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紅蓮篇 第2部 TVシリーズの時よりも、手癖が出ました

▲新作パートより。ニアを救うため、シモンは捨て身の行動に出る

取材日/2008年10月7日 | 取材場所/東京・東小金井 GAINAX | 取材/小黒祐一郎、岡本敦史 | 構成/岡本敦史
初出掲載/2008年11月05日

── では、新作パートについてうかがいます。まず、脚本の中島さんに対しては、どんなオーダーがあったんですか?

今石 まず、9話後半でニアが来てから、10話、11話の流れを一緒くたにやってほしいという事。それから戦闘シーンは14話までを含める、要するに四天王の3人を全部倒しちゃう流れでまとめてほしいという事。あと、戦艦型ガンメン同士の戦いと、アディーネとヨーコの戦いはしっかり入れてほしい、というような事を言いました。それ以上オーダーしようとしたら、中島さんが「あとは任せてくれ!」みたいな感じで持ち帰って(笑)。多分、それ以上ピースがあると邪魔だったんでしょうね。上がってきたら、当然オーダーどおりに仕上がってましたし、中島さんからのアイディアでいちばん大きかったのは、シモン自身が体を動かす事で復活していくという流れですね。

── ああ、生身でよじ登ってニアを助けに行く。

今石 そう。あの辺に関しては、中島さんの方からわりと早いうちに「シモンを復活させるなら、こういうかたちで復活させたい」という提案が出てました。TVの時って、中島さんはあの辺の脚本を書いてないんですよ。10〜11話あたりは佐伯(昭志)君のホンだったので、「自分が書くならこうだ」というのが多分あったんですよね。だから、中島さんは中島さんで、自分がタッチしてなかった回を自分なりに描き直す作業だったんですよね、劇場版は。

── なるほど。

今石 こっちはこっちで、グロス回を描き直したりしてて(笑)。僕とか錦織は、やっぱりTVの時にタッチできなかったところに手を入れたい、という欲求があって。それもちょうど11話のあたりだったから、そういう思いも絡み合ってああいうかたちになった、と。

── でも、シモンが延々と登っていって落っこちそうになったりするところは、観ていて新鮮でしたね。ああいう人物アクションは、TVシリーズにはなかったから。

今石 そうそう。だから、そういう意味ではやっぱり「劇場だから動かしちゃえ」という欲求は出ているんですよね。レイアウトの切り方やカメラワークの付け方はTVの時とほぼ同じなんだけど、TVだったらちょっと遠慮しているキャラの動きは入れたりしてます。

── アディーネとヨーコのアクションも、本当はシリーズでやりたかった?

今石 そうですね。やりたかったけど、できなかった。キャラアクションを始めちゃうとそっちが面白くなって、メカアクションがないがしろにされてしまうという恐怖が、TVをやってる時には凄くあったんです。だから、どうしても切られてしまいがちだったんだけど、今回はそれも入れていいだろうという事で。あのアクションは、コンテの段階でかなりふくらましてます。

── ヨーコのおっぱいに関してはどうなんですか。

今石 そこはやっぱり映画だからサービスしなきゃ、みたいな。あれもTVでは我慢してた要素ですね。あんな薄着でアクションしてたら、ブラがちぎれなきゃウソだろう、と。

大塚 (笑)

── でも、モロ見せはしていないですよね。

今石 それはまあ、僕の方からは指示しなかったですけどね。僕の方からは!(強調)

▲新作パートより。アディーネと死闘を繰り広げるヨーコ

一同 (笑)

今石 誰かが描いちゃったら、素知らぬ顔で通そうと思ってたんだけど、誰も描かなかったなあ〜。なんだかんだ言って、僕らが厳重にチェックしてましたからね。

── わざわざブータがブラを持ってくるカットまで入ってるところが、行き届いてますよね。別に「気がついたら新しいブラつけてました」みたいな段取りでもいいのに。

今石 いや、あれをやらないと、ブータが出てこないんですよ(笑)。結構、忘れられがちなんで、ちゃんとブータにも仕事をさせないといけないなって。

真鍋(広報) 版権とかでもすぐ忘れられるんで、「ブータチェック」が入るんです。

── で、今回はブラを持ってくる係だったと(笑)。じゃあ、ヨーコのおっぱいに関しては、『螺旋篇』の方に期待していいんですか?

