

 腹巻猫です。冬のコミックマーケットにサークル参加します。12月30日(土)(2日目)東ホール D-53b「劇伴倶楽部」です。既刊「THE MUSIC OF IEDON~『伝説巨神イデオン』の音楽世界~」「THE MUSIC OF TRITON~『海のトリトン』の音楽世界~」と新刊「THE MUSIC OF YAMATO 1974~『宇宙戦艦ヤマト』(1974)の音楽世界~」を頒布します。
 新刊は『宇宙戦艦ヤマト』第1作に特化した音楽研究本。内容はパイロットフィルムの音楽解説、主題歌解説、BGM解説、DISCOGRAPHYなど。ヤマト音楽の謎と魅力を探究しました。コミケに参加される方、よろしければお立ち寄りください。
 新刊のより詳しい内容は下記に掲載しています。
http://www.gekiban.soundtrackpub.com/archives/gekiban/gekiban14.html


 今回は前回に続いて「家なき子 総音楽集」の紹介。

 DISC-2&DISC-3はBGMコレクションだ。DISC-1のソングアルバム復刻以上にBGMのCD化を待ち望んでいたファンは多いのではないだろうか。
 LPレコード「家なき子II 音楽集」のライナーノーツで、プロデューサーの山崎敬之がこんなエピソードを紹介している。スタッフでフランスへ1週間のロケハン旅行に行ったときのこと。パリの宿で日本テレビのプロデューサー・吉川斌と話しているうちに音楽の話になった。『家なき子』には静かさと激しさ、雄大さと華麗さをあわせ持つ音楽がふさわしい。ベートーベンの交響曲「田園」のような……と2人で意見が一致した。その場に出崎監督はいなかったが、帰国して出崎監督と渡辺岳夫が音楽打ち合せをしたとき、「ひと言でいえば、どんな感じの音楽になりますかね」とたずねる渡辺岳夫に、出崎統は即座にという感じで答えた。「そうですね、たとえば『田園』みたいな――」。
 『家なき子』のBGMは美しい。小林七郎が手がけた、水彩画のような美しい背景と呼応するような瑞々しく詩情にあふれた音楽だ。しかし、美しいだけでなく、レミとビタリスの苦しい旅路を彩る厳しい曲調の音楽もたくさん作られている。『巨人の星』の音楽を思わせるような、重厚で心をゆさぶる音楽である。この部分は『アルプスの少女ハイジ』をはじめとする渡辺岳夫のほかの名作アニメ音楽にない要素で、『家なき子』の音楽の大きな特徴と魅力になっている。
 オーケストラは、木管、金管、ストリングス、ピアノに渡辺岳夫が好んで使う楽器――アコースティックギター、オルガン、ハープ、ビブラフォン、マンドリン、ダルシマーなどを加えた編成。そして、さりげなくサウンドの要となるエレキベース。
 『家なき子』は劇中に楽器が登場する。レミとビタリスが奏でるハープ、笛、バイオリン、マチヤのバイオリンなど。こうした現実音としての楽器の曲も、さまざまなバリエーションが録音されている。

 『家なき子』のBGMは4回にわたって録音された。総曲数はOK分だけで約140曲。1年間の放送ということを考えても相当な量である。
 あらかじめお詫びしておくと、今回のアルバムは「総音楽集」と謳っているにもかかわらず、収録時間の都合で全曲収録はかなわなかった。本編未使用曲や現実音として録音された曲の一部(レミの楽器練習の音など)を割愛し、約120曲を収録した。LP「音楽集」に収録されていたのが36曲なので、80曲以上が初商品化である。『家なき子』ファンにも満足していただける内容になっているはずだ。
 構成はLP「音楽集」とは一新。基本的に1曲1トラック収録とし、曲順はストーリーに沿ったものとした。DISC-2は前半(1話~26話)のレミとビタリスの旅路をイメージした構成、DISC-3は後半(27話~51話)のレミとマチヤの旅をイメージした構成でまとめた。
 詳しい収録曲は下記を参照。
http://www.soundtrackpub.com/label/cd/STLC033.html

 以下にはブロックタイトルだけを表記した。

  DISC-2
  01 オープニング
  02~04 シャバノン村のレミ少年
  05~07 レミの旅立ち
  08~10 はるかな道
  11~14 レミの初舞台
  15~18 ビタリス一座
  19 ドレミファ、レミ
  20~22 人生の旅
  23~25 思いがけない出来事
  26 ブリッジ・コレクション I
  27~30 白鳥号との出会い
  31~33 しあわせな船旅
  34~36 ふたたびビタリス一座と
  37~40 吹雪の中で
  41~43 ビタリスの愛
  44~47 さらばわが息子よ
  48~49 予告音楽~クロージング
  50~52 ビタリスの歌声

  DISC-3
  01 オープニング
  02~04 悲しみの朝
  05~07 アキャン家の人々
  08~11 兄弟の輪
  12~15 パリの親友マチヤ
  16~19 レミとマチヤ
  20~23 レミ一座旅をゆく
  24 ブリッジ・コレクション II
  25~28 ふるさとへの道
  29~32 バルブラン・ママ
  33~36 英仏海峡の彼方に
  37~39 ドリスコル夫妻
  40~43 ロンドンの仲間
  44~47 ミリガン家の紋章
  48~50 脱出
  51~54 嵐の海を渡って
  55~58 今、めぐり逢いのとき
  59~61 新たな旅立ち
  62 クロージング
  63~64 ボーナス・トラック

 DISC-2の「シャバノン村のレミ少年」は美しい田園風景を描写する音楽3曲で構成。いずれも第1話の冒頭で流れた音楽で、本作の音楽の「静かさ」と「華麗さ」を代表する楽曲になっている。震えるようなストリングス、フルートのやさしい調べ、哀愁ただようマンドリン。『アルプスの少女ハイジ』の自然描写音楽を受け継ぐ曲調である。
 続く「レミの旅立ち」と「はるかな道」のブロックはレミの辛い旅立ちと旅芸人としての苦難に満ちた旅を描く音楽。渡辺岳夫の実写ドラマ音楽に通じるシリアスで繊細な心情を描写する楽曲を集めた。
 「レミの旅立ち」では、第3話でビタリスに連れられて峠を登るレミが「ママの声が聴こえる」と振り返る場面の「愛する人の声(M-22)」とバルブラン・ママが「神様、あの子をお守りください」と祈る場面の「レミの旅立ち(M-21)」が胸に迫る(ともに初商品化)。
 「はるかな道」は『巨人の星』的な曲想を持つ「試練の旅路(M-16)」と「悲しみをこらえて(M-19)」の2曲と挿入歌「おやすみなさい」のアレンジM-21で構成。M-16とM-19は全編を通して使用頻度の高い曲で、険しい山道を登る旅、雪の中、雨の中の旅などの描写のほか、訪れた土地で旅芸人ゆえに理不尽な対応をされるレミたちの悲哀を表現する使い方が多かった。悲しい曲調であっても、人間への温かいまなざし、逆境にくじけない心情がにじみ出ている。いかにも渡辺岳夫らしい楽曲だ。
 「レミの初舞台」では第5話「レミの初舞台」で使われた「希望の一歩(M-28B)」が聴きどころ。マンドリン、オルガンをフィーチャーしたオープニング主題歌アレンジである(初商品化)。
 「ビタリス一座」にはレミとビタリスが演奏する笛とバイオリンの曲を集めた。
 「人生の旅」にはとりわけ感動的な曲想を持つ3曲を収録した。トランペットが朗々と歌い上げる「陽はまた昇る(M-20)」、ビタリスのテーマとも呼ぶべき「心のお師匠さん(M-23)」、力強く希望に満ちた「明日への前進(M-6)」。レミが苦しい旅路の中で人のやさしさに打たれる場面、ビタリスの気高い心に触れて感動する場面などに流れた印象深い曲である。中でも初商品化となるM-23は、マンドリンとピアノと弦を中心とした端正で品のある曲調がしみじみと胸に沁みる名曲だ。  「白鳥号との出会い」には、『家なき子』ファンなら誰もが覚えているレミのハープの演奏と歌を収録。レミのテーマのように使われた、とりわけ印象深い曲である。この曲には歌詞がついていて、劇中でレミがたびたび歌っている。第19話ではレミが「ぼくの夢」と曲名を紹介する場面があった。
 このレミの歌はソングアルバムには収録されていなかった。ファンが長年待ち望んでいた曲だが、今回、マスター音源が見つかって初商品化が実現した。劇中ではフルサイズ流れることはほとんどなかったので、貴重な初収録である。本アルバムの目玉のひとつだ。
 レミがミリガン夫人とアーサーとともに運河を旅するエピソードをイメージした「しあわせな船旅」では、白鳥号のテーマとして「すてきな白鳥号」の1コーラスサイズ・カラオケを収録。フルサイズ・カラオケがDISC-1に収録されているが、劇中でくり返し流れて印象深い曲として、どうしてもここに配置したく、1コーラスに編集したものを収録した。
 「吹雪の中で」以降は、ビタリス一座の仲間たちが次々と倒れていき、ビタリスもまたレミを守って命を落とすという悲劇的な展開に合わせた構成。不安な曲や緊迫感のある曲、激しい衝撃を表す曲などが続く。こうした楽曲もほかの名作アニメ音楽にはあまりない要素である。『家なき子』の音楽の激しい一面を代表する楽曲だ。
 そんな中でも、「ビタリスの愛」に収録した「もう一度、前へ(M-106)」、「気高き心(M-110)」、ビタリスのテーマの変奏「ビタリスの愛(M-24)」の3曲は、苦境にあっても誇りと希望を失わない人間の強さを描いた渡辺岳夫ならでは人間賛歌で胸を打つ。
 第26話「さらば わが息子よ」のラストに流れた荘厳な「ビタリスの死(M-111)」でDISC-2の本編は終わる。
 DISC-2の最後にはボーナス・トラックとしてビタリスの歌声を収録した。
 ビタリスはかつて高名なオペラ歌手だったという設定で、劇中でも歌声が披露される場面がある。その歌声はレコード等の流用ではなく、本作のために録音された音源が使用された。歌っているのはビタリス役の近藤洋介ではない。名前は明らかでないが、本格的な声楽家が呼ばれたようである。劇中で使用されたイタリア民謡「光さす窓辺」「ニーナの死」を収録した。これも本アルバムの目玉のひとつだろう。

 シリアスな曲調が多かったDISC-2に比べると、DISC-3は明るい曲やアクティブな曲が多くなる。レミの旅に加わるマチヤのキャラクターが反映されているためだろう。
 「パリの親友マチヤ」「レミとマチヤ」「レミ一座旅をゆく」の3ブロックはマチヤとレミの出逢いと友情に焦点を当てた構成。中でも「レミ一座旅をゆく」に収録した「風の街道(M-115)」と「陽光を浴びて(M-120)」は後半の旅のテーマとして印象深い曲。太陽の下、風の渡る道をレミとマチヤが軽妙な会話をしながら(『エースをねらえ!』のひろみとマキのように!)旅を続ける場面が目に浮かぶ、さわやかで軽快な曲だ。この2曲も初商品化である。
 レミとバルブラン・ママの感動の再会を描くブロック「バルブラン・ママ」では、『家なき子』BGMの中でもとびきり美しい曲「愛の涙(M-114B)」が聴きどころ。弦とピアノとマンドリン、ダルシマーなどが奏でる優雅で気品に満ちた曲だ。
 トランペットとピアノとオルガンが奏でるオープニング主題歌の感動的なアレンジ「また逢う日まで(M-9)」を挟んで、いよいよ物語はロンドン編へ。
 レミの実の両親を探してレミとマチヤがロンドンを訪れるエピソードでは、新たに追加された第4回録音の楽曲が主に使用された。M-200番台のBGMで、多くの曲が本アルバムで初商品化になった。
 このロンドン編はそれまでの『家なき子』の物語とはちょっと雰囲気が違って、レミの偽の両親ドリスコル夫妻をめぐるサスペンスとアクション中心の展開になっている。そのため、音楽の雰囲気もかなり違う。のちの『機動戦士ガンダム』の音楽を彷彿させるような空間系の曲、ソリーナ(ストリングスの音に特化したシンセサイザー。この時期から渡辺岳夫作品に多用される)をフィーチャーした楽曲、軽快なアップテンポの曲など、色合いの異なる音楽が登場するのが興味深いところだ。
 けれど、『家なき子』らしいヒューマンな曲調の音楽も健在で、ミリガン夫人が母と知ったときのレミのとまどいと感動を表現する「母、その人の名は(M-203)」、英仏海峡を渡る旅を彩った「友情を胸に(M-201)」「試練の海を越えて(M-212B)」、第49話でバルブラン・ママとミリガン夫人が夕陽の中で対話する場面の使用が忘れられない「二人の母(M-225)」などは、使用回数は少ないものの、身もだえするようないい曲である。
 「今、めぐり逢いのとき」はレミとミリガン夫人が再会するクライマックスをイメージしたブロック。穏やかな「ばら色の空(M-209)」と白鳥号のテーマの変奏「白鳥号の思い出(M-123)」に続いて、レミの母への想いを表現する「めぐり逢いのとき(M-205)」。そして第50話のラストシーンを飾った「はじめての言葉(M-204)」という構成。M-204は挿入歌「ぼくとリーズ」のストレートアレンジで、レミとリーズのテーマという印象が強い。実際この場面では、レミのハープに気づき、初めて「レミ」と声を出して駆けだすリーズ~レミとリーズの再会~目を上げればそこにたたずむミリガン夫人、という展開で、声を取り戻したリーズの感動を表わす要素が強い選曲になっている。
 最後のブロック「新たな旅立ち」は最終話をイメージして構成した。ミリガン家に迎えられ、幸せな日々を過ごすレミとマチヤだが、心の中に落ち着かない想いがあった。ある日、2人は冬山に登って「本当の幸せとはなんだろう?」と自分の心に問いかける。本作のテーマに直結する重要な場面である。そのシーンに流れた「本当の幸せ(M-12)」。2人が新たな旅に出る場面の「新しい旅(M-105)」。「それから10年……」と宇野重吉のナレーションが語るエピローグに流れる「前へ進め!(M-206)」。大河ドラマ『家なき子』の掉尾を飾る3曲を並べた。わたくし、自分で構成していながら聴くたびに感動で泣きそうになります。
 DISC-3のボーナス・トラックには、本編未使用の「レミのワルツ」(マスターテープの表記)と題された弦合奏の曲M-59とレミの歌のカラオケを配して、アルバム全体のエピローグとした。

