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第18話 聞かせてもらうぞこの世界の謎を

第18話 聞かせてもらうぞこの世界の謎を

●地上に溢れた人類に宣戦布告した最強最悪の敵・アンチスパイラルの使者は、なんとニアだった! それはもはやシモンの知る彼女の姿ではなかった……。シリアスタッチの展開から目が離せない第3部第2幕。混乱の中であがくシモン、予想外のかたちでのロージェノム復活、次々と明らかになる世界の謎、敵兵器ムガンとのリターンマッチなどが描かれる。コンテは大塚雅彦が手がけ、GONZOが制作協力を務めた。

脚本/中島かずき|絵コンテ/大塚雅彦|演出/篠原俊哉|キャラ作画監督/山田正樹|メカ作画監督/小田剛生|原画/新号靖、野崎真一、吉田徹、森田岳士、光田史亮、新田知子、室井康雄、伊藤弘樹、渡部穏寛、岡辰也、樋口靖子| white line 橋本英樹、千葉道徳、小田剛生、山田正樹|制作協力/GONZO

取材日/2007年11月9日、2007年12月11日、2008年1月16日、2008年2月20日 | 取材場所/GAINAX | 取材/小黒祐一郎、岡本敦史 | 構成/岡本敦史
初出掲載/2008年2月4日

── 18話、19話と、コンテは大塚さんですね。どのような感じで作業を進められたんですか?

大塚 第1・2部で作画をかなり頑張った影響もあって、全体のスケジュールがだいぶ押していたんですよね。だから第3部ではその遅れを取り戻そうと思っていて。第4部でまた作画が大変になる事は分かっていたから、とにかくここで抑えなきゃと思いながらやっていました。第3部は中島さんが全話数のホンを書いているんですけど、シナリオでだいぶ助けられたなあと思いました。そんなに作画を頑張らなくても、話だけでもつから。

── なるほど。

大塚 18話は設定話というか、これまで秘密だった部分を長々と解説するような内容なので、もう(画を)動かさない事を意識してコンテを描いてみました。外の制作会社に出す回でもあったし、とにかく大変にならないようにする事だけを意識してやっていた気がします。結構、早いうちから取りかかっていたんですよ。このあとに15話Bパートのコンテに入ったので。

── ああ、そうなんですか。

大塚 18話を上げたあと、次の19話もやりかけていたんだけど、摩砂雪さんが15話のコンテをAパートまでしかできない事になったので、そちらの方に入ったんです。で、18話のコンテが監督チェックで戻ってきたら、後半が結構変わっていて、「これじゃ繋がらないや」って事で、19話はアタマからやり直す羽目になった(苦笑)。

今石 ああー、そうでしたね。

大塚 18話は、第3部の中でいちばんシナリオを変えてるんじゃないかな。最後にバラバラになったムガンの破片を銃で撃ち落とす時に、シナリオではさらに月からビームが撃ち込まれるという場面があったんだけど……。

今石 22話で出てくる月面ビーム兵器ですね。あれがもうこの時に出ていた。

大塚 そこをなくしたんだよね。元のシナリオだと、グレンラガンがなんとかそのビームを止めるんだけど、そこでかなりダメージを受けてしまう。そのあとシモンが地上に戻ると、民衆が怒り狂っていた……という、もうちょっとフラストレーションがたまるような終わり方だった。時間の関係で切ったんだっけ?

今石 時間もそうですけど、段取りが増えるのもイヤだったんですよね。あっち行って、こっち行って、またあっち行って、という慌ただしい感じになるのが容易に想像できたので、それはちょっと怖いなと。もう少しコンパクトにまとめたかった。それと、ここで月からの巨大ビームを出しちゃうと、僕の中でのタガが外れちゃうんです。

大塚 ああ。

今石 月からのビームをはね返した! っていうのは、僕の中でのあるきっかけだったんですよ。中島さんは、それはそれで燃える展開として作りつつ、そこからまた巧くいかなくなる流れへと持っていっていた。でも僕としては、それをこの段階でやっちゃうと自分の中でうまく回せないな、と思ったんですよね。

