第690回 また新しい年の始まり

重ね重ね、1月8日(金)から『蜘蛛ですが、なにか?』放映開始になります! スタッフ一同頑張ってて、鋭意制作中! 是非観てください!

 でも一応放映前なので、今週はまだ詳しい話はしないほうがよいかと思うので、内容になるべく触れないようにします、あしからず。

監督と名乗るからにはできるだけ多くコンテを切る(描く)、いつものこと!

 今作もほぼ全話のコンテを切ってます。まあ現場(制作会社)の体制にもよりますが、少なくとも今のミルパンセでは、自分がアクションと止めのメリハリを計算に入れた費用対効果の高いコンテを上げたほうが、クオリティ・コントロールがしやすいってことです。しかし、その機能性云々とは別に、この『蜘蛛』に関しては、やはり全話自分でコンテを描き連ねたほうが結果良かったと思います。なぜなら、いわゆる「異世界転生」ブーム真っ盛りのこの現代において、板垣は全く「異世界」にも「転生」にも精通しておらず、剣と魔法の世界にも詳しくなく、RPGとかいうのももう30年以上やったことがなくて、「ステータスの意味は?」「HPって何?」など、専門用語を助監督および周りのスタッフに教わりながらのコンテ作業だったからです。つまりそれこそ、まるで自分自身が本当に異世界に迷い込んだ気分を味わえて、いつにも増して楽しんでコンテを切りました。なので取りあえず、観てください!

 皆さん、お待たせしました。アニメーター&キャラクターデザイナーとして活躍し、多くのファンに支持されているクリエイター、川元利浩の作品集を刊行します。刊行するのはイラストレーションを集めたイラスト集「川元利浩アニメーション画集 TOSHIHIRO KAWAMOTO ARTWORKS : THE RELUCENT 2006-2020」です。さらにその「川元利浩アニメーション画集」にデザイン画集、原画集、サイン入り複製色紙を加えた「川元利浩アニメーション画集 スペシャルセット(直筆サイン入り複製色紙付き)」も発売します。なお、サイン入り複製色紙は、イラストを印刷した色紙の1枚1枚に、川元利浩が直にサインを入れたものとなります。
 以下にその内容を紹介します。

画集川元利浩アニメーション画集 TOSHIHIRO KAWAMOTO ARTWORKS : THE RELUCENT 2006-2020

 「川元利浩アニメーション画集」には、川元利浩が2006年以降に発表したイラストの大半を収録します。収録作品は『カウボーイビバップ』『血界戦線』『血界戦線 & BEYOND』『ノラガミ』『ノラガミ ARAGOTO』『トワノクオン』『天保異聞 妖奇士』「機動戦士ガンダムシリーズ」等。イラストだけでなく、イラスト作成のために描かれたラフや線画まで収録。A4変型(縦297mm×横220mm)で本文200ページを越えるボリュームたっぷりの書籍となります。表紙イラストは川元利浩による描きおろしです。

キャラクターデザイン集川元利浩アニメーション画集[デザイン編]/The Design Works of Toshihiro Kawamoto

 「川元利浩アニメーション画集[デザイン編]」は川元利浩が描いたキャラクターのデザイン画(線画)を収録した書籍です。B4変型(縦266mm×横364mm)の大型サイズで、本文140ページを予定。『血界戦線』『ノラガミ』等のより緻密に描き込まれた近年のデザイン画、鉛筆で描かれた原版が残っていたものは原稿原寸のB4サイズで収録します。収録作品は『血界戦線』『ノラガミ』『トワノクオン』『天保異聞 妖奇士』『GOLDEN BOY さすらいのお勉強野郎』『おいら宇宙の探鉱夫』(制作年順)を予定しています。一流キャラクターデザイナーの線の魅力が楽しめる一冊です。

原画集川元利浩アニメーション画集[原画編]/The Key Animations of Toshihiro Kawamoto

 「川元利浩アニメーション画集[原画編]」は川元利浩がアニメーション制作過程で描いた原画(修正原画)を収録した書籍です。判型はA4正寸(縦210mm×横297mm)で本文280ページを予定。川元利浩としては初の原画集となります。キャラクターデザイン・作画監督として参加した『カウボーイビバップ』『血界戦線』等だけでなく、作画監督・原画として参加した『宇宙戦艦ヤマト2199』等の原画も収録します。

サイン入り複製色紙

 川元利浩による描きおろしイラストを印刷した色紙に、彼が直にサインを入れたものです。作品は『カウボーイビバップ』『WOLF’S RAIN』』『血界戦線』『ノラガミ』で、そのうちの1枚が「川元利浩アニメーション画集 スペシャルセット(直筆サイン入り複製色紙付き)」につきます。色紙の作品は購入時に選ぶことが可能です。

価格・販売方法など

 「川元利浩アニメーション画集」の定価は4000円+税。Amazon、「アニメスタイル ONLINE SHOP」、イベント、一部の書店で2021年3月後半から発売します。

 「川元利浩アニメーション画集 スペシャルセット(直筆サイン入り複製色紙付き)」の定価は9000円+税。2021年1月7日から、WEBの「アニメスタイル ONLINE SHOP」の特別ページで受付を開始し、2021年3月後半から発送を開始する予定です。なお、本セットは限定販売商品であり、予約が予定生産数に達することがありましたら、販売を終了します。

 また、直筆サイン入り複製色紙がつかない「川元利浩アニメーション画集 スペシャルセット」も販売します。こちらも「アニメスタイル ONLINE SHOP」の特設ページで販売します。定価は8000円+税となります。

川元利浩 プロフィール
1963年7月15日生まれ、三重県出身。アニメーター、キャラクターデザイナーとして活躍。代表的な仕事に『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』『超時空世紀オーガス02』『おいら宇宙の探鉱夫』『GOLDEN BOY さすらいのお勉強野郎』『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』『カウボーイビバップ』『WOLF’S RAIN』『天保異聞 妖奇士』『GOSICK-ゴシック-』『トワノクオン』『テンカイナイト』『ノラガミ』『血界戦線』等がある。株式会社ボンズ取締役。

リンク
「アニメスタイル ONLINE SHOP」の特設ページ
https://animestyle-shop.sakura.ne.jp/main/

▲以上の情報は2021年1月7日現在のものです。商品の内容等を変更する場合があります。変更があった際はこのページの情報を追記・変更いたします。

アニメ様の『タイトル未定』
284 アニメ様日記 2020年11月1日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2020年11月1日(日)
午前中は「佐藤順一の昔から今まで」の原稿まとめ作業。13時に渋谷のモヤイ像前で待ち合わせして、吉松さんと「ドラゴンクエストウォーク」をやりながら散歩。渋谷を出発して、明治神宮を経由して新宿まで。その後、吉松さんお気に入りの「美味しくはないけど好きな店」で飲む。確かに美味しくはないけど、いい店だ。吉松さんと別れて、新宿から池袋まで歩く。

2020年11月2日(月)
午前1時くらいに事務所に入る。タイプミスではない。深夜の1時に事務所に入った。『未来少年コナン』最終回を観るためにこの時間に起きたわけではないけれど、最終回ラストシーンをリアルタイムで観ることができた。今回の再放送ではSNSが盛り上がった。皆が『未来少年コナン』の話をしているのが楽しかった。また『ふしぎの海のナディア』をNHKで再放送することがあったら、同じように深夜にやってほしい。
その後は早朝散歩とデスクワーク。YEBISU GARDEN CINEMAの15時10分からの回で『ウルフウォーカー』吹き替え版を鑑賞。画作りが独特で魅力的。ユルめのダイエットを始めた。酒量も減らすことにした。YEBISU GARDEN CINEMAの帰り道で旨そうな店をいくつも見つけたのだけど、酒を呑みたくなりそうなので我慢。カウンターだけの店でうどんを食べた。

2020年11月3日(火)
「佐藤順一の昔から今まで」の原稿まとめを続ける。珍しく映像も流さず、音楽も聴かず、原稿を進める。夜は田島列島さんの「水は海に向かって流れる」を読む。雰囲気がいいのか、キャラクターがいいのか、とにかく楽しめた。女性キャラのセリフがよかった。

2020年11月4日(水)
ワイフとの早朝散歩は続いている。この日は鬼子母神方面を歩いた。確認することがあってdアニメストアで『ビックリマン』を流しながら作業をする。天子男ジャックの声が山本圭子さんだなんて忘れていたけど、声を聞く前にキャラクターの顔を見て「あ、山本圭子さんだ」と思った。顔か。天子男ジャックの顔が「山本圭子キャラ」の顔なのか。聖フェニックスの高戸靖広さんの芝居が味わい深くてよいと、改めて思う。午後にまた散歩。オールナイト企画でNGが出たり、企画の延期があったり。半分はコロナのせいなので仕方がないのだが、イベント企画がなかなか上手くいかない状況となっている。
寝る前に、Kindleで「チェンソーマン」9巻を読む。直前の展開を忘れていたので、1巻から8巻まで読み直してから、9巻を読む。今連載している辺りは原作全体で言うと、どのくらいのところまできているのだろうか。まだまだ先があると思うけれど(後日追記。この時の僕の読みは大外れ。既に連載は最終回が近かった)。

2020年11月5日(木)
引き続き、「佐藤順一の昔から今まで」の原稿作業。OVA『ゲッターロボ アーク』の製作発表と共に、YouTubeで歴代OVA『ゲッターロボ』の配信が始まった(配信されていたのは11月2日~9日)。『真(チェンジ!!)ゲッターロボ 世界最後の日』を1話から9話まで観る。懐かしいなあ。監督交代がなかったら4話以降はどんな展開になったんだろう。富野由悠季監督作品のサントラが、各音楽配信サービスで配信開始。まずは『戦闘メカ ザブングル』のサントラを聴く。

2020年11月6日(金)
ワイフとの早朝散歩以外はデスクワーク。作業が一段落したら午後から出かけるつもりだったけど、そういうわけにもいかず、夕方まで事務所で作業。『真(チェンジ!!)ゲッターロボ 世界最後の日』を最終回まで観て、同じく配信中の『真ゲッターロボ対ネオゲッターロボ』を全話観た後、『新ゲッターロボ』を途中まで観る。

2020年11月7日(土)
ユルめのダイエットは続いている。表参道で開催中の「小林七郎・忠隈真理子 二人展「多様性」」に行く。小林さんの絵画は、アニメでのお仕事に通じるものがあった。帰りは表参道から千駄ヶ谷まで歩く。途中で寄った古本屋で、背表紙が赤の本ばかりを並べた棚(ジャンルはバラバラ)があって感心する。
Kindleで田島列島さんの「田島列島短編集 ごあいさつ」「子供はわかってあげない(上)」「(下)」を読む。

佐藤順一の昔から今まで(9)『ポケットの中の戦争』と『悪魔くん』

小黒 で、その頃の東映以外の仕事に『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』(OVA・1989年)があるわけですね。2話と5話の絵コンテを担当されていますね。

佐藤 『0080』は高梨さんが紹介してくれたもので、それから高山(文彦)さんと打ち合わせをしたようなところですかね。

小黒 なるほど。脚本はそのまま絵コンテに移し替えられるぐらいのものだったんでしょうか。

佐藤 『0080』は少しいじってるんですよね。変えた内容を細かくは覚えていないんですが、5話のラストシーンに関しては、後で会った人に「5話のコンテを見たけれど、佐藤さんのコンテのほうが納得いった」と言われた記憶があるので、多分気になるポイントがあったんでしょうね。シナリオは高山さんだったかな。

小黒 シナリオは山賀(博之)さんです。

佐藤 そうか、山賀さんか。『0080』って市街戦やゲリラ戦をやったりして『Zガンダム』よりも現実味が強いじゃないですか。そういったネタを扱っているのに、ドラマの描写が戦争ものとしてはありがちなパーツで埋め尽くされている感じが気になっていたんです。描かれる悲劇も、子供と心を通わせた青年が最後に戦いの中で散っていくことも含めて、ステレオタイプなものに思えた。そして、恋をしそうになる女性パイロットの扱いも、「ううーん」みたいな。そんなにリアルじゃないロボットアクション作品だったらいいんだけど、リアルな戦争を描いていますよ的なスタンスのドラマだったので、気になったんだと思います。

小黒 でも、絵コンテとしては、そこは抗うわけにいかないですよね。

佐藤 そうですね。ただ、それで5話のラストをちょっと変えたと思うんですよ。最終的にシナリオに沿ったかたちに戻されていると思うんだけど、引っかかったところは引っかかったなりに処理をして渡した記憶が。

小黒 脚本をアレンジした絵コンテを提出したけど、その後の過程で元の流れに戻っているということですね。

佐藤 そうですね、戻ってますね。

小黒 2話でアルが車を走って追いかけるという場面があって、その中にマンガっぽい感じの長回しのカットがあるんです。あれは佐藤さんが膨らました部分ではないんですか。

佐藤 いやあ、覚えてないなあ。もともと僕の地がマンガっぽい演出スタイルだからやったのかもしれないけど、『0080』はマンガっぽくするよりも、体感できる芝居を入れていったほうがいいのかなと思っていたんです。実際にその描写が残っているかどうかは分からないけど、バーニィが座る前に、足で砂をザッザッって払ってから座るとか、そういうことを僕はコンテでいっぱいやっています。それで、原画で参加していた稲野(義信)さんから「面倒くさいんだよなー」って苦笑いされました。

小黒 バーニィと会話していたアルが立ち去る時に、わざわざカバンを拾うワンアクション入れて立ち去る。で、また戻って来て話をするとかですね。

佐藤 面倒くさいことをやってるんですよ(笑)。『0080』はリアリティ志向でそういうのがほしいのかなと思って入れたんですけどね(笑)。

小黒 この頃のペンネームの仕事の中で意外とボリュームがあるのが『ちびまる子ちゃん』(TV・1990年)ですね。

佐藤 『ちびまる子ちゃん』は、『悪魔くん』(TV・1989年)で一緒にやってくれたライフワークという制作会社があって、そこからコンテを発注されたという流れで参加しましたね。これもコンテのみのお手伝いですね。

小黒 ペンネームが天上はじめですね。どうして天上はじめなんですか。

佐藤 これはなんでですかねえ。覚えてないですね。付けるのが面倒くさかったからラーメンの天下一品ラーメン辺りから取ることにして、天下じゃそのままだから天上にしようかとか、そのぐらいラフな発想ですね、きっと。

小黒 肩の力を抜いて楽にできるお仕事だったんでしょうか。

佐藤 そうですね。そんなにしんどくはなかったです。でも、芝山(努)さんの作る世界観や仕事には敬意を持っていたので、機会があったらやってみたいなあという気持ちはありましたね。『ちびまる子ちゃん』は世界観の作り方や、平面的なレイアウト等も含めて、指針がはっきりしていました。そういう作品をやるのにも興味ありましたからね。

小黒 『ちびまる子ちゃん』の1期は構図が本当に平面的で、道を歩いてるキャラクターが、寝そべってるように見えるぐらいでしたよね。そういったスタイルについては口頭で説明を受けたんでしょうか。

佐藤 「こういうふうにしてほしい」という演出メモみたいなものがありましたから、言葉だけじゃなかったと思います。

小黒 なるほど。『きんぎょ注意報!』(TV・1991年)は『ちびまる子ちゃん』の後なんですけど、漫符の使い方について『ちびまる子』からの影響はないですか。

佐藤 『ちびまる子』からの影響っていうのは特にないですね。そもそも『ちびまる子』は放映自体をそんなに観てるわけではないので。

小黒 『ちびまる子』も顔に縦線が入ったりするじゃないですか。

佐藤 顔に縦線とか、びっくり星が出るという表現は、『ビックリマン』の担当回でもちょいちょいやってると思うんです。だから、そういうマンガ的な表現を入れていくことに、割と抵抗がない。積極的にやっていたというよりも抵抗がないという感じだと思います。マンガ表現って意外と初号で受けるんですよね。なので頻繁に使っていた気はします。

小黒 東映のお仕事の話に戻ります。『悪魔くん』で久々にシリーズディレクターですね。これはどういった取り組みだったんでしょうか。

佐藤 『メモル』とかで可愛がってくれた旗野さんがプロデューサーをやるということで、呼ばれました。でも、旗野さんは体調を崩されてしまって、放送前に横山(和夫)さんと交代してお休みされることになったんですが、僕はそのまま『悪魔くん』を引き受けてやりました、という感じですね。

小黒 作品としては、立ち上げから関わっているわけですか。

佐藤 そうなんですけれども、旗野さんは『悪魔くん』を「和風ホラーみたいなテイストで展開していきたい」と話していて、そのつもりで準備していたんですけど、横山さんに交代した時点で「これは少年ヒーローものにする」って、方針が変わったんですよ。準備の時間があまりなかったこともあったので、自分の意見はあまり出さずに、横山さんが何をやるか聞いて、それについていこうと。だから、自分のスタンスとしは2~3歩下がっているんですよ。方向性が結構変わったので、その中で現場を上手くまわすための取り組み方になるんですよね。

小黒 少年アクションものと言いつつ好戦的じゃなくて、レギュラーキャラが紳士的で穏やかですよね。このテイストはどなたの持ち味なんでしょうか。

佐藤 それはもともとの水木(しげる)さんの「悪魔くん」が持っていたものじゃないかなあ。

小黒  この取材の前に「コミックボンボン」版の「悪魔くん」を読んだんですが、アニメのほうがちょっと上品というか、柔らかい感じになっていると思います。

佐藤 横山さんは「ヒーローものなんだけど、やっぱり友情だよ友情!」と言っていたし、友情推しはあったかもしれない。

小黒 なるほど。

佐藤 それが優しいテイストになったのは、もしかしたら鈴木欽一郎さんの画の個性による部分もあるかもしれないです。「殺伐とした世界観にしないようにしよう」とか、「目指すものは友情と暖かさとほのぼのである」みたいな方向性が出されたわけではないので。

小黒 なるほど。作っている内に自然とああなっていった?

佐藤 そうですね。悪魔くんの家族の、ちょっと抜けた感じとかね。

小黒 ああいう部分は佐藤さんは好きそうですよね。

佐藤 あの辺の間抜け感は確かに(笑)。でも、その中でも明比(正行)さんがやった回とか、山内(重保)さんの回って、結構シビアな戦いのシーンがありませんでしたっけ?

小黒 エピソードによってはありますね。

佐藤 ありますよね。

小黒 佐藤さんは『悪魔くん』ではシリーズディレクターと言いつつ、絵コンテと演出をやったのは第1話のみ、絵コンテが2回あるだけで、あとは劇場版の参加になるんですよね。

佐藤 そうですね、TVをやってる内に劇場のほうに行くことになってしまったので、結構ノータッチなんですよね。

小黒 脚本打ちはずっと出てるんですか。

佐藤 ほぼ全部出てるはずですが、後半はちょっと出てないかもしれないですね。

小黒 「コミックボンボン」版の「悪魔くん」って、終わりのほうで巫女さん風の衣装を着た少女が悪魔くんの彼女的なポジションとして出てきて、幽子が嫉妬するような展開になるんですよ。アニメがもっと続いたら、このキャラクターが出てきたんですかね?

佐藤 あったかもしれないですね。排除する理由がないですよね。

小黒 鳥乙女は、原作では途中からの登場ですが、アニメでは最初から出てきます。原作がアニメに合わせて変更したということですよね。十二使徒のキャラクターをどういったかたちにするかに関しては、佐藤さんも関わってるんですか。

佐藤 勿論、打ち合わせには参加してますね。鳥乙女を入れようと話をしてるところにも立ち会っています。ただ、その辺のネタ元を作っているのも横山さんですね。

小黒 横山さんなんですね。

佐藤 横山さんはそういった設定周りを自分で作るタイプのプロデューサーだったんです。それもあって、僕は様子見をしていた。

小黒 各話に関しても横山さんのテイストは出てるんですか。

佐藤 そうですね。ホン読みを仕切って方向性を決めていったのも、基本は横山さんなので。

小黒 『悪魔くん』の2本の劇場版についてはいかがですか。

佐藤 劇場版はつらかった記憶しかないので、あんま覚えてないんですよね(笑)。シナリオの初稿ぐらいが出来てた段階での参加なんじゃなかったかな? 『悪魔くん』との関わり自体が様子見だったのと、劇場作品があんまり得意ではないところに持ってこられたのもあって「これどうするんだ?」「どっちにいくんだろう?」と眺めていた記憶がありますかね(笑)。

小黒 1989年7月に劇場版1作目『悪魔くん』が公開で、翌1990年3月に『悪魔くん ようこそ悪魔ランドへ!!』が公開されます。しかも、その間にOVAの『気ままにアイドル』が入ってる。

佐藤 『気ままにアイドル』って、その間なんだ!?

小黒 『気ままにアイドル』が1990年2月に発売だから、『ようこそ悪魔ランドへ!!』のひと月前ですよ。凄いスピードで作品を発表していますね。

佐藤 マジか。じゃあ、そこが五十嵐(卓哉)との出会いだ。

小黒 五十嵐さんが『気ままにアイドル』に参加しているんですか。

佐藤 助手をやってたはずだし、『悪魔ランド』でも監督助手だったと思います。立て続けに助手をやってもらったのを覚えています。そうそう、『気ままにアイドル』は高梨さんからのオファーでしたね。

小黒 これは制作的な条件が厳しかったんじゃないですか。

佐藤 厳しかったですね。バンダイビジュアルが用意した予算は決して少ないものではなかったんですが、東映はその中から管理費を抜いた金額で制作するんです。それは会社としては当たり前のことなんですけど、そのためにあの人を使いたい、こういうことをやりたいということが一切できなかった。高梨さんも僕も、作品が動き出してからそういった現実を思い知ったんです。バンダイビジュアルとしてはこのぐらいの予算なら、このぐらいのクオリティでできると思っていたんだけど、そのクオリティに達することはできなかった。OVAとして単体で売ることが厳しい出来になってしまったんです。東映も今は考え方が変わって、OVA等を作る時の体制は当時と違うでしょうけどね。

小黒 『悪魔くん』に戻りますね。劇場第2作の『ようこそ悪魔ランド』は、原画のクレジットが新岡浩美さんだけなんですが、新岡さんの一人原画なんですか。

佐藤 そうですね。多少誰かが手伝ってたかもしれないけれど、ほとんど新岡さんじゃないかな。表情が新岡さんの画ですもんね。

小黒  新岡さんのパワーなら全部を描いているかもしれないですね。

佐藤 そう。パワーが凄いからね。全部を描いていたとしてもおかしくないと思います。


●佐藤順一の昔から今まで (10)『もーれつア太郎』と『五月はじめ、日曜の朝』 に続く


●イントロダクション&目次

第172回アニメスタイルイベント 
ここまで調べた片渕須直監督次回作

 アニメスタイルイベントに片渕須直監督の「ここまで調べた」シリーズが帰ってきます。アニメスタイルは2013年から2018年までに「ここまで調べた『この世界の片隅に』」のタイトルで9回のトークイベントを開催し、『この世界の片隅に』のために片渕須直監督をはじめスタッフ達が調べた、舞台や時代風俗の調査結果を披露していただきました。

 現在、片渕監督は『この世界の片隅に』『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』に続く、新作劇場アニメーションを準備中です。新作のタイトルや内容は発表になっていませんが、平安時代に関するものであるようです。
 新作の制作にあたって片渕監督はその時代のことなどを調査研究しています。今回のイベントではなにを調査しているのか、どこまで研究が進んでいるのかなどをお話していいただく予定です。「枕草子」に目を通してから来場されるとよいかもしれません。

 開催日時は2021年1月9日(土)の昼。会場は新宿のLOFT/PLUS ONEです。前売りチケットについて詳しくは以下にリンクしたLOFT/PLUS ONEのサイトでご確認ください。なお、今回のイベントは配信の予定はありません。
 また、会場では「この世界の片隅に 絵コンテ[最長版]」上巻、下巻を片渕監督のサイン入りで販売する予定です。

 LOFT/PLUS ONEを含むLOFTの会場は厚生労働省が定めた、新型コロナウイルス感染症に関するガイドラインを遵守し、さらにガイドラインよりも厳しいLOFT独自の基準を設けて、万全を期してイベントを開催しています。
 来場されるお客様にはマスクの着用、手指の消毒をお願いしています。消毒液は会場に用意してあります。また、体調の優れないお客様は来場をお控えください。

 同じく新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止の観点から、今回のイベントは通常の半分ほどの人数で定員となります。また、飲食物についてはお客様がカウンターで注文し、その場で代金を支払うキャッシュオン形式となります。

■関連リンク
LOFT/PLUS ONE
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/plusone/166545

第172回アニメスタイルイベント
ここまで調べた片渕須直監督次回作

開催日

2021年1月9日(土)
開場12時半 開演13時 終演16時

会場

LOFT/PLUS ONE

出演

片渕須直、小黒祐一郎(司会)

チケット

前売1500円 当日1800円

■アニメスタイルのトークイベントについて
  アニメスタイル編集部が開催する一連のトークイベントは、イベンターによるショーアップされたものとは異なり、クリエイターのお話、あるいはファントークをメインとする、非常にシンプルなものだ。出演者のほとんどは人前で喋ることに慣れていないし、進行や構成についても至らないところがあるかもしれない。その点は、あらかじめお断りしておく。

第689回 来年は蜘蛛年!

うわっ! もう今年——2020年が終わる!?

 ま、でもコ○ナとかで世の中いろいろ変わってしまったことがあったけど、なんとか仕事をやらせていただけて本当に感謝しかない1年間でした。で、

来年1月放映開始で2クール(6月いっぱいまで)の新作『蜘蛛ですが、なにか?』!

 PVに続き、某アニメとのコラボ特番にて10分程度のダイジェスト版が流れたようで、視聴可能な方は是非観てみてください。海外合作時代のテレコム・アニメーションフィルム出身の板垣は、同年代のアニメーターの中では比較的、犬・猫・馬などの4本脚の動物は描いてきた方だと思います。『もののけ姫』でも山犬や猪の走りの動画をやったし。ところが今回の蜘蛛は脚8本! 倍! これはもう作画とCGの分担で巧くやるしかない! そうして仕上がった蜘蛛の動きはかなりいい感じで、脚音のSE(効果音)も気に入ってます。どんな音になっているかは1話でご確認どうぞ。
 でも今回改めて、

俺、やっぱりアニメ作るの大好きなんだ!

と思いました。「CGと作画のハイブリッドで」との企画だったので、結構動かすコンテを切った(描いた)のですが、かなり凝ったカメラワーク(今作はいつにも増して変なカメラアングルをたくさんやってます!)もCGスタッフの方々が実にカッコよくこなしてくださって、ラッシュ(フィルムの上がり)を観るのが日々の楽しみになってます。CGも作画も関係なく、問答無用に動く画を作るのが面白い! 予算(制作費)に合わせてコンテで止めメインのカット割りにせざるをえない作品もあるのですが、止めでも数秒(場合によって数十秒)ごとにカットが移り替わってゆく、ということは一編のフィルムとしては動いているのです! そーゆーフィルムとしての動きも含めたアニメ作りが好きなんです。そこを踏まえた上でも(?)今回の『蜘蛛』は動いてます。自分の考えるカッコよさが良く出てると思うので、是非是非2021年、観てください、って……

アニメ様の『タイトル未定』
283 アニメ様日記 2020年10月25日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2020年10月25日(日)
早朝散歩の途中で、24時間営業の山下書店で雑誌を数冊買い込む。「an・an」の『鬼滅の刃』特集は充実した内容。「ViVi」の『魔女見習いをさがして』は意表を突いた馬越嘉彦さんの描き下ろしがあった(クレジットはないけれど、馬越さんの画だろうと思う)。関弘美プロデューサーのインタビューは、LINEのスクショが並んでいるというものなんだけど、なんとなく見た目がお洒落。
池袋HUMAXシネマズの8時30分からの回で『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』を鑑賞。天気がよかったのでワイフと散歩に。椎名町の古本屋をのぞいたり、神社に寄ったり。事務所へ戻ってデスクワーク。
就寝前に「異世界おじさん」を最新5巻まで読む。「どうにかなる日々 新装版 みどり」「どうにかなる日々 新装版 ピンク」に目を通す。

2020年10月26日(月)
「なつぞらのアニメーション資料集[劇中アニメ・小道具編]」 の校了作業が進む。それから、次の次に作る書籍のプランを練りなおす。Amazonから「高畠聡アニメーション精密背景原図集」が届く。あの作品のこのカットの原図はこの方の仕事だったのか。それが分かっただけでも嬉しい。

2020年10月27日(火)
起きてスマホを見たら、知り合いのご夫婦に子どもが産まれたという報せが。朝からいい気分になる。ワイフとの早朝散歩は、歩いている時間は今までと変わらないのだが、日が短くなった分だけ、出会う猫の数が減ってきた。「なつぞらのアニメーション資料集[劇中アニメ・小道具編]」 の編集作業が終了。イベントの準備。次の書籍、次の次の書籍の準備。「水は海に向かって流れる」の1巻をKindleで読む。DVDソフトで『天保異聞 妖奇士』の再見を開始。
突然だけど、『鬼滅の刃  無限列車編』について。この作品の内容以外で感心するのは関連商品の多さ、雑誌記事の多さ、版権イラストの多さだ。商品化窓口、広報窓口、イラストの描き手の頑張りが尋常ではない。

2020年10月28日(水)
11月から2月前半までの仕事のスケジュールを組む。今までなら余裕のあるスケジュールなんだけど、コロナ以降、仕事のスピード感が落ちているからなあ。昼はワイフと、としまみどりの防災公園(IKE・SUNPARK)に。ハイボールを飲みつつ、公園に遊びに来ていた幼稚園の子ども達を眺める。食事をした後、また事務所に。これから作る書籍の収支について試算をする。夕方からある方と食事をしつつ打ち合わせ。

2020年10月29日(木)
国立新美術館で開催中の「MANGA都市TOKYO」に。「1/1000巨大東京都市模型」を中心にした展示の構成が上手い。展示内容については「有能な編集者が腕を振るった書籍」のようだと思った。夕方は打ち合わせで西武新宿線方面のアニメプロダクションに。『ノラガミ』の再視聴を開始。

2020年10月30日(金)
デスクワークの後、新文芸坐で「アニエスによるヴァルダ」(2019・仏/119分/DCP)と「ラ・ポワント・クールト」(1954・仏/80分/DCP)を観る。アニエス・ヴァルダ監督についてはほとんど知識がないのだけれど、予告で興味を惹かれて足を運ぶ気になった。観ている途中で気づいたけど、「ラ・ポワント・クールト」は『GHOST IN THE SHELL』終盤の印象的なカットの元ネタではないかとネットで指摘されていた映画だ。その後、花俟さんとアニメスタイルオールナイトの打ち合わせ。軽く食事をしてから、事務所に戻ってデスクワークの続き。
『ノラガミ』を最終回まで観て、『ノラガミ ARAGOTO』の再視聴を開始。『ノラガミ』と『ノラガミ ARAGOTO』と原作の記憶がゴッチャになっていることに気づく。

2020年10月31日(土)
デスクワークをはさんで、昼にワイフとIKEBUKURO LIVING LOOPに。大人の学園祭のような催しだ。チケットを買ってビールの飲み比べをしたり、凝った作りの綿菓子を食べたり。綿菓子を食べたのは40年ぶりくらいかもしれない。その後、ワイフは自宅に、自分は新文芸坐に。13時からの回で「ダゲール街の人々」(1975・仏/79分/DCP)を観る。「アニエスによるヴァルダ」「ラ・ポワント・クールト」と同じく、「珠玉の映画たち 追悼 アニエス・ヴァルダ」のプログラムだ。ある街の人々を撮っていくだけのドキュメンタリーで、どうやって終わらせるのかと思って観ていたら、最後は鮮やかに決めた。「ラ・ポワント・クールト」もラストがよかった。その後、またデスクワーク。今作っている書籍のために、ある作品のムック、イラスト集、Blu-ray BOXの特典冊子に目を通す。

第197回 すこやかな未来を祈って 〜ヒーリングっど・プリキュア〜

 腹巻猫です。『ヒーリングっど・プリキュア』(「・」はハートマークが正式表記)のオリジナル・サウンドトラック第2弾が12月23日に発売されます。今回も構成・解説・インタビューを担当しました。番組鑑賞のおともに、年末年始のBGMに、ぜひお聴きください。

ヒーリングっど・プリキュア オリジナル・サウンドトラック2 プリキュア・サウンド・オアシス!!
https://www.amazon.co.jp/dp/B08KYXFFWH/


 今回はサントラ第2弾発売を前に、『ヒーリングっど・プリキュア』のオリジナル・サウンドトラック第1弾を紹介して、本作の音楽をふりかえってみたい。
 TVアニメ『ヒーリングっど・プリキュア』は2020年2月から放送されているプリキュアシリーズ第17作目となる作品。
 地球をお手当てするヒーリングアニマルのパートナーに選ばれた少女たちが、プリキュアとなって、地球をむしばもうとするビョーゲンズに立ち向かう物語だ。
 音楽を担当したのは、プリキュアシリーズ初登板となる寺田志保。前作『スター☆トゥインクルプリキュア』では、林ゆうきと橘麻美が共同で音楽を手がけているが、女性作曲家が単独でプリキュアの音楽を担当するのは本作が初めてである。
 寺田志保は宮崎県出身。クラシック好きだった母親の影響で幼少時から音楽に親しみ、3歳よりピアノを習い始めた。小学生時代からエレクトーンに夢中になり、国立音楽大学在学中の1997年、ヤマハエレクトーンコンクール世界大会にて1位受賞。2007年に実写劇場作品「0からの風」の音楽を担当して映画音楽デビューを果たした。中学生時代に「ターミネーター2」のサウンドトラック・アルバムを聴いて以来、ハリウッド映画音楽のファンになったという。現在は、作・編曲家、キーボーディストとして、劇場作品、テレビ番組、ゲームなど幅広い分野で活躍している。
 映像音楽の代表作に、NHK BSプレミアムで放送中の科学番組「コズミックフロント☆NEXT」(2015〜)、特撮ドラマ「牙狼〈GARO〉」シリーズ(2006〜)、アニメ『イナズマイレブンGO』(2011)、『絶対防衛レヴィアタン』(2013)などがある。

 『ヒーリングっど・プリキュア』の音楽は生楽器中心のスタイル。打ち込みやエレキ楽器も使われているが、管楽器や弦楽器の温かい音色が耳に残る。ハリウッド映画音楽に通じる王道のサウンドが本作にはぴったりである。
 『ヒーリングっど・プリキュア』の世界は、地球上のさまざまなものに「エレメントさん」と呼ばれる精霊が宿っているという設定。プリキュアのモチーフも、花(キュアグレース)、水(キュアフォンテーヌ)、光(キュアスパークル)、風(キュアアース)と、古代ギリシャ人が考えた四大エレメント(地水火風)に対応している。大自然に根ざしたパワーが地球を癒やす力になっているのだ。
 だから音楽も、人の手や息が生み出す生命力を感じさせるサウンドがよく似合う。
 本作のサウンドトラック・アルバムは2020年5月に「ヒーリングっど・プリキュア オリジナル・サウンドトラック1 プリキュア・サウンド・ガーデン!!」のタイトルで発売された。選曲と構成は筆者が担当した。
 収録内容は以下のとおり。

  1. 輝くいのち
  2. ヒーリングっど・プリキュア Touch!!(TVサイズ)(歌:北川理恵)
  3. サブタイトル
  4. こんにちは!すこやか市
  5. 風薫る街
  6. 生きてるって感じ
  7. ヒーリングガーデン
  8. 癒やしのアニマルたち
  9. パートナーをさがして
  10. 逃げろや逃げろ
  11. ビョーゲンズのたくらみ
  12. 地球をむしばむ影
  13. メガビョーゲン出現!
  14. 心の肉球にキュンときたら
  15. スタート!プリキュア・オペレーション!
  16. 地球をお手当てします!
  17. プリキュア・ヒーリングフラワー!
  18. エレメントさんのちから
  19. お大事に
  20. ヒーリングキャッチ
  21. 夕暮れのもの思い
  22. どうすればいいのかな
  23. とんでもない思いつき
  24. チグハグなふたり
  25. ヒミツの匂い
  26. がんばれヒーリングアニマル
  27. 奇想天外大作戦
  28. 怪しすぎる影
  29. 不気味な気配
  30. 危機せまるとき
  31. 大暴れメガビョーゲン
  32. 闘いの嵐の中へ
  33. 必死の激闘
  34. 大切なものを守りたい
  35. たたかう地球のお医者さん
  36. プリキュア・ヒーリングオアシス!
  37. キミと一緒なら
  38. 生きるってすばらしい
  39. ミラクルっと・Link Ring!(TVサイズ)(歌:Machico)
  40. また見てね!

 TVサイズ主題歌2曲とBGM38曲を収録。最後の「また見てね!」はオープニング主題歌のカラオケを編集した次回予告音楽なので、正確には収録BGMは37曲である。
 選曲・構成は第8話までに使われた曲を中心にまとめた。本編では、主人公の少女たち=花寺のどか、沢泉ちゆ、平光ひなたの3人と「地球のお医者さん見習い」のヒーリングアニマル=ラビリン、ペギタン、ニャトランとのほほえましくも強い絆を感じさせる関係が印象的で、その温かい雰囲気をアルバムに反映しようと考えた。
 1曲目の「輝くいのち」は本作のメインテーマ。作品を貫くテーマである「癒やし」とのどかたちの日常をイメージした曲である。寺田志保によれば、1度書いた曲がリテイクとなり、書き直した曲も自分で納得できず、何度も書き直して、ようやくできあがったのがこの曲だそうだ。ハープのグリッサンドと弦のやさしいメロディの導入から、リズムが加わり、メインテーマのモチーフが弦楽器を主体に奏でられる。エレキギターによる躍動的な中間部をはさんで、フルートがメインテーマを反復し、弦と女声コーラス、エレキギターなどが合奏するクライマックスへ。クラシカルなテイストとロック的なテイストが合体した、心躍る楽曲になっている。このメインテーマのメロディは、さまざまに編曲されて、劇中に使用されている。
 オープニング主題歌とサブタイトル曲を挟み、トラック4「こんにちは!すこやか市」からトラック10「逃げろや逃げろ」までは、第1話〜第3話で使用された曲を中心に本作のやさしく温かい雰囲気を再現してみた。
 アコースティック楽器の音色がやさしい「こんにちは!すこやか市」と「風薫る街」は、物語の舞台となる地方都市「すこやか市」のようすを描写する曲。物語への導入の曲として選んだ。
 続くトラック6「生きてるって感じ」はメインテーマのポップな4ビートアレンジ。オルガンとサックスのかけ合いが楽しく、オールディーズっぽい香りもただよう。アバンタイトルでのどかたちが自己紹介する場面のBGMとしてもよく使われていた。本作を代表する楽曲のひとつ。
 トラック7「ヒーリングガーデン」とトラック8「癒やしのアニマルたち」は、ヒーリングガーデンとヒーリングアニマルの描写に使用された曲。「ヒーリングガーデン」はシンセサウンドが神秘性を感じさせるファンタジックな曲。「癒やしのアニマルたち」は弦と木管楽器を主体にしたぬくもりのあるサウンドで作られている。ここは作品の世界観を紹介するイメージで選曲した。
 トラック9「パートナーをさがして」とトラック10「逃げろや逃げろ」は第1話でラビリンたちがパートナーをさがす場面に流れたユーモラスな曲。どちらも音数の少ないシンプルな曲だが、実に楽しい。
 本作の音楽の特徴のひとつに、こうしたオトボケ曲の充実がある。ユーモラスだが品よく、音楽的に単調にならない工夫がこらされている。本編の雰囲気を支える重要な楽曲である。寺田志保本人もこうした曲がお気に入りなのだそうだ。
 アルバム後半にもヒーリングアニマルがらみのシーンでよく使われるユーモラスな曲を集めてみた。トラック23「とんでもない思いつき」からトラック27「奇想天外大作戦」までの5曲である。本アルバムのひそかな聴きどころと思っている。
 ちなみに、「パートナーをさがして」「逃げろや逃げろ」「ヒミツの匂い」の3曲は、番組最後のミニコーナー(「ほんものはどっち?」「パートナーをさがせ!」「エレメントさんどーこだ!」)のBGMにも使用されている。
 トラック12「地球をむしばむ影」からトラック17「プリキュア・ヒーリングフラワー!」は、ビョーゲンズ襲来〜プリキュア登場!〜バトル〜勝利をイメージした構成。
 メガビョーゲン出現を描写する「メガビョーゲン出現!」は序盤〜中盤〜後半と曲調が変わるドラマティックな曲。シリアスなタッチでビョーゲンズの脅威を表現し、危機感を盛り上げる。
 「心の肉球にキュンときたら」は、第1話でラビリンと出会ったのどかがプリキュアになる決意を固める場面に流れた曲。しだいに気持ちが高まり、熱くなっていくさまを伝える展開が最高だ。
 そして、ようやく出ました。プリキュア変身の曲「スタート!プリキュア・オペレーション!」。
 毎年話題になるプリキュア変身BGM。本作では、オーケストラにリズム楽器を加えたポップクラシックの編成で、華やかさと躍動感をあわせもった曲に仕上げられている。わくわく感あふれるイントロから弦合奏と女声コーラスによるファンタスティックなメロディへ。律動感のある曲調に転じるとエレキギターが加わり、プリキュアの強い意志と凛とした姿を表現する。中間部には、弦とピアノと女声コーラスによるやさしい曲調のパートが挿入される。この部分は本編では滅多に流れないので、ぜひサントラでフルサイズを聴いてほしい。ふたたび躍動感のある曲調に戻り、プリキュアの名乗りのバックに流れるサビのメロディが登場してコーダへ。たっぷり2分あまりの聴きごたえのある曲だ。なお、例年プリキュアの変身BGMは1人変身用のショートバージョンが別に作られるのだが、本作では長いバージョンのみが録音され、シーンに合わせて編集して使用されている。
 トラック16「地球をお手当てします!」はプリキュアのメインの活躍曲のひとつ。シンセのキャッチーなイントロに続いて、エレキギターが熱気みなぎるプレイを展開する。ドリーム・シアターやELP(エマーソン・レイク・アンド・パーマー)などのプログレッシブ・ロックにも傾倒したという寺田志保の一面が発揮された曲である。
 続く「プリキュア・ヒーリングフラワー!」は、キュアグレース、キュアフォンテーヌ、キュアスパークルの単独浄化技の曲。本作の音楽制作で最初に作ったのがこの曲だったそうだ。メインテーマ同様に、この曲も何度かの書き直しを経て完成した。キラキラしたシンセの導入から、弦楽器が刻むリフ、エレキギターからトランペットへと引き継がれるメロディ、クライマックスの弦合奏、と1分ほどの演奏時間の中で目まぐるしく曲が展開する。これも、サントラでじっくり聴いてもらいたい曲だ。
 トラック18「エレメントさんのちから」とトラック19「お大事に」で、闘いが終わったあとのエピローグを再現してみた。木管や弦楽器のぬくもりのある音色が、本作のテーマである「癒やし」を表現している。
 アイキャッチを挟んで、アルバム後半は繊細な心情曲や楽しい日常曲を配し、ビョーゲンズとプリキュアの激闘へと続く構成。
 トラック31からの3曲、「大暴れメガビョーゲン」「闘いの嵐の中へ」「必死の激闘」は激しいバトルを盛り上げる曲。寺田志保は「牙狼〈GARO〉」シリーズなどのアクション系作品の音楽も多く手がけており、こうした激しい曲もカッコよく、さまになっている。
 この3曲の中では、筆者は「闘いの嵐の中へ」が気に入っている。エレキギターのリフを導入に弦のスリリングでスピード感たっぷりのフレーズが展開する。闘いの緊張感とアクションの勢いが伝わってくる、まさに「嵐の中へ」というイメージの曲だ。「プリキュアには激しすぎるのでは?」と思ってしまうが、これだけ激しい曲のほうが映像にぴたりとはまるのである。
 トラック34「大切なものを守りたい」は、トラック14の「心の肉球にキュンときたら」とならぶ胸アツ曲。劣勢に陥っても使命感を胸に立ち上がるプリキュアの姿が目に浮かぶ。悲壮感ただよう中に心情の美しさまでも描いた名曲である。本編では、第3話でペギタンと一緒に闘う決意をしたちゆが「大切なものを守りたいの」とペギタンに語りかける場面が初出。曲名もそこから採っている。
 続いてのトラック35「たたかう地球のお医者さん」はプリキュアのメインの活躍曲。高らかに鳴り響くファンファーレから始まり、トランペット、エレキギターがメインテーマのメロディを変奏していく。中間部に弦の速いパッセージと女声コーラスによる間奏が挿入される。この構成がすごくいい。華麗に舞うプリキュアの姿が想像されてぞくぞくするところだ。メインテーマのメロディに戻ってコーダへ。この曲も本編でフルサイズ流れることは稀なので、サントラで堪能していただきたい。
 次の「プリキュア・ヒーリングオアシス!」は激闘のクライマックスを飾るプリキュア3人の合体技の曲。1分程度の中にオーケストラの音を詰め込んだ密度の高い曲である。
 BGMパートのラストは、トラック37「キミと一緒なら」とトラック38「生きるってすばらしい」の2曲で物語の余韻を味わってもらう流れにした。
 「キミと一緒なら」はメインテーマの変奏による友情のテーマ。弦合奏の音色がやさしく、胸にしみる。本編ではのどかたちの友情やヒーリングアニマルとの絆を表現する曲としてよく使われている。第16話で、のどか、ちゆ、ひなたの3人が永遠の大樹の下で友情を誓う場面に流れたのが感動的だった。この曲からリズムセクションを抜いた弦合奏のみのバージョンも劇中でよく使用されている(そのバージョンは『映画プリキュア ミラクルリープ みんなとの不思議な1日』のサントラに収録)。
 「生きるってすばらしい」は本編のラストや日常シーンによく使われている曲。晴れ晴れとしたよろこびを表現する明るく元気な曲だ。寺田志保はインタビューに答えて、日常や心情を表現する曲に本作のテーマである「癒やし」を盛り込んだと語っている。本アルバムも、聴き終わったあとで「癒やし」を感じてもらえるように、少しでも気持ちが元気になってもらえるようにと祈りを込めて構成した。音楽の力を感じ取ってもらえたら幸いである。

 さて、12月23日発売の「オリジナル・サウンドトラック2」は、追加録音曲を中心に、番組後半の展開をイメージして選曲・構成した。新たに加わったプリキュア=キュアアース関連の楽曲も、もちろん収録している。
 本作のために作られた楽曲は追加録音分も含めると80曲以上。サントラ2枚では収録しきれないボリュームだが、『映画プリキュアミラクルリープ みんなとの不思議な1日』のサントラ収録曲を合わせると、全Mナンバーの楽曲がそろうように工夫した。ぜひ、3枚とも手に入れて聴いてもらいたい。
 ただ、「オリジナル・サウンドトラック2」の後半には、まだ本編で流れていない楽曲も収録されている。本編を無心に楽しみたい方は、前半だけ聴いて、後半は最終回を迎えたあとにとっておくのがよいかもしれない。
 今年も残りあとわずか。新型コロナウイルスの猛威という予想外の出来事により、筆者にとっても苦闘の1年になった。健康で元気な日常が戻ってくるように、すこやかな未来を祈って。よいお年を。

ヒーリングっど・プリキュア オリジナル・サウンドトラック1 プリキュア・サウンド・ガーデン!!
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映画プリキュアミラクルリープ みんなとの不思議な1日 オリジナル・サウンドトラック
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ヒーリングっど・プリキュア オリジナル・サウンドトラック2 プリキュア・サウンド・オアシス!!
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佐藤順一の昔から今まで(8)横にならない大学生時代と『魔女の宅急便』

小黒 「佐藤順一の昔から今まで」2度目の取材です。よろしくお願いします。

佐藤 よろしくお願いします。

小黒 少し話を戻します。東映動画は東映株式会社と深い関係があり、 そのために体育会系的なところがあったのではないかと思うんですが、そこの空気には馴染めたんですか。

佐藤 確かに最初は慣れなかったですね。体育会系というよりも、映画屋なんですね。入ってからそれが分かるまで、そんなに時間は掛からなかった。当時は「演出は丁稚奉公から始めるのである」「背中を見て学べ」みたいなことが普通にあった世界だったね。上下関係も含めて、上司で面倒くさい人もいたから、「それは僕の仕事じゃないと思います」とか言って反抗したりしましたけど。

小黒 佐藤さんが入る前に新人を採用しない時期があったので、演出家の先輩はベテランばかりだったわけですよね。

佐藤 そうですね。久々に若手が入ってきたみたいな状況でしたね。

小黒 「東映の演出家はドシッと構えてなくてはいかん」といった空気もあったのでは?

佐藤 TVの各話演出であっても「1話1話が俺の作品だ」という監督気分でやってるんだなっていうのは、最初の頃から感じていましたよね。でも、そもそも東映に入って仕事を始めた頃は、東映が特殊なもんだとは思っていないから(笑)。外に出てから「東映ってそういうとこだったのか」と感じたことのほうが多かったかもしれない。

小黒 (各話演出ではなく)TVアニメ1話分の監督だっていうのは、昔からの東映動画の思想ですよね。

佐藤 そうです。1話毎に「なんとか組」って名前を付けたがる感じですよ。

小黒 ああ、勝間田組とか。

佐藤 そうそう。でもそれは、勝間田(具治)さんよりも次の世代の人達に多かったかも。

小黒 なるほど。『セーラームーン』の頃に、佐藤さんが「俺達が若かった頃は、会社で寝る時も腕を組んで、胸を張って寝たもんだ」と言っていたので、そういう心意気でやっていたのかと思っていました。

佐藤 どうだろうね。そもそも仕事を始める前の学生時代も、自分の部屋では座って寝てましたからね。

小黒 え、腕を組んで?

佐藤 横にならずに寝て。腕も組んでたでしょうし。

小黒 どうしてですか。

佐藤 横になって寝るのが面倒くさいんです。広い部屋でもないので、座ったら座ったまま寝落ちして、起きたらまた作業を始められるのが、自分の性分に合っていたので。だから、東映に入っても椅子で寝たりすることがまったく苦じゃなくて。「それじゃ疲れが取れないだろ」って言われますけども、疲れが取れるということの意味が分からないような感じですね。

小黒 アニメ界に入る前からそうなんですね。学生時代は、ずっとアニメを作ったりマンガを描いていたわけじゃないですよね?

佐藤 そうだけど、例えばクロッキー帳にイメージ画を描いてみたり、企画の原案のような画を描いてみたり、パラパラマンガを描いてみたりということはやっていました。自分のいつも使ってる机は、普通のデスクじゃなかったんです。両側に箱を置いて、その上に7ミリぐらいの厚さのすりガラスを載せて、ガラスの下に蛍光灯を置いて、それを机として使っていたんです。いつでも透写台として使えるようにはなってましたからね。

小黒 「人間というのは基本的に横にならないものだ」と。

佐藤 そういうものだと思って生きていましたね(笑)。

小黒 それはいつぐらいまでなんですか。

佐藤 結婚するまでは、そんな感じです。結婚した時に、ようやく横になって寝る習慣がつきました。

小黒 佐藤さんは眠りの時間が短いですよね?

佐藤 歳とともに寝る時間は短くなっていて、今は3時間から4時間ぐらい。年齢的なこともあると思いますけど、4時間以上継続して寝ることはあんまなくて、横になって寝てても必ず目が覚めるよね。

小黒 なるほど。面白いので深堀りしますが、若い頃は座ったまま8時間とか寝たんですか。

佐藤 寝ました寝ました。

小黒 体力があったんですね(笑)。

佐藤 まあそういうことですね。若いので何やっても無理が効きますからね(笑)。考えごととか、ものを読んだりすると寝落ちしちゃうんだけど。単純に画を描いてる作業をしてると意外と眠くならないというか。30時間ぐらい寝ないでいられたりしますね。

小黒 タフですね!

佐藤 もう今はできないですけど(笑)。

小黒 その頃の無理が今になって来ているんじゃないですか。

佐藤 まあ、それはあるかもしれないですけどね(笑)。それはしょうがないね。

小黒 でも、60歳まで現役で来られたんだから、プラマイでいったらプラスですよ。

佐藤 確かに50歳過ぎたら引退の道を行くのかなと思っていたから、それよりは長くやれてますよ。

小黒 で、前回『ビックリマン』まで話がきました。この前後に『魔女の宅急便』(劇場・1989年)があると思うんですが、これは話して大丈夫でしょうか。

佐藤 これに関しては、スタジオジブリの都合もあるだろうから分かんないですね。聞いてみてもらって、OKだったらいいですけど。

小黒 じゃあ、載せていいかどうか(鈴木)敏夫さんに聞いてみますよ(編注:鈴木敏夫プロデューサーに快諾していただきました)。これはいつぐらいでしたっけ?

佐藤 正確には覚えてないですね。

小黒 『魔女の宅急便』が公開されたのが1989年なので、佐藤さんに声が掛かったのはおそらく87年ぐらいじゃないかと。

佐藤 そうかもしれない。『メイプルタウン物語』は、もうやってたかもしれないなあ。

小黒 『パームタウン編』の頃じゃないですか。

佐藤 かもしれないですね。やるかやらないかについての話し合いをする期間が結構長かったんですよ。僕と鈴木さんとだけの話じゃなくて、交渉の窓口を徳間書店と東映に持っていって、上ですったもんだやった後に、さらにもう1回制作とやり取りするようなことを繰り返していたんです。

小黒 ここで読者に説明すると、当時、注目の若手演出家だった佐藤さんに、スタジオジブリで『魔女の宅急便』の監督をやらないかというオファーがあったんです。実はその人選には僕も関わっています。

佐藤 結局、ジブリでは監督をしなかったんだけどね。それが難しいのには別の事情もあったんです。当時、東映と自分達の待遇について交渉していたんですよ。組合にも入って、研修生という身分から、ちゃんと保証の付いた契約に切り替えてほしいと、我々研修生サイドと東映の総務との交渉が始まっていた頃なんですね。僕が研修生サイドの交渉の窓口になっていたので「ジブリで仕事をするので東映は辞めます」とは言いづらい状況でした。それで宮崎さんには「宮崎さんも組合をやってた方だから、その辺の事情は分かりますよね?」という気分で話してたんです。鈴木さんからは「東映を辞めないで出向というかたちにするから大丈夫だよ」と言ってもらい、交渉してもらったんですが、最終段階でやっぱり「東映動画としては人を貸し出すようなことはしない」ということになったんです。僕は東映を辞める訳にいかない状況だったので降りることになりました。

小黒 降板するまでの間にも、宮崎さんとの打ち合わせはあったんですよね。

佐藤 交渉を進めている間に「この原作をどうアレンジする?」とか「ライターは誰にしようかね?」等、ざっくりとした打ち合わせはありました。ただ、ライターさんが決まる前に外れたと思います。

小黒 そうだったんですね。

佐藤 僕も映画をどういうかたちにするか、まとめてるんですよ。確か、おソノさんの出産シーンをクライマックスに持っていったはずです。主人公が魔法が使えなくなっているところで、おソノさんが出産する。新しい命を生むということは、どうしてそんなことができるのか分からないような凄いことだ。それも一つの魔法ですよ、ということをクライマックスで見せて、それを主人公のラストに繋げていく構成で考えていました。

小黒 なるほど。

佐藤 「僕だったらこうする」という話はしてましたが、内容を詰める前の段階で終わっています。鈴木さんは脚本家の候補を挙げていましたが、オーダーまではしてないんじゃないかな。

小黒 その時は、実写映画と2本立てという話だったんですか。その後、片渕(須直)さんが監督候補になった時には、実写映画と2本立てだったらしいんですよ。

佐藤 いや、それは全然知らない。あったとしても聞いてない。プロジェクト自体がまだまだ組み立て中だったと思いますよね。「宅急便」がヤマト運輸の商標なので、何か関わってもらわないとできないなあ、みたいなことを言ってる段階ですよ。宮崎さんと話をしたのは組合のこととか、「じゃあ、君はどういう身の振り方をするのか」といった話でしたね。

小黒 作品の内容以外のことを話したんですね。

佐藤 そうでした。「この作品で何を描くの?」とか、「自分のモチベーションはなんだ?」みたいなことを話す機会はあったけど。

小黒 その時、宮崎さんは別の新作を作ってたんですか。

佐藤 僕の記憶だと、鈴木さんから「宮崎さんは自分で監督はやらないで後進の育成にあたると言ってる」と聞いているんです。「だから、宮さんが今後演出するということはないんだ。この先のジブリを支えていく若者や、アニメを支えていく若者にバトンを渡すための作品なんだよ」という説明を受けて、それは大変なことだと思って、臨んだ記憶があります。

小黒 なるほど。

佐藤 全然違ってましたけど。

小黒 宮崎さんはその後もずっと監督をやってますものね。『魔女の宅急便』も結局はご自身で監督をされたし。

佐藤 そうですね。自分がやってても、最終的には宮崎さんが監督になっていたかもしれないですしね。

小黒 『魔法使いTai!』で、主人公の沙絵がほうきにまたがるとお尻が痛くなるという描写がありましたよね。あれって『魔女の宅急便』の準備段階で考えたことだったのではないですか。

佐藤 ああ、そうだったかもしれないですね。その時に思いついたのかどうかは覚えてないけど。魔法使いがほうきに乗ったら、当然痛いだろうなあと思っていたはずです。

小黒 やっぱりそうですか。

佐藤 (笑)。それが特別なことだとは思ってないですからね。『魔法使いTai!』ではそこをクローズアップして、ちょっとエロチックにやりましたけれども。

小黒 それから『魔女の宅急便』に参加せず、本格劇場長編をやらなかったことが、『ユンカース・カム・ヒア』(劇場・1995年)に繋がったんじゃないですか。

佐藤 繋がりますね。まず、東映の状況が変わりました。『魔女宅』の頃の制作部長は「東映内で育てた人間を外に貸すようなかたちで活躍させることは映画屋としてやるべきではない」という考えを持っていたんです。その後『ユンカース』の頃には、タバックから来た千蔵(豊)さんが制作部長になられて、千蔵さんは「いや、どんどん外に行って武者修行してくるべきである。そして帰ってきた東映でさらに大きな仕事をしてくれればよい」と考えていたんですよ。だから『ユンカース』は東映在籍のままでやれたんです。ギャラも東映に1回払われて、東映から僕がもらうかたちになっていたんですね。

小黒 なるほど。


●佐藤順一の昔から今まで (9)『ポケットの中の戦争』と『悪魔くん』 に続く


●イントロダクション&目次

新文芸坐×アニメスタイル セレクションVol. 128
湯浅政明のセカイ

 2020年最後のオールナイトは「新文芸坐×アニメスタイル セレクションVol. 128 湯浅政明のセカイ」。湯浅政明さんが監督を務めた劇場アニメーション『マインド・ゲーム』『夜は短し歩けよ乙女』『夜明け告げるルーのうた』を上映します。いずれもアニメーションならではの楽しさに満ちた作品です。トークコーナーのゲストは湯浅さん。聞き手はアニメスタイルの小黒編集長が務めます。

 なお、新型コロナウイルス感染予防対策で、観客はマスクの着用が必要。入場時に検温・手指の消毒を行います。全席指定席で、前売り券の発売は12月19日(土)から。前売り券の発売方法については、新文芸坐のサイトをご覧になってください。

新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 128
湯浅政明のセカイ

開催日

2020年12月26日(土)

開場

開場:22時10分/開演:22時30分 終了:翌朝5時00分(予定)

会場

新文芸坐

料金

一般3000円、友の会2800円

トーク出演

湯浅政明(監督)、小黒祐一郎(アニメスタイル編集長)

上映タイトル

『夜明け告げるルーのうた』(2017/112分/DCP)
『夜は短し歩けよ乙女』(2017/93分/DCP)
『マインド・ゲーム』(2004/103分/35mm)

備考

※オールナイト上映につき18歳未満の方は入場不可
※トークショーの撮影・録音は禁止

●関連サイト
新文芸坐オフィシャルサイト
http://www.shin-bungeiza.com/

アニメ様の『タイトル未定』
282 アニメ様日記 2020年10月18日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2020年10月18日(日)
午前5時半に新文芸坐に。オールナイト「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol.126 没後10年 鬼才・今 敏の世界『妄想代理人』」の終幕を見届ける。午前中はワイフと谷根千を散歩。ワイフは前から行きたかったケーキ屋で、念願の栗のケーキを購入する。午後は事務所に入ってデスクワーク。
Kindle Unlimitedで高橋葉介さんの「師匠と弟子」下巻を読む。上巻の途中で既読であることに気づいたが、最後まで読んだ。何度も言ってるけど、高橋葉介作品を原作にして大人向きアニメを作るのはアリだと思う。

2020年10月19日(月)
「なつぞらのアニメーション資料集[劇中アニメ・小道具編]」 の編集作業が一山越える。10月16日の日記で「月曜が嵐のような一日になるかも」と書いたけれど、嵐はこなかった。つまり、関連各所のチェックで大きな直しはなく、レイアウトやテキストの修正がほぼなかったのだ。よかった。
『さすがの猿飛』15話「ネグラ忍法帖!?」で、猿飛八宝斎が「「なんたるちあの、サンタルチア!」と言って怒るカットがある。動かし方も動きの密度も素晴らしいものであり、そして、遊び心もたっぷりで、非常にインパクトのあるカットだった。僕にとっては、作画的な見どころの多い『さすがの猿飛』のベストカットだ。ずっと木上益治さんの原画だと思っていたのだが、確認する機会がなかった。Twitterでそのカットを話題にしたところ、当時、あにまる屋に所属していた奈須川充さんが、リプライで木上さんの原画だと教えてくださった。ありがたい。裏がとれる日がきてよかった。

2020年10月20日(火)
グランドシネマサンシャインで劇場版『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』を鑑賞。とにかく完成してよかった。Zoom打ち合わせとデスクワークをはさんで、午後は有楽町マルイの「白身魚イラスト展」に。その後、神田まで歩く。
「なつぞらのアニメーション資料集[劇中アニメ・小道具編]」を印刷会社に入稿した。念のために書いておくと、入稿作業をしたのは僕ではなくて、アニメスタイル編集部のスタッフである。

2020年10月21日(水)
EJアニメシアター新宿の10時20分からの回で『海辺のエトランゼ』を観る。丁寧に作られた作品だ。男性同士の恋愛を描いた作品で、性的な部分にも触れているのだが、不思議と照れくさくはなかった。
ドラマ「映像研には手を出すな!」を全話視聴。全話といっても6話しかない。役者はかなりよくて、キャラクターの再現度は高い。作劇のタッチはちょっと原作と違う(特に1話)。途中から金森さやかが普通の女の子っぼくなった気もするけど、それもOK。アニメ版の前に作られていたら「すごい、原作そっくりだ」と言われていたはずだ。

2020年10月22日(木)
放送中の深夜アニメを次々に視聴する。午前中はZoom打ち合わせとデスクワーク。午後は吉松さんと高田馬場の洋食屋で昼吞み。

2020年10月23日(金)
池袋HUMAXシネマズで『どうにかなる日々』を観る。初日初回での鑑賞だった。ミニシアター系の小品という感じで、こういうアニメ作品がもっとあってもいいと思う。好みでいうと、もう1エピソードほしかった。「なつぞらのアニメーション資料集[劇中アニメ・小道具編]」の校正紙が出る。なんだかんだで忙しかった日。

2020年10月24日(土)
散歩以外はデスクワーク。「異世界おじさん」を3巻の途中まで読む。

第688回 アニメ作りの根本

オープニング、エンディングの納品を済ませると一気に緊張感が高まります! と同時にいちばんワクワクする時期でもあります!

 もうすでに何話分か上がってるものに、OP・EDアニメを差して正式に納品。これで晴れて放送の形態に。今回のOP・EDもコンテは俺。演出も(OPは助監と共同、EDはピンで)。だいたい本編の間を縫って作るのがOP・EDの常。そこだけにスタッフの労力を集中させるわけにはいかないため、総動員でかかる期間は、フィニッシュの2〜3日のみ。そのラストの日(納品日)に筆をとってこの原稿を書いてます。つまり、

 でも、毎作品毎作品どれだけクタクタになったとて、たぶんまた作ってると思う板垣です。少なくとも次の仕事も年明けから動き出しますから。どこかで休みたいと思ってもなかなか休めません。新人の面倒みたりとか物理的事情もあるとしても、本音はやっぱりアニメ作りが何よりも面白いからです。いつぞや『ユーリ!!! on ICE』の山本沙代監督と雑談していた際、彼女に「なんでアニメなの?」と訊くと「だって絵(画)が動くってだけで楽しいじゃないですか〜!」と返ってきました。その時の「絵(画)が動くってだけで楽しい」は、純正のアニメーターでもかくや、って感じの純粋な言葉として、未だに忘れられないのですが、自分もその感触が未だにあって、何歳になっても、紙と鉛筆からPCへと道具が変わろうとも、アニメーター仕事は辞められずにいます。

で、今回は「蜘蛛」!

 テレコム時代から擬人化した動物キャラはいろいろと動かしてきましたが、蜘蛛は初めて。脚は8本!

第687回 ちょっとアニメ現場の話

お願いがあります! アニメで飯を食ってる各セクションのスタッフの方々、もう少し我々「手描きのアニメーター」に協力的になっていただけないでしょうか?

 もちろん、アニメーター以外のアニメ制作業務に携わるスタッフさんの中にも「俺たちだって1話あたりのギャラは全然安い!」と仰る方がいるのも充分承知しております。ただ! 「1話あたりが安くても、その実労働時間は?」とお尋ねしたいのです。例えば1話あたりが5〜10万円の業種だったとしても、その実労働時間が1〜2日(8〜16時間)なら週2〜3本掛け持ちで結構な稼ぎになるでしょう? ところが手描きのアニメーターは1カット4〜5千円の原画を1〜2日かけて描くんです。動画の月給に至っては、とある業種の「1話分または日給」ですから! まあ、最近でこそウチも含めアニメーター(原画・動画とも)固定給にする会社は増えてきてますが、それでも全体の制作費はなかなか上がらないのが現実。
 ああ、そういえばだいぶ前、ホン読み(脚本打ち合わせ)の時、

「いや、このシーンをこっちのキャラの方のやり取りにすれば、CGじゃなく作画になるので安く上がりません(笑)?」

と言ったライター(脚本家)さんがいました。(笑)はあくまで板垣主観のイメージで。けど、少なくとも俺からはそのライターさんの悪気なく言った「作画になると安く上がる」が「所詮CGアニメーターより安い下っ端映像クリエイターである君ら作画アニメーターに、僕の一筆で仕事振ってやろう(嘲笑)」に聞こえたんです。被害妄想でしょうが、その作品の監督として参加してはいたものの、アニメーターでもある自分からすると、そのライターさんの一言は極めてデリカシーを欠いたものとして、俺の耳に届いたのです。すみません。そもそも、

CGも作画も同じ映像を作る仕事なのに「作画でやると安くなる」って何!?

 つまり何が言いたいかというと、別に実労働時間の割に高給取りのスタッフに対して、そのギャラを作画に分け与えてくれ! などと言うつもりは毛頭ありません。そんなことしたって制作費自体は上がりませんから。冒頭で言った「協力的に」とは、それぞれの役職の範囲内での気遣いをお願いします、てことです。例えば脚本の先生が1週落すことはテヘペロで済ましがちですが、その1週間はダイレクトに作画のスケジュールを奪っているということを忘れないでほしい! とか、音響の現場でフィルムに色が着いていなくてやり辛いのは分かるのですが、現場のアニメーターは血眼で直している最中だったりもするわけで、なんとか演出のメモ書きで乗り切ってもらえないでしょうか? とか、本当に助け合いみたいなもので充分なのです。もちろんアニメは作画だけではありません。脚本・コンテ・演出・CG・美術・仕上げ・撮影・音楽・音響・制作……そして当然キャストの皆さん。どれが欠けても成り立ちません。しかし、その中でも手描きアニメーターは、ツールはデジタルに変わっても、全く生産量に結びつかなかったセクションで、これからも働き方改革とかでますます不利になっていくと思うのです。だから冒頭の一言、よろしくお願いします!

アニメ様の『タイトル未定』
281 アニメ様日記 2020年10月11日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2020年10月11日(日)
無観客配信のトークイベント「アニメスタイルTALK 叶精二のアニメーション講義 初級編」を開催。聞きどころたっぷりのトークとなった。トークの本筋の話題ではないけれど、大塚康生さんと小田部羊一さんと『虹色ほたる』の話が特によかった。イベント終了後、阿佐ヶ谷から高田馬場に向かって歩いていると、ドラゴンクエストウォークをやりながら歩いていた佐藤竜雄さんとバッタリ。こちらもドラゴンクエストウォークをやりながら歩いていた。

2020年10月12日(月)
グランドシネマサンシャインで『BURN THE WITCH』を観る。この作品は先に配信で観ていて、劇場公開版はどうなっているのかが気になって映画館に足を運んだ。劇場公開版と配信版の大きな違いは、配信版は3話構成で各話にエンディングがついてるということ。2話と3話の繋ぎの部分も劇場公開版と配信版で違うと思う。Blu-rayコレクターズエディション(初回限定生産)では、本編として3話構成バージョンが入り、特典ディスクに「劇場上映版本編映像」が入っている模様。
「WEBアニメスタイル」で、佐藤順一さんのロングインタビュー「佐藤順一の昔から今まで」の更新がスタートした。

2020年10月13日(火)
早朝からU-NEXTのレンタルで『Fate/stay night [Heaven's Feel]』1作目と2作目を観直す。そして、TOHOシネマズ池袋で『Fate/stay night [Heaven's Feel] III. spring song』を轟音上映で観る。前にこの映画を観ようとした時は、ワイフの具合がよくなくてとりやめた。この日もワイフと行くつもりだったけれど、またもや頭痛で映画館には行けそうもない。劇場版『鬼滅の刃』公開前に観たかったので、一人で鑑賞した。今回も内容が詰まっているし、アクションも超山盛り。展開についてはちょっと意外なところがあった。

2020年10月14日(水)
早朝散歩以外は「この人に話を聞きたい」の原稿。ひたすら原稿。

2020年10月15日(木)
「この人に話を聞きたい」の本文を午前11時くらいに仕上げる。その後、リードや注などを書いて、写真を選ぶ。今回の原稿は普段の1.3倍くらいのスピードで進めた。社内で校正をしてもらっている間に「アニメ様の『タイトル未定』」のテキストをまとめる。14日と15日はデスクワークの合間に散歩をはさまなかったので、腰がやばい。まだ腰痛にはなっていないが、腰痛になりそうだ。
宮崎駿監督、鈴木敏夫プロデューサー達がジブリ美術館の新メニューを試食する動画がYouTubeの「三鷹の森ジブリ美術館」チャンネルにアップされた。シンプルな内容だけど、楽しめた。もっと宮崎さん達の動画をアップしてほしい。

2020年10月16日(金)
公開初日のこの日、グランドシネマサンシャインの午前8時の回で『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』を観る。平日ということもあって、観客は成人女性が多かった印象。作品としてのパワーは『Fate/stay night [Heaven's Feel]』と同様。そして『Fate/stay night [Heaven's Feel]』と違って、必ずしもマニアックな層に向けた作品ではない。であるが、マニアックな層に向けた作品と同様に尖った部分があるのがいい。出版社サイドも、メーカーサイドも、制作サイドも同じ方向を向いて、やるべきことをやりきった作品だと思った。
「なつぞらのアニメーション資料集[劇中アニメ・小道具編]」 の編集作業は間もなく終了。この日は嵐のような一日になるかもしれないと思っていたが、そうはならなかった。嵐のような一日になるのは月曜か。
就寝前にKindleでマンガを数冊読む。楽しみにしていた散歩マンガ「ぐるぐるてくてく」が完結してしまった。今までも身近な場所や行ったことのある場所が舞台になっていたが、最終巻でも最近の散歩コースが登場した。

2020年10月17日(土)
昼に打ち合わせを兼ねた食事の席で『鬼滅の刃』の話をして、事務所に戻って、他の方とSNSで『鬼滅の刃』の話をする(さらにオールナイトのトークの後に、楽屋で新文芸坐の花俟さんと『鬼滅の刃』の話をした)。この日のオールナイトは「新文芸坐×アニメスタイル セレクションvol. 126 没後10年 鬼才・今 敏の世界『妄想代理人』」。トークのゲストは井上俊之さんと安藤雅司さんで、トークは倍の時間があっても大丈夫だった。

第196回 夢かうつつか 〜夢喰いメリー〜

 腹巻猫です。観客を入れてのサントラ系コンサートが徐々に戻ってきました。12月4日にはNHKホールで「シンフォニック特撮ヒーローズ」の公開収録が行われ、12月30日にBSプレミアムで放送される予定です。12月10日には『カレイドスター』『泣きたい私は猫をかぶる』などの音楽を手がける窪田ミナさんの初のソロピアノ・コンサートが東京オペラシティ・リサイタルホールで開催。
https://www.confetti-web.com/detail.php?tid=58788
 来年2月には『銀河鉄道999』の初のシネマコンサートが東京と大阪で開催されます。
http://www.promax.co.jp/galaxyexpress999/
 やはり、生で聴くコンサートはいい。細心の注意を払いつつ、楽しみたいです。


 劇場アニメ『魔女見習いをさがして』が11月から公開中だ。「『おジャ魔女どれみ』20周年記念作品」とうたわれたこの作品は、『おジャ魔女どれみ』のストレートな続編ではない。が、音楽的に面白いしかけがしてある。『おジャ魔女どれみ』シリーズのBGMを劇場用にアレンジ・新録音して劇中音楽として使用しているのだ。音楽を担当したのはもちろん、奥慶一。『おジャ魔女どれみ』TVシリーズ全4作の音楽をすべて手がけた作曲家である。
 本コラムでも『おジャ魔女どれみ』の音楽を取り上げたことがある。今回は、同じ奥慶一が手がけた『夢喰いメリー』の音楽を紹介しよう。

 『夢喰いメリー』は牛木義隆の同名マンガを原作に2011年1月から4月まで放映されたTVアニメ。監督は山内重保、アニメーション制作はJ.C.STAFFが担当した。ちなみに原作マンガは、TVアニメ放映以降も10年にわたって「まんがタイムきららフォワード」誌上で連載が続き、2020年11月発売の2021年1月号で完結した。
 他人の夢の良し悪しを見ることができる高校生・藤原夢路は、ある日、「幻界(ゆめ)」から「現界(うつつ)」に迷い込んだ夢魔の少女・メリーと出会う。メリーは幻界への帰り道がわからなくなり、何年も現界をさまよっていた。夢路はメリーが幻界へ戻る手助けをしようとするが、そのために現界に現れる夢魔たちとの戦いに巻き込まれていく。
 奥慶一は、ブラスロック・バンド「スペクトラム」のキーボーディストとしてデビューした。そのためポップス系の作曲家と思われがちだし、それも間違いとは言えないが、音楽的原点はクラシックにある。
 少年時代からピアノや和声学を習い、作曲家を志して東京藝術大学音楽学部作曲科に進学。大学では現代音楽を学び、大学院に進んだ。そのいっぽう、アルバイトで弾いていたピアノの腕を見込まれて在学中からステージミュージシャンとして活動。郷ひろみのバックバンドを経て参加したのがスペクトラムだった。大学の卒業作品は、電子音楽の概念を取り入れた実験的な管弦楽曲だったそうだ。
 『夢喰いメリー』の音楽には奥慶一の原点であるクラシックの要素が濃厚に取り入れられている。それまで手がけた『ママレード・ボーイ』や『おジャ魔女どれみ』シリーズの音楽とは大きく異なる印象だ。
 「メインテーマ」がすごい。夢の世界に入っていくような幻想的な導入部に続き、バイオリンが玄妙なソロを奏で始める。管弦楽の合奏が加わり、バイオリン協奏曲のような構成でテーマの変奏が展開される。6分に及ぶ大曲である。
 このバイオリン・ソロを弾いているのが大谷康子。東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団コンサートマスター、東京交響楽団コンサートマスターなどを歴任した日本を代表するバイオリニストの1人だ。けっこうすごいことなのだが、大谷康子の名はアルバムの帯にも書かれていないし、特に宣伝されているようすもない。実は奥慶一と大谷康子は東京藝術大学の同窓で、それが縁で奥慶一がメインテーマの演奏をお願いしたのだそうだ。
 音楽の中心となるのは、夢の世界や夢魔をテーマにした曲である。とらえどころのない「夢」をいかに音楽にするか。シンセサイザーを使えばいくらでも幻想的な音を作り出すことができるが、奥慶一は安易な音作りはしなかった。生楽器と電子楽器を組み合わせ、ときに民族楽器や合唱などを取り入れて、ジャンルを横断した21世紀の現代音楽を作り上げている。
 オーケストラには金管楽器が含まれず、木管とストリングスを中心にした編成。また、いわゆるポップスのリズムセクションであるドラムセットやエレキベースは使用していない。金管の音やビートを刻むサウンドは必要に応じてシンセサイザーで補うスタイルだ。クラシカルでありながら、ときにはテクノポップ的でもある、ユニークなサウンドの音楽になった。
 本作のサウンドトラック・アルバムは2011年3月にポニーキャニオンから発売された。現在は音楽配信サイトでデジタル音源も購入することができる。収録曲は以下のとおり。

  1. メインテーマ
  2. いざ!夢魔よ!!
  3. ストーリーテラー
  4. イチマ
  5. メリーと夢魔たち
  6. メリーの苦悩
  7. 妖気と決意
  8. エルクレスの歌(歌:杉並児童合唱団)
  9. メランコリー
  10. ピュア・ラブ
  11. うたかた
  12. コミック・アッチェレランド
  13. 夢喰いメリー
  14. クリティカル・モーメント
  15. メリーと夢路
  16. 怪人デルガ
  17. エルクレスの恐怖(歌:杉並児童合唱団)
  18. ザ・バトル
  19. 凶夢
  20. 白昼夢(デイドリーム)
  21. メリー・デイズ
  22. 夢現(ゆめうつつ)
  23. エクストラ
  24. FB(フルヘルボーダー)グリッチョ賛歌(歌:風雅なおと、台詞:川田紳司)

 オープニング主題歌、エンディング主題歌は収録されていない。すべて奥慶一の作・編曲作品でまとめられている。6分を超える「メインテーマ」をはじめ、5分を超える曲や4分を超える曲がある。音楽的にもボリューム的にも聴きごたえのあるコンセプト・アルバムという雰囲気だ。
 トラック1がすでに紹介した「メインテーマ」。メリーと夢魔との戦いの場面に第1話から選曲されている。最終話(第13話)のクライマックス、夢魔ミストルティンとの決戦シーンにフルサイズ流れるのが圧巻。映像に引きこまれながらも、「なに? この音楽?」と曲が耳から離れなくなる。
 トラック2「いざ!夢魔よ!!」もメリーと夢魔との戦いの場面に流れた曲だが、こちらはエレキギターがうなりまくる激しいロックの曲だ。「スペクトラム」での経験が生かされた感じで、この振り幅の広さが奥慶一サウンドの魅力のひとつ。同じような激しいロックサウンドがトラック18「ザ・バトル」でも聴ける。
 シンセサイザーによる神秘的な「ストーリーテラー」を挟んで、トラック4「イチマ」は第3話に登場する夢魔イチマのテーマ曲。本作では夢魔それぞれに印象的なテーマ曲が与えられているようだ。
 「イチマ」は琵琶をフィーチャーした曲。琵琶とフルートのアンサンブルで和の空気をただよわせ、後半はリズムが加わって和洋融合したフュージョンになる。面白い構成の曲だ。
 夢魔のテーマとしては、ほかにトラック8「エルクレスの歌」、トラック16「怪人デルガ」、トラック17「エルクレスの恐怖」が収録されている。
 「エルクレスの歌」と「エルクレスの恐怖」は夢魔をあやつる黒幕的存在エルクレスのテーマ。わらべ唄風の児童合唱がエルクレスの得体のしれない恐怖を伝える。「エルクレスの歌」はフルート、ストリングスなどのアコースティックなサウンドと素朴な歌声で幻想的な雰囲気をかもしだし、「エルクレスの恐怖」では生音にさまざまなエフェクトを加えて、しだいにひずんでいく合唱で恐怖感を盛り上げる。本編ではエルクレスの出番が少なく、これらの曲もあまり使われずに終わったのが残念だった。
 「怪人デルガ」は第7話に登場する夢魔デルガのテーマ。シンセサイザーをベースにフルート、クラリネットなどの木管群とパーカッションが絡む。重厚なサスペンス表現からストラビンスキー的な荒々しい曲調に展開して夢魔のパワーを表現する。怪獣映画音楽的なダイナミックな曲だ。
 トラック13「夢喰いメリー」は番組のPVにも使用された曲。不気味な予感をただよわせる導入部から、シンセサウンドとストリングスが夢の世界を妖しく描写する中間部へ。後半はピアノ、弦、木管などの生楽器とシンセサイザー、エレキギターが緊迫したセッションを繰り広げる。メリーのテーマというより、メリーと夢魔との対決を1曲の中に凝縮した印象である。
 夢路とメリーたちの日常を描写する曲も用意されている。トラック10「ピュア・ラブ」はハープとフルートによる優雅なワルツ。夢路たちの学園生活の場面によく流れていた。
 トラック11「うたかた」とトラック12「コミック・アッチェレランド」はいずれも木管楽器が活躍する明るい曲。
 トラック15「メリーと夢路」は次回予告にも使用されたクラシカルなワルツの曲。ピアノのアルペジオをバックにフルートとクラリネットがやさしいメロディを奏で、ストリングスが加わって、さわやかな雰囲気が広がる。メリーと夢路が語らう場面などによく流れていた友情のテーマとも呼べる曲である。本編ではフルサイズ流れることはなかったが、アルバムではしみじみとした曲調をじっくり聴くことができる。
 本編でとりわけ印象に残ったのは、くり返し使用されたピアノ主体の繊細な曲である。トラック6「メリーの苦悩」とトラック9「メランコリー」だ。
 「メリーの苦悩」は心の迷いを映すようなピアノの独奏から始まり、後半はバイオリンとチェロが加わって、大きくうねるメロディで乱れる心境を表現する。「メランコリー」はタイトル通り、メランコリックなピアノ・ソロの曲。2曲とも揺れ動く心や葛藤を描写する曲として、毎回のように使用されていた。
 夢と心は分かちがたく結びついている。夢を描くことは心理を描くことにほかならない。こうした繊細な曲の出番が多くなったのも、必然のなりゆきと言えるだろう。
 なお、ピアノとキーボードの演奏は奥慶一自身が担当している。
 さて、本アルバムは、メインテーマに始まり、夢魔のテーマやバトル曲、日常曲、心情曲などを散りばめた構成。ストーリーを再現するよりも、音楽的な流れを重視した印象だ。夢の世界の曲、現実世界の曲が交互に現れ、頭から聴いていくと、夢と現実のあいだを行き来しているような気分になる。
 アルバムの終盤は、夢をテーマにした曲が続く。
 トラック19「凶夢」はビブラフォン、チェレスタなどによる夢幻的な導入から始まり、アコーディオンとオルガンがメリーゴーランド的なワルツを奏でる曲。ノスタルジックな曲想は「凶夢」のタイトルから遠いが、しだいに音色が暗く沈み、オルガンが不協和音を奏で始める。楽しい夢から悪夢に転じるイメージの曲である。
 次の「白昼夢(デイドリーム)」はクラリネット、フルート、オーボエ、ファゴットなどを主体にしたややユーモラスな曲。現実と夢が混然となった妖しくも奇妙な光景が頭に浮かぶ。
 トラック21「メリー・デイズ」は一転して軽快な日常曲になる。アコースティックギター、キーボードなどによるさわやかなフュージョン風の曲で、夢路たちが幻界(ゆめ)から現界(うつつ)に帰還したイメージだ。
 が、次のトラックのタイトルは「夢現(ゆめうつつ)」。浮遊感のあるシンセサウンドと鐘の音が夢の世界へいざない、後半から波の音が加わる。ここは夢の波打ち際なのか? 現実なのか? 夢をテーマにしたアルバムらしい、夢幻的な締めくくり方である。
 ラストにはボーナストラック的に「FB(フルヘルボーダー)グリッチョ賛歌」が収録されている。これは劇中で夢路たちが熱心に観ている特撮ヒーロー番組『FBグリッチョ』の主題歌。奥慶一は東映スーパー戦隊シリーズの1本『電磁戦隊メガレンジャー』(1997)の主題歌と音楽を手がけているので、こういうパスティーシュ風の曲も本格的である。歌っているのは『電磁戦隊メガレンジャー』の主題歌を歌った風雅なおと。特撮ファンならニヤリとするところだ。
 親しみやすい曲想で書かれた『おジャ魔女どれみ』シリーズの音楽と比べると、『夢喰いメリー』の音楽はひとひねりもふたひねりもしてある。「ん? なんだ?」とひっかかる曲が多い。しかし、それがカッコいいし、聴けば聴くほど味のある音楽になっている。奥慶一の、ほかの作品では聴けない現代音楽的なサウンドを聴くことができる貴重な作品だ。

 最後に宣伝を。『魔女見習いをさがして』のサウンドトラック・アルバムが12月23日に発売される。筆者は解説と奥慶一インタビューを担当させていただいた。インタビューではオリジナルの『おジャ魔女どれみ』シリーズのことも含めてお話をうかがったので、古くからの『どれみ』ファンにも興味深い内容になったと思う。『夢喰いメリー』とあわせて、お聴きいただきたい。

TVアニメ「夢喰いメリー」オリジナルサウンドトラック
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映画『魔女見習いをさがして』ミュージック・コレクション
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アニメ様の『タイトル未定』
280 アニメ様日記 2020年10月4日(日)

編集長・小黒祐一郎の日記です。
2020年10月4日(日)
早朝に歩いて、仕事をして、昼に歩いて、仕事をして、また夕方に歩いた。夕方の散歩はワイフと一緒で、途中で「コ本や honkbooks」に立ち寄る。「コ本や honkbooks」は変わった古本屋で、看板が出ていない。同店のサイトには、17時以降と土日祝はビルの裏口に回って「コ本やDashボタン」を押し、店員にドアを開けてもらってビル内に入る、といった内容が記されている。マジかと思って、ビルの裏口に回って指示通りの段取りで入店した。品揃えもちょっとマニアックで楽しい古書店だった。ワイフもこの店を気に入ったようだ。
Amazon prime videoで『BURN THE WITCH』を観た。

2020年10月5日(月)
シネフィルWOWOWの『1000年女王』の録画を観る。映像が非常に鮮明。藩恵子さんのコメントもよかった。という話はおいておいて、雪野弥生が天文台で働きながら学校の先生をやっている(しかも、同時に1000年女王として地球を見守っている)という設定は、学生時代は「ふーん」と思っていたけど、今になると「なんたる超人」と思うよね。そりゃあ、寝坊もするよ。
ネットで新宿TSUTAYA 歌舞伎町DVDレンタル館の閉店を知る。歌舞伎町に移ってからはあまり利用していなかったがやっぱり寂しい。僕にとって「アニメのビデオレンタルと言えば新宿TSUTAYA」の時代が長かった。

2020年10月6日(火)
この日からセブンイレブンのSEVEN CAFEでグアテマラブレンドがスタート。SEVEN CAFEを愛用しているワイフは、早朝散歩の途中でわくわくしながら店内に。しかし、まだその店にはカップが届いていなかった。その後、別のセブンイレブンに行ったが、こちらはカップは届いていたけど、コーヒーのそのものが届いていなかった模様。
「なつぞらのアニメーション資料集[劇中アニメ・小道具編]」 は入稿の2週間前に、全部の画像とテキストが入った本文PDFが完成。この書籍の編集にはあまり関わっていない編集部スタッフに見てもらって意見を聞く。アニメスタイルの書籍としては非常に余裕のあるスケジュールだ。ではあるけれど、ここからドタバタする可能性もある。同書籍の束見本が届く。イメージしていたよりも分厚くて重たい。
昼過ぎには今日の作業が一段落して、午後には映画に行けるかと思ったがそんなことはなくて、夕方まで作業がギチギチ。10月の新番組をチェック。『ハイキュー!!』最新シリーズ1話がよかった。

2020年10月7日(水)
早朝散歩でSEVEN CAFEのグアテマラブレンドを飲むことができた。「なつぞらのアニメーション資料集[劇中アニメ・小道具編]」の編集作業は続く。社内チェックを反映させて、外部にチェック出しするためのPDFを作成。こう書くと僕がPDFを作ったみたいだけど、作ったのは編集部スタッフだ。
『銀魂』再放送1話を観る。すでに懐かしい。

2020年10月8日(木)
何故か嵐のような忙しさ。16時から某プロダクションで打ち合わせ。ある資料の現物を見たのだけど、またまた、資料を原寸で書籍に収録したい病気にかかる。この場合の原寸はB4だ。
馬越嘉彦さん描きおろし缶バッチの完成品が事務所に届く。

2020年10月9日(金)
仕事の合間に、新文芸坐で「ロスト・イン・トランスレーション」を観る。「『オン・ザ・ロック』公開記念 ソフィア・コッポラ監督2本立て ヴァージン・スーサイズ | ロスト・イン・トランスレーション」の1本。2003年のアメリカの作品だ。どんな映画か知らず、予告もチェックせずに観た。監督のセンスを楽しむ映画だと思った。物語を楽しむのではなく、感覚を楽しむ映画だ。

2020年10月10日(土)
昼まではデスクワーク。TOHOシネマズ池袋の13時55分の回で『思い、思われ、ふり、ふられ』を観る。前後して同タイトルの実写映画が公開されたが、僕が観たのはアニメ映画。かなりの力作。物語がみっちりと詰めこまれていて、なおかつ観やすい。監督は『舟を編む』の黒柳トシマサだ。黒柳監督の次回作にも期待したい。
夕方から吉松さんとSkype飲み。

第686回 『蜘蛛』PVの話

 先週言い忘れました。

『蜘蛛ですが、なにか?』のPV、観てください!

 最初の話数何本かのダイジェストになります。詳しい内容はまだ解説できませんが、前回触れた魔物とのバトルがメインの映像に、主人公「私」役・悠木碧さんのセリフがのって、あと主題歌もかかるスタンダードなPV。ちなみに現場ではそろそろオープニングの上がりが見えてきたところです。
 悠木さんとは『ベン・トー』(2011年)白粉花役以来、9年ぶり。なんとなく縁がなかったのですが、自分の学生時代の同期・小野勝巳くんの監督してた『戦姫絶唱シンフォギア』シリーズに出てたなぁと気にしてはいて、今回久しぶりにお仕事をご一緒させていただくことになり嬉しい限り。『ベン・トー』の時にも思ったし言ったりもしたのですが、俺の悠木さんに対する印象は、とにかく「芸達者!」です。『ベン・トー』でも白粉の「変な娘」感を本当によく分かって演じてくださったのと同様、今回の『蜘蛛ですが、なにか?』も主人公「私」の超楽天的かつポジティブなメンタルをとても可愛く表現されてます。さらに9年ぶりの悠木さんは——おっと、これ以降は放映開始してからのお楽しみ! まぁ、なにしろやっぱり、