今石 いや、まあ、それはまだ熟考中です。……そうだ、TVではヨーコのかんざしネタを使えなかったのも悔やまれてたんですよ。かんざしを抜いて、ライフルに入れて撃つという設定を最初に作ってあったのに、だから弓矢でも何でも撃てる銃にしておいたにもかかわらず、かんざしだけは撃つ機会がなかった(苦笑)。それも今回、ああいうかたちで復活させました。あと、アディーネの眼帯が実は防弾だったというのは、中島さんの思いつきなんですけどね。

── アディーネ、劇場版では見違えるほど芸達者なキャラになってますよね。シリーズを引っ張れるぐらいの(笑)。

今石 そうですね。

── 他の2人は相変わらずでしたけど。

今石 そうなんですよ。グアームの影がだいぶ薄くなってしまったので、それが残念でしたね。もっとセクハラさせたかったのに(笑)。シトマンドラはどうしようもないですけどね。

── グレンラガン合体、味方合体、敵合体のあたりの、凄くいい加減でノリノリな感じが「久々に今石節全開!」という感じでしたね。

今石 うん、まあ、TVの時よりも、手癖が出たような気がしました(笑)。

── TVシリーズの時みたいに、我慢がきいてない感じがよかったです。

今石 ハハハハ(笑)。もう、脚本の段階でも相当悪ふざけがすぎている感じでしたけどね。「なんでも合体すりゃいいのか!」っていう(笑)。

── 「劇場版でこれか」みたいな。

今石 ああ、これが中島かずきだなーと思いましたね。合体するのは指示してなかったんですよ。最初に出していたアイディアだと、ダイグレンがダイガンテンにキックしたりするあたりはバンクを使いつつ、敵艦を1機だけ乗っ取って半分合体したような状態で他のやつに突っ込んでいったり、終いにはダイグレンもぶっ壊れて動かなくなって、ヴィラルの乗っていたダイガンザンドゥをかっぱらって、(『戦闘メカ ザブングル』の)アイアン・ギアーよろしく黒い機体を赤く塗って最後に旅立つ、みたいな事をやろうとしてたんです。それが、脚本が上がってみたら「全部合体してやがる!!」(笑)。

── まとめてやっつけてもらうために、わざわざ合体するという。バラバラなら勝てたかもしれないのに。

今石 そうそう。そういう馬鹿馬鹿しさも含めて、好きですからね。そういう意味では、今回はお祭りであろう、イベントムービーであろうと思ってましたから。「これって『Re:キューティーハニー』の時にも同じシチュエーションあったなあ」とも思いましたけど(笑)。

── ああ、そうですよね。

今石 夏にやってた劇団☆新感線の「五右衛門ロック」というお芝居も、凄く似てるんですよ。ずーっと観ていて「面白いんだけど、この舞台どうなるのかな?」とか思ってると、ラストの10分で急にブワーッとドライブがかかって、「うわあああ! なんだか分からないけど面白い!」って圧倒されて終わる(笑)。そのお祭りみたいなところが、凄く似てるんですよね。その事に、中島さん本人がいちばん驚いていた。「自分で書いとるのにな、この人は」と思うんだけど(笑)。だから『紅蓮篇』も、最近の中島さんの作風にしっかりなってるんですね。

── なるほど。それにしても、今回は“名乗りアニメ”でしたね。中島節炸裂というか。

今石 いやあ、だから「五右衛門ロック」もそうなんですよ(笑)。最後に名乗りのシーンがあって、そこでテンションが異常に上がるという芝居だったので、「あ、似てらあ」と思いました。

── ほぼ全員、名乗りますよね。

今石 ええ。「名乗ったら勝てる!」みたいな(笑)。あと、中島さんが檜山(修之)さんのヴィラルが好きで好きでしょうがないので、やたらとヴィラルの台詞が多いんですよ。総集編の部分でも、7話のあたりで初めてダイガンザンが出てくるところを、なぜか全部ヴィラルが説明する。お前が乗ってきたわけでもないだろうに(笑)。そのあたりは、総集編でさらに濃厚になった感じですね。

── 劇場版の方がテンション高いですよね、ヴィラルは。

今石 ええ。新作パートでも凄く長い口上を述べるんだけど、そうやって上がれば上がるほど、もう次の瞬間に落ちると分かってる(笑)。こんな高みに上がったら、どれだけ急降下しなきゃいけないんですか、と。

── でも、ラストは一応ヒーローっぽく「なぜ俺だけが生き残る!」って、ドラマチックにキメるじゃないですか。

今石 あれはカッコよかったんですかねえ? 僕はもう「爆笑シーンだな、これは」と思ってましたけど(笑)。あと、「東西南北陸海空、三界四方に死角なし!」っていう台詞もよかったですね。ああいう台詞がポンポン出てくるところが、中島さんのすごいところです。

── きっと、どこかにストックがあるんでしょうね。

今石 いやもう、膨大なストックがありますよ。多分、過去の新感線の作品を全部観ると、どこかで似たような事を言っているはずなんですよ(笑)。

大塚 でも、あれは役者さんも気持ちいいよねえ。

今石 だと思いますよ。だから、ああいうカットは口パクを合わせなくていいように、縦PANでズーーッと下から映していくだけ。「もう、好きに喋ってください!」と(爆笑)。