 『家なき子』は個人的に大切な作品である。『宇宙戦艦ヤマト』ブームに沸いた1977年。その喧噪に巻き込まれながら、筆者は毎週『家なき子』を観て、何か大切なものを受け取っていた。「生きること」について考える年頃だった。
 「忘れてしまいたいことや、忘れてはならないことがふるさとにはあります」というのは劇場版『家なき子』のラストでレミが語るモノローグの言葉だ。その言葉のように、人生で忘れてはならないことが『家なき子』にはたくさん詰まっている。今でも、進む道に迷うことがあると『家なき子』の場面を思い出すことがある。「前へ進め!」というビタリスの言葉に勇気をもらうことがある。『家なき子』の音楽がレミの旅から大切なものを受け取った人の心に残り、前へ進む光となりますように。そんな思いをこめてこの音楽集を作りました。愛聴していただければ幸いです。

家なき子 総音楽集
Amazon

第141回アニメスタイルイベント
アニメ様のアニメ語りvol.1

 2018年2月4日(日)のイベントは「アニメ様のアニメ語りvol.1」。主にアニメファンのビギナーに向けて、テーマを絞ってアニメについて色々と語っていくトークイベントの第一弾だ。主な出演者はアニメスタイル編集長の小黒祐一郎(アニメ様)とマンガ家としても活躍しているアニメーターのサムシング吉松(吉松孝博)の2人。
 メインのパートではアニメ『ベルサイユのばら』(1979年放映・TV作品)について語る予定だ。シリーズ中の監督交代と、それにともなう演出や画作りの変更など、話題の多い作品だ。濃いトークに期待してほしい。メイン以外のパートでは別のテーマについて(おそらくはユルい感じで)トークを展開する。

 以下、イベントの内容について追記する。
 追加ゲストとして、データ原口こと原口正宏の出演も決まった。このイベントは4部構成で、メインが第1部の「アニメ様の『ベルサイユのばら』語り」(50分予定)。第2部以降は「アニメ様語り放題!」(30分)、「データ原口コーナー」 (40分)、「アニメ雑誌・ランダム・トーク」(20分)となる予定だ(時間や順番については変更の可能性あり)。「アニメ雑誌・ランダム・トーク」はサムシング吉松が選んだ過去のアニメ雑誌をネタにしてのフリートークだ。データ原口のコーナーは例によってかなりハードな内容になりそうだ。


 今までのイベントと同様に、トークの一部を「アニメスタイルチャンネル」で配信する。会場は阿佐ヶ谷ロフトA。前売り券は2017年12月30日(土)から発売開始。詳しくは以下のリンクを見てもらいたい。また、会場ではアニメスタイルの関連書籍、データ原口関係で「産業レポート2017(年間パーフェクトデータ 2016所収)」の販売も予定している。

■関連リンク
アニメスタイルチャンネル
http://ch.nicovideo.jp/animestyle

阿佐ヶ谷ロフトA
http://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/80160

第141回アニメスタイルイベント
アニメ様のアニメ語りvol.1

開催日

2017年2月4日(日)
開場12時 開演13時 終演16時予定

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

小黒祐一郎、サムシング吉松、原口正宏

チケット

前売1500円 当日1800円(共に飲食別・要1オーダー)

■アニメスタイルのトークイベントについて

 会場となる阿佐ヶ谷ロフトAはトークライブができる居酒屋。入場料(今回は前売1500円、当日1800円)とは別に飲食(最低でもドリンク1杯)をお願いしている。ソフトドリンクもあるので、未成年の方でも大丈夫。 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものだ。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていないし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれない。その点は、あらかじめお断りしておく。

133 アニメ様日記 2017年12月10日(日)~

2017年12月10日(日)
午前0時開場、午前0時30分開演のスケジュールで「第139回アニメスタイルイベント 長濵博史さんと朝まで『THE REFLECTION』!」を開催した。「映像を観ながら話すイベントをやりたい」と長濵さんから提案があって、企画したイベントだ。全話の映像を流すのが、当初のイベントのイメージで、それで深夜の開催となった。長濵さん以外の出演者は、アイガイ役の三上哲さん、キャラクターデザインの馬越嘉彦さん、シリーズディレクターのそ~とめこういちろうさん、動画検査の佐藤可奈子さん。イベントの構成としては各出演者のお話、映像を観ながらのトーク(記憶が正しければ1話~4話)、作品の総括、最終回の映像を観ながらのトークといったかたち。映像を観ながらのトークでは、設定にまつわる裏話が山ほど。作品の総括ではまさしく「ここだけの話」が語られた。小黒個人としては、クリエイターに話したいことがあり、それができる場を用意できたという意味において達成感のあるイベントとなった。 朝、池袋に戻る。夕方から事務所で打ち合わせ。

2017年12月11日(月)
『劇場版ポケットモンスター -2018-』のスタッフが発表となった。監督が矢嶋哲生さん。劇場版第1作から監督を務めてきた湯山邦彦さんはアニメーションスーパーバイザーに。キャラクターデザインが金子志津枝さんで、アニメーション制作はOLMとWIT STUDIO。矢嶋さんはTVシリーズ『ポケットモンスター XY』『同・XY&Z』で監督を務め、大変に見応えのある作品に仕上げていた。今回の劇場版にも期待だ。なお、彼の『ポケットモンスター XY』『同・XY&Z』の凄さを知りたい方は「アニメスタイル010」の特集をどうぞ。

2017年12月12日(火)
『3月のライオン』の第2期を最新話数までまとめて観る。面白いし、よくできている。日常的な世界で、繊細に心情を描くのがシャフトとしては新鮮だし、シャフトがこういった作品を手がけていることを嬉しいと感じる。事務所に「アニメスタイル012」の見本が届く。これで通算20冊目の雑誌「アニメスタイル」だ。

2017年12月13日(水)
「磯光雄 Flip Book[vol.2]」の入稿日。事務所から離れるわけにいかず、細田守監督の最新作発表会に行くことができなかった。デザインのプリントアウトで「磯光雄 Flip Book[vol.2]」のサンプルを計3バージョン作る。念のために書いておくと、サンプルを作ったのは僕ではなくて、事務所のスタッフ。
 DVDBOXで『ハッスルパンチ』の残りの話数を観た。全話を観て、気になったことがあるので記しておく。僕は「この人に話を聞きたい」の第28回で西沢信孝さんに取材をしている。取材をしたのは2000年12月8日だ。その記事の中で西沢さんのデビュー作である『ハッスルパンチ』の4話が話題になった。そのエピソードは森康二さんが作画監督で、原画に宮崎駿さんが入っていた。宮崎さんはポンポンとアイデアを出してきたそうで、西沢さんはそのアイデアを反映させて絵コンテの内容を変えたようだ。記事をまとめる時に『ハッスルパンチ』のそのエピソードをチェックしたかったのだが、当時はソフト化されておらず観ることはかなわなかった。西沢さんも、なかなか観返す機会がないが、もう一回観てみたいと語っていた。DVDBOXを観てみると、確かに4話「走れ!ポンコツカー」の作画監督は森康二さんだが、原画で宮崎さんはクレジットされていない。西沢さんがおっしゃっていた、宮崎さんがアイデアを出したエピソードは16話「あこがれの外国旅行」ではないだろうか。この話も西沢さんの演出で、森康二さんの作監。宮崎さんが原画でクレジットされており、彼がアイデアを出したのではないかと思しき場面がある。

2017年12月14日(木)
バンダイチャンネルの「【期間限定】機動戦士ガンダム サンダーボルト+Twilight AXIS 劇場上映記念パック」で『機動戦士ガンダム Twilight AXIS 赤き残影』を観る。ちょっと確認したいことがあって、Amazonビデオで「バック・トゥ・ザ・フューチャー」を観る。TwitterのPeingというサービスで、質問に答えているうちにその流れで、僕の脚本のファンだという方からメールをもらった。作品は『新ビックリマン』だ。嬉しいなあ。

2017年12月15日(金)
「新海誠展」に行く。イベント全体がきちんとプロデュースされているのがよかった。コンセプトがしっかりしていて、それを貫いている。新海監督の作品についてあまり知らない人が見ても、そのよさがしっかり伝わる構成であり、その意味で画期的によくできた展示会だった。
 個々の展示については、まず館内で上映されている本編映像がいい。場面のセレクトがいいし、さらに4K化しているのかモニターの調整のせいなのか、より映像が鮮やかになっていた印象だった。他によいと思ったのは『秒速5センチメートル』の「背景美術の制作過程」、同じくロケハン写真と美術背景と場面カットの比較、それから『君の名は。』の監督指示(監督修正)だ。

2017年12月16日(土)
「アニメスタイル012」の発売日。近くの書店やアニメショップに行って、販売されていることを確認する。

 脚本家の島田満さんが亡くなったことを知る(ご遺族の方がツイートされたのは12月15日の19時)。僕にとって、島田さんの代表作は『Dr.スランプ アラレちゃん』だ。『アラレちゃん』における島田さんの作品は魅力的だった。その仕事に触れることがなければ、自分が脚本を書く事もなかったかもしれない。作品だけでなく、ご本人も素敵な方だった。心よりご冥福をお祈り致します。

【ARCHIVE】 「この人に話を聞きたい」
第109回 原恵一


●「この人に話を聞きたい」は「アニメージュ」(徳間書店)に連載されているインタビュー企画です。
このページで再録したのは、2008年6月号「この人に話を聞きたい」掲載の第百九回 原恵一のテキストです。




2月に彼の監督作品をまとめて上映したオールナイトがあり、そのトークショーで聞き手を務めた僕は、『河童のクゥと夏休み』について疑問に思っている事をうかがった。疑問だったのは原監督が、あの映画でわざと格好いい演出をしていない事であり、それについての彼の回答は「誠実に作りたかったから」というものだった。そのトークショーでの話は興味深いもので、それを含めた彼のアニメ観を記事として残したいと考えて、原監督に登場していただこうと思った。




PROFILE

原恵一(Hirata Toshio)

 演出家。1959年(昭和34年)7月24日生まれ。群馬県出身。血液型B型。東京デザイナー学院アニメーション科卒業。CM制作会社を経て、シンエイ動画に入社。『ドラえもん』で演出デビューをし、『エスパー魔美』でチーフディレクターを務める。劇場版『クレヨンしんちゃん』シリーズでは、第5作『暗黒タマタマ第追跡』から第10作『嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』まで監督を務めた。最新作は、昨年公開された『河童のクゥと夏休み』。これは彼が20年前からアニメ化したいと思っていた企画だった。『戦国大合戦』『河童』は高く評価され、多くの映画賞を受賞。現在はフリーとなり、次回作の準備中。

取材日/2008年4月16日 | 取材場所/東京・新宿 | 取材・構成/小黒祐一郎





―― この前のオールナイトでの話が興味深い内容だったので(注1)、同じテーマで改めてお聞きしたいと思います。僕は、原さんを格好いい演出をする人だと思っていたんですよ。『ドラえもん』や『エスパー魔美』でも、格好いいカット割りや、カメラアングルをやっていた。映画の『クレヨンしんちゃん』でもそういったところがあった。『河童のクゥと夏休み』もそういう映画かと思ったら違っていた。

 そういう格好いい演出は、ある程度やってきたという気持ちもあったんです。特に『クゥ』に関しては「この作品には、格好いいと思わせるような部分はいらない」と考えていた。なるべく無造作に見えるような演出を心がけた気がします。

―― オールナイトでは「誠実に作ろうと思ったら、ああなった」という言い方をされてましたよ。

 そういう事なんですよ。「必要以上に楽しませる映画にはしないぞ」という気持ちは、持っていたと思うんですよ。リアリティだったり、悲しさとか、切なさみたいなものを、誤摩化さずに観てる人に伝えるには、そういった楽しませる部分を犠牲にする必要がある。それでも観てもらえるものができるような気がしていました。

―― 「楽しませる部分を犠牲にする」というのは、演出の幅の問題ですね。原さんの中に演出の幅があって、今回はその幅の中で、そういった部分で楽しませる方向にはいかなかった。藤子アニメや『しんちゃん』でやった事を否定したわけではないんですね。

 否定したわけじゃないです。ただ、芸風という言い方は変だけど、自分のそういったものが変化してると思うんですよね。カメラアングルに関しても、昔はちょっとケレン味を感じさせるような事をやっていたけど、劇場版『しんちゃん』でも自分の後期のものは、ほとんどカメラワークを使ってないですからね。

―― カメラポジションも普通ですよね。

 そうそう。どんどん普通になってきているでしょうね(笑)。

―― 話をさかのぼって、劇場版『しんちゃん』についてうかがいますね。監督になってからの最初の3本は普通に作っていたんですよね。

 最初はね、多分『しんちゃん』的なものを作ろうと思ってたんですよ。本郷(みつる)さんとやってた時もそうだったんだけど(注2)、普段の『しんちゃん』は日常がベースで、狭い世界の話だけど、劇場版になると、びっくりするぐらい大きな仕掛けがあって、演出も映画的になる。僕はそういうところに楽しさを見出していて、自分が監督をやるようになってからも、同じ流れで「次はどんな映画のパロディをやろうか」なんて考えていた。

―― ネタの方向性は、本郷監督時代と違うけれど、色んな事を盛り込むのは同じだったんですね。

 そうだったと思います。笑いがあったり、アクションがあったり、感動する場面があったり。『しんちゃん』の劇場版は、欲張りな映画にしなければいけないという意識はあったんです。

―― 最初の3本が『暗黒タマタマ大追跡』『ブタのヒヅメ大作戦』『温泉わくわく大決戦』。思い返すと、この3本は同じトーンですね。

 そうですね。どんどん悪ノリをしていった感じです(苦笑)。でも、『暗黒タマタマ』は本当につらかったんですよ。これは別の取材でも喋った事だけど、自分が監督になったら、どんどんアイデアが出てくると思っていた。だけど、自分の中から出てくるものがあまりにも無くてね。それは驚いたし、焦りました。最初に粗筋を書いたんですけど、それを自分でも面白いとは思わなかったしね。手伝うのと監督をやるのは、全然違うんだと思った。僕の後に、水島(努)とムトウ(ユージ)ちゃんが監督をやっているけど、みんな同じ経験をしたと思うんですよ。水島も「自分でやってみて、原さんが言ってた事が本当だと思った」と言ってた。

―― 絵コンテとして劇場版『しんちゃん』に参加していた時の方がのびのびとできた?

