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螺巌篇 第1部 『紅蓮篇』の盛り上がりを超えるために

螺巌篇 第1部 『紅蓮篇』の盛り上がりを超えるために

 昨年9月に公開され、大ヒットを記録した『劇場版 天元突破グレンラガン 紅蓮篇』に続き、約半年のスパンをおいてスクリーンに登場した待望の第2弾『劇場版 天元突破グレンラガン 螺巌篇』。その内容はファンの想像を大きく上回る、大ボリュームかつハイテンション極まる濃密な仕上がりであった。観客のパワーを試すがごとき驚異のフィルムは、一体どのようにして作られたのか? その制作過程について、今石洋之監督と、大塚雅彦副監督に、たっぷりとお話をうかがってきた。(注:なるべく映画をご覧になった後でお読みください)

取材日/2009年6月19日 | 取材場所/東京・東小金井 GAINAX | 取材/小黒祐一郎、岡本敦史 | 構成/岡本敦史
初出掲載/2009年12月21日

── お久しぶりです!

今石 ああ、どうも。ごぶさたしてます。

── さっそく質問を始めたいと思いますが、今回の『螺巌篇』のプランは、どこから始まったんですか。

今石 プランですか。まあ、2本目を作るのは『紅蓮篇』をやってる時から決まってましたけど。最後に予告も付いてるし(笑)。

── いやいや、内容的なプランについて。特に今回、クライマックスがどうしてああいう展開になったのか気になりまして。TVシリーズの最終回付近を観ていると「このまま繋ぐだけでいいじゃん」という気もしてしまうんですが。

今石 それはもう、誰もがそう思ってました。

一同 (笑)

今石 「最終回をいじるのはよそう」という話は、全員一致してましたね。まあ、それじゃイカンのかもという事は頭の片隅では思ってるんだけど、それをやったら終わらないという事も分かっていたので。むしろ、TVでは第3部のあたりでいろいろやり残した事があったので、まずはそこをきちんとしたかった。ちょっと説明不足だったり、作画的に満足いってなかったり。それに、第3部は各話完結の連なりではなく、ひとつの大きなストーリーだから、劇場版で圧縮してまとめた時に効果があるだろうとも思ったんです。だから『螺巌篇』では、そのあたりを重点的に直したいというプランを立てていました。あとは、とにかく遅れないようにしようと。それで『紅蓮篇』の作画作業中に、中島(かずき)さんに先行して『螺巌篇』のシナリオの第一稿を書いてもらっていました。

── なるほど。

今石 『紅蓮篇』はケツに向かって新作部分が増えていくんですけど、今回の『螺巌篇』は前半に新作がたくさんあって、後半にいくに従ってどんどんTVと同じになっていく、というふうに考えていたんです。それなら半年で作れるよね、という事で。だけど『紅蓮篇』が出来上がった時、後半に新作がある事でわりと映画として観られるものになった、という感触がみんなの中にあったんですよ。なのに、次の映画でケツが盛り下がっていく感じになったらマズいよね、という話になった。それはすでに脚本第一稿を上げていた中島さんから特にストレートに出ていて。僕もそうは思っても、どうしたものかと悩んでいたんですけど……じゃあ、やっぱり今度もケツを足そう、膨らませよう、と。その代わり前半を削ればいいんですけど、まあ、両方やっちゃうわけですね(苦笑)。おかげで単純に作業が倍になったんですけど。

── 終盤で新メカが続々登場するあたりは、映画的にも盛り上がりつつ、イベント的な色合いも強いですよね。

今石 そうですね。ストーリー自体はまったく変わってないわけですから。あそこは完全に、映画というお祭りとしてのサービスです。

── 結果的に、全員参加型のクライマックスになったわけですが。

今石 ええ。大グレン団メンバーの生死のパターンを、TVとは変えるという事も含めて。生き残らせるなら、彼らが生き残る意味というか、仕事がないといけない。それなら全員参加にしようという事で、ああいう展開に繋がっていった。そこで何をするかについては、またいろいろと議論があったんですけどね。もうスパイラル・ネメシスを起こしちゃおうか、みたいな話もしていて(笑)。そしたらどうなるんだ、という検証もしていた。そういう意外と真面目なSF展開を、中島さんと一緒にずっと考えていて、それがだんだん硬直状態になってきたところで、吉成(曜)さんが「東映まんがまつりだ」って言ったんでしたっけ?