── 声優さんに優しいですねえ。

今石 というか、どうせ画が間に合わないのが分かっているから(笑)。1ヶ所だけ、アフレコし直したんですよね。シモンがよじ登っているところで、アドリブが入ってる。あれはコンテ撮だったんでしたっけ。

大塚 うん。アフレコは、ほぼコンテ撮だった。

今石 あそこはSEとか台詞とか、周りの音もガンガン入ってるシーンだから、シモンはオフで大丈夫だろうと思ってたんですけどね。実際、中村章子の原画が上がってみたら、結構細かく動いているんで、音響監督のなかの(とおる)さんが「これはちょっと音をつけたいよ」というので、ダビングの日に柿原(徹也)を呼び出して、そこだけ録ったりしてました。

── なるほど。

今石 ていうか、「仮にも劇場版なのにコンテ撮とは何事だ」って話ですけど(苦笑)。

▲新作パートより。ダイグレンVS新メカ・ダイガンザンドゥ

── スケジュール的にはどうだったんですか? 新作パートは。

大塚 いやあ、凄く時間がなくて……。ホントに「終わるのかなー?」って感じだったよね。

今石 うん。「ヤバい!」って感じ(笑)。

大塚 制作が「100カットしかダメだ」って言ってるのに、300カットになっちゃったので、もう呆れられてました(笑)。チェックも相当飛ばしてるよね。

今石 相当飛ばしてますよ。結構、合わせとかメチャクチャですからね。

大塚 まあ、信頼できる原画さんを揃えられたので、そんなに見なくても通せたんですよね。普通に考えたら、絶対に終わってない。

今石 うん。結局、TVシリーズの描き直しや描き足しだから、まず設定が要らない。それに、キャラクターの説明が要らない。TVの時のスタッフをみんな投入してるから、もう何も言わないでも描いてくれるんですよね。大体こういう風に描けば、こうなるでしょうというのが分かってるから、直しもなくすんだ。「ホントはこうじゃなくて」とか「このシーンはこうしたいんだ」みたいな事もほとんどなくて、異常に仕事が早かった。内容とスケジュールのわりに、しっかり間に合ってしまったのは、そこだなあと思いますね。TVシリーズを丸2年やってきた甲斐があった(笑)。

大塚 雨宮(哲)とか、絶対に終わらないと思ってたけどね。

今石 いや、僕は終わると思ってましたよ。

大塚 そう?

今石 うん。吉成(曜)さんは終わらないだろうと思ってたけど。まあ「終わった」と言っていいのか? という感じでしたけどね(笑)。

── というと?

今石 クライマックスの、25秒ぐらいある長回しのカットがあるじゃないですか。

── ああ、敵に突っ込んでいくところですね。

今石 そうです。あそこはもう、吉成さん最後までやってましたからね。終わらない終わらないと言って、結局8人がかりで2原をやって。

── 凄くデジャヴを感じるエピソードですね。

今石 ええ。案の定というか。

── それはコンテの段階で「ここは吉成さん」と決めて描いてある?

今石 そうですね。作打ちの時は「今石さん、これじゃ短いよ。足んないよ」って、伸ばしてくるんです。で、カッティングの時も「ここ、危ないから3秒ぐらい切っときましょうか?」とか訊くと、「いや、足んないよ」って(笑)。

大塚 ハハハ。

今石 そんなこんなで伸ばしていったら「終わんないじゃないですか、ほら!」っていう(笑)。やっぱりそうなる。これはもう、永久に変わらない。それもまあ、ある意味、楽しかったですけどね。だから、最初はものすごく大量の2原要員を用意してたんですよ。吉成さん以外のところでも、大量に2原が発生するだろうと思ってたから。一時期は『屍姫(赫)』班もちょっと止めるか? みたいな事まで言ってたんだけど、そんな事はしないで済んだ。ちょこちょこで済みましたね。

── 他の原画の仕上がりがよかったんですね。

今石 そうですね。みんなが作品に慣れていた事が、ホントに良かった。そういう意味では、いちばん贅沢な布陣ですからね。中堅どころも全部投入してますし。

── 今回の殊勲選手は?

今石 まあ、雨宮ですか。

大塚 ショウちゃん(中村章子)もよかったよね。

今石 うん、だいぶ助かりましたね。

── 雨宮さんは、どこなんですか?