 ずっとのびのびとやっていたと思う。監督としても同じようにできると思っていたけど、そうじゃなかった。『暗黒タマタマ』はほろ苦かったっすよ。

―― 仕上がりじゃなくて、自分の作ってる気持ちが?

 作ってる気持ちが。終わっても、まだほろ苦くて(苦笑)。でき上がったのを観ても「これでよかったのかな?」と思ってた。でも、映画って観た人の反応が分かるじゃないですか。それで面白いと思っている人が結構いると分かったのが救いでしたね。本郷さんが監督だった時は、自分としてはかなりの分量の絵コンテをやっていたわけだし、「自分で全部をできたら、さぞかし面白かろう」と思ってたんです。だけど、絵コンテとして参加していた時は、本郷さんのカラーの中で遊ばせてもらっていたんですね。それで、本郷さんのカラーからちょっとはみ出した部分が、多分、面白かったんだろうなと自分でも思う。

 だけど、自分が監督する時に同じ事はしたくないんですよね。本郷さんとは違うものを作ろうと考えたときに、そのための練習をしてなかった。そういう事だったんだろうと思うんです。

―― 次の『ブタのヒヅメ』は気持ちよく作れたんですか。

 そうですね。1本つくってちょっと気が楽になったというか。『ブタのヒヅメ』は割とリラックスしてできたと思いますよ。

―― ネタ的にもそんなに困らず?

 『暗黒タマタマ』ほどは困らなかった気がします。ちょっと話が戻るけど『暗黒タマタマ』は、今は愛着がありますけどね。何年かたって観直した事があって、その時に「結構面白いな」と思った(笑)。

―― いや、面白いですよ。僕は、原さんが監督の『しんちゃん』では一番好きかもしれない。『暗黒タマタマ』は変わった仕掛けがなくて、普通に面白いんですよ。

 とにかく、バカバカしいよね。

―― 次が『温泉わくわく大決戦』ですね。前にこの連載に登場してもらった時にも話題にしましたけれど(注3)、かなり趣味性が出ていて、邦画だったり、ドリフといったネタが入っていたり。

 あれが『しんちゃん』の映画の中で、自分が一番悪ふざけした映画だったんでしょうね。

―― 次に手のひらを返したように、子供向けの『嵐を呼ぶジャングル』が来る。

 『温泉』が、歴代の『しんちゃん』の中で興行成績が最低だったんですよ。それまでも僕が作っている間、『しんちゃん』の映画は毎年興行成績が下がっているんですよね。毎回「また下がった。どうしたらいい?」と言われてたんですけど、周りの人達の意見をあんまり聞いてなかったんです。僕はとにかく1本、自分で作れればいいと思っていたんですよ。作れば成績が悪くても、目的は達成できると。毎年「これで次の年が無くてもいいや」という気持ちではあったんですよね。だけど、『温泉』の後でもう1回だけ作ろうという話が出たんです。

 成績が落ちた理由のひとつとして、僕が悪ふざけをしたというのが考えられるわけです。子どもを楽しませるよりも、大人を喜ばせるような事をやってたわけですから、それは自分でも自覚はあるんです(苦笑)。それから『しんちゃん』の映画って、大きな敵が現れて野原一家が巻き込まれて、最後には一家としんちゃんが悪を倒して、世界の危機を救うという作りが一貫していたんですよ。だから、それを変えたらいいんじゃないかという話になって、みんなの意見を取り入れて、野原一家の漂流記みたいな話を書いたんですよ。その線で稿を重ねたりしたんだけど、結局みんな、ピンと来なくて「やっぱり悪は必要なんだね」という事になったんです。それでパラダイスキングという悪役が生まれたんですよ。ただ、悪はいるけど今までとは違う。外界とは隔離された場所での物語としてお話を作ったんです。僕も今までの罪滅ぼしじゃないけど、なるべく子どもを楽しませようと思ったんですよね。

 「これで最後だ」というつもりだった。最後に子ども達を今までよりは喜ばせて、『しんちゃん』の映画は幕を閉じる事になるだろうと思ってたんです。でも、そうしたら前の年より興行成績が上がったんですね。やめる理由も無くなっちゃって「また来年もあるよ」という話になったんですけど、その時は、本当に「次は何をやればいいんだろう?」という気持ちでしたね。本当に困った。

―― それで苦肉の策的に始めたのが、万博テーマだったわけですね。(注4)

 そう。これもあちこちで言ってるんだけど『オトナ帝国』を作り始めた時に、ああいったかたちは全くイメージしてなかったです。やっぱりバカバカしいものとして作ろうと思ってた。

―― 作っているうちに、その懐かしい世界の描写に入れ込んだ?

 僕自身がモチーフにとらわれていったんだと思うんですよ。万博の記憶が蘇ったのが一番大きかったかな。僕自身も小学校5年生のときに、万博に行ってるんだけど、全然、満喫できなかったのね。期待は凄かったんだけど。ツアーだったから1日しか無くて、全然見れなかった。

―― いろんなパビリオンを回る事ができなかったんですね。

 そうなんです。『オトナ帝国』を始める前に、会社で同じような年頃の演出の人達と話していて、何かのきっかけで万博の話題になったら、皆がものすごい勢いで喋りだした(笑)。「実は俺も行ったんだけど。アメリカ館もソ連館も見れなかったんだよ」とかね。本当に5時間くらい立ち話してたんですよ。熱く語り始めて、俺も次から次へと思い出が蘇ってきてね。その日はほとんど仕事にならないわけですよ(苦笑)。だけど、その時はまだ、映画の話としては考えていなかった。「この気持ちは何なんだ?」と思って、それで懐かしいものが蘇る話を作れないかと思って、脚本家の人に話して、TVシリーズでお話を作ってもらったんです(注5)。でも、それでも気持ちが収まらなかったんですね。まだまだ、そこに鉱脈が埋まってるんじゃないかという気分だった。多分、それで映画のほうに持っていったんだと思う。

 当時の資料を集めて読んでいるうちに、気持ちがどんどんシリアスになっていった。それで、バカな話にはできないという気持ちにはなっていったんですよ。最初は、いつものように高い場所で、しんちゃんがケンとチャコと、ハラハラドキドキするようなバカな戦いをして、しんちゃんが勝利するみたいな事を考えてたんだけど。悪役の造形が自分の中で変わってきた。

―― ケンとチャコが悪者ではなくて、普通の男女になっていったんですね。

 うん。僕が小学生だった時にいた、格好いいお兄さん、お姉さんみたいな奴になっていったんですよ。だから、倒せなくなっちゃったんです。自分でも最後はどうなるんだろうって、心配していましたよ。こいつらは、バカな負け方はさせられないぞ。かと言って、しんちゃんが負けるわけにはいかない。かなり悩んだけど、そのへんの葛藤が映画によく作用したんだと思います。

―― 描いている原さんが「過去にとらわれてしまっていいのか」と悩んでいる葛藤も、映画に入ってるんでしょうね。

 「過去にとらわれていいわけないじゃん」という気持ちもあるんだけど、なんだろう、このノスタルジーの心地よさは、みたいな(笑)。

―― 僕は公開時、『オトナ帝国』に不満を感じていたんですよ。過去の描写とか、敵の描写がこってりしているのに、しんちゃん達の活躍に関してネタが薄いじゃないですか。東京タワーを登る途中で、戦闘員に追い詰められた時も迫力だけで切り抜けたり。だけど、何年かしてDVDで観返して「これはこれでいいんだ」と思いました。ノスタルジー部分は丁寧に描写されているのに、しんちゃん側の描写があっさりしているのは、いいコントラストになってるんだと感じたんです。

 『オトナ帝国』に限らず毎回そうなんだけど、あんまり分析的にものを作れないんですよね。本当に行き当たりばったりに作っているので。だから、今言われたような事も、後で考えればそういう言葉になると思うんだけど、作りながらそういう事は考えられないんですよ。作っている時は、地図も無いのに見えない山の頂上に登らないといけない気持ちなんですよね。ただ、不思議な事に、選んだルートがそんなに間違っている事はない気がしてるんですよ。ちょっと大袈裟な言い方になるんですが、『しんちゃん』の時は、毎年なんとか頂上にたどり着いて「ああ、また今回も生き延びられたな」という気持ちになってたんですよね。その喜びが大きかったのは、やっぱり『オトナ帝国』の時ですね。「こんな場所に来れるとは思っていなかった」という。

―― 『オトナ帝国』は、それだけ苦労されたんですね。

 もの凄く大変でした。あんなに大変だった事はないですね。でも、そのお陰で、自分の意識が変わったんですよ。

―― 『オトナ帝国』は、それまでの『しんちゃん』と地続きだったけど、『戦国大合戦』は発想も、映画の作りも違いますよね。

 『戦国』では原が据わってた気がします。『オトナ帝国』と同じように「今まで行けなかったところに行くんだ」という気持ちだった。『しんちゃん』で、戦国時代をきちんと描く事や、恋愛を中心にするなんて、普通なら考えられないけど「もう、そういうものでいいんだ」という気持ちがあったんです。

―― 吹っ切れている感じですよね。『戦国大合戦』悩んで作っている感じがないですよ。

 『戦国』は、最初にあらすじを作った時に、大体あの形ができていて、自分でもこれでいいと思えたんですよ。絵コンテでも、そんなに変わってないですね。

―― 最初から、青空侍が死んで終わる構成だったんですね。

 そうです。でも、それが問題になるだろうとは思っていたし、やっぱり色々と言われましたよ。「これは『しんちゃん』の映画でどうなんだ」って。僕やプロデューサーは、それでいいと思っていたんだけど、他の人達が心配をしてね。臼井(儀人)さんに判断してもらう事になって、臼井さんから「これでやってください」という言葉を頂いたんです。反対してた人達も心配しつつ、「臼井さんがいいなら、いいか」となって。

―― 何が凄いって、あの映画ではタイムスリップに関する設定が無いんですよね。

 うん(笑)。あれは確信犯ですけどね。そこをどんなに巧妙にやったとしても、絶対納得できないだろうと思うんです。一度『雲黒斎の野望』でタイムスリップをやっているんですけれど(注6)、その時にタイムスリップの矛盾を痛感したんです。戦国時代を舞台にするためには、なんらかのかたちで時間を超えなければいけないんだけれど、どう描いても、みんなが納得してくれるかたちにはならないだろう。だから、目を閉じて開いたら、時代が変わってるというギャグ方向にしたんです。タイムスリップする段取りを描くよりも、戦国時代をしっかり描きたいと思っていた。

―― 完成した後、どうしてタイムスリップしたんだ? と聞かれたりしませんでしたか。

 それを突っ込まれる事はありませんでした。それでまた思ったんですよ。『オトナ帝国』の時も思ったんですけれど、我々は作品を作るプロだけど「プロが陥る病」というのが間違いなくあるんですよ。つまり自分達が、観てる人が気にしないところにこだわっているんじゃないかという事に、『オトナ帝国』で気づいたんですよね。そんな事で脳みそをすり減らすより、別にやる事があるだろう。勿論、僕が言ってる「病」というのが、作品作りをスムーズに作るために必要なものでもあるのは分かっているんです。物語を作り上げていくためには、やっぱり「どんなお話にしようか」「どんな面白さにしようか」と考える。あるいは、僕は嫌いなんだけど「ターゲットはどこだ」と考えて、選択肢を絞り込んでいくわけですよ。そう考えていくから、話を作っていけるんです。だけど、それをやり過ぎて、病気になっているんじゃないかと気がついたんですよ。僕は『オトナ帝国』が受け入れてもらえるとは全然思ってなくて、多分、みんなが怒るだろうと思っていたけど、公開後の反応では、そうでもなかった。

―― 『オトナ帝国』が受け入れられないと思ったのは、ターゲットを絞って作っていないから?