大塚 うん。「『紅蓮篇』は東映まんがまつりだった。対象年齢が下がってる」と。

今石 それを聞いて「そっか、そういえばそうだ」と。じゃあ『紅蓮篇』に合わせてお祭りでいいんじゃないか、みたいな話になって。ちょうどそこに吉成さんも居合わせてたから「こんなに新メカいっぱい出す事になったら、あなたが全部デザインするんですよ?」って言ったんだけど、「まあ別にやりますよ」みたいな反応で(笑)。

一同 (笑)

今石 また吉成さんらしい揺るぎのなさで、自分で自分の首を絞めるような事を平気で言う。そこから本格的に「じゃあ、やりましょう」という事になったんですね。

── 大グレン団メンバーの大半が生き残ったのは、なぜなんですか?

今石 単純に、尺の問題もあって。TVシリーズの時も、大グレン団の死という部分は、やや描き足りないところではあった。それを映画ではきちんと描けるのかといったら、やっぱり尺が必要だったり、別のシチュエーションを足したりする必要がある。でも、そんな事をやってる時間はないし、そもそも今回の映画で本当に必要があるのかという意見もあった。逆に、キタンの死が引き立たないと意味がなかったりしますからね。それなら、キタンひとりに絞ったほうがいいんじゃないか、と。

── 悲劇的な死のドラマ性は。

今石 ええ。1回ぐらいは、やっぱり大グレン団がみんな死ぬパターンも考えたような気がしますけど。

真鍋(広報) 小説版の流れに沿ったかたちで「ナンダ」という新メカが出てきて、それと戦う中で大グレン団の面々が散っていく、という案がありましたね。

今石 そうそう。中島さんの第一稿だと巨大な蛇みたいなマシンが出てきて、そいつに喰われていくみたいな。要するに、銀河螺旋海溝での戦いをもう少しボリュームアップさせるというアイディアだったんですけど、「蛇かあ……」と思って(笑)。これは作画で頑張っても、あんまり見栄えしないんじゃないかなあ……と。CGならまだしも。

── じゃあ、TVシリーズで大グレン団の面々を死なせた事が、間違いだったと思っていたわけではない?

今石 別に、間違いではないですよ。ただ、映画の2時間という尺の中で考えた時に、どれがいちばん効果的かという事を考えた結果、今回はそうなったという事です。TVのほうで悔いがあるとしたら、もっと描き方が上手だったらよかったんだろうな、みたいな事ですよね。

── ちゃんと死亡フラグを立ててから死ぬとか。

今石 ええ。ちゃんと綺麗に死亡フラグを立てて、もっとちゃんといい仕事をして、見せ場を作ってから死なせてあげられたら、もっとよかった。あの辺、いちばん時間がなかったですからね。いろんな意味で(苦笑)。

大塚 TVの時も、特に最初から生死を決めていくんじゃなくて、流れ上で必要があったら殺す、みたいな事を言ってたんだよね。だから、後半で大グレン団の大きな戦いがあったら、まあ死ぬよな、みたいな感じではあった。その前段階の描写がちょっと足りなかったなあ、とは思いますけど。

今石 要は、だらだら長く生きるより、短い人生でも濃密に生きたほうが幸せなんじゃないか、みたいなニュアンスが伝わればよかったんですよ。あいつらは15話で一応、人生のピークを迎えるんだけど、その後は平和な世界でだらだらと生きてるわけです。政府の高官という役職に就いてるけど、仕事してるのはロシウだけ。そういう煮え切らない感じがあって、やっと自分たちが最後にひと花咲かせられる瞬間が来たところで、パッと散る。そういうのが彼らにとって逆に幸せなんだ、と思えるふうにしたかったんだけど……まあ、上手くいかなかったんですね(苦笑)。

── TVの第15話にあたる部分、第2部のクライマックスを、アバンタイトルとして見せていますよね。

今石 ええ。『紅蓮篇』のラストを11話で終わらせる事になった時、じゃあ15話はどうするんだという声が真っ先に出たわけです。そしたら誰かが「2本目のアタマ5分で終わらせればいいんじゃねえの?」みたいな事を言って、ああなるほどな、と。

── 編集がまたちょっと複雑になっていますが、あれはどうして?

