取材日/2008年10月7日 | 取材場所/東京・東小金井 GAINAX | 取材/小黒祐一郎、岡本敦史 | 構成/岡本敦史
初出掲載/2008年11月06日
── 冒頭が『グレパラ(グレンラガン パラレルワークス)』の吉成さん編で始まるのは、どこで決まったんですか?
今石 『グレパラ』に関しては、僕はノータッチだったんですけど、一応コンテは見せてもらってたんです。あれは「パラレルワールドの平行宇宙という事にして、自由に作ってください」というお願いだけして、あとは見ないつもりだったんだけど、吉成さんのが上がってきたら、1人だけ全然パラレルじゃない(笑)。「オフィシャルの設定で描いてきたよ、この人」っていう。そのコンテを見た時点で、「これは……使っちゃおうかな」という思惑が生まれてきて。
── その時にはもう、全体のコンテは終わってたんですか? それとも、コンテ中だった?
今石 いや、コンテに入る前です。というか、シナリオに入る前ですよ。『グレパラ』は相当早かったので。だから「総集編をやるなら、これを頭につけようか」というのは、わりと早いうちから考えてました。
あと、『グレパラ』って音楽だけで、効果音はないじゃないですか。吉成さんの作品だけは、効果音がないともったいないなーと思ってた。それが劇場ではちゃんとつけられたので、凄くよかったですね。やっぱり、ロージェノムとアンチスパイラルの語りと効果音つきで、大画面であれを観るのは格別だなあと。
── あの中で、ものすごくダイナミックプロっぽいロボがバーッと並んでるカットがあるじゃないですか。あれも「ゲッターサーガ」と『グレンラガン』世界がつながる設定として、正しい感じがしました。「こんなところにまで中島さんの想いが!」という。
今石 なるほど(笑)。あれは完全に吉成さんの暴走ですけどね。僕が原画を描いたカットでも、カテドラル・テラから変形したメカが向き合う戦艦群の中に、(「スタートレック」の)エンタープライズみたいなのがいたりとか、(『伝説巨神 イデオン』の)ガンド・ロワみたいなのがいたりとか、いろいろ描きましたけどね。だって、吉成さんのコンテにもう描いてあるんですよ。エンタープライズ的なものが(笑)。これは描けという事か、と。でも、実際は黒く潰れて見えなかったですけどね。
── あれも、新作パートの中にカウントされてるんですか?
今石 いや、だってもうでき上がってましたから。
── あ、そうなんですか。
今石 去年の末だったか、年明けにはもう完成してましたよ。ただ、あれは劇場版で初めて見てもらった方がいいだろうという配慮で(笑)、ネットに上げるのはちょっと遅めにしてもらいました。
── 吉成さんだから、またギリギリ最後まで粘って描いているのかと思ってました。
今石 ええ、みんなそう思うだろうと思ってましたけど(笑)。ホントにギリギリまで作ってたのは、山賀さんです。
── 山賀さんのは「瞬時に作り終わった」と言っても、納得できてしまうような……。
今石 ええ。いの一番に終わったんじゃないかと思うくらいなんだけど、最後までやってましたね。ずっと編集ソフトの使い方を覚えてたりしてたんでね。
真鍋 結構、撮影はずーっとやってたんですよ。オーストラリアに行って、イギリスに行って、新潟に行って、それぞれで空を撮ったりして、また時間をくって。さらに、戻ってきたら延々編集作業をやっていたという。3Dのシーンは先にでき上がっていたので、CMに使ったりしてました。
── でも、久々にちょっと『(オネアミスの翼)王立宇宙軍』な匂いがしましたね。
今石 うん。やっぱり匂いがするもんですね。ちょっと懐かしいものを見た感じがします。
── 「元祖・ガイナックス」という感じで。『グレンラガン』的に面白いかどうかはともかく、山賀さんのフィルムとしては面白かった。
今石 そうですね。ちゃんと山賀フィルムになるんだなあ、と。
── 他にもあれぐらい変な作品が1本ぐらいあってもよかったですね、『グレパラ』は。
今石 うん。そこはまあ、最初からコントロールしない趣旨でやったもんだから、あんな事に(笑)。
── では、劇場版に話を戻して、完成した時の手応えはいかがでしたか?
