第19話 生き残るんだどんな手段を使っても
●戦闘で町を破壊された民衆の怒りはピークに達し、それを鎮めるためロシウは非情な決断を下す。かつて共に戦った者の手によって、さらなる窮地へと追い込まれるシモン。その時、再び敵の姿が! 対立の重いドラマと、ダイナミックなバトルが描かれる2部構成のエピソード。ロシウに想いを寄せるキノンのショッキングな行動も見どころだ。18話に引き続き大塚雅彦がコンテを担当。制作協力はmanglobe。
脚本/中島かずき|絵コンテ/大塚雅彦|演出/山口頼房|作画監督/本村晃一|原画/山岸正和、小田裕康、川内智子、佐々木洋平、江須田英知、橋本貴吉、河添明、細川修平、長坂寛治、猪瀬富士夫、榊原智、平智仁、黒柳トシマサ、みうらたけひろ、樋口亮太、久保田大輔、森田岳士、松浦里美、高橋真一、臼田美夫|制作協力/manglobe
取材日/2007年11月9日、2007年12月11日、2008年1月16日、2008年2月20日 | 取材場所/GAINAX | 取材/小黒祐一郎、岡本敦史 | 構成/岡本敦史
初出掲載/2008年2月8日
── 前話に続き大塚さんのコンテですが、これは15話のBパートを手伝ったあとに描かれたものなんですね。
大塚 そうです。18話の後半がシナリオの内容から変わったので、今回はその展開に合わせる事と、もう少しシモンを精神的に追い込もうと思ってました。常にあがいていて、なかなかじっとしていられない感じだったので、もっとダメージを大きくしようと。最後、ムガンに止めを刺そうとしたら、ニアが現れて躊躇するとか。
今石 ああ、そのあたりは足してましたね。
大塚 第3部は中島さんが毎週ホンを上げてきていたんですよ。凄く面白くて、毎週続きが楽しみで。
今石 ただ、毎回凄く面白いんだけれども、歩留まりを考えるやり方の第3部で、このテンションをどう維持していけばいいのか、というのは悩みどころだった気がします。法廷のくだりも実は相当、端折ってるんですよ。もっと段取りがいっぱいあったはずなんだけど、いかにシンプルにまとめていくか、というのも目標だったので。
大塚 あと、ロシウが本心ではどういうつもりなのか、やってる側も結構悩んだんですよね。どのぐらい本気でシモンを殺す気なのか。監督と相談した時には「本気ではないんじゃない?」という話になって、それから中島さんに確認したら、「いや、やる気ですよ」みたいな事を言われて(笑)。
今石 「ええっ!?」みたいな(笑)。
大塚 そこは凄く難しくて、悩みました。最初はもうちょっと、ロシウの気持ちをフォローするような場面を入れようかと思っていたんです。内心ではこう思っているんだ、みたいな。だけどそれを出しちゃうと、逆に成立しない気がして。
今石 「ああ、またあとで元の鞘に納まるのね」みたいな、予定調和っぽい空気になっちゃいますからね。
大塚 観ている側からもロシウは反感を買うだろうな、というのは分かってたんですけど、それはしょうがないと割り切って。こちらの心情的には、ロシウにかなり気持ちが入ってるんですけどね。監督からも、ロシウは敢えて憎まれ役というか、見ていて頭にくるぐらいにしてほしい、と。
今石 そういうところは、ちょっとオーバーにやるぐらいの方がいい、と思ってたんです。
大塚 それに、シモンがまた難しいんですよね。第1・2部ではなんだかんだ言って一所懸命に頑張っていたキャラが、かなり受け身の立場に追い込まれていく話だから。シモン視点だとカタルシスがないし、ロシウは何を考えているか分からない。多分、観ている人は相当フラストレーションがたまるだろうなと思いながらも、しょうがないや、と。
今石 大塚さんが病室のシーンを足したのは、この回でしたっけ?
大塚 ああ、ダヤッカ一家のね。
今石 あれは凄くよかったですよね。元のシナリオだと案外、ダヤッカ一家が普段何をしているのか分からなかったので(笑)。
大塚 うん、やっぱり普通の人の代表みたいな感じだったから。上の人ばっかりじゃなくて、もうちょっと一般人感覚の目線がほしいな、と思って。
── 数少ない息抜き的な効果もありましたよね。
大塚 19話は人間爆弾なんていう過激なネタも入ってくるし。
── キノンは、最初からああいうポジションになっていく予定だったんですか?
大塚 いや、意外だったよね。キノンがロシウに傾いていく、というのは。
今石 あれはびっくりしました(笑)。「歳の差、いくつよ?」みたいな。錦織の中では、確かダリーとロシウがくっつくという想定でしたっけ?
大塚 ああ、なんか三角関係っぽいニュアンスだったよね。ロシウがちょっとニアに想いを寄せていて、でもダリーはロシウの事を見ていて、みたいな。ゴリ君っぽいなあ(笑)。
今石 錦織らしい妄想が弾けてましたね。
大塚 だって、キノンとロシウって、なんの伏線もないもんね。
今石 第1・2部ではいちども会話してないのに(笑)。個人的には、キノンとかギンブレーとかの新政府連中のイメージって、結構好きなんです。全員メガネで、全員似たような格好をしていて(笑)。
── キノンの外見とか雰囲気が、なんとなく『トップをねらえ2!』的ですよね。
今石 そういう『トップ2』っぽかったり『エヴァ』っぽかったりする事は、第1・2部では意識してやらないようにしてたんです。それがこの辺からは普通にアリにしようというか、あんまり抵抗しないでやってしまおうとは思ってました。
── 19話は、作画的にはいかがでしたか?