 いや、全ての事で。ターゲットを絞り込んだり、面白くするにはどうしたらいいか考えたり、そうやって作る事だけが、みんなが面白がる方向ではないと気がついたんですよ。『オトナ帝国』はそういう形ではなかったじゃないですか。クライマックスに派手なアクションもないし。

―― しんのすけが、東京タワーを駆け上るだけですものね。

 それでも、お客さんから「なんだこのクライマックスは、ひどいな」という声は聞こえてこなかったんですよ。むしろ、今までとは違う人達からの共感の声が多かったし、子どももそんなに怒っていないようだった。その時に、これから、なるべくそういう発想でものを作るのは止めようと思ったんですよね。

―― 面白い作品を作るためのフォーマットを気にして作るのを、止めようという事ですね。

 そうそう。そういった事の全てを否定するわけではないですけど。つかみに派手なシーンがあって、中盤に山があって、ラストに大きな山がある。それだけが観てる人を喜ばせる方法じゃない。みんながそうやって作っているから、どれも同じようなものになっちゃうんだと思ったんですよね。

―― その発見が、直接『河童』に影響を与えてますね。

 勿論。

―― オールナイトでも『オトナ帝国』と『戦国』があったから、『河童』をああいったかたちで作れたとおっしゃっていましたが、具体的に言えばそういう事なんですね。

 『河童』の企画自体は、映画の『クレヨンしんちゃん』を始めた時に、既に個人的な企画としてあったんです(注7)。『しんちゃん』を作りながらいろんな経験をして、自分の中で『河童』も少しずつ形を変えていったんでしょうね。

―― 例えば『しんちゃん』の映画に参加せず、いきなり10年前に『河童』を作ったら、随分と違ったものになっていた?

 多分、違っていたと思います。10年前にエニックスというゲーム会社がアニメの企画を募集して、向こうから誘いがあって、それに参加したんですよ。結局、佳作かなんかだったんだけど、その時に初めて『河童』の物語をまとめたんです。10年前に作ったものの方が、ちょっと派手な部分があるんですよね。

―― 最初の話に戻りますが、だから、『河童のクゥと夏休み』を誠実な作りにしたわけですね。『河童』は大筋も、画作りも、カットの積み重ね方も、全て誠実に作ろうとした。

 そうです。さっき言った、プロの物語作りのフォーマットだと、多分『河童』の作りは、NGなんですよ。「えっ? どこがクライマックスなの?」とか「もっと派手な仕掛けないの?」とか。

―― クゥを段ボール箱に入れてコンビニに持っていくところは、泣かせようと思ったら、もっと泣かせられますよね。

 うん(笑)。

―― もっと格好いい演出もできる。

 うん、できる。だけど、そうじゃなくても、人を面白がらせたり、感動させたりするものができるという気持ちがあったんですね。だから、『河童』の企画は中々決まらなくて、賛同してくれる人を探す過程で苦労しました。企画を見て「おお、これは面白いね」と言ってくれた人は、そんなにいないんですよね。「もっと他にないの?」というような反応が多かったんですよ(苦笑)。

―― 「プロが陥る病」がなくても、つまり、あざとい事をやらなくても感動させられるというのは、当たり前の描写をちゃんとやれば、観ている人に伝えられるという事ですか。

 だから、誠実さが必要だと思うんですよね。普段はどういう生活をしててもいいんだけど、作品に向かう時は誠実でなくてはいけないという気がしたんですよ。どこかからの借りものじゃなくて、自分自身をさらけ出して、誠実に作品に向かって、自分の中から出てくるものをかたちにしないとダメじゃないかという気持ちが『オトナ帝国』を経験して生まれたんですよね。

―― なるほど。

 そういう作り方は、しんどいですけどね。当たり前の方法論みたいなものを否定しないといけないじゃないですか。

―― 分かりやすく言えば、劇場版『しんちゃん』で太ったオカマが出てきて面白い事をしたら、そこで笑いが取れるけど、それをやらないという事ですね。

 そうそう。僕も何本もそれをやってきた経験があるわけです。「ここで子供が退屈するから、ちょっと笑いを持ってくる事にしよう」というやり方をしてたわけですよ。子供相手だから、お尻出したりすればすぐ喜ぶわけで。

―― 『ジャングル』なんかは、お尻の集大成ですもんね(笑)。

 うんうん(笑)。そういう作り方を全否定はしないけど、それだけではないものを作ろうという気持ちかなあ。やっぱり『しんちゃん』の映画では、いい経験ができたと思いますよ。本当に。

―― 『しんちゃん』の映画を6本やったのは大きいですよね。

 うん!もの凄く大きい。

―― 最初っから『オトナ帝国』は作れないし。『ジャングル』を作った事も無駄じゃないし。

 そうなんですよ。僕は『ジャングル』を、サービス精神を第一に作ったつもりなんだけど、あそこでまた自分の趣味性を出したものを作った可能性もあったわけじゃないですか。それで興行収益がまた落ちたら、そこで『しんちゃん』の映画は終わってたはずなんですよ。自分のやりたい事を犠牲にして、子供を楽しませるやり方をしたお陰で、その後の自分に影響を与える事になった『オトナ帝国』を作れた。自分を抑える事で、もっと大きく表現できるチャンスを手に入れるという経験ができた。頑なに自分のやりたい事にこだわっていると、作品の幅も狭まるし、そういうエンターテインメントを全部否定したら、面白さがどんどん失われていくんです。そういうバランスって、もの凄く大事な事じゃないかなという気はしますね。

―― 『河童』以降の原さんの考え方についてうかがいます。やっぱり、日常的な描写をちゃんとやっていくのはお好きなんですね。

 好きですね。

―― それが最大の目的と言っても過言ではない?

 うーん、どうなんだろう。ある程度やったら、それも飽きたりするかもしれないですけどね。今のところは、アニメなのに「嫌がらせか」というぐらい日常描写を入れたい(笑)。こういう作品に誰がついてきてくれるんだろうかと思っていたんだけど、『河童』では「こういうのをやってみたかった」と言ってくれるアニメーターがいました。それは助かりましたよ。

―― いわゆるアニメっぽいキャラクター、あるいは、アニメっぽい作品は嫌いなんですね。

 うん(笑)。

―― ずっと前から嫌いなんですか?

 嫌いですねえ(笑)。

―― アニメージュの誌上で、こんな話をするのもなんですが(笑)。

 (笑)。アニメージュの表紙になるようなアニメは、まず観ないですね。

―― まあ、『人狼』とかは表紙にならないですからね(注8)

 ジレンマはありますけどね。そうは言っても、自分はずっとアニメを作り続けてきているわけで。例えば「アニメは好きですか?」と訊かれたら、「嫌いです」と言っちゃいけないと思うんです。ただ、「好きです」とは言えないというか。

―― 享楽的なものがダメなんですか?

 ……うーん、なんだろう。

―― 「そっちに行くまい」という意識が作品から出ていますよね。『河童』はその意識が色濃いし、『しんちゃん』もそっちの方に行かないようにしていますよね。

 『しんちゃん』の時もそういう気持ちでしたね。「そうじゃなくても面白いアニメは作れるよ」という気持ちは持っていたなあ。「お前ら、なんでこういうキャラじゃないとダメなんだ!?」みたいな。その「お前ら」と言っている人達が、はっきりと見えるわけじゃないんだけど(笑)。

―― だって、原さんは、実際にそういう人達に会った経験ってあまりないでしょ。でも、アニメージュの表紙になるようなアニメが好きな人達がいて、業界的にはそういう人達を相手にしている場合が多いと思っている。

 それも嫌なんだよね。

―― 『人狼』についてのコメントで「この映画にはアニメの気持ち悪さがない。気持ち悪いキャラや、気持ち悪い声優や、勘違いした演出家が放つナルシズムが無い」と、お書きになってたじゃないですか。『人狼』の事を書きながら、他のアニメが嫌いだと言っているわけですが、あれは本当の気持ちなんですね。

 (爆笑)アッハッハ! 随分前に書いたコメントだから、「よくそんな毒吐いたなあ」と思うんだけど。

―― でも、あれを読んでから『河童』を観ると「なるほど!」と思いますよ。言っている事とやっている事が矛盾してない(笑)。

 今も、あの発言をなかった事にしようとは思わないですよ。

―― 例えば『河童』を、もっと目が大きい、可愛らしいキャラクターで作っちゃうと、違うわけですよね。何が違うのかはよく分からないですけど。

 うん。何が違うんだろう? 多分、そういうものになれば、アニメが大好きな人達も観てくれたとは思うんだけど、そうはしたくなかった。

―― これもオールナイトでおっしゃっていましたけど、今まで、そういった「アニメっぽい」ものを避けてきたんですね。

 そうですね。ずっとシンエイの社員でいたので、そういうものをやる機会は無かったし、特に飛び込みたい現場はなかったんですよ。今は、フリーにはなったんだけど、外の世界でこういうものが作りたいという気持ちが強いわけではないんですよ。

―― 作るものの方向性としては、今後も、シンエイでやってきた事と同じで構わないんですね。

 今までのやり方に、飽きていませんからね。僕は、作りたいものを作れてきたわけではないんです。「これをやれ」と言われて、与えられた仕事の中に楽しみを見つけてやってきた。『河童』については本当に作りたいものを、作りたいかたちでやりたいという気持ちが強くて、実際にそれができたわけなんだけど、まあ、初めての経験した事が沢山ありました。『河童』の時に、社員でいる事の不自由さを感じたんです。今までは、上から下りてきた仕事をやってきただけだけど、初めて逆の動きをしたわけですよね。

―― 自分から企画を出して作ろうとしたわけですよね。

 ええ。茂木(仁史)という長く付き合ってるプロデューサーが賛同してくれて、いろいろ動いてくれたんだけど、お互いに社員だから、どうしても動ける範囲が限られてきちゃうわけですよ。

―― 会社の枠を飛び越えて、どこかのメーカーさんと直接話し合ったりとかが……。

 できない。会社として付き合っていい相手と、付き合えない相手がある。付き合っていい相手でも、あんまり勝手な事をやると「あまり先走るな」と言われるわけですよね。勿論、会社に助けられたところもあるんだけど、自分が狭い場所でしかものが作れないという事を知ったんですよ。作っている間、もの凄くビクビクしていた覚えがあるな。いつダメになっちゃうんだろうかって思っていた。

―― プロジェクト自体が無くなってしまうかもしれないという事ですね。

 うん。もの凄く足場が悪い感じで、この足場がなくなっちゃうかもしれないという不安が常にあった。それもあって、もうちょっと自由な場所に行こうかなあと思ったんです。いや、フリーが楽ではない事は分かってるんですよ。

―― 普通は、生活のためにやりたくない仕事をやったりとか、掛け持ちをやったりしますよね。

 俺も、もう50年近い年齢になっちゃったわけで、フリーになるにはちょっと歳をとりすぎてるんじゃないかという心配もあったけど、むしろ、この年齢だからフリーになってもいいかなと思ったんですよ。多分、若い時にフリーになったら「自分が得意じゃないものでもやらなくちゃ」と考えただろうと思う。だけど、こういう年齢だから「やりたいものしかやらない」で、やっていけるんじゃないか。今は自分が持ってないものを無理に出すような仕事はやりたくないと思ってます。

―― そして、自分が活かせるものをやっていきたいわけですね。

 うん。労働意欲も、元々あまり強くないので(笑)。

―― 「映画」に対するこだわりはありますか。「映画らしい映画」と言うときの「映画」に。

 そうですね。アニメ映画なんだけど、その「アニメ」という文字が取れても通用するものを作りたいですよね。『河童』ではそれを凄く意識してましたよね。「アニメである事のよさ」っていうのも、間違いなく分かっているつもりなんですけどね。

―― 原さんにとっての「アニメである事のよさ」とは?

 実写との比較で言うと、アニメは「待った」が効くんですよ。問題があった時に、ある程度は「あっ、待った!」と言える。実写の映画だと、現場でアクシデントがあっても、その場で瞬間的に判断しないといけないわけじゃないですか。僕には、保留が効く作り方が合っている気がするんですよね。判断力が弱いという自覚があるんで(笑)。それから『河童』に限らず『しんちゃん』でも、もっと前の『エスパー魔美』とかをやってる頃も、絵コンテを描いている時は、頭の中では実写なんですよね。

―― 現実の人間が芝居しているのをカメラで撮っているものを、アニメで作っているんだ、という事ですね。

 うん、そんな感覚ですよ。

―― 演出を始めた頃からそうなんですか。

 そうですね。だから余計、異世界が舞台になるものに興味がないのかもしれない。異世界ものと言われると「俺、それ見た事ないし」とか思うんですよ(笑)。「そんな世界知らないし、行った事ねえなあ」みたいなね。

―― 『河童』で龍が出てくるあたりが、原さんとしてギリギリ許せるファンタジーなんですね。

 でも、そういうものが必要だという事は分かってるんですよ。日常の描写だけで面白いかといったら、そうじゃないだろうという気持ちもあるし。日常をきちんと描いた先に、日常をちょっと飛び越えるような描写が必要だと思うんですよね。それが感動に繋がったりするわけだし。

―― 次回作は準備中だそうですが、方向性としては『クゥ』と同じ作り方でいくんですね。

 いきたいとは思ってますけどね。

―― 一言で言えば、誠実に作っていくんですね。

 恥ずかしいなあ。まあ、そうです。僕の現場での仕事ぶりを知っている人に、そんな事を言うと笑われるかもしれないけど(苦笑)。

―― 具体的な作業の仕方は、必ずしも誠実ではないんですね。

 ハハハハ。「どの口から、誠実なんて言葉が!」とか言われるかもしれないですけどね。「もっと真面目に働けよ!」って。

―― 「年に1本、新作を作れよ!」とか。

 うん。「ちゃんと、毎日早い時間に仕事場に入れよ!」とか(笑)。



(注1)
 2008年2月2日に、東京・池袋の新文芸坐で開催された「新文芸坐アニメスペシャル(2) 原恵一」のトークショーの事。上映作品は劇場版『クレヨンしんちゃん』の『モーレツ!オトナ帝国の逆襲』『嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』、『河童のクゥと夏休み』の3本。トークショーの聞き手を小黒が務めた。トークショーでは、絵コンテを描いている時に「格好よくなりそうになると、わざとそうならないようにした」とも、彼は発言している。

(注2) 
劇場版『クレヨンしんちゃん』シリーズの第1作から4作は、本郷みつるが監督が務めた。なお、現在公開中の第16作『ちょー嵐を呼ぶ 金矛の勇者』では、久しぶりに本郷みつるが監督として登板。

(注3)
 原恵一がこの連載に登場するのは、第9階以来、2度目。その時に最新作の『温泉わくわく大決戦』が話題になった。詳しくは単行本「この人に話を聞きたい」をどうぞ。

(注4) 
劇場版『クレヨンしんちゃん』の第9作『嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』は、1970年の日本万国博覧会をはじめとする、昭和への想いがテーマの作品で、大人の観客に支持された。

(注5)
 TV『クレヨンしんちゃん』の「母ちゃんと父ちゃんの過去だゾ」1999年9月10日放映。

(注6)
『雲黒斎の野望』は劇場版『クレヨンしんちゃん』シリーズの第3作

(注7)
『河童のクゥと夏休み』の原作は木暮正夫の児童文学。彼は20年前から、この企画を温めていた。

(注8)
『人狼』は原恵一が認めている数少ないアニメ作品。後の部分で話題になる『人狼』についてのコメントは「世界と日本のアニメーション ベスト150」(ふゅーじょんぷろだくと)に掲載されたもの。単行本「アニメーション監督 原恵一」(晶文社)にも再録されている。

第543回 アニメ人生と今年も終わり

 前回の続き。3歳の頃のある日、板垣を

大量の虫歯が襲ったのです!