今石 うーん。でき上がっても、公開するまでは不安でしたけどね。観客がどういうリアクションをするのかなって。
── どうでしたか、リアクションは。
今石 まあ、思ってたよりはよかったのかなあと。
── 大塚さんは、今回の『紅蓮篇』で印象的だった事は?
大塚 いやあ、もうホントに時間がなかった事しか覚えてないんですよね。TVの方がもうちょっと粘って作ってたよなあ、という気がします(苦笑)。
── (笑)
今石 作画期間は、2ヶ月ちょっとなんですよ。65日で300カット全ての原画を描いたそうなので。
大塚 劇場版は、もうスルスルスルーッといっちゃったので。
── 新作パート300カットというと、ちょうどTV1本分ぐらいのボリュームですよね。
今石 そうですね。まあ、そういう意味では、普段なら各話に散っている原画マンを総動員しているから、それはよかった点ではあるんですよね。
大塚 演出面では、なんかこう、あんまり仕事をした気がしない(笑)。
今石 僕自身も、新作パートはかなりサボってた感がある。最初は「大塚さんが見た後にも、監督チェックする」とか言ってたんだけど、途中からだいぶルーズになっていた気がするし。もう演出は大塚さんに任せて、僕はメカ作監に徹しよう、みたいな。シートは見ない!(笑) でも、レイアウトだけは一応ちゃんと見切ったんでしたっけ?
大塚 うん。
── 今回、コンテは今石監督と錦織さんの連名ですね。これはどうしてなんですか?
今石 ああ、ラストシーンだけ錦織に振ったんです。戦いが終わった後の、墓参りのところ。
── そうなんですか。今回、ニアの見せ場がたくさんあるので、錦織さんはニア担当なのかと思ってましたけど、全然そんな事はないんですね。
今石 ええ。錦織に振ったのはラストだけです。ホントは大塚さんにも1シーン頼んでたんですけど……なんで外したんでしたっけ?
大塚 まあ、ラフしか描いてないから(苦笑)。
今石 そうか。錦織も「ラフだけならやりますよ」みたいな感じだったんだけど、作監のラフですからね。充分使える画だったので、「別にこのままでいいや」っていう(笑)。だから、コンテは僕がほとんど切っちゃった感じですね。
── 今回、錦織さんの仕事ぶりはいかがでしたか?
今石 今回はまあ、僕も大塚さんもそうだと思うんですけど、TVの時と同じように100%でやろうとすると、終わらないだろうという気がしてて。なんとか八分目で、100%のクオリティを出そうと努力していたと思うんですよね。
── パワー的には80に抑えて、結果を100にしようと。
今石 ええ。だから、錦織もそんなに作監をメチャクチャ入れたりはしていない。非常に大人の仕事をしたなあという印象です。
── なるほど。
今石 まあ、原画マンがよかったですからね。
大塚 うん、それが全て。
── 錦織さん自身はどのくらい原画を描かれたんですか。
今石 えーと、さっきも言った総集編パートの細かい新作カットとか、新作パートではグレン団が名乗りを上げるところとか。ちょこちょこやってましたね。
大塚 あと、アディーネのところ。
今石 そうそう、アディーネのガンメンが甲板に降下して、部下の獣人たちと歩いてきてその前に煙の中からヨーコが出てきて胸がブルン! としてる一連の6〜7カットのシーンは、1原だけど錦織がやってます。まあ、錦織としてはどうだったんでしょうかね、今回。
大塚 やっぱり「あんまりやってない」みたいな事は自分でも言ってたよ。「楽しちゃったなあ」みたいな。
今石 うん。作監としても、原画マンがみんな巧いから整えるだけで済んじゃうので、動きをいちから直さなきゃいけないみたいな事も、ほぼなかった。だから、あんまり大変だったという感じではないんじゃないかなあ。
── ああ、『グレンラガン』だからもっと熱い答えを期待してたのに!
今石 ダハハハハ!(笑)
大塚 でも、それはしょうがないよ。もう『紅蓮篇』は、そんな状況じゃないと作れなかった。
今石 どっちかというと、今回は「間に合わせてみせるよ、俺ら!」みたいな事がテーマでしたよね(笑)。僕とか大塚さん、錦織もそうだったのかな。
大塚 うん。新作は100カットが限度だって言われてたのに、それを遥かにオーバーしちゃって、「もう、どうするんですか!」みたいな感じなんですよ(笑)。「じゃあ、分かったよ! やるよ!!」みたいな。
今石 そうそう。「(逆ギレ風に)間に合わせてみせますよ!」とか。
大塚 「作ればいいんでしょ!」って(笑)。
今石 そんな感じだから、八分目でまとめようと。まあ、吉成さんだけは100%でしたけどね(笑)。あの人だけは、そういうの関係ないから。
大塚 でも、ホントに新作100カットで収めてたら、多分後悔してるよね。
今石 そうですね。ひと月前には納品してるかもしれない(笑)。
── その時はその時で、「この100カットで120点を取るぞ!」みたいなノリにはならない?
今石 うーん……。
大塚 いやあ、そんな事はないと思う。そうなった時は、ホントにつなぎ目だけしか新作カットがなかったと思うので。そうしたら、なんか「やる意味あったのかなあ?」みたいな気分になってたかもしれない。
── TVシリーズを「映画にする」という事について、今石監督は今回どんなふうに取り組まれたんですか?
今石 結局、TVの時とはコンテの描き方を変えなかったんです。ディテールを掘り下げる方向にいけば「映画っぽく」はなるだろうなと思ってたんだけど、それをやると、なかなか『グレンラガン』っぽくならないというか、テンポが出ないというか。ひとつのカットの中で、ひとつの要素をじっくり描くのが、おそらく映画としては効果のある方法だと思うんですけどね。
── というと?
今石 例えば、ひとつの芝居をじっくり描くとか。立ち上がるだけでも、なんか意味があるぞ、みたいな。
── ああ、なるほど。『スカイ・クロラ』のような。
今石 ええ。そういうのを映画館で観ると、結構嬉しかったりするじゃないですか。このじっくりした動きの裏にどんな意味が隠されているのだろう、みたいな事を考えながら観るのが面白い。だけど、『グレンラガン』でそれをやると、やっぱり合わないんですよ。それはそれでやれるだろうし、原画マン達も描けるだろうとは思うんだけど。それをやり始めると、あっという間にそっちへ行ってしまう。そうじゃなくて、3つも4つも5つもある要素を、ひとつのカットで描くという方向に労力を費やす方が、スピード感も出るし、そこに“やっている感”を出したいんですよね。
── そういう意味で、映画的なコンテの描き方はしていないと。
今石 うん。でも『グレンラガン』的には、劇場版ならではのグレードアップした詰め込みはしているという事ですね。
── それこそ、1カット内でやっている事が多いとか。アディーネが尻尾でパンパンパン! と銃弾を弾き返している背後で、獣人達がドカドカ死んでいるとか。
今石 ええ。ああいうのも、TVではあんまりやっていないところですね。あの辺、スゲエ『DEAD LEAVES』みたいでしたね(笑)。
── 懐かしい感じがしましたね。
今石 「俺、何回やってんだよコレ」とか思った(笑)。
── では、今回の劇場版を総括すると、いかがでしたか?
今石 うーん、『螺巌篇』ができないと総括しづらいところがあるんですよね。大塚さん、どうですか?
大塚 結果的には、新作パートを後半に詰め込んだのはよかったのかな、とは思う。お客さんの反応を見ててもね。
今石 うん、そうですね。
大塚 自分達で観てても、最後の盛り上がりは「ああ、映画っぽいな」と思えたので。成り行きだったけど、結果的にはよかったかなあ、と。そうやって成功した部分、やり切れなかった部分も含めて、次の『螺巌篇』につなげたいですね。
── おお、素晴らしく綺麗にまとまりましたね。さすが『グレンラガン』の頭脳担当。
今石 僕は欲望だけなので、理性はこちらにお任せしてます(笑)。
── では、『螺巌篇』も楽しみにしています!
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