小黒 この頃に『スレイヤーズぷれみあむ』(劇場・2001年)もあります。『プリーティア』が2001年4月新番で、同じ年の暮れですね。
佐藤 『ぷれみあむ』ってもう少し先かと思ったけど、そんなもんだったかもね。
小黒 佐藤さんは『スレイヤーズ』のことをあまり知らずに手掛けたんですよね。それもあってか、リナが可愛いんですよ。ちょっと女の子っぽい。
佐藤 (笑)。そうしてるかもね。原作もアニメも凄い量があるじゃない。
小黒 ええ。
佐藤 自分に与えられた時間がなかったので、まず映画を全部観て、あとはファンジンとかファンサイトとかを漁るように読んで、みんなが何を楽しんでるのかを探って。
小黒 おお、若手監督みたいだ(笑)。
佐藤 原作も全部読んでる余裕はなかったんだよね。とにかく「みんなが何を楽しんでるか」が、まず知りたくて。そこで引っかかったのが、あんまりクローズアップされてないんだけど、「リナとガウリイの関係って、ちょっとよさげじゃない?」ということだったんです。このカップリングについて、ときめいてる人もいたようだったので、これかなと思って。
小黒 それで、ガウリイが「アイラブユー」と言ってリナがドキッとするんですね。
佐藤 そうそう。今回はこれかなと思ってやったんじゃないかな。
小黒 なるほど。あの当時、『スレイヤーズ』のアニメは既に沢山作られていましたが、その中で新鮮な感じはしましたよ。
佐藤 まあね、せっかくやるんで今回のトピックが何か欲しいなと。劇場版にTVのキャラクター達が出ることが、今回のトピックだって言われていたので、TVシリーズも色々観たんです。みんなが喜んでくれそうなものはこれかなと思ったのが、リナとガウリイやゼルガディスとアメリアのラブコメテイストですね。そう思って取り組んでいたかな。
小黒 脚本もお書きじゃないですか。
佐藤 はいはい。
小黒 脚本に関して、原作者の方とやりとりしたんですか。
佐藤 ショートの劇場作品をやるにあたって、どういう方向がよいのか分からなかったので、プロットを3本書いたんですよ。
小黒 ほお。
佐藤 凄いシリアスな方向のものと、シリアスなんだけどTVシリーズノリのコミカルなところもあるやつと、コミカル寄り一辺倒なタコの話を作って。タコの話だけは、流石にこれはないだろうと思ったんだけど、「これが面白いです」と言われたので、それになったというわけですね。
小黒 別に誰かがタコの話をやろうって言ったわけじゃないんですね。
佐藤 じゃない。いくつか書いた中で、原作者の神坂(一)先生とあらいずみ(るい)先生が「これが是非観たい」とおっしゃったので(笑)、じゃあこれでやりますと。脚本にもクレジットされてるけど、プロットの次がコンテだったので、シナリオそのものは書いてないんですよ。
小黒 なるほど。
佐藤 その後の『ARIA (The ANIMATION)』(TV・2005年)や『たまゆら』(OVA・2010年)とかもそうだけど、脚本はほぼ書いてなくって、プロットでOKをもらったらそれでいきなりコンテに入るっていうやり方なので。
小黒 手応えはいかがでしたか。
佐藤 いや、全然分かんなかったよね。それこそファンムービー的な、ファンが喜んでくるかどうかが勝負みたいなところがあるから、もうドキドキですよ(笑)。
小黒 なるほど。
佐藤 どれぐらい喜んでもらったのか、データでもらったわけじゃないので分かりませんけど、喜んでもらえたらいいなと思いました。
小黒 いや、喜んでもらえたんじゃないでしょうか。
佐藤 そしたら、ありがたいですよ(笑)。とりあえず神坂先生とあらいずみ先生には喜んでいただけたようなので、そこは一安心でしたね。
小黒 これも制作の現場がハルだったんですね。
佐藤 北海道にあった時のサテライトスタジオも結構入ってくれていたはず。
小黒 この前後だと『七人のナナ』(TV・2002年)の絵コンテ、『ゲートキーパーズ21』(OVA・2002年)の絵コンテがありますが。