大塚 メカが入り乱れているところは、大体。

── 大体(笑)。

今石 ええ。新作パートが始まって、戦艦同士で戦うあたりから、ガンメン同士の戦いになって、ヴィラルとロシウが戦っているあたりまでかな。70カットぐらい、ずーっとやってますね。

── おおー! じゃあ、全体の5分の1ぐらいやっているんじゃないですか。

今石 それぐらいやってますね。それでも、吉成さんより早く終わってますから。最後は吉成さんの原画を手伝ってました(笑)。

── アイキャッチもやってますよね。

今石 うん。アイキャッチは、新作へ入る前に振ってたんですよ。最初の半月ぐらいは、まだ新作パートのコンテが上がってなくて、総集編パートの追加シーンは上がっていたので、それを先に振って。待ってもらっている間にアイキャッチをやってもらった感じですね。

▲新作パートより。雨宮哲が原画を手がけたメカバトルシーン

── 中村章子さんはどのあたりを?

今石 シモンがよじ登っていくあたりの一連は、大体やってます。

── 落ちるところも?

今石 あそこは柴田(由香)なんですよ。

── あ、そうなんですか。

今石 登っているところは中村章子で、落ちるところから柴田。落ちて助かるところは、つまみ食いで渡部(圭祐)さん。空中でラガンに乗り込むところとか。その後、また空中でクルクル回っているところは、柴田ですね。

── なるほど。

今石 ニアのパンチラも渡部さんです。

── パンチラの指示は、今石監督の方からあったんですか?

今石 ええ、指示しました。「パンツが見えます」と。しかも「ラガンの目線がちょうどパンツのところにくるようにしてください」と言いましたね(笑)。で、どんなパンツにするのかな? と思ってたら、錦織が修正で紐パンにしてました。

── おおー。

今石 なんの設定もないんで、普通のパンツだったんですけども、「紐パンにしちゃおう」つって。紐がフワッと風になびいたりしてました。

── ヨーコのアクションは、どなたの原画なんですか?

今石 3シーンぐらいあるんですけど、最初は向田さんですね。ライフルを棒術みたいにグルグル回したりとかしている、9カットぐらいが向田さん。あれも、コンテではグルグル回してないんですけど、「まあいいや」って(笑)。いつからカンフー使いになったのか、とか思いましたけど。他の2シーンは益山(亮司)です。敢えていちばんオイシイところを若手に振る、というスパルタをやってみようと(笑)。普通ならすしおとかに振るところだと思うんですけど、無理矢理振ってみました。まあ、僕と錦織の手がそこそこ入ってはいるけど、彼も頑張ってやっていたので、よかったんじゃないでしょうか。

── クライマックスで、グレン団の面々が次々に名乗りを上げて、そこにパン! パン! パン! と、ものすごく濃いガンメンの画が挿入されるじゃないですか。あのキッタナイ画は、今石さんの画なんですか?

今石 あれは、原画は錦織なんですよ。原画もレイアウトも錦織で、僕がメカ作監の時にタッチだけ足したんです(笑)。

── そうなんですか。あそこは『グレンラガン』史上、空前の脂っこさでしたね。

今石 うん。その前後のガンメンが勢揃いしている縦PANのカットを、桑名(郁朗)さんが劇画調の画で描いていて。あれに触発されて、ここはもっと「ばっちい」感じがするくらいまでいこう、と思ったんです。錦織の画も、相当グニョグニョしてたんですよ。もう完全に皺が寄ってましたから(笑)。

── 名乗ってくれないと誰だか分からない。

今石 ええ。名乗ってるから大丈夫だろうと思って(笑)。

── でも、TVシリーズ中にあれをやってくれたら、もっとキャラクターの名前を早く覚えられたかも(笑)。

今石 その反省を踏まえたシーンですから!(爆笑) やっぱり名前言わないと覚えないよなー、っていう。あと、ドテンカイザンの合体シーンは、牟田口(裕基)さんですね。シモンが名乗りを上げるところは、延々と平松(禎史)さん。なんだかんだで、いちばんおいしいところを描くのが平松さんなんですよ。

大塚 エンディングといい、ね。

今石 そう。その前の、錦織がコンテをきったラストシーンは全部、林(明美)さん。

── なるほど。エンドロール後の予告は違うんですね。

今石 あれは全部、すしおです。

── あ、ロージェノムだから。

今石 そうそう。あそこだけ振ってたら「なんか、爆発とかないんですか?」って言われて(笑)。それで、中盤のシトマンドラがやられるところを追加で描いてもらった。今回、すしお用の見せ場はあんまりなかったので、すしお的にはやや消化不良だったかもしれないけど。

大塚 そもそも、他の仕事がたくさんあったからね。

今石 うん。そっちが凄いテンコ盛りになってたので、今回は無理だろうと。止め5カット振るだけでも「大丈夫かな?」と思うぐらいだったんだけど、本人は「もっとやりたい……」みたいな感じだった(笑)。

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