今石 本村(晃一)さんが作監だったから、凄く助かりましたね。
大塚 キノンもちゃんと可愛かったし。
── グレンラガンに乗ってる時の胸の揺れが凄かったですね(笑)。
大塚 ハハハハ!
今石 ねえ、ブルンブルン揺れてましたからね。あんなデカイはずないと思うんだけど(笑)。びっくりしました。
大塚 あれは平田(雄三)さん?
真鍋(広報) そうです。GAINAX公式サイトの「作画の鬼ッ!RETURNS」コーナーで使わせていただきました。あれは毎週1カットを監督にセレクトしてもらうというコンセプトでやっていたんですけど、第3部は選ぶのが大変で……。
今石 そう。僕、第3部は原画も見てないし、レイアウトも見てないし、誰がどこをやってるかも実は知らなかったりするので(笑)。
真鍋 「どこを選ぶかな?」って悩みながらやってましたね。
今石 第3部はなるべく見せ場を作らないように、というと大袈裟だけど、そういう「作画の鬼ッ!」に載せられるような超弩級カットがなくても成立するようなアニメとして作っていたから。あとになって「ああそうか、『作画の鬼ッ!R』で使えるカットがない!」と気づいて(笑)。
大塚 逆に、3DCGIのサンジゲンさんに頑張ってもらってたよね。ムガンがグレンラガンを囲んで飛び回るカットとか。
今石 そうですね。いつもなら作画の見せ場にするカットを、3Dに全部託すというのは、19話がいちばん濃厚でしたかね。これが最小作画枚数の話数じゃないですか? 18話は、動いてるところは結構動いてるから。
大塚 ああ、そうかもね。
今石 演出の山口(頼房)さんも面白い人でしたね。
── キャリアのある方ですよね。よくクレジットで名前をお見かけしますが。
今石 ええ。監督も何本かやってるし。
大塚 (中山)勝一さんの紹介だよね。
今石 そうです。勝一さんの飲み仲間(笑)。確かアフレコをやった日に入ってもらったんですよね。そのあとに演出打ちをして、かなり変則的に助っ人っぽく入ってもらった。
── じゃあ、それまでの原画チェックは誰がしてたんですか?
今石 いや、だからコンテだけしかなくて、原画はないんです。アフレコもコンテ撮で、そのあとで原画を撒くという状況だったから。
── なるほど。もうすでにそんな状態だったんですか。
大塚 (苦笑)
今石 まあ、アフレコするのが早いんですよ。だいぶ先行して前倒しでやっていたので。だけど、あのタイミングでコンテまで上がってなかったら、確実に落ちてますもんね。
大塚 制作としては、最後のくさびのつもりで音響をだいぶ前倒しにしていたんだと思うよ。そうだ、コンテ撮のカッティング用にタイムシートをつけていた時、ちょうど4話のオンエア直後だったんだ。
今石 ハハハハ(笑)。
大塚 ブログが大変な事になっていて「うわー」とか思いながら、今やっている話の内容がちょうど民衆の暴動を描いていたので(笑)、なんかリアルだなーと思った。
今石 アフレコの時も、みんなで同じ事を言ってましたよね。
大塚 そうそう。微妙に心配してたりして。
── 作品の中と外で同じような事が起こっていたんですね。
大塚 シナリオを作っている時は、「ちょっと民衆が手のひらを返し過ぎじゃないかな?」とか言ってたんだけど(笑)。
一同 (爆笑)
大塚 「こういう事なのか……」って。リアルでしたね、あれは(苦笑)。
今石 吉成さんにも言われたんですよ。「凄くシンクロしてるね。神がかってるね」って。
大塚 ハハハハ!
今石 吉成さん、そこ突っ込んでくるんだ、みたいな(笑)。あと、この回のモブは画的にいちばん笑えるんですよね。
大塚 顔が怖い(笑)。
今石 そうそう。そういうところはやっぱり山口さんはベテランだから、演出打ちで「これはもう出崎(統)アニメですから。『ベルサイユのばら』とかの感じです」って言ったら、こうなってきたかーっていう(笑)。さすがだなあと思いました。
── タッチの描き込みが凄かったですね。
今石 魚の獣人とかが怖いんですよ(笑)。「バケモンがいる!」って。
一同 (笑)
── ラストに出てくるシモンの罪状テロップは、インパクトありますよね。ものすごく大きく「超弩級」と出る(笑)。
真鍋 あれは監督から「画面いっぱい大きくしてくれ」という指示があってそうしたんですけど、作ったあとで「いいのかこれで?」みたいな話になりましたね。テロップそのものが大きいので、後ろの画が見えない。
今石 だからちゃんと1行ずつ出すようにして、下の画が見えるから大丈夫という事にしました(笑)。あれはまあ、昔の映画みたいなイメージですよね。「超弩級戦犯」っていうのは完全に中島さんのセンスですけど(笑)。あの場面でかかってるラップの曲が、僕は好きだったんです。
── ちょっと切ないバリエーションの曲ですね。
今石 そうそう。岩崎(琢)さん渾身のラップのバリエーション。どこかにかけたかったんだけど、なかなか使いどころがなくて。かけられる場面を探ってたら、ここしかなかった。
大塚 そこは予想と違ってたな。シートをきっている時はもっとしんみりした曲になるのかと思ってたけど、「この曲で来たんだ」って。
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