佐藤 それはこれまでやってきた仕事の流れですね。『七人のナナ』は、『まる子』をやってたスタッフが作っていた作品で、オファーをもらってやりましたね。制作のA・C・G・Tはトラスタの制作連中が作ってた会社でもあったので。『ゲートキーパーズ21』は山口さんが監督としてGONZOとやってたので、1本引き受けてる感じですね。
小黒 『ゲートキーパーズ21』は、作画もハルで請けてるんですか。
佐藤 そうそう。1本グロスでまるっとやる感じで。熊谷(哲矢)さんが作監だったかな。
小黒 佐藤さんはこの頃、ハルに机があって、社内で作業をされていたんですか。
佐藤 この頃、ハルをベースにして作業してるよね。
小黒 『THE ビッグオー』(TV・2003年)は、最終回前の絵コンテだけを担当(25話「The War of the Paradigm City」)。
佐藤 『ビッグオー』も、『ウテナ』に続いて……。
小黒 「分からない」ですか。
佐藤 「どうやったらいいんだろう」って思いながらやった(笑)。メタフィクション的なところがあるから、言われたようにやるしかないかという感じでやってたかもしれないですけどね。
小黒 むしろ小中さんは、こっちが自分のフィールドな感じですよね。
佐藤 そうなんですよ。「小中さんのフィールドってこういうことか!」と思ってやってた気がするな。
小黒 じゃあ、割と手探りでやった感じですか。
佐藤 手探り。分かんないところは「とりあえず書いてあるとおりにちゃんとやっていこう」と思ってやってるはず。
小黒 そして、今日の取材のクライマックスが『プリンセスチュチュ』(TV・2002年)ですよ。
佐藤 はい。
小黒 どのぐらい前からやってるんですか。
佐藤 ハルフィルムで、次の作品を何にしようかという時に『プリンセスチュチュ』という企画があると提案したんです。これは伊藤郁子さんが企画としてずっと持っていたもので、『セーラームーン』をやってる頃から、ずっとスケッチをしてたと思うんだよね。それがオリジナルのバレエものであることまでは聞いてたけど、企画内容までは見せてもらってなかったので、「これはサトジュンでやる作品ではないんだな」と思って、あんまり触れないようにしてたんです。それから、結構時間が経っていたので、伊藤さんに声を掛けたら「じゃあやってみようかな」という気持ちになってくれたので、プレゼンして動かしてみましょうかといった感じかな。
小黒 なるほど。基本的には伊藤さんの中にあるものが、スタートラインにあるわけですよね。
佐藤 そう。伊藤さんのアニメを作るっていう企画ですからね。
小黒 『魔法使いTai!』では佐藤さんがやりたいことを伊藤さんが手伝ったので、『プリンセスチュチュ』では伊藤さんがやりたいことを佐藤さんが手伝うかたちだと、当時、うかがいました。
佐藤 そうですね。そういう感じで間違いない。
小黒 伊藤さんの中に、やりたいキャラクターや世界とかはあったと思うんですけど、物語のかたちもあったんですか。
佐藤 がっちりと櫓を組んだ状態ではないんだけど、伊藤さんの中にはやりたいパーツがいっぱいあって、ぐるぐるしてた状態だと思うんですよね。「これはこうですか?」って聞くと答えが返ってくるんだけど、それと一緒にあれもこれもと出てくる感じだったので、ディレクションをするにあたって、上手にやらないと散らかっていくなっていう印象があったんです。だから、全体像としては伊藤さんのやりたいものをリサーチして、それをフィルムに載っけていくっていう作業に近いかな。
小黒 『チュチュ』って、観ていてもどうなっていくのかが分かりづらいですよね。これは狙いなんですか。
佐藤 それが狙いってことではないんだけれど、伊藤郁子さんには「エンターテイメントでありたい」ということがベースにあるんですよ。だから、「ここでこんなキャラがこんなことしたら面白いな」といったパーツも沢山持ってるんだよね。伊藤さんはホン読みにも参加しているので、そのお持ちのものを出してもらって、組み立てていくから、そのテイストが出ているとは思うけどね。
小黒 足元がふわふわした道を歩いてるみたいでしたね。「物語の中の王子」ってどういうことだろう、と思ったりしました。