大塚 でも、中島さんのホンをいじるのはなかなか難しいよね。

今石 そうですね。全部の歯車が繋がってるから(笑)。

大塚 何かをいじると、後々どこかが噛み合わなくなる恐れがある……。

今石 それに、尺の問題も確かにあったんですよね。わりと大雑把に切っていかないと芝居の間をとれなくなってくるから。説明シーンをあんまり早口で言ったり、端折ったりするのはどうかと思っていたので、アクションシーンをなるたけタイトにして、会話の間をちゃんと取る方がいいかなと思ったんですよ。とにかく喋り倒してますよね、18話は。(ロージェノム役の池田)成志さんの語りを聞きながら、みんな寝るんじゃないかという危惧が(笑)。

── ロシウとロージェノムヘッドの会話シーンは、見せ方も工夫していましたね。背中合わせのかっこいい画で話していたり。

大塚 あそこは今石君がコンテで直したところだよね。

今石 カメラが回っていくと、だんだん2人が背中合わせの画になっていく。でも全部スライドっていう(笑)。

── それまでとは趣の異なる演出だったので、ちょっと新鮮でした。

今石 第1・2部では、あんまりできなかった演出ですよね。ああいう事をコンテで考えるのも、結構楽しいんですよ。いかに枚数を使わないでなんとかするかというアイディアを捻り出すのも、それはそれで面白い。

── ロージェノムの復活というのは、シリーズ当初から考えられていたんですか?

今石 いや、途中からじゃないかな。ロージェノムヘッドは中島さんのアイディアですね。正気か? と思いましたけど(笑)。でもまあ、楽しそうだからやりましょうと。デザインが決定するまでは、ちょっと難航しましたけどね。

── ああ、あんまり生首っぽく見えないように。

今石 そうです。最初はロシウが鳥かごみたいに持ってたりしてましたけど。まあ(『マジンガーZ』の)ブロッケン伯爵ですよね。でも首そのまんまじゃダメだという事だったので、「じゃあ床と繋がってたらいいですか」とか「もしかしたら下に人が入ってるかもしれない感じならいいですか」とか(笑)。

── 紆余曲折あったんですね。

今石 まあ小脇に抱えてくるよりはいいでしょう、という事で、ああなりました。ホントは鞄の中から出したいぐらいだったんですけどね(笑)。ロシウが鞄を持ってきて、みんなで「なんだそれ?」ってファスナーを開けると中にロージェノムの頭が入ってて「うわー!」みたいな。

大塚 アハハハ(笑)。でも、第2部までのロージェノムとは違う感じにしたかったんですよ。少しトボケた感じというか、「あれ?」っていう感じを出したくて(笑)。あくびさせたりとか。

今石 あそこから急に愛くるしいキャラになりましたもんね。首になった途端、マスコットキャラ的な存在に……違うか(笑)。

大塚 でもキャラは凄く立ったよね。

今石 もうね、中島さんがロージェノムヘッドのギャグばっかり考えてくるんですよ(爆笑)。「いや、それじゃホントに(劇団☆)新感線の舞台になっちゃうから!」って。

大塚 第3部は特に我慢したね、ギャグを。

今石 だいぶ抑えましたね。

── 監督の中での“我慢汁”は、第3部ではどうだったんですか?

今石 この頃からだんだん、自分の中で客観性とか冷静さが失われていくんですよ。オンエアが始まっちゃったから(苦笑)。コンテチェックなんかも、第1・2部に比べると、もう直感で乗り切っていたような気がします。まあ、そういう状況を楽しもうとも思っていたんですけどね。手練手管でやるんじゃなくて、どうやったらいいんだろう? と考えながらやるのが面白いと思っていて。まあ、やればやったで困るんですけど(笑)。18話のクライマックスを抑えめにしたのは、そういう“我慢汁”が変な方向に作用したんだと思うんですよね。

── ああ、我慢しようと思うがあまりに。

今石 ええ。爽快感を出しすぎないようにしようと。ただ逆に、コンテ的に考えると、爽快感を出した方が楽なんですよ。爽快感なしで1本の絵コンテとして成立させようと思うと、それだけハードルが上がっていく。そういう矛盾が、この頃は相当、渦巻いてました(苦笑)。

── 苦心の産物なわけですね。

今石 でも、18話は結構好きなんですけどね。ゆったり観ていられる感じもあるし。

── レイテとマッケンのキャラも、このあたりから立ってきますよね。

今石 うん。ここで名前を覚えた人も多いんじゃないですか。「こいつら名前あったんだ」って。

大塚 中島さんはもう、レイテに関しては最初にデザインが上がった時から凄く入れ込んでたよね。あんまり台詞を増やさないように、こっちが調整したりしてた(笑)。

今石 そうですね。でも第3部ぐらいからはもう、ドラマの根幹に関わるところにレイテを置いてきちゃったから(笑)。じゃあしょうがないや、って。

一同 (笑)