今石 あそこは、編集の植松(淳一)さんに丸投げしたんです。

── あ、そうなんですか(笑)。

今石 ええ。植松さんが遊べるところが、どこかにあったらいいなと思ってて。『紅蓮篇』には音楽だけで繋いでいくダイジェスト的な部分があったから、そこもわりと任せたりしてたんです。今回はそういう場面がなかったので、じゃあオープニングかな、と。15話だったら素材は山ほどあるわけだから、これを切りたいように切ってもらえば編集的には楽しいんじゃないかと思って(笑)。一応、聞かせたい台詞とか、ポイントになる画とか、新作で補足したい部分については前もって渡して、あとは任せきってます。

── 白黒になったりするところも?

今石 あれも植松さんのアイディアですね。時間を飛ばして、先にロージェノムとシモンのドツキ合いを見せてるんで、分かりやすくするためにそうしてるみたいです。

── 最後のシモンとアンチスパイラルのドツキ合いとも呼応するように、円環構造になってるわけですよね。

今石 ええ。だから「ドツキ合いは残してくれ」という話はしました。ドアタマに持ってきたのは植松さんの案ですけどね。『グレンラガン』ではわりと珍しいんですよね、そういう時間が逆行するような見せ方は。

── カミナシティが出来ていく過程の描写も増えてますね。

今石 そうですね。15話を冒頭5分に圧縮しようというアイディアが出た時、同じ流れで7年間を圧縮して見せられるんじゃないか、そうすれば繋がるんじゃないかと思ったんです。あそこも、いつかやりたいなと思っていたところなんですよね。要は、その後シモンが刑務所で落ち込んでいる姿を立たせるために、王様に祭り上げられて浮かれているさまを、モロに見せたかった。自分でトップになりたいとは思わなくても、必要に駆られてそうなってしまって、だんだん自分でも分からなくなっていく。TVの17話では、そういう立場になった後から話を始めたので、倦怠感からスタートさせたんですけどね。

── 『紅蓮篇』の時はTVシリーズから粗編集をして作るというかたちでしたが、今回はどういう作り方をされたんですか。

今石 今回も、同じように粗編はしました。最後のバトルは新作になるけれども、前半部分はTVの画で詰めていかないといけないですから。とりあえず、大塚さんに20話ぐらいまでの編集をひと通りやってもらいました。15話は入れてましたっけ?

大塚 うん、入れた。15話がもう全然、5分じゃ終われなかったんだよね。

今石 ああ、そうでしたね。

大塚 最初はなんとなく、アクションだけで繋いでいこうと考えてたんです。だけど、やっぱりニアとシモンのシーンも残さないとマズいと思って入れ始めたら、10分ぐらいになっちゃった。僕がやった時はわりと当たり前に繋いでいたので、植松さんみたいにシャッフルもしていないし、台詞をどんどん上に被せたりもしていなかった。だから、ああいう感じに仕上げてきて「お、こうきたか」と思いました。

今石 だから、作り方は『紅蓮篇』に近いと言えば近いです。

── とりあえずTVの画を繋ぐだけ繋いでから、新作パートのコンテを描き始めた?

今石 いや、平行して描いていた感じですね。大塚さんの編集では、ロージェノム・ヘッドの復活をわりと後回しにしたのが、いいアイディアだなあと思いました。

── 元はどうなってるんでしたっけ。

今石 TVだと、市民の暴動とロージェノムの復活が平行して進んでいたんだけど、今回は暴動からシモンの投獄までを一気に描いて、その後でロージェノムの話にもっていく。あれでだいぶ分かりやすくなったなあ、と思いました。

── 21話の、コレハナ島のあたりをバッサリ切ったのも、粗編の段階で?

大塚 そこはまあ、その前の打ち合わせ段階で「これは入らないよね」と言われていたので。

今石 最初は、映画自体がヨーコ主観から始まるみたいな案もありましたね。

大塚 間はバーンとすっ飛ばして、いきなりコレハナ島から始まる。もう地上は平和になってますよ、みたいな感じで。時間的にそれくらい大胆な事をやらないと入らないんじゃないか、みたいな事も言ってたんだけどね。さすがに15話は入れないと。

今石 コレハナ島から始まるのは、結構凄いですよね(笑)。まあ、『螺巌篇』はシモンとニアの話になるであろう事が明白だったので、ヨーコは『紅蓮篇』の最後に立ててあげたし、残念ながら今回はすこし後ろに下がってもらう事になった。

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