 なにせ3歳の頃なので、記憶が曖昧なんだけど、後に母親から聞いた話では「奥歯のの虫歯で喉が腫れて死んじゃう」と医者に言われたらしく、なんと虫歯を抜くために1週間ほど大きな病院に入院したんです。ちなみに現在にいたるまで入院したのはこの1回のみ。これも物心ついた頃に聞きましたが、歯を抜く時(手術?)は泣きわめくわ暴れるわ先生の手を噛むわで大変だったそうです。そりゃ3歳では無理ないでしょ? ちなみに自分自身はその施術時の微かな記憶がいまだにトラウマで、歯医者が大の苦手です! コレ、何年か前に一度ネタにしましたよね?
 で、入院してた時に、近所のオバさんが差し入れ(お見舞い?)で持ってきてくれたスケッチブックという名のラクガキ帳と「でるでるマーカー」なるお絵描きペンがきっかけで、「絵を描く」ことが趣味になった気がします。「でるでるマーカー」の特徴は、色ペンで描いたものを白ペンで消すことができ、先に白ペンで描いたトコを色ペンで重ね塗りすると、今度は白ペンの部分が白く抜けるんです。これが不思議で面白く、入院中に夢中でラクガキしまくりました。その時描いてたのは

トラと一軒家!

これは明確に憶えてます! トラに拘ったのは、自分が寅年生まれだからってのと、近所の憧れの「絵の巧いおじいちゃん」の描いたトラが目標だったから。そして何より「トラは動物の中でいちばんカッコいい!」し。一軒家は自分の家がアパート(社宅)だったため、やたら一軒家に対する夢があったからだと思います。つまり、絵を描くのが好きになったのは

紙とペンがあれば「カッコいい」も「夢」も描き出せる!

という当たり前で単純な理由。
 あと、近所のオバさんは

も差し入れてくれました。この積み木ってのも、作れるモノの形が極端に限定されたオモチャで、こちらもかなりストイックな創作。実はコレも、今のアニメ作りと無関係ではありません。
 てとこで今年も最後となりました。続きは来年、よいお年を!!

132 アニメ様日記 2017年12月3日(日)~

2017年12月3日(日)
トークイベント「第138回アニメスタイルイベント チェ・ウニョンが語るサイエンスSARUのアニメーション」を開催。出演は告知していたウニョンさんに加えて、FLASHアニメーターのアベル・ゴンゴラさん、野口花梨さん。第1部に舞台にあがってもらったのはウニョンさんとアベルさんで、トーク内容はウニョンさんのプロフィールとサイエンスSARUの成り立ちなど。第2部は野口さんにも登壇してもらい、FLASHアニメについて具体的な話をうかがった。『夜明け告げるルーのうた』『夜は短し歩けよ乙女』『DEVILMAN crybaby』のメイキング映像を観ながらトークを進めたのだが、そのメイキング映像が非常に興味深いものだった。会場ではサイエンスSARUのグッズも販売。僕はマグカップを購入した。
 普段のアニメスタイルのトークイベントは3時間だが、今回は最初から2時間から2時間半の予定だった。やってみたら、2時間半のイベントもありだなあ。内容が詰まっていれば、特に物足りない感じはしないのではないか。

2017年12月4日(月)
デスクワークの日々は続く。「アニメスタイル012」の編集作業は終了。引き続き「磯光雄 ANIMATION WORKS vol.2」の編集作業を進める。仕事をしながらDVDBOXで『serial experiments lain』を観る。久しぶりだ。

2017年12月5日(火)
デスクワークの日々は続く。「磯光雄 ANIMATION WORKS vol.2」の作業の合間の日で、後まわしにしていた零細出版社の社長としての仕事を片づける。

2017年12月6日(水)
デスクワークの日々は続く。仕事をしながらDVDBOXの『ハッスルパンチ』を流す。念のため説明をしておくと、『ハッスルパンチ』は1965年に放映された東映動画制作のTVアニメで、原案は森やすじさん。「森康二さんと大塚康生さんのW作監回」があったり、「芝山努さん、小林治さんの作監回」があったり、テロップ的には異様に豪華(ちなみに原案では「森やすじ」表記で、作画監督としては「森康二」表記)。『タイガーマスク』『ゲゲゲの鬼太郎[第2期]』で活躍された柴田夏余さんも脚本で参加している。ソフト化に恵まれない作品だったが、2016年に全話を収録したDVDBOXがリリースされて、ようやく全話を視聴できるようになった。DVDBOXは全26話を3枚のディスクに収録しており、この日は1枚目(1~9話)を再生した。音楽がお洒落で、美術もスタイリッシュ。モダンな作品だ。パンチ役の大山のぶ代さんの声が若い。ガリガリ博士は声だけでなく、役柄としても予想していたより若かった。

2017年12月7日(木)
デスクワークの日々は続く。昨日の続きで『ハッスルパンチ』を再生する。この日は2枚目(10~18話)と3枚目の途中まで再生した。12話「ペッタンコ騒動」で痛快飛行機アクションがあって、明らかに観たことある感じ。原画のクレジットに「宮崎駿」の文字が。16話「あこがれの外国旅行」で『長靴をはいた猫』的な追っかけが。こちらも原画で宮崎さんがクレジットされていた。20話で遊んだ感じの原画があったが、林静一さんの仕事だろうか。
 TOKYO MXの朝の『ペリーヌ物語』はペリーヌがパン屋のおばさんにお金をだましとられてしまう話で、前の再放送でも印象に残ったエピソードだ。おばさんの声が吉田理保子さんなのに驚いて、いや、前にも驚いたのではないかと思って検索したら、やっぱり前にも驚いていた。

2014年の小黒のツイート
https://twitter.com/animesama/status/479056371581612033

2017年12月8日(金)
デスクワークの日々は続く。他の作業も進めつつ、「設定資料FILE」の構成をする。昔に比べれば構成をするのが速くなった。20年近く、同じフォーマットでやっていると、さすがに速くなる。

2017年12月9日(土)
新宿バルト9で『映画かいけつゾロリ ZZ(ダブルゼット)のひみつ』を観る。タイムスリップをしたゾロリが、若き日の自分の母親と出会う。母親の名前はゾロリーヌだ。ゾロリーヌはデザインの勉強をしている女学生で、寮で暮らしている。ゾロリーヌの人物造形がいい。初々しくて活発でお茶目。さらに家庭的なところのあるお嬢さんであり、かなりの萌え。少なくとも僕にとっては萌え。地に足の着いた寮生活の描写と「瀬戸の花嫁」の替え歌も効いていた。そして、ラストシーンは泣けた。マジで泣けた。映画全体としてはアクション等のアイデアは子ども向けで、物語のメイン部分は意外と大人でも楽しめる内容だった。そういった部分のバランスもいい。藤森雅也監督の濃さが意外なかたちで炸裂。吉田玲子さんの功績はかなり大きいのではないかと。それとゾロンド・ロン とゾロリーヌの話は、今後の映画版でもう一押しやってほしい。
 夜はイベントのために阿佐ヶ谷ロフトAに。

第542回 600回を目指して

 気がつけば2017年ももうすぐ終わり。サブタイトルに”第542回”って書いてて、「ほぼ11年やってるんだこの連載」と。ろくに内容がなかった回も少なくないので、それほど大した偉業を成してるつもりはありません。ただただ「11年経ったか」と呆然としているだけです。でもまあ、ぼ〜っとしててもまた1回分無駄にするだけなので、ここはひとつ600回を目標に掲げ、何かテーマを決めて書くべきではないか? と思い立ち、

板垣の「決して立派じゃないアニメ人生」を
改めて順を追ってまとめてみよう!

かと。今まで書いてきたことと、一部内容が被っても気にしませんからあしからず。

 いきなりですが、そもそも自分は3歳の頃から、いわゆる「お絵描き」が大好きだったため、「TV画面の中で動く絵」に興味をひかれるのは当然のことではありました。

第121回 生きることは闘いさ 〜家なき子(その1)〜

 腹巻猫です。SOUNDTRACK PUBレーベル第22弾として、12月27日に「家なき子 総音楽集」を発売します。『家なき子レミ』でもなく安達祐実のドラマ「家なき子」でもなく、出崎統監督のTVアニメ『家なき子』(1977)の音楽集です。渡辺岳夫作曲の主題歌・挿入歌とBGMをCD3枚に集大成しました。主題歌2曲以外はすべて初CD化!
 Amazonでは「在庫なし」になっていますが、遅くとも12月22日頃には購入可になると思います。価格は5500円(税別)。12月16日のイベント「Soundtrack Pub【Mission#33】劇伴酒場忘年会2017」でDJタイムの合間に内容と制作秘話を紹介しますので、待ちきれないという方はこちらにもぜひどうぞ!

家なき子 総音楽集
http://www.amazon.co.jp/dp/B077Y6QZS9/style0b-22/ref=nosim

Soundtrack Pub【Mission#33】劇伴酒場忘年会2017
http://www.soundtrackpub.com/event/2017/12/20171216.html


 ということで、今回と次回の2回を使って「家なき子 総音楽集」の内容を紹介したい。

 本アルバムは、主題歌・挿入歌を収録したDISC-1とBGMを収録したDISC-2&DISC-3の3枚組。今回はDISC-1の主題歌・挿入歌集から紹介しよう。
 『家なき子』は1977年10月2日から1978年10月1日まで全51話が放映された東京ムービー新社制作のTVアニメ作品。エクトール・マローの原作を出崎統監督が映像化した。マローの長大な原作のエピソードをほとんど盛り込み、オリジナルの要素を加えた大河ドラマともいうべき作品である。
 舞台は19世紀のフランス。シャバノン村の少年レミが旅芸人ビタリスの一座に売られ、旅立つところから物語は始まる。物語の前半はビタリス一座とレミの辛く苦難に満ちた旅。その中でビタリスの厳しくも慈愛に満ちた人柄や旅先での心温かい人々とのふれあいが描かれる。しかし、冬山でビタリスと一座の動物たちは命を失い、レミと名犬カピだけが生き延びる。
 後半はビタリスという人生の師匠を失ったレミが花農家のアキャン家の人々やパリで出逢った少年マチヤに助けられながらひとり立ちしていく物語。レミは実は捨て子で、実の母親ミリガン夫人を探すストーリーが軸となる。ときに迷い、立ち止まりそうになるレミの心をはげますのは、亡き心の師ビタリスの「前へ進め!」という言葉だ。
 本作のあとに放映されたのが、ほぼ同じスタッフで作られた『宝島』。『宝島』は出崎アニメのベストにも数えられる人気作だが、筆者の中では『家なき子』も同じか(その日の気持ちによっては)それ以上に好きな作品だ。ビタリスの存在感、レミを育てたバルブラン・ママと実の母ミリガン夫人の美しさ、マチヤとの友情、アキャン家の末娘リーズの可憐さ。魅力的なキャラクターと端正な描写に引き込まれ、小林七郎が手がけた詩情あふれる美術と渡辺岳夫の美しい音楽に陶然となる。うっかり観返していると、「あれ、オレなんで泣いてるの?」とはっとする場面がたびたびある。自分の心の中にかろうじて残っているかもしれないピュアな気持ちを思い出させてくれるような、大切な作品なのである。
 本放映時に主題歌シングルと主題歌・挿入歌を収録したLPアルバム「家なき子」がキングレコードから発売された。1980年に出崎統自身が構成した劇場版『家なき子』が公開され、同じ年にBGMを収録したLPアルバム「家なき子II 音楽集」がキングレコードから発売されている。

 「家なき子 総音楽集」のDISC-1には主題歌・挿入歌集「家なき子」をそのまま復刻収録した。内容は次のとおり。

  1. さあ歩きはじめよう
  2. マチヤはともだち
  3. すてきな白鳥号
  4. 笛をふこうよ
  5. ぼくらはなかよし
  6. ぼくらはなかよし〈カラオケ〉
  7. だいすきなカピ
  8. リーズとぼく
  9. ママにあいたい
  10. はらペコマーチ
  11. はらペコマーチ〈カラオケ〉
  12. おやすみなさい

