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第20話 神はどこまで僕らをためす

第20話 神はどこまで僕らをためす

●超弩級戦犯として投獄されたシモンの前に現れたのは、なんとかつての宿敵ヴィラルだった。一方、人間のみならず動物までも脱出船に避難させるロシウの行動を不審に感じたキタンは、その理由を知って愕然とする……。月衝突の危機が迫る中、塀の中と外でさまざまなドラマが交錯。後半ではようやく大グレン団復活の兆し? “カミナになれなかった男”キタンの男ぶりが立つ回でもある。作画監督と原画の大部分を手がけたのは、独特の画風で知られるアニメーターの芳垣祐介。「達者な」味のある、シンプルでラフな描線が魅力的だ

脚本/中島かずき|絵コンテ/中山勝一|演出/下司泰弘|作画監督/芳垣祐介|作画監督補/平田雄三、今石洋之、本村晃一、錦織敦史、福元敬子|原画/芳垣祐介、大河内忍|制作協力/FRONTLINE

取材日/2007年11月9日、2007年12月11日、2008年1月16日、2008年2月20日 | 取材場所/GAINAX | 取材/小黒祐一郎、岡本敦史 | 構成/岡本敦史
初出掲載/2008年2月15日

今石 20話は芳垣(祐介)回ですね。

── 原画は2人だけで、第2原画が大量にいるという変則的なクレジットになっていますが、これはどんなプランニングだったんですか?

今石 とにかく、芳垣に1本作監をやらせたかったんですよ。それで芳垣に話を振ったら、「作監をやるなら、自分で原画を描きたい」という事だった。まあ、他人の画を直したくないんでしょうね。できるかどうかは分からないけど、やってみるか! と。

── つまり、この回は元々、芳垣さんがレイアウトも原画も全部1人で描くというプランだったんですね?

今石 そのはずでした。とりあえずレイアウトは300カット全部を描ききったんだけど、さすがにスケジュールが詰まってきて、原画までは無理だという事で、半分くらい2原というかたちで他の人に撒きました。

── でも、基本的には、概ね芳垣さんが描いたと。

今石 そうですね。

── 芳垣さんにこの回を振った理由は何なんですか。シモンとヴィラルの話だから?

今石 いや、鳥獣人が出てくるから(笑)。あと、監獄の話だからですね。それにキタンの話でもある。まあ、20話は最も男臭い話ですよね。だから多分、芳垣には向いているだろうと。

── なるほど。

大塚 結構、今石君がコンテを直してたよね。Bパートのキタンのあたりは、ほとんど……。

今石 ああ、あそこは僕の中に明確なイメージがあったので、手を入れました。あそこだけは僕が描きたくて描きたくてしょうがなかったところなので(笑)。

── キタンがショットガン1挺でムガンに立ち向かっていくシーンですね。

今石 脚本では、キタンが撃つ銃もハンドガン的なものだったんだと思うけど、「いいや、ここはショットガンだろう」と(笑)。急にハリウッド映画っぽくなるんですけど。逆に、あのシーン以外は直すも直さないも……という感じでしたね。それこそギリギリにコンテが上がってきて、上がった端から僕がシートを打って、コンテ撮に間に合わせるという状態だったから。

大塚 凄いね(笑)。

今石 全体がちゃんと収まってるのか分からないけど、とりあえずカッティングするしかない。はたして、これでホントに尺は合ってるのかな? っていう。

大塚 じゃあ、総尺も出してないんだ。

今石 総尺が出る頃にはコンテ撮が終わっている(笑)

── なんでそんなに切羽詰まった状況になっていたんですか?

大塚 実はですね、20話もホントは僕がコンテを描くはずだったんです。だけど15話の作業が押してきて、これはもうできないという事で、「すいません……」という感じで(中山)勝一さんにお願いしたんです。元々、かなり時間がなかった。

今石 勝一さんに振ってる時点で、もうギリギリ。

大塚 「これはもう勝一さんじゃないと描けないな」っていう(笑)。振った時点で、残り2週でカッティングみたいな感じだったと思うんですけど。

今石 とにかく、刑務所のシーンとかでも「群衆は動かせません」と(苦笑)。ヴィラルとシモンの戦いも、「ひたすらクイックTB、クイックPANみたいなのばっかりでお願いします」みたいな感じでやってもらいました。