佐藤 (笑)。割と後半まで探り探りで、「これどうしたいの?」と考えるようなことはありましたね。例えば、「動物キャラが毎回何か出ます」と伊藤さんが言うので、まずアリクイ美さんを作ったんです。伊藤さん的にはワンカット出てくるぐらいのつもりで考えてたんだけど、(シリーズ構成の)横手さんが探り探りの中で、アリクイ美さんっていうキャラクターを凄く立ててくれたので、それはそれで面白くていいかとなって進んでいくような感じですね。その後「動物キャラはワンカット出ればいいくらいです」となって、アルマジロとかは、ちらっと一瞬だけ出る。
小黒 オンエアの途中にあった総集編で「ここに出ていたこの動物!」みたいなコーナーがあって、あれで初めて出ていることを知った動物もいましたね。
佐藤 (笑)。スタッフルームに「珍しい生きもの大辞典」みたいな本があって、ネタ本として使ってました。伊藤さんが思っていることをかたちにしていくと、ちょいちょい誤解が生まれるんだけど「それはそれで面白いかな」と活かしていく感じでしたね。
小黒 誤解というのは、今のアリクイ美さんのようなことですね。
佐藤 そう。アリクイ美さんはそんなに出すつもりじゃなかったけど、出してみたら面白かったのでそれでいこう、みたいな作り方。毎回バレエで着地するのに関しても、これはどう決着するんだろうと詰めながら作っていました。
●佐藤順一の昔から今まで(25)あひるの自己肯定感の低さと王子様 に続く
●イントロダクション&目次
……なんか、学生時代の友人・T君の訃報を聞いて落ち込んでいます。今年に入って自分がお世話になった先輩や先生らがお亡くなりになられ、今度は友人。事故と聞き、本当に無念です。ここ数年は仕事が忙しく、会う機会は減ったものの、某アニメスタジオのデジタル作画部の制作をしていた彼は、ウチ(ミルパンセ)のデジタル化に際し、デジタル作画ツールによる原画の指導を手配してくれたり、最近でも動仕撒き(動画&仕上げの外撒き)の相談にものってくれ、本当にこちらが一方的に助けてもらってばかりでした。ウチの社長・白石には「板ちゃんのじゃ断れない」と言ってくれてたそう。今、頭に浮かぶのは、学生時代一緒に作った短編アニメ『アラスカの母さん』でのこと(彼はプロデューサーで、板垣は美術監督)や、その後皆就職してからも一緒に飲んだ時のこと。そしてその時付き合ってた彼女との写真をノロケながら見せてくれたTのことです。仕事が落ち着いたところで、Tを知る友人らと語り合いたいと思いつつ——慎んでご冥福をお祈りいたします。
編集長・小黒祐一郎の日記です。
2021年4月4日(日)
トークイベント「第173回アニメスタイルイベント 撮影監督トーク 泉津井陽一・脇顯太朗」を開催した。泉津井さんと脇さんは、ほぼ初対面。こういった場合だと、楽屋で話が弾んでしまい、肝心のトークが盛り上がらなくなるおそれがあり、今回は泉津井さんと脇さんの楽屋を別にした。13時からイベント開始。楽屋を別にしたからだけではないと思うが、トークは充実したものとなった。泉津井さんの仕事について、脇さんが聞くパートができなかったので、それはまたの機会に。
2021年4月5日(月)
仕事の合間に、シネマ・ロサで『JUNK HEAD』を鑑賞。ビジュアルも世界観も面白い。内容が長い物語の途中までとは知らなかったので、それについては面食らった。シネマ・ロサで映画を観たのはかなり久しぶり。映画館として昔風の作りなんだけど、それが今となっては味わい深い。
「佐藤順一の昔から今まで」の予習で『ケロロ軍曹』の1話から数本を観る。1話にちょっとエッチなテイストが入っていた。アニメの『ケロロ軍曹』は大人の味つけはオミットしているはずなので、これは意外だった。
『ちびまる子ちゃん』の最新話を録画で観た。新しい方がナレーションを務めた最初のエピソードで、やっぱり違和感がある。だけど、やがて観る方が慣れるのだろう。気がつけば友蔵の声にも慣れている。
2021年4月6日(火)
都内の某社にうかがって、次々の次くらいに刊行する書籍で必要な資料をお借りする。お宝の山だった。