 レコードでは01〜06がA面、07〜12がB面だった。
 歌はすべて沢田亜矢子。カラオケが入っているのがユニークなところである。カラオケには沢田亜矢子が歌のお姉さん風に「みんなで歌いましょう」と語るナレーションが入っている。CDではそれも含めて復刻した。
 本作の音楽作りについて渡辺岳夫は後年、「名作ものがつづいたので、逆に非常に恐かった作品です」と振り返っている。「こういう作品に関しては、ぼくの中にもうなにもないかもしれないと思ったからです」と。
 渡辺岳夫は本作の前に『アルプスの少女ハイジ』(1974)、『フランダースの犬』(1975)、『あらいぐまラスカル』(1977)を手がけて名作アニメ音楽の第一人者となっていた。さらにこの年は、1976年から始まった『キャンディ・キャンディ』がまだ放映中で追加録音が行われ、『新・巨人の星』『無敵超人ザンボット3』の音楽も担当し、本作が始まった3ヶ月後の1978年1月からはマローの「家なき娘」を原作にした『ペリーヌ物語』もスタートする。渡辺岳夫は作曲家として超多忙な生活を送っていた(並行してTVドラマや時代劇の音楽も担当しているのだ)。そんな中、『家なき子』のLPを作るために1ヶ月以上スタジオにこもったという。できあがったアルバムは苦心のあとを感じさせない名曲ぞろいである。
 まずは主題歌。
 オープニングは上品で爽やかな曲調の「さあ歩きはじめよう」。松山祐士が書いた序奏は大作劇場作品のタイトル音楽のように雄大で格調高い。まさに大河ドラマがスタートするという雰囲気で心をつかまれる。ハープの響きが印象的な美しい前奏に続いて沢田亜矢子の歌が始まる。
 沢田亜矢子は国立音楽大学声楽科で学んだ本格派で、1973年に歌謡曲歌手としてレコードデビューする。以来、女優としても活動しながら歌の仕事を続けていた。透明感のある澄んだ歌声が魅力で、やや大人びた母親のようなぬくもりも感じさせる。オープニング映像に登場するバルブラン・ママやミリガン夫人のイメージと重なる。まさに『家なき子』という作品にぴったりの歌声だった。
 エンディングは対照的に明るく元気のいいマーチ。本作の作風だったらしっとりしたバラード風の曲も合ったと思う(『家なき子レミ』みたいに)。が、この歌だからこそ、本編が辛くても最後は明るく締めくくられて、また来週も観ようという気持ちになった。ビタリスの言葉「前へ進め!」を体現した歌なのだ。
 本作の音楽の中で、これまでCD化されているのは上記の主題歌2曲のみ。いずれもアニメ主題歌ベスト的なコンピレーション盤に収録されている。
 続いて、初CD化となる挿入歌たち。
 本アルバムの発売は1977年11月21日。第8話が放映された頃だった。その時点で登場していないマチヤや白鳥号やリーズの歌がすでに作られている。いわば歌で今後のストーリーの予告をしているのだ。マローの原作がしっかりあったからこそ実現した趣向である。
 本作の挿入歌作りはBGMより先行して行われたため、BGMにも挿入歌のメロディを使った曲が存在する。それがまた実に効果的だった。本編では主題歌・挿入歌の歌入りが使われたことはなく、使われるのはいつもアレンジBGMかカラオケだった。本編を観てアルバムを聴くことで「こんな歌詞がついていたのか」と『家なき子』の世界がさらに広がる。放映当時アルバムを買ったファンだけが味わえる楽しみだった。
 余談だが、本作の主題歌・挿入歌の制作は日本テレビ音楽によって行われた。キングレコードは発売のみで音楽制作には関与していない。いわゆる「持ち込み原盤」というスタイルである。当時のキングレコードのディレクター藤田純二氏の話によれば、アルバムとして完成された形のマスターが提供されたのだそうだ。翌年放映の『新・エースをねらえ!』のアルバムも同様のスタイルで作られている。
 渡辺岳夫が苦心したと語る『家なき子』の挿入歌は、『フランダースの犬』などの一連の世界名作劇場の挿入歌とはひと味違う雰囲気を持っている。より文学的というか、クラシカルというか、やや古風で落ち着いた香りがある。その雰囲気の違いが『家なき子』を音楽的にもほかの名作アニメと一線を画したものにしている。
 その代表的な曲が「すてきな白鳥号」だ。
 マンドリンと弦のピチカートが奏でる序奏。シンガーズ・スリーのコーラスがそっと重なって、イントロからうっとりする。白鳥号はミリガン夫人と息子のアーサーが乗る船。ミリガン夫人はアーサーの療養のために船でフランスの運河を巡っているのだ。レミはビタリスと離ればなれになったとき、偶然白鳥号と出会い、船上で夢のようなひとときを過ごす。ミリガン夫人が実の母親とも知らずに……。
 劇中ではそのミリガン夫人と白鳥号のテーマとして、本曲のコーラス入りカラオケがくり返し使われていた。シンガーズ・スリーのコーラスが流れてくると、条件反射のようにミリガン夫人の美しい姿と武藤礼子さまのしっとりした声が浮かんでくる。なんて素敵な歌と伴奏でしょう。聴くたびに夢心地になってしまう。
 もう1曲重要な曲として挙げたいのが「リーズとぼく」。アキャン家の末娘リーズはレミと心を通わせ、のちにレミと結婚することになる本作のヒロインである。そのリーズをレミの視点から歌った曲だ。哀愁たっぷりの曲調はちょっと歌謡曲っぽく、本アルバムの中でも異彩を放っている。それだけに印象は深く、本アルバムの中でも本曲をベストに推すファンもいる。
 劇中ではなんといっても第50話。マチヤとリーズが見守る中でレミとミリガン夫人が再会を果す場面に本曲のストレートアレンジのBGMが流れていた。全篇のクライマックスを飾った名曲なのだ。
 ふたたび余談になるが、レミとリーズの恋はマローの原作でも濃密に描かれている。当時の(いや今でも)児童向け作品としては珍しいことだと思うが、同じマローが書いた児童向け作品「ロマン・カルブリス物語」でも主人公の少年とヒロインの恋が物語の柱になっているので、これはマローの作風なのだろう。マローの一連の児童向け作品は今読んでも面白い、起伏に富んだ香気あふれる作品なので、機会があればぜひ読んでみてほしい。
 『家なき子』の挿入歌からもう1曲選ぶなら「ママにあいたい」だ。これも沢田亜矢子のたおやかな歌声とシンガーズ・スリーの美しいコーラスが胸に残る曲。シャバノン村に残して来たバルブラン・ママを想うレミの心情が、やさしくぬくもりのある曲調で描写される。
 劇中では本曲をアレンジしたBGMがレミの母への想いを表現する曲としてたびたび挿入されていた。第38話、故郷に戻ったレミがバルブラン・ママと再会する場面にも、本曲のアレンジBGMがたっぷり流れる。「すてきな白鳥号」「リーズとぼく」とともに忘れられない曲だ。
 ほかにも、マチヤの明るいキャラクターを歌った「マチヤはともだち」、カピとの友情を前半はユーモラスに後半はロマンティックな曲調で歌う「だいすきなカピ」、『アルプスの少女ハイジ』の「アルムの子守唄」と並ぶ渡辺岳夫子守唄の名曲「おやすみなさい」など、聴きごたえのある曲が並ぶ。これまでCD化されなかったのがもったいない名盤である。

 「家なき子 総音楽集」DISC-1の後半には、主題歌・挿入歌のオリジナル・カラオケを収録した。本作のカラオケは、過去にアルバム「家なき子」の中で2曲、当時キングレコードが発売したアニメ主題歌カラオケ集アルバムの中で1曲(「さあ歩きはじめよう」)が商品化されているが、いずれもガイドメロディの入ったカラオケだった。今回のCDではガイドメロディの入らないオリジナル・カラオケを発掘して全曲収録した。
 ただ、残念なことに挿入歌についてはステレオのカラオケ音源が発見できず、モノラル音源での収録になっている。ご了承いただきたい。主題歌のカラオケはステレオ収録である。
 最後にDISC-1のボーナス・トラックについて。
 本作の主題歌には、TVシリーズ用とレコード用の録音に先駆けて、TVスポット用に録音された別テイク(仮テイク)が存在する。放映開始前の番組宣伝に使われたようだが、その映像は確認できていない。今回、音源のみが発見できたのでそれを収録した。TVサイズと同じカラオケを使ったものだが、歌い方やコーラスの有無が異なる。完成版と聴き比べていただくと、主題歌完成までの過程がうかがいしれて興味深い。
 さらにもう1曲。ピアノの伴奏だけをバックに沢田亜矢子が歌う音源が残されていた。沢田亜矢子さんにお聞きしたところ、渡辺岳夫のアトリエで初めて譜面を見て歌ったときの録音でしょうとのこと。そのあたりの経緯は沢田亜矢子さんにインタビューして解説書に掲載しているので、あわせてお読みいただきたい。

 さて、『家なき子』の歌といえば、劇中で流れたレミの歌やビタリスの歌もある。それらも今回マスター音源が発見されたのでBGMとともに収録した。詳しくは次回で。

家なき子 総音楽集
Amazon

131 アニメ様日記 2017年11月26日(日)~

2017年11月26日(日)
デスクワークの日々は続く。午前1時50分に事務所へ。深夜のアニマックスでは『無敵鋼人ダイターン3』一挙放映(3回目)、キッズステーションでは『キャシャーン』HDリマスター版、ちょっと遅れてファミリー劇場では『MEGAZONE23 III イヴの目覚め/ 解放の日』HDリマスター版。それらを流しながら作業。その後はdアニメストアの『Rahxephon』の後半を流す。
 ワイフが『らんま1/2』にはまって、このところ、ネット配信で『らんま1/2』を観ている。昼飯でマンションに戻ったら、やっぱり『らんま1/2』を観ており、「最初のオープニングの絵が違うのはどうしてなの?」と聞かれた。特に全身の走りの画が気になるらしい。「確認したことはないけど、亜細亜堂の作画だからだと思うよ」と解説。ついでにAプロ、シンエイ、亜細亜堂についても軽く解説。「アップやバストショットは、亜細亜堂以外の方の作監修正が入っているかも」とつけくわえた。

2017年11月27日(月)
デスクワークの日々は続く。土曜、日曜に続いて、朝の8時半から学生編集スタッフが原画のスキャンをするはずだったのだが、連絡の行き違いで、僕がその時間に出かけてしまい、彼を事務所の前で待たせてしまった。すいません。
 作業をしながら『ガールズ&パンツァー 第63回戦車道全国高校生大会 総集編』(Amazonビデオのレンタル)、『キノの旅 -the Beautiful World- the Animated Series』を1話から配信の最新7話まで(Netflix)、『銀魂.』の「ポロリ篇」を331話から最新337話まで(録画)等を流す。『ガールズ&パンツァー 総集編』はよくまとまっていた。『キノの旅』は話そのものが面白い。『銀魂.』は原作がシリアス展開が続いている事もあり、非常に楽しめた。

2017年11月28日(火)
デスクワークの日々は続く。OVA『神秘の世界エルハザード』を全話(DVD)を流して、『機動戦士ガンダム サンダーボルト BANDIT FLOWER』(Amazonビデオのレンタル)を流して、『茄子 スーツケースの渡り鳥』(Amazonプライム)を流して、吹き替え版の『劇場版 ムーミン 南の海で楽しいバカンス』(Amazonプライム)を流した。他にも色々と再生した。
 OVA『神秘の世界エルハザード』のエンディングテーマ「BOYS BE FREE!」の歌詞は「あなたが女の子になっても私は好きでいるわ。弱くても偉くなくても、あなたのことが好きだから、頑張らなくてもいいのよ」といった意味のもの。当時もオタク男子に対して意地悪な内容だなあと思ったけれど、今となってみれば、その後の色々なことを予言しているようでもある。枯堂夏子はすごい。

2017年11月29日(水)
デスクワークの日々は続く。昨夜の「ルパン三世ベストセレクション」では3位を放映。『旧ルパン』の「十三代五ヱ門登場」だった。五右ェ門メインの話は強いなあ。1位、2位はやはり「さらば愛しきルパンよ」「死の翼アルバトロス」か。違う話がきたら、それはそれで面白いけど。
 Amazonプライムで『映画 クレヨンしんちゃん』を再生しながら作業をする。この日に流したのは『超時空!嵐を呼ぶオラの花嫁』『嵐を呼ぶ!オラと宇宙のプリンセス』『伝説を呼ぶブリブリ 3分ポッキリ大進撃』『伝説を呼ぶ 踊れ!アミーゴ!』。第1作から第10作は繰り返し観ているので、それ以降の作品を選んだ。

2017年11月30日(木)
デスクワークの日々は続く。原稿まとめの日。先日、目を通した12万文字のテープおこしを、1万文字ほどにまとめる。気合いを入れて、超スピードの作業。
 今日もAmazonプライムで『映画 クレヨンしんちゃん』を流す。再生したのは『嵐を呼ぶ 歌うケツだけ爆弾!』『ちょー嵐を呼ぶ 金矛の勇者』『オタケベ!カスカベ野生王国』『嵐を呼ぶ 黄金のスパイ大作戦』『バカうまっ!B級グルメサバイバル!!』。

2017年12月1日(金)
デスクワークの日々は続く。次回の『クレヨンしんちゃん』の放映は1月で、次回の『ドラえもん』は大晦日であるらしい。年末感が強まる。

2017年12月2日(土)
デスクワークの日々は続く。金曜で「アニメスタイル012」の作業が一段落して、数か月ぶりに(ひょっとしたら今年で初めて)やらなくてはいけない作業のない日になるかと思ったのだけど、そんなことはなかった。むしろ、普段より遅い時間まで作業をした。

第541回 最終話アフレコ

『Wake Up Girls! 新章』最終話のアフレコでした!