── 芳垣さんの仕事ぶりはいかがでしたか。

今石 やっぱりよかったですね。というか、思った以上に(キャラ表に画が)似てた。

大塚 ハハハ(笑)。

今石 もうちょっと芳垣本人の個性が出た、素の画を描いてくるかと思ったら、意外とキャラ表どおりに描いてるんで、ビックリしましたね。

── 一応、読者の方にフォローをすると、芳垣さんは今石監督と同期で、なかなか味のある画を描かれる人なんですよね。昔の「アニメの作画を語ろう」の記事とかを読んでもらえば分かりますけど。

今石 だから「好きに描いていいですよ」という話はしてたんだけど。でも、キタンの表情とか、凄くよかったですよね。

大塚 うん。

今石 それとやっぱり、モブですね。芳垣の描く、ちゃんとしながらもユルい感じの刑務所のモブが、僕の好みに近い。あれは非常に助かりました。鳥獣人も、格好よく描かれても困るし、ヘナチョコでも困るし。コヤマ(シゲト)さんをいちばん悩ませた「獣人の落としどころが分からない」という問題があったんですけど、芳垣はその辺のニュアンスが近かった。

── 刑務所の喧嘩シーンをやりたかったのは、中島さんなんですか?

今石 いや、僕もです。でもここで(『あしたのジョー』の)ねじりんぼうとか、パラシュート部隊とかやらないのが我慢汁です(笑)。ホントは刑務所だけで1エピソードあってもいいんじゃないかと話してたんだけど、「この後の展開を考えたら、まあ無理だね」と。だからAパートだけで我慢しました。

── やはり、監督という仕事の内には「我慢」も大きな位置を占める、と。

今石 うん。ある程度、M体質じゃないと無理なんですかね。でも、人に対してはS体質で事に当たるという。難しいですね。

── 今石さんを始め作監補としてクレジットされている方々は、芳垣さんのフォロー役?

今石 そうです。この時、僕は最終話のコンテが終わっているはずなんですよ。だから作監のフォローに入れた。

大塚 ああ、そうか。

今石 という事は、これは7月半ばぐらいの出来事か。最終話のコンテが終わったのは7月アタマでしたっけ。

大塚 そうだね。(オンエアまで)3ヶ月あるはずだって言ってたからね。

今石 この時は久々に原画っぽい事をしたんで、楽しくてしょうがなかったです。「原画だー、作監だー」って。ちょうどそのキタンのシーンが自分に割り当てられていて(笑)。Bパート明けの病室のあたりは本村(晃一)さんで、僕の後は平田(雄三)さん。最後、ロシウがキタンにドリルを返すあたりが錦織かな。

大塚 結構、豪華になったよね。

今石 ええ。もうこの辺になると、完全に現場がいい感じにTVアニメっぽくなってきて(笑)。「とにかく手の空いた人は誰でも他の話数の手伝いに入れ」という。

── 内容的には、どのあたりが見どころですか。

今石 やっぱり、キタンがよかったですよね。

大塚 うん。ここでだいぶ人気が上がった。20話は、第3部の中では今石調が強い回なのかな、という気がするね。キタンが目立っている感じもそうだし、原画も今石君っぽい。

今石 お話的にも、若干フラストレーションが回収される見込みが出てくるし。20話はいろんなドラマがグニャグニャうねってる感じが面白かったと思います。多少どんでん返し的なところというか、派手な展開が次々にくる。結局そういう回ですよね、これは。我慢我慢と言いながら、結局は我慢してなくて一所懸命やっているという(笑)。

── ヨーコも再登場するし。

今石 チラっとだけね。この辺からですよね、いかにも続き物という感じのベタベタな引きが毎回続くのは。必ずサプライズがあって、「なにっ!?」で終わる。だから結構、観終わるとラストカットのイメージで全部持ってかれちゃうんですよ。それまでにもいろんな事があったけど、最後に「うわ、ヴィラル出てきた!」「ヨーコ出てきた!」で、記憶が全部塗り替えられちゃう(笑)。

大塚 この辺はやっぱり、まとめて観た方がいいんだろうなあ。1週間待つのは、長いよね。

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