『さよなら私のクラマー』『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』『やくならマグカップも』『黒ギャルになったから親友としてみた。』『戦闘員、派遣します!』『セブンナイツ レボリューション -英雄の継承者-』『NOMAD メガロボクス2』『ドラゴン、家を買う。』『Vivy -Fluorite Eye’s Song-』の1話を観た。
少しずつKindleで読んでいた「かしましハウス」の最終巻を読了。いやあ、楽しかった。今一番好きなマンガは「かしましハウス」だな。今だと、半分は親の目線で四姉妹を見てしまうのだけど、それで愛しさが増しているのかもしれない。
2021年4月7日(水)
仕事の合間に、新文芸坐で「undo」(1994/47分/BD)を鑑賞。続けて「ヴァンパイア」(2011・日=カナダ=米/119分/DCP)も観る。どちらもプログラム「岩井俊二の世界 Vol. 2 ~孤独と対話、死と青春~」の作品。おそらく「undo」は2度目の鑑賞で「ヴァンパイア」は初見。「映画を観た」という気がした。「ヴァンパイア」は「全体が映画」。「undo」は「ああ、映画だな」という瞬間があった。
2021年4月8日(木)
余裕があったら新文芸坐で映画を観るつもりだったけど、やることが多くて見送り。増刷について計算をしたり、珍しくLINE通話で打ち合わせをしたり。夕方は三省堂書店に。ずっと先に作る本のサイズや文字組の参考にするために色んな書籍を手に取る。考えなしに気になった本を購入すると1万円越えしそうだったので、今回は手に取るだけ。
引き続き、新番組を片っ端から観る。『スーパーカブ』1話がかなりよかった。映画館で観たいくらいだ。2話以降もあの語り口、演出、画作りでいくのだろうか。
2021年4月9日(金)
『新世紀エヴァンゲリオン』TVシリーズと劇場版の画コンテ集がKindleで発売された。早速、TVシリーズの下巻を購入してチェックした。紙の画コンテ集にはなかった第拾七話の削除カット、第弐拾壱話の追加カット、第弐拾弐話の追加・改稿カットが増えている。これは嬉しい。なお、第弐拾壱話の追加カットには「佐藤順一の昔から今まで 」(15)で話題になったシーンも含まれている。まだ、未収録の追加コンテはあるはずなので、それがいつか収録されることに期待。
2021年4月10日(土)
前にも似たようなことを書いたけれど、今日のグランドシネマサンシャインで上映していたアニメは以下の通り。『トムとジェリー』はアニメ&実写だけど。
『COWBOY BEBOP 天国の扉』
『ガールズ&パンツァー 劇場版』
『時をかける少女【4DX版】』
『ガールズ&パンツァー 最終章 第3話』
『伝説巨神イデオン 接触編』
『伝説巨神イデオン 発動編』
『映画ヒーリングっど プリキュア ゆめのまちでキュン!っとGoGo!大変身!!』
『トムとジェリー』
『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』
『名探偵コナン 緋色の不在証明』
『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』
新旧タイトルが入り乱れて、アニメ映画祭みたいだ。さらに『COWBOY BEBOP 天国の扉』『ガールズ&パンツァー 最終章 第3話』『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』はBESTIA 5.1ch、BESTIA enhanced、4DX版、IMAX等のバージョン違いがあり。
腹巻猫です。TVアニメ黎明期から数々のアニメソングで活躍した小林亜星先生が亡くなりました。歌の仕事が有名ですが、『狼少年ケン』『魔法使いサリー』『ひみつのアッコちゃん』などではBGMも担当し、ジャズテイストあふれる音楽を聴かせてくれます。筆者は『ドロロンえん魔くん』と『花の子ルンルン』の取材でお世話になりました。たくさんの名曲をありがとうございました。心より哀悼の意を表します。
6月4日から公開中の劇場アニメ『シドニアの騎士 あいつむぐほし』の音楽はTVシリーズの朝倉紀行から変わって片山修志が担当している。
片山修志は近年めきめきと頭角をあらわしてきた作曲家のひとり。1985年、千葉県出身。バンド活動などを経て、高梨康治らが所属するTeam-MAXに参加。TVアニメ『OVERLOAD』(2015)、『幼女戦記』(2016)、『ランウェイで笑って』(2020)などの音楽を担当している。『シドニアの騎士 あいつむぐほし』では劇場作品らしい本格的なフィルムスコアリングの音楽で壮大な物語を盛り上げた。
今回は片山修志が手がけた『蜘蛛ですが、なにか?』の音楽を聴いてみよう。
『蜘蛛ですが、なにか?』は2021年1月から連続2クールの予定で放送されているTVアニメ。馬場翁による原作小説を監督・板垣伸、アニメーション制作・ミルパンセのスタッフでアニメ化した。
女子高校生だった主人公の「私」は授業中に突然、激しい光に包まれ、異世界に転生してしまう。目覚めた私は蜘蛛になっていた。驚き、とまどう私(通称・蜘蛛子)だが、生きるためにモンスターや人間と戦い、サバイバルを続けるうちに自身が強力なモンスターへと進化していく。いっぽう、蜘蛛子と同時に異世界に転生した同級生たちは、それぞれに数奇な運命をたどっていた。
近頃流行の「異世界転生もの」だが、主人公が蜘蛛に転生するのがポイント。蜘蛛子は生きることに貪欲で、人間の倫理観にしばられず、モンスターも人間も平気で倒していく。バイタリティあふれる行動はふしぎな爽快感がある。
本作は蜘蛛子側の物語と人間側の物語が並行して描かれる構成になっている。ふたつの物語はまじわるようでまじわらない。かと思うと実は意外なかたちでつながっていることがしだいに明らかになる。謎めいた展開も本作の魅力のひとつだ。
音楽面では蜘蛛子役の悠木碧が歌うエンディング主題歌が評判だが、片山修志による劇中音楽もなかなか名作である。
劇中音楽は、大きく蜘蛛子側の曲、人間側の曲に分かれている。また、モンスターの恐怖や緊張感などを描写する曲は蜘蛛子側にも人間側にも使われる。物語と同様に音楽も複数の視点に分かれた構成になっているのが面白い点だ。
蜘蛛子側の曲の多くは明るくユーモラス。とぼけた曲調がひとりでボケてひとりでツッコむ蜘蛛子のキャラクターにぴったりである。片山修志はシンセサイザーやギター、フルート、クラリネットなどを使った親しみのある軽やかな音楽で蜘蛛子の心境を表現する。蜘蛛子の前向きな気持ちが音楽からも伝わり、聴いていて心地よい。
また、独特な要素として、レベルアップ、スキルアップ、進化、といった蜘蛛子の変化にともなう曲がある。これらはコンピュータゲームで流れるジングル音楽風に作られており、それがコミカルな効果を上げている。
そして、蜘蛛子に欠かせないのがバトルの曲。優勢、劣勢、互角、とバトルのさまざまな局面に対応できるようにたくさんの曲が作られた。『シドニアの騎士 あいつむぐほし』でも激しい戦闘シーンを盛り上げる音楽が印象的だったが、本作でも勢いのあるバトル曲が映像を熱く彩り、蜘蛛子の闘志を印象づけている。
いっぽう人間側の曲は、優雅な日常曲、しっとりとした心情曲、権力闘争を描く緊迫感のある曲、蜘蛛子とは違ったタイプの戦いの曲など、こちらもバラエティに富んでいる。コミカルな曲はほとんどなく、シリアスな曲が多いのが特徴だ。
音楽の種類が多いため、曲数も多い。BGMは前期(第1クール)用に60曲以上が作られ、さらに後期(第2クール)用に40曲以上が追加されている。
本作のサウンドトラック・アルバムは2021年4月28日に「TVアニメ『蜘蛛ですが、なにか?』オリジナルサウンドトラック」のタイトルでKADOKAWAから発売された。2枚組全63曲入り。前期用に制作されたBGMをほぼ完全収録している。
ディスク1を聴いてみよう。収録曲は以下のとおり。
- So I’m a Spider, So What?
- I’m a Spider
- No Way
- Why Did I Die?
- Hungry
- Labyrinth
- Fear of the Unknown
- Hunting
- Struggle
- Defeat You!
- Got the Skill
- Leveled Up
- Positive Feelings
- Fun to Play Alone
- Unbelievable!?
- Hurry, Hurry
- A Tragedy
- Reminiscence
- Let’s Rest Today
- Suspicion
- Ominous Sign
- Impending Danger
- The Terrible Monster
- Run Away
- I Couldn’t Do Anything
- Thinking
- Mysterious Power
- Magical Spider Girl
- To Be Stronger
- I’m on Fire
- Into the Battle
- Hard Fight
- It’s My Way
- Evolution
- Poison
- Leveled Up II
- Leveled Up III
- Preview
構成は筆者が担当した。すでに書いたように、本作は蜘蛛子側の物語と人間側の物語が並行して進む構成になっている。しかし、その構成を音楽で再現しても画がないのでわかりづらい。そこで、ディスク1は蜘蛛子側の曲だけで構成。ディスク2は人間側の曲を中心に収録し、最後にふたたび蜘蛛子の物語に戻ってくる構成にした。
ディスク1の1曲目「So I’m a Spider, So What?」は本作のメインテーマ的な曲。不穏な序奏から始まり、ちょっとコミカルで幻想的なメロディに展開する。「シザーハンズ」「バットマン」などのティム・バートン監督作品で知られるダニー・エルフマンの音楽を思わせる曲調だ。蜘蛛子の登場とダークヒーロー的な活躍をイメージさせる本作を象徴する曲。第1話の冒頭で流れたほか、前期の区切りとなる第12話で蜘蛛子が地下の大迷宮から地上に向かうラストシーンにも選曲されている。
トラック2「I’m a Spider」〜トラック5「Hungry」は、転生した蜘蛛子がとまどいながら状況を把握していく第1話のコミカルな場面で使われた曲。どの曲も軽快なリズムとふわっとしたメロディのからみが小気味よい。これらの曲は以降のエピソードでも蜘蛛子のモノローグのバックなどによく使われた。
「I’m a Spider」(「私は蜘蛛」)、「Why Did I Die?」(「私、なんで死んだ?」)などの曲名は蜘蛛子のセリフを拝借したもの。トラック3「No Way」は「ありえない」というニュアンスのスラングで、蜘蛛子の口癖「ないわー」のイメージで付けてみた。余談だが、最近は海外配信を想定して「曲名は英語で」と依頼されることが多い。
トラック6「Labyrinth」からトラック12「Leveled Up」までは戦いを通してスキルを獲得し、レベルアップしていく蜘蛛子をイメージした構成。不気味なムードから未知への恐怖、緊張、そしてバトル!〜勝利!〜スキル獲得〜レベルアップという流れである。「Struggle」は劣勢の戦い、「Defeat You!」は優勢の戦いをイメージした曲だ。
片山修志はバトル曲がうまい。場面に応じて、さまざまなスタイルのバトル曲を作る技術とセンスを持っている。本作は戦いの場面が多いので、ふんだんにバトル曲が聴けるのがうれしいところ。サントラの聴きどころでもある。
トラック13「Positive Feelings」からトラック19「Let’s Rest Today」までは「ちょっとひと休み」というイメージでコミカルな曲やおだやかな曲を集めた。
「Positive Feelings」は蜘蛛子の前向きな考え方を表現するギターの軽快な曲。「マイホーム作っちゃいました」(1話)、「わが世の春がキタ〜」(6話)など蜘蛛子が悦に入る場面によく流れている。聴いている方もポジティブな気分になってくる楽しい曲だ。
大げさな曲調の「A Tragedy」は蜘蛛子の体から魂が抜けて「完」と表示される第4話の場面など、悲劇的状況をコミカルに描写する曲。
「Let’s Rest Today」は「今日は休もう」(第2話)、「いやな想像はやめよう」(第4話)など、蜘蛛子が立ち止まったり思案したりする場面に使用された。とぼけた空気感が絶妙で、こういう曲もうまいなぁと思う。
トラック20「Suspicion」からトラック25「I Couldn’t Do Anything」までは強敵の出現と蜘蛛子の敗北をイメージ。シリアスな曲調の音楽を集めた。
「The Terrible Monster」は地龍アラバの登場場面に使われた曲。怪獣映画音楽のような重量感のある曲調が地龍の巨大さと強さを表現する。もともとは蜘蛛の魔物「マザー」用に書かれた曲である。「I Couldn’t Do Anything」は敗退した蜘蛛子が、「手も足も出なかった」と落ち込む場面の曲。
続いてトラック26「Thinking」からトラック32「Hard Fight」までは蜘蛛子の反撃をイメージして構成。魔法のスキルを身に付け、作戦を練り、強敵を倒す。このあたりの丁寧な描写は本作の見どころだ。
「Thinking」はタイトルどおり蜘蛛子が「考える」場面によく流れる曲。同じフレーズをくり返す構成はミニマルミュージック的味わいがあり、ずっと聴いていても飽きない。
「Magical Spider Girl」は第8話で蜘蛛子の心の中に魔法担当の並列意志が登場する場面に使われた曲。魔法少女アニメの変身BGMを意識した曲調だ。タイトルは「魔法少女蜘蛛子」のイメージで付けてみた。使用回数は少ないながら印象に残る曲のひとつ。
「To Be Stronger」は蜘蛛子の修行シーンを想定した曲で、蜘蛛子がより強くなるために奮闘する場面によく選曲されている。エレキギターが奏でるロック調の「I’m on Fire」は蜘蛛子が勇敢に敵に向かっていく場面などに使われた。
「Into the Battle」は蜘蛛子のメインのバトル曲。スキルを駆使して華麗に戦う蜘蛛子のイメージをスピード感のある曲調で表現する。次の「Hard Fight」は互角の戦いを描写する緊迫感に富んだ曲。どちらも、第4話の猿の魔物、第8話の火龍、第12話の地龍アラバなど、強敵との対決場面に使用されている。ここがディスク1のクライマックスである。
そしてトラック33「It’s My Way」は、蜘蛛子の日常を描くユーモラスな曲。戦い終えた蜘蛛子のイメージで収録した。「今なら食いしん坊キャラでいけるな」(第3話)、「もっと肉を持ってこいー」(第4話)、「いや〜日差しがしみる」(第13話)など、蜘蛛子の能天気な場面に使われている。やはり蜘蛛子はこうでなくては……と聴いていてほっとする。
トラック34「Evolution」以降はボーナストラック的に、レベルアップや進化のシーンにジングル的に使われる短い曲を集めた。最後の「Preview」は次回予告に使用されている曲。もともとはレベルアップ用の曲である。
という感じで、ディスク1は転生した蜘蛛子のサバイバルを描くイメージでまとめた。この1枚だけでも本作の雰囲気が伝わると思う。
ディスク2はコンセプトを変え、蜘蛛子の同級生たちの物語に付けられた曲を中心にまとめた。ディスク1との雰囲気の違いを聴き比べてみるのも面白い。ディスク2の終盤は地龍アラバと蜘蛛子との決戦をイメージして、ディスク1に収録できなかった激しいバトル曲を収録。最後はもう一度、蜘蛛子の日常に戻り、ハードロック調の軽快な音楽で締めくくった。
『蜘蛛ですが、なにか?』の音楽はコミカルからシリアスまでバラエティに富んでおり、その振り幅も広い。ほかの作品だとシリアスな曲が主役でコミカルな曲が脇役みたいになりがちだが、本作の場合は逆。コミカルな曲が重要であり、音楽演出の中核を担っている。本編では曲が短い時間で切られてしまうことが多いので、なかなか全体像がわかりづらいが、どの曲もセンスよく丁寧に作られていることに感心する。本アルバムでその魅力をじっくり味わってもらいたい。
さて、6月30日には後期用の追加録音曲を収録した「TVアニメ『蜘蛛ですが、なにか?』オリジナルサウンドトラック2」が発売になる。2枚組で全48曲収録予定。今回は人間側の曲が多いのが特徴だ。筆者が気に入っているのは“吸血っ子”ソフィア関連の曲。こちらもぜひ、お聴きいただきたい。
TVアニメ「蜘蛛ですが、なにか?」オリジナルサウンドトラック
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TVアニメ「蜘蛛ですが、なにか?」オリジナルサウンドトラック2
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