 あっという間だったけど、とても楽しいアフレコで、毎回自分のコンテが役者さんたちの芝居によって血肉が着いていく感じがハッキリありました。Wake Up Girls!の皆さんはもちろん、前シリーズからのレギュラーメンバーの方々には、俺がコンテに書いた「以下OFFでアドリブよろしく〜」について、色々なアイデアやアドバイスなど、本当に助けていただいたし、Run Girls,Run!の3人も、いきなり巧くてビックリ! もっとテイクを重ねるかと思いきや、一発で「いいじゃん!」と。後半話数のコンテでは、3人に期待した上での芝居が増えていった気がします。WUG!もRGR!もコンテで芝居を描いてると、こんなオッサンでも少女になれる瞬間があり(ま、以前から語ってるとおり、絵コンテの面白さはつまるとこソコなんですが)、若い頃を思い出して変に熱くなったりします。RGR!の歩が憧れの真夢に声をかけてもらって感激(昇天?)するところとか、自分が出崎統監督のサイン会に行って握手してもらった感動・衝撃を思い出して描けたし、あ、あと猫!

結局、俺はずんだ(猫)の目線だったのかも?

 明らかにシーンの切れ目切れ目で、板垣はあそこで気持ちよさそうに転がってます。ちなみに猫を出したいと言ったのは、脚本の松田恵里子さんで、「ずんだ」という名前を提案したのも松田さんで、「デブでオスの三毛猫」と決めたのは自分です。菅原美幸さんのデザインもリアリティベースの可愛さで気に入ってます! 今思い出したけど『迷い猫オーバーラン!』の時も、デブ猫出したっけ。

第140回アニメスタイルイベント
元祖 ここまで調べた『この世界の片隅に』 平成30年正月編

 多くの観客に受け入れられたアニメーション映画『この世界の片隅に』。公開から1年を過ぎてた現在まで途切れることなく、上映が続いている。

 片渕須直監督と制作スタッフは『この世界の片隅に』の制作過程で、舞台となる地域や時代風俗について綿密な調査研究を行った。それに裏付けされた臨場感や登場人物の存在感が本作の魅力のひとつだ。
 その調査研究の結果を披露していただくのが、トークイベント「ここまで調べた『この世界の片隅に』」シリーズである。今までのイベントでも「そんなところまで調べるの?」「当時の日本の風俗って、そうだったの!」と観客から驚きの声を頂戴した。今回のイベントも深い話をうかがうことができるはずだ。

 今までと同様に、トークのメイン部分を「アニメスタイルチャンネル」で配信する予定だ。会場は阿佐ヶ谷ロフトA。前売り券は2017年12月9日(土)から発売開始。

 なお、今回からトーク中のお客様によるステージの撮影はお断りすることとなった。イベント中に撮影タイムを設ける予定だ。片渕監督の姿を撮りたい方は撮影タイムにどうぞ。

■関連リンク
アニメスタイルチャンネル
http://ch.nicovideo.jp/animestyle

阿佐ヶ谷ロフトA
http://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/78572

第140回アニメスタイルイベント
元祖 ここまで調べた『この世界の片隅に』 平成30年正月編

開催日

2017年1月14日(日)
開場12時 開演13時 終演16時予定

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

片渕須直(『この世界の片隅に』監督)、小黒祐一郎(アニメスタイル編集長)

チケット

前売1500円 当日1800円(共に飲食別・要1オーダー)

■アニメスタイルのトークイベントについて

 会場となる阿佐ヶ谷ロフトAはトークライブができる居酒屋。入場料(今回は前売1500円、当日1800円)とは別に飲食(最低でもドリンク1杯)をお願いしている。ソフトドリンクもあるので、未成年の方でも大丈夫。 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものだ。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていないし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれない。その点は、あらかじめお断りしておく。

130 アニメ様日記 2017年11月19日(日)~

2017年11月19日(日)
デスクワークの日々。午前3時に事務所へ。キッズステーションで『無敵鋼人ダイターン3』の一挙放映をやっていた。HDリマスターではない。なんだか懐かしい画質。もう少し早い時間に事務所へ入っていたら、キッズステーションの『ご注文はうさぎですか?』一挙放映と、キッズステーションの『無敵鋼人ダイターン3』の一挙放映のどちらを観るかで悩んでいたはず。

2017年11月20日(月)
デスクワークの日々は続く。朝は『映画ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険』のDVDを観ながらキーボードを叩く。『南極カチコチ大冒険』は秀作です。お勧めします。作業をしながら、Blu-ray BOXで『四畳半神話大系』を全話観る。再見は久しぶりだったけれど、記憶にあるよりも「濃い」作品だった。

2017年11月21日(火)
デスクワークの日々は続く。作業をしながら『戦闘妖精雪風』のBlu-ray BOXと『AIKa』DVDBOXを流す。『戦闘妖精雪風』を再見したのは久しぶり。『AIKa』はお色気とかそういうことだけでなく、突き抜けたものがあると改めて思った。

2017年11月22日(水)
デスクワークの日々は続く。『攻殻機動隊 新劇場版』を流しながら作業をする。

2017年11月23日(木)
デスクワークの日々は続く。作業をしながら『夜明け告げるルーのうた』と『夜は短し歩けよ乙女』を繰り返し観る。午後は特に理由はないけれど、『ガルフォース』のDVDを流す。

2017年11月24日(金)
デスクワークの日々は続く。OVA『魔法使いtai!』を観る。やっぱりOVA『魔法使いtai!』は「夢アニメ」だなあ。ちなみに「夢アニメ」は以前、今石洋之さんが使っていた言葉だ。
 ところで、『夜明け告げるルーのうた』のラストシーンで町の人達と人魚達が踊り出すけど、ルーが踊る前に踊り出しているから、あれはルーの力で踊らされているのではなくて、町が救われたのが嬉しくて、自発的に踊っているんだね。

2017年11月25日(土)
今日は朝の8時半から学生編集スタッフが事務所に入り、「磯光雄 ANIMATION WORKS vol.2」のためのスキャン作業。深夜から事務所に入っている僕が言うのもなんだけど、8時半は早いなあ。
 作業をしつつ、『Rahxephon』を1話から視聴。これからまとめる取材のテープおこしに目を通す。文字数をカウントしたら12万文字。目を通すだけで1日はかかるなあ。昨日で作業が一段落して、今日は時間に余裕があるはずだったので(実際にはそうではなかったのだけど)、ワイフと約束していてた「ラ・ラ・ランド」を新文芸坐で観る。予想していたほどハッピーな映画ではなかった。冒頭のミュージカルシーンが素晴らしい。新文芸坐の音響もよかった。

第540回 仕事とコーヒー

 先週は祝日だったので、前回何を書きかけて中断したのか? と思い出すとこから。そうそう、

自分がやりたくない仕事は必ず誰かがやってくれている!

って話でした。まあ、そんなわけで『Wake Up, Girls! 新章』もコンテ全話(結局全話切ってしまった)終わっても、レイアウトや作画のお手伝いをしています。楽しくコンテを切ったら「あとは作画が上がるのを待つだけ」とは行きません。社内のアニメーターたちが机に必死にしがみついてるのに、俺だけ「お先に〜」ってできない性格なもので。皆が描きたいキャラを描けるわけでもないのがアニメのお仕事。監督が数分でフニャ〜とラフなモブシーンのコンテを描けば、アニメーターは数時間か、下手をすれば1日がかりで作画することになり、3コマのラフなアクションシーンのコンテも、アニメーターが10〜20枚の原画にしなければならないものなのです! アニメーター出身でない監督さんからすると、「え、アニメーターの人って、モノはなんでも画さえ描いてれば幸せなんでしょ?」と思われるかもしれませんが、そんなハズありません! アニメーターだって描くのがおっくうなもの、描きたくないものくらいあります。でも、フィルムのために必要だ(と思う)から描いている。当たり前の話。つまり、「自分がやりたくない仕事は必ず誰かがやってくれている」ということですね。

第139回アニメスタイルイベント
長濵博史さんと朝まで『THE REFLECTION』!

 「第139回アニメスタイルイベント 長濵博史さんと朝まで『THE REFLECTION』!」は、アニメスタイルイベントとしては珍しいオールナイトのトークイベントだ。12月9日(土)の深夜から10日(日)朝にかけての開催となる。
 トークのテーマは10月に放映を終えた『THE REFLECTION』。原作・監督の長濵博史が熱く、そして、たっぷりと語ってくれるはずだ。トークは『THE REFLECTION』の映像を上映しながら進行。また、長濵監督以外の出演者も予定している。

 前売り券は11月28日(火)から発売開始となっている。また、このイベントはオールナイトにつき、18歳未満の方、および高校在学中の方は入場はできない。詳しくは以下の阿佐ヶ谷ロフトAのリンクを見ていただきたい。

 今回のイベントは作品上映があるため、ネットでの配信はない。トークを聞きたい方は是非、阿佐ヶ谷ロフトAに足を運んでほしい。

■関連リンク
阿佐ヶ谷ロフトA
http://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/78480

第139回アニメスタイルイベント
長濵博史さんと朝まで『THE REFLECTION』!

開催日

2017年12月9日(土)
開場:24時/開演:24時30分 終演:翌日4時30分~6時予定

会場

阿佐ヶ谷ロフトA

出演

長濵博史(『THE REFLECTION』原作・監督)、小黒祐一郎(司会・アニメスタイル編集長)、他

チケット

前売1500円 当日1800円(共に飲食別・要1オーダー)

■アニメスタイルのトークイベントについて

 会場となる阿佐ヶ谷ロフトAはトークライブができる居酒屋。入場料(今回は前売1500円、当日1800円)とは別に飲食(最低でもドリンク1杯)をお願いしている。ソフトドリンクもあるので、未成年の方でも大丈夫。 アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものだ。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていないし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれない。その点は、あらかじめお断りしておく。

第120回 うつし世は夢 〜Paprika〜

 腹巻猫です。鶴ひろみさんの急逝、ショックでした。初主演作『ペリーヌ物語』は個人的に大好きな作品で、完全版サントラを作ったときはファンレターを書くようなつもりで心して作りました。折しも11月からTOKYO MXで『ペリーヌ物語』を放映中。涙なしに見られません。


 今回は筒井康隆の原作を今敏監督が劇場アニメ化した『Paprika』。アニメーション制作はマッドハウスが担当。2006年9月にベネツィア国際映画祭に正式出品され、日本では2006年11月に公開された。夢を題材にした圧倒的なビジュアルが見どころの作品である。
 今監督は本作に先行する『PERFECT BLUE』『千年女優』『妄想代理人』といった作品でも妄想(歪曲した記憶)と現実をテーマに取り上げ、妄想が現実を侵食し、現実と妄想の境界があいまいになるさまを描いている。『Paprika』も夢が現実を侵食する話。今監督はもともと筒井作品のファンで、2003年のアニメージュ誌上での筒井康隆との対談がきっかけになって本作の映像化が実現したと公式サイトのプロダクションノートに記されている。
 精神医療総合研究所で開発中の他人の夢とシンクロできる装置DCミニが盗まれた。犯人はDCミニを悪用して次々と研究所の所員の精神を侵し始める。夢探偵パプリカとしても活動するサイコセラピスト千葉敦子は、島所長とDCミニの開発主任・時田浩作とともに事件の謎を追い始めるが、所長も浩作も、そして敦子=パプリカ自身も悪夢の中に捕えられてしまう……。
 というのが大まかなストーリー。原作より物語は単純化され、理解しやすくなっている。だが、本作は物語を追うよりもめくるめく夢のイメージに浸って、パプリカとともに夢の迷宮をさまようのが本来の楽しみ方だろう。

 音楽は平沢進。『千年女優』『妄想代理人』でも今敏監督と組んだ名パートナーである。
 平沢進は1954年生まれ。東京都出身。小学校4年生でエレキギターを手にし、黛敏郎やタンジェリン・ドリームの音楽に出会って電子音楽への傾倒を深めていく。70年代にはメロトロン・サウンドを取り入れたプログレッシブロックバンド、マンドレイクで活躍。1979年にテクノポップグループP-MODELのボーカリスト/ギタリストとしてメジャーデビューする。P-MODELはヒカシュー、プラスチックスとともに、YMOに続くテクノ御三家と呼ばれて人気を集めた。1989年から並行してソロ活動も展開。「歌えるバンゲリス」をテーマに電子音とボーカルをミックスしたサウンドを進化させていった。現在はソロをメインに活動。1990年代からインタラクティブ・ライブやインターネット配信を行うなど、先駆的な活動を続ける音楽家である。
 アーティストとしての活動がメインだが、映像音楽やゲーム音楽もいくつか手がけている。映像音楽作品に、OVA『DETONATOR オーガン』(1991)、TVアニメ『剣風伝奇ベルセルク』(1997)、そして今敏監督の『千年女優』(2002)、『妄想代理人』(2004)、本作『Paprika』(2006)などがある。
 中でも今敏監督の3作は別格だ。もともと平沢進のファンであった今監督は平沢の音楽で劇場作品を作るのが念願で、「『千年女優』の音楽は平沢進しか考えてなかった」とインタビューで語っている。平沢進にとっても今監督の作品は注文に応じた職人的な音楽作りではなく、自分なりの解釈が提示できる刺激的な仕事だったという。本作『Paprika』も監督からの熱い要望に応える形で参加した。
 サウンドトラックとしてはメロディアスでロマンティックな要素がある『千年女優』や意外にポップな『妄想代理人』の方が入りやすい。『Paprika』の方がざらっとして近寄りがたい印象がある。それだけに『Paprika』の音楽には「恋愛もので完結するような音楽に興味はない」と語る平沢進の音楽性がよく表れている。聴いていると中毒になるような危うさをはらんだ音楽である。
 サウンドトラック・アルバムは平沢進のプライベートレーベル・テスラカイト(ケイオスユニオン)から2016年11月に発売された。Amazon等でも入手可能だ。
 収録曲は以下のとおり。

  1. パレード
  2. 媒介野
  3. 回廊の死角
  4. サーカスへようこそ
  5. 暗がりの木
  6. 逃げる者
  7. Lounge
  8. その影
  9. 滴いっぱいの記憶
  10. 追う者
  11. 予期
  12. パレード(instrumental)
  13. 白虎野の娘(パプリカエンディングバージョン)

 ジャケットは平沢進のポートレイト。平沢進のオリジナルアルバムの趣だ(アメリカのMilan Recordsから発売された海外版サントラはジャケットに作品のビジュアルが使われている)。
 曲順も劇中使用順にはこだわっていない。本作の音楽は画に合わせて曲をつけるフィルムスコアリングではなく、使用場面を想定してはいても自由に発想をふくらませた音楽を用意し、シーンに合わせて選曲していく方式で作られている。平沢進のアルバムとしての側面を前面に出した形は本作にふさわしい姿なのである。
 曲数はわずか13曲。しかし、劇中で流れる曲はこれでほぼすべて(一部、トラックダウン違いによる別バージョンが使用されている)。
 音楽が流れる場面は思いのほか多く、同じ曲がくり返し使われている。その大半は夢の中のシーンである。現実の場面では効果音的な音楽が薄く流れるだけで、音楽らしい音楽はほとんど夢の中でしか聴こえない。興味深い音楽設計だ。
 1曲目「パレード」は12曲目に置かれた「パレード(instrumental)」のボーカル・バージョン。平沢進の作詞・作曲・歌唱による作品だ。劇中ではインスト・バージョンの方が使用されている。
 DCミニを利用した攻撃によって意識を侵された所員たちが見る奇怪なパレード。その場面にくり返し流れるインパクト抜群の音楽である。狂気をはらんだ悪夢のテーマとして、一度でも本作を観たら忘れられない音楽だろう。同じフレーズの反復が心をむしばむ悪夢の侵入をイメージさせる。本作を代表する1曲である。
 トラック2「媒介野」はオープニングタイトルに使用された曲。夢の中を駆けるパプリカの映像とともに流れた。「媒介野」は造語のようだが、夢と現実をつなぐパプリカの活動を象徴するような秀逸なタイトルだ。
 不思議なボーカルからリズムが加わり、オリエンタル風味のメロディが始まる。トラック13のエンディングテーマ「白虎野の娘」のインストゥルメンタル・アレンジである。  オープニング映像ではパプリカが現実と非現実を自在に行き来しながら夜の街を駆け抜けていく。その不可思議な爽快感が幾重にも重ねられた音とリズムで表現される。本アルバムの中でも群を抜いてポップで聴きやすいナンバーだ。
 作品の後半でパプリカが孫悟空の扮装で夢の中を飛ぶ場面にも、ふたたびこの曲が流れる。パプリカのテーマとも呼べる曲である。
 トラック3「回廊の死角」はパプリカのクライアントであった粉川警部が17歳の時の映画作りの記憶を思い出す場面などに使用。回廊とは「記憶の回廊」の意味だろうか。ノイズのような音が響く中、叫び声のようなものが現れては消える。夢の中で、怖いとわかっていても恐ろしい場所に引き寄せられていく……そんな緊張感を思い出す曲である。
 トラック4「サーカスへようこそ」は作品冒頭の夢の中のサーカスの場面に使用。現実音楽的な(夢の中だから現実音楽という表現もおかしいが)BGMに徹した曲である。
 トラック5「暗がりの木」は弦合奏の音がクラシカルに奏でる落ち着いた音楽。パプリカ=敦子が夢の中で一連の事件の黒幕が理事長だと察し、覚醒して理事長のもとを訪れるシーン。理事長の屋敷の温室の場面から流れ始める。「暗がりの木」とはその温室にある木のことだろう。実は覚醒したと思っていたらこれもまた夢の中……というシークエンスの曲で、映画を観てから聴くと穏やかな曲調にかえってドキドキしてしまうというしかけがある。
 トラック6の「逃げる者」とトラック10の「追う者」は対になったような曲である。どちらも夢の中での追跡・逃走場面に流れるアップテンポの曲だ。「逃げる者」は激しいブラスの響きの中に禍々しいコーラスが聴こえてくる危機感に富んだ曲。「追う者」は「白虎野の娘」のメロディをアレンジした疾走感のある曲。しかし、夢の中では追う者と追われる者は容易に入れ替わり、どちらが追う者でどちらが追われる者かわからなくなる。「追う者」は粉川警部の場面に「追われる者」はパプリカのピンチの場面によく使われているが、その役割は明確には分かれていない。
 トラック7「Lounge」は粉川警部がパプリカとコンタクトするときに使うネット内のバー「RADIO CLUB」で流れている曲。これも現実音楽(?)として書かれた小粋なジャズタッチの曲だが、アルバムの中でほっとひと息つける憩いの音楽になっている。
 トラック8「その影」はコントラバスの低音の響きと金属的なパーカッションがじわじわと近づく脅威を描写する曲。1分を超えて宗教音楽的な合唱が入り、実写劇場作品「オーメン」の音楽のような暗い情念があふれだす。劇中では夢の中でパプリカが捕えられていたぶられる場面、クライマックスで現実を侵食した理事長が巨大化してパプリカに襲いかかる場面などに流れて危機感を盛り上げている。
 トラック9「滴いっぱいの記憶」は本作の音楽の中でも異色とも言える愛らしい曲。ふわふわしたシンセサウンドとボーカルで「白虎野の娘」のバリエーションがやさしく奏でられる。夢は夢でも、悪夢ではなく、心地よく安心できる夢といった曲調である。
 劇中では序盤で敦子が「最近、私の夢を見ていない」とつぶやく場面で短く流れたあと、敦子と粉川警部が現実世界で初めて顔を合わせる場面、クライマックスで敦子が浩作への気持ちに素直になる場面に流れている。「媒介野」がパプリカのテーマとすれば、こちらは敦子のテーマ。生身の女性に戻った敦子の心情を描くドリーミィな曲である。
 トラック11の「予期」は闇の奥から何かが現れてくるような不気味な緊張感をたたえる曲。ストリングスの通奏音を背景に妖しい声やノイズが浮かび上がる。「回廊の死角」と同様のサスペンス曲だが、こちらは映像のバックに薄くはわせるような使い方で、たびたび使用されている。
 この曲の次が「パレード(instrumental)」、そしてエンディングの「白虎野の娘」なのだから、アルバムの中ではパプリカも浩作たちも、夢に捕えられたまま現実には帰還しないとも受け取れる。現実を浸食する夢をテーマにした『Paprika』らしい構成だ。
 その「白虎野の娘」はエンドタイトルに流れた本作の主題歌。もともと平沢進のアルバム『白虎野』に収録されていたタイトル曲「白虎野」を本作用に歌詞の一部を変えて録音したものだ。作詞・作曲・歌唱は平沢進。ベトナムのバクホー油田(英名:White Tiger Field)からインスパイアされて作られた曲だという。
 反復するリズムとメロディ、ファルセットをまじえたボーカルと合成音声の共演、安易な解釈を拒む不思議な歌詞。平沢進のスタイルがよく表れた玄妙な曲で、聴くほどに脳の中を焼かれるようなトリップ感覚が味わえる。

 サウンドトラックでありながらオリジナル作品としても聴ける重層的なアルバムである。圧巻はやはり「パレード」、そして「白虎野の娘」だろう。作品のイメージを反芻しながら聴くもよし、自分の夢の記憶をすくい上げながら自由に想像を広げて聴くのもよし。「うつし世は夢、世の夢こそまこと」、そんな名言が浮かんでくるようなアルバムだ。ただし、あまり聴き入ってしまうと夢から抜け出せなくなるかもしれないので、ご用心を。
 なおテスラカイトのサイトではサウンドトラック・アルバム未収録のアウトテイク「走る者」を無料配信している。

パプリカ オリジナル・サウンドトラック
Amazon

テスラカイト「パプリカ」オリジナル・サウンドトラック発売記念 無料配信ページ
http://teslakite.com/freemp3s/paprika/

129 アニメ様日記 2017年11月12日(日)~

2017年11月13日(日)
『この世界の片隅に』が劇場公開1周年を迎えた。この1年間ずっとどこかで上映されていたのだ。これは大変なことだ。今後も皆に愛され続ける作品でありますように。
 夜は「第137回アニメスタイルイベント絵本刊行記念 あずきちゃん同窓会」を開催。出演者は以下の通り。

丸山正雄さん(プロデューサー)
小島正幸さん(監督)
芦野芳晴(キャラクター設定)
ゆかな(あずきちゃん役)
宮崎一成(小笠原勇之助役)
川田妙子さん(西野かおる役)
真殿光昭‏さん(高柳ケン役)
ゆきじ(トモちゃん役)
津久井教生さん(坂口まこと役)
皆口裕子‏さん(あずきちゃんのお母さん役)

 アニメスタイルイベント史上で、ゲストの人数が最大であったかもしれない。さらに第三部では飛び入りで、近藤栄三プロデューサーにもステージにあがって、たっぷり語っていただいた。ゲストを集めるのは丸山さんにお任せしていて、イベント開始直前までどなたが来るか分からなかったので、トークのプランを立てる余裕はなく、その場その場の判断でトークを進めた。とは言っても、皆さん、お話が上手なのでその点では苦労しなかった。僕がやったのは話題に漏れがないか、ゲストの皆さん全員に話してもらえているかを気にしたくらいだ。トークの内容は企画、脚本、作画、演出、アフレコと多岐にわたり、きちんと「作品のイベント」になっていたと思う。お客さんの反応が異様によかったのも印象的で、キャストの方々も喜ばれていた。
 僕はイベントにあたって『あずきちゃん』全話を観直したのだれど、全然足りなかった。お客さんの方がずっと濃かった。次に機会があったら、もっと気合いを入れて予習をしたい。

2017年11月13日(月)
録画で、TV放映版「シン・ゴジラ」を観る。間にCMが入ると、緊張感が維持できないのではないかと思ったけれど、そんなことはなかったようだ。

2017年11月14日(火)
明け方、作業中にパソコンにトラブル発生。再起動しようとしたけれど、再起動できない。慌てて自宅に戻り、ノートパソコンを事務所に持ってきて、作業を続ける。不幸なことは重なるもので、iPhoneの歩数計アプリも落ちて、再起動をかけたら昨日と今日の歩数記録がリセットされた。昼にはパソコンか復旧したが、またこんなことがあるといけないので、新しい外付けのハードディスクを購入して色々とバックアップをとる。

2017年11月15日(水)
「ルパン三世ベストセレクション」の5位は『旧ルパン』1話「ルパンは燃えているか・・・・?!」。これは順当。残りは4本だ。おそらく『新ルパン』の「死の翼アルバトロス」「さらば愛しきルパンよ」は入るとして、今までの流れから考えると『旧ルパン』の「黄金の大勝負!」も入りそう。残り1本は『旧ルパン』なら「脱獄のチャンスは一度」「十三代五ヱ門登場」「7番目の橋が落ちるとき」あたり、『新ルパン』なら「哀しみの斬鉄剣」「国境は別れの顔」あたりか。『新ルパン』の「ICPO(秘)指令」「君はネコ ぼくはカツオ節」、『PARTIII』の「ニューヨークの幽霊」「カクテルの名は復讐」あたりがくると、僕的には嬉しい。

2017年11月16日(木)
ある作品のレイアウトを見ていたのだけれど、監督修正が猛烈に上手い。昔のTVシリーズの巧い作画監督的な巧さで、えらく画が決まっている。しかも、この作品だと、演出、作画監督がチェックした後に監督がチェックを入れている模様。総作監とチェックするカットを分けているのだろうか。
イベント関連で動きがいくつかあった。来年1月に予定していたイベントのひとつが2月以降に延期。それと別に前から準備していたイベントが中止。企画していたイベントの全てが実現したら、12月と1月で4回イベントをやることになっていたはずで、それはそれでしんどかったけれど。それと、オールナイトの企画もひとつ、没になった。まあ、そんな日もある。

2017年11月17日(金)
作業をしながら『機動警察パトレイバー』の初期OVAシリーズ(アーリーデイズ)を流す。面白いなあ。3話、4話を観るのはリリース時以来かもしれない。3話、4話はリリース当時は「え~~」と思いながら観ていたんだけど。 仕事の合間に「少女革命ウテナTVアニメ20周年記念展」に行く。予想していたよりも資料が充実。お客さん達が熱心に見ていたのも嬉しかった。実は展示で使える『少女革命ウテナ』の資料が手元にあり、今回のイベントで提供しようかと思ったのだけど、実現しなかった。それは別の機会に。

 声優の鶴ひろみさんが亡くなられたことが報じられた。亡くなったのは11月16日(木)だそうだ。『ペリーヌ物語』のペリーヌ役、『DRAGON BALL』のブルマ役、『きまぐれオレンジ☆ロード』の鮎川まどか役、『それいけ!アンパンマン』のドキンちゃん役が印象的だ。僕は書籍「キャラクターボイスコレクション」で取材させていただいた。色々なお話をうかがったのだが、10年後か20年後にまた話を聞きたいと思った。お話をうかがって、ちょっと気になることがあり、鶴さんがどんなふうに歩んでいくのかが気になったのだ。だけど、その願いは実現しなかった。心よりご冥福をお祈り致します。

2017年11月18日(土)
原稿を書いていて、自分にとって一番のキャプションが書けた。多分、この数年のベストだ。チェックに出す前に「やっぱりやめた」と思わなければこのままで。
「別冊映画秘宝特撮秘宝」で、気になっていた「検証・11月の傑作選」に目を通す。會川昇さんの原稿だ。「帰ってきたウルトラマン」の「11月の傑作選」について、その呼び名が生まれて、活字になるまでが検証されており、大変に興味深い。当時、僕は「ウルトラマン大百科」の「11月の傑作選」についてのコラムの「怪獣ファンは……」という記述について、「この怪獣ファンって誰なんだ」と思っていた。その謎が解けました。ありがとうございます。