── 怒れる民衆が基本的に短気で野蛮な感じなのも面白かったですね。

今石 まあ、なんだかんだ言って何年か前までは本当に野蛮人だった人達なので、結局そっちが本性でしょうと(笑)。あれ以上リアルに民衆を描こうとすると、尺的にも作画的にも描ききれなくなってくるんですよね。だから、ああいう感じに振り切るのは、最初から狙っていたところではあります。

── 18話の制作はまるまるGONZOさんなんですか?

大塚 そうです。演出も作監も全部お任せでやってもらいました。こっちでも一応レイアウトはチェックするという事で、もらってはいたんですけど、演出の篠原(俊哉)さんがだいぶ細かく見てくれていたので、ほとんど何もせずに戻しました。全然大丈夫だなあ、という感じでしたから。

今石 それでも、第3部のアタマ3本(17〜19話)は結構ポイントだったんで、基本的に大塚さんに一回チェックしてもらいました。

大塚 時期的に、15・17話の演出と、18・19話のチェックが被ってるんですよね。だから、自分の中では相当ヤバい事になってました(苦笑)。「なんで引き受けたかなあ?」とか思いながら。

今石 あの時は、大塚さんのところに凄い皺寄せがいってましたね。

大塚 机の横に、紙の束が常に山のように築かれてる。ハケてもハケても一向に減らない。

今石 話数ごとに色の違うカット袋が(笑)。その頃、もう僕は設定とかコンテの直しで一杯いっぱいになってましたね。オンエアも始まってるから、毎週カッティング、アフレコ、ダビングに時間を取られていて。正直、この時期がいちばんつらかったと思うんですよ。「これはヤバイんじゃないか」って、マジで思ってた。

大塚 そうだねえ。今石君のコンテチェックが、カッティングの1〜2日前に上がってくるみたいな状態になりつつあったからね。

今石 ずっと腰の後ろあたりがヒヤヒヤしてる毎日だった気がする(苦笑)。

大塚 それでも18話はまだ早めに入れたのかな。

今石 そうですね。大塚さんのコンテが早かったし、17話よりも先にフィックスしたんじゃなかったかな。

大塚 いや、フィックスはしたんだけど、まだ設定がなかったから、ずーっと作業に入れなくて。「早く設定ください」って、GONZOさんに怒られてた。

今石 ああ〜そうか。そりゃ怒られますよね。演出打ち合わせの時も「ここはこういうシーンなんですけど」って説明してる全部のシーンの設定がないんだから(苦笑)。演出さんの目が見れなかったです……。

── GONZOの制作話数は2本ですか。

大塚 そうです。しかも18話と22話は、GONZOの中でも別々の2班にお願いしているんです。それぞれ制作も違う方で。

── GONZOさんありがとう、という感じですね。

今石 演出をやってくれた篠原さんも、僕が大昔に原画をやった『ルパン』のスペシャル(『ルパン三世 炎の記憶 〜TOKYO CRISIS〜』)の監督さんなんですよ。

── ああ、そういえばそうですよね。

今石 僕の事を覚えていただいていて、非常に恐縮してしまいました(笑)。

── 基本的にグロス回中心の第3部が、そんなに作画的にバラけた感じにならなかったのは、錦織さんの総作監パワーの賜物なんですか?

今石 いや、社外に出しても案外、人が集まってくれてるんですよ。18話にしても、キャラ作監は山田(正樹)さんで、メカ作監は小田(剛生)さんですから、本当はもっと動く回を振ってもよかったのかなと、あとになって思ったりしました。小田さんの気合いも凄くて、メカ作監のはずなのにキャラの場面のレイアウトをメチャクチャきってるんですよね(笑)。あと、アニメアールの光田(史亮)さんの原画も巧かった。(グレンラガンが)溜めたビームを投げ返すところとか。9話でも暴走するグレンラガンをいくつかやっていて、巧いなあと思っていたんですけど。わりと何度かやってくれてるんです。

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●関連リンク
『天元突破グレンラガン』ポータルサイト
http://www.gurren